法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第22回会議議事録 第1 日 時  平成25年11月13日(水)   自 午後1時30分                          至 午後5時22分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第22回会議を開催いたします。 ○本田部会長 皆様には,本日も大変お忙しい中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。   なお,松木委員におかれましては,所用のため御欠席され,また,但木委員と酒巻委員におかれましては,遅れて御出席されるとのことです。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,前回会議で議論いたしました検討事項につきまして,補足的な御意見を頂き,その後,現在,第2作業分科会で検討いただいております事項につきまして,同分科会における検討を踏まえて,議論を行うことにさせていただきたいと思います。   それでは,本日の配布資料につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○吉川幹事 御説明いたします。   前回会議において配布いたしました資料63の「作業分科会における検討(2)」,「参考資料」,そして,「基本構想」につきましては,本日も席上に配布しております。また,あらかじめ大久保委員から,御発言の際の補助資料として,御意見を記載したメモの御提出がございましたので,配布させていただきました。そのほか,本日の議事進行の予定を記載した「進行予定」と題する書面もお配りしておりますので,御確認をお願いいたします。 配布資料の説明は以上でございます。 ○本田部会長 それでは,早速,議論に入りたいと思います。   本日も,前回会議に引き続き,各検討事項につきまして,現時点までの作業分科会での検討を踏まえ,皆様から,「考えられる制度の概要」や「検討課題」に関する御意見,あるいは,更に詰めておくべき点の御指摘等を頂くことを主眼といたしまして,議論を進めていきたいと思います。   今回は,基本的には,現在第2作業分科会で検討をしていただいている事項について議論していくことを予定しておりますが,前回会議におきましては,御欠席された方もいらっしゃいますし,また,十分に発言できなかった方もいらっしゃるのではないかと思います。そこで,本日は,まず始めに,若干の時間ではございますけれども,前回会議において議論した検討事項に関して,補足的な御発言の機会を設けたいと思います。   それでは,御意見のある方がございましたら,どうぞ御発言をお願いします。 ○山口委員 前回,欠席いたしましたので一言,刑の減免制度について簡単に意見を申させていただきたいと思います。この制度は端的に申しますと現在の刑法で任意的減軽事由として認められております自首と,それから,一般情状に関する量刑判断の中間におきまして,一定の減軽に値する事案を類型化して特別の取扱いを認める,それを制度化しようというものだと思われます。   これにつきましては作業分科会等でも既に様々な問題点が指摘されているところだと理解しておりますが,このようなものを制度化すること自体につきましては,これまでのこの部会で私は意見を申させていただきましたけれども,我が国の刑事司法にとりまして積極的な意義があると考えております。いろいろ問題点があるからといいまして,およそ制度の導入を端的に諦めてしまうのではなく,例えば対象とする範囲の明確化を更に図るなどの問題点を解決する方策を様々に検討いたしまして,引き続き,この制度について検討を続けていただきたいと考えておりますので,簡単ではございますが,以上,意見として申させていただきました。 ○小坂井幹事 前回,録音・録画制度について発言の機会を得ませんでしたので,若干,お話しさせてください。前回の神津委員,周防委員,村木委員,安岡委員,龍岡委員の御意見に私は賛同いたします。また,岩井委員の御意見にも共感を覚えるものです。この部会の初心に立ち返ってミッションというものを考えたときに,村木委員の事件の再来を防ぎ,志布志事件や氷見事件を含む誤判事件と言われるものを起こさない制度を立て付けるということが最重要の課題だと思います。   そうだとしますと,その見地からは被疑者取調べの録音・録画というものは,飽くまでも全過程・全事件ということになってくるだろうと思います。全事件というときには道路交通法違反は省いてよかろうかと思いますけれども,それ以外は全事件ということで,これは理念ということのみならず,現実の課題であると考えます。その意味では,検討課題の「1」として余罪取調べの問題が挙がっておるんですけれども,この問題の結論はおのずと明らかだろうと思います。対象事件というものはあるわけですが,これが存在するのは物理的に,直ちには全事件ではやれないということで,そういうことだけの理由でこうなっているという側面が強いのではないかと思います。   「基本構想」は確かに裁判員制度対象事件の身体拘束事件を前提にして,あるいは念頭に置いて具体的検討を進めていくべきだと,こうされているわけですけれども,また,そうなるについての一定の理由とか,経緯があったことは理解しているつもりです。が,さりとて出発点の対象事件が裁判員制度対象事件でなければならないという現実の必然性とか,論理的な関連性があるというわけではありません。したがって,そもそも出発点はもっと広いものにすべきですし,同時にこの制度のエンド,目的といいますか,それも制度として組み込む形をこの部会できっちりすべきだと思います。それは周防委員が3年後,5年後ということも見据えてとおっしゃいましたけれども,そういう段階を経る形であっても,そういう制度を組み込むべきだと考えています。   前回,岩井委員の御意見を部会長がお引取りになる形で,次回以降にその対象事件の議論はしていくということですので,そこの議論に委ねたいとは思います。けれども,例えば前回,神津委員が言われた,あるいは周防委員も言われた検察取調べで全事件全ての録音・録画を始めからするんだという案は,現実には極めて合理的な案ではないか,そうも思われるわけです。   前回,主として警察関係の委員・幹事の方からいわゆる第2案を推すというお話がありました。けれども,この問題については作業分科会で今年4月25日と10月2日に議論を繰り返しているわけで,そこで第2案について具体的な作業がどの程度,どんなふうになされているか,あるいはなされていないのか,それは議事録を読んでいただければ明白になるだろうと思います。どうしてそういうことになっているのかについても,きっちりと御認識していただくに値するのではないかと私としては考えております。これは前回,井上分科会長が述べられたことと重なっているのかもしれません。   いわゆる例外事由について2点ほど述べさせてください。物理的支障の例外ということについて,前回,事務当局では作業分科会で異論はなかったとまとめられたようにお聞きしたんです。けれども,これは必ずしも正確ではないのではないか。安岡委員が言われたことですけれども,飽くまでも結果的に物理的支障があったので,それは義務違反にはならないよと,そういう意味での例外論だと理解しています。最初から故障が分かっている場合にはしなくていいんだと,こういうことではなくて,当然,プロセスを経て,その意味で私は通訳人を例示するのは不相当ではないかということを作業分科会でも申し上げさせていただいておりますけれども,つまり,相当のプロセスを経て録音さえもできないと,そういう物理的環境になったときに初めて,この物理的問題というのは例外になると理解すべきだと思います。   最も重要な実質的な例外論の問題なんですが,被疑者が十分に供述することができないおそれという柱書きがあるわけですけれども,これは捜査官が判断するかのように読めるわけで,捜査官の裁量というものの幅ができ,あるいはどんどん肥大化していきかねないわけです。事後的な判断にもなじまず,相当ではないと思います。少なくとも被疑者が録音を止めることに異議を述べたときは止めることができないとすべきです。そう考えませんと,録画を止めないでほしいと言っている意向の人の分まで捜査官が,例えば黙秘している人のケースを考えれば端的なんですけれども,「お前,十分,話せるよ」と,こう言って止めることができてしまうという,要らぬおせっかいをするいびつなシステムになってしまいます。ですから,供述の自由が確保されるという大前提の制度にすべきだと思います。   事後的に一義的な判断をすべきだということは,いろいろな方がおっしゃっているので私は繰り返しません。が,ほとんどのここで問題にされていることは,公判再生制限で足りますし,あるいは現行法の証拠開示制限でガードとして機能するだろうと考えています。畏怖とか,ましてや困惑とか,こういったレベルのものを捜査官がいちいち推し測って,それで録画を止めることができるというような制度は,骨抜きの制度と言わざるを得なくなるので,到底,採り得ないと思います。   義務化する以上は担保が必要です。これは私が参考資料で述べておりますのでここでは繰り返しません。そういった全過程の録画・録音の制度こそが,ほかの制度との関係でも前提になってくるのではないかということで,若干,前回の小野委員の意見に,最後に屋上屋を架させてください。   司法取引制度等の中で,例えば刑事免責があり,刑事免責は取引とは関係ないのだろう,虚偽供述は誘発しないんだと,こういう御意見があります。理屈の上ではあるいはそうなのかもしれません。しかし,現場の現実の弁護人の実務感覚からからいうと,これは必ずしもそうではないのではないか。そういう気がします。どういうことかといいますと,例えば私が最近,経験した証人ですけれども,主尋問では共犯者のいわゆる巻き込みと我々が考えておる供述をしておった。反対尋問ではそれが覆されるという経緯があったんですが,この証人は反対尋問の過程で,これは検察官の証人テストに関してですけれども,要は証人テストは答えの分かっているクイズのようなものであると証言しました。得てして取調べというものはそういうものになりがちなわけです。   前回もお話があったとおり,当然,捜査官は供述を吟味されます。吟味されると同時に供述を求めるわけです。求められた側はどういう供述を求められているかが,全てとは申しません,しかし,多くの場合,得てして分かります,答えが分かるわけです。そうなっていますので,その証人も同時に尋問の過程で彼は言ったわけですが,反対尋問の過程で,自分は捜査官あるいは検察官の意に沿わないことを言ってしまうということが分かっていると,そうすると偽証罪に問われかねないと心配だと,こういうことを言ったわけです。   公の権力から一個人が供述を求められたときには,個人の側がどれほどの力,圧迫を感じるか。捜査機関の方たちに,元々,御認識いただけていないのか,認識しているとおっしゃるんでしょうけれども,認識いただくべき問題ではないかと思います。これは絶大な力があるわけですね。何を言えばいいかは供述する側は分かることが間々あります。公の権力の側の意向に沿った供述をしている限り,偽証罪に問われることはないということも分かります。刑事免責にはそういう問題があります。減免にしろ,協議・合意制度にしろ,こういった制度には巻き込み供述誘発の危険は絶えずあります。これらの制度を検討するなと私は申し上げているわけではありませんが,先ほどから申し上げている全過程の録画,全面的な可視化がされて以降に問題になってくるのがこれらの課題だと思っています。 ○本田部会長 他に御意見はございますか。 ○髙綱委員 まだ,若干,時間があるようでありますので,前回の補足を申し上げさせていただきたいと思います。私ども警察としては録音・録画を広くやっていくか,狭く限定的にやっていくのかという点でいえば,広く最大限にやっていこうと考えております。ただし,どうしても捜査への支障が大きいもの,そうした限定的なものを除いて広く最大限,やっていきたいと考えているものであります。そして,第1案,第2案とあるわけですけれども,非常に残念ながら,第1案ではそうした捜査への支障が大きい場合を適切に過不足なく除くことができない,だから,努力義務という形を考えるべきではないかと申し上げているものであります。   ただ,努力義務の名の下に,録る,録らないは捜査側の勝手で,例外と原則を逆転させるような運用を許すことになるのではないかという御懸念は当然あるでしょうから,そうならないような運用の仕組みを法律上の努力義務というものとセットで考えるべきではないのかと思っております。繰り返しになるのですけれども,私ども警察としても録音・録画の有効性というものは,これまでの試行で十分認識をしております。加えて,任意性立証のために努力義務とされた以上,録音・録画による弊害が大きいと認められる限定的なもの以外は,およそ録音・録画をしていくことになる,していくことにならざるを得ないと考えているものであります。是非よろしく御検討をお願いしたいと思います。 ○坂口幹事 通信傍受について一言,言わせていただきたいと思います。前回,通信傍受の対象罪種を拡大すると,それが濫用につながるという懸念を何人かの委員の方が言われていたと思いますけれども,そこでおっしゃる濫用というのは,具体的に捜査機関が何をすることなのかについて明らかにしていただきたいと思います。令状を取らないで傍受をするのではないかという意味であるならば,もちろん,そんなことはしませんけれども,罪種を拡大するかどうかとは関係がない話です。仮に令状を取っているけれども,濫用ということをやるのだというのであれば,令状を取ってそれを執行しているのに,一体,どういう場合に濫用ということがあり得るのでしょうか。いずれにしても論理的な御主張ではないと思いますので,そういう御主張をされるのであれば,具体的にこういうことを懸念しているんですということを明らかにしていただければ,作業分科会での検討に資すると思います。 ○宮﨑委員 録音・録画について警察に録画する部分を裁量に委ねるということは,結局,警察が胸ぐらをつかんで自白を迫っている場面,あるいは共犯者が自白をしたぞとうそを言っているような場面は,絶対に映してこないわけであります。また,いつ,録音・録画をするのか警察は分かっているわけでありますから,そのときには非常に丁寧な取調べをするでありましょう。私はこれは一種の捜査のプロモーションビデオの作成を警察に許すのに近いと考えています。原則可視化の下でも例外があるのだから,程度問題だという方がいらっしゃるわけでありますけれども,原則可視化と捜査側が自由にビデオを作るという制度は全く異なる。やはりそれは警察が作るビデオですから,密室の取調べを美化する内容でしかない,むしろ,えん罪の温床になるものだと考えています。この点,第2の提案については早く制度構想から下ろしていただいて,例外規定の定め方とか,あるいは対象犯罪の議論について集中していただくべきではないかと,このように考えます。 ○本田部会長 まだ,御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もございますので,前回の議論に関しての補足的な御意見を頂くのは,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   それでは,現在,第2作業分科会で検討をしていただいている事項につきまして,議論を行うことといたしたいと思います。まず,「被疑者国選弁護制度の拡充」から始めたいと思います。   この事項につきましての議論は,午後2時15分頃までとさせていただきたいと思います。   まず,配布資料の内容につきまして,事務当局から御説明をお願いします。 ○久田幹事 資料63の20ページを御覧ください。   資料には,考えられる制度の概要等が記載されていますので,第2作業分科会での議論の状況と併せて,順次,御説明いたします。   この制度については,作業分科会において,「弁護士の対応態勢」及び「公費負担の合理性」に関し,日本弁護士連合会における更なる検討結果が示されるとともに,日本司法支援センター,通称,法テラス,これを所管する法務省大臣官房司法法制部からのヒアリングが行われ,弁護士の対応態勢の現状や被疑者国選弁護制度の予算の実情等を踏まえた更なる議論が行われました。   まず,検討課題「1」の「弁護士の対応態勢」についてですが,日本弁護士連合会による検討結果からすれば,単位弁護士会の中での応援態勢を構築することにより,司法過疎地域等においても十分な対応が可能である旨の意見が示され,これについては相当程度認識の共有が図られました。他方で,司法法制部からのヒアリングにおいては,法テラスの常勤弁護士が1年間に処理する被疑者国選弁護事件の件数の現状や,被疑者国選弁護事件の配点制度が各地域によって異なっている実情などについての御説明がありました。これを受け,弁護士の対応態勢については,更に慎重な検討が必要であるとの意見が示された一方,対象事件の拡大には十分対応できるとの意見も示されました。   以上のような議論の状況を踏まえ,検討課題の「1」においては,被疑者国選弁護制度を全国一律に十分に実施するため,「一般の国選弁護人契約弁護士及び法テラス常勤弁護士一人当たりの被疑者国選弁護事件の処理件数の実情」,「各弁護士会における事件配点の制度の実情」を踏まえた検討が課題とされています。   次に,検討課題の「2」の「公費負担の合理性」についてですが,本制度の事業経費に関しては,司法法制部からのヒアリングにおいて,刑事事件の検挙件数が減少傾向にあり,被疑者国選弁護事件数が横ばいの状況にある中,接見回数の増加等により,事業経費が年々増加しているとの御説明や,対象事件を拡大するのであれば,公費負担の総額抑制という観点から,被疑者国選弁護人の報酬基準の見直しや,固定給である法テラス常勤弁護士の積極的な活用等も併せて御議論いただきたいとのお話がありました。そして,これを受け,制度の採否を決する上では,公費負担の総額抑制策についての検討を踏まえるべきであるとの意見が示された一方,これに慎重な意見もあり,更に検討を行う必要があるとされました。   以上のような議論の状況を踏まえ,一つ目の「○」にある「我が国の財政状況が厳しい中,対象事件の拡大に伴う公費負担の増加の合理性」や二つ目の「○」にある「公費負担の総額の増額を抑制するための方策の必要性」について,資料に記載されている諸点を踏まえた検討が課題とされています。   なお,併せてお配りした参考資料の85ページ以下に,以上の検討事項に関する参考資料が綴られていますので,適宜,御参照ください。   御説明は以上です。 ○本田部会長 それでは,「被疑者国選弁護制度の拡充」につきまして御議論に入りたいと思います。御意見又は御質問のある方は御発言をお願いします。 ○安岡委員 「被疑者国選弁護制度の拡充」の検討課題の「2 公費負担の合理性」の一番目の「○」について意見,下の二番目の「○」について二つ質問があります。   まず,上の「○」についての意見です。そこに財政事情が厳しい中,公費負担の合理性をどう考えるのかと記されています。以前の部会と同じことを申し上げますけれども,これは突き詰めれば,どのような政策にどの程度の予算を使うのがいいのかという政策選択の問題でありまして,立法府が判断する事項だと私は思います。作業分科会で出た,公費負担の抑制策を検討する必要があるとの御意見は,要するに財務省を説得する材料を求めているわけです。それを考えるところまで私たち部会への法務大臣からの諮問の範囲が及んでいるとは思えません。なぜならば,そもそも行政機関に設置している審議会の存在意義あるいは任務は,政治的な利害や政府機関内の利害から離れた専門的な見地から望ましい制度,政策を提示するところにあるはずだからです。   質問を二つと申し上げました。いずれも下の方の「○」に関してです。   一つ目の質問は,ここに総額抑制策として二つ挙げてあります。これは見たところ,共に法改正で実現できる事項ではないと思うのですが,もし,これを要綱案に盛り込むとなった場合には,どのような文言で盛り込むのか,考えられる例を説明していただきたい。   二つ目の質問は要望・意見と併せて述べます。ここで問題になっている公費負担の総額抑制は私に言わせれば実に簡単なことで,勾留件数を減らせばいい,それは直ちに被疑者国選弁護に要する公費負担を減らすことに直結すると思います。単純すぎるかもしれませんけれども,明快にして,かつ本部会のミッションである取調べに過度に依存しない捜査の実現に近付く効果もある,そういう策だと思います。こういう一石二鳥とも言える策,勾留件数を削減するべしという策が公費負担抑制策として作業分科会で議論されたか,あるいはそういう意見は出なかったか,これが質問の第2点です。   併せて述べる要望・意見は,ただいまの質問への回答がきっと,「そんなことが議論されるわけがない」というものであろうと見越して先回りして言うものです。どういう要望かといいますと,勾留件数を抑制すべきかどうかの問題は身柄拘束の在り方のところで議論すべき問題だという形式論・手続論で門前払いにしないでいただきたい,公費負担抑制策になり得ないかという観点から,作業分科会できちんと検討してほしいということです。   