法制審議会 刑事法(裁判員制度関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成26年1月28日(火)   自 午後1時58分                         至 午後4時10分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○東山幹事 ただいまから法制審議会刑事法(裁判員制度関係)部会の第2回会議を開催いたします。  部会長,よろしくお願いいたします。 ○井上部会長 本日も御多用中のところをお集まりいただきまして,ありがとうございます。  なお,本日,木村委員と岡本幹事は,所用により欠席されておられます。  前回の第1回会議後に,人事異動によって委員・幹事の交代がございました。  そこで,新たに委員あるいは幹事になられた方々から,簡単に所属・氏名等の自己紹介をしていただこうと思います。着席順に,大谷委員からお願いします。 ○大谷委員 1月9日付けで最高検察庁公判部副部長を拝命いたしました大谷です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○栗生委員 1月22日付けで警察庁刑事局長を仰せつかりました栗生と申します。よろしくお願いいたします。 ○加藤幹事 1月9日付けで法務省刑事局刑事法制管理官を命ぜられました加藤でございます。よろしくお願いいたします。 ○林委員 同じく1月9日付けで法務省刑事局長を命ぜられました林でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○上冨委員 同じく1月9日付けで法務省官房審議官を命ぜられました上冨でございます。刑事法制管理官時代は幹事で参加させていただきましたが,改めて委員としてお世話になることになりました。よろしくお願いいたします。 ○井上部会長 どうぞよろしくお願いします。  審議に先立ち,配布資料につきまして,事務当局から説明をお願いします。 ○東山幹事 本日は,席上に資料番号9及び資料番号10の計2点の資料を配布させていただいております。これらは,第1回会議におきまして,井上部会長から,要綱(骨子)第一の対象として想定される事案がどのようなものなのかについて,より具体的な説明を行ってはどうかとの御指摘を頂きましたことを受けまして,事務当局において作成した資料でございます。後ほどこれらの資料を用いまして御説明させていただきたいと思います。  配布資料の御説明は以上でございます。 ○井上部会長 それでは,早速でございますけれども,審議に入りたいと思います。  第1回会議で確認させていただいたとおり,本日は,要綱(骨子)第一から順番に,具体的な審議を進めていきたいと思います。  ただいまの事務当局からの御説明にもありましたように,第1回会議において,私から事務当局に対して,要綱(骨子)第一の対象として想定される事案がどのようなものなのかについて,より具体的な説明を行ってはどうかという提案をさせていただきました。これに応じて事務当局の方で資料を用意していただきましたので,まずこれについての説明を行っていただきたいと思います。 ○東山幹事 それでは,要綱(骨子)第一の対象として想定される事案がどのようなものなのかにつきまして,御説明させていただきます。   お手元の資料のうちの資料9は,審理が著しく長期又は多数回に及ぶことを避けるために考えられる方策とその問題点についてまとめたものです。資料10は,要綱(骨子)第一に該当し得る事案について,事務当局において一つの想定される事案を設定し,裁判手続の流れの中で必要な員数の裁判員や補充裁判員が不足し得る場合や,その場合に生ずる状況等を検討したものでございます。  要綱(骨子)第一は,審理が著しく長期又は多数回に及ぶ場合について,一定の要件の下で裁判員裁判対象事件から除外するものとする規定ですが,事務当局といたしましては,その対象となり得る事案の一例として,資料10の「1 想定される事案」に記載しておりますとおり,「特定の団体の主宰者である被告人が,複数回にわたり,その配下である多数の共犯者らに命じ,無差別に,大量の一般市民を殺害し,又は殺害しようとした殺人及び殺人未遂事案で,各事件によって,関与した共犯者や,その関与形態がそれぞれ異なる事案」というものを想定いたしました。そして,その事案については,被告人は全面的に事実関係を争っており,公判前整理手続において争点の整理や証拠の厳選を行い,区分審理決定の検討等もなされたものの,結局証人尋問に700時間を要する予定となるなどして,合計780時間の開廷時間を要することとなり,その結果,審理に1年,その後の評議に4か月を要するものとして,審判期間が通算で1年4か月に及び,公判期日も200回が必要となったものという仮定をしております。  それではまず,資料9に基づいて,審理が著しく長期又は多数回に及ぶことを避けるために考えられる方策とその問題点について御説明いたします。  もとより,裁判員制度の趣旨に照らせば,裁判員裁判対象事件については,できる限り裁判員の参加する合議体で取り扱われることが望ましいことと考えておりますので,審理が長期又は多数回に及ぶことを可能な限り避けるべきであると思われますが,これから述べますように,そのための方策を検討いたしましても,著しく長期・多数回の審理を避けられない場合も依然としてあり得るものと考えております。  資料9を御覧いただければと思いますが,方策の一つとして,まず公判前整理手続で証拠を絞り,審理期間の長期化等を避けるということが考えられます。確かに,公判前整理手続において争点を整理し証拠を厳選することによって迅速な裁判が実施できるように努力することは,裁判員制度の下で当然に要請される事柄ではあります。しかしながら,事案・争点の内容によっては,必要最小限に厳選された証拠だけでも膨大なものとなり,長期又は多数回の審理とならざるを得ない場合があるのではないかと考えております。  次に,区分審理制度を活用し,審理期間の短縮等を図るという方策も考えられるところでございます。しかし,これにつきましても,裁判員法第71条第1項ただし書に該当する場合,すなわち,区分審理になった場合に,犯罪の証明に支障を生ずるおそれがある場合や,被告人の防御に不利益を生ずるおそれがある場合などについては,区分審理決定ができない場合がございます。  先ほどの想定の事案ですと,例えば,各事案ごとの具体的な共謀を立証する前提として,当該団体全体における無差別殺害行為を行うことの抽象的な共謀の立証が必要不可欠であり,その立証のための間接事実が各事件にまたがって多数存在するといった事情から,各事件の訴因の立証が他の事件の訴因の立証を補強する関係に立ち,区分審理を行おうとすると,犯罪の証明に支障が生ずるおそれがあるといったことも考えられます。  また,区分審理制度を用いなくても,そもそも複数事件がある場合に,これらの弁論を併合せずに審理を行うということも考えられるところであります。しかし,これにつきましては,被告人の併合の利益や,複数事件ごとに重複した証言を行うこととなる証人の負担等を考慮すれば,弁論を併合して審理することが適当な場合も多いものと思われます。また,事案や争点の内容次第では,分離しようとすると犯罪の証明に支障が生ずるおそれがある場合,あるいは結局のところ重複した立証がそれぞれの弁論において行われるだけという結果になる場合などもあり得ると考えるところであります。  先ほどの想定事案ですと,各事件ごとの具体的な共謀を立証するために必要な間接事実が各事件にまたがって多数存在するといった事情から,各事件の訴因の立証が他の事件の訴因の立証を補強する関係に立ち,弁論を分離して審理を行おうとすると犯罪の証明に支障が生ずるおそれがあるということも考えられますし,その間接事実を立証するため,多数の共犯者や関係者等の証人が,各事件の審理においてほぼ同様の証言を何度も行わざるを得ないということも考えられるところであります。  次に,対象となる訴因が多いために審理が長期又は多数回となる場合については,検察官の訴追裁量によって訴因を絞り,審理の長期化等を避けるという方策も考えられるところであります。しかしながら,例えば先ほどのような事案の場合,長期又は多数回の審理を避けるという観点のみから,少数の被害者の部分のみを抽出して訴追するということは,刑事訴訟の真相解明機能や被害者・御遺族の心情の観点などからは妥当でない場合があると考えるところであります。  以上述べましたように,長期・多数回の審理を避けるための方策にはそれぞれ一定の限界や制約があり,特に先ほどのような事案ですと,長期・多数回の審理が避けられない場合も十分想定できるものと考えております。  次に,このような事案について,仮に裁判員等選任手続の結果,裁判員6名,補充裁判員6名が選任できたものとして,その後の公判手続で起こり得る事態について,資料10に沿って御説明いたします。  資料10の「2 公判段階」の部分を御覧ください。  この事案につきましては,資料では平成26年1月6日に第1回公判が開かれたものと仮定しております。そして,その後,平成26年6月30日の第100回公判までの間は,公判審理自体は順調に進み,証人尋問は予定された全体の時間の半分の350時間,書証等の取調べは40時間行われたものとしております。  しかしながら,その間に,例えば裁判員の方が辞任を申し立てるなどして解任され,裁判員の員数が減っていき,補充裁判員を新たに裁判員に選任していったものの,ついには裁判員が5名となり,補充裁判員は0名になってしまったものと仮定しております。  このときまでに開かれた公判期日は100回,審理期間は6か月を要しておりますので,例えば裁判員の方が病気のために公判期日を1回欠席されただけでも,当日の審理を行うためにその裁判員の方が解任され得ることなどを念頭に置きますと,このような事態は生じ得るのではないかと考えております。  このように,裁判員に不足が生じた場合には,追加で裁判員を選任しなければなりませんので,その選任手続を行うこととなります。この場合,まずは裁判員等選任手続に呼び出すべき裁判員候補者の選定を行った上,選定された裁判員候補者に対して呼出状の送付を行う必要がありますが,その送付は,原則,裁判員等選任手続の6週間前までに行うこととされておりますので,この資料では,それに加えて選定等に掛かる期間も考慮し,第100回公判から8週間後の平成26年8月25日に裁判員等選任手続が行われたものと仮定しております。  なお,当然のことですが,この追加の選任手続の間は公判は開かれないこととなりますが,公判が開かれずに審理予定が変更されることによって,当該事件を担当する法曹三者やその時点で職務従事中の裁判員の方々について,新たに日程調整を図る必要が生じるものと思われます。  さて,平成26年8月25日に裁判員等選任手続が行われ,1名の裁判員と最大6名の補充裁判員が追加選任でき,同日から公判が再開されたものと仮定いたします。  この場合,新たに選任された裁判員の方はこれまで行われた審理を御覧になっておりませんので,更新手続を行うこととなります。その際,裁判員裁判では,公判の直接主義,口頭主義を徹底する観点から,従前のいわゆる裁判官裁判で行われていたような比較的短時間で終了する更新手続ではなく,それまでに行われた証人尋問については録画された記録媒体を視聴し,書証等の取調べについては基本的に全文朗読がなされることとなるものと思われます。