法制審議会 刑事法(裁判員制度関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成26年5月22日(木)   自 午後2時03分                         至 午後3時05分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の一部改正について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○東山幹事 ただいまから法制審議会刑事法(裁判員制度関係)部会の第4回会議を開催いたします。   井上部会長,よろしくお願いいたします。 ○井上部会長 本日も御多用中のところお集まりいただきまして,ありがとうございます。   なお,本日,栗生委員は所用により欠席されておられます。   前回の第3回会議後に人事異動によって幹事の交代がございました。   そこで,新たに幹事になられた福島幹事から,簡単に自己紹介をお願いしたいと思います。 ○福島幹事 4月1日付けで最高裁判所事務総局刑事局第二課長に着任いたしました福島と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○井上部会長 よろしくお願いします。   審議に先立ちまして,配布資料について事務当局の方から説明をお願いします。 ○東山幹事 本日は,資料11と資料12を卓上に配布させていただいております。資料11は,前回までの会議における審議の状況を踏まえ,事務当局において作成した要綱(骨子)の修正案でございます。詳しい内容につきましては,後ほど事務当局から御説明させていただく予定でございます。資料12は,第1回会議において資料6として「審理が比較的長期に及んだ事例一覧表」を配布させていただいておりましたが,今般,公判期日の回数が19日,実審理期間が71日に及んださいたま地裁における事案が把握されましたので,その事案を一覧表に追加したものでございます。   配布資料の説明は以上です。 ○井上部会長 それでは,審議に入りたいと思います。   本日は,まず前回会議において事務当局の方に検討をお願いした点について,事務当局で検討された結果について説明していだたき,その上で更に審議を行いたいと思います。具体的には,要綱(骨子)第一につきまして,迅速な裁判を行うための諸方策を尽くしたけれども,やむを得ず著しく長期・多数回の審理を行わざるを得なくなった場合にこの規定が適用されるという趣旨を何らかの形で法文上に表すことについて検討するということと,主に要件の明確性という観点から,要綱(骨子)第一の一における除外を行うための要件が必要な員数の裁判員等を「選任することが困難」とされている点について検討するということの2点であったと思います。   これらの点について,事務当局で検討してくださった結果につき,まず,事務当局の方から説明をお願いします。 ○東山幹事 それでは,御説明させていただきます。   ただいま井上部会長から御紹介いただきましたとおり,前回会議におきまして,諮問に係る要綱(骨子)第一につきまして2点の御指摘を頂きました。具体的には,1点目が,やむを得ず著しく長期・多数回の審理を行わざるを得なくなった場合にこの規定が適用されることになるという意味合いを何らかの形で法文上に表すことにしてはどうかという御指摘,2点目は,必要な員数の裁判員等を「選任することが困難」とされていることについての検討という御指摘をいただいたかと存じます。また,それ以外にも,これまでの審議の中で,例えば前田委員から,諮問に係る要綱(骨子)第一について,一度は裁判員候補者を呼び出し,裁判員等選任手続を行うことを要件としてはどうかといった御意見を頂くなどいたしました。そのような委員,幹事の皆様からの御指摘,御意見を踏まえて,事務当局において諮問に係る要綱(骨子)第一について再度検討いたしました結果,配布資料11のとおり,内容を一部修正するのが適当であるとの判断をいたしました。これからその修正の内容について御説明いたします。   修正点は,大きく分けまして3点ございます。まず,1点目は,迅速な裁判を行うための諸方策を尽くしたけれども,やむを得ず著しく長期・多数回の審理を行わざるを得なくなった場合にこの規定が適用されるという意味合いを法文上に表すことについての御指摘に対応する修正となります。この御指摘につきましては,裁判員制度の趣旨に照らし,裁判員制度対象事件についてはできる限り裁判員の参加する合議体で取り扱われることが望ましいことなどに鑑みますと,御指摘のような趣旨が法文上明らかとなるような規定ぶりに修正することが適当であると考えられました。   そのため,要綱(骨子)第一の一の1及び2につき,それぞれ長期・多数回の審判となることを「回避することができない」との文言を付加することといたしました。また,これに併せまして,諮問に係る要綱(骨子)第一の一の1で「争点及び証拠の整理の経過又は結果により」としていたものを「争点及び証拠の整理を経た場合であって」と修正し,また,第一の一の2の「審理の経過により」という文言を削除するなど,文言についての所要の修正を行いました。   ここで,「公判前整理手続における当該事件の争点及び証拠の整理を経た場合であって」との文言ですが,こちらは,要綱(骨子)第一の一の1における除外決定は,公判前整理手続そのものの終了にまで至っている必要はないものの,審判期間等がおおむね明らかとなる程度に争点及び証拠の整理が終了し,これを踏まえた審理予定が策定された段階に至った以降に可能となるということを意味しております。   次に,2点目の修正ですが,これは主に要件の明確性との関係で,要綱(骨子)第一の一における除外決定を行うための要件が必要な員数の裁判員等を「選任することが困難」とされていることについて修正を検討してはどうかとの御指摘,そして,前田委員からの御意見などに対応する修正となります。   