法制審議会 民法(債権関係)部会 第77回会議 議事録 第1 日 時  平成25年9月17日(火)自 午後1時00分                      至 午後5時57分 第2 場 所  法務省 第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第77回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料67Aと67Bをお届けしております。また,本日の机上にて,部会資料64-5を配布させていただいております。   このほか,委員等提供資料として,本日御欠席の松岡久和委員から意見書を提出していただいております。また,山川隆一幹事からも意見書の提出を頂いており,それぞれ机上に配布しております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料67A及びBについて御審議いただく予定です。部会資料のAタイプとBタイプの審議の順序につきましては,今回もAタイプの資料を基本としつつ,その間にBタイプの資料の論点を適宜織り込み,おおむね中間試案における各論点の掲載順に従って議論することとしたいと思います。具体的には,休憩前までに「多数当事者の債権及び債務」,「保証債務」の各論点について,AタイプとBタイプの両方を御審議いただき,午後3時40分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,Aタイプの残りの部分について御審議いただきたいと考えておりますので,よろしく御協力のほど,お願いいたします。   それでは審議に入ります。   まず,部会資料67Aの「第1 多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)」について,事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 「1 債務者が複数の場合」について御説明いたします。   中間試案においては,この項目で,可分債務,不可分債務,連帯債務のそれぞれについて,どのような場合にどの関係が生ずるかを規定し,不可分債務や連帯債務の具体的な内容については別に規定を設ける案が示されていました。   これに対し,今回のたたき台では,例えば連帯債務を例にとると,債務者がどのような場合に連帯債務を負うかと連帯債務の内容とを組み合わせて表現することを試みています。「債務者が複数の場合」という項目の素案では,連帯債務について,連帯債務が成立する要件と民法第432条を組み合わせて記載するという案を示しており,可分債務及び不可分債務についてはこの項目では取り上げていませんが,分割債務については427条を維持し,不可分債務については現在の民法第430条と併せて規定を設けることを想定しております。実質的に中間試案の考え方を修正する趣旨ではありません。   「2 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等」の「(1)履行の請求」は,民法第434条を改め,連帯債務者の一人に対する請求は相対的効力のみを有することとするものであり,中間試案からの変更はありません。   なお,中間試案においては,当事者間に別段の合意がある場合には絶対的効力を有することを明確にしておりましたが,今回のたたき台では,単純に民法第434条を削除することとしています。もっとも,当事者がこれと異なる行為をすることができることは,2の「(5)相対的効力の原則(民法第440条関係)」で明らかにしており,実質的に中間試案を変更するものではありません。   「(2)連帯債務者の一人による相殺(民法第436条関係)」は,民法第436条第1項を維持するとともに,第2項は,連帯債務者の一人が相殺をすることができるのではなく,履行拒絶権を与えたものであることを明確にするものであり,中間試案からの変更はありません。   「(3)連帯債務者の一人に対する免除(民法第437条関係)」の素案アは,連帯債務者に対する免除が原則として相対的効力事由であることを前提に,債権者の意思により現在の民法第437条と同様の効果を生じさせることができることを明らかにしたものです。しかし,これは純粋に現行法上可能であることが法改正によってできなくなることを避けようとしたものであり,このような規定を設ける実務上の必要性があるかどうかについて御意見を伺いたいと思います。   素案イは,免除された連帯債務者が求償に応じても債権者に対しては償還を請求できないことを定めるものであり,中間試案からの変更はありません。   「(4)連帯債務者の一人についての時効の完成(民法第439条関係)」の素案アは,時効の完成を相対的効力事由とするものです。ここでも,当事者が異なる合意をしたときは他の連帯債務者にもその効力は及ぶとする中間試案を変更するものではありませんが,この点は「(5)相対的効力の原則」に委ねています。   素案イは,時効が完成した連帯債務者が求償に応じた場合であっても債権者に償還を請求することができないことを定めるものであり,免除に関する(3)の素案イと同様の趣旨のものです。   「(5)相対的効力の原則(民法第440条関係)」は,特に規定がない限り,連帯債務者の一人について生じた事由は他の連帯債務者に効力を生じないという原則を定めるものです。   中間試案とは異なり,混同については弁済とみなすという現在の民法第438条を維持することとしています。これは,弁済について相対効とした場合には同一の者に対して履行し,かつ,その者に対して求償するという迂遠な関係が生ずることになるからです。パブリック・コメントの手続に寄せられた意見にも,求償関係が複雑になることを挙げて,現行の規律を維持すべきであるという意見がありました。このため,素案の本文では,相対的効力の原則の例外として民法第438条を挙げています。   このほか,更改についても絶対的効力事由とするか相対的効力事由とするかが問題になりましたが,この点については後ほど御審議いただきます。   素案のただし書は,債権者とある連帯債務者との間で合意をしたときは,相対的効力事由が他の連帯債務者に生じた場合に,その効力が合意をした連帯債務者に及ぶこととするものです。中間試案においても,当事者の合意によって相対的効力事由を絶対的効力事由とすることができるとしていましたが,中間試案の本文からは当事者の範囲は必ずしも明確ではなく,補足説明においては債権者及び全ての連帯債務者の合意が必要であるとされていました。しかし,その効力が及ぶことについて利害関係がある者の合意があれば十分であると考えられるため,このことを規定上も明らかにすることとしています。   「3 破産手続の開始(民法第441条関係)」は,破産法第104条第1項の存在により適用範囲を失っていると考えられる民法第441条を削除するものであり,中間試案から変更点はありません。   「4 連帯債務者間の求償関係」の「(1)連帯債務者間の求償権(民法第442条第1項関係)」の素案アは,中間試案第16,4(1)のアとイをまとめて一文にした点で表現を修正していますが,連帯債務者の一人が自己の負担部分を超えて共同の免責を得たときに初めて他の連帯債務者に対して求償することができるとするものであり,中間試案からの実質的な変更点はありません。   「(2)負担部分を有する連帯債務者が全て無資力者である場合の求償関係(民法第444条本文関係)」では,連帯債務者のうちに資力のない者がおり,償還できない部分があるときは,資力のある者が負担部分に応じて分担することを定める民法第444条に加え,資力のある者が全員負担部分のない者であるときは,その全員が平等の割合で分担するという規律を設けるものであり,中間試案からの変更点はありません。   机上に配布させていただきましたが,今日御欠席の松岡委員から「第77回会議の議題に関する質問と意見」という書面を頂いております。この中の「1 部会資料67Aの17頁の無資力者がある場合の求償関係について」という項目が民法第444条に関するものですので,ここで,頂いた御質問についての考え方を申し上げておきたいと思います。   松岡先生の御質問は,本来の負担部分については資力があるけれども,民法第444条に基づいて分担させられる分について資力のない者がいた場合に,その分担分を誰が負担するのかというものだと思います。この点につきましては,現行法でも,民法第444条と,今回のたたき台のもとになった判例を前提としても生じる問題で,それについての現在の考え方に従って解決すればよいのではないかと思いますが,実質としては,松岡先生の書面の中にもありますように,結果的に有資力者が全てを負担するという結果になるということではないかと思います。   松岡先生の御質問は,この実質と,中間試案や今回の67Aの17ページの(2)のイに齟齬があるのではないかということかと思いますけれども,今回の素案(2)のイでは,求償者及び他の資力のある者がいずれも負担部分を有しないものであるときということになっておりまして,松岡先生の設問のCについては資力がありますのでイは適用されず,アの解釈問題として処理されることになり,その結果としては,松岡先生の書面で書かれているように,その分担部分をCが全て負担することになります。今の素案のままでもそういう文言解釈は十分可能だと思っておりますが,もし何かございましたら御指摘いただければと思います。   それでは,部会資料の説明に戻らせていただきます。   「(3)連帯の免除をした場合の債権者の負担(民法第445条関係)」は,連帯の免除をした債権者の通常の意思に反しているという批判のある民法第445条を削除するものであり,中間試案からの変更点はありません。   「5 不可分債務」の素案(1)は,連帯債務における絶対的効力事由を見直すことにより,連帯債務について妥当する規律と不可分債務について妥当する規律が混同に関する規律を除いて同じになることから,不可分債務について連帯債務に関する規律を準用することとするものです。   なお,不可分債務における混同は,連帯債務におけるのと異なり,求償関係が迂遠になるという問題がないことから,これを相対的効力事由とする現行法の規律を維持することとしています。   素案(2)は,不可分債務が性質上可分になった場合に当事者の意思によって連帯債務とすることができるとするものであり,中間試案からの変更点はありません。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○安永委員 第1の1の提案に関連をいたしまして,労働関係の具体例を挙げてお願いを申し上げたい点がございます。   例えば,下請事業者と労働契約を締結し元請事業者の工場などの構内で就労している労働者が,労働災害事故に遭遇したケースにおいて,元請事業者の施設管理に関する安全配慮義務違反及び下請事業者の労務指揮に関する安全配慮義務違反があり,労働者が両者に対して債務不履行責任を追及し損害賠償を求めた場合,これらの損害賠償債務は,これまでは民法719条を準用して不真正連帯債務と解釈されていたと考えます。   この点,今回提案をされている素案をこのケースに形式的に当てはめると,債権の目的が金銭賠償のため可分であり,不法行為責任の場合は719条が存在をしますが,債務不履行責任については,数名が連帯して債務負担する旨の「法令」や「法律行為の定め」が存在をしないため,連帯債務の発生要件を充足しないこととなります。この場合には,連帯債務であることを一旦否定した上で,719条を準用して連帯債務であることを肯定するという解釈が行われるのかなど,当該債務が連帯債務となるかについて若干懸念が残るところでもあります。   第1の1の条文化に当たっては,これらのケースのように「一般的な合意に基づく債務の場合に該当しないケース」,「複数の債務者相互間で意思疎通のないままに複数の信義則上の債務が発生して競合し,その不履行の結果として発生する損害賠償義務は一つというようなケース」について,民法719条の準用が否定される解釈を招かないように,検討を深めていただきたいと思います。 ○笹井関係官 今の安永委員の御意見についてですけれども,債務不履行が競合した場合に民法719条が準用されるのかどうか,今十分に裁判例や学説などを検討したわけではありませんが,719条が準用されるということであれば,連帯債務とするという法令があることになりますので,今回の素案に従って,一旦連帯債務であることを否定するという操作を経るまでもなく,法令に基づいて連帯債務になると考えればよいと考えております。 ○中田委員 最初に,第1の「1 債務者が複数の場合」の表現なんですけれども,冒頭に「債権の目的が」うんぬんとあります。中間試案では「債務の内容」だったんですけれども,それが「債権の目的」に変わっている。不可分債務については,19ページを見ますと,(1)では「債務の内容」とあって,(2)では「債権の目的」となっております。それから,併存的債務引受については,31ページですけれども,「同一内容の債務を負担する」と,こうなっておりまして,用語が若干不統一な感じがいたします。これは基本的なことですので,そろそろ整理をして固める段階ではないかと思います。「目的」か「内容」か,これはそれぞれ利点と問題点がありますけれども,「目的」という言葉は多義的で,しかも,オブジェクトという意味での「目的」は日常用語と違っていて,分かりにくいのではないかなと思いますので,どちらかというと「債務の内容」のほうがいいのではないかと思いますけれども,ここは全員で決めればよいことだと思います。   それから次ですが,同じ項目,第1の1の中で「法律行為の定めがあるとき」についてです。法律行為のうち契約の場合には誰と誰との合意になるのか,これは以前にも質問したところではありますが,解釈に委ねるということであれば,それはそれで一つの選択だと思いますけれども,確認をさせていただければと思います。   それから,9ページの時効の完成のところです。これは,時効の完成を相対効にして,連帯債務者の一人について時効が完成した後,まだ時効が完成していない別の連帯債務者が全額を支払って時効の完成した連帯債務者に求償した場合に,それに応じる必要があって,債権者に償還を請求できない,こういう提案であります。これについては,中間試案前の段階でも意見を申しまして,このような規律にすると,時効が完成した連帯債務者は,他の連帯債務者からの求償に備えて,引き続き弁済の証拠を保存しなければいけなくなるのが問題ではないかということを申しました。この点について中間試案の補足説明では,連帯債務者は他の連帯債務者から求償を受ける可能性があるから,他の連帯債務者との関係で証拠の保存を期待しても不当ではないと,こういう説明がされております。   ただ,時効が完成した債務者が他の連帯債務者がいるということを知らなかった場合についてもそのことが言えるだろうかというと,やはり疑問ではないかと思います。パブリック・コメントでも,この点については相当数の意見が出ているわけでして,そうしますと,少なくとも時効が完成した連帯債務者が他の連帯債務者の存在を知らない,あるいは知らないことについて過失がなかったという場合には,求償債務を負わないという規律のほうが合理的なように思いますけれども,どうでしょうか。 ○鎌田部会長 関連する御意見があれば併せてお伺いしておきますけれども,よろしいですか。   では,事務当局からお願いします。 ○笹井関係官 3点ございましたので,それぞれについて申し上げたいと思います。   まず,債権の目的と内容が不統一なのではないかというところは御指摘のとおりです。今の民法が「債権の目的」という用語を428条などで使っておりますので,それを一部引き継いだこともありますが,債権の目的なのか内容なのかはここだけの問題ではなく民法全体に関連するものですので,その辺も見通しながら,全体として統一を図るということになろうかと思います。   それから,法律行為の定めのうち,第1の1の「法律行為の定め」が誰と誰の合意になるのかということですが,先生がおっしゃいましたように,解釈に委ねております。連帯債務が契約によって生ずる場合には幾つかのパターンがあり得ると思いますので,そこは解釈に委ねるのが今の素案の前提になっている考え方です。   それから,時効の完成については,確かに中間試案前から中田先生からは同じ御指摘を頂いたところですが,解釈としては幾つかの方法があり得て,例えば連帯債務に関しては,そもそも連帯債務者間で,ある連帯債務者の存在をほかの連帯債務者が知らないという場面がどういう場面で生ずるかというと,それほど多くは生じないのだと思いますが,併存的な債務引受があった場合などにあり得るのだろうと思います。このように,元々の連帯債務者が知らないうちに連帯債務者が増えていたようなケースでは片面的に連帯債務になるという解釈もあり得る。そういう片面的な連帯関係というのが生ずるのであれば,条文上規定を設けなくても,他の連帯債務者がいることを知らない連帯債務者については,その連帯債務者について時効が完成した場合には,その人は求償関係からも免除されるということになろうかと思いますので,そういった解決もできるのではないかと思います。   一つ御質問なんですが,先生は先ほど,連帯債務者がほかの連帯債務者の存在を知らなかったとか,あるいはそれについて無過失であった場合には求償債務を負わないというほうがよいのではないかとおっしゃったように思ったのですが,それは,絶対効が及ばないということではなくて,相対効なんだけれども,弁済した人は求償をしても応じなくてもよいということなのでしょうか。それとも,絶対効が生ずるという今の規律を維持するということなのでしょうか。 ○中田委員 第3点については,私は絶対効でも悪くはないかなと思っておりますけれども,相対効にするとしても,その点は求償できないとしておいたほうがいいのではないかということです。 ○笹井関係官 そこはまたほかの委員,幹事の先生方の御意見をお伺いしたいしたいと思いますけれども,この素案を提案した理由の一つとしては,先ほど申し上げましたように,その連帯関係というのが片面的に生ずるというのであれば,今,先生がおっしゃったような問題はそれによって解決できるのではないかとも思いますし,もし知っているのであれば,そもそも,弁済の証拠を保存しないといけないとしても,それほど問題はないはずであろうということもありますが,さらに,先生のおっしゃった問題は十分理解できるのですけれども,しかし,デフォルトルールとして決めるのであれば,連帯債務者の一人がほかの連帯債務者の存在を知らないという場面が実際問題としてどれくらいあるのかということも考慮する必要があるのではないか。それほど問題が起こるケースというのは,少なくとも数的には多くはないのではないかと思ったということでございます。 ○中田委員 まず,そういう場合がどの程度起きるか,余り多くないのではないかというのは,そのとおりだと思います。   ただ,これは先ほどの法律行為の当事者が誰と誰なのかということとも関係するんですけれども,併存的債務引受の場合だけなのか,それとも新たに連帯債務を負担するという合意によって生ずることがあるのかということとも関係すると思います。   併存的債務引受の効果が果たして連帯債務なのかどうかということ,これは後で御質問しようと思っていたんですけれども,ちょっと中間試案と書きぶりが違っておりますので,後ほど確認させていただきたいと思います。   それから,そもそも知らない連帯債務者が余りいないのではないかということについてですが,67Bの5ページの説明の中で,「知れている他の連帯債務者」というような提案,説明がされております。あるいは中間試案のほうでも,「他に連帯債務者がいることを知りながら」という表現が用いられておりまして,規律によっては,他に連帯債務者がいることを知っていたかどうかで区別しているところもございます。それができるのであれば,ここもできるのではないかということです。   善意かどうかに加えて無過失を要するかどうかというのは,ここは議論が分かれると思うんですけれども,私は過失を考慮しないというほうでもいいと思いますが,もし過失を入れたほうがより柔軟な解決ができるというのであれば,それでもいいということです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。その点は,また御指摘を踏まえて,検討をさせていただくということでよろしいでしょうか。   ほかの点についての御意見ありましたら。 ○中原委員 銀行界では,請求の絶対的効力を相対的効力に変えることに,懸念の声がありました。しかしながら,御説明では別段の意思表示をすれば絶対的効力を維持できるということですので,実務的には問題ないだろうと考えています。   ただし,既存の契約は絶対的効力の下で管理していますから,新法施行によって既存契約についても相対的効力になるとすると実務に混乱が生じますので,しっかりした経過措置を設けていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにありますか。 ○岡委員 第1の1について2点申し上げます。   1点目は,このパブコメの64-5の3ページの下から5行目に書いてある論点でございます。判例は,共同賃借による賃料債務について性質上の不可分債務と認めています。この判例について,今回の案は変えるのか,変えないのかという点でございます。ゴシック体だけ読みますと,金銭債務は性質上可分ということになりますので,契約に別段の定めがない限り分割債務になるというふうに読めますが,そういうことなんでしょうか。共同賃借による賃料債務については,合意が認定できない限りは分割債務にしてしまうという案なのか,そうではないのかという質問でございます。   もう一つは,相続により金銭債務の債務者が複数になった場合,この場合にどうなるのかという質問でございます。性質上可分であるという言葉で,相続による金銭債務もそこに入ってしまうということになるのであれば,相続のときには別段の合意というのが普通はないでしょうから,分割債務になると割り切ってしまうのか,それとも,相続による場合には相続法理による修正があり得ると考えるのか。   その2点について質問をいたします。 ○笹井関係官 2点目の御質問ですけれども,賃料債務が分割になった場合ということですか。 ○岡委員 賃料債務という金銭債務につき,債務者が相続により複数になった場合にどうなるかという質問です。 ○笹井関係官 両方賃料ということでしょうか。 ○岡委員 はい。 ○笹井関係官 では,まず第1点目からですけれども,今の裁判例では,賃借人が複数いて共同で賃借している場合に,賃料債務について不可分債務になるというのが判例だと思いますが,ここでは,その契約の性質とかそういったものを考慮して,不可分の給付である賃貸物の使用収益させてもらう権利の対価を性質上不可分にしているということだと思います。契約の性質を考慮して,金銭債務ではありますけれども,性質上不可分だというふうに解したものだと思いますから,その点について何か解釈を変更しようとか,あるいは,一定の結論に導こうとしているものではありません。   相続についても,相続後の賃料の債務については,結局,複数で一つのものを借りているという状況が生じますので,共同の賃借人の賃料債務を不可分債務だと考えるのであれば,相続によって共同の賃貸借関係というのが生じた場合でも同じになるのではないかと思います。既発生の賃料債務については,既に金銭債権として発生していますので,分割になるのではないかと思います。 ○岡委員 第1点のほうですが,その判例は,性質上の不可分債務を認めたものと思います。私が申し上げたのは,このゴシック体がそのまま通れば,金銭債務は性質上可分なので,原則として分割債務になる。しかし賃貸借契約の定めによって連帯債務になり得る場合があると,そういうことでしょうか。そういう意味では,結果は余り変わらないけれども,この判例は変えることになると理解したんですが,そうでしょうか。先ほどの笹井さんの説明ですと,このゴシック体であっても,金銭債務が性質上可分ではないと読み取れる,そういうふうにおっしゃったように聞こえたんですが,それはそういう理解になるんでしょうか。 ○笹井関係官 私が申し上げたのは,金銭債務であるということだけではなくて,何に対する対価であるかということも考慮して性質上不可分であるかどうかというのが判断されるのではないか,そういう解釈を否定するつもりはありませんということです。 ○内田委員 今のような解釈もあり得るかと思いますが,もう少し厳密に,物の性質自体によって可分か不可分かを判断するという考え方に立てば,金銭債務は性質上は可分であるということになります。