その結果,更新手続には,1日5時間,週4回開廷のペースで手続を進めたとしても,少なくとも公判期日が約80回,審理期間には4か月半程度が必要となると考えられます。このような長期間の更新手続を経てようやく第181回公判期日において,当初の審理予定では101回目に予定されていた証拠調べを行うことができることになりますが,その時点では既に審理開始から1年以上が経過しており,当初の審理予定では既に結審に至っていた時期になっております。  その後,また公判審理が進んでいきますが,その間にも辞任の申立てなどによって裁判員が解任され,結局,再度裁判員が5名,補充裁判員が0名となってしまう事態が想定されます。資料では,仮にこのような事態が平成27年4月14日の第230回公判で生じたものとしております。  このような場合には,再度追加の選任手続に進むこととなりますが,これにも先ほど御説明したとおり相当な期間を要することとなり,その間公判は開かれないこととなります。  そして,仮に平成27年6月9日に裁判員等選任手続が行われ,裁判員1名,補充裁判員最大6名が追加選任されたといたしましても,また更新手続が必要となります。その更新手続では,実質審理が行われた公判期日150回分の証拠調べについて記録媒体の視聴等が行われることとなりますので,先ほどの1回目の更新手続より更に長期間の更新期間を要することとなります。  その結果,証拠調べが再開されるのは,1日5時間,週4回開廷のペースで手続を進めても,平成28年1月上旬頃となり,その時点で第346回公判となる計算になります。  この時点で審理開始から既に2年以上が経過しておりますが,当初審理予定では第151回目以降の審理を行うこととなり,まだ50回の公判期日が予定されていることとなります。 この時点で審理期間は極めて長期間となっておりますので,その残り50回の公判期日を行ううちに,更に裁判員が不足する事態が生ずることは十分あり得,その場合,また長期間の更新手続などが必要となってくるわけでございます。その結果,追加選任,更新手続の繰り返しとなり,結局判決までたどり着かないという事態が生じ得るものと考えられます。  要綱(骨子)第一の対象となると想定される事案としては,以上のような事案を一つの例として想定しておりまして,要綱(骨子)第一の一の2は,以上御説明したような事態を念頭に置き,公判段階において除外決定がなされる場面を規定したものとなります。  以上,御説明したような事態が公判段階で生じ得るわけでございますが,公判開始前の段階でも問題は生じ得るのではないかと考えております。  審判期間が年単位に及ぶような事案につきましては,前回御説明させていただいた鳥取地裁における強盗殺人等被告事件のデータ等に鑑みますと,1回の裁判員等選任手続では,十分な裁判員候補者の出頭を確保できず,必要な裁判員や補充裁判員を選任できないということも考えられます。そのような場合には,裁判員候補者名簿に残数があれば,追加で裁判員候補者を呼び出すこととなりますし,名簿に残数がなければ,名簿の補充を行う必要がありますが,いずれにしましても相当程度の期間を要するものと考えられ,迅速な裁判の要請に反しかねないこととなり得るところでございます。  また,裁判員等の選任のために期間を要し,裁判手続が進まずに長期化することによる影響,例えば被告人の身柄が拘束されていれば,その拘束期間が長くなることや,証人の記憶が減退していくことなども考慮する必要があると考えられます。  そして,名簿を補充するなどすれば,最終的には6名の裁判員と最大6名の補充裁判員を選任すること自体は何とか物理的に可能な場合もあるかとは思われますが,名簿を補充しなければならないような事件の場合,先ほど御説明いたしましたように,公判開始後に裁判員の員数が6名に満たなくなり,追加選任と更新手続が繰り返され,結局判決までたどり着かないような事態に陥ることが,公判開始前の段階であらかじめ予測可能な場合もあるのではないかと考えられます。  そのような場合,実際に公判が開始されていなくても,裁判員裁判対象事件から除外する決定を行うことが相当な場合もあると,考えているところでございます。  要綱(骨子)第一の一の1は,御説明したような状況を念頭に置き,公判開始前に除外決定がなされる場面を規定したものでございます。  事務当局からの説明は以上でございます。 ○井上部会長 御意見はまた後で頂くとして,ただいまの事務当局の説明内容に関しまして,質問等がございましたら,御発言をお願いします。 ○前田委員 資料10にある想定される事案は,私がすぐ思い付く事件が現にありますが,その事件で行われた時間が反映されているか,あるいは全く事務当局で想定された時間なのか,780時間という数字が出た根拠について御説明いただけますでしょうか。 ○東山幹事 この時間は,裁判官裁判の時代に実際に行われた事件を参考として算出したものでございます。   その事件では,証人の数が延べ515名,取り調べられた書証・証拠物の合計が約800点ございました。今回御説明させていただいた事案は,裁判員裁判でございますので,書証の数は減り,若干証人尋問の数が増えるということが想定されるため,仮に証人の数を延べ600人,そして書証・証拠物の点数を300点という仮定をいたしました。  証人尋問の700時間でございますが,こちらは最高裁判所作成の公表資料において,平成24年の否認事件における証人一人当たりの平均証人尋問時間が73.1分という統計が出ておりますので,この600人に概数である70分を掛け,700時間という数字を算出いたしました。  書証等の300点につきましては,仮に1点当たりの取調べ時間を10分といたしまして,50時間という数字を算出しております。  そして,その他被告人質問等の30時間でございますが,これも仮でございますが,被告人質問を20時間,その余の手続,すなわち冒頭陳述,論告,弁論その他の手続で10時間という設定をしております。被告人質問につきましては,最高裁判所作成の公表資料によれば,平成24年の否認事件における平均被告人質問時間が216.6分,つまり約3時間半超となっておりますので,今回設定した事案の性質に鑑みまして,その約5倍から6倍程度の見当で20時間という数字を算出しております。  なお,御質問そのものの中にはございませんでしたけれども,公判期日を200回とした根拠につきましては,最高裁判所の公表資料において,否認事件の1開廷当たりの平均開廷時間が235.6分という統計がでており,開廷時間の780時間をこれで割りますと,約198回になりますので,200回とし,資料10に添付しておりますカレンダーのように,週4回開廷するという計算ではめ込んでいきますと,審理が1年となるということでございます。 ○前田委員 一応は分かりました。 ○合田委員 1点だけ教えていただきたいのですけれども,証人の延べ数というのはどういう数え方をしたものでしょうか。 ○東山幹事 同じ証人が複数の期日にわたって出てくることもあるわけでございますけれども,例えば3期日にわたって一人の証人が出てきたときには,延べ3人という計上をさせていただいております。 ○合田委員 先ほどの一人当たりの平均証人尋問時間70数分というのですが,それは,例えば3期日にわたって出てきた場合に,1期日当たり70数分調べているという計算の数字なのでしょうか。裁判所が出している統計は,私の理解では,出頭が3期日にわたっても,期日ごとではなく,結局その証人について合計で何分掛かったのかということを出して,それを平均にならして,実数としての証人の頭数一人当たり何分という統計だったと理解しているものですから,そこを確認させていただきたいのですが。 ○東山幹事 この73分という数字がどういう形で計算されているのかというのは,最高裁の方が詳しいかとは思います。   ただ,この73.1分というのは裁判員裁判における数字でございますので,統計収集の対象となった証人尋問について,複数期日にわたって何度も同じ証人の尋問が行われるということはそれほどないのではないかという気はいたしております。 ○合田委員 細かいところへ入ってもあれなのでしょうが,分かりました。 ○井上部会長 大まかな数字ということです。  ほかの方はいかがでしょうか。 ○香川幹事 先ほど最高裁の数字の話が出ましたので,若干補足して申し上げますけれども,証人一人当たりの証人尋問時間は,延べではなくて実の人数でとっております。各証人について実際に何分証人尋問したかということを足し上げまして,実人数で割っている数字でございます。例えば2期日にわたる証人であれば,2日分の時間を一人分として数えまして,全部足し上げた上で実人数で割るという数字でございます。 ○井上部会長 ほかの方,ほかの点でも結構ですが,御質問等がありましたら,どうぞ。 ○小木曽委員 今伺うのがいいかどうか分からないのですが,もし補充で御説明いただければ御説明いただきたいと考えるのですが,新聞報道で何日か前に,水戸地裁で,裁判員が全員解任されたという事案があったと思うのです。これについて把握しておられる経緯や事実関係,あるいはどのくらいそれによって審理が延びることになったのかといったことについて,どなたかから御説明を頂ければ参考になるかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○香川幹事 最高裁で把握している情報に限って御説明したいと思います。   今御指摘の事件につきましては,恐らく報道で,解任により裁判員が不足して,公判期日を改めて指定したという事案のことであろうと思われます。これは,そういう意味ではまだ係属している事件でございまして,新聞報道等で公表された範囲でお話ししたいと思います。  この事件は,当初予定された審理期間は4日間でございましたので,今回問題になっております要綱(骨子)第一の議論とは,直接は関連しないと思っておりますが,参考までにお話しいたします。  選任数は,裁判員6名,補充裁判員2名の事件であったようでございます。選任後第1回公判期日前に,裁判員1名,補充裁判員1名が解任されております。この理由につきましては,報道では公表されておりません。その後,第2回公判期日当日に,裁判員1名が辞任を申し立てて解任されたとのことでございますが,この理由についてはインフルエンザに罹患したと聞いております。このことによりまして,裁判員が5名になり,補充裁判員は既にいないという状態になったようでございます。ここで,裁判体は,審理期間4日間ということで,別の期日を新たに指定することとし,その見込みの期日について,残った5名の裁判員に候補の期日を提示したようでございますけれども,この5人の裁判員皆さんの御都合が合わなかったために,この残りの5名の方も,皆さん辞任していただいたということになったようでございます。  したがいまして,現在は,新たな期日を指定して,それに基づいて新たな裁判員・補充裁判員を選び直すという手続を行っている途中と認識しております。 ○井上部会長 ほかに御質問等がなければ,今の事務当局の御説明も踏まえて,まず要綱(骨子)第一について,今後具体的な要件論に進む前に,皆様の間で実体論・実質論として,除外対象となる事件の範囲をどのように考えればいいのかについて議論を行っていただきたいと思います。