法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第2作業分科会(第8回) 第1 日 時  平成25年10月22日(火)   自午前10時00分                          至午後 0時29分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○保坂幹事 それでは,ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第2作業分科会の第8回会議を開催いたします。 ○川端分科会長 本日は,御多用中のところ御参集いただきまして,ありがとうございます。  本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,まずは,「被疑者国選弁護制度の拡充」について,ヒアリングを実施した上,その結果も踏まえて議論を行い,その後,「証拠開示制度」及び「被告人の虚偽供述に対する制裁」について,補足的な検討を行いたいと思います。  なお,本日は,あらかじめお申出がありましたので,「証拠開示制度」の議論については,坂口幹事に代わって露木幹事に,「被告人の虚偽供述に対する制裁」の議論については,小野委員に代わって神幹事に御参加いただくこととします。  それでは,本日の配布資料について事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 御説明いたします。本日は,「被疑者国選弁護制度の拡充」,「証拠開示制度」,「被告人の虚偽供述に対する制裁」の各検討事項に関し,これまでの会議で配布した,制度概要及び検討課題を記載した資料を再配布しているほか,「証拠開示制度」に関し,新たに資料15から資料17までをお配りしております。   資料15-1及び15-2は,「証拠の一覧表の交付」に関するもので,「証拠金品総目録」及び「書類目録」の書式です。   資料16は,「公判前整理手続の請求権」に関するもので,第4回会議において配布した整理手続の運用状況に関する調査結果について,その内容を更新したものです。   資料17-1から資料17-7までは,「その他(類型証拠開示の対象拡大)」に関するもので,「領置調書」,「差押調書」の書式です。   以上の資料については,後ほど議論に際して内容を御説明します。   参考資料としては,各検討事項に関する参照条文と,ヒアリングの際に使用される書面をお配りしているほか,第2回,第3回及び第5回会議において小野委員から提出のあった,「被疑者国選弁護制度の拡充」,「証拠開示制度」に関する各資料を再配布しております。なお,このうち,第3回会議で提出された「被疑者国選弁護制度の拡充」に関する資料については,別紙記載のシミュレーション結果のデータに一部訂正があったということですので,今回は,訂正後の資料をお配りするとともに,資料の末尾に訂正部分を記載した書面を添付しております。   また,「証拠金品総目録」及び「書類目録」については,法務省の法務総合研究所作成の「事件記録教材」から抜粋したサンプルを机上に配布しております。このサンプルについては,会議終了後に回収いたしますので,机上に置いたままにしてくださいますようお願いいたします。  資料の説明は以上です。 ○川端分科会長 それでは,早速,「被疑者国選弁護制度の拡充」に関するヒアリングを行いたいと思います。「被疑者国選弁護制度の拡充」に関しては,「弁護士の対応態勢」と「公費負担の合理性」の観点から検討を行っているところでございますが,これらの課題について充実した検討を行うためには,弁護士の対応態勢の現状や被疑者国選弁護制度の予算の実情等を十分に把握しておく必要があると考えられ,第5回会議においてもそれらの事項に関するヒアリングを行ってはどうかとの御提案が複数示されたところです。   そこで,本日は,被疑者国選弁護の現状及びその経費を取り巻く環境を最も正確に把握していると思われる法務省大臣官房司法法制部からヒアリングを行うこととし,同部司法法制課長の松本裕氏にお越しいただいております。   それでは,松本課長,席にお座りください。よろしくお願いします。 ○松本氏 どうぞよろしくお願いいたします。   お手元の「被疑者国選弁護制度の現状について」という2枚紙のレジュメに基づきまして御説明申し上げます。   まず,法テラスの国選弁護等関連業務の概要について御説明申し上げます。最初の「○」を御覧ください。   日本司法支援センター,いわゆる法テラスは,国の委託に基づきまして,国選弁護に関連する業務を行っているところでございます。   その業務につきましては,このレジュメに記載しておりますように,国選弁護人の指名通知に関する業務,国選弁護人に事務を取り扱わせる業務,さらには,その事務等を取り行った国選弁護人に対して報酬を算定して支給する業務,これらの業務を行っているところでございます。   この国選弁護人の指名通知と申しますのは,裁判所や裁判官からの求めに応じまして,法テラスとの間で契約を取り交わしている国選弁護人等契約弁護士の中から,国選弁護人等の候補を指名して裁判所などに通知するという業務でございます。法テラスはその通知に基づきまして選任されました弁護士等に,その事務を取り扱わせるという業務を行っておりますし,先ほど申し上げましたように,報酬等を算定して支給するという業務を行っているところでございます。   続きまして,二つ目の「○」のジュディケア弁護士とスタッフ弁護士についてでございますが,先ほど申し上げました国選弁護人契約弁護士には,この2種類がございます。   まず,ジュディケア弁護士といいますのは,法テラスに所属しているわけではなくて,いわゆる一般の弁護士でございます。一般の弁護士で法テラスと契約を締結している弁護士は,全国に2万2,550人,平成24年度末の状況でございますが,これらの人数の先生方が契約をしておられまして,これらの先生方は個別事件の処理ごとに,先ほど申し上げました法テラスが算定した報酬等を受領するという状況でございます。   もう一つのスタッフ弁護士といいますのは,法テラスに所属している弁護士でございます。この人数は,平成24年度末現在で239名,これは予算上の定員といたしましては263人の定員となっておりますが,常時,欠員が出ている状況でございまして,239人となっております。このスタッフ弁護士につきましては,報酬は,個別事件ごとではなくて,法テラスから固定給という形で受領しているところでございます。ちなみに,スタッフ弁護士の給与につきましては,同期の判事,検事と同程度になっているところでございます。   続きまして,このようなスタッフ弁護士の配置の実情について申し上げます。法テラスといいますのは,御案内だと思いますが,民事,刑事を問わず,あまねく全国において,法による紛争解決に必要な情報やサービスの提供を行うための総合法律支援を業務としております。その点におきまして極めて公益性の高い組織でございます。そして,そこに所属しておりますスタッフ弁護士といいますのは,そのような極めて公益性の高い法テラスに所属する弁護士といたしまして,国選弁護事件とか民事法律扶助事件などの中心的な担い手となることを期待されているところでございます。   そして,先ほど申し上げました予算上の定員の263名といいますものは,このようなスタッフ弁護士を全国に配置するということを前提に積算しているところでございますが,レジュメの中ほどに記載しておりますように,実際には全国の地方裁判所本庁に対応する50の地域の中で,養成期間中のスタッフ弁護士を除いたスタッフ弁護士を全く配置できていない地域が9か所ございます。具体的には,札幌,宮城,山形,神奈川,山梨,石川,大阪,岡山,大分でございます。また,県庁所在地の法テラス事務所には配置することができず,いわゆる司法過疎地域事務所や支部のみに配置できている地域が3か所ございます。これもレジュメに記載しておりますように,新潟の佐渡,富山の魚津,更に兵庫の阪神,この兵庫のみが支部でございますが,この3か所でございます。   続きまして,スタッフ弁護士の被疑者国選弁護事件の処理状況について御説明申し上げます。養成中のスタッフ弁護士を除きましたスタッフ弁護士が平成24年度に処理した被疑者国選弁護事件の総数は,レジュメに記載しておりますように1,999件でございます。これをスタッフ弁護士1人当たりの平均処理件数に換算いたしますと,月平均で0.92件,年平均にしますと11.04件でございます。ちなみに,予算上の処理件数についての積算は,被疑者国選について約16件となっているところでございます。そして,被疑者国選弁護事件に限らず,国選事件の配点方法につきましては,各地域の単位弁護士会との協議で決められておるところでございます。そのため,必ずしも個々のスタッフ弁護士の努力のみによってその処理件数が増加するというわけではない点に御留意願いたいと思います。   それでは,被疑者国選弁護事業経費について御説明申し上げます。1枚目の一番下の「○」を御覧ください。   まず,被疑者国選弁護事業経費のうちの報酬の推移でございます。司法法制部では,先ほど御紹介にありましたように,法テラスの各事業経費などの予算要求を行っている部署でございます。この点,被疑者国選弁護事件の対象事件が現在の範囲まで拡大された平成21年以降,被疑者国選弁護報酬等の事業経費は拡大傾向にございます。具体的には,被疑者国選弁護報酬額の実績額としてレジュメに記載したとおりでございますが,平成21年度は確か5月下旬から,その拡大の実施だったと承知しておりますが,年度としての完全実施となりました平成22年度は約46億5,473万円であったものが,平成24年度におきましては約54億9,524万円となっておりまして,僅か3年ほどの間に8億4,000万円の増加となっているところでございます。   ちなみに,平成25年度の予算のうちの報酬額に該当する予算額は約55億1,932万円でございました。さらに,平成26年度の予算につきましては,今,正に予算要求をしているところでございますが,その概算要求時点での報酬額といたしましては,約57億4,133万円を積んでいるところでございます。そういう意味で,平成24年度の実績額から更に増加しているという状況にございます。   また,平成23年度及び平成24年度につきましては,当初の予算要求額で不足が生じたため,追加財政措置を講じる事態となっております。レジュメに「※」で右に注記しておりますのがその額でございますが,これは年度の報酬額の内数でございます。それぞれ約5億7,396万円と2億2,178万円が足りなくなって,予備費や補正予算で対応したという状況でございます。本年度も用意された予算額で不足がないか,正直言いまして予断を許さないという現状にございます。   このように,被疑者国選弁護事業経費のうち,報酬額の増加が著しいという状況にある要因について御説明申し上げます。   昨今,刑事事件の検挙件数自体は減少傾向にございまして,被疑者国選件数そのものも横ばいの状態にあるというふうに承知しております。このように件数としては減少あるいは横ばいの状況にある中,その予算の実績額が年々増加しておりますのは,国選弁護人の接見回数の増加が主たる要因であると認識しているところでございます。といいますのも,被疑者国選弁護事件の基礎報酬額の算定の基本的な指標といいますものは,接見回数とされていることによるからでございます。この点について,レジュメの2枚目の一番上の「○」を御覧ください。基礎報酬といいますものは,初回接見が2万6,400円,2回目以降の接見が1回2万円というのが標準でございます。そして,接見回数が勾留4日間につき1回という接見基準回数を超えました場合には,その超えた接見回数分について,多数回接見加算報酬という形で加算されるという仕組みになっております。   法テラスは,総合法律支援法上,その業務運営におきまして,個々の弁護活動の独立性を損なわないように,格別な配慮をするように求められているところでございます。