法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第2作業分科会(第10回) 第1 日 時  平成26年1月21日(火)   自午前9時59分                         至午後0時31分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会・第2作業分科会の第10回会議を開催いたします。 ○川端分科会長 本日は御多用のところを御参集いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,「証拠開示制度」,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」及び「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」について,順次,議論を行いたいと思います。   議事に入る前に,当分科会の構成員の変更と本日の出席者について御説明いたします。   法務省における異動に伴い,岩尾信行さんが特別部会の幹事を退任され,新たに加藤俊治さんが幹事に任命されました。これに伴って,各作業分科会の構成員は,これまで当分科会の構成員であった上冨幹事が第1作業分科会の構成員となり,加藤幹事が当分科会の構成員となることとなりました。   本日は,あらかじめお申出がありましたので,全体について,加藤幹事に代わって上冨幹事に,また,「証拠開示制度」の議論については,神幹事に代わりまして小野委員に,坂口幹事に代わりまして露木幹事に,それぞれ御参加いただきます。   それでは,本日の配布資料について事務当局から説明していただきます。 ○吉川幹事 御説明いたします。   配布資料といたしまして,「証拠開示制度」について,特別部会での配布資料63の該当部分を一部修文したものを資料18として配布しておりますほか,「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」及び「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」の各検討事項について,特別部会での配布資料63から関係部分を抜粋したものをお配りしております。   また,参考資料といたしまして,「証拠開示制度」のうち「証拠の一覧表の交付」について,小野委員から本日提出のあった資料を1点,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」のうち「証拠隠滅等罪等の法定刑の引上げ」について,「参考となる罪の法定刑の一覧」,そして,各検討事項に関する参照条文を整理したものをお配りしております。   また,再配布資料といたしまして,これまでに小野委員から提出のあった「証拠開示制度」に関する資料を,さらに,「証人の不出頭,宣誓・証言拒絶の各罪の法定刑の引上げ」に関する「特別法における不出頭等に対する罰則の法定刑の例」を配布しております。 ○川端分科会長 それでは,「証拠開示制度」の議論に入ります。   本日は,「第2 公判前整理手続の請求権」から議論する予定でしたけれども,小野委員から,前回議論した「証拠の一覧表の交付」に関して,新たに資料が提出されておりますので,その趣旨を小野委員に確認したいと思います。この提出資料は,前回の会議で小野委員から証拠リスト案を提出して,御意見,御発言があったものを基にして,「考えられる制度の概要」の「3」の(1)の記載事項を修正する形で書面にしたということですが,特にこの場で御発言いただくことはございますでしょうか。 ○小野委員 特にありません。前回お話し申し上げたことを,この参考資料のように,「3」の(1)に言わば沿った形で,中身は同じことを書いたものということで提出させていただきました。 ○川端分科会長 それでは,「第2 公判前整理手続の請求権」についての議論に入りたいと思います。   これまで議論してきた「考えられる制度の概要」は,整理手続に付するか否かの実質要件は,現行のものを維持した上で,「検察官,被告人若しくは弁護人の請求により」を組み込んで,整理手続に付することができることとするものです。   このような請求権の仕組みを設けることには御異論もあるところであり,そもそも現行法に請求権がないことによって具体的にどのような不都合が生じているのか,すなわち,当事者に整理手続に付する請求権を認めるべき必要性や趣旨をまず明確にしていただいた上で,「考えられる制度の概要」のような規定とすることによって,具体的にどのように不都合が解消ないし改善され,請求権を設ける趣旨が実現されるのかについて,詰めの議論をしていただきたいと思います。あわせて,即時抗告を設けるべきか否かについても,同様の観点から,詰めの御議論をお願いいたしたいと思います。   それでは,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○小野委員 これまでも申し上げてきたことなのですけれども,今は要するに受訴裁判所の裁量ということで公判前整理手続が行われるかどうか決められているということですけれども,実際,具体的な事例として聞いているのも,裁判所の判断で,しないということで,ただ結果,その後に争点整理の必要が出てきたり,あるいは証拠開示が十分に行われないという事例が出てきているということです。現実に任意開示はそれなりに広く行われていることはそのとおりだとは思いますけれども,現実に公判前に付された事件で任意開示もなされている場合でも,類型請求をするとまだ出てくるという事例は相当数あるということなので,任意開示があるからといって,検察官の裁量によって防御準備に必要な証拠が出てくるという保証がないということを考えると,やはり争点整理の必要性あるいは証拠開示請求の必要性ということを当事者が判断した場合には,公判前整理手続請求権を認めておく。受訴裁判所が裁量で行うこということと請求権があるかないかということでは,当然その運用は異なってくるというように考えます。受訴裁判所が手続を主宰するということと,当事者に請求権を認めるということは矛盾しないのだろうと考えられます。   そのようなことで,争点整理だけではなくて,特に証拠開示ということでいうと,類型請求,主張関連請求,これが非常に重要な機能を果たしていることは間違いなくて,事件によって,それは当事者にとって非常に必要性が高いという事件があるときに,全くの裁量だけでいいのかという問題だろうと思います。   さらに,請求権を認めるということであれば,不服申立ての手続も必要になるだろうと思いますし,抗告裁判所が受訴裁判所と同じ判断資料で判断するということには特段問題がない。通常のことでもありますし,特段期間を要するということでもないだろうということで,この請求権は必要なのだろうということで考えております。 ○髙橋幹事 では,裁判所の立場から。繰り返しになるのですけれども,現場から聞いている話を基にしますと,多くの事例では,公判前整理手続に付さなくても検察官からの任意開示で弁護人も所期の目的を達成して,公判前整理手続をすることなく審理に入って,円滑に進行していると聞いています。ただ,中には任意開示で目的を達せられない場合もあると聞きます。しかし,その場合は,弁護人の方から再度申し出てもらって,公判前整理手続に付した上で類型証拠開示等を受けることによって,公判前整理手続の目的である争点及び証拠の整理がきちんとなされる,公判前整理に付されないとそういう整理がうまくいかないということをきちんと疎明してもらえば,裁判所としては,必要だと思った場合には,公判前整理手続に付すという運用も行われていると聞いております。   そもそも公判前整理手続というのは,飽くまでも訴訟の準備行為でして,場合によっては事前の事実上の打合せで済むような場合もあるでしょうし,第1回公判期日を経た上で期日間整理手続で争点及び証拠の整理をするのがふさわしいような事案もあるでしょう。いろいろあるオプションの中で,裁判所が必要だと考える事件について公判前整理手続に付している。そういう意味で,裁判所の裁量になじむものだと思っております。   それから,請求権を認めた以上,不服申立権を認めないと意味がないということになると思いますが,一方で,正に審理を担当する受訴裁判所が公判前整理手続は必要だ,あるいは必要ないとした判断を,別の裁判所が,「いや,そうではないだろう」というような判断をすること自体,いかがなものかなと思っております。 ○宇藤幹事 請求権を認めることについてなのですけれども,現行法の制度下でなじみがあるのかというと,やはり若干疑問がございます。   あと,請求権を仮に認めるとしても,証拠開示のためのものであるという位置付けはいかがなものでしょうか。先ほど来,類型証拠開示との関係で出てくるものがあるというふうな御指摘がありました。この点について,確かにそうなのだろうというふうには思いますけれども,公判前整理手続の趣旨というのは,証拠開示に限ったことではないというところは,押さえておくべきだろうと思います。   その上で,仮に請求権を前提として制度概要を考えるとするときには,その趣旨に鑑みて,現行法と同じように,相手方当事者,この場合ですと検察官の意見も聞きながら手続を進めるという制度にすべきではなかろうかと思います。その際,意見をどのような形で聴取するかという点については,規則等で定めるという形ではどうかと考えております。 ○川端分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○上冨幹事 私は,部会に提出する「たたき台」をどうするかという観点から1点申し上げます。不服申立ての部分について,現在の概要案がA案,B案併記となっている点についてですけれども,先ほど髙橋幹事からもお話があったように,請求権を認める以上,不服申立ても必要だという御意見もありますし,そのことに対する疑問も呈されているという状況でありますので,現時点では,このA案,B案併記のままという形で部会に上げるのがよろしいのではないかと思っております。 ○酒巻委員 私も特に付け加えることはありませんが,不服申立てについては,上冨幹事のおっしゃった,この案を部会に上げるのが適当と思います。   それから,仮に請求権を設けるとすれば,証拠決定と同じように,構造としては,相手方の意見を聴くというのは当然の仕掛けです。ですから,作るとすれば宇藤幹事の言ったようなことになるのでしょう。しかしそれが現在の法制度とどこが違うのかというと,機能的にはどこも違わないという感じがいたします。今も当事者の意見を聴いて,裁判所が法律の要件に従って,要件があれば認める,なければ認めない,同じことだろうと思います。最初から申しているとおり,請求権を設けることの法律的な意味,それから実質的な意味が不明であるままだろうと思います。 ○川端分科会長 この点につきまして,もう議論は出尽くしていると思いますが,先ほど来挙げているA案,B案を併記した提案をするということでよろしいでしょうか。   では,そのようにさせていただきます。   「第2」についての議論はここまでとさせていただいて,次に「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」についての議論に移りたいと思います。   この点に関しましては,「考えられる制度の概要」のA案の①から④のそれぞれについて,更に詰めるべき点が幾つかあり,また,配布資料を修文したところがありますので,併せて事務当局から説明していただきます。 ○吉川幹事 御説明いたします。   本日お配りした資料18の5ページ目,「第3 その他(類型証拠開示の対象拡大)」を御覧ください。   まず,「考えられる制度の概要」のA案の①についてです。   これまでの御議論において,6号類型の「特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」につきましては,捜査官が参考人から事情聴取をした場合に,それを供述調書にすれば類型証拠開示の対象になるのであるから,捜査報告書であったとしても類型証拠開示の対象とすべきであるとして,捜査官が参考人から供述を聴取して作成した捜査報告書を類型証拠開示の対象とすべきとの御意見がございました。   