法制審議会 民法(債権関係)部会 第86回会議 議事録 第1 日 時  平成26年3月18日(火)自 午後1時00分                      至 午後5後52分 第2 場 所  法務省 第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第86回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,大島博委員,能見善久委員,野村豊弘委員,松岡久和委員,大村敦志幹事,岡田幸人幹事,鹿野菜穂子幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。 ○筒井幹事 本日の会議用の事前送付資料として,部会資料76Aと76Bを配布しております。それから,机上に委員等提供資料がございます。まず,本日,御欠席の大島博委員から「法制審議会民法(債権関係)部会第86回会議に対する意見」と題する書面,それから,本日,御欠席の松岡久和委員から「第86回会議の議題に関する意見」,高須順一幹事から「部会資料76Bの第1の3に関する意見」,山本敬三幹事から「動機の錯誤に関する判例の状況」と題する資料,それから,東京弁護士会有志の方々から部会資料76Aに関する御意見,それから,大阪弁護士会の有志の方から「部会資料76ABに関する提案」,そして,日付が少し古いのですが,第一東京弁護士会から以前に事務当局に提出された意見について,本日,改めて配布するとされた資料がございます,第一東京弁護士会名の民法(債権関係)部会資料66Bに対する意見でございます。そして,以前に配布したものを事実上,再配布するという趣旨ございますが,日本弁護士連合会の「保証人保護の方策の拡充に関する意見書」を机上に配布しております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料76Aと76Bについて御審議いただく予定です。具体的には,休憩前までに部会資料76Aの「錯誤」,「保証」,部会資料76Bの「保証」のうち,「主たる債務の履行状況に関する情報提供義務」について御審議いただき,午後3時25分頃をめどに適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料76Bの残りの部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,審議に入ります。   まず,部会資料76Aの「第1 錯誤」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 部会資料76Aの「第1 錯誤」,「1 錯誤によって意思表示の効力を否定するための要件」は,要素の錯誤に当たるためには主観的因果性と客観的重大性の二つの要件が必要であるという判例法理を明文化するとともに,効果を無効から取消しに改めようとするものであり,中間試案からの実質的な変更点はありません。   「2 動機の錯誤」は,動機の錯誤に関する判例のルールを明文化しようとするものです。中間試案や部会資料76Bにおいては,動機や法律行為の内容になるという要件をより分かりやすい表現に改めることが検討されていましたが,現在の判例で用いられているこれらの文言の実質は変更することなく,正確に表現することは困難であることから,これらの表現を維持することとしています。   「3 錯誤者に重過失がある場合の例外」では,錯誤者に重過失がある場合には錯誤による取消しを主張することができないという民法第95条ただし書を維持しつつ,錯誤者に重過失があっても,錯誤があることについて相手方が悪意重過失であったときや共通錯誤の場合には,錯誤者は錯誤による取消しをすることができることとしています。これは一般的な見解を明文化しようとするものであり,中間試案からの変更もありません。   「4 第三者保護要件」は,錯誤による意思表示を前提として新たに利害関係を有するに至った第三者が善意でかつ無過失である場合には保護されるという規律を新たに設けようとするものであり,中間試案からの変更はありません。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○岡委員 動機の錯誤については後で申し上げますが,まず,第1の1について通常人であればという言葉が取引通念上相当と変わりました。これについて通常人というのはいかがなものかと思っておりましたので,この方向でいいかなと思いますが,民法総則における規定ですので,取引通念という言葉で大丈夫でしょうか。遺言とかもありますので,社会通念という言葉では駄目なんでしょうか。労働契約法でありますとか,貸金業法でありますとか,社会通念という言葉は法令上にも出てきておるようでございますので,ここについて社会通念という言葉を提案させていただきたいと思います。ただお考えになった上で取引通念という言葉を選択されたのでしょうから,取引通念のほうがいいということであれば,その御説明を頂ければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○笹井関係官 最終的な文言をどうするかというのは,法制的な観点からもまた更に詰めて検討していきたいと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○中井委員 岡委員の質問に対して回答が法制上の問題という表現でしたか,その意味するところがよく分からないんです。これまで契約の趣旨のところでも議論になりました。また,契約の趣旨であれば取引上の問題ですから,その中で何を考えるかという基準として取引通念,取引の慣行・慣習を見ていく,その観点で取引という言葉が使われることについて,これまであえて議論を持ち出さなかったわけです。かつての議論では弁護士会から取引通念ではなくて,社会通念という言葉がよろしいのではないかという提案をしたわけですけれども,社会通念という言葉に対する消極的評価もあって,その言葉は避けてこれまで議論してきた経緯があったかと思います。   ただ,この「錯誤」に関しては,岡委員がおっしゃられたように民法総則に入るわけで,必ずしも契約の面だけではなく,意思表示一般に関係する事柄だとすれば,中間試案の,「通常人であってもその意思表示をしなかったであろう」に代わる言葉として取引通念という言葉より,社会通念という言葉のほうが適切ではないかという,こういう提案を岡委員はされたのではないかと思うんです。それに対して,法制上の問題であるという形でお答えになった趣旨がもう一つよく分からなかったものですから重ねてお尋ねしたい,ここはより適切な表現としては,社会通念ではないかという積極的提案をしたつもりですから,重ねての質問になりますが,お聞かせいただければと思います。 ○筒井幹事 先ほどの笹井関係官の発言は,法制上の問題だから,それ以上,議論の必要はないということを申し上げたわけではなくて,ここに限らず,最終的な文言の確定までには法制上の問題も含めてよく考えたい,その上で最終的に部会におけるコンセンサスを得ていきたいということをお答えしたわけでありまして,それ以上の含意はないわけです。ですから,ここについて社会通念という用語のほうがよいという御提案を頂いたわけですから,それについては,むしろ部会の中でほかに御意見があればお聞かせいただきたいと思います。中井委員も言及されましたように,債務不履行の帰責事由に関してだったでしょうか,その議論をしているときには,社会通念という言葉と取引通念という言葉のどちらが適当かといった議論もありましたので,そこではどうする,ここではどうするという議論が両方あってよいのだと思いますので,その点も含めて御議論いただければと思います。 ○岡崎幹事 今の点なのですけれども,判例がどういう言葉を使っているのかというのを少し見てみました。例えば最近の判例として最高裁平成8年6月18日というものがございまして,これは質権の設定について,第三債務者が異議をとどめない承諾をしたという事案で,その承諾に要素の錯誤があったという判断をしたものなのですけれども,その判文の中で社会通念に照らしてうんぬんというような文言が採られています。そういうことからすると,最近の判例でも社会通念という言葉が使われていることになるわけで,先ほどの岡委員と中井委員の御発言に同感です。 ○松本委員 取引通念というのは,恐らく取引社会の通念というのを縮めて取引通念と言っているんだと思います。したがって,錯誤というのが取引社会にのみ適用されるルールではなくて,一般社会に適用されるルールであれば取引社会の通念では狭すぎて,一般社会の通念,略すとすれば恐らく社会通念のほうが適切なんだろうと思います。取引通念と社会通念は対立するものではなくて,どういう社会の通念かということで限定されたものもあれば,もっと広いものもあると理解すべきではないかと思います。 ○山野目幹事 先ほど中井委員と筒井幹事から,今までなされてきた論議を紹介する仕方で言及していただいたところでございますけれども,部会における審議のみならず,分科会における議論も含めて,取引通念という言葉と社会通念という言葉を対比させて,一定の論議があったと記憶しています。そこで私自身も申し上げたことですし,類似の危惧をおっしゃった御意見もあったかと記憶します。社会通念という言葉にすることは,極めて慎重にしていただきたいと望みます。そのような意味で,法制上,今後,法文の文言を慎重に詰めていく作業の過程で,このことは更に検討してほしいと考えますから,笹井関係官がおっしゃったとおり,引き続き御検討いただきたいと考えます。そして,取引という言葉が無償行為について使われている例は,現在,法制上も存在しておりますから,そういうところもにらんでいただいて,更に御検討いただければ有り難いと感じます。 ○鎌田部会長 この点に関連した意見がありましたら,ほかにも出していただければと思います。 ○山川幹事 この資料を拝読しましたときは,取引通念,労働関係の観点からいいますと,労働契約も労働力の取引という意味では含まれると読めるのかなと思ってはいたんですけれども,先ほどの岡委員,中井委員のお話を伺いまして,また,今日,山本敬三幹事の御提供いただいた動機の錯誤に関する判例をみますと,労働関係も含めていわゆる狭い意味での取引ではない事例も結構ありますので,法制上の問題がいろいろあろうかとは思いますが,個人的には社会通念のほうがいいのかなと素人ながら感じた次第です。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   それでは,ほかの点についての御意見をお出しいただければと思います。 ○岡委員 「動機の錯誤」の法律行為の内容になっているときという(1)のほうの論点でございます。これについては76回会議でかなり議論をさせていただきました。その結果,多数意見として,法律行為の内容になっているというのを法務省が採るというのは理解はできますけれども,かなりみんなが心配をしておる論点だと思います。今日,改めて第一東京弁護士会の常議員会の決議を採った意見書を出させていただいております。目指そうとしているところはそれほど大きく変わりませんが,法制上の問題があるのかもしれませんが,この条文にすると大変不安であるということを,重ねて,ここでも申し上げさせていただきたいと思います。今回の部会資料には,いろいろ考えたけれども,これしかないんだと,そういう悩んだ末の結果であるという趣旨が出てきていません。その点が76回会議でいろいろ議論させていただいた者にとっては不満でございます。   その不満はさておいて,もし,この条文を採るにしても何か工夫ができないんでしょうか。一問一答にしっかり書くということは最低限として,それ以上に何か法律行為の内容になっているというのは,普通の契約内容とは違うんだということを条文上,明らかにできないのかという思いを今でも強く持っております。ジャストアイデアではありますが,法律行為の内容になっているというのは,動機の錯誤の表示の有無,程度,相手方の認識可能性,当該法律行為の内容等を勘案して判断するものとすると,そういうのが民法になじむかどうかは別として,何か普通の法律行為の内容とは違う従来の判例で用いられてきた,相手方と表意者とのバランスをとって,判断する概念であるということを条文上も残す最後の工夫といいますか,検討というのを是非,お願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 動機の錯誤に関連した御意見を。 ○山本(敬)幹事 今回,配布資料として「動機の錯誤に関する判例の状況」というものを配らせていただいていますが,これは大変大部なものになっていますので,最初にごくかいつまんで趣旨を説明させていただければと思います。  動機の錯誤の判例については別に検討させていただく機会がありましたので,その結果をここにお示しさせていただいています。取り上げた裁判例は,動機の錯誤に関する戦後の裁判例のうちで,錯誤無効を認めたものが中心ですが,否定例,更に傍論で錯誤に言及したものでも,肯定例の意味を理解する上で参考に値すると考えたものを含めています。これらは見てみますと,動機が法律行為の内容になったかどうかによって錯誤無効の成否が判断されていると考えられる場合のほかに,相手方の態様によって錯誤無効の成否が判断されると考えられる場合に分類できるように思いました。後者は更に,相手方が表意者の動機の錯誤を惹起した場合と利用した場合に分かれると考えられますので,記号としては,A,B,Cと付けています。   3ページ目の「はじめに」の部分ですが,判例の一般論は,ここに書いたとおりです。動機が相手方に表示されて法律行為の内容になりというものですが,これは平成元年判決の判示です。このうちの動機が相手方に表示されて法律行為の内容となるという点については,動機が相手方に表示されることと法律行為の内容になることとの関係が必ずしも明確ではありません。従来の裁判例でも,表示されることと内容になることの両方に言及するものもありますが,表示のみに言及したり,あるいは内容になることのみに言及するものも見られます。ただ,子細に見てみますと,今日の直接の対象ではありませんので詳しくは述べませんけれども,相手方の態様を理由とするものを別としますと,表示のみに言及する場合でも,それによって動機が法律行為の内容になったと評価することが可能であって,むしろ,動機が法律行為の内容になったと評価できる場合に,そのことを表現するために動機が明示又は黙示に表示されたと判示されていると見ることができます。   ただ,「法律行為の内容」になるという表現は,先ほども御指摘がありましたように,それが何を意味するかが必ずしも明確でないという指摘もあるわけですが,このような指摘がされるのは,法律行為の内容と債務の内容,特に給付の内容との違いが十分に意識されていないためではないかと推察されます。法律行為の内容には,給付の内容だけではなく,その前提になる事柄を含めることも可能です。一般の動機の錯誤のうちの性質錯誤の場合は,動機が法律行為の内容になりますと,給付の内容を構成することになります。この場合は,性質が給付の内容を構成しているにもかかわらず,現実の給付がその性質を備えていないときに錯誤無効が認められます。それに対して,理由の錯誤,あるいは狭義の動機錯誤と言われている場合は,動機が法律行為の内容になっても,給付の内容を構成するわけではなく,条件や期限などと同じように,その前提に関する合意がされた場合は,そのような合意がされているにもかかわらず,実際にはその前提が備わっていないときに,錯誤無効が認められる。このような状況が,たくさんの裁判例からうかがうことができます。   下の2の性質錯誤については,これが問題になるのは特定物が契約の目的物とされている場合なのですが,これについては,法律行為の内容になるとされているのは,性質について明示的な性質保証のような合意がされている場合のほかは,その種の目的物について当然備わっていることが予定されている性質です。例えばマンションの耐震構造のようなものは,明示されていると否とにかかわらず,当然内容になっている。そのほか,締結過程における当事者の表示や対価の定めなどから,契約上予定されていると評価される性質が,法律行為の内容になるとされていることがうかがえます。   次に,5ページ目の下に前提錯誤というものを挙げていますけれども,これは,従来の裁判例を見ますと,制度の構造的な前提に関する錯誤,例えば婚約する相手が独身であるというような当前の前提に関する錯誤については,多くの裁判例で,動機が表示された,あるいは少なくとも黙示に表示されたとされています。しかし,このような構造的な前提が表示されている場合はもちろん,特に表示されていない場合でも,法律行為の内容を構成していると見ることが可能です。   そのほか,6ページ目の下のほうの(2)ですが,制度が前提にしている目的を逸脱して利用されている場合,例えば自動車を買うつもりがないのに,別の目的でマイカーローンを申し込んで貸付けを受けるという場合に錯誤無効を認めているケースがあるのですが,この場合も,そのような制度の目的に当たるものが法律行為の内容を構成していると見ることができます。   7ページ目の2)ですが,そのような制度的な前提というよりは,個別的な前提に関する錯誤が問題になった裁判例は,かなり数多くあります。これは強いて分類すれば,給付の実現可能性,給付の利用可能性,対価の取得可能性,目的の実現可能性,リスクの程度,税金の負担に関するものに分類することができます。この場合は,先ほどの場合と違って,その前提が当然に法律行為の内容を構成すると言えませんので,特に法律行為の内容とされたと見ることができる事情が必要とされています。   たくさんの裁判例を見てみますと,全体としては,締結過程におけるやり取りや対価の定め,あるいは契約中の関連する定めなどから,これらの前提が当事者の共通の了解になっていると見られる場合に,法律行為の内容とされていると見ることができるというのが,一応の調査結果ですので,ここで報告させていただきます。 ○鎌田部会長 ほかに動機の錯誤関連の御意見は。 ○岡委員 敬三先生の今のお話は実務家サイドにも非常によく分かるんですが,その結論として条文になる言葉が,錯誤されたところの動機が法律行為の内容になっているというので,本当に表現されるんでしょうか。 ○山本(敬)幹事 全てを説明しようとすると,結局,その表現に落ち着くのではないかと思いました。実際に裁判例を見てみますと,理由付けはばらばらになっていまして,先ほど言いましたように,表示だけに言及したり,あるいは黙示に表示すると言ったり,あるいは意思表示の内容になる,あるいは法律行為の内容になる,あるいはそれに言及せずに,何となくそれを示唆しながら要素になっているなど,理由付けにかなりばらつきが出ています。   これは,最上級審裁判例の定式が,裁判例によって多少異なっているということもあると思いますけれども,何となくこのような定式かと思われるものを使って,裁判実務でも,それぞれに目に付く部分を取り上げて,理由付けを行っているように感じられました。しかし,このような理由付けのばらつきは必ずしも好ましいものとは思えません。むしろ,基準を明確にして,それに従って説明するのが望ましいと思います。そして,基準をこのように法律行為の内容として,それ以外はまた別だとしますと,従来の結論はそのまま正当化することができ,しかし,理由は明確になるのではないかと考えられます。 ○鎌田部会長 大変に精緻な議論が展開されているんですけれども,非常に素朴に,民法総則の最初の頃に,これを大学で講義をするときに,法律行為の内容と意思表示の内容,給付の内容をどう区別するかというふうな説明をしなければいけなくなってきたのかなということが,ちょっと心配ですし,最近の議論では意思表示と動機を本当に区別できるのかというのが大きな流れだったのと比べると,ここでは,意思表示,法律行為あるいは意思表示と動機とかいうように,もう少し精密な区別を前提にした制度になっているような印象を受けるんですけれども。 ○山本(敬)幹事 裁判例が使っている定式がばらばらですと,何か区別しないといけないのかなと思うわけですけれども,かなり丁寧に見返してみましたが,それぞれの定式に違いがあるようにはどうしても思えませんでした。その意味では,そうした精緻な区別をしなくていいようにするために,基準をきちんと定めて,それを基に理由付けを組み立て,判断の基準を組み立てていくというほうが私は健全ではないかと思います。精緻な議論をして答えが出るというタイプの問題ではないと,私も思います。その意味では,動機という言葉をそのまま使い続けるのがよいのかどうかということも含めて,表現に関しては更に詰める必要があると思います。ただ,従来の裁判例の結論を基本的には維持しつつ,それを表す基準を立てるとなりますと,法律行為の内容になったということで集約できるのではないかということです。 ○中井委員 弁護士会の中で議論しているバックアップのメンバーの多くは,これまでの議論の経過から,このような整理はあり得るとして,これに反対する意見は少なかったのですが,一部から,岡委員がおっしゃられたように,このまとめ方について違和感があるという指摘は確かにあります。それは法律行為の内容という言葉自体が今,山本先生がるる御説明されたように,判例に表れている様々な具体的事例を整理し,抽象化し,基準として明らかにするという観点から,最終的に絞り取った核が法律行為の内容という概念なのだったのだろうと思います。   ここでお聞きすると,確かにそうなのかなと思うんですけれども,法律行為の内容というのをかみ砕けば,様々なバリエーションがあって,様々な説明が必要になるということの裏返しではないか。そのときに法律行為の内容という言葉が普通の国民にとって,これは契約の内容になるという理解,極めて限定的な,給付の内容に関する合意と同等のような理解,そのような非常に限定した理解を生むのではないかという危惧があることは否めないと思っています。それが岡委員といいますか,第一東京弁護士会の皆さんの御指摘ではなかったかと思います。   同じことは弁護士会の中でも消費者保護委員会の方々からも,この言葉は限定しすぎていて,従来,裁判例で捉えられている動機の錯誤が認められる範囲をかなり限定する方向に機能するのではないかという危惧の表明がありました。そう考えたときに,私は元々俳句説ですから,いかにすっきりとした表現で取りまとめるのがいいのかという観点ではあるのですが,この言葉自体には,岡委員のお話を聞いていても若干危惧するところは否めないということを正直に申し上げたいと思います。   こういうことが許されるのか,山本敬三先生の考え方の趣旨とは異なるのかもしれませんけれども,ここで判例の考え方を飽くまで表したものだと,仮にそういうものとして今回,立法化するのであれば,山本先生の本日配布資料の3ページの一番最初の「判例の一般論によると」というところで引用されている,「その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となった」,そのときに錯誤主張ができると,一般に承認されている最高裁の判決の中で最もよく使われている表現を,そのまま使ったとすれば,判例の考え方は,今回の立法においては全く変えませんよという表明にもなるのではないか。そうだとすると,この言葉,動機が相手方に表示されて法律行為の内容となったとき,というようなことも対案として考えられないか。   先ほどの分析の中でもこの表示の意味が,表示だけがあった場合も,又は表示がなくても認められている事例があると。それを整理したものが仮に法律行為の内容だというのが山本敬三先生の整理ではあるのかもしれませんが,多くの裁判例の一般論として,この表現が使われているなら,それをそのまま使うというのも一つの立法の在り方ではないかと感じた次第です。   それと併せてもう1点,申し上げておくと,今,部会長がおっしゃられたこととも関連するのかもしれませんが,中間試案においては動機という言葉は使わずに,それをかみ砕こうと,目的物の性状その他意思表示の前提となる事実に誤認がある,その事実に関する表意者の認識が法律行為の内容になると,こうかみ砕いて書こうとしたわけですが,今回の素案では,それが全く元に戻っているといいますか,動機という言葉で表現されてしまった。そうすると,動機の中身がもう一つ明らかでないままに動機が法律行為の内容になると,つまり,動機が契約の内容になる。