しかし,今も金銭は性質上可分なわけですから,それをわざわざ判例が性質上不可分と言っているというのは,やはり契約の性質から,みんなが全額について支払の義務を負うという趣旨であると判例は評価したのだろうと思いますから,解釈論の構成としては,黙示の合意を認定して連帯と扱うという余地もあるように思います。いずれも新法の解釈としてはあり得るのではないかと思います。 ○中田委員 そうしますと,中間試案とは,そこは変わったということですか。私は,中間試案は専ら給付が可分か不可分かで分けていると理解していたものですから,岡委員の御説明のほうは非常に分かりやすかったんですけれども。今の内田委員の御説明ですと,そこも解釈問題ということでしょうか。 ○内田委員 個人的には,金銭は性質上可分であるけれども,黙示の合意を認定して連帯として扱うというのが文言には素直な感じはいたします。 ○松本委員 今の点が,中田委員が最初に指摘された言葉が不統一ではないかというところと絡んでいるような気がいたします。不可分債務のところは債務の内容がというかなり漠とした表現です。内容というふうに考えると,契約でどういう取り決めをしていたかということも入ってくるのではないという感じになるわけですが,他方で債権の目的がということだと,いくら払えということだけだというニュアンスのほうが強いですから,そうすると金銭ではないかということになるので,言葉をどっちにするかによって解釈の幅が若干変わってくるような気がいたします。すなわち,どちらの言葉で統一されるのかによって少し変わってくるかもしれないと。反対給付の性質まで込みにした上で金銭債務について法性決定するということであれば,それがきちんと読み取れるような表現にしたほうがいいのではないかと思います。つまり,判例の考え方をそのまま条文化するのではあれば,それが素直に読み込めるような表現にしたほうがいいし,そうではなくて,そこは合意による連帯なんだと意思の推定するというようなロジックでいくのであれば,特段の手当ては要らないということになるのではないかと思います。   それからもう1点,11ページの相対的効力の原則のところで,相対的効力の例外として二つ挙がっておりまして,一つは438条,すなわち混同については絶対的効力だと。もう一つが「前記(3)に規定する場合を除き」ということで,「前記(3)」というのは免除なんですよね,6ページにある。そうすると,免除の場合だけどうしてここに挙がってくるのか。つまり,(3)を見ると,絶対的効力を生じさせる旨の意思を表示したときは,その意思が優先するんだということであって,これは免除に限定されないのではないかと思うんです。12ページの中間試案の免除のところを見ますと,免除にのみ限定して,当事者間に別段の合意がある場合を除くんだという書きぶりではないのに,どうして今回の案で免除にだけ限定するような書きぶりになったのかちょっと理解できていないので,御説明ください。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いいたします。 ○笹井関係官 十分に御質問の趣旨が理解できたかどうか分からないのですが,438条に加えて(3)の免除を挙げたのは,免除については,免除の際の債権者の意思によって,現行法と同じことができるという規定を設けたので,それを挙げたということです。 ○松本委員 私が聞きたいのは,当事者がきちんと合意をすれば,合意が優先するということが債権総論の世界の多くで実現するんでしょうから,そうすると,免除の場合についてのみ当事者の合意が民法の規定より優先するというわけではないのではないかということです。だから中間試案では,更改,免除,混同,時効の完成その他の事由は,当事者間の別段の合意がある場合を除きというふうに,全体について当事者の別段の合意を優先しているんだと理解していたんですが,免除以外の場合は当事者の別段の合意を優先する必要がないというふうに今回の案では読めるわけです。 ○笹井関係官 今,松本委員がおっしゃっているのは,どの段階での合意のことですか。 ○松本委員 12ページに書いてあるアをそのまま読み上げただけですが。 ○笹井関係官 中間試案のアについては,「合意」が誰の合意なのかという問題と,いつの段階で合意する必要があるのかをはっきりさせるべきだという意見が,部会などで出ておりました。つまり,更改とか免除とかの段階での当事者の合意なのか,免除に関しては「合意」というのは考えられないわけなので,債権者の意思ということになろうかと思いますが,それぞれの事由に際しての当事者の意思なのか。それとも,元々の連帯債務を発生させるための契約において当事者の合意がある場合なのか。この二つの可能性が考えられるわけですが,そのどちらなのかということをはっきりさせるべきだという意見が部会の中でもあったと思います。   そこで,個々の事由ごとではなくて,契約に際して事前に当事者が合意することができるというのは,(5)の素案のただし書で書いてあるところで,これは別に免除とか何かに限定したわけではありません。   本文の「前記(3)」を挙げたのは,更改,免除,混同,時効の完成と中間試案の中で挙がっている中で,それぞれの事由が発生したときに当事者の意思が介在し得るものとしては更改と免除であり,そのうち更改については67Bで更に検討していただくことになっておりますので,残った免除についてをここに書いたということです。 ○松本委員 ごめんなさい。ということは,免除は一方的な単独の意思表示で効果が発生するものだから,一般的に合意によってオーバーライドできるというものとは違うんだということで「前記(3)」というのを挙げられたということなんですね。 ○笹井関係官 いや,そうではないです。そうではなくて,その事由が発生するその時点で,その事由の発生に際しての当事者の意思が関与し得る事由としては更改と免除であり,更改については67Bのほうで別途検討ということになっていますので,残った免除についてはここに書いたということです。   ちょっと別の論点でもよろしいでしょうか。先ほどの論点に戻るんですけれども,岡先生が共同の賃借人の場合に不可分になるのかどうかということを質問されたのは,それは,不可分債務にすべきだということなんでしょうか,それとも連帯債務にすべきだということなんでしょうか。 ○岡委員 結論として,不可分でも連帯でも,そういう関係を認めるべきだろうという判断です。 ○笹井関係官 2点目の相続について質問されたのは,もしそれが連帯債務になるとすると,相続の場合に不都合があるではないかということですか。 ○岡委員 相続の場合には合意がなかなかできないので,どうなるのでしょうかという質問です。だから,相続のほうは賃借人の共同相続の場合だけではなくて,もっと広く,相続によって金銭債務の債務者が複数になった場合に,このゴシック体であれば全部分割債務になってしまうけれども,それでいいのかなと,そういう問題意識でございました。 ○笹井関係官 賃借人たる地位を共同で相続した場合はまた別かもしれませんが,一般的には,金銭債務は当然に分割されるのではないのでしょうか。そうだとすると,当然に分割されるという今の扱いは何も変わっていないということだと思うんですけれども。 ○岡委員 遺産分割のときに債務をどうするかとか,売買代金債務の相続で目的物は相続人の一人が取ってしまっている場合にまで全部分割でいいのかと,そのような議論をしておりました。 ○鎌田部会長 一般的な問題としてお伺いすると,金銭債務について複数の債務者がいて,その間に連帯ないし不可分の関係を認めるべきであるというときに,中間試案の段階では,それは性質上の不可分ではないのだから連帯債務だというような議論をしていたと思うんですが,先ほどの笹井関係官の御説明だと,賃料債務のようなものは性質上不可分の範ちゅうに入れて,不可分債務だというふうに考えるというような御説明だったんだけれども,そういうふうに金銭債務であっても不可分債務になる場合を認めるという前提で考えているのか,そういうものは基本的には連帯債務と考えるようにしているのかというのが一つの一般性を持った質問の内容になると思うんですけれども,その点はどうでしょう。 ○笹井関係官 そこは私が決めることではありませんが,私が理解していたところでは,中間試案のたたき台を審議した際に,共同の賃借人の賃料債務が性質上の不可分債務に当たるかどうかが問題になり,道垣内幹事などが御発言になったと思うんですけれども,性質上不可分というものの解釈問題には影響を与えないのではないかということになったように記憶しています。給付の内容が性質上可分かどうかによって判断されるとしても,「性質上可分」の解釈問題として,共同賃借人の金銭債務のようなものがそこに含めて解釈されるという余地まで否定してしまう趣旨ではないということを申し上げたつもりでした。もう一度その議論の経過,こちらでも確認しておきたいと思いますが。 ○鎌田部会長 両方の間に差をなくしてきたので,余り実益のある議論とも言えませんけれども,説明がその場で,あるいは人によって変わってくると混乱のもとになると思うので,ある程度一致した理解をしておいたほうがいいかと思います。   それからもう一つ,安永委員の御質問との関係でも,判例が確定しているというふうに言われまして,今の賃料についても判例が既に存在しているというところで,何か一方では,安永委員のときには,判例があると,それはここにいう法令に該当するというふうな御説明があったかのように記憶しているんですけれども,他方で,賃料のほうでは黙示の合意の推定という,それが判例の根拠でもあるから黙示の合意の推定というふうに言われたんですけれども,確定した判例があるときには,一般に,こういう法令又は法律行為の定めというふうなときも,法令の中にそういうものは含めて考えてもいいという御議論なのかどうかという点だけ,ちょっと確認しておきたいと思います。 ○笹井関係官 判例が確立しているときに,それが法令に当たるというまで申し上げたつもりはなくて,それは判例がどういう内容のものであるかによってくると思うのですけれども,安永委員が挙げられた例は,債務不履行が競合した場合に719条が準用されているというふうにおっしゃいましたので,719条が準用されるのだとすると,債務不履行の競合事例には719条という法令があることになるので,法令の定めがある場合に当たるという,そういう趣旨で申し上げました。 ○鎌田部会長 その点は誤解していました。申し訳ありません。   ほかに。 ○岡委員 先ほどの松本先生のお話の続きで,弁護士会でも若干その点の議論が出ましたので,質問をさせていただきます。   (3)のアについては,債権者と免除する相手方との合意が,それ以外の人に効力が及ぶ例として書かれており,11ページの(5)のほうは,債権者と絶対効が及ぶ人たちとの合意があれば,それは絶対効になるんだと。合意の当事者が(5)と(3)のアで違うんではないかと。もしそういう理解でいいとすれば,(3)のアのようなことを,消滅時効についても規定を置くことが考えられるのではないかという議論が出ました。契約締結時に債権者が連帯債務者の1人であるAさんとの間で,Aとの間でもし消滅時効が生じた場合にはほかに絶対効が及びますよという合意をAとの間でしておればB,Cにも及ぶのではないか。(3)のアと同じようなことを時効でも書くべきではないかと,書けるのではないかと,こういう意見が出ました。最初の,(3)のアは免除される連帯債務者との合意がほかの連帯債務者に効力が及ぶ場合,(5)は,そうではなく,絶対効が及ぼされる,それ以外の人との合意であると,こういう理解は正しいんでしょうか。 ○笹井関係官 整理の仕方はいろいろあり得るかと思いますけれども,私がここで想定していたのは,それぞれの免除とか更改とか,そういう事由の発生に当たって,その事由の当事者が,今これから更改をするけれども,あるいはこれから免除するけれども,この効果を誰々に及ぼそうという意思を表示すればそれができるということがそれぞれの事由のところに書いてあり,そうではなくて,より一般的に,事前の契約締結に当たって,この契約において連帯債務で債務者が複数いるけれども,仮にこの債務についてこういう事由が発生した場合には,その事由はこういう効力を及ぶようにしましょうという事前の合意をすることができるというのが(5)で規定されているというように考えておりました。   (5)については,利害関係があるのは債権者と絶対効が及ぶ側なので,その及ぶ側と債権者の合意が必要であるというのが今の提案の内容なんですが,岡先生は,時効の完成については,時効が完成するその債務者と債権者の合意だけで,ほかの債務者に対する効力が及ぶということなのでしょうか。そのような規定を設ける必要はないという結論を出してこの案を示したわけではありませんけれども,時効の完成はほかの債務者にとって有利な方向にしかならないからそのような規定を設けるべきだというコンセンサスが得られるのであれば,そういう規定も考えられるのかもしれませんが。   ちょっと話が戻りますが,(3)については,免除については元々合意構成にしようという考え方がありましたので,そういう考え方を採るのであれば,免除をする債権者と免除される債務者との合意で,ということもあり得るのだと思いますが,中間試案では,免除は単独行為であるという考え方を維持することになっていますので,(3)のアは,免除が単独行為であるということを前提にして,債権者の意思だけでこういう効果を発生させるということになっております。 ○岡委員 時効については,有力な弁護士がそう言って,それも理屈的にはあり得るなということで御紹介申し上げたものです。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○松本委員 先ほどの私の最初の疑問について,少し分かってきました。11ページの(5)の「ただし」以下は事前の合意だということで,事前に絶対効がこういう場合には生ずる連帯債務なんだという合意をしておけば,そういう事由が生じたときには相対効ではなくて絶対効になるということであって,そういう合意がない場合にも絶対効が生ずる場合として,438条,混同の場合と,それから「前記(3)」という,免除においてある種の意思表示を免除者がした場合であるということで,それで一応分かったわけですけれども,相対的効力事由が生じた後で当事者間で合意をすれば,それはそれで絶対的効力を及ぼすことができるという点では,事前の合意があった場合と余り変わらないのではないかと思うんですが,そこはいかがなんですか。免除は単独できるものなんだからこういう特則を置く必要があるのではないかと先ほど私は質問しましたけれども,そうではないということでした。となると,ある事由が発生するとき,あるいはした後で,合意をすることによって相対的効力の原則を絶対的効力にできるというのは,それは事前の場合と同じではないかなという疑問なんですが。 ○笹井関係官 例えば,免除が生じた後にほかの人との間で絶対効が生ずる合意をするということなんですか。誰と誰の間で合意をするということなんですか。 ○松本委員 ほかの人との間で。 ○笹井関係官 ほかの連帯債務者との間で。 ○松本委員 あるいは,ほかの連帯債務者に対しても免除すると。 ○笹井関係官 それは,ほかの連帯債務者に対する免除ではないですか。Aという人に対する免除がBに及ぶのではなくて,Bに対して免除をしたということではないのでしょうか。 ○松本委員 ええ。そういうこともできるわけですよね,当然のことながら。 ○笹井関係官 それはBに対する免除であると説明すればいいと思います。 ○松本委員 そこはそれでいいですけれども,ほかの場合はどうですか。先ほどの時効,弁護士会が言っておられる,それも免除で説明できなくはないでしょうね。 ○鎌田部会長 多分それは現行法の下でも,新たに民法の規定と違う権利関係を当事者間に作り出そうという合意があれば,その合意にそのまま従うということで,あえて規定はなくてもいいので,難しい問題は生じないような気がするんですが,事後的な合意があるときは。 ○筒井幹事 先ほど岡委員が整理してくださったとおりだと思うのですが,ここの(3)アで書いてあることは,ある債権者が連帯債務者の一人に対して免除の意思表示をした場合に,それ以外の他の連帯債務者にも効力を及ぼすことができるということを規定しているものです。他の連帯債務者との間の事後の合意とか,それを免除というかどうかはともかくとして,そういうこととは別のことを書いているのだと思います。この説明で御理解いただけないでしょうか。 ○松本委員 その説明のほうがよく分かるんです。単独行為でもって…… ○筒井幹事 それが単独行為かどうかではなくて,仮に免除を合意構成に改めるとすると,その債権者と連帯債務者の一人との間の免除の合意によって他の連帯債務者との関係でも効力が及ぶことになる。そのことは規定がなければ当然には実現されないことではないかと,そういう理解に基づいて書かれているものだと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。ほかに。 ○中井委員 今の話をまず確認した上で,全体的なことを申し上げたいと思うんですけれども,(5)のただし書についての理解は,筒井さん,若しくは先ほど岡さんがおっしゃったように,仮に連帯債務者がAとBとすれば,債権者とBが合意して,Aに対して生じた効力,時効であれ免除であれ,それがBに及ぶということを認めようというのがここのただし書であると。それに対して(3)のア,若しくは更改で今後予定されている第1の1の(1)の後段で述べられていることは,今のA,Bの例でいうなら,債権者とAとの間での免除,若しくは債権者とAとの間での更改,これがBに及ぶことを規律したものであると,そういう趣旨で記載されていると思います。   この間の議論をお聞きしていて思うのは,中間試案においては,請求について相対効でほぼ一致を見た上で,更改,免除,混同,時効の完成については,基本的には相対効という形で提案をした。しかし,今回の部会資料では,まず混同について,種々検討された結果と思われますが,絶対効に戻した。更改については,更にこの後検討を深めましょうとなっています。しかし,今日のお話の中でも,時効の完成については,中田委員から,なお絶対効がいいのではないか,若しくは,少なくとも時効の完成した者に対しては他の連帯債務者は求償できないという規律で相対効を修正する,絶対効の方向に若干修正するというのでしょうか,そのような御示唆がありました。   かねてから免除については,債権者から免除を受けた者が,免除されたと思って安心しているのに,その後,他の連帯債務者から求償を受けるというのは,ある意味で予想外の事態を招くとの批判があった。そのように,絶対効か相対効については,なお個々の論点についてはいろいろ意見があるのだなということを重ねて感じました   加えて,パブコメの結果を見ますと,更改以下のことについては部会資料64-5の6ページ以下について記載があって,それぞれ,免除,混同,時効の完成について,それなりに意見の分かれている状況が看取できます。   振り返ってみたときに,相対効にするというのは,不真正連帯債務が基本的に相対効である。現実に連帯債務の発生するのも,ほとんど不真正連帯債務的なものが多い。したがって,連帯債務もむしろ不真正連帯債務で従来理解されていたことに統一するのがよろしいのではないかという基本的な発想が,これは見え隠れするというか,どこかにあったのではないかと思っています。その理論的な根拠としては,これらの事項が債権者にとって,債務者が増えたことによって,絶対効を認めると効力を弱める方向に働くことに対する基本的な疑問から出発しているのではないか,理論的には。他方で,従来絶対効が正当化されていたのは,やはり求償の循環を防ぐという問題だったのではないかと思います。   改めて今回の提案は,相対効としながら,先ほどの理解をしたところを示せば,(5)について言うならば,ただし書で当事者間の合意で絶対効を認め,他方,免除と少なくとも更改がこのような形でなされれば,これも当事者間の,当該効果を受ける者との関係ですけれども,絶対効を認める。つまり,相対効としながらも,相当複雑な規律で絶対効を認める場面を創出しようとしている。こういう議論をお聞きしていると,本当にこの論点について原則相対効にまとめることがそれほど一致した意見なのかという点では,疑問を感じます。   日弁連は基本的に,相対効という流れについて大筋理解といいますか,その方向で意見書も出しているのかと思いますが,一部弁護士会,これは取り分け大阪ですけれども,大阪は絶対効維持でいいのではないか,従来の絶対効構成が,それほど支障が生じているのかと,改めてそういう意見表明がありました。   この段階ですが,パブコメの結果も踏まえて,また今日のような議論の中身,委員の中でも直ちに理解できないような規律構成になっている,つまり複雑な構成になっているということの当否は,更に慎重に考える必要があるのではないかと感じた次第です。 ○鎌田部会長 ほかに,よろしいでしょうか。 ○佐成委員 2点ほど,今までの議論を聞いていて,申し上げたいことがあります。   1点目は,安永委員と笹井関係官の議論についてです。そのやり取りの結論部分については別に私としても,何か異を唱えるということではないんですけれども,今回の立法,特に連帯債務に関しての規律内容というのは,言わば不真正連帯債務の規律に近付けていったということだと思うわけですけれども,やはり依然として,不真正連帯債務の領域というのは,まだ僅かながらも残るだろうということが一つあります。先ほど安永委員と笹井関係官のやり取りの中でも,不真正連帯債務の議論がまだ残り,それが今回の立法によってどういう影響を及ぼすかという解釈問題を生じるという一つの表れかなというふうに理解しました。要するに,今後ともこの立法によって,連帯債務の規律が整理されたとしても,まだ依然として不真正連帯債務の議論というのは今後とも続くのだろうなというのが一つでございます。   それともう一点は,先ほど免除のところ,部会資料の8ページのところで,現行法上できるものが改正によってできなくならないように手当てするための規律を設けることが提案されていて,果たして実務上の必要性があるかどうかという問いかけがございました。この点,実務家の一人として,お答えしておいたほうがいいかとは思いますけれども,結論から申しますと,内部では,この辺の議論はまだ十分にはできておりません。ただ,あくまで実務家としての私の個人的な感触としては,やはり現在できていることができなくなるというのはちょっとどうかという気がいたします。その意味で,現段階で単純削除という方向ではなしに,まだ最後の段階まで少し残しておいていただきたいということを述べたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに,よろしいですか。 ○岡委員 部会資料5ページの一番上の,相殺を援用したときは絶対効が生ずるの表現です。確かに民法436条がこうなってはおるんですが,「相殺の意思表示をしたときは」のほうが簡明というか正確だと思うんですが,如何でしょうか。 ○笹井関係官 今の相殺の点ですけれども,そこは条文を作成するときに改めてちょっと考えてみたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしければ,部会資料67Bの審議に移りたいと…… ○内田委員 一言よろしいですか。時間がないところ申し訳ないです。   先ほどの中井委員の御発言に対してなのですが,中間試案で,相対効の原則を採って,その上で更に個別に見直していったところ,やはり絶対効を認めたほうがいいものがあるということで,今その調整をしている段階です。現段階で見ると,あるものが相対であったり絶対になったりと動いている。それが複雑であるという印象を受けられるのかもしれませんけれども,確定してしまえば,それを基に,きれいにそれを説明する解釈論が出てきますので,べつに複雑な制度になるわけではないと思います。何か,作ろうとしているルールが現状より複雑化するものであって,望ましくないかのような御発言だったのですけれども,そうではないのではないかと思います。   特に免除については,現在実務的に絶対効に対して批判が強いわけで,それを改めようということですし,時効についても,若干まだ議論の余地はあるかとは思いますけれども,時効というのは日本民法上の構成はともかくとして,本来,沿革的には,その債権者がその債務者にもはや強制力を使って請求できなくなるという制度ですので,求償関係が残るということは別に何ら時効制度と矛盾するわけではないのだろうと思います。   ですから,説明の仕方あるいは制度理解の仕方によって,複雑でない説明はできるだろうと思います。