他方で,供述調書の場合は捜査官が面前で供述人に供述を求め,その供述を録取した後に読み聞かせ等により内容の確認をしてもらって署名・押印を経るのに対し,捜査官が参考人から事情聴取をした際に作成する捜査報告書は,聴取の方法や密度も様々でありますし,他の捜査結果や捜査官の判断も記載されるなど,実に多様なものがあるとの指摘もあったところでございます。   そこで,捜査官が参考人から聴取した供述が記載されている捜査報告書であれば供述の聴取方法を問わないものとするのか,あるいは,供述内容を記載した部分が僅かであっても一通の捜査報告書として対象とするのかなど,捜査報告書の多様性を踏まえつつ,より具体的に類型証拠開示の対象とする必要性や相当性について,詰めの御議論を行っていただければと思います。   次に,A案の②についてでございます。   これまでの御議論において,刑訴法316条の15第1項第5号イ・ロの検察官側証人予定者の供述の証明力判断のためには,その身柄拘束中の取調べ状況記録書面が類型的に重要であるとして類型証拠開示の対象とすべきとの御意見がございました。   その一方で,被告人のそれが類型証拠開示の対象とされていることとの比較において,目撃者や被害者などの参考人が別件で身柄拘束されていたとしても,必ずしも被告事件についての取調べが継続的に行われるわけではないことや,身柄拘束されて取調べを受けたことを明らかにされることによってプライバシーが害されるおそれがあるとして,必要性・相当性に疑問を呈する御意見もあったところでございます。   そこで,検察官側証人予定者の供述の証明力判断のために身柄拘束中の取調べ状況が重要な意味を持つのは具体的にどのような場合なのかや,それが証人予定者一般に妥当するのか,プライバシーが害されるおそれがあるとの問題をどのように考えるのかについて,詰めの御議論をしていただければと思います。   次に,A案の③についてです。   これまでの御議論において,証拠物の関連性を示す差押調書等は,検察官請求証拠である証拠物の証明力判断に類型的に重要であるとして類型証拠開示の対象とすべきとの御意見がございました。   その一方で,検察官が証拠物を取調べ請求する場合には関連性を示す証拠も併せて取調べ請求するのが通常であり,それが請求証拠として開示されることから,あえて類型証拠開示の対象とする必要性に疑問があるとの指摘もあったところでございます。   そこで,被告人側において差押調書等の開示を受けないと証拠物の関連性が分からないような場合であるのに検察官が関連性を示す証拠を取調べ請求していないことが,相当数のケースであるのか,それがどのようなケースにおいてなのかという前提を踏まえた上で,差押調書等を類型証拠開示の対象とする必要性があるのかについて,より具体的に,詰めの御議論をしていただければと思います。   最後に,A案の④についてです。   これまでの御議論において,証拠物が類型証拠として開示される場合にも,その関連性を示す差押調書等は,証明力判断に類型的に重要であるとして,類型証拠開示の対象とすべきとの御意見がございました。   その一方で,④の開示というのは特定の検察官請求証拠の証明力判断に重要な証拠物が類型証拠として開示される場合に,その類型証拠たる証拠物の関連性を示す差押調書等が問題になる場面であるところ,差押調書等が独立して検察官請求証拠の証明力判断にとって類型的に重要であるとして類型証拠開示の対象にすることには疑問が呈されているところでございます。   そこで,特定の検察官請求証拠の証明力判断に重要な証拠物が開示される場合に,その検察官請求証拠の証明力判断にとって,差押調書等の開示を受けることにどのような必要性があるのか,差押調書等の開示により判明する事実関係がどのように役立ち得るのかをより具体的に御検討いただき,その上で,加筆いたしました配布資料の④の二つ目の「・」に,この場合の差押調書等について,「特定の検察官請求証拠の証明力判断のために重要な証拠(類型証拠)としてではなく,類型証拠として開示される証拠物の関連性を示す証拠として開示対象とするものとした場合に,どのような要件が考えられるか」と記載させていただいておりますが,この点についても詰めの御議論をしていただければと思います。 ○川端分科会長 それでは,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○小野委員 まず,①ですけれども,検察官が直接証明しようとする事実の有無に関する供述というものがまずあって,これが原供述者の供述録取書になっている場合と,そうでない場合とで区別をする,今は区別されているわけですけれども,しかし,仮に原供述者の署名捺印のある録取書の形式にされていなくても,直接証明しようとする事実の有無に関する供述については,検察官の請求証拠の証明力を判断するために開示される必要があるということが一般的に言えるだろうということで,これを類型として取り上げておく必要は高いのではないだろうか。主張関連証拠として開示される場合ももちろんあるわけですけれども,それは飽くまでも主張関連証拠であって,検察官の証明しようとする事実の有無に関する供述が検察官の請求証拠の証明力判断のために必要だという類型としての必要性があるわけですので,類型の段階で開示されることが必要だろうと思います。   それから,5号類型との関係については,6号の場合には,検察官が直接証明しようとする事実に関するという,そういう要件が加えられているので,その点については整合性には欠けるところはないのだろうと思います。   それから,8号についてですけれども,身体を拘束されているという者について,証人であると,被告人であると,その取調べ状況についての客観的な事項が明らかにされるべき必要性は変わらないのではないだろうか。つまり,供述録取書等の証明力判断のために必要だということについては変わりがないだろう。仮にこれがプライバシーの問題とかいうような問題がもしあるとすれば,それは弊害として別途判断をされれば,それで足りるだろうというふうに今考えています。   それから,③,④についてなのですけれども,現時点では,差押調書又は領置調書というのが類型として挙げられていないわけですけれども,例えば,例として考えると,ある供述内容として,会社の部署内で,その事項について報告を受けていないという供述があるとして,その証明力判断のために,証拠物としてその部署内での業務上のメモが仮にあるとして,1号類型として開示請求する。そのメモについては,どこからそのメモが出てきたかという押収経過に関するものというのは,単にそのメモの関連性を示すだけではなくて,そもそも当初の供述調書,供述で,ある報告を受けていないという点についての証明力判断に直接必要なものになるだろう。つまり,押収経過そのものが,その供述者が業務の通常の過程で見ていて当然であるような経過でそこに物があったということになると,その供述内容そのものについての証明力判断に必要なものということにもなるわけですから,そういうことでいうと,その物の領置調書又は差押調書というのが,直接的に検察官が証明しようとする事実に関する証拠の証明力判断に使われることになるということに鑑みますと,類型として開示される証拠物の押収経過に関する差押調書又は領置調書という形で,新たな項目として類型に追加をするということで,その類型証拠開示の実効性が担保されるのではないだろうか,こんなふうに考えているというところであります。 ○川端分科会長 今の御意見に対して,何かございますでしょうか。 ○上冨幹事 これまでもこの項目について御意見申し上げてきたところで,その点は繰り返しませんが,今の御意見を踏まえて何点かだけ付け加えます。   まず,①の関係については,捜査機関が作成した書面の場合とそうでない場合があって,その両者は分けて考えるのだろうと思います。   捜査報告書の場合,報告書という言葉や,書類の宛先を御覧になってもお分かりのように,普通は捜査機関の内部の人が上司に対して一定の事項を報告するための書類として作られているわけで,その報告の内容というのは非常に様々です。事実を報告する場合もあれば,意見や評価を報告する場合もあるわけです。この点,類型証拠に追加すべきだということで想定されている捜査報告書というのは,実質的には供述録取書と似たような内容で,ただ本人の署名・押印がないというものをイメージされているのかもしれないのですが,誰かの供述が記載されているという区切りだと,そこには本当は様々なものが含まれてきていて,必ずしも面前供述だけではなくて,電話で聴いた断片的な話であったり,別の人同士が話しているのを傍らで聞いた内容が記載されているものであったり,あるいは,ほかの報告書や供述調書の内容が二次的に引用されているだけであったりとか,様々なものが入ってくるわけです。それらを一括して同じような類型証拠として掲げることが相当なのか,必要なのかということは,その具体的な報告書の実態を踏まえた議論をしなければいけないのだろうと思います。供述調書と同じではないかという議論をするのであれば,少なくとも面前でされた供述,正に供述調書と同じような形で録取したものに限られるということなのかもしれませんが,そうであるなら,そこを過不足なく捉えることができるのかということが検討されるべきことなのだと思います。   それから,捜査報告書以外の書面であって,誰か作成者以外の人の供述が記載されているものというのも観念されるわけですけれども,そうなると正に,例えば昔こういうことがあったということを誰かが記載した書類があるという場合に,そこの言わば伝聞供述の中身が本当に類型証拠としての必要性があるものとして,類型的に挙げられていいのかという問題についても具体的に念頭に置いて議論した上で,この問題は決めなければいけないのではないかと思っています。   それからもう1点ですが,④の類型証拠として開示される証拠物の押収経過に関する書類の問題ですが,先ほど小野委員がおっしゃったようなケースを想定すると,伺っている限りでは,正に主張関連証拠の問題なのかなと感じました。御意見の御趣旨は,④についても現在の類型証拠と同じ要件を維持しつつ,偶然に,実際の検察官請求証拠との関係で,④の類型のものが重要だという場合にのみ開示されるという制度を想定されているというふうに伺いましたけれども,主張関連であればともかく,類型としてそういう形でヒットするということは,本当にしばしば起きるのだろうかという感じが非常にいたしまして,④の類型を現在の類型証拠と同じようなものとして構想するとすると,非常に空振りが多くなる制度になってしまうのではないかなという印象を受けました。 ○川端分科会長 今,具体的な点で,御質問にわたる部分もあったと思うのですが,例えば捜査報告書には無数のものがあるわけですけれども,その形態等についても何か具体的に想定されてのお話なのでしょうか。 ○小野委員 こちらで考えておりますのは,捜査報告書の中に原供述者の供述内容の記載があり,それが供述録取書にはなっていないという場合を想定しているということです。 ○川端分科会長 供述内容が含まれているものに限定するということですね。 ○小野委員 はい。 ○上冨幹事 そうすると,それが含まれていれば,例えば取りまとめた捜査報告書のようなもので,「誰々が供述した供述調書記載のとおりこういう供述があり,誰々はこういう供述をしていて,こういうことが判明しました」というようなものも当然含まれるし,あるいは,何かの分析をした報告書の中に,ほんの数行,その分析の前提として誰かの供述,「誰かがこうこうこういう旨の供述をしているところ」のような記載があるものも,あまねく含まれるという前提で理解すればよろしいのでしょうか。 ○小野委員 既に供述調書がある場合は,その供述調書でよろしいのだろうと思いますので,重ねて捜査報告書の中に含まれているものということにはならないだろうと思うのですけれども。 ○上冨幹事 その想定されているような捜査報告書というものをうまく切り取れるのかということが,実務を踏まえた制度設計をする上では,相当難しいことになりそうだという印象を持っています。 ○川端分科会長 露木幹事,今の点に関して何かございますでしょうか。 ○露木幹事 小野委員は聞き込み捜査報告書のようなものを念頭に置かれているのだろうと思いますが,犯罪が発生した直後に現場周辺で多数の聞き込みを行う場合を考えますと,夜中などの場合,インターホンを押して,「警察ですけれども,もし御存じであれば」ということを話したら,大体の場合は拒否されます。