法制審議会 刑事法(裁判員制度関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  平成26年3月18日(火)   自 午後2時00分                         至 午後4時45分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○東山幹事 予定の時刻になりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(裁判員制度関係)部会の第3回会議を開催いたします。 ○井上部会長 本日も御多用中のところをお集まりいただきまして,ありがとうございます。  審議に先立ちまして,配布資料につき,事務当局の方から説明をお願いします。 ○東山幹事 本日は,前田委員から提出されました資料1点を,前田委員提出資料として卓上に配布させていただいております。この資料につきましては,後ほど審議の中で前田委員から内容の御説明等がある予定と聞いております。  本日の配布資料は以上でございます。 ○井上部会長 早速ですが,審議に入りたいと思います。  前回は,専ら要綱(骨子)第一につきまして御審議いただきましたので,本日は要綱(骨子)第二以降について審議を行い,その上で,前回会議に引き続き要綱(骨子)第一についても,更に具体的な要件に立ち入って審議を進めるということにさせていただきます。  まず,要綱(骨子)第二及び第三につきましては,一括して審議を行いたいと思います。  第二及び第三は,いずれも重大な災害あるいは非常災害があった場合についての手当に関するものであり,第二が辞退事由を追加することを内容としたもの,第三が呼び出すべき裁判員候補者の除外に関するものです。  これらについて,何か御意見がございましたら,御発言をお願いしたいと思います。 ○佐藤幹事 この要綱(骨子)第二,第三につきましては,東日本大震災の際に裁判所が一定の対応を採られたと伺っております。本部会において議論を行うに当たり,その点について御説明いただければ有り難いと思いますが,いかがでしょうか。 ○香川幹事 それでは私の方から簡単に御説明させていただきます。これから御説明する内容は,「裁判員制度に関する検討会」の方で,当時,合田委員から説明した内容とほぼ同じでございますけれども,改めて御説明させていただきます。  御承知のように,東日本大震災が平成23年3月11日に起こりまして,その後,関係する地域,具体的には仙台地裁本庁,福島地裁本庁,福島地裁郡山支部,盛岡地裁本庁の各裁判体におきまして,震災あるいは震災に伴う原発事故の被災地域の方々に対しまして過重な負担を求めることがないように配慮いたしまして,呼出状の送達又は質問票の返送が困難,あるいは選任手続期日に出頭することが困難と認められる地域に住所を有するような裁判員候補者に対しましては,そもそも呼出状を送らない,すなわち呼び出さない措置を採るということをやってまいりました。  その後,震災から一定期間経過いたしまして,被災地域の郵便事情あるいは交通事情の回復状況などを考慮いたしまして,津波により深刻な被害を受けた地域の裁判員候補者につきましては,平成24年1月以降,各裁判体において,呼出状を送付しない取扱いを採らないこととしたと聞いております。  もっとも,原発事故により深刻な被害を受けている地域の裁判員候補者につきましては,まだ各裁判体の判断によりまして呼出状を送付しない扱いを継続していると聞いているところでございます。  簡単ですが,以上でございます。 ○井上部会長 佐藤幹事,そういうことでよろしいですか。 ○佐藤幹事 はい。ありがとうございました。今伺った裁判所の対応は,被災地の実情を踏まえ,現行法の枠内で採り得る適切なものであったと考えております。   この要綱(骨子)では,まず第二において,裁判員となることについての辞退事由に,「重大な災害により生活基盤に著しい被害を受け,自らその再建のための措置を講ずる必要があること。」を追加すること,第三においては,「著しく異常かつ激甚な非常災害により,交通が途絶し若しくは遮断され又は郵便物の取集,運送若しくは配達が極めて困難である地域に住所を有する」被災者の方について,裁判員等選任手続の期日に呼び出すべき裁判員候補者等から除外する措置を追加すること,がそれぞれ提案されておりますが,先ほど伺った裁判所の御説明では,大震災の後,被災者の方に対し,現実に,こうした配慮を要する状況が存在した,また現に存在しているということでしたので,その経験を踏まえますと,被災者の方に過度の負担を掛けないため,要綱(骨子)にあるような対応をとる必要があるものと思いますし,このような配慮が,裁判員制度に対する信頼を高めることにもつながっていくのではないかと考えます。  ここで,現在の,関連する法文の規定ぶりを見ますと,例えば,要綱(骨子)第二の辞退事由に関し,裁判員法や政令では,辞退できる場合を個別具体的に定めた上で包括的な規定を置く形をとっておりますが,既に規定のある,具体的な辞退事由と対比したとき,非常災害時についての具体的な定めを置くことには十分な合理性があると思われます。また,要綱(骨子)第三の裁判員等選任手続の期日への呼出しに関し,裁判員法では,裁判員候補者や選任予定裁判員を選任するときには期日に呼び出さなければならないという規定になっており,形式的には,裁判員候補者等を常に呼び出さなければならないようにも読めてしまいます。そのため,裁判所が呼出しをしないという措置を採ることができる旨を明確に定めることには重要な意味があると思われます。 ○前田委員 香川幹事が御説明された東日本大震災の時期に,日本弁護士連合会でも最高裁判所から説明を受けて議論をいたしましたので,その経過を少しだけ御紹介しておきたいと思います。  地元の単位弁護士会では,裁判所がこのような措置を採ったことについて,法律上の根拠がないのではないかとの趣旨の疑問が提示されておりました。日本弁護士連合会でも議論をいたしまして,震災のときに,各地方裁判所あるいは支部が採られた措置については,異常な災害であったのでやむを得なかったという意見が大勢でしたが,裁判所が,法律の根拠がないところでこのような措置を採ることへの今後の懸念などが表明されました。  裁判員になることは国民の義務ではありますが,権利的要素もあるのではないかとの観点から,裁判所が呼出しをしない措置を採るのであれば,要件を法律に明記するべきではないか。併せて,呼出しをかけないという裁判所の立場からの規定のみならず,被災に遭った方々の立場からも,辞退理由として整理を図る必要があるのではないかという議論をいたしました。  したがって,私は「裁判員制度に関する検討会」でも申し上げましたが,異常な大災害の場合に備えて,要綱(骨子)第二,第三のような規定を置くことについて,当時の日弁連の議論でも方向性としては賛成でしたし,私も個人的に賛成するものでございます。  以上でございます。 ○井上部会長 ほかに御意見等ございますでしょうか。  特段,更に付け加える御意見等はないと理解してよろしいでしょうか。  それでは,要綱(骨子)第二,第三についての本日の審議はこの辺りまでといたします。  引き続き,要綱(骨子)第四について,審議を行いたいと思います。  この第四につきましては,第1回会議におきまして複数の委員の方々から,特に第四の二の規定に関し,これまでの運用上の工夫との関係,あるいは新たに義務が課せられることになる裁判員候補者の方々との関係などから,このような規定を設ける必要性等について議論が必要ではないかという御意見がありました。  また,これは合田委員だったと思いますけれども,この第四の二で裁判員候補者に課せられることになる義務と,現行法上裁判員に課せられている罰則付きの守秘義務や,たまたま公判廷で被害者を特定することとなる事項を聞いてしまった傍聴人には何らの義務も課せられないこととの関係などについて,整理が必要ではないかという御意見があったところです。  そこで,まずこれらの点について,事務当局の方の考え方を説明していただきます。 ○東山幹事 まず,要綱(骨子)第四,特に第四の二の規定を設ける必要性につきまして,事務当局の考え方を御説明させていただきます。  実務上,裁判員等選任手続において,被害者の方々のプライバシー等の保護に関して,様々な工夫がなされていることは承知しておりますが,そのような工夫は飽くまでも関係者の配慮に基づく運用上の工夫でありまして,明確な,あるいは直接的な法的根拠を持つものではないところではないかと考えております。  したがって,要綱(骨子)第四の規定を置くことにより,そのような運用上の工夫に法律上の根拠を与えるとともに,統一的な運用が行われることが保障されることになるのではないかと考えております。  また,例えば裁判員等選任手続において,訴訟関係者が正当な理由がなく被害者を特定させることとなる事項を裁判員候補者に伝えるようなことが違法であるということを示すことができるという点でも,積極的な意義があるのではないかと考えております。  そして,要綱(骨子)第四の一により,言わば入口において裁判官や検察官等に対して正当な理由がなく被害者の氏名等を明らかにしてはならない旨の規定を設けることとしても,制度上正当な理由が認められるなどして被害者の氏名等が裁判員候補者に伝えられる場合があり得る以上,被害者のプライバシー等の保護を十全なものとするため,言わば出口において要綱(骨子)第四の二のような規定を設ける必要があるものと考えているところでございます。  すなわち,被害者の名誉やプライバシーが不当に侵害されない権利は正当な利益でございまして,これを十分に保護する必要があり,本要綱(骨子)第四の二のような規定を設ける必要性はやはり高いと考えられるわけでございますが,他方で裁判員候補者等に義務が課せられる対象事件は,被害者の権利利益の保護の必要性が高い被害者特定事項の秘匿決定がなされた事件に限定することとされております上,仮に裁判員候補者等がかかる義務に違反したとしても,そのことに対する罰則規定は設けないこととしているのでございまして,裁判員候補者等に課せられる義務の程度は過大なものとは言えず,要綱(骨子)第四の二のような規定を設けることは相当であると考えております。  次に,要綱(骨子)第四の二で,裁判員候補者に課せられることになる義務と,現行法上裁判員等に課されております罰則付きの守秘義務,あるいは,たまたま法廷で被害者を特定することとなる事項を聞いてしまった傍聴人には何も義務は課せられないこととの関係について御説明をさせていただきます。  まず,現行法上,裁判員等に課せられている罰則付きの守秘義務との関係についてでありますが,裁判員又は補充裁判員についてはその職務の執行に関連して知り得た秘密について,罰則による担保を伴う守秘義務が課せられておりますのに対し,裁判員候補者については,その職務に伴うものではないものの,制度上,被害者を特定させることとなる事項について知り得ることとなっておりますことから,それを公にしない旨の義務を課すものであり,両者に課せられる義務は,それぞれの制度上の位置付けを踏まえ,それぞれ必要とされる範囲で課されるものと考えております。  そして,罰則付きの守秘義務が課されております裁判員及び補充裁判員は,法令に従い公平誠実にその職務を行うことを誓う旨の宣誓をし,審理に立ち会い評議に出席し,又は傍聴するなどするものであり,非常勤の裁判所職員としての地位を有しております。これに対して裁判員又は補充裁判員に選任されなかった裁判員候補者は,裁判所の呼出しに応じて裁判員等選任手続期日に出頭する義務はあるものの,裁判員等の権限や地位等も有していないことなどを考慮いたしますと,裁判員候補者又は裁判員候補者であった方々に対して,裁判員及び補充裁判員と同様の罰則付きの守秘義務を課すことは相当でないと考えられました。そのため,要綱(骨子)第四の二に違反した場合については,裁判員法上,特段の罰則規定を設けないこととしたものであります。  次に,たまたま法廷で被害者を特定することとなる事項を聞いてしまった傍聴人には何も義務は課されないこととの関係についてでございます。  被害者特定事項秘匿決定があった事件について,裁判員等選任手続におきましては,裁判員候補者が事件に関連するいわゆる不適格事由を有しないかや,あるいは不公平な裁判をするおそれがないかなどを判断するために,裁判員候補者に対して被害者特定事項を明らかにして,その関係性等を確認することが法律上予定されております。換言すれば,裁判員候補者は一定の場合秘密にわたる事実を知り得ることが制度上予定された地位にあるということができます。  これに対し,法廷においては,秘匿決定があったことにより,起訴状の朗読は被害者特定事項を明らかにしない方法で行われ,証拠書類の朗読も被害者特定事項を明らかにしない方法で行われるなど,およそ傍聴人に被害者特定事項が伝わることが法律上予定されていない,すなわち傍聴人は秘密にわたる事実を知り得る地位にあるわけではないという,このような差異がございます。  以上のような裁判員候補者等と傍聴人の地位の違いに鑑みれば,傍聴人には特段義務は課さず,裁判員候補者等に対しては罰則の設けられていない要綱(骨子)第四の二のような義務を課すことは,十分合理的なものであると考えております。  事務当局からの説明は以上でございます。 ○井上部会長 今の事務当局からの説明をも踏まえて,要綱(骨子)第四,その中でも特に第四の二の裁判員候補者に対する義務付けの辺りを中心に御議論いただければと思います。 ○和氣委員 この問題は,以前の会議でも申し上げましたけれども,特に性犯罪の被害者,それからDVの被害者たちは,とにかく自分たちの名前や住所,こういうものを知られることを非常に恐れております。その後の二次被害ですとか,それが原因でのその後の犯罪の可能性もあり得るわけですから,是非,そういう観点からこの要綱(骨子)第四の二は,設けていただきたいと思います。  ちょっと話はそれるんですけれども,被害者の立場を是非理解していただきたいと思います。皆さん方の御家族の中でもし性被害ですとかDV被害を受けた家族の方が裁判になった際に,名前や住所を知れるようなことがあったら皆さんはどのように思うでしょうか。皆さんの自分の立場を被害者に置き換えて考えていただきたいと,そのように思います。  以前の会議で大澤委員からも御発言がありましたように,本当に被害者が安心して裁判に関われるように,そういう観点からもこの要綱(骨子)第四を是非設けていただきたい,そのように思っております。  以上です。 ○露木幹事 警察庁の露木でございます。私も積極の立場から,この要綱(骨子)第四の一と二両方について御意見を申し上げたいと思います。  今,和氣委員からもお話があったとおりでございますけれども,被害者,特に性犯罪ですとかDVですとかストーカーですとか,こういった犯罪の被害者の方は犯罪被害自体の苦しみはもちろんでありますけれども,それに加えて捜査・公判等の刑事司法手続に関わることによって相当の負担を感じておられるというのが実情でございます。