そして,報酬基準の策定の過程におきまして,日本弁護士連合会から,国が設立した法テラスが弁護活動を個別具体的に評価して報酬等に反映させる仕組みとしました場合には,弁護活動の独立性が侵害されかねないとの懸念が示されたところでございます。そのため,報酬や費用の算定に当たりましては,できるだけ法テラスの裁量判断を排除して,客観的な指標を基に類型的・画一的に算定することとされております。先ほど御説明いたしましたように,接見回数が報酬算定の基礎とされましたのも,そのような一環でございます。   被疑者国選弁護事件の1事件当たりの平均接見回数につきましては,レジュメ2枚目の二つ目の「○」にございますように,平成21年度が2.942回でございましたものが,平成24年度につきましては3.788回となっております。そのため,前年度の一定期間の実績に基づいて国選弁護人に支払う報酬の予算上の単価というものを積算しているわけでございますが,その単価は,レジュメの三つ目の「○」にございますように,年々増加しているところでございます。具体的には,平成23年度が6万2,652円,平成24年度が7万2,498円,平成25年度が7万7,216円でございました。なお,平成26年度の報酬単価につきましては,概算要求の段階ではございますが,8万400円となっているところでございます。   このような被疑者国選弁護事業経費の増加傾向につきましては,接見という弁護活動の効果の有無にかかわらず,その回数の増加に伴って国費の支出が増大するという性質があるとして,ここ数年,概算要求時に財務省から,国費の適正支出等の観点から,その予算の在り方について強い懸念を持たれているところでございます。予算の責任部といたしましては,この点についての説明に大変苦慮しているというのが実情でございます。   それでは,被疑者国選弁護の対象が全勾留事件となった場合の被疑者国選弁護経費の増加見込みについて申し上げます。この点につきましては,平成26年度概算要求における事業経費や報酬単価,更に日本弁護士連合会からの国選弁護人選任事件数が約41.4%増加するという試算を前提といたしまして計算いたしましたところ,レジュメの2枚目の下から二つ目の「○」にございますように,単純計算では,平成26年度概算要求額よりも約24億3,600万円程度増加するのではないかと見込んでいるところでございます。   なお,最後の「○」で記載しておりますが,国費の支出が伴う対象事件の拡大に関して申し上げますと,少年事件の国選付添事件につきましては,その対象事件を現行の被疑者国選弁護事件の対象事件の範囲まで拡大するという法律案が今後,国会に提出される予定であると承知しておりますところ,その関係で,当部におきましては,平成26年度の概算要求におきましては,国選付添事業経費につきましても,前年度比約5億6,900万円増加の予算要求をしているところでございます。ちなみに,この点の予算額は,平成25年度におきましては5,563万9,000円であったところでございますが,これが5億6,900万円増加しているという状況にございます。   最後に,これまで申し上げましたとおり,被疑者国選弁護事件の対象事件が全勾留事件になりますと,その事業経費が更に著しく増加することは避けられないところでございます。現に,被疑者国選対象事件以外の事件につきましても,現状におきましては日本弁護士連合会からの委託援助事業で対応できており,かつ厳しい財政事情の中で,仮に対象事件を拡大されるのであれば,公費負担の抑制という観点からも是非併せて御議論いただきたいと考えております。その際には,その方策,すなわち公費負担抑制の具体的方策についても是非,法制審議会で強力なメッセージを発していただければと思っているところでございます。 ○川端分科会長 どうもありがとうございました。   それでは,引き続き質疑を行いたいと思います。ただいまの御説明に関しまして御質問のある方は御発言をお願いいたします。 ○酒巻委員 お話の前半の選任関係で,法テラスの重要なお仕事が指名通知であるということでしたが,その指名通知,例えば,酒巻なら酒巻という弁護士を国選弁護人候補者として裁判所に指名して紹介する,その具体的なやり方ですが,まずその前提に名簿があるという理解でよろしいですか。 ○松本氏 その手続の流れについて簡単に御説明申し上げます。   まず,法テラスの地方事務所が対応する弁護士会と協議をいたしまして,事件の配点に関して酒巻委員が御指摘の指名通知用名簿というものを作成しております。この名簿は,先ほど申し上げましたように,単位弁護士会との協議で作成されていますが,実際の配点に当たり,どの弁護士からどういう順番で連絡をしていくのかという点につきましても,各地域によってそれぞれ異なった基準がございます。その基準につきましても,法テラスと単位弁護士会が協議をして作っているという状況でございます。 ○酒巻委員 もちろん,各地区の単位弁護士会の先生方の御協力がなければ,この被疑者国選制度がうまく回らないのは,当然であると思いますし,現在の制度を設計するときもそれは前提だったと思うんですが,具体的な協議内容,つまり何を協議するのかということは,もちろんいろいろな地区によって事情は違うでしょうし,刑事の国選をやられる方とそうでない方がいると思うんですけれども,そういうかなり具体的な協議を,指名通知をする主体である法テラスと各単位弁護士会とがされているのか,その辺のところはどういう事情になっているのかというのを,差し支えなければお聞かせいただければと思うのですが。 ○松本氏 正に,それぞれの対応する弁護士会によって様々でございますが,一定期間区切った名簿がございまして,その一定期間の名簿にどういう弁護士を,契約している弁護士と法テラスに所属するスタッフ弁護士を載せるのか,さらに,ではどういう順番でその名簿掲載者について配点をしていくのかというところを,正に協議をして決めているというところでございます。それは,一つには,酒巻委員が御指摘のように,それぞれの契約弁護士の主たるメンバーは一般の弁護士の先生でございますので,それらの方々の協力がないと,被疑者国選弁護事業に限らず,例えば民事法律扶助等もうまく対応できなくなる危険があるというところからでございます。 ○酒巻委員 今の事情はよく理解しているつもりですけれども,一方で,常勤弁護士,いわゆるスタッフ弁護士,この分科会でも,刑事弁護専従とまでは言えないけれども,正にスタッフとしてお給料をもらっておられる方に,日弁連のシミュレーションでも,年間かなりの数を担当して頂く,そのことによって,全勾留事件についての被疑者国選が回るだろうという想定で今議論をしようとしているわけです。ただ,スタッフの方がどのぐらいやるというのが,先ほどのお話でも,協議で決められている関係で,必ずしも個々の常勤弁護士の努力だけで件数が増加するというわけではないというような表現をされていました。その辺のところは,それではちょっと困るのです。必ずしも常勤弁護士がやりたいと言ってもやれないということになるんですか。 ○松本氏 端的に言いますと,そういう状況がないとは言えない状況でございます。 ○酒巻委員 それは何かとてもおかしなことだという印象を私は持つんですけれども。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○小野委員 今のお話の関連ですが,現状では,要するに,被疑者国選弁護事件をスタッフに優先的に割り当てるということは,多くの会ではしていなくて,ジュディケアと言わば平等にと,均一に配点しているというのが実情なんでしょうかね。会によっては,スタッフに多めに割り当てているというか,そういう会もあるということでよろしいんでしょうか。 ○松本氏 均一にという状況ではないというように認識しております。それは,スタッフに優先的にという状況ではなくて,むしろ劣後する対応があるのではないかと考えているところでございます。先ほど申し上げましたように,予算上の処理件数というものは16件で,実際の処理平均件数といいますのは,それに追いついていない11件強という状況でございますし,確か日弁連の方から,この分科会におきまして,配置されているスタッフが積算で年間30件処理するという試算を出されていたかと思いますが,実際にそういう形で対応できるのかということを我々内部で検討いたしましたときも,むしろ先ほどの小野委員の御発言とは違う状況にあるというふうなところが浮かび上がってきたというのが,正直な状況でございます。 ○小野委員 現状で刑事を扱っていないスタッフの方もおられるんですか。それから,今,平均では11件ということですが,スタッフの方の中には年間30件以上,被疑者国選を扱っているという方もおられるんでしょうか,もしおられるとしたら,何人ぐらいということなのかお分かりになりますか。 ○松本氏 まず,刑事,国選を担当していないスタッフ弁護士については,東京に配属されているスタッフ弁護士は基本,担当しておりません。といいますのは,日弁連の中に法テラスの分室がございますが,そこでもう指名通知手続に至る前に順番を待っておられる一般の弁護士の先生方が受任されて,結局,名簿に基づく指名通知に至らないというのが現状でございます。   もう一点,処理件数について申し上げます。平成24年度に被疑者国選弁護事件を年間30件以上処理した常勤弁護士は6名でございます。平成24年度で最も多く処理した常勤弁護士の処理件数は,42件でございます。 ○小野委員 今のところ,30件以上というのは,そうするとジュディケアの平均受任件数よりも多い件数を処理している,そこは,弁護士会との協議の上でそういうことができているということになるわけですかね。 ○松本氏 この全体の人数比からいたしましても,これは個々のスタッフ弁護士の特殊なケースであるというふうに認識しております。 ○宇藤幹事 スタッフ弁護士のマンパワーに関連してなんですけれども,先ほど御紹介いただいた人数では,養成中の者は除くということになっていたかと思います。今後の見通しとしてどれぐらいの人数が確保できるのかということについて,お教えいただければ助かります。 ○松本氏 正に予算上の定員263人は早急に確保したいというのが,今だけではなくて,ここ数年来の司法法制部の悲願でございます。そして,人数を確保するだけではなく,先ほど申し上げましたように,スタッフが配置できていない法テラス事務所にあまねくスタッフ弁護士を配置したいと思っております。その上で,いろいろ今,法テラスのスタッフ弁護士は司法ソーシャルワーク等々にも取り組んでいるところでございますが,そのような新たな業務も踏まえて,更なる展開を図ってまいりたいというのが法制部の現時点での思いでございます。 ○川端分科会長 今の関連で質問させていただきますが,レジュメの1ページ目に,配置の実情として,完全に未配置の地域があるとされ,その中に札幌・神奈川や大阪という大都市圏が入っているのですが,なぜそうなっているのかについて,何か理由があるのでしょうか。 ○松本氏 基本,スタッフ弁護士の役割といいますものは,国選弁護と民事法律扶助でございます。分科会長御指摘の大都市に限らず配置をさせていただいていない県におきましては,単位弁護士会の方から,そのような業務は単位弁護士会に所属する一般の弁護士によって全て対応する,だからスタッフ弁護士の配置は不要だという対応がなされているところでございます。それにつきましては,利用者目線から見て,その一般の弁護士の先生に加えて,法テラスに所属するスタッフ弁護士を是非配置させていただきたいと思っています。それによっていろいろな法的サービスの在り方の多様性が広がるのではないかという提案を,日弁連を通じ,あるいは法テラスと協議をし,行ってきているところでございます。 ○川端分科会長 もう1点ですが,先ほど予算折衝の段階で,財務省から単純に増加していくのは困るという趣旨のお話があったと伺いましたが,その点に関して具体的に財務省からこういう点はこうしてほしいとかといった具体的な要求はございましたでしょうか。 ○松本氏 一つ強く言われておりますのは,こういう形で報酬が極めて増加していく傾向にある中で,報酬基準の抜本的見直しというものができないのかということです。