法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第26回会議議事録 第1 日 時  平成26年4月30日(水)   自 午後1時34分                         至 午後5時01分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第26回会議を開催いたします。 ○本田部会長 本日も委員の皆様にはお忙しい中御出席いただきまして,ありがとうございます。本日は全員の委員と幹事の方に御出席いただいております。但木委員が若干遅れて御出席されますが,開会させていただくこととします。   本日は,お手元の議事次第のとおり,新たに幹事になられた方の御紹介,配布資料の説明の後,「事務当局試案」の内容について説明を行った上で,これに基づきまして,「取調べの録音・録画制度」についての議論を行うことといたしたいと思います。   まず,最高裁判所における異動に伴いまして,髙橋康明さんがこの部会の幹事を退任され,新たに最高裁判所の香川徹也さんが幹事に任命されました。   香川幹事,一言御挨拶をお願いします。 ○香川幹事 本年4月1日から最高裁刑事局第一課長になりました香川徹也と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○本田部会長 よろしくお願いいたします。   それでは,まず,本日の配布資料につきまして,事務当局から説明をお願いしたいと思います。 ○吉川幹事 御説明いたします。   資料65は,「事務当局試案」でございます。この内容につきましては,後ほど御説明させていただきます。また,資料64の「制度設計に関するたたき台」を再配布させていただきました。さらに,あらかじめ,小坂井幹事から,御発言の際の補助資料として,御意見を記載したメモの御提出がございましたので,配布させていただきました。   配布資料の御説明は以上でございます。 ○本田部会長 前回も申し上げましたとおり,本日の会議からは,「事務当局試案」に基づきまして,最終的な取りまとめに向けた議論を行うことといたしたいと思います。お配りいたしました「事務当局試案」は,時間的な制約もございまして,十分には詰め切れていない部分もあろうかと思いますが,今後,この「事務当局試案」を基に議論しつつ,これを更に改訂し,最終的な取りまとめにしていきたいと考えております。   それでは,まず,「事務当局試案」に記載されている各事項につきまして,これを取り入れた理由,また,その内容等につきまして,事務当局から御説明をお願いしたいと思います。 ○吉川幹事 それでは,「事務当局試案」について御説明いたします。   事務当局といたしましては,これまでの部会における御議論と作業分科会において作成された「制度設計に関するたたき台」を踏まえまして,最終的な取りまとめに向けた一つの案として,お示しの「事務当局試案」を作成いたしました。   ただ今,部会長からも御指摘がございましたが,この「試案」におきましては,事務当局として,いまだ明確な内容をお示しできていない事項もございますし,飽くまで「試案」ですので,当然のことでございますが,各制度の採否を含めて,その具体的内容というものは,今後の部会での御議論の結果によりまして,最終的な取りまとめに向けて,変更・改訂がなされることを前提としたものでございます。   また,事務当局といたしましても,御議論の収れんに向けまして,あるいは技術的な観点から,「試案」の内容について,引き続き検討を行いたいと考えております。   それでは,現時点で「試案」に記載いたしました各制度について,その制度をお示しした理由や,その具体的内容・趣旨を順に御説明いたします。御説明のポイントを記載したペーパーを席上にお配りしておりますので,適宜御参照いただければと存じます。 ○保坂幹事 それでは,まず「取調べの録音・録画制度」について御説明をいたします。「試案」の1ページ以下でございます。   録音・録画制度の基本的な枠組みにつきましては,基本構想において,「録音・録画の有用性を活かす観点からは,政策的に,できる限り広い範囲で録音・録画が実施されるものとする」とともに,「他方で,録音・録画の実施によって取調べや捜査等に大きな支障が生じることのないような制度設計を行う必要がある」とされました。そして,これまで,「一定の例外事由を定めつつ,原則として,被疑者取調べの全過程について録音・録画を義務付ける」,いわゆる「第1」の制度案と,「被疑者取調べの一定の場面について録音・録画を義務付ける」,いわゆる「第2」の制度案の二つの案につきまして,御議論が行われてまいりました。   この「試案」におきましては,これまでの御議論を踏まえて,「第1」の制度案をベースとした案をお示しいたしております。   制度の内容等について御説明をいたします。   まず,「1」におきましては,録音・録画制度の対象事件の公判において,被疑者として身柄拘束中に対象事件について行われた取調べや弁解録取に際して作成された供述調書等の任意性が争われた場合に,検察官に対し,その供述調書等が作成された取調べ等の開始から終了に至るまでの全過程の録音・録画記録の証拠調べ請求を義務付けることといたしております。   また,「2」では,検察官が録音・録画記録の証拠調べ請求義務を果たさなかった場合に,裁判所は,任意性が争われた供述調書等についての検察官による証拠調べ請求を却下しなければならないとしております。   これらの趣旨は,公判において捜査段階の自白調書等の任意性に争いが生じた場合に,客観的な資料に基づく的確な事実認定がなされることを確保するという観点から,裁判所の事実認定のために録音・録画記録が確実に利用できるようにしようというものであります。   これまでの御議論におきましては,録音・録画義務との関係で,その義務違反があった場合に供述調書の証拠能力を否定する規定を設けることに対しては,一般法則との理論的整合性や結論の妥当性に難点があるとされ,取調べ状況の立証・認定を制限する規定を設けることについても,結論の妥当性に問題が生じる旨の指摘がありました。「試案」におきましては,これまでの御議論の趣旨を踏まえつつ,結論の妥当性も維持し得るようにするため,検察官による取調べ状況の立証方法を制限するものとして,検察官に録音・録画記録の証拠調べ請求を義務付けるという案をお示しいたしております。   証拠調べ請求を義務付ける録音・録画記録の範囲につきましては,「試案」においては「当該書面が作成された取調べ等」の全過程を記録したものとしております。これは,その範囲の録音・録画記録であれば,類型的に,自白の任意性判断のための有用性が高く,また,指摘されているような不当な結論も回避できると考えられたためであります。   なお,「試案」におきましては,この立証方法の制限を,取調べの録音・録画義務に先立って記載しております。これは,録音・録画の効果として指摘されている,取調べの適正確保に資すること,あるいは,供述の任意性・信用性の判断・立証に資することなどは,録音・録画すること自体から直ちに生じるものではなく,事後的に記録内容が吟味され得ることを前提とするものでありますから,取調べ状況の立証方法を制限することとするのであれば,裁判所が録音・録画記録を利用できることを直接的に担保する仕組みとして,まず立証方法の制限を記載した上で,録音・録画義務について記載するというのが合理的と考えたからでございます。   次に,「3」におきましては,検察官の録音・録画記録の証拠調べ請求義務の適用除外事由を記載しており,「5」の(一)から(四)までに記載されている録音・録画義務の例外事由に該当するため録音・録画が実施されなかったことその他やむを得ない事情により,証拠調べ請求義務の対象となる録音・録画記録が存在しない場合には,先ほど申し上げた「1」及び「2」の立証方法の制限の規定は適用しないということにしております。   次に,「5」でございますが,これは,捜査機関に対し,身柄拘束中の被疑者を対象事件について取り調べる場合に,原則として,取調べの全過程の録音・録画をしておかなければならないことを義務付けるものであります。   (一)から(四)までは,録音・録画義務の例外事由でございまして,このうち(一)から(三)までの例外事由は,「たたき台」において掲げられていた例外事由と同じ趣旨でございまして,それぞれ,外部的要因により録音・録画の実施が困難な場合,一定の事情があることにより録音・録画の下では被疑者が十分な供述ができないおそれがあると認められる場合を例外とするものであります。   このうち(二)の例外事由は,被疑者が録音・録画を拒否する意思を明示したこと等の事情から,録音・録画の下では被疑者が十分な供述ができないと認められる場合を例外とするものであります。「たたき台」に掲げられていた「被疑者が記録を拒んだことその他の事情」という文言を「被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動」というふうに改めることによりまして,「記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができない」か否かの認定が外部に現れた根拠に基づいて行われるべきことをより明確にいたしました。   また,(四)の例外事由は,暴力団事件につきましては,(二)や(三)のように取調べごとに録音・録画の実施・不実施を判断する形の例外では,取調べや捜査への支障が生じないようにする例外事由として機能しにくいとの御意見を踏まえまして,暴力団犯罪に実効的に対処するという観点から,指定暴力団の構成員による犯罪に係る事件であることを,(二)や(三)を補充する例外事由とするものであります。   最後に,録音・録画制度の対象事件につきましては,これまでの議論において,大別して,裁判員制度対象事件を対象事件とすべきとの御意見と,裁判員制度対象事件に加えて,それ以外の全身柄事件における検察官の取調べも対象に含めるべきとの御意見が示されているところでございますが,なお意見に隔たりがあり,一定の方向性が得られていない状況にありますことから,事務当局としては,ひとまず,この「試案」におきましては,「A案」,「B案」という形で,両案を併記しているところでございます。 ○吉川幹事 次に,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」,「捜査・公判協力型協議・合意制度」,「刑事免責制度」について御説明いたします。   まず,「試案」3ページの「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」を御覧ください。   この制度は,罪を犯した者が,犯罪事実を解明する供述をしたことを実体法上の任意的な刑の減軽事由とするものでありまして,これまでの御議論では,自己の犯罪事実を解明する供述を減軽事由とすることと,他人の犯罪事実を解明する供述を減軽事由とすることの双方が検討されてまいりました。   このような制度につきましては,事案の解明に大きく寄与する供述をした場合に,これを評価することを制度上明確化するということは,刑事司法制度における不公平感を改めて,自発的な供述を動機付けるものであって,採用する意義があるとする御意見が示されました。他方で,特に,他人の犯罪事実を解明する供述を減軽事由とすることについては,当該被告事件の審判対象ではない,他人の犯罪事実についての証拠構造を把握しなければ減軽事由の存否が判断できず,減軽事由の存否が争われた場合には,公判審理に過度の負担が生じるとの強い御懸念が示されました。こうした御議論の状況を踏まえまして,「試案」では,自己の犯罪事実を解明する供述を減軽事由とする制度のみをお示ししています。   この制度の内容は,「たたき台」に記載されていたものと同じであり,事案の解明に対する寄与の程度が高い供述に刑の減軽を認めるとの観点から要件を定めております。   次に,「試案」4ページの「捜査・公判協力型協議・合意制度」を御覧ください。   この制度は,検察官が,被疑者・被告人との間で,被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするための供述等をすることと引き換えに,検察官がその協力を考慮した処分等を行うことに合意できることとし,その合意に基づく証拠収集を可能とする制度でございます。   この制度について,これまでの御議論では,取調べ及び供述調書への過度の依存を改めて証拠収集手段を多様化するため不可欠な手法であって,組織的な犯罪等を解明するための有効な手段となり得るとの御意見や,弁護人が関与する適正な手続として,捜査機関のみならず被疑者・被告人にとってもメリットがあり,刑事司法制度全体の利益にもつながるなどとの御意見などが示されましたが,他方で,制度の内容にも関わる御懸念も一定程度示されました。   そこで,「試案」におきましては,これら御懸念をも踏まえた案をお示ししているところでございます。   「試案」でお示ししている制度の基本的な内容は,「たたき台」にのっとったものであり,現段階で可能な限り,制度の細部についても具体的にお示ししております。そして,これから申し上げる点については,「たたき台」の内容に新たに加えております。   まず,この制度につきましては,これまでの御議論において,企業が関わる犯罪や経済犯罪,組織的な犯罪等については有効な捜査手段となり得るとの御意見があった一方で,被害者を始めとする国民の感情を考えると,被害者がいないか,あるいは,必要性が高い事件に限定するべきであるとの御意見がありましたし,対象事件の範囲にも関連するものとして,合意違反をめぐる争いが生じた場合の手続の負担を懸念する御意見もございました。そこで,本制度の対象事件につきましては,「試案」の4ページの下の「2」から5ページにかけて記載したとおり,基本的に,一定の財政経済犯罪と薬物・銃器犯罪に限定することとしております。   次に,この制度による合意及びそれに向けた協議は,検察官の訴追裁量権等の権限に基づくものでありまして,それゆえ,「たたき台」でもその主体が検察官に限定されておりました。もっとも,これに対しては,第一次捜査機関による捜査への悪影響を懸念する御意見や,多くの事件が第一次捜査機関が第一次的な捜査を行う事件であることからすると,第一次捜査機関が関与できる仕組みが必要であるとの御意見がございました。そこで,「試案」の5ページ目の「7」に記載しましたとおり,一定の事件については,検察官と司法警察員とがあらかじめ協議をした上で本制度が利用されるような仕組みを設けることとし,また,6ページの「8」に記載しましたとおり,一定の事件については,検察官は,司法警察員に,被疑者側との協議における必要な行為をさせることができることとしております。   次に,「試案」9ページの「刑事免責制度」を御覧ください。   この制度は,裁判所の免責決定により,証人に対して証言についての派生使用免責を付与するとともに,刑事訴訟法第146条の規定にかかわらず,証言を拒絶できないとの条件の下で証人尋問を行うこととするものでございます。   これまでの御議論では,制度の在り方については,おおむね認識の共有がなされ,採否についても,充実した公判審理を実現可能とするために有効な制度であるとの御意見など,この制度を導入することに積極的な御意見が多く示されました。他方で,併せて検討されてきました第1回公判期日前の証人尋問の拡充につきましては,その要件が不明確であるなど,これに消極的な意見が多く示されたところでございます。   そこで,このような御議論の状況を踏まえ,「試案」におきましては,「たたき台」に記載されていた,「第1回公判前の証人尋問の拡充」という事項を除いて,刑事免責制度をお示ししております。   制度の内容は,「たたき台」の制度概要に記載されていたものと同様でございます。まず,この「試案」に記載されています「一1」では,検察官が証人尋問を請求するに当たり,尋問すべき事項に,証人が刑事訴追を受け,又は有罪判決を受けるおそれのある事項が含まれる場合に,また,「二1」では,証人尋問の開始後に,証人が刑事訴訟法第146条の規定により証言を拒絶した場合に,それぞれ,検察官が裁判所に対して免責決定を請求できることとしております。そして,「一2」及び「二2」では,このような請求を受けた裁判所は,請求の形式的な要件該当性,すなわち,「尋問すべき事項に,証人が刑事訴追を受け,又は有罪判決を受けるおそれがある事項が含まれる」こと,又は「証人が刑事訴訟法第146条の規定により証言を拒絶した」ことの審査のみを行って免責決定するものとしています。 ○久田幹事 次に,「通信傍受の合理化・効率化,会話傍受」について御説明します。   「試案」10ページ以下を御覧ください。   まず,「一」の対象犯罪の拡大については,新たに追加する対象犯罪を別表第二に掲げることとしています。   どのような罪を対象犯罪に追加するかについては,「組織を背景とした犯罪」,「暴力団関連犯罪」,「テロ関連犯罪等」が提案され,様々な御意見が示されたところですが,その中で現住建造物等放火,殺人,傷害・傷害致死,爆発物使用については,いずれも人命に関わる重大な犯罪である上,特に九州北部において,暴力団によるものと見られる一般国民を標的としたこれらの罪名に係る事案が相次いで発生していること,逮捕・監禁,略取・誘拐についても,人命に関わる重大な犯罪である上,組織的に行われる事案が発生していること,窃盗,強盗・強盗致死傷については,外国人グループ等による組織窃盗の事案が後を絶たないこと,詐欺,電子計算機使用詐欺,恐喝については,いわゆる振り込め詐欺等による被害が極めて深刻な状況にあること,不特定多数の者に対する児童ポルノの提供等については,被害児童に重大な悪影響を及ぼす悪質な犯行である上,営利目的等により組織的に行われる事案が存在すること,などが指摘できる上,いずれについても,組織的に行われる事案においては,背後関係を含めた事案の解明に困難を来す場合が多く,これらの罪を対象犯罪に追加することの必要性・有用性は高いと考えられます。   そこで,「試案」においては,これらの罪を対象犯罪に追加することとしたものです。   そして,新たに追加する対象犯罪については,現行法上の要件だけでは通信傍受が必要以上に広範に行われるおそれがあるとの御懸念が示されていることなどを踏まえ,傍受を実施できる場合を限定するため,「1」から「3」までの各ただし書に記載する要件を付加することとしました。これにより,新たに追加する対象犯罪については,「人の結合体」により行われたものであること,その「人の結合体」が「役割の分担に従って行動する」人によって構成されるものであること,その役割が「あらかじめ定められた」ものであることにつき,それぞれ「疑うに足りる状況がある」ことを要することになります。   