被害者の方からいたしますと,犯罪被害の事実というのはもうそれ自体思い出したくもないし,誰にも知られたくないというものでございまして,犯人を処罰してほしいという感情と,そういう二次的な苦痛を回避したいという感情,この二つのジレンマの中で苦しんでおられるというのが実態でございます。実際にも二次的な苦痛を回避したいという余り,被害届の提出にちゅうちょされるという被害者の方も少なくありません。  しかし,そういう形で被害者が泣き寝入りせざるを得ないという状況に追い込まれるというのは,被害者本人にとってもちろん不幸なことでありますし,そればかりか犯人を野放しにするという意味で治安の維持にとってもあってはならないことであると思います。できる限りそういう二次的な苦痛を軽減できるような方策を追求すべきであると思います。  裁判員裁判の場合には事件が発生したその地元の一般の方々が裁判に関与するということになりますので,被害者の中には自分が被害を受けた事実をそういう一般の方々に知られるということに強い抵抗感を持っておられるという方が実際におられます。ただ,裁判員に選任された人には守秘義務があるということでございますので,被害者のそうした不安の解消に一定程度役立っておるわけでありますけれども,しかし裁判員候補者には現在そういう法律上の歯止めがないということであります。  そこで,この要綱(骨子)第四の一,二にありますとおり,裁判員候補者には被害者特定事項が知られないようにすること,やむを得ず知ることとなった場合には守秘義務が課されると,罰則のないというものであってもそういう措置を講ずる必要があるものと考えます。  以上です。 ○大谷委員 この要綱(骨子)第四の前提にあるのは,刑事訴訟法の第290条の2という条文なのですが,この第290条の2という条文は,平成19年に被害者の権利利益の一層の保護を図るための法整備の一環として創設されたものです。この刑事訴訟法第290条の2に規定されたような取扱いは,実は従前から関係者の同意の下に広く運用として行われてきたものなのですが,手続としての安定性を図るという趣旨から,平成19年に法制度として創設したように記憶しています。  同じ時期に同様の規定として,刑事訴訟法第299条の3,証拠開示の際の被害者特定事項の秘匿要請という制度が導入されました。これは,一定の要件の下に,弁護人に対して被告人その他の者に被害者特定事項が知られないようにすることを求めるという制度です。実はこれも従前から実務的には運用として幅広く行われてきたものです。  この刑事訴訟法第299条の3に規定する秘匿要請についても,特に罰則等で担保しているものではありません。しかしながら,これを法制化した理由は,一つは,関係者に注意を喚起する,そうすることによって被害者の名誉等が害されることなどを未然に防止できることが期待できるということ。もう一つは,このような方策をとり得ることが法律上明記されているということ自体が,被害者に安心感を与える,そして被害の申告や十分な供述の確保に資するという,こういった理由から法制化されたものです。今回,要綱(骨子)第四の二の問題状況を考えてみますと,このときの法整備と非常に似たような状況にあるのかなと思っています。そういう意味では,被害者の権利利益の一層の保護という観点からだけでも,このような規定を設ける意義というものは大きいように思われます。  また,現実問題として,先ほど露木幹事の方からも御説明がありましたように,我々が実際に被害者の方々と相対する現場の感覚というんでしょうか,それからしましても,このような罰則による担保措置のない仕組みでも,被害者の方々にとっては非常に安心感を与えるものであるということは,しばしば経験するところであります。事件を担当する検察官は,ここで問題となっているような被害に遭われた方に対して,現行法上こういうふうに被害者を保護する仕組みがあるんだということを丁寧に説明するようにしています。そういったときに,そのようなことをしばしば感じるということです。  特に裁判員裁判では,先ほど露木幹事からもお話がありましたように,ひょっとしたら自分を知っている人がそこにいるかもしれないという,この不安感というのは実は極めて大きいものがあります。そういうことで自分の事件が裁判員裁判になるのならもういいという,協力できないという例もないではありません。  そういった実情を踏まえたときに,選任手続のときにもこういうルールになっているんだと,これがきちんと法律に書いてあるんだというようなことを説明して,被害者の方々に安心してもらう,不安を少しでも取り除いてもらうという意義は,非常に大きいものがあるのではないかと思います。  私からは以上です。 ○前田委員 今,和氣委員の言われたことはよく理解はできますし,また事務当局から説明がありましたとおり,裁判員候補者の方が被害者の特定事項について知り得る機会が法律上あることも十分理解はしております。  ただ,これまでの運用によりますと,要綱(骨子)第四の一の規定は,法律にはありませんが裁判所を中心に法曹三者の協力によって事実上運用で要綱(骨子)第四の一にあるようなことが行われ,現実には裁判所に出頭した裁判員候補者の方が被害者特定事項について知る機会というのは,まずないのが実情ではないかと思います。私よりも裁判所から出ておられる委員の方が詳しいので御説明いただきたいと思いますが,そのような実情があって,少なくともこの5年間,このことで問題が生じた事例を私は知りません。  そこで,「裁判員制度に関する検討会」の中でも申し上げたのですが,この要綱(骨子)第四の一の規定を法律化するということは,反対はいたしません。大谷委員が指摘された,刑事訴訟法第290の2が出来たときの法制審議会の委員を私も務めておりましたので経過はよく知っております。ただ,要綱(骨子)第四の二に関しましては,裁判員候補者の立場の方に法律上の守秘義務を課すことになりますと,現時点においてそれまでの必要性があるのか,非常に疑問がございますし,守秘義務を課したときの裁判員候補者といいますか,国民の反応についても配慮をする必要があるのではないかと思っております。要綱(骨子)第四の一は賛成いたしますが,第四の二については疑問があります。立法化の必要はないのではないかと考えております。 ○大澤委員 要綱(骨子)第四の一に加えて,第四の二についても,このような規定を設ける必要があるかということでございますけれども,先ほど事務当局からの御説明にもありましたように,第四の一によっても正当な理由があれば被害者特定事項は明らかにされることがあるわけで,その場合には,裁判員候補者は,その正当な理由といいますか,正当な一定の目的の下に,通常は知り得ないはずの被害者のプライバシー情報に触れることになるということではないかと思います。  第四の一で書かれているような正当な理由,正当な目的がない場合にプライバシー情報が伝えられてはならないということはもちろんですけれども,正当な理由がある場合もそういう情報というのはそれが明らかにされた目的の範囲内でのみ用いられることとするのが筋であって,そのような目的と無関係に手続外で公にされるというような事態が生じることは,好ましいことではないと思われます。そのような事態を防ぐための制度的な手当というのは,やはり必要ではないだろうかと思います。  仮に,実際上問題となることが余りないとしましても,それはもちろんいいことだと思いますけれども,しかし被害者の立場から見たときの安心感とか制度に対する信頼感を確保するということは,やはり刑事司法制度が適切に機能していく上で軽視できないことであり,そういう観点から,私は第四の二のような規定の必要性はあるのではないかと思います。 ○佐藤幹事 要綱(骨子)第四の二については,先ほど,裁判員候補者の感じる負担という観点からの御指摘があったと思いますが,被害者の方の置かれた状況なりその心情なりが適切に説明されるならば,裁判員候補者あるいは国民一般に,要綱(骨子)第四の二にあるような義務付けには理由があるということは十分に理解してもらえるのではないか,そして,その場合には,裁判員候補者の当該義務付けに対する受け止め方,負担感や束縛感といったものも自ずと違ってくるのではないかと考えます。 ○井上部会長 ほかに御意見はございませんか。よろしいでしょうか。  要綱(骨子)第四の二につきましては,必要性があるか疑問だという御意見もありましたけれども,大勢としては第四の一についても二についても必要性はあるという御意見であったように理解します。  このほか,特に何か付け加えて御意見等がありませんでしたら,要綱(骨子)第四についての本日の審議をこのぐらいとさせていただきたいと思います。  それでは引き続き,前回会議までの審議を踏まえ,要綱(骨子)第一について,具体的な要件により立ち入って御議論いただきたいと思います。  この点につきましては,多くの論点が提示されておりますが,まず,これまでの会議で示された御意見や,本日前田委員から提出されている修正案について,順次議論していき,その後,更に御意見があればそれらについて議論を行うという順序で進めて行きたいと思います。  これまでに示された論点は四つほどあり,一つ目は長期・多数回の審理を避けるために除外決定以外のとり得る手段を尽くした旨を要件として法文に書き込むことの適否。二つ目は,裁判員の負担が過重となることの回避等,この要綱(骨子)第一を設ける趣旨を法文上に盛り込むことの適否。三つ目は,「著しく長期」といえる期間等のおおむねの数字,あるいはイメージ,そして四つ目は,前田委員から御提案がある要綱(骨子)第一の修正案の適否と補充裁判員の員数の見直しの適否ということであります。これらについて順番に議論をしていきたいと思います。  まず,前回会議で合田委員から,公判前整理手続における証拠の厳選や区分審理制度の活用など,長期・多数回の審理を避けるために除外決定以外のとり得る手段を尽くした旨を要件として法文に書き込んではどうかといった趣旨の御意見があったと思いますが,その点について議論を行いたいと思います。  議論の前提としまして,事務当局としての考え方を説明していただきます。 ○東山幹事 前回会議におきまして,事務当局から配布資料9として,審理が著しく長期又は多数回に及ぶことを避けるために考えられる手段とその問題点について,①公判前整理手続で証拠を整理すること,②区分審理制度を活用すること,③弁論を併合しないことや弁論の分離を検討すること,④検察官の訴追裁量で訴因を絞ることの4点を挙げて説明をさせていただきました。  御指摘は,審理が長期・多数に及ぶことを避けるために,この4点の手段を尽くした旨を要件として法文に具体的に書き込むことを検討すべきではないかということだと理解しております。  まず,結論から申し上げますと,事務当局において検討したところでは,御指摘のような要件を全て具体的に盛り込むことは必ずしも適切とは言い難いのではないかと考えております。その理由について御説明いたします。  まず,公判前整理手続で立証に必要な証拠を整理すること,区分審理を検討すること,弁論を併合しないことや分離を検討することの3点につきましては,従来から刑事訴訟法や裁判員法にこれらに関する規定が置かれており,要綱(骨子)第一の規定の有無に関わらず,それぞれ各規定の趣旨にのっとった取扱いが行われてきたものと認識しております。  仮に,これらの手段を尽くした旨を要綱(骨子)第一に要件として書き込むことといたしますと,それらの各規定の本来の趣旨を超えて裁判所あるいは訴訟当事者に対し,裁判員裁判から除外されることを回避するために現行の各規定に定められたところ以上の新たな負担を求めることにもなりかねないと思われますけれども,それは適当ではないのではないかと考えているところでございます。  また,検察官の訴追裁量で訴因を絞るとの方策について申し上げますと,例えば被害者の方々が多数に上るような大量殺傷事件において,長期又は多数回の審理を避けるとの視点のみから一部の被害者の方々の分のみを抽出して訴追をするというようなことは,刑事訴訟の真相解明機能や被害者又はその御遺族の心情の観点から妥当でない場合があると考えておりますので,検察官の裁量によって訴因を選択することが除外の前提となるという理解が適当であるとは考えておりません。  事務当局からの説明は以上でございます。 ○井上部会長 それでは,今の事務当局の説明をも踏まえて,長期・多数回の審理を避けるために除外決定以外のとり得る手段を尽くしたことを要件として法文に書き込むことについて,御意見がございましたら御発言をお願いします。 ○合田委員 ただいま事務当局の御検討の結果を聴かせていただいたんですけれども,前回申し上げましたが配布資料9の①から④の4点につきまして,それをそのまま具体的に書き込むということを申し上げているわけでは必ずしもないんですが,問題は結局,他のとり得る手段を尽くしても,それでも解決できないからこの規定によって除外にいくんだというところを,どう表現するかということで,それをやはり要件に入れておくべきではないかと思うんですね。  もちろん,この要綱(骨子)はこれからまた直っていくのかもしれませんけれども,要綱(骨子)のままで見ると,結局そういう手段をとったか,とらないかは,この条文自体に書いていないわけです。ですから,それをとらなくても,例えばここで言う公判期日若しくは公判準備が著しく多数であるというような場合に当たると,そういう手段をとらなくても除外することができるといいますか,「ねばならない」という規定にすれば除外しなければならないという具合に解釈をされかねないと,そういう余地が残ってしまうのではないかというところを懸念をしております。私ども,この要綱(骨子)第一の規定によって,どんどん外していこうという気持ちは全くないわけでありますから,やはりこれが適用されるのはとり得る手段を尽くして,それでも解決できない場合にこういう除外の問題になっていくんだという辺りが,条文の表現上も分かるような形での解釈の縛りといいますか,それを入れ込むべきではないかということで,前回述べさせていただいたわけでございます。  また,そういう意味で言いますと,配布資料9の4点のうち,4番目の点について先ほど御説明がございましたが,検察官の訴追に関する裁量というのは,これは十分承知しているつもりでございますが,これも前回出ました過去のケースを見ますと途中で修正されたというケースもございまして,そういう意味で配布資料9の①から③も当事者又は裁判所の裁量の余地があると言えばあるという事柄でございますので,配布資料9の①から④の点を含めて,やはりとり得る手段を尽くしたんだと,こういう趣旨が何とか条文上明らかになっておく必要があるのではないかと,そういう意見を持っておるというところでございます。 ○児玉委員 意見といいますか,なかなか立法事実が,実際に困った例がない中で要件化するのは難航しているわけですけれど,例えば,諸外国の立法例で要綱(骨子)第一のような規定がそもそもあるのか,あるとすればどういう要件になっているのかというのは非常に参考になると思うので,事務当局の方で恐らくお調べだと思いますから教えていただきたいのですが。 ○東山幹事 諸外国の制度につきまして,もとより網羅的に把握しているものではございませんが,当方が把握している限りにおきましては,いわゆる欧米諸国において本要綱(骨子)第一と同種の規定の存在があるということは把握はしておりません。しかしながら,例えば,ドイツでは,参審員の任期は5年間とされております。参審員はあらかじめ各参審員に割り当てられた期日を第1回公判期日とする事件について,その事件の終結に至るまで職務を継続する必要があるとされていると承知しております。したがいまして,事件単位で裁判員を選任する我が国とはそもそも制度の枠組みが異なっているものでございます。  あるいは,例えば,アメリカ合衆国におきましては,被告人は陪審員裁判を受ける憲法上の権利を有しております。これはいわゆる合衆国憲法修正第6条に規定されているものでございます。したがいまして,被告人のみがその権利を放棄して裁判官のみによる審判を希望することができるものとされていると承知しておりますが,そもそも憲法上の権利であるということが我が国とその法体系において大きな違いがあると考えております。  なお,例えば,韓国におきましては,被告人に国民参与裁判を実施するか否かについての一次的選択権が認められておりますが,日本の裁判所に相当するいわゆる法院は,被告人による国民参与裁判申請段階におきまして,国民参与裁判を進行することが適当でないと認められる場合には,国民参与裁判を行わないという決定をすることができます。また,国民参与裁判の進行途中においても,審理の諸般の事情に照らし,国民参与裁判を続行することが不適切と認められる場合には,国民参与裁判によらずに審判するようにすることができるというような規定が設けられているものと承知しております。 ○井上部会長 私が承知する限りで若干補足しますと,アメリカの場合,今御説明があったとおり,陪審裁判を受けるのは被告人の権利ですので,被告人が放棄しない限りは,どれだけ長く掛かろうとも陪審員裁判を行わなければなりません。私の承知している限りでは,今まで一番長かった陪審裁判は確か2年半掛かった。原則として週5日,毎日朝から夜までやって2年半掛かったということだったと思います。その場合,それに参加した陪審員については,我が国のように休業等についての法規定等も設けられていないため,失職してもやむを得ないとされ,実際に失職した陪審員もいたと聞いております。むろん,1年を超える例はそう多くはないのですけれども,ないわけではなく,日本でも知られているシンプソン事件の陪審裁判も1年以上掛かっています。これはしかし回避し得ない,被告人の権利ですから。  他方,韓国では,国民参与裁判の対象とするかどうかは,最終的には裁判所の裁量であり,これは期間だけの問題ではなく,いろいろな要因を考慮して判断しているようですけれども,期間の点も大きな要因で,今までのところ,1日で終わる事件が大多数で,2日間にわたるものがごく一部あるという状況のようです。一番長かったのは3日で,これはソマリアの海賊に関する事件でありますが,それ1件だけということです。韓国では,国民の心情ないし受け止め方として,1日ないし2日を超えて参加してもらうのは無理なのではないかというのが裁判所を含め関係者一般の見方のようなのです。 ○児玉委員 ちょっと今の御回答に関連してなんですけれど,そうするとアメリカ側の被告人の憲法上の権利として陪審裁判を受ける権利があるというのは分かったんですが,それ以外の欧米諸国で憲法上の権利として認めている国は特にないという理解でよろしいのかというのが1点と,法制として見当たらなかったと,把握していないということなんですが,実例として今のロサンゼルスの例は分かりましたが,特に長期化して問題になったということで把握している例があれば教えていただきたいんですが。 ○東山幹事 まず,憲法上の権利かどうかにつきましては,これも網羅的に全ての国について把握しているものではないのですが,基本的には米国の憲法しか我々としては把握しておりません。あとは参考情報でございますが,例えばフランスにおきましては,一部の重罪あるいはテロ行為につきましては,例外的に裁判官のみで審理することとされている規定がございますが,要綱(骨子)第一のように審判期間を理由に裁判官のみで審理をすることとする制度は存在しないようでございます。  ただ,フランスにおきましては,これも我が国との法制度の違いでありますが,いわゆる職権主義の下,裁判長によって証拠の厳選が行われるということでございますので,開廷期間は例外的に長期にわたる場合であっても1,2か月程度であるというふうになっているようでございます。  それから,イギリスの場合ですが,イギリスでは陪審員の職務従事期間は原則として2週間とされております。その期間中であれば複数の事件も担当することになります。イギリスの陪審員裁判では,したがってほとんどの事件が2週間以内に終了することが多いというふうに聞いております。 ○井上部会長 それでよろしいでしょうか。 ○児玉委員 はい。 ○前田委員 先ほどの議論にまた戻りますが,合田委員がおっしゃったことについての私の考えを述べます。前回も申し上げましたが,「裁判員制度に関する検討会」では,配布資料9に記載された①から④までの手段を全部とるかどうかは別としても,証拠整理や争点整理を行い,併合するかしないか,区分審理でできないかどうかなど,いろいろ勘案してもなお長期間の審理あるいは公判回数を多数の事案に限って除外をするという前提で議論をしておりました。私は今もそういう前提で考えています。  しかし,配布資料9の①から④の手段を除外の要件にするのは技術的にも非常に難しいので,除外要件にはできないと考えてきました。ただ,合田委員の言われた趣旨がうまく立法上表現できるのであれば,私も異論はないところですが,非常に難しい,どちらにしても抽象的にならざるを得ないのではないかという感じはいたします。 ○小木曽委員 合田委員,それから今の前田委員の御発言,よく分かるのですけれども,ほかにとり得る手段を法文に書き込んだ後で実際にそれを尽くしたのかどうなのかということについて,また争いが生ずるというおそれがありはしないかということと,それから,今,前田委員の御発言にもありましたように,そもそもこの議論はそうした制度を利用してもなお懸念が残るということについての手当てということではないかと思いますので,それをうまく書き込むことができればいいでしょうけれども,なかなか難しいのかなと思います。 ○大谷委員 先ほど事務当局の方からも御説明がありましたけれども,ここで例として挙げられているほかにとり得る手段ということで言いますと,公判前整理手続で証拠を絞るというのは,ある意味,全裁判員裁判を通じて当然の要請であると理解しています。  それから,区分審理制度を活用するというのは,これは裁判員法第71条第1項に要件がきっちりと書いてありまして,その要件に見合うものは区分審理で裁判員裁判をやるんだというように法定されているわけです。  弁論を併合しないというのは,今申し上げた二者に比べるとまだ要件的なものとしての親近感がちょっとはあるのかなという気がしないではないですけれども,やはり被告人の併合の利益や証人の負担,あるいは区分審理が活用できない裁判員法第71条第1項ただし書に当たるような状況など,これはまた考慮すべきことがたくさんございます。  結局,そういったそれぞれの制度がそれぞれの制度目的に応じて規定が置かれていまして,今回のこの要綱(骨子)第一の規定の有無にかかわらず,その目的に沿って現実に運用されているというようなものであります。こういった性質のものを何か要件的なものとして位置付けるということについては,違和感がどうしても残るというのが私の意見です。ましてや,法制的にはかなりの無理があるんだろうと思います。  それから,訴追裁量で訴因を絞ってはというお話がありましたが,これは今申し上げた三つのものとはまた別の意味でちょっと異質のものなのかなと思います。これは端的に言えば,裁判員裁判を実現するためという制度目的のために重大犯罪の訴追を控えるということで,検察の立場としてはおよそとることは困難であろうかと思います。仮に訴追対象を絞り込むとして,ではどんな基準でどう事件を選別していくのか。特に被害者や御遺族の方々の意向を無視してまでそういうことがやれるのかどうかというのは,かなり大きな問題かと思います。  前回,また本日の議論でも,前例はあったというお話がありました。恐らく皆さんが念頭に置いておられるのは,いわゆるオウム事件のことだろうと思います。私も詳細は余り記憶していないというか自信はないんですけれども,確かこの事件は殺人の既遂分だけでも約30名近い被害者の事件を起訴したように記憶しています。また,殺人の未遂分については4,000名近くの被害者を対象とする,そういった訴因で起訴したのではないかと思います。結果的には,前回の議論で指摘があったように,その殺人未遂の大半の部分について訴因変更によって公訴の対象から外したという経緯ですが,実はこの訴因変更をした残りの部分だけでも,この事件の公判というのは8年近く掛かったのではないかというような記憶です。もし,この約4,000名近い殺人未遂事件もやるとしたら,恐らく10年を優に超えてしまうだろうという,そういう事件だったように記憶しています。  当時のことは余りはっきりとは覚えていないんですけれども,こういった1人の被告人で10年も超える裁判って一体何なんだろうかという,そういう刑事司法の在り方に対する国民の不信,そういったものを増大させる,そういったような考慮から,極めて例外的な措置としてこのような措置を採ったやに記憶しています。  その当時と今と,多分一つ大きく違う状況というのは,被害者や御遺族の心情への配慮というものが,当時に比べると今ははるかに強く求められている,そういう状況にあります。もし今同じようなことが起きたときに,同様の取扱いが果たして可能なのかどうかというのは,これはかなり疑問の残るところであります。  そもそも論で言いますと,今回提案されているものについて,こういった極限的な例を持ち出してまで抑制すべき問題なのかという疑問があります。先ほど御紹介がありましたように,被告人に裁判員裁判を受ける権利があるんだというところから,もし制度が出発しているのならば,個別の事件一件一件,個々の被告人ごとにできる限り裁判員裁判を実現すべきだという方向で考えることには極めて親近感があるんですけれども,我が国の裁判員制度というのは必ずしもそういうものではなくて,司法に対する国民の信頼の向上という,そういうどちらかというと制度目的的な志向の強い,そういう制度であります。そうすると,制度目的がトータルとしてきれいに実現できればいい,それは何かというと,例外的なことが余りにも多くなりすぎてはそれは困るだろう,制度目的が十分に達成できなくなるような,それほど幅広く例外を認めることは妥当ではないんだろうという,そういう観点から考えていくと,ある1件の裁判員裁判を行うということを優先して本来起訴すべきものを起訴しないという選択肢は,なかなか検察としてはとりにくいというのが実情かなと思います。  以上です。 ○和氣委員 被害者と被害者遺族の立場から申し上げますけれども,審理期間の長期化を避けるためだけに,自分やその大切な家族が被害に遭った事件について検察官の裁量で起訴してもらえないということ,これはとても受け入れ難いことであります。例えば100人の被害者がいまして,そのうち10人だけ起訴すれば被告人を十分罰せられるというような考え方については,それではその10人はどうやって選ぶのかとか,選ばれなかった残りの90人の被害者とその遺族の気持ちはどうなるんだろうかと,そのようなことを是非考えていただきたいなと思います。  以上です。 ○今崎委員 大変難しい問題なので,議論を聴きながら考えていることをそのまま申し上げるので,ちょっとうまく御説明できるかどうか分からないのですが。  ただいま和氣委員,それから大谷委員から御意見を頂いて,お気持ちはよく分かる,特に被害者の方々のお気持ちは本当によく分かりますし,それから検察官の訴追裁量についての問題意識も分かります。  よくよく考えてみると,結局は,今回この裁判員制度の対象から一定の範囲の事件を外すという決定をするに当たって,一体どれだけのことを考慮しなければならないかという政策決定の問題なんだろうと思います。ですから,政策決定の問題として言えば,今の訴追裁量の問題に限って例をとって言えば,訴追裁量も考慮した上で除外すべきかどうかを判断すべきであるという政策もあり得るし,逆にそれとは一切別に,その問題は別に置いておいて,結果としてこれだけの期間あるいはこれだけの多数回の審理が必要な事件は除外しましょうという政策決定もあり得るということになりますので,それをどちらを採るかという問題なんだろうと思います。  裁判所として実際の事件の運用に責任を持っている立場から言えば,やはり関係者がそれぞれ尽くすべき努力を尽くした上で,どうしても必要な事件を今回裁判員裁判の対象から除外するんだという,仮に作るとしたらそういう制度なんだろうと私は思っておりますし,そうでないと,裁判所としては,やはり裁判員の方々にはなかなかそういう説明が責任持ってできないかなという気がいたします。  ですから,これについては御異論があるだろうというのは分かりますけれども,私自身はやはり,こう,何らかの形で関係者としてするべきことをこの配布資料9の①から④のほかにとり得る手段を尽くした上でなお必要な場合といいますか,どうしても裁判員裁判に適さない事件があるのであれば,それを対象事件から除外するという,こういう形にすべきだと思いますので,付け加えさせていただきました。 ○二瓶幹事 この四つの条件は,それぞれ従前から規定がございますので,今回の長期化・多数回という問題とは別に設けられている規定・制度であるということは,御説明のあったとおりだと思っておりますし,訴追裁量の問題はちょっと三つとは性格が異なるのかなという点は,私も同じ考えでおります。  この四つをとってもということで何とか条文化という御意見でございますが,そうしてもやはりどの程度すれば手段をとったのかという,やはりそこに曖昧な点は出てきてしまうのかなと。やはり私のイメージからすると,とり得る手段をとっても長期化,多数回化になってしまう,だから今回のような議論で裁判員裁判の対象から外すということになるのであれば,では結局その長期化というのをどのぐらいのものをもってするのかというところをやはり決めておかないと,なかなか条文的には難しいのかなと,まして裁判所の方で運用されるに当たっては,やはり困られるというお話が前回も出ていましたけれども,そういった方向になってしまうのかなと思っておりまして。  