予算の世界といいますのはスクラップ・アンド・ビルドの世界でございます。増加がある分,そこに何らかの圧縮をしないと,どんどん増える一方でございますので,まずその増える部分である弁護士の先生にお支払いする報酬の在り方,先ほど御説明しましたように,それが接見回数というところに大きく依拠しておりますが,そういうところの見直しができないのかという提案を,これは近年といいますか,ここ数年受けているところでございます。さらに,繰り返しになりますが,スタッフ弁護士の全国配置と更なる増員について,どの程度の圧縮が見込まれるのかというところも,並行して財務省と協議をしているという状況でございます。 ○川端分科会長 ほかに御質問はございませんでしょうか。 ○上冨幹事 先ほどのお話の中に,接見基準を超えた場合には多数回接見加算報酬という制度が適用されるというお話があったのですけれども,具体的な金額なども含めて,どのような仕組みなのかということを教えていただきたいのが1点です。あと,もう1点は,1件当たりの接見回数が年を追うごとに増えており,それが弁護活動の活発化ということに起因しているのではないかという御説明だったと思うのですけれども,その具体的な原因というか事情,つまり平成21年に比べると,よりこの数年の間に弁護活動が更に活発になってきているといういきさつが何かあるのかということを,もし御存じであれば教えていただきたいと思います。 ○松本氏 まず,多数回接見加算報酬について御説明申し上げます。少しややこしいので,ゆっくりと御説明申し上げます。被疑者国選弁護報酬につきましては,繰り返しになりますが,接見の回数を基本的な指標としております。具体的には,弁護人が選任されている勾留期間4日間につき1回の接見を基準回数と定めまして,その接見回数に応じた基礎報酬を算定しているところでございます。そして,多数回接見加算報酬といいますのは,接見回数が基準回数を超えた場合に,その超過分に応じて基礎報酬に加算して支給される報酬でございます。具体的に申し上げますと,基準回数を1回超過している場合には1万円の加算,基準回数を2回超過している場合には1万6,000円の加算,基準回数を3回以上超過している場合には,先ほど申し上げました1万6,000円に加えまして,3回以降1回につき4,000円の加算となっております。ただ,弁護人が選任されている勾留期間が20日間の場合には,多数回接見加算報酬の上限は6万8,000円とされているところでございます。   続きまして,弁護活動の活発化等々の背景事情に関する御質問でございますが,平成21年当時,一部の被疑者国選弁護事件におきまして,弁護人に選任された後,一度も接見をしていない,あるいは初回の接見までにかなりの日数が経っているというような実態が認められましたことから,法テラスは平成22年5月に,日本弁護士連合会に対し,被疑者国選弁護に関する問題状況の改善について要望を行っております。日本弁護士連合会におかれましては,これを受け,各単位弁護士会に対し,被疑者国選弁護事件における不十分な弁護活動の調査等を要請し,平成23年3月にその調査結果が公表されたものと承知しております。このような一連の経過を通じまして,弁護士の先生方の間でも接見の意義・重要性が再認識されたのではないか,これが接見回数の増加の一因となっているのではないかと考えているところでございます。 ○坂口幹事 御説明ありがとうございました。2点お伺いしたいと思います。   1点目は,予算の積算上,スタッフ弁護士の処理件数というのは年間16件であるという御説明がありましたけれども,16件という数字の積算根拠をお伺いしたいと思います。その趣旨は,これは何らかの実績に基づいて何らかの指数を乗ずるなどの方法で導かれているのか,それとも1人の弁護士の年間稼働可能時間というのはこのぐらいだから,このぐらいのはずだという算出なのかということです。現に30件以上処理された方も6名いらっしゃるというお話でしたけれども,それに対してこの16件という数字をどのように御覧になっているのかというのが1点目です。   それからもう一つは,そもそも報酬の単価の決め方なのですけれども,これはどのように決められているのかということです。これは何らかの実勢,公務員給与の決め方のような調査に基づいているのか,それとも,もう少し理論的な何かがあるのか,御教示いただけますでしょうか。 ○松本氏 スタッフ弁護士の予算上の稼働件数の積算,簡単に説明するのは非常に難しいんですが,まず二つの視点,それは国選弁護と民事法律扶助という,主たる業務としてはこの二つをやっておりますので,それぞれの業務につき国から給料をもらうスタッフ弁護士としてどの程度やるのが相当なのかというということです。もちろん,事案によって掛かる処理時間などは異なりますが,大体の平均処理時間等を計算いたしまして,これぐらいの件数を少なくともやってもらう必要があるということで,積算をしたというところでございます。そういう意味では,正に前年度のスタッフ弁護士の実績をベースにしてしまいますと,どんどん減少になってしまいますので,そういうことではなくて,先ほど申し上げました平均的な処理時間等を考慮して積み上げているというところでございます。   それと,被疑者国選弁護事件の処理件数が多いという人については,いろいろな事情がございまして,一概には言えないんですけれども,その人は民事法律扶助の件数が逆に少なくなっているというような状況もございます。それは抱き合わせで全体として検討する必要があるのだと思っております。   それと,報酬の単価でございますが,まず,平成18年に被疑者国選弁護の基礎報酬の額などを当初策定するに当たりまして,元々は裁判所が国選弁護人に報酬等の支払をしていたのですが,その当時の被告人国選弁護事件1件当たりの平均報酬単価というものを参考にしております。これが8万6,562円でありましたことから,被疑者国選弁護の基礎報酬がこれとほぼ同額になるように設定するということとされました。その上で,その当時は被疑者国選弁護事件1件当たりの平均接見回数が4回であると想定されまして,初回接見の業務量が2回目以降の接見よりは1.2倍程度多いと想定されましたことから,これに基づきまして,2回目以降の接見1回分の報酬額を計算すると,その報酬額が2万610円となりまして,これを切りのよい数字に直しまして,2回目以降の接見1回当たりの報酬額が2万円,初回接見の報酬額が2万4,000円とされたところでございます。その後,初回接見の業務量が増加しているという実情が分かりましたことから,平成21年5月からは,初回接見の報酬額が1割増しの2万6,400円に改定されて,現在に至っているという状況でございます。 ○小野委員 接見回数の増加,少し感覚的で申し訳ないんですが,勾留日数,例えば10日間で終わらずに20日間の勾留とか,そういうのが増えているということはあるのかないのかということを把握しておられますか。   それともう一つは,金額として,被疑者国選が増えているのはもちろんそうなんでしょうけれども,逆に被告人国選は減っているんではないかと思うんですけれども,その辺がどうなっているかについてはお分かりになりますか。 ○松本氏 最初の方の小野委員の御質問は,正にここに臨むに当たりまして,そのようなデータがないかどうかを確認したのですが,そのような取り方でデータを把握していないということで,申し訳ありませんが,ちょっとお答えできません。   2番目の御質問につきましては,正に被告人国選の額そのものは減少傾向にございます。ただ,そういう状況においても全体としての国選弁護事業経費というものは年々増加しておりますので,私が先ほど申し上げました問題意識というのは,正にその点に基づいたものでございます。 ○川端分科会長 これでヒアリングは終わりとさせていただきたいと思います。   松本課長,どうもありがとうございました。               (参考人 退室) ○川端分科会長 それでは,ただいまのヒアリングの結果も踏まえまして,「被疑者国選弁護制度の拡充」についての議論を行いたいと思います。   配布資料としての資料10は,従前と同じものですので,説明を省略させていただき,早速,実質的な議論に入りたいと思います。配布資料に記載の検討事項のいずれについてでも結構ですので,御意見のある方は御発言をお願いしたいと思いますが,小野委員からお申出がございましたので,従前の提出資料の訂正について先に御説明をお願いします。 ○小野委員 前にお配りした第3回会議の参考資料について,3/29ページ以下に一覧表を添付しておりましたが,その数字に誤りがありましたので,席上の「地裁支部別シミュレーションのデータ訂正部分」というメモにあるとおり,記載が間違っていたのはこの5か所です。個別の1人当たりの処理件数というところで大きく違ってきたのは,長崎県島原のジュディケア対応者数というのが「1件」というふうに記載してあったものが「9件」になるということで,これは被疑者国選登録者数が間違っていたために生じた誤りで,影響が多少あり得るのはここですが,それでも9件に増えるということなので,対応可能だというくくりでよろしいのではないかと思います。それ以外の訂正点は,特にその修正によって影響が出てくるということではありませんけれども,修正したものを新たに資料として提出させていただきました。 ○川端分科会長 では,御議論をお願いいたします。 ○酒巻委員 何度も申し上げますが,私は基本的には全国津々浦々で一律に,全勾留事件を対象とする国選弁護制度を是非実現してもらいたいと思っておるのでありますが,今のヒアリングに関連して言いますと,前に伺った日弁連の試算では,常勤弁護士,すなわちスタッフ弁護士が30件担当するということであった。しかるに先ほどのお話ですと,最初の名簿というか指名通知,それと個別の配点の際に,いろいろな弁護士会の事情があって,スタッフ弁護士が30件やろうと思ってもできない,現状も1人当たり平均11件ぐらいということでしたし,各単位弁護士会との協議に基づくという方式の結果,常勤の人が自らの努力で多くの事件を受任しようと思ってもそれが難しい事情もあるとのお話も出てきました。   公的弁護制度を初めて作るときは,常勤弁護士がもちろん民事扶助もやりますけれども,刑事弁護の専門家としてどんどん育っていって頑張ってやってくれるというのを理想形にしており,今の日弁連の御構想も,常勤の方が多くの事件を扱うことを前提にされていました。しかし,先ほどのヒアリングの内容から言うと,それが本当に,できる所もあるでしょうけれども,全国一律にそういう形であまねく対応できるのかというのがいささか心配と思います。その辺のところの御見解をお願いできればと思います。 ○小野委員 日弁連もかつて刑事専門の弁護士という構想で当初のところでいろいろ考えていたという経過はあったわけですが,現状は,確かに今のお話で30件以上を扱っているのは6人ということのようですが,それは現状としては,要するに常勤弁護士,スタッフ弁護士がそれほどたくさんやらなくても処理できているというのが実情なんだというふうに私どもの方は理解をしております。件数がどんどん増えていくに従って,それぞれいわゆる契約弁護士の処理件数も少しずつ増えてきたと思います。けれども,現在は,今のこの段階での被疑者国選の取扱いとして,今のような数字で十分足りているというのが実情なんだろうと思います。単位会によっていろいろな状況があるようですので,一律にということにどこまでいけるのかということは,これからの態勢作りの問題であろうと考えていますけれども,実際問題として,それだけの件数,少なくとも試算で仮に4割増しというふうなことになった場合には,契約弁護士の名簿の中で,それが当たっていく件数というのが増えていくことになるだろうと思います。そうすると,おのずとスタッフ弁護士もこれだけの処理ということで,各法テラスと弁護士会との間での協議は変わっていくのが当然だろうと思いますね。   つまり,弁護士側としては,少なくとも今現在のように被疑者国選の対象事件を法定刑によって区切っている中で,被疑者国選の対象になっていない事件の中にも非常に重要な事件がたくさんあって,そこでこそもっと被疑者国選を充実しなければいけないということがあるわけです。