法制審議会 民法(債権関係)部会 第83回会議 議事録 第1 日 時  平成26年2月4日(火)自 午後1時00分                     至 午後5時58分 第2 場 所  法務省 大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第83回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   まず,今回から出席されることとなった関係官の方がいらっしゃいますので,簡単な自己紹介をお願いいたします。その場でお名前と所属等の自己紹介をお願いいたします。 ○野口商事課長 1月16日付けで商事課長を命ぜられました野口と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 本日は岡田幹事,鹿野幹事,高須幹事,福田幹事,山川幹事が御欠席です。  本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として部会資料74Aと74Bをお届けいたしました。これらの資料の対象範囲につきまして,前回の会議では売買も含める予定であるとお伝えしておりましたけれども,準備の都合上,売買につきましては次回の会議で取り上げることにさせていただきたいと考えております。   このほか,委員等提供資料といたしまして3点,机上に配布させていただいております。まず,中井委員から御提供いただきました金利の変動状況に関する図表でございます。そして,経済産業省の三浦関係官から「書面による意見陳述」と題する書面を御提出いただいております。また,一般社団法人日本損害保険協会ほか2団体の名義で「中間利息控除に関する意見」を御提出いただいておりますので,これも机上に配布させていただきました。 ○鎌田部会長 本日は部会資料74のA及びBについて御審議いただきます。この部会資料における論点の掲載順に従いまして,AタイプとBタイプの資料を適宜用いながら審議することとしたいと思います。具体的には休憩前までに法定利率,債権の譲渡性とその制限の各論点につきましてAタイプとBタイプの両方を御審議いただき,午後3時35分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定しております。休憩後,部会資料74A及びBの残りの部分について御審議いただきたいと考えています。   それでは,審議に入ります。まず,部会資料74Bの「第1 債権の目的(法定利率)」の「(0) 総論」から「(3) 金銭債務の損害賠償額の算定に関する特則」までについて御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○忍岡関係官 御説明いたします。「第1 債権の目的(法定利率)」について御説明いたします。   まず1の(1)の法定利率の定め方については,中間試案から大きく分けて3つの変更があります。第1に変動の基準となる割合について,中間試案とは異なった提案がされています。これまで変動の基準となる割合については基準貸付利率,いわゆる公定歩合を用いることを提案しておりました。しかし,部会資料74Bでは短期貸付の平均利率とされています。これは具体的には日本銀行が毎月発表する国内銀行の貸出約定平均金利の12か月の平均値を意味しております。   この提案は,現在,日本銀行が採用している金融政策に鑑みた場合に基準貸付利率が市中金利の変動の基準として最適とは言い難いと考えられたことによります。   また,租税特別措置法による還付加算金や延滞税等の基準となる利率についても,かつて基準貸付利率を用いられていたのですが,改正によって貸出約定平均金利に変更されたという点も参考にしております。なお,具体的に1年間のうち,どの12か月を対象に計算し,どの時期に基準割合を告示し,また変動があるとした場合に新たな法定利率が適用されるまでの猶予期間をどの程度設けるかなどによって変動性を採用した後の実務への影響も大きく変わり得ると思われますが,それらの詳細な制度設計は省令に委ねることとしております。   第2に,中間試案では法定利率に基準となる割合の変動を反映する際に最終的な法定利率の値が0.5刻みとなるように一定の処理をすることとしておりました。しかし,部会資料74Bではこの点がブラケットに入れられております。これは0.5刻みとするための処理がかえって煩雑となり得る反面,パソコンや計算機がある現在においては0.5刻みでなくても計算が過度に困難になることがないと考えられたことによります。   ただし法定利率の値の小数点以下の桁数が大きくなってしまうと非常に計算が困難になってしまいますので,基準割合の値,ひいては法定利率の値を小数点以下第1位までの値とすることが考えられます。なお,変動の頻度を一定の限度に抑えるために基準となる割合が0.5以上変動した場合にのみ法定利率に反映するという点については中間試案から変更はございません。   第3に法定利率の適用の基準時については,利息が生じた最初の時点で固定し,その後に法定利率が変動しても利息が生じる債権に対して適用される法定利率は変更されないという提案がされています。中間試案では法定利率が適用される債権が存続する間に法定利率に改定があった場合には,その改定された利率が適用されるとされていました。しかし,このような扱いでは実務的な負担が多いという指摘があったことを踏まえて変更したものです。   そして,法定利率について(1)で提案しているような制度を採用した場合に,現実にどのようなものになるということを示したのが6ページの図4になります。この図は,直近の貸出約定平均金利の値を基に(1)でいう基準割合を計算し,変動の仕組みに当てはめたもので,このような情勢が続くとすれば,資料にあるとおり数年に1回程度の見直しにとどまるのではないかと思われます。なお,今申し上げましたとおり,これは直近の比較的利率が安定している時期を前提とした場合の様子を示したものです。   少し戻りまして,図1を御覧いただきますとお分かりいただけますけれども,これより以前には高度成長期,バブル期,バブル崩壊の時期などがありまして,より変動する頻度が多かった時期があります。仮にこのような経済現象が今後の日本において起きてしまえば法定利率の変動の頻度も大きくなります。   ちなみにですが,貸出約定平均金利は1993年10月からのデータのみがございます。ここで今申し上げた変動の頻度の大きかった時期としては3年弱の分のみが分かっておりますが,その数値を御参考に申し上げますと93年の3か月の平均が3.8%,94年の12か月の平均が3.4%,そして95年の12か月の平均が2.6%になります。   次に7ページの(2)アでございます。改正法施行の時点での法定利率をどのような値にするかという点について提案しております。この点については中間試案から変更がなく,仮の値として3%をブラケットに入れています。   法定利率の最初の値については,市中における様々な利率を踏まえて決定する必要があると思われますが,その例として8ページの表1に何種類かの利率を記載しております。   更に,仮に法案提出時に3%として定めたとしても,実際に法案が施行されるまでの間に市中の金利が大きく変動することが考えられ,その場合にはそれを法定利率にも反映する必要があると考えられます。そこで,その場合には(1)で提案された仕組みに従って施行時の法定利率を定めることをイで提案しております。   最後に9ページの(3)は,金銭債務の損害賠償額についても(1)アの考え方を採用して,債務者が遅滞の責任を負ったときの法定利率によって定め,その後に法定利率が改定されても影響を受けないこととしております。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○中井委員 最初に資料の質問をさせていただきたいのですが,まず6ページの図4です。先ほど口頭で説明がありまして,ここに書いてある貸出約定平均金利が公表されているのは1993年からで,したがってこの表には93年,94年,95年の記載がないわけですが,仮にその3年間をこの表に加えたときに(1)ウの変更の規律を適用した場合,その間,2回金利が変わります。それも先ほどの御説明からすれば,1回目は3.8前後,2回目は2.6前後の数字に変わる。その上で2%に落ち着く。このように理解するのですが,そういう計算になるのか。この点を確認したいというのが1点です。   2点目は,必ずしも貸出約定平均金利と基準貸付利率が同じようには変動しないもののようですけれども,図1の基準割引率及び基準貸付利率の推移を見まして,例えば1960年以降,今日の安定期に入る1994年までの間の変動を仮にこのようなものだったとしたら,これに先ほどの(1)ウの基準を適用したときに,これは約25年ほどありますが,何回くらい,若しくは何年ごとに,そしてそのたびに何パーセントほど金利が変わるのか,確認していれば教えていただきたいと思います。   その関係で,参考に今日は私のほうから資料としてお手元にお配りしたのが「短期プライムレート及び貸出約定平均金利の変動状況」と題する書面です。必ずしも情報を正確に捉えられて記載しているか分かりませんが,大阪弁護士会の担当者が拾い出して表にしたものです。   赤字で書かれたものが先ほどの図4にあります貸出約定平均金利の「新規,短期」を採用したものです。先ほど質問をした意味は,この1996年以前,93年以降の公表されている数字を前提とすれば少なくとも2回変動が起こるというのが四角印で記されたところです。   また仮に基準貸付利率が短期プライムレートと同じこの表のとおりといたしますと,1970年からここでは2013年まで記載しておりますが,いわゆる利率の変動した時期として例えば1970年から1995年までを捉えた場合,ここでペケ印を赤で付したときに,今回御提案されている法定金利の変動基準を適用したときに利率が変わるようなのですが,そのような理解が正しいのかどうかをまずはお教えいただきたいと思います。 ○忍岡関係官 まず初めに,先ほど申し上げた貸出約定平均金利を基に計算した場合に93年から何度変更があるのかということだったと思いますが,先ほど申し上げたとおり93年が3.8,94年が3.5,95年が2.6ですので,93年からスタートしますと95年に1回,95年から96年の間にもう1回,その後は先ほどの6ページに載っているようなグラフが続いていくことになると思います。   更にそこから遡って何度,何パーセントの幅でというところは計算をしていないのですけれども,中井先生に御準備いただいた表であるとか,2ページで更にそれより前,1890年以降の表を載せておりますが,これはいわゆる公定歩合ですけれども,これに伴って変動が生じていたと推測されますので,恐らくかなりの回数変動していたのだと思います。   ただ,先ほど申し上げましたとおり,なぜこのような6ページのグラフになったかということも含めてですが,やはり今の安定している時期を想定した場合はこのような変動になるということを表現したものであって,いわゆるバブルであるとか,戦争であったような異常事態のようなことが生じれば,場合によっては最高で毎年変更することは当然起こり得る制度であるということはこれに書かれているとおりです。そのような潜在的な可能性がある上でどのような制度設計にすべきということを,是非本日御議論いただきたいと考えております。 ○中原委員 変動の点ですが,0.5刻みで変動させるという提案がされています。法定利率は,利息が発生した時点の利率で固定されることになっています。であれば,0.5刻みというのは不要ではないでしょうか。   といいますのは,0.5%刻みでしか変動しないとすると,市場金利が低下しているけれども法定利率が下がらないというケースも考えられますから,市場金利に都度連動させて0.5刻みというのを外したほうがより実勢を反映すると思います。 ○忍岡関係官 1点確認ですが,今御発言いただいた内容,0.5刻みとおっしゃっていましたが,それは0.5以上動いたときに動くというバッファのほうのお話ですか。 ○中原委員 はい。 ○忍岡関係官 分かりました。正に恐らく本日問題になる点だと思うのですが,今,確かにおっしゃったとおり0.5以上を変動して初めて変動するという,頻度を緩やかにするための処置をしております。これが反面現在の金利を正確に反映しているわけではないという評価もあり得ますし,反面0.1,0.2,0.3の変動があったら必ず変動するようにすべきだということに関しては,今度は頻度が大きくなりすぎるという御意見,恐らく中井先生がおっしゃっていた御意見と関連すると思いますが,そのような評価もあり得ると思います。そこは是非よく御議論いただきたいと考えております。 ○中井委員 問題意識を申し上げておきたいと思います。仮にこの提案を採った場合にどういう帰結になるのかということです。まずこれは変動制と称していますけれども,発生した債権については固定制を採るということだろうと思います。1年の間に権利の発生,若しくは遅滞,様々な基準があるのでしょうが,そこで利率は確定し,その後いかに金利が変動しても固定制を採る。ここは中間試案と大きく異なった考え方が採用されている。それを確認する必要があるだろう。   そうしますと,ここに書いている(1)ウは何かといったら,法改正によって法定金利を決めるのではなく,一定の基準の割合に応じて自動的に法定金利を変更する。つまり自動変更条項付固定金利制ともいうべきものだと理解いたしました。   その上でこのような12か月平均で変えることが,果たしてどういう帰結を迎えるのかということです。現在,この十数年にわたって金利は安定していた。それを所与のものとして今,制度設計していいのかということを考えていただきたい。   改めて先ほどの「短期プライムレート及び貸出約定平均金利の変動状況」という一覧表を見ていただきたいのですが,その金利安定期以前の1970年から1995年までの25年間について,短期プライムレートを取りまとめたものです。しかし,この短期プライムレートと日銀の現在発表されている貸出約定平均金利の1993年から2013年までの期間の平仄といいますか,比較をしていただければ概ね連動していることは御理解いただけると思います。そうだとすると,この貸出約定平均金利の「新規,短期」は,1993年以前は概ね短期プライムレートとほぼ連動していた。若しくはニアリーイコールだったと仮定をしても妨げないと思います。   そうだとすれば,1970年から1995年が将来も日本において十分あり得る事態であるということを仮に想定したならば,私が計算したところこの25年の間にこの基準を適用すると法定金利が18回変わります。つまり,毎年1回見直せば,変わらないときのほうが珍しいということです。かつ,その変更利率は2%以上変わる場合が5回あります。最大は2.8%ぐらいです。これは72年~73年にかけての上昇です。2.5%変わるのは74年~75年にかけての減少,2.2%は89年~90年にかけての上昇,2.1%は91年~92年にかけての減少などです。しかも,1,2年で2,3%上がり,1,2年で2,3%下がるという事態が起こるということです。   かつ,今回の御提案は先ほど言いましたように自動変更条項付固定金利ですから当該1年間で金利は定まり,その後の金利変動や経済情勢とは連動しないという提案です。ということは,仮に1993年時点での債権の存在を考えたとき,民事時効は10年ですので,10年以前の1983年以降に発生した債権がなお存在していると仮定した場合,1993年時点における法定利率は何種類あるか。つまり,83年から93年の間に何回利率が変動したか。それは7回です。0.5刻みにするかで変わりますが,この表からおおざっぱに読み取ると,3%,3.7%,4%,4.5%,5.8%,6.6%,8%の7種類の,しかも最低は3%,最高は8%の10種類の法定金利の債権が1993年の1年間において存在する。その差は実に5%です。ここに基礎となる1%を足すのか,2%を足すのかすれば,それはいずれも上昇の方向に変わるわけです。そういう7種類の法定金利が存在します。これを仮に0.5%刻みではなく1%刻みとしても,3~8%まで全ての種類の金利が存在します。   このような提案ではないかと思うものですから,それを前提に議論するべきではないか。ただ,今,中原委員からもっとビビッドに金利を反映させるべきだと,恐らくこの制度を前提とした御発言だと思います。そうだとすると,もっとビビッドに法定金利が何種類と存在することになりかねないのではないか。それが本来法定金利の予定したものなのでしょうか。   その点は今の段階で重ねて言う必要はないのかもしれませんが,今日の部会資料の1ページでも法定利率を適用する場面が幾つか御指摘あります。契約を解除した場合,悪意の受益者が利益を返還する場合,利率の定めがない場合,そして損害賠償額の算定ということです。しかし,実務はほとんどが損害賠償額の算定であったということは御承知かと思います。それを踏まえて,このような結果になる仕組みを作ることが相当なのかということを是非御議論いただきたいと思います。 ○能見委員 今の損害賠償とか不当利得とかで利息が生ずべき場合に,その利息は法定利率によると思いますけれども,不法占有が長期間継続しているとか,あるいは不法行為の損害が継続的に発生しているようなときには,中井委員が言われたように部会資料74Bの3ページの変動制の法定利率案によりますと,その利率は「当該利息が生じた時」の法定利率となります。したがって長期間の間に同じ不法占有を理由とする損害賠償の遅延損害金が途中でやはり変わってくることがあり得るということです。そうすると,いつ発生した利息の場合には何パーセントで,その1年後に発生した同じ不法占有の損害賠償の遅延損害金についてはまた別の利率が適用される。同じ継続的な不法占有の損害賠償だけれども,その遅延損害金については別別になりうるという意味で非常に複雑なことが生じ得るように思います。   そうだとすると,私は,その点は確かにおっしゃるとおりだと思います。ただ,他方で変動制は経済的な観点から望ましい点もあるので,そこら辺どう折り合いつけたらいいのかと一つの問題かと思います。私はどのようにしたらよいか定見を持っていませんけれども,損害賠償や不当利得などについていうと,繰り返しになりますけど,長期間そういうものが続いたときに,それぞれの利息が発生する時によって全部利息が変わってくるというのは複雑すぎないか。損害賠償を負っているほうも取るほうも,一体幾ら支払えばよいのか,いくら請求できるのかという計算をするのが非常に大変だということがあるように思いました。 ○忍岡関係官 少し資料に分かりづらい点があったかもしれないのですが,利息が生じるたびごとにという意味ではなく,当該債権について最初の利息が生じたその時点で固定する。その後利息が発生するたびにその時点の利率が独立に適用されていくというわけではないので。 ○能見委員 そういうことであれば,遅延損害金の利率は変わらないのかもしれませんが,この資料の説明ですと,「利息が生ずべき債権については,当該利息が生じた時」と書いてあったので,不法占有などの継続的不法行為では,毎月の損害賠償金に対して遅延利息が発生するとの誤解が生じるのではないかと思います。そういう意味ではないのであれば,そこは直していただいたほうがよいと思います。 ○忍岡関係官 そうですね。文言についてはよく検討させていただきたいと思います。 ○潮見幹事 今の発言についてですが,能見委員がお尋ねになったのは不法占有の長期化や継続的不法行為の場合です。そういう場合に,不法行為が回帰的に生じるような場合には,それぞれの不法行為を仮に単独で評価できるとしたら,それぞれごとに利率が変わってくるという理解を事務方はしておられるのでしょうか。もちろん継続的不法行為を一体とした見た場合にどうかという別の問題はありますけど,その問題を除いて考えた場合には,今,申し上げたような理解でよろしいのでしょうか。私は,基本的には先ほど中原委員がおっしゃられた方向に賛成です。 ○村松関係官 恐らくいま潮見先生がおっしゃったことが私どもの考え方に近いと思います。不法行為が継続する場合,例えば,その不法占拠に基づく賃料相当損害金が発生しているとしますと,それがある時点で基準年をまたいでしまえば,それに対して付すべき利息の利率はもちろん変わってくることになります。   ただ,従前提案していた考え方に比べれば扱いやすくなるのではないかというのがここでの趣旨でございます。考え方としては今申し上げたとおりではないかと思います。 ○沖野幹事 確認させていただきたいのですが,幾つかの個別の点で,「当該利息が生じたとき」というのが何を意味するのか教えていただきたいと思います。   いま能見委員や潮見幹事から出された例で,継続的に損害賠償債権が日々刻々と立っていくタイプのものについては,「日々刻々」が利息が生じたときとなるのか。これでいいのかどうかを確認させてください。それに対して人身事故が1回発生したというものですと,事故時に将来の部分も含めて一気に損害賠償債権が発生するとなると,それは事故時である。それに対して利息を付すことを約定したけれども,利率についてはなぜか定めなかった場合で12か月,月々払うというような場合になりますと,利息が生じたときというのは弁済期は12回ですが,元本債権が発生したときがこの利息が生じたときになる。そうすると12回分の利率は当初の点で固定する。こういう理解でよろしいのかどうかです。   もう一つ,解除がされて金銭を返還するときですが,解除時に返還債務が発生するのだと思いますが,利息は受領の時から付けることになっています。利息が生じたときとは,受領時の利率で全て固定という理解でよろしいのか。仮にそれでよろしいとして,この文言で果たして分かるのかという問題もありそうです。確認させていただければと思います。 ○村松関係官 いろいろ実体法の解釈はあるかもしれませんが,私どもが考えていた帰結はいま沖野先生がこれでよいのですかと言われたものと基本的には一致しているはずです。発想としては,利息ないし遅延損害金が発生するのに比較的近いタイミングといいますか,一番新しい利率が適用されるようにしつつ,一つの利率に固定することを考えて,一応こういう基準にしてみたらどうか,ここでは試みに提案させていただいたということです。   そういったものを表現するものとして今の表現が適切なのかという点は確かに問題がいろいろあるのかもしれないという気はいたしますので,なおいろいろと御指摘いただきたいと思います。   取りあえず,発想としては今申し上げたような発想をとったということでございます。 ○道垣内幹事 私は全く勘違いしておりました。まあ私が悪いのだというべきなのでしょうが,中間試案の4ページにアでは,「利息を支払う義務が生じた最初の時点の法定利率によるものとする」となっていて,沖野幹事がおっしゃったような内容であることは明らかであったところ,「当該利息が生じたときに法定利率による」と文言を変えたことによって,いろいろな解釈が生まれ,分かりにくいのではないかという意見が出てきたわけですね。そうしますと,なぜ変えたのだろうかということになります。   しかし,さらに考えてみますと,そもそも「利息を支払う義務が生じた最初の時点の法定利率による」と固定しなければいけないと考えるのはなぜなのでしょうか。例えば100万円の遅滞があった場合に,仮に現時点で4%の遅延利息が発生しているとしても,1年後にそれが3%になったらその次の1年については3%にしても全然おかしくないと思います。それは面倒ではないかという話かもしれませんが,そのようなことを申しますと,パソコンのある時代には0.5刻みにする必要はない,という説明と齟齬が生じるような気がいたします。   面倒だからあまり変えないほうがいいという話から始まっているのですが,私は伺っていて,変えたほうがよほどいいのではないかという気がしました。 ○中井委員 今の関係で一言だけ追加すれば,今の道垣内先生,若しくは前の中間試案の考え方を採れば,当該1年間については一つの金利とする。それに対して今回の提案は,先ほど申し上げましたように当該1年間に適用される法定金利は様々である。一体どの金利が適用されるかは,発生年若しくは遅滞に陥ったときでしょうか,その解釈論が出てくる。かつ,恐らく金融機関にとっても,全ての債権者について,1本ずつ債権を管理しないと,そしてその出発点を確認しないと,利率が異なるので当該1年間に発生する利息が分からない。そういう事態になります。   それに対して,従来の中間試案若しくは今の道垣内先生のお考えによれば,当該1年間に発生する債権の利率は一つになるのではないか。誤解しているでしょうか。 ○道垣内幹事 私の発言の理解としては正しいのですが,中間試案は利息を支払うべき義務が生じた最初の時点という中間試案ですので,これは変動しないことが明らかだったのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 ウがあるので。 ○道垣内幹事 ウがありますか。ごめんなさい。 ○中井委員 今回変わったところも踏まえて議論しなければなりませんということを言いたかったのですが。 ○山野目幹事 中間試案を改めて読み直しながら,本日の部会資料と照らし合わせて考え方を整理してみますと,中間試案の場合には二つの意味での変動制が提案されていたと理解していました。