やはり,とり得る手段をとっても,というのを入れても,なかなか今までの議論,要件化の議論というのが直ちに解決するということにはならないのかなとは思っております。 ○大澤委員 裁判員裁判対象事件とされているものについて,裁判員が参加する合議体で審判することとされているのは,そういう形で一般の国民の感覚を裁判に反映させることがよりよい裁判を行うことにつながるという考え方があるからで,そういう考え方で裁判員法というものはできているわけですから,そのような趣旨に照らして考えると,裁判員裁判対象事件についてはできる限り裁判員が参加した合議体で扱うということは,当然望ましいこととして要請されていますし,そのために現在の制度を踏まえてまずは努力を尽くすべきだということは,制度の趣旨から当然要綱(骨子)第一の規定が前提としているところなのではないかと,私は思います。  ただ,そのほかのとり得る手段というのがそれでは一体何なのかとか,どこまでやったらそれを尽くしたことになるのかというのは,これは具体的な事情に応じてかなり幅があることで,それを具体的な要件として書き込むということが果たしてよいだろうかというところは,また議論があるのだろうと思います。  私が思うのは,配布資料9にある四つの手段を具体的に書かないにしても,やはり,現在の制度を踏まえて努力を尽くすべきだということが,何らか文言上もう少し見えてくるといいますか,その辺りの明確化を図る余地というのはないだろうかということです。先ほど二瓶幹事のほうから長期化というのはどのくらいかというところを定めないと結局はよく分からないという御指摘もございましたけれども,長期化がどのくらいかということとは別に,長期・多数回の審理というものが,やはりやむを得ないもの,避け得ないものとして出てきたということはもう一つ要件化の中で押さえておく必要があるのだろうと思います。  そして,そこのところがより明確になるような表現ぶりを工夫する余地がないのかというところは,一考の余地があるのではないかと思います。具体的にどういうふうにしたらよいのか分かりませんけれども,長期・多数回の審理というものがやむを得ない,避け得ないものとして出てきたということが分かるような書きぶりというものはないものだろうか。その辺り,一工夫試みてみることについていかがでございましょうか。 ○井上部会長 分かりました。  ほかに御意見等ございますでしょうか。  今のポイントについてはおおむね御意見が出たと思います。  それを伺っていますと,大きな意味では皆さんそれほど意見が食い違っているわけではない。具体的にこの配布資料9の四つの手段を書き込むかどうかという点についても,合田委員もこれをどうしても書き込めとまでいう趣旨ではないとおっしゃっておられますし,他方,書き込むのは適切でないという御意見の事務当局の方でも,だからといって安易に裁判員裁判の対象から除外してよいと考えているわけではなく,当然尽くすべき方策は尽くすことを前提にしておられるわけです。  そのように見ますと,これらのとり得る手段をとったということを具体的な要件として書き込むということについては,どちらかというと消極的な御意見が大勢を占めているといってよいのではないかと思われます。  ただ,最後に大澤委員も言われ,ほかの方も言われていましたが,委員・幹事の皆さんが共有されている趣旨を何らかの形で反映させるような工夫はないのかという点で,事務当局として,なお検討していただく余地があるか,いかがですか。 ○上冨委員 事務当局として,この場の御指摘を踏まえた上で検討させていただきたいと思います。次回までに何らかの検討をした上で御報告させていただきます。 ○井上部会長 この点については,このぐらいでよろしいでしょうか。  それでは,次に進みますけれども,前回の会議において,香川幹事からであったかと思いますが,事務当局の説明にある要綱(骨子)第一の規定を設ける趣旨である裁判員の負担が過重となることの回避ということや,裁判員候補者の構成の偏りの防止ということを正面から法文に盛り込むことはいかがかという御意見がありましたので,この点について議論していただきたいと思います。この点につきましても,まず,事務当局としてどういうふうにお考えかを御説明していただきたいと思います。 ○東山幹事 事務当局といたしましては,裁判員制度からの除外決定をする趣旨,目的,あるいは要件として,裁判員の負担が過重となることを避ける旨や,裁判員の構成が偏ることを避ける旨を法文に盛り込むことには問題があって,適切ではないと考えているところでございます。  裁判員の負担が過重となることを避けるという点につきましては,審判期間が著しく長期にわたることなどが,すなわち裁判員の負担が過重となることと言えます。したがいまして,それがために必要な員数の裁判員等を選任することが困難な状況になるわけでございますので,これが既に要件上考慮されていることは現在の要綱(骨子)でも十分に読み取れるのではないかと考えております。  また,仮に裁判員の負担が過重となることを避けるという点を要件として,あえて法文に書き込むこととした場合,これも結局規範的な要件とならざるを得ず,これまで複数の委員から御意見が出されております要綱(骨子)第一における除外決定の判断の明確化には必ずしもつながらないのではないかと考えているところでございます。  次に,裁判員の構成が偏ることを避けるという点につきましては,そもそも性別,年齢,職業などの何をもって偏りというのか,そういう問題が残っております上,前回会議におきまして香川幹事から御指摘がございましたとおり,裁判員候補者名簿には氏名,住所,及び生年月日しか記載されておらず,除外決定の判断を行う地方裁判所においてそれ以外の裁判員候補者の属性を把握することができないため,裁判員の構成が偏るかどうかの判断を行うことは実質的に困難であるというような問題も存在するものと考えております。  事務当局からは以上でございます。 ○井上部会長 それでは,今の事務当局からの御説明をも踏まえ,裁判員の負担が過重となることの回避等の趣旨を法文に書き込むことについて,御意見がございましたら御発言願います。 ○小木曽委員 私も結論から申しますと,これは書かない方がいいと思います。現行の裁判員法第3条では,裁判員の生命,身体,財産に危害が及ぶかもしれないということがある場合は裁判員裁判から除外するというように書いてあるわけです。それほどの場合であれば除外するというのを法文に書くということは分かるわけですけれども,元々裁判員制度で裁判をするということをうたっているわけですから,そのときに裁判員の負担が過重,大変だからやめましょうねというのをまた法律に書くというのは違和感があると思います。  また,1回目の会議だったかと思いますが,フェア・クロスセクションというアメリカの議論を引いて発言したのは私ですけれども,これも理念的にはそうだということで,何をもって一体その社会の構成が正しく反映されているのかということを決めるというのもなかなか難しいことなので,これをやはり明文に書くというのは違和感があるように思います。 ○香川幹事 前回の私の意見は,事務当局から趣旨として3点お話しされた中で,1点しか法文上表現されていなかったので,ほかの2点について法文に入れないということであれば,入れない理由をお聞きしたいという趣旨でございまして,今,事務当局から御説明を伺いまして,一応理解いたしましたので,結論的には入れないということで,私も了解いたしました。 ○井上部会長 フェア・クロスセクションについては,裁判員制度を導入するに至る過程でも議論があったのですけれども,アメリカでも,そのフェア・クロスセクションというのは個別事件で具体的に選任された陪審の構成が偏っているということを問題にするものではなく,全体としてそういう偏りが生じないようにするという趣旨だと理解しています。個別事件で具体的に選任された陪審の構成が偏っているといったクレームを許すのでは,非常にゆがんだことになりかねなませんので,そういうことではないのだろうと思います。 ○木村委員 前回ちょっとお休みさせていただいたので,ちょっとピントがずれたことを申し上げてしまうかもしれないんですけれども,最初の方の裁判員の負担が過重になるということなんですけれども,素人考えかもしれませんけれど,これは法文に入っていてもいいのではないかなと思っています。どうしてかと申しますと,この要綱(骨子)第一の一だけ見ますと,誰の都合で裁判員裁判を避けるのかということが分からない,あるいは裁判所の都合でやめてしまうのかとか,あるいはもっと言ってしまうと経費が掛かりすぎるからやめるんだみたいな,そんな趣旨でやられているんだと思われては困るので,国民にきちんと説明するためには,確かに生命,身体に比べれば過重な負担というのはそれほど重くないという御指摘はそのとおりだと思うんですけれども,書き込んでもそれほどまずくはないのではないかと思ったのですが。前回の会議で議論が済んでいるのであれば,もう書き込まないということで承知いたしますけれど。 ○大澤委員 先ほど裁判員法第3条の話というのが出てきて,この要綱(骨子)第一というのはちょうど第3条と並ぶ規定ということになるかと思いますけれども,第3条の場合も裁判員で審理した場合の負担過重ということが理由の一つになっているわけですが,しかし,要件としては,その負担となることの具体的な中身が書かれている,そういう形になっているのではないかと思います。  そうすると,要綱(骨子)第一も,これは裁判員の負担過重ということが一つの理由になっているわけですけれども,負担の中身になるのは先ほど事務当局が言われたように長期とか多数回審理ということであって,それが具体的に要件としては書いてあるということでありますので,第3条との並びで見たときには,要綱(骨子)第一のような書き方でよいのではないかという気がいたします。 ○前田委員 私は,入れない方がいいという意見です。趣旨は裁判員の負担過重であることは承知しておりますし,その規定であることは明確ですが,それを条文に入れますと,ほかの要素まで入ってきてしまうことも考えられ,かえって難しい判断を裁判体に強いることになるという感じがいたします。この規定はすっきり,この「著しく長期」,「著しく多数回」でいいと,私は思います。 ○井上部会長 ほかの方,いかがでしょう。  この点については,おおむね御意見をうかがったと理解してよろしいでしょうか。  そして,この点でも,裁判員の過重負担回避という趣旨は法文に入れてもよいのではないかという御意見もありましたけれども,大勢としては要綱(骨子)第一を設ける趣旨を正面から法文に盛り込むことについては消極的な御意見であったように思われます。  ここで,ちょうど3時を過ぎましたので,1回休憩を入れさせていただきます。           (休     憩) ○井上部会長 それでは再開させていただきます。  要綱(骨子)第一についての審議を引き続き行いたいと思います。  3番目の点ですけれども,これまで何名かの委員から,「著しく長期」となる期間あるいは「著しく多数」となる公判の回数について御意見が示されましたけれども,前回会議において,これは小木曽委員でしたか,審理に要する期間を基準に除外の対象とするか否かを決するという観点もあるのではないかという御発言がありました。この点について更に詳しいお考えがあれば,小木曽委員,御披露いただけますか。 ○小木曽委員 はい。確かに私,具体的な制度設計をという文脈の中で,考え方としては日数で切るという考え方があろうと申し上げたように記憶しております。私自身はその日数で切るというのがいいというか,可能であると実は思っているわけではないのですけれども,それにしても,例えば,100日まではやったんだからそれはこれからも裁判員でやるんだろうとか,あるいは,例えば1年,2年とかというようなことになればそれは無理だろうなというような,何となくそのコンセンサスというのはあった方がいいと思いますし,裁判所がこの「著しく長期,多数回」というのをどのように解釈するのかということについても,全く漠然とそれを判断しろと言われても適用が難しいということも,そうであろうと思います。  例えばですね,過去の例でもって統計上このくらいを過ぎると辞退者が増えるなどという材料があるのかとか,あるいは事務当局で何らかの日数についての案をお持ちなのかということを,むしろ伺いたいと思うのですが,いかがでしょうか。 ○井上部会長 今,小木曽委員から御意見がありましたけれども,この点について事務当局の方で何かお考えあるいは参考となるようなデータ等がございますでしょうか。 ○東山幹事 それでは,事務当局といたしまして「著しく長期」となる期間,あるいは「著しく多数」となる回数のおおむねの数字のイメージにつきまして,一応の考え方をお示しさせていただきたいと思います。  ただ,これはもとより,飽くまでも審議の御参考としていただくための粗々の考え方ということでありまして,これからお示しするものに限定されるといった意味でお示しするつもりではございませんし,ほかにも考え方があるということであれば是非承りたいと考えているものでございます。  その前提で,まず一つ目の考え方ですが,それは「著しく長期」の期間について,おおむね4か月以上と考え,「著しく多数」の回数についておおむね50回程度以上と考えるものであります。  その根拠について御説明いたします。まず,裁判員の職務従事期間が100日で,これまでで最長であるさいたま地裁における殺人等被告事件では,取り調べられた検察側証人が延べ49名,公判期日は36回に及び,また報道によりますと,このさいたま地裁の事件とは違う別事件の裁判員経験者から,「職務従事期間が100日と聞いてびっくりした。疲労がたまり精神的,肉体的にもたないのではないか。」といった声も聴かれたとのことでございます。  そして,平成24年5月末までの選定者数に占める裁判員等選任手続に出席した裁判員候補者の出席率の平均が35.1%,選定者数に占める裁判員候補者の辞退率の平均が57.0%であったのに対し,このさいたま地裁における殺人等被告事件では出席率が18.5%,辞退率が77.3%,また職務従事期間がこれまでで2番目に長い75日であった鳥取地裁における強盗殺人等被告事件では,出席率が7.9%,辞退率が86.6%となっていることから,職務従事期間が100日や75日といった長期に及ぶ事案については,国民の多くにとってその負担が相当重いと考えているのではないかと考えるところでございます。  以上のことからは,裁判員の参加する合議体で取り扱うことのできたさいたま地裁や鳥取地裁の事案についても,それは裁判員又は補充裁判員として職務に従事していただいた方々の多大な努力によるものが大きかったものと思われ,裁判員等となる国民の負担という観点からはそれらの事案程度の審判期間が言わば限界であったのではないかということも考えられるわけであります。  