そういうことで考えますと,被疑者国選を全件勾留事件に拡大することに備えて,弁護士会と法テラスとの協議によってそこを処理していくというふうに当然なるんだろうと考えておりますので,現状でこの数字だから,では,できるかできないかという考え方というのは違うのかな,こんなふうに考えています。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○宇藤幹事 今の小野委員のお話というのはよく分かるのですが,私自身としては,やはりまず現状でいう司法過疎の地域,あるいはそれに準ずるところで実際うまく回っているのかというところについては,もう少し慎重に考える必要性はあるのかなと思います。   あと,スタッフ弁護士について,現状,平均で11件処理しているということなんですけれども,現在の予算を考えれば,積算で最大16件しか用意されていませんし,予算定員も263人ということだったかと思います。これが現状での最大限ということですので,スタッフ弁護士が30件を担当するということを前提とするのは,予測を立てるにしても見直す必要性はあると思います。   あと,予算との関連で,先ほどのヒアリングの中で,基礎報酬の見直しという話も出ておりました。もちろん,見直し自体が良いかどうかということは別として,圧縮をするということでは,単価等の見直しのほか,スタッフ弁護士による処理件数を実際に増やしていくという体制をどう作るかということを,まず,単位弁護士会との協議の中で詰めていっていただくということも必要になってくるのではないかなという印象を持ちました。 ○上冨幹事 先ほど,予算当局から毎年かなり厳しい御指摘を受けていて,公費負担の抑制について検討しなければいけないんだという御説明がありましたが,この制度を政府の提案として法律化するためには,当然,予算当局を含めた内閣の一致した賛成が必要になるわけで,その意味でも,この公費負担をどう抑制しつつ制度を検討していくかという視点は,制度の採否を決める上ではきちんと踏まえなければいけないのだろうと思います。   その中で,先ほど松本さんのお話では,報酬基準の改定の問題と,端的に言えば,固定給のスタッフ弁護士の役割が増えることによって,どれだけコストが削減できるのかということだったと思いますけれども,こういった両面から検討しなければいけないと思います。それは結局,先ほどの御説明にもありましたけれども,単位会を含めた弁護士会との間でどのような協議が今後なされていくのかということにも係ってくることのように思われるので,そういったことも含めて,いつならどういう形で世間を納得させられる制度としてこれが実現できるのかという観点から,今後よく採否を議論していただきたいと思います。 ○小野委員 報酬の問題,特に財務省との関係が非常に難しいということは,私もよく理解してはいるつもりなんですけれども,先ほどのヒアリングの説明にもあったように,例えば被疑者国選ですと上限が設定されています。先ほどの話ですと,勾留が20日間の場合には多数回接見報酬の上限が6万8,000円というふうになっているという中で,弁護士たちがそれなりに活動をしているんだということが一つです。さらに,交通費等の実費もそれが自由に出てくるというわけではないという実情があるということがもう一つです。   それから,全体ということを考えたときに,先ほど被告人国選のことをお尋ねして,具体的な数字は出てきませんでしたけれども,私のお聞きしている限りでは,昨年か,一昨年から,6億円くらい減っているようです。その点については,もちろん,現実的な起訴件数の減少ということもあるのかもしれませんけれども,例えば被疑者国選の段階で示談ができたことなどによって事件が略式で終わる,あるいは起訴猶予になるというようなものもあるわけですし,また,実際報酬が増えている中には示談報酬加算などもあり,様々な中で被疑者段階での弁護活動が充実してきたと思います。それはひいては,起訴された後の公判審理の充実にやはり繋がっていくということも御理解を頂ければ良いかなと思います。   それと,報酬全体のことを考えますと,これは,この話をここでするのが適当かどうか分かりませんが,ここの国選報酬のところだけに目を付けるというか注目するのではなくて,報酬ということの司法における全体の予算の中での在り方ということにも,問題は広がっていかざるを得ないのかなという気もします。では具体的に財務省との折衝をどうするのかという問題ももちろんよく分かりはするんですけれども,考え方としては,この点についてだけ着目するというのが本当に適当なのかどうかということは,もう少し検討する必要があるのではないかなと思っております。 ○酒巻委員 私ももちろんお金のことは非常に大事で,基本なんだというのはよく理解しているつもりですが,小野委員が最後におっしゃった点には同感するところが大きくて,日本国の全体の司法予算というのは諸外国に比べると,やはりまだ少ないのは確かで,その中にまた被疑者と被告人も含めた公的弁護制度があってということであります。それから,世間の納得という言葉がよく出てくるわけですが,元々,被疑者・被告人の弁護活動ということ自体が普通の人の自然な感情から言うと,なかなか納得されにくいものなのだと思います。   ですから,やはり,これはここで言ってもしょうがないことかもしれませんが,身体拘束された人の国選弁護については,基本的には必要で実現すべきだという点では恐らく皆さんの意見が一致しているので,例えば部会でも,あるいは弁護士会も,やはりそれは一国の司法制度として整備すべき非常に重要な事項であり,大事な仕事なのだということについてもっと宣伝活動を繰り広げるというのも,一つの方法ではあろうと思います。まだまだその部分が浸透していないという気はしていますので,予算のことはありますが,一方で,いろいろな機会に刑事弁護という制度の意味につき情報発信することが必要であろうと考えている次第です。 ○坂口幹事 今の小野委員と酒巻委員の御発言に関連して,もし事務当局の方で把握しておられれば教えていただきたいのですけれども,なかなか国民に負担をお願いするに当たって,被疑者の人権保障なんだと言ってみても,ぴんときていただけない点はあると思うのですが,そもそも被疑者国選弁護制度を導入した趣旨というのはもう一つあって,それは刑事裁判の充実・迅速化ということであったと思うのです。こちらであれば,公の利益というか,国民からの理解も得られやすいのではないかと思うのですけれども,今の被疑者国選弁護制度を導入したことによって,刑事裁判の充実化あるいは迅速化というものにどの程度寄与・貢献しているのかというのは,何か国民に対して説明できるものはあるのでしょうか。 ○川端分科会長 ここで議論すべき事項になるかどうかは分からないのですが,これは部会でもっと大きな視野から議論された方が良いと思います。 ○坂口幹事 抽象的な価値判断ではなくて,何かファクトとして,例えばこのぐらい迅速になっていますよとか,あるいは実務の感覚としてこうですよというエピソード的なものでもあればと思ったのですが。 ○久田幹事 事務当局の方から御説明させていただきます。   裁判の迅速化という趣旨があったということなんですけれども,様々な制度全体で裁判の迅速化というのが図られるということだと思いますので,この被疑者国選弁護制度だけでどのように迅速化が図られたのかということを一概に御説明するのは困難だと思います。ただ,個々の裁判の事例の中では,争点が迅速に整理されて,全体としての裁判の迅速化につながったというようなものもあるということは聞いております。 ○川端分科会長 ちょうど今,坂口幹事から内容的にも区切りのいい御質問がございましたので,ここで休憩を取りたいと思います。           (休     憩) ○川端分科会長 再開いたします。   次に,「証拠開示制度」についての議論に入りたいと思います。   この検討事項については,坂口幹事に代わって露木幹事に御参加いただきます。   この検討事項に関しては,再配布した資料13に従って,「第1 証拠の一覧表の交付」,「第2 公判前整理手続の請求権」,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」について,順次,補足的な議論を行いたいと思います。   まず,「第1 証拠の一覧表の交付」について議論を行います。この検討項目については,第6回会議においても御議論のあった検討事項「4」の「証拠の一覧表の記載事項」に関して,「証拠金品総目録」,「書類目録」の書式を配布しておりますので,本日議論する検討課題と併せて,事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 資料13の1ページ目,「第1 証拠の一覧表の交付」に関して,資料は従前と同じものですが,本日御議論いただきたい検討課題と併せて御説明いたします。   一覧表の交付に関しては,当分科会の第6回会議において,検討課題「4」の証拠の一覧表の記載事項に関連して,実務で活用されている証拠金品総目録や書類目録の記載事項を参考とすべきではないかとの御意見や,制度設計の上でどういう一覧表にするのかというイメージを共有してはどうかという御指摘もありました。   そこで,本日は,一覧表の記載事項の具体的な検討に資するよう,資料15-1として証拠金品総目録の書式を,資料15-2として書類目録の書式をそれぞれ配布していますので,まず,これらの書式について御説明いたします。   これらの書式は,いずれも刑事訴訟法193条1項に基づく,検察官による一般的指示として発出された「司法警察職員捜査書類基本書式例」に定められているものです。まず,資料15-1の証拠金品総目録は,司法警察員が証拠物を検察官に送致するときに用いられるものであり,記載事項としては,「品名」,「数量」,「被差押人,差出人又は遺留者の住居,氏名」,「所有者の住居,氏名」などとなっております。   次いで,資料15-2の書類目録は,司法警察員が証拠書類を検察官に送致するときに用いられるものであり,記載事項としては,「文書の標目」,「作成年月日」,「作成者」,「供述者」などとなっております。   なお,法務総合研究所で作成された「事件記録教材」から抜粋した証拠金品総目録,書類目録それぞれのサンプルも席上に配布しておりますので,御参照いただければと思います。   書式の記載事項についての説明は以上ですが,本日は,これも参考にしながら,検討課題「4」の証拠の一覧表の記載事項について,これまでの議論にあった,一覧表の趣旨や段階的証拠開示制度との整合性,裁量の生じ得る記載事項の当否,検察官の作業の過重になったり遅延を生じたりしないかといった観点から,御議論をいただければと思います。   御説明は以上でございます。 ○川端分科会長 それでは,検討課題「4」の「証拠の一覧表の記載事項」を中心としつつ,これに関連する検討課題についても議論を行うことといたします。御質問・御意見のある方は,御発言をお願いいたします。 ○上冨幹事 記載事項については,これまで裁量的な判断を要するものではなく,一義的なものにすべきだということを申し上げてきましたが,それを前提とした上で,更に記載事項の項目の数,つまり記載事項の量についても適切なものに定める必要があるのだろうと思っています。この制度は,証拠開示の際の手掛かりという位置付けだったと思いますけれども,その制度趣旨と,そのために要する作業の量,作業に掛かる時間といったもののバランスをよく考えて,記載事項を考えていくべきだろうと思います。   以前,確か,この制度を作ったとしても,全ての事件でリストが必要になるわけではないだろうという御意見もあったかと思うのですけれども,制度を作る以上は,基本的に,全ての事件でリスト化が求められるということを前提とすることになるのだろうと思いますし,むしろ制度があるのであれば,それを積極的に利用する,全件請求が推奨されるということも十分に考えられると思いますので,それを前提として,対象事件全てについて作業が必要になるとしても,きちんと動くようなものとして考えていく必要があると思います。   