その結果,相当程度の共通認識を持つことができるならば,生産的な議論につながっていくのではないかと考えております。   御意見等がございましたら,どなたからでも御発言をお願いいたします。 ○香川幹事 事務当局の御説明をお聞きして,運用をつかさどる裁判所の方で見たときに,想定されている事案について,こういうことが本当にあり得るのだろうかということが現実的には若干疑問でございますので,何点か御指摘させていただきます。  裁判所としては,審理規模が極めて大きくなりそうな事件というものが来た場合には,事務当局から御説明がありましたけれども,資料9の①から④のような努力を最大限するということになるかと思います。その際の視点といたしまして,まず証拠と争点の整理の観点につきましては,従来の裁判官裁判でやっていたような精密司法と呼ばれるような,あるいは事実を網羅的に審理するといった,従来の裁判官裁判でややもするとやっていたかもしれない審理はもうやらないという前提で,証拠の整理,争点の整理を進めていくのではないかと思います。そういたしますと,想定されている600人の証人,300点の書証・証拠物ということが果たして現実にあり得るかどうかということは,かなり疑問ではないかと思うわけでございます。  そうはいっても,では実際にそういう事件が絶対あり得ないかというと,絶対あり得ないとまでは言えないわけでございますけれども,元々の争点整理・証拠整理では,先ほど申し上げたようなことを目指していくのではないかということをまず指摘させていただきたいと思います。  2番目に御指摘させていただきたいことにつきましては,恐らくこのような長期事件というのは,訴因が複数ある事件ではないかと思います。経験上,かなり長期にわたる事件としては,財政経済事件のように膨大な証拠が必要な事件が考えられるわけですけれども,裁判員裁判対象事件ではそのようなものはございませんので,基本的には訴因が複数のものが審理規模が大きくなると思われるわけです。その場合に,資料9の②,③で書いていただいたように,まずは区分審理や弁論の分離ということを考えるのだろうと思いますけれども,先ほど事務局の御説明では,それができない場合として,併合の利益や,あるいは同じことを何回も証言する証人の負担ということをおっしゃられました。もちろんこれを軽視していいということではございませんけれども,他方の天秤(びん)には裁判員裁判を行うかどうかという判断があるわけで,裁判員裁判で行った方がいいのか,あるいは裁判員裁判では行えない,それを犠牲にしても被告人の併合の利益あるいは証人の負担の方が上回るのだという事案になるということになろうかと思われますけれども,そういう事案がどれぐらいあるのかということについては,疑問の余地がないわけではないと申し上げたいと思います。  それから,資料9の④の検察官の訴追裁量ということにつきましては,これは恐らく被害者のおられる重大事件では難しいかということは理解できなくはないのでございますけれども,実際に訴訟促進の観点から公訴が取り消された例もあるようでございますので,この点につきましては,例えば量刑に有意に影響しないといった範囲において,訴追段階で適切に取捨選択するということもできるのではないかと思います。  以上,この事件の想定ということについての若干の疑問をお話しさせていただきました。  もう1点は,ちょっと別の話でございますけれども,審理予定の関係でございます。  資料10に添付のカレンダーを見せていただきますと,平日はほとんど真っ黄色の日がずっと続いているということでございますが,実際に行われている裁判員裁判で,このように審理が長期に続きそうなときに,裁判所がどういうことを考えるかと申しますと,適宜に審理を開かない日を入れるということが考えられます。そして,複数の訴因を審理するということになれば,訴因ごとに中間評議のようなものを入れるのではないかということが想定されます。そうなるとどうなるかといいますと,若干審理に余裕が出てくる。余裕が出てくるとどうなるかといいますと,例えば,先ほど事務局の説明では,1回欠席しただけで解任だというお話があったかもしれませんけれども,恐らく,例えば風邪を引きました,あるいはインフルエンザにかかりましたということで,数日休まなければなりませんという場合には,その裁判員を解任しないで,審理スケジュール自体を見直して,その裁判員が出てこられるようになった段階でまた改めて審理をするということが考えられます。例えば,訴因を分けて審理している場合には,3番目の訴因でそういうことが起こった場合には,3番目の訴因についての審理はそこで一旦止めて,次の4番目の訴因の審理を先行させて,3番目の訴因で残った人を後から調べるといったことも十分考えられるわけで,そういうことで裁判員の解任という事態を避けるということもできるのではないかと思います。  したがいまして,そのような事情も踏まえた上で,そういう場合でも,裁判員が全員そろわないという事態がどのような場合かということを前提に御議論いただきたいと思いまして,若干疑問を示させていただきました。 ○井上部会長 ほかの方,御意見等ございましたら。 ○児玉委員 弁護士の児玉です。前回もちょっと申し上げたのですが,諮問の本文の「早急に法整備を行う必要がある」というところに関連して,特に今の香川幹事のお話などを聞いていますと,これぐらいの恐らく歴史上1件ぐらいしかないようなレアなケースを想定されて,現状の制度の運用の中で何とかできるのではないかという現場の御意見もある中で,本当に今この制度を早急に法整備する必要があるのかというのは,改めて私は疑問に感じました。 ○井上部会長 「早急に」というところの意味は第1回会議で少し議論しましたけれども,いろいろな受け止め方があり得ると思います。 ○大谷委員 要綱(骨子)第一に該当し得る事案についての方策ということで,今,最高裁からこうすればいいのではないかというお話があったのですが,どちらかというと検察がかなり努力しなければいけないという範ちゅうのお話なので,少し私からお話しさせていただきます。  「公判前整理手続で証拠を絞り,審理期間の長期化等を避ける」,正におっしゃるとおりで,かねての刑事裁判では,内容的にかなり重複した証拠を出し,そういうことで審理期間が長くなったことがあるというのは確かにおっしゃるとおりなのですが,これも裁判員裁判が導入されて以降,証拠の厳選というのでしょうか,それは検察としても非常に努力しているところであります。ただ,審理期間の長期化を避けるために,本来出すべき証拠を出さないという選択肢はないかと思います。  次の「区分審理制度を活用し」うんぬんということなのですが,先ほどはそういうことはめったにないのではないかといったお話だったのですが,現にさいたま地裁の事件,鳥取地裁の事件,これらは把握しているところによりますと,なかなか区分審理にはなじまないということで一括して審理したと聞いています。手口等が共通しているとか,いろいろな理由があったと思います。似たような例として,私自身も以前,和歌山で毒カレー事件というものを担当して,これを処理した経験があります。この時も,いわゆるカレー事件本体の殺人事件に加えて,その周辺の殺人未遂事件4件を併せて起訴していますが,これも正に一体として審理しないと十分な立証はできないという事案でした。こういう事件も,頻繁に起こるわけではないのかもしれませんけれが,決して珍しいわけではありません。そうすると,必ずしも区分審理制度があるから大丈夫なのだとはなかなか言い切れないかと思います。  それから,訴追裁量のところですが,裁判員裁判の対象になるような事件で,被害者や遺族の方がおられる中で,これは最終的に量刑上変わらないから起訴しないのだという発想は,なかなか検察としてはとれないというか,なかなか難しいと思います。  ですから,この資料9に書いてあるようなことで,できるだけ審理期間を短くするための努力はもちろんしなければならないのですけれども,これがあるから,今,議論されている制度は必要ないということにはならないのではないかと思います。  それから,早急に法整備を行う必要があるかというお話なのですけれども,実はカレー事件の捜査処理をやって,その後公判があって,その後この裁判員裁判の制度設計といったことが世の中に出てきたときには,恐らくこういう事件は裁判員裁判の対象からは外れるのだろうと,個人的には思っていました。しかしながら,出来上がった裁判員法は,除外事由は第3条にあるものだけで,こういう事件が起きたら本当に対応できるのだろうかという不安を感じたことがあります。こういう事件を担当してきた現場の人間としては,頻繁に起こることではないのですけれども,決して荒唐無稽な話ではないと思っております。ですから,万が一の不測の事態に備えた措置というのは,制度を安定したものに,あるいはその役割を十全に果たすことができるようにするために,本来最初から設けておくべきだったのではないかという気がしています。  ちょうどこの3年後見直しという時期に合わせて,どういうことをしたらいいかということを議論しているわけです。そういう機会ですから,より制度を万全にするために,そういう措置をこの機会に整備しておくというのは,ある意味,早急に法整備を行う必要性がある問題と思っております。  それから,事務当局が作られた資料10の審理予定案ですが,最高裁の言われたように,確かにこのカレンダーを見たときに,恐らくこんなスケジュールにはしないのだろうとは私も思いました。それは,こういう事件が起こることはないというのではなくて,起き得るのだけれども,多分起きたときにはこういうスケジュールにはしないだろうということです。  先ほど香川幹事がおっしゃったように,適宜審理を開かない日を設けるとか,訴因ごとに中間評議をやる。正にそのとおりだと思います。しかし,それを裏返せば,それだけ審理期間が延びるということだと思います。それから,1回欠席で解任することはないだろう,審理スケジュールを見直すとおっしゃるのですけれども,1年間にもわたって,この日はこういう証人と設定していった場合に,それを突如変更するということが本当に現実的に可能なのかと言われると,それは甚だ疑問のように思います。  それから,そもそも1年とか1年半とかの長期間にわたって,そういう証人尋問の期日を予定していくわけですけれども,本当にそのとき証人に来てもらえるのかというのは,現場の人間としてはかなり不安です。今回のさいたま地裁・鳥取地裁の事件は,僥幸(ぎょうこう)と言っては言い過ぎかもしれませんけれども,その間予定された審理が順調に行われたというのは,ある意味運がよかったのかなという気がいたします。1年後のこの日に必ずこの証人が来られるのかという保証は多分なかなか難しいかと,ちょっとそのような感想を持ちました。 ○前田委員 先ほどの説明で,想定される事案はある程度理解できたのですが,実際に行われた案件の数字を一応頭に入れた上での想定された証人の数が600人というのは,香川幹事も指摘されましたが,私の感覚からしても多過ぎるのではないか,延べ人数ということであっても,多い感じがいたしました。  実は私は,この事件ではありませんが,これの関連事件を実際に担当しました。「裁判員制度に関する検討会」でも一度お話しいたしました。私が担当した事件は,公判回数で100回を超えるものでございましたし,証人がどのくらいの数だったかは正確には覚えていませんけれども,数十名の証人がいたとは思っております。  