法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成26年4月23日(水)自 午後1時30分                      至 午後4後14分 第2 場 所  法務省 大会議室 第3 議 題   1 開会及び部会設置の趣旨説明   2 民事局長あいさつ   3 委員・幹事・関係官の紹介   4 部会長の選任   5 配布資料の説明   6 議事録の顕名化について   7 審議の進め方等   8 自由な意見交換   9 次回の議事,日程等の説明  10 閉会 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○松井(信)幹事 予定した時刻がまいりましたので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会の第1回会議を開催させていただきたいと思います。   本日は御多忙の中御出席いただきまして,まことにありがとうございます。   私は法務省民事局で参事官をしております松井信憲と申します。部会長の選出があるまで議事の進行を務めさせていただきたいと思います。座って失礼いたします。   議事に入ります前に,法制審議会及び部会について若干御説明申し上げます。法制審議会は法務大臣の諮問機関でございます。その根拠法令である法制審議会令によれば,法制審議会に部会を置くことができることとなっております。商法(運送・海商関係)部会は,2月7日に開催されました法制審議会第171回会議におきまして,法務大臣から商法(運送・海商)関係等の改正に関する諮問第99号がされ,これを受けましてその調査審議のために設置することが決定されたものでございます。   法制審議会に諮問された事項は,「商法制定以来の社会・経済情勢の変化への対応,荷主,運送人その他の運送関係者間の合理的な利害の調整,海商法制に関する世界的な動向への対応等の観点から,商法等のうち運送・海商関係を中心とした規定の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものであります。   審議に先立ちまして,まず臨時委員の深山民事局長から一言御挨拶を申し上げます。 ○深山委員 ただいま御紹介いただきました民事局長の深山でございます。商法(運送・海商関係)部会の第1回会議の開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。   皆様には御多用の中,商法(運送・海商関係)部会の委員,幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。御承知のとおり,商法のうち運送・海商関係の分野は商法制定以来115年の間実質的な見直しがされておらず,規定の内容が現代社会に適合していないとの指摘がございます。例えば,現在広く行われている航空運送は,商法制定当時には想定されておらず,商法には航空運送に関する規律が設けられておりません。また,現在では,一つの運送契約で陸,海,空という複数の運送手段にまたがる複合運送を引き受けることも少なくありませんが,このような運送形態に関する規律も商法には設けられておりません。そこで,これらに関する規律を新設するなど,社会経済情勢の変化に対応する必要がございます。   見直しに当たっては,現代の取引実務に即して,荷主や運送人をはじめとする運送関係者の利害関係を合理的に調整することができる規律とする必要がございます。例えば,運送品の損傷等があった場合の運送人の責任の在り方や,逆に危険物の運送を委託する場合の荷送人の責任の在り方など,様々な論点の検討の際に合理的な利害調整という観点が重要になると考えられます。   さらに,海商法制においては国際性が強く要請されることから,世界的な動向を踏まえた規律に改めるべきであるとの指摘もありますので,例えば船舶の衝突や海難救助に関する商法の規律につきましても,条約等の規律と整合するように改正する必要がございます。   そこで,これらの点について法制審議会で御検討いただくべく今回諮問がされるに至った次第でございます。委員・幹事の皆様にはこのような商法等の見直しに向けた御検討をお願いすることになりますが,より望ましい運送・海商法制の構築のために御協力を賜りますよう,何とぞお願い申し上げます。   以上で私の挨拶は終わりますが,私は今日国会関係で急な用務が入っていまして,第1回であるにもかかわらず,これで退席をさせていただくことをお許しいただきたいと思います。では,失礼します。 (委員等の自己紹介につき省略) ○松井(信)幹事 併せてこの機会に関係官につきまして補足して説明いたしますと,法制審議会議事規則によりますと,審議会においてはその調査審議に関係があると認めた者につきこれを関係官として参加していただくことができますが,この部会におきましても関係省庁の御意見を伺うべきと考えられたことから,他の部会と同様に,先ほど御紹介のありました国土交通省の皆様,そして後ほどいらっしゃると思われる経済産業省の吾郷課長に御参加いただくものでございます。どうぞよろしくお願いいたします。   では次に,部会長の選任に移りたいと存じます。法制審議会令によりますと,部会長は当該部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づき会長が指名するということになっております。部会は本日が第1回会議であり,部会長が指名されていない状態でございますので,まず始めの手続として部会長の互選をしていただきたいと思います。   それでは,部会長の互選をしていただきたいと思いますけれども,どなたか御推薦のほうはございますでしょうか。どうぞ,小林委員。 ○小林委員 成蹊大学の小林でございます。このたびの商法の特に運送法,海商法の関係で規定の見直しということでございますので,この分野におきまして御業績,御経歴に照らして大変な貢献されておられます東京大学の山下先生ですが,部会長にお願いできればと思いまして推薦させていただきたいと思います。よろしく御審議いただければと思います。 ○松井(信)幹事 ありがとうございました。   ほかにどなたかございますでしょうか。石井委員どうぞ。 ○石井委員 一橋綜合法律事務所の石井です。ただいま御推薦がありましたように,御経歴等から山下先生にお願いするのがよろしいのではないかと思います。よろしくお願いいたします。 ○松井(信)幹事 ありがとうございました。   ほかに皆様いかがでしょうか。   それでは,ほかに御意見がないようですので,部会長には東京大学の山下委員が互選されたものと認めます。   その上で,本日は法制審議会の伊藤会長に御出席いただいておりますけれども,伊藤会長におかれましてはいかがでございましょうか。 ○伊藤会長 商法分野におきます御業績に照らしまして,私も山下委員が適任でいらっしゃると存じます。   ただいまの皆様方の互選の結果に基づきまして,山下委員を部会長に指名したいと存じます。 ○松井(信)幹事 ありがとうございます。   ただいま,伊藤会長から山下委員を部会長に御指名いただきましたので,山下委員におかれましては部会長席に御移動していただき,以後の進行をお願いしたいと存じます。よろしくお願いいたします。 ○山下部会長 山下でございます。ただいま御推挙いただきまして,浅学非才の身にとりましては大変重いお役目でございますけれども,謹んでお受けさせていただきますので,よろしくお願いいたします。   この運送・海商という分野は,本日御出席の皆様方は,いずれもこの分野において専門性の高いお仕事あるいは御研究をされている方々でございますことからも分かるように,専門性の極めて高い分野でございますが,それと同時に,この運送・海商という分野は,物流,貿易あるいは旅客運送といった国民の生活あるいは産業・経済のあらゆる側面に非常に関係の深い分野ということもできるわけでございます。そういう国民・産業・経済全体に関わるという観点から公正な議事運営を進めてまいりまして,よい要綱を作っていくということに努めてまいりますので,審議への御協力をどうかよろしくお願い申し上げます。 ○松井(信)幹事 ありがとうございました。ここで,伊藤会長におかれましては,所用のため御退席されるということでございます。どうもありがとうございました。 ○山下部会長 それでは,ここから私が司会役を務めさせていただきますので,よろしくお願いいたします。   まず,配布されている資料につきまして,事務当局から説明をしていただきます。 ○松井(信)幹事 御説明いたします。部会資料1を事前に送付させていただきました。また「運送法制研究会報告書」,それから日程表を配布させていただいております。御確認いただけますでしょうか。   部会資料1は,「商法(運送・海商関係)等の見直しにおける検討事項の例」という題名のもので,事務当局において作成したものでございます。この資料につきましては後ほど事務当局から説明させていただきますが,本日お手元にない方がいらっしゃいましたら,こちらで余部を御用意しております。   また,運送法制研究会の報告書と言いますのは,一昨年の8月から昨年の11月まで公益社団法人商事法務研究会において開催された研究会の報告書でございます。この報告書は今回の改正の対象となり得る数多くの論点について検討がされており,議論のたたき台になり得ると思われたことから,参考資料として配布させていただきました。   配布資料の説明は,以上でございます。 ○山下部会長 ありがとうございます。よろしいでしょうか。   それでは,次に,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについてお諮りしたいと存じます。   まず,現在の法制審議会の議事録の作成方法について,事務当局から説明がございます。 ○松井(信)幹事 それでは,発言者名の取扱いについて御説明いたします。この点につきましては,平成20年3月26日に開催されました法制審議会の総会におきまして,次のような決定がされております。   すなわち,それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請等を考慮し,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという範囲で議事録を顕名とするというものでございます。   したがいまして,当部会の議事録につきましても,発言者名を明らかにしたものとすることでよいかどうかを御検討いただく必要があるものと存じます。   なお,御参考までに,先ほど申し上げた総会の決定後に設置された部会のうち,民事法の分野に関するものは,いずれも発言者名を明らかにする議事録を作成するものとされております。 ○山下部会長 ありがとうございました。   それでは,事務当局からの説明につきまして,御意見等ございましたら御発言をお願いいたします。 ○田中幹事 ありがとうございます。これから議事に入っていく前に,二つの点について意見があるのですが,それを今申し述べたほうがいいのか,御教授いただきたい。一つは,議題とすべき点について,本日の配布資料がこれからの議論の前提になるのかどうかということです。もう少し分かりやすく言いますと,この運送法制研究会の報告書の取りまとめを前提とした議論には,いささか問題があるのではないかという問題意識を持っております。   それから,「商法(運送・海商関係)等の見直しにおける検討事項の例」の中に,船舶先取特権について記載がありますが,この問題についての利害関係人が委員でお二人ほどいらっしゃると認識しておりますので,その点についても問題提起をしたいと思います。今でよろしいですか。 ○山下部会長 議事,審議の進め方につきまして,この少し後で御意見を伺うことにしておりますが,当面,今,議事録に発言者を記載するかどうかということをお諮りしたいので,その順番で進めるということでよろしゅうございましょうか。 ○田中幹事 では,後ほど発言させていただきます。 ○山下部会長 では,後ほど改めてお願いいたします。 ○野村(修)委員 すみません,かねてよりこの件につきまして意見があるものですから,僭越ですけれども,一言意見を述べさせていただきたいというふうに思います。   ここ数年議事録に発言者の名前が書かれるようになりましてから,数段情報の質が上がったというふうに私は認識しております。実際に,審議の内容を後から検討する際にも,発言者の立場等を踏まえた上で理解することができるようになっていますので,そういう意味ではこの審議会におきましても,是非発言者の名前を付した形で開示をしていただくことが望ましいのではないかというふうに思っております。   