もっとも,さいたま地裁の事案については,裁判員の参加する合議体で取り扱うことができたわけでありますから,裁判員制度の趣旨に照らせばこれと全く同程度の事案については今後も裁判員の参加する合議体で取り扱うのが相当と考えられます。  そこで,さいたま地裁の事案を超え,審判に要すると見込まれる期間が120日程度,すなわち約4か月以上に及ぶような事案については除外の対象とすることが考えられます。  これを「著しく多数」の回数要件に置き換えてみますと,審判に要する期間を4か月とした場合,例えば審理期間が3か月,評議期間が1か月程度となると考えますと,これで週4回開廷のペースで行われたとして,おおむね50回程度の公判期日となるわけでございます。  以上が,一つ目の考えです。  次に,二つ目の考え方ですが,それは「著しく長期」の期間についておおむね半年以上と考えるものであります。その根拠について御説明いたします。  これまでの裁判員裁判に関するデータによりますと,審理予定日が長くなればなるほど裁判員等選任手続の期日における裁判員候補者の出席率が低くなり,かつ裁判員候補者の辞退率が高くなる傾向があると認められるところでございます。そして,裁判員の職務従事期間が100日となったさいたま地裁における殺人等被告事件,あるいは75日となった鳥取地裁における強盗殺人等被告事件における出席率が非常に低く,辞退率が非常に高くなっていることなどに照らしますと,審判に要すると見込まれる期間が半年以上に及ぶような場合には裁判員等となる国民への負担は更に増すことから,出席率は更に低下し,辞退率は更に高くなるということが容易に想定されるところであります。  また,例えば農業や漁業等の第一次産業に従事する方々におきましては,春の田植えの季節と秋の刈り入れの季節といったように,おおむね半年程度で繁忙期を迎えることも多いかと思われますし,会社勤めの方々についても,例えば半年ごとに訪れる中間決算期と決算期には会社を休むことは困難であるといったような,半年というスパンの間に応じた繁忙期が存在するということが多いと思われ,連日的開廷で審理が進められる裁判員裁判において半年間を通じて裁判員等としての職務を全うすることは非常に困難であると思われます。  これに加えまして,刑事手続に関しまして国民に一定の義務を課す制度として検察審査会制度がございます。検察審査会法上,検察審査員及び補充員の任期は半年とされております。検察審査会法第14条の規定ですが,もちろん裁判員制度と検察審査会制度は異なる制度ではありますが,裁判員法第16条の辞退事由の規定等で参考とされるなどいたしました検察審査会法において,検察審査員等となる任期が半年とされていることは,「著しく長期」の期間について考える上で十分参考になるのではないかと思われるところであります。  以上から,審判に要すると見込まれる期間が半年以上に及ぶような事案については除外の対象とする考え方が想定されるところであります。  これを,「著しく多数」の回数の要件に置き換えてみますと,審判に要する期間を半年とした場合,審理期間が4か月,評議期間が2か月程度となると考えた場合,週4回のペースでの開廷でおおむね60から70回程度の公判期日となるわけでございます。  以上が,二つ目の考え方であります。  次に,三つ目の考え方ですが,それは「著しく長期」の期間につき,おおむね1年以上と考えるものでございます。その根拠について御説明いたします。  例えば,農業や漁業等の第一次産業に従事する方々におきましては,少なくとも1年の間には四季の移り変わりに応じた繁忙期が必ず訪れると考えられます。会社勤めの方々についても,例えば1年ごとに訪れる決算期には会社を休むことは困難であるといったような,1年という期間の時期に応じた繁忙期が存在するのが通常であると思われます。選挙権を持った学生につきましても,1年の間には例えば試験期間やあるいは就職活動に要する期間など,裁判員等の職務に従事することができない期間が少なくとも存在するというのが通常ではないかと思われるところでございます。  このように,裁判員等となる国民には,1年の間に仕事の事情などにより裁判員等の職務に従事することができない期間が存在するのが通常であると思われ,連日的開廷で審理が進められる裁判員裁判において,1年を通じ裁判員等としての職務を全うすることは通常困難であると思われます。  また,裁判員候補者名簿に登載された者に通知を行うに際し,裁判員規則第15条第1項第2号に基づき,調査票により1年の間で裁判員になることが特に難しい特定の月の有無を調査しておりますが,これも通常1年を通じて裁判員等の職務を全うすることが困難な場合が多いことを念頭に置いた取扱いではないかと思われるところでございます。  また,我が国では1年単位で様々な仕組みが設けられておりまして,例えば会社勤めの方々については通常1年ごとに異動の時期が存在しますが,転勤や職務内容の異なる部署への異動となる可能性などがあり,裁判員等に選任される時点において1年を超える期間,自らが裁判員等の職務を全うできるかを判断することは困難なのではないかと考えております。  そのため,審判期間が1年を超えるような事件については,通常多くの裁判員候補者が辞退を申し立てるものと思われますし,先行きを見通すことができないために辞退申立てを行わなかった裁判員候補者が,裁判員等に選任後,当初予期できていなかった事情を理由に辞任に至る場合も多くなるのではないかと思われるところでございます。  そして,裁判員法上,裁判員候補者名簿は1年ごとに調整することとされ,その登載員数は地方裁判所が対象事件の取扱状況その他の事項を勘案して算定することとされております。これは裁判員法第20条などに規定が置かれております。そのように,1年ごとに必要な員数の裁判員候補者を登載する名簿を調整することとされておりますのは,やはり1年以上先の状況を見通して名簿を作成することは困難と思われるというのも理由の一つではないかと考えられるところでございます。  以上から,審判に要すると見込まれる期間が少なくとも1年以上に及ぶような事案については除外の対象とするという考え方が想定されるところでございます。  これを「著しく多数」の回数要件に置き換えてみますと,審判に要する期間を1年とした場合,例えば審理期間が8か月,評議期間が4か月程度となるとすると,週4回の割合で開廷するとおおむね百数十回程度の公判期日となるわけでございます。  事務当局からの説明は以上でございます。 ○井上部会長 ただいま,事務当局の方からは,一つの叩き台というか手掛かりとなる数字として,3段階の数字が示されました。期間としては,おおむね4か月,おおむね6か月,おおむね1年の3段階であり,回数としては,おおむね50回程度,おおむね60ないし70回程度,おおむね百数十回程度という3段階です。  これも,東山幹事がおっしゃったように,飽くまで一応の数字であり,これしか考えられないというものでは性質上なく,ほかにもお考えがあればお聞かせ願いたいと思いますけれども,御意見を賜りたいと思います。  どなたからでも,御意見がありましたら御発言願います。  ○和氣委員 私は,自分自身が裁判員になる立場です。その立場からいいますと,さいたま地裁であったような裁判員の職務従事期間が100日のものでも,仕事や家庭の両立を考えますと非常に負担に感じます。それを考えると,公判期日の回数は週に1回とか2回だったとしても,審判期間が1年以上に及ぶような事案とか,公判期日が週に3回とか4回といった頻度で半年以上も続くような事案については,ちょっと除外していただきたいと思っております。  以上です。 ○前田委員 私は,「裁判員制度に関する検討会」の場でも,相当に感覚的なものではありますが,1年を超えるような期間,すなわち裁判員を1年以上拘束するような期間は「著しく長期」ではないかと言ってまいりました。  それは,先ほど事務当局の方が御説明されましたとおり,我々の生活が年単位で動いておりますので,年を超えてやりくりするというのは非常に困難ではないかということを考えたからでございます。  それからもう一つは,私自身も裁判員裁判の経験をしていますが,その経験を踏まえ週3日あるいは4日を組み合わせながら継続して審理をすることになると,これも実務家である弁護士の感覚ではあるのですが,審理期間を半年ぐらいで終えることは,それほど無理を強いるということにはならないのではないだろうかと,その後の評議期間などを考えますと6か月の審理とプラスの評議期間ということであれば,何とか乗り切れるのかなという感覚がありました。人の生活が1年単位で動いているということと,裁判員裁判の実務に携わった者の感覚的なものとして1年ということを申し上げた次第です。 ○井上部会長 法律家として関わる立場からの見方と,参加する国民の立場からの見方が,果たして一致するかどうかでしょうね。  ほかの方,いかがでしょうか。 ○大澤委員 3案示されたわけですけれども,この要綱(骨子)第一の基礎にある考え方には,裁判員の負担の過重ということを考慮して,一般国民に負担させることが不適切なような事件を除くという側面と,それから現実に裁判員のなり手が確保できなければ適正な裁判の実施を確保することができなくなるので,そのような事態を避けるという側面と,二つの側面があるのだろうと思います。  先ほどの事務当局の御説明で最後に言われた1年以上の場合については,1年を超えて予定がきちっと確保できるかどうかはっきりしない,例えば1年をまたがると異動の可能性などが出てきて,きちっとした予定が言えなくなり,事情の変更によって裁判員を務められなくなるというような事態も生じるのではないかという御説明がありましたけれども,恐らく1年ということになってくると,適正な裁判の実施を確保していくという点で困難が出てくるのではないかという気がいたします。  ただ,問題はそれだけなのかというと,裁判員の負担の問題というものがもう一つあるわけで,一般の国民に,果たして1年間,本来の仕事とかあるいは家庭とは違うところでの職務従事ということを義務付けてよいものかどうかという視点がもう一つ必要なのだろうと思います。  そして,そういう視点でみると,私は1年というのはかなり長いという感じがするわけでありまして,6か月ならいいのかというと,そこもまた何とも言えませんが,これまで100日程度のものはできてきたということの持っている重みというのはそれなりにありましょうから,それと1年との間で,先ほど挙げられた中だと中間に当たる半年以上ぐらいというのは一つの線ではないかという,全く感覚的な言い方ですが,そのような気がします。1年となると,本当に国民の負担という点から大丈夫だろうかという点で,私は引っ掛かりを覚えるところです。 ○今田委員 今の御意見なんですけれど,国民の負担という観点で考えた場合に,1年というのは大変だろうというのは分かるんですけれど,実際に,では11か月だったらどうなのか。1年だったら負担程度がこんなに上がる,半年だったらこの程度というように,期間と負担との関係について何か手掛かりになるようなものがやはり必要かなという感じがします。  1年だったら大変だろうと,そうだそうだというふうには,なかなかその根拠が希薄な状態では言いにくい。常識で考えた場合に,100日よりも1年の方が大変だと,そのレベルでは分かるんですけれども。負担が重いからうんぬんかんぬんという議論になったときに,私などから言えば,1年をどうにか耐えて参加できる人と,11か月とでは余り変わらないのではないか。恐らくディスクリートな関係があって,ある点から急に負担感が上がるのではないか。一定以上になったら参加できる人とできない人に分かれるような感じがする。根拠もないことを言ってはいけないんでしょうが,何らかのそういう負担と辞退との関係について,何か判断できるような根拠というか,そういうものをお示しいただけたらと。それによって半年がいいのか1年がいいのかというような議論の先に行くという感じがするんですが,いかがでしょうか。 ○東山幹事 小木曽委員からも御指摘がございましたし,ただいま今田委員からも御指摘がございましたので,データ関係について御説明させていただければと思います。  まず,先ほど申し上げましたとおり,これまでの裁判員裁判に関するデータによりますと,審理期間が長くなればなるほど裁判員等選任手続の期日における裁判員候補者の出席率が低くなる,かつ,裁判員候補者の辞退率が高くなるという傾向があること,これは認められるところではございます。  では,更に詳細に,今,今田委員からも御指摘がございましたように,どれぐらいの程度でその出席率がゼロに近くなる,あるいは辞退率が100に近くなるかということに関してでございますが,この点につきましては制度施行から平成25年12月末現在までの平均実審理期間が6.6日でございます。つまり,大部分の事件の審理期間が相当限られた限定的な範囲に集中して分布しております。さいたま地裁における殺人等被告事件や鳥取地裁における強盗殺人等被告事件といった,審理期間が比較的長期に及んだ事案というのは極めて少ないものでございます。  なおかつ,相当な範囲に限られているわけですけれども,その中の同じような審理期間の事件であったとしても,その出席率や辞退率には大きなばらつきがございます。これはもちろん出席率や辞退率というのは審理期間の長短のみにより変わってくるものではなくて,他の要素も関係しているものと考えられるわけでございますが,したがいまして,これまでの裁判員裁判に関するデータから従前のものを超える審理期間の場合に出席率や辞退率がどうなるのかについて,統計上有意な資料をお示しすることが困難であるという判断をさせていただいたところでございます。  以上です。 ○今崎委員 裁判所の立場から,この問題について少し述べさせていただきます。と申しますのは,仮にこういう条文が出来れば,裁判所の方で判断するということになるわけですので。  今回裁判員法が出来上がって5年になるわけですけれども,当初の立法で,結論から言えば,裁判に国民の方の参加を頂いて,より裁判のクオリティを上げるという判断がされたわけです。それは,一定の重い範囲の事件については一律に裁判員裁判の対象にする,松尾関係官が総会でもおっしゃっておりましたけれども,権利としての構成にはしないと,これが今回の元々の法律だったわけであります。その例外として,今,裁判員法第3条という条文が置かれていて,かなり限られた範囲内で除外ができるということになっていると,これが今までの経緯です。  5年間の運用を経て,今のところ決定的な破綻は起きていないということは皆さんも同意いただけるものと思います。鳥取地裁とかさいたま地裁とかの事件はかなり苦労してやったということではあろうとは思いますし,それはこの間,大谷委員が御指摘になったとおりではありますが,ともかく何とかできているわけです。そうすると,国民の側から見ると,現在の議論は,「とてもいい制度として出来ました,いい制度ですから一律に一定範囲以上の事件については全事件裁判員裁判でやります。これまで何の破綻もありませんが,これからは一定の事件について除外します。」