身柄拘束の在り方の問題をめぐって,部会の審議で数々表明されました勾留の運用に当たる側の捜査当局,それから,裁判所関係の方々の現状認識は,現行法令の下で勾留の請求,勾留の決定は慎重かつ適正になされているということでしたので,勾留件数を減らす,現行規定の運用を適正厳格にして勾留件数を減らすべしとの提案は無意味だと思います。となると,私の素人考えでは刑訴法の勾留要件を改正して,今よりも勾留決定を出しづらいようにするという方法しか考えられないと思います。   法改正ということであれば,ここの下の方の「○」で挙げてある二つの方策とは異なって,ずばり,要綱案に盛り込めます。その意味でも,公費負担を抑制する方策としては勾留件数を減らすというのがずっと筋が良い方策だと考えます。   以上,質問の2点に事務当局から御回答いただければと思います。 ○上冨幹事 御説明いたします。   まず,1点目でございますが,答申に具体的にどのような表現で,公費負担の合理性あるいは総額抑制といったことについての問題を盛り込むかというところについて,今,具体的な案,あるいは例を挙げるという状況ではございません。ただし,法制審議会の答申の中で,制度の前提となる運用あるいは実務の現状等について言及するということは,これまでもなかったことはないと承知しておりますし,そのようなものを前提とした制度の提案ということは,十分にあり得るのではないかと考えております。   それから,2点目でございますが,御質問の御趣旨は公費負担を減らすために捜査である勾留の数を減らすという二つのことをリンクさせた形での提案があったかという御質問だと思いますが,そのような議論は作業分科会では行われておりません。 ○小野委員 先ほど事務当局の方から御紹介がありましたが,今日の参考資料の85ページ以下に弁護士会の方で調査した資料が載っております。これによって勾留全件について,弁護士会としては被疑者国選に十分対応できるというシミュレーションが出ておりますが,なお,このシミュレーションはスタッフ弁護士が年間30件受任するということを想定して数字を出しているというものではあります。作業分科会で司法法制部のヒアリングをした際には,現状,スタッフ弁護士の処理件数は平均すると年間11件強であると,予算上の処理件数として16件が想定されている。ただ,30件以上を処理しているスタッフ弁護士は6人いますと,このような説明でした。   現状,スタッフ弁護士の処理件数が少ないのは,いわゆるジュディケア弁護士,つまり,スタッフではない契約弁護士が処理することで十分に賄えているというのが実情なわけです。これを勾留全件に拡大すると,想定ではちょっと多目に見積もって約40%増しぐらいの件数になるのかなと,こういう想定をしておるわけですけれども,そういうことになった場合には,当然,それぞれの弁護士が取り扱う件数が非常に増えていくわけで,現に30件をこなしているスタッフがいるということでいえば,スタッフが30件処理することを前提にすることに特段の問題はないと考えております。   ただ,念のために今の予算上の16件ということを目安に考えたときに,スタッフが年間約15件処理をすると考えて,シミュレーションの計算をしております。本日まで,まだ,具体的な資料としては提出しておりませんけれども,仮にスタッフが年間15件処理するということで計算しても,十分に各会で満遍なく対応できるというふうなことになっております。そういうことでいいますと,弁護士の対応態勢としては問題がないと,今,考えているところです。   さらにこの後の部会でも問題とされることになる予定の逮捕段階における弁護人の援助を得る仕組みと,これについても弁護士会では十分に検討しておるところです。逮捕後の早い時期から詳細な取調べがなされるという事例が,今,非常に増えておりますので,その必要性は高まっているというところです。   公費負担の問題なんですけれども,かねてから公費負担については,ここの事項については検討課題とされているわけです。しかし,元々,身体を拘束された被疑者の弁護人依頼権というのは,憲法の要請であると考えております。勾留全件被疑者国選は速やかに実現される必要があると,この事項についてだけ公費負担問題を検討課題とするということは,不適当であると考えています。   なお,安岡委員から発言がありましたけれども,弁護人から見て勾留の実情を言いますと,勾留の必要がないのに勾留されていると思われる事案は相当数に上っています。これは裁判所や検察,警察の見方とかはどうも違うようですけれども,弁護の現場からしますと明らかに不必要な勾留がある。そういうことでいえば,このような不必要な勾留がなくなれば,もちろん,被疑者国選受任件数は減少するわけです。それから,公判段階における国選,被告人国選は平成26年度の予算要求では前年より約6億7,000万円減少しているということのようでありまして,国費負担の問題は総合法律支援関係全体で考えるべきだと思われます。   もちろん,国家財政全体の中での司法予算の在り方も考えるべきなんですが,更にもう一つ考慮しておくべきことは今年5月ですか,国連の拷問禁止委員会の方から日本政府にいろいろな勧告が出されていますけれども,その中でも,取調べの過程を通じて弁護人に秘密にアクセスする権利の保障,それから,逮捕時点から法律扶助を受ける権利の保障ということが求められているということも考えますと,国際的な水準からいっても,今,検討されている被疑者国選については速やかに実現される必要があるんだと考えています。 ○大久保委員 私からは被害者の視点からということで発言をさせていただきたいと思います。もちろん,弁護人による被疑者の弁護が重要であるということは十分理解はしています。でも,被害者の立場からいいますと,被疑者・被告人に弁護士が付いた途端に否認に転じたり,弁護士が被害者宅に来たことで被害者がとても不安や恐怖を感じて,脅されたというような言葉で訴える被害者が多いということも事実です。資料によりますと,国選弁護人の事業費用が56億円以上にも増加しているのに,その事件件数は横ばいです。行政機関で私自身も働いていましたけれども,業務内容に比べて事業費が年々増加しているという,こういう状況というのは全く理解できませんし,信じられないことでもあります。   この点につきましても,ヒアリングで財務省から強い懸念が示されたということは当然のことだと考えております。国民が税金を投入してもよいと思えるような弁護活動が適切に行われているのかどうなのか,資料から見る限りでも,あるいは被害者支援の現場から見ても,大いに疑問に思うところがたくさんあります。公費負担をできる限り抑制するための措置や,そのための具体的な議論がどれだけなされているのか,今一つ明快でない中で被疑者国選弁護制度の対象事件を拡大して,被疑者側の防御のためにのみ,一方的に公費を投入するということは,被害者の立場からすれば余りにもバランスを欠いていると思います。それなのに事件を拡大して公費を支出するということ自体が納得できません。被害者も税金を払っているのです。   先ほど安岡委員の方からは,費用についてはこの部会での話の対象ではないというお話もありましたけれども,新時代の刑事司法を考えるこの部会では,市民感覚も取り入れたものとしなければ,刑事司法そのものが国民から信頼されないものになってしまうのではないでしょうかということを大変懸念いたします。 ○神津委員 被疑者国選弁護制度については,基本的に被疑者に対して勾留状が発せられている全ての事件に拡大すべきだと考えます。被疑者の弁護人の援助を受ける権利については,基本的に憲法が保障する権利でありますし,それは適正手続,そして個人の尊重の理念に基づくものであると理解します。したがいまして,それは公正公平な刑事手続のために不可欠の制度でありまして,言わば憲法の理念を担保する文明のコストとも言えるものだと思います。この制度を検討するにおいて20億円というような数字も具体的に挙がっているんですが,このような形でコストを問題にすることには,率直に言って大変違和感があるということを申し上げておきたいと思います。したがいまして,弁護報酬基準の見直しについてもすべきではないと考えます。 ○坂口幹事 公費負担の増大を抑制するために勾留要件を変更するとか,身柄拘束の問題に持っていくというのは全くの本末転倒だと思います。今,小野委員からもあるいは前回,何人かの方からも根拠なく,現状において身柄拘束の必要がないことが明らかなのに,身柄拘束をされてしまっている人がいるというお話がありましたが,そういう次元のことをおっしゃるならば,私は私自身の経験として身柄拘束をちゅうちょしたために被疑者に逃走されて,捜査に重大な影響が出てしまったということが何度もあるということを告白します。捜査官は同じような経験をみんな何度もしていると思います。捜査機関は身柄の判断を非常に慎重に行っています。   罪種の内容とか,嫌疑の程度ですとか,被疑者の社会的地位ですとか,家族構成ですとか,そういうことを考えて,この被疑者については在宅処分が適切であろうという判断をすることも多いわけですけれども,身柄拘束をちゅうちょしたがために被疑者が逃亡して何百人という捜査員を動員して追跡をしなければならなくなったと,結果として国民の皆様に大変申し訳ないことにもなったという経験を私は何度もしています。一面だけを捉えて一部の事実だけを宣伝して,現状はこうであるなどと根拠もなくおっしゃるのは,無責任なのではないかという気もいたします。   公費負担の問題ですけれども,今までもお願いしているところですけれども,国民に更なる負担を求めるのであれば,せめてまず,現状について結果的に被疑者・被告人が有罪となった場合に,その人の国選弁護人の選任に要した経費はきちんとその者が負担しているのかということについて明らかにしていただきたいと思いますし,勾留されている全事件に対象を拡大するという場合には,その経費を回収するためにどのような方策を講じることができるのかというのも,検討されなければならないでしょうし,既に現状において国選弁護人による報酬の過大請求が問題となっているのですから,この再発防止策,担保策についてもきちんと示していただきたいと思います。   さらに,国選弁護の問題というのは被疑者のためだけではなくて,裁判の充実・迅速化ということも大きな眼目の一つですから,これまでの制度において裁判の迅速・充実化にどの程度,寄与・貢献ができているのか,その効果測定をした上で対象拡大をすれば,更にどの程度,寄与・貢献できるのかというシミュレーションも必要になるのではないかと思います。 ○村木委員 総論としてはできるだけ弁護人が早く被疑者・被告人に接触をして,サポートできる仕組みを是非お願いをしたいと思っております。それから,何人かの委員から費用のことが話題になりました。制度を作るのにコストのことを無視して制度を作るということはできないと思います。ただ,これは何もこの問題だけではなくて,今,検討されている全ての問題について一定の費用が掛かる,あるいは費用を節約できるものもあるわけですから,この問題だけ取り上げるのではなく,きちんとバランスを取って,全ての問題について費用の問題は御検討いただくということを是非お願いをしたいと思います。   それからまた,身柄の拘束の必要がないのに行われているとか,必要な分しか行われていないというのは非常に難しい問題で,先ほどのお話にもあったように結果論として警察のプロの方でも失敗があるということですから,大変難しい問題なんだろうと思います。それについて,それぞれ弁護側や,あるいは被疑者・被告人の立場や警察の立場で実感としてこういうことなのではないかという意見を述べるのまで封じられると,大変,議論がしにくいなと思います。是非,もう少し寛大な気持ちで議論を聞いていただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○周防委員 被疑者国選弁護制度の対象を被疑者に対して勾留状が発せられている全ての事件に拡大することに賛成です。ただ,痴漢事件などでは例えば事情を話すつもりで,被害者にあなたが犯人だと言われて駅事務室に行っても,そこで話は聞いてもらえず,更に事情を話すつもりで警察官に連行されて警察署へ行くと,いきなり取調べが始まる。要するにまだ被疑者という自覚もなく取調べが始まっているわけですね。その余りの理不尽さに帰ろうとすると,そこで初めて「お前は現行犯逮捕されているんだぞ」と,そこで逮捕が告知されるという例が多々あります。   被疑者に対して勾留状が発せられた全ての事件に拡大するといっても,自分がいつ逮捕されているかも分からず,勾留されるかどうかも分からない段階で,既に取調べが始まっているというようなことがあるわけですよね。例えばそこで「逮捕されているんだ」と言って,「弁護人を選任することができるんだ」と説明されても明らかに遅いわけです。そもそも,そこの段階でもまだ「弁護人が選任できるんだ」なんていう告知がされるかどうかも怪しいわけですから,必ず捜査機関に対しては逮捕段階で告知を義務,要するに「弁護人をきちんと付けられるんだ」という,そういった告知義務を課すべきだと,そう思っています。 ○本田部会長 まだ御意見があろうかと思いますが,時間の都合もございますので,「被疑者国選弁護制度の拡充」についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   次に,「証拠開示制度」について議論を行うことといたします。   この事項についての議論は午後3時5分頃までとさせていただきたいと思います。   まずは,配布資料の内容について,事務当局から説明をお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,資料63の21ページ以下を御覧ください。   「証拠開示制度」の第1から第3までの各検討事項につきまして,第2作業分科会における議論の状況と併せて,順次,御説明します。   まず,「第1 証拠の一覧表の交付」については,作業分科会において,主として,「対象事件」,「請求交付の時期」,「証拠の一覧表の記載事項」について議論が行われました。   制度概要「1(1)」,検討課題「1」の「対象事件」については,公判前整理手続に付された事件を前提とするということに特段異論はありませんでしたが,更に限定するかどうかについては,その必要はないという意見と,交付の時期や記載事項も踏まえて検察官の負担も考慮しつつ検討すべきという意見も示されました。   このような議論を踏まえ,制度概要では「対象事件の公判前整理手続において」と記載され,検討課題「1 対象事件」において,今,申し上げた点が課題として記載されています。   次に,制度概要「2」,検討課題「2」の「請求・交付の時期」については,検察官請求証拠の開示後とするA案と,被告人側が予定主張の明示をした後とするB案のいずれが適切かについて具体的な議論が行われ,開示請求の「手がかり」という制度趣旨の観点から,早期の請求・交付を認めるA案が相当であるとの意見が示された一方で,段階的証拠開示制度との整合性の観点から,A案とすると,主張明示のインセンティブが減殺されるなど段階的制度との整合性に問題があるのではないかという意見もございました。   また,手続の円滑な進行という観点からは,A案によると,証拠の分量が多いと一覧表の交付に時間を要し,被告人側の証拠意見の表明や予定主張の明示が遅れて手続が遅延するおそれがあるという意見が示された一方で,B案によると予定主張明示後に交付しても一覧表を手掛かりに再び類型証拠開示請求を行うことになればかえって手続が遅延するおそれがあるという意見もございました。   このような議論の状況を踏まえ,制度概要の「2」で「A案」と「B案」が掲げられ,検討課題の「2」において,検討の観点とともに,今申し上げた点が記載されております。   続いて,制度概要「3(1)」,検討課題「3」の「証拠の一覧表の記載事項」については,証拠開示請求の「手がかり」であるとの制度趣旨や,段階的な証拠開示制度との整合性,手続の円滑・迅速な進行という観点から,議論が行われたところですが,制度概要に書かれている証拠物の「品名」等,供述録取書等の「文書の標目,作成年月日及び供述者の氏名」,証拠書類の「文書の標目,作成年月日及び作成者の氏名」を記載事項とすること自体には,特段の御異論はございませんでしたが,これらに加えて,各証拠の類型に応じた記載事項が更に必要であるという意見が示された一方で,証拠開示請求の「手がかり」という制度趣旨と作成のために要する負担とのバランスから,捜査でも利用されている証拠金品総目録や書類目録の記載事項が基本的に記載されれば足りるのではないかとの意見や,裁量にわたる記載事項を設けると記載内容をめぐって争いが生じるおそれや,被告人側がミスリードされるおそれがあるのではないかという意見も示されました。   このような御議論を踏まえ,制度概要の「3(1)」においては,特段異論のなかった記載事項だけが掲げられ,「検討課題」においては,このような記載事項とするか,更に別の記載事項を設けるかとされた上で,検討の視点として,今申し上げた点が挙げられております。   また,一覧表の交付により弊害が認められる場合,そのような弊害を生じさせる事項は記載しないことができるものとすることについて特段異論はありませんでしたので,制度概要「3(2)」において,生じ得る弊害が列挙され,そのような弊害を生じさせる事項の記載をしないことができるとされております。   次に,「第2 公判前整理手続の請求権」については,請求権を設ける「必要性・相当性」や,整理手続に付する又は付さない決定に対する「不服申立手続」を設けるべきかを中心に議論が行われました。   まず,制度概要「1」の請求権を設ける「必要性・相当性」については,検討課題「1」に挙げられている点について議論があり,整理手続を要する事件が適切に手続に付されていない実情があり,当事者に請求権を認めるべきであるという意見が示された一方で,整理手続に付されない事件では他の方法で争点・証拠の整理がされている上,裁判所は当事者の意見を踏まえて整理手続に付すかどうかを判断するのであるから,請求権を認める必要性はないという意見や,裁判所が多様な事前準備の手段を事案に応じて使い分けることにより,迅速な争点・証拠の整理をするのであって,請求権を認めて裁判所がその都度,判断しなければならないとすると,運用が硬直的なものになるおそれがあるとの意見や,裁判所に単に請求に対する応答義務を生じさせることに意味はないのではないかという意見などがございました。   その上で,請求権を設けるとした場合に,制度概要「2」,検討課題「2」の「不服申立手続」も設けるかについては,請求権に実効性を持たせるために請求を却下する決定に対しては,即時抗告を設ける必要があり,抗告裁判所は受訴裁判所と同じ資料で判断できるし,手続を遅延させることもないという意見が示された一方で,整理手続の要否は公判の運営に責任を持つ受訴裁判所が判断すべきであり,別の裁判所がその判断を覆す仕組みは相当でなく,その都度不服申立ての判断をするとなれば手続を遅延させるおそれもあるという意見や,抗告裁判所は広範な裁量を有する受訴裁判所の決定に対する判断基準を持たないという意見も示されたところです。   このような議論を踏まえ,制度概要「1 整理手続の請求権」の(1),(2)では,公判前整理手続と期日間整理手続の現行規定に,当事者の請求が加えられた記載とされており,このような制度を設けるとした場合の不服申立てについて,請求却下決定に対する即時抗告を認める「A案」と即時抗告は認めない「B案」が記載されています。   その上で,検討課題「1」の「必要性・相当性」として,請求権を設ける必要性・相当性をどのように考えるかが検討の観点とともに挙げられ,また,検討課題「2」の「不服申立手続」においては,その手続を設ける必要性・相当性があるかについて,検討の観点とともに同じく挙げられています。   最後に,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」については,作業分科会において,①から④の証拠ごとに,それぞれ類型証拠開示の対象とするかどうかについて議論が行われました。   対象とすべきであるという意見として,①については,参考人から聴取して供述調書にしない捜査報告書であっても,検察官請求証拠の証明力判断に必要である,②については,検察官が証人予定者の供述調書を証拠請求した場合,その供述者の取調べ状況は類型的にその証明力判断に必要である,③と④については,証拠物の開示と併せて関連性を示す差押調書等を開示する必要があるという理由で,いずれも類型証拠開示の対象とすべきという意見がございました。   これに対し,そもそも,類型証拠開示の対象の在り方は,検察官請求証拠の証明力判断にとって類型的にその必要性が高く,かつ,開示に伴う弊害が一般的・類型的に乏しいものとするという考え方に基づいて類型化されたものであり,主張が明示されれば主張関連証拠が開示されるという基本的枠組みの中で検討する必要があるという意見が示された上で,①については,内容の正確性について供述者の確認を経ておらず,類型的に重要とは言えないものであるし,捜査協力が得られなくなるという弊害も考えられる,②については,被告人と異なり,身体拘束中に必ずしも被告事件についての取調べが行われるわけではない検察官側証人予定者一般について,その取調べ状況記録書面を,被告人の場合と同様に類型証拠開示の対象とする必要性や相当性が認められるか疑問がある,③については,検察官請求証拠としてそもそも開示されるのが一般であり,類型証拠開示の対象とする必要性に乏しいのではないか,④については,類型証拠として開示される証拠物に関する領置・差押調書がなぜ独立の類型証拠となるのか疑問があることなどを理由として,類型証拠開示の対象とすることには疑問があるという意見も示されました。   