法制審議会 民法(債権関係)部会 第82回会議 議事録 第1 日 時  平成26年1月14日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時08分 第2 場 所  法務省 大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第82回会議を開会いたします。本年もどうかよろしくお願いいたします。   本日は野村豊弘委員,山下友信委員,潮見佳男幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料73Aと73Bをお届けしております。それから,本日は委員等提供資料として,山本敬三幹事から「法律行為通則に関する改正の現況と課題」と題する御論考を提出していただいております。それから,経済産業省経済産業政策局産業資金課名で「債権譲渡の対抗要件制度について」と題する意見書を頂いております。さらに,大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の皆様から「部会資料3A「第6 詐害行為取消権」等に対する意見」と題する書面を御提出いただいております。 ○鎌田部会長 本日は部会資料73A及びBについて御審議いただきます。今回の部会資料におきましては,前回会議で保留されていた委任の一部の論点など役務提供契約に関する論点を先に取り上げておりますので,この部会資料における論点の掲載順に従って,AタイプとBタイプの資料を適宜用いながら審議することにしたいと思います。   具体的には,休憩前までに委任,雇用,寄託の各論点についてAタイプとBタイプの両方を御審議いただき,午後3時30分ころをめどに適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料73A及びBの残りの部分について御審議いただきたいと考えているところでございますので,よろしく御協力のほどお願いいたします。   それでは,審議に入ります。まず,部会資料73B「第1 委任」のうち「1 受任者が受けた損害の賠償義務」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○合田関係官 「第1 委任」の「1 受任者が受けた損害の賠償義務」について御説明いたします。   中間試案では,専門的な知識や技能を有する受任者が損害を予見することができた場合に,委任者が損害賠償義務を負わないこととするという考え方が提案されていました。パブリックコメントの結果を見ますと,民法650条3項が委任者に課している損害賠償義務が広範にすぎるという認識は一定定義共有されていると思われるのですが,具体的にどのような場合に委任者の損害賠償義務を否定すべきかについては意見が分かれている状況にあります。特に,専門的な知識を有する受任者が損害を予見することができたとしても,必ずしも回避措置を講じたり予見した損害を対価に反映したりすることができるわけではないとの理由で,中間試案に反対する意見も少なくありません。   そこで,これらの意見等を踏まえ,中間試案を修正した要綱案のイメージを部会資料73Bの2ページ目に掲げております。これは,損害が生ずるおそれを考慮して当事者が報酬額を定めた場合に,委任者が損害賠償義務を負わないこととするものです。   以上を踏まえつつ,要綱案のイメージの適否を含め委任者の損害賠償義務を否定すべき場合について,どのような規律を設けるべきか御意見を頂ければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 特にこの論点については強い意見はないんですけれども,今回内部で議論しました限りでは,この要綱案のイメージ,即ち,部会資料の2ページに出ているようなただし書が入る程度であればそれほど異論は少ないのではないかという話はしております。ただ,他方,どれだけの実際上の意味があるかという面はあると思います。   それともう一つ気になっているのは,この受任者にどういう人をイメージするかによっても議論の中身が違っていまして,私なんかだと,やはり弁護士とかそういったものをイメージするんですけれども,内部では会社の役員をイメージする方が多いですね。会社の役員についてこういった規定を入れると果たしてどうなるだろうかとか,そういった議論が今起きているというところでございます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見ありませんか。 ○中井委員 この問題についてはただし書にするかどうかはともかくとして,例外的に損害賠償を負わない場面というのを入れるという方向に基本的には賛成したい。その定め方について議論のあるところは御指摘のとおりですけれども,問題があるからといって何も定めなければそういう例外が存在することが明らかにならないと考えますと,やはり何らかの形で規定を置く方向で更に検討すべきだろうと思います。そのときの考慮要素について部会資料に出ていますが,有償なのか無償なのか,専門的な知識や技能があるのかないのか,要するのか要しないのか,リスクを予測し得るのか予測し得ないのか,その結果として予測したリスクを報酬に反映できているのか,こういう考慮要素があるのかなと考えています。   そのときにこの要綱案のイメージとして現在出されている修正案は,従来が専門的な知識の有無というところに焦点があり,そこから予想されるリスクを把握できたときになっていたわけですけれども,ある意味でそこに更にそれが報酬に反映できているかということを要素として加える方向だと理解をいたしました。   今申し上げたような点を反映させた,4点申し上げたわけですけれども,反映させたものとしてこういう要綱案イメージとして報酬額にそれが集約されるという形での限定の仕方というのは,方向性としてはあり得るのではないか,弁護士会の中でも賛成意見が半分ぐらい占めました。 ○道垣内幹事 契約法に関わる様々な条文というのは任意規定のものが多く,必ずしもただし書で,反対の特約があるときにはこの限りでない,というふうに書かなくても任意規定であるというふうに解釈される条文が多いのではないかと思います。そして,それは債権法の改正があってもそうではないかと思います。   そして,現行650条3項につきましても,反対の特約があれば損害賠償を請求できないというのは,これは当たり前の話だろうと思うのです。しかしながら,本日の資料のように,ただし書を明確に置きますと,請求を否定するためには正にただし書の内容,つまり,その損害が生ずるおそれを考慮して当事者が報酬額を定めたことを証明しなければならないというふうに読めてしまうような気がするのです。つまり,全体としての契約解釈により,損害賠償ができないというのが当事者意思だよね,というだけでは足りず,報酬額の定めの前提をきちんと立証しなければならないということです。したがって,ただし書も何もない条文において当然任意規定だよねというのと,こういうただし書がある場合とでは若干注意すべき点が変わってくるのかなという気がします。   そうなりますと,要綱案のイメージのほうに直接入って恐縮ですが,このようなただし書をつけるのならば,「反対の特約又は・・・・・・」といったふうに書いたほうがよいのではないかと思います。理論的には,このただし書の内容が証明されたときには,特約の存在が推定されているのか,それともそういうことではない別の論理によって損害賠償の請求が否定されるのかというのは実はよく分からないところもあるのですが,ただ,このただし書の文言だけですと若干誤解を招くのではないかという気がいたします。 ○岡田委員 消費者の場合はどちらかというと委任者になることのほうが多いかと思うのですが,そういう意味では相手,受任者になる方というのは当然プロだという認識を私たちは持ちますので,やはり信頼し切ってしまうということでは,この要綱案のところの損害が生ずるというただし書が入ることによって少しは免れるかな,責任が免れるかなというふうに思ったのですが,今,道垣内先生がおっしゃったように,この報酬額を定めたということに関して委任者に立証責任があるということになると,これも大変重いなという感じがしています。でも,ないよりはいいのかなというような大変微妙な感じを持っております。 ○山野目幹事 道垣内幹事がおっしゃったように要綱案のイメージで提示されているものの中で,ただし書を置くかどうか自体について慎重に御検討いただきたいというふうに私も感じます。   その上で,もしただし書を置くのではあるとすれば,現在の文章で「当事者が報酬額を定めた」とあるところを「報酬が定められた」というふうにしていただくくらいの工夫があってよいのではないかと考えます。額の大小の問題のみではなくて,報酬支払そのものの条件を勘案して本文の損害賠償責任を課することがよいのかどうかということが検討されるような規範の枠組みになっていることがよろしいと感じます。そのくらいの幅を作れば,恐らく道垣内幹事が御心配になったこととの関係において,ただし書において本文の適用を否定する別段の意思表示の黙示の特約の存否を認定する際の典型的な基礎付け事実をここに挙げているということとそれほど意味が異ならないということにもなりましょうから,一つの工夫としてあり得るのではないかというふうに感じます。   岡田委員がおっしゃったこととの関係で感想を抱くこともございます。岡田委員の御心配はごもっともであると感ずる部分がありますとともに,ただし書の問題にいくのは,本文のところでの過失なくということが主張立証されて,それに成功した場合に限られるということが強調されてしかるべきでありますし,その上でただし書の適用の成否にいくときに,ここのところの判断はいずれにしても実質的な判断になる,かなり規範的な要素の強い要件になるであろうと感じますから,そうであれば立証責任の問題についてそれほどどういうふうに書いたかということによって,どちらかが一方的に有利になる扱いにもならないのではないかと感ずる部分がございます。 ○松本委員 特に確固たる提言があるというわけではないんですが,何か原則と例外が逆ではないかという感じがいたします。というのは,委任契約において何を念頭に置くかというと,無償の法律行為の委任という非常に限定されたものを念頭に置き,かつそこで受任者が損害を被るかもしれないという特殊なものを想定すれば,一定の委任者の無過失責任というのが出てくるかもしれないんですが,そういう限定をしないで,有償も無償もあるという中で,しかも法律行為に限定しないという中でなぜ委任者にこんなに重い責任を負わせるのかというのがちょっと理解できないんですね。今までの議論の中でも請負と共通の議論が結構出てきていたと思うんですが,請負の場合にこういう議論は一切出てこないですよね。出てこないからといって一切責任がないわけではなくて,恐らく一般的な理論の上で注文者が危険性を知っていながら,それを請負人に知らせないでいたような場合に請負人が過失なくして被った損害であれば注文者が賠償するというような考え方が多分出てくるだろうと思うので,そうだとすれば有償,無償,法律行為に限定しないところの委任の一般ルールとしてはこういう案ではなくて,本来委任者に責任はないことを宣言した上で,しかし,こういう場合には例外的に責任を負うんだというふうに書くのが筋ではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかの御意見はいかがですか。 ○岡委員 イメージのほうについて微妙であるけれども,方向性は中間試案よりもいいのではないかと,こういう意見が弁護士会でも多かったです。しかしかなりの弁護士からこの文言でワークするのかとの意見が出ました。特定の過失なき損害が生ずるおそれを考慮した場合と考慮しない場合の認定というのは,事例が積み重なれば可能かもしれませんけれども,なかなか特に弁護士の自分の報酬のことを考えるときに,しているのかな,していないのかなと自分でも疑問に思う弁護士が多くて,実際ワークするのか,という疑問です。ではワークしないとしたらほかにどんな言葉があるんだといういい知恵が浮かばない状態ではあるのですが,機能するのかどうかという点について疑問を持つ声が結構多うございました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。様々な観点からの御意見を頂戴しましたので,事務当局において,それらを踏まえて更に検討を続けさせていただければと思います。   では,次に同じ資料の「2 準委任」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○合田関係官 「第1 委任」の「2 準委任」について御説明いたします。   中間試案では,準委任のうち委任の規定を全面的に準用するのが適当でないと考えられる類型を,「受任者の選択に当たって,知識,経験,技能その他の当該受任者の属性が主要な考慮要素になっていると認められるもの以外のもの」という基準によって区別し,これについて委任の規定のうち一部の準用を否定するという考え方が提案されていました。パブリックコメントの結果を見ますと,中間試案の考え方はいまだ十分な支持を得られていないように思われます。特に,受任者の知識,経験,技能などの専門性を中心とする属性を重視したかどうかを基準とすることに対して,多種多様な準委任を二つの類型に分ける基準としては不十分であるとの指摘や,基準が不明確であるといった指摘が見られ,再検討が必要であるとする意見が少なくありません。   そこで,部会資料73Bでは,これらの意見を踏まえて準委任を二つの類型に分ける基準について再検討を行い,一つの考え方として,受任者が自らその事務の処理を履行しなければ契約をした目的を達成することができないものか否かという基準によって準委任を二つの類型に区別するという案を示しております。部会資料にも記載しましたとおり,この考え方に対しても,基準として抽象的であるとの指摘や,このような抽象的な基準によって個別の契約ごとに判断するのであれば,民法656条に「ただし,その事務の委託の性質がこれを許さないときは,この限りでない。」といった文言を付け加えれば足りるとの指摘もあり得ると考えられます。   以上を踏まえつつ,準委任について委任の規定のうち一部の準用を否定する類型についての規定を置くことの是非及びその内容について御議論いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○安永委員 準委任については,多種多様な態様があり,労働契約類似の準委任の場合は労働契約類似の保護をかける必要があることから,準委任については類型分けをし,委任の規定の準用を否定する規律を置いていただきたいと考えます。   類型分けの区分基準については,まず部会資料6ページ,3の前段では,「受任者が自らその事務の処理を履行しなければ契約をした目的を達成することができないものか否か」という基準を示していただいております。しかし,受任者を即時解除から保護すべきかどうかという観点から見ると,この基準は必ずしも適切ではないようにも思われ,この基準をこのまま採用することには懸念があります。   一方,部会資料6ページ,3の後段で示されている民法656条に「ただし,その事務の委託の性質がこれを許さないときは,この限りでない。」などの文言を付加するという提案については,個々の契約ごとに柔軟な解釈が可能と考えるため賛成をいたします。   なお,準委任の契約終了に関しては,中間試案(2)の提案のような条項整備を図っていただきたいと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかに。 ○大島委員 ただいまの意見と同様に,準委任に該当する具体的な類型契約としては,外部委託や外注など広くビジネスで行われている契約やコンサルティング契約,あとアドバイザリー契約など中小企業の契約に関わりの深いサービス契約が想定されます。そのため,分かりやすさの観点から民法に何らかの規定を設けることが望ましいと考えております。   一方,サービス契約は受任者との信頼関係の有無や受任者の専門性の有無などにより様々な類型が存在します。そのため明確な基準を設けて類型化することは困難であり,委任の規定を準用すべきかどうかは個別の契約ごとに判断せざるを得ないのではないかと思います。そこで,部会資料73Bの6ページ,先ほどあった3の最後のほうにあるとおり,民法第656条に「その事務の委託の性質がこれを許さないときは,この限りでない。」というただし書を付加することを検討してはいかがでしょうか。 ○岡田委員 消費者契約にはかなり準委任に分類されるものがありまして,具体的にではそれを二つに分けた場合に明確になるのかどうか検討つかないのですが,今ふと思ったのは携帯電話の通信契約は判決において準委任というふうになされているようにも聞いたのですが,あれなんかは正に5ページのサービスの内容と料金で消費者は契約しているように思います。現状は委任契約に準じてなされているので,解約に関しても民法の規定を適用されているということで,これが分けられた場合は解約に関してより厳しくなっていくのではないかとの不安もあります。特に契約者が亡くなったときは今でも大変厳しいので,今よりも厳しくなるというのは困るのかなと思います。   一方で,7ページのところで,中間で「準委任の任意解除は広く認められるべきであり」というところから始まるところで継続的な役務提供契約のうち,エステティックサロンとか語学教室,これについて中途解約が認められているからこれでいいのではないかというふうに書いてあるように思いますが,飽くまでもあれは特別法で6つの役務提供サービスに限定されていまして,現場では現状でも大変不満足または十分ではないというふうに思っておりますので,この部分は理由付けにはならないのではないかと思いました。そういうふうに考えると,この論理からいくと二つに準委任を分けられることによって消費者に利益は余りないように思いました。 ○山川幹事 基準の明確化のための御努力に非常に敬意を表したいと思います。6ページに出てくる信頼関係を重視しているかどうかという基準につきましては,委任であるならば信頼関係が重視されているという命題が真であるとしても,信頼関係を重視しているならば委任と同様に扱うべきであるとは必ずしも言えないのではないかというふうに思われます。信頼関係という観点に基づいた,ここにありますような受任者が自らその事務の処理を履行しなければ契約をした目的を達成することができないという基準につきましては,どう解釈するかということはあるんですけれども,もし単に補助者や第三者による事務処理が認められないという言わば主観的な非代替性という趣旨でしたら,雇用についてもそのように非代替性ということが言われておりますので,区別がつかないおそれがあるように思われます。客観的な非代替性ということでしたら区別はできるかもしれません。   5ページにありますような医療とかコンサルティングが委任と同様に扱われるべきということは余り問題がないと思われますけれども,それと純粋の委任で法律行為の代理権の授与を伴うものの共通性は何かと,門外漢なんですけれども,考えますと,言わば受任者に独立の判断とか裁量に基づく事務処理の履行を認めるということかなという感じがしております。ここで言う信頼関係というのはそのような独立の判断による事務処理を委ねられるような関係ということではないか。その点で単なる使者やデータ入力の依頼とは異なるのではないかと思われます。先ほどお話のありましたエステサロンとか語学学校もその意味では受任者のほうに独立の判断による事務処理が委ねられている類型に当たるように思われます。そうしますと,委任と同様に扱うべきかどうかの際の観点としては,受任者に対して独立の判断とか裁量に基づいて事務処理の履行を認める,そういう事務の委託になるのではないかという感じがいたします。   ただ,それでもやはり不明確であるかもしれませんし,雇用においても最近のタイプでは,雇用者に一定の裁量性が認められる場合がありますので,かなり高い独立性が要求されると思われます。ここはやはり不明確ですと,雇用類似の役務提供,これまで御指摘もありましたが,雇用類似の役務提供が委任と同様に扱われる類型に入ってしまう懸念がないわけではありません。その意味で独立性ということが一つ考慮に入ると思いますが,なお検討が必要かと思われます。   また,委託の性質がこれを許さない場合にということもあり得ますけれども,その場合に627条を準用するというにはどういう性質かということを一応考える必要があると思いますので,その際には先ほど申しましたような言わば高度の独立性みたいなことが解釈としては考慮要素になるということもあり得るかと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見ありますか。事務当局としてはこの程度の御意見でよろしいでしょうか。もう少し意見を聞いておきたいという点がありましたら,御指摘いただければ。 ○山本(敬)幹事 マイナスに働きかねないのがやや心配なのですけれども,これは,委任に関する規定を準用するためのメルクマールとして何を抽出するかということに帰着しているように思いますが,そうしますと,実は委任も,法律行為の委託ですから,非常に広いといえば広い範囲をカバーしているものですので,このメルクマールが当てはまるようなタイプの委任と必ずしも当てはまらないようなタイプの委任があり得るのだろうと思います。としますと,委任の中でも,このような考慮が必ずしも当てはまらない場合については,委任に関する規定の適用が外れるという解釈が行われやすくなるのではないかという気がします。   例えば,受任者が自らその事務の処理を履行しなければ契約をした目的を達することができないものかどうかがメルクマールとされますと,委任でも,そこまでハードなタイプの契約ではないときには,自己執行義務に関する規定がそのまま適用されるわけではないという解釈が開かれます。私個人はもう何度も自己執行義務についてはもう少し緩やかな基準を定めるべきだと言い続けてきていますので,結論においてそうなるのであればそれでもよいのですけれども,いずれにしても,ここでの作業の意味がどこまで及ぶかということはよく考えて規定したほうがよいと思います。マイナスに働かないように,できるだけ定めるという方向でお考えいただければと思っています。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中田委員 法制的なことなのかもしれないんですけれども,656条にただし書を付加して「その事務の委託の性質がこれを許さないときは,この限りでない」とするという場合,どのような規範になるのかはブランクになるという理解でよろしいでしょうか。結局,後は類推適用でいく,雇用なり請負の規定を類推適用する,そんな法制度になるのかなと思うんですけれども,だったらむしろ事務の委託の性質に応じて雇用なり請負なりの規定を準用するというような書き方のほうが規範の内容がはっきりすると思うんですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 今の点について何かありますか,事務局から。特にはない。 ○中井委員 弁護士会から何も発言しなかったんですが,ひとこと。中間試案ではここに書かれている知識,経験,技能その他の当該受任者の属性が主要な考慮要素になっているか否かということで類型化しようとして,類型化できたものについて具体的には自己執行義務と651条の解除と653条について準用する,しないの判断をしようとした。こういう類型化して適用除外条文を設けるという発想で検討が進んだわけです。しかし,やはりこれは恐らくパブリックコメントの結果も踏まえ,また更に事務当局で検討されて二分論でいくのは結構難しいなと考えて,今日の最初の御発言でもありましたけれども,準委任となると様々多様な契約類型があって,そこのまだら模様は非常に多い。その中で二分論をして,一方の類型について一定の準用をしないという形で定めるのはやはり難しいというところからここへ来ているのではないかと思うんです。その方向性について弁護士会の多くもやはりそうならざるを得ないのではないかという意見が多かったということです。   それに対して,先ほど山川先生から,それ以外に独立性なりの要件でしょうか,ちょっと正確ではありませんが,もう少し別の要件立てをして,やはり類型化した上での条文の適否を考える方向をなお模索すべきではないかと,こういう御提案だったと思うんです。でも,今申し上げましたけれども,その類型化の方向については困難ではないかという認識を持ちました。その結果として今出ているこの部会資料の提案で二つあるわけですが,自らその事務処理を履行しなければ契約した目的を達成することができないという考え方がまず提示されているんですけれども,これはやはりこの契約目的達成というところの基準で何らかの回答が導けるのかということについては,やはりよく分からないですね,この規律付けの中身自体がよく分からないですねという意見が多かったです。とすると,どういう選択肢があるかというと,ここのもう一つの事務の委託の性質に応じて結局は考えざるを得ないのかなと。こういう部会提案があったからそれに乗ったというわけではありませんが,事務の委託の性質,これに応じて考えていかざるを得ないということをただし書で表明するというのが第二というか,やむを得ない選択ではないかという意見が大勢を占めたということを御報告申し上げておきます。 ○深山幹事 今の中井先生の意見のやや補足的な意見を一点申し上げますと,結論はやはりやや消極的な理由ながらただし書方式がよろしいのではないかと考えます。ただ,少し積極的な意味を付言しますと,類型を二分すること自体がなかなか難しいということに加えて,二分であれ三分であれ,分けた後当該類型に該当する契約について全ての委任の規定を準用するのかしないのかという点は,オール・オア・ナッシングではなくて,準用の対象となる規定によって,同じ類型であってもこの規定は準用すべきだが,別の委任の規定は準用すべきでないということもあり得るような気がいたします。   