法制審議会         民法(債権関係)部会         第81回会議 議事録 第1 日 時  平成25年12月10日(火)自 午後1時00分                       至 午後5時57分 第2 場 所  法務省 大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり)           議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第81回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,野村豊弘委員,岡田幸人幹事,福田千恵子幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料といたしまして,部会資料72Aと72Bを送付させていただきました。それから,本日は積み残し分を審議する関係で,前回の会議でお配りした部会資料70Aを使わせていただきます。なお,部会資料72Aにつきまして,一部に誤りがありましたので机上に正誤表を配布しております。いつものように法務省ウエブサイトには訂正後のものを掲載することにしたいと思います。それから,電子メールで事前にお伝えしたことですけれども,「委任」のうち一部の論点につきましてBタイプの資料で取り上げることを考えておりましたが,これは次回の会議用に事前送付することにしたいと思います。したがいまして,本日は「委任」に関してはAタイプの資料のみを72Aとして配布しております。   このほか,委員等提供資料ですが,山野目章夫幹事から「債権譲渡の対抗要件に関する見直しの方向について」と題する書面を御提出いただいております。これは7月16日開催の第74回会議における山野目先生の御発言を補足する趣旨のものであると承っております。それから,大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の皆さんから,「「事情変更の法理」及び「不安の抗弁権」に関する意見」を提出していただいておりますので,これも机上に配布いたしました。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。   本日は部会資料70Aのうち,前回の積み残し分と,新たに送付いたしました部会資料72A及びBについて御審議いただく予定です。部会資料のAタイプとBタイプの審議の順序につきましては,今回もAタイプの資料を基本としつつ,その間にBタイプの資料の論点を適宜織り込み,おおむね中間試案における各論点の掲載順に従って議論することにしたいと思います。   具体的な進め方としましては,休憩前までに部会資料70Aの「第4 消費貸借」及び「第5 使用貸借」と,部会資料72Bの「第1 事情変更の法理」までについて御審議いただき,午後3時35分頃をめどに適宜,休憩を入れることとしたいと思います。休憩後,部会資料72A及びBの残りの部分について御審議いただきます。   それでは,審議に入ります。   まず,部会資料70Aの「第4 消費貸借」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○住友関係官 御説明いたします。   「1 消費貸借の成立等」は,諾成的消費貸借に関する規定を新設するものであり,中間から変更はありません。   「2 消費貸借の予約」は,当事者が破産手続開始の決定を受けたときは,消費貸借の予約は効力を失うと規定している民法589条を削除するもので,中間試案とは異なる案を提示しております。消費貸借の予約は貸主に貸す債務を負わせる点に主な意義がありますが,今般の改正において貸主に貸す債務を負わせることになる諾成的消費貸借を明文化することによって,消費貸借の予約は実質的に存在意義を失うと考えられます。そこで,パブリック・コメントでも同様の指摘があったことも考慮し,民法589条を削除する案を提示することとしました。この点については中間試案を大きく変更しているところでありますので,これでよいのか,御意見を頂きたいと考えております。   「3 準消費貸借」は,民法588条を実質的に維持するものであり,中間試案からの変更点はありません。   「4 利息」も中間試案から変更はありません。   「5 貸主の担保責任」は,利息付消費貸借には売主の担保責任の規定を,無利息消費貸借には贈与者の担保責任の規定を準用することとするものであり,中間試案から変更はありません。   「6 期限前弁済」は,借主の期限前弁済を明文化するもので中間試案から変更はありません。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 「1 消費貸借の成立等」の(4)について,金銭消費貸借を念頭に申し上げます。資金需要がなくなったなどの理由で契約の成立後に融資をキャンセルした場合に,損害賠償の必要があるかどうかはケース・バイ・ケースであると思います。「借主は損害を賠償しなければならな」いとの規定を置くことは,損害賠償をしなければ融資をキャンセルできないという捉え方をされる懸念がございます。部会資料の説明によりますと,この規定が全ての融資キャンセルにおいて損害賠償を認める趣旨ではないことは理解できます。そのような趣旨であれば,例えば「貸主の損害賠償請求を妨げない」などの誤解が生じない表現にしていただきたいと思います。「借主は損害を賠償しなければならない」との表現は,「6 期限前弁済」の(2)でも出てまいりますが,ここでも同様に誤解の生じない表現を検討すべきであると考えます。 ○岡田委員 同じところになるのですが,まず,1(1)で諾成的契約となりそうになったものを要物契約にしていただいたということに関してはよかったのですが,1(3),1(4)に関して感じることがありまして,1(3)のところで電磁的記録うんぬんというところですが,最近,消費者契約においてもスマホであったり,タブレットで署名させるとか,そういうのが出てきているものですから,それがここで書面とみなされるのか,ケース・バイ・ケースの部分があるのかもしれませんが,ちょっと不安に思っています。この部分については保証契約で同じ条項があるということなので,仕方がないのかもしれませんが,新しい決済方法や貸金契約が出てきているものですから,その辺を検討していただければと思います。   それから,1(4)ですが,今,大島委員もおっしゃいましたけれども,パブリック・コメントでも消費者関連が中心ですが,かなり反対意見が多いことからも損害賠償も金額によっては大きくなるものですから,「しなければならない」という言葉で定められることにも懸念しております。 ○中原委員 1(4)の点について意見を述べます。銀行の場合は,貸出の資金を調達しています。預金を原資としたり,その時の市場金利で調達すればよい場合は,金利のヘッジのために当該貸出の裏で反対取引等行う必要はありません。しかし,例えば固定金利貸出の場合には,裏でヘッジを掛けます。固定金利貸出の資金調達が完了したにもかかわらず,借主が貸主から金銭を受け取るまで契約を解除できることになると,銀行が契約者となっているヘッジ取引をキャンセルせざるを得ませんし,キャンセルによって生じた損害を負担することになります。したがって,借主の都合によって消費貸借契約を解除したことにより貸主に生じた損害は,借主に負担してもらうのが合理的であり,借主が負担するとの規定は置いていただきたいと思います。   それから,1(5)で,破産手続開始の決定という言葉が使われています。銀行の貸出取引は銀行と債務者の信頼関係を基礎においており,破産開始決定に限らず,更生手続開始や再生手続開始の決定の場合も,信頼関係が喪失すると考えられます。わざわざ破産手続開始決定に限定している理由と,本規定は任意規定であって銀行と債務者との契約において,この部分を修正することは可能という理解でよいのか教えてください。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局から説明をしてもらいます。 ○住友関係官 今の最後の点なんですけれども,任意規定ということで理解しております。   それから,破産手続開始の決定の文言だけを残したのかという点につきましては,589条に「破産手続開始の決定を受けたとき」と現行の条文にありまして,そちらのほうをそのまま書いたものであります。ほかの民事再生の点などにつきましては,これまでの部会でも若干議論があったところであると思いますので,現行法にある589条の「破産手続開始の決定」の文言を素案のほうにも書いたということでございます。 ○筒井幹事 1(4)の関係で幾つか御発言を頂きました。この点につきましては,これまでも随分議論をしてきたところでありまして,常に損害が発生するとは限らないということは,これまでの議論の中でも確認されてきたところだと思います。他方で,先ほど中原委員から御発言があったように,一定の場合に損害が発生するということ自体は,事実として認められることであろうと考えております。   そういう前提で,そのことをどのように条文化するかという観点から,現在は1(4)の後段ですけれども,損害が生じたときは賠償しなければならないという表現で,損害があれば賠償しなければならないし,損害がないのであれば賠償する必要はないということを規律しようとしているわけです。この文言に関して何か工夫の余地があるのかどうかについては,更に検討してみたいと思いますけれども,現在の部会資料の案におきましても御指摘いただいたような問題には一応,対応はできていると考えております。 ○中井委員 ただいまの(4)の後段についてですが,大島委員,岡田委員のおっしゃることはもっともだと思いますし,中原委員のおっしゃったことももっともだと思います。弁護士会はこの後段の規定に多くが反対をしております。問題は今の筒井幹事からの説明で,損害が生じたときという言葉によって解決できているのかという点だろうと思います。   中原委員がおっしゃられたような類型,仕組み取引としての消費貸借契約が締結されたときに,用意周到に準備をして,それにコストが掛かっている中で解除されると損害が発生する。そういう場面では借主の任意の解除によって貸主に生じた損害を賠償しなければならないというのは分かるんですが,全てについて常に義務違反なのか。要は損害の有無のみなのかというとそうではなくて,当該消費貸借契約の内容,類型,それを仕組み取引でないというのはざっくりとした切り分けですけれども,類型によって賠償すべき場合と賠償するまでもない場合がある。損害の有無だけではなくて,そこで表現し尽くされていない,義務違反がある場合とない場合があるのではないかと思います。   岡田委員のおっしゃるような消費者金融の場面ではそもそも義務違反はない,損害の有無について検討する必要もない。逆に言えば,何か理屈をつけて損害といえば若干の手続費用が掛かりました。その手続費用は損害ですということになり得るのかもしれませんけれども,そういう手続費用も含めて,消費者金融では金利設定がなされている。交付までは自由に解除できる。ある意味で解除することは権利であって決して義務違反ではない。こういう類型もあるのではないかと思うわけです。したがって,当該消費貸借契約の内容若しくはその締結の経緯,その準備,具体的な当該契約の趣旨といってもいいのかもしれませんけれども,それによってそもそもの責任の有無がまず判断される。ありとなったときに次のステージに進んで,損害のあり,なしの判断に至る。このような構成ではないか。それを何とか表現できないかと思う次第です。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御意見はございますか。事務当局から特に補足は。 ○筒井幹事 中井委員の御発言もよく理解はできるのですけれども,そういったものについては,通常は特約の認定によって処理をしているのではないかという気もいたします。一般的には,損害が発生してもそれを賠償する必要がない事案では,その旨の特約を認定することが可能なのではないかと思います。ということを申し上げた上で,しかし,表現ぶりにわたることですので,中井委員から御指摘いただいたことや,大島委員からも別の案を御提示いただいていますので,そういったものについて更に検討していきたいと思います。 ○中井委員 特約で対応できるのではないかという筒井幹事の御発言に対しては,むしろ,金融機関が仕組み取引的なもの,当該契約を締結して,その資金を準備しなければならないような固定金利で長期のものを組んだ,若しくは巨額の資金を調達する,そういう場面でこそ損害が想定されるわけで,また,義務違反が想定されるわけで,その場面こそ容易に特約が締結できる。諾成的消費貸借契約の類型を認めた真の意義は借りる権利を保護するため,何度か,ここでも住宅ローンを締結した,家の準備をしたにもかかわらず,貸してくれなかったら困るではないか,その資金を使うことを前提に計画したものが要物契約では困ると,だから,諾成契約にする実務の要請があると。   これは借りる権利を想定して作られたのがメインの理由で,借りる義務をメインに想定して諾成契約を認めたわけではないという理解をしております。だとすれば,原則,借主が借りなくても賠償義務はないとうたってもいいぐらいで,金融機関等がそういう取引をするときこそ特約で,あなたがこれで借りなかったことによって生じた損害は賠償しなければなりませんよと,特約で解決できるのではないかとさえ思います。筒井幹事が特約でとおっしゃられたので,かえってそう思いました。   更に付言して申し上げますと,消費貸借の予約を削除するという提案があります。考えてみますと,消費貸借の予約は,どちらに義務を課しているのでしょうか。借主に借りる義務を想定した消費貸借の予約というのは今まであったのかもしれませんし,あり得るのかもしれませんけれども,そういうことは想定されていなくて,借主が権利行使をすれば貸主は貸さなければならないという形で消費貸借の予約が想定されていた。そのときに権利行使をしないからといって借主に賠償義務はなかったはずで,借りるか,借りないかは自由だった。   今回,諾成契約としての消費貸借は,借主の義務を認めて借りなければ賠償しなければならないことを原則とするならば,消費貸借の予約は,現実には使われるかどうか全く分からないんですけれども,借りることが義務付けられない類型として意義を持つのではないかと思うわけです。消費貸借の予約というのがある意味で借主の選択の自由を保護する一つの仕組みだったとすれば,諾成的消費貸借契約という類型を設けた経緯に照らしても,先ほどの(4)の後段については更に慎重な検討をしていただきたいと思う次第です。 ○岡委員 今,一貫して話題になっている(4)のところについての補足,追加でございます。契約の趣旨に照らして,賠償義務がない場合があり得ることをうまくぜひ表現すべきであるという論点は出たと思います。それに付け加えまして,現在の表現だと損害があれば全部賠償と読めてしまいますが,当然,予見可能性ルールはここにも適用されるはずでございますので,予見可能でない損害については賠償対象ではないと,こういうこともこの条文の解釈論の中で明らかにすべきであると思います。 ○住友関係官 今,消費貸借の予約の話が出たんですけれども,消費貸借の予約について589条を削除するものとしているわけでありまして,消費貸借の予約というのは有償契約であれば売買の規定が準用されて,そういうものが今後もあるという前提でやっておりまして,消費貸借の予約をなくするという趣旨ではございません。 ○中田委員 1と予約とそれぞれについて意見があります。   1ついては,損害の内容が逸失利益ではなくて積極損害を予定しているという説明なんですが,確実にそう読めるのかどうか,どこでそれが確保されているのかということをお教えいただければと思います。   それから,借りる義務についての御意見が出ていますが,借りる義務というのはそもそも通常の債務なのか,それとも受領義務の一種なのかという問題があると思うんですけれども,何か貸す義務に対応する借りる義務というのがあるんだとなっていくと,やや,それが独り歩きする可能性があるかなという気がいたします。   それから,貸主と借主のバランスということからいいますと,貸主が貸さないときは419条が適用されることになるのだとしますと,今回は416条が金銭債務については落とされたものですから,上限があることになるわけですけれども,それに対して借主が借りる義務を履行しない場合には,上限がないことになるのかどうか,そこのバランスをどう考えるのかということがあるかもしれません。   次に消費貸借の予約についてなんですが,今,住友関係官がおっしゃったように,消費貸借の予約を利息付消費貸借についてすることは可能だろうと思います。その予約をした場合に,予約の後,当事者の一方が破産したらどうなるのかということが,589条を削除することによって規律がなくなるわけなんですけれども,それで大丈夫なのかということは残るかもしれません。特に借主の側が予約完結の意思表示をして貸せというときにどうなるのかということで,貸主が破産した場合と借主が破産した場合と,それぞれについて問題があるわけです。   実際には予約なんて使われないというのかもしれませんけれども,ただ,コミットメントライン契約については特定融資枠契約法で規定がありまして,その性質は消費貸借の予約であって589条の適用があるというのが立法担当者の見解でありますので,そこがカバーできているのだろうかということも気になります。そうしますと,中間試案のように589条を修正した上で残すということもなお検討していいのではないかと思います。 ○住友関係官 今の589条を削ってしまって大丈夫なのかというお話なんですけれども,第4の1(5)のほうで,諾成的消費貸借については破産手続開始の決定を受けたときは効力を失うと規定しておりますので,予約した後に予約完結権が行使されて諾成的消費貸借が成立したという段階で,(5)の規律が適用されると説明することもできると思いますし,そもそも予約完結権が行使される前の段階であったとしても,(5)の趣旨からして予約は効力を失うんだと解釈することもできるのではないかなと考えております。 ○中田委員 そうしますと,予約については例えば書面要件ですとか,破産の場合などについても,諾成的消費貸借の規定を類推適用するということでも対応できるということでしょうか。 ○住友関係官 そうなるのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかに消費貸借関連の御意見がありましたらお出しください。 ○中原委員 「6 期限前弁済」の点について1点お伺いしたいと思います。(2)で「当事者が返還の時期を定めた場合であっても,借主は,いつでも返還をすることができるものとする。この場合において,貸主に損害が生じたときは,借主は,その損害を弁償しなければならない。」という点の前段のところです。いつでも返還することができるとしても,先ほど述べた仕組み取引のような場合には,当日に返済するといっても返済の事務処理が出来ないというケースが間々あります。裏にヘッジ取引をしている場合には,そのヘッジの解約が完了しなければ,借主に負担してもらう金額が固まらないというケースもあります。そのような場合は,当日返済すると言われても,返済を受けることができません。本規定も任意規定であって,あらかじめ当事者間で返済の時期を定める特約をすることは可能と考えてよろしいのでしょうか。 ○住友関係官 この点につきましても任意規定と考えております。 ○中井委員 「4 利息」ですけれども,これも今の任意規定かどうかというのに関わるわけですが,4の一番最後,55ページの最後のところに利息発生日を元本の受領日より後の日とする旨の合意を妨げる趣旨ではないと,だから,発生しない期間を設けることは任意にできる。こう書かれているわけですけれども,逆に言えば,交付前から利息が発生する合意は当然許されないという理解だろうと思います。その限りでは強行規定と理解すべきだと思いますが,最後に書いていただいていることから明らかということかもしれませんが,確認をしておきたいと思います。 ○住友関係官 これまでも部会の中で利息というのは何なのかということが議論されておりまして,利息は,手元に来てから発生して,返したらその後は発生しないというような整理がなされていると思いますし,部会資料についても,そのような考えに基づいて作成しております。 ○中井委員 そうだとすれば,これは金銭を受け取った日から起算してとのみ記載しているわけですけれども,金銭を受け取った日から,かつ現実にそれを利用している期間,終期についても金銭を期限前であれ,返した時点で利息発生が終わるということを明らかにしておいたほうが分かりやすいのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○住友関係官 言葉遣いにつきましてはまた検討させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○山本(和)幹事 規定の中身のお話ではなくて位置の問題で恐縮なんですけれども,1(5)の破産手続開始決定を受けたときの問題でありますけれども,この中身,それから,民事再生,会社更生については解釈に委ねるということ自体については異論はありません。ただ,規定の位置につきまして,これを民法の中に残しておくのが相当なのかどうかという点であります。民事再生,会社更生を現段階では解釈に委ねるということでそのとおりかと思うんですけれども,将来的にはかなり重要な問題なので,場合によっては明文規定を民事再生法,会社更正法の中に置くということも考えられると思うんですが,その際に破産の場合だけの規律が民法にあって,民事再生,会社更生に置くとすれば,それぞれの法律の法律に置くことになると思うんですけれども,それが果たして規定の位置としてどうかという感じは持っております。   より一般的に言えば,この後,請負の話が出てきます,あるいは改正の対象にはなっていませんが,雇用についても破産手続開始決定との関係について言及した規定が民法にはあるわけですが,これらの規定は契約が破産手続開始決定によってどのような一般的な影響を受けるかということは,破産法の中に言わば一般的に包括的な形で規定があって,ある意味ではその特則に係る規定ということになります。そのような規定の関係からすれば,それらが民法の中にあるということがどうなのか。   現行民法制定時の倒産法制との関係では,民法の中に置かれたことには,それなりの合理性というのはあったのかもしれないと思うわけですが,現行の倒産法制を前提としたときに,これらの破産手続開始決定との関係が民法の中に規定されているということについては,個人的には違和感を持っておりまして,この先,数十年にわたってこれらの規定が民法の中に残り続けるということは果たしてどうなのだろうか,分かりやすい法制という観点からどうなのだろうかという印象を持ち,この審議会でもかつて,そのような意見が述べられたことがあったのではないかと思いますが,私もそのような印象を持っておりますので,できれば御検討いただければと思います。 ○村松関係官 今,御指摘いただきました倒産関係の実体的な規定の配置については,最終的にどうなるかというところはございますけれども,検討はしたいと考えております。 ○鎌田部会長 では,よろしくお願いします。 ○中井委員 1(5)の破産手続を開始した場合の規律の在り方ですけれども,将来的には今,御指摘のあったように倒産法の中で整理されていくという方向に全く異存はありません。先ほどこの規定をめぐって中原委員から民事再生,会社更生のときはどうなるのだと。それは解釈に委ねると。解釈に委ねるといっても,民事再生,会社更生では双方未履行双務契約の解除か,履行選択の規定しかないとすれば,(5)の破産手続開始決定というのを再生若しくは更生にも準用するのかどうかというような解釈論があり得るのかもしれません。   ただ,時間的にないのかもしれませんけれども,原則は双方未履行双務契約で解決するとしても,中原委員がおっしゃられたように借主に再生や更生の手続が開始したときに,借主のほうで履行するか,解除するかの選択権を与えただけで貸主の保護は十分だろうか。その場面では貸主としては解除できていいと言えるのではないか。逆に貸主に再生や更生が開始した場合には貸主が貸すか,貸さないか,いわゆる双方未履行双務契約の解除をするか,履行の選択をするかで十分であって借主側に何らの選択権を与える必要はない,むしろ,履行してくれたら本来の契約目的を達するので問題はない。   そのように考えることができれば,規定として複雑になるのかもしれませんが,借主に再生や更生手続が開始したときは642条の請負と同様に相手方,つまり,貸主に解除権を与えて保護を図るというようなことは十分考えられるのではないかと思います。