民法の法文に,今,年5分と書かれているところ自体を変動させるという意味での法定利率の変動制があります。それからもう一つの変動制は,その規律の下で実際に個別具体的に発生した債権の時々に発生する利息が逐次変動していくという,法定利率の変動制と区別した意味で申し上げますと,適用利率の変動制とでも言うべきものが併せて提案されていたのだと理解いたします。   それに対して,本日の部会資料は3ページの(1)アの文言については,確かにもう少し明確にする必要があるかもしれませんが,部会資料全体を拝読すると法定利率の変動制を引き続き提案しておられると同時に,適用利率の変動制を断念するという立場をお採りになったものであると理解いたします。   そのような理解を踏まえて,私の意見を少し述べさせていただきます。適用利率の変動制の採用を断念したところは,かなり根拠があるのではないかと感じます。ただいまの道垣内幹事の郵貯のお話は面白かったですし,ごもっともな部分もありますけれども,多分適用利率の変動制を現実に採用したときには判決の実務,又は執行の実務に対して非常に重大な負荷を生じさせる恐れが大きいです。これをにわかに採用するということについては,私は慎重にならざるを得ないと感じます。   そのような意味で,本日の部会資料の御提案自体はそれとして受止めることができますが,ただそうすると中井委員が御指摘になっておられるような幾つもの法定利率が同じ年代に存在するということになり,そのこと自体は事務的な処理で対応すればいいことなのかもしれませんけれども,不法行為に基づく損害賠償債権のときに一体時間的な幅のある不法行為のどの時点の利率が適用されるのかということに関して,土地の不法占拠のような単純な不法行為の場合にはまだ理解が可能ですけれども,症状がだんだん昂進してきてある時点で確定するというタイプの不法行為であるとか,回帰的に違法な行為が行われるような不法行為であるとか,そういうものへの対応も見通した上で解決が得られるかということについてなお危惧を禁じ得ません。   加えて,もう一つ裁判実務上問題になることは,実体法上不法行為が生じ,その時から実体法上遅延損害金が発生して利率が観念的に定まっていると見えるような場合であっても,現実に訴訟当事者となる,取り分け被害者である原告が定立する請求の有様は様々なものでありまして,不法行為の場合であっても訴状送達の翌日からの遅延損害金を請求するという仕方で請求が定立されることが,裁判実務上まま見受けられるところでございます。   このようになったときに,その請求自体は訴訟法的には一部請求であるとして自然に理解することができると思いますが,遅延損害金の計算との関係がどういう理論的整理を踏まえて,どのような実務が行われるかということについての見通しを得ておかないまま,この法定利率の変動制を導入した場合には混乱が大きいのではないかということも危惧しております。 ○中井委員 ただいまの山野目幹事の御指摘のとおり,変動制には二つの部分があります。それを中間試案では取り入れていて,今回の御提案では適用金利の変動についてはそれを諦めたと私も理解いたしました。その方向性については,私としては元々現行の法定金利一本維持説ですから,そこはさておくとして,その適用がパブリックコメントの結果を踏まえて慎重にお考えになられて,そこを断念することについては私は評価いたします。   その上で,この枠組みを使うとして私からの御提案は,これを仮に1年ごとに見直すとしても,短期12か月の平均を取るから先ほど申し上げたような事態になるのであって,これを仮に過去5年間60か月分の平均をもって毎年見直す,毎年見直すというのは変えない。この(1)エの「12か月における短期貸付の平均利率」ではなく,60か月における短期貸付金の平均利率を採って毎年見直す。そうすれば,先ほどの「短期プライムレート及び貸出約定平均金利の変動状況一覧表」に戻りますと,どのときをとっても概ね高金利の時代は6%,少し下がってきて5%で動き,低金利時代になるときは4か5ぐらいを経由して3に落ち着く。変動はそれほど数多く起こるわけではなく,かつ経済実態に即した変動,それは緩やかな変動ですけれども起こり得る。   60か月ということに絶対的根拠があるわけではございません。しかし,昨今の消滅時効の議論では5年というのが一つの目安です。若しくはリース債権者等につきましても,5年というのを一つの目安として分割弁済をさせて利率を計算しています。金融機関における証書貸付でも5年が一つの枠組みとして多く使われていることを考えると,5年60か月の平均を採るという緩やかな変動制がより好ましいのではないかと改めてここで御提案する次第です。   この部会資料の中で,例えば5ページでしたか,ビビッドに反映させるのがより好ましいという記載がどこかにあったと思います。長期の貸出しを採るのか,短期の貸出しを採るのか,ストックを採るのか,新規を採るのか。いずれもこれは短期,新規を採用されています。果たして法定金利というもの,しかも多くが損害賠償に適用されることを想定したときに,そのような基準を採ることがいいのか。仮にその基準を採るにしても12か月がいいのか。むしろ安定的ということから考えれば,60か月というのが一つの考え方ではないかと思います。   更に言うならば,この考え方の基礎にあるのは少なくとも先ほど言いました自動変更条項付固定金利制なわけですから,原則は固定金利制なのだと理解します。変動条項付きにしたのは,正に2ページの下段にあるように客観的な基準をあらかじめ策定して,様々な事情により改正の時期を逸することがなく,適宜に見直しができるようにしておく。つまり,国会が決議するまでもなく経済情勢の大きな枠組みの中で機能する仕組みとして構築するのであれば,60か月の平均を採るというのは一定の合理性が認められるのではないかと思います。仮に部会資料のような枠組みを採るとしても,是非ここは見直しを御検討いただきたいと思います。 ○能見委員 今の山野目幹事の説明で,私もはっきりしていなかったところがはっきりしてきました。しかし,仮に適用利率の変動制は採らないということにしたとしても,損害賠償の場合は実際にはどちらなのかというのが必ずしも明らかでない。継続的な損害の場合に,毎月あるいは日々なのかもしれませんが,別の損害が発生すると見ているのか,あるいは将来部分を含めて一つの損害だと見るのか。これは損害についての解釈論に影響されるのかもしれません。ただ,そこが解釈によって変わり得るのだという前提で考えると混乱する可能性があります。   例えば不法占有あるいはほかにも継続的な損害があると思います。先ほどの御説明だと,不法占有も含めて最初の遅延利息が生じる時の法定利率で固定するということですね。毎月毎月変わるということではないということですね。そうではなかったですか。 ○村松関係官 不法占有について,そういう意味で日々,賃料相当損害金が発生するとして,それに対する遅延損害金が何%になるかという問題だと思いますけれども,それについては日々発生するのだという実体的な理解を仮に前提するとしますと,例えば平成24年中は3%だったけれども,平成25年からはそれに対して付く利息が4.5%に変われば4.5%になると,そういった帰結になります。 ○能見委員 では,やはり不法占有の場合の遅延損害金は変わるということですか。 ○村松関係官 不法占有について,その不法行為債権が日々別途発生しているという理解をするとそうなるのではないかと思います。 ○能見委員 そうすると,やはりその前提の解釈を待ってということになるわけですね。損害がどう区切れるのか,一つになるのか,分かれるのか。 ○村松関係官 そういう部分があるのは間違いないと思いますが,不法占拠については私どもとしては日々発生するタイプだという理解しております。 ○大村幹事 今,様々な御意見が出ているかと思います。その中で中井委員のお考えと道垣内幹事のお考えはある意味では両極にある気がします。しかし,目指しているところは共通なのかという印象を抱きました。   中井さんはできるだけ変えない,あるいは緩やかに段階的に変えることによってケースごとのばらつき,そこから生じる不公正さを除去しようというお考えだろうと思います。それに対して道垣内さんのほうは細かく変えることによって,ここに出ている言葉でいうと,適用金利と言われているものも変えることによって不公正さを除去するというお考えだったように思います。   それに対して今議論のテーブルに上がっている案は,最初の利息が発生したときに固定するということで,後のことを考慮に入れないという点では簡明ではあるものの,どこが基準時になるかによってかなりばらつきが生じる恐れがあるというものです。そのことについて皆さんが危惧を示されているのではないかと感じました。   中井さん,道垣内さん,どちらの方向で収束させるのかということについては,技術的な選択肢があるのだろうと思いますが,疑問として出されていることは共通なのではないかという印象を抱きましたので,技術的な選択肢と併せて更に御検討いただくことなのかと思います。 ○岡委員 三つ申し上げます。一つ目については,弁護士会では相応の有力説という立場だろうと思います。それは3%に変えるけれども方程式は作らないという立場であります。それは安定的であるべきだという中井さんの意見も一つの大きな根拠でございますし,法定金利は様々なところに用いられる政策的金利であります。その政策で決めるいろいろなものの総合体であるので,市中金利が一つの重要な要素だとは思いますけれども,その一つの市中金利の変動幅でこれから未来永劫連動させるということについての危惧感,違和感がございます。   金利が今後あるいは将来どうなるかというのは,このグラフを見ても一寸先は闇のようなところがありますので,かなり変動するものに直結,連動させることは今の時点の判断としていかがなものかということです。政策的な金利であり,安定的であるべきであるので,その都度国会で決めるのでいいのではないか。多少機動性が遅れるかもしれないけれども,今回のように金利が安定的に移ったところで変えるという方向でも耐え得るのではないか。今回5%から3%に変われば,法定金利というのは時代によって変わっていくということが周知されますので,その前提で国会のその都度の判断のほうが安定的,政策的によいのではないか。こういう意見がまだ根強くございます。それが1点目でございます。   2点目につきましては,遅延損害金との違いについてまだ根強い違和感があるという意見が出ました。法定金利が5%から3%に下がるのは何となくいいような気もするけれども,今は約定の遅延損害金金利が14.6%にへばりついており,そちらはほとんど変わらない。これからも変わらないとすれば,約定の遅延損害金はそこに止まったままで,契約とか特約をすることのできない人たちの遅延損害金だけがどんと6割に下がってしまう。このアンバランスをどうしたらいいのか。こういう問題意識が終盤になって具体的に出て来ました。   その解決方法としては,今日は比較法の資料をいただきましたけれども,第一読会でも出た遅延損害金については法定金利プラスαをつける,この考え方も非常に捨て難いところでありますが,今となってはもう無理なのかなという意見もございます。   そうなると,今度はそれほど熟した議論ではないのですが,利息制限法が14.6%の約定金利の大元になっているわけなので,法定利率が下がればその利息制限法の利率も変えるという選択肢もあっていいのではないか。法定利率だけ下げて利息制限法がそのままだと,アンバランスが目立ちます。利息制限法の改正がいいのか,もう少しソフトローがいいのか,その辺はまだ熟した議論ではないですが,これを何とかすべきだという意見でございます。   3番目の適用金利の変動制のところでございます。それについては一弁の議論では法定金利を国会によるその都度の決議にすれば,頻度はかなり減るであろう。5年に一度とかそのぐらいになるので,頻度が少なければ適用金利の変動制はなくてもいいのではないか。そのような議論をしてまいりました。 ○佐成委員 まず,経済界は基本的に変動制をこれまでずっと一貫して支持しております。今回,内部で改めて議論した中でも,やはり変動制でお願いしたいという基調の意見がございました。   それは,基本的には現行の法定金利が市場金利に比べて高いといった意識に基づくものでございます。それを是正する方法として何かないか。確かに高い,低いというのは,いま岡先生がおっしゃっていましたように,必ずしも貸出金利だけではなく,いろいろな要素があるでしょうから,なかなか決めにくい。それで一つの選択肢として,一定の基準で変動制に踏み出すことによって,絶対的な意味での高いとか低いという評価を盛り込まず,むしろそうした評価を敢えて放棄し,専ら市場メカニズムにその決定を盲目的に委ねてしまうといった方向が示されたわけです。ですから,今までの固定制からは大きく踏み出すことになるという意味で,発想としてはかなり大きな変化になっているだろうと私は感じております。   そういう意味では,いま岡先生から国会でその都度審議をするというお話がありましたが,それは絶対的な水準を議論することになってしまいますので,合意を得るのがそもそも難しいことだろうと思います。もしそういう議論をするということであれば,5%というのは100年の歴史がありますから,それはそれである意味では一つの絶対的な基準なのかもしれないわけです。にも拘らず,そこから変動制に踏み出すというのですから,哲学的にも相当変わってくると感じます。もはや立法者は絶対的な水準の議論はやめて,ある一定の基準で変動させて,その結果に全てを盲目的に委ねてしまいましょう,そういうことだろうと思います。   今,この変動制に踏み出せば一寸先は闇だという岡先生のお言葉がありましたが,私もまさにそのとおりだろうと思います。多分そういう形で,絶対的な水準をうんぬんするということではなく,機械的にやってしまうということだろうと思います。経済界はそれを「市場メカニズムに委ねる」と説明できるので,敢えて望んでいるわけでございます。けれども,ただ何といっても実務負担だけはできるだけ軽減してもらいたいということでございます。   先ほど来,適用金利に関してのいろいろなお話がありました。適用金利はどうしても変動制になると議論が出て来るであろうと思います。それは一定の解釈論が確定して,安定的に運用されているのであれば構わないですけれども,請求者や実際に利用する方の機械主義的な行動によって適用金利が選択できるということになりますと,非常に実務的な混乱の素にもなります。これは皆様もおそらく同じようにお感じになっていることだとは思いますけれども,適用金利に関する解釈というのは,もし変動制に踏み出すとしてもきちんとしていただく必要があるだろうということは,今の議論を聞いていて改めて強く感じております ○野村委員 法定利率によって算定されるべき債権を仮に元本枠と呼ぶとすると,例えば売買代金債権などのように債権額が正確に計算されている場合には,遅延損害金は,金利を細かく変動させていけばさせていくほど,ある程度正確な損害を反映していくということになるのだと思います。   他方で,そもそも法定利率によって損害額を算定する対象となる元本枠が,例えば人身損害の逸失利益のような場合には,元本枠そのものの計算がかなりいろいろな仮定の下に推測を重ねて出来上がっているもので,そこに細かい複雑な金利のルールを当てはめてもあまり意味がないという気がします。そうかといって,二つを分けて利率を考えるのも恐らくあまり現実的ではないので,そういう異なった問題があるということを考えた上でどういうルールがいいのかを最終的にお考えいただければいいのではないかと思います。 ○中田委員 今の野村委員と大体同じような印象ですけれども,発言される方によって想定されている債権の種類が違っているように思われますので,それらを広く検討する必要があると思います。   一つだけつけ加えますと,安全配慮義務違反の場合には請求した時から遅滞に陥ると考えると,その時点での金利ということになりそうですが,そこに先ほど佐成委員がおっしゃった機会主義的行動というのが入る可能性がありますので,幾つかの債権について考えいくのがいいのではないかと思いました。 ○中井委員 先ほど大村委員から私と道垣内先生の発言に関して,いずれも公平の観点から見れば目指す方向は同じではないかという整理をいただきました。その整理はそのとおりですが,基本的な方向としては道垣内先生と私とでは異なっていると認識しています。つまり,道垣内先生は日々経済情勢に応じた金利変動に即して損害金なり金利なりを発生させることによって公平を達しようというお考えです。その考え方については,私としては賛成していないという点を申し上げておきたい。   それから,先ほどの私の提供した資料によれば,1年違えば本当に3%か,5%か,8%かというこの違いの損害金利になります。仮に交通事故なり死亡事故が発生したとき,解決までに3年,5年掛かるというのはざらだと思います。その3年,5年の期間,たまたま事故が起きたとき,若しくは死亡という事態が顕在化したときの金利差が反映されるというのは果たして本当に公平なのか。道垣内先生のように更に市場金利に連動型になれば,それが如実に出てくるわけです。その公平性には疑問を持っています。   ここで議論すると混乱するだろうと思って避けましたけれども,この後議論される中間利息控除との関係で申し上げれば,仮に死亡事故での逸失利益の算定になれば,いま野村先生もそのことを暗におっしゃられたんだろうと思いますけれども,今回の御提案ではその時点における法定金利を適用するとなれば,1年,2年違えば,3%,5%,8%違うという法定金利の適用について裁判所を拘束することになります。それは,経済情勢における金利変動をそのまま反映させればそのまま不公平感を助長することになりかねない。したがって私としては後ろとセットでという面もあって,公平性を維持するためにはできるだけ緩やかな,本当は法定金利一本化でいいぐらいに思っていますけれど,緩やかな仕組みを採用するのがよろしいのではないかと思っていることを重ねて申し上げたいと思います。 ○道垣内幹事 一言だけ。私は日々変えろとは言っていません。変わったときには変わるというだけです。それが1年になるのか,2年になるのか分かりませんし,中井委員のおっしゃっているような形の金利の定め方にしても,変わったときは変えるだろうというだけの話です。 ○永野委員 適用金利の変動を頻繁にすることによって公平を図っていこうというのは一つの考え方だと思いますけれども,私どものパブコメの中でも前回の中間試案について懸念する意見が多かったのは,やはりそういう形で公平を達成していくのはかなり実務的にも多大なコストが掛かってくるのではないかという辺りの懸念があったのではないかと思います。   今日,御発言いただいている実務界の方々の御発言もそういった点を背景にしていると思いますので,やはり公平を図っていくことは必要でありますけれども,それをどれぐらいの頻度でやっていくのがいいのかという辺りについては,法定利息について安定的な規律が持っている意味を勘案しながら制度設計をしていくことが必要なのではないかという印象を持っています。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   幾つかの論点の所在が明確になっていますが,それぞれについての御見解はなお大きく分かれているというのが現状です。   事務当局として今後の作業を続けていく上で,この点についてもう少し意見を聞いておきたいということはありますか。   よろしいですか。   それでは,頂戴しました意見を踏まえて更に検討を続けさせていただきたいと思います。 ○道垣内幹事 適用基準の変動を行えと主張しているのは私だけなのかもしれませんが,私はその点について意見を撤回する意思は十分にあります。ただ,私が気にしていたのは,佐成委員がおっしゃったように,高いときを選ぶのはおかしいだろうというところにもあります。したがって,変動制を撤回するときには,定め方については中井委員の意見に賛成です。 ○村松関係官 今ちょうどお話しいただきましたけれども,事務当局の案も当事者が選択をすることで金利が変わってしまうのはおかしいだろうという意識はもちろん持っております。それは客観的,明瞭に分かる必要があるだろうというポイントがあることも分かっています。方向性としてはそういう基準を作らなければいけないと思っているというのが1点でございます。   それから,変動のタイミングが隔年なのか,3年に1回,5年に1回という部分も恐らくあり得ますし,更に中井委員がおっしゃったようにそのときに参酌する期間が1年か,3年か,5年か。この辺りも恐らくかなり政策的に決まり得るだろうと私どもも理解しております。中間利息控除との兼ね合いなども考えると,かなり緩やかにしていく必要性が高いのではないかという問題意識は持っています。   ただ,他方で中原委員がおっしゃったかと思いますけれども,それはそれで,でもやはりビビッドに反映するようにすべきであるという御意見もある中でどの辺りが落ち着きどころとしてよろしいのかを,また更に検討していかなければならないという気がしております。   それから,若干この変動制のメリットに関して国会がというお話がございました。もちろん国会もそうですが,恐らくこういった議論を再度行おうとすれば,またこの審議会のプロセスの中でどういった考え方を採るべきなのかといったところから議論をする。そういったところも含めて全体のコスト,あるいは時間がかかってしまうことがどうなのかというところを申し上げているつもりでございます。 ○中井委員 引き続き御検討いただけるということですので,是非よろしくお願いしたいと思います。   そのときについてのお願いですけれども,今日,私は資料提供をいたしました。過去の実績が将来の裏返しではないことは承知しておりますけど,過去の実績は将来あり得るということでしょう。私の提供した資料は,必ずしも正確にできているとは限りませんので,是非正確に過去の例えば短期プライムレートを採るなり,長期プライムレートを採るなり,公定歩合を採るなり,このルールを当てはめたらどういう金利変動になるのか。それを3年ごと,5年ごととしたらどうなるのか。若しくは,毎年変更するとしても36か月,60か月,場合によっては120か月かもしれませんけれども,その平均を取ればどういう法定金利の変動になるのか。やはりそれを国民に分かりやすく見せる,そのような資料作りを是非していただきたいと思います。   私から不満を一つ申し上げておきますと,6ページの図4の元データとしては1993年~2012年までの資料があります。あるにもかかわらず最初の3年分の大きく変動している部分が削除されています。これは安定期のものをシミュレーションで御提示されたということは,先ほどの説明で私は十分に理解いたしました。しかし,最初に見てこの日銀の貸出約定平均金利をインターネットで調べてみると,93年から存在する。この表を作るのに,まだ右と左に3行,4行は十分に書けるわけなので,なぜそれを含めなかったのか。なぜそのときに2回変わるという情報提供を委員幹事にしなかったのか。その点については猛省を促したいと思います。 ○岡委員 二つ質問がございます。   一つは,租税特別措置法が,延滞税とか還付加算金についてこの1月1日から変動制を採用していると思います。租税特別措置法の加算税については,先ほど出た言葉の適用金利の変動制を採用しているのかどうか。その点お分かりだったら教えていただきたいというのが一つです。   もう一つは,商事法定利率について今回何の記載もなかったのですが,これはまだ先の問題としてこれから議論するということでしょうか。この二つの質問でございます。 ○忍岡関係官 租税特別措置法の適用利率については,いわゆる適用金利の変動制が採用されているものと理解しています。   商事法定利率につきましては,この議論について一定程度ゴールが見えましてからよく考えたいと思っています。 ○岡委員 一国の制度の中で,租税特別措置法は適用金利の変動制を採っていながら,民法でそれは採らないというのはそう大きな問題ではないという認識ですか。 ○忍岡関係官 事務当局としてはそのように考えております。つまり租税特別措置法は適用される場面が非常に限られていて,一方が国であるという場面。これに対して今議論している法定利率は,何度もありましたとおり多様な場面で多様な方が使われる利率であります。その違いがあるのでこのような関係になっております。 ○鎌田部会長 岡委員が先ほど提案されました法定利率を3%にというときには,制度改正時に既発生の債権についても3%に下げるというお考えでいらっしゃいますか。 ○岡委員 いえ,国会による変動制を取ったとしても,変動ということを一旦決断すれば,基準点がいつかとか,その後変動させるかどうかの問題が必ず出てくると思います。そのときにどちらがいいかは考えなければいけないと思っておりますが,まだ決断はしておりません。 ○鎌田部会長 適用利率の変動制を採ると,逆にいつ利息が発生したかの解釈問題によって大きく結論が変わるという難点が避けられて,既存の債権については全部同じ利率が適用されるということになります。どこに関心を集中させて議論していかなければいけないかという部分も,かなり変わってくる気がします。今のところは中間試案のウの復活という意見はそれほど多くないとお伺いしていてよろしいですか。 ○沖野幹事 先ほど中井委員のお考えと道垣内幹事のお考えが非常に先鋭的に対立しているのか,対立していないのかというお話がありました。