「そんなもの知らないよ。今何時だと思っているんだ」とか,あるいは,「知っていても知らなくても,俺は警察が嫌いだから言わないよ」などといったことをインターホン越しに言われるということもしばしばあり,そのような場合にはその旨を報告書に記載することになります。考えられる制度の概要のA案には,「検察官が直接証明しようとする事実の有無に関する供述」というふうにありますが,そもそも捜査報告書に記載されたそういうものがこれに当たるのかどうかということ自体,非常に判断に困難を伴うということが想定されます。   したがって,正にこれが捜査報告書である,調書にできないというゆえんなわけですけれども,少し余りにも無定形のものを対象にしようとされているので,果たしてきっちりと,先ほど上冨幹事がおっしゃったように,その書面を特定できるのかという,技術的な困難を伴うと思います。 ○酒巻委員 ①については,今,上冨幹事と露木幹事がお話しされたような,資料の性質上,類型証拠に掲げる対象ではないと思います。私は,供述内容が実質的に記載してあって,それが防御準備に広い意味で役に立つという場合は,開示の理由・必要性はあると思いますけれども,しかし,それを類型証拠という現在の法システムの枠組みに実定法化するのはほとんど不可能だと思います。   現行法でも,想定しておられるような資料は,主張関連証拠開示の段階で,しかも,そこでこれもまた既に設計してある,裁判所による主張との関連性とか内容のチェックのための裁判所向けのリストを検察官に作ってもらって,そしてチェックして,主張関連証拠として出る場合は出る。弊害がある場合はやむを得ない。そういう形で開示の可否が検討されるべきタイプの資料だと思いますので,①を類型証拠の枠組みに法制度として設定するのは難しいし,なぜそれを類型証拠にしなければいけないのか,現在の制度を使えば,別の方法で入手可能であるというのが私の意見です。   それから,③と④については,もう既にこれまでも出ていますけれども,いずれについても私は,類型証拠として設定する,特に④については設定する理由がよく分からない。   ②なのですけれども,制度概要の記載がそのまま条文だとすると,およそ身体拘束されたからといって,その証人予定者が,本案というか,問題になっている被告人の事件の証人ではありますけれども,その人が身体拘束されたときの取調べ過程が直ちに類型的に検察官請求証拠の信用性のチェックに意味を持つかというと,それはやはり無理だろうと思うのです。恐らく想定されているのは,被告人の事件に密接に関わりのある,つまり,証人なのだけれども,単なる目撃者とか被害者ではなくて,実質的には共犯者のことをもしお考えになっているのだとすれば,それは開示の必要性が類型的に想定し得る気もするのですけれども,何でこういうふうに茫漠とした形で提案をされているのかが私は理解できないので,仮に類型証拠の法的枠組みに引きつけて考える余地があるとすれば,そういうことなのではないかなという気がします。   これは質問です。何故に②のような形で,直接関連がないようなものも含まれ得る条文化を提案されるのか。もう少し考えて,密接関連のような類型をひねり出すという手はあるような気もするのですけれども,その辺は小野委員に伺いたいところです。 ○川端分科会長 今,御質問が出ておりますので,②に関して,お願いします。 ○小野委員 その前に,①についても今触れられたのであれなのですが,主張関連はもちろん主張関連ということで,それはそれでよろしいのですけれども,ただ,これが主張関連に当たるのかどうなのかという判断は,それは当然あるわけですけれども,同様に類型の場合での,検察官が直接証明しようとする事実の有無に関するかどうかという判断も当然そこであるわけですから,そこでの絞り込みということでいえば,いずれの場合であっても同じような判断がなされるということになるわけですから,類型であることに何の問題もないのではないかというふうには考えているところです。   それから,②についてですけれども,確かに今,酒巻委員が御指摘の点については,更に詰める必要があるかなと思いましたが,今ここで提案しているのは,共犯関係にあるような人はもちろん中心的な概念になるのだろうと思いますけれども,そうでない人についても,その供述の作られ方が,どういう客観的な状況の下で作られているのかということについては,被告人の場合の供述の作られ方の状況と,証人の場合の作られ方の状況と,その点において変わりはないのではないかということで,このように提示をしているわけです。なお,今,酒巻委員が御指摘になった点については詰めて考えたいとは思います。 ○川端分科会長 酒巻委員,今の点については,よろしいでしょうか。 ○酒巻委員 最後に,この枠囲いの中の部会への出し方なのですけれども,A案とB案が記載されていますが,そういう出し方しかしようがないのでしょうか。一見するとAの中は全部対象とするか,それとも全部対象としないのかという選択に見えますが,そういう趣旨ではないだろうと思うものですから,記載の仕方をお考えいただければと思うのですけれども。 ○吉川幹事 「たたき台」の記載の在り方につきましては,今後検討させていただきますが,元々この記載も,全部対象とするか全部対象としないかという二者択一の趣旨ではございませんで,一つ一つ制度の概要を記載した上で,それを対象とするのかしないのか,A案,B案と書いていくと非常に煩瑣なので,それをまとめて記載させていただいているという趣旨でございます。 ○酒巻委員 でも,今のままだと,いずれも対象としないか,全部対象とするかみたいに読めてしまうものですから。必要な御説明の付加をいただければと思います。 ○吉川幹事 承知いたしました。「たたき台」の記載の在り方につきましては,分科会長と御相談させていただきます。   ところで,1点だけよろしいでしょうか。常々小野委員の方から,検察官請求証拠たる証拠物の押収経過を示すものにつきましては,検察官請求証拠として出ない場合があるからこそ今回の③のような類型が必要なのだというような御主張があったのですけれども,どういう場合に出ないのでしょうか。基本的には,証拠物を請求する際は,関連性を示す証拠が検察官から請求されており,それが請求されないと裁判所は,その証拠物自体が関連性なしとして採用しないということとなるので,どのような場合に領置経過や差押え経過を示すものが出ないということなのでしょうか。このことは,これまでにもこの場で問題提起されてきたと思うのですけれども,そういう場合について,何か具体的な例とかがあればお示しいただけないかということでございます。先ほどの例は,④のお話かなと思ったものですから。 ○小野委員 具体的な事例として,こういうケース,ああいうケースでということをちょっと挙げることは難しいのですけれども,実際に証拠物だけ請求されて,その差押え,領置が出ないということも現にあることはある。実際にあるわけです。   では,それが類型,もちろん任意開示でそれが出てくることはあるわけですけれども,それがどういう形で出てくるのか。仮にこちらがそれを出してくれと求めたときに,今の類型の中にはそれに当たるものがないというのが実務の現状だろうと思いますので,実際の経験として,出てきていないというものがあって,それを出す方法としては,今の類型には含まれていないというのが現状なのだろうという,そういう現場の認識で申し上げております。そういうことでいうと,別途領置調書,差押調書というものが必要になってくるのではないかなというようなことですが。 ○上冨幹事 検察官の感覚からすると,証拠物を請求するときに,その関連性に関する証拠を請求しないで済むということは,まず余りないと思うのです。ただ,差押・領置調書の形であるのか,捜査報告書の形であるのか,あるいは供述調書の中にその関連性に関する供述が含まれているので,重複証拠を請求しないという意味で差押調書が出てこないということはあるのかもしれませんけれども,請求証拠全体を見渡したときに関連性が,特に裁判所から見て関連性が明らかにならないような立証というのが,ちょっと感覚として理解できないところがあります。そういうことが本当にしばしばあって,それが出てこないことによって関連性が不明で,言わば請求証拠たる証拠物の信用性判断に支障を来すということがどういう場面であるのかというところが,やはり具体的に何か分かりにくい感じがします。   前にも申し上げましたが,例えば被告人から任意提出を受けた預金通帳のようなもので,それ自体を見れば,あるいは被告人に聞いていただければ,一見して分かるというようなものの場合,例外的に関連性に関する証拠が請求されないということはあるのかもしれませんけれども,そうでない限り,検察官の立証として,穴になってしまうような立証をするというのがなかなか思い付かないという感じがします。 ○川端分科会長 今の点に関して,裁判所で事例とか何かございますでしょうか。 ○髙橋幹事 個々の事例を全て把握しているわけではないですけれども,僕の経験からしますと,証拠物が証拠請求されるときは,任提・領置・物という3点セットか,差押調書と物という2点セットが請求されて,裁判所はそれで証拠物の関連性を判断するというのが通常の取扱いだと思います。   ただ,今,上冨幹事もお話しされたけれども,場合によっては関連性を別の手段で立証するということで,必ずしも今述べたセットでないようなケースもあるかと思いますが,裁判所として事実認定をする際には,関連性の判断をクリアする必要がありますので,そういう心証を形成するために,それができるだけの何らかのものは出していただいているというのが実務の運用だと思いますが。 ○川端分科会長 もう議論は出尽くした感がありますので,「第3」についての議論はここまでとさせていただいて,「証拠開示制度」についての議論は終わらせていただきたいと存じます。   ちょうど区切りがよいところでございますので,ここで10分間の休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ○川端分科会長 時間前ですが,全員おそろいのようですので,再開させていただきます。 ○髙橋幹事 先ほどの証拠物の押収経過に関する書面の話ですけれども,現在の運用はどうなっているのかなと考えてみまして,例えば,裁判員裁判を想定すると,仮に,その証拠物について任意提出があった場合,任意提出書,領置調書,それから証拠物という形で,法廷でそれをそのままの形で順次調べるとなると,裁判員の方にとって分かりにくいかもしれないということで,検察官の方で統合捜査報告書を作成して証拠物との関連性を示すというようなことはよくやられていると思います。その場合,最初からそのような統合捜査報告書を証拠請求する場合もあるかと思いますし,むしろ最初は任意提出書,領置調書,証拠物という形で証拠請求をして,同意が得られれば,では分かりやすくしましょうということで,統合捜査報告書を作るという経過をたどる場合もあるかと思います。ただ,いずれにしても,最初の段階ではやはり関連性を示す何らかの証拠が請求されていると思います。   一方で,覚醒剤所持の事案で,覚醒剤が物として証拠請求されるとき,物だけが請求されて,その押収経過に関する書面が請求されていない例もひょっとしたらあるのかもしれません。そういう場合は,検察官が,被告人質問で物を示して,「これは君が持っていたものかな」と質問し,「はい,そうです」というようなやり取りをして,関連性を示すことがあるのかもしれませんけれども,少なくとも僕が経験した実務では,証拠請求としてはあらかじめ押収経過に関する証拠があったように記憶しております。 ○上冨幹事 普通は,所持の現行犯であれば逮捕に伴う捜索差押えで押収して,そのときの手続書類が請求されているのだろうと思います。その上で,実際に証拠調べされた物と押収された物の同一性を確認する意味で,被告人質問で確認するということをしているのではないかなと思いますが。 ○川端分科会長 髙橋幹事,今の点はよろしいでしょうか。 ○髙橋幹事 はい。 ○川端分科会長 それでは,次に「犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充」についての議論を行います。   