法制審議会 民法(債権関係)部会 第84回会議 議事録 第1 日 時  平成26年2月25日(火)自 午後1時00分                      至 午後6時19分 第2 場 所  法務省 第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第84回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は松岡久和委員,安永貴夫委員,鹿野菜穂子幹事,福田千恵子幹事,山川隆一幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料75Aと75Bをお届けいたしました。これらの資料の審議順に関するものとして,机上には「第84回会議の審議順」という表題のメモを配布しております。   また,委員等提供資料が何点かございます。山本敬三幹事から「部会資料75B 第2「契約の解釈」に関する意見書」と題する書面と,論文集の抜き刷りで「契約の解釈と民法改正の課題」と題する御論考を提供いただいております。それから,三浦関係官から「書面による意見陳述」と題する書面を提出していただいております。また,全中,全国中小企業団体中央会から「民法(債権関係)改正に対する意見」と題する書面を提出いただいております。それから,大阪弁護士会民法改正問題特別委員会有志の皆さんから「部会資料75に関する提案」と題する書面を提出いただいております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料75A及び75Bについて御審議いただく予定です。今回の会議では,部会資料における論点の掲載順ではなく,売買,請負,贈与,契約に関する基本原則,契約交渉段階,契約の解釈の順で,AタイプとBタイプの資料を適宜用いながら御審議いただきたいと考えています。具体的には,休憩前までに売買,請負の各論点について,部会資料75Aと75Bの両方を御審議いただき,午後3時45分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料75A及びBの残りの部分について御審議いただきたいと思います。部会資料75A及びBは分量が多いため,来週の予備日は使わざるを得ない見込みでありますが,お配りしました「第84回会議の審議順」に記載した部会資料75B「第2 契約の解釈」までは本日の会議で御審議を頂きたいと考えておりますので,御協力のほど,よろしくお願いいたします。   それでは,審議に入ります。   まず,部会資料75Aの「第3 売買」の「1 手付」から「6 権利移転義務の不履行に関する売主の責任等」までについて御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○住友関係官 御説明いたします。   部会資料75A,6ページの「第3 売買」の「1 手付」は,解除の相手方が履行に着手するまでは履行に着手した当事者による手付解除を可能とする判例法理等を明文化するものであり,中間試案からの変更点はありません。   「2 売主の義務」は,売主の義務を契約上の義務と整理した上で,その規定内容を明確化するものであり,中間試案から大きな変更はありません。   素案(1)は,契約の趣旨に適合した内容の権利を移転する義務があることとするものです。中間試案第35,3(3)では,移転すべき権利は他人の権利の負担等がないものでなければならないなどとされておりました。しかし,例えば売買の目的を地役権付きの土地所有権としたものの,実際には地役権が付いていなかった場合が,この規律に含まれるかどうか判然としないように思われたことなどから,素案(1)では,移転すべき権利の内容が契約の趣旨に適合したものでなければならないこととしております。   素案(2)は,売買の目的が有体物である場合には,売主は性状及び数量に関して契約の趣旨に適合した目的物を引き渡す義務があることとするものです。中間試案第35,3(2)で「種類,品質」としていた部分は,素案(2)では「性状」としております。   なお,いわゆる法律上の瑕疵については,素案(1)の規律によるのか素案(2)の規律によるのかは解釈に委ねることとしております。中間試案第35,8では,民法570条の瑕疵も含めて競売の担保責任が生ずるとされておりましたが,後ほど御説明しますとおり,この点について現行法を維持することとする場合には,法律上の瑕疵を強制競売の担保責任に含めるか否かが問題となります。判例は,法律上の瑕疵について,強制競売の担保責任は認めておりませんが,近年,これを認める下級審の裁判例も出てきており,裁判実務が定まっていないとも言えることから,この点は引き続き解釈に委ねることとしております。   素案(3)は民法560条を実質的に維持するもの,素案(4)は対抗要件を具備させる義務を明文化するものであり,中間試案から実質的な変更はありません。   「3 売主の追完義務」の素案(1)は,引き渡された目的物が契約不適合である場合に,買主に目的物の修補等による履行の追完を請求することができることとするものであり,中間試案から実質的な変更はありません。   素案(2)は,買主が請求した履行の追完の方法と売主が提供する履行の追完の方法が異なる場合に,売主の提供する方法が契約の趣旨に適合し,かつ買主に不相当な負担を課するものでないときであれば,履行の追完は売主の提供する方法によることとするものであり,中間試案から実質的な変更はありません。   「4 買主の代金減額請求権」の素案(1)は,引き渡された目的物が契約不適合である場合に,買主に履行の追完の催告をした上での代金減額請求を認めるもの,素案(2)は無催告での代金減額請求を認めるものであり,中間試案から実質的な変更はありません。   素案(3)は,目的物の不適合につき買主に帰責事由がある場合には,代金減額請求ができないこととするものです。この素案(3)は今回新たに提案する規律ですので,御意見を承りたいと思います。   なお,履行の追完についても,契約不適合が買主の帰責事由によるときは,買主は履行の追完を請求することができないという規律を設けるか否かが問題となり得るように思います。特に,後ほど御説明します素案12(2)の規律,すなわち,一旦目的物の引渡しの提供がされると,それ以後に目的物の滅失又は損傷が生じたとしても,それが売主の帰責事由によらなければ,買主は履行の追完の請求等をすることができないという規律がありますが,これとの均衡上,引渡しの提供より前の段階であったとしても,目的物の滅失又は損傷が買主の帰責事由によるものである場合には,買主に履行の追完を認めるべきではないとも考えられることから,この点につきましても御意見を承りたいと思っております。   「5 損害賠償の請求及び契約の解除」は,売主の義務を契約上の義務と整理し,この義務に違反した場合には債務不履行の一般原則が適用されることを明文化するものであり,中間試案から実質的な変更はありません。   「6 権利移転義務の不履行に関する売主の責任等」は,契約の趣旨に適合した内容の権利を移転する売主の義務を契約上の義務と整理し,この義務に違反した場合には,目的物の契約不適合の場合と同様に,履行の追完,代金減額請求,損害賠償,契約の解除ができることとするものであり,中間試案から実質的な変更はありません。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 1点だけ質問です。7ページの「売主の義務」ですが,この(2)のところを中間試案の「種類,品質」から「性状」に改めたというふうにおっしゃっていたのですが,その趣旨をもうちょっと御説明いただけると有り難いなと思いまして。 ○住友関係官 中身を変えるという趣旨であるわけではなく,「種類,品質」という言葉よりは「性状」という言葉のほうがふさわしいのではないかと考え,「性状」という言葉で提案させていただいております。 ○佐成委員 そのほうが広く,ほかのものを読み込めるという,そういうことですか。どういうことなのか,よく理解できません。「種類,品質」のほうが分かりやすいといえば分かりやすいかなと思っていたものですから,あえて「性状」という言葉にした意味がよく理解できないのです。もうちょっとかみ砕いていただけないかなと思って聞いたのですけれども。 ○住友関係官 「種類,品質」の言葉を見たときに,私が考えたこととしましては,品質を欠くときというのは常に種類も欠いているような気がしまして,そうすると,従来,瑕疵が通常有すべき性状を欠いているという形で表現されることもありましたので,「性状」というほうがふさわしいのではないのかと考え,このような形で提案させてもらいました。 ○中田委員 引用しておられる最高裁判決なのですけれども,ここでは「品質・性能」という言葉を使っていますよね。それも含めて「性状」を選択されたと思うのですけれども,この「性状」という概念は,今回の素案では期間制限とか競売の場合の区別の基準になりますから,非常に重要な概念だと思いますので,はっきりさせたほうがいいと思うのです。   私の質問は,不適合の中で,権利の内容と数量以外のものは「性状」になるのか,それとも,「性状」というのは「種類,品質」あるいは「品質,性能」とイコールなのかということです。つまり,後者の場合ですと,すき間ができる可能性があると思うのですが,前者の場合だと引き算ですからすき間ができないということになるわけなのですけれども,どうお考えでしょうか。 ○住友関係官 目的物の契約不適合につきましては,今回の素案では,性状又は数量に関してというふうにしているわけでございますが,不適合はこの二つのうちのいずれかに分配されるという意図で作成しておりまして,今,中田委員がおっしゃられた最高裁の表現の仕方であれば「品質,性能」に相当するものが,今回の資料でいえば「性状」に当たるというふうに考えておりまして,それ以外のものが「数量」に当たるというふうに考えております。 ○道垣内幹事 「性状」という言葉にするということ自体に別に強く反対をするわけではないのですが,品質を欠くときには,種類が異なることになるのではないかというのは,少なくとも現行の401条の言葉遣いには反していますよね。ですから,それを理由とするというのがよく分からないのですけれども。   それと,佐成委員がおっしゃったことかもしれませんけれども,最近のワープロは漢字の変換機能が上昇しておりますけれども,「性状」というのは,以前なら出なかっただろうという言葉ですよね。そのような言葉を用いることがよいのか,という問題もあると思います。 ○潮見幹事 中身の確認ですけれども,国連物品売買条約では「数量,品質」という言葉は使っていますよね,数量と品質という言葉を。それとは書き分けたというのは,先ほどの中田委員の発言ではありませんけれども,何か特に意図があったわけですか。 ○住友関係官 特に意図はありません。 ○潮見幹事 あとは,性状の解釈というのはこれから先の解釈に,解釈というか,学説あるいは実務に委ねるという御趣旨ですか。 ○住友関係官 繰り返しになるかもしれませんが,品質とか性能を欠いている点につきましては,性状の中に入ってくるという形で資料は作成しているのですけれども。 ○潮見幹事 例えば売買,商品の売買で,据付けが目的とされているような売買,建具みたいなもので,そういう場合に,据付説明書に不首尾があった。ヨーロッパなんかで問題になっているケースですけれども,こういう場合は性状に入るのですか。品質とか数量には当てはまらないようにも見えます。 ○住友関係官 私の理解が間違っているかもしれませんが,別な義務ではないのでしょうか。 ○潮見幹事 先ほどの中田委員の御発言と一部共通しているところがありまして,「数量,品質」と表現をした場合に,場合によると,そこから抜け落ちてしまうような不適合があるので「性状」という新しい言葉をお使いになったのか。もしそうであるならば,ヨーロッパほか諸外国などで言われているような,例えば先ほどの建具の売買などで,据付けの説明書,組み立て方の説明書に瑕疵があった場合も性状に入れるべきであるということまで,場合によれば含まれる可能性が出てくるのではないかという感じが若干したものですから,そういう積極的な意図を持ってこの言葉をお使いになったということであれば,それはそれとして構いませんが。 ○野村委員 「性状」ということばを「種類,品質」を変えたという先ほどの話なのですが,種類というのは性状とは違うのではないかという気がします。例えば,錯誤に関する議論で,昔からある例だと,ある器が花瓶か水がめかというのは,多分種類の問題だと思うのです。しかし,その器が金でできているのか銅でできているのかというのは,性状あるいは品質だと思うのです。そこで,種類ということばを使って,このような条文の表現にした場合に,そもそも売買の目的が物であるときには,そこですでに種類は限定されているというように読むのであれば,性状という表現もありうるかなとは思うのですけれども,種類と品質は同じではないかというのは,説明としてはやや抵抗感があります。 ○山野目幹事 「性状」という言葉を用いて提案した事務当局の意図はそれとして,今,説明を伺っていて,次第に理解してきました。私としては,それと一致するかどうかは分かりませんけれども,自分なりの受け止め方で申し上げますと,中田委員のお言葉でいえば引き算の理解で,(1)及び(2)の数量に当てはまらない契約目的物の不適合を「性状」という言葉で受け止めるものではないかというふうに理解してまいりました。   その上で,「性状」の言葉の意味の理解も,解釈に委ねるというお話ですから,それも事務当局に問いただすことも変ですけれども,今のような理解を前提にすれば,従来,いわゆる心理的瑕疵と言われてきた問題のような事柄について形成されてきた裁判実務上の運用も,今後この概念で受け止めて処理されていくのではないかとも理解いたしました。そして,その当否はなお部会において引き続き検討されるべきではないかと考えます。 ○岡委員 最初に,中田先生がおっしゃった,引き算かという問題でございます。瑕疵担保の期間制限のところを見ると,数量と権利だけは外すけれども,それ以外は期間制限にかけるということのようです。そうだとすれば,「数量不足を除く契約不適合」という言葉にしたほうが正確ではないかと思いました。ただ,それでは余りにも瑕疵担保責任の期間制限のところが広くなり過ぎるのではないかとも思います。   いまだに弁護士会では,瑕疵の言葉を本当に変えるのかという声が根強いです。今回の見直し規定の提案でいけば,「性状に関する契約不適合」という言葉に変わるのだという説明になると思うのですが,では,その性状に係る契約不適合とは何なのだ。これは,先ほど中田先生がおっしゃいましたけれども,期間制限と競売のところでかなり大きな問題になりますので,今の程度の曖昧な定義のまま,「性状に関する契約不適合」というふうなものを要綱案として残すのはとても危険ではないかと思います。 ○潮見幹事 事務当局にお願いがあります。今の岡委員の御発言に絡むことなのですけれども,仮に性状というところを引き算型あるいは広く膨らませて考える場合に,後で議論がされるのかもしれませんが,契約目的を達成するために必要な措置を講ずべき義務,いわゆる付随義務の一種ですけれども,それとの関係というものが一体どうなるのかということが,実際問題としては極めて難しい判断を迫られるのではないかと思うのです。   特に,旧来型の言い方をすれば瑕疵担保責任で,岡委員の御発言にあったような期間制限を別途設けるということであるのならば,契約目的達成のために必要な措置を講ずべきことのようなものを取り込んだ形で契約目的物の「性状」を考えていくということになるならば,そうしたら,この種の事柄も1年間の期間制限にかかります。そうではなくて,これは付随義務の問題であって,そのようなものは「性状」概念には含まれないということであるならば,今回の素案を前提にしたならば,1年の期間制限には引っ掛からない。実際の問題として,どちらからでも捉えられるようなものがこのような形で違った処理になるというのは,解釈の不安定さを招くことにもなりかねないと,若干危惧はします。その意味で,整理をする段階で,少し御留意,御配慮を頂きければと思います。 ○鎌田部会長 内容に関する意見の違いと同時に,「品質,性能」を「性状」と言い換えることがいいのかどうかというような,言葉の点での意見の違いもあろうかと思いますので,その両者を含めて更に検討をさせていただきます。   ほかの点,いかがですか。 ○岡委員 先ほどの話に戻るのですが,このような「性状又は数量に係る不適合」と書いた場合に,先ほど関係官がおっしゃったような引き算と読めるものなのですか。それはやはり読めないのではないかと思うのですが,それはいかがでしょうか。 ○住友関係官 用語等の点については引き続き検討させてください。 ○鎌田部会長 ほかに,この点に関連した御意見はありますか。   ほかの点についての御意見はよろしいですか。 ○潮見幹事 3のところですが,3の追完請求権の基本的な立て付け自体について異論はございませんが,分からないのは(1)のところで,追完請求権の限界に関する規定を設けないという方向で提案をされているというところの意味が,少し理解できません。   というのは,請負の瑕疵を前にここで審議したときには,請負の場合の修補請求権の限界については,規定を設けるという提案がされていたと記憶しています。その際に,そういう限界を書くのに「不能」という言葉でいいのか,あるいは,それではない違った言葉を選ぶべきではないのかという意見が中井委員とか山本敬三幹事から出て,そちらではけんけんがくがくの議論をしました。   今回,売買のところの素案で,3の(1)のところで,ただし書を抜いたというのは,これは,こうすることによって,前回,請負で素案を議論したところの修補請求権についても,そういう追完請求権の限界を扱う規定,つまり,ただし書というものを置かないという方向で事務当局は臨もうとしておられるのか。そこをちょっと確認させていただきたいと思います。   個人的には,追完請求権の限界を扱う規定をどちらにも置いておいたほうがいいという意見です。 ○住友関係官 今回の3の(1)で中間試案のただし書の部分を削ったのは,債務の履行が不能である場合の,部会資料68A,第1,2の規律が,追完の場面においても適用されると考えるのが自然ではないかと思いまして,そうであれば,規律が重複しているように感じたものですから,それで今回削ったという趣旨でございまして,そのルールが妥当しないという趣旨で削ったわけではございません。 ○潮見幹事 1点だけ確認です。請負の修補請求権のところをどうされるのですか。 ○筒井幹事 これまでの審議状況としては,請負には現在も規定があるので,それを直ちに削るのは適当ではないという意見があったことを踏まえて,その規定を維持する方向で検討が進んでいると思います。他方,売買については必ずしも新たに規定を設ける必要がないのではないかという提案を今回したということでありまして,それに対して潮見幹事からは,売買にもあったほうがよいのではないかという御意見を承りましたので,それについて御議論いただければと思います。 ○鎌田部会長 御意見ありますか。 ○山本(敬)幹事 以前,履行請求権の限界事由の一般原則に関して,「不能」に一元化するというような御提案に対して,やはりそれでは問題があるのではないかということをかなり議論しました。私自身も,現在の請負に対応するような,過分の費用を要する場合は少なくとも規定しておかないと,不能概念が非常に柔軟に解釈されていくことになって,いずれにしても好ましくないということを申し上げました。そちらについてどうされるのかということとも関わってくる問題ではないかと思います。仮に一般原則のほうで本当に「不能」に一元化するのであれば,ここで,請負については現行法を維持し,売買については規定を落として「不能」に一元化するというのでは,私は問題が大きいのではないかと考えます。 ○鎌田部会長 内容的に区別しようという意図はなくて,一方は現行法を承継し,他方は一般規定との重複を避けるということで,一見すると条文上の整合性がないように見えるということだろうと思いますが,そこのところをどのような形で処理するのが最も望ましいかについては,事務当局で検討させていただきます。   ほかの点,いかがですか。 ○佐成委員 3の「売主の追完義務」に関してですが,これは別に提案自体に反対とかいうことではないのですけれども,最終的には(2)で「売主が提供する方法による。」と,そういうふうになっているわけですけれども,この辺については,やはり契約の趣旨の解釈というのが従前の実務を踏まえたものになっていかないと,いろいろ不都合が出るのではないかというようなことを内部の議論で御意見として伺っております。   ただ他方,買主側,売主側,両方の利益のバランスが必要なので,そういう意味では,デフォルト自体をどうこうしろということでは全くないのですけれども,いずれにしても,契約の趣旨の解釈というのはこの場合も非常に重要だということが内部で指摘されたということだけ,コメントさせていただきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかの点についても御意見があれば,お出しください。 ○岡委員 4番の代金減額請求について3点申し上げます。   1点目は質問でございますが,従来から代金減額請求というのは,損害賠償請求が帰責事由がないためにできない場合に認められる形成権のようなものであるという説明を受けておりました。しかしこのような規定の仕方にすると,損害賠償請求ができるときでも,できないときでも,この要件を満たせば代金減額請求はできると,こういう整理になったのでしょうかという質問が最初でございます。   二つ目に,代金減額請求のイメージが湧かないという声が実務家のほうから結構来ております。土地の売買で,廃棄物が埋蔵されているのが後から分かったという事案を想定します。損害賠償請求であれば,除去費用であるとか調査費用であるとか,請求できる金額のイメージがある程度湧くのですが,それが責めに帰すべからざる事由であって代金減額請求しかできないと,そういうときには除去費用分につき代金減額請求ができるのか。最終的にはそうなるかもしれないけれども,埋蔵物,廃棄物が埋蔵されている状態で鑑定をとって,その鑑定価額との差額が減額請求できるようになるのか。その辺のイメージを知らせていただきたいというのが二番目でございます。   三番目に,「不適合の割合に応じて」という言葉が今回出てきておりまして,中間試案では「不適合の程度に応じて」となっていたものが,微妙に変わっておるわけでございます。その考え方というか,実務ではどうなるのかという辺りについて説明を頂ければと思うのです。例えば先ほどの埋蔵廃棄物がある場合ですと,不動産で適正な時価は100だったけれども,たまたま需要と供給の関係で150ぐらいで売れてしまったと。そこ自体は合意が成立していて何の問題もないと。その150で売れたときに除去費用が10掛かるという事案を想定します。鑑定とったら多分,適正価格100から10引いた90が適正時価として出てくると思うのですが,それを前提にした代金減額請求は何かおかしいのではないかという声がございます。「不適合の割合に応じて」又は「不適合の程度に応じて」,これをどのように考えたらいいのかという点についての質問です。 ○住友関係官 一番目の代金減額請求権と損害賠償請求権の関係なのですけれども,これは,代金減額請求権については,要件を満たした場合であれば,損害賠償請求ができるときでも,できないときでも行使できるという趣旨でございます。   それから二番目の,土地に廃棄物が埋まっていた場合ですけれども,これはなかなか難しいところと思っておりまして,減額できる額が除去する費用に当たるということもあると思いますし,例えば,除去する費用がそもそもの売買契約の代金をオーバーしてしまうような場合にはどうなるのかという点があるのかなと思いますが,私としては廃棄物が埋まっている土地を鑑定して,それで,どれだけ不足しているのかというところを算定していくイメージでおりました。   それから三番目の,割合と程度の問題なのでございますけれども,こちらは,何か中身を変えるという意図はなく,今の民法563条に,不足する部分の割合に応じ代金の減額を請求することができるという条文がありますので,こちらと表現を合わせて「割合」という言葉を使ったという趣旨でございます。 ○深山幹事 今の「割合に応じて」というところについて,私も,この表現ないし考え方で,うまく機能するのかなという気がいたします。   数量的に,例えば100平米の土地を買ったつもりが95平米しかなかったというのであれば,5%足りませんねということで分かりやすいわけです。先ほどの瑕疵の議論でも,量の問題と質の問題というのが議論されたと思うのですが,質的に何か問題がある,不適合があるという場合に,それを割合で表現できるのだろうかという気がいたします。先ほどの岡先生の質問とも重なるかもしれませんけれども,質的に何か問題があるときに,それを除去するために,あるいは,それを正常化させて本来の姿にするために掛かる費用が,損害賠償の金額としてはイメージしやすいのですけれども,代金減額請求のときにも,そういう考え方で,本来の姿にするために掛かる費用の分だけ減額するということでいいのかどうか。   元々の減額請求の発想というのは,対価性,等価性を維持するということでしょうから,やはりそれとは違ってくるのだろうと思うのです。埋蔵物の除去なんかが典型的にいえることですが,正に関係官がおっしゃるように,元々の物の価値以上に費用が掛かるということだってあり得るわけですね。そうなると,そもそも割合で考えるということ自体はもう機能しないのではないかという気がします。少なくとも「割合」よりはまだ「程度」のほうがいいのかもしれませんが,もう少し,表現あるいはそもそもの考え方,規律を工夫する必要があるのではないかという気がいたします。 ○筒井幹事 深山幹事から御指摘があったことそのものには全く異存はないのですけれども,それを「程度」という言葉で表すのか,「割合」という言葉で表すのかというのは,また次の問題があろうかと思います。代金減額請求では金銭評価という形で結論を出すわけですから,それを「割合」という言葉で表すことも可能だと思いますので,御指摘があったような実質を踏まえた上で,言葉選びをどうするのかを改めて考えたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかの点について,よろしいですか。 ○岡委員 第一東京弁護士会のバックアップ会議で出た話をさせていただきます。   先ほど言ったような,時価が複数ある場合で,本当は100だけれども150で,双方合意の上,売れたと。埋蔵不用物があったので不適合があって,鑑定をとったところ90だったと。そういう場合に,当初の150の合意がひっくり返される理由はあり得ないと思うのですね。でも,対価的均衡を維持するための奥の手だというふうな説明を聞くと,やはり客観的な時価,客観的な対価関係に急に戻されてしまうのではないかと,こういう不安感を述べる者がいるわけです。   ですから,どう説明したらいいのか,私もよく分からないのですけれども,不適合の部分だけ減らすと,当初の合意の対価給付はいじらないのだという趣旨だと思うのですね。その辺が,「割合に応じて」あるいは「程度に応じて」でうまく表現できているのか。余り判例等でも代金減額請求の事例というのはないのだと思うのですね。そこを不安が生じないような,当初の真っ当な合意による対価的均衡を崩すものではないと,それはそれでよろしいのですよね。それでよろしいとしたら,それを是非うまく表現してほしいと思います。 ○鎌田部会長 その点は十分配慮して,素案の中に入るのか,あるいは説明の仕方の工夫になるかは別として,十分な説明ができるようであればするということにさせていただきます。   潮見幹事,何かありますか。 ○潮見幹事 今の問題に関しては,ほかに言うべき方々がいらっしゃると思うのですけれども,ほかの点でもよろしいですか。   補足説明のところで,追完請求のことを書かれていますよね,「売主の追完義務においても,契約不適合が買主の帰責事由によるものである場合に買主が履行の追完を請求することができない旨の規律が必要か否かが問題となり得る。」ということをお書きになっておられるのですが,これは個人的な私の意見ですけれども,このような規定を設けるべきではない。