法制審議会 民法(債権関係)部会 第80回会議 議事録 第1 日 時  平成25年11月19日(火)自 午後1時00分                       至 午後6時00分 第2 場 所  法務省 第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第80回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,能見善久委員,安永貴夫委員,大村敦志幹事,岡田幸人幹事,潮見佳男幹事,畑瑞穂幹事,福田千恵子幹事が御欠席です。   それでは,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料70Aと70Bを配布させていただいております。また,パブリックコメントの結果の速報版である部会資料64-8を本日,机上にて配布させていただいております。   なお,パブリックコメントの結果の集計作業が完了するまでに大変時間を要しており,御不便をおかけしてまいりましたけれども,ようやくその作業が終わりましたので,この会議が始まる前に電子メールにて部会メンバーの皆さまに送信をさせていただきました。このパブリックコメントの結果の全体版については,大変なボリュームがありますので,紙での配布は省略させていただいておりますけれども,本日の配布資料という扱いにして,法務省ウエブサイト上で直ちに公表することにさせていただきたいと考えております。   それから,委員等提供資料ですけれども,高須順一幹事と大阪弁護士会の赫高規先生の連名で「根保証における元本確定前の履行請求および随伴性について」と題する書面を提出いただいております。また,山野目章夫幹事から「個人保証における過大性のコントロールの方策」と題する書面を提出していただいており,また,加納克利関係官から「要綱案のたたき台(5)についての意見(保証関係)」と題する書面を提出していただいております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料70A及び70Bについて御審議いただきます。部会資料のAタイプとBタイプの審議の順序につきましては,今回もAタイプの資料を基本としつつ,その間にBタイプの資料の論点を適宜織り込み,おおむね中間試案における各論点の掲載順に従って議論することとしたいと思います。   具体的には,休憩前までに部会資料70Aの「第1 保証債務」までと,部会資料70Bの「第1 保証人の責任を制限するための方策」について御審議いただき,午後3時10分頃をめどに適宜休憩を入れることとを予定いたしております。休憩後,部会資料70A及びBの残りの部分について御審議いただきたいと考えております。   それでは,審議に入ります。   まず,部会資料70Aの「第1 保証債務」の「1 根保証」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 「1 根保証」の(1)及び(2)は,現行法では貸金等根保証契約を適用の対象としている民法第465条の2,第465条の4の適用範囲を個人が保証人である根保証契約一般に拡大しようとするものです。(3)は,極度額や元本確定事由に関する規律の適用対象が(1),(2)のように拡大することに伴い,法人である保証人の主債務者に対する求償権を主債務とし,保証人が個人である保証契約の効力が認められる要件をこれと整合的なものとするため,民法第465条の5を改正するものです。   中間試案においては,元本確定期日についての民法第465条の3の適用範囲を貸金等根保証契約から個人を保証人とする根保証一般に拡大するという考え方も検討の対象とされていました。しかし,当事者間で長期間にわたる契約関係が当初から予定されており,そこから生ずる当事者の債務を根保証する場合のように元本確定期日までの期間を長期のものとする必要性がある契約も想定されます。そこで,特に保証人保護の必要性が高い貸金等根保証契約以外の類型については,極度額や元本確定事由の規定を適用するほかは判例学説上認められる特別解約権の解釈,運用に委ね,元本確定期日についての規定の適用範囲は拡大しないこととしています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 根保証の特別解約権について申し上げます。   商工会議所では,引退した経営者が経営に対する影響力がなくなったにもかかわらず,根保証人として責任を負い続けることは妥当ではないとの考えから,特別解約権について明文化を求めてまいりました。しかし,特別解約権を認める事情を適切に規定することは困難であり,明文化を見送らざるを得ないことは理解できます。引退した経営者の保証責任を減免することは必要であるとの考えに変わりはありませんので,民法では困難であるにしても,経営者保証のガイドラインなどでその趣旨を実現すべきと考えています。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○松岡委員 今の大島委員の御発言に関連し,また個人保証の制限という後の部分にも関連することについて述べます。代表者については私自身まだ迷いがあるのですが,例えば代表ではない取締役等が経営に参画している企業の保証人になったものの後に退任した,という事例はよくあります。そのような場合には,そもそも単純に退任するだけではなくて新しい者が代わって取締役になり,同人が保証人を引き受けることで,実質的には保証人が交代することもあるわけです。債権者としてもそういう形で交代してもらうのであれば結構で,辞めた取締役については特別解約権を認める余地が十分あろうと思います。この場合,古い判例には解約権を認めるものが幾つかあり(たとえば大判昭和16年5月23日民集20巻637頁),定式化は必ずしも不可能ではないと思います。個人保証の制限のところをどう解するかによって扱いが変わってくると思うのですが,取りあえずここでも一言申し上げておきたいと思います。 ○深山幹事 今の松岡先生の御発言の趣旨とほぼ同じなのですけれども,特別解約権は必ずしも会社等の法人とその代表者ないしその経営者の関係だけに着目した議論ではないということは承知しておりますが,最も典型的なのは,今も御指摘のあったような会社の代表取締役あるいは取締役を退任した場合に,解約権を認めてはどうかという議論だろうと思います。御指摘のありましたように,そもそも個人保証の制限のところで経営者については個人保証の禁止の例外とするということが,この後議論されると思いますが,そこでどのような経営者の定義といいますか,該当する範囲の切り分けがなされるかということと関連をして,一つの考え方としては,個人保証禁止の裏腹の問題として個人保証が許されるような経営者に該当していた者がその該当事由から外れた場合というのは特別解約権を認めてもいい場合に当たり得るんだろうと思います。もちろんそう単純にパラレルにするのではなくて,もう少し要件を絞るという考え方もあり得るとは思います。   しかし,いずれにしても,そこはある意味表裏の関係に関することでもありますので,少なくともこの時点で特別解約権について一切規定を設けないという決断をするのではなくて,個人保証の制限の経営者の概念の議論の推移を踏まえて,それとの平仄を合わせる形で規定するという議論の余地は残しておくべきではないかというふうに考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○中井委員 重なりますけれども,まず,根保証について部会資料で提案されている(1)から(3)については,いずれも賛成いたします。その上で,なお中間試案で検討がなされていた(2)の465条の3と今議論のあります(3)の特別解約権の問題については,なお引き続き検討していただきたいと考えております。   この部会資料の4ページにもありますように,保証に関しては平成16年に改正が行われた,今回この民法改正全体の見直しに当たっても改めてその審議の対象になっているわけですが,16年改正時点においても,なお国会等で更に今後継続して保証人保護を図ることが検討課題にされてきたわけです。その一里塚として今回この改正の中での成果として,この(1)から(3)が提案されたものと理解しておりますけれども,なお中間試案に述べられた(2),(3)の課題は残っているという認識です。   まず(2)の465条の3につきましては,確かに賃貸借契約等の問題があってなかなか取り入れることが困難である,また,今日配布されたパブコメを見ましても,相当程度反対意見が出ていることもあるようですので,この実現には更に慎重な検討が必要かもしれませんが,特別解約権を見ますと,今のお二人の意見のみならず,このパブコメの結果を見ましても,ほとんど賛成意見になっておりまして,反対意見はかなり限定されている。その中でこの段階でこの提案が見送るというのは時期尚早ではないか,なお残り僅かな期間かもしれませんけれども,特別解約権については更に検討を続けていただきたいとお願いをする次第です。 ○筒井幹事 更に引き続き検討せよという御指摘を頂いたところについては,よく考えてみたいと思っております。その中で,特別解約権に関して何人かのメンバーからの御発言を頂きましたが,特別解約権の一般的な規定を設けるということに関して言えば,現状としては,かなりハードルが高いという印象を持っております。その中で,本日,何人かの方から一定の場面に絞った形での特別解約権というか,特別の元本確定請求権を付与することを検討せよという提案もありましたので,それについても引き続き考えてみたいと思っております。その場合に,先ほど松岡委員からは取締役の退任といったような切り口の示唆がありました。それから,深山幹事からは経営者保証の要件に該当して保証をした人が後にその資格を失った場合についての確定請求権という御提案がありました。これらについては,もちろん賛成意見もあるだろうと思いますが,それについて反対の立場の方も恐らくいらっしゃると思いますので,そういった御意見を今後いろいろな機会にお聞かせいただければと思っております。 ○鎌田部会長 それでは,今の点については引き続き検討していただくということでよろしくお願いします。 ○中原委員 特別解約権につきましては,保証人が保証したときの状況等様々な事情を検討する必要があると思います。例えば取締役が退任したときのその後の会社に対する影響度合いについても千差万別あると思います。したがって,一律に,例えば取締役を退任すれば特別解約権が生じるという規律を設けるのは難しいように思います。したがって,特別解約権については,現行法の下で解釈で補われていますから,改正法でも解釈で補えば良いと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。では,ほかの御意見,いかがですか。 ○加納関係官 先ほど中井委員も御指摘になりました元本確定期日のところでございますけれども,今日の部会資料70Aの3ページだと思いますけれども,慎重な意見の根拠が書かれておりまして,建物賃貸借などの長期間の継続する契約の場合に担保が全期間をカバーできないというような問題意識が示されていまして,一理あるなとは思ったんですけれども,ちょっとこのペーパーを拝見して疑問に感じましたのは,その場合に再度保証契約をすることによってカバーするということもあるのではないかとは思いますし,これは別に建物賃貸借に限らず貸金契約においても長期間にわたるということはあると思うんですけれども,そういった場合でもカバーできない場合には再契約をするということによって対応しているのではないかというふうに思われますので,ここのところはちょっと疑問があるというように思いました。 ○鎌田部会長 何かありますか,事務当局のほうから。よろしいですか。ほかには。 ○高須幹事 本来の資料に載っておる議論をした後で最後にお話ししたいと思っておりましたが,ここで発言させていただきます。根保証に関しましては,やはり非常に保証人に与える影響が強いということで,今回私どもとしてもできるだけ充実した立法を行うことが重要だと考えておる次第でございます。その観点から,中間試案の段階で一応取りまとめが見送られた論点ではあるのですが,部会資料36に出ていた論点である根保証における元本確定前の履行請求の問題と,それとほぼ同じ問題状況である主たる債務について債権譲渡がなされた場合に根保証債務が随伴するのかという問題に関して,この段階で改めて恐縮でございますが,今一度御審議をお願いしたくペーパーを出させていただいた次第でございます。   私と大阪弁護士会の赫弁護士の共同意見ということでございますが,ペーパーが出ておりますので,要点だけを御説明させていただきます。ポイントはお配りしたペーパーの2ページ目の下のところから3ページにかけてでございまして,今回のこの根保証の規律を考えるときに3つの考慮要素があるのではないかと思いました。   まず一つは,元本確定期日の前に債権者が一定の場合には履行請求をしなければならない場合がある,あるいは履行請求に代わるものとして債権譲渡等を根保証債務とともに譲渡しなければならない場合があるのだろうという点です。主たる債務者の信用状況が悪化したような場合には当然そういう状況が起きるだろう,このこと自体は端的に認める必要があると思います。   そして,二つ目の要素はそのような形で保証債務を前倒し的に履行していく場合があるとしても,保証人が一旦決めた極度額以上の履行を事実上強制されるということがあってはならないという点です。最終的に極度額にとどまる責任しか負わないという形での仕組みを作ることが大切だと思います,これが二つ目として3ページのところに書かせていただいた要請でございます。   3つ目の要請が更にございまして,主たる債務者が信用不安状態となりますと,そこで今のようにある程度前倒し的に履行請求ということになっていくわけですが,その際に極度額にまだ余力がありますと,その根保証人の資力というものを当てにした形で追加の貸付け等が行われるという点です。これは本来的に濫用的な事例のわけですが,しかし,そういう濫用的な事例があり得るということであれば,それも防げるような制度にしなければならないだろうと考えております。これが3ページの③で書かせていただいた要請でございます。   この3つの要請を満たす制度設計をするとなりますと,まずは,履行請求や随伴性を端的に認めた上で,その場合でも極度額は減少するという考え方を採用すべきこととなり,現に学説にはそのような考え方があります。それではある程度のカバーはできるわけですが,最後の③として,3番目として指摘させていただきましたように,極度額の余力の部分を利用する追加貸付けのようなことについては,極度額が減少するという法理だけでは有効な対策にはならない。そういうことを考えますと,基本的にはその段階で確定請求を債権者側に認めて,根保証債務を確定させてしまった上で履行請求なりあるいは随伴性のある形での債権譲渡を認めるという制度設計が必要となる。従来これは消極説という言い方で説明されたわけですが,そういう消極説のほうが妥当ではないかと思います。これは飽くまで債権者の確定請求を認めるという前提に立ちますので,確定請求後には速やかに履行請求なり債権譲渡なりができるという規律でございますので,決して一方的などちらかの利益だけを考慮したわけではなくて,債権者側,保証人側それぞれの利益を調整する原理としては妥当な法理であると考えております。このような形で,お配りしたペーパーの2ページの四角で囲んだような消極説を前提とするような規律を設けたらどうかと考えました。465条の2の4というところで,括弧の下のところですが,債権者に元本確定請求を認めると。それとワンセットになる形で465条の2の2ですが,仮に確定前については飽くまで弁済はできませんよ,弁済しても無効ですよという規律を置く。それから,465条の2の3で同じことですが,確定前については主たる債権が譲渡されても随伴はしませんよと,こういうような規律にすると,こういうような制度設計を考えたらいかがかと思いました。   あと,債務引受けの場合はどうするかとかそういったことも一応,考えてみました。大きな内容としては以上でございます。決して保証人保護のみを重視しようという趣旨ではなくて,債権者の権利行使の可能性ということも考えながら,一番望ましい,落ち着きのいい制度としてこのような提案を御検討いただければと思った次第でございます。一度見送られた論点でございますので,今からの検討が難しいということは承知しておりますが,やはりここで議論をしないと,この次の改正がいつになるかもう分からないという状況でございますので,あえて今回ペーパーとともにここでの審議をお願い申し上げる次第でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。関連した御意見はありますか。 ○中原委員 昨年の12月の最高裁で確定前根保証契約の被担保債権が譲渡された場合には,保証債権も随伴するとの判決が示されました。既に実務は,その判例に従って動いていると思います。取引実務にとり重要なのは,法的安定性の確保であると思います。したがって,随伴性を認める,認めない両方の結論がありますし,あるいは研究者の方々の書かれたものを拝読しますと,意見も分かれているように思います。しかしながら,どちらかの結論を示していただかないと,実務の安定性に欠けると思います。したがって,一旦検討テーマから落ちたとしても,少なくとも随伴性を認めるか認めないかという点ぐらいは明文化して,それに関連する論点は解釈に委ねるというようなやり方もあるのではないかと考えます。 ○深山幹事 基本的には高須先生たちの御提案に賛同したいと思います。私が補足する立場ではないんですが,この考え方を私なりに理解して,なるほどと思った点だけ申し上げますと,先ほどの説明ではペーパーがあるのではしょっているのかもしれませんけれども,465条の2の4の2項という条文があって,債権者が保証人に対して書面によって保証債務の履行請求すなわち履行の催告をしたときには前項の請求があったものとみなすということで,要するに確定をするという規律が入っております。実際の実務を考えると,債権者としては,主たる債務者の信用力が怪しくなって履行されないというときには,では保証人さん,払ってくださいと言いたくなるわけです。先ほど指摘がありましたけれども,その事実を明確にする趣旨で書面で履行請求をすればそこで確定するという規律を設けることによって,その後,保証履行請求することもできるし,あるいは随伴性のある譲渡をすることによって,当初の債権者は債権回収を図るということになろうかと思います。   実務的には,やはり随伴性がなく保証つきでない債権譲渡というのではなかなか機能しないだろうと思います。それが当事者の意思に反するだろうということで,この最高裁判例も結論において随伴性を認めているわけですが,その帰結の前提として確定させた上で随伴させるということが非常に規律としては明確でもあるし,合理的でもあろうという気がいたしますので,このような提案を是非検討すべきではないかと私も考える次第です。 ○高須幹事 今,中原委員からも御指摘いただいたとおり随伴性を一切否定するということは現実性を欠くのだろうと,24年の最高裁判例から考えてもそういうことだと思います。ただ,現時点で学説においてもいろいろな争いがあるというところが正に問題でありまして,その争いをここで終止符とまで言うのは大げさかもしれませんけれども,一定の方向性を導くためにはやはり確定請求,今,深山幹事からも御指摘があったように確定請求ということとワンセットにすることで比較的多くの方の御理解が得られる制度設計ができるのではないかと考えております。そうなると,確定請求を解釈で導き出すということは難しいと思いますので,やはりここで立法しないとよい根保証制度は作れない。やはりこの場で是非ともこの点についての真摯な検討ができればよろしいかと思う次第でございます。 ○鎌田部会長 ほかに関連した意見ありますか。   もしないようでしたら,「2 保証人保護の方策の拡充」のうち「(1)個人保証の制限」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 「2 保証人保護の方策の拡充」,「(1)個人保証の制限」のアでは,主債務者が事業のために負担した貸金等債務を主債務とし,法人以外の者を保証人とする保証契約,また,貸金等根保証契約は,素案(ア)から(オ)までの者が保証人である場合を除いて,原則として効力を有しないとすることとしています。これは,基本的には中間試案を踏襲した上で,中間試案ではいわゆる経営者と表現されていたものの内容を具体化しようとしたものです。「事業のために負担した」という部分は,保証人にとっての危険性に鑑みて効力を制限すべきと考えられる事業性の債務を抽出しようとしたものですが,その表現方法は様々なものが考えられると思いますので,ブラケットに入れています。   また,(イ)については,業務執行の権利を有していなくても委員会設置会社の取締役のように,経営上の重要な決定に関与し,会社の経営状態についての十分な情報を有する者もいるため,業務執行の権利を有することを基準とすることに対しては異論もあり得ると考えられます。   (エ)についてもこれに,該当するかどうかが不明確であるという批判があり得ると考えられます。そこで,これらについてはブラケットを付しておりますので,これらの当否について御意見がありましたら承りたいと思います。   イは,主債務の範囲はアに掲げた場合と同様ですが,保証人が法人であるためにアの規制を受けない保証契約に関して,それに基づく求償権の保証についてはアと同様の趣旨が当てはまると考えられることから,求償権の保証契約の効力を制約するものです。   ウは,アの例外として保証人が自発的に保証する意思を有している場合に,その者による保証の効力を認めようとするものです。アで第三者による保証の効力を原則として否定しましたが,現実に第三者による保証が必要となる場合が例外的に実務上存在するという意見がパブリックコメントの手続においても寄せられており,これらの意見に配慮したものです。飽くまで例外的な手段であることに鑑みて,保証の弊害が生じないように保証人が慎重に検討した上,保証人の責任の内容を十分に理解した場合に限って保証の効力を認めるべきであると考えられます。もっとも,このような保証をどのように選別するかについては,例えば公証人を関与させる方法や,保証契約を一旦締結したとしても一定期間は保証人が契約を解除することができることとすることなどが考えられますが,どのような方法が望ましいと考えられるか御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 経営に関係ない第三者による保証について一定の制限をかけるべきという提案の趣旨は理解ができます。しかし,本規定の見直しに当たっては,現在有効かつ適切に行われている保証契約が行えないなど,中小企業の資金調達に支障が生じないよう留意が必要であると考えております。このような観点で部会資料を拝見しますと,個人事業主の配偶者が保証する場合,事業承継予定者が保証をする場合,事業承継を行った先代の経営者が保証をする場合の3つのケースにおいて困難が生じるおそれがございます。   まず,個人事業主と生計をともにし,当該事業に従事する配偶者の保証がとれるかどうか疑問がございます。部会資料を拝見いたしますと,(エ)の事業を執行する権利を有する者と同等以上の支配力を有する者の中に,個人事業主の配偶者が含まれることになる旨の説明がございますが,この表現で個人事業主の配偶者が経営者と同等以上の支配力を有すると言えるかという点で懸念がございます。   次に,事業承継予定者が保証人になる場合です。現在の個人保証のガイドラインでは,経営者に身体の不調等の事情がある場合には,事業承継予定者が個人保証することが認められています。事業承継予定者は,融資の時点ではほかの企業などに勤務している場合も想定されますので,(イ)や(エ)で事業承継予定者が保証人になる場合を全て捉えることができるかについては疑問がございます。   そして,最後に事業承継を行い経営を退いた先代の経営者が保証する場合です。事業承継を行った場合,後継者に経営実績などがないため先代の経営者に併せて保証を依頼する場合がございますが,このような場合も引き続き保証が行えるよう手当てをすることが必要であると思います。   なお,これらのケースでは「ウ」の規定により保証が可能になるとの指摘もあるかと思いますが,「ウ」では自発的な意思を確認する手段の講じ方次第で,中小企業の資金借入れが困難になるとの懸念がございます。部会資料の説明では,公正証書の作成を例として挙げていますが,中小企業は公正証書を作成した経験がない企業も多く,手間や費用が掛かる上,心理的圧迫感が強く,利用しづらいと考えます。   