なお,組織的犯罪処罰法第2条第1項の「組織」を要件とするべきであるとの御意見や,同法第3条第1項の団体性の要件を必要とすべきであるとの御意見がありましたが,これに対しては,多様な形態のものが存する組織犯罪のうち,限られた形態のものについてしか傍受を実施できないことになり,本来傍受の対象となるべき組織的な事案が対象から除外されることになるという御意見があったこと,また,犯行主体が暴力団組員であることを要件とすべきであるとの御意見もありましたが,これに対しては,暴力団組員であるか否かによって通信傍受の必要性・有用性に差異が生じるものではなく,これを要件とすることの合理性が説明困難であるとの御意見があったことなどから,今申し上げたような要件が適当ではないかと考えたものです。   次に,「二」と「三」の「手続の合理化・効率化」については,「たたき台」とは若干構成を変えており,「二」において,特定装置を用いることにより立会い・封印を伴うことなく傍受を行う方法についてまとめて記載することとして,その中で,通信の聴取等をリアルタイムで行う場合と事後的に行う場合の両方の手順を記載し,「三」において,通信事業者等の施設で通信の内容を一旦記録した上で事後的に聴取等を行う方法について記載しています。   「二1」においては,まず(一)として,特定装置を用いつつ聴取等をリアルタイムで行う場合の手順を記載しています。特定装置を用いて聴取等を事後的に行う場合については,(二)に記載したように,「(一)ロ」の部分を「(二)イからハ」までに置き換えて実施することになります。(一)の「イ」と「ハ」の部分は,聴取等を事後的に行う場合も同様です。   次に,「2」については,これらの方法は,特定装置の使用を含む一定の技術的条件が満たされる場合に採ることができるものであることから,裁判官の審査を経て,傍受令状に当該方法による傍受ができる旨の記載がなされた場合にとり得ることとしています。   「3」は,暗号化・復号化に必要な鍵について記載したものであり,(一)においては,鍵は,裁判所の職員が作成することとしています。また,(二)は鍵の配付について記載したものです。なお,捜査機関が保持する鍵については,傍受の原記録の改変防止のため,傍受の原記録の復号化に用いることができない技術的措置を講じることを必要としています。そして,暗号化された傍受の原記録については,改変が不能になることから,「4」において,傍受の実施の終了後に遅滞なく提出すれば足りることとしています。   次に,「三」の通信事業者等の施設で通信の内容を一旦記録した上で事後的に聴取等を行う方法については,正規の手続により事後聴取等を行うまで記録内容が認識不能な状態に置かれることをより確実に担保するため,「たたき台」には記載されていませんでしたが,通信内容を一旦記録する際に暗号化の措置を要することとしています。その具体的な方法は「1」に記載したとおりであり,記録された通信の内容を捜査機関が知るためには,(二)に記載したように,通信事業者等がその保持する鍵を用いて復号化することが必要であり,かつ,その再生には通信事業者等が立ち会うことになります。また,一旦記録した内容は,その再生終了後に通信事業者等によって直ちに消去されることになります。「2」に記載したとおり,この方法についても,傍受令状の発付の際に司法審査を経ることになりますし,また,「3」に記載したとおり,暗号化・復号化に必要な鍵は,裁判所の職員が作成することとしています。傍受の原記録については,現行法の下での傍受の場合と同様,立会人による封印を経た上で,その都度遅滞なく提出することになります。   なお,会話傍受については,今回の「試案」ではお示ししておりません。会話傍受については,制度を導入することの必要性があり,プライバシーに対する制約の程度も限定できるとの御意見が示された一方で,「たたき台」に記載された制度案の内容では,プライバシーに対する制約の程度が大きいものとなりかねないとの御懸念も示されました。このような御議論の状況を踏まえ,会話傍受については,「試案」ではお示ししておりません。 ○保坂幹事 続きまして,「身柄拘束に関する判断の在り方についての規定」について御説明をいたします。「試案」の14ページでございます。   当部会におきましては,これまで,「被疑者・被告人の身柄拘束の在り方」として,「勾留と在宅の間の中間的な処分」,いわゆる中間処分と,「身柄拘束に関する適正な運用を担保するための指針となるべき規定」,いわゆる指針規定という二つの事項について議論が行われてまいりました。作業分科会におきましては,中間処分に関する議論が進み,「たたき台」として具体化されたところでございますが,想定される対象者の範囲や取調べへの出頭義務の有無など,制度の根幹となる部分について意見の隔たりが依然として非常に大きく,中間処分を制度化することは困難であると思われましたことから,「試案」におきましてはその制度案を記載しておりません。   他方,指針規定につきましては,身柄拘束に関する判断の在り方についての規定を設ける旨の提案があったところであり,事務当局におきましては,これまで,具体的にどのような規定があり得るかについて鋭意検討を行ってまいりました。もっとも,そもそも,前提となる現在の運用についての認識の相違が非常に大きく,どのような現状認識を前提として規定を設けるのかについて,何らかの一致点を見いだすということは困難であると言わざるを得ない状況にございます。   したがいまして,身柄拘束に関する判断の在り方についての規定を設ける場合には,現在の運用についての特定の事実認識を前提としない確認的な規定とするほかないように思われます。その場合には,そのような規定を設ける趣旨は,「現行法の解釈上一般的に認められている身柄拘束に関する判断の在り方を確認的な規定として法律に明記し,国民にも分かりやすい形で示すことが刑事司法に対する国民の信頼という観点からも重要である」といったことなどに求めることになろうかと思われます。事務当局といたしましては,このような規定として,具体的にどのようなものがあり得るかについて,引き続き検討を行いたいと考えているところでございます。 ○久田幹事 次に,「被疑者国選弁護制度の拡充」について御説明します。まず,「試案」の15ページの「5-1」を御覧ください。   被疑者国選弁護制度の対象事件を全ての勾留事件に拡大することにつきましては,これまでの御議論において,捜査段階における弁護人の援助の充実化を図るという趣旨や理論的な面について,特に御異論はありませんでした。また,弁護士の対応態勢については,若干の御異論があったものの,司法過疎地域をも含め十分な対応態勢が整えられることについて,おおむね認識が共有されました。他方で,弁護人報酬が接見回数を主な指標としており,被疑者国選弁護事件数が横ばいの状況にもかかわらず,公費負担の額が年々増加していることなどから,公費負担の合理性を疑問視する御意見や,適正性の担保が十分でないという御意見が示されました。   そこで,このような御議論の状況を踏まえ,「試案」におきましては,被疑者国選弁護制度を全ての勾留事件に拡大することとした上で,これに付記する形で,併せて,同制度における公費支出の合理性・適正性をより担保するための措置が講じられることが必要であるとする案をお示ししています。   次に,「弁護人の選任に係る事項の教示」について御説明します。「試案」15ページの「5-2」を御覧ください。   必要に応じて検討することとされた「逮捕段階において弁護人の援助を得る仕組み」に関しては,弁護人選任権を告知するに当たり,より具体的な教示を行うべき規定を設ける必要があるとの御意見がありました。現行法上,逮捕された被疑者を含め身柄拘束中の被疑者及び被告人は,第78条第1項の規定により,弁護士,弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができるとされていますので,弁護人選任権に係る手続保障をより十全化するため,弁護人選任権を告知する際に,このような選任方法についても教示することが有用と考えられます。   そこで,「試案」においては,司法警察員,検察官,裁判官又は裁判所が,刑事訴訟法の規定により弁護人選任権を告知するに当たっては,第78条第1項の規定による弁護人の選任の申出ができる旨を教示しなければならないものとする案をお示ししています。 ○保坂幹事 続きまして,「証拠開示制度」につきまして御説明をいたします。まず,「試案」の16ページ「6-1 証拠の一覧表の交付制度」を御覧ください。   この制度は,争点及び証拠の整理と関連付けられた現行の証拠開示制度の枠組みを維持することを前提としつつ,被告人側が証拠開示請求をするための「手がかり」として,検察官が保管する証拠の一覧表を交付する制度を設けるというものでございます。   「一」におきましては,交付時期について,証拠開示請求をするための「手がかり」という制度趣旨に照らすと,より早期の交付が望ましいとの御意見に鑑みまして,316条の14の規定による検察官請求証拠の開示後とし,その後,検察官が証拠を新たに保管するに至ったときは,当該証拠の一覧表を追加して交付するというものにしております。   次に,「二1」におきましては,記載事項について,証拠物については品名・数量,供述録取書については標目・作成年月日・供述者の氏名,その他の証拠書類につきましては,標目・作成年月日・作成者の氏名としております。この記載事項につきましては,証拠書類を内容に応じて分類した上で,その書類が対象とする内容に応じた記載事項を定めるものとすべきという御意見もございましたが,そのように証拠の内容についての検察官の評価を伴った記載事項といたしますと,これによって被告人側がミスリードされるおそれや,検察官の判断の当否をめぐる紛争が生じるおそれがあるという御指摘,また,実務上,一義的な分類が困難な証拠も存することから,一覧表の作成に時間を要して手続が遅延するおそれがあるといった御指摘があったことを踏まえまして,検察官による評価や分類の判断を伴わない案としております。   「二2」におきましては,記載事項のうち,一覧表に記載してこれを交付すると弊害が認められる場合には,弊害を生じる事項の記載をしないことができるとする例外を設けております。   次に,「試案」17ページ「6-2 公判前整理手続の請求権」を御覧ください。   この制度は,充実した公判の審理を継続的,計画的かつ迅速に行うため必要があると認める場合に付され得るという現行の整理手続の実体的な要件は維持しつつ,当事者に裁判所に対する整理手続の請求権を設けるというものであります。この制度につきましては,理論的な点で多くの御異論が示されましたが,これを必要であるとする御意見もありまして,更に議論を要するものと考えられましたことから,案としてお示しをいたしております。   なお,請求を却下する決定に対する即時抗告の規定を設けるという案もございましたが,かえって手続が遅延するおそれがあり,また,公判運営に責任を負う受訴裁判所による公判準備の方法についての判断を別の裁判所が覆す仕組みとすることは相当でないとの御意見等に鑑みまして,即時抗告の規定を設けることとはいたしておりません。   次に,「試案」18ページ「6-3 類型証拠開示の対象拡大」を御覧ください。   これまでの御議論におきましては,4つの類型について,具体的な制度の在り方についての御議論が行われてまいりましたが,このうち,「『捜査官が被告人以外の者から聴取した供述を記載した捜査報告書』であって,検察官が直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの」につきましては,原供述者本人がその内容を確認しておらず,供述録取書等と比較して正確性の担保がなく,類型的に重要とは言えない,供述内容が記載された捜査報告書には様々なものが実務上存在していて,その全てが類型的に重要とは言えない一方で,開示の必要性の高いものだけを抜き出して類型化することは困難であるといった御意見等に鑑みまして,「試案」におきましては,それ以外の3つの類型を新たに開示対象として加えるものとしております。   まず,「一 共犯者の取調べ状況等報告書」につきましては,検察官側証人予定者一般ではなく,共犯者につきましては,その身柄拘束中は継続的に被告人との共犯事件についての取調べが行われるということが通常であり,その取調べ状況は,検察官請求の共犯者の供述録取等の信用性を吟味するために類型的に重要であると考えられることから,新たに類型証拠として加えるものとしております。   次に,「二 検察官が取調べを請求した証拠物に係る差押調書又は領置調書」につきましては,検察官が証拠物の取調べを請求した場合において,その証拠物がいつ,どこで押収されたか等が記録されている差押調書等は,証拠物と事件との関連性を示す客観的かつ基本的な資料であり,証拠物の証明力を判断する上で類型的な重要性が存すると言えることから,これを類型証拠として加えるものとしております。   次に,「三 類型証拠として開示すべき証拠物に係る差押調書又は領置調書」につきましては,類型証拠として開示される証拠物によって特定の検察官請求証拠の証明力を判断するに当たって,差押調書等が併せて開示された方が,証拠物による証明力判断に資することがあることから,要件としては,類型証拠として開示される証拠物により特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために差押調書等の開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮して,相当と認めるときとした上で,新たに開示の対象として加えるというものでございます。   次に,「試案」19ページ以下の犯罪被害者等及び証人を支援・保護するための方策の拡充につきまして,御説明をいたします。   まず,「7-1 ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」を御覧ください。   これは,証人の在席場所が被告人等が在席する場所と同一の構内に限られている現行のビデオリンク方式による証人尋問の方式を拡充し,同一構内以外の裁判所の規則で定める場所に証人を出頭させてビデオリンク方式による証人尋問を実施することができるとするものであります。基本的に,「たたき台」と同じ内容でございまして,その対象者は,「1」において,犯罪の性質等に鑑みて,同一構内に出頭するときは精神の平穏が著しく害されるおそれのある証人,「2」において,同一構内に出頭するとしたならば,加害行為や畏怖困惑行為がなされるおそれがある証人,「3」において,遠隔地に居住し,健康状態等の事情により,同一構内に出頭することが著しく困難であると認められる証人としております。   次に,「試案」20ページ以下の「7-2 証人の氏名及び住居の開示に係る措置」を御覧ください。   現行法におきましては,検察官が証人尋問を請求する場合,相手方に対して証人の氏名及び住居を知る機会を与えなければならないとされており,証人に対する加害行為等がなされるおそれがある場合におきましても,弁護人に配慮・秘匿を要請することができるとされているにとどまります。「試案」の制度は,証人等の安全を一層保護し,その負担を緩和するために,一定の要件の下で,被告人側の防御上の利益も考慮の上で,証人の氏名又は住居を開示しないことができるとするものであります。   制度の在り方としては,「たたき台」においては,被告人・弁護人の双方に対して知る機会を与えずに,これらに代わる呼称・連絡先を知る機会を与える,いわゆる代替開示の措置,そして,弁護人に対しては知る機会を与えた上で,被告人に知らせてはならない旨の条件を付するといういわゆる条件付けの措置がそれぞれ「A案」,「B案」という形で記載されておりますが,「試案」におきましては,これらの措置を段階的なものと位置付けて,弁護人に対する条件付けの措置で足りる場合にはこれによることとし,加害行為等を防止するために必要があるときは代替開示の措置を採ることができるとしております。   具体的には,「一 検察官の措置」の「1」において,証人の氏名・住居を知る機会を与えるべき場合について,(一)で条件付けの措置,(二)で代替開示の措置を設け,「2」におきましては,証拠書類又は証拠物を閲覧する機会を与えるべき場合について,同様に二つの措置を設けております。そして,これらの措置は,いずれの場合でも,被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときには行うことができないとしております。   次に,「二 裁判所の裁定」におきましては,まず「1」において,条件付けの措置に不服がある場合の裁定と代替開示の措置に不服がある場合の裁定を設けており,「2」においては,裁判所が決定するときの検察官からの意見聴取,「3」においては,決定に対する即時抗告を設けております。   「四 裁判所における訴訟に関する書類及び証拠物の閲覧制限」におきましては,検察官が条件付けの措置,あるいは代替開示の措置をとった者の氏名・住居が記録等に記載されている場合に,同様の要件の下で,まず「1」においては,弁護人に対する条件付けの措置と,閲覧・謄写制限の措置を設けて,「2」においては,弁護人がいない場合の被告人による公判調書の閲覧を制限する措置を設けております。これらの措置につきましても,被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときには行うことができないとしております。   そして,「五 条件違反に対する処置請求」においては,条件付けの措置の実効性を担保するために,検察官あるいは裁判所が付した条件に弁護人が違反した場合に,それぞれ検察官・裁判所が弁護士会等に処置請求をすることができるとしております。   次に,「試案」の23ページの「7-3 公開の法廷における証人の氏名等の秘匿」につきましては,被害者等以外の証人等についても,公開の法廷でその特定事項が明らかにされることによって,証人等に対する加害行為等がなされるおそれがある場合があることから,一定の要件の下で,公開の法廷でその特定事項を明らかにしないことができるとするものであります。基本的に「たたき台」の内容と同様でございまして,「一 証人等特定事項の秘匿決定等」において,「1」で証人特定事項を公開の法廷で明らかにしない旨の決定ができるものとし,「2」において,秘匿が相当でないと認めるに至ったときは秘匿決定を取り消さなければならないものとしております。   「二」から「四」までにおきましては,秘匿決定があった場合の取扱いとして,被害者等についての秘匿決定と同様に,「起訴状の朗読方法の特例」,「尋問等の制限」,「証拠書類の朗読方法の特例」を設けるものとしております。   