一体,何なんだという素朴な疑問を国民にもたらさないか。そういう不安感も正直にございます。   それから,最後に3点目ですが,今,(1)だけで議論されていますが,弁護士会は(1)とともに(2)がセットで今回,立法化されることが大前提と考えております。今回,(2)については【P】のマーク,ペンディングのマークが付いていることを大変気にしております。今後の議論において(2)の提案が仮に合意に達する,達しないこともあり得るというのが仮に今日現在の素案の提案だとすれば,これを分離して議論することは避けていただきたい。(2)が落ちて(1)だけ残るというのは,(1)についての定め方が敬三先生のように仮に理論的に正確であったとしても,それは更に大きな錯誤に関する誤解を生むのではないかと危惧するところがあるから,そのように申し上げております。 ○山本(敬)幹事 最後におっしゃった点は,私のお出ししたものの後ろのほうに裁判例を挙げておりますので,それについて議論をするときにまた申し上げたいと思います。基本的には同じように考えていますが,2番目におっしゃった点,つまり動機という表現を使うことの是非についてはなお考える必要があるという点は,先ほど申し上げたとおりです。動機というのは,元々,効果意思に入らないものを動機と呼ぶということであるにもかかわらず,その動機が法律行為の内容になるというのは,一般の方々だけでなくて,法律家にとってもすっきりと入りにくいところがあるかと思います。その意味では,どのようにかみ砕けば一般の理解が得られるかということは,次の問題かもしれませんけれども,動機という表現をそのまま使い続けることは,適当ではないのではないかと私も考えています。   1点目でおっしゃった点は,「表示」を入れると従来の判例の一般法理と同じであって,判例を変えるものではないということを示すことができるということですが,これは賛成しかねるところがあります。従来の裁判例を見ましても,表示がされていないけれども,錯誤無効を認めなければならないというときに,「少なくとも黙示に表示されている」という表現を使って,理由付けているものがたくさんあります。これは無理を強いているのだろうと思います。結論としては錯誤無効を認める必要があるときに,この法理が邪魔をしているというわけではないですけれども,無理な理由付けを強いているために,本来,なすべき理由付けと違うものが表に上がってきてしまっているのは,健全ではないだろうと思います。それは,一般法理がそのままの形では使えないということを示しているわけですので,それを条文に入れてしまうのは,大きな問題があるだろうと思います。 ○鎌田部会長 ほかに動機の錯誤関連は。 ○中田委員 今回,随分,御苦労しておまとめいただいたと思います。これまでの判例を表現しているか,今後の解釈の安定性,妥当性に資するかということで,こういう表現を選んでいただいたと思うんですが,2段階の問題があるように思います。第1段階は動機が,法律行為の内容になっているということ,第2段階は,これと重なりますが,内容になっている,ということの2段階です。  前者については動機という言葉がいいのかどうかというのは,山本幹事のおっしゃるとおり,更に検討する必要はあると思いますが,これはこれで意味はあると思います。  一つは,法律行為の内容というものを示す機能を持っているのではないか。つまり,給付の内容に限らないものも,入り得るんだということを表すという機能があるのではないかということです。それから,二番目により具体的な表現として,中間試案にありました意思表示の前提となる当該事項に関する表意者の認識というのは,分かりにくいのではないかなと思います。もちろん,動機という言葉よりもより適切な言葉があれば,また,それはそれで検討対象になると思うんですが,この言葉の解釈の問題として委ねるという選択肢もあることはあると思います。  それから,2段階目の,内容になっているという部分ですが,これは表示には限らないという積極的な意味があるのではないかと思います。 ○永野委員 私も前回に「法律行為の内容になっている」というところが,今後解釈される際に,今,現実に動機の錯誤として救済されているものよりも,狭く解釈されていくのではないかという懸念を申し上げたところで,このような懸念は前回の会議でもかなり多くの委員・幹事の方も述べられておられたと思っています。   仮に,この法文化をすることの目的が,現在,実務で行われていることをできるだけ忠実に表現するということであれば,先ほどの山本敬三幹事による多数の裁判例の分析は,大変参考にはなるのですけれども,それが「法律行為の内容になっている」という,判例が用いている一般的な文言の一部分だけを使う形にしますと,判例法理をそのまま整理して明文化するというのとは違ったメッセージを与える危険があるのではないかと思われます。そういう意味では,岡委員がおっしゃるように,今回は判例をそのまま明文化するという趣旨を明確にするために,できるだけ判例の文言を使いながら表現するという工夫は,一つあり得るのではないかと思っています。ただ,そうはいっても「法律行為の内容になっている」という部分が法文になりますと,際立ってくるというところはあろうかと思います。   これまでの最高裁の判例を振り返ってみますと,元々,動機が表示されて意思表示の内容になったというのが法理判例として存在していたわけでありますけれども,今,相手方惹起の部分をどうするかという問題とも絡んでくるわけですけれども,仮に(2)のところが落ちるということになってきた場合には,広めにその利益状況を取り込めるような形で,動機が表示されて意思表示の内容になったという場合と,動機が表示されて法律行為の内容になったという場合を比較しますと,広めにとっているのは前者のほうだと思うのですが,そういう意味では前者のほうで文言を書いてみるというのも,一つの考え方かもしれません。そこはいずれにせよ,今回,今,通用している判例ルールをそのまま法文にしたということが分かるような形で文言を考えるというのは,一つの見識ではないかという認識を持って,弁護士会の御提案を聞いておりました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   動機の錯誤関係は,ほかに御意見はよろしいですか。ある意味で伝統的法律学の側からは安心感があるんだけれども,これが世の中にそのまま通用するのかな,条文になったときに大丈夫かな,という逆の心配もないわけではないので,頂戴した御意見を踏まえて検討させていただければと思います。 ○中井委員 錯誤は終わるということですか。 ○鎌田部会長 いや,動機の錯誤についての御意見があれば。 ○中井委員 松岡委員の,今日頂いたペーパーの一番頭にも書いているのですが,今回の素案の表現部分に関しての説明がもう一つ詳しくないですねという御指摘があります。それに関連して今の動機の錯誤が典型で挙げられているので,私もそのような認識を持ちましたということを最初に申し上げたいと思います。一つは今,議論になりました動機についての説明が変わった,二つ目は今から申し上げたかった,動機の錯誤が相手方によって惹起されたとき,この相手方によって惹起されたときという表現,これが従来の中間試案と表現が変わったわけですが,ここについても必ずしも十分な説明がないように思うのです。端的に言えば,事務当局がこのように表現を変えた理由について,もう少し御説明いただけないかと思います。 ○筒井幹事 (2)についてという御趣旨でよろしいでしょうか。 ○中井委員 それに限って。 ○筒井幹事 この点については9月の部会だったでしょうか,第3ステージのかなり早い時期に一度,部会資料を提示して御議論いただいておりますが,それを踏まえた次の検討が未了であるので【P】でお出ししているという趣旨に尽きます。なぜこのような表現になっているかというと,これはそのときの資料のその項目の見出しがこうなっていたからということに尽きております。ですから,お尋ねの点については引き続き事務当局の宿題になっているという認識でございます。 ○中井委員 そうすると4ページの上の2段目に,部会資料66Bに基づく第76回会議の審議の結果を踏まえて改めて検討するという意味は,事務当局としてここはなお宿題として抱えていますよと,これは更に検討した上で案を提示することを予定しているということを意味する,こういう理解でよろしいんでしょうか。 ○筒井幹事 案を提示するというと,一定の方向が含意されるかもしれませんけれども,いずれにしても検討結果を提示して,意見をお聴きする機会があるという意味に御理解いただければと思います。 ○中井委員 それを前提としながら今日も議論しましょうということですね。 ○筒井幹事 もちろん,本日も御意見を承ることは結構なことかと思いますけれども,事務当局からは何か新たな提案なり,議論の整理をお出ししていないというのがこの部会資料の意味でございます。 ○中井委員 そういう意味であれば,本日山本敬三先生からペーパーが出ているようですので,恐らくこの「惹起する」についての積極的な御説明があるのかと思いますので,是非,お聞かせいただければと思います。 ○山本(敬)幹事 それは,今日,議論することではないと考えていたのですが,セットにしないと判例の全体像が見えませんので,調べたものは今回,すべてお出しして,次に検討するときの基礎にしていただければと考えていました。今日が検討する場であるのであれば,喜んでいろいろ申し上げたいと思いますけれども,しかし,今日,検討するというわけでは必ずしもないのであれば,適当ではないのではないかと思って来ましたが,いかがなのでしょうか。説明ぐらいせよと言われれば幾らでもしますけれども。 ○筒井幹事 特に今日,積極的にその点の御意見を承りたいという御趣旨ではなかったのですが,山本敬三先生の資料は頂戴しておりますから,それに基づいて,これも含めて事務当局として引き続き検討したいと思います。 ○鎌田部会長 ということでよろしいですか。 ○中井委員 では,一言だけ。この素案が出ましたので弁護士会で意見を広く求めました。弁護士会としては(2)のまとめ方,「惹起」という表現で簡潔に取りまとめるという方向に賛成が多かったということだけ,今日はお伝えしておきます。 ○鎌田部会長 ほかに動機の錯誤関連の御意見がありましたらお出しください。よろしいですか。   では,3の「錯誤者に重過失がある場合の例外」についての御意見がありましたらお伺いします。 ○道垣内幹事 イなのですが,「同一の錯誤」というのは何なのでしょうか。 ○笹井関係官 ご質問の趣旨を十分に理解できていないのですけれども,共通錯誤という趣旨だったんですが。 ○道垣内幹事 では,共通錯誤とは何かなのですが,同一の事項について錯誤に陥っているのでしょうか,それとも錯誤の中身も同一なのでしょうか。 ○笹井関係官 錯誤の中身も同一であると理解しておりました。 ○道垣内幹事 例えばある物について,Aさんの側は甲というプレミアムな性能が付いていると考えており,乙さんの側は丙というプレミアムな性能が付いていると考えていたという場合に,だからこそ,売るほうも高く売り,買うほうも高く買ったという場合は,ここに該当するのでしょうか。 ○笹井関係官 そこは何か具体的に考えていたわけではありません。 ○道垣内幹事 私も余り具体的に考えていたわけではないのですが,「同一の錯誤」といったとき,完全に同一の錯誤,原因も何もかも全部一緒という場合もあるのでしょうけれども,重過失があっても錯誤を認めるべき場合というのはどうもそれだけではないような気がして,「同一の錯誤」という言葉でうまく表せているのかというのがよく分からないものですから。 ○笹井関係官 一般的には,共通錯誤というのは同じ項目についての錯誤と理解されていたわけではないように思います。これまでのこの説明にも書きましたように,共通錯誤の場合には95条ただし書の適用がないという考え方はいろいろな教科書に書いてある一般的な考え方だと思いますけれども,そこでは,どの項目に錯誤があるかというだけでなく,錯誤の内容も同じであるということが前提とされていたように思います。確かに,道垣内先生からも御指摘がありましたように,中身だけではなくてもう少し広がるのではないかという考え方はあり得るし,それで重過失の適用を排除するのが適当な解決であるという場面もあるかもしれませんけれども,ただ,そこは余り十分に議論されないままに広げてしまうのもどうかなと思います。そういう意味では,表現としては同一の錯誤という表現にして,その上でもちろん解釈によってにじみ出てくる部分はあるという対応も可能ではないかと思っております。 ○道垣内幹事 分かりました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   「第三者保護要件」については中間試案から変わりがないので,余り御意見はないかと思いますけれども,よろしいでしょうか。   よろしければ,次に進ませていただきます。部会資料76Aの「第2 保証」について御審議を頂きます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 部会資料76A,「第2 保証」,「1 個人保証の制限」の素案(1)は,原則として,事業のための貸金等債務を主債務とする保証契約等は,ア及びイに掲げた者以外によるものを原則として無効とするというものです。部会資料70Aにおいて示された考え方と基本的な方向性は変わっていませんが,いわゆる経営者として掲げた者の範囲は修正を加えています。部会資料70Aでは,業務執行をする権利があるかどうかという観点から経営者の範囲を画そうとしていましたが,例えば取締役会設置会社における業務執行取締役以外の取締役や委員会設置会社の取締役などは,会社の重要な意思決定に関与することができ,会社の情報にも接する機会があるため,業務執行をする権利を有してなくても保証人となる資格を認めて差し支えないように思われます。そこで,業務執行をする権利の有無によって画するのではなく,理事,取締役,執行役又はこれらに準ずる者としています。   素案(2)については部会資料70Aからの変更はありません。   素案(3)は,素案(1)の例外としていわゆる経営者以外の者が有効に保証することができる場合を設け,そのための具体的な手続を定めるものです。これも基本的な方向は部会資料70Aから変わっていません。具体的な手続としては保証人になろうとする者は,保証や連帯保証をすることの意味を理解していること,主債務について保証する意思を有していることなどを陳述し,そのことを公正証書で記録として残すこととしてはどうかと考えております。公正証書によって保証人の意思や保証の意味についての理解の有無を十分に確認することとする一方,公正証書によって保証契約を締結するのとは異なり,保証人になろうとする者だけが公証役場に行けば足りるとすることによって,不必要なコストを軽減しようとするものです。   「2 契約締結時の情報提供義務」は,素案(1),(2)とも部会資料70Aから基本的な方向性には変更はありません。ただ,素案(1)については,部会資料70Aでは事業の内容や収益状況を説明しなければならないとされていましたが,今回の資料ではこれを情報提供義務の対象とはしていません。これは,事業のために融資を受けるとしても,必ずしも特定の事業のために借りるわけではないこともあるため,主債務者が行っている全ての事業の内容等を説明させるのは現実的ではなく,一方,主債務者の責任財産は特定の事業から得られる収益などに限定されるわけではなく,主債務者の資産全体が引当てになるため,保証人のリスクという観点からいえば,主債務者の資産や収入の状況について情報提供が尽くされれば足りると考えられるからです。また,素案(2)では,第80回会議における審議を踏まえて,取消しの要件として保証人になろうとする者の誤認と意思表示との因果関係を要件としています。   「3 主たる債務者の履行状況に関する情報提供義務」では,部会資料70Aでは取り上げられていませんでしたが,第80回会議における審議を踏まえて,保証人が請求した場合には,債権者は主債務者の履行状況について情報提供をしなければならないという規律を新たに設けるものです。   説明は以上ですが,大島委員から「第86回会議に対する意見」を書面で頂いておりますので,これについてここで併せてお答えしておきたいと思います。大島委員の意見は,素案でいいますと「第2 保証」の「1 個人保証の制限」に関連するものですけれども,第三者保証を制限する規定を導入することには反対しないとした上で,(1)のア及びイの範囲についての御意見を頂いております。(1)のア及びイの範囲が部会資料70Aの範囲より狭まっており,これに賛成することは困難である,(1)で経営者と同視し得る者として保証できる範囲を的確に定めなければ,中小・小規模事業者の資金調達に極めて大きな影響を生ずるとして,2点,問題提起を頂いております。   一つ目は,今回の提案では,主債務者が個人事業主の場合には配偶者を保証人として融資を受けることは困難になるが,個人事業主においては夫婦で一つの事業を営み,配偶者がその事業の遂行に重要な役割を果たしている場合も少なくないということで,そういった配偶者による保証を可能とすべきではないかというものです。もう1点は,現在の金融庁の監督指針においても,経営者に身体の不調等がある場合に事業継承予定者の保証も認めているので,事業継承予定者がこれまでどおり,保証を行えるような規定を設けるべきである。この2点でございます。   この点については,以前からも大島委員から御意見を頂いていたところです。ただ,今回の資料では結果的にはそれと異なった考え方にはなっているわけですけれども,まず,配偶者について配偶者による保証を可能とするという点についてですけれども,これは前回も御議論があったところかと思いますが,もちろん,配偶者が取締役のような地位にある場合には(1)のアによって保証することができることになるわけですけれども,そうではなくて,そこまで重要な意思決定を担っていない,事業を運営するに当たって取締役などの地位について重要な意思決定を担っていないという場合まで,保証の例外を認めてよいのかどうかということには,慎重な意見もあったかと思います。   保証を制限する趣旨は,情義性であるとか,あるいは未必性とも言われますけれども,保証債務を現実に履行しなければならないのかどうかというのが契約時点では分からないというような事情を考慮したものでありまして,そうであるからこそ,経営者と同視できる,あるいは主債務者と一体と見得る者については,(1)で例外とするわけですけれども,そうではなく単に配偶者であるというだけで,仮に事業に関与するにしても意思決定に対する関与の程度が小さいという場合には,配偶者であるという理由で本当に保証を認めてよいのか,その正当化は難しいのではないかというのが今回の資料の前提になっているところです。   事業継承予定者についても同じように考えておりまして,実際に事業を承継した場合には主債務者と一体をなすものとして(1)によって保証することができることになるわけですけれども,その地位にまだついていないという場合には,正しく情義性などの問題が出てくる場面であるとも言えるわけでして,取締役の地位についていないのに事業の継承を予定しているというだけで保証を許容するということを正当化するのは,難しいのではないかと考えた次第です。   一方で,保証人になる道として,(1)だけではなくて(3)も準備されています。もちろん,(3)はそれなりにハードルを高くしてあるからこそ,例外的に保証することができるわけですけれども,一方で,真に保証意思を持っている者にとってみれば,それを超えることが絶対にできないというハードルではありません。そういった(3)とのバランスなども考えますと,(1)でア,イに絞ったとしても,それほど大きな問題はないのではないかというのが今回の部会資料を作成した意図であります。ただ,ここはもちろん実務的な御意見もあろうかと思いますので,部会で御審議いただければと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分について御審議頂きますので,御自由に御発言ください。 ○中原委員 1の「個人保証の制限」について少し意見を述べさせていただきます。銀行界は従来から個人保証を制限的に運用する,あるいは保証人を保護するという流れに賛成しております。ただし,一方で事業者,特に中小規模の事業者の資金調達に影響を与える内容の規律は避けるべきだろうということです。今回の御提案ですけれども,1の(1)の規律からすれば,アは主たる債務者が法人その他の団体である場合,イは主たる債務者が法人の場合に限られていますので,主たる債務者が個人の場合は,結局,(3)の形式を整えなければ個人保証が契約締結できないように思います。   例えば実務上はアパートローンについては,ほぼ例外なく推定相続人1名を保証人にお願いしています。アパートローンの場合には,事業のための借入れといっても個人が賃貸物件等を管理し,また,賃料収益が安定しているとは言い難いことから,収益による弁済に加えて個人保証が信用補完として必要になるということです。特に融資期間が20年を超える長期の貸出しであれば,債務者に相続が発生することが十分に想定されるため,事業の承継が予定されている相続人を保証人としてお願いしています。更に例えば,個人事業主の場合,配偶者と一緒に事業を行っているケースが多いと思います。あるいは事業を承継することが予定されている子息と一緒に行っているケースもあると思います。これらの場合に配偶者や事業継承予定者に保証人になってもらうことは社会的に見ても是認されるのではないかと思います。   しかしながら,これらの場合であっても今回の提案では,(3)では,保証契約を公正証書で作成するのではなく,公正証書により保証意思を確認しなければならないとされています。具体的には,(3)アの(ア),(イ),(ウ)を確認しなければならないということです。個人事業主について,(1)での規律によって個人保証が制限されるのであれば,(3)はもう少し柔軟にして良いのではないかと思います。例えば(3)については,公証人でなくても良いのではないかと思います。一つの代替策としては,弁護士に確認してもらう方法でも十分ではないかとも思います。あるいは保証契約書の中に(ア),(イ),(ウ)を詳細に記載して,それを読み聞かせて確認した上で署名してもらう形もあり得るのではないかと思います。   公証人役場といっても,そんなに至る所にあるわけではございませんから,わざわざ公証人役場に行くというのも,結構,手間が掛かるだろうと思います。ましてや例えば緊急融資をする場合で保証人が必要というときにも,この(3)の方法によらなければならないとすると,実務上,大きな支障が出るのではないかとの意見もあります。したがって,個人保証について(1)で制限するのであれば,(3)の規律を緩めるというようなバランスをとっていただくのが適当かと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   関連した御意見があれば併せてお出しください。事務当局から御発言がありますか。 ○笹井関係官 今,中原委員から,(1)に個人が事業主である場合の保証が含まれないのではないかという御指摘を頂きましたが,今回の資料では確かにそのようになっております。部会資料70Aでは,取締役と同視できる者,同等の支配力を有する者というような形で,主債務者が個人事業主であっても,公正証書ではなくて(1)で保証することができる余地を残しておりました。   ただ,一方で確かに中原委員がおっしゃるように,場面によっては,第三者とか個人事業主の親族であるとか,配偶者であるとかが現実には事業を切り回しているということで,保証人になってもらっても構わない場合があるではないかといわれると,そういう場面があることは確かに否定できないと思っております。ただ,そこをどうやってうまく切り出していくかが難しい問題で,70Aの考え方でも外縁が不明確ではないか,同等の支配力というのが一体どういう場面を指しているのかが不明確であるというような御指摘もあり,これが私法上の契約の有効,無効に直結してくるということを考えると,ある程度,明確な場面に限ったほうがよいのではないかと考えたところです。   そうした場合には,(3)のほうをむしろ緩めるべきであるという御指摘も併せて頂いております。