ただ,想定事案で延べ515名という数字が出ていましたが,私が担当した事件においては,被害者の方の短時間の証人尋問等も相当ありまして,必ずしも1回の証人尋問に掛ける時間が長かったという記憶はございませんでした。そこで,公判前整理手続が開かれて,証拠開示がきちんと弁護人側になされ,証拠と争点整理がなされましたら,証人の数も書証の数も相当減るのではないかと私は思っております。  もちろん,どんなに公判前整理手続で絞っても,証人600人で300点の書証が必要な事件が絶対ないとは,私も申し上げませんし,そういう事例があることを想定して法整備をすることに反対ではありません。ただ,想定されている事案は,私の経験を踏まえますと,人数の絞り込みが余りなされていない。そのような想定事案になっているのではないだろうかと思います。私は,責任を持って言えるほどの数字ではありませんが,私が担当した事案では,半年以内に間違いなく終えられたという感覚があるものですから,私の経験を踏まえますと,想定される事案よりはもう少しこの絞り込みがなされ,もう少し短くなり得るのではないかということです。 ○井上部会長 全体の期間がどの程度までなら国民の目線から見ても耐え得るのか,逆に言うと,ここまでいったら裁判員裁判の対象から除外してもやむを得ないと考えられるのかは,線引きがなかなか難しい判断だと思うのです。何年という単位なのか,半年くらいなのか,できれば,その辺も皆さんから御意見を頂ければと思います。規定を設けるとして,最終的な要件を絞っていくときに,その点でもある程度の認識の共有がないとなかなか難しいかと思いますので。ただ,これは「裁判員制度に関する検討会」でも議論したのですが,単純に期間だけ,数字だけでは決められないところがあるようにも,私自身は思っております。  アメリカの陪審員裁判では,これまで一番長く掛かったのは2年半ぐらいだったと思うのですけれども,公判を週5日毎日開いて2年半掛かったというものです。確か,事件は幼稚園の園長等による児童に対する性的虐待で,被害者が多数に上り,徹底した人証中心の裁判で,証人の数も100名を超えたので,そうなってしまったようです。我が国でもよく知られているO・J・シンプソン事件公判なども1件でしたけれども,一人一人の証人についてかなり長い時間を費やして尋問が行われるなどし,1年以上掛かったと記憶しています。アメリカでの例なので,そのまま日本に当てはまるかどうかは分かりませんが,そういう例が陪審制を採っているところにもあるということです。  ほかにいかがでしょうか。 ○今崎委員 裁判所としてこの要綱(骨子)第一についてどう向き合っているかというのは,第1回会議でも申し上げたとおりでございまして,こういう事件がいずれ来ないという断定などは誰もできませんから,そのときに事件の運用をあずかっている裁判所として困るだろうと言われれば全くそのとおりなので,適切な形で設けていただけるというのであれば,有り難いとは思っております。  他方で,先ほど香川幹事からも幾つか疑問を申し述べさせていただきましたことですが,別に事務局が随分苦労してお作りになった想定にけちを付けるつもりではないのですが,今回は裁判員裁判を念頭にしているわけですから,裁判員裁判にふさわしい審理を行うことを前提にした上での超長期事件の問題として検討すべきなのだろうということです。  言葉尻を捉えるようで大変恐縮なのですが,先ほど事務局の御説明で,証人が延べ515名,書証・証拠物の点数が800点の事件を参考に,証人の数を延べ600人,書証・証拠物の点数を300点で計算したとおっしゃいました。仮にそれが,裁判官裁判時代にやっていた裁判を想定して,それをそのまま裁判員裁判で証人中心で再現したらこうなるという意味だとすれば,それは違うということを,裁判所としては繰り返し申し上げておきたいわけであります。  最終的にそれだけの規模の事件がないという保証はできないというのは先ほど申したとおりですが,先ほど前田委員からも御指摘があったとおり,実際に行われた事件を素材にするにしても,それを裁判員裁判で審理すればどのようにやるのか,裁判所や当事者としての工夫を尽くした上で,なお,どういう場合に裁判員対象から外すのかという議論をしていただくということで,その前提は皆様と共有できるかと思っております。  それから,今,部会長から,この案件の関係で検討対象事件の範囲をどうするのかということについて議論してほしいというお話がございまして,誠にごもっともだと思っています。私どもとしては,どんな事件が外れるのかということについてここで共有できる意見がないと,それを実行に移せないということは前回申し上げたとおりでございます。裁判所からこうしたいということがあれば,あるいは,実証的なデータとして,こういう場合はできませんということがあれば,一つ材料として申し上げられるのですが,幸いにしてと言うべきでしょうが,非常に長い事件でもこれまでの事件は全て最終的には滞りなく行われているものですから,そういう実証的なデータ,言わば立法事実が余り確定できない中で決めるということが,今回議論する上で非常に難しいことなのだろうと思います。そういう中で,えいやと決めていただくのであれば,それはそれで有り難いのですが,それであればなおさら,客観的に明快な基準をお決めいただきたいということをお願いしたいと思います。  お願いばかりで恐縮ですが,以上でございます。 ○井上部会長 裁判所からはこうすべきだと言いにくいというのは,よく分かるのですが。 ○上冨委員 事務局から一点補足させていただきます。   資料10の想定している事案について,先ほど東山幹事から,実際にあった,ある事案を,この想定にする上での参考にしたということは申し上げましたけれども,当然,今,今崎委員がおっしゃったように,裁判員裁判の下で具体的な過去にあった事件と全く同じような立証がなされるということを前提に想定事案を作ったものではありません。ただ,全くの根拠というか,きっかけ,足掛かりもなく作った想定ではありませんということで言及したものでありまして,飽くまで裁判員裁判の下でここに書かれているような事案が生じたときに起こり得るであろう出来事を記載したものでございます。   その上で,今,どのような事件を対象とすべきかということについての認識の共有を図るべきではないかというお話がありましたが,その点も含めて,資料10に記載してあるような事案というのは,一つの我々が考えた典型的な事案ではございますが,これがその対象とするべきものとして適切なのか,あるいはもっといろいろ考えられるのかといったことも含めて御議論いただければ有り難いと思っております。 ○合田委員 一言だけなのですけれども,このお示しいただいた具体的事例ですが,これは私のような現場の裁判官の感覚からいいますと,もし本当にいろいろ整理しても,これだけの証人とこれだけの証拠を調べなければいけないということになって,公判期日が1年間ほとんど真っ黄色といったことが現実に起きるとすれば,しかも途中で辞めていく人がいるのだとすれば,これは立ち往生してしまうわけです。こういう想定がないとは絶対言い切れないわけですので,こうなればそれは除外することになるのだろうとは思うのです。   ただ,逆に,ここまでいかないといけないのか,どこで画するかという辺りも考えなければいけないということで,期間ということも一つの取っ掛かりになるかもしれませんし,それからほかのこともあるかもしれないということなのです。  もっとも,そこがなかなか具体的には言えないので申し訳ないのですが,先ほどからのお話を伺っていますと,事務当局の御説明は,この資料9にある①から④の手段は今も考えられるが,そのそれぞれについて,問題点もあるので,こういう具体的事例のような場合も生じ得るという御説明だったと思うのです。逆に言うと,ある裁判員裁判の下でどういう審理が行われるのかという検討の場面では,結局①から④は行われると。訴因の縮小等の関係について,検察の立場からいろいろお話がありましたけれども,過去の事件ではそういうケースもあった,取り消されたこともあったと承知しておりますので,ともかく裁判員裁判ではそれを含めて,①から④の努力は当然できるものはやると。そこは,議論の前提として皆さん共通の認識であるということでよろしいのかどうかということを,確認したいと思うのです。  逆に言うと,それから先に何があるのかというと,この①から④のところを,言ってみれば要件的なものでいうと,ここはまずやるということを前提にして,その先にあるところでどんなものをというくくりといいますか,頭のイメージ作りといいますか,そういう形で考えていいのかどうか,皆さんそこはよろしいのかどうかという辺りを,確認させていただきたいと思うのです。 ○井上部会長 今,合田委員から御発言がありましたけれども,それについての御意見でも結構ですが,何かございますか。 ○小木曽委員 この,お示しいただいた想定の事案が適切なのかという問題はあるのでしょうが,これは例として出していただいたということで,審理期間が4日の水戸地裁のケースでも,裁判員が全員いなくなるということがあるわけですし,一つ気になるのは更新手続,それから裁判員が解任されて次の裁判員を選ぶ間,審理が止まるということです。   そうすると,その間,被告人はずっと待っていなければいけないということになるわけで,これはそうした事態を避けるというよっぽどのケースだろうと。今,合田委員からもありましたように,必要な努力はするけれども,その上でなお必要な場合があるかもしれないということで,それに備えるのだという意味では置いておいた方がいいのではないかと思います。その間に被告人を待たせるということが正しいとは思われないのでありまして,それではどこで切るかということになるのだろうと思います。   だけれども,必要なことがあるかもしれないということで備えるという点については,いかがなのでしょうか。私は必要だろうと思うのですが。 ○井上部会長 先ほどの合田委員の御意見は,この四つは必ず行うことを要件にすべきだということですか,具体的には。 ○合田委員 表現がどこまで書けるかという問題はありますけれども,イメージ作りとして言うと,これは,こういう過程は経た上で,それでも残ったものについてどうするか,そういう土俵作りではないかということです。 ○井上部会長 そういう対処をして,できる限り短縮化を図るということについては,どなたも異論がないのではないかと思うのですけれども,「可能ならば」といった文言を条文に入れるかどうかは結構大きな問題ですよね。   要するに,できることはやってみてからということになりますと,かなり手続が進んでからということになるわけですけれども,可能であるか,可能でないかという予測の話になるので,要件化するとしても,作り方が違ってくるような感じがするのです。 ○前田委員 今の合田委員の質問の関係で,いいですか。   私も全く合田委員と同じ考えで,これをやった上でも,なおかつ600人の証人とか300点の書証が必要な案件という考えでおりました。   ただ,先ほどの私自身が体験した事件でいいますと,資料9の①が一番大きいメインの要素になります。②に関しましては,まとめてやった方がいい事案であると私自身も認識していました。この事案は,区分審理にはなじまない共通の土台があって,分けないで一緒にやった方がいいのではないかと思いました。③についても,併合しないというわけにもいかないでしょうという案件でした。