法制審議会 新時代の刑事司法制度特別部会 第29回会議議事録 第1 日 時  平成26年6月30日(月)   自 午後1時33分                         至 午後5時02分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  時代に即した新たな刑事司法制度の在り方について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○吉川幹事 ただいまから,法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会の第29回会議を開催いたします。 ○本田部会長 本日も大変お忙しい中御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   川出幹事におかれましては,所用のため御欠席されるとのことでございます。   本日は,お手元の議事次第のとおり,配布資料の説明の後,最終的な「取りまとめの案」の内容について議論を行うことといたします。   それでは,本日の配布資料について,事務当局から説明してもらいます。 ○吉川幹事 御説明します。   資料69は,事務当局において作成した,「取りまとめの案」でございます。この内容につきましては,後ほど御説明いたします。   また,前回の会議でお配りしました,宮﨑委員と小坂井幹事の連名によるメモを再配布しております。   そのほか,本日の議事進行の予定を記載した,「本日の進行予定」と題する書面もお配りしておりますので,御確認ください。   配布資料の御説明は以上です。 ○本田部会長 これまで「事務当局試案」に基づきまして,各事項について議論を行った結果,いまだ意見が相違している点はありますけれども,全体といたしましては,議論は熟してきているのではないかと思います。そこで,最終的な「取りまとめの案」として,事務当局に指示をいたしまして,資料69を作成させ,本日,御提示した次第でございます。   当部会におきましては,諮問の趣旨に沿って,平成23年6月の第1回会議から,刑事司法制度全体を見渡しつつ幅広い観点からの議論を開始し,論点整理や理念の共有を図りつつ,審議を進めてまいりました。   皆さんそれぞれに御意見はございますが,それを一つのものとして取りまとめるため,法整備を行うべき制度の具体的な内容のみならず,当部会において共有した理念,制度化すべきとする事項に関する確認的事項,更には,制度化すべきとの結論には達しなかったものの一定の検討をした事項に対する言及なども含めた形で取りまとめを行うことが適切ではないかと考えた次第でございます。そのため,資料69のような形式及び内容で最終的な「取りまとめの案」を作成するよう,私から事務当局に指示したものでございます。   まずは,事務当局から資料69の内容について説明してもらいます。 ○吉川幹事 資料69の「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果【案】」について御説明いたします。   まず,資料69の位置付けや構成等について御説明いたします。   資料69は,この書面全体が,当部会における最終的な取りまとめの結果となるとともに,法制審議会の総会による「答申」の案となることを念頭に置いて作成したものでございます。   まず,目次を御覧ください。資料69の構成としましては,本文について,「第1 はじめに」,「第2 新たな刑事司法制度を構築するための法整備の概要」,「第3 附帯事項」,「第4 今後の課題」という構成としており,さらに,別添として,「要綱(骨子)」を添付しています。   法整備を行うべきものとする内容は,別添の「要綱(骨子)」のとおりであり,本文の「第2 新たな刑事司法制度を構築するための法整備の概要」は,この「要綱(骨子)」の要点を分かりやすく記載したものという構成になっております。   法制審議会による「答申」は,特に刑事法に関しましては,「要綱(骨子)」を示すのみであることが一般的ですが,今回の諮問(第92号)につきましては,ただいま部会長から御説明がありましたように,その諮問の趣旨及び検討経過に照らして,取りまとめ,すなわち「答申」の案を資料69のとおりの報告書形式として御提示したものでございます。   つまり,今回の諮問は,「時代に即した新たな刑事司法制度を構築するための法整備の在り方について御意見を承りたい」というものであり,検討すべき範囲や事項が多岐に渡るものでございます。実際にも,当部会においては,まずは現在の刑事司法制度に関する幅広い内容について検討が行われ,基本構想において,新たな刑事司法制度のあるべき姿やその検討指針となる理念について認識の共有が図られ,その上で,個別の制度の在り方について,他の制度や実務の運用との関係など様々な観点から検討が行われてきているところです。また,その過程では,別添の「要綱(骨子)」に記載していない事項についても一定の検討が行われてきたところです。これら検討の経過を必要かつ相当な範囲で示しておくことは,今回法整備を行うべきものとする制度の趣旨を明確にするとともに,今後とも,時代の変化に対応して進化・発展を続けていくべき刑事司法制度の姿を考える上で有益であろうと考えられます。   そこで,今回の諮問に対する取りまとめ,すなわち「答申」の案においては,単に法整備を行うべきとした制度を「要綱(骨子)」として示すだけではなく,新たな刑事司法制度のあるべき姿や検討指針となる理念,また法整備を行うべきとした制度についての重要な考え方や確認的な事柄,そして今後の課題として位置付けられる事項等についても併せて明記することとしたものでございます。   資料69の内容について,順に御説明いたします。   まず,1ページの「第1 はじめに」を御覧ください。当部会においては,「基本構想」において,新たな刑事司法制度のあるべき姿や,これを実現するための検討指針となる理念について認識の共有を図り,その上で,それらを実現するためにはどのような法整備が必要かという観点から,全体としての制度の在り方も念頭に置きつつ,個別の制度の内容について検討が進められてきたところです。その意味で,「要綱(骨子)」に記載された各制度は,それぞれ別個独立に導入することを想定して検討されたものではなく,それらが一体として現行制度に組み込まれ,一つの総体として制度を形成することとなるものとして位置付けられるものと考えられるところでございます。   そこで,「第1 はじめに」では,総論的な記載として,新たな刑事司法制度のあるべき姿や検討指針とした理念のほか,「要綱(骨子)」に掲げられた各制度の位置付けなどについて,御覧のとおりの記載をしたものです。   次に,個々の制度の内容につきましては,別添の「要綱(骨子)」に沿って御説明いたします。ページをめくっていただいて,12ページの後に「要綱(骨子)」の欄がございますので,そちらを御覧ください。この「要綱(骨子)」は,これまでの議論を踏まえ,「事務当局試案」の内容に修正を加えつつ作成したものですので,まずは「事務当局試案」からの変更点とその変更の理由を中心に御説明いたします。   まず,「要綱(骨子)」の3ページを御覧ください。「事務当局試案」では,ここに,「捜査・公判協力型協議・合意制度」及び「刑事免責制度」と並んで,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」を記載していましたが,「要綱(骨子)」では,これを記載しておりません。   「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」については,「正直者が損をする」とも指摘される現在の刑事司法制度の不公平さを改めるものとして,あるいは,供述証拠の収集が困難化している現状に対応するためのものとして,意義があるなどとの御意見がありました。しかし,その一方で,減軽事由の外延が不明確で判断が困難である,あるいは,多くの自白事件において減軽の主張がなされることとなって迅速な公判審理の妨げとなりかねないなど,運用上の支障を懸念する御意見もあったところです。こうした議論の状況に照らし,取りまとめに向けて議論を収れんさせるという観点から,「要綱(骨子)」には記載しないこととしたものです。   次に,「要綱(骨子)」の9ページから10ページを御覧ください。「通信傍受の合理化・効率化」につきましては,「要綱(骨子)」の「一」の「別表第2」において,新たに対象犯罪に加える罪を記載しております。   「事務当局試案」では,ここに記載しているもののほかに,出資の受入れ,預かり金及び金利等の取締りに関する法律に定める一定の罪も記載していましたが,「要綱(骨子)」には記載しておりません。これは,対象犯罪の拡大について慎重な御意見も示されていることを踏まえ,改めて吟味した結果として,同法に定める罪については,「別表第2」に掲げる他の罪と比較した場合に,必ずしも,対象犯罪に追加する必要性が同程度に認められるとまではいい難いとする余地があると考えられたため,取りまとめに向けた議論の収れんのため,これを記載しないこととしたものです。   次に,13ページを御覧ください。「身柄拘束に関する判断の在り方についての規定の新設」につきましては,「事務当局試案」では,「身柄拘束に関する判断の在り方についての確認的な規定を設けるものとする。」と記載していましたが,前回第28回会議における議論の状況を踏まえますと,このような確認的規定としては,前回お配りしました資料67の「参考案」としてお示ししたように,裁量保釈について規定する刑事訴訟法第90条に,その判断に当たっての考慮事情を明記することが考えられるところでございます。そこで,「要綱(骨子)」では,「裁量保釈の判断に当たっての考慮事情を明記する。」と記載したものです。   なお,この事項につきましては,具体的に考慮事情を記載することとすると,法制技術的な観点からの相当の検討を要すると考えられますし,飽くまで確認的な規定を設けるとの趣旨からすると,むしろ法制技術的な観点からの検討が中心となると思われます。そうすると,あえてここで具体的な考慮事情について明確な記載を「要綱(骨子)」の段階でしなくても良いように思われ,この点については,「答申」がなされた後の法案作成の段階において,具体的な規定内容を確定することとしているものでございます。   次に,14ページを御覧ください。「被疑者国選弁護制度の拡充」につきましては,「事務当局試案」では,制度内容とともに,「被疑者国選弁護制度における公費支出の合理性・適正性をより担保するための措置が講じられることが必要である」旨を記載していました。この点については,被疑者国選弁護制度の拡充を図る前提として必要な措置であることが共通の認識とされていますが,制度そのものに関する事柄ではないことから,「要綱(骨子)」には記載せず,後ほど御説明いたしますとおり,本文の「第3 附帯事項」に記載することといたしております。   次に,24ページを御覧ください。「事務当局試案」では,「被告人の虚偽供述等の禁止」を記載していましたが,「要綱(骨子)」では,これを記載しておりません。「被告人の虚偽供述等の禁止」については,被告人が公判廷で虚偽の供述をしてはならないという当然のことを法律上明確にする意義があるなどとの御意見がありました。しかし,その一方で,被告人の証人適格を認める制度であればともかく,虚偽の供述をしてはならない旨の義務規定と告知規定を設けるだけであれば,制度化の意義は乏しいなどとの御意見もあったところです。こうした議論の状況に鑑み,取りまとめに向けて議論を収れんさせるという観点から,「要綱(骨子)」には記載しないこととしたものでございます。   25ページを御覧ください。「自白事件の簡易迅速な処理のための方策」につきましては,「事務当局試案」では,検察官による公訴の取消しについて時的制限を設けていませんでしたが,第27回会議において御意見が示されたように,公判手続が進んだ後に被告人の意思と無関係に公訴の取消しを行えることとすると,被告人の地位を不安定なものにすることとなり,適切ではないと考えられるところです。そこで,「要綱(骨子)」では,再起訴制限が緩和されるのは,即決裁判手続の申立てを却下する決定がなされた後,あるいは,同手続によって審判をする旨の決定を取り消す決定がなされた後,証拠調べが行われることなく公訴が取り消された場合に限る旨の記載を追加いたしました。   その他の制度については,「事務当局試案」に記載されていた内容からの変更はございません。   次に,本文に戻っていただいて,「第3 附帯事項」について御説明します。10ページ以下を御覧ください。   「要綱(骨子)」は,新たな刑事司法制度を構築するために必要となると考えられる法整備の内容を示すものであるため,制度内容そのものではないものは,「要綱(骨子)」に記載することいたしておりません。しかし,制度についての重要な考え方や確認的な事柄などについては,調査審議の結果を的確に示すという観点から,「附帯事項」として記載しております。   まず,「第3」の「1」におきましては,「取調べの録音・録画制度」に関する事柄を記載しています。   ここは3段落に分かれていますが,このうち第1段落及び第2段落においては,この制度の在り方が検討された過程における共通認識について触れるとともに,検察等における実務上の運用としての録音・録画の在り方,そして,施行後一定期間が経過した後の施行状況等の検討の在り方について言及しています。   「取調べの録音・録画制度」は,当部会において最も時間を費やして検討が行われている事項であり,その制度の在り方に関しては,様々な御意見が示されております。その中でも,制度の対象事件に関しては,特に活発な御議論が行われているところですが,この点に関しては,制度の対象事件には当たらない事件であっても,検察等における実務上の運用として録音・録画がなされていくとされていることをも併せ考慮した上で,検討が行われてきたところです。   そこで,「1」の第1段落におきましては,検察等の実務上の運用としての取組方針等をも併せ考慮した上で,制度としては,取調べの録音・録画の必要性が最も高いと考えられる類型の事件を対象とすることとして,「要綱(骨子)」の「1」に掲げる法整備を行うこととした旨を記載し,その上で,制度の対象外となる取調べについても,実務上の運用において,可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされていくことを強く期待する旨を記載しております。   更に,第2段落におきましては,施行後一定期間を経過した段階で行う施行状況等の検討に当たっては,実務上の運用としての録音・録画の実施状況をも検討の対象とした上で,幅広い観点から分析・評価を行うことが重要である旨を記載しているところです。   続いて,第3段落におきましては,性犯罪等の被疑者の取調べの状況を録音・録画した記録媒体の適切な取扱いを確保するため,所要の措置を講じるべきことに言及しております。「取調べの録音・録画制度」の議論においては,性犯罪等の被害者等のプライバシー保護の観点から一定の例外事由を設けるべきとの御意見がありました。しかし,その保護は,証拠開示の制限や公判廷における再生の制限等のいわゆる「出口規制」によって対処が可能であるとの御意見も多く,そのような例外事由を掲げることとはしていません。もっとも,被害者等のプライバシーの保護に十分な対応・配慮がなされなければならないことに異論はなく,また,出口規制によって対処できるとしても,それは,出口規制の実効性が確保されることが重要な前提となるということにも異論はないところでございます。   そこで,このような観点から,性犯罪等の被疑者の取調べを録音・録画した記録媒体の適切な取扱いを確保するため,関係機関において十分な協議・検討を行い,所要の措置を講じるべき旨を記載したものです。   次に,「第3」の「2」,つまり10ページ以下から11ページにかけて御覧ください。「身柄拘束に関する判断の在り方についての規定」に関する「要綱(骨子)」の内容は,現在の運用についての特定の事実認識を前提とするものではなく,飽くまで現行法上確立している解釈の確認的な規定として設けるものであり,これによって現在の運用を変更しようとするものではないとの趣旨で検討されてきたものです。この点は,今後の解釈・運用にとって重要なことですので,その旨を明記したものです。   次に,「第3」の「3」を御覧ください。先ほど御説明したとおり,「被疑者国選弁護制度の拡充」を行うに当たっては,公費支出の合理性・適正性をより担保するための措置が講じられることが重要な前提となるとの認識共有がなされていることを踏まえ,その旨を明記したものです。   最後に,「第4 今後の課題」について御説明します。   まず,「1」についてです。「取調べの録音・録画制度」については,施行後一定期間経過した時点で,その施行状況等の検討を行うという案になっています。しかし,「取調べの録音・録画制度」に限らず,「要綱(骨子)」に掲げる他の制度についても,実際に運用を重ねる中で課題が発見され,これを克服していくことで,より良い制度に進化・発展していくものと考えられます。そこで,この「1」において,「要綱(骨子)」に掲げるいずれの制度についても,一定の運用の経験が蓄積された後に,その実情に関する正確な認識に基づいて,多角的な検討がなされることを期待する旨を記載したものでございます。   また,「2」においては,「要綱(骨子)」に掲げる制度以外についても,今後の情勢等の変化に応じて,導入の検討が必要とされ得る旨を記載しております。その中で,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」や「被告人の証人適格」などについては,引き続き検討を行うことが考えられるものとして記載しております。これらの事項については,当部会において相当程度具体的な検討が行われたものの,批判的な御意見も相当程度示されたため,「要綱(骨子)」には記載されておりませんが,基本的に,制度化についての理論的な問題点は示されていない状況にあります。そこで,これらの制度については,その導入に関し,具体的な制度の在り方も含め,引き続き検討を行うことが考えられるものとして記載しております。   また,「今後,必要に応じて,更に検討を行うことが考えられる」ものとして,「会話傍受」「再審請求審における証拠開示」,「起訴状や判決書における被害者の氏名の秘匿」,「証人保護プログラム」を記載しております。これらは,当部会における検討状況からすると,具体的な制度として構築するためには,更なる検討が必要となりますが,当部会においては,いずれについても,導入の必要性を訴える御意見が示されているところでございます。