改正の中に盛り込むには時機に遅れているのかもしれませんけれども,仮に次の倒産法制の改正に結びつくとすれば,それも想定して意見として述べておきます。 ○鎌田部会長 では,ただいま御指摘の点も含めて引き続き検討をよろしくお願いいたします。   ほかに消費貸借関連の御意見はございますでしょうか。 ○中田委員 先ほどの倒産法との関係について,倒産法に入れるという御意見だけが二つ出ましたので,民法になお置いておいたほうがよいのではないかという意見を持っておりますので,そういう意見もあるということも御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいですか。 ○岡委員 中田先生の,民法に破産に関する規定を置いておいたほうがいいという理由は何なのか,教えていただければありがたいです。 ○中田委員 民法の中に破産に関する規定が幾つかあるわけですけれども,それを全て倒産のほうに送ってしまいますと,契約あるいはその他の法律関係について,当事者が破産したときにどうなるかということは,民法だけを見ても分からないという状態になります。あるいは各種の契約の他の終了原因との関係という観点でも,民法に置いておいたほうが比較検討しやすいのではないかと思います。更に根本的に申しますと,特に破産の場合にそうなんですけれども,最終的には債権債務に還元していって,破産手続を進めていくということになりますので,その際に契約がどうなるのかということよりも,債権債務がどうなるのかということにどうしても関心が集中することになります。しかし,契約の帰すうという観点からいいますと,民法の他の規定との関連の整合性をなお検討する必要性があるのではないかということです。 ○大村幹事 私は今の問題について定見はないのですが,今回の改正の対象になっている契約法以外の部分について,破産に関する規定が民法中にあると思いますので,それらについてどうするかということも考慮しつつ御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御発言がありましたらお出しください。 ○中井委員 先ほど1「消費貸借の成立等」の(4)の後段について発言をさせていただきました。6「期限前弁済」の(2)の後段についても同じ問題があるわけですけれども,先ほどの意見をここでも援用しますが,ただ,認識としてお伝えしておきたいのは,1における(4)の後段の意味のほうがはるかに問題としては重いということは言うまでもないことで,中間試案においてもそちらは規定を設けないというのが代案として(注)で記載されていました。   では,6(2)については,期限の利益の放棄の136条2項との関係で現行法でもある,だから,損害があるときには賠償するという説明が一般的になされているかもしれませんけれども,それであっても136条2項は相手の利益を害することはできないのであって,常に期限前弁済をしたら損害賠償だということは,この条文からも直ちに読めるわけでもありません。利益を害さない場面だって期限前弁済であるわけで,返された資金を運用できるとかいう点においては。したがって,1(4)と6(2)では質のレベルが異なることは認めざるを得ませんが,同質の問題を含んでいるということを十分に理解した上で規定すべきだということを重ねて申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○潮見幹事 私は今の6(2)はこのままでいいと思っているのですが,補足説明になるのか,一問一答か,その辺りになるのかと思いますけれども,先ほどからの中井委員の発言の中でここの損害賠償は義務違反を理由とする損害賠償であるということを2度,3度,おっしゃられていました。そういうものとして2項のいわゆる後段部分を捉えるのか,それとも義務違反というものは関係なく,ここでは期限前弁済,損害と因果関係があれば,義務違反を問うことなく賠償責任の成立ということを認めてよいのかという点について,将来のこともありますから,何らかの形で明らかにしておいていただいたほうがいいのではないかと思いました。 ○中井委員 今の潮見幹事の意見は6(2)についてのみとお聞きしていいんでしょうか。1(4)については。 ○潮見幹事 そちらにも関係するのではないでしょうか。同じことだと思います。 ○道垣内幹事 潮見幹事がおっしゃった問題は大問題で,一方に決めつけて,明らかにしないでおいていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがですか。   それでは,御指摘いただいた点を踏まえて更に検討を続けさせていただきます。   次に,部会資料70Aの「第5 使用貸借」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○住友関係官 御説明いたします。   「1 使用貸借の成立等」は,使用貸借を諾成契約とするものであり,中間試案から変更はありません。   「2 使用貸借の終了」は,民法597条を使用貸借の終了に着目した表現に改めるものであり,中間試案から変更はありません。   「3 使用貸借終了後の収去義務及び原状回復義務」は,借主の収去義務と収去権,原状回復義務を定めたものであり,中間試案から実質的な変更はありません。   「4 損害賠償及び費用償還の請求権に関する期間制限」については,用法違反による損害賠償請求権に関する消滅時効については,目的物が返還されたときから1年間は完成しないこととするもの,費用償還請求権の除斥期間の定めを撤廃するものであり,中間試案からの変更点はありません。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。特に御意見はないと思ってよろしいですか。 ○中田委員 1の成立の説明の部分なんですけれども,使用貸借が情義的な関係だけではなくて経済的な取引の一環として行われることが多いので,改正するというような説明になっていることについて申し上げたいと思います。確かに企業が下請に金型を無償で貸与するとか,特約店に販売促進用の設備を貸すとか,あるいは石油会社がサービスステーションに施設を無償で貸すとかというような取引がたくさんあって,それは重要だと思うんですけれども,その意味ではここの指摘は正当なんですが,ただ,それらは無償ではあるけれども,利益を追求するために使用させるという大きな取引の中の一環として位置付けられるという特殊性があると思うんです。その部分にだけ着目すると,特殊なタイプの使用貸借を使用貸借の中核に置くということになりまして,元々の使用貸借が例外的なものになってしまうというのはちょっとおかしいのではないかと思います。   実際に紛争になることが多いのは不動産の使用貸借,特に人的な関係に基づくものでありまして,伝統的な不動産使用貸借で合意だけで拘束力を強めるということについては,パブコメでも懸念の意見も出ているところです。私は以前から1(2)についてはもう少し解除の余地を広げてよいという意見でしたが,これは今の段階ではもはや受け入れられないということは理解しております。ただ,例えば不動産の使用貸借についてのみ,解除できない場合をより限定することができないだろうかという気がいたします。それが無理であっても,少なくとも説明のところで,伝統的な使用貸借においても諾成化が必要だという理由をもう少し具体的に書く必要があるのではないかと思います。それは4の損害賠償請求権の期間制限というところでも同じでありまして,経済的取引の一環としての使用貸借の現代における重要性とともに,伝統的な使用貸借の現代化ということも説明すべきではないかと思います。   それから,1に関するところで使用貸借の諾成契約化に伴う論点として,破産との関係について,61ページの1の解説の最後のところに出ております。目的物の引渡し前に当事者の一方が破産したときは,破産法53条の解釈に委ねるとなっているわけですが,使用貸借が諾成化されても双務契約になるわけではないのではないかと思います。そうしますと,書面による使用貸借で引渡し前に貸主が破産したときに,破産管財人が解除できるかどうかということは必ずしも確実ではなくて,破産法の解釈に委ねるということになると思いますが,これまで破産法53条を双務契約以外に拡張するということは,それほど一般的には認められてこなかったのではないかと思いますので,何らかの手当てをしておく必要があるのではないかと思います。   それで二つ方法を考えました。一つは引渡し前の使用貸借の解除権を広くするということです。これは先ほど申しましたとおり,不動産の使用貸借については書面による解除権を排除する合意がある場合に解除できないとするということです。もう一つはもう少し一般的に,使用貸借の貸主について破産手続が開始した場合には管財人は解除することができる,ただし,それによって生じた損害の賠償について借主が破産財団の配当に加入できることにする,こんな規定も考えられるのではないかと思います。この第2の案は受取後も対象になり得る規律でして,その当否については更に検討する必要があると思いますが,いずれにしましても,目的物受取前の当事者の破産についてはなお検討する必要があるのではないかと思います。 ○金関係官 中田委員から御指摘を頂いた部会資料70Aの61ページの解説の部分,破産法53条などの双方未履行双務契約に関する規定等の解釈に委ねるという記述の趣旨について少し説明をさせていただきます。御指摘のとおり,使用貸借が諾成化されても双務契約ではないことを前提としておりますけれども,とはいえ,諾成化することによって,一応,貸主と借主の双方が債務を負う状態になります。もちろん,この双方の債務は,一方が貸して他方がそれを返すというだけのものですので,双務契約にはならないと思いますが,ただ,解釈論として破産法53条などを参考にした処理をすることがあり得るかもしれないという趣旨の記述です。また,それとともに,諾成化されたとしても使用貸借は双務契約ではないのであれば,破産法53条などの適用はないと言わざるを得ず,通常の処理といいますか,貸主破産の場合であれば,借主の貸主に対する目的物を引き渡せという債権が破産債権となり,これが金銭評価されて配当されるなどといった処理がされることもあり得ることを視野に入れた記述でもあります。さらに,同じ記述の箇所では,破産法53条や民事再生法49条などの双方未履行双務契約に関する規定の解釈のほかに,部会資料70Aの第4の1(5)の解釈にも委ねるという記述をしております。これは,諾成的消費貸借の当事者が破産した場合の当然失効の規定を想定したものですけれども,双務契約ではない使用貸借に破産法53条が適用されることはなく,かつ,借主の貸主に対する目的物引渡債権を破産債権と捉えて配当するというような処理をするわけでもなく,目的物の引渡し前に当事者が破産すれば,その場合には使用貸借が当然に失効するという考え方も,可能性としてはあり得る旨を記述しております。  結局,この論点については,先ほど話題になりました諾成的消費貸借の当事者の再生・更生の場合と同様に,部会や分科会で議論はされたものの,よい落ち着き所というのが見出せなかった関係で,いろいろな可能性を含みつつ引き続き解釈に委ねるという方針を採っているのが現状です。そういう意味では,中田委員の先ほどの二つ目の方法も否定されるものではないと理解しております。 ○中田委員 規定するのはとても難しくて,最終的には解釈に委ねるということも十分考えられると思います。ただ,今,お示しになられた破産法53条の類推適用については,この規定の前提となっているところの双方の債権債務が同時履行の関係にあるかというと,使用貸借の場合には諾成化されても依然として同時履行の関係にはないのではないかと思います。そうしますと,53条の前提と違っているのではないかと思います。もちろん,不安の抗弁権を基礎にすればよいという考え方もありますけれども,今までよりも広がるのではないかなと思います。   それから,引渡請求権が破産債権として金銭処理されるということ,これは考え方としてはあり得ると思うんですが,引渡請求権だけなのか,それとも引渡しを受けて更に一定あるいは不定の期間,借りるという部分をどう評価するかということとも関係してきますので,なお,それも検討の余地があると思います。   三番目に,消費貸借の規定を類推すればということなんですけれども,ただ,消費貸借と使用貸借については規律も幾つか違う点もありますので,無理に類推するよりも何らかの規定を置くということも考えられるのではないかなと思います。  今,この段階ですから最終的にはどうしても間に合わない,解釈に委ねるということであれば固執はいたしませんけれども,ただ,問題点はあると思います。 ○鎌田部会長 それでは,御指摘の点を少し検討していただくようにお願いをしておきます。   ほかに御意見は。 ○山本(敬)幹事 取り上げなかった論点について発言させていただきたいと思います。67ページで,継続的契約に関しては部会資料にあるような理由から取り上げないということですが,取り上げない理由のうち,幾つかある大きな理由の一つは,継続的契約は多様であって一律に適用されるような規定を設けるべきではない,設けようとしても基準を明確に設定しにくいということだと思います。このこと自体にはいろいろな意見があるかもしれませんが,理解はできるところです。しかし,そうしますと,今日の本題ではないのですが,例えば賃貸借についての債務不履行解除及び無断転貸・譲渡に関する解除について,判例上は背信性不存在の抗弁を認めることが法理として確立しています。これを民法典に明文化する可能性については,継続的契約についてこのような規定を設けないとすると,検討せざるを得ないのではないかと思います。継続的契約についてこのような決定をするのであれば,何も検討しないまま通り過ぎることは許されないのでないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 関連した御意見がありましたら併せてお出しください。 ○中田委員 継続的契約を取り上げないということですが,せめて期間の定めのない契約が予告を伴う解約申入れで終了するということだけでも,規定できたらいいけれども,とは思います。国際的な立法モデルでも漏れなく入っておりますし,規定がないと解約申入れの根拠がはっきりしないということもあります。期間の定めのある契約の更新などの存続については,契約解釈や信義則で対応できるわけですが,定めのない契約の解約申入れについては,何か規定がないとはっきりしないということがあります。   要件化が難しいということで落とされるのかもしれませんので,大変残念なんですけれども,ただ,今回の改正で使用貸借など各種の契約の終了について,契約期間との関係が整理されておりまして,考え方はある程度は反映されていると思います。そこで,あとはそれを基礎にして,学説,判例,実務に委ねられるということでしようがないのかなという気もしておりますが,残念は残念です。その上で,規定しないとなると,今,山本幹事のおっしゃったような問題などがまた新たに出てきますので,それはそれで更に検討する必要があると思います。 ○鎌田部会長 ほかに継続的契約関連の御意見はありますか。   それでは,事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 山本敬三幹事がおっしゃったいわゆる信頼関係不破壊の抗弁につきましては,第二ステージまで議論がされて,中間試案のたたき台の段階で取り上げない論点として扱われることになったと認識しております。もちろん,そのときは継続的契約の規律が中間試案で取り上げられるという前提でしたので,継続的契約の規律が取り上げられないのであれば,再度検討をする必要があるとは思っております。 ○鎌田部会長 ほかに御意見がありましたらお出しください。   特にないようでしたら,部会資料72Bに進ませていただきます。72Bの「第1 事情変更の法理」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○村松関係官 それでは,72Bの「第1 事情変更の法理」について御説明いたします。事情変更の法理については7月の第75回会議における審議の結果を踏まえ,効果を解除に絞りつつ,要件について見直しを行っておりまして,一つのイメージを1(2)の1ページの末尾部分以降に掲げております。その要件の趣旨は部会資料に記載したとおりですけれども,ブラケットに付した部分の当否を含めまして,このような要件立てとすることの当否を御審議いただきたいと思います。   そして,その上で事情変更の法理を明文化することの要否が検討課題となりますけれども,明文化に反対する意見のうち,総論的な批判の概要及びそれらについての検討の結果は3ページの2(1)に記載したとおりでございます。事務当局で分析したところによりますと,基本的には,厳格な運用をしていると言われる現在の裁判実務をそういった要件で適切に表現できるのかという点が最も重要な検討課題であろうと考えております。そして,この点を検討するに当たりましては従前の裁判例の状況についての認識をある程度共通のものとしておくことが必要であると考えられます。この点については従前の部会でも指摘を頂いております。   そこで,簡略な形でではございますけれども,4ページ以下に従前の裁判例を掲載しております。裁判例の1から11までが大審院を含めた最上級審の判決のうち主要なものということになります。事情変更の法理の適用を認めた例は裁判例1のみでございまして,それ以外はいずれも否定例ということになります。また,裁判例12以降は主要な下級審裁判例ですけれども,否定例を含めますと相当に数も多くなりますので,ここでは事情変更の法理の適用を認めたもののうち主要なものということでお示ししております。   ただ,これらがいずれも結論として適切なものであったと言えるかについては,むしろ,議論もあり得るところであろうと考えております。仮に事情変更の法理による解除というものを明文化するとすれば,立法趣旨の説明をするに際しまして従前の裁判例のうち,その判断が適切と思われるものを紹介していくということになりますし,逆にこれは適切ではないというものがあれば,それもそのように紹介していく必要もあろうかと思われますことから,ここではその裁判例の評価,当否も含めてできれば御議論をお願いできればと思っております。   その上で,先ほど申し上げましたように,1ページの要件のイメージとしてお示ししたもので,現在の裁判実務を適切に表現できているのかといった点を中心に御議論いただきまして,その上で明文化の必要性についてどのように考えるか,御議論を頂戴できればと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 以前の会議で,このような法理を明文化する必要はないと申し上げました。中小企業はたとえ効果が契約の解除に限られたとしても,裁判外で事情変更の法理による解除を盾に債務の減額を押し付けられるなど,取引先との力関係から濫用の被害に遭うことが懸念されるためです。仮に事情変更の法理を規定するのであれば,今回の部会資料に記載された要件のイメージのように適用要件を極めて限定的にすることに加え,例えばヨーロッパ契約法原則にあるように経済的,社会的事情の変更があったとしても,飽くまで債務を履行することが原則であるとの規定を置くなど,原則を明示していただきたいと思います。 ○安永委員 事情変更の明文化に関しては,労働契約の関係についても整理をしていただいておりますが,前回の事情変更の法理の審議の際にも申し上げたように,「解雇対象者の選定基準と適用の合理性」,「労働組合等への説明・協議」,「解雇回避義務の履行」などの解雇の有効要件を充足していなくても事情変更の法理の要件を充足し,労働契約が解除されることを危惧しております。また,事情変更の法理は全ての契約を対象とするため,その要件は抽象的にならざるを得ず,経営上の理由による解雇について従来の有効性要件の範囲より広く解釈される危険性もあります。   以上により,事情変更の法理については明文化せずに,信義則上の法理にとどめていただきたいと思います。仮に明文化する場合は部会資料の「要件のイメージ」で提起されている内容に加え,解雇の有効性を判断するに際し考慮される要件も盛り込んでいただくなど,更に要件を厳格化していただきたいと思います。 ○佐成委員 我々のほうの内部でも改めて議論をしておりまして,事情変更法理の効果として,契約改訂を落とした上で,解除のみにしたということで,今までは完全に反対意見一辺倒だったんですけれども,ちょっと微妙な感じになりつつあることは事実でございます。ただ,現段階で賛成であるとまでは言っていないところがございまして,まだ,慎重な意見が非常に強いというのが現状でございます。要するに,契約改訂という効果がないので,比較的,反対のトーンは従前よりは大分和らいだ感じがしますけれども,まだ,賛成という感じではないというのがまず一つでございます。   それから,要件に関してでございますけれども,今回,厳し目にいろいろ作ったということなのですけれども,内部で議論していた中では,部会資料の1ページの要件のイメージの1の②というところで,「信義に反して著しく不当」という,この要件については違和感がある,反対であるという意見が内部では出ております。つまり,事情変更の法理の明文化自体が信義則の具体化という趣旨であったとすると,ここにまた信義という言葉が入ってくるのは,実務家としてはやや気になるというところがございます。それと,要件のイメージの2について,せっかく要件を厳格化しているのに,これを入れることによって,逆に弱くなってしまうのではないかと,要件が緩和されてしまうのではないかと,そういったような意見もございまして,いろいろ反対する意見があったと記憶しております。   それで,今回,4ページ以下に具体的な裁判例が出ておりまして,個々について詳細に私も事前に勉強していないので,何とも論評しにくいんですけれども,ただ,少なくとも最高裁がこういった事象について消極的であるということについては,実務界として割とそれは当然だろうというような感じがあります。逆に,ここに下級審の裁判例として積極例がずっと書かれているんですけれども,これについてはかなり実務的には違和感を感じるところでございます。特に14番なんかだと,給油所建設を目的として賃貸借契約を締結したところ云々とありますが,これについて事情変更による解除を認めるというのはいかがなものかなという感じを受けます。   そのほかにも価格変動に伴って事情変更を認めているものが掲げられておりますけれども,これについては,契約締結後かなり長い期間が経過した段階での価格変動ですから,通常でも十分あり得る話なので,これについてもいかがなものかという感じを受けます。もちろん個別の事案がどうだったかということについて私も十分勉強していないので,裁判例の当否は分かりません。けれども,長期契約で価格変動が生じるのはある意味では当然のことでありますので,明文化に当たって厳格な要件をもし規律していくということであるとすると,にも関わらず,下級審で出ておりますこういったものまでも肯定するような形で要件が設定されるというのは,かなり実務界としては違和感を感じるのではないかなというのが現時点での印象でございます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○中井委員 幾つか消極意見があるようですけれども,弁護士会の複数のところから意見を聴きました。前回の資料,そして今回の資料の中では要件のイメージについて更に限定的な方向での取りまとめがなされていますが,今回の要件のイメージを前提として,結構,多くの弁護士会からこのような形で規定をしていく方向で考えてはどうかという積極意見が多く出ております。もちろん,今も複数の指摘がありましたけれども,危惧する意見もありますが,現に相当の裁判例で一般法理として認められており,それを積極的に否定する見解はないわけなので,それを何らかの形で民法に規定することに,積極的意義を認める見解が多数を占めております。   これまで大阪弁護士会は,効果について解除のみに限定すると改訂が否定される誤解を生むかもしれないことから,効果については定めないという提案をしていましたが,ここでの理解がなかなか得られない。その中で,このような修正の部会資料が出たわけですけれども,この部会資料に対してはこれまでの意見を変更して,解除を定めるという形で規定してはどうか,そこから改訂についても将来の含みを残す説明をすることによって,意味のある規定になるのではないかという意見になりました。   要件の中で例示を入れるかどうか,これも二つ分かれましたけれども,後半の①,②の本文の限定からすれば,①の例示は不要ではないかという意見。それから,事情の著しい変更が,③ですけれども,特別なものでありという形で特別ということで意義付けを与えられているように思われますが,この特別なものに特別な意味があるとは思えないので,これはなくしてもいいのではないか。