そういう意味でいうと,契約類型を二分するのは難しいという問題に加えて,準用規定自体を個別に見ていかないとならず,全て準用する,全て準用しないということでもなかろうと思います。結論としては,準委任契約に応じて,なおかつ個々の準用が問題になる規定を個別に見ていくという意味を含めてこのただし書方式が一番落ち着きがいいのではないかというふうに考えます。 ○佐成委員 今,ただし書方式についてかなり支持が出ておるので,一言申し上げておきます。我々のほうは中間試案に対しては現状維持という意見を出していて,類型を分けることについては反対なんですけれども,ただし書を設けることについては,内部で議論した中ではその程度であれば反対とまでいかないのではないかという意見も出ておりますので,あるいはそちらのほうに収束する可能性もあるということだけは申し上げておきます。まだ現状で賛成と言っているわけではないんですけれども,一応そういう方向性はあるということだけ申し上げておきます。 ○山川幹事 先ほど申し上げましたが,一つにはもちろん二つの類型を区別する基準ないし観点で検討され得るのではないかという点で独立性,裁量性ということを申し上げたんですけれども,後半のほうでちょっと言いましたように,もしただし書方式を採る場合にも先ほど中田委員からお話のありましたように,627条を類推適用するという場合があるとすればどういう場合なのかということは解釈として問題になりますので,そういう場合の解釈基準の中に一つ入るのではないかと,そういう趣旨も含めてのことでございます。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま頂戴しました御意見を踏まえて更に検討を続けさせていただきます。   では,次に部会資料73Aに移りまして,「第1 雇用」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○合田関係官 73A,「第1 雇用」の「1 報酬に関する規律(労務の履行が中途で終了した場合の報酬請求権)」は,労務を履行することができなくなった場合について報酬請求権の根拠規定を設けるものであり,(1)は既にした履行の割合に応じた報酬請求権について,(2)は使用者の責めに帰すべき事由によって労務の履行ができなくなった場合の報酬請求権についての規律であり,中間試案からの実質的な変更はありません。   「2 期間の定めのある雇用の解除」のうち,(1)は民法626条1項本文の「雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきとき」という文言を「その終期が不確定であるとき」に変え,また,現在では適用の余地がなくなっている同項ただし書を削除するものです。中間試案においては,民法626条1項本文の「雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきとき」という文言について,このような雇用契約は公序良俗に反し無効と判断される場合があり得ることから,その効力を認めるかのような規律を維持すべきでないという考え方に基づき,この文言を削除するという提案がされていました。もっとも,このような契約であっても,例えば極めて高齢な者の存命中という趣旨で家事使用人を雇う場合など,公序良俗に反し無効であるとまでは言えない場合もあり得ると考えられます。先ほどの文言を単純に削除したのみでは,当事者がこのような契約を締結した場合に民法626条が適用されず,結果的に長期の拘束を許容することになるおそれがあります。   そこで,先ほどの文言に代えて「その終期が不確定であるとき」とし,雇用期間の終期が不確定である場合は5年を経過した後,当事者がいつでも契約を解除することができることとしています。そのほかに中間試案からの変更はありません。   「3 期間の定めのない雇用の解約の申入れ」は,民法627条2項及び3項を削除し,期間の定めのない雇用の解約の申入れについて一律に同条1項を適用することとするものであり,中間試案からの変更はありません。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○安永委員 1の(2)について申し上げたいと思います。   本規律は雇用について民法536条2項の規律を実質的に維持するものとされておりますが,現行の条文と異なり「契約の趣旨に照らして」の文言が付加されております。労働法の分野では,民法536条2項は解雇だけではなくて,一時帰休や使用者に安全配慮義務違反がある業務上の疾病による休業,自宅待機命令などの多くの事案で適用されておりますが,提案にあるように,新たに「契約の趣旨に照らして」という文言が536条2項に付加された場合,労働者が「契約の趣旨」に関する主張を求められることや民法536条2項の適用の可否について不必要な議論を惹起し,民法536条2項の適用を否定する根拠になり得るという懸念があります。そのため,民法536条2項については,新たに付加された「契約の趣旨に照らして」の文言については削除していただきたいと考えます。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○山川幹事 私はむしろ「契約の趣旨に照らして」というのは,不法行為その他の故意,過失とは異なるという,必ずしも同じでないということを示したものかなと考えておりました。つまり536条2項の帰責事由につきましても,一般論としては故意,過失又は信義則上これと同視すべき事由と言われているんですけれども,これまで必ずしも実際にはそのとおりではないと思われるような運用がなされているというふうに申し上げてきたところです。その意味では解釈の問題,特段の立証ということとは別に,雇用契約に即した形での帰責事由ということを示すということでしたら,もしそうでしたら私としてはむしろ積極的に評価したいと思っているところです。   あと,全体として雇用の章は非常によくできた資料で特に付け加えることはないんですけれども,1点だけ3ページの判例,一番下から5行目にあります昭和37年最判ですけれども,細かいことですが,その後の昭和62年の最高裁判決で平均賃金の4割ということをより明確化する趣旨で,平均賃金の6割を超える部分,つまり平均賃金に入らないものは控除できるという判例がありますので,もし何らかの解説等の機会ではその付加も御考慮いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○佐成委員 1の(1)です。これについては中間試案に対するパブリックコメントでも反対の意見を提出しておりまして,現時点で,この部会資料を見てどうかということで再度議論をしたのですけれども,まだ現時点では規定を設けるべきではないという考え方に変更はないというような話になっています。理由はもう既に何度も繰り返し言っておりますが,賞与の支給日在籍要件の有効性を認めた判例に何らかの影響を及ぼすのではないかと,そういう懸念が主たるものであります。ただ一方では,この部会資料の2ページから3ページにかけてこの点について判例の説明がかなり詳細に書かれていて,内部でもそういった懸念は一定程度クリアされたのではないかというふうな評価もしております。しかしながら,まだこの規律を明文化することによって,判例で認められている賞与の支給日在籍要件の有効性に,本当に影響がないのかというのを更に慎重に見極めたいと,そういうような指摘がございましたので,現時点ではまだそういったところでの慎重意見があるということだけ申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見ありましたら,お出しください。   事務当局から何かコメントございますか。 ○筒井幹事 安永委員から御懸念を示されました(2)の「契約の趣旨に照らして」という部分については,その後,山川先生から御説明していただいたとおりに私どもも理解しております。そういった趣旨を表す文言として御理解いただければと考えております。その点については誤解を与えることがないように,今後も説明には十分留意していきたいと考えております。 ○岡委員 細かい話ではありますが,2の(1)の「その終期が不確定であるときは」に変更する点でございます。一定のプロジェクト終了までという雇用契約はどうもあるようでございまして,あるプロジェクト終了までという契約がこの終期が不確定ということに当てはまると思われます。もし当てはまるとすれば,この条文ができることによって雇用者からの解除は労基法等に条文があるようですが,労働者からの解除については労基法等に定めがないので,この民法の条文によって労働者のほうからはいつでも5年を超えれば解除できるようになってしまうと,これはいいのかと意見がありました。価値判断として5年を超えるんだからいいではないかという意見もあると思いますが,一定のプロジェクト終了までということで決めておいた場合には少し行きすぎではないかと,こういう意見がございました。 ○山川幹事 その点,もしここで言う期限が不確定期限といいますか,その事実が生ずるかどうかは確実だけれども,いつ生じるか分からない,その間は当事者が拘束されるという趣旨であるとしますと,労働者がずっと拘束されるということになってしまいまして,解釈が不確定期限の場合はっきりしない点はなくはないんですけれども,労働基準法の附則137条で期間の定めのある契約については,期間が1年を超えた日以降はいつでも労働者からは退職できるという規定になっておりますので,もしそれが拘束性のある期間ということですと,どのみちこの137条で1年を超えたら労働者側は辞職できるということなので,労働基準法の規定が係る限りはそれほど元々拘束力は与えられないということではないかと思います。この点,関係官のほうで御説明をいただければと思います。 ○岡関係官 今,山川先生おっしゃられたとおりだと思います。その労働基準法14条で原則は3年,あるいは高齢者等の場合ですと5年まで契約期間は設定できて,ただ,先ほど岡委員がおっしゃるようにプロジェクトの場合は5年を超える契約期間を設定することもできるんですけれども,それは飽くまで雇用保障期間としてであれば設定できるということで,今も,労働基準法の137条で1年を超えれば,たとえ6年とか7年でのプロジェクトでも労働者のほうは辞められるということで,使用者側だけ縛るということになります。今回こういうふうに文言が変わったとしても特にこれまでとそれほど扱いが変わるということはないかと思います。 ○岡委員 門外漢で詳しくないのですが,附則137条から,何かが除外されているということを前提にしているのですが,それはそんな除外がされていないということでよろしいんでしょうか。 ○岡関係官 137からプロジェクトが抜けているということですか。ちょっとすみません。 ○山川幹事 先ほどちょっと不明確だったかもしれませんが,もちろん137条には一定の事業の完了に必要な期間というふうに入っておりますけれども,一定の事業の完了に必要かどうかということについては,事業というのは独特な概念ですので,例えば何か特に仕事を不確定期限付きで指示したあるいはそのために雇用されたという場合が常に入るわけではないと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。「3 期間の定めのない雇用の解約の申入れ(民法第627条関係)」についても特に御意見はないですか。中間試案から変わっていないところですけれども,特に御意見ないというふうに承っておきます。 ○中井委員 中身に関わることではないんですが,この2の期間の定めのある雇用の解除のところの中間試案では,「期間の定めのある雇用において」として文章が続いている。今回素案では,直ちに「雇用の期間が5年を超え」として始まっている。今,民法の条文を見ますと,626条は本文の前に括弧書きがあって,(期間の定めのある雇用の解除)という表題がある。表題を見ていますので,この「雇用の期間が5年を超え」となれば,「雇用の期間の定めのある雇用について,雇用の期間が5年を超え」の規定と理解できる。仮に表題を見なければこの文章を単純に読むと,「期間の定めのない雇用であっても,雇用の期間が5年を超え」ということがあり得るという論理になるんですが,つまり中身の問題ではなくて,これ今の民法は表題を見て中身が一定規律されている条文,例えばこれなんかもそうだろうと思うんですね。こういう表題と本文の関係というのはどう考えるのか。つまり一般市民からすれば中間試案の(1)の書き方のように,本文にあるほうが分かりやすいということを言いたいわけです。「期間の定めのある雇用において,雇用の期間が5年を超え,又はその終期が不確定であるときは」となったほうが完結していると。申し上げていることは,表題を前提に読んでいるというのが今の民法なんだけれども,そういう書き方自体についての見直しというのはあり得るんでしょうかねという問題意識で申し上げました。 ○筒井幹事 現在の民法の条見出しは,御案内のとおり平成16年の民法現代語化の際に後から付け加えられたものです。その条文自体の意味内容に即して,それにふさわしい条見出しを後から付したということで,それは条文の意味を変える性質のものではないと思います。また,一般的な条文解釈といたしましても,条見出しが参考とされる可能性は否定はされないのかもしれませんが,基本的には条文の文言そのものが解釈の対象とされるのだろうと思います。ただ,それに分かりやすい条見出しを付するというのが,現在の法制執務上の慣例になっているということだと思います。それはそれとして,今,中井委員から御指摘があったように分かりやすく条文を書くということに関して何が必要となるかは,御指摘のことを踏まえてよく考えてみたいと思います。 ○道垣内幹事 全く異存はないのですが,現行民法にいわゆる「雇用の期間」というのは,雇用されている期間ではなくて,雇用の約定期間のことを意味していると思います。したがって,「雇用の期間が5年を超え」というのは,雇用約定期間が5年を超えという意味になる。したがって,626条を分かりやすく書くというのは大変いいことだと思うのですが,そうなると,627条との言葉遣いとの関係が問題になりますので,併せてお考えいただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。   よろしければ「第2 寄託」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「第2 寄託」の「1 寄託契約の成立(民法第657条関係)」は,寄託を諾成契約として改めるもので,中間試案からの実質的な変更はありません。なお,(1)については寄託物の返還義務と寄託の終了との関係をどのように整理するかという問題を提起しておりますので,御意見を頂けると幸いです。   「2 受寄者の自己執行義務(民法第658条関係)」は,再寄託の要件を拡張するとともに,適法に再寄託がされた場合における受寄者の責任に関するルールを債務不履行に関する一般原則に委ねることとするものであり,いずれも中間試案からの変更はありません。   「3 寄託物についての第三者の権利主張(民法第660条関係)」の(1)は,民法第660条に受寄者が通知義務を負う事由が生じたことを寄託者が知っていた場合には,受寄者が通知義務を負わない旨の規律を付け加えるもので,中間試案からの変更はありません。(2),(3)は寄託物について権利を主張する第三者が現れた場合における寄託物の返還に関する規律を定めるもので,中間試案の実質を変更するものではありませんが,要件が不明確であるとの批判があったことなどを踏まえて文言を変更しています。   「4 報酬に関する規律(民法第665条関係)」は,委任契約の報酬に関する規定である民法第648条が部会資料72Aで取り上げられた考え方に従って改正された場合であっても,民法第665条の規律を維持し,寄託についても準用することとする考え方を取り上げるものであり,中間試案からの変更はありません。   「5 寄託物の損傷又は一部滅失の場合における寄託者の損害賠償請求権の短期期間制限」は,賃貸借の用法違反を理由とする賃貸人の損害賠償請求権の期間制限に関する規律と同内容の規定を設けるもので,中間試案からの変更はありません。   「6 寄託者による返還請求(民法第662条関係)」は,民法第662条に有償の寄託の受寄者に損害が生じたときは,寄託者はその損害を賠償しなければならない旨の規律を付け加えるもので,中間試案からの変更はありません。   「7 混合寄託」は,混合寄託の要件と効果に関する規律を設けるものです。素案(2)及び(3)は中間試案(2)の内容を二つに分けたものであり,中間試案の実質的な内容を変更するものではありません。   なお,寄託のうち消費寄託については次回以降の会議で取り上げる予定です。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○中田委員 1の成立の(2)の損害賠償について2点確認をさせていただきたいと思います。   1点目は,部会資料によりますと,この場合の損害賠償はいわゆる履行利益マイナス受寄者の得た利益になるという説明だと思うんですが,それに対して消費貸借のほうは,いわゆる積極損害に限られるという説明だったと思います。どこが違うのかと思って見てみますと,消費貸借のほうは「当該契約の解除によって貸主に損害が生じたときは」とありまして,寄託のほうは単に「受寄者に損害が生じたときは」という表現になっていて,そこでその区別を読み取れということだろうと思います。ただ,ちょっとそれは分かりにくいのではないかと思いますが,いかがでしょうか。これが第1点です。   それから,第2点はこの場合の損害賠償は保管期間中の報酬が原則であって,別段の合意を認めるということが11ページに書いてあります。それから,21ページを見ますと,寄託者による返還請求の場合もやはり保管期間中の報酬になるように思いました。他方で19ページを見ますと,報酬に関する規律では,期間中の報酬全額の支払義務を負うのは,受寄者の特別な利益をも保証する趣旨である寄託契約の場合だというふうになっております。そうすると,何か両者の間に考え方に少しずれがあるのかなと思ったんですが,いかがでしょうか。デフォルトを保管期間中全部とするのは,662条や当事者の意思に鑑みて一般的なことなのかどうかということについても,併せてお教えいただければと思います。 ○鎌田部会長 では,よろしくお願いします。 ○松尾関係官 1の(2)の損害の内容について消費貸借と違いがあって,その違いが十分に書き分けられているのかという点につきましては,中身について確かに今のところは積極的に違いを持たせる趣旨ですけれども,その違いを解釈によってどのように条文から読み取れるようにするかというのはなかなか難しい問題で検討が必要ですし,そもそも,契約の終了に伴う損害賠償責任の範囲というのは,他の契約類型に関するこれまでの審議を通じてもいろいろと御意見を頂いたところでありますので,網羅的に検討して,また改めてお諮りしたいと考えているところです。   あと,解除の場合の損害賠償請求権の範囲が報酬に関する規律の記載とややずれがあるのではないかというお尋ねと理解してよろしいでしょうか。十分にお答えになるのか分からないですけれども,ほかの契約類型との整合性という観点から,基本的には寄託についても契約が途中で終了した場合には,期間を定めていた場合には期間全体の報酬を請求することができるのが原則で,利益を得たらその分は控除されるということをデフォルトで考えるべきではないかと考えた次第です。それは請負とか委任とか他の契約類型との整合性ということを考慮したもので,これまでは寄託そのものについてはそういった見解とは異なるものも有力であったとは承知をしておるんですけれども,少なくとも今回のたたき台では,その立場を採ってはどうかという整理で一貫させたいと思っておりました。   その観点から4の報酬に関する説明のほうが不十分であったということであれば,もう少し精査をして考え直したいと思いまして,今のところは1の(2)あるいは6ですか,こちらの説明に併せる方向で考えたいなというふうに思っていますが,先ほど申し上げましたとおり,1(2)と6自体も,これまでの議論を踏まえて再度検討したいと思います。 ○山野目幹事 14ページの「3 寄託物についての第三者の権利主張」のところの(2)のところにつきましては,先ほど松尾関係官から御説明があって,パブリックコメントなどにおいて中間試案の提示していた要件が不明確であるという批判があり,それを受けての精査によるものであるという御案内がありました。それはそれとして受け止め,改めて拝見しますと,今回御提示いただいている案文は,所有権と占有回収の訴えというふうに訴訟物が細かく明示されていることと,判決が所有権の場合は確認判決でもよいというふうな書き込みがされているというところに特徴があるのではないかと理解をいたしました。   その上で申し上げますけれども,こういうふうに細かく書き下すことは心配であるという気持ちを抱きます。どちらかというと,こういうふうに細かく書き込まないで,引き渡すべき旨の裁判の言渡しを受けたときには,受寄者がそこに示されているような対応をすることがあってよくて,損害賠償の責任を負わないというくらいの書き方がよろしいのではないかと感ずる部分もございますから,御勘案いただければ有り難いと感じます。 ○中井委員 今御発言ありました中田委員と山野目幹事の発言についてそれぞれ申し上げておきます。まず,後の山野目幹事の御指摘の3の(2),これが中間試案から書き改められたことについて弁護士会としても趣旨が分からないなと。取り分け第三者が所有権を有することの確定判決があれば,それで直ちにその所有者に渡していいのかというとそうはならないのではないか。所有権が仮にあるとしても,寄託者に何らかの占有権限なりがある場面もあるのではないかと思いますので,所有権の確定判決ということ自体で認めることについての疑問のみならず,今,山野目幹事がおっしゃられたように,このような書き分けをするよりは,元の中間試案の基本的な考え方,引渡しを命じられたとき,正に引渡しをせざるを得ない状況になればこそ許されるのであって,そのほうが分かりやすいのではないか,また,より適切ではないかと思う次第です。それが1点目。   もう一つは,中田委員の御指摘の1の(2)のこの場合において受寄者に損害が生じたときのこの損害論について11ページの説明,頭3行,4行に,これが仮に期間の定めがあるとすれば,その期間の全ての利益から免れたコストを控除したものという考え方が明示されているんですが,果たしてこの考え方でいいのかということにそもそも疑問を持っています。ここはかねてから消費貸借のところでも申し上げて,これは積極損害だという形の説明になっております。そちらの積極損害だという説明について異議があるわけではございませんが,契約開始後引渡しを受けた後解除した場面で,残り期間に対する報酬と同じようにここは全期間の報酬がとれることを前提に解釈論を明示されていますけれども,そのような解釈論で理解が共通化しているとも思えませんし,こういう理解もあるのかもしれませんが,ここはなお留保を付けた説明にしていただきたいと思います。   加えて,これも中田委員のおっしゃられたことですけれども,消費貸借のところでも生じた損害,ここでも生じた損害という規律付けで異なった結論という形を理解するのが果たしていいのか。私は,実はこちらももっと限定的に考えるべきだというふうに思っております。加えて,これは前も申し上げましたけれども,解除すれば常に損害賠償義務があるというこの規律付けについてもなお疑問を持っていることを繰り返し申し上げておきたいと思います。 ○村上委員 3の(2)については,私もこのままの形で立法することについてためらいを感ずる部分がございます。まず,「第三者が所有権を有することが確定判決によって確認されたとき」という文言に,裁判上の和解や請求の認諾も含まれるという説明になっているわけですけれども,和解や認諾というのは,要するに,受寄者が自らの意思で返還することを決めているわけですので,本当にそういう場合を含めてよいのかということも気になりますし,仮に含めてよいということにするとしても,「確定判決によって確認されたとき」という文言から,そのような場合が含まれるということが本当に読み取れるのかどうか。和解や認諾でもいいと決めるのであれば,むしろそのことを正面から書かないと,この文言から読み取るのは容易なことではないのではないかというのが一つ目です。   それから,判決の場合,所有権に基づく引渡しの請求をするのが通常であって,所有権を有することの確認の請求をするというケースは余り想定できないように思いますから,はっきり書くのであれば,むしろ所有権に基づく引渡しと書くほうが望ましいようにも思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがですか。事務当局からコメントありますか。 ○松尾関係官 3の(2)について幾つか御意見を伺ったので,少し発言したいと思います。   まず,ただ今村上委員から御指摘を頂いた点のうち,実質として裁判所の和解や請求の認諾をここに含めてよいのかというところは事務当局としてもこれまでの審議の中で問題提起を差し上げていたところではあるんですけれども,なぜ含めたほうがよいのかと考えたかと申し上げますと,仮に裁判所の和解や請求の認諾を含めないこととしても,例えば,受寄者が訴訟において欠席して敗訴した場合はどうなのかとか,あるいは全て自白した結果敗訴してしまった場合はどうなのかとかいう問題があり得ますので,認容判決が確定したときと書いたからといって,実際上適切な限定をすることができるのかというと,必ずしもそうはならないので,やはり要件としては裁判所の和解とか請求の認諾というものも含めた上で,その訴訟対応の善しあしというものは,受寄者の善管注意義務の問題として捉えるべきではないかというふうに考えたという次第です。   