まず,「ア」で経営者と同視し得るものを漏れなく取り上げていただきたいと思います。それとは別に「ウ」の自発的な申出による保証は創業予定者に対する親族等の保証や将来有望な技術や事業に対するスポンサーの自発的な申出による保証を可能とすることから,是非認めていただきたいと思います。   なお,「ア」の(オ)では議決権の過半数を有するものの保証を認めていますが,事業承継税制や中小企業経営承継円滑法が事業承継時に50%以上の株式を後継者が保有していることを求めていることを齟齬が生じると思いますので,この点を考慮しながら記載ぶりを検討すべきと思います。よろしくお願いいたします。 ○中原委員 保証人保護のための取組の重要性については,銀行界としても十分理解しておりますし,第三者保証を限定的にするという方向性自体には全く異論はございません。もっとも銀行界はこれまで金融庁の監督指針等々を踏まえて,第三者保証に過度に依存しない融資慣行の確立をしておりますので,この点についても今回の法改正の方向性については異論を申すものではございません。   しかしながら,一方ではやはり経営に対する規律付けとかあるいは債務者の信用補完という有益な面もあり,これが過度に制限されると特に中小企業における資金調達に大きな影響が生じることが懸念されます。特にこの(1)のアの規律について,(ア),(イ),(ウ),(エ),(オ)という5つの除外の例示が挙がっていますが,抽象的な表現もあります。果たしてこれで実務対応できるのかを銀行界で議論しましたが,判断に迷い,うまく機能しないのではないかという意見が多かったと思います。   それから,ウについては,自発性の担保手段として公正証書による保証契約の締結を要件とするということについては,それ自体については否定するものではありません。しかしながら,公正証書の作成は手続として余りにも重いのではないかとの意見もあり,公正証書の方法に加えて,より簡易な方法というのも是非検討をお願いしたいと思います。   それから,先ほどクーリングオフのような考え方はどうかということの御提案もございましたが,貸出実行後,すなわちその保証人の信用を勘案しながら貸出を実行した後に保証契約が取り消されるというのは,実務的には受け入れることが難しいと考えます。 ○三浦関係官 ありがとうございます。この部分につきましては,私どもの省内でも議論をいたしまして,中小企業金融を担当している部局から,悩ましい,極めて慎重な検討が必要だ,という感触を受けております。その中身はほぼ大島委員がおっしゃったことと同旨であります。一言,二言付け加えますと,「ア」の幾つかカテゴリーを挙げていただいているところに関連して言えば,つまり今,金融庁さんの監督指針で許容されているようなケースというのはきちんと引き続き認められるようにしてほしいと。ただ,事業承継予定者を始めとして幾つかの事例を照らし合わせてみたときに,このような表現で本当に読み込めるのかというところが心配だということが一つであります。   それからあと,ウのところですね。自発的保証の意思の確認のところについても,これで実務的にワークするかどうかというところがやや心配であって,なぜ心配かというところは大島委員や中原委員がおっしゃったことと一緒でございます。   あともう一つお願いする必要があると思っておりますのは,いずれにせよ,アなりウなりで問題が解決するという前提ですけれども,新しい規律になる場合であっても既存の保証契約の効力が覆されないように経過規定で十分な配慮を頂くということは大事だということでございまして,以上が省内の議論の感触でございますので,申し上げさせていただきました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 ほかの委員の皆様方が御指摘された意見にそれほど付け加えるべきものはないんですけれども,我々の中でも議論をしましたので,その中身について若干申し上げておきます。まず,基本的に個人保証の制限をすべきという方向性それ自体について異論があるわけでは全くございませんで,その必要性については十分理解しているということが飽くまで大前提でございます。ただ,(1)を拝見しまして,実務的に本当にワークするかというところなんですが,不明確な要素がぬぐえないところがありますと,どうしても保守的な運用がされてしまって,本来有用な保証がうまく利用できないような形にならないかというところが懸念として出ておりました。   それから,ペンディングのPのウですけれども,この自発的な保証意思の確認ということについて,公正証書の利用に関しては,実務的な負担が増加するのではないかという御意見もありますが,他方,私なんかの印象だと,少数意見かもしれませんけれども,それもあり得るかなとは感じてはいるんです。ただ,内部での意見をお聴きしますと,やはり負担が大きいという意見も強いようでございます。   あと,(1)のアのところですけれども,この中の議決権に関しては先ほど過半数あるいは50%以上という話がありましたけれども,実務的には3分の1とかそういったものもありますので,その辺りがどうなるかというところも明確になっていかないとなかなか難しい面が出てくるのではないかと,そういった御指摘もあったので御報告させていただきます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 まず,この論点について総論的なことから申し上げますと,今4人の方から発言がありましたけれども,基本的に個人保証を制限するという考え方には反対がないとお聞きをいたしました。問題はその規律の立て方若しくは経営者の定義の仕方,こういう技術的な問題であると理解をいたしました。また,現在金融庁の指針の中で現実に保証がとれている部分についてそれがこの改正によってとれなくなることは防いでほしいという要請も理解をいたします。そういう意味で,ここに提案されていること,個々の論点,細かなことについてはいろいろ意見がありますけれども,この部会において成案に導くように是非とも検討を続けていただきたいと思っております。   その前提として,今年の6月10日に国会審議でこの個人保証の改正についての議論がなされたようですけれども,実態的数字が出ております。この数字がどれだけ客観性を持つのか疑義のあるところですが,それによると,これは地方銀行の例ですけれども,個人で連帯保証した事件が3万3,000件ある。それを前提に,経営に実質的に関与していない者が保証したいわゆるエンジェル型は55件,0.17%にすぎない。今回の改正でウの対象になる自発的に保証する意思を有することによって保証した例というのは,そのぐらい限られている。例として,御主人が花屋さんをするから奥さんが積極的に保証するというような例さえも挙げられており,極めて数が限られているということです。その限られた例に対してどこまでの制度設計をしなければならないのかということは,やはり慎重に考えるべきだろうと思います。   少し戻りますけれども,先ほどの根保証の元本確定期日についても賃貸借契約があるからという理由で見送られたわけですけれども,それも全体の根保証からすればごく一部の問題で,その仕組みが葬り去られるというのは,やはり疑念のあるところです。加納関係官の御指摘もそういう意味だったと思いますが,ここでも同じようなことが言えるのではないかと思います。その少数の例をカバーするための手当てとしてウが更に合理的に限定できて,それが公正証書等で補完されるのであれば,それは一つの解決の方法ではないかと思う次第です。   そして,アの中の(ア)から(オ)の定義についてですが,ここでもデータですが,先ほどの3万3,000件のうち全く実質的に経営に関与していない者が55件,0.17%というのに対して,代表者以外の者で,実質的に経営に関与しているもの,取締役を退いた実質オーナーであるとか事業承継者を想定しているようですけれども,その割合は結構あって3,500件,10.5%と書かれております。それがこのアの(ア)から(オ)の中にどのような形で書き込めるかという課題ではないかと理解をしております。   とりわけ(ア)は代表者で限定されておりますけれども,問題は(イ)だろうと思います。その業務を執行する権限を有する者の範囲としてどこまでのものが入るのか,若しくは(エ)ないし(オ)の,同等以上の支配力を有する者として,オーナーはこれに入るかどうかという辺りなのかと思います。いずれにしろ,この(ア)から(オ)までの言葉の厳密化を更に図っていただきたい。それにより今まで出ている御批判をクリアできないものかと思う次第です。   念のためにですが,(イ)を検討していく上で,その業務を執行する権利若しくは権限を有する者と書いたときに,ある特定分野の業務執行権限を有する者といえば営業部長等も場合によってはそれに当たりかねないわけです。ここで言っている趣旨はそうではなくて,業務全般についてどのような執行をするかその決定する権限を持っている者,それは代表者若しくは代表者に準ずる者,そういう限定ではないかと思います。また,会社でいうならば取締役以外の方で業務執行する権限を持っているからといってそれに当たるとも思えませんので,少なくともその前提として取締役理事等にある者で今申し上げた業務執行全般について決定する権限を有する者ではないのか,と理解をしております。そういうさらなる限定を加えて是非御検討いただきたいと考える次第です。 ○高須幹事 続けての発言で恐縮ですが,ウのところの自発的保証についてでございます。従来,情義的な関係から保証がなされるということに対して,今回一定の規律を設けようという観点からすると,このウの規律というのはなかなか評価の分かれるところだろうとは思っておる次第でございます。ただ,今日の御発言を伺っていますと,やはり今,大島委員からもこのウのところは必要であるというような御意見が実際の実業のサイドからこのような御発言が出てきているということであれば,やはりそれは重く受け止められなければならないのだろうと思います。したがって,ウのところについても一定の理解といいますか,評価をすることが必要なのではないかと思いますが,その際にやはり出てきたのは,保証というのは情義的になされるということと同時に,軽率になされるということも従来言われてきたわけでございますから,本来「軽率に」という部分をできるだけカバーするということになれば,公正証書によるとすることについては,やはり重要な一つの具体的な解決方法になるのではないかと思います。   その場合に,ここから先は私が所属しております東京弁護士会の意見なわけですが,その公正証書を作成するに当たって幾つかの規律を更に設けるべきではないか,3つほどあるのですが,一つは公証人が保証制度の仕組み及び主たる債務の内容について保証人本人に説明をすること,二つ目には,その説明の上で保証人本人がそれを理解した旨を公証人の前で陳述し,その内容が記載された公正証書によって保証契約を締結すること,3つ目に,代理人による保証契約の公正証書の作成は許さないこと,このような幾つかのルールを定めることとする。そうなると,手続がより重くなるのかもしれないのですが,ただ,ここではやはり本来の制度趣旨との関係では,それぐらいの制度とすることによってウの要件を規律として認めることができるのではないかと思っております。弁護士会の中にはもちろんいろいろな意見がございまして,ウというものを入れてしまうと規律に実効性がなくなるといった批判的な立場もあるのですが,東京弁護士会としては少なくともそこまで踏み切っておるということでございます。 ○岡委員 私もこの個人保証の制限について是非成案を目指すべきであると,この方向性について賛成であるというのが基本的な立場でございます。その上で3つ申し上げたいと思います。   一つ目は,ウの自発性という論点でございます。やはり個人保証を制限しようというその趣旨として,頼まれたら断れない,男気を示さなければいけない,そういう気持ちから保証する人々が多いので,それを何とかしようというものと思います。高須さんが言った軽率性を担保すればいいのかというと,それだけではなく,利益もないのに保証していいんですかとか,そういうじっくり考える機会を与えましょうということだと思います。このウについて公正証書だったらいいではないかと,もうそういう要式行為として担保すればいいのではないかという意見が多くなっていると思うんですが,そうすぐに公正証書を付ければいいではないかと一足飛びに飛ぶのではなく,やはり個人保証を制限する趣旨が何かということから考えて,その公正証書にする場合でも今,高須さんがおっしゃったような工夫も一つですし,何か安易に公正証書に飛び付くのではない工夫をすべきだというふうに考えております。それが一つ目でございます。   それから,二つ目は公正証書というのは一つ大きな選択肢だろうとは思っておりますが,悪質業者も公正証書をよく利用していたという話もございますし,公証人役場に行くと執行認諾約款をとられてしまう危険もあります。公正証書になると,全部に執行認諾約款が付くようになるおそれがありますが,それは本末転倒であろうと思いますので,部会資料にも書いてある公正証書の工夫の中に執行認諾約款はその保証契約締結時には取ってはならないと,そういう工夫もすべきではないかと思います。それが二つ目でございます。   それから,3つ目はアの本文です。アの(ア)から(オ)の整備という問題意識を中井さんたちと同じように持っておりますが,それに付け加えることはございません。このアの本文の「事業のために負担した貸金等債務」,ここについてはいろいろな意見がございますが,少し広げてもいいのではないかという意見です。その広げてもいいのではないかという意見の一つに,経営者がリースの債務を負うことがございます。事業のために負担した貸金等債務という表現のままでは事業用什器・備品のリース債務が入ってこないようにも思われますので,ファイナンスリースについては入るような工夫をすべきではないかと思っております。 ○鹿野幹事 まず,個人保証の制限という一般的な方向性については,私も賛成でございます。その上で3点述べさせていただきたいと思います。   まず,最後のほうの,ウについてです。ウについて.前回までは.自発的に保証する意思を持つ場合はどうかという形で抽象的に問題が提起されていたように思います。本当に自発的な保証意思というものが確保できるのかということについては,私自身はかなり懐疑的に感じるところがありましたし,もしこれが緩やかに捉えられるとすると,結局,ここでの個人保証の制限が無意味になってしまうとのではないかいう危惧を覚えていました。今回は,より具体的に一定の手続を経て自発的な保証意思を確保するということがここに盛り込まれており,その方向性については支持し得るところです。   ただ,先ほど岡委員もおっしゃいましたように,公正証書という手続を経ただけで本当に,じっくりと慎重に考えた上での自発的な意思を確保できるのかについては,なお危惧を捨て切れないところがあり,その点は,更に詰める必要があると思います。   次に,2点目は,少し戻ってアのところについてです。アに関して,先ほど大島委員から,従来問題なく行うことのできた個人保証が制限されるようなことになっては困るということで,3つの例が挙げられました。そして,そのうちの一つに,個人事業主の配偶者が挙げられていました。しかし,この点には私は疑問を感じます。もちろん,個人事業主の配偶者自身が,実質的な経営権を持っている場合,つまりアの(エ)に該当するような場合であれば,それでもよいかとは思うのですが,そうではない場合において,ウによる自発的な保証意思によるスクリーニングも経ないで,配偶者だからということで,このアのところに例外として設けられるべきだという趣旨であれば.極めて疑問です。アの例外は,飽くまでも経営権を有している者については個人保証を認めてよいという基本的な考え方にあると思いますが,配偶者は直ちにそれには当たりません。しかも,配偶者の保証については,日本だけではなく,諸外国においても色々と問題事例が多いと報告され,私自身もそのように認識しているところです。配偶者だから保証を断ることができず,不相当な保証をしてしまうというようなケースがあることも認識しておくべきではないかと思います。そういう意味で,先ほど大島委員がおっしゃったその点についての御意見には反対です。   それから,もう一つ,第3点はアの(イ)についてです。これは,先ほど中井委員がおっしゃったことの繰り返しになるかもしれませんが,ここでの「業務を執行する権利を有する者」がいかなる範囲の人を指すのかが不明確であり,その内容によっては,例外となる範囲が過度に広がりすぎるのではないかいう危惧を覚えます。恐らくそういう広い範囲を念頭に置かれたのではないだろうとは思っているのですけれども,その点をもう少し明確化する必要があるのではないかと思い,意見として述べさせていただきます。 ○道垣内幹事 皆さんお考えの上でおっしゃっているのかもしれないので,あえて申し上げるのは恐縮なのですが,私は資料を読みまして,ウというルールがありますと,アの場合には自発的でなくてもよいということになるのではないかという気がしたのです。しかし,およそ自発的な意思なしに契約は成立するのでしょうか。   したがって,公正証書ですればアの制限はかからないと書くというのならまだ理解は可能ですけれども,しかし,公正証書でやればよいとしたとしますと,今度は実質的な問題が生じます。つまり,皆さんがおっしゃったように,額の大きな保証の場合,公正証書でやることにはさほど支障を感じないのだとしますと,現在と余り状況は変わらなくなりそうです。高須幹事がおっしゃったような細かな手続まで入れればそれはそれでよいのかもしれませんし,公正証書でやればよい,こういう手続をとればよいと書くこと自体は,実務にそれだけのニーズがあるのならば私は特に反対いたしません。しかし,自発的であればよいという原則がまず存在して,その自発性の確保のために公正証書があるのだという論理の組み立て方には全く納得できないということを申し上げておきたいと思います。 ○山野目幹事 3点申し上げます。   本日,この論点の審議に入りましてから中井委員が御発言になるまでの間,複数の委員,関係官から主に中小企業の金融等を念頭に置いて本日部会資料で御提案いただいているところでは,なお不便ないし困難があるという御指摘がありました。中小企業金融の実務に関しては,なお需要を丁寧にお尋ねした上で今後の審議を進めていくべきことが求められるのではないかと感じます。大島委員がおっしゃった幾つかの類型のうち,ごもっともであるというふうに感じたものもございますし,ただいま鹿野幹事から御指摘があったように,少し更に検討してみなければならないものもあるのではないかと感じます。鹿野幹事も外国の例をおっしゃいましたけれども,フランスの夫婦財産制の中にも配偶者が保証人になるときのその効果などについて細密な規律があって,この問題は各国とも悩んでいる問題でございます。そういうところを慎重に検討しなければならないのではないかと考えますが,しかし,何よりもここで確認されなければいけないことは,民法にどのような規律を設けようとしているのかということがここでの議題であるということであると感じます。   第三者保証を制限する方向を明確にする民法の規律を置いた上で,それとは別に様々な御指摘をいただいている需要の中で取り組むことができないものについては,行政上の監督が行われる状況を確保した上で特例的規律を考えることもできるものであろうと思います。そのことは妨げませんけれども,お気付きいただきたいこととして,金融庁のガイドラインというものは何人かの方が言及なさいましたが,全ての保証契約の場合に適用があるものではなくて,それが適用されない局面において極めて深刻な第三者保証に端を発する問題が見られたものでありまして,そういうことに改めて留意をすれば,民法にきちんとした規律を置いて,それに適切な特例的規律を組み合わせるというような問題意識もお持ちいただきたいものと感じます。   2点目でございます。部会資料のウという形で御提案いただいているものに関して意見を述べさせていただきます。   自発的というこの表現は,法制的には最終的には残ることが難しい,そういう運命を持ったものであろうと思いますし,部会資料をお作りになっている立場でももちろんこのままの文言でいくというつもりでお考えではなくて,一つの問題提起としてお示しいただいたものであろうというふうに感じます。手続の面では,公正証書にするという方向が一つの有力な示唆として出されておりまして,私は,これはいいのではないかと感じますけれども,岡委員が御指摘になったように,執行認諾約款を誘発するというような弊害があるかもしれず,また,実務的には重いという御批判も頂きました。公正証書でない方法としては,全文と日付,氏名を自書させるというような方法もあるいは考えられるところかもしれません。   なお,このウの類型との関係では,公正証書など証書作成の手順を重くすればそれでよいのかという問題提起も頂いたところでございます。その点について工夫が要るだろうと思います。このウの意図するところが起業を支援しようとする第三者の保証であると考えますならば,都度その判断をして保証してもらうことがよいと考えますから,個人根保証契約をこのウの類型ですることは認められないというふうにお考えいただくことがよろしいと考えます。   また,この類型は新しく事業を起こすという前向きな文脈で用いられることがよろしいと感じますから,既に生じている債務の返済資金,つまり旧債振替に用いられることは好ましくないと考えます。主たる債務に係る金銭の交付が公正証書ないし何らかの証書の作成後にされる場合に限り保証の効力を認めるというような制約も考えていかなければならないのではないかというふうに思っております。   3点目,この御提案のア,経営者の概念等を含むここの問題でございますけれども,この(ア)以下のもので実務的に果たしてワークするかというような御疑問が伺っていて少し感覚的に論じられたような嫌いがあるような気もいたします。一番難しいであろうと思うものは(エ)ですが,それ以外のものについては今回部会資料を御提示いただくに当たって,かなり御努力を頂いていて,(イ)について中井委員が御注意になったようなことを踏まえて考えれば,(エ)以外のものはそれとして類型として運用可能なものとして成り立っていくのではないかというふうに思われます。(エ)の類型でカバーしようとしているものをリフレッシュされた後の括弧のないほうのウで引き受けるということも組合せとしてはあり得るものでございますから,今日の御議論を踏まえて引き続き成案に向けて御検討いただくことが有り難いと感じます。 ○松本委員 方向性としては,アで具体的に必要な第三者の類型をはっきり打ち出すべきだろうと。つまりアに入っているカギ括弧付きの部分が不十分なら,そこをはっきりと打ち出して入れるべきか入れざるべきかを議論すべきであって,ウのほうになるべく持ち込もうとするのは邪道だと思います。できるだけアでカバーすべきであると。その場合も何のためにそういう第三者保証をさせるのかという趣旨を明確にする必要があると思います。私はやはり経営規律という観点から,経営者あるいはそれに類似するものに一定の責任を負わせるというのは意味があるかと思いますが,そうでないウのほうを抜け道的に残しておくと,本当の意味で必要であって社会的にも有益である場合に以外に使われるという危険性が大変大きいです。   一つは,自発的という言葉について疑問が出されております。私も全くそうであって,従来の保証契約における問題点も自発的に保証人になった上での問題点なわけですから,自発的というだけでは解決しないと思います。あるいは自発的ということを誰からも頼まれていない場合というふうに限定するのであれば,あなた,本当に頼まれていないんですねという確認を債権者がきちんとやらないと言語的な意味はないだろうし,そういう確認は果たして実際的な意味があるのかどうか疑問がございます。   ウで必要なのがエンジェルだと限定できるのであれば,別途エンジェル法制としてどういうのが適切かという議論をすべきだろうと思います。私は第三者が起業支援しようとする,そして,第三者に資力があるのであれば,前回も言ったと思いますが,物上保証をすればいいわけであって,今までの部会の議論の中で第三者の行う物上保証について特に禁止すべきだという議論は全く出ていないわけです。あるいは直接資金をエンジェルが出せばよいということも考えられると思います。保証になぜこだわるのか,保証であれば多数の人に対して支援ができるからというところ辺りが金融的には意味があるのかもしれないですけれども,それほど多数の人に対してエンジェルをやりたいのであれば,やはり金融庁かどこかでエンジェルとしての登録制度か何かを導入して,民法とは別の枠でどんどんやってもらえる制度を作ればよいのではないかと思います。   公正証書にすればよいということに対する批判も何人かの方がおっしゃっていますが,貸金問題で公正証書で貸金を行っているというケースが昔問題になりまして,公証人相手の国賠訴訟が起こされたというような例もございます。