また,2の⑤は,説明がありますように,①と②の要件に収れんされるのではないかというところから,大阪弁護士会の意見としてお手元にお配りした条項案のような形で整理していく,つまり,今回の部会資料のイメージを基本的になぞっているわけですけれども,そういう形で整理してはどうかという積極意見が出ておりました。弁護士会で一致しているわけではございませんが,御紹介しておきたいと思います。 ○岡田委員 事情変更の法理に関して大変制限が厳しいということも分かっておりまして,なかなか,消費者がこの条項を使うということは期待できないですが,ただ,今回,震災の後,結構,消費者センターに寄せられた相談の中で,これは事情変更の法理というのが適用されていいのではないかと思うような事例も結構ありましたけれども,それを判断するとか,解釈するための持って行き場がなくて,調停とか,裁判にいくしかないかということで,調停に送り込んだのが何件かはあるのですけれども,裁判所からの通知を見た事業者から「返金するから調停を取り下げてほしい」と連絡があり調停が取り下げられたという例がありました。具体的に裁判や調停で解決したというのは私の知る限りではありませんが,今回の要件のイメージを見ますとかなり明確になるので,信義則というのよりは一般の人が理解できるのではないかと思います。私の周りでは解除だけではあまり意味がないという声もありますが,私は信義則から一歩出て,厳しいにしろ,イメージが湧くような条文があるというのは望ましいと思います。 ○中井委員 裁判例の中で先ほど14の裁判例について佐成委員から違和感があるという御発言がありました。これはこれまでの審議の中で,契約目的不達成の例として挙げられているものかと思います。前回の審議でも,契約目的不達成のみで事情変更の法理が適用されることについては弁護士会の多くも,また,私自身もそうですけれども,佐成委員と同様の違和感を持っております。14については今回の要件のイメージに定められた要件を前提とすれば,①,②の要件,取り分け②の要件は充足しないのではないかという理解を前提に,このような要件化に賛成しているということを付加しておきます。 ○山本(敬)幹事 個別の要件の定め方について,今回,新たに御提案いただいていますので,少しコメントといいますか,意見を述べさせていただきたいと思います。   まず,②で,「契約の趣旨に照らして当該契約を存続させることが信義ないし衡平に反して著しく不当であるときは」という点ですが,前回の議論を踏まえて「契約の趣旨に照らして」と入れていただいたのはよいと思いますけれども,「信義に反して著しく不当である」ということが事情変更の原則で問題なのかというと,厳密に言えば,少し違うのではないかと思います。事情の著しい変更のために,この契約をした当事者間で契約をそのまま維持すると,到底,許容できないような不均衡が生じてしまうというのが問題ではないかと思います。その意味では,「信義に反して著しく不当である」というよりは,中間試案にありましたように,「当事者間の衡平を著しく害する」ということのほうが実際に合っているのではないかと思います。最高裁判例の定式が「衡平」という表現を使っているのも,突き詰めれば,そのようなところに行き着くのかもしれないと思います。「信義」という文言を使うことに対する違和感が先ほど示されていましたけれども,もっと積極的に「衡平」を使うこともあり得るというのが,一つ目の意見です。   もう1点は,新たにブラケットに入っている,2ページの2の⑤で,「解除権を行使しようとする当事者がこれを予見していたとすれば,契約を締結しなかったと認められるものでなければならない」ということを付け加えてはどうかという御提案についてです。これは恐らく,前回の御意見の中で,潮見幹事だったかと思いますが,ドイツ民法の313条の考え方を参考にして,うまく取りまとめられないかとおっしゃったことが多少影響しているのかもしれませんn。   ただ,ドイツ民法では,「解除権を行使しようとする当事者が」ではなく,「両当事者がこの変更を予見していたならば契約を締結せず,又は異なる内容の契約を締結したであろう場合」となっていまして,「解除権を行使しようとする当事者が」という部分は,ドイツ民法313条ですと,「その当事者にこの契約を維持することは期待できない」という後ろのほうの要件に係っています。その意味では,2をこのまま定めるのは問題があると思います。「両当事者が予見していれば契約を締結しなかった」,ないしは「少なくともこの契約条件では締結しなかったであろう」と入れるのであればよいのかもしれないと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見がありましたらお出しください。 ○山川幹事 労働契約との関係でお教えいただきたいというか,御検討いただきたい点ですが,資料にありますようにかなり限定的な要件ですから,影響というのは余りないのではないかと直感的には思うんですけれども,言わば要件事実的な観点からどうなるかという点です。雇用契約におきましては,期間の定めのない場合,解約はそもそも民法627条でできるのですけれども,そこで労働者側が権利濫用,労働契約法16条の再抗弁を提出するということになりますが,それと事情変更との関係はどうなるのかということです。つまり,解雇権濫用の再抗弁に対して事情変更が再々抗弁になるというのも何かおかしな感じがしますし,そうすると実質的には解雇権濫用の評価障害事実の一環になるくらいなのかなという感じが一方でしております。   他方で,期間の定めがある場合については,解雇権は民法628条とか,労契法17条1項によって,やむを得ない事由がある場合に,初めて解雇権が発生するということになります。そうすると,やむを得ない事由がある場合の解雇権と,事情変更により発生する解雇権との関係がよく分からなくなりまして,一般的にやむを得ない事情として言われているものよりも,事情変更の方がある意味では厳しい要件のようにも思われて,この二つの関係がよく分かりません。それから,やむを得ない事由があった場合でも,労契法17条の解雇権について更に権利濫用の主張が可能であると考えられていますので,そうすると,事情変更について更なる,つまり,事情変更によって解雇権が発生した場合において更なる解雇権濫用というような主張の余地があり得るのかどうか。そもそもが解雇権が発生する要件が期間の定めがある場合とない場合で違っていて,濫用の主張も変わり得るものですから,今後で結構ですけれども,その辺りの整理がもしできたら教えていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 現時点で事務当局から何かありますか。 ○村松関係官 いろいろ御指摘いただいておりますけれども,今,ちょうど山川先生からも御指摘があった解雇との関係でございますけれども,事情変更による解除というのはそれはまた別の請求原因となるような事実関係だろうというような気がいたします。ただ,山川先生も御指摘のとおり非常に要件は厳しいですので,恐らく事情変更の法理に基づいて訴訟で争うことは実質的には難しくて,裁判所でそれを請求原因に据えて主張して戦っても,企業側は恐らく勝てないだろうというのが事務局の整理でございます。ここで御審議いただいている極めて厳しい裁判例を前提にすると,恐らくそういう結論になるだろうということでございます。   そういたしますと先ほど安永委員から,「とはいえ不安があるので整理解雇の要件で判断されるような考慮事情を並べたほうがいいのではないか」という趣旨の発言をいただいていますが,むしろ,基本的におよそその種のものについて事情変更の法理の適用が認められることはなさそうなのに,条文を読むとかえって適用があり得るという誤解を与えるようなものにもなりかねない問題ではないかと。つまり,事情変更の法理が,解雇事案についての適用が基本的にはないことが想定されているのに,あたかもあるのが前提のようにして,その考慮事情として何がしかの記載がされるということは,むしろ,労働者の立場に立っても適切ではないのではないかというような気がしておりまして,その意味で,特に影響はないということを前提に,一般的な全契約との関係で非常に特殊な限定的な中での解除権があるよということを明示するほうが,その意味でよいのではないかというような気がしております。それが1点目でございます。   あと,それから,原則を書いたほうがよいのではないかと,事情変更の法理は極めて例外である,したがって,多少の事情の変更ぐらいでは契約を履行したほうがいいということを書いたほうがいいのではないかと,こういう御指摘もございまして,従前,私が申し上げたところですけれども,それは基本的に大前提であると,その大前提に対して極めて例外的な要件の下での解除ということを期待しておりますので法文上はそれで関係は明らかで,恐らく今,言われたような点については立法担当者の解説等でしっかりしていくということで,対処すべき問題ではないかというような気がしてございます。   あと,それから,個別の要件についても御指摘いただいておりまして,特に②の信義[衡平]に反して著しく不当という要件でございますけれども,こちらついてはむしろ衡平のほうが望ましいのではないかという御意見も,そういう御趣旨の意見を複数頂いております。確かに過去の最高裁の裁判例を見ておりましても,信義・衡平というものと信義だけ言うものと衡平だけ言うものとばらばらであるように思われまして,総じて言えば,いろいろな意味でのバランス感覚を働かせて判断するんだという趣旨だろうと思いますので,そこでの文言として何がいいかというのは,御指摘のところも踏まえて恐らく条文化を図るのであれば,検討していくというのが適切なのだろうと思いますので,御指摘を踏まえてまた更に検討したいと思います。   それから,③について「特別なもの」という部分を付加したことについて,中井委員から特別は意味は余りないだろうからということで,なくてもいいのではないかという趣旨の御指摘を頂いたかと思いますけれども,確かにこの点はさほど特殊な意味があるものとして付けたということではございませんが,実は従来,事情変更の法理を一部,個別法で明文化したような条文というのがございまして,例えば信託法150条ですとか,一般社団法人法にも似たような例があるんですけれども,そういった場合には予見可能性の要件について,予見することのできなかった「特別の事情」というような表現が従前の条文でも使われているものですから,その意味では同じような趣旨の条文であれば,同じようなことを書いてもいいのではないかというようなある意味,従前の他の法令の用語例との整合性といった辺りで,特別というのを入れてもよいのかなということは考えてはおりましたので,その点だけ申し上げたいと思います。    あと,改訂の位置付けについてですけれども,これも従前,先般の会議でも申し上げましたけれども,改訂についてはなお解釈問題としてはあるというのが基本的には前提であるということで,ただ,今回,明文化を図るのは飽くまでも解除だという整理でございますので,その点は申し上げさせていただきます。 ○松岡委員 今,村松関係官がいろいろ御説明いただいた中で1点だけ申し上げたい。原則を規定するほうがよいという意見に対して,それは当然の大前提なので規定する必要はないという趣旨の御説明がありました。確かに一見もっともなのですが,これまで例えば法律行為のところが公序良俗違反の無効から始まっていることが分かりにくいのではないかという指摘があり,当事者が法律行為によって自由に関係を決めることができるという従来は当然の大前提として規定しなくてもよいと考えられていたものも,国民に分かりやすい民法にするためには明文で規定しようというのが全体の方針だったように思います。   とりわけ事情変更の法理につきましては先ほどから御指摘がありますように,濫用のおそれがあるのではないかという懸念を示す意見が少なくなく,今回たくさん付けていただいている比較法資料の中にも,そういう議論を背景にした規定だと思いますが,原則は契約には拘束力があって遵守するべきであるということを明示してある国が見られます。こういう大前提があるから,事情変更による契約の解除が認められる場合は次のような狭く限定された要件に服するということを明記する例外規定を続いて置くことにすることで安心感が高まるのであれば,事情変更の法理について規定を置くことにも賛成を得られる可能性が高くなるのではないかと感じます。 ○潮見幹事 幾つか申し上げます。まず,先ほど直前に松岡委員がおっしゃられたところに私も賛成です。文言化するのが難しいかとは思いますけれども,フランスでもヨーロッパ契約法原則でもその他でも文言化をしていますから,少しその辺りを参考に考えていただけないかというお願いです。   それから,二つ目は先ほど山本敬三幹事がおっしゃったところですが,ブラケットに入っている2です。もし,ドイツ民法のような理解を基礎に据えるのであれば,ドイツ民法の規定が述べているような内容にしていただきたいと思います。ドイツ民法313条の当該規定の後段部分については契約の改訂を含んでおりますから,今回,解除だけに効果を絞るのであれば,そこは引く必要はないと思いますけれども,前半部分についてはなお同条の捉え方のほうが優れているように思います。ついでながら,コメントの中で⑤というものが①とか②に吸収されるというようなことが書かれておりますけれども,そうではないということも一言だけ申し上げます。 ○中井委員 山本敬三幹事に2の意味をお尋ねしようと思ったんですが,今,潮見幹事からも,2を入れたほうがいいのではないかという御発言がありました。私としては①で著しい事情の変更があって,にもかかわらず,契約の拘束力を持たせることが,先ほどの山本敬三幹事の発言によれば当事者間の衡平を著しく害するという客観的な要件が充足すれば,当然,予見していたら契約をしなかったという関係があると思いまして,部会資料に書かれている①,②の要件の一部にすぎないという位置付けでいいのではないかと考えた次第です。大阪の議論でも,ドイツ民法を見たときに,313条の(1)は,「かつ」の後ろが,予見していなかったら契約を締結せずになっていますけれども,「かつ」の前は,契約締結後に著しく変更し,で終わっていて,②の,そのままであれば当該契約を存続させて当事者間を拘束させれば,当事者間の衡平を著しく害するという要件が積極的には書かれていないんですよね。   ②の要件の中に,それだったら契約しなかったであろうということが入っているように思うんですが,2と②の関係ですけれども,お教えいただきたいと思って手を挙げた次第です。 ○山本(敬)幹事 ドイツ法は,部会資料の10ページを御覧いただきますと,313条の(1)で,「契約の基礎となった事情が契約締結後に著しく変更し,かつ,両当事者がこの変更を予見していたならば契約を締結せず,又は異なる内容の契約を締結したであろう場合」というのが第1の要件で,先ほどの御提案の2のほうがこの一部を書こうとされたのではないかと理解しました。そうであるならば,「両当事者」にすべきだと申し上げました。   要するに,ドイツ法は,「この場合において」までの前段部分だけでは,改訂等を認めないのです。これだけでは駄目で,その上で「個々の事案におけるあらゆる事情,特に契約上又は法律上のリスク配分を考慮して,契約を変更せずに維持することが当事者の一方にとって期待不可能であるとき」は,改訂を認めるという二段構えになっていると思います。したがって,前段部分だけでは,確かに両当事者はこのような契約をしなかったかもしれないけれども,それだけでは改訂を認めない。更にその結果,契約をそのまま維持すると当事者の一方にとって期待不可能であるときに初めて改訂を認めるという構造で,「期待不可能であるときは」というのが,先ほどの御提案では,「信義に反して著しく不当であるとき」,ないしは「著しく衡平を害するときに」対応していると思います。   潮見幹事は,前回から,期待不可能というドイツのこの考え方で何とかコンセンサスが得られないかとおっしゃっていて,今回もそのような御意見を述べられたのではないかと思います。ただ,一方にとって期待不可能であるときはというのがどのような意味かというと,少し私の解釈が入っていますけれども,この契約をした当事者間において著しい不均衡をもたらしていて,だから,一方当事者にとってもはやそのまま維持することが期待できないという意味ではないかという素朴な理解を前提にして,先ほど申し上げたつもりです。前後がドイツ法と先ほどの御提案とでは順序が逆になっていますので,少し理解しにくいところはあるのですが,今,申し上げたような感じではないかと思います。 ○潮見幹事 ニュアンスにそれほど違わないと思うんですけれども,ドイツ民法においては資料の10ページの313条の(1),1項で書かれている「かつ」以下というのが,一つの大きな意味を持っていると私は理解しているんです。つまり,客観的な要件あるいは客観的な状況が備わっただけではなくて,事情変更というものが生じた場合に,そのリスクを誰がどのように負担するのかということは,結局は当事者の意思あるいは契約によって定めるんだ,その部分が「かつ」以下のところに表れているというものです。   それから,中井委員がおっしゃった②については,先ほど山本敬三幹事がおっしゃった1項の後段部分で表現されているというか,これと対応関係があります。その場合に,事務局がドイツ民法の1項の後段のような形をとらず,現在の判例法理を前提としたような形で②のような形にまとめたということについては,積極的に賛成というわけではありませんけれども,このことに限れば,その努力を私は多としたいと思います。 ○岡崎幹事 前回,事情変更の原則が審議された際に私のほうから要件をどうするかを考えるに当たっては,具体的にどういう事例を念頭に置くかをはっきりさせて,議論したほうがよいのではないかという趣旨の発言をさせていただきまして,今回の部会資料はその点,大変配慮がされていると感じた次第でございます。ただ,今回,1番から15番までの最上級審の判例又は下級審の裁判例が挙げられているわけですけれども,このうちのどの事案であれば事情変更の原則を認めて,解除を認めてよいのかという点について,まずは事務当局としてどのようにお考えになっているかを伺ってみたいと思います。   例えば1番の唯一の最上級審の肯定例ですけれども,これは価格統制令が適用される取引について,官庁から認可が得られずに,しかも昭和19年の戦時下という特殊な事情の下で,事実上,いつになったら履行がされるか分からないという事案に関するもののようでございます。そういう意味では履行不能にかなり近い事案で,今回の立法提案に従って履行不能による解除に帰責事由を要求しないということにしますと,事情変更による解除という構成を採らなくても,解決できる可能性もある事案だと思います。   それから,下級審の裁判例の12番,13番,15番は,インフレに伴う貨幣価値の下落によって対価の不均衡が生じた事案に関するものだと思いますけれども,契約してから20年とか30年とか経つうちに物の価格が一定の倍率になることは避けられないことで,20年,30年後に予約完結権を行使する契約をする以上は,どのような事案でも対価の不均衡が生じてしまうともいえます。そのようなものについてまで事情変更を認めてよいのかについては,かなり議論のあるところではないかと思います。   また,12番も13番も15番も,いずれも解除を認めた事案ではなくて契約の改訂といいますか,金額の増額を認めた事案でございまして,解除のみを効果にするときの要件論を議論するときに,12番,13番,15番を念頭に置いて何か出てくるものがあるかというと,必ずしもそうとはいえないのではないかという印象を持ちます。   それから,14番ですけれども,先ほど来,何人かの委員の方々から御発言のあったところですけれども,これは,別の人物が給油所を近くに設置する許可を得てしまったために,借主としては借地の使い道がなくなってしまったという事案のようですが,別の人物というのがどうも,判文上よく分からないところもありますけれども,借主に対して妨害目的のようなものを持っていたことが疑われるような事案でございまして,どちらかというと,事情変更というよりは信義則違反をダイレクトに適用するほうが,ふさわしい事案ではないかという感想も持つわけでございます。   そのようなことを思った次第ですけれども,今回,要件のイメージを御提示なさるに当たって,どういう事案であれば解除を認めてよいことになるのかについてどのようにお考えになったか,少し教えていただければと思います。 ○村松関係官 どのような事案かについて申し上げる前に,先ほど少し議論になっていたブラケットで囲みました2項の要件について一言だけ申し上げておきますと,御苦労いただいたのでと言っていただいたように,どうやって組み込んだらいいのかなということを正直に考えまして,従前の通説の枠組みで要件を整理しないとなかなか皆さんの御理解は得られにくいだろうと,従来の最高裁の否定例が中心ですけれども,そういった帰結を維持するんだということを示す意味で,従来の通説あるいは最高裁が前提にした基本的な要件立てにしたほうがよいというのが基本的には事務当局の考えでございまして,その中に何とか2のようなことを入れることも,分かりやすさの一つかなというようなことで2を記載いたしまして,その意味で,2がなくても恐らく1から4のどこかで読めるという説明はもちろんするんだろうと思っております。その意味では,それは基本的には①あるいは②の一部というような説明になってくるのかなということを想定しておりました。ドイツ民法の理解が乏しくて誤解していたのかもしれませんけれども,つもりとしてはそういうつもりでございます。   ただ,2を入れることによって全体としてどうも1で記載した要件はかなり限定的に見えるのに,2項を入れることで何かかえって緩いように誤解するのではないかと。つまり,予見していたとすれば契約を締結しなかったと認められるというぐらいだと,結構,要件として軽いようにみえるではないかと,こういうような御指摘を経済界の方から言われたこともございまして,確かにそう言われるとそうかなという気もし,あるいは従来の通説を基本的になぞったという1だけでもいいのかなとも思いながら,本日の審議を迎えたというのが今の担当者としての気持ちというところでございます。   それから,今,岡崎幹事からも御指摘いただいて過去の裁判例ですけれども,正直に申し上げて,事務当局の中でこれはマル,これはバツというのを確定的に決めたわけではないのですが,私がいろいろ見て感じたところだけを申し上げれば,恐らく基本的には大審院を含めて最高裁の結論はこんなものだろうと私どもは基本的には認識しております。   1番の大審院の事例も非常に特殊な事例ではあるわけですけれども,とはいえ,法令の変更がありまして価格統制というのがされて売買代金にキャップが付くと,しかも,そのキャップがものすごく低額なところで付いてしまうので,何分の1かは判文上明らかではないですけれども,例えば10分の1ないし100分の1というところで恐らくかなり低くなることが想定されているように思われる,そういうケースというのが現在の法制の中であるかどうかもよく分かりませんけれども,抽象化して言えば,法令の変更等によりまして,ある種の財産権の利用状態に変更があるといったような意味合いでの法令の変化があった場合の一つの例ということは,言えるのではないかなというような気がしております。先ほどこれは履行不能ではないかと言われたのですけれども,履行不能ではなくて,むしろ,大審院が言っておりますのは実際に認可されるのがいつになるかも分からないし,認可された金額も恐らくものすごく低額で,その場合には正に事情変更的な観念で失効ということも観念できるからというような言い方を確かしていたかと思いますので,履行不能にはそう簡単にならないというのがもちろん大前提で,事情変更の法理の適用を考えたというものと理解してよいのではないかと思います。恐らく従前の学説上の分析も,そのような分析なのではないかなという気がしております。   その意味で1番以下,最判は基本的にこのとおりであろうと。先ほど岡崎幹事もおっしゃいましたように,インフレーションのような価格変動といいますか,物価の変動だけを理由とするようなものでありますと,20年,10年で300倍程度というような事案もありますけれども,そういったものでも認めないというのはそんなものなのだろうと,そういった場合に何がしかをやるのであれば貨幣の切り下げというようなことを法律でやるべしというのが最高裁のお立場のようですけれども,それはきっとそういうものだろうという気が私はしております。   