私が過去参加いたしました法制審議会の中で,名前が開示されるからといって大きく発言が妨げられたということは経験したことはございませんので,開示に支障はないのではないかと思っております。今,正に御発言がございましたけれども,利害関係人がいるのだというお話がありますが,であればこそ,この発言はどなたがされたものなのかということが明記されることが望ましいわけでありまして,そういう意味で,私は議事録に発言者を明記していただくということを是非お願いしたいというふうに思います。 ○山下部会長 ほかにいかがでございましょうか。   ただいま,野村委員から議事録の作成に当たっては発言者名を明らかにすることが望ましいという御意見がございました。   部会長の私といたしましても,当部会につきまして,審議事項の内容等に鑑みて発言者名を明らかにした議事録を作成することにいたしたいと存じますが,いかがでございましょうか。   よろしゅうございましょうか。   それでは,当部会につきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成するということにいたしますので,よろしくお願いいたします。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず,事務当局から,今回の諮問に至る経緯・内容,部会における検討の対象範囲,審議スケジュール等について説明をしていただきます。 ○松井(信)幹事 それでは,まず今回の諮問に至る経緯・内容と部会における検討の対象範囲について御説明申し上げます。先ほど深山委員の御挨拶にありましたとおり,商法のうち運送・海商の分野は,制定以来ほとんど実質的な見直しがされておらず,なお230程度の条文が片仮名文語体のまま残っております。古く昭和10年には法制審議会において商法商行為編及び海商編中の改正の要綱が取りまとめられましたが,その内容は,例えば定期傭船に関し一般の慣行を参酌して適当な規定を設けるというように,極めて概括的な方針を示すにとどまるものでして,更に,引き続く第二次大戦等の影響により立法には至りませんでした。   その後,平成13年に司法制度改革審議会意見書において,商法など依然として片仮名文語体や現代社会に適応しない用語を交えたものについて,法令の内容自体を国民にとって分かりやすいものとし,内外の社会経済情勢に即した適切なものとすべきであるという提言がされており,法務省民事局においても,民法,会社法,破産法などの民事基本法令につき,間断なく改正作業を行ってきたところでございます。このような経緯から,いよいよ商法の現代化に着手するということとなった次第です。   具体的な検討の対象範囲についてですが,現行の商法は陸上運送と国内海上運送を規律しておりますが,いたって古い規律ですのでこれを見直す必要がございますし,100年前にはなかった国内航空運送の規律も新たに設ける必要がございます。   これに対して国際的な運送につきましては,国際海上運送に関し,昭和32年に船荷証券統一条約を踏まえた国際海上物品運送法が制定され,国際航空運送については,昭和28年にワルソー条約の加盟国となり,平成15年にはモントリオール条約の加盟国となっているため,比較的国際的な動向を踏まえた現代的な規律になっていると思われます。   そのようなことから,この部会においては,陸・海・空の国内運送部分と海商部分を主に審議するということになりますけれども,そうは申しましても,国際海上物品運送法ではヘーグ・ヴィスビー・ルールズと呼ばれる条約の規律だけを規定するものでなく,商法の規定を多数準用しておりますので,条約に抵触しない範囲で国際海上運送についても改正の対象になるというふうに考えられます。   ただし,商法部会は,条約の批准の当否自体を検討対象とするものではございません。具体的には,国際海上物品運送についてはヘーグ・ヴィスビー・ルールズと呼ばれる我が国の批准した条約のほかに,2008年に国際連合においてロッテルダム・ルールズと呼ばれる新条約が成立しておりますが,主要海運国における動きがまだよく見えない状態にあり,また我が国において各業界の一致した御要望があるという状態でもない中では,新条約の締約国になるかどうかを直接検討対象とはしないということでございます。   次に,当部会の審議の進め方と審議スケジュールについて,御説明を申し上げたいと思います。運送には,物品運送と旅客運送とがございますが,この部会に御出席されている今ここにいらっしゃる方々につきましては,委員等の数についての物理的な制約等もございまして,法制審の伊藤会長とも御相談をさせていただき,主に物品運送の関係者を中心に御就任いただいているところでございます。そのため,旅客運送については,この部会の委員等のうち物品運送のみに関係する方々を除いたそのほかの方々によって部会の分科会というものを構成し,その部会の分科会において旅客運送の関係者に参考人として御参加いただくということにより,実質的な審議を進めたいというふうに考えております。   そして,中間試案を取りまとめ,パブリックコメントに付すということになりますけれども,その予定時期は,平成27年2月又は3月頃を一応の目標として作業を進めてはどうかと考えており,具体的な日程については,席上に配布いたしました日程表のとおりと考えている次第でございます。   このようなことから,この部会においては,主に物品運送と海商部分について月1回のペースで御審議いただき,まず本年秋ぐらいまでには一読を終え,その後二読に入っていくということができれば望ましいと考えております。   また,旅客運送については,先ほど申し上げました分科会で本年秋頃から月1回のペースで部会と並行して審議をし,中間試案ではそれらを統合して取りまとめを行ってはどうかということを考えております。   部会における実質的な審議は次回以降に行うこととし,本日は是非自由な意見交換,フリートーキングをさせていただければというふうに考えている次第でございます。 ○山下部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまのとおり部会における検討の対象範囲や旅客運送に関する分科会の設置,審議のスケジュール等の説明を頂きましたが,ただいまの説明や提案につきまして御意見,御質問がございましたらお願いいたします。 ○鈴木委員 旅客に関しては別途分科会を設けられるというお話で,そのときはまた委員の方とかは別途御招集されるということでしょうか。 ○松井(信)幹事 旅客運送に関係する業界には,バス,タクシーなどの自動車や旅客船という物品運送とは異なる方々が関与されることがございます。ですので,その方々については,別途参考人という形でこの部会にお出でいただき,その参考人の方々にそれぞれお考えなり,いろいろな事柄をお話しいただきながら,検討を進めてまいりたいというふうに考えているところでございます。 ○山下部会長 よろしゅうございましょうか。 ○鈴木委員 はい。分かりました。 ○道垣内委員 今後の開催予定として日程表に出ているのは部会であって,分科会のものはまだ含まれていないという理解でよろしいでしょうか。 ○松井(信)幹事 分科会の設置につきましては,この部会で御了解が得られるかどうかということがございましたものですから,まだ日程表には掲げておりません。御了解いただけたならば,分科会にお呼びする旅客関係の方々にお声がけをし,また日程を決めるという段取りをさせていただきたいと考えております。 ○柄委員 今後の予定でございますけれども,日程表には11回,予備を入れて12回となっておるのですが,当初2年間ぐらい会議があるというようなお話も聞いていたのですけれども,この予定はこの後はどうなるのでしょうか。 ○松井(信)幹事 ここに書いてございます開催予定は中間試案を取りまとめるまでの予定でございまして,しかもこの部会の開催予定でございます。ですので,当部会において11回と予備日を予定し,その中で物品運送と海商について検討したいと考えております。   そして,別途設けることを検討する分科会については,先ほど申し上げたとおり,旅客関係の業界の方々と,この部会に属する方々のうち物品運送のみに関係する方々を除いた方々で構成をし,開催の日時は追って決めると。ただし,おおむねこの秋ぐらいから始めてまいりたいと考えている次第でございます。そのように秋頃からと言います理由は,旅客運送は手荷物の運送という部分がございまして,手荷物の運送は,物品運送の規律を見ながら考えるほうが望ましいのではないかと思われることから,まず当部会における物品運送の議論を先行させ,その議事録が公表されるその後に旅客運送の審議を始めたほうがよいのではないかと考えた次第でございます。 ○山下部会長 柄委員,よろしゅうございましょうか。   ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,事務当局から提案がございました旅客運送に関する分科会の設置につきましては特段の御異論はないということでよろしゅうございましょうか。   それでは,提案のとおり,当部会に分科会を設置して審議することを決定してよろしゅうございましょうか。   ありがとうございます。   分科会の審議対象を踏まえますと,この分科会の名称につきましては「旅客運送分科会」とすることが考えられますが,いかがでしょうか。   よろしゅうございましょうか。   それでは,「旅客運送分科会」という名称とさせていただきます。   そのようにして設置されます旅客運送分科会でございますが,分科会に所属するメンバーやお招きする参考人の人選につきましては,先ほど事務当局から説明があったところを前提に,部会長である私に御一任いただくということでよろしゅうございましょうか。   ありがとうございます。   それから次に,皆様方からの御意見等を踏まえまして,審議スケジュールにつきましては,中間試案の取りまとめ時期の目標を平成27年2月又は3月ということにしたいと思いますが,この点もよろしゅうございましょうか。   ありがとうございます。   それでは,次に,配布資料を参考にした意見交換に移らせていただきたいと思います。   まず,配布資料につきまして事務当局に説明をしてもらいます。 ○髙橋関係官 それでは,配布資料に基づき御説明いたします。   部会資料1は,自由な意見交換を進めていただくに当たっての話題といたしまして,部会において検討することが考えられる事項の一例を掲げさせていただいたものでございます。大きく分けて第1の「主として運送に関する事項」と,第2の「主として海商に関する事項」から成っており,最後に「その他」の事項を記載しております。   まず,第1の「主として運送に関する事項」についてですけれども,1点ずつ簡単に御説明申し上げますと,第1点の「陸上運送・海上運送・航空運送の関係」では,航空運送に関する規律を補い,複合運送に関する規律を整備するに当たりまして,規定の構成について陸・海・空に共通する運送法総則のような規律を一通り設けた上で,必要に応じて海上運送の特則等を定めるような形とすることについて御意見を伺えればと考えております。   次に,第2点の「運送人の責任の基本原則」は,運送人が注意を怠らなかったことを証明しなければ責任を免れないとする現行法の規律を基本的に維持することの是非を問うものでございます。   第3点の「運送人の責任に係る責任限度額」では,現在国際条約に基づいて国際運送で設けられている責任制限の規律を国内運送にも導入する必要性,相当性があるのかどうかについて御議論いただければと考えております。   第4点,「運送人の責任の消滅」は,運送人の1年の消滅時効が現在定められておりますが,これを国際海上物品運送法と同様の除斥期間の規律に改めた上で,損害発生後に限り当事者の合意による期間の延長などを可能とすることの是非を問うものでございます。   第5点の「運送人の被用者の責任」は,運送人の被用者が荷主等に対して不法行為責任を負う場合について,運送人に適用される損害賠償の定額化ですとか責任の消滅といった運送契約に関する規律の効果を,この被用者の不法行為責任との関係でも主張することができるようにすることの是非を問うものでございます。   第6点,「危険物に関する荷送人の申告義務」は,荷送人が危険物についての申告義務を負うことを明文化するとともに,これに違反した場合の損害賠償責任について,荷送人が過失がないことを証明しても責任を免れないということにするかどうかといったところを問題とするものでございます。   第7点の「運送品の全部滅失の場合における荷受人の地位」は,現行法上運送品が到達地に達する前に全部滅失した場合には,荷受人が運送人に対する権利を取得せずに,損害賠償請求権の行使が困難な場合があるとの指摘がございますことから,このような場合であっても権利行使が可能となるような規律を整備しようとするものでございます。   