あと,中井先生の御意見の趣旨をもう少し詳しく伺いたいのですけれども,判決によって確認されたときというのでは広すぎるということだということはよく分かったんですが,どこまで絞るべきなのかということについては,強制執行がされた場合に限るということではないわけでしょうか。もう少し教えていただければと思います。 ○中井委員 引渡しを命じられたときのことを念頭に置いて申し上げました。山野目先生と同じ,同じと言っていいのか分かりませんが,同じ考え方だという趣旨で申し上げました。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがですか。 ○岡委員 繰り返しになりますが,2の(2)の再寄託の場合の直接の権利義務の点でございます。委任のところでも申し上げましたけれども,この言葉がぽんと出てくると,やはり再受寄者が寄託者に対して直接報酬請求権を持ってしまうと,こういう任意法規のように読めてしまいますので,何かそこはやはり,行使できる場合の条件を明らかにするなどの工夫をすべきではないかという意見を,繰り返しでありますが述べておきます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はよろしいですか。特に御意見がないようでありましたら,次に進ませていただきます。   それでは,部会資料73Bに移ります。73Bの「第2 寄託」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「第2 寄託(寄託者の損害賠償責任(民法第661条関係)」について御説明いたします。   この論点について中間試案では,寄託者が原則として無過失責任を負う旨の民法第661条本文を維持した上で,過失がなければ責任を免れるのは有償寄託の場合に限られることとする考え方が取り上げられていました。これは,特に無償寄託については好意的契約としての性格が強いことから,第650条第3項を類推適用し,寄託者に無過失責任を負わせるべきであるという現行法下の有力な見解を参照したものですが,このような考え方については批判も寄せられていることから,再検討の必要があります。仮に部会資料73Bの「第1 委任」の1において,要綱案のイメージが採用されるのであれば,このイメージの考え方は寄託における中間試案の考え方に対する批判に対応し得るものと言えますので,民法第661条についても同じ考え方を採用して改正することが有力な選択肢となるように思われます。   他方,このイメージの考え方が採用されない場合には別途検討の必要がありますが,従来の問題意識を踏まえると,民法第650条第3項に併せる形で民法第661条を改正し,寄託者が無過失責任を負う規律とすることが検討対象になり得ると考えられます。   以上御説明いたしましたとおり,この論点については先ほどの民法650条第3項の見直しに関する議論を踏まえて検討をお願いできれば幸いです。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。   委任の側がまだ十分確定し切っていないから議論しにくいという要素もあるかと思いますけれども,両者の整合性を採るべきか否かというふうな観点からの御意見もございましたら,お出しいただければと思います。 ○中田委員 整合性という観点なんですけれども,寄託のほうは寄託物の性質や瑕疵から生じた損害ですから,寄託者のほうが受寄者よりもよく知り得るわけですし,それを告知するというインセンティブも働くと思います。それに対して委任の場合は,受任者の裁量に委ねられるということがありますので,必ずしも全く同じではないのではないかと思います。ですから,当然にそろえるというよりも,やはりそれぞれ考える必要があるのではないかと思います。寄託について言うと,前から出ている案ですけれども,事業者間の有償寄託について特則を置くなどの方法も考えられるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。弁護士会は特に御意見はありませんか。   特にないようでしたら,引き続き事務当局において検討をしていただくということで引き取らせていただきます。 ○松岡委員 確固とした意見がないので内容のある発言はできませんが,先ほど寄託の1のところで契約の終了と返還義務の関係について問題提起をしたので是非意見を伺いたい,という御発言が御説明の中にあったので,どなたか御発言をいただけるといいと思います。 ○鎌田部会長 これは73Aの「第2 寄託」の「1 寄託契約の成立(民法第657条関係)」の(1)のブラケット部分についてということですけれども,この点について少し順番としては戻りますけれども,御意見あればお出しいただければと思います。 ○深山幹事 あえて私が言う必要はないのかもしれませんけれども,この資料の説明にあるA案B案あるいはC案も示されていますが,そこについてどう考えるかという問題について部会資料にも説明がありますように,終了した後に返還義務が生じるのか,あるいは返還したことによって終了するのかということについて賃貸借あるいは使用貸借と同じような問題だと考えれば,こことの整合性からすれば終了時に,終了してから帰すという規律になるんだろうと思いますし,文言としても,ブラケットを残すということになるんだろうと思います。   それとは違う規律にすべきだという積極的な理由がないのであれば,ここは整合性を採るべきではないかと思います。ちなみに先ほどの寄託のところは,私も中田先生御指摘のとおり,ここはやはり必ずしも整合性を当然採る場面ではないと思いますが,今の委任のところについては整合的でよろしいのではないかと考えます。 ○鎌田部会長 ほかの意見はありませんか。 ○岡関係官 すみません,先ほどの雇用の話に戻って恐縮なんですけれども,先ほど岡委員からプロジェクトが基準法の137条に入るかどうかということですけれども,137条を見ますと,プロジェクトは除いていますので,そこには入らないんですが,ただ現在の626条の本文で5年を超えるようなプロジェクトであれば,5年以降は辞められると思いますので,今回分けて書くということで,そういう意味では明確になったということなのかもしれません。   いずれにしても,運用上は特にこれによって厳しくなるということはないのではないかなというふうに考えております。 ○中井委員 また戻って寄託の先ほどの契約の終了うんぬんの話です。これも私が言うような話ではないと思いますが,素朴にこの辺りよく分からないのは,例えば662条は返還の時期を定めたときであっても,いつでもその返還を請求することができる,次も返還の時期を定めなかったらいつでもその返還をすることができる,仮にここで契約が終了したときに返還するというのであれば,これらの条文はいつでも寄託契約は期間の定めがあっても途中で解除できる,定めがないときはいつでも解除か解約か知りませんけれども,できる,だから,返還するという論理付けになるんだろうと思います。そうすると,そのような形で全ての条文を見直していくんですか。   同じことが確か使用貸借のときにも私,どこかの段階で申し上げたかと思うんですが,使用貸借のところも契約の終了をして返還するということで条文上の構成は全て統一されているかというと決してそうではなくて,返還を請求することができるであって,契約の解除をすることができるとは書いていない。この辺も仮に整理するとすれば,使用貸借のところで言うならば契約の終了事由をずっと上げて,その後に返還ということが起こるのか,寄託のところでも終了事由を上げてその後に返還ということが起こる,そのようにかなりの体裁の変更を伴うことになるのではないか。恐らくこの部会資料でC案というのはそういうことも踏まえて,その辺りはもう手を付けないということを考えれば,寄託契約というのはあるものを保管することを一方は約束し,相手方はそれを承諾すれば契約は成立する。物の受け渡しについては書かないというのもあり得るのがC案かと理解をしたんです。この辺り整理をするとすれば相当程度条文をずっと見ていく必要があるという認識ですが,そういう作業をしようということでしょうか,かぎ括弧で終了を入れたということは。 ○松尾関係官 中井先生が御指摘のとおり,この終了したときにという言葉を入れれば全体的に条文表現は見直さなければならなくなるのだろうと思います。果たしてそれによって分かりやすくなるのかどうかというのがまず一つ大きな問題なのだろうと思います。   あともう一つ,少し今本当にこの返還義務に関する合意が必要であるということを入れてよいのかどうかということについて問題意識を持っていることを申し上げますと,現在は少なくとも条文上は,返還に関する合意をしなくても寄託が成立するということになっているわけですけれども,このような文言を入れれば,返還に関する合意がなければ,その合意を寄託とは呼ばないということになるのではないかと思います。そうすると,寄託の範囲が現在よりも狭くなる可能性があるんですけれども,それも本当によいことなのかどうなのかということが問題になるのだろうと思います。現在は,当事者が保管することを約しているのだから,当然にその保管した物を返還することの約束もされているという理解に基づき,それを明確にするだけであって,寄託の成立範囲を狭めるものではないという議論はあり得るのかもしれないのですけれども,その点を十分に整理しなければならないという点もやや難しい問題なのではないかということを考えております。 ○鎌田部会長 使用貸借,賃貸借については契約を解除して終了させて返還するという構成にこの素案では作りかえがされていますので,寄託についても同じようにすかどうかということは課題になろうかと思いますが,全部そろえて契約終了して初めて返還義務が生ずると,こういうふうな形にすべきかどうかということも一つの問題だと思います。 ○内田委員 その点は賃貸借と寄託はちょっと違いがあるのではないかという気がいたします。賃貸借というのは,普通は契約が終わったところで物を返すわけですが,寄託は企業が在庫品を倉庫に預けるという場合など,契約が終了したときにのみ引き出すわけではなくて,途中で一部を引き出すということもあるわけで,寄託契約の中でどういう態様で物を返還するかということは通常合意されているのだろうと思います。特段の合意がなければ契約が終了したときに戻すということだろうと思いますが,いずれにせよ何らかの意味で返還というのは合意の内容になっているはずではないかと思います。しかも,それは終了して契約がなくなったから返すのではなくて,合意の内容に契約の中での返還の態様も含まれているように思いますので,そうだとすると,終了というふうには言わずに返還することを約してとした上で,デフォルト・ルールとしては明示的な合意がなければ契約終了のときに返還するという合意があるものと推定するということでもいいのではないかという気がいたします。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがですか。 ○中井委員 先ほど資料73Bの寄託者の損害賠償責任のところで弁護士会の意見を聞かれながら答えなかったんですが,弁護士会としてはそれほど意見が明示的に出ていません。委任の考え方に併せるという考え方と中間試案の考え方でいいのではないかという意見が併存しています。ただ,思いますに弁護士会がここを若干ちゅうちょしているのは,先ほど中田先生がおっしゃられたのは,寄託者のほうが物の性質をよく知っているから,委任と比べてより寄託者のほうが重い責任を負うべきではないのかと,恐らくそういう方向の御意見だと理解をするんですけれども,それに対して現在むしろ寄託者に過失がある場合に責任を負う形式になっている。この寄託者に過失がある場合というほうが寄託者としては責任を負う場面が少なくなるわけですけれども,この基本的な枠組みはそう動かしてほしくないというのが実質のところにあって,これが委任の方向に先ほどのような形になるにしろ,原則委任より寄託のほうの責任が重くなる方向については,基本的に消極意見が多いということを申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 いろいろな場所に議論が飛んでいますけれども,73Aの第2の「1 寄託契約の成立(民法第657条関係)」(1)のブラケット部分については統一させるべきだという御意見と,やはり寄託と貸借型のものとの契約の性質といいますか内容の違いを考慮すべきであるという御意見と両方が出ているところですけれども,ほかに御意見はありませんか。   また,73Bの「第2 寄託(寄託者の損害賠償責任(民法第661条関係))」についても補足的な御意見を頂いたところですけれども,これに関連した御意見はよろしいですか。   いずれもお出しいただいた御意見を踏まえて,事務当局で更に検討を続けさせていただきます。   もう一度法律行為総則のほうに議論の対象を戻したいと思いますけれども,73Bの「第3 法律行為総則」の「1 法律行為の意義」について御審議を頂きます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 部会資料73Bの「第3 法律行為総則」,「1 法律行為の意義」では,法律行為の基本原則に関する規定を設けるかどうかという問題を改めて取り上げています。法律行為は,法律の規定に従って,意思表示に基づいてその効力を生ずるという規定を設けることについては,それによって法律行為概念が分かりやすくなるという意見がある一方,意思表示の意義が明らかにされていない以上,結局法律行為の意義も明確になるわけではないこと,一般国民にとって具体的にどのような行為が法律行為に該当することになるのかは,この規定から直ちに明らかになるわけではないことなどから,このような規定を設けたとしても法律行為概念が分かりやすくなるわけではないとの意見もあります。   また,規定の内容の面でも法律行為の効力の根拠を意思表示に求めることには異論もあり得ます。本文に記載した規定を設けるかどうかを検討するに当たっては,これらの点について検討する必要があると思いますので,御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○大村幹事 法律行為の意義についてですけれども,ここでどのように考えるかと問われている点につき一言申し上げます。法律行為は法令の規定に従い,意思表示に基づいてその効力を生ずる旨の規定を設けるかどうかにつき,御説明ございましたけれども,私は結論としては規定を置いたほうがいいのではないかと思います。その理由は一言で言ってしまえば,法律行為というものについて何の説明もないという状況を幾らかでも改善するということが望ましいのではないかということに尽きます。   そこで,意思表示に基づいてという規定を置いたからといって意思表示の中身が明らかにならないというのは御指摘のとおりですけれども,法律行為というものが意思表示を根幹的な要素としていること,意思表示に支えられて法律行為があるということを示すことには,やはり意義があるのではないかと思います。   細かい点はまた必要があれば後で申し上げるとして,もうひとつ,これでは法律行為のイメージがつかめないのではないかという御批判もあると思いますけれども,中間試案にありました(2)ですね。法律行為には契約のほか,かくかくしかじかが含まれるものとするという部分が今回は検討の対象から外れているようでありますけれども,これについても再度検討をしていただけないだろうかとお願いを申し上げておきます。説明の中には中間試案の(2)では契約と単独行為というのが上がっているだけであるのでその他のものがどうなるのかということについて疑義を払拭できないという御意見があるという指摘がされておりますけれども,その他のものが含まれ得るという書きぶりも工夫できるのではないかと思います。   具体的に申しますと,単独行為が入るということと二当事者間の契約が入るということには異論はないわけですけれども,その他のものと書いて,そこに三当事者以上の契約が入るのか合同行為が入るのかというのは解釈に委ねるという選択肢があるのではないかと思います。そういう規定を置いてみても実益ないではないかという御議論も確かにあるとは思います。実益がないといえばないのですけれども,,それによって法律行為とはどういうものであるかというイメージを示すことができることの意味は小さくないと思います。   現在,法人の規定について,法人については公益法人と営利法人とその他の法人があるということがわかる規定がありますけれども,この規定は,それによって民法の中で法人というものはどういうものであるかということについて一定のイメージが示すことができるだろうということで置かれたものと理解しております。 ○岡田委員 相談員も契約に関して一般の方の啓発で講演したりするのですが,そういう相談員でもこの法律行為ということに関しては,どうも正確な知識を持っていないような気がします。現実ちょっと前に相談員何人かと話したのですが,法律行為ということ自体がうーんというような意見も出るぐらいでした。一方で,錯誤のところで法律行為という言葉が出てくるし,ほかのところでも出てきますので,意思表示と法律行為の違いというのは,少なくとも相談員は明らかに理解しなければいけないのではないかと思いました。その意味で完全ではないけれども,こういう規定が入って,さらに今,大村先生がおっしゃったような法律行為は契約だけではないのだというのが理解できるような形になれば,一般の人にとってももっと分かりやすくなるのではないかと思います。 ○高須幹事 この規定を設けることによって実務上はっきりとこういう形で違いが出るというような問題ではないと思っておりますので,弁護士会の議論もここは必ずしも具体的な何かを想定してのものではないのですが,しかし,今,大村先生からお話が出ましたとおり,やはり全く法律行為についての言及がないということに対しては違和感を持っておって,民法に一定の規定を置くということにそれなりの意味があるのではないかという意見です。全てということではありませんし,弁護士会の場合にはやはり意見が分かりますけれども,比較的多くの意見がそういうものとなっております。   私が所属する東京弁護士会に関して言わせていただければ,さらにその意義については少しでも具体的なものにすべきであるということで,ここも大村先生から出たところですが,もう少し内容を書き込んでみたらどうかと。東京弁護士会としてはその規律として,「法律行為は,契約,取消その他の単独行為,その他法令の規定に従い意思表示に基づいてその効力を生じる行為をいう。」などというような表現を考えたらどうかと,このような意見になっております。私も基本的にはそのように思っておりますので,今までのお二方の議論と同趣旨ということでございます。 ○山本(敬)幹事 私に関しては,今日お配りしていただいた法律時報86巻1号の論文の12ページ以下にも書きましたように,この素案で示されている案をやはり最低限規定することが望ましいのではないかと思います。その理由は,大村幹事等がおっしゃってくださったとおりで,余り付け加えるところがありません。   ただ,幾つか懸念が示されているもののうち,大村幹事が触れられなかったものに関して補足しますと,部会資料の11ページから12ページ辺り,特に12ページに書かれているような指摘は,証明責任の所在について何か影響が出るのではないかという懸念かもしれませんが,冒頭規定に関しては,現在出ている案は現行法の書き方を変えないという前提ですので,典型契約について証明責任の所在がこの規定によって変わってくるというものではないと思います。   非典型契約に関しては,現在,民法91条にその根拠が求められていますが,そこで求められている規範を言葉にしますと,正にこの素案で示されているような規範ではないかと思います。91条からこれを直ちに読み取ることができるかというと,必ずしもそうではないでしょう。したがって,そのような基本原則を法律行為の節の冒頭に定めることは,大きな意味があるのではないかと思います。  法規説という考え方が12ページに上がっていますけれども,法規説でいう法規とは,少なくとも非典型契約に関しては,正にこの素案で示したような規範です。法規説とそうでない見解との間に大きな対立があるかのような前提が問題でして,意思表示が根拠だと言っている人も,意思表示に基づいてその効力を生ずるという法規範があって初めて法律行為に拘束力が認められることは,何ら否定しませんので,両者は対立しているのではなく,説明のウエイトの置き方の違いにすぎないように思います。   少なくとも,意思表示がなければ法律行為はそもそも成り立たないということには異論がないと思いますので,それを示すという点で,このような規定を定めることには,やはり意味があるのだろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○中井委員 繰り返す必要はないと思いますけれども,私もこの規定は置いたほうがいいと思います。法律行為は,90条で公序良俗違反の法律行為は無効とするという条文で始まる。この始まり方は,元々いかがなものか,まずは原則を定めましょうというのが一番当初のお話であったのではないかと思います。それはそのとおりではないか。無効とするという前に,やはり法律行為はこういうことで効力を生ずるという規定があってこその次の90条かと思いますので,入れる方向で御検討を進めていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はないですか。これまでの御意見は積極説だけですけれども。  事務当局からは何かコメントありますか。 ○笹井関係官 パブコメでもいろいろな意見がありまして,分かりやすくなるという意見の方もいらっしゃる一方で,この規定を置くことによって分かりやすくなるわけではないというような受け止め方もそれなりにございました。   分かりやすくなるわけではないという意見がどういう趣旨かを私なりに考えてみますと,法令の規定に従い,意思表示に基づいて効力を生ずるものに該当するのが何なのかが必ずしも明確ではない。特に意思表示という概念が出てくるわけですけれども,解除や相殺や契約などが含まれるということは,法律家の中では共通認識になっていると思うんですが,例えば解除というものを例にとったときに,解除というのは意思表示に基づいて効力を生ずるのだということがどこかの条文に説明がされているわけではありませんので,解除という制度が法律の中に出てくるということと,仮にこの規程を設けた場合にこの規定とがどういうふうにリンクしていくのかということが条文上明らかではないということではないかと思います。また,この法令の規定に従い,意思表示に基づいてその効力を生ずるというこのことが法律行為の概念を示すに当たって,必要にして十分なものであるのかどうなのかというところも私には今一つよく分からないところがあります。これは規定を設けるべきだとおっしゃっている先生方にお伺いしたいのですが,この法令の規定に従い,意思表示に基づいてその効力を生ずるものというのは,法律行為以外には全くないということを前提におっしゃっているのでしょうか。   特にどなたにということではありませんが,恐らく反対されている方というのはその辺にやや飲み込めないものを感じておられるのかなというふうに思いましたので,発言をさせていただきました。 ○鎌田部会長 どなたか今の問いかけに対して御発言ありますか。 ○山本(敬)幹事 質問に対して質問を返すようなのですけれども,どのようなものが実際にグレーゾーンに当たるものとして問題視されているのでしょうか。そのようなものを示していただけると,議論がしやすくなりそうなのですが,いかがでしょうか。 ○笹井関係官 後者で申し上げた,これが必要十分なものなのかどうなのかという点については,私自身も抽象的な不安を持っているというような感じで,恐らくこういうふうに書いておけば,法律行為以外のものがここに入ってくることもなく,かつ法律行為の全てについて妥当するルールなのだろうというふうには思うのですけれども,それ以外のものが本当に全くないのか,理論的にむしろ教えていただきたいということでございます。   もう一つ,前者のほうですけれども,結局こういうふうに書いたとしても何が法律行為になるのかということが一般の方にとって必ずしも直ちに明らかになるわけではないということから,この規定を設けるに当たっての実益が必ずしもないのではないかと指摘されているのだと思います。少し敷衍して申し上げると,ちょっといい例なのかどうか分かりませんけれども,例えば相殺について505条1項でいろいろ規定が書いてあるわけですけれども,そういう規定があれば法令の規定に従って相殺というものができるんだなということは分かる。ただ,法令の規定に従うということは別に法律行為に限ったことではなく,意思の通知でも観念の通知でも当てはまることだと思いますので,そうすると,「意思表示に基づいて」というところが重要なポイントになってくるのだと思うんですけれども,「相殺をすることができる」ということが意思表示に基づくものなのであるのかどうかは,条文には明示されていないわけですね。   そういう条文の書き方を考えると,「意思表示に基づいてその効力を生ずる」という規定を設けることによって一般の方々にとって法律行為の概念を明らかにすることにとって有意義なのかという疑問なのではないかと思います。 ○大村幹事 これは法律行為ですか,法律行為ではないですかという概念のところで議論はあり得るだろうと思います。法律行為は法令の規定に従い,意思表示に基づいてその効力を生ずるものとするというのが中間試案までの案ですけれども,「その効力を生ずるものとする」と書かれているところにある含意があるわけです。そこをどう読むのかということなのではないかと思っています。   御説明の中にも出てまいりますけれども,一定の私法上の法律効果を発生させるという意思を表示する行為だとか,当事者の意欲した効果を認めてその達成に力を貸すというような説明が出てまいりますが,この二つの間にはある種のギャップはあります。