その目で見ますと,12番以下の下級審についてはどうかということなのですが,12番や13番につきましては事案の説明の下に括弧書きで記載いたしましたけれども,非常にざっくりとした指数ではあるのですが,戦前基準指数というものがありまして,物価の動向をざっくりと比較することができるのですけれども,当該事案についてその間に物価変動はどれぐらいあったのかというのを見ますと,例えば12番の仙台高判の事案でいうと,対象土地の価格は620倍なんですけれども,その間に物価はどれぐらい上がっているかといいますと,300倍ということになっておりまして,そうすると,300倍程度だと最判は余り気にしないというのが少なくとも物価変動についての最判ですので,それを除くと,せいぜい,土地の価格の上昇,土地の固有の意味での価値上昇と見ると,2倍あるいは数倍程度にすぎないのではないかというような感じもいたします。もし,そういう分析が正しいとしますと,12番あるいは13番もそうですけれども,見た目は620倍あるいは1,000倍ということですけれども,それほどでもないという事案なのかなというような感想を抱いております。   それに対して均衡破壊ではない契約目的不達成の14番ですけれども,14番については岡崎幹事のご指摘のような意味で特殊な事案である可能性は否定できないわけですけれども,ただ,判文上は岡崎幹事がおっしゃったような妨害事案であるということをうかがわせるような事実関係の摘示は,確かなかったような気がしておりまして,そういう意味では,これは事情変更で捉えた事案と評価しても構わないのではないかなというような気はしております。ただ,4ページにも記載しておりますけれども,この土地自体は賃貸人がずっと適当な利用方法がなくて空き地のままできていたような土地について,賃貸人の言い値で賃料がかなり定められているというようなところはあるのだろうという気はしておりまして,その意味で,単純に14番の事案の説明のところで,6ページに記載したような事実関係だけで認められた事案かどうかは疑義があるとは思われます。   また,それから,たまたま給油所の設置が先願されてしまったので,行政上の規制が掛かって給油所として使えなくなったというような事情の辺りについては,確かにこの程度でよいのだろうかというような疑念は抱いておりまして,これがもっと全然別の法律の改正そのなどがあって,利用できなくなりましたというような事案であったとしたら,もしかしたら14番はその意味では,その後,20年間も使えない土地を敷金も払い,あるいは全く使えない土地であるにもかかわらず,高い賃料を払い続けるというのは不相当だということはあるのかもしれないけれども,この辺りになってきますと部会での皆さんの御意見を伺いたいなと思っておりまして,先ほどからお伺いしていると14番は難しいんじゃないかと,あるいは余りこれを適例として紹介しないほうがいいのではないかというようなことかなと思います。そうしますとまずは1番の大審院が適切な例ということかなと思います。 ○潮見幹事 裁判例の捉え方に私は特に言うことはございません。先ほど前のほうでおっしゃったことついて,1点だけ,申し上げます。2ページ目のブラケットの2ですけれども,これが入ることによって緩和されるのではないかという誤解が生じるのは,2の冒頭に前項の事情の著しい変更で,下線でこれでなければならないと書かれているから,この部分について緩和要件のように捉えられるのではないでしょうか。ドイツ法のことを余り繰り返し言うつもりはないのですが,ドイツ民法のスタイルというのは①プラス②プラス⑤というか,①と②と⑤があって初めて効果が発生するというような書き方になっているわけですから,これも書き方次第だと思いますけれども,もし工夫できるのであれば,そのような形での書き方といいましょうか,文案作成というものを少し御検討いただければよいのではないでしょうか。そうすることによって誤解は避けられるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はありますか。 ○山川幹事 先ほど村松関係官に御説明を頂いた点で,請求原因とおっしゃられたのは多分,解約権が独自に発生するという趣旨かと思いますけれども,その場合,期間の定めのある契約についてはやむを得ない事由があれば解約権が発生するということとの関係では,いわゆる訴訟上の過剰主張立証,俗に言うAプラスBみたいな問題が起きるような感じもしますし,それから,仮に法的効果としておよそ権利濫用が成立する余地がないという法的効果まで認めるのは,権利濫用ということの性質上,難しいと思いますので,整理が必要かなと思った次第です。事情変更の法理を盛り込むかどうかについての定見はないんですけれども,もし盛り込まれる場合でも,行為規範として考えた場合につき,先ほど松岡委員がおっしゃられたような濫用のおそれが抑制されるような形に何らかの形でしていただければと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   よろしいようでしたら,部会資料72Bの「第2 不安の抗弁権」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○村松関係官 それでは,第2の「不安の抗弁権」について御説明いたします。不安の抗弁権についてパブリック・コメントの結果を見ると,それなりに賛成の意見もあるということで賛否が分かれた状態でした。ただ,賛成意見の中でも要件については見直しの必要性を指摘するものが少なくなく,総じて言えば,要件の具体性,限定性が乏しすぎるのではないかという懸念が広く共有されている状況にあると言えます。その背景には,不安の抗弁権というのはその扱いを間違えますと企業の倒産等の重い被害が直ちに生じてしまい,事後的な救済も容易ではないという点が挙げられると思います。そこで,より要件の具体性,限定性を増すことができないかという検討を行いましたけれども,資料2の(1)から(5)までに記載したとおり,相当に困難と言わざるを得ないようにも思われます。   加えて,不安の抗弁権の要件論そのものやあるいはその当てはめについて,裁判実務や学説において十分な蓄積がされている状況にあるとは言い難いようにも思われます。そうしますと,適切な要件を設けることは容易ではないということになりますが,他方で,資料の末尾に記載しましたとおり,比較法的には不安の抗弁権に類する制度を用意する国々は少なくなく,その内容は参考で掲げました比較法資料に記載したとおりです。そのため,比較法的な観点からは,なぜ法制化をしないのかについてどのように整理するかが課題であるとの指摘もあり得るところであると思います。   以上を踏まえつつ,不安の抗弁権の明文化の可否あるいは当否に関しまして御議論いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 部会資料の説明にあるとおり,不安の抗弁権が適用される要件を適切に規定することは困難だと思います。商工会議所といたしましても不安の抗弁権は経営状況の悪化した中小企業に対し,濫用的に用いられる懸念が大いにあると考えています。規定を設けないとすることでよろしいのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○高須幹事 不安の抗弁権もずっと議論してきているわけでございますが,濫用の危険がある,あるいは今,提案の御説明を頂いたように不安の抗弁権は使い方を間違えると企業活動の継続について,とどめを刺す結果になってしまうと,そういう意味でも非常に危険な制度である。これらの点は正にそのとおりだと思って聞いておるわけなのですが,ただ,そうなると,ここで立法化を見送るという意味が何を目指しているのかということが気になっております。いつか,どこかで裁判官が不安の抗弁権は日本では認めないという判決を出してくれるのを期待して,立法を見送るという意味なのかどうか,現状では数は限られているにしても不安の抗弁権に関する裁判例は存在している。学問上の議論としても,不安の抗弁権なるものが認められるという方向で議論をしてきている。つまり,要件をどこまで絞るかは大事な問題だとしても,裁判例,学説の状況は,この抗弁権を否定する方向にはなっていないような気がしておるんです。   そうなると,今回,立法化を見送ったからといって,濫用の危険がなくなるわけでもないし,使い方を間違えて企業経営にとどめを刺してしまうようなケースが出てしまうことも避けられないのではないかと。そうであれば,むしろ,ここで諦めないで要件を厳格に絞ることによって立法化を目指すというのも一つの考え方なのではないかと思います。   今回,頂いた提案の中では明文化が難しいということで,具体的なイメージは書かれていないわけですけれども,大阪弁護士会からの意見書では一定のそういう観点からの条項案というものが示されています。意見書の理由の中でも例えば3ページのところですが,存在が明確に認められている抗弁権であるにもかかわらず,明文化されない取引ルールみたいなものを定めるのは妥当ではないという記述は,正論のような気もしておりまして,確かに難しい問題だと思っておりますし,そんな原理原則論みたいなことだけで解決できる問題ではないとは思ってはおるのですが,そうはいっても立法化を見送れば,問題がなくなるということでもないような気がしておるものですから,むしろ,ここでしっかり立法化を目指すということもあってもいいのではないかと思います。 ○松岡委員 基本的には今の高須幹事の御意見に賛成です。立法化を見送って果たして濫用が防げるのか疑問ですし,今回付けていただいた多数の比較法資料の中にヨーロッパのみならず,韓国や中国においても,約款の規定が置かれています。特に韓国の規定などはたいへん緩やかな規定になっておりますが,こういう規定が置かれていることで韓国では濫用事例が多いという話は聞きません。ヨーロッパ各国においても不安の抗弁権やそれに相当するものが置かれているということから濫用が多いとか,そういう国々との取引で実際に日本と考え方が違うので濫用的な主張が多いかと言うと,そうではないのではないかと思います。確かに濫用のおそれは抽象的にはありますが,現実にそのおそれが存在していることが根拠付けられているのかが怪しいのです。 ○中井委員 中間試案の定められた要件ですけれども,破産手続等の倒産手続の開始の申立てがあったことその他の事由で履行を得られないおそれがある。基本的に要件はここになるわけですが,まず,例示について,取り分け再生手続,更生手続が出てくることに対して,倒産関係を担当されている弁護士の皆さんからは強い反発がありました。また,要件としては履行を得られないおそれのみですが,かねてから申し上げていましたけれども,おそれという言葉で果たして十分なのか,限定が不十分で問題であるという指摘もありました。したがって,中間試案のままでは賛成できないと思っています。   ただ,現実に裁判は起こっているわけで,弁済期に商品の供給を止めた結果として商品を供給しろという裁判の形ではなくて,損害賠償という形で相当数の裁判例があって,それらを見ていると単におそれがあるだけではなくて,そういうおそれが生じたときに供給する側は相手方に例えば財産状況の開示を求めたり,担保の提供を求めたり,しかるべき交渉があったにもかかわらず,何らの手当てをしない等の取引上の信義に反する事柄が加えられて履行拒絶が正当化される,それらの手続を経ずに履行拒絶をしたのだったら違法との評価は免れない。そのような要件が加わるのだろうと思います。   大阪の今回の意見は,まずおそれについてですけれども,より具体化をした表現をすべきだと。このことについてはここで何回か申し上げましたけれども,賛成は得られていないんですが,明白なおそれとか,明らかなおそれという表現は他の法令でも使われているようですので,一つはそういう手当てをしてはどうか。かつ,倒産手続開始という例示を挙げるのは限定しすぎで,また実務を阻害することから,それは外してはどうか。   加えて,履行を受けられないおそれだけではなくて,今,申し上げましたように判例等の事実認定で出る当事者間の交渉も踏まえてですけれども,ここでも信義に反する事柄が認められて初めて履行拒絶が許される,そのような形で要件を限定することによって明文化する,その可能性は十分にあるのではないかという意見になりました。事務当局では要件化がかなり困難ではあるという御示唆のようですけれども,今,高須幹事,松岡委員がおっしゃられたように見送ったからといって解決する問題ではないということを考えれば,一定の要件化について更に検討を進めていただければと思う次第です。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。事務当局としてはどうですか。 ○村松関係官 今も反対だという御意見と,それから,もう少し考えたらどうかという御意見と両方を頂いております。今回の分析をした結果をもう一度,改めて申し上げますと,基本的に中間試案までは非常に厳格かつ限定的にしていけばいいのではないかということで対処してきていたと思うんですが,あるいはそれはその意味では経済界,特に経済の現場に近い皆様からの御批判に耐えるべく,より限定的で厳格なものということで,究極形態が正に倒産手続開始のもう一つの例示というところでの対処だったんだろうと思います。ただ,それはいろいろな意味で難しく,この手の要件というのは抽象的に書かざるを得ないのではないかというのが私の説明したところでございます。   ですので,問題は抽象的な要件,大阪弁護士会の案も極めて抽象的だろうと思いますけれども,そういった要件で果たして合意形成が得られるものなのかどうかという点が問題なのかなと思っておりまして,恐らく若干の書きぶりの訂正はあり得るかと思いますが,基本的にかなり抽象的な要件で我慢するしかないということで,それで合意形成が得られるかどうかという1点が問題かなと思います。   ただ,1点だけ申し上げたいのは,従前の裁判例があるではないかというのは正にそのとおりなんですけれども,事情変更の法理とそれから不安の抗弁権と連続して担当しておりまして感じるところは,事情変更の法理は認容例がないとはいえ,かなり最高裁も判断を示しておりますし,いろいろな要件での判断が示されているのは間違いないといえると思います。それに対して不安の抗弁権は最高裁はございませんので,下級審を見てということですけれども,かなり個別個別の事案で信義則だということで判断しているものが多くて,必ずしも不安の抗弁権とすら言わずに認容している例もありますので,確かに認容例も少なくないですけれども,そこから抽象化してどんな要件なんだというのを緻密に分析しようとするのは難しい点もあり,逆に言うと,当てはめの水準がどれぐらいになるのかも,事情変更とは異なりましてよく分からないというのが正直なところなのかなということがございまして,その点でそれやこれや,つまり,不安の抗弁権を設けることの影響の出方,それから,現状の裁判実務あるいは学説の蓄積の度合いというものに違いがあるものですから,抽象的に書くということでのコンセンサスはなかなか難しいのかなというのが今回の分析でございます。とはいえ,御指摘いただいておりますので,もう少し何かできないかとは思いますが,今,申し上げたような点は基本的にはそう簡単には解消できないのではないかなというのが私の感想でございます。 ○佐成委員 今,関係官が御説明した認識は,恐らく経済界も,そういうようなところを共有しているのではないかと思います。元々,中間試案に対するパブコメでもそもそも一定の事情が存在する場合に,信義則に基づいて債務の履行を拒むことができるというそのこと自体は十分理解しつつも,ただ,客観的な要件,きちっとした要件ができない限りは濫用とか,その他もろもろの弊害を感ずるので賛同できないと,そういう意見を述べてきております。中間試案の中では倒産手続の開始というのが一つのメルクマールになって現れていたわけです。けれども,それを更に抽象化していくということが示唆されておりますが,そうなると,経済界のほうが果たして本当に賛成に回るのかというのは,今,おっしゃったような感じでかなり厳しいかなという認識は私自身も感じておるところです。 ○山本(敬)幹事 規定をしなかった場合,何を意味するかという点については,既に高須幹事や松岡委員がおっしゃってくださっているとおりですので,余り付け加えることはないのですが,何もないまま,手掛かりもなしに裁判所の判断に委ねるのでは,不安定さが少なくとも現状のまま残され,実際に不安の抗弁に当たるものを提出したときにどうなるかが明確ではないのであれば,立法してもしなくても同じことかもしれないという問題があると思います。その意味では,抽象的なルールであるとしても明文化し,それを前提にして解釈の問題として詰めていくというのが,方向としては望ましいのではないかと私自身は思います。   濫用のおそれに関しては,ほかの規定とこの規定とでは少し意味合いが異なると思います。このケースでは,先履行義務がある場合に限定していますので,不安の抗弁権を行使する者は,要件が本当に満たされている場合でないと,債務不履行責任を問われることになると思います。その場合の損害が場合によっては大きくなる可能性もあるとしますと,相当明確な場合でなければ,不安の抗弁は使えないはずであって,そこで濫用のおそれ,つまり簡単に不安の抗弁が使われるようになって大変なことになるというようなことは,構造的に起こりにくい制度ではないかと思います。   その意味では,濫用のおそれと抽象的におっしゃいますけれども,現実には濫用できないものではないかという気がします。これだけ多くの国々で規定が置かれ,抽象的なものであっても規定が置かれていることを見ますと,何らかの形でルール化し,それを前提にして実務の運用を図っていくほうが,私は合理的ではないかと思います。 ○高須幹事 佐成委員に教えていただきたいのですが,不安の抗弁権について経済界としては慎重論が強いということですが,その意味するところなわけですが,不安の抗弁権がどのような場合に使われるかというと,多くの場合はBtoBの関係においてであると思われます。商品の納入を先履行でする。その履行先の業者の信用状態が不安に陥ったときに,そのまま先履行を続けなければならないのか。こういう場面で生じる問題なのだろう。つまり,契約当事者はともに企業であって,必ずしも消費者との関係とか,あるいはそれ以外の関係を念頭に置いている議論ではないのではないか。そうすると,不安の抗弁権というのはある意味では真っ当に利用される限りは,経済界の中にも肯定的に捉える理解があってもいいのではないか。そういう要請があってもいいのではないかと実は思っておるのですが,全体として慎重論が強いというのはいかなる辺りが結局,危惧されることなのかということを教えていただければと思います。 ○佐成委員 率直に申し上げて,内部での議論では賛成論もないわけではもちろんないんですよね。ただ,どちらかというと反対が強いと。反対論の論拠としては,明文化の弊害としての濫用のおそれというような話が表面的には出てくるわけですけれども,寄せられる意見をお聞きしている限りだと,こういうのが認められる範囲というのは,実際にも議論があるとおり,そう単純にはいかなくて,いろいろな事象,いろいろな状況が関わるだろうと。それを果たしてうまく要件化できるのだろうかという強い疑いがあると感じます。一方,現状は信義則という非常に広いものの中で適切に運用されているのではないかというような裁判所に対する一種の信頼みたいなところもあるのかもしれないんですね。   ですから,逆に言えば,立法化したことによってそれが前進するとか,改善するというような,余りそういう期待を感じていないというところが大きく,むしろ,立法化することによって文字ができるわけですから,その条文が独り歩きしてしまって,思わぬことが起こるのではないかといった不安を感じたりするのだと思います。ここら辺は今回も内部での議論はあまり十分にしなかったところです。というのは,B扱いでしかも事務当局が要件化は非常に難しいという,そういう御判断をされているというところなので,そういうことであればということでほとんど新しい議論はしていないんですけれども,今,お答えするとすれば,そういったような形かなと思います。 ○深山幹事 私自身は不安の抗弁については消極に考えております。理由は今まで議論に出ているようなところと重なるところで,適切な要件が書けるかというところが中心ですし,もう少し付言して言いますと,正に下級審判例などで認められている例というのも,単に反対債権についての履行が得られないおそれというところだけ,あるいはそれの前提になっている相手方の資力だけを問題にしているのではなくて,かなり総合的な信義則上の判断をして,信頼関係が崩れているような場面で適用しているように読めると思います。しかるにどのような要件にするかによりますけれども,一定の切り口だけで反対債権の不履行を正当化する要件を切り取ってしまうのが,果たして今の実務を反映した規律になるのかということも疑問です。   あと,もう1点,山本敬三先生のほうから御指摘のあった点,すなわち,相手方は債務不履行のリスクがあるから,濫用にはならないのではないかという趣旨の御発言があった点についてなんですけれども,典型的には物の継続的な売買をしていて物の給付が先行していて後から代金をもらうというような場合に,不安の抗弁権を行使して物を供給しないということになったときには,当然のことながら給付しない目的物の対価を払う人というのはいないわけですから,それが果たして債務不履行のリスクを冒すことになるからという理由で,歯止めになるのかということについては疑問に思います。それが検証される場面というのは,後日,裁判になって供給しなかったことについての損害賠償請求などの場面となるわけですけれども,反対債権はそもそも供給しないものに対して発生しないので,供給時には意識の上で余り問題にならないのだろうという気がいたします。   弁護士会はおおむね賛成意見のほうがすう勢としては強いわけなんですけれども,なお,具体的な提案が今回,示されなかったことでもあり,具体的な要件について大阪弁護士会からは提案が出てはいますけれども,弁護士会の中で認識が一致していることでもなかろうかと認識しております。 ○潮見幹事 余り言いたくないことなんですけれども,先ほどの佐成委員は,事象というのはそう単純にはいかない,うまく要件化できるのか,現在は信義則の下でうまく処理されているではないかということをおっしゃったんですが,裏返して言いますと,そうであれば中間試案は結構いろいろ書いていますけれども,例えば大阪弁護士会の案のような形で,抽象的に不安の抗弁権が持っている考え方といったものを示すことによって,むしろ,信義則の一つの展開例としてこのルールというものを定めることによって,何ら大きな問題はないのではないでしょうか。まして,佐成委員は裁判所への信頼ということもおっしゃっておられましたが,裁判所を信頼するのであれば,ますます,抽象的に不安の抗弁権が持っている考え方を示しておいて裁判所を信頼すればよいのではないのでしょうか。その意味では,合意形成は難しいかもしれませんけれども,なお,もう少し頑張っていただければと思っております。   大阪弁護士会の辺りの案が参考になるのかもしれないなとは思いますが,ただ,先ほどの事情変更のところとも少し絡んでくるんですが,大阪弁護士会の条項案を見ていますと,枠の中の2行目で相手方が先履行を求めることが取引上の信義衡平に反するとありますが,この書きぶりでいいのかという懸念は若干あろうかと思います。先ほどの中井委員からの山本敬三幹事と私に対するやり取りのところでも少し出ていたことに関わりますけれども,契約の趣旨に照らして考慮したときに,先履行を求めるということが衡平に反するというような書き方でもよいという印象を持ちました。ただし,字句表現にかかわることですので,これ以上は申し上げません。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はありますか。事務当局から何か御発言はありますか。よろしいですか。   それでは,少し予定より若干早いかもしれませんけれども,ここで休憩を取らせていただいて,3時半再開ということにさせていただきます。          (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開をさせていただきます。   部会資料72Aの「第1 請負」及び部会資料72Bの「第3 請負」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○合田関係官 御説明いたします。   まず,部会資料72Aについて御説明いたします。   「第1 請負」の「1 仕事が完成しなかった場合の報酬請求権・費用償還請求権」は,仕事を完成することができなくなった場合について,報酬及び費用の請求権の根拠規定を設けるものであり,(1)は仕事の成果が可分であり,その給付を受けることについて注文者が利益を有するときの規律,(3)は注文者の責めに帰すべき事由によって仕事を完成することができなくなった場合についての規律です。   