まず,「第1 ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」については,「考えられる制度の概要」の①から③において,それぞれ対象者の要件を定めているところ,①については被害者を含め証人一般を対象とし,②については「畏怖・困惑行為のおそれがある者」も対象としていますが,御異論もあるところでございます。   次に,検討課題として残っているものとして,刑事施設等の収容者を対象とすることの要否・当否及びこれに関連する証人が在席する場所の範囲についても御異論のあるところであり,また,現行規定の見直しとして挙げられている2点については,具体的な御議論がされていないところです。   以上の議論状況を踏まえまして,部会に報告するための「たたき台」の策定に向け,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○髙橋幹事 検討課題の「1」の二つ目の「○」の,刑事施設等に収容されている者について,一定の事情がある場合に対象とするかという点なのですが,私の意見としては,これは反対です。   多くの場合は,既に枠囲いの中に書かれています①,②,③でカバーできると思いますし,それから,心情の安定や矯正教育の効果が害されるという点につき,当該審理が行われている受訴裁判所に来ること,あるいは別の裁判所に来ることによって,それほど大きな弊害が生じるのかなということも疑問です。元々こういう方々が証人としてお話をすること,要は,自分が携わった事件を思い出しながら,当時を振り返って話すこと自体が最も何か心情に影響を与えるのかなと思いますし,場所の移動というものが,心情に何か大きな変化をもたらすのかなというところが今一つよく分かりません。   それから,この心情の安定等ということであれば,刑事施設等に収容されている人に限らず,ほかの証人あるいは被害者も同じような状況は考えられますが,その中で,刑事施設等に収容されている人たちだけが何か特別にこういう形で保護されるというのも,相当ではないと思っております。 ○上冨幹事 何点かありますが,まず今の点からですが,現在でも,例えば刑事施設に収容されている人などについて,いろいろな事情を考慮して,所在地尋問を実施するという場合もあって,その場合,法廷でやるのか,所在地尋問でやった上で,その証人尋問調書を証拠とするのかということが,事案によって使い分けされているわけです。そこでは,一定の利益,何らかの利益が考慮されているわけです。心情の安定とかを含めた利益が考慮されているのだろうと思いますけれども,そういった選択肢の一つとしてビデオリンクという方法を活用する道を作っておくということは,あり得る制度なのだろうと思います。少なくとも,なお引き続き検討をしていってよいテーマではないかと思っています。以前,宇藤幹事からも,外国の例などについての言及もあったところですし,引き続き検討していってよいのではないかと思っています。   ほかの点について何点か申し上げますが,まず,②の類型について,加害だけではなくて,畏怖・困惑といったものも入れた方がいいのではないかということは以前申し上げたとおりでございます。その上で,この②の類型を改めて考えてみますと,加害とか畏怖・困惑行為がなされる場面というのは,同一構内で実際に証言する場面だけではなくて,同じ裁判所に出頭するまでの間に,例えば近くで待ち伏せをされるリスクとか,あるいは証言後,帰るときに尾行されて所在地とかが判明して,その後何かされてしまうとかいう意味で,証言の前,出頭するまでと出頭してから,それから出頭後帰るときという,全ての場面で加害,畏怖・困惑のおそれというのは多分考えられるのだろうと思います。そうすると,そういったものを全部包含できるような形で,この②類型というのは考えるべきなのかなと思っております。   書き方の問題になるのかもしれませんが,今の枠囲いの中の②のところが「同一構内に出頭するに際し」と書いてあるのが,どう読むのかにもよるのですけれども,何となく,出頭するまで,あるいは出頭するときにというふうに限定されて読まれてしまうと,先ほど申し上げたようなリスクを全部カバーできていないのかなという気がするので,それらを全部包含できるような表現を工夫した方がいいのかなと思っています。   それから,検討課題の「3」の現行規定の見直しの部分ですけれども,今申し上げた②の加害類型がどういう場面で起きるのかというのを考えると,加害のおそれがある場合には,出頭する前,出頭中,出頭後,全ての場面で加害類型があって,出頭しているときだけ加害のおそれがあるというのはなかなか考えにくいのかなと思うと,「3」の二つ目の「○」の関係ですけれども,加害のおそれがあるのに同一構内に出頭させた上で別室でビデオリンクを実施するという制度が機能する場面というのは余り想定しにくいのかなと思っていて,加害のおそれがある場合には,遠隔地ビデオリンク,同一構内でないビデオリンクという制度でカバーできてしまうのではないかなと思います。   それから,「3」の一つ目の「○」の関係では,いわゆるストーカー犯罪などをどうするかという問題が議論されていましたけれども,実態としてのストーカー的な行為をどのような罪名で検挙・処罰していくかというのは,これは実際の必要性と事案に応じて非常に様々な場面があって,そういったものをうまく罪名で切り出すことができるかということをよくよく考えた上で,現在の刑訴法157条の4第1項3号の類型とは別に,何らかの罪名で切り出すということの当否については,今申し上げたような捜査の実態というか,実情をよく考えた上で検討していった方がいいかなと思っています。 ○神幹事 この問題は,かねてから何度も申し上げているように,やはり本来の証人尋問というものは被告人の面前で宣誓をして証言をするということが原則であります。ビデオリンク方式の尋問というのは飽くまでも例外だとする場合に,やはり安易にビデオリンク方式の尋問は認めるべきではないという観点から,この問題,これについては反対の意見を表明しているところであります。   取り分け②の,特に後段の畏怖し若しくは困惑する行為がなされるおそれといったような形のものは漠然とした形のものでありますので,これはやはり,仮に設けるとしても,このような形で規定するのには反対です。   それからもう一つは,この検討課題の「1」の二つ目の「○」なのですが,ここは裁判所と同じ考え方でございまして,証人が裁判所内の法廷で証言するという意味合いが非常に重要だと考えますので,私も,これについては,刑事施設等で証人尋問を行うということについては反対であります。 ○宇藤幹事 私の方からは,検討課題の「2」の「証人が在席する場所の範囲」というところで,意見を少し述べさせていただきます。   先ほど上冨幹事からも御指摘がありましたとおり,所在地尋問とビデオリンク方式の選択というのは一長一短がありますけれども,その場で,裁判所の裁量等で使い分ければよろしいのではないかと思います。   ビデオリンクについては,先ほど,証人審問権との関係で問題があるのだというふうな御指摘もありましたけれども,この点については,最高裁の判例等を前提といたしますと,証人審問権の点では問題はないはずです。確かにビデオリンクと通常の法廷での証人尋問とは違うところがございましょうから,その点は,証人審問権との関係では基本的に同じであるということを前提としながら,一長一短を踏まえて具体的な方策を講じるというところでよろしいのではないかと思います。   その上で,裁判所以外とのビデオリンクですけれども,先ほど,外国の例ということでこれも上冨幹事から御指摘がありましたし,また民事裁判との関係では,我が国でも行われていると承知しております。科学技術の進歩等もございますので,今すぐにというのは確かに問題があるという向きはあるかも分かりませんけれども,10年ほど前と比べて考えてみると,これから先2,3年のうち,科学技術はかなり進むだろうということもございますので,今後の検討課題として,少なくとも御留意いただければと思います。 ○髙橋幹事 今の検討課題の「2」の「証人が在席する場所の範囲」ですが,宇藤幹事がおっしゃったように2,3年後に科学技術が飛躍的に進歩することがあるかもしれませんが,そこまでいかないかもしれません。ただ,裁判所外でやる際に常に考慮しておかなければいけないのが,離れたところで尋問する上でも,やはりそこに訴訟指揮権を及ばせなければいけない。何かあったときのための法廷警察権も確保しなければいけない。そのための職員の配置も必要ですので,やはり裁判所から出るとなると,その辺りがうまく機能するのかという,そこもきちんと考えなければいけないと思います。   それから,これは回線を使ってやるわけですので,そのやり取りが外に漏れるようなことがあってはいけないため,セキュリティに関してもきちんと整備した上でやらなければいけません。そうした意味で,裁判所外にその回線を持ち出すことについての技術上のいろいろな問題がないかどうか,その辺りの検討も十分した上でないと,実現できるかどうか判断できないと思います。 ○川端分科会長 今の法廷警察権の件なのですが,これは当然に及ぶというわけではないのでしょうか。ただ担保されるかどうかという点についての御懸念なのでしょうか。 ○髙橋幹事 僕の見解としては,場所が遠隔地であっても,裁判所の法廷警察権は及ぶということが前提です。ただ,事実上,遠隔地である以上,法廷に証人がいる場合よりは,ちょっと難しい面が出てくる。別の裁判所に証人が来てもらう場合でもそうなのですが,そこは何とかやらなければならないと思うのですけれども,それを更に裁判所の外に出てしまうと,より難しさが増すのではないかと,そういう趣旨です。 ○川端分科会長 分かりました。ほかに御意見はございませんでしょうか。 ○坂口幹事 私からも,繰り返しになりますけれども,幾つか申し上げたいと思います。   まず,②の畏怖・困惑の問題ですけれども,これはもう前から何度も申し上げているとおり,是非,畏怖・困惑についても含めていただきたいと思っております。暴力団の場合は,身体に直接手を出すという極端な組もありますけれども,むしろ,実際には畏怖・困惑をさせるようなやり方で証人に圧力を掛けるという方が一般的ですし,それで十分事足りるというか,暴力団にとっては効果が上がるわけですから,これが入っていないのでは,せっかく法改正をしたとしても,ほとんど意味がなくなってしまう。特に,犯罪とまるで関係がないような目撃者のような方が証人として出廷しなければならないという場合に,裁判所に行ってみたら,傍聴席はもう動員を掛けられた組員がずらっと並んでいて,何か証言しようとすると咳払いをするとかいったケースもございます。先日,私は話を聞きましたけれども,咳払い一つされただけで本当にびびるというか,もう言いたいことも言えなくなってしまうというような心情というのを御理解いただいて,組というのは,傍聴席に組員を並べるなどして,意図的に,計画的に,組織的にそういうことをやってくるのです。是非畏怖・困惑についても対象としていただけるようお願いしたいと思います。   それと,検討課題の4番目のところですけれども,異議がない場合に限って実施するという御提案ですが,これは是非そのようにしないでいただきたいと思います。当事者に異議があったら適用できないというのでは,その異議がどんなに合理性のないものであっても,異議さえ唱えればもう適用ができないこととなってしまい,全く意味がない制度になってしまいます。特に暴力団の場合などを考えると,これは異議を唱えないわけがないと思われますので,是非そのようなことにならないようお願いしたいと思います。 ○川端分科会長 「畏怖し若しくは困惑する行為がなされるおそれ」については,表現ぶりはこれでよろしいというお立場でしょうか。 ○坂口幹事 はい,「畏怖し若しくは困惑」はそれでよいかと思います。「出頭するに際し」という部分については,先ほど上冨幹事がおっしゃったように,どの場面を捉えているのかという解釈の余地がいろいろあり得ますので,あらゆる場面を捉え得るような表現にしていただければ有り難いかと思います。 ○神幹事 一応念のために申し上げます。検討課題の「4」の「その他」にある,当事者に異議のない場合に限ってというのは,これは日弁連から言ってきた案でございますので,これは維持するということです。 ○川端分科会長 御意見として,分かりました。   「第1」についての議論はもう出尽くしたと思いますので,これまでとさせていただいて,次に,「第2 被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」についての議論に移りたいと思います。   