なお,これらの事項に併せて検討されてまいりました,「被害者等の捜査段階での供述の録音・録画媒体の公判での活用」という事項につきましては,被害者等の負担軽減に資するという御意見もあった一方で,弁護人の立場からは,主尋問の直後に反対尋問が行えなければ十分な反対尋問を行うことが困難である,あるいは,主尋問を省略することができたとしても,証人は結局反対尋問に応じなければならず,その際に主尋問の内容を一つ一つ確認されることになり得るのであるから,十分な負担軽減となり得るか疑問があるとの御意見が示されました。また,併せて同じく検討されてきた「証人の安全の保護」という事項につきましては,当部会だけで取り扱うことの難しい民事・行政関係等の課題が多いとの御意見が示されました。こうした御議論の状況を踏まえまして,「試案」におきましては,これら二つの事項については記載をいたしておりません。   次に,「試案」24ページ以下の「8 公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」につきまして,まず,「一 証人不出頭等の罪の法定刑」については,召喚を受けた証人の不出頭,証人の宣誓・証言の拒絶の各罪の法定刑を引き上げるというものであり,証人の不出頭等に対しては厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を明らかにし,証人の出頭・証言をできるだけ確保しようとするものでございます。   「試案」の内容は,「たたき台」に記載されたとおりの案としております。   「二 証人の勾引要件」は,公判審理を円滑にするために,勾引の要件を緩和して召喚手続を経ずに勾引できるようにして,併せて,証人を召喚する法的根拠を明確化するための根拠規定を設けようとするものでございます。   「試案」の内容は,「たたき台」に記載されていたものと同じでございます。   「三 犯人蔵匿等,証拠隠滅等,証人等威迫等の罪の法定刑」及び「四 組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等の罪の法定刑」につきましては,刑事手続における事実の適正な解明を妨げる行為について,これまで以上に厳正な対処をもって臨むべき犯罪であるという法的評価を明らかにして,これらの行為を防止するために,刑法における犯人蔵匿等の罪の法定刑を引き上げ,併せて,組織的犯罪処罰法の趣旨に鑑みて,組織的な犯罪に係る犯人蔵匿等の罪の法定刑についても引き上げるというものでございます。   「試案」の内容は,「たたき台」に記載されたとおりとしております。   次に,「五 被告人の虚偽供述等の禁止」について御説明をいたします。   「たたき台」におきましては,被告人の虚偽供述に対して制裁を設ける制度案として,被告人の証人適格を認める制度案が具体化されたところですが,この制度の採否については,積極的な御意見もあった一方で,罰則の制裁があることに委縮して黙秘する被告人が増加することになるのではないかなどといった御懸念が示されました。   他方で,被告人が公判廷で虚偽の事実を述べてはならないこと自体に特段の異論はなく,その上で,公判廷において被告人が事実を述べる場合には,虚偽の事実を述べてはならないことを明らかにする規定を設けることが,公判審理の充実化に資するのではないかといった御意見も示されたところです。   このような御議論の状況を踏まえまして,「試案」におきましては,被告人の証人適格を認める制度案ではなく,罰則は設けないものの,被告人の虚偽の事実の供述を禁止するという案をお示ししております。   制度の内容等につきましては,まず,「1」におきまして,被告人が裁判所の手続において供述する際に,被告人に対して虚偽の事実を供述してはならないとする義務を課することとするものであり,もとより,被告人が訴訟の当事者として述べる意見や主張を制限する趣旨ではなくて,飽くまで,裁判で証拠となる事実関係について被告人が虚偽を述べることを禁止するというものでございます。   「2」におきましては,被告人に虚偽の事実を供述してはならない旨の義務を課す趣旨を全うするために,裁判長が,冒頭手続における被告人に対する権利告知の際等に,これと併せてそれぞれ被告人に対して虚偽の事実を述べてはならない旨を告知しなければならないとするものでございます。   最後になりますが,「自白事件を簡易迅速に処理するための方策」につきまして御説明をいたします。「試案」の25ページでございます。   この検討事項につきましては,これまで,捜査段階の簡易迅速化の措置として,「公訴取消し後の再起訴制限の緩和」,「同意等の撤回の制限」及び「第1回公判期日前の陳述手続」が議論され,また,公判段階の簡易迅速化の措置として,「一定範囲の実刑相当事案を簡易迅速に処理するための新たな手続の創設」が議論されてまいりました。   これらのうち,「公訴取消し後の再起訴制限の緩和」につきましては,こうした制度を設ければ,被告人が将来公判で否認に転じることを見越して念のために行っている捜査を省力化することができ,また,即決裁判手続のより積極的な利用にもつながるため,刑事司法制度全体の効率化にも資するという御意見が示されました。   他方で,「同意等の撤回の制限」及び「第1回公判期日前の陳述手続」につきましては,公判の被告人質問で否認に転ずることを禁止できない以上,実効性が乏しく,被告人側としては同意等の撤回制限のために制度の利用をちゅうちょしてしまうなどとの御懸念が示され,また,「一定範囲の実刑相当事案を簡易迅速に処理するための新たな手続の創設」につきましては,実刑相当事案について一定期間内に判決言渡しをするというものとすると,情状に関する弁護活動や裁判所の量刑判断に支障が生じかねないなどとの御意見が示されました。   こうした御議論の状況を踏まえて,「試案」には「公訴取消し後の再起訴制限の緩和」のみを記載いたしております。   制度の内容につきましては,被告人側の応訴態度の変更を理由として即決裁判手続によらないこととなった場合に,公訴取消し後の再起訴制限の規定であります刑事訴訟法340条を緩和して,再起訴を可能とするというものでありまして,基本的に「たたき台」の内容と同じでございます。   資料の説明は以上でございます。 ○本田部会長 それでは,「事務当局試案」に沿いまして議論を行っていきたいと思いますが,先ほど申し上げましたように,本日は,一つ目の事項でございます「取調べの録音・録画制度」について,議論を行うことといたしたいと思います。   「取調べの録音・録画制度」につきましては,制度の枠組みといたしまして,これまで「第1」の案と「第2」の案の両方を検討してまいりましたが,この「試案」におきましては,「第1」の案,つまり,原則として被疑者取調べの全過程について録音・録画を義務付けるという案のみに絞っています。その上で,いわゆる実効性の担保に関するこれまでの議論を踏まえまして,取調べ状況の立証方法を制限するものといたしまして,検察官に録音・録画記録の証拠調べ請求を義務付ける仕組みが新たに示されています。そして,例外事由につきましても整理して記載されているところでございます。他方で,対象事件の在り方につきましては,現時点では一つの案に絞り切れておりません。A案とB案が併記されているところでございます。   そこで,本日は,まず,対象事件の在り方につきましてはひとまずおきまして,「第1」の案に絞った制度の枠組みについて議論を行い,特に,その中でも,新たに示されました立証方法の制限,また,例外事由について議論をしていただきたいと思います。その議論をひととおり行った上で,それを踏まえまして,対象事件の在り方について議論を行いたいと思います。   それでは,まず,制度の枠組み,特に立証方法の制限と例外事由につきましての議論を行いたいと思いますが,大変専門的な用語が一杯ありましたので,まず,「事務当局試案」の内容についての御質問からお受けしたいと思います。 ○青木委員 「たたき台」になくて新たに入ったものなので,ちょっと先ほどの説明で私が理解できているかどうか分かりませんので質問したいのですけれども,例外事由の5項のところの(四)についてです。先ほどの御説明ですと,この(二),(三)のように個別に取調べごとに判断するのでは足りないということでこれが設けられたというような趣旨でちょっと言われたように思うのですけれども,ここに書かれている内容を見ますと,「(二)及び(三)に掲げるもののほか」というふうにありますので,ここに書いていない事由であっても例外として認められる事由があるということを前提にされているのかどうかということと,あと,この(四)に書かれているのは,いわゆる指定暴力団の犯罪ということでなくても,とにかくその構成員による犯罪の場合が全て含まれるということなのかどうかということについてお聞きしたいと思います。 ○保坂幹事 まず,(四)の例外事由が「(二)及び(三)に掲げるもののほか」としている趣旨は,(二)や(三)の例外事由に当たる場合には(二)や(三)の例外によることになりますが,(二)や(三)の例外ではなく(四)の例外が機能する場合があるという前提で,(四)の例外というものを「試案」としてお示ししております。   そして,二つ目の質問でございますが,この(四)の例外は,指定を受けた暴力団の構成員による犯罪に係るもの,この「もの」は「事件」でございますので,指定暴力団の構成員による犯罪に係る事件であれば,当該被疑者自身がその指定暴力団の構成員でなくても,この例外には該当し得るという趣旨でございます。 ○青木委員 今の答えを踏まえてなのですけれども,そうしますと,指定暴力団に関するものについては,(二),(三)以外に例外とすべき何らかの立法事実があるということですか。構成員による犯罪であるという場合には,そういうことを例外とすべき立法事実があるということを前提にされているんだろうと思いますけれども,どのような立法事実があるということを前提にされているのでしょうか。 ○保坂幹事 その点につきましては,この部会においても御議論がございましたが,(二)や(三)の例外だけでは不十分な場合として,(二)や(三)の例外といいますのが,録音・録画をしないことができるためには,被疑者が録音・録画をしたならば十分な供述をすることができない,つまり,録音・録画をしなければ十分な供述ができるであろうという蓋然性の認定が前提になるわけでございますが,捜査機関において,録音・録画の下では十分な供述ができない,あるいは,録音・録画をしなければ十分な供述ができるという認定をすることがその例外の事由になるとすると,録音・録画をしなかったこと自体から,録音・録画をしていない取調べにおいては組織を裏切るというか,捜査協力をしたというふうに疑われてしまうおそれがあります。そうすると,被疑者としては,表面上は,少なくとも録音・録画の実施を求めるといった行動に及ばざるを得なくなって,それによって例外事由の認定判断が困難になって,結局十分な供述を得ることができなくなるという御議論がございましたので,それを踏まえて(四)の例外事由というのをお示ししているということでございます。 ○香川幹事 裁判所の方からも,今の例外規定,同じ「5」の(四)の暴力団構成員による例外の規定についてちょっと御質問させていただきたいと思っております。   この文言を見せていただきますと,いわゆる暴力団対策法3条の規定により指定を受けた暴力団というふうに読めるわけでございますけれども,この構成員という概念も,同じように暴力団対策法上の構成員という読み方でよろしいのかどうか,これが1点目でございます。   もう1点は,仮にそうした場合に,こういう指定暴力団であることは,指定しているという証拠が多分あるのでしょうけれども,構成員であるということは,どのような形で公判廷で立証されることになるのか,その点についてもしイメージがあれば教えていただきたいと思っております。 ○保坂幹事 まず,指定暴力団につきましては,暴対法の規定によって指定がされているということでございますが,その構成員であるということにつきましては,暴対法で指定がされるというわけではございませんので,構成員であるということについては,認定が別途必要になってくるということになります。構成員というものの概念といたしましては,基本的に暴対法上の構成員と同様であろうというふうに考えております。   そして,その構成員であるかどうかの立証・認定につきましては,現行法におきましても,例えば,暴対法の中には構成員が一定の行為をしたということが罰則の構成要件として設けられているという規定もございますし,あるいは,詐欺事件などで暴力団員であることを秘して詐欺をしたというような事案におきまして,暴力団の構成員であることの立証・認定が現行法の下でも行われているということでございますので,基本的にそれと同様に様々な証拠によって立証・認定がされるというふうに考えておるところでございます。 ○神幹事 ちょっと細かい全体的なことなのですが,こちらの「事務当局試案」を拝見してみますと,最初に証拠制限といいますか証拠法則のようなものが出てきて,後段の最後の方の5番で録音・録画の義務規定が入ってくるということになっているのですが,取調べの録音・録画の仕組みとしては,論理的に言いますと,録音・録画義務の範囲要件がまず先に問題になって,その上で義務を担保する方策が問題となるという形で理解していて,実際上部会での議論もこの順序でなされてきたというふうに理解しております。   そこで,今回の「試案」が従来の議論の枠組みと異なる構成にしたのはどういう理由なのかということをお聞きしたいと思います。何か特別な意図があったのかどうかということも含めてでございます。 ○保坂幹事 先ほど「試案」の御説明のときにも若干触れましたけれども,録音・録画というものの有用性あるいは効果としまして,取調べの適正確保あるいは供述の任意性の判断に資するということが言われておりますが,こういった録音・録画による効果といいますのは,記録していることそのものから直ちに生じるわけではなくて,飽くまで事後的に記録が吟味されるということ,つまり,その録音・録画記録の利用可能性によるものだというふうに考えたところでございます。   したがいまして,取調べ状況の立証方法を制限し,それによって裁判所が録音・録画記録を利用できることを直接的・端的に担保するという仕組みを設けるのであれば,まずはその録音・録画記録の証拠請求義務というものが重要であり,その証拠調べ請求義務をきちっと履行できるために取調べの段階から録音・録画を義務として行っておくという関係と位置付けるべきものと考えたので,このような記載にしておるところでございます。 ○後藤委員 今の御質問とも関連しますけれども,この「試案」と条文化のイメージとの関係を確かめたいのです。この「1」の部分は証拠法のルールなので,場所としては,例えば刑訴法322条の2のような所に入りそうな内容だと思います。それに対して,「5」のところは,被疑者取調べの方法についての規則です。この「試案」は,これらをまとめて一つの条文にするという構想なのか,それともこの内容は刑訴法の中のそれぞれの所に分かれて入るもので,法典の中での順序としては,「5」の方が先に出てくることも想定しているのでしょうか。 ○保坂幹事 立証方法の制限と取調べ段階の義務との関係といいますのは,先ほど御説明したとおりでございます。それを刑事訴訟法あるいは法律の条文として置く場合に,どういう順番でどこに置くかということの詳細につきましては,法律案を作成する段階におきまして,刑訴法の全体の構成ですとか先例などを踏まえて,更に立法技術的な観点から検討しなければならないというふうに考えておるところでございます。 ○村木委員 今の新しい案についてちょっと神幹事とか後藤委員の質問と関連しているのですが,今この案を読む限りでは,証拠調べを請求する取調べの対象と,それから,録音・録画が義務付けられている取調べの範囲が違うように読めたのですが,その理解で良いかどうか。その場合に,何かこれまで議論してきたときは,取調べの録音・録画の義務化という範囲があって,それに対して,それ全体について,何かそこで録音・録画の義務違反があったときに,そこで取られた調書について証拠としての信用性があるかどうかというような議論をしてきましたけれども,今回のようなこの形にしたことで何か法律的には効果が違うという部分があるのかどうかというのを教えてほしいというのが一つです。   それから,併せて少し具体的にですけれども,この「1」の担保措置のところで,証拠調べの請求対象というのが当該書面が作成された取調べの開始から終了に至るまでというふうにあります。例えば,自分のことを考えたときに,10日間取調べを受けて,ずっと9日目までに一生懸命自分が話してきたことが10日目に調書として整理をされるというふうなプロセスがあったわけです。これが仮に自白調書を10日目にとられたとした場合に,この証拠調べを請求する取調べというのはどの部分なのか,10日目だけの取調べなのか,10日の中でも午前と午後があったら,こっちだけとかというふうに何か限られるのか,それとも,その調書の内容に関わる取調べというのは,1日目でも5日目でも,それはここで言う証拠調べを請求する取調べに当たるのかどうかというのを教えていただきたいと思います。もし10日目だけだということであれば,1日目から9日目までに不適正な取調べがたくさんあったんだけれども,10日目に観念して,10日目だけ見れば適正な取調べに見えますというようなときに,では不正な取調べがあった所の取調べの記録というのはどうやって裁判に出ていくのか,これは弁護人が請求して出ていくというのかもしれませんけれども,そこがどういう仕組みになっているのか。それから,あるいは1日目から9日目までは,これは例外に該当するからといって録音・録画をせずに,10日目だけ例外に該当しないということで録音・録画をしたということであれば,この調書は有効なのかどうかとか,その辺りを少し具体的にすみません,解説をしていただけると大変有り難いのですが。 ○保坂幹事 幾つか御質問があったうちのまず後段の方,立証制限における検察官が証拠調べ請求をしなければならない取調べの範囲につきましては,供述調書を作成した取調べでございます。供述調書の作成といいますのは,刑事訴訟法の規定で,被疑者に対してその内容を読み聞かせて,被疑者の署名・押印を求めるということがコアの部分でございます。そういうプロセスが行われた取調べの最初から最後までということでございますので,先ほど村木委員が挙げられました,例えば1日目から9日目までにいろいろ供述のやり取りがあって10日目に供述調書を作成する取調べがありましたという場合には,その10日目の供述調書を作成した取調べの録音・録画記録を検察官は証拠調べ請求をしなければならないという趣旨でございます。   