中には,導入に反対する御意見が同様に示されているものもございますが,いずれにしても,当部会における検討状況からは,理論的な点も含めて,更に検討を進める余地があり得ると考えられることから,「今後,必要に応じて,更に検討を行うことが考えられる」ものとして記載しているものです。   資料69についての御説明は以上でございます。 ○本田部会長 資料69についてのただいまの説明への御質問につきましては,議論の中で適宜お尋ねいただきたいと思います。   もとより,この資料69は,「取りまとめの案」であり,本日の議論を踏まえて,更に必要な改訂がなされ得るものではありますが,当部会の第1回会議が開催されてから,本日で丸3年を過ぎることとなります。大変大事な課題でございますけれども,やはり当部会としては,一歩でも進めるという方向で,早急に一定の結論を出していくべき時期に来ているのではないかと思います。そういう意味で皆様方の御協力をよろしくお願いいたします。   それでは議論に入りたいと思います。   まず,「取調べの録音・録画制度」につきましては,前回会議におきましても,様々な御意見が示されたところですので,取りまとめに向けて,引き続き,議論を行うことといたします。   「取調べの録音・録画制度」につきましては,前回の資料66の「事務当局試案(改訂版)」と同じ内容が資料69の「要綱(骨子)」の1ページから2ページに記載してありますし,前回の宮﨑委員と小坂井幹事のメモも再配布しております。   また,資料69の本文の10ページ以下の「第3 附帯事項」にも,「取調べの録音・録画制度」に関する記載がありますので,併せて,御意見を頂きたいと思います。   議論は,午後3時15分までを一応の目処といたします。   それでは,いずれの論点についてでも結構でございますので,御意見等のある方は,御発言をお願いします。 ○安岡委員 私は要綱案について2点,それから「第3 附帯事項」について2点意見を述べたいと思います。   まず,要綱案については,この要綱案のまま可視化制度を作ったのでは,義務付けの範囲で取調べを録音・録画しさえすれば,可視化制度を導入する目的が達せられると解されてしまうと恐れます。   「附帯事項」の「1」,10ページの冒頭に,可視化の目的,意義を基本構想から引用する形で当部会の共通認識として示しています。この目的,意義は,要綱案によって可視化を義務付ける範囲のみに当てはまるものではないことは明らかだと思います。その明らかなことを訓示規定,努力規定の形で明文化するべきだと私は考えます。   その規定の具体的な書きぶりは,義務付けにならないようにしつつ,内容としては,前回の議論で出ましたけれども,刑事訴訟規則の198条の4の訓示規定でありますとか,前回の会議で上野委員が説明してくださった資料68の最高検の「依命通知」,「取調べの録音・録画の試行指針」の「第1 試行の趣旨」に書かれた内容を参考にすれば足りるだろうと考えます。何も新しいことを考え出す必要はないので,この訓示規定,努力規定は明文化できるのではないかと思います。   それから,要綱案の中の例外規定についてです。この例外規定では,なお取調べ側による恣意的な適用が懸念されます。この恣意的な適用を防ぐよすがになる規定として,部会審議で何回か提案されましたけれども,例外規定にかかわらず,取調べを受ける者が可視化を求めた場合には,可視化を義務付ける,そういう規定を,要綱案の「一」の「5」に掲げた(一)から(四)までの例外事由の少なくとも(一),(二),(三)を対象にして付け加えるべきだと考えます。   次に,「第3 附帯事項」について2点述べます。   10ページの上から7行目にあります「その結果として,検察等における実務上の運用としての取組方針等をも併せ考慮した上で,制度としては」うんぬんとある部分は,私は不適当だと考えます。   部会議論を取りまとめた「答申」文書に,部会議論とは何ら関係のないところで検察当局が自己の裁量で実行する政策を考慮材料として盛り込むのは,筋が通らないと思います。考慮材料とするためには,検察の運用が,当部会での議論,それから,要綱案の内容に相当程度拘束されなければならない,そういう運用でなければならないと考えます。   具体的には,前回御説明いただいた運用の取組方針を修正し,運用で可視化を実施する際の例外規定や留意点を本要綱案に準じるものに改め,また運用で実施する可視化が,新たに導入される可視化制度に連動するものだと検察当局において宣明していただく,そういうことがなければ考慮材料にするのはおかしいと考えます。   今申し上げたことを,頂いた案に書き換えるにはどうしたらいいのかをちょっと考えてみたんですけれども,例えば,今読み上げました7行目の部分を,検察の運用だけに注目するという意味で,「検察等」の「等」を取って,「検察における実務上の運用が,本要綱案の取調べの録音・録画の実施規定に準じて行われるとの了解の下に,制度としては」うんぬんというふうにする,これは,もとより検察当局にああせいこうせいというのは,当部会の権限ではありませんので,こういうふうにやってくれるだろうなと,そうやってくれるならば考慮材料にすると,こういう趣旨です。   それに併せて,見直しの中で,そのような了解に従って行われるかを点検するとの趣旨の文言を入れる。具体的には,18行目に,その検討に当たっては,「制度自体の運用状況だけでなく」という部分がありますけれども,そこの「制度自体の運用状況だけでなく,検察等」の「等」を取って「検察における実務上の運用が上述の了解のように行われているか,また検察以外の捜査機関において実務上の運用として録音・録画がどのように実施されているかをも検討の対象として」うんぬんと書き換えればよろしいのではないかと思います。   それから,「附帯事項」についての2点目は,ちょっと細かな話なのですけれども,今の10ページの12行目のところで,検察等の「実務上の運用において,可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされていくことを強く期待する。」という表現についてです。ただいま申し上げた趣旨からすると,この「期待する」という言葉は不適当な言葉だと考えます。なぜ不適当かというと,「期待する」とは,その期待する主格が,状況に何の働き掛けも方向付けもせず,全く関与なしで成り行きを見つめて,結果としてそうなってほしいという希望を表明する言葉です。先ほど述べたように,私は,検察の実務上の運用は,要綱,答申に相当程度拘束されたものでなければならないと考えますので,そういう立場からは,第三者的に期待するのではなくて,「なければならない」といった,方向付けをする言葉にしないとおかしいと思います。 ○小坂井幹事 私の方からは,録音・録画に関しての対象事件問題と例外事由の二つの問題についてお話しします。これは制度の根幹に関わる重要論点ですので,3年議論してきて詰まってきたといえば詰まってきたけれども,まだ詰まり切っていないところがあるわけです。そこで,口火としては,今回の「第3 附帯事項」に関する感想から若干お話ししていきたいと思うのです。確かに,別添「要綱(骨子)」,例えば,対象事件がまだある意味で議論の最中ですので,そういう意味では,この「附帯事項」的な取りまとめ文章の外側だけを決定するのもなかなか難しいところはあるのではないかなという感じがします。   それで,今,安岡委員が言われたことと少し重なるところもあるかもしれませんが,例えば,この「附帯事項」10ページの最初の数行,これは「基本構想」に書かれていたところでの部会の共通認識としての適正取調べというものをうたっていらっしゃるわけです。それ自体は,適正と言いますか,正に共通認識の記載になっているんだろうと思うのですが,その後の記載になってくると,私としては若干の違和感を感じるところがございます。   例えば,これは,正に別添「要綱(骨子)」の対象事件がどうなるかということとの見合いになりますので,この書き方がどうかということは,絶えずまだ議論の最中になるわけですけれども,制度としては,取調べの録音・録画の必要性が最も高いと考えられる類型の事件を対象にすると,こういうくくり方をしていらっしゃるわけですね。これは,現在の別添「要綱(骨子)」がこれに当たるかどうか,あるいは今後の議論で対象事件が当たってくるかどうかは,なおかつ,まだ議論が当然あるところです。と言いますのは,不適正な取調べの害が大きいという意味で言えば,もちろん裁判員裁判,あるいは,私どもが提案している法定合議プラスアルファでも,それはそれで害が大きいという意味で類型,必要性が高い類型にはなってくるわけですし,もちろん裁判員には分かりやすいという側面を強調されているということは理解いたしますけれども,裁判官なら分かりやすくなくてよいということにはならない。ですので,これも一つのグラデーションのような気もするわけですね。   また,独自捜査という別類型が今回加えられてきたわけですけれども,これは,また別個の要請でこういった録音・録画の必要性が高いというふうにみなされる事件だということがあって,あるいは,この前私が申し上げたように,では,知的障害でコミュニケーション過程に問題があるような被疑者であるとか,いわゆる供述弱者類型とか,そういったものが必要性が高くないということにはなりようがない。ですので,そういう意味では,ここの取りまとめのこういうくくり方がいいのかどうか,表現はもう少し工夫する必要があるのではないか。いずれにしても,政策的判断になるところはあるわけですから,こういう,ちょっと決め付けた書き方になっているのは若干違和感を感じました。   それで,私が申し上げたいことは,例えば,前回,宮﨑委員と私が「甲案」「乙案」を出し,例えば,但木委員の意見として,この段階での提案はどうなのかなと,作業分科会に戻すつもりですか,というような御意見を頂いたりしたわけですけれども,これは皆さんの共通認識だと思いますが,例えば,作業分科会では,対象事件の話などは,全然議題にもされてきていないわけです。正に本部会でこそ詰められるべきだということで,今年の2月からその議論が始まり,3月と6月に有識者5名の方が意見書を出される経緯があって,そういった過程で,正に現実にどういう対象事件にしていくかということについての皆さんの御意向というものがある程度煮詰まってきたと,こういう状況があろうかと思うわけですね。   私ども,率直に申し上げて,例えば,今回出した「乙案」,私個人としてはですよ,私個人の正にビジョンとしては,正直申し上げて非常に生ぬるいものだと思っております。しかし,最後取りまとめるための現実的な選択として何かと考えると,こういう形になってくるのではないかと思います。ですから,この段階で出したというような経緯ではないんだということは御理解いただきたいと思っています。   それで,多くの議論の中で,裁判員裁判が一つの区切りなんだと,こういうことをおっしゃっている経緯が確かにあるわけです。が,他方で,同時に刑事訴訟全体に影響を及ぼすんだと,そういうことを当然期待という表現を使うかどうかは別にして,それもまたある意味で共通認識になっているところがある。そうだとすれば,やはりそれ以外のものについては,独自捜査が加わったという経緯はあるにしても,あとは丸ごと運用に委ねるというような発想はいかがなものかと思います。これはもう私自身が繰り返し申し上げているみたいに,今現在,実務ではダブルスタンダードになっているという要素が確かにあって,これは,我々のメッセージとしても,そういうものを肯定する方向のメッセージを出すべきではなかろうと思うわけです。   それで,検察の方が「依命通知」を出されたことは確かに重いでしょう。新たなプラクティスを提言されているわけで,そこでやはり,例えば,裁判所の今崎委員の御発言を引かれて,録音・録画した記録媒体がベストエビデンスなんだと,優越した証拠なんだということについては,それが共通認識,取調べ状況を立証する上での共通認識になってきているんだと,それによって検察官は公判での立証責任を負うんですと,こういうことも,ある意味で自明の前提として明言されているわけですね。そうしたときに,例えば,私どもが「乙案」の「④」として提示した,刑事訴訟規則198条の4を強化して条文化するということがいけない理由というのは,どうしても見つからないわけですね。   今回の「取りまとめの案」でも,例えば歩みを進めるという強い思いを我々は共有しているんだということを表明している。安岡委員が言われた「期待」という表現がいいかどうかは別にしてですよ,可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされていくべきなんだと,こういうことを我々は言うわけです。ですから,そうだとすると,既に訓示規定として存在している刑事訴訟規則198条の4,これはもうできてから8年近く経っていようかと思いますけれども,とにかく水掛け論はもう避けるべきである,迅速かつ的確な立証に努めなければならないんだということで立証責任のある検察官はそういうプラクティスをしなさいと,規範としては,努力義務,訓示規定でしょうけれども,それができているという経緯はあるわけです。ですから,今この部会で新たな一歩を踏み出すときに,全体としてのこのえん罪防止の規定,捜査段階の供述調書に正に過度に依存しないという姿勢を全体に示すと,そういう条文というのはやはり必要なのではないか。後の理由は,繰り返しませんけれども,要は,そういう規定が必要だろうと思います。これから先,作成過程を客観的に検証できないような調書を用いて有罪立証すると,特に争いのある事件でそういうことをするということは,新たな刑事司法にふさわしくないことは明らかなので,これは是非お願いしたいと思っています。   それと,次の議論にも若干重なるんですか,あえてもう一度申し上げておきますけれども,いわゆる協議・合意制度に関して,今現在,録音・録画という前提をクリアしているのは,結局,今の「要綱(骨子)」では独自捜査事件だけと,こういうことになってしまうんです。が,これは後の議論にも重なることがあるから簡単に済ませますけれども,やはり,これは,捜査機関に対する迎合等での虚偽供述というものは非常に見受けられる領域なわけです。協議が始まる段階から録画する,あるいは,協議が整った後は必ず録画する,これはもう自明のことなのではないかと思われます。ですから,あえて申しますが,それを対象事件の問題と一緒にして論じていいのかどうか分かりませんけれども,必ずこれは類型的に入れられるべきだろうと考えております。   それで,もう1点だけすみません。例外事由の問題なのですが,これは,この間,「事務当局試案」の文言が変わっていません。それで,これは行為規範であると同時に,裁判規範なんだということについては,この部会で確認はできていると思うんですね。客観事由の存否そのものが問題なのであって,別に主観的にそこでどう思ったか,思っていないかということではない,取調官の裁量ではないという意味では,私は,そういう確認がこの部会ではこの間なされてきているとは思います。けれども,やはり,なお今後運用していくときに,紛らわしいというとなんですけれども,そういう記載になっているのではないか。一言で言えば,「記録をしたならば,被疑者が十分な供述をすることができないと認めるとき」という,こういう書きっぷりですけれども,これは起案者の本意はそうではないというふうにお聞かせ願っているようには思うのですけどね。例えば,(二)であれば,本人の意向があって,これは録音・録画のない状態だったらきちんとしゃべれるんですよと,こういう意向を本人が示したときに,そういう因果関係があって十分な供述をすることができないと認めるというくくりがあって初めて例外になるんですよと,こういうことだろうとは思われます。けれども,なおかつファジーな部分があって,黙秘がどうなるか,否認がどうなのか,モジモジしていればどうなのか,では,明確な虚偽供述をした場合はどうなのか。一応,それでも十分な供述をすることができないというふうに認める要素はあり得るわけでしょうから,因果関係なり,それの基になる本人の意向がきっちりとどういうものなのかを,本当はそこに遡って確認できる形になっていないと例外にできない。そうだとすると,先ほど安岡委員が言われたみたいに,やはりここは本人の意向をきっちりかましていく必要があるのではないかと思います。これは(三)についても同様でして,繰り返し申し上げているとおり,「困惑」というようなこういう非常に不明確な要素は是非取っていただいて,例外事由,疎明のプロセスをはっきりする形にして,例外事由としてきっちり機能するようにしていただきたい。   取りあえず以上です。 ○種谷委員 先ほど安岡委員から,「検察等」の「等」を削るべきだという話がありましたけれども,警察の立場からちょっとお話をさせていただきたいと思います。警察におきましても,これまで録音・録画の試行には組織を上げて取り組んでまいりましたし,御承知のように,警察の取り扱う事件というのは,捜査の初期段階でまだきちんとした形で整理されていない生の事件,正にカオスのような状態のものです。それに,実際に被害者のいる現実的な事件ですから,それを社会実験のような形で録音・録画をどんどんやっていくということはできないのは当然で,これまで一件一件,事件に与える影響を慎重に判断した上で,試行に取り組んでいるところであります。そういう中でも,御承知のように,実施回数ですとか時間,それから実施率についても飛躍的に高まってきているということをまず御承知を頂きたいと思います。   そうした中で,実際に捜査に携わる者たちの意見を聞いてみると,一方で,任意性・信用性を立証するために非常に有効であるという声ももちろんありますけれども,やはりここで何回も申し上げてきましたように,取調べの機能を減殺するのではないか,真実解明に支障が及ぶのではないかという,そういう懸念を払拭することができないという声も非常に大きいものがございます。そういう中でこれまで「第2」の制度案を提示して議論をしてきていただいたわけでありますけれども,我々も取りまとめに前向きに取り組まなければならないという前提で議論をしてきまして,たたき台のような形で,裁判員制度対象事件という案が示されて,これについては,数字的にも信用性や任意性が争われる蓋然性が一定限度高いということと,それから,職業裁判官による判断ではなくて,裁判員という素人の方々に判断をしていただかなければならず,分かりやすいような形にしなければならないという前提の中で,裁判員制度対象事件ということであれば,もちろん,これは適切な例外規定をきちっと設けていただくということを前提にしての話でありますが,我々としても真摯に検討をしていかなければならないということで,これまで取り組んできたところであります。   