事務当局としても保証意思を十分に確認する手段があって,保証人になろうとする者の理解をしっかり確認する手段もあるのであれば,公正証書以外はおよそ考えられないということではありませんので,是非,御意見がありましたら承りたいと思いますけれども,ただ,一方で,契約の締結過程を慎重にする制度が民法以外の特別法などで設けられている例もございまして,そこでどういった手法が採られているのかということとのバランスというか,そういったものも見ていかなければならないのではないかと思います。   そうしときに,公証人に関与してもらうことが一つの代表的なというか,典型的な手法としては考え得るのではないかということで,今回,こういった提案になっております。第三者保証についていろいろな弊害が指摘されてきて,原則として無効にしようという方向性が固まってきたこともありますので,その例外を余り緩めてしまいますと,(1)でせっかく原則無効にした意味が没却されることにもなりかねませんので,そういう意味では,(3)で実務的な金融の便宜というか,金融に悪影響を及ぼさないということはもちろんですけれども,一方で,第三者保証の禁止という実質を失わない程度に,慎重な手続を踏んだ者だけが保証することができるという制度にする必要がございまして,そういったバランスを考えますと,今の(1),(3)というのがそれなりにバランスのとれたものになっているものではないかと,今,事務当局としては考えているというところでございます。 ○深山幹事 中原さんから御指摘のあった点ですけれども,大島さんの意見の中で語られている個人事業主の場合の資金調達において,配偶者であるとか,推定相続人であるとか,事業の承継者,こういう人を意識したときに,今の提案でいいかということについては,考える余地はあると思うんですが,なお疑問も感じます。考え方として,元々,今の提案でいえば,(1)のところはいわゆる経営者保証として例外的に個人保証が認められる場合の要件をどうするか,(3)のところは経営者ではない,いわゆる第三者保証についてどういう要件で,誰に対して認めらるべきかというところで,大きく二つのくくりで議論していたんだろうと思います。そういう意味では,個人事業主の配偶者であるとか,相続人であるとか,事業継承予定者というのは,経営者に準ずる人が保証人になれないのはおかしいのではないかという議論の中での話なんだろうと思います。   したがって,その部分に何か手当てをするんだとすれば,(1)のところを工夫して,そのようなものが一定程度,盛り込まれるような要件立てをすべきであって,(3)のほうで調整しようというのは方向性としては違うのではないかと思います。筋論としてもそう思いますし,実質的にも,今,笹井関係官がおっしゃったように(3)が緩くなってくると,そもそもの個人保証を禁止し,第三者保証禁止するという考え方自体が揺らいでくるということにもなりかねないということを危惧いたします。 ○高須幹事 15年ほど前に弁護士公証制度というのを検討したことがあります。唐突な話で申し訳ありませんが,弁護士もある程度,公証的な役割を担うことがあってもいいのではないかという発想で始めた検討です。先ほど中原委員の御説明を聞いていて,その後の15年の不勉強を今,悔いているところなんですが,そういう制度ができれば,ある意味では今のような公証人の方だけに負担をお願いするという,負担の重さは回避できるのだろうと思います。   ただ,自戒を込めて言うんですが,我々弁護士はなかなかそういうところまでの仕事をする状況にはなっていなくて,当事者的な立場で仕事をしている,これは伝統的な弁護士像だと思うのですが,その中で今でも基本的には仕事をさせていただいていると。そうなると,(3)のところの役割を担うというのはなかなか難しいのではないか。ある意味では,(3)のところで我々のような弁護士が何かのお役に立てる時代が来ればいいと思いますが,今回の民法改正では間に合わないのではないか。公証人の方にある程度の御負担をお願いするということが今の段階では合理的ではないかと思います。 ○中井委員 1の「個人保証の制限」の基本的な考え方については賛成したいと思います。本日,再度配布ということで日弁連の2月20日付けの意見書を配布させていただきました。1ページから2ページに掛けて個人保証の制限についての提案をしております。ここについてはまず,経営者保証の経営者概念については,形式的な基準プラス業務全般を執行する権限という形で,実質的な権限での絞りを掛けようという提案をしております。   現段階でも,こういう意見は一定程度賛成を得ておりますけれども,今回,提案をされた形式基準で明確に区別するという考え方,これについては,これまでにも説明がありましたように相当程度の合理性があると思いますし,有効,無効の切り分け基準としては明確性を尊重するという,この基本的考え方に賛成したい。将来的には日弁連の提案等を更に検討する余地はあるとしても,現段階ではこの枠組みを決めるということが極めて重要だろうと思いますので,このような形式基準で,まずは経営者保証の範囲を限るということについては賛成です。   また,第三者保証については(3)の公正証書という形で今回,認める形になりました。日弁連の中でも(3)を取り入れることについては強い反対,これもかねてこの部会の中でも原理的に個人保証を禁止する,例外的に経営者保証を認めるという枠組みの中であるならば,(1)(2)でとどまるべきだという,この考え方になお強い賛成意見もございます。しかしながら,実務の実情に照らして,これまでの審議の過程で第三者保証でも一定程度,認めなければならないという御意見が強くあると伺っておりまして,その限りで(3)という類型で公証人に過大な負担を負わせるということになるかもしれませんけれども,そこで内容を確認した上,保証意思を確認した上で,このような枠組みで第三者保証を認めていくことについて賛成を致したいと思います。   先ほどの問題になっています個人事業主の場合の問題提起については,なるほどと思われる点がございます。これについては深山幹事から話がありましたけれども,それは(1)の問題だろうと,(3)で処理すべき問題ではないと私も思います。そのとき,(1)の問題になったとき,これは形式基準で一応明らかにしているわけで,その形式基準に匹敵するような基準が得られるのかというところではないかと思っております。   その点,本日,配布しました大阪弁護士会の意見ですが,これが果たして形式的基準として満足するかどうかは,なお,御議論の余地があるかと思いますが,3ページの一番下のほうで,「(3)経営者の範囲(個人事業主の共同経営者)」という項目を設けております。単に配偶者や子若しくは相続予定者,事業継承予定者というのではなくて,正に個人事業主が共同経営に当たっているような場合については認めていいのではないか。これは形式基準ではないのかもしれませんが,このような限定的な取り込みという形で,(1)にウという項目を付けて解決することができないかということを提案しております。中原委員若しくは大島委員の御提案している範囲が共同経営者であるならばここでカバーできる。しかし,それを超えて先ほどの事業継承者等であれば,(3)の問題として解決していくべきではないかと思っております。   ただ,基本的にこの枠組みに賛成と言いながらですが,(3)の範囲を確認しておきたいんですが,貸金等根保証契約であっても第三者保証は公正証書の方式でできると読めるんですが,それは疑問ではないか。それは先般,ここで公正証書による場合でも一定の限界を議論されたかと思います。山野目幹事からも御発言があったかと思いますが,少なくとも根保証について(3)の方式で容認するのは不適切ではないか,これは個別保証についてそれぞれ借り入れる金額,債務者の状況等について十分認識した上で保証するというのが肝要ではないかと思いますので,(3)については貸金等根保証については除外する,是非この提案に取り入れていただきたいと考えております。 ○三浦関係官 中小企業庁の考え方を御紹介させていただきたいと思うんですが,基本的に賛成意見ということでございまして,個人保証の制限ということについては中小企業庁としても信用保証協会で第三者保証人徴求を原則禁止する,第三者を保証人として求める金融慣行の見直しを推進してきていると,個人保証に依存しない融資慣行の確立が望ましいというのが大前提であります。実務的に後継者による保証など第三者保証が必要なケースがあることはあると,そのような実態を踏まえて保証意思を明示的に確認することによって,経営者以外の第三者の保証も例外的に有効とするという方向性も理解できるということでございます。   以上を踏まえて,ただ,同時に考えたいというところは保証意思の確認方法で,公正証書とする案が今あって,ただ,その点について実務的に機能するかどうかというのが大島委員の意見書あるいは中原委員の御指摘などで御懸念があって,ここのところは実務的に機能するかどうか,十分な検討が必要だなと考えております。多分,金融のガイドラインがあって,そこで認められていることは何らかの形で引き続き使えるようになるといいなというのが大事なポイントだと思っています。それは(1)の取締役等々に準ずる者というところの範囲で救うのか,それともそっちでは救い切れなくて,その代わり(3)のほうがワークできるものにするのか,それはどっちでもあるかと思います。   ちなみにですけれども,監督指針で認められている範囲というのは,もちろん,配偶者,奥さんであれば誰でもいいということではない,配偶者の中でも経営者本人とともに当該事業に従事している人に限られていると,それから,事業継承予定者というのもこの言葉の範囲ですけれども,当然,生物学的に息子とか娘であれば,自動的になるということでは恐らくないんだと思います。ということで,奥さんとか息子さん,娘さんであればみんながなるということではないとある程度,監督指針も限定は入っていると思いますので,その範囲の人が(1)の準ずる者なのか,あるいは(3)を実務的にワークできるようにするのかで救われるのがいいのかなと思っています。   公証人のほうは一定のハードルでなければいけないし,多少,手間が掛かるのはやむを得ないのかもしれませんが,確かに調べてみますと東京などは比較的,公証人役場が至るところにあって行きやすいかなと思いますけれども,例えば北東北なんかへ行くと,あの結構,大きな面積の県で1県に2か所ぐらいだったりして,多分,片道を車で3時間ぐらい走らなければいけない人も相当いるかもしれないなというようなこととか,今,中小企業は400万社ぐらいいて,2割ぐらいは個人保証を使っていてというと,80万社ぐらいなのでみんなが公証人を求めていくとそれなりの数になるのだろうなと。もちろん,今回の民法改正を機にこれからどんどん減っていく方向なので,80万ということはないのかもしれませんけれども,それなりに数があって公証人役場も結構,キャパシティとして大変だろうなというようところも,確かに言われてみると実務的に回るかということで,気を付けたほうがいいこともあるような気も致しますので,そこのところはよく現場の方の御意見を踏まえながら,検討していただければなと思っております。   具体的にこう工夫したらいいのではないかということまで言えるといいんですけれども,なかなか実務のことは余り知恵もないんですが,例えば最初の保証契約を結ぶときはきちっとやるけれども,何か同じ相手と同じようなものを借換えではないですけれども,保証の仕替えでやっていくようなときは同じところまで求めなくてもよいのではないかとか,工夫の余地はあるのかもしれませんし,いずれにせよ,そこのところは今の監督指針などで認められている範囲のものは(1)か(3)か,何らかの形で合わせ技かもしれませんけれども,認められるようになるといいなと思います。   監督指針でやっている範囲のことは,引き続きできてもいいのではないかというのは,前回のこの部会の議論でもそれほど御異論はなかったような気が致しますので,そこはうまく(1)と(3)の両方を使いながら,実務が回るようにしていくということが重要なのかなと思っております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかには。 ○佐成委員 ここは,内部で議論したときには議論がなかったわけではないんですけれども,素案そのものについては比較的よくできているかなとは感じていたところです。特に(1)は非常に明確になっておりますし,(3)もある意味で厳格になっていると,そういう印象です。ただ,今,いろいろ御意見を伺っておりますと,現在,問題なくできているような範囲,共同経営者的な配偶者であるとか,あるいは近々ないし近い将来,後継者となるような人が,特に個人事業主に関してですが,(3)でないと救済できない,現在のこの提案だとそうなっています。そうなると,私もそれで本当にいいのかなと思ったところです。実際,公証役場へのアクセスが,今も三浦関係官のほうで色々ご指摘がありましたけれども,不便な場合もあり得て,現実的に機能するのか。あるいは,今,中原委員がおっしゃっていたように,緊急の場合に本当に対応できるのか。そういったようなところは確かにごもっともなところがあるなと感じております。   どう修正したらいいかということに関して,弁護士会の皆様方としては(1)を緩めるような形で今,議論をされておられるようでございますけれども,要するに中井委員の話でいけば,(1)のところで共同経営者という言葉を入れるというような話だったかと思うんですけれども,果たしてそれでうまくいくのかなというのが若干,私は疑問に感じております。むしろ,(3)のところで中原委員が弁護士による証明とかを新たに御提案されていたので,これをしっかり検討するべきと思うのですが,本職の弁護士の皆様方が一蹴されているので,私がとやかく言うような話では余りないんでしょうけれども,これもかなり有力な選択肢ではないかなという感じがします。どうしても駄目ということになるとちょっと困ったなという感じがするんですが,例えば会社法上,現物出資なんかでは相当性の証明を弁護士は現にやっております。ですから,ある意味では,そういう事実証明的なものについて弁護士が関与するというのは,必ずしも合理性がないということではないような気もしておるわけです。私もその辺りの経験がなく,その実態はよく分からないんですけれども,少なくとも(1)のところで何か不明確さを残すようであれば,むしろ,(3)の厳格さは残しつつ,何か手当をしていくというのも一つの方向性かなと思います。それが絶対に必要だとまで言っているわけではないですけれども,(1)だけではなく(3)も何らかの形でもうちょっと使えるような形にできないかなと感じた次第です。 ○中田委員 意見ではなくて質問なんですけれども,(1)の貸金等根保証契約というのは制約が係っているんですか,それとも,貸金等根保証契約一般なんでしょうか。 ○笹井関係官 制約というのは,「事業のために負担した」というところが係っているかということでしょうか。 ○中田委員 そうです。 ○笹井関係官 ここは係っていないという趣旨です。つまり,「又は」は事業性のものと貸金等根保証契約をつないでいるということです。 ○中田委員 分かりました。そうすると,貸金等根保証契約については事業性を問わず,現在の要件に新たに付け加えると,こういうことになるわけですか。 ○笹井関係官 はい。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ほかには。 ○岡委員 2点,申し上げます。   (3)の公正証書については中井さんも言いましたけれども,いろいろな説がある中で,この方向でいいのではないかというのが弁護士会の多数意見でございます。先ほど来,弁護士がこの職に当たれないかという話が出ておりますが,弁護士会で議論していたときも,韓国では5人以上,弁護士のいる事務所が公証に当たっているという制度も紹介されておりました。今すぐは弁護士がそういうのに携わるのは無理だというのが共通認識ではございますが,弁護士の職域拡大を封ずるような発言を私どもとしてすることはできません。法律が変われば弁護士会としては,そういう仕事に関与することにはやぶさかではないということは一言,申し上げておきたいと思います。   ただ,弁護士といっても4万人ぐらいいる時代になっておりますので,弁護士よりは弁護士会のほうがいいのではないかとか,そのような議論はしてきました。ただ,7月に出す要綱仮案では公正証書というのが現実的な案で,それから先はこの後,考えるというのが現在の多数意見だと思います。   それから,2点目でございますが,(3)についての保証契約を公正証書でやるという仕組みではなく,保証契約の締結に先立ち,保証に関する公正証書が作成されているときとなっています。これはかなり事務当局が工夫をされて,恐らく債権者も公証人役場に行くとなったら面倒だろうから保証人だけが行けばいいと,そういう工夫なのかなと理解を致しました。先ほど説明にあったかどうか記憶していないんですが,契約の公正証書化ではないので執行認諾約款は取れないと,これは部会資料には書かれていないんですが,外に出すときにはそれはきちんと強調していただきたいと思いました。その上で,いろいろ工夫はされているんですが,うまく機能するのかという点については,これから考えてみたいというところでございます。 ○中原委員 先ほど貸金等根保証契約というのは,事業性の資金に限らないというような御説明があったと思うのですけれども,そうなれば,例えば消費者の小口のカードローン等々の保証人も,全て(3)で公証人役場に行って保証意思を公正証書で確認しなければならないことになりますが,そうすると,かなり実務が混乱に陥ると思います。 ○笹井関係官 貸金等根保証につきましては,そこの実態があれば教えていただきたいと思うのですけれども,基本的には貸金等根保証みたいなものを事業以外の場面で使うという例はそれほど多くはなくて,先ほど申し上げましたように「事業のために負担した」というのが直接,「貸金等根保証契約」というところに係っているわけではありませんけれども,実質的には貸金等根保証契約というと,基本的には事業性のものがほとんどを占めるのではないかとは理解していたのですけれども,そこは実態としてはそうではない場面もあるということなのでしょうか。 ○中原委員 例えば極度額の小さなカードローンは,生活費を補完する役割で一般的によく利用されていますが,それに対する保証は根保証だと思います。個人の小口のカードローンも含めて根保証契約を締結する場合は,全て公証人役場で保証意思を確認しなければならないとすれば,何十万件という取引数があると思いますので,そこは少し工夫していただかないと実務が混乱すると思います。 ○山野目幹事 2点,申し上げます。   中原委員から問題提起を頂いた貸金等根保証契約の概念でございますが,笹井関係官がお答えになったように,これには事業性という制限が付いていないという趣旨で,本日の部会資料のみならず,一貫してこの部分については提案がされてきたものであると私は理解しておりました。それで,実際上,問題が生ずる部分についての中原委員からの御指摘があったことを受けて,取引の実態を更に検討して立案の作業を進めていただくことが望ましいと考えますが,現在,根保証で行われているものが本当に根保証でしなければいけない局面ばかりなのかということも,もう一度,洗ってみていただいたほうがいいのだろうと感じます。これは引き続き,そういう意味で検討されてよい課題なのではないでしょうか。   1の(3)のところについて,それとは別ですけれども,意見を申し上げます。公証役場の数が足りなかったり,非常に遠隔地にあったりすることからくる不便,支障等の問題について御議論が深められたことは,有益であったのではないかと感じます。   考え方としては弁護士又は弁護士法人が,ここで提案されている公証人の役割を担うということがあり得ないわけではないでしょうし,それから,金額が140万以下であるなどの制約を添え,又は添えないで認定司法書士や司法書士法人がそれを担うということも,全くあり得ない話ではないだろうと感じますけれども,岡委員がおっしゃったように,それはかなり制度の細部にわたる事柄でありますから,今,要綱案に向けて議論しているときに,そこの細かな部分につい漏らすことなく明らかになっていないと,議論が進められないという性質の問題ではないとも思います。岡委員がおっしゃったように将来の制度の発展可能性ということについては,なお,意見が留保されてよいということを前提にしながら,当面,(3)を今のような骨格のものとして,更にどうしていくことがよいのかということの御議論があればよろしいのではないかと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○松本委員 確認といいましょうか,教えていただきたいんですけれども,(3)の意味なんです。保証契約そのものを公正証書でやるのではないと,だから,保証契約の締結に先立ちという文言が付いているんだという御説明だったんですが,アの(ウ)を見ると,主債務について保証契約を締結する意思を有していることというわけだから,そもそも,保証とはこういうものですと私は知っていますという,そういう学問的な認識を口述しているわけではなくて,何月何日付の誰々さんを主債務者とする債務について,これだけ重い責任を負うということを私は十分理解した上で,保証意思がありますという非常に個別的なことを言っているわけですよね。これは何なんですか。申込みか承諾かの意思があることの確認,しかし,契約の成立要件としての意思表示はなされていないとか,そういう説明なんですか。 ○笹井関係官 意思表示ではなく,意思の通知でもなく,観念の通知でもなく,正にそういう意思があるということを表明したということになります。 ○松本委員 公証人の公証実務で,これに類似したようなものはどんなのがございますか。 ○笹井関係官 公証人の公証実務は範囲が広く,単なる事実をそのまま公証するということもありますので,公証人の職務の中には入ってくるのではないかと考えております。 ○松本委員 この後で実際は締結しなかった場合に,この意思は消えてしまうという理解でよろしいですか。 ○笹井関係官 もちろん,そういうことになると思います。 ○道垣内幹事 先ほど中原委員のほうから,カードローンのときの保証にも公証人を使うということになると大変だというお話がありましたが,なぜ,そのときは公証人を使わないでよいことになるのかという正当化根拠が私にはよく分かりませんでした。というのは,個人が安直に保証してしまっているということをどう避けるかという議論がずっとされてきたわけですが,そのときに,なぜ,カードローンの場合は(3)からも排除してしなければならない,ないしはしてよいということになるのか,その理由があるのかというのが分からなかったのですが。 ○中原委員 カードローンというのは基本的には小口です。したがって,小口のカードローンに対して,そこまで重い手続を入れるのが本当に現実的だろうかということです。現に無担保で貸越極度額が30万円,50万円,100万円といったカードローンも多数世の中で普及しており,例えば配偶者を保証人とするというような商品もあります。このように事業とは全く関係ない,生活のために利用することを目的とする小口のカードローンについても,こういう重い手続を経る必要があるのかということです。 ○道垣内幹事 簡単に言うと,額が少ないものは外せということでしょうか。 ○中原委員 保証人の生活を脅かさないような範囲であれば,そこまで思い手続にする必要はないように思います。 ○道垣内幹事 ということは,これ以外に全体として例えば比例原則とか,そういうものを入れることによって対処しろということですか。 ○中原委員 単純に比例原則で対応できるかどうかは分かりませんが実務の実態をもよく御検討いただければということです。 ○道垣内幹事 問題は実態をそのまま追認してよいかというところにあるわけですので,現在の実務の実態がどうなっているかということが決定的なポイントになるわけではないと思うのですが。 ○中原委員 それはそのとおりだと思います。 ○鎌田部会長 ほかに個人保証の制限に係る御意見がありましたらお出しください。   もしないようでしたら,ほかの点について御意見をお伺いいたします。 ○中原委員 2の「契約締結時の情報提供義務」について幾つか,まずは質問させていただきます。この提案の事業のために債務を負担する者という,その債務というのは貸金等債務に限らず,一般的な債務を含むということでしょうか。   