そして,この検察官の証拠調べ請求の義務の対象となる取調べと,取調べの段階において録音・録画をしておかなければならない義務との範囲というのは,異なるわけでございます。これは,供述調書を作成する取調べにおきましては,先ほど申し上げた読み聞けや署名・押印などのほか,調書に録取する事項をめぐり,取調官と被疑者との間でいろいろなやり取りが行われ,そのやり取りについての録音・録画媒体というのは,類型的に見て,供述調書に録取された自白の任意性判断にとっての有用性が高いというふうに考えたところでございます。   他方で,それ以外の所の録音・録画媒体をも必ず証拠調べ請求しなければならないのかといいますと,全部を証拠調べ請求しないと必ずしも任意性の判断ができないというほどの関連性まではないでしょうし,逆に,そのような関連性が乏しい所が例外に当たらない限りは録音・録画が欠けているというだけで供述調書の採用ができなくなってしまうということは,証拠能力の一律排除した場合の結論の不当性としてこの部会でも指摘されてきたところでございますので,したがいまして,検察官の証拠調べ請求義務といたしましては,当該問題となっている供述調書が作成された取調べということにしておるわけでございます。   そうすると,供述調書を作成した取調べ以外のところで任意性が問題となるような取調べがあったという争いになった場合には,そこの部分につきましては,例外に当たらない限りは録音・録画が義務としてされているということでございますので,それが問題となったところの録音・録画記録があれば,任意性を立証するというのは検察官の立証責任でございますので,検察官の方から証拠調べ請求をしていくということになりましょうし,逆に,そこが例外に当たったために録音・録画記録がないということであれば,録音・録画記録がない以上,検察官の任意の証拠調べ請求といいましょうか,義務ではない証拠調べ請求としてもそこはできないということになるということでございます。 ○小野委員 例外規定についてなのですが,5項で(一)から(四)まで例外規定を置いたということで,それで,その3項が5の(一)から(四)までに該当することにより記録媒体に記録しなかったこと,更に「その他やむを得ない事情により」というふうにあって,5項の(一)から(四)までの例外のほかに更にここにある「その他やむを得ない事情により」記録媒体が存在しないと,そういう書きぶりなのですが,ここに言う3項の方の「その他やむを得ない事情により」というのはどういうものを想定しているのかということについてお尋ねしたいのが1点。   もう1点は,この5項の(二)で「被疑者が記録を拒んだことその他の被疑者の言動により」というこのその他の被疑者の言動によって十分な供述をすることができないと認める場合というのは,例えば被疑者が否認しているとか,あるいは黙秘しているときに,その場合に十分な供述をすることができないなというようなことが含まれ得るのか,それも想定されているのかという点についての質問です。 ○保坂幹事 2点お尋ねを頂きましたが,まず1点目の「試案」の「一3」におきます「その他やむを得ない事情」というものでございますが,これはその手前のところまでが捜査段階において録音・録画記録をしなかったということが書かれていて,それ以外にという趣旨でございますので,取調べ段階においては録音・録画を義務としてしたけれども,その後例えば災害などによりまして,録音・録画記録が滅失してしまったり,あるいは,消失してしまったというようなケースも想定されないではないので,そういった趣旨のやむを得ない事情ということで,記録媒体が存在しないことになってしまったというものを「その他やむを得ない事情」ということで表しているところでございます。   それから,もう1点の例外の(二)の「その他の被疑者の言動」につきまして,先ほどのお尋ねは,否認や黙秘をしていればこの例外に当たるのかという趣旨のお尋ねだと理解しましたが,結局は,記録をしたならば十分な供述をすることができないと認められなければならないわけで,したがいまして,例えば,黙秘や否認というのが記録をしているかどうかに関係がないという場合におきましては,記録をしたならば十分な供述ができないという認定はできないわけで,逆に,録音・録画をしているから否認・黙秘しますと述べているのであれば,その言動は十分な供述をすることができないという例外事由に当たってき得ると考えられるところでございます。 ○小坂井幹事 お聞きしたいことが一杯あるのですが,絞って2点だけ。先ほど村木委員がお聞きになったことのお答えの中で,10日目というお答えがあったわけですよね,例えば10日目。これは率直にお聴きすると,休憩を挟んで例えば夜8時から8時半の30分なら30分でもこれは全過程と,こういう理解になるのかならないのか,それを端的にお聞きしたいということが一つです。   もう一つは,記録媒体を映像及び音声を同時に記録することができるものに限ると,これはいろいろな議論があったところなのですが,今回の「試案」ではそういう形で一くくりにされているのですけれども,これはこれに限定された理由が何かあればあえてお聞きしておきたいのですけれども。 ○保坂幹事 任意性が争われた供述調書を作成した取調べにつきましては,その取調べに当たるのかどうかということについて,先ほど小坂井幹事から御指摘のあったような休憩があった場合どうするのかという問題はあるわけでございますが,まずは,供述調書の作成ということでいいますと,読み聞けと署名という部分,これは休憩を挟もうが何をしようが,録音・録画記録を必ず検察官としては取調べ請求をしなければならないということになるわけでございます。   他方で,読み聞けの前に取調べがあって,更にその前にも取調べがあるというような取調べと取調べの間に時間的間隔があるという場合につきましては,例えば,その中断時間の長さですとか,前の取調べと調書を取る取調べとの内容の一体性などに鑑みて,結局,調書を取った取調べと同一の機会と言えるかどうかを判断せざるを得ないんだろうというふうに考えられるところでございます。   それから,録音と録画を分けてはどうかというような御意見がございまして,そうしていないわけでございますけれども,例外事由として,例えば機器の故障のところについて,録音と録画とを分けて,例えば録画はできないけれども録音ができるときには,それはなお録音の義務が残るのだというふうにしてはどうかという御趣旨だとすると,これまでの議論にもあったところですけれども,現在試行で使っている録音・録画の装置・機器といいますのは,それは同時に記録するということになるわけであり,かつ,後に改変がされない,データをいじったとか何とかという紛争が起きないような機器として使っているわけでございますので,これを想定いたしますと,録音機能だけが生き残って録画機能だけが壊れるということは通常想定しにくいということが一つございます。   それから,被疑者の拒否等の言動によって十分な供述ができないというところにも録音の場合と録画の場合を分けて,例えば録画は拒否だけれども,録音なら良いですよという場合にどうするのかということでございますが,結局,被疑者が十分な供述をすることができないといいますのは,主としてその被疑者の供述内容が逐次記録されていくということでございますので,録画のみが嫌だと,そこは拒否するという事態というのは抽象的には考えられなくはないのですけれども,実態としては考えにくいのではないかということでございます。   それから,加害等のおそれという例外の(三)についてですけれども,加害等のおそれについて録音と録画とで分けるということになりますと,この加害等のおそれの場合は,取調べのときに被疑者がどっちが嫌だというような言動を前提としないで加害等のおそれを捜査機関の方で判断するということにならざるを得ないわけでございますが,録音の場合には加害等のおそれはないけれども,録画の場合には加害等のおそれがある領域というのが果たして現実的にあるのかということと,仮に強いてそれを要件として分けたといたしましても,実際の適用の場面としては非常に複雑で煩瑣なものになりかねないということを考えまして,録音と録画とを分けて記述するということにはしておらないということでございます。 ○周防委員 村木委員と小坂井委員の質問にかぶるのですけれども,御説明を受けても,まだちょっとよく分からないのでお伺いしますが,そもそも取調べにおける録音・録画の開始時期と終了時期はいつだと理解したら良いのでしょうか。   要するに,録音・録画は,いつから開始して,いつの時点で終えるのか。例えば,先ほど村木委員のお話にありましたけれども,当該書面が作成された取調べ等の開始から終了に至るまでの間における被告人の供述の記録媒体を取調べ請求するということは分かるのですけれども,そこの以外の部分で違法な取調べがあったのではないかというときに,弁護側から証拠請求できるのならしたとして,そこは例外事由に当たるのでしていませんでしたと言われると,その例外事由に当たる理由をきちんと検察官が立証できれば,結局その取調べにおいては,供述調書が正に作られたそのときしか録音・録画がないと,そういう状況もあるわけですよね。ちょっと本当にごめんなさい,僕の頭が悪いのか説明を聞いていて分からないのですけれども,取調室に入って取調べが始まるときに,まず最初にどうやって録音・録画するという告知をするのか,しないときっと嫌だとかも言えないからするのでしょうけれども,その時点で録音・録画がされているのですか。 ○加藤幹事 現在行われている録音・録画の一般的なやり方ですが,それとここで想定されているものは恐らく同じものですけれども,今御指摘のように,取調べの全過程を録音・録画するというときには,部屋に入ってきたときにはもう録音・録画が始まっているというふうにお考えいただいて良いと思います。それから,部屋を退室するまで撮っているという前提です。いつ告知するんだとおっしゃいましたけれども,これは例えば今録音・録画をしているからねということを本人に告げればそれで分かるということになろうかと思います。もちろん今御審議いただいているところによって録音・録画が制度化されたときには,また別のやり方を検討する必要があるのかもしれませんが,基本的にその取調べの最初から最後までが全て撮られているというふうに御理解ください。   一方で例外事由に当たればその部分は録音・録画が存在しないのではないかという御指摘ですが,それはそのとおりです。ただ,その例外事由というのは,今お示ししているとおり,5番の(一)ないし(四)に当たる場合だけでありますので,これは例外なわけですね。この例外に当たらない限りは,1番の方で請求義務があるかないかにかかわらず,録音・録画の記録媒体が残っているということですから,原則としてその対象事件に当たる限りは,その取調べの録音・録画媒体は残っているというふうに御理解いただいてよろしいかと思います。 ○周防委員 では,そうすると検察官が証拠調べ請求したその録音・録画部分の立証では不十分だというふうに弁護側で考えたときに,その他の期日の録音・録画媒体の証拠調べ請求はできるのですね。 ○加藤幹事 一般的には,弁護人の方で取り調べてほしいというふうに考えたときには,録音・録画の記録媒体は,証拠開示のルールに従って通常は開示されていますので,手元にある記録媒体を証拠調べ請求されればよろしいということになります。 ○周防委員 ありがとうございました。 ○本田部会長 この「試案」は,非常に精緻に記載されているので,分かりにくい面はあるのですが,これまでの第1案のとおり,原則として取調べの全過程の録音・録画を義務付けるものだということを念頭に置いて,お考えいただければと思います。   時間の関係もありますので,それでは,質問だけではなく,御意見も含めて御発言をお願いします。 ○井上委員 これまでの質疑等を整理する意味で質問をさせていただきます。まず,取調べの全過程を録音・録画しなければならい。その録音・録画した記録媒体のうちで必ず証拠調べ請求をしなければならないミニマムがここに掲げられているということですよね。しかし,任意性等が争いになれば,検察官が立証責任を負っていますから,それ以外の記録媒体も証拠調べ請求せざるを得ないし,弁護側も,証拠開示を踏まえて,それを請求することができる。また,例外は,必ず証拠調べ請求をしなければならないミニマムのところにも掛かってくるわけで,例外に当たれば,その部分も撮られないことはあり得る。こういう整理でよろしいのですよね。 ○保坂幹事 御指摘のとおりでございます。 ○川出幹事 質問を1点させていただきたいのですが,これまで,録音・録画義務を担保するためにどのような措置が考えられるのかという議論がなされ,今回,それに対応する措置として,任意性立証のための録音・録画記録の取調べ請求義務と,それが充たされない場合の供述調書の取調べ請求の却下という方法が示されたわけです。そのうえで,これまでの議論では,それを検察官による任意性の立証制限とするのか,それとも裁判所による任意性の認定制限とするのかという点も問題となっていたと思うのですが,この案はそのどちらなのでしょうか。具体的には,検察官が,録音・録画記録の取調べを請求しなかった場合には,裁判所が供述調書の取調べ請求を却下しなければならないとなっているのですが,それを却下した上で,裁判所が職権でその調書を採用し,取り調べることはできるのでしょうか。 ○保坂幹事 整理といたしましては,検察官の供述調書の証拠調べ請求は,却下されることになります。それは「試案」の「一2」によって,そうなるわけでございますが,なお裁判所の方で,例えば被告人が主張するところによっても任意性が認められるというようなこともケースとしてはあり得ようかと思いますので,その場合には,裁判所が,例外的とはいえ,供述調書を職権で採用するという余地はあるということで整理をしております。 ○後藤委員 質問と意見を申し上げます。まず質問は,検察官の媒体の証拠調べ請求義務が生じる要件の書き方についてです。「試案」の方では,322条1項の伝聞例外による請求があって,それに対して弁護人が「異議を述べたとき」と書いています。それに対して,要点メモの方では,「任意性が争われたとき」というふうにまとめられています。これらは同じようでいて,微妙に違いますね。異議の理由は任意性以外にもいろいろあり得ます。なぜ,要点メモでは任意性が争われたときと書き換えているのでしょうか。それから,もう一つは,その「任意性を争う」ということの意味です。それは単に「任意性を争います」と言えば,検察官に媒体の取調べ義務が生じるのか,そうではなくて,任意性を争う理由はこう,こうだと,具体的に主張する必要があるのでしょうか。以上が,質問の部分です。   ここから先は意見です。この作り方だと,検察官に媒体の証拠調べ請求義務が当然に生じるのは,正に調書を作った取調べの部分ですね。それにどこまでの範囲が入るのかはかなり議論になり得るでしょう。いずれにせよ,調書を作った取調べだけですね。けれども,村木委員も言われたように,その前の取調べで問題があった,そこが重要なのだと弁護人は主張するかもしれません。そのときに,その部分の取調べについては,当然に媒体を証拠請求する必要はない。しかも,そこが例外事由に当たらないのに録音していない場合でも,検察官としてはそこの媒体取調べ請求義務は免れることになります。それでは,「5」の方でせっかく全過程の録音・録画を要求しているのに対応していないのではないでしょうか。つまり,取調べについて問題が指摘された部分について,媒体の取調べ請求をしなければいけないという作りにしないと,全体が整合しないのではないか,これは私の意見でございます。 ○保坂幹事 前段の御質問についてだけお答えしますが,322条の規定により証拠とすることができることについて異議を述べたというのは,任意性を争うという趣旨で書いています。322条に関する要件を満たさない旨の異議というのと,任意性を争うこととの関係については,もう少し検討しなければならないということではあるかと思いますが,趣旨としては,任意性が争いになったということでございます。   そして,異議を述べたという言葉の意味としましては,証拠能力としての任意性を争うということを述べた以上は検察官の証拠調べ請求義務が働くということで考えていまして,特にその中身として詳しく言わない限りはこの義務が働かないという趣旨ではございません。 ○栗生委員 意見を申し上げます。これまで,警察は,事件の検挙によって安全・安心を求める国民の期待,取り分け真相解明と適正な処罰を望む被害者の強い願いに応えるために,バランスの取れた制度とすべきであるとの考えを申し上げてまいりました。この立場から,これまでの「たたき台」の第1案では,例外とすべき場合が過不足なく例外事由とされていないなど,真相解明機能に対する支障という弊害が大き過ぎるため,第2案を主張してきました。   今回の「事務当局試案」で第2案が採用されなかったことにつきましては,残念であると言わざるを得ません。今回の「事務当局試案」は,これまでの第1案をベースとされているものでありますけれども,例外事由として暴力団事件が規定されている点については,一定の工夫がなされていると考えます。しかし,被害者の観点から強く求められていた性犯罪など被害者のプライバシーが害され得る事件が例外とされていないという点,また,我々が違法収集証拠排除法則などの一般原則に委ねるべきであると主張していた実効性の担保についても立証方法の制限が規定されているという点,さらに,一定の余罪取調べについても録音・録画義務の対象とされていると見られるという点で,現在の「試案」には依然として問題点が含まれていると考えております。   それぞれの問題点につきましては,これまで申し上げてきたとおりですので,あえてこの場では繰り返しませんが,これらの問題点を解消できなければ,警察としては,「試案」に賛成することは困難とならざるを得ません。   いずれにいたしましても,今般事務当局の御苦労により「試案」が示されました。この「試案」につきましては,これから,今申し上げたような問題点を解決するためにも,積極的に警察も検討に参画させていただく所存でございます。警察といたしましては,そもそも第2案が採用されなかったということ自体に疑問を感じておる次第でありまして,我々の有する懸念や問題点が解消されなければ,再度第2案を検討の俎上にのせて,これをベースに検討すべきであるとの提案も留保させていただきたいと思います。 ○大久保委員 専門的な議論になっている中で大変発言しづらかったのですが,栗生委員が被害者の立場ということも踏まえて発言をしてくださいましたので,ダブる部分はあるかもしれませんけれども,少し発言をさせていただきたいと思います。   私自身も,被害者の立場としては,部会当初から申し上げておりますように,犯罪被害者というのは,やはり刑事司法に何を期待するのかといいますと,とにかく何があったのか事案の解明を求めていることですので,やはり被疑者からの供述を得るということがとても重要なことだと考えております。