そういう中で,突然,先ほど法定合議事件を対象とすべきだという話が出てきたわけでありますが,もちろん法定合議事件という切り口は裁判所法ですとか刑事訴訟法にもありますけれども,それが果たして先ほど申し上げました信用性・任意性の争いが一般事件と比べて極めて高いとか,それから,職業裁判官ではない方に理解をしていただく必要性があるとか,そういった録音・録画との関係で合理性のある切り方なのかという点については,そこには合理性はないのではないかと考えるところであります。   さらに,努力義務というお話もありましたけれども,努力義務を規則から法律に引き上げてしまって,さらに法律の中に条文として録音・録画という文言を入れれば,これは一線の捜査に携わる者にとっては,努力義務ではなくて,事実上義務付けと全く同じような効果になってしまうわけでありまして,そもそも,対象事件をどのようにするかという議論とは矛盾するのではないかと私は考えるところであります。   殊,治安に関しては,一旦やってみて弊害が出てきたからまた元に戻そうというような社会実験的なことはできません。一度治安が乱れてしまい,事件が解決できなくなるという事態になったら,元に戻すにはものすごい費用とエネルギーが必要になってきます。場合によっては,元に戻らない可能性もあると懸念しているところです。そういう意味では,制度導入に当たっても,慎重の上に慎重を期さなければならない性格のものではないかと思います。一定のボリューム論のような話で事を解決してはいけない案件ではないと強く感じているところでございます。   それと,ちょっと各論に至りますけれども,例外につきましては,これまでも私たちは被害者の名誉,プライバシーに関する問題について,是非例外規定にしていただきたいとお話ししてきたところであります。残念ながら,今回の「取りまとめの案」には例外規定という形では入っておりません。ただ,「第3 附帯事項」の中で,例外事由とせずに,証拠開示等の出口規制によって対処するのであれば,確実に機能するような担保措置が必要であるということについて言及していただいた点については,これは多とするところでありますけれども,「附帯事項」に記載されているように,刑事司法関係者において十分な協議・検討を行って,十分な出口規制が行われるようにしていただき,必要な場合には,法律上の保障を設けることで確実に担保していただくということが是非必要だと考えております。   ということで,全体としては慎重に御判断を頂きたいということをお願いしたいと考えております。 ○村木委員 今日が29回目,3年目で,最終報告の案が出て,何となくゴールが手に届きそうなところまで来たことを大変うれしく思っております。何とかゴールにたどり着きたいので,投票日の前の日の候補者みたいになりますが,最後のお願いをしたいと思います。   今回の「取りまとめの案」で録音・録画の義務付けというのは,裁判員裁判の対象事件で2%,それから検察独自捜査ということで0.1%ぐらいでしょうか,こういう案が提示をされています。検察による運用は加わるものの,これについては,最初から非常に強く反対をし心配をしてきた一部録音・録画みたいな,かなり恣意的なルール,仕組みが再度登場しているようで,いささか心配もあります。ただ,全体としては,検察が録音・録画を拡大しようということで,こういう案を出してくださったことに大変感謝をし期待をしています。特に,検察の「依命通知」ですか,そこにあった試行指針の中に記載された,取調べ状況の立証のために最も適した証拠は,記録媒体であると認識をされ,供述の任意性・信用性をめぐって争いが生じた場合に,記録媒体による的確な立証が求められるようになってきたという認識については,100%賛同したいと思います。ただ,残念ながら,この考え方は,今回の制度改革の中には反映をしていないということで,安岡委員も言われましたけれども,こういう基本の考え方が何らかの形で法律の中に反映をされていれば,検察の運用も本当にそれに沿って運用されるということで積極的に受け止められるのではないかと思っております。   また,今回の改革の骨子の中に見直し規定が含まれていますが,その時期や方向性ということは明示をされていないというのが現状です。一般委員5人で今月12日に提示をされた取りまとめに対するお願い,評価・判断の基準を出しましたが,そこでは,四つのお願いをしました。将来的な全事件の可視化の方向性に沿うものであること,それに向けた道筋が一定程度は明確になっていること,第一段階として相当程度の規模があり,かつ恣意的な録音・録画にならない仕組みになっていること,そして,見直しの手続を具体的に盛り込んでほしいということでございます。いずれに照らしても,今の案というのは不安が残ると感じております。   数日前のある大きな新聞の社説に,いわゆる司法取引についての論説が載りました。そのときに,こんな趣旨のことが書いてありました。今後,可視化を本格的に実施する場合,司法取引で供述を引き出す仕組みを作っておけば,可視化による捜査力の低下をある程度食い止める効果が期待できようと。つまり,可視化の本格実施を前提にして,その補完として司法取引を位置付けている論説,社説でございました。実際には,今回の,いわゆる協議・合意制度の対象の事件というのは,検察独自捜査を除いては可視化の対象にはならないということで,多くの人が今回の改革でイメージしているものとは相当,段階が違っているように思います。これも委員としては正直心配をしているところでございます。   いずれにしても,今回の改革の原点は,安岡委員も引かれたように,「基本構想」にあるように,一つは,供述証拠の収集が適正な手続の下で行われるということ,それからもう一つは,公判廷に顕出される被疑者の捜査段階での供述が,任意性・信用性のあるものであることが明らかになるような制度を実現するということだと思っております。そして,その手段として,録音・録画を導入するということでございます。その意味では,録音・録画というのは,今回の義務化をされる2.1%の事件に限らず,およそ全ての事件について有用であると思っております。その趣旨を是非何らかの形で法律に盛り込んでいただきたいというのが私のお願いでございます。   資料69の報告書の10ページに,「可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされていくことを強く期待する。」という文章が載りました。正しく,私も強くここを期待しているわけですが,期待をすると言って希望を述べるだけではなくて,何らかの手がかりを制度の中に盛り込んでいただけないか。もしそれがあれば,今回義務化の範囲が仮に数としては少なくても,全体として,刑事司法は新しいステージ,新時代の刑事司法改革に踏み出したんだということを確信を持ってこの改革案に賛同することができるのではないかと思っております。   先ほど,種谷委員からもお話がありましたが,警察が裁判員制度対象事件について全過程の可視化に踏み切ってくださったことは,非常に大きな決断だったんだろうと思って大変感謝をしております。いろいろな形で,何度もここで警察の方のお話を聞く中で,警察が今の義務化の範囲で,これでももう精一杯だと,それから将来のことを簡単に約束できるわけがないというお気持ちというのは,もう大きな現場を持っていて,それも大変初期の段階で捜査をする立場として,そのとおりだということは非常に理解をいたしました。録音・録画は,全ての事件にとって効用があると思いますが,コストもかかるものであり,また,弊害が起こる場合もあると私も思っております。ですから,義務化の範囲の拡大については,機械的に将来を約束するのではなくて,実際の,これから第一歩の運用の状況とか,優先順位とか,コストパフォーマンスとか,弊害の有無とか,そういったことを具体的に議論して,その都度,判断をしていくという進め方については私も納得をしたところでございます。   要は,結論を申し上げますけれども,私の最後のお願いは,平たく言うとこういうことでございます。録音・録画が義務化をされる2.1%以外の事件について,この制度改革案は白紙という形になっているわけでございます。我々は,当初それについて,せめて検察の取調べだけでも録音・録画を義務付けてほしいとお願いをしました。次に,それが無理なら,せめて将来は義務化をするという道筋を明確にしてくれないかというお願いもいたしました。私は,今回それも諦めて,せめてそれらの事件についても,できるときには進んでやりましょう,あるいは,できるときに進んでやるのは好ましいことだ,あるいは,録音・録画というのは有効な手段だ,あるいは,もっと譲って,有効な手段の一つだということだけでも法制度に明確にしていただけないかということでございます。   もうこれ以上譲ってしまうと,改革の原点が失われてしまうのではないかと考えております。2.1%だけの改革という評価を頂く改革案にはしたくないということでございます。これ以上は譲れないと思っておりますので,是非専門家の方々のお知恵をお願いしたいと思います。 ○大久保委員 今,村木委員の方から本当に切実な最後のお願いということでしたけれども,私は最後だからこそ,それぞれ立場の違う人が一歩ずつ歩み寄らなければ,せっかくこの3年間精一杯みんなで知恵を併せて,これだけの「取りまとめの案」を事務当局の方も示してくださいましたので,そのことに関連しまして少しお話しさせていただきたいと思います。   私自身は,録音・録画制度を義務付ける制度を導入しましても,その例外事由が現段階でもまだうまく機能するかどうかということは分からない以上,これ以上は幅広い事件を制度の対象にするということは,本当に真実を知りたい被害者にそぐわない取調べの機能が損なわれるのではないかということは大変懸念いたしますので,やはり,その制度の対象事件というものは限定的なものにするべきなのではないかと考えています。そのため,確かに,2.1%と少ないのかもしれませんけれども,それでも,対象事件が裁判員制度対象事件と,あと検察官独自捜査事件とされていますので,被害者としては,これはもう理解するしかないと思っておりますし,理解をしております。   先ほどから何人かの方から対象事件の範囲が狭いという御意見も出てはいますけれども,この「取りまとめの案」では,施行後の運用状況を見て,必要時所要の措置を講ずるとなっておりますし,「第3 附帯事項」の中にも,「可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされていくことを強く期待する。」という記載もありますので,「取りまとめの案」の内容は幅広く録音・録画を実施すべきというお考えの方々でも受け入れられるものなのではないでしょうか。制度としては十分に合理的な仕組みだと考えます。   私は,前回の資料としていただきました「依命通知」等にもあるように,実務上,多分これからますます幅広く録音・録画がされるということで,被害者が求める事案の解明が難しくなるのではないかと,今現在も不安を感じていますし,性犯罪等の被害者等の名誉ですとか,プライバシーが害されるおそれがある場合を録音・録画事由の例外事由にしてほしいと当初から繰り返し発言をしてきましたし,今もそう思っています。でも,残念ながらそのようなものは例外事由としては盛り込んではいただけませんでした。でも,それも,やはり,ある程度議論の収れんに向かうときには致し方のないことなのではないかというように考えております。その代わりに,関係機関においてしっかりと協議をして,性犯罪等の被疑者取調べを録音・録画した記録媒体の適切な取扱いを確保する措置を被害者等が安心できる形で実施するという旨が「附帯事項」に書かれているということで納得をしております。本当に立場が変われば全く正反対の考え方もあるということをお考えいただきながら,やはり,これだけ続いたものですので,皆さんの英知も集めて議論を収れんして,しっかりと外に出せるというような形にまとめていっていただきたいと考えております。 ○神津委員 私も冒頭,部会長がおっしゃられたように,取りまとめの段階にあるという認識を持たなければならないと思いますし,また,この間,運用ということを含めて検討をされてきた,その検討努力には率直に敬意を表しておきたいと思っています。   でも,その上でと申し上げますか,だからこそ,これは最後の局面だと思うのですけれども,大事なことがあるんだろうと思いまして,以下,かいつまんで御意見を申し上げておきたいなと思います。   一言で申し上げるならば,この部会が設置をされた,その原点と言いますか,この問題が議論されるに至った経緯との関わりを改めて押さえておく必要があるんだろうと思っています。   これまでも,若干引用も含めて申し述べてきたことはあるのですけれども,具体的には,検察の在り方検討会議,あるいは,そして本部会の中で中間段階で取りまとめをされた「基本構想」,やはり,ここでの基本的な考え方ということをしっかりと押さえておく必要があるんだろうと思っています。そもそも,村木委員の事件が発端となって検察の在り方検討会議以降の流れになったと認識をします。検察の在り方検討会議の最後の取りまとめの中では,検察の再生,公開性,あるいは透明性といったことにも触れられながら,自ら未来志向で検察の果たすべき使命・役割,検察の正義とは何であるのかを問い直すということが必要なんだということでありましたし,具体的にも,被疑者の人権を保障し,虚偽の自白によるえん罪を防止する観点から,取調べの可視化を積極的に拡大すべきであるとされたわけであります。そして,供述調書を中心としてきたこれまでの刑事司法制度が抱える課題を見直し,制度的にも法律的にも解決するための本格的な検討の場が必要であると,そういったまとめの下に本部会が設置をされたと認識をするものであります。そして,当部会全体で確認をしてきた「基本構想」におきましても,供述証拠の収集が適正な手続の下で行われるべきことをまず掲げて,適正な取調べを通じて収集された任意性・信用性のあるものであることが明らかになるような制度とする必要があるということでありましたし,そういった中で,このようなことをより確かなものにする観点から,被疑者「取調べの録音・録画制度」を導入するという理念が掲げられたわけであります。したがって,取調べの可視化を積極的に拡大すべきであるというふうにされた観点は明確であると思いますし,そして,いずれも目指されていた解決の方策については,制度的・法律的解決であったと認識をしておりますし,この最終的なこの部会における取りまとめにおきましても,そのことに応えるということが不可欠なんだろうと思っています。   その下で,先ほど村木委員の方からも触れられましたけれども,私もその中に名を連ねさせていただいたんですが,5名の連名での意見におきましても,そもそものそういった理念との関わりを強く意識をしたわけでありまして,具体的に繰り返しませんけれども,先ほど村木委員の方らも触れられた四つの事柄,将来的な全事件の可視化の方向性に沿うものであることでありますとか,その道筋とか,あるいは恣意性が入り込まないための仕組みであるとか,あるいは見直しに伴う手続だとか,そういった具体性を求めたのも,そもそものそういった制度,法律において,私どもこの部会が与えられた使命をどういうふうに達成するのかということが必要なのではないかという考えから意見を出させていただいたものだと思っております。   そういったことを踏まえるならば,幾つか申し上げたいんですけれども,対象事件については,これはそういう意味で制度として改めて見るならば,これは,範囲はやはり小さすぎるということは言わざるを得ないと思っています。であるからこそ,やはり,方向性をどう示すのかということについて,改めて,全体の最終的な取りまとめとしての「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果【案】」という全体の内容の中で,どうやってその方向性ということをきちんと示すのかということは非常に私は重要だと思っています。したがって,冒頭に,安岡委員が言われたような,努力規定ということも極めてこれは重要なことだと思います。いずれにしても,この全体の中で,やはり,今回の一連の経過の中で最終的に出されるものがどういうふうにそれにつながっているのかということが国民にとって分かりやすく示されるということが,私は不可欠だと思います。   それから,個別の内容に関しましてですが,例外に関わる内容ですけれども,これも安岡委員と同様ですけれども,ここのところは,やはり,例外事由に当たると判断した状況というのは記録化されるべきでしょうし,それと被疑者・弁護人が録音・録画を望んだ場合は,例外から除外すべきだろうと思います。少なくとも,意思確認,その内容の記録化というものが求められるべきなんだろうと思います。   ということで,一番大事なことは,縷縷申し述べてまいりましたけれども,全体として,やはり国民に分かりやすく,この間の,そもそもの経過との関わりで制度においてどういうふうになっているのかということがやはり示されることだろうと思います。 ○上野委員 前回私の方から検察の新しい試行について少しお話しさせていただきまして,その際,新しい試行の対象となる事件の数について,どれぐらいの数になるかということを明確にお答えできなかったのですが,私どもとしては,新たな試行におきまして,録音・録画の規模は相当程度,拡大していくと思っております。   もっと具体的に申しますと,今まで四つの類型について様々な形で積極的に録音・録画の試行を行ってまいりましたが,今回の新しい試行においては,これまで録音・録画を経験したことのない検察官,副検事を含めまして,そういう検察官もやっていかなければいけないし,今まで録音・録画の立会事務の経験をしたことのない検察事務官も多数経験していかなければならず,そういう方々に指導・教育をしていくと同時に,これまでにないボリュームで録音・録画をやっていきますので,いろいろな課題が生じてくるだろうと思っています。ですから,様々なそういう課題について,一つ一つ解決しながら体制の整備を進めていくことで私どもの新しい試行というのは順次拡大していくことになるだろうと思っております。   一方,これまで何度も申し上げましたし,本日も種谷委員や大久保委員からもお話がありましたが,私どもは,この録音・録画を積極的に試行してまいりましたけど,全過程の録音・録画を義務付けるというのは,全く新しい制度でございまして,本当に例外事由がどのようにきちんと機能するかというのは,正直言って分からないようなところもありますし,特に立証制限という,捜査官にとっては非常に厳しい義務も課せられておりますので,運用していて例外事由が本当に機能していくかどうかを見なければ分からないという事情がございます。そういうこととのバランス等を考えますと,これまでの主張と一緒でございますが,やはり録音・録画の対象事件というのは,必要性が極めて高い事件に限っていただきたいと思います。