2点目,それから,1で例えば(1)ア,イに該当する者に対しては,自らが会社の内容あるいは状況を全部知ることができる立場にいますので,彼らに対する説明は必要ないという理解でよろしいでしょうか。 ○笹井関係官 一つ目の(1)の「事業のための債務」が貸金等債務に限らないかというところは,おっしゃるとおり,限らない,つまり,事業のためであれば,貸金に限らず,一般的に2の規定の適用を受けると考えております。   それから,1の(1)ア,イに該当する者であれば説明する必要はないのかということですけれども,基本的にはこの(1)でそういった制限を加えておりませんので,説明の対象にはなってくると思います。ただ,主債務者そのものに近い人々でありますので,十分,分かっているという場面には,(2)の取消しの効果は及んでこない。これは前回の審議も踏まえまして,その誤認と意思表示との因果関係を要求したということもありますし,そもそも,誤認というものがあるのかというところにも関係しますので,結果的に(2)の要件は満たさないだろうとは考えております。 ○中原委員 アの資産及び収入の状況という点ですけれども,債権者が債務者の資産及び収入の状況の全体像を把握するのは極めて難しいだろうと思います。銀行は与信先であれば決算書をもらいますけれども,決算書が資産収入を正確に反映しているといえるかは,大変難しいと思います。したがって,債務者が虚偽の説明をしたことを債権者が知り,又は知ることができたときは,それを取り消すことができるという形で法律ができれば,債権者として考えられる実務的な対応は,保証人から,資産及び収入の状況については債務者から正確に説明を受けましたという,表明保証のような内容の書面を提出していただくということになると思いますが,これでも過失があるという認定をされる可能性はあるのでしょうか。 ○笹井関係官 特に過失になりますと個別の事案ごとの判断にならざるを得ないと思いますけれども,ただ,前回も申し上げたとおり,債権者に厳格な調査義務を課して,どういう説明を受けたのか,資産とか収入の状況について客観的に何が正しいのかなどを調査して,突き合わせて検討しないといけないとか,そういうことを求めるものではありません。債権者が資産とか収入の状況を本当に正確なところまで知り得ないというのは,中原委員の御指摘のとおりだと思いますから,分かる範囲で過失がなかったと評価されれば,取消しにはならないのではないでしょうか。そういう意味で,こういう説明を受けたという紙をもらっておけば,それで十分だったということもあろうかと思います。ただ,ずっといろいろな取引があって,明らかに説明を受けた事項が虚偽であったと普通であれば分かるような場面では,そういった紙があったからといって,直ちに無過失とは言えないということにはなると思います。 ○中原委員 債務者から説明を受けた内容を,債権者が保証人から聞く必要があるということでしょうか,それとも,そこまではする必要はないということでしょうか。 ○笹井関係官 この規定上は,その必要はないということです。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○中原委員 はい。 ○佐成委員 確認ということで,内部で出ていた意見ですが,2の(1)のイのところで,「主たる債務以外に負担している債務の有無,額及び履行状況」と,こうなっております。この主たる債務者が説明しなければならない中身ですが,これは個別の債務の内訳を詳細に説明するということではなくて,総枠というか,そういった形で説明すればいいということでしょうか。そういったところがとりわけ実務的に混乱するおそれがあるので,明確にしていただきたいという,そういう意見があったということでございます。 ○笹井関係官 この資料の意図としましては,詳細に債権者誰々に対して幾らの債務を負担しているとか,そこまでの内訳を書く必要はないと考えておりました。ここは飽くまで保証人が保証するに当たって,自分が現実に保証債務の履行を求められるリスクがどれだけあるのかということを認識する機会を与えるということですので,全体としてどれぐらいの債務を負担しているのかということを説明すれば足りるのではないかと思います。 ○佐成委員 ありがとうございます。 ○鎌田部会長 2(2)の1行目,2行目,4行目の合計3か所のアを(1)に改めてください。中原委員,よろしいですか。 ○中原委員 はい。 ○中井委員 この「契約締結時の情報提供義務」についても,この部会での審議の経過を反映したものと理解をしております。債権者が説明するという考え方も論理的にはあるのかと思いますが,審議の経過を経て,主たる債務者から係る事実を説明する,第三者取消しの詐欺の構造を(2)で入れて,取消しを認める場面を限定する。基本的なこの枠組みについては賛成したいと思います。   その上で2点ですけれども,一つは資産及び収入の状況となっております。部会資料70Aでは,ちょうど9ページの下にも書いておりますけれども,当該事業の具体的な内容及び現在の収益状況というのが入っていて,これが削除された。これは確かに「当該事業の」と限定が付いて,その中の具体的内容や収益状況については,先ほど笹井関係官から説明があったとおり,これを説明させるのは適当でないだろうと。それを資産及び収入の状況の中に含ませるという説明,これ自体は理解できるところです。ただ,収入の状況というのは本来的には収支の状況ではないか。他の法令を幾つか見ましたけれども,収支の状況という言葉は使われているようですので,実質的な狙いはそのように理解してよいのか,また,そのように理解すべきではないかとも思うものですから,これが1点です。   それから,2点目は取消しの構造については因果関係を入れるという,これも部会の審議を反映したものとして適切だと思います。その上で,債権者の主観的な要件についての立証責任の問題ですけれども,大阪弁護士会の本日,配布した意見書の中に書いておりますが,保証人のほうで積極的に債権者が悪意であった,若しくは過失があったことを主張立証する構造になっておりますけれども,むしろ,債権者に立証させるほうがいいのではないかという提案をしておりますので,御検討を賜ればと思います。大阪弁護士会のように提案しても,保証人のほうで虚偽の説明があった,若しくは説明がなかった,そういう局面の説明がなかったら保証はしなかった,ここまでは主張立証しなければならないわけで,その上で債権者のほうが,それは知らなかったよと,自らの主観的事情を明らかにしていただくのが構造的には適切ではないかと考える次第です。この点,更に御検討いただければ幸いです。 ○岡委員 2点,申し上げます。   1点目は日弁連の意見書を今日,再配布していただきましたが,それの18分の8ページを見ていただければと思います。一番最初に中原さんがおっしゃった経営者保証の場合の経営者の場合にも,2の情報提供義務があるのかという点についてでございますが,実質基準で書いておりますが,一定の場合には情報提供義務はないということを明示していいのではないかと,そういう提案を日弁連はしております。その方向性で全銀協のほうが,経済界のほうが安心できるというのであれば,こういう例外は前向きに考えてもいいのではないかと思います。   2点目についてですが,2の「契約締結時の情報提供義務」というのは,保証を取る債権者のほうにも今までと違って安易に保証を取るなと,本来,与信対象である主債務者のことをきちんと調べて貸すのが筋なのに,保証人が付くから余り調べなくていいやと,そういう実務がもしあるのであれば,その実務には変容を迫る趣旨がこの改正にはあると思います。そういう意味では,2の(1)のア,イ,ウについては債権者は当然自分でも調べる,あるいは報告を受けているはずです。それを前提にした規定なんだろうと思います。それもせずに保証人だけ取るという場合には,(2)の規定が発動されやすくなるのではないかと思います。 ○中井委員 今,岡委員がおっしゃられたことの関係で,先ほど中原委員が主たる債務者から保証人に説明したという1枚の紙を取れば,それで十分なのかという御発言がありました。笹井関係官から様々な場面があるという御説明がありました。ただいま,岡委員から本来のあるべき姿についてもお話がありました。今の岡委員の考えを基に先ほどの中原委員のようなやり方については,的確な評価がなされるべきだろう。つまり,それだけでいいというわけには,そう簡単にいかないということを是非,理解すべきだろうと思います。 ○山野目幹事 部会資料10ページの3にいってよろしいですか。 ○鎌田部会長 3はまだこれからです。 ○中田委員 2について二つあります。   ひょっとしたら70Aの議論で既に出ているのかもしれませんで,その場合には失礼いたしますけれども,一つは見出しなんですが,契約締結時の情報提供義務という,この契約は保証委託契約なのか,保証契約なのかがやや不明確で,その義務というのが誰の義務かということとの関係がありますので,少し分かり辛いのではないかと思いました。   それから,もう一つは主たる債務者が提供すべき情報の中に,中間試案の中にありました主たる債務の内容というのが入っていないようなんですけれども,これは当然分かることではあるにしても,明確化したほうがいいのではないかという気もします。更に例えば賃貸借の保証のように期間あるいは契約の更新が問題となるような場合もありますので,ここは場合によってはもう少し丁寧に書いたほうがいいのかなと思いました。 ○道垣内幹事 細かな話なのですが,日弁連から2月に提出された意見書において,「主たる債務者の業務執行権限者又はこれに準ずる者が保証人となる場合は,この限りでない」と情報提供義務のところに書けば,これによって経済界に安心感が生じるのであれば,それはそれでよいのではないかと岡委員はおっしゃったのですけれども,私はこれは危ないだろうと思います。危ないというのは逆に債権者にとって危ない。つまり,同じ概念を二つ使いますと,その両方をクリアしないとその概念に当てはまらないとどうしても解釈される。つまり,1のところの(1)における準ずる者というのは,説明を受けなくても2の(1)の状況がすべて分かると人というのを指すということになってしまうのだろうという気がするのです。それでよいという考え方もありますけれども,同一概念をただし書に使うことによって二重の考慮による縛りを掛ける必要はないのではないか。それは虚偽の誤った情報に基づいて保証契約を締結してしまったという因果関係のところに落とし込んで,別に議論をするというほうが適切なのではないかという気がいたします。非常に小さな話ですが。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはこの2の論点についてよろしいでしょうか。   それでは,3についての意見を伺います。 ○山野目幹事 3の「主たる債務者の履行状況に関する情報提供義務」も,これまでの部会における審議を反映してお作りいただいたようにお見受けして,もっともな御提案がされていると感じました。これは情報を提供しなければならないと,行為規範を示す仕方で規律表現がされておりまして,求めがあって情報を提供しなかったときにどうなるのかという効果の問題についての規律表現は,明確には置かれていないものでありまして,そのことの意味は私なりに理解すると,それは債務不履行の一般原則に委ねられるものであろうと理解を致しました。委ねられるのでれば,別に何か特別のことをここに表現して独立の文章で置いておく必要はないであろうと感じます。   併せて思い付きましたこととして,この規律がワークすることに主に意味があるのは根保証の場合ではないかと感じます。根保証のときに照会があってきちっと債権者が誠意を持って答えてくれなかったときには,一部解除の実質を持つ元本確定請求権を行使させるというようなことはあってもよいのかもしれません。金融機関の実務などの場合は,こういう問合せがあったら,誠実にお答えいただくようなことも多いかもしれませんけれども,この規律は一般的な場面で機能するものでありまして,誠実に対応しない債権者もいるかもしれません。本日,御議論の対象になるであろうほかの論点に関する議論も踏まえた上で,最終的に元本確定事由についての現行規定の整理見直しというものが必要な場面があるかもしれませんから,そのような機会になお一考に添えていただければ有り難いと感じます。 ○鎌田部会長 ほかに3についてはよろしいでしょうか。 ○中原委員 確認ですが,中間試案では個人を保証人とする保証契約を締結した場合にという限定がありましたが,今回の提案ではそういう限定がされていませんが,法人の保証も同じように考えるのでしょうか。 ○笹井関係官 ここは個人に限定したいと思います。 ○中原委員 分かりました。 ○松本委員 私も全く同じ疑問を持っていたんです。部会資料70Aのほうを確認したところ,70Aの16ページ,一番最後のところですが,ここでは保証人が個人であるかどうか,事業のために負担した債務であるかどうかに限らず生ずる問題だから,個人保証人保護という枠は外すんだということがはっきりと理由として書かれているので,そうであれば,そうなんだなと思ったんですが,再び考えは変わったけれども,文章は変わっていないという趣旨ですか。 ○笹井関係官 変わっていないというか,部会資料70Aでは論点として取り上げていなかったので,文章を改めて作ったのですけれども。 ○松本委員 70Aでは落ちていたとすると,3ではないんですか。 ○笹井関係官 3です。70Aでは,この論点というよりは次に議論になる76Bの履行状況についての情報提供義務が取り上げられており,そこでは,個人に限定せずに法人についてもその規定を適用するというような考え方が採られておりました。しかし,前回の部会の中でも本当に法人に適用するのが適当なのかという御意見もあったかと思います。そういった御意見も踏まえて改めて考え直したときに,今まで個人保証人の保護という形で議論が進んでまいりましたので,今まで類似の規制がなかったところで債権者に義務を課していくに当たって,ある程度,立法事実というか必要性が明確な場面に限って作っていくところがまず出発点ではないかということで,76Bでは個人保証に限っておりますし,今回,文章では法人が含まれてしまうように読めてしまうことになってしまいましたけれども,76Aの3のほうでも個人保証に限定することとしてはどうかという趣旨で,今,申し上げたということになります。 ○松本委員 それでは,確認ですけれども,70Aの考え方は撤回されたということですね。 ○笹井関係官 そういうことです。 ○中井委員 今の3のところですけれども,この趣旨は従来の議論といいますか,前回,御指摘を申し上げて復活したということで賛成を致します。ただ,11ページの最後に書いておりますように,これらの情報は,保証人が現時点又は将来に負う責任の内容を把握するために必要なものだからである,正に御指摘のとおりだと思うんです。そうだとすれば,元に戻りまして本文ですが,(2)で履行期が到来した元本,利息,遅延損害金の額となっております。確定債務に対する個別保証であれば履行期が到来した元本だけとすると,遅滞に陥っている元本だけという意味だろうと思います。そうすると,残元本についての情報は提供しないのかという疑問があります。しかし,残元本が幾らなのかという情報を提供することが正に将来といいますか,現在,負っている未払いの債務について把握するために必要な情報ではないか。   また,根保証に関していうならば,これも履行期が到来したもの以外に,現在,まだ到来していない根保証の残額が幾らであるか。それこそ将来に負う責任の内容を把握するために必要な情報ではないかと思うものですから,ここは履行期が到来した未払いの元本,利息,遅延損害金と,まだ,履行期が到来していないといいますか,すなわち,残存債務の元本額というのを情報提供の対象に入れるべきではないかと思うのですが,この点は考慮した上で,それは入れていないということでしょうか。 ○笹井関係官 その点ですけれども,個別の保証の場合と根保証の場合とで利益状況は変わると思うのですけれども,個別の保証の場合には基本的には元々の主債務は最初の時点では理解していたはずなので,そこから既払額が分かれば,あと,どれだけ残っているのかは基本的には分かるはずですし,また,分割弁済していくということになっているのであれば,どれだけの債務が今まで履行期が来ていて,どれだけがまだ残っているのかも,基本的には最初の段階で情報が提供されているはずだろうと思っております。そういう意味で,ここで決定的に重要なのは,今,直ちに自分が履行しないといけないのが幾らなのかという情報で,それは債務不履行を主債務者がしたのか,していないのか,それに依存してくるわけですから,その知りようのない情報について情報提供義務を課したというのが,ここでの趣旨です。   根保証の場合には,もちろん,残元本がどれだけなのかということがその時点では分からない,根保証人としては知りようがないということになりますけれども,ただ,その時点での残元本は余り関係がなくて,結局,その人が今,正に履行しなければならない,履行義務を負っているのは幾らなのかというのが根保証の場合でも重要なんだろうと思います。履行期が来ていない元本はもちろんあるわけですけれども,それはその後変動する可能性もありますし,極度額による予測可能性もありますので,この時点でまず決定的に重要な情報について法律上の提供義務を課した。もちろん,実務的な運用としては,ここの対象には入らないけれども,事実上,残元本についても提供されるということはあり得るかもしれないとは思っておりました。   まとめますと,この時点で決定的に重要な情報というのは,今,正に保証人が履行義務を負っているのは幾らの金銭債務なのかということだと思いますので,法的な義務を課すのはその情報に限定したということになります。ただ,残元本ももちろん関連する情報として重要なものではありますので,そこは,今日,部会の中で御議論がありましたら,ほかの委員・幹事の先生方からも御意見を承った上で,改めて検討したいとは思っております。 ○中井委員 1点だけ,決定的に重要かと言われると確かに延滞に陥っている元本がありやなしや,あるとして幾らかというのが決定的に重要な情報であること,これは否定いたしませんけれども,そういう状態になっていればこそ,残元本が幾らかということはそれこそ関心のある重要な事情だろうと思うんです。加えて,金融機関のサイドからすれば恐らく常に残元本が幾らかということは把握しているので,延滞部分を抽出することの作業のほうがむしろ難しいぐらいで,延滞部分かつ同時に残元本を全額把握していると思います。問われた照会先の事務態様からすれば,中原委員,違うのであればまた御指摘いただければと思いますが,それほど回答するのに著しく困難な情報ではないと思うものですから,是非,これを立法化するに当たっては残元本が幾らかということについては,対象に含めていただければと思います。 ○中原委員 保証契約は債権者と保証人との間の契約ですから,実務的には保証債務の残高証明という形で証明書を出していると思います。結局,主たる債務が貸金債務であれば貸金債務の額になると思います。保証債務の残高証明書の発行は一般的に行われていると思いますが,それが全部の金融機関が行っているかどうかはわかりません。 ○中井委員 延滞なくしても残額全部ですよね。 ○中原委員 はい。 ○鎌田部会長 ほかに3について。 ○佐成委員 3のところについて,内部で議論していた中で出た一部の意見ではありますが,ご紹介します。先ほども山野目幹事が御指摘になっておりましたけれども,我々が債権者になっている場合には,普通は合理的な要求とか問合せにはきちっと答えているという実務があります。ですから,それを敢えて法的な権利として明文化されるということについては若干懸念を覚えるということです。具体的に申しますと,何回も同じようなことを答えなければいけないことにならないかとか,少しでも回答が遅れたらどうなるだろうかといった懸念です。要するに,先ほど山野目幹事がおっしゃっておりましたけれども,これに違反した場合の効果といった辺が不明確なのです。にもかかわらず本当に明文化するべきなのか。実際上,我々としては合理的な要求にはこたえているので,敢えて明文化する必要まではないのではないかという意見が一部にあったということだけ報告させていただきます。 ○沖野幹事 請求者が委託を受けた保証人に限られているという点につきまして確認をさせていただきたいと思います。この対象となる情報が極めて限定されています。具体的には,直ちに請求を受けるものがあるのか,ないのか,中身は何かです。そうだとしますと,債務者に対する信用情報としてセンシティブなものなので,委託を受けたものに限らなければいけないという限定が必要なのかというのを少し疑問に思っておりました。   もっとも,不履行がありますかと照会をし,それに対して,ないという答えがあったという場面を考えると,結局,逐一不履行の有無を尋ね,状況を調べるというのがその内容になり,信用情報的にはなってくると思うんですけれども。そもそも,委託を受けない保証がどのくらい重みを持って捉えられるべきかということにも関わると思います。限定をするという場合,本当に委託を受けたものに限定するということでいいのかということが気にかかります。  この限定でよいのかに関わるもう一つの点が,今,中原委員が実務の状況として御説明くださった,保証債務の残高証明を出すという点です。保証債務の残高証明を出すことで,この情報をかなりカバーすることになるというお話でした。そうすると,この規定が入ったときに委託を受けない保証人に残高証明を出していいのかが問題になるように思います。つまり,それは信用情報だから法的には義務はない,あるいは委託を受けたのでない保証人にはその情報を請求する権利はないということで否定されたのに,当該情報を出していいのかという問題が逆に出そうです。現在は,委託を受けた保証人からの請求に限っているということであれば,この点では余り問題はないようにも思うのですが。以上の2点について懸念がないかを確認できればと思います。 ○鎌田部会長 これはまず中原委員から。 ○中原委員 保証契約は債権者と保証人の契約ですから,残高証明は委託の有無にかかわらず発行しています。つまり,純粋に保証債務の残高を表示し,被保証債務の状況には触れずに,本日現在のあなたの保証債務額は幾らですという形で発行していると思います。 ○鎌田部会長 履行期が到来している,していないには触れない。 ○中原委員 関係ないです。 ○鎌田部会長 事務当局から何かありますか。 ○笹井関係官 沖野先生の御指摘は理解は致しましたけれども,沖野先生御自身もおっしゃいましたように,不履行があるのかないのか,不履行があるということ自体,信用状況にも関わってくるということだろうと思いますので,保証の履行期にどれだけの元本があるのか,それから,仮に残元本を情報提供の対象にした場合にどれぐらいの債務を負っているのかということも,信用状況に関わってくることではあろうかと思いますので,主債務者の許可なく提供させるということについては,問題があるのではないかと考えたということです。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   よろしければ,ここで15分間の休憩を取らせていただきます。           (休    憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。部会資料76Bの「第1 保証」の,「1 主たる債務の履行状況に関する情報提供義務」について御審議いただきます。   事務当局から説明をしてもらいます。 ○笹井関係官 部会資料76Bの「第1 保証」,「1 主たる債務の履行状況に関する情報提供義務」について御説明します。   部会資料70Aでは,主債務者が期限の利益を失ったときは債権者に保証人に対する通知義務を課し,一定期間内に通知をしなければ,期限の利益の喪失を保証人に対して対抗することができず,保証人に対して期限の利益を喪失させるためには,改めて期限の利益喪失事由が発生することが必要であるとされていました。しかし,その制度が複雑であるという批判があったことから,今回の資料では,期限の利益を喪失した場合の通知義務を課すという素案(1)は同じですけれども,素案(2)では通知期間を過ぎてから通知をしたとしても,その後通知したときから期限の利益の喪失を対抗することができることとしています。   本来の通知期間内に通知をした場合としなかった場合とでは,主債務者が期限を失ったときから通知したときまでの遅延損害金を得られるかどうかが変わってくることになります。