考え方は何に力点を置くのかによっても変わってくると思います。   他方,中井委員がお示しになったような形で,60か月単位のような緩やかな変動ということにするならば,適用金利の変動によるマイナス面は緩和されるということがありますので,両者を組み合わせるのも十分考えられることではないかと思われます。議論を聞いていて私はそれがよろしいのではないかと思ったものですから,かえって意見を加えることになって全然収束の方向に向かわないのは申し訳ないですけれども,元の変動の決め方によってはそれが緩和されて,組み合わせというのも十分可能になるのではないかと考えております。 ○山本(敬)幹事 先ほどから道垣内幹事が問題提起されていた点については,恐らくどなたもある程度以上共感するところがあるだろうと思います。特に,ある一定の時点で利息が発生する債務を負うことによって,その時点での利率がずっと固定する。その前後で利率が大きく変動したような場合には,その人にとっては不公平感がどうしても出てくる。実務の運用においても,それをそのまま維持できるか,あるいは何らかの解釈がまた生まれるか,分からない。そのような意味でのある種の不安定さが残ってしまうという気がいたしました。   その上で,中井委員の意見を伺って,もし中井委員のおっしゃるような形で法定利率の変動幅が減るのであれば,これは不公平感を減らす方向に働く可能性があります。その意味では,適用金利の変動制を採らないのであれば,中井委員のような考え方を採らないと,恐らく将来大きな問題が生じる可能性があると思いました。沖野幹事の今の御意見は,素朴に思っていたところをうまく言い当てておられるという気がいたしました。その意味では,もう少し柔軟に,更に考える余地があるのではないかということです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。それでは,頂戴した意見を踏まえて更に検討を続けさせていただきます。   次に,「(4)中間利息控除」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○忍岡関係官 「(4)中間利息控除」について御説明いたします。   中間利息控除を行う場合に用いる割合については,中間試案では損害賠償額の算定に関する現在の実務運用に関する全般的な議論が行われていないことを踏まえて5%の固定利率とするとされていました。   しかし,この案についてはパブリックコメントにおいて異論を述べる多くの意見が寄せられました。具体的には,そもそも中間利息控除を用いる割合として5%では高すぎるという御意見や,法定利率や中間利息控除の割合に隔たりがあること,そのことが被害者救済の観点から疑問であるという御意見もありました。このような御意見を踏まえつつ,中間利息控除の割合についてどのような扱いをするべきか改めて御審議いただきたいと考えております。   中間利息控除の割合について,中間利息控除に用いる割合を法定利率とは別に新たに法定することを今般の改正において実現することは難しいのではないかと考えております。他方で,中間利息控除に用いる割合を法律で定めないと中間利息控除に用いる割合が明らかではなくなり,実務が少なくとも一時的には混乱してしまうという指摘があります。そこで,何らかの利率を定めるとすると法定利率を用いることが考えられます。しかし,このような考え方を採った場合に生じる可能性がある影響については11ページで触れております。   具体的には,中間利息控除に用いる割合として法定利率を採用した場合に三つほどございます。一つ目は法定利率が5%より低くなることによって損害賠償額が上がる可能性が高いこと。二つ目に,法定利率の見直しの頻度が少なくともこれまでよりは増える可能性がありますので,損害保険制度において事務的なコスト増に伴った保険料への影響が起こり得る。三つ目に,被害者が被害を受けた時期によって,ほかの要素が全く同じであったとしても損害賠償額が異なり得るという指摘があります。   本日は,これらの指摘を踏まえて改めて御意見を頂戴できればと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 中間利息控除については,将来の金利水準が分からない中で被害者に対する損害の一括賠償の在り方自体に関わる問題のため,様々な議論がございます。仮に変動制に変更した場合に,社会全体にどの程度の影響が生じるかについて十分に慎重な検討をすることが必要と考えております。よろしくお願いいたします。 ○松本委員 一つ質問ですけれども,この9ページの(4)のところで,「控除の割合は,一定の時点(例えば,損害賠償請求権が生じた時点)の法定利率によるものとする」と書いてありますが,先ほどの本来の法定利率のところでも,いつが利息を生ずべき時点なのかという議論がございました。例えば,交通事故の場合の逸失利益を法定利率で中間利息を控除する場合を考えると,即死の場合は事故時で死亡という損害が発生する。これは大変分かりやすいわけです。即死ではない場合,死亡による逸失利益の発生時は死亡時ではないかと思うのですが,これは損害とは何ぞや,幾つの損害に分けて考えるのかという議論に最終的には還元されることかもしれないですが,もしも死亡による逸失利益の損害賠償債権は死亡の時に発生したと考えると,いつ死亡したかによって利率の変動期の先後との関係で相当変わってくるわけです。何百万円と変わってくる可能性が出て来るので,そのまで延命治療をしましょうかとか,早く打ち切ってくださいとか,すごく余分なファクターが入ってくるような気がして,公平感という点でどうなのかという気がいたします。   他方で,そういう人為的操作ができない交通事故発生の時点に,その後の死亡も含めて固定するという考え方もあり得るかもしれませんが,それは損害論の観点から適切なのかという感じがいたします。ここについてもう少しクリアにする必要があるのではないかと思います。 ○井上関係官 金融庁の立場から中間利息控除に関する意見を申し述べさせていただきたいと思います。   当庁の立場からは,やはり損害保険の実務に対する影響を指摘させていただきたいと思います。本日は,日本損害保険協会その他の団体から意見が出されております。そこでは損害賠償論との関係,ないしは法定利率を変動制に改めた場合でも改正後の法定利率を用いることとする必然性はないという御意見が出ております。   他方,先ほどの事務当局の御説明の中では,法定利率と別のものを用いることはかなり難しいという御意見も我々としては首肯できるものでございますので,その間のバランスをとっていく必要があると考えております。   損害保険の実務のことを考えますと,仮に中間利息控除に変動制が適用されますと,今の損害賠償論への影響,適用日が異なることによって損害賠償額が大きく変わってくるということに加えて,システム対応ですとか,あるいは商品見直しに伴って保険料に転嫁しなければいけないという問題が出てくるかと思います。そのような場合に,仮に変動制を採用するということでございましたら,実務への影響をできるだけミニマイズするような形の御検討をお願いしたいと思っております。   一つの考え方としては,法定利率の適用の決定から実際の施行までの猶予期間を,できるだけ長く取っていただくということが考え方としてあるかと考えております。例えば消費税の引上げの場合でも,法律が公布されてから施行まで1年半ぐらいの猶予があるかと思います。それが適切かどうかということは置きまして,保険料を変える場合には保険商品の審査を当庁で行わなければいけないことも御勘案の上,ある程度十分な準備期間を取っていただけると有り難いです。   あとは先ほど中井委員から御提案がございましたように,より長期の移動平均で法定利率を定めるということであれば,それはより安定的な法定利率の決め方です。そういう意味でも緩和の可能性があるのではないかと考えております。 ○佐成委員 損保協会も経済界の有力なメンバーでありますので,内部で議論したときにも,今回資料として提示されております趣旨の御意見を頂戴しております。それに加えまして,事業会社の方からも,そもそも変動制を中間利息控除に適用した場合の社会的な公平感については,やはり相当危惧の声が出ています。社会的な公平を欠くのではないか。つまり,変動制によって利率を変動させて賠償額が大きく上がったり下がったりするのは,社会的な公平性の見地から見てどうなのかということです。事業会社の方もそのようなことを言っています。   それから,仮に今回の中間利息控除に5%ではなく新しい低い利率を入れた場合には,どういう形でどれだけ跳ね返るか正確には分かりませんけれども,おそらく保険料の上昇という形で跳ね返るだろうことが考えられます。どれぐらい上がるのかよく分かりませんけれども,内部ではそういった面での影響等を懸念する意見もございました。   そういう次第で,経済界としては,パブコメの段階で,あくまで暫定的という趣旨ではございますけれども,現在の5%水準を中間利息控除に関してだけは認めてもらえないかという意見を提出し,今回内部で議論した中でも依然として強かったということでございます。 ○野村委員 法定利率について市場の金利動向に合わせて,変動させるのであれば,中間利息の控除は,理論的には,本来,将来の利率を予測して控除するということになると思います。ただ,その計算がなかなかできないと思います。法定利率は短期の場合と長期の場合とで,市場では金利が違うわけです。しかし,ここではそういうことをある程度捨象して決めざるを得ないと思います。基本的に損害額が算定される基準となるべき時期,ここで言えば損害賠償請求権が生じたときの基準時で,利率を定めるルールを考えざるを得ないのではないかと思います。実際の法定利率が例えば先ほどのように,2%になる可能性があるときに,中間利息の控除の利率が5%というのは少し引きすぎるという気がします。ですから,選択肢としては中間利息の控除については,明文の規定を置かないということもあり得るのではないかと前から思っていました。   もう一つは,ある程度長期の金利と短期の金利を含めた形で法定利率が決まるのであれば,中間利息の控除は,その損害額が発生したときの法定利率によるというのが次善の策としては考えられるのではないかと思います。 ○佐成委員 一言だけ申し上げます。野村委員の今の「書かない」というご発言ですが,これについては実務界は相当反発しております。何も書かないと実際の適用場面でかなり混乱が生じて,裁判においても,ある裁判所ではこう,ある裁判所ではこうということが起こります。要するに平成17年の判例以前の状態がまた出てしまうのではないか。それについてはかなり抵抗感があるようでございます。 ○中井委員 この問題については,これまでも十分に議論されてきたのだろうと思います。書くか書かないかについては,やはり書いたほうがいいという意見は同じでございます。   では,どう書くかですが,先ほど申し上げましたこの前の法定利率の決め方がこの原案どおりであるとすると,直ちにこの法定利率で変動するとなれば,結果における公平性を著しく欠くことになるのではないかという意見は先ほど申し上げたとおりです。   ところが,先ほど私の提案したような形で長期的な観点から緩やかな法定利率変動制を仮に採用するとすれば,もちろん一定の了解の範囲であることを前提としますけど,ここで御提案されている一定の時期において法定利率を適用する考え方は十分あり得るのではないか。それを適用した上で,なお不公平感があるときには裁判所がしかるべきところで調整することが十分に可能な範囲になるのではないかと考えております。   前の法定利率について見直しすることによって,(4)を維持するという考え方を更に検討していただければと私自身は思っております。 ○能見委員 この中間利息の控除は,私もどういう場面でこれが使われるのかが損害賠償以外によく知らないのですが,少なくとも損害賠償で逸失利益などの賠償,将来分を現在請求するという形で一括請求するときに中間利息の控除をするというのが一番使われる場面だといたしますと,そもそも中間利息をそこで控除するのは,逸失利益の請求ないし算定の仕方とも関係します。逸失利益のような損害をどう算定するかについては,ある種のフィクションとまで言っては言いすぎかもしれませんが,しかし,やはり多少そういう要素がある特殊な問題だと思います。そういうことも考えると,法定利率は経済界全体に関係することとして,法定利率の変動制をとるならばとるでいいのですが,そこで変動制をとったとしても,中間利息の控除の際の利率については必ずしも同じ変動制の法定利率でなくてはいけないという必然性はないような気が私はします。なかなかいろいろと難しい問題もあるのかもしれませんが分けて考えて,中間利息の控除については変動性を取らないということもできるのではないかと思います。   ただ,現在の5%は高すぎるので,これも思いつきのようなことなのでここで申し上げるのが適当かどうか分かりませんけど,例えば3%とか,現在の情勢の下で中間利息の控除のパーセンテージを決めて,一定の期間で見直す,ある意味で中井委員の緩やかな対応ということと似ているかもしれませんが,10年であれば10年,5年だったら5年に1回中間利息ついては見直しをするという形で,社会的実情にも対応させる考え方もあると思います。   ただ,そういう考え方は,いずれにせよ法定利率の考え方と中間利息の考え方を違うものとして扱うので,そこはいじれないということになると私の案は難しいわけです。しかし,そこの大前提が本当にそれでいいのかという疑問を感ました。 ○山下委員 法定利率とこの中間利息控除の利率を違えて設計することができないという理由がもう一つよく分かりません。部会の資料でも,最初の頃は一般の法定利率は比較的短期の市場金利に連動して,中間利息控除のような長期のスパンで考えるものは長期の利率の変動を反映させるという2本立てを考えていたと思います。中間試案でも,そこは一般の法定利率と中間利息の控除は5%という2本立てを採っていたので,5%にするかどうかはともかく,そこはコンセンサスが比較的あったのではないかと思います。5%にすると世の中の反発が非常に強いというのは一つ分かりますので,そうであれば,もう1回元に戻って,今の法定利率と中間利息控除の割引率とは少し違うものとして設計することを考えたほうがいいのではないかと思います。逸失利益の計算のように,これから将来何十年という先もあり得るという前提で現在価値をどう評価していくかということなので,遅延利息や何かの損害が既に発生しているというのとは違って将来指向の問題ですので,そこはあまりこの法定利率について中井委員の御提案で,これもある程度長期のスパンで少し考えたらどうかということはあったので,それで大分緩和されるとは思うのですけれども,その長期の中でもまだ幅は大分違うのではないかと思うので,法定利率について2本立てのような制度を何か考えたほうがいいのではないかなと思う次第でございます。 ○中田委員 私も今お二人から出ましたように区別をすることが考えられるのではないかと思いました。その理由として今まで出たことのほかに,中間利息控除は対象となる全期間にわたって及ぶのに対し,遅延損害金は債務を履行すればそこで終了し発生しなくなるということです。もちろん利息の合意があって利率の定めがない場合には,法定利率による利息が長く続くこともあるかもしれませんが,そういうことはそれほど多くなくて,実際上より重要な遅延損害金について今のような違いがあることは大きいと思います。   ただ,一方に法定利率を定めて,他方にそれと全然違うものを設けるというのは実際上はなかなか難しいのかもしれませんので,例えば一方については法定利率を定めて,他方については,それを用いながらより緩和するなり,あるいは場合によっては中間利息控除については上限を設けるなり,幾つかの修正の仕方もあり得るかなと思いました。 ○道垣内幹事 私は刻々適用変動制を主張しましたので,その発言とは矛盾することになりますが,以下,発生時固定制を前提に発言します。   それは,中間利息控除の問題と遅延損害金の発生のときの利率の問題が別個の問題だという理由がよく分からないということです。例えば1年後の100万円のものは中間利息控除によって例えば5%控除されるとします。95万円くらいでしょうか。しかるに,現実にその95万円の債務を払ったのは当該100万円のものが現実に発生したこり,つまり1年後であったというときに,3%の遅延損害金しか付かず,98万円の支払でよいというのは,どう考えてもおかしいのではないかという気がします。二つの問題は別個に考え得るということがよく分からないのですけれども。 ○松岡委員 ほとんど同趣旨です。将来の債権を現在の価値に直すときには中間利息控除と同じ考え方を採らざるを得ません。もちろん約定で処理できればそれでいいのですが,約定はないけれども将来の債権を買い取らざるを得ない場合には,それを現在の価値として評価し直す必要があるのではないか。道垣内幹事と同様の疑問を抱きました。   しかも将来の債権の弁済期には長短さまざまなものがありますので,それを二つに分けるというのもよく分かりません。 ○松本委員 前半の議論で本来の法定利率の変動制と適用利率の変動制と二つあるという整理がされて,中間試案では両方の変動制を採っていたけれども,今回の提案では利率は変動するけれども,一旦決まればあとは固定制にするという案になりました。それぞれについて賛成,反対の意見が出ています。道垣内委員などは入口を変動制にした以上は適用金利も変動しないとおかしいのではないかと論理的に一貫した主張をされているわけです。   ところが中間利息控除を考えると,適用金利の変動制というのはあり得ない。それをやると支払後に変動の都度清算をして返してくれ,もう少し払えという話になって,それでは機能しない。となると入口を変動させるかさせないかの二つに一つしかないというタイプになります。したがって通常の法定利率の変動制の話と局面が全く違う。同じではないかという御意見がありますけれども,私は全く違うという気がいたしておりまして,入口で決まれば最後まで,市中金利がどれだけ変わろうが,ある時点,事故発生時あるいは死亡時における金利が高ければ賠償金は相対的に低いままで動かないし,低ければ相対的に高いままで動かないということになるわけで,これはその後の金利の変動から考えれば不公平な事態だと言えなくもないわけです。もちろん,そのまとまったお金をそのまま使わないで運用していけば金利の変動に合わせて得をしたり損をしたりするから,最終的にはとんとんだという経済学的な計算はあるかもしれないけれども,実際の遺族がそういう使い方をするかというと,恐らくそうではないわけです。飽くまでそこもフィクションにすぎないだろうと思います。そう考えると二つの局面,通常の遅延損害金等の法定利率の問題と中間利息控除の問題は切り分けた上で,それぞれ妥当な考え方を採るというのが適切ではないかと思います。 ○大村幹事 今,本来の法定利率と中間利息控除に用いられる法定利率は同じ性質なのか,違う性質なのかという議論がされているかと思いますが,性質論を性質論として議論することにはあまり大きな意味はないのではないか思いました。道垣内さんがおっしゃるように,いずれもある種の金利を想定するということであるという限度では,それは同じことだろうと思います。ただ,それを算定するときにどのぐらいのタイム・スパンで事情を考慮するかという点が異なる。中間利息控除については,松本さんがおっしゃったようには後で見直しができない,あるいは,これは中田委員もおっしゃったかもしれませんが,,将来のことを一括して現時点で決めなければいけない。そのために考慮される事情は違ってくるだろうということだろうと思います。   違ってくるということで,どのぐらい違うのか。非常に違うということであれば,それは2種類のものを考えるということもあるのだろうと思います。私は基本的には,山下先生がおっしゃったように二つ考えていいのではないかと思っております。しかし,一つのほうが簡明だという考え方ももちろんあり得ると思いますので,そうだとすると中井さんがおっしゃったように,長短の間ぐらいのところで一つのものを考えるというのが次善の策なのかなと思って伺っておりました。それほど大きな対立はないのではないかと思います。 ○山野目幹事 中間利息控除については,法定利率とはひとまず異なる原理で考えましょうということを山下委員,中田委員,松本委員がそれぞれ異なる観点から,また違う言葉でおっしゃったように聞きましたけれども,方向性としてはかなり近いことをおっしゃったのではないかと感じます。私もそれに賛成でございます。   例えば法定利率が3%となる場合を想定しますと,それでも損害額は5%で割り引いておきながら,損害賠償金の支払遅滞時に付加される遅延損害金は3%となって,何かひどく不公平であるかのような感覚を催すという面がありますけれども,考えてみますと,そこでいう5%のほうはフィクションの世界のものであって,現在の実務において多くの場合には複式計算のライプニッツ係数を用いて計算されるのに対して,遅延損害金の3%のほうはリアルの世界でありまして,しかも遅延損害金が遅延損害金を生むということは法定重利の規定を用いない限り生じないものでありますから,元々これは性質,次元を異にする話でありまして,数字を比較して,そこから直ちにアンバランスであるという議論はやや感覚的というか,少し錯覚の部分があるのではないかとも感じます。やはりこの二つはひとまず切り分けて御議論いただくことがよろしいのではないかと考えます。 ○沖野幹事 場面の確認からですが,中間利息控除の今回の問題提起は,以前もそうですが,損害賠償額の算定に当たっての中間利息控除となっており,他の場面,つまり民事執行法ですとか破産法における中間利息控除をどうするかという問題があります。これらについてはむしろ法定利率と連動させることが適切ではないかと考えておりまして,それらの問題は別途あるものとして,この損害賠償額の算定,取り分け逸失利益の算定における現在価値算定と言われる中間利息控除をどうするかという問題と定式化して考えていくというのがここでの問題設定だと思います。それ自体は,既に御指摘があったように,どれだけ本当に厳密に中間利息控除を行うのか,行っているのか,損害賠償額の算定の在り方の中でこれだけを取り出すことにどれだけ意味があるのかという問題がやはりあるのだろうと思います。しかし,それでも規定がないと非常に混乱を招くということであれば,何らかの規定はせざるを得ないのだと思うのですけれども。ただ,私自身は御議論を聞いても法定利率とは違う利率の設け方は十分可能ではないだろうかと思います。   御指摘は既にいろいろあったところですが,もう一つ法定利率のほうの構造との関係ということもあるかと思われます。法定利率,基準利率自体の変動制と適用利率の変動制をどうするかという2つの区分が今回非常に明確になってきたと思います。原案はなるべく両者の構造,両者というのは今の適用利率ではなくて,法定利率と中間利息控除ですが,それらを非常にパラレルにするというものと理解しております。つまり,ある一時点を捉えて,それで固定して,あとは一気に同じものを付けていくということで,両者をパラレルにしている点で非常になじみやすい形になっていると思います。それに対して仮に適用利率についての変動制という考え方を採りますと,これは両者のパラレルは構造的にも崩れてまいりますので,視点としては違ってくるということになります。もし前者のほうで適用利率自体も変わっていくという考え方を採るならば,やはりこれは2本立てのほうにむしろいくのではないかと思います。その際には取り幅はかなり長期に取ってもいいのではないか。実際には損害賠償は様々で,5年という逸失利益算定もあれば,30年というところもある。その中で一つの中間利息を立てざるを得ないと考えられますので,それは代表的なタイプとしてどういうものを典型例として考えるかということでやらざるを得ないのではないか。そうしたときの典型例は何十年単位の損害賠償額ということで考えていくということでいいのではないかと思われるものですから,そうすると金利の採り方もより長い年月の平均という形で考えていくべきではないだろうかと思います。   今のは適用利率のほうを変動にしたら,そういう考え方によりなじむのではないかということですが,仮にそうではないとしましても,既に指摘された話ですけれども,両者で扱いを異にするというのは理由のあることではないかと思います。   更に原案のように1年で採りますと,その不合理さは非常に際立つように思われます。中井委員が今回御提示くださったこの表で,極端なところを取りますと,極端になるのは極端なところを採っているからではないかと言われそうですけれども,例えば事故が1990年に起こったということになりますと,恐らく8点何パーセントぐらいが利率になります。争いをしていまして,例えば95年に判決が出たということを考え,そして支払いは即時になされた場合を考えますと,遅延損害金自体は年数としましては5年程度が8%。中間利息控除は例えば30年分について8%で控除される形になり,それが時期が少し変わっていれば,その控除も大きく変わってくるというので,これはやはり適切ではないのではないかという感覚を持ちます。どこを変えるかという問題はあると思いますが,なるべく両者統一的にした上でということになれば,中井委員がおっしゃるような長いスパンで考えるということになるでしょうし,組み合わせはいろいろあり得ると思いますが,今の原案の形はやはり問題が多いのではないかと思います。 ○道垣内幹事 遅延損害のときの利率と中間利息控除のときの利率は性格が違うということの理由にについて,まだ必ずしも納得はしていないのですが,それはひとまず措きます。そのうえで申しますと,私は,議論として,沖野幹事がおっしゃったような不法行為の人身損害のことを念頭に置いてはいけないのだと思います。つまり当部会は不法行為法の検討を委ねられてはいないわけで,一般理論として考えなければいけない。そして,また平成17年にこういう中間利息控除は法定利率によるという最高裁判決が出ましたということですが,平成26年には中間利息を控除しないという判決が出るかもしれない。判例はどう変わるかわからない。そうなると,損害賠償額の算定に当たっての一般の話として考えなければいけないと思います。これを踏まえますと,沖野幹事がおっしゃったところ,すなわち破産法,民事執行法における現在化のときの利率の問題とこの4の中間利息控除のときは違ってよいというのは正当化できないのではないかという気がいたします。   多分適用されるのは人身損害のときであろうというのは十分に分かりますけれども,建前としては抽象論として考えるべきではないかと思います。 ○沖野幹事 根本から違っているということが明らかになったかと思います。確かに損害賠償額の算定における中間利息控除が問題になるのは人身損害だけではない面もあると思いますが,一番典型例は逸失利益の算定であり,そして,私自身はかつて,本来は不法行為法の改正に委ねるべきもので,しかし法定利率のほうが変動制になるならば経過措置として当面何パーセントとするということを定めるべきではないかということを申し上げましたが,問題の性質はそういうものではないかと捉えております。今回,検討の課題となっているのは取り分け人身損害などの逸失利益算定における中間利息控除の利率をどうするかという問題であり,そういう問題として考えていく。しかし,それは本来は損害賠償額の算定の在り方の中で考えるべきことなので,当面の混乱を回避するために取りあえず法律の規定を置いておくという性格のものではないかと考えております。   しかし,問題設定が全く違うということであるならば,それはまた違う議論になるだろうと思います。 ○潮見幹事 この先に整理をされる際に,今日出てきた幾つかの議論を状況を分けて考えていただきたいし,またそういう形で整理していただきたいということを申し上げたいと思います。   資料の説明は,どのような金利を想定し,どのような金利を当てはめるかという点に照準を合わせたような説明になっています。しかし,これまでの議論で明らかになったように,中間利息を控除する場合には,幾つかの段階の異なる問題があります。一つは,松本委員がおっしゃったようにどのような枠組みを採用するのか。中間利息控除の場面と本来の利息あるいは遅延損害金を考える場面では枠組み自体が違うので,同じものを考えることはできないと思います。   さらにそれを踏まえた上で次に出てくるのが,どの金利をどのような観点から採用していくのかというところだと思います。この部分は長期か短期かという政策的な判断が必要になってくるところではなかろうかと思います。   個人的には,先ほど中田委員がおっしゃられたような形で分けるというのもあろうかと思います。山下委員の発言もそれに近いものだったと思います。けれども,他方でライプニッツ控除もそうですが,実際の問題として一時金を受け取った人が当該一時金を例えば30年という形でずっと持ち続けて運用するのかと言えばそうではなくて,数年間で徐々に使っていくこともあります。そういう場合に果たして中間利息と本来の利息を前者は長期,後者は短期という形で分けていくのが本当にいいのかを考えていただきたいと思います。   その上で,何人かの委員,幹事の方がおっしゃったように,基本的にはこれは損害賠償債権,ひいては金銭債権の現在価値に関わる問題であって,その部分において仮にこれがBのところに書かれているように損害賠償額の算定に関するルールという形で限局されてルール化される場面であったとしても,やはりその背後にある金銭債権の現在価値をどのように捉えていくのかという視点自体は持っておかなければ,将来いろいろな形でいろいろな方面の法律が改正されるということになればいいですが,そうではない場合に法のシステム全体のバランスが崩れるようなことがあるのではないかということを若干危惧いたします。 ○山野目幹事 沖野委員の先ほどの御発言の最後のところでおっしゃった点に共感を抱くものですから,申し添えさせていただきます。今,話題になっている事柄に関する規律を民法の本則に今般立法において置くということについては,強い抵抗感を抱きます。経過措置を上手に活用していただき,今般の立法においては,被害者の将来の利益に係る損害を賠償すべき場合において,その現在の価額は,素案(1)(2)及び(3)の定めるところにかかわらず従前の例により見積もるものとする,ということを経過措置において明らかにすることにとどめることが相当であると考えますし,従前の例により,という表現で,なお不明瞭であるということならば,ここを更に充実させるという仕方で引き続き法制上の表現を工夫していただきたいと望みます。 ○佐成委員 今,山野目幹事,沖野幹事がおっしゃっていたところで,1点だけ実務家として指摘しておきたいのは,損保協会から出ている今回の資料の,拝見しますと,ちょうどパワーポイントの「2 中間利息控除に関わる実務 ③変動方式となった場合に想定される影響」と書いてありますところです。ここには,具体的な金額の試算が書いてあるので,絶対額そのものというわけではございませんが,目安の意味で指摘しておこうと感じました。ここでは,27歳男性という,いわば一家の柱が亡くなった場合という想定で書かれております。現行5%で逸失利益が5,500万円ぐらいのものが,もし3%にすると7,400万円と試算されています。2,000万円弱ぐらいの増額という影響を及ぼすということです。そういうことで,もちろん抽象的に民法では議論をせざるを得ないわけですが,そうは言っても,2%変えれば現実には2,000万円ぐらいの水準で具体的な賠償額が変動するということになります。ですから,賠償額の水準が適切かどうかという,本来は不法行為法で十分議論していただくべき部分が,スルーしたまま,間違いなく相当大きな影響を受けるということについて実務家としては相当懸念を感じます。 ○村松関係官 今日はいろいろと御指摘をいただきまして,中間利息控除の割合について事務当局がお出しした原案は,今の判例の下での扱いを基本的に踏襲するしかないのではないかというのが一つの前提でございます。理論上は恐らく別の整理をすることも可能なのは間違いないのだと思うのですが,実際パブコメに出した結果を拝見すると,中間利息控除の割合のほうが高くて法定利率のほうが低いというのは非常に不公平感が強いというのが意見として強くございましたので,その部分についてはやはり配慮が必要なのではないかというのが基本的な発想です。   ですので,恐らく両者は違うものとしても,同じにしてもいいというのが答えだろうと思います。しかし,そこは同じにするしかないのではないか,仕方がないのではないかというのが発想でございます。   仮に別の基準を採るとした場合,その割合も変動制ということになるのだと思います。つまり中間利息控除で使うべき割合は長期的なものを基準とするとしても,それも変動するものである以上は変動制にならざるを得ませんので,その変動制をどういうふうに作るのか。長期を基準にすればとおっしゃいましたが,本当に稼働期間が40年の事件と5年の事件,3年の事件いろいろありますので,それをうまく分けられるかという問題もあり,結局最後はフィクションではないかというふうにもなります。そうすると,現状の判例の下でのシステムが法定利率を変更させることによって変わるが,その部分については最小限の手当てをする。それは附則で行うのか補則で行うかは最終的には立法段階の判断だと思いますが,いずれにしてもその位置付けとして資料の11ページにも記載しておりますけれども,一番上から6,7行目ですが,今回の整理は不法行為法の改正に対して何らかの影響を与える趣旨ではない。今回の法定利率の変更を踏まえて中間利息控除に関しても最低限の必要な措置を執るというのが位置付けであるというのが私どものスタンスになっております。   その場合に中井先生からもお話がありましたように,影響がかなり大きい。あるいは不公平感が強くなるだろうというのは私どもも理解しておりますので,これも11ページに記載しておりますが,変動の頻度を小さくし,あるいは変動後の法定利率が実際に適用されるまでの時間的な余裕を長くする。そういった様々な手当てはやはり必要になるだろうと思っております。   正直申し上げて,別の基準を作るということは理論的な問題としてはあり得るとは思いますが,今現段階で残された時間はそれほど長くない中で,あるいパブリックコメントで示された反応を見る限り,そう簡単なことではないなと思われます。今回はその意味で直感的には分かりやすいのかもしれませんが,法定利率で割り引いたら法定利率で損害金が付されますというので,比較的シンプルに制度を構築するという提案はどうなのだろうかというのが趣旨ではございます。   なので,いろいろな手立てが考えられるのは本当に御指摘のとおりだと理解していますが,ではどうしていけばいいのかというのはなかなか分からない中で別の基準で中間利息控除をとおっしゃられましてもなかなか難しいような気がしております。 ○松本委員 考え方はよく分かるのですが,そういう考え方を貫徹すると,結局本来の法定利率のほうは正に中井委員がおっしゃっているような意見,あるいはもっとおっしゃりたいところの法定利率は動かすなという意見のほうを結果的に支持することになってくるのではないか。つまり中間利息控除についての様々な考慮に縛られると,法定利率は変動させないほうがいいのだという方向に議論としとてはいく。それら二つを連動させると,そういうことになります。中井委員は恐らくそれが一番望ましいというお考えだろうし,そういうことは十分あり得ると思いますが,そうではなく,そもそもの法定利率が固定していることがおかしいのではないかという考えを採る方からいくと,二つが一連託生になることによって法定利率についてのパブリックコメントの結果と逆の方向に行ってしまうリスクもあるという気がいたします。 ○村松関係官 そこは本当に先生おっしゃるとおりです。ただ,切り離してはなかなか立案は難しいので,双方を見越した制度として作ることしかないのではないか。その場合にどれぐらいの期間を見るのかといったところはもちろん政策的考慮はいろいろありますが,それ以上のことはなかなか難しく,もし何かあるのであれば,それこそ不法行為なり何なりのときにいろいろな議論はあり得るのかもしれませんけれども,差し当たり今の現状で法定利率をまずは下げ,あるいはその後,一定の数式に従いまして法定利率を変動させる,そういう制度を作ることに相当の支持もございましたので,それを何とかしようと考えますと,正に中井先生がおっしゃっていることと私どもが考えていることはかなり方向性が,かなりというか全く一緒なのかもしれませんが,恐らくそういう方向性ぐらいしかないのではないかと思います。 ○佐成委員 余計なことかもしれませんが,今,松本委員がおっしゃっていたような二つの方向性の二律背反性といいますか,そういうアンビバレント性については,内部で議論したときにも,かなり皆さん苦慮されていたと感じました。そうすると,やはり固定制の維持という.そちらの方向へ行くような意見も少数ながらないわけではないので,そちらに引き摺られる余地も残ります。ただ,経済界はあくまでも変動制が基本です。それが圧倒的多数ですが,少数意見としてはそういうものも今回の議論によって改めて巻き起こりつつあるということです。そこは危惧しているところです。 ○潮見幹事 いろいろなことが考えられてこういうふうにされたのだと思いますから強くは申しません。しかし,資料を見ますと,基本的に本来の利息あるいは利率をどう考えていくのかということと,中間利息の控除は枠組み自体が違うのだという前提で立案されているのではないかと私は思いました。そうであれば違った観点から考えていくのもありうると思います。   ただ,今おっしゃられたような形でなるべく平仄を合わせるということを考えるならば,これは単に金利の問題だけではありません。先ほど中原委員の考え方を支持すると申し上げましたけれども,平仄を合わせるということであるのならば,先ほど中井委員がおっしゃったような観点から本来の金利が問題になる場面も整理し,考えていったほうが全体の説明は一貫するのではないかという感じがいたしました。 ○鎌田部会長 別の考え方を採るということについては,事務当局でもそれはあり得るという前提ですが,ではどの考え方を採るのかというときに,現時点で5%というものが既に存在しているからそのままというのはやはりちょっと難しい。フィクションとフィクションのぶつかり合いでしかないですが,複利で運用できる利益ということですが,長期間の運用で得られる想定利益としての中間利息が,履行遅滞によって債務者が支払うべき法定利率よりもはるかに高い利率で計算され,そして減額されるということは今日的に説得力を持つかというと非常に厳しい。となると何を提案するか。はっきりしたものが出てくれば,それはまた検討の余地があるのだろうと思いますけれども,それがない以上,今の時点では取りあえず法定金利の横滑りという考え方で提案したのではないかと理解しているところです。頂戴した御意見を踏まえて,更に検討させていただきます。   それでは,次に部会資料74Aと74Bの双方を用いて御審議いただきます。74Aの「第1 債権譲渡」の「1 債権の譲渡性とその制限」及び部会資料74Bの「第2 債権譲渡」の「1 債権の譲渡性とその制限」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 部会資料74A第1の1の「債権の譲渡性とその制限(民法第466条関係)」の(1)は民法第466条第1項を維持するものです。(1)は中間試案の(2)と(3)に該当するもので,その実質を変更するものではありません。当事者間の特約によって債権の譲渡を無効とすることはできないという考え方を採りつつ,弁済の相手方を固定するという債務者の利益を保護することができるようにすることを意図するものです。   (3)は中間試案の(4)のイに該当するもので,表現を変更していますが,実質変更するものを意図するものではありません。   中間試案(4)のウとエは規定を設けることに反対する意見が多かったことなどを踏まえて取り上げないことといたしました。   (4)の本文は,中間試案の(5)に該当するもので,その内容を明確化する趣旨で文言を変更していますが,これも実質を変更するものではありません。   (4)のただし書は新たに規定を設けることとしたものですが,譲渡制限特約付債権の悪意,重過失の譲受人の債権者がその譲渡制限特約付債権を差し押さえた場合における差押債権者と債務者との関係を明確化しようとするものです。   なお,パブリックコメントの手続に寄せられた意見の中には,債権譲渡による資金調達の促進という観点から,民法第466条の改正について更に検討すべきであるという意見が少なくありませんでした。特に中間試案第18,1の(4)のウとエのルールを設けないこととする場合には,これに代わる方策を設けることの可否を検討することが必要であると考えられます。そこで部会資料74Bの第2の1の(1)ではこの問題を取り上げています。具体的な検討対象として,パブリックコメントの手続に寄せられた意見の中から二つの考え方を部会資料74Bの14ページで紹介しております。これらの考え方を採用することの可否について御意見をいただけると幸いです。   民法第466条の改正に関しては,特に預金債権について,当事者間の特約によって譲渡を無効とすることができる旨の規定を設けることによって例外的な取扱いをすべきであるという意見も少なくありませんでした。そこで部会資料74Bの第2の1の(2)ではこの問題を取り上げています。預金債権について例外的な規定を設けることの是非を検討するに当たっては,その正当化根拠を何に求めるのかという点が問題となります。この点に留意しながら預金債権を例外とする規定を設けることの是非について御意見をいただけると幸いです。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 譲渡禁止特約については,中小企業が債権譲渡により資金調達を行うことには一定のニーズがあると考えられるため,見直しの方向性に賛成する意見を申し上げてきました。また,見直しに際し,債権譲渡による中小企業の資金調達が活性化する制度となること。現在,実現している債務者保護が後退しないことの2点を求めてまいりました。   部会資料74Aの御提案は,部会での議論やパブコメを踏まえ検討した結果であると捉えています。しかしながら以前より申し上げてきたとおり,当事者間で譲渡制限特約が有効であるとすれば,多くの中小企業は債権の譲渡をちゅうちょすると思われます。実際に中小企業が締結している契約書には,債権譲渡禁止特約と併せて特約に違反して債権を譲渡した場合には債務者が契約を解除できる旨の条項が含まれていることが通常です。したがって特約に反して譲渡を行った場合であっても,譲渡人は債務不履行により契約を解除されることはないことをより明確にしていただくようお願いいたします。   続いてBタイプの資料について申し上げます。中小企業は債権譲渡を禁止する特約に反して債権を譲渡することについては心理的な抵抗感があります。契約の性質や契約当事者の属性に着目して,一定の範囲の債権について譲渡制限特約を無効とすることは,この心理的な抵抗感を軽減するために大変有効であると思います。部会資料に記載されているとおり,譲渡制限特約が無効となる契約の性質や当事者の属性を適切に規定することが困難であることは理解できます。仮に民法に規定を設けることが難しいのであれば,特別法などでの対応も含めて検討すべきと考えております。 ○潮見幹事 1点だけお願いがあります。債権譲渡制限特約について,承諾が中間試案では(4)の(ア)に残っていましたが,今回消されています。その理由がさっぱり分かりません。5ページに書かれていますが,承諾で特約が対抗できなくなるということについては,部会ではほぼ異論はなかったことではないかと思いますし,また理論的にも説明が通ることであり,従前の判例,それから学説にも対応すると思います。   この規定を入れたことによって規定が増えることにもならないでしょうし,解釈によって導くことが容易であるということならば,異論がないのであればむしろ明確に書いておいたほうがいいのではないかという感じがいたします。   たった1行のことですから,しかも基本的な事柄に関わることですから,是非残していただきたいという意見を持っております。 ○中井委員 一言。今の潮見幹事の意見に大賛成です。この改正の趣旨にも沿うと思います。 ○松岡委員 先ほどの大島委員の意見と少し関係するところですが,議論の前提として私の理解が不十分なような気がしますのでご説明いただきたい点がございます。   4ページの真ん中辺りです。提案されている素案の2は,「譲渡人の債務者に対する債務不履行を構成することなく」という御説明があります。特約を結んで,特約が無効とは言っていない。基本的には有効と解していて,特約に反しているのになぜ債務不履行にならないのか,その理由が分かりません。例えば譲受人に悪意や重過失があれば,債務者は,この案のとおり譲渡人に弁済することができます。そうすると特約違反があったとしても,それは無視して,特約どおり債権者を固定する利益が確保される。これはよく分かります。しかし,それは,債務不履行がないということではなくて,こういう規定を置くことによって損害ないしは実質不利益がないというだけではないのでしょうか。   かつ,この提案の中で次に1の(2)のところで悪意または重過失がある場合には譲受人に特約は対抗できるとあり,逆に言いますと善意かつ無重過失の譲受人が出てきた場合には,もはや譲渡人には弁済できずに譲受人に払わざるを得ないという結論になると思います。そういうことによって生じる不利益について,特約をしながらそれに違反する譲渡をしている譲渡人はなぜ債務不履行にならないのでしょうか。   先ほど大島委員が危惧されていましたように,単に損害賠償の問題ではなくて,特約違反に基づいて契約解除等の制裁が付いているような場合には,債務不履行にならずにおよそ制裁は受けないと理解してよろしいのでしょうか。4ページの説明の意味を理解しかねています。   これはBのタイプについても同じであります。もう少しはっきりさせていただきたいのは,Bとして提案されているのが,一定の場合には特約自体が一定の当事者との関係でまたは一定の場面で無効になり,およそ債務不履行を構成しないというふうに徹底する趣旨でしょうか。その辺りが十分理解できませんので,御説明いただければありがたいです。 ○松尾関係官 今,松岡委員が御指摘になられた部分は,「譲渡人の債務者に対する債務不履行を構成することなく」というフレーズが入った文章の最初のほうの「後者のような内容の合意に」が何を指しているのかがやや分かりにくいということに基づくものではないかと思います。これが何を指しているかと申しますと,このパラグラフの「なお」以下で始まる文章の「譲渡自体は許容するものの,譲渡がされた場合には債務者が譲受人に対して素案(2)ア及びイで示す効力を主張することができる旨の合意をしたもの」を指すというつもりで書いておりました。つまり譲渡自体は約束違反にならないということが前提で,ただ譲渡をしてしまったら約束違反にはならないのだけれども,債務者の弁済の相手方を固定すると効力を認めることにしましょうね,そういう約束をした場合には債務不履行にはならないですよねということをここで書いていたわけです。 ○松岡委員 そうすると譲受人が善意かつ無重過失の場合にはどうなりますか。 ○松尾関係官 特約は対抗されないということです。 ○松岡委員 そうですね。それは債務不履行ですか。 ○松尾関係官 いえ,債務不履行にはならないという前提です。 ○松岡委員 なぜ債務不履行にならないのでしょうか。この合意はそこまでの内容を含んでいるのですか。 ○松尾関係官 「譲渡自体は許容するものの」と書いている部分は,譲渡自体は契約違反とはしませんということについて譲渡人と債務者との間で合意があるというとが前提になっているわけです。だから,譲受人が悪意であろうが善意であろうが,債権を譲渡するという行為自体は債務不履行にならないということになるのではないでしょうか。   それを前提として,このような合意の効力が認められるとしても。従前通り,譲渡を全面的に禁止し,譲渡した場合に債務不履行になるという合意自体は有効なわけですから,そういった合意自体も無効とするという考え方が採れるかどうかが部会資料74Bで問題提起されているということで,分かりにくくて申し訳ありませんでしたが,趣旨としてはそういうことです。 ○潮見幹事 松岡教授と同じような疑問を持っています。今のようなタイプの合意の場合でも仮に善意無重過失の譲受人が出てきて,その者が履行請求したら応じなければいけません。応じなければいけないということは,結果的に弁済の相手方を譲渡人に固定するという合意自体が履行できなくなっています。その部分について債務不履行を捉えることは難しいのでしょうか。 ○松尾関係官 すみません,御趣旨が分かりました。もちろんそういう考え方はあり得ると思うのですが,他方で善意無重過失の譲受人に譲渡されたら,その場合には対抗されるということも特約の前提のような気がしますので,今申し上げたような考えも成り立ち得るのかなと思いますけれども,もう少しよく考えてみたいと思います。 ○道垣内幹事 これは前の資料から問題になっている個所ですね。譲渡はしてもよいけれども,弁済の相手は固定することとし,ただし,善意,無重過失の人が受け取った場合には仕方がないという特約,端的にいえば,通常考えられないような特約を想定して細かな規定を置くというところに分かりにくさの根本原因があるのではないでしょうか。 ○内田委員 補足的な意見というか説明ですけれども,現行法は466条1項で,債権を譲り渡すことができると言って債権の自由譲渡性を認める原則を置いた上で,2項で,当事者が反対の意思を表示した場合には適用しないと言っている。この反対の意思の意味は何なのかは解釈上議論の余地はありますけれども,一応起草者の意図としては譲渡性を奪う特約を認めたと解されていると思います。   それはおかしいということで,債権は自由に譲渡できるという原則をうたった上で,当事者は弁済の相手を固定するという合意をすることは許容するということを法律で書こうというのが今回の趣旨だと思います。ですから譲渡禁止特約と言う表現がそもそもおかしい。弁済の相手方を固定するという譲渡性の制限についての合意を認める。「反対の意思」を表示したときには,その限度でのみ効力があるということを法律で書こうというわけですから,譲渡そのものはその特約に対する違反にならないのだと思います。   ただ,それに加えて,最初に大島委員から御発言がありましたように,譲渡したときには解除するとか違約金を払うという合意をすれば,これは譲渡制限の特約とは別の特約でして,債権的な特約として有効です。