法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第1作業分科会(第8回) 第1 日 時  平成25年10月23日(水)  自午前10時00分                         至午前11時56分 第2 場 所  東京地方検察庁刑事部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから,法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会第1作業分科会の第8回会議を開催いたします。 ○井上分科会長 本日は御多用中のところをお集まりいただきましてありがとうございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「会話傍受」及び「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論を,順次行っていきたいと思います。   なお,本日の議論におきましては,あらかじめお申出がありましたので,小坂井幹事に代わって,「会話傍受」については神幹事に,また,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」については青木委員に,それぞれ御出席いただくこととします。また,同様のお申出により,露木幹事に代わって,坂口幹事に御出席いただくことにします。   それでは,本日の配布資料について事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 御説明いたします。配布資料11及び12は,本日議論が予定されている「会話傍受」及び「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」について,「考えられる制度の概要」と「検討課題」を整理したものです。これは,これまでの当分科会での議論を踏まえ,更に具体的な検討を進めることに資するよう,従前の配布資料に,事務当局において加筆,修正を行ったものです。この内容につきましては,各検討事項の議論に際してそれぞれ説明があります。   また,参考資料として,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」に関する参照条文をお配りしております。そのほか,当分科会の第7回会議において坂口幹事から提出のあった「会話傍受」に関する資料及び当分科会の第6回会議において青木委員から提出のあった「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」に関する資料も再配布しております。   資料の御説明は以上です。 ○井上分科会長 それでは,早速,本日の一つ目の検討事項である「会話傍受」についての議論に入りたいと思います。   まず,配布資料11の内容を事務当局の方から説明してもらいます。 ○久田幹事 資料11を御覧ください。これは,当作業分科会の第7回会議での配布資料をベースに,同会議における坂口幹事からの会話傍受の手続のイメージに関する御説明を踏まえつつ,来月予定されております特別部会により具体的な報告をするという観点から,当作業分科会において更に詰めた検討を行うことに資するよう加筆,修正を行ったものです。 ここでは,これまでの資料からの主な変更点を中心に御説明いたします。   まず,「考えられる制度の概要」については,修正した点はありません。   次に,検討課題については,これまでの配布資料の記載を整理し,会話傍受に関する一連の手続に沿って,「1 令状請求の要件」,「2 傍受の実施の開始までの手続」,「3 傍受の実施をしている間の手続」,「4 傍受の実施の終了後の手続」の四つに分けて,これを記載しております。   資料の御説明は以上です。 ○井上分科会長 それでは,検討課題のうち,まず「1」の「令状請求の要件」及び「2」の「傍受の実施の開始までの手続」について,御意見等がありましたら御発言をお願いします。   なお,「考えられる制度の概要」には,会話傍受を行い得る場面として,①から③の場面を記載しておりますが,坂口幹事の提出資料にも区別して記載されていますように,①及び②の場面と③の場面とでは手続等が異なってくる点があると思われますので,その点を念頭に置きつつ御議論いただければと思います。 ○川出幹事 「1 令状請求の要件」の,補充性に加えて緊急性も要件とするかという点についてですが,ここでいう緊急性の内容が何かということにも関わるのですけれども,一般に,緊急性というのは,ある捜査行為を行う必要性があることを前提に,その捜査行為をその時点で行わないと目的を達成できないという意味で使われるのだろうと思います。   そうしますと,例えば,ある捜査行為が行われた段階で,その適法性を判断する際に,広い意味での必要性を基礎付ける一要素として緊急性を考慮するというのは分かるんですが,ここで問題としているのは,そうではなく,法律で,会話傍受という捜査処分を認めるための要件として緊急性を要求するかという話です。この局面で緊急性ということを問題とするとすれば,それは,無令状の処分を認めるかどうかという話であって,そもそも会話傍受という特定の処分自体を認めるための要件として緊急性を問題とするのは,理屈としておかしいと思います。   それから,第4回の作業分科会において,神幹事から,生命や身体への危険が切迫しているような場合に限るといった意味合いで,緊急性を要求すべきだという意見が出されていたと思います。しかし,そのような意味での緊急性というのは,ここで問題としている犯罪捜査のためではなく,犯罪予防のための会話傍受を認める場合に,その要件となる犯罪発生の蓋然性について,犯罪の種類や蓋然性の程度をどのように定めるべきかという問題の中で論じられるべき話ですので,そもそも,問題としている場面がずれていると思います。したがって,緊急性を要件とすることは妥当ではなく,補充性で十分であると思います。 ○井上分科会長 ほかの方はいかがですか。 ○後藤委員 「考えられる制度の概要」の趣旨についての疑問です。①,②,③と挙がっていますね。そして罪名も「2」のところで書き込まれています。これは実際にはこういう場面で使われることになるだろうという予想を示しているものなのか,それとも条文としてこういう絞りで作るということを想定した作りになっているのか,そこはどうですか。 ○久田幹事 第7回会議における坂口幹事からの御説明の場面に沿った形で場面を設定しているものでありますので,条文化については御議論をしていただき,そこでの整理を踏まえて検討するということで考えております。 ○後藤委員 通信傍受のところでも議論になっているように,ピンポイントでこういう場面に絞り込む条文の作り方は,難しそうな気はします。 ○神幹事 私も今の御意見と一緒でして,通信傍受の際にも振り込め詐欺というパターンを念頭にして,適用される場面にきちっとした形の枠組みをはめようとしたけれども,かなり難しいという問題があったと思います。今回の会話傍受の三つの場面についても,「2」の対象犯罪の方でもって,あとは要件でもってという形になった場合に,①,②,③以外のところに広がるという可能性は否定できないと思うのです。何らかの歯止めのようなものがないといけないと考えているのですが,そもそも立法技術的に歯止めが可能なのかどうかということに疑問を持っています。 ○井上分科会長 ③はやや別だと思うのです。③は,今でも,コントロールド・デリバリーに関する規定がありますので,それと結び付ければ技術的にできなくはないと思いますね。 ○神幹事 あともう1点,先ほど川出幹事の方から話があった関係について,第4回会議でも私の方から緊急性の話を申し上げたら,分科会長の方から,それは補充性の中で判断できるのではないかという御意見がありました。その際に生命・身体という形のものを申し上げましたけれども,そういう意味ではなく,会話傍受は通信傍受以上にプライバシー侵害の危険性があると考えるので,その時点で行わなければやれないというような意味での,従来の補充性よりもっとちょっと強い補充性を要件にするという選択肢もあるのではないかなと思います。 ○井上分科会長 川出幹事が言われたことなのですけれども,例えば,屋外での写真撮影についての判例などでも,ある時期までは許容性を認める要件の一つとして緊急性ということを言っていたのですけれども,最近のものは緊急性には言及していないのです。それは補充性の一場面として緊急性という要素があるので,大きなくくりとしては結局,補充性に収斂する。つまり,それをそのときにやらなければ取り返しがつかないとか,証拠が得られないと捉えていると思われるのですね。その前の問題としては,川出幹事が言われたような疑問がやはりある。緊急性というのは,無令状の処分についての要件ですので,令状による場合にも緊急性という要件をかけていくのが適切かどうかという問題はあろうかと思いますね。   ほかの方はいかがでしょうか。 ○坂口幹事 私も川出幹事のお考えとほぼ同じように考えておりまして,緊急性というのは独立の要件として立ててみたところで,その実質においては結局補充性に帰着する問題であろうと思われます。緊急性なるものの概念が今一つよく分かりませんけれども,今その処分をしないと証拠が散逸してしまう危険のようなものであるとするならば,それは今の通信傍受においても補充性の要件の中で考慮されていると思われますので,補充性と別に緊急性という要件を新たに立ててみても余り効果もないでしょうし,無用の混乱を招くだけではないかと思います。 ○井上分科会長 ほかの点でも結構ですので,御意見をいただければと思います。 ○神幹事 これは要件に当たるかどうか分かりませんけれども,①,②,③の場面といった場合に特に①の場合,「振り込め詐欺の拠点となっている」という形のものが何らかの形で要件に入るのか,あるいは令状の審査の際にその部分が拠点であるという形のものが,どういう形で疎明されるのか,その辺りのことのお考えがあればお聞かせいただきたいと思うんですが。 ○坂口幹事 2点目についてですが,これは今でも捜索差押許可状を振り込め詐欺の拠点について出していただくということは,頻繁にあることですので,疎明はそのやり方でできると思います。   すみません,1点目の御質問がよく分からなかったのですが。 ○神幹事 1点目は,要するに振り込め詐欺の拠点という形のもののような限定をされた詐欺が,要件として書き込めるのかどうか,この三つの場面で機能するというものを二つ目の対象犯罪との関係で絞りをかけるようなものが,立法上可能なのかどうかということです。非常に難しい質問なのですが。 ○岩尾幹事 正にそこの点はこれからの議論だと思うんですけれども,この会話傍受の場合には対象犯罪とその場面というのは,リンクして考えざるを得ないのではないか,つまり,通信傍受法の対象犯罪のように個別に対象犯罪を列挙して,場面だけはまた別の令状発付の要件にするというような形にはならないという気はしております。 ○井上分科会長 検討課題「2」のところでも結構ですので,御意見はありませんか。 ○後藤委員 確かに適正さを担保するために立会いは必要だという発想はあると思います。けれども,元々強制処分には権利制約を受ける人に告知して立ち会わせるのが,原型的なやり方です。それができない場合,例えば通信傍受の場合それは性質上できないので,代わりに通信事業者のように関心を持った人に立ち会ってもらうのだと思います。   しかし,会話傍受だと通信事業者に相当するような立会人は考えにくいですね。そうすると全く利害関係のない人を立会人として連れて来ざるを得なくなります。そのイメージがちょっと作りにくいです。実際,今でも捜索に立ち会う人がいないときに消防職員に来てもらうような例がありますね。会話傍受ではいつもそのようなことをしなければならないでしょう。それで立会いの実効性が保てるのかという疑問はあります。私が言いたいのは,立会いは要らないというのではなくて,会話傍受というのは,通信傍受にも増して第三者的な目を入れることが難しい強制処分になるのではないかということです。 ○井上分科会長 その前提として通信傍受の場合,通信事業者というのは権利を侵害・制約される当事者でもあるわけで,その意味もあって立会人の1順位になっている。通話等の当事者に立ち会わせるというのでは,通話はなされなくなってしまい,傍受の意味がなくなってしまいますので,そうなっているのですけれども,通常の捜索差押えの場合は,住居主等がいないときは,地方公共団体の職員や隣人に立ち会ってもらうということになっているのです。そういう通常の捜索差押えの場合の立会いについても,それでは適正さは担保されないというお考えですか。逆に,それで適正さを担保する措置として有効に動いているとすれば,傍受の場合だって同じことが言えるはずですよね,もし立会いというのをどこまでも要求するとしてもですよ。 ○後藤委員 ただ,捜索差押えの場合,地方公共団体職員などは二次的な立会人ですね。本来は処分を受ける人を立ち会わせる。だから住居権者がいればその人に立ち会わせるのが基本形ですね。 ○井上分科会長 しかし,通信傍受の場合は,通信の当事者が立ち会えないという意味では,二次的なものでやらざるを得ないわけでしょう。それでも,立会いの趣旨が手続の公正さを担保するというところに本来あるわけなので,それでよいという考えでできているのです。 ○神幹事 立会いの問題ですけれども,もちろん立会いは通信傍受の場合は,確かに通信事業者もそういう制約を受けるという部分がありますが,実際問題,通信事業者の方の意識として,私どもがこの部会とは別の場所で通信事業者の方と意見交換をした際に,自分たちは通信事業者として通信の秘密を守らなければいけないという観点から,通信傍受について立会い等の協力してきているし,それが国民にも信頼を受けていたはずだというようなことを言っておられました。   そういった意味合いの立会人が今度の会話傍受の場合はないことになります。立会人がいないというのは,ちょっとニュアンスが違う部分がありますが,何度も申し上げているように,通信傍受以上に会話傍受の方がプライバシーの侵害を受ける程度が大きい可能性があるとすれば,やはりそれと同程度以上のものがなければ,なかなかそれは国民の信頼も得られないのではないかなと思っています。 ○井上分科会長 傍受の立会いということで「3」に入ってしまっていますね。「2」は設置についての立会いの問題なので,私もちょっと混乱しましたけれども。 ○後藤委員 状況としては両者に共通しているところがあると思います。 ○井上分科会長 設置の場面と傍受実施の場面とでは,事情は違うかもしれません。 ○岩尾幹事 設置の場面の立会いの点は,むしろ令状の提示の相手方とも関連すると思うんですが,この場面における手続の公正さの担保の一番中核になるのは,令状に書かれた場所にきちんとその装置が設置されているかという点だろうと思うんです。そうすると③のCD型の場合に関して言えば,坂口幹事から御説明があったとおり,税関職員なりあるいは配送業者に立ち会ってもらうということで,きれいに担保できるんだろうと思います。   残りの①と②の場合には,結局そこに装置が設置されたかどうか,更に言うと,記録されるわけですけれども,その記録されたものが,設置された場所にあるその装置から送られてきたものかどうかということをどういう形で担保するかと,そこが解決できればこの問題はクリアできるのではなかろうかと思います。 ○井上分科会長 ほかの方はいかがでしょうか。 ○坂口幹事 私も今,岩尾幹事から御説明があったとおりだと思っておりまして,立会人に何を期待するから立ち会わせるのかということによりますが,正に傍受の実施の開始までの手続において立会人によって担保しなければいけないのは,岩尾幹事が御指摘のとおり正しくその場所に装置が設置がされたということと,そこで行われた会話を傍受しているのだという点であると思われますので,先ほど後藤委員が御指摘になった話とは違う話なのだろうと思っております。 ○井上分科会長 ほかにいかがでしょうか。令状の提示についても御意見があれば。特にございませんか。それでは,御意見もないようですので,次に,「3 傍受の実施をしている間の手続」,「4 傍受の実施の終了後の手続」についての議論を行っていただきたいと思います。いずれの点についてでも結構ですので御意見等のある方は,御発言をお願いします。 ○川出幹事 傍受の実施をしている間の立会いについてですが,前回,坂口幹事からあった御説明では,立会いは,設置の部分だけとなっており,実施している間は立会いはないという形になっています。これは,会話傍受についても,通信傍受について立会人を不要としたのと同じような仕組みで行うという前提なのでしょうか。 ○坂口幹事 そのとおりです。私の前回の御説明はそういうことを想定してのものでありまして,通信傍受については,今回新たに立会人を置かずして適正さを担保するシステムというのを御提案しているところですので,全く同様のことは会話傍受についても可能であろうと思っております。   すなわち犯罪と関係がない会話についてまで捜査機関が傍受をするのではないかという御心配については,これは現行の通信傍受においても立会人にそこが期待されているわけではないので,つまり立会人は通信傍受をしている内容を聞いているわけではないので,立会人にそれを求めるというのは現行法とも整合しないということからすれば,川出幹事が御指摘したとおりに考えております。 ○神幹事 今の御意見ですと立会人が要らないという形なのですが,通信傍受の際にも申し上げましたけれども,誰かほかの第三者が見ているという状況は,ある意味で捜査機関に対する抑止力になるだろうと思うので,本来的には立会いは要るのではないかと思っています。 ○井上分科会長 そのときも申し上げましたけれども,それは神幹事の御意見であって,現行の制度がそういう趣旨でできているというものでは必ずしもないと思います。いかがでしょうか。 ○坂口幹事 今の神幹事の御指摘なのですが,抑止力というのが私にはぴんとこないので,もう少し御説明いただけたらと思います。 ○神幹事 人間というのは,そばに全くその当事者と関係のない第三者がいるところでは悪いことができないだろうということです。要するに警察に全てを任せ切りにするのではなくて誰かが見ているということが,悪いことはできないねという形で,どこか心にそういうものがあって抑止力が働くのではないかなと,こういう趣旨で申し上げています。 ○坂口幹事 分かりました。そういう御心配であれば,現状を御説明しますと,現行法の下における通信傍受においても,捜査員は非常に緊張した状態でやっております。というのは,原記録が全部残って,それを裁判所にお届けしているわけでありますので,事後的に検証されるということは強く意識してやっております。犯罪に関連する会話なのかどうかということについての判断というのも,極めて緊張して,極めて慎重にかつ厳格に行っているというのが実情であります。現に傍らに誰か人間がいるかどうかということと関わりなく,現状でも既に御心配の点は十分手当てされているということを,御説明させていただきたいと思います。 ○井上分科会長 ほかの方はいかがでしょうか。 ○岩尾幹事 スポット傍受の方法とそもそもの要否についてなのですが,先ほどそもそも論としてこの三つの場面に限定するという立法技術的な話がございましたけれども,仮に,法律の規定として,その三つの場面に限定できたということを想定した場合に,本当に通信傍受と同様のスポット傍受の必要性があるんだろうか,この場面の限定によって犯罪に関連する会話が行われる蓋然性は極めて高くて,かつ犯罪に関連しない会話が行われる蓋然性が極めて低いと言えるかどうかというところを,検討しなければいけないんだろうと思います。   特にCDの場面で考えると,そもそも傍受している時間というのは非常に短いんだろうと思います。そもそも,傍受の開始時期は配送の直前ですし,通常,家人がいた場合にはその荷物は,比較的短時間であけられると思われます。そうすると,あけてしまえば基本的にはすぐに傍受は終了するということになろうと思います。