したがって,公正証書にすればよいというのはちょっと安直だろうと思います。部会資料では公正証書にする上に,更にもう少し確認の手続等を重くするということが考えられていますので,最低そういう手続を重くするという方向でやって,それでもなお保証人になってやろうという人であれば,最後の最後でいいかなという気もいたしますが,なるべくそういうのはないほうがよいと思います。 ○山本(敬)幹事 ウの「自発的に保証する意思を有することを確認する手段を講じた上で」という点についてですが,このことは自体の意味及び位置付けについては,道垣内幹事が言われたとおりで,問題があるだろうと思います。ただ,山野目幹事がおっしゃいましたように,この文言がそのまま残るわけではないということですので,やはりここで一体何が考えられているかということを検討しておく必要があるだろうと思います。「自発的に保証する意思を有する」ということが何を意図しているかと言いますと,先ほど出てきたような軽率にということではなくて,やはり従来から言われている情義性,つまり頼まれて断り切れなくなってしまうという事態がないということを指しているのだろうと思います。   そうしますと,これは以前の部会でも申し上げたことでもあるのですけれども,ここで考えられているのは,その保証人と相手方だけではなく,第三者が入ってきて,そのような保証をするのは本当は嫌なのだけれども,やむを得ずしたというのではなく,第三者にもアドバイスをもらいながら契約をするのであれば問題が少ないというような考慮ではないかと思います。その意味で,公正証書になっていればよいというよりは,公証人が第三者として入っているところに意味があると考えられていたのではないかと思います。そして,何度も皆さんもおっしゃいましたように,その際に公証人が一定の説明なりアドバイスなりをすることが期待されているのではないかと思います。そうであるならば,そのような側面を前に出して規定することが必要になるのではないかと思います。そして,そのような観点からは,ルールの簡明さからは,公証人が入るというのが一番制度的に簡単かもしれませんけれども,例えば余り例はないかもしれませんけれども,保証人が懇意にしている弁護士にアドバイスを求めて,それで契約をしたという場合はどうかということも考えられます。ですので,一方で,保証人が断り切れなくなってしまうという事態を回避する方向で要件を付け加えると同時に,他方で,公証人ないし公正証書だけでよいかどうかという点については,実質的な考慮から広げる余地もあってもよいのではないかと思います。   ただ,そのように広げますと,形式的に割り切ることがなかなかできなくなっていきますので,その点はやはり考慮しないといけないかと思いますけれども,もう少しここは工夫の余地があるところではないかと思いました。 ○中井委員 先ほど一般論を先に申し上げましたけれども,基本的にはアの規律をきちっと行う,業務全般について執行する,決定する権限のある者をどう類型化していくか,そういう人たちは保証人としてなることを認めることはできるだろう,それは金融界が言われている規律の問題,モラルハザードを防ぐという問題の点からもうなずけているところで,アについて特定をして,その方々に保証を認める,しかし,ウの提案については弁護士会のかなりのところから反対があったのが正直なところです。それは道垣内先生,山本敬三先生がおっしゃるまでもなく,この自発的に保証する意思ということで本当に切り分けができるのかというところからすれば,強い批判がございました。   しかし,最初の私の発言ですが,この大きな枠組みを弁護士会全体としては容認していこうという考え方が他方であるのは,現実の金融実務の中で自発的意思に基づく保証をなお経営者保証以外の例外として認めているという事実,それは先ほど言いましたように3万3,000件のうちに55件という,これ一つの地方銀行の例ですから適切かどうか分かりませんが,少ないけれどもある。それから,この自発的というのは先ほど道垣内先生や山本敬三先生がおっしゃる法律用語としての自発的では決してない,ここで挙げられているのは何かというと創業者支援であり,この場面を特に取り上げて,それまでも民法で規制されるとそれは困る,という強い要請があるやに聞いております。このウを削除することによって個人保証の制限全体が否定されるということは,是非避けたい,そこは何とか,こういう言葉が適切か分かりませんが,折り合いを付けるような形でウを具体化していただきたいと思っております。   その中で,手続的にはやはり公正証書によるというのが一つ。それも本人出頭に限って,更に口授をするのか自ら筆記するのか,皆さんが御指摘になられたような工夫があるだろうと思います。更に,根保証はこのウでは駄目で個別保証に限るとか,公正証書作成後に貸付けるものでなければ駄目だとか,先ほど山野目先生のおっしゃられたことですが,そういう形で限定していく。更にここの自発性という意味を創業者支援という形で行うことを積極的に認めていくということならば,これは民法に書くことができるのかどうか分かりませんが,創業者支援に関する法律があり,創業者の定義も既にそういう行政上の立法であるようですので,そういうのを参考にして,開業支援に限る,開業してから数年間に行われる個人保証について特に認めるような形で限定をかける等の提案も弁護士会内部では出ております。   重ねて発言させていただいて大変申し訳ございませんが,アを基本にしながらも,制度全体が壊れないように,それがウの工夫で達成することができるなら,是非その試みを続けるべきであるということを重ねて申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに意見はないですか。 ○松岡委員 些細なことなので発言しようかどうか躊躇していた点です。イの表現が,いかにも読みにくいと感じます。このまま条文の文言になるわけではないとは思うのですが,この「主たる債務者が事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約」,というのを一息で読んで誰が分かるのかと懸念を持ちました。国民に分かりやすい民法にすると言ってもどこまで分かりやすくできるか難しい問題ではありますけれども,少なくともこのままに近い文言では,やはり読んでも規律の内容が分からないので,もう少し工夫を凝らしてはどうかと思います。ただ,現在のところ私にも明確な案はございません。 ○鎌田部会長 ほかにないようでしたら,次に「(2)契約締結時の説明義務,情報提供義務」と「(3)主たる債務の履行状況に関する情報提供義務」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 「2 保証人保護の方策と拡充」,「(2)契約締結時の説明義務,情報提供義務」は,中間試案の考え方を修正しており,アは,債権者ではなく主債務者が自分の信用状況について保証人になろうとするものに説明しなければならないこととして,説明の主体を変更するとともに,説明しなければならない信用状況の内容を具体化しています。その上で,イは,主債務者が保証人になろうとする者に対する説明をしなかった場合や虚偽の説明をした場合に,債権者がそのことを知り,又は知ることができた場合には,保証人に保証契約の取消権を与えようとするものです。中間試案では,債権者に説明義務を課すこととしていましたが,これに対しては,債権者が必ずしも主債務者の信用状況について情報を有しているとは限らないこと,守秘義務との関係で問題が生ずるおそれがあることなどの意見がパブリックコメントの手続に寄せられたことからこのような批判を考慮したものです。   「(3)主たる債務の履行状況に関する情報提供義務」も中間試案の考え方を修正し,主債務者が期限の利益を喪失した場合に適用対象を絞り,期限の利益を喪失したことを通知しなければならないこととしています。その上で,イでは,この通知を怠った場合には保証人に対して主債務者の期限の利益の喪失を対抗することができないこと,ウでは,通知がされた場合でも保証人がそれまでの遅滞分及び遅延損害金を支払った場合には,保証人との関係では期限の利益が回復することをそれぞれ規定しています。   中間試案では,主債務者が遅滞した場合に履行状況を通知しなければならないこととされていましたが,主債務者の遅滞のたびに遅滞が生じたことを通知しなければならないとすると,債権者の事務的な負担が大きいこと,多くの場合は債務の履行が数日遅滞するとしても,主債務者自身によって履行されており,保証人に通知することは必ずしも必要とは言えないことなどがパブリックコメントの手続に寄せられた意見で指摘されていましたので,このような批判を考慮したものです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 保証人を依頼する場合に債務者が保証人に対し,自身の資力に関する情報を提供することは当然であると考えているため,部会資料のアの提案は理解ができます。しかし,イのように説明義務が履行されなかった場合や説明に虚偽があったことを債権者が知り得る場合には,保証契約を取り消すことができるという規約を置くことには反対です。   まず,今回の規定は事業会社が債権の履行確保のために行う取引保証についても適用されるものと思いますが,事業会社は債務者が適切に説明をしたかどうかを確かめる手段を有していません。このような場合に保証の取消しを認めることは,新規の取引などを委縮させる懸念があると考えます。また,アの(ウ)にある収益状況については,債務者の主観が入るものであり,適切な説明ができるかについて疑問がございます。説明すべき収益状況が主観的なものであれば保証契約の取消しを求める訴訟が数多く提起される可能性もございます。そこで,債務者が保証人に対し説明をすべき義務を置くとしても,その効果として保証契約の取消しまでは認めるべきではないと考えます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに御意見ありますか。 ○松岡委員 11ページの(2)のイの個所で,第三者による詐欺に関する規定と同様に処理することで確かにバランスはとれるのかもしれませんが,債権者は常にと言っていいぐらい善意であり,債権者の悪意を立証するのはほぼ不可能に近いので,およそ保証人の救済にならず,このルールを置いてもどれだけ意味があるのか疑問です。大島委員の御意見とは反対の方向を向いているかもしれませんが,むしろ保証委託契約の際に債務者から保証人に対してきちんと説明がされたことについて債権者に確認義務があるのであれば,このルールもまだ分からないではありません。この点につき,どう考えたらいいのか,もう少し補足説明をしていただければ助かります。 ○鎌田部会長 事務当局から。 ○笹井関係官 確かに,債権者の悪意を立証することは難しいという御指摘は十分あり得るだろうというふうに思っておりました。ただ,更に進んで,確認義務まで課すとすると,保証人の保護という点を考えた場合にはそちらのほうがよいかもしれませんけれども,一方で,通常の契約に比べてそこまで重い債権者に対する義務を課すことが妥当なのか,大島委員がおっしゃったようにどこまで確認する義務を負うのか,また,その手段としてどういうものがあるのかという点が問題になろうかと思います。そこで,今回の部会の資料としては,保証人保護と債権者の負担のバランスとして,96条2項のような枠組みで調整を図ってはどうかという考え方をお示ししたということでございます。 ○三浦関係官 前の項目同様に中小企業金融の観点から省内では意見がありまして,基本的には大島委員がおっしゃったのと同じラインでございます。アの説明すべき事項につきましては,主債務者に過度な負担を課すことのないよう御配慮をお願いしたいということでございます。   それから,正に今やり取りがございましたイの方につきましては,事務局さんから言及があったとおり,若干「知ることができた」というところについて,ある意味心配する方向の意見が当省の中ではあります。つまり,債権者が「知っている」場合はさておき,それのみならず「知ることができた」という場合まで保証契約が取り消されてしまってよいのか,ということであります。ここは第三者詐欺を参考にされて横並びということだと理解いたしますが,第三者詐欺というのは,ちょっとここは自信ありませんけれども,正にその名のとおり悪意を持ってうそを付くような人の話をしているんだとすれば,それは悪意の程度が高く,今回の提案の状況とは違うわけで,ちょっと第三者詐欺と並びにしていいのかというところも含めて若干「知ることができただろう」といって後で保証契約が取り消されてしまうというのは,本当に大丈夫かなと,すごく広く取り消されることになってしまうとするならば,それは困ったことではないかと,むしろそちらの感触がございましたので,申し上げさせていただきました。 ○松本委員 先ほど議論のありました(1)と(2),(2)の特にアとの関係なんですが,対象となる債務が若干違う書き方がしてあるかなという点,つまり(1)の場合には貸金等債務を主たる債務とするという限定があるのに,この(2)のアでは事業のための債務ということで貸金等債務が主でないものについても適用されるんだから,独自の項目を立てる意義があるという趣旨かという気もいたします。そういうことでよろしいのかどうか,貸金等債務が主たる債務である場合については,(1)が採用されれば(1)のほうで決まってしまうのではないかと。すなわち(1)のアに当たるような各タイプの第三者保証人は(2)のアの(ア)から(エ)のような事項については,本来知っているはずの経営にかなり深く関与している者を念頭に置いているんだろうと私は推測しているわけです。   ですから,(1)と(2)が併存するとすれば,この(2)というのは貸金等債務が主たる債務でない場合についての特則であるとともに,(1)のウが生き残るとして,ウに該当する場合については確かに経営状況について分からないものが債務者になる,しかし,エンジェルもやはり分かっていないとまずいと思いますから,若干自己矛盾もありますけれども,ウを念頭に置いて(2)が規定されているという理解でよろしいんでしょうかという(1)と(2)の関係について御説明ください。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○笹井関係官 (1)と(2)の関係についてですけれども,(2)では特に限定しておりませんので,(1)のアの場合でも一応適用があるということにはなっています。ただ,御指摘がありましたように,経営者の場合,自分自身でよく分かっているということもありますので,明示的に除外することも考えられると思いますし,あるいは明示的に除外しなくても十分分かっているのだからこの規定の適用はないと考えることもできるかと思います。いずれにしても,明文で(1)と(2)の調整は図っておりませんけれども,(1)のアの場合には(2)に余り意味がないということは御指摘のとおりであろうと思います。(2)で意味を持ってくるのは,(1)のウが入れられた場合と,貸金等債務ではない債務が主債務である場合,この二つということになろうかと思います。 ○加納関係官 この説明義務の内容に関してでありまして,今日の部会資料70の14ページのところで,(4)のところで保証契約の意義とか連帯保証の意義とか主債務の内容については対象とするかどうかというところに書かれているのがちょっと若干分かりにくく感じましたので,ちょっと私の理解が不十分なのかもしれないんですけれども,ここに書かれているのはそういった保証契約の意義とかそういうような一般的な事柄であって,別に説明がなかったとしても,保証人がその意味を分かっていることがあるんだから,それが取消しだということは妥当とは言えないのではないかというふうな問題意識の下に説明事項とはしないというふうなことかなというふうに理解したんですけれども,ただ,説明がなかった場合に直ちに取り消されるかというと,11ページの(2)のイのところは,保証人が誤認をした場合でなければならないんだというふうなことではないかというふうに思いまして,誤認がある場合に初めて取り消せるということですから,そこは保証契約の意義である場合と,資力とかの場合で余り変わらないのではないかなという気がいたしまして,ちょっと疑問を感じたと。   それで,細かい話でいいますと,例えば保証契約の意義とか連帯保証の意義とか一般的な事項なのかもしれませんが,例えば主債務の内容というのは個別にいろいろなパターンがあり得るのではないかと思いまして,そこは(2)のアの(ア)から(エ)まで書かれている資産状況とかそういうところと変わらないのではないかというふうに思いまして,そういうところはやはりきちんと主たる債務者から説明をしていただかないと,やはり保証人としてもちょっと判断に困るということはあるのではないかなというふうに思いまして,結論から申し上げますと,ここの辺りも説明事項として加えていく必要があるのではないかというふうに思いましたので,ちょっと申し上げます。 ○道垣内幹事 加納関係官がおっしゃることにはもっともなところがあろうかと思うのですけれども,主債務者が保証人になろうとする人に対して被保証債務が何であるかとか保証の条件がどうなっているかというのを説明しても,その後に保証契約がなされるのは保証人と債権者との間でありまして,そこにおける契約交渉によって契約の中身は変わり得るのですね。そうなると,こういう内容の保証契約であるということを保証人になろうとする者に対してあらかじめ債務者から説明させるという方向は,理論的にはかなり難しいのではないかという気がいたします。現時点での案は,保証契約の具体的な中身にもかかわらず変動しない事柄,つまり主債務者の事情に関する事柄だけを主債務者に説明させるという枠組みにして,かつ保証契約の内容等の問題に関しては一般の契約当事者間の説明による問題にしているという整理であろうと思われますが,これはこれで仕方がないのではないかという気がいたします。 ○山本(敬)幹事 今の点に関しては,中間試案までの検討では,債権者の説明義務,情報提供義務として議論されていましたので,今挙げられた二つが並んでいたのだろうと思います。今回はそのような構成ではなく,第三者詐欺に準ずるような構成をとられたために,今のような点が落ちたというように理解しました。しかし,(2)のアで(ア)から(エ)が上がっていて,保証債務を負うことの意義や保証契約の内容についての説明義務がないかのような印象が生まれるとするならば,これは少し問題もあるかとは思いますが,これはどのように説明をするかということかもしれません。   先ほど御指摘がありましたように,(2)のルールが一体どこまで意味を持つかということを考えなければならないところですが,仮にこの第三者詐欺に準ずる構成を採るとしたとしても,イの書き方は必ずしも適当ではないと思うところがあります。といいますのは,このまま本当に卒然と読みますと,アの(ア)から(エ)について何らかの説明をしなかった,ないしは虚偽の説明をしたことを債権者が知り,又は知ることができれば,取り消すことができると読めなくもない書き方になっています。第三者詐欺の場合は,表意者が詐欺を受けて錯誤し,それによって意思表示をしたことのが当然の要件になっていると思います。ですから,本当にそれに準じて書くのであれば,イの書き方としては,誤認をした場合においてだけでとどめるのではなく,やはりそれにより保証契約をしたという因果関係要件を入れておかないと,意図したことと違う結論が出てくる可能性があるのではないかと思います。差し当たり気が付いた点は,以上のとおりです。 ○道垣内幹事 因果関係の要件を入れることには賛成できません。本来ならば債権者というのは貸金等を行うに当たって相手方の情報を取得し,あるいはそのときに取得していなければ保証契約の締結に当たって相手方の情報を取得して,それを保証人に伝えるべきであるというルールがあっておかしくなかったのだと思います。しかし,それについてはいろいろな反対がある。そこで,主債務者から説明させようということになった。このとき,その説明がなされることは保証契約のある種の有効要件であって,その説明がなくても,あるいは,説明が間違っていても保証契約はしたであろうという事情がありましても,サンクションとして取消しが認められるとなっていておかしくないと思います。   因果関係についていろいろな議論を巻き起こすのではなくて,どのようなことを本来は債権者がすべきなのかという観点から捉えていくべきではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 今の点は,正に元の債権者が説明義務,情報提供義務を負うか,どのような形で負うか,そして,それに違反したときのサンクションをどうするかというところでずっと議論されていたことでして,道垣内幹事が言われたような御意見が一方にありますが,他方で,私は,これは意思表示の瑕疵の問題と構成しない限り,やはり取消しを基礎付けるのは難しいのではないかということをずっと申し上げてきました。ですので,誤認を入れていただいたのは,そのような考慮が働いているのではないかと推測しますけれども,誤認したというだけで本当に取消しを認めてよいかどうかは大きな問題です。ましてや第三者詐欺に準ずるような構成を採るのであれば,平仄が合うのは因果関係要件を入れることだろうと思います。   ただ,詐欺に準ずるような構成をとりますので,現行法でいう要素の錯誤に当たる要件は落ちることになります。しかし,知っていればこのような契約はしなかったという関係がありませんと,本当に些細な事柄でも取消しが認められることになります。それは,行為規制を担保するという点ではよいのかもしれませんけれども,取消しの効果がそれで基礎付けられるかという点は疑問の余地があるのではないかと思います。 ○道垣内幹事 両方あり得るということはよく分かりますけれども,取消しというものが意思表示の瑕疵と結び付かないと論理的に成り立ち得ない法的効果なのかということについては,必ずしも山本幹事のおっしゃることに賛成できません。 ○松本委員 先ほど(1)と(2)の関係について御質問したところ,やはり(1)のウのように経営に関与していない第三者を保証人として立てる場合の義務が(2)だという御説明がありました。そうであれば,ウでいうところの自発性を軽率な保証を防ぐという趣旨に解するとすれば,この(2)のアで掲げられているようなことを説明させて,それが間違っている場合について保証から離脱できる道を与えるというのは,経営に関与しない第三者を保証人として引き込む制度をとる以上は必要だろうと思います。そうなると,イの書きぶりで,間違った説明をしたということを知っていることはほとんどないでしょうから,知ることができたときという表現でどれぐらい読めるかというところにかかってくるわけで,そこを明確にするためには松岡委員が最初に言われた確認義務的なものをやはり債権者に負わせる必要があるのではないかと。つまり経営に関与しない第三者を保証人として取り込む以上は,債権者の側に保証人が保証するかどうかに関わる,つまり軽率ではないかどうかに関わる重要な事項について主たる債務者からきちんと説明を受けているかどうかを確認させることぐらいは負担を負わせてもいいのではないかと思います。   主たる債務者が債権者に対してもうそをつき,全く同じうそを第三者保証人にもついている場合には,債権者としては確認したとしても虚偽の説明だということが知ることができたということにはならないわけだから,主たる債務を発生させる契約が債権者から取り消されない限り,それは保証として有効ということになるかと思うんですが,債権者に対して説明していることと保証人に対して説明していることが違うとすれば,そういう保証人を漫然ととるということはやはり問題だろうと思いますから,一定の確認義務があってもいいのではないかと思います。 ○山野目幹事 3点申し上げます。   1点目は,中間試案と異なって保証の意義とか連帯保証の意義の説明はアの各列挙のところには含めないというふうな変更をなさった御趣旨は理解いたしましたが,その上で申し上げますと,アのほうで説明をしなさいという事項には入れておいて,イのほうの取消権行使の対象事由にはしないという解決はあり得るのではないかと感じますから,引き続き御検討いただければ有り難いです。   それから,2点目ですけれども,イの取消権のところで虚偽の説明をしたというものは,事実と異なる説明をしたという意味でお書きになっていると私は理解しました。故意に虚偽の説明をしたということまでが要件とされていないし,取消権行使の要件としても説明者の,だます,不実の説明をする故意を主張立証しなければならないという趣旨ではないであろうと理解いたしました。