代金減額請求と追完請求は違うのではないでしょうか。追完請求権は,この部会の一連の作業の中では,履行請求権の一種として捉えられています。そして,損害賠償請求は債務者の責めに帰することのできない事由がある場合はできないけれども,履行請求権については,債権者,すなわち買主に,責めに帰すべき事由があった場合でも,なお履行請求はすることができます。そうであるならば,同じように,追完請求権も債権者の帰責事由によっては妨げられないはずです。それによる不都合は,弁済のところに今でも規定がありますけれども,増加費用を債権者が負担するということで十分ではないでしょうか。こんなところであえて均衡の回復などということを考える必要はないし,まして先ほど説明がありましたような危険が移転した後のルールを根拠に危険が移転する前のルールを作ろうというのは,方法としては変ではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○佐成委員 4の代金減額請求権のところに関しては,パブコメでは,我々は反対という意見でした。その主たる理由は,メーカーによる保安上,製品安全上の自主回収の妨げになるのではないかという懸念が表明されておりましたからですが,今回改めて内部で議論しましたら,やはりまだその懸念が残るということを表明されていたということでございます。従いまして,直ちにこれでいいというふうに経済界として言いにくいところがありますということだけ,現段階でも,言っておきたいと思います。 ○中井委員 同じく代金減額請求の(3),買主に責めに帰すべき事由がある場合の規律が新たに提案されているのですけれども,潮見先生にむしろ教えていただくことになるのかもしれませんけれども,追完請求権については本来的な請求権だからこのような規律は要らない,しかし,代金減額請求権は別の規律だから(3)は容認されるという御意見とまず承っていいのか。   結論として,私もどちらでもいいのかなとは思っているのですけれども,仮に代金減額請求権が対価的均衡を図るものだということに徹すれば,先ほど岡委員からあり,確認されましたけれども,代金減額請求であれ,損害賠償請求権であれ,行使しても構わない。逆に,(3)の場合に,買主に帰責事由がある場合も,一旦代金減額請求は対価的均衡を守るという論理を貫徹して認めた上で,買主に帰責事由があるのだから,場合によっては損害賠償等が反対側に起こる。そこでチャラになるという考え方もあり得るのかなと。   結論としては同じになるのかもしれませんし,賃貸借において,賃料が下がる,損害賠償で処理するというのと同じような議論になるのかもしれませんけれども,潮見先生は,(3)の規律は残しておいていいというお考えなのでしょうか。若しくは,代金減額請求は認めた上で,反対に損害賠償請求も認めて処理するという考え方もあり得るのかなとも思って,どちらがいいのかと思いながらここへ臨んだのですが。 ○潮見幹事 中井委員がおっしゃったように,代金減額で対価的なバランスを回復しようということならば,売主と買主の主観的な態様は考慮に入れるべきではないという考え方もあり得ると思いますし,お前はどうだと言われたら,そういう立場です。   それから,追完請求権と代金減額請求との関係についても,お前はどうだと言われたら,私は,追完請求を先行させる必要はなく,いきなり代金減額請求をしてもよいという立場です。   ただ,今回ここでの議論の中では,いろいろな多様な御意見がある中で,当事者間の給付の均衡をどう回復するのか,そのための手段をいつどのような条件の下で認めるのか,その際,やはり当事者の主観的な対応も考慮してバランスをとるべきではないかというような観点からの多様な意見が出ておりまして,それを考慮に入れて,今回こういう案が出来上がってきたものではないか思いますが,これを仮に受け入れるのであれば,単なる均衡の回復だけではない考慮がここに働いているのだという観点から説明をせざるを得ないし,そうすべきでなはないかでしょうか。その上で,これを採るかどうかというのを判断していただければいいのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 一つ戻るのですが,佐成委員の先ほどの御指摘について,少し確認させていただければと思うのですけれども,自主回収の妨げになるというのは,具体的にはどのような懸念と理解すればよろしいのでしょうか。 ○佐成委員 以前にも申し上げたのですけれども,自主回収の妨げになるというのは,市場に保安上問題のある製品が出回っている場合には,買主側が代金減額でいいよと言ったとしても,それを市場に残しておくこと自体がメーカーとしては我慢できないといいますか,容認できない状態なものですから,できるだけ自主回収をお願いしたいということです。今であれば,そういう代金減額請求権というのは明示されておりませんから,当面はそのまま塩漬けになるとしても,注意喚起を継続的に実施するという形で処理されているのでしょうけれども,代金減額請求権を行使されてしまって,そのままその法律関係が終息してしまいますと,保安上,メーカーとしては非常に我慢できない状態が続くのではないかと。そういうことを実際にメーカーの方が懸念されていると,そういうことでございます。   メーカーは多数の商品を日々市場に送っておりますので,自主回収というのは,リコールという形で大々的にニュースになったりとかそういうものだけではなくて,結構頻繁に行われているものでありまして,不具合品については我々としては直ちに回収して新しいものに交換するとか,あるいは直ちに修理をするとか,そういった形で対応しているのです。ところが,代金減額によって,もうそれでいいと,「注意して使うから,これでいいよ」と言われてしまうと非常に困ると,そういうことでございます。ケースによっては,それでも対応できるものもあるかもしれないのですが,非常に危ない場合もあるのではないかと。そういうことで,会員企業のメーカーの方は,結構この辺については懸念をしているということでございます。 ○山本(敬)幹事 御指摘の内容は理解することができましたが,そのような懸念に対しては,代金減額請求権も他の救済方法と並ぶ一つの救済方法という位置付けをして,買主側からの代金減額請求に対しては修補ないしは追完をする,そしてそれが買主側にとって大きな負担にならないときには,それをもって足りるという,追完方法の選択に関する規律と同じ扱いをすることによって対応できるのではないかと思います。   ただ,ここでは解除に準ずるようなルールの立て方をしていますので,簡単ではないのかもしれませんが,御懸念に対しては,そう対処すべきではないかと思います。 ○道垣内幹事 現行法では,なぜ問題がないとお考えなのでしょうか。 ○佐成委員 現行法でも起こり得る問題だということは理解しております。 ○道垣内幹事 別に代金減額請求権が規定されることによって起こる問題ではないというわけですね。 ○佐成委員 ええ。行使されてしまって,法律関係が終了してしまうと…… ○道垣内幹事 それは損害賠償請求権の場合も同じですね。 ○佐成委員 損害賠償請求権は,行使されてもまだ具体的に法律関係が終了するとは言えないのではないかと思うのですが。行使すると言っただけでは,実際に損害賠償はまだ完結していないと思うのですけれども。代金減額請求権は,形成権という理解ですよね。 ○道垣内幹事 代金が未払いの場合ということですか。 ○佐成委員 まあそうですかね。そういうことになりますか,はい。 ○鎌田部会長 現在の提案は,履行の追完の請求を先行させて,追完がないときに初めて代金減額が請求できるという構成になっているので,追完させてくれというのを断って代金減額というふうにはならないような仕組みになっているように思うのですけれども。 ○佐成委員 その辺,そういうことであれば,誤解なのかもしれません。 ○筒井幹事 ただいま部会長から指摘があったとおりですけれども,現在の案では履行の追完の催告を要件としているので,佐成委員から御紹介いただいたような懸念には対応できているのではないかと考えております。必要があれば,御懸念を表明されている方のほうに我々から直接説明に行くこともいたしますので,そのような形で御理解いただければと思います。 ○鎌田部会長 売買の1から6までに関連して,ほかに御意見は。 ○中田委員 2と6と両方に関係するのですけれども,「権利の内容」という言葉と「契約の趣旨」という言葉との関係について,お教えいただきたいと思います。   6のほうで申しますと,19ページから20ページにかけてですが,例えば地役権付きの土地所有権の売買で,地役権が付いていなかったというときには,これは権利の内容が移転されていなかったということになるのではないかと思うのです。それに対して,土地所有権の売買で,第三者の抵当権が付いていたとすると,それは契約の趣旨に適合しない抵当権の負担というようにも書いておられますので,区別しているようにも見えます。しかし,区別できるのだろうかというのがよく分かりませんでした。どちらも権利の内容がまず最初に問題になるのではないかと思ったのですが,そこはいかがでしょうか。 ○住友関係官 今回,素案で若干表現を変えましたのは,繰り返しになって申し訳ないのですけれども,中間試案ですと適合しない,中間試案でいえば35,3(3)になるのですけれども,趣旨に適合しない他人の権利による負担,それから法令の制限がないものでなければならないという形で,マイナスがない状態でなければならないというような記載になっていたものですから,地役権付きのようにプラスがある場合には,プラスがある状態で移転しなければいけないということが分かるようにしたほうがいいのではないかと考えて,素案の2の(1)の表現にしております。 ○鎌田部会長 それで御理解いただけましたか。 ○中田委員 まだちょっと私が整理できてないだけだと思うのですが,6の素案の部分で,「移転した権利の内容が契約の趣旨に適合しない」と書いてありますけれども,移転した権利の内容が,まずは約束された権利の内容に適合しないというのがあるのではないかと思うのですが,それが,いきなり「契約の趣旨」という言葉が出てくるのはどういう意味だろうかということです。   先ほどの御質問をもう一度繰り返しますと,土地所有権の移転の場合に抵当権が付いていたとすると,それは権利の内容の問題ではなくて契約の趣旨の問題だということでしょうか。 ○山野目幹事 私がよく理解していないのかもしれませんが,抵当権の負担があることも,地役権が付いていないことも,権利の内容ではないのですか。2の(1)の案文の括弧書で抵当権の負担があることが明言されていますし,関係官の口頭による説明で,地役権が付いていないことが権利の内容として受け止めるという御話ですから,どちらも権利の内容の問題であると理解していました。 ○中田委員 私もそうだと思うのですが,ただ,例えば20ページの(1)の説明のところで,「契約の趣旨に適合しない抵当権の負担があった場合」というような表現が出てくるものですから。抵当権の負担というのは,そもそも権利の内容の問題であって,契約の趣旨以前の問題ではないかなと思ったのですけれども,それはどうしてこういう表現なのかということなのです。 ○住友関係官 部会資料の20ページの1(1)の話だと思うのですけれども,その点につきましては,抵当権付きであることを前提とした契約であれば,抵当権が付いていたとしても契約の趣旨には適合した状態であると。抵当権がないことが前提の契約であれば,それは契約の趣旨に適合しない抵当権が付いているという形になると思います。そのことを表現したつもりではあるのですが。 ○中田委員 ごめんなさい,その点なのですが,地役権が付いているかどうかというのは権利の内容の問題だと言っていて,抵当権が付いているかいないかというのは,今,契約の趣旨の問題だとおっしゃっているように聞こえるものですから。そうではないのですか。 ○笹井関係官 抵当権の有無も地役権の存否も,どちらも権利の内容の話ではあるのですけれども,ただ,どういう内容の権利を移転しないといけないのかということが契約の趣旨によって変わってくるので,抵当権が付いている場合でも,抵当権付きのものとして買い受けたのであれば抵当権の負担の存在は契約の趣旨に反しないということになりますし,そうではなく,抵当権の負担のないものとして移転するという契約であったのであれば,抵当権の負担が契約の趣旨に反するということになる。地役権のほうも同じで,その存否が契約に趣旨に反するものであるかどうかは,どういう内容の権利を移転することが契約の趣旨になっていたのかによって判断されることを表現しようということだと思います。趣旨に反した抵当権というような表現が説明の中では出てきていますけれども,そこはちょっと表現として省略しただけで,考え方としては,今申し上げましたように,どちらも権利の内容が契約の趣旨に適合しているかどうかによって判断されるということだと思います。 ○中田委員 分かりました。債務の内容というのと権利の内容というのが少し分かりにくかったのですけれども,今の御説明で大体整理できました。 ○松本委員 恐らく7ページの2で言っているところの「移転すべき権利の内容」というのは,主として所有権を念頭に置いているのではないかなと思うのです。土地なら土地の所有権を移転するに当たって,それに別の土地に対する地役権が付いているとか,あるいは地上権の負担があるとか,あるいは抵当権の負担があるとか,そういうことが権利の内容の一部になってくるのだろうと。というふうに考えれば,それほど難しい議論にはならなくて,抵当権を移転するとかいうことであれば,抵当権そのものの内容になるのでしょうけれども,ここは権利によって制約されている,あるいは他人の権利に対して一定の権利を拡張しているという,その本来の主たる権利が制約されたり拡張しているというイメージだろうと思いますが。 ○潮見幹事 ちょっとだけ確認したいことが2点あります。   一つは,先ほどの売主の追完義務の(2)です。(2)に対応するものが,先ほどもちょっと別の文脈で申し上げましたけれども,請負のところにはないのですよね,請負の修補請求についてもいろいろ,誰が修補の内容を決めることができるのか,一方が決めた修補の内容について他方が変えることができるのかという議論があるというのは,この部会の中でもいろいろ複数の委員の,あるいは幹事の方から御意見が出たと思うのですけれども,売買では規定を設け,請負のところでは規定を設けないというのは,やはり,請負のところでは請負自体の内容の多様性を考慮に入れて,こういう形での明確なルール作りというのができないという御趣旨に出たのでしょうか。裏返せば,売買の場面ではそのような多様性というものは考慮しなくてもよいから,こういう典型的なルールというものを設ければ十分であるとお考えになったのか。これが確認の第1点です。   それからもう一つは,19ページの「6 権利移転義務の不履行に関する売主の責任等」のところで,567条の1項と3項を削除するのですよね。そして,2項を残すのですよね。この間の議論で,2項についても,これは権利供与義務違反の債務不履行を理由とする損害賠償,あるいは第三者弁済による求償という問題として処理することができ得る問題であるから,わざわざこのような規定を設けておく必要はないという観点から,中間試案に至るまでのプロセスの中で,1項,3項のみならず2項も削除しようという方向が示されていたように私は理解しているのです。今回,このような素案を見たときに,1項と3項は重複するから削るということであれば,2項は重複しないのか。2項をどのようにお考えになってこれを残したのかというところを,ちょっと御教示いただけませんでしょうか。 ○住友関係官 先に2点目のほうからお話しさせていただきたいのですけれども,確かに中間試案では2項についても削除するという方針が示されていたのですけれども,求償権の根拠規定として567条2項が出てくる場面が多いように思いました。もちろんほかの条文でも間に合うのではないかというところではあるのですけれども,根拠規定として用いられていることが多いので,残しておいたほうがよいのではないかというふうに考えて,素案では,その部分については,中間試案とは方針を変えた提案をさせていただいております。 ○筒井幹事 潮見幹事からのお尋ねの1点目ですが,元々,追完義務についての規定の検討過程で,当初は一般ルールとして設けることが検討されていたと思いますが,様々な契約類型があること考慮するとそれは非常に難しくて,懸念を表明する多くの声が寄せられていたと思います。そういう状況の下で,売買に対象を絞り込めば,ある程度イメージを共有しながら規定を作ることができるのではないか。また,実際上も最も問題が生じているのは売買の場面ではないか。そういった経緯を経て,売買を対象とする規定を設けるという方向で議論が進んできたのではないかと思います。   そのこと自体は潮見幹事も御理解いただいていて,そのことを前提として,請負との関係がどうなるのかというところに懸念を向けられているのだと思いますが,請負に関しては,先ほど申しました履行請求権の限界という点では,現在もある規定を残す方向で議論が進んでいます。それ以外に,追完に関わる請負のルールについては,その規定を設けるという議論はないですけれども,それについてアンバランスだという指摘に対してどう答えるのかという,その説明ぶりは考えなければならないとは思うのですが,しかし,そちらについても更に規定を設けるという方向では議論されていないのが現状だと認識しています。 ○潮見幹事 規定を設けるべきであるというところまでは,申し上げておりません。むしろ,筒井幹事が直前におっしゃられた形で,説明のところで工夫するなり,誤解のないようにしていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○道垣内幹事 私が分かっていないだけかもしれませんが,567条の2項は残すというのは,21ページのところに理由と書いてあるのがありますので分かるのですけれども,19ページのゴチックのところからは,どういうふうに読めばそうなるのかがよくわかりません。結局,資料の作りの問題ですので,それは教えていただければ結構です。そして,567条2項を残すなら残すでいいのですけれども,求償の根拠になるからという説明はどうかなと思います。同項のポイントとしては,担保不動産が物上保証人所有の場合にも,被担保債権の債務者に対してだけではなく,売主たる物上保証人に請求できるというところもあるわけでして,このとき,債務者にも求償できるはずですね。債務者は売主ではありませんから,このときの求償は民法567条2項によるわけではありません。そうすると,求償のときに用いられているからという説明ではちょっと不十分だと思います。 ○岡委員 代金減額請求権に戻って,2点申し上げたいと思います。   1点目は,先ほどの佐成さんの話にも絡まっていくのですが,非常に誤解を招きやすい表現だと思います。代金減額でいいよと言ったら,もうこの形成権を行使したことになるという誤解がどうしても出てきますので,何かいい言葉がないのかということでございます。気の早い人たちは,民法改正になったら,この契約書のひな形をどう直すのだろうなということをもう検討し始めているようでございまして,代金減額請求のところは非常に書きにくいという声も聞こえております。見直しがなったらなったで,民法何条に基づく代金減額請求権と書けば通用はするのかなとは思いますが,諸外国の,このピンクの本を見ても,代金減額請求という言葉しかないようですが,実務に混乱を与えやすい言葉ですので,いい言葉があれば,是非考えていただきたいというのが一つでございます。   もう一つは確認ですが,これは任意規定であって,契約書の中に,民法何条に基づく代金減額請求権は行使しないというふうに書けば,特段の事情がない限りは排除されると,こう理解してよろしいのでしょうか。 ○住友関係官 まず1点目なのですけれども,正にそのような問題点があるので,中間試案の35,5(3)では,それに対応する規律が置かれていたのですが,パブリックコメントなどでは,この規律があることによって更に使い勝手が悪くなるというような批判があって,今回,中間試案35,5(3)の規律については設けないという形で提案させてもらっております。しかし,正に岡委員がおっしゃったように,何も規律を置かなければ明示的なルールがないというような状態ではあるのですが,中間試案のような規律を設けることが現状では難しいのかなと思って,今回提案しない形をとっております。   それから,2点目なのですけれども,この規律については任意規定という趣旨でございますので,それはそのとおりでございます。 ○佐成委員 今のご説明の,最後のところ,任意規定であるというところですが,この規定に反対していたメーカーの方は,正に任意規定であるということが明確になれば懸念はかなり払拭できるというふうに言っていましたので,そこが確認できればほぼ問題ないかなというふうに感じております。 ○山本(敬)幹事 代金減額請求権についてなのですが,このような問題があるのではないかということの確認と,さらに問題提起をさせていただければと思います。  これによりますと,先ほども少し議論になりましたけれども,(1)で代金減額請求をするためには,まず履行の追完の催告をしなければならない。もちろん(2)で例外が定められているわけですけれども,原則としては追完の催告は必要である。ただ,売買契約によっては,特に買主側にとっては,追完をしてもらうと更に時間が掛かってしまって,損失が拡大する可能性がある。なので,可能な限り早く問題を処理して次の対応をしたいと考える場合は,少なからずあるのではないかと思います。そのような場合は,しかし,(2)を見ますと,どれにも当たらない。ウは,従来でいう定期売買を想定した規定ですので,今のようなケースとは限らない。としますと,このような買主は,困ってしまうのではないかと思います。もちろん,損害賠償請求ができる場合であれば,それでカバーできるのかもしれませんけれども,必ずしも損害賠償請求ができるとは限らない,しかし代金減額で早く済ましてしまいたいというときに,うまくいかない。このような問題があるように思うのですが,それが解除に引き付けたルールで本当によいのかという問題にもつながるところがあるのですけれども,やはり考えないといけない問題ではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 事務当局から,何かありますか。あるいは,少し考えさえてもらうという…… ○住友関係官 考えさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 1から6までについて,ほかに御意見はありませんか。 ○佐成委員 部会資料の18ページのところに「「隠れた」という要件を設けない」ということが書いてありますが,このことはもちろんこれで了解いたしました。元々,この要件は契約締結後に交渉の蒸し返しを正当化するという趣旨であると,私なんかはこの「隠れた」というのは理解していたのですけれども,改めてこの部会資料を読みますと,契約の趣旨の中でこういったものは理解すべきだと書かれている。正におっしゃるとおりだなと思いましたので,これはこれでよろしいというふうに感じました。 ○鎌田部会長 ほかの御意見は。 ○中井委員 6の(2)の20ページのところ,「代金減額請求権について」,抵当権がある場合のことについて,なお書きで4行書かれているのですが,これは一つの考え方としてはそうなのでしょうが,帰結としてどうなるのかがやはりよく見えない。   つまり,抵当権の負担なくして所有権移転をすると約束しながら,抵当権の負担は付いたまま買主に所有権は移った。抵当権の負担をなくせと言ったけれどもなくさない。そこで代金減額請求をした。まず,幾ら代金減額されるのだろうか。恐らく抵当権の被担保債務の額。その時点は移転時なのか,催告時なのか,どこかで決まるとしても,そこで一旦代金減額請求権は形成権として確定した。しかし,それで買主が現実に払って抵当権を消してしまえば,それで終局的解決と,ここに書かれているように終わるのでしょうが,にもかかわらず買主は代金減額請求権を行使し,確定しながらも弁済しなかったら,債権者は元の売主に対して,債務者である売主に対しても請求できる。そういう事態が起こり得るということで,かつて,果たして抵当権付着の場面で減額請求権行使できるのだろうかということが議論されたように思うのです。その問題は,やはりなお残っているのではないか。   だからこの規定をなくせというわけではありませんが,この注釈,今後補足説明の作り方において,この帰結も一つの帰結ですけれども,そうでない帰結もあり得るだけに,なお検討すべき課題として認識しておくべきことではないか。これで確定的に解決できるのならそれに越したことはないのですが,必ずしもそうではないのではないかという危惧があるということを申し上げておきたいと思います。   これについて,いや,こう考えられるのですよということであれば,お教えいただけたらとも思います。 ○住友関係官 必ずしもこうというわけではないのですけれども,そういう形で代金減額請求がされた場合には,売主としては抵当権実行してくださいという話にならざるを得ないのかなというふうに考えております。 ○鎌田部会長 これは,576条などとも関連してくるので,少し整理をさせてもらいたい。 ○中井委員 併せて言うなら,先ほどの567条,そして577条もあるだけに,この三つの関係をもう少し整理しなければいけないような気がしております。 ○岡委員 2から6までで,目的物の性状又は数量に関する契約不適合,権利の内容に関する契約不適合,これについては追完だとか損害賠償だとか解除が全部できると。これは非常によく分かるのですが,これは,売買に係る債務不履行の一部分,大部分だけど一部分を除く部分の規定なのでしょうか。売買における債務不履行で,今の三つの要件,目的物の性状又は数量不足,権利の内容の趣旨不適合,それ以外に何か債務不履行になるものがあるのか,ないのか。   先ほど潮見先生がおっしゃった説明義務違反のようなもの,マンションを渡して防火扉の説明義務違反があったときに損害賠償を認められた判決がありますが,あのような説明義務違反というのは,目的物の性状又は数量契約不適合でもなく,権利の内容の不適合でもなく,ここの規定ではなく,債務不履行の一般のところで債務不履行損害賠償責任が認められるのでしょうか。それとも,この物,マンション,建物を引き渡していますから,物のことで,性状というのをそこまで広げるようになるのか。ちょっとそこの整理が分からないもので,教えていただければと思います。 ○住友関係官 先ほどの中田委員からの引き算のお話に通ずるところがあるのかなと思いますが,先ほど問題提起いただいて,検討しなければいけないかなと思ったのですが,売買の場合の不適合とか適合とかという話になる局面は,この2の(1)の権利の内容,目的物であれば性状・数量で書き尽くしたつもりではいたのですけれども,更に検討したいと考えております。 ○松本委員 今の点,大分前に説明義務のところで同じような議論をした記憶がございまして,私は,例えばその製品の使い方についてということであれば,納品後に一種の追完請求のような形できちんと説明してくれということは,契約の趣旨がそうであれば,言えると思います。   ただ,その説明がなかったことによって,もうすでにけがをしてしまったというような場合は別の問題であって,損害賠償の問題に還元される。一種の安全配慮義務だとか,保護義務違反の問題になるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 これは実際には境界線が…… ○中井委員 その議論を聞いていると,本当に先ほどの引き算論というのは,皆さん一致できるのでしょうか。その引き算の基となるものが何なのかというところが一致しているのかという問題なのかと思いますが,「契約の趣旨に適合する」という言葉のみで全てが包含されて,引くものは,先ほど言うなら数量だけ引いて残りが全部だとなったら,正に今のような付随義務違反などの契約の趣旨に基づいて行われるべき,仮に信義則上の義務も,引いた中に残っているという理屈もあり得ることになる。それは私も,松本委員がおっしゃるように,いかにもおかしいように思うのですね。そうだとすると,やはり品質,性能,その他性状に類するものに対する,瑕疵担保責任というものであって,それをここでは契約の趣旨に適合するかどうかという言葉で形容されているにすぎないのではないか。