ある種のニュアンスの差は確かにあるのですが,意思の力を原動力としてその内容を実現するということが含まれている,そこに法律行為概念の意味の中核を見いだす。そこは共通だろうと思います。書き方は立場が異なっても合意できる線で工夫されていると認識しております。さらに突き詰めて考えるとなると,それは意見の一致を見なくなるかもしれませんけれども,それはやむを得ないのではないか,立法としてはこの程度でとどまってもよいのではないか。先ほど最初に申し上げましたように,何も置かれていないのに比べると,このような規定であっても,法律行為というものが何によって構成されているのかというのは一定程度明らかになる,そちらのメリットのほうが大きいのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 大村幹事がおっしゃっているとおりだと思います。疑問を抱いて問題提起をされたのは,それだけではないかもしれませんけれども,講学上,法律行為と準法律行為の違いがどこにあるのかという問題としてずっと議論されていたことに関わると思います。もちろん,そのような区別が立法になじむかどうかということは別問題なのですが,両者の分水嶺は,大村幹事がおっしゃったとおり,その法律効果に当たるものがその意思表示の内容に即して発生するか,それとも法律効果の内容は法令の規定が定めていて,それが発生するのかという違いに帰着すると思います。   その意味では,意思表示に基づいてその効力が生ずるとしますと,正に意思表示の内容に即して,その意思表示どおりの効果が認められるということが基本に据えられることになると思いますので,これで何とか原則を示せているのではないかと思います。ただ,それ以上については,考え方がさらに分かれそうですので,更に細かく明確に規定しようとすると障害が生じるかもしれないと思います。 ○山野目幹事 笹井関係官が御心配になってお尋ねになったことそれ自体については,今,大村幹事と山本敬三幹事が御発言になったことで答えとしては尽きているのではないかと私は感じます。そのような意味では,笹井関係官が心配しておられることについてはひとまずの答えを今日の審議で差し上げることができているのではないかと理解しています。   それとは別のことを申し上げますけれども,この論点の審議に入るに際して,最初に大村幹事がおっしゃったことを想い起こしますと,私もそのおっしゃったことに同感ですが,中間試案の(1)のタイプの規定は置くべきであり,そしてそのこととともに,(2)のタイプの規定を置くということも考えていただきたいというお話でした。(1)と(2)がパッケージになっているからこそ,国民に分かりやすい民法にするという精神を非常に明確に打ち出して,法律行為の概念について,その概念と帰結をきちんと示す魅力のある提案になっていたのではないかと感じます。(2)が落ちたときに(1)のみ,つまり今のゴシックで示されているこの2行のことのみが示されるものというのは,置くことに反対ではもちろんありませんけれども,少しニヒリスティックな言い方をしますと,一体どこまでそれに魅力としての意味が残っているものであろうか,と感じます。現在の92条の法文が少し玄人的というか分かりにくくなっているものをもっと分かりやすくして,配列を変えたということの意味以上のものはないのではないかというふうにも感じます。ですから,(2)を置かないのであれば,今私が感じたようなものでも,しかし,やはり置くべきであるという立法判断に達するかどうかというところにひとつ議論の焦点があるのかもしれません。   関連しますけれども,現行の91条ですとそういう問題はありませんが,「法令の規定に従い」というこの表現に少し心配があって,単なる取締規定違反の法律行為というものは一体どうなるのですかということについては,現在の91条はその問題が起きないような,玄人的であるからこそ,ある意味で明瞭な効力規定違反のもののみ効力を否定しますという伝達内容になっているのに対し,今回「この法令の規定に従い」という文言にしますと,何々することができないタイプの規定のみではなくて,何々してはならないというタイプの規定についても,その問題をきちんと考えておかないと,何か一律に法律行為の効力が否定されるのではないかというような疑義といいますか,新しい論議を呼び起こしかねないような部分があります。ここにおられる方々は法律の専門家ですから,いや,それは別にそんな意味は含まれていないのであって,今までどおりの議論の状況なのだよというふうにおっしゃるかもしれませんけれども,分かりやすい法文にしようとして,かえってそこのところが卒然と「従い」という言葉を受け止めたときに,法律の専門家でないと少し違うことをイメージするような側面というものもあるのかもしれません。今後の案文の推敲やそれについての説明を重ねていくに当たって,そういうふうな観点にも留意していただければ有り難いと感じます。 ○中田委員 私も(1)と(2)と両方置いたほうがいいと思います。(2)に出てくる契約という言葉と単独行為という言葉は,いずれも現在の民法に既に現れている言葉でありまして,そうしますと,(1)と(2)を置くことによって,契約と単独行為と法律行為の関係,それから,法律行為と意思表示との関係というのが非常に明確になるのではないかと思います。 ○松本委員 笹井関係官の御指摘との関係で,法令の規定に従いという文言の位置付けについて,今までの御説明はそれはそれで成り立っていると思います。私的自治とそれを民法が認めているからということとの関係をどう理解するのかという哲学的な論争があるわけですが,それと少し違う次元の問題として,正に笹井関係官が例として上げられた相殺のところを見ますと,相殺契約をする場合と一方的な意思表示としての相殺とではやれることが違うわけですよね。   そこを考えると,民法の条文で出てくる相殺の意思表示というのは,単独行為としての相殺の意思表示ですから,それができるのはこういう場合だということが限られているという意味で法令の規定に従いという限定が必要なのではないかと。他方で相殺契約であれば相殺適状がどうのこうのとかということを一応置いておいて,合意でいろいろなことが当事者が納得すればできる。その外枠は公序良俗とか法令違反という別の理由で駄目だという部分はあるにせよ,原則はいろいろなことができると。しかし,単独行為に関しては,原則は自由ではなくて,一方の意思表示でもって他人に権利の変動が起こるようなことというのは,原則は駄目だと。法律がこういう場合は必要だし意味があるとして認めているということで,法令の規定に従いということの積極的な意味が出てくるのではないかと思います。   そういうふうに考えると,法律行為といっても単独行為と契約とでは相当シチュエーションが違うんだとすれば,こういうタイプのものがあるんだということは書いておくほうが親切ではないかと思います。 ○山本(和)幹事 ちょっと枝葉末節のことかもしれませんけれども,法律行為という概念に類似した我々の分野で使っている言葉として訴訟行為という概念があり,恐らくは行政法の分野では行政行為という概念が使われているのだろうと思います。この裸のあれで読めば,それらも「法令の規定に従い意思表示に基づいてその効力を生ずるものである」ということは多分確かなんだと。ただ,この意思表示というものの内容が二つ学説が紹介されていますが,後者の司法上の法律効果を発生させると書いていただければ何の紛れもないのですが,その前段だと一定の効果を意欲する意思というのは管轄合意などでもそれはそういうことなので,これはだから,法文上の問題ではないのだろうと思いますけれども,説明等については少し民法で書いているので誤解はないんだろうと思いますけれども,ちょっと注意をしていただければと思います。 ○道垣内幹事 山本和彦幹事がおっしゃったのは,笹井関係官がおっしゃったもう一つの疑問点であるところ,すなわち,意思表示に基づいてその効力を生ずるというのは法律行為だけなのかという問題にも関係してくると思うのです。しかし,仮に中間試案の第1の1の(1)のような書き方をするとしても,この書き方で,意思表示に基づきその効力を生ずるものは全て法律行為であるということになるのかというと,ならないのではないでしょうか。法律行為はこうだと書いてあるだけですから。したがって,山本和彦幹事がおっしゃっている話についても,訴訟行為もそうかもしれない,ある種の行政行為もそうかもしれないというふうになったからといって,この文言が不適切であるということにはならないのではないかという気がします。 ○笹井関係官 道垣内先生のおっしゃるとおり,法律行為の全てに妥当するのであれば,この文言そのものが不適切かということにはならないとは思います。ただ,それを規定することにどれだけの意義があるのかという問題が生じてくるのではないかと思いますので,先ほどそういう御質問をいたしました。 ○鎌田部会長 この説明の中にも書いてありますように,パブリックコメントも含めてこの提案に対する接し方の一つは,これはどういう性質のものなのかという観点から,ここに法律行為の具体的な効力の根拠がある,そういう規定として見る向きと,ある種の定義規定的に捉える向きとがあって,それぞれの中にも少しまた温度差もあるんだろうと思いますが,法律行為の要件・効果を確定する実質的な規定だというふうに見ると,ほかの部分のところなどと併せて笹井関係官がおっしゃられたような必要かつ十分な規定になっているかというふうな点についての心配が非常に強くなるのかもしれません。   ほかに特に御意見ないようでしたら,事務当局も検討に苦労するかもしれませんけれども,引き取っていただいて,本日の頂戴した御意見も踏まえた検討を続けさせていただければと思います。 ○大村幹事 今の点と関連いたしますけれども,検討に当たっては民法中に先ほど触れたように法人に関する規定ですとか,あるいは遺言の種類に関する規定ですとか,あるいは時効の中断事由に関する規定等ございますので,そういうものとも対比して御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   次に進んでよろしいですか。それでは,部会資料73Aの「第3 法律行為総則(公序良俗)」の部分と部会資料73Bの「第3 法律行為総則」のうち「2 過大な利益を得る法律行為等が無効になる場合」について御審議を頂きます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 部会資料73A,「第3 法律行為総則(公序良俗)」は,民法第90条のうち「事項を目的とする」という部分を削除するものです。公序良俗に違反するかどうかの判断は,法律行為の内容だけではなく,法律行為に至る経緯等も踏まえて判断されていることを理由とするものであり,中間試案からの変更はありません。   部会資料73B,「第3 法律行為総則」の「2 過大な利益を得る法律行為等が無効になる場合」は,いわゆる暴利行為に関する判例法理を踏まえ,公序良俗に関する規律が法律行為の当事者の私的な利益を保護する機能をも担っていることを明らかにしようとするものであり,具体的な規律の在り方としては,甲案と乙案の二つの案をお示ししています。   甲案は,実質的には中間試案と同様の規律を設けようとするものですが,今回の資料では,給付が不均衡であるということだけでは法律行為が無効になるわけではなく,それが相手方の事情を利用して行われたという主観的要素が具備されて初めて無効になることを明らかにするということを重視した書き方に改めています。   乙案は,主観的要素と客観的要素の組合せによって暴利行為の意義を示し,これを無効とすることを明らかにするという方法ではなく,暴利行為を無効とする機能は飽くまで公序良俗に関する民法第90条の規定に委ね,その適用に当たっての考慮要素を書き込むことによって公序良俗の規定が当事者の私的な利益を保護する機能をも果たしていることを明らかにしようとするものです。これは,甲案に対しては特にその主観的要素の範囲が明確でないという批判や公序良俗に関する規律とは別に暴利行為に関する規律を設けると,公序良俗に委ねるよりも暴利行為として無効とされる範囲が拡大するという懸念が示されていることを考慮したものです。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。 ○大島委員 暴利行為の明文化については,濫用のおそれに加え公序良俗違反の一般条項としての意味を曖昧にすることから,民法に規定を設ける必要はないと以前から申し上げておりまして,現在でもその考えに変わりはございません。   部会資料を拝見いたしますと,乙案は考慮要素の列挙にとどまり,考慮される程度が不明確であるため問題があると感じます。このような表現では中小企業など法律の専門家でないものにとっては公序良俗の適用範囲が広がったものと誤解を招く懸念があり,仮に規定が設けられた場合,想定外の利益及び損失をめぐり紛争や裁判外の争いが多発することが予想されます。そこで,暴利行為の明文化の必要はないと考えていますが,仮に規定を設ける場合には判例が従来示してきた要件をベースに適用範囲を明確にした甲案を検討すべきと考えております。 ○鎌田部会長 ほかに御意見は。 ○佐成委員 大島委員がおっしゃっていたのと若干ニュアンスは違うんですが,経済界として我々のほうも従来から暴利行為の論点については濫用的に主張される懸念があるとか,あるいは明文化によって判例の発展が阻害されるとかそういったことで反対をしてきました。今回改めて甲案というのが提示されて,文言の修正はされているんですけれども,ただ,内部では依然として甲案については強い反対意見が出ております。これが現状です。   今回,乙案というのが提示されまして,乙案についていろいろ議論をしてきたところでございます。その中で出てきたものとしては,まず,そもそも実務上公序良俗違反というのは非常に例外的な場面で初めて問題とされ,例外的に無効になるのだと考えられております。ところが,ここに考慮要素として書かれておりますところの,法律行為の内容,当事者の属性,法律行為に至る経緯といったもろもろは,法律行為一般について全て妥当するような判断基準でございますから,ある意味では本来限定的であるはずの公序良俗違反による無効というものが,あたかも何か常に一般的に,公序良俗という形では考慮されるんだと,そういった誤解を招きかねないのではないかと,そういったような懸念がございます。それから,ここに明示的に法律行為の内容とか当事者の属性とかが書かれておりますので,本来公序良俗違反が問題になる場面というのは限られていると思いますけれども,いたずらにこういったものについて争点化してしまい,場合によっては求釈明を求められるというようなこともあるでしょうから,紛争が長期化してしまうのではないかと,そういったような懸念もございます。それから,ここで列挙されているものの中で,法律行為の内容,当事者の属性,法律行為に至る経緯その他といった,この辺は並びとしては何となく判りますが,財産の状況というようなところはちょっと唐突で異質ではないかと,そういったような指摘とかもございます。従って,現時点では乙案についてもまだ賛成できるような状況ではないということでございます。ただ,更に内部でも検討していきたいというふうには考えているところでございます。 ○安永委員 過大な利益を得る法律行為等が無効になる場合については,暴利行為について消費者問題の分野で多くの判例の累積もありますので,甲案の規定を設けていただきたいと考えます。民法90条の公序良俗の規定については,労働分野では裁判例を見ても,古くから女子若年定年制や,男女差別定年制,男女差別賃金制などのほか,産前産後休業取得,育児介護休業法に基づく勤務時間短縮措置と不利益取扱い,ユニオンショップ協定の規定の効力など幅広く適用されております。   この点,乙案は従来の規定に公序良俗の判断要素を盛り込むものであるため,公序良俗の射程が従来よりも限定される懸念があり,現状の案では賛成できません。 ○岡田委員 暴利行為に関して後ろの判例文を見ますと,消費者契約に関しても,これによってこういうことができるのであれば予測可能性というのでしょうか,消費者センターではできないかもしれないけれども,消費者が弁護士さん等専門のところへたどり着けば救済される部分があるのだという認識が相談員にもできてくるというふうに思います。今の条文からは,公序良俗と暴利行為というのはどうしても結び付きません。判例を見て初めて分かる状況ですので,,これは是非条文化していただきたいと思います。   それで,甲案,乙案ありますが,乙案というのは今の90条の部分を詳しく書いているという解釈に止まっているような気がして,ますます一般の人間には分かりにくくなっているように思います。他方甲案の場合は契約するかしないか合理的に判断するというくだりですごく分かりやすくなるし,また,今現在社会的に問題になっていることもここによって案外適用される場面がこれから出てくるのではないかと思いますので,甲案に賛成したいと思います。 ○松本委員 私自身は,甲案は当然のことであって,甲案を否定する気は全くないんですが,甲案が固定されるとマイナスがかなり出てくるのではないかという印象を持っています。というのは,要件の中に著しく過大な利益とか著しく過大な不利益という要件があって,これは消費者保護の場合,そこまでいくケースもありますけれども,そこまでいかないケースのほうが圧倒的に多いわけなので,これが規定されてしまうと民法の枠組みでは救済されないケースが相当に出てくるのではないかという懸念がございます。乙案のほうがその辺曖昧で,曖昧というか利益,不利益の部分は正面から掲げていないという形になっておって,考慮要素のみを上げているというふうにこの日本語からは読めます。   最後に当事者がその法律行為によって得る利益及び損失の内容及び程度をも考慮するというぐらいで,それも入ってくるけれども,著しく過大かどうかというような厳しいハードルは課していないわけなので,乙案のほうが柔軟に事案に適合して救済を図ることができるのではないかと思います。以前から状況の濫用あるいは相手方の状況に付け込んで,相手方の脆弱性を濫用して契約を取ることそのものを過大な利得を要件としない形で現代型の暴利行為あるいは現代型の公序良俗として認めるべきではないかという主張をしておりましたが,乙案は使いようによってはそれに一歩近付くような案になるのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 この点についても,今日お配りいただいています意見書といいますか,資料の13ページから14ページ以下で書かせていただいています。結論としては,甲案にも少し不安は残るのですけれども,方向としては甲案のような規定をやはり置くべきではないかと思います。今回この意見書として出させていただいたもので,改めて暴利行為に関わる裁判例を,戦後を中心にですけれども,相当たくさん見てみました。今日の部会資料の中でも後半のほうに出てくるものもありますが,それだけに尽きずかなりたくさんあります。肯定例だけでもたくさんあることが分かりました。それをもとに定式化すると,やはりこのような形におおむねなるのではないかと思います。   特に主観的要素に関しては,「相手方の困窮,経験の不足,知識の不足その他の相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することはできない事情」があることで,おおむねカバーすることができるのではないかと思います。「窮迫,軽率」というような従来から挙げられてきたものに尽きないもの,例えば従属状態を利用するとか抑圧状態を利用する,あるいは判断力が低下しているのを利用するというケースが相当程度あります。特に,今後高齢化社会が更に進むことを考えますと,この種のケースが想定されるのに,そういったものを拾えないような要素の挙げ方をするのは適当ではないと思います。その意味では,「相手方が法律行為をするかどうかを合理的に判断することができない事情があることを不当に利用して」とすれば,それらをカバーすることができるのではないかと思います。   他方の客観的要素に当たるもの,つまり「著しく過大な利益を得させ」又は「相手方に著しく過大な不利益を与える」という点に関しては,松本委員が御指摘された点は確かに従来の裁判例を見ていてもあります。今日お配りいただいているものでも,最後の例などは,保証をされられた例ですけれども,30万円の債務の保証を過大と見るかどうか。理由もないのに保証させられるのは過大だと言えなくはありませんが,客観的要素は相当幅のあるものが考慮されています。そこでは,主観的要素に当たるものの強さの程度とか,そもそもそのような負担を課せられる理由がおよそないかどうかというようなことなど,様々な要素を考慮して客観的要素の部分が判断されているようです。それが「著しく過大」なという言い方で拾えるかというと,少し拾えないのではないかと思うところです。   本来は「著しく」を入れるにしても,「過大な」ではなく「不当な」にしないと従来の判例法をそのまま写し取ることはできないのではないかと思います。しかし,いずれにしても,乙案ではなく,やはり甲案のような形で規定することによって,従来の裁判例の示している方向性をある程度形をとって示すことができますし,「著しく過大」は少し気になるのですが,これであれば何より今後の判例法の展開を阻害しない形で,むしろ今後の法形成を促すような立法ができるのではないか思う次第です。 ○大村幹事 私は先ほど松本委員がおっしゃった御指摘に共感するところもございます。乙案のほうが使い勝手がいいかもしれないという気もします。ただ,他方でこれも御意見があったかもしれませんけれども,乙案では十分に機能しないのではないかという懸念も表明されているかと思います。個人の意見で申しますと,甲案にいろいろ不満はございますけれども,これまでの様々な経緯を考えますと甲案は従前の判例法の連続性と高いのではないかと思います。乙案にはがうまくいくかどうかちょっと分からないところがありますので,安定感という観点から見たときには,甲案で意見を取りまとめるというのが妥当なのかと思っております。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。事務当局はよろしいですか。 ○中井委員 この問題については弁護士会としては是非とも取り入れていただきたい。具体的にはやはり今,山本敬三幹事,大村幹事がおっしゃられていますけれども,判例の実質取りまとめという意味からも甲案をベースに取りまとめをする方向でお願いをしたいと思っています。当初,なお反対だという御意見がございました。その御意見がこのまま維持されたときにどうなるのかという懸念は正直持ってはいるんですけれども,例えばこの山本敬三先生の今回の論文の中で取り上げられている判例,そして,今回の部会資料の後ろに付けられている判例,こういうものを見れば現実実務の運用としては一定甲案で示されたような主観的事情,客観的事情を考慮して相当程度判断が積み重ねられている,こういう実務の中にあって,なお反対されるのがなぜなのかということが正直理解できないでおります。これで規定を入れることによって何らかの濫用的な使われ方がするのか,しかるべき機関での御判断を安定的に出す基準としてむしろあったほうが,そういう混乱といいますか,なくすことができるのではないか。この規定を設けることによって何らかの紛争が更に出てくる,それで混乱するというのが余り想定できないように思うんです。   したがって,現在消極的な御意見をお持ちの団体におかれては,私としては是非前向きに検討をし直していただけないものかと思う次第です。 ○佐成委員 中井委員から御指摘いただいておりますとおり,私自身も,この部会資料に書かれている事例なんかを拝見しますと,当然こんなものはやはり公序良俗違反だろうというふうに感じるところではございます。けれども,これらを抽象化して明文化するということについては,まだ内部では非常に抵抗感がある,特に甲案という形ですることについては,非常に抵抗感があるというのが現時点での私の感触です。私自身がこの場で何と申し上げようとも,内部には非常に強い抵抗感があるというのは事実でございます。   他方,乙案につきましては,先ほどいろいろ問題点があるのではないかという指摘はしましたけれども,まだそれほどの抵抗感はないと感じております。甲案ほどに強い反対をしているわけではないというところであります。現時点ではそれぐらいしか申し上げにくいんですけれども,少なくとも甲案を支持するという具合になるには,内部の説得が相当必要になると思います。あるいは議論を相当しないと駄目かなという感じでございます。 ○岡崎幹事 甲案についてですけれども,今日の委員,幹事の先生方の御議論を伺っておりますと,甲案に対する評価がかなり分かれているという印象を持ちます。その背景には,どういうケースにおいて暴利行為的な公序良俗違反として無効にするかというところのコンセンサスが得られているのかという問題があるのではないかと思います。裁判所としては,いずれにしても内容的に見てこういう場合には無効になるというところのコンセンサスが得られるようにしていただかないと適用に困ることになるという感想を持った次第でございます。   裁判例を幾つか挙げておられますけれども,先ほども出てきておりましたけれども,例えばこの8番の裁判例などについては,30万の保証をしたという事案ですけれども,この事案を公序良俗違反で無効とすることの結論自体はそれでよいという感じはするのですけれども,これが客観的な要素を満たしているのかどうかというところについて,甲案のような定式にしたときにぴたっと当てはまるかというと,必ずしもそうでもないのかなという印象も持ちます。公序良俗違反として無効とする場合の裁判例の考え方において,例えば,法律行為をした者の相手方のいわば悪性といいますか,例えば勧誘方法が非常に不相当なやり方になっているとか,そういった相手方の悪性にわたるようなところもそれ相応に考慮されているのかなと思うのですけれども,そのような考慮要素が甲案の中に全て盛り込まれているのかというと,それは必ずしも従来の裁判例の考え方を包摂し切っていないのではないかという印象も持つところでございます。   