法制審議会 第171回会議 議事録 第1 日 時  平成26年2月7日(金)   自 午後2時02分                        至 午後2時43分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題   1 国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)の整備に関する諮問第98号について   2 商法(運送・海商関係)等の改正に関する諮問第99号について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○松本司法法制課長 ただいまから法制審議会第171回会議を開催いたします。   本日は,委員20名のうち16名の委員に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   初めに,法務大臣挨拶がございます。大臣,よろしくお願いいたします。 ○谷垣法務大臣 第171回の法制審議会の開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げたいと思います。   今日は,まだ雪は降っておりませんが,大変お寒い中,そして御多用中の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。この機会に,法制審議会の運営につきまして大変な御尽力を頂いておりますことを心から御礼申し上げたいと存じます。   今日は,二つの議題について御審議をお願いしたいと存じます。一つ目の議題は,新たに御検討をお願いするものでございまして,これは「人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第98号」でございます。渉外的な要素を持ちました民事紛争の解決におきましては,いずれの国が裁判管轄権を有するかという国際裁判管轄が問題となるわけでございますが,このうち契約上の債務に関する訴え,それから不法行為に関する訴え等の財産関係事件に係る訴えにつきましては,平成23年の民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律におきまして,我が国の裁判所が裁判管轄権を有する場合について,必要な規定の整備を完了しております。しかし,人事訴訟事件や家事審判及び家事調停を含みますところの家事事件につきましては,どのような場合に我が国の裁判所が管轄権を有するのかにつきまして,まだ規定の整備がなされておりません。国際結婚あるいは海外への移住などに伴い,渉外的な要素を持った親族間の争いは増加してきておりまして,その解決が我が国の家庭裁判所に求められる場合も少なからずございますから,こういう規定の整備は喫緊の課題となっていると存じます。そこで,人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄に関する規律等を整備することについて,御検討をお願いするものでございます。   それから,2番目の議題は,これも新しく検討をお願いするものでございまして,「商法(運送・海商関係)等の改正に関する諮問第99号」についてでございます。この分野は,明治32年の商法制定以来,実質的な見直しがなされておりませんが,当時は想定されていなかった航空運送に関する規律を新設するなど,社会経済情勢の変化に対応する必要がございます。また,見直しに当たりましては,現代の取引実務に即して,荷主や運送人を始めとした運送関係者の利害関係を合理的に調整することができる規律とする必要がございます。さらに,船舶の衝突等の海商法制におきましては,国際性が強く要請されており,世界的な規律の動向を踏まえたものに改めるべきであるとの指摘もなされております。そこで,商法制定以来の社会経済情勢の変化への対応,荷主,運送人その他の運送関係者間の合理的な利害の調整,海商法制に関する世界的な動向への対応等の観点から,商法等のうち運送・海商関係を中心とした規定を見直すことについて,御検討をお願いいたすものでございます。   それでは,これらの議題についての御審議をどうぞよろしくお願い申し上げます。どうもありがとうございました。 ○松本司法法制課長 誠に恐縮ではございますが,大臣は公務のため,ここで退席させていただきます。           (法務大臣退席) ○松本司法法制課長 ここで,報道関係者が退室いたしますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○松本司法法制課長 それでは,伊藤会長,よろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 伊藤でございます。本日はどうぞよろしくお願いいたします。   まず初めに,会長代理を指名したいと存じます。   法制審議会令第4条第5項によりますと,「会長に事故あるときは,あらかじめ会長の指名する委員がその職務を代行する」と規定されております。昨年,会長代理をお願いしてございました西田委員がお亡くなりになりまして,現在空席となっておりますので,この会議の議場におきまして会長代理を指名したいと存じます。   