今は取りあえず個別の項目について効果をどうするかを精密に確定していくという段階ですので,結論が動くことがあってもそれはそれでいいのではないかと感じます。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○中井委員 4の「連帯債務者間の求償関係」の(1)のアですが,これはかねてから弁護士会が申し上げているんですけれども,自己の負担部分を超えて弁済をするというこの提案については,「自己の負担部分を超えて」というのはやはり要らないのではないか。自己の負担部分以下であっても負担割合に応じて他の連帯債務者に求償できるという現行の判例の規律のほうがよろしいのではないかと,改めて申し上げておきたいと思います。   部会資料の後半の16ページ,ここで,「負担分を超えて」と定める理由が述べられています。一つは不真正連帯債務との比較ですけれども,先ほど佐成委員からもありましたように,不真正連帯債務と直ちに連帯債務を連動させる,これを当然の所与として考えるのは果たして適当なのかというのが1点です。   重要なのは次の論点で,一人の債務者の無資力リスクを他の連帯債務者が負担するのか,債権者が負担するのかという関係で,自己の負担部分以下で求償を求めてしまうと,その連帯債務者の無資力リスクを債権者が負担することになるのではないかと,こちらの御批判が核心なのかと理解をしております。しかし,果たしてそうなのか。   まず一つは,連帯債務者間の共通の意識としては,皆さん負担割合に応じて分担しましょうという意識があって,自己が一定の出損をすれば他の連帯債務者に対しても負担割合に応じて求償できるのが当然という認識がやはりあるのではないか。現に判例もそういう立場であるように感じられますし,パブコメの結果としても,それなりに従来の支持があるように思われます。   二つ目の無資力リスクを債権者が負担することになるのかという論点,90の債権について均等に分担をしているときに,仮に,Aは30の資力があり,Bが10の資力しかない,Cも10の資力しかないというときに,Aが30を払ったことによってBとCに10ずつ求償する。そうすると,債権者はB,Cから10を回収できないというリスクを負担するのではないかと。仮にこういう趣旨だとすれば,Aは更に10と10を回収するわけですから,Aに対してトータル50,回収可能なわけですから,必ずしも一部求償を認めたからといって,その債務者の,連帯債務者の無資力リスクが債権者に集中するわけではない。飽くまで債権者は債務者が持っている全ての資産に対して権利行使ができるわけですから,必ずしも合理的な理由になっていないのではないかと感じる次第です。   これは重ねてですけれども,「自己の負担部分を超えて」というのは不要ではないかという意見を申し上げておきたいと思います。 ○笹井関係官 無資力リスクの問題ですけれども,今,中井先生がおっしゃったのは,資力の少ない人からほかの連帯債務者が求償したとしても,結局,求償した債権者から債権者が取り立てればいいのだから,債権者が無資力のリスクを負担することにはならないという趣旨をおっしゃったと思います。ただ,そうだとすると,なぜ連帯債務者間でやり取りをする必要があるのか。求償する連帯債務者としても,債権者に最終的には渡さないといけない金銭だとすれば,その金銭を求償してぐるぐる回すよりも,元々その債権者が取れてよいのではないかという気もいたします。   無資力リスク云々の記載は,積極的に4(1)の理由として挙げたというよりも,むしろ,連帯債務者の一人の無資力リスクを最初に弁済した人が負担することになるのではないかという4(1)に対する批判に対して,その批判はそれほど合理的ではないのではないかという趣旨で書いたものです。 ○中井委員 リスクについては考え方の違いなのかもしれませんが,トータル連帯債務者の資産から回収できる点においては同じであって,求償を認めても,それは結論としては変わらないだろうと。手間暇の問題ということで御批判を受けたと理解しました。   むしろ弁護士会の意見として出てくるのは,連帯債務者間の意思,これを通常の意思と言っていいのか分かりませんけれども,負担割合が決まっているなら,取り分け平等であれば,自分が30払ったら,みんな10,10,きちんと払ってねと,公平にまずは負担をするところからスタートするという,基本認識があると思います。その点を強調したところから,負担割合を超えなくても求償できるという意見が強いのではないかと思っている次第です。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   それでは,67Bの「第1 多数当事者の債権及び債務(保証債務を除く。)」のうち,「1 更改の取扱い」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 御説明いたします。   この「1 更改の取扱い」では,債権者と連帯債務者の一人の間で更改があった場合の法律関係,債権者と不可分債務者の一人の間で更改があった場合の法律関係について取り上げました。   まず,債権者と連帯債務者の一人との間で更改があった場合について,中間試案では相対的効力に改める案が示されていました。そして,補足説明によれば,更改した債務者が更改後の債務を履行した場合,又はそれ以外の債務者が当初の債務を履行した場合には,他の連帯債務者の債務は消滅するとされています。しかし,更改は旧債務を消滅させて新たに旧債務とは異なる債務を発生させる行為であると理解されてきたことからすると,更改後の債務と当初の債務との間にこのような連帯関係が継続することは更改の性質と整合しないとも考えられます。新しい債務の負担という経済的損失によって旧債務を消滅させたと考えると,更改を弁済と同視することもでき,そのように考えると,弁済と同様に,更改によって他の連帯債務が消滅するという現行法にも合理性があることになります。   また,不可分債務者の一人との間で更改があった場合には,民法第429条第1項が準用されており,債権者は他の連帯債務者に対して当初の債務の全部の履行を請求することができるが,更改をした債務者の負担部分の価額を履行した債務者に償還しなければならないと解されています。ここでは,債権者は,更改をした債務者からは更改後の債務の履行を,他の債務者からは旧債務の履行を受けることができ,ただ更改をした債務者の負担部分を償還すれば足りることになります。すなわち,ここでは更改後の債務は更改をした債務者の負担部分と等価なものが想定されていると考えられ,これは,連帯債務者の一人との間でされる更改後の債務が旧債務の全額と等価なものと想定されていることと異なっていることになります。   しかし,不可分債務と連帯債務とでこのように異なる更改を想定するのが適当であるかどうかには疑問があるように思われます。この点を含め,連帯債務及び不可分債務における更改の扱いについて整合的に規定を設けるとすれば,どのような規定が望ましいかについて御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議を頂きますので,御自由に御発言ください。 ○岡委員 2点申し上げます。   1点目は,更改と書かれているこの中に,債権者の交代あるいは債務者の交代まで入るのかどうか。それは入らないのではないかという意見が多うございましたので,まず,その点をはっきりさせていただければと思います。   2点目に,給付の内容を更改によって変える場合は,理論的にはあり得るんですが,一弁で話していても,日弁連で話していても,そのような更改契約を使っている例はあまりないようです。裁判所には多数行っているのかもしれませんが,実例は非常に少ないのではないか。大体,合意解除で再契約でやっている場合が多いと思います。何故かという議論をしたときに,更改契約というのはよく分からないので避けているというような実態があるように思います。そのようなところからいくと,実態の分からない,利用例も少ないものであれば,相対効にしておくのが無難かなというような,意見が多うございました。 ○中田委員 ちょっと今の御発言との関係でお伺いしたいんですが,資料の2ページの1行目から2行目にかけて,「実務においては」これこれが「通常であるという評価がある。」という記載があり,また,3ページに「実務的な必要性」というのが5行目に出ておりますけれども,今の岡委員のお話ですと,余り実務で使われていないということなんですが,どういう実務の使われ方,あるいはどういう評価なのか,もう少し具体的にお教えくださいますか。 ○笹井関係官 岡委員から,債権者の交代とか当事者の交代による更改が入るのか入らないのかという御質問ですけれども,当事者の交代による更改が更改として存続するとすれば,それは今までも429条であるとか435条の更改に入ってきたと解されているのだと思います。そこを変えるということではありませんので,それも入ってこざるを得ないのではないか。ただ逆に,そういった場面が435条の更改に入ってしまって,ほかの債務が全部消えてしまうというのが,それが合理的なのかどうかというのが今正に問われていて,中間試案ではそれを相対的効力にしていたということだと理解しています。   それから,岡先生に逆に質問なんですけれども,更改はよく分からないので取りあえず相対効にしてはどうかということだったんですが,その場合の相対効というのは,429条のように償還を要するものなんでしょうか,それとも,全くの相対効で,二つの債権,二つの異なる給付の債権を債権者が持っていて,どっちかが履行されれば全部なくなるということを想定されているんでしょうか。 ○岡委員 後者だと思います。 ○笹井関係官 そうすると,連帯関係としては残っているということですね。分かりました。   それから,中田先生の御質問についてですが,一般的に,日本の連帯債務における絶対効についての評価として,一方で連帯債務が債権者にとって,相互に人的な担保を得ることによって債権の効力を強化するというものでありながら,更改であるとか免除であるとか,債権者に不利な絶対的効力事由が多いのは制度の趣旨に反するのではないかというような批判があったと認識しておりまして,その延長線上に中間試案の更改を全くの相対的効力事由にするという考え方があったのだと思います。そういう一連の評価がここに当たるのではないかと思っておりました。   3ページの5行目の「実務的な必要性」というのは,ここはむしろこちらから教えていただきたいということです。先ほどの免除のところと同じですけれども,今できることができなくなるということについて,それでいいのかどうか,実務的に困らないのかどうかについて,この場で御知見があれば教えていただきたいという趣旨でございます。 ○鎌田部会長 今の点について。 ○内田委員 更改について,実務的に余り経験がないのでよく分からないというところまではいいのですが,だから相対効でよいというのはちょっと危険ではないかと思います。   相対効が中間試案で採られていたのは,よく分からないからではなく,更改制度そのものに対するやや消極的な評価があったからだと思います。機能はもうほかの制度で代替し得るので,存在理由についての消極的評価があって相対効という判断がされていたのだと思うのです。しかし,いよいよ条文を固めるという段階になって考えてみると,国際的には更改というのはよく使われている制度で,取り分け金融取引では使われている。商法の先生に必要があったらまた補足していただければと思いますが,日本でも金融取引では更改が使われることはあると思います。そういう場合は,目的はやはり抗弁を全部消すということ,つまり元の債務に付いていた抗弁を全て消して新規の債務にするということです。しかし,債務の発生原因について厳格な要件を課す法体系の下で,何の原因もなく契約で新債務を発生させるというのは,これはできないことですので,そこで更改という手段が存在しているのだと思います。   そういう歴史的な,あるいはこれまでの国際的な実務的必要性との整合性ということを考えると,日本でだけ,更改という言葉を残しながら,中身が世界の更改と違うものを作ってしまうというのは非常に危険であるという感じがいたします。仮に使われることが少ないとしても,完全に消してしまうならいいですが,残すのであれば,やはり抗弁を全て消して新規の債務にするという効果は維持する必要がある。その際,先ほどおっしゃったように,連帯債務のひとつについて,更改の結果新たに生じた債務が既存のほかの連帯債務と連帯関係になるというのは,それによって他の連帯債務者が弁済すると更改によって生じた債務は消えてしまうわけですから,非常にリスキーな債務になってしまうわけです。そういうことのないものを発生させるのが更改ですから,そういうものとして制度設計するということを考える必要があるのではないか。そういう考慮からBタイプとして検討課題をお出ししたということです。 ○岡委員 今のノベーションが日本法上の更改に当たるのかどうかという議論は弁護士会でもいたしまして,ノベーションを扱っている人たちが,あれは日本の更改とは違うと,日本の条文に基づく更改というのは使っていないと,別物であるという理解をしているということをおっしゃっていました。   しかし,内田先生のおっしゃることも理解できますので,もしそうだとすると,更改というのは今回こんなふうに模様替えしたんだと,こういう法律効果を持った新しい類型なんだということをきちんと定めた上で前に進むのであれば,実務家も検討というか,具体的に考えることができるんだろうと思います。 ○内田委員 模様替えではなくて,現行法はそういう更改です。現行法の更改という言葉はノベーションの訳ですので,日本独自の概念ではありません。 ○山野目幹事 岡委員の最初の御発言の前段部分でしょうか,実務家の素朴な感覚として,更改というものがよく分からないから,というふうにおっしゃられたところは,この種の問題を丁寧に考えていかなければいけないという見地から,よく理解することができますし,共感することができます。   その上で,だから相対的効力事由にしようというふうにおっしゃいましたが,相対的効力事由に考えるときには,その先に考え込まなければならない新しい問題が複数発生すると考えます。更改の当事者の意思によって他の連帯債務者の債務を消滅させることができることとするかどうかを検討しなければいけませんし,それから,一つ前に笹井関係官が御指摘になったような問題も考えなければいけません。そういうものについて自信のある規律を組み立てる見通しがあるのであれば,もやもやしている更改が更に厄介なものにならないようにしようという,そういうことにもあるいは応えていくことができるのではないかと考えますが,そこの見通しがなくて相対的効力事由にしましょうということですと,よく分からないから避けているとおっしゃった前段の感覚とは少し一致しないものがあるのではないでしょうか。   むしろそのような実務家の先生方の素朴な観点をにらみつつ,また,内田委員がおっしゃったような,更改というものが法律関係をリセットするというか,シャッフルするというような特質があるということを考えるのであれば,現行の435条の規律を維持して,絶対的事由とするという規律を維持する。不可分債務については,そのように維持されたものとしての435条と整合性をとれるように,これと同一の内容の方向の規律を置くということのほうが,どちらかというと落ち着きがよいのではないかと感じます。 ○鎌田部会長 実務界から,ほかに御意見ございませんか。 ○中原委員 複数の銀行の法務の担当者に,国内の銀行取引で更改を利用したケースの有無を聞いてみましたが,誰も更改という制度を使ったことはないとのことでした。   先ほど,海外との取引について利用されているのではないかとのことでしたので,その点は国際部門に確認してみたいと思います。 ○佐成委員 更改自体は,やはり国内というよりも国際取引では時々見かけます。もちろん,ほかの手段が使える場合が多いので,必ずしもノベーションを使うかというとそうでもないんですけれども,時折見かけるという感じであります。   なかなか難しいなと感じたのは,国際的な更改の理解と日本法における更改の理解が食い違ってしまうということになると,実務上は使う場面の多くが国際取引の場面であるということだとしますと,やはり国際的な整合性をとっていくという内田委員の示唆された考え方というのは共感できるところはあるかなというふうに感じております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ここでの素案の問いかけている内容については,連帯債務の場合と不可分債務との場合で取扱いが違っている点を統一させようというふうな考え方が示されているんですけれども,その点について御意見がありましたら,お出しいただければと思います。   それはそれでいいというふうなお考えだと受け止めてよろしいでしょうか。 ○岡委員 余りイメージができないというのは正直なところで,不可分債務の例で言えば,共有物を賃貸する債務,これは性質上不可分で不可分債務と考えてよろしいですよね。その上で,そのうちの共有者の一人とだけ更改契約を結ぶと,それは一体どういう場合なのという,そこでつまずいて前に進めなかったんですが。 ○笹井関係官 複数の賃貸人の一人との間でだけ更改をすることは,制度上はそういう場面が想定されている。429条でそういう場面があって,430条で429条が準用されているので,できないことはないんですね。いろいろな場面があり得ると思いますので,そういう必要性があってそのような合意をするということなんでしょうけれども。   先ほど,435条の連帯債務に関しては,何人かの御発言はどちらかというと今の435条を維持しようと。つまり,更改があれば,それ以外の債務者の債務は消滅するという連帯債務に関する今の規律を維持しようという方向性の御意見のほうが多かったと思います。それとパラレルに考えていくと,今,岡先生がおっしゃった共有物の賃貸の事例では,一人との間で別の債務を発生させたという以上は,もう物は諦めると。賃貸は全部諦めて,新たな債務の履行だけを求めるということになるのだと思います。   430条が準用する429条1項によると,両方取れるけど何かを返さないといけないという形になりますので,それと連帯債務の規律が整合的かという問題と,あと,両方取れるというのが,両方取れて,また何かを返さないといけないんですが,何を返すのか,幾ら返すのかという算定とか,その辺は若干複雑な問題が生じているのかもしれませんが。 ○岡委員 実務家からすると,連帯債務あるいは不可分債務だからどうのこうのよりも,共有物を賃貸しているときに合意解除できるかどうか。一人で処分できるかどうかというのは,共有物の保存に当たるか,管理に当たるか,処分に当たるか,で考えると思います。合意解除が処分に当たるとすると,全員の同意がないと相手方との間で有効に解除できない。解除できないと,新たな債務への更改もできないのではないかと。そういう方向に進むんだったら理解できるんですけれども。分割,不可分債務,連帯債務の相対的効力から考えるというのが,分かりにくい,ついていけないという話をしました。感想でございます。 ○山野目幹事 部会長がお尋ねの,不可分債務の規律を連帯債務に合わせますかという問題については,一つ前の私の発言の最後のところで,不可分債務についての規律の現行のものを改めて,435条を維持した上で,これと同じ扱いを不可分債務について妥当させるべきだということを申し上げた次第です。   それで,岡委員から具体的に考えなさいという御案内を頂いて,それはごもっともであると感じますが,有償双務契約で登場する不可分の給付のような,そんな難しい,またありそうもない,何か空想の試験問題のようなことをおっしゃられても,多分それは皆さん答えにくいであろうと想像します。   そうではなくて,例えば友人が結婚することになったという場合において,仲のいい友達三人がみんなで協力して新居で用いる何かをプレゼントしてあげようというような,贈与みたいなことを考えて,最新式の冷蔵庫を一個プレゼントしますよという約束をしたときに,その不可分債務者のうちの一人との間で,考えてみたけれども冷蔵庫はいいから三次元テレビにしてほしいというふうに言われて更改したら普通の当事者の意思を考えると,それは何か後で,現行法のように後で一部を返すとか,ああいうややこしいことをしないで,冷蔵庫がテレビに替わったということで終わりになるものであろうと考えます。そういうふうに変えようというお話をしているものであるというふうに私は理解しました。 ○鎌田部会長 ほかに御意見,よろしいですか。   これはなお検討を続けるということで,B項目になっているところでもありますので,先ほど来頂戴しました御意見を踏まえて,更に事務当局において検討を続けたいと思います。   次に,同じ67Bの第1の「2 連帯債務者間の通知義務(民法第443条関係)」について御審議を頂きます。事務当局から説明をしてください。 ○笹井関係官 中間試案においては,連帯債務者間の事前通知義務を廃止するという案が示されていました。しかし,これに対しては,事前通知義務を廃止しなければならないほどの実務上の不都合は生じておらず,また,他の連帯債務者が既に弁済していたことなどを知る機会として機能しているという考え方も主張されています。このような指摘も踏まえて,事前通知義務について具体的な不都合があるなど,これを廃止する具体的な必要性の有無について御審議いただきたいと思います。   また,仮に事前通知の制度を廃止し,事後通知の先後によって求償の可否を決するのであれば,債権者に対する不当利得返還請求も含めて,どのような法律関係が生ずるのか,考え方を整理しておく必要があると思います。例えば,一部の連帯債務者に対しては通知がされなかった場合の求償関係,債権者に対する不当利得返還請求の可否などについて,お考えがありましたら承りたいと思います。   仮に事前通知の規定を残す場合に,その要件について見直す必要がないかどうかについても御審議いただきたいと思います。例えば,通知の内容が債権者から請求を受けたことでよいのか。連帯債務者がいることを知らない場合に,その連帯債務者に対する通知義務を負うのか。先に弁済をした連帯債務者が事後の通知をせず,他の連帯債務者が事前の通知をしないで弁済をした場合の処理を,この判例ルールを明確化するかなどが問題になると思います。これらの点についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま御説明のありました部分について御審議を頂きます。御自由に御発言を下さい。   この事前通知を廃止するかどうかというのが大きな問題で,そのどちら,廃止するにしろ,存置するにしろ,なお手当てが必要であるということでございますので,廃止するかどうかについての御意見と,それを踏まえて,どのような手当てをすべきかということについての御意見,併せてお出しいただけると大変助かります。 ○中井委員 この2の連帯債務者間の通知,事前通知に関しては,その次の第2の保証人の通知義務,その中でも委託を受けた保証人の事前通知について,この連帯債務者における議論を踏まえて定めようという考え方が示されていると理解しています。   そこで一般に,保証から考えるほうが分かりやすいと思うのですが,連帯債務者であっても負担割合を超える部分を弁済するという場面を想定すれば,保証の場合は常に負担部分のない部分を保証人が弁済しますので,典型的に表れる場面かと思います。その際,負担割合を超える部分を弁済する者が他の者に対して,保証の場合は主債務者に対して,事前に払っているかどうかを確認するという実務,確認した上で支払う,それが通知という形で実現できる。また支払った後は,求償問題が生じますから,保証人の場合は当然に,また連帯債務者の場合は負担割合を超えるかどうかは議論があるにしろ,超える場合は明らかに求償問題が生じますから,そこで,その前提となる通知が当然に行われる。これが今までセットでして,事前の通知と事後の通知という形で実務は動いていたのではないかと思います。   債務の弁済期が到来したら,支払義務がある者は他に連絡することなく弁済できて当然ではないかという批判がメーンに掲げられておりますけれども,果たして実務的な感覚でそうなのか。理屈から言えば,そういう御指摘もうなずけますけれども,払う側にとって,遅滞によるリスクというよりは払ったことによるその後の求償のリスクを考えれば,事前通知をした上で払うというほうが自然ではないかと考えていきます。ここで事前通知を廃止するという考え方については反対で,現在の事前通知制度に問題がなおあるとすれば,それを改善する方向で提案,修正する,この5ページの3以下の各提案を検討するのがよろしいのではないか。   