第8点,「堪航能力担保義務」と言いますのは,船舶が安全な航海に堪えるものであることを担保する海上運送人の義務のことを言いますが,商法上は海上運送人に過失がないことを証明しても責任を免れないというふうに解されておりまして,厳しすぎるとの御指摘もあるところでございますので,国際海上物品運送法の規律などに合わせて,過失がないとの主張を許すこととすることの是非を問うものでございます。   第9点,「現代的な取引への対応」につきましては,定期傭船契約ですとか海上運送状など,商法に現在規律の設けられていない取引の形態について,規律を新設することの是非とまたその内容を御議論いただければと考えております。   第10点,「片面的強行規制の在り方」につきましては,海上運送について現在一定の免責特約を無効とするという内容の規定が商法に設けられておりますが,これが一般的に用いられている約款の内容と抵触しておりまして実務と適合していないという御指摘がございます。そこで,契約自由の原則を重視して,今申し上げました免責特約の禁止に関する規律を撤廃することの是非を問うものでございます。   次に,第2の「主として海商に関する事項」でございますが,第1点の「船長の権限及び責任」につきましては,商法上の船長の権限が広すぎて実務に適合していないとする指摘がある一方で,船長に一定の権限を与えておくほうがむしろ便宜であるとの意見もあるところでございますので,どのような規律とするのが望ましいかどうか,御意見を伺いたいと思います。   第2点の「共同海損」につきましては,実務上多くの場合にヨーク・アントワープ規則が用いられているという実情を踏まえまして,これと整合するように商法の規律を整備してはどうかというものでございます。   第3点の「船舶の衝突」につきましては,条約と商法とで規律が異なり適切でないとの指摘が長らくされておりますので,商法の規律を条約に合わせることが考えられます。具体的には,例えば時効の期間などについて規律の変更が生ずることとなります。   第4点の「海難救助」は,こちらも船舶の衝突と同様に商法の規律を条約に合わせるとすることが考えられるのですが,その際に,近時の国際条約の規律をも参照いたしまして,環境損害の軽減又は防止に関する特別補償の規律を導入することも考えられますので,その是非についても御議論いただければと考えております。   第5点,「海上保険」につきましては,保険法とは別に海上保険に関する規律を残す必要性があるか,仮にあるとした場合に具体的にどのような点を見直す必要があるのかについて御議論いただければと思います。   第6点,「船舶先取特権」につきましては,登記などで公示されないにもかかわらず強力な効果が認められている担保権でございますことから,近時の国際条約や各国の動向なども踏まえまして,現行法の規律を見直す必要があるのかどうか,仮にあるとした場合にはどのような点についてどのような方向性で見直す必要があるのか,御議論いただければと考えております。   最後に,第3の「その他」では,まず第1といたしまして,これまで御説明してまいりました点のほかにも,運送・海商に関する商法の規定の中には既に合理性を失った古い規定が少なくないとの指摘もございますので,そのような規定として削除すべきと考えられるような規定の例がございましたら,自由に御指摘いただければと思います。   第2点は,今回の改正により現在片仮名文語体のまま残っている商法の規定は全て現代語化,平仮名化をすることを予定しておりますので,この現代語化に際して特に留意すべき点等がございましたら,この場でも御指摘いただけますと幸いです。   その他,今回の改正に関し検討すべき点などがございましたら,自由に御発言,御指摘をいただければと思います。   なお,本日の意見交換では,飽くまでも現時点での御感触について御意見を伺えればと思っておりますので,この場で御発言を頂かなかったとしても,後日該当の分野を取り扱う際に改めて御発言いただくことももちろん何ら差し支えございませんし,また,事務当局に別途御意見をお寄せいただくことでも構いませんので,どうぞよろしくお願いいたします。 ○山下部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの事務当局の説明を踏まえまして,自由な意見交換に移りたいと存じます。   まずは第1の「主として運送に関する事項」について,どの点からでも結構ですので,御意見がございましたら御発言をお願いいたします。   田中幹事の先ほどの御発言,この辺りにも関係しているかと思いますが,何か先ほどの御発言につき,補足はございますか。 ○田中幹事 私からは先ほど少し申し上げましたが,まず,ここで挙げる項目が適当かどうかということです。それと,これから議論の素材ということで運送法制研究会の報告書が出ていますが,これが作られた前提がどうなのか,この研究会の報告を前提として議論することにはいささか問題があるのではないかと,このように考えておりますので,冒頭その辺を指摘させていただきたいと思っています。   第1の部分と第2の部分に関連しているのですけれども,今発言してもよろしいですか。 ○山下部会長 お願いします。 ○田中幹事 すみません,貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。   先ほど自己紹介でも申し上げましたように,私は法の専門家では全くなくて,むしろ現場労働者として国際航海の船舶にこれまで乗船をしてきたという立場でございます。もちろんこの種の審議会ですから,当然公益性,公平性の観点から様々な意見は申し述べていきたいと考えておりますけれども,少なくとも実際の船舶における現場の状況なり,船員がどういった就労状況にあってこれらの問題が直接就労にどう影響するのか,あるいは直接的には全く関連がないのかなど,そういうことは十分に意見としては反映できると思っています。   その上で,事前に頂きました資料について少し問題意識を持っておりますので,冒頭これからこの部会を進めるに当たって問題指摘をしていきたいと思います。   先ほど言いましたようにポイントは2点であります。一つは,研究会の報告書についてです。この報告書を完全に否定をしているわけではないのですけれども,少なくとも幾つかの部分について問題があるのではないかと思います。特に雇用関係の船舶先取特権について,私の理解では,平成15年の民法改正時には,雇用に関係する先取特権に関してはかなり大幅な整備が行われたと理解しています。この研究会の報告書がそういった平成15年の民法改正の趣旨を前提とした取りまとめになっていればいいのですが,少なくとも船舶先取特権の部分に関しては前提とされておりません。今事務局から御説明がありましたとおり,検討事項の例の5ページの一番下の6番の船舶先取特権について,被担保債権の範囲を狭めるべき,又は劣後させるべきであるとの考え方もあり得るが,どのように考えるかと書かれています。これは,労働債権に関わる船舶先取特権の権利を狭めることについてどう考えるかということを議題にしようということであって,なぜこういうふうになるのかなと思ったのですけれども,やはり研究会の報告書の112ページにそれが書かれているということであります。   したがって,私が申し上げたいのは,これからこの部会を進めるに当たって,この研究会の報告書を参考にすること,もちろん研究会でいろいろな議論がなされているわけですから参考にすることは結構なのですけれども,この報告書を前提とした審議というのはかなり問題があると思っています。私自身は,この研究会がどういう構成でどういうメンバーの設定をしたかということは承知をしておりませんし,少なくとも船員に関わる部分について,船員の代表の意見をこの研究会で聞かれたことはなく,何らかの意見を申し述べる機会があったかと言えば全くないわけです。そういう限定的な研究会の報告書ということを前提に参考資料としてお使いになるのは構わないと思うのですが,この報告書をベースに議論していくのは非常に問題があると思っておりますことを,まず意見として申し上げます。   それから,少し言いにくい話ですが,あえてはっきり申し上げますけれども,この部会の委員に利害関係人がお二人いらっしゃるということで,少し驚きました。委員のうち,松井真一弁護士は,国土交通省の外郭団体であります独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構の代理人弁護士として,たくさんの事件の取扱いをされてきておりますし,現在も,鉄道建設・運輸施設整備支援機構の原告代理人として訴訟に参加をされています。部会で議題に上がろうとしている船舶先取特権については,船員の労働債権の範囲について船員と反対側の立場にあり,船員の労働債権としてはそんなに範囲はないという主張を原告代理人としてされており,現在係争中であります。   それから,もう一方,成蹊大学の小林登教授につきましては,この訴訟における原告代理人の意見を法的に裏付けるということで,5月22日までに広島地裁に鑑定意見書を提出されると,このようになっております。   以上のように,これから公平性,公益性をもって法改正の審議に当たろうというときに,利害関係のある方が委員としてふさわしいのかどうなのかということはもうはっきりしているわけでありまして,これは非常に問題であるということを,指摘をさせていただきたいと思います。   船舶の先取特権に関しては,訴訟関係にあり,船員と対峙する船舶所有者側の立場である当事者のみが法改正の委員として加わることは問題ですから,少なくともこの船員の労働債権に関わる船舶先取特権がこの部会で議題に上って審議決定されていくというのは非常に問題だということを指摘したいと思います。 ○山下部会長 事務当局,お願いします。 ○松井(信)幹事 大きく言うと2点御指摘があったかと思います。1点目の運送法制研究会における報告書との関係でございますけれども,先ほど田中幹事がおっしゃったとおり,研究会の報告書というのは飽くまで論点を分析したというのにとどまるものでございまして,そこで示された方向性,また方向性を示していない部分もございますが,その箇所が当部会における審議の結果に何ら拘束力を持つものではございません。この部会におきましては,論点についてどのような検討をするか,正にこの部会で御議論を頂きながら,結論のほうを出していただければと考えております。   とりわけ御指摘の雇用契約に基づく先取特権については,研究会報告書におきましても112ページで,近時の具体的な問題状況等に留意しつつ引き続き検討してはどうかというように方向性がはっきり出ていない箇所でございます。   今回の部会資料1では,雇用関係の先取特権について触れることなく,船用品供給債権などを念頭に置いてこのような書きぶりとなっておりますが,雇用関係の先取特権については正に田中幹事のおっしゃるとおり,この部会で議論されるべき事柄だと思いますし,また,平成15年の民法改正における議論には私も立案当局の一員として入っておりますので十分検討しておりますし,それも踏まえた上で検討されるべきというふうに考えております。   もう1点の関係者の利害関係の点でございますけれども,様々な論点につき,この部会に御参加いただく様々な方々が,何らかの意味で利害関係を持ち得るということはあろうかと思います。しかし,先ほどお名前の挙がりました,例えば弁護士であれば,個別の事件については依頼者のため,このような法制審議会の場所においては公益のために御活動いただくということは弁護士倫理の在り方としてあろうかというふうに考えておりますし,また,研究者の方々におかれましても,それぞれの御見解があるのが当然でございまして,そのような様々な見解をこの部会の中で御披露いただきながら進めていくべきではなかろうかと思っております。   そのような意味で,是非田中幹事におかれましても,船員側の視点に立ったそのような御意見を御披露いただければ幸いでございます。 ○田中幹事 研究会の報告書の扱いについて,これはメンバーを見ても必ずしも現場の意見全てを網羅したものではないということ,もちろんその研究をしてきたことについては参考になる部分もあろうかと思いますが,この研究会での一定の取りまとめを前提としないということならば全く問題ないと思います。   先取特権については,平成15年の民法改正において雇用関係の先取特権の範囲が広げられたといった一連の法整備の流れからすると,未整備であった法律の部分というのは,むしろこれに合わせた形で強化をするというような流れが自然なのだと思うのですが,この報告書では112ページを見ていただいたら分かるように,平成15年の民法改正の流れに対し全く反対の取りまとめがなされています。