そして,私どもは,その制度の対象事件以外の事件における試行も行ってまいりますし,今回の事務当局の「取りまとめの案」では,将来的に施行状況を検討する上で,私どもの実務の運用状況も検討対象にするとされておりますので,そういうものも御覧になって,本当に対象事件としてどうなのか,あるいは例外事由としてどうなのかということも,将来的に御検討いただくということが一番現実的ではないかと思っています。   少し細かいかもしれませんが,今日,小坂井幹事から「乙案」の法定合議事件というお話が前回同様出ましたが,法定合議事件については,確かに法律上一定の法定刑以上の事件になっておりますが,そのような事件において取調べ状況をめぐる争いが起こりやすいかというと,必ずしもそうではありません。他の事件に比べて格段そういう取調べ状況をめぐる争いが起こりやすい事件というふうには,私どもは認識しておりません。そういう意味で,裁判員制度対象事件と違うと思います。   また,この間もちょっと申し上げましたけれども,裁判員制度対象事件が取調べの録音・録画義務の対象とされるという,それだけでも我々検察官にとりましては,警察の録音・録画の記録媒体を視聴・確認しなければいけなという事務負担が膨大に増えます。法定合議事件にすると,恐らく裁判員制度事件の倍ぐらいの事件になると思いますが,それだけまたいろいろな負担が増え,そういうコストをかけてまで,義務化する必要性が本当にあるのかということは疑問に思っております。   それと,「乙案」の「④」につきましては,現行の刑事訴訟規則198条の4とは似て非なる規定のように私自身は理解しておりまして,これは,実質的には,全事件を対象にして録音・録画の記録媒体による立証を義務付けるのと変わらないのではないかと思いますので,やはり,この「乙案」のような規定を設けるのは相当でないと考えております。   最後に,例外事由のことにつき何人かの委員の方からお話がございましたので,若干申し上げます。   例外事由につきましても,これも前回申し上げたとおりですが,現在の事務当局の「取りまとめの案」の例外事由というのは,私どもにとりまして,取調べの録音・録画について,事案の解明に重大な支障を生ずるような場合を例外とできるか,本当にぎりぎりのものであると考えております。前回の部会で配布いたしました,資料68の「取調べの録音・録画の実施等について」の別添1において本格実施することとなったと御紹介した四つの類型の事件に関する例外事由を見ていただければ分かると思いますが,今回,事務当局の「取りまとめの案」に書いてある例外事由よりも,ある意味で幅広い例外事由になっております。これは,やはり,それぐらいの例外事由としなければ,取調べの機能に支障を来して事案の真相解明に支障を来すというふうに,実務に携わる我々が考えまして,そのような例外事由とした次第です。今回の事務当局の「取りまとめの案」の例外事由は,我々にとってかなり狭いもので,更に立証制限があるということで,本当にぎりぎりのものだと考えておりまして,これ以上例外事由を制限されると,正に取調べの真相解明機能に支障を来すと言わざるを得ないと思っています。   それと,取調べの録音・録画をするか否かを被疑者の意思にかからしめる,要するに,例外事由に当たったとしても,被疑者が録音・録画をしてくれと言えば録音・録画義務の例外としないものとするべきであるという御意見が安岡委員や神津委員から出されました。しかしながら,これは,今までここでも議論として出ておりましたけど,組織的な背景を有する犯罪では,下位の被疑者が組織から圧力を受けて,また,後難を恐れるなどして,録音・録画を求めざるを得ない,その結果,十分な供述をすることができない事態ということは十分想定されますので,そのように,被疑者の意思にかからしめるということは,やはり相当でないと思います。被疑者が表面的に録音・録画を求めると録音・録画義務の例外に当たらないとしたのでは,例外とすべき場合を適切に除外できず,その結果,事案の真相を解明することができなくなりますので,相当でないと考えております。 ○周防委員 今回の資料69の「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果【案】」という全体については,村木委員や神津委員がおっしゃったものとほぼ同じですので,それについては繰り返し述べませんが,個別気になっていることについてお話しします。   まず,「取調べの録音・録画制度の導入」です。今,正に上野委員の方から例外事由のお話が出ましたが,そういった上野委員がおっしゃったことについては例外事由の(四)でカバーできるのではないかと考えています。   それで,(二)と(三)については,やはり安岡委員や神津委員がおっしゃったように,被疑者本人が録音・録画を求める場合には,録音・録画をすべきではないかと思っています。少なくとも,このままでは供述をすることは困難だと,取調官が考えた場合,その理由が具体的に示されるとして,それが一体どういうものになるのかよく分かりません。   あと,施行状況の検討義務について,これは,今後どういうふうに書かれていくのか,こういった会議に参加したことがないので分からないのですが,法案の時点でどういうふうになるのか分かりませんが,今のままでの見直し規定ですと,素人としては余りにも漠然としていてちょっと不安です。例えば,何年後にどういったデータに基づいて,どういった人たちが,どういう立場から見直そうとするのか,何かもう少し具体的に書いていただけないものかと思います。   また,「附帯事項」について気になるところは,「検察等における実務上の運用としての取組方針等をも併せ考慮した上で」というふうに書かれていますけど,これについては前回の部会でも触れましたけど,この部会が最高検の「依命通知」を考慮した上でその結論を出すというのはかなり強い違和感を感じています。検察は検察でしっかりやっていただくということに全く異論はないので,そのとおりやってほしいんですが,そのこととこの部会で出す結論とは直接的に関係するものではないと思います。   実は,「依命通知」を出された検察の方もそう考えているのではないのかなと思います。例えば,この部会で今決めようとしている取調べの録音・録画というのは,その対象事件の数については,まだまだ大いに不満があるところなんですけど,少なくとも,その対象事件について,取調べの一部録音・録画ではなくて,全過程での録音・録画というふうになっています。それは,この部会の中の話合いで,一部録音・録画の危険性というものについて認識が共有されたから,そうなっているのだと思いますが,そうであるにもかかわらず,今,上野委員から御説明がありましたが,検察は,この部会における録音・録画に対する基本姿勢とは違って,様々な録音・録画を試みようとしています。これは,やはり一部録音・録画もあり得ますという姿勢を打ち出しているというふうに私は理解しました。   だとするなら,なおさら,この「依命通知」を考慮して,この部会が結論を出すというのはちょっと違うのかなと思います。逆に,この部会の結論を考慮した上で,改めて「依命通知」を出していただきたいと思います。   検察こそ,この部会で話し合われてきたことを真摯に受け止めて,更にその先を行く将来的見通しを持った改革に臨んでいただきたい。そういうことができて初めて検察の威信というか,検察の信頼が回復できる第一歩になっていくのではないのかなと思います。   それと,参考人の取調べを録音・録画の対象とするというふうになっているのですが,在宅被疑者についてはどうなるのかなと,そこには触れられていないと思うのですけれども,そうすると,私にはやはり検察はどう考えてこういうふうに書かれているのだろうと,ちょっと疑問に思います。   また最後に,今の「取りまとめの案」の対象事件というのは,裁判員制度対象事件と検察官独自捜査事件ということになっています。これは,一般の人から見ると,ちょっと特殊なものだけを録音・録画するというふうな,要するに,特殊なものだからこそ例外的に録音・録画の処置をしましたというふうに受け取られかねないかと思います。裁判員裁判というのは,一般の人が裁判に加わるから,その裁判が分かりやすくないといけないので,録音・録画が必要なんだ,だから,裁判員裁判は録音・録画の対象になるんだなというふうに理解するでしょうし,検察官独自捜査事件については,捜査機関側の都合でどうにもできるという特殊な事件で,それも警察が関わらないということで,これもまた特殊な事件だからこそ録音・録画の対象となっているんだなと。そうすると,これは,何度も言ってきましたけど,やはり,この部会で決められたことは,録音・録画の例外的実施にすぎないのではないかというふうに一般の人が受け取る,そういう気がします。現状で,もしこれ以上対象事件を広げられないということであるのだとしたら,特殊な事件に限ってのみ録音・録画が必要であるという,そういう誤解を与えないように,他の多くの事件でも取調べの録音・録画は「第3 附帯事項」の冒頭にあるように,供述証拠の収集が適正な手続の下で行われること,また公判審理の充実化を図る,そういうことに有用なんだから,可能な限り幅広い範囲でなされるよう期待するというのでは弱くて,可能な限り広い範囲ですべきなんだと,そういうふうに書くべきだと思います。その意味で,少なくとも,裁判で供述調書を証拠とするために取調べ状況を立証するときは,録音・録画した記録媒体によって立証するようにすべきだというような方向性というか方針というか,それはどこかにやはり示す必要があるのではないかと考えています。 ○椎橋委員 何人かの委員の方と重なるところがありますけれども,若干意見を言わせていただきたいと思います。   私は,基本的な考え方として,取調べの録音・録画を一定の重大な事件に,今回の「取りまとめの案」のように,裁判員制度対象事件と検察官独自捜査事件について全過程の録音・録画を義務付けるということは初めてのことでありますし,また,比較法的に見ても,日本のような人口とか経済力とか,技術力とか,そういった積極的な要素を大規模に持っている大きな国が刑事司法制度としても,国全体としてこのような制度を義務化するということは,非常に画期的なことだと思います。小坂井幹事は,可視化について,比較法的なことを含めて貴重な発言をされていますけれども,可視化を含めてどの国が一番小坂井幹事が目指している刑事司法制度であると考えているのかということを,一度,じっくり別の機会にお尋ねしてみたいなと思っているのですけれども,それはともかく,「取りまとめの案」が実現すれば非常に画期的なことです。ですから,私はこれは賛成なんです。しかも,前回の義務化と同時に,事件の対象を拡大した新たな検察庁の試行ということが行われるということもあって,それは,先ほど村木委員が御指摘になったように,録音・録画の記録媒体がベストエビデンスであるということを認識した上で,そういった試行をするということであります。そういった意味では,重大な,最もこの制度の狙いとした事件から義務化し,そして,その次のものについては,運用でやっていって,運用でしっかりその有効性や確実性等が確認されたら,その時点でそれらが義務付けられるという可能性もあるということで,ともかく,私は,そういう慎重なやり方が重要であると思います。可視化がすればするほどいいというものではないんですね。可視化によって,それが有用であるということはいろいろな意味で認められてきました。これは,この部会でも共通の認識だと思います。ですから,私もそれは認めております。ただ,録音・録画をどの程度義務化するかということによって,取調べの適正化及び誤判の防止と,それに対して,事案を解明して,社会の安全・安心を確保すると,こういう二つの目的があって,この両者をバランスよく実現しなければいけない。片一方やれば,それだけで全部うまくいくというものではないんですね。可視化も場合によっては,それが後者の社会の安全を害する,犯罪の解明ができないという場合があるということは,当たり前のことですけれども,やはり,改めて確認しなければいけないと思います。ですから,やはり,まず,スタートとしては,確実なところからやっていくことが重要だと思います。   何で裁判員制度対象事件と検察官独自捜査事件かというと,これは裁判員裁判は重大な事件で,一般的に言って任意性が争われる率も高い。それから,これもやはり重要だと思うんですけど,但木委員が言われるように,やはり,国民の関心が高い事件だということも加える必要があると思います。それでは,検察官独自捜査事件についてですが,日本というのは非常におもしろい複雑な捜査機関の体制をとっていて,検察と警察が協力関係の下に一定の仕事の分担をしていて,それが他国から見ると詳しくは申しませんが,非常に特色のある制度になっていると思います。検察官独自捜査事件の場合は,捜査機関内部のチェックス・アンド・バランスィズという関係が働きにくい事件になるということがあるので,そういう意味で取調べ状況がどうであったのか,任意性がどうだったのかということで争いが生じやすいということで,その事件を録音・録画の対象にすることには,理由があると思います。取調べ状況が問題になる,任意性に争いがある可能性がある率が高い事件から録音・録画の対象にするというのはとても理由があることだと思います。   村木委員が,この前,ボリュームの問題と法的整合性の問題が重要と言われましたけれども,私は,今申した意味で裁判員制度対象事件と検察官独自捜査事件を録音・録画の対象とすることには法的整合性があると思います。ボリュームの点を重視して,対象事件を法定合議事件まで拡大すべきとか必要的弁護事件まで拡大すべきとか,そういう量的な問題というよりも,むしろいかなる事件を対象にするのがこの制度の趣旨にかなっているのかの視点が重要で,これは,やはり取調べ状況が問題になる,任意性に争いが生じやすい,そういう事件を対象にするということが一番理に適っていると思います。   それからボリュームの点で言えば,「依命通知」によって行われるという事件が相当なボリュームになると先ほど上野委員が言われましたけれども,そういう点では新たな試行事件の対象を拡大することによってボリュームをカバーできるのではないかと思います。   とはいえ,ボリュームが相当拡大するといっても,試行のやり方に問題があるのではないか,つまり,試行のやり方では検察官の裁量によるのではないか,恣意性が入るのではないかというような御意見がありましたけれども,これについては繰り返しになりますけれども,やはり,録音・録画の記録媒体がベストエビデンスであるという認識に立った上で行う,それから,それがいかにも恣意的にやったということが分かれば,それは裁判実務において正されるということがありますので,その辺りのところについては,現実の試行の中でどういったことが行われていくのかということを見守っていく必要があるのではないかと思います。   それから,小坂井幹事が提案された案について若干申し上げますと,これについては,現実的には録音・録画の対象事件以外の事件についても,全部か全部でないか分かりませんが,そこら辺のところが明確でないということも問題ですが,どこまでかということは問題です。ともかく,上野委員の言われるように,小坂井幹事の御提案は,現実的には「取りまとめの案」に出ているような事件以外の事件についても録音・録画の義務の対象にしようと,あるいは事実上録音・録画を義務化せよということと同じだろうと思うんです。そうすると,ここで長い間かけてきて,どの事件を録音・録画の対象にするかということを長いことやってきたんですけれども,それを何かまた振出しに戻されるような感じがするということで,私はその辺りのところは腑に落ちないという感じがいたします。 ○露木幹事 いわゆる検討条項について申し上げます。   あらゆる制度について,常に情勢の変化等に応じて検討を加えて,必要があるときには見直しをするというのは,これは当然のことでありますので,その意味で,この「取調べの録音・録画制度」について検討条項を設けるということについては異論はありません。しかし,先ほど,村木委員が,対象事件の在り方との関連で,この検討条項に言及をされました。ただ,検討の対象というのは,何も対象事件の在り方だけではないと思います。先ほど大久保委員からも発言がございましたが,性犯罪の被疑者の取調べ状況を記録した記録媒体の取扱いが,施行後でありますけれども,どうもうまくないということになれば,やはり出口規制ではなくて入口規制,つまり,性犯罪の例外化ということについても,その是非を検討するということがあり得ると思いますし,その他にもいろいろ検討すべきテーマは出てくるんだろうと思います。そういう意味で,検討条項については,その対象事件との関連でのみ議論をするという性格のものではないということは申し上げておきたいと思います。 ○松木委員 私も,いよいよこれは取りまとめの段階に入っているなというところで簡潔に意見を述べさせていただきたいと思います。   私自身としては,やはり,対象事件としては幅広い方向としていただきたいというところが根本にはございますけれども,ただ,今までいろいろ御意見を拝聴しておりまして,こういった新しい制度を導入していくときには,実際上はいろいろと難しい点があるということも理解をできるところであります。そういった中で,今回示されましたようなコアな制度を一つ決めて,それをしっかりやった上で,その他のところを運用で補っていくというのは,ちょっと順序の議論が,今出ておりますけれども,私としては,これは新しい制度を導入するときには,あり得る形なのではないかなと思っております。それから,検察の方から示されました案を見ましても,随分と踏み込んだ検討をされて,運用をされていくという姿勢は示されたのではないかなというふうには感じております。正にこの姿勢ということなんですけれども,前回確か但木委員の方から,今回の運用ということで示されましたところは,私ども5名が出した意見,判断基準というところにも姿勢としてはみんな盛り込まれているのではないかという御意見がございました。私としましては,素人的にいきますと,正にこの姿勢としてはというところを何とか,方向性というか,先ほど村木委員がおっしゃったようなところで,抽象的な形での努力義務と言いますか,訓示規定と言いますか,こういったようなところが入ってくると,先ほどの運用と今回のこの答申・要綱案との関係というようなところもより説明がしやすくなりますし,私としても,納得しやすくなるというようなところになるのではないかと思います。是非その辺のところが可能となるようなお知恵を出していただければと思っております。 ○山口委員 取りまとめるという観点から若干の点について意見を申させていただきたいと思います。