元に戻りますけれども,本当に引き算論でいいのかというのと,そのときの基となるものについての共通の理解があるのですかということを,念のために確認をしておきたいと思います。 ○鎌田部会長 これは多分,基になるのは物の瑕疵なのだと思うのです。それで,そもそも先ほどの取扱説明書の瑕疵というのは,物の瑕疵に入れるのか入れないのかという,それ自体にも多分争いがあるのだと思うのですが,そこのところを今回の「性状」という言葉を使うことによって変えてしまおうという意図はないのですよね。伝統的に物の瑕疵と言われていたものをどう表現するかというところで考えていたのだと思うので,文言を変えたことによって新たな問題が出てきたのではなくて,元々ある問題ではないかという気がします。 ○潮見幹事 引き算という言葉がマジックワードになっているのではないですか。ですから,恐らくそれぞれの委員・幹事の方々がそれぞれの意味で受け取っておられるのかなという印象は受けます。特にこれは,弁護士会の先生方の御意見というものらしきものを伺っておりますと,どうも不完全履行一般みたいなものを「契約不適合」と捉えて,それを引き算で結び付けて考えるという方向にも一歩進みそうな感じがします。   ただ,ここでの引き算というのも,部会長がおっしゃったように,物に関連したそういう不適合としてここでは引き算の論議というものを理解するべきではないかと思います。その場合に,これは考え方次第だと思いますけれども,先ほど申し上げたところにも関わりますが,数量とか品質と従来言われてきたカテゴリーでは若干包摂することができないようなもの,先ほど山野目幹事からお話があった環境瑕疵などといったものが「性状」という言葉を使うことによって,この中に取り込むことができるようになるというだけのことではないでしょうか。そのうえで,「性状」という言葉は機能的に使い勝手がいいと考えていくのか,それはやめておいて,「数量」,「品質」,「種類」という表現にとどめておいたほうが妥当かという辺りに結局は収斂するのではないのでしょうか。   要するに,引き算と言った場合に,契約不適合に履行不完全の全部が含まれるということではないということでは一致しているのではないのでしょうか。 ○中井委員 今の潮見幹事の説明に全く違和感はございません。それなら,やはり「性状」という言葉についてですけれども,先ほどから幾つか最高裁判決の引用があったかと思いますけれども,少なくとも最近の平成22年6月1日の判決とか,平成25年3月22日の判決とかは,いずれも物についての品質,性能を欠いているという表現を使っているのですね。これをあえて「性状」と変えたことが一つの問題を生んでいるのではないか。   ただ,昨日も弁護士会の議論の中で,やはり品質,性能に含まれないものがあると。例えば四角い窓を作るというのを三角の窓を作った。品質,性能は全く問題ないけれども形状が違うと。これなどはひょっとしたらこれに当たるのかもしれないから,品質,性能よりは少し広い概念として性状はあり得るのだなという意見が出てきて,それほど性状にこだわらなかった。   ただ,今の御議論を聞いていると,やはり従来使われている「品質,性能」というのがありますから,今のことも斟酌すれば,これは例えばですけれども,「品質,性能その他性状」とか,何かもう少しお考えいただいたほうがいいような気がいたしました。 ○岡委員 防火扉の説明をしなかった義務違反,あるいは自殺したということを知らせなかった心理的瑕疵,これは,ここにいう「性状及び数量」に関する契約不適合ではないという理解でいいのですか。こういう整理でいいのであれば,かなりすっきりしてきまして,そうだとすると,知ってから1年以内の通知で権利がなくなるというのがなくなって,一般の消滅時効に飛びますので,それは理解可能というか,喜ばしいことかなと思うのですが,ここの理解はそういうことでよろしいのでしょうか。   先ほど鎌田先生が,物に絡むものだけが2から5までだとおっしゃいました。でも,防火扉の説明義務違反も,自殺したことの説明をしなかったことも,物に関連するといえば関連するわけですよね。それが契約趣旨不適合で,そこまで入ってしまうように読めることが不安なところでございますので,まず,心理的瑕疵あるいは防火扉の説明義務違反は,ここの物の性状又は数量不足に係る契約の趣旨不適合に入らないと,この理解でよろしいでしょうか。 ○道垣内幹事 今の岡委員のお話少し乱暴でして,説明義務の問題と心理的瑕疵の問題をどうして一直線に結んで話ができるのかが分かりません。というのは,説明義務の話は,現行法上これまでは570条では扱ってこなかったわけですよね。他方で,心理的瑕疵の話は570条でも扱ってきたわけですね。それがなぜ「性状」という言葉になれば,双方が当然に排除されることになるのかが全然分かりません。   この会議でだいたいコンセンサスが取れているのは,説明義務の話は原則的には違うよね,でも,ある物の利用に関して必須となるような,例えば使用説明とかそういうふうなものに関しては,その物と使用説明が一体をなして性状を形成しているというときには,場合によっては,性状が契約に不適合であるということになることもあり得るよね,しかし,それは解釈問題で,どこからどこまでが物の不適合で,どこからは説明義務だというふうに,そうクリアには切られない,ただ,完全ないわゆる説明義務というふうに言われてきたようなものはここに入らないね,ということではないかと思うのですが。 ○鎌田部会長 私も,先ほど申し上げたのは,基本的に,物の瑕疵と言っているときでも,そこに入るか入らないかの議論がある。それが,契約不適合と言い換えたから,当然に入るようになったり入らなくなったりするのではなくて,同じ議論は同じ議論として解釈論上の問題が残る。そこを,この言葉を変えることで,それを入れたり出したりしようという意図はないのではないかというのが私の理解です。 ○岡委員 では,微妙な解釈問題は今と同じで残るという,そういう整理ですか。 ○鎌田部会長 ということでよろしいですか。 ○中井委員 1点,全く違う問題ですけれども,これも内容に関わるのではなくて,18ページの「(3)契約の解除について」の説明文があるわけですけれども,従来は契約をした目的を達成することができないときに解除できる。今回の提案は,変わるものではないという帰結になっているわけですけれども,修補請求等の何らかの追完請求をしたけれども,その催告に応じず追完しなかった。そうしたら解除できるという。催告解除構成をとったときに,全く同じ帰結になるのかということには,なお留保が私は必要だと思っているのです。したがって,ここに書いているのは一つの考え方としてもちろんあると思いますけれども,常にそうなのかという点については,そう言えない場面があるのではないかと思うだけに,書き方についてはなお考慮していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。よろしければ7以降に進ませていただきたいと思います。   「7 買主の権利の期間制限」から「13 買戻し」までについて御審議を頂きます。事務当局から説明をしてもらいます。 ○住友関係官 御説明します。部会資料75A,21ページの「7 買主の権利の期間制限」について御説明します。   中間試案第35,6では,現行法の期間制限を廃止して,買主の権利は消滅時効の一般原則に委ねるとする甲案と,目的物に契約不適合がある場合には買主の権利に期間制限を設けるとする乙案が提示されておりました。パブリックコメントの手続において,甲案には賛成意見がある一方,売主の保護に欠けることなどを理由とした反対意見も複数寄せられました。他方,乙案には相当数の賛成意見が寄せられております。乙案に対しては,買主が契約不適合を知ってから1年以内に権利保存のための行為をしなければ失権してしまうというのでは,買主に酷であると批判する意見も寄せられましたが,この批判は主に現行制度に向けられた批判であると考えられます。乙案は,権利保存のためには契約不適合の通知をすれば足りることとするとともに,売主が悪意・重過失のときには期間制限が適用されないこととして,現行法よりも買主の保護を図った規律になっており,現行制度への批判に応えられる内容になっているように思われます。   さらに,素案(1)では,中間試案の乙案を一部変更し,数量の不適合について期間制限の対象から外しております。このような変更をしたのは,買主の保護に欠けるという乙案への批判を踏まえて再検討したところ,数量の不適合については,性状の不適合と異なり,外形上不適合が明白であることが多いと考えられ,買主の権利行使を制限してまで売主の保護を図る必要性が乏しいと考えられたからです。   なお,移転した権利に不適合があった場合には,中間試案と同様に,期間制限は設けないこととしております。   「8 競売における買受人の権利の特則」は,実質的に現行法を維持することとするものです。中間試案第35,9では,民法570条ただし書を改め,強制競売においても物の瑕疵について担保責任の規律を及ぼすことが提案されていました。これに対しては,競売手続の結果が覆される機会が増大するので,配当受領者の地位が不安定になる等の批判がありました。中間試案では,これらの点に配慮し,買受けの目的不達成を要件とするなどしておりましたが,パブリックコメントの手続において,なお改正に反対する意見が多く寄せられたことなどを踏まえ,この論点については取り上げないことといたしました。もっとも,民法561条から567条までを改めることから,これに応じて民法568条1項も改めることとしております。   「9 代金の支払場所」は,代金の支払い前に目的物の引渡しがあったときは民法574条が適用されないこととするものであり,中間試案からの変更点はありません。   「10 権利を失うおそれがある場合の買主の代金の支払拒絶」は,民法576条の解釈により代金支払拒絶権が認められている場面を明文化するものであり,中間試案から変更はありません。   「11 抵当権等の登記がある場合の買主による代金支払の拒絶」は,抵当権等の負担を考慮して代金額が定められたときには抵当権消滅請求ができないという民法577条の解釈を明文化するものであり,中間試案から変更はありません。   「12 目的物の滅失又は損傷に関する危険」のうち素案(1)は,目的物の滅失等の危険が移転する基準時が引渡しであるとするもの,素案(2)は,受領遅滞後における目的物の滅失等の危険は買主に移転することとするものであり,中間試案から実質的な変更はありません。   「13 買戻し」のうち素案(1)は,民法579条の規律に付け加えて,売主が返還すべき金額について当事者に別案の合意があるときはそれに従うとするもの,素案(2)は,売買契約に基づく所有権移転登記手続の後であっても,買戻特約の登記を可能とするものであり,中間試案から変更はありません。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○岡委員 三つ申し上げます。   一つ目は,この素案が現行法の実務と余り変わらないということが本当なのかという質問でございます。下級審の判例ではいろいろ工夫されておるところでございますが,特に年配の弁護士を中心に,不特定物については瑕疵担保責任の規定は適用はないという理解がありまして,不特定物については知ってから1年の期間制限はないという理解をしております。実際に判例を見ると,履行としては認容して受領したら別だとか,種々議論があるのは承知しておりますけれども,少なくとも不特定物については,それなりの場合に1年の期間制限はなかったところ,今回の規定になると,そのような場合も含めて1年の期間制限がかなりかぶってくると。これは大きな変更ではないかという質問でございます。だから反対ということにつながるわけではないですが,補足説明を読むときに,少なくとも従来の一つの基本的な考え方は大きく変えるものだと,伝統的な考え方については変えるものだと,そういう説明でもしてもらわないと納得できないと,こういう意見がございました。まず,従来の伝統的な考え方からいくと,理論的には大きな転換になるということだとすれば,そのようなことは説明に書いていただきたいというのが1点目でございます。   2点目は,知ってから1年の期間制限を,知ってから1年の通知に弱めるけれども,期間制限をする根拠というのは,やはり目的物の引渡しを受けたから普通の時効よりは短くしていいのだと,多分そういうことだろうと思います。そのときに,先ほどの履行として認容して引渡しを受けたという概念のところに絡まってくるのですが,何か現在の素案ですと,契約の趣旨に適合しないぼろぼろのものでも,目的物は一旦引渡しを受けたら,もうこの1年の期間制限が掛かってしまうのだと,そういうふうに読めてしまう危険があると思います。今の表現だと,1年の期間制限がかなり広がるのではないかという心配でございます。その観点から,契約の趣旨に適合しない目的物の引渡しを受けたという,その解釈の問題で,似ても似つかないものの引渡しを受けた場合には当てはまらないと思うのですが,この「契約の趣旨に適合しない」という言葉で,そこが大きく広がってしまうのではないかと心配しています。そういう意味で,この1年の期間制限をすべき根拠たる,ある程度の物の引渡しがあったというのをもう少しうまく表現できないのだろうかと,こういう問題意識からの発言でございます。   それから三番目は,現行法が知ってから1年ではあるのですが,やはり1年では短いのではないかと。知ってから1年内の通知に弱まっていますけれども,やはりここは1年,2年,3年の短期消滅時効が全部知ってから5年に延びる,権利の期間をそれなりに長くするという方向があるとすれば,2年という意見も十分尊重されるべきではないかと思います,最後は意見でございます。 ○住友関係官 今の1点目なのですけれども,現在の瑕疵担保責任がどのように解釈されているのかというところは,いろいろと学説があるところでございますが,今,岡委員がおっしゃられた不特定物売買については,570条は適用されないというような考え方を仮に採ったとしたら,その点については,素案の提案は規律が変わるということにはなります。   それから,次に2点目なのですけれども,正に非常にぼろぼろで,およそ引き渡したという評価すらできないようなものについては,それは当たらないというふうに考えるのだろうと思っているところでございます。ただ,そこまでには至っておらず,先ほどから「性状」の言葉の話がありましたが,ここでは仮に「性状」という言葉を使わせてもらいますけれども,性状の不適合に分類されるものにつきましては,それは不特定物売買だとしても,ここでの規律に係ってくるというふうに考えております。 ○山野目幹事 ただいま話題になった7番についてですけれども,中間試案で甲案,乙案と二つ提示していたことを踏まえて行われたパブリックコメントの手続に寄せられた意見のすう勢を十分に咀嚼しなければならないということで,事務当局において御苦労があったということを推察いたします。   そのことは理解した上で申し上げますが,中間試案の甲案,乙案のうち甲案を斥けて,今回,7の素案のような形でお出しいただいているものについて,率直なところ,にわかに賛成することができないという感触を私個人は抱きます。岡委員がおっしゃったことの大部分に共感を抱く部分もあるものですから,7の素案の方向で今後の取りまとめを進めることについて疑問を感じている者が複数いるということは念頭に置いて,引き続き準備をしていただければ有り難いと感じます。   いささか理由を添えますけれども,パブリックコメントで,売主の地位を長期間不安定にするものであるから困るという甲案に対する批判があるそうですけれども,今回提示されている素案は,買主が不適合の事実を知った時から起算して1年ですから,この案を採るとなぜ売主が長期間不安定になることが避けられるのか,私には理解することができません。パブリックコメントの手続の意見というものは尊重しなければなりませんけれども,きちっとロジックで対話をすることが必要であって,今のこの整理では対話になっていないのではないかと感じます。   これが一番大きな点ですが,あと幾つか細かな点を付け加えますと,岡委員と関係官のやり取りで明らかになったように,引渡しがあったとされるかどうかについて,かなり評価的な解釈操作が行われることになりそうなことは心配ですし,それから,この案を採ったときに一般の消滅時効のルールは並行して働くのかどうかということもよく分かりませんし,それから,この案を採ると性状の概念に架かる負荷が,先ほど,前の議論のときにもあったように,重くなるようにも感じますし,それやこれや,非常に疑問を感ずる部分が多くて,にわかに飲み込むことができないということは申し上げておいたほうがよろしいと感じます。 ○鎌田部会長 ほかに,いかがですか。 ○岡委員 よろしいですか。違う点で,7番の点ですが,二つ申し上げます。   一つは,24ページの下のほうですが,商法526条の,商人間の売買の特則は残すという前提なのでしょうか。この質問が一つでございます。   それとの関係で,商法526条3項は,売主が悪意の場合にはこの期間制限が効かないとなっております。今回の部会資料の22ページの上のほうを見ますと,悪意又は重過失のときには適用しないとなっています。ここを書き分けているようですが,この書き分け方についての考え方の御説明を頂ければと思います。   ついでに申しますと,それを聞いてから言えばいいのかもしれませんが,この1年の期間制限に警戒感を持っている立場からすると,重大な過失ではなく軽過失の場合も適用除外にすればまだのみやすいと,そういう意見もございました。   取りあえず最初の二つの質問にお願いを致します。 ○住友関係官 まず,1点目なのですけれども,商法526条については残す前提で考えております。   それから,2点目なのですけれども,中間試案の段階から悪意・重過失という書き方ではあるのですけれども,商法の場合には取引の安全が優先されるところ,民法の場合は一般私人間の取引なので,その要請は比較的に下がっていくこともあろうかと思いますので,買主保護の見地から重過失ということも付け加えたものというふうには理解しております。 ○潮見幹事 私も,山野目幹事と同様に,この案には反対です。甲案で考えていただければと思います。   その上で,理由をもう一つ言いますと,細かいことかもしれませんが,数量不足の場面を1年の期間制限から外すという理由がよく分かりません。数量不足は外形上明白であるという説明がありますが,過去の裁判例を見ても,外形上明白な数量不足が争いになったケースではなくて,むしろその後に数量が足りないということが問題になって,それでいろいろ議論が戦わされたというケースが多々あります。そういう意味で,この前提自体が果たしてこれでいいのかということについて,大きな疑問を感じます。   それから,理論的に言っても,履行が終了したとの期待が売主に生ずるとは通常考え難いという形で説明されております。こういう説明の仕方で1年の期間制限を考える立場はあっていいと思いますし,それ自体は否定しませんが,今回出されている素案というのは,先ほどの岡委員,あるいは山野目幹事のお話にもございましたが,買主の主観的な要件を入れて起算点というものを立てています。そういう意味では,単にこれは履行が完了したという売主の期待を保護するためにのみ1年にしたというよりは,むしろ,受領した買主,引渡しを受けた買主も相応のリスクを負担しろという観点から1年というものを見ているという面もあるのではないでしょうか。そこまで考えた場合には,単に外形上明白であって,履行が終了したという期待が売主に生ずることがないという一存で説明をし切ることができるのかについて,私は疑問を感じますし,もしこの案でいくのであれば,今の部分についてはきちんと納得のできる理論的な説明をしていただきたいというところです。   さらには,先ほど法令上の制限というものについては,どっちにするかは解釈に任せるというように言われましたけれども,法令上の制限までを物の瑕疵の中に入れた場合,当該瑕疵が数量の面での瑕疵なのか,性状の面での瑕疵なのかの区別は意外に難しいし,区別が困難となる事態が出てくるのではないかと思います。実際の裁判例などでは,ほんの一例ですけれども,例えば,病院を開設するときに駐車場が必要であって,しかも,法律上要求されている面積のものが必要であるというときは,駐車場用地として買ったところが,その土地の面積が足りないということで問題になったケースがあります。こういう場合に,これは数量不足と見るのか,それとも,性状の瑕疵と評価するのかによって,1年の期間制限が妥当する,しないが変わってくるというのが,よくわかりません。具体的なケースをどっちに振り分けるのかということが難しいケースも出てきて,それで説得力があるのかというところに疑義を感じるからです。   総じて今回,1年の消滅時効についての現代化に向けた改正を図っております。そうした中で,10年の時効というものについて,いろいろな要素,現代的な要素を考慮に入れて,短くしようといういろいろな努力をされてきておられて,それはそれでいいと思うのですけれども,そうした中で,それに加えて,ここだけ特別にこのような処理をするということについては,なお説明が必要ではなでしょうか。取引の迅速な処理だとか,紛争の迅速な解決という言葉だけでは片付けられないのではないでしょうか。こう考えるところもありまして,結局,賛成できません。 ○山本(敬)幹事 たたみかけることになってまた恐縮なのですが,やはりどうしても一言申し上げておきたいと思います。   売買における担保責任について,賛否はともかく,伝統的には,いわゆる法定責任説の考え方がかなり長い間にわたって支配的であったのに対して,その問題点が指摘されて,今回一定のコンセンサスを得て,基本的には債務不履行の一般原則に従う方向で組み換えようということになりました。これは,理論的にも実践的にも,これが望ましいということがもちろんベースにはあるのですけれども,こうすることによって何が得られるかといいますと,無用な区別をせずに,ルールを簡明にすることができるという側面がありました。基本的には,債務不履行の一般原則に従って要件及び救済手段を考えていけば足りるということです。   しかし,これを基礎にしながら何らかの違いを設けていきますと,そして,その違いが非常に大きな意味を持ってきますと,先ほどの議論にもありましたように,そもそも引渡しと言えるのかどうか,あるいは,これは数量の不足の問題なのか,性状が不十分であるという問題なのか等々といった無用の,ケース・バイ・ケースの非常に細かい議論が誘発されてくることになると思います。それで,個々のケースの「妥当性」は確保できるのかもしれませんけれども,そのように多様な細かな解釈が積み上げられていくことになりますと,ルールがまた非常に複雑になっていきます。それを可能な限り避けておくべきではないかと思います。   代金減額請求に関しては,債務不履行の場合に一般化することは難しい。これはよく理解することができるところですけれども,期間制限について,しかもこれだけ大きな違いを残しますと,今申し上げたような危惧が大きくなってくると思います。確かに現行法は瑕疵を知ったときから1年で,そこから大きく変わることが危惧されるのかもしれませんけれども,このようなルールを残すことによってもたらされるかもしれない大きな不安定さは,やはりこの時点でよく考えないといけないことではないかと思います。 ○中田委員 この点については,これまで議論が重ねられてきまして,分科会でもそれぞれの立場から随分議論したと思います。それから,乙案についても,一つではなくて複数の案の中で更に絞っていったということがありますので,今ここでもう一度議論を繰り返すのもどうかなと思います。   ただ,御説明の中で,今回,数量不足と性状とを分けて,数量不足については外形上明白だということを強調しておられるのがかえって議論を呼んでいるのではないかなと思いますので,そこの御説明は更に今日の御意見にこたえていただくようなものにする必要があると思います。 ○鎌田部会長 ほかに,この論点について御意見があれば,この機会に全部出しておいていただければと思います。 ○道垣内幹事 どういうふうな意見分布かを明らかにする目的だけで申しますが,私もこのまとめには反対です。理由は,もう皆さんがおっしゃったところに尽きています。 ○鎌田部会長 ほかの御意見は。 ○大村幹事 賛否を言っておいたほうがいいようなので申し上げますが,私も個人的には反対ですけれども,しかし,中田委員がおっしゃったように,これまでずっと議論してきたことを踏まえて,何とか取りまとめるという事務局の苦労の結果出てきているものだと思いますので,これ以上,どっちがいいという議論をここでしようとは思いません。   ただ,説明については,これは山野目さんがおっしゃったことに私も賛成です。パブリックコメントで出てきた意見に対応することは必要ですが,意見に応じて修正をする際には,十分な理由づけができているかどうかという点に御配慮を頂ければと思います。 ○中井委員 弁護士会の意見の傾向も,申し上げておきます。大阪は甲案を一貫して採っていまして,昨日も強く甲案を支持する意見が出ています。他に甲案支持もいるわけですけれども,中田先生,大村先生がおっしゃられたように,これまでの議論の経過がありますから,そして現行法もあるので,この乙案の方向でまとまるなら,それでやむを得ないという単位会が半分ぐらいございました。   ただ,とはいえ,懸念を表明するところは非常に多かった。つまり,かねて1年で権利行使を明確にするのに比べれば緩やかになっているとはいえ,果たしてそれで十分なのか。ですから,日弁連意見として中間的というか緩めたのが,1年を2年にしてくださいというのが,そういうところでの譲歩案であり,重過失というところを軽過失も含めるというのも譲歩案で,少しは乙案より甲案寄りに取りまとめようと。議論の経過もあるから,部会資料を尊重した上での修正提案というのが複数出ている。そういう現状にあることを御紹介しておきます。 ○松本委員 質問なのですけれども,現在の案の場合は,売主に当該事実を通知すればいいわけですよね。普通の取引において,瑕疵がある,契約不適合だということを知ってから,なおクレームを付けないで1年以上放置しておくということが,それほど頻繁にあるのでしょうか。普通は,すぐクレーム付けるのではないですか。いかがでしょうか。   従来だと,権利行使をするという通知をしなければならないというのは,かなりハードル高かったかもしれないけれども,今回の案は,言わばクレーム付けましょうという話ですよね。引き渡されたものにこういう問題があります,どうなっているのですかということを一報入れておけば,それで,本来の5年なら5年,10年なら10年の債務不履行責任を追及できるわけだから,瑕疵が発現するのに5年以上掛かるとか10年以上掛かるという特殊なものを除けば,それほどハードルが高いですか。 ○鎌田部会長 むしろ甲案は,そういう議論と比べれば早期に決着を画一的に付けるということになりえますよね。 ○中井委員 どなたに向けられた発言だったか分からないのですけれども。 ○松本委員 実務はどうなのですかということをお聞きしているのです。クレームを付けないのですか。 ○中井委員 今の関係でいうと,特にこの1年で制限する問題は,請負に関して更に弁護士会の中では問題視をしているのですけれども,そちらのほうが分かりやすいのかもしれません。請負についても,今回の提案は,知ってから1年で通知をという構造になっています。   建物等について考えていただいても,一定の現象として不具合は生じているけれども,それが瑕疵によるのか,例えば地盤が緩いから建物がゆがんだのかはなかなか分からない。しかし,どこかで問題状況の発生していることは認識している。1年以内に,では,それが通知できるのかといったら,瑕疵に基づくかどうか分からないまま1年を経過することはよくある。それで争いになる。   家電製品でも同じで,物がうまく動かないけれども,それはそのもの自身がそういう状態だと認識しているだけで時間が経過する。果たして1年という形で通知できるだろうかということについては疑義が出ている。   特に,そういう意見をおっしゃってくるのは消費者関係の委員会を中心とする方々が多いので,そういう現場で接している実務の方々の意見としては,1年は短いということではないかと思います。