その上で,5ページの3ですけれども,(1)以下については,御指摘のとおり,「債権者から履行の請求を受けたこと」という要件を外して,通知をすることなく弁済するという形。   また,(2)については,他の連帯債務者については知れている者というのをかぶせるという提案。こういう方向で考えるのがいいのではないか。   次に,昭和57年の最判をどのような形で取り込むのか。ここで御提案にある「善意でかつ過失なく」というのが取り込めているのかどうか,もう少し検討したいと思いますけれども,このような規律が現に機能して合理性があると思われますので,これを規律していく方向で検討していく。   そういう方向性がよろしいのではないかという意見です。 ○鎌田部会長 ほかの御意見,ございますでしょうか。 ○山野目幹事 事前通知義務というものが廃止される方向が語られて,それには相応の根拠があったというふうに感じます。何が何でも事前通知義務を廃止しようという強い意見を抱くものではありませんけれども,やはりこの事前通知に要する手順の間,遅滞の責任が生じて,それが膨らみ続けるという問題に,どなたも十分に答えていないまま議論が進んでいるように感じますけれども,そこはいかがでしょうか。   今の中井委員のお話も伺いながら,実務感覚としては,事前通知の義務を維持することが相当であるというお話は,それとしては理解することができましたけれども,あらかじめ通知した上で弁済をするというときの,この通知義務の実質的な機能を考えますと,本当は一方的に通知することのみでは駄目であるはずであって,通知にも多分意思表示の到達主義が準用されるでしょうから,少なくとも通知が相手方に到達していなくてはいけないし,更に言えば,到達したのみでは駄目で,到達に対して何らかの回答が戻ってくるかもしれない,という時間の間隔を置いた上で弁済をして初めて事前通知義務なるものの機能が全うされるものであろうと感じます。   ですから,事前通知義務というよりは事前照会義務というふうに言ったほうが,本来の機能からいえば適切なものであろうと考えますが,そうすると,行って戻ってくる2倍の時間になるものでありまして,もちろんメールや電話を用いる時代ですから,行って戻ってくるといっても,状況によってはネグリジブルであるということになるかもしれませんが,その間,しかし理論的に言うと,遅延損害金は膨らんでいくということになるはずであり,その問題についてどういうふうに考えなければいけないか,ということが,私はどうしてもやはり腑に落ちない部分が残ります。何かその点について,委員,幹事から御教授を頂ければ有り難いとも感じます。 ○鎌田部会長 これは通知を受けた側も返答する義務はないわけですね。 ○中田委員 私も山野目幹事と同じような問題意識を持ったんですけれども,御発言の中で出てきましたが,通信手段の発達によって通知に要する時間が短くなった。契約の成立のところでもそれを反映した規律が考えられていると思います。そうするとむしろ,例えば弁済期の少し前に通知してから弁済する,つまり,債権者から請求を受けたではなくて,「あらかじめ」に変えるということで,実際には対応できるのではないかと思います。   ここでは,理論的には履行遅滞を強いるという制度になっていることが問題だという,実際上の問題というよりも理論的な問題なのかなと思いました。 ○中井委員 山野目先生の,遅滞を強いることになるということに対しては,結果として,事前通知なり事前照会なり,そういうものを持ち込めば,御指摘の事態が生じていること,これはもう否めないと思います。   それであってもなお,このような仕組みにするほうが合理的と考えるのは,やはり連帯債務者,若しくは,典型は保証人ですけれども,負担部分のないものを支払う際の一般的行動として,請求があった,主債務者若しくは他の連帯債務者が負担部分の支払いを,しているしていないの確認もしないまま,目をつぶって払うだろうか。通常の行動としては当然,むしろ事前照会的なんですけれども,それを兼ねた通知をして,払っていないよねと,だから払えということを催告しながら,しかし,主債務者若しくは他の連帯債務者は払わないので自ら払う。そうしないと,できるだけ払う金額も抑えたいし,本当に他方が払っているかを確認したいし,債権者の言っていることが正しいかも確認したいから。やはり,そういう連帯債務若しくは主たる債務者がいる場合の行動としては,ごく自然な行動だという理解が支えになっていると思いました。   ただ,御指摘のとおり,その分だけ,10日分の延滞金が増えるのかも知りませんけれども,増えるからといって目をつぶって払うリスクは避けたい,という感覚だろうかと思います。 ○内田委員 中井委員に御質問させてください。実務的な点からなのですけれども,普通は,保証の場合を考えますと,連帯保証人に請求するというのは,その前に多分債務者に何らかの形でアプロ―チをしているのだろうと思うのですね。どうも債務者がいない,逃げているのかどうか分からないけれども,いないので,もう期限が来ているのだから払ってくれと言われたときに,なお通知をして更に遅滞を延ばすということをしなければいけないのかどうか。   実務の自然な行動というふうにおっしゃったのですが,自然な行動としては,むしろ債権者は,まず最初に債務者のほうに行っているのではないかと思うのです。そうしたときに,やはり債務を負っている保証人として,なお通知が必要でしょうか。 ○中井委員 今のような場面を考えると,確かに通知をしなくて払ったほうがスムーズで,支払額も小さくなるではないかという御指摘かもしれませんけれども,払う債務者の立場に置かれたときに,それが債務者の行動準則に合っているのか,という疑問があるということです。余り合理的な反論になっていないのかもしれませんが,パブコメの中でも,この制度が一定機能しているという形で評価する意見は少なからずあったのではないかと思います。 ○岡委員 通知と呼べるかどうかは別として,債権者から,主債務者が行方不明の状態になっているよという情報を伝えられたとしても,保証人は,主債務者に電話するなり何なり,何らかの調査はした上で保証人は払うように思います。 ○鎌田部会長 ほかに,実務界の要請といいますか……。 ○松本委員 前の第2ステージでも同じようなことを言った記憶があるんですが,通知義務となっていますが,今の弁護士会からの御指摘だと,少しワンクッション置いて,主たる債務者あるいは他の連帯債務者に対して状況を問い合わせたほうがいい,ベターであるということなので,それは通知の利益あるいは確認の利益という感じだと思うんです。義務として規定してその義務違反に対してどうこうという問題ではないのではないでしょうか。むしろそこで確認している間は遅延利息が発生しないとかいうようなほうに持っていくほうが,よほど合理的な準則になるのではないかと思うんです。たまたま義務となっていることを利用して確認をしているということであって,義務は実は問題ではなくて,確認の利益のほうが重要なんだというふうに聞こえるわけですが。 ○鎌田部会長 他の債務者の利益を守るために義務を課しているけれども,その義務を果たすことは本人にとっても利益はあるんだから,そんな酷な義務ではないという,そういう筋立てのお話なのではないかというふうに伺っていたんですけれども。 ○中原委員 ファクタリング業界にヒアリングしたことがありますが,ファクタリング業界では委託のない保証もよく利用されているとのことでした。委託のない保証人への事前通知を廃止する提案がされていますが,ファクタリング業界としては,事前通知をしないで保証履行した後に主債務者から相殺できる事由を対抗される可能性が残る以上,事前通知制度を維持し,事前通知をすることで主債務者による相殺の対抗を防ぎ委託のない保証業務の安定性を図るほうが望ましいとの意見でした。 ○鎌田部会長 事務当局として,更に何かお伺いしておくことはありますか。 ○笹井関係官 いえ,今の段階では。 ○鎌田部会長 よろしいですか。それでは,この問題も引き続き事務当局において検討を続けてもらうことといたします。   次に,同じ67B,第1の「3 不可分債権及び連帯債権」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 中間試案においては,連帯債権に関する規定を設け,現在の不可分債権に関する規定と同様の規定を設けるという案が示されていました。ここで想定されている連帯債権は,性質上可分な内容の給付を目的とする債権を複数の者が有しており,法令又は法律行為の定めにより債権相互に連帯関係があることとされている場合ですが,これに不可分債権と同様の規律が妥当するとすれば,当事者の意思による不可分債権と実質的にどのように異なるのかが問題になるように思われます。当事者の意思による不可分債権ではなく,連帯債権という概念を設ける必要性としてどのようなことが考えられるか,御審議いただければと思います。   また,仮に連帯債権に関する規律を設ける場合に,不可分債権に関する規定と同内容の規定を設けるとすれば,民法第429条が妥当することになりますが,性質上可分な内容の給付については,更改や免除は相対効を有するという考え方も成り立ち得るように思われますので,「1 更改の取扱い」にも関連しますが,御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分についての御意見をお伺いいたします。   これも,できれば連帯債権に関する規定を設けるということについての実務界のニーズ等について御意見を伺えればと思いますが,いかがでしょうか。   あるいは,研究者の理論上の見解でも結構でございます。 ○中原委員 銀行業界として,少し議論しましたが,シンジケートローンで担保権者を一人にまとめるようなケースでは,セキュリティトラストとか,準拠法を英国法にするなどの対応をしていますが,民法に連帯債権という考え方が入れば,シンジケートローンで貸付人の一人が全貸付人のために担保設定を受けることも可能となるので,連帯債権の規律の導入は有益と考えられます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見,いかがでしょうか。 ○笹井関係官 今の中原委員の御発言についてお尋ねしたいんですけれども,シンジケートローンの場合の使い方として,今,意思表示による不可分債権という概念は民法上あるわけですが,その不可分債権では駄目だということなんでしょうか。 ○中原委員 シンジケートローンの具体的な実務については詳細には承知していませんが,債権の管理として連帯債権という形式を利用しているのだろうと思います。 ○笹井関係官 規律の内容としては,今の不可分債権に関する規律と同じ…… ○中原委員 ほぼ同じということですね。 ○笹井関係官 でよいということですか。ありがとうございます。 ○中田委員 意見ではなくて,先ほどと同じ質問なんですが,意思表示による不可分債権という制度を復活させるという前提なんでしょうか。中間試案の段階では,内容が性質上可分であっても意思表示によって不可分にすることはできるというのは連帯債権にするということだとなっていたんですけれども,そこはもう一度考え直すということが前提になっているんでしょうか。 ○笹井関係官 考え直すといいますか,なぜその概念の整理をしないといけないのかということではないかと思います。今,意思表示による不可分債権という概念があるのに,その部分を切り出して連帯債務という概念の整理をする。それが中間試案の方向性ではあったんですが,その中間試案,それをなぜそういう概念の整理が必要なのかということについて,実務上の必要があるのかどうかを確認したいということなんですが。 ○中田委員 中間試案の前提として,当事者の意思表示によるものは考慮しないで,給付の内容が性質上可分か不可分かということで分けようということで,一応できたわけですよね。それをもう一度考え直すのだとすると,その説明があったほうが議論が進めやすいのではないかと思うんですけれども。 ○笹井関係官 そこの説明というのは,なぜ考え直すのかということについての説明ということですか。ある概念を作ろうとするときに,なぜ実務上そういう新たな法改正をしてそういう概念を作るのかということが問題になってくると思いますので,結局,今できること,今別の概念を使ってできることであるのであれば,新たな法律,法改正をして新たな概念を入れる必要はないではないかと言われたときに,どういう説明が可能なのかということだと思います。 ○山野目幹事 笹井関係官が,連帯債務,不可分債務のときからずっと一貫して,なぜ,というふうな問題に関心を抱いておられて,そのことは連帯債権と不可分債権の問題になると一層深刻になるという感覚で問題提起をしておられることは理解することができます。   それで,私なりに理解をしてきたところを申し上げますと,例えば連帯債権という概念についての実務上の必要性があるか,というようなことももちろん論議されるべきでありますし,中原委員の御指摘は貴重であったと感じますけれども,どちらかというと,意思表示による不可分という,あの言い方というか思考法を分かりやすいと感ずるかどうかという観点から物を見て議論が積み重ねられてきたものであって,すなわち,分かりやすい民法という観点からの考察の蓄積の成果が今議論されているものであろうと受け止めます。   意思表示による不可分という概念整理が概念整理として,もちろん論理的にはあり得るし,従来用いられてきたものであるけれども,平明な概念整理でないというふうに考えるのであるならば,まず,連帯債務と不可分債務について中間試案の発想のような区分けによる新しい概念整理をすべきですし,そこをそうするのであれば債権のほうについても,債権者複数の場合について同様に考えなければならないことでしょう。区別の基準がずれる,齟齬を来すということは適当でないのであって,学校の講義で教えるとき非常に苦労をすることになります。そうすると,そこも連帯債権と不可分債権という,平明であると考えられる,統一性があると考えられる概念整理をすべきであって,かつ,中原委員がおっしゃるような実務上の感覚から見ても,少なくとも抵抗感がないというお話であれば,そのように両者がシンメトリックな概念整理をしていただきたいと望みます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見,いかがでしょうか。 ○岡委員 例かどうかはよく分からないんですが,賃貸人が相続で複数になった場合,賃料債権は金銭債権ですが,どうなるのでしょうか。先ほど言った,その裏返しなんですが,金銭債権であっても不可分債務の対価だから連帯債権になるという,そういう方向でいくのでしょうか。賃料債権は金銭債権だから,性質上可分であるので,可分債権になってしまうとするのでしょうか。しかし,賃貸人が相続されて複数になった場合は,債務者としては一人に払えばそれで済むはずで,そのほうが便宜だと思いますので,その場合には連帯債権というか何というか,そういうものの規律が妥当であるという意見は出ました。だからといって,それがあるから連帯債権の概念を,不可分債権とは別に用意してほしいとか,あったほうが便利だとか,そんな議論まではありません・ただ例としては,賃貸物の相続による賃料債権の事例があるんだろうと思います。 ○鎌田部会長 これは,不可分債務と不可分債権が表裏一体の関係で,可分な不可分債務か可分な不可分債権という概念を,何とか連帯債務,連帯債権に呼称を変えることで整理できないかというのが一つの問題意識だったと思うんですが,もう一つ,今の岡委員のような考え方でいくと,どういうときに成立するか総合的に判断して,性質上不可分と言われれば不可分債権とか不可分債務になる。だから,当事者の意思表示によって不可分債権にすることができる。不可分債務のほうは,今の素案では,意思表示によって,可分の債務を不可分債務にするというのは認めていないけれども,債権の側はあってもいいのではないかという。ここの整理も一つ問題なのかもしれませんし,解釈論上は,便宜的に連帯債権あるいは連帯債権的な関係が生ずるというふうな説明をしなければいけない場合というのは時々出てきて,性質上不可分でもなければ当事者の合意にもよらない場合というのがあるような気がするんで,そういう場合を何によってカバーするのかというのが若干,私は個人的に,この規定との関係では気になっているところです。 ○松本委員 私もやはり,債権と債務で用語をがらっと変えるというのは,大変分かりにくい民法になると思います。   岡委員のおっしゃった双務契約における対価との関係で不可分になるというふうに説明されているものについては,不可分債務であり,かつ不可分債権になるという説明のほうが一貫すると思うんですね。   当事者の意思で連帯債権というものは,当事者の意思による連帯債務のほうをなくしてしまうのであれば,やはりなくすべきであって,あとは,可分なんだけれども法律上あるいは判例上,連帯債権としての性質が認められている場合というのが最後に残るんだろうと思うのです。それで,連帯債務とちょうど裏返しですから,いいのではないかなと思うんです。 ○中田委員 私も連帯債権という概念を置いていいと思うんですが,その場合の規定の仕方として,それも何によって成立するのかということを明確にしておいたほうがよろしいのではないかと思います。連帯債務における合意と連帯債権における合意とは,当事者が変わってくるのではないかなという気がいたしますので,そこは詰めておいがほうがいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 そこの違いのところ,具体的に何かございますか。 ○中田委員 はい。連帯債権の場合には,一人の債権者と債務者との合意ではなくて,債権者全員と債務者との合意が必要ではないかということです。そうでないと,ある債権者が債務者と連帯の合意をすると,他の債権者を害することになるからです。 ○鎌田部会長 不可分の場合には,給付の性質上,当然にそうせざるを得ないから,全員の合意がなくても成立を認める場合があり得るということですか,その合意の当事者の違いというと。 ○中田委員 違いというのは,連帯債務と連帯債権における違いということです。 ○鎌田部会長 分かりました。   ほかに,よろしいですか。   では,この点も更に事務当局の側で御意見を踏まえて検討を続けさせていただきます。   ここで休憩をとらせていただいて,3時半に再開をさせていただきます。よろしくお願いいたします。          (休     憩) ○鎌田部会長 次に,部会資料67Aに戻りまして,「第2 保証債務」について御審議を頂きます。事務当局から説明をしていただきます。 ○笹井関係官 「第2 保証債務」,「1 保証債務の付従性」の素案(1)は,民法第448条を維持するものです。   素案(2)は,主債務が加重されたときでも保証人の債務は加重されないことを定めるものであり,中間試案からの変更点はありません。   中間試案では,主債務が減縮されたときは,保証人の負担もその限度に減縮されることを定めるという案が示されていましたが,今回のたたき台では,この点は民法第448条に委ねれば足りると考え,その明文化は取り上げていません。   「2 主たる債務者の有する抗弁(民法第457条第2項関係)」の素案(1)は,民法第457条第1項を維持するものです。   素案(2)及び(3)は,保証人が主債務者の抗弁を主張することができること,主債務者が相殺権などを有しているときは,主債務者がそれを行使していない段階でも履行拒絶権を有することを定めるものであり,中間試案からの変更点はありません。   「3 委託を受けた保証人の求償権(民法第459条・第460条関係)」の素案(1)アは,委託を受けた保証人の求償権について,出損額が共同免責額以下であるときには出損額を,出損額が共同免責額を超える場合には共同免責額を基準として求償額を定めることとするものであり,連帯債務に関する第1,4(1)と同様の定めを設けるものです。   素案(1)イは,民法第459条第2項を維持するものです。   素案(1)ウは,委託を受けた保証人が主債務の期限到来前に債務を消滅させる行為をしたときは,主債務者が有する期限の利益を害することのないよう,主債務者は履行期限到来後に求償に応ずれば足りるとするものです。   この場合の求償権の範囲について,素案(1)エは,主債務の履行期以後の利息,履行期以後に履行したとしても避けられなかった費用その他の損害の賠償を含むものとしています。   中間試案においては,利息などを求償することはできないとされていましたが,主債務者の期限の利益を害することは避けなければならないとしても,履行期以降に保証人が弁済したとすれば求償することができる利息については,求償することができてしかるべきであると考えられます。そこで,期限後の利息を請求することができることとしました。   素案(2)は,民法第460条第3号を削るものであり,中間試案からの変更点はありません。   「4 連帯保証人に対する履行の請求の効力(民法第458条関係)」は,履行の請求の効力を含め,連帯債務と連帯保証とが類似する法律関係であることから,連帯債務者の一人に生じた事由の効力に関する規定は連帯保証人に生じた事由について準用するものとしています。中間試案からの実質的な変更点はありません。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明をしていただいた部分についての御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○岡委員 一つ質問ですが,23ページの2の(3)のところで,取消権等がある場合は拒むことができると書かれています。この規律自体には賛成なんですが,一弁で議論していたときに質問がございまして,一旦は拒むことができたけれども,その後,主債務者が解除権とか取消権を放棄,普通はあり得ないと思うんですが,放棄した場合は,保証人はやはり支払義務が復活といいますか,抗弁が解除されるのかという質問がございました。あり得る話しと思います。ただし,不相当に解除権を放棄した場合には保証人に及ばないという,信義則的な解釈はあっていいとは思いますが。そういうことを認めるのか,認めないのかという観点からの質問です。 ○笹井関係官 原則としては,今,岡先生がおっしゃいましたように,相殺権とか取消権とかあるけれども,もう放棄してしまったという場合には,保証人の保証債務は拒めなくなるということだろうと思います。もちろん,例えば債権者と何か通謀してとかという場合に権利濫用や信義則などの一般原則がかかってくるという余地が全くないということではないと思います。 ○岡委員 それは,要綱仮案の補足説明か一問一答には書いていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 一番あり得るのは,取消しの場合の法定追認とか追認ということかもしれないですけれども,一般条項の適用の余地を書くのはなかなか難しいところがあるような気もしますが,検討させていただきます。   ほかに,いかがでしょうか。   特にないと思ってよろしいですか。 ○岡委員 2点ございますが,最近の部会資料によく見られる,現行法に戻っているところについて,変えてもいいのではないかという意見でございます。   まず,部会資料の22の第2の1の(1),主たる債務より重いときは減縮すると,こう書いてあるんですが,そもそも保証契約締結のときに保証債務の方が重たければ,それは減縮ではなく一部無効になるのではないでしょうか。中間試案の23ページの一番上に書いてある(1)の表現はすっと入ってくるんですが,ゴシック体の1の(1)は何か変ではないかと。確かに現行法どおりの表現なのですが,ここは変えてもいいのではないかという意見でございます。   もう一つは,部会資料の26ページの459条の記載でございますが,委託保証の場合で,「過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け,又は主たる債務者に代わって弁済をし,その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為」と書かれています。これは,前のほうが例示のような書き方であって,「裁判の言渡しを受け」というのはあってもなくても,とにかく免責させれば事後求償権は生ずるはずですので,自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは事後求償権が発生すると,こうすっきりさせるのでは駄目なんでしょうか。その前の例示に特に意味があるのであれば現行法を変更しなくてもいいと思うんですが,議論していたときに,この前の例示は不要ではないかという意見が強かったものですから,質問させていただきます。 ○笹井関係官 一つ目の,部会資料67Aの22ページの第2の1の(1)ですけれども,中間試案では,今の素案の(1)に加えて中間試案の(1)と(2)を付け加えるという考え方だったと思います。ただ,今の448条は,保証契約の契約締結時とか締結後とかというように,特に時的な限定を付しているわけではないので,わざわざ書き分けるよりも,中間試案の(1)は今の448条で十分読めるのではないかと考えました。   それから,26ページの,御意見のあった「過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け」というところなんですが,これは中間試案に至る前の段階でもいろいろ議論があったところだと思うんですけれども,これ自体は,債務を消滅させるべき行為をしたというときに当てはまらなくても,一種の事前求償権として,判決を受けてしまえば,払っていない段階でも求償できるという規定だと思います。   事前求償権を廃止するのかどうかについては,これまでも議論があり,廃止するという考え方もあったのですけれども,必ずしも部会がまとまったというわけではなくて,こういう形で残っているので,今までの議論を踏まえて,事後求償権ではなく事前求償権として残しているということでございます。 ○岡委員 「過失なく言渡しを受けたとき」は,債務を消滅させるべき行為をしたときの例示のように読めるんですが,例示ではなく,一種の事前求償権をわざわざ定めているという表現なんですか。 ○鎌田部会長 「又は」の後ろだけの部分に「その他」はくっついているという。よろしいでしょうか。   ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ,67Bに再び移らせていただきまして,67Bの「第2 保証人の通知義務及び求償の範囲」について,事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 「第2 保証人の通知義務及び求償の範囲」の素案1は,保証人の通知義務に関する問題を取り上げています。   まず,素案1(1)では,連帯保証人の事前通知義務について,連帯保証と同様に扱うという案を示しています。連帯保証人の事前通知義務については,これを廃止するかどうかが検討の対象になっておりますが,いずれにしても,連帯債務と連帯保証の扱いを異にする合理的な理由はないと考えられるため,連帯保証については連帯債務と同様の規律を設けようとするものです。   素案1(2)では,委託を受けない保証人の事前通知を廃止するという案を示しています。民法第462条第1項によれば,委託を受けない保証人は債務を免れた時点で主債務者が利益を得た限度で求償することができるとされており,事前の通知をしたかどうかにかかわらず,債務を免れた時点で主債務者が債権者に対抗することができる事由を有していたときは,主債務者はその事由をもって保証人に対抗することができることから,事前通知の規定を準用することには意味がないと考えられるからです。   素案1(3)では,主債務者の意思に反する保証人についても事前通知を廃止するという案を示しています。意思に反する保証人についても,事前の通知をしたかどうかにかかわらず,その求償の範囲は民法第462条第2項によって規律されているため,事前通知の規定を準用することには意味がないと考えられるからです。   素案2は,求償の範囲に関する規定を新たに設けるかどうかについて問題提起をするものです。   素案2(1)は,民法第462条第1項に同条第2項後段と同様の規定を設ける必要がないかどうかという問題を提起するものです。同条前段においては,主債務者が免責を得た時以前に債務者に対して相殺の原因を有していたときは,相殺によって債務を免れる部分について求償に応ずる必要がないことになりますが,その場合に,主債務者が債務を免責される一方で,求償を免れ,かつ反対債権の履行を債権者に対して請求することができることになるのは不当であると考えられます。このように,民法第462条第2項後段の趣旨は同条第1項にも妥当すると考えられるため,同様の規定を設けようとするものです。   素案2(2)は,民法第462条第2項前段の場合に,主債務者が弁済を主張した場合に,主債務者が有する不当利得返還請求権を保証人が行使することができるという規定を設ける必要がないかという問題を提起するものです。意思に反する保証人が弁済した後,主債務者が弁済等をした場合には,主債務者がそれによって債務を免れたとされる部分について求償に応ずる必要はないことになります。しかし,債権者が二重に利得することは不適当ですから,主債務者の意思に反する保証人が債権者の利得の返還請求権を,不当利得返還請求権を行使することができることとする必要があるのではないかと考えたものです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○中井委員 先ほど申し上げたことに関連するんですが,1の(1)の委託を受けた保証人の事前通知について,仮に先ほどの連帯債務について事前通知を廃止した場合,ここも廃止する。そのときの帰結ですけれども,中間試案として,保証人の請求権ア,イ,ウの規律が記載されていますけれども,ここの記載のア,イの規律が妥当すると,こう理解したらよろしいか,まず確認です。   仮にそうだとすると,事前通知をなくすという提案に対しては,事前の通知を残すべきである,特に保証人の場面では。仮に事前通知をなくした場合,何で決するかといったら,事後通知の前後で決するという考え方がここで提案されることになると思いますけれども,保証の場合に,主たる債務者が弁済をした,通知をしない間に保証人が弁済をして,それを通知すると,保証人の弁済が有効になる。実務的に考えてみて,主たる債務者が自らの債務を弁済するときに,しょっちゅう主たる債務者は弁済するわけですけれども,弁済の都度保証人に通知するなどということは現実にはないと思われるわけです。それを,主たる債務者と保証人の関係で,事後通知の先後で決するという規律を入れることは,かなり実務とは異なって,違和感があるように感じます。 ○笹井関係官 最初の御質問のア,イ,ウとおっしゃったのは,どこのア,イ,ウをおっしゃっていたんでしょう。 ○中井委員 9ページの上に中間試案が出ています。 ○笹井関係官 中間試案は,基本的に連帯債務について事前の通知義務を廃止して,事後の通知の先後で決めるという考え方を連帯債務にとっていて,それとパラレルなことを保証でやろうとしておりますので,こういうふうになっています。もし連帯債務について今回,やはり中間試案と同じ立場をとろうということであれば,必然的にこういうふうになってくるということではないかと思います。   私は別に,事前通知をなくすほうがよいと確定的に申し上げる趣旨ではないんですが,今,中井先生は,主債務者が弁済しても事後の通知はしなくてよいとおっしゃったように聞こえたのですが,現在でも463条によって主債務者についても443条などが準用されていますので,事後の通知は今でもしないといけないのではないかと思いますが。 ○中井委員 今回の規律は,事前通知をなくす,主たる債務者が弁済をした,弁済をしたら現実に保証人に通知しなければならない,保証人がその後弁済して保証人からの通知があれば,そちらが優先してしまう。今回の改正によれば,そういう帰結になるわけですけれども,そもそもそれでいいのかという疑問なんです。 ○笹井関係官 現在は,主たる債務者が弁済をして,保証人に事後通知を怠っている段階で保証人が善意で弁済してしまったら求償が制限されるというのが今の463条2項で準用する443条の帰結ですので,全く制度が同じというわけではないかもしれませんけれども,主債務者が事後通知を怠った場合に求償の制限を受ける場合は,現行法の下でもあるのではないかと思いますが。 ○中井委員 主たる債務者が自ら義務を負っているときに,対保証人との関係で準用されているとすれば,事前に通知をし,かつ払った後,事後に通知をする,保証人に対して。その規律自体が,なぜそういうふうになるのかなという素朴な疑問になるのかもしれません。自らの義務を果たしているわけですね。にもかかわらず保証人の弁済があると負けてしまう。現行法がそうだと言われると。 ○深山幹事 今の議論については,現行法上そうなっているというのは,笹井さんが言ったとおりなんですけれども,他方で,実務がそのとおりやっているかというと,そうはしていませんという中井先生が言っていることも事実であり,通常そうだということなんだと思うんです。   それでも,それほど不都合になっているわけでもないという気がしますが,翻って考えると,現行法の規律自体はやはり見直すべきなのではないかという思いで議論を聞いていました。つまり,正に中井先生が言われたように,主債務者がいちいち履行するときに,事後にしろ事前にしろ,保証人に,払いますよとか払いましたよということを言うということは現実的ではないですし,そうしなければ不利益を被るという規律自体が合理的ではないということではないでしょうか。   もちろん一般的には,債権者が二重に弁済を受けるということは余りなくて,遅れたほうの弁済については,いやもうもらっていますよということで断ることが多いから,トラブルになることは少ないのかもしれませんけれども,立て続けに払うということもあるでしょう。連帯債務者間でも同じような問題はありますけれども,とりわけ保証人という本来負担部分のない債務者に対して,100%負担をすべき主債務者が,事前なり事後なりに通知をしないと不利益を被るという規律というのは,やはり合理性がないということを示しているような気がいたします。 ○笹井関係官 先ほどちょっと私,不正確なことを申し上げましたので,訂正しておきますけれども,今の現行法の下では,主債務者が民法463条2項の準用する443条の事後通知をしないと,私は先ほど求償の制限を受けると言いましたが,そうではなくて,保証人が後で善意で支払った場合には,保証人が,自分の事後の弁済が有効であったとみなすので,その結果,主債務者としては一回払ったんだけれども求償に応じないといけないという,そういう不利益があるということです。訂正します。   その上で,ですけれども,今の深山先生の御指摘は,今の463条が443条を準用しているのがおかしいではないかという御指摘だったと思います。   ただ一方で,保証人は保証人として,自分は保証債務を負っているという認識があるので,それについて債権者から請求されたときに,やはり保証人の利益を守る必要というのはあるのではないかとは思うのですが,むしろ,何ら負担部分のない保証人であるからこそ,弁済したことを通知するほうが妥当なのではないかと思うのですけれども,そこは実務的な感覚とはちょっと違うということなのでしょうか。 ○中井委員 事実としてですけれども,5年間の証書貸付があれば,毎月若しくは3か月に1遍ずつ弁済するんですけれども,主債務者は弁済する都度保証人に通知しているかといったら,その実務は全くないと思うんですね。とすれば,全て特約でその通知義務を解除しているのかもしれませんけれども,少なくとも実務的にはそのような処理であろうと思います。 ○笹井関係官 そうすると,二重弁済の防止という点では,保証人の事前の通知で対応するということですか。 ○中井委員 そこと先ほどの議論がつながってくるんですけれども,保証人は払う前に事前に通知をし確認をする,払った後は主債務者に対して事後の通知をする。主債務者は保証人の支払いの有無については事後に必ず確認もできる。常に片面的になる。これは実務的には必ず行われている。保証人は自ら保証を履行するときに,債権者から言われたら言われるがままに払うわけではなくて,必ず主債務者に,主債務者だから,お前払えよというところから始まるわけですけれども,本当に残っているのか確認してから払うでしょうし,支払った後は,求償権を行使しなければならないわけですから,払ったことを通知します。実務的には保証人は,事前にも払うよという通知があり,事後にも払ったよという通知がある。反対に主債務者は,事前に保証人に払うよなんて予告することはあり得ないし,事後に払ったよということを通知することもない。そんな煩雑な実務は行われていない,事実としてはそうだと思います。 ○山野目幹事 主たる債務者による通知なるものの実務はないというふうに中井委員と深山幹事に断定しておっしゃられると,そのこと自体は,いや,そういう実務があるではないかというふうに私が申し上げる資格はありませんけれども,しかし,463条2項の現行規定の趣旨については,そのような実務の有無ということの議論と対話をしてきた実績はないかもしれませんけれども,この規定自体は根拠のあるものとして今までずっと一貫した説明がされてきたものでありますし,加えて,今改めて考えてみましても,463条2項というものは,主たる債務者と保証人になろうとする者との間で結ばれる保証委託契約に基づいて,言わば契約当事者間の信義に照らして生ずる保証委託契約上の,主たる債務者の保証人に対する相手方保護義務の具体的な表現をここに述べているというふうに性格付けることもできるものでありまして,実務がないというお話は分かりましたが,今ここで卒然と463条2項の規定を他の議論と切り離して単純に見直して,この主たる債務者の通知義務を廃止せよという立法をここで決めるという議論に対しては,私はとても怖くて同調することができないという感を抱きます。 ○鎌田部会長 分かりました。   ほかに御意見,いかがでしょうか。 ○中原委員 先ほども若干触れましたけれども,委託を受けない保証人の事前通知の廃止ですけれども,金融界としては,今の実務で特段問題ないと思っていますので,引き続き残していただければと思います。 ○笹井関係官 ここは十分にまだ検討はできていないのですが,松岡先生から今日御提出のありました御意見の中でも,委託を受けない保証人,主債務者の意思に反する保証人の事後通知や事前通知を残すべきであるという御意見があったところです。今日の松岡先生の2ページ目の上のほうですけれども。   ただ,存置した場合にどういう効果を持たせるということを想定されているのでしょうか。中原委員お一人に対して質問しているというよりは,松岡先生の御意見に対するお考えも含めて,御意見を伺いたいと思いますが。 ○中原委員 業務の安定性の確保,取りあえず連絡をしてみて,今の債務の状況がどうなっているのかを債務者に確認するということに意味があると考えています。 ○松本委員 今の御議論とこの前半に行われた連帯債務の通知義務の議論とで,共通しているところがあると思うんです。恐らく,笹井関係官は裁判規範的な形で,これに違反した場合にどういう効果があるかという観点から整理されようとしている。今の場合ですと,違反しようがしまいが,効果は変わりがないではないかという観点からの削除論だと思うんですが,実務家の方々の反応としては,むしろ行為規範的に残すべきであるという,そういう通知をすることによって安定したビジネスができるんだという趣旨で主張されているという印象を受けます。   ということは結局,民法の規範として,裁判規範に純化すべきなのか,それとも行為規範も入れるべきなのかということですが,今回の民法改正では行為規範的なものをいろいろ入れましょうという。従来民法に余りなかったんだけど,入れたほうがいいのではないですかという改正提案が結構あったというふうに認識しておりますので,そうであれば,ここだけ裁判規範的に純化しなくても,弊害がないのであれば,行為規範的な意味で残しておくという選択肢は十分あり得るのではないかと思いますが。 ○笹井関係官 そのときにどういう規定を設けるかということなんですけれども,弁済をしたら通知しなければならないみたいな規定を想定しておられるのか。しかし,行為規範的なものがいっぱい提案されているというのはどの辺を念頭に置かれているのかはよく分かりませんけれども,しかし,何か損害賠償なりなんなりと結び付けられているはずで,こういう行為をしなさいというような規範が提案されているというふうには私は認識していなかったのですけれども。 ○鎌田部会長 松本委員のおっしゃる行為規範的な規定というときには,例えば事前通知の懈怠に対するサンクションはないという,そういうものを念頭に置いているということですか。 ○松本委員 それによって不法行為的な効果が発生し得るようなものの場合と,全くそうでもないものと,両方あると思うんです。確かに民法の場合は不法行為につなぐ趣旨の形のものが恐らく多いんだろうとは思いますが,必ずしも不法行為にならないような場合もあるのではないかと。   行為規範的なものが改正提案にも入っているのではないかというのは私の全くの印象でありますから,個々の条文ごとに精査しないと,そういう断言はできないだろうとは思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。   事務当局から,この辺についての意見を聞いておきたいという部分がほかにありましたら,御指摘を頂ければと思います。 ○笹井関係官 特に無委託保証人の事前通知義務を廃止するかどうかということが問題になりましたけれども,やはり単に行為規範的なものだけを置くことはかなり難しいのではないかなと思いますので,その点は確認しておきたいと思います。つまり,弁済をしたら通知をしなければならないというだけの規定であればかなり難しいのではないかと思います。   そうすると,松岡先生の御意見にもあるような形,存置するようにというふうに書いてあるのですけれども,また,中原委員からもそういった御意見があったところですけれども,その場合にどういう効果を持ったものとして設けるのか。現在通知義務が課されているのだから,今の463条を整合的に説明できるのかどうかはともかくとしても,そこは触らないようにしておくということが念頭に置かれているのか。あるいは事後通知,求償権との関係とは異なる何か別の効果を持つものとして事後通知というものを位置付けるのか。これも松本委員,中原委員だけに対してお尋ねするということではありませんので,もし御意見がありましたら,お伺いできればと思いますが。 ○鎌田部会長 御意見ございますでしょうか。 ○沖野幹事 すみません,私一人が混乱しているかもしれないのですけれども,先ほどの中原委員の御説明は事前通知の話ですよね。それによって,具体的には相殺の抗弁などがあったときに封じておきたいというお話で,今,関係官の御説明は事後通知の問題についてで,何か話が食い違っているかなと思いましたが。 ○笹井関係官 失礼しました。私の言い間違いで,事前通知のことです。事前通知をしてもしなくても求償の範囲には関係がないので,廃止するという考え方に関してですが,弁済する前にはきちんと事前に通知をしなさいという,サンクションのない行為規範としてだけの規定を民法に設けるというのは,とても難しいのではないかと思います。 ○沖野幹事 中原委員のおっしゃったことの繰り返しですけれども,事前通知について,かつ意思に反しないということで,無委託にとどまるという場合であれば,取り分け相殺の抗弁を封じるという点で,求償のところでも意味があるという御説明だろうと思います。   そうしたときに評価としては,元々は事前通知によって,相殺等があれば言えるようにするという債務者の保護なのか,それとも,それをあらかじめ封じることができるようにして,弁済を安定させるという保証人の保護のほうにシフトするのか。取り分けこの場合は無委託ですので,債務者としては知らないところで勝手に保証されているという場合です。他方で,保証人としては保証債務の履行を安定的にやりたい。さらには,必ずしも相殺ということがないとしても,現在の債務状況はどうなのかということを間違いなく確認するために,「いや,私は事前の通知を義務付けられていますから」ということになると,そういうことを言いやすく,情報の提供なども受けやすいという点もあります。ここでの視点は,そういった無委託の保証をどのくらい推進していくことが望ましいのかという観点からの政策論なのかというふうに理解をしましたけれども。 ○笹井関係官 今の沖野先生の御発言ですけれども,無委託保証でも意思に反しない保証人の場合,462条の1項の場合は,事前に通知をしておけば相殺の抗弁は受けないということなのでしょうか。 ○沖野幹事 受けないと理解していたのですが,受けるのでしょうか。 ○笹井関係官 弁済前に,弁済時点の前に反対債権があった場合は,その弁済の当時,利益を受けた限度というのは相殺で免れる分は除かれるので,要するに対抗を受けるというふうに理解していたのですが。そのため,462条1項に2項後段のようなものが要るのではないかという別の論点のほうにつながっていくんですけれども。 ○沖野幹事 その点の理解をもう一回確認します。 ○笹井関係官 私ももう一回確認したいと思います。 ○沖野幹事 462条の1項と2項との対比で逆の読み方をしていたということかもしれません。 ○笹井関係官 いずれにせよ,民法で事前に通知しなさいと書いてあれば情報提供を受けやすいというのはそのとおりだと思うのですけれども,しかし,そのために行為規範的な規定を設けるということなのですか。 ○沖野幹事 どちらがよいのかというのは必ずしも決めかねるところがあります。行為規範的にというか,おっしゃったように,今の点が違わないのだとすると全く効果としては違いがないけれども,そういうことがあることによってより安定しやすいという意味では行為規範的なものだということになると思いますけれども,それを設けるべきかどうかというのは,恐らく二つの話があるのではないかと思います。一般的に,そういうタイプの規定に対してどのような姿勢をとるかという話と,無委託であっても,こういう保証をより積極的に展開していくべきかという二つの問題があって,笹井さんは取り分け前者の観点から,一種の気持ち悪さということを指摘されているんだと思うのですけれども,そこの気持ち悪さ自身は,私自身は,もし後者の観点が非常に強いのであれば,そういう規定というのもあり得るのではないかというふうに一般的には思っています。ただ,その後者のほうの政策的な判断がよろしいのかというのが,ちょっと見極めがつかないところではあります。 ○笹井関係官 無委託保証,無委託であっても保証人になってしまった以上は,事前通知義務があると言って情報提供を求めたときに,主債務者なり何なりが無委託保証人に対して本当に義務付けられることになってよいのかどうか。そこは政策的な判断としても分かれ得るところだと思いますし,そういう意味でも,規定を残しておくことにどういう意味があるのかなと,ちょっと疑問に思う次第ですが。 ○中原委員 実務界の感覚として,現行ある制度をなくすということに対する抵抗感があります。現行制度の下の実務処理を法によって変えることになり,それが上手く対応できるのかということが懸念されるという,不安感が先行しているんだろうと思います。 ○内田委員 今うまくいっている実務で行われている通知というのが,ここでいう通知義務なのかどうかという問題なのだと思います。   沖野幹事が言われたように,コミュニケーションをとって安全な弁済をする。たとえ無委託であれ,きちんと求償できるように,安全な弁済をしたいというのは当然あると思いますから,弁済の前にコミュニケーションを主たる債務者との間でとるということ自体はいいことだと思いますし,その実務自体に対して何ら異議を差し挟もうとするものではないのだと思います。   ただ,それを法律上の義務だというふうに書くかというと,義務と書いても書かなくても求償には一切影響がありませんので,これを法律上の義務と書くのはおかしいのではないかというのがここでの議論なのではないかと思います。 ○鎌田部会長 更に御意見はおありかと思いますけれども,恐縮ですけれども,時間の関係もありますので,頂戴した御意見を踏まえて事務当局で更に検討を詰めさせていただくということで,次に進ませていただきます。   次に,再び部会資料67Aに戻りまして,「第3 債務引受」について,事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 「1 併存的債務引受」では,(4)で,第三者のためにする契約の規律に従うことを確認するための規律を新たに設けること,(6)で,債務者が相殺権,取消権又は解除権を有するときの履行拒絶権を認める規律を新たに設けることの2点で,中間試案を変更しています。(4)は実質を変更するものではありません。(6)を設けることとしたのは,引受人の保護のために,保証と同様の規律を設ける必要があると考えられることを理由とするものです。   「2 免責的債務引受」は,債権者と引受人との合意で成立する免責的債務引受について,債権者による免責の意思表示を要件としていた中間試案を変更し,債権者又は引受人からの債務者に対する通知を効力発生要件とすることを提案しています。