前回会議でも御説明いたしましたが,事務当局といたしましては,要綱(骨子)第一の制度で除外決定がなされ得る場合としては,必要な員数の裁判員等を選任すること自体が困難である場合に加え,裁判員等選任手続を行えば必要な員数の裁判員等の選任が一応可能で公判を開始できたとしても,判決に至るまでの間職務を遂行することが困難なことが見込まれる状況にある場合も含むものと考えております。具体的には,例えば当該事件の審判予定期間よりは審判期間が短期であるが,それ自体としては審判期間が相当長期間にわたった過去の事件において,裁判員の解任が相次いだために裁判員の追加選任を行って審理を続行することに相当の困難を伴った事例が複数あったため,当該,つまり今回の事件については裁判員等選任手続を行うまでもなく,裁判員等が判決に至るまでの間職務を遂行することが困難であると見込まれるような場合が考えられるところです。   しかしながら,諮問に係る要綱(骨子)第一の案文では,必要な員数の裁判員等を選任すること自体が困難な場合のみが除外決定の対象となるようにも読み得ることから,必要な員数の裁判員等を「選任することが困難」との文言を「裁判員の選任又は職務の遂行を確保することが困難」との文言に修正することにいたしました。   また,諮問に係る要綱(骨子)第一の案文では,除外決定の可否に関する裁判所の判断が難しいとの御意見,あるいは一度は裁判員候補者を呼び出し,裁判員等選任手続を行うことを要件としてはどうかという前田委員からの御意見等を踏まえまして,裁判員の選任又はその職務の遂行を確保することが困難であると認める場合の考慮事情として,「過去の裁判員の選任又は解任の状況」と「法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の経過」あるいは「法第四十六条第二項の規定による裁判員及び補充裁判員の選任のための手続の経過」を例示しつつ,「その他の事情」を挙げる修正をすることといたしました。   ここにいう「過去の裁判員の選任又は解任の状況」とは,当該事件とは別の過去の裁判員制度対象事件における裁判員の選任の困難さや解任の頻度,あるいは解任の事由などといった事情を意味します。また,要綱(骨子)修正案第一の一の1の「法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の経過」とは,実際に裁判員等選任手続期日を開いた際のその手続の経過を意味しており,当該事件の裁判員等選任手続期日では,必要な員数の裁判員等を選任できなかったことや,その際の裁判員候補者の辞退申立ての理由等がこれに当たる事情となります。   ところで,前田委員の御意見は,特に要綱(骨子)第一の一の1の場面では,必ず裁判員等選任手続を行うこととしてはどうかというものであったと理解しております。確かに実際に裁判員等選任手続を行ったところ,必要な員数の裁判員等を選任できなかったという事実は,除外決定を行うか否かを判断する上で一つの典型的あるいは重要な事情であると思われますので,そのような趣旨で「法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の経過」という形で,考慮事情の例として明示することといたしました。   他方で,前回事務当局から御説明いたしましたとおり,どのような事案でも必ず裁判員等選任手続を行わなければならないといたしますと,事案の性質やその時点までの経験則の集積状況に照らし,およそ裁判員の選任又は職務の遂行を確保することが困難であることが十分に予測される場合であっても,必ず裁判員候補者を選任手続に呼び出さなければならないという問題点があると思われるため,「法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の経過」を言わば必要的な要件とまではしておりません。   なお,先ほども御説明いたしましたように,過去の裁判員の選任又は解任の状況に照らし,当該事件については裁判員等選任手続を行うまでもなく,裁判員等が判決に至るまでの間職務を遂行することが困難であると見込まれた場合には,除外決定を行うことは可能です。しかし,そこまでの判断には至らずに裁判員等選任手続を行った場合において,仮に必要な員数の裁判員及び補充裁判員を選任できたときにつきましては,必要な員数の裁判員等が選任できた以上は裁判員裁判が実施されることとなるのが当然と考えられますので,事務当局といたしましては,実際に必要な員数の裁判員等を選任できたにもかかわらず,その選任できた裁判員等が後に職務を遂行できなくなるかもしれないことを見込んで,なお除外決定を行うということまでは想定しておりません。   以上のような解釈は,要綱(骨子)修正案第一の一の2の「法第四十六条第二項の規定による裁判員及び補充裁判員の選任のための手続の経過」についても同様のことがいえます。   次に,3点目ですが,この修正は前回までの会議において特段御指摘を頂いていたものではなく,今回の再検討に併せ所要の修正をすることとしたものです。   修正の内容ですが,諮問に係る要綱(骨子)第一の一の2で,「裁判員の員数に不足が生じた場合において」としていた部分につきましては,裁判員に不足が生じた場合には,仮に補充裁判員がある場合であっても除外決定がなし得ると読める規定ぶりとなっておりました。しかし,補充裁判員を裁判員に選任することによって必要な員数の裁判員を確保できる場合にも除外決定がなし得ると読めるのは相当ではないことから,修正案にありますように「裁判員の員数に不足が生じ,かつ,裁判員に選任すべき補充裁判員がない場合であって」と修正することといたしました。   主な修正点は以上述べた3点となります。   なお,以上に加えまして,今回の修正案では,諮問に係る要綱(骨子)第二におきまして,「法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の期日に」としていたものから,「法第二十七条第一項に規定する」との文言を削除する修正も行っております。