だから,先生の質問に対しては,クレームは言えない場面が多いということではないかと思います。 ○松本委員 何か論点がずれているような感じがするのです。契約不適合であるということを知ったということですから,原因が契約不適合,すなわち性状とか品質とか性能等における不具合,契約の趣旨に反するものであるということを知ったときからだから,今おっしゃった原因が分からないという場合は入らないのではないですか。あとはもう事実認定の問題になって,そういう現象を知ったということはここの文言でいうところの契約不適合の事実を知ったと推認するというような裁判運営がされればそうなるかもしれないですが,契約不適合すなわちら契約違反を知ったということなので,今のケースだと,引渡しを受けてから1年で権利が消えてしまうというようなことはないと思うのですが。 ○中井委員 例として,地震が起こって家の柱がゆがんだ,この柱がゆがんだことで契約不適合といって通知できるでしょうか。その原因が,地盤が緩かったからということが分からない限り,やはり通知はできないのではないか。大雨が降って雨漏りがした,雨漏りがしたというだけで通知ができるのか。やはりそれは,屋根に不適合があったからということで通知できるのではないか。 ○松本委員 おっしゃるとおりのことを私も思っています。正に契約不適合を知ったということだから,契約の趣旨に反する状態だということを知ったということなので,雨漏りをするということがイコール契約の趣旨に反するかどうかは,もっとほかの事情が入ってこないと判断できないのだろうと思います。 ○筒井幹事 ただいま松本委員から御指摘いただいたようなことも,現在提示している案を維持する方向では強調してよい理由の一つなのであろうと理解いたしました。   それはそれとして,ここの論点は中間試案でも甲案,乙案の両論併記となった数少ない論点で,その取りまとめにおいても困難があったところであり,現時点でもなお取りまとめが容易でない論点の一つであるということを再認識いたしました。売買のところは全般に,現在よりもルールを分かりやすく提示する方向に向かって議論が収束してきていると思いますけれども,この論点について何らかの案で合意形成を図らないことには最終的な改正に結びつかないということを改めて認識して,次回までに本日頂いた議論にどのように応答するのかをよく考えたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,7につきましてはそのような取扱いにさせていただきます。   8以下について,御意見をお出しいただければと思います。 ○高須幹事 8の「競売における買受人の権利の特則」のところでございますが,一つは,議論をしてきたところで,今回,現行法の規律にむしろ近い形で取りまとめをするという形の内容で頂いておりますが,そこは,個人的意見としては,むしろ物の瑕疵についても,競売の場合に一定の規律を設けるべきではないかということで発言をさせてきていただきましたので,残念であるということは思っております。素朴な感想を申し上げ恐縮ですが,そのように思っております。   それはそれとして,仮にこのような形で取りまとめするときに,今回頂いた25ページの案ですと,確かに従前の規定を維持するということからなのだとは思うのですが,「強制競売における買受人は」という表現になっております。従前の中間試案では,「民事執行法その他の法律の規定に基づく競売」という形で,担保権の実行なども含む表現になっており,当然のことだと思うのですが,そのほうが分かりやすい表現だったと思うのですが,今回,あえてこれを「強制競売における買受人」という形で表現するのかと。現行法がそうだからということだとは思うのですが,今日の議論の最初のほうにもあったのですが,法律がどんどん変わっていくと,その変わっていった法律を勉強している若い人たちは,以前の規律がそうだったというだけでは説得力はない。まずそのことに気が付かないし,そのことを言われたからといって,それほどの価値があるとは思わないのではないかと思いますので。もし御趣旨が担保権の実行の場合も含む競売のことをここで念頭に置いておられるというのであれば,そのことが分かるほうがよほどよろしいのではないかなどと思っております。   それからもう1点は,ここは568条1項の規律をということですから,2項と3項は従来の趣旨を残すということなのかどうか。これは確認なのですが,これをちょっと教えていただければと思います。 ○住友関係官 まずは1点目なのですけれども,これは正に御指摘のとおりでございまして,568条1項が「強制競売」という言葉を使っているので,そのまま素案のほうでもその表現を用いたということでございまして,表現ぶりについてはまた引き続き検討したいと思います。   それから2点目の,2項と3項はそのままなのかという話につきましては,それはそのとおりでございます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。取り上げなかった論点も含めて,御意見を頂ければと思います。 ○潮見幹事 34ページの取り上げなかった論点の受領義務なのですけれども,受領義務ほかですけれども,高須先生と同じで残念であったということです。   しかし,もし取り上げないというのであれば,この理由はおかしいと思います。先ほどの期間制限のところと同じで,パブリックコメントにこういう意見が出たから取り上げないというのであれば,私は承服できません。別の理由をむしろ採るべきではないかと今から申し上げます。①,②,③とありますけれども,①ですけれども,ここでやっているのは判例のリステートではありません。現在の民法のあるべき姿を考えたときに,何がいいのかという形でルールを考えていっているわけですから,判例ではこうだからということでというのは理由にはなりません。   それから2点目,受領義務の効果が不明確である上,損害賠償や解除まで認めるのは行き過ぎだというのは,これは,この間の部会の一連の議論というものを一体どういうふうに読んでこのような意見を出されたのかということについて,強い違和感を感じます。むしろこの間の議論というものは,私の個人的な意見とは全く違うのですけれども,受領義務の効果と,受領遅滞という制度に結び付けられる効果とを分けて,立論をしていくという方向を採っていたはずです。そうであれば,今回の部会で成立していた方向からすると,むしろ効果というものは明確になっているのではないか。そう考えると,この②の議論というものは,全体を理解していない上での一点のみしか見ていない稚拙なコメントとしか私は受け取ることができません。   それから3については,これは,こういう意見があるのは私も承知しておりますし,ここで議論もありましたが,あえて言えば反論可能性に乏しいという感じがいたしました。   むしろ,規定を設けないということならば,先ほどちょっと別の文脈で申し上げましたけれども,売買にも多種多様なものがあるので,売買一般について買主の受領義務というものを定型化することは難しい。むしろ個別具体的な事情を考慮に入れて,従来の信義則上の義務という枠組みでこの問題を取り上げたほうが穏当であるという見立てから,今回,中間試案の方向ではなく,取り上げないという態度決定をしたのだと言ったほうが,まだましではないでしょうか。決して賛成するわけではありませんけれども,取り上げないのであれば,少し説明に御配慮を頂ければと思います。 ○鎌田部会長 その点は十分御意見を踏まえて検討をさせていただきます。 ○中井委員 買主の義務のところが出ましたので,1点,売主の義務のところでは(4)で,登記,登録については義務を明示したのですよね。仮にそうだとすればなのですけれども,買主の義務でそれに応答して,登記,登録については引取義務,ここだけを抽出するということはなおあるのかなとは思うのですが,この点は,もう全部を入れないとなったら,そうなるのか。少なくとも売主の義務との対応関係で,買主の登記,登録の引取義務を記載することは十分まだ考えられるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 検討させていただきます。   関連した意見はありますか。   ほかに,売買関係の御意見がありましたらお願いします。 ○中井委員 12の「目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転」のところですけれども,中間試案ではただし書になっていたものを,基本的には本文に移し替えるようですけれども,これは主張・立証責任を考えた結果ということなのでしょうか。   それと,31ページの右側ですけれども,2の「改正の内容」の第1パラグラフのところで,ただし書の規律を表現するものとして,「契約の趣旨に適合する目的物を引き渡した場合」との文言を付加した意味です。ただし書は,売主に債務不履行があった場合のことですけれども,引渡し時の問題と引渡し後の問題が二つあるのではないかと思うのです。つまり,引渡し時に既に債務不履行がある場合と,引渡し後に何らかの形で売主が壊す,売主が積極的に何か作為をするのかもしれませんけれども,滅失させることに関与して帰責事由がある場合と,何かその二つについての関係がひとつよく分からなかったのですが。   後の点は後におくとして,最初の点は,入れ替えたのは,理由は何でしょうか。 ○金関係官 中間試案が売主の債務不履行によって生じたという点に着目していたのに対して,売主の債務不履行の有無というよりは,帰責事由の有無で判断するのがより適切なのではないかというのが主な理由ではないかと思います。   主張立証責任につきましては,売主の責めに帰すべき事由によらないということを売主の側が主張立証するというのが通常ですけれども,一旦危険の移転が生じてしまった以上,買主の側から売主の帰責事由があるということを主張立証するというような,主張立証責任の転換が起こることもあり得ると思います。そこは中間試案を特に変更しているという趣旨ではなく,引き続き解釈に委ねられているという理解ではないかと思います。 ○中井委員 質問が適切でなかったかもしれません。このただし書に対応して変えているのは2か所ありまして,1点が,本文の「契約の趣旨に適合する目的物を引き渡した場合」ということを入れているのが1点。2点は,「売主の責めに帰すべきことができない事由によって滅失した」とした点。つまり,二つの場所で変えているわけですね。 ○金関係官 元々は,中間試案の「目的物を引き渡した」という言葉自体も,契約の趣旨に適合する目的物を引き渡したことが危険の移転が生ずる上では当然の前提だと理解できるところだったのではないかと思います。そういう意味でいいますと,ただし書と対応関係にあるのは「売主の責めに帰することができない事由によって」という言葉なのではないかとも思います。   ただ,中井委員と同様の理解をした場合であっても,すなわちただし書に対応する部分としては,「契約の趣旨に適合する目的物」という表現をしたところと,「売主の責めに帰することができない事由によって」という表現をしたところの二つがあるという理解を前提としても,結局,内容としては同じではないかと思っておりまして,今回の提案では,危険を移転させるためには契約の趣旨に適合した物を引き渡す必要があるということをより明確に書いたのと,危険が移転した後でもなお売主が引渡債務の不履行責任を負わないといけない場面として,「債務不履行があった場面」という言葉ではなくて「帰責事由があった場面」という言葉で要件を定めるのが適当だということではないかと思います。 ○中井委員 なるほど。もう一度検討します。改正の内容の右側の第1段の後半の説明が非常に分かりにくいように思います。 ○鎌田部会長 もう一度よく読み直して,分かりやすく趣旨を伝えられるように工夫してもらうようにします。   ほかにはよろしいですか。 ○村上委員 13の「買戻し」のところで,現行法上の「返還」とあるのを「現実の提供」に改めるということなのですけれども,「現実の」という文言が必要なのでしょうか。返還をしなくても,提供すれば足りるというのはそのとおりでしょうが,その場合,あらかじめ受領を拒んでいた場合であっても,口頭の提供では足りず,現実の提供が必要であると一般に解されているのでしょうか。 ○住友関係官 私のほうで調べた限りでは,この提供というのは「現実の提供」まで必要であるという形のものだったものですから,そうであれば,「返還」という言葉ですと正に返さなければ買戻しができないというような誤解もあるかと思いましたので,こういう言葉にしたらいいのではないかという趣旨でございます。 ○村上委員 あらかじめ受領を拒んでいる場合は口頭の提供でも足りるという判例があったと思いますので,確認をしていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○山本(敬)幹事 先ほどの12の「目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転」で,金関係官の説明について確認をさせていただければと思います。   というのは,売買の目的物が滅失又は損傷して,それを理由として履行の追完の請求,代金減額の請求又は契約の解除を買主側がしていくということが前提ではないかと思います。それに対して,売主側がそのような請求を拒否したいというときに,厳密にいえば否認なのかもしれませんが,引渡しをした,そのとき以後に滅失又は損傷しているということが言えれば,危険は移転していると従来考えていたのではないかと思います。もちろん,その引渡しというのが現行法でいう本旨に従った履行ではなかったというときには危険は移転しない。こう考えてきたと思います。   しかし,この(1)の新しい提案では,それだけではなくて,目的物が売主の責めに帰することはできない事由によって滅失又は損傷していることが要件になってきています。これはどのようなものを想定しているのかということを,まず確認をさせていただきたいのですが,どうなのでしょうか。 ○金関係官 典型的には,自分で潰してしまった場合,自分の不注意で潰してしまった場合が,売主に帰責事由がある場合ということだと思いますけれども。 ○山本(敬)幹事 売主が引き渡した後にですか。 ○金関係官 この(1)の規律は,危険の移転というものが引渡しによって生ずるのか,登記の具備によって生ずるのか,所有権の移転という観念的なものに伴って生ずるのか,いろいろ考え方があり得る中で,引渡しによって生ずるという立場を採用することを宣言しているのみのものであるという理解をしておりまして,実際には,契約に適合する物を引き渡してしまった後はもう引渡債務は消滅しているわけですので,その後で何か引渡債務の不履行状態が生ずることはなくて,実際にこの危険の移転のルールの適用が問題となるのは,(2)のほうの,引き渡したけれども受け取ってもらえずに持って帰ってきた後に目的物が潰れてしまった場合なのだろうと思います。そういう趣旨で先ほどの例を申しました。 ○山本(敬)幹事 (2)については,私は疑問は持っているわけではありません。少なくとも今のような意味では持っていません。私がお聞きしたかったのは(1)のほうで,今の御説明だと,引渡しがあったとき以降に滅失・損傷した場合は,危険が移転しているのであって,買主側からの請求は否定される。ただ,この(1)の表現では,引渡しがあったとき以後にその目的物が売主の責めに帰することできない事由によって滅失又は損傷したと書いてありますので,ここでいう「売主の責めに帰することができない事由によって」というのが実際にどのような意味を持っているのかということの確認をさせていただきたかったということです。 ○金関係官 失礼しました。そういう意味では,ほぼ常に売主の帰責事由によらずに滅失又は損傷が生じるのだろうと思います。一応,売主の帰責事由が問題となり得るものとしては,売主が目的物を引き渡す前に潜在的に生じていた瑕疵が買主の手元で実現した場合とか,売主が引き渡した後に買主のところに赴いて潰してしまった場合とか,そういう場合があり得ると言われることもありますが,前者は,元々契約の趣旨に適合した物を渡していないということになるでしょうし,後者,すなわち目的物を引き渡した後で引渡債務が消滅した後で買主のところに赴いて自ら潰してしまったような場合,こういう場合はもはや引渡債務の不履行責任の問題として捉える必要がないのではないかというようにも思います。そうすると,結局,(1)の規律というのは,契約の趣旨に適合した物を引き渡した以上,そもそも引渡債務の不履行というのが想定できないことから,具体的な事案で問題となることはないのではないかという趣旨で申し上げました。具体的な事案で問題となるのは(2)の規律で,一旦引き渡したけれども持って帰ってきた後で目的物が潰れてしまったような場合なのだろうと思います。 ○山本(敬)幹事 これは先ほど中井委員の御質問と重なってくるわけですけれども,今挙げられた前者の問題は,(1)では,むしろ前半のほうの「売主が買主に契約の趣旨に適合する目的物を引き渡した」という要件でおそらくカバーできているのだろうと思います。後者の例として挙げられたのは,危険の移転の問題ではもはやないのではないかと思います。その意味では,「その目的物が売主の責めに帰することができない事由によって」と(1)で入れる必要は本当にあるのか。特に解除のことを考えますと,このような帰責事由で実際の問題は左右されるというのを,あえて入れる必要が本当にあるのかというのが疑問になったということを申し上げておきます。 ○金関係官 ありがとうございました。この機会に山本敬三幹事の御意見を伺いたいという趣旨ですが,具体的な適用場面を想定することができないとも思われる(1)の規律,契約の趣旨に適合した物を引き渡した,したがって引渡債務は消滅した,したがってその後に目的物が滅失・損傷しても売主は引渡債務の不履行責任を負わないという内容の規律をあえて設けておく意味はあるのでしょうか。 ○山本(敬)幹事 いずれにしても,引渡しがあったとき以後だけで足りるのではないかと思ったのですが。 ○金関係官 ありがとうございました。 ○中井委員 先ほどの疑問を持ったのは,例で申し上げますと,元々のただし書,中間試案のただし書の売主の債務不履行の部分が,先ほど二つに展開されたと申し上げたのですけれども,10個の食品を売主は買主に引き渡した,引き渡し時には10個の商品はいずれも問題ないように見えた,しかし,そのうち三つの商品には菌が入っていた,引き渡した後,七つの正常な商品もその三つの菌が感染して駄目になったという例を考えたときに,最初の三つの商品については,菌があったから,引き渡し時にもはや契約に適合したものではなかった。だから,これを明らかにする意味で「契約の趣旨に適合する目的物を引き渡した場合に」というのを入れた。残り七つについては,三つの商品が債務不履行だったがために,引き渡し後,それが原因となって適合しないものになった。そういうものが,売主の責めに帰す事由によって滅失した。例えばそんな例があるのかなと思いながら考えた。そこで,元々あったただし書が二つに分かれたのですかという,先ほどの質問はそういう趣旨ですが,今のような理解でいいのですか。 ○金関係官 はい,そうだとも思うのですが,少しだけ気になるのは,その七つの商品が契約の趣旨に適合したと評価されるのかどうか微妙な問題があるような気もいたしました。ただ,(1)の規律でそういう場面を拾うことはあり得るかもしれないとも思います。しかしそうすると,先ほど山本敬三幹事との間で話題となりました売主の帰責事由に関する要件は,やはり置いておく必要があるようにも思いました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○潮見幹事 別にその議論に加わるわけではありませんけれども,聞けば聞くほど中間試案のほうがいいのではないかという感じがいたします。先ほど山本敬三幹事がおっしゃったけれども,本来の意味の危険の移転,危険負担というたら本文なのですよね。(1)の本文がそれに当たって,ただし書というのはむしろ,どっちかといったら債務不履行を理由とする損害賠償ということが問題になっているものでして。そう考えると,ただし書で付け加えるのがいいかどうかもまたあるのですけれども,しかし,そういうのを忖度し,全部含めて考えた場合には,中間試案のほうがいいのかなと。   それから,もう一つ申し上げますと,ただし書が出てくる場面というのは,ここの債務不履行というのは,例えば先ほど別の文脈で出てきましたけれども,付随義務の違反なんていうのもあるのですよね。物自体については別に瑕疵があったわけではないけれども,だけれども,先ほど取扱説明書と言いましたが,据え付けの説明書の辺りに不十分なものがあって,それで引渡しを受けたものを買主が取り付けようとして,そのとおりにやったら足の上に落ちてとか,あるいは,足はどうでもいいのですけれども,そのものが壊れてしまったとかいうようなこともございますから,そんなのも含めて,少しなお御検討いただければと思います。   もちろん立証責任についても考える必要はあると思います。 ○鎌田部会長 分かりました。債務不履行責任が引き渡し後に損害が生じた場合にどうなるかということに直接答えようとしているのではなくて,危険の移転の時期だけをはっきりさせようということでこの提案はできているのだとも言えますので,そこを相体的に区別しながら,きちんと分かりやすい形にするように検討してもらいます。   請負に入りたいところですけれども,ここで一旦15分の休憩…… ○山野目幹事 細かなことなのですが,29ページの11番の現行577条の改正論点について,すこしお許しください。   しばらく前に部会長から,567条の改正問題と併せ引き続き検討してほしいという御指示がありましたから,それに沿って事務当局で引き続き準備をお願いしたいのですが,その際に,現行法の法文が洗練されていないことを少し改良する余地はないかというチャレンジのお願いになります。可能ならばというお願いですが。577条の現行の法文が,抵当権の登記があるときはと,登記があるないという問題で言い出していて,抵当権消滅請求が終わるまではとなっていて,何か抵当権の登記があると抵当権が本当に実体上あって,それについて適法に抵当権消滅請求ができるかのごとき法文になっていて,これは物権法の思考からいうと許し難い,気持ち悪い表現になっていると感じます。何かこの辺りも,もう少し洗練された法文にできるならしていただきたいと思いますし,現行がこうなっているからしょうがないではないかということであれば,それはそれであり得ることと思いますけれども,一言申し添えさせていただきます。 ○鎌田部会長 それでは,15分の休憩をとらせていただきます。           (休    憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   部会資料75Aの36ページ以下,「第5 請負」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○合田関係官 部会資料75A,36ページの「第5 請負」について御説明いたします。   1は「仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の注文者の権利の期間制限」について,消滅時効の一般原則とは別の固有の期間制限を維持した上で,その期間制限の内容を売買の目的物が契約の趣旨に適合しない場合における買主の権利の期間制限と同様の規律に改めるものです。中間試案では,民法637条の期間制限を廃止し,消滅時効の一般原則に委ねることとする考え方も併せて提案されていました。もっとも,この考え方を採った場合には,注文者の権利の存続期間が現状よりも大幅に長期化することとなり,瑕疵の有無及び範囲の判断が困難になるおそれが大きいとの理由から,この考え方に反対する意見も相当数見られます。素案の考え方は,注文者の権利の制限期間が短過ぎるという現行の民法637条に対する批判にも一定程度対応できる内容であると考えられます。そこで,部会資料では,消滅時効の一般原則に委ねるという考え方を採らないこととしております。仮に売買の担保責任について,部会資料75A,21ページの7の考え方を採り,請負についても素案の考え方を採った場合には,担保責任の期間制限についての要件,効果が売買と請負とで全く同じものになり,民法637条に559条の特則としての意義はなくなることから,重複する規定を請負の箇所に置く必要があるか否かも問題となり得ます。本日は,この点についても御意見を頂戴できればと思います。   2の「仕事の目的物である土地工作物が契約の趣旨に適合しない場合の請負人の責任の存続期間」は,1で素案の考え方を採ることを前提に,土地工作物の請負人が負う担保責任に関する民法638条を削除するものであり,中間試案からの変更はありません。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議を頂きたいと思います。売買につきましては先ほどのような議論がありましたので,売買について素案が採用されないとしたら,こちらはどうするかというふうな観点からの御意見も頂ければと思います。 ○山野目幹事 第5の1については,売買の際に申し上げた私の所見と同旨の評価を抱くものでありますから,その点は中味を詳細に繰り返しませんけれども,改めて申し上げさせていただきます。引き続き御勘案いただければ有り難いと感じます。   加えて,今,合田関係官の御説明を頂いて,それで,そのお陰で気付いたことが一つあるのですけれども,仮に売買のときに1年にするという一般の消滅時効と異なるルールを置いたときに,あれが559条で有償の契約一般に準用されるときの準用の中味というものは,何か有償契約一個ごとに論理的には問題にしなければならないことになると思いますが,よく分からない部分がたくさん出てくるのではないかということが心配になってきました。山本敬三幹事があの際に指摘なさったように,1年という期間を設けることによって,どういう適用関係なのかが複雑で,技巧的な処理をしなければならない問題がたくさん出てきそうです。売買のみとてそうであることに加えて,559条がその問題を更に増幅するような側面もある予感じが今のお話を伺っていてしたものですから,更に心配が大きくなったということを申上げて,引き続きそういうこともお含みの上,御勘案いただければ有り難いと感じます。 ○深山幹事 この担保責任の期間制限については,先ほど売買のところでかなり議論になっており,従前の中間試案の甲案ないしそれに近いようなものも今後視野に入れて議論されると思います。そうなると,それとの関係で請負のところをどうするかというのは,なかなか今の段階で意見を申し上げにくいのですけれども,議論の整理のために申し上げますと,なぜ売買と請負で同じ規律になるのか,そうなるのが相当かということが一つの問題であろうかと思います。もちろん請負にはいろいろな請負があるので,限りなく売買に近い請負もあって,そういう場面を想定すると,同じ規律にするのが整合的あるいは合理的だということもありますけれども,そうでない請負もあるということをどう考えるかということがあろうかと思います。   元々ここでこれだけは申し上げようかなと思っていたことなのですが,請負の中で,第5の2の土地工作物の規定について現行法の638条を削除するという提案がなされていますけれども,請負一般の問題と土地工作物に係る請負の問題というのはやはり状況が違っていて,それは現行法でも言わば特則的な意味を持っていると思うのです。そういう意味で,売買と請負の違いも一方でありますが,請負の中でもいろいろあって,取り分け土地工作物に係る典型的な建物の建築請負というようなものを想定すると,先ほど売買について請負を意識した議論がなされていましたが,そう簡単に瑕疵に気が付くのかどうかと思います。また,気が付いた不適合あるいは何らかの異常に気付いたとしても,それがどういう原因に基づくのかについて,なかなか分からないということを実務上しばしば経験します。元々の地盤であったり,何か契約の外在的なところに原因があるのが顕在化するということもありますし,建築請負の中でも設計に問題があったので,施工自体はきちんと設計図どおりやったけれども,結果的におかしな建物になったという場合もあれば,設計はよかったのだけれども施工がまずかったからおかしくなったという場合もあります。いろいろな場合があるのですが,不具合が出たときに,どこに原因があったのかというのはなかなか分からない。