このような議論の状況を踏まえ,制度概要においては,「A案」として,①から④の証拠の「全部又は一部を類型証拠開示の対象とする」が掲げられ,「B案」として,「いずれも類型証拠開示の対象としない」が掲げられています。   また,「検討課題」においては,「現行の類型証拠開示の対象類型について,どのような不都合が生じているか」が掲げられ,また,①から④の各証拠類型について,その類型証拠開示の対象とする必要性・相当性があるかが掲げられた上で,①,②,④についてはそれぞれ固有の課題が挙げられています。   なお,以上の検討課題に関する参考資料につきましては,併せてお配りをした参考資料の138ページ以下にございますので御参照いただければと思います。   御説明は以上です。 ○本田部会長 それでは,「証拠開示制度」についての議論に入りたいと思います。御意見,御質問等がある方は御発言をお願いします。 ○小野委員 まず,証拠の一覧表の交付ですけれども,今,紹介がありましたけれども,開示請求の対象とすべき証拠が存在する手掛かりを与えると,こういう考え方でよろしいのだろうと考えているわけですけれども,そういうことで考えますと,その時期についてはA案,検察官請求証拠の開示の後にすると,こういうことで類型開示請求に当たって,この「手がかり」が活用されるのだろうと思っております。   この記載事項でありますけれども,ここの「3」の(1)の「ア」,「イ」,「ウ」という記載事項だけでは「手がかり」という観点で考えますと足りないのだろうと思っています。検証調書あるいは実況見分調書の場合に検証対象は必要だろうと,それから,鑑定書の場合には鑑定対象物,そして,鑑定事項,これが必要だろうと,それから,捜査報告書で作成者以外の者の供述が記載されているというような捜査報告書がある場合には,原供述者が誰であるのかということも必要になってくると思います。証拠物については押収場所,そして,取調べ状況記録書面の被取調べ者,こういう事項は開示請求する必要があるかどうかという判断をする上で重要な情報ですし,これらの事項というのは客観的な記載自体で明らかであり,一義的に特定できるのだろうと,つまり,裁量が入り込む余地はないということと,記載に時間を要しないというふうなことと考えられます。   なお,弊害がある場合にここの書きぶり,つまり,「3」の(2)なんですが,そのおそれを生じさせる事項の記載をしないことができるという趣旨なんですけれども,私の受け止め方では作業分科会での議論のときに全く書かないではなくて,一応,ともかく書くべきものは書いた上で,その弊害の内容によってそこを墨塗りにすると,こういうような方法が考えられるのではないかというような意見を述べたつもりなので,その辺はこのまとめ方がそうなのかどうなのかということについては,よく分からないところがあります。   それから,類型証拠の拡大については①から④まで挙げていただいております。これらについてはいずれも類型証拠としての必要性があると考えております。特に①なんですけれども,聞込み捜査報告書などがあるわけですが,捜査機関が参考人などから供述を得たと,その内容について供述調書の形式にせずに,そのまま,捜査報告書の中にとどめて書いているということが現に行われております。しかし,そういったような報告書が開示されないままであると,結局,判断に必要な供述の存在が明らかにならないまま進んでしまうと,こういうことが往々にして起きます。現に裁判でもそういう事態が報告されているということを考えますと,えん罪の原因となるということで①は非常に重要だろうと考えております。②,③,④も同じことで,ここは詳しいことは省略をしたいと思います。   それから,公判前整理手続の請求権についてなのですけれども,証拠開示請求権が保障されるかどうかという問題,あるいは公判前に争点整理が行われるべきだということで,当事者の公判準備に重要と判断されるという事件は現にあるわけです。そういうことでいいますと,当事者に公判前整理手続に付することの請求権は認められるべきだろうと思いますし,不服申立ての手続も必要だろうと考えています。不服申立てがあった場合でもその期間は短期間で済むことでありますし,抗告審が言ってみれば双方の主張を基にして可否を判断するということなので,十分に可能だろうと思っております。   この公判前整理手続に付される割合というのは,裁判員制度対象事件以外を含めてそれほど多くないわけです。否認事件でも2割以下だと数字の上では出ているわけですが,特に否認事件などでは証拠開示は防御に不可欠であります。しかし,実情は任意開示がされているから,それで足りるんだというふうな取扱いになってしまっていて,実際に任意開示がどれほど開示をされているのかということが不明なままできてしまっています。この辺については,これまでの部会の議論の中では,公判前整理手続があろうがなかろうが,証拠は開示されるべきだという意見も出されております。それが公平で公正な裁判を実現するために必要だという意見が出ています。   また,現行法の証拠開示制度は防御準備に必要な証拠の開示としても有効であると考えますと,公判前整理手続に付する請求権,これは不可欠だろうと思いますし,公判前整理手続請求権とは別に証拠開示請求権も検討されるべきなのだろうと考えています。つまり,具体的には検察官請求証拠の開示だけではなくて,類型証拠開示というのも公判前整理に付されるかどうかとは関わりなく必要なんだと,そういう制度が考えられるべきだろうと,そういう規定が必要だろうと考えています。   それから,部会での今後の検討課題とされているようですけれども,再審における証拠開示についても,結局,防御準備に必要な開示を保障するというのが現行の証拠開示制度であるわけですけれども,そういう点から考えますと,再審請求審の構造ということと関わりなく検察官請求証拠の証明力を吟味するための証拠,あるいは被告人側の主張に関連する証拠というのは防御の準備に不可欠な証拠,本来,開示されていてしかるべきであるのに,結局,再審請求時まで開示されていなかったとすれば,それは開示を認めると,こういう仕組みが必要なのだろうと考えています。 ○大野委員 証拠の一覧表の交付制度について意見を申し上げたいと思います。証拠の一覧表の交付制度については,証拠開示請求の「手がかり」を与えて開示の手続を円滑・迅速ならしめるという,その制度趣旨を損ない,検察の現場の負担が過度なものとなったり,あるいは一覧表の記載をめぐって紛争が生じるなどして,かえって円滑・迅速な進行を妨げることとならないかという点に十分に留意する必要があると考えています。   この点,まず,一覧表の記載事項は,検察官にとっても明確で形式的なものにしていただきたいと思います。例えば,捜査報告書について,その内容が分かるような要約を付した標目を記載しなければならないとすると,検察官としては,事案や捜査報告書ごとに被告人側に誤解を与えることのないよう正確にその内容を表した標目を検討した上で一覧表に記載しなければならないということになります。また,1本の捜査報告書に複数の事項についての捜査結果が記載されているときに一部の事項のみ記載し,その他を明示することなく例えば「等」と表現してよいかも悩ましいこととなるのではないかと思います。このような仕組みとしてしまうと,検察官としては,一覧表を作成するに当たっての判断が難しくなって,その作成に時間を要することになりますし,一覧表の記載内容が正確ではないから一覧表の交付義務を果たしたことにならないなどとして争われてしまいますと,かえって手続が長引くこととならないかを懸念しております。   また,事件によっては証拠書類や証拠物が千点を超えるなど,膨大な数の証拠や証拠書類が存在し得ることから,記載事項の項目が余りにも多いと,検察官の負担が過大なものとなり,作成に長時間を要することとなりかねません。   制度概要の「3(1)」に掲げられた記載事項は,今申し上げた点からしますと基本的には適正なものと考えられますけれども,更に別の記載事項を設けるかについては,今指摘した実務上の観点から,手続の円滑・迅速な進行を害することとならないよう,作業分科会において慎重に検討していただきたいと思います。   なお,検察の現場では,証拠の一覧表の交付制度について,被告人側は一覧表の記載により,どの証拠が開示され,どの証拠が未開示であるかを把握できるようになるところ,最終的に開示される証拠が開示の要件を満たすものに限定されるとしても,被告人側において少しでも自己に有利な証拠が含まれていないかと考えて探索的な開示請求が行われ,結局,一覧表に記載した証拠の全てについて,開示するかどうかの裁定を経るまで証拠開示請求や裁定請求が繰り返されることとならないのか,その結果,証拠開示をめぐる手続的な負担が増大し,開示自体の手続も遅延することとならないかなどの観点からも懸念が強いので,このような点をも十分考慮した慎重な検討をお願いしたいと思います。 ○井上委員 小野委員の言われたことの中で,公判前整理手続とセットの今の証拠開示手続とは別に,独立して証拠開示の手続を整備すべきではないかということですが,これは付託事項から外れていますので,作業分科会で検討しろという趣旨では恐らくないのだろうと思うのですね。   そうでないという前提でお話をしますと,私自身は,現在の公判前整理手続に組み込まれた証拠開示手続が出来上がるまでの経緯として,かなり幅広く議論をして現行の手続を整備したわけで,その経緯と,現行の証拠開示手続が現に営んでいる機能に鑑みますと,元に戻って,それとは別の手続を設けろという議論は現実的ではないし,妥当ではないと思います。もし,そういうものを設けるとすれば,裁判員制度対象事件の場合にもそういうのが当然適用されるということになるのではないかと思いますので,そうすると現在の公判前整理手続の前提が崩されてしまって,大変なことになるのではないかという懸念があります。   もう一つ,再審請求事件の証拠開示については,これまでも申し上げてきたように,単純に公判前あるいは期日間整理手続の一環としての証拠開示と同じ問題として位置付けることは適切ではなく,未提出記録の保存の問題とか,いろいろ関連する事柄をも含めて検討する必要があり,そうしないと,きちんとした検討とはならないと思うのです。だから,現在検討している問題とは別に検討するというのなら結構ですけれども,そこまで本部会の手が回るかどうかについては,現実論として疑問だと言わざるを得ません。   一つだけ御質問なのですけれども,類型証拠の対象を増やす場合の④ですが,先ほど保坂幹事からの説明の中にもありましたように,その意味がよく分かりません。検察官取調べ請求証拠物の押収経過等については分からないでもないのですけれども,④の方は趣旨がよく分からないので,これを提示された方に説明していただきたいと思います。 ○小野委員 ④については,要するに証拠物が類型として開示対象になっているわけですけれども,その類型開示で出てくる証拠,それの押収経過ということですから,分からないというのがよく分かりませんが,要するに類型として開示請求をする証拠物によって,検察官請求証拠の証明力が判断できるかどうかという問題なわけですから,その証拠物がどういう形で,どこで,どう差押えされたのか,領置されたのかということも,それにくっ付いて必要になってくるだろうと考えられるので④も別の類型として必要だろうと,こういう趣旨です。 ○井上委員 なお今一つよく理解できませんが,結構です。 ○露木幹事 先ほど小野委員から捜査報告書の取扱いについて御意見がございましたので,その点を少し御説明したいと思います。捜査報告書,中でも聞込み捜査報告書を例として挙げられましたけれども,これは事件が発生した直後などに現場付近にいた通行人ですとか,付近住民ですとか,そういったいろいろな方々に何か見ましたかとか,聞きましたかとか,そういったことを捜査員が聞いて回って,その結果を要約して捜査報告書としてまとめるという類いのものが多いわけですけれども,そうした聞込みのほとんどは抽象的な内容にとどまったり,あるいは内容そのものが信用性に乏しいというようなものも少なくございません。その中で重要なものだけを取り上げて,供述調書として証拠化するということが実務上はなされているわけであります。   したがって,そういう捜査報告書は,多くの方が言わば原供述者ということになるわけですけれども,大野委員からもお話がございましたとおり,原供述者を一覧表に記載せよとなりますと,一体,多くの方々のうちのどなたを取り上げるのかと,全員,取り上げるということになりますと,ケースによっては膨大になることもございます。また,そうすることにどれほどの意味があるのかということもございますので非常に疑問があると思いますし,また,こういう聞込み捜査といいますのは例えば夜中でありますとか,なかなか協力を確保することが難しいという状況の中で,捜査員が協力をお願いして回って聞込みをしているという実態もございますし,場所によっては自分がそこにいたとか,あるいは捜査に協力したということが公になりますと困るといって協力を渋られるという方も多数いらっしゃいます。そういう方々に一覧表として名前が出ますよとか,場合によっては証人として公判で証言をしていただくこともあり得るかもしれませんなどということを申し上げるということは,捜査の現場としては非常につらいということになると思います。そういう意味で,捜査報告書を一覧表に記載するに当たっては,その記載事項について,慎重な取扱いが必要だろうと思います。   また,類型証拠として,これを開示請求の対象にせよという御主張でありますけれども,捜査報告書はそもそも作る場合もあれば作らない場合もございますし,先ほど申し上げたように内容が抽象的であったり,信用性に乏しいものもあります。原供述者の確認も経ておりませんので,そういう意味で証拠価値としてどれほどのものがあるのかと疑問がございます。また,捜査報告書とは,元々,捜査員が捜査をした結果を上司に報告するという内部の用途に使うものでございますので,一般的類型的な証拠としての重要性に乏しいのではないかと思いますし,他方で,先ほど申し上げたような弊害が大きいという問題がございますので,類型証拠の対象とするにはなじまないと思います。   あと,併せて類型証拠の対象として取調べ状況報告書も②で挙げられておりますけれども,これも現在でも主張関連証拠としての開示可能性というものはあるわけでありますから,それを超えて,なぜ類型証拠開示の対象とすべきであるかという点についての理論的な説明がなされていないと思います。検察側証人予定者の取調べ状況報告書というのは,たまたま,その証人が被疑者として身柄を拘束されて,かつ被疑者として取調べを受けた,その内容を他人の刑事事件の公判で証言をするという,証人一般から見れば,極めてレアなケースを取り上げて類型証拠にせよという御主張だと思いますので,制度としては非常に違和感があると思います。 ○今崎委員 証拠開示と公判前整理手続の請求権について,申し上げます。   まず,証拠開示の関係ですけれども,公判前整理手続の規定に置かれた証拠開示の制度は,ただいまのお話にありましたとおり,検察官,弁護人双方の主張明示と関連付けて段階的に証拠開示をすると,こういう制度であると理解しております。その制度の骨格は維持すべきだろうと思っております。その上で,なお,弁護人において証拠開示請求をするか否か,あるいはするとすれば,どのような内容の請求をするかということを検討するための「手がかり」として,あるいは「どのような証拠があるのかという基本情報をリストの形で提示する」という表現が作業分科会で出ていたと思いますが,そういう趣旨で一覧表の開示というものを今の枠内で位置付けることは十分可能であると考えます。   そうであるとすれば,一覧表開示,リスト開示というのは,類型証拠開示請求の前に置いてもおかしくないものと思います。むしろ,そうすることによって証拠開示が円滑・迅速に進むのであれば,その方が望ましいと思います。これも議論が出ていたようですけれども,予定主張が明示された後に一覧表を開示したところ,結局,類型証拠開示をしたいと,こういう申出が出ることは当然あり得るわけで,そういう可能性があるのであれば,いっそのこと,類型証拠開示の前にしてしまった方がいいのではないかと考えております。一覧表開示のA案では,弁護人が予定主張をなかなか明示しないのではないかという懸念もあるように聞いておりますが,むしろ,裁判所としては,一覧表開示によって,これまで以上に弁護人の検討が進んで迅速に予定主張がされるということを期待しているところです。   もう1点,公判前整理手続の請求権の関係であります。これについては刑訴法の規定は,裁判所は,充実した公判の審理を継続的,計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは,事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として,事件を公判前整理手続に付することができるとしているわけでありまして,公判前整理手続は証拠開示を認めるための制度ではありません。そして,今のような法律に書かれた実体要件,手続要件の判断は,事件の審理運営に最終的な責任を有する受訴裁判所が自らの権限と責任において行うべきことであります。審理運営に責任を持つ受訴裁判所がこうやりたいと言っているのに対して,別の裁判所,別の裁判体が,そういう責任を持たない裁判体が,ああしなさい,こうしなさいと指図するというのはおかしいと思います。   現行法が検察官,弁護人の意見を聴いて,裁判所が最終的に決めるとしているのは,正しくそういう性質を勘案したものだと私は理解しております。したがいまして,請求権を認めるというのは,元々,おかしいですし,ましてや不服申立てを認めるというのはもっとおかしいと思います。どうもお話を聞いていますと,請求権を認めるべきだという御主張は,結局,証拠開示制度を利用したいという御主張と理解されます。証拠開示制度を利用できないことを一種の権利侵害状態と捉えられているのだろうと思います。個別の権利救済なのであれば,つまり,証拠開示制度を利用する権利の侵害と捉えるのであれば,そういう不服申立てを認めるという制度もあり得ると思いますけれども,先ほど来,申し上げているとおり,今回の公判前整理手続自体はそういう制度ではないと思いますので,どうも理論的にもおかしいと思っております。 ○後藤委員 公判前整理手続の請求権について,意見を述べます。今崎委員もおっしゃったように,元々,現在の公判前整理は争点と証拠の整理のために作られたものであって,さらにそのための手段として証拠開示の制度が取り入れられたというのは確かにそのとおりです。だから,争点・証拠の整理が必要かどうかは,裁判所が職権で判断するのがふさわしいという議論は,立法の経緯からはそうなるのだと思います。しかし,これができたことの現実的な効果として,弁護人から見ると証拠開示請求権という有力な手段を新しく手に入れたという側面があるわけです。   そうすると,それを弁護のために活用しようという発想が起きてくるのはごく自然で,むしろ不可避的に生ずる現象でしょう。そして恐らく裁判所もその要求を無視できないところがあると思います。例えば検察官が任意開示に全く応じてくれないから,公判前整理に付してくださいと弁護人から言われたときに,その要求を無視できないので,裁判所としても何らか対応をしなければいけないという問題意識が既に出てきていると思います。つまり,証拠開示という重要な手段を使わせてほしいという弁護人の要求を無視することができないという現実があると思います。ここでは,その現実を前提にして考えるべきではないでしょうか。そうすると,被告人・弁護人から公判前整理手続に付してほしいという請求権を認めるという案が出てきます。   そのときに決定に対する不服申立てを認めないとすると,職権の発動を促すのと実際は余り変わりないので,不服申立ても認めないと大きな意味がないのだと思います。もし,そういう改正をしないのであれば,先ほど小野委員が言われたように,証拠開示請求の権利を別の独立した手段として認めるべきだという要求を,私たちは無視できなくなると思います。そこまで思い切って改正するのも一つの方法ですけれども,今までの本部会での議論の流れの中で考えるのなら,公判前整理手続の請求権を認めることが取りあえずは妥当な選択であろうと思います。 ○村木委員 証拠開示については是非大きく前進するように制度を考えていただきたいと思っています。私自身が経験をした郵便不正事件の中で,フロッピーディスクを改ざんされた検事さんがいましたが,その前田検事さんがほかの裁判で証人に立たれて,非常に興味深いお話をされていました。   証拠隠しがあるかどうかということを裁判で聞かれて,前田さんは検察が考えている想定と合わないものを証拠化しないというのが実際に検察でやられていたり,証拠開示と言われても出さないということをやられていたのがこれまでの実務だと。その中で自分の感覚がずれていって厚生労働省の事件では自分自身が事件を起こすような結果になったと。それから,フロッピーディスクの改ざんについてデータの改ざん自体は意味のない話なんです。一番やりたかったのは検察の中から外に出したいということですと。そうすれば法廷に出てこなくなるではないかと。そういうことをしたかったんだと裁判で述べておられました。