と,こういうことになるわけです。  私は,そういう立法自体は十分あり得るものと思いますが,そうであればそれなりの実体要件あるいは手続要件自体をきちんと定める必要があるだろうと思っております。  そのときに,著しく「長期」となるか,あるいは「多数回」になるか,どちらもあり得ると思うので「長期」の方で例を挙げて言いますけれども,その「長期」というのが一体どれぐらいになるのかということについて,具体的なイメージがどうも湧かないということは繰り返し裁判所関係の委員が申し上げていたとおりであります。今回,事務当局の方で大変御苦労なさって三つほど案を頂戴いたしましたけれども,これが,どの案でもいいんですけれども,どれかの案で仮に法律になったときに,裁判所はどんな運用するんだろうということをイメージしてみました。例えば,最後の説で1年以上というのになったとしましょう。あるいは,立法過程で1年以上だという立法者の意思が示された上で法律が出来たとしましょう。それで,例えば11か月でも1年1か月でもいいんですけれども,そんな事件が来たときに,裁判所は,除外する,あるいは除外しないという決定書を書くときにどんな決定書を書くんだろうということをイメージしてみたら,立法者意思が1年ですというだけでは,多分,とても理由は書けないと思うんです。立法者意思はもちろん大事なんですけれども,立法者意思のベースになった何らかの社会的実体であるとか,立法事実,そういったものがあってこそ初めてこれを除外するという判断ができるというものだろうと思います。  その意味で,今,今田委員が御指摘になったとおりで,私も全くこれは同感なんですけれども,その1年にせよ6か月にせよ4か月にせよ,その数字自体が感覚的に私はこのぐらいですというのだけではなくて,それが何らかのやはり実体的な裏付けを経たものであるということはどうしても必要になってくるのではないかと思います。  ただ,何もそれが必ずしも統計的なものでなければならないというつもりはないので,要はそういったものが,なるほど,そうですねと国民が納得されるような理由になるかどうかという問題なのだと思います。そういう意味で,もう少し皆様のお知恵を拝借したいと思っております。  以上です。 ○井上部会長 これまでも同じような趣旨の御発言であったと思いますけれども,そうすると,結局のところ,要綱(骨子)第一のような規定は置かないほうがよいという御意見なのでしょうか。それとも逆に,はっきり100日なら100日,半年なら半年,あるいは1年なら1年といった具体的な数字を法文に書き込むべきだという御意見なのでしょうか。お考えはそこまで煮詰まっていないのかもしれませんけれども,この段階になると,どういう方向で御議論なさっているのか伺えればと思うのですが。 ○今崎委員 今の御質問,大変大事な御質問なんですが,責任を持って今言いにくいところです。例えば,要綱(骨子)第一のような規定は要らないかと言われると,もちろん,あるに越したことはないとは言えるんですが,ただ,あると今度は,それをなぜ使わないんだという意見にさらされるということは前に申し上げたとおりです。ですので,そこのところは頭が痛いところだということでございます。  では例えば,1年なり半年なりというのが法文に書き込まれればいいのかというと,裁判所としては,それであれば運用はできます。そういう形でやっていただけるのであれば,そういう立法政策というか,そういう判断自体が法律上はっきりしているので,私どもとしてはやらせていただけると思います。  今の時点ではそういうお答えになります。 ○井上部会長 法文にはっきり書かれれば,そのとおりなのですけれども,立法としてそのように具体的な数字を設定するということを考えても,そこでも,結局おっしゃっているその数字の合理性ということがやはり問題になるわけです。1年なら1年と設定することにどれだけの合理的な理由があるのかということが問われることになる。立法だから適当に線を引けばよいというわけではないので。結局,どちらで行っても同じような難しさがあると思いますね。 ○小木曽委員 先ほど事務当局からの説明で検察審査会の話が出てきましたが,検察審査員の任期が6か月だというのはどのようにして決まったのかというようなことは,分かるのでしょうか。 ○井上部会長 これは分かりますか。 ○東山幹事 はい。検察審査員の任期につきましては,先ほど申し上げました検察審査会法第14条で6か月と規定されております。その任期につきましては,この検察審査会法の成立時から6か月と規定されていたものでございますけれども,成立当時の資料には限りがございますので,その任期が6か月とされた理由について正確なところを述べるところは現段階においては困難なところでございます。  ただ,検察審査会法の立案においては,米国の起訴陪審,いわゆるグランドジュリーに関する法制及びその運用実績等が参考とされたと承知しておりますが,したがいまして当時の起訴陪審の任期等を参考としていたのではないかと考えております。  それ以外に,事務的に習熟することによる審理の効率化,一つの事件の審査に要すると見込まれた期間,それから検察審査員を務める一般の方の経済的,時間的又は労務的な負担,それから長期間検察審査員を固定することによる弊害などの種々の要素を考慮して,6か月の任期にしたものと考えられるところでございます。  以上です。 ○井上部会長 それでよろしいですか。 ○小木曽委員 はい,ありがとうございました。 ○井上部会長 立法当時は非常に慌ただしい中で立法したので,十分な資料が残っていないと思いますが,検察審査員の任期については,アメリカのどこかの大陪審員のそれがモデルになったのかもしれません。  ほかの方,いかがでしょう。 ○大谷委員 この問題はこれまでに生じたことのない事例に関する議論ということもあって,なかなか統計的なデータであるとか客観的な裏付けというのがないのもある意味当然のことだと思います。ただ,前回申し上げましたように,こういう制度は置いておくべきだなという,そういう必要性はやはりあるわけでして,そうするとなかなかその辺りの統計や裏付けにうまいものが見つからないからといって制度を設けないというのも,ちょっといかがなものかというふうな気がいたします。  確かに裁判所の運用,大変御苦労されるところで,そのような運用の観点からいけば,それは具体的に何日とか何回とか書いてあった方がもちろん運用しやすいんでしょうけれども,ただ,この問題については,それほど画然と決められる,そういった性質のものではないわけです。100日と決めて,では1日違ったらどうするんだという,法文的には100日だからそれは駄目ですよねと割り切ってしまっていいのかというと,なかなかそういう判断も難しいのかなと思います。そうすると,この問題については,やはり具体的に何日とか何回とか書くというのは余りうまくないというか適当ではないのではないかと思います。  一つ前例的に言うと,区分審理決定の要件,これは実は今回と同じような事情で,やはり裁判員の負担ということを念頭に置いて作った制度ですけれども,ここでは見込まれる審判の期間ということが書いてあるだけです。具体的にこれが3か月であるとか1か月であるとか,そういうことは別に書いているわけではありません。ただ,私の承知している範囲では,現在,特にこの区分審理の運用に当たって,これで特段不都合が出ているわけではないと理解しています。  ただ,法文に書くことはできないにしても,そのおおよそのイメージみたいなものについては,やはりここで真摯に議論しておくということが今後この規定が運用される際の参考になると思われるので,そういった議論を行うということは非常に有用であると思います。  今回設けようとする規定の趣旨は裁判員の負担軽減ということですが,負担というのは極めて主観的なものであります。人によってそれぞれ感じる負担感というのは異なるわけですので,私なんかですと1か月も拘束されたらつらいなと思いますけれども。しかし,先ほども言いましたけれども,この裁判員制度の制度趣旨から考えると,そう例外があっては困るというのは,正にそのとおりだと思います。それを裏返しにすれば,やはり一定程度の負担というのは,これはもう裁判員の方々に受忍してもらわざるを得ないんだという,そういうふうに考えざるを得ないんだと思います。結局この問題は,制度趣旨の実現という観点から,どこまでの負担をしていただくのが相当かという,非常に制度政策的な議論に近いのかなというような気がいたします。  そうすると,一つはやはりこの5年間の実情,実績といったものを基に考えるのがよいのではないかと思います。この5年間で職務従事期間が最も長かったのは,先ほど御紹介がありましたようにさいたまの連続殺人事件で,これが100日,約3か月というものでした。これに次ぐのが鳥取の連続強盗殺人事件,これが75日,約2か月半。このぐらいの長さの期間のものについては現に裁判員裁判を行った,言い方を変えれば負担を我慢していただいたというか受忍していただいたという,制度を運営していく上での現実があるわけであります。こういった現実を踏まえれば,この程度の期間のものについては負担の許容範囲と考えていくのが相当なのかなと思います。  こういった実績を踏まえて,では一般の国民の方にどこまで受忍していただくのかといった,そういった負担の限界みたいなものを考えた場合に,やはり,これは別に裏付けのある話ではない,ある意味直感的な話ではありますけれども,現状行われている一番長いものの倍程度に及ぶもの,やはりそれは「著しく長期」のものと考えて差し支えないのではないのかなというような,非常に感覚的な議論で申し訳ないんですけれども,やはり半年以上に及ぶものはそこまでの負担をお願いするというのはいかがなものかというような,そういう感じがいたします。  では,そうしたら,この現実に行われた100日から半年の間のもの,これをどう考えるんだということなんでしょうけれども,これはなかなかその線引きが非常に難しいように思われます。許容できる負担と許容できない負担というものが,何かこうグラデーションのような感じでイメージされていくのかなと思います。  そうすると,半年以上というものは,やはりこれは「著しく長期」であるというふうに一応は位置付けられたとして,そこまで満たないものについては個別の審理内容などを踏まえつつ,個々の事件に応じて裁判員の負担感というものを判断していくしかないのではないのかなという,そのような印象でいます。 ○井上部会長 ほかの方,いかがでしょう。  今日の段階では,この程度でよろしいでしょうか。なかなか総括するのが難しいですが,両方の極の外については,除外対象とすべきである,すべきでないという意見がほぼ一致しているのかなと思います。その一方の極は1年というものであり,大体皆さんの感覚では,1年以上掛かるものも裁判員裁判でやるべきだとは思っておられない。もう一つの極は,これまでの最長の100日というもので,それくらいまでなら,何とかできたという実績がありますので,裁判員裁判の対象から除外するのは適切でないと思っておられる。後者については,「裁判員制度に関する検討会」でも同様の意見が多数を占めたところです。問題は,その100日と1年の間のどの辺を「著しく長期」の期間としてイメージするのかということではないかと思います。これについては,半年という方も複数おられました。  しかしまた,今田委員がおっしゃったように,具体的な数字について,例えば,審判期間がある長さに至れば裁判員候補者の辞退率が質的に変化するとか,そういった裏付けになるものがあるかというと,恐らくそういったものを求めても無理かもしれず,グラデーションで濃度が変化していくようなものなので,ここで線引きをするということも難しく,しかも,期間だけで決まるわけでもないところもある。現段階では,そのような留保付きのまとめ方しかできません。  この点については,このぐらいにさせていただいてよろしいでしょうか。  それでは先に進ませていただきます。  本日配布していただいております前田委員の修正案と,前回の会議で前田委員から御提案があった補充裁判員の数を見直すことについて,議論をしたいと思います。  まず,前田委員から,この修正案及び補充裁判員の数の見直しという点について,補足的な御説明を頂ければと思います。 ○前田委員 本日修正案として配布されております内容について,趣旨を御説明いたします。  私は,「裁判員制度に関する検討会」の議論で,一定の事件について除外することに賛成をしておりましたが,その要件をどのように法律で規定するかは立法技術的にも非常に困難だと思いながら議論をしておりました。  要綱(骨子)がこの法制審議会で出されまして,拝見をしましたが,二つ懸念をすることがございました。  一つは,先ほど井上部会長が指摘されましたが,検討会の議論では今までに行われた100日の職務従事期間であった事件などを排除するような考えは全くないという委員が大多数を占めて,取りまとめ報告書にもその趣旨が書き込まれました。そこで,私には今まで行われてきた裁判員裁判事件を除外するような規定になってはいけないという思いがありました。示された要綱(骨子)ですと確かに「著しく長期」であるか「著しく多数」との用語で,その趣旨が示されていることはうかがえるのですが,結局は裁判所の判断ということになってしまいますので,事案によっては今まで行われてきた事案をも排除するという判断が出される可能性もないわけではない。限定をするという意味では,やや抽象的すぎるのではないだろうかということが一つです。  もう一つは,公判前整理手続が終わった時点で裁判体が判断するというのは非常に難しいのではないかということです。最終的には,裁判所が判断して除外する以外にないので裁判所がどこかで裁量を発揮するしかありませんが,公判前整理手続の経過や結果だけで判断することが困難な事案も多数あるのではないかということです。  そこで,さらに一歩段階を進めて,裁判員候補者の呼出しをして,その呼出しの状況を踏まえて,裁判所が判断するのはどうだろうかと提案をしたわけでございます。もちろん,これが絶対であるというふうに提案しているわけではございません。一つの考え方としてあるのではないかと思っています。  そうすると,その局面での総体的な裁判員候補者の考え方も示されますし,裁判所が自分の感覚だけで判断したとも言われないのではないだろうかと思います。想定しているのが極めて例外的な事例ですので,事例が蓄積されることはないのかもしれませんが,裁判員選任の際の裁判員候補者がなかなか集まらないような状況を見た上で,その集まらないことになる具体的な目安の数字などが出てくるようなことがあれば,その段階で先ほどの議論にあった,人数や期間などを明示して法制化することもあり得るのではないだろうかと。そういう意味では一つの試み的な案として,裁判員選任手続まで見た上で裁判所が判断する構造はあり得るのではないかと,提案をしている次第です。  