そうであるとしますと,第三者詐欺の場合と厳密には少し異なっている部分があると感じますから,三浦関係官がおっしゃるとおり,確かに少し違う部分がありまして,実務上の抵抗があるのであれば,又は知ることができた,というところを除くという規律のあり様というものは,それが本当によいかどうか分かりませんけれども,なくはないようにも感じます。   それから,3点目ですけれども,このイの取消権の誤認をした場合というところを「誤認をし,それによって」というふうな因果関係要件を入れるかどうかという問題については,本日の審議の過程で,この因果関係的な文言を入れたとしても,錯誤のときのようなある意味ではハードルの高い因果関係が要求されるものではない,山本敬三幹事の言葉でいうと,ささいな点で事実と異なる説明をしたときにも常に取り消されるような合理的でない結果をはじくためのものであるということが明らかになっているものであり,そうすると,そのことを入れても入れなくてもそれほどそのことは重いお話にはならないようにも感じますから,今日の審議の結果などを踏まえて引き続き御検討いただければ有り難いと感じます。 ○鹿野幹事 2点申し上げたいと思います。   第1点は,今,山野目幹事もおっしゃった因果関係に係る文言のところなのですが,理論的な理由もさることながら,さらに実質的にも.山野目幹事及び山本幹事がおっしゃったように,虚偽の説明の程度や対象がささいなもので,それによる誤認が契約締結の意思決定に影響を及ぼさないようなときにまで取消しを認めるというのは,やはり行き過ぎだと思われます。このままではその点に誤解が生ずるのではないかという山本幹事の御指摘に賛成でございまして,その点に係る要件をここに文言として組み込む必要があるのではないかと思います。   次に,第2点は,先ほど松岡委員と松本委員が御指摘になったところですけれども,私も,債権者側の義務というものを全くここで問題にしなくてよいのだろうかと疑問を感じます。今回の資料のアの(ア)から(エ)までを債権者に説明させるということに対してはいろいろと批判が多いということから,これを債務者に説明させるという形にして今回の御提案があったのだと思います。そして,債務者に説明をさせるということ自体については,それはそれで一つの考え方だとは思うのですが,債権者についても,この債務者からの説明があったかどうかということを保証契約締結のときに確認させるという意味での確認義務を課してよいのではないかと思います。さらにもう一つ,保証契約締結の際に.債権者から保証人になろうとする者に対して,その保証契約の意義とか連帯保証の意味などを改めて説明させるという意味での債権者の説明義務の規定も,設けるべきだと思います。そもそも債権者は,保証契約の正に当事者ですし,保証人にとっての保証の危険性ということを考えると,通常以上に慎重な態度で臨まなければいけないということがしばしば言われているところですら,そのような観点からも,この意味での説明義務を債権者に課すということは考えられるのではないかと思っております。 ○中原委員 2の(1)のアで保証人の入口を絞る以上,(2),(3)において対象は緩やかにしていいのではないかと考えます。したがって,具体的には(1)のウのものに限るという形で立法したほうがより明確になるのではないかと思います。   それから,(2)のアの説明の内容ですけれども,債権者が債務者の状況を全て知り得るのであれば,債権者が債務者の保証人になろうとする者に対する説明内容を確認して,債務者が正しく説明しているのかを確認させる意味はあるとも考えられますが,必ずしも債権者は債務者の全部の資産の内容,他行での取引条件,事業内容などを知りません。また,保証契約の締結前に,債務者の状況を説明することと銀行の守秘義務の関係も整理が必要と思います。そのような事情から,今回の事務局提案も債務者に対して説明させることにしたのだろうと思います。   したがって,債権者に債務者の説明内容の確認義務を仮に課すとしても,どの程度の内容を課すのかにより大きな影響があると思います。例えば(2)のアに列挙してある(ア),(イ),(ウ),(エ)に記載されたことについて債務者から説明を受けましたということの確認を,例えば抽象的な内容で確認書をもらえば良いというのであれば,実務としては対応可能と思いますが,債務者が説明した内容を個別具体的に中身まで突っ込んで確認しろと言われても,債権者の認識と齟齬がある場合もあり,実務としては対応が難しいと思います。   それから,保証契約は債権者と保証人との間の契約ですから,保証契約の内容について債権者が保証人に対して説明義務を負うのは当然のことと思います。 ○佐成委員 我々のほうは中間試案に対するパブコメで,この論点については反対意見を述べているんですけれども,そのことは一つ措きまして,今回の部会資料を内部で議論した中で出てきたところとして申し上げますと,やはり今何人かの委員の先生方から出ております債権者の確認義務の辺りでございます。これでは元々この確認義務が法定されていないわけですけれども,実務上はこういう規定が入れば慎重な債権者は当然確認してしまうというか,確認というプラクティスはするだろうと。債権者としては事後の取消しを恐れて,当然確認をすることになるだろうと,そういうことなのであります。けれども,だから,確認義務を法定しろとか,しても実害ないということではないんですけれども,多分プラクティスとしては債権者側としてはこういう規定が入る以上は恐らく主たる債務者がきちんと説明したのかということは聞くはずだという意見は内部で出ておりました。だから,それを法定化しろというところまで言及はしませんけれども,そういったような意見が出ていたということだけ御紹介させていただこうと思います。 ○中井委員 この(2)についてはパブコメの結果を先ほど拝見しますと,拮抗している。拮抗しているけれども,債権者に従来の中間試案のように義務を課したのでは,なかなか合意に至らないというところから事務当局のほうで大変苦労されてお考えになられた提案ではないかと思います。弁護士会としてこれを検討して,その努力を多として,少なくとも主たる債務者からこのようなアの(ア)から(エ)に係る信用状況に関する情報を保証人となろうとする者に提供すること自体を評価するという意見が一方でございます。しかし他方で,やはり違和感といいますか,主たる債務者と保証人との間には保証委託契約がある。これらの義務はこの保証委託契約に基づいて出てくる義務と一般には考えられるのかもしれません。他方で債権者と主たる債務者との間では当然貸金契約を予定しているわけですから,その貸金契約を締結するに当たって,(ア)から(エ)に関する情報を集めないわけはないし,確認しないわけはない。確認しないで融資するということは一般的に考え難い。そのうえで,債権者は保証人との間で保証契約を締結するわけですから,仮に先ほどから出ているこの規定を入れたときに,債権者に確認義務を課すという議論が出てくれば,それはそのまま今,佐成さんもおっしゃったように債権者は説明したかどうか確認するだろう。とすると,結局これは債権者が保証人に対して直接これらの情報を説明するのと果たしてどこがどれだけ違うのか,元に戻るような気もいたします。   本来的にはやはり,保証契約締結に当たって債権者が保証人に対して説明するのが本筋だろうと。保証契約締結に伴う義務として説明するのが本筋で,それが不十分で,ここで書かれている誤認若しくはそこに因果関係が必要かもしれませんけれども,取消しを認めるというのが筋ではないかと思うわけです。   ただ,もうここまで来ている議論ですので,そういう意見が一方にある中で,少なくともアないしエの事情が主たる債務者から保証人に対して情報提供することが立案できるなら,それに対して積極的に評価する意見もあります。ただ,繰り返しになりますが,イの第三者詐欺の構成による取消しというのが本当に素直なのか違和感があると正直思っておりまして,ぐるぐる回った話ぶりになりますが,本来的には債権者と保証人との間での情報提供義務と構成して,それがなされなかったときに取消しという構成が素直ではないかと感じます。 ○高須幹事 今,中井先生から御意見があったこと,私も同じ考えを持っているところでありまして,主たる債務者が経済的に破綻をしたときに,保証人に対して具体的な責任追及がなされます。そのときの利害状況は主たる債務者としては保証人に迷惑をかけたという気持ちがあって,できれば保証人には保証責任を課したくないというところだと思います。そのときに主たる債務者の行動パターンとして最も考えられるのは,俺が説明しなかったことにしろというような展開があり得るのではないか。もちろんこれは本来の正当な話ではないわけですが,実際問題としてそのような可能性がないとはいえないと思います。そうすると,飽くまで今回のような立て付けにして,主たる債務者がどのような説明をしたかということをポイントに保証契約の有効性というのを判断させるということになると,そこの限りにおいてはかなり債権者に不利な局面が実際の訴訟では出るのではないか。もちろん事務当局でお作りいただいた案は,その対策として第三者の詐欺と準じる形で債権者自体が知っていたか,あるいは知り得たということがなければ駄目ですよという規律にしている。そうすると,その知り得たというところの判断に唯一勝ち負けが係ってくるとなると,そうなると佐成さんがおっしゃったように,やはり心配だから保証契約を締結するときにある程度のことは確認してしまうのではないか。してしまうというのは言い得て妙だったと私は思うんですが,全く何も知りませんでしたで勝ち抜こうというよりは,やはりそれは健全な銀行なり金融機関なり,あるいは企業としては,確認をした上で契約の有無を決めるという判断にいくような気がします。   そのときに,だったら自分のほうでやれることを保証人に説明して了解いただけましたかといって,了解してもらって保証するのと,自分の手の届かないところで主たる債務者からこういう説明を受けていますねという回りくどい説明の確認を求めるのとどちらがより保証を採った上で契約をする場合に実効的なのだろうかと。今回の仕組みが御苦労の結果だとは思っておるんですが,やはりちょっと気になっておりまして,今,中井先生から御指摘の点というのは私も同じような危惧を持っているというところでございます。 ○沖野幹事 2点あります。   1点目は,イがどう動くのかということの確認です。このもとでも,恐らく債権者としては具体的な情報提供がされたかという確認は普通するのだと思います。理論的にというとちょっと語弊があるかもしれませんけれども,そもそもから言えば,本来は保証契約を締結するに当たっては,この点は情報として取っていた上で意思決定するべきだということだとすると,情報提供をするのはむしろ契約当事者のほうだというのが筋だと考えられますので,この点から情報提供をすべきは,やはり債権者となるはずです。けれども,その情報の与え方にも問題があり得るところでもあり,入手の問題もあるので,債務者がその部分を代わってといいますか,提供していると,そういう構造ではないかと思います。債務者が情報提供の主体であるという規律をそういうふうに捉える点からしても,債権者が確認をすることになると思います。その場合,確認の結果自身で把握している情報と債務者により提供されたという情報とが違っていたというようなことがあった場合に,債権者としてはどういうことになるのかです。例えば現在の資産ですとか債務の状況が債権者のほうで把握しているのと違うということになると,債権者としては保証契約は締結しないということになるのではないかと思います。そのとき,債権者は,例えば(イ)の事情についてはこちらで把握していることと違っておりますので,保証契約は締結しませんというようなことを言うのか言わないのか,あるいは主債務者に対して保証契約は締結できなかったので,主債務のほうも締結できないけれども,この点について情報が適切でなかったというようなことを言うことになるのか。もし情報の齟齬について告げるとなると,場合によっては結局こちらで把握しているものがどうかということに言及せざるを得ず,その具体的な内容はしかし出せないというようなことになると,この規律のもとでは,債権者は逆に非常に難しい立場に置かれるような気もするものですから,確認のプロセス等においてどういうふうな動き方をするという想定をしたらいいのかというのが一つ目です。   二つ目は,括弧のついていないアのほうの具体的な項目についてです。特に(エ)についてなんですが,主たる債務についての他の担保及びその内容ということで,これ自体はもちろん債務者が自分から委託しているという場合もあるし,そうではなくて担保が付けられるという場合もあり得るわけですが,債務者が言うということは,自ら委託をしているか自分が付けている担保に限られるということになると思います。先ほど道垣内幹事から保証契約の債務の内容そのものについては結局債権者との間で決めるものなので,確定的に言えないというようなお話があったと思うのですが,担保については,債務者の委託がなくしかも債務者が知らないまま担保が供されることもあり得ます。債務者が把握していない情報を提供することは期待されないので,もちろん債務者が知っている範囲でということになると思うのですが,この点について一番知っているのは債権者ではないかと考えられますので,債務者の財産状況などとは性格が違うように思います。また,債務者による情報提供の内容ですが,債務者が担保の状況や内容について説明する場合に例えば予定であるというような説明をすることになるのかどうかです。債務者から例えば予定であるというようなことを言ってしまうと,その時点では本当に予定されていたのだけれども,実際にはその後,担保は得られなかったということだとかえって保証人に妙な期待を生じさせることにならないかというふうにも思われます。ですから,(エ)をアに入れていることや,あるいは(エ)としてどこまでのことを想定するのかというのは,もう少し考える必要があるように思います。以上に関しまして,もし現時点で何か想定がありましたら追加して教えていただければと思います。 ○鎌田部会長 ありますか。 ○笹井関係官 明示的に確認義務を課したものではありませんので,実務的に確認する場合に,現実にどのような運用がされるのかは,今日お話を伺っていて想像しただけということになりますけれども,確認をした結果主債務者が虚偽の説明をしていたことが判明したということになれば,恐らく主債務者との間でいろいろもう一度情報の齟齬などを調整するということになるのだと思いますし,最終的にそれが解決しなかった場合には,主債務者に対して融資をしないということになるのではないかと思います。   それから,これはまた(エ)のほうで御議論いただければというふうに思っていたのですけれども,担保については予定であるという説明をするのか,あるいはその時点ではまだ担保としては存在していないから,そもそも説明する必要はないということになるのか,具体的にこうではないかということを申し上げられるほど現時点で考え方はまとまってはおりません。どうすべきかということの御示唆がありましたら,是非承りたいと思います。 ○深山幹事 説明義務,情報提供義務について,中間試案のように債権者にその義務を課すのか,今回の提案のように債務者にするのかということについて両方あり得ると思いますし,私自身はどちらでもいいのかなというぐらいに思っております。ただ,パブコメ等あるいは部会の議論もそうですけれども,債権者に説明させることについては相当程度の反対意見もあって,議論がかなり対立しているという状況を考えると,債権者にこだわる必要もないのかなと思います。今回のように債務者に課したときに,ではどうプラクティスとしてワークするのかというふうに考えると,既にいろいろな方々から推論があるように,実際には債権者は自らの融資判断としても一定の債務者の情報を入手するでしょうし,その上で主債務者にきちんと説明しましたかという確認の仕方もあるでしょうが,より明確なのは保証人となろうとする者に対してきちんと説明を受けましたかという確認をするということが想定されます。あるいはその説明を受けたか否かだけではなくて,それが正しい情報かどうかということまで確認しようとすれば,自分が入手した情報を保証人に提示して,あなたはこういう情報を受けていますかというふうに聞けば,債務者のほうで債権者にした説明と保証人にした説明が一致しているかどうかという確認もある程度できるんだろうと思います。   ただ,債権者に説明義務を課して,法的義務として義務化してしまいますと,それはかなり厳密にやらないと安心できないということになろうかと思います。債権者をそこまで神経質にさせる必要もなくて,後の紛争に備えて立証手段として確認作業はするんでしょうけれども,その程度でよくて,そうだとすると,債権者に義務まで課してしまうのはやや行き過ぎで,言わば事実上の必要が生ずるという程度にとどめるという意味で,主債務者に説明させるという今回の提案のほうが現実的なのかなと思います。そのことによって貸す側のこの規律に対する理解が得られるということであれば,今の提案のほうが落ち着きがいいのかなという気がいたします。 ○岡委員 弁護士会では,この新しい制度について様々な意見がございます。中井さんとか深山さんが言ったように,やはり債権者に説明させるべきだという意見も強うございます。ただ,私は個人的には現在の案がいいと思います。実務がどうなるのかという予測については,恐らく主債務者が保証人に説明書みたいなものを書いて渡し,保証人が上記説明を受けましたと,多分そのような書面のやり取りがされるのではないか。それを受け取った債権者が自分が入手している情報と比べて同じであればいいねと,間違っていたらリスクがあるので,このままではあなたに貸せないよと。もうちょっときちんとした保証人を連れてきなさいと,こういうふうに動くのではないかと思います。そういう意味では,義理人情に頼って情義性で保証人をとるなと,あるいはそのような保証人で金を貸すなと,そういうことに対するメッセージ機能も結構あるのではないかと思います。きちんと自分のことをさらけ出して保証人になってもらいなさい,そういうことが担保されている保証人による金融慣行,融資慣行を確立しなさいと,そういう方向性になるのではないかと。そういう意味から賛成したいと思います。   それからもう一つは,知り得た場合に取り消せるということの新しい制度について,やはり弁護士会でも様々な意見があります。こんなのでは保証人の保護にならないという意見もあるし,これでは債権者にかわいそうだという両方の意見がございます。したがって,ここをどうするかですが,いろいろな工夫がこれからもあり得るところでありまして,重過失に限るというような工夫もあり得ると思いますし,必ず全部取り消すというのではなく,全部又は一部取り消せると,そのような効果のところでもいろいろ工夫をして是非ともこの方向性の立法はしていただきたい,そんなふうに思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。   (3)についての意見がまだ出ていないんですが,(3)についての御意見があれば。 ○佐成委員 内部での議論の中で確認してくれと言われているのは,この部会資料の16ページの下のところに通知義務等は保証一般を対象としていると書かれている点です。「保証人が個人であるかどうか,事業のために負担した債務であるかどうかに限らず生ずる問題だから」という説明がなされていて,それでは,保証会社も一応こういう対象にするということなのかというご質問でございます。これは任意規定ではないのかという疑問に加えて,そもそも保証会社等については主たる債務の履行状況に関する情報提供義務を法律として認めるような必要性が本当にあるのかという疑問が根本にあって,それでそういう質問が出たんだと思うわけですけれども,そういう質問があったので事務局に確認をさせていただきたいと思います。 ○笹井関係官 保証の意味,連帯保証の意味,あるいは主債務者の信用状況については,経験や知識を有するプロであれば,法律上の規定がなくても対応できる面がありますので,適用の対象を絞ったんですけれども,主債務者がその債務を現実に履行しているかどうか保証人がプロであるとか経験があるとか知識があるとかということによってカバーできるような問題ではないので,今回の資料では,保証人が法人であるか個人であるかで区別せず,保証であれば適用される規定として構成しています。その結果,保証会社みたいなものも,今の提案では適用の対象となっております。   ただ,主債務者が履行するようにしっかり督促するなり,あるいは情報を収集するなりということが可能であるという考え方はあり得るところで,部会でそういう方向で立法すべきであるということであれば,適用対象については検討の余地はあろうかというふうに思っております。   もう一つ,任意規定かどうかというところなんですけれども,これも誰と誰の間で特約をするのかということもあろうかと思いますが,確かに,これは(1)とか(2)と違いまして,契約締結後に関する規定でもありますので,公序良俗であるとか消費者契約法10条によって規制されるという可能性はもちろんあるわけですけれども,保証契約の中で特約をすることによってもおよそ排除できないものかというと,そういうものでもないのかなというふうには思っております。ただ,そこはもういろいろ意見があるかもしれませんので,御意見を承ることができればと思います。 ○中原委員 (3)ですが,主たる債務者が分割払いの定めによる期限の利益を有する場合において,との前提が置かれています。したがって,分割払いについて延滞が発生した場合以外の理由で期限の利益を喪失した場合には,適用がないのでしょうか。例えば事業性資金借入れの場合には,主債務者の分割弁済が継続的に遅滞して,保証人がその都度保証債務の履行をしても,主債務者自身の信用が回復することはあり得ないだろうと思います。主債務者の信用が悪化した場合には,銀行は銀行取引約定書の約定に従って,期限の利益を喪失させるケースもありますが,それは認められるかをお伺いします。   もう一つは,イのところで,主たる債務者が期限の利益を喪失したことをもって保証人に対抗することはできないと述べられていますが,各々について時効の起算点はどうなるのでしょうか。主債務は期限の利益を喪失して消滅時効が開始するが,保証債務の時効は開始しないので,債権者は一つの貸出について二つの時効管理を行う必要が生じるという理解でよいのでしょうか。それとも,主債務について期限の利益を喪失すれば保証債務についても期限の利益を喪失するが,遅延損害金の請求はできないということでしょうか。 ○笹井関係官 一つ目の御質問ですけれども,債務を履行しなかった場合に期限の利益を喪失するのは,請求による場合と当然の場合があり得ると思いますけれども,いずれにしても分割払いの定めに従って履行がされなかったということを理由として期限の利益を失ったという場面を適用場面と考えておりました。それ以外の期限の利益の喪失条項が契約の中で定められていた場合に,それを回復するものではないと考えております。ほかに,もし適用されるかどうか明確でないものがありましたら,それはまた考慮して表現ぶりなどを考えないといけないと思いますので,教えていただければと思います。   それから,二つ目の時効管理の件ですけれども,これはイの場合,保証人との関係では期限の利益を喪失していない,保証人との関係では履行期限は来ていないということになりますので,時効の起算点は,保証人との関係と主債務者との関係ではずれ得るということになるのではないかと思います。この提案の趣旨としてはそういうことでございます。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○中井委員 (3)の履行状況に関する情報提供義務をこのような形で規律する方向に基本的に賛成です。その上で確認ですけれども,例えば2週間以内と,アについてその規律が定まったとき,3週間目に通知したときはどうなるのか,もはや期間徒過ですから,このイの規律が適用されて,それ以降に通知されてももはや対抗することができないという理解でよろしいのか,それとも3週目とはいえ,3週間目に通知をした段階で保証人に対しても対抗することができるようになるのか。この文章からすれば対抗できないという結論なのかと思いますが,念のため確認させていただきたい。   それから,この規律を設ける方向では賛成だと申し上げましたけれども,この中間試案で取り上げた,部会資料の下にありますアとイに関する情報提供義務についてです。イについては遅延したときにその都度通知しなければならないということが債権者に対しては過大な負担だということは御指摘のとおりなのかなと思います。したがって,これが取り上げられなかったことはやむを得ないのかもしれませんが,アについて保証人から照会のあったときに通知しなければならないという規律をここで落とす必要があったのか。これについては債権者に対して特段に過大な負担を課すものでもありませんし,照会があった以上は回答してよろしいのではないかと思いますので,この点,これなぜ落としたのか,お教えいただければと思います。 ○笹井関係官 一つ目の御質問ですけれども,アで仮に2週間と決まったとしますと,その2週間以内に通知がなければイで対抗できないことになりますので,3週間経ったところで通知がされても,その債務不履行に基づく期限の利益の喪失については対抗することができないということになります。   ただ,一度2週間を徒過してしまったら未来永劫期限の利益を喪失させることができないのかというと,そうではなくて,これは今の文言で解釈できると思っているんですけれども,保証人から見た場合には主たる債務者がまだ期限の利益を有している状態であるということを前提として,期限の利益の喪失条項の適用がさらに考えられるということになるだろうと思います。したがって,ある一回の債務不履行を理由とする期限の利益の喪失ということを対抗することができなかったとしても,その次の回にまた履行がないなど,期限の利益の喪失事由がもう一回生じたという場合には,そこから2週間以内に通知がされれば,保証人に対して改めて期限の利益を喪失させることができるということになろうかと思います。   次に,中間試案のアをなぜ落としたのかですが,中間試案のアを仮に規定した場合にどういう効果と結び付けるのかということが問題になるだろうと思います。中間試案の段階では,アの通知義務違反に結び付けられていた効果は,遅延損害金が履行の請求をすることができないということで,そうだとすると,アで意味があるのは,債務の不履行が生じているという場面になります。履行がされていればそもそも遅延損害金が発生しないので,アで通知義務を課しても,抽象的な行為義務としての通知義務でも意味があるという考え方はあるかもしれませんが,効果との関係でいうと余り意味がないということになってきます。   ところが,中間試案のイでは,債務不履行が生じた場合にはそれを通知しなければならないと書いてあって,しかも,遅延損害金が発生しないというアと同じ効果が生ずることになっています。そうすると,アに意味があるのは常にイの適用がある場面で,かつ効果が同じだということになりますので,イとは独立した意味が乏しいのではないかということです。   今回の提案としては分割払いの定めによる期限の利益を喪失した場面で,その喪失したということについての通知義務というものを課しておけば,差し当たりは十分といいますか,元々の狙いであるところの,知らないところで期限の利益を喪失していて,予想外に多くの額の支払いを一時に求められるという問題を回避するという意味では今の提案で十分なのではないかというふうに考えたということでございます。 ○岡崎幹事 今の中井委員の一つ目の御質問に関連してお聞きしたいことがございます。分割金の不払が1回あり,そのときに債権者が遅滞なく,又は2週間以内にその通知をしなかったけれども,債務者がその次の回の分割金の支払もまた怠って,そのときには今度は債権者が保証人に対して遅滞なく,又は2週間以内に通知をした場合,今の笹井関係官の御説明ですと,2回目の不払のときの通知をもってこの(3)のアの通知をしたことになるということだと思いますけれども,その際にウの規定の適用がどうなるのかを教えていただければと思います。この場合,保証人が相当の期間内に幾ら払えば期限の利益を失わなかったことになるのか,つまり2回目の分割金の支払を催告されたということなので,その2回目の分割金だけを払えば期限の利益の喪失を免れるのか,それとも1回目も合わせて払わないと駄目だということになるのか。仮に1回目が完全に不問に付されるのだとすると,2回目だけでいいということになるのでしょうけれども,そうすると,1回目についても保証債務を負っているわけですから,それでは今度はそれをいつ払うのかが難しい問題になると思いまして,ちょっと細かい質問で恐縮ですけれども,教えていただければと思います。 ○笹井関係官 今,岡崎幹事がおっしゃった後者の問題で申しますと,1回目の保証債務を負っているので,いつその履行期が来るのかが問題になるとおっしゃいましたが,履行期の問題と,その後の期限の利益を有しているのか失っているのかという問題は必ずしもリンクさせる必要がないので,1回目は1回目でもう既に履行期は来ているんだけれども,しかし,その後の2回目以降の期限の利益を保持するための要件としては2回目の分だけで足りるという考え方も,十分あり得ると思います。   ただ,ここでは,債権者の利益を失わせないという趣旨からすると,1回目と2回目の両方支払わないと期限の利益を復活させられないということになるのではないかと思います。 ○野村委員 ちょっと今の御説明がよく分かりませんでした。分割弁済の定めによる期限の利益を失うということは,債務者が全額について,直ちに弁済する義務を負うということになるのではないかという気がしたのですが。そうだとすると,イはともかくとしてウは.どのように処理するのか,難しいのではないかと思いました。いずれにせよ,遅滞により期限の利益を失った後に,2回目の遅滞ということはあり得ないのではないか,少なくとも観念しにくいのではないかと思いました。 ○笹井関係官 私の理解が何か間違っているのかもしれませんが,1回目に遅滞をして,そのときに通知をしなかったためにイによって対抗することができなかった。その後2回目の期限が来たんだけれども,それも徒過してしまったと。その2回目の遅滞が改めて期限の利益を喪失させる事由に該当するので債権者が通知をした。その場合に,ウの適用によって保証人が期限の利益を回復するには,2回目の遅滞分だけを払えばいいのか,1回目と2回目の遅滞分の両方を支払わなければならないのかというのが御質問だったと思うんですけれども,結論的には,1回目と2回目を両方払わないといけないのではないか。そのことによって,3回目,4回目,5回目の支払分については,将来それぞれの期限が来たときに支払えば足りるという状態が復活することになるという意味で…… ○野村委員 それは保証人との関係ということですか。 ○笹井関係官 はい,保証人との関係では。 ○鎌田部会長 例えば請求喪失理由があって,請求して期限の利益を喪失させた債権者が保証人に対する関係で期限の利益を喪失させるために,債務者に既に存在していない2回目の賦払金の請求を1回やらなければいけないという話ですか。 ○笹井関係官 2回目はただ期限が来るわけで,その2回目で改めて期限の利益を喪失させる場合には,元々約定されていた期限の利益の喪失条項の内容にもよりますけれども,請求によって喪失させることになっていた場合には,主債務者との関係では無駄かもしれませんが,主債務者との関係では存在しない期限の利益を喪失させるために,主債務者に対してもう一回意思表示をしないといけない。 ○野村委員 1回分ずつ遅れて払っていれば,保証人に対する関係ではいつまでも遅滞にならないということになりますか。 ○笹井関係官 通知がされて……。 ○野村委員 2週間以内に通知しなくて,全額について弁済義務を負っていながら主たる債務者が1回分ずつ分割して払っていたら,保証人との関係では遅滞に陥らないということになるということですか。 ○笹井関係官 1回分ずつ遅れていたら,つまり2回目以降の…… ○野村委員 遅れないでそのまま分割して払っているとすれば。 ○笹井関係官 期限の利益の喪失条項の要件を満たすような状態にならないようにちょっとずつ払っていれば,保証人との関係では期限の利益を喪失しない。 ○松岡委員 今の点に関連して発言させていただきます。債務者はすでに1回目の支払を怠って期限の利益を失っているので,2回目以後は全額の弁済義務があるわけですね。だから,2回目分の弁済ですといって分割金だけを持っていっても,債権者から受領を拒絶されますね。 ○笹井関係官 拒絶はすることができるんだと思います。 ○松岡委員 債権者は一部弁済として受け取っても構わないのですか。しかし,そうすると,全額は払われていないが,履行遅滞にはならず,岡崎幹事がおっしゃったように,履行が1回ずつずれるのですか。 ○鎌田部会長 履行遅滞ですけれども,保証人との関係で期限の利益を喪失させるためには賦払金の請求をされてしまうので,それにこたえられてしまうと,形の上ではそれによる仮定的な遅滞は起きないと,何かそういう議論が成り立つだろうというようなお話なんだろうと思うんですけれども。 ○村上委員 いわゆる請求喪失型についてどうなるのかという確認のための質問です。支払を怠っただけでは期限の利益を喪失せず,請求をして初めて期限の利益を失うということになっている場合に,かなり長期間,例えば1年とか2年とかにわたって不払がずっと続いてからようやく請求をしたというときも,アの適用対象ですよね。その場合に,ウはどうなるのでしょうか。2年分なら2年分滞納があって,その段階で初めて請求をしたというときに,ウの適用を受けるためにどれだけ払わないといけないのかというと,恐らく2年分ということになるだろうと思うのですけれども,そういう理解でいいかどうかをお尋ねしたかったということです。 ○笹井関係官 そこはそうならざるを得ないと思います。 ○中井委員 この提案自体は,今お聞きしていますと,保証人保護の見地からお考えいただいたと感じました。ただ,構成が複雑で,取り分け恐らく期限の利益の喪失を2回,3回と観念することを前提としている点に違和感を覚えます。まず,当然喪失であればその時点で期限の利益は喪失するのであって,その後再び期限の利益の喪失時期を観念することは適当ではないだろうし,分割払いの請求喪失型であっても,2回,3回不払いがあって請求喪失をした。その後更に通知を怠ったからといって,もう一度債務者に対して請求喪失の通知を送って,その日から2週間以内に通知するという,これは喪失を2回観念するわけですけれども,それは違和感があるといいますか,混乱させるのではないか。そう考えると,恐らく請求喪失が起こったときから2週間なら2週間以内に原則通知しなさいと。通知したときには,このウの規律は,それまでに弁済期の到来した元本プラス約定利息と損害金を払えば保証人との関係では期限の利益を維持しますよと,こういうことではないか。逆に期限を徒過して3週間後に通知をしたとき,そのときは少なくとも3週間以降は対抗できるようにしてあげないと困るのではないか。期限の利益の喪失を2回考えることが事を複雑にしているように思います。 ○岡委員 3点申し上げます。   弁護士会としては,この(3)に基本的には賛成でございまして,いろいろな問題点を乗り越えて是非立法化してほしいという意見でございます。一番目に今,中井さんが言いかけた話は弁護士会でも議論いたしまして,2週間以内に通知をすれば本来の期限喪失時点から全部遅延損害金を請求できると。それが1か月もし遅れた場合は,遅れている期間だけ対抗できないと,こんなふうにすればすっきりするのではないかという議論をしておりました。何らかの工夫をして乗り越えるべきだという意見でございます。   それから,二番目は,この分割払いの定めによる期限の利益,これに限定したことについてですが,不動産家賃保証であるとか先ほど大島さんが言った普通の取引,継続的な信用売買の取引,これについて適用がなくなってしまいます。それは期限の利益喪失というがばっと増えるものに特定したんだというふうな割り切りだとは思うんですが,でも,やはり賃料保証だとか先ほどの請求喪失で2年分にわたる場合もあり得ますので,その場合に何かやはり手当てがほしいと思います。その一つとして先ほど中井さんが言った中間試案のア,問い合わせがあったときは答えなさい,これは一つの回答ではないかと思います。   それから,3番目に細かい話ですが,支払いを怠ったために期限の利益を喪失したときと表現されていますが,これがそのまま条文になるわけではないと思いますが,担保保存義務に違反して期限の利益を喪失したとか破産手続開始決定を受けたから喪失した場合だとか,そういうのがこのままでは読みにくいですので,もし期限の利益喪失に着目するんだったら,その辺は詰める必要があるだろうと,そんな議論をしてまいりました。 ○鹿野幹事 1点,先ほど中井委員が2点目におっしゃったことで,今,岡委員も言及されたところですけれども,中間試案のアについて今回落とされたことについて意見を申し上げたいと思います。先ほどの御説明では,アというのはそもそも期限の利益の喪失ということとは関係ないので,余り意味がないのではないかというようにも聞こえました。確かに,これは期限の利益の喪失と常に直接関係するわけではないかもしれません。それでも,あるいはそれだからこそ,期限の利益の問題とは別に,少なくとも保証人から照会があったときには,債権者はその保証債務の残額等について保証人に通知をしなければいけないということ,あるいは保証人は通知をしてもらえるという規律を置いたほうがよいということだったのだと思います。照会に応じて通知をさせることの具体的な意味について,既に賃料保証の例などが出されましたが,さらに例えば,債権者があらためての請求をしてはじめて期限の利益が失われるという請求喪失型のようなケースなどでは,債権者による当該請求がない限り,遅滞があったことにより期限の利益が直ちに喪失することにはならないわけですが,遅滞している状態がずっと続いて,遅延損害金等が膨らんでいくというような事態もあり得るわけでして,このような場合,保証人としては通知を受けることによって,そのように遅延損害金が膨れて債務が増加すること等の不利益を食い止める機会が得られることになります。   確かに期限の利益に絡む場合には一層問題が深刻なわけですけれども,期限の利益の喪失に関わらない局面でも,通知が具体的な不利益回避につながり得ることがありますし,また,そもそも保証人にとって,自分自身の資産の管理あるいは見通しという観点からも,保証債務がどれぐらい残っているのかを知るという必要があります。そこで,照会があった場合における債権者の通知義務をここに規定する必要があるのではないかと思います。   それから,それと関連して15ページの2の2段落目の4行目のところにこの点について,「しかし,照会がなければ通知義務を負わないとすると」というふうに書いてあるのですけれども,元々中間試案は,照会がなければ通知義務を負わないというニュアンスで書かれていたわけではなくて,照会があったときには通知しなければならないということが書いてあったまでです。ですから,ここに書かれた「しかし」のこの文章は,中間試案とはニュアンスが違うのではないかと,そういうふうに感じました。 ○深山幹事 2点申し上げます。1点目は今の鹿野先生や中井先生の指摘された中間試案のアについてですが,やはりこれはこれで独立した意味があると思うので,期限の利益喪失事由の点とは別に独立して設ける意味があるだろうという点です。   もう1点は,先ほど岡先生が最後に言及された点ですが,このアのところで,主たる債務者が支払いを怠ったためにその期限を失ったときはという要件について,期限の利益を失うのはそういう場合だけではなくて,倒産手続をしたときとか信用不安とかそういうのもあるので,それが読めるようにということを言われたんですけれども,その指摘はそういう場合も同じ規律でという趣旨なのだろうと思います。しかし,そこは多分事務局もある意味意識したうえで,支払いを怠ったために利益を失った場合だけを想定しているのかなというふうに私は読んだんです。それでいいのかなということも考えたんですが,やはりちょっと場面が違うという気がするので,それらの場合にも期限の利益の復活を保証人との関係で認めるべきなのかということを考える必要があるんだろうと思います。少なくとも例えば破産等の法的な倒産に準ずるような信用不安状態になったということを理由に,それが約定の失期事由になっていて,現に失期したという場合を想定すると,当面の債務不履行は必ずしもないわけです。ですから,少なくともその場合も取り込むとなると,あとのイ,ウ,特にウの辺りの書き方というのはまた変わってくるんだろうと思います。そうなると,そういういろいろなパターンの失期事由も取り込むんだとすると,規定ぶりもまた変わってくるのではないか,それがいいのかどうかというようなことも含めて検討する必要があるのではないかというふうに思いました。 ○道垣内幹事 皆さんが指摘されたように,2度目の期限の利益の喪失については技術的にいろいろ考えなければいけないところがありますので,御検討をお願いしたいと思います。私が伺っていた感想としては,保証人が分割払いの形で保証債務の履行をするという形になって,それが主債務の支払いの方法と別になっている以上は,保証人の期限の利益の喪失という概念,保証債務の不履行による保証人の期限利益の喪失という概念を考えるべきなのだろうと思います。   しかし,私が本当は発言したかったのは,中原委員の質問に対する笹井関係官のお答えが少し分からなかったからです。と申しますのは,中原委員のご質問は,主債務は期限の利益が喪失しているが,保証債務は期限の利益が喪失していないとなった場合に,時効はどうなるのでしょうかというものだったと思いますところ,笹井関係官はそれに対して,別になるのだというお答えであったと思います。そうなりますと,例えば主債務について時効期間が経過したときでまだ保証債務も支払われていないというときには,保証債務だけが残るということを認めるという回答だったのでしょうか。それは本当なのかなというのが若干気になりましたので発言しました。 ○笹井関係官 ちょっと先ほど連帯債務と混乱したかもしれません。連帯債務の場合は相対効にするのであれば別々になるということもありますし,承認がされたので別々の時効管理になるということは十分あり得るので,それと同じではないかと思ったんですが,付従性のある主債務の場合にどうなるのかという御質問ですよね。それとの関係では確かにちょっと考えないといけないのかなというふうに思いました。主債務について時効が完成したら期限の利益がまだある部分についても消滅してしまうというのは明らかにおかしいので,何か手当が必要であると思いますが,ちょっと今こうすればよいというものを持っているわけではありませんので,引き続き考えたいと思います。   それから,幾つか今まであった御意見について趣旨をお伺いしておきたいんですけれども,まず岡先生から2週間たったところでは通知しなかったんだけれども,3週間後に通知をしたら,それまでの遅延損害金はないけれども,その後は期限の利益の喪失したことを対抗できるとすべきであると最初おっしゃったように思ったんですが,その場合にウのような規定は設けるということなんですか。それとも3週間で通知をすれば,とにかくもう期限の利益はないんだということになるんでしょうか。ちょっとどちらの趣旨なのかと思いましたので。 ○岡委員 3週間後に通知をすれば,そのとき以降は期限の利益喪失を主張できると。したがって,全額払えと言えると。ウの規定も適用があるとすると,どの範囲を払えば復活できるかというのは,また細かく検討すべきではあろうと思います。 ○笹井関係官 そうすると,むしろアやイをやめてしまって,むしろ通知をすることによって期限の利益の喪失を対抗することができるようになり,復活のものについては別に考えるというような構成,そういう趣旨でしょうか。 ○岡委員 そこまで体系的に考えているわけではないんですが,イのところの読み方で先ほど議論に出たような不明確な点がありましたので,それは怠っている間とすれば,その点は簡明になるのではないかと,その程度の意見でございます。 ○笹井関係官 分かりました。   ちょっと別のことですけれども,中間試案についての私の理解が不十分なのかもしれませんけれども,中間試案のア,つまり照会があったときには通知をしなければならないという規定には意味があるから設けるべきであるという御意見が複数ございましたが,私が申し上げたのは,アを期限の利益の喪失と結び付けるということではなくて,遅延損害金と結び付けるとするとその通知義務には余り意味がないのではないかということでして,アを復活させるべきだとおっしゃる方は,どういう効果と結び付けようとされているのかをちょっと伺いたいんですけれども。アの照会があったときに通知をしなかった場合にはどうなるんですか。   特にお答えがなければ結構です。 ○中原委員 先ほどの議論に関係しますが,主債務について時効が完成して,保証債務について時効がまだ完成していないけれども,付従性によって消滅するというのは,保証の意味が全くなくなると思います。このような結論は不合理と考えます。主債務者の実体がなくなっていても主債務に対する時効管理はやらなければならないということですか。   それと,今回のように分割弁済債務について期限の利益を喪失する場合ではなくて,請求喪失や当然喪失についても同様の規律を入れるということになると,債権者の管理負担が大きくなると思います。   それから,アの保証人に対する通知や,中間試案で提案されていた保証人から照会があった場合の通知ですが,銀行界としては濫用的な運用を防止できるのであれば入れることについて前向きな意見です。銀行の守秘義務との関係で,債務者から何でそういう照会に応じたのかというクレームが時々ありますので,明文化することによりクレームに対抗する手段が得られることになると思います。 ○鹿野幹事 一言だけ。先ほどのアを入れたときに,それに反した効果がどうなるのかという疑問が出されたのですけれども,これは債権者が負う一種の債務とすると,債務不履行の問題になり,ただ,損害がどうなるのかということについては,その場合によって違うのではないかと思います。通知を怠ったことにより生じた損害というものをおよそ観念しにくいような場合もあるかもしれませんけれども,そのような場合ばかりとは限りません。抽象的に言うと,一種の債務不履行の問題として捉えられるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   大分遅くなってしまったんですけれども,ここで休憩をとらせていただきまして,4時10分に再開をさせていただきます。          (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開します。   部会資料70Bについて御審議いただきます。部会資料70Bの「第1 保証人の責任を制限するための方策」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 中間試案では,保証人の負担が過大である場合に,その責任を裁判所が減免することができるという規定を設ける考え方や保証契約の効力を保証人の資力に見合ったものにするといういわゆる比例原則に関する規定を設ける考え方が取り上げられていました。しかし,裁判所による減免の制度については,どのような手続で減免を付することとするか,減免の要件や減免の程度などが曖昧にすぎるのではないかなどの問題があり,比例原則についても過大という要件をどのように判断するかなどの問題があります。   これらの考え方は,保証債務の履行を求められた保証人が過大な負担を負って生活の基盤などを破壊されることを防ぐことにあったことからすると,実体法上,一旦成立した債務を減免したり契約の一部の効力を否定しなくても保証契約の履行に充てられる責任財産を制限し,生活の破綻を招かない程度の財産を保証人が保持することができるようにすることが考えられます。もっともこのような方法については,保証人の総資産をどのように把握するか,保証債務が複数あった場合や保証債務以外の債務があった場合にどのように処理するかなどが問題になります。そこで,ここでは責任財産を制限するという方法の当否や現実にそれらの手法を採る場合の制度設計について御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。   山野目幹事,ペーパーを出していただいておりますので,簡単に説明をお願いいたします。 ○山野目幹事 ありがとうございます。書面で意見を述べさせていただいたとおりでございます。かいつまんで申し上げますと,第73回会議の審議の様子を顧みますと,そこで述べられた議論といたしまして比例原則と責任の減免という二つのアイデアを双方考慮しながら今後の検討が続けられるべきであるというふうなお話もあったのではないかと理解しております。お出ししております書面におきましては,比例原則の基本的な考え方に従って,保証契約締結時の資産及び収入,それから,保証債務履行時の資産及び収入を考慮して問題を処理することとしておりますが,保証契約締結時の局面につきましては抽象的な基準を,また,出口に当たる履行時についてはもう少し具体的な基準を考えたらどうかということを申し上げているところであり,併せてその効果については責任減免の発想を参考にしながら,保証債務に係る責任の減縮を請求する形成権の行使という構成で考えてはいかがか,ということを申し述べさせていただきました。   