場合によっては,裁判を何年もやってもなかなか分からない場合も珍しくないかと思います。そういうことからすると,少なくとも土地工作物に係る担保責任については,ある程度長期間の責任を認めるという特則的な規律が必要なのではないかという気がいたします。   現行法は,引渡しからという起算点で5年,10年という規律になっていますが,起算点と期間をセットで,どれが一番いいかという定見を持っているわけではないのですが,少なくとも一定期間,通常の請負よりは長期間の担保責任を負うような規律を設けるべきではないかと思います。その意味で,今提案されているように単純に削除して請負の期間制限を一本化する,一律化するということについては反対をしたいと思います。 ○岡委員 二つ申し上げます。   一つ目は1番のところで,売買でも申し上げましたように,1年の短期期間制限について,基本的な疑問を持っているところは同じでございます。売買のときは目的物,性状,引渡し,この三つのキーワードで正当化していたと思います。請負の場合に,仕事が終了して引渡しを要しない場合を書かれているのですが,物で引渡しを要しない場合というのはあるのでしょうか。あるとしても,短期の期間制限を入れる正当化根拠が目的物,性状,引渡しだとすると,引渡しがない場合にまで期間制限を入れる理由はないのではないでしょうか。物で引渡しを要しない請負というのがイメージできないところに問題があるのかもしれませんが,この括弧書きは少し問題ではないかという問題提起でございます。   それから二番目に,638条の削除のところですが,請負は今,短期の期間制限も引渡しから1年で,工作物は5年,10年と一貫しておるところ,「引渡しから1年」を「知ったときから1年」に変えると,これは妥当だと思います。そうだとしたら,知った時から5年,10年という規律が残るのは何か変だと,これはよく分かります。しかし,深山さんが言ったように,この土地工作物,地盤については,やはり特殊性があるはずで,民法638条を削除しただけではなく,どう保護するかという問題があると思います。削除だけだとすると,短期の期間制限は1でやって,本来の消滅時効が,今の提案どおりいくとすれば,権利行使できる時から10年,知ったときから5年,これが生きてくるのだろうと思います。ただ,商事時効が残るとすると,客観的起算点から5年になってしまいますので,その部分が今の5年,10年と抵触するのではないかと思います。したがって,地盤のところの現行法の10年の規定については,客観的起算点から10年というのを,商事の場合でも10年にすると,そういう手当てが必要・妥当なのではないかと思います。 ○中田委員 売買について,先ほどの部会長の御発言ですと,甲案も含めて,また見直しもあり得るというふうに承ったのですが,もし見直すのであれば,元に戻って確認,検査義務を課するかどうかというような,乙案にも複数あったわけですけれども,それらも含めた上で,結局妥当なところはどこかということに遡らざるを得ないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかには特に御意見は。 ○大村幹事 仮に今の案でいくというときに,売買と請負に同じ規定を置くことはどうかについても関係官から問題提起があったかと思います。   それとの関係で,先ほど山野目さんがおっしゃった559条の準用の範囲という問題があるのではないかと思います。性質によって準用するとなっているときに,契約類型が異なる有償契約である請負に全く同じ規定が置いてあるとなると,全く同じ規定を置かないと具合が悪いからこうなっているのではないかという解釈を惹起することになり,他の有償契約について,これは準用されないのではないかとの疑義が生ずる可能性があるように思います。そこのところについて,もし全く同じ規定を置くのならば,そういうことにならないような工夫がいるのではないか,少なくとも説明はしておく必要があるように思いますので,御配慮を頂ければと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○道垣内幹事 先ほど申し上げましたように,必ずしも乙案には賛成ではないのですが,仮に現在のゴチックになっているというところを前提にしたときに,「目的物が契約の趣旨に適合しないものであることを知っていたとき」というのは,何を知っていたのだろうかというのが,今一歩よく分からないところがありまして,それは実は売買のところにも同じことが当てはまることですので,そこで言うべきだったのですけれども,遅ればせながらここで発言させていただきます。   どういうことかと申しますと,ある瑕疵について,それを知っていたのだけれども,例えば,今問題になっているのは別の瑕疵のことであるという場合に,これは知っていたことになるのか,ならないのかということなのです。つまり,仮に,この規律が,請負人とか売主が,どこかに欠陥があることを知っていたならば,早期解決のメリットを全然与えなくてよいという価値判断を示しているということになりますと,どこでもよいから瑕疵の存在を知っている限り,「目的物が契約の趣旨に適合しないものであることを知っていたとき」に該当することになりますし,やはり当該瑕疵の問題なのだということになりますと,別の箇所に瑕疵があることを知っていても,請負人や売主が気がついていない瑕疵をめぐっては,早期解決のメリットが与えられることになりそうです。そして,仮に後者だとしますと,第5の1の本文6行目に,「その不適合」という言葉が既に出てきているわけですから,「請負人が引渡しの時にその不適合を知っていたとき」としたほうがいいのかなという気がします。非常に細かい話で恐縮です。 ○鎌田部会長 その点はおっしゃるとおりだと思いますので,検討させてもらいます。 ○中井委員 山野目幹事と大村幹事の御発言になられた有償契約に準用するという問題について,その発言を聞いて危惧を持ちました。つまり,売買のところに規定を置くだけで他の有償契約にも適用される。その一つが請負。大村幹事の話からすれば,例えば役務提供契約で,これに類するもので,短期の権利失効に適するような場面では準用があり得る。それを阻害しない方向で考えるという御趣旨だったのでしょうか。私は,有償契約で他のところにも準用というふうになることは,非常に危険だと思うのです。ですから,この規定を入れるなら請負にも入れておかないと,逆に,他の役務提供契約その他でも,短期で権利行使できなくなるという事態を招くのはよろしくないと思うものですから,教えていただければと思います。 ○大村幹事 おっしゃる問題についてどうしろということを申し上げているのではなくて,従前,瑕疵担保の規定については,規定がないものについても準用はあり得ると考えていたのはないかと思いますので,今回,それを動かさないとするのならば,動かさないというメッセージを出す必要があるということです。中井先生がおっしゃるように,もう売買と請負に限るのだということであれば,その方向でのメッセージを明確に出せばいいと思います。   ただ,重要な契約類型だから同じ規定を2度置くという説明だと,そこのところが曖昧になってしまうのではないかと危惧します。私は,重要な契約類型だから重ねて規定を置くという規定の置き方自体については賛成ですけれども,ただ,559条についていうと,その射程が明らかでないので,やはりここでは,重要な規定だからということだけで二重に規制を置くことを決めてしまうというのは,ちょっと危険ではないかということを申し上げた次第です。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中井委員 先ほど深山幹事,岡委員から,特に土地の工作物について,単純に削除することについて反対という意見がありました。念のため,弁護士会の結構多くがそのような意見であることを加えて申し上げておきたいと思います。皆さん,かなり心配をしているということです。 ○鎌田部会長 分かりました。理論的にどう説明するか,難しいところがないわけではないと思いますけれども,その点の御意見を踏まえて,どうできるかを検討させていただければと思います。 ○内田委員 ちょっと確認的な質問をさせていただきたいと思います。弁護士会が反対をしておられるというのは,先ほどから不具合が何に由来するのかが分からない場合がよくあるという話も出ていましたけれども,1年というのは契約の不適合に由来するということが分かってから起算されるというのが前提で,それは松本委員が先ほど言われたとおりです。そうすると,土地の工作物などの場合には,契約に適合していないということが分かってから1年以上,何も通知しなくても権利行使を認めるべきだという,そういうことを積極的におっしゃっているということでしょうか。 ○中井委員 弁護士会の多くは,土地工作物については期間制限規定を外してほしいという意見だと思いますので,結果としては,内田先生がおっしゃったとおりのことになるかと思います。 ○岡委員 638条は,今,引渡しから5年又は10年,責任があると書かれておりまして,この部会でも,当初の頃は性能保証期間として5年,10年間は性能が維持されることを保証すると,そういう議論も出たと思います。品確法のイメージが強いと思います。それもあって,知ってから10年ということを維持してくれという意見ではないのだろうと思います。   かといって,性能保証期間のプランはもう今のところないわけですから,あるとしたら,客観的起算点が多分引渡しと同じになる可能性が高いので,客観的起算点からの10年が,商事時効が残るとして客観的起算点から5年に縮まることは現行法よりも後退すると。その点については賛成できないというのが,それなりの共通項だろうと思います。 ○鎌田部会長 請負につきましては,更に75Bの「第5 請負」というところにも素案がございますので,そちらの方について御審議を頂きたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○合田関係官 部会資料75B,18ページ,訂正後の資料では20ページを御覧ください。   「仕事の目的物が契約の趣旨に適合しない場合の請負人の責任の免責特約」について,中間試案では,民法640条を改め,請負人が仕事の目的物が契約の趣旨に適合しないことについて責任を負わない旨の特約をした場合であっても,目的物の引き渡し時に請負人がその不適合の事実を知っていたときは,それを告げたかどうかに関わらず,担保責任を免れることができないとする考え方が提案されていました。   しかし,この提案に対しては,パブリックコメントの手続等において,同じ趣旨に基づく規定である売買に関する民法572条と統一的な改正をすべきであるとの意見が寄せられています。そもそも民法640条及び572条に共通して用いられている「知りながら告げなかった」という文言について,どの時点を基準に悪意か否かを判断すべきか,現行法の解釈は必ずしも明らかでないように思われます。また,売買契約における売主の担保責任を債務不履行責任と考える立場を採ることとした場合には,担保責任の免除特約は売買及び請負のみならず債務不履行責任一般について問題となり得ると考えられることから,売買と請負についてのみ担保責任の免除特約に関する規定を置くことの是非も問題となります。本日は,これらの問題も踏まえつつ,民法640条及び572条の改正の要否と,その具体的な内容をどのように考えるべきかについて御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議を頂きます。御自由に御意見をお出しください。 ○中田委員 資料を拝見して,難しい問題だなと思ったのですが,三つほどの問題が関係しているのではないかと思いました。   一つは,572条と640条が同じ趣旨かどうかということと,そこで想定されている認識の対象は何かということです。元々は,特約の時点で存在する事実が認識の対象で,それは572条も640条も同じだということだったのではないかと思います。ただ,現在では事実ではなくて瑕疵というふうに読み換えているものですから,瑕疵担保については,そこに混乱が一つ出ているかと思います。   二番目の問題は,瑕疵担保責任で瑕疵の存在時期が契約時だとかつては考えられていたのに対して,最近では引き渡し時だと考えるものが多くなっている。それから,請負においては,恐らく引き渡し時になるだろうと思います。その結果,免責特約における想定とのずれをどう考えるのかという問題があると思います。   三番目の問題は,「知りながら告げなかった」という要件と,告げれば免責されるということとは,同じではないのではないかと思うのですけれども,それを裏表のように書いているのですが,そこは区別して議論したほうがいいのではないかと思いました。   ということで,まず,認識の対象となるのが事実か瑕疵なのかというのを一旦分けたほうがいいと思います。その上で,特約から引渡しまでに発生した瑕疵についての責任は,特約の解釈で決まることだと思うのですけれども,その解釈にあたって,特約をする際に,請負人又は売主が認識していた事実をどう評価するのかという問題があるのだと思います。それから,先ほど申し上げたことですけれども,知りながら告げなかったので免責されないということと,告げれば免責されるというのは別の問題として,一応区別して考えたらいいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 ほかに,関連した御意見ございますか。   この問題については事務当局に一任していいということでしょうか。 ○山野目幹事 ただいま部会長からお叱りを頂きましたから,非常に難しい問題で確固たる意見がありませんけれども,やはり中田委員が的確に整理されたとおり,この文言それ自体が意味している内容や起草時に意図された理解というものは,それとしてあると感じますが,その後の我が国の法制の発展や学説理論の発展等を踏まえ,改めて572条や642条の意義付けを考えてみる必要ということがあって,そうした検討を踏まえた上で,今後,この規律ないしそれを改めたものを置くときの意義というのも考えていかなければならないのではないかと感じます。   その上で感じたことを申し上げますと,一つは,事実であれ瑕疵であれ,特約ないし契約をしたときに既に存在しているものを知りながら告げなかったということを問題としている規範だとすると,これは少なくとも現在においては詐欺や錯誤,不実表示,故意の不利益事実不告知などとの関連,隣接する制度との分担関係がはっきりしない規律内容になっているのではないかと感ずる部分があります。そういったことを踏まえて考えますと,特約ないし契約がなされた後で引渡しまでの間に生じた問題についても,その問題をケアするルールとして理解し直すということが考えられてよいのではないかとも考えます。   それから,もう一つ別なことを申し上げますと,瑕疵担保責任を免責するという特約をした当事者,売主ないし請負人であっても,その後に目的物や仕事に係る問題が生じたときに,それについて的確に契約の相手方に対して情報を提供する義務を免れるということには信義上ならないのではないかとも感じます。そうならないのだよということを念押しする意味として,この規定を理解していく余地ということもあるのではないでしょうか。   そういった観点も踏まえて,これらの規定の意味付けを改めて整理し直したときには,572条は現行のものとして置かれてよいと思いますし,それが他の有償契約に準用される局面において,担保責任を免責する特約をしたとしても,何らかの意味での情報提供の義務まで一緒くたに免責するものではないということを伝えるルールとして,他の有償契約においても勘案されるべきであるというふうに559条を媒介して受け止められるという規範運用ということはあってよいのではないかと考えます。 ○潮見幹事 どういうふうに規定を立てるのかというのはものすごく難しい問題ではないかと思います。それは山野目幹事がおっしゃったとおりだと思います。   ちょっと気になったので見ていたのですけれども,現行法の572条では,免責特約をするときに,ある事実を知っていて告げずに,でも私は担保責任を負いませんよという特約をした場合に,その特約の効力はどのようなものであるのかという観点からルールを立てています。これは補足説明でも,契約締結時の悪意と,免責契約時の悪意という形で表現されているものだと思います。   しかし,現在の我が国の状況あるいは世界における状況を踏まえて考えたときに,免責特約の効力を,今申し上げましたように,その特約を結んでいるときに知っていた事実について,それを告げなかったらどういうふうに評価するのかというルールで立てていいのか。それとも,債務不履行あるいは瑕疵担保責任の免責を認めるという特約をした場合に,正にその特約の不当条項性といいましょうか,効力制限という,もう少し広い観点から規律を立てるべきなのかというところが,一つ大きな分かれ道になるのではないのかなというように思います。   現行の572条の立て方が本当にいいのかという点については,なお私は若干疑問は感じます。ただ,現在そのような規定があるから,それをあえて削除しろというところは特に申し上げるつもりもありませんし,そんな意図もございません。   他方,請負のところの中間試案で提案されているのは,免責特約を締結するときの知・不知を問題にするよりは,むしろ瑕疵についての責任,もっと言えば危険が移転する時点を基準としての悪意ということで,債務不履行の免責特約の効力をどこまで認め,どこまで例外的に制限するのかという観点からルールを立てようとしているわけであって,これはこれとして,私自身は共感を覚えるところがあります。   もし仮に請負のところでそのような規定がよいということであるのならば,翻って,今度は売買の場面で同じように,債務不履行の免責特約あるいは瑕疵担保契約適合責任の免責特約について,請負の中間試案で考慮されたような規定を併せて設ける必要はないのか。あるいはその起草者の考え方,当時の明治民法の起草者の考え方を逆手にとってですけれども,売買のところで今の趣旨の規定を置いて,そして請負のところで準用,ないしは確認のための規定を置くということもあり得るのではないかとも思っておるところです。   ただ,これだけやろうとすると,非常に大仕掛けの話になりますし,事は債務不履行の免責に関する不当条項規制のルールにも関わってくることですから,その辺りは少し意見を慎重に見極めながら進められたほうがいいようにも思います。定見はございませんけれども,枠組みは以上申し上げたようなものではないかと思います。 ○沖野幹事 定見はないという点では同じなのですけれども,もし参考になることがあればと思い考えてきたことを申し述べます。   「知っていながら告げなかった」ということが問題とされていますので,現行法の規律はやはり情報の提供ということを問題にしているのではないかと考えました。部会資料の説明中の分析にありますように,いつ知っていたかという時点を考えますと,その際知っていた対象というのは,私自身は瑕疵というふうに考えてきたので,中田委員の御指摘を踏まえると,もう少し厳密に考えなければいけなかったのですが,仮に瑕疵だということを考えたとしますと,特約を結ぶときの問題と,それ以後の,特に引渡しまでの間,あるいは引渡し時の問題ということが,両方出てくるのだと思います。そして,ここにはさらに,契約適合なり瑕疵に当たるかというその問題と,それに当たるのだけれども,なお免責されるのかという二つの問題があると思われます。そのうちの免責に係るほうですから,契約内容としては,そのような性状なりを約束していることは前提にした上で,しかし,可能性として,それに適合しないというような可能性があるときに,万一そういう場面が生じたときには一定の範囲で免責されるというのが免責の特約だとしますと,その特約の締結時点で,既にその可能性が発現するということが確実であることを知っている。にもかかわらず告げず,その内容としては保証しながら,しかしもう免責にしてしまうという,そういう特約を結ぶことが認められるのかという問題で,そして,その点を知っているならば,それを出した上で,なおその可能性というか,確実にそうなるということが分かっている中で免責特約を結ぶのかという判断をさせるための情報提供ではないかと思います。   その点では,山野目先生がおっしゃったように,契約時の詐欺や錯誤等の問題が絡んでくるわけですけれども,それを一般的に条項に関する詐欺ですとか錯誤の問題に落とし込まずに,免責条項ということが持つ重大性に鑑みて,その効力範囲という形で規律していると。その意味では,条項についての詐欺・錯誤等の規律と重複するものを持っていながら,なお特別の規律を置いているということと考えられるのではないかと思います。   それに対してまして,特約を締結した後に,引渡しまでに,あるいは引渡時に,瑕疵なり契約不適合なりがあることを知ったという場合ですと,これは,そういう可能性が生じたときには免責されるということで当事者は特約しており,それでリスクの分配がされていると考えますと,そういう特約が有効である以上は本来免責はされるのではないかと考えますと,この局面で,にもかかわらず,知っていたことを告げないということをマイナスに評価するのは,例えば,免責だから請求はできないということであったとしても,瑕疵を知っていたならば自分がいち早く行動したとか,あるいは手当てをすることで損害を縮小できたというような,そういう対応のための情報提供をしかるべく出させるという趣旨で,そして,それを促進するため,売主側で責任を負うべきだという特約の効力の形でそれを結実させている,そういう考え方に基づいていると理解することもできるのではないかと思われます。  そうしますと,時期も意義も二面あって,相手方に配慮した,この特約を結ぶことで本当によいのかということについての基礎事情について情報を提供することと,それから,もう既に契約不適合であって,しかし,契約に基づけば救済はこの限りでは得られないはずだけれども,しかし,それによって更に損害をもたらすとか適切な対応の手法を失わせる事態に配慮をすることが求められるという二つがここでは考えられているのではないだろうかと思います。  単純に知っていたときは免れないということでは必ずしもないのではないかと思われまして,その一方ではそういう情報提供の問題だとしましても,そのような情報提供と結び付いた効果として,これが適切なのかが問題となりえますが,例えば手当てをする機会ですとか,損害賠償とか,通知義務ということを考えれば常に問題になり得るわけですが,損害の立証等も難しい面があるとすると,このような形で効果を明らかにすることによって情報の提供を促進させるというような制度設計もあり得るように思います。 ○中田委員 先ほどの発言と,その後の皆様の御発言を伺った上での補足なのですけれども,特約の段階の認識と特約の後に生じたこととは分けるのがいいということは,引き続きそう申したいと思います。   微妙な例をむしろ考えてみて,具体的に検討するのがいいのではないかと思います。   一つは請負で,梅先生は,時計の機械の中で足らないものがあって,到底完全に運転することができないことを知って特約をしたという例を挙げています。それは,今から仕事をするのだけれども,仕事をしても,どうせ足りないのだから,うまくいかないということが分かっているという意味なのだろうと思ったのですけれども,もしかしたら既に完成した仕事について足りないと言っているのかもしれないのですが,いずれにしても,特約の段階で何を知っていたのかというのを検討する必要があると思います。   ほかの例なのですけれども,資料の中では,一定の割合で不可避的に生じる瑕疵というのが挙げられています。そのほか,設計上の瑕疵というのでしょうか,まだ作られていないけれども,その設計に基づいて製造すれば必ず同じ瑕疵が生じるということを知っていたというときにどうなるかなどもありますね。   やはり私は,一旦瑕疵と事実を分けて,認識の対象たる事実が何であって,その事実を特約の段階で知っていたということと,特約の後に発現したというのと区別するのがいいのではないかと思います。その根底に情報提供義務の問題との連結があるのは,それはそうだと思います。 ○道垣内幹事 沖野幹事の発言は多岐にわたっていたので,私の申し上げることが,そのどの部分に対応しているのかがよく分からないのですけれども,特約が締結された後,引き渡し時には瑕疵の存在を知っていたというとき,本来は免責されるのだけれども,瑕疵の存在を相手方に告げれば,相手方も対応しやすくなるので告げなければならないという例を出されたと思います。しかし,私は全く理解できない話でして,というのは,例えば炊飯器を引き渡すというときに,裏蓋のキャップが落ちていると思ったけれども,それは瑕疵であり,免責条項があるからからといって,「キャップは落ちていますね」と言って引き渡せばいいのかというと,そうではない。キャップがそこにあるならば,はめてから渡さねばならないのは当たり前だと思うのですよね。そうすると,特約の締結時に善意であったとして,引き渡し時に悪意であったときに,告げればいいというのは,私はあり得ない解決ではないかと思います。   したがって,請負のところで告げる告げないというのを抜きにして,「引渡しの時に目的物が契約の趣旨に適合しないことを知っていたとき」としていたのは,非常によく理解できるところであり,私はルールとしては,売買についてもそうなるということではないかと思います。   なお,中田委員が出されたような,瑕疵があり得るような物品であって確率的には瑕疵の存在が分かっているといった場合にどう考えるのかという問題はあるのですが,それは,どういうふうなものを引き渡すべきなのかということの契約解釈に落とし込んで,バランスをとっていくべき問題ではないのかと思います。 ○鎌田部会長 中田委員がおっしゃられたのは,特約を締結したときに瑕疵の原因が既にあるようなケースにしかこれは適用にならないという趣旨ですか。請負は,すごく単純に考えると,請負契約をしてから物を作るので,完成したものに瑕疵があって,しまったと思ったけれども,知らんふりしてそれを渡してしまうというような場合には,これは適用にならないというふうなことなのですか。 ○中田委員 私も,請負の場合には特約後に生じるのだろうと思っていたのですが,ただ,起草者の,といっても2,3見てきただけなのですけれども,考え方としては,まず売買については,特約時に既に瑕疵があって,それについて悪意だった,それをそのまま請負についても準用するということになっています。梅先生は,二つの例を挙げていて,一つは,れんが造りの建物で,しっくいが不十分だということを知っていたと。これは工事が終わった後の話かなと思いました。ところが,先ほどの時計の部品が足りないというのは,これはまだ修理に取り掛かる前でも分かっていることで,それを知った上で特約をした場合の効力を論じているようにも見えました。そうしますと,起草者はやはり事前の特約を考えているようにも思われました。だけれども,その問題と,事後的に発生した問題というのは別です。   それから,572条のほうは,物の瑕疵と権利の瑕疵と両方の問題が出ていて,権利については事後的なものも含むのだということをわざわざ言っているわけですけれども,その後,鳩山先生が,権利についても事前のものに限るので,事後のものは債務不履行で処理すればよいと言われて,その後の定説になっていると思います。ですから,そこは区別したほうがいいのではないかと思います。 ○内田委員 区別すべきだというのはそのとおりだと思うのですが,その上で,どういうルールを作るかをもう決めないといけない時期なのだと思います。   起草者のことをおっしゃいましたけれども,起草するときには外国法を参照していて,ドイツ法にこの種の規定の例がありますけれども,ほかにも比較法的に例があると思います。契約締結時に特約を入れることを想定して,その時点で瑕疵というか瑕疵の原因となる事実を知っていれば,それは詐欺であると。つまり,騙すことだから,それを相手に告げないでやれば詐欺になるわけで,だから無効だという説明をしているわけですね。請負の場合もそれに準ずる説明なのだと思います。   