そういった危惧をしていた中で委員の名簿を見たら,正に訴訟の当事者がいらっしゃったということであります。   私は法の専門家ではありませんが,ちょっと厳しいことを申し上げますと,弁護士であっても,おそらく弁護士倫理規程でどんな訴訟でも引き受けられるということはないと思うのです。あちらについたりこちらについたりということには一定の制限があって,そういった中で法の下で様々な活動が行われていると思います。今回事務局から出されている検討事項の例に出てくる項目について,正にその渦中の人がいるわけで,ここで議論すると,例えばその訴訟の資料を持ってきてそこの法廷で争っている内容をこんなところで主張するということは全くなじまないわけですから,もっと公平性,公益性のある視点での発言ができる範囲で取り扱われるべきだと思います。   さすれば私の意見といたしましては,今検討事項の例として出されている船舶先取特権の部分についてはここでの議題とすべきではないと考えます。正に利害関係人が委員として入られている中で,本当に中立性・公平性を持った審議が行われ,意見が出されていくのかということには大変危惧をしております。   ですから,この場で審議する議題の取扱いについて,少なくとも現在法廷で争われているものを,その直接の当事者がここで意見を述べるということは大いに問題だと私は思いますので,何らかの対応を是非お願いをしたいというふうに思います。 ○松井(信)幹事 この審議会,この部会に参加されていらっしゃるのは,今田中幹事が御指摘になられた方々だけではなくて,幅広い方々に御参加いただいております。利害関係を持たれる方,特に船員の立場を代表される田中幹事の御意見ももちろん皆さん伺いたいと思いますし,様々な御意見を出されて,その上で,しかるべき改正がされるべきかされないべきかが議論されてもよいのではないでしょうか。   そういう意味で,本日はまずフリートーキングですので,自由な御発言を頂き,更に順番から言いますと多分夏から秋になると思いますけれども,この部分に関する審議の際には,正に皆様の御意見,田中幹事からも十分御意見を伺いながら検討する資料というものを考えてまいりたいと思っております。このような進め方でいかがでございましょうか。 ○田中幹事 今の御説明なのですけれども,本日は,部会で審議すべき議題を全て決定するのではなくて,それらも含めてフリーに意見交換をするという理解でよろしいでしょうか。今日この場でこれからやる議題を全て決めてしまうということではなく,そういった問題もあるということをここで共有して,議題とするかどうかについては次回以降も検討の一つとするという理解でよろしいでしょうか。 ○松井(信)幹事 船舶先取特権については,様々な御指摘がされているところでございます。ですので,これを改正するか改正しないかという結論がどちらになるのか,それ自体をこの部会で御検討いただきたいというふうに考えております。法務大臣からの諮問も,海商法制全般について改正の要否,これを検討すべきであるということになっておりますので,そのような意味で検討の対象にはなろうかと思っておりますし,その中で,様々な御意見を伺う必要があろうと,この部会に参加していらっしゃる方々の御意見を是非賜りたいというふうに考えているところでございます。 ○野村(修)委員 今の田中幹事の御意見を伺っていまして,お気持ちは非常によく分かるわけでありますが,第三者的に見ておりますと,田中幹事自身も極めて利害関係の高い位置におられる方でありまして,その御発言自身は,今御指摘のあった方と同等に,私どもから見れば一方に偏った御意見ではないかというふうに見えるわけでございます。   先ほど発言いたしましたように,発言者の氏名が掲載された形で議事録が残されていくわけですから,そう簡単に意のままに議論をリードできるわけではありません。最終的には私ども委員が最終結論を出すに当たって,それが世の中の人たちにとってきちっと理解のできる,納得のいくようなものに落ち着くということが大事なわけでありまして,たくさんの方々が様々な利害を持った中で審議をしていくというのが民主主義の基本ではないかというふうに思います。   私自身などは,利害関係が非常に錯綜しているため,私が発言することに対しては,あいつはこのために言ってるんじゃないかというふうに様々なところから御指摘を受けておりますが,私自身は,この場におきましては一委員としての良心に従って発言をしようというふうに考えておりますし,恐らくここに御参加の方は,みんなそう思っているというふうに思います。   したがって,審議の信ぴょう性は最終的に結論に至ったときに,世間の一般の国民の批判のもとでそれが偏っているかどうかを判断していただければいいのであって,もし田中委員がどうしてもこのお二方の出席に対してこだわりをされるのであれば,御自身もここから御辞退いただくことが必要になるのではないかというふうに思います。 ○田中幹事 何度も言いますけれども,私は法律の専門家ではありません。この研究会の報告書を全て否定しているのではありませんけれども,少なくとも物品輸送あるいは旅客輸送,こういったことに携わる現場労働者がどういう環境,状況にあってということが十分加味をされた報告書ではないわけです。この部会においてはそういった現場の実態という点についても十分反映をさせるべきだと思います。   それから,利害関係人かどうかということですけれども,私自身は利害関係人とは全く思っておりません。少なくとも,そういう訴訟で対価を得るとかそういったことはしておりませんので。私は船員の代表でありますけれども,労働者を代表して連合から推薦いただいて,航空なり鉄道なりトラックなりいろいろな分野で輸送に従事している人たちの現場の実情をこの場で披瀝をしながら,より良い法改正につなげていくべきだと,こういう視点で臨んでいるということを,御理解いただきたいと思います。   その上で,委員の選任とか利害関係ということをいくら言っても,いろいろな立場の人がいてそれぞれ主張があるということは,御指摘のとおりだと思いますし,この部会は議事録も全部公開されるようですから,全ての審議が広く国民の目で見て,妥当性があるのかどうなのか,最終的に判断がなされるべきだと思います。私自身は何かの利益代表者でここに来ているわけではありませんし,恐らくこの委員の中で見ても,現場で実際に運航者としての立場で出席をしているのは私一人でありまして,そういった意味では,労働実態なり輸送現場で出くわす様々な状況がどういう状況なのかということを,全てのテーマにおいて公平性の観点で意見を申し述べていきたいと,このように考えています。   最後に1点申し上げたいのは,仮にこの報告書の取りまとめを前提にした検討事項の例というような書き方で取りまとめたとすれば,言い方を変えれば,国土交通省の外郭団体であります独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構が結果として莫大な経済的利益を得てしまいます。逆に船員の権利が現行より著しく悪くなれば当然そういう権利が薄まってしまうということが現実に起きてしまうことを,大変危惧をしているということを指摘させていただきます。その上で,今後それぞれのテーマにおいて発言をしていきたいと,このように思います。 ○山下部会長 運送法制研究会報告書の位置付けについては,先ほど松井幹事から御説明いただいたとおり,これは一つの参考資料という位置付けでございますので,この部会では,自由闊達に,この大臣から諮問のあった事項につきまして御発言いただき,またいい案をまとめていくことになろうかと思います。   今日のところはそういうことでよろしゅうございましょうか。 ○野村(修)委員 もう話が収束しているところ恐縮ですが,恐らく今田中幹事がおっしゃられたレベル感でみんなが様々な利害関係を持っていて,みんながその中で誠実に発言をしようとしているので,どなたかが極端に偏っているということはなかろうというふうに私は思います。   それと同時に,船舶先取特権は,今回の改正において特に改正しなければいけない,この労使関係の問題だけではなく,法的に船舶先取特権というこの制度自体が運送法制の中でどう位置付けられるべきかということは極めて重要な論点で,特に,例えば私などは,国際海上物品運送法の中に書かれております船舶先取特権というのも制度趣旨そのものからもう一度考えなければいけないのではないかと思っているような立場でございますので,是非これを論点から外すということのないように取り扱っていただければというふうに思います。 ○田中幹事 分かりました。論点から外すというのではなくて,これから具体的な審議の中で私も意見を申し上げていきたいと思います。先ほど申し上げましたように,民法では平成15年の改正により,先取特権の範囲が拡大しております。したがって,そういうことからすれば,船舶先取特権も,労働債権に関わる範囲についてはむしろ拡大をするというのがこれまでの法改正の流れに準じた形だろうと考えておりますので,そういった点も御検討いただきたいと思います。 ○山下部会長 ありがとうございます。   それでは,第1の部分,ほかの点はいかがでございましょうか。どの点からでもどうぞ。 ○松井委員 今お名前を出していただきました弁護士の松井でございます。私は,今回日弁連の推薦ということで出席させていただいております。   田中幹事のお話について,これから船舶先取特権の議論等があると思いますけれども,船舶の実態についてよく御存じなのは田中幹事ですので,いろいろな御意見を承れば,それを受けて私も新たな視点から議論させていただければと思っています。   ただ,今回こういう形で法制審議会に参加させていただく上で,先ほど来お話のありましたとおり,19世紀の法律で,法律の内容がかなり難しく分かりにくくなっているところがあるものですから,船舶先取特権も含めてですが,予測可能性の立つ法律にしていただきたいということが,私が今回参加させていただいた一番の目的ということになるかと思います。   法律そのものについては,古い用語や統一されていない用語がありますので,先ほど来お話のありました現代語化,平仮名化というだけではなくて,用語と定義の統一ということについても御配慮いただければというのが1点目でございます。   2点目につきましては,国際化というお話がありましたけれども,国際条約や外国の法律も最終的には妥協の産物としてできているものですので,単純に国際条約に合わせるのではなく,日本国内の商慣習に合うようにする必要があるということと,それから,先ほど来お話のありました権利の期間や除斥期間の差異により,複合運送の場合において損害等の最終負担者の有利不利が生じるのは望ましくないと思いますので,そういう部分では統一が必要だと思いますが,それ以外の部分においては,日本国内においては日本国内の法制があってしかるべきと思っています。   同じ視点ではありますけれども,国際運送は基本的にはプロの方がお取扱いになっているわけですから,国際条約に従って国内の規制を海外のものに合わせる他,具体的な利益調整は契約でやればいいというのが多分皆さんのお考えの基礎にあるのではないかと推測するところでありますし,契約で合意した内容が,明治時代の古い法律により無効になるということがあるよりは,契約に規定したとおりの効果が得られるように,国内法はできる限り任意規定が望ましいのではないかというようにも考えております。   先ほど来お話ありました船舶先取特権につきましては,確かに田中幹事の出身母体であられる全日海と現在裁判をやっております。日本国内の船舶先取特権の紛争を扱うことが多いことから,その分野については労働債権以外についてもある程度詳しいということで今回参加させて頂いている次第です。   船舶先取特権については予測可能性が低く,例えば704条2項について以前最高裁まで争った件もありますが,このときの相手方は,同じく日弁連から推薦されている雨宮幹事ですので,ここにも利害関係があると言えば利害関係があるわけでございます。それ以外に,航海の継続という言葉につきましても,本拠港とかどの部分が航海の範囲になるかということも明確ではありません。   予測可能性ということについては,全日海さんとの間で,田中幹事も御存じだと思いますけれども,退職金債権につきましては,昭和52年の高裁判例が二つ分かれたままの状態で今日まできておりますので,最終的な結論はもちろん審議会の皆さんがここで議論したもので一つにまとめるということになると思いますけれども,そこに至るまでの間に,予測可能性のある,普通の方が読んで分かる明確な法律ということにさせていただければというふうに思っています。   