この問題は大変難しい論点でございまして,本日の部会における審議が有意義であることを期しますとともに,お出ししている意見のそれぞれの部分について更に深めなければいけない部分は多々あるというふうに感じますから,このようなものを一個の題材として多様な観点からの御議論を頂くことがかないますれば,大変幸いであるというふうに感じます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見。 ○野村委員 どこで発言すべきか迷っていた問題で,本当は根保証のところで言わなくてはいけなかったかなと思うことがあります。賃貸借の保証人について,賃借人の債務には,賃料債務以外にいろいろな債務がありますが,保証債務がどこまで及ぶのかというのは非常に曖昧だという気がします。本当は賃貸借のところに規定を置く方がよいのかなと思わないでもありませんが,今そういう議論をしてもちょっと遅すぎるかなという気がします。根保証のところでは,極度額の制限を設けることで,その対象となる債務を広げたのですが,保証債務の内容を明示する必要性がでてきたのではないかということが一つです。   それから,もう一つは,元々根保証で念頭に置いていたのが金銭債務の保証なので,それに応じた保証債務の内容の文言になっています。今度は対象となる債務の範囲を広げるということなので,そこの部分の表現を少しと考え直せばそれで対応できるのかと思いました。少し時機に遅れた発言で,申し訳ありません。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はありませんか。 ○中原委員 事務局から提案されている規律が現実的に機能するかという点については銀行界でもいろいろ議論があります。現在,商工会議所,全銀協をはじめとする各種関係団体や行政機関が参加している「経営者保証に関するガイドライン研究会」で,経営者保証に関するガイドラインを作る作業が進められております。ガイドラインでは出口の議論もされていますので,民法で規律するよりもガイドラインを参考にして木目細やかに対応させる方が,より機能的であり,実質的にも保証人の保護になると思います。 ○鎌田部会長 ほかに意見はありませんか。 ○中井委員 中原委員がおっしゃられた経営者保証に関するガイドラインが現在,策定作業が進められていることは承知をしております。そういうソフトローとして金融界がガイドラインを創設して,それを実践していくこと,これは十分評価していいことでしょうし,それは是非進めていただきたいと思っておりますが,他方で基本的な考え方となるべきものを民法に明示しておくことは,更に一層重要なことではないか,価値のあることではないかと思います。今回の部会資料では様々な問題点を指摘していただいています。従来中間試案にありましたアの単純に責任制限を裁判所に全てお任せするという案については御批判も多く,また,基準としての明確性,予測可能性に欠けるという御指摘,これについて克服する案ができていないというのは御指摘のとおりかと思います。しかし,イについては一応入口で過大要件を課し,出口で一定の制約を課すことによってまだ立法可能性は十分残っているのではないかと思っております。弁護士会としても是非この責任制限の考え方については更に議論を深めていただきたいと思っています。   そこで,本日,山野目幹事から御提案のありましたものを拝見いたしました。入口論については過大性の要件をある程度抽象的に定めて,そういう場面において,出口においてさらなる規制を課すという基本的な枠組みかと思います。このような基本的な枠組みについては弁護士会としては賛成したいと思います。出口の問題ですけれども,従来保証人に対して保証債務の過大な部分の履行請求ができないという抽象的な書き方になっていたわけですけれども,そこを具体的に数字で画する積極的な提案とお見受けいたしました。少なくとも保証履行請求時に存在する換価できる財産,基本的にそれを出しなさいということを大前提にしている。そうだとすると,金融機関にとっても現に保証履行請求時に存在する財産以上のものを掴取することはできないわけですから,この提案が,保証人に過大な保護を与えるものでないと理解いたしました。   その上で一定の金額について留保を認めるという考え方かと思います。その留保の認め方については幾つかの考え方があり得ると思いますし,山野目先生のような御提案,また他方で,先ほど中原委員から御指摘のありました経営者保証に関するガイドラインでも一定の財産を残す数値基準を具体的に提示する模索が進められているように聞いておりますので,そこでの定め方等も参考になるのではないかと思います。そういう意味で,山野目幹事の御提案である数字基準のところを更に詰めた形で検討を続けるのが適当ではないかと考えております。   その上で,なお山野目幹事の御提案でも幾つか問題があるかと思います。一つは,部会資料でも御指摘がありますけれども,複数の保証債務を抱えている場合,つまり保証債権者が二つの銀行以上ある場合はどうなるのか。若しくは他の一般債権がある場合はどうなるのか,こういう問題があろうかと思います。山野目幹事の提案はその部分についてはある意味で飲み込んでいるといいますか,そこまでの対応を予定しない御提案と理解いたしました。1人の保証債権者がいる場合に保証人としては現在存在する財産を限度に,そこから一定の控除はあるわけですけれども,提供すればそれ以上の責任は追及されない,複数の債権者になったときにはもはや対応できないわけですけれども,少なくとも1社であっても,その保証の限度を明示するということは意義があるだろうと思います。それが2社,3社になったときにはその確保された財産の分配の問題が任意に履行されることが期待されていいのではないか,基本原則のみを民法に定めて複数の場面については任意の合意に期待していいのではないかと思います。   その任意の合意を支えるのが先ほどの経営者保証に関するガイドラインで,そこでその任意の合意の仕方が示される,つまり保証債権額按分になる等の考え方が示されるように聞いておりますので,民法をソフトローで補充するという考え方がとり得るのではないかと思っております。   また,この部会資料にもありますが,山野目提案に対して批判があるとすれば,1の(3)である,保証人が有する財産で執行することができるものの価額,この部分についての評価が必要になるわけです。加えて評価だけではなくて保証人にどれだけの財産があるかということの確定の問題もあると思います。仮にこの手続を進めるときに保証人が意図してか意図せずかはともかくとして,自ら持っている財産を提供しない,明らかにしない場合どうなるのかということが問われていたかと思います。しかし,その点は次のような解決が可能ではないかと思っております。ここから例になりますが,保証債権としては1億円があり,山野目幹事の例でいう換価すべき財産の額が例えば5,000万で,残すべき財産が500万だとします。そのとき1億円の保証債務を支払うべきだという判決になるわけですけれども,ただし,5,000万しか財産がなく,500万は留保できるわけですから,4,500万を超えて執行できないという判決を考えることができるのではないか。その上で保証人の財産に対して執行していけるが,上限は4,500万円までだということになりますが,仮にその時点で5,000万の対象財産以外の財産があるとすれば,その財産に対してはその制約が掛からずに執行できることとすれば,その点はクリアできるのではないかと思います。   いずれにしろ,ほかにも御批判があろうかと思いますけれども,山野目提案が一つの具体案として出たわけですから,これをたたき台にして詰めていただけないものかと思います。その結果は,銀行協会が現在検討を進めている経営者保証に関するガイドラインの趣旨に反するものではないと信ずるものです。 ○鎌田部会長 これまでに頂戴した御意見を踏まえて,事務当局で更に引き続き検討させていただくということでよろしいでしょうか。 ○岡委員 弁護士会としては,かなり力を入れておる論点でございまして,山野目提案を踏まえて是非前に進めたいという意見の続きでございますが,二つ申し上げたいと思います。   一つ目は,山野目先生のこの残すべき財産として収入を考えている点と,財産については執行可能な財産を全部入れている点でございます。今までのソフトローの話も含めて,残すべき財産として普通の破産よりも保証の場合には広げてもいいのではないかと考えます。現金が3ケ月分である99万円しか今破産法で認められておりませんけれども,それを1年分ぐらい金銭を残すべきではないかと。あるいはアメリカの幾つかの州のような華美ではない自宅を残すべきだと,そのような意見もありますので,残すべき財産として破産よりも少し広いものを想定した制度を目指すべきではないかと思います。山野目先生の提案は,個人再生を念頭に置いて収入も一定限度取り込むとなっておりますけれども,これは今主張されています経営者のリスタートを支援するという観点からは少し厳しすぎるのではないかと思います。このパーツの部分についてはもう少し残すべき財産を増やすべきではないかと,こういう意見でございます。   それから,もう一つは部会資料にそういう制度としていろいろな方法があるというふうに書かれている中で,執行禁止財産を広げると,こういう考え方も示唆されております。それは民事執行法の改正になるわけですから,このフォーラムで議論できるかどうかは別といたしまして,保証債務の債務名義による単独執行の場合の執行禁止財産を規定するやり方もあるのではないかと。それでいきますと,保証債務による配当加入と普通の配当加入との債権調整をどうするかとか,破産にいった場合にどうするかとかいろいろな問題はありますけれども,責任制限という方向プラス執行禁止財産の拡張という方法もまだ弁護士会としては検討したいと思っておりますし,次回に間に合うようにそれ以外の方法も含めて検討,提案したいと思っております。 ○佐成委員 一言だけ申し上げたいと思います。個人保証に対する過大性のコントロールという問題意識については十分理解できますし,非常にシンパシーも感じるんですけれども,ただ,この論点,経済界の中で議論をしておりますと,やはり相当拒絶反応が強いということだけは申し上げておきたいと思います。事務局のほうで検討していただくことには全くやぶさかではございません。 ○鎌田部会長 ほかに御意見がないようでしたら,継続して事務当局で検討を続けさせていただくということにします。次に,部会資料70Aに戻りまして,「第2 有価証券」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○髙橋関係官 それでは,説明させていただきます。   有価証券につきましては,「1 総論」から「5 無記名証券」までについて,基本的に中間試案から変更点はございません。ただし,20ページの「4 前記2及び3以外の記名証券」について,中間試案では,このような記名証券は有価証券に当たらないという考え方もあり得るとの観点から規定を設けないとする考え方を(注)で示しておりましたが,パブリックコメントの結果,(注)の考え方を支持する意見は比較的少数にとどまったということに加えまして,現に,裏書禁止手形や裏書が禁止された記名式の船荷証券などについて,公示催告手続に乗せられるかどうかが必ずしも明確でないという問題もございますので,(注)の考え方はとらずに,規定を設けるという本文の考え方を維持しております。   なお,今回の提案は,紙の有価証券を念頭に現行法の実体的な規律を変更せずに規定を整備するというものでございますので,それ以外の電子マネー等の前払式支払手段を対象とするものではございません。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見を御自由にお出しください。よろしいですか。よろしければ次に進ませていただきます。   70Aの「第3 弁済」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 御説明いたします。   「第3 弁済」の「1 弁済の意義」は,債務の履行によって債権が消滅するという基本的なルールを明示するもので,中間試案からの変更はありません。   「2 第三者の弁済(民法第474条関係)」は,利害関係を有しない第三者による弁済については,債権者が受領を拒絶することができるとしつつ,債権者が受領した場合には,それが債務者の意思に反したときは弁済の効力を有しないこととしており,中間試案の本文の案を採用するものです。   「3 弁済として引渡した物の取戻し(民法第476条関係)」は,民法第476条を削除するもので,中間試案からの変更はありません。   「4 債務の履行の相手方(民法第478条,第480条関係)」は,民法第478条の善意無過失要件を維持することとした点で中間試案を変更しております。これは,パブリックコメントの手続において文言を変更することによる影響を懸念する意見が寄せられたことなどを踏まえたものです。   「5 代物弁済(民法第482条関係)」は,代物弁済が諾成契約であることを明確にし,代物の給付義務と当初の給付義務のいずれかを履行すれば債務が全て消滅することを明らかにするものです。それ以外の法律関係は当事者間の合意によって決せられることを前提としています。   「6 弁済の方法(民法第483条から第487条まで関係)」の(1)は,民法第483条を削除するものです。(2)は商法第520条を一般化して民法に規定を設けるものです。いずれも中間試案からの変更はありません。(3)は受取証書の交付と債務の履行とが同時履行の関係にあるという一般的な理解に従い,その実質的な意味を明文化しようとするものです。パブリックコメントの手続においては,債権者が当然に受取証書の交付義務を負うわけではないことを明らかにすべきであるという意見などがあったことを踏まえて,中間試案の表現を改めることとしました。   「7 弁済の充当(民法第488条から第491条まで関係)」は,民法第490条を維持することとした点で中間試案を変更していますが,そのほかは中間試案を実質的に維持しています。   「8 弁済の提供(民法第492条関係)」は,受領遅滞の効果との違いを明確化しようとするもので,実質において中間試案を変更するものではありません。   「9 弁済の目的物の供託(民法第494条から第498条まで関係)」の(1)から(3)までは,いずれも中間試案を実質的に維持するものです。   「10 弁済による代位」の「(1)任意代位制度(民法第499条関係)」は,債権者の承諾を不要とし,これによって民法第500条の規定と統合しようとするものです。「(2)一部弁済による代位の要件・効果(民法第502条関係)」は,一部弁済による代位の要件について判例を変更して,代位者は単独で権利行使することができないとし,効果について債権者が代位者に優先するという判例法理を明文化するものです。「(3)担保保存義務(民法第504条関係)」は,担保保存義務に関する法律関係を明確化するとともに,担保の損傷によって代位者が免責される場面を合理的な範囲に制限しようとするものです。以上のいずれについても,中間試案からの実質的な変更はありません。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分のうち,まず,「1 弁済の意義」から「5 代物弁済(民法第482条関係)」までについて御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○中原委員 2の第三者弁済について意見を述べさせていただきます。   現行法では,免責的債務引受と債務者の交替による更改,そして,第三者弁済については債務者の意思に反しては行えないと考えられていますが,前2者については今までの部会における議論で求償権を認めないことで債務者の意思に関係なく行うことができる結論とする方向性にあると理解しております。第三者弁済についても同じように債務者の意思に関係なく行うことができるようにすべきと思います。第三者弁済した者による過酷な求償権の行使から債務者を守るというのであれば,債務者の意思に反する場合には求償権を認めない規律にすればよいと思いますし,あるいは求償権を認めずに不当利得等の別の法理で弁済者の保護を図ればよいと思います。   実際の取引の場面では,求償権がなくても主債務者に代わって弁済したいというニーズは結構あるのではないかと思います。例えば住宅ローンの債務者が行方不明の場合で,保証人になっていない同居者がローンが延滞したら困るので払いたいとか,親が子供に代わって債務を弁済したい,あるいは社員が不祥事を起こして,その親族が被害弁償したいといったようなケースもあると思います。このような場合では,弁済者は事実上の利害関係を有していますし,必ずしも求償権を求めていないと思います。しかも,これらのケースでは,債務者の意思に反するかどうかを直接確認できないケースもあります。事実上の利害関係を有している弁済者が弁済するというのであれば,求償等についても弁済者のリスクの下で第三者弁済を認めるという制度のほうが実務の要請に適合するように思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。第三者弁済に関連したほかの御意見がありましたらお出しいただければと思います。 ○深山幹事 今の中原さんの指摘の当否については,初めて聞いたところもあるので,おって考えてみたいと思いますが,資料を読んだ印象として,表現の問題にすぎないのかもしれませんけれども,中間試案においては(1)のところのただし書が「債務者の承諾を得た場合において」となっていたところを「債務者の委託を受けて弁済する場合」というふうに表現が改められている点について気になりました。積極的に債務者から委託があった場合と,もう少し受け身で承諾を得た場合と両方あり得るものの,主としてありそうなのが債務者からの積極的な委託があって弁済する場合なので,そちらの表現にしたということかなとは思うんですが,その趣旨は受け身であった場合,積極的に委託があるわけではない場合を排除する趣旨でもないと思いますので,もう少し両方を包括した表現を考えるとすると,これは現行法の表現でもありますけれども,債務者の意思に反しないというところが共通項だと思いますので,素直に債務者の意思に反しないで弁済をする場合というような表現にするほうがよろしいのかなと思います。(2)でも債務者の意思に反したときはということで受けていますので,表現の整理としてはそのほうが素直なのかなという印象を持ちました。 ○鎌田部会長 第三者弁済関連は,ほかによろしいですか。事務当局から何かありますか。 ○松尾関係官 中原委員と深山幹事から御指摘いただいたことについて一応事務当局なりの整理あるいは考えを申し上げて,もし更に御意見があれば伺えればと思います。   まず,中原委員からは債務者の意思に反するかどうかという要件を削除してはどうかという御提案を頂きました。これはもちろんあり得る考え方だと思いますので,何か賛否あれば御意見を伺いたいと思うんですけれども,この要件を維持した趣旨としては,部会資料に書いたように,求償権が発生しないとなると第三者弁済をしないことにつながってしまい,債権者にとってもかえって不利益ではないかという問題があると考えたわけです。また,求償権を発生させるという考え方もあり得ますが,この論点に限らず,これまでの部会の中での議論においては,債権者が債務者の知らない間に代わるということに対する警戒感というか懸念はかなり強かったのだろうと思います。それはとりわけ譲渡禁止特約に関する議論のところで特に強く表れていたわけですし,第三者のためにする契約の中で債権者の承諾を不要とするかどうかというところでも同じような議論があったと思います。そういった観点からすると,やはり債務者の意思に反するかどうかを問わずに弁済が有効となって求償権が発生するという考え方が受け入れられるかどうかということについては,疑問を持っておりました。もちろん,求償権を発生させることでまとまるのであればよいのですが,そうすると,ほかのところの議論との整合性ということについて改めて考え直さなければいけなくなるようにも考えております。   あと,深山幹事から頂いた(1)のただし書を債務者の意思に反するかどうかとして変えるという御提案ですけれども,(1)のただし書のほうは債権者に受領拒絶権を与えないようにするという効果を持っていて,その趣旨というのはやはり債権者からすると,先ほど中原委員から御指摘があったことそのものだと思うんですけれども,債務者の意思に反するかどうかということを確認することが極めて困難であるということが議論の出発点だったのだろうと思います。ただ,そうはいっても,現在行われている履行引受のような取引を阻害しないということも重要であって,その実務を尊重していく必要性との折り合いを付けるという観点から,債務者の意思に反するかどうかという債務者の内心に着目する基準ではなく,委託あるいは債務者の承諾という外形的な行為の有無に着目する基準とすることで,少しでも明確化することが必要なのではないかという問題意識で議論がされてきたところでありまして,それを債務者の意思に反するかどうかという基準に戻してしまうと,現行法の問題がそのまま残ってしまうのではないかという懸念を持っております。 ○鎌田部会長 ただいまの説明に関連して御発言ありますか。 ○深山幹事 今の松尾さんの話を聞いて,それはそれでごもっともかなと思ったのですが,そうであれば私が言いたい趣旨を反映させる表現として,委託を受けて弁済する場合若しくは債務者の承諾を得た場合と並べるというようなこともあってもいいのかなと思いましたので,御検討いただければと思います。 ○中田委員 関連することが1点と,ちょっと別の問題が1点ございます。   関連することと申しますのは,中原委員にお伺いしたいんですけれども,先ほど3つほど例を挙げられて困るとおっしゃったんですが,現在はどのように対応しておられるのか,それがどう変わるのかということをお聞かせいただければと思います。 ○中原委員 住宅ローンについては,直接銀行に第三者弁済してもらうのではなく,債務者の返済用預金口座に入金してもらっています。本人の所在の確認ができるかどうかに関係なく,本人の預金口座へ入金してもらえれば,分割弁済日に自動振替により債務者からの弁済として引き落としています。   それ以外の例については,将来,債務者から無効だという主張があるかもしれないけれども,取りあえず受け取るという対応をしています。債権者としては,債務者の合理的意思を推測すれ債務者の意に反すると言えないという整理をして弁済を受領していますが,不安定さについて悩みながら対応しているのが実情です。 ○中田委員 分かりました。そうすると,そういうお悩みと,それから,先ほど松尾関係官がおっしゃった配慮とその調整ということが問題になるんだろうと思いました。   もう1点の方は表現の問題といえばそうなのですが,1で弁済の定義が今までどおりになっている一方で,2あるいはその他のところで従来は「履行を受けた場合」というふうになっていたのが,今回,「弁済を受領した場合」というふうになっております。そうしますと,1では「債権は,弁済によって消滅する」となっていて,これは受領も含んでいるのかと思うのですが,2ですと,弁済を受領するとか弁済を無効とするとかとなっていて,ここでは受領が弁済の概念の外に出ているという印象を持ちました。そうすると,弁済概念の中に受領を含むものと含まないものと2種類あるという理解でよろしいのかどうかというそこの確認です。 ○鎌田部会長 では,説明をお願いします。 ○松尾関係官 結局1の補足説明のところにも書いたところに尽きるのかなと思っているんですけれども,弁済の言葉の現行法の使われ方がやや統一されていないのかなという印象を持っています。中間試案の段階では,できるだけそれを統一しようというふうに試みる趣旨で履行という言葉を全般に,行為の面に着目して履行という言葉を使うという方針で案を作ったのですが,改めて整備などの問題に目を向けてみると,その方針で民法だけを整備するということはなかなか難しくて,関連法令も併せてということになれば膨大な作業量が必要になってくる上に,きちんと整理ができるのかどうかやや悩む部分も多いのかなというふうに考えております。   そのような問題意識で,基本的には現行法にある表現はできるだけ現行法のまま弁済という言葉を使っていくという方針で今回のたたき台は作っています。もっとも,今,中田先生が御指摘された「弁済を受領した」という表現は,確かに現在ある表現そのものではないので,やや言葉の使い方がよくない部分があったのかなということを御指摘を受けてみて考えておりまして,そこはできるだけ紛れのないように整理はしていきたいとは思いますが,ただ,完全に整理することがどこまでできるのかというのはやや難しいかなという問題意識は持っております。 ○中田委員 整理していただくということだけで結構なんですけれども,現行法は「弁済として他人の物を引き渡した」というように,「弁済として」という表現を使ったりしていて,割合そこは考えているのではないかなと思いました。