それはそれで一つの一貫した説明だとは思うのですが,これは山野目幹事がおっしゃいましたように,その後の契約法の理論の進展によって,現在はやはり,売買にしても請負にしても,物を引き渡す時点で契約に適合していることを売主なり請負人は保証するというか,その時点の不適合に対して責任を負うという観念が強くなっていて,その時点で瑕疵があることを知りながら免責特約付きの物を引き渡すというのは余りにもアンフェアではないかということで,免責特約の効力を否定すべきだという考え方が出てきて,中間試案はそういう発想に立っているのだと思います。そこで,そういう立場に立つ以上は,売買,請負はやはり同じようにしないとおかしいということで,今回問題が提起されているのだと思います。   ですから,起草者の段階,あるいは起草段階での比較法的な理解については,おっしゃるとおりなのですけれども,それだと今の契約法の感覚の中で,免責特約についての公正さが担保できないのではないかという考慮が中間試案の背景にあると思いますので,それを踏まえて,やはり時点の問題についても考えていく必要があるのではないかと思います。   とはいえ,考えているだけで時間切れになると,結局何も規律を置けないというだけの話ですので,中間試案のような方向で売買と請負を統一的に規律することが支持できるかどうかについて,中田委員の御意見をお伺いできればと思います。 ○中井委員 内田委員が最後におっしゃられたところの部分に限ってですが,弁護士会の意見を申し上げると,基本的には中間試案の考え方を支持するというのが非常に多い。基準時は引き渡し時で,「知っている」で足りる,それが免責特約の効力を考える上でのポイントとしていいのではないか。そして,請負に入れるなら売買にあってもいいというのが相対的多数と言っていいかと思います。 ○高須幹事 ここについては,東京弁護士会は,今,中井先生がおっしゃったように,相対的多数の立場に立ったうえで,更にそれよりもっと議論を深めています。つまり,免除特約そのものの有効性一般について,一定の制限の必要があるのではないかという観点から,免除特約が正当な理由に基づいて,かつ,その内容が相当な範囲にとどまる限りで有効とするようなことを,まず一般的には考えるべきではないかと考えています。その前提に立った上で,ここの売買と請負のところを見ると,今,中間試案のところで出てきているように,要するに,必ずしも言うということに何かを見いだすのではなくて,どういうことを行ったのかということのほうに着目すべきではないか。そういう意味で中間試案の内容について支持できるのではないかというような,免除特約そのものの一般論から実は話をしたいぐらいのところの意見を持っております。 ○鎌田部会長 それでは,頂戴した御意見を踏まえて更に…… ○岡委員 特約時に知っていて告げなかったときは,詐欺的だから,それを理由に無効にするというのは非常に分かりやすいと思いました。   免責特約には結構いろいろなものがあって,ベストエフォートで頑張った場合でも一定の比率で瑕疵が出ることがあり得るけれども,軽微であれば,それは責任を負いませんと,いいですよと,それを前提に代金を決めると,こういうものもあると思うのですね。それに従ってベストエフォートで頑張って,瑕疵が一定数出たと。そのときに知っていたことだけで,その部分が無効に,免責特約が無効になるというのは,何か違和感がございました。だから,免責特約は多分,いろいろな理由で無効になる場合があるのだと思います。免責特約を結んだけれども,それをいいことにして,ずさんな施工あるいは物を引き渡した場合には,その理由で無効になることもあるでしょうし,そういういろいろな無効になる理由の中で,引き渡し時に知っていたことが必ず無効になるというのは,本当に全部そうかなという違和感を持ちました。   それに比べて,特約時にある大事なことを知っていて相手に告げずに,それを前提に相手が免責特約をのんだのであれば,その部分を無効にするという考え方は,それも例外はあるかもしれませんが,そちらのほうが理解しやすいように思いました。 ○中田委員 先ほど内田委員の御発言は,私が特約後に発生した瑕疵については規律を置かないということを言っているのだという御趣旨だとすれば,そうではありません。問題を区別すべきだということを申し上げただけです。それで,今,岡委員のおっしゃったような場面について,一定割合で瑕疵が発生するという,その事実を知っていて特約をした,果たして一定割合で瑕疵が発生したときにどうなるのかという問題だろうという,そういう整理です。 ○鎌田部会長 頂戴した御意見を踏まえて,更に事務当局で検討を続けさせていただきます。   次に,部会資料75Aの「第4 贈与」について御審議を頂きます。事務当局から説明してもらいます。 ○村松関係官 それでは,部会資料75A,34ページの第4「1 贈与契約の意義」について御説明いたします。   民法549条は,当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与えることを贈与としていますが,他人物贈与の有効性を前提に,その場合の責任に関する規律を設けようとしていることから,「自己の」の文言を削ることを提案しております。   なお,中間試案では,このほか,売買との平仄や用益物権等の無償での設定行為などを贈与から除外するため,「財産権を・・・無償で移転する」との表現に改めることも提案されておりました。しかし,このような理由で規定を変更する意義は必ずしも高いとは言い難いとの指摘が寄せられたことや,無償の消費貸借との区別がつかないといった問題もあることなどを踏まえ,この点は素案に盛り込んでおりません。   次に,取り上げなかった論点についても御説明いたします。   中間試案においては,贈与が解除された場合における受贈者の返還義務につき,現存利益の範囲に限定する旨の規定を設けることが提案されていました。しかし,このルールには例外が多く認められかねないことや,取消しの場合とのバランスをどうとるかといった問題があることに加え,そもそも贈与契約の解除等が行われ返還義務の範囲が争われることも多いとは思われないことから,規定は設けず,解釈に委ねることとしております。   また,中間試案においては,贈与契約一般について,贈与者の困窮を理由とする解除を認めることが提案されていました。しかし,これに対しては,その合理性には疑問があると指摘する意見が寄せられる反面,賛成するとの意見からは,むしろより緩やかに解除を認めなければ実益に乏しいのではないかとの意見も寄せられております。このような意見の対立状況等を踏まえまして,この論点は取り上げないこととしております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○山野目幹事 第4の1の贈与の定義でございますけれども,想い起こしていただきたいこととして,第2分科会第5回会議において,この贈与の概念をめぐる論議がされています。そこでされた議論の一方は,住友関係官から御紹介があったように,中間試案のように「財産権を・・・移転する」という文言をよろしいという御意見でしたし,それから,そこにたまたま私が出させていただいた意見は,今ここにあるように「財産を・・・与える」という表現のほうがいいのではないかということを申し上げました。改めて議事録を読み直してみますと,それぞれおっしゃった委員・幹事の御意見に根拠があるものであります。今日こういうふうな方向で御提示いただいていることは一つ根拠があると思いますが,引き続き,第2分科会第5回会議の議論の様子などを顧みていただきながら,案文の検討をお進めいただければ幸いであります。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかの御意見はいかがですか。   贈与につきましては,部会資料75Bの第4におきましても贈与を取り扱っておりますので,そちらについて説明をしてもらって…… ○山本(敬)幹事 そちらへ移るのであれば,その前に。定義に関してですが,「財産」にするのか,「財産権」とするのかについては,今御指摘もありましたように議論のあったところなのですけれども,結論として,「財産」のまま維持するという点についての当否は別として,部会資料35ページに書いてある理由の説明は,これで本当に納得がいくのかという疑問があるように思いました。   2段落目の「また」以下で,財産権と呼ぶことができないものを積極的に除外し得る意味を有し得るとして,顧客関係,営業秘密,電気供給における電気等が財産権に含まれないと解されているということが書かれています。これは他方で,では,売買のほうはどうなのかということを考えますと,このような表現で本当に大丈夫かというのが疑問になります。   そしてまた,「さらに」の段落で,「財産権を無償で相手方に移転する」と表現するだけでは,無償の消費貸借との区別が付かないという「難点もある」というわけですが,これは,売買と有償の消費貸借でどうなのかなどという疑問が出てきますので,これはほとんど理由になっていない,ないしは適切な理由になっていないと思われます。   この点は,よくお考えの上,修正していただくことをお願いしたいと思います。そうでないと,なかなか納得が得られないのではないかと思いました。 ○中田委員 今に続くところで,これは内容のことではなくて表現だけのことなのですけれども,34ページから35ページにかけて,中間試案について,それは提案だというふうに書いていて,今の最後のところで,「上記の提案は取り上げないこととしている」というふうに書いていますが,ちょっと表現に違和感を感じます。つまり,中間試案はこの部会における審議の結果がとりまとめられたものであり,それを今回改めるということであって,第三者が取り上げるとか取り上げないという話ではないのではないかと思いますので,そこの表現をちょっとお考えいただければと思います。 ○潮見幹事 先ほどの「財産」と「財産権」のところは,話題にも先ほど出ましたけれども,第2分科会でかなり整理をしたところがありますので,それを踏まえてお書きになっていただいたらいいのではないですか。時間の関係でもう申し上げませんけれども,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかに,よろしいですか。  よろしければ,部会資料75Bの「第4 贈与」について説明をしてもらいます。 ○村松関係官 それでは,部会資料75B,15ページ,訂正後の資料では16ページの「第4 贈与」について御説明いたします。   1は「受贈者に著しい非行があった場合の贈与契約の解除」についてです。   中間試案では,受贈者に推定相続人の廃除事由に該当し得る著しい非行があった場合には,贈与者は贈与契約を解除することができるとすることを提案していました。パブリックコメントの結果を見ると賛否は分かれておりますが,結論的に賛成する意見についても,実際には複数の意見に割れており,この解除を制裁的性質のものと整理するか,あるいは個人的な信頼関係の破壊に伴うものと整理するかの決定が必要なのではないかと思われます。この点は,部会資料にも記載しましたように,一身専属性の有無や原状回復義務の範囲といった点に影響を及ぼすとともに,解除の要件をどのようなものとするかにも大きく影響を与えるものです。そして,解除の要件に関しては,先ほど申し上げたように,中間試案では民法892条の推定相続人の廃除事由を参考とするということとしておりましたが,これに対しては,贈与一般に相続の規定をそのまま持ち込む点で合理性に乏しいのではないかとの指摘が寄せられております。仮に民法892条の要件をそのまま利用しようとするのであれば,このような解除を認める贈与の範囲を一定の家族関係にある者同士の贈与に限定するといったことが考えられますが,その範囲をどのように画するかという問題が生じます。   他方で,民法892条の要件からは離れまして,新たな要件を定立するという方向性も考えられますが,それでは,どのような要件とするのが適切なのか。その場合には,法人・個人間といった贈与を適用範囲に含めないこととする説明が可能かといった問題を検討する必要も生じるものと思われます。   このほか,負担付贈与の場合の適用関係を明示すべきであるとの意見なども寄せられておりますので,これらの論点について一定の方向性を見いだすことが可能か,御審議いただければ幸いです。   2は,「贈与者の責任」について,単に次回以降取り上げることとするもので,特にご審議いただく事項はございません。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。   Bタイプのものには是非積極的に御意見をお出しいただきたいと思っているところでございますけれども,引き続き事務当局において検討するということでよろしいですか。 ○潮見幹事 定見がないので言いたくないのですけれども,1の「受贈者に著しい非行があった場合の贈与契約の解除」という形でいろいろ整理されておりますが,その中の幾つかの点について,制裁的性質という観点からこのルールを捉えるということについてはいかがなものかと思います。むしろ②の個人的な信頼関係の破壊という観点から,この問題というのは従来も議論されてきたし,しかも,そうあるべきではないかというようにも思います。   いろいろパブコメで出ている懸念に対応するものとして,家族共同生活関係とか,あるいは一定の枠組みで,あるいは一定の類型でこのルールの適用範囲を絞るということについては,なかなか難しいのではないかと思いますし,基準がないのではないでしょうか。むしろ,パブコメの懸念に対応するのであれば,中間試案の文言に加えて,例えばですけれども,「これにより贈与の目的を達成することができないときは」とか,何かそういう一つ項目を入れるという形でも対応は可能かなと思いました。   それから,今日取り上げないという2の「贈与者の責任」ですが,次回,大学の校務の関係で来ることができませんし,次々回も早く来て4時ぐらいになるかもしれないので,どうなるか分からないので,一言だけ申し上げます。前に出した意見書の考えに全く変更はないということだけ申し上げておきます。 ○山野目幹事 潮見幹事が適切に方向付けをされたように,16ページの①と②という二つのフィロソフィーが提示されているものの中でいいますと,やはり①ではなくて②の方向で考えていくことが本質であろうと考えます。   その上で申し上げると,②でいくのが筋ですが,②で適切な法制上の要件をくくり出すことができるかどうかということに関しては,私はかなり悲観的なものを感じます。立法としては難しいのではないかということです。結局,個人的な信頼関係の破壊ないし,それをもう少し,多少洗練させるとしても,その要件を法文に掲げられたときと現在とを比べたときに,裁判所がどういう苦労をさせられるのかという問題を考えてみて,この種の個人的な信頼関係の破壊による贈与契約の効力の否定は,いずれにしても裁判所にとって重い仕事ではあるのですが,現在は恐らく,大ざっぱな整理をあえてすれば,贈与契約に係る黙示の意思表示も含むものとしての負担であるとか条件であるとかということを,事例ごとに丁寧に分析した上で認定判断をして,一件一件苦労なさって処理しているものであろうと思います。それではなくて個人的な信頼関係の破壊というふうに言われたときに,これを運用せよと言われた裁判所は,今と比べて,なかなかに大変ではないかと感ずる部分がございます。   そういうことを考えると,ここまでしてきたこの議論の考え方の発想そのものは根拠のあるものですけれども,法制上,運用可能な,明確な法文として成り立たせることについては,相当の困難があるであろうと考えます。 ○中井委員 この問題については,16ページの2の「背信性を理由とする解除の要件について」のすぐ下の4行に,パブリックコメントの結果を簡潔に要約していただいていますけれども,こういう贈与者に解除を認める局面が存在することについては,大きな反対がないという点では一致している。その下に二つの考え方が提示されていますけれども,先ほど潮見幹事,山野目幹事がおっしゃったように,今まで制裁的性質ということでこのような考え方を議論した記憶はないものですから,なぜ急にここで出てきたのかなと。基本的には②の信頼関係の破壊によるものだろう。贈与契約の特質というところから,信頼関係を破壊した場面において,一定の場面で解除を認める。そういう形での合意は少なくとも得られていたのではないか。だからこそ,中間試案36の5として,ここで決定されたものと理解していたのです。   ところが,今,山野目幹事からは,法制上無理がある,つまり要件立てを法文化できないというところを理由に,どうも諦めざるを得ないよねと,こういう雰囲気に聞こえたのですが,ちょっとそこがよく分からないのです。何も個人的信頼関係の破壊があったときに解除できるという要件立てをするわけではなくて,中間試案に書いているように,虐待,重大な侮辱,著しい非行という局面を具体的に指摘して,その場合に解除できるとなっているわけですから,私には,法制上,条文化ができないから,これが残せないという理由がよく分からなかったのです。これが法人間でどうなるのだと聞かれたら,法人間でこのような事態はそう起こらないわけですから,あり得るのは個人間での贈与について,こういう事態が生じて解除する場面が出てくる。そのことを表現しようと思ったら,先ほど潮見幹事からお話があった,贈与の目的を達しないというのがその典型例なのかもしれませんけれども,そういう形で制約を課すことによって,個人的信頼関係の破壊を表してはどうかという御示唆だったと私は理解したのです。少なくともそういう形で,法文化できるのではないかと思うものですから,法文化できないという御説明はよく分からなかった。   中間試案(1)の要件について,共通の理解が得られるなら,あとは一身専属性であり,現存利益の限度での返還であるとすれば,範囲,権利行使者も明らかですから,この中間試案を今後素案にすることの妨げとなる事情はないように思います。 ○山野目幹事 今の御指摘は私に対するお叱りというか質問であるとと思いますから,きちっと説明することができるかどうか分かりませんけれども,申し上げさせていただきます。私も中間試案に賛成した者の一人として決定に関わっていますから,全然忘れましたと申し上げるつもりはありませんが,しかし,パブリックコメントで寄せられた意見などを踏まえて,もう一度考えてみるということは必要であろうと思います。   この問題をどう扱うかということは,市民社会における無償行為の扱い方に非常に重要な影響を与える部分があるのではないかと感じます。   使用貸借も贈与契約も無償契約ですけれども,そして,使用貸借の場合には,必ずしも民法の明文の規律に依拠してはいませんけれども,著しく信頼関係が破壊されたような事情を指摘して使用貸借が終了するというふうに扱った判例もあります。しかし,あれは使用貸借という,おのずと物を貸し借りしていて,やがては貸主に戻ってくるというタイムスパンの中で,その契約を維持するかどうかということの判断が求められていますから,それに固有な場としての信頼関係の破壊がありましたか,ありませんでしたか,ということを問題とすることが自然ですし,あるいは,使用貸借の目的というものもそれなりに明確に観念することができて,それにもとるものですか,そうではないですかということの判断を求められた裁判所は,御苦労はあるとしても,その判断は可能であると思います。   しかし,贈与は所有権を移転してしまうものであります。虐待とか非行とかいう要件でいいではないかと中井委員はおっしゃっいましたが,なるほど,虐待は多くの場合,何らかの物理的行為があることが手掛かりになるでしょうから分かりますけれども,非行というのは何なのでしょうか。一旦あなたに物をあげるよというふうに言っておいて,君は私に対して非行してはいけないよという関係は,どのくらい続くのでしょうか。ずっと贈与者との関係で非行と言われるかもしれないことをしてはいけないという状況に置かれるような関係,それのような状態に贈与をする市民と受け取った市民との関係というものを契約のルールによるコントロールとして置くことが,健全な社会を導き出すのに果たして適切なことであるか,という問題があるものできないでしょうか。そのような問題の適切な処理ということが可能になるように裁判所にお仕事をお願いするということを考えると,やはり心配が残るということは感じたものですから,申し上げておきたかったということでございます。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○大村幹事 今の点について私は,結論は潮見さんの意見に賛成です。   ただ,山野目さんの御懸念というのも非常によく分かるところがございます。中井委員もおっしゃったことなのですけれども,「著しい非行」というのが独り歩きしているところがあるように思います。これは中間試案自体が持っていた問題なのかもしれませんけれども,相続人の廃除事由との関係で規定を設けることがよかろうというところから出発しているので,こうした書き方を選ぶことにならざるを得なかったところがあると思います。ところが,これだけが動き出してしまうと収拾がつかないのではないかという懸念が出てきているわけです。   これに一定の制約を掛けるためには,やはり潮見さんがおっしゃったような,贈与の目的というか,動機になっている事柄が達成できないということが,その背後にあるのだということを明示することで対応できるのではないかと思っております。 ○道垣内幹事 山野目幹事の意見が単独になってしまっているので,発言しておきますが,私は山野目幹事に賛成です。 ○鎌田部会長 御意見を踏まえて,更に検討を続けさせていただきます。   次に,75Aの第1に戻らせていただきます。75Aの「第1 契約に関する基本原則」の「1 契約自由の原則」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 部会資料75A,1ページの第1「1 契約自由の原則」について御説明いたします。   契約自由の原則については,中間試案においては,内容決定の自由についてのみ規定を設けるという考え方が示されていました。しかし,契約自由の原則に属するとされている幾つかの原則のうち,内容決定の自由についてのみ規定を設けて,その他の原則について規定を設けない根拠が不明確であるとの指摘もあり,また,中間試案においても,契約交渉の不当破棄の箇所では,間接的な形ではありますが,当事者が契約締結の自由を有することが示されておりました。   そこで,今回の部会資料においては,内容決定の自由だけでなく,契約締結の自由や方式の自由についても規定を設けることとし,それぞれの原則とその例外として制約があることを併せて規定するという考え方をお示しております。また,相手方選択の自由についても素案(1)によって表現されることになると考えています。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。御自由に御発言ください。   特に御異論はないと思ってよろしいですか。 ○中田委員 第1の1(2)の意味について確認したいと思います。これは,複数のテーマに関連している規律ではないかと思いました。一つは方式の自由,二つ目が要物性に対する諾成主義の原則,三つ目が契約の拘束力の根拠を当事者の合意に求めること,それから四つ目として契約の成立時期です。これらのうちの何をこの規律は表そうとしていて,何についてはコミットしないのか,そこはやや曖昧な感じがしました。また,今四つ申し上げましたが,四つの関係についてももちろん議論があるわけなのですけれども,それが少し曖昧になっているように思いました。それから,四番目に申し上げた契約の成立時期については,部会資料67で契約の成立についての素案があるものですから,それとの関係も整理しておく必要があると思いました。 ○鎌田部会長 今の点について,事務当局から説明をして下さい。 ○笹井関係官 元々の意図は,契約自由の原則に含まれていると言われる方式の自由を書くというものです。要物に対する諾成主義とおっしゃったのは,それは方式の自由の一つの表れであると思っておりますので,そういう意味では,ここで表現されていることの一内容なのではないかと思います。契約の拘束力の根拠をどこに求めるかという問題は,そこまでは(2)で扱うというつもりではございませんでしたし,成立時期については,中田先生から御指摘ありましたように,むしろ申込みと承諾のところで示しておりますので,そちらのほうで扱っていると考えております。(2)では,そのことはまた別問題というふうに考えておりました。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○中田委員 はい,趣旨は理解いたしました。   ただ,拘束力の根拠についてはコミットしていないのだということは,それははっきりさせておいたほうがいいのではないかと思います。   それから,方式の自由と諾成主義との関係については,これは議論があるところだと思いますけれども,それについては両方を表しているというのが御趣旨だということですね。そこはただ解釈の問題になると思いますけれども。 ○笹井関係官 拘束力についてコミットしていないのを明らかにしておくべきだというのは,本文の中で表現しておくべきだという御趣旨でしょうか。 ○中田委員 これも解釈の問題だと思うのですけれども,説明事項だろうと思いますが。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○山野目幹事 1の(1)をこの素案のような形でお進めいただくことには反対いたしません。その理解,説明のことに関して,自分なりの理解と,できればそういうふうに説明していただければ有り難いという要望を申し上げます。   1の(1)は,その文言のとおり,契約を締結するかしないかの自由をうたうというところに主眼があるのであって,相手方を選択する自由というものは,これそのものの少なくとも中心的な意義を持つものではなくて,それは(1)から副次的に引き出される事柄ではないかというふうに感じます。「法令に特別の定めがある場合を除き」という留保はありますけれども,1の(1)のような規律が置かれることが,今後の雇用の分野における男女の機会均等に係る政策のようなものについて悪い影響を与えることがないよう,できれば良い影響が生ずるような仕方で解釈・運用がされることを望むという見地が背景にございます。 ○大村幹事 今の山野目さんの意見に賛成します。 ○笹井関係官 今の御指摘ですけれども,先ほどの説明のところで,相手方選択の自由も(1)に含まれていると申し上げましたけれども,正しく山野目先生がおっしゃったとおり,これは副次的に出てくるため,別途独立の規定を設ける必要はないという趣旨で申し上げました。 ○鎌田部会長 それでは次に,「第1 契約に関する基本原則」の「2 債務の履行が契約成立時に不能であった場合の契約の効力」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 部会資料75A,2ページですけれども,「債務の履行が契約成立時に不能であった場合の契約の効力」について御説明いたします。   ここでは,原始的不能は,それ自体としては契約の無効を導かないという考え方を示しており,表現に微修正を加えておりますが,実質的には中間試案からの変更はありません。原始的不能自体が契約の無効原因にならないということは,当然のことですけれども,錯誤や契約解釈など,ほかの原因によって契約の効力が失われることまで否定するものではありません。   それから,取り上げなかった論点についても併せて御説明いたします。   中間試案においては,付随義務及び保護義務に関する規定を設けることとされていました。しかし,「契約の趣旨に照らして必要と認められる行為」という表現が抽象的で,当事者の予測可能性や裁判規範としての明確性の観点から問題があるとの指摘もあり,このような規定を設けるかどうかについては,部会内の意見も,またパブリックコメントの手続に寄せられた意見も分かれております。これらを踏まえて,付随義務及び保護義務については取り上げないことといたしました。   また,中間試案においては,信義則等の一般原則の適用に当たって,当事者間に情報や交渉力の格差があるときは,これを考慮しなければならないという規定を設ける考え方が採られていました。これについても,部会内の意見が対立しておりますし,またその上,パブリックコメントの手続に寄せられた意見を見ても,社会が多様化し,対等でない当事者間の契約は増加していることなどを重視して,中間試案の考え方を支持する意見と,このような規定は基本法としての民法の性格を大きく修正することになるなどとして,強く批判する意見も多くございます。