そのため,この録音・録画制度を導入するにいたしましても,取調べの機能を損なわない仕組みでなければなりませんので,当然第2案の方だと考えておりましたが,出されたものは第1案に絞って提示されておりましたので,被害者の視点が無視されたということは,それはもう大変残念なことだと思っております。   でも,この第1案をベースとするのであれば,せめて例外はしっかりと使えるものにしていただきたいと思うわけです。今までの専門的な御議論の中でも,例外の内容をできる限り小さく絞ろうとするような御意見がとても多く感じましたけれども,被害者の立場からいいますと,どうしてそれほど捜査機関を縛るのかということを感じるわけですね。なぜそういうような縛る意見ばかりが強調されるのでしょうか。必要以上に捜査機関を委縮させるような制度になってしまったとすると,私は,日本の治安は崩壊してしまうのではないかというような強烈な危機感を感じています。国民が安全や安心を体感できない社会というのは,捜査機関に対する信頼感も持てなくなってしまいますので,もし自分が被害に遭っても,それを申告もしないようになってしまうのではないかということがとても不安です。   この例外に関する規定が限定的に過ぎますと,結局は例外が使われないことになってしまいまして,その結果事案の解明もおろそかになってしまって,現場では形式だけの取調べになるのではないかということが心配です。そういう意味でも例外を余り限定的なものにするということには反対です。   ただ,今回の「試案」では,暴力団犯罪などは一般市民も巻き込まれて証言も拒否するというようなことがよく報道されておりますので,それを明確に例外として規定するということが入っているということは評価ができると思います。   それと性被害についてですけれども,私自身も,性被害などの被害者の名誉等を害するおそれのある場合は,録音・録画の例外とするべきだということをずっと発言してまいりましたが,この「試案」には全く入っておりません。部会ももうまとまる時期に来ているということは十分承知していますけれども,でも,きっと聞き届けていただけないのかもしれませんけれども,性被害者についても例外にしていただきたいと思っています。もちろん,証拠開示の制限ですとか公判廷における再生のやり方によっては被害者のプライバシー等に対する配慮は十分だとして例外にする必要はないという御意見ですとか,あるいは,記録に残る苦痛まで考慮できないというような御意見も,今まで出されているということは承知しております。けれども,平成23年に内閣府が調査をした結果では,性犯罪被害者の7割近くが羞恥心や恐怖心や社会の偏見で誰にも相談できないという結果も出ているので,このことも踏まえて制度設計を考えていただきたいと思います。   こうして見渡させていただきましたところ,ここの部会の構成員は大多数の方が男性ですけれども,でも,皆さんの妻や子供や孫が性犯罪被害に遭ったらと考えてください。録音・録画に限らず,その他の制度についてもそうですけれども,被疑者・被告人の立場だけではなくて,被害者が置かれる現状のこの理不尽な状況もしっかりと認識をして,国民からも支持されるバランスの取れた議論をこの場で行っていただきたいと切に願っております。 ○小坂井幹事 全体についてちょっと意見を述べさせていただきます。   まず,いわゆる今回義務規定が5項に規定され,あと証拠能力規定なのか立証制限規定なのか,それが先に来ているという御説明の中で,リアルタイムでは効果が生じないという趣旨で事務当局案の順序にしたとの御説明があったのです。が,ちょっと私が不勉強なせいか,理解しにくいです。もちろん事後的検証可能性というところに非常に重きのあるのがいわゆる録音・録画制度だと思いますけれども,それはやはりリアルタイムで当然適正化というような場合には効果が発生するので,必ずしもそれが逆転する説得的な理屈にはなっていないのではないのかなという気がしました。別にこの順番に私は何もこだわっているわけではなくて,先ほど後藤委員がおっしゃったように,この5項については,これは義務規定で捜査の規定ですよ,198条近辺に置かれるのですよというようなことで,あるいは,1項ないし4項は,証拠法の規定で322条なのか,立証制限等であれば300条とか302条とかあの辺りに来るのかということが,私自身は,比較的それは自明のことだというふうに何となく思ってきたところがあります。ですので,もしそこが違うということであれば,それは相当の御説明が逆に要るのではないかと思います。当然,基本法の改正として,それぞれが,捜査法の規定,あるいは,証拠法,あるいは,立証制限,そこに置かれるんだろうということがむしろ当然なのではないかと思っております。   それで,この1項の問題なのですが,当該書面が作成された取調べ等の開始から終了に至るまでの間の結局解釈とか運用とかの形で,これはある程度の幅が生じるような気がします。仮にこれがある日の夜8時から8時30分までの30分,先ほど事務当局の御説明にあった同一機会とか読み聞けとか署名・押印とか,そういう最低限の要請はなければならないのでしょうけれども,仮にそういう一単位というものを取調官側が設定できて,それで足りるという形でこの「一1」を理解していくとすると,これは従来の少なくとも実効性担保の話とは相当趣を異にするものにならざるを得ないと思います。   それで,やはりそういう単位とか時間とかを取調官側が設定できるというふうになるのであれば,いわゆる一部録画の危険性というものが従来から相当指摘されているわけですけれども,そこに焦点が移行しかねない。そういう危惧感が正直言ってあります。扱い方によっては,それこそ45通の自白調書のうちの44通は却下して,1通だけを採用して有罪で死刑というようなことが,現にそういう悪夢があったわけですから,それを再現させる装置になりかねないのではないか。そういう危惧がございます。   いや,実はこの「1」については,私自身迷いがありまして,結論はどうかというと,まだ留保している状態なのですけれども,一般原則に委ねるよりも悪いか良いのかはちょっとまだ判断がつかないのです。この辺りは,例えば,前回裁判所の方から今崎委員が義務を課した場合と課さない場合とでも変わらず,結局立証責任によって裁判所が判断していくことになるでしょうということをおっしゃったところがありますから,私が今述べたようなことは杞憂に過ぎないかもしれないのです。が,こういった立証制限規定,証拠能力規定ができることによって,例えば前回の今崎委員の御発言があったようなそういう御判断が変わってくるのか変わってこないのか,そういったこともお聞かせ願った上で,ここは私なりの結論を出したいなと思っています。   例外事由について若干申し上げます。ここはやはりもう一度部会のミッションに立ち帰るべきところがあって,取調べの適正化を全うするという見地から全体を見直す必要は当然あろうかというふうに思っています。基本構想でも,適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあることが明らかになるような制度と,こういう形で言われているわけです。これはもう前回私が申し上げていますので手短に済ませますが,例えば録音だけで足るという要素をやはり盛り込むべきだというのは,物理的支障などの場合,例外のプロセスをきっちりさせていくという意味では,これはやはり是非必要なのではないかと感じています。   それと,実質的な例外事由としての(二),(三)なのですけれども,ここはやはり今回私が例外事由に絞って急遽ペーパーを出させていただいて,ちょっと舌足らずな所もあろうかと思いますけれども,やはり被疑者が記録を求める意思を明示した場合は例外事由の例外にすべきです。なぜこういうことが必要かといいますと,あるいはこの(二)の場合には,記録の停止に異議を述べないということで足りるのかもしれませんが,そうすることによって例外事由の疎明プロセスというものが明確化されるからです。あえて言いますと,ブラックボックスが生じる余地がなくなる,不適正取調べを許しかねない今のような状況ではなくて,そういう本人の意思をかませることによって,あえて言いますけれども,プロセスが可視化されるといいますか,適正化にとってそういうことが必要になってくると思います。そうすることによって例外事由如何ということが明確化されます。ですので,これは是非そういう形で規定していただくべきだと思っています。   それと,今回もう一個新たに入ったのが(四)なのですけれども,これは率直に申し上げて,およそ合理性はないと思います。先ほどの(二),(三)のほかということで事務当局の御説明があったのですが,どうも(二),(三),特に(三)だと思うのですけれども,認定が困難な場合というようにも聞こえなくもないわけです。(三)の要素があるのであれば,(四)は何も新たに設ける必要がどこにあるのかということになろうかと思います。それで,これあえて申しますけれども,この暴力団関係といいますか,やはり不適正な取調べが最も多い領域だと弁護実務上感じております。あるいは引っ張り込み供述も最も多いですね。更に言いますと,隠れた取引が非常に多い領域だと思います。要するに,不適正な取調べが非常に多い領域で,供述過程を保存しておく必要性の高い分野だと思います。そこをあえてぱかっと外すということに合理性はないのではないかと思います。時間がありませんので具体例をいちいちは述べません。もし機会があればまた述べさせていただきますけれども,それぞれ判決あるいは決定で認定されたもので,相当程度問題のあった取調べ例というものは幾つも挙がっております。ですので,この領域は問題で,それは氷山の一角ではないかというふうに私どもの弁護実践上からすると思うわけです。しかも,(三)でカバーできるものをわざわざぱかっと広げちゃって,更にこれは共犯者に一人でも指定暴力団員がいればいきなり録音・録画しなくて良いと,こういうことになるようです。ですから,これはちょっといささか合理性がないのではないかと考えております。 ○神津委員 いろいろな意見がある中で一つの形に「試案」としてまとめられた事務当局の御努力には敬意を表しておきたいなと思います。   その上で幾つか申し上げたいのですが,一つは,基本的なスタンスを常にやはり大事にしておくことが必要なのではないのかなということでありまして,一つに録音・録画制度がこの部会で議論をされるに至った経緯でありますけれども,これまで私からも何度か述べさせていただいたわけですけれども,この部会が設置された理由に立ち戻って,部会の立ち位置を常に踏まえる必要があるんだろうというふうに思っています。その点からも,部会が策定をいたしました基本構想の精神を常に確認する必要があると思います。この部会が設置された理由については,村木委員の事件における一連の事態が発足の重要な契機であったということだと認識しています。その村木委員の事件の事態に直面して,検察の在り方検討会議が取りまとめた提言の中に非常に大事な内容があると思っています。少し改めて引用させていただきますと,「本検討会議を通して示された国民の声に真摯に耳を傾けることを願う」と当時されたわけでありますし,検察の再生とは,「『公開性』・『透明性』などが求められる社会の風を肌で受け止め,自ら未来志向で検察の果たすべき使命・役割,検察の『正義』とは何であるのかを問い直すこと」であるとされたわけでありまして,その上で,「捜査公判の在り方については,被疑者の人権を保障し,虚偽の自白によるえん罪を防止する観点から,取調べの可視化を積極的に拡大すべきである」というふうにされたわけであります。また,「捜査における供述調書を中心としてきたこれまでの刑事司法制度が抱える課題を見直し,制度的にも法律的にも解決するための本格的な検討の場が必要である」ということを受けて,本部会が設置されたということであったと思います。少し分かりきった話でもあるわけですが,改めてそのことについては常に立ち返っておくことが必要だろうというふうに思っています。   その上で先ほど申し上げましたが,基本構想,当部会として策定をされたわけでありまして,その中で,「供述証拠の収集が適正な手続きの下で行われるべきこと」をまず第一に掲げていたということでありまして,それに加えて,「適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることが明らかになるような制度とする必要がある」,「このようなことをより確かなものにする観点から,被疑者の取調べの録音・録画制度を導入する」という理念を掲げてきたということであります。   そういう意味で,このことが正に基本的スタンスだというふうに思っていまして,今日御提示を頂いたその「試案」においては,そのことが今一つ見えないなというふうに思っています。そのことはもう既に言わずもがなということであえてそこには触れていないということなのか,その辺りを明確にしていく必要があるんだろうと思います。私としては,やはり分かりきったことであっても,この間,この部会として積み上げてきた極めて大事な内容だというふうに思っていますので,その基本スタンスについては当然頭のところで今後まとめるに当たっては触れていくということが極めて不可欠なことだろうと思います。   そういう意味では,基本的には,全ての取調べにおいて録音・録画を行うということの大原則の中で,やむを得ざる場合の例外を示して,そして,そこに到達するための段階を明確にしていくべきだということだと思います。そういう意味で,基本構想で第一に取り上げられていた供述証拠の収集が適正な手続の下で行われるべきという明確な理念の下で,改めて全体の取りまとめをしていくということが不可欠だということを重ねて申し上げておきたいなと思います。   それから,例外についてですけれども,そういう意味では今申し上げたそういう基本的なスタンスの下でどういう例外を設けていくのかということであると思います。その際には,今ほども御意見にありました被害者の方々の心情との関わりなども含めて,丁寧な例外事由のまとめ方が必要なんだろうと思います。そういった中において,今回(四)の内容ですけれども,これをそのまま見ますと,暴力団構成員による犯罪に係るもの,それだけで例外とするという内容なのですが,ここのところが(三)で定めているような実質的な要件との関わりがよく分からないなと思います。そういった(三)で定めているような実質的要件がない場合も一律に例外とするということで,少しこの例外としての取り上げ方の性格が随分異なるなと思います。そういう中で,この(四)の定め方ですと,こういうケースの場合,どのような場合であっても,暴力団員あるいはそれ以外の方の取調べも例外とされるということになるわけで,そういう点からすると,そのほかの例外の取り上げ方と随分性格が違うと思います。   いずれにしても,先ほど申し上げたような観点も含めて,例外の事由というのは,いずれにしても丁寧にまとめていくことが必要だろうと思います。   それから,(三)の例外の要件は,これは合理性を持つものだと思いますが,ただ,こういった状況の中でも,被疑者なり弁護人がその録音・録画を望んだ場合は例外から除外すべきだろうと思います。   最後に,参考人の取調べについてですけれども,この内容についても再三これまでも申し上げてきたわけですが,村木委員の事案を例にとりますと,参考人に対する不適正な取調べがえん罪を生む原因となりやすいということは明らかでありますから,参考人についても,本来全過程の録音・録画が行われるべきでありましょうし,現実的な取組を行うという観点から,少なくとも検察官の取調べについては対象とすることを検討すべきだと思います。 ○今崎委員 今回の「試案」について裁判所の方で予想される状況と,それから多少の感想を申し上げます。   まず,任意性が争われた場合には,検察官に立証責任があるというのは従来どおりと認識しております。また,「1」の請求義務については,裁判所に録音・録画媒体の取調べ義務までは掛からず,任意性の証拠調べとしてどこを取り調べるかというのは,最終的な争点整理・証拠整理の結果によって定まるものというふうに理解しております。   確認したいのですけれども,取調べ段階で取調官が例外事由に当たると考えて録音・録画をしなかったという場合で,審理の結果,例外事由はないという判断に達したというときに,仮に取調官に例外事由に当たると信じるに足りる相当な理由があるという場合であっても,客観的に例外事由がない以上はこの供述調書の請求は「1」によって不適法になると,こういうふうに理解しているのですが,これはこれでよろしいのでしょうか。特に御異論がなければお答えいただく必要はありません。   あと,これは感想ですけれども,録音・録画を取調べの適正を担保するための制度というふうに見た場合には,「1」と「5」の義務の範囲を別にするというのは多少の違和感がないわけではありませんが,ただ,現実の裁判の問題として考えたときには,先ほどのやり取りで聞いて分かりましたけれども,任意性が争われたような場合には,仮に「1」の方で請求された媒体で心証が取れなくても,例外に当たる場合でない限り,必ず「5」の義務があって媒体に録音・録画されているはずなので,最終的にはそれで判断できる,裁判ではそれが証拠として出てくると,こういうふうに基本的な理解をしていますが,そうであれば実務的には運用できるだろうと思います。録音録画媒体が取調べが適正にできているかどうかの判断資料として出てくるだろうと思っているということです。そうだとすると,むしろ,実務上は,ただいま何人かから御意見があるように,例外事由の存否が問題になる場合が多くなるのかなというふうに考えております。 ○種谷委員 確認したい点が1点と,あと意見を述べさせていただきたいと思います。   確認したい点ですが,先ほど栗生委員の方から余罪の話が若干出ました。余罪の取扱いについては,先ほどの事務当局からの御説明の中にはなかったと思うのですが,この「一5」のところの読み方として,「検察官,検察事務官又は司法警察職員は,1に掲げる事件について,逮捕若しくは勾留されている被疑者を」取り調べるときと書いてあるので,この逮捕若しくは勾留されている被疑者は,「1」に掲げる事件について逮捕若しくは勾留されている者に限らないということで,およそ逮捕,勾留されている人間を「1」に掲げる事件について取り調べるときという形で読むということになるわけですよね。   ということで,対象がどこまで広がるのかというのはまた次の議論になるわけですけれども,その対象になっていない事件について逮捕・勾留されている被疑者を調べるときも,例えば取調べの途中で「1」の対象範囲となった事件について供述を始めたら,そこについては立証制限が掛かってくるという理解になるわけですよね。 ○保坂幹事 余罪に関するお尋ねでございますが,この「試案」の「一1」に記載しているとおりでございまして,その「当該事件について」というのは,これは対象事件を設ける場合の対象事件について取り調べるという趣旨であり,逮捕・勾留されている事実が何かということは限定を加えておりません。「5」につきましても,ちょっと読みにくいかもしれませんが,「1に掲げる事件について」の後に「,」を打っておりまして,この係り先というのは「取り調べる」というところに係り,逮捕・勾留事実については限定をしておりませんので,その取調べの対象となる事実が対象事件かどうかによって,録音・録画義務あるいは検察官の証拠調べ請求義務が課されるということになるという趣旨でございます。 ○種谷委員 ということですと,やはりこれまで縷々申し上げてきた意見でありますけれども,いつ余罪について供述を始めるかということを事前に予測できないという中で,果たしてこういう形で的確な履行ができていくのだろうかという点について非常に疑問があるということを申し述べさせていただきたいと思います。   それからもう一つ。先ほど例外の話で,大久保委員の方からも性犯罪の被害者の話が出まして,これまで私たちも是非入れていただきたいという話をしているのですが,なかなか例外事由として入れていただけないというのは,多分これまでも議論がありましたように,出口規制という形で対処すれば事足りるというお考えの方がいらっしゃるのではないのかなと思うのですけれども,あえてまた申し上げさせていただくと,性犯罪の被疑者につきましては,実際の取調べの中でいろいろなことを言うわけでありまして,特に,被害者と合意があったとか被害者から誘ってきたとか,そういう被害者のプライバシー,名誉に関わることをいろいろ言うというのが実態でありまして,そういったことが出口規制により確実に法廷の場で顕出されないとか,公判前整理手続で証拠開示されないということであれば話は別ですけれども,そういうおそれがあるわけですよね,常に。そういうおそれがある中で,そういうものが保存されているということ自体が,もう性犯罪についての被害申告を躊躇させるということになってくるわけでありまして,その点是非もう一度十分被害者の立場というのをお考えいただきたいと思います。出口規制では駄目だという点について御理解を頂きたいと考えております。 ○安岡委員 私は,「試案」で,担保措置として一般法則による案を採らなかったこを評価したいと思います。それから,余罪追及の部分についても可視化及び担保措置の対象にしたところも評価したいと思います。   ただし,「試案」の「1」の項目を果たして担保措置と言って良いのか,実は,よく分からない。神幹事の御質問にもありましたけれども,これまでの議論では,可視化制度は,主に取調べ・調書作成の適正化を図ることを目的とし,取調べ状況の立証・認定を容易にするという可視化の持つ機能を利用して可視化の義務付けの実効性の担保措置とすると,そういう方向で議論が進んできたと理解しています。   それが「試案」では,逆に,取調べ状況の立証・認定を容易・的確にできるようにすることを可視化制度導入の目的に据え,その実効性の担保措置といいますか,必要な手続として捜査官に可視化を義務付ける構造になっている。つまり,今まで議論してきたものと構図が逆転した,言わば逆転の発想で,法務省の事務当局の方の極めて柔軟な発想で作られた「試案」だと感じるのですけれども,私は,神津委員の御指摘にもあったとおり,本来は,可視化制度を導入するに当たっては,取調べ及び調書作成の適正化を図ることを目的に据えた制度設計にすべきだと考えます。   事務当局から先ほど,可視化の目的を取調べの適正化に置くことが不適当である理由を縷々説明していただきましたけれども,それでもなお私は,取調べ・調書作成の適正化に主眼を置いた,目的を置いた制度にするべきだと考えます。しかしながら,「試案」の「一5」のところで可視化の義務付けが入っているわけで,この「一5」の範囲で行われれば可視化の機能として期待する取調べ・調書作成の適正化も十分に図られるのではないかと理解して,「試案」のスキームに賛成したいと考えます。   ただし,「試案」のスキームで,1点大きな問題だと感じる所があります。それは,このスキーム全体が,身柄拘束下にある被疑者の取調べに限定されていて,在宅調べで不利益承認の調書をとられた場合は,この制度全体の埒外に置かれることです。そうすると,そうした調書の任意性をめぐる争いが生じたときには,旧来型の水掛け論が法廷で繰り返されてしまうのではないかと懸念します。   このスキームでいくと,身柄拘束されていたか否かで供述の任意性の立証・認定方法に違いを設けるわけで,そういう供述の任意性の立証・認定に別々の方式をとることには,どうも合理性を見いだせない。ですから,「試案」のように任意性立証の容易化を制度の目的にするならば,可視化の義務付けの範囲は,身柄拘束中かどうかとは関係のない線引きをしないとおかしいのではないかと思います。   それで,今の点に関連して質問があります。「試案」の中の可視化の義務付けの範囲で,A案は裁判員制度対象事件を対象とすると,それから,B案の方はそれに加えて全身柄事件における検察官の取調べを対象にするとなっています。この制度全体が私の理解では,身柄事件についての制度だと読むのですけれども,B案で,検察官の取調べについても全身柄事件と,改めて身柄事件と入れているのは,何か意味があるのでしょうか。 ○保坂幹事 最後の点だけお答えしますが,おっしゃるとおり枠組み自体身柄事件を前提にしておりますので,「試案」における対象事件の書き方として分かりやすくするために「身柄事件」というのを重ねて書いている趣旨でございまして,特段の意図があるわけではありません。 ○井上委員 安岡委員の言われた点にも関連するのですけれども,この制度の目的がどこにあるのかというと,大きく二つの目的があったわけですが,そのどちらかに絞るというのが我々の合意ではなかったと思います。大方の意見は,両方とも追求するということであるので,どちらから書こうとそれほど違いはないのではないかと思うのです。そして,録音・録画を義務づける仕組みを設けたとしても,公判廷などみんなの目にさらされるところに録音・録画した記録媒体が出ていかなければチェックできないわけなので,その意味でこういう書きぶりをすることにも理由があるように思います。   立証制限の点では必ず証拠調べを請求しなければならないミニマムを掲げているわけですけれども,取調べの全過程を録音・録画してその記録を残しておくことは必要で,先ほども話に出ましたけれども,それらすべての記録媒体は通常,証拠開示の対象になるわけですし,また,任意性等が争われたときには証拠として出ていかざるを得ない。録音・録画義務があるのに,そうされていず,その記録媒体がないとすると,それだけで任意性等に強い疑いが生じることになるわけで,そういう意味で取調べの適正を確保するという点でのチェック機能も果たされていく。全体としてそういう構造になっていると理解しています。 ○露木幹事 何人かの委員の方から例外事由(四),指定暴力団員が被疑者となっている事件について,(三)のほかに設ける理由があるのかという趣旨の御意見などがございました。これは事務当局からも御説明がございましたとおりですけれども,(三)というのは,取調べの都度,その取調べの対象となる場面によって,供述をしている者が暴力団などの組織などから報復を受けるおそれがあるかないかということを判断して,例外に該当するかどうかということを決めるという仕組みであります。しかし,暴力団のような非常に厳しい暴力的な組織統制が行われている団体の場合には,その取調べの場面ごとに録音・録画をしたりしなかったりという方法ですと,録音・録画をしなかったということ自体が,その場面で,その取調べの対象となっている組員が組織にとって不都合な供述をしたのではないかという憶測を生む。したがって,組員の恐怖心を除去できず,例外事由として機能しない。したがって,その指定暴力団という法律による指定という類型化をされているものについては,一律に例外事由とする必要があると,こういう考え方によるものでありまして,したがって,(三)というものだけでは足りないということでございます。   あと,暴力団の事件は不適正な事案が多いのではないかというお話もあったのですけれども,暴力団の事件を私どもも担当しておりまして,経験上でありますけれども,その組員の自白の任意性・信用性に問題があるという理由で,その事件は無罪になるということはほぼ経験上はめったにないことだと思います。暴力団は,そもそも自白をすることがそう多くはありませんので,そもそもその任意性とか信用性とかという問題にならないということが多いと思います。組織のことをしゃべるというのは,調書にしないということが基本的にはもう実務上は慣例のようになっておりますので,その調書が後で問題になるということは,普通はないということです。   それから,今回の制度案の「1」の検察官のDVDの取調べ請求義務についてです。私どもこの「1」については疑問なしとしないという立場でございますから,私から申し上げるのはちょっと変ではあるのですけれども,この「1」のこの義務の範囲の方が「5」の行為義務の範囲よりも狭い,結果として,「5」の方が骨抜きになるのではないかという趣旨の発言もあったわけですが,決して「1」が良いという意味ではないのですけれども,捜査の実務的な観点から申し上げますと,取調べを始めるときですとか,あるいは,取調べの途中もそうですが,その取調べの結果を調書にするかどうかということは必ずしも定かではありません。その取調べの結果によってこれは調書にしようというふうに判断をすることが一般的であります。   また,取った調書を公判で検察官がそもそも証拠請求するかどうかということ自体も,私どもが取調べをしている段階では分かりません。したがって,取調べの段階では,この「1」の義務が掛かってくる場面かどうかというのはなかなか判断しづらいという面がありますので,仮に「1」が制度化されますと,私どもはその調書を取る場面になるかもしれないという意味で,DVDを撮らなければいけないというふうになると思いますので,「5」の義務とそういう意味では符合していると思います。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうと思いますが,時間の都合もございますので,取りあえず制度の枠組みについての議論は,ここまでとさせていただきたいと思います。ここから10分間休憩といたします。           (休     憩) ○本田部会長 それでは,再開をさせていただきたいと思います。   次に,対象事件の在り方についての議論を行うことといたしたいと思います。この点については,A案,B案という形で,事務当局としてもまだまとめ切れなかったということでございますけれども,次第にまとめていく方向で議論を進めていきたいと思います。いずれにしましても御質問なり御意見がございましたら挙手をお願いいたしたいと思います。 ○酒巻委員 A案とB案ですけれども,B案は,法律的な整合性の説明がほとんど不可能だと思います。したがって,B案は適当でないという意見を申し上げます。B案は,裁判員対象事件に加えて,それ以外の全身柄事件における検察官の取調べを対象に含めるというものですが,まず,証拠の観点から見ますと,被疑者の供述を録取した書面で自白を含む不利益な事実を認める供述については,検察官の調書であれ警察官の調書であれ,現行法上全く区別はありません。要するに任意性があればすべて証拠になるということになっております。   他方,そのような調書を作成する取調べについても,現行法198条は警察官の取調べと検察官の取調べを全く区別しておりません。   そのような法律的な制度の下で,検察官の取調べによって得られた調書についてだけ別の扱いをするということは,今申し上げた証拠と取調べについての刑事訴訟法の基本的な在り方と全く整合しないと思います。   また,御承知だと思いますが,身柄事件の恐らく99.8%ぐらいはまず警察逮捕から始まっている。ごく例外的に検察がいきなり逮捕するという特捜事件などもありますが,ほとんどの事件は警察逮捕から始まるわけです。警察逮捕,検察への身柄送致,勾留が行われて,一番長いと23日間身体拘束が続いて,その間に取調べが行われる。その取調べは,法が同格に取調べ権限を認めている警察官の取調べもあれば,ある時点では検察官が取調べ,また警察が取り調べる,そういうふうにして取調べは行われていくわけです。その過程で自白なり不利益な事実を認める供述があれば,これも法的に同格の証拠能力が付与されている警察の調書が作られたり検察の調書が作られたりする。その中で,全身柄事件の検察官の取調べと調書だけをこの制度の対象に加えるということになりますと,警察の取調べと調書については,この制度は適用されないということになります。   これまでの御議論を聞いている限り,このB案を主張された方々は理想型として被疑者取調べの全過程の可視化ということをおっしゃっていたと思うのですけれども,今の説明でお分かりのとおり,B案の帰結は,およそ全過程の可視化ではなくなるわけで,場合によっては,警察の調書については録音・録画がなくても証拠請求ができる。取調べの過程の一部で行われる検察の取調べによる調書だけが録音・録画がないと証拠請求できないということになるわけですけれども,そのような結論を取調べの全過程を録音・録画すべきであると主張している方々がなぜ提案されるのかが私には全く理解できないのです。これは感想でありますけれども,先ほど申し上げたとおり,検察の取調べと調書だけを別扱いにして対象に含めるというのは,法制度的に全く整合しないので,到底賛成できません。 ○上野委員 私の方からは,対象事件の範囲について述べさせていただく前に,検察の取組について若干御説明をさせていただこうと思います。   第23回部会で申し上げましたとおり,検察は,これまで,必要性が高いと認められる事件につきまして,取調べの機能や関係者のプライバシーなどへの影響に配慮しつつ,録音・録画の試行範囲を順次拡大してまいりました。現在,試行範囲の拡大から約3年が経過しましたことから,録音・録画の今後の在り方につきまして検討しているところですので,その検討状況について,まず御説明させていただきたいと思います。   まず,検察におきましては,現在試行の対象としております裁判員制度対象事件や検察独自捜査事件などの4つの類型の事件につきましては,今後,同様の枠組みで本格実施へ移行することを検討しております。制度の対象事件がどのように定められるかは別といたしまして,現在の試行対象事件につきましては,これまで同様,積極的に録音・録画を実施していく予定であります。   次に,新たな試行範囲の拡大について申し上げます。これまでの試行の結果,録音・録画の記録は,供述の任意性・信用性の立証に有用であると認められ,前回部会での今崎委員の御発言のとおり,実務では,裁判所を含めまして,任意性立証のために最も適した証拠は録音・録画記録であるとの認識が徐々に広まってきていると思われます。このような現状からいたしますと,今後,一般的に,取調べ状況について争いが生じた場合に,録音・録画記録によらずに立証することは,これまで以上に困難になっていくものと思われます。そこで,公判立証に責任を負う立場にある検察といたしましては,制度の対象事件がどのように定められるかは別といたしまして,現在,試行の対象としていない事件であっても,例えば,公判請求が見込まれる身柄事件であって,被疑者の供述が立証の中核となることが見込まれるなどの個々の事情により録音・録画する必要性が認められるものにつきましては,今後,録音・録画を活用していく方針とすることを現在検討しております。   以上が検察の取組についての御説明でございますが,次に,録音・録画の対象事件について意見を申し上げます。   本日御説明がございました「事務当局試案」には,全身柄事件における検察官の取調べを対象に含めるB案が併記されておりますが,第一に全身柄事件を一律に制度の対象とする必要性はないと思われること,第二に例外事由が適切に機能するかどうか懸念があること,第三に業務負担や費用の点からも対応が極めて困難であることを考慮いたしますと,検察として,B案を受け入れることは極めて困難でございます。   具体的に御説明いたします。   まず,検察庁で取り扱う身柄事件は年間12万件前後でございますが,そのうち公判請求されるのは5万件ないし6万件で,半数以上は公判請求されておりません。また,検察庁で取り扱う事件のうち公判で取調べ状況が争われる割合は,例えば,裁判員制度対象事件の身柄事件では60件に1件程度ですが,全身柄事件では600件に1件程度に過ぎず,全体として見ればほとんどの事件で取調べが適正に行われ,取調べ状況が争いになることはありません。このように全身柄事件を録音・録画の対象にいたしましても,録音・録画記録が実際に利用される場面はほとんどなく,全身柄事件を一律に録音・録画の対象とする必要性はないと思われます。   他方,録音・録画を義務付ける制度は,これまでにない新しい制度でありまして,例外事由が適切に機能し,録音・録画しなければ得られたはずの供述が得られなくなるという事態がきちんと回避できるのかにつきましては,必ずしも十分な見通しが立っておりません。そういう意味で無視できない懸念が存在すると考えております。   また,裁判員制度対象事件に限ってみましても,例えば,検察官は,被疑者の処分を決するに当たりまして,被疑者が警察段階の取調べにおいてどのような供述をしていたか把握する必要がありますので,現在の試行よりも,録音・録画記録を視聴・確認する作業が大幅に増加することになります。 例えば,警察が被疑者の取調べを合計数十時間したとすると,それが原則として録音・録画されることになりますので,検察官はその分の録音・録画記録を見ることになります。そのため,現在の試行よりも検察庁職員の業務負担は大幅に増大するものと見込まれ,他の事件への影響を懸念しているところでございます。   まして全身柄事件を制度の対象といたしますと,裁判員制度対象事件の身柄事件数の30倍から40倍の事件数となりますので,公判担当検察官等の録音・録画記録の視聴・確認や録音・録画記録の複製の作成・保管を含む事務手続などの業務負担が飛躍的に増大し,果たして円滑な運用ができるか深刻な懸念がございます。そのためには,検察庁職員の大幅な増員が避けられませんし,また,身柄事件を担当する全ての検察官が録音・録画できるよう,専用の機器の配備のほか,大部屋の取調べ室の個室への改修等も必要となり,全体として必要となる費用が莫大なものとなりますので,実際上も対応が極めて困難と思われます。   ただいま申し上げました理由から,検察としてB案を受け入れることは極めて困難です。   広範な事件を制度の対象とすることや,対象事件の将来的拡大をあらかじめ決めてしまうことは,余りにもリスクが大きいと思われます。   