そこで,長期にわたりまして法制審議会で活躍され,現在審議中の刑事法(裁判員制度関係)部会の部会長でもいらっしゃる井上委員を指名したいと存じます。   井上委員,どうかよろしくお願い申し上げます。   それでは,本日の審議に入りたいと存じます。   先ほどの法務大臣挨拶にもございましたように,本日の議題は二つございます。第1の議題である新たな諮問事項「国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)の整備に関する諮問第98号」の審議をお願いしたいと存じます。   初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○小林参事官 民事局で参事官をしております小林でございます。   諮問を朗読させていただきます。   諮問第98号。   人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄に関する規律等を整備する必要があると思われるので,その要綱を示されたい。   以上でございます。 ○伊藤会長 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○深山幹事 幹事の深山でございます。それでは,私から,人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄法制の整備に関する諮問第98号について,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等を御説明申し上げます。   社会経済の国際化に伴い,関係者に外国人や外国企業を含むなど,渉外的な要素を持った民事紛争は増加しておりますが,このような紛争の解決においては,いずれの国が裁判管轄権を有するかという国際裁判管轄が問題となります。財産関係事件については,平成20年9月,法務大臣から法制審議会に対して,国際裁判管轄の整備に関して要綱を示すことを求める諮問がされており,国際裁判管轄法制部会を設けて調査審議がされ,平成22年2月に「国際裁判管轄法制の整備に関する要綱」として答申を頂きました。そしてこの答申を踏まえて立案した民事訴訟法及び民事保全法の一部を改正する法律が平成23年4月に成立したことにより,財産関係事件の国際裁判管轄に関する規定は整備を完了しております。   他方,人事訴訟事件や家事審判及び家事調停を含みますところの家事事件については,いまだ国際裁判管轄に関する規定の整備がされておりません。しかし,国際結婚,海外への移住等に伴い,渉外的な要素を持った親族間の紛争は増加しており,その解決が我が国の家庭裁判所に求められることは珍しいことではありません。人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄に関する規定を欠くままでは,当事者の予測可能性に欠け,裁判所の審理においても国際裁判管轄の存否の判断に時間を要することにもなります。したがって,このような規定の整備は喫緊の課題であり,また今後,国境を越える人の交流が盛んになるにつれ一層重要になっていくものと考えられます。   これらの規定の整備の必要性は,財産関係事件の国際裁判管轄規定を整備した際にも認識されておりましたが,当時,法務大臣から法制審議会に対し,家事審判及び家事調停事件に関する手続を定めた家事審判法等の現代化に関する諮問がされており,同法の全面的見直しの検討が行われていたため,その見直しの結果を待つこととしたという経緯がございます。その後,答申を踏まえて立案された家事事件手続法が平成23年に成立し,平成25年から施行されておりますので,人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄法制を整備するべき時期が到来したものと言えます。そこで,人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄に関する規律等を整備するために,どのような規定を設けるべきかについて,法制審議会で御検討いただく必要があると考え,今回の諮問をさせていただいたものでございます。   御検討いただく事項は,事件類型に応じた国際裁判管轄の在り方,専属管轄とすることの是非,緊急管轄や特別の事情による訴えの却下に関する規定を設けるか否かなどの我が国の裁判管轄権に関する問題が中心となり,関連して,いかなる要件の下で外国裁判所の裁判の効力を国内においても認めるかという承認・執行の問題などについても御検討いただきたく存じます。よろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明がございました諮問第98号につきまして,まず御質問があれば承りたいと存じますが,いかがでしょうか。 ○能見委員 こういう問題の全体を理解する上でバックグラウンドの質問をしたいのですが,この度の諮問事項は,日本での国際裁判管轄ということで,人事訴訟事件及び家事事件について日本の裁判所に管轄があるのかどうかを検討するということだと思いますけれども,国際結婚とか国際離婚とか,そういう問題ですから,ほかの国も同じように考えて管轄を定める結果,管轄が競合したり,いろいろ複雑な問題が生じると思うので,最終的には何か条約とか,そういうもので管轄が決まると一番いいのだろうと思いますけれども,そういう方面の動きが何かあるのかということについて,もし情報があれば教えていただきたい。 ○深山幹事 この種の人事事件,家事事件の国際裁判管轄について,もちろん今回我が国で検討しようとしているのと同じように国内法で規定を持っている国は,ドイツ,オーストリアを始め,たくさんあります。他方で,今,委員から御指摘があったとおり,条約によって解決しようという動きもございます。ヨーロッパ域内では,これはヨーロッパ域内だけの地域的なものですけれども,ブリュッセル規則と言われるものあるいはEUの扶養義務に関する規則など,分野を限ってヨーロッパ域内での統一的な国際裁判管轄ルールを作るという条約がございます。ヨーロッパに限らないいわゆる多国間条約につきましても,離婚,後見,扶養といった分野別に条約は存在しております。ただ,各国ごとにこの種の問題について,本当に国家間の条約でそれぞれの主権国家の主権の調整と考えるべきなのか,それとも国内法の規律が及ぶ範囲という国内法の問題として考えるべきかについて,国際的にその条約によるべきだという考え方でない国もあるということなどもあって,条約自体は分野ごとにハーグの国際司法会議などで作られておりますが,我が国もそうですけれども,批准する国が非常に少ない。発効していないものも多々ございまして,その背景には,そもそもこの種の問題について,国家間で条約で決めるのが一番いいと考えるか,国内法の適用範囲の問題として考えるのがいいのかということについての各国法制の理解の違いがあると言われております。そういった状況の下で,今般,我が国でも,まずは国内法制としてここを整備しようということでございます。 ○伊藤会長 よろしゅうございますか。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,御意見がございましたら,御意見をお願いいたします。 ○川副委員 恐らく,問題の専門性に鑑みまして,従前の例に倣って,部会で専門的な御議論になるのだろうと,この点は今からお諮りになるのでしょうが,そのことを一応念頭に置きながら,若干の意見を申し上げたいと思います。   諮問の御趣旨は十分了解できますし,そういった部会という形でやるのが適切であろうと私も思います。その上で,多少の時間を頂戴し,個人的な感想を申し上げます。   私事で恐縮でございますが,私は現在,日本司法支援センター,法テラスの福岡地方事務所で全体の管理といいますか,所長をやっております。現場の実情を少し御紹介いたしますと,法テラスにおける民事法律扶助の件数は年間約11万件ございます。このうち事件の種類で最も多いのは,かつては御存じのとおり多重債務・自己破産が半分以上を占めておりました。ところが,この1,2年,家事事件がトップになってきておりまして,そのうち離婚とこれに関連する案件が大半に上っております。その中には,扶助の申込者自身を含めて,当事者の一方が外国籍の人,あるいは相手方の住居が外国にあるといった事案も目立ってきています。この傾向は東京・大阪などに限らず,福岡のような地方でもしばしば見られるようになっております。そういう意味で,人事訴訟事件あるいは家事事件の当事者というのは,渉外事件を含めて,経済的に余裕が十分でない方が多いということは念頭に置く必要があるのだろうと思っています。また,事案も,家庭内暴力などのように,非常に深刻で,緊急な保護と速やかな身分関係の清算が求められる事案も少なくありません。   今回諮問されたテーマにつきましては,私から申し上げるまでもありませんけれども,商事法務研究会において研究会が設けられておりまして,昨年末まで約1年ぐらいをかけて議論をしてこられたと承知しております。もちろん,この研究会の御議論が直ちに部会につながるわけではなく,一つの参考にすぎないとは存じますけれども,論点としてはほぼ出尽くしているのではないかと思っております。   ウエブ上に公開された資料などを拝見しますと,人事訴訟・家事事件のあらゆる単位法律関係の類型ごとに,大変精緻な検討が重ねられております。ほぼ見解が一致したものもあれば,基本的な枠組みの点でなお意見の開きが大きいものもあるようです。例えば,最も適用場面が多く,また争いも多いと見込まれます離婚事件でございますけれども,基本的な考え方としては二つの枠組みが提案されているようです。   A案は,まず,通常の財産関係の事件と同じように,被告側の住所が日本にある場合に日本の裁判管轄を認める。被告が行方不明などのような場合には,一定の要件の下に,原告の住所が日本にある場合にも管轄を認めるという考え方です。これ対してもう一つのB案というのは,当事者のいずれか一方が日本に住所を置いておられれば,管轄を広く認めるという考え方のように承っております。双方のいずれの案も,先ほど大臣が言及されましたように,緊急な場合あるいは被告の応訴に多大な負担をかけるような場合には例外的な扱いをするといった御議論がされているようです。   