こういった意見の対立状況に鑑みて,この論点についても取り上げないことといたしました。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。 ○佐成委員 2のゴシックのところですけれども,これについて,我々のほうのパブコメでの意見では,当初,原始的に履行請求権の限界事由が生じていた場合には契約は無効となると,そういった実務的な理解といいますか,そういったものが定着しているということを理由に,反対ということを述べたわけなのですけれども,今回改めて内部で議論しましたところ,積極的にこの規定について賛成するという意見はなかったのですけれども,強い反対意見というのは見られなかったということだけ御報告させていただきたいと思います。 ○岡田委員 意見ということではないのですが,今回取り上げられなかった付随義務及び保護義務と信義則,これ,入ればすごく分かりやすくなるかなと思って期待していただけに,大変残念だということだけ述べたいと思います。 ○岡委員 残念だで済まないという意見を申し上げたいと思います。   付随義務・保護義務及び信義則等の適用に当たっての考慮要素,取り分け後者については,弁護士会としては保証に次ぐ最重要論点として考えておるところでございますので,何としても復活をお願いしたいという意見でございます。   私のほうは信義則のほうをまずしゃべらせていただきます。   配布させていただいた大阪弁護士会の資料の2ページを御覧いただきたいと思います。これは,取り上げなかった理由でいろいろ言われている意見を全部採用して,この程度の表現であれば反対論とも調和できるのではないかという意見でございます。   特に交渉力,情報及び交渉力の格差だけを特別視すべきではないという意見がありました。この格差という言葉にかなり反対意見があったようでございます。この点については,「格差」という言葉はもうコンセンサスが得られないのであればやむを得ない。このゴチック体のところを見ていただければ,情報の質・量並びに交渉力の存否・程度を含むとしています。例示程度にとどめるという案でございます。これも,「属性」としておりますけれども,2ページの下のところの情報提供義務のところを見ていただきますと,「各当事者の知識及び経験」という言葉もございまして,「知識及び経験」という言葉のほうがなお通りやすいということであれば,「属性」というのもなかなか余り法令に見ない言葉ですので,「知識及び経験」という言葉でもいいと思います。ないよりは,こういう規定を是非残すべきであるという意見でございます。   それから,取り上げなかった理由のところで,「一般法である民法に弱者の保護を目的とする政策的な考慮を持ち込む必要はなく」と書かれています。しかし何も政策的な保護を目的としておるものではなく,もう既に判例法理等に定着しておる,当事者のそれぞれの状況を踏まえる,考慮すると,こういう観点でございます。中間試案の段階では「しなければならない」となっていものを,「考慮するものとする」とも修正しました。こういう表現に落として反発のある方々との調和を図りたいと考えています。こういう趣旨で最後まで汗をかくつもりでございますので,この点は是非この部会での御理解を得たいと思いますし,当局におかれましても,粘り腰をここでも見せていただきたいと強く思います。 ○中井委員 同じところを発言させていただこうと思っていました。   信義則等の適用に当たっての考慮要素についてですけれども,民法にこのような規定を置くのは適当でない,正に格差に注目をした規定というところで,かなりの御批判を受けたようです。少なくとも「格差」という表現について省いたことは,今,岡委員がおっしゃったとおりで,かつ,中間試案にありました消費者と事業者との間で締結される契約という例示についても,今現在,消費者概念と事業者概念を基本的には入れないという方向になっておりますので,それも省く。それを前提に考えたときに,現実に信義則というのは,抽象的な人,抽象的な事態に対して適用されるなんていうことはあり得ないわけで,個別具体的な事案に応じて,その契約当事者の属性や地位や知識や経験,それを見た上で裁判所は御苦労されて適用していると。そこにあわせて,契約の目的や性質,そして契約締結に至る事情,これらを考慮して判断されているわけですから,そのこと自体を改めて民法において宣言しておく意義というのはやはりあるだろうと。民法1条に単に2行書かれているものについて,その具体的内実を与える,特にそれが契約に適用される場面において,その内実を与えるということの意義はやはりあると考えております。   逆に,従前の中間試案に反対をされていた個々の理由については,お手元に配布させていただいた大阪弁護士会有志案であれば,全てそれを斟酌して取り除いたということになります。逆に,では,何の意味があるのかという御批判が必ず出てくるのかと思いますけれども,先ほど申し上げましたような具体的な適用に当たっては,これらの考慮要素,これらの事情を考慮していることは明らかなわけですから,明らかな定めを置いておくということは,何ら弊害はないはずで,今後の適用をするに当たっての基準として機能すれば,機能することを期待して,置いておくべきではないかという考えです。   重ねてですけれども,弁護士会としては,この規定を置くことについて,今回の民法改正の中の最重要課題の一つに位置付けているということを改めて申し上げておきたいと思います。   それからもう1点,付随義務と保護義務についても残念ながら落ちたわけです。   この付随義務と保護義務についても,裁判例においては個別具体的な事案の中で認められているわけですけれども,審議に当たっては,それをいかに要件化するかということで,また類型化し,少なくとも付随義務と保護義務に類型化し,かつ,それぞれの要件について,ある意味で緻密な検討を加えて立てようとしたわけですけれども,結果として,付随義務については,当該契約によって得ようとした利益を得ることができるように必要な行為をするということについて,極めて広い義務が認められるのではないかという,そういう強い懸念が表明されたのではないかと思います。しかし他方で,保護義務の生命,身体,財産その他の利益を害しないようにする,そのために必要と認める行為,こちらについては基本的にそれほど強い批判はなかったのではないか。   そうしたら,この二つ,考え方の基礎には共通したものがあると言えるわけですけれども,付随義務についても,少なくとも契約の目的を達するように必要な行為をする。更にもっと限定すれば,契約の目的を害するような行為はしないわけですから,害するような事態になったら,やはりその契約の目的を害しないように必要な行為をする。その限りでは,恐らくそういう義務の存在が存在することは否定されないだろうと。ですから,義務のある場面を一番絞ったものとして考えて,どのような規律が置けないか。   そこから,大阪弁護士会有志案になりますけれども,1の付随義務及び保護義務を,そういう意味で契約の目的を害したり,相手方の生命,身体,財産その他の利益を害したり,そのようなことをしないように必要と認められる行為はしてくださいねという限りにおいて,明文化するという提案をしています。これは,一番絞ったところの部分を残すということです。このことによって,決してこれだけの義務しかなくて,それ以外の義務がないというふうにはならないと思いますし,この義務を核として,更に必要な保護義務若しくは付随義務が当然認められていくものになるというふうに期待しています。   ○岡田委員 弁護士会の応援で力を得たわけではないのですが,私にとっても,この二つのことだけが私の仕事の目的かなと思ってきたのですよ,本当のことを言いますと。ですから,本当はもうがんがん言いたかったのですが,余り素人がめちゃくちゃなことを言ってもいけないと思ったのです。今の大阪弁護士会ないし岡弁護士の話で,そういう形であっても,是非ともやはり何らか残していただきたいと願います。それが私たち消費者だけではなくて零細企業にとっても本当のよりどころであるということを,言わせて頂きます。 ○深山幹事 私も同じような趣旨の発言になりますが,取り分け付随義務・保護義務のほうについて申し上げたいと思います。   大阪弁護士会のほうで意見をまとめているところと重なるところもありますけれども,裁判実務上でも,付随義務や保護義務が認められて判断されている事例というのは多数あることは言うまでもありません。判例,学説上も確立された解釈として,本来的な義務以外に付随義務・保護義務と言われるものがあって,その規律に従って判断されているということは異論のないところだろうと思います。   この問題は,一面では信義則の具体化という側面があって,現行法の1条2項をもう少し具体化するという側面があろうかと思います。これを変えたことによってどれほど具体化するのかという批判もあるのかもしれませんけれども,何もない今と比べれば,より具体化するといいますか,その規範が明確になるということは言えるのではないかという気がしますので,その意味で明文化する意味があろうかと思います。   もう一つの側面としては,取り分け付随義務に関して,契約の解釈ないし意思解釈の問題として,明示的に一方当事者が相手方に何々をしなければならないとか,何々をしてはいけないというふうに意思表示されていないことであっても,当然その契約によって目指されている,あるいは目的とされている権利義務関係を実現するためには,付随的に,こういうこともしなければいけない,あるいは,こういうことをしてはいけないということが,周辺的な義務としてあるときに,そこに抵触する行為が行われたり,事象があってトラブルになるということは少なからずあろうかと思います。信義則と言ってもいいのかもしれませんが,契約の意思解釈を補充するような基盤ないし根拠として,付随義務を位置付けることもできようかと思います。   いずれにしましても,本来の債権債務,中心的な債権債務以外のところで,実務上トラブルが起きるということはままあって,それによって生じる法的効果としては損害賠償という形になるのでしょうけれども,利害調整をしなければならない場面というのはままあるので,その根拠を民法の中に置くということについては非常に大きな意味があろうと思います。   最後に,この二つの義務の関係について,大阪弁護士会のほうでは一つにまとめたような提案になっております。広い意味では保護義務と言われるものも付随的な義務という位置付けはできるので,まとめることも不可能ではないと思うのですけれども,無理にまとめなくてもいいのかなという気もしております。これは条文の作り方の問題,表現の形式的な問題なので,余りこだわるところではないのですが,大阪弁護士会の提案は,元々中間試案で付随義務と保護義務を分けていたものをやや強引にくっつけた感もあって,ちょっと表現としてこなれていないなという印象を持ったものですから,そこをもう少しブラッシュアップできればそれでもいいし,無理に二つをくっつけなくてもいいのかなと思っております。   いずれにしても,明文規定を望むものであります。 ○高須幹事 今,岡田委員から5年に及ぶ努力がこの2点にあったという発言がなされたことは極めて重いものだと思いました。そういう意味では同じ部分の話でございますが,資料にいただいた4ページのところの「信義則等の適用に当たっての考慮要素」のところで,反対意見という形で指摘されていることについて,我々は,もう一回冷静に考えたほうがいいのではないかという気持ちを持っております。   つまり,一般法である民法に弱者の保護を目的とする政策的な考慮を持ち込むのではないか,後でおまとめいただいているところで,そういうふうに言われることには疑問もあるがという指摘は確かに置かれておりますので,そういう御指摘のとおりだと思うのですが,本当に今回の「信義則等の適用に当たっての考慮要素」を置くという規定が民法の性格を変えようとしているものなのかどうか。むしろやはり,対等当事者における規律を定めるという民法に基づいて,ただ,そこに信義則を置いているということ。信義則は当然調整要素なわけですから,その調整要素の中にはいろいろな考慮要素があるということを定めようとしているということだけであるとすれば,決して民法の性格を変えようとしているのではないのではないかと思います。   その意味で,こういう切り口で結局議論をすれば,どうしたって民法をどのようなものと捉えますかという意見の違いから,なかなか合意形成は難しいという形になるのですが,もう一度冷静に考えれば,ここは飽くまで新たな何か具体的な要件,効果を定める条項を新設しようではなくて,従来,日本法に持っている信義則の規定をまず前提として,その信義則の適用に当たっての考慮要素に,これまで従来言われてきたものを明文化しようということではないのかと思います。そうだとすると必ずしも,何か根本的レベルからの批判も寄せられているので合意形成が難しいのではないかという取り上げ方というのは,ややそういうふうな視点から見てしまえば,どうしてもこれはもう結論ありきになってしまうと思いますので,もう一度,そもそもこの規定が持っている意味というものを冷静に考えていったらどうなのかなと思います。   深山先生がおっしゃった保護義務・付随義務はそうなわけですけれども,飽くまでこの二つの条文は調整要素としての規律の位置付けでございますから,調整要素がいろいろな考慮から成り立つということ自体を明確にするというのは非常に重要なことであって,そこにまで何か厳格なというか,硬直的な姿勢で何かことにこだわると,民法で非常に調整ということができなくなってしまう危険があるのではないかと思いますので,この2条というのはとても大事だろうと思います。   その上で,信義則のほうに戻りますが,もう一つの批判が4ページに書かれているのは,なぜ属性のところだけを切り出したのかという御批判。これは確かに,そこだけと言われるとまた,調整のためにいろいろなことを考えろと言うているのに,おかしいではないかという批判が出るのかもしれませんが,そこは大阪弁護士会に今回工夫していただいて,今日提出されていますように,いろいろな要素ももちろん組み込んで規律を設けたらどうかというのは一つの解決方法ではないかと思いますので,そういう意味では,ほとんど同じような意見になりますが,今回見送った論点とされている26の3と26の4については,やはりもう一度見直していただくことが重要ではないかと思います。 ○大村幹事 私も見送った論点の中間試案第26の4についてですけれども,実質についての意見は,これまでも何度も申し上げてきましたので,ここでは繰り返しは申し上げません。   見送るということになるのならば,それはそれで仕方がないのですけれども,この理由として書かれている最後の6行は,やはりもう少し御検討を頂く必要があるのではないかと思っております。「中間試案は,現在でも考慮されている要素を,今日の社会におけるその重要性に鑑みて確認的に規定することを意図したものであり」と書いた上で,「これが民法の性格を変化させるという批判には疑問があるが」と取りあえずお書きいただいているわけです。私もこの批判には賛成いたしませんが,そう書いてあった後に,「いずれにしても」と受けて,「調整を図る余地は乏しい」と書かれております。これでは反対の人がいるから立法できませんということを言っているだけのことになってしまい,反対の方にとっても本意ではないと思うのですね。立法の際の理由としてはもう少し工夫が必要なのではないかと思います。 ○潮見幹事 中間試案の26の3についてのみ申し上げます。何人かの先生がおっしゃられたことに賛成するということと,それから少しだけ私の意見を申し上げたいと思います。   中間試案の26の3というのは基本的に,どなたかがおっしゃりましたように,(1)と(2)は,現在,債務における義務というものはどのようなものであるかということで,恐らく確立した考え方ではなかろうかと思います。抽象論においては,これから後,また取り上げるのでしょうけれども,契約交渉の不当破棄の場合のルールだとか,あるいは中間試案で示されている情報提供義務のルールと,それほど違いはないものでもあります。そういう意味では,この規定を設けることによって何か特段変なことにはならないとも思いますし,あるいは,そういう解釈を許すというような風土が日本の中にあるとしたら,それは裁判実務を中心とした日本の実務自体が大きな問題を抱えているということの証左にもなろうかと思いますし,そんなことは決して私はないと信じておって,そういう意味では,このような規定を置くというのも一つの方法ではないでしょうか。   そのときには,これは深山幹事がおっしゃったことですけれども,仮に設けようとしたならば,大阪弁護士会の案には反対です。むしろ中間試案のような形で設けていただきたい。   さらに,もうどうしてもこれは無理だということであれば,せめて(2)の保護義務の部分については何とか検討していただきたい。   どなたかの御発言にもありましたが,(1)のほうは,付随義務と呼ぶかとどうかは別として,これは契約によって得られる利益を確保することを目的とした義務として考えられているものであり,それについては,場合によれば,契約の解釈だとか,あるいは信義則に基づく補充という形で処理をすればいいという説明もあり得ないわけではないと思います。   他方,(2)のは,保護義務,正確には,契約の外にある利益,生命,身体等の完全性利益を保護することを目的とした義務であって,こういうものを契約の中の義務あるいは契約に関連する義務として取り上げるということ自体にルールを一つ新たに設ける価値があるのではないかと思います。不法行為に完全に委ねてしまわないと。契約の中での問題として処理をする,しかも,こういうものが契約規範として出てくるのだということを示すという点で,せめて(2)だけは残していただきたいと思います。   同じようなルールはドイツ民法等にもあります。ドイツでこういうものを置いたからといって何か実務的に不都合なことが起きているというようなことは,私は聞いたことがありませんし,実際にドイツの経済もえまくいっています。そういう意味では,基本的なルールとして,(2)を設けることに支障はない。これが私の考えです。 ○道垣内幹事 私は大したことを言うわけではなくて,見送りの理由についての記載において,一般法である民法の性格を変えるとか変えないかとかという問題を立て,現在でも考慮されている要素を規定しただけなのだから性格を変えていないといったことが書いてあるわけですが,それは民法の性格についてのコンセンサスがないと書けない文章であり,そういうことは書いてほしくない。私はそもそもそういうふうに民法の性格を捉えていませんし,性格を一元的に説明できるかも問題です。したがって,民法の性格について,コンセンサスがあたかもあるようには書いてほしくない。結論ではなくて,説明のところだけです。 ○山本(敬)幹事 中間試案第26の3のほうについてで,潮見幹事と同じことばかり言うのもどうかと思うのですが,もう少しだけ付け加えて申し上げたいと思います。少なくとも保護義務について明文化することには意味がありますし,そして,中間試案で書かれていることは,それ自体として意味があるということを申し上げたいと思います。   それは,先ほど潮見幹事が言われたことでもあるのですが,中間試案では(2)において,「当該契約の締結又は当該契約に基づく債権の行使若しくは債務の履行に当たり,相手方の生命,身体,財産その他の利益を害しないために当該契約の趣旨に照らして必要と認められる行為をしなければならないものとする」と提案しています。これは,不法行為法で認められる義務とこのように契約に関連して出てくる義務が同じかどうものかどうかという問題について,契約上の責任を基礎付ける義務として認められるものは,「契約の趣旨に照らし必要と認められる行為をしなければならない」という義務であることをはっきりと示しているのではないかと思います。契約に関わるものであれば何でも契約責任を基礎づけるわけではないということを定めるのは,このような場合でも契約責任が認められていることを示すという先ほどのような意味と同時に,一定の枠をかけているという意味もあると思います。   その意味で,書かなくても分かるというものではなく,やはり書くべき事柄ではないかと思います。したがって,少なくとも保護義務に関しては明文化をすべきであると私も強く申し上げたいと思います。これだけ判例・学説の積み上げがあり,そして,この場でも相当な議論を交わしていながら,これが完全に落ちるということが果たして21世紀の契約法として適当なのかというと,私は大きな疑問があると申し上げたいと思います。 ○中井委員 潮見幹事に大阪案は反対だとおっしゃっていただきましたけれども,潮見先生の考え方に恐らく大阪有志の全員が賛成していると,かつ,山本敬三先生の考えにも賛成していると思います。見ていただいたら分かりますように,大阪有志案は木に竹を接いだようなところがあるのですが,基本は,保護義務は何としても達成したいというので,保護義務のところを基本ベースにして,契約の目的を達成するために,本当は利益の方向でも必要なことを書きたかったのだけれども,そこまでは書きにくかったので,契約の目的を害しないという変な言葉になって,深山さん御指摘の御批判を受けるに至っているわけです。気持ちは潮見先生,山本先生と全く同じですので,反対とは言わず,賛成なのだけれども書き方がまずいと,こういう表現に是非直していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかには御意見,いかがでしょうか。次の項目も密接に関連するかと思います。 ○佐成委員 今,弁護士会を中心として,取り上げなかった論点のところで幾つか出ておりまして,私がこの場でどうこう言う話では全くないのですけれども,産業界の感触としては,まず,信義則の具体化という方向性について,かなり違和感を覚えているというのが産業界のかなり大きな部分,大多数なのですね。ですので,なかなかその辺りで,これを説得していくのがどれぐらいできるかなというのは,若干懸念をしているところであります。 ○鎌田部会長 次に,部会資料75Aの「第2 契約交渉段階(契約交渉の不当破棄)」について御審議いただきたいと思います。事務局当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 部会資料75A,4ページになりますが,「第2 契約交渉段階(契約交渉の不当破棄)」について御説明いたします。   中間試案においては,前段で,契約交渉の当事者は契約が成立しなかったとしても原則として損害賠償を負わないことを規定し,後段で,例外的に損害賠償を負う場合について規定を設けることとされていました。今回の資料では,契約自由の原則の箇所に,契約締結の自由に関する規定を設けることとしたため,前段はそちらに移動し,後段の規定のみを設けるという考え方をお示ししております。その表現については修正を加えておりますが,内容に変更を加えるのではなく,実質的には中間試案を維持する趣旨でございます。   ここで,三浦関係官から書面による意見陳述を頂いておりますので,それについても併せてお答えしておきたいと思います。   三浦関係官の御指摘は,「契約の成立が確実であると相手方に信じさせるに足りる行為」というゴシックの表現が,この要件に関して,この要件のいろいろな事情を総合的に考慮した上で認定されるという点を確認したいということですけれども,事務当局としても,三浦関係官の御指摘のとおりであるというふうに考えておりまして,ここでいう「相手方に信じさせるに足りる」というのは,正しく取引通念上,相手方がそういうふうに信じるのももっともであるといえるような態度を一方の当事者がとったということですが,それがもっともであるかどうかというのは取引通念から判断されることですので,同じ態度が場合によってはこれに該当し,あるいはこれに該当しないということもあり得る。それは周辺の様々な事情を考慮して,総合的に判断されるというふうに考えております。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いいたします。 ○佐成委員 内部でやはりこの点について議論をしましたので,発言いたします。まず,中間試案では,信義則に委ねたほうがいいのではないかと,その方が柔軟な解釈が可能であるということで,反対意見を述べておりました。   それで,今回,あまり十分な議論はできなかったのですけれども,まだ依然として不当な紛争が惹起されるというような懸念は表明されていたということです。確かに,この提案自体は,私も拝見しまして,限定されているし,非常に明確化されているという点は,産業界としても評価はできるのではないかというふうに感じております。そうはいっても,やはり内部で議論している限りでは,まだいろいろ懸念を表明されていて,依然として賛成できるような状況というのではなさそうな感じでございます。   それと,もう一つ申し上げておきたいのが,これは三浦関係官のペーパーにも書かれておりますけれども,非常に限定的で明確化されてはいるのですけれども,逆に,それによって現在の,裁判上,柔軟に信義則の解釈で展開されているような部分が制約されるとか,何かそういったようなネガティブなことにならないかと,そういったところも若干問題が出てくるかもしれないなというふうに感じております。 ○大島委員 今の意見と似ていますが,交渉力に乏しいケースが多い中小企業を契約交渉の不当破棄から保護する必要性は高いと考えており,判例とか学説を適切に捉えた上で規定を設けることは望ましいと考えています。基本的には部会資料の提案に賛成いたしますが,2点ほど意見を申し上げます。   まず,中間試案で設けられた契約が成立しなかった場合であっても,相手方に生じた損害を賠償する責任を負わないものとする原則的な規定は残すべきだと考えております。契約自由の原則との重複を避けるとの説明はありますが,法律の専門家ではない者にとっては,先ほどの原則的な規定の内容を契約自由の原則の条文から読み取ることは困難ではないかと考えます。   2点目としてこの規定ぶりで契約交渉の不当破棄による損害賠償が認められる範囲が現在の判例よりも狭まることがないことを確認させていただきたいと思います。 ○笹井関係官 大島委員から2点ございましたのと,あと,2点目は佐成委員からの御指摘とも関連すると思いますので,併せてお答えしておきたいと思います。   まず1点目の,原則を残すべきであるというところですけれども,ここは大島委員も御指摘になっておられましたが,また,先ほどの私の説明とも重複するところもありますけれども,場所がちょっと分かれてしまうというところはありますけれども,契約自由の原則のところで,契約をするのかしないのかを自由に選択することができるのだということがかなり明確に書かれておりますので,契約当事者がそういう自由を持っているということはかなり明確になっているのではないかというように考えているところです。   それから,要件立てのところですが,ここはまた,もちろん条文化に向けて更に要件を精査していきたいとは思っておりますけれども,基本的な意図としましては,これはもうずっと御説明してきましたとおり,これまでの裁判例を何か変えるというより,基本的にはこういった様々な裁判例を考慮して,こういった要件であれば基本的に今までの実務に変更を加えないような要件立てになっているのではないかというふうに考えているところです。   佐成委員からは,今までの信義則を使った柔軟性が失われるのではないかというような御指摘もございましたけれども,そこは先ほど三浦関係官の意見陳述のときにも申し上げましたとおり,社会通念を取り込んだ上で当事者の行為を評価していくという要件を組み入れておりますので,その解釈適用の中で柔軟性は保てるのではないかと考えているところです。 ○中田委員 ちょっと私は誤解していたのかもしれないのですが,今回の素案は中間試案よりも絞ったのではないかというふうに読んでいました。   というのは,今回の提案では,「相手方に信じさせるに足りる行為をした」ということが要件となっていて,先行行為があって,それに矛盾するようなことをした場合のこと,いわゆる誤信惹起型であろうかと思います。これに対し,中間試案の場合ですと,「相手方が契約の成立が確実であると信じ」という要件ですので,いわゆる信頼裏切り型というのを含んでいるのではないかと思います。