これは,いかに捜査側に不利な証拠が法廷に出てきにくい仕組みになっているかというのを雄弁に物語っている証言だったなと思っています。   前田さんは同じ裁判の中で,検察のストーリーに沿わないものは供述を得ても供述調書という形にせずに,別の形でメモのような形で残して開示を免れるというやり方をやっているんだということも,非常に詳しくお話をされていました。是非,こういうことが起こらないように一覧表の交付とか,それから,類型証拠開示の拡大,先ほど小野委員が言われたことでいうと,前田検事の言っておられたことはA案の①に当たるのかと思いましたけれども,ここは是非やっていただきたい。確かにいろいろなもの,重要なものだけを証拠化しているとか,信用性があるものだけを証拠化しているとか,そういうお話もありましたが,それと併せて弁護側にとって有利な情報というのが証拠化されないという現実があることも是非踏まえて,できるだけ公正な形で証拠が法廷に出てくる制度に改めていただきたいと思います。   それから,公判前整理手続との関係ですが,私自身は素朴に証拠開示はとても大事で,公判前整理手続に付された事件以外の事件でも,何か手当てをしてやらなければいけないのではないかと素朴に思います。仕組み上,分からないところもあるんですが,例えば一覧表の交付も公判前に付していないと受けられないというところについては,その理由がよく分からない。できるだけ,そういう制度は広く使えるようにしていただきたいですし,もし,どうしてもそれが公判前整理手続とリンクをして作らなければできない制度であれば,是非,請求権を認めていただきたいと思います。 ○小坂井幹事 一覧表の交付についてはA案でいいと,こう思います。今,公判前整理手続が長引いている傾向が基本的にあろうかと思うんですが,これによって,今崎委員が言われたみたいに,より円滑に,私は整理手続がぐんと短縮化される,恐らくそういうことになるだろうと見ています。   といいますのは,今,公判前整理手続が長引いている最大の要因は弁護側から証拠開示請求をしていく過程で生じているわけですね。どんな証拠があるか分からない,きちんと開示してもらっているかどうか分からない,それで裁定する,それで抗告する。そういうことが繰り返されることが現にあるわけです。しかも,その中で忘れていましたといって,後から証拠が出てくることは実務的に決してまれではないんです。そうである以上,目録の作成自体が証拠を適正に管理する側にとっても極めて有用ですし,小野委員がおっしゃるレベルであれば大した負担にもならないので,是非,そういう形でやっていただきたいと思います。   それと,目録の開示の弊害というのを述べられたりしているんですけれども,私の理解がもし間違っていれば恐縮なんですが,韓国で2008年1月から目録開示をやっていると思うんです。が,そこで何か弊害が生じたという事例に情報として接していない。ですので,もし,何かそこであるというのであれば,また,御教示いただきたいと思います。基本的に弊害というのは生じ得ないと思っています。   それと,類型証拠の拡大なんですが,繰り返し出ていますけれども,例えば露木幹事が言われるような形でありますと,反対当事者側のチェックは一切できない状態の証拠をはなから作っていいという,こういう論理にもなりかねないわけです。正に村木委員が言われたような問題が生じ得るだろうと思います。現実には6号問題,類型証拠開示の①ですけれども,これは現在,作成者以外の他の者の供述記載がある報告書等についても,対象に入るというのがある意味で有力になってきていますよね。裁定申立てまですると,多くの場合,検察官は最後の土壇場の段階で任意開示される場合が間々あるわけですね。そういう紛糾を避けるためにも条文上,これは明確にすべき段階だろうと思います。   それと,8号請求,類型証拠の②の問題なんですけれども,これも一般的類型的に巻き込まれた側からすれば,供述をされた側は外形的経緯・状況を知らずには防御活動ができないです。ですから,これは類型的,定型的に必要性が高いということで入れてもらうべきだと思います。   公判前整理手続の請求権に関する議論は,不服申立てについてA案が妥当だと思いますが,要は任意開示で足りるからという議論が盛んにされるんですね。しかし,小野委員も言われたと思いますけれども,きちんと開示されているかどうかの担保は何もないわけです。ですから,そういう形では裁定を求めるべきケースは当然あるわけですし,適式な手続に乗せていく必要性というのはあるわけですから,そういう形にすべきものだと思います。   これは,今崎委員の言われたことと全く反対のことを述べることになるんですが,裁判官はよくこの職権発動を要請させていただくと,「手続が重たくなりますからね」と,こうおっしゃって避けられる裁判官が結構いらっしゃるんです。けれども,発想を転換すれば,自らの裁量次第で,今,決めているという状態よりは,一定のルール化ができる請求権を認めて,不服申立手続もあるという制度にするほうがよりいいのではないかと思います。   また,小野委員が言われ,あるいは後藤委員も言われ,皆さんが言われた証拠開示請求を一般的に認めるということも,当然,何とかこの部会の中ではめ込んで考えていただくべきではないか。といいますのは,今,公判前整理手続以外のものは全部,まだ,1969年の最高裁の決定に基づいて,行き着くところはですよ,そこにまで遡って議論すると,現実にはそうはなっていないんですけれども,そういうことに理論的にはなりかねない。ですので,理屈の上ではそういう形になってしまっているわけですから,当然,そこを見るという発想をもう一度持つべきだろうと思います。   再審請求事件でも,今までの過去の事件は類型証拠も主張関連の証拠も開示されていないわけですから,これは当然なされるべきです。その後であっても公判前に付されていない事件や弁護人が請求していない事件は,証拠開示されないままになっています。後藤委員も言われたみたいに,今,類型証拠の開示を受ける,あるいは主張関連の開示を受けるというのは,実質的な弁護,実効的な弁護のためには不可欠だということになってきているわけです。ですから,どういった段階であれ,結局,これらは開示請求できるようにすべきですし,これは,再審請求段階では最低限の要請になると思っています。 ○神津委員 一覧表の交付制度に関してですけれども,本来,証拠は公的な財産という性格を持っていると思いますので,基本は全面的に開示されるべきなのだろうと思います。少なくとも一覧表を交付する制度が導入されるべきと考えます。そして,一覧表交付の時期についてはA案により,できる限り早期に交付されることが望ましいと考えます。また,加えて,再審請求があった場合の証拠開示についてなんですけれども,専門的な見解もあるわけなんですが,しかし,国民の目線から見たときに,私の「有罪判決は間違っている」と言って再審を請求する人がいる場合に,それに対して証拠を開示しないということは,公正性,透明性の点で問題ではないかと思います。また,一方で,「有罪判決は正しいんだ」という国側の説明責任の観点からも問題ではないのかなと思います。是非,検討に加えていただきたいと思います。 ○周防委員 私は基本的には全面証拠開示があるべき姿と思っているんですけれども,この部会で一蹴されてしまい,非常に残念です。ただ,次善の策として証拠一覧表の交付制度,これは必ず実現していただきたい。ただ,その一覧表は被告人側が開示請求する必要があるかどうかを判断することができる程度に証拠の中身が分からなければしようがないわけで,実際にこれを現場で活用される弁護士の方々の意見を十分聞いた上で,どういった表記がいいか検討していただきたいと思っています。   あと,専門家ではないので詳しくどこまでお伝えできるのか分からないんですけれども,類型証拠開示で今までの捜査機関の証拠開示において,先ほど村木委員もおっしゃっていましたが,自分たちの描いた事件のストーリーにとって不都合な参考人の供述というのをあえて供述調書にはしないと,捜査報告者や取調べメモにしておくということが行われてきているような事実があるようで,ただ,そういった報告書や取調べメモが開示されないということは,被告人に有利な証言が隠されるというか,明らかにならない,そういうことになるので公正な裁判の妨げとなると考えていますので,①として挙げられている類型も類型証拠開示の対象にしていただきたいと思います。   あと,本当に蛇足になるかもしれないんですが,全面的な証拠開示を主張する者としてのお願いは,どうも検察官の証拠隠しというのは正義を実現するための重要なテクニックであると,もしかしたら,そんなふうにお考えなのかなと,言い過ぎだったら申し訳ないんですが,明らかにテクニックとして,そういうことをしているのではないかと僕には考えられますので,証拠を隠すということは犯罪であると,今,神津委員もおっしゃいましたが,証拠は公共の財産であると,そう明文化して,被告人側にも基本的には全ての証拠へアクセスする権利があるんだということを明示していただきたいと思っています。   また,先ほどから問題になっている公判前整理手続の請求権ですが,これも今崎委員のおっしゃったように多分,証拠開示をしてほしいから選ぶと,そういうことになっているんだと思うんですね。公判前整理手続の請求というのは証拠開示に直結しているものだと私も考えます。だとすると,証拠開示というのは公判前整理手続に付される事件だけに必要なものではなくて,全ての裁判が公平に行われるために必要なものですから,公判前整理手続の請求権というものが制度的に難しいというのでしたら,本当にそれとは切り離して被告人側による証拠開示請求権というものを認める,そういう方法を考えていただきたいと思います。   また,私が部会の中で以前にも言いましたが,再審請求における証拠開示は全面的に開示すべきだと思っています。今すぐ救済されるべき人がいる,救済されなければいけない人がいるという現実を考えたときに,これはこの場で話し合う問題ではないと,負担が大きすぎるとか,そういう問題ではなくて,本当に今すぐにでも再審請求に関しては,証拠開示ということについてきちんとここで話し合われるべきだと思っています。是非とも再審請求における証拠開示というものは全面的に行われるべきだと思いますので,よろしく検討していただきたいと思います。 ○露木幹事 捜査報告書ですとか,取調べメモが開示されないというお話もあるんですけれども,それはミスリーディングで,主張関連証拠として必要な場合には開示の可能性があるわけなんですね。それは制度の使い方の問題であろうと思います。捜査機関に悪意のある場合のことを取り上げて議論もされておりますけれども,そのような場合があってはならないことは当然でありますが,悪意がある場合にはどんな制度を作っても抜けというものが出てくるわけで,そういう極端なケースを取り上げて制度を議論するべきではないと思います。制度は冷静に構築するということが重要だろうと思います。   あと,弊害のことですけれども,小坂井幹事から,今,弊害の実例があるのかというような趣旨のお尋ねがありましたけれども,一覧表の交付制度が存在しませんので,今,そういう問題は現実化していないわけです。個々の証拠開示の場面で弊害事由があるという理由で証拠が開示されなかったり,あるいはマスキングがされるということは実務上,幾らでも例はあると承知をしております。   あと,先ほど申し忘れたのですけれども,小野委員から一覧表の弊害事由がある場合の開示をしないようにする方法として一旦記載をした上でマスキングをする方法にするのか,そもそも記載しないことにするのかという点について御意見がございましたけれども,これは運用レベルの問題であるという気もしますけれども,暴力団捜査などでは例えば覚醒剤でありますとか,拳銃の隠し場所を非常に限られた者だけが知っていて,その者が捜査に協力して例えば供述調書の作成に応じたという場合に,供述者のみをマスキングしても供述調書という標目が残ってしまったり,あるいは供述調書という標目もマスキングしたけれども,何かそこに書類が存在するということが分かるだけで,暴力団側としては,これを捜査機関に密告した者はこいつであろうという推測が成り立ってしまうわけです。そういう事例もございますので,運用論だと思いますけれども,弊害事由の防止の在り方については慎重な検討が必要だろうと思います。 ○本田部会長 それでは,まだ,御意見もあろうとは思いますが,時間の都合もございますので,「証拠開示制度」についての議論はここまでとさせていただきたいと思います。   ちょうど区切りもよいところになりましたので,ここで15分間,休憩に入らせていただきます。3時25分から再開したいと思います。           (休     憩) ○本田部会長 それでは,再開をさせていただきたいと思います。   次に,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」について議論を行うことといたします。この事項についての議論は,午後4時10分頃までとさせていただきたいと思います。   まず,配布資料の内容について,事務当局からお願いいたします。 ○保坂幹事 それでは,資料63の26ページ以下を御覧ください。「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」の第1から第4までの各検討事項について,第2作業分科会の議論の状況と併せて順次,御説明を致します。   まず,「第1 ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」については,作業分科会において,主として,「同一構内以外の場所に在席して尋問を受けることができる証人の範囲」について議論が行われました。この証人の範囲として,まず,制度概要の①の精神の平穏を著しく害されるおそれがある者について,被害者に限定すべきとする意見が示された一方で,証人一般に認めるべきとする意見が示され,また,②の加害行為等のおそれがある者について,「畏怖・困惑行為のおそれがある者」は対象とするべきではないという意見が示された一方で,そのような者も必要性があるから対象とすべきという意見が示されました。さらに,③の遠隔地に居住する者については,単に遠隔地に居住しているだけではなく,一定の限定が必要であるとの意見が示されました。   検討課題「1」の二つ目の「○」にあります刑事施設等に収容されている者については,次の検討課題「2」の「証人が在席する場所の範囲」というところにも関係しますが,尋問場所により刑事施設等の収容者の心情の安定を害する程度に違いがあるか疑問があるという意見が示された一方で,収容者の心情の安定等を図る必要性がある場合が想定されるから,そのような者も対象とすべきという意見もあったところです。   以上のような議論の状況を踏まえ,制度概要の対象者の要件については,①は証人一般を対象とする案,②は畏怖・困惑行為のおそれがある者も対象とする案とされ,また,③は対象者を限定する要件が加えられて「出頭が著しく困難であると認められる者」とされた上,検討課題の「1」において「①から③までの対象者の要件は適切か」や,刑事施設等の収容者のうち,一定の者についてはこれを対象とするかが検討課題とされています。そして,検討課題の「3」については,本制度の在り方と併せて検討すべき課題として2点が挙げられております。   なお,次のページの「その他」のところですが,本制度のビデオリンクについては,当事者に異議がない場合に限って実施できるものとすべきであるという意見が示された一方で,当事者の異議により実施できないというのは,手続の性質上考え難く,裁判所が当事者の意見を聞いて判断するのが相当であるという意見も示されたことから,当事者に異議がない場合に限って実施できるものとするかが検討課題とされております。   次に,「第2 被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」については,主として,「対象者及び要件」,「記録媒体の取扱い」のほか,制度の採否に関連して,防御や反対尋問への影響や証人の負担軽減の程度について議論が行われました。   まず,制度概要「1」,検討課題「1」にあります「対象者及び要件」については,このような制度を設けるとした場合,性犯罪などの被害者を対象とすることには特段異論はありませんでしたが,被害者以外の者を対象とすべきではないという意見が示された一方で,精神的負担軽減という制度趣旨からすると被害者に限る理由はないという意見も示されたところです。   また,制度概要「3」,検討課題「2」の「記録媒体の取扱い」については,被告人の防御の観点から開示を制限すべきではないという御意見が示された一方で,プライバシー保護の観点から謄写はできないとすべきで,そうしても調書自体の閲覧・謄写,記録媒体の閲覧は制限されないから,防御に支障はないのではないかという意見も示されたところです。そして,防御や反対尋問への影響や,証人の負担軽減の程度については,それぞれ,積極・消極の方向から,様々な意見が示されました。   以上のような議論の状況を踏まえ,対象者及び要件については,制度概要「1」の①のいわゆる性犯罪の被害者のほか,②として精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる証人一般が対象とされ,検討課題「1」において,「対象者の範囲及び要件は適切か。」とされております。   また,記録媒体の取扱いについては,制度概要「3」において,証拠開示に際して記録媒体の謄写ができないものとされた上で,検討課題「2」において,その当否が課題とされております。   そして,検討課題「3」の「その他」において,制度の採否に関連するものとして,防御や反対尋問への影響,負担軽減の程度が挙げられております。   次に,「第3 証人に関する情報の保護」のうち,まず,「1 証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」については,作業分科会において,「対象者,要件及び措置の範囲」,「代替措置に関連して必要となる措置」のほか,弁護人には氏名・住所を開示した上で,被告人には知らせてはならない旨の条件を付する制度の当否について議論が行われました。制度概要「1」,検討課題の(1)の「対象者,要件及び措置の範囲」につきましては,鑑定人等まで広げて対象とすべきではないし,畏怖・困惑のおそれがある場合をも対象とすべきではないといった意見が示されました。一方で,証人以外の鑑定人等についても加害等のおそれが考えられることから対象者とすべきである,また,組織的犯罪に関しては畏怖・困惑させるような手段で証人に圧力を加えることがあるから対象とすべきで,さらに,証人などの保護を図るには住居のみならず,氏名の代替措置も採れるようにすべきであるという意見が示されたところです。   そして,検討課題(2)の「代替措置に関連して必要となる措置」については,代替措置を採る場合に,裁判所は実際の氏名・住居を知るということを前提とした制度設計とすべきことに特段の異論はありませんでした。その上で,証人等予定者の氏名・住居について,相手方に知る機会を与えなければならないとされている点を改めることに伴って,それでは足りない場面,すなわち,証拠開示の場面や,証人尋問の請求・決定の場面,取調べ済みの証拠書類など訴訟記録の閲覧・謄写の場面といった,被告人側に知悉させることが義務付けられているような場面においては,同様の措置を設けることを検討する必要があるということ自体には特段の異論はありませんでした。他方で,本制度ではなく,弁護人には氏名・住居を開示した上で,被告人には知らせてはならない旨の条件を付する制度とすべきであるという意見が示されましたが,これについては,条件が遵守される担保やその実効性に疑問があり,例えば,組織的犯罪のケースでは,そのような条件で弁護人に知らせるという制度は機能しないのではないかという意見もあったところです。   以上のような議論の状況を踏まえ,制度概要の「1」において,対象者に鑑定人等をも含めた証人等とし,要件としては畏怖・困惑のおそれがある場合も対象として,措置の範囲を氏名及び住居とした上で,検討課題の(1)において,そのような対象者,要件及び措置の範囲について,それが適切かということが記載されております。   また,検討課題(2)においては,代替措置では足りない場面,すなわち,「弁護人に対する証拠開示」,「証人尋問の請求及び決定」,「訴訟記録の閲覧・謄写」の各場面における氏名・住居の取扱いについて,被告人側にこれを知られないよう同様の措置を設けることとするかとされております。   そして,「その他」として,弁護人は氏名・住居を開示した上で,被告人には知らせない仕組みとする制度の当否が検討課題とされております。   次に,第3のうちの「2 公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」については,作業分科会において,「対象者及び要件」についての議論が行われました。   検討課題(1)のうち,まず,対象者の範囲としては証拠書類等に氏名が記載されているものに加えて,証言において氏名が述べられる者をも対象とするかについて,対象としないのはバランスを欠くという意見が示された一方で,供述調書の供述者のほか,供述調書に氏名が記載された者のうち,どの範囲の者を対象とすべきかを更に検討することが必要であるという意見も示されました。   