この検討項目の「考えられる制度の概要」においては,①の性犯罪の被害者のほか,②の要件を満たす証人を対象とし,また,供述を録音・録画した記録媒体の取扱いについては,対象者のプライバシー等を保護するため,調書自体の閲覧・謄写及び記録媒体の閲覧を許し,記録媒体の謄写はできないものとしていますが,これも御異論のあるところでございます。   以上の議論状況を踏まえまして,部会に報告する「たたき台」の策定に向け,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○神幹事 これも何度も申し述べてきたことですが,反対尋問はやはり主尋問の直後にこれを行うというのが望ましいということで,録音・録画媒体を主尋問に代えて使用することになると,弁護人として反対尋問をやりづらくなるということで,防御に支障を来すおそれがあるため,反対であります。   また,弁護人側が立ち会わない場所で行われる証人尋問は,誤導・誘導がなされたときに異議を述べることができないという問題もあります。仮にこのような制度が導入される場合には,誤導が行われ,そのまま記録されてしまった証人尋問調書等についての,問題部分を削除する等の方策が必要ではないかと考えます。 ○川端分科会長 ただいま御意見が出ましたけれども,ほかにございましたら,お願いいたします。   特にございませんようですので,この件は既に何度も議論してきているところでございますから,次にいかせていただきたいと思います。   次は,「第3 証人に関する情報の保護」の議論でございます。   まず,「1 証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」については,「考えられる制度の概要」において,証人だけでなく鑑定人・翻訳人・通訳人についても措置の対象とし,また,「畏怖・困惑行為のおそれがあるとき」も措置を採り得ることとし,措置の範囲については,住居だけでなく氏名についても対象としていますが,御異論もあるところでございます。   そして,検討課題の「(2) 代替措置に関連して必要となる措置」については,措置が必要な各場面における措置の内容や要件について,具体的な案を定めるに至っていないところですので,本日詰めておくべき事項を事務当局から説明していただきます。 ○吉川幹事 若干補足的に説明させていただきます。   検討課題(2)の「代替措置に関連して必要となる措置」を御覧ください。   (2)の一つ目の「・」にあります「弁護人に対する証拠開示」の場面におきましては,刑訴法299条1項後段により,検察官が証拠書類又は証拠物の取調べを請求するについては,相手方にこれを閲覧する機会を与えることが義務付けられておりますが,請求する証拠書類又は証拠物に加害等のおそれのある証人等の氏名・住居が記載されている場合に,これを被告人側に知らせないよう同様の措置を設けることとするか,設けるとすると措置の内容及び要件をどうするかについても御検討いただく必要があろうかと思われます。   なお,整理手続に付された事件におきましては,刑訴法316条の14によりまして,証人等の氏名・住居を知る機会を与えること,証拠書類又は証拠物を閲覧・謄写する機会を与えることが義務付けられていますので,同様の検討が必要となります。   次に,(2)の三つ目の「・」にあります「訴訟記録の閲覧・謄写」の場面といたしましては,裁判所において証人等の氏名・住居が記載されている証拠書類又は証拠物が取り調べられ,あるいは証人等の尋問がなされて公判調書にその氏名が記載されると,刑訴法40条1項により,弁護人が訴訟記録及び証拠物の閲覧・謄写をすることができ,49条により,弁護人がいない被告人が公判調書を閲覧することができることとされております。そこで,証拠書類や公判調書といった訴訟記録や証拠物に加害等のおそれのある証人等の氏名・住居が記載されている場合に,これを被告人側に知られないよう同様の仕組みを設けることとするか,設けるとすると措置の内容及び要件をどうするかということについても御検討いただきたいと思います。   なお,(2)の二つ目の「・」にあります「証人尋問請求及び決定」の場面といたしましては,刑訴規則191条2項において,公判期日前の証人等の尋問の決定の送達に代えて直ちにその氏名を訴訟関係人に通知しなければならないとされておりますので,この場面における氏名の取扱いも問題となり得ますが,規則事項と思われますので,部会に報告する「たたき台」との関係では,法律事項と思われる一つ目と三つ目の「・」をまずは御検討いただければと思います。 ○川端分科会長 ただいまの御説明を受けて,御発言がございましたらお願いいたします。 ○髙橋幹事 今御説明のあった検討課題の(2)の点ですが,ここに挙げられた三つの「・」に関しては,いずれも何らかの措置が必要なのではないかと思っております。この証人あるいは被害者の保護というテーマについては,かねがね申しておりますが,被害者の保護の問題と被告人の防御という問題,どちらも大事な,大切な利益ですが,その利益をどう調整するかという問題だと思います。(2)のいずれの「・」につきましても,ここを手当てしないとすれば証人の保護として十分ではないと思いますので,いずれの場面でも同様の措置を設ける必要があると思います。   それで,訴訟記録のところで,今,公判調書や証拠書類というお話がありましたが,審理の最終局面で判決書が作られて,通常,証人として出てきた被害者の実名等も,罪となるべき事実の内容として挙げられることになると思いますので,そういった判決書の謄本についての交付申請がなされた場合の措置として,やはり同じように何らかの措置ができればと思っております。   そうすると,この被害者の保護をきちんと訴訟手続の中で貫こうと思えば,起訴状の段階から,被害者等の氏名が出てきますので,そこも例えば起訴状の謄本の被告人への送付の際に何らかの手当てをして,そこで被害者の保護を図るということも十分検討していいと思います。   今の話は訴訟手続を縦幅で見た場合の話なのですが,今事務当局が提案されているのは証人の保護ということで,刑訴法299条1項に絡めて提案されていますけれども,刑事手続の中では証人とならない被害者,要は証拠書類の中で出てくる,登場する被害者というのも,これは保護しなければならない場合もありますので,証人に限らず被害者等も含めた,今度は横幅と言っていいのですかね,そういったものも視野に入れた,トータルとして,保護をすべき場合には遺漏ないような形で,いい制度が作れればと思っております。 ○上冨幹事 私も,この検討事項(2)の三つの項目,いずれについても手当てが必要だろうという点では,同じ意見でおります。   証拠開示の場面について言えば,検察官証拠の開示が義務付けられているわけですから,そこで本来,証人になれば保護されるべき人の氏名・住所が明らかになってしまうのでは意味がないということになりますので,やはり加害のおそれがある場合には別の措置を,代替措置を採れるという同様の制度が必要なのだろうと思います。その場合,対象となる人の範囲については,もちろん証人についても同じですけれども,同じような加害のおそれがあるということであれば,例えば供述録取書の供述者であっても,やはり代替措置の対象になり得るのだろうと思っていますので,そこまでの範囲で措置の対象とするということになるのではないかと思います。それで,その原則的な場合に加えて,公判前整理手続の場面でも同じような制度が使えるように,制度の仕組みとして措置しておく必要があるのだろうと思います。   それから,訴訟記録の問題についても基本的には同じで,証人尋問請求の段階で代替措置を採ったのに訴訟記録を見れば全部書いてあるというのでは意味がありませんので,基本的には同じ要件で代替措置が採れるようにすべきなのだろうと思います。その場合は,裁判所における代替措置というのは,既に証人尋問請求で住所・氏名が知られている,代替措置を採られていない人については必要がないので,外枠として,まず代替措置が,証人尋問請求における代替措置が採られている人についてなされればいいという意味では,代替措置が採られている人かどうかというのが裁判所に分かるような仕組みを何か手当てしておいた方がいいのではないかなと思います。   他方,その代替措置として,裁判所がまた独自の,別の代替措置を採るというと手続が混乱することになるので,証人尋問請求の方で代替措置が採られていれば,訴訟記録の方ではそれを閲覧・謄写しないという仕組みにしておけば足りるのではないかと思います。   先ほどの規則事項の関係も,法律と基本的には矛盾しないような仕組みを御検討いただくということになるのだろうと思います。その上で,証人及び証拠開示の段階で一定の供述録取書の供述者といった人たちが,保護されるべき人たちがきちんと保護されれば,それで恐らく被害者を含めて保護されるべき人の保護は尽くされる形に,制度としてはなるのではないかと思います。 ○髙橋幹事 今の裁判所の判断という点に関して,僕の中で,こういうイメージになるのかなということなのですが,結局,こういう措置を採る必要があるかどうかというのは,先ほどから言っている被害者の保護の要請,一方で弁護人の防御に支障のないようにするという観点で,その利益の調整というのが必要ですので,両当事者からその点についてそれぞれ御主張していただいて,その上で裁判所として,この事件は被害者保護のために,被害者の氏名を被告人側には伝えないという判断は裁判所の側で,この事件についてはそうするんだとした上で,この手続の中でそれが被告人に漏れる得るようなところを,手続の中でそれぞれストップしていく,そういうイメージになるのかなと思います。   それで,今の事務当局の提案は,弁護人にも氏名・住居を知らせずに代替措置をお伝えするということになっているのですが,実際の実務上は,通常は,弁護人にお伝えした上で被告人に伝えないということで足りる場合が多いのかと思います。いや,そういう場合だけではないのだという御意見もこれまで出ていますけれども,実際の運用としては,それで多くの場合は足りると思います。ただ,ごく例外的に,弁護人にも伝えることによって被害者の保護という観点から弊害が生じる場合もあり得るので,その辺り,うまく制度設計できないかなとも思っています。 ○酒巻委員 髙橋幹事の今おっしゃったことは,運用の話としては分かるのですが,この制度の肝は弁護人に知らせないというところにあるのではないですか。つまり,ぎりぎりの事案で,もちろん防御に実質的な不利益を生ずるおそれがある場合は除くのですけれども,弁護人にも秘匿しないとどうしようもない場合を基本的に想定して設計されている制度なのではないかというのが私の理解なのですけれども,どうなのでしょうか。 ○吉川幹事 御指摘の点を含めて御議論いただければと思います。 ○酒巻委員 弁護人にも秘匿する制度は今はないのですよね。保護措置はありますが,弁護人にはお知らせしますけれども,頼むから被告人には知らせないでね,お願いしますという趣旨の条文はあります。   それではやはり安心できない,そういう場合があるでしょう,現実には。それに備えるために,弁護人にも御承知いただかない方が,被告人から「知らせろ」と言われても,「俺も知らん」と言えれば,それで面目は立つわけです。けれども,被告人との信頼関係,依頼人のための弁護活動という観点からいっても,今はむしろ,見方によっては,頼むから知らせないでねと言うことによって,あとは全部弁護人の責任というか,それでも知らせざるを得ないような立場に追い込まれてしまうのは,気の毒なのではないか。非常にぎりぎりの事案ですけれども,そうであっても防御ができるというような場合が,およそないというのだったらもうこれ以上話は進まないのですけれども,そういう場合もあるのではないか。   氏名とか,そういう証人の特定事項は知らなくても,その部分は例えばマスキングとかいろいろな形で徹底して隠されていても,中身が準備できれば法廷活動もできるというような場合があるだろうから,そういう場合に備えて作っておくというのがこの代替措置なのだというのが私の理解であり,その理解に基づいて,現在のこの「考えられる制度の概要」は適切であろうと思います。もちろん(2)については,尻抜けにならないように,考えられるところには法律及び規則で手当てをする必要があろうと考えます。 ○神幹事 反論するようで申し訳ないのですが,やはり弁護人に被告人の氏名及び住居等が分からないままということだと,絶対に弁護活動には実質的な不利益が生じると私は考えています。したがいまして,前から申し上げているように,弁護人には少なくとも氏名・住居は明確にした上で,被告人に対して,例えば住居等が分かると仕返し等があるというのであれば,そういうところは知らせないという条件を付するという形で,やはりある程度弁護人を信用していただくという形をとらないと弁護人は弁護活動を十分に行うことができないと思っています。 ○川端分科会長 今の点は,先ほど髙橋幹事からも御指摘がございましたように,証人の保護と防御権が対立・矛盾する部分をどのように調整するかという観点からの新たな制度設計でございますので,ただいまの御意見は御意見として,後でまとめる段階で御相談させていただきたいと思います。 ○神幹事 発言していいでしょうか。これは前回の部会において,村木委員とか周防委員の方から,一体その証人がどういう名前で,どういう人なのかということが分からないということ自体は,やはりすごく不安だという意見も出ております。ですから,この点は,部会においても弁護側がこれだけ強く言っていますので,三つ目の選択肢として,第三の案として議論を頂きたいと思いますので,これを外すということについては反対します。 ○川端分科会長 今の点は御意見として承っておきます。 ○坂口幹事 神幹事からそのような御意見ではありましたけれども,私の立場からは,事件によっては,あるいは弁護人によっては,被告人よりも弁護人の方が危ないというケースも現にありますから,被告人には知らせないけれども弁護人には知らせるということが,必ずそうでなければならないという制度では困るということを申し上げたいと思います。形式的な意味においての依頼人は被告人なのでしょうけれども,実質的な意味においては依頼人は組であるというような事件があって,そういう場合,被告人自身は別に知りたいとも思っていないし,被告人自身には報復の意図は余りないのかなと思われるような事件であっても,弁護人の方には証人の氏名等をお知らせするわけにはいかないというようなケースも実際にありますので,そういった点も是非御考慮に入れていただければ有り難いと思います。   それから,前回の部会でこういう議論だったという御紹介がありましたけれども,私の理解はそうではなくて,誰だか分からないという点について,ちょっと誤解があったのではないかなと思います。その点がどうだったのかというのは,ここで何か言っても仕方ないかもしれませんけれども,少なくとも裁判所などは証人が誰なのかということをしっかり分かっているわけですから,まるで匿名で無責任に言いたい放題言うというような制度ではないという点を御理解いただいて,是非証人の保護ということから御検討いただければと思います。 ○上冨幹事 一つは,弁護人に知らせた上で被告人には知らせないということについて,知らせるかどうかの判断を弁護人がするということであれば今の配慮要請と多分同じなのだろうと思いますけれども,裁判所の判断として,この事件では弁護人には知らせてはいけないという命令になった場合に,先ほどおっしゃったような弁護人の属性から見たときに,それが有効に機能するのかという問題があるのと同時に,特にこの種の制度を設ける理由というのは,証人となる人が安心して法廷に出てきて安心して証言できること,それが公判中心主義に資するからだということだとすれば,被害者を含む証人の目から見たときに,弁護人と被告人の関係で,本当に知られることはないのかというところの不安が払拭できなければ,この種の制度としては,せっかく入れる意味がなくなり,あるいはせっかく入れても機能しなくなるおそれがあるのではないかということがあろうかと思います。   もちろん防御に実質的な不利益がある場合に知らせないということは元々考えられていないわけで,事案によっては,これまでも出てきていますけれども,例えばストーカー事件の被害者であるように,現在の住所も,現在の姓も分からないけれども,どこの誰が証人になるのかは被告人から見て明らかで,何ら防御に不利益ではないという事件も当然あるわけですし,暴力団の事件でも,前にも出ましたが,本名は知らずに稼業名だけが知られていて,今は組を抜けて別のところに住んでいるけれども,事件当時に自分の弟分であった人間が証人で出ているということが被告人にも明らかというような事件ももちろんあるわけで,およそ一切の場合に弁護人・被告人が証人申請時点での住所や氏名を知らなければ,防御ができないということにはならないのだろうと思います。   また,住所・氏名と並べて書いてありますけれども,この制度はもちろん,住所だけ,あるいは氏名だけを秘匿するということも含めた上で,事案に応じて選択すればいいものであって,例えば,氏名は開示するけれども今の住所はとにかく知らせないというような仕組みも含めて考えるならば,今の制度概要にあるような制度を作ることは十分考えられるし,意味のあることだろうと思います。 ○神幹事 今の実効性の担保の関係ということであれば,これは,こういう措置を法律に設けるということでありますので,実際上,被告人に知らせるなというのは,開示するなという義務が発生しております。この義務に違反することについては,やはりこれは法律の義務に違反する形になりますので,場合によっては懲戒請求を受けるという形で担保措置ということはあり得るだろうというふうに考えます。また,場合によっては措置請求という点も考えられるかもしれないということで,そういったことも念頭に置いて考えていただきたいと思います。 ○川端分科会長 これは証人の保護に関する新たな制度設計でございますので,そういった点も踏まえて,これを部会で御議論いただくようにさせていただきたいと思います。   それから,この検討事項に関しましては,検討課題の(1)と(3)もございますので,御意見がございましたらお伺いいたします。 ○神幹事 証人等の範囲ですが,やはり鑑定人・通訳人・翻訳人といったところは難しいのではないかというふうに日弁連としては考えています。 ○酒巻委員 その場合であれば,なぜ難しいのかを御説明する準備をされた方がよろしいかと思います。これまで鑑定人等を除外する合理的な理由を伺った覚えがございませんので。 ○川端分科会長 この点はよろしいでしょうか。「証人の氏名及び住居の開示に係る代替措置」についての議論はここまでとさせていただいて,次に,「2 公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」についての議論に移りたいと思います。   この検討項目の「考えられる制度の概要」においては,証人だけでなく鑑定人等についても対象とし,秘匿決定の要件として,「畏怖・困惑行為のおそれがある場合」や,「名誉・社会生活の平穏が著しく害されるおそれがある場合」も措置を採り得ることとしていますが,御異論もあるところでございます。   また,検討課題として残っている「対象者の範囲」について,具体的に詰めておく必要があります。   なお,「たたき台」を策定するに当たっては,被害者特定事項の秘匿制度と同様に,秘匿決定を取り消す規定を設けることや,秘匿決定により起訴状・証拠書類の朗読の特例や尋問等の制限といった効果を生じさせる規定を設けることでよろしいかも,検討しておく必要がございます。   それでは,ただいま申し上げた点について御意見のある方は,御発言をお願いいたします。 ○髙橋幹事 この枠囲いに書いてあるようなことについて,実務上,被害者でなくても,運用として,保護が必要であり,相当と認めるときは,言わば秘匿決定と同様の措置を採ることはございます。その意味で,こういうことを法定化して明確に要件を定めて,それに基づいて運用するという形にしていただくのは,裁判所としても賛成するところです。   秘匿という意味では,単に証人となる者だけではなく,あるいは鑑定人,通訳人として法廷で供述する者だけではなくて,その名前が証拠の中のどこかに出てきますと,原則として,これは朗読という形で取調べがなされ,その際に名前が出てしまうとやはり支障が生ずるので,そこは広く網を掛けて,秘匿の決定が及ぶと考えた方がいいと思います。   それから,秘匿決定の要件としても,ここに書いてあるようなことで十分なのかなと思いますし,そのほか,現在の被害者の秘匿決定における手続の流れとして,法定されているもの,あるいは規則になっているものがありますが,これらと同じような扱いが必要となるのかなと思います。 ○上冨幹事 今,「対象者の範囲」のことについては,私も,既に決定された証人だけではなく,やはり保護すべき範囲の人については同様の秘匿の措置が採れるようにすべきだと考えます。その上で,どこまでそれを広げるかということについてなのですが,例えば誰かの供述の中に一度名前が出てきていて,供述調書に名前が載っているけれども,実際には取調べをされるわけでもなく,捜査の対象にもならなかった人というところまで本当に広げるのかどうかというのは,やはりなお考えなければいけない問題だろうと思っています。まずもって証人と同様に保護の必要性が高いのは,供述調書の供述者なのだろうと思いますけれども,それを超えて,どこまでの範囲についてこういった秘匿の必要性が類型的にあるかということについては,なお検討した方がいいのかなと思っていて,まずは証人と供述者という範囲なのかなと思います。   それから,各種手続的な規定として,取消決定や朗読などの関係で手当てが必要だということについては,私も同じ意見でございます。 ○神幹事 この点も前から申し上げているのですが,やはり顕名で証言をするということが本来証人の証言の信用性の担保になるというふうに考えますので,今現実に運用で行われていること以上に,特に法制化が必要ではないのではないかと考えています。   ただ,もしこれをどうしても法制化するといった場合については,先ほど申し上げたように証人等の範囲のうち,証人と供述調書の供述者をまずとおっしゃられた点については私もある程度賛同はできますが,鑑定人,通訳人,翻訳人といったものがどの程度入るのかということについては,もう少し検討してみる必要があるのではないかと考えます。   それから,①と②の要件ですが,やはりここでも畏怖若しくは困惑させる行為がなされるおそれという問題と,②の社会生活上の平穏が著しく害されるおそれのある場合ということについては,ちょっとここは曖昧過ぎるのではないかということで,もう少し限定すべきではないかという意見を述べておきたいと思います。 ○髙橋幹事 今の顕名の証言が信用性の担保の関係で大事だというお話ですけれども,これは,飽くまでも裁判所も両当事者も誰かということは分かっているわけで,それを公開の法廷で明らかにしないという措置を採るということです。要するに,傍聴人に明らかにしてしまうといろいろな弊害が生じるということなので,それでも何かやはり抵抗感や問題はありますか。 ○神幹事 実際問題として弁護人が,現在の運用で,それに応じなかったというケースはあるのでしょうか。要するに,この証人については法廷で名前を言うことを,Aさんにしましょうという形にする,あるいは黒塗りで名前・住所を分からなくするという形のことについて,それを弁護側の方が,「いや,それは駄目だ」と言っているケースがあるのでしょうか。今までの運用で足りているのではないかというふうに考えているということであります。もし多くの弁護人,多くでなくても,そういう弁護人がいるのだということであれば,そこは,ある意味での弁護権の問題と被害者・証人等の保護との問題からいった場合に,法律化しなければいけないのだろうということは納得できないではないけれども,現実の今の運用で足りていないのかどうかというところが若干よく分からないということであります。 ○上冨幹事 若干論点がずれていて,今,神幹事がおっしゃったのは多分制度の必要性に関わる部分で,その前におっしゃったのは,匿名にすること自体に一定の弊害が,信用性担保という観点から弊害があるという御意見のように伺えたのですけれども,顕名で証言することによって信用性が担保されているというのは,本当に制度的にそうなのかというところは,私自身は疑問に思っています。やはり宣誓した上で,偽証の制裁の下で証言をするということで本来は証言の信用性は基本的に担保されて,反対尋問でそこがチェックされるという仕組みなのであって,気持ちとしては分からないでもないのですが,傍聴人に対して名前を公表するかどうかということで信用性が担保されているというのは制度としては違うのかなと思います。   