本日配布された証拠金品総目録や書類目録の記載項目を見れば,基本的にはここに書いてある項目と同様のものをリストのベースにするという方向で考えていくべきではないか,それで足りるのではないかと思います。仮にこのような項目になるということであれば,検察官としてはこの目録の正確性を確認した上で,検察庁で新たに作成された証拠について同じ項目を追加するという作業で足りるわけですので,比較的リーズナブルな作業量にとどまるのではないかと思っています。 ○酒巻委員 この一覧表それ自体の制度趣旨が,何度も確認されているように,現行法の証拠開示請求のための手掛かりを与え,それを円滑・迅速ならしめるという目的として設定され,その標目が内容にわたらないというか,形式的というか,そのようなものであれば,その一覧表を作って被告人側に示すということ自体は,現在の公判前整理手続の中に設定された証拠開示制度全体の構造と必ずしも矛盾するものではないだろうと私は考えるに至っております。   ただ,次の問題は,標目の内容もそうですけれども,結局,公判前整理手続の中の証拠開示というのは,一つは,被告人側の方から主張を明示していただいて,それを踏まえて更に争点を整理していくということにありますので,そのインセンティブ,要因にならなくなってしまうようなリストの提示時期であると,そこは全体構成に支障を生じると思います。   それから,もう一つは,そういう内容は書いていない形式的なリストであったとしても,それを示すことにやはり一定の弊害の可能性がないわけではありませんので,その両者の点からして,一覧表それ自体は基本的な設計に矛盾しないとは思うのですけれども,それをお示しする時期というのはやはり慎重に検討する必要があるだろうと思っております。このA案,B案というのは,もう既に出ておりますけれどもそれぞれに利害得失がありますから,その点については,部会でも議論していただく必要があると考えております。 ○小野委員 証拠リストの標目について,今日の「事件記録教材」の中に証拠金品総目録というのがありますが,ここに「品名」と「数量」,それから「被差押人,差出人又は遺留者の住居,氏名」のほか,「所有者の住居,氏名」という欄があります。恐らく,証拠物の関係で言いますと,具体的に,品名はもちろん必要だと思いますけれども,押収日や押収場所は客観的に当たり前というか,非常に分かりやすく書けるのではないかなと思っております。あとは,この証拠金品総目録の記載とほぼダブるのかなと思っておりますが,これだと,被差押人等の氏名,住居,そのほかに所有者の住居,氏名とまで書いてありますけれども,例えば,手帳なら手帳という品名と押収日,その押収場所は例えば被告人方なら被告人方,誰それ方なら誰それ方と,あるいは,包丁などのようなものであれば何々先の路上であるとか,そういう書きぶりになるのかなと思います。この備考欄はもちろんリストとしては必要ないというか,関係ないのではないかなと思います。   それから,書類関係で言うと,書類目録というのがありますけれども,もちろん文書の標目,それから,作成年月日ですよね。作成者は,この場合,リストとしては作成者は絶対なければいけないということでもないのかなと思っております。特に検証的なもので言うと,要するに,むしろ検証対象ですね。例えば実況見分調書であれば,何々住所先路上であるとか,あるいは,「甲野太郎方」であるとか,そういった類いの項目になるのではないかなと思います。あるいは,今,割と多い電話の受発信記録というようなもの,その解析報告書ということであれば,電話番号何番の受発信記録というような記載ぶりになるのではないかなという気がします。   それから,鑑定的なことで言うと,鑑定書も作成年月日,それから鑑定対象,毛髪であるとか血痕であるとか足跡であるとか,それと鑑定事項,DNA型鑑定であるとか血液型であるとか,そういう類いのものが考えられるのではないかと思います。   それから,供述録取書の関係で言えば,これは標題,弁録なら弁録と,作成年月日と供述者が要るのだろうと思います。作成者はあってもなくても,それほど大きな影響はないと思いますので,供述録取書関係はこの今の書類目録で足りているのかなと思います。   あとは,押収絡みで言えば,ここにもありますが,領置調書ですね。これの作成日と,ここでは,本当は押収であれば対象物,たくさんあれば何々等というようなことになるのかなと思います。   あとは,捜査報告書の類いがなかなか難しいのかもしれませんが,最近の捜査報告書は,いわゆる捜査報告書と書いてあるのもあれば,例えば,銀行預金口座損益額算出報告書みたいな書き方をしているものや,括弧書きで表題の下に捜査報告書(何々)みたいなものがあるようなので,それと作成年月日の記載があれば,それで足りるのではないだろうかと思います。   あとは,聞き取り捜査報告書,電話聞き取り書きでも聞き取り捜査報告書でも,そういう捜査報告書であれば,作成年月日とその聞き取り対象者,「甲野太郎」なり「乙野次郎」なり,あるいは複数の対象があれば,「誰々等」というような記載でいけるのではないかなと思います。   そういうことで言うと,今の書類目録,証拠金品総目録,ここにある備考欄とか何とかはちょっと除いて,調書なども備考欄は多分要らないのだろうと思うのですけれども,多少記載を加えておく必要がものによってはあるのではないかと思います。その内容は,今申し上げたような,ちょっと紙でお出ししていないので分かりにくいのかもしれませんけれども,比較的客観的,具体的なごく僅かな項目で足りるだろうと考えています。 ○上冨幹事 書類目録に載っていなくて,それぞれの書類の中身を見なければいけないものについて,裁量的な判断を伴って記載するものを項目とすることの問題というのは,これまで重ねて申し上げてきたところですのでもう繰り返しませんが,例えば対象が複数あるときに,「何々等」と書く場合には,代表として何を書くか,それから,「等」の中に何が含まれているのかといったところについて,やはり裁量的判断があって,しかも,場合によってはそれがミスリードする結果になりかねないということも踏まえて,検察官としてその内容をミスリードしないようなものにするためには,どのようにしたら良いのかということを考えながらリストを作成するという点が,恐らく負担として大きく変わる部分ではないかと思います。   それから,例えば,捜査書類の種類によって記載すべき内容を書き分けるというような制度というのは,あらゆる捜査書類の類型化をして,それぞれについての記載事項を決めていかなければいけないということになりかねなくて,それでも恐らく捜査書類の分類というのはし切れないのが現実だろうと思いますので,なかなか制度化になじまないような気がします。例えば,正式な鑑定書の作成が間に合わないために,鑑定人から話を聞いて,その内容を取りまとめたものといっても,供述調書の形になっている場合もあれば,捜査報告書の形になっている場合もあるでしょうし,その場合,その捜査報告書が聞き取り捜査報告書なのか,鑑定書に類似するものなのかといったことについては,いろいろな考え方があり得て,そういったものを記載するというのは一義的な記載を要するリストにはなかなかなじまないのではないかと思います。   それと,先ほどの作業量との関係で,証拠金品総目録をベースにすべきではないかということを申し上げましたが,それとは別の話ですけれども,差押人とか差出人の住居・氏名や押収の日時といったものは証拠物の情報ではないのに,なぜそれが証拠物についてのリストに載ってくるのかというのは,恐らく説明できないのではないかと思います。ですので,それは,別の観点から,そういったものを証拠物に関するリストに載せるというのはどうなのかなと思います。 ○髙橋幹事 例えば捜査報告書の関係で,先ほど小野委員からも話がありましたけれども,実際に作られた書面の表題に,単なる捜査報告書ではなくて,例えば引き当たり捜査報告書と書いてあったり,あるいは捜査報告書の表題と一緒に括弧書きでその内容が書いてあるような場合,こういった場合はこの目録に表題として載せるべきかどうかという点なんですが,一つの見方をすれば,その書類の表題として客観的で一義的であろうとは思うのですが,一方では,表題を付けるときにそういう書き方で果たして内容を本当に正確に表しているのかというところで,一定の裁量が働くわけで,場合によっては将来的に疑義が生じたりするかもしれないと思います。ちょっとその辺り,いろいろ考慮すべき点があるのかなと思うのですけれども,その辺りはどうお考えになりますか。 ○露木幹事 ルールというものについては,特に統一基準のようなものはありません。あえて言えば,事務当局から配布をしていただいたサンプルがありますけれども,このサンプルのような形,つまり,捜査報告書であれば捜査報告書とだけ文書の標目欄に記載をするということが,一般的に警察学校などでも教えられていますので,それに従って実務の方も動いているのが基本だろうと思います。ただ,先ほどおっしゃったように,捜査報告書の中に引き当たり捜査報告書と題しているものもあります。   ただ,その引き当たり捜査報告書という表題の書類があり,書類目録にはそういう表題が記載されているという例もあるのですけれども,中身を見ると,実況見分に類するものもありますし,資料の入手があった場合に,それも同時に添付されているようなものもあったりなど,必ずしも一様ではありません。それでも,そういう表題のものとして一応実務が動いているのは,この目録に関して言えば,これは飽くまで送致をする書類のリストにすぎないからです。一件記録として非常に膨大なものを検察官に送致するわけですけれども,何を送致するのかということが,この目録を見れば全体が分かるということを目的にしているわけです。目録に引き当たり捜査報告書と書いてあるけれども,果たして引き当たりというものに中身が完全に一致しているのかどうかというのは,それは正に中身を見れば分かるわけですので,リストとしての記載はそれで足りているということなのです。   他方,今議論されているリストの開示というのは,その開示をする目的が,後々の証拠開示請求の手掛かりにしようということであれば,その目的と今私どもがこの書類目録を作っている目的とが整合するのかということを考えなければならないと思います。検察官は実物をそのまま受け取るわけですから,書類の表題を厳密に詰めて考える必要がないわけですが,手掛かりを与えようとするというその趣旨からすると,これは実物が当然添付されてこないわけですから,今ある目録の表題をそのままリスト開示のリストとして載せて良いのかというのは疑問である。 ○川端分科会長 次回の特別部会までは本日が最後の分科会であり,本日は議論すべき問題がたくさんありますので,先へ進ませていただきます。   次に,「第2 公判前整理手続の請求権」についての議論に移りたいと思います。   この検討項目については,第4回会議において整理手続の運用状況に関する調査結果を事務当局から報告していただきましたが,その調査結果が最新のものに更新されたとのことですので,本日議論する検討課題と併せて,事務当局から調査結果を説明していただきます。 ○保坂幹事 資料13の3ページ目,「第2 公判前整理手続の請求権」について,資料自体は従前と同じものですが,この検討課題の「1 趣旨等」,「2 不服申立手続」に関して,整理手続の運用状況についての調査結果を更新しておりますので,まずは,その調査結果について御説明いたします。   資料16の「当事者が整理手続に付すべき旨を申し出た事案について」ですけれども,これは第4回会議で御説明したものに,その後の調査分を加えて更新したものであり,具体的には,平成25年1月1日から6月30日までの間に,当事者が裁判所に対して整理手続に付すべき旨の申出をした事案についての検察官からの報告をまとめたものです。予定していた事務当局の調査はこれで完結ですので,報告としてはこれが最終のものになります。   (注1)にも書いてありますとおり,検察官からの報告ですので,検察官の把握ベースとなりますし,(注2)にありますとおり第4回会議で報告したものとの数字の比較ができるように,括弧内に前回報告時の数値を書いております。   