先ほどから,範囲が狭いのではないかとか,将来の方向性をどう示すかという御議論がございました。それに関連して若干意見を申させていただきたいと思います。   その中で,努力義務,今も松木委員の御意見にもございましたけれども,努力義務を規定したらどうかというような御意見がございました。しかしながら,これは実際上義務付けると同じなのではないかというお話も既にございましたし,観念的には,やはり義務付けということを前提にすることになるのではないかというようにも思われます。しかしながら,全事件についての義務付け,全事件についての可視化という部分については,相当意見の隔たりが委員の間でございまして,そのような形で集約していくことは,実際に困難ではないかというように考えております。   現在の「取りまとめの案」でも,録音・録画の意義・目的,それから有用性については,既に書かれているように思います。先ほど村木委員の御意見にもございましたけれども,これをもうちょっとどう工夫するかという余地はあろうかなとも思いますけれども,むしろ,そのような意義・目的・有用性ということを「附帯事項」において書くという形で対処する方が,方向性としてはよろしいのではないかというように思います。   それから,あとは,冒頭より,検察実務との関係を考えてよいのかどうかという御議論がございました。私は,当然考えてよいのではないかと思っておりますけれども,その検察の実務も,先ほど来,何人かの委員の方が御発言されておりますように,刑事裁判実務の在り方,刑事裁判実務において定着しつつあるような考え方の関係からいきますと,検察実務も恣意的に運用するということは難しいと思われますし,それから,この中にも書かれておりますが,見直しの中には検察の実務の在り方を踏まえて見直しをするということになっているわけですので,そういう意味での一種の制度的な担保というんでしょうか,そういうものもビルトインされているというように表現することも可能なのではないかというように考えております。 ○但木委員 皆さんの御意見はいろいろございました。それで,是非御理解いただきたいのは,確かに検察の「依命通知」というものがどれだけの信用力があるのか,それはまた改変可能ではないかといういろいろな御疑問があるようでございます。また,この当部会と一体何の関係があるのかという御意見もございました。そういうような御疑問に答えるために若干のことを申し上げたいと思います。   「依命通知」というのは,これは役所はどこもそうですけれども,「依命通知」に従って法執行するというのは当然のことでありまして,これはどこの省庁も変わりないと思います。ただ,検察の場合には,実は検察官は独任官庁と言いまして,勝手に一人一人で仕事をやっている役所でございます。そのために,一人一人の検察官が勝手にやった場合に国民に非常に大きな不平等が生じるということで,検察官同一体の原則というのが片方にございまして,最低限守るべき平等,取扱いについては,全国の検察官に指示して,これを守ってくださいというふうに命令するわけであります。「依命通知」というのは,正にそういうものでありまして,検察官同一体の原則を守る非常に重要なツールであります。ですから,通常の「依命通知」とはまた一つ違う点があるかと思います。加えて,是非御理解いただきたいのは,今回,この「依命通知」を発したということは公表しているわけであります。もちろん情報開示請求が来た場合に,これは国民の権利義務に関することですから,恐らく開示請求は,これは受けなければならないだろうと思っております。この国民に公表した検察の在り方,あるいは,今後の具体的な事件の取扱い方について,「依命通知」ではございますけれども,それを言ってみれば公的なものとして出した以上,検察がこれを守らなければ世の非難を浴びるわけでありまして,したがって,そういう意味では「依命通知」と申しましても,非常に大きな存在意義がある。この「依命通知」が出ましたのは,検察の在り方検討会議から始まりまして,この3年間のここの部会の審議,これが反映されてできているわけでありまして,決してこの部会と無関係にできているわけではございません。そういう意味で,皆さん方のお考えを最大限入れたものがこの「依命通知」であって,それは公的になっていて,かつ,国民の監視下に既にさらされているんだということを是非御理解いただきたいと思います。   第2の問題でありますが,そのような「依命通知」を改変することがそれほど簡単かと申しますと,「依命通知」は,これだけ公開され,世の中に明らかにされたのに,検察がもしこそこそとこれを変えたとすれば,それは正に背信行為であります。そんなことが今の我々国民主権下の検察にできるはずがないことであります。更に言うならば,では,検察がこっそり変えてしまったとして,次の法廷で裁判官が,はい,録音・録画の記録媒体を出しなさい,これは争いになっていて,任意性の立証について出しなさい,と言った場合に,仮に,検察官が,実はあの「依命通知」はこの前変えてしまいましたと言ったときに,果たして,弁護人が,そうですか,それではしようがありませんねと言ってくれるか,あるいは,裁判官が,それなら別の方法でいいですよと言うのでしょうか。そんなことはあり得ないんです。それはあり得ないのは皆さんよくお分かりのはずだと思います。つまり,一般有識者の5人の方々が言われていた「仕組み」という言葉ですけれども,不可逆的な仕組みを作ってやるわけです。不可逆的な仕組みの方向もこの通知の中には書かれております。将来,公判で問題になるような事件については,あらかじめ録音・録画しなさいと,それは事件の大小に関わりませんというふうに書いてあるわけです。これを書いた以上は,立証責任を負っている検察官がとるべき行動はこれから明らかになっているわけです。ですから,確かに,皆さんがそれを法律に書いたらどうかと言われますけれども,今の段階で全てを義務化するのは正しいのか,片方では非常に簡略化した立証というのを考えなければならない事件もいろいろあります。それらの事件もそれ全て必要なんでしょうか。実は,どこが境目なんだろうかというのは分かりません。参考人だってそうです。本当に被害者のような参考人もいれば,共犯者まがいの参考人もいる。その中で一体どれをとるのか,どれをとらないのか,法文でどうやって書けるのか,それは書けないと思います。やはり,それは個々の検察官が考えて,これは立証が必要だなと思ったら撮らなければいけないし,仮に撮らないで公判で問題になったら,それは,立証不十分になって供述調書の取調べ請求が却下される,そういう仕組みを作ることによって,方向性というのはおのずから明らかになっていくのではないか,それを是非御理解いただきたい。それで,見直し規定というのは当たり前のことですが,新しい時代にふさわしい刑事訴訟法,あるいは刑事手続として機能しているかどうかということを見直し,それの運用を検証し見直し,そして制度的に改めるべきところがあれば改める,実務の中から出てきたものを学んで新しいものを作っていくという,そういうことだろうと思うんです。   そういう意味で,今日の「取りまとめの案」の中には,ある意味で,全ての展開が新しい時代に向けて,やはり開かれているのではないか。もちろん不満の方もたくさんおられるのも分かっていますし,私も一つ,「被告人の虚偽供述の禁止」というのは削られてしまいましたけれども,それは皆さんどこかは削られてしまっている部分はあるように思うんですね。だけれども,大きな意味で新しい時代に向けてやはり作られていると思うので,是非まとめていただきたいというのが切なる願いであります。 ○青木委員 たくさん言いたいことはあるのですけれども,1点だけ申し上げたいと思います。   今,いろいろ議論がありましたけれども,この部会の中で取調べ状況が問題になったときに,取調官を延々と調べていくということが好ましいことだというような議論はなかったと思うんですね。そういうことを避けましょうと,できるだけ避けましょうということについては,恐らく皆さん一致した意見だったんだろうと思います。それをできる限りという形で取調べをした状況については記録媒体,その他の客観的な資料によって立証することに努めなければいけないというような訓示規定というのは,そういう水掛け論をできるだけ避けましょうということの裏返し的なものなのだと思いますので,是非そういうようなものを考え方として,訓示規定をどこかに入れていただくということを検討していただきたいと思います。 ○後藤委員 今の訓示規定ないし努力規定の問題も含めまして,修正案として提案されている考え方について,私自身は,それが理論的に不合理であるとか,あるいは政策的に誤っているとは思いません。もし私たちがそれを採れない理由があるとすれば,それは結局,それではこの部会が合意に至れないからという,極めて現実的な理由しかないように思えます。そのことを,私は非常に残念に思いますので,何とか事務当局と部会長におかれましては,なお最後の調整の努力をしていただけないかとお願いしたいです。それでも,もし大きな変更はできないとすれば,微調整的なことで,二つだけお願いしたい点があります。   一つは,例外規定の(二)についてです。(二)で「記録をしたならば被疑者が十分な供述をすることができない」となっています。これが,録音・録画と十分な供述ができないことの因果関係を表す趣旨であることは,ここで了解されているはずです。そうであれば,それをもっと明確にするために,「記録をすることにより」と表現するのが,因果関係の表現としてはより厳密な表現であろうと思います。論理的にはどちらでも同じように感じられるかもしれませんけど,「ことにより」の方が厳密な表現になると思います。   それから,一定期間後の検討のところです。その検討の機会に,今回と同じような議論が再現されるだけでは意味がないと思います。そこで,「その検討に当たって,各関係者は従来の主張に捕らわれることなく柔軟な姿勢で検討してほしい」という趣旨の希望をここに盛り込むことはできないか,これを御検討いただきたいと思います。 ○川端委員 議論も3年を迎えてそろそろ終着駅に着きつつあるというところですので,意見を述べさせていただきます。   法律の世界では,昔から「立法は妥協なり」という法格言がございます。これは,利益の対立する立場にある者同士がそれぞれ譲り合って一致点を見い出し約束をして新たな法律を作って,それを動かして行くということを意味します。このような大前提の下で立法活動がなされてきております。我々も今,この法制審議会の特別部会の委員・幹事として立法に関わっているわけでありまして,法制審議会の総会に向けて立法のための要綱案を提示しようとする段階に至っています。それで,先ほど但木委員からもお話がございましたように,それぞれが譲ってきております。私も作業分科会でいろいろ取りまとめて,実現したらいいなと思っていた意見もかなり削られてしまいました。それはそれで「立法は妥協である」という観点から満足している次第でございます。   「妥協」という言葉を使いますと,マイナスイメージが伴いがちですが,必ずしもそうではございませんで,一定の条件の下で約束事として一致点を見い出して,それを実現して行くことこそが妥協という言葉の本来の意味でございます。この場で我々はそれぞれが譲り合って共通認識に達したのであり,先ほど後藤委員もおっしゃいましたように,これ以上は議論してもまた同じことを繰り返すことになると思います。   取調べの録音・録画の問題に関して,「要綱(骨子)」のように,対象事件を現時点でこの二つにすることがいいか悪いかという点,あるいはそれに合理性があるかどうかという点ですが,先ほど椎橋委員がおっしゃったように,正に現時点で,これはゼロからのスタートでございますので,全く新たな制度を作り出すという意味において,画期的な意義を有すると言えます。この点は国民にも十分納得のいく立法事実だと思っております。   それから,例外事由ですが,これも数多くの中から絞り込んできてここに至っておりますので,まずこれを実現して,そして見直し規定も置かれることになっておりますので,そういう観点から一歩一歩確実にこれを実現して行くということで日本の新たな刑事司法を確立させていただきたいと思っております。   先ほど国民がどう受け取るかという観点からの御発言がございました。これは,かねてより安岡委員が御主張され,それから周防委員もそういうことをおっしゃいましたし,先ほど松木委員もその趣旨の御発言をされました。これは,この「取りまとめの案」の内容を決めた後,これを国民にどう訴えるか,どう伝えるかという問題だと思います。幸い,この「取りまとめの案」には,従来の答申案と違って,内容を要約して国民に分かりやすく説明する部分があるなど,様々な計らいがなされております。それらをうまく使っていただいて,今日御議論が出た点をも盛り込んでいただきたいと思っております。そういうことで是非この問題等については決着を見たという形を採っていただければ有り難いと思います。 ○小野委員 全過程録音・録画を義務付けるというのは大変画期的な制度であることは間違いないと思います。そういう意味では,ここにいる全員がそのような認識をしているのではないかと思いますが,だからこそ,そうであるからこそ,例外事由というのを慎重に考えてもらいたい。特に(二)というのはいろいろなパターンが考えられるということで,これが捜査官の判断によって広げられてしまうというのは,とても全過程の実現を損なうものではないかと思います。そういう意味では,記録をしたら供述しないと意思を表明したというふうに明示的に掲げておく必要があるのではないかと思います。   それから(三)の「困惑」,これも余りにも広い概念であるので,ここはもう一回考える必要があるのではないかと思います。   それから,裁判員制度対象事件というのは約2%と言われていますが,法定合議事件は,裁判員を含めても3%ぐらいにすぎないわけですよね。録音・録画を全過程されてしまえば,結局,任意性・信用性に関する争いというのはほぼ絶滅するわけですから,要は,対象事件というのは政策的な判断だと考えられます。その意味では,裁判員裁判という,ある意味では非常に限局された,あるいは,他の裁判員裁判以外の刑事裁判の進め方とは非常に異なった審理をされているということを考えると,やはり,ある程度一般的な法定合議ということでもう一回考え直す余地はあるんではないかなと思います。 ○井上委員 私は,前回は皆さんの御発言を非常にハラハラして聞いていましたので,今日は,もうまとまる見込みがないようならば,全員辞職か,あるいは,当分の間,休会とする提案をしようかなと,半ば真剣に思っていたのですけれども,基本的な方向としては,先ほど但木委員,川端委員,山口委員がおっしゃられたのと同意見です。   「第3 附帯事項」において,取調べの録音・録画制度の施行状況について検討を加えるに当たって「検察等における実務上の運用」も検討の対象とするいうところは,私は非常に重要だと思っています。この実務上の運用への言及は,検察等における運用で録音・録画をやるから録音・録画を義務付けなくて良いという趣旨のものではなく,縷々説明されたように,検察と,そして警察においても,その進み方や姿勢には慎重さと大胆さの違いがあるとはいえ,録音・録画をやっていこうという方向は示されているわけなので,そういうこれから先に向けての動向をも踏まえて,現段階で義務付けをするのはどの範囲にするかという判断として,こういう取りまとめをした。そういう趣旨のものだと受け止めれば,もっと拡大すべきだと主張されている方たちの思いともそう不整合を来すものではないのではないかと思います。   もう一つ,仮にこの方向でまとまったとして,対象事件をもっと拡大すべきだ,あるいは全事件とすべきだと考える方々にとっては,御不満なのはよく分かりますけれども,「取りまとめの案」において対象事件とされている裁判員制度対象事件及び検察官独自捜査事件は非常に特殊な事件であって,たかだか全事件の2.1%ではないかといったことを強調し過ぎるのは,かえって自縄自縛なことになってしまうところがあることに留意されるべきではないかと思います。裁判員制度対象事件を取調べの録音・録画制度の対象とするべき理由としては,縷々説明されたようなことのほか,そもそも裁判員制度対象事件が現行の範囲とされたのは,国民の関心が特に高い,非常に重大な事件であるからでして,警察においては,特別捜査本部を設けるような事件が多いと思うのですけれども,このように社会が非常に注目している事件について,まず取調べの録音・録画を義務化するということは大変大きな意味がある。また,検察官独自捜査事件も,経済事犯や贈収賄事件など,別の意味で社会の関心の非常に強い大きな事件が少なくないわけですので,そういう事件をも対象として取調べの録音・録画を制度化するということは,やはり非常に象徴的でインパクトの大きいことではないかと思います。ですから,「取りまとめの案」のとおりまとまったときは,むしろ,そういうふうなポジティブな方向で語っていただきたい。その方が,対象事件をもっと広げるべきではないかとお考えの方々にとっても良い効果を生むのではないかと思うのです。 ○本田部会長 まだ御意見があろうかと思いますが,「取調べの録音・録画制度」についての議論は,ここまでとさせていただきます。最後に少し時間がありますから,この事項について更に御意見があれば,その際に御発言いただきたいと思います。   それでは,午後3時45分まで休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ○本田部会長 それでは,再開いたします。   次に,「捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」から「弁護人による援助の充実化」までについての議論を行います。   制度の具体的内容につきましては,資料69の「要綱(骨子)」の3ページから14ページに記載してあります。また,本文の10ページ以下の「第3 附帯事項」や「第4 今後の課題」にも,関連する記載がございますので,これらにつきましても,併せて御意見を頂きたいと思います。   これらの事項についての議論は,午後4時15分までを一応の目処とさせていただきます。   議事は区切りませんので,いずれの事項についての御意見等でも結構ですので,御発言をお願いします。 ○周防委員 「捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度の導入」についてですけど,取調べの録音・録画と関連することなんですが,捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度,いずれについても,取調べ全過程の録音・録画を前提とすべきだと考えます。