これは,今回の修正の結果,要綱(骨子)修正案第一の一の1の部分で,先に「法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続」という文言が新たに挿入されることとなったため,記載の重複を避けるために形式的な修正を行ったというものでございます。   事務当局からの説明は以上でございます。 ○井上部会長 ただいまの事務当局からの説明内容に関しまして,まず御質問がございましたらどなたからでも御発言をお願いします。 ○福島幹事 早速ではございますが,従前の要綱から幾つか変更点がございますので,この点に関しまして基本的な理解あるいは技術的な点について,まず3点ほど質問させていただきたいのですが,よろしいでしょうか。   まず,1点目の質問ですが,要綱(骨子)修正案第一の一の1では「法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の経過」とあり,また,第一の一の2の方では「法第四十六条第二項の規定による裁判員及び補充裁判員の選任のための手続の経過」とございますが,この点について先ほどの事務当局の御説明では,選任手続期日では必要な員数の裁判員等を選任できなかったことを意味するという趣旨の御説明があったかと理解しておりますが,ここでいう必要な員数の裁判員等を選任できなかったということの意味は,具体的にはどのように理解すればいいのか事務当局としてのお考えをお聴かせいただければと思います。 ○東山幹事 先ほど御説明いたしました必要な員数の裁判員等を「選任できなかった」ということの意味は,法律上認められる手段を尽くしたとしても,物理的に必要な員数の裁判員等の選任ができなかったことを意味するものではありません。この意味ですが,合理的な範囲で選任手続を行っても必要な員数の裁判員等の選任ができなかったことを意味すると事務当局としては考えております。すなわち裁判員法上,1回の選任手続では必要な員数の裁判員等を選任することができなかったといたしましても,更なる選任手続の実施が可能であるところ,仮に要綱(骨子)第一によって除外決定がなされる要件として,法律上可能な限り選任手続を行った際の経過を考慮するものといたしますと,裁判員の選任資格が「衆議院議員の選挙権を有する者」とされ,裁判員候補者名簿の補充も可能とされていることから,極めて多数の者が裁判員候補者として選任の対象となり得るものとされていることに照らしますと,そのような手段を尽くしてもなお必要な員数の裁判員等の選任ができないということはおよそあり得ないため,相当でないものと考えているところでございます。   したがいまして,繰り返しになりますが,この「選任できなかった」の意味は,合理的な範囲で選任手続を行っても必要な員数の裁判員等の選任ができなかったという意味だと考えております。 ○福島幹事 裁判所といたしましても,このような前例のない規模の事件につきましては,一度の裁判員候補者の選定で必要十分な候補者を呼び出すことは難しいかと思われますので,書面による事前辞退の状況などを見ながら,必要に応じて追加の選定,呼出しを行うなど,出席できる候補者を確保するための合理的な努力は行うことになるのではないかと考えているところでございます。   続きまして,2点目の質問ですが,これは少し技術的な所なのですけれども,要綱(骨子)修正案第一の一の1の考慮事情として二つの例が挙げられております。すなわち,「過去の裁判員の選任又は解任の状況」,それから,「法第二十七条第一項に規定する裁判員等選任手続の経過」,それから,第一の一の2でも同じようにこの二つの考慮要素が例として挙げられているわけですけれども,ここに挙げられている考慮事情の順序ですね。これについて,例えば判断の順序とかあるいは考慮事情としての重さなどが何か含まれているのか,あるいはそういうのは全く含まれていないのか,その点について事務当局のお考えをお聴かせいただければと思います。 ○東山幹事 御指摘いただきましたとおり,今回の修正案では除外決定を行う際の考慮事情の例示といたしまして,要綱(骨子)修正案第一の一の1及び2の双方において,それぞれ2点の例示を挙げておるところでございます。そのそれぞれの考慮事情を挙げた順序につきましては,単純に各事情が生じる時系列の順に並べたものにすぎません。   したがいまして,挙げられた順序によってその考慮事情の重要性の程度が異なるわけではありませんし,挙げられた順序に従って各考慮事情によって除外決定をなし得るかどうかを検討すべきだというような性質でもないと考えております。 ○福島幹事 3点目の質問ですが,要綱(骨子)修正案第一の一の1の考慮事情のところで,最後に「その他の事情」とございますけれども,この「その他の事情」には,例えばどのような例を想定されているのかお考えをお聴かせいただけますでしょうか。 ○東山幹事 御質問の要綱(骨子)修正案第一の一の1における「その他の事情」でございますが,例えば,裁判員等選任手続の期日の前に事前の質問票による辞退の申立てがどのような理由によりどの程度なされたのかなどといった事情を想定しているところであります。具体的には,例えば質問票による辞退の申立てが極めて高率に上ったというような事情は,「裁判員の選任を確保することが困難である」との認定の根拠となり得ますし,また同時に,「裁判員の職務の遂行を確保することが困難である」との認定の根拠にもなり得るのではないかと考えているところでございます。 ○今崎委員 先ほどの事務当局の御説明とただいまのやり取りを伺った上で,更にお聞きしたいことがございます。先ほどの資料12で審理が比較的長期に及んだ事例が挙がっており,これらの事例それぞれにそれぞれの苦労があったということは承知しておりますが,少なくとも聴く限りは,例えば解任が相次いで審判に相当の困難が生じたというような事例はなかったように思います。