その説明の中では,信頼裏切り型は適当ではないというふうに評価しておられるように思ったのですけれども,学説では,むしろこれを含める見解が有力でありますし,判例でも,そのようなものとして理解されている判決がございます。元々,誤信惹起型は通常の不法行為責任を問うことが難しくない類型でありまして,それだけを規定して,それ以外は排除するという立法は,むしろ現在の判例・学説の条文化というよりも,少し限定してしまっているのではないか,また,将来の判例・学説の展開という観点からも制約的な効果を持つのではないかという気がいたしますので,私はむしろ中間試案のほうがよいと思っています。   ただ,そうすると,また経済界から強い反発を受けると思いますので,条文化は難しい,御苦労が多いということかとは思うのですけれども,ただ,信頼裏切り型と言われているものも制約しないような形にしていただければと思います。 ○笹井関係官 ここに関しては,中間試案が非常に複雑で,いろいろな要件が重なっていたりして,文章として読みにくいところもあったので,少しシンプルにしようという意図で書き改めたつもりでした。そういう意味で,誤信惹起型に限ったとか,信頼型を外すことを意図していたわけではございません。確かに誤信を惹起したというか,ある種の先行行為があってというのは中田先生が御指摘のとおりではありますけれども,ただ,全く何の行為もなく不当破棄になるということはなくて,やはり当事者間に一定の交渉があって,交渉が積み重ねられる過程での交渉態度であるとか,交渉でどういう発言をしたかとか,そういうことから,相手方に契約はきっと成立するのだろうという信頼が生まれてくるという場面を考えておりましたので,それで信頼裏切り型も包摂できるのではないかとは思っていたところです。ただ,限定的に読まれるのではないかという御指摘でありましたら,もう一度要件の表現などについては考えてみたいと思います。 ○岡崎幹事 今のやり取りで大体尽くされているような感もあるのですけれども,今回の提案をいわば裁判規範として眺めてみたときに,これが果たしてこれまでの判例も含めた裁判例を説明するものなのかどうかというところは,ちょっとどうだろうかという印象は持っておりました。やはり中田委員がおっしゃったように,中間試案と比べたときには,少し限定的な印象は受けるというふうに感じております。   今,御意見の中で出てきている話ではあるのですけれども,2点ほど指摘をしておきたいと思います。一つは,「契約の成立が確実であると相手方に信じさせるに足りる行為をした」という,何らかの作為を求めているかのような表現になっているわけですけれども,例えば一つ裁判例を挙げますと,東京高裁の平成14年3月13日判決は,原告が賃貸借契約を締結しようとしていた賃借人的な立場の人,被告が賃貸人的な立場の人で,最終的には賃貸借契約が成立しなかったという事案において,賃借人的な立場の人が賃貸借契約書の原案を作っていろいろと要望していたのに対して,賃貸人的な立場の人は黙っていたということ。それから,賃借人的な立場の人が賃貸借契約が締結される先を見越していろいろと準備行為をしていたのを賃貸人側は見ていたのだけれども,これも放置していたこと。ところが,その後にもっといい条件で借りる人が出てきたということで,元の賃借人的な立場の人との間での契約は締結せずに,後から出てきたいい条件の人と契約を締結した。こういう事案なのですけれども,これについて契約交渉の不当破棄というようなことで損害賠償責任を負わせているような事案です。このような不作為のようなタイプのものについて,積極的に何らかの信じさせるに足りる行為をしたかというと,それはそうでもないのかという読み方ができるかと思いまして,現在の裁判例を網羅できているものかというところに若干疑問があると思いました。   もう一つ,これは裁判所の中間試案に対するパブコメの中でも挙げた判例なのですけれども,最高裁平成19年2月27日判決という判例がありまして,これは,何かゲームの装置を開発するというような契約で,開発者がいて,注文者がいて,更にその注文者に対して注文している人がいると,こういう三重構造になっているのですけれども,注文者に対して更に注文している人が最終的な交渉決裂の主たる原因を作ったという人のようでございます。こういうような,契約の当事者そのものが破棄の中心的な,決裂の主たる原因をなしたというわけではなくて,第三者が主たる原因をなしているというようなケースについても,この平成19年の判例では,契約準備段階における信義則上の注意義務違反を理由として損害賠償責任を負うとしたものでございます。   これは非常に難しいことと思うのが,これらの事例,ほかにも似たようなケースがあるのですけれども,これら全ての肯定事例を包摂するような文言をどうやって書くかというところは非常に難しいところで,今のような肯定例をカバーしようと思うと,勢い,文言が広くなるか,又は曖昧にするか,どちらかしか方法がなくて,その場合に,果たしてコンセンサスが得られるのかどうかというところが今度は問題になってきて,そういう意味で,非常にこれは難しいところだろうというふうに感じているところでございます。 ○鎌田部会長 御指摘のような点を踏まえて,更に検討を続けさせていただくということでよろしいですか。 ○中井委員 1点,今の点ですけれども,中間試案では,契約の成立が確実であると信じたことと,後半に,いわゆる契約交渉過程の一切の事情に照らして,そう信じることが相当という,この二つ並びにしていた。今回それを,「契約の成立が確実であると相手方に信じさせるに足りる行為」という形でまとめられている。三浦関係官も,一つの懸念としては,経過の諸事情のところが捨象されるのではないかという懸念からの質問のようにも思われます。   ここで「信じさせるに足りる行為」といっても,これは信じさせるに足りると評価される行為を恐らく規範的に考えるしかない。そういう行為は,場合によっては,今の例でいえば不作為的なものも含まれるのかもしれない。そうだとすると,ここに修飾するのは,やはり交渉過程の諸事情に照らして,そういう信じさせるに足りると評価される行為,という評価があって初めて認められるのだろうと思うのですね。だとすれば,今のような御懸念を解消するには,この契約の成立が確実であると相手方に信じさせるに足りる行為と評価される前提として,前に加えるということになるのかもしれませんけれども,この中間試案にあるような,契約の性質や交渉の進捗状況その他の一切の事情に照らして,入れることによって相当程度解決できるのではないかと思うのです。それも踏まえて御検討を続けていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○沖野幹事 5ページの4の,先ほども問題とされ,既に発言のあった原則との関係です。中間試案は,契約締結の自由と交渉の不当破棄と書かれていましたものの,契約締結の自由自体は,一般的な契約締結の自由とともに,それを一段具体化した中で,その契約の締結をしないという場合にそれぞれの負担において歩み去るということが基本であるということを書いていたのだと思います。ですから,契約締結の自由自体については,むしろこれがあることによって,そこから一般則が当然に背景にあるという理解ではなかったのかと思われます。そうだとすると,なお中間試案のような形で元々の原則を合わせて,より具体化するものとして書くということも考えられます。今回の記載は,趣旨は必ずしもそうではないということなのですけれども,中間試案よりも絞り込むような表現を採られたように見受けられます。中間試案と異なるものとする趣旨ではないという御説明だったかもしれませんけれども,中間試案では,契約締結の自由の派生原則として,原則は何かということが明らかにされることによって,不当交渉破棄の責任についての規律との間で,そのバランスというか,歯止めというか,という機能も担っていたように思われます。   ですので,説明が重複しているからということだけではなく,もう少し積極的にこれはやはり書くべきではない事情がもしあるのならば,教えていただき,説明していただいたほうがよろしいのではないかと思います。もうしそうでないとすれば,もう少しこの点も考え直していただけないだろうかということです。 ○鎌田部会長 恐縮です。残りの時間は少ないのですけれども,もう少し先に進ませていただきます。   部会資料75Bの「第1 契約交渉段階(情報提供義務)」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 部会資料75B,1ページの「第1 契約交渉段階(情報提供義務)」について御説明いたします。   中間試案においては,当事者は原則として情報を提供しなかったことを理由として損害賠償責任を負わないことを前段で規定し,後段で,例外的に情報の不提供が損害賠償義務を生じさせる場合について規定を設けることとされていました。このような規定を設けることについては,部会内でも意見が分かれているほか,パブリックコメントの手続に寄せられた意見を見ても,様々な立場から反対する意見が多数を占めています。   まず,前段のような原則を設けることについては,原則として当事者が情報提供義務を負う場合もあり,このような原則が従来の判例法理を適切に記述したものとは言えないとの批判があります。他方で,情報提供義務に関する規定を設けるに当たっては,原則として当事者がこのような義務を負わないことを確認することが不可欠であるという意見もあり,実質的な点で意見が大きく分かれている状況です。   また,後段の情報提供義務が生ずるための要件についても,一方では従来の裁判例に比べて義務が生ずる範囲を拡大するものであるという批判があり,他方では,従来の裁判例に情報提供義務の範囲を不当に狭めるという批判もあります。   このような状況を踏まえて,当事者は情報提供義務を負わないという原則を規定することの可否,後段の具体的な要件の在り方について御審議いただければと思います。   中間試案のような考え方とは別に,部会の審議の過程では,その情報を知らないことによって当事者の生命や身体に危険が及ぶような情報については,他方の当事者に提供義務を課すという考え方も示されました。情報の内容に着目して情報提供義務に関する規定を設けるという,このような考え方についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分についての御意見をお伺いします。 ○大島委員 契約交渉段階において情報提供義務を認める判例があり,明文化すべきとの意見が多いことは理解しております。しかし,当事者の有している情報量や内容の専門性,当事者の属性などは契約類型ごとに様々であり,その義務の範囲を適切な文言で画することは難しいと考えることから,情報提供義務については明文化すべきではないと考えています。   以前にも申し上げたとおり,情報提供義務の範囲を広く定めると,企業はリスク管理の観点から必ずしも必要のない情報まで提供することになり,事業活動が阻害される懸念がございます。仮に情報提供義務を明文化するのであれば,情報収集は当事者双方が行うという原則を明示した上で,中間試案の提示した要件に加えて,一定の専門的知識が必要な分野に限るなど,更に義務の成立範囲を絞り込むべきであると考えています。   また,今回新たに提案された,生命,身体等に障害を生じさせる可能性が高い情報を対象として情報提供義務を規定するという考え方については,まず,「生命,身体等」という表現は,「等」という文言が入っているために,生命,身体のほか財産などの利益が広く情報提供義務の対象として理解される懸念があり,人損に限ることを明確にする必要があると思います。また,仮に人損に限るとしても,部会資料の文言では,ごく軽微な身体の損害であっても情報提供義務の対象となり,企業はあらゆる危険性について説明をしなければいけないとも思えます。   そこで,今回の御提案では具体的にどのような事案を想定しているのか,御説明いただければ幸いです。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御意見。 ○中原委員 今回,知ることなく契約を締結すれば,生命,身体,財産などの利益に損害が生ずる可能性が高い情報を対象として情報提供義務を規定するという考え方が提案されています。例えばリスク性商品の販売を考えますと,単に相手方がそういう情報を入手した,あるいは入手できたのかということだけではなく,それを理解できたのかどうかという点が重視されていると思います。したがって,単に情報の入手あるいは情報の提供ということに限定するのであれば,かえって相手方の保護にならないのではないかという点が懸念されます。   さらに,銀行取引においては,銀行はいろいろな情報を持っていますが,守秘義務とか,あるいはプライバシーの関係で,情報提供できない場合があります。したがって,今回の提案は,情報保持者側の事情というものが一切考慮されていないという点において問題があるのではないかと考えています。 ○佐成委員 まず,情報提供義務については,パブコメの段階でも反対ということで意見を述べておったのですが,それに加えて今回,生命,身体等に損害を生じさせる可能性が高い情報ということで規定の提案があったので,それについて内部で議論をしました。その中で出た意見としては,例えば鉄道を利用するとして,生命,身体等に損害を生じる可能性が高いことを説明する義務を負うのかとか,そういったようなことをおっしゃる方もいらっしゃいましたとおり,ちょっとその範囲がよく分からんということです。それから,これはB to Cなら分かるのだけれども,B to Bで果たして本当にうまく機能するのかと。契約締結前の話をここではされておりますけれども,実際,我々なんかの,例えば請負契約の交渉であっても,契約交渉段階でそれほど細かく情報提供するのでなくて,実際に締結後に更に詳しく情報を提供していくというのがプラクティスとしてあるわけなので,これの及ぶ範囲というのがちょっと不明確ではないかということ。そういったところで,いずれにしてもにわかに賛成できないという意見が強かったということです。 ○中井委員 情報提供義務ですけれども,この部会資料の最初の2行に書かれているように,「規定を設けることの当否,規定の内容について,どのように考えるか。」ですけれども,これまでの審議の過程で,中間試案のような形で要件をぎりぎりと絞って明らかにしようとした。ここでは(1)から(4)の要件立てをしてきたわけですけれども,パブリックコメントの結果を見たとき,また弁護士会の中の意見を聞いたとき,両面からの反対意見が出てきた。従来から情報提供義務を定めるべきだと強く主張されていた方々にとって,この(1)から(4)の要件については従来よりも限定し過ぎていると。裁判所からも,このような形で規定したときに硬直的になって,具体的な場面において必ずしも妥当しないことが生じてくるのではないかという御意見なども伺ったように思います。他方で,このような規定を定めることについては強く反対する経済界の意見もあった。そういう意味では,要件立てを詰めていくことによって合意が達成するかというと,どうも現状を見ると難しい。   では,そこで諦めるのかという点ですけれども,私としてはというか,これも大阪弁護士会有志案ですけれども,現在,情報提供義務が一定の場面であることについては争いがない。説明義務という形であったり,情報提供義務という形であったりして,数多くの裁判例がある。にもかかわらず,民法の中にそのものに関する規定が全くない。ここで落ちてしまって残らない。それでいいのかという問いに対しては,やはり一般的な形であれ残すべきであると。   その上で,「規定の内容について,どのように考えるか。」ですけれども,従来型の考え方で類型化して要件をぎりぎり詰めても合意に達する見込みがないとすれば,これは緩やかな形で情報提供義務,説明義務のあることを明らかにする。それも,当該契約の性質,先ほど中原委員がおっしゃられたら,金融商品なら金融商品の内容によるでしょうし,対消費者との関係の契約によるならば,その当事者間の構造にもよるでしょうし,大企業と中小企業との間の取引であれば,その契約の内容や性質や情報量の格差によっても違うでしょうし,それがまた具体的な危険を発生するものなのか,それが生命,身体なのか,財産なのか,そういう様々な契約の事情によって個別具体的に提供すべき義務があるのか,ないのか,決まるのだろう。そうすれば,それらを包摂したような形で,一般的な規定として置くのが望ましいのではないか。   そこで,大阪有志案は,お手元の意見書の2ページ目の一番,「第3 契約交渉段階(情報提供義務)」のゴチックですけれども,また一般的すぎると御批判があるかもしれませんが,契約の性質や当事者の知識や経験や契約をする目的,こういう諸事情に照らして,相手方が契約をするか否かの判断に影響を及ぼす情報について,一定の場面で提供義務があるのだと。一定の場面とは何かということについては,信義則によって判断するしかありませんので,信義則によって認められる場面という形の提案をさせていただいたわけです。ここは「民法第1条第2項に規定する基本原則により」という,このような書き方をさせていただいていますけれども,従来,この審議会の中では,「信義則によって」というようなことを条文化することは困難であるという御意見,御批判を受けていたかと思います。しかし,今日は議論しませんけれども,次回議論する約款の中では,このような形で信義則を取り込んだ条文化の提案もありますし,また,現に消費者契約法の中でも同じような信義則の適用をうたった条文があるようですので,そのような形での提案をさせていただきました。   こういう提案であれば,例えば経済界から格段に広がるではないかというような批判が起こるとは思えない。一般的,具体的に,事情を考慮して,あるときにはある,ということでしかないのですから,御批判は受けないのではないか。また,これによって判例の展開が阻害されるとか,従来認められていたものが認められなくなるとかいう弊害も起こらない。現在あるルールを少なくとも民法の中に明らかにするという形で,このような提案をさせていただいた次第です。 ○岡田委員 この2行目から,「一般的な情報提供義務に関する規定とは別に」,「生命,身体」というのが出てきているのですが,この文章に関して私の周りで,やはりこれがアンドではなくて,もしかして,生命,身体に特化した読まれ方をするのではないかということを心配する者もいました。一般的に情報提供義務があるということは,もう専門家の方は「何も改めてここで条文に書かなくたって,当たり前のことだよ」とおっしゃるでしょう。でも,一般の人間からすると,当たり前というのが分からないのです。ですから,情報提供義務があるのだということはやはり書いてほしいと思います。   加えて,生命,身体にうんぬんというのを書くか書かないかということですが,先ほど言いましたように,なまじこれが入ってきたことによって,ここだけが特化するように解釈されるような書き方になるのであれば,生命,身体というのは加えないほうがいいのではないかという声もありました。もちろん両方,アンドで,きちっと読み込まれるような形であれば,それに越したことはないと思います。   それで,生命,身体に損害を生じるということで,経済界からすれば反対があるみたいなのですが,もし生命,身体に損害が発生したときの企業の責任というのは膨大なものになるわけですよね。そういう損害を発生しないようにするための情報提供というのは,決して被害者になる人のためだけではなくて,加害者になる人にとっても必要ではないかと,そういうふうに思います。 ○岡崎幹事 この問題も先ほどの不当破棄の問題と同様,非常に難しい問題と思っているのですけれども,仮に,規定をするとした場合に,いろいろと検討しておく必要があると思われるところがございます。   一つは,余りこの部会では問題になっていないように思うのですけれども,このような情報提供義務を設ける法律上の根拠が何なのかというところ。これは,最高裁の判例上は,不法行為に基づく損害賠償と見ているかのようなくだりがあるような判文もあるのですけれども,果たしてどういうような法的な根拠なのかというのが第1点。   第2点として,この情報提供義務が今の御提案の中では契約締結過程というようなことで検討がされていると思いますけれども,先ほどもどなたかの御発言にあったように,契約の締結後についても一定の情報提供義務が認められるケースがあるかと思うのですが,それとの関係をどういうふうに見るのかというところが問題になるかと思います。   それから三番目として,今回の部会資料で問題提起されておりますように,情報提供の範囲あるいは対象が何なのかというところで,生命,身体に損害を生じさせる場合なのか,それとも財産に対する損害などのケースも含むのか,この範囲の問題があると思います。   それから四番目として,その損害が生じる可能性がある危険性が,どの程度具体的な危険性なのかという辺りも問題になるかと思います。   最後に五番目なのですけれども,情報提供をしなければいけないとして,その情報提供をしたというためには,どの程度具体的な情報を提供する必要があるのか。抽象的に危ないですよと言っておけばいいのか,あるいはもう少し具体的に,こういう場合がありますよというようなことを言わなければいけないのか。こういう,何をもって履行したことになるのか,この辺りも問題になるかと思います。   これらのもろもろのことを考えた上で,適切な表現で条文を作るという作業が求められるわけですけれども,この辺りがまた非常に難しい問題ではないかなと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○中井委員 今,岡崎幹事からおっしゃられた論点がそれぞれあることは,これまでの審議の経過からも明らかだと思うのです。だから,岡崎幹事が今おっしゃられたことは,それらの論点について要件化を更に進めていく方向で検討を進めるという考え方の御提示だった。これまでも恐らくそういう問題のあることを認識し,要件化を進めてきたものがこの中間試案だったというのが私の理解なのです。しかし結果として,中間試案に対しては,あらゆる方向からと言ったらいいのでしょうか,御批判を受けて,なかなかこういう要件化では困難だというところに至った。その認識が,この場にいる者が共有できるのかというのが一つ。   では,共有できたときに,ここで終わるのか,次に進むのか。私は,次への進み方は,今岡崎幹事のおっしゃっている方向での進み方は困難なので,規定は設けるけれども,中身については抽象化せざるを得ないという提案をしたわけです。こういう抽象化したようなものであれば全く無意味であるという御批判があるのであれば,更に大阪としては考えなければいけないことだと思います。しかし,そこについて是非,もう終わってしまうのではなくて,その点について,研究者の方から御意見なり,もう大阪案は駄目だよと,顔を洗って出直してこいというのか,教えていただければと思う次第です。 ○潮見幹事 顔を洗って出直してこいとは言いません。それはよくお考えになられたのではないかとは思います。私自身も,基本的な考え方あるいはこの間の議論というものの理解は,中井委員がおっしゃったのとほぼ同じです。その上で,こういう形でルール化をすることに意味があるのかと言われたら,この程度でもあるのではないかとは思っていますが,ただ,これでも難しいということであれば,またそれは事務当局で考えていただければと思います。   2点ほど,3点申し上げたいことがあります。   一つは,岡崎幹事がおっしゃられたうちの,幾つかございましたが,契約締結後の情報提供義務をどうするかというのは,今回のこのルールをどう立てるかということとは切り離して考えるべきではないでしょうか。つまり,情報提供義務の枠組みをどのように捉えるのかということは,これ自体,大きな体系にも関わる問題でございますから,せめて契約交渉過程での情報提供についてのルールをどうするのかという形で絞って考えていったほうが,もうこの時期になれば仕方がないのではないかと思いますし,そうでないと合意はとれないと思います。   それから二つ目は,これは中間試案にあったことで,それから,どこか先ほど何人かの委員の方がおっしゃられたのにも関わるのですが,交渉段階の義務でも,中間試案の冒頭部分,つまり,情報収集についてのリスクは自己責任だということは,是非置いていただきたいと思います。これを抜きにして情報提供責任というのは語れません。是非御勘案ください。   それから三つ目は,大阪弁護士会の案で,この方向を育てていくことができるかというのは事務方で考えていただければと思いますが,1点だけ,この大阪弁護士会の案というのは,「相手方が契約するか否かの判断に影響を及ぼす情報」というのは,これはこれでいいと思うのですが,最後,「これを相手方に提供しなければならない。」という形で書いていて,それでは,この義務に違反した場合どうなるのかというのが,中間試案は損害賠償という限定をしていますけれども,大阪弁護士会案にはありません。実務家あるいは研究者の中にも,交渉過程での情報提供義務の効果として,契約の解除などということをおっしゃられる方がいらっしゃるものですから,効果を損害賠償に限定するのであれば,損害賠償という形で絞ったほうが合意はとりやすいのではないかという感じがしたということです。 ○鎌田部会長 ほかに,よろしいですか。 ○山本(敬)幹事 私自身は以前の部会から,情報提供義務の一般的な要件立てについて,コンセンサスを得ることはかなり難しいのではないかとは思っていました。十数年前の消費者契約法の制定の際の議論に比べれば,かなり理解は進んだという側面はありますけれども,やはりなお実際に詰めようとすると難しいのではないかと考えて,もしそうであるとするならば,最低限コンセンサスが得られるかもしれないものとして,今日も挙げておられるような,他人の権利を害してはいけないという規範は皆受け入れるでしょうから,そのような危険のある情報については提供しなければならないという義務であれば,何とかコンセンサスが得られるのではないかということを申し上げたことがあります。それは,大阪弁護士会のほうでお考えいただいたような包括的な,このような場合には情報提供義務が認められるというベーシックな提案を前提としたその一つの具体化であって,大阪弁護士会のおっしゃるような意見に必ずしも反対ではないということは,念のために付け加えておく必要があるのではないかと思います。   さらに,別に大島委員も指摘されたような,特に専門的な事業者に関しては,特別な情報提供義務を認める理由があると私も考えていますけれども,それを民法で定めることについて果たしてコンセンサスを得られるかというと,なかなか難しい側面もありそうです。しかし,それも大阪弁護士会の提案しておられるような考え方の一つの具体化ですし,もっと言えば,消費者契約法で定めることが考えられるような情報提供義務もその一つの具体化ということができますので,言わば全てをカバーできる,その意味では,そこから特に具体的に何か出てくるわけでは必ずしもないものかもしれませんが,そのようなものでも定めておくことには,私は意味があると理解しています。念のためですが,申し上げておきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   大分時間を長く超過してしまいまして申し訳ございません。残りました「第2 契約の解釈」につきましては次回に回したいと思います。   最後になりますが,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 次回は,予備日である来週3月4日火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室でございます。次回の議題につきましては,本日積み残しとなりました契約の解釈のほか,約款,寄託,組合,それから終身定期金,和解を予定しております。   なお,本日の机上配布資料の中には次回の議題に関するものがございます。これにつきましては,来週の会議で改めて配布することはいたしませんので,適宜ご用意いただければと思います。よろしくお願いしたします。 ○鎌田部会長 大変長く時間を超過してしまいまして申し訳ございませんでした。  本日の審議はこれで終了といたします。熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-