今でも,密室の中で様々な取引が行われていると疑われているわけで,取調官のストーリーに沿った供述をさせようとする利益誘導の手段,そういったものとしてこの制度が使われる危険性を考えて,是非この免責制度を導入するのであれば,それについては,やはり,取調べ全過程の録音・録画が前提となるべきだと考えます。 ○安岡委員 「要綱」に盛り込めということではないので,意見というより質問に近いんですけれども,その質問へのお答えによっては,将来的な課題として考えていただきたいことがあります。それは何かといいますと,処分保留で釈放されている人を含めて,在宅の被疑者も弁護人が付いていればこの制度の対象となり得ると思うのですけれども,そういった方々で自力で弁護人を付けられない人たち,自力で弁護人を付けられない在宅の被疑者を相手に,検察が協議しようと,合意まで持っていこうと考えた場合に,検察はどうなさるのか。諦めることはあり得ないと思うので,この制度を使うために逮捕・勾留を請求して国選弁護人を被疑者に付けると,そういう目的で,必要のない身柄拘束を求めるのではないかという心配があります。   それから,今私が言ったところは,この制度の隙間のようなことだと思うのですが,その隙間を突いて,脱法的な制度利用が行われるのではないかとの懸念もあります。例えば,弁護人が付いていない被疑者を相手に,在宅で取り調べているときに,何というか闇取引のようなことで話をつけて,その後に逮捕・勾留請求するなり,処分保留で釈放されている人であれば,起訴して国選弁護人を付け,そうやって形を整えた上で,協議の内容は闇取引で出来上がった筋書きどおりにやると,新たに付いた弁護人には実質的に協議に関与させずに合意書まで持ってくると,そういうこともできるのではないかと考えますが,その辺はどういうふうになさるおつもりなのかというのをお聞きしたいと思います。 ○吉川幹事 若干の御説明をさせていただきます。   今,安岡委員がおっしゃったのは,捜査・公判協力型協議・合意制度に関するお尋ねだと思いますが,本制度による協議は,「要綱(骨子)」にも記載のとおり,制度上,検察官と,被疑者・被告人及び弁護人との間で行うものとされております。そのため,被疑者・被告人に弁護人がない場合には,そのような被疑者・被告人と検察官との間で協議が行われることはないこととなります。なお,この制度というのは,他人の犯罪事実を明らかにするために検察官の判断によって用いられる証拠の収集手段でございまして,本制度自体が被疑者・被告人の権利利益の保護でありますとか充実化を目的とするものとは言い難いように思われることからしますと,別途,国選弁護人を付する仕組みを設けるべき政策的な必要性や合理性は認められなのではないかと思われるところでございます。   端的に申し上げますと,この制度において,弁護人が選任されていない状態で,協議・合意が行われることはあり得ないということでございます。 ○小坂井幹事 前回,ちょっと私は不正確なことを申し上げたかもしれませんので訂正いたしますけれども,アメリカのイノセントプロジェクトによれば,誤判原因のうち15%以上がうその情報提供者の,例えば取引供述なのではないのかと,こういうようなことが言われております。   それで,えん罪防止のための制度で,改めてまたえん罪が生まれるようなことになっては大変です。ですので,今,この制度自体は導入の方向になっているということについては,それはそれとして認識させていただきますけれども,やはり,先ほど申し上げたとおり,今,検察官独自捜査事件だけが可視化の対象事件だと言われるのであれば,検察官独自捜査事件でやればいいと,こういうことになります。仮にそうではなくて,協議・合意の対象事件を広げていくんだと,こういうことで「事務当局試案」のような,あるいは「要綱(骨子)」のようなものになっていくというのであれば,やはり虚偽供述を含めた供述経過を正確に記録することが,どうしても今私が申し上げた最低限の要請として必要になってくる。ですので,そういう措置が採られるべきではないか。少なくとも,協議を始めようという段階は取調官には分かるわけですから,その段階からは録画・録音の対象にしていただくべきであるし,仮に百歩も千歩も譲っても,合意成立後の新たな取調べですよね,これは当然やっていただくことになるんだろうと思うんです。運用上なるんだろうと思うんですけれども,しかしながら,やはり制度として,それは確立すべきではないかと思います。   恐らくは,「依命通知」の中で必要性が高いものというのは,こういう協議を含んだものも当然なるんだろうと一応理解させていただいてはおります。が,そういう認識の下で,なおかつ,制度化が必要ではないかと思います。 ○上野委員 今の小坂井幹事からの御発言と,先ほど周防委員から御発言のありました「捜査・公判協力型協議・合意制度」と録音・録画の関係について一言意見を言わせていただきたいと思います。   まず,前提といたしまして,これはあえて言うまでもないかもしれませんけど,この「捜査・公判協力型協議・合意制度」と録音・録画の対象事件というのは,当然,対象事件の在り方が異なりますので,それを一致させるということ自体無理だと思います。取調べの録音・録画は,先ほどからいろいろな議論がございましたけれども,自白の任意性についての客観的資料としての必要性の大きい類型,高い類型という観点から,この捜査・公判協力型協議・合意制度につきましては,本制度の利用に適して国民の理解が得られやすいという観点から,「取りまとめの案」において,それぞれ制度の対象として,特定の事件,あるいは特定の犯罪が定められたというふうに理解しておりますので,そもそも制度の対象の定め方が違うということが一つ大前提になるのだろうと思います。   それと,今,小坂井幹事の方からお話ございましたけれども,まず,具体的な段階で考えますと,協議を始める前に取調べをすることもあり得るんですが,その取調べ自体は,その後にこの制度が利用されるかどうかというのは,その段階では全く分かりませんので,そういう協議を始める前の取調べについて録音・録画を義務付けること自体,理屈の上でも制度上も無理ではないかと思っています。   協議を始めた段階については,この制度の枠組みとして,その協議自体は取調べではありませんので,録音・録画の対象にはならないこととなります。弁護人が立ち会って協議をするわけです。   あと,今,小坂井幹事の方から,合意後の取調べについて,録音・録画の運用をどうするかというお話がありましたけど,運用は一応置いておきまして,制度論だけ考えますと,一般論としましては,合意が成立している以上,供述の自由を侵害するような取調べとか,供述の任意性をめぐる争いが生じるということは制度的には考えにくいのではないかと思います。あと,信用性という観点から申しましても,原始供述,最初に具体的な話は弁護人が聞いておられるわけでしょうし,その合意した後に,また供述がいろいろ変遷したりすれば,検察官が合意から離脱することになると思われ,その経過は分かると思いますので,供述の信用性担保の観点からも,録音・録画するということは制度上は考えにくいのではないかと思っています。   周防委員や小坂井幹事の御発言は,やはり巻き込み・引っ張り込みの危険があるということを非常に危惧されてのものだと思いますが,この点については,前回も申し上げましたけども,検察におきましても合意に基づいてなされた供述について,より慎重な信用性吟味が必要となるとの認識の下で十分な裏付け捜査を行って,その裏付け捜査の結果,その他の信用性を担保するに足りる事情があると判断したときに初めて裁判で証拠として用いるという運用をすることになると思いますし,また,事案によっては捜査の初期段階でこの制度が利用されて,それによって捜査が進展する場合には,そうした捜査の進展状況自体によって,その供述の信用性が確かめられる場合もあると思いますので,その辺も念頭に置いて運用はしていくことになると思っております。 ○小野委員 その供述書の信用性を警察官が十分に吟味する,これは当然のことだと思うんですが,同時に他人の側の弁護人,つまり合意をすることによってあんたが主犯だよ,あるいはあんたが犯人だよと言われる他人の弁護人にとっても,この供述を慎重に吟味する手立てがなくてはいけないということは大変重要なことだろうと思います。そういう意味では,初期供述からの録音・録画というのは当然大事なことになるのですけれども,せめて,少なくとも協議後,合意後の当該供述,これはどういうふうになっていっているのかということを慎重に吟味できる,他人の弁護人と一緒に吟味できるという制度的な保障がなくてはいけないだろう。そういう意味では,この制度をもし導入するのであれば,その辺の仕組みをしっかり作っておいていただかないと,他人の側にとっては本当にどうにもならない場合が幾らでも出てくるだろうということを懸念しておりますので,是非そこのところの検討は十分にしていただく必要があるのではないかなと思います。 ○種谷委員 協議・合意制度につきましては,前回,導入賛成の立場から意見を申し上げたところでございます。そのときに,最後に,その前提として証人保護プログラムの必要性の話をさせていただきました。今回,資料69の12ページの「第4 今後の課題」というところに,「証人保護プログラムについては」ということで「制度の必要性については,一定の認識の共有がなされたところである。」という記述を頂いていることについては多とするところであります。   ただ,実際問題として,ここにもありますように,民事的な問題ですとか行政的な問題ですとか,いろいろな問題が絡み合っており,難しい問題だと思いますけれども,「今後の課題」という形で提示をしていただけるのであれば,「一定の認識の共有がなされたところである。」で終わるのではなくて,今後,関係省庁で適切な検討がなされる場が設けられるべきであるというところまで,「今後の課題」として提示していただければと考えております。 ○後藤委員 協議・合意制度について,前回も申し上げた点ですけど,もう一度改めて申し上げます。   「要綱(骨子)」の「二」の「合意に係る公判手続の特則」のところで,供述調書等の取調べが証人尋問請求よりも先に書いてあります。これは形式的なことで余り重要ではないと事務当局ではお考えなのかもしれないですけれど,この「要綱(骨子)」全体が,供述調書への過度の依存から脱却するという姿勢を示すべきなので,この辺の順序にもかなり重要な意味があるように思います。特に供述調書の方を先に書かなければいけない理由は,私には思いつきませんので,工夫をしていただきたいと思います。 ○吉川幹事 先ほど小坂井幹事の方から,米国のイノセンスプロジェクトについて御指摘がありましたが,御指摘なような報告があることは事務当局としても承知しているところでございます。ただ,その報告というのは,例えば,証人が買収されて虚偽の証言をした事案も含むなど,いわゆる司法取引制度に特化して,同制度についての虚偽供述のおそれが大きいなどと指摘するものではないと承知しております。また,そのような形,すなわち司法取引のような形の証拠収集手段の意義や必要性を否定するものでもないと承知しているところでございます。本制度がどのように機能するかについては,我が国の刑事司法制度全体の実情を踏まえて検討する必要があると考えられますし,御指摘のような報告があるからといって,我が国における本制度の導入をネガティブに考える理由になるものではないと考えられます。   先ほども上野委員,それから前回,最高裁の今崎委員からもお話がありましたが,基本的には協議・合意で得られた供述というのは,信用性について慎重な吟味が行われていくものと考えられておりまして,そのような前提で制度を導入することは可能であろうと思われます。   また,小野委員の方から,協議・合意がなされた後の取調べについては録音・録画を義務付けるべきではないかというような御意見もございました。ただ,合意がなされた後というのは,その合意に基づいて供述がなされることが予定されていて,一般的に供述の任意性をめぐる争いが生じる場面ではないのであろうと考えます。また,合意後に供述の有為な変遷があれば,検察官の合意からの離脱によってその事実が明らかになるでしょうし,また,合意書面というものが取り交わされておりますので,それと,例えば,証人尋問での内容等を対照とすることによって,必要な反対尋問等はできるのではないかと考えられところです。   いずれにせよ,客観的な裏付け証拠等があるような場合にも,必ず合意後の取調べを録音・録画していないと,合意に基づく供述や証言が証拠として使用できないというような制度にすることは,いささか固すぎる制度になるのではないかなと考えられます。 ○村木委員 身柄の関係で質問が三つございます。   まず1点目ですが,資料69の報告書の10ページから11ページにかけてです。   事務当局の御説明にもありましたように,大変ここは工夫をしていただいて,現在の運用についての認識がかなり意見が違うということで,それについては,運用についての特定の事実認識を前提とせず,解釈の確認的な規定,現行法上確立している解釈の確認的な規定として,この新しい今の制度的な提案をしているということが書かれてあります。ここは,私もこういうやり方しかないだろうと思って賛成なんですが,その後に,「もとより,現在の運用を変更しようとするものではない。」という一文が入っています。今の運用がいいか悪いかはものすごく意見に隔たりがあると言っていながら,運用は一切変えなくてもいいと書いてあるので,これはまた,相当意見の隔たりが出る一文となっていると私は受け止めたんですが,趣旨はどういうことなのか。これは私としてはない方が良いのではないかと思います。それが1点目でございます。   2点目は,後ろの制度案の「要綱(骨子)」の13ページでも,ここは1行だけで「裁量保釈の判断に当たっての考慮事情を明記する。」と書いてあります。それ以上書けないから今こう書いてあるんだという事情はよく分かった上で,可能な範囲で教えていただきたいのですが,一つは,私ども素人にとっては,勾留・保釈と両方ある中で,保釈についてしか書けない,今の規定だと,鏡の裏表のような規定なのに,こちらにしか書けないということでございました。もう1回だけ,できるだけ分かりやすくこの場で,なぜできないかということを御説明いただけないかというのがもう一つの質問でございます。   それからもう一つは,ここはかなり白紙委任に近いので,大変技術的に難しいということが分かった上で,どんなことがここに書かれる候補になっているかということを,今説明したら,後でそれが書かれなかったから文句を言うということは致しませんので,せめてイメージを描けるように,ちょっと解説を頂けると大変飲み込みやすくなるというお願いでございます。 ○保坂幹事 まず,「附帯事項」において,「もとより,現在の運用を変更しようとするものではない」というのは,これ自体に特別な意図が込められているというものではなくて,その手前のところに書いています,特定の事実認識を前提としない確認的規定であるということと同じ趣旨,つまり,特定の事実認識として「今の運用が間違えている」からこういう規定を設けるというものではない,そういうものではないですよという趣旨で「もとより」以下を書いております。   次に,60条の勾留のところにこういう規定を置かずに,90条の裁量保釈のところに置くという理由をできるだけ分かりやすく説明していただきたいという点についてです。前回の私の説明が分かりにくかったということだろうと思いますが,言いたい内容は同じでございますが,あえてちょっとデフォルメして申し上げますと,例えば,60条の被告人勾留の必要性についての規定というものを,例えば仮にAという形で記載することといたしますと,それが207条で被疑者段階の勾留のところに準用されていくわけですけれども,その207条における被疑者勾留の必要性の考え方,考慮事情というのが,Aという考え方,つまり,60条と同じAであるという考え方もある反面で,AではなくてBであるという考え方,これは,どちらが正しいかということではなくて,そういう考え方もあるわけでございます。   したがいまして,60条のところに,仮にAという形で記載したとしましても,207条のところで,では,AなのかBなのかというところを今回決定してしまうことは適切ではないだろうということで,つまり,準用というものに伴う必然的な隘路というのがあるので,60条に必要性についての規定を置くことはできませんということを申し上げたかったということでございます。   他方で,裁量保釈の90条に関しましては,被疑者段階と被告人段階にまたがる問題,他の場面に準用されるということはございませんので,90条の裁量保釈の「適当と認めるとき」についてであれば,考慮事情の規定を設けることができるのではないかということで,記載させていただいたということでございます。   次に,90条の裁量保釈についてどういう考慮事情を記載することが考えられるのかという点ですが,これは,非常に技術的な観点,実務上の観点も踏まえて検討しなければなりませんが,基本的な考え方としては,前回,資料67の「参考案」という形でお示しさせていただいたようなものをベースとして,技術的な点も踏まえて,どういうものをどのように掲げるべきかを検討していきたいと考えておるところでございます。 ○青木委員 今の身体拘束の関係で意見を1点述べたいと思います。   前回も申し上げたのですけれども,裁量保釈のところについてだけというのは,やはり釈然としません。今,AとかBとかという話をされたのですが,実際の運用はどちらかというと,運用の点でいうと,60条だけが判断されている機会というのは,私自身は全く経験したことはないです。要するに,被疑者段階のものでどういう運用がなされているかということが実際には問題になっているのだろうと思います。   それで,確かに必要性の判断についていろいろ解釈の違いがあるというお話を前回されたと思うのですけれども,考慮事情についてだけ記載するということであれば,考慮事情ということは勾留の場面でもこういうことについて考慮するというような形で書けるのではないかと思いますので,ここの書き方,いずれにしても,条文的なものはここには入れないのだとすると,裁量保釈の判断に当たってだけではなく,勾留の判断に当たってというのも併せて考慮事情を明記するというふうにしていただけたらと思います。 ○神幹事 私の方から通信傍受の関係で一言意見を述べるとともに,若干の質問等もさせていただきたいと思っています。   前回申し上げましたように,通信傍受については,日弁連の中でも対象犯罪の拡大に対して非常に強い反対を述べる意見等がございます。元々,日弁連はそういう意味では反対をしてきたのですが,今回,出資法の関係が削られたという意味では評価はできますが,まだ削るものがあるのではないかと,自分としては考えております。   