荷物の中に傍受装置が入っていることも分かりますし,正にそこの段階で,現行法下のCDの場合も直ちに捜索差押えの手続を開始しますから,基本的には傍受装置を仕組んだ場合も同じようになると考えられます。そういった通常想定される傍受の時間というのは極めて短時間であり,かつそこの中に麻薬なりが入っている,そういった現物が入っている近くで行われる会話というのは,相当程度犯罪に関連する会話に限られるんではなかろうかというように思われることから,特に「3」の類型を考えるとそもそもスポット傍受というのは,必要があるんだろうかという気はします。   ただ,仮になかなか開披されなくて,それが通常想定される時間よりも更に長時間に及んだ場合は,どうするかという問題はあろうかと思いますが,その点,坂口幹事が前回説明されたように,ある一定時間過ぎたときには時間単位で,何時間置きか何分置きか分かりませんけれども,一定時間経過した段階でオン・オフを繰り返すというような形ぐらいが,考えられるのかなと思います。 ○井上分科会長 これは次の「○」の期間とか時間とも相関する問題で,私も論究したことがあるのですけれども,スポット傍受というのは該当性判断のための傍受についてのミニマイゼーション(最小化)の一つの方法,一つの形にしか過ぎません。アメリカなどでも,スポット傍受というものを要求しているところからそうではないところまでいろいろあって,例えば,対象となる場所の性質とか予想される会話,通話の時間帯とかそこに登場するであろう人物とかを絞り込むことにより最小化を図っているところもあるわけです。ですから,そこのところは,機能的にスポット傍受と同程度の最小化が確保できればその要求は満たされると思いますから,時間とか期間とか,あるいは機械的な装置でどこまで絞り込めるのかと,そういうことを視野に入れて議論していただければと思います。   ほかに「3」,「4」も視野に入っていますので,この辺について御意見があれば出しておいていただきたいと思います。 ○後藤委員 今,議論になった点で,場所の限定によって,そこで話される会話は全て被疑事件に関係するとまで言えるか,そこまでの絞り込みができるかという疑問があります。会話が傍受される場所は日常生活が行われる場所でもあるので,全てが捜査対象の犯罪に関する会話になるという保証はできないと思います。傍受の場所や時間,時間を限定するとしても,やはり傍受対象とすべき会話の選別が必要になるだろうと思います。   しかし,そのやり方が実際には難しそうです。捜査対象の犯罪に関係するどうかの判断自体についても,例えば誰がそこに来て会話しているかという情報自体も,実は捜査官としては知りたいかもしれない。つまり会話の中身が直接犯罪には関係していなくても,ある人がそこに来て話をしていること自体を重要な情報として捜査官としては知りたいということもあり得るでしょう。それが被疑事実に関係あることになるのかどうかも難しい問題になると思います。 ○井上分科会長 通信傍受の場合は,「当該犯罪の実行に関連する事項を内容とする」というふうに会話の中身により範囲の限定をしているわけです,傍受法自体において。それと同じような絞り込みをすれば,それに該当するかどうかの判断をするのに必要な限りでは,該当しないものまで聞かれてしまう可能性はありますけれども,それ以上は,該当しなければ傍受を続けられないという点で通信傍受の場合と基本的に同じことになると思います。 ○川出幹事 前回の坂口幹事の御説明ですと,会話傍受のスポット傍受は,通信傍受の場合と違って,時間単位で行うしかないだろうということだったんですが,ただ,先ほど岩尾幹事から御指摘があったように,ここで想定されている振り込め詐欺の拠点となっている事務所とか,対立抗争時における暴力団事務所などは,関係する会話がされる可能性がかなり高いわけですね。そうなると,スポット傍受をする際に,余り時間を空けてしまうと,その間に関係する会話がされてしまう可能性が高いので,かなり短時間で繰り返すようなスポット傍受になるのかなという気がするのですが,そこは,どのようなイメージのものを考えておられるんでしょうか。 ○坂口幹事 場面についてのイメージが恐らく共有されていない感じがいたしますので,もう1回説明させていただきます。私どもで今想定しているのは,配布資料で言うと①の振り込め詐欺の拠点ですけれども,ここはおよそ私生活が営まれるような場所ではありません。犯罪の実行行為だけが行われる場所であると言ってもよいと思います。実際に会話傍受の装置を仕掛けた場合には犯人というのは,だましの電話を一日中ずっとかけ続けているわけですから,何百人もの人に対して,ずっと犯行に関係する会話が行われ続けるということになりますので,スポット傍受というものを設けたとしても,結果的にはずっと聞きっ放しの状態になるのではないかと思います。私どもがイメージしている①というのはそういう場所です。   ②の方ですけれども,これは対立抗争の場合の事務所ですから,本当に次々と人が撃たれるなり火をつけられるなりしている状態にあるときの,暴力団の事務所ということであります。これもまた私生活うんぬんという場所ではなく,犯罪に関連する,あるいは犯罪の準備なり証拠隠滅なりそういうことが謀議される,正にそういう場所であるというイメージです。   ③については先ほど岩尾幹事がおっしゃったとおりで,現行犯状態にあって,拾われる会話というのも非常に限定されるような場所ですので,少し後藤委員が思っておられるイメージは私どもが考えているものよりも広過ぎるというか,そこまでを私どもも望んでいるわけではないという感じでございます。   それと川出幹事の御指摘ですけれども,大変難しいところがありまして,会話傍受をする場合には,当然,対象施設に対して人の出入りも同時に見ていることになりますので,どういう人物がどのぐらい出入りしてどういう状況なのか,また時間帯など,そういうものを考え合わせながら,スポット傍受をするとすれば極力関係のない会話が紛れ込まないようにしつつ,しかし,捜査上は有効なものが採取できるような時間の設定というのをさせていただき,その時間設定の在り方については事後的に裁判所に,それでよかったのかどうかということも含めて検証していただくという制度になるのではないかと思います。 ○井上分科会長 ほかの方はいかがでしょうか。「4」については全く御意見が出ていないのですけれども,考えられる制度として部会の方に報告するとすれば,やはりこの点についても御議論いただいておいた方が良いと思います。 ○神幹事 事後通知の相手方というのが「管理者等」と書かれていますけれども,具体的にはどういうものが想定されるのでしょうか。 ○井上分科会長 「等」の中身ですか。管理者は分かりますよね。 ○神幹事 もちろんです。 ○岩尾幹事 管理者以外で想定されるのは,正に会話の当事者ということになると思います。仮に事後通知の対象者を法律上規定した場合には,その者を特定することができなかった場合の規定というのは,今の通信傍受法にもありますように,そういう規定は当然用意せざるを得ないと考えられます。そうすると会話の当事者を名宛人として事後通知の対象に書いてしまうと,かえって事後通知をする場面というのがほとんどなくなってしまうのではないかと思います。要は場所の管理者が会話の当事者になっているとするならば,それは場所の管理者に対する通知で足りるわけですから,管理者以外の会話の当事者まで特定しようとするとなかなか難しくなって,むしろ会話の当事者を対象とするよりは場所や物の管理者を対象とした方が,実質,事後通知の実効性は上がるのではなかろうかという気はしております。 ○坂口幹事 私も岩尾幹事がおっしゃったとおりだと思います。通信傍受の場合は電話番号という手掛かりがありますので,事後的に通信の主体が誰だったのかというのを追跡するということもできます。しかし,会話傍受の場合は,そういう手掛かりになるものがありませんので,会話の主体が誰であったのかというのを事後的に特定追跡するということは,相当困難だと思います。となると,制度として設けたとしても実質的には空振りしてしまう場合が多いだろうと思われます。   それと封印についてですが,封印を必要とするかという問題設定自体が,私は余りぴんときていません。これは立会人を置いて封印をするというイメージなのでしょうか。そうであるとすると私どもは立会人を置かなくても適正さは確保できると考えておりますので,封印も当然必要ないということになるのではないかと思います。 ○後藤委員 「考えられる制度の概要」の「4」の部分で立入りについて令状発付の際,裁判官の許可を受けるという構想ですね。この許可を受けるというのは具体的には,令状に立入り許可を付記してもらうといったイメージでしょうか。 ○井上分科会長 「4」の「裁判官の許可を受けなければならない」というのは,形としてはどうなるのか,令状にそれを付記するのかという御質問ですか。 ○後藤委員 立入りのための独自な令状を出すという想定ではないですね。 ○井上分科会長 「令状発付の際」とされていますから,独自の令状を出すわけではなく令状に何らかの付記をするということではないでしょうか。 ○後藤委員 令状に付記するような形式を想定しているのでしょうね。 ○久田幹事 そうですね。 ○上冨幹事 具体的なやり方がほかにもあるかもしれませんけれども,一つの典型的なやり方としては,今,後藤委員がおっしゃったように,令状に条件ないしここまでできるということを付記するということが,考えられるのではないかと思います。 ○井上分科会長 その建物の中で傍受をすることを許可するないしその授権をするのであるから,そこに立ち入って装置を設置することも当然そこに含まれているという考え方もあり得るとは思います。捜索だって,その家の中を捜索するときに立入りしてよいよとは書かない。書かなくても許可ないし授権の中に含まれているということなので,そういう考え方もあり得るだろうとは思いますけれども,書いていけないということではないし,そこのところが特に重要であるとすれば,明記することを必要的にするのが適切だろうと思いますね。 ○後藤委員 実際にどんな装置を使うかにもよると思いますけれども,取り付けるために立ち入る必要がある場合とない場合とがあると思います。