これは,債務者が知らない間に債権・債務関係から離脱する事態が生ずることが問題ということであれば,債権者の意思表示まで要求する必要がないのではないかと考えられるからです。   「3 免責的債務引受による引受けの効果」では,(3)の規律を設けることを新たに提案していますが,これは,「1 併存的債務引受」の素案(6)と同じ趣旨に基づくものでございます。   「4 免責的債務引受による担保権等の移転」では,(3)で,免責的債務引受の当事者であった債務者が担保を設定していた場合であっても,担保の移転について,その債務者の承諾を必要とする点,(6)で,民法446条3項と同様の規定,規律を設ける点で,中間試案を変更しています。いずれもパブリック・コメントに寄せられた意見を踏まえて変更を御提案するものです。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。 ○加納関係官 併存的債務引受の,(1)から(6)の今回の御提案は特に意見等はございませんけれども,中間試案の第20の1の注記のところであります。今回のペーパーによりますと,これは規定を設けるのは非常に難しいんだという趣旨の解説がありまして,それは理解できるところでありますけれども,ここはなお検討を要するのではないかというのが私どもの意見でございます。   その理由は,既にあちこちで指摘されておりますとおり,保証人保護の規定の潜脱を防止するという必要性というところでありまして,今回のパブコメの意見を拝見いたしましても,そういった同趣旨の御指摘があるところだと思います。   では,それをどうするかということにつきましては,非常に難しいんだということで,今日の部会資料の34ページから35ページにかけて,保証の規定の準用についてという,6というところでいろいろと書いておられるところではありますけれども,最後から2段落,「以上のほか」というふうに書いてあるように,保証と機能が類似するものとして,併存的債務引受以外にもいろいろあるんだと。それについての規定を設けるのは合理的ではないというところは理解できるところでありまして,かつ,議事録で,かつての第2分科会の議事録などももう一度読み直したりしたんですけれども,要は,債務引受を特出しして何か措置を講ずるというよりは,実質的に保証と見られるものについては,今般,中間試案において提案されている保証人保護の方策というものが適用されるという。明文が難しくても,その解釈はそれを柔軟に導くような規律にするというのがよいのではないかと。先ほど御指摘させていただきました「以上のほか」というふうに,段落の終わりのほうの後段で,また,そういった規律を設けないとしてもという後に,真に保証人保護の規律を及ぼすべき場合は,法形式がこれこれであったったとしても,柔軟な契約の解釈を通じて適切な結論を得るということであって,ここの解釈をいかに確保するかというところが重要ではないかと思うところであります。   そうしますと,具体的にどうするのかということでありまして,やはりこれは,案を何かお示ししなければ,なかなか議論が進まないと思うところでして,今回の債務引受のところというよりは,むしろ今後検討される保証人保護の方策という,第17の6のところでまた申し上げたいなと思っておるのですけれども,中間試案においては,例えば次に掲げる保証契約はうんぬんというふうな書き方をされているわけですけれども,条文の書き方として,そういった保証契約に当たる場合はとか,該当する場合はとか,こういう書き方をしたら,そういった解釈の広がりというのが出てくるのではないかと思いますので,そういった,ちょっと一案にすぎませんけれども,提案をさせていただきたいと。保証契約に当たる場合はというのは,名称のいかんを問わず,これこれの場合はというのを含意するという趣旨なんですけれども,そういうことであれば,その事案において,実質的に保証だというふうなのに当たるかどうかというのを裁判所において適切に判断をして,当たるという場合には,その保護の規律を適用するというふうにしていくという形で,事案に応じた柔軟な解釈適用というのが導かれるのではないかというふうに考えた次第です。   こういった何とかに当たる場合はというふうな書き方をするというのは,ちょっと民法の規定ぶりとしてはいかがかというのは,法制的な観点から検討の必要はあるだろうと思うところでありますが,今回の保証人保護の規定ぶりといいますのは,ちょっと色彩が他の規律とは違う。先ほど行為規範かどうかというふうな議論がございましたけれども,そういった行為規範的な側面もある規律群だと思いますので,そういう規定ぶりというのも許されないわけではないのではないかと思いますので,ちょっと申し上げたいと思います。   また,保証人保護の方策の規定を検討するところで,私どもも検討して申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○山野目幹事 加納関係官が問題としたところについて,私からも意見を申し上げさせていただきます。   第46回会議において意見として述べましたように,債務引受による権利行使をするためには,債権者において,その債務引受の原因を説明する役割を負うべきものであると考えられ,原因の説明がされないのであれば,権利の行使が認められるべきではありませんし,また,原因を説明した結果として,それが保証であるということが露わになるのであれば,その債務引受は保証に関する規律をも遵守したものでなければならないという解釈論が今後確立されていくべきであると考えます。   もとより今申し上げたことは,ここで論じられている立法の論議とは次元を異にし,債務引受の実体的理解と,それを反映した攻撃防御の在り方に関する提言になりますが,そのような法律理論の発展を適切に促すためには,部会資料67A,35ページ13行,今,加納関係官が問題とされた「以上のほか」という言葉で始まる段落の下から3行目のところですが,そこに「真に」という2文字の言葉があるところ,これをやめていただきたいと考えます。このような言葉は殊更に物事を狭く厳格に捉える方向を助長しかねないと感ずるものでありますから,仮に注記の問題について立法上の手当てをしない結論になる際にも,そのことの理由の説明に当たっては,このような論調を避け,今後の御説明の慎重を期していただきたいと望みます。   個人を引受人とする併存的債務引受をする者は,むしろ保証人保護方策に対する脱法を策する者であると,まず疑われても仕方がないくらいの感覚で法律運用に臨むことがよろしいと考えるものですから,そのような観点から,心配なことを指摘させていただきました。 ○中井委員 同じ部分に関することですけれども,加納関係官,そして山野目幹事がおっしゃられた意見に,基本的に,方向性としては賛成をしたい。   ここで(注)の「保証することを主たる目的とする」という考え方については,基準として不明確であるという批判があります。引受人を個人とする考え方については,なぜ個人なのかという批判があります。   そこで,これは前の審議でも出たかと思いますけれども,具体的な負担割合がゼロとなる引受けというのは実質保証とみなすことができるのではないかということで,併存的債務引受契約によって引受人の負担割合がゼロ,場合によっては債務者の負担割合がゼロという引受契約もあり得るのかもしれませんけれども,ゼロというような合意を伴うものについては保証契約の保護を認める,このような規律,若しくは,そういう負担割合がゼロであるものについては主たる目的が保証であるとみなすというような規律,このような形で明確化を図ることができないのか。そのことが,実質的に保証人保護の規律を及ぼすための基準として定められないか,御検討いただけないか。   今の山野目先生の御意見が仮に明文化できないとしても,この一般的な考え方を明確に表明することは,最低限していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかの論点についても。 ○岡委員 今の中井さんの意見の補足でございますが,「みなす」という表現が可能であれば,それを支持したいと思いますが,「みなす」が厳しいとすれば,負担割合がゼロの併存的債務引受については保証と「推定する」というようなことも検討すべきではないかという意見でございます。その場合には,連帯債務についても同じような規定を置くことが考えられると思います。   先ほど問題にされた部会資料の35ページのところで,損失補償契約等もあるではないかということについては,民法に規定のない契約類型については保証類似のものも解釈に委ねればよいのであって,民法の中にある連帯債務と併存的債務引受で保証の潜脱が象徴的というか類型的に予想されるものについて,推定あるいはみなし規定を置くということは,有力な立法手法ではないかというふうに考えます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見。 ○中原委員 保証を潜脱する目的で行われる併存的債務引受や連帯債務を規制することに異論はありません。しかし,併存的引受人や連帯債務者の一方の負担割合がゼロかどうかは債権者には分かりません。債権者の立場としては,併存的債務引受が脱法的であるかが容易に判断できる基準作りをお願いしたいと思います。 ○岡田委員 消費者に関して,保証契約というのすら,まだ十分に自分の置かれた立場というのが理解されていないという現状なのですね。ましてや債務引受というのは,消費者契約ではほとんど見当たらないものですから,その意味で,債務引受が条文化されれば,事業者は,保証契約で保証人保護規定が入った場合にこちらへシフトしていくということは,当然考えられることです。これから法教育を実施したとしても,成人に関しては間に合わないと思います。是非ともこの債務引受に関しては,もう少し消費者がきちんと理解できるようになるまでは,慎重に考えていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 別の点でもよろしいですか。2点あります。   併存的債務引受について,今,保証との関係で幾つか御議論があったわけですけれども,連帯債務との関係がどうなのかというのは,ちょっと分かりにくい感じがします。   中間試案の補足説明では,債務者の債務と引受人の債務は連帯債務になると言っていたわけなんですけれども,今回の御説明,32ページを拝見しますと,「連帯債務の規定に従う」という,ちょっと何か曖昧な書き方になっています。これは判例との関係を意識した記述だと思うんですけれども,かえって分かりにくいのではないかと思います。新たな意味での連帯債務になるとして,443条などを除いて,その規定を適用するというふうにすっきり書くことに問題はあるのだろうかという疑問を持ちました。   ただ,いや,保証の場合もあるんだということであれば,またそれは考慮する必要があるかもしれませんが,いずれにしても,連帯債務の成立要件と効果と,どういう関係に立つのかということは整理しておく必要があると思います。先ほど,連帯債務について,片面的連帯債務もあり得るという御説明がありましたが,それとの関係についても明確にする必要があると思います。   それから,免責的債務引受のほうなんですけれども,今回の新たな御提案で,35ページの(2)で,債権者又は引受人の通知で足りるんだということについてです。これでいいかなという気もするんですけれども,債務者にとっては,引受人は知らない人である場合もあって,不安定な立場に置かれないだろうかという気がします。引受人の通知というのがまた法律上どういう性質のものかということも更に検討する必要があるわけでして,中間試案のように債権者の免責の意思表示というのですと非常に理解しやすいんですけれども,引受人の通知というのを認める必要があるんだろうか。もし引受人がしたければ債権者の代理人として通知すれば足りるのではないかという気もしますので,ここはもう少し検討する必要があるかなと思いました。 ○鎌田部会長 何かコメントありますか。 ○松尾関係官 まず,中田委員から2点,御質問あるいは御意見を頂いた点について,説明したいと思います。   まず,併存的債務引受の素案(1)の説明のところで,連帯債務の規定に従うという書き方をしている趣旨ですけれども,中間試案のときは,これまで一般的な学説や教科書類では,併存的債務引受によって引受人の負担する債務と債務者の負担する債務は,主観的な共同関係の有無によって違いがあり得るという問題はあるとは思いますけれども,いわゆる連帯債務になると説明されていたのだろうと思います。   ただ,今回,素案の(6)を提案したこととも関係するわけですけれども,改めて考えると,引受後に債務者が原契約を解除したときに引受人の債務の帰すうがどうなるかというと,433条は適用されないで,やはり債務者の債務は消滅するけれども,それと同時に引受人の負担していた債務も消滅すると考えるのが一般的なのだろうと思います。そして,433条の適用を受けないということになると,純粋な連帯債務であって,連帯債務の規定が適用されると言い切ってよいのかという点にやや疑問を持っております。そういう趣旨で,今回の説明では,規定に従うという書き方をしたということです。ただ,それ以外に連帯債務との間で何か違いがあるのかというと,433条以外にはないのではないかとも考えておりますし,また,主観的な共同関係の有無について何か考えた結果,このような書き方にしたわけではないということです。   2点目の免責的債務引受の要件として,通知を要求することなんですけれども,ここはやや悩ましい問題だなとは思っております。ただ,こちらも,改めて考えてみると,債権者と引受人との間の合意のみによって免責的債務引受が成立すると言いながら,重ねて,債権者の免責の意思表示がなければ免責の効力が生じないということになると,債権者と引受人との間でした合意の内容が何なのかということが不明確になるのではないかと考えました。債権者と引受人との間で債務者を免責するということまで合意をしているのだから,それに重ねて免責の意思表示というものを要求する必要はないのではないかというふうに考えたということです。   そうすると,債務者の関与のさせ方は,通知でよいということになるわけなんですけれども,通知でよいということになった場合には,引受人からの通知を否定する理由がなくなるのかなと考えております。債権譲渡の通知のように債務者に公示機能としての役割を期待するということであれば,信頼性が高い譲渡人からの通知に限定することにも一定の理由があるように思うのですけれども,免責的債務引受の場合で考えれば,そこまでの必要がないと思われたということと,現行法との比較として,今は通知すらなくても効力が生じてしまうということになるわけですので,引受人からの通知を認めるということがあってもよいのではないかと思っておりまして,ここは,実務的にどういう整理がよいのかということをお伺いしてみたいなと思っているところでございます。   あと,すみません,長くなってしまいますが,せっかくですので,加納関係官や中井先生,岡先生から問題提起あるいは御提案を頂いたことについて,若干発言をしておきたいと思います。   加納関係官からは,今後改めて検討の上,御提案を頂けるということなので,またその際に議論をした方がいいのかも知れませんけれども,お話を伺っていて,やや心配というか疑問を持った点があり,御検討いただきたいと思ったのは,保証の部分で,どういった場合に保証に当たるのかという解釈基準を明らかにするのであれば,それ以外の契約類型についてはなぜそのようなルールを設けられないのか,なぜ保証だけそのような解釈が出てくるのかという点の説明をどうするのだろうかということが分かりませんでした。各種の典型契約などで同じような解釈をなぜしないのか,違うとしてもなぜ規定を設けないのか,そういったところについて,是非御検討の上,教えていただければありがたいと思います。   また,中井先生,岡先生から,引受人の負担割合がゼロの場合に保証とみなす,あるいは保証の規定を準用するという御提案を頂きました。中原委員からは既に御意見を頂きましたし,ほかの方からも御意見を頂きたいと思うのですが,例えば一括決済システムのようにいわゆる決済目的で使われる場合などで,引受人の負担割合あるいは債務者の負担割合がゼロになるということはあるような気がして,このような場合にまで保証とみなすということや,あるいは推定するということが,本当に実務上受け入れられるのかどうなのかというところについては,御意見を伺ってみたいと思っております。 ○加納関係官 御指摘を踏まえて,また私どもも検討させていただきたいと思いますが,典型契約がどうのこうのといいますか,今までの議論を振り返ってみますと,要するに,併存的債務引受のときにどうするかということの議論の収れんとして,実質的に保証と見られる場合に,どういうふうに規律を及ぼすかという形で検討するのが適当ではないというのが,部会及び分科会の議事を拝見しますと,主流ではないかというふうに見受けられましたので,そういうことであれば,実質的な保証という場合が読みやすいような形での規定ぶりというので,先ほど申し上げた次第です。典型契約のほかの場合でどうかというのは,割に議論されていなかったのではないかというふうに認識しておりました。 ○鎌田部会長 ほかに,関連した御意見はございますか。 ○高須幹事 中田先生から御指摘があって,松尾さんから御回答いただいた点なんですが,結局,通知の趣旨を何に基づくものと理解するのかというところが一つあるんだろうと思います。つまり,資料の37ページを読む限りでは,債務者が知らないうちに契約関係から離脱することになるのを防止する趣旨だとあります。もしこのことに徹するのであれば,何らかの形で認識が可能であればいいということになるわけですから,必ずしも認識に至る経緯にこだわる必要はない,引受人からでもいいし,場合によっては,ほかの何らかの手段を通じてでも知ればいいというような解釈の余地も出てくるということなんだろうと思います。   ただ,中田先生に御指摘いただいたように,安定性ということを考えたときに,債権者が言ってくれば,これはまず間違いないねという安心感はある。債務引受という形であるということなんだけれども,引受人から言われたときに,どこまでそれを信用していいのかという問題があって,その通知にもう少し確実性みたいなものを求めるんだとすると,必ずしも何らかの手段で認識すればいいというふうな単純な話ではなくなってしまうと。   債権譲渡も債務引受も制度論でございますから,やはり制度設計をどの程度のものにするかという観点から考えるべきであって,単に通知だからいいとかとそのような話しで自動的に結論が出る問題ではないような気もしますので,使い勝手のいい制度を構築するという観点から考えることが必要なのではないかと思いました。それが1点です。   それからもう1点,その前に議論していた問題です。そこでうまく発言できなかったのですが,先ほど来の保証,併存的債務引受の保証的な場面というようなものを想定したときにどうするかということです。いろいろな意味でここは難しい問題だとは思うんですが,松尾さんから御指摘があった,いろいろな場面がありますよねの中で,債務引受というのは債務の移転というか,債務が移動していく場面でございますから,必ず原因関係がある。これは山野目先生から何度も御指摘いただいているところなんですが,その原因関係があるという点を忘れてはならないのではないか。それはほかの典型契約なんかの場合と,そこはちょっと趣旨が違うわけで,やはりその原因関係が重要である。ややもすると債権譲渡も債務引受も,その場面の局面のみに目を奪われてしまって,何のためになされたのかという視点を失ってしまうということがあるもんですから,そのことを忘れてはならないという観点からの切り口というのは大きな解決の糸口になるのではないか。そのことが改正に当たって十分に分かるような形での提案にすべきではないのかと思います。 ○深山幹事 免責的債務引受の関係ですけれども,中間試案で債権者からの意思表示ということを効力要件にしていたのを,今回,債権者又は引受人からの通知に変えるという点について,二つの問題があって,意思表示なのか,通知なのかという問題と,それと関連して,その主体が債権者のみなのか,引受人も含むのかという問題があります。この二つの問題は,まず前者の問題,つまり,意思表示か通知かということが,ある意味先行する問題なんだと思います。   変えた理由の御説明の中で,免責をする,あるいは免除をするという効果は,債権者と引受人との合意でもう既に生じている,だから,それに重ねて意思表示をする必要があるのかというような御趣旨の説明が松尾さんからあったんですけれども,そこのところが納得がいかないところです。新たな法律関係を発生させるならともかく,既に発生している債権・債務関係を,債務者のあずかり知らないところで,引受人と債権者との合意で消滅させるということは,やはりイレギュラーなことなんだろうと思うんです。もちろん債務免除という一方的な意思表示でもいいんですけれども,何かやはり,そういう債権者から債務者に向けての意思表示であるとか,何か債務者が,その限度であれ,関与する手続を通じて債務が消滅するという効果が生じるというのであれば分かるんですが,そういうものすらなく,債務者から見れば第三者に当たる人と債権者との合意によって免除される,債務が消滅するということが,免責的債務引受という条文を作れば,それで立法によって解決するのかなという疑問があります。   では,通知と意思表示でどれほど違うのかというと,もちろん意思表示だとすれば意思表示に関するもろもろの規定の適用があるということでしょうけれども,実務的には,意思表示をすることと通知をすることと,どれほどの違いがあるのかなという気がしますし,そういう観点からも,中間試案のように意思表示のほうが納得感があるような気がいたします。   債権者の意思に意味を持たせるという意味で,引受人を主体にするのは妥当ではないということにもつながっていきますが,意思表示か通知のところは,やはり意思表示のほうがよろしいのではないかという気がいたします。 ○内田委員 今の深山幹事の御意見に対して,ちょっと意外な感じがしました。   中間試案に至るまでの議論の過程では,免責的債務引受というのは併存的債務引受プラス免除と構成しようという提案がされていたわけですね。それに対して,主として弁護士会の先生方の御意見であったと思いますけれども,それはおかしい,免責的債務引受という合意がなされるのであって,併存的債務引受プラス免除の意思表示というような,そんな分析的なものではないはずだという批判がありました。もっとも,分析的といっても分析しているだけであって,セットにはなってはいたのですけれども,そういうご批判がありましたので,免除の意思表示を概念的にも分離せずに,免責的債務引受の合意というものの中に免除の意思表示も入っているという構成にした上で中間試案ができたわけです。   ところが,そうすると,中間試案の免除の意思表示というのは,リダンダントといいますか,重なっているわけです。免責的債務引受の合意の中に既に債権者による免除の意思表示は含まれているはずなのに,改めて更に免除の意思表示をしなければいけないというのはおかしいだろう。むしろ,意思表示ではなく,免除の意思表示を含む免責的引受の合意がされたことを伝えればいいのではないか,ということでこの通知構成が出てきたのだと思います。   そして伝えるのであれば,これは高須幹事が正におっしゃったとおり,知ればいいわけですから,何も通知に限定する必要はないわけですけれども,しかし,合意の中身を伝えるという形のほうがより確実性があるだろうということで通知を要求した上で,実務的には通知の主体は必ずしも債権者に限定しないほうが使いやすいと思いますし,限定する理由もないように思いますので,そこでこういう提案になったということだと思います。   ですから,ここで更にまた免除の意思表示でなければいけないと言うのは,今までの議論の経緯からすると,逆戻りするような感じがいたします。 ○深山幹事 今の内田先生の御指摘のところについて,私なりの理解を申し上げたいんですが,確かに御説明いただいたように,議論の過程で,併存的債務引受プラス免除というような分析はよろしくないというのは,弁護士会もそうですし,私自身が申し上げたことでもあります。もちろんそのことは十分覚えているわけですけれども,そのことと,つまり,免責的債務引受が併存的債務引受と免除を合体させたものではないという議論と,つい先ほど私が申し上げたことは矛盾していないというふうに私自身は理解をしています。