この問題は,ここにも専門家がいらっしゃいますけれども,原告側が日本で訴訟ができる利益と,外国にいる被告側の応訴の負担との公平性とか,外国判決の日本における効力,あるいは反対に日本の判決が外国でどう効力が扱われるのかという問題,また,民事訴訟法における国際裁判管轄の規定との整合性や外国の立法例,さらには先ほどの御質問にもありましたように国際条約との関係など,様々な要素が錯綜して,利害の調整あるいは理論的整合性をどう図るのかということで,大変難しい問題があるようでございます。   私自身は,現時点で,先ほどのA案,B案,どちらがいいとか,その他の多岐にわたる論点について,まとまった意見を持ち合わせているわけではございませんが,初めに御紹介しました法テラスの現場での人事訴訟案件の実情を見ている立場から,主として離婚訴訟を念頭に,4点ほど感想を申し上げたいと思います。   1点目ですけれども,外国に居住している被告側の応訴負担との公平性は大事ではありますけれども,身分関係紛争の確定が迅速にされるという配慮をお願いしたい。裁判管轄と事案の中身は別次元のこととして考えなければいけませんけれども,特に最近目立っておりますドメスティック・バイオレンスが絡むような事案を見ますと,そうした実感を強くいたします。また,邦人保護の観点からは,日本国籍という要素も,例えば夫婦の最後の共通所在地など,ほかの要件との調整や組合せが必要になるかもしれませんが,検討していただきたいと思います。   2点目ですけれども,離婚事件では実質的には破綻主義の傾向が強まっているように思われます。私自身の弁護士経験からいたしましても,離婚すること自体には特に争いがなく,実際には子の監護や財産分与などの附帯処分あるいは慰謝料請求などの関連請求に主要な対立がある事案が多いように思われます。したがいまして,これらの附帯処分あるいは関連請求の解決の在り方との関係も十分に検討していただきたいと思います。   3点目ですが,裁判管轄はもとより裁判所の職権調査事項でございます。しかしながら,要件に当たるかどうかの基礎となる事実は,当事者が収集しなければなりません。したがいまして,裁判管轄の調査検討のために,実際上当事者に過大な負担をかけるような要件の設定には慎重であっていただきたい。例えば,外国の判決が日本で承認されると予想されるようなときには日本での訴訟ができないといった要件が定められますと,承認されるかどうかの検討にかなりの困難が伴います。外国で判決を得てから日本の裁判所で承認を得るという迂遠な手続を採るよりは,日本で裁判を起こしたほうが早く実体的解決が図られるということもあるようです。また,外国と日本のどちらか先に裁判を起こしたほうを優先するということにした場合も,外国での裁判にどれだけの時間を要するのか分からないといったことで,結局は解決に時間がかかり,負担も大きくなって,特に早急な解決が求められる案件に対応できないようにも思われます。この点は,いわゆる二重管轄という問題とも関係しますので,理論的には難しい面があるようですけれども,こうした実務的な観点からの御配慮もお願いしたいと思います。   最後でございます。今申し上げたこととも関係いたしますが,外国判決の日本での承認・執行の要件として,現行の民事訴訟法では,相互の保証が必要とされています。しかし,人事訴訟の場合,財産取引関係とはやや異なって,婚姻制度や実親子・養親子の制度は,各国の歴史や文化,宗教などに根差す面が大きく,かなり異なる点があると思われます。そして,そのことを反映して,外国法で日本の判決の効力が認められているかどうかということは,相当に調べてもよく分からないということが少なくないようです。ですから,特に人事訴訟の場合には,相互の保証という要件を場合によっては外す。たとえそれが法制度全体の整合性からなかなか難しいとしても,例えば日本の判決を否定した事例がない限りは相互の保証があるものとするというように,緩やかな要件にすることができないかといったことも御検討をお願いしたいと思います。   以上,現場での,特に当事者の立場での実務感覚ということで,これから議論される部会などでの御議論において考慮していただければ幸いでございます。ちょっと長くなって申し訳ありません。 ○伊藤会長 分かりました。本諮問事項の重要性に関する御意見と承りました。審議の方法につきましては,また後ほどお諮りいたします。   それでは,ほかに御質問,御意見がございませんようでしたら,第2の議題でございます新たな諮問事項「商法(運送・海商関係)等の改正に関する諮問第99号」の審議をお願いしたいと存じます。   初めに,事務当局に諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○松井参事官 民事局で参事官をしております松井と申します。   それでは,諮問第99号を読み上げさせていただきます。   商法制定以来の社会経済情勢の変化への対応,荷主,運送人その他の運送関係者間の合理的な利害の調整,海商法制に関する世界的な動向への対応等の観点から,商法等のうち,運送・海商関係を中心とした規定の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。   