④に関しては,現実に訴追された事件の訴因の中で,死亡された方については残りましたが,けがを負われた方は全部落とすことになったというケースでした。②,③を適用するのはなかなか難しく,ただ,①と④だけでも相当に短縮できるかと,やや感覚的ですが,そう思ったのです。   しかし,これらの努力をしても短縮困難なケースもありますので,そういう案件があることを前提にして意見を述べているということでございます。 ○大澤委員 裁判員裁判の下で,資料9の①のように争点を整理して証拠も厳選していくということは当然の前提でしょうし,それから②のような区分審理制度があり,また③のように必ずしも併合せずに分離してやっていくということも法制度としてあり得るわけですから,そういう方法で,できる限り裁判員が参加する裁判を追求していくというのは,そのとおりだろうと思いますけれども,④の訴追裁量で訴因を絞るということをできるだけやるというのは,一体どの辺りのことまで意味するのかということが一つの問題かと思います。   今,前田委員から御紹介がありましたけれども,過去の例というのは,一つの行為から生じた多数の人の死傷の結果のうち,人の死には至らなかった傷害の部分について,訴因を変更して絞り込みをしたということであったかと思いますけれども,例えばたくさん人が死んでいるというときに,その中でも選択をしてできるだけ絞るということになるのか,それも「できるだけ」の中に入ってくるのだということになってくると,それに対する見解は分かれてくるでしょうし,裁判員裁判というのは,刑事裁判,刑罰権の実現をより良くしていくための一つの方策として入っているということだとすると,その種の重要な事案について,いわば裁判員裁判を生かすために刑罰権の実現そのものが犠牲になるということについては,やはりいろいろな評価もあり得るところかと思います。④の方法については,①から③の場合と同じ意味で単純にできる限りと言ってしまっていいのか,ちょっと引っ掛かりを持ったところです。 ○合田委員 資料9の④の訴追裁量のところは,大澤委員がおっしゃったように,過去の事例においては亡くなったか,亡くならなかったかというところで,最終的に裁判の途中で訴因の縮小というものが行われたわけでありますが,ここは,つまり,恐らく法文などの要件としては,具体的にこうこうだと客観的には書けないところだと思うのです。   ですから,それはもうその事件で,恐らく最初の起訴のときにどうするかという発想がまず第一段にあるかもしれませんが,これは公判前整理手続をやると,どのぐらいの規模の審理の時間が必要なのかということは当然出てくるわけですから,その中で一体こういうところはどうなのかという辺りを,その除外の規定が仮にあったとして,そっちに行くか行かないかのときに,具体的事件において話すことになると思うのです。そのときには検察は検察の考えを当然言うでしょう。裁判所は裁判所で,この辺はどうなのですかということは申し上げるでしょう。それはそういうレベルで決まってくると思うのです。   ただ,審理期間を一定の範囲でということで考えた場合に,先ほど大澤委員がおっしゃったような裁判員裁判をやるということと,それから刑事司法の,ある意味では処罰の関係,適正性といいますか,そういうこととの兼ね合いの中でやっていく話ですから,そのときに考慮すべきファクターとして,こういう方策もあるし,過去にも実例があったわけですから,そういう点もできるかできないかというところを検討した上で,残った場合について見ていく,こういう発想の順番で土俵を作るべきではないかと,私はそういう意見でございます。 ○井上部会長 手を尽くさないでよいとは,どなたもおっしゃらないと思うのです。ただ,それを要件として書き込めるかどうかということになると,今おっしゃったように,なかなか難しいところもあるということだと思うのです。   今お話に出た過去の事件における取扱い自体についても,批判がなかったわけではないですよね。相当重傷を負われた被害者もおられたし,深刻な後遺症に悩んでおられる方もおられた。そういう方たちや御家族の方などから,強い怒りの声が上がったわけです。ですから,その辺のバランスも考えていかないといけないのだろうと思います。  具体的な要件の議論に進む前に,除外すべき場合の審判期間の長さなどについても,率直な御意見をお持ちであれば御披露いただければと思います。  事務当局からの説明で出てきたのは,手を尽くしても2年掛かり,それでもなかなか終結までに行き着かないという例なのですけれども,このくらいになれば除外してもやむを得ないと考えられる,あるいは,ここまでになると,裁判員の方々もとても耐えられないと考えられる,そういう何か線があるのかどうかです。 ○前田委員 当初の審判期間は1年4か月と想定されて,600人の証人,300点の書証がそれ以上絞り切れない場合には,私の感覚では,週4日でこれをこなすことはかなり無理だと思います。ですから,週3日とか,場合によっては週2日の場合も入れて進めることを考えますと,審理期間はもっと長くなるだろうと思います。私は感覚的なもので本当に申し訳ないのですけれども,「裁判員制度に関する検討会」のときにも申し上げたのですが,審理が年を越しても終わらないような事件は,幾らやりたいという裁判員の方がおられても,全部の審理期間を通して人を確保するのがなかなか困難な状況が生まれ得るので,事由をどのように規定するかは別として,年を越して審理を行うことを当初から予定しなければならない事件は,除外を考えなければいけないと従前から思っておりました。   除外事案を,誰が,どういう手続で,どう判定するかということについては,それぞれ検討しなければいけないと思っております。 ○井上部会長 分かりました。イメージの共有といいましても,これ以上は絞り込むのはなかなか難しいかと思いますけれども,今までの皆さんの御発言を伺っていますと,とにかく期間を短縮するためにやるべきことは当然やらなければならない。それを尽くした上でも,なお極めて長期間掛かる事件というものがないとは言えない。そういうことになった場合にはどうしようもなくなるので,それに備えて除外ということを考えてみる意味はあるだろう。そういった辺りまでは,皆さんの間で認識が共有されているといってよいように思われます。それを前提に,今後,具体的な要件論に入ってから,更に突っ込んで議論していきたいと思います。  ここで10分ほど休憩を入れさせていただいてよろしいでしょうか。3時15分に再開ということにしたいと思います。           (休     憩) ○井上部会長 それでは再開させていただきます。  要綱(骨子)第一についての審議を続行したいと思います。  先ほどまでの議論で,一定程度のベースができたのではないかと思うのですけれども,これから具体的な要件論についての議論を行う中で,より具体的なイメージといいますか,こういう場合はどうなのだろうかといった御意見が出てくるだろうと思います。  もちろん,本日で具体的な要件論に関する議論を終えてしまうということは考えておりません。内容からしても,拙速は適切でないと思いますので,次回の会議においても,引き続きこの点について審議していただきたいと思っております。ただ,現段階で要綱(骨子)第一の要件論に関して御意見等がおありならば,是非御披露していただき,議論をし,それを踏まえて次回更に議論を進めるということにしたいと思いますので,よろしくお願いします。  どなたからでも結構ですので,よろしくお願いします。 ○松尾関係官 休憩前の御議論を非常に関心を持って伺っておりました。   資料9において,①から④までの項目が提示されているわけですけれども,この四つを見ますと,必ずしも性質が同じではないと考えられます。まず,判断の時点ということに注目しますと,①,②等は,起訴後の手続における判断ですが,④ということになりますと,これは原則的には起訴する以前の段階での判断です。もちろん公訴の取消しなどというバイパスはありますが,それはめったに使われませんので,検察官の裁量によって訴因を絞るということは,公訴を提起する前に慎重に考慮される問題です。  さて,この四項目に対する皆さんの御意見を伺っておりますと,①から③までについては,大きな流れとしては抵抗がなく,自然に受け入れられているのに対して,④については,起訴の責任を負う検察側にはかなりの留保があるように感じられました。資料にも,真相の解明,あるいは被害者の心情への配慮ということが書かれておりますが,こういう理念を立てますと,やはりこれは被告人の全ての犯罪を起訴して,処罰すべきものは処罰しようということになっていくわけであります。それは,一種の理想主義です。だからこそ現実との間にギャップが生まれ,本日議論の対象になっているような問題も生じてくるわけですけれども,日本人の行動様式の基本は,義務に忠実という意味で非常に真面目だということですから,刑事司法の問題についても,関係者である裁判所,検察庁,弁護士会,全ての方々が最善を尽くして理想を実現しようとしておられると感じます。  しかし,裁判員制度を導入しました時に,そういう日本的なものに対して,一つの違った要素を持ち込むという気持ちも働いたのではないかと思います。言わばゆとりのようなもの,それが少しはあった方が良いのではないか。いわゆる精密司法がもたらしている窮屈さを多少とも解きほぐしたいという願いです。アメリカの刑事裁判で見られる場面ですが,陪審が無罪の評決をしますと,検察官は席を立って,弁護人に歩み寄り,“Congratulations”とやっています。日本ではちょっと考えにくい光景ですけれども,そういう一種のゆとりを刑事司法にも持ち込んだ方が良いのではないか,そのような気持ちが裁判員法立案の過程で働いていたような気がいたします。  そこから生まれたとも言える今日のような問題をどう考えるかは,また別論でありますけれども,総括的な意味での感想を少しばかり述べさせていただきました。 ○井上部会長 ありがとうございました。  要綱(骨子)第一の要件論について御意見等がございましたら,御発言をお願いします。 ○前田委員 更に私自身も検討して練り上げたものをお話ししたいとは思うのですが,この想定されている事案を頂きまして,次のようなことを二つ考えております。  一つは,示されました要綱(骨子)第一ですと,当該審理する裁判所以外の裁判所が判断することになるのでしょうが,公判前整理手続の結果を見て,その時点で判断をするということになっています。先ほど示されました資料9の①から④は,今,松尾関係官がおっしゃいましたが,それぞれ段階が違うわけです。段階ということですと,要綱の公判前整理手続の結果を見ての判断より,もう一歩進めて,手続的には裁判員等選任手続を踏まえた上での判断というのがあってもいいのではないかというのが,一つでございます。  もう一つは,これは要件論と一緒かどうかは分かりませんが,現行法では補充裁判員の数が裁判員の数を超えないという規定になっておりますところ,これを見直すことがあってもいいのではないか,ということを思いました。  二点目の方はやや思い付き的ですが,一点目はいろいろ考えておりまして,手続をもう一つ進めた上で最終的な裁判所の判断があっていいのではないかと思います。そして,判断は当該審理をする裁判所以外の裁判所が判断すべきだと,私は「裁判員制度に関する検討会」のときにも言っておりました。