前も申し上げましたけれども,振り込め詐欺とか外国人窃盗団については,この部会の当初から,警察の関係者の方から強くこの関係では必要だということが述べられていたので,その辺は仕方がないかなと思っていますけれども,更に広げた部分が,言わば北九州の一角における暴力団の問題で,全国的に広げて暴力団に関連するからという形で罪名が並ぶのはいかがなものかという感じがしています。   取り分け,本年6月12日付けで神津委員が出された意見書にありましたように,組織要件が加わりましたけれども,実際問題として,労働組合だとか消費者運動等をしている人たちが,ちょっと行き過ぎた形で行動されたような場合に,例えば,恐喝だとか,あるいは逮捕・監禁だとか,あるいは傷害だとか,そういったものについて通信傍受という手段が用いられるということは,市民生活にも大きな影響を与えますので,その部分については,何らかのやはり歯止めのようなものが必要ではないかなと考えております。その歯止めが何かということになるんですが,日弁連からは,中立的な第三者機関のコントロールが必要だという意見を述べてきましたが,それがない場合にも,やはり通常の市民団体の活動等が絶対に傍受の対象にならないというような形の訓示規定だとか,あるいは,もうちょっと厳しい要件が必要ではないかなということで意見を述べさせていただきます。   もう1点は,この通信傍受に関連しまして,現在の通信傍受4罪種について,数人共謀してということと,補充性が要件とされて現実に行われているわけですが,今後もこの部分については,補充性という関係では,新たな今回加えられた犯罪等についても,令状が発付される場合の要件としてそれが機能するものと思いますが,現状のこれまでの通信傍受における令状の発付に当たって補充性というのがどのような形で運用されてきたのか,あるいは,今後はまたどういう形でいくのかということについてまで言及できるならば,裁判所の委員・幹事の方から何か御示唆いただければと思いまして御質問申し上げました。 ○香川幹事 ただいまの通信傍受の関係につきまして,裁判所の運用についてのお尋ねと理解いたしましたので,若干,私の認識している範囲でお話をさせていただければと思っております。   裁判所の方でも,今回,仮に提案のとおり対象犯罪が拡大されたといたしましても,通信傍受法3条1項柱書きの補充性の要件,具体的には,「他の方法によっては,犯人を特定し,又は犯行の状況若しくは内容を明らかにすることが著しく困難であるとき」との要件については,拡大された対象犯罪についても当然掛かってくると認識しております。   裁判所で,これまで補充性の要件をどうやって認定してきたかについては,一般論としてしか申し上げられませんが,令状発付の要件である以上は,捜査機関の方で要件を充足するかどうかということを,資料に基づいて疎明してもらうことが必要であると認識しております。要するに,単に捜査官が通信傍受を行うしか方法がないと言っただけで認めるということではなく,当然,一般的に特定の犯罪で,通信傍受以外の特定の捜査手法が記録の中からうかがわれれば,どうしてそういう捜査手法がとれないのか,なぜこの通信傍受によらないといけないのかということを,資料に基づいて疎明するということが必要になってくると思われますし,通常,補充性という要件はそのように運用されてきたのではないかと思っております。   今回の提案が採用されて,対象犯罪が拡大された場合でありましても,この補充性の要件というものにつきましては,今述べたような考え方で運用されていくのではないかと考えています。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もありますので,「捜査・公判協力型協議・合意制度,刑事免責制度」から「弁護人による援助の充実化」までの議論は,ひとまずここまでとさせていただきます。   次に,「証拠開示制度の拡充」から「自白事件の簡易迅速な処理のための方策」までについて議論を行います。   制度の具体的内容につきましては,資料69の「要綱(骨子)」の15ページから25ページに記載してあります。また,本文の10ページ以下の「第3 附帯事項」や「第4 今後の課題」にも関係する記載がございますので,これらについても,併せて御意見を頂きたいと思います。   これらの事項についての議論は,午後4時45分までを一応の目処とさせていただきます。   議事は区切りませんので,いずれの事項についての御意見等でも結構ですので,御発言をお願いします。 ○小野委員 私からは,公判前整理手続請求権の関係で一言述べておきたいと思います。   どういうことでこの請求権が必要なんだということをかねてからいろいろお尋ねを受けているわけですけども,幾つか理由があるだろうと考えています。   一つは,支部の問題なのですが,裁判員裁判を実施していない支部はたくさんあるわけですけれども,そういう支部で公判前整理手続を求めると,経験がないと,裁判官も書記官もそうなんですが,経験がないということで公判前整理手続に付さないと,複数の事例が報告されています。しかるべき請求権があれば,そのような理由で付さないわけにはいかないだろうし,しかるべき対応がとられることになるだろうと考えております。   それから,争点整理が結局のところ十分にできなかったという事例も現にあります。公判前整理手続に付するのは,比較的刑の重い事件が多いようですけれども,軽い事件でも争点整理や証拠開示の必要性が高い事件というのは現にあるわけです。例えば,いわゆる痴漢事件ですかね,迷惑行為防止条例違反の事件などで,これは繊維鑑定というものがあって,要するに,被疑者の手の繊維と服の繊維ということなのですが,これについて繊維鑑定の証拠能力と証明力を争った事件でも公判前整理手続を求めたのですが,この鑑定について,弁護側の協力者の意見も出ているという状況の中で,その点についての争点を整理したい,証拠整理したい,こういうことであったわけですが,裁判所としては,簡単な事件といったらあれですけれども,争点は複雑でないということで公判前整理手続に付さなかった。結局,公判では,被害者尋問をまずやって,繊維鑑定の鑑定人尋問をやって,それから被告人質問もやり,繊維鑑定に関する弁護側協力者の尋問もやったという段階まで来て,今度は検察官が,当初行った繊維鑑定の鑑定人をもう一回質問したいと,こういうふうになったというケースがあったようです。その間,やるのやらないのということで,公判期日はその主張だけで終わったりしたこともあったようですが,結局,これは争点整理が十分にされていなかったということなんだろうと思うのです。結果的に,一審判決は有罪となりましたが,控訴審判決は逆転無罪となったという事例です。   同じような痴漢事件で,やはり争点整理が十分になされなかった事件があって,裁判所としては,最初に被告人質問をやろうと,それは実質的には争点整理のために被告人質問をまずやっちゃいましょうということでやられたようなケースがある。その後,被害者をやって,更にまた被告人質問をやることとなった。この辺は,公判前整理手続でしかるべく争点整理をむしろしておくべき事例だったのではないかと思います。   それから,一審では公判前整理手続を求めた弁護人の求めに応じないで,最終的にこの裁判は無罪となったわけですが,控訴審では検察官がいろいろと新たな証拠請求をしてきた。控訴審では刑事訴訟法382条の2の制限はもちろん掛かるわけですけども,実務上は検察官が控訴すると,この制限がほとんどないに等しい運用をされているのですけども,それはともかく,公判前整理手続に付されていれば,同法316条の32の限定も加味されてくるということもあるので,そういった不都合も生じているのではないかと思われます。   それから,以前に第2作業分科会で配布された資料で「当事者が整理手続に付すべき旨を申し出た事案について」という1枚紙の資料がありました。平成25年1月から6月までの検察庁における調査結果を出していただいたのもので,これでは,被告人又は弁護人が整理手続に付すべき旨を申し出たが付されなかった33件のうち否認事件は29件あるということでした。否認事件にもいろいろあろうかと思いますけれども,この数字自体,付されないことに問題があるのではないかと思います。   本来,この直接主義,口頭主義,連続的開廷というのは裁判員裁判だけではない,いわゆる非対象事件についても実現されるべきだろうと思いますけれども,実際,現状は,そういった審理がなされているのは裁判員裁判だけであって,非対象事件は,文字どおり旧態依然たる裁判がそのまま行われている。要するに,今,この国の刑事裁判は,直接審理,口頭審理,集中審理の裁判員裁判と,書面審理,五月雨式審理の二つの類型の刑事裁判が現に行われてしまっているという現状にあります。少なくとも,公判前整理手続をもっと活用して,このようなギャップを埋めていかなくてはいけないのではないかとも考えるところです。   ちなみに,平成24年に公判前整理手続に付された事件は,一審の終局事件5万6,734人中1,745人,3.1%という数字が出ています。この1,745人のうちの裁判員裁判事件は1,474人,2.6%です。したがって,裁判員裁判以外の事件は271人,0.5%にすぎない。また単独事件では119人,0.2%にとどまっていると,こういう実情にあります。本来的には,公判前整理が必要な事件というのはもっとあるのではないかと考えております。   それから,これはかねてから申し上げてきたことですけれども,任意開示が十分に行われているから,公判前整理手続に必ずしも付さなくてもいいではないかという意見はありますけれども,しかし,こういうふうに任意開示が行われました,公判前整理手続には付しませんでしたということであっては,この任意開示において,実際に防御に必要な証拠が開示されているという保証は全くないわけですね。類型証拠開示請求も主張関連証拠開示請求も裁定もないわけですから,本当のところ,これは分からない,検証不能な状態になっているというのが現状です。そういうことも考えますとね,やはり公判前整理手続の請求権として正面からこれを認めて,それに対してそれなりの対応を裁判所にもしてもらうということは,やはり必要性が高いのではないかと考えています。 ○今崎委員 公判前整理手続の請求権の関係,ただいま小野委員の方から事例の御紹介を頂きました。経験がないと言った裁判官がいるとのことですが,本音かどうかはちょっと存じませんし,私の方から検証のしようがないのですけれども,それ以外の,例えば争点整理ができなかったとか,あるいは否認事件での利用が少ないといった御指摘,あるいは任意開示で最終的にきちんと証拠が開示されたかの保証がないということについては,結局,それは希望する証拠開示が受けられなかった,あるいは受けられたかどうか分からない,あるいは審理や準備が長期化し争点がきちんとされないまま漂流型審理になったということであります。そういう事件があったとすれば,誠に残念なことではありますけれども,仮に公判前整理手続に付していたとしたら,公判審理が充実して,継続的,計画的,迅速に行われたかという論証があるわけではありません。法の定める充実した公判の審理を継続的,計画的かつ迅速に行うため必要という要件判断が本当に不当であったかということを示した事例とは私には思えません。御紹介のような事例の存在を立法事実として公判前整理手続請求権を立法化するというのであれば,私としては強く反対せざるを得ません。   他方,前回,井上委員の御指摘もあって考えておりましたけれども,確かに裁判所が権限と責任を持つ訴訟進行に係わる制度であるということと,当事者に請求権を与えるということが両立しないわけではありません。公判前整理手続にも当事者主義が元々妥当し,現実にも主張を記述した書面の提出だとか,証拠請求などといった当事者の積極的な行為や当事者相互又は裁判所への協力を通じて初めて成り立っている制度であります。しかるに,公判前整理手続が長期化する事例を見ると,当事者,取り分け弁護人が検察官の請求証拠に対する意見をなかなか出してくれない,あるいは,予定主張や自らの請求証拠をなかなか出してくれないといった裁判官の悩みをよく聞くところであります。その当否について,あえてこれ以上申し上げませんけれども,少なくとも,公判前整理手続の円滑・迅速な進行に当事者の積極的な行為あるいは協力が必要であるということは確かであります。   先ほどの御紹介を伺っておりまして,公判前整理手続を利用したいという弁護人が少なからずおられるということを知りました。また,否認事件における利用状況が少ないということについても,公判前整理手続の,言わば理想的な運用として否認事件に幅広くこれが使われて,良い審理ができるということであれば,それに越したことはないと思います。恐らく,立法者もそういうつもりで作られたものだろうと思います。こうした弁護人は,公判前整理手続における自らの役割をきちんと自覚された上で,この制度を利用したいという意欲をお持ちということだと思います。当事者が公判前整理手続に付することを請求するという事例では,公判前整理手続においても,これまで以上に積極的な行為や協力を期待できると考えてよろしいと理解いたしました。   そのように考えると,公判前整理手続に当事者の請求権を付与するという案も,あながちあり得ないではないという気がしてまいります。裁判所としては,この制度の立法事実については依然として疑問を抱いておりますし,特に,先ほど御紹介にあったような事例をもって立法事実というのであれば強く反対するということは,先ほど申し述べたとおりであります。   他方,公判前整理手続も,当事者主義の原則が妥当する,また当事者の積極的な行為・協力によって初めて円滑な運用が可能になるという制度であって,そうであるがために,また当事者には一定の権限を与えるとともに義務が課されているという制度であります。こういう手続の性質内容に鑑みると,公判前整理手続が当事者への請求権付与になじまない制度ではないということも確かと思います。現実論としても,今まで述べたとおり,請求権を持っていただくということによって当事者の協力が期待できるというのであれば,裁判所としては誠に望ましいことであります。というわけで,立法化に積極的に賛成するわけではありませんが,あえて反対するということもいたしません。 ○周防委員 今崎委員の発言をハラハラしながら聞いていたんですけど,最後に公判前整理手続の請求権の付与について具体的,現実的な問題として考えていただけそうなのですごくほっとしました。ありがとうございます。僕も,是非「公判前整理手続の請求権」が認められ,被告人・弁護人側の証拠開示に対するはっきりとした主張が認められるといいなと考えています。   もう一つ,「証拠開示制度の拡充」のところについて,「第4 今後の課題」のところで,「再審請求審における証拠開示」への言及があります。ただ,ここに書かれていることが,どうも私がこの会議の話合いの中で得た認識とちょっとかけ離れているように思います。再審請求審の証拠開示については,それぞれの委員・幹事も相当数の方が,何らかの規定があった方が良いと考えていたのではないかと思います。ただ,そのことについて話し合うには,この場ではちょっと難しい,要するに,それは,やはり,通常の裁判での証拠開示とはまた仕組みというか土俵が違うという言い方が正しいのかどうか分かりませんが,要するに,この場で話し合うには余りにも難しく大きな問題だから,別の場所での課題であるというふうに理解していました。そうだとするなら,「今後の課題」の中では重要な事項として早急に再審請求審における証拠開示についての検討がなされるべきであるというふうにまで書いていただきたいなと思います。   現に,再審事件での証拠開示に不当なまでに長い時間がかかって,請求人の人生を取り返しのつかないものにしているという不正義が起きているわけですから,これはとても重要な問題だと思います。   また,前回の会議で角田委員が,あえて小川前委員の発言に触れて,それは個人的な感想としては分かるけれども,裁判所の考えではないというように述べられたかと思いますが,現に,再審事件を担当した裁判官である小川前委員の言葉は非常に重いものだと考えます。角田委員のおっしゃるように,ケース・バイ・ケースで簡単に決められるものではないということは理解しましたが,現にこれだけの不正義が明らかになっているわけですから,そのことによって人生をめちゃくちゃにされている人がいるという現実があるわけですから,やはり早急にその対策は考えるべきだと思います。ちょっと素人なので言い放っちゃいますけど,それはもう法曹に生きる人の責任だと思いますので,是非「再審請求審における証拠開示」ということについてきちんとした議論が早急になされるべきだと思います。   加えて,「今後の課題」で一切触れられていない手続二分の制度についても,ここで話し合うにはやはり余りにも大きな問題だというか難しいということで,課題にはならなかったと思うんですが,またこれも別の場所で,早急に手続二分の制度についても議論が行われるべきであるというような形で「今後の課題」のところで残していただきたいなと思います。 ○青木委員 今の周防委員に続けてなんですけれども,やはり「再審請求審における証拠開示」についての「第4 今後の課題」の2番目ですかね,二つ目の丸のところに書かれた中身は,確かにこのような意見が出されたということ自体はそのとおりかもしれませんけれども,なぜそのような議論になったかということについては書かれていなくて不十分だと思います。   この「再審請求審における証拠開示」については,東電OL事件だとか,あるいは袴田事件などの経過を踏まえると,この問題を放置するわけにはいかないという指摘もありましたし,この東電OL事件など正にそれに当たるわけですけれども,特に,公判前整理手続を経ていない事件について,証拠開示が適切になされるような方策の検討が必要であるという認識に立った意見が複数出されました。その方策として,公判前整理手続の中で規定されているような類型証拠開示,主張関連証拠開示の仕組みを利用するなどして,その証拠開示についてだけでも緊急に法制化すべきであるという意見も出されました。それに対して,その方策の検討の必要があるとしても法制化できるものではないという御意見・御指摘があって,それとまた元々再審というのは当事者主義がとられていないもので,その構造から理論的・制度的整合性の面からの御指摘もあったと理解しています。   ただ,「再審請求審における証拠開示」について意見を言われた方は,「再審請求審における証拠開示」の問題について何らの手当ても必要はないと,今後検討すべきことはないという認識に立っていたということではなくて,特に,公判前整理手続を経ていない事件については,証拠開示が適切になされるような何らかの方策が必要であるということが強く言われたと思います。   