また,秘匿決定の要件につきましては,制度概要②の「名誉又は社会生活上の平穏が著しく害されるおそれがある場合」は対象とすべきではないという意見が示された一方で,例えば,犯罪の場所に居合わせたこと自体を知られることで名誉が害されることになるおそれがある場合も想定されるので,②の場合をも対象とすべきという意見が示されたところです。   以上のような議論の状況を踏まえ,制度概要においては,対象者の範囲につき,「証拠書類等に氏名が記載されている者」とされていますが,検討課題では,これに加えて証言において氏名が述べられる者も対象とするか,そもそも供述人として氏名が記載された者に限るかと記載されており,秘匿決定の要件についても,制度概要記載の要件は適切かと記載されております。   最後に,「第4 証人の安全の保護」については,主に,今後の検討の在り方について議論が行われ,可能な制度の検討や課題の整理をできる限り行うべきという意見が示された一方で,刑事法を専門とする本部会で取り扱うことが難しい民事・行政関係等も含めて制度を全体として考えなければ実際に機能する制度とならないことから,今後,適切な検討の機会を設けるのが良いのではないかという意見が示されたところです。そこで,検討課題につきましては最後の「○」のところにその点を追加し,「本制度の検討をどのように進めるべきか。」とされております。   これらの検討事項に関する参考資料につきましては,参考資料の168ページ以下にございますので,適宜,御参照ください。 ○本田部会長 それでは,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」についての議論に入りたいと思います。 ○大久保委員 事前に提出させていただきました資料を参考にしていただきたいと思います。その中には,今ほど休憩時間の前に討論されました証拠開示制度につきましての意見も記載させていただいておりますので,よろしくお願いいたします。   まず,犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策につきましては,まずは被害者への二次被害を防止して,被害者を含む証人の公判審理への協力を得やすくするという観点から,更に具体的に検討を進めていっていただきたいと思います。まず,「第1」の同一構内以外の場所でのビデオリンクについてですが,これにつきましては性犯罪だけではなくて,提出させていただいた資料の中にも書いたような罪状の被害者の方たちというのは,心身に大きなダメージを負わされているために,被告人のいる裁判所へ行くということ自体が苦痛で,心理的にも精神的にも耐え難いことです。また,被害者本人でなくても例えば重大な事件,殺人事件などを目撃した年少者なども同じような心理状態に陥ってしまいます。   また,委員の皆さんの中で九州へ視察に行った方は肌で感じ取ったことと思いますけれども,暴力団犯罪の目撃者などにとっては幾ら警備がされているといっても,裁判所に来ている関係者に姿を見られて報復されるのではないかとか,あるいは後を付けられるのではないか,そのような恐怖感というものは拭い去れないものがあります。このように事件を解明するために協力をしたいと思っても,被告人のいる裁判所に出向くということが困難な人もいますので,こういう人にも証言してもらえるように制度概要で示されている内容の制度の導入を是非お願いしたいと思います。   この制度概要では同一構内以外のビデオリンクの利用を認めるかどうかは,事件ごとに事情に応じて裁判所が適切に判断をする仕組みとされていますので,そうであるのならば制度の対象者の範囲を狭く限定しすぎるというのは適当ではありませんので,制度概要の①から③に記載されている者についても,是非,対象者とするのが適切だと考えます。   また,「第2」の「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」についてですが,以前からも申し上げていますとおり,被害者が繰り返し供述をしなければならないという制度はとても大きな負担となっていますので,被害者等が公開の法廷で証言をしなくても済む選択肢があるということ自体が被害者の心身への負担軽減にもつながりますし,精神的回復にもつながりますので,制度として設けるという意義は大変大きいものがあります。そのためにもその要件は広くしていただきたいと考えます。   さらに,「第3」の「証人に関する情報の保護」ですけれども,「1」の「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」に関してですが,ストーカー事件や組織犯罪の被害者や目撃者などの証人は,被告人側に氏名や住所が知られれば被告人本人だけでなくても,またあるいは組織関係者にそれが伝わって更なる被害や加害行為,そして,嫌がらせなどの報復を受けるのではないかという不安を抱きます。そのため不安を抱くことなく刑事司法に協力してもらえるよう,制度概要にあるように証人等に加害行為や畏怖・困惑行為がなされるおそれがある場合には,氏名及び住居等を知らせるということに代わる代替措置を採るということができる仕組みを是非とも導入していただきたいと思います。   検討課題の(3)の「その他」としまして,弁護人には氏名,住居を開示した上で,被告人には知らせてはならない旨の条件を付する制度の当否とありますけれども,被害者や証人からすれば弁護人に知らせれば,被告人や関係者に伝わってしまうのではないかという不安はとても大きいものがありまして,これは絶対に拭い去れるものではありませんので,そのような制度にはするべきではないと考えます。   そしてまた,「2」の「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」に関しましても,是非,制度概要にあるような制度の導入をお願いしたいと思います。捜査や公判に協力をしなければと考えても証拠書類等に書かれた氏名や住居が犯人に知られ,逆恨みされて報復されたり,嫌がらせを受けるのではないかという不安や恐怖心から,現に証言を拒否するという例も数多く聞くことがあります。国民が安心をして公判審理等に協力できる制度といいますのは,犯罪者をしっかりと適切に処罰ができて,社会の安全を構築するためにもとても役に立つものであると思います。そのために証人の氏名や住居等が開示されない制度及び公開の法廷においても,証人の氏名や住居等が秘匿される制度を是非,導入すべきだと考えますのでお願いいたします。 ○神幹事 まず,「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」と「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」について述べたいと思います。いずれの制度も既にこの部会で述べてきたように,これまで以上に被告人・弁護人が有する証人に対して直接尋問する権利を制約するものであります。したがって,その拡張や創設には反対であります。   まず,「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」ですが,争いのない事件については対面での尋問の必要がないこともあるので,当事者に異議のないときにのみ許されるものとすべきであると考えます。また,「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」については,同一構内におけるビデオリンク方式の現状の運用は,本来の趣旨を超えて広く利用されている傾向にあるようにも思われます。これ以上広げると同一構内以外の場所におけるビデオリンク方式によっても,更に被告人の防御権に影響を及ぼす場面が増えるのではないかという懸念を持っております。仮に同一構内以外の場所でのビデオリンク方式が拡充されるというのであれば,それは裁判所の構内に限るべきであり,証人に予定されている者がたまたま刑事施設に収容されているからといって,証人の心情の安定や矯正教育の効果等を理由に,刑事施設をその場所にすることには賛成できないと考えております。証人の保護というビデオリンク方式の趣旨とは異なる理由で,被告人の防御権の制約は許されないと考えるからであります。   また,「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」との関連では,被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の活用について,反対尋問は主尋問の直後に行うのが望ましいということと,録音・録画媒体を主尋問に代えて使用すると反対尋問がやりづらくなり,防御に支障を来す場合があると考えています。いずれにしても,被害者等は,公判廷で反対尋問のための尋問を受けることになるのでありますから,余り負担軽減にはならないのではないかとも考えているところであります。   ちなみに,この場合に主尋問に代替して用いられる録音・録画媒体は,弁護人の立会いのないところで行われたものでありますから,誘導・誤導等がなされても異議を述べることができないという問題点があります。主尋問に対する異議は権利ですので,不当な誘導等が行われ,そのまま記録されてしまった証人尋問調書等について,問題部分についての削除等の方策が必要ではないかと考えております。この場合,問題部分の映像も削除して使えないものすべきであると考えています。さらに,いずれも枠囲いの中から外れていますけれども,証人の範囲を広げたり,あるいは畏怖・困惑等の行為がなされるおそれがある場合といった要件については,従前から申し上げているように反対であります。   次に,「証人に関する情報の保護」について述べたいと思います。   まず,「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」について述べます。証人の匿名化により証人の経歴や証人と被告人・被害者等との利害関係を調査することが不可能となり,その結果,証人の信用性を減殺する機会を恒久的に失わせるものであります。また,証人の匿名化は虚偽の証言を助長する危険性の高いものであります。このことはインターネット上の匿名での無責任なやり取りの中に見ることができると思います。また,捜査機関が,疑わしい証人に匿名で証言をさせるようなことは,証拠の改ざん以上に容易なことであり,捜査機関の不正を助長するおそれすらあると思います。   もし,これを設けるとするならば以前から提案しているように弁護人に対しては氏名・住居を通知し,被告人には住居等を知らせないように条件を付することができるとする制度によるべきだと思います。また,被害者,証人の保護を最大限配慮するとしても,えん罪の危険を大きくしないという観点から更に要件を絞り,証人若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加えるおそれがあると認められる場合で,被告人の防御に実質的な不利益が生じるおそれがないときに,弁護人に対して証人の住居を被告人に知らせてはならない旨の条件を付することができるものとすべきだと考えます。   最後に,「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」について述べたいと思います。現在でも被告人・弁護側の同意を得て,法廷での名前を明らかにしない運用がなされており,そのような対処で足りると考えておりますので制度化の必要はないと思っております。証人が公開の法廷で顕名にて証言を行うことが証人の証言の信用性の担保となっており,安易に匿名での証言を認めることを許すべきではないと考えます。また,この制度を設けるとしても,社会生活の平穏が著しく害されるおそれがある程度で匿名の証言を認めるべきではないと考えています。 ○大野委員 まず,「第1」の「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」につきましては,考えられる制度の概要に記載されている①から③までの三つの類型のいずれについても,ビデオリンク方式による証人尋問を可能とするべきだと考えています。   加えて,刑事施設に収容された者を対象とすることについては,法廷警察権や訴訟指揮権との関係など,更に検討すべき課題もあると思われますけれども,いわゆる所在地尋問と同様に有効に活用される場面もあると思われ,引き続き検討していただきたいと思います。   次に,「第3」の「1」の「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」のうち,検討課題(1)の点については氏名についても旧姓などの代替措置の開示を認めることに賛成であり,また,加害行為のおそれだけでなく,畏怖・困惑行為がなされるおそれがあるときも,こうした代替措置の利用を可能とするべきだと考えております。と申しますのは,加害行為がなされるおそれがある場合だけでなく,例えば繰り返し無言電話を掛けられるような畏怖・困惑行為もまた,証人に重大な恐怖や不利益を与え,証言が得られなくなるという点では同じであると考えるからです。   ところで,このような代替措置につきましては,防御のための事前調査が困難となるとの御意見があると承知しています。しかし,防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合については,現在の制度概要でも例外とされておりますし,およそあらゆる場合にそのような調査が実施されているとも思われません。また,弁護人には氏名・住居を開示した上で被告人に知らせてはならないという条件を付する方法によるべきとの御意見もありましたが,そのような条件を付したとしても,そうした条件が本当に遵守されるのか,その実効性に疑問があり,弁護人にも氏名・住居を知らせない仕組みとしないと,証人等の不安を取り除くことはできないのではないかと考えています。   最後に,「第3」の「2」の「公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」については,制度概要に記載された①,②のいずれの類型も対象とすることに賛成です。 ○小谷委員 証人等の支援・保護のための方策ということに関してでございますが,供述調書に過度に依存することなく,公判において真実が明らかにされる刑事司法制度が実現されることとなりますれば,公判における被告人の供述が今以上に重要視されるのと同様に,被害者や証人の重要性というものも増すことになると思います。このような観点からも新たな刑事司法制度の構築に当たりましては,被害者や証人が公判において安心して真実を供述することができ,また,捜査に協力することができるような環境や制度を整えるということが不可欠ではないかと考えております。   この点に関しまして作業分科会における議論では,証人の支援や保護についてその範囲あるいは対象,それから,要件を制限すべきではないかという御意見があったと承知しておりますけれども,私ども警察としては捜査実務を通じて,例えば公判で証言したことによって危害や嫌がらせを受けるなど,証人の方々が被害者と同じようにつらい思いをされているという例に接しているところでございます。この点について委員・幹事の皆様には証人の方々のそうした実情を是非,御理解頂きたいと思います。   その上で,被害者や証人を支援・保護するための方策については,その対象でありますとか要件等を可能な限り広く認めることとし,被害者の二次被害の防止,証人等に対する危害防止等を図る上でより実効性のある制度とすべきであり,具体的には被害者及び証人の心身の負担の軽減や加害者による報復等の危害防止等のために採ることができる選択肢を,できるだけ制度として拡大すべきであると考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○今崎委員 「第1」と,それから,「第3」の「1」と二つについて意見を申し述べます。   まず,「ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」の関係ですが,証人尋問は公開の法廷におきまして裁判体及び両当事者の面前で行うことが原則であり,現在のビデオリンクによる証人尋問というのは,例えば性犯罪の被害者など配慮の必要性が高い証人のために,証人に同一裁判所構内の訴訟指揮権の及ぶ別室から証言していただくという限りで,その原則を言わばごく一部修正したものとなっているものと理解しております。同一構内以外の場所におけるビデオリンクによる証人尋問を拡張するということについては,基本的に異論はございませんけれども,その場合にもできる限り,その原則あるいは基本的な考え方に沿ったものであるというべきだと思っております。そのように考えますと,例えば「第1」の枠囲いの③の対象者ですが,単に遠隔地に居住しているというだけで例外扱いを認めるというのは足りないように思います。ここにありますように,同一構内ではその出頭が著しく困難になると,このような要件が必要であると思っております。   それからもう一つ,検討課題には刑事施設等の収容者を対象にするか,あるいは刑事施設等での尋問も認めるかという点が挙げられておりますが,収容者の心情の安定や矯正教育の効果の重要性を軽視するつもりは毛頭ございませんが,それが独立してビデオリンクによる証人尋問を合理化することの理由になるかという点については疑問を持っております。それらの場合でも,①から③の要件あるいは現行法の一般的な要件に当たるかどうかを考えれば済むのではないでしょうか。また,仮に裁判所外の施設,つまり,具体的には刑事施設ですけれども,こういったところでの尋問ということになるのであれば,ほかの証人については飽くまで裁判所の別の裁判所内での尋問を念頭に置いていると思いますので,それに対する特別扱いを認めるということになります。それほどの合理的な理由があるかということについては疑問を持っております。   それから,「第3」の「1」の方に移らせていただきますが,「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」でございます。今の議論は全て証人保護という観点から議論されていたものと理解しております。この問題は,裁判所としては証人の保護とそれから被告人の防御権というただいま議論に出ていた二つの重大な利益の調整の問題として非常に重要に考えております。ただ,実際の裁判では犯罪の被害者が証人になるという場合が多いわけでありまして,証人保護という観点のみならず,裁判所としては被害者についてもこの代替措置の対象として検討していただくことを是非お願いしたいと思っております。   具体的には証人に限らず,犯罪被害者も広くこの制度の対象にすべきであるということでございます。御承知のとおり,最近,被害者名を匿名にした起訴がされているということは報道もされております。こういった起訴に対してどのように適切に対処していくかということについては,裁判所だけでなく,検察,弁護もそれぞれに御苦労なさっておられるわけですが,被害者保護と被告人の防御権の調整の問題として,早急に解決しなければいけないという問題であります。現行法の枠内で,運用上できる限りの措置をするというのは当然のことではありますが,こういう検討をされるのであれば,この場で制度上の措置も併せて検討していただきたいと思っているわけであります。   そうであるとしますと,作業分科会から示された案にあるような証人尋問での証人の氏名・住居の開示に代える代替措置というだけでは不十分でありまして,検討課題に掲げられたような弁護人に対する証拠開示,証人尋問の請求・決定や訴訟記録の閲覧・謄写などの場面も併せて考える必要がございますし,それだけではなくて,例えば起訴状,証拠書類や訴訟記録,判決書に記載された被害者あるいは証人の氏名などのいわゆる特定事項について,被告人に伝えてはいけない場合には伝わらないようにする,伝えるべきかどうかということについては適切な判断の機構を設けると,こういったような何らかの制度的な措置が考えられないかということを考えております。   以上,要するに被害者や証人を加害行為から保護する必要があるという場合に,起訴状から判決書までの手続の全段階を通じて,氏名や住居等の情報が被告人に伝わらないようにするという措置を採ることができるような,そういった制度を考えていただきたい,考えるべきではないかと考えております。このような一貫した保護策が示されることによって被害者も安心して被害を申告し,捜査・公判に協力することができるということができるのではないかと思っております。 ○岩井委員 性犯罪の被害者が刑事法廷に立つことによる第二次被害を防止する方策としましては,今までも刑事訴訟法の改正で,遮へいやビデオリンク方式などの導入が図られてきているわけなんですけれども,それでも刑事法廷に立つことの負担等を考えて,なかなか性犯罪の被害者は被害を訴え出られないという現状にあるわけです。ですから,ここでも提起されております,できるだけ性犯罪被害者などの負担を軽減するための方策は,是非,導入していただきたいと思っております。特に「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」という刑事法廷に立たなくても何とか被害を訴え得るという,そういうふうな方法がまた導入されるということ,それによって性的虐待を受けた子どもたちの証言などもきちんと取り得るという方策ができることと思っております。   