もしそうだとしますと,仮に今回の要綱(骨子)修正案が法文化されて実際に法律になったと仮定いたしますと,今回の要綱(骨子)修正案第一の一の1の「過去の裁判員の選任又は解任の状況」として具体的に想定されるものは,現時点ではないようにも思うのですけれども,そういった理解でよろしいのか,あるいは,この要綱(骨子)修正案第一の一の1の除外の運用はどのようなものになるかということを事務当局としてどのようにお考えになっているかをお聴かせいただければと思います。 ○東山幹事 先ほども御説明いたしましたように,「過去の裁判員の選任又は解任の状況」とは,当該事件とは別個の過去の裁判員制度対象事件における裁判員の選任の困難さや解任の頻度やその事由などといった事情を意味しています。一方で,今崎委員が御指摘されましたように,これまでに審判期間が比較的長期に及んだ事案,すなわち裁判員の方々の職務従事期間が100日に及んださいたま地裁における殺人等被告事件あるいは職務従事期間が75日に及んだ鳥取地裁における強盗殺人等被告事件におきましては,裁判員制度は滞りなく行われたという実績がございました。そのため,現時点におきましては,公判開始前に除外決定を行う要綱(骨子)修正案第一の一の1の場面において,現状における過去の裁判員の選任又は解任の状況のみを考慮して除外決定がなされるということはおよそ考えにくいものではないかと考えております。   現状における過去の裁判員の選任又は解任の状況を前提といたしますと,まずは裁判員候補者の呼出しには着手した上で,必要な員数の裁判員及び補充裁判員の選任ができた場合には裁判員裁判を実施し,その選任ができなかった場合には除外決定を行うというのが当面の通常の運用になるのではないかと想定しているところでございます。   もとより,今後,審判期間が著しく長期にわたるなどする事案において,必要な員数の裁判員等の選任に困難が生じたり,選任された裁判員が辞任申立てによって解任されることが続くような事例が集積されましたならば,その時点における過去の裁判員の選任又は解任の状況を考慮し,除外決定を行う場合もあり得るのではないかと考えているところでございます。 ○合田委員 ただいまの議論を伺っておりまして,この要綱(骨子)修正案第一の一の1の関係につきましての事務当局のお考え等も踏まえると,制度を運用する裁判所として,こういう形であれば制度運用が可能なのではないかという具合に思ったところがございますので,意見の形で若干述べさせていただきます。   今回の修正案を拝見しておりまして,この「著しく長期」あるいは「著しく多数」といったところは,やはりなかなか数字を書くのは大変ですけれども,こういう表現になりますと,要件的には若干の曖昧さが残るということではございましょう。しかし,その後ろの方で,裁判員裁判が最後まで実施できるかどうかという観点からの要件が加わっているということからしますと,次に申し上げるような運用であれば制度運用ができるのではないかと思っております。   今,お話がありましたように,現段階においては,過去の事案としては除外を肯定するような方向で考慮できるようなものは生じておりませんので,最初は,「過去の裁判員の選任又は解任の状況」というものを主に考慮して除外決定ができるというケースはないわけでございます。   他方におきまして,「裁判員等選任手続の経過」やこれに準ずるその他の事情という要件は,具体的に問題となっている当該事件において実際に呼出しや選任手続を行えば,その状況について考慮することが可能な事項が生じるということであろうと思います。ですから,そちらの方を考えて除外制度を運用していくということは可能であろうと思われます。   したがいまして,当面の間は,争点及び証拠の整理の結果,極めて長期の公判審理が避けられないこととなった事件であっても,そのことをもって直ちに除外決定をするのではなくて,まずは裁判員裁判を実施する前提で呼出しや選任手続を行って,実際に選任ができれば先に進み,どこかの段階で候補者が不足して手続が現実に頓挫した場合には,その段階でこの規定による除外を検討するという形で運用をスタートさせるということになると想定しておりますので,申し上げておきたいと思います。 ○前田委員 同じ箇所の質問です。合田委員の述べられたような運用になるだろうと私も考えるのですが,理屈だけの問題をいいますと,過去の裁判員の選任又は解任の状況というのは,過去の別の事件です。今日配布された資料12の事案も過去の別事件です。例えば,ある事件で公判前整理手続の結果,公判期日70回で審理期間は180日を要することになったとします。資料12の1番の事例の約2倍の期日と審理期間を要するケースです。その場合,過去の選任は結果的にはうまくいっているが,その際の選任状況を考慮すると,当該事件では裁判員の選任又は職務の遂行の確保は難しいのではないかと,裁判員等選任手続の期日に入る前に判断して対象事件から除外することまで排除してはいない規定と理解してよろしいですか。理屈の問題としてお聞きしましたが…。 ○加藤幹事 御指摘のとおりでございます。要綱(骨子)修正案第一の一の1の理解の問題として,御指摘のケースを排除するものではございません。 ○前田委員 先ほどの説明ですと,「裁判員の選任又は職務の遂行を確保することが困難」の「職務の遂行の確保」とは,分かりやすく言うと解任の見通しということでよろしいんでしょうか。 ○加藤幹事 先を見通した蓋然的な判断になりますので,解任の見通しといえばそういう表現も可能かもしれません。要するに,最後まで選任された裁判員及び補充裁判員がその裁判体として職務を遂行し切ることができるかどうかという見通しの問題であるというふうにお考えいただければよろしいと思います。 ○福島幹事 少し細かいところを更に2点質問させていただいてよろしいでしょうか。   要綱(骨子)修正案第一の一の1,それから2共通ではございますが,「裁判員の選任又は職務の遂行を確保することが困難」という書きぶりになっているところでございますけれども,これと同じような書きぶりが区分審理の要件を定めた裁判員法第71条第1項にございます。ただ,この裁判員法第71条第1項では「円滑な」という文言が入っている一方で,今回の要綱(骨子)修正案には「円滑な」という文言はないのですけれども,この点についてはどのように理解すればいいのか,事務当局のお考えを確認させていただければと思います。 ○東山幹事 御指摘の「裁判員の選任又は職務の遂行を確保することが困難であると認めるとき」の要件ですけれども,これはこれまで御説明しておりますとおり,必要な員数の裁判員及び補充裁判員を選任することが困難であると認めるときや,裁判員等が判決に至るまでの間,その職務を遂行することが困難であると認めるときという意味で用いております。   この文言は,いわゆる区分審理決定の要件を定めます裁判員法第71条第1項とほぼ同様の文言を含むものでございますが,当然のことながら,区分審理の制度とこの要綱(骨子)第一の除外制度とは,その制度趣旨や構造が異なるものであります。しかも,御指摘のように,裁判員法第71条第1項の規定では用いられております「円滑な」という文言は,要綱(骨子)修正案第一では用いられておりません。両者の規定は異なるものでございます。したがいまして,要綱(骨子)修正案第一の規定の要件と区分審理決定の要件とは異なるものであると考えているところでございます。 ○福島幹事 2点目の質問をさせていただきます。要綱(骨子)修正案第一の一の2の方に「回避することができないとき」とございます。第一の一の1の方については前回までにある程度議論がなされたかと思うのですが,この2の方の「回避することができないとき」については余り念頭に置かれた議論がなかったかと思いますので,念のため,この2の方の「回避することができない」とは具体的にはどのような意味なのか,どういうものを想定しているのかをお聴かせいただければと思います。 ○東山幹事 要綱(骨子)修正案第一の一の2の場合における「回避することができない」との文言ですが,裁判員に不足が生じて,かつ補充裁判員もない状況に至った後において,その後の審判が著しく長期又は多数回になることを可能な限り避けられるように,ほかにとり得る手段を尽くしたものの結局審判が著しく長期又は多数回になることが見込まれるに至ったということを意味しています。ほかにとり得る手段といたしましては,例えば,期日間整理手続において,それまでの審理の状況を踏まえて,再度争点整理及び証拠の整理を行うことや,可能な限り手続に要する時間を短縮できるよう公判手続の更新の方法を工夫することなどが考えられるところでございます。   このほか,審理の状況に応じて,要綱(骨子)修正案第一の一の1による除外決定の可否が問題となる場合にとり得る手段についても検討を行うことになると考えておりますが,第一の一の2による除外決定の可否が問題となるのは,通常,公判開始後のある程度審理が進んだ段階であると思われますため,実務上そのような手段をとり得る場面は,第一の一の1の場合に比べるとそれほど多くはないのではないかと考えているところでございます。 ○今崎委員 私も,要綱(骨子)修正案第一の一の2の関係で,もう一つ質問させてください。今回の要綱(骨子)修正案第一の一の2というのは,この文言から明らかなように,一旦合議体を構成することができて審理を進めたところ,解任があって裁判員の員数に不足が生じた場合ということを想定しているわけでございますが,その上で,この第一の一の2によって除外するかどうかということを考えるときには,裁判体としては,当然,当該事件のそれまでの審理の経過,解任に至った一連の経過やその際の理由などは考慮するんだろうなと思います。その関係で,当初の要綱(骨子)にありました「審理の経過により」という文言が今回削除されたことになりますのでその趣旨の確認なのですが,今,私が申し上げたような事情というのは,読むとすると「その他の事情」というところで読むのかなというふうにも思うのですけれども,そのような理解でよろしいのかどうか,あるいは「その他の事情」としてこういうことを考えているということがありましたら,事務当局のお考えを伺いたいと思います。 ○東山幹事 結論から申し上げますと,御指摘のとおりと考えております。要綱(骨子)修正案第一の一の2における「その他の事情」には,例えば解任されずに残っていた裁判員が不足した裁判員等の追加選任のために審理計画が変わることを理由として辞任申立てをどの程度行ったのかという事情が考えられますが,それ以外にも,当然,御指摘のような当該事件における審理の経過,裁判員が解任されるに至った理由などの事情も含まれるものと考えております。具体的には,例えば,審理が長期にわたって多数回行われていたことが原因となって裁判員が辞任を申し立てて解任されたといった事情や,解任されずに残っていた裁判員のうちの多くが審理計画が変わることを理由に辞任申立てを行ったというような事情は,「裁判員の職務の遂行を確保することが困難である」という認定の根拠となり得るのではないかと考えているところでございます。 ○合田委員 要綱(骨子)修正案第一の一の2に関しましても,若干先ほどの第一の一の1と同じような趣旨で申し上げておきたいと思います。   先ほど私が第一の一の1に関する見解を申し上げました後,前田委員から御質問がありまして,要件そのものの理解としては,例えば,先ほどおっしゃった180日といった場合にどうなのかという話がございました。もちろん要件自体を論理的に考えたときに該当すると判断することがあり得ないというつもりではございませんが,ただ,裁判所としましては,第一の一の1についても,除外決定をするためには,裁判員の選任又は職務の遂行を確保することが困難であると認めることが必要でございまして,180日という数字がどうかは分かりませんけれども,例えば100日を大きく超えたような数字になるというときに,そういう部分については先例がございません。理屈からいけば要件に当たると解釈することもできるということにはなっても,それでは裁判所が除外を認めるのかというと,やはり裁判員が選べるかもしれないとすれば,まず選任手続を行ってみると。頓挫する例がどのくらい出るか分かりませんが,そのような例が幾つも重なってくれば,それ自体が過去の事案として参照される場合も出てくるだろうと,こういう意味でございます。   