他方で,乙案のほうについては,もう少し抽象度が高まっているような感もございまして,適用において支障が生ずる余地が少なくなっており,そういう意味で工夫された案になっているかというふうには思うのですけれども,この部会資料の中にも書かれておりますように,乙案のよって立つところとして,いわば公益的な公序というところだけではなくて,いわば私益的なところも取り込むことができるようにということで乙案が組み立てられているということです。それはそうなのでしょうけれども,この乙案の文言自体を卒然と読むと,いささか私益的なところに力点が置かれすぎていて,元々想定されている公序良俗の核になるところがこれで十分に読み取れるのかどうか,また,利益とか不利益といったところに力点が置かれているかのように読めるわけですけれども,それが果たしてそれでよろしいのかどうか,その辺りを十分議論していく必要があるのではないかと思いました。 ○岡委員 弁護士会の意見は中井さんが言ったとおりでございまして,この点についての明文化を強く望んでいるものであります。甲案の方向性が多いんですが,松本先生がおっしゃったような不安感もございまして,今の岡崎さんの話もそれに通ずるところだろうと思います。これはやはり著しく過大なというのが客観要件をきつく表現しすぎておりますので,ここを著しく不当な利益,著しく不当な不利益,こういう表現であれば意味するところは従来の判例の整理であると思います。甲案で過大を不当に変えるという案を是非検討に残してほしいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○内田委員 個人的な意見として二つコメントしたいと思いますが,一つは乙案についてです。柔軟でよいというご意見もあったのですけれども,90条という規定は古典的な公序良俗にも適用されますので,いわゆる賭博契約とか売春契約とかそういったものにも適用されるわけです。そういった場面では当事者の属性とか財産の状況とか,あるいは得る利益の程度といった要素は考慮しないわけで,古典的な適用場面で考慮すべき要素が何か加重されたような印象を与えないかという懸念を持ちました。先ほど岡崎幹事がおっしゃったことも同じようなことかと思います。それが一つです。   もう一つは,もう少し大上段の話なのですが,暴利行為についてのルールは比較法的にはどこの国にもありまして,甲案は比較法的に見るとかなり厳しい部類に属するだろうと思います。だからこそ今もう少し緩和しろという意見もあったわけですが,しかし,厳しい内容でも反対であると,経団連だけではなく商工会議所も含めて経済界から一様に非常に強い懸念が表明されている。この懸念は実務的な観点からの,経験に裏付けられた懸念だろうと思います。そういうものとして重く受け止める必要があると思うのですが,同じく経済界の観点から,もう少しグローバルにものごとを見ますと,どこの国にもルールがありますので,日本の市場でビジネスをやるときに暴利行為についてはどうなっているのだろうと民法を見ても,ルールが明示されていないという状態は,日本の市場の信頼性という点からいうと,経済界にとっては必ずしもプラスにはならないのではないか,そういう考慮も必要ではないかと思います。現在,世界各国で19世紀的な契約ルールの現代化が進められているわけですが,そういういろいろな国の立法過程と比較して,日本の今回の改正の非常に大きな特色は,比較法といいますか,グローバルな視点からの考慮が余り正面切って議論されないということのように感じます。   しかし,実はこの点も非常に重要な要素でして,どこの国にもルールがあり,それぞれに特色があるという中で,日本の裁判例から抽出されたルールを明示して,日本の市場のルールの透明性を図るということ自体は,経済的な観点からも合理性があることではないかと思います。経済界の方々には,そういうことも一つの考慮要素として検討していただければと感じます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○大村幹事 今,内田委員から御発言があった点につきまして私の意見を申し述べさせていただきたいと存じます。   先ほど岡田委員だったでしょうか,公序良俗違反と暴利行為とがなかなか結び付かないとおっしゃったかと思います。この点は,実は,内田委員がおっしゃった点とも関わると思うんですが,比較法的に見たときにこの規定が公序良俗規範の下位規範として位置付けられているというのは必ずしも普遍的なことではないのだろうと思います。乙案がいいのではないかという松本委員の御議論には,公序良俗の固有の規範から外れた方向へ法形成できるのではないかという含みもあるではないかと思いますけれども,日本ではこの規範を従来公序良俗違反の一類型としてきたということで,公序良俗規範と結び付けるということにはメリット,デメリットの両面があると思います。   これは立場によってどちらがメリットでどちらがデメリットかというのは違ってくると思いますけれども,まず一つは,公序良俗と結び付けない形でこの手の規範を置くということになりますと,かなり広い範囲に適用をしていくということが可能になるのではないかと思います。そのことについてはなかなかコンセンサスが得られにくいのではないかと私は思います。そう考えますと,公序良俗違反の一分肢としてこの規範を置いておくというのが一つの穏当なやり方なのではないかと思います。   他方で公序良俗規範の一分肢として置いて,言わば二項的なものとしてこれを置くということによって,これも内田委員もおっしゃっていましたし,岡崎幹事もおっしゃっていたことだと思いますけれども,社会的な価値あるいは公益的な価値に反する古典的な公序に関するものが一方にあって,そして,個人の利益を保護するというものが2項にあることになります。1項,2項だけかというと,それらにはうまく収まらないというものも出てくるわけですけれども,1項と2項が併存することによって,2項を勘案して1項の中で処理をしていくことが可能になるところがあるのだろうと思います。現に判例もそのような考え方でこれらの規範を運用しているといえましょうし,私は余り詳しくありませんけれども,ドイツ法なども同じような考え方をしているというところがあるのではないかと思っております。 ○永野委員 この問題で判例は法創造の過程にあるのだろうと思いますけれども,どのような規定を置くのが今後の判例の生成,発展に役に立つかについても今日御議論があったのだと思います。この辺りは将来の予測に関わるものだと思いますけれども,仮に甲案のような形である程度明確な要件を設定したということになりますと,やはり訴訟の実際の場においては,そこをめぐって攻撃防御が行われることになってくるのだろうと思います。   そういった場合に,甲案の中で著しく過大な利益あるいは不利益ということが書かれていますけれども,立法で要件を設けるということになってくると,そこから外れていくということは裁判の実務においてかなりハードルの高いものになるのではないか。判例からの乖離の部分については,判例の射程をどういうふうに読み込んでいくのかという中で比較的自由に事案ごとの区別ができるところがあるのだろうと思いますが,法律で明確な要件を定めた場合に,そこから乖離していくというのがどれくらい可能かというのは今後の将来の予測にも関わる問題だろうと思っています。   今回裁判例を幾つも紹介していただいていて,それぞれの事案はよく理解できるところがあるわけですけれども,これらの中では著しく過大な利益ということだけが着目されているものはそれほど多くないのではないか。むしろ勧誘方法の社会的な相当性といった点に裁判所が力点を置いて公序良俗違反としているものもあるのではないか。そういうことも考えると,当初松本委員の御発言の中にもあったように,甲案のような形を置くのが今後の判例の生成,発展という面で本当にいいのかどうかは,もう少しよく考えてみる必要があるという印象を持っております。 ○山本(敬)幹事 柄にもなく抑制しすぎたというお叱りを受けてしまいましたけれども,論文の中では,「不当な」とすることによって初めてこれまでの裁判例の考え方を受け止めることができるとしていまして,今出ているような御意見は,私としても当然賛成するところです。可能ならば,このような形で規定し直すことによって,現在の判例法を適切に示し,かつ今後の判例法の形成を阻害しないものになるのではないかと思います。   乙案については先ほど言及しなかったのですけれども,甲案がどうしても駄目だというときに乙案も駄目かという問題はさて置くとしまして,乙案の定め方については,私益的な公序に偏った印象を与えるという指摘がありました。それと重なりますが,やや違うものとしては,90条の規定は様々な使われ方をしていて,法形成をするための過渡的な受け皿になってきたという側面があります。そこでは,例えば社会法的な考慮を取り込んで公序良俗が判断がされていく中で,それに即した特別な判例法理や立法に結実していくという形で使われてきたということがあります。   その意味では,考慮要素がある意味ではオープンになっているというのが一般条項の一般条項たるゆえんでして,考慮要素を書くことによって判断の方向付けができるようになる面はあるのですけれども,そうすることが同時に一般条項としての機能を阻害するおそれも全くないわけではありません。そうしますと,考慮要素を書くとするならば,やはり一定の類型を念頭に置いて,その類型に関する考慮要素として書くのであれば,今のような問題は出てこないのですけれども,現在の乙案のように,一切の事情を考慮するという書き方をするのは,オープンといえばそうなのかもしれませんが,今言いましたような一般条項の機能という観点からしますと,将来を考えたときに本当にこれでいいのかどうかは慎重な検討を要すると思います。 ○松本委員 現在の甲案であれば,乙案のほうがまだましだという点で佐成委員と完全に一致しているんですけれども,ベクトルが違うということは皆さん了解されていると思います。佐成委員は濫用されるという方向で甲案は適切でないという評価をされていて,私は甲案では使えないのではないかと,つまり制限されすぎているのではないかと。これで固定されると制限されすぎて,更なる法発展も阻害するのではないかという意味で逆の方向からそれぞれ批判をしているということです。   では,乙案がいいかというと,私それほどいいとも思わないんですね,正に山本敬三幹事もおっしゃったように。しかし,甲案と乙案とを比べれば,まだ乙案のほうが可能性はあるのではないかという意味で消極支持です。甲案のほうで山本幹事のおっしゃったように,「著しく過大な」というのを外して「不当な」というふうにすれば,それはかなりいいと思いますが,そうだとすると,不当な利益という要件と主観的な相手方の事情に付け込んで利益を得るという要件がほとんどイコールではないかという気がするわけです。そういう形で相手方の脆弱性に付け込んで契約を取る,それによる利益は過大であろうが相当な額であろうが評価的には不当な利益なんだということに恐らく結果としてなるんだと思うので,そうなると主観,客観二つの要件があるのではなくて,主観的というのもちょっと誤解を与えるかもしれないんですが,勧誘態様のところを中心にここでいうところの現代型暴利行為を考えるという形で,もう一度文言を精査するというのが一番私としては賛成できる立場だということになります。 ○永野委員 先ほどの発言で言い漏らしたことを今,松本委員がおっしゃられたのですが,では代わりに甲案で不当な利益という御意見もあったのですが,不当な利益というと,今の御提案よりもより一層評価概念的なものになってきて,対価の均衡が著しいかどうかは,ある程度客観的に見えるわけですけれども,不当な利益ということになると,正に利益の移転する過程そのものの勧誘過程も含めての話になるものですから,そういう意味では要件を設定したようであっても抽象度が高まっている。勧誘形態そのものの部分を強調されるのであれば,これはそういったいわば法律行為の取消類型を別途に作るような話になってきてしまうという印象を持っています。   いずれにせよ,裁判所のほうで法ができた場合適用するということになりますので,そういう無効にし得るような法律行為の類型を作り上げていくということであれば,そこの部分の中身についてこの場でも委員の間で十分コンセンサスを作っておいていただかないと,後で適用に困るということになってまいりますので,どのようなものを無効にするのかという辺りについての議論を尽くしておいていただく必要があるという印象を持ちます。 ○鎌田部会長 御指摘のように議論を尽くしたいと思いますので,是非,皆さまから御発言いただければと思います。 ○深山幹事 甲案,乙案それぞれに対してそれぞれの意見が大分出ているところですけれども,暴利行為と言われるようなものあるいはもう少しそれを広げた一定の行為について,古典的な公序良俗違反以外の場面でも法律行為を無効にするべき場面があるということについては,最低限共通のコンセンサスがあるのかなというふうに私は聞いておりました。   それをどう明文化するかというところでいろいろな見方があるわけですけれども,実務的な感覚からすると,これまでの裁判の中で90条違反を主張して争われるケースというのは多数あったと思いますがもっとも,90条違反の主張をしてもそうそう簡単に通るものではないという感覚を持っております。しかしながら,そういう実感を持ちつつも,他方で相当数の判例が集積されているというのも事実であります。その多くは暴利行為と言われるような不当な利益といいますか,過大な利益あるいは過大な不利益というものが中心ですが,利益そのものあるいは不利益そのものは必ずしも過大とまでは言えなくても,勧誘形態等において法秩序に反するという事案についても判例が残されているということだと思います。   すなわち,利益や不利益の過大性と,そのプロセスのようなものが相関的に判断されて,どちらかにそれなりに重きを置いて無効とする判断が,例外的なんでしょうけれども,相当数の判例を残しているというのが現時点での実務なんだろうと思います。これだけ積み重ねられてきた判例,実務をやはりここで明文化すべきだろうというふうに私は考えますし,それが国際的な潮流でもあるということであれば,なおのことこれまで積み上げてきた判例を是非明文化するという観点から何らかの規定を置くべきだろうと思います。今示されている甲案,乙案それぞれに問題があるにしても,私自身は,乙案というのはある意味柔軟ではありますものの余りに漠としていて,一般条項らしいといえばらしいんですけれども,一つの無効類型としてはやや抽象度が高すぎるような気がします。   現行法の90条を残した上で,さらに甲案のような類型を90条の一つの規定として残す,先ほど大村先生が言われたような分子として残すというような定め方が,一番望ましいような気がいたしております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   それでは,御意見いただいた点でやや明確化に欠けると言われているようなところについては,更に明確にするようなことを含めて事務当局で引き続き検討をさせていただきます。   ここで15分間の休憩を取らせていただきます。 (休     憩) ○鎌田部会長 再開させていただきます。   部会資料73Aの「第4 意思能力」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 意思能力について御説明いたします。   部会資料73Aの「第4 意思能力」は,意思能力を有しないものの法律行為は無効とする旨の規定を設けるものです。中間試案においては,意思能力をその法律行為をすることの意味を理解する能力と表現して,その意義を明らかにすることとされていましたが,この表現の意味が分かりにくいという批判があることや,意思能力という文言で表される能力の内容についてはおおむね共通認識があると考えられることから,意思能力の意義について規定を設けることはせず,単に意思能力を欠くものによる法律行為は無効とする旨を明らかにするにとどめることとしました。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○岡委員 弁護士会では,中間試案の規定のほうがいいという意見も少数有力にございましたが,大多数は素案に賛成であると,こういう意見のほうが多数を占めました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○山本(敬)幹事 私自身はもちろん,中間試案のような定め方であるべきだというように考えています。ただ,なかなかコンセンサスが得られないということでこのようになっているのだろうと思いますが,その説明として26ページで,意思能力という文言は使われていて定着しているので,その内容を更に具体化する必要は乏しいというのは,おかしいだろうと思います。必要が乏しいことはないわけであって,基準が明確でなければ,あるいは基準がなければどのような場合に意思能力があり,あるいはないかという判断ができないことになりますので,必要性はあるということでないとおかしいだろうと思います。必要性がある上で,定式としては中間試案のような定式が望ましいとは思いますけれども,中間試案の注1にありますように,必ずしも一致した意見が得られていない。このような現状の説明でないと,全くもっておかしいと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 説明の仕方については工夫をしてもらうようにいたします。ということで事務当局もよろしいですね。 ○岡田委員 25ページのところに大変高齢者の問題を詳しく書いていただいて,ありがとうございました。意思表示のこの規定が入ったからといって高齢者,認知症に掛かった方がダイレクトに救済はされないと思いますが,ただ,この規定が入ることによって消費者契約法に影響が出てくるように考えています。というのは,消費者センターに入ってくる相談は本当に高齢者の判断力が欠落した方々の契約というのが圧倒的に多いものですから,何らか手を打たなければいけないというふうに思っていまして,それに関してきっかけになる形でこの規定が入ってくれればというふうに思っています。   中間試案のほうが分かりやすいのですが,それが無理であれば素案でも入ったほうがいいと思っています。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○中原委員 全銀協で議論しましたが,今回の提案の内容であれば明文化することについては異存ないということでした。中間試案の「その法律行為をすることの意味を理解する能力」というのは,曖昧であり,解釈に幅が生じることになりかねないので,端的に「意思能力を有しない者の法律行為は、無効とする」にした方がよいとの意見です。 ○鎌田部会長 ほかにいかがですか。 ○大村幹事 私もこの段階ではこれでやむを得ないのかというか,これで結構なのではないかと思っております。ただ,ここへ至るまでに,直前に中原委員から御指摘があった「その法律行為をすることの意味を理解する能力」ということをめぐって随分議論してきましたので,その経緯が現れるような説明をしていただきたいと思います。   個人的には賛否は別にして,中間試案の第2の規定が置かれるというのは非常にインパクトのあることだと思っておりました。そう思っている方々も少なくないと思いますので,説明はしていただいたほうがよいかと思います。 ○鎌田部会長 では,その点よろしくお願いいたします。ほかによろしいですか。   それでは,次に進ませていただきます。「第5 債権者代位権」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○金関係官 御説明します。「第5 債権者代位権」の「1 債権者代位権の要件」の(1)では,民法第423条第1項ただし書について,債務者の一身に専属する権利のみならず,差し押さえることができない権利についても代位行使をすることができない旨を定めることとし,(2)では,民法第423条第2項のうち裁判上の代位の許可に関する部分を削除することとし,(3)では,強制執行により実現することのできない債権を被保全債権とする債権者代位権の行使は許されない旨を定めることとしています。いずれも中間試案からの実質的な変更はありません。   「2 代位行使の範囲」では,債権者代位権の行使の範囲を被保全債権の額の範囲に限定する旨を定めることとしています。中間試案では,被保全債権の額の範囲を超えて被代位権利の全部を行使することができることとしていましたが,これに対しては代位行使の範囲を広げると代位債権者が受領した金銭を費消・隠匿するなどした場合に,債務者や他の債権者にとっての不都合が大きい旨の指摘があることや,この後に説明します「3 直接の引渡し等」において相殺禁止に関する明文の規律を設けないこととしていることなどを踏まえ,被保全債権の額の範囲に限定することとしました。   「3 直接の引渡し等」では,代位債権者は被代位権利の目的物を自己に対して直接引き渡すよう求めることができる旨を定めるとともに,相手方が代位債権者に対して直接の引渡しをしたときは,それによって被代位権利は消滅する旨を定めることとしています。中間試案では,以上の規律に加え相殺禁止に関する明文の規律を設けることとしていましたが,これに対しては債権者代位権における相殺による債権回収機能は,強制執行制度を利用すると費用倒れになるような場面において強制執行制度を補完する役割を果たしていることから,そのような実務上の機能を一律に否定する弊害が大きい旨の指摘などがあることや,仮に相殺禁止に関する明文の規律を設けないとしても,相殺権濫用の法理などによって相殺が制限されることも考えられることなどを踏まえ,相殺禁止に関する明文の規律を設けることはせず,実務の運用や解釈等に委ねることとしました。   「4 相手方の抗弁」では,相手方は債務者に対して主張することができる抗弁をもって代位債権者に対抗することができる旨を定めることとしています。これについては中間試案からの実質的な変更はありません。   「5 債務者の取立てその他の処分の権限等」の(1)では,債権者代位権が行使された場合でも,債務者は被代位権利の処分をすることを妨げられない旨を定めるとともに,相手方も債務者に対して履行することを妨げられない旨を定めることとしています。これに対し,(2)では,債権者代位訴訟が提起され,債務者への訴訟告知がされた場合には,債務者は被代位権利の処分をすることができない旨を定めるとともに,その場合でも相手方は債務者に対して履行することを妨げられない旨を定めることとしています。   中間試案では,債権者代位訴訟が提起された場合でも,債務者は被代位権利の処分をすることを妨げられない旨を定めることとしていましたが,これに対しては,債権者代位訴訟が提起された場合には被保全債権の存否等を裁判所が判断することになる上に,債務者への訴訟告知によって債務者の訴訟参加の機会も一応保障されると言えるので,債務者の処分権限を制限したとしても,債務者の権利に対する耐え難い侵害とまでは言えない旨の指摘などがありました。これらを踏まえ,債権者代位訴訟が提起された場合については現在の判例の結論を維持し,債務者は被代位権利の処分をすることができない旨を定めることとしました。   「6 訴えによる債権者代位権の行使」では,債権者代位訴訟を提起した代位債権者は,債務者に対する訴訟告知をしなければならないこととしています。これについては,中間試案からの実質的な変更はありません。   最後に,「7 登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位権の行使」では,いわゆる転用型の債権者代位権の代表例として登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者がその譲渡人の第三者に対する登記又は登録を請求する権利を代位行使することができる旨を定めることとしています。中間試案では,転用型の債権者代位権の一般的な要件として,いわゆる必要性,相当性,補充性の3要件を定めることとしていましたが,必要性及び相当性の要件については,その適用範囲が不明確であるため,過度に広範な適用を招きかねない旨の指摘があり,補充性の要件については,代位行使を限定するという観点から補充性の要件を設けるべきである旨の指摘がある一方で,代位行使を過度に限定するのは相当でないという観点から補充性の要件は設けるべきでない旨の指摘もあります。これらの状況を踏まえ,転用型の債権者代位権の一般的な要件に関する明文の規律は設けずに,1(1)の規律又はこの7の規律の解釈や類推適用等に委ねることとしました。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○深山幹事 「1 債権者代位権の要件」についてでございます。(1)のところで「自己の債権を保全するため」という部分について,中間試案ではその後に「必要があるときは」という記載がされていたところ,これが削除されております。先ほどの金さんの説明では,ただし書の点以外に実質的な変更はないというふうにおっしゃったんですが,「必要があるときは」というのをあえて削除した理由を御説明いただきたいですし,いずれにせよ,私は「必要があるとき」は残すべきだろうというふうに考えております。ここは従前この部会でその要件についてかなり時間をかけて議論をし,取り分けいわゆる無資力要件について規定を入れるとしたらどう入れるかということを議論して,最終的にはかなりシンプルになったわけですが,それでもその名残といいますか,「必要があるときは」という文言を現行法に加えられた表現で中間試案にまとめられたというふうに私自身は理解しております。それが今回削除されるということになると,現行法どおりではあるんですけれども,全く要件について手を加えないということにもなります。   