性犯罪の被害者の訴えができないという状況は,結局,性犯罪の加害者を全然処罰されないという状況に置いておくことで,加害者はこういうことをやっても許されるんだというふうに安易に考えて,またそれを繰り返すということになるわけです。ですから,刑事裁判をやらなければ処罰はできないわけですけれども,できるだけ刑事裁判における性犯罪被害者の負担というものを軽減する方策を講じていただきたいと考えております。 ○岩尾幹事 先ほど今崎委員の方から,「第3」の「1」の「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」に関連いたしまして,起訴状や判決書における被害者の氏名秘匿についても併せて検討すべきだという御意見が出ました。この点についてはそもそも「基本構想」にも取り上げられておりませんし,これまで議論に上っていなかったことから,この点に関する事務当局の考え方について若干説明させていただきたいと思います。   まず,起訴状の公訴事実の記載につきましては刑事訴訟法の256条3項に,できる限り日時,場所及び方法をもって罪となるべき事実を特定して訴因を明示するものと規定されておりまして,被害者の氏名を必ず記載しなければならないとはされておりませんことから,審判の対象を限定して防御の範囲を画するといった訴因の趣旨・機能を害しない範囲で運用上の対応が可能でございます。そして,検察におきましては事案に応じ,訴因の趣旨・機能を踏まえつつ被害者保護の要請を考慮して,被害者の通称名や旧姓を用いることなどによって,被害者の実名以外の記載をする取扱いがなされていると承知しております。   また,同様に判決書の罪となるべき事実につきましても,被害者の氏名を必ず記載しなければならないものとはされておりませんで,起訴状の公訴事実と同様に罪となるべき事実の趣旨や機能を害しない範囲で運用上の対応が可能であり,起訴状の公訴事実と同様に被害者の実名以外の記載をする取扱いがなされている場合もあると承知しているところでございます。この問題につきましては,個別の事案ごとに柔軟な運用が創意工夫されているところでございまして,このような運用を阻害することのないよう,引き続きこれを見守りつつ慎重な検討をすべき事柄ではないかと考えているところでございます。   他方,「基本構想」において取り上げられております証拠開示に際し,一定の場合には証人の氏名及び住居の開示について,適切な代替措置を採ることができるようにする仕組みを設けることについてでございますが,それは刑訴法299条1項により証人の氏名及び住居を知る機会を被告人側に与えることが義務付けられている一方で,刑訴法299条の2や299条の3によっても,加害行為などがなされるおそれがある場合に弁護人に対して証人の氏名,住居等を被告人などに知られないよう配慮を要請することができるにすぎないと,こういう規定になっておりまして,更に実効性のある法整備が求められているからであろうと思われます。   そして,証人の氏名及び住居の開示に代わる措置を設けることは,起訴状に氏名が記載されていない被害者の保護になることはもちろんでございますが,氏名が記載されている場合でありましても住居の秘匿を可能にすることによって被害者保護に資することにもなりますし,また,このような措置を設けることによって被害者以外の証人保護も図られることになると考えているところでございます。したがいまして,この問題は,起訴状の被害者氏名の記載の有無とは必ずしも関連しない事柄であろうと思います。   以上のようなことからいたしますと,このような代替措置を設けること,更には配布資料の検討課題に書いております代替措置に関連して必要となる措置を整備することにつきましては,被告人側に被害者の氏名等を知らせることが法的に義務付けられているような場面における措置について,法的手当てを検討する必要性があるという考え方ができますが,他方,既に述べましたように個別事案ごとの柔軟な運用が求められるべき起訴状や判決書における被害者の氏名の取扱いについてまで,ここで併せて法的手当てを検討するということは必要はないし,訴因の特定の趣旨を踏まえつつ被害者の保護を図るとの観点からも,相当ではないのではなかろうかと考えているところでございます。 ○小坂井幹事 今まで意見を余り私自身が述べていない「第3」の「1」について少し触れさせてください。私は実はこの規定には非常に違和感を感じます。私の理解では刑訴法299条というのは極めて大事な規定だということが一方でありますし,例えば無罪推定の原則とか,そういう根本的なところと抵触してこないのかどうかが,もっともっと詰めて議論をする必要があるのではないかという気がします。といいますのは,もちろん,受訴裁判所がいろいろ保釈であるとか,審理の過程で判断するという場面はあるわけです。けれども,「第3」の「1」といいますのは正に被告人が加害行為をするんだと,こういう認定を受訴裁判所がしながら裁判を進めていくということですね。そのときに証人の氏名,住居を知らせなくていいと,こういう立て付けですよね。これは何か根本的なところで公正な裁判と言えるのかどうかということについて私は疑問を感じます。   それで,同時にこの種の規定はもちろん必要性があるものがあり得ることは理解しますけれども,運用自体は私はどうしてもルーズに流れがちな傾向にあることは一言,言っておきたいと思います。刑訴法157条の3の遮へいにしろ,157条の4のビデオリンクにしろ,例えば遮へい,こんな人まで遮へいするのかという形で,どんどん遮へいされていっている。それが裁判の現状だというのが私の認識です。証人が出てきて,「あなたは本当にこれが要るんですか」と聞いたら,「別に要らないです」という方が現にいらっしゃって,そこで取り外したというケースもあります。ものすごく運用が緩やかにされていってしまう傾向がこの種の規定には見受けられるのです。そこは原則に立ち返って考えていただく必要があるのではないかと私としては思っています。 ○小野委員 証人の氏名,住居の開示の関係なんですけれども,もちろん,被告人に聞かなければ証人の属性であるとか,利害関係であるとか,経歴であるとかは分からないということはあるわけですよね。それで,例えば住居にしても,今,証人がどこにいるかということが分からないと困る場合がもちろん当然あるわけです。その住居が実はある特定の団体の影響下にあるような場所であったりということが現にあって,それが分かって初めて証人の信用性についての吟味ができるという場合がありますし,もちろん,住所,氏名については,それが分からなければそもそも弁護人が分かっただけでは不十分で,被告人自身,関係者というか,当事者が分からなければ,それについてどういう関係があり得るのかということがそもそも分からない。そういうことで考えますと,この制度の検討は相当慎重に考えていただかないと,実質的に証言の吟味の手立てが失われてしまうと,こういう懸念を非常に私は持っております。そういうことでは,この仕組みというのが非常にそういった危険なものを含んでいるんだということを十分に御理解いただきたいと思います。 ○坂口幹事 私からも被害者等及び証人を支援・保護するための方策については,少しでも多く拡充をしていただきたいと思いますし,更に制度が導入されたときにはその運用についても過度に硬直的なものになることなく,弾力的で柔軟な運用を是非お願いしたいと思います。というのは,今,こういう制度がないがために,現実はどういうことになってしまっているかということについての認識の問題だと思うのですけれども,もし,私の認識が間違っていれば,あるいは私の経験が偏っているのであればそう御指摘いただきたいですが,今はこういう制度がない,その結果,証人が大変な負担の下で,しかし,出廷をしていただけて証言をしていただけて,公判がきちんと機能しているというのであればまだしも,現実はそうなっていないと思います。   どうなっているかというと,この証人は出廷してくれない,きちんと証言してくれる見通しがしっかり持てないと思えば起訴はされない,裁判は始まらない。もっと遡って,将来,公判で証言しなければならない負担があると思って被害申告さえもしてくれなければ,捜査も始まらないというのが現状です。捜査が始まらなければ犯人は捕まらない,犯人が捕まらないと同じような被害者が次にまた出る,連続強姦魔のような性犯罪というのは典型的にそういう犯罪だと思います。10人に1人,20人に1人の被害者が死ぬ思いで勇気を振り絞って被害申告をしていただけるとようやく捜査が始まって,それで,犯人を捕まえることができて11人目のあるいは21人目の被害者が出るのを防ぐことができるというのが現状です。そういうことを考えると,こういう制度というのは単に公判だけの問題ということよりは,社会全体の安全安心の問題としてもう少し考えていただきたいと思います。   確かに被告人の防御権の問題というのは私も重要だと思います。しかし,証人が証言する内容によっては,単純に事実があったかなかったかということを証言すれば足りるという場合も多いと思われます。そういう場合はビデオリンクであっても,比較的問題は少ないというケースが多いのではないでしょうか。確かに事実の趣旨とか評価とか,微妙な問題を反対尋問しなければいけないというようなケースでは,相対的には面前で直接尋問を行うという必要性が高いことは私も理解しますけれども,そういうケースばかりではないのではないかと思います。   それから,「第3」の「1」の点でいろいろな御意見がありましたので,私も特に立場上申し上げたいと思いますけれども,組の犯罪の場合は組の弁護士というのが,ここに出席しておられるような立派な弁護士さんとは全然違う人たちです。組員なのか,弁護士なのか区別がつかないような,そういう人が普通です。そういう人に対して弁護士には名前を教えますけれども,弁護士さんは組には名前を言わないはずですからと幾ら言ってみたところで証人が安心できるのかと,現実問題としてお考えいただきたいと思います。   それから,どなたも御発言がないようですので「第4」についても申し上げさせていただきたいんですが,約2年前になりますけれども,皆さんで福岡へ期日外視察に行かれて,あのとき,現地の検事さんなり,警察官なり,捜査官が言ったことを思い出していただきたいと思うんですけれども,新時代の刑事司法と銘打つからには,正にこういうようなことについても検討の射程がきちんと及んでいるということを示していただかないと,いずれは何らかの制度ができて,これを現場に還元して現場はそれに基づいて動くようになるわけですから,この審議会ではきちんとこういう論点についても検討が尽くされたと現場が納得して受け取れるようなものでないと,見に来てくれたときにああやって訴えたのに検討すらしてくれなかったと思って,出来上がった制度を押し付けられる現場がこれをどう受け止めるかということもお考えいただいて,人的資源が十分でないのは私もそう思いますので,ここで制度を完成させる,設計を完成させるということは困難でしょうが,この特別部会の構成でも十分意味がある生産的な制度の概要なり,方向性なりをきちんと形にするということはできると思いますので,そのための作業を是非お願いしたいと思います。 ○村木委員 被害者の方の保護とか証人の保護について,ここにあるような制度というのは是非前向きに検討をしていただきたいと思います。「第4」の「証人の安全の保護」も含めてそのように思います。   ただ,1点だけ心配をしている制度は,「第3」の「1」のところで証人の住所も名前も伏せられるという制度です。もちろん,これから具体的にきちんと制度検討がされるのかもしれませんが,我々のような素人がこれを見ると,どこの誰か分からない人の証言で有罪か無罪かが決まると。それでは被告人はとても納得ができた,まともな裁判を受けたという気持ちにはなり得ないのではないかと思います。例えは悪いかもしれませんけれども,何か事件が起きたときにテレビに顔にモザイクが掛かった人が出てきていろいろなことをしゃべって,でも,その人が誰だか分からないので,うそを言っているかもしれないけれども,文句を言っていく先もないと,裁判がそうなってしまったらとても困るわけです。とにかくどこの誰か分からない証人が出てきて,これで被告人側が防御をしろと言われて本当にできるのかどうかという辺りが非常に不安です。   具体的にどういうケースがあって,どういう形で防御権を保障して,代替措置はどういうものを考えているのかというのをかなり明確にしていただかないと,ふわっとしたもので名前も住所もどこの誰か証人はわかりません,匿名ですという制度はとても困ると思います。そのほかの制度の前向きの検討は賛成ですが,これは非常に心配ですので是非,慎重に御検討をお願いします。 ○周防委員 今,村木委員がおっしゃったこととほぼ同じなんですけれども,とにかく犯罪被害者や証人を保護する必要があるのは当然のことだと思います。ただし,裁判の公正さを危うくしてしまうような制度設計というのだけは避けるべきだと考えますので,今の「第3」の「1」に関しては本当に慎重に考えていただきたいと思います。   強く僕が言いたいのは坂口幹事がおっしゃられましたけれども,証人の安全の保護,これを多分本当にまともに検討すると,この部会では収まらない問題がたくさん出る,それは分かるんですけれども,それを強く発信しないといつまでもこれは具体化されないだろうと思っています。まるでアメリカ映画のことを思い浮かべてしまいますが,そういうものと日本で同じように考えられるのかどうかは分かりませんが,だからといって絵そらごととしてこの問題がずっと検討されないのではまずいのではないか。証人の安全の保護ということに関して,この部会できちんと結論を出すためにはどうしたらいいかということも含めて,どういった範囲でこれを検討していくか,具体的に方向性を示すべきだと,そう思います。証人の匿名化とか,そういうことも言われていますが,とにかく証人の安全の保護,これがないと結局はきちんとした証人に法廷できちんとした証言をしてもらうということには,なかなかつながらないのではないかと思います。 ○酒巻委員 私は第2作業分科会で技術的な問題も含めて,これまでも検討してきましたけれども,証人の匿名化につきましてだけ一言,あたかも何も問題点の検討をしていないかのように言われるのはやや心外でございますので申し上げます。   証人尋問というのが公判廷で行われる。その証人が仮に被告人側にはどこの誰か分からない場合であっても,証人が真実を述べているかどうかは主尋問と反対尋問によって確かめられるだろうというのが基本でございます。そして,弁護人が防御すなわち反対尋問の準備をするについて現在の証拠開示制度の下では,証人予定者が捜査段階でどのようなことをしゃべったかについては開示されることになっています。当然ながら裁判所は証人がどこの誰か分かっている。第一の基本はもちろん被告人の防御の準備にとって支障がないということが大前提ですから,もし,供述している人間が被告人や弁護人にどこの誰か分からないということが防御準備にとって具体的に支障があるのであれば,このような制度が作動することはない。そのように設計してあります。   しかし,もう一つの反対利益である,被告人側にどこの誰だか知られることによって大変なことになるかもしれないと感じ,おびえる人の安全や心情を確保しつつ公判で証言していただくために,弁護人に対してもどこの誰か分からないようにする。そうしたとしても,被告人の防御の利益に支障がない場合もあり得るであろう。そういう場合に備えて制度を作っておくのがよろしいのではないかという議論を既に具体的に行って案を示しているのです。どこの誰か分からないから,それだけで証人の言うことが信用できないだとか,刑事裁判の公正が害されるというように単純には言えないのであろうという前提で,いろいろなことを考えて作業分科会で議論しているのでございます。 ○本田部会長 まだ,御意見もあろうと思いますけれども,時間の都合もございますので,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」については,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   次に,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」について,議論を行わせていただきます。この議論につきましては,4時50分頃までとさせていただきたいと思います。   では,事務当局の方から資料の説明をお願いします。 ○保坂幹事 それでは,資料63の32ページ以下を御覧ください。第1から第3までそれぞれ第2作業分科会での議論の状況と併せて,順次,御説明をさせていただきます。   まず,「第1 証人の出頭及び証言を確保するための方策」についてです。「1 証人不出頭等の各罪の法定刑の引上げ」については,作業分科会において,主として法定刑の引上げの在り方,考え方について御議論がありました。この点については少なくとも1年以下の自由刑を設けるべきとの意見も示されましたが,具体的な法定刑を定めるには至っておらず,制度概要においては,引き続き,複数の選択肢が示されております。その上で具体的な法定刑の在り方については,同種の他罪の法定刑との均衡等を更に検討する必要があることから,「検討課題」としてその旨が記載されております。   次に,「2 証人の勾引要件の緩和」については,作業分科会において,主として,勾引要件の規定の仕方について議論がございました。この点については,召喚に応じない「おそれ」ではなくて,「おそれが明らか」という要件にすべきとの意見があった一方で,被告人の勾引の規定の文言や必要的弁護事件における弁護人の不出頭についての規定の文言との平仄を合わせるべきとの御意見や,「明らか」という文言の有無で実務上の違いがあるとは思われないとの御意見が示されたことを踏まえ,制度概要の「2」においては,「召喚に応じないおそれがあるとき」に勾引ができるものとする案が記載されておりますが,これについてはより限定的にすべきとの御意見もあることから,「検討課題」において,「おそれがあるとき」との要件でよいか,ということが記載されております。   次に資料33ページに移りまして,「第2 証拠隠滅罪等の法定刑の引上げ」については,作業分科会において,主として法定刑の引上げの在り方,考え方について議論がありまして,刑法の証拠隠滅罪等については強制執行妨害罪,業務妨害罪や,暴行・脅迫罪との均衡を考慮して引き上げるべきとの御意見が示され,また,組織的犯罪処罰法における組織的な犯罪に係る証拠隠滅等の法定刑についても,組織的犯罪処罰法の加重の趣旨からすれば,刑法の証拠隠滅等罪等で評価し尽くせない部分があるのであれば,引き上げるべきであるとの御意見が示されました。いずれの罪についても,具体的な法定刑を定めるには至っておりませんので,制度概要においては,引き続き複数の選択肢が示されております。その上で,具体的な法定刑の在り方は,それぞれの罪の法定刑の均衡ですとか,刑法の類似の罪との法定刑の均衡等を考慮する必要があるとして,「検討課題」にはその旨が記載されております。   次に資料の34ページ目,「第3 被告人の虚偽供述に対する制裁」については,作業分科会において被告人に証人適格を認め,現行の被告人質問を廃止し,公判廷に供述証拠として顕出するときには,被告人が宣誓の上で,検察官による反対尋問に応じなければならず,虚偽の供述をした場合には偽証罪の対象となるとの制度案をより具体的なものとするため,制度設計上の検討課題についての議論が行われ,これと併せて制度の採否に関する検討課題についても議論がなされました。   まず,被告人の証人尋問というものが被告人側の請求によるとされていることと関連して,主として,二つの点について議論が行われました。   1点目は,制度概要の「1(2)」の被告人側が供述書等を証拠請求した場合の取扱いについてですが,作業分科会において,被告人が証人となる場合には検察官の反対尋問を経ることによりその真実性が吟味されるにもかかわらず,証人とならずに供述書等を請求して,これが取り調べられた場合において検察官に反対尋問の機会が与えられないということになると,本制度導入の趣旨が損なわれてしまうとの意見が示され,これ自体には特段の異論はございませんでした。そこで,制度概要の「1(2)」のとおり,被告人側の請求によって被告人の供述書等が取り調べられた場合には,検察官に被告人を尋問する機会を与えるものとされております。   2点目は,制度設計上の検討課題の一つ目の「○」にあります共同被告人による尋問の機会についてですが,作業分科会においては,被告人が証人として証言する場合に共同被告人にも尋問の機会を与えるべきとの点については意見が一致しましたが,そのための仕組みについては更に検討を要するとして,引き続き課題とされております。   次に,制度概要の「3(2)」の冒頭手続における被告人の陳述などの取扱いにつきましては,作業分科会において,本制度を設けるのであれば,冒頭手続における陳述など証人尋問手続以外の手続における陳述は,証拠とならない旨の明文規定を設けることについて意見が一致したことから,「3(2)」のとおり記載されております。   次に,制度設計上の検討課題の二つ目の「○」の被告人が虚偽の供述書を提出するなど偽証以外の方法で虚偽の供述を公判に顕出した場合の対応についてですが,被告人が偽証する代わりにこのような書面を出したことに対しても何らかの手当てが必要ではないかという意見もあったところですが,そのための仕組みについては更に検討を要するとして,引き続き課題とされております。   