それでは,まず,「1 概要」についてですが,当事者が整理手続の申出を行った事案全体100件のうち,検察官のみの申出が10件,被告人側のみの申出が86件,双方による申出が4件です。当事者が申し出たものの手続に付されなかった事案が合計35件あり,そのうち申出が被告人側のみであったものが33件となります。割合で言いますと,被告人側のみの申出であった事案のうち整理手続に付されなかったものの割合は,約38.4%,86件中の33件となります。前回の説明のときには,61件中23件,約37.7%でしたので,割合としてはほぼ同じとなっています。   次に,「2」の被告人側が申出をしたものの整理手続に付されなかった事案の中身についてですが,33件のうち,検察官による任意開示が行われたものは31件であり,開示が行われていない2件は,被告人側の申出の理由が証拠開示以外のものであったものと,弁護人の交代によって方針が変わり,任意開示を求めないことになったものです。前回の説明時には,任意開示が行われていないものが3件と御報告しましたが,そのうち1件については現時点で既に任意開示が行われていて,残りの2件が今回の資料にある2件になっております。   そして,二つ目の「○」ですが,公訴事実の争いの有無で分けてみますと,争いのないものが4件,争いがあるものが29件であり,そのうち,「争点・証拠構造が比較的単純であると思われるもの」が26件,「打合せによって争点・証拠の整理をしたと思われるもの」が2件,「その他」が1件です。   争いのあるもののうち,「争点・証拠構造が比較的単純であると思われるもの」としては,前回御紹介したもの以外で申し上げますと,店内における強制わいせつの事件で,弁護人が証拠開示を受けたいとして整理手続の申出をしたところ,三者打合せにおいて,争点が実行行為の有無だけであり,その点についての検察官立証が被害者供述のみであることが確認された上で,検察官が任意開示に応じ,整理手続に付されずに第1回公判が行われたという事案があります。もう1件御紹介しますと,被害者2名を殴打したという暴行事件で,被告人が捜査段階から実行行為を否認しており,弁護人が証拠開示を受けたいとして整理手続の申出を行ったところ,実行行為に関する検察官立証は,被害者2名と目撃者1名の供述であり,検察官において,裁判所に対して争点は明確かつ単純である旨の意見を述べる一方で,任意開示に応じ,整理手続に付されずに第1回公判が行われた事案などがあります。   調査結果の御説明は以上ですが,本日は,ただいま御説明した調査結果も参考に,整理手続の運用状況も踏まえつつ,検討課題の「1」及び「2」について,補足的に御議論いただければと思います。   加えて,検討課題「2 不服申立手続」については,前回会議において,請求権を認めて不服申立ての仕組みを仮に設けるとしても,請求却下決定に対する即時抗告だけで足りるのではないかという御意見もあったところですが,そのように請求却下決定に対する即時抗告だけを認めることが相当かどうかも,部会への報告を念頭に置いて御検討いただければと思います。   御説明は以上でございます。 ○川端分科会長 それでは,「第2 公判前整理手続の請求権」に関し,調査結果についての御質問も含め,検討課題の「1」及び「2」のいずれについてでも結構ですので,御質問・御意見のある方は,御発言をお願いいたします。 ○酒巻委員 この枠の1,2の全体について,私の意見と,それからそうでない場合についての補足的な意見を申します。事務当局の調査によりますと,まず,請求権を作ることの主たる目的が証拠開示であるとすると,整理手続に付されなかった事案でも検察官が任意開示に積極的に応じているということで,整理手続に付されないからといって,必要な証拠開示を受けられないという実態が本当にあるかというと,多分それは余り認められないのではないかと思います。なお,争いのある事件については,そのために公判前整理手続というのが整備されているわけですけれども,やはり調査によれば,それに付すまでもなく,例えば争点が単純である,あるいは,それ以外の事案でも,打合せによって,この打合せというのも,これは正に現行法が想定している第1回公判期日前の関係者の事前準備でありますが,それで争点整理の目的が達せられたと思われるものがあるわけです。こういう客観的資料を見ますと,今の制度ではなくて請求権という法的な手段をあえて設定する要請が本当にあるのかということは,やはりきちんと踏まえて議論しなければいけないと思います。   結論を言いますと,これは私の専門家としての予測でありますけれども,そもそも第1回公判期日前の準備というのは両当事者と裁判所の間で流動的に進んでいくもので,場合によっては,直ちに公式の公判前整理手続を開始するのが良い場合もあるし,しばらくは事前準備の形をとり,その進捗状況を見てやはり公判前整理手続に付そうかというような場合もあり,あるいは,第1回公判をやった後で期日間整理という手段を使う,このように様々なオプションがあって,それを関係者が柔軟に駆使していくというのがメリットである。要するに,最終目的は,できる限り迅速に争点を整理して,その後の公判を集中的に充実した形で行うということにある。整理手続の実施はその一手段です。しかるに,ここに公判前整理手続請求権というものを新たに設けますと,請求権があるということは,一番狭い意味で裁判所が何か応答しなければいけない,公判前整理手続をやるかやらないかということを,その時点,請求があった一時点において決めないといけないということになります。そういうことをやりますと,恐らく全体の運用が非常に硬直的なものにならざるを得ない。付随して,請求権を認める法的ないし実践的意味が,単に裁判所に応答義務を生じさせるだけではなく,私は反対ですけれども,請求権構成をするとすれば,それに対する不服申立てができないと意味がないという考えがあり得ます。元来流動的な状況の推移に則して柔軟な争点整理の運用が可能であったのに,第1回公判前の時点で請求をすると,まずは決定が行われ,そして場合によっては不服申立てが行われることになり,記録が高裁に移り,そこで準備手続の流れが止まってしまう。そういうことが,きっと起こると思います。これは予測ですけれども,かえって最終目標である柔軟な運用による争点整理とその後の審理の迅速化に,支障を来すのではないかと思います。私はこのような有害結果の危険の方が大きいと推測しますので,結論として,請求権構成はやめた方がよろしかろうと思っております。   それから,請求権構成をする場合には,先ほど何度も言いましたとおり,不服申立てができないと多分意味がないと思います。不服申立てについて,先ほど事務当局からも説明がありましたとおり,需要があるのは,裁判所が弁護人の請求にもかかわらず,公判前整理手続はやりませんという,請求を却下する決定をした場合,その場合については不服申立てを認める意味があるのだろうと思います。これに対して,現在の公判前整理手続に付する決定について特に不服申立てが設けられていないのは,整理手続は一番重装備の争点整理の仕組みでありますから,それを実施することについて,関係者に何か大きな不満とか障害が生じるということは想定できないからであろうと考えられる。そこで,仮に不服申立てを設けるとすれば,このA案の中の更に請求を却下する決定についてだけ即時抗告を認める,私は不服申立ても要らないと思っておりますが,仮に作るとすれば,そういう片面的制度設計の在り方も成り立つのではないかと思います。現行法では,例えば裁判官に対する忌避申立てに関する決定に対しては,片面的な不服申立てになっている,そういう実例はあります。   全体については以上です。 ○小野委員 少し繰り返しになるかもしれませんが,任意開示でやっているではないかという点については,やはりそれで十分だとは到底言えないと思っております。実際に公判前整理手続が開かれ,そこで,かなり任意開示というのが進んでいるという現状にありますけれども,その場合でも更に類型証拠開示請求をした場合には類型として証拠が出てくるということが往々にしてあるというのが実情であり,現在のように公判前に付さずに任意開示をやっているから足りているとは,やはり言えないだろうと思います。それは,実際にどれだけのものが開示されているのか分からないでやっているというにすぎないわけですので,その点は大いに違うのではないかなと考えています。そういうことで,やはり請求権を設ける,もちろん,争点整理ということによって,この事件については当事者としてはそれが必要なんだということを考えた場合には,公判前整理手続に付するという請求したいという事件はそれなりにあります。もちろん,今,出ている不服申立てを伴うものということで,制度の仕組みはあって当然ですし,そういう判断がその間に挟まれたからといって,手続がそれほど制限されるということにはならないだろうと考えています。 ○保坂幹事 確認なのですが,決定に対する不服申立てを仮に設けるとして,小野委員は不服申立てを設けるという御主張でいらっしゃいますが,その場合に,却下決定についての不服申立てだけを認めるということでよろしいのか,そうではないのかについての御意見を聞かせていただければと思います。 ○小野委員 却下決定に対する不服申立てだけを認めることでよろしいのではないかと思いますけれども,それが制度的にいかにもおかしいということだとすると,両方からの申立てにしても良いのかもしれませんが,恐らく使われないのではないかと思います。だから,使われないものがあっても,それはもしかして良いのかもしれませんけれども,却下決定に対する不服申立てだけという仕組みでも良いのではないかと思います。 ○川端分科会長 では,そういうことで集約します。 ○宇藤幹事 請求権あるいは不服申立手続についてのお話なんですけれども,基本的には,酒巻委員から先ほどお話があったように,請求権構成というのは,現行法の仕組みを前提とする限りは,余りなじまないのではないかと考えております。というのは,恐らく現行法が予定するところというのは,従来あった訴訟指揮権の延長線上で公判前整理手続等の枠組みをブラッシュアップしていくという発想があったのだと思います。そうであるとすると,元からやはり請求権を入れて考えていくというのは,難しいところがあるのではないかなと思います。それと,不服申立てに関連して,請求権と結び付いてということでありましょうから,これもやはり難しい。ただ,仮に請求権に付随して不服申立手続を認めるとすると,先ほど小野委員のお話からも出てきておりましたように,請求却下決定に対する即時抗告,これは認め得る可能性はあるのかなというようなことを考えました。 ○髙橋幹事 公判前整理手続の請求権の付与が不要だということは,今まで何度も話していますので私の意見は従前のとおりといたしますが,先ほど小野委員が言われた任意開示の件について,現場では,弁護人の方から証拠開示が必要だということで公判前整理手続の申出があったとしても,その目的だけで公判前整理手続の要件を満たしているわけではないというのがまず大前提にあるのですが,さりとて,そういう要望に対しては,検察官の方から任意に開示がなされる場合が多いというのは,今日提出されたデータからも裏付けられていますし,その任意開示を受けて弁護人の方が目的を達したということで,これ以上争点及び証拠の整理のための手続は不要だということになれば,そのまま公判に入っています。   一方で,それでも不十分だと,開示された証拠だけでは十分な主張,立証ができずに,やはり整理手続を踏まえた上でないと争点の整理,証拠の整理ができないというような疎明が弁護人からあって,それでなるほどなと思った場合に,裁判所としては公判前整理手続の方に回すということも,運用上,十分あり得ると思いますので,酒巻委員が今言われたとおり,その辺りは柔軟にその状況に応じて裁判所が判断していけば,制度として今でもうまく回っていると思います。 ○川端分科会長 次に,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」についての議論に移りたいと思います。