それで,弁済概念の中に受領を含むものと含まないものがあるのかということと,有効な弁済と無効な弁済との書き分けをどうするのかということ,そういう問題かと思いました。 ○鎌田部会長 今の点は御指摘も踏まえて検討,整理をさせていただきます。弁済関係の1から5までに関連した御意見は,ほかにありますか。 ○中井委員 4の債務の履行の相手方の(1)のイの規律についてですが,弁護士会では意見が分かれました。中間試案に書かれている正当な理由が,善意であり,かつ過失がなかった,無過失に変わったという点,言葉が変わることによって解釈が変わるのではないかという指摘を受けて元に戻したということですけれども,この過失概念のみで整理できるのかという観点から,むしろ正当な理由という言葉で解決しようとしたのが中間試案だったわけですけれども,これが果たして適当なのか,やはり正当理由がいいのではないかという意見が一つです。   それと,この外観を有するものについて残すかこれを削除するかという点についても,弁護士会でも意見が分かれております。やはり外観を有することがまずは前提事実としてあって,次の判断がなされているのではないか。確かに外観のない場合でもその後の過失概念若しくは正当理由概念で整理できるのかもしれませんけれども,外観を残したほうがいいのではないかという意見があります。私自身,この点どちらにくみするわけでもないのですが,ここはもう少しこの場で議論しておかないと決着が着かないのではないかと感じます。 ○中田委員 私は「外観を有するもの」は残したほうがいいのではないかと思いました。一つは表見代理と478条との違いとして,帰責性が要件となっているかどうかということがあると思うんですけれども,現在は少なくとも文言上は帰責性は要件となっていない。それは弁済の義務性といったことから裏付けられているんだと思います。他方で,準占有者に相当する「外観を有するもの」という絞りがあるわけですが,それを外しますと,要件が1つだけになり,債権者の帰責性も含めて,様々な事情を弁済者の過失判断の中に全て織り込むということになると思うんですけれども,そうすると,無過失要件の負担が重くなってしまうのではないかという感じがいたします。   それから,沿革的にも元々債権者のような身分を占有しているものというのがスタートだったとしますと,そこから広がってはいるんですけれども,やはり一定の限定が付されてきていると思います。日本の判例でも準占有者に含まれるのはどういう人なのかということが積み重ねられてきて,それを幾つかの類型に分けて認識するということで,ある程度安定性が保たれているかと思いますので,外してしまいますと,ちょっと不安定になるのではないかなというふうな感じがいたしました。 ○岡委員 今の外観のところですが,趣旨としてはこういう客観要件を残すべきだけれども,民法にこの外観という言葉は非常に抵抗があるという意見がありました。条文にするときもこの外観というのを事務局はイメージされているんでしょうか。 ○松尾関係官 御指摘のとおり,民法に余りこういう表現が使われていないのは事実だと思いますし,ほかの法令でも余り例が多くない表現だと思いますので,実際に法文化する際には工夫が要るのかなという問題意識を持っています。そういうこともあって,そもそもこの文言にどういう意味があるのかということについて御意見をまず伺いたいという問題提起をさせていただいた次第です。 ○岡委員 候補として上がったのはどんな言葉があったんですか。 ○松尾関係官 まだここで申し上げられるような候補は特にありません。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○山本(敬)幹事 別の部分ですが,5の代物弁済について確認をさせていただければと思います。   ここは中間試案と少し書き方を変えておられて,(1)と(2)は読んだ限りでは,特に最後の部分ですが,(1)だと「当初負担した給付に係る債権も消滅する」,(2)は「他の給付に係る債権も消滅する」とされていて,債権が給付ごとに二つあるかのような書き方になっています。これは意図的にそうしたほうがよい,あるいは多くのことが合理的に説明できるようになるという御趣旨なのでしょうか。何か債権,債務が二つありますと,別々に譲渡できるのかとか,あるいは担保が付いているときに一体何が担保権の実行要件になるのか等について,説明が可能かもしれませんけれども,説明を更に付加する必要が出てくるような気もします。その点についてお考えを伺えればと思いますが,いかがでしょうか。 ○松尾関係官 これは意図的に給付ごとに一つずつ債権があるという前提で作っていました。この考え方自体は中間試案から変えたというつもりはなくて,中間試案の段階でも同じような発想は採っていて,ただ,それが本文には明確に出ていなかっただけだと思います。どちらのほうが整理しやすいのかという問題を今提起いただいたと思うのですが,一つの債権で給付が二つという状況でどういう法律関係になるのかということを詰めて考えていなかったんですけれども,少なくとも給付ごとに債権が成立するという考え方で特に整理に支障は生じないのではないかと考えていた次第であります。 ○山本(敬)幹事 少なくとも中間試案は,二つの債権があるというようには読めない書き方になっていて,その意味ではうまく書いてあったように思いますが,今回はそこをかなり明確に書かれているので,先ほど申し上げたような解釈論が必要になってくるような気がしましたということです。現行法の下でその点について何か理解に対立があるかどうかは,御専門の方に確認していただければと思います。 ○鎌田部会長 余りこういう観点からの議論は今までなかったと思います。 ○松岡委員 十分な議論がないことは,今,鎌田部会長がおっしゃったとおりです。代物弁済の合意をしたときにその代物の給付を求める債権は,元の債権とは別個に発生していて,ただ,元の債権を弁済すると代物給付合意は意味がなくなって消滅すると説明するのではないかと思います。 ○山野目幹事 松岡委員のお話を伺って,松岡委員の受け止め方もそれなりに共感を抱く部分がありますし,部会長がおっしゃったように従来議論のない問題で,確たる通説があるものではないし,議論をすることにどこまで実益があるかも分かりませんけれども,私の漠然とした印象では,選択債権とか任意債権の議論をするとき,あれは終始一貫,債権は一個で給付が複数あるような印象を抱いていて,あれらがそうだったら一種のもちろん解釈というのか,それとなぞらえる関係でここも債権は一個というふうな理解は少なくとも成り立つような気がしますね。松岡委員のお話も分かりますが,債権が二つあって,それぞれについて例えば抵当権を設定するようなことが可能になるものでしょうか。何かそれもコミカルのような気もします。いずれにしても,何か定見の得られる話ではないかもしれません。 ○鎌田部会長 要物契約に徹底していけば,そもそもこういう場面が起きないので,諾成契約したことによってどう説明するかという問題が起きたんだと思いますけれども,直感的にはやはり一個の債権で給付の内容が二つということではないかと思います。しかし,それをなぜ請求できるかを根拠付けるには,それぞれの請求できる債権があるという説明の仕方もあり得るだろうと思います。そういう意味で,はっきりどちらか決めないでうまく書ける方法があるというのが一番いいのかもしれません。これは御指摘があったことを踏まえて検討をさせていただければと思います。   ほかにはよろしいですか。 ○中井委員 また4の(1)のイに戻るんですけれども,私は先ほど申し上げた点について中田委員のコメントがありましたが,結局ほかの方々の意見が聞けないままです。あり得る選択肢は外観かつ善意無過失若しくは善意無過失のみ,若しくは外観プラス正当理由,若しくは正当理由のみ,弁護士会ではその4つの考え方が出ていたんですね。正当理由がなくなった理由は一言,パブコメの結果,従来の判断枠組みと変わることが困るからという理由だけですけれども,果たしてこの2,3の発言だけで,この後事務当局がどうまとめられるのか。ここなどは実務で問題になる事案はたくさんあって,判例も相当数があるわけですから,もう少し皆さんの意見をお聴きしたい。弁護士会にも,これはこういう議論の経過を経てこういう方向性の意見になりそうだと,私としては報告もしたいし,また,国民に対して今回この部分の変更はこういう過程で変更になったんだという説明責任があるのではないかと私は思うものですから,ここで研究者の方々の御発言がないのはなぜなのかなと思ったので,あえて申し上げました。 ○鎌田部会長 ここでいう正当な理由とは善意無過失のことであるとかいう説明にはならないんですか。 ○中井委員 そうなりますかね。 ○鎌田部会長 というよりも,私もちょっと気になるのは,準占有者という言葉をなくしたときに,卒然と善意無過失と言って,何についての善意無過失と言わないという表現で維持できるのかなということのほうが少し気になる。そこは正当理由についても同じですけれども。 ○中井委員 私は元々俳句説であったのかもしれません。しかし,ここは本当に一本,善意無過失要件だけになってしまうんですね。損害賠償の範囲についても,予見すべきの「べき論」に全て読み込むのと同じように,中田先生が前の「べき論」のときもそういう一つの言葉の中にたくさんの読み込みをするのはいかがなものか,先ほどの御発言でも善意無過失の中に全て読み込むのはいかがなものかという御意見と相通じるところがあるのかなと思うものです。少なくともここでは外観,この言葉が適切かどうかはともかくとして,先ほどの準占有者に対する弁済に代わるそういう言葉を法文の中に織り込む,これは意味のあることではないかという感覚を持っているものですから,本当に善意無過失一本でいいんですかという思いからの発言です。 ○松本委員 そんなに深く考えているわけではないですけれども,言葉のニュアンスからいくと正当理由のほうが広いというか,外観というもう一つの要件を外しても正当理由一本ででも成り立つ。正当理由の中に何を読み込むかであって,客観的要件プラス主観的要件というふうにやっていけば,結局外観プラス善意無過失と結果として同じことになってくるのではないかと思うので,むしろ外観プラス正当理由というほうが重複しているような印象があります。要はその言葉で何を意味するかだけだから,私は最終的にはどちらでも構いませんが,従来からの考え方との継続性を重視するということであれば,外観プラス善意無過失のほうが適切だろうという意味で,この原案でよろしいと思いました。 ○鎌田部会長 それでは,御意見を踏まえて更に事務当局で検討をさせていただきます。   次に,先ほど説明のありました部分のうち「6 弁済の方法」から「10 弁済による代位」の「(3)担保保存義務」までにつきまして御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 6の(1)で483条を削除するということについて,中間試案のパブコメでは,我々のほうは反対であると,そういう意見を述べております。今回は内部での議論が十分できなかったので,どうしたものかというところはあるんですが,現時点でちょっとまだ反対を収めるというのは難しいと思います。しかしながら,妥協し得るような雰囲気にはなりつつあるということでございます。ですから,ずっとこれを反対し続けるかというと,そういうわけでも必ずしもないのかなという感じであります。以上でございます。ちょっと歯切れの悪いところで申し訳ないですけれども。 ○松本委員 483条続きで私も別に存置にこだわるわけではないんですが,32ページの説明,削除の理由の部分を読みますと,所詮は取引通念などを考慮した契約の解釈によってどのような性状の物を引き渡すべきかは明らかになると,だから要らないんだと書いてあります。この論理でいくと,任意規定の大部分は要らないのではないかという話になるので,ちょっと危険なロジックだろうと思いますから,そういう理由で削除するのだとあまりよくないのではないかと。それなら残しておいたほうがよいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかの箇所の御意見も含めて御発言があればお出しいただきたいです。 ○山本(和)幹事 43ページの10の弁済による代位の(2)のところで,ウの規律の意味について強制執行の手続との関係でちょっと御趣旨をお伺いしたいんですけれども,私の理解では,これは例えば仮に1,000万円の債権を持っている債権者がいて,200万円の弁済を受けたという場合に,債務者の財産に対して強制執行手続が開始したときに配当要求をすると。その債権者は800万に減っているので,800万で配当要求すると。代位者は200万で配当要求をすると。仮に50%の弁済の配当率だとすると,それぞれ400万と100万ずつの配当になると。ただ,代位者の100万の分については元の債権者が優先をして500万とれると,こういう規律の趣旨だと,この前提の理解はそれでよろしいでしょうか。 ○松尾関係官 それはそういう理解をしております。 ○山本(和)幹事 もしそうだとすると,代位者が配当要求すればそういうことになるんですが,代位者が配当要求しないと元の債権者は800万で,自分の債権で配当要求して400万の配当を得られると。その代位者の100万分の配当はもらえないという,これもそういう理解でよろしいですか。 ○松尾関係官 要するに代位者が配当要求をしないときに債権者が代位者に代わって残り200万分の配当についても請求することができるのかどうかと,そういうことでしょうか。 ○山本(和)幹事 私の問題意識はそこです。抵当権の実行がこういう規律で今うまくいっているのは,配当要求のような積極的な行為が必要なくて,基本的には登記に基づいて配当がなされますので,自動的に代位者の分も言わば優先して元の抵当権者に配当がいくという構造になるんだと思うんですが,強制執行なんかの場合には,その配当要求という積極的行為が必要なものですから,代位者が行為してくれないとその分の配当はもらえないと。代位者は多分配当要求するインセンティブはありませんので,債権者のほうで代位者に何か少しお金を払って配当要求してくれよというような取引がその場合には成立するのかもしれないんですが,そういうことでいいのかどうか,あるいは何か,だから今,松尾さんが言われたように1,000万分行使することを認めるんだとすると,何か執行手続のほうで何かが考えられるかどうか分かりませんが,何かを考えないといけなくなるかもしれないというふうに思いましたので,ちょっとお伺いをした次第です。 ○松尾関係官 配当要求の場合であれば,基本的には代位者が協力しなければ結局この規律が働くことは難しいのではないかということが前提では考えていました。ただ,そうであれば実際にワークしないのではないかというのは,それはそうかもしれないので,工夫をすべきかどうかということを問題提起いただいたならば,もう少しよく考えてみたいと思いますが,資料の前提としては,それは仕方ないということだろうとは思っていました。 ○道垣内幹事 シチュエーションがよく分からないのですが,担保ではない場合を考えていらっしゃるのですか。抵当権ではない場合ですか。 ○山本(和)幹事 私の質問はそうでした。 ○道垣内幹事 そのときに債権者は代位者にそもそも優先するのですか。それは担保権においてどの部分から充当されるかとか不可分性とかといった話として債権者が代位者に優先しているのではないのでしょうか。シチュエーションがよく理解できないままなのですが。 ○山本(和)幹事 前回の議事録はたまたまここに載っていて,自分の発言を完全に忘れていたんですが,読んでみたところ,中井委員からの御質問も同じ趣旨だったんですが,これが破産のときの開始時現存額主義を変更する趣旨なんですかという質問で,最終的に松尾さんはそうだというふうにお答えになっていて,ですから,私の理解は一般の債権,担保権が付いていない債権でも実質的に原債権者がそういう破産手続あるいは強制執行手続の関係でも優先するという趣旨がこのウで書かれているのかなというふうに思っていたんですが。 ○松尾関係官 少なくとも担保権の実行の場面に限っている趣旨ではなかったので,今,山本先生がおっしゃったような場面も債権者が優先するというルールが当然妥当すると整理をしていました。判例は抵当権の実行の場面でしたけれども,それを一般化することができるかどうかというのがここでの論点で,それを一般化してよいのではないかということです。 ○道垣内幹事 それは代位をすることによって不利になるということですか。つまり債務者に対して単純に求償権を持ったら,一部は残っている債権者と同等になるのだけれども,代位権が認められることによって劣後するようになるということでしょうか。 ○松尾関係官 求償権は求償権として行使はすることができて,求償権は劣後しません。ただ,代位に基づいて取得した権利を行使する限りにおいては劣後するというだけなので,特に不利益にはなっていないと思います。 ○道垣内幹事 二重に行使できるのですか。 ○松尾関係官 開始時現存額主義に関する議論のときも正に山本先生がおっしゃったようにその点が議論になりました。最終的に中間試案のときにどういうことで整理したかというと,原債権を行使した場合にはこの規律の適用があり得るものの,求償権は求償権として破産法の規定に従って行使をすることができて,だから,その限りにおいては開始時現存額主義を変更するものではないという整理が可能ではないかということを補足説明にも書いていますが,双方同時に行使することができることまで前提としていたわけではなかったと思います。 ○鎌田部会長 山本和彦幹事,それでよろしければ次の。 ○山本(和)幹事 御検討いただくということだったと思います。 ○鎌田部会長 ほかの点での御意見があればお出しください。 ○中田委員 細かい表現だけのことですが,「(3)担保保存義務」のウなんですけれども,「上記イによって代位することができる者」うんぬんとあるんですが,ここで想定されているものには保証人が入っていないのだろうと思いました。ただ,イのほうには保証人も入っておりますので,少し表現を工夫したほうがいいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 よろしいですか,事務当局は。ほかに御意見がないようでしたら,部会資料70Bについて御審議を頂くことにします。部会資料70Bの「第2 弁済」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○松尾関係官 部会資料70Bについて御説明をいたします。   「第2 弁済」の「1 預金口座への振込みによる弁済」は,パブリックコメントの手続において規定を設けることに消極的な意見も多く寄せられていましたが,中間試案の内容について十分に理解が共有されていない点があったようにも思われます。そこで,パブリックコメントの手続に寄せられた意見を踏まえて,再度問題点の整理をするための議論をお願いするものです。特に債権の消滅時期を預金債権の成立時とする考え方の当否の問題と,預金債権の成立時を入金記帳時とする考え方の当否の問題とを区別した上で,中間試案の考え方の当否を御議論いただけると幸いです。   「2 民事執行手続における配当と弁済の充当」は,パブリックコメントの手続においてはなお賛否が分かれているという状況にありますが,民事執行手続において合意充当を認めた場合の実務的な問題点を指摘する詳細な意見が提出されたことを踏まえて,その意見の指摘する問題点に関してどのように考えられるかという点を中心に改正の要否についての御意見を頂けると幸いです。   「3 弁済による代位と求償権との関係」は,民法第465条と第501条との関係を条文上明確化することの当否がこれまで検討されてきましたが,共同保証人間の代位割合に関する規定を民法第501条に設ける必要性について,同条の理解とも関連している意見が分かれていましたので,仮に規定を設ける場合に民法第501条の位置付けをどのように理解することができるかという点を改めて整理する必要があると考えられます。この点に留意しつつ,規定の要否についての御意見を頂けると幸いです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○中原委員 1の預金口座への振込みによる弁済の点ですけれども,民法の原則としては法定通用力のある現金による弁済を原則とし,それを預金の方まで広げてきたということだと思います。このような観点からは預金債権についても現金に相当する価値を有するという意味において,広がっていくというのは自然な姿だろうと思います。しかしながら,中間試案の提案では,債権者の預金口座において当該振込額の入金が記録される時に,弁済の効力が生じるとの提案がされていましたが,全銀システムという統一的な振込システムはありますが,被仕向銀行が各々自分の自行のシステムで入金記帳する方法は必ずしも統一はされていません。例えば何時何分に記帳されたのかを聞かれても,いちいち分からないケースもあります。また,振込みによる弁済の効果を認める場合,例えば預金口座名義であり受取人から,Aという先からの振込みだけ拒否してほしいという要求があっても,実務的には応えられませんから,債権者が知らぬ間に弁済の効果が生じるというようなことも考えられます。このような点を考えれば,振込による弁済の効力を民法で規定するよりも,弁済の効力の発生時期は当事者間の合意によるとした方がより現実的ではないだろうかと思います。 ○鎌田部会長 その場合に当事者間の合意というのはどの…… ○中原委員 債権者と債務者で,例えば仕向銀行から振込金の受領書を受けた段階で弁済の効力が生じると合意することが考えられます。入金記帳であれば,入金記帳があったときに弁済の効力が生じるという合意をしてもらえばよいだけであり,民法に規定する必要はないという趣旨です。 ○沖野幹事 今の質問と同じことかと思いますが,ここには二つの話があるかと思います。振込みが弁済として扱われるかという問題と,振込みが弁済として扱われるというときにいつ消滅するのかという問題です。最初の話は解釈の問題であろうと思います。ですから,もしAからは拒否してくれということが当事者間の話としても伝わっているならば,そこに振り込んでも弁済としては扱わないという合意があるということだというふうに解釈していく可能性があると思います。そちらのほうは解釈の問題であって,確かに何もはっきりしないときに現金の支払いと同じように見られるかという問題がもう一つはあると思いますが,より重要なのは,後者のいつ消滅するのかというほうです。例えば,よく請求書などに振込先の口座情報が記してあってそこに支払うようにという記載があります。それは指定された口座への振込みにより支払うことで弁済になるということはもう合意をしているということだと思うんですけれども,振り込んだときにいつ消滅するかということまでは普通は余り書いていないので,この主眼はそこを基本的にはいつかということを定めるものだと思います。その意味では規定があったほうがいいように思います。ご指摘は,この面での規律に関して,入金が記録される時点とするという一律の規律内容では,現在のシステム上十分にこれを支えられないという御趣旨だったのでしょうか。 ○中原委員 入金記帳する時期は被仕向銀行の内部手続により決まるので,統一的な対応にはなっていません。しかも,過去に遡って入金時刻を調査して欲しいといわれても,毎日膨大な振込が行われているので,調査することは事実上不可能に近いと思います。何月何日に入金記帳されたのかは元帳を見れば容易にわかりますが,入金時刻を確定するのは困難であり,入金記帳事務を銀行で統一することも難しいと思います。 ○鎌田部会長 債権者,債務者にとって何時何分に弁済されたかが意味を持つこと,それ自体はほとんどないのではないですか。それをいつまで取り戻せることができるのかとか,そういう形で問題になることはあるかもしれないんですけれども,時間は特定できなくてもそれほど問題ないような気がするんですが,その点どうなんでしょうか。 ○岡委員 破産のときに弁済の時期がいつなのか,預金債務が成立した時期で相殺の基準時が問題になることはあると思います。 ○中田委員 今のような問題があるので,今回の御提案は2段階に分けられていて,債権の消滅時期を預金債権の成立時とするということと,それから,二番目に預金債権の成立時は入金記帳時とするという2段階にしたのではないかと思います。今出ている話題は2段階目についての御批判,御懸念のような感じがしまして,第1段階については特に御異論がないのではないかと思いました。違うかもしれませんが,そうすると,第1段階について任意規定としてそうするということの合理性の問題かと思います。例えば振り込んだ後で預金債権の成立前に消えてしまったとかという場合の問題はもちろんレアケースとしてあるとは思うんですが,任意規定としては預金債権の成立時にするということでそれほど問題はないのではないかなというふうに思ったんですけれども。 ○山野目幹事 今,中田委員に明確に整理していただいたとおりに私も理解しておりました。それで,中原委員の御指摘を踏まえて言えば,二つに整理されたうちの入金記帳時とする考え方というのをずばり法文に書くということは,相当困難が大きいであろうと思います。その上で預金債権成立時に弁済の効力が生ずるという規定の成立可能性を考えていくということになると考えますが,中原委員の御意見はそれもちょっと困るということまで含意しておられるかどうか,先ほど中田委員がそうではないかもしれませんが,とおっしゃったことに関係しますけれども,伺ってみたいという質問があり,それに添えて,あと意見があります。   中原委員の御意見などを伺って実務上大きな障害がないのであれば,そういう規律はあってもいいのかもしれませんけれども,私が少し法制的に心配であることは,預金だとか口座だとかという概念を用いる法文を民法に作るときにその周辺も整備しなければいけなくて,松尾さんが一晩徹夜でやるとか何かそういうコストがあって,そこまでしてする話ではないのではないか,というと軽い言い方かもしれませんけれども,ややそういうところが心配です。   関連して,流動性預金の預金債権は現金にほぼ等しいというふうな感覚がこういう立法の議論の背景にあると思いますが,預金保険法上の保険事故が発生するようなことということはあり得るのであって,そういうときの法律関係がどうなのかとか,隅々までいろいろ考え出すと重いという感触を抱きます。ひとまず中原委員に少しお教えいただければと思います。 ○中原委員 振込金を預金口座に入金記帳することは銀行の本来的な実務ですから,その点は何も問題ありません。問題となるのは,預金債権が成立した時刻を聞かれても実務上は対応できないということです。 ○鎌田部会長 分かりました。今の頂いたような御意見を踏まえて検討するということでよろしいですか。もう少しこの点についての御意見を伺っておきたいということがあれば,更に御意見をお伺いしますけれども,よろしいですか。   それでは,ほかの点についての御意見をお伺いします。 ○深山幹事 二番目の執行手続における配当と弁済充当の関係については,意見が分かれているところではあるんですが,対立点は合意充当を認めたときに執行実務に与える支障等の評価が中心だろうと思います。これはそもそも論みたいな話なんですけれども,配当手続においてどのような充当を想定して配当表が作られ,それに従った配当がなされるかという問題と,そのようにして配当された配当金が複数の債権等にどのように充当されるかという問題を切り離すことができるのであれば,この議論というのは両方並び立つ話なのではないかなという気が従来からしておりました。   私は,理屈の問題なのか実務の問題なのか分かりませんが,少なくとも観念的に考える限りは,裁判所で配当手続をする問題と切り離して,債権者債務者間においてどのような弁済充当をするかということについての合意の有効性を認め,裁判所から配当のあったこの幾ら幾らの金額についてはこのように充当しましょうと事前なり事後に約束したところに従って充当するということを認めても,その後の配当ないし執行手続を想定したとしても,さほど不都合はないのではないかという気がいたします。取りあえずそもそも論ということで問題提起をさせていただきたいと思います。 ○岡崎幹事 この問題については,パブコメでの各地の裁判所の意見を見ますと,反対が非常に強くなっております。配当の合意充当を認めますと,複数回の差押えや配当が行われる事案におきまして,後行する手続の中で先行する手続に係る配当がどのように充当されたかを審理する必要が出てくることになります。しかしながら,執行手続におきまして実体的な合意の存否や内容を判断しなければならなくなるといたしますと,執行手続の円滑,迅速な処理が困難になると思われるところでございます。   この点について部会資料の9ページの上から6行目辺りのところに現在でも手続外において一部弁済が行われた場合に同様の問題が生じるのではないかという指摘がされております。しかしながら,後行する手続において債権者が主張している債権額が先行する手続における配当を法定充当した結果よりも低額である場合には,一部請求が許容されている以上,執行裁判所としましては,その理由を詮索する必要はございません。これに対して,後行する手続におきまして債権者が主張している債権額が先行する手続における配当を法定充当した結果よりも高額である場合には,過剰執行ではないかを確認するために執行裁判所としてはその理由を確認しなければならないことになります。したがって,現在でも手続外の一部弁済によって同様の問題が生じているという指摘は当たらないと考えております。   合意充当によりまして,法定充当よりも残債権額が大きくなる事例としまして,利率が異なる複数の債権があるときに,その複数の債権を請求債権として執行がなされ,利率の低い債権から先に充当する合意がなされた場合が挙げられます。具体例としてはクレジットカードの利用代金を請求する場合にはショッピングであれば遅延損害金の上限利率が恐らく消費者契約法によって14.6%ということになるかと思います。それとともに,クレジットカード会社は,キャッシング,貸金も行っておりまして,こちらのほうは上限が利息制限法の規律を受けまして,例えば元本10万円から100万円の間であれば26.28%となり,このように遅延損害金の割合が異なる二つの債権が請求債権になっている場合があり得ると思います。   このような債務名義を持つ債権者が給料債権等の継続的な債権を差押えて複数回の配当が行われる事案というのは,実務上は決してまれではございません。このような事例では,法定充当によりますと,債務者のために弁済の利益が多い利率の高い債権,今の例でいうとキャッシングのほうになるわけですけれども,こちらから充当されることになりますが,仮に現在の実務において1回目の配当を利率の低いショッピングのほうに充当したことを前提とする債権計算書を債権者が2回目の配当手続において提出してきた場合におきましても,執行裁判所はその2回目の配当において,1回目の配当が法定充当されたことを前提として配当表を作成しております。これに対して素案のような改正が行われますと,合意充当の有無を審理しなければならなくなりまして,円滑,迅速の執行事件の処理という観点から問題が生ずるのではないかと考えるものでございます。   これに対しまして,執行手続の円滑,迅速な処理のために執行裁判所は充当合意の有無あるいは内容につきまして債権者の主張のみに依拠して差押命令の発令ですとか配当表の原案の作成を行い,不服のある債務者等には配当異議の訴えを提起してもらうようにすればよいのではないかと,このような考え方もあるかもしれませんけれども,ここは裁判所の在り方の問題になるかもしれませんが,国民が裁判所に望む姿勢がそのようなものであるかに関しては,慎重な検討が必要ではないかと思われます。配当の計算というのは非常にある意味,専門性が高いといいますか,弁護士であれば分かるかもしれませんけれども,一般の方がこの計算の正確性についてきちっと判断をするのは極めて困難なところもございまして,配当異議で何とかすればいいというのはなかなか現実論としては厳しいのではないかと考えるものでございます。   長くなって恐縮ですけれども,ついでにもう一言申し添えますと,部会資料の8ページの下から9行目に「例えば」というところがございまして,「法定充当によると,当事者が元本から消滅させることを希望する場合であっても,元本よりも先に利息や遅延損害金に充当されることになることを避けることができないという問題」が指摘されております。この点については,執行手続においても一部請求が認められておりますので,後行の手続におきまして債権者が主張する元本の額が先行する手続における配当を法定充当した結果よりも少なくなっていましても,執行裁判所としてはそれをとがめることはないはずでございます。債権者が債務者と個別に合意をして,このような処理をするということはこれまでも認められておりましたし,今後も認められるはずです。   ただ,今の部分はさきほどの深山幹事の御発言と同じ趣旨になり得るのですけれども,2回目の配当のときに,手続外の債権者,債務者間の個別の合意が効力を持つかに関しては,これは私の今申し上げている趣旨としては,効力を持ちません。2回目の配当の手続の中では法定充当がされたことを前提に計算が行われるという趣旨でございます。つまり裁判所の執行手続の中では飽くまで法定充当でやることになりますが,そのほかに裁判所の外の場で債権者,債務者間で言わば合意充当のようなことで元本から先に充当しましょうということを合意するのは,これは自由であると,こういう考え方をしております。   また,もし仮に配当を利息に充当することがまずいのであれば,利息を請求債権にしないことによって問題は解決できるのではないかとも考えております。この点については,配当の段階で按分計算が必要になった場合に,利息を請求債権に入れておかないと不利になるのではないかという懸念があろうかと思いますけれども,東京地裁の執行センターが出している文献をみますと,東京地裁の執行センターの実務では,担保権実行の場合には,請求債権の額ではなくて被担保債権を計算の基礎として配当を行っているということでございます。   したがいまして,利息を請求債権から外したとしても,配当の按分計算の際に不利益に扱われることはないということでございます。このような実務を前提としますと,一方で利息を請求債権に含めておきながら,配当が利息に充当されるのは困るというのはやや一貫しないということになるのではないかと思われます。長くなって申し訳ございません。 ○鎌田部会長 関連した御意見があれば,まず。 ○中原委員 銀行の実務としては,債務者の利益を考えれば,利息・損害金よりも先に元本に充当したほうが,元本消滅部分についてはその後の損害金の発生がないので,まず元本に充当しますというのがそもそもの考え方です。それから,利息を請求債権から外したとしても,配当の按分計算の際に不利益に扱われることはないというご意見がありましたが,利息を請求債権から外すということになれば,新たに利息の時効中断手続を行わなければならないという問題が生じます。   この8ページ下段の「例えば」以下の二つの点が銀行界の一番の関心事でありまして,現在の銀行の実務対応が許容されているのかという点については,確信が持てずに実務が先行している状況です。しかしながら,先ほど岡崎幹事からお話がありましたように,中間試案で提案された方法では執行実務が遅滞したり,大きな影響を与えるのであれば,「例えば」以下の二つの点の問題が許容されることが確認できるのであれば,現行の規定,執行手続でも構わないのではないかという意見もございました。 ○深山幹事 先ほどの岡崎さんの御意見と私がその前に述べたことと実質的にどれぐらいの違いが出るのか必ずしも判らないんですけれども,ずっとこの議論で私が疑問に思っているのは,岡崎さんの説明にもあったように,1回目の配当の後に2回目の配当となったときに,2回目の配当が法定充当で計算したよりも少な目の請求になると,それは債権者が一部請求していると見ればいいから,それは問題ないんだが,そうではなくて多目の請求になる場合もあって,それは過剰執行になるから,そういう場面があるからまずいんだというのですが,この議論が私の腑に落ちないところです。ここでも指摘されているように,例えば1回目の配当と2回目の配当の間に手続外で任意の弁済があったときは,任意の弁済があったにもかかわらず,そのことを何も告げずに知らん顔して2回目の配当を受けていることは,正に過剰な執行そのものであるわけです。   したがって,一つの執行手続の中で複数回配当があるときに,その間に手続外で任意の弁済があったときには,あったということを通常は債務者側が言うのかもしれませんし,債権者が自主的に言うのかもしれませんが,そういうことを手続内で明らかにすれば,任意弁済された部分をどこに充当するにせよ,それを差し引いた債権計算書が作られていくし,それに基づいて配当表が作られていくのであって,合意充当を認めた場合に限らず,そういう問題は起き得るんだろうと思います。弁済があったかなかったかみたいなことが問題になって,配当手続がその争いの限度で遅延することは,これはやむを得ないことなのであって,したがって,合意充当を認めると常に債務者に有利になるとは限らず,過剰執行か否かが問題となって配当手続が遅延するというようなことを理由にこの議論を否定するのは,私はどうも納得いかないところでございます。 ○山本(和)幹事 この資料で書かれている9ページから10ページの①と②の問題,これが問題であるというのがこの資料の結論ということです。この①と②についての私のコメントを述べさせていただければと思います。   ①は,今の深山幹事の御発言もそうだったかと思いますが,確かに債権額が法定充当の場合よりも多くなる場合に,その債権者が主張する合意の存否についての審理が必要になって,差押命令が迅速に発令できなくなるというのは,多分そういうことなんだろうという気がします。ただ,それは差押債権者がそれを望んでいるからそういうことになるので,差押債権者が法定充当の範囲でいいから早く差押えをしてくれというふうに言うのであれば,それは岡崎幹事が言われている一部請求ということであるとすれば,それはそれで迅速に合意の存否は判断しなくてもよいということになるんだろうと。ですから,それは債権者の側がある程度時間が掛かっても差押えが遅れて,その間に債務者が財産を処分してしまうリスクというのが生じるのかもしれませんが,その範囲で,しかし,それは甘受してきちんとそこを調べて合意充当に基づいて差押えをやってくれということであれば,それはそれを審理することで別に構わないような気は,それで執行手続が遅延するから問題だということにはならないような印象を持ちます。   それから,②の点ですけれども,充当合意についての争いが生じるということはそのとおりで,配当期日において証拠調べをしなければならない場合が増えるというのは,その充当合意に争いがある限りはしようがないといえばしようがなくて,配当期日でそういう債権者,債務者の審尋をするとか書証の取調べをするというのは民事執行法が予定していることですので,それはただ,即時に調べることができる書証だけ調べるとか,民事執行法は手続が遅れないように,つまり配当期日が続行されないように配慮をした規定を設けておりますので,その範囲内で調べるというのは,それはしようがないというか法律が予定していることなのかなという印象を持ちます。   それで,2回目の配当で配当異議の訴えが提起された場合に,ここでは3回目以降の配当を実施することが難しくなるというふうに書かれていますけれども,これ難しくなるということの意味ですけれども,執行法の建前は争いがある場合,つまり配当異議の訴えが提起されている場合には,その配当額について供託をして,供託をすれば執行手続自体はそれで終わるという前提でできています。あとは訴訟,争いがある当事者間の訴訟に委ねるという仕組みですので,それは結局3回目の配当も執行裁判所が充当合意について一定の判断をして,それを前提にして配当表を作るほかはないのであって,それに対して異議があれば,誰かが異議を言うのであれば,それは異議訴訟の中で決着を着けると。その異議の対象になっている配当額については供託をして執行手続は終えると,そういう建前でできているのではないかという気がしまして,それだとすれば配当について争われるということで執行手続が遅滞するというのがどうも私にはよく分からなくて,それは配当異議訴訟というのは後に残るということで,それはしかし,実体関係に争いがあるのであれば,それは最終的には訴訟で決着を着けざるを得なくて,その訴訟が残ってしまうというのは何かやむを得ないような感じがするので,それで執行手続に対する信頼が失われるということには,私は必ずしもならないような感じがしているので,そういう意味でこの①,②の懸念というのは,私自身は必ずしも十分了解できていないということです。 ○岡崎幹事 深山幹事の御発言は,任意弁済がされた場合に,それを隠して債権者が債権届出をした場合とどこが違うのでしょうかという御趣旨だと思います。   任意弁済は,これは配当手続の中で対応するべき問題というよりは,むしろ形成された債務名義に係る債権が既に存在していないという意味で,請求異議事由になるのだと思います。この場合と今問題にしている局面というのは,やはりちょっと違うのではないかと思われます。   それから,山本和彦幹事の御発言との関係ですけれども,差押債権者が望んで合意充当を主張して,それによって手続が遅延するのは,自己責任ではないかという御趣旨だったと思いますけれども,関係者が,差押債権者と債務者と裁判所の3者に限定されているのであればおっしゃるとおりなのですけれども,実際には,そのほかに配当加入してくるほかの債権者の利害も当然問題になるわけで,それも含めて全体として迅速に処理をしていくことが求められているわけでございまして,必ずしも差押債権者だけのことを考慮して判断していいかどうかというところにはやや疑問もあると思いました。   あと,3回目の配当が困難になるということが部会資料に書かれている点に関して,一応の配当表を作っておいて,争いのあるところは供託すればよいではないかという御趣旨の御発言もあったと思いますけれども,そもそも2回目の配当が確定していないということは3回目,これまた債権者1名,債務者1名という構成の場合は問題が生じないというか,その間だけの問題になるので全部積み残してもよいではないかということなのかもしれませんけれども,ほかの債権者が関与している場合には,2回目の配当額が確定しないとほかの債権者について幾ら充当されたかが確定しないという構造になりまして,そうすると,3回目の配当は基本的にできないということになるのではないかと思います。 ○村上委員 部会資料9ページの①についての山本幹事の御発言に関しての意見です。合意の存否についての審理をするときに,債権者だけに主張立証の機会を与えるのか,債務者にも主張立証の機会を与えなくてよいのかという問題があるかと思います。他方,差押命令を発令するかどうかを決めるために債務者に主張立証の機会を与えるということをやっていいかというと,これはかなり問題が大きいだろうと思います。 ○山本(和)幹事 今の提案はおっしゃるとおりだと思います。それは密行性というか債務者が差押前に処分されてしまっては,それは差押えの意味がないですので,債務者の意見を聴くというのは基本的には多分あり得ない話だろうと思います。債権者が資料に基づいて判断をするということになるんだろうと思います。   ②の点で配当ができなくなるというふうには私はやはり思わなくて,それは2回目の配当の段階,2回目はその前の配当の段階で充当合意の存否について裁判所が一定の判断をして,それに基づいて配当表を作成して配当を実施して,それに対して異議が出ているのかもしれませんが,配当を実施しているわけですので,3回目の配当も当然その心証を恐らくは前提にして配当表を作っていくということで,それに文句がある人は異議を述べていくということが必要になるというのはそのとおりで,異議が何回かにわたって生じるということはそのとおりだろうと思います。   ただ,これは別に充当の場合だけではなくて,実体的な債権額に争いがある場合においては例えば抵当権等に基づいて物上代位が行われるとか,あるいは収益執行が行われて逐次的に配当がなされるような場合においては,ほかでも起こり得ることなので,ここでだけそういう特に不都合が大きく生じるというふうには,どうも私には依然としてまだ理解ができないところです。 ○村上委員 もう一つ,部会資料の8ページの下から6行目から7行目にかけて,担保が付されている債権と担保が付されていない債権とが共に請求債権とされている場合に,担保が付されている債権から先に消滅することになってしまうという記載がありますが,それがなぜ不都合だというのか,私にはよく理解できません。担保が付いているからこそ,それだけの額の配当を受けることができるということになったにもかかわらず,その配当金を担保の付いていない債権のほうに充当して,担保の付いている債権は残しておくということを認めるのが本当に妥当なことなのでしょうか。 ○鎌田部会長 関連した発言は事務当局からは特にはないですか。 ○高須幹事 後からの発言で申し訳ないのですが,確かに執行実務の具体的な制度の在り方との関係では,なかなか簡単には答えの出ない問題なんだろうと思います。実際に執行を担当されているのが裁判所であり,裁判所から出ておられる委員,幹事の先生方が非常に難しいということをおっしゃっているわけですから,軽々にそのこと自体にそんなことはないと言える人は,ここには誰もいないんだろうと思います。   ただ,その前提を踏まえながらも今,深山幹事や山本和彦幹事から御意見があったように,問題点とされている点については,必ずしも克服できない問題ではないように私も思いました。執行手続が遅延する場面があるとしても,それは債権者がそういう選択をすればということであるならば,債権者がそういう選択をしないということも選択肢の一つとして出てくるわけです。銀行は一番,執行を使うヘビーユーザーだと思うんですが,先ほどの中原委員のご発言は,本当に迅速になるなら,迅速になる方法を選びたいけれども,そうでなければ合意が必ずしも反映されない現在の執行制度というのは,本来の姿だとは思っていないというような御趣旨だったと思いますので,そこは今ここで決めなくても,深山幹事や山本和彦幹事から出たような御意見であれば,そこは実際の執行の申し立てのときに選択ができるという余地が出てくるわけですから,そういう制度を用意していくということに今回の改正の意義があるのではないかと思います。   その意味では,やはり合意が2度目の執行にある程度,反映できるような形での規律を諦めないで検討してみるべきではないかと思った次第です。 ○鎌田部会長 この点もこれまで頂戴しました意見を踏まえて,事務当局で更に詰めた検討をさせていただきます。   ほかに,1,2あるいは3に関連した御意見ありますでしょうか。 ○松岡委員 465条と501条5号との関係ですが,15ページに御指摘になっているように,単純に考えますと,求償の問題と代位の問題が矛盾する結果を生じてしまい,放置するのはよろしくないと思います。ただ,どういうふうに解決したらいいのかがまだ十分私の考えとしてもまだ固まっていません。方向としてはやはり501条5号は代位者相互間の負担の公平な配分を趣旨としていて,特に5号は物上保証人も加わった特別な場合を規律しておりますので,これが特則であって,465条による場合の共同保証人間の求償権もその限度では縮減されると位置付けるのが一番簡明ではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。事務当局としてもよろしいですか。   それでは,少し積み残しができてしまいましたけれども,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,本日の積み残し分の処理も含めて,次回の議事日程等につきまして事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 本日の積み残しが2項目ほど出ておりますけれども,これらは次回の正規の会議に持ち越すことといたしまして,11月26日に予定していただいておりました予備日には会議を開催しないことにさせていただこうと思います。したがいまして,次回は来月,12月10日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省地下1階の大会議室になります。   次回の議題ですけれども,事務当局のほうで予定しておりますのは,事情変更の法理,不安の抗弁,請負・委任で,これに本日の積み残し分が加わることになります。以前に第3ステージにおける各論点の検討順序について,事務当局における内部的な作業スケジュールを内内に電子メールでお伝えした際には,次回の会議で約款も取り上げることを想定しておりましたけれども,事務当局における準備の都合でその時期をもう少し先にしたいと考えております。来年2月ないしそれ以降ということで現在作業を進めております。御理解いただければと思います。   それから,年明け1月以降の会議日程についてもそろそろ御案内を差し上げるべき時期に来ておりますので,これまでと同様に,正規の会議のほか,おおむねそれと同数の予備日を指定させていただこうと考えております。年明け最初の会議は,1月14日火曜日を予定しておりますが,その他,詳しくは本日の会議後,電子メールにて御連絡を差し上げようと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきます。   本日も熱心な御議論を賜りまして,ありがとうございました。 -了-