中間試案では(1)の規律において,仕事を完成するために必要な行為を注文者がしなかったことにより仕事を完成することができなくなった場合にも,請負人が既にした仕事の報酬及び費用を請求することができるとする考え方が提案されていました。しかし,パブリック・コメントの手続において,注文者に帰責事由がなく,既履行部分の給付を受けることに利益がない場合にまで,請負人に報酬請求権を認めるのは,合理的なリスク配分とはいい難いとの意見が寄せられたことなどを踏まえ,この論点を取り上げないこととしています。   「2 仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の請負人の責任」の「(1)仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の修補請求権の限界」は,民法634条1項ただし書を改め,修補請求権の限界について履行請求権の一般原則と同様の規律とするものであり,中間試案からの実質的な変更はありません。   「(2)仕事の目的物が契約の趣旨に適合しないことを理由する解除」は,民法635条を削除し,仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の解除について,債務不履行による契約の解除に関する一般的な規律に委ねるものであり,中間試案からの変更はありません。   「3 注文者についての破産手続の開始による解除」は,民法642条第1項前段の規律を改め,注文者が破産手続開始の決定を受けた場合に請負人が契約の解除をすることができるのは,請負人が仕事を完成しない間に限ることとするものであり,中間試案からの実質的な変更はありません。   続いて,部会資料72Bの「第3 請負」について御説明いたします。   仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の注文者の権利の期間制限について,中間試案では,民法637条を削除し,消滅時効の一般原則に委ねるという甲案の考え方と,消滅時効の一般原則とは別に固有の期間制限を維持した上で,その期間制限の内容を売買の目的物が契約の趣旨に適合しない場合における買主の権利の期間制限に関する規律と同様の規律に改めるという乙案の考え方が取り上げられています。この論点についてどのような考え方を採るかによって,仕事の目的物である土地工作物が契約の趣旨に適合しない場合の請負人の責任の存続期間についての規律も異なり得ることになります。   また,中間試案では仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の請負人の責任の免責特約について民法640条の規律を改め,仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合について,免責の特約をしたときでも目的物の引渡時に仕事の目的物が契約の趣旨に適合しないことを知っていたときは,その責任を免れないとする考え方が提案されていますが,この規律は売買に関する民法572条と趣旨を同じくする規定です。   これらの論点は売買に関する規律と関連しており,それらの規律との整合性にも配慮しつつ,検討を進める必要があると考えられることから,今回の資料では売買に関する規律を検討する際に併せて検討することを提案しております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○岡委員 1の(1)についてまず申し上げます。(3)についてもございますけれども,それは後で申し上げたいと思います。(1)についてですが,基本的にはこの方向で問題はないという意見が多数ではございます。ただ,細かい話ですが,実務家の観点から多少,意見がありましたので申し上げます。   まず,一つ目ですが,既にした仕事の報酬を中途半端なときも請求できるという点について,途中で終わった場合にもそれを報酬と言えるのかという点,あるいは報酬といった場合には利益まで含んでおりますので,利益まで常に割合部分について請求と認めるような表現になるけれども,それでいいのかという問題意識でございます。特に(1)の規定は請負人の債務不履行でも合意解除でも両当事者の責めに帰すべからざる場合でも,全てこの規律でいくということになっておりますので,請負人の債務不履行を理由として途中で終わった場合について出来高部分の約定報酬,利益部分まで請求できることになるように読めるけれども,それでいいのかと,そういう問題でございます。   もう一つは,「その中に含まれていない費用」という表現について心配をする声が強うございました。部会資料を見ますと,請負契約において報酬プラス費用が請求できる場合の規定であると書かれておりますが,請負契約で報酬プラス実費請求できるという事例はほとんどないという感覚が強うございます。その中で,今,現行民法にあるこの表現をそのまま書いて,「その中に含まれていない費用」を請求できると書いてしまいますと,何か追加で掛かった費用,本来は損害賠償請求で認めるべきものまで,この表現の中に入ってしまう誤解を与えかねないと,そういう意見がございました。   だから,どうしたらいいんだというところまで御提案できないのが難点ではあるんですが,もう少し報酬あるいはその中に含まれていない費用というのを条文化するときには考えていただきたいということと,一問一答等で信義則あるいは信義則の法理によって仕事の報酬のところについては微妙な調整があり得るのが相当であると,そのようなことまで書き込んでいただいた上で(1)を前に進めていただきたいと,そういう意見でございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見は。 ○中井委員 岡さんからも発言があるのかもしれませんが,1の(3)の規律についてこれまでも何度か申し上げてはきたことで,ずっとこの形といいますか,注文者に帰責事由がある場合は,原則,全額報酬請求ができて,免れた債務のコスト部分を,免れたことによって得た利益として,これを償還するというわけですが,この規律が本当にいいのかについてなお疑問を持っています。指摘の最高裁判決で,このような説示がなされていることはそのとおりかと思いますけれども,それは当該最高裁の事案がそれに適した解決だったからではないかという側面もあると思われます。   そこで,前提としてこの規律と641条との関係について先に確認をしたいんですが,641条は仕事を完成しない間は,注文者はいつでも損害を賠償して解除できる。従前,この規定における損害がどのようなものなのかということについて論点整理がなされたかと思いますが,現段階では既に落とされています。ここでは注文者が解除したとき,損害賠償を請負人ができるわけですが,(3)注文者に帰責事由があって仕事を完成することができない場合であっても,注文者はこの解除もできると思います。そうだとすると,641条の規律とここの規律の関係をまずどのように整理されているのか,お教えいただければと思います。 ○合田関係官 641条との関係ですけれども,641条によって注文者が解除した場合であっても,その場合は注文者の責めに帰すべき事由という要件を満たさないため,(3)の場合には当たらないという整理をしております。641条によって解除された場合に,(1)の要件を満たすときは,(1)の規律によって既にした仕事の報酬と費用を請求することできるという関係になると考えております。 ○中井委員 注文者が一方的に解除するのは,一番注文者の勝手な場面,最も帰責事由がある場面ではないかと思うんですが,注文者の勝手に基づいて行った解除が(3)には当たらないという理解なんでしょうか。 ○合田関係官 当たらないという整理をしております。そもそも641条で仕事が完成しない間であれば,いつでも損害を賠償して契約を解除することができるということが法律上認められているので,その規定によって解除をした場合に,注文者の責めに帰すべき事由ということには当たらないという解釈をしております。 ○中井委員 その点の理解が異なるんですが,(3)は注文者に帰責事由があれば完成できなかったときにそもそも全額請求できるという規律が果たして妥当なのか,かつても申し上げましたけれども,契約をしてすぐの段階で請負契約を終了させるような事情が生じた,それが注文者の責めに帰すべき事由であった,私としてはそれは注文者が解除した場合もそうだという理解をしているんですが,その場合であっても利益も含めた報酬全額を請求することができるということが果たして相当なのか。   このとき,ほとんど仕事をしていないわけです。コスト負担を免れたことによって,ここでいう利益を得ることになりますから,それは償還する,逆に言えば約定報酬から控除することができるということだろうと思いますけれども,この構成だとその立証を注文者がしなければならないわけですが,注文者は請負人側のコストも分からなければ,コストを免れたことによる利益も分からない。分からないにもかかわらず,全額報酬請求を受けた上で償還すべき金額を自らの責任で明らかにしなければならない。極めて注文者に酷ではないかと思うわけです。むしろ,この場面でも641条同様,請負人に発生した損害を賠償できるという規律のほうが妥当な結論を導きやすいと思うわけです。   請負のとき,例えば会社の業務に関するソフトを作るなどという請負契約の場面で典型的に表れてきますけれども,注文者にも責任がある,つまり,ソフトを作るために前提となる会社の事務の流れやどういう事務目的を達成するかという情報を提供しない,他方で請負人側についてもその処理能力に問題があったりして,両方に何らかの問題がある中で仕事が結局,完成しない。どちらに帰責事由があるのか,ぎりぎりの議論になる。場合によっては7:3か,6:4かで注文者に問題があるとなったときに,注文者に帰責事由があるという判断になると,ここでは100:0で報酬請求ができてしまう。それで,しなかった仕事についてのコスト,利益のみが減額される。果たしてそれで妥当なのか。   実務的には,そういう場面であれば請負人がそれまでに相当の仕事をしているわけですから,その仕事に応じて一定の報酬と得られたであろう利益相当額の賠償請求を認めることが適当であるとしても,請負人側にも落ち度があれば落ち度分を過失相殺等によって処理できる。損害賠償請求構成だと,そういう柔軟な妥当な解決を導き得る,こういう強い意見があります。この後の委任の規定のところの完成型でも同じような考え方が示されています。委任でも同じような問題が生じるのではないかという懸念を持っております。   他方で,検討しなければならないのは,労働契約において使用者側に帰責事由があれば,報酬は全額請求できるという規律があるわけですけれども,素案は,全てを536条2項で,一律に請負も委任も雇用も処理をしようとする考え方で一貫しているのかと思いますが,雇用と果たして請負を全く同じような形で処理していいのかどうか,その契約類型に即して考えたときに雇用と請負については別途の考え方を採るべきではないか。536条2項の考え方で通すことについては,問題があるのではないかと思う次第です。 ○鎌田部会長 関連した御意見はありますか。事務当局は何かありますか。 ○中井委員 それならせっかくですから,例えば7:3ぐらいで落ち度があったときに,帰責事由はどっちだと判断するということは十分あり得ると思うんですけれども,それで注文者に帰責事由ありという判断に至ったときの帰結はどうなるんでしょうか。割合的解決はできるんでしょうか。 ○合田関係官 7:3の場合にどうなるかということですけれども,最終的には注文者の責めに帰すべき事由があるかないかという判断になって,あると認定された場合であれば1の(3)の規律が適用されて,割合的な解決はされないという帰結になると整理をしております。それが注文者にとって酷なのではないかという点については,結局,注文者の責めに帰すべき事由という認定の問題のような気もしております。整理としては,そういう割合的な解決はできない規律になっているということです。 ○中井委員 私もこれを読む限り,そうなるのではないかと思うものですから,なおさら,そういう帰結になるのなら具体的な事案において妥当な解決を導くことができるルールでしょうかということを,改めて検討していただきたいと思う次第です。 ○合田関係官 少し補足させていただきますが,(3)の規律自体によっては割合的な解決というのは前提にしておりませんが,別途,請負人の側に債務不履行があれば,その点について注文者が損害賠償請求を行うということはあり得ると思いますので,事案によっては妥当な結論を導き得るのではないかと考えております。 ○岡委員 割合的解決をすべきであるという観点からの更なる質問でございますが,(3)が注文者が100%悪い場合の規律としては,そう問題はないと思うんです。先ほどの7:3のような場合であるとすると,7の注文者の債務不履行があるとしたら,7の注文者の債務不履行に対する損害賠償請求と,3の請負人に対する損害賠償請求の両方をぶつけ合って,妥当な解決を図っていけばいいのではないか。そのときに7でも6でも「注文者の責めに帰すべき事由」というかなり緩い概念で少しでも認定上,これがあれば100の報酬請求が可能になるんだと,そういう概念として注文者の責めに帰すべき事由という言葉を使うと,かなり窮屈になってしまうのではないかと思いますが,それはどうでしょうか。 ○笹井関係官 確かに割合的な解決が妥当な場面というのはあり得るのだと思います。ただ,その帰結を導くために法律構成はいくつか考えられ,今の案は,報酬としては全額請求を認めた上で,別途,損害賠償なり信義則によって減額を図るという構成が考えられるということです。なぜ,そういう方向にして損害賠償請求権にしないのかですけれども,それは現行法との連続性を重視したからだということです。中井先生や岡先生から損害賠償でやればいいではないかという御指摘がありまして,確かにそれはそれで一つの方向性かなとは思いますけれども,そうすると今の536条2項との関係をどのように考えるかという問題が出てきます。現在,7対3で注文者が悪いという場合には,どういう法律構成でどういう結論が導かれるというお考えなんですか。 ○中井委員 今,7:3の例がありましたので,請負人については少なくともそれまでに要した費用,それは報酬相当額に関するものかもしれません。将来,完成することによって得られた報酬から掛かるべきコストを控除した利益相当額,これが損害として出てくる。7:3であれば過失相殺的に3割は減額される。これによって目的は達成される。(3)の帰結は100の請求に対して未履行部分について免れたコストを引く,その結果としての全額請求ができますから,3割控除はできていない。その違いを申し上げているわけです。 ○笹井関係官 現行法の下でも損害賠償請求が認められるということなんですか。 ○潮見幹事 中井先生は笹井関係官が尋ねられたことに対する答えではないことをお話になられたのかと思います。むしろ,笹井関係官がおっしゃっているのは民法536条2項で言われている反対給付義務というものは対価支払義務であって,損害賠償義務や法定の価値支払義務ではないということですよね。質問の内容は,このような通説を前提にして考えた場合には,報酬請求権が丸々取れるという扱いになるのではないのですかということではなかったのでしょうか。そこのところの関係を事務局がどのようにお考えなのでしょうかという御質問と理解しましたが,いかがでしょう。 ○岡委員 通説が536条2項を,請負にも適用しておるのは読みましたけれども,それは本当に100%悪い場合の規律としてはそう違和感はないわけです。実務では,よく村上さんがおっしゃるようにどっちもどっちという事件ばかりかなり多いと思います。判決までいかないで和解で落ちているのが実務としては多いと思います。雇用のほうで536条2項がかなり使われておりますけれども,あそこでも割合的解決が必要な場合があり得て,それは領域説あるいは労働法で対処しておる例があるということは,536条2項だけでは律し切れない局面があるという一つの証拠ではないかとも思います。   それから,雇用で損害賠償請求で処理せずに,536条2項で賃金請求権,反対給付請求権があるとしたい理由としては労働債権保護の法制があるので,労働の場合には536条2項そのものが極めて便利であるということがあると思いますが,請負とか委任にはそういうことはないのだろうと思います。   もう一つ,雇用の場合で536条2項を使う場合に,二つ申し上げたいですが,一つは雇用の場合だと2か月とか3か月とか,一定期間たって就労させれば元に戻れると,何か限度がある感じがいたします。ただ,雇用,委任は違うかもしれませんが,請負の場合には契約単位でいきますので,契約の最初のほうでこけた場合にも,その契約全部の逸失利益,約定利益が全部認められてしまうという点で,雇用と請負はまた違うのではないかという意見もありました。   それから,雇用の場合には536条を認めても利益部分というのがないわけです。働けなかったら働ける給料をくれと。給料はそうだよねと。ほかで働いた部分だけを返せばいいとなると思いますが,請負の場合には何もしていないのに利益相当部分が全部認められてしまう。ここにかなり実務家として違和感を持っておるところでございます。最高裁の判例とか,その後の下級審で信義則で限定している場合があるので,それでいいのではないかという意見もございましたけれども,雇用の536条2項と請負のしかも早い段階でキャンセルされた場合の536条2項は大分違うのではないか。請負には641条もあるのだから,536条2項が多数説だといっても,どんと条文で持ってくるべきではないのではないかと,こういう問題意識でございます。 ○中田委員 536条2項ができる際に,そもそも,反対給付を認めるという形にするのか,損害賠償にするのかということで議論があって,それで,反対給付というやり方にしたわけですよね。現行法の下では536条2項を前提に,請負についても賃貸借についても雇用についても,まずはそこから考えるということになっているのだろうと思います。現行法についての岡委員や中井委員の御理解が,そもそも536条2項の適用はないというのか,あるいは536条2項が損害賠償を規定したものだという解釈を採られるのかいうことにもよると思いますが,一般的には536条2項は反対給付を認めた,その上で,それとは別の債務不履行により損害賠償ですとか,あるいは利益の償還とかというところで調整するというのが現在のやり方であって,それを引き続き維持しようというだけのことではないかなと考えております。   ただ,その上で実務的な御懸念があるということは承りましたので,そこはもう少し丁寧に説明するというような形で御理解を頂けるのではないかなと思っております  逆に,ある契約については536条2項を維持し,別の契約についてはそれを外して損害賠償などの別の解決をするとなると,かえって混乱が生じるのではないだろうかという懸念もあります。 ○高須幹事 今の提案資料で頂いているような内容で,つまり,536条2項をポイントに据えて理解するという考えが分かりやすいということは,私どももそうだと思っておるんですが,今,中井先生や岡先生から危惧というんでしょうか,心配が示されるというのは私も弁護士のひとりとして同じようなことを感じておりまして,つまり,分かりやすいんだけれども,使いにくい。   結局,償還で処理するといっても,既に指摘されていることなのですが,そのことがどこまで具体的に伝わっているのか,実感としてどこまでここで伝わっているのかということを心配しておりまして,実際の裁判で例えば建築の請負代金は1億だけれども,その経費率がどれぐらいだとか,利益がどれぐらいだということを注文主のほうに立証させるという前提自体を,本当に訴訟の場において現実に採れるのだろうかというところがすごく心配になるところでございます。ですから,理論的には確かに整合的ではあるし,分かりやすくもあるんだけれども,使いにくい部分の手当てをしなければならない。もし民法でできなければ訴訟法でするのか,つまり,証明のルールを何か変えるのかどうかとか,いろいろなことを考えねばならない。そういうことを考えたときに,本当にこの立て付けでいいのだろうかというのは,中井先生や岡先生と同じように疑問を持っておりまして,ここのところは心配がどうしても抜けないというところでございまして,このままではやや疑問が残るというところでございます。 ○中井委員 現行法を正しく理解していないのかもしれません。先ほどの笹井関係官の質問に対しても回答としてすぐ損害賠償の話をしましたので,逆に考えますと,売買契約のときには既に反対債権が成立していて,債権者に帰責事由がある場合に反対債権をそのまま行使できるというのが536条2項だとしたときに,根本的な私の理解といいますか,疑問というのは,それが直ちに請負のときに半分工事が進んだ段階で注文者側に帰責事由があって工事ができなくなったときに,当然に仕事もしていない部分についてまで全ての報酬請求権を認めるという,その帰結に対する違和感が根本にあるのかもしれません。   それが今,中田先生がおっしゃったように,そうではなくて従来の理解としては請負であれ,委任であれ,途中までの段階で仕事をしたにもかかわらず,注文者若しくは委任者側に帰責事由があって仕事が完成しないときに,仕事もしていない部分について本来的に報酬請求権は発生していないんだけれども,報酬請求権を積極的に認める根拠規定として536条2項を使うのが普通の理解だとすれば,私はその普通の理解に対して疑問を呈していると申し上げてもいいのかもしれません。   少なくとも実務的な解決において,全額報酬が取れることを前提に,そこから注文者側若しくは委任者側から免れたことによって得た利益を立証して償還させるということの困難さ,これは高須幹事が今申し上げたとおり,これをひしひしと感じます。それともう一つは,売買であれば帰責事由が7:3だとか6:4だとかいうのはまず考え難いんですが,多くの請負で紛争が発生する,委任契約若しくは準委任契約で紛争が発生する事例は,どっちに責任があるのかも非常に分かりにくい,お互いに落ち度がある。結果として仕事の完成ができなくなったという事案における解決,そのときのルールとしては非常に使い勝手が悪いという印象を持っているということを,素直に申し上げなければならないのかと思います。実務的な問題点からのアプローチと御理解いただきたいと思います。 ○山野目幹事 1の(3)の規律の提案は,この骨格を維持してこの方向で実現していただきたいという意見を申し述べさせていただきます。   補足として4点申し上げますと,1点目は,契約の趣旨に照らして注文者の責めに帰すべき事由があるということは,請負人のほうで主張立証しなければならないことでありますし,ここのところでかなり規範的な,評価的な判断がなされるであろうと感じます。合田関係官が指摘なさったことと趣旨が重複いたしますけれども,弁護士会の先生方が心配しておられるような,どっちもどっちというような事例の多くの局面というものは,実際裡においては裁判実務上,軽々には注文者の責めに帰すべき事由があるとはされないと判断されることによって,適切な解決が得られていくものではないかと感じます。   2点目といたしまして,理論的,体系的なことでありますけれども,請負と委任と雇用の規律がこの事項について異なってくることは,おかしいと感じます。これは中田委員が強調されたことでありますし,笹井関係官が従来の536条2項の規律の維持ということでおっしゃったことと趣旨が重複すると考えますけれども,改めて指摘させていただきたいと考えます。   3点目はやや実際的な問題でありますけれども,労働の現場におきましては必ずしも雇用契約とか労働契約とかいう名前で,役務の提供を働き手が提供しているということとは限りませんで,請負契約とか委任契約,準委任契約の形態ないし名称で行われることもしばしば見掛けるところでございます。そういうものについて裁判所の努力によって,実質は雇用契約ないし労働契約ですよというふうな認定判断がされて,適切に処理される例もございますけれども,いつも,そうそう,そうとは限りませんで,そこに認定判断のところですごく摩擦が起きて,雇用ではない契約の類型に認定されると,途端に扱いが異なってくるということは,中田委員の御発言の最後のところにも,別なものになると途端に規律が異なるということは困るという御指摘がありましたけれども,私も実感として同じ意見でございます。   それから,4点目ですけれども,岡委員,中井委員との御議論がうまくかみ合わない背景の一つに,冒頭に議論があった641条の任意解除権の規律と,1の(3)が重なるのではないかという疑いを抱いて御議論なさるところが,議論がすっきりしなくて,もつれるところの要因であろうと感じます。