完全に自由譲渡性のある動産についても譲渡はしませんという契約的な合意をすることが可能で,その違反に違約金を付けたり,解除条項を入れたりすることは可能なのだろうと思います。   ただ,動産について未来永劫譲渡しませんという特約は90条との関係で許容されないだろう。つまり,自由譲渡性のある財産について譲渡性を制限するという合意そのものにはやはり一定の制約は掛かるのだと思います。したがって,解除とか違約金の特約は,466条1項の原則を制約する一定の合意を認める規定とは別の特約と理解されるのではないかと思います。 ○中原委員 質問ですが,譲渡制限特約のある債権を悪意又は重過失がある譲受人に譲渡した場合,1 債権の譲渡性とその制限(2)イによれば,債務者は譲渡人に弁済することができ,債権消滅を譲受人に対抗することができるとされています。譲渡制限特約のある債権が悪意の譲受人に譲渡された場合は,債権,債務関係は譲受人と債務者との間に確定的に移転し,譲渡人は権利者ではなくなるとされているので,譲渡人から債務者への請求はできないと思います。結局のところ,確定的に無権利者になった譲渡人に対して弁済をすることを法律で認めるということでしょうか。それが1点目。   2点目は,譲渡制限特約について悪意又は重過失の譲受人が更にその債権を善意,無重過失の者に譲渡した場合に,善意,無重過失の譲受人は債務者に対して譲渡制限特約を対抗されるのでしょうか。この2点について教えてください。 ○松尾関係官 まず1点目ですが,要するに債権者ではない譲渡人に対して弁済することができることを正面から認めるということは,それは無権利者に対して弁済をしてよいということを認める制度と評価するか,それとも(2)は債権者ではない譲渡人に対して,弁済の受領権限を付与したものであって,その受領権者である譲渡人に対して弁済をしてよいと認める規定であると評価するのかは,それは評価の問題のような気がするのですが,少なくとも事務当局としては,弁済の受領権限が譲渡人に付与されていて,だから債務者は弁済することができるのだということを言っているつもりです。   2点目ですが,悪意重過失の譲受人が出てきた後に出てきた転得者が善意無重過失の場合にはどうなるのかというお尋ねと理解してよろしいでしょうか。その場合には,債務者は善意無重過失の転得者に特約を対抗することはできないということになると思います。 ○松岡委員 今の御説明との関連で,6ページの辺りに悪意の譲受人がいる場合に,旧債権者というか,譲渡人が履行を請求しても請求は認容されないと④に明記されていていますが,債務者は弁済できるということです。   かつ,ここでの疑問は今の御説明と関係して,取立権が留保されることが,将来債権譲渡担保の場合には非常に多いわけです。その場合にはこの④で譲渡人が引き続き請求できるという理解をしてよろしいでしょうか。 ○松尾関係官 当事者間で取立権を留保した場合にはそのようになってもよいのではないかと思います。 ○山野目幹事 部会資料74Bで問題提起をいただいていることについて意見を述べておくことが本日の調査審議における務めでもあると感じますから,意見を申し上げさせていただきます。74B,14ページで2の(1)という考え方や2の(2)という考え方についてパブリックコメントの手続で寄せられた意見等に鑑み,そういうものを検討する必要があるかという問題提起をただいま松尾関係官の御説明からいただきました。私が今感じていることを申し上げますと,いずれも今般措置することは相当でない,というか,あるいはかなりの困難があるので難しいのではないかという所見を述べさせていただきます。   2の(1)は,なるほどこういう需要があることは理解されるところであって,将来的にもこういうものがあってはいけないとは考えませんけれども,ここでしている作業の,今これからの段階で,そこに言うところの一定の範囲の債権なるものを法制的に可能な概念で抽出することは困難であると感じます。   (1)の問題意識は,むしろ部会資料74Aで提案されている債権譲渡制限特約についての取引が一般の理解においてどのように受容されるか,部会資料74Aでも契約実務における新たな取組みの様子を見ようということを書いておられるわけでありまして,それを見た上で(1)の考え方のような発想の法制を法務省と他の府省との協議によって,あるいは他の府省を所管とする法制として将来的に考えていくことは大いにあり得るのではないか感じます。   それから同じ14ページの(2)で提案しておられることでありますけれども,担保の実行の場合は,という考え方ですが,担保の実行という概念が明晰で法制的に安定した概念として,規範として描くことができないのではないかと感じます。(2)の考え方に基づく規律は不要なのではないかと感じますから,意見として申し上げさせていただきます。 ○岡委員 2点申し上げます。今の山野目先生が触れたところでございますが,電子債権については譲渡禁止特約は適用されない,無効にする。そういうことは十分あり得るのではないかと意見が出ました。それは民法でやることではないという整理かもしれませんけれども,手形に代わるものとして流通性を重視している。そういう制度だけれども記録を読むと民法に譲渡禁止特約があるので,制度設計のときに残さざるを得なかったと聞いております。電子債権のところで試みるのは有益ではないか,こういう意見がございました。   二つ目に預金債権を譲渡禁止特約規律から外すのは無理だと,縷々書かれておりまして,それはそうかなと思いますが,資料の読み方を教えていただきたい。74Aの5ページの上から10行目ぐらいのところでございます。「普通預金に係る預金債権のようなものについて,悪意の人に譲渡された場合は,いずれも遅滞の責任を負わせるための請求をすることができないため要件を充足しないと考えられる」。こう書いてあるので大きな影響はないという趣旨だと思います。そうなると誰も払戻請求ができない。でも,銀行は譲渡人には払える。譲渡人は受領できる。その結果,実務に影響はない。こういう趣旨なのでしょうか。後半は質問でございます。 ○松尾関係官 御質問いただいた点について,普通預金債権が譲渡された場合の当面の処理は,部会資料に記載したとおりになると考えています。その結果,通常は譲渡契約が解除されて,結局,譲渡人が払い戻すということになるのだろうと思います。それによって解決することができ,そのような処理がされる限りは,普通預金の場合は銀行は譲渡人に対して払えばよいという現状は変わらないのであるから,問題はないのではないかということを74Bで書いたということです。 ○岡委員 譲渡契約が解除されるというのはどういう意味ですか。 ○松尾関係官 要するに誰も取り立てられないので,譲渡契約の目的を達成することはできないという評価になるのではないでしょうか。 ○佐成委員 まず,今,岡委員が前半で電子記録債権の話をされたので,一言申し上げます。いますぐに法改正というのはいささか早計で,現行の電子記録債権法でも確か登録機関の事務取扱いで譲渡禁止特約そのものを排除できるような仕組みにはなっているはずです。もちろん,電子記録債権制度から一律に譲渡禁止特約を外すという法改正が果たして妥当なのかは別途議論が必要だろうとは感じております。それが一つです。   もう一つは,私どもは,74Aの,債権譲渡禁止特約について,いわゆる物権的効力ではなく,当事者間では譲渡の効力が有効であるという考え方を真正面から認める規律にしていくという改正提案については,パブリックコメントの段階では反対していたわけです。現時点でも取引先を固定したいというニーズは重いということで反対をさせていただいております。今回改めて議論をしたのですが,ニュアンスとしては,提案に対しては強い反対はしないものの,俄かには賛成できない,そういった受止めであります。要するに,積極的に賛成しているというところまでは今なかなか行っていないところでございます。   逆に申しますと,更に譲渡禁止特約を制限的にするような規律を検討していきますと,かなり強い反対論も再燃してくるかなというところもございます。特に実務界において現行法を維持したいという気持ちの中には,単に取引先を固定したのと同じような経済的な利益が得られれば良いということでは必ずしもなく,そこにはいろいろな要素があって,その人を信頼しているからこそ,そういう契約を結んでいるので,妄りにあっちこっち行くようであれば,そういう人とのお付き合いはそもそも避けたいという,実務家のそういった感覚があるようです。今回も金銭債権は転々と譲渡するのだとして,金銭債権だけを頭に置いてそういうことを議論されるのは実務家としては大いに気になると,そういった声も聞いております。強い反対はしないような感触ではありますが,そういう面についてもご配慮いただけるよう,よろしくお願いしたいというところでございました。 ○中原委員 銀行取引への影響ということで,普通預金取引の場合には特段問題は生じないのではないかというご説明がありました。現在では,預金債権が譲渡禁止であることが周知されており,預金債権の譲渡通知が来るのは稀です。しかし,提案されている譲渡制限特約のもとでは,預金債権は譲受人に確定的に移転し,譲渡人から銀行に対する預金債権の払戻請求はできないことになります。そこで,預金債権の債権譲渡が多く行われ,銀行が当該預金口座に対して支払停止条件を設定しなければならなくなる事務が増えることが懸念されます。それが一つ。   もう一つは,反社会的勢力との取引について世間の注目を浴びています。預金債権が確定的に譲渡されれば,その預金債権に係る債権債務関係は譲受人と銀行の間に移転します。そして,譲受人が反社会的勢力の場合も想定されます。   判例は,預金債権に譲渡禁止特約が付されているのは周知の事柄に属すると述べているので,銀行としては,譲渡制限特約についても同様に周知の事柄であるとして,譲受人から銀行に対する払戻請求があっても拒みます。しかしながら,銀行が全く関知しない間に,反社会的勢力との新たな取引関係が発生したり,反社会的勢力の預金残高が増えていくという事態が生じます。このような事態を社会や世論に受け入れてもらえるのかを危惧しています。これは民法で議論する内容ではなくて,別の法律で対応するべきだというのであれば,併せてこの点の対応を検討していただきたいと思います。 ○深山幹事 二つ三つ前の岡先生と松尾さんのやり取りを聞いていてよく分からないので確認させていただきたい。先ほど想定された場面は譲渡人も譲受人も請求できなくなるということから,松尾さんは,だから譲渡は解除されるとおっしゃった。どちらかからの解除の意思表示もなしに当然解除になるということではないのだろうから,無効ではなくて解除だとあえて言ったのはどういう趣旨なのか分からない。そもそも誰も請求できなくなる事態がいいのかということかもしれません。   いずれにしても先ほどの当然解除になるという説明には何となく納得感がないので,もう少し説明していただければということです。   また,そもそも5ページの11,12行目辺りからの記述に関係して,預金債権のような期限の定めのない債権が悪意,重過失の譲受人に譲渡された場合,これはそもそも期限,弁済期を発生させることはできないという趣旨で,債務者が債務を履行しないという要件に該当しないという説明をされているのだと思いますが,そもそもそういう事態をよしとするのかということについての疑問があります。   どちらも請求できない事態が規律として本当にいいのかについても,もしそれでいいということであれば何か説明いただければと思います。 ○松尾関係官 先ほど私は解除と申し上げましたが,別に無効となるとは申し上げていないのはおっしゃるとおりです。今御指摘になられた記載の個所が問題となるのは,結局,譲受人が悪意重過失の場合に限られるわけですが,譲受人が譲渡制限特約付債権だということを知った上で債権を譲り受けているので,そもそも無効とすることなどできるのかという問題もありますが,それを問題視して契約を無効として,強制的に解消させる必要までないのではないかと思います。つまり,当事者間はそれでよいという契約をしたのですから,解除するかどうかについても当事者に委ねればよいのではないかと考えたということです。   そして,そのことがよいのかどうかということの評価は確かに分かれるような気がしていまして,それがまさに今回三浦関係官がペーパーを出された問題意識なのだと思いますので,それでよくないということであれば御意見を承って,また考えてみたいとは思います。しかし,少なくともこれまでの議論では特約違反の譲渡を有効とするとしても,見ず知らずの譲受人が出てきて取立行為をされることについては,債務者としては勘弁してほしいということでしょうから,そういった利益が保護されるようにすべきであるというところを確保しつつ,解決していくことが必要だとは思っています。その観点からは,このようなルールも一つのあり得る考え方ではないかと中間試案のときから考えているということです。 ○中井委員 関連しますが,その前提として第1の1の(3),債務者が債務を履行しないときに譲受人が催告をして,ある意味で抗弁権を失わせる。この仕組みですけれども,この催告というのはこの債権が持っている,つまり譲受人に債権が移転した,だから,その債権の請求権に基づく催告という位置付けなのでしょうか。質問の仕方は適切でないかもしれませんが,大阪弁護士会がこの提案をしているのは,両すくみ状態になるとき,この抗弁権を残しておくのがいいのか。履行はしない,けれども両方請求もできない,正に請求できないからこそ,抗弁権を失わせるために特別に譲受人に催告をするという権能を与えた。催告したにもかかわらず払わなかったらもはや債務者の弁済先固定をしたいという利益を保護する必要はないだろう。そのような抗弁権を主張できない,そういう仕組みと考えています。   大阪弁護士会は譲受人だけでなくて,譲渡人も同じように催告をして,譲渡人にも同じことができると提案しています。譲渡人は既に債権を譲渡しているわけですから,もはや債権者ではない。何も債権の請求権に基づいて催告権を与えているわけではありません。大阪弁護士会もそうではありません。譲渡人も譲渡禁止特約のある債権を譲渡した後,債務者から弁済したいと言われれば弁済を受領しなければいけない。受領したものを譲受人に渡さなければいけない。そういう義務を負っているわけです。したがってその義務が,債務者が履行しないためにいつまでも残るのは適当ではない。遅滞に陥っているにもかかわらず,その義務を残すのは適当ではない。債務者の抗弁を持たせておく必要はない。だから,債務者に対して催告をして払ってくださいね。払ったら速やかに自ら受領して譲受人に渡す。払わなかったから譲渡禁止特約の効力を失わせる。譲受人が自ら請求権を行使して回収できる。この催告というのは債権の請求権に基づく権利ではなくて,両すくみ状態になった状態を解消するためにこの制度が与えた,ある意味で特別の催告権のような位置付けをしています。   したがって,まず第1に言いたいことは,譲受人だけになっていますが,やはり譲渡人にも同じ催告をする権利を与えていいのではないかというのが1点です。   次に今議論になっている,普通預金債権,弁済期の定めのない債権については,今の御議論では譲受人も譲渡人も遅滞に陥れることはできない。つまりお互い請求権を行使できないから遅滞に陥れることができない。だから両すくみ状態になる。松尾関係官はそこで当然にそれなら解除ということで解決するだろうと言われる。でも,解除しても,今度は譲受人は対抗要件を何らかの形で具備しなければいけないわけで,果たしてそれが現実的かどうかというのが,深山さん以下がおっしゃられたことだろうと思います。   それに対する解決は大阪弁護士会はどう考えているか。その両すくみ状態を置いておくのはやはり適当ではない。譲渡人が少なくとも期限の定めがない普通預金のようなものであっても,催告をして抗弁権を失わせることができる仕組みとして提案をしている。同じ土俵で解決できる。改めてですけれども,かねてから申し上げておりますが,(3)については譲受人だけでなくて譲渡人も債務者に対して相当の期間を定めて履行の催告ができるという仕組みにする。その催告の意味は何も請求権に基づくものではなくて,債務者を保護する必要がなくなった状態,遅滞に陥っている状態であるにもかかわらず両すくみ,普通預金であっても両すくみの状態になっているときに適切な処理をするために催告権を与えて,払わなかったらもう正々堂々と譲受人が行使できる。そのような仕組みとして提案しているので,改めて検討していただきたいと思います。   あえて質問ということで言うならば(3)の催告の位置付けについて事務当局がどう考えておられるのか。大阪弁護士会のようには考えていないのだなとは思いますが,確認させていただければと思います。 ○松尾関係官 いろいろ考え方はあり得るのだと思いますが,現在のところは,この催告権が請求権あるいは取立権と不可分の関係にあるとは考えていませんでした。ただ,実際上の問題として,こういうルールで改正された場合には,譲渡人は回収したものを全て譲渡人が譲受人に渡さなければいけないということになってしまうわけですので,譲渡人が催告をすることを現実的に期待することができるのかという問題があるのだろうと考えていました。つまり,わざわざ譲渡人に対してこの催告権を認める意味があるのかという点について疑問があったので,真の債権者である譲受人だけを催告権者としていたということです。もっとも,また改めて大阪弁護士会の御意見ということで承ったので,部会で御議論いただいた上で,考えてみたいとは思います。   今申し上げた問題と,期限の定めのない債務についての取立権の問題は視点が違う問題であるような気もするので,別の問題として区別して議論したほうがいいのかなということも併せて思いました。 ○中井委員 少なくとも譲渡人も今おっしゃられたように債務者から弁済の提供を受けたら,それを受け取らなければいけない。受け取って譲受人に渡さなければいけない。そういう契約上の義務は残っている。自らのイニシアティブでその義務から解放される。その仕組みはやはり必要ではないかというのが大阪弁護士会の意見です。 ○道垣内幹事 松尾関係官が中井委員の二つの意見のうち前者に対してお答えになるときに,(3)の催告は取立権と不可分に結びついたものとは必ずしも考えていないとおっしゃったのですが,それとの関係で気になりますのは,期限の定めのない債務について,それを遅滞に陥れるという催告は取立権がないとできないのかということです。つまり仮に1の(2)のア,イの効果しかないとその特約の効力を考えたときに,412条3項でしょうか。それの催告は譲受人はできないと当然なるのかなという気がしていたのですが。 ○中田委員 関連した質問です。(3)の「債務者が債務を履行しないとき」についての5ページの普通預金に関する説明の中で,譲渡人と譲受人のいずれも遅滞の責任を負わせるための請求をすることはできないと書いています。そもそも(3)の場面では履行の請求ができないのではないかと思ったのです。つまり412条に言う付遅滞の請求ではなくて,債権の効力として履行の請求ができるかどうかという,もう一つ前のレベルの話があって,そちらはできないということから導かれるのではないかと思ったのです。ですので,今のお二人からの御質問とも関係しますが,そもそもこれは遅滞が前提となっているのか,そうではないのかということも整理していただくとよろしいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 事務当局から何かコメントがありましたらお願いします。 ○松尾関係官 譲受人は基本的に請求権自体は完全に持っていて,ただ債務者が拒絶権というか,抗弁を持っているという状態を考えていたので,中田先生が御指摘をされたところについては,そもそも譲受人が履行の請求をすることができないとまで考えていたわけではありませんでした。それを前提として,抗弁を主張することによって,履行を拒むことができるから,412条3項の請求はできないと区別して考えてよいのではないかと思っていたのですが,道垣内先生から違うのではないかという御指摘があったのであれば,もう一度整理して考えてみたいとは思います。差し当たりの整理としては今申し上げたようなところを考えております。 ○中井委員 (3)は,もともと私としては遅滞に陥っている後の話であるという理解をしておりました。それであっても悪意の譲受人は履行の請求はできない。もちろん譲渡人も請求はできない。この状態をどう処理するのかということで,今回新たな立法を検討する中で解決方法を提案する必要があるというところから,大阪は「催告」という言葉を使いましたけれども,これはこのために作った特別の催告であって,目的は,履行しなかったら抗弁権を失わせる,そのための制度として提案しているというのがまず前提です。   その上で普通預金の場合,遅滞に陥っていないという場面でどう解決するかですが,これについてはいずれにしろ両すくみの状態になっていることは変わらないわけですから,やはりこの催告の制度を使って,これが遅滞に陥らせると言っていいのか。遅滞に陥らせた上でもう1回催告するのかまで厳密に詰めたわけではありませんが,その解決手段としてこの催告が利用されていいのではないかと思います。   そうすると遅滞を要件にしていること自体がおかしいのではないかということになるのかもしれませんが,単純にはそう理解をしておりました。 ○山本(敬)幹事 少し分からなくなったので,どなたかに御説明を願えればと思います。素案では,履行請求に対して,債務者は債務の履行を拒むことができるという拒絶権的な構成を採っているわけです。このような拒絶権を行使できる場合に,遅滞に陥るのですか。それをまず御説明いただければと思います。 ○松尾関係官 代理受領の三者合意がされたような場合と似たような法律関係になると考えておりました。この場合に,真の債権者が請求行為をしたときに,訴訟上の取立てができるのかどうかについて,議論があって,考え方は分かれていると思いますが,だからといって履行遅滞にならないとまでは考えられていないのではないかと思います。それと同じような状態なのではないかと考えていました。 ○中原委員 デッドロックに陥りながら遅滞になるというのであれば,そのときから約定利率ではなく法定利率による損害金が発生することになるように思います。預金取引の場合,デッドロックになっている以上,どちらに対しても払えないという状況ですから,預金を例にとりますと銀行に経済的に大きな負担が生じるように思います。 ○内田委員 (3)で1行目に「債務者が債務を履行しないときにおいて」とあります。これは中間試案では「遅滞の責任を負う場合において」と書かれていて,表現は変わりましたけれども中身を変える趣旨ではないと思います。ですから中井委員と私は同じ理解で,債務者が遅滞に陥っている場合の規定であると理解していました。   そうだとすると普通預金の場合,履行期限が定まっていない要求払いの取立債務ですので,元の債権者である譲渡人が払えと言うのを拒まない限り遅滞には陥らないはずで,遅滞に陥らない限りは譲受人からの催告はできないわけです。普通預金の場合,元の預金者が払えと言えば払うでしょうから普通は遅滞に陥らないはずで,それにもかかわらず払わないという事態が生じない限りこういう規定が発動しませんから,普通預金についてはそもそも問題になることはないというのが前提なのだと思います。   問題にならないので,先ほど松尾関係官はそういう場合には譲渡契約そのものは解除されるのではないかという説明をしましたけれども,そもそも譲渡などしないだろうと思います。しても無意味ですので譲渡なんかしない。そういう制度として組むことによって普通預金については機能しないようにしてはどうかという趣旨だと思います。   中原委員が譲渡人から請求できないと先ほどおっしゃったかと思います。譲渡人は自らの名において裁判を起こして請求することはできませんけれども,事実行為としての預金の払戻しはできますので,事実として預金の払戻しを求めてくれば払戻して,それによって債務は消滅するということで,弁済そのものは可能なのだと思います。 ○中原委員 裁判で請求しても認められないにもかかわらず,裁判外で請求すれば支払ってもらえる,そのような法律関係が生じるわけですか。 ○内田委員 はい。これは取立債務ですので,債務者は相手が取り立ててこない限り弁済できないわけです。しかし,弁済はすることができ,譲渡人は弁済の受領権を持っていますので,払ってくれと言われれば払う。それによって有効に債務は消滅するということだと私は理解しています。 ○山本(敬)幹事 追加的な質問ですが,そのときに譲渡人は請求権を持っているのですか。 ○内田委員 訴求力はないのだと思います。自分が当事者となって裁判で請求することはできないという理解です。 ○山本(敬)幹事 債務者から見て弁済の相手方を固定するという,比喩的に言えば内部的な合意があって,それは悪意者あるいは重過失のある者には対抗できるという構図とよく似ているのだろうと理解していました。ですから,譲渡自体は行われているので,譲渡人は債権を失っているという前提かなと思っていたのですが,請求はできるのでしょうか。 ○内田委員 受領する権限はあります。 ○山本(敬)幹事 受領権限はそうですが,請求権は……。 ○内田委員 取立債務なので,預金の払戻しに行かないことには受領はできない。その意味で,払い戻すことはできるという理解だと思います。 ○深山幹事 今の議論を踏まえてですが,結局,デッドロックと言われる場面が二つあります。期限が定まっていて,その弁済期が到来している状態で譲渡されれば,特約について悪意の譲受人に譲渡した場合に,どちらも請求できないのではないかという問題があり,それに対する解消の手段として(3)の催告というのが提案されている。それはそれで多分あまり異論がなくて,今,議論がやや混乱しているように聞こえるのは,期限の定めのない債権がその状態のままで,つまり期限が定まらないというのは誰も請求しない状態で譲渡されたとき,期限はそもそもいつ来るのか,来させるために譲渡人なり譲受人は何ができるのか,そこなのだと思います。   譲渡人は債権自体は譲渡してしまっているから債権者ではない,あるいは訴求できない。しかしながら全く何の権利もないかというと,少なくとも受領する権限はあるという話が今出ています。更に期限を到来させるための請求権,請求権という言葉はよくないのかもしれませんが,催告権とでもいうべき権利,それはあるという前提で,今の内田先生の説明もそういうことなのかなと思います。   つまり期限を定めていない債権について払ってくださいと言うことによって期限を到来させる効力を発生させるような意思表示をする権利はあるけれども,債権者そのものではないから訴求することまではできなくて,結局,譲受人に払うかどうかということになるのでしょうが,少なくとも期限を到来させるための有効な催告をする権限みたいなものを認めないと,誰も期限を到来させるボタンを押せないということになり,それはやはり規律としてもおかしいのではないかと思うのです。そこは理論的にもう少し整理をして,期限の定めのない債権について譲渡された場合のルールとしてクリアにしていただければと思います。 ○松尾関係官 中間試案までにどういう議論があったかを御紹介しておくと,結局,こういう考え方を採った場合に,譲渡人が受領することができるということは認めるとしても,いわゆる請求権というか,訴求権のようなものまで与えると。それにもかかわらず責任財産から出ていっていることを説明するのは難しいのではないかという複数の御意見が分科会であって,そういったことを踏まえて譲渡人は受領権限だけを持っているが,請求することはできないという考え方で案を作っていました。   先ほど内田委員からお話があった預金の話ですが,別に債権者に請求権があるかどうかとはかかわらず,債務者が弁済の受領権限を持っている譲渡人に対して弁済すること自体は可能であって,遅滞になるかどうかとは関係なく弁済は有効になると思います。譲渡人に対する弁済の有効性は譲渡人にどういう権能があるかということとは切り離して議論ができるのではないかと伺って考えておりました。   いずれにしても先ほど申し上げたように譲渡人にどのような権能があるのかについては,少なくとも先ほど申し上げたように弁済の受領権限だけ認めればよいというのがこれまでの御意見であったように思っていましたが,今日の御議論はそうではなかったということかなと思いましたので,それを前提にもう一度整理をして考えてみたいと思います。 ○中田委員 (3)の「債務を履行しないとき」という表現がやはり不明確ではないかと思います。541条の表現と合わせたのだという御説明であり,これは履行遅滞を指しているので中間試案と変わらないということですが,ただ「履行しないとき」というと,一般的には権利行使可能時との関係が問題となってくると思います。それから誰が何をしたのに対して履行しなかったのかということが不明確だと思いますので,そこを詰めていただく必要があるのではないかと思いました。 ○松本委員 質問です。今の議論の中で譲渡禁止特約付きの普通預金債権が悪意の譲受人に譲渡された場合についての議論で,譲渡人は請求権はないけれども弁済受領権があるのだという御説明で皆さん納得されているようです。しかし,債権譲渡が有効だとすると弁済受領権は一体どこから出てくるのかということで,それは譲渡禁止特約を弁済先を固定する特約と読み替えることによってオリジナルな債権者と債務者との間の特約上,その弁済は有効になるのだというロジックでしょうか。 ○潮見幹事 事務局と大阪弁護士会の意見を確認したいところがあります。(3)ですけれども,遅滞,付遅滞にこだわる必要がどこまであるのでしょうか。端的に申し上げますと,「(3)の上記(2)後段に該当する場合であっても」から「債務者が債務を履行しないときにおいて」を飛ばしてルールを立てて,これが取立権限ではなく,むしろ抗弁が遮断される場面を要件化したのだと捉えて,その上で催告をすることができる者を譲受人に限定するか,あるいは大阪弁護士会がおっしゃっているように,弁済として受けたものを譲受人に支払う義務が譲渡人にはある点を忖度して,催告をすることができる権利者の1人に譲渡人を付け加えるかを検討されたほうがいいのではないかなと思います。   と申しますのは,大阪弁護士会の意見をずっと見ていても,「遅滞に陥った」という部分についてこだわっているようにはとても思われないというか,「払わない」という,それだけのところに注目してこの催告ルールを作りだしておられるようです。また,「遅滞」ということになると,先ほどの山本敬三幹事ほかがおっしゃっておられたようなところがあって,特に。期限の定めのない債務の場合には,債権を持っていない人が債務者を履行遅滞に陥らせることができるのかなどという問題もございます。事務局案は別として,大阪弁護士会の提案しているところからすると,「遅滞に陥る」という点にこだわったのでは,意に反する結果が招かれるのではないかという感じがします。   ただ,「払わない」という要件に変えたとしても,中原委員がおっしゃっていたところが私には気になります。私は,前から,(3)のようなものは要らない,なぜこんなものを作るのかと大阪弁護士会主催のパネルディスカッションの場などでは言っていました。それでも,この種の催告ルールを入れるということであれば,中田委員の懸念なども含めて,なお検討していただきたいなと思いました。 ○内田委員 今の発言に対してですが,これは全く個人的な理解ですけれども,遅滞ということを入れなければ普通預金の場合の銀行も譲受人からの催告を受けることになります。しかし,遅滞を入れれば,普通預金の場合には遅滞に陥ることはまずないので,催告を受けることはないという意味はあるのではないかと思います。   それから,ついでで申し訳ないですが,中原委員の以前の御発言の中で反社に対して譲渡されたときの問題をおっしゃった。まず,これは契約の譲渡ではありません。契約の譲渡は債務者の同意なしにはできないことです。ですから,預金を発生させる元となっている契約の当事者は変わらない。そうすると譲渡された預金債権は一体どういうものか。これは解釈上難しい問題かもしれませんが,一応債権だけが譲渡されると考えますと,反社との間で預金がどんどん増えていくのでいいのかとおっしゃった点は,契約の当事者は元の預金口座を持っている人ですので,預金が増えるというのは,誰かが振り込めば増えますが,それは別に反社との関係で預金が増えるということにはならないのではないかと思います。ただ,譲渡された預金債権の捉え方いかんによっては別の議論も可能かもしれません。 ○中原委員 その点は内田先生のおっしゃるとおりです。ただ,結果として反社会的勢力が権利者である預金あるいは財産を銀行が保管していることに変わりはないわけですから,それが増えるということに対して社会や世論がどう反応するのかということが懸念される,そういう趣旨です。 ○山野目幹事 2点意見を申し上げます。   1点目は,しばらく前の松尾関係官の御発言で,中間試案までは譲渡人に弁済受領権のみあればよいという理解で受止めてきて,それで起案をしてきたけれども,今日の議論でそうでないことが分かったから引き続き検討するとおっしゃいました。そうであるとしますと申し上げておきたいものですが,私は,譲渡人に弁済受領権が専ら認められることこそが(3)を中核として提言されている譲渡制限特約というものの本質であると考えます。そこが崩れたら譲渡制限特約のアイデアが崩壊に瀕することになりますから,引き続き,おっしゃったところより前の御説明のほうの理解で考えている者もいるということは御認識いただきたいと考えます。   それから2点目ですが,預金債権については,今の内田委員と中原委員のやり取りを伺っていても,やはりこれは別の法令になるかもしれませんけれども,預金は別であって,(3)の規律の下には直接置かないということを明瞭にしていただく方向で考えていただくのがよろしいのではないかと考えます。状況によって他の府省との協議も立案に際して必要になる事項ですから,難儀なことをお願いするかもしれませんが,預金をイメージしながら(3)の議論を精密にすることを求められることに精力を大きく払わなければいけないということが効率的かどうかについて,今日の議論を伺っていて私は疑問を感じました。 ○松岡委員 話をややこしくするようで申し訳ないのですが,債権譲渡については債権の一部の譲渡も当然認められることを前提にしていたと思います。今日の議論を聞いているとますますややこしくなりまして,一部譲渡した場合に誰がどこの範囲で債権者になっているのか,受領権がどうなっているのか。この辺りの議論は最終的には恐らく規定にはならないのかもしれませんけれども,少し詰めて考えておく必要があるのではないかと思いました。 ○井上関係官 金融庁の立場からは,金融の円滑化,安定化という観点から預金債権の二重払いのリスクが生じるということであれば問題かと思っています。今までの74Aの御提案については内田委員の御説明のような理解を我々はしております。したがって銀行が履行遅滞に陥ることはないということであれば,その点において二重払いのリスクはほぼないのであろうと評価しております。それであれば特に預金債権について別の規律を設ける必要はないのではないかと考えておりました。その点は今後の御検討で構成が変わってくるということであれば御勘案いただければということです。   あと,74Bのほうで御提案いただいているような,14ページの「2 検討」(1)(2)のような御提案をもし採られるということであれば,それにつきましては預金債権の二重払いのリスクが生じると評価せざるを得ないと思いますので,これをもし民法で規律するということであれば民法において預金債権を別扱いするような規律を御検討いただければと思います。 ○岡委員 74Aの1ページの(4)について質問させていただきます。この「強制執行がされたときは対抗できない」というのは,特約について善意であっても悪意であっても差押権者に対抗できないという趣旨でしょうかというのが1番目の質問でございます。   それから強制執行に限った理由について,5ページの下のほうに担保権の実行によって差押えがされた場合には妥当しないものであるという一般的な理解を明確化すると書かれています。ここがよく分かりませんので質問させていただきます。   まず約定担保権,質権設定の場合がまずあると思います。この場合に特約につき善意の質権者であっても駄目なのかということでございます。   また法定担保権で動産売買先取特権のような場合があり得ると思います。この動産売買先取特権の場合も善意,悪意に関わりなくこの特約を対抗できることになってしまうのか。そのような理解が一般的なのでしょうかという質問でございます。   最後は(4)のただし書のところでございます。悪意の人に譲渡された場合に,その差押債権者は譲受人の権利以上のものは取得できないので駄目よと。それは分からないでもないのですが,先ほど松尾さんからはそれが善意の人に譲渡されたときは善意の再々譲受人は勝つのだという説明でございました。そういう整理もあるのかもしれませんが,そこは一貫しているのでしょうかという質問でございます。 ○松尾関係官 まず本文についての御質問ですけれども,1点目の本文の「強制執行されたときは」という要件のところで,差押債権者が善意か悪意かを問わないという趣旨かというのは,それはそのとおりの理解でございます。   その上で,その後に2点質問いただいた点についてですが,善意の質権者がいる場合にはどうなのかというのは,確かに善意の質権者がいる場合には質権の設定自体が有効で,特約も対抗できないということになるので,確かにそういった場合をうまく除くような書き方を説明の中でしておかなければならなかったと思いますので,そこはよく考えたいと思います。元々,部会資料で申し上げたかったことは悪意又は重過失の担保権者が現れたときにはどうなるのかということでした。   三点目に,動産の先取特権のお話をされたのですが,それは物上代位で差押えがあった場合ということでしょうか。それも確かに特約は対抗できないということになりそうなので,説明ぶりとして再度考えたいと思います。   あと,ただし書のお話は,岡先生の問題意識は善意無重過失の転得者が現れたときには特約が対抗できなくなって,他方で差押債権者は常に特約は対抗されてしまうのだけれども,それでいいのかということだと思います。確かにそれはバランスの問題はあり得るかもしれませんが,他方で差押えがあったというだけで第三者債務者の抗弁というか,弁済固定の利益が奪われるというのも,それはそれで不当なような気がしますので,そこは割切りの問題というか,仕方がないのかなとは思って原案を提示したわけですが,本日,御意見を伺ってみたいと思います。 ○中原委員 転付命令の場合は,転付債権者に債権が移るという意味においては,善意の差押転付債権者と悪意の譲受人から改めて譲渡を受けた善意の転得者と利益状況は同じでないかと思いますけれども,その点はどうでしょうか。 ○松尾関係官 おっしゃるような御意見はあるだろうと思いますが,そこは少なくとも今回の素案は,それは差押えの延長として考えることでやむを得ないのではないかという前提でおりました。 ○道垣内幹事 先ほどの善意の質権者の話ですが,悪意の質権者については危ういところがあります。つまり恐らく現在の譲渡禁止特約付債権について質権が設定されたときに質権者が悪意であったときには質権を取得しないというのは,質権は譲り渡すことができないものをその目的とすることはできないという343条の文言との関係でそういう解釈になっているのではないかと思います。そうなると譲り渡すことはできるのだという前提を採りますと,前提が変わりますので,私も考えてみたいと思いますけれども,少し留保が必要なのではないかと思います。 ○鎌田部会長 一旦休憩を挟んでいいですか。休憩後に今の議論を続けていたただいてよろしいのですが,一旦休憩をさせていただくということでお願いします。 (休    憩) ○鎌田部会長 それでは再開します。先ほどの議論の続きですので,御発言がありましたら,どうぞお願いします。 ○中井委員 先ほど岡委員からあった話の類型ですけれども,抵当権の場合はどうかということも一応検討しておく必要があるのではないか。つまり抵当権設定前に賃料債権について譲渡禁止特約がある,若しくは火災保険について譲渡禁止特約がある,このような場合について理屈の上で二通り考え得るのではないか。それをどう整理したらいいのか。昨日の弁護士会の中でも意見が双方出たことをご報告しておきたいと思います。やはり検討する必要があるだろうと思います。 ○鎌田部会長 その点について事務当局から何かコメントはありますか。よろしいですか。   それでは,御意見を踏まえて検討を続けさせていただきます。   次に74Bの「第2 債権譲渡」の「2 対抗要件制度」について御審議いただきます。事務局当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 債権譲渡の対抗要件制度については,第74回会議以降にこれまでの審議経緯を踏まえた新たな提案がされています。今回はこれらの提案を取り上げ,その当否についてお伺いするものです。具体的な内容は部会資料74Bの20ページのA案とB案を御覧ください。   A案は債権を譲渡した事実を譲渡人又はその指定する者が,公証人又は郵便認証司に対して申述した日時を証明するための行為をすることを第三者対抗要件とし,その証明された日時の先後で対抗関係の優劣を決するという考え方です。これは現在の対抗要件制度の問題点として挙げられているもののうち,債務者が複数の通知の到達の先後及び通知の有無を判断する負担を負うという点を解消しようとするものです。   B案は法人を譲渡人とする将来債権の譲渡について,第三者対抗要件を登記に一元化するという考え方です。これは特に債権譲渡による資金調達の促進という観点から必要性の高いものについてのみ第三者対抗要件を登記に一元化して,取引の安全の確保を図ろうとするものです。   以上の考え方は両立し得るものであることに留意しつつ,これらに対する賛否についての御意見をお伺いすることができれば幸いです。   なお,以上のいずれの考え方も取り得ないということになれば,現行の対抗要件制度を維持することになりますが,それを前提とした場合の検討課題を指摘する意見もパブリックコメントの手続には寄せられていました。部会資料74Bの22ページにはその検討課題を列挙していますので,この点についても御意見を承りたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 中小企業は債権譲渡により資金調達を行った事実を債務者に知られ,自社の信用不安につながることを懸念しております。第三者対抗要件の登記一元化はこの懸念を解消できる優れた提案であり,現在の内容証明郵便による対抗要件と同程度まで費用を下げること,また登記を誰もが利用しやすい制度に改善することを前提として,登記に一元化することが望ましいと申し上げてまいりました。   登記制度の改善には一定の時間が掛かると思われることから,今回の改正では困難であることは理解できます。また,その場合にB案の将来債権に限り登記に一元化する提案は,当面の現実的な妥協案として検討に値する内容と捉えており,前向きに議論していただきたいと思います。   仮にB案を採用するとしても,将来における全面的な登記一元化の実現に向け,登記制度の手間やコストの改善については引き続き検討を進めるべきと考えております。   また,部会資料では取り上げられていませんが,譲渡禁止特約を付していない既発生の債権が二重,三重に譲渡され,複数の譲受人が同時に第三者対抗要件を具備した場合,債務者が譲受人同士の紛争に巻き込まれるリスクが残るものと思います。このような場合に供託は債務者の利益を保護するための有効な手段と考えられますので,限定的に供託原因を拡充することを検討していただきたいと思います。 ○中井委員 A案についてですけれども,山野目先生の12月10日付けの補足説明を基にした要約だとは思いますが,差押えとの関係について,特段この部会資料には記載はないのですが,この点をどのようにお考えなのか。山野目先生の12月10日付けの意見書では債権譲渡と債権差押えとの優劣は債権譲渡に係る権利行使要件の具備と債権の差押命令の債務者への送達の前後により定めるという提案になっていましたけれども,それを維持されているのかどうかも含めてお教えいただければと思います。 ○松尾関係官 今回は,中井委員がおっしゃってくださったとおり,部会に提出していただいたアイデアを紹介するにとどめておりまして,何か積極的に山野目幹事あるいは経済産業省から出していただいたアイデアを当局のほうで修正しようとしているわけではないので,記載がない部分は山野目幹事のお考えを引き続き前提として御議論いただければよいのではないかと思っております。 ○中井委員 それを前提に,現行法では債務者に対して通知が到達した前後を基準にした場合に,さまざまな問題が生じている。それは債務者をインフォメーションセンターにすることによる問題であるという御指摘も踏まえて,今回の提案若しくは山野目先生の提案は債務者の到達時ではなくて,ここで言うならば譲渡人の譲渡の事実の申述を何らかの形で時間も含めて公証させることによってその前後を決める。こういうことによって債務者に対する負担をなくす。この方向性については大変魅力的な提案だと理解しておりますし,弁護士会の中でも前向きに検討を進めてはどうかという意見が多かった次第です。   ただ,今申し上げた差押えとの関係を考えたときに,山野目提案のままでは債権の差押命令の債務者への送達と債権譲渡に係る権利行使要件の具備という比較になります。とすると本文だけから言うならば,譲渡人が何らかの形で譲渡の事実の申述をした後に債務者に対してそれを交付する,この手続は様々考えるわけですが,交付することによって権利行使要件が充足し,同時に第三者対抗要件が充足するという構成になっております。そこでは債務者への到達という前後が問題になって,現在の問題をその限りではその部分については残すという御提案なのではないか。そうすると山野目先生のお考えを更に債権差押えとの関係でも徹底するといいますか,統一した考え方を持ってくると債務者への送達時を基準とするのではなくて,別の客観的な日時を基準にできないか。つまり譲渡人が譲渡の事実を申述した先が公証人役場であり,郵便認証司であるという御提案に匹敵するものを債権差押命令においても定めることはできないか。こういう観点からの検討を進めたらいいのではないか。   例えばですが,現在,破産手続開始の場合については開始日時として時刻まで決定に表れています。同じように債権差押命令についても,一つの考え方としては命令発令時を書記官なりが公証することは可能であって,発令日だけでなくて発令日時も書くことによって,それはその後送達されるわけですけれども,その日時と他の譲渡について言うならば申述の日時と比較することによって,より債務者との関係で安定的な制度が設計できるのではないか。こう思った次第です。   なぜ,そのような問題提起をするかといいますと,この山野目提案のままでは三すくみ状態ができるのではないか。今から申し上げるのはお手元にメモ用紙を御用意いただいて。   債権を債権者AがBに対して持っている。第一譲受人Cに対しては2月1日に申述をした。しかし,その債務者への送達は少し遅れて2月5日に着いた。その後,Dに対して2月3日に債権譲渡の申述をした。この申述した書面は同日2月3日にBに交付された。その間に,つまり2月2日にEが差押債権者として同じ債権を差し押さえて,その差押命令は2月4日に債務者に送達された。こういう事案を考えたときに,まず債務者は2月3日にDに譲渡しましたよという書面の交付を受ける。そのときにはDに払えばいいのだなと債務者は思った。   ところが,翌日2月4日に裁判所から差押命令の送達がなされた。山野目先生の御提案では差押えと債権譲渡の優劣については,権利行使要件の具備と差押命令の債務者への送達の先後ですから,差押命令の送達が遅かったことになります。したがってDが優先するのだなと判断いたします。ところが,翌日2月5日に遅れてCへの債権譲渡した旨の申述書が届く。届いて封を開けると2月1日に確定日付がとられていた。そうしますと,Dが優先すると思っていたけれども,Dよりも2月1日に確定日付があるCが優先するということになります。ところがCの債権譲渡の申述の事実が送達されたのは2月5日ですので,差押命令の送達よりも遅れます。すなわちCよりも差押債権者Eが優先する。つまり差押債権者EはDには負けるけれどもCには勝つ。CはEには負けるけれどもDには勝つ。そういう三すくみの関係になる。このような事態が生じるのではないか。   そうすると,それを解消するにはやはり山野目提案の差押命令に限って,債務者への送達と他の債権譲渡の権利行使要件の具備,すなわち譲渡の申述の書面の送達との先後とするからこのような事態が避けられなくなるのではないか。先ほどのような裁判所の,仮に裁判所の御理解が得られるかどうか手続的に分かりませんが,命令について日時が入るとすれば受け取った債務者は確定日付若しくは認証司に対する日付,若しくは裁判所の命令の日付,この先後を見れば安心して払える。このようなことが考えられるのではないかと思う次第です。 ○山野目幹事 今,中井委員から御指摘がありましたとおり,第81回会議に私のほうから提出させていただいた意見書におきましては,債権差押命令と債権譲渡との優劣に関しては差押命令の送達時と債権譲渡に関わる対抗要件具備を関係させる債務者への通知との前後によって決めるということをひとまず意見として記しておきました。   その背景等について少し補足して申し上げさせていただきますと,今般の債権譲渡に係る対抗要件の改革論議の通奏低音と申しますか,モチーフをなしてきたことの一つの要請として,債務者がインフォメーションセンターとしての役割を担わせられることに過度の負担があり,そのことへの対処という観点がありました。私もそのことを意識して,自分なりの構想を考えてみて書面にしてお出ししたところでございます。   そのような観点,つまりインフォメーションセンターとしての役割をもう考えないことにするという視点を徹底して述べるときには,今,中井委員が御指摘になったように債権差押命令との関係についても,もう債務者のところに何かが先に着いたとか着かないということについて,それに意味を与えて規律されるという場面は極力なくす,あるいは基本的になくすという方向にいくのではないかということは,仰せのとおりであります。そのような場面をなくすことがピュアな提案になるであろうと考えます。今,中井委員はそういう方向からピュアにせよという御意見をおっしゃったのではないかと感じます。私もそれには魅力を感ずる部分があります。   