最終的に議論の落ち着いたところとして,「必要があるときは」という言わば客観的な必要性を従来でいうところの無資力要件の表れとして表現しているのではないかと理解しておりましたので,残すべきだと思いますし,削除した理由があるのであればお聞かせいただきたいと思います。 ○松岡委員 全く同じところが気になりました。従来から保全の必要性という要件が現にあることは共通の理解になっていたと思います。金銭債権の場合に無資力要件を書き込むかどうかについては議論がありましたけれども,保全の必要性自体を否定する議論は一切なく,むしろ明確化するためにはそれをきちんと書くべきだというのが中間試案までで意見が一致したところと思います。それを現行法の表現に戻してしまいますと,せっかくの議論が吹き飛んでしまいます。   後でまた別に発言をさせていただこうと思いますが,7の転用事例のところにつきましても,案では登記請求権の代位行使だけが書かれていて,そこには何の限定もありません。しかし,考えて見ればそれは当たり前で,不動産登記には登記連続の原則がありますので,登記請求権の代位行使では,自らの登記請求権の保全の必要性は自ずから明らかであり,だから必要性について何も書かれていないだけだと考えられます。しかし,登記請求権の代位行使だけを規定して他の転用について何も規定せず,かつ1の債権者代位権の本来的適用について保全の必要性について規定しないことになりますと,債権者代位権は主観的に保全のためという目的さえあれば行使できるという誤解を招きかねず,非常に困ると思います。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御意見があれば出していただければと思いますが,特にないようでしたら事務当局から。 ○金関係官 深山幹事や松岡委員から御指摘いただいたとおり,ここは元々論点としては無資力要件を明記するという提案がされていましたけれども,それについてはいろいろと異論があり,無資力要件は明記することができない,しかし,現行法の「保全するため」よりも「保全するため必要があるときは」という文言のほうが,保全の必要性という限定的な要件を表現することができるのではないかという整理をしておりました。ただ,今回は,中間試案から「必要があるときは」という文言を削る理由というよりも,むしろ現行法に「必要があるときは」という文言を加えることの具体的な必要性が求められる段階であることを意識して,そのような文言を加えることによって無資力要件などを含む要件の限定という意図が具体的に読み取れるのかどうかという観点から,必ずしもそうではないのであれば,現行法の文言をあえて変えることの説明はなかなか難しいのではないかと考えております。内容としては,無資力要件を明記する場合,「必要があるときは」という文言を加える場合,現行法の「保全するため」という文言を維持する場合,この3つは全て同じ意味で,特に中身を変える意図はありませんけれども,ただ,無資力要件の明記を断念したことを前提に,「保全するため」と「保全するため必要があるとき」とでどれほどの差があるのかを説明することは必ずしも容易ではないということではないかと思います。   もう一つ,転用型についての御指摘も頂きましたけれども,そこは,7のところでいわゆる転用型の典型例が示されることによって,少なくともこれに類するものであることが前提となりますので,必ずしも何でも認められるわけではないということが表現されているのではないかと考えています。 ○松岡委員 説明としては一応理解いたしますけれども,現行法の表現とは変えず,転用について必要性とか補充性などの要件の限定を何も加えないことがもたらすメッセージは,むしろ逆のイメージを与えるから適切でないと思います。 ○道垣内幹事 松岡委員に完全に賛成です。 ○中田委員 深山幹事と松岡委員に賛成です。現在の規定で足りているのだから,それに付け加える必要はないというような言い方をしますと,分かりやすい民法という当初の趣旨がどこかに飛んでしまうのではないかなという気がいたします。 ○筒井幹事 現在の規定で足りているからという理由のみを申し上げているわけではなくて,条文に新たな文言を付け加える場合には,何を意図してその文言を付け加えるかが問題になると思います。「必要があるときは」と付け加えることの意図について,これまで議論に参加してきた人の間では共有されているものがあるのだろうと私も思いますけれども,いざ実際に条文化するに当たって,その責任を負っている立場として改めて検討したときに,やろうとしていることと,「必要があるときは」という文言を加えるという改正内容とがうまく一致していないという問題に直面したということだと思います。 ○道垣内幹事 やろうとしていることは松岡委員が正におっしゃったように,「自己の債権を保全するため」という文言だけでは,本当は主観的にそういう目的を持っていれば大丈夫であるという解釈も考えられるのですが,民法が制定され100年の間にそういう解釈ではなく,それを無資力要件と呼ぶかどうかはさておき,必要性があると解釈されるようになってきた。それを分かるようにするということで足りないのでしょうか。 ○鎌田部会長 教科書的には原則型・転用型を通じて「保全の必要性」という包括的な要件があって原則型と転用型とで少し中身の判断の仕方が違うだけだというような説明をする向きもあるので,そうなると,素案の条文と実際の運用の間にずれがあるではないかと,こういう指摘が出てくるだろうと思いますので,その点少し検討をしていただければと思います。 ○山野目幹事 別のところを話題にいたしますが,30ページの3の直接の引渡し等のところについては,中間試案と比べた際に,ただいま金関係官から御説明もありましたとおり,相殺禁止の考え方を維持するかどうかということについて大きな変化があったものと理解いたしました。このことについて感じたことを申し述べさせていただきます。   元々相殺を禁じられる債権者が債権回収を果たそうとすると,自分を債務者とする債権を差し押さえなければならないというような一般から見て分かりにくい法律関係処理を強いるという側面がありましたし,相殺を一定期間に限り禁止するという考え方もあり得ないではありませんが,これにつきまして私は第5回会議においてエレガントな手法であるとは見られないといったようなことも申し上げました。相殺禁止の考え方が見送られたことは,したがいまして,やむを得ないと感じますし,今般は実体法の改正でありますから,ここにとどまらざるを得ないとも感じます。しかし,課題の解決が尽くされたものではなく,今後とも,複数の代位訴訟や代位訴訟と取立訴訟の競合がある場合や,さらに代位訴訟の帰結を債権執行手続に連携させる方策などについて折に触れ検討が続けられるべきであるというふうに考えます(山野目・法曹時報62巻10号・11号参照)から,この機会に際して一言申し上げさせていただきたいと考えます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○松岡委員 5の(2)の債務者の取立てその他の処分の権限等について,私の理解に根本的な誤解がある可能性もあるので,そうだとすれば御指摘いただきたいと思います。今回のご提案では,代位訴訟を起こして,その訴訟告知をしたときに限って債務者は処分禁止となる,というように変わっています。私がよく分からないのは,第三債務者は履行することを妨げられないとして,第三債務者が履行として持ってきたら債務者は受け取っていいのですか。代位訴訟の対象になっている債権を消滅させること自体がよろしくないということであれば,受け取ることもできないのではないでしょうか。そうではなく,債務者は積極的に第三債務者に請求することはできないけれども,第三債務者が持ってきたら,弁済を受領して構わないことになるのでしょうか。   また,中間試案を維持する部分が(1)では残っています。そこでは第三債務者からの弁済を禁止するのであれば仮処分等を打てばよく,あえて処分禁止とか弁済禁止を規定に入れる必要はないという御説明がされています。そうだとしますと,(2)は代位訴訟を起こす場合ですから,処分禁止の仮処分を打っておくのが常識的で,中途半端な処分禁止を規定せずに(1)同様に中間試案のとおりでいいのではないでしょうか。 ○金関係官 まず2点目についてですけれども,代位訴訟を起こすのであれば当然仮差押えをすべきだということでしたが,仮差押えをしないでも代位訴訟で基本的にそれを代替することができるという理解が主張されているところですので,代位訴訟を提起する際に当然仮差押えが必要であることを前提に制度設計をしてよいのかどうかが正に悩ましいところではないかと考えております。パブコメの意見などでは,代位訴訟まで提起したのであれば,それは仮差押えと等価値とまではいかなくても,少なくとも債務者が被代位権利を処分したりすることは否定してもおかしくないのではないかということが指摘されています。そのような指摘などをも踏まえますと,今回の案が一つの落ち着きどころではないかとも考えております。   次に,処分禁止と弁済禁止との関係についておっしゃった1点目についてですけれども,ここは一般的にといいますか,むしろ民法の文献などでは,現在の判例法理で債務者の処分が制限されていることを前提にしても,第三債務者は弁済禁止の効果は受けずに,債務者に対して弁済することができると言われているところではないかと思いますので,それを明文化したつもりです。もちろん,松岡委員がおっしゃったとおり,債務者は取り立てることはできないけれども第三債務者が持ってきたら受領することができるというのは不自然ではないかとも考えられますけれども,一応それは現在でもそのように扱われていると説明することが可能だろうと思われますし,例えば非訟事件手続法においては,裁判上の代位の許可の告知がされたときは,債務者は被代位権利の処分を制限されると規定されていますけれども,第三債務者の弁済禁止までは規定されておりません。それこれを踏まえますと,こういう書き方も選択肢としては十分にあり得るのではないかと考えております。 ○松岡委員 最後に言及された非訟事件手続法で告知がされた場合には,第三債務者も弁済できないと私は理解しておりました。金関係官は一般的には第三債務者は弁済できると理解されているとおっしゃいますが,債務者の処分禁止については確かに議論されていますけれども,第三債務者が弁済できるかどうかについて必ずしも十分議論されているようには思えません。もしこの御提案のように考えますと,債権の弁済受領は債権の処分ではないことになるのですが,そのような理解でいいのでしょうか。根本的に非常に疑問を感じます。 ○金関係官 まず弁済禁止の効果を認めるべきではない実質的な根拠として指摘されているところを申しますと,第三債務者にとってみれば,訴訟上であれ訴訟外であれ債権者代位権が行使されたというだけで,なぜ弁済が禁止されてしまうのかというところが,やはり問題が大きいのだろうと思います。第三債務者は,少なくとも債権者代位訴訟が提起された段階では,その債権者代位権の行使が適法かどうかすら分からないわけですし,そういうことも踏まえますと,弁済禁止という重大な効果まで認めるのはやはり問題が多く,そのような重大な効果は仮差押えをした場合に限られるべきであるという価値判断があるように思います。   次に,その考え方が一般的かどうかという点については,難しい問題ではありますけれども,例えば注釈民法などでは,処分禁止の効果はあるけれども弁済禁止の効果はないと明確に説明されております。 ○松岡委員 判例が従来はむしろそうは考えてこなかった,処分禁止は同時に弁済禁止でもあると考えてきた,というのが当時の通説として紹介されていませんか。それはともかく,金関係官がおっしゃったのは誠にもっともだと思いまして,だからこそ弁済はできるし,債務者も第三債務者から受領もできる。そうでしたら別途仮処分をかけない限りは,債務者は処分ができるとして,中間試案を維持してなぜおかしいのでしょうか。中間試案の見解であれば前後矛盾は生じませんから,より良いのではないか。先ほど申し上げた趣旨はそういうところも含んでいます。 ○山本(和)幹事 今の松岡委員の御指摘を伺ってなるほどと思ったんですが,この文言として取立てその他の処分をすることはできないというのは,債権の差押え命令の債務者への効力と全く同じ書きぶりのように思えるんですが,債権差押えの場合には,やはり受領しちゃいけないということまで含んでいるのではないですかね。もちろん債権差押え命令は第三債務者の弁済も禁止していますけれども,債務者に対する命令の内容としては取立てその他の処分を禁止するという中には,持ってきたものを受領するということも禁止しているのが含まれているようにちょっと自信はないんですが,思うんですけれども。そうだとすると,何か同じ文言を使うということは,ちょっと何か意図されていることと違う可能性はあるような気もします。 ○金関係官 例えば非訟事件手続法は,「取立てその他の処分」ではなく,単に「処分」が禁止されるとだけ書いていますけれども,その書き方だとよいということなのでしょうか。それとも,「処分」を制限すると書く以上は受領も制限されるのでやはり問題が残るということなのでしょうか。もし前者であれば,「取立てその他の」という文言を書かずに規律することも考えられるとは思いますけれども,むしろ後者のお考えであるように思いましたので,いずれにせよ御指摘を踏まえて検討したいと思います。 ○筒井幹事 書き方の問題はもちろんいろいろあり得ると思いますので,今の指摘を踏まえて検討したらいいと思うのですが,実質に関しての最初の松岡委員の質問に対しては,ここで処分禁止をかけているのは債務者が債権譲渡をしたり相殺をしたり,そういうことが禁止されるということだと思います。積極的な取立てをすることもそうなのかもしれません。他方,第三債務者に対しては弁済禁止をかけないので,その弁済を債務者が受領するという限度では差し支えがないという,実質においてはそのような法律関係を狙っているわけです。ですので,それでよいのであれば,あとの書き方の問題は改めて十分考えようと思います。その実質が適当でないという御意見なのだとすれば,更にその点についての御議論をお願いしたいと思います。 ○畑幹事 私も松岡委員と同様,実質として余り適当でないという感じが個人的にはしております。中間試案までは処分禁止が掛からないということで来たわけですし,それにそれほど大きな御異論もなかった,少なくともこの場ではなかったように認識しておりますので,パブリックコメントの結果なども踏まえても,それを変えるほどの状況ではないような気がしております。  事務当局としてはいろいろ御配慮になったのかもしれませんが,ただ,やはり前にも申し上げたことがあると思いますが,訴えの提起で処分禁止が掛かるというのは余りほかにはない話でありますし,しかも,34ページの説明を拝見すると,訴訟が終われば処分禁止の効果もぱっと外れるということで,そうすると,その瞬間処分できるということなので,何かちょっと中途半端なよく分からないことになっているのではないかという気がいたします。   それから,少し話が戻って,今の問題から少し外れますが,いずれにしても第三債務者は自分の債権者に弁済できるということが前提になっていて,それは今のところ余り御異論が出ていないのですが,そのことと3に戻っての直接引渡しプラス相殺もできるということが組み合わさりますと,これも前にも申し上げたのかもしれないのですが,第三債務者が要はどちらに払ってもいいと。かつどちらに払うかで全然状況が変わってくるわけですね。それが制度としてスマートなのかなという感じがいたします。私は直接引渡し自体についてもちょっと疑問を持っており,今日も大阪弁護士会有志の御意見は若干ネガティブに動かれたようですが,取りあえず以上申し上げておきます。 ○金関係官 パブコメでは先ほど少し説明しましたとおり,債権者代位訴訟を提起した場合にまで処分禁止が掛からないのは相当でないという意見があったのですが,むしろ過去の部会や分科会で議論されたのは,それとは別の観点のもので,債権者代位訴訟を提起しても処分禁止が掛からないとなると,その後の債務者による訴訟参加の形態に影響が及んでくるという点だったと思います。   代表的な問題としては,処分禁止が掛からない以上,債務者は債権者代位訴訟に共同訴訟参加という方法で当事者として参加することができることになりますけれども,直接の引渡請求が認められる以上,代位債権者は自分に払えという請求の趣旨を立て,共同訴訟参加をした債務者も自分に払えという請求の趣旨を立てることになると思いますので,共同訴訟参加をした後の請求の趣旨がそれぞれ矛盾するものになっていて,問題があるのではないかという点が指摘されました。また,共同訴訟参加をしますと必要的共同訴訟になりますので,債務者が訴訟活動を制限されたりしますけれども,そのことと債務者に処分禁止が掛からないこととが整合しているのかといった点も指摘されました。   今回の案を出すに当たっては,部会や分科会でそういった指摘がされたことも事務局としては意識せざるを得ないところでしたけれども,今の御意見を伺っていますと,むしろそれらの点はそれほど気にする必要はなくて,処分禁止は掛からないことを前提に,債権者代位訴訟への訴訟参加の方法や参加後の訴訟活動に関する規律については,訴訟法的に別途解釈で対応すればよいということなのかどうかという点を,すみません,長くなりましたが,伺えればと思います。 ○山本(和)幹事 私はちょっと畑さんとはニュアンスが違うかもしれませんが,実質論についてはそれほどコミットしておりません。こういうことで規定をされるというふうに民法でお考えになるのであれば,それはそれでということだと思います。ただ,前に発言した趣旨は,だからやめておけと言ったつもりは,訴訟法で難しい問題が生じるから辞めておけと言ったつもりではもちろんありませんでした。そういうふうに民法のほうで判断されるのであれば,民事訴訟法のほうで何らか考えないといけないという自分にでもないですが,民事訴訟法学会全体に対してそういう宿題があるのではないかという問題提起をしたつもりでありました。 ○畑幹事 私は今,山本幹事もおっしゃったように問題はいずれにしてもいろいろと残るだろうと思っています。今日の資料は,債権者代位を中間試案よりは強める方向でバランスをとろうとなさったのだろうと思いますが,私などは前から申し上げているように,余り強くしない方向で何かしらバランスをとれないかというふうに考えているということです。 ○高須幹事 今の畑先生の御発言が正にそのことなんだろうと思うんですが,結局債権者代位権については,従前の議論の中でむしろ債権執行制度があるのだから不要ではないかというところから始まって,結局不要にはしなかったけれども,どこまでのものとして残すかと言う問題となる。そのとき,実務の観点という言い方も変かもしれませんが,実際に訴えるということを想定したときには債務者のほうでその後参加してくるなりして,結局そっちへ行ってしまう可能性があるというような債権者代位制度となると,どこまで実際に手間暇かけて裁判を起こすか,代位訴訟を起こすかということに対しては極めて消極的になるのではないか。こんな不安定な訴訟をやってもしようがないという話になるのではないかと。でも,そういう制度でいいという前提であれば,確かに今御指摘があるように何かちょっと中途半端な今回制度設計になるのではないかという議論になると。ただ,代位権を残すとすると,もう少し使い勝手のいいものにしてもいいのかなと思うと,今回御提案いただいた内容は,従前の判例法理に近いものだと思うのですが,やはりそれなりの効果はあるんですよというところを残すというのは一つの合理的解決方法になる,理論的かどうかはちょっと別かもしれませんけれども,一つの制度の在り方なのかもしれないと。   結局この問題は,畑先生がおっしゃったとおりなんですけれども,やはり債権者代位権をどこまで役に立つものとして残そうとするのかの議論なのではないかなと思います。私自身はどちらでなければという強い意見はなく,私自身もちょっと迷うところがあって,これ以上の意見も言いにくいのですけれども,従前の判例は少なくともこの程度のことは認めてきたんだろうと思いますし,裁判をするという観点からは一つの合理的な解決方法ではないかと思います。 ○鹿野幹事 私も今回の資料を拝見して,中間試案までの方向性と基本的なところが異なっているので少々驚きました。そもそも私自身は早い段階から,債権者代位についても詐害行為取消についても,当該債権者の権利を保全するための制度としての制度設計も考えられるのではないかということも申してきたのですが,ただ,少なくとも中間試案まではそうではない方向で進んできたように思います。それが今回の案では,方向転換があり,債権者代位に即して言いますと,行使できるのは被保全債権の範囲に限られ,直接請求ができ,しかも,相殺は禁止されないということとされており,従来裁判例でも認められてきたところの内容として,あるいは表現を変えると債権者の権利を保全するための制度として機能し得るようなものとして,この制度を残そうということになったのだと思います。   ただ,少々気になりますのは,以前にこの制度を根本的にどのようなものとして設計するのかについて議論があったときに,債権者代位権については,一方で強制執行制度が存在している中でこの債権者代位,特に本来型の債権者代位権を現状のまま維持することには問題があるという御指摘があり,現在の制度ないし解釈を変更する線で中間試案まで来たのだと私は認識しておりました。先ほどの御説明では,従来も強制執行制度を補完する制度として機能してきたのであるし,それを維持する必要性があるのだということ,特に被保全債権について債務名義を取ることが難しい場合もあるので,そういう補完的機能は維持すべきだということが言われましたし,これは資料にも書かれているのですが,そのおっしゃった理由によって,今まで指摘されてきた問題に果たしてきちんと答えられているのだろうかという点が気になります。   元々,私自身は,今回示されたような考え方もあるのではないかと主張してきた者なので,結論に異論があるということではないのですが,従来の議論の流れとの関係から見ると,今回の方向展開につき若干の違和感が残ります。 ○鎌田部会長 ほかの御意見は。 ○畑幹事 これも大分前に申し上げたことなのですが,少なくとも判例上は,債権が仮差押えを受けたときに,差押債務者が第三債務者に対して給付請求ができないかというと,無条件の給付請求ができるという判例があります。それに対して,恐らく今日のこの資料の考え方というのは,処分禁止が掛かるので債務者から第三債務者に対する請求は立たないということが前提になっていると思うのですが,それもある種ちょっと逆転した状況になっていると思います。現行法で既にそうだという話かもしれませんし,全体になかなか意見がまとまらないとすれば,余り現状を動かさないということに最後はなってもやむを得ないのかもしれませんが,一応問題点としてはもう一度指摘しておきたいと思います。 ○金関係官 ありがとうございました。御指摘を踏まえて適宜の対応をしたいと思います。念のための確認ではありますが,今回の案は,独立当事者参加をすることまで否定するものではなくて,独立当事者参加が可能な範囲では,第三債務者に対して自らの権利の給付請求をすることは,現在でも認められていると思いますけれども,これを否定する趣旨ではもちろんありません。 ○高須幹事 今の点,正にそのとおりではあるのですが,独立当事者参加ができるという意味は,被保全債権が存在しないことを理由とする場合を想定した議論ですから,要するに債権者代位権を行使すべき場合でないという主張は今でも認められているという意味だと思うんですよね。ところが,今ここで議論しているのは,代位債権者も請求できるし,債務者も請求できるという制度を認めるかどうかということで,そこに限っていえば,やはり従前の判例法理は管理処分権を失うということで共同訴訟的補助参加というやや特殊な概念での参加を認めているということではないかと思いますので,議論を絞ったほうがいいのかなとは思っております。そのこと自体をよしとするかどうかの判断ではないかと思います。 ○山野目幹事 しばらく前に筒井幹事から規律の表現の問題よりもここでむしろ優先して議論してほしいのは,規律の実質的内容のことであるというガイドがありました。そのことを受け止めて申し上げますと,やはり最初に松岡委員が御指摘になったことに共感を抱くものがありまして,この債務者による積極的な取立てと第三債務者による弁済ないしそれを受動的に受領するというものの間に扱いを隔てることにするということがうまくいかないのではないかと感じます。概念としてもうまく区別ができなくて,債務者から電話が掛かってきて,君に対して取立てはしないけれども,まあ,君が弁済金を持ってくるということはあるかもね,というふうな示唆を与えるコミュニケーションを受けたときの第三債務者のポジションに私は立ちたくないと思います。そういうふうな積極的な取立てなのか弁済の受領なのかの区別を裁判所が認定判断をすることも大変ですし,それが異なる扱いになるということの実質的な理由もうまく説明されていないと思います。   それから,債務者が債権譲渡などをして処分したときの処分の効果がどうなるのか,それから,善意の処分の相手方もいるではないかといったような問題についての解決も見通さないと,こういう規律を立てることができないであろうと思います。私の全般的な直感として,本来は仮差押えや仮処分をしなければできない,あるいはそれをしてもできないようなことを今以上に債権者代位権の制度を重武装にして,何か新しい規律を設けて工夫をしてあげるという必要はないのではないかというような全般的な感触を抱きます。金関係官は注釈民法を一所懸命お読みになって,従来の学説状況も確認されたものであると思いますけれども,そして,それは民法学界にとっても反省しなければならないのかもしれませんが,従来やはりこの債権者代位権は行使すると処分が禁止されるということ自体についても学説上いろいろな議論があって,異論がありますし,禁止されると言っている人たちも禁止されるとどうなるのかということについての深堀りの議論をしてこなかったと思います。