私はそこのところは,合田関係官が御説明なさったのと同じにように理解してきたということを申し上げさせていただきます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○岡委員 山野目先生の今の最後のところですが,そうしたら注文者としては早目に任意解除権を行使したほうが(3)の適用がないという意味で有利になるのか,それとも,任意解除権を行使したとしても相手方が(3)の適用があるんだといって,それが認められれば(3)の適用があるんでしょうか。 ○山野目幹事 1の(3)と任意解除権は機能が重複しないと考えていました。任意解除権が行使されたときの扱いは,任意解除権の規律の中それ自体において,損害を賠償して,というルールが設けられていることの運用や,あるいは部会資料の2ページに書いてありますけれども,可分の給付の場合の報酬請求権の規律が適切に運用されることによって,問題処理がされるものと理解しております。 ○岡委員 そうすると,注文者が任意解除を適法にした後は(3)の適用はないという理解でいいんですか。 ○山野目幹事 そう思っていました。 ○笹井関係官 641条と(3)の関係ですけれども,確かに中井先生が冒頭におっしゃいましたように,勝手に解除した場面では注文者に帰責事由があるというのは,社会的な感覚から言えばそう言えるのかなと思います。だからこそということなのかもしれませんけれども,641条の損害の内容については,一般的には本来的に請負契約が存続して完成されていた場合に,請負人が得られた利益が損害賠償の対象になるというのが通説的な見解だと理解しております。そうだとすると,結局,別に641条で早く解除したから得になるということではなくて,結果的に請負人が得られる金額は一致しているはずで,ただ,損害賠償という名前で支払われるのか,報酬という形で支払われるのかという違いがあるだけになります。したがって,山野目先生からも御指摘がありましたように,(3)と641条との関係は機能的には切り分けられるのだけれども,どっちにすれば有利になるとかということではなくて,結論は整合的に理解できるということだろうと思います。   少し違う話になりますが,割合的な解決が妥当な場面があるのではないかという御意見が複数ございまして,実務的な経験に裏打ちされた御意見ですので我々としても十分考慮しなければならないと思っております。ただ,1点だけ申し上げますと,その実務的な使いにくさとかいうのは,冒頭に私が申し上げたことの繰り返しになりますけれども,実は現行法にもある問題でありまして,実務的にも使いやすくて現実に妥当な結論を導き得るよりよいルールがあり,それについてコンセンサスを得ることができれば,それが一番望ましいことだと思いますけれども,ただ,現時点で見る限り,なかなかそれは難しい状況にあるのではないかと思います。   損害賠償を認めるという方法は,中田先生からも御指摘がありましたように,民法第536条第2項の立法当初にこれを損害賠償請求権として認めるのか,反対給付として認めるのかについて議論があり,結論的には反対給付を認めたという経緯がございます。そこを大きく変えて逆に損害賠償という形で制度を設計していくということも,一つの可能性としては考えられるところだろうと思いますが,しかし,現実にそのような方法を考えるとすると,雇用について問題を生じさせるのではないかという指摘もあろうかと思いますし,また,雇用と請負,委任で構成を変えることについては,これも山野目先生から体系的,実務的な観点からも御指摘がありましたように,役務提供型と総称される契約類型の中で,雇用だけを別に扱うということは難しい。そうすると現行法に代わるルールを考えるのが難しくて,そうすると現行法から連続的なものとして残しておくほかないのかなと考えております。   基本的にこのように考えながら,(3)という形で明確にしましたのは,536条2項の書き方自体が変わっていくことや,反対給付を危険負担として認めることについて理論的な批判があることを考えると,実質としては536条2項と同じですが,報酬請求権の根拠規定のような形で書き改めることとしたものです。ただ,形式的に書き改めるけれども,実質的には現行法を維持するという方向で落ち着かせるほかないのではないかと,考えているところでございます。 ○高須幹事 今の御説明は明快で分かりやすいんですが,2点だけ,更に意見を言わせていただきたいと思います。   まず,641条の損害の問題なのですが,確かに説明としては損害として何が想定されますかという場合には得られた利益だよねと答えになる,代金額だよねというのは,説明としては分からないのではないのですが,実際に私どもが法律相談を受けているときなどにそういう意識で考えているかというと,疑問があるような気もするんです。10億円の建築工事を請け負って途中でやめたとき,残りの代金全額を払えば解除できますよといっても,だったら,恐らく解除する意味がないと多くの人が思うと思います。それでは641条が適用される場面などはないのだろうかという気もありまして,解除できるという場合の損害は,もうちょっと実費のようなものを考えているのではないかな,私自身の個人的な見解をここで言ってもしようがないのかもしれませんが,そこはもう少し考えてみてもいいのではないかと思いました。   もう1点なんですが,この問題の立て付けについては,なるほど,536条2項構成を採らねばならない,でないと理論的に説明がつきませんよと。仮に百歩譲ってそういう形にするという場合にも,現在もそうなっているという前提の判例というのが御指摘いただいた昭和52年2月22日の判例なんだと思いますが,52年の判例の判例解説にも,工事の出来高いかんによっては請負代金全額について報酬請求権を肯定し,請負人の請求を全部認容するのは相当でない場合が予想されるがと,そのような場合には信義則を根拠に応分の減額をすることによって実務的解決が図られるであろうと,判例解説にはそういう記述もございまして,そうすると,要するに信義則に頼らざるを得ない立法というのは余りよろしくないのではないかと。   だから,そうすると信義則的な部分の何か規定の配慮を置かないと,あと,そこから先は信義則でというのは作り方としてどうかと思いますので,何か,そのときのもう一つの場合によっては減額するという規定がどこかにあってもいいのではないかと,余り論理的ではないかもしれませんが,道垣内先生が笑っていますから,これは失敗したなと,今,思っているんですが,ただ,趣旨としてはその辺りのところまで手当ていただかないと,何かすごく心配だなというのが残るということでございます。 ○道垣内幹事 せっかく笑ったので一言申しますと,高須幹事は比較的明文化路線でございますので,高須さんを笑うには値しないのですが,様々な法理の明文化に対して部会では信義則に任せろという発言がしばしば行われる中で,信義則に任せなければいけないような立法をしていいのかという高須幹事のご発言でしたので,思わず笑ってしまったということでございます。   それで,今,高須幹事が,調査官解説でも信義則でやらなければならない場合があるだろうと書いてあるとご指摘になられましたが,ただ,問題は実務感覚の問題ではないと思います。つまり,現在において注文者の責めに帰すべき事由によって仕事を完成することができなくなったときの条文というのは,先ほどから出ている536条しかないわけですよね。したがって,536条を適用した中で高須さんがおっしゃっているように,正にこの場合には全額というのはあんまりではないかという形で調整をしてきているというのが現実であり,それがまた,実務の感覚に合致しているということなんだろうと思います。したがって,条文上は何が適用されているのかというと,飽くまで536条2項が適用されているんだろうと思います。   そして,それをそのまま書いて現状を維持するのか,それとも現在の実務的な感覚を重んじて何らかの形での減額というのを書くのかという問題なのではないかと思うわけで,現在の実務が条文を無視してなされているとは多分,おっしゃらないだろうと思いますので,536条の中でどうするかという問題なんだろうと思います。ただ,もちろん,幾らでも時間がある,コンセンサスが取れるということであるならば,現在の法律の立て付けというのを変えるという選択肢がないとはもちろん言いませんし,私はそういうこともあり得るのではないかと実は思いますけれども,まず,その点の出発点をはっきりさせるべきではないかと思います。 ○中井委員 質問をもう一つさせていただければと思いますが,(3)の注文者の責めに帰すべき事由がある場合,先ほどのソフトを作成するという契約で,注文者が会社の特定の事務手続について詳細を開示しないために,プログラマーのほうがソフトの作成ができなくなった。そこで,請負人は注文者が出すべき資料を出さないという債務不履行を理由に解除をした。解除した場合の請負人が得られるべきものは何なのでしょうか。   これは債務不履行に基づく解除,解除に基づく損害賠償請求になるんだろうと思いますけれども,解除しなければこの規定,にっちもさっちも動かなくなって完成できなくなったら(3),請負人が積極的に債務不履行を捉えて何日以内に提供しろ,提供しないから解除だといって解除してしまうと損害賠償請求,構成はそうなるんでしょうか。その結果として得られるものは同じでしょうか。念のために教えていただければと思います。 ○合田関係官 今,中井委員が御説明されたとおり,解除しなければ(3)の規律によって処理をされて,解除した場合には損害として処理をされるということになるという整理をしておりまして,その結果,得られるものというのは結論的には変わらないはずであると考えています。 ○岡委員 私の意見は,中田先生がおっしゃったような根本を変えろという意見ではありません。請負の場合には本当に様々な事案がありますので,(3)が適用されるのは極めて少ないのではないかと。判例を見直してみましても,一方的に拒否したような事例で(3)を適用しておりますので,山野目先生が先ほどおっしゃった一番目の論点である100%報酬を認めるような場合にのみ「注文者の責めに帰すべき事由」ありと解釈をすれば,あるいはそういう場合に限定的に適用される規定と思われるというような一問一答なり,何なりにきちんと書いていただければ,それはそれで納得できるのではないかと思いました。   僕らが一番心配している,どっちもどっちというような場合について,合田さんは先ほどそれでも認定されれば適用があるんだとおっしゃいましたけれども,恐らく7:3ぐらいの場合には(3)の認定がされない,そう割り切れば,それなりに納得できるところでございます。なおかつ,限定的に適用された場合でも高須さんが先ほど言ったような昭和52年の最判の判例解説とか,その後の下級審のように,請負契約でまだ未着手のような場合にまで必ずこれが適用されるというのではなく,限定される場合もあり得るだろうと,そういうふうな請負における536条2項の在り方みたいなものをきちんと説明していただければ,この規定自体に反対するというのは理論的にも変だなというのは分かりました。 ○村上委員 1(2)と641条との関係についてですが,641条の解除をした場合,1(2)が適用されて報酬を請求できるのか,それとも,そうではなくて,641条の文言どおり,損害賠償を請求できるということになるのか,どちらだとお考えなのでしょうか。 ○合田関係官 (2)で書こうとしているのは,解除権を行使した場合でも(1)の要件を満たしており,発生した報酬と費用の請求権の行使は妨げられないということです。641条によって契約を解除した場合でも,判例を前提にすれば,可分かつ利益がある部分については解除ができないので,未履行の部分について解除ができるということになり,未履行の部分について損害がある場合については,損害賠償として処理をすることになると考えております。 ○村上委員 そうすると,報酬と損害賠償と両方を請求できて,ただ,その損害の中には報酬は含まれないという理解なのでしょうか。 ○合田関係官 そう考えています。 ○潮見幹事 今の論点についてはいろいろな考え方があろうかと思います。私は別の回答内容を想定していました。それはともかくとして,私も基本的には先ほど山野目幹事がおっしゃったような考え方でいいとは思います。ただ,弁護士会の先生方の御懸念というのは,恐らく請負人の行為態様というものをこの枠組みの中でどう評価するのか,評価し切れるのかというところにあるのではないかと思います。   またまた,ドイツを持ち出して申し訳ありませんが,同じような立て付けをしているドイツ民法ではこの種の危険負担と解除の二元構成を採っていますが,かの地では(3)のような構成を採ったときに,請負人の行為態様というものをどのような観点から,どう評価するのかということについては,向こうの研究を踏まえた日本での分析もされておりますから,その辺りのところを少し御検討いただいて,どういうふうな枠組みでそういう相手方の行為態様を評価することができるのかというのを少し考えていただければ,それで説得力のある説明があるいはできるのではないかと思います。   その上で,先ほど中井委員と岡委員の間で若干ニュアンスの違うところ,つまり,反対給付請求権なのか,それとも,損害賠償請求権なのかというところがあったように感じましたが,むしろ,これから先は,基本的には(3)にあるような報酬請求権という枠組みで考えて問題を処理していったほうが滑らかなのではないかと思いました。ここを動かすと以前に岡崎幹事と私の間で少しやり取りさせていただきましたけれども,解除の場面で債権者の責めに帰すべき事由による解除というものが認められないといった文脈にも思わぬ波及をすることが懸念されます。つまり,その場合も債権者に帰責事由があっても解除はできて,債権者の帰責事由については損害賠償で処理をすれば足りるという理論的な構成も成り立ち得るし,そうしないと整合性がとれないということにもなりかねないと思います。そんなところまで併せて考えますと,(3)という枠組みを前提に,今,一連の議論がされたことを勘案いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はありますか。「請負」に関して,1に関しては多くの御意見が出されましたけれども,それ以外の部分についての御意見も含めてお出しいただければと思います。 ○中井委員 2の(1)修補請求権の限界のただし書の記載,契約の趣旨に照らしてその修補の履行が不能であるときは,この限りでない,についてです。まず,履行請求権の限界についての一般規定をどう置くかで,中間試案の段階と先般のたたき台では異なってきたかと思います。中間試案の段階では,山本敬三幹事がおっしゃられていたんでしょうか,利益に対して過分な費用を要するときを履行請求権の限界の一つの事例として挙げていたわけですけれども,たたき台ではそれがなくなっている。単に契約の趣旨に照らして不能と。ここでも恐らくそのままの状態で契約の趣旨に照らして不能の判断をするということになるんだろうと思います。   その趣旨はいいとしても,現行法と比べて分かりやすくなるんですか。現行法は,瑕疵が重要であるかどうかはともかくとして,修補によって得られる利益と修補に要する費用,それが過分であるかどうかを考えて不能かどうかを判断しようとしているわけです。そうすると,ここを不能であるときとすることによって,果たして分かりやすくなるのか。ここは,修補することによって得られる利益と比べて,修補することによる費用が過大である,若しくは著しく過大である場合には,もはや,修補の請求はできないということが現行法と連続性をもってストレートに書かれるほうが,はるかに分かりやすいのではないか。   現行法と変えるとすれば,現行法は瑕疵が重要でない場合に限っていますけれども,ここは,瑕疵が重要であっても重要でなくても含めて,利益と費用との関係で履行請求権の限界を考えるという考え方を採るとすれば,それはそれでいいのかとは思います。いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 まず,関連した御意見があれば併せて。 ○山本(敬)幹事 実は先ほどの任意解除の641条については補足すべきことがあるかなと思っていたのですが,こちらの問題について発言させていただきます。中井委員の御意見に私も賛成です。といいますより,10月の第78回会議のときに,履行請求権の限界事由の一般論について,同じようなことを申し上げました。この部会資料のうち,請負の場合について履行請求権の限界の一般原則よりも重い修補義務を課すのは合理的でないので,634条1項を改めて,修補義務についても履行請求権の一般原則と同じ取扱いをするという方向性は,私も賛成です。問題は,ただし書を,今おっしゃいましたように,修補の履行が不能であるときに一元化してしまう点です。前のときにも申し上げましたけれども,そちらの一般原則のほうで不能に絞ることが問題でして,それがここにもより問題のある形で現れているのではないかと思います。   特に問題なのは,修補に過分の費用が掛かる場合を全て履行不能と呼べるかということです。例えば,建物の建築を1,000万円で請け負ったときに,修補をしようすると1,000万円以上掛かる。つまり,一から建て替えをし直すような費用が掛かるときに,修補は不能であるというのは感覚として分かると思います。ただ,1,000万円以上掛かるのではなく,修補をしようすると800万円掛かる,あるいは500万円掛かるときに,修補に過分の費用を要すると言える可能性は十分にあるのですけれども,そのような場合に,修補が不能であると本当に言うのかというと,ちゅうちょを感じる方も少なくないのではないかと思います。   せっかく現在では「過分の費用を要する」ときという規定があるのをわざわざ不能に変えて,果たしてそれで同じだと言い切れるのかというと,私は大きな問題があると思います。むしろ,「軽微な部分」は落とすとしても,「過分の費用を要する」場合は残すべきであると思います。もちろん,本当は,履行請求権の限界の一般事由のほうをむしろ手直しをすべきであって,そちらをうまく手直しできるのであれば,それと同じであるという定め方でもよいのではないかと思います。 ○筒井幹事 ただいまお二人の方から御発言があったところは,履行請求権一般についての限界のところで御指摘いただいたことについて検討するとお約束していたところですので,それと併せてここも検討することにさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかの点について。 ○中井委員 山本敬三先生のお話,また,今の筒井幹事の御発言の趣旨の確認にもなるんですが,履行請求権の限界の不能の内容について更に再検討して,過分な費用が掛かる場合に履行請求権の限界があるという一般的な規律を直すことが更に検討課題になる,直すかどうかも含めてですけれども,検討課題になる。   そこで,そちらのほうで手当てができれば,ここの部分は提案どおり,不能という表現でいいというのか,私はむしろ請負という契約に即して,ここの修補請求権の限界というのは,この条文の中に書き下すべきであると。履行請求権の限界若しくは不能の中に敬三先生のおっしゃられていることを加えることについて,私自身も賛成はしているわけですけれども,そこが加えられる,加えられないにかかわらず,ここの請負の修補請求権の限界については,この条文に書き下すほうが分かりやすいし,これまでの蓄積もあるわけですから,その蓄積の連続線で考えることもできると思う。そういうことを申し上げたかったんです。 ○筒井幹事 御発言の趣旨はよく分かりました。ただ,その御指摘は,履行請求権一般についての限界と,請負の修補請求についての理解が実質において異なるとおっしゃっているわけではないと思うのです。ですから,そこは山本敬三幹事も明示的におっしゃいましたけれども,同じであるという理解の下で,しかし,過分の費用を要するという類型が見えるように規定することを検討すべきではないかという御指摘だったと思います。そのことを検討した上で,同じものを請負のところで表現するときにどのように書くべきかということを,,中井先生の今の御意見を考慮しながら,我々としては検討しなければいけない,そういう宿題を頂いたと理解しております。 ○岡委員 次の635条の削除にも関わるんですが,履行請求権の限界として一般理論と請負が全く一緒であるべきだと割り切れていない意見でございます。今の民法の条文に土地の工作物は別だとか,瑕疵担保のところに過分の費用が出てくるというのは請負の独自性といいますか,固有性といいますか,請負の場合だと過分な費用と得られる利益を考えるというのは,極めて実務的にも親近感のあるところでございます。   そういう意味で,売買と請負のところで違う規定がある,土地の工作物についてはかなり後になって瑕疵が分かることもありますし,窓の位置が5センチずれていたというのは修補してもいいけれども,何か認めなくてもいいのではないかとか,そういう意味で,現在の請負の,費用だとか,土地工作物の独特の規定について,一般理論では書かなくても請負については現行法のこのような条文を踏まえてそれを残すと,そのまま残すというつもりはございませんけれども,請負のところだけの固有の規定を残すべきだという感覚は弁護士のほうにはあると思います。 ○鎌田部会長 その点も踏まえて少し検討してもらって。 ○内田委員 その点も関わると思うのですが,山本敬三さんの御発言で過分という言葉を残すべきだとおっしゃったのは,多分,過分という言葉にいろいろな意味を込めようとされたのではないかと思います。つまり,山本敬三さんの本来のお考えからすると,必ずある品質の建物を建てますと約束していたのであれば,たとえ大きな費用が掛かったとしても修補すべきなのだろうと思うのです。   つまり,契約に照らして,あるいは契約の趣旨に照らして,どこまでの修補の負担を負うのが合理的かという判断が決め手になっていて,単に費用が大きいか小さいかという金額の問題ではないというお考えなのではないかと思うのです。そういうお考えからすると,過分という言葉は余り適切ではなくて,契約の趣旨に照らして,そこまでの修補義務を負うのが合理的といえるかどうかの判断をするのだということがわかるように書く,ということになるのではないか。それが履行請求権の限界についての一般原則をどう書くかということと直接関わってくるということなのだろうと思います。   ですから,請負だからといって言葉を変えるのではなく,請負にも妥当するような表現を一般原則の方で使うべきなのではないかと思うのです。しかし,そこについていろいろな提案がなされていたにもかかわらず,非常に批判が強く,従来の不能という言葉に対する執着を示す御意見が多かったので,こういう表現にならざるを得なかった事情があるわけですが,ただ,それが実は支障を生じているということではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 御意見に全く異存はありません。私自身の考え方も適切に表現していただいたと思いますが,現行法の下で「過分の費用」という表現が請負のところにあります。その規定の文言の解釈として様々な理解はあるかもしれませんが,ある立場を前提にすると,今,おっしゃったような内容で解釈することになると思います。その意味では,履行請求権の限界事由をどのような形で定めることができるかという点については,様々な考え方があるかもしれませんけれども,何とかコンセンサスを得て,不能に限らない規定を置く必要があるということは,前からも申し上げていました通りで,今も変わりません。   そこで不能に限ってしまった結果,請負のところで,これではうまくいかないのではないかということが如実に分かってくるように思います。そうしますと,請負だけの問題とは思えませんので,履行請求権の一般事由でうまく受け止められるように定めるべきではないかと思います。先ほど1,000万円の請負代金と1,000万円以上の修補費用,あるいは800万円,500万円の修補費用という例を挙げましたけれども,売買でも全く同じように問題になるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 その他の点についても請負関連の御意見をお伺いしておきたいと思います。 ○潮見幹事 641条とここの1ページ目の第1(1)(2)の関係ですが,先ほども少し申し上げましたように,641条は簡潔に問題を処理しようとしているルールであるのに対して,こっちのほうは第1の1の(1)なんていうのは,実質的には契約の一部解除・一部維持なのですよね。そのようなことを前提にしたような(1),(2)というのが,641条で先ほど御説明になられたようなことに果たしてなるのかということについては,若干,そうかなと思うところがありました。   それから,もう一つは単純な質問なんですが,先ほど途中の話で解除と危険負担の並存的な処理のようなことをおっしゃられたのですが,解除と危険負担については,今,御案内のとおり,この前,Bというところで議論があって並存構成あるいは解除に一本化論というのがあったと思います。