なお,念のため申し上げておけば,私は,横にお出でになる山口先生,雨宮先生と異なり,経験の足りないところもございますけれども,そこは日弁連の商事経済法部会の皆さんの御意見を反映させる形で,もちろん私個人の意見というのもありますけれども,パブリックインタレストに基づいて発言をさせていただきたいというふうに思っております。よろしくお願いいたします。 ○雨宮幹事 今,松井委員から名前をお出しいただきましたので,私からも一言申し上げたいと思います。   確かに松井委員が代理されていた件で,私が相手方代理人として最高裁まで争ったケースがございますが,ただもうその案件自体は完全に終わっております。その問題は,確かに運送法制研究会でもテーマとして取り挙げられていまして,それは報告書の118ページに記載の,船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力という問題でございます。ただ,事件のときには代理人の立場として依頼者のために主張するのは弁護士としての当然の職務だと考えておりますけれども,この場では,裁判で主張したことは一切忘れて,公平,公正な立場で,日弁連推薦の弁護士として意見を述べさせていただきたいと思っていますので,その件については,私は裁判で主張したことにこだわるつもりはありません。,今,松井委員から名前をお出し頂いて,その案件をおっしゃられたので,先にそのことをお話ししておいたほうがいいのかなと思い,申し上げる次第です。   私は,冒頭自己紹介で申し上げましたとおり,今回の改正の対象となっています事項について,日頃取り扱っております。先ほど来から何回も言われておりますけれども,改正対象については100年以上抜本的な改正がされていないということで,例えば実務では海上運送状というものが,普通に発行されていますけれども,商法には海上運送状の規定はございません。複合運送ももちろんそうですけれども,国内航空運送もそうです。様々な点につき,今の商法の規定というのは現状の実務で行われているものについて規定しておりません。確かに,実務では約款とか契約とかで対応しているものが多々ありますけれども,基本法としての商法において,相当な指針を示すということは,大変有益で重要なことだと思っております。   また,国際問題ですけれども,今回海上運送であれば内国海上運送を前提としておりますけれども,国際海上物品運送法は商法を準用しておりますので,一定程度影響を受けます。それ以上に,例えば新たに定期傭船契約の規律を設ける場合などは,その規定については内航,外航を問わず適用されるはずですし,海商に関しての共同海損,船舶衝突,海上保険,海難救助,これはもう当初から,当然国際問題に対しても日本法が準拠法となれば適用されることを前提としている規定です。   運送法制研究会の報告書を見ますと,衝突については1910年の衝突条約を考慮してとか,海難救助については1989年の海難救助条約を視野に入れるとか,共同海損についてはYAR,ヨーク・アントワープ・ルールを考慮に入れるということが報告されています。こういった日本法が準拠法として適用されるようなケースに関しましては,一定程度国際的なルール,条約の動向について考慮するのは当然のことと考えております。   1点実務的な経験を申し上げますと,今まで申し上げたものとは異なりますが,海上保険のところで問題となっている点で,保険法では,告知義務に関しては質問応答義務とされており,例えば再保険,企業保険であれば約款において修正できることになっておりますけれども,私が取り扱った案件では,海外の保険会社が再保険者で日本の保険会社が保険者であり,そのケースでは日本法が準拠法でした。その辺の手当てがされてなかったので,ちょっと問題になったというようなケースです。海外の保険会社にしてみると,そういった条項について,消費者保護的な観点なのかもしれませんけれども,あまり慣れてなかったようで,大変驚かれていたというようなことがあります。   海外において,準拠法として日本法が適用される場合を想定すると,そういった観点からも,世界的な動向とか世界的なスタンダードなども十分考慮した上で改正を進められたほうがよいと個人的には思っております。 ○山口委員 私も名前が上がりましたので,一言お話しさせていただきます。   私も,雨宮幹事とともに海上保険,海上運送,海商の関係の仕事を日々やっておりまして,いろいろな問題意識を持ってこの運送あるいは海商の規定を見ております。今回簡単に取りまとめられたこの部会資料1の中で,私が重要だと思っていることが一つ抜けておりまして,それは何かというと,本件の運送あるいは海商の規定が不法行為にも適用されるのかどうか,要するに契約関係がある場合に,請求権競合を許すのかどうかというのを常に頭に置きながら議論をしていかないと。この具体的な契約,今までは請求権競合の問題が日本法としては当然のこととして存在していたわけですが,それを改めるのかどうか,これがやはり大きなポイントになろうと思いますし,そのことが全ての問題点について影響を与えてくる。例えば,責任制限限度枠,それから責任制限限度枠を設けないのであれば高価品の特則を残すということになりますと,今までは不法行為と債務不履行の双方を適用して,不法行為の権利を認めながら適当な非常に事案に適した解決がなされてきていた実務があるわけですけれども,そういうものがなくなってオールオアナッシングの解決になるというようなところが果たしてよいのかどうかというようなことをやはり念頭に置きながら御議論していただくのがいいかなというふうに思います。   先ほど来ありますけれども,やはり利害関係は常に我々ございますものですから,その点については数多くの方々から御意見を聞きながら進めていただき,山下先生には大変御苦労かもしれませんけれども,うまく調整していただきながらやっていただきたいなと思います。   特に運送については荷主の方と運送人側でかなり利害関係が真正面から対立する場面が多分あると思いますので,そういうところは,やはり双方の議論をしっかりしていただいて,本当にいい法制を作っていただきたいなと思います。 ○道垣内委員 部会資料1について書いてあること自体について,私が完全に理解できているわけでもございませんし,その部分についてそこに書いてある結論が妥当か否かということについては,更に考えてみなければよく分からないのですが,若干気になることがありますので,一言申し上げます。4ページの10のところなのですけれども,商法は海上運送についてはこういった形の特約を無効としているところ,この規律は約款に抵触していて実務に適合していないというわけですが,それがどうかしましたかというのが私の感想です。つまり,当該約款が無効であるというだけだろうと思うわけでして,ここだけ読みますと実務が正当であるということを前提にしているように見えるわけですが,ここで議論するに当たって,実務がこうだからと言われてもそれはそれだけでは理由にならないのでして,よりよい運送法を作るためにはどうすべきか,よりよく関係当事者の公平を実現するためにはどうしたらよいのか,もちろんそれは国際的なルールとの関係というのもバランスもあると思いますけれども,そのような観点で議論をすべきであり,実務に適合していないので契約自由の原則を及ぼすことが考えられるがどうかという書き方には,私は賛成できません。 ○松井(信)幹事 正に道垣内委員がおっしゃったとおりで,むしろ内容の合理性,正当性という実質を捉えて,それを認めるかどうかという議論をすべきだったというふうに反省しております。今後はそのような形で考えていきたいと思っております。 ○鈴木委員 今お話がありましたけれども,我々実務者からしますと,なるべく実務に沿った形で法改正をやっていただきたいという希望はございます。商法は115年前というお話がありました。実は,私のじいさんの生まれた年なので現代とはかなり状況が違うのではないかと思っておりますので,その辺を是非御検討いただけたらと思っております。 ○柄委員 私どもは商工会議所という立場でございますので,ここで簡単に商工会議所の状況を皆さんに御理解いただきたいと思います。   現在,商工会議所は全国に514ございます。会員数が126万社ございます。その大半は,これはもちろん大企業も入っておりますけれども,中小企業を中心としておりまして,これは皆さん御存じだと思うのですが,中小企業というのは日本の企業の99.7%の数を占めております。雇用では7割を占めているということで,やはり日本の地域経済の要になっております。従いまして,もちろん法的な議論も当然ございますが,是非ともこの中小企業の意見と言いますか,立場又は現状を御理解いただいて,耳を傾けていただきたいなというのが私たち商工会議所の立場でございます。   その中で,まだ商工会議所の中でも結論が出ているわけではありませんが,一つの例を申しますと,今この運送に関わる内容としましては,例えば積荷が毀損滅失した場合,荷主の立場としましては,やはり運送人に責任を負ってくれというのが大原則だと思っています。ですから,中小の荷主にとっては,運送上保険を掛けるというのは余りないのかなと思います。業種によっては高価なものについては保険が掛けられていることもあるかと思うのですが,少なくとも私たち,国分株式会社が荷主の場合で言いますと,食品とかお酒に関しては,運送上の保険を掛けているということはほとんどございません。   そういう中で,逆に,今度は運送人の立場としましても,中小の運送人にとってはなかなか保険を掛けきれないということがあります。そうしますと,十分な保険を掛けきれないという中で,今度は運送人に余りにも高額な責任がいってしまうと問題がある。ですから,今後議論されるテーマと思うのですけれども,運送人の責任限度額をどうするのか,定めるのか定めないのか,ここにも大きく実情は関わってくるのかなと思います。そのあたりの意見を十分考慮していただいて,責任限度額を定めるか定めないかというのを決めていただきたいなと思います。   一面,今度は,逆に荷主である中小企業もございますので,それは運送人の責任を青天井にしてくれという意見もございます。ですから,両方の立場が私たち中小でもあるのですが,そこらは慎重に,法的なこともさることながら,実情を勘案していただきたいなというのが私たちの意見でございます。 ○石井委員 今,運送人の責任限度額についての実務の実情とか実態についてお話がありまして,私も保険を通じてこれについては長く関与していますので,どういうふうに考えればいいかということをちょっと申し上げたいと思います。   一番運送の中で影響が大きいというのは,国内の陸上運送だと思います。先ほどお話のように,その中でも中小の荷主さんの貨物というのはかなり多いのだと。そうすると,仮に国際海上物品運送法のような低いレベルの責任限度額を設ける,そうするとどうなるかということについて,社会全体のコストというか客観的な立場から見てみる必要があるのではないかと思います。先ほどのお話のように,中小の荷主さんは扱いの貨物も少ないものですから,御自身で貨物保険を付けるということは余りない。事故が起きたときは運送業者さんのほうで賠償する。その受け皿として保険では運送業者貨物賠償保険というものがあるわけです。これが効かなくなるということになると,荷主さんが自分で貨物保険を手配しなくてはいけない,そうすると,例えばその運送業者さんが100社の荷主さんの貨物を扱っているということになると,今の制度だと,運送業者さんが賠償責任保険に入っていれば,そこで起きた損害について保険面ではカバーできる。これが物保険になると,その100社の荷主さんがそれぞれ貨物保険を付保しなければいけない。これは社会的に見ると相当コストの増大する話だろうと。   もう一つ大きな懸念は,その100社の荷主さんが仮にこういう法改正があったときに自分で貨物保険を付けるという方向に走るか,あるいは従来どおり運賃を払うから事故があったときに運送業者のほうで賠償してくださいという方向に走るか。私は現場を見ていると,大きな荷主さんであれば自分で貨物保険を付けるというメリットはありますけれども,中小の荷主さんは,取扱高が小さいときに細かな保険をその都度付けるということは多分選ばれずに,運送業者さんに請求をするというような方法での契約になるのではないかと。そうすると,今言ったコスト面で見ると運送業者さんのほうはやはり責任保険というものは用意しておかなくちゃいけない。あるいは荷主によって物保険を付けているから運賃を下げてくれというのと,物保険は付けてないので従来どおり運んでくださいと,こういうような対応になったときに,全体として効率的に進むのだろうかどうだろうかというところは,よく考えなければいけないのかなというふうに思っています。 ○石原委員 今の問題というのは非常に難しい問題だと思っています。といいますのは,なかなか法律論だけでは議論できない,営業問題が絡んできているからだと思っています。ですから,当然運送約款がありますから,その運送約款で免責にはなる。だから,当然運送会社としては払う必要はないのですが,荷主との力関係において払えといわれると,必ずしも杓子定規にいかないのが現実問題として存在しているわけですね。   そこのところの議論が逆に言うと一番マッチングさせるのが難しいところかなという気がします。事故があれば補塡するための保険があるということにはなろうと思いますけれども,そこはやはり議論を要するところだと思っています。 ○加藤委員 私は,陸上運送の関係から一言申し上げます。今いろいろな各委員の方からお話ありましたけれども,正にその点は非常に難しい部分がありまして。我々は,実務的にお客様,荷主様に対して要求するのは,まず物保険に入ってくださいと。保険に入っていただいて物保険で処理できる場合もありますけれども,中には,やはり保険掛けたくないというお客さんもいらっしゃいますので,そういう場合には,賠責,今先生からお話があった賠償責任保険に入ります。   我々は実運送業者でもありながら利用運送業者でもありまして,単純に言うと下請のトラックも使わせていただいています。我々としては,その下請トラックの業者さんにも担保していただくために彼らにも賠責保険に入ってくれということで,下請,要するに傭車契約と言いますけれども,下請トラックとの契約の中ではその業者がいわゆる賠責に入ることを前提として,その金額もある程度決めております。そうしますとそれがどういうふうに反映するかというと,最終的には運賃コストに反映して,当然賠責保険で入っている分だけその傭車さん,トラック業者の運賃は高くなるわけですね。   ですからこの論議というのは非常に難しくて,確かに上限を決めるか決めないか,私はこの場でまだちょっと結論が出てないのですけれども,上限を決めると先ほど先生がおっしゃったように保険のコストが上がるという面もありますけれども,逆に上限額を決めないと実務的には,すみません,例えば大手さんの恐らくトラック業者,ほとんどの会社が傭車トラックを使っていますけれども,各社さんが恐らくそういう形で各中小のトラック業者に賠責保険の義務付けをしているという意味では,どこかがその保険料を実質的に負担しているんですね。物保険か賠責保険かは別にして,どこかの業者が保険料というコストをどこかで負担しているわけですから,その負担を荷主さんがやるのか運送業者がやるのか,それも利用運送業者がやるのか実運送業者がやるのかどこかがやっているという考え方。中には,全くどこも保険を掛けてなくて,実際に事故があって払ってくれといったらその業者が倒産するということもあるかもしれませんが,そういう実態にあるということもちょっと念頭に置きながら議論いただくということが望ましいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○山下部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   第1については今日のところはこのぐらいの御意見ということでよろしいでしょうか。   それでは,大分時間がたちましたので,ここで10分ほど休憩して後半のフリーディスカッションに移りたいと思います。           (休     憩) ○山下部会長 それでは,そろそろ再開させていただいてよろしいでしょうか。   休憩前に第1の部分についての御意見を伺ったところですが,事務当局のほうとしては,次回以降の審議や進め方ということもございまして,第1の1,部会資料1の1ページ,第1の1,陸上運送・海上運送・航空運送の関係について,この陸・海・空の各運送に共通する規律につき,統一的な総則規定を設けた上で,必要に応じ海上運送等に特有の規律につき特則を設けることが考えられるかどうかと,こういう問題設定をされているのですけれども,この辺りについて少し御意見を伺えれば有難いということでございます。どの点からでも結構ですが,御意見伺えませんでしょうか。 ○菅原委員 このペーパーに書かれているとおり,くくれるところを統一的な総則規定を設けていこうという方向性について,基本的に異論はございません。むしろそうすべきであろうとも思っております。   私は航空運送事業の実務に携わってまいりましたので,その経験から申しますと,現在国内航空運送に私法規制がございませんから,専ら運送人の約款で規律しているのが現状です。この約款の内容は,国際航空運送を規律する条約の諸規定を取り込んで作成された経緯があり,現行商法と異なる規律などもございます。また,他の運送手段と比較した場合,旅客運送が主体であり,空中運送における安全性の確保という絶対命題があるなど,航空の特殊性というものも認められるところです。したがって,総則で規律できる部分は相当限定的になるのではないかと思っております。  複合運送の規律の必要性の他にも,各運送手段の特殊性,国内実務と国際的規律の調和,総則と各則の均衡など,規律の統一化の御議論の中で検討されるのではないかなと考えているところでございます。 ○藤田幹事 東京大学の藤田でございます。初回から遅れて申し訳ございません。 ○山下部会長 最初簡単に自己紹介を一回りしましたので,藤田幹事も自己紹介をお願いいたします。 ○藤田幹事 東京大学の藤田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山下部会長 それから,吾郷関係官。 ○吾郷関係官 経済産業省の吾郷でございます。 ○山下部会長 よろしくお願いいたします。   それでは,藤田幹事。 ○藤田幹事 今の第1の1に関する論点でございますけれども,基本的に運送法総則的な規定を置くというこの方針は結構だと思います。恐らく3層構造になるのでしょうね。運送法総則的な規定があって,海上運送,航空運送の特則がある上に,国際航空運送と国際海上運送について更に特則的なものが置かれる,そうなるとかなり複雑になりますので,適用関係がはっきりするよう明確化する必要がありますが,そこはある種のポリシー,実質を含む議論ですので,ちゃんと議題として取り上げ,論点として扱っていただきたいというふうに思います。   例えば,国際海上物品運送法の適用について,国内の陸上運送を含むがしかし国際海上運送が中核となるような運送がなされた場合には,恐らく受取から引渡しまで全部国際海上運送の適用があって,ただし国内の陸上運送の部分は,船積み前荷揚げ後ですので,特約可という扱いになるのが現在の適用のされ方だと思います。つまり複合運送についても国際海上物品運送法が全部適用されるわけですけれども,今後仮に複合運送にも適用されるべき運送法総則が設けられたときに,今のような適用でいくのかどうかが問題です。条約で当然適用しなければいけない船積み後荷揚げまでは条約をもとにした国際海上物品運送法を適用し,その前後は複合運送の適用がある運送法総則で規律するという整理も,論理的にはあり得ます。そうなると,かなり実質にも影響が出ますので,賛否はあると思いますけれども,少なくとも今提案されているような総則を作ってしまうと,現在と違ってこういった問題が出てきます。   航空運送に関してはまた全く別で,モントリオール条約は一定の範囲で複合運送に適用がありますので,今言ったような調整はできません。多分モントリオール条約が適用される限りにおいて本法は適用がないといった除外の仕方になるしかないと思います。この辺りの調整の仕方は原理的なものを含みますので,きっちり議論していただければと思います。   併せて申し上げますと,複合運送の9のところで推定規定――一番長い区間を適用するという推定規定――が入れられていますが,例えばモントリオール条約は付随的運送を含め,事故が起きたのが全区間の中のどこか分からないときには航空運送中における事故から生じたものと推定する旨の規定を置いていますので,うっかり提案されているような推定規定を置きますと,条約とバッティングします。ルールの間の適切な住み分けと言いますか,どういう場合に特則が適用されるか,どういう形で適用されるかということについての慎重な議論をしていただければと思います。 ○野村(修)委員 今藤田幹事がおっしゃられたことで,もともと国際海上物品運送法が船積み前とか荷揚げ後とかに適用範囲が拡張されているのは,739条があって,739条を国内海上運送に適用することが著しく不合理であるという判断があったのだというふうに当時の立法資料には書かれているかというふうに思いますので,そういう意味では739条自体を見直すのだということになるとすると,国際条約の範囲については,世界と同じようにテイクルトゥテイクルという考え方もあり得るのかなというような感じもします。今の御指摘のあった点については,そもそもこの1のところで,体系をどういうふうにどこからどこまで適用されていくのかということを是非整理していただければ有難いなというふうに思います。 ○松井(秀)幹事 運送法総則といった規定を置く方向で規定の整備をすることについて,私自身は特段の意見があるわけではなく,そのこと自体について異論はございません。ただ,そのような規定を設ける際の説明の仕方は気を付けたほうがよいかと思います。例えば,ドイツでは,陸上・海上・航空の各運送に関する規定を可能な限り揃えていった際,それぞれの運送手段相互間の競争を公正に担保するといった説明が付されました。   今回,我が国で各運送手段における共通規定を総則化するというときに,それは規定の分かりやすさのようなものを考えてそうするのか,あるいはドイツのような特殊な目的を持って行うのか,そこはそれぞれに説明の仕方があるかと思います。もし総則的規定を置くならば,そのあたりをきちんと踏まえた上で,何のためにそのような規定を置くのか,その説明の部分を少し注意したほうがよいかな,という感じはしております。 ○真貝委員 JR貨物でございますけれども,貨物鉄道のほうにつきましては,御案内のように鉄道営業法あるいは鉄道運輸規程というものに従って実務を回している部分がございますので,大きな方向については,正にそういう形で位置付けを変えていくということで全く異論はないのですけれども,今申し上げた法律規定に掲げられているような条項について,それをベースに実務を回しているというような現状に鑑みて,そこの条項等が引き続き継続性が担保されるというようなことで特別の規定ということで位置付けていただければ,それで我々のほうとしては構わないというふうに考えております。 ○山下部会長 ありがとうございます。   ほかにこの点についていかがでしょうか。よろしいですか。   それでは,第1の部分についての御意見は以上ということにさせていただきます。   次に第2「主として海商に関する事項」の部分につきまして,これも自由な御意見ということでいただければと思います。 ○田中幹事 ここに書かれている,船長あるいは船長以外ということはその他の海員ということだと思うのですが,船員が船舶で就労する上において直接勘案する,あるいはそういったことを実務として取り扱うこととはかなり違うなという率直な印象があります。   一つずつ言いますけれども,まず4ページ,第2の1「船長の権限と責任」について,このことはむしろ議論するべきだと思います。船長に広汎な権限を認めていることや過大な責任が実態にそぐわないとの指摘があるとのことですが,実際には,現実に起きた様々な事象で船長個人が損害賠償などの責任を負っているのかいないのかというと,余りそういったことはないと思います。例えば海難やいろいろなケースにおいても,起きている事象に対する対応は現場で船長の指揮のもと船員がやるわけですが,その後の費用の処理や,そのことによって派生する様々なことというのは,一般的にはその船舶を管理している陸上部門,海運会社が執り行うと思います。恐らくそれは保険で担保されているケースが多いと思うのですが,直接船長なり海員がそのことで責任を問われたり,派生した損害を負うといったことは,実際の船員就労の場では余り見受けられません。   ですから,このことの議論が船員にどういう影響が及ぶのかということは,現状からどのように変わるのかということを視野に入れて御議論いただきたいなというふうに思います。   5ページの3の「船舶の衝突」についても同じであります。衝突の原因とか衝突によっていろいろなことが起きるわけですけれども,本船の例えば操船とかそういったことに関わる船員が船舶の運航に関わる責任というのは様々な法律で問われるわけですけれども,ことその賠償とか損害に関しては,船員が船内の実務として取り扱うことは一般的にはないので,そういったことも踏まえて御議論いただきたいなというふうに思います。   