この検討項目については,第7回会議において,検討課題の①から④までの各証拠類型に関して議論がなされたところですが,検討課題③及び④に関連して,配布資料に記載されている「差押調書」,「領置調書」にどのような事柄が記載されるのかが分かるよう,それらの書式例を配布しておりますので,本日議論する検討課題と併せて,事務当局から説明していただきたいと思います。 ○保坂幹事 資料13の4ページ目,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」について,資料は従前と同じですが,そのうちの検討課題の③と④につき,「差押調書」,「領置調書」を対象にするのかに関して前回の分科会で議論がございました。   「領置調書」については,犯罪捜査規範の109条1項,事件事務規程の13条1項により,任意提出された物を領置するときには作成しなければならないとされ,また,犯罪捜査規範110条2項,事件事務規程13条3項により,遺留物を領置するときにも作成しなければならないとされております。   「差押調書」については,同じく犯罪捜査規範151条,事件事務規程51条により,差押えをしたときには作成しなければならないとされております。   これらの「領置調書」及び「差押調書」に記載する事項については,先ほど申し上げたのと同じく,一般的指示として発出された「司法警察職員捜査書類基本書式例」によって定められており,それぞれの書式例を資料17-1から17-7までとして配布しておりますので,これらについて御説明します。   まず,「領置調書」の書式例が,資料17-1の「領置調書(甲)」と資料17-2の「領置調書(乙)」になります。   (甲)は,任意提出した物件を領置した場合の書式で,(乙)は遺留物を領置した場合の書式です。   御覧のとおり,(甲),(乙)それぞれ領置年月日,場所が記載されるほか,(甲)には,「差出人住居,氏名」が記載され,また,(甲),(乙)ともに,押収品目録には,「品名」,「数量」,「所有者の住居,氏名」などが記載され,(乙)には,更に「遺留者の住居,氏名」も記載されます。   そして,「差押調書」の書式例が,17-3・4の差押調書(甲),(乙)と,17-5・6の捜索差押調書(甲),(乙)になります。   差押調書,捜索差押調書の(甲)は,それぞれ差押許可状による差押え・捜索差押許可状による捜索差押えをした場合の書式,(乙)は,それぞれ被疑者を逮捕する現場で差押え・捜索差押えをした場合の書式です。   御覧のとおり,(甲),(乙)ともに差押え・捜索差押えの「日時」,「場所」,「目的たる物」,「立会人」,「経過」を記載するほか,「差押えをした物」として,資料17-7の押収品目録を別紙として添付し,これには,「品名」,「数量」,「被差押人,差出人又は遺留者の住居,氏名」,「所有者の住居,氏名」などが記載されます。   さらに,捜索差押調書には,「捜索した身体や物」,「捜索の目的たる人」も記載されます。   それぞれ書式についての御説明は以上ですが,これら領置調書や差押調書が,御説明した内容が記載される証拠であるということを踏まえて,類型証拠開示の対象とする必要性・相当性があるかや,これらを超えて,押収経過に関する供述録取書等をその対象とする必要性・相当性があるのかについても,御検討いただければと思います。   御説明は以上です。 ○川端分科会長 それでは,検討課題③,④のいずれについてでも結構ですので,御質問・御意見のある方は,御発言をお願いします。なお,検討課題①,②についても,前回とは別個の観点のものがあれば,御発言をいただきたいと思います。 ○小野委員 ①について,別個の観点かどうかちょっと分かりませんが,よろしいでしょうか。   例えば,具体的に,平成22年4月27日の最高裁で破棄された大阪母子殺害事件の差戻審というのがあったのですね。そこで,要するに,特定の車,例えばホンダ・ストリームなるものが現場近くにあったという供述があって,しかし,差戻審で,ホンダ・ストリームではなくて,白っぽいパジェロのような車だったというふうに店舗関係者が述べていたという捜査報告書が出てきたと。これは具体的な事例なんですけれども。こういう具体的な事例でお話しするのが適当かどうかは分かりませんが,少なくともこういった類いのものがこの6号の捜査報告書の中に含まれているわけです。そういう直接証明しようとする事実の有無に関する供述が,供述録取書の形ではなくて捜査報告書として存在しているというようなことを考えますと,やはり類型として請求証拠の証明力判断のために必要だと言えるのではないかと思います。そういうことで言うと,そこを改めて検討をしていただく必要があるのかなと思います。   それから,③,④については,あれこれ申し上げて,大変申し訳ないんですが,詰まるところ,確かに差押調書,領置調書ということで,それなりに意味があるのかなと思います。 ○酒巻委員 専ら③と④の証拠物関係の書面ですが,小野委員もおっしゃったとおり,まず,いろいろなパターンがあると思いますけれども,③と④をもし類型証拠という大枠の中に入れ込んで,証拠物だけでは分からないときに,その関連性などが分かるものとして,領置調書と差押調書,小野委員がおっしゃったように,それがあれば,類型として仮に書くとすれば,それが適当だと思います。   それから,④というのは,証拠物自体が類型証拠になっている場合に,更にその物の押収経過でありますから,押収経過に関する調書というのは,それ自体が即類型に当たるとは言えないと思います。だから,セットでというわけにはいかないと思うんですけれども,やはり関連性等を知る必要があるということであれば,結局は今日サンプルとして配られた領置調書,差押調書の情報があればよいのではないか,それ以上のものは,性質上やはり第一段階の類型証拠には当たるとは言えないのではないか。 ○上冨幹事 ③,④の証拠類型について,仮に拡大するのであれば,恐らく差押・領置調書で足りるのだろうという点については皆さんと同じ意見ですが,その制度の採否を考える上では,③,④のそれぞれについてやはり検討しておくべきことがあると思いますので,簡単に申し上げます。   まず,③については,やはり請求証拠でありながら,関連性に関するものが請求証拠として出なくて,類型として開示の対象にしなければいけない必要性が本当にあるのかというのは,制度の採否の観点からは最終的にはよく議論した方が良いと思います。周囲の実務家にも聞いてみたのですけれども,結局,証拠物そのもので関連性が明らかになるようなもの,あるいは,検察官の立証責任との関係で請求証拠に入らない,被告人質問で関連性を明らかにすれば足りると思われるようなもの以外で関連性について請求証拠になってこないものというのが本当にあるのかという感じを持っていますので,必要性については更に議論していただければと思います。   それから,類型証拠として開示される証拠物に関して,例えば差押調書を更に類型とするかどうかについては,理屈の問題として,なぜそれが独立の類型証拠になるのか,あるいは,独立の類型証拠ではなくて,類型証拠として開示された証拠物の言わば附属物のようなもの,つまり今までの類型証拠とは別のカテゴリーのものとして制度化することになるのか,そのいずれで説明するのかといった,制度としての在り方の問題があると思うので,そこもよく議論していただく必要があるかなと思います。 ○川端分科会長 既にかなり議論してきた問題ということもあり,ほかに特に御意見がないようですので,次に移りたいと思います。   それでは,「被告人の虚偽供述に対する制裁」についての議論に入ります。この検討事項につきましては,小野委員に代わりまして神幹事に,露木幹事に代わりまして坂口幹事に,それぞれ参加していただきます。   この検討事項につきましては,第5回会議での議論を踏まえ,部会への報告に向けて,補足的な検討を行いたいと思います。   本日は,従前と同じ配布資料を用いることとしておりますが,補足的に検討すべき課題について,事務当局から説明していただきます。 ○保坂幹事 御説明いたします。   まず,「検討課題」の「1(1) 被告人側の請求によるものとすることについて」です。制度概要においては,被告人が証人となる場合の要件として,「被告人又は弁護人の請求があるときは」と記載しておりますが,この制度が被告人の有する黙秘権を放棄するものであることに照らして,請求の主体について,制度概要の要件が適切かについて御検討いただければと思います。   次に,「検討課題」の「1(1)」の一つ目の「○」にある「証人尋問以外の方法で被告人の供述を公判に顕出する場合(供述書の提出等)において,検察官に反対尋問の機会を与えることが必要か。」という課題については,当分科会第5回会議において,刑事訴訟法322条が任意の不利益供述に証拠能力を認めている趣旨からすると,被告人に不利な部分のみが証拠となるのが本来の在り方であって,それを前提とすると検察官の反対尋問が必要なのかといった御指摘もありましたが,他方で,被告人の証人適格を認める制度の趣旨や,刑訴法322条に関する実務の解釈・運用を前提とすれば,供述書等が証拠となる場合には,検察官に反対尋問の機会を与えるものとすることに特段の異論はなかったものと理解をしております。   そこで,本日は,検察官に反対尋問の機会を与えるとすると,具体的にどのような法的仕組みを設けるのが適切かということについて,専門的・技術的な観点から御検討いただければと思います。   次に,「1(1)」の二つ目の「○」にある「共同被告人の事件が併合されている場合において,証人となった被告人を共同被告人が尋問する機会を与えることが必要か。」という課題については,第5回会議において,その必要があるということに特に異論はなかったものと理解をしております。   そこで,共同被告人に,証人となった被告人を尋問する機会を与えるとすると,具体的にどのような法的仕組みを設けるのが適切なのかという点について,専門的・技術的な観点から御議論いただければと思います。   さらに,「検討課題」の「2 その他(制度の採否に関連する検討課題等)」についても,これまでにいろいろな御指摘,御意見が示されているところですが,部会でも,採否をめぐる議論がされるかと思われますので,これまでにされた御指摘や御意見とは別の観点からのものも含めて,必要に応じて御議論いただければと思います。   御説明は以上です。 ○川端分科会長 それでは,ただいま事務当局から御説明があった検討課題について,御意見,御指摘のある方は御発言をお願いいたします。 ○酒巻委員 まず,基本構成として,黙秘権を放棄してしゃべっていただくわけですから,これは被告人の請求による,職権や検察官の請求はなしという形になろうかと思いますが,先ほど御指摘になったように,被告人と検察官は当事者なのですけれども,刑訴法の条文は大体「検察官及び被告人又は弁護人は」という主語になっていて,現在の資料では,これに倣って「被告人又は弁護人」ということになっています。こういう法律用語を使ってあると,もちろん被告人の意見は聴くのでしょうけれども,弁護人には独立代理権があって,弁護人御自身の判断で,証人尋問請求ができてしまうようにも読めてしまう。やはりこれははっきりと被告人の明示・黙示の意思に反して弁護人がそういうことはできないと,そんなことをするわけないんだけれども,そういうことを条文上も明らかにしておく方が望ましいのではないかと思います。そこで,何か実例があるかというと,刑訴法326条の同意の主体が被告人としか書いてなくて,何でそうなのかというのはいろいろと議論があるんですけれども,ここは最終的には立法技術の問題ですけれども,弁護人の意思だけで被告人の持っている黙秘権を放棄させてしまうような結果になるようなことはあり得ないので,それをはっきり条文化できれば良いのではないかと思っています。それが一つです。   それからもう一つ,超技術的な事柄ですが,現行の被告人質問だと,共同審理を受けている共同被告人も一方の被告人に対して被告人質問ができる。