今はそうなのだから,それが維持されるように書いたという議論がやはり少しそれのみではもたないのではないかとも感じます。   それから,非訟事件手続法の処分が禁じられるということも,正直なところあの規定が用いられる場面というものが余りないですから,あれについての精緻な判例形成もされてこなかったのであって,恐らく非訟事件手続法を全面的に見直すときにも従来の文言を基本的には維持するということ以上の立法事実の説明を与えることが考えられなかったところから,従来の規定の表現とそれに基づく理解が維持されているものであろうと思います。   そう考えますと,少なくとも中間試案のところに戻っていただいた上で,何か手堅く検討した上で更に打ち出すことができるのであればあっていいと思いますけれども,今のこの太字で示されている提案のみで,これが立法になったときに混乱ないし疑義が大きいのではないかということは案じられるところであります。 ○中井委員 私も当初の松岡委員の意見,そして,今の山野目幹事の意見に賛成です。実務的に考えたときに,これは従来の判例の考え方を変えて代位行使したことを債務者が知ったり了知しても,かつての判例はそこで処分制限があったんだけれども,そこは処分制限をなくすという考え方ではまず一致している。その上で訴訟を提起したときには,加えて訴訟告知したときにはこれを認めてあげようと,こういう発想のようです。努力したから,汗を流したからこういう効果を与えてあげようということかもしれませんけれども,それであっても第三債務者が弁済することについては認めるという考え方をとっているとすれば,実務からすれば訴訟を提起するわけですから,必ずそこに紛争が生じているわけで,必ず仮処分か仮差押えかで保全しない限り第三債務者がいつでも払える状況だったら,そういう手続をとらざるを得ないと思うんですね。   したがって,訴訟して,訴訟告知したときに限ってそこで処分制限効を認めたところで,実務的にその効果に期待することはないと思うんですね。ここでサービスで認めたのかどうか分かりませんけれども,従来の中間試案を変えて訴訟まで起こしたんだし,訴訟告知までしたんだから処分制限効を認めるという,仮にそういうことがあったとしても実務的には実際何の役にも立たないのではないかと思うんです。本来的に仮処分を採るか仮差しをするか本来的手続を採らざるを得ないと思いますので,余り意味のない規定ではないか。逆に設けることによって先ほどからるるあるような問題があるとすれば,やはり中間試案の考え方のほうが筋が通ってよろしいのではないかと,こういうふうに思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○高須幹事 教えていただくような形で申し訳ないんですが,仮にここの債権者代位権のところの債務者に対する処分制限効みたいなものは一切かけないとした場合に,代位権を本案とした場合にどういう保全が掛かるのか,金さんのほうでイメージがあるかどうかなんですが,いかがなんでしょうか。 ○金関係官 すみません,代位権を本案というのは。 ○高須幹事 要するに代位訴訟を提起するという前提で何か仮処分,仮差しみたいなのがかけられるかどうかということなんですが。 ○金関係官 失礼しました。一つには,先ほど中井委員がイメージされていたものだと思いますけれども,債務者の相手方に対する債権,被代位権利そのものを仮差押えするということがあると思います。また,もう一つよく言われているものとしては,代位債権者が債権者代位権を行使することができるということで,債務者の第三債務者に対する被代位権利を被保全債権といいますか,仮差押えの手続における被保全債権として,第三債務者の所有する不動産などを仮差押えするということも可能です。改正後も,その両方が可能であることを前提としています。一つ目の被代位権利そのものの仮差押えをすれば弁済禁止が掛かるということだろうと思います。 ○高須幹事 すみません,ちょっと細かくなりすぎかもしれませんが,債権者が債務者に持っている本来の債権を本案として仮差押えを第三債務者にかけた場合には,そうすると,債権者が債務者に対し持っている本来の金銭債権について訴訟提起して判決を取らないと,要するに債務名義化させないと,仮差押え後の強制執行はできないということになりますよね。つまり代位訴訟のほかに本来の債権執行を前提とする債務名義をとらないといけないという形になると,何か二度手間になるのかなという気もしてちょっと気になるところです。ただ,もう一つの代位権そのものでも従来掛かると言われている仮差押という部分もありますから,なるほどというふうにも思うのですけれども。要は保全との関係でもう少し検討をしてからでないと答えを出すのに難しい面もあるのかなと,すみません,中途半端な言い方で申し訳ありませんが,ちょっとそんなことを思いました。 ○中原委員 債権者代位権の場合は,第三債務者の保護を考える必要があるだろうと思います。誰に対して弁済すればよいのかを迷う制度は,第三債務者からすれば大変迷惑ですし,かつ二重払い等のリスクを負うので,第三債務者の保護が図れるような制度設計にしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○松岡委員 最後の7番のいわゆる転用事例についてです。1点は感想で,1点は単純な質問です。   一つ目は,御紹介があるように受け皿条項といいましょうか,登記請求権を例示として,更に受け皿を設けることについては意見が一致しないので見送りやむなしというのは理解できます。ただ,先ほど1のところで申し上げたように,今後はこの転用の規定を基本にして更に類推適用ということになるのかもしれませんが,登記請求権の場合はやはり相当特殊なところがあって,これを基本にするのが本当にいいのかなお疑問が残ります。  もう一つの単純な質問は,案の中に「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産」とあって,これは厳密に対抗要件としての機能を果たす場合に限定するという趣旨になるのでしょうか。恐らく大概問題になることはないとは思うのですが,登記が成立要件になっているような場合に,この登記のための登記請求権の代位行使が問題になることは本当にないのか,今までこういう議論したことがありませんので大変不安が残ります。十分に検討したので大丈夫だと言っていただければ安心するので,是非そうおっしゃってほしいと思います。 ○金関係官 登記,登録が成立要件と言いますか効力要件となっている場合,特許権の譲渡などがそうだと思いますけれども,そういう場合を除外する趣旨ではありません。信託法14条を参照しておりますけれども,そういうことが前提になっていると思います。書き方に問題があるのであればもう少し詳しく書くということはあり得るかもしれませんけれども,一応検討状況はそういうところです。 ○松岡委員 先ほど1との関係でも申し上げたところですが,私はそもそも本来型にしろ転用型にしろ,保全の必要性という要件が本来必要であるという共通理解が成り立っていると考えておりました。この登記請求権の代位行使の御提案では,保全の必要性はまったく出てきていないのですが,登記・登録の通常の場合には連続の原則があり,自分の前主が前々主から移転の登記・登録を得ていない限り,自分への登記・登録が実現できませんので,必要性が言わばこの代位行使の場面自体によって当然に基礎付けられるから明示する必要がないのです。   ところが,考えてみるとよく分からないのは,例えば動産債権譲渡特例法の登記の場合の譲渡登記には連続の原則もありませんし,前主が譲渡登記をしていないときに,譲渡登記の代位行使はできるのでしょうか。保全の必要性の要件が充たされることが必要なように感じますし,それがない場合にそのような代位行使を認める必要があるのでしょうか。 ○金関係官 御指摘いただいた連続の原則の点につきましては,おっしゃるとおりの面が確かにあるのですが,とはいえ,転々譲渡の際に中間者が対抗要件を具備しないと,二重譲渡が生じた場合に末端の譲受人は権利を確定的に取得できないと思いますので,代位行使の必要性はあるのではないかと思います。古い判例ですけれども,債権譲渡の通知について,これも連続の原則は妥当しないわけですが,債権が転々譲渡された場合に最終の譲受人が中間の譲受人の対抗要件を具備させるために,債権譲渡通知の請求についての代位行使を認めたものがあります。その観点からいっても,結論としては認められるということでよいのではないかという気はいたします。現在の文言でもそれを排斥する趣旨ではないという理解をしております。 ○道垣内幹事 ただ,1点だけ申しますと,信託法14条の解釈においては,債権や動産は「登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産」に該当しないと考えられておりますので,もし仮に信託法14条を基にして同様の解釈をするというのであるならば,動産債権譲渡特例法に基づく登記はこれには含まれないというのが日本法としては平仄の合った解釈ではないかと思います。しかし,そうしますと,譲渡の当事者が,動産債権譲渡特例法に従った対抗要件を具備することで合意している場合には,「その譲渡人が第三者に対して有する登記又は登録を請求する権利を行使しないとき」であっても,代位により請求権を行使することはできないことになります。それはおかしいことになりますので,若干お考えいただければと思います。 ○山野目幹事 7番について3点ございます。   一つは,7番の規律のみ設けて転用型の一般的な規律の創設が見送られることになりつつありますけれども,そのことの当否自体も論議されてよろしいとは考えますが,もし仮にそうなる場合には,現在ないし将来において転用型として認められるべきものというのは,7の規律の類推解釈で認められるのではなくて,正面から26ページの1で示されているものの類推解釈か,あるいはひょっとするとその適用として認められるべきものであって,7の類推解釈という説明などというものはものすごくサイズの小さな発想であろうというふうに感じますから,7の類推に言及しておられる部会資料の説明を見てどうかなという印象は抱きました。   それから,2点目は松岡委員が何点か御指摘になったことに関わります。7で表現しているものが全て登記,登録の手続で代位が必要な場合を書き尽くしていないだろうと思いますが,書き尽くすことは元々無理なことであろうと思います。物権的登記請求権を保全するために代位申請が必要になる場合もあります。漏れというものはどうしても出てきます。いずれにしても,漏れなく書くことは無理ですが,登記,登録の手続の代位行使の典型的な場面を書いておくということに意味がなくて,こういうものを設けて一切ならないかということについては,またそれはその立法の意義についていろいろな評価があると思いますから,引き続き御検討いただきたいと考えます。   3点目,細かいことですけれども,「登記又は登録を請求する権利」という表現のところは,「登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利」という従来法制を踏まえた表現にしていただくと,特に手続という言葉を入れて表現していただくと有り難いというふうにも感じます。 ○金関係官 今,山野目幹事から頂いた御指摘のうち1点目につきましては,事務局としても基本的には同様のことを考えておりまして,部会資料36ページの最終行のところですけれども,「素案の規律と前記1(1)の規律の解釈や類推適用に委ねる」という記述は,イメージとしては山野目幹事の御指摘とそれほど異ならないものだろうと思います。7はどちらかといいますと,1(1)で認められる転用型の範囲を無制限に拡張しないという意味で参照されると考えております。 ○鎌田部会長 ほかに債権者代位権全般にわたって。 ○沖野幹事 細かい点で恐縮なんですけれども,今の7の太字のこの2行ですけれども,最初の2行で「登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位権の行使に関して,次のような規定を新たに設ける」ということの意味ですけれども,これは1の要件が前提になるような枠組みがあって,つまり被保全債権とするというところは「新たに設けるものとする」のところにきれいに入ってこないものですから,書き下ろすとどういうことになるのかです。中間試案にあるような登記手続を求める権利を有するものがそれを保全するためとか,実現が妨げられているときに,というようなニュアンスがそこに入るようなものがあってこの部分が設けられると,そういう理解でよろしいでしょうか。   保全のため,保全の必要性を明示するか自体が元々問題ですけれども,それを入れた書き方としては,書き下ろすと違う表現になってくるように思うんですけれども,そういう理解でよろしいでしょうかというのが1点めです。  それから,結局転用型についての一般規定はどうなるかといえば,恐らく1が,適用であれ類推適用であれ,兼ねるということになり,その意味では現行法の枠組みが維持されるということになるかと思います。そうしたときに,とても細かい点で大変申し訳ないんですけれども,1の26の要件のところで,(1)のただし書で差し押さえることができない権利というふうに書かれています。これに対応するものは,中間試案のほうでは差押えが禁止されたものである場合というように書かれています。この両者が同じなのかというのがよく分かりません。転用型で妨害排除のような場合を考えると,差押えはできないような気がするんですけれども,差押えの禁止が掛かっているのかというとそうでもなさそうです。この表現の違いが転用型の一般則をも兼ね得るといったときに,何か意味が出てくるような気がするものですから,ここを変えられた趣旨ということを少し御説明いただければと思うのですが。 ○金関係官 2点目につきましては,意味は全く同じつもりでして,表現が不適切であれば更に考えますけれども,用例などを踏まえてこの文言が最も適切ではないかと判断したところです。   1点目につきましては,意図としては35ページの7の「設けるものとする」の後の部分が実質的な規律で,この部分のみで7の規律としては全部書き切っていることを前提にしております。ですので,妨げられているときといった要件はここでは特に書かないことを想定しておりました。それでは不適当であるということであれば,検討したいと思っておりますけれども,現状の意図の説明としては今申し上げたとおりです。 ○沖野幹事 念のため確認させていただければ,そうすると,登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位の行使ということも書かれないのでしょうか。 ○金関係官 はい。 ○山本(敬)幹事 今の点に少し関わるのですけれども,元の中間試案の(1)であれば,「譲渡人が第三者に対する所有権移転の登記手続を求める権利を行使しないことによって,自己の譲渡しに対する所有権移転の登記手続を求める権利の実現が妨げられているときは」とありまして,どの当事者も前主に対して登記請求権に当たるものがある場合にはこうだという書き方になっています。それが今の素案ですと,最初に譲り受けたものに関してはそのような被保全権利に当たるものが明示されないということなのですが,そのような権利がおよそなくても認められるということなのでしょうか。これまでの部会の問題ですが,売買に関しては,買主が売主に対して所有権移転の登記手続を求める権利が,買主の権利ないしは売主の義務として認められるということがあったのですけれども,贈与に関しては,そのような規定がおそらく提案されていなかったのではないかと思いますが,今このように言ったことと,このような素案のような形で書いたときにうまく説明が付くのかなというのが少し心配です。   中間試案の(1)であれば,そのような請求権が認められるときであって,権利がある場合にはこうだということは言えるのですけれども,そういったことは全然問題にせずにこういう財産を譲り受けものは,このような場合には当該権利を行使することができるという形でシンプルに書いて本当に大丈夫なのだろうかなという心配があるのですが,これは杞憂でしょうか。 ○筒井幹事 「権利を行使しないときは」という書き方で,権利があることを含意しているという理解でこの文章は書かれているわけですけれども,いずれにしても,書き方の問題についての御指摘については引き続き慎重に検討しようとは思っています。 ○鎌田部会長 行使しないのは代位行使されるほうで,要するに被保全権利としての登記請求権が常に発生するかという御質問ですね。これは売買であれ贈与であれ,不動産の譲渡があったときには必ず発生すると思います。 ○山本(敬)幹事 贈与のところで規定があればよいとは思うのですけれども。 ○鎌田部会長 現行法の下では,規定がなくても当然に所有権移転義務の一部として登記請求権が成立するとされているので,そこは規定があるなしにかかわらず変わらないというふうに考えていいように思います。   ほかの点は。  松岡委員,7に「登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位権の行使」を掲げることについて,非常に特殊な例だという御指摘もあって,それは感想として述べられましたけれども,それを敷衍すると,もっと違う例にしたほうがいいとか,これはないほうがいいとかいうふうなことにはつながらないですか。 ○松岡委員 そこまではつながらないです。第二ラウンドで,転用型を規定する際に最も典型的な例として争いのないものは何かが議論になり,登記請求権の例が一番良いということで落ち着きました。これを例として挙げるのは,やむを得ないだろうと思います。ただ,先ほどから繰り返し同じことを申し上げて恐縮ですが,1の要件のところで保全の必要性が落ちていて,ここでも明示的には出てこないので,要件として保全の必要性を読み込めるかというと,かなり難しい読み方になります。ただ,転用の規定を設けない方が良いとまでは申しません。また,例えば妨害排除請求権の例はなかなか微妙な論点であり,抵当権の場合にその代位行使を広く認める手がかりになるような転用例として挙げていいかどうかに議論があったと思いますので,登記請求権の例に代わる良いものがあるかと言われると,なかなか見付かりません。 ○鎌田部会長 なくしてしまうというのも一案かというふうに思っているんですけれども。ほかに債権者代位権関係の御意見はよろしいですか。   それでは,次に「第6 詐害行為取消権」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○金関係官 少し論点が多いですが,一気に説明したいと思います。   「第6 詐害行為取消権」の「1 受益者に対する詐害行為取消権の要件」の(1)では,民法第424条第1項の「法律行為」という文言を「行為」に改めることとし,(2)では現在の民法第424条第2項の規律を維持することとし,また,(4)では強制執行により実現することのできない債権を被保全債権とする詐害行為取消権の行使は許されない旨を定めることとしています。いずれも中間試案からの実質的な変更はありません。これに対し,(3)では,被保全債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものであることを要件とすることとしています。中間試案では,判例法理を明文化するという観点から被保全債権が詐害行為の前に発生したものであることを要件とすることとし,(注3)において今回の部会資料の案を取り上げていましたが,判例が被保全債権の発生を必ずしも厳格には捉えていないことなどを踏まえますと,中間試案の本文の表現では判例法理の正確な明文化にならないおそれもあることから,今回の部会資料では中間試案の(注3)の考え方を採ることとしました。もっともこの表現が適切かどうかについては,慎重な検討を要すると考えられますので,御意見を伺えればと思います。   「2 相当の対価を得てした財産の処分行為の特則」では,相当価格処分行為に関する詐害行為取消権の要件について破産法第161条第1項と同様の要件を定めることとしています。これについては,中間試案からの実質的な変更はありません。中間試案では,これに加え破産法第161条第2項と同様の推定規定を設けることとしていましたが,これについては民法上の他の制度との関係における規律の密度や詳細さのバランス等を考慮して,明文の規定は設けずに事実上の推定等による実務上の対応に委ねることとしました。この後に説明します3や5においても,破産法を参照した推定規定を設けるという論点については,同様の取扱いをしております。   「3 特定の債権者に対する担保の供与等の特則」の(1)及び(2)では,債務消滅行為と既存の債務についての担保供与に関する詐害行為取消権の要件について,破産法第162条の趣旨を取り入れつつ,債務消滅行為に関する詐害行為取消権の判例法理を明文化するという観点から,(1)のア,イと,(2)のア,イ,ウの各要件を設けることとしています。中間試案からの実質的な変更はありません。   「4 過大な代物弁済等の特則」では,破産法第160条第2項を参照し,先ほどの3の(1)又は(2)の要件を満たさなくても,4の(1)及び(2)の要件を満たせば債務消滅行為に対する詐害行為取消権の行使をすることができる旨を定めることとしています。これも中間試案からの実質的な変更はありません。   「5 転得者に対する詐害行為取消権の要件」では,転得者に対する詐害行為取消権の要件について,破産法第170条第1項第1号を参照しつつも,いわゆる二重の悪意を要求することまではしないという観点から,(1)及び(2)の要件を設けることとしています。これも中間試案からの実質的な変更はありません。   「6 詐害行為取消権の行使の方法」の(1)及び(2)では,取消債権者は詐害行為の取消しの請求とともに,逸出財産の返還を請求することができ,逸出財産の返還が困難であるときは価額償還の請求をすることができる旨を定めることとしています。これも中間試案からの実質的な変更はありません。これに対し,(3)及び(4)では,詐害行為取消訴訟の被告を受益者又は転得者のみとし,債務者の被告適格を否定した上で,債務者については取消債権者に訴訟告知を義務付けることとしています。中間試案では,債務者を被告としなければならないこととしていましたが,これに対しては,債務者を被告とすると訴訟手続上の負担が増し,円滑な訴訟の進行が阻害されるおそれがある旨の指摘や,債務者は詐害行為取消訴訟について実際上の利害関係を失っていることが多いため,債務者を被告とすることを強制する必要は乏しい場合が多い旨の指摘があることを踏まえ,債務者を被告とせず訴訟告知をすれば足りることとしました。   「7 詐害行為の取消しの範囲」の(1)及び(2)では,取消権の行使の範囲を被保全債権の額の範囲に限定する旨を定めることとしています。中間試案では,被保全債権の額の範囲を超えて取消権を行使することができることとしていましたが,これに対しては被保全債権の額を超えて取消権を行使することを認めると,取消債権者が受領した金銭を費消・隠匿するなどのおそれがあり,その場合には債務者や他の債権者が不当な不利益を被ってしまう旨の指摘などがあることや,この後に説明します8の直接の引渡し等において相殺禁止に関する明文の規律を設けないこととしていることを踏まえ,被保全債権の額の範囲に限定することとしました。   「8 直接の引渡し等」では,取消債権者は受益者又は転得者に対して,自己に対する直接の引渡しをするよう求めることができる旨を定めるとともに,受益者又は転得者は取消債権者に対して直接の引渡しをしたときは,債務者に対して引渡しをする義務を免れる旨を定めることとしています。中間試案では,以上の規律に加え相殺禁止の明文の規律を設けることとしていましたが,これに対しては相殺による債権回収機能を否定すると,詐害行為取消権を行使するインセンティブが失われ,ひいては詐害行為に対する抑止力としての機能をも失わせることになる旨の指摘があることや,仮に相殺禁止に関する明文の規律を置かないとしても,相殺権濫用の法理などによって相殺が制限されることも考えられることなどを踏まえ,相殺禁止の明文の規律を設けることはせず,実務の運用や解釈等に委ねることとしました。   「9 詐害行為の取消しの効果」では,詐害行為取消請求を認容する確定判決は債務者及び他の全ての債権者に対してもその効力を有する旨を定めることとしています。中間試案では,債務者をも被告とすることから,確定判決の効力は当然に債務者に及ぶことを前提としていましたが,今回の部会資料では,債務者を被告としないことを前提に確定判決の効力が債務者にも及ぶ旨の明文の規律を設けることとしています。   「10 受益者の反対給付及び受益者の債権」の(1)では,受益者が債務者から取得した財産を返還したときは,受益者が当該財産を取得するためにした反対給付の返還を債務者に対して請求することができる旨を定めることとしています。中間試案では,これに加え,受益者の反対給付の返還請求権について優先権を与える内容の規律を設けることとしていましたが,これに対しては,受益者は詐害行為の相手方であるから取消債権者の被保全債権との関係で優先権を認める必要がない旨の指摘や,中間試案のように受益者が金銭以外のものを返還する場合と受益者が金銭を返還する場合とで取消債権者の費用償還請求権と受益者の反対給付の返還請求権との優劣関係に差異を設けることを正当化するのは困難である旨の指摘があることに加え,民法上の他の制度との関係における規律の密度や詳細さのバランス等をも考慮して,反対給付の返還請求権に関する優先権については実務の運用や解釈等に委ねることとしました。(2)では,債務消滅行為が取り消された場合における受益者の債務者に対する債権の復活について定めることとしています。これについては,中間試案からの実質的な変更はありません。   「11 転得者の反対給付及び転得者の債権」では,転得者がその前者から取得した財産を債務者に返還した場合には,受益者が詐害行為取消権を行使されていたとすれば発生していたであろう受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権や受益者の債務者に対する債権を転得者が行使することができる旨を定めることとしています。