次に,三つ目の「○」のいわゆる不利益推認の禁止についてですが,作業分科会においては被告人が証人とならないこと自体から不利益な推認がなされてはならないということについては意見の一致が見られておりますが,これを明文で規定すべきかについては,その要否・当否について意見が分かれております。そのため,検討課題の三つ目の「○」におきまして,それが課題とされております。   次に,四つ目の「○」の被害者参加人による被告人の尋問についてですが,作業分科会においては,現行法上被害者参加人による被告人質問が認められている趣旨からすれば,同様の範囲・要件で,被害者参加人による被告人の尋問を認めるべきであるという意見があった一方で,被告人が証人となる場合にはおよそ尋問を認めるべきではないとの意見も示されており,なお意見の一致を見ていないことから,検討課題の四つ目の「○」においてその点が課題として記載されております。   最後に,「2 その他(制度の採否に関連する検討課題)」については,現行の被告人質問に対して,虚偽を述べても制裁がなく,真実性担保の仕組みがないことにより類型的に信用性が低いと評価され得る問題があるから本制度を設けるべきという意見があった一方で,本制度を設けると黙秘する被告人が増加するのではないかといった懸念や,被告人が証人となることを選択しないことによって自白事件の公判における量刑資料が得られにくくなるのではないかという懸念も示されております。   そこで,これらが検討の視点として掲げられた上で,「新たな時代の刑事司法として,被告人が公判に供述証拠を顕出するためには真実性が担保される仕組みの下で行うものすべきか,新たな制度を設けることなく現行の被告人質問を維持すべきか。」ということが課題とされております。   以上の検討事項に関する参考資料につきましては,参考資料集の183ページ以下にございますので御参照ください。   御説明は以上です。 ○本田部会長 それでは,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」についての議論に入りたいと思います。御意見をお願いします。 ○青木委員 「第3」の点について意見を申し述べたいと思います。被告人の虚偽供述に対する制裁ということで,被告人を証人として尋問するという制度案が出されておりますけれども,これについては大きく二つの点から私は反対です。   まず,一つは全面的な証拠開示がなされない,そういう制度がないという中での導入はより問題が大きいと思うからです。そもそも何が虚偽かという判断は困難だと思います。例えば私がやりました再審事件の布川事件で,捜査過程について確定審では捜査官の証言が信用でき,そちらが真実であり,被告人らの法廷供述は信用できない,すなわち,そちらは虚偽とされたわけですけれども,再審の段階で相当程度,証拠開示がなされた結果,それは逆であったということが明らかになったわけです。このように全面的な証拠開示がなされるわけでもない状態の下では,被告人らを二重に誤った処罰を受ける危険にさらすことになりかねないので,そういう点から反対です。   もう一つは,手続二分のなされていない中での導入というのは非常に問題が大きいと思いますので,その点からも反対です。現在の被告人質問での被告人の供述には公訴事実そのものの存否などに関する供述,罪状に関する供述,一般情状に関する供述が含まれております。一般情状としては経歴や事件に至った経緯など,非常に広範な事実が審理対象となるわけです。したがって,その反対尋問の範囲も極めて広いものとなるわけです。これに関して被告人は言いたいこともあるけれども,言いたくないことや隠しておきたいというようなことがある場合ももちろん少なくはありません。   しかし,反対尋問にあえば,隠しておきたいことが発覚していない余罪だというような場合には証言拒絶をするのかもしれませんが,そうでなければ例えばプライバシーに関わる事実を聞かれて,ありませんと答えると偽証とされるのではないかという不安を持ちながら証言台に立つことになります。こういうリスクを覚悟しないと,情状について被告人が供述できないというのは問題ではないでしょうか。   それから,一般情状の中には例えば逮捕・勾留され,公判に至る過程で被告人がどんなことを考えてきたのか,自分の将来をどのように思い描いているのかという意見や思いといったものも含まれています。殊に近時,監獄法が改正され,更生保護法が成立して,更にはまだ施行前ではありますけれども,刑の一部執行猶予の制度も開始されるという状況があります。また,裁判員も被告人の更生ということに関心を持っている中で,判決後,どのように被告人を処遇し,更生させるのが良いのか。それは再犯を防止するということにもつながる話ですけれども,そういう面での情状立証というのも非常に重要になってきます。   手続二分もなくて判決前調査もない中では,公訴事実に争いのない事件で弁護人がある程度,判決前調査と似たような同様の役割を果たして社会資源を探し出したり,あるいは環境調整を行ったり,被告人とその観点で接見を繰り返すということもあるわけです。その結果は情状証人という形で公判に出すということがもちろんありますけれども,被告人自身にも語ってもらう必要があるわけです。そのようなものが証人尋問としてしか行えない,あるいはそれを証人として証言する部分と主張なり,意見として供述する部分とを分けてやれと言われてもとてもやりにくいように思いますし,被告人としても偽証罪の制裁の下でそういうことを行うのでは萎縮してしまうと思います。こういうことの結果,法廷で被告人が自らしゃべるということが少なくなるのであれば,公判を充実させるという目的とは相反することになると思いますので,被告人の虚偽供述に対する制裁という中身として,被告人の証人適格を認めるということについては反対です。 ○後藤委員 私も被告人の証人適格の問題について,現在の案の内在的な整合性という問題と,もう一つは制度の当否について申し上げたいと思います。   まず,内在的な整合性の問題です。この案ではいわゆる冒頭手続での罪状認否の答弁は証拠にならないとしています。それを明確にして証拠としての供述と主張ないし答弁とを分けようとするのは,それ自体,筋の通った考え方だと思います。しかし,なお被告人にも罪状認否をさせることが当然の前提にされているように見えます。しかし,ここでの答弁は証拠にならないとすれば弁護人が答弁すればよいのであって,被告人がそれをすることに意味があるかという疑問があります。裁判員が被告人の陳述を聞いたら,それは証拠ではないと言われても証拠と区別するのは非常に難しいのではないでしょうか。だから,証拠にはならないとしておきながら,弁護人がいるのに被告人自身にも罪状認否の陳述をさせることに内在的な整合性があるのかという問題が一つでございます。   制度の当否については,手続全体としてバランスが取れるかどうかが問題だと思います。公判廷で公訴事実を争っていないようないわゆる自白事件でも,被告人が宣誓しなければ供述をすることはできないというのは,非常に窮屈な制度になりそうな気がします。これを有罪の答弁ですとか,青木委員のおっしゃった手続二分とか,そういうものと組み合わせるのであればうまくいきそうな気がしますけれども,被告人の証人適格の部分だけを今の日本の制度に中に持ってきても,非常にぎこちないものになるのではないかと恐れます。   もう一つは,捜査手続との関係です。例えばアメリカだと捜査手続においてはミランダ法則によって取調べ受忍義務は否定される,さらに,弁護人の取調べの立会権は明確に認められるという,手厚い黙秘権保障があって,それとの組合せで公判では被告人に対して厳しい要求をしてもバランスが取れているのだと思います。ところが,日本ではこの部会の議論でも弁護人の立会いは認めないし,取調べ受忍義務については踏み込もうとしていないわけです。そうすると捜査段階で自白してしまっているから,結局,証言台に立って弁明せざるを得ないという現象が起きるのではないか。そうすると,被告人の自由な選択だといっても,実はその自由性が十分には保障されないのではないか。つまり,捜査段階でのもっと実効的な黙秘権保障と組合せで導入しないと,被告人に対して過酷な制度になってしまうというおそれを私は感じます。 ○佐藤委員 私もちょっと理解不足があるのかなと思いますので,教えていただきたいという意味で質問が一つと意見を申したいと思います。今,お二人が言われたような疑問を私も同様に感じます。被告人が陳述する,供述をする機会が結果として減るだろうと。そうすると,その結果として公判中心主義の裁判にしていこうという,そういう大きな趣旨があるときに,それに逆行する結果が生まれるのではないかという懸念を持ちます。   それで,お尋ねなのですけれども,果たして被告人に証人適格を認める,証人請求をして証人として供述をさせるという制度を採り入れるときに,当該被告人,当該証人について被告人質問を廃止するというだけではなくて,およそ被告人質問という制度をなくしなければならないものなのかどうか,そこに論理的な必然性があるのかどうかというのが疑問で,それについて教えていただければ有り難いと思います。いずれにしましても,この制度はどうも被告人に真正な供述を公判廷においてさせるということに,画期的に寄与するということに果たしてなるのかどうか疑問を感じます。   そこで,「基本構想」などでも触れられておりますが,現在の被告人質問という制度が非常に中途半端であるということで被告人としては言いっ放しで随意な供述を認めてしまっているという現状に鑑みますと,非常に中途半端な被告人質問という制度,このこと自体をただしていくという,そういう方途をもっと模索すべきではないか。それをなくしていきなり被告人質問をなくするというのは,果たしていかがなものなのかということを,作業分科会では大変苦労して議論されている跡が見えまして大変恐縮ですけれども,そうであるだけに今一度,そういう観点からの御議論を是非,重ねていただきたいなと思いますので,教えていただきたいことと意見を申しました。 ○井上委員 その二つを併用することは,技術的には可能だと思います。しかし,おっしゃったような中途半端なものと,一つに純化したものとが混在することになると,全体として余計おかしな制度になってしまうのではないかと思われますので,割り切るのならば証人尋問一本ということにすべきだろうと思います。そうするのがよいかどうかについては,私もまだ最終的にそこまで大胆にはなれないでいるのですけれども。また,この制度は積極的に本当のことを言ってもらう,それを担保するというものでは恐らくなく,むしろ,言いたいことだけ言ったり,虚偽のおそれのあるものも言いっ放しということをさせないようにする,そういった趣旨のものだろうと思います。   公判中心主義ということも,どういうことをイメージしておられるのかによって違ってくるのですが,例えばアメリカとかイギリスでは被告人に証人適格を認め,無宣誓の供述は認めていないのですけれども,公判中心主義でないかというと,最も公判中心主義が徹底していると考えられている国なのです。だから,どういうものを公判中心主義としてイメージするかによって違ってくるのだと思うのですね。   あと2点だけ申し上げます。罪状認否との関係について,後藤委員が言われたことを私は全く理解できません。被告人の罪状認否というものは,しないといけないというものではなく,言いたいことがありますかと聞かれて,被告人が発言したければ発言するというものであるわけで,被告人に証人適格を認めても,それはそのまま存置されるのだと思います。仮に被告人が罪状認否おいて「私はやっていません」とか,「やりました」と言った場合に,それは主張にすぎない,という位置付けにするだけのことだと思います。   また,青木委員が言われた情状との関係につきましては,被告人が情状証人として立って情状について自己に有利な事実を述べた場合,検察官の反対尋問は主尋問に答えた範囲でしかできないはずですので,それによって何か不都合が生じ得るのか,私には理解できません。その場合に被告人が述べたことが虚偽であり,あるいは誇張があるということならば,それは当然正さないといけないわけで,一般情状だからいいかげんなことや都合のいい面だけを言っていいんだということにはならないのではないかと思います。ですから,それは手続が二分されているかどうかということとは,論理的には関係がないことだと思います。 ○椎橋委員 私は被告人に証人適格を認めることは採り得る制度だと思います。被告人が自己負罪拒否特権を放棄して,つまり,偽証罪の適用を受けるリスクというものを覚悟した上で証言台に立って供述をする。それは偽証罪を覚悟の上ですから,その内容自体も言ってみれば迫力のある,あるいは,証明力の高いものとして受け止められるという可能性がある。真実を言ってそれが説得力があれば,むしろ,それは被告人にとって有利に展開するということはあり得るわけであります。   また,後藤委員が言われたこととの関係で,黙秘権を侵害するおそれがあるのではないかという御指摘がありましたけれども,検討課題の三つ目の「○」のところで指摘されておりますけれども,証人とならないこと自体によって不利益な推認がされてはならないと,規定化するかどうかは別にして,これについては余り異論がなかったということですので,黙秘権自体は保障されている。証言台に立つかどうか自体が被告人の選択によるということですから,その点の懸念はないのではないかと思います。   それから,「3」の(1)のところの現行の被告人質問は廃止するということがありますけれども,その場合は検討課題の最後の「○」のところで,被害者参加人による被告人の尋問を認めるものとするかどうかということが問題になりますけれども,これは私は認めるべきだと思います。今まで被告人に対して被告人質問というものが被害者に認められて,それはどのような役割を果たしたかというと,被告人がうそを言ったりといったようなときに,一番事情を知っている被害者がその点を指摘するということによって,うそが見抜かれて,訂正されるという効果があったと思います。現在,被害者は証人尋問,それから,被告人質問ができるわけですけれども,実際はなかなか証人尋問というのは法的な技術が必要だということがあるので,被害者参加弁護士の方がされるということが多いようで,被告人に証人適格を認める一方,被告人質問を廃止した場合も実際は,証人尋問は被害者参加弁護士の方がされるということが多いと思うんですけれども,被害者に証人尋問させるべきではないという正当な理由はないと思いますので被害者が証人尋問できるという場面は残しておくべきだと考えます。 ○松尾関係官 青木委員の御発言に始まって,被告人の証人適格の問題がずっと連続して議論の対象になったわけですが,私はこの問題について,随分昔のことですけれども,短い論文を書いたことがありますので,感想を述べたいと思います。提案されているような被告人に証人適格を認め,被告人質問は廃止するという考え方が実際に法律になった場合にどうなるだろうかという予測でありますが,私は二通りのシナリオが考えられると思いました。   一つは,現在でも被告人質問にはほとんどの被告人が応じていると思いますが,それと同じ状況が続いて,被告人のほとんどが証人となることを望むという場合です。そうなりますと,今と違ってくる点は,被告人が供述の冒頭に真実を述べますと宣誓をして,更には反対尋問も受けるということですから,法廷の雰囲気は非常に緊張したものになるだろうと思われます。先ほど公判中心主義というお話もありましたが,公判中心主義に一歩も二歩も近付くのではないかというのが一つのイメージです。   もう一つは,被告人が証人となってみると厳しい尋問を受ける,結局,それで有罪になる,刑の量刑も思ったより重くなるというような事例が重なっていきますと,弁護人は被告人を証人に立てることについてためらいを感じ始めるのではないか。実際,アメリカなどでも弁護士の書いたものを読みますと,刑事弁護人として受ける報酬の半分は弁論の内容のためであるが,あとの半分は被告人を証人にするかどうかの決断のためであるというようなことを言っております。作業分科会でも既に議論されているようですが,要するに被告人は黙秘してしまうというケースが増えてくる,量刑の資料が得られなくなるということになってしまうのではないか。そうなりますと特に裁判員裁判の場合は裁判員は非常に不安だろうと思います。被告人の話を聞かないで判決をしなければならないというところに追い込まれるわけです。   それで,私は今,二つのシナリオを述べましたが,そのどっちになるだろうかというのは予測の問題で,皆様に御教示いただきたいことでありますが,そのどちらになるかによって,この制度を採るか採らないかということが分かれてくるのではなかろうかと思います。 ○井上委員 1点だけ今の松尾関係官の御発言を補足させていただきますと,アメリカの場合は有罪答弁制度がありますので,公判に係るのは全て被告人側が有罪であることを争う事件なのです。その場合に弁護人として被告人を証言台に立てるかどうかは,非常に厳しい選択であるというのは確かです。しかし,自白事件も同じように審理する日本においてどうなるかは,アメリカでの状況をそのままストレートに持ってきて,同じようになるとは当然には言えないところがあると思います。松尾関係官がおっしゃった予測のどちらになるかということをお考えになるときの参考として申し上げました。 ○但木委員 いろいろな考え方があるんだろうと思いますが,根本的には公判中心主義にとってどちらがいいのかなということだろうと思うんですね。先ほどの証人保護の問題にしても,あるいは偽証の制裁にしても,これは何をやろうとしているかというと国民が公判廷に出て自分の記憶どおりのことをきちんと言えるような,そういう制度を作ろうということで公判中心主義の非常に重要な部分だとされているわけです。一方,被告人については今のところ,公判でうそを言おうとうそを言うまいと,それはどうぞ勝手ですよということになるわけですけれども,それが本当に公判中心主義を貫くことになるのかということです。   特に裁判員裁判がなかった時代というのはプロが見ていますし,プロは何年も被告人質問をやっているので,大体,これはこの程度の信用性だなという判断をするわけですけれども,今の裁判員裁判においては被告人の供述の信憑性というは,非常に判断が難しくなってきているのだろうと思うんですね。その意味では,被告人にも少なくとも法廷において自分の記憶どおりのことを言いなさいという義務を負わせるというのは,それ自体は僕は少なくとも裁判員裁判についてはそうしてもらわないと困ると思うんです。   そうすると,被告人質問はほとんどできなくなってしまうのではないかという確かに御心配があるようでありますけれども,しかし,情状の関係だけについて証人として聞きますよと,真実を述べなさいねという告知をされた上で被告人がものをしゃべる。今後,自分としては反省して全うに生きていきたいというようなことを言う。それは真実を言いなさいよと言われた上で言っているということで,被告人にとっても重さがあるのではないかと思います。裁判員にとってもそれなりに真剣に言っている,それでもなお虚偽性が入ってくるかどうかというのはありますし,それを本当に偽証罪で制裁できるのかと言われると,非常にそれもまたなかなか難しい問題だと思いますけれども,ただ,今みたいに何を言っても構わないぞというスタイルでやることは被告人にとっても良くないし,公判には真実だけが提出されるべきだというべき論からしても,このまま続けるのが本当にいいのかと私は思っております。 ○角田委員 いろいろな議論,意見,賛否が出まして,聞いていてそれぞれ理由があるところだろうとは思いました。ただ,私は裁判所として現場の感覚でこの問題をどう感じるか,それについて申し上げます。そういう観点で言いますと,結論的には被告人の証人適格を認めるこの構想というのは賛成できないというのが結論です。その理由ですが,被告人の虚偽供述によって何か弊害が本当に生じているのだろうか,あるいはどの程度生じているのだろうかという問題が一つあると思います。それから,もう一つは仮にそれがあるとして,偽証の制裁の下で被告人を証人として扱うようにして,その弊害を乗り越えられるか,あるいは解消されるか。これが二つ目の問題としてあるように思います。   一つは現状ですけれども,被告人の公判での供述が明らかに事実に反している,あるいは虚偽だとそう感じられる場合はあります。しかし,この場合には実は,反対質問だとか補充質問で相当厳しい質問にさらされて吟味される,それが法廷で明らかにされる。これが少なくとも理想的な運用で,それができていなければそれは反対質問者の技術が足りない,むしろ,そういう問題だろうと思います。もう一つは多分,余り異論はないと思いますけれども,明らかにうそをついているという被告人の場合,反省の情がないという評価を通じて量刑がそうでない場合に比べて明らかに有意的に重くなっているという実情が,これは法律家であれば多分,共通認識だろうと思います。つまり,このような意味で虚偽供述が野放しにされているとか,そういう事態ではないのではないかということが一つです。   それから,もう一つはこれを偽証罪の制裁で防ごう,抑止しようということに関してですが,私は30年以上,裁判所で仕事をしてきて,半分は刑事事件を担当していますけれども,この三十数年の中で偽証罪を扱ったのは1件だけしかありません。それぐらい使われていないものです。