同じような意味で言いますと,この第一の一の2につきましても,現段階では除外を肯定する方向で考慮できる前例がないということは第一の一の1の場合と同様なわけでございます。したがいまして,公判前の段階で超長期審理が予定されていなかったにもかかわらず,公判開始後の事情変更によって超長期審理になったといったような場合につきましては,過去の例でも参考となるものがなく,それから,その事件についても始まる前は超長期審理になるという見込みではなかったわけですから,その事件のそれまでの経過においても格別参考となる事情もないと見るのが普通だと思いますので,第一の一の1と同様に,まずは裁判員裁判をやっていくという前提で呼出しや選任手続を行いまして,出席者が不足して手続が現実に頓挫したという場合に,その段階で除外を検討するという運用になると思っております。   これに対し,当初から超長期審理が予定されていた事件につきましてこういう事態が生じた場合には,立て直した審理計画のほか,最初から超長期審理が予定されておりましたので,そこに至るまでの審理の経過あるいは従前の裁判員等が解任された時期とか理由といったものも,除外の判断において考慮することができることになろうと思います。したがいまして,こちらの方の場合には,これらの事情を考慮した結果,欠員を補充して審理を再開しても,また同様の事態に陥るといったような蓋然性が認められると合理的に判断できる場合には,再度の呼出しに着手することなく除外決定をすることもあると考えているところでございます。 ○小木曽委員 大体今までの話で理解できたのですが,一応確認ですけれども,前回,著しく長期とか著しく多数というのをどのくらいのイメージで考えるのかというお話があったわけですけれども,それについては,具体的にはここに文言としては上がってこないという理解でよろしいでしょうか。 ○東山幹事 確かに,前回会議におきまして,「著しく長期」の具体的な期間あるいは「著しく多数」の具体的な回数の基準となるような数字のイメージにつきましては,委員,幹事の皆様に御議論いただいたところでございます。その議論の内容も踏まえまして,事務当局としての見解を述べさせていただきますが,前回の会議での議論でも明らかになっているかと思うところですが,要綱(骨子)第一によって裁判員制度対象事件から除外しようとする事件は,当然のことながら裁判員制度の施行後,現在までには生じたことがない審判期間や公判期日等の回数を要するものでございます。   したがいまして,事柄の性質上,具体的な基準を明らかにするということは,そもそも難しいものと思っております。そのため,具体的に審判期間がどの程度になる場合には「著しく長期」に当たるといったような具体的な基準を示すことは困難であると考えております。結局この規定の趣旨は,裁判員の選任又は職務の遂行を確保することが困難であると認められる場合には,およそ裁判員の参加する合議体で審理することは現実にできないあるいは相当でないために対象事件から除外するところにあるわけでありますので,「著しく長期」や「著しく多数」の要件は,こういった趣旨を踏まえて,個別具体的な事情に基づいて判断されていくことになると思っているところでございます。 ○佐藤幹事 要綱(骨子)第一の修正案では,「裁判員の選任又は職務の遂行を確保することが困難である」ことが,当該事件を対象事件から除外するための要件として提示されました。この要件を満たすか否かが,実際にどのような資料を基礎として判断されるのか,ここで確認させていただければと思います。   この点,修正案では,「過去の裁判員の選任又は解任の状況」という要因が,この要件に係る考慮事情として挙げられていますが,地方裁判所は,過去の事件について,その手元に,例えば,本日配布の資料12にあるような,過去の事件における公判期日の回数,実審理期間及び職務従事期間に関する資料,また,第1回会議の資料7にあるような,過去の事件における裁判員等の選任状況に関する資料のほか,過去の事件における裁判員等の解任の理由に関する資料などを得た上で,さらに,当該事件に関する資料をも踏まえ,先の要件を満たすか否かを判断をする,という理解でよろしいでしょうか。 ○東山幹事 そのとおりでよろしいかと思います。   例えば,いわゆる裁判員法第103条公表等で最高裁が公表されて公知の事実になっていることもあるかもしれませんし,要綱(骨子)第一の五で刑事訴訟法の事実の取調べの規定を準用するというのもございますので,職権あるいは当事者の請求によって資料を判断主体である地方裁判所で調べていただくことも可能ですので,適宜の方法で,過去の状況につきましては判断の用に供することができるというふうに考えておるところでございます。 ○前田委員 裁判所が調べる前提として,裁判所では過去の事件の選任状況,解任状況が必ず記録化されて,ほかの裁判体が問い合わせをすれば分かるシステムになっているということでよろしいのでしょうか。 ○合田委員 過去の事件における選任及び解任の状況について,事件ごとに何人呼び出して,どういう結果になっているのかということは,一定の範囲で統計のために報告をしておりますし,それぞれの事件の記録には残ることになっております。長かった事件は裁判所の中でかなり珍しい事件ですから,そういう事件の存在は情報としては共有されており,具体的な情報が必要であれば,事実の取調べ等によって大体のところは手に入るだろうと思っております。   先ほど,要綱(骨子)修正案第一の一の2についてお話がありました,当該事件で何人呼び出して,どういう選任状況にあり,それから,辞退が何人,どういう理由で出ているかということは,その事件の記録を見れば判明するということになると思います。 ○井上部会長 御質問は大体これくらいでよろしいでしょうか。   それでは,今までの質疑をも踏まえて,要綱(骨子)修正案について御意見を伺いたいと思います。 ○前田委員 私はまだ,最終的意見を言えるほど検討しておりませんので,次回に考えを示したいと思います。