だから傍受をしてよいという令状が当然に装置設置のための立入りを許しているという解釈は,難しいでしょう。 ○井上分科会長 その場所の性質にもよるのですけれども,そういうふうに読み込める場合もあるので特に必要としないのかもしれないけれども,両方の場合があるとすれば必ず書くということでよいのではないのかという,そういう整理なのですけれども。 ○神幹事 実際,裁判所に送られた原記録については,何時何分から何時何分までが傍受されているというものは明記されるのですか。ちょっと実務上のことが分からないので伺うのですが。何月何日の何時何分から何時何分まで傍受されているというのは分かるようになっているのでしょうか。 ○坂口幹事 分かります。 ○神幹事 そうすると事後通知した場合,通知を受けた当事者は自分が会話をしていた時間帯だということが分かり,不服申立てなりなんなりの手段を採ることができるということになりますね,しかし,管理者の方から連絡があればいいのですが,管理者から連絡がなければ,それはそのまま分からないままになってしまうという意味では,通信傍受以上に不服申立てなりいろいろな形の手順を踏むということが難しくなるということが,想定されるような気がするのです。   何が言いたいかというと,通信傍受の際にも申し上げたように,事後的に第三者機関が設置するようなものがなければいけないのではないかということを,意見として言いたかったものですから。 ○坂口幹事 スポット傍受のところの話に戻って恐縮なのですけれども,神幹事からこの点についての御意見がなかったように思いますが,もし可能であれば今,どんなお考えか聞かせていただければ有り難いです。 ○神幹事 通信傍受では,現在行われているスポット傍受が今後機械的にできるようになっているということで,その仕組みが会話傍受の場合もそのまま移行するのであれば,いわゆる時間的な形でオフ・オンがきちんとされるという意味合いでは,それは分からないでもないです。それでも,スポット傍受というのは必要なのかなと思っています。   先ほど申し上げたように,その仕組み自体が恐らくどこかでいじられて動かされたりなんかしないという形のものが,きっちりと言えるのか言えないのかというところは,はっきり言ってまだよく分からないです。前にもお話ししたように,一般論としては,通信傍受の機器と同様に,その機器が適正なものかどうかというところで判断せざるを得ないのかなとは思っていますけれども。 ○井上分科会長 髙橋幹事,何か全体を通じて御意見を。 ○髙橋幹事 いいえ,特に。 ○神幹事 もう1点いいですか。通信傍受については,他人の通信傍受をしてはいけないという通信事業法とかいろいろな形での処罰規定があるのですが,会話傍受については,街にいろいろな形の傍受機器が売られていて会話傍受ができるようになっています。私人間の中でも会話傍受がやられているという実情を野放しのままで,捜査手段としての会話傍受をやるのでしょうか。かつて井上分科会長の著書の中に,会話傍受についても刑罰をもってこれを一般的に禁止する規定のようなものがあって,その上で,その例外として,法定手続による会話傍受を許すというやり方があるということが書かれていたものですから,そのことについてお聞きしたいのですが。 ○井上分科会長 諸外国の法制がそうなっているので,そういうことを考えるのが妥当かもしれないという趣旨でしたが,不可欠だとまでしたものではありません。ただ,実体刑法の問題として見た場合,通信の場合はそういう処罰規定を作るのは比較的し易く,現にこれまでもあったわけですが,口頭の会話となると,かなり難しい面も出てくるように思っています。   ほかの方はいかがでしょうか。よろしいですか。   では,会話傍受についての議論は,ひとまずここまでとさせていただきます。ここで休憩とさせていただきたいと思います。           (休     憩) ○井上分科会長 それでは,再開いたします。   次に,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」についての議論に入りたいと思います。   まずは,配布資料12の内容を事務当局の方から説明していただきます。 ○保坂幹事 資料12を御覧ください。これは,当分科会の第6回会議における配布資料をベースとして,来月予定されている特別部会に具体的な報告をするという観点から,当分科会で更に詰めた検討を行っておく必要があると思われる点などについて,具体的な検討に資するように事務当局においてで加筆,修正を行ったものです。これまでの資料からの主な変更点を御説明します。   まず初めに制度概要の「第1」についてですが,制度概要の方で,これまでの資料では,中間処分の内容である遵守事項について,「3」の「(1)」において「罪証隠滅又は逃亡の防止を図るために必要な一定の事項」と記載しておりましたが,より具体的に御検討いただくために,「(1)」から「(3)」までにおいて,遵守事項の内容やその手続を記載いたしました。   遵守事項については,中間処分に付されている全ての被疑者が遵守すべき一般的な事項と,個々の事案ごとに必要に応じて定めれば足りる個別的な事項とがあり得ると考えられることから,これらを分けて記載することとし,前者の一般的な事項を「(1)」,後者の個別的な事項を「(3)」にそれぞれ記載しております。   前者の「(1)」については,被疑者の所在の把握等に必要となる事項である「ア」,「イ」のほかに,「ウ」において,取調べのための出頭に応じることと記載しております。また,後者の「(3)」の「ア」から「エ」までは,遵守事項として定めることが考えられる項目を類型化して記載しているものであり,個別の事案における証拠関係などに応じて,これらの項目につき,より具体的な内容を遵守事項として定めることとしています。   続いて,検討課題については,「5 中間処分の内容」において,先ほど申し上げたように,制度概要をより具体的にしたことの関係で,「全ての対象者が遵守すべき事項としてどのようなものが考えられるか。」,「個々の対象者ごとに必要に応じて定める遵守事項の類型としてどのようなものが考えられるか。」としており,制度概要案に掲げた事項の当否や,それ以外の遵守事項が考えられるかについて,御検討いただければと思います。   なお,この「5」の「中間処分の内容」と「6」の「勾留への移行」は,相互に関連するものであり,制度概要の「4(1)イ」において,「3(1)」の「遵守事項に違反したとき」を引致・移行事由として挙げております。「3(1)」の「遵守事項」は,「ア」,「イ」,「ウ」に掲げる事項と,「3(3)」で定められる「遵守すべき特別の事項」とを指すこととしており,いずれの違反も,「4(1)イ」の「違反したとき」に該当することとしております。   続きまして,「第2」について御説明をいたします。この検討事項については,「考えられる規定の概要」の「1」と「2」のいずれに関しても,当分科会の第6回会議において青木委員から更に御提案がありましたので,それらをそれぞれA-2案として記載しました。   A-1案は,当分科会の第1回会議において青木委員から御提案があった従前のA案です。また,B案は,A案に関する御議論等を踏まえて比較対照用にお示ししたものであり,いずれも内容に変更はありません。   検討課題については,特段の変更点はありませんが,「考えられる規定の概要」の「1」と「2」のいずれについても,三つの案を比較対照しつつ,御議論いただければと思います。   資料の御説明は以上です。 ○井上分科会長 それでは,まず「第1 勾留と在宅の間の中間的な処分」についての議論を行いたいと思います。   この検討事項につきましては,これまで議論を重ねてきましたけれども,現状認識の違いもあって,なお意見の隔たりが残っているところです。特別部会への報告を念頭に置きますと,検討課題の中でも「5 中間処分の内容」,つまり取調べへの出頭ということも含めて,中間処分に付された被疑者にどのような事項を義務付けることとするのか,担保措置としてどのようなものを設けるかといった点について,更に詰めた議論を行っておく必要があると思われます。   本日は,この点に関する議論を中心としつつ,併せて他の検討課題についても議論を行うという形で議論を行っていきたいと思います。   それでは,御意見等ございましたら,御発言をお願いします。 ○青木委員 質問なんですけれども,「3」の「(1)」の「ウ」,恐らく一番問題のところだろうと思いますが,ここで「第198条第1項本文の規定により出頭を求められたときは,正当な理由がある場合を除き,これに応じること」ということになっていますので,出頭義務が課されるということになるんだろうと思いますが,198条ただし書の関係で,逮捕又は勾留されている場合を除いては出頭後いつでも退去することができるという規定になっていますので,これで出頭義務を課せられたとしても,出頭後いつでも退去することができるということになるという読み方でよろしいのでしょうかというのが,質問の第1点です。 ○井上分科会長 今の点から,まず答えていただけますか。 ○保坂幹事 そこも御議論があるところだと思います。少なくとも198条1項ただし書によると,身柄拘束されていないと出頭もしなくてよいかのようになっていますが,他方で「3」の「(1)」の「ウ」においては,出頭を義務付けるわけですので,更にこの198条1項ただし書を塗り替えるような規定まで設けるのか,それともあえてそうしないでおくのかというところも,一つの論点だと思いますので御議論いただければと思います。 ○青木委員 では,もう一つ質問ですけれども,「正当な理由がある場合」というその「正当な理由」というのは,どんなものが想定されているんでしょうか。 ○保坂幹事 その点も義務としてどういうものを考えるかにもよるかと思うのですけれども,今でも保釈の取消事由の中に,「正当な理由がなく出頭しないとき」というのがあって,それと同様なところが一つ考えられるのかなと思っておりますが,義務の意味合いも違うでしょうし,どこまでの義務にするかがまず前提になるかと思いますので,その点も踏まえて御議論いただければと思います。 ○青木委員 では,質問だけ先によろしいですか。今のところではなくて「3」の「(3)」の「ウ」ですけれども,「裁判官が指定する期間ごとに,裁判官が指定する検察庁,警察署その他の官公署に出頭すること」というのがあるんですが,ここで「検察庁,警察署」というのは単なる例示なんでしょうか。それと「その他の官公署」というのはどんなところが想定されているのかということについてですが。 ○保坂幹事 この規定の趣旨としては要するに中間処分に付された被疑者が定期的にきちんと所在が確認されるようなところに来ることによって,言わば逃亡していないということを確認するということですので,通常は捜査も並行してやっているわけですから,捜査機関というところは考えられるわけでしょうが,それ以外のところでも出頭しているということが,つまり逃げてはいないということが確認できるような機関があれば,それは排除されないというほどの意味でございます。また,警察以外にもほかの特別司法警察員の人たちが捜査をしているということもあるでしょうから,そういったところも対象になるのではないかなと考えております。 ○青木委員 趣旨としては,確かにいますよと,そこにいますよということの確認ということでよろしいわけですか。 ○保坂幹事 この「3」の「(3)」の「ウ」に関してはそういう趣旨での出頭です。 ○井上分科会長 「3」の「(1)」の「ウ」とは目的が違う,逃亡していないことを確認するためということでしょう。 ○保坂幹事 はい。 ○青木委員 単純な質問としては以上です。 ○後藤委員 趣旨の確認のための質問をよろしいですか。今の制度概要の作りでは,遵守義務違反が,当然に勾留への移行の理由になると考えているのでしょうか。それとも,そうではなくて,義務違反は言わば勾留の必要性の徴憑であって,本当に勾留が必要かどうかはその上で更に判断するという理解でしょうか。 ○井上分科会長 それは,「4」の「(2)」の解釈になりますね。 ○保坂幹事 元々の出発点がその勾留の理由がある被疑者,つまり罪証隠滅・逃亡のおそれを疑うに足りる相当な理由がある被疑者が中間処分の対象であるというのがまず出発点にあります。それで被疑者が中間処分に付されました,遵守事項を定めたのにそれを守らなかったということですので,そういう意味ではそれ自体として勾留の理由があるというか,勾留の方に移行していく事由に該当するということになります。ただ,いずれにしても,「4」の「(2)」は「勾留することができる」という規定ですので,必ずしなければいけないという別に義務があるわけでも何でもないので,そういう意味では該当する事由としては,遵守事項違反があれば勾留への移行なり引致なりができるということにはなると考えております。 ○後藤委員 そうすると,理屈っぽく詰めていくと,例えば取調べのための出頭要請に応じなかった,けれども,逃亡とか罪証隠滅の可能性が新たに生じているとは認定できないという場合でも,勾留への移行ができることになるのでしょうか。 ○井上分科会長 まず趣旨についてお答えいただけますか。 ○保坂幹事 それは多分取調べへの出頭をしなかったということの意味合いを,どう考えるかということだと思います。つまり,何のために出頭を義務付けるのかということにも関わってきて,この制度を動かすためには,きちっと法定の期間内に,必ず被疑者が取調べに出頭するという法的な保証があるということに意味合いがあるとすれば,それを守らないということは,つまりこの制度として機能しないということになるわけですので,そうだとすれば,それ自体として引致なり勾留への移行事由になるとも考えられましょうし,そうではないという趣旨ですけれども,実質的に罪証隠滅や逃亡のおそれを徴憑する場合に限るとするかどうかについては御議論ですけれども,この制度概要の規定としては,取調べに正当な理由なく出頭しなかったことが移行事由にはなるという意味合いで記載しております。 ○髙橋幹事 保坂幹事がおっしゃっていることと同じなのかどうなのか分からないんですけれども,裁判所が最終的に「4」の「(3)」にあるように勾留の判断をするわけですよね。裁判所は,まず中間処分の請求なり勾留の請求なりがあった際に,その時点では中間処分が相当だと,勾留までは必要なく勾留却下でもないという判断を一旦しているんですが,その後,時的な経過があり,遵守事項違反等があって,その時点でまた新たに勾留が必要かどうかという判断を求められるわけなので,その時点で勾留の要件,勾留の理由があるのか,例えば捜査が大分進展していて罪証隠滅のおそれがかなり減じているような場合もあるかと思いますので,単に遵守事項違反があったというだけではなく,やはり勾留の理由及び必要性というのを,改めて審査しないと適正な判断はできないのかと思うんですけれども,その辺りはどうなのですか。 ○保坂幹事 元々の最初の時点で,勾留の理由があるという判断をして,かつ遵守事項にも違反をしたというときに,元々の勾留の理由がなくなっているというのは考えられなくはないのでしょうけれども,非常に珍しいなことなのではないかと思います。仮に,元々の勾留の理由というのがなくなっているということがあれば,勾留はできないということになるのだと思います。例えば,ある区域に立ち入ってはいけないという遵守事項違反はしたけれども,元々あった例えば嫌疑が失われているのであれば,当然,勾留はできないということにはなるのだろうと思います。 ○髙橋幹事 勾留の理由がなくならなくても罪証隠滅のおそれがかなり減じていた場合,勾留の必要性の判断は罪証隠滅のおそれの程度等も含めて総合的に考慮いたしますので,例えば遵守事項違反でも,指定住居に居住していなかったということで義務違反があるということが判明したとしても,例えば罪証隠滅のおそれは大分減じているし,逃亡のおそれもそれと連動してかなり薄くなっているような場合に,この時点において勾留の必要があるのかというのは,慎重に考えなければいけないと,裁判所の立場からするとそう考えるのですけれども。 ○保坂幹事 その時点における勾留の理由及び必要性の判断を当然するのだと思いますが,通常は,それほど勾留の理由や必要性が失われているということが考えにくいのではないかという趣旨で申し上げています。 ○井上分科会長 保坂幹事のおっしゃっているのは,事実上そうではないかということであって,「(3)」でも「できる」とされているだけですから,当然しなければならないというものではない。逆に,「1」の「ア」から「エ」までのいずれかに該当するときでないとしてはいけないという縛りは掛かっているのだろうと思うのです。つまり,必要条件であって十分条件ではないということですよね。したがって,やはり最終的には,その時点で60条の要件があるかどうかを,裁判所としては判断するというのは,当然なのではないですか。 ○髙橋幹事 分かりました。 ○坂口幹事 私も単純な質問を1点お伺いしたいんですけれども,「3」の「(3)」の「ウ」のところで,例示として警察署というのを挙げられておりますが,この警察署というのはいかなる意味の警察署なのか。と申しますのは,捜査をしている署でなくてもよいと,逃亡さえ防止できればよいので,被疑者の最寄りの警察署であってもよいというような意味での警察署なのでしょうか。 ○保坂幹事 例えば,2箇所の警察署を煩わせるよりは,1箇所の警察署で,被疑者のことも顔もよく分かっている,よく把握しているという警察署であれば,捜査を行っているところでも構わないでしょうから,特にどちらかにするという趣旨ではなくて,被疑者の出頭が,つまり逃亡していないことが確認,把握できるところであれば,特には排除しないという趣旨で書いています。 ○髙橋幹事 その関連で,この作りだと裁判官が出頭する場所を指定するとなっているんですが,そうすると,どこに出頭すれば逃げていないということが正確に把握できるかという観点からすると,令状請求の際にその判断に資するような疎明資料が,裁判官に提出されるということが前提になっているのかというのが一つと,あと現在の勾留の裁判については,裁判所の決定内容等は検察庁には当然その内容が分かるように伝達されるんですけれども,それ以外の機関に伝達する方法というのが現行法上規定されてないんで,検察庁を通じて裁判所から指定された警察署に,こういう指定がなされましたよという伝達がなされるのかなと,その辺りのイメージを教えていただければ。 ○保坂幹事 前者の点,つまり裁判所がどこの警察署を指定したらよいかというのは,「3」の「(3)」の柱書きのところに「検察官の意見を聴いて」とありますので,当然,検察官がこの処分のときにどこどこの警察署に出頭するように条件を付けてほしいということを,あるいは,条件を付ける場合にはこういうところが良いということは,検察官として意見を言うのだろうと思います。その後,警察署の指定が伝達される方法については,当然,その指定が警察署に伝達されないと何の意味もないことになりますので,検察庁から指定された警察署に適宜の方法でその指定があった旨が伝達がされることとになります。裁判所は,ここに出頭するようにと命じているのに,その警察署に行ってみたら,何のことだか分からないというようなことは起きないように,それは実務でやるという想定をしております。 ○井上分科会長 趣旨についての質問が相次ぎましたが,御意見を是非頂きたいと思います。 ○青木委員 では,もう一つ質問を。意見につなげたいと思うので質問するんですが,元に戻って「3」の「(1)」の「ウ」のところですけれども,「正当な理由がある場合を除き」の正当な理由について先ほどお聞きしたんですが,私は黙秘権を行使しますといって出頭しないというのは,正当な理由に当たるでしょうか。 ○保坂幹事 黙秘権を行使することと出頭しないということは,どう関係するんですか。出頭して黙秘権を行使すればよいようにも思いますが,それは,ただ行きたくないといって行かないというのと何が違うのかが,ちょっと私にはよく理解できなかったのですが。 ○青木委員 では,ちょっと変えて,とにかく出頭しましたと,それで先ほどの退去とも絡むんですけれども,黙秘権を行使しますといって取調べには応じないとした場合に,それは別に違反にはならないわけですよね。 ○保坂幹事 取調べに応じた上で黙秘権を行使しているということなのか,黙秘権を行使したら取調べに応じていないということなのかという質問のように聞こえたのですが,取調べに応じた上で黙秘をするとなれば,「3」の「(1)」の「ウ」で規定された義務としては出頭に応じるということですので,その取調べの中で,あるいは取調べに応じた上でどうするかということまでは,少なくともここには書き込んでいないところです。それは御議論のあるところであり,更に取調べに応じることまで義務付けるべきだという意見もあるかと思います。 ○井上分科会長 そこは恐らく一番難しい点で,198条1項ただし書の解釈として,従来から争われているところです。大きく分けて三様の意見があるわけですけれども,そこに踏み込むということに恐らくならざるを得ない。そのことをお覚悟の上で議論していただく必要があると,前から御注意申し上げていますが,本当にそこに踏み込まないと,この問題は解決しないかもしれないのです。 ○後藤委員 この案でもさすがに供述しないことを義務違反にはしていません。そこでは踏みとどまって,出頭の義務付けまでで抑えているとは思います。けれども,この義務付けが実質的に何を意味するかを考えなければなりません。そこで今の「正当な事由」の議論が意味を持ちます。それについて,青木委員がおっしゃった説のような理解は,この案を作った方が期待する理解ではないでしょう。つまり,自分は何も話すことはないから行かないというのは正当な理由ではないという理解を,この案は前提にしているのだろうと思います。そうすると結局,この案は中間処分に付された人には,いわゆる出頭・滞留義務を課すことを宣言することを意味することになります。しかも法律上当然の義務として。   しかし,これが元々勾留に代わる処分だとすると,なぜ中間処分に付された場合に出頭・滞留義務が生じるのかという説明は,元々勾留は取調べを受けさせるための強制処分だという前提に立たないと,成り立たなくなるのではないでしょうか。しかし,それは現在の勾留の目的についての一般的な理解とは違うので,これを入れることは勾留の目的自体を条文によって書き換えることを意味するのではないでしょうか。 ○井上分科会長 それは後藤委員の意見ですけれども,異なった理解に立つ考え方の人もいるわけです。198条1項ただし書というのは,取調べ受忍義務を認めているという考え方もあるし,そうではない,およそ出頭・滞留義務もない,そういう義務を課せば,供述を強要するのに等しく憲法違反だという考え方もある。   その中間もあるわけで,逮捕・勾留それ自体の目的は取調べではないけれども,逮捕・勾留されている場合には,198条1項ただし書のような法的効果が生じることを198条1項ただし書は言っているという考え方もあり,それは取調べを受け続けるとか,供述をしないといけないというところまで意味するのではなく,飽くまで出頭することと勝手に退出することはできないという限りにおいての義務付けであり,最高裁判例もそこまでは憲法違反ではないことを確認しているのですね。こういう基本的なところで考え方が対立ないし分裂した状況の下で検討していかなければならないわけで,一つの考え方に立って決め打ちのような議論で済むかというと,とてもそうはいかず,さりとて,その点に踏み込まずに解決できるかというと,それも極めて難しいように思いますね。 ○後藤委員 こういう制度を作ったときの含意を考えると,正に今,分科会長がおっしゃったように捜査実務では,出頭・滞留… ○井上分科会長 取調べ受忍義務ですよね。 ○後藤委員 そうですね。取調べ受忍義務とその前提としての出頭・滞留義務が逮捕・勾留されている場合にはあると考えている。その根拠は刑訴198条1項ただし書の「除いては」という部分ですね。この案のような条文を作ることは,そこに「逮捕・勾留又は中間処分に付された場合」と書き込むのと実質的に同じです。 ○井上分科会長 その「勾留」というところに「(中間処分を含む。)」と書き込むいうことも考えられるでしょうね。勾留の執行猶予という形にすれば,ますますその色が強くなるわけですけれども,そう読み込むとか書き込むということになるんだろうと思います。 ○後藤委員 しかも先ほど分科会長は,例えば遵守義務違反が生じたときでも当然に勾留になるのではなくて,その時点で勾留の理由・必要があるかどうかを判断するのは当然だとおっしゃったのですけれども,しかし,先ほどの保坂幹事の御説明は必ずしもそうではないですね。 ○井上分科会長 いや,保坂幹事は,事実上その点で事情が変更を生じて勾留の要件がなくなることは余りないだろうということを言われただけだと思いますが。 ○後藤委員 ここで重要なのは,要件がなくなることではなくて,新たに生じたかどうかの判断が必要かどうかです。中間処分では足りない,勾留にしなければいけないという実質判断をするのかどうか。 ○井上分科会長 それは多分理由ではなく相当性とか必要性の判断ですよね。 ○後藤委員 相当性,必要性でもよいですけれども,その場面で先ほどお聞きしたように幾つかの解釈があり得ます。しかし,一番徹底した解釈は,この不出頭があれば当然に勾留に移行する理由になるという考え方があるという御説明でしたね。 ○保坂幹事 当然勾留の理由があることは前提ですよね。それが維持されていることが前提で,ある時点ではその程度を見ながら中間処分でよろしいと思って中間処分にしたところ,被疑者が取調べに来ないことがあったときに,それはどういう事情として見ますかということなので,それは勾留への移行事由になり得るということで,当然その時点においても勾留の理由があることが前提です。 ○井上分科会長 もちろん制度の組み方として後藤委員が言われたように,条件違反の場合は当然勾留に移行する,裁判所の判断は不要とすることもあり得なくはない。勾留という処分を課しておき,保釈的あるいは執行猶予的なものにし,その条件に違反すれば執行猶予とか保釈的なところは自動的に取り消されるということにすれば,元の勾留が生きてくるという組み方もできなくはないでしょうけれども,ここに書かれているのはそうではないということです。そういうふうにすべきだという御意見ならば,それもあり得ると思いますけれども。 ○後藤委員 私はそうすべきだと言っているのではないです。ただ,この案での制度の作り方を見ると,論理的にはそれだけで勾留にすぐ行けると読めてしまうと思います。 ○井上分科会長 それが論理的な読み方だというのはちょっとどうかなとは思いますね。 ○髙橋幹事 そうは読めないですけれども。例えば1回出頭しないことがあったとしても,それ以前は出頭していろいろ供述していて,最後の1回は出頭しなかったという場合,それ自体は義務違反かもしれないですけれども,ここまで資料がそろっているという状況の中で勾留についての再度の審査をするということになると,場合によっては勾留の必要性はないという判断もあり得るかもしれないですよね。 ○井上分科会長 理論的にはですね。 ○坂口幹事 ちょっと私も分からなくなってしまったんですけれども,そういう場合があり得るとすると,それは要するに出頭義務がない人に出頭義務を課している状態が生じているということになるわけですか。もはや出頭義務を課すまでの必要がない人に対して出頭義務が掛かり続けているという状態が,生じているということになるわけでしょうか。 ○髙橋幹事 いや,出頭義務は出頭義務として残っているというのが前提ですけれども。 ○井上分科会長 中間処分というのをどう位置付けるのかによると思うのですけれども,中間処分に付し続ける必要はあるが,勾留までの必要はなくなったかもしれない,こういう事態があり得るかどうかということですね。 ○髙橋幹事 概念上というか理論上はあり得るかなというレベルの話ですけれども。 ○井上分科会長 およそ何らの拘束もする必要がなくなったというのなら,中間処分を取り消さないといけないはずですが,そうではない場合もあるということですね。 ○青木委員 198条の難しい議論は抜きにして,実際の問題として今の取調べの問題がどこにあるかということで言うと,身体拘束という圧力を利用して,そういう一種の心理的強制を利用して取調べをしてきたという実態があると思うんです。あるいは身体拘束をするぞという圧力を利用して取調べをしているという実態があると思っています。それの結果として虚偽の供述がされてえん罪を生んだというようなことがあって,そういうのはまずいのではないかというのも,この部会の一つの問題提起の中にあったと思うんです。   そういうことで言うと,少なくとも取調べをするために身体拘束なり身体拘束されるかもしれないという状態を新たに認めるというのは,それに反することだと思いますので,198条の解釈論はどうであるかは置いておいたとしても,立法として今こういう形で「3」の「(1)」の「ウ」のようなものを遵守事項に入れるということについては反対です。 ○岩尾幹事 それは私も前に意見申し上げたんですけれども,その解釈論は置いておいて,要はどういう人を対象としてこの中間処分をしているかというと,罪証隠滅,逃亡のおそれがある人を対象としているわけです。そうするとそういった状態,罪証隠滅や逃亡のおそれをできる限り少なくしたそういう状態で,取調べを含めた捜査を完了するということは,一つの捜査機関の目的でもあり,刑訴法上も正当化される目的だろうと思うんです。   それで,そういう状態の人が釈放された後に,およそ正当な理由がないにもかかわらず捜査機関に出頭しない,そうして一定の期間が経過したら,もう全く罪証隠滅や逃亡のおそれを防止する手段がなくなってしまい,そういう状態で結局捜査を続けなければいけないということになれば,これは最初の中間処分にしたことの意味がなくなっているわけで,勾留却下したのと全く同じになってしまいます。やはりそこの点を,取調べ受忍義務を課すと言うかどうかは別として,何らかの形でそういった罪証隠滅や逃亡のおそれを防止した上で,取調べも含めた捜査ができるような仕組みというのがないと,こういった制度は成り立たないのではないかという,そこが一番大きな疑問なのです。 ○青木委員 解釈論に入らないと言いながら入ってしまわざるを得ないのかもしれないんですけれども,やはり取調べというのは,身体拘束をするのは取調べが目的ではないと言わざるを得なくて,そうだとすると先ほどの正当の理由との関係もあるんですけれども,基本的に取調べというのは本来任意で行われるべきだし,黙秘権があるわけですから必ず取調べに応じてもらえるという状況ではないわけです,捜査機関側とすれば。だからそういう意味で取調べというのは,捜査といっても限定されたものなわけですから,それを中間処分なりあるいは勾留の中で,それができるかできないかというのが指標になるというのは,それはおかしいと思うんです。   ただし,実際問題として現実に中間処分ができた場合に中間処分になるような人は,取調べには応じるんだろうと思います,現実には。今,在宅の人だって実際には,取調べには応じますということで勾留を免れて在宅になっている場合もあると思うんです。また,前に言った議論と同じになってしまいますけれども,事実上そういう形で取調べには応じてもらえるという感触の下で中間処分にするということは,あるかもしれませんが,事実上そうなるということと法律上義務として課されるということでは,全く意味合いが違うので,そういう意味でこういう形の義務を遵守事項として設けるということについては,やはり問題だと思います。 ○井上分科会長 どうも実態論とあるべき論がごっちゃになって議論されているように思われますね。あっちに行ったりこっちに来たりという,そうならざるを得ないのかもしれないですけれども,イメージとして,現在では勾留されている人を中間処分に移すということだとすると,今の勾留に伴って発生する義務も当然くっ付いていくというのでないと,そういう見方をしている人たちは納得しない。これに対して,今でも勾留に伴ってそのような義務が生じるなどということはあってはならないと考えている人にとっては,新設する中間処分についてそのような義務を明記すると,あってはならないものを新たに設けているように見えるので絶対反対だということになる。こういう議論の状況になっているのだろうと思うのですね。 ○川出幹事 私は,中間処分の際にこのような義務を課すことができることを説明するためには,身柄拘束されている場合に取調べのための出頭・滞留義務があることを前提にせざるを得ず,そこの議論を避けて通ることはできないと思います。その上で,身柄拘束中の被疑者について取調べのための出頭・滞留義務を課す根拠についてですが,先ほど後藤委員から御指摘があったように,逮捕・勾留というのは取調べを目的としたものではありません。そのことを前提に,身柄拘束中の被疑者について取調べのための出頭・滞留義務が課されることを説明するとすれば,被疑者の身柄拘束期間には厳格な制限があり,捜査機関は,その限られた期間内に捜査を尽くして起訴・不起訴を決定しなければならないため,捜査の便宜を考慮して,身柄が拘束されている場合には,法律で特別に取調べのための出頭・滞留義務を認めたということになろうかと思います。そうだとしますと,中間処分の場合も,その期間が限られており,捜査機関としては,その期間内に,被疑者の逃亡と罪証隠滅を防止した状態で捜査を尽くす必要があるわけで,その点で身柄が拘束された場合と同様の状況にありますので,そこから取調べのために出頭する義務,さらには一定の範囲で滞留する義務を認めるという説明ができるのだろうと思います。   理屈としてはそのような説明が可能だと思いますし,それに加えまして,現在の実務は,逮捕・勾留された被疑者には,取調べのための出頭・滞留義務があるという前提で行われているわけですから,中間処分では取調べのための出頭は確保できないということになると,検察官が中間処分を請求せず,それが使われなくなってしまうおそれがあるように思います。ですから,中間処分をより使いやすいものにするという政策的な観点からも,取調べのための出頭義務を認めた方が良いのではないかと思います。 ○井上分科会長 前半は川出幹事の説ですね。現行法の規定についての説明として,優れた説明ではないかとは思うのですけれども。 ○坂口幹事 3段階に分けて意見を申し上げます。第1に,そもそもこの制度には反対です。ですが,第2に,検討せよというマンデートを与えられておりますので検討するに,先ほどから議論になっている点については,警察実務におきましては取調べ受忍義務は当然あると考えておりますし,そのように実務を行っておりますので,仮に制度を作るとすれば単に出頭義務が課せられるというだけではもちろん足りず,これはしっかりと取調べに応じていただくということが義務付けられなければならないと考えています。そして,第3に,義務の問題の難しい議論に立ち入るまでもなく一般的な一つの制度として,取調べのために出頭を求めたのに出頭さえすればよくてすぐ帰ってもよいというのでは何のために義務を課しているのか分かりませんので,制度として不完全かつ不合理だと思います。そういう観点から出頭だけを遵守事項として課すという制度は,ありえないのではないかと思うのですが,その点について御指導いただければ有り難いです。 ○井上分科会長 そこは今の198条1項ただし書の読み方とも密接に関連します。取調べに応じなければ出頭とか滞留を義務付けても意味がないではないか,煮詰めるとそういうことなのだろうと思うのですが,その場合,取調べに応じるというのはどういうことなのか。そこの解釈が人によってかなりずれているものですから,かみ合わない議論にどうしてもなってしまうのですね。難しいと申し上げたのはそこなのです。そこに踏み込んで正面から黒白付けるような議論をするとなると,非常に難しい。しかし,踏み込まないで済むかというと,多分済まないと思うのです。 ○坂口幹事 分かりました。分かりましたが,単なる逃亡の防止のために所在を確認するための出頭要請ではなくて,取調べのために出頭を求めてそれに応じていただくということなのですから,出てくればそれでもうよいんですと,一瞬顔を見せて,では,さようならといって帰ってしまうというのが許されるのでは,これは制度にはなっていないのではないかと,なお思います。 ○川出幹事 私もその点は同意見です。「考えられる制度の概要」の文言は,出頭を求められたときは応じるということになっていますが,取調べのために出頭させるわけですから,そこには,明示されていなくても,出頭した上でそこに一定程度とどまるということも含まれていると解釈できるのではないかと思います。そうでないと出頭させた意味がありませんので。   例えば,現行法で,証人に裁判所に出頭する義務があるという場合,出頭したらそれですぐ帰ってよいという話ではなく,証人尋問している間は裁判所にとどまる義務があることは当然の前提ですから,それと同じように考えられるのではないでしょうか。 ○井上分科会長 198条1項ただし書は,出頭を拒むことはできないということだけでなく,出頭した被疑者は勝手に退去してもいけないと書いているので,その趣旨はそういうことだと思います。そのことと供述の強要に至らないかということの接点の話なのです。私は黙秘権を行使します,取り調べてもらっても何もしゃべりませんと,ずっと言い続けている被疑者に,それでも応じろ,供述しろと求め続けてよいのか,そのどこで線を引くべきなのかということです。「一定程度」と川出幹事が言われた,正にその限度をどう設定するべきなのかなのです。坂口幹事の意見でも,供述を強要したり任意性を奪うようなことまでしてはいけないという線は当然あるわけですよね。もう一方の極にはともかく取調べを最初から拒否すれば,出頭・滞留義務もない,取調べ拒否の方を優先させなければならないのという考え方があるわけですけれども。 ○後藤委員 先ほどの川出説は,つまり逮捕・勾留の期間が限定されているので,その期間内に捜査をするために取調べ受忍ないし出頭・滞留を義務付けるという説明ですね。しかし,仮にそれを採るとしても,今度は期間が2か月になるわけです。そうすると今の逮捕・勾留とは大分事情が違ってくるので,そこでも同じことが言えるかが問題になると思います。 ○井上分科会長 2か月は仮の数字ですけれども。 ○後藤委員 例えばという数字ですね。しかし,いずれにしても今の20日よりは長いものを,皆さん想定しているわけです。捜査官の方たちは,いずれにしてもどこかで取調べはする必要があるという感覚があるのだと思います。けれども,被疑者の取調べをしなければ起訴・不起訴が決められないというルールはどこにもないですね。現行法でも理論的には,例えば取調べの要請に応じない,しかし,逃亡とか罪証隠滅の可能性はないのであれば,取調べを受けることを義務付けることはできません。それでもどこかで捜査を遂げざるを得ないわけです。だから捜査を遂げるために必ず被疑者の取調べが必要だという感覚は,前提にはならないのではないでしょうか。 ○井上分科会長 そういうふうに受け取られる方と,全く反対の方に受け取られる方と,そこも立場によって見方が大きく分かれるのだろうと思いますね。一つの立場で押し切ろうとして本当に説得できるかということです。   ほかの方はいかがでしょうか。最初に難しいですよということを言い過ぎたかもしれませんけれども,本当に難しいところに立ち至っていると思います。この点について更に付け加える御意見がなければ,「第2」の方に移りたいと思うんですけれども,それでよろしいでしょうか。   「第2」は,「身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定」についての議論であります。この検討事項に関しては,「考えられる規定の概要」で,「1」と「2」についてそれぞれ3つずつ案が併記されています。今回追加されたのはA-2案です。これがA-1案とB案に対する従前の指摘にどのように答えるものになっているのか,また,他に適切な規定があり得るか,そういった点が新たに付け加わった論点だと思いますが,どなたからでも御意見を頂ければと思います。 ○髙橋幹事 まず「1」についてなのですが,A-1案については,このような規定を設けるのは相当ではないという意見を従前差し上げたんですが,今回新たに出されたA-2案というのがA-1案とどう違うのかというのが,ちょっとよく分からないんで,その辺りを解説していただければと思うんですけれども。 ○井上分科会長 これはどなたからお答えいただきましょうか。青木委員ですか。 ○青木委員 基本的に趣旨として特に変えたということではなくて,言葉の言い回しとかそういうのを変えただけですので,A-1案は撤回してA-2案という全く違うものということではなくて,言い換えたということで御理解いただければと思います。 ○井上分科会長 それで髙橋幹事はよろしいですか。 ○髙橋幹事 だとすれば,私の意見は従前どおりこのような規定は設けるべきではないということになります。 ○井上分科会長 「1」でも「2」でも結構なのですけれども,ほかの方はいかがでしょうか。あるいはここで全く斬新なアイデアを出していただくということでも結構なのですけれども。 ○保坂幹事 「2」の方について,青木委員にお尋ねなのですけれども,従前A-1案というのがあって,捜査機関に対して,努めなければ,しかも,できる限りというわけだったですね。それに対して実際に身柄拘束をすることを判断しているのは裁判官であるという御指摘もあって,それでA-2案の方では「裁判においては」としているので,裁判官が名宛人なのかなと思うわけですが,前に努力義務みたいなのだったのがA-2案では,努力義務を超えたように規定としては見えるわけですが,どういう趣旨なのでしょうか。A-2案に変えられたミソを御説明いただければと思うのですが。 ○青木委員 「1」の方は,先ほど言ったように特に趣旨がどうとかではないんですけれども,「2」の方は,基本的に全く差し替えたというか,前に住居等制限命令というところの提案の中に入れていたものをこちらに持ってきたということでして,基本的には現実には今こういう形で裁判所は考慮しているんだと言われるような勾留の必要性,相当性の判断について,きちんと条文の中に入れるべきであるという趣旨なので,A-1案とはそういう意味では違うものを提案しているということになるかと,既に提案したものをこちらに持ってきて,A-1案は撤回しましたという形になるかと思います。 ○保坂幹事 そうだとすると,留意事項ではなくて勾留の要件を書き換えにいくのだと,明確に変えるのだという,こういう趣旨ですか。 ○青木委員 そういうことになります。 ○井上分科会長 A-1案は撤回されるということでしょうか。 ○青木委員 撤回します。いろいろと言葉としても変だと思いますし,理論的にもどうかなと思いますので。 ○井上分科会長 論理的には排他的な関係には立たないような気もしますけれども。 ○青木委員 A-1案のような形で書いたとしても,なかなかそれが機能するのは難しいんでしょうから,A-2案ということで維持していただければと思います。 ○井上分科会長 より強化したということですね。そうすると保坂幹事が言われたように,この柱自体が留意事項ではなくなってしまうということですね。 ○髙橋幹事 だとすると,今例えば勾留の場合ですと必要性の判断で,いろいろなことを総合考慮して勾留するか却下するか決めているんですが,その要件を新たに具体的に定めたと。 ○青木委員 そうです。恐らくこういうことについて実際には判断されている場合も多いんだろうと思いますが,それを明記してほしいという趣旨です,その必要性の判断の中で。 ○髙橋幹事 必要性の判断として裁判所が考慮している事情が,これで言い尽くされているのかというところが疑問なのですけれども,青木委員の立場ではこれが必要性あるいは相当性の判断の全てだと,そういう。 ○青木委員 全てかと聞かれると……。 ○井上分科会長 そもそも論として,「第2」の指針となるべき規定というものではなくなってしまっていませんか。これですと勾留の要件を変えるという話になってきて,「第1」の枠とはちょっと違うような気もするのですけれども。 ○後藤委員 「2」のA-2案のことですね。これが現在の勾留の要件を変えることになるでしょうか。現在でも実質は同じことを判断していないでしょうか。もちろんこれだけではなくてほかの要素も含めてでしょうけれども,相当性は勾留の一つの要件として考えられていると思います。そうするとこれはむしろ確認的な規定になるのではないでしょうか。 ○青木委員 理解としては,今,後藤委員が言われたような理解で,ただ,明文にはなっていないので明文化しようという趣旨なのですが,ただ,これで全てかと言われると,それは必要性,相当性が要らないという話ではないので。 ○岩尾幹事 ただ,必要性,相当性が要るにしても,そのときの書き方がこれでよいのか,勾留の際の判断事情がこれでよいのかどうなのかという問題があり,現行の解釈の確認でとどまるということは簡単には言えないんだろうと思いますし,そもそもこれは60条との関係を整理しない限り,どこにこの規定を置いてどんな法定効果を持つのかというのが,さっぱり分からないわけですよね。しかも今回,中間処分の提案があって,そうすると今度は中間処分との関係はどうなるんだろうかということで位置付けがはっきりしないように思われます。これは,中間処分が採用されるか採用されないかに関わらず,実際に身柄を拘束される場合の規定として,60条と保釈の規定のところの後ろにくっ付くというようなイメージなのでしょうか。 ○青木委員 どこに付くかは別として身体拘束関係ですね。 ○井上分科会長 この精神,あるいは限定が,新たに設けられた中間処分にも妥当するのかどうか,妥当するとするとこういう書き方でよいのかという問題提起ですね。 ○岩尾幹事 元々の青木委員の意見は,中間処分の規定を設けるに当たって,中間処分自体が勾留の補充性を求めていたということから出発して,60条の勾留自体がこういった形で限定されるべきだと言われていて,それ自体に賛成かどうかは別として,考え方としてはまだ分かりやすかったわけです。今回こういう形で位置付けられると,どういうふうにこの規定を理解すればよいのかなと疑問を感じており,前回も法定効果の問題が生じますかどうなのですかということの確認をさせていただいたことの延長線上にある疑問なのですけれども。 ○井上分科会長 ほかの方はいかがでしょうか。   川出幹事,何か御意見ありますか。 ○川出幹事 勾留の必要性についての確認規定だと言うのであれば,先ほど髙橋幹事がおっしゃったように,現在,その判断において考慮されているものが考慮されなくなるような規定になると適当でないでしょうから,ここに挙げられている要素その他一切の事情を考慮してみたいな規定にならざるを得ないように思います。 ○井上分科会長 確認というふうに踏み込んでしまうと,これもそうですか,これもそうですかという話になって,いや,それは入らないのではないかという,多分そういう議論になっていくと思うんです。事案によってかなり多様だと思うので本当に確認ということができるのかと,率直な感じはそういう気がしますけれども。 ○川出幹事 ですから,結局,その他一切の事情を考慮してみたいな記載にならざるを得ないですよね。 ○井上分科会長 そうすると確認というよりは代表的なものの例示ということですかね。 ○川出幹事 そうですね。今考慮されているいくつかの要素を例示した上で,それ以外の要素は,その他一切の事情で拾うという感じでしょうか。 ○井上分科会長 60条のどこかに付けるということでしょうか。何か注釈書みたいなものになりますね。 ○川出幹事 確かにそうですね。 ○井上分科会長 ほかの方はいかがでしょうか。よろしいですか。   第5回から本日の第8回までの4回の会議を通じて,当分科会において検討すべき事項について,前回の特別部会での議論も踏まえて,2巡目の議論を行ったということになります。各検討事項について,それを採用するかどうかという点はもちろん留保しつつ,具体的に活発な御議論をしていただいたと考えております。残された検討課題とか,いまだ意見が相違する点はあるものの,全体としては,制度のたたき台の策定に向けた作業がかなりの程度進んだのではないかと思っています。   来月7日と13日に特別部会が予定されておりますけれども,その特別部会への報告に向けて,本日の議論をも含め,これまで当分科会で行われた議論を整理して,事務当局作成の配布資料に加筆,修正するという形で資料を作成したいと思っております。   その内容につきましては,事前に,当分科会の構成員や御発言いただいた委員・幹事の皆様にもお示ししたいと思いますが,議論のためのたたき台であるという資料の性質と,特別部会までに余り時間的余裕がないということから,資料の取りまとめにつきましては,基本的には私にお任せいただければと思いますが,それでよろしいでしょうか。 ○後藤委員 ということは,今まで当分科会で配られたものに更に少し加筆されたものが,部会に報告されるという形ですか。 ○井上分科会長 そうです。基本的には事務当局作成の資料に当分科会でのこれまでの議論を踏まえて修正を加えるということで,前の部会への報告についてもそうしたはずですけれども,そういう形で行いたいと思いますのでよろしくお願いします。 ○後藤委員 そこで仮に自分の意見が余り反映されていないと思ったら,部会でそれを言っても構わないでしょうか。 ○井上分科会長 そのとおりです。   それでは,本日予定していた事項は全て終了しましたので,本日の議事をこれで終了したいと思います。   本日の会議につきましても,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと判断されますので,発言者名を明らかにした議事録を公表するということにさせていただきます。   また,議事録ができるまでの暫定的なものとして,事務当局において本日の議論の概要をまとめて,部会の委員・幹事に送付してもらうこととしたいと思います。   次回は特別部会です。11月7日木曜日の午後1時半から午後5時までを予定しております。場所は,本日と異なりまして検察ゾーン15階の会議室でございますので,そこにお集まりいただきたいと思います。   それでは,本日はこれで閉会とさせていただきます。   どうもありがとうございました。 -了-