並存構成は置いておいて解除に一本化した場合に1ページの(3)の当たる場面で,解除という選択肢はあるのでしょうか。   解除もでき,この規定によっても処理することができますというような御趣旨で発言されたと思うのですが,むしろ,解除,危険負担で一本化するといった場合には,解除というものは正に契約からの解放を債権者の意思にかからせるというものであるのに対して,危険負担をここで残すというのは,債権者の意思ということがどうであれ,当然にこういう処理をするんだということであって,(3)のような規定を仮に解除一本化論を採った場合に設けた場合には,この場面における解除構成というのは排除されるということにはなるのでしょうね。 ○合田関係官 先ほどの私の説明が分かりにくかったのかもしれませんけれども,解除した場合には(3)の規律は適用されず,(3)の中では解除した場面というのは排除されていると理解をしております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○中井委員 教えていただければですが,同じ事態が起こっているときに,つまり,注文者が本来やるべきことをしない,だから,仕事の続行もできない,完成もできない。当然,注文者の不履行を理由に請負人は解除して,もはや,その仕事から離脱することができる。完成していないから報酬は得られないけれども,当然,損害賠償請求ができる。解除しなくても結果的に注文者の帰責事由で仕事を完成することができなかったら,(3)で全部報酬請求ができる。こういう理解をしたわけですけれども,今,おっしゃられたことはそのことでしょうか。間違ったことを言っているのでしょうか。 ○沖野幹事 いろいろなことが錯綜しているように思われます。解除というのも,どういう局面での何を理由とする誰からの解除かということが複数出ていると思います。場面を見ますと一つはもはや仕事の完成ができない状態になっているということを理由とするもので,言わば履行不能になっているので,それによって注文者から解除できるかという話で,この話は債務不履行解除とどういう関係に立つかという,今,潮見先生がおっしゃった場面で,競合するという場面なのだと思います。   その場面とは別に,注文者から任意解除をするという,事由を問わず意思に基づいて解除するという場面があります。今度は契約の趣旨に照らして注文者の責めに帰すべき事由があるということは,何らかの義務違反ではないかということで,注文者の義務違反を理由に請負人から解除をするという場合がそれぞれ考えられます。どの解除を言っているのかという問題が一つです。今の話はいずれも契約の趣旨に照らして注文者の責めに帰すべき事由があるという状況下でどうなるのかということですが,それとともに,先ほど来,問題になっています双方に何らかの落ち度があるという場合があります。最初にお話になった,たとえば3:7で落ち度があるというようなときです。このような場合には,一つの可能性としては請負人自体の責めに帰すべき事由によってこの事態が生じているのだけれども,かなりのところ,債権者側にも帰責事由があるというような場合ですが,そのように見るなら端的な債務不履行解除であり,そうだとすると,契約の趣旨に照らして注文者の責めに帰すべき事由というところにそもそも当たらないので,こちらに入ってこない。しかし,落ち度の具合によっては,3:7は微妙かもしれないけれどもそうではないときは多少請負人に落ち度があっても判断としてはほとんど全面的に注文者の責めに帰すべき事由によると判断されるということになると,それは,注文者からの解除ということではなくて,こちらの話に入ってきます。ただ,そのときも任意解除との競合があるのか,ないのかとして,解除というのが今のような場面で語られています。合田さんは明確にされているように思うんですけれども,どれとどれとの関係を言うのかというのを明確にしないと,議論が錯綜するのではないかと思うのですが。 ○金関係官 今の御説明に異存はありませんが,潮見幹事の先ほどの御発言との関係で,注文者に帰責事由があると認定された場合の債務不履行解除に限定して考えますと,その場合に請負人は,1の(3)を理由として報酬請求ができるとともに,注文者側の債務不履行を理由として契約を解除した上で,民法415条,545条3項に基づいて損害賠償請求をするという方法も選択できるのだろうと思います。先ほど潮見幹事がおっしゃったのは,その場合に注文者の側は,債務不履行を理由とする解除をすることができないということではないかと思います。注文者に帰責事由がある以上,注文者からは解除することができないという規律だと思います。結局,そうしますと,注文者に帰責事由があると認定された場合というのは,請負人が先ほど申し上げた二つの方法を選択できる一方で,注文者は解除をすることができないということで,この限りでは整合的に説明できるようにも思います。 ○沖野幹事 任意解除の問題はなおあるということでしょうか。 ○金関係官 はい。今,解除と申し上げたのは全て債務不履行を理由とする解除のことです。 ○中井委員 そうすると,641条の任意解除が(3)の場面でもできるという先ほどの帰結については,その理解でいいんですね。 ○金関係官 すみません,もう一度お願いいたします。 ○中井委員 641条解除,先ほどの岡さんとのやり取りの中でも,(3)の事態に至ったときにも注文者は任意解除権の行使ができるということを前提に議論が進んでいたように思うんですけれども,それでよいと,今の話は。 ○金関係官 はい。641条による解除については,その解除権を行使すると注文者は損害賠償をしなければならないと規定されていますので,解除を認めても問題はないということだと思います。また,1の(3)は,契約が存続していることを前提とする規律ですので,641条による解除がされれば,その段階で1(3)の適用は排除されるということが前提になっているのだろうと思います。 ○高須幹事 ここで言うことでもないのかもしれませんが,多分,そういう解釈になるのだろうと思います。そうすると,恐らく641条解除は損害の立証になりますから損害の概念いかんではありますけれども,(3)の規律で取りあえず全額請求させることとは多分,訴訟では違う展開になるのだろう。そういう意味では,641条解除をすることによって立証責任の負担を免れるというような,これは注文主側の立場からの検討ですけれども,実質的に償還請求の範囲をこちらで立証しなければならないということのリスクを回避できるような立て付けになるのではないかと思います。ただ,そのこと自体は別にここで議論することではないのかもしれませんが,そういう違いというか,どちらかの法律構成を採れば裁判しやすいとか,しにくいとかという問題が生じることでいいのかどうかは,もうちょっと考えてみたいと思います。 ○山本(敬)幹事 641条については,ある段階までは改正提案が行われていて,現行法では「損害賠償」とのみ書いてあるのですけれども,通説的な理解に従ってそれを書き下すという提案が行われていました。そして,その内容が1の(3)と変わらないものだったので,どの選択肢を採っても,立証負担も含めてかもしれませんが,変わりがないようになっていたと思います。ところが,641条の改正提案は,少なくとも中間試案の前の段階ぐらいから落とされることになりましたので,現行法は「損害賠償」とのみ書いてあるので違いがあるのかなというような理解が生じて,それが先ほど来の議論に結び付いたのではないかと思います。   私自身は,641条の「損害賠償」は非常に分かりにくい規定ですし,学説の説明を見ましても,結論はおそらくどれも一致しているのですけれども,その表現が分かりやすいものと分かりにくいものが交じっていて,それもそごの原因になっているように思います。基本的には契約に拘束力がありますので,任意解除を認めるとしても,相手方は,契約によって得られたはずの利益は取得できるはずである。ただ,履行をそれ以上する必要はないとしますので,それ以上について掛かったはずの履行のための費用は控除するということがおそらく641条の趣旨であって,それを本来は明文化すべきなのだろうと思います。明文化していれば,疑義を大幅に減らせられるのではないかと思います。   ここから先は言うべきことかどうか問題かもしれませんが,641条の損害賠償の内容は,おそらく今申し上げたとおりで一致していると思います。それに対して,先ほどの消費貸借についての期限前の弁済のときは,同じかどうかが既に問題になっていて,諾成化を認めた場合に,金銭等を受け取るまでに解除されたときの損害賠償は,先ほどの御提案では,文言は一緒なのですけれども,おそらく,契約の拘束力自体を否定してしまうので,部会資料の御説明の中では,履行利益に当たるものではなく,積極損害ないしは信頼利益に当たるようなものの賠償にとどめるということが書いてありました。ただ,どれもすべて,同じく「損害が生じたとき」になっていますので,それは果たして違いを読み取ることができますかというのが中田委員から御指摘であったところで,そこまでいきますと,本当は文言をもう少し考えないと,更に紛糾する可能性があるだろうと思います。この場で,これだけ紛糾していて,今後紛糾しない保証は何もないのではないかと思う次第です。 ○鎌田部会長 御指摘の点も踏まえて更に検討を深めたいと思います。   請負関係でほかに。 ○中井委員 3の「注文者についての破産手続の開始による解除」ですが,請負人について仕事を完成したとき,それ以上の費用支出がないのでその後の解除は認めないという,その限りで現行法を変えるというところは理解をするんですが,(1)で注文者の破産管財人は完成後,引渡し前の状態のときにも積極的に解除できるというところがぎらぎらと残るわけです。そうすると9ページの上,最後の4行にも書いていますけれども,部会資料は,民法642条による解除の結果,出来高は注文者に帰属するということを前提に議論をされている。いよいよ,完成をして引渡し前であっても管財人は解除ができて,出来高は破産財団に帰属することになる。   そうすると,そのときの請負人は破産債権しか持たない。他方で,請負人の解除権を制限した理由は,目的物が完成したときの利益状況,引渡しが未了ですから,その利益状況は売買と同じである,だから,もはや請負人に解除権を認めなくてもいいと言いながら,他方で,破産管財人の解除を認めると売買と結果が全く異なってくる。つまり,目的物は注文者に帰属し,請負人は全額について破産債権になる。売買のときは決して解除したからといって目的物が買主に移転するわけではなくて,売主に目的物は残ったままで処理される。そのような帰結になることが明示的に示されているように思うんです。現行法でもここの部分は特段の手当てがされていないので,そのように解されるのかもしれませんけれども,私自身,完成後,引渡し前に破産管財人が解除したときに,そのような帰結になるのはおかしいと。少なくとも最後4行をそのまま読んでいけばそのような帰結になるんですが,果たしてそれでいいんでしょうか。   それを考えると,振り返ってここは現行法維持ということで,現行法の問題点は今後とも残るということでの提案なのかもしれませんが,果たして(1)をなお規定するのがいいのかという根本を考えたほうがいいのではないか。つまり,双方未履行双務契約については倒産法で解除するか,履行選択するかは,破産管財人側,再生債務者側に与えている。しかし,それでは請負人側,相手方の保護に欠けるから民法642条で請負人に解除権を与えた。今回,与える範囲について目的物が完成するまでに絞った。   その改正はいいとして,注文者の破産管財人の解除権については民法からは削除する,倒産法の双方未履行双務契約の53条ないし民事再生法だったら49条等に委ねる,効果は破産法でいうなら54条に委ねる。そのような解決はどうなのかと。現行法維持の提案が出ている中で,また,現行法の抱えている問題が今もある中で,そういう提案をすることの当否が問われるのかもしれませんが,そのように思う次第です。検討の時間があれば,是非,検討していただきたいなと思います。 ○鎌田部会長 関連して御発言はありますか。 ○畑幹事 今の問題は管財人の側が解除するときの根拠条文が民法にあるのか,破産法なのかということとは一応,独立の問題であって,確かに部会資料9ページの中井委員が指摘された4行の帰結がいいかというと疑問な感じはありますが,それはむしろ出来高の帰属のほうを考え直す必要があるということではないかなという気がいたします。 ○鎌田部会長 事務当局から何かありますか。ほかにはよろしいですか。 ○岡委員 今の9ページの4行問題ですが,帰属についての検討,プラス,このように注文者の破産財団に帰属すると考えられた場合であっても,商事留置権が成立して保護される場合もあり得ると思いますので,書き直すときにはそのことも書いていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。   よろしければ,次に部会資料72Aの「第2 委任」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○合田関係官 御説明いたします。   「第2 委任」の「1 受任者の自己執行義務」は,復受任者の選任が認められる要件についての規律及び任意代理人が選任した復代理人と本人との内部関係についての規律を委任の箇所に置くこととするものであり,中間試案からの変更はありません。なお,中間試案においては復受任者の選任が認められる要件を現状よりも緩和し,復受任者を選任することが契約の趣旨に照らして相当であると認められるときとする考え方が(注)で示されていましたが,パブリック・コメントの手続において要件を緩和する必要性に乏しいといった意見が寄せられたことなどを踏まえ,(注)の考え方を採らないこととしています。   「2 報酬に関する規律」の「(1)報酬の支払時期」は,委任事務の処理による成果に対して報酬を支払う約定である場合の報酬の支払時期について,請負に関する民法633条と同様の規律を設けるものであり,中間試案からの実質的な変更はありません。   「(2)委任事務の全部又は一部の処理が不能となった場合の報酬請求権」のうち,アは委任事務の一部が処理できなくなった場合について委任事務の処理の成果が可分であり,その給付を受けることについて委任者が利益を有するときの報酬請求権についての規律を,イは委任者の責めに帰すべき事由によって委任事務の全部又は一部の処理をすることができなくなった場合についての規律を,それぞれ民法648条第3項に付け加えることとするものです。   中間試案では,アにおいて成果を完成するために必要な行為を委任者がしなかったことにより,委任事務の一部を処理することができなくなった場合にも,受任者が既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができるとする規律を置くことが提案されていました。しかし,パブリック・コメントの手続において請負の場合と同様に委任者に帰責事由がなく,既履行部分の給付を受けることに利益がない場合にまで,受任者に報酬請求権を認めるのは合理的とは言い難いといった意見が寄せられたことなどを踏まえ,この論点を取り上げないこととしています。   「3 委任契約の任意解除権」は,民法651条の規律を維持しつつ,委任が受任者の利益をも目的とするものである場合に,委任者が委任の解除をしたときに委任者に対して損害賠償義務を課すとともに,やむを得ない事由がある場合については損害賠償義務を免除することとするものであり,中間試案からの実質的な変更はありません。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました部分について御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○中井委員 「報酬に関する規律」の「(1)報酬の支払時期」ですが,中間試案では引渡しを要しないときは成果が完成した後に,これを請求することができるとなっていたのが,この部会資料では引渡しを要しないときは民法624条第1項の規定を準用するに変わっています。同じ趣旨で変えたのだと部会資料にもありますが,果たしてそのように読めるのかという疑問があるのではないかと思います。つまり,624条第1項は,その約した労働を終わった後でなければ,報酬を請求することができないとあります。   それと,果たして成果が完成した後に請求することができるというのと同じなのか,これをわざわざ624条の準用に変える必要があるのか。例えば事務が三つあって,それで完成予定だったんですが,事務を一つやったところで成果が生じたときに,「労働が終わった」であればいずれも当初に予定した事務が終わらないと報酬を請求できないというような,これは誤解なのかもしれませんが,そういう主張が生じかねない。あえて雇用の規定を準用するというよりは,ここでは委任なら委任の中身である成果が完成した後という言葉をそのまま使うほうが分かりやすいのではないか,また,誤解を生まないのではないかと思う次第です。   これは,請負の633条のところで物の引渡しを要しないときは624条1項の規定を準用すると書かれているので,これとの平仄を合わせたのではないかと推測するわけですが,むしろ,請負の633条についても,物の引渡しを要しないときは,その仕事が完成したときに支払わなければならない,若しくは仕事が終了したときに支払わなければならないとしたほうが,請負の規定に即した理解ができるように思うのですが,いかがでしょうか。これは法技術的なことなのかもしれませんが,そう感じた次第です。 ○筒井幹事 御発言をありがとうございます。今回の部会資料でこのような記載にいたしましたのは,御指摘がありましたとおり,あるいは部会資料にも書きましたけれども,633条と内容が同じであることを書き表そうとしたということにとどまります。中間試案の文言を少しずつ条文の形に近づけていくという作業の一環として,現在の既存の条文と見比べたときに,633条と実質が同じであれば,差し当たり,それと同じように書くことが考えられるというのが今回の部会資料の書き方になっております。しかし,それだけでは分かりにくいという御指摘は,全くそのとおりであろうと思いますし,その御指摘は633条にも当てはまるのだろうと思います。ですから,そういった御指摘を踏まえて,この部会の中で大きな異論がないようでしたら,そういった表現ぶりの見直しについても今後,考えていきたいと思っております。 ○鎌田部会長 ほかに委任に関して。 ○道垣内幹事 読み方が分からないので,中間試案からそのままなので今になって申し上げるにも何なのですが,一言申します。第2の1の(2)なのですが,代理権の授与を伴う復委任というのは,どういう意味なのでしょうか。つまり,元の受任者が本人から代理権を授与されていて,それで復受任者も本人を本人とする代理権を得られるという意味なのか,それとも,復受任者が受任者の代理人になるという意味なのか,どちらなのでしょうか。 ○合田関係官 前者の方です。本人との関係で代理権の授与を伴う場合という趣旨です。 ○道垣内幹事 そうすると,それは明確に書くべきですね。代理権の授与を伴う復委任と書いてあれば,復委任のときに受任者を本人とする代理権が授与されると読めてしまいます。   もう1点,今度は取り上げなかった論点ですが,647条につき,金銭を消費した受任者の善意・悪意や故意・過失の有無を問わず,損害を請求することができるというメリットがあるとして意義を評価する意見が少なくないので,それを踏まえて取り上げないこととしたということなのですが,それはそういった意見には合理性があるという御判断なんでしょうか。削除が主張されたときには,金銭の特殊性から考えて,例えば10万円を預かっているというときに,10万円を費消するといっても,別のポケットに10万円が入っていれば何の問題もないわけで,そもそも,ここでいう金銭の費消とは何かということが詰められていないのではないかという話があったように思います。それを解決しないままに,このパブリック・コメントの意見に合理性があるとは私にはとても思えないのですが,これはどのような御判断なのでしょうか。 ○合田関係官 そもそも647条が適用される場合というのが限定されるのではないかという前提はそうだと思います。その限定された場面で,647条が適用される場合において,消費した日以後の法定利息を取ることができるという特則としての意義が,今は全くないのかどうかという議論だと考えているんですけれども。 ○道垣内幹事 今の御発言は二つ問題点があるような気がします。第1点は,647条が適用される場面は限定されているのではないかということは,647条の維持によっては全く示されないということです。第2に,そのような意義があるのではないか,というと,それはそのとおりなのですが,問題はそのような意義に合理性があるのかという問題だと思います。私は合理性がないと思うのですけれども,この条文があればそういう効果になるという話と,それが現代社会において,とても意味のある事柄として存続させられるべきかというのは別問題のような気がするのですが,どのような意味をこれに見いだすことができるというふうな御判断なのでしょうか。私には分からなかったのですが。 ○笹井関係官 その点は,中間試案のたたき台の審議の際にも道垣内先生から御指摘いただいたと思いますけれども,647条の適用場面が限定されていることがこの規定からは明らかではないかというのは御指摘のとおりで,ただ,通説は647条の「消費」という文言から,それを読み取っているということなので,そこは引き続き647条の消費したという文言の解釈に委ねるということです。   もう一つ,この規定に合理性があるのかどうかということですけれども,そこはもちろん,いろいろな考え方はあり得るのだろうとは思いますが,委任者がお金を預かっているという場面で,返せなくなるような形で消費してはいけないという義務が受任者に課されていて,一般的な金銭債務の不履行よりも重い責任を負わせることによって,金銭の消費を防止している,そういう点で647条になお意味があるという判断もあり得るのではないかと思います。 ○道垣内幹事 全く賛成はできませんが,ご趣旨は分かりました。 ○山本(敬)幹事 その論点から落とされたことの意味を確認させていただきたいのですが,元々,この規定を削除することは,金銭債務の不履行に関する規定の改正問題と関係していたのではないかと思います。中間試案の段階までは,遅延利息以外に損害が発生した場合について,もちろん,立証ができればですけれども,損害賠償を認める可能性を開くような規定にするという提案が行われていたのが,中間試案後の段階で,それではコンセンサスが得られないということだったのか,そのような遅延利息以外の損害賠償請求ができるというような規定は置かないということに転換されたのではないかと思います。   元々,この規定を削除するというのは,削除しても金銭債務の一般原則によればいいという意味合いがあったのではないかと思いますが,そちらが改正されないとなると,この規定を残す意味が出てきたので,残すという提案に今回なったのかなと推測はしたのですけれども,何もそのようなことが書かれていないので,よく分からなかったのですが,そのような理解でよろしいのでしょうか。その上で,果たして金銭債務の一般原則と違うことをここで本当に定める積極的な意味があるのかという道垣内幹事の御意見につながるのかなと思いましたが,いかがでしょうか。 ○合田関係官 今,御指摘いただいたとおりで,一般原則によった場合と差が出てくる場面があり得るということで,差が出てくる場面について,特則としての意義が今日では失われているのか,それとも,特則としての意義を今でも認めるのかという判断の問題になってくるのだと思います。パブリック・コメントの意見の中では,今でも特則として存在意義があるという意見がそれなりに寄せられていますので,そこを全く特則としての意義はないんだとしてしまっていいかどうかという問題だと考えました。 ○道垣内幹事 パブリック・コメントについてはそうですが,部会では私は別の意見を出したわけでして,パブリック・コメントのほうが重んじられるという必然性は全然ないと思いますが。 ○内田委員 道垣内さんに質問なのですが,疑問があるというのは無過失で責任を負うという部分なのか,それとも,利息超過損害の部分ですか。 ○道垣内幹事 例えば信託法においては,一応,分別管理義務というものが存在しており,仮に金銭について分別して管理されていれば,どれが毀損されたのかというのは分かるわけです。しかしながら,そのような厳格な分別管理義務を置いている信託法ですら,金銭に関しては帳簿上の分別で足りるとなっていますので,そう簡単に金銭が毀損したという状況は生じません。しかるに,委任において引き渡すべき金銭の分別管理義務についての規定も置かないで,引き渡すべき金銭を費消したという概念を入れるということ自体が私には理解できません。