私が提案したのは,過去の事例においては選任ができなかったケースがない状況での立法提案ですので,とにかく一度は裁判員等選任手続に入ってみるというのは一つの案ではないかと考えたからでした。選任ができない事例がある程度蓄積されれば,過去の選任,解任の状況を参考にして,現実に裁判員等選任手続に入らない時点での判断は可能かもしれないとも私は申し上げました。そういう意味では,私の案を先取りされて,事例の蓄積は今のところない中で,このような案を作られたのかなと理解はいたしました。事務当局でいろいろと検討された跡があって,現時点で考えられる制度の中ではこれも一つのあり得る姿かなと思っております。ただ,先ほど申し上げましたとおり,過去の事例は,うまくいった例ではありますが,それでも選任が結構大変だったというような事例をも含めて,これをも勘案して選任が無理だという判断もすることができる規定になっていますので,そこをどう見るかを更に検討させていただきたいと思っています。 ○井上部会長 合田委員の言われたような運用ならば,おっしゃるとおりになるということだと思います。前田委員の御提案ですと,現段階では過去の事例というものがないから,そこの部分は除いて,ともかくやってみて,過去の事例が集積したら,また法改正するということになるのでしょうね。そういうことも含めて是非御意見を形成していただきたいと思います。 ○前田委員 合田委員のおっしゃったような運用であれば問題はないと思います。 ○今崎委員 前回まで,当初の要綱(骨子)ではなかなか裁判所の判断が難しいのではないかというようなことを申し上げておりましたけれども,先ほどの合田委員の話や今のやり取りも含めて,基本的に今の時点では直ちに除外決定ができるようなものはないけれども,仮に将来的にそういう実例が重なっていった場合には,事前除外という可能性ももちろんあり得ると。ただし,現時点の状況を前提にした運用としては,これまでの例を理由にして,それだけで除外するということはないということであれば,裁判所としても運用は可能なのではないかと思います。そういう意味で,裁判所としても運用可能だというふうに考えているところではございます。 ○井上部会長 ほかの方,御意見いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,要綱(骨子)の修正部分については,おおむね議論が尽くされたと受け取らせていただきます。   これまでの御議論を踏まえますと,前田委員はなお御意見を留保されていますけれども,要綱(骨子)の修正の部分については,おおむねその修正に賛成する御意見であったというふうに受け止めました。その部分を含めて全体について,修正後の要綱(骨子)第一から第四までのどの部分でも結構です。御意見等がございましたら御発言願います。 ○前田委員 要綱(骨子)第四の二に関しまして,よろしいでしょうか。   前回の議論の席でも,裁判員候補者の方に罰則がないとはいえ,守秘義務を課す必要まではないのではないかと申し上げました。現状の運用の中で裁判員候補者が被害者の特定事項を知るということは,法的にはあり得ますが,現実には裁判所等の配慮によってないという現状では,この規定は必要ないのではないかという意見を申し上げました。ただ,裁判所の実情を私が全部知っているわけではありませんので,裁判官の方々に,その辺りの御意見をお聴きかせいただきたいという気持ちはあります。 ○今崎委員 私が裁判官を代表しているわけではないのですが,裁判員あるいは裁判員の候補者の方々に選任手続でいろいろと相対している立場からいえば,裁判員候補者としてお忙しい中を裁判所の方にお越しいただいて,その方々に本来であれば聞きたくもないことをお話しした上に,聞いたことをしゃべっては駄目だということを言うというのは,正直いささかじくじたるものがあることは確かでございます。   したがいまして,その点について皆様の御異論があるかどうかといったところも聴いておこうかと思っておりましたけれども,ただ,他方,事件の被害者という立場に立たれた方々が,こういう手続の中で自らの特定事項についてみだりに知らせるのではないかという不安を持たれるということもよく分かりますので,その両方をよく考えた上で,こういった法律ができるというのであれば,それは仕方がないのかなという感じはしております。   ただ,何度も申し上げてきたとおり,これまでの従前の運用自体では,こういう条文の規定が実際に発動されるような事態というのはできる限り少なくしておりまして,実際には,それほどこれがなければ困るという事態は生じておりませんし,今後もそういう方針で裁判体は審理を運営していくものと思っております。 ○小木曽委員 今の点ですけれども,運用としてはそのように非常に慎重になさっているということですけれども,おそれというか可能性というような言葉はあれですが,特定事項が知られてしまうような事態がないわけではないというふうに理解してよろしいわけでしょうか。 ○合田委員 実際に今やっております立場からいいますと,まず,被害者の,特に名前ですが,それを出す場合はないという具合にお考えいただいて構わないと。現場裁判官はそういう意識です。やり方を工夫していけば,裁判官は,特に名前についてはこちら側から候補者に出さなくても不適格事由等の判断は可能であって,まず出す場合はないという前提でやっている,それでできるという具合に思っております。ある程度の質問まではいっても,結局,ある事由があるかないかが判断できない場合には,更にその先に進むという場合は論理的にはあり得るわけでありますから,論理的にありとあらゆる場合にそれがないとは申し上げませんけれども,実際には運用に当たる我々としては,そこまではいかなくてもやれると思ってやっております。   ただ,論理的にはそこも排除できませんので,先ほど今崎委員も申し上げましたが,いろいろなことを考えて,その上で立法の必要性があると考えるという御意見は,当然あるだろうと思っております。 ○小木曽委員 それを伺っての感想ですけれども,論理的にはそのような可能性が残っているということであれば,安心して被害者の皆さんがいられるという意味では,罰則も付いておりませんし,このような規定を設けてもよいのではないかと思います。 ○和氣委員 今までのお話を伺いまして,非常に御配慮を頂いているというふうに思っております。しかし,1%でもそういうことがあり得る場合に,やはり被害者の場合は非常に繊細でありまして,その辺を非常に皆さん警戒しておりますので,是非被害者のお気持ちを酌み取っていただければ幸いです。 ○大澤委員 今の関連でございますけれども,合田委員が言われたように,実務上,氏名等を出さないのが普通であると。そうすると,氏名を出さない場合には,この要綱(骨子)第四の二の規定の存在を裁判所としてあえて裁判員候補者に言う必要もないということになるんですよね,多分。 ○合田委員 説明をどうするかは,条文ができたらよく考えてみたいと思います。 ○大澤委員 ただ,要綱(骨子)第四の一では,被害者の氏名等が裁判員候補者に伝わるということはあり得るという作りになっていて,そのようなことがあった場合に,つまり,被害者の氏名等を裁判員候補者に伝えなければいけないというときに,裁判員候補者が知った被害者の氏名等を公にしてもいいということではないですよね,裁判所のお立場としても。 ○合田委員 それはないです。 ○大澤委員 そうすると,ちょっと気になるのは,仮にそのことについて注意を促そうというときに法律の根拠があるのとないのとどちらがいいのだろうかということです。それは裁判所の責任で言わないようにしましょうということになるのかどうか。出頭してくれた裁判員候補者の方々に更にいろいろ負担を掛けたくないという気持ちと被害者保護の要請と,正にそのはざまで裁判官の方々は頑張っておられるのだとすると,申し上げたような事態が生じた場合に,むしろ法律の根拠がある方がやりやすいということにはならないですか。 ○合田委員 それは一つの考えだと思いますけれども,結局被害者特定事項が出てこないで手続が終わるというときに,それでも,「被害者特定事項が出た場合にはこういう義務がありますよ。」という説明を更にするのか,法律にはあるのだから,一般的な注意事項の中には必ずその点も含めておくのかという点は,法律ができたときにはよく考えてみたいと思います。先ほど申し上げましたように,この規定を置くこと自体にやはり意味があるという具合にお考えになっての意見が先ほどから出ておりまして,私どもはそのお考えも理解できるところでございますので,置くべきではないという意見を申し上げているわけではございません。 ○井上部会長 二つの論点があり,その一つは,選任手続で実際には被害者の氏名等が出ない場合でも,一般的な注意として言うのかどうかということで,この点については,こういう法律ができたとした場合,おそらく裁判所の方でどうされるか工夫されるのだろうと思うのですけれども,もう一つは,選任手続で実際に被害者の氏名等が出た場合,法規がなくても,事実上,裁判所の方でそれを公にしないよう注意をすることになるだろうけれども,そのときに,法的な根拠というか規定があった方が裁判所としてやりやすいのではないか。大澤委員の御質問は,そういう御趣旨だったと思うのですが。 ○合田委員 出た場合には,法律でも言わないようにしていただくことになっておりますという説明になると思います。 ○前田委員 今の関係ですが,氏名,住所その他の被害者を特定させることとなる事項と規定されているので,氏名が明らかにならなくても特定できてしまう事案もあるわけですね。ですから,私の理解としては,裁判所は,候補者の方,裁判所にお見えになった方には,全てこれを裁判官の方が説明されるものだという前提で解釈しておりましたけれども,そうではないのですか。 ○井上部会長 両方あり得ますよね。その他の事項も含めて,ともかく特定させることとなる事項が選任手続で全く出ないという場合にどうするかという話だと思うのですよ。 ○前田委員 一般的には,被害者のある事件について名前は出ませんが,地域が出ることは当然あり得ますね。それも特定につながるものと考えると,結構幅広くなってしまうかなという気もいたします。 ○井上部会長 それは,ケース・バイ・ケースの判断になるように思うのですね。それを広く網を掛けておくのか,それとも具体的にその都度範囲を決めるのか,そういう話だろうと思うのです。そこは恐らく,この規定ができたとすれば,実施の段階でどうするのかについて,裁判所の方で工夫されることになるのではないでしょうか。それに,いずれにしても,だからどうだという話ではないわけでしょう。   ほかにいかがでしょうか。   もし御意見がないということでしたら,本日のこの点についての審議はこのぐらいにさせていただきたいと思います。   次回以降の審議ですけれども,本日までの審議の状況を踏まえて,最後の詰めの御議論をお願いしたいと思います。その上で議論が詰められ,熟したと判断されるに至りましたら,部会としての意見の取りまとめをさせていただきたいと考えています。   次回以降の部会の日時,場所について,事務当局の方から説明をお願いします。 ○東山幹事 次回の第5回会議は,平成26年6月26日木曜日の午後1時から午後3時までを予定しております。場所につきましては,現在調整中ですので,決まり次第,御連絡いたしたいと思います。   なお,次々回以降につきましては,現時点で平成26年7月28日月曜日を仮押さえさせていただいておりますが,次回会議の進行状況に応じまして,開催の要否自体を検討させていただきたいと思っております。 ○井上部会長 それでは,次回は平成26年6月26日木曜日,時間は午後1時からおおむね3時までを御予定いただきたいと思います。場所は追って事務当局の方から御連絡させていただきます。   なお,本日の会議につきましても,特に公表に適さない内容に当たるものはないというふうに判断されますので,発言者名を明らかにした議事録を作成し,公表するということとさせていただきたいと思います。   それでは,本日はこれで散会とさせていただきます。どうもありがとうございました。 -了-