いずれにせよ,判断主体は裁判所しかないとは思いますが,時期は裁判員等選任手続の段階での判断でいいのではないか,と考えております。 ○井上部会長 お考えですと,そこまでいかなければ判断してはいけないということでしょうか。 ○前田委員 そういうことですね。 ○井上部会長 分かりました。  ほかの方,いかがでしょうか。 ○合田委員 要綱(骨子)第一についての意見ということでよろしいですか。 ○井上部会長 要綱(骨子)第一の具体的な要件についての議論です。 ○合田委員 前回の第1回会議のときに申し上げましたが,現在の要綱(骨子)第一の書きぶりですと,結局公判審理とか評議が長期間にわたるということを選任の困難さと結び付けているように読めまして,そこには解釈の余地が様々あるのではないかいうことが気になっております。   それで,前回も申し上げましたのは,裁判員候補者名簿の規模を大きくしておくとか,追加調製するとかということも一応制度があるわけです。それをやっていくと期間が掛かるとかといいながらも,あらかじめ前の年に,次の年そういうものがありそうだというときには,名簿をどうするかとか,手が打てないかとか,そういう話もあるわけでありますので,究極的には,有権者が尽きない限り,ある意味では裁判員候補者名簿の追加,追加という形でやれるのではないかといった,理屈の問題としてはそれが可能だという余地もあるのではないかといったことになって,しかし,今想定している事案は,もちろんそんなことに行き着く前の段階の話でありますから,結局,究極的なところまでは誰も考えていないはずですが,その前にどこに線を引くのかというところが,この制度の対象を決める議論だと思うのです。そこが,今の表現では,その線がどこにあるのかということでいろいろ解釈の余地がありそうなので,それを適用する裁判所の手続からすると,今の第一のままではということですけれども,やはり適切に適用することは困難かと思います。  また,話を先ほどの前半の話にしつこく戻して恐縮なのですが,私の意見としては,今,松尾関係官からお話のあった資料9の①から③と④の性質の差ということは,御指摘を受けまして,なるほどとは思うわけではございますけれども,ちょっとそこまで厳密に申し上げられなくて申し訳ないのですが,資料9にあります①から④をやるということで,④も考えるということで,それをやった上で最後の手段として除外ということもあるといった思考順序であるとすれば,その旨を要件として明示するということを考えることがあってもいいのではなかろうかと思います。そのようなものが入っていないと,結局①から④のような努力をしないで超長期事件になってしまった場合でも,除外やむなしといった考え方をできた法律がしているのではないかとの誤解を受ける可能性があると思います。そういうことになると,恐らく作ろうと思った意思とは全く違ったものと理解されるということでありますから,書きぶりをどうするかはなかなか難しいのは承知で申し上げているので,申し訳ないのですが,その辺のところを,つまり資料9にあるような内容を要件として示すということが考えられるのではないかと思います。 ○井上部会長 なるべく具体的な提案をしていただけると有り難いのですが。難しいことは承知していますけれども。 ○上冨委員 裁判員裁判を迅速に審理していくために必要な努力を行うべきだということは,前半の議論でも基本的には皆さん同じような認識なのだろうと思います。ただ,その上で,仮にそれが何らかの要件であって,それが欠けると,実際に公判期日が非常に長くて,裁判員が集まらなかったり,あるいは資料10の想定事案のようなことが実際に起きるかどうかは別ですけれども,判決まで行き着かないといった事態が起きているのに,それ以前に様々な手続がとられなかったこと自体で,裁判員裁判をずっと続けなければいけないということが生じてもいいのかどうかということも考えて,更に御議論いただきたいと思います。 ○合田委員 今の御趣旨ですけれども,要するに,公判へ行く前に,まず公判前整理手続をやります。だから,そこで事前にやるわけですよね。その段階で,こんなに審理期間が必要でという話が出るときもあれば,先ほど前田先生がおっしゃったけれども,実際に裁判員等選任手続をやってみて,どうも人が集まらないといった段階もあれば,あるいは資料10の想定事案のように,最初,公判は始まったのだけれども,途中で立ち往生してしまったといった場合もあり得ると思うのです。   例えば,公判前整理手続が十分でなくて公判に突入して,それで途中で立ち往生したとしても,そのときは期日間整理手続とかでもう一回整理し直せないかということもあるわけです。整理とか,そういうことをやった上でもどうしようもなければ除外するという発想の下では,最初に不十分な公判の整理しか行われなかったとしても,それから先に,除外するかどうかという場面においては,期日間整理手続なども含めて考えると。整理手続をもう一回考えて,それでも駄目な場合にというのがあり得るのではないかと思うのですが,発想としては,それはいかがですかね。 ○上冨委員 訴訟の主宰者である裁判所も,それから訴訟の両当事者も,必要な努力を払うべきであるということは,たとえ公判が始まった後でも可能な方策をとるべきだというのは,おっしゃるとおりだと思っています。その上で,具体的な要件を考える上で,それをうまくかませることができるのか。それを仮に要件としてしまったときに,結果において何か不都合が生じないのかといったことも含めて要件の議論はしていただければという趣旨で申し上げたものです。 ○井上部会長 それを組み込むとすると,手続的要件ということになりますね。ただ,その場合も,その先に何か実体的な要件を書かざるを得ないのではないかと思うのです。そのままでは立ち行かないとか,このままいっても無理であるといった趣旨の要件です。従って,それをどう表現するかという問題は残るわけで,2段階になると思いますね。   おっしゃったような手続的要件を置くというのは,一種の正当化ですよね。除外するということを裁判所が勝手に判断したわけではなく,こんなに手続を踏んで努力した末のことですと,そういう意味を持つのだろうと思うのです。しかし,反面,上冨委員が言われたように,そのような手続的要件を設けることによって,非常に固いものになってしまい,動きがとれなくなってしまわないかという懸念もある。その両面を視野に入れて検討していく必要があるということだと思います。   裁判所の立場として積極的に何か案を出すのは難しいというのは分かるのですけれども,合田委員個人として,具体的な修正案を出していただけると有り難いのですが。  ほかの方はいかがでしょうか。 ○小木曽委員 なるべく具体的にという話とちょっとずれて恐縮ですけれども,私はこれを考えてみますと,この要綱(骨子)第一に書かれている文言で見ますと,「必要な員数の裁判員及び補充裁判員を選任することが困難な状況にあるとき」とあるわけですけれども,これは,そうすると地域差というのが出てくることになる。それでいいのかということを考えますと,これは,私がこれがいいと思っているのではないですけれども,例えば日数で切ってしまうといったことをすれば,そういう問題は起きないかと思ったりもするわけです。日数で切るのがいいのかどうかという問題はありますが,そういう視点もあるのではないかということです。 ○井上部会長 今,地域差という話が出ましたけれども,確かに,裁判員の選出母数が非常に小さいところですと,難しくなるのが早くなる。大都市だと,母数は大きいですから,かなり余裕を持って対応できるということなのかもしれません。 ○香川幹事 要件論ということで,一点申し上げたいことがございます。  具体的な要件としてどうかというより,論点の提示にとどまるかもしれませんけれども,前回の部会の際に,要綱(骨子)第一の趣旨として,事務局から確か3点御指摘があったかと思います。誤解を恐れず要約させていただければ,裁判員の過重負担の回避という点,それから裁判員候補者の構成の偏りの防止,それから選任困難による手続停滞の回避といったおおよそ3点の御趣旨からこの要綱(骨子)第一を作ったのだという御説明ではなかったかと思います。  ところが,実際の要綱(骨子)の文言を見てみますと,最後の選任が困難だという点だけが要綱(骨子)に反映されているということになっているわけで,素朴な疑問とすると,もし趣旨の1点目,2点目もこの要綱(骨子)の趣旨であるとするのであれば,この両方の点を要綱(骨子)に盛り込むということを,むしろなぜ事務局は考えなかったのかということが疑問になるわけです。  ただ,個人的には,2点目の構成の偏りという点を本当に考慮していいのかという疑問はございますが,論点として,前回,趣旨の3点を御説明いただいた事務局として,なぜこの3点目だけを入れたのかという辺りを,御説明いただければと思ったところでございます。 ○上冨委員 説明を尽くせるかどうか,若干自信がございませんが,要綱(骨子)を作成した立場として御説明いたしますと,いわゆる非常に長い審理期間を要する事件について,裁判員制度で審判することが適切でない場合があるのではないか,その場合の視点としては先ほど要約していただいたような視点があるのではないかということは,御説明いたしたところです。もちろん,それ以外にも視点があるということを否定するものでもありませんし,その点も含めて御議論いただければとは思います。  他方で,そのような視点を踏まえつつ,どのような要件の下で除外の制度を設けることが制度の明確な運用といったことから適切か,ということで要件を考えたときに,例えば裁判員の負担が過重であるかどうかといった要件を設けることが適切なのかということも,私どもはいろいろ準備の段階では考えまして,最終的には,裁判員あるいは国民の負担といったものが,裁判所の手続の中でどのような形で現れるかというと,審理が非常に長くて,とてもその負担に耐えられないと考える候補者の方がたくさんいて,辞任が多くなり,十分な人数,ここでいう十分な人数とは,最終的な裁判まで行き着くために必要とされる裁判員の数や補充裁判員をきちんと選任できないという形で現れるのではないかと思ったことから,このような要件で構成してみたものでございます。  もちろん,視点からしたときにどのような要件が適切かということについては,更に御議論いただきたいと思いますし,先ほど申し上げましたように,除外すべきかどうかの視点として,更に別の視点もあるということで,別の切り口での要件ということも含めて御議論いただきたいと私どもでは思っております。 ○井上部会長 香川幹事,趣旨の1点目,2点目をストレートに表現すると,どういう要件になるとお考えなのでしょうか。 ○香川幹事 3点目の議論とも関わるのでございますけれども,裁判所としては,先ほど合田委員からもお話がありましたとおり,どこまでいったら選任困難なのか,どこまでいったら選任できないのかということについて,その程度がなかなか判断しにくいということがございます。   小木曽委員からもお話がありましたように,名簿規模が大きければ大きいほど選任はできるとなると,名簿規模で決まるとなると,裁判所によって判断が異なってしまう。どこをもって選任困難というのかと。それが,もし1点目の裁判員の負担を考えて,ある程度までいくと,それは限界でしょうという線がもしあるとすると,それが一つ選任困難を判断する事情にはなってくるのではないか。