以上でございます。 ○伊藤会長 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由につきまして,事務当局から説明をお願いいたします。 ○深山幹事 それでは,「商法(運送・海商関係)等の改正に関する諮問第99号」につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等を御説明申し上げます。   この分野は,明治32年の商法の制定以来,115年の間,実質的な見直しがされておらず,規定の内容が現代社会に適合していないとの指摘がございます。例えば,現在広く行われている航空運送は商法が制定された当時には想定されておらず,商法には航空運送に関する規律は設けられておりません。また,現在では,一つの運送契約で陸・海・空という複数の運送手段にまたがる複合運送を引き受けることも少なくありませんが,このような運送形態に関する規律も商法には設けられておりません。そこで,これらに関する規律を新設するなど,社会経済情勢の変化に対応する必要がございます。   次に,見直しに当たっては,現代の取引実務に即して,荷主や運送人を始めとする運送関係者の利害関係を合理的に調整することができる規律とする必要がございます。例えば,海上運送においては,運送人は出航の際に船舶を航海に適した安全な状態に置く義務を負うとされており,この義務のことを一般に堪航能力担保義務と呼んでおりますが,商法では無過失責任とされているこの義務を過失責任に改めるべきかどうかや,積荷に危険物が含まれることを告げずに運送を依頼した荷主の責任を厳格化すべきかどうかといった点について,運送関係者から幅広く意見を聴取しつつ検討することが考えられます。   さらに,海商法制においては,国際性が強く要請されることから,世界的な規律の動向を踏まえたものに改めるべきであるとの指摘もされています。例えば,複数の船舶が衝突した場合の損害賠償責任の在り方や,沈没しそうな船舶を救助した場合の救助料請求権の在り方等については,国際条約と商法とで規律が異なっており,条約の適用の有無により適用される規律が異なるという問題があるため,このような条約等の規律と整合するように商法の規律を整備する必要がございます。   そこで,商法制定以来の社会経済情勢の変化への対応,荷主,運送人その他の運送関係者間の合理的な利害の調整,海商法制に関する世界的な動向への対応等の観点から,商法等のうち運送・海商関係を中心とした規定を見直すことについて,法制審議会の意見を求めるものでございます。   諮問第99号についての御説明は以上のとおりであります。よろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 ただいま説明がございました諮問第99号につきまして,まず御質問があれば承りたいと存じます。いかがでしょうか。よろしゅうございますか。   御意見はいかがでしょう。 ○岩原委員 運送・海商という分野は,言わば経済のインフラの部分で,極めて大事な分野であります。しかし,先ほど御説明がございましたように,明治32年商法以来,実質的な見直しがなく,完全に時代離れした規定になっているわけでございます。したがいまして,立法の必要性は非常に強いと考えております。しかるに,こういう分野は,なかなか立法を推進する力が弱いというか,どうしても他の目先の立法のほうが先になってしまうということが多いのであります。しかし,日本の運送・海運の競争力を維持するためには,こういう運送・海商に関する法制がきちんと整備されて,ルールの予見可能性が高いということが極めて重要でありますので,是非この分野の立法をなるべく早く実現していただきたいと思います。   また,この分野につきましても運送法制研究会の報告書が出ていて,問題点はかなり詰められており,そこに立法の方向性がほぼ示されていると思いますので,それを踏まえ,なるべく早くその立法を実現していただきたいと希望しております。 ○伊藤会長 分かりました。本諮問事項についての検討の必要性,重要性の御指摘と承りました。   ほかに御意見はございますか。 ○川副委員 私もこの諮問の趣旨については賛成でございます。今,岩原委員からも御指摘がありましたように,研究会では非常に詳細な報告書を出しておられまして,ウエブ上にも公開されています。もちろん,この研究会での報告書は,法制審議会では事実上の参考にすぎないことではありますけれども,論点はほぼ出尽くしているようですので,それらを踏まえて,早急に御議論をしていただければと思っております。   それをざっと拝見しながら思ったことでございますけれども,今後の審議の在り方との関連で申し上げたい点がございます。内容は非常に精緻で,しかも高度に専門的な御議論が展開されております。研究会に参加されたメンバーを拝見しましても,研究者の先生方あるいは運送関係会社の法務部門を担当しておられる弁護士など,この分野の言わば日本の第一級の専門家がそろっておられます。