これも中間試案からの実質的な変更はありません。   最後に「12 詐害行為取消権の期間の制限」では,債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは,詐害行為取消訴訟を提起することができない旨を定めるとともに,民法第426条後段の20年の期間を10年に改めることとしています。いずれも中間試案からの実質的な変更はありません。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議を頂きます。御自由に御発言ください。項目が大変多いので,全体の考え方あるいは要件の根本部分から先に御意見を頂ければと思います。 ○中田委員 要件について確認です。無資力要件については中間試案の(注1)では明記するという考え方もあるということだったんですが,今回それは入れないということで,それはそれで理解できるんですが,ただ,今回の解説の中でも無資力という言葉が全然出てこない。先ほどの債権者代位権のところでも保全の必要性というのも出てこないとすると,そもそも考え方を変えたということはあり得るんでしょうか。私はないというふうに信じておりますけれども。   さらに,ちょっと各論との関係にもなりますが,支払不能について破産法と同じ定義を入れているものですから,無資力要件と支払不能要件との関係が分かりにくくなるのではないかと思います。むしろ無資力要件を書き込むか,書き込まないとしてもどこに解釈の手がかりがあることを明確にしたほうがいいのではないかと思うんですが,いかがでしょうか。 ○金関係官 無資力要件の内容につきましては,従来のものから何かを変えることはもちろんありません。先ほどの債権者代位権の「保全するため」のところもそうですが,現行法の「保全するため」や「債権者を害することを知ってした行為」という要件の中で,無資力要件などは当然読まれていることを前提に今回の資料は書いております。説明に何も書いていないのは,現行法から何も変更することがないからという趣旨です。ただ,先ほどの「保全するため」のところもそうですが,しっかり説明をしたり改めたりする必要があると思っておりますので,再度検討いたします。いずれにしましても,現行法と文言が変わらないとともに,実質的な考え方も変わらないという前提です。 ○中田委員 では確認ですけれども,支払不能の点についても無資力要件が前提であって,それにプラスして支払不能も重なってくるという理解でよろしいんですね。 ○金関係官 はい。無資力要件も支払不能要件も両方要求されているという理解をしております。普通は無資力要件が満たされて,支払不能要件が満たされるという順序で物事が進むと思いますが,この順序が逆になることもあり得ると理解しております。 ○鎌田部会長 ほかに総論的な部分での御発言がないようでしたら,それ以外の点につきましても御自由に御発言ください。 ○加納関係官 ちょっと大変細かい点で恐縮なんですけれども,資料の47ページの転得者に対する詐害行為の取消しの関係なんですが,こういう形で要件立てするというこの規律自体は特に異論はないんですけれども,転得者ではなく受益者の善意,悪意の立証責任の所在についてはどうかという点でございまして,47ページの5の記載を見ると,その2段落目ですけれども,債権者は受益者に対して前記1(1)の取消しの請求をすることができる場合にはこうだというふうに書いていて,この前記1(1)というのは前のほうのページに記載がありまして,37ページですけれども,1の(1)のただし書というところで,受益者が善意の立証責任を負うというふうになっているんだというふうに理解するんですけれども,今回の転得者に対する詐害行為取消権でこういうふうに要件立てするとした場合に,受益者が善意であることの立証責任を負っているのか,それとも債権者のほうが悪意であることの立証責任を負っているのかということについてちょっと明確になっていないのではないかというふうな気がいたしました。   ただ,これは私なりの勝手な解釈でありますけれども,5の2段落目の「前記1(1)の取消しの請求をすることができる場合」というふうに書いているのは,これは1(1)の規律をもう前提としているということで,受益者の善意というのが抗弁のほうに回っていて,受益者が善意であるという立証責任を負うということを前提にこの5の記載が書かれているということで,転得者に対しての詐害行為取消の場合でも受益者に対する詐害行為の場合でも立証責任が債権者のほうに変わるということはない規律になっているのだろうなというふうに何となく推測はするわけですけれども,そこのところがどうかと。ちょっと注意しなくちゃいけないのではないかと思ったのは,受益者が自分が善意というのを立証するのは何とかできるかもしれないんですけれども,転得者が受益者の善意を立証するのは結構大変なこともあるかもしれないなというのはちょっと気になりまして,そこは何か別の配慮があるのかという点も,ここはむしろ確認をさせていただければと思いますけれども,思いました。 ○金関係官 まず解釈自体は加納関係官がおっしゃったとおりの理解をしております。受益者に対して取消しの請求をすることができる場合というのは,1の(1)の要件を前提としておりますので,実体法上の要件としては,債務者が債権者を害することを知って行為をしたことと,受益者がそれを知っていたことが必要です。ただ,主張立証責任の観点から言えば,悪意については受益者の側でといいますか,転得者のほうで受益者の善意を主張立証することを前提にしております。ただ,ここは破産法の解釈としてもいろいろ議論があるところで,今申し上げたのと逆の解釈を一切否定するのは難しいかもしれませんので,一応解釈に委ねられているということになるのかもしれません。   結論の妥当性につきましては,転得者は,少なくとも自分の悪意は取消債権者によって立証されていて,その上で受益者の善意を転得者が主張立証すれば取消権の行使を免れるという構造になると思いますので,一つの価値判断として,転得者に主張立証責任があってもそれほど不公平ではないと考えております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○山本(和)幹事 3点申し上げたいと思います。   第1点は,行使の手続の点で今回受益者のみを被告として,債務者に対しては訴訟告知で判決効を及ぼすという構成に変更されたということですが,これについては私何度か申し上げたと思いますが,その繰り返しですけれども,やはりそういう御提案には賛成しかねるということです。この訴訟の目的は債務者の権利関係を直接に変更する効果をもたらすものであって,また,債務者の行った行為の相当性というか,それが直接の争点になることですので,やはり民事訴訟の普通の考え方からすれば,それは債務者は当事者になって,当事者としての手続保証を受けるべき地位に立つということが言えるのではないかというふうに思っています。訴訟告知をすればいいという考え方は,結局訴訟告知で補助参加人として入ってこいと,積極的に入ってこいと,その場合によっては費用を払っても入ってこいと。そうでないと,そのまま全然訴訟で問題にされずに判決効を及ぼしてしまうということになってしまうということでありますので,私自身のやはり手続保証の相場観からすると,それはやや逸脱しているというふうに言わざるを得ないということであります。ただ,もう本部会はここまで来ていますので,他の部会の委員,幹事がそういう手続保証で債務者は十分だということで大勢がそういうことであれば,もうこれ以上は申し上げませんが,一言だけそれは言わせていただきたいと思います。   それから,効果のところでやはり今回の提案で変わっているところで,受益者の反対給付について優先権を与えないと,認めない形で提案がなされているということですが,これはやはり私は破産の場合とかなり不均衡が生じてしまう懸念を持っています。つまり同じような例えば廉価売却みたいなものがAとBで同じようなことが行われたとして,Aについては詐害行為取消権が行使されて,取消判決が確定し他と。その後債務者が破産して,Bについては管財人が否認権を行使して否認が認められたというと,Aの反対給付に係る請求権は破産債権となって,Bの反対給付に係る債権は財団債権になるというのは,それはやはりAとBをそのように区別する合理的な理由は私にはやはり見出し難い感じがいたします。   ただ,ここで書かれている優先権を認める法律構成が非常に難しいというのは理解でき,取り分け先取り特権を付与する構成というのは非常に難しいものがあるというのはそのとおりであるという感じがしますので,この提案自体は民法の改正としてはここまでというのは理解できます。ただ,局面は倒産法の局面であるとすれば,倒産法の中で更に考えていっていただく可能性というのはあるのではないか,そういう詐害行為取消権が行使された反対給付債権については,否認の場合と同じように財団債権とするというようなことを倒産法の中で,破産法の中で規定するというような道はなおあり得るようには思いますので,そこは引き続き検討していただきたいと思います。この実務運用とか解釈に委ねれば足りるというのは,私はそれはさすがに無理ではないかと,プライオリティーに関わることですので,それを実務の運用とか解釈でやられるというのもこれはかえって困るような気がしますので,そこはなお引き続き立法論として検討していただきたいということです。   それから,最後もこれも繰り返し申し上げていたところですし,今の点とも関係するんですけれども,今回の改正に伴って破産法,倒産法についても同様の改正がなされるべき問題というのは幾つかあるのではないか。私が気が付く限りでは,先ほど出てきた転得者否認の要件,効果の問題,それから,否認権の行使期間,20年を今回10年にするというところなどは,否認についても倒産法改正の際に問題になったところでありますし,今回民法を改正するのであれば,特に転得者のところはこのままだといわゆる逆転現象がなお残るということになると思いますので,その民法と同時というのはあるいは難しいのかもしれませんが,将来の倒産法改正の中で併せて手当てをしていっていただきたいというお願いであります。 ○畑幹事 今,山本和彦幹事が3点おっしゃったことのうち2点については同じような感想を持っています。ただ,第1の点,つまり被告が誰になるかという点につきましては,これも私のほうも前から申し上げていたと思いますが,私としてはやや異なる相場観を持っていて,これはこれでいいのかなというふうに思っています。   2点目の受益者の反対給付については確かにちょっとどうかなという感じがいたしまして,これも今の段階からまた何かというのはちょっと難しいのかもしれないので,しようがないかなという気はするのですが,前にもどこかの段階で話題になったかと思いますが,受益者の返還義務と,それから,受益者の反対給付の返還請求権に同時履行の関係を認めてしまう,否認ではそう書かれているはずなのですが,そういうふうにするとか,あるいはこれも今まで議論してきたことでしょうけれども,差額の償還という形で解決するというふうなことも理屈の上ではあり得なくはないとは思います。今の段階からは難しいのであればやむを得ないかとは思いますが。   それからあと,これは一言だけですが,直接引渡しプラス相殺もできるというのは,やはりちょっと,55ページにも書いてあることですが,取り分け取消しの対象が偏頗的な行為である場合にはかなり問題はあるだろうなという気はしております。 ○金関係官 畑幹事から御指摘を頂いた点で,差額償還とおっしゃったところにつきましては,今回の10の(1)で差額償還を否定したというところまでは考えておりません。10(1)の解釈として差額償還も可能であり得ることを前提としています。他方で,同時履行を認めるかどうかにつきましては,逆に,同時履行まで認めることは問題があると考えております。破産手続が開始した場面ですと,同時履行関係にあると整理しても,受益者に対する反対給付の返還は破産管財人がすることになるわけですが,詐害行為取消権の場面では,取消権を行使するのは一般債権者で,債務者の財産から勝手に反対給付を返還する権限はありませんので,債務者が協力してくれない場合には,受益者のほうは詐害行為取消権が行使されたにもかかわらず債務者から反対給付が返ってくるまで逸出財産を返還しないという態度に出て,取消債権者のほうはある意味では何もできなくなってしまい,場合によっては自腹を切って反対給付を返還するということにもなりかねないとの観点から,同時履行関係を認める解釈を採るのは民法では難しいというのが,部会や分科会での議論であったと理解しております。 ○高須幹事 被告適格のところでございますが,山本先生と畑先生,両先生がやや相場観が分かれるというところなので,正に難しいところだと思うのですが,弁護士会は第二読会の段階から債務者を被告とすることの理論的問題ということではなく,実際の裁判の運用の在り方ということから考えて,固有必要的共同訴訟にすることは,非常に硬直的な訴訟になるということで,訴訟告知でよしとすべきという立場をとってきたところでございます。   今回の提案資料の51ページの2,素案(3)についての(3)のところですね。被告適格を認めるかどうかのところの記述も具体的内容について書いていただいております。この点は訴訟告知ということでとどめていただくのがよろしいのではないかというふうに私自身も思っておりますし,弁護士会も従前からそのように思ってきたところでございます。債務者を共同被告にする必要はないというのは大審院の明治44年3月24日判例以来ですから,古い判例があるからというのが理由になるわけではないと思いますが,そういう形で運用してきた事実が今回引き継がれることは,基本的には支持できるのではないかと思っております。   それから,相殺の問題でございますが,これは非常に難しい問題で,今回の審議に当たっての弁護士会のいわゆるバックアップでの議論も分かれたところでございまして,やはり相殺は禁止すべきだという意見と,今回の提案のように相殺のことは特に触れないということでの提案に賛成という立場と分かれております。私自身,これは絶対にどうということはないのですが,ただ,第二読会だったでしょうか,以前の議論の中で道垣内先生からこの問題は理論的な問題というよりは公平感の問題ではないかとのご発言があったことを覚えております。つまり理論的にはどちらもあり得るんだろうということで,結局,事実上の優先弁済効を認めることが公平感に照らしてどうかということではないか。このことについて私もなるほど,そうかもしれないと思って考えておりまして,今回パブコメを見させていただいたところ,相殺を禁止しないと今回のような提案にむしろ近いパブコメ意見というのが最高裁判所の複数と書いてあります。あと経団連,全銀協,経営法友会,その他かなりの団体がむしろ同趣旨の意見のパブコメを出しておられるということとすると,ある程度の公平感はそちらにあるのかなという気がしております。今回の御提案に対しては確かに両方あり得ると思いますけれども,私個人としては一つの提案ではないかと思っております。その兼ね合いにおいて,範囲についても請求金額に限定されるというところもそのような方針でよろしいのではないかと思っておる次第です。 ○中井委員 まず,10の受益者の反対給付の関係で先ほど山本和彦先生から御指摘があり,破産の場合と比べて不公平ではないか,その御指摘はもっともだと思います。それに対して畑先生のほうから同時履行にする,若しくは差額償還という考え方が取り入れられないかという御意見があり,それに対して金関係官から反論というか説明がありました。   私もこのままでは破産と比べて公平な結果にならない,何らかの対案が必要ではないかと思います。畑先生がおっしゃられた同時履行については,やはり当事者が異なる場面ですので,かなり困難な場面が出てくるだろうと。そこで,差額で決済するか,相殺というのか差額分を控除するというのかはともかくとして,ここは当事者が異なってもできる可能性があるのではないか。それは金関係官がそれも否定しないんだとすれば,この10の書き方ですが,10の(1)は2行目から3行目にかけて債務者から取得した当該財産を返還し,又はその価額を償還したときは返還請求できる,つまり財産の返還若しくは価額の償還を先履行することが明示されているわけですけれども,これを明示しないことによって,差額償還というんですか,差額で決済することを可能にする道を開くことができないか,この辺りの検討をなおしていただけないかと思います。   これは,今日お配りしました大阪弁護士会有志の皆さんが書かれた5ページ以下のところに出ています。少なくとも明文でこの先履行というのは書かないということを御検討いただけないかということです。さらに,倒産法の場面で修正する,財団債権化する等の対応も考えられるのかもしれませんが,それはさておきそういう検討が必要ではないか。   それから,直接引渡しを認めた上で相殺を禁止しないという修正,今回の提案になったわけですけれども,この点,大阪弁護士会では詐害行為取消権については結構熱心に議論し,様々な提案をしてきたつもりなんですけれども,今回そのように変更したことについては,従来の議論の過程を踏まえるといかがなものかという意見を持っている方々が多いということをお伝えしておきたいと思います。   その上で,なおこの有志の意見書,もう紹介する時間はございませんけれども,やはり直接引渡しという部分について,図を書いて問題点を改めて指摘させていただいています。従来であれば直接引渡しを認めるとしても相殺を禁止するということが前提で,なおまだ受入れ可能だったかもしれませんけれども,相殺を禁止しないまま直接引渡しを認めるということになったとき,この有志意見書の2ページ目でいうならば,乙債権と甲債権が両立する中で,本当に直接引渡請求で取消債権者のインセンティブが実現できるのだろうか,加えてさまざまな法律問題が発生するのではないかというのが2ページから3ページに記載させていただいています。   大阪有志の意見としては,ここでいう乙債権は認めずに,債務者との間で取消しの判決効が生じるんだから,甲債権のみ認めて取消債権者も甲債権を実行することによって十分権利保護が図れる。何となれば取消訴訟は全て訴訟になっているわけですから,債務者Bに対する被保全債権についても債務名義をその裁判の中で取得できますので,そのような解決がやはり好ましいのではないかという基本的な意見を持っております。それはもはや遅いのかもしれませんが,なお今回の規律のようにすると,結果としての妥当性若しくは使い勝手がいいとは言い難い。そうしたときに相殺禁止を入れないで直接請求権のあることのみを明示するという,この明示することについて控えていただけないかというのがこの意見書案です。   債務者にも効果が帰属するとなったときには,確定的に甲債権は発生するわけですが,乙債権があるかないかについてはこれからこの手続ができた後の実務にそこを委ねていただく,むしろ甲債権のみのほうがスムーズな解決ができるということが共通の認識になれば,直接請求は認めない,なくてもいいという実務になるのではないかということを想定した意見です。またお読みいただければということで参考に申し上げました。 ○中田委員 もう時間がありませんので,コメントだけです。4点あります。   まず,1の(3)の「(1)の行為の前の原因に基づいて生じたもの」という表現の当否が問われておりますけれども,これは更に御検討いただいたらいいと思いますが,今のままだとすると,ちょっと広いかもしれないと思います。ただ,その表現の問題よりも気になりますのは,説明のほうです。39ページの(2)の説明では,破産債権の定義を参照しておられます。しかし,破産債権として破産手続上の処遇を受ける基準の設定の問題と,詐害行為取消権を行使できるかどうかを決める基準というのは別の問題だと思いますので,当然にはそろうということにならないのではないかと思います。詐害行為取消権のほうは,詐害行為後に発生した債権については詐害行為後の責任財産を引き当てとするんだから害されていないというのが普通の説明だと思いますので,破産債権の画定基準とは違うのではないかということです。   2点目は10の受益者の反対給付及び受益者の債権というところで,(2)では過大な代物弁済などの場合の超過部分の取消しの場合については除外するという規律になっております。これは受益者は言わば差額を支払わせられるだけであって,何ももらえないということだと思います。それは計算上もっともだと思うんですけれども,そうしますと,受益者は詐害行為として取り消されると,代物を時価で買い取らせられるということになります。例えば100万円の債権の代物弁済として500万円の在庫商品を受け取ると,400万円を追加払いして何ももらえないということになると思います。破産に比べると,偏頗行為の取消しのハードルが高いと思いますので,より問題が多く出てくるのではないかと思います。そこで,もう少し受益者の対応の余地を認められないだろうかということを考えています。代物を返す代わりに自己の債権を復活させるというふうな方法ができないだろうかということです。   それから,3点目は11の転得者の反対給付と転得者の債権についてです。これは山本和彦幹事がおっしゃいましたとおり,倒産法でも更に御検討される重要な制度だと思います。ただ,この法律関係にはなお不明瞭なところがあるように思います。転得者が受益者の債務者に対する権利を行使できるという法律関係,その権利の帰属,行使した結果転得者が受領した財産をどうするのかなど,不明瞭というか説明ではまだ十分分かりにくいところがあります。今後も重要な問題だと思いますので,是非そこを明確にしていただいたら有り難いと思います。   最後,一般的なことなんですが,いわゆる逆転現象という言葉が今回何度も出てくるんですけれども,その使い方が今までと違うような感じを受けました。平時の一般債権者であれば詐害行為取消権を行使できるのに,破産管財人だと否認権を行使できないというように言っておられるんですけれども,その文脈が取引相手方への委縮効果を言うのだとすると,むしろ逆ではないかと思うんですね。管財人だと否認権を行使できないのに,一般債権者が詐害行為取消権を行使できる,それが逆転だというふうになるはずなのに,何で逆にしたんだろうかということがよく分かりませんでした。むしろ今までの使い方のほうが破産に至らない危機時期や私的整理の場面における適切な規律を考えるという方向に発想がいきやすいと思います。逆転現象というそれ自体について議論のある言葉について,更に使い方を変えたがために,かえって混乱が生じているのではないかなと感じました。 ○鎌田部会長 ほかに御意見ありますか。 ○高須幹事 すみません,度々で申し訳ありません。用語の問題だけかもしれないのですが,49ページの6の行使の方法のところの表現なのですが,中間試案では逸出財産の返還の方法等については,逸出財産が不動産の場合のように登記を必要としている場合,それから,逸出財産が債権である場合,動産である場合というふうにきめ細かく書いて,その返還方法を定めていたと思います。今回余り細かな規定は設けずにシンプルな表現にする,そのこと自体は,私は従前の規定がかなり詳細なもので,かえって難しすぎたのではないかと思っておりましたので,今回のような提案でシンプルにしていただいたこと自体は,それでよろしいと思っておるんですが,そのときに結局逸出した財産が債権であるような場合についての規律が不明確になっている。従前は債権譲渡通知,それをどうするかみたいな,そういうことを想定して規定を置いていて,最終的に中間試案のところでもいろいろな場合があり得るだろうということで包括的な規定というんでしょうか,当該財産の債務者への回復に必要な方法というような受け皿規定のようなものを設けていて,最終的にはそこで全部処理できるような規律になっていたと。   今回シンプルにしたときに,財産の返還を請求することができるという用語でいいのか,あるいは一番広い概念だとすれば回復に必要な方法を請求することができるという表現もあり得たかと思うのですが,表現だけのことだということであれば余り取るに足らないかもしれませんが,6の(1)の2行目ですが,「当該行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる」というところを場合によると,「当該行為によって受益者に移転した財産の回復に必要な方法を請求することができる」という表現もあり得るのかなと思います。この点を御検討いただいてもいいのかなと思った次第です。 ○鎌田部会長 深山幹事,よろしいですか。ほかには。  事務当局から何か,コメントがありますか。 ○金関係官 では1点だけ,逆転現象という表現につきましては,そこで表すべき中身を従前のものから変えようとしたわけではありませんので,表現について検討したいと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。   ほかに御意見がないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 本日予定しておりました議事を全て終えることができましたので,予備日については会議を開催しないことにしたいと思います。したがいまして,次回会議は来月,2月4日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省20階第1会議室になります。   次回の議事として私どもで準備しておりますものは,法定利率,債権譲渡,契約上の地位の移転,そして売買,こういった項目について資料を準備して事前にお届けするようにしたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 以上をもちまして,本日の審議を終了させていただきます。   大変熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-