免責的債務引受をするという債権者の意思,あるいは,引受人を含めた当事者の意思というものと,併存的な債務引受をする債権者と引受人の合意,意思表示の内容というのは,それは違うものですよということを前回申し上げたわけで,AプラスBというようなものではなくて,言わばAとBという違うものなのではないですかと指摘しました。したがって,意思表示が欠けたからといって,つまりAプラスBのBが欠けたからといって,Aが残るようなものではないんだということを申し上げたかったわけです。そのことと先ほど申し上げたことは必ずしも矛盾するものではないという気がいたしますけれども。 ○岡委員 先ほどの松尾さんの発言について,二つ発言したいと思います。   まず一つは,保証だけ,なぜ実質的・拡張的に解釈する条文を置くのかという点の理由ですが,これだけ保証人保護の必要性が叫ばれて,書面化だとか,履行請求を制限するだとかの案が検討されているわけです。保証人保護の必要性があるんだということが一番大きな立法事実であり,ほかの契約とは違う条項を置く必要性は,そこに十分認められるだろうと思います。   二つ目に,一括決済システム等に及んでしまうのではないかという点ですが,負担割合ゼロの併存的債務引受が一括決済システムにどう使われているのか,よく存じ上げませんが,基本的に保証人保護の規定を及ばせようとしているのは,その保証人が個人で資力があまりない場合が主眼ですので,一括決済システムにもし適用があるとしても,保証人保護のところで議論されている条文の適用はまずないのではないかと思います。もう少し詳しく検討する必要はあるでしょうけれども,一括決済システムというものが引っ掛かるおそれがあるので,推定あるいはみなし規定を全部置かないほうがいいと,そういう判断にはならないように思いました。 ○鎌田部会長 ほかの点も含めて,御意見があればお出しください。 ○佐成委員 3の免責的債務引受の効果に関して,(1)のところですが,これは中間試案でも(注)が記載されていて,この1というのは設けないという考え方があったところです。今回改めて内部で議論したんですけれども,やはりこの規定を入れることについてはまだ異論があるということです。免責的債務引受の利用場面として,ビジネス上のいろいろな場面を想定しておるわけですけれども,そういった場面でこういう規定を入れることによって,支障を生じるのではないかという懸念がやはりあるというのが一つございます。   それと,部会資料の39ページに書かれてあります趣旨は十分理解できるわけなんですけれども,ここにも書いてあるとおり,(1)の規定というのは,創設的な意味がなくて,飽くまで確認的な規定であるということです。そういうことだとすると,一つの考え方としては,仮に立法したときに,この規定を入れないとしても,免責的債務引受の補足説明なり何なりでこういった趣旨を書けば,それで十分なのではないかということが言えます。あえてこのような規定を明文として置く必要性がどれだけあるのかということについては,まだ異論がありました。   それで,この債務引受というのは,元々は恐らくドイツが基本的に立法として採り入れている国だと思いますけれども,比較法的に見て,ドイツにこういったような確認規定がそもそもあるのかというと,恐らくないのではないかと思います。十分調べたわけではないんですけれども,ないのではないかと思います。そうすると,比較法的に見ても,ちょっと特殊な規定になるのではないかと思います。   他方,フランスなんかを見ますと,フランスでは元々債務引受の明文規定がなくて,解釈論上,セシオン・アンヴィザージェ(Cession envisagée),正確にはセシオン・ドゥ・デット・アンヴィザージェ・イゾレマン(Cession de dette envisagée isolément, Jean Carbonnier)とかトランスポール・ドゥ・デット(Transport de dette),あるいはルプリーズ・ドゥ・デット(Reprise de dette, Philippe Malaurie)というものが説かれ,免責的債務引受はそれらのパルフェ(Parfait)という類型に属するわけです。けれども,いずれも解釈論で書かれていて,そういった文献なんかを見ても,必ずしも求償の部分を論じているというのは余りないようです。むしろ,そういう類型があって,明文規定では認められていないけれども,実務上の工夫としてこういうのがあるよという,そういうような格好になっているわけです。   恐らく日本でも,この免責的債務引受は実務上の工夫として出てきて,それを立法化するということでございますから,更に確認規定まで入れるということについては,やや行き過ぎとまでは申しませんけれども,少し踏み込み過ぎているのではないかという印象を持っております。   ですから,取りあえずは免責的引受の要件立てを明確にしておくということで十分ではないかというのが経済界の現時点での意見でございます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○松尾関係官 今までの御発言について,中身を2点ほど確認させていただきたいと思います。   まず,今,佐成委員からの御意見は,結論としてはよく分かったんですけれども,理由について確認をさせていただければと思います。このような規定を設けるべきでないというのは,そもそも求償権が発生しないという結論自体に違和感というか異論があるということなのか,それとも,そのこと自体は異論はないんだけれども,ただ,ここまで書くべきではないということなのか。先ほど,支障を生じさせる懸念があるという御発言もありましたので,その前提として,どちらの御趣旨かということを是非教えていただければなと思いました。   あともう1点は,先ほどの深山幹事の御発言とも関わるのですけれども,その前に中田委員から,免責の意思表示ということであれば分かりやすいと思うという御趣旨の御発言があったと思います。中田委員はどちらかというと,免責の意思表示を要件としたほうがよいという御意見と承ってよろしいでしょうか。 ○佐成委員 松尾関係官の最初のご質問の点については,私も,免責的債務引受の合意それ自体からは直ちに求償権を帰結しないだろうという,この39ページの説明どおりの理解はしております。一応はそのような理解はしておりますけれども,ただ,実務上,免責的債務引受と言われているものの中にはいろいろなものがあって,それに悪影響を及ぼすのではないかという趣旨でございます。私としては,ここに書かれていることに異論があって,免責的債務引受の合意があれば求償権もあり得るんだと,直接的に出てくるんだと,そういうことまで申し上げているわけではございません。引受者は飽くまで自己の債務を履行しているだけですから,その限度では求償の根拠はないのではないかという理解をしていますし,ここに書かれているものもそれかなと思います。   ただ,解釈論的にはもちろん異論があるようですね。確かに,ここにも書いてあるように,事務管理なり不当利得に基づく求償という考え方はあり得るように思いますけれども,前者の理解を私自身はしているところです。   お答えとしてはそういうことです。 ○中田委員 私は,弁護士会の御意見による中間試案の形成ということについて詳しく覚えていなくて申し訳ないんですが,中間試案の補足説明自体は,内田委員のお話にはありましたけれども,やはり当事者,債権者と引受人の合意プラス意思表示という説明だったというように理解しております。   これは,例えば免除が,仮にですけれども,合意構成になったとすると,やはり債務者との合意が必要になるのではないかと。そうだとすると,単独行為であったとしても意思表示を,独立した要件というのか,それとも,セットとして効力を発生するための一部の要素というのか,分かりませんですけれども,意思表示を求めるという中間試案の説明は,私はそれほど違和感なく理解していたところです。   それを今回変えようということであれば,それはそれで一つの説明はできると思うんですけれども,ただ,実際上の問題として,やはり,見ず知らずの引受人から来た通知によって債務者が本当に安心できるかというと,そうではないのではないかなということは,疑問は持っております。 ○中井委員 免責的債務引受の部分ですけれども,今回の中間試案が出た経緯については,私自身も先ほど内田委員がおっしゃられたとおりであると理解しておりますし,その中間試案の考え方,また,それを若干修正はしておりますけれども,今回の部会資料について,弁護士会としては賛成する立場です。もちろん深山さんのような意見のあることは事実ですが,考え方としては,債権者と引受人が免責的債務引受をしたと,その合意の事実を債務者に伝えるという考え方に,基本的には賛成したいと思っています。   中間試案のときにもこういう考え方でいいとは思っていたんですけれども,免責の意思表示というこの概念が何なのかということが正直よく分からないなと思いながら,まあいいのかと思っていたわけですけれども,これは,免除の意思表示,免除構成は採らないということを意識しながら免責という言葉を使われたのではないか。そうだとすると,その実質は何かといったら,債権者と債務者との間で免責的債務引受をしていますよという事実自体を通知する何物でもないのではないかという理解をしておりましたので,このことが今回の部会資料ではより明確に表現されるようになったと思っておりました。   ただ,弁護士会の中でも,基本方向は賛成をするんですが,債権者又は引受人がいずれも通知できるという点については,異論といいますか違和感の表明があったことは事実で,それは,見ず知らずの引受人から突然通知を受けても,事実の通知だから,それでいいという理解もできるんですけれども,ここは債権者からの通知という構成が素直ではないかという意見が多かったということを御紹介しておきます。 ○鎌田部会長 通知が債務者に到達するまでは引受人に請求できなくて,それは当然だということですか。 ○中井委員 理解としては,そう理解をしておりました。 ○中原委員 引受けの通知の件ですが,銀行取引の分野で免責的債務引受が多く利用されるのは相続の場合です。例えば,債務者について相続が開始すると,借入債務は金銭債務ですから相続人に当然に分割承継されます。しかしながら,共同相続人の一人が債務の全部を引き継ぐケースがあります。典型的な事例としては,亡くなった父親と一緒に事業を行っていた長男が,事業と一緒に借入金を引き継ぐ場合です。しかしながら,共同相続人の一部と連絡が取れないケースもあります。このような場合,債権者又は引受人がその合意があった旨を債務者に通知をしたときに,引受人が債権者に対して債務を負担し,債務者は自己の債務を逃れるものとするという規定になりますと,極めて不安定な状況が続くことが考えられます。したがって,銀行界には,債務者への通知要件そのものをなくしてほしいという声が強くあります。 ○高須幹事 今の中原委員からの危惧といいますかご心配される点に対して,例えば,通知そのものについての一種の到達擬制みたいなものを充実させる。意思表示のところで今現に試みていると思うんですが,それを併せて今回の改正の中でそのような制度を設けるということで回避する,そういう考え方はあり得ませんでしょうか。 ○中原委員 通知の到達擬制が手当てされるのであれば,特段問題ないと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   よろしければ,「第4 契約の成立」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○忍岡関係官 「第4 契約の成立」の「1 申込みと承諾」,42ページですけれども,「1 申込みと承諾」のうち,申込みと承諾に関する規定の前提として,これらが合致して契約が成立するという基本的な原則を明らかにするという点については,中間試案から変更はありません。   これに加えて中間試案では,申込みについて,申込みの内容をどの程度特定すべきかについて定めることとしていました。この点については,パブリック・コメントにおいても異論が多かったわけではありませんが,条文化に向けて,その基準の具体化を検討してみますと,契約の内容のうち,どの範囲が申込みの段階で確定している必要があるかという点については,学説上も確立した考え方があるとは言えず,明確な規律を定立することが困難であると思われます。   他方で,申込みと申込みの誘引という区別が一般的に受け入れられ,裁判例などでもその区別を当然の前提とされている以上は,それを表現する規律があるべきであると考えました。そこで素案では,申込みが,承諾があるという条件の下で,契約の成立という法律効果を生じさせる意思表示である点に着目した定義を設けることとしています。   次の44ページ,「2 承諾の期間の定めのある申込み」で取り上げている改正点は,一つ目は民法第521条に申込みの反対の意思を表示した場合のただし書を設けること,二つ目は民法第522条を削除することであり,これらについて中間試案から大きな変更はありません。   次の46ページ,「3 承諾の期間の定めのない申込み」では,ここで取り上げている改正点は,民法第524条から「隔地者」という文言を削除するとともに,申込者が反対の意思を表示した場合に関するただし書を設けることであり,この部分については中間試案から大きな変更はありません。   中間試案では,これに加えて,3の(2)として承諾適格の存続期間を定めることとしており,パブリック・コメントでも賛成が多かったところではあるのですが,素案ではこれを取り上げていません。中間試案で提示された「申込みの相手方が承諾することはないと合理的に考えられる期間」という文言については,申込みの拘束力の存続期間を定める現行の民法第524条の「相当な期間」という文言と,明確に区別することが困難であると考えられたためです。   次の4番の「対話者間における申込み」,47ページですけれども,ここでは,対話者間で承諾期間の定めのない申込みがされた場合の申込みの撤回の可否や,その効力の存続期間について規律を新設するもので,中間試案から大きな変更はありません。   (1)について,中間試案では,承諾期間の定めの有無に関わらず対話の継続中は申込みの撤回が自由としておりましたけれども,承諾期間の定めがある場合は申込みの撤回権を放棄していると考える余地があり,そのような場合には撤回を認めないほうが合理的であると考えられましたので,素案では,承諾期間の定めがない申込みに限って規律することとしています。このような考え方はパブリック・コメントでも寄せられているところです。   なお,4(2)の規定が実現した場合に,同様の内容を定める商法第507条を削除するべきかについて,御意見がありましたら頂きたいと思います。素案では,商法にある「直ちに」という文言をそのまま用いるのではなくて,一般的な理解に従って「対話が継続している間は」と変えていましたけれども,このような変更を前提としても商法第507条を削除してよいかという点について,お考えを伺いたいと思います。   49ページの「5 申込者の死亡等」ですけれども,ここで取り上げている改正点は大きく分けて三つで,一つ目は,申込みの通知の発信後に申込者の意思能力が喪失した場合や行為能力が制限された場合に,民法第525条の規律の対象として明示すること,二つ目が,申込みの相手方が承諾を発信するまでに申込者の死亡等の事情を知れば,この規律が適用されることとすること,三つ目が,この規律が適用された場合の法的効果を申込みの効力が失われるとすることであって,中間試案から大きな変更はありません。   ただ,中間試案では,これに加えて,承諾者が承諾の通知の発信後に死亡した場合などについて規定を設けることとしていましたが,承諾は,到達さえすれば契約の成立という法律効果が発生する点で,申込みと同視することができず,むしろ,承諾が到達しているにもかかわらず,申込者が承諾者の死亡等を知っているか否かで契約の成立を争うことを認めることは法的安定性を欠くと考えられたため,素案では,この点は定めないこととしています。   6番,51ページですけれども,「契約の成立時期」。ここで取り上げている改正点は,発信主義を定める民法第526条を削除して,契約の成立の場面を含めて到達主義の原則を貫徹させること,及び民法第527条を削除することであり,中間試案から変更はありません。   なお,民法第526条を削除するとしても,契約の成立について当事者間の合意で発信主義とすることができることを明文で定めるべきとする意見も多く寄せられていました。この意見を反映するならば,民法第97条第2項が任意規定であることを定めることになると考えられます。しかし,これについては,現在の第526条第1項についても,到達主義の合意をすることができる点については争いはないということから,到達主義の下で発信主義の合意が可能であることに疑問の余地はなく,特段の規定を設けなくても,この意見のような実務運用が可能であると考えられる一方で,契約の成立の場面以外についても,一律に民法第97条第2項が任意規定であると定めて問題がないかという懸念があるように思います。   最後の「懸賞広告」ですけれども,ここで取り上げている改正点は,一つ目,懸賞広告を知らないで指定行為した者にも報酬を与える義務があることを明らかにすること,二つ目が懸賞広告の効力の存続期間について規定を置くこと,三つ目が,懸賞広告者が報告を撤回できる場合について定めること,最後の四つ目が,元の懸賞広告と異なる方法で撤回をした場合であっても,これを知った者には撤回の効果があることを定めることであって,中間試案から大きな変更はありません。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○安永委員 3の「承諾期間の定めのない申込み」について申し上げたいと思います。   仮に素案のような法改正がなされた場合には,これまでも申し上げてきたように,「労働者は,退職願を提出した後であっても,人事権者がこれを受理するまでは,その退職願を自由に撤回することができる」とする判例が維持できなくなる危険性が高いと考えております。   これに対しては様々な見解,仮に素案のような規定が置かれたとしても,労働契約の終了の申込みには適用されず,従来の判例は維持される,との見解もあろうかと思います。しかし,素案の文言上はその旨が明確となっておりませんので,条文化によっては判例変更がなされる可能性も否定できないのではと懸念しております。  よって,パブコメの速報版にも記載があるように,①申込みの撤回の制限に関する条項の適用対象を契約成立の場面に限定し,合意契約の場面については適用除外とするとか,②の労働契約等の継続性のある契約についての合意解約の申込みに関して,承諾がなされるまでは自由に撤回できる旨の設置を設けるか,③の現行民法第524条を維持するか,そのいずれかを採用していただきたいと考えます。 ○山野目幹事 ただいま安永委員から問題提起を頂きました現民法524条が定める規律は,これを隔地者の間における規律に限定することが合理的であるとは考えられず,申込みの意思表示をした者が反対の意思表示をした場合の扱いを留保した上で,これを隔地者間であるかどうかに関わらず及ぼすという合理化がされなければ,この規定の意義を十分に説明することができないものであります。したがいまして,素案のとおりの規定の見直しがされることが相当であると考えます。   労働契約を終了させる合意の労働者の側からの申込みは,少なくとも使用者が承諾の意思表示をするまでは,撤回が信義に反すると認められる特段の事情がない限り,撤回することができると考えるべきであり,このことは民法524条の規律内容とは別に,労働契約に固有の法理として受容されていくべきものであると考えます。いわゆる大隈鐵工所事件の解決が示唆するように,申込みが隔地者に対してではなく人事に関する権限を有する者との対話でされる場合の解決なども包括的に目指す必要があると考えられるところであり,もしそれへの対処を民法で考えるのであるとするならば,それはここではなく,継続的な契約の終了に関するルールの整備などの中で受け止めることが相当であると考えます。 ○岡関係官 中間試案のときの(注)では524条の現状の規律を維持するという考え方があるという注釈がありましたけれども,今回のこの改正は,もちろん売買契約その他全体の改正でございますので,退職願の撤回で不都合があるかもしれないということで,それだけで現状維持というのは難しいかなというふうに考えております。   他方,中間試案の補足説明では,判例の考え方ですとか,あるいは学説の考え方も紹介していただきながら,今,山野目幹事もおっしゃったような,今回の改正をしても影響はないんだということを述べていただいております。   ただ,今回の素案,資料の関係上,そこまで書けなかっただけかもしれませんけれども,この素案だけですと,そういった退職願の撤回についてどうなるかというのが,今一よく分からないところもございますので,今後の資料,あるいは改正法案の注釈といいますか説明の中には,この中間試案の補足説明のような考え方を示していただいて,これまでと変わりはないんだということを,少なくともきちんと周知する必要があるかなと思っております。   それから,それに関連しまして,今日御欠席されています山川幹事がペーパーを出されております。先ほど私も,ほかの論点を議論されているときにずっと読んでいたんですけれども,これを読んでいますと,ペーパーの後半のほうですけれども,これまでの判例で,使用者が承諾する前であれば撤回ができるというのが一般的な考え方だということですけれども,ただ,隔地者間の合意解約の申込みで撤回を認めた例というのが一つぐらいしかないのではないかということで,これまでの判例で撤回を認めてきたというのは,実は対話者間だから524条は当然適用ないんだということで,もしかしたら,それで撤回を認めてきたのかもしれない。それはちょっとよく分からないんですけれども,山川幹事のこのペーパーですと,雇用の章に524条の特則を設けるか,あるいは,それをやらない場合にあっても,例えばですが,反対の意思を表示したときはこの限りではないということで,撤回を今回の素案でも認めていますが,その反対の意思表示の中に,雇用の合意解約の申込みの場合は,中間試案の補足説明の中にもありますけれども,学説の中にも,この申込みについては黙示的に撤回の事由が留保されていると解するのが妥当だといった学説もございますので,反対の意思を表示したときの中に,そういったことを読み込んではどうかという御提案がなされています。   どういったやり方が妥当かというのは,いろいろ御議論があるかと思いますけれども,いずれにしましても,今の解釈というのが変わらないような形の方向性になるようにお願いしたいと思っております。 ○鎌田部会長 ほかに,524条関連の御意見ございますか。   この点について,事務当局から何かコメントはありますか。 ○忍岡関係官 大分御発言いただいたこととかぶってしまのですが,事務局の考えをまず御紹介します。岡関係官から御指摘があったように,524条の今回の改正では,御指摘のような労働契約の労働者側からの合意解約の申込みに関する事例について,変更がないと考えております。やはりそれは,隔地者か対話者かでこの問題を区別することが合理的ではなくて,裁判例でも一部隔地者についての事例があることから分かるように,裁判例でも対話者か隔地者かということで判断を分けているわけではないと考えています。例えば,メールで合意解約をした場合と口頭でした場合とで扱いを変えるというのは,やはり合理的ではないと思っております。   問題はやはり,幾つか御指摘があったように,524条がなぜ適用されなかったかというその説明の問題であって,ここで解釈を確定できるかどうかはちょっと分かりませんけれども,いずれにしても,524条の今回の提案と御指摘のような問題とは別問題だというふうに考えて今回の提案をしております。今後の説明の中で,その524条の説明の問題には影響がないという考えのところを明らかにするということは検討したいと思います。   加えまして,幾つか新たな御提案として,雇用の部分に規定を新しく設けるであるとか,継続的契約の部分について規定を設けるということも,検討の余地はあるとは思うんですけれども,これまで,労働者側から労働契約の合意解約申込みをした場合という,ある意味特殊な場面について形成されてきた考え方を,簡単に一般化して設けてよいのかというところについては,やはりまだ悩みがありまして,簡単ではないのではないかとも思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかの点についての御意見もお伺いします。 ○中井委員 2点ありまして,まず,3の承諾期間の定めのない申込みについての中間試案では,(2)で,申込みの効力が合理的と考えられる期間が経過したときに効力を失うという提案がなされていたわけですが,これが,(1)にいう「相当な期間の経過」という概念と(2)の「合理的と考えられる期間の経過」という,この概念区分がなかなか困難であるというところから素案では落ちたという御説明です。その理由は分からないわけではないんですけれども,そうだとすると,期間の定めのない申込みが一体いつまで効力を持つのか,結果的には分からないままで,解釈に委ねられるということなのかもしれませんが,果たしてそれが適当なのか。撤回については相当な期間,従来の審議の経過では,効力を失うのはそれより長い一定の期間ということで理解されているだろうと。その理解については一致しているはずで,そういう段階のあることを明らかにすること自体,意味があるのではないかと思います。この「相当な期間」に対して,どのような表現をするのが適当なのかは分かりませんが,(2)の規律を残すということは,分かりやすい民法の観点からも意義があるのではないかと感じている次第です。これが1点目。   2点目は,4の「対話者間における申込み」ですが,承諾期間の定めのない申込みは,対話が継続している間は撤回できる,対話が終了したら申込みの効力は失われる。この規律自体に異論はないわけですが,問題は中間試案から変更した部分です。承諾期間の定めのある申込みを対話者間で行ったときに,撤回できないのか。対話者間であれば,一旦その間に承諾期間の定めのある申込みをしたとしても,対話が継続している間は,例えば期間を更に短くするとか,その対話者間で協議を進める中で変更,場合によっては撤回もあり得ると思うわけです。それを一旦,対話者間で承諾期間の定めのある申込みをしたら,原則として,撤回権を放棄したような,撤回できないと考えるのが果たしていいのか。若干疑問に思うところ,中間試案のほうがよろしいのではないかと考える次第です。 ○鎌田部会長 関連した御意見がありましたらお出しください。   コメントありますか。よろしいですか。 ○忍岡関係官 3の(2)がなくなってしまったことについては,確かに考え方自体についてはかなり一致を見ていて,設けるべきであるというお考えも十分理解できるところではあったんですけれども,やはり申込みの相手方が承諾することはないと合理的に考える期間が,要は何なのかと考えていくと,結局は,普通だったらその期間内に承諾をすることを期待される期間だと考えられ,では,今の524条とどう異なる規定として設けるのかというところがかなり悩ましいということで,法制上,法整備をするのはかなり難しいなではないかというふうに考えた次第です。もし何か,こういう要素,メルクマールで判断すればいいのではないかという御提案がありましたら,是非頂きたいと思います。   四つ目の「対話者間における申込み」の(1)に変更が加わったというところですけれども,こちらも,中井委員の御指摘のような考え方もあるとは思ったのですが,逆に,対話をしている間に,私はもうこれは放棄しませんと明示的に撤回を放棄した場合には,やはり撤回ができないのではないかと考えていくと,どんどん境目があやふやになってゆき,やはり規定として曖昧になるのではないかと考えましたので,今回はこのような提案をしました。その点について何か解決策などがある場合には,また考えたいと思います。 ○中井委員 4の(1)ですけれども,結局,対話が終了した時点における申込みが大事なのではないかという考えを持っているものですから,そういう意見になりました。 ○中田委員 3の元(2)の部分ですけれども,私も中井委員のおっしゃるように,二段階あるということは,示すことができたら示したほうがいいと思います。授業でも,相当期間A,相当期間Bとかいって説明しているところです。懸賞広告については,撤回可能性のある期間と効力存続期間とを区別して規定するということですので,それとのバランスからいっても,やはりこちらも区別できるのではないかと思います。   具体的な規定の仕方なんですけれども,撤回可能性のほうは,発信,承諾が通常なされるのに必要な期間というように,申込みから承諾までに通常要する期間を中心に例示として出し,それに対して効力存続期間のほうは,その取引の内容に鑑みてとか,一般的な取引慣行を考慮してとか,もう少し広い要素が入れられるのではないかと思いました。懸賞広告のほうでは,53ページで,「指定した行為の内容等を考慮して相当な期間」というように書いておられますから,こういうように2種類の相当な期間を,少し要素を書くことによって区別できるかなと思いました。   ほかの点はどうしましょうか。 ○鎌田部会長 どうぞ。 ○中田委員 よろしいですか。1についてでございます。   「申込みと承諾」の冒頭の規定ですが,この規定は,将来非常に大きな意味を持つ規定になるのではないかと思っております。ただ,この規定が一体何を表しているのかというのは必ずしもはっきりしなくて,申込み・承諾・契約という三者の関係を示しているのか,契約の成立時期を示しているのか,それとも契約の成立の態様を示しているのか,どれとも読めるような気がいたします。   説明は専ら申込みの定義に焦点を当てておりますけれども,成立時期についての526条1項と527条を削除するとしますと,この規定が成立時期の原則を定めたという意味が強調されることになるのではないかと思います。そうしますと,526条2項,意思実現の規定は残るわけですので,それとの関係も整理しておく必要があると思います。   それから,契約の態様も定めているとしますと,説明にもありますけれども,練り上げ型を排除するわけではないということを,誤解のないようにしておく必要があると思います。   同じ1について,もう1点ございます。申込みの定義として,「契約の締結を申し入れる意思表示」と,こういう形になっております。この実質には異論ないんですけれども,「締結」という言葉がちょっと引っ掛かります。「締結」という言葉は,締結された時期とか,締結のための費用とか,締結の勧誘とか,事実としての締結行為に着目した用法が多いのではないかと思います。国際的な契約原則などでは,確かにウィーン条約とかユニドロワでは,契約を締結するための申入れというような表現があるんですが,ヨーロッパ契約法原則とか,共通参照枠草案ですとか,共通欧州売買法草案では,もう少し実質的に,承諾されると契約となることが意図されているというような表現になっております。そこで,例えばですけれども,「ある契約を成立させることを申し入れる意思表示」というように,もう少し中身に着目した表現も工夫できるのではないかなと思いました。 ○鎌田部会長 今の点について,事務当局から何か。 ○忍岡関係官 特にありません。 ○鎌田部会長 ほかの御意見をお伺いいたします。先ほどの…… ○神作幹事 先ほど,商法第507条について言及いただきましたので,それについて私の意見を申し上げます。   現行の商法第507条の「直ちに」というのは,正に解説に書いていただいておりますように,対話者間関係の継続する間と一般に解釈されてきましたので,このように文言を端的に修正していただいた上で,民法に移行した場合には,商法第507条に「直ちに」という文言をあえて残す必要はないように思われます。   他方,少し気になりますのは,現在「直ちに」という文言は商法典においていろいろな意味に使われておりまして,例えば商法第526条の2項における「直ちに」というのは,一般に,可及的速やかにという意味であると解されています。そういう意味では,もう既に商法の中で「直ちに」というのは多義的な意味をもつことが認められていて,非常に柔軟に解釈されています。したがいまして,商法第507条の「直ちに」という言葉だけを実質的な意味に即して直したときに,今回の改正がカバーする「直ちに」というのは全て総ざらいして見直すという,そういうことになれば先ほどのような懸念は生じないのですけれども,この条文に実質的に相当する条文における「直ちに」だけ手直しするということになると,他の「直ちに」の解釈に影響を及ぼさないのかという点が気になります。そこはどのような方針なのか,お尋ねさせていただければと存じます。 ○筒井幹事 商法の他の規定をどうするかというお尋ねについては,今の時点で確定的な考え方を持っているわけではありませんので,また別途,ご相談させていただければと思います。   本日の部会資料では,民法において対話者間に関する規定をこのように「対話が継続している間は」という形で設けたときに,商法507条はそれによってカバーされたという理解の下に単純に削除するという規定の整備をすることの当否について,この機会にお尋ねしという趣旨です。念頭にあるのは,専ら商法507条の削除ということです。 ○神作幹事 例えば民法にこの規定を移すときに,「直ちに」という言葉をそのまま残すわけにはまいらないということでしょうか。 ○筒井幹事 最終的にそれがあり得ないと申し上げる段階ではないのですけれども,現時点では,「直ちに」では意味が分かりにくいであろうから,その内容を書き下ろすことを模索しているということだと思います。 ○鎌田部会長 多少外れてしまうところが出てくる可能性は。 ○神作幹事 それはほとんどないとは思うのですけれども,逆に,ほかの条文で「直ちに」と使ってあるところの解釈に影響が及ばないかということを少し心配したのです。現行の商法の下でも,「直ちに」は,先ほど申しましたように,速やかにという意味と,可及的に速やかにという意味,対話者間の関係の継続中という意味など,非常に多様かつ多義的に解釈されてきたと思いますので,そのような中で商法第507条に相当する規定の「直ちに」を修正するとしたら,この改正がほかの条文で用いられている「直ちに」の解釈に影響を及ぼすようなことがないのかという御質問でした。 ○鎌田部会長 商法507条をこのように読み下して民法に持ってきたというよりも,民法で対話者間における承諾期間の定めのない申込みの存続期間に関する定めを置くと,それが商法507条を包摂してしまう関係にあるので507条が最終的に削除されると,そういうふうな考え方を採っている。多分後者のほうだろうと思うんですけれども,そういうことでよろしいでしょうか。 ○忍岡関係官 商法第507条の議論の文献等を見ていますと,「直ちに」は対話が継続している間,と解釈するのであって,しかも,それはもはや民法の商化によって民法に入れて,507条を削除してよいのだとするものがたくさんありましたので,ある意味そのまま持ってくるというようなイメージで資料作成はしていたところです。   ですので,このような御質問になったんですけれども,今回「直ちに」を読み替えて持ってくることによって,ほかの条文に影響が多大であるということであれば,そのまま持ってくるのかどうかということについては,またもう一回考えたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかの点でも,御意見ありますでしょうか。 ○中井委員 5の「申込者の死亡等」に関するところですけれども,これも,中間試案では申込者に係る規律と併せて承諾者に係る規律を設けようとしていたんですけれども,今回の部会資料では申込者に係る規律にとどめたと。その理由が,承諾の場面では到達すれば原則成立して,このような規律を設けることによって契約の成立が不安定になるという御説明だったように思われました。   ただ,そう言ってしまうと,(1)であっても,通知を受けた後,承諾者が承諾書の通知を発してしまっているときに,果たして,承諾時に申込者が意思能力の喪失状況にあったのか,なかったのか,承諾者がそれを知ったのはいつだったのかということが議論になって,不安定という問題は同様に生じるのではないかと思うんです。(1)については乗り越えたけれども,(2)で,承諾者については乗り越えられないという理由が,先ほどの御説明で説得的だったのかどうか。   パブコメを見ましても,この点の中間試案に対しては,ほぼ申込者に関しても承諾者に関しても賛成意見で,若干反対はありますが,取りまとめられているにもかかわらず,なぜかなと思った次第です。 ○忍岡関係官 やはり申込みというのは,申込みが到達しただけ,申込みがあっただけでは,それは契約が成立するかどうかは飽くまで暫定的で,何ら効果が発生していない状態で,通常の申込者の意思であれば,その後に死亡してしまったら,それは効力は有しないというふうに考えるのが普通であろうと考えられます。これに対して,承諾というのは,もう承諾が相手に到達したら,それは契約が成立したというのが,到達主義を採用すればもう確定するのであって,それはやはり,申込みが相手になされたという状態とは大きく違うのではないかと考えてこのような提案になりました。申込みについてもそうなんですが,承諾を発信した後に承諾者が死亡した場合という,余りないような,非常に短い時間の間のことをあえて新しく規定を設けるのかと考えると,同じことを申込みのほうでも言えてしまうんですが,それは今は規定があるのでよいとしても,やや必要性に疑問を感じられたということもあります。 ○中井委員 感想的になりますが,全体的に,現状の法文の言葉を基本的に,可能な限り使おうという考え方,若しくは若干疑義が残る部分については,これまで議論した結果,中間試案として取りまとめたことについても,ある意味で保守的に整理していこうというお考えが,前回の資料,今回の資料でも,見受けられたものですから,先ほどの問題にしても,今の問題についても申し上げた次第です。   今後も,同様の意見を申し上げるかもしれませんけれども,これまでの成果については十分に確認をして取りまとめていただければと思います。 ○鎌田部会長 その点,十分考慮して,この先進めさせていただきたいと思います。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,恐縮です,次に,「第5 第三者のためにする契約」について御審議を頂きます。事務当局からの説明をお願いいたします。 ○松尾関係官 「1 第三者のためにする契約の成立等」は,要約者,諾約者,受益者という用語を用いないこととしたほか,(2)において,契約締結時に受益者が特定している必要はないという判例等で認められたルールを規律することが中間試案からの変更点です。要約者,諾約者,受益者という用語を用いることによって,現状よりも分かりやすいものになるかどうかという問題があろうかと思いますので,この観点から御意見を頂ければ幸いです。   「2 要約者による解除権の行使」については,基本的に中間試案を維持しております。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分につきまして御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○山本(和)幹事 1の(4)についてですけれども,訴訟物とか,あるいは執行方法について,59ページ以下で,一番下のところで論じられていることに特に異論はないのですが,ちょっと1点気になった。   これは中間試案の前の段階で申し上げるべきだったのかもしれないですが,1点気が付いたのは,受益者が先に訴訟を起こしていて,敗訴して,敗訴判決が確定していたという場合でもなお,(4)のような履行請求権が要約者に認められるのかということです。訴訟物は別個だというふうに整理されていますので,既判力は及ばないということはそのとおりだと思うんですが,仮にその履行請求を認めて,要約者の請求は認められたとすると,諾約者は受益者に対して給付すべきことになって,それは強制執行で履行されるということになるんですが,しかし,その給付は諾約者と受益者の間では不当利得になるのではないかという気がするということです。つまり,受益者は既に敗訴しているわけですから,受益者・諾約者間では当該債権は存在しないと,給付請求権は存在しないということは既判力をもって確定されているはずですので,その債務が存在しないにもかかわらず給付しているということになれば,普通に考えれば不当利得になるのではないかと思うわけです。そうすると,この請求というのは結局,もう不当利得になることが明らかであるようなことを履行させる請求ということになるような気がして,そこを認める必要があるのかなということが疑問でした。もしその点について事務当局のほうで何らか御検討があるのであれば,お教えを頂きたいということです。 ○松尾関係官 今のような事例についてどうなるかというのは必ずしも十分に検討していなかったので,一度整理をして,よく考えてみたいと思います。   ただ,やはり訴訟物が別だと整理する以上は,今のような場合には,別途要約者の請求というか,訴訟は別途提起できるというふうに言わざるを得ないような感じはしていて,それを実体法の問題として処理するだけでよいのか,やはり訴訟法の問題として,その前提について別途考え直さなければいけない部分があるのかという問題だと思いますので,また改めて検討して御相談したいと思います。 ○山本(和)幹事 私は,訴訟法上の,つまり訴訟物は別だと整理した以上は,その既判力は相互に無関係だということは多分動かさないという前提になると思うので,やはり実体法上の問題として,例えば(4)にただし書か何かで,もう受益者の請求を認めない判決が確定した場合はこの限りでないとか,その実体法の側で対処していただかざるを得ないのではなかろうかと思っているということです。 ○畑幹事 私も,今の辺りはどうなるのかなということを考えていて,よく分からない,あるいは,定見に至っていないのですが,事務当局の御趣旨とは違うと思うのですが,仮に,要約者の請求を正面から認めるということになれば,例えば保証債務と主債務について反射効という議論がありますけれども,要約者の請求権と受益者の請求権についてそれに類似した議論が出てくる可能性もあるのではないかなという気はしております。いずれにしてもすっきりしないのかもしれないのですが。   それから,もう一つ,これは前にも部会あるいは分科会で申し上げたような気がいたしますが,この場合の要約者の履行請求権の執行方法については,代替執行,又は間接強制という整理をされておりますが,違う考え方もかなり有力ですので,こういうふうに決めてしまって大丈夫かなという気はいたします。 ○鎌田部会長 御指摘いただいた点につきましては,山本幹事,畑幹事のお知恵も借りながら,また事務当局のほうで,説明の仕方の工夫あるいは素案の中に具体的な規定を盛り込む必要性の有無というようなことについて,検討させていただければと思います。ありがとうございます。 ○中井委員 松尾関係官の発言の中にも,言葉遣いについての意見という御発言があったので,それに関して,確認のために教えていただきたいんですけれども,たとえば,538条で「当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない。」とある,この当事者というのは,当事者の一方のことなのか,債務者のことなのか,それとも両者のことなのか。分かりにくい。民法に「以下何々という」という表現がどれほどなじむのかどうか分かりませんが,この(1)でいうならば,「契約により当事者の一方」という後ろに(以下「諾約者」という。),「が第三者に」という後ろに(以下「受益者」という。),一番下の(4)の契約の相手方のところで(以下「要約者」という。),それぞれの言葉はいずれも,諾約者,受益者,要約者とするほうが分かりやすいのではないか。   また,次の2の60ページの表題が「要約者による解除権の行使」となっていますけれども,ここで突然要約者が出るのは恐らく不適当で,それなら1の中で要約者が定義されている必要があるだろう。それは契約の相手方ではないか。ここで要約者に解除権の行使となったときに,538条との関係でいうと,ここは「当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない。」,つまり,受益者の権利が発生したときは,要約者と諾約者の契約で,第三者のためにする契約の内容を変更することはできないという意味ではないか。そうだとすれば,538条の当事者も明確にしたほうが,いずれにしろ全体として分かりやすくならないでしょうか。   そういう意味で,現在,「当事者の一方」という言葉と,「第三者」と,「契約の相手方」という,この三つが登場してきて,それが誰だったかなというのを次のページの絵を見ながら判断しなければいけないわけですけれども,できれば,分かりやすさからすれば,今のようなことを前向きに検討してはいかがかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに,いかがでしょうか。 ○松本委員 今,中井委員がおっしゃった言葉の問題の一種で,最終的にはどうでもいいかもしれないですけれども,57ページの第5の1のところの(1)では,現行法だと「債務者」という言葉が出てきているんですが,それを,「その当事者の一方に対して」というふうに繰り返していることが分かりやすいのかどうかということ。(3)では「その第三者が債務者に対して」というふうに,もう裸で「債務者」という言葉が出てきていますし,(4)でも「債務者に対して」という言葉が出てきているんです。そうすると,(1)だけ「債務者」という言葉を現行法からわざわざ排除して,繰り返しにもかかわらず,「その当事者の一方」というふうに置いていることの意味は何なんだろうかと。どっちにしても法律家は分かりますけれども,言葉をこういうふうに変えることによって何をしようとしているのかというところが,若干分かりにくくなっているのではないかという気がしますが。 ○松尾関係官 まず,中井委員から言及があった538条の当事者なんですけれども,これは要約者と諾約者の双方ということだろうと思います。これを言い換えるかどうかというのは,民法ではほかにも「当事者」という言葉をたくさん使っていて,そういうものを一つ一つ分かりやすくしていくのか,つまり,当事者が何を指すかというのを具体的に書いていくのかという問題にもなりそうな気がするので,そこは慎重に考えなければならないのではないかというふうに,すみません,感想めいた話ですけれども,考えました。   あと,松本委員から御指摘を頂いた1の(1)の「その当事者の一方」という言葉がなぜ「債務者」という言葉から置き換えられて使っているのかというのは,ここは,そういう意図はなかったところですので,訂正をするようにしたいと思っております。基本的には現行法を維持するということが趣旨ですので,「債務者」と言わなければならないところだったと思います。 ○山野目幹事 中井委員の御提案で,言葉遣いについていろいろ引き続き考えてくださいという御提案の方向には賛成でありまして,その上で,中身について感ずるところを申し上げますと,今の松尾関係官のお話と結論は同じですが,1(1)の2回目に出てくる「当事者の一方」を「債務者」に改めることのみでよいのではないだろうかと感じます。最初に出てきた「当事者の一方」の後ろに括弧書きを入れようというのが中井委員の御発言でしたが,ここでは括弧書きを入れることができないと思います。何々「することを約した」というところまで行って初めて何々者という状態になるものですから,そのように考えざるを得ません。細かいことを屁理屈風に言って恐れ入りますが,論理はそうだと思います。   加えて申し上げますと,これは好き好みの問題かもしれませんが,諾約者,要約者という,あの言葉がいいものであろうかということは,やはり少し考えてみることがあってよいかもはれません。中井先生はお好きなのかもしれませんし,法律家は慣れているかもしれませんけれども,国民から見たときに親しみある言葉であると私は感じないものですから,先ほどのところを直せばほどほどのものであろうというふうな,そういう感触を抱く者もいるということを意見として申し上げさせていただきます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について,事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 本日予定していた議事を終えることができましたので,予備日として用意しておりました10月1日には会議を開催しないことにしたいと思います。したがって,次回会議は10月8日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第一会議室でございます。   次回の議題といたしましては,履行請求権等,それから債務不履行による損害賠償,契約の解除,危険負担を予定しております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   お陰さまで予定した項目全部を終了させることができました。委員,幹事の皆様の御協力に心より感謝いたします。どうもありがとうございました。 -了-