素案(3)では,主債務者が期限の利益を喪失したという通知から一定期間内に保証人がその時点での不履行分を全て支払った場合には,保証人との間では期限の利益が失われなかったものとみなすものであり,部会資料70Aでの考え方と実質的には同様のものです。ただ,素案(2)と(3)のように,主債務者と保証人とで期限の利益の有無が異なるとすると,弁済の関係や消滅事項等で困難な問題が生じ,法律関係が複雑なものとなります。それが実務上,煩瑣に堪えないということであれば,主債務者が期限の利益を失ったときは,保証人との関係でも期限の利益が失われるという現行の規律を維持せざるを得ませんが,その場合でも保証人が知らない間に遅延損害金が積み重なっていたという事態が生じないように,期限の利益喪失の通知義務を課し,通知がされるまでは遅延損害金を保証人に対して請求することができないとすることが考えられます。代替案はこのような考え方に基づくものであり,その当否についても御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それではただ今説明のありました部分につきまして,御審議をいただきます。御自由に御発言ください。 ○中原委員 第1の1(1)は,主たる債務者が分割払いの定めによる期限の利益を有する場合ですが,債務者が分割弁済を1回,2回であっても延滞すれば,債権者から見れば,債務者に信用不安が生じたという評価になるケースが多いと思います。そのような場合には,銀行取引約定書では,その他債権の保全を必要とする相当事由が生じたという形で期限の利益を喪失させることになると思います。とすれば,(1)が適用される場面は実務においては極めて少ないのではないかと思います。   それから,御提案の(2),(3)ですが,これが1件しか生じないのであれば,提案されている管理をすることは可能と思いますが,延滞が何十件と発生する可能性もあり,そうなれば提案されている管理をするのは難しいと思います。代替案であれば,受入れが可能というのが銀行業界の意見です。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○中井委員 御提案の形をとった場合,特に(3)で保証人との関係において主たる債務者は期限の利益を失わなかったものと見なすという規律をしたことによって,主たる債務者の関係と保証人との関係で御指摘の例えば充当等の問題や消滅時効の点で難しい問題が発生する,御指摘のとおりなのかと思います。それを克服することを精緻に考えていく方向が一つあるのかもしれません。しかし,他方ではこの保証人との関係において相対的に考えるところからこのような問題が発生するわけですから,それを一つにするということを検討すべきだろうと思います。   その一つにする方向として,全て期限の利益を喪失したものとして扱うという方向がある。ただ損害金において区別をしようと,こういう御提案だと思います。しかし,まだ一つにする方向はほかにもあるのではないか。大阪としては二つの方向性を考えました。一つは,保証人との関係ではなくて,保証人とも主債務者との関係でも期限の利益の喪失をしなかったものとする,という方向です。これは期限の利益を喪失して,通知をしてから,1か月以内にそれまでの未払金を所定の約定期限からの未払金,損害金も合わせてですけれども,全額支払うことによって主債務者についても期限の利益が復活されるという構成です。   仮に復活するとすれば,その後一本になりますから単純になる。ただし,問題は復活するまでにもひと月余り時間が掛かるわけですけれども,その間に債権者が主債務者から回収したという事態が起こったときに,一体それはどうなるんだという問題があります。そこを調整しなければなりませんが,考え方としては,債権者は債務者が遅滞に陥って,期限の利益を喪失させてもそのときに回収を高めるために保証人をとった。現実に保証人はそれまでの不履行部分については全額払った。保証を付した目的を達したわけですから,その達した時点において期限の利益を元に戻すという考え方も一定合理性があるのではないかと考えた次第です。そこで,大阪弁護士会の書面の6ページの要綱案のイメージの提案というのは今のように全てについて復活するという考え方はどうかという提案です。そうすれば充当の問題,消滅時効の問題などの複雑な問題は生じない。ただ,解決すべきは期限の利益を喪失してから保証人が全額,全額といっても遅滞に陥ったものですけれども,弁済するまでの間に担保権の実行がなされた場合,そしてそれが配当等で回収した場合にどうするのか。そこが覆るとなれば問題ですから,そこの部分については覆らないという規定を置くことによって解消しようというのが主たる提案です。   今の提案は,6ページの一番下,主たる債務者の期限の利益は失わなかったものと見なすという提案です。そのときにそれまで執行して回収した部分の取扱いについては次の7ページの上のところで調整しているということです。   もう一つの方向は,そうではなくて,部会資料の代替案に近いんですけれども,主たる債務者との関係で期限の利益を喪失した場合,たとえ保証人が弁済をしても,やはり主たる債務者との関係での期限の利益の喪失はそのまま続く。そこで一本化を図る。ただし,保証人に対する請求をしたときには,元々あった主たる債務者の期限の利益を抗弁として主張できるという構成がこの予備的な提案です。これも主たる債務者の期限の利益の喪失によって元本に損害金が発生することを前提に処理しますので,充当関係,若しくは消滅時効に関して複雑な問題は生じない。単に保証人はどこまで払えばいいかという形で,従来の分割弁済の約定に定められた金額を払っている限りにおいて保証人としてはそれ以上の責任追及を受けない。無事にそれが払い終わったときに,唯一違いが出てくるのは,遅延損害金部分について支払わなくてもよい。そこは代替案の効果と同じになるということです。ただ,この場合,保証人が途中で本来の主たる債務者の負っている約定弁済を滞るようなことになれば,そこで保証人も期限の利益を喪失しますので,全額弁済をせざるを得ない事態に至る。そういう提案です。   つまり相対的に考えるから起こる複雑な問題をどちらかの方向に寄せて解決するという提案です。もう少しいろいろ落とし穴があるようには思いますが検討に値するのではないかと思いますので,是非参考にしていただければと思います。 ○鎌田部会長 これは参考にして検討させていただくということでよろしいですか,あるいは事務当局からコメントがありましたら。 ○笹井関係官 ちょっと二つ目の考え方が十分に理解できなかったところもあるんですが,一つ目のお考えは,別々にするのが難しいので一つにするとしても,一つにするに当たって部会資料のほうの代替案では両方とも失うという方向で一つにしたけれども,両方とも失わないという方向で一つにするという方向性はあるのではないかという御提案だったと思います。そのことはもちろん我々も考えたのですけれども,これを部会資料に掲載しなかったのは,中井先生もおっしゃったように,最終的に一つになるにしても,途中では分かれるわけですので,その間に一部弁済された場合にどうなるのかなど,処理がかなり複雑になるのではないかと思ったからです。それは十分中井先生も留意された上で御提案されているのだと思いますが,やはりそこをクリアできるのかどうかというのが最大の問題で,御提案のように,担保権の実行とか強制執行によって受けた配当とか支払の効力に影響を及ぼさないというのは必要になってくるのだろうと思いますけれども,それで本当に十分に対応できているのか。例えば,保証人は付けたけれども,それに加えて主債務者が抵当権に不動産に設定していたという場合には,それが実行されてしまうとかなりの額の弁済が行われるということがあり得て,その結果として保証人が期限の利益を回復させるために,支払をしようとしたら,実はその額はもう弁済された後だったということもあり得るのだと思います。そのときには,当然に保証人との関係で,あるいは更に言うと主債務者との関係でも期限の利益が復活しているのか。それはおかしいと思いますので,その場合の処理をどうするのか。また,後から復活したときに遅延損害金のほうにも一部弁済がされていれば,そこから充当されていくはずですけれども,そこはやはり遅延損害金として取るのか,遅延損害金を取った後に,利息はいつの段階から発生するのか。その辺の計算はどのように考えておられるのか。その辺も問題になってくるのではないかと思いました。ちょっとまた考えてみたいと思いますけれども,事務当局としても,主債務者と保証人の双方との関係で期限の利益が回復するという方向を考えた上で,部会資料には掲載するに至らなかったのは,今申し上げたような問題が解決困難ではないかと思ったからということです。 ○中井委員 御指摘のその間に行われた弁済に対する充当関係についてはなお問題があるということは御指摘のとおりで,それを元に戻すといったら,一体どういうことになるのかということも問題のあるところだろうと思います。   ただ,こういう規律ができたときに恐らく想定されるのは,金融機関の対応としては,もちろん期限の利益を喪失して直ちに相殺等意思表示のみで簡単に回収できる場面があるのかもしれませんけれども,競売等を考えた場合には,こういう規律が明確に定められたら,通知して1か月間は返済を待てば足りるだけの話です。金融機関にとって1か月待つというのは大きな不利益があるんだという議論もあるのかもしれませんけれども,実務としてはそういう強制執行等についてはひと月保証人の行為を待って,それで支払いがなかったら確定的になるわけですから,それから競売申立てをしても十分足りる。更にそれ以前に始めたとしても,通常考えて1か月で競売の手続が終了するということはないでしょうから,実務的な混乱はそれほど大きくないので,こういう提案も十分あり得るのかと。あとは短期間に直ちに回収したものについてどうするのかということについては,少なくともこの大阪弁護士会の提案ではその充当関係は承認しますということを前提にして処理することを想定しているので,今,御指摘のあった問題点の相当部分は解決できるのではないかと思っている次第です。  ○笹井関係官 補足ですけれども,もちろん中井先生がおっしゃったような実務上の工夫によって,そういった問題点を回避することというのは当然あり得ることだろうと思いますし,仮にそういう方向性で立法化されるのであれば,実務家の方々はそういう形で処理されるのだろうと思っています。ただ,1か月とおっしゃいましたけれども,通知をしてからということだと思いますので,そうすると通知自体をずっと怠っていた場合には,かなり期間が長くなり,その間に執行されてしまうということもあろうかと思います。もちろん実務的な工夫で回避できる問題であるとはいえ,理屈の上で生じてしまう問題について,どういうふうに解決するのかは一応考えておく必要があるのだろうということが一つと,仮にそういった問題点が解決されるとしても保証人がたまたまいたおかげで主債務者も棚ぼた的に利益を受けるということが本当に合理的なのかどうなのかという問題もあろうかと思いまして,その点は補足ということですけれども申し上げておきたいと思います。   ○中原委員 中井先生のいわれた債務者についても期限の利益を失わなかったものと見なすという場合ですが,例えば保証以外に債務者が所有する財産の上に担保権の設定を受けている場合,むしろ当該担保権を実行すれば債務が減るわけですから,保証人の責任もその分減少するというメリットがあると思います。 ○道垣内幹事 同じく中井委員の説明された案についてなのですけれども,これは主債務者について破産手続が開始したとき,これは仕方がないという前提でしょうか。これは1回の弁済の遅滞とかそういう場合に限って適用されるということですか。 ○中井委員 この問題にしろ,次の問題にしろ,主債務者に倒産手続が開始したときには別の考え方をとらざるを得ないと思います。 ○佐成委員 通知の期間の2週間について,内部で意見があったのでご紹介します。債権者としては債務者が期限の利益を失ったことについて,必ずしもタイムリーには知り得ない場合があり得る。そうしたケースは幾つか考えられるわけですけれども,その場合,2週間という期間で果たして大丈夫なのかどうか。その辺りも十分検証してほしいと,そういう意見でございます。 ○中井委員 先ほどの大阪の第2案,こちらで書いてある8ページの上の3行ですけれども,これは相対的に考えるのではなくて,もう期限の利益は喪失したものとして取り扱う。元本利息損害金は発生していく,拡大していくわけですけれども,保証人に限って言えば,この行為をすればその後は本来主債務者が持っていた期限の利益を抗弁として主張できる。この考え方は,先ほどのそういう複雑な問題が生じないという次前の策ではないかと思いますので,これも考えが不十分なところがたくさんあるかもしれませんけれども,是非事務当局においては更に検討していただければ有り難いと思います。 ○道垣内幹事 意見だけ申し上げておきますけれども,中井委員がおっしゃったように8ページの上から4行目までのところ,つまり,保証人が相対的に期限の利益を主張できるという提案は検討に値するのではないかと思います。それに対して,6ページから7ページに書いてあるところは私には理解しにくいものでして,中原委員のおっしゃったところと重なる部分がありますが,債務者の資産状況が悪化しているというときに,債権者が債務者の資産に対して全額の差押えをしていくということ自体は保証人になるべく負担をかけないという方向の行為であり,なぜ債務者まで期限の利益が主張できるようになるのかというのがよく分かりません。そして,債務者の資産状況が悪くなっているというときに,その事態はある種甘受して待たなければならないという規律には,必ずしも賛成できない。 ○中井委員 今の御指摘の点は,保証人にとっては適時に執行してくださいという,債権者に言わば適時執行義務を課すような場面,そのような場面では保証人は,債権者に主たる債務者に対して権利行使してくださいと希望している場面でしょうから,そのときに保証人はこのような仕組みがあっても,そのような行動をとることにはならないというだけのことではないかと思っているんですけれども。 ○道垣内幹事 しかし,それはこのような条文があったとしても全額の執行ができるという前提ですか。つまり主たる債務者が期限の利益を失わないということも保証人による抗弁を待って生じる事柄なのですか。 ○中井委員 この第1提案は,一旦期限の利益が喪失していることは間違いないと思います。所定の通知があってから1か月以内に保証人がそれまでに期限が到来した元本と利息損害金を払えば,払うことによって期限の利益をもう一回得ようと思えば復活できるということです。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。それでは部会資料76Bの「2 保証人の責任の制限」について,御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「2 保証人の責任の制限」では,部会資料70Bに引き続き保証人の責任を制限するとして,具体的にどのような制度設計をするか改めて問題提起をしています。具体的には,責任財産が制限される保証の範囲を限定するかどうか,保証契約であれば全て責任,財産の制限の対象となるのかという問題や保証人の資力を基準として責任財産の範囲を画するのであれば,その基準時をどのように考えるかという問題,具体的な責任の財産の範囲,保証人が問題となる保証債務のほかに他の保証債務や保証債務以外の性質の債務を負担している場合にどのような責任の制限の範囲の限定を行うかという問題などについて検討しておく必要があると思います。仮に規定を設ける場合にこれらの問題をどのように解決するかについて御審議いただければと思います。 ○鎌田部会長 それではただ今説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○中井委員 部会資料を拝見いたしました。これまでの議論の経過を踏まえて,更に事務当局で緻密に議論,検討していただいた結果と理解しております。ただここに書かれていることを見ていくと,両手か両足を上げているのかなという感じが致しました。しかし,少なくとも弁護士会,少なくとも大阪弁護士会はこの保証人の責任制限については是非取り入れていただきたいという考えをなお持っております。   どこまでのことを入れるかですが,この部会提案,とりわけ他の債務がある場合,また他の保証債務がある場合について,幾つかの御提案がありますが,それを考えていくと,他の債務との関係で言うならば,優先劣後を認めるような形にどうしてもならざるを得ない。また,他の保証債務の存在を考えても,その中での按分なり,ミニ破産的にならざるを得ない。このような考え方を民法に取り入れることはやはり困難であろうと。その点を更に追及していくのであれば成案は得られないと思っております。   そうするともっとシンプルにもっと分かりやすく,保証債務の問題点を的確に明らかにする限度で立法化するというのが基本ではないかと思っております。その限りでは,いつの部会であったか忘れましたが,山野目幹事から御提案は,重要な示唆と思っております。すなわち他の債務は考えない。他の保証債権があったとしてもそれも考えない。一つの保証債権があるときに少なくとも責任制限というのがあり得るとすればどのような場面か。その方向性というのは保証責任が現実化する場面において,保証人が持っている財産全額が基本的には引当てになるけれども,それを超えては決して引当てにはならない。重要なのは,保証責任が顕在化した,それが保証履行請求であるのかもしれません。それ以降に保証人が得られるであろう収入は少なくとも保証責任の引当て財産にはならないことを明らかにすること。これが大変重要なことではないかと思っております。   そういう意味では,山野目先生の前回の御提案は入口において抽象的な過大性の要件,そして履行時において過大であることの要件,その具体的な中身として履行時において存在する財産を基準としてそこにプラス要因として2年分の稼げる収入,必要な経費は引きますけれども,それを足して,そこから一定の自由財産等,若しくは生計費を控除するという考え方。それを限度に引当財産とする旨の提案だったと理解しております。   その場面で仮に複数の保証債権があるときには2倍になってしまいますので,全額弁済することが不可能であることは明らかですけれども,それを調整しようとまではしなかった提案だと思います。大阪の今回の意見書では8ページ以下で要綱案のイメージの提案をしております。基本的には山野目先生の考え方を採用し,よりかつシンプルに考えたいと思っています。これであれば可能ではないかという趣旨でございます。   若干説明させてください。一つは,基本的には保証債務全部に対して適応のある単純な規律にしたい。二つ目は責任財産の範囲はここで言う保証責任の減縮の請求の意思表示をした時点で区切る。これは限りなく保証履行請求が現実に行われた時点に接した部分だと思いますが,時点を明らかにする意味で,減縮の意思表示の時点で区切る。基本はそのときに存在する換価可能な財産を引当てとしてその限度で責任を負うという構造です。唯一控除するのは,自由財産99万円と差押禁止財産の2点,その価額を控除したものという考え方です。   判決の主文の在り方としては,部会資料にもありますが,9ページでしょうか,Bの9ページの上に二つの案がありますが,その二つ目,保証債務の額,仮に1億なら1億円を払え。そのときに限度がついて減縮の請求をした日の財産の価額から自由財産の価額若しくは差押禁止財産の価額を控除した額の限度で支払えというものです。   このような考え方をとれば,その後債権者はこの判決に基づいて強制執行をしていける。この判決を出す段階では,その財産の範囲を確定したり価額を確定したりする必要はない。その後執行する過程の中でこの想定される財産の価額を超えた時点で請求異議なりの行為を保証人が主体的にとって,その金額を明らかにしていく。こういう考え方です。これであれば,実務的な弊害は大きくないのではないかと思います。ただ,実益は何なんだという批判が恐らくあろうかと思います。他に債務があったときにもそれだけでも責任財産を超えますし,他に同額の保証債務があれば直ちに倍になって,何らかのカットを受けない限りは払えないわけですので,実益は何かと。これについては少なくとも保証責任というのが今ある財産を超えて請求できないということを明らかにすることに意義がある。減縮の請求をしたとき以降に保証人が得られるであろう収入に対してはかかってはいけないということを明らかにすることに大きな意義がある。こういうふうに思っています。仮にその点を民法で明らかにすることができれば実務の運用の中でその考え方を前提とした解決が可能になっていく。二つの保証債権者がいるときには所詮限度が決まるわけですから,それを2人の債権者で分かち合いましょうよということになる。   これが実は経営者保証ガイドラインの中で実現している私的整理の中身だろうと思います。経営者保証のガイドラインというのは,ガイドラインとして成立したものですけれども,その精神を明らかにするといいますか,それを支えるものとして民法に規定する意義は十分あると思う次第です。御検討を賜ればと思います。大阪弁護士会の提案は,部会資料が出てからバタバタと1日,2日での議論ですので抜け穴ばかりかと思いますが,御検討をいただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はありますか。あるいは事務当局からコメントはありますか。 ○笹井関係官 これは入口のところで1本の場合だけに限定するわけではなくて,債務が幾つあっても適用はあると。請求をした時点における財産の価額,その額で責任財産を決めるということですか。そうすると例えばほかの債務があって,そっちに弁済に充てられてしまった場合はその分は減るんですか。それともその分は将来の財産から支払うのですか。 ○中井委員 判決主文中は全く影響しません。減縮の請求をしたときに保証債権が1億あれば1億円払えと。限度は減縮の請求をした時点における財産の価額を限度にするというだけのことです。その後,1年後にBという別の保証債権者が請求して,そのときもそのときの財産をはるかに超える保証債権があるとすれば,そのとき保証債権が2億円だとすれば2億円払え。限度としてはその減縮の請求をした時点における財産の価額を限度とするということです。   ここの例で言うならば1,000万,1,000万の場合の2,000万円になるではないかという例がどこかに書いていましたけれども,それと結論的には同じような判決になるというものです。あとは限度となるという判決の在り方については,大阪弁護士会のメモで言うならば10ページのところに,例えば会社法の759条2項の会社分割をしたときに債権者に通知をしなかった場合に,その債権者は吸収分割会社に対して,吸収分割会社が効力発生日に有していた財産の価額を限度として当該債務の履行を請求することができる。今回の濫用的会社分割についての会社法の提案においても同じような主文になると思いますけれども,その考え方が妥当しますというか,使えるのではないかと考える次第です。ほかの債務があったら足りなくなるではないかという批判は甘んじて受けるということです。 ○道垣内幹事 賛否ではなくて,76のBのほうに書かれている事柄です。資料の9ページですが,3行目で,「例えば,主文を「○○円を,被告が平成△△年△月△日において有する財産の価額の限度で,支払え。」としたときに,「その後に取得した給与債権」に対して執行した場合に,保証人が何らかの異議を申立て得るというのが意味がよく分かりません。というのは,責任財産を限定しているわけではなくて,価額を限定しているだけなので,当該財産の価額の限度内であるならばその後に取得した財産に対して執行していっても異議は申し述べないのではないかという気がしたのですが。 ○笹井関係官 そこは御指摘のとおりだと思います。ここで言いたかったのは,その責任財産を超える部分,「責任財産に含まれない」と書いたのがちょっと誤解を招いたのかもしれませんが,その責任財産の額が1,000万だったら1,000万となっていて,その部分については支払をした場合には,主文では1,000万よりもより多い額を支払えと命じられているはずですが,1,000万を超える部分について執行された場合には異議が言えるという趣旨です。 ○鎌田部会長 そこは誤解が生じないように説明をするときには工夫していただくことに致します。 ○畑幹事 そういう形で責任が限定される例というのはあったのでしょうか,今まで。先ほど中井委員が言及された会社法の例というのは,一定額を限度として「債務の履行を請求することができる」ということで,これは債務の額自体が一定額だということを想定しているように見えます。それに対してここでは債務は全体についてあるけれども,しかし責任の額が限定されるということなのですが,こういう意味での有限責任というのは今まで存在したのかどうかちょっとすぐには思い出せないので,あれば教えていただければと思います。もし,今までなかったことだとするとちょっと何かしら執行手続との関係で不都合が生じないかなという心配がございます。 ○山本(和)幹事 恐らくやり方として財産の価額の限度で支払えというのと財産の限度で支払えというやり方があって,今,畑さんが言われたように後者は相続財産の限度で支払えという限定承認のやつと基本的には同じパターンになると思うんですが,この財産の価額の限度で支払えという責任財産の範囲を価額で限定するということで仮にやった場合に先ほど道垣内幹事が指摘されたようにその場合は新しい財産でも執行の対象になって,金額だけが問題になる。恐らくはその金額を超えていると主張する債務者の側が恐らくは第三者異議になると思うんですが,第三者異議の訴えでそこを争う。第三者異議の訴えのところで,基準時の債務者の責任財産の価額は幾らだったのかということが争われて確定される。そういう仕組みになるのかなと思います。   その場合に,その時点では価額を超えているということで,第三者異議が認められたと。ところが後から財産を実は隠していて,もっとその当時の責任財産があったということが分かった場合に,その第三者異議の判決の効力がどうなるかというのは,ここでは後から財産が出てきた場合には,これだと問題が起こらないと書かれているんですけれども,本当にそうなのかということが第三者異議の訴えの判決の効力との関係で,私自身手は必ずしもよく分からないところがまだあるということがあります。   もう一つの選択肢は,責任財産の限度にしてしまう。ある一定の時点で持っている責任財産の範囲でしか執行できないという形にしてしまうとすれば,それは相続財産の場合と同じで,結局その財産がある時点で責任財産に含まれていたか,ある時点で責任財産が含まれていたかどうかということだけは争点になる。そういう第三者異議の訴えの構造になっていくんだろうと思って,そっちのほうがシンプルな感じもするんですけれども,その場合にしかし,債務者が財産を入れ替えたりしたような場合に,それが新しい財産になってしまうのかとかというような問題が発生してきて,そこの解決がちょっと難しそうな感じもして,一長一短はありそうな感じがしたという感想めいたことに過ぎませんけれども,そういう感じがしました。 ○山野目幹事 第80回会議において,この論点について意見書を出させていただいたときに,私自身が必ずしも最後まできちんと考え込んでいなかった部分につきまして,本日こういうふうな仕方で,いろいろな工夫を施し,この提案をブラッシュアップしていこうという努力をしていただいた各方面に対して御礼を申し上げます。   まず,部会資料それ自体において,相続財産の限度で,という主文が従来行われてきたことをヒントとして,9ページの上のほうで今話題になったような仕方での解決を見出していただいたということは,これはこちらからこういうふうな提案を差し上げてこなかった経緯ですから,事務当局御自身の努力によってこういう解決の可能性を見出す努力していただいたものであると感じますし,加えて大阪弁護士会からは本日机上配付の意見書で会社法759条2項のような扱いをする例があるという更なる検討の可能性を御提示いただいたものではないかと感じます。   この財産の限度で,という発想,それから価額の限度でという発想との両方があり得ることを踏まえて,ただいま委員,幹事からそれぞれ御指摘,御注意があったとおりで得失があるかもしれませんけれども,是非この二つの候補を検討対象にしながらここのところの提案を更に深めていっていただくことが叶うと大変幸いでございます。 ○永野委員 先ほど山本和彦幹事から御指摘があった点にも関係するのですけれども,訴訟手続で判決が出た後,執行までの間にかなり時間的な経過が生じてくる場合も想定されると思います。その場合に第三者異議の中で,保証人の財産の状況を判決時点に遡って確定するというのは,かなり難しい作業を訴訟手続の中で行っていくということになろうかと思います。   元々訴訟手続の中で債務者,保証人の資産の状況を解明するということがなかなかどういう手続をとっていけば可能かということに問題があったわけですけれども,その時点を執行の段階まで先送りした状態にして,その上でその資産の状況についてはやはり第三者異議訴訟という訴訟手続の中で過去に遡ってもう一回確定するという作業を必要としてきますので,実務的にこれをワークしていくような形に仕上げていくというのはやはりまだ解明すべき,検討すべき問題が多いのではないかという印象を持ちました。 ○村松関係官 先ほど相続財産と同じような整理,物的有限責任として整理するのか,それとも価額限度での責任だと整理するのかという話がございましたけれども,事務当局の中で検討していた限りでは,よく見られる物的有限責任での整理のほうが分かりやすくて,我々もとっつきやすいんですけれども,あちらのほうは先ほど山本幹事もおっしゃいましたように,責任財産が二つにある意味分かれますけれども,それを混ぜてしまうとどうなるのかという問題がありまして,恐らく分別保管というものをある程度想定しない限りは難しい,ただそれは恐らくこの保証の場合には,およそ難しいだろうとこちらも考えておりまして,その意味であり得る方策としては物的有限責任,相続財産のような形というよりは,価額限度の責任というほうしかないのではないか。   ただ,その例は私どもが承知している限りでは,会社法の例はそのようにたしか説明されておりますので,そちらが参考例かなと思っておりますけれども,必ずしも文献がさほどなくて,ちょっと今回そこまでよく検討が間に合っていないんですけれども,あるとすれば物的有限というよりは価額限度での責任のほうなのかなとは思っておりまして,他方で,物的有限責任のほうはちょっと難しいかなという感触でございます。 ○道垣内幹事 山本幹事が途中でおっしゃったことに関係するのですけれども,会社法759条2項においては請求が立たない,つまり,10億円請求したのだけど,吸収分割会社が効力発生日に有していた財産の把握が8億円であるということになると,10億円支払えという判決が出るわけではなく,8億円支払えという判決が出るということでしょうか。 ○村松関係官 申し訳ありませんが,そこら辺りを含めてなお調査・検討中でございます。 ○岡崎幹事 会社法の話はちょっと私もよく分からないのですけれども,保証の場合の一つの特徴として,第2ステージ以来,三上委員がよくおっしゃっていた話ですが,保証人が財産を隠匿する可能性が一般的によくあるのではないかと思います。先ほど山本和彦幹事がおっしゃった第三者異議の訴えにおいて,一回限度から外れているということで,何万円を超えては執行してはならないという確定判決が出て,その後に財産が出てきたというようなことがしばしば起こるのではないかという印象を持ちます。そういう意味で,保証の事案がこの会社法の例と同じように言えるのかどうかという辺りも是非検討していただければと思っております。 ○神作幹事 会社法の先ほど来話題になっている規律の大前提として,会社分割においてどのような権利が移転するかということは会社分割計画,又は会社分割契約の中にきちんと記載されるべきことを会社法が定めているということがあります。そのような前提があって,移転した財産の価額をカウントすることが会社法上も可能とされており,それゆえ当該財産の価額を限度とする物的有限責任の規律がワークすると申しますか実効性を持ち得るのだと理解しております。 ○中井委員 財産の価額の限度において,とした場合の問題点として財産が隠匿されているということがおっしゃられました。それに対して会社分割であれば詐害的会社分割にしてもそうだろうと思いますけれども,移転する財産の内容については明らかになっている。そこをおっしゃられた点は,違いとして難しさの1点として御示唆があったのかなと思いました。   ただこの点は,先ほど判決としては全額支払えという主文が出るわけで,その後の執行はここの部会資料で先ほど若干議論がありましたけれども,その後の収入であっても当然執行はしていける。減縮の請求をしたときの財産の価額に達するまでは当然執行できる。保証人としては,どこかでその財産の価額を超えたという段階で差押え等に対して,山本和彦先生は第三者異議とおっしゃられましたけれども,異議が出せる。その中では当然立証の命題として減縮の意思表示をしたときに仮にABCDEという5つの財産があったとすれば,本来は5つの財産を明らかにして,全ての財産の価額を明示する。それを超えていれば当然その執行は取り消される。そういう構造になるだろうと思います。隠すというのは5つあったけれども,ABCしか財産がないという主張立証して,そのABCの価額が6,000万だと,だから6,000万超えているからといって執行を取り消す,こういう訴訟構造になるだろうと。   でも,その後,ABCと主張して判決を得たにもかかわらず,DEがあるんだったら,当然DEの価額についても請求できて当たり前だと思います。そこの当たり前の理屈を考えていただければ解決するように思いましたので,それだけ付加しておきたいと思います。 ○潮見幹事 答えは求めませんが,大阪弁護士会の意見を聞いて感じたのは,弁済者代位,物上保証人,保証人が複数いる場合に保証人の負担は現行法と同じように頭数で決めるのですか。それとも以前の会議で保証人の財産の額を基準とするとの提案があって,それに対して好意的な御意見を複数の弁護士の委員の先生方がおっしゃられましたけれども,後者のように捉えられるのですか。後者ですとその問題に,今,中井委員がおっしゃっておられる点がどう跳ね返ってくるのでしょう。 ○鎌田部会長 ほかには。 ○山本(和)幹事 中井先生のおっしゃった問題は学問的にも恐らく非常に興味深い問題で,この資料の9ページの1行目に書かれてある金額で限定するということをやった場合に後から新しい財産が見つかって,その金額を増やすということになると,それは恐らく既判力,あるいは最高裁の判例だと既判力に準じる効力かもしれませんが,それに反するということは多分明らかなんだろうと思います。   ただ,第三者異議の場合は第三者異議の訴訟物自体についてかなりの議論があるところですので,その責任財産が後から増えて,また新たな執行をしてきたときに債権者が隠していたんで,もっと広い限度があるはずだというので,同じ財産に対して強制執行してきたときに同じ第三者異議が提起された場合に前の第三者異議の判決の効力が既判力として及ぶかどうかということはかなり議論がありそうな感じがして,果たして一義的な回答が出るのかどうかというのは必ずしも分かりませんけれども,私自身はそういうふうに考えてみたいと思います。 ○畑幹事 これ以上議論する必要はないと思うのですけれども,第三者異議になるということにもちょっと疑問があって,あるいは請求異議かなという気も致します。私も考えてみたいと思いますが。 ○鎌田部会長 それでは,御指摘のあったような点も踏まえて,更に検討を続けさせていただきます。   次に,部会資料76Bの「第1 保証」の,「3 根保証における元本確定前の履行請求の可否及び随伴性の有無」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○笹井関係官 「根保証における元本確定前の履行請求の可否及び随伴性の有無」について御説明します。この論点は中間試案において取り上げられていなかった論点ですが,第80回会合会議における審議などを踏まえ改めて取り上げたものです。根保証において元本確定前に債権者が保証人に対して履行請求することができるか。また元本確定前に債権が譲渡された場合に譲受人が保証人に対して保証債権を有することになるかどうかという問題については平成24年に最高裁判決が出されており,これに従って規定を設けることが考えられます。   これに対し,第80回会議においては,別の考え方として履行請求も随伴性も否定しつつ債権者の意思によって元本を確定させることができるという意見もありました。そこでこの両者について要綱案のイメージをお示ししておりますので,いずれの考え方が適当か御審議いただければと思います。 ○高須幹事 3番のところの根保証における元本確定前の履行請求の可否,随伴性の有無について発言させていただきます。中間試案では検討は難しいということだった論点を再び取り上げていただいて,今回,検討の機会を設けていただいたことにまず感謝申し上げます。   内容に関してですが,部会資料10ページと11ページにかけて二つの要綱案のイメージというものが出されておりまして,一応,部会資料では10ページのイメージを24年判例に従った規定を設ける考え方,11ページのイメージを判例と異なる考え方と御整理いただきました。そのこと自体は表現の問題でございまして,それでよろしいのですが,一応私のほうでも意見書を出させていただきまして,私の意見書では10ページのイメージ案をA案,11ページの案をB案と表現させていただきましたので,この表現で私の意見書に基づいて御説明をさせていただきます。   まずA案とB案の違いについて,部会資料の9ページのところに根保証における性質論と申しましょうか,その種の説明があります。根保証というのが保証期間中に発生する個々の主債務を保証するそういうものなのか,確定時点での債務を担保するものなのかと,これは従来から議論があったところで,その御指摘がございまして,これが背景としてあるのだろうとの御指摘があります。学説の分析はそのとおりだというのも理解しておるのですが,ここで私の意見書の1ページのところの下のほうのアンダーラインの部分ですが,今回の場合には従来の学説を分析することが検討の目的ではなくて,制度論として根保証における随伴性等の問題をどう考えるか,どういう立法を行うかという問題でございますので,学説の分析はそれはそれとして,政策的にと言いますか,必要性に応じた一定の規律を設けるということが許されていいのではないかと思っております。   平成24年判例はどちらかといえば個々の債務,主債務を保証するものであるという前提で,したがって原則として確定前でも譲渡,あるいは履行請求できるということに着目しているものと思われますし,そのこと自体を否定する気もないわけなのですが,その上で,そこのアンダーラインのところですが,債権者等の債権行使の必要性と保証人保護の必要性を適正に調整するという観点から一定の規律を設ける。B案でいうところの確定請求という一つの仕組みを設ける。こういうことは制度を作ることが立法においては認められてもいいのではないかと,これを私の意見の出発点として考えさせていただいております。   したがって,今の性質論から自動的に否定説と肯定説が出るというような発想で今回考えるべきではないと思いまして,意見書2ページになりますが,どのような観点からどのような制度を作るべきか。どのような要請を満たすような制度にすべきかということを2ページの3項において記載させていただきました。ここは実は80回会議において赫弁護士と私の共同名義で出させていただいた意見書に既に指摘していただいたところなのですが,今回の資料では3項の①,②,③の部分です。   まず,①が債権者側の要請といいますか,債務者側に信用状況の低下,あるいは危機的な状況が生じたときに確定前と言えども,本来の履行請求なりあるいは譲渡の可能性なりが認められるべきであろう。このこと自体は80回会議で中原委員からも御指摘があったところでございまして,まずこのことが要請としては必要になるだろう。その上で,②として書かせていただいたのは,仮にそうだとしてもその結果として極度額以上の弁済をするというのはよろしくない,というところでございますので,履行請求,あるいは随伴性が認められる場合にも極度額自体が結果的に膨らむようなことがあってはならないだろう。   ③,ここがアンダーラインを引かせていただいたのですが,今回B案の一つの特徴になるわけですが,元本確定期日前に債務者の信用力が低下して,債権者が保証人に保証債務の履行を求めるような事態になった段階において,極度額の残りの枠,これがあることを奇貨として,その保証人の資力を目当てに新たな貸付を行うようなこと,これはやはり弊害ではないか。このようなことがあっては望ましくないのではないか。この3点について今回の立法においては必要な要請として理解すべきではないかと考えました。   このような要請からしますと,24年の判例は2ページの表のところですが,①の点についてのみ譲渡できる,あるいは履行請求ができるということでございまして,②,③については特に言及がございません。②につきましては,部会資料にもありますように,解釈論上,当然のこととして理解する余地はあるとは思いますが,これ自体は少なくとも結論としては判例自体は何も明らかにはしていないということになります。   それから,③の要請については,恐らくこれは立法しないと無理なのではないかということを80回会議において説明させていただいた次第でございまして,24年判例の原審,東京高裁の判例においてもその種の記述が見られるところでございまして,条文がない以上これは無理だというような記載が多少あったように思われます。   それに対してB案をとりますと,①,②,③の要請全てについて,確定請求という一つの仕組みを挟むことにはなりますが,これを満たす可能となる。したがって,B案こそが立法化にあってはふさわしい規律内容だと考えているものでございます。B案が合理的であると考えた次第です。   3ページに若干指摘させていただきましたのは,平成24年判例判決を基に判例の考え方に基づく規律と今回部会資料で整理いただいたわけですが,この平成24年の判決といいますのは,一言で言えば,主債務者と保証人に密接な関係がある事案でございました。完全子会社という前提で人的にも取締役が夫婦であるとか,あるいは財務担当者がもう片方の会社の財務部長を務めているとか,そういう密接な関係があったケースでございまして,このようなケースを前提に24年判例を一つの先例的として立法化するということには慎重でなければならないのではないかと考えた次第です。   結論的には,ここはまとめになるわけですが,平成16年に貸金等根保証契約という規律が設けられ,今回の改正で更にその規律を根保証一般に拡大しようという趣旨は要するに主たる債務者の信用力ではなくて,保証人の資力,これを目当てに債権者が新たな貸付を繰り返す,そういうことによって保証債権額が増大するということの不当性を社会的に認識した上でそれを是正しようという方向ではないかと思います。そうしますと今回の改正の趣旨を前提とするのであれば,一旦設定した極度額分があり,その後信用不安状態が起きた段階でまだ極度額の枠が残っている,その枠に着目して結果的には保証人の資力を目当てとする新たな貸付を行うというのも,ここでは弊害と捉えて制限を設けるべきではないか。そのような趣旨が今回の改正の中では方向性としては妥当なのではないかと考えまして,その意味では先ほど表をもとに説明しましたように,A案ではこの問題に対する有効な解決策にはならないだろうと。B案に基づく立法が必要だと,4ページでまとめさせていただいた次第です。   一番最後に付加的な理由でございますが,根抵当権制度につきましては,平成15年の民法改正で398条の19に第2項というのが加えられて,確定請求を行った上で根抵当権者の非担保債権を抵当権付きで譲渡することが可能となったと。これが直近の改正で可能となったわけです。   その整合性を図る上でも今回同じような仕組みを作るということは分かりやすいのではないかと考えております。根抵当と根保証では状況が違うということはもうどの民法の教科書にも書かれているところで,私もその点を知らないということではないのですが,ただ規律の分かりやすさという意味では,共に確定請求という仕組みを導入して一定の譲渡,随伴性等を認めるというのは一つの考え方ではないかと,このように考えまして,部会資料で言えば11ページのイメージで立法化を試みられてもいいのではないかと考えている次第でございます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見は。 ○中原委員 銀行業界で議論したときには,平成24年の最高裁の判例の考え方を前提とした実務が行われていることを考慮していただくことが必要だろうということでした。仮にB案を採用するのであれば,経過措置として十分な対応をとる必要があるという点とともに,仮に民法で明文化されたとしても,債権者と保証人との合意によって明文規定とは異なる規律とすることを認められるならば,実務上も対応可能ではないかという意見が大勢でした。この点はどうでしょうか。 ○高須幹事 今の最後の点でございますが,実は前回の会議で共同で意見を出させていただきました大阪の赫弁護士とこの点について意見交換をしておりまして,これはもう強硬規定と任意規定がどう違うのかというところまで行き着く問題なのかもしれませんが,私どもとしては例えば強硬規定は全てが駄目,任期規定というのはどんな規律でも許されるというものではなくて,仮にいわゆる特約を許すという場合でもその規定の趣旨から一定の幅というものがあるのではないかと考えております。   具体的には例えば履行請求の場面において,元本確定前に履行請求できます,それで保証債務の極度額は減少しませんよというような極端な特約に関しては,これは明らかに今回仮にB案のような規律を設ければそれに反するということになると思いますので,そのような特約は無効とされるという余地があると思いますが,随伴性に関しては,今日実は松岡委員のほうからも御意見書が出ているようでございますけれども,例えば被担保債権の一部を譲渡するということについて,被担保債権の一部を譲渡するときに随伴性を認める。その限りで一部確定を認めて残りについては必ずしも確定させないというような合意が一定に認められる余地があるのではないか,一貫してないと言われるかもしれないのですが,この問題は一貫させることは不可能だと思いますから,むしろ中原委員の今の御指摘を踏まえて実務に正にふさわしい取扱いというものを認めるべきではないかと思います。デフォルト・ルールとしてはB案を作った上で,あとはどこまで任意規定の幅が認められるかということは今後の判例等にもよるのかもしれないし,更に法律の施行までの間にしっかりと私どもが考えていかねばならないのかと思っております。 ○山野目幹事 仮にB案でいくときには,という前提でのお願いですが,部会資料11ページのB案と言われているものの要綱案のイメージの中の1とそれから3の(2)との論理的関係については,なお整理をしていただきたいとお願いしますし,それからもう一つ,3の(1)と現行法の元本確定事由の規律の在り方との間には改めて整理を要する問題があると感じますから,この2点はもし仮にB案で進められるときには,更に検討を深めていただければ有り難いと考えます。 ○中原委員 根保証を前提としていますので,保証人とすれば保証極度額までは責任を負わなければならないという自覚はしていると思います。高須先生が言われたように,債務者の信用力が低下している状況で駆け込みで主たる債務を発生させさせた場合は,個別の事案において保証の効力を否定すれば良いのであって,確定しなければ保証履行できないとまで言う必要はないのかなと思います。例えば,1,000万円の貸出が2本,保証極度額が1,000万円のケースで,1,000万円債務者が弁済すれば残りの1,000万円は保証の対象となり,あるいは債務者が一旦全額返済して,再び債権者が1,000万円を貸出せば,それも保証の対象に含まれます。したがって,譲渡の場合であっても,例えば2,000万円の貸金が1,000万円ずつAとBに譲渡され,AとBから,保証履行請求されても保証人とすれば1,000万円の範囲で弁済すればそれ以上の履行責任は生じないわけですから,結局そこは早い者勝ちで取れるという制度でもいいのかなと思います。 ○松本委員 ちょっと確認なんですが,最高裁の判決が特殊な事例に基づくものだというのは高須幹事がおっしゃったとおりだと思うんですが,仮にそれを一般化するとして,最高裁は合理的意思解釈に乗っかっているようなので,とすると当然反対の特約は有効だということになります。特約がなくても私が気になるのは,例えば,同じ第三者が根保証人兼根抵当設定者になっている,極度額も同じであるというタイプのケースについてです。この場合,両者が重畳的なのか累積的なのかという議論がありますけれども,重畳的という趣旨でやっていることが多いんだろうと思います。そういう場合にここで言うところの最高裁判決の立場を採ったA案でいくと,根保証と根抵当について当事者は重畳的にトータル幾らまで担保というつもりだったのに,両者が離れ離れになると結局累積的になってしまうという予想外のことになるおそれがあります。そういう場合に,明文の特約がなくても根保証の部分については個別の請求とか,あるいは譲渡はできないものと見なすとか,そういう手当てができるんでしょうか。 ○道垣内幹事 すみません,私が全部理解できてないのかもしれませんが,確定請求を必要とするというB案の立場をとりますと,根抵当も確定請求しないと譲渡できないわけでから,共に確定請求した上で,被担保債権との関係を固定させて譲渡することになります。これを前提とするとき,どんな場合に別々になってしまうのかなという疑問が生じるのですが。 ○松本委員 B案については私は問題にしてないんです。最高裁の立場を採らないというわけだから,高須幹事の考え方は分かりやすくて安定した考え方だと思うんです。ただ,A案を採った場合に,今の生き別れの話が出てくるから,そこの手当てをきちんとしておいてもらわないと困るかなという感じです。 ○鎌田部会長 極度額1,000万円の根保証と1,000万円の根抵当があったときに両方合わせて1,000万円しか取れないという前提ですか。 ○松本委員 そういう場合にどうなるのかについてはいろいろ争いがありますから,当事者の設定契約の趣旨として重畳的であると認定されたとしての場合です。累積的であれば特段の議論は要らないわけです。 ○道垣内幹事 松本委員がおっしゃっていることは多分こういうことではないかと思います。すなわち,根保証人かつ根抵当権設定者であるときに,1,000万円の債権が第三者に譲渡されると,保証債務は負い続ける。しかるに根抵当の被担保債権からは外れる。しかし,元の債権者,つまり譲渡人が総額2,000万円の債権を持っていると,譲渡されていない1,000万円については根抵当権が実行されてしまい,他方で,譲渡された1,000万円の債権について保証債務を負うことになり,当事者の趣旨として重畳的であると認定がされたときには,その認定の趣旨に反するのではないかという話をされているのですね。   高須委員は,仮に債権が2,000万円あった場合には保証債務として1,000万円を負い,根抵当権で1,000万円を負うんだから,極度額の1,000万円の根抵当権が設定されていたからといって1,000万円までしか責任を負いませんという趣旨ではないのではないのとおっしゃったわけですよね。 ○鎌田部会長 その場合であれば,A案であろうと,B案であろうと2,000万円の負担をする。譲渡があろうがなかろうが。 ○松本委員 これは物上保証人による根抵当設定と根保証の極度額が同一金額である場合の両者の設定契約の趣旨をどう評価するかという事実認定の問題なので,鎌田部会長がおっしゃるように別々のものだということであれば全く議論する必要はないんですが,そうでないという場合,実際に重畳的だと事実認定をしている判例はたくさんあるわけですから,そういう場合にどうなのかというところが大きな問題として残ってくると思うのです。高須幹事の意見書2ページで,A案をとった場合の帰結の③の要請がペケになっている部分と似たような状況が,根抵当を併用することによって生じるということです。 ○金関係官 少しよろしいでしょうか。先ほどの高須幹事の御提案は,貸金等根保証に限らないことを前提とされていたと思いますけれども,例えば家賃債務保証の場面ですと,賃借人が1か月分の家賃の支払を怠ったときに,賃貸人がその1か月分の賃料を保証人に請求しようとすると,高須幹事の御提案ですと元本確定請求をしなければならないことになりますので,その後に賃借人が2か月目以降の賃料の支払を怠ったとしても,賃貸人は保証人にはもう履行請求はできないことになります。ところが,賃貸物件である家自体は,引き続き賃貸人は賃借人に貸さなければなりません。高須幹事の元々のコンセプトは,融資の枠があることをいいことに,一旦不払が生じて信用不安が生じた後も引き続き新規の貸付けをするのはおかしいということだと思いますけれども,新規の貸付けに相当する賃貸義務を負い続ける賃貸人の立場を想定しますと,そのコンセプトは妥当しないのではないかという印象を持ちました。   また,家賃債務保証以外の場面,場合によっては貸金債務の保証の場面であっても,例えば融資枠契約,コミットメントライン契約を締結している事案で,1000万円の限度では借主のほうで自由にオプションを行使して借りることができ,それを前提に,その1000万の限度額をそのまま根保証契約の極度額にしているというような場合であれば,借主がまず500万分のオプションを行使して借り入れをして,その弁済期が来て,遅滞に陥ったとすると,その段階で貸主が保証人に履行請求をするには,元本確定請求をして元本を500万に縮減しなければならないことになると思います。ところが,その後に,借主が残りの500万分のオプションを行使すると,貸主は500万円を新規に貸し付けなければなりません。結局,主たる債務の種類にかかわらず,貸主が新規に貸し付ける義務を負っているような場面では,高須幹事の御提案のコンセプトが妥当しない場面があり得るのではないかと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○高須幹事 貸金等根保証に限るかどうかは確かに考慮すべき問題だと思います。後でもしかすると中井先生から御指摘をいただけるかもしれませんが,大阪弁護士会の今回出していただいた意見書の11ページのところには,この論点については貸金等根保証契約に限って規律するべきではないかという記述がありまして,先ほどの私の説明ではその点は入っておりませんでしたが,妥当しない場面があるということで一定の限度に限って,B案を規律するということはあり得ると思いますので,今の金関係官からの御指摘については,あるいはその方向のほうがよろしいかもしれないと思います。   それから,コミットメントライン契約のことは確かに難しいですが,やはり特約の問題なのかなと,要は大事なことはデフォルト・ルールとしては,かつて我々が経験したような商工ローン問題に対する対応として,この規律が平成16年に入れられ,今回またその延長線上で議論しているという中では,原則はどこに置くかということでお考えいただいて,一切例外を認めないということではないというところは確かに重要な御指摘だと思います。 ○中井委員 今,金関係官が御指摘になった点は,大阪弁護士会も疑問といいますか検討しまして,B案を取るのであれば,ここは貸金等根保証に限ったほうがいいのではないか。それは恐らく465条の3の規律の適応範囲を拡大するかどうかという問題と連動して検討するべきだなと考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかによろしいですか。 ○中田委員 御検討をお願いするということだけなんですけれども,今のやり取りでも既に出ておりますが,まず貸金等根保証に限ったとしても元本を確定させないまま債権を譲渡したいという実務的なニーズがあるのかどうかを確認していただきたいということです。   もう一つは,A案,B案,いずれにしても特約は認めることになると思うんですけれども,A案についても特約の効力はどうなるかということを検討する必要があるのではないかと思います。 ○筒井幹事 御議論していただいた結果として,現在の状態をどう理解するのかということなんですが,中間試案には盛り込まれなかった論点ですけれども,繰り返しの指摘をいただいたので今回事務当局として複数案を仮に提示するというところまでは用意し,若干の問題点だけを差し当たりは記載して御議論をお願いしたんですけれども,どちらが指示をより集めたのかということは必ずしもはっきりせず,どちらかになるのであればこういった留意点があるという複数の更なる宿題をいただいた状況だと思います。   金関係官からも追加の問題点を提示しましたけれども,そういった問題点を全て洗い出した上で,高須先生のお言葉を借りるとA案かB案かどちらかにするのかというのを決めていく作業というのは現実的に我々は宿題としておって,それをやることができるのかということに対しては大いに疑問と言いますか,やれる自信を必ずしも持ってはいないわけです。   今日の議論は今日の議論で,成果としては記録は残るのかもしれませんけれども,現在の状態のままだと時間切れで見送らざるを得ないということになるのではないかと思います。そうではないということであれば,積極的に今日の議論を消化するような新たな提案をいただく等,当局をサポートしていただかないとやや荷が重いなと感じております。 ○潮見幹事 私も個人的には筒井幹事がおっしゃったのと同じような印象を持っております。急いで規定する必要はないし,規定したのでは,かえって大きな混乱を生じさせるのではないかという感じが致します。幾つか理由があります。平成24年判決については,一方ではこれは判例法で確立しているという形で読む方がいらっしゃいます。他方では,私もそうですが,先ほど松本委員,あるいは高須幹事のお話にもありましたように,これはある個別の特殊な事案に関する判決ではなかろうかという方々がいらっしゃいます。あるいは,当該保証契約における保証人や債権者の合理的な意思は何なのかということを考慮に入れながら,保証契約の解釈の結果として,当該事案において当該判断を下したのが平成24年判決ではないかという方々もいらっしゃいます。このとき,平成24年判決の位置付け自体に対して,全員あるいは多くの方の一致を見るというのは難しいのではないかと思います。これが第1点です。   2点目は,平成24年の判決自体の評釈等を見ると,必ずしもこの判決に対して全員が賛成というわけではなくて,むしろ反対の意見を言っておられる方もいらっしゃいます。しかも,その反対意見を言っている人の中にもバラエティがあります。こういう状況の中で,一つのまとまったルールというものをここで立てるということに対しては,私は強い危惧を感じます。   3点目は,デフォルト・ルールならいいではないかということになるかもしれませんが,後の贈与にも関わってくるのですが,デフォルト・ルールを立てるということ自体,何を典型的な枠組みとして考えていくのかということに対する態度決定をここですることになってしまいます。   そのときに,そこまでの態度決定をすることができるような基盤がこの時点で形成されているのかということを考えますと,この部会の中でもそうですし,外でもそうですし,まだそこまでは至っていないのではないでしょうか。また,デフォルト・ルールを作ったとしても,別段の合意をすればよいという発言が多々ありましたが,そうであれば一体何のためにデフォルト・ルールを作ったのかということにもなりかねないようなこともあろうと思います。   さらに,先ほど中田委員がおっしゃった個別の問題もあることを踏まえて考えたときに,急ぐことによるリスクというものをちょっと考えておいたほうがいいのかなと思います。そう考えますと,この流れの中で言うのはつらいのですが,私自身は規定を設けないということで行くべきではないかと思います。理論的には高須幹事の考え方には共感を覚えるのですが,立法ですからやむを得まいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見があればお出しください。よろしいでしょうか。   それでは恐縮ですけれども,先に進ませていただきます。部会資料76Bの「第2 贈与」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○村松関係官 それでは「第2 贈与」について御説明いたします。今回は積み残しになっておりました瑕疵担保責任の関係の部分でございます。中間試案では契約の趣旨に適合した物の引き渡しをすることが引渡債務の内容であるとしつつ,贈与の無償性から契約に適合しない引渡ししかされていなくても,担保責任までは追及させないということとしまして,現行法を基本的に維持するとしていました。しかし,これに対しては一定の変質の物を引き渡すことが当事者間で意図されていると言える場合にもその不履行を免責することになりかねないといった理由からそういった構成に対して違和感があるという指摘がパブリック・コメントでも寄せられております。   ここではそのような指摘が寄せられていることなども踏まえまして,新たな提案を行っているというところでございます。基本的なコンセプトとしましては,売買と贈与は同じように捉えたいというところでございまして,贈与においても契約の趣旨に適合したものの引渡しをする義務があるというのが基本であるというところは同じである。これに基づきまして特定物についても種類物についても基本的には整理していくというのが全体的なコンセプトです。ただし,特に特定物については現行法との兼ね合いもございますけれども,もう少し贈与者の義務ないし責任,債務について低減させたほうがいい,軽減させたほうがいい,こういう指摘があり,それは契約の趣旨の解釈だけでは読み取りにくいではないか,このような御指摘がありましたので,その点をどのように配慮するのかというところで今回は端的に贈与者の通常考えられる引渡債務の内容を規定する。その内容としてはここに記載してあるような内容であるというところでございます。   贈与者が負担すべき債務の内容として,どのようなものを想定するのが適切なのかという部分については非常に悩みどころでございまして,先ほど潮見幹事からも御発言がございましたけれども,一体そこで何を想定するのがよろしいのかというところは議論がいろいろあり得るところだと考えておりますので,御意見を頂戴できればと考えております。   それから,規定ぶりとしまして,意思推定の規定としてはどうかとしております。売買においては契約の趣旨に適合するか否かというのは事実を探求していって,債務の内容を確定していくという形になっておりますので,それとの整合性,それと同じような形で贈与も考えようということですので,そういった契約の趣旨に適合した物を引き渡す債務がありますというのを前提に,その上でただ通常はこうだということを指し示すのであれば推定という形にするのが馴染みがいいのではないかということで,ここでは推定というような表現を使っております。   もっともこれに対しましては,本日は松岡委員から意見書が寄せられておりますけれども,デフォルト・ルールで別によいのではないかという御指摘もいただいておりますので,この点についても御意見を頂戴できれば幸いです。   それから,(2)は他人物贈与に関するものでございます。中間試案から大きな変更はございませんが,仮に(1)で示したような考え方を採用していくということになる場合には贈与者が他人の権利を取得した場合には(1)に記載したような規律と同様の規律に服すると整理するものです。   それから,(3)は負担付贈与に関するもので,基本的に中間試案と同様の考え方を採用しておりますけれども,今回はその法的性質については代金減額請求と同様に形成権とすることを提案しております。また,このような請求権が発生する要件として贈与の目的物に何らかの瑕疵等がある場合に限定するか,より広い要件としていくかも検討が必要であると思われます。   さらに一般的な救済方法に加えてこの減縮を認めるべきかあるいは代替的なものと位置付けるのか,それから受贈者の責めに期すべき事由によって不適合となった場合に減縮請求を行使できないとすべきかという論点について御議論いただければと思います。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○潮見幹事 私の考えはこれを見てなお規定を設けるべきではないというところで変わりはないというか,むしろ確信が強くなったというようなところです。むしろ,ここでちょっと確認しておきたいことが幾つかあります。   一つは,今回ここでお示しになっているところでの債務の内容というものの捉え方,理解の仕方というものが私にはよく分かりません。売買のところと平仄を合わせるとおっしゃいましたが,売買のところでは基本的に契約の趣旨に適合した履行という観点から契約の適合,不適合というものを判断するというところから出発していたところです。今回のこの案は,推定というよりは私は松岡先生がおっしゃるようにデフォルト・ルールのほうかなとは思いますけれども,それは置いておいて,ここで示されている定式は,従来特定物ドクマをとっている人,つまり契約の趣旨というものをとりあえず度外視して,この物ということに注目をして,性質は契約内容にならないとの観点から義務を立て,更に契約時以降の劣化については保存義務という枠組みで問題を捉えていくというところを基本にしているような感じが致しました。   そうだとしたならば,民法の体系全体の基本的な理解として今回の改正が一貫しているのか,どういう観点から債務を捉えていこうとしているのかというところが矛盾しているんではないか。違ったような観点からの説明がされているのではないかという危惧を抱きます。   これに対しては,これはデフォルト・ルールだから贈与の場合には普通はこの物を渡せばそれでよく,基準時は契約時ですよと答えられるのだと思います。正に契約規範という観点からこのルールを立てようとしているのだという説明をされるおつもりかもしれません。けれども,売買みたいに双務契約でしたら,給付と対価という形が見合うというように定型的に捉えることができるのですが,贈与の場合には,いろいろな原因があります。いろいろな目的があります。それぞれがいろいろな意見を言うときに,どの贈与を想定しているのかもまた,多様であると思います。情義によって贈与がされる場合もありますし,何かの見返りを期待してやる場合もあります。あるいは,社会貢献みたいなものを考えてやる場合もありますし,ヨーロッパなどではよく言われますけれども,名声を得るために贈与するんだという場合もあります。このように,贈与といっても,いろいろな場面が考えられます。さらに言えば,当事者も家族の場合もあるし,そうではない場合もあります。ビジネスとしてやる場合もあります。そういうときにデフォルト・ルールとして,こういう規定を設けるということができるのかという疑問を私自身は感じます。   要するに,契約の趣旨という観点から捉えた場合のデフォルト・ルールとしてもこれは不適切ではないかというところがあり,賛成しづらいところがあります。   そのうえで,若干確認したいことがあります。事務当局が書かれているところからいきますと,例えば契約後に,契約締結時の状態よりも劣化したような特定物が引き渡されたときに,受贈者は追完請求できるのでしょうか。追完請求の枠組みはどのように考えるのでしょうか。保存義務の追完ですとはおっしゃらないでしょうね,保存行為についての追完と瑕疵の追完とは違いますから。それから,追完請求がされた場合に,これは②のほうでしょうか,自己の財産におけると同一の注意を尽くしたということで追完を拒絶することができるのでしょうか。その拒絶理由は正に追完請求権の限界事由の問題だと思いますが,この枠組みと債権総論で履行不能,あるいは契約の趣旨に照らして期待不可能という観点から立案されようとしている限界事由との関係をいかに理解しておられるのでしょうか。これがお尋ねしたい第1点です。   それから,お尋ねしたい第2点というのは,損害賠償を請求するとき,引渡義務の不履行を理由とするの損害賠償請求という枠組みになるのか,それとも保存義務違反を理由とする損害賠償という形になるのかです。また,そのときに,債務者の責めに帰することのできない事由というものを一体どのように考えて,この御提案をされているのかもお教えいただきたいと思います。   答えていただきたいのは以上の2点ですが,個人的な印象を最後に一言申し上げますと,ここでの贈与のルールを修正するという場合に,恐らく観点は三つあるんです。一つは,債務自体,贈与の債務の内容自体を緩めるというか,ほかのものと違って縮める方法と,引渡債務自体についてはいじらないけれども,保存義務のところ,つまり400条に対応するところだけを自己の財産におけるのと同一の注意という形で弱めるという方法。それから,債務の不履行の辺りは変えずに,債務者の責めに帰することができない事由を贈与者にとって緩くするという方法,こうした三つの方法があろうと思います。その三つのどこをどういうふうに考えてこうされたのかが説明を読むだけでは正直言って分かりにくかったし,理論的に少し疑問のあるところがありましたものですから,最後の部分はあえて補足をさせていただきました。答えていただくのは2点だけで結構です。 ○村松関係官 2点だけと言われたのですけれども,うまく的確に答えられるかちょっと不安なので,順次御説明いたしますけれども,基本的に今回の考え方は何を弱めるつもりだったのかと言われると,基本的には債務の内容自体が贈与一般としてはこのような内容だと見られてよいのではないかという部分です。先ほど申し上げましたけれども,そこの部分が本当にそうかについてはちょっと御議論いただきたいと思うんですが,枠組みとしては,債務の内容であるというような理解をしております。確かにこの書き方は若干分かりにくいところがございまして,②のところで自己の財産におけるのと同一の注意をもって管理すればよいのであるという,ある意味,免責に見えるのかもしれませんけれども,我々がここで考えている内容は,②の自己の財産におけるのと同一の注意をもって管理したと言えばこれは追完請求もできない。正にそういうのが引渡債務の内容だったと理解するということでどうなんだろうか。   それは最初に申し上げましたけれども,贈与においても贈与者は契約の趣旨に適合する物を引き渡さなくてはならないんですというのが基本ですが,これを通常はそういう内容の債務なんですよ,と推定してはどうかというのは繰り返し申し上げておりますけれども,なぜ推定というかと言うと,デフォルト・ルールとして置いてしまうと,契約の趣旨に適合する物を引き渡しなさいということと整合しないような関係にあるように思われるので,そこは本則としては契約の趣旨に適合する物を引き渡せ,これは贈与も一緒であると。基本の発想はそうなんだと。デフォルト・ルールで,例えば①のように契約時の状態で移転しますと書いてしまうと,両者の関係は何なんだということになるので,それについては推定なんですという説明が一つあるのではないかなと考えて,今回は作ったというところでございます。   その意味で,保存の話が出てきているんですけれども,これが400条あたりで出てくる問題とどうなのかというと基本的には切り分けられている問題でここで書いておりますのは少なくとも自己の財産と同一の注意で保管すればそれ自体は債務の内容としてももうそれで十分ですと理解されるものだし,そう書いたのであれば恐らく400条のほうもそう読むしかない,そういう契約なんだと理解するしかないのかもしれませんけれども,我々が主として申し上げたいのは,この贈与者の引渡債務の内容として①と②,これは若干分かりにくい表現なんですけれども,何を贈与者はしなくてはならないかというと,契約締結時から自己の財産と同じような注意をもって管理した果ての財産を履行時に引き渡す,これが贈与者の債務の内容だということです。これが現行法との接合という観点からも理解し得るのではないかと考えているというところでございます。   繰り返しになりますけれども,整理は今申し上げたように,債務の内容としてこれを尽くせばよいというものとして,贈与については推定するということですけれども,それは大元に帰れば契約の趣旨に適合した物を引き渡す債務というのが贈与全般についてあって,それは特定物も種類物も同じだというのは大前提で,それとの関係でという趣旨でございます。 ○潮見幹事 ちょっと1,2点いいですか。贈与者の債務は手段債務ですか。 ○村松関係官 そこの部分はなかなか難しいんですけれども,結果的には手段債務のように見えるのはそうだと思うんですけれども,通常がそうだということであれば,そのように規定するほかないのではないかということなんです。