こういった御議論を踏まえつつこの審議会で今から御議論いただくわけですけれども,他面で,運送・海商は社会の動脈ですし,国民生活全般に深く関わるものでございますので,その法的規律の在り方につきましては,運送業者や損害保険会社だけではなく,荷主,さらには旅行業者,ひいては一般旅客などのユーザーを含めた関係者の間における利害が異なっています。それらの利害を十分に整理いたしまして,それを適正に調整することが求められていると思います。   したがいまして,申すまでもありませんけれども,今後そういう専門家の方に御検討をまずお願いするにいたしましても,その構成等につきましては,こういった関係者のバランスを十分御考慮いただきますとともに,その中に一般旅客などのユーザーの意見も反映できるような御配慮をしていただけないだろうかという感想を持ちました。 ○伊藤会長 ありがとうございました。   ほかに御質問,御意見等がございませんようでしたら,ただいまの御発言にもございましたが,諮問第98号及び第99号の審議の進め方について,御意見があれば承りたいと存じます。いかがでしょうか。 ○早川委員 本日の議題の2件の諮問でございますけれども,これらはいずれも高度に専門的,技術的な事項がかなり含まれているように思います。そこで,通例に倣いまして,それぞれについて部会を新たに設置して調査審議し,その結果の報告を受けて,更に総会で審議するというのが適当なのではないかと考えております。いかがでしょうか。 ○伊藤会長 ただいま早川委員から部会設置等の御提案がございましたが,これにつきまして委員の方々の御意見はいかがでしょうか。よろしゅうございますか。           (「異議なし」の声あり) ○伊藤会長 それでは,諮問第98号及び第99号につきましては,新たに部会を設けて調査審議することといたします。   次に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事に関してでございますけれども,これらにつきましては,恐縮でございますが,会長に御一任いただきたいと思いますが,これもよろしゅうございましょうか。           (「異議なし」の声あり) ○伊藤会長 ありがとうございます。それでは,私に御一任いただくことにいたします。   次に,部会の名称でございますけれども,諮問事項との関係から,諮問第98号につきましては,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会,諮問第99号につきましては,商法(運送・海商関係)部会としてはどうかと考えますが,この点もよろしゅうございましょうか。           (「異議なし」の声あり) ○伊藤会長 それでは,そのように取り計らわせていただきます。   他に特段の御意見がございませんようでしたら,ただいまの諮問第98号につきましては,先ほど申しました国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会で御審議いただくことといたし,諮問第99号につきましては,商法(運送・海商関係)部会での審議に基づいて,総会におきまして更に御審議をお願いすることといたしたいと存じます。   以上で本日の予定は終了でございますけれども,他にこの機会に御発言いただけることがございましたら,お願いしたいと存じます。いかがでしょうか。   特段御発言がございませんか。ございませんようでしたら,本日はこれで終了といたします。   本日の会議における議事録の公開方法につきましては,審議の内容等に鑑みて,私といたしましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することとしたいと存じますが,この点はいかがでしょうか。それでよろしゅうございますか。           (「異議なし」の声あり) ○伊藤会長 ありがとうございます。それでは,本日の会議における議事録につきましては,発言者名を全て明らかにして公開することといたします。   なお,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言を頂いた委員の皆様には,議事録案をメールにて送信させていただき,御発言の内容を確認していただいた上で,法務省のホームページに公開したいと存じます。   最後に,事務当局から連絡事項がございましたら,お願いいたします。 ○小川関係官 それでは,私のほうから次回の総会の開催予定について御説明申し上げます。法制審議会は2月と9月に開催するのが通例となっておりますが,次回の総会の開催日程は未定の状態でございます。案件が決まり次第,具体的な日程につきまして御相談をさせていただきたいと存じます。つきましては,委員・幹事の皆様方におかれましては,御多忙のところとは存じますが,今後の御予定につきまして御配意いただけますよう,よろしくお願い申し上げます。 ○伊藤会長 それでは,ただいま説明があったとおりでございますが,次回につきましてもよろしく御協力賜れればと存じます。   ほかに特段の御発言がございませんようでしたら,これで本日の会議を終了したいと存じます。本日は御多忙のところをお集まりいただき,また熱心な御審議を頂戴して,誠にありがとうございました。 -了-