ですから,例えばいろいろ考えた結果,呼び出しの人数が1,000人を超えたら駄目とか,2,000人を超えたら駄目とか,もし何か線が引けるのであれば,それは裁判所ごとの差はありませんし,一律に判断できるということで,明確になってくるかとは思うわけです。   法制技術上,裁判員の負担ということを書きにくいのかとも思う反面,実質的に裁判員の負担ということが背後にあるのであれば,それを何らか書き込むということは法制技術的に考えていただけないかと思っています。  他方,2点目の構成が偏るのではないかという点については,これは実は,私はなかなか要件にはしにくいといいますか,するのはむしろ適当ではないのではないかと思っています。  どういうものをもって構成というかはまた別の議論といたしまして,少なくとも裁判所としては,候補者名簿にも氏名,生年月日,住所しか登載されておりませんし,どういう偏りがあるかないかということは,事後的にしか判断できないということになっております。また,そもそも個別事件において構成が偏らないようにすべきということは,何も法制上担保されていないわけで,例えば,実際の裁判員は全員女性とか,そういう例もなかったわけではありませんので,これを要件として考慮していいのかどうかというのはかなり疑問がありまして,現行法の枠組みと相容れないのではないかと思っているところであります。 ○井上部会長 1番目の裁判員の負担という点ですけれども,そのように書いてしまうと,結局,それについてもどこで線引きをするのか,またまた判断が悩ましくなるのではないですか。それとも,日数とか人数で線を引くといったことが,念頭におありなのですか。 ○香川幹事 何らかの客観的な基準があれば,裁判所としては判断しやすいということは言えると思います。 ○井上部会長 そうだとしても,具体的な数字をどう設定するかについてコンセンサスを得られるかは,また別の問題ですよね。   ほかの方,いかがでしょうか。 ○今崎委員 今の井上部会長の御質問に対して,今の時点で答えろと言われれば,やはり何らかの数字なりを用いた客観的な基準を設けてほしいというのが,多分お答えになるのだろうと思います。   今の要綱(骨子)で申し上げれば,第一の一の1に書かれている「選任することが困難な状況にあるとき」という要件は,今,合田委員から説明があったとおりで,多分このままだと判断は難しいだろうと思います。あえて言えば,先ほど前田委員から御提案がありましたように,実際にやってみたら集まらなかったと,これなら極めて明確な基準になりますので,これはあり得るだろうと思います。ただ,現在の要綱(骨子)第一の一の1について,これから予測して除外する要件として見たときには,このような要件では裁判所としては責任を持って判断するというのは難しいだろうと思っております。   先ほど申しましたように,人数なり,期間なり,日数なりと,難しいのは重々承知しておりますが,そういうものを頂きたいと思います。 ○井上部会長 分かりました。 ○上冨委員 判断するための要件が明確であることが望ましいというのは,規範として当然のことなのだろうと思います。   その上で私どもが要綱(骨子)を検討する中で,具体的な数字を盛り込むということについてどのように考えたかを,若干御紹介しておきたいと思います。  例えば,審判の期間を,先ほど1年というお話がありましたが,「365日以上」と書くということが一番単純な書き方なのかもしれませんが,その場合,では364日と365日で切ることの合理性というのを,どこかで線を引かなければいけないにしても,制度としては説明することが必要になってくるのだろうと思います。  それから,実際には審理計画の立て方の,言葉は悪いかもしれませんが,言わばさじかげんで,証人尋問を1日で終わらせるのか,2日掛けるのかとか,あるいは中間評議のための日数をどれだけとるのかとか,そういった様々なことで日数はかなり動かすことができて,そういう言わば人為的に動かすことができるようなものを基準にすることが適切なのかどうか,そういったことも含めて考えた上で,取りあえず,私どもは,要綱(骨子)としては,具体的な日数を掲げるのはなかなか難しいのではないかということで,今お示ししているような案をお示ししたところでございます。  そういった点も含めて,更に御議論いただければ有り難いと思っております。 ○井上部会長 更に御意見がなければ,次回に引き続き審議するということにさせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。  繰り返しになりますが,建設的な議論をしていくためには,できるだけ具体的な御提案を頂きたい。立場によって,なかなかこうだと明言しにくいかもしれませんけれども,なるべく具体的な御提案をお示しいただければと思っております。  以上の点とは別に,前回の第1回会議で,一部の方から,除外決定の判断に当たって,法曹三者だけでなく,国民が関与する形が考えられないかといった御趣旨の御意見もありました。同様の御意見は,総会においても一部の委員の方々から出されたものと承知しています。そのほかにも,総会においては,裁判員が6名未満になってしまうなどして裁判官のみで構成される合議体により審理されることになった場合にも,その裁判員が引き続き裁判に関われるような制度を設けることについても議論してほしいという御意見もあったと承知しています。  そのように,除外決定の判断に国民が関与する,あるいは裁判員が6名未満になってしまうなどして裁判官のみで構成される合議体により審理されることになった場合にも,残った裁判員が引き続き審判に関われるような制度を設けるといったことについては,仮に次回会議において要綱(骨子)第一について修正案を御提案いただくような場合にも,検討が必要な一つの観点にはなるかと思いますので,本日はその点についても議論しておいた方がよいのではないかと思われます。  そこで,前回も御紹介があったところですけれども,総会において一部の委員の方から出された御意見について,もう一度事務当局から簡単に紹介していただきたいと思います。 ○東山幹事 御指摘の点につきまして御紹介いたします。詳細につきましては,前回配布いたしました資料8の法制審総会の議事録の抜粋に書かれているところでございます。  まず,裁判員裁判対象事件からの除外決定をする場合には,裁判員に意見を聴くなど,裁判員の方がその判断に関わるような形が望ましいのではないかという御意見がございました。  また,そのほかにも,裁判員が1名から5名,つまり6名未満になってしまった場合にも,その1名から5名の裁判員の方々が手続に参加する意思があれば,その裁判員は「国民アドバイザー」のような名称で審理に立ち会ったり,評議等において裁判官に対してコメントができるといった制度を設けることを議論していただきたいという御意見が出されたところでございます。 ○井上部会長 それでは,これらの御意見について,何か御意見等ございましたら御発言いただければと思います。 ○今田委員 第1回目の部会のときに,私は懸念することとして申し上げさせていただきました。この裁判員制度の意義というのは国民参加ということで,それが全うされて制度として成熟してきたという経過の中にあると私は思っておりますので,そのように考えると,この今回の除外規定のときに,法曹三者の専門家の議論だけでこれが除外されるといったことは適切な改正なのかどうかというのが,どうしても疑問に思えます。   今日の御議論を一日じっくり聞かせていただきました。万が一,非常にアキュートな事件が今後起きないとは限らないわけで,そういう万が一の状況に対応して,制度としてこの除外の制度を設けるという一般論に関しては,誠に何の反論もなくて,そういう安心した制度を構築するということに関しては私自身も納得します。この場の委員の皆さん方もそれに関しては何ら異議はない。そういう状況なのですけれども,どうしても,何かこういう裁判員制度の現状の中で例外の事項を設けるという,その設けることに関して何か引っ掛かるものがある。素直に,万が一のために国民が安心できる制度を作るということで,先に具体化していけばいいと,そのように簡単にその議論に乗ることができない。  その一番の原因というのは,プロの専門家の議論だけで,そういう例外事項が決定されるという,そこに何か工夫ができないものかということを,今日の議論をお伺いしても感じます。これから要件論で具体的に書く場合に,客観的なものができるか,あるいはそういう客観的なものができないで非常にソフトなものになるか。そこのところはまだこれからの議論になるのでしょうけれども,そういうものが出来上がった段階で,そういう条件の下で最終的に除外を決定するときに,法曹三者だけで議論するのではなくて,何らかの国民参加という手立てができないものなのか。それが法律的に枠組みとして合理性に欠けるようなことになっては,もちろんまずいわけですけれども,この裁判員制度そのものの論理に反するものではない形で,例えば,これまでの裁判員経験者の中から,何らかの形でその議論に参加する人たちが選ばれるとか,その下で法曹三者の議論と,国民が何らかの形で関わって,最終的に除外というものが決定されるということができないものか。それは一つの例なのですけれども,何らかの形で除外決定したときに国民が参加したのだということを制度として担保できないのかと,そのように私自身はどうしても懸念として今も持ち続けています。  それは無理だと,そんなことをこの枠組みの中で合理性を持った法律の制度として作るということは難しいのだ,無理だという最終的な結論にここでなるにしても,この法律を改正する議論の中で,そういう議論もあったし,それに対する反論もあったということを,残しておきたいという気持ちでおります。 ○井上部会長 御意見がある方はいらっしゃいますか。 ○合田委員 今,今田委員がおっしゃった件なのですが,最終的に法律を作るときにどういう具合に扱うのかというのは,更に私自身も意見を考えてみたいと思うのですが,ただ,今回の要綱(骨子)でも,結局除外決定をするときに裁判長の意見を聴くということになっているのです。   これは仮に,裁判員が選ばれて始まって,途中で裁判員の数が足りなくなって,それで,どうもこれはいろいろな除外の要件があるということで,除外するかどうかが問題になった場合に,そのときに裁判長はどうかと聴かれるわけです。そのときに,これはもう普通の感覚としては,裁判長は,その意見を言う前に,まず残っている5人なら5人の裁判員に,こういう状況になっていて,除外を決めるかどうかということについて意見を聴かれているのだけれども,その点はどう思われるかということについて聴いて,それから裁判長として意見を言う,恐らく裁判長の普通の感覚としては,それを聴かずに意見を言ってしまうということはないと思うので,そういう意味では,残った裁判員の方の意見をきちんと聴いて,それで裁判長の意見を述べていく,つまり裁判員の方の意見をきちんと尊重して聴くということは,運用レベルにおいては,それはある意味では当然かと。現場の裁判官の感覚は,多分そういう感覚であろうかと思います。 ○大澤委員 今の合田委員のお話は非常に具体的な内容のお話であったのに対しまして,私のはちょっと抽象的な話になりますが,除外するに当たって国民の意向というものが全く反映されていないのかと言えば,今回,ここで話し合っている除外の要件は,最終的に法律で定めるわけですから,どんな場合に除外するかということについては,国民の代表である国会が要件を定めて,こういう場合には除外してしかるべきであろうということで進めていくわけですね。