繰り返しになりますけれども,そのような債務の内容と推定であれデフォルト・ルールであれ,規定するのがいいのかどうかというのは,議論はされるべきであり,どのようなものとするのが実務,現場に則したものなのかという問題は多分あるんだろうと思います。   私も先生がおっしゃるように契約の趣旨に適合するものを渡すということだけで一本化していろいろなものが世の中の贈与にはあるんだから,あとは契約に応じて探求すればいいという御説明自体はそれはよく分かるところではあるんですけれども,他方でこれまでの部会の議論ですとか,パブリック・コメントで寄せられた意見では,基本は贈与者の責任というのはちょっと軽くなってしかるべきだという御意見が多かったものですから,そこは提案に反映させざるを得ないのかなと考えて資料を作成したものです。 ○潮見幹事 実務の現状に合わせるということについては私も異論はありません。合わせるのであれば,それに耐えられるだけの理論的な説明をしていただかないと,というか私たちがしなければいけないのかもしれませんけれども,ほかの債務不履行のいろいろな制度との説明の間にそごが起きます。   これをなぜ申し上げるのかと言ったら,この部会とは切り離されていますけれども,民法(債権法)改正検討委員会の議論でも,いろいろな意見が出て,理論的な説明は難しいという形で,かなり意見交換がされた部分なんです。簡単にルール化ができるものではないということ,それから,売買の場合との規律の平仄というものはどうしても考えておいていただきたいというのは強くお願いしたいところです。引渡債務と保存債務の関係の辺りをお願いします。 ○山本(敬)幹事 前の部会のときにも申し上げたのですが,多分それを受けてだと思いますけれども,部会資料の説明のところでは,これは特定物の話であって,種類物については異なるというような説明がありました。デフォルト・ルールという趣旨からして,本当にそれで整合的な説明になっているのかというと,私は大いに疑問であると思います。無償性を強調するのであれば,種類債務については全く売買と同じには必ずしもならないはずではないかと思います。   私自身は,種類債務についても無償性を考慮した規定にせよと言っているわけではなくて,むしろこのままで規定をしてしまいますと,潮見幹事がおっしゃいましたように,特定物と種類物は構造的に違うのである。つまりは特定物の場合は,この物を給付するというのがカテゴリーとして契約内容であるという考え方を採用しているように見えてしまう。そうではないという御説明をされるかもしれませんけれども,そう理解される素地が非常に強い提案になっているだろうと思います。種類物は全く違うわけですので。そのような提案はすべきではないだろうと思います。   解釈準則に関しては,おっしゃるような解釈の準則は十分あり得るとは思いますけれども,それを民法の中でこのような形で書いてしまうことは,むしろ弊害が強いのではないか。その意味では,一貫して言っているつもりではありますけれども,基本的には,基本原則がそのまま当てはまる。しかし,贈与については特に免責の余地を通常よりは広く認めるべきではないかという御意見があるのは確かなので,それを明らかにするのであれば,これは以前の案の中にも出ていたかもしれませんけれども,「贈与契約の趣旨に照らして」というような形で,特に贈与の場合にはその趣旨を考慮すべきだというような規定を置くのが精一杯ではないかと思います。 ○山野目幹事 551条という規定が現行の民法には存在していて,これに当たるものをもうこれからは置かないと決めてしまうとすると話は非常に明解になると感じますけれども,そうではなく何らか551条に相当する規定を今後も置いておくと考えていくとすると,551条の1項の文言が現行のままで無傷で残るということはあり得ないものでありますから,その問題意識を事務当局は受け止めて551条をどのように改めようかということで大変苦しまれたものであろうと思います。しかも贈与に特徴的なこととして,非常に多様であって求められる給付の水準等についてもいろいろなものがある。さらに,当事者は十分なネゴシエーションを経て明確な特約などをして,その債務の内容を定めていくということは贈与の特性から言って期待することができない。そうすると契約の趣旨に照らして適合するものを渡せという原則が当てはまるのみであるとすると,運用の場面で様々困るのではないか。困るからここのところについて何らかのルールを設けてほしいというような意見がパブリック・コメントで寄せられたものであろうと想像いたします。   こうした多様性と向き合いながら必ずしも特約等で明確な規律が用意されていないということへの対応として,意思推定という法技術を用いるということを悩んだ末に,そこに辿り着かれて本日の提案いただいたと私は受け止めました。   その上で,太字で御提案いただいているそれぞれの部分について少し感じたところを申し上げますと,(1)の①は,今,申し上げたような意味で,意思推定のようなアイデアで物事を考えていくということはあり得ない話ではないと思いますが,ここで出されている規律表現は意思を推定するという形式になっていなくて,法律関係の原則がこうだという,法律関係の推定という言葉はありませんけれども,法律関係を推定しているかのごとく書き方になっていると思います。この書き方だと松岡委員が御指摘のように,特段の特約がない限りでも,いいではないかとかいうお話が出てくるし,あるいはもう少し違うものとしては,その贈与の性質がこれを許さないときはこの限りではない,というような規定表現のほうが似合うと思います。意思推定の規定表現にしていくか。違うものを模索するかということを今日の御議論なども踏まえて考えていただいたほうがよろしいだろうと感じます。   それから,(1)の①で付随的にもう一つ申し上げますと,引渡義務を負う,と引渡しのみクローズアップされているのは,表現としておかしくて,潮見幹事がおっしゃった問題もありますすが,それとは別な意味で,財産権を移転するときに対抗要件を具備させる義務があるものですから,引渡しのみが強調される規律表現になるというところは何らか工夫が要るだろうと感じます。   (1)の②の注意義務の水準ですが,潮見幹事が①と②の話は異なる次元の話であるとおっしゃったことに私も共感を抱きますとともに,これは551条1項の改正問題ではなくて,400条の特則を明確に設けるか設けないかという問題でありまして,ここのところについて,必ず意思推定の規定を置かなければいけない必然性を私は納得して理解することができませんでした。   置くとしたら,単なる任意規定であって,別段の約定が許されるということを明示した規定の表現にしておくということでもよいと感じられますし,そうでなければ400条の規定が置いてあって,贈与について特則が設けられていないという現行の規律状態をそのまま維持した上で,個別の贈与契約の契約の趣旨に照らしてそれぞれの局面の法律的解決が得られるということで構わないのではないかとも感じます。余り(1)の②のところについて余分なことをしないほうがいいのではないかと感じました。   似たことは,(2)についても感じるのでありまして,売買の他人物売主の責任について560条が置かれていて,贈与については何も置かれていないという現行の規律状態のままでもよいかもしれませんし,そこを明確にしようとするときには(2)の内容のようなことをこれも任意規定であることを明確にして規律を置くということでもよろしいのでありまして,ここも意思推定という少し技巧的な法技術を無理に用いる必要はないだろうと感じます。   最後に(3)の問題ですが,ここも悩まれたものであろうと思いますが,私が部会資料を拝見して理解する限りでは,部分的に危険負担で扱うべき,対応するべき問題が含まれているきらいがあって,551条ではなくて,その次の552条で双務規定の規律を準用するとされていることを踏まえつつ,この規定が維持されるのであれば危険負担のところについてのこの部会における今後の論議がどうなるかということの帰趨を見据えた上で考え込まなければいけない問題を強いて取り込んでしまっているきらいがあるのではないかと思います。551条2項に当たるものを今後も残すのであれば,余り無理をしないでこの規定の骨格を表現を適切に改めた上で,今後も維持していくというような穏やかなやり方もあるのではないかとも感じましたから御参考に申し上げます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見は。これをBタイプの資料として出しているというのは,事務当局としては,これで前へ進んでいくことに若干自信を持ち切れないということだと思うので,是非部会の委員,幹事の皆さんの御意見を出していただきたいと思います。 ○村松関係官 今,いただいている御意見は基本的に551条のような規定はもうなしにしたらどうなのかというスタンスが強くて,しかもここに書かれている内容については400条との関係で混乱を生じさせる原因,種が入っているのではないかという御趣旨だと理解しております。これに対し,それはそれで理解するけれども,しかし551条のようなルールというのがやはり必要だという声が強く,そうであれば,事務当局として何とかするしかない。それで考えに困ってBタイプで出したというところでございます。もし,特に御意見がない,御趣旨が551条のような,1項のようなある意味責任を軽減するようなものが必要ないということだとまた全然議論の潮目が変わってくるというところなんですが,今までの部会の雰囲気はむしろ逆だったように思っているんですけれども。 ○鎌田部会長 それは,本来の債務内容を責任軽減的に削っていくのではなくて,一般的な贈与における契約の趣旨というのはどんなものなんだろうかという形で規定しようとしたというのがこの提案の発想の根本だろうと推測するわけですけれども,そこのところがうまく行っていないというのか,あるいは発想がそもそも違うというのか,その辺のところについても御意見をいただければ幸いでございます。大変厄介な宿題を抱えっぱなしという状態になりそうですが,お気づきの点がありましたら御意見をお聞かせいただければと思います。 ○村松関係官 もし,差し支えなければ弁護士会の皆様はどういうお考えだったのか,ほかの論点では非常に言っていただいているので,私も今回期待して,どうしたらいいのかなと正直本当に困っておりまして。 ○鎌田部会長 それではお求めでございますので,弁護士会,何か御意見がありましたら。 ○中井委員 とても難しい議論ですが,潮見先生,山本敬三先生からはお叱りを受けるのかもしれませんけれども,贈与契約における引渡義務の程度と通常の対価性のある売買契約の引渡義務の程度に違いがある。それはかねてから贈与の特定物を念頭に置いて弁護士会もつい発言しているところがあったことは確かで,その場面ではかねてからそのあるがままの状態で,引き渡していくのが一般的ではないかという考え方を基調として発言してきたことは間違いがない。   少なくとも今回の提案,推定かどうかはともかくとして,契約時点におけるあるがままの状態で引き渡すことを前提にそこから引渡時点まで時間的経過があるとすれば,自己の保存義務と同じ義務の程度で保存すれば足りるという考え方について,実は弁護士会の中で議論した結果として反対意見は出てこなかったのが実情です。ですから,少なくとも第1項について推定についてはちょっと意見がありましたけれども,違和感なく受け取られたということは正直に申し上げたいと思います。   ○岡委員 理論的なことは考えていないのですが,贈与契約の趣旨で債務の内容を決めるということがかなり多いのではないでしょうか取引通念とかいろいろなものが入っていますので余りマジックワードに頼り切るのはよくないかもしれませんけれども,それで結構処理できるのではないかと思います。追完責任だとか損害賠償責任を負うような贈与契約もあるだろうし,そういうのは一切もう負わない,追完責任も損害賠償責任も負わないというような贈与契約もあるのではないか。そういうふうに自由自在に贈与契約の趣旨を使えるのであれば,その規定だけで運用するのが実務ではいいのではないかと思います。ただ,仕事で贈与契約などを扱ったことがございませんので,また裁判例でも余り見たことないような気がしますので,自信はございません。何となくこの意思の推定について違和感がなかったというのは,こういうのが多いというのがあるから,これでもいいのではないのとなったのだろうと思います。 ○中井委員 岡さんの発言が弁護士会の感覚だったわけですけれども,先ほど山本敬三先生が贈与契約においては贈与契約の趣旨に照らして,義務の軽減があっていいのではないかという御発言がありました。仮にそのことを条文化するときのイメージですけれども,単純に契約一般の瑕疵担保責任の特則として贈与契約においては贈与契約の趣旨に照らしてどうこうするというイメージをお持ちなんでしょうか。若しくはこれは潮見幹事なのかもしれませんが。全く同じだから規律を全く置かないということでは決してないと聞いたんですが,仮に置くとすれば,今のことを反映してどういうことをお考えなのか。それは恐らく特定物であろうが種類物であろうが同じような規律として想定されているのだろうと思うだけに,その表現ぶりをおっしゃっていただいたら理解可能なのかもしれませんが,もしお教えいただけるのであれば。 ○潮見幹事 私は規定を置かなくていいという立場でして,債務不履行の一般準則で処理をすれば足りるのであって,贈与の場面における免責のところについての特別のルールは要らないと思います。ただ,1点だけ補足しますと,先ほど村松関係官,債務の内容の縮減なのか保存義務のところをいじるのか,それとも免責事由のところを緩めるのかということを言いましたけれども,その三つのうちの最初のものと,中井委員がおっしゃったのに対応するのは最後のものだと思いますけれども,どちらも贈与のところで特別のルールを作るというのは難しいかなと思います。   また,第二のものも,山野目幹事の話にもありましたが,保存義務を引渡義務と切り離して,債権総論で今想定しているようなものと同じように考えるのであれば,保存義務を少し軽くするということはできないわけはないかなとは思いますが,それもやはり難しいでしょう。 ○村松関係官 今おっしゃった保存義務を軽くすることができるというのは,軽くなった保存義務をクリアすると追完請求権でどうなるという御理解ですか。 ○潮見幹事 追完請求権は関係ありません。 ○村松関係官 それはそのままという前提ですか。 ○潮見幹事 売買はそうじゃないですか。保存義務と追完請求権を切り離すから引渡債務と保存義務を分けるということで,400条のところは私も納得したつもりですけれども。 ○村松関係官 今,潮見先生がおっしゃったのは引渡債務と保存義務を分けるということで,それは売買のところも400条のところもそういうふうに理解されてきたと思うのですが売買のところで保存義務のほうを軽減するとおっしゃったように聞こえたのですが。 ○潮見幹事 売買では……。 ○村松関係官 ごめんなさい,贈与のところで。引渡義務はそこは軽減されない。保存義務だけが軽減されるのでしょうか。 ○潮見幹事 ちょっと誤解があったので申し訳ありません。きちんと申し上げますと,贈与のところでありうるとしたら,保存義務のところをいじるしかないと思います。というのは,保存義務を扱う400条の説明のところで,特則があれば別だという形で幾つかのものが挙がっていますよね,それをちょっと念頭に置いたのです。 ○鎌田部会長 551条も削除という御提案ですか。 ○潮見幹事 そうです。 ○鎌田部会長 削除したこと,単純削除してしまうことの持つ意味に対する懸念も事務当局としては持っているので,その部分をどう埋め合わせていくかということで今苦労しているということなんだろうと思いますけれども。 ○中井委員 潮見先生が単純削除とすれば,弁護士会も正に今,事務当局が持っている懸念と同じ懸念を恐らく表明することになると思います。先ほど敬三先生はそうではなくて,少し契約の趣旨に照らして考える余地を認める御発言があったように理解したんですが。 ○山本(敬)幹事 学者グループによる改正提案等の中でも様々な議論があったことは,先ほど潮見幹事がおっしゃってくださったとおりですが,その提案の中にも,参考になるものがあるのではないかと思います。ただ,厳密に言いますと,追完請求を含めた履行請求の場合と損害賠償請求との場合とで違いを設けるかどうかということについて,更に立場は分かれる可能性があるわけですけれども,仮に先ほど私が申し上げたように,趣旨を明確にするために規定を置くとするならば,例えば損害賠償については一般原則によるけれども,「ただし,贈与の契約の趣旨に照らして責めに帰すべき事由がないときには」,損害賠償責任を負わないというような形での規定を置くことは十分考えられあます。もちろん,実際の文言をどうするかということが次の問題ではありますけれども,そのような形で,これは特則ではないのかもしれませんが,懸念に対してはここでいう趣旨で受け止められることを示した規定を551条に変えて定めることは,あり得ないわけではないだろうと思います。 ○中井委員 そうだとすると,損害賠償については帰責事由のところで贈与契約の趣旨に照らして考えるというのは一定理解しました。そうすると追完請求のところに関しては今のことからすれば入らないということになりますか。 ○山本(敬)幹事 これは立場が分かれるかもしれませんけれども,それは,一般原則のほうをどう規定するか。特に,売買について今議論がありますけれども,それとの兼ね合いで,どう書くかということになるのではないかと思います。もし,売買できちんと規定を置くことになれば,それに合わせたような形で,しかし贈与の趣旨を考慮に入れることができるような規定を置くことが考えられるかもしれないと思っています。損害賠償のほうが相対的に容易だろうということは言えますけれども,追完請求に関しては,少し考えないと,実際の書き方は難しいかもしれません。 ○村松関係官 私どもも損害賠償についてはそれはやりやすいというのは理解しているんですけれども,恐らく弁護士会での「そんなものだろう」という水準を確保するためには,中井先生が先ほどおっしゃいましたけれども追完も損害賠償であろうが善管注意義務であろうが,とにかく揃ってないと意味がなくて追完だけできてしまうというルールを置く合理性は説明は難しいのではないかと思い,仕方なく追完請求のほうに跳ね返らせる方法はないかということで,そもそもの債務の内容を触るしかもうないのではないかということだったのです。それは何度も繰り返しですけれども,そういう水準のものだという推定規定ないしはデフォルト・ルール的なものを置く必要があるということがあればということでありますけれども,そうであるとすると揃ってないと意味がないような気がするんですけれども。 ○中井委員 その点は共感します。 ○鎌田部会長 たくさん御意見を出しておいていただけると事務当局は助かるんですけれども。ほかに特にないようでしたら。 ○内田委員 保存義務との関係ですけれども,現在の案は保存義務の問題を規定しているというより,贈与というのは引渡時にどういう品質の物を引き渡すのが贈与契約の通常の趣旨に合致するかの基準を定めようとしている。その引渡時の品質というのは契約締結時にその物が現にあった状態を,自己の財産におけるのと同一の注意義務で保存して履行期に到達した,その状態が契約の趣旨に合った債務の内容であり,それを渡せば契約の趣旨に適合した物を渡したことになるだろう。そのように当事者の意思を推定する規定を置こうということなのだと思います。   ですから,保存の問題ではなくて引渡時の物の品質についての当事者の意思を推定する基準を定めた。それを定めるための手法として,自己の財産におけるのと同一の注意という,保存の水準のことも書いていますけれども,実際に定めようとしているのは保存義務の話,つまり400条に相当する話ではないというのが私の理解です。   いずれにしてもこの贈与の担保責任というのは,学者が好んで議論しているけれど,判例がほとんどなくて,実務家がほとんど発言しないという問題です。しかし,だからと言って551条削除となると多分実務界からかなり異論が出るだろう,ということで非常に難しい論点です。通常ですと,意見が対立すれば論点から落としますということで,551条維持になるわけですが,今回は,売買の改正との兼ね合いでそのままでは維持できません。中間試案は限りなく維持に近い案を出しているわけですけれども,そこでは契約の趣旨に適合しないものであっても,責任を負わないというルールになっていて,それでは売買と整合しないだろう。そこで,傷が付いた物を渡しても,贈与の場合は契約の趣旨に適合しているのですと言うための規定を置かざるを得ない。ということで,今回,こういう案になっているわけです。   ですから,無償契約について何らかの理論的な一貫した立場を事務当局が持っていて,それに基づいて提案しているというよりは,これまでの議論の経緯から551条をそのまま存置というわけにはいかないとすれば,このくらいの案しかないのではないかということで提案しているわけですので,疑問の提起だけではなく,是非こうすれば最終的にコンセンサスの形成が可能であるという御意見をいただければと思います。自説ではこうだというのはよく分かるのですが,コンセンサスの形成が可能でなければ意味がありません。とりわけ,いまは黙っておられる実務家の先生方は,理論的に一貫しているけれどすべて解釈に委ねるような案が出てくると多分異論をおっしゃるだろうと思いますので,そこでコンセンサス形成可能になるような御意見を,是非とも賜れればと思います。 ○鎌田部会長 ということでよろしくお願いします。 ○岡委員 私は単純削除説で,それほど違和感がないんですが,今のような切羽詰まった状況にあるというのは初めて理解したような気がします。単純削除か単純削除でないとしたらこれしかない,そういう前提でちょっと弁護士会でも議論してみたいと思います。 ○鎌田部会長 お願いします。ほかにはよろしいですか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務局当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の会議ですけれども,4月以降の会議日程について現時点まで全く明らかにせずに大変御迷惑をおかけしていることを自覚しております。次回会議ですけれども,4月になお開催の可能性があると申し上げてきた4月15日と4月22日のうち,4月22日に次回会議を開催することにしたいと思います。様々な準備の都合で4月15日,現在から3週間後の4月15日ではなく,4週後の4月22日のほうを次回の正規の会議とさせていただきたいと思います。時間はいつもどおり午後1時から午後6時まで,この場合の場所は法務省の地下1階大会議室になります。   4月22日以降につきましては,4月29日と5月6日がいずれも休日ですので開催は致しません。5月13日以降につきましては,引き続き7月末まで,あるいは8月に入るかもしれませんが,全ての火曜日の日程確保に御協力いただきたいと思います。一定の時期から,例えばということで申し上げれば,6月に入りました以降は,要綱仮案の取りまとめを目指した審議をしていただくことになります。その場合には中間試案の叩き台のときを思い起こしていただきますと,概ね2週に1回のペースで正規の会議を入れて,積み残しが出た場合にはその翌週を予備日として活用して審議を進めていくというスタイルをとりました。今回もそういったことをイメージしておりますので,実際にも場合によっては全ての火曜日に会議を開催する可能性がないわけではございませんので,大変申し訳ありませんが,引き続き全ての火曜日の日程確保に御協力いただきたいと思います。   4月の会議で何をやるかにつきまして実はまだ検討中でございまして,主にこれまでの審議でB型で取り上げてきたものについて,どのような再検討を行い,どのような案を提示するのか,しないのかといったことの見極めをした上で,4月の会議にお諮りしたいと考えております。資料についてはいつものとおり所定の日までに事前に送付するようにさせていただきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議をこれで終了とさせていただきます。本日も熱心な御議論を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-