それから,証人のほかに鑑定人,通訳人,翻訳人といった人たちをどうするかという問題については,以前にも申し上げましたが,要するに,証人となるのか,鑑定人となるのかというのは,証拠方法としてどういう位置付けなのかという違いだけであって,その人たちの属性が変わるわけではないわけですから,その保護の必要性が,証人であるか,鑑定人であるかによって,大きく変わるということではないのだろうと思います。 ○川端分科会長 この点は,制度設計において,証人のプライバシーの保護という観点が最重要課題とされている案件でございます。公開の法廷,つまり,公開主義との関連で申しますと,果たして氏名の開示まで必要かどうかという点では,内容的なことが傍聴人にも分かれば公開主義という憲法上の要請は達成されていると考えられますので,今の点については,ここで挙げられたような形で整理させていただきたいと思います。   ほかになければ次に移りたいと思いますが,よろしいでしょうか。   では次に,「第4 証人の安全の保護」についての議論を行います。   これまでの御議論においては,この検討項目をどのように取り扱っていくかについて,「この分科会・部会において議論を尽くし,制度の概要あるいは方向性を定めるべきである」という御意見があった一方で,「刑事法を専門とする部会で取り扱うことの難しい民事・行政関係等にわたる課題が多くあり,これらを全体として考えなければ実際に機能する制度とはならないと考えられることから,この分科会・部会としては,行政や民事法の専門家も交えた適切な場において,これらの課題を含めた具体的な検討がなされるよう希望するにとどめるべきである」という御意見があったところです。   これらに加えて特に御意見のある方がいらっしゃいましたら,御発言をお願いいたします。 ○坂口幹事 今,分科会長の御指摘にあったとおり,この特別部会の手に余るテーマである面もあるというのは私も理解しておりますが,他方,この特別部会で検討しなければ,いかなるところで検討がなされ得るのかということも考えますと,やはり分科会長が御提案になった取りまとめということでは,ややちょっと他人事すぎるのではないかなというのが感想でございます。   確かに行政上,民事上の諸制度との調整が必要であるなどの多くの課題があるというのは承知しておりますけれども,他方で,本制度というのは,公判における証人の証言を確保し,公判審理を充実化させるためのものでありまして,正に新時代の刑事司法制度を検討している当部会において議論されるべきものであると思います。特にほかの検討テーマとの関連で申しますと,例えば協議合意制度とか刑事免責制度などは,証人保護プログラムのようなものが整備されて初めて有効に機能し得るというふうにも考えられますので,是非ともこの場でこの問題についても検討をお願いしたいと思います。   民事・行政上の他制度との調整というのが必要でない方策というものもあり得ると思います。例えば,加害行為や報復のおそれがある証人に対して,その安全を確保するために住居の提供,生活費の支給その他必要な措置を講ずるものとするとか,単純に予算上の措置の根拠となるような法制を整備するとかいうこともあり得るのではないかと思います。   現状のように,余りにも証人に一方的な負担を強いて,証人は,正義の実現に協力したがために,将来にわたって自分の身を自分の負担の下に守り続けなければならなくなってしまうような制度というのでは,一体何が公判中心主義だ,国民から見れば,本当に批判されてしまうようなことにもなりかねませんので,是非引き続き御検討をお願いできればと思います。 ○川端分科会長 今の御趣旨は十分理解できるところであります。ただ,今申し上げましたように,これは, 民事,行政に関わる法律改正を伴う大幅な制度改革をしなければならない事項でございまして,刑事法を中心とするこの分科会で,これについてこれ以上の議論をすることは不可能だと考えておりますので,今,坂口幹事がおっしゃったような現行法の下で考えられ得る新たな措置については,報告事項で検討させていただきたいと思います。   それでは,次に,「公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」についての議論に移ります。   まず,「第1 証人の出頭及び証言を確保するための方策」についての議論に入ります。   「第1」のうちの「1 証人の不出頭等の罪の法定刑の引上げ」については,「2 証人の勾引要件の緩和」と異なって,「考えられる制度の概要」の内容である法定刑が決まっておらず,複数の案が示されたままになっておりますので,部会に報告する「たたき台」を策定するため,本日は,「1」について,詰めの議論をお願いいたします。   本日,参考資料として,「特別法における不出頭等に対する罰則の法定刑の例」を再配布しておりますので,御参照いただきながら,証人の不出頭等の罪の法定刑の引上げについて,同種の他罪の法定刑との均衡を考慮しつつ,具体的な案を示して御議論いただければと思います。   それでは,御意見のある方は御発言をお願いいたします。 ○上冨幹事 資料に既に選択肢が出ておりますので,結論で申し上げますと,私は,1年以下の懲役又は30万円以下の罰金というのが適切ではないかと思います。   まず,現行は罰金しかないわけですけれども,今日出ている参考資料の方で見ますと,行政機関に対する不出頭等の法定刑の中には,自由刑が規定されているものが相当数あるわけで,そうすると,刑事裁判という場面で自由刑を規定することは何らおかしくはないかと思いますし,その程度を考えると,現行の制度で,行政機関に対する不出頭でも1年以下の懲役という規定があることを考えれば,やはり1年ということは最低限必要なのだろうと思います。   それから,罰金額については,自由刑を設けた上で現行の罰金額10万円を維持すると,その間のところで適切な科刑ができなくなる可能性もありますし,そもそも今回のこの制度改正の趣旨からしても,罰金額を現行より引き上げるべきだろうと思います。その上で,どの額かということについては,中には経済的な利益を伴う利欲犯的な面もあるのかなという罪について,かなり高額の罰金を規定している例もあるようですけれども,他のそうでない立法例と比べますと,30万円を上限とした罰金でいいのではないかと考えます。 ○川端分科会長 これは,上限と下限についてそれぞれ選択肢が限られておりますので,その中のどれかを選んで,当分科会の意見として提案させていただきたいという趣旨でございます。 ○神幹事 私どもは基本的に,身体刑を入れるかどうかということについては反対ということを言っておるのですが,ここではそのことではなくて,民事訴訟における不出頭等についての規定と不整合な場合が生じるということについても,部会の方に報告をしておいていただきたいと思います。 ○川端分科会長 了解いたしました。 ○上冨幹事 今の御指摘の点については,民事訴訟法の世界で,今般刑事訴訟法が仮に引き上げるという考え方をとった場合に,では,民事訴訟法は,どうなのだということを別途検討していただく必要はあるのかなと思いますが,現行の民事訴訟法を前提に,民事訴訟法が動かない限り刑事訴訟法は動かせないという形では,永遠にどちらも動かないことになりますので,そこはそれぞれ考えていただくということになろうかなと思います。 ○川端分科会長 立法事実があって,そして,それに関して保護法益をどう捉えるかという問題とも関連してきますので,その観点から決めさせていただきたいと思っております。   「たたき台」が不明確なままではまずいので,ここはきちっと決めさせていただきたいと思いますが,今出ているのは,上限が懲役1年で罰金刑が30万という御意見ですが,そういうことでよろしいでしょうか。   では,そういうことで,本日,この点は決めさせていただいたということでお願いいたします。   ほかになければ,次へ移らせていただきます。   次は,「第2 証拠隠滅等罪等の法定刑の引上げ」についての議論に移ることにいたします。これについても,「考えられる制度の概要」には,複数の案が示されたままになっておりますので,「たたき台」の策定のため,詰めの議論をお願いしたいと思います。   本日,参考資料として「参考となる罪の法定刑一覧」を配布しておりますので,御参照いただきながら,それぞれの罪の法定刑の均衡のほか,他罪の法定刑との均衡を考慮しつつ具体的な案を示して御議論いただきたいと思います。   それでは,御意見のある方はお願いいたします。 ○上冨幹事 これも選択肢が出ていますので,まず結論を申し上げますが,証拠隠滅,犯人蔵匿については,3年以下の懲役,30万円以下の罰金というのがよろしいかと思います。それから,証人等威迫については,2年以下の懲役,30万円以下の罰金,それからさらに,組織的犯罪処罰法の各罪については,5年以下の懲役,50万円以下の罰金というのが,それぞれよろしいかと思っています。   理由をごく簡単に申し上げますが,まず証拠隠滅等については,参考資料を見ますと,現行法で,例えば強制執行妨害とか公契約関係競売等妨害といった国の強制執行作用などを害する罪が今3年となっているわけですけれども,これより軽いということはないでしょうし,3年以下の懲役は必要であろうと思います。その上で,現行の罰金額を維持するのではなくて,やはり自由刑を設けるとともに,全体として厳正に処罰することとすると,20万円以下の現行の罰金を引き上げる必要がありますが,その引上げ幅は,自由刑の引上げ幅とのバランスなどを考えると,30万円ということでよろしいのかなと思います。   その上で,証人等威迫については現行1年以下の懲役と20万円以下の罰金となっていますので,そのバランスを考えると2年以下の懲役が適当であり,罰金額についても,現行の20万円を引き上げて30万円にするということになろうかと思います。   さらに,組織的犯罪処罰法については,基本刑が3年となっている罪を5年として引き上げているのが現在の例のようですので,5年以下の懲役にした上で,同様に他の罪の引上げ幅との並びを考えて,罰金額も50万円以下とするのが適切だろうと思います。 ○川端分科会長 今,ほかの犯罪の法定刑と比較し,そのバランス等も考慮した上で理由を示して案が提示されました。まず,一つ目については,3年以下の懲役又は30万円以下の罰金,それから二つ目については,2年以下の懲役又は30万円以下の罰金,それから三つ目については,5年以下の懲役又は50万円以下の罰金という案でございますが,御異論がございますでしょうか。   ございませんようですので,この案でお願いいたします。   では,「第3 被告人の虚偽供述に対する制裁」についての議論に移ります。   これまでの議論では,「考えられる制度の概要」をベースとして,部会に報告する「たたき台」を策定することに御異論はないように見受けられますが,本日は,若干の論点について,詰めの議論を行いたいと思います。そして,本制度の採否は部会で決定することとなりますが,採否の視点や関連課題を整理するに当たって,米国の実情が参考になるとの御指摘がありました。   そこで,事務当局から,本日の会議で詰めておくべき事項と,併せて米国での運用実情について説明していただきたいと思います。 ○吉川幹事 それでは,若干の説明をさせていただきます。   まず,検討事項についてでございます。   配布しております,「考えられる制度の概要」の「1(1)」におきましては,概要,「裁判所は…請求があるときは…尋問するものとする。」としておりますが,被告人側の請求があったときには必ず被告人の証人尋問を実施することとするのか,現行の証人尋問同様に,請求があった上で裁判所が必要性を判断し得ることとするのかについて,御検討いただければと思います。   次に「2」は,証人尋問に関する規定のうち,被告人を証人として尋問する場合に適用しないものを掲げておりますが,その内容が適切か否か,他に適用しないこととすべき規定があるかについて,御検討いただければと思います。   そして,「制度設計上の検討課題」の一つ目の「○」の共同被告人の尋問とも関連いたしますが,一般の証人尋問の主体や尋問の順序を規定した刑訴法304条と同様,被告人の証人尋問についても主体や順序を規定する必要があると考えられますので,その内容についても御検討いただければと思います。   