捜査には着手しているということはもしかしたらもう少しあるのかもしれませんけれども,実際に偽証罪で処罰できるというのは,主観説が採られていることもあって非常に使いにくい罰則ということがあるので,これによる抑止効果は余り期待できないのではないかと思います。   こう考えて賛成できないということになるんですけれども,先ほど議論の中で公判中心主義に沿うとか,沿わないとかという議論がありました。これについて私の感想を一つ申し上げますと,むしろ,従前の刑事裁判は供述調書,書証を中心に証拠調べをやって,それで心証を取るという刑事裁判だったと思いますが,それを裁判員制度の導入を契機として,被告人にしろ,証人にしろ,法廷での生の供述でもって心証を取るようにと変わってきました。何年もそのように運用を変えようとしてみんな努力してきたのがなかなかうまくいかなかったものが,ここのところ,そちらの方向に向かって動き出していると思いますが,先ほど松尾関係官が言われたシミュレーションの片方の方,弁護人の方で証人にするのをちゅうちょしてというような事件がもしあるとすれば,あるいはそういう傾向が出てくるとすれば,被告人の供述なしに恐らく乙号証を中心に心証を取っていくというようなことも考えられるわけで,むしろ,今のせっかくの大きないい流れに逆行する,そういうことからもこの制度には賛成しにくいと考えております。 ○本田部会長 時間の関係もございますので,ここでひとまず「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」についての議論は終わらせていただきたいと思います。   続きまして,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」についての議論を行うことといたします。この事項についての御議論は,午後5時20分頃までとさせていただきたいと思います。   それでは,資料の説明をお願いします。 ○保坂幹事 資料63の36ページ以下を御覧ください。「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」につきまして,「第1」と「第2」について順次,御説明します。   まず,第1,捜査の簡易迅速化を確保するための措置については,制度概要のA案につき仕組みとしての有効性に疑問を呈する意見が示された一方で,否認に備えて弁解を想定した捜査を行って起訴している現状からすれば,捜査に戻ることを可能にする仕組みを設けることで捜査の簡易迅速化に資するという意見も示されたところであり,このような議論の状況を踏まえて検討課題の「1」,A案についての一つ目の「○」に簡易迅速化の仕組みとしての有効性をどう考えるかと記載されております。   また,A案における再起訴制限緩和の対象事由として,趣旨からすると被告人質問で否認に転じたことによって即決裁判手続によることの決定が取り消された場合も含めるべきであり,その取消事由を明確化できるかという点も含めて検討すべきとの意見があり,それについては特段の異論はございませんでした。   このような議論の状況を踏まえて,制度概要A案におきましては「1」の「ア」から「ウ」までの事由により申立てが却下された場合,「2」の「ア」から「ウ」までの事由により決定が取り消された場合が挙げられており,そのうちのウには先ほど申し上げた被告人質問で否認に転じた場合が記載されております。そして,これらの検討課題の二つ目の「○」におきましては,事由の全体につきましてこれらの事由は適切かが記載されております。   次に,公訴取消後の身柄拘束の在り方についてですが,現行法の再逮捕・再勾留の仕組みによることで足りるのではないかという意見が示された一方で,再勾留が長期化しないような仕組みとすべきではないかとの観点から,検討課題の三つ目の「○」のところですが,現行法下と同じ扱いにするか,特別の規定を設けるかが記載されております。   次に,制度概要のB案については,簡易迅速化の仕組みとしての有効性を積極的に評価する意見があった一方で,撤回が認められるやむを得ない事由をどのように考えるのかによるのではないかという意見や,被告人質問で否認に転じるおそれがあることから撤回を制限することの実効性に疑問を呈する意見などがありました。   このような議論の状況を踏まえて,B案の「1」においてはやむを得ない事由がなければ同意が撤回できないものとされた上で,「2」において陳述手続を設けて即決裁判手続によることの決定までを早期に行うことができる仕組みとされ,検討課題として捜査の簡易迅速化の仕組みとしての有効性をどう考えるかや,その際の検討の視点として先ほど紹介したものが挙げられております。   次に,「第2 一定範囲の実刑相当事案を簡易迅速に処理するための新たな手続の創設」については,制度概要の「1(1)」,検討課題「1」のうちの(1)の対象事件につき,現行の即決裁判手続では対象外となっている例えば常習累犯窃盗などの法定合議事件を除く事件を対象として,簡易迅速な処理に適するのではないかという意見が示された一方で,常習的犯罪や被害者のある犯罪は新手続になじみにくいとの意見もありました。   検討課題(2)の検察官の申立ての要件ですが,現行の即決裁判手続の要件を基本としつつも,事案の軽重を示す制度概要の「1(1)」にある「重大でないこと」という要件については,より適切な表現をすべきではないかとの意見がありました。   検討課題(3)の手続保障については,制度概要の「2」において検察官と裁判所が新手続について説明をすると記載されておりますが,裁判所の説明に対する必要性に疑問を呈する意見があった一方,実刑に処することも可能なので手続保障を手厚くすべきという意見もありました。   検討課題(4)の判決の言渡し時期については,制度概要の「4」で期間が定められておりますが,この点につき,具体的な期間を定めることが望ましいという意見があった一方で,事実関係や情状等によって事件ごとに異なるので,法律で定めることにはなじまないという意見もありました。   検討課題(5)のところになりますが,予定科刑意見の告知については制度概要の「1(2)」のとおり,検察官が被告人側に予定科刑意見を告知する仕組みとされていますが,これを裁判所に知らせることとするかについては意見が一致していないところです。   以上のような議論の状況を踏まえ,対象事件については制度概要の「1」では単に「対象事件」とされ,どのような事件を対象にするかが検討課題とされております。検察官の申立て要件については,先ほど申し上げた「重大でないこと」との要件についてどのようにするかが課題にされております。制度概要の「1(2)」と「2」において,検察官が同意の確認を求めるときの告知や検察官や裁判所による手続の説明などが記載され,そのような手続保障が良いかが検討課題とされております。判決の言渡し時期については,制度概要の「4」において「できる限り5日以内」とされておりますが,検討課題においてより適切な期間が考えられるかとされております。   その他の採否に関する検討課題については,実刑判決事案における弁護人の情状立証の程度や,裁判所としての量刑判断に必要な審理期間あるいは判決までに必要な期間についての判断が難しいという意見があるとともに,一部導入が予定されている刑の一部執行猶予事案の裁判所の量刑判断についても,検討が必要だという意見が示され,検討課題にはこれらの点が挙げられております。   参考資料については196ページ以下でございます。 ○本田部会長 それでは,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」につきまして御意見等を頂きます。 ○大野委員 自白事件の簡易迅速処理手続について意見を申し上げたいと思います。   これまでの議論を拝聴しておりますと,自白事件の捜査と公判のそれぞれについて,これらを合理化,迅速化するため,有効な仕組みがあればそれが望ましいこと自体には大きな異論はないのではないかと思っています。   制度概要「第1」は,このうち捜査の合理化・簡易迅速化を進めていくための仕組みと位置付けられると思いますけれども,こうした仕組みができますと特に捜査を担当する側の意識を変えるきっかけになると思います。   つまり,現行制度におきましては,将来的に被疑者が公判で否認に転じたとしても公訴維持が可能なように,どうしても綿密な捜査を遂げておいた方が良いとの意識が働くのでありますが,A案によって公訴取消後の再起訴制限が緩和され,言わば将来的な捜査の機会が制度上保証されれば,実際に公訴を取り消す事件が多くはないとはしても,検察官としては,将来必要となった段階で参考人から詳細な供述の聴取や関係者の供述の信用性吟味のための裏付け捜査等を行えばよいと考え方を改めて,最低限度の証拠で早期に被疑者を起訴し,即決裁判手続の申立てをするというように運用を改めていきやすくなるのではないかと思います。このようにA案は有用と考えられますし,現行法の枠組みを変更する程度も比較的少ないことから,前向きに検討していただきたいと思います。   そして,A案に加えまして,B案が採用されることになれば,先に述べたメリットに加えて,そもそも被告人が一度表明した応訴態度が早期に固定され,将来的に追加の捜査をやらなければならないという事態も減ると思われるため,時間経過による証拠の散逸の懸念にも相当程度対応できることとなり,A案のみと対比してさらに,検察官として捜査の合理化・簡易迅速化を図りやすい制度になることが期待できるのではないかと思います。   次に,捜査を合理化・簡易迅速化するためには,それを受けた公判の手続も合理化・迅速化されたものでなければ,捜査機関及び被告人においてそのような手続を利用しようとは考えないでしょうから,それを促す公判段階の仕組みも必要と考えます。現在の即決裁判手続は執行猶予事案のみを対象とするものでありますけれども,捜査・公判を通じて合理化・迅速化を進めるためには,制度概要「第2」のように一定範囲の実刑相当事案も簡易迅速に処理するための新手続も必要となると思います。実刑相当事案を短期間で処理することに懸念も示されているところでありますけれども,検察の立場からいいますと,現行制度で実刑事案であってもある程度類型的な量刑判断がなされているように見える事案,例えば,常習累犯窃盗罪の事案とか,覚醒剤使用の累犯事案等もあるように思われ,今,申し上げたような観点からも,更に作業分科会で検討していただきたいと思います。 ○龍岡委員 まず,「第1」に関して少し申し上げたいと思います。刑事司法の合理的・効果的な運用を図るためにも,可能な限り捜査段階における合理的な省力化が図られる必要はあると思います。ただ,考えられる制度の概要の公訴取消後の再起訴制限の緩和についてのA案,あるいは同意等の撤回の制限についてのB案のような制度が,実際に捜査の簡易迅速化につながるのか,これまでの当部会や作業分科会における説明や議論からも,具体的なイメージがもう一つ描き切れず,よく見えてこないように思います。   現在のような逮捕から起訴まで最大23日という捜査のスケジュール,捜査の進め方を前提とした場合,A案,B案のような制度を導入したとしても,捜査機関としてはその間の証拠の散逸のおそれを考え,結局は再起訴の場合も想定して,これに備えざるを得なくなるのではないかと考えられ,概要案に示されたところからは,効果的に起訴前の捜査の省力化につながるようにはどうも思われません。逮捕から起訴までの期間を大幅に,むしろ,劇的にというくらい短縮するなどの手当てとセットで考えないと,捜査の簡易迅速化・省力化は有効に機能しないのではないかと思われます。   次に,「第2」の新たな手続の創設の点について,事案に即した適切・妥当な事件処理のために選択肢として有効な手続が複数存在することは,刑事司法の弾力的で的確な運営のためにも意義があると思いますが,考えられる制度の概要に示された新手続の対象とされる実刑相当事案については,事案に応じ,慎重に検討する必要があるほか,弁護人においても十分な情状立証を必要とするなど,簡易迅速な処理になじまないものが多いと思われます。   他面,実刑相当の事案でも簡易迅速な処理になじみ,むしろ,それが望まれる事案もあるわけですが,そのような事案については,これまでにも述べてきましたように,現在においても十分簡易迅速な処理がされており,多くの自白事件では第1回公判で結審し,その後,1,2週間で判決が宣告されているのが実情であります。そうした実情からは,実刑が見込まれる被告人にとって,手続保障を犠牲にして公判段階をこれ以上短縮し,迅速化する必要性がどれほどあるのか,慎重な検討が必要であると思います。   捜査の簡易迅速化との関係でも,新手続のような制度を導入することによって,これがどのように捜査の簡易迅速化につながるのかもう一つはっきりせず,この点について具体的なイメージを示すことができないまま制度化することは,それが機能しないだけでなく,いたずらに手続を複雑化する懸念もあり,適当でないように思われます。捜査との関係からは,むしろ現在の即決裁判手続を前提として,これをもっと積極的に活用されるようにし,その中で捜査段階の簡易迅速化に取り組むことが先決であるのではないかと思われます。 ○後藤委員 「第1」のところで述べられております公訴の取消について,私は今まで何度かこの部会で発言しましたけれども,作業分科会での議論は私の期待とは違う方向に行っているようなので,また発言させていただきます。この場合,端的に言えば,自白の撤回があったために公訴を取り消すことが想定されているわけです。しかし,その場合でも公訴を維持したまま補充捜査をすれば足りるのであって,公訴を取り消さなければいけない理由が私には納得できないということでございます。   この場面で何のために公訴を取り消すのかを考えてみると,端的に言えば,否認に転じた被告人をもう一度被疑者の立場に戻して厳しい取調べをして,また,自白に戻すということを想定しているように見えてしまいます。しかし,既に公訴の提起に足りるだけの嫌疑があると確認されている者に対して,そのようなことをするのは適切ではないし,正に取調べと自白に過度に依存した裁判のやり方を再生産することになってしまいます。それではこの部会の使命に反する提案になってしまいます。   前回,これを議論しましたときに,被告人が否認に転じた時点で見ると証拠が不十分だという判断はあり得るのではないか,そのために公訴を取り消すという判断はあり得るのではないかという御指摘もありました。確かにそういう場合はあり得ると思います。しかし,検察官が証拠が不十分だと考えて公訴を取り消すのに,なぜ新たに重要な証拠を発見しなくても再度起訴してよいことにするのか,その理由は私には分からないです。現在の刑訴法340条の制限は,検察官の判断が変わったというだけの理由で被告人を余り振り回してはいけないという配慮から,再起訴の制限をしているのだと思います。それと同じ考慮はこの場面でも必要なので,再起訴の制限を外すことは妥当とは思えません。   もし,補充捜査のために時間が掛かるというのであれば例えば公判手続の停止の事由をそこに設けるとか,あるいは第1回公判期日後に許可状による強制処分ができるかどうか疑問があるので困るというのだったら,そこに手当てをするなど,公訴を維持したまま補充捜査をする方向での方策を考えるのが妥当ではないかと思います。 ○露木幹事 「第1」,「第2」,いずれの制度案についても私どもの意見については前回の部会でも申し上げましたので,その点については繰り返しません。今の後藤委員の意見に関連してでありますけれども,「第1」の検討課題の「1」,資料の37ページの三つ目の「○」でありますが,公訴取消後の身柄の取扱いの問題でございます。起訴後に例えば保釈が認められて既に釈放されているという場合に,公訴の取消があったときは,身柄の取扱いは現行法の定めによるということもあり得るのかもしれませんけれども,起訴後も逃走あるいは罪証隠滅のおそれがあるとして勾留が継続されている場合に公訴取消によって一旦勾留状が失効してしまって釈放されるということになりますと,再捜査の必要があって,そのために公訴を取り消しておきながら,身柄が釈放されてしまうというおかしな結果になるのではないかと思います。   再捜査の必要がないとか,あるいはあっても本人を改めて取り調べるまでもないという場合には公訴の取消がなされず,したがって,当初の勾留が継続する。ところが,本人の取調べをする必要があって,公訴取消を行う場合には身柄が釈放されるという矛盾がないような制度設計をお願いしたいと思います。身柄が釈放されてしまいますと,改めて逮捕状を請求し,発付を受けて,再逮捕をしなければならないというケースが出てくると思いますけれども,逮捕状の請求には当然のことながら一定の時間が掛かりますので,その間,身柄をとどめおく根拠を失ってしまって逃亡されたら一体どうするのだろうかということが懸念されますので,その点についての懸念を解消できるような議論をお願いしたいと思います。 ○安岡委員 自白事件を簡易迅速に処理するための手続は,素人目から見ても,こうした合理的な捜査,迅速な捜査が一つの捜査のスタンダードになっていけば,今の日本の刑事司法手続に骨絡みになっている行き過ぎた精密司法から脱却する一つの有力な手掛かりになるのではないかなと見ていたところですが,ただいま,大野委員の発言を聞いて意を強くした次第です。そういう観点からも簡易迅速にできる手続を使いやすく,即決裁判制度のように「作ったけれども,余り使われない」制度とならないように,使える制度にしていただきたいと思います。   それで,その上での一つ注文というか,要望があります。実刑相当事案についても今の即決裁判手続と似たような制度を採り入れるということですけれども,これについては特に弁護人を必ず付ける制度にしていただきたい。今の即決裁判手続ではその手続を選択することについて,被疑者弁護人が付いている場合には弁護人の承認も必要とされていると思いますけれども,実刑を科されることも有り得るとなれば,いよいよ弁護人によって適切に被疑者・被告人の利益を図る活動をしてもらわないと困るわけなので,そこを考えていただきたいと思います。   今,議論しているとおりに被疑者国選弁護の対象を拡大したとしても,弁護人が付かない被疑者があると思います。例えば在宅でずっと調べて簡易裁判制度の方へ行こうと検察官が判断する例とか,あるいは一旦勾留されたけれども,処分保留のまま釈放されて,そうすると被疑者国選弁護が解かれますね,一旦被疑者の国選弁護人を外した後で,この制度に持っていくということをされたのでは不都合だと思いますので,弁護人を必置とした上で被疑者国選弁護が拡大されても,抜け落ちる被疑者について弁護人を必ず付ける制度にしていただきたいと思います。 ○上冨幹事 事務当局の方から若干確認させていただきますが,現行の即決裁判手続でも現に弁護人がいる場合には弁護人の同意が必要で,弁護人がいない場合はその後,職権で公的弁護人が必ず付いて手続が進められるという制度になっておりますので,現在,検討されている「第2」の案についても基本的には同じような考え方での制度設計が進められるのではないかと思います。 ○安岡委員 捜査段階から付けてほしい,付けるべきだという意見です。だから,後者の場合についても捜査段階からずっと弁護人を付けておいてもらいたいと,こういう意見です。 ○本田部会長 まだ,御意見もあろうかと思いますけれども,時間の都合もございますので,「自白事件を簡易迅速に処理するための手続の在り方」につきましては,ひとまずここまでとさせていただきたいと思います。   前回の第21回会議と本日の第22回会議におきましては,各作業分科会での現時点までの検討を踏まえ,各検討事項につきまして,多くの御意見を頂いてきたところでございます。   各作業分科会におかれましては,こうした部会における御意見を十分に踏まえつつ,各検討事項の残された課題について,詰めの作業を是非行っていただき,制度設計に関する「たたき台」を策定していただきたいと思います。   日程でございますけれども,当部会の次回会議を来年1月末頃を目途に開催することとしまして,各作業分科会におかれましては,そのときまでに制度設計に関する「たたき台」を策定して,この部会へ御報告していただきたいと思います。大変厳しいことではございますけれども,できるだけ具体的に各作業分科会でできるだけ一致させて,「たたき台」をお作りいただきたいと思います。   そして,当部会におきましては,その作業分科会の御報告を受けた上で,最終的な制度案の取りまとめに向け,制度の細部も含めた議論を行っていきたいと考えております。今,申し上げたような進め方でよろしいでしょうか。 (一同了承)   ありがとうございます。それでは,そのように審議を進めていきたいと思います。   分科会長の井上委員,川端委員,また,各分科会構成員の方々には,御負担をお掛けしますが,よろしくお願いいたします。   それでは,予定しておりました事項は全て終了いたしましたので,これにて本日の議事を終了したいと思います。   本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容ではなかったと思われますので,発言者名を明らかにして議事録を公表することとさせていただきたいと思います。   なお,当部会の次回の予定に関しましては,早急に日程調整等を行いたいと思いますので,別途,また御連絡をさせていただきます。   それでは,本日の会議はこれに閉会とします。   どうもありがとうございました。 -了-