制度の対象は,録音・録画の必要性が特に高い事件とし,対象事件の拡大につきましては,制度の施行状況を踏まえまして,その要否を含めて,改めて検討することとするのが現実的であると思われます。   他方,これまでの試行の成果を見ますと,冒頭に申し上げました新たな試行範囲の拡大により,制度の対象事件以外の事件につきましても,取調べ状況をめぐる争いが生じた場合には,かなりの程度録音・録画記録による的確な立証・事実認定が可能となり,さらに,取調べ状況の争い自体も一層減少することになると考えられますので,取調べ状況をめぐって大きな問題が生じることはないものと思われます。 ○小坂井幹事 先ほどちょっと言い忘れましたが,事務当局のこの間の労を多としたいと思っております。ただ,更に更にエネルギーを使っていただいて,何とか取りまとめる方向で,更なるエネルギーの注入をお願いしたいと切に思っております。   それで,今回のA案,B案という書き方なのですが,A案はもとより,B案も全事件拡大への工程,これは有識者の5名の方の御意見の中にあったわけですけれども,それが示されていないという意味では,これはちょっと問題ではないかというふうに思わざるを得ません。ここで重要なことは,私の言葉であえて言いますれば,エンドを示すことです。全事件,先ほど全過程ということもありましたけれども,その道筋をどう明らかにしていくかということが今大事なことだと思います。それがこの部会のミッションに立ち返ったときの我々のよって立つべき基盤ではないかと思います。この部会をやっている間にも,誤判があり,誤った起訴があり,誤った虚偽自白調書の作成がありと,こういうことがずっとあるわけで,それらを防止するのが,あえて可視化という言葉を使いますが,正に可視化がその手段なわけで,そういった全事件への工程を示す,全過程の工程を示すことが明示されていかなければならないのではないかと思っています。そういう意味で,このA案,B案というくくり方はちょっといささか問題があるのではないかと思わざるを得ません。   それで,A案でいずれは広がっていくのだから良いでしょうというか,良いのではないかという御意見があるわけですけれども,私は,今コスト論とかもいろいろ出ましたが,50年,100年経てばそれはそういう可視化制度が完全に全面的に実現する時代は放っておいても来るといえば来るのかもしれません。しかし,その間に,誤判が起き,誤った起訴がなされ,虚偽自白調書が作られることがどれほど起こるのかが,これを想像いたしますと,とてもではないがそう悠長なことは言っておられないと思うわけです。   それで,裁判員制度対象事件を軸に据えて今後構成していくんだと,核にして考えていくんだということ自体に私は異論があるわけではありませんが,今現に裁判員裁判がなされておって,では一般事件で直接主義・口頭主義が本当に実現する形で公判中心主義が今現在なされておるのかというと,私は弁護実務を担当しておって疑問に感じます。長く大阪地裁の部総括をしていらっしゃって,昨年末に急逝されて,同志社大学で教鞭を執っておられた杉田宗久元裁判官から,私は裁判官をお辞めになった後にお聞きしたことがあるのですが,後輩たちの法廷を傍聴していて,訴訟運営を見ていて,がっかりしたと話されていました。旧態依然あるいはより簡略された要旨の告知で済ませて,記録を持ち帰って法廷外で心証を採とるということをずっとやっているのではないか。そういうお話です。もちろん,これはいろいろなやり方が裁判官によってありますので,そういうことを決め付けはできないかもしれませんが,しかし,こういうダブルスタンダードが相当今定着していることは,私は事実なのではないかと思います。   そういう意味では,裁判員裁判の対象事件だけいわゆる可視化にしても,設定さえすれば広がっていくというのは,ちょっと余りにも幻想に過ぎないのではないか,その辺を十分認識しないといけないのではないかと思います。そういった意味でB案の方向で,これはもうB案に理論的整合性というお話が出ましたけれども,要は全過程・全事件への道筋をどうたどっていくかということですから,もしそれはほかに良い案があるというのであれば,それはその案を御提示いただいて,全過程への道筋,全事件への道筋をお示しいただければ良いのではないかと思います。私の考えでは,客観義務を負って準司法官とも言われる検察官が正に進んで範を示すことにおかしなことは余りないのではないかと思います。録音・録画記録媒体が,最良証拠であり,最も優越した証拠であるんだと,あるいは,適正化のためにもベストかどうかは議論があるかもしれませんが,ベターな手段であるということについては異論がないわけです。ですから,その形で検察官が記録されることはむしろ当然ではないかと思います。   この理論的整合性と言われるときには,恐らくは同一事件内で検察と警察の調書の扱いに違いが生じるのはいかがなものかと,こういう御意向があろうかと思います。が,そういう意味では,事件ごとでダブルスタンダードになってしまうのも,こういう言い方が適切かどうか分かりませんが,丙丁付け難いところがなきにしもあらずなわけです。いずれにしても,暫定的な話で,全過程・全事件に向かう道筋をどうするかということが今大事なことだと思われます。全過程・全事件を目指す方向をどう示すかということが大事だと思われるので,その間の猶予期間に若干のずれが生じること自体をそれほど不整合だと非難されるようなものではないと思っています。   身体拘束問題ですけれども,A案もB案も身体拘束でくくっている点はやはり問題だと思います。これは繰り返し申し上げていることなのですが,志布志,氷見,足利,それと村木委員の事件での共犯者とされている人々に生じた取調べ上の問題点を防止するためには,これは当然のことながら身体拘束以外も何とか取り込む形での制度設計をしなければなりません。形式的な身体拘束ということでくくりますと,これはある意味で当然予見されることですけれども,逮捕状の執行を動かすというようなことなどによって時期をずらすことが可能になってしまうという問題もあります。これは身体拘束以外のものを当然含めていくべきだと思います。もちろんそうなると多過ぎるという御議論があるわけですけれども,最低限,例えば取調室とかそれに準じる場所で区切るという形の発想で対応できるのではないかと思っています。   最後にちょっと余計なことかもしれませんが,先ほどの暴力団関係の話が若干ありましたので付け足します。例えば,判例時報1955号172ページ,平成18年9月20日の大阪地裁の判決ですけれども,ひどい暴行があったという事実が認定されています。私の経験上は,任意性・特信性をこの種の事案で争うことは決してまれなことではなくて,資料は幾つもあります。露木幹事が御希望されるのであれば,いや,御希望されなくても資料はお送りしたいと思っています。 ○井上委員 小坂井幹事のお考えあるいはビジョンでは,全事件を目指して,そこに至る一里塚,二里塚ということで工程を明示するべきだということになるのは,それとして理解できるのですが,全事件と決め打ちすることには慎重な御意見も結構あるわけですね。そういう中で,どのようにまとめていくかということを考える必要があると思うのです。その意味で,私は,先ほどどなたかがおっしゃられたように,まずどこか合意の得られるところから始め,一定期間,その実施状況,例外の適用状況なども含めて検証し,それを踏まえてまた検討するというのが最も現実的な解決方法ではないかと考えます。   そして,その最初の設定の仕方については,これまで私は理論的正当性とか筋というものを強調してきました。最終的にはもちろん,いろいろな考慮から政策的あるいは政治的な判断で,どこかで線を引くということになるのかもしれないのですけれども,やはり基本法ですので,それなりに筋が通ったものとなることを確保しないと非常におかしなことになる。積極的な意味での理論的正当性を確保するのは容易でないとしても,少なくともマイナスの意味で,余りにも不整合・不合理なものとなることは最低限避けなければならないと思うのです。その意味で,B案については,一般的に酒巻委員が先ほど言われたのと同意見です。   特にその不整合・不合理性が際立つのは,小坂井幹事も認識されているように,同一事件で,警察等の司法警察職員の取調べと,それに重ねて検察官の取調べが行われる場合の扱いの格差,中でも,それぞれの取調べによって得られた供述について,立証制限との関係で大きな違いが出てくることです。この点は,おそらく,筋の通った説明はできないと思うのです。これは,私のように刑事訴訟法について筋を通して考え,ものを書き,学生にもそのように教えてきた者としては,ちょっと耐えられない,それほどの不整合・不合理さなのです。そういう意味で,私としては,このままの形では,B案には賛成しかねると言わざるを得ません。 ○種谷委員 私の方からは,やはりB案にはどうしても賛成できないというお話をさせていただきたいと思います。   まず,もちろん,供述の任意性,それから信用性を判断する際に,録音・録画が有効だということは当然認めるところではありますけれども,やはりこれまで縷々申し上げているように,録音・録画にはそもそも本質的に取調べの真実解明機能を減殺するという効果があると考えております。したがって,バランスのよいところでということを考える際には,やはり信用性,それから任意性が争われる蓋然性が高いものを類型化して,その対象とするということが必要なんだろうということは,これまで縷々述べてきたところであります。   そういう観点からしますと,先ほど上野委員からお話がありましたように,明らかに裁判員制度対象事件というのが,信用性・任意性が争われる蓋然性が高いということですから,そこを切り取って対象とするというのは極めて合理性があるのではないかなと,バランス論からして合理性があるものだと考えます。   それから,B案については,警察は除外されているのだから関係ないではないかと言われるかもしれませんけれども,先ほど漠然とは考えていたのですが,上野委員の方から,全ての検察官の取調べを対象にするということになると,非常に大変な仕事になってきて,現在の体制ではとても無理で,大幅な検察庁の組織・人員を拡充していかなければいけないというお話がありました。警察の捜査する事件というのは,基本的に検察官に送致をされることになるわけでありまして,その録音・録画の関係で検察の方が手一杯になりますと,警察からの送致事件が滞ったり,また,計画的に行う内偵事件のようなものの着手を遅らせざるを得ないというようなことになってきます。これは治安全体に極めて悪影響が及ぶということになりまして,コストというのは別に金だけのことではなくて,そういった場合の社会的なコストというのをきちんと考えておいていただかないといけないんだろうと思います。そういう意味では,B案は,検察だけの話になるわけではなくて,警察の現場にも多大な悪影響を及ぼすということを御理解いただきたいと思います。   それから,B案というのを仮に将来的には警察についても全事件を義務付けるということの一里塚というふうに考えられるのだとしたら,ますますこれまで申し上げた点から到底賛成できないという意見を申し述べさせていただきたいと思います。 ○宮﨑委員 A案,B案という対立がありますけれども,今まで検察の在り方検討会議からずっと来た委員としては,やはりA案では到底納得ができないというように考えています。在り方検討会議でも可視化というものがメーンのテーマになっておりましたし,また,提言でもその範囲を積極的に拡大していくべきであるというような方向性について大方の合意を得たと提言されているわけであります。その結果が僅か2%の裁判員裁判の可視化だけ,しかも将来的展望も示さないと,こういうことでは納得できない。特に通信傍受が非常に拡大をしている,これは本来は可視化のバランスとして導入が検討されたものであることから見ますと,非常につり合いが悪いと思います。   先ほどから検察だけやるのはバランスが悪いあるいは法的な整合性から見て耐え難いと,こういう御意見が出ましたが,私から見れば,裁判員裁判だけに限り通信傍受だけ拡大するというのはバランス的にとても耐え難いというように逆に思うわけであります。法律的に先ほど整合性が要るとおっしゃっておられましたけれども,運用とはいえ,今はるかに検察の運用が広がっているわけで,そこでもう既に事実上アンバランスが生じている,こういう現状もあるわけであります。私は,検察全件についての御批判があるようでありますけれども,それは目標として定めても,要するに一つ一つ進めていくと,こういう姿勢が今回の法改正でも示されなければならない,このように思っています。そういうことから考えますと,当然B案を中心に考えていくべきだと考えている次第です。 ○神津委員 前回5名の連名の意見を出させていただいたわけなのですが,誤解があったらいけませんので,改めてその意見の真意を申し述べておきたいと思うのですが,基本的にはやはり全事件・全過程における録音・録画,これは身柄拘束されているかどうかを問わず,録音・録画すべきだというのが基本的な5人の考え方だというふうに思っています。   一方で,やはりこの部会でずっとこの議論や回を重ねる中でいろいろな形でそれが難しいという様々な性格の御意見を拝聴する中で,いや,できない,できないということであれば,もうこれは永遠にできないのではないのかなという危機感の下に,ある意味やむにやまれず段階を追って録音・録画を実施するということをあえて申し述べたということについては,改めて受け止めていただきたいなと思います。   その上においてなのですが,このA案,B案とあるのですけれども,今申し上げたような言い方を重ねて申し上げれば,このA案ということであると,今後どういうふうにそれではあるべき方向に向かっていくのかということが全く見えないなということを言わざるを得ないわけでありまして,基本的には先ほど縷々申し述べました,なぜこの部会が設置されたのかということの基本スタンス,そこにどう向かっていくのかということを是非専門家の方々には示していただきたいなと思います。B案がこのままでは難しいというのであれば,どういう形が考えられるのか,そこを是非御提示いただかないと,先ほど申し上げたように,もうできない,できないということだけでは,これはもう永遠にできないのではないかという私どもの疑問は全く払拭されないということだというふうに思っております。そのことを重ねて申し述べておきたいと思います。 ○本田部会長 今,神津委員からもお話がありましたけれども,A案かB案かという議論ではなくて,他のやり方もいろいろとあると思います。これらにも,だんだん拡大させていこうという議論もあったわけです。しかも一番最後のまとめ方というのは非常に難しいのだと思うのですね。スタートのときはここで行くけれども,課題として将来的には更に拡大するなど,いろいろなまとめ方があります。今日は取りあえず一応A案,B案を紹介していますけれども,その他でも皆さんの方で御意見があったらいただきたいと思います。 ○小野委員 今,部会長がおっしゃったとおりだと思うのですね。それで,いろいろな考え方があるのは承知ですけれども,基本的にはそもそもの出発点を考えますと,どこかのところで全事件・全過程ということになっていくだろう,そのための段階的な実施と思います。いきなり全部ということは,それは無理だねということについては,恐らくここの部会でも大方の異論はないだろうと思います。いきなり全部それは無理だと思います。他方で,この裁判員対象事件だけというのでは幾らなんでも余りにもということから,段階的な実施を具体的にどう進めていくかのという中身のある議論をしていくべきだろうと思います。一つの考え方として検察全件ということが提示されたわけですけれども,今,部会長がおっしゃったとおりだと思います。これにこだわることは全くなくて,必要な範囲でどこまで行くのが一番良いのか,よりよい選択として可能なのかという議論になっていくのは当然のことだろうと思いますので,そういう意味ではむしろこれまでの部会での議論を見ながら,実は私は,今回の「事務当局試案」の中にこういう形で,言ってみれば放り投げるような形で,A案,B案というふうに出されると思っていなくて,いろいろな工夫があり得るのではないかと思っていました。先ほど来から事務当局の皆さんの大変な御苦労というふうなことの御意見がありまして,私もそのことについては何の異論もなくて,大変な御苦労であるのですけれども,それでもなおこの部会が始まった意義をよくよくお考えいただいて,更なる御苦労と言うしかないと思うのですが,そういった道筋を出していただけるものと期待をしていましたが,そこのところはちょっと残念だったなという気がしております。   そういうことで言えば,何か5月は日程の関係で予定が入らないということでもあるようですので,是非更なる,私どもから言わせれば段階案ですよね。そういったような道筋を是非お願いしたいと思います。   それで,ちょっと今この場で,先ほどの対象事件の前のところでちょっと私発言を求めたのですが,まだ時間がちょっとあるようなので,勝手ながらよろしければちょっと言わせていただいてもよろしいでしょうか。 ○本田部会長 簡単にお願いします。 ○小野委員 先ほどの話に戻って恐縮なのですが,5項の(二)がかねてから私はちょっと気になっていて,被疑者が記録を拒んだことその他というところですね。記録を拒んだことというのが一つのあれだとすると,それにやはり準ずるものという形での書きぶりにしていただけないのかなと思います。先ほど,私の方で質問したときに,黙秘とか否認とかというのが記録をしているがためにそうなっているんだとすると,それも含まれるというようなお話もありましたけれども,明示的に口頭で拒んだ場合だけではなくて,言動によって拒んでいる,身振り,手振りで拒んでいるということが分かると,例えばですね。そういうようなもっと限定的にやっていただきたいなというふうに思う次第です。   それから,ちょっと長くなってしまいますが,(四)の暴力団の関係ですけれども,先ほどから出ているのですが,この検察庁の方で試行されていまして,それの録音・録画の試行的拡大というのがこれは平成24年7月に出されたものだと思うのですけれども,それ以降についてはちょっと余り具体的な中身が出ていないのですが,要するに事件全体を除外した件数,要するに録音・録画を除外した件数とかいろいろ出ているのです。その中で事件全体を除外した件数559件,取調べが1,551回とあるのですが,その中で組織犯罪を理由とするものというのが89回で5.74%に過ぎないのですね。それから,一部除外した件数が1,507件の5,625回の取調べ,この中で組織犯罪を理由とするものは94回,1.68%しかないのですね。ごく僅かな事例について,これを等し並みに(二),(三)とは全く別の要件でぽんと(四)として出してくるというのは一体どういうことなのかというのは非常に疑問があります。   