そして,その要件が今書けるかどうかということが一つの大きな問題にはなっていますけれども,要件が法律で定められれば,それを前提に,定められた要件に当てはまるかどうかということについては,裁判官が手続上の事項として判断していく。ここはそうならざるを得ないのではないかと思います。   仮に,どういう裁判体でやるのかということについて,裁判官以外の判断主体が出てきて,その判断主体の選択で裁判体が決まっていくということになると,公正な裁判の在り方として本当に大丈夫だろうかということも問題になってくるだろうという気がいたします。   いずれにしても,法律で要件を定めるということが,国民が国会の代表を通じて一つの判断を示すという意味は持っているのではないかと思います。 ○児玉委員 先ほどの香川幹事のお話にもあった趣旨の一つ目として,裁判員の負担軽減というお話があったと思うのです。それからすると,除外するに当たって,実際に裁判員が選任されている場合に,その方たちの意見を聴くというのは,すごく当然のことなのではないかと思いました。   前回,今田委員のお話を聴いて,なかなか法曹三者の中だけでは出てきにくい意見なのかと思ったのですが,お話をお聴きしてなるほどと思いましたし,制度の趣旨からいっても,そこで意見を聴くということを,この要綱(骨子)でしたら第一の二あるいは四のところに盛り込むのは,立法技術としてもそれほど難しい話ではないのではないかと思いました。 ○小木曽委員 意見を聴くというときに,誰に何を聴くのかということなのですけれども,誰に何を聴くのでしょうか。候補者に,このくらい掛かりそうですけれども,大丈夫そうでしょうかということを聴くのでしょうか。 ○大澤委員 付け加えてよろしいですか。   要するに,要綱(骨子)を前提にして申し上げれば,第一の一の2の場合には,既に選任されている裁判員がいますから,その場合には,合田委員が言われたように,運用としても意見を聴くでしょうし,その対象が容易に想定できますけれども,第一の一の1の場合に,では意見を聴く対象があるだろうか。先ほど私も,第一の一の1を前提に発言いたしましたし,小木曽委員の御発言もそういうことではないかと思いますが。 ○井上部会長 参考までに申し上げると,現行裁判員法上も除外規定がないわけではなく,裁判員法第3条という除外規定はあるのです。その規定の上では意見を聴くということにはなっていません。ですから,それとの平仄(ひょうそく)も考えなくてはいけないのだろうと思います。 ○児玉委員 今のお話で,当初からすると,それは候補者ということになるのでしょうけれども,そこは技術的な問題で,理念としてどうなのかということからいって,ちょっと僕は今田委員のおっしゃったことはなるほどと思ったということです。 ○井上部会長 理念といいますか,それは恐らく民主的正統性といったことを意味するのだろうと思いますけれども,それについては大澤委員の御発言のような考え方もありますので,答えは一様ではないと思いますね。 ○佐藤幹事 先ほど小木曽委員から御指摘のあった,除外の判断に当たり,誰に何を聴くのかという点について,補足的に意見を述べたいと思います。   まず,除外の判断に当たり,何を考慮するのか,という点に関しては,審理に要すると見込まれる期間に照らして裁判員の負担が過重かという問題にとどまらず,審理計画策定の前提となる,公判前整理手続における争点及び証拠の整理が合理的であったかという問題まで視野に入れるのでなければ徹底しないように思います。  ただ,仮に後者の問題にも立ち入って検討するのだといたしますと,その判断に当たり,当該事件の審理に関わらない人が当事者の主張や証拠に触れることになるのではないか,それは妥当かという,判断主体に関わる問題も生じます。また,審理計画の策定は,争点及び証拠の整理の結果を踏まえて,裁判員裁判でも裁判官のみで行うものとされています。このこととの整合性についても留意する必要があるように思います。 ○前田委員 今田委員のお答えに合致するかどうか分かりませんが,今おっしゃった趣旨などを勘案して,私は,要綱(骨子)第一の一の1の事案でも,裁判員等選任手続に入った方がいいのではないかと考えています。裁判員候補者の方々が,これは無理だと判断されて集まらないというのは,正に,その意思の反映ではないかと。そういうことも一応頭に入れつつ,手続をもう一つ進めたらどうかということを,今,考えているということでございます。 ○井上部会長 ほかの方はいかがでしょうか。よろしいでしょうか。  総会でも御意見があったということで先ほど紹介がありましたが,要綱(骨子)第一の一の2の部分です。  除外するかどうかのところで意見を聴くということではなくて,裁判員の数が足りなくなったので,裁判官のみで裁判をするのだけれども,残った裁判員に何らかの形で関与してもらって意見を言うようなことも考えられるのではないか,という御意見もあったということなのですが,この点についても御議論いただければと思います。 ○佐藤幹事 仮に裁判員の員数に最終的に不足が生じた場合に,残った裁判員が,審理に立ち会い,評議等において意見を述べることができるという形で関与の制度を設ける場合については,差し当たり,評決権がある形で関与するのか,あるいはない形で関与するのか,という観点から整理できるように思います。   まず,評決権がある形で関与する制度については,現行の裁判員制度は,例えば,裁判官と裁判員の員数を各何人とするか,あるいは評決要件をどう設定するかといった問題について検討を経た上で設計されており,裁判員の員数に不足が生じている合議体が許容されるには,現行制度の設計理念と整合性のある,積極的な理由付けが必要だろうと思います。  これに対して,評決権がない形で関与する制度については,合議体を構成する裁判員の員数の合理性や評決要件の問題は直接生じないとしましても,裁判員ではなくなった,合議体の構成員でない人が,審理に立ち会い,評議等において意見を述べることは,現行制度にない,新しい事態といえることから,その意義ないし位置付けについて,慎重に整理する必要があるように思われます。 ○大澤委員 アドバイザー的なものとして関わるという場合の考え方としては,6名より人数が減りましたというときに,「いやいや,私はここまで関わってきたのですから,更に関わりたいと思います」という,これまで裁判員として関わってきた人の意思を尊重するという考え方と,それから,3名の裁判官だけになるよりも,少ない人数であっても国民が加わっている方が,裁判員制度の理念に沿ったより良い裁判体になるのだという考え方と二つがあって,そのいずれか,あるいは両方のミックスということになるのではないかと思います。   まず一つ目の考え方について言うと,裁判員制度というのは,裁判のための制度,つまりよりよい裁判ができるための制度として構想されていて,国民が裁判員として参加するということを国民の利益として認めたものという位置付けではないのでありましょうから,一つ目の考え方で御指摘のような制度を考えるというのは,裁判員制度の基本的な作りから外れてくるということになろうかと思われます。  もう一つは,国民が加わっている方が良い裁判体であるから,人数が少なくなってもそうするのだという考え方だろうと思いますけれども,裁判体をどう構成するかというのは,公正な裁判をどうやって保障していくかという観点から法律が定めているものであって,現在だと,裁判員が参加する合議体として,6名の裁判員に3名の裁判官で構成される合議体,それに1名の裁判官と4名の裁判員という形もあるのかもしれませんが,そのような合議体と,それ以外に,3名の裁判官で構成される合議体,そして単独の裁判官による裁判体,そういうものが定められているというわけで,裁判員裁判の場合に,6名の裁判員と3名の職業裁判官で構成されると定めている,その6名というところに何も意味がないのだろうかというところは一つ問題だろうと思います。6名の裁判員がいることで,様々な物の見方とか経験がミックスされ良い裁判ができる,そういう合議体として法律上定められているということではないか。6名よりも少ない,例えば1名でも,2名でも,裁判官だけの裁判体よりも裁判員が加わっている方がいいのだ,という発想に果たして裁判員制度というものが立っているのかというと,そこのところは疑問ではないかという気がいたします。  恐らく,御指摘のあったような制度を構成するとした場合,評決権を持って加わるというのはなかなか難しいと思われ,そうすると,単に意見を述べられるという形で加わることになってくると思います。そういう裁判官の裁判体に意見を述べる国民が加わってくる制度というのは,裁判員制度に似ていますけれども,恐らく違うものの考え方で作られた新たな国民参加制度ということになってこざるを得ないのではないか。たまたま6名選任されていたところから人数が減った場合は,いわば引き算をしただけのようにも見えますけれども,もしその種の参加制度が望ましいのだということならば,これはもっと一般的な広がりを持って考えられるべき制度ということにもなってきますし,恐らく裁判員制度の延長線上で考えられる制度とは少し違ったものになってくるのではないかという気がいたします。 ○小木曽委員 今まで出た議論に加えまして,憲法37条が被告人の公平な裁判を受ける権利を保障しておりますから,その観点からの検討も必要なのだろうと思います。 ○井上部会長 ほかに御意見がなければ,この点については御意見を賜ったということでよろしいでしょうか。  全員が消極というわけでは必ずしもないとは思いますけれども,御紹介のあったような二つのアイデアについては,これをサポートする意見が余り多くなかったと受け止めました。  要綱(骨子)第一についての本日の審議は,この辺りで終了させていただきたいと思います。  次回は,より具体的な要件論について議論を行い,そして要綱(骨子)第二以降の審議に進ませていただきたいと思いますが,いかがでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○井上部会長 それでは,次回以降の部会の日時・場所について,事務当局から説明をお願いします。 ○東山幹事 次回第3回会議は,平成26年3月18日火曜日の午後2時から午後4時頃までを予定しております。場所につきましては,現在調整中ですので,決まり次第,御連絡を差し上げたいと思います。  第4回会議以降の日程につきましては,後日改めて調整させていただきたいと思いますので,御協力いただければと存じます。 ○井上部会長 それでは,特段の差し支えがございませんようでしたら,次回は平成26年3月18日火曜日,時間は午後2時からおおむね2時間,午後4時まで,場所はおって御連絡するということにしたいと思います。  なお,本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容のものはなかったと考えますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思います。  それでは,これで終了させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。 -了-