別段,利息超過損害,プラスの損害について置くのがおかしいとか,そういった話とは直接には結び付いていなくて,理屈上,こんなことがあり得るのだろうかということです。 ○笹井関係官 合田関係官の話とは少し違う観点になるのかもしれませんけれども,敬三先生の御指摘に対するところですが,647条はそもそも金銭債務の不履行と言える場面だけを対象としているかというと,そうではないと思います。647条をどうするかは,確かに419条の削除の問題と関連すると理解しておりましたけれども,419条を存置するから直ちに647条を残すという関係にはないのかなとは思っておりました。   それから,道垣内先生の御意見は中間試案のときからも御意見を頂いておりましたが,部会の中で,647条の削除については慎重に検討すべきであるという村上委員の御意見もございましたので,そういったものも総合的に考慮されるということではないかと思います。 ○道垣内幹事 私の意見を重んじろというわけではありません。パブコメがあるからというのは必ずしも理由にはならないだろうというだけです。村上委員もおっしゃっており,部会でもそういう見解があった大変適切な回答だと思います。部会においてもパブコメにおいてもと言っていただければ,私はそれに対しては異議はありません。結論には賛成しませんが。 ○中田委員 元々,647条を振り返ってみると,これはボアソナードの作った規定なんですけれども,多分,その根底には忠実義務があったのではないかと,これは私の理解なんですが,そういう観点からすると説明できなくはない。もちろん,他の説明があり得るし,あるいは無意味だという感覚もあるかもしれませんけれども,全くあり得ない規定かというと,そうでもないのではないかということです。 ○道垣内幹事 だから,委任において忠実義務を課すとか,分別管理義務を課すということになって647条があるというのはよく分かります。しかしながら,委任における忠実義務の規定も置かないということになり,分別管理についても議論されないで647条があるということになると,中田委員のおっしゃっていることの意味が私には分かりません。 ○中田委員 委任において忠実義務の規定を置かないからといって,委任において忠実義務が存在しないということではないのではないかと思います。 ○道垣内幹事 その御発言には賛成です。 ○鎌田部会長 ほかの点も含めて委任に関連した御意見は。 ○山本(敬)幹事 自己執行義務の1の(1)のほうについて意見を述べさせていただければと思います。9ページです。これについても,パブコメのことが10ページに書かれています。私自身は,かねてから中間試案の(注)の考え方に従って改正をすべきであるということを強く申し上げていました。つまり,「許諾を得たとき,又は復受任者を選任することが契約の趣旨に照らして相当であると認められるとき」に,選任をすることができるものとすべきであって,「やむを得ない事由があるとき」では限定的すぎるということを申し上げてきました。   パブコメでは,復受任者を選任する必要があれば,委任者の許諾を得れば足りるということが出ていますけれども,これはオーダーメード型の古典的,単発的な委任契約を想定した話ではないかと思います。委任契約でそのようなものはもちろんあるわけですけれども,もっと現代的な,大量的な事務処理契約が行われる場合があるわけでして,そのような場合に,個別に本人の許諾を明示的に取るのは適当と言えない場合があるのではないかと思います。そういう場合に,「契約の趣旨に照らして復受任者を使用することが相当と認められるとき」は,その利用が許されてしかるべきではないかと思います。   ここから先は準委任をどうするかということとも関わるのですが,中間試案の段階では,準委任に関する規定を改正して,どの規定が準用されるかということを明示していました。その際には,自己執行義務に関する規定は準用から外すことが提案されていたと思います。それは特に,準委任については大量的な事務処理が行われることになるので,自己執行義務に関する規定をそのまま妥当させることは適当でないという判断があったのだと思います。それは私がかねてから言っているとおりですので,その点はそれで方向性としてはいいわけですけれども,委任と準委任とで規定の仕方がそのような形で違ってくるのが本当に適当なのかというと,私は大きな疑問があると思います。   準委任をどうされるかという点をお聞きしたいのですけれども,準委任についてこの準用を外すだけだと,どうなるのか分からないことになります。あるべき方向は(注)に書かれた方向ではないかと思います。とするならば,統合してこのような方向で定めるというのが適当ではないかと思います。   パブリック・コメントでは,更に10ページによりますと,「契約の趣旨に照らして相当であると認められるとき」がどのような場合を指すのか,不明確であるという指摘があるわけですけれども,これは先ほどの道垣内幹事と重なるところがあるのですが,信託法の28条2号では,「信託の目的に照らして相当であると認められるとき」という定め方がされています。そのように実際に立法として規定されているとするならば,この指摘は決め手にならないと思います。方向性としては(注)のような方向で書き,そして,準委任についても当然,この規定を準用するという形が適当ではないかと思う次第です。 ○鎌田部会長 関連した御意見はありますか。 ○岡委員 違う論点でよろしいでしょうか。「委任」の1の(2)の直接請求権の論点でございます。代理権の授与を伴う復委任に限っていますし,民法の107条に関する通説なので,大きく反対するものではないんですが,一貫して実務家から出ている意見を申し上げたいと思います。こういうのを書くと復受任者が委任者に報酬請求権を直接持ってしまうと読めます。これは委任を業としている弁護士としてはイソ弁がクライアントに直接,報酬を請求してしまうということに念頭に置きかねないところでございまして,警戒感・違和感を持つところであります。   賃貸借の直接請求のところでも申し上げましたけれども,受任者の復受任者に対する債務不履行がないような場合には直接履行請求は立たないはずでございまして,こういう簡単な条文ではなく,できる要件というか,自由に恣意的にできるものではないということを条文上明らかにできるのであれば明らかにしてほしいし,できないのであれば,一問一答等にそこはきちんと書くべきだと思います。   もう一つ,この直接請求権の意味についてまだはっきりしないところがありますが,真ん中の人が倒産した場合には直接請求権が優先権を持って行使できると,こういう意味合いで主張されたこともございましたが,転貸借の場合はそれもありかなと思いますけれども,委任の場合の直接請求権というのは,真ん中の人が倒産した場合でも直接請求できて優先権を実質的に持つのか持たないのか。ここはどんなふうに考えたらよろしいんでしょうか。 ○鎌田部会長 事務当局から何かありますか。 ○笹井関係官 直接請求権のところですけれども,これはもちろん恣意的にできるものではありません。その点周知せよという御意見は受け止めたいと思いますけれども,ただ,原則として今,民法の代理のところでできていることを実質は変えずに場所だけを移すということです。そういう意味では,現行法と連続的な考え方であると理解をしていたところです。   そういう意味では,受任者が倒産した場合について,最後,御質問がありましたけれども,十分,何かシミュレートして考えたというわけではありませんけれども,基本的には現行法どおりで,受任者が倒産したとしても,直接請求権が認められているので,復受任者から委任者に対して請求することができるということになろうかと思います。そこは現行法と何も変わっていないと,ここの提案はそういうつもりです。 ○岡委員 自賠法の直接請求権は債権者代位構成で,真ん中が潰れたら行使できなくなるという説があります。この代理の直接請求についてはまだ余り議論されていないのではないかと思います。そういう意味では,現行法の解釈問題が維持されるということだと思うんですけれども,両説があると書くなり,何か検討の結果,どっちかが有力であれば,そのことを一問一答等に書いていただければ,解釈問題がクリアになると思います。 ○道垣内幹事 107条について十分に分からないまま発言して恐縮ですが,代理人が本人に対して権利を有すると書いたからといって,当該代理が委任契約に基づかない場合には報酬請求権は有しません。さらには,仮に報酬請求権が規定されていても,それは委任の法理によって生ずるのであって,代理によって生じるのではないのではないでしょうか。そうなると,107条2項の代理人が権利を有するという条文を復受任者が権利を有すると直してしまうと,意味がかなり変わってくるような気がするのですが。 ○笹井関係官 報酬請求権の有無というところですか。 ○道垣内幹事 例えばですね。 ○笹井関係官 もしかすると先ほどの岡先生からの御指摘も含めて解釈論があるのかもしれませんが,ただ,注釈民法などでは,復受任者が委任者に対して報酬請求や費用償還請求を直接することができると記載されていたと記憶をしております。ただ,先生が御指摘になったような問題は解釈問題としてはあると思いますので,そこを変える意図ではありませんので,文言についてはもしかすると御指摘を踏まえて検討する余地があるのかもしれませんが,繰り返しになりますけれども,ここでの提案は,現行法を変えるというのではなく,107条の規定を内部関係関する規定として位置づけるという趣旨でございます。 ○中井委員 先ほど「請負」でお尋ねしたことをまた重ねてお尋ねすることになるんですが,13ページの(2)のイの規律です。請負のところと同じ規律を設けると,しかも,これは履行割合型も成果完成型も同じであると説明されています。これも念のため,次の3のところで651条についての改正提案がありますが,その関係が気になっています。   請負のときには注文者が641条の任意解除ができるとしても,損害を賠償しなければならないと無条件に定めています。先ほどの山本敬三先生のお話によれば,その損害というのは全ての報酬からコストを控除したものであるということですが,委任は641条のような解除権ではなくて,651条では原則いつでも解除できる。不利な時期に解除したときに限って損害の賠償ができる。これが(2)のイの場面で処理することができなくなる前にというか,なったときにでもいいのかもしれませんが,委任者が651条1項に基づく解除ができるのかというのがまず第1の質問になって,できるとなったら,それは不利な時期でなければいつでも解除できて無条件に免責されるのか,では,ここのイの報酬請求権はどうなるんでしょうか。   また,仮に不利な時期に解除したというのであれば,解除したときの損害はどうなるのかですが,18ページによれば解除の時期が不当であることに起因する損害のみを賠償すればよい,つまり,報酬全てを払う必要はない。とすると,不利な時期に解除した場合に(2)のイと前提となる事実は同じなんだろうと思いますが,同じでありながら(2)のイの場面と,任意解除権を委任者が行使したときの場面で,請負と更に違ったといいますか,(2)のイの規律を適用したときには委任者が極めて過大な負担を負うことになるのではないか。   そして,これは準委任についてどのような規律が設けられるのかにもよりますが,準委任のうち,信頼関係に基づかない契約についても同様の規律を適用するという方向になれば,例えば3年間,掃除をしますという契約をして,1日掃除をして,その人の態度が気に入らないからといって注文者,委任者が掃除をさせない。ほかの人に依頼する。そのとき果たして一体どうなるのと。3年分の掃除の対価が請求できるのか,それとも,特定の損害に限られるのか。この辺がよく分からない。取り分け,イの規律が適用されれば3年分の報酬から掃除のコストを引いた部分を請求できることになりますが,請負以上に実務感覚に沿わないように思われます。   もっと正直に申し上げれば,536条2項で仮にこれが3年の契約だからといって,3年の報酬請求権が当然に発生するという理解がどこかおかしいような気がいたします。仮に536条2項を使うとしても,反対債権部分については売買と違って元々発生していない,請負の場合であれば完成したら発生する。では,途中で終わったときには途中までの仕事に対しては割合的報酬が当然に発生する。委任であれば終了した時点までの委任事務については,成果完成型であれ,割合型であれ,した仕事に対して割合的に報酬請求権が発生する。それ以上のものについては損害賠償的構成のほうがよほど落ち着きがいいのではないか。   更に18ページのところですが,651条は不利な時期であれば解除の時期が不当であることに起因する損害のみであると,逆に,報酬を得ることを目的とする場合は,それだけでは直ちに損害賠償義務発生しない。報酬を得ること,プラスアルファの受任者の利益を目的とする場合に解除して初めて損害賠償義務を負う。こういう規律との関係でも先ほどの(2)のイというのは,その場面を超えて何か過大な報酬請求ができるように思うのです。 ○合田関係官 まず,(2)イの規律と651条の解除との関係ですけれども,まず,651条第1項に基づいて委任者が解除をした場合は,委任者の責めに帰すべき事由によって処理することができなくなったという場合には当たらないので,イの規律によって処理がされるということはないという整理をしております。 ○笹井関係官 (2)のイと651条の関係は,今,合田関係官が申し上げましたように(2)のイの「責めに帰すべき事由によって委任事務を処理することができなくなった」という場面の中には,651条による解除がされた場合は含まれていないので,委任者が651条で委任を解除した場合には651条の規律によって処理がされる,すなわち,解除前の部分については648条3項の規律によって報酬が請求できるわけですけれども,それ以外の部分については,不利な時期であった場合にはそれに基づく損害賠償請求権というのが発生しますが,不利な時期ではなかったということになれば,損害賠償請求権は発生しないということになるのだろうと思います。 ○中井委員 そこで一旦切っていただいて,一言,よろしいですか。そうだとすると,解除しないままでイの事態は起こり得るんですよね。しかし,その後でも解除できてしまうんですよね,651条解除はいつでもできるわけですから。単純に,651条解除をすれば(2)のイの適用はありませんねと,こうおっしゃってしまうわけですけれども,そういう切り分けはできるんですか。 ○笹井関係官 それとどういう場面との切り分けですか。 ○中井委員 イの事態が起こっている中で,いつでも651条解除はできるということなのではないかということなんです。 ○岡委員 請負でも委任でも,委任者あるいは注文者の責めに帰すべき事由があると,受任者・請負人が考えた場合は,委任者・注文者の責めに帰すべき事由があるから約定報酬請求権を主張して払えという。それに対して委任者・注文者は解除できるけれども,解除したとしても,約定報酬請求権が既に発生済みですから,それが解除で消滅する代わりに,同額の損害賠償権を,受任者・請負人は取得するので,実態としては一緒になるのではないでしょうか。だから,イなり,前回の(3)があればまず約定報酬請求する。解除されたとしても,それを前提にした損害賠償が認定されるので,適用される条文は変わるけれども,払わなければいけないものは同じと,そんな理解では駄目なんでしょうか。 ○中井委員 それでも,帰責事由があれば解除できないというのだったらまだわかるのですが。 ○山野目幹事 先ほど請負の議論をしたときに,部会資料が提示していた今の御議論と全く同一構造の規律の議論に際して,岡委員,中井委員と議論させていただいた者の責任として,次のようなことに気付きましたから,是非,今日の審議で検討を尽くすことは難しいかもしれませんけれども,事務当局において引き続き御検討いただきたいと感ずることがございます。   二つに整理して申し上げますけれども,恐らく事務当局が部会資料を作成するに当たっては,注文者ないし委任者の責めに帰すべき事由があったときの報酬請求の規律と任意解除権,641条,651条との関係については,委任のところも請負のところも全く同じように考えるという発想で起案をなさったものであろうと想像しますし,ただいま笹井関係官が少しお話になったこともそのような発想に基づいていると思います。私もそれで基本的な方向はよろしいと思いますし,先ほど請負のときにその趣旨のことを申し上げました。   ただし,中井委員の問題提起を承っていて考え込まなければいけないと思った点が先ほど申し上げたように2点ありまして,一つは請負と異なり委任は継続的契約であるという特色を持っていて,報酬の全額請求ができるといったときに長い期間にわたって報酬の約定があって,その長い期間の全部でしょうかというような疑義が少なくとも生ずるものであろうと思います。そのような問題についてどう答えていくかについて,考え方を整理しなければいけないということを感じました。   それから,もう1点でございますけれども,任意解除権とここの規律の機能分担というものは,請負と委任が基本的に同じであってよいと考えますけれども,そうであったとしても641条と651条は規律の中身が全く同じではないのでありまして,そこの違いを中井委員は問題としておられると想像いたしました。651条の任意解除権の規律が641条と異なるのは,委任の場合には代理権を授与するということが重要でコアな内容になっていて,代理権授与の撤回は,自由に本人ができるようになっていなければいけないという要請のプレッシャーが,ものすごく651条の規律内容を考えるに当たって大きいものでると思います。   代理権授与を伴わない準委任であれば,請負の規範構造と準委任の規範構造は全く同じであるべきであると感じますし,そこは笹井関係官と考え方は同じであって,どちらかというと,中井委員とは考え方が違いますけれども,しかし,今の二つの点についてはなお疑問が払拭できるような規律の整理をしていかなければならないであろうということも感じましたから,引き続き御検討いただくことがかなうと有り難いと思います。 ○鎌田部会長 その点はよろしいですね。ほかに御意見はありますか。 ○岡委員 3のイの規定ですが,この趣旨に異論はないんですが,余り例もないところにこういう専ら報酬を得ることによるものでなくて,受任者の利益をも目的とする場合というややこしい条文をわざわざ作るべきほどの価値があるのかというような意見がありました。17ページのところに例が挙げられていますが,これも委任の一方的な撤回は許されないという特約を結んでいる場合がよく見られますし,そういう特約は有効であって,それを破った場合には特約の債務不履行の損害賠償責任が立つと,そういう処理で十分ではないかという意見がございました。イについて中身に問題があるというわけではなく,もっと簡単な処理があるのだから条文化までせずに,そっちに委ねてもいいのではないかという意見でございます。 ○鎌田部会長 ほかの点について御意見はありますか。 ○畑幹事 ちょっと戻ってしまうのですが,「請負」の民法642条について先ほど発言したことの関係です。その後,いろいろと思い出してきまして,部会資料9ページの中井委員御指摘の4行について,先ほどは出来高の帰属のほうを考え直すことがあるのではないかと申し上げたのですが,逆に報酬請求権のほうの扱いを考え直すという可能性もあり,あるいはそちらのほうが合理的かもしれないので,先ほどの発言を少しだけ修正したいと思います。 ○中井委員 今の畑幹事のおっしゃられたことに関連してですけれども,請求権の性質を考えるということは,現在,単純に破産債権となっているけれども,場合によっては財団債権として考えるということを意味するのだろうと思います。そうだとすると,破産法53条に基づく破産管財人の解除の場合に,54条の中で,一定,注文者側に利益のあるときにはその利益の限度で財団債権として行使できる,若しくは注文者に財産が帰属したときにはその取戻しができる。つまり,53条,54条で解釈し,解決するのが,出来高の帰属の問題,また,請求権の性質の問題を含めて好ましいのではないか。そういうところから,民法642条の破産管財人の解除はやめにして,倒産法の規律のみにしてはどうかという私の意見につながるのですけれども,そういう選択肢もあり得るのではないかと重ねて申し上げておきたいと思います。 ○畑幹事 あり得ると思いますが,請負人が解除した場合も問題は同様にあるわけですよね。したがって,管財人による解除を倒産法に移すだけでは完全には解決しないということがあります。この審議会とは別の場で中井委員とも御一緒にいろいろと議論したことがあるのですが,ここはいずれにしても非常に難しくて,コンセンサスを形成するのはなかなか難しいのではないかなという気がいたしますので,余りいじらずに後は解釈で行くというのは,現実的な方策としては確かにあるかなという気がしております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○松本委員 今日一番論点になった(2)のイと,それから,3との関係についての中井委員の疑問点についてなんですが,両方が重なる場合,すなわち,委任者の責めに帰すべき事由によって受任者の債務の履行ができなくなるような場合,例えば委任契約をしたのに委任の具体的な仕事をさせない,内容を指示しないというような形が生じた場合は,恐らくどちらの条文も適用できるのではないかと思います。   したがって,放っておけば報酬相当額を払わなければならない義務は発生するということになるんだろうけれども,他方で651条があるから早く解除して別の人に頼むなりすれば,それはそれで特別の状況でなければ損害賠償しなくていいと,そういう整理をすれば,それほど問題にはならないのではないか。委任には解除の自由という特別のルールがあるんだから,解除をすればほとんど負担がないんだけれども,解除をしないで放っておいて受任者を宙ぶらりんの状態にしていると,そういう形で受任者を拘束しているということに対する報酬は,払わなければならないということではないでしょうか。 ○鎌田部会長 その点が請負の場合と考え方が異なってしまうということについての問題の指摘もあったところですので,整理をして検討していただければと思いますが,事務当局から何か御意見はありますか。 ○笹井関係官 委任の報酬のところではないんですけれども,ちょっと前に話題になった642条のところで,そもそも,注文者からの解除をやめるべきではないかとか,あるいは請負人からの解除についても同じような問題があるのではないかというようなことの御指摘もございまして,確かに今,642条についての解釈論が非常に明晰であるかには疑問もあるのかもしれませんけれども,ただ,642条は破産法改正の際に大分議論がありまして,それを経て,こういう形になっているということだと思いますので,これを今から根本的に改めることは,もちろん,検討してよいものができればそれに越したことはないのでしょうけれども,ただ,破産法のときに大分議論したけれども,こうなっているという経緯もありますので,それを今から変えるのは相当の困難が伴うのではないかということだけ,一言,申し上げておきたいと思います。 ○村上委員 「請負」に関する第1の1の(1)(2)(3)と,「委任」に関する第2の2の(2)のア,イを見比べますと,請負のほうには,解除権の行使は既にした仕事の報酬又は費用の請求を妨げないというのが入っている一方,委任のほうには,そういうのが入っていないので,その理由を教えていただければと思います。 ○合田関係官 請負の場合ですと解除の遡及効があるんですけれども,委任の場合については解除の遡及効が制限されているという関係で,違いが出ているということになります。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   よろしければ,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 年内に二つの予備日の日程確保をお願いしておりましたけれども,本日,予定どおりの議事を終えることができましたので,予備日については開催せず,次回は来年1月14日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省地下1階大会議室となります。   次回の議題ですけれども,私どものほうで準備しようと考えておりますのは,「法律行為総則」「意思能力」「債権者代位権」「詐害行為取消権」,それから,本日,保留いたしました「委任」のBタイプの資料,それに「雇用」「寄託」,以上を予定しております。以上につきましての部会資料は,年内にいつものように電子メールにてお届けしようと考えております。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。 -了-