それから,補充裁判員のことは,私も思い付き的だと前回申し上げましたが,その後なかなか考えがまとまりませんで,ここで改めて提案する内容がございません。一応留保させていただきたいと思っております。 ○井上部会長 ただいまの御説明につきまして,まず御質問等がございましたら御発言願います。  特にないようですので,中身に入りたいと思います。まず,要綱(骨子)を作成した事務当局として,どのようにお考えかを,御説明していただけますか。 ○東山幹事 前田委員から具体的な修文案が示された点につきまして,まず事務当局の見解を御説明させていただきます。  まず,1点目として要綱(骨子)第一の一の柱書きで,「裁判官の合議体で取り扱う決定をしなければならない」としている点について,「取り扱う決定をすることができる」に修正すべきとの御意見について,事務当局の見解を述べます。  この御意見は,つまり要綱(骨子)第一の一の1又は2に定める要件に該当する場合においても,地方裁判所としては裁判員裁判からの除外決定をしないことも選択できるということになろうかと思います。これに対し,要綱(骨子)では,要綱(骨子)第一の一の1又は2に定める要件に該当する場合には,地方裁判所は必要的に除外決定をするものとしているわけでございますが,これは審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたることなどから,必要な員数の裁判員等を選任することが困難であると認められるような場合には,裁判員の負担が過重となり,あるいは過重となることが見込まれているものと考えられておりますが,そのような状況においてなお,地方裁判所において除外決定をしないという裁量を残すことは適当ではないと考えたものです。  また,裁判員等が畏怖する場合について例外的に裁判員裁判から除外する旨を定める裁判員法第3条においても,要件に該当する場合には地方裁判所は必要的に除外決定をすることとされていることとの平(ひょう)仄(そく)の問題も考慮したということによるものでございます。  それから,2点目として,要綱(骨子)第一の一の1では「選任することが困難な状況にあるとき」とし,第一の一の2では「選任することが困難であるとき」としている点につきまして,いずれも「選任することができないとき」に修正するとの御意見について申し上げます。  この修文の趣旨は,いわゆる規定の明確化によると思われますが,例えば当該地方裁判所の管轄区域内に住所を有する衆議院議員の選挙権を有する方,全てを呼び出してもおよそ裁判員等への選任ができなかったときを指すのか,あるいは裁判員等選任手続を1回行ったものの必要な員数の裁判員等が選任できなかったときを指すのか,要するにどのような場合を指すのかというのが必ずしもこの文言では定かではないのではないでしょうか。そのため,結局のところ選任が困難とすることと実際上の違いはそれほどないのではないかと思われます。  この点,仮に1回又は複数回の裁判員等選任手続を行うことを条件とし,その結果必要な員数の裁判員等を選任できないという意味であるならば,実施するべき選任手続の回数を何回とすべきかという問題が生じますし,それを何回と定めたとしても,例えば1回ごとに呼び出すべき候補者の数の多少により,決められた回数の裁判員等選任手続で必要な員数の裁判員等を選任できる場合とできない場合が分かれることもあり得ることになりまして,結局それが適切かという問題も残るのではないかと考えます。  また,3点目としまして,要綱(骨子)第一の一の1及び2について,いずれも一度は裁判員候補者を呼び出し,裁判員等選任手続を行うことを要件としてはどうかとの御意見につきましてですが,除外決定を行う前には必ず裁判員候補者を呼び出し,裁判員等選任手続を行うことといたしますと,事案の性質や経験則の集積状況等に照らし,およそ必要な員数の裁判員等が選任できないことが十分に予測される場合であっても,必ず裁判員等選任手続に裁判員候補者を呼び出さなければならないということになりますので,そのような制度としなければならない合理性があるのかという問題があるように思われます。  特に,要綱(骨子)第一の一の2の場合につきましては,一度裁判員が不足する状態が既に生じておりながら,それでもなお,必ず裁判員等選任手続を行うということとなりますが,そのような手続を必ず踏まなければならないとすることを合理的に根拠付けることは相当困難なのではないかと思われます。  なお,これは具体的な修文案として前田委員が提示されているわけではございませんが,この今回の前田委員提出資料の2枚目の上段の米印のところに書かれております,呼び出すべき裁判員候補者の員数や行うべき裁判員等選任手続の回数を,選任することができないときの要件に付加するとの御意見についても,念のため申し上げます。まず,そもそも具体的な裁判員候補者の員数や裁判員等選任手続の回数を要件とする場合,その員数や回数をどのように定めるべきなのかという問題があると思われます。また,裁判員法上,呼び出すべき裁判員候補者の員数や裁判員等選任手続の回数には具体的な基準はありませんから,結局のところ地方裁判所の判断次第で要件の成否を左右し得ることになるのではないかという問題が残るところでございます。  続きまして,前回会議において前田委員から御提案のありました,補充裁判員の員数を見直し,裁判員の員数よりも多く,今で言いますと6名を超える裁判員を選任できるものとしてはどうかという点についてでありますが,この点については事務当局としては適切ではないものと考えております。  まず,裁判員法第10条第1項ただし書は,補充裁判員の員数は合議体を構成する裁判員の員数を超えることはできないとしております。これは,余りに多くの補充裁判員を置くことができるのも適当ではないことから,補充裁判官に関する裁判所法第78条ただし書に倣って規定されたものでございます。そのような裁判所法の規定に鑑み,補充裁判員の員数を制限した趣旨に照らしますと,補充裁判員の員数を裁判員の員数を超えるものとすることには相当強い必要性,合理性が求められるのではないかと考えます。  また,具体的に考えますと,例えば選任できる補充裁判員を10名程度とした場合には,要綱(骨子)第一の規定が適用される事案は審判期間が著しく長期にわたるような場合でありますため,依然として裁判員等の追加選任と更新手続の繰り返しといったような事態に陥るおそれが存在し得,問題の解決としては十分ではないものと考えられます。他方,選任できる補充裁判員を例えば数十名規模の多人数とした場合には,要綱(骨子)第一の規定が適用される事案は裁判員等にとって負担が非常に大きい事案でありますところ,そもそもそのような多数の補充裁判員の選任自体が極めて困難ではないかということに加えて,そのように最終的に裁判員に追加選任されるかどうかもよく分からない,判然としない,なおかつその職務の内容も限られる,そういった補充裁判員の方として国民を多数選任することは,国民の負担という観点から適切かという問題があるのではないかと考えております。  長くなりましたが,事務当局からは以上でございます ○井上部会長 それでは,前田委員の御説明及び今の事務当局の考え方をも踏まえて,御議論いただきたいと思います。 ○前田委員 ただいま私の趣旨をそのとおりに御説明いただいたと思いますが,まず,「決定することができるものとすること」として,確かに「決定をしなければならない」という現行法とは違う形で規定をしましたのは,なお裁判所の裁量によって裁判員裁判として実施する余地を幾らかでも残すという意図でございます。ただ,結果的には余り変わらないので,表現としては「決定をしなければならない」ということで構わないとは考えております。  「困難である」というのを「できないとき」としたのは,程度を配慮したということです。「困難」ではなくて「できない」という段階,そこにも裁量が働くわけですが,結果的には同じではないかと言われると現実にはそうかもしれません。一応表現ぶりとしては「困難」よりも「できない」ということで限定したと,そういう意味合いを持たせています。  また,2の一度裁判員を選任した後に生じた事態について,更に呼出し状況を見てというのは,確かにおっしゃるとおりでありまして,ここは私自身も再考していいのかなと思います。ただ,1の方は,少なくとも1回は呼出しをする必要があるだろうと考えておりますので,それを踏まえた御議論を頂ければと思います。 ○井上部会長 分かりました。  今,前田委員から補充的な御説明がありましたが,それも踏まえて御意見を頂きたいと思います。 ○合田委員 この前田委員の御提案なのですが,これをもし実際にやるとなると,裁判所としては,これを運用していくのがなかなかつらいなというところがございます。  一つは,この「することができるものとする」ということですね。決定を要綱(骨子)と違って裁量的にするということなのですが,裁量的になると,当然のことながら裁量判断の要素は何なのかということを裁判所としてはどう考えるのかという問題に直面して,その点についての考えを前提に判断をしていくということになるのですが,その際,こういう格好で規定されても文字に書いてあるのはこれだけなので,裁量判断の要素が何かということが適切に理解できないのではないかと,そういう疑問があります。  特に,今回の修文案をそのままセットで要綱(骨子)の修正に反映させるいうことに仮になったとしますと,例えば,要綱(骨子)第一の一の1のところでは今お話があった最終的に選任ができないということになるのですが,そうすると集めてみても選任できなかったという事実があるのに,それでも裁量でまだ裁判員でやっていくというのはどういう場合なのかというようなことなどを考えますと,そこの結論が分かれてくる裁量判断の要素は何なのかというのがよく分からなくなってしまうと,そういう点があろうかと思うんですね。  それから,もう1点,要綱(骨子)第一の一の1と2に共通して呼出しをするんだということなんですけれども,この点につきましても,先ほど前田委員がそもそも前提とおっしゃったように,これが適用される事件は今のところは我々は経験していないということなわけです。したがいまして,前例もないと,それから恐らくたくさん事例が蓄積されていくということでも多分ないだろう,少なくとも期待はできないだろうということであります。そうしますと,選任に関して呼出し人数とか辞退率を具体的に検討して該当性を判断しなければならないといったような要件の規定になりますと,判断が極めて困難になるのではないかという疑問がございます。  これでいきますと,「選任することができない」という表現がございますが,そういうためには相当多数の候補者を呼び出しても選任手続に必要な人数が集まらなかったという状況が認められることが必要であろうと思われます。このうち後者の選任手続に必要な人数というのは,これは選ぶ人数,裁判員と補充裁判員の人数と,理由なし不選任請求が可能な数ということで,最低限これだけ残らなければいかんという数は,これは法律上出てくるわけでございますし,基準を立てることは可能だろうと思うんですけれども,相当多数の候補者を呼び出してという部分で,それが一体どれだけ呼び出せばきちんとやったことになるのかという点につきましては,先ほど述べましたように長い事件について前例がないので辞退率を実証的に予測するということが困難であります。したがいまして,「呼び出しても」というところを尽くしたというのが,どういう場合に尽くしたと言っていいのかというところが我々が判断しにくいということになるわけでありまして,つまり具体的な基準をイメージすることが極めて難しいというわけでございます。  したがいまして,この形で要件を適切に運営していくということは,なかなか難しいかなというのが拝見しての意見でございます。  以上でございます。 ○大澤委員 まず,前田委員提出資料の1(1)のところに書いてある「することができるものとする」というところですけれども,取りあえずここの部分だけを取り出して考えてみると,恐らく「困難な状況にあるとき」という要件を厳格に解すれば「しなければならない」という帰結になってもおかしくないでしょうし,逆に「することができる」ということになると「困難な状況にある」という要件の中身がむしろ緩まることになってきはしないだろうかということが,一つ問題ではないかと思います。  また,前田委員は,先ほど合田委員が指摘されましたように,要綱(骨子)第一の一の1の要件については「選任することが困難な状況」ではなくて「選任することができない」というふうにむしろ厳しくされようとしておられるわけですけれども,「できない」と厳格化しつつ,それでもなお裁判員裁判でやる余地を残すような書き方になる点で不整合があることは,今,合田委員が言われたとおりではないかと思います。  それから前田委員提出資料の1(2)以下の部分ですけれども,実際に候補者を呼び出してみて,それで選任できない状況にあるということを要求するということで,その御趣旨としては,とにかくやってみて実際に「できない」という結果があるときに限るという形にすることとともに,ペーパーを拝見しますと,国民の意向を尊重するような制度設計にする,要するに候補者の意見を聴けるようにするということが,もう一つの狙いとなっているということなのではないかと思うわけですが,裁判員候補者を呼び出して裁判員の選任をするのは,事件を担当する受訴裁判所である一方で,この修正案でも除外決定をするのは,審理を担当する受訴裁判所ではないということでありますので,意見の聴き方というものを実際にどのようにしていくのだろうかということも一つ問題になるかという気がいたしました。 ○小木曽委員 提出なされましたこの資料にある変更を求める理由,それから要綱(骨子)で示された条項の問題点という点についての感想でありますけれども,この変更を求める理由の中に,平成23年の大法廷判決を引用しておられますが,その判決が裁判員制度は参政権と同じような権限を国民に与えたものであるという判示をしているという部分が引用されておりますけれども,これは上告趣意が裁判員になることが苦役である,憲法の18条ですか,苦役であるという主張に対して,いや,苦役ではなくてこれはむしろ国民の政治参加と同様に司法参加という趣旨で設けられたものであるという文脈で述べられたもので,参政権というのは国民の権利として保障されたものと理解されておりますけれども,これは再三出ておりますように,裁判員になることというのは権利として保障されたものではないということですので,この大法廷判決が御提案の理論的な背景になるのだろうかということは若干,私は疑問ではないかと思います。  それから,要綱(骨子)の疑問点というところですけれども,前田委員提出資料の2(4)イのところで,結局その法曹三者のみの判断で裁判員裁判の対象事件を除外することになってしまう,そういう国民の批判を生みかねないというふうにありますけれども,それについてここで議論をし,それが法律になる過程でまた,主権者の代表である議会がそれについて議論をするということで方針が示されれば,それについてその国民の意向を離れて法曹三者だけが勝手に裁判員で本来やるべきものをしないことにするという批判は当たらないのではないだろうかと思います。 ○前田委員 先ほど申し上げましたが,最初の「決定をすることができる」は,「決定をしなければならない」でも一向に構わないと私は考えております。また,「できないとき」と「困難」というのは程度の違いをちょっと意識した表現ぶりを用いたものです。私の提出資料1(3)の修正案に関しましては,必ずしも要綱(骨子)第一の一の1ほどにこだわりはありません。一応,手続を一致させたという趣旨でございます。  大澤委員がおっしゃったとおり,「できないとき」としながら「することができる」というのはどういうケースが考えられるかと,確かに御指摘のとおりですので,特にこの点のこだわりはございません。  小木曽委員の御指摘の点は,要するに例外的な事例でなければならないというニュアンスを出す趣旨で記載したものです。この判決により何らかの権利性が付与されたと私自身が理解しているわけではございませんが,このような判決があったことも踏まえると,例外として除外する事件は極力限定的でなければならないという,そういう意味合いで引用しているものでございます。  それから,最後に小木曽委員が御指摘された点は,前回も議論がありましたが,今田委員の御指摘されたことを少し意識しています。裁判所あるいは検察官や弁護人だけで裁判員裁判対象事件を除外することについて,国民に対しては,裁判員候補者に対する呼出しをした上で,その呼出しの状況を踏まえて除外の判断をしたのだと,説明が付くのではないかということでございます。  これで裁判所が判断できるかと言われますと,最後は裁判所の裁量によることになるわけですが,主眼はこの要綱(骨子)よりはその判断がしやすくなるのではないかということです。 ○井上部会長 かえって難しくなるという御意見もございましたけれども・・・。  もう一つ,前田委員の方から,前回,呼び出すべき候補者の員数についても言及がありましたけれども,これについて香川幹事から,少し御発言があったように記憶するのですが,いかがですか。 ○前田委員 先ほど米印の箇所について事務当局の方で御説明いただきましたが,これは香川幹事の前回の発言に触発されて入れているということでございます。 ○井上部会長 香川幹事,御発言があればどうぞ。 ○香川幹事 前回,「選任が困難と認められる」という事務当局の要綱(骨子)に対しまして,こういう書き方について,仮に具体的な呼出し人数を判断基準にして考えていくという書き方であるとすると,なかなか難しいなと思いましたので,そこはどういうふうにお考えなのかなという趣旨でお聴きをいたしました。  ただいま,合田委員もおっしゃいましたように,「選任が困難」という要件であれ「選任ができない」という要件であれ,何らかの具体的な呼出し人数を想定した上で,裁判所が要件該当性を判断しろと,こういう規定であるとすると,これはなかなか裁判所としては,では何人呼び出したらいいんだということで困難が生じてしまうということがございます。  もしそういうことをお考えなのであれば,前田委員の案は,裁判所としては難しいと言わざるを得ません。他方で,では事務当局の案はどうなのかと,仮に事務当局の案もそういう人数を想定しているんですというのであれば,これは裁判所としては同じようにちょっと困難ですと言わざるを得なくなってしまうんですけれども,事務当局は別にそういうことは考えていませんというのであれば,そこは大分違うのかなと思うんです。なので,そこをお伺いできればなと思っておりますが。   端的に申し上げますと,事務当局案で言うところの「選任が困難な状況」というのは,事務当局としてはどういう場合を想定されているのか,これをお聴かせいただければと思います。 ○東山幹事 分かりました。それでは御指摘のあった「選任が困難な状況」との要件の具体的な意味について,事務当局の見解を御説明いたします。  要綱(骨子)第一の一の1の,「法第2条第2項に規定する員数の裁判員及び必要な員数の補充裁判員を選任することが困難な状況にあるとき」とは,審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたることなどが原因となって,その期間,裁判員等としての職務を全うすることのできる裁判員等を選任することが困難な状況にあることを意味していると考えております。  具体的には,いずれも当然,審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたることなどを理由といたしまして,まず実際に裁判員等選任手続を開いたけれども,必要な員数の裁判員候補者が出頭しない状況が生じておって,今後も出頭を確保する見通しが立たない場合,あるいは,仮に裁判員等選任手続を行ったとしても,およそ必要な員数の裁判員候補者が出頭せず,必要な員数の裁判員等を選任することが困難なことが見込まれる状況にある場合など,最大12名の裁判員及び補充裁判員を選任することが困難な状況にある場合に加えまして,裁判員等選任手続を行えば必要な員数の裁判員等の選任が一応可能で,何とか公判を開始できたとしても,判決に至るまでの間,裁判員等としての職務を全うすることができる裁判員等を選任することまでは困難なことが見込まれる状況にある場合も含まれるものと考えておるところでございます。 ○上冨委員 基本的な要綱(骨子)の考え方は,今,東山幹事から御説明したとおりですけれども,その中身として具体的に何人呼ばなければいけないとか,具体的に何回選任手続をした結果このような状況に当たるかということを念頭に置いた上で作った要綱(骨子)ではございません。 ○今崎委員 ちょっとお尋ねなのですが,そうすると,この「法第2条第2項に規定する員数の裁判員及び必要な員数の補充裁判員を選任することが困難な状況」という具体的な意味は,言わば具体的な選任手続を念頭に置いて,実際に選任することが無理であると,正しくこの言葉のとおり困難であるということを独立に意味するわけではないと理解していいですか。  言い換えれば,つまり私どもはこれを最初に読んだときに,いや,これだったらそれは名簿に載っかっている人を全員呼べば多分全員そろうよねと,だから選任困難というのはまず生じないのではないかというのが,実は一番最初の疑問だったんです。  そういうことをお考えなのか,むしろポイントは「著しく長期」とか「多数回」というものを言わば修飾する言葉として,選任が困難な程度に長期なもの,あるいは選任が困難な程度に多数回の日を要するものという意味でお使いになっておられるのか,ちょっとそちらがよく分からなかったもので,確かめたいと思って御質問しております。 ○加藤幹事 今の点も,先ほど東山幹事から御説明しておると思うのではございますが,規定の形式としては,今崎委員がおっしゃったように,公判期日等が多数に上ることから裁判員等の選任が困難という,「著しく長期」又は「著しく多数」の要件と,「選任が困難」の要件が並立の関係に立つものというふうに表現はされておるわけです。ただ,審判に要すると見込まれる期間が著しく長期にわたること,あるいは裁判員が出頭しなければならないと見込まれる公判期日若しくは公判準備が著しく多数に上る場合には,少なくとも,判決に至るまでの間その職務を全うできる,そういう方々を選ぶのが困難であろうという,そういう文理関係になっていますので,今崎委員のおっしゃっていただいたように,名簿に載っている方を全員呼べば選任可能であるから選任困難には当たらないという考えでこの要綱(骨子)を作っているわけではないということでございます。 ○今崎委員 もしそうなのであれば,その理解は私も非常に合理的なような気はしているんですけれども,この最後の「選任することが困難な状況にあるとき」という要件を独立にここに書く必要があるかどうかというのは,ちょっともう一度御検討いただけないでしょうか。私ども,先ほど申しましたように,これ読んだときには,それを独立の意味での,先ほど私が申し上げたような意味があるように解釈してしまったものですから,そういう紛れがある可能性があるのであれば,そういう紛れのないようにならないかということを,ちょっと御検討をお願いできればと思っているんですが。 ○上冨委員 引き続き検討はさせていただきたいと思います。ただ,御指摘のような形で,例えばその選任困難という要件を本当に削ってしまったときに,出来上がった制度としてそれが本当に座りのいいものになるのかということも含めて,改めて検討させていただきたいと思います。 ○井上部会長 そういうことでよろしいですか。  元に戻って,前田委員の御提案についてですけれども,もう一つ,補充裁判員の員数の点についても御提案がありましたが,前田委員は,これについてもそれほどこだわらないということですか。 ○前田委員 そうですね。 ○井上部会長 ほかに,その点を含めて御意見があればどうぞ。 ○前田委員 先ほどの今崎委員のお話しとの関連ですが,私の案で想定しているのは必ずしも名簿を全部使い切れというわけではありません。名簿の使い方は裁判所の裁量の働くところで,名簿を使い切ってできるということであれば,それはそれで裁判所の判断でやったらいいのではありませんかと,そういう趣旨は含まれてはいます。 ○井上部会長 そうなると,裁判所にとって,余計,難題になるかもしれません。当該事件だけであればいいかもしれませんが,ほかにも裁判員裁判の対象事件がありますから,一つの事件で候補者名簿を使い切ってしまうというのは問題かもしれません。 ○前田委員 ですから,それについては,候補者名簿を使い切れとは言いません。 ○今崎委員 候補者名簿を使い切れと言っていただければ,こちらとしては有り難いということになります。裁判所にどういう行為を求めているのかがなるべく明確になるようにしていただきたいということになりますので,むしろ名簿を使い切るというのが一つの立法者意思なのであれば,それはそれに従ってやるわけですが,使い切るか,使い切らないかは裁判所で判断してくださいということであれば,それはではどういう基準に基づいて判断するんですかということに,また元に戻ってきてしまうので,同じ議論になってしまいます。 ○二瓶幹事 前田委員の案でございますけれども,恐らく,どこまで裁判所がやれば選任できないと言えるのかというところについては,多分抽象的な部分が残っているんだとは思います。全部名簿を使い切れということであればはっきりするのかもしれませんが,それが現実的なことかということもあろうかとは思います。  また,今の事務当局提案の要綱(骨子)でも,やはり抽象的な部分が残っていることは委員,幹事の皆様の多くの御見解だとは思っておりますけれども,要は「著しく長期」,「著しく多数」というところの意味を結局明確にしようということで,今回前田委員も御提案を頂いたと思っているんですけれども,そこの明確化をどういうふうにしていくのかということを,今後の裁判所の運用も含めて,できれば議論をしていくべきだと思っておりまして,なかなか今日の御議論を聴いていると「著しく長期」,「著しく多数」というところを明確化するという方向での議論がまだまだちょっと煮詰まってはいないのかなという印象でございます。感想で恐縮ですが,そういう感想を持ちました。  それから,補充裁判員の件につきましては,人数の問題ですけれども,やはり法廷の構成ですとか意見の聴取とか,そういった運用上の問題点が,私どもそういった評議にはもちろん立ち会っておりませんけれども,あるのかなという,そういったことを考えておりまして,そちらの方向での検討もする必要があるのかなと思っております。  以上です。 ○大澤委員 補充裁判員の件ですけれども,できるだけ裁判員が参加した裁判体でやるということだけ考えれば,補充裁判員の枠を増やすというのはそれなりに合理的なことかと思いますが,おっしゃられたような法廷をどうするのかとか評議室をどうするのかというような問題があるとともに,やはり国民の負担という視点で考えたときに,よりたくさん国民に大きな負担を強いることになる話でもありますので,そこのところも踏まえておく必要があるかと思います。 ○井上部会長 諸外国の例でも,正規の陪審員とか参審員の員数を超えた補充員を選ぶというのは,私自身聞いたことがありません。そういうバランスの問題もあるのかなという感じもします。  ほかに御意見ございませんでしょうか。前田委員としても,御趣旨としては,先ほど二瓶幹事が言われたように,要件を明確化するため,試案を出されたということであり,そのうちのかなりの部分についてはこだわらないということでした。ほかの委員・幹事の間でも消極意見が多かったと思います。1点だけ前田委員がこだわられた,とにかく一応,裁判員候補者を呼び出して選任手続をやってみるという点についても,積極的にそれをサポートする意見は余り出なかったように思います。  ただ,宿題として,先ほどの今崎委員の発言に対して,事務当局の方でもなお検討をするということですので,そういうことを含みとして,一応今日の議論はこのぐらいで締めくくりたいと思います。  そのほか,この要綱(骨子)第一について,これまでに出された以外の論点について,もし御意見等がありましたらお伺いしたいと思いますけれども。  よろしいですか。  それでは,要綱(骨子)第一についての議論は,このぐらいにさせていただきます。  幾つか宿題がありましたので,これは事務当局で検討して,できれば次回の会議にその検討結果を出していただくことにさせていただきたいと思います。  それでは,本日はここまでとさせていただきます。  次回の審議ですけれども,今,確認しました事務当局に検討をお願いした点について,事務当局のお考えを示していただいて,それに基づいて更に審議を行うということにしたいと思います。  次回以降の部会の日時,場所等について,御説明をお願いします。 ○東山幹事 次回の第4回会議は,平成26年5月22日木曜日の午後2時から,念のため時間を頂きまして午後5時頃までの予定とさせていただきたいと存じます。場所につきましては,現在調整中ですので,決まりましてから御連絡を差し上げたいと思います。  第5回会議以降につきましては,現時点で平成26年6月26日木曜日と,7月28日月曜日,これを仮押さえさせていただいておりますけれども,第5回目以降につきましては,今後の会議の進行状況に応じて,追って更に調整させていただきたいと思います。  以上でございます。 ○井上部会長 それでは,特段何か事情の変更がない限り,次回は平成26年5月22日木曜日,午後2時からおおむね午後5時頃までとさせていただきますので,御予定いただければと思います。場所は追って連絡していただきます。  なお,本日の会議につきましては,特に公表に適さない内容にわたるものはなかったと判断されますので,発言者名を明らかにした議事録を公表するということとさせていただきたいと思います。  本日はこれで散会といたします。ありがとうございました。 -了-