4の「海難救助」について,最近でも韓国で大きな事故が起きていますけれども,海難はいろいろなところで不幸にしてあったりするわけですし,またその海難に遭っている船の信号を受け取ったり,いろいろあるわけですけれども,一定のルールの下に実際の救助をどのように行うか,救助要請をどうするかとかそういうことはやるのですが,その救助によって発生する費用は今も規定があるのですが,実際には船員が救助をして,その救助費を個人が受け取るというようなことは現実にはございません。今の実態を踏まえて議論をしていきたいというふうに思います。   少し危惧するところは,今まではそういった就労する人の個人の損害賠償,積荷に対する損害や他の船舶に対する損害を請求されたことは余りなく,よほど重大な海難上の過失等がない限りはないというふうに理解はしているのですが,そういった方向になっていくということになると,現場で安全運航に努める船員の視点からすると分かりにくい点があると思います。船員労働の実情については私もこの場でいろいろ現状の説明はできるかと思いますが,その点も現行の法律と変えるべき点の議論においては,是非現場労働の実態というのも加味していただけると有難いと思います。 ○山下部会長 ありがとうございます。   今日のところは以上でよろしいでしょうか。 ○田中幹事 すみません。先ほど申し上げたとおり,船舶先取特権については,ある種懸念もありますが,今日は検討事項の整理だと理解をします。この議題に沿ってこれから中間取りまとめの議論が行われていくとすれば,気になるのは6ページの2行目からです。ここはまさしく研究会の報告書を前提にしたものであり,被担保債権の範囲を狭めるべきとの考えがあるがどうかというような記述ですが,それが前提ではないのだということであれば,5ページ目の上の2行に加えて,背景として,国際条約だけでなく,国内の民法改正の動向とかそういうものも参考にしつつ,この問題について議論をしたらどうかという議題の設定であれば非常に分かりやすいというか,公平性があるのかなというふうに思います。 ○松井(信)幹事 船舶先取特権につきましては,今日の議論でも様々な御意見があろうと思いますので,次回から順次,より詳細な資料を作って,運送法制研究会で整理がされた論点,これを一つのたたき台としながら,その内容に拘束されることなく,自由な御議論を進めていきたいと思っております。   船舶先取特権については順番からすると比較的夏休み明けから秋ぐらいになろうかと思いますけれども,その際に,今回の部会資料1に記載した例にとどまらず,様々な論点を書いて皆様の御意見を伺いたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山下部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○遠藤委員 運送法制研究会の報告書及び議事要旨を読ませていただきまして,運送人の(運送品の滅失,損傷及び延着に関する)責任に関しては,例えばモントリオール条約とかCMRとかの国際運送法制を規律する条約だけではなくて,外国の国内運送法制においても厳格責任とかあるいは無過失責任というのが採用されておりまして,意外に感じたところでございます。   例えばドイツ商法第426条だとかあるいはフランスの国内運送も無過失責任,米国のCarmack Amendmentも厳格責任だというようなことで,国内運送の運送人が非常に厳しい責任を負うことになっています。もともと運送契約というのは契約類型としては請負契約という仕事の完成を目的とするものなのでそうかなというふうにも思うのです。   ところで,日本の場合は従前から国内運送法制に関しては過失推定責任ということできているところでございまして,ここのところは,海外の動きとは違いますが,従前どおりの扱いで別に特段異論はないですけれども。   ただし,先ほどから議論がありますように,荷主と運送人間の公平なリスクバランスを前提としたものであるべきだと考えます。 ○山下部会長 ありがとうございます。 ○石井委員 資料のほうに海上保険について触れられておりまして,その中で海上保険に関する商法の規律を存置する必要があるかというところから始まっているわけですけれども,先ほども雨宮幹事のほうからお話がありましたように,海上保険は海運貿易と国際商取引に密接な制度でありまして,歴史的にも英法を中心に国際的基準というのが確立されていると。その中で,日本の海上保険というのは貨物では世界一で,海上保険大国でありますので,日本の海上保険がどのような法に則っているのかということを国際的にも明らかにしておく必要があるのではないかというふうに考えています。そうすることによって,契約当事者のみならず,海外でも争われることがあるわけですから,内外での裁判実務にとっても予見性が十分確保されるということが必要なのではないかというふうに思います。   それから,先ほども同じく触れられましたけれども,日本の場合には保険法が消費者契約法ということで改正をされていますので,企業保険の典型という海上保険の原則とちょっとずれて,ずれると言いますか,考え方が違うところがあります。特に告知義務の点は,保険制度の根幹を成すところでありまして,これは世界的に見てもどの国も自発的申告義務という制度を採用していますので,海上保険についての規律を存置するという前提で,この辺についても是非明確化されたいというふうに思っています。 ○鈴木委員 第2の「海商に関する事項」と第1の「運送に関する事項」とかぶるのですけれども,今国際条約に双方の内容を合わせるという方向で検討されておられるという了解でございます。   現在日本で内航船と,それから外航船,国際海上物品運送法と商法で責任体系が違っておりますので,第1のほうにも関わるのですけれども,同じ日本領海内を走ってる船で責任体系が違うというのは,これはちょっと不都合があるのではないかと思っております。   第2のほうに関しては国際ルールに従っていこうという方向であるならば,第1のほうの運送人の責任に関しても是非ハーモナイゼーションと言いますか,国際船に合わせていただけるように検討いただければよろしいかなと思います。   例えば国内で外航船と内航船が衝突したときに,外航船の責任と内航船の責任が異なるというような事態も想定されますので,その辺は公平なルールで定めていただいたほうがよろしいのではないかなというふうに思っております。 ○山下部会長 ありがとうございます。   よろしいでしょうか。   それでは,もしないようでございましたら,次に第3「その他」の部分につきまして,これも御自由に御意見伺えればと思います。 ○清水幹事 東北大学の清水でございます。   1点お伺いしたいのですけれども,こちらの最初に改正の検討の対象として基本的に運送・海商というふうに伺っておりますが,倉庫営業に関する規定の取扱いについて御説明いただければと思います。つまり,かなり運送とパラレルな規定がございますので,こちらについてただ片仮名を現代語化するのか,それを運送のほうと兼ね合いを見て実質的な改正も考えるのかということ。その場合に,例えば関連業界の方などから,実態やその他御意見を承る機会があるのかというような点。特に現代の物流というのは,運送か倉庫かというのはかなり相対的な区別になっているというふうに私自身は思っておりますので,この点をどういうふうにお考えなのか教えていただければと思います。 ○松井(信)幹事 冒頭申し上げましたとおり,今回の法制審の諮問は商法のうち運送・海商を中心としたということでございます。ですので,最終的に改正と言いますのは片仮名の部分の条文,これを全てまずは平仮名にするという意味で,倉庫営業に関する部分も最終的には改正の対象にしたいと考えております。   その中で,単純な平仮名化にとどめるのか,それとも運送に関する改正の内容を踏まえて実質的な見直しまでするのかという点につきましては,現時点ではまだ考えがまとまっておりません。事務当局のほうにおきまして倉庫業に関連する方々などに御意見を伺いながらどのような方向にするのが望ましいのかを考えてまいりたいと思っておりますし,委員,幹事の皆様におかれましても,もし一定のお考えがあればお話しいただければ幸いだと思っております。   最低限,倉庫営業につきましては,有価証券の発行の仕方について預証券,質入証券という2枚の組で出す複券主義と言われる在り方と,倉荷証券と言われる1枚で行われる単券主義の在り方がございますけれども,実務上は単券主義しか使っていないと言われているところでございます。しかし,条文上は複券主義を前提にした条文となっておりますので,平仮名化に合わせて単券主義の条文だけにするということは一つ考えられるかとは思っておりますが,更に時効の関係をどうするかなどについては,関係の業界の御意見を聞きながら,また契約相手が国際的な企業になることがどこまであるのかというところなども踏まえながら,検討すべき問題であるかなというふうに考えております。   何か御意見があればお願いしたいと思いますが。 ○山下部会長 清水幹事,よろしいですか。 ○清水幹事 ありがとうございました。 ○箱井幹事 箱井でございます。   私は,全く清水幹事の問題意識と同じことを心配しております。運送・海商のうち海商は1807年のフランス商法典で海商編が作られてからの流れでもって割と独立した形でまとまっていると思うのですが,商行為編については,運送は各種営業の中の一つとして上がってきていますから,同じような考え方で統一されている部分が商法には相当ございますね。今の御指摘は倉庫でしたけれども,例えば場屋営業の高価品特則につきましても,この研究会報告書ではいじらないようなので構わないのかもしれませんが,そこをどうするかというのは,議論になれば当然,同種の場屋営業の規定もございますし問題になってくるものと思います。   あと,私の考えでは,今後分科会において議論されるということになっております旅客運送の場合の手荷物などですね,これはいわゆる寄託物の問題で,同様に594条辺りとの関係も出てくるところで,良い作用ならいいのですけれども,逆に副作用とかも考えられますし,検討対象以外のところとの関係を断ち切って検討していくことになるのか,関連付けてまた関係者の御意見を伺いながら進めていくのかという点も気になります。   要するに,運送営業を,諮問ではそういうことではあるのですけれども,スパッと割り切れない部分ですね,今後やはり留意していかなければいけないというように考えております。 ○藤田幹事 かなり今言われたことと同じなのですが,先ほどのような手順で考える,つまり内容をこちら側で運送で議論してから各々について適用できるかどうかを個別に議論するということでいいのかというと,実はそもそもここで決めたことが倉庫にも適用されるという前提で議論するか,そうじゃない,とりあえず運送だけに限定したものの考え方でいくか,例えば今の高価品特則以外に,請求権競合の問題とか,潜在的には全く同じ構造の問題が存在する倉庫あるいは寄託などである問題について,どの程度の射程で我々は議論しなければいけないかということに関わってきます。期間制限もそうですね。ここで議論してからという順序というよりは,むしろある程度の見通しですね,潜在的にはこれは倉庫にも適用があり得べしという形で議論するかといったことは,議論するときに一応お示しいただいたほうがこちら側も覚悟して議論しますので,そうしていただいたほうがいいようなものもあるように思います。 ○石原委員 私は自分自身が倉庫出身なものですから,そういった部分でいきますと,三井倉庫にいて約30年間倉庫をやってまいりました。その30年の間の経験で言わせていただくと,倉庫そのものが大分業態変化をしてきていると言えます。それで,私は30年間いて,倉荷証券を発行したことはほとんどありませんでした。それが実態です。そうすると,逆に倉庫の果たす役割も,今は物資を保管するということではなく,むしろ流通センター化してきていますので,商法で規定しているような形での倉庫業法的なものはあり得ないと思います。それから,倉庫業法は国交省さんが作った規定の中にありますので,当然その辺との絡みも出てくる話です。   ですから,その辺でやはり現実に即したものを,先ほど藤田先生がおっしゃっていましたけれども,実態を調べて,それに合わせる形での改正をしたほうがむしろいいのではないかと,今のお話を聞いていて思った次第です。   それから,今一つ物流という観点からいきますと,最近やはりよく見受けられるのは船荷証券ではなく,むしろ海上運送状の問題ですとか,サレンダーの問題が今実務の中に出てきています。