反面におきまして,債権差押命令等による債権執行の実務が従来積み上げてきたところを顧みて,民事執行法145条が定めている規律とその運用が安定的な蓄積運用を見てきたということについても今般の規定の見直しについては顧みなければならない部分がございます。それとの調和ということを考えて,ひとまず第81回会議に提出した意見におきましては,先ほど申し上げたようなことを記しました。中井委員の御発言においても仮にそのようにすれば,その限りではインフォメーションとしての機能が残るとおっしゃったものでありまして,たしかに,その限りではそうした場合は残るということになりますが,その限りという点について,どれぐらい債権執行の実務との調和というか,それとの関係を重く見るか,あるいはそうではなくて純粋な議論を進めるかということとの関わりで考えていくことになるのではないかと思います。   第81回会議に提出した意見書にはあのように書きましたけれども,債権差押えとの関係は必ずこうだということを今この段階でここで決めなければいけないという性質のものではなくて,引き続き議論されていってよいでしょうし,私ももう少し考えてみたいと思っております。   債権譲渡の対抗要件についての見直しの方向が見定まってきた段階で,民事執行法が定めている内容についても関係する法律の整備として,更に関連して見直しをしなければならない段階がある,あるいは用意されるのかもしれません。そこで民事執行法145条について,どれぐらいの幅の見直しをするかという問題として中井委員が御提起なさった問題は翻案されるであろうと考えます。   一つの徹底した考え方としては,おっしゃったように送達の時ではなくて,発令時を基準とするという考え方もあるかもしれません。ただし,これに対しては裁判所の御理解が得られるでしょうかという御発言があって,それは裁判所にお尋ねしなければ分かりませんが,私はあまり御理解は得られないのではないかという感じがしています。債権譲渡と債権差押命令は似ているようでも,債権差押命令は一方では裁判とその告知という側面を持っておりまして,発令して,裁判所において,言わば内部的には成立したけれども,第三者債務者との関係でコミュニケーションが全く図られていない段階で裁判が効力を発するということをたやすく認めてよいかということについては,ここですぐ決めてしまうというよりは,引き続き裁判所や,手続法の先生方の御議論などを伺って慎重に検討しなければならないと感じます。その際には,ただいま申上げたような議論を勘案して,少し大幅な見直しには慎重にならざるを得ないということになるかもしれません。大幅な見直しをしないときには別な考え方としては,債権差押命令の送達があった後に対抗要件具備が完結した指名債権譲渡は無視されるという規律を考えることも,ほどよい規定整備としてはあるのかもしれません。ただいまお挙げになった例では2月5日に届いたCの立場は無視されるという規律を考えるということも,あり得ないことではないと感じます。 ○沖野幹事 今の点について,山野目案を解釈していくというのも変ですが,元々12月10日に配られました案の中の記述はこの部分だと思いますが,債権譲渡と債権差押えとの優劣は,債権譲渡に係る権利行使要件の具備と債権の差押命令の債務者への送達の前後により定まるという御提案で,この部分の債権譲渡に係る権利行使要件の具備が何を意味するのかということです。中井委員の御説明も,また山野目幹事の御説明も,具体的に債務者に対して交付なり送付なりがされたというその時点を指しているというものでした。ただ,債権譲渡の競合のところでは,そのような債務者のところで認識可能な状態になるということを前提として,その優劣の基準は確定日付であるというのがその提案されている基準です。あり,その意味では,厳密には考え方は別ですけれども,機能的には現在は通知などで全部到達基準によるとされるところ,そうではなくて,到達を前提とした上で,しかし来たものは確定日付によるというような,実質的にはそういう機能を持っているのだと思います。そこからしますと,差押えのときも同じように考えられるのではないか。三すくみ状態が生じるのは基準値がずれているからで,差押えが掛かった途端に到達時になってしまう。そうでない限りは確定日付というか,申述が公的な形で日付をもってなされるというその時点であるという形です。そうだとするともう一つの解決は,この権利行使要件の具備と言われる意味が差押えとの関係でも確定日付の部分によるという形にすれば,差押えのほうはいじらなくても,差押えについてはもう送達基準であるということで,そう対応できるのではないかと考えられます。   民事執行法の制度として同じように債権差押えを債権譲渡とパラレルの形で対抗要件に乗せていくことはあり得るとは思いますが,それはかなり困難が伴うということであれば,そちらのほうが制度設計にも合うのではないか。山野目幹事のご提案にも即するので,むしろ調整というか,修正としてはその方向でいったほうがよろしいのではないかと思います。 ○岡崎幹事 今日いただいたものは新たなる御提案という部分もあるものですから,裁判所としてどうかというのが先ほどから話題に上がっていますが,現時点でまだ検討できていないというのが正直なところです。今,沖野幹事がおっしゃったことに関して,私もその方向はあり得るのではないかと感想を持った次第でございます。   債権譲渡登記と差押えが競合した場合は,差押えの到達時と債権譲渡登記の時点で比較することとされております。それとある意味アナロジーというかパラレルに考えた場合には,山野目幹事の提案でいうと,差押えの到達時と申述の日時を比較の対象にする,これが一番パラレルな考え方であり,現行法の作りと最も整合的にすんなりと説明がつくのは,今,沖野幹事がおっしゃったような解決なのかなという感想は持ちました。   もう一つ,山野目幹事が先ほどお話になったところで,債権差押えの効力の発生時点がいつなのかという問題と今の問題がどのように関係してくるのか。ここを理論的に詰める必要があるのではないかという問題があろうかと思います。   更に山野目幹事もおっしゃっておられますが,最終的にはどういう形で関係法令を整備していくかという段階で決断をしなければいけないということになると思いますが,今回の御提案によりますと,例えば郵便局がどのようなことをやれるのかという意味で,郵便法になるのでしょうか,そのような法律,あるいは公証人がどのようなことをやるかということで公証人法又はその関係法規などの整備がいずれこの場ではないところで話題になるかと思います。それとともにどのような手続法上の整備がいるのかという問題も出てくるかと思います。いずれにしましてもどのような問題があるのかということを私どもとしても考えていきたいと思っております。 ○松本委員 差押えとの関係は少し応用問題になると思いますから置いておいて,本来の二重譲渡の部分について意見を述べさせていただきます。A案というのは用語はいろいろ変わっているところはありますが,考えてみたら今の最高裁判例が確立する前の有力学説の立場を立法化しようという提案だと言ってもいいかと思います。すなわち確定日付の付された書面が到達した日時の先後で決めるのではなくて,到達は必要だけれども確定日付の先後のほうで決めましょうという,一時有力だった学説なわけです。最高裁がそれを採らないという判断をして一定の理由を述べているわけですが,そこで言われているのは譲受人として安心して譲り受けられるのかどうかというところだと思います。すなわち確定日付の先後だけで決めてしまうと,新たに譲り受けようとする者にとって,既にこの債権は誰かに譲り渡されていて,確定日付がもう付されていて,第三者対抗要件が取得されているかもしれない状況で譲り受けるか譲り受けないかの判断を迫られるということになる。その点で,債務者をインフォメーションセンターにすることによって,債務者に問い合わせれば一応分かるという状態を作っていくことに意味があるという評価があるのだと思います。   ただ,今回の債権法改正の議論は債務者をインフォメーションセンターにするのは債務者の負担だから,それはやめようという議論で走っている感じがします。対抗要件を登記に一元化すれば,譲り受けようとする者にとっては既に第三者対抗要件の付された譲渡済み債権かどうかが分かりますから安心できるのでしょうが,従来の有力学説の立場を採るということは,安心して譲り受けをすることができないという状態を作り出してしまうことになるのではないか。そうしますと今回の,特に債権譲渡に関する当部会の基本的な考え方であるところのなるべく流通性を高めましょうという先ほどからの議論の一貫した主張と矛盾するのではないか。債権譲渡が極めてリスキーなものになりかねない状況になるので,それはいかがなものかという気がいたします。もちろん債務者としては通知が来た段階ですぐに弁済してしまえば債務者保護が一応働きます。権利行使要件の先後で決めるのだ,債務者との関係では。だから,すぐ弁済してしまえば債務者に迷惑は掛からない。あとからもっと早い確定日付の付された譲渡の通知が来たとしても心配はないわけですが,債権譲渡は譲渡の通知がされて,すぐ弁済されるようなタイプのものばかりとは限らないわけで,もっと先の1年後,2年後というのも十分あるし,そもそも担保目的であれば弁済は前提としていないかもしれないわけです。そういうケースを考えると安心して譲渡を受けることができる仕組みをとらなければならないと思います。それに反するような案は私は賛成しかねるところがあって,まだそれなら登記一元化のほうがいいのではないかと思います。 ○中井委員 これは山野目先生にお尋ねすることになるのかもしれませんが,この部会資料でも債権を譲渡した事実を譲渡人又はその指定する者が申述する。その指定する者の範囲についてお教えいただければと思うのです。具体的には債務者は説明資料にも上がっていますが,譲受人というものをそもそも想定されているのか。また想定できるのかについて,もしお教えいただければと思います。 ○山野目幹事 少なくとも債務者を含めるという仕方で規律を考案していくことは適当であると考えていました。譲受人をどうするかについて強い確信のある意見を持っているものではありませんから,何か中井委員から御示唆のようなものを承ることができれば幸いでございます。 ○中井委員 弁護士会,恐らく経済界もそうではないかと思いますが,A案を採用したときに,今の債務者の承諾に確定日付を取って対抗要件を取得するという方法がどういう実務に替わるか。実質,同じことを達成して,かつこの制度目的が果たせるというのが一番好ましいし,それであれば前向きに検討できるのではないかと考えています。   そこで単純にこの方式を具体的にどのような形でやるかと考えたときに,「譲渡人が誰々さんに下記の債権を譲渡いたします。ついては債務者さん承諾してください」。下に「異議なく承諾いたします」というのが従来の実務で,今後は変わるのでしょうが,「承諾いたします」と。そして「何月何日」と承諾した日を入れる。その書類を持って公証人役場に行って確定日付を取る。恐らく同じ実務だとすると,その公証人役場に持っていくのが誰かという話です。ここでの資料は債務者が持っていくことを想定して,その指定する者に債務者を含める。でも現実から考えると債務者が公証人役場に持っていくという実務はなかなか難しい。譲渡人若しくは譲受人が公証人役場に持っていくことになる。そうすると,それは債務者が申述したと言えるのか。そのような場面なら,債務者から先に承諾を得た上で,譲渡人若しくは譲受人が公証人役場に持っていったときに,譲渡人もしくは譲渡人から指定を受けた譲受人が申述したと言えれば構わない。譲渡人が持っていく可能性と譲受人が持っていく可能性と両方あって,譲受人が入らなければ,それはだめだということになる。この辺がどこまでできて,どれができないのかということをちょっと見極めたかったというのが本意です。   できれば今のような,従来の実務がこの形で実現できれば,譲渡人の申述という構成であっても機能するでしょうし,現在採られている債務者が承諾するというのは,今後それに確定日付があっても,それだけでは第三者対抗要件になりませんけれども,実務では債務者の承諾をとったうえで債権者の申述要件を満足させて債権の価値を高めて流通させるだろう。そうなれば実現可能性のある仕組みになると思ったもので,譲受人が入っているのか確認したかった次第です。入っていなかったら入っていなかったで委託を受けたとか,代理とか,そんなことを考えていかなければいけないのかと思った次第です。 ○中田委員 A案は前にあった甲案の別案を育てていただいた貴重な試みだと思います。ただ,その場合の問題は先ほど松本委員がおっしゃったように確定日付説に対して言われていた弱点をどう克服するか,それが一つあると思います。A案の別案というのは,恐らくそれを考慮しておられるのではないかと思いますが,それで足りるのかどうか。あるいは債権譲渡の実務において,その債権が譲渡人にまだ帰属しているかどうかは,譲渡人に問い合わせるとか,あるいは譲渡人に保証させるという方法で,実務が回っていくのかどうか知りたいと思います。   もう一つは,承諾についてはこの案だと債務者の負担が大きく感じられますので,より簡易な承諾制度が考えられないかと思っております。可能であれば,そういう方向で更に検討を進められればなと思います。 ○岡委員 私もA案の方向性を模索したいという意見でございます。先ほど松本先生が確定日付だけではだめでないかとおっしゃいました。その反面その説に従えば到達日時をきちんと立証する方法を構築しないといけないと思います。配達日時の証明というのは,宅急便などを見ていると可能かなという気はするのですが,部会資料などを読むと郵便認証司という資格を持った人が配達員になって,その日時を公証しないといけないとなると,配達員に郵便認証司を求めるのはかなりしんどいのではないかという思いがいたします。   それから,調査報告書の中にも譲渡の事実を債務者に問い合わせても債務者のほうは義務がないから答えないという実務が圧倒的に多いと書いてありました。実務感覚としても,それは分かりますので,やはり到達日時を立証する方法,あるいは債務者のインフォメーションセンター論を維持する方向よりは確定日付のほうでいくほうが現実的ではないかと思います。   先ほど中田先生がおっしゃったプラスαを整理する必要はあるとは思いますが,確定日付であれば公証人役場,及びそれなりに大きな郵便局の本庁に行けば公証人役場よりは時間がきっと長いのでしょうし,郵便認証司が何人ぐらいいるかよく分かりませんけれども,便宜性も今の内容証明郵便とほとんど近くなるのではないかと思いますので,A案の方向で考えるのがいいのではないかと思っております。   それから,先ほどから出ているA案についての承諾のところです。21ページの真ん中辺りに,「現在と同様,債務者が譲渡の事実を申述する1通の書面を作成して,その日時の証明を受けることにより」と。ここが先ほど中井さんも言った債務者は承諾したよという書面を作り,それを誰かが公証人役場あるいは郵便局に持っていけば申述に当たるのだ,こういう構成が可能であれば,かなり実務的には通用するのではないかと思います。 ○松本委員 私の根本的な疑問は,公示されない債権譲渡の存在をどうやって調べるのか。債権譲受人として既に第三者が対抗要件を取得しているかもしれないという状況下で,そういう債権を実務的には平気で譲り受けるのですかということです。それが実務なのだということであれば,それでよろしいですが,そんな怖いことをやるのですかということなのです。   現状は債務者という不正確なインフォメーションセンターだけれども,それでもないよりましだという状況で,しかもそこで債務者の承諾を取ることによってかなりリスクヘッジもできる状況だと思います。そういうことすら一切ないという世界になってくると,よほど信頼できる譲渡人からでない限りは絶対譲り受けないのではないかと思いますが,いかがですか。 ○中井委員 この部会資料で言うならばその問題意識に立って,山野目先生の案の本文は譲渡人の申述があって,その申述した事実を文章で債務者に交付する。そこまでが本文です。ただ,その交付をいつまでにするのかという問題と,その方法をどうするのかという問題があるのだろうと思います。今の松本先生の意見はその問題をおっしゃっているのだろうと思います。   交付までに1か月も2か月もあって,ほかの人が出てきてからやおら交付して,確定日付は,ほれ2か月前に取っていましたよ,こういう事態があると御指摘の懸念はあります。だからこそ,ここで債権を譲渡した事実を申述したことを一定の期間内に知らせるという考え方,これが例えば7日以内なのか2日以内なのか分かりませんが,そういう工夫をして,それをできるだけ短期化する。   もう一つが譲渡の事実の申述の方法を限定する,内容証明郵便にする。つまり郵便認証司のところで確定日付を取った内容証明郵便がそのまま債務者のところに送付される。現在はそこには日付と午前中か午後かといいますか,9時から12時と,その日付しか入りませんけれども,この制度ができれば内容証明郵便で本局で受け付けた郵便認証司はそこに何時何分受付けという印が押されて,それが債務者に直ちに送達される。後半の別案を採ればそのような制度設計になって,譲渡の申述から債務者へのその事実の送付,交付が極めて近接してなされる。これによって松本先生がご懸念されていることを解消しようとしているのだと私は理解をしています。   だから,ここの組み立てはなお必要だと思いますし,私としては前回申し上げましたが,前の甲案の別案には大反対をいたしました。それは全く外部化の要素がなかったからです。これは外部化をこういう形で取り入れようとされているわけですから,そこを何とか工夫して,松本先生のご懸念も解消する方向で考えていただければと思っております。 ○松本委員 中井委員に対する確認ですが,そうすると債権譲受人としては,例えば最初の譲渡が行われてから通知の到達まで,例えば1週間というタイムリミットが法律的に書かれれば,その1週間は決済を送らせることによってリスクヘッジすることができるということですね。債権譲受人としては代金を払うのを遅らせると。 ○中井委員 はい。短くすることによって何らかの対策ができるし,事実上防ぐことができるということです。 ○鎌田部会長 そこは債務者がインフォメーションセンターになるという前提ですか。 ○中井委員 外部化することはやはり必要だと考えています。それをインフォメーションセンターと言われてしまうと,そういうことになるかもしれません。 ○内田委員 その外部化とおっしゃることの中身ですが,結局,債務者に聞けば分かるということを言っているのであれば,公示と言っているのと何ら違いはないのではないでしょうか。   今までは債務者への通知を一定期間内にするということを要求していませんでした。そこで,債権譲渡の対抗要件具備を留保してサイレントで譲渡することが行われていた。その場合はずっとモニタリングをやっていて,譲渡人に何かおかしい素振りがあると思えば直ちに通知ができるように既に用意をしている。そういう譲受人がいる恐れがあったわけです。したがって一応インフォメーションセンターであるということで債務者に聞くことは想定されてはいましたけれども,まだ債務者に通知せず,何かあればすぐに通知することを準備している譲受人がいるリスクはあったわけです。ところが今回は短期間の間に通知することを要求することで,そのリスクも最小化できる。そうなると,ますます債務者はインフォメーションセンターとしての価値が高まりますから,みんな債務者に聞くのではないかと思います。それは債務者は答える義務がないから負担にならないということと矛盾してはいないかという気がいたしますが,いかがでしょうか。 ○山野目幹事 部会長にお尋ねいただいたことにもお答え申し上げなければならないという問題意識を踏まえながら,第81回会議に私から意見を出させていただいた気持ちを若干補足して申し上げさせていただきます。   債務者にインフォメーションセンターとしての役割を課することは基本的にすごく問題があるという問題意識は私も強く抱いております。その出発点は松本委員と異なりません。そのインフォメーションセンターとしての役割をゼロにしようとすると,それは基本的に登記一元化しかありません。そこも松本委員と認識は異なりません。登記一元化についてどう思っているか,ということで申せば,登記一元化という政策課題は長いスパンでは追求していかなければならないと考えております。さはさりながら当面の今般の見直しの中で第81回会議,第74回会議までの議論のすう勢を踏まえますと,そこに直ちにハードルとして届くだろうか,それも少し心配な部分がございます。   実務に携わっておられる先生方の御意見を聞くと,また多様に考慮しなければならない面があることも理解されないものではありません。当面の方策として考えられることは,インフォメーションセンターとしての役割を合理化して軽減することを発想の基本として,何か考えられないかということでいろいろ考えを巡らせてみたところでございます。 ○佐成委員 実務の運用といいますか,その辺りにどういう影響を及ぼすかというお話があったので,若干コメントしようと思います。   内部で議論しましたのは,債権譲受人の方面からではなくて,第三債務者にインフォメーションセンターとしてどういう負担があり,これによってどれだけ負担が軽減されるか。そういった話でございます。別案においては,一定期間内に申述されるので,サイレントの期間が短縮されるわけですから,これに関しては内部では評価する意見がありました。また,特に反対する意見はございませんでした。ただ,賛成するかというと,直ちに賛成というわけではないのですが,反対する意見は少なくともなかったのです。逆に言いますと,実務的にはそれほど不都合はないのではないか。今より悪くなるとか,そういったことはあまり想定されないような気がいたします。   一括決済方式の場合の債務者の承諾に関しても一定の解釈が示されているので,A案については実務界としてはこれでは困るといったような反応は全くなかったというのが現時点での感触でございます。 ○中井委員 先ほどの内田先生の御質問が理解できなかったのですが。   今現在,債権譲渡をサイレントで行っていると。第三者対抗要件を備えてサイレントで行っているとおっしゃるのですか。 ○内田委員 いや,備わっていない。 ○中井委員 そうではないのですね。質問の趣旨を理解しなかったので,もしよろしければですが,もう一度先ほどの私に対する御批判だったと思いますがおっしゃっていただけないでしょうか。 ○内田委員 債務者が公示機能を果たすという点では現行法と同じではないかという印象なのです。ただ,現行法の場合には第三者対抗要件の具備を留保して,つまり対抗要件を具備せずにサイレントで譲渡することが現に行われているわけです。その場合は債務者に知らせていないわけですが,いざとなれば知らせて優先できるようにということで通知をあらかじめ準備する。当然譲受人はモニタリングをしていて,債務者,これは自分にとっての債務者で,つまり譲渡人のことですが,譲渡人に何かおかしな状況があれば直ちに債務者に通知を送るという準備をしている,そういうサイレントの譲受人がいるリスクがあったわけです。ですから債務者に聞いても通知は来ていませんと答える。安心して譲渡を受けようとしていたら,即座に通知が送られてしまうリスクがあった。ところが一定期間内に必ず通知しなければならないことにすると,先ほどの松本委員とのやり取りで出てきましたように,その期間さえ置けば確実に自分が優先することが分かるわけです。債務者に聞くことの価値は高まるだろう。そういう意味で債務者のインフォメーションセンターとしての価値を高めることは債務者の負担を増やすことになるのではないかという趣旨です。 ○山野目幹事 いわゆるサイレントな方式による債権譲渡のことをつらつら思う部分がございます。サイレントな方式で行われる債権譲渡のリスクがあるではないかというご懸念に対して,そのリスクを実務上なくそうとすることは,裏返すとサイレントな債権譲渡はできなくなるということを意味するものであります。そこの論点の構図は,ただいま内田委員に明快に整理していただいたとおりでございます。   その上で申し添えますと,サイレントな譲渡の方式を今後将来にわたって実務的に正面的から受止めていくべきものは,やはり債権譲渡登記の制度なのだろうと思います。そういう意味でも私は一つ前の発言でも申しましたとおり,一挙に登記一元化でなくても債権譲渡登記の制度を改良して,そちらが本来担うべきものは担っていただくべき幅を今よりも広げていかなければならないということも同時に強調されなければならないと考えます。   具体的に申し上げますと,るる指摘されてきたところでありますが,法人しか用いることができない仕組みを自然人が用いられるようなものとする。それから申請,受理に関する即時処理の問題をもう少し適切な運用が可能なものにすべきであります。それから別送方式の導入についても前向きに検討することとし,費用の軽減を図ることも併せて当然のことでございますが,それらを通じ,従来実務上,一面において非常に需要が大きかったサイレントな債権譲渡をきちんと受止めるための債権譲渡登記の制度の改良が引き続き追求されるべきであろうと考えます。 ○道垣内幹事 内容証明郵便というのは代理人が行ってもできる仕組みなのですね。 ○鎌田部会長 はい,誰でもできます。 ○道垣内幹事 はい,分かりました。それが第1点です。   第2点は,内田委員や山野目幹事の御発言は,それとしてはよく分かります。