さらに,検討課題の二つ目の「○」の,被告人が虚偽の供述書等を提出した場合の取扱いにつきましては,これまでの議論でも,証人としてした虚偽の供述が偽証罪となるのと同様,これを処罰の対象とする必要があるとの御意見も示されているところですが,その在り方について御検討いただければと思います。   続きまして,若干ではございますが,米国の運用の実情につきまして,事務当局が把握しているところを御紹介いたします。   まず,被告人が証人として証言する割合がどの程度あるかについて,網羅的な統計は見当たらなかったのですが,米国の大学教授が被告人が証人として証言するか否かの要素を統計的に分析した論文に,2000年から2001年にかけて,米国の4つの裁判所を対象に,死刑事件を除いた重罪事件,すなわち長期1年以上の刑が定められているものの,陪審公判の被告人330名を調査したものがございます。   それによりますと,全体で見ると,公判廷で証言をしたのは163名,割合にして49.4%。前科の有無で見ますと,前科を有する251名のうち,証言をしたのは約45.4%の114名。前科を有しない79名のうち,証言をしたのは約62%の49名ということでございました。なお,人種別で見ますと,白人33名のうち,証言をしたのは63.6%,21名。それ以外の人種275名のうち,証言をしたのは約47.3%の130名ということでございました。男女別で見ますと,男性285名のうち,証言をしたのは約48.4%,138名。女性29名のうち,証言をしたのは約69%,20名とされております。   なお,これらは限られた事件についてのものである上,米国では事実審理と量刑審理が分かれており,有罪答弁をした場合には事実審理が行われませんので,今御説明した割合は,いわゆる否認事件で陪審公判が行われたものであることに御留意いただきたいと思います。   次に,被告人が証人として証言するかどうかをどのように判断しているかについてでございますが,日本の大学教授が日本と米国の刑事司法をめぐる諸問題について書いた文献によりますと,偽証の制裁のリスクがあるということのほか,捜査段階で自認供述をしていたか否かといった証拠関係や,被告人の気質,教育程度など,様々な要素を考慮して判断しているようであり,また,米国では,被告人が証言する場合には,被告人の悪性格や前科が証言の信用性の弾劾のために用いられる可能性があるという尋問ルールが採用されているため,被告人が前科を有するかどうかなども判断要素とされているようでございます。   そして,指摘の中におきましては,「陪審員としては被告人の言い分も聞いてみたいと思うであろうし,公判が開かれる事件では争いがあるため,被告人の口からその言い分を陳述させることが望ましいから,多くの事件では被告人が証言する」という指摘もあったところでございます。 ○髙橋幹事 本日の検討課題の一つ目に関連するのですが,アメリカの場合は,被告人を証人として証言させたいと弁護側が言ってきた場合,これは必ず採用しているのですか。それとも,何かやはり採否みたいなものはあるのですか。 ○吉川幹事 全て網羅的に米国の実情を把握しているわけでございませんが,採否の判断はしているようでございます。そして,通常は,採用しているということのようでございます。 ○酒巻委員 今日出された幾つかの論点について,まず今問題になった点,現在の書きぶりだと,請求があると必ず尋問しなければいけないようにも読めるのですが,これも証人尋問ですから,被告人だけそういう形とする合理的な理由は考えられない。むしろ,やはり証言をするということは,繰り返しになりますが,宣誓をして証言をして,うそを言えば偽証罪の制裁がある。そして,ひとたび証言した以上は反対尋問に,つまり,黙秘権を放棄して反対尋問には応じる義務が生ずるという非常に重要な事柄ですから,もちろん被告人と弁護人が十分相談をして証人尋問請求したとしても,通常の証拠調べ請求一般と同じように裁判所が,その採否について判断をする形になるのは当然であろうと思います。それが分かるような書きぶりにするのがよろしいのではないかと思います。   それから,尋問の順番なのですが,これは誰がどう考えても,被告人が証人として,自らの主張ではなくて,供述によって自ら有利な証拠を提供しようとする場合ですから,今行われているいわゆる被告人質問と同じように,まずは弁護人が主尋問を行って証言をしてもらう,そして,今,普通の証人尋問で行われているような交互尋問方式で,また,現に被告人質問で行われているいわゆる反対質問と同じように,次は相手方当事者である検察官が反対尋問をする。その後に裁判官なり裁判員が尋問をする。これがごく自然な順序だと思うのです。ところが,皆さん御承知のとおり,現在の刑訴法の条文の方が現実と外れておるというか,まず裁判官が尋問するということになっており,交互尋問制度は,規則の方で定められているわけです。このままですと,裁判官が最初にやらなければいけないようになってしまうので,刑訴法の中に,弁護人がまず尋問するという旨の規定を設定する必要があるだろうと思います。   もう一点,先ほどのアメリカの話は,途中で吉川幹事も注意を喚起されましたけれども,部会の場で同じような紹介をするのでしたら,アメリカは参考になるところもあるけれども,全然ならんところもある点に注意喚起をすべきです。一番大きなのは,先ほども触れられたとおり,あちらで証人尋問とか被告人尋問をやっているのは全部否認事件の裁判であり,自白事件はそもそも裁判をやらんのだということです。つまり,アメリカの事情というのは,争いのある事件について,陪審員裁判をやっている場合の話である。ですから,自白事件については,参考にはならんというか,参考になる例がないのですね。   日本国刑事裁判の大多数を占めている自白事件がどうなるかについては,アメリカでどうのこうのという議論をしても無意味なので,今までの日本国の自白事件における被告人質問がどうであったかというこれまでの実務の状況と,それが証人尋問の形態になることによって,罪を認めている事件ですから,何か非常に大きな変化が生ずるのかどうかという想像力と,客観的な事実に基づいた想定の下で考えればいいことなのではないかと思います。   それから,否認事件の場合も,先ほど言ったように,アメリカと日本はいろいろ違うところもあれば似たところもあるので,そちらの方は参考になるかもしれませんけれども,まずはこれまでの日本国の状況がどうであったかが重要であろうと思います。否認事件で被告人質問を全然やっていないかというと,外形的には証人尋問と同様の交互質問方式で現にやっているわけですので,その辺のところは十分注意して比較参考というのはしなければならんと思います。部会における御報告の際に十分御留意いただければと思います。 ○川端分科会長 ほかに,いかがでしょうか。 ○上冨幹事 尋問の順序に関しては,私も,今,酒巻委員がおっしゃったとおりの意見でございます。   その上で,そこの「制度設計上の検討課題」の一つ目の「○」にありますが,共同被告人をどうするかについては,私は,やはり共同被告人の防御という観点からすれば,尋問の機会を与えるということになるのだろうと思います。   あと次に,細かいことなのですが,枠内で,「2」の(2)で幾つか,被告人が証人になったときに適用が除外される,性質上除外される規定が挙げられていて,その最後に「等の規定は,これを適用しない」とありますが,この関係では,ざっとほかの規定を見たとき,なお幾つか適用排除するものがありそうなので,付け加えておきます。   一つは,刑訴法の150条,151条で,証人の不出頭に対する制裁という規定がありますが,これも,被告人の出頭が開廷要件の場合には意味がない規定ですし,そうでない事件でも,あえて制裁を設けるまでの必要はないのではないかと思いますので,適用除外していいかと思います。   それから,被告人の退廷に関して,期日外の刑訴法281条の2と,公判期日の304条の2がありますが,これらも性質上,適用排除するのは当然だろうと思います。   それから,先ほども話題になっていた刑訴法299条1項で,証人の氏名・住所を相手方に伝えなければいけないというのも,今更伝えてもしょうがないので,要らないのかなと思います。 ○宇藤幹事 私の方からは,その他ということで,「2」の方で挙がっている項目との関係で,特に最後,「・」の後半二つ,黙秘する被告人が増加する懸念,それと,自白事件の公判における量刑資料が得られにくくなる懸念,こちらの方について意見を述べさせていただきます。   先ほどからもお話が出ていたかと思うのですけれども,今回問題になっているような制度を作ろうとすると,被告人が公判で供述しなくなるということを点を考慮する必要があるというのは,理念として公判中心主義との関係が問題になるからだろうと思います。   ただ,その点で,先ほど御紹介のあったアメリカの実情というのは,こういった制度を作るということによって,必然的に被告人の供述がなくなるものではないということを示しているように思います。少なくとも,今予想しているよりは法廷での供述がなされる可能性があるように思います。しかも,米国と日本との実情ということを考えてみると,単純に比較することはできませんので,この点については,結論を先取りして,供述が出てこなくなるのだという話を前提とするのは少し過剰かもしれません。   それでもなお強い懸念が残る,とりわけ最後の「・」で出てくるような,自白事件の公判における量刑資料が出にくくなってくるというのが懸念するところであるとすれば,その点について対処をとるということもあり得るかと思います。例えば狭義の情状については,この点,配慮をするとか,そういったことも制度の作りとしてはあり得るかなと思います。 ○髙橋幹事 最後に言われた狭義の情状について配慮をするというのは,具体的にどういうことなのでしょうか。 ○宇藤幹事 少なくとも今議論しているところというのは,罪体と結び付いたところというので証拠が出てこないところというのが問題になっている。そうであるとすると,その懸念が余り出てこないところというのは,今回の議論とは少し外して検討する可能性というのは残ってくるかなという趣旨です。 ○酒巻委員 ここで検討しているのは,被告人の供述を得る方法として証人尋問の仕掛けを使う,本当のことをしゃべってもらうために偽証罪の制裁を伴う,その話をしているのですけれども,今,宇藤幹事がおっしゃったのは,それとは違う話をしておられるのですね。 ○川端分科会長 結局,今, 制度設計として議論されている案が実現すると,黙りこくってしまう状況が生ずるのではないかという御懸念ですよね。 ○宇藤幹事 そうですね,はい。 ○川端分科会長 時間の関係で,これで終わりにさせていただきたいと思います。   これで予定していた事項は全部終了したことになります。   当分科会での検討は本日で最後になります。皆様には,これまで10回にわたり,各検討事項について大変活発な御議論を頂きました。皆さんの御尽力のおかげで,具体的な制度案の検討が進み,部会に十分な成果を報告できるものと思います。本当にありがとうございました。   部会に報告する「たたき台」については,前回の会議でも申し上げたとおり,本日の議論も踏まえて,まずは私の方で案を作成させていただきます。そして,できる限り速やかに,事務当局を通じて,その案を皆様にお示しし,皆さんから頂いた御意見を踏まえて更に内容を検討いたしますが,飽くまで部会での議論のための「たたき台」であるという資料の性質や,次回の部会までに余り時間的余裕もないことから,最終的な取りまとめは分科会長である私にお任せいただきたいと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。                (一同了承)   どうもありがとうございます。では,そのようにさせていただきます。   それでは,これにて本日の議事を終了したいと思います。   なお,本日の会議につきましても,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきます。また,議事録ができるまでの暫定的なものとして,事務当局において本日の議論の概要をまとめて,全委員・幹事に送付していただきます。   それでは,これで閉会いたします。どうもありがとうございました。 -了-