逆にこういった規制のないものに対しての扱い方を,今回どう考えていくのか御意見をお聞かせ願えればと思います。 ○松井(信)幹事 海上運送状やサレンダーB/Lにつきましては,運送法制研究会のほうでも様々な御意見があったところだと思います。海上運送状については特に北米航路やアジアの航路でよく使われていると聞いており,実務界からこれに関する規律を商法に設けるべきであるという御要望があることは承知しているところでございますので,そのような規定をしっかりと作れるかどうかという検討をこの部会で正にしていただきたいというふうに考えております。   他方,サレンダーB/Lにつきましては,その効力に非常に曖昧な部分があると,特に裏面約款の部分が相手方に送られない場合に問題があるというふうに言われているところでございまして,むしろそのようなものを商法に正面から規定するのは適切ではないのではないかという御意見も多々あったところと承知しております。   そのような観点からサレンダーB/Lについてどのように取り扱うべきか,またこの部会においても御議論いただければ幸いであるというふうに考えております。 ○山口委員 今倉庫営業のお話が出ましたが,運送と非常に関わりが深い運送取扱営業,ここは特にまた運送の規定を準用していたりしますので,これもやはり含めて議論の対象にすべきであろうというふうに思います。   運送取扱か運送かというのは非常に微妙な部分もございますが,ここの責任関係の統一感をどうするか,それから先ほども申し上げましたけれども,不法行為と債務不履行の関係の適用については,ここで運送取扱と運送を別にする理由が多分ないだろうと思いますので,やはり総合的に考えていかなければならないのではないかなというふうに思っております。そういう意味では,その他考慮すべき事項としてはこれがあろうかと思います。   それから,先ほど来船舶先取特権が大変問題になっているのですけれども,実は,民事執行法の,これは全然違う話ですが,民事執行法は余り船舶先取特権を意識した規定になっておりませんでして,他の条文と言いますか,強制執行のところ,不動産執行のところを準用して,それでなおかつ船舶の強制執行の規定を担保物権のところに引用していると,こういう状況になっておりまして,非常に使いにくい条文になっている。しかも,その担保権の実行ということで,どうも不動産の抵当権の実行を前提に作られているところでございますので,船舶先取特権とはかなりマッチングしないということを考えております。   具体的に何がと言いますと,抵当権の場合は金額は決まっておるのですけれども,船舶先取特権というのは金額がかなり重要でございまして,その金額の争いの部分,これは田中幹事も大変関心のあるところかと思うのですけれども,船舶先取特権についてどのように金額を争っていくのかという点で,金額をなかなか争う場面がない状況になっております。民事執行法上はその規定がないものですから,別途債務不存在確認であるとかいうようなことになるのですが,全く債務が存在しないというのではなくて,債務は存在するけれども,言われている金額は違うんだというその争う場面が,民事執行法上は反映されておりません。それを何とかしないと非常に使いにくい条文になっているかなと思います。   要するに,債務は存在するけれども,債務の金額は違うということが執行異議の対象にならなかったりしていますので,そこを最初の段階で,ある程度双方が争える機会を持つような規定というのは,これは民事執行法に反映していくべきものではないかなというふうに思っております。   例えば,担保権の不存在の確認の訴えというのは,この民事執行法上の訴えではなくて,全く外の訴えになっておりますから,例えば送達の問題であるとかいうのが深刻な問題,差し押さえられた側からしますと深刻な問題になっております。そういう民事執行法上の条文のないところですね。   それから,もう一つ申し上げると,船を差し押さえられたときに船舶を解放して後で債権の金額なり存在を争うということができるような規定になっておるのですけれども,執行異議ではなくて仮処分で止めて,それでなおかつ船舶の解放を申し出るという形のときに,船舶の民事執行停止の仮処分を申し立てるというときに,例えば債権の3分の1の担保を積んで,なおかつ今度解放の時に船舶と同価値の金額を二度積むと。ですから,非常に規定の不備によって船舶解放に関わるコストが船舶の価値を超えて行われているというのが今の条文からいくとなるのですけれども。そういうところもスムーズになるような規定を,民事執行法との絡みにおいて反映できるものは提言として,それがそのまま改正になるかどうかは別にしまして,一緒に議論できればなというふうには思っております。 ○野村(修)委員 先ほどまず藤田幹事がおっしゃられたことについて,私は非常に重要な視点だと思っておりまして,やはりどこまで射程が及ぶのかということを意識して発言しなければ議論がなかなか進みませんので,これが例えば高価品の特則については全部に及ぶ議論をしているのか,それともここだけなのかみたいな形は明確にしつつ,議論させていただけると有難いなというふうには思います。   ちょっと別な話ですが,その合理性を失った規律という点でいきますと,例えば商法の577条,これはもう典型的な損害賠償の基本の基本の規定でありますけれども,これが最初にできたときはもともと損害賠償を請求するときの証明責任が転換されているということと,それから履行補助者の故意・過失についても責任を負うのですよという,何か非常に特殊な規定であったわけですが,それがいわゆる民法の商化というのでしょうか,商法の規定がどんどん民法に影響を及ぼしていく過程の中で,運送契約は請負契約であってその債務は結果債務ですから,証明責任については民法上も転換されているということになると思いますし,履行補助者についてもその後の議論の展開からいけば,ほぼ民法を適用してもそのままになるというふうに思われます。   それでありながらも条文を残すということにきっとなるのだというふうに思うのですが,そういう場合に,なぜ条文を残しているのかということをはっきりさせていただかないと,何かここに特則があるから残したんじゃないかみたいな余計な議論が出てくる可能性もありますので,御留意いただければと思います。どうも会社法の議論をしていたときにも,もう民法と変わってないんじゃないかなと思いながらも会社法の条文が残っているのが幾つかあって,そこが何か特則になっているかのような誤解をして解釈をされる方もおられるものですから,むしろそこは民法と同じだけれども,注意的に規定しているというのであれば,そこはきちっと確認をした上で進めていっていただければ有難いなというふうに思います。 ○増田幹事 その他のところの合理性を失った規律を変えていくというのがこの改正の一つの大きな目的なのだろうと思いますけれども,その合理性があるかどうかということの判断というのは,今までのお話を伺っている限りでは,現在の取引実態に照らして,法律の規定に対応しているような実務があるか,あるいは実務に対応した規定が整備されているかといった観点から行うという御趣旨なのだろうと理解しております。   ただ,実態調査を清水先生などと一緒にさせていただいたときの感想としては,私法の取引実務というのは,その時々の公法的な規制の影響であったりとか,情報技術とか通信技術とかそういったところの影響を受けている側面がかなりあるような印象を持っておりまして,そうなってくると,現代の取引実務に対応するものがあるかといったようなことと,商法の規定として規定を置いておくことが合理的かということは,ちょっと別の話なのかなというような印象を持っております。   そこで,例えば運送取扱などについては,報告書の中では運送取扱の規定を存置すべきかどうかといったような形で問題が提起されていて,利用実態がないのでなくしてもいいのではないかといったような意見があったりするわけですけれども,本当にそういった観点からだけでいいのかどうかというところは,もう少し,この審議会の中ではきちんと議論していったほうがいいのかなと考えております。 ○松井委員 先ほどもちょっとお話しさせていただきましたけれども,改正の方向性としては,任意規定を基本として決めるべきだということと,それから,山口委員から先ほど御指摘のありましたように,任意規定にした場合に不法行為等の請求権競合をどうするかというのが多分一番難しい問題になるのだろうと思います。私の場合には,基本的には契約で処理すべきだと思っていますけれども,契約の規定のない部分の兼ね合いということについて,バランスよくお考えいただきたいというのが1点目でございます。   2点目も山口委員から御指摘ありました点ですけれども,船舶先取特権は担保権ですので,実行ができなければ意味がないというところがありますので,正におっしゃるとおり執行の問題について御検討いただきたく,執行法を変えるわけではないのですけれども,執行がどのような形でなされるかということを勘案した上で,船舶先取特権の範囲等もお考えいただきたいと思います。   先ほど正に山口委員から御指摘ありましたように,船舶の場合はとにかく売却しなければいけないものであるところ,浦野雄幸先生による民事執行法の改正で規定された保証金を積んで解放するという手続があるのですが,一部の債権が残っているというときにその手続が使えない状態になっております。全日海さん又はドックさんと,先ほどお話のあった鉄道運輸機構等々の依頼者との間で紛争になることはよくあるのですけれども,債権者を含めて当事者はみんな一日も早く高いうちに船を売ってほしいと思っているにもかかわらず,裁判所が,被担保債権がない訳ではないがゼロではない場合の処理について条文がないから執行異議は認めないということで,仕方なく船を違う場所へ移動させて管轄裁判所を変えることも場合としてはありまして,その辺の執行法の手続が必ずしも船舶先取特権を使いやすいものにしていない部分もございますので,そこも今回の中で改正の対象ではないのですけれども,視野に入れて御検討いただければというふうに思っております。よろしくお願いいたします。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。   今日のところは以上のようなところでよろしゅうございましょうか。   それでは,ただいままでに頂いた御意見を参考にしながら,次回以降の準備を事務当局においてはしていただければと思います。   予定の時間よりも大分早いのですが,本日は第1回目ということもございますので,この程度にさせていただきたいと思います。   次回以降の部会の進行につきまして,事務当局から説明をしてもらいます。 ○松井(信)幹事 次回からは,早速具体的な審議に入っていただきたいと思いますけれども,本日の意見交換の結果を踏まえますと,まずは運送法の総論,総則的な規定が作れるかどうかについては,まず個別の論点を検討した上でもう一度フィードバックして審議するということが望ましいと思われますので,まずは運送法総則のような規定を作れるかどうかという検討のために,一つ一つの項目について,陸・海・空に共通する規定が作れるかどうかを確認しながら議論をしていきたいというふうに考えております。   具体的には,もう少し中身を分かりやすくするために運送法制研究会の報告書のページ数で言いますと,1ページ目から31ページ目くらいが陸・海・空の各運送に共通する部分ではないかと思われますので,このような論点について,内容の当否を御議論いただきたいと思っております。   部会資料につきましては,当方で作成した上で,事前に遅くとも1週間前くらいに郵送又はメールの方法で御送付させていただきたいというふうに考えております。   万が一御欠席の場合など,各委員,幹事において御自身の意見を説明する書面を提出する御希望がございましたならば,事前に私どものほうまで御連絡ください。   また,本日も委員,幹事の皆様のほかに多数の傍聴の方がいらっしゃっておりますけれども,委員,幹事の方が随行でお連れになる傍聴者の方に御変更がある場合には,その旨御連絡を頂ければ幸いでございます。 ○山下部会長 ただいまの事務当局の説明につきまして,御質問等はございませんでしょうか。   もしないようでしたら,最後に事務当局より次回の日程等について説明していただきます。 ○松井(信)幹事 次回の日程は5月28日,水曜日,午後1時30分から午後5時半までの予定でございます。場所は法務省20階の第1会議室,この建物の20階にある第1会議室となります。お間違えのないように御注意ください。 ○山下部会長 よろしゅうございましょうか。   それでは,法制審議会商法(運送・海商関係)部会の第1回会議を閉会とさせていただきます。   本日は熱心な御審議を頂きまして,ありがとうございました。 -了-