だから,それと同じように,今度,証人尋問形態にするとすれば,この共同被告人に証人となったもう一方の被告人に対して尋問する機会を与えるという結論は採る必要があると思うのです。ただ,ここは非常に悩ましくて,髙橋幹事に聞きたいのですけれども,証人尋問の場合に共同審理を受けている共同被告人がいますよね,普通の証人が出てきて,一方の被告人が証人尋問を請求したときに,そこでしゃべった証言というのはもう片方の共同被告人に対して証拠になるかというと,多分そのままではならない。共同被告人に対しても証拠とすることができるようにするには何か手続をとらないとといけないのですよね。   だから,同じような仕掛けで,もう一人の被告人が証人になってしゃべっているときに,その内容が共同被告人との関係でも証拠になるためには,何かしないといけない。そういうことを技術的に考えておかないといけないかなということなんです。例えば,職権で一方の被告人を他方の被告人についても証人にするとか,いろいろな方策は考え得るのですが,何か法技術的手立てを考えておかないと,そのままでは証拠化できないという問題がある。部会に出す前にそういう話を少し詰めておかないといけないのかなと思います。 ○川端分科会長 2点ありますので,それを分けて議論します。   まず最初の点ですが,これは立法技術的には,「被告人は」という文言でいいのでしょうか。「又は弁護人」としなければならないのでしょうか。 ○酒巻委員 「又は弁護人」と入れると疑義が生ずるのではないかと思います。 ○川端分科会長 独立代理権の問題が出てきますのでね。仮に「被告人は」という文言を用いた場合に,弁護士の立場として困ることがございますでしょうか。 ○酒巻委員 多分,刑訴法326条の同意と同じように考えれば良いのではないかと思うのです。 ○川端分科会長 その辺はそのようなやり方もあり得るわけですよね。   それから,2点目の併合審理している場面での共同被告人と証人適格の関係で,今,酒巻委員から髙橋幹事に御質問があったのですが,もし今の点に関して何か可能な線があり得るとすれば,どのようなものかという点を御教示いただければと思います。 ○髙橋幹事 酒巻委員が最初に例示として挙げられたのは,仮に被告人がA,Bといて,Aがある証人の証人尋問を請求して,その証人に法廷で話してもらった場合に,それがそのままで被告人Bの証拠になるか否かについてですが,それはそうならないですね。Bとの関係でも証拠とするためには,併せてBも請求するという形を採るのがスムーズなやり方です。   一方で,では,今回の新制度の設定で言うと,AがA自身を証人として請求した場合に,Bにその証拠調べの結果を及ぼすための手当てということなんですが,ただ,請求権はBにはないのですよね。だとするとどうなるのか,そこだけ職権ということになるんですかね,ちょっと頭を整理して考えてみないと,すぐにはお答えできません。 ○川端分科会長 少し煩雑なのですが,その証人尋問に関してだけ弁論を分離するという方向はあり得るのでしょうか。 ○髙橋幹事 それは実務上の工夫としてはあり得ます。一旦分離してまた併合して手続を進めていくというのは,方法としてはあるけれども,何かちょっと迂遠な感じもしますね。 ○川端分科会長 そういう感じはしますね。ただ,やはり権利性を確保するためには,明確な手続がないと良くないと思うのですね。   今の件に関して何か御意見がございましたら,これは部会への報告の中でも触れざるを得ない問題ですので,御発言をお願いします。宇藤幹事,今の点について,何か御意見はございませんでしょうか。 ○宇藤幹事 確たるアイデアは余りございませんが,多少不格好にはなりますけれども,やはり職権ということで,証人となり得るのだということを確認する手続が要るのかなと考えております。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○髙橋幹事 そこで,職権でやるためには,被告人Bの方からその職権発動を促す申出か何かしてもらうということでしょうかね。 ○川端分科会長 そこも手続的に明確化する必要があるのでしょうか,事実上の問題ということになるのでしょうか。 ○宇藤幹事 ただ,今のままですとよく分からないというところがございますので,そういう手続の成り行きになるということが分かるような規定ぶりにする必要はあるかなと考えます。 ○川端分科会長 今ここで議論があったのですが,酒巻委員,更に御意見がございますでしょうか。 ○酒巻委員 結構です。ただ,そういう問題があるということを明確にしたということです。 ○川端分科会長 分かりました。   今,酒巻委員から出た二つの点についての議論はここまでとして,検討課題の「1(1)」の最初の「○」にある「証人尋問以外の方法で被告人の供述を公判に顕出する場合(供述書の提出等)において,検察官に反対尋問の機会を与えることが必要か。」という点について,まだ御意見が出ていませんので,御意見があればお願いいたします。 ○上冨幹事 この資料では「必要か」ということでまとめられていますが,仮にこういう証人尋問以外の形で顕出された場合に,何らかの形で反対尋問の機会を与えることは必要なんだろうと思います。その上で,具体的な制度の在り方としては,恐らく,当該供述調書等の取調べ後に,その供述調書に現れた事項について検察官に尋問の機会を与えるという仕組みになるのだろうと思います。例えば,攻守は逆かもしれませんが,ビデオリンクによる証人尋問調書に関する刑訴法321条の2の規定のようなものを参考にして作るのかなと思います。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。神幹事,もし何かございましたら御発言をお願いします。 ○神幹事 酒巻委員がおっしゃったような問題があるということは理解しているのですが,職権でもって証人にするという形というのが,黙秘権との関係で問題にならないとは思いますが,それでいいのかがしっくりきません。 ○保坂幹事 ただ,問題は,被告人Aが自らを証人として請求している場合に,Bとの関係でどうするか,言わば被告人Aの決断は済んでいることを前提として,その上での技術的な措置としてどういうものが必要かということなのかなと思いますけれども。 ○酒巻委員 現行法に存在する技術的な措置としては,そういう道があり得るなということです。黙秘権放棄に関する実質的な問題は多分ないのではないかなと思います。   あとは,むしろ部会の委員・幹事の方に大きく議論していただきたいのは,これまでとはシステムとして大きく変わるわけです。どうなるかの予測は立ちませんけれども,被告人も公判廷で自分に有利なことを言う場合には,証人として言うことになる,つまり,正に公判廷で真実を語り,虚偽を述べれば証人ですから偽証罪になるのだということです。そういう下で,公判が本当のことを語る場だという方向になる一方で,以前,部会で角田委員がおっしゃっていたかもしれないけれど,これまでの被告人質問というのは大体,話半分に,うそも本当も言って,しかし,自由にしゃべってもらうのを聴くことにも意味があったというお話もありましたし,裁判員の事件では,裁判員の方々が被告人の口から直接話を聞きたいというお気持ちは強いのかもしれません。そういう考え方と,しかし,これまではそこでしゃべられていることが,反対尋問はないし偽証の制裁もないから,もしかするとうそを言っているのではないかという逆方向の推測で,余り信用されないそういう側面もあった。これを今設計しようとする制度にすれば,法廷はやはり本当のことをしゃべってもらう所である,しゃべるんだったら証人になるのだと,そういうシステムになる。その結果として,もちろん自白事件では,多分余り被告人質問と変わらずに事が行われるのではないかと私は思っていますけれども,否認事件の場合はどうなるかは分からない。しかし,そういう大きな制度変更なのだということを前提にして,全体の議論をしていただければと希望します。技術的なことは我々が考えますので。 ○川端分科会長 今,酒巻委員から御指摘がございましたように,これは大きな制度改革になりますので,部会でもう一度,根本的な議論をしていただきたいと思います。その際に,ここで議論されたことが前提になっていくということでまとめさせていただきたいと思います。 ○上冨幹事 その場合の視点なのですが,法廷に出てくる被告人の供述が真実のものであることを担保することが必要ではないかという問題意識を維持するのであれば,今は案から落ちていますけれども,当初は被告人質問に制裁を設けるという考え方もあったわけで,およそそういう手当てはしないということとの選択であれば,偽証のリスクを恐れて話さなくなる人が増えるのではないかという問題は生じるのだと思うのです。ただ,法廷での供述に何らかの制裁を設けるべきではないかという問題意識を残すのであれば,証人であろうと被告人質問であろうと恐らく利益状況は変わらないと思います。そうすると,ここで考えるべきは,元々の問題意識ですけれども,被告人は法廷で何を言っても制裁がないという制度が良いのか,そうではないのかというところが分かれ目になって,その片方を採れば,今のところの議論では証人適格を認めるという制度が一番合理的ではないかというように進んでいるわけなので,恐らく議論していただくのはその点になるのかなと思います。 ○川端分科会長 その点は正におっしゃるとおりでございまして,被告人質問の制度ががらりと変わるという面があります。当事者主義の徹底という観点から,当事者化を進めるために,被告人質問について新たな制度を今検討しているわけですので,その点は部会でもう一度きちんと議論していただきたいと思っております。 ○宇藤幹事 その他の方の議論なのですけれども,余り検討されていなかったかなということを一言だけ申し上げます。   一番初めのところで,不利益推認がされてはならない旨の規定を設けるかとなっているのですけれども,この点については私自身,疑問を持っております。現行の制度と比べて,被告人質問制度をなくすということがここでの問題であって,そのことに付随して不利益推認をするということはなかったはずでございますので,殊更条文等を設けて確認する必要性はないだろうと思います。   あと,三つ目の「○」のところの二つ目ですけれども,恐らくここに挙がっている議論というのは,アメリカの刑事手続の成り行きなんかを見てどうなのかという議論なのだと思いますけれども,この点については,飽くまでも議論するのは我が国の手続を前提してということでございますので,余りアメリカの話というところに引きずられる必要性はないのかなという印象を持っております。 ○川端分科会長 以上でこの問題の議論を終えさせていただきます。   第5回会議から本日までの4回の会議を通じ,当分科会で検討すべき事項について,前回の部会での議論も踏まえて,二巡目の検討を行ってきました。皆様に採否の点は留保しつつも,各検討事項について具体的で活発な御議論をいただいた結果,かなりの程度の意見の一致を見た点も少なくなく,来月7日及び13日に開催が予定されている部会には,充実した報告ができるのではないかと思っております。   今後は,部会への報告に向け,本日の議論も含めて,これまでの当分科会での議論を前提に,配布資料を加筆・修正することにより,資料を作成したいと思います。   その内容につきましては,事前に,当分科会の構成員や御発言をいただいた委員,幹事の皆様にもお示ししたいと思いますが,議論のためのたたき台であることや,部会までに時間的余裕がないことから,資料の取りまとめについては,基本的には,分科会長の私にお任せいただきたいと思います。そういうことでよろしいでしょうか。どうもありがとうございます。   それでは,そういうことで案を作成させていただきます。   これで本日の議事を終了したいと思います。  なお,本日の会議につきましても,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきます。  また,議事録ができるまでの暫定的なものとして,事務当局において,本日の議論の概要をまとめて,全委員・幹事に送付していただくこととします。  それでは,これで閉会いたします。本日はどうもありがとうございました。 -了-