しかし,よく分からないのは,債権譲渡契約を締結し,譲渡が実体法上効力を有するに至った日に郵便局に行かなければいけないわけではないし,公証人役場に行かなければいけないわけではないですね。そうすると全部準備して,いざというときになって突然公証人役場に行ったり,内容証明郵便の手続をしたりするという事態には一切変化はないのではないかと思いながら伺っていたのですが,何かどこかに大きな勘違いがあるのでしょうか。 ○鎌田部会長 これはもう少し詰めたほうがいいと思います。日時の「時」が付いているところがミソなのか。逆に言うと,譲渡証書を公正証書で作成し,時間が入っていなかったら全く無価値になってしまうということまで考えているのか。現行の確定日付に付け加えてこういう手法もOKにするということが重要なことなのでしょうか。 ○山野目幹事 日時を入れていただきたい,それを一つの柱として私個人は考えておりました。関係する府省とも協議しなければなりませんから,当然のごとくに日時が入るだという前提で議論することは問題かもしれませんが,パブリックコメント等で寄せられてきた一般の経済界からの要請として,日付だのみでは比較することができなくて,前後の問題で非常に困惑する場面があるという指摘があります。それは骨子が固まってからの細目の検討になるかもしれませんけれども,私個人はそういうことを考えております。 ○中田委員 山野目幹事の一つ前の御発言に賛同するということを申し上げたかったのです。山野目案といいますか,A案にはまだまだ課題があることは誰しもが認識していると思います。だからと言って現行制度が完全かというと,そうではないことも共通の理解だと思います。そうすると登記一元化が実現するまでの間によりよい制度はどういうものかをみんなで考えていこうというのがここでの方向ではないかと思いますので,このことを一言申し添えたいと思います。 ○中井委員 一番最初に申し上げた差押えとの三すくみ問題ですが,沖野先生から差押えについては送達,それ以外の債権譲渡については確定日付,その比較でいいのではないかというご提案がありました。そちらのほうが実際的なのかなと思いますが,その課題は差押えに関しては少なくとも債務者への送達日時ということが問題になりますので,送達した日と現実の確定日付の日時との比較をするという負担は,やはり債務者に残るという点では負担は小さくなったかもしれませんが,なお課題はありますね。   それに対して命令に日時を入れるのは非常にハードルが高いということで,これは無理なのかもしれませんが,そちらは非常にはっきりします。その差だけは,認識しておく必要があるのではないかと思った次第です。 ○鎌田部会長 恐縮ですが,次に進ませていただきます。部会資料74Aの「第1 債権譲渡」の「2 将来債権譲渡」及び「3 債権譲渡と債務者の抗弁」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 「2 将来債権譲渡」のうち,(1)は将来債権がその性質に反しない限り譲渡することができることを明文化するものであり,中間試案の実質を変更するものではありません。   (2)は将来債権の譲受人は発生した債権を当然取得することとした判例の考え方を明文化しようとするもので,中間試案からの変更はありません。   (3)は将来債権の譲渡は指名債権の譲渡と同じ方法による第三者対抗要件を具備しなければ第三者に対抗することはできないとする判例法理を明文化するものであり,中間試案からの変更はありません。もっとも先ほど御議論いただいた対抗要件制度についてB案を採る場合には,この規律も修正の必要が生じます。   (4)は将来債権が譲渡され,権利行使要件が具備された後に付された譲渡制限特約を譲受人に対抗することができないことを明らかにするまでの規律を設けるものです。   パブリックコメントの手続に寄せられた意見では賛否が分かれていますが,権利行使要件の具備後には債務者との関係でも譲渡人は債権の処分権を失っている以上,譲渡人が弁済の相手方を変更する内容の合意まですることができるとは考えられないことを理由として中間試案を維持することを提案しております。   3の「(1) 異議をとどめない承諾による抗弁の切断」は,異議をとどめない承諾による抗弁の切断の制度を廃止し,抗弁放棄の意思表示の一般の規律に委ねることを提案する点では中間試案を維持しております。もっとも債権が譲渡された場合における抗弁放棄の意思表示について,書面要件を課すという中間試案の考え方を取り上げないこととした点で中間試案を変更しております。これは債権が譲渡された場合における抗弁放棄の意思表示についてのみ書面要件を課すことは,抗弁の放棄一般の場合とのバランスを欠く上に債権が譲渡された場合における抗弁の放棄と,それ以外と実際上区別することが困難であって適当ではないとの批判があることを理由とするものです。   「3(2) 債権譲渡と相殺」は,権利行使要件の具備前に債務者が取得した債権を自動債権とするのであれば,権利行使要件の具備時に相殺滌除にある必要はなく,自動債権と受働債権の弁済期を問わず相殺を対抗することができるという見解を前提とした上で,更にアの(ア)では権利行使要件の具備時に債権の発生原因が既に存在していた場合について,当該発生原因に基づき発生した債権を自動債権とする相殺を対抗可能としています。また,アの(イ)では将来債権譲渡された場合を念頭において,権利行使要件の具備後に生じた原因に基づいて発生した債権であっても,譲渡の代償となった債権と同一の契約に基づいて生じた債権であれば,その債権を自働債権とする相殺を対抗することができることしています。   これは将来債権譲渡が広く行われることになっているという実態などを踏まえ,特に相殺の期待が強い場合については権利行使要件具備後の原因に基づいて生じた債権であっても,債権を自動債権とする相殺であっても,譲受人に対抗することを明確化しようとするものです。いずれも中間試案の実質を維持しております。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。 ○佐成委員 今あったところではありませんが,先ほどの一番最後のところで,24のBの対抗の制度でB案についてコメントを言わなかったので発言いたします。B案については,内部では非常に評判が悪かったという印象です。将来債権と既発生の債権は法律的には区別できるけれども,素人的には非常に区別がしにくいので,実務では使えないだろうという意見がかなり強かったということだけ申し上げておきます。 ○鎌田部会長 逆に,区別しないで全部登記というのだともっと悪いですか。 ○佐成委員 はい。 ○鎌田部会長 それでは先ほど説明がありました部分についての御意見をお伺いいたします。 ○中原委員 「2 将来債権譲渡」の(4)についてコメントしたいと思います。   債権譲渡通知時に既に存在している預金口座で将来発生する預金については,「譲渡通知前に譲渡制限特約が付されていた」ことになりますが,譲渡通知時に存在していない口座,換言すれば譲渡通知後に預金口座を作成し,発生する預金債権を譲渡する場合は,譲渡通知時に存在していない口座について譲渡制限特約を対抗できませんから,譲渡が可能な預金が作出されてしまう可能性があります。銀行預金に限らず,譲渡制限特約が付される類型の契約は多数あると思います。将来債権譲渡の場合は特約の存在について,悪意,重過失の譲受人を保護すべき必要性はないと思います。したがって,譲受人が当該契約について譲渡制限特約が付されるであろうことについて悪意又は重過失がある場合には特約を対抗できるようにする必要があると思います。 ○松尾関係官 元々この議論がされてきた背景には466条2項のうち,主観的要件が譲渡の時点で特約が付いている場合にしか機能し得ないから,譲渡の時点で特約が付されていない場合には適用されないという理解が前提となっていたことがあると思います。この立場からは,中原委員がおっしゃったような理解に対して,将来債権譲渡後に付された特約について悪意重過失とは一体どういう場合を指すのかという問題が指摘されるように思いました。   ただ,中間試案の段階から,この論点と預金債権の取扱いとの関係については重ねて御懸念を示していただいているところであって,解釈論などで対応する余地がないのかということも含めて,もう少し事務当局でも検討してまいりたいとは思います。 ○内田委員 今,中原委員がおっしゃった懸念の点ですが,結局,口座開設のための銀行取引の基本契約が存在していればそこに譲渡制限特約が入っているわけです。ですから,その基本契約から発生する預金については全て譲渡制限特約が及ぶ。ところが,まだ存在していない口座について将来の預金債権が譲渡されるというのは,基本契約がまだ結ばれていない場合だと思います。つまり,まだ取引のない第三者からおたくの銀行に対して将来取得する預金債権は譲渡しましたという通知が来るわけです。そんな人と新たに預金契約を結ばなければすむことなのではないでしょうか。譲渡制限特約を飛ばすための譲渡を先にしている第三者が新たに口座開設の契約に来た場合には,契約を拒否すればすむことなのではないと思います。 ○中原委員 預金契約を締結しなければいいというのは,そのとおりだと思いますが,公共性の高い機関として,譲渡可能な預金の発生を阻止するという理由で,口座開設を断れるのかという事実上の問題があるように思います。 ○内田委員 譲渡はなしにしてください。そうしないと契約は結べませんという,交渉は可能なのではないかと思いますが。 ○中原委員 交渉は可能だと思いますが。 ○鎌田部会長 解釈問題かもしれませんけれども,今日的には預金契約上の債権といえば銀取約定書に基づいた預金契約上の債権しかなくて,その契約の中には譲渡禁止特約が不可分に入っていれば,将来の預金債権の譲渡も,契約上の譲渡禁止特約の付いた債権の譲渡と最初から解釈するのが私は自然だと思います。 ○中田委員 将来債権譲渡についてですが,将来債権譲渡に関する規律と通常の債権譲渡の規律との関係がどうなのかが今回のご提案でまだよく分かりませんでした。将来債権譲渡の規律は譲渡可能性についての確認的規定であって,通常の債権譲渡とは異ならないと考えるのか,それとも,将来債権譲渡で譲渡されるものは債権そのものでないと考えるのかということが,まだ統一がされていないのではないかと思いました。   具体的には次の3点があります。一つは,将来債権譲渡に関する規律を民法466条の次に置くのか,それとも通常の債権譲渡の諸規定の後に置くのかということです。   2番目は,2(1)のただし書きと,1ページの1(1)のただし書との関係です。どちらも「その性質がこれを許さないときは,この限りでない」というものですが,この両者の関係がよく分かりませんでした。つまり将来債権譲渡にも1の(1)が及ぶのだけれども,さらに将来債権譲渡に特有の譲渡できない性質が何かあると考えるのか,それとも両者同じことを重ねて書いたのにすぎないのかということです。   それから3つ目は,民法468条の規律,素案で言うと10ページの3になりますが,それとの関係がどうなるのか。3(2)の債権譲渡と相殺についての規律は当然に及ぶことは想定されていますが,2自体には素案3との関係の規律がないので,そこがどうなっているのかがよく分かりませんでした。   最終的には理論的な統一化は難しくて,解釈に委ねるところが残るとは思いますが,ただ問題はあるので,規律を考える際にはそれを意識しながら設けたほうがいいのではないかと思いました。 ○潮見幹事 別の点についての確認ですが,債権譲渡と相殺の素案のアの(イ)です。もとより,こういう規定を設けること自体に反対だというわけではありません。この間,部会とか第三分科会等でも議論されてきたようなので確認だけです。   素案には,「その原因が」というのがあります。この「その原因が」というのは,その後にある「同一の契約であるもの」と書いてあるとこの「同一の契約」とイコールと考えてよいのかどうか。このように形式的に判断するのか。それとも,合理的期待というか,牽連性というか,それはいろいろ言い方はあると思いますが,そのような実質的な判断を入れて,「その原因」が「同一の契約である」ことを評価していくのか。これが1点です。   2点目は,資料の説明のところでは契約書が同一か否かに注目したように解説がされておりますけれども,部会,分科会等で出ていましたが,例えば売買や請負の目的物に瑕疵があった場合の損害賠償請求権について,ここでいう「原因」とは一体何なのでしょうか。売買なのか。瑕疵なのか。それから,これも出ておりましたが,賃貸借の場合の必要費償還請求,有益費償還請求における「原因」とは一体何なのでしょうか。賃貸借契約なのか。それとも修補あるいはその他費用投下を必要とするような事情が生じたというその出来事そのものを指すのか。それとも費用投下に注目をするのか。関係官の方々は,どのようにお考えになっておられるのでしょうか。これを解釈に委ねるとお答えになられるかもしれませんが,それだと危ういという感じがいたしましたので質問させていただきました。 ○松尾関係官 あくまでも個人的な考え方になるかもしれませんが,お答え申し上げます。第1に御質問いただいたことは,「その原因」という言葉と「同一の契約」という言葉の関係を形式的に見るかどうかということだと思いますが,それは今までの議論を踏まえると形式的に見るしかないのではないかと思いました。つまり,議論の経緯としては,元々は同一の契約よりももう少し広い概念で捉えようという考え方が中間試案の前では取り上げられていましたが,それでは広すぎるという御批判があった一方で,瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権と売買代金債権のような場合を念頭において相殺を認めるべき場合もあるという御議論がありました。そのことを考えると,そこは形式的に考えていくべきで,実質的に広げていくことは避けたほうがいいのではないかと思っております。   その上で具体的に挙げれる例について,「原因」をどう捉えていくと考えられるのかということが二点目のご質問であったと理解しております。例えば売買の瑕疵担保に関する例であれば,それは売買契約を原因として見ればよいと思っています。他方で,賃貸借の必要費や有益費の点については分科会でご議論があったので,解釈はいろいろあり得ると思いますが,現時点では契約と考えてよいのではないかと思っております。 ○三浦関係官 一つ前に戻って,中田委員の御発言に関連して。この項目の趣旨として,将来債権について普通の債権の譲渡とは違う規律を意味するのかどうかについては非常に関心深く伺いました。もし違う規律を作るということであれば,将来債権とは何かという定義はどうするのかということ,つまりその外延を明確にすることに実益が出てくるということのように思います。もし,ここにいる皆が賛同できるような将来債権の外延が定義できるとすると,ここで前の項目に戻るわけですが,佐成委員から債権譲渡のところでB案は難しいという御発言が先ほどありました。そのご趣旨というのは将来債権とは何かという区別のところが難しいということでした。一方で,仮に将来債権についてここで特別な規律を設けるとすれば,やはりここでも将来債権の区別が問題になります。ある意味セットで考えていくことという気がいたしました。   もちろんこれは将来債権について独立の規律を設けるものではないということだとすると区別をする意味はあまりなく,前の項目のB案固有の問題になるのかもしれません。   念のためですが,82回で配布させていただいた経済産業省のペーパーの6ページには,将来債権の意義とは何か,一定の考え方を示させていただいております。これが実務に堪えるかどうかは,もちろん御吟味と御評価が必要だと思いますが,一応そのよう考え方を示めさせていただいていることを併せて申し上げたいと思います。 ○岡委員 先ほど潮見先生が質問された(2)のアの(イ)のところの質問でございます。「同一の契約であるもの」が分かりにくいというのが専らの評判でございます。原因を基本的には契約で考えるというのは分かりました。それでいくと(ア)でカバーされるのでそう問題はないかなと思いますが,例えば将来債権譲渡の権利行使要件が具備された後に売買契約を結んで,その売買契約に基づいて瑕疵担保請求権を取得した。それと同一の契約に基づく売買代金債務と相殺できるのはここで分かるのですが,権利行使用件具備後のほかの個別売買契約上の代金債務,それとは相殺できないことになってしまうのですか。 ○松尾関係官 それは同一の契約かという評価の問題があるわけですけれど,仮に違う契約だということになれば相殺できないということにならざるを得ないと思います。 ○岡委員 一連の基本的契約で広い意味でお互いに担保し合っている関係にあったとしても,今回は同一の契約という規律を持ち込んだので少し狭くなるということですね。 ○松尾関係官 狭くなるとおっしゃった趣旨がよく分からなかったのですが。 ○道垣内幹事 私は,具体的な例についての松尾関係官のご意見には反対ですが,いずれにせよ,「同一の契約」という概念,あるいは議論の場で考えていくということではないでしょうか。それ以上に細かく書きますと,様々な事情を考慮できなくなりますし,かといって書かなければわかりやすくなるわけではない。議論の場となる概念を設けることは重要だと思います。 ○中井委員 同じところの質問でした。先ほど潮見先生が(イ)のところで,「具備後の原因」について,この文章を読むとそのまま「同一の契約であるもの」につながってしまいますが,そこで松尾さんのお話によれば同一の契約であるという答弁でした。とすると(ア)の原因についても具備前の原因というのは,具備前の契約のことを意味するのか。今の岡さんの話につながってというか,先ほどの潮見先生のと同じですが,賃貸借契約に基づく必要費償還請求権を考えたときに,その瑕疵が具備後に生じたものであっても,賃貸借契約に基づいて生じた債権ということで含まれるのなら,(ア)の中に含まれてしまう。本当にそれでいいのですかと素朴に思います。   仮にそうだとすると,今度は差押えと相殺との関係ですが,ここは差押え前の原因に基づいて生じた債権との相殺を許す旨の規定になっていたと思います。そうすると賃料債権が差押えられた後,賃貸借契約を原因と解して,差押後に瑕疵が生じて,それに必要費を出して必要費償還請求権があれば,これを(ア)の具備前の原因に基づいて生じた債権として相殺できると言うのか。まさかそれは言っていなかったのではないですかと思うものですから,本当にこの(イ)の原因は契約としてしまうと(ア)も契約ということになって,賃貸借契約なら今のような帰結になりかねないと思います。ここはこの前の分科会で確か議論したと思いますが,もう少し慎重にお考えいただく必要があるように思いました。 ○鎌田部会長 そこは少し検討させてもらいます。 ○中田委員 10ページに,中間試案の(注2),つまり不動産賃貸借の賃料については別に考えるということを今回取り上げなかったということが書かれております。ただ,最後の書き方が「現段階では,」「このたたき台では,取り上げない」とちょっと含みがあるようにも思えたのですが,もしなお検討する余地があるのであれば,是非検討していただければと思います。   不動産賃貸借の賃料について規律を置く必要性,合理性は一応これまでにも説明されていると思いますので,全然説明がないというようなことではないと思います。 ○鎌田部会長 異議をとどめない承諾については特に御発言がなかったのですが,よろしいですか。   よろしいようでしたら,残り時間はわずかでございますけれども……。では,どうぞ。 ○岡委員 (2)のアの(イ)の将来債権譲渡と相殺のところについては,先ほど中井さんも少し言いましたけれども,511条のほうにも必要になってくるのではないかと思いますので,御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 そこも検討させていただきます。部会資料74Aの「第2 契約上の地位の移転」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○住友関係官 「第2 契約上の地位の移転」は,契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合に,契約の相手方がその譲渡を承諾したときに契約上の地位が移転するというものであり,中間試案から実質的な変更はありません。 ○鎌田部会長 ただいま説明がありました点について御審議をいただきます。 ○安永委員 これまでも部会やパブリックコメントで申し上げてまいりましたが,契約上の地位の移転の条文化については,労働者の転籍について影響を及ぼすのではないかとの懸念が残っております。現状では転籍時点での労働者の同意がなければ転籍は成立しないこととされてきましたが,要綱案の提案のように承諾の時期について明記されていない場合,使用者が事前に労働契約上の使用者の地位を将来,第三者に譲渡することについて包括的事前承諾を労働者から得てしまえば転籍時点での労働者の同意がなくても転籍を行うことができるとの解釈がなされてしまう危険性があります。したがって契約上の地位の移転の条文化に当たっては労働者の転籍に関する包括的事前承諾が有効であると解釈されることがないように事前の承諾は無効であることが明らかな規定とするか,契約上の地位の移転は不動産賃貸借の場面等で活用されてきたことを踏まえ,不動産賃貸借等の契約類型に適用対象を限定することをお願いしたいと思います。 ○筒井幹事 今の安永委員の御懸念は,連合から一貫していただいていた御意見ですので,その趣旨はよく理解しているつもりです。ただ,その御懸念は,従前,第2ステージの議論の際には,事前の承諾が有効であることを前提としたような一定の規律を別途設けることに対して向けられていて,その点については事前の承諾に関する規定を設けることに積極的な意見もありましたが,他方で連合から示されていたような懸念もあることを踏まえて,規定を設けない方向で議論が進んできたと思います。そういう意味で連合の御懸念は,これまでの議論を通じて取り入れられてきたのだと思います。   先ほど安永委員からさらに御指摘がありましたのは,中間試案では承諾の時期については触れられていないので,事前の承諾に関する御懸念が今後は解消されるように,さらに積極的にその旨を明記する方向で検討してほしいという御趣旨かと思います。しかし,そのような規定を設けようとすると,様々な場面を念頭においた異論が出てくるでしょうから,それはそれでまた合意形成が非常に困難であろうと考えております。   現在の案では,承諾の時期のことには特に触れていません。そのことに触れないで規定を設けることは,現状よりも労働契約に悪影響を与えるという性質のものではないと思います。それを更に前進させることはできないかもしれませんけれども,決して悪影響を与えるものではないという趣旨で,この点については現在の案で御理解いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はいかがですか。よろしいですか。   特にないようでしたら,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 議事進行に御協力いただきまして,ありがとうございました。予定の分量を終えることができましたので,予備日として確保していただいておりました日には会議を開催せず,次回は今月2月25日(火曜日)午後1時から午後6時まで。場所は本日と同じ法務省20階第1会議室としたいと思います。   次回の議題でございますけれども,本日予定しておりました売買を次回に繰り越しております関係で,契約各則のうち売買,贈与,組合,終身定期金,和解。それから,契約総則的なものとして,契約に関する基本原則,契約交渉段階,契約の解釈,それに約款。以上について資料を準備して議論をお願いしたいと考えております。   今,実情を御理解いただけたことと思いますけれども,次回会議で取り扱う分量は大変多くなります。第3ステージにおきましては,ある時期から予備日に会議を開催しない運用が続いてきたわけですが,次回につきましては,次回会議の予備日である3月4日火曜日にも恐らく開催することになろうという前提で是非ご準備いただければと考えております。次回会議は2月25日でございますが,そこで積み残しが出た場合には3月4日火曜日も開催するという方向で是非御理解をいただきたいと考えております。   その後は,3月18日に次の正規の会議が予定されていますけれども,ここでは第3ステージにおいて積み残されている一部の論点などを取り上げて御議論いただきたいと考えております。   もう1点ですが,4月以降の会議開催日についてのお問い合わせをいただいております。詳しいことはまだお伝えできる状態にありませんが,差し当たり4月につきましては開催しないことが確定している日のほうをお伝えしておこうと思います。4月1日と4月8日。この両日につきましては会議は開催しないことを今日の時点でお伝えしておこうと思います。ですから,4月15日と22日,それから5月以降につきましては,引き続き全ての火曜日について日程の確保にご協力いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは本日の審議はこれで終了とさせていただきます。本日も熱心な御議論を賜りましてありがとうございました。 -了-