それから,この組織犯罪絡みのことでも,この検察のまとめの中には,結局,上位者のことについては録音・録画されたらしゃべらないので,録音・録画をやめてほしいと,つまり,拒否をしているというケースが現にあって,本人が拒否をしているということで足りるのではないかというふうにも思っておりまして,そういう意味では(四)の例外規定というのは非常に特異な規定の仕方で,非常に大きな問題があるのではないかと思います。もうちょっとこれはきちっと慎重に議論する必要があるのではないだろうかなと思います。 ○村木委員 何人かの意見と重なるかもしれませんが,録音・録画の二つの目的,井上委員が言われた二つの目的に照らすと,法律的には録音・録画をしなくて良い事件とか取調べというのはないだろうと思います。したがって,どこで切っても法律的には不整合が生じるんだろうというふうに思っています。ただ,いきなり全件,全過程というふうにいかないのであれば,段階的実施ということで,5人で意見書を出したわけです。   そのときの非常に具体的な思いとしては,裁判員裁判だけというのは,やはりこれはもう例外的な録音・録画になってしまうのではないかという非常に大きな懸念というのがあって,それではということで全事件について検察の取調べだけでもということで意見を出したわけです。法律の不整合が耐え難いというのは,きっと法律の御専門の先生から見ればそうなんだろうと思います。ただ,今の取調べや調書の在り方でえん罪が起きていて,人の命や人生が損なわれているというこの状況も,非常に私にとっては耐え難いものなのです。ただ,事務当局側としてA案,B案を出してくださったことは非常に感謝をしていて,具体的な議論が出てきたわけですし,耐え難い部分というのが明らかになったわけですから,特に法律の御専門の先生に耐え難くない程度の不整合という案を是非御提示いただいて,またこの場で議論ができればというふうに思っています。   この全体の構成が身柄事件に限られていますが,それには非常に不安を感じています。自分の事件のときも,厚生労働省の職員の人が,事実と反する供述調書,私が有罪であるという趣旨の供述調書を取られていますが,5人のそういう職員のうちで4人は在宅の取調べということで,身柄の事件だけを対象にすれば今のような状況がなくなるということはないのではないかというふうに思っておりまして,身柄を前提にして全部の議論が進むということに大変不安を感じております。   それから,業務量が増えるというのは,これは私も役人ですので非常に不安はよく分かるところではありますが,例えばあの長時間の取調べの録音・録画を全部見るというのは,それはもう無理に決まっているわけで,先ほどお話がありましたが,例えば,録音・録画をする必要性の高いものとそうでないものというのをある程度分けて,必要性の高いものだけ録音・録画の制度に乗せてはどうかというお話もありましたけれども,そういうふうに必要性の高い,低いは,ある程度予測が付くわけですから,高いものだけ見れば良いわけで,そういうふうにして業務の合理化についても,そこのところがやはり工夫をして,このやり方であればこんな業務が増えるから無理だということではなくて,そこにはもう一つ努力や工夫がなされるべきではないかと思いますので,是非よろしくお願いいたします。 ○但木委員 皆さんの御意見を聴いていて,皆さん方が何とかして新しい時代に向けた新しい制度を作っていこうというところでは,ほぼ同じ方向を向いておられるというふうに受け取りました。やはりそれが一番大事なことだろうと思います。   それで,裁判員裁判というのは確かに一けた台の割合でしかないのですけれども,その果たしてきた歴史的役割というのは非常に大きなものがあったわけです。例えば,公判前整理手続というのは,これは正に裁判員裁判のために設けましたけれども,実際には,それは非常に多くの分野で公判前整理手続が採用されるようになりました。証拠の開示制度も,それに従って裁判員裁判だけではなくて,たくさんの分野の事件で証拠が任意開示されるようになりました。これは皆さん御案内のとおりであります。調書の採用についても,プロの裁判官の場合は,一旦証拠能力だけは認めておいて,後でプロとして判断して信用性ではねるというようなことが過去行われてきましたけれども,現在ではやはり任意性の段階で厳格に絞っていく,あるいは,それは321条1項2号書面についても同じで,検察官調書について,採否,つまり,証拠能力において判断するというようなことがどんどん広まりました。あるいは,やはり公判前整理手続を利用しながら,保釈が非常に第1回公判前でも行われるようになりました。   やはり今刑事訴訟法全体を動かしているのは,国民が参画しているこの裁判員裁判という制度を中核にしているというのは紛れもない事実であります。今回,裁判員裁判だけからまず始めたらどうでしょうかというのは,私自身が初めからそう思っておりました。なぜならば,それは言ってみれば,刑事訴訟法全体にやがていろいろな形で影響を及ぼしていくことは間違いない,それで,その方向というのはやはり新しい時代に即した方向で展開されるということも,これまでの経験則上間違いがない事実だと思っております。   したがいまして,裁判員裁判のところでしっかりした制度を作って,それを捜査官も守り,また,弁護士も守り,そして裁判官も守っていく,そして,司法に参加する裁判員の人たちもそれを前提にして裁判を行っていくということになってくるわけで,これはほかの分野でも大きく影響を与えることは間違いないわけです。間違いないというのは,別に私が保証したわけではなくて,上野委員の発言から,やはりそうだなと思いました。検察官がこれは公判廷で問題があるなというふうに思えば,やはりそれはあらかじめ録音・録画していくんだということをもう検察庁自身が公言しているわけでありまして,それは恐らく今後いろいろな形,皆さん方がこれはどうだ,あれはどうだといろいろ言われますけれども,あらゆる分野で,やはり公判廷で検察官が立証するために必要ということで今後は恐らく大きく展開していくだろうなと思います。それは警察においても,恐らくこれは撮っておこうというものは出てくると思います。実務としてそういう影響が及んでいくであろうということは間違いないと思うのであります。私は,皆さん方が合意されるのに今の案で十分かと思いますけれども,なお今実務にある人々にいろいろ考えていただいて,裁判員裁判でそういう制度が採られることを前提にして,自分たちとしてはどんなふうな将来像を描いていけるんだろうかということを是非御検討いただきたいと思います。それを踏まえて,この部会の皆さんで知恵を出し合って一つの画像を作っていくことが,これからの一番大事な仕事になってきたというふうに思っております。 ○椎橋委員 但木委員の御意見とかなり重複するのですけれども,部会長が言われたように,A案かB案かということに制限する必要ないというのは,おっしゃるとおりだと思うのですね。ただ,事務当局が「試案」としてA案,B案という形で提出されたのは,やはりそれなりの意味があって,つまり,今までのこの部会で議論されてきた意見というのは相当広がりというか,隔たりがありましたので,その中でこの二つの案というのはかなり支持を得ていた案ということで出されてきたという意味で理由があると思います。   私は,この中ではA案が妥当だと考えております。小坂井幹事がゴールへの道筋を示すということが大事だというふうにおっしゃいましたけれども,道筋といっても,ゴールも道筋も,それぞれ委員・幹事の中の頭ではそれぞれ違うので,例えば,ゴールに身柄拘束されていない事案全て,更には参考人まで録音・録画の対象に含むという御意見もありましたけれども,そういうことになると,本当に膨大な事件に対して全過程の録音・録画をしなければならなくなるということになりますよね。そうすると,それに対する人的財源・物的財源というのは厖大なものになって,しかも,その仕事をきちっとやるということになると大変な予算が掛かる。そうなると,警察や検察の人員と予算の相当な増員・増額が必要になると思います。   他方で,そこまで実行した効果がどのぐらいかと,適正な取調べの確保,それから,任意性の立証を確実にする,こういう観点から考えて,実際に,任意性が争われる事件は少なく,また,裁判員裁判対象以外の事件や参考人の場合にはさらにその数が少ないという現実を考えれば,録音・録画が使われる場合が少ないので,その効果,意義が問われかねません。それから,やはり本当に機能するという制度を作る上では,確実にやっていくということが大事だと思っております。裁判員制度はおおむね順調に運営されていると言われておりますけれども,これは模擬裁判をいろいろな場合を想定して多くの事件で行われて,それに対して多くの人々が様々な視点から多角的に検証・検討した上で作られたということが制度がうまく機能した原因だったと思います。録音・録画の場合も,検察においても警察においても試行がなされて,録音・録画の対象を次第に拡充して,その全過程を録音・録画すべきだということについては認識が定着してきていると言われておりますので,試行する中で,ほぼ間違いなくできるだろうという段階になって法制化するということは,私は大事だと思います。試行の過程で録音・録画の有効性も見えてきていますし,他方で,対象犯罪などの問題点も見えてきているので,それらの問題点も含めた上でどこまで法制化するべきかということを考えていくべきだろうと思います。   そうしますと,裁判員裁判の対象事件ということであれば,これはかなり確実にやっていけるだろうという認識が広まっていると思いますので,やはりそこから始めていく。裁判員裁判を対象として,その取調べの録音・録画を全過程で行うという形で運用をして,一定の期間の実務を検証して,順調に運用されていれば更に広げていく可能性は考えられます。裁判員裁判に必要なものと同じようなニーズがあるのはどういうような事件かということを更に考えて,そこに広げていくということは,これは不可能ではないと思います。一度できたら,そこでストップしてしまうのではないかというような危惧を述べられる方もいらっしゃいますけれども,昔と違って最近はいろいろな面で,先ほど但木委員も言われましたけれども,証拠開示についても,また,被疑者国選弁護についても,それから,接見交通の自由化についても,必要なことはやはり進んでいくということがありますので,録音・録画についても,慎重にスタートして,運用を検証して,良い結果が出れば広げていくということについて余り悲観的になる必要はないのではないか,そのように考えております。 ○周防委員 まず,裁判員制度対象事件のみとするということですけれども,これで一番危惧するのは,裁判員裁判とほかの裁判というふうにやはりダブルスタンダードになっていく,そういう危険性がすごく高いと思います。また,僕が目指すところは,やはり全事件・全過程での取調べの録音・録画ですけれども,それはもうそうしなければ,これだけ警察・検察の信頼というものが失われているわけですから,そうしなければ仕方ないと思います。今まで警察・検察関係者の方は,とてもではないけれども無理だとおっしゃいますけれども,そういう状況を自ら作ってきたんだというふうにお考えいただいて,ここは腹をくくって,将来的には全事件をやろうと,そうやって信頼を回復してほしいなと思います。   あと,裁判員制度対象事件だけにすると,もうこれは何度も言ってきましたが,村木委員の事件やPC遠隔操作事件とか痴漢事件とか,全部対象外になってしまうわけですね。そうすると,検察の在り方検討会議から来ているこの会議として,そういう回答で良いのかということがあります。   また,今A案,B案の中ではもう参考人のことが一切触れられていませんが,せめて2号書面の問題があるわけですから,参考人の取調べの録音・録画をどういう形で実行可能にするかということも検討していただきたいなと思います。また,先ほどから出ている膨大な仕事量というか人的なものも含めてできるわけがないというお話でしたけれども,それは今までの取調べのやり方をそのままにして録音・録画しようとするからで,つまり今までのやり方を維持しようとするからそうなるのであって,今回の取調べの録音・録画制度ということに併せて,取調べ自体ももう少し合理的にできる形というものを考えて,やはり仕事を工夫していただきたいなと思います。 ○龍岡委員 多くの方から述べられていますので,重複するところもありますけれども,私は,この特別部会が設置された趣旨にも鑑みますと,取調べの録音・録画についてはできる限り広く実施されることが望ましいと考えております。これまでにもそうした意見を述べてきました。これを制度化することの実質的な意義というのは非常に大きいものがあるというふうに考えています。   その意味で今,但木委員やそのほかの方からもお話がありましたけれども,制度化の第一歩として,合意ができる所から制度化して実施し,実施状況を見ながら段階的に広げていくことも現実的な方策であり,そのような提案がされていることも十分理解することはできます。そういう観点からしますと,仮に裁判員裁判事件を対象とするとしましても,これについてはできるだけ広く実施することが望ましい,例外事由は真に必要とされるやむを得ないものに限られるべきではないかと思います。   「事務当局試案」の「一5」の取調べの録音・録画の例外事由の(二),(三)については,これまでも申し上げてきましたように,どのような場合が含まれるか,外延が必ずしも明らかではなく,運用によってはかなり広がることが考えられますし,裁判で供述の任意性等が争われた場合に,例外事由に当たるかどうかの判断のための立証が必要となるなど,手続が重くなることが懸念されます。録音・録画の例外事由を設けるとしましても,例外事由に当たるかどうか,より明確で,捜査の現場においても判断が容易であり,裁判においても判断と手続が重くならないものであることが望ましいと思います。その意味で,この例外事由についてはなお検討する必要があると思います。 ○露木幹事 念のためでありますけれども,先ほど小野委員から,裁判員制度対象事件は飽くまで第一段階であって,この対象を段階的に拡充していくということについてはほぼコンセンサスがあるかのようなお話がありましたが,警察庁としては重ねて申し上げますけれども,段階的な拡充ということについては何ら与したことはございませんので,公判請求率ですとか,あるいは,自白の任意性・信用性が争われる蓋然性ですとか,こういうことを勘案して真に必要なものに限定するべきであるという立場であって,そういう意味では裁判員制度対象事件が対象として十分であるという立場でございます。   あと,村木委員から,DVDを全部見るのはそれは無理でしょう,必要なものを見るということにしてはどうかというお話がありましたけれども,捜査公判の実務からいえば,証拠の中身を吟味もしないで,例えば,私どもが検察官にそれを送致するとか,検察官が証拠開示で弁護側にそれを開示するとかいうことはあり得ないことでありまして,証拠として取ったものは,これは当然中身を吟味するということは必要になってまいります。 ○安岡委員 井上委員に耐え難きを耐え,忍び難きを忍んでほしいと言うつもりはないのですけれども,是非このA案を上回る範囲で,学者の皆さんがこれなら耐えられなくもないなという程度の枠組みを考えていただきたいと思います。裁判員裁判に絞るのも大方この場での合意が期待できるという意味では,一案だとは思うのですけれども,私は更に広げた所をスタート台にしなければいけないと思います。理由は二つあって,一つは,裁判員制度対象事件だけではいかにも数が小さい。それから,裁判員裁判の対象事件であると重大事件ですから,在宅で調べて起訴まで行くのは事件の性質上少ないと思うので,在宅調べとその調書作成が実際に出てくるような比較的軽い類型にまで対象事件の範囲を広げなければいけないと思います。   それから,二番目の理由は,先ほど周防委員,小坂井幹事もっしゃいましたけれども,日本の刑事司法,刑事手続が,ダブルスタンダード,二つの基準によって進められている印象が,裁判員裁判の導入以来生じているところ,可視化は一般の国民もすごく関心がある所ですので,それの対象事件の範囲が裁判員制度対象事件に絞られたとなると,ますます二つの基準で運営されているという印象を強くするのではないかと思うからです。   これは何も一般の国民に限った話ではなくて,先日,刑事裁判官で実際に御自分で裁判員裁判も経験された方のお話を伺う機会がありまして,その方がこういうふうに言っていました。裁判官は,裁判員裁判をどうするかだけでなくあるべき刑事裁判の姿を追求しているんだと。つまり,私の受けとめでは,裁判員裁判と一般のそのほかの刑事裁判を区別して運営しているわけではない。裁判員裁判の実際を通じて,一般の国民に理解してもらえる,支持をもらえる刑事裁判一般の在り方を追求しているということだと思います。それに付け加えて,ただ残念なことに,裁判官の中にはそういう意識の少ない人もいるんだということをおっしゃっていました。   刑事裁判を運営する方でも,裁判員裁判とそのほかの事件は別の基準で運営している気持ちの方がいらっしゃるということですから,ましてや一般の国民においてをやということです。したがって,一般の国民が注目している可視化の制度導入に当たって,まず裁判員裁判の対象事件から始めるとなると,刑事手続が二重の基準で運営されているという印象を強めることになりますので,是非裁判員裁判よりももっと幅の広い所からスタートしていただきたいと思います。 ○本田部会長 まだ御意見はあろうと思いますが,時間の都合もございますので,本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。   なお,事務当局におきましては,本日の議論を踏まえまして,取調べの録音・録画制度について,「事務当局試案」の内容をいろいろと検討し,改訂するところは改訂するとともに,その他の事項につきましても,これまでの議論を踏まえて,更に検討の上,改訂すべきものは改訂していただきたいと思います。   次回は,取調べの録音・録画制度以外の事項につきましても議論を進めたいと思いますが,具体的な議論の内容につきましては,よく検討した上で,おって皆さんの方にお知らせしたいと思います。   予定していた事項は全て終了しましたので,これにて本日の議事は終了したいと思います。   本日の会議におきまして,特に公表に適さない内容にわたる発言はなかったと思いますので,発言者名を明らかにした上で議事録を公表することとさせていただきたいと思います。   なお,次回の開催日程でございますが,現在,皆さんには,仮の日程をお伝えしておりますが,確定した日程につきましては,近日中に,事務当局を通じてお知らせいたしたいと思います。   それでは,本日はこれにて閉会いたします。どうもありがとうございました。 -了-