それからまた,その構造について意見を言われた方も,再審制度の趣旨とか,再審請求審の構造を踏まえた上で,公判に提出されなかった未提出証拠の保管の問題をどうするのかといったような問題について検討すべきだと,検討すべきことはそういうことなんだというような御指摘もあったと思います。   このように,「再審請求審における証拠開示」については,検討の必要性ということはあるのですから,単にここに書かれているような理論的・制度的整合性をめぐる議論があったということを確認するということではなくて,検討の必要性について言及があったということを明らかにした上で,早急に新たな検討の場を設けるということの確認がなされるべきだと思います。 ○保坂幹事 ただいま意見が相次ぎました,「再審請求審における証拠開示」につきまして,この部会におきましては,先ほど青木委員がおっしゃったように,その導入の必要性を強く訴える御意見というのがございまして,その論拠と言いますのが,確定審までにおける開示証拠が,整理手続の証拠開示を経た事件とそうでない事件とで質・量ともに随分な違いがある,したがって,整理手続と同様の類型証拠開示・主張関連証拠開示,これらに準じて設けてはどうかという制度提案がございまして,それに対して,今回の「取りまとめの案」の「第4 今後の課題」に書かせていただいているような,通常審との構造との違いですとか,その通常審の証拠開示制度を転用することは整合しないという御意見があって,その議論を書いておるわけですが,更に言いますと,再審請求審において証拠開示制度を設けるかどうかにつきましては,検察における諸事情を考慮しての運用や実務的な対応をしていることなどから制度化の必要性に疑問があるといった意見もあったわけでございまして,早急に法制度を検討するということで大方の必要性に関する認識が共有されているとは言い難いことから,御指摘のような記載とすることは相当ではないと考えているところでございます。 ○後藤委員 「自白事件の簡易迅速処理のための方策」の部分で,前回の案から修正していただいた点がございます。恐らく,私の意見も考慮してこのように直してくださったのだと思います。それは理解いたします。何か「ここまで考えたのだから,お前も賛成しろ」と言われているようなプレッシャーを感じないではないです。しかも,この修正には,再起訴制限が外されるための公訴取消しの理由が客観的に限定されるという意味があるのだろうということも理解いたします。   ただ,私,これを拝見して改めて疑問が生じました。それは,この案が果たして現場の検察官に対してどういうメッセージを出したいのかということです。典型的には,初めは自白して即決裁判手続でいいですよと言っていた被告人が公判で否認に転ずるという事例が想定されると思います。そのときに検察官がどう行動するのが普通である,あるいは,どう行動するのが良いというメッセージを出そうとしているのかという疑問です。もしかすると,その時点で,即決裁判手続でできなくなったら,すぐに公訴を取り消すという対応を標準的な運用として考えているのでしょうか。もし,そうだとすると,それは適切とは思えません。一旦起訴した以上は,必要なら補充捜査をするなりして,公判を維持するのが基本にならないと,被告人を非常に振り回してしまう結果になるのではないでしょうか。そうすると,検察官としては,即決裁判ができないからといってすぐに公訴を取り消すのではなく,被告人の新たな言い分も聞いた上で,必要な補充捜査をしてみようかと考える。公判の証拠調べは止めた状態でそういうふうに考えるのではないかと思います。その結果,公訴を維持できるという判断になる事例の方が多いだろうと思います。けれども,中には,被告人の新たな弁解に裏付けがあって,崩せないだろうという判断に至る例があるでしょう。その場合に,まだ証拠調べをしていない状態で公訴の取消しをしたとします。このような公訴の取消しを一般的な公訴の取消しと区別して再起訴の要件を緩和するべき実質的な理由はないだろうと思います。そうすると,結局,この条文は,どういう場合に生きると考えているのか,この構想が描くイメージが私にはよく分からないです。 ○保坂幹事 後藤委員のお尋ねというのは,この時的制限を設けることによる影響のことをおっしゃっているのか,そもそもこの制度における公訴取消しというのがどういうことなのかという御疑問をおっしゃっているのか,まずその点を教えていただけますでしょうか。 ○後藤委員 後者の方です。今回の新しい提案によって,この制度の目的が何なのかという問題が,よりはっきり見えたように思えるからです。 ○保坂幹事 では,まず,この制度によってどういうことが考えられるかという点からまず御説明いたしますと,現行の制度においては,即決裁判手続の対象になるような簡易な自白事件につきましても,可能性があるにすぎないような起訴後の弁解も想定したような「念のための捜査」をするということになっていますが,それをなるべくそうしないで済むような動機付けを与えましょう,というのがこの制度で目指すところであると考えています。   被疑者・被告人側の方から見ましても,この即決裁判手続に乗るためには,即決裁判手続の説明だとか同意するかどうかの確認だとか,必要があれば国選弁護制度というのもございますし,弁護人も同意又は留保しているという,そういう手続保障がなされている中で,この新たな制度が導入された場合には,即決裁判手続になってから同意を撤回したり有罪陳述をしない場合には,公訴が取り消されることもあり得るということも併せて説明され得るのだろうと思います。そうしますと,被疑者がそのことを分かった上で同意してこの手続に同意したという場合に,それが,公判になって有罪陳述をしない,あるいは同意を撤回するという展開になったときに,公訴取消しがされて捜査の対象になること自体が不適当だということではないのだろうと考えております。つまり,「念のための捜査」をしないことによって,被疑者・被告人側からしても,早期に起訴がされて,公判も原則として14日以内,判決も即日,しかも執行猶予ということで,早期に刑事手続から開放されるというメリットがあるわけでございますので,不当なものではないと考えております。   さらに,この時的制限を設けることによりまして,結局,検察官としては,被告人側が応訴態度を変えた場合,証拠調べに入る前に公訴を取り消すかどうかということを判断をするということになるわけです。この段階の判断としては,起訴前に集めた証拠や,あるいは公訴を取り消さずに補充捜査によって集められる証拠,これによって有罪立証が可能だというのであれば,それは公訴を取り消さずに立証を進めていく,他方で,それでは有罪立証に足りないという場合に限って,公訴を取り消すということになるのであろうと思います。仮にこういう時的制限を設けないとしますと,被告人の側からしても,第一審判決があるまで公訴が取り消されるかどうかが分からないまま,反証とか弾劾といった防御活動をすることになってしまいますし,検察官が補充捜査・補充立証を試みたものの,被告人側の弾劾とか反証によって有罪立証がおぼつかなくなった場合に,それでもなお公訴取消しができることとなってしまうのは不合理であると考えられることから,今回,公訴取消しの時的制限というものを設けることとしている次第です。 ○後藤委員 つまり,そうすると,今の御説明でも,被告人の言い分が変わったので即決裁判手続はできない,だからすぐに公訴を取り消すという想定ではない,こういうふうに理解して良いわけですね。 ○保坂幹事 おっしゃるとおりでございます。それだけでいつも公訴の取消しをするという趣旨ではございません。 ○後藤委員 そうだとすると,こういう,特殊な公訴取消しが実際に有用性を発揮するのはどういう事例でしょうか。 ○保坂幹事 被告人の応訴態度が変わったから,さあ,公訴を取り消すというところに力点があるというよりも,即決裁判手続の対象になるような事件でも,現状においては,起訴後にはできない捜査があるから,可能性があるにすぎないような弁解に対する「念のための捜査」までしてから起訴をするということをやっておるわけですが,起訴後に被告人側の応訴態度が変わったら公訴を取り消して起訴前の捜査に戻れますという仕掛けを作っておくことによって,検察官の最初の起訴をなるべく迅速にするような動機付けを与えようという,そこに意義があると考えております。 ○神幹事 「犯罪被害者等及び証人を保護するための方策の拡充」,特に「証人の氏名,住居の開示に係る措置の導入」については,前にも日弁連側から意見が出ていますが,この制度は,被告人の防御に実質的な不利益がある場合には採ることができないということになっているのです。そして,日弁連側から,この被告人の防御に実質的な不利益がある場合という内容について,ある種の例示といいますか,例えば前回ですと,証人等の利害関係,偏見,予断等の証人の信用性に関する事項を調べる必要がある場合といったような例示を付けることによって,実質的に被告人の実質的な不利益ってどんなことかということが分かるようにしてほしいということを申し述べました。この点については,裁判所の方でもそのようなものがあった方が便利だという意見があったと思いますが,今回の「要綱(骨子)」にはそのような例示が入らずに,前の表現のままになっているので,今後もそのままなのかどうかということについて御意見を伺いたいと思います。 ○保坂幹事 御指摘の点につきましては,引き続き事務当局において責任を持って検討したいと思っておるところでございます。 ○本田部会長 まだ御意見もあろうかと思いますが,時間の都合もありますので,「証拠開示制度の拡充」から「自白事件の簡易迅速な処理のための方策」までは,ひとまずここまでにさせていただきます。   最後に,いわば総論的な部分であります「第1 はじめに」を含め,資料69の全体について,何らか御意見等ある方は,御発言をお願いいたします。   本日,最初に行った「取調べの録音・録画制度の導入」の議論においては,かなりいろいろな御評価なり御意見がありましたけれど,その点を含め,全体について,何らか御意見等がありましたら御発言をお願いいたします。 ○小坂井幹事 「第3 附帯事項」に関連するということで,録音・録画に関連してお話しします。   先ほど井上委員が言われたみたいに,録音・録画の義務対象のものと対象外のものが徐々にかどうか相対化していくであろうことは,これは私もそうだろうと思いますし,正にそのための実務の実践というか実務家のプラクティスというのが非常に重要になってくるということはそのとおりだと思うのです。だからこそ,私は,もう一度,立証努力義務規定については,これは是非前向きに検討していただきたいということを申し上げたいと思います。何人かの委員の方の御意見で,矛盾するのではないかとか,そういうことをしてしまうと全体的義務付けになるのではないかというような御意見が出ましたが,もしかしたら「乙案」の「④」の書き方が誤解を招く表現だったのやもしれません。が,そういうことではなくて,先ほどから繰り返し申し上げておりますとおり,刑事訴訟規則198条の4として既に存在しているもの,これを強化しようという趣旨のものであります。ですから,飽くまでも取調べ状況を立証しようとするときに客観的資料を用いて立証に努めなければならないと,こういう規定なわけでありますので,これは取調官にとっては,正にその時々の判断,これはプロで当然できる筋合いであって,何らかの選別は当然可能なわけです。負担が重くなるとか,何らかのそういう形で全事件の義務化と同視されるとか,そのような形にはなりようがないだろうと思われます。現実に争いのある事件でどういう見通しになるかは,皆さんやっていらっしゃるわけで,そういう意味では,「依命通知」の精神と別に異ならないわけです。これを規定化することに何の問題もないと思いますので,是非御検討いただきたいと思います。 ○酒巻委員 今の小坂井幹事の意見には反対です。何人かの委員の方が刑事訴訟規則198条の4の努力義務規定に言及されました。私は,最高裁判所の刑事規則制定諮問委員会において,この規則の策定に携わりましたけれども,この規則を作る際における背景事情と今回御主張されている努力義務規定を法律として書くということは,全く意味が違います。この点については,先ほど上野委員や山口委員がおっしゃったとおり,実質的には義務付けの意味を持ち得るのであり,必要的録音・録画の対象事件を定める法規定との整合性がとれない。法律の条文としてそういう規定ができたときには,その運用,あるいは努力しなかった場合にどうなるのかといったような様々な疑義が生じ得る。現段階において,努力義務規定を法律に設けることについては,私は,法的整合性の観点から絶対に受け入れることはできないと考えております。 ○井上委員 その点なのですが,私もこの規定につながる刑事規則制定諮問委員会の審議に関わりましたけれども,まず第1に,出発点として理解していただきたいことは,裁判所の規則というのは,憲法に規定された規則制定権に基づくもので,法律に準じる非常に重いものだということです。ですから,刑訴規則198条の4については,現状で十分機能している限り,このままで維持して良いと思います。それをあえて法律に格上げすることにどのような意味があるのか,何を意図されているのかですけども,この規則の規定には,「取調べ状況に関する記録」という例示があります。それを録音・録画した記録媒体に書き換える,あるいは,そのような記録媒体をも例示に加えるという御提案のようですが,この規則を作るときに,なぜその「取調べ状況に関する記録」というのを特に例示したかと言いますと,被疑者の取調べについては,その開始,終了時刻,その他の事項を書面で記録することになったということを前提として,そういう記録が一般的に存在するはずだからでありました。ところが,今回,それを取調べの録音・録画制度の導入の結果として作成されることとなる記録媒体に置き換えるとしますと,今回の「取りまとめの案」において提案されているような形で対象事件がまとまった場合,現段階では全ての事件においてそういう記録媒体が存在するとは言えないはずなのに,それが例示とされると,任意性・信用性立証のことを考えると,捜査機関としては,義務化されていない事件でも事実上録音・録画せざるを得なくなり,現段階で全事件について義務化するわけではないということと矛盾してくるのではないかということを,反対しておられる方々は懸念されているのだろうと思うのです。ですから,そんなに簡単なものではなく,意見が食い違ってなかなかまとまらないことになるように私には思われます。そういう意味で,この段階に至って,その点に飽くまで固執されるのかどうかです。今は,もう最後の段階であり,部会長からも全体としての意見をお聞きしたいということでしたのに,個別の問題にまた戻ってまたやるおつもりなのでしょうか。無論,御意見は御意見としておっしゃって良いと思いますし,酒巻委員なども意見を言われたのですから,個別の点に余りこだわってぶり返しのような議論をするのは,このくらいでやめた方が良いのではないかと思います。 ○小坂井幹事 私も個別にこだわってという意味ではなくて,ある意味で,ここに論点が収れんされてきていると思うので,そういう意味でこの問題を取り上げさせていただいたのです。酒巻委員,あるいは井上委員が規則制定委員会のときにいろいろ議論していらっしゃることは私も承知しております。けれども,この刑事訴訟規則198条の4自体は,確かに裁判員制度の導入などを踏まえつつ,あるいは裁判員制度に限りませんけれども,今までの水掛け論を避けて客観的資料に基づくプラクティス,新たなプラクティスを検察官に求めると,そういう趣旨であったことはこれは間違いないんです。そのときに例示として刑事訴訟法316条の15第1項8号に規定された取調べ状況を記録した書面が確かに挙げられておるけれども,このいわゆる8号書面もまたこれ全ての事件にあるわけではありませんよね。もちろん多寡はありますよ。だから今の録音・録画記録,今後できるであろう録音・録画の記録媒体よりも8号書面の方が量的には多いだろうと言われるのであれば,そういう相対的な差は認められます。けれども,趣旨自体は飽くまでもこれは客観的なもの,客観的資料に基づいてということで,現にこの刑事訴訟規則198条の4が制定された段階から,録音・録画の記録媒体があれば,それを用いることも一つであると,こういう形で努力義務規定が設けられたわけです。そういう理解です。ですから,もちろん規則を法に格上げするには更なる議論が必要であって,もし,この部会で一致しないのであれば,それはやむを得ないかもしれませんが,この刑事訴訟規則198条の4の規定自体は,これは,今後,録音・録画記録媒体が広汎化することによって,間違いなくこのままでは済まない規定だと,私は率直に言って思います。重たいものかもしれませんが,これはこれで見直しが当然必要になってくるのではないか。これは私なりの意見です。更に申し上げれば,「依命通知」は制度である,あるいは今後運用でやっていくんだと,そういうことを皆さんが強くおっしゃる状況の中にあって,それを法という形で格上げすることは一つの意味が当然あるわけですし,前向きに御検討いただいても良いのではないのかなというのが私の意見です。 ○井上委員 しかし,もしそういうことであれば,現在の規則で十分ではないかというのが私の意見です。 ○大久保委員 本日もそうですけれども,それぞれ立場が異なるために委員等から毎回相反する意見ですとか要望が錯綜するこの部会の議論状況を,資料69の「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果【案】」に反映して,よくここまでまとめてくださったと,私は感謝を申し上げたいと思います。   それとあと,「第4 今後の課題」に記載されてあります「被告人の証人適格」についてですけれども,虚偽供述を罰するための方策について,このことを検討していた当時は黙秘が増えるのではないかということで不安感を示しましたけれども,でも,今はもう一度考える価値があるのではないかというようにも考えておりますので,「今後の課題」にありますように,引き続き検討をお願いしたいと思います。 ○松尾関係官 29回の御審議を取りまとめて今日の案になり,更に「要綱(骨子)」も頂きました。「要綱(骨子)」は,部分的にはほとんど法律の条文に近い内容でもありますが,法律を立案します際に,内容の正確を期すれば期するほど複雑なものになることはやむを得ないところであります。しかし,この部会でも刑事訴訟法は国民に分かりやすいものでなければならないという御発言を何度か承りました。そういう立法の平易化という視角から見ますと,例えば,今日の「要綱(骨子)」の中にも条文の中に括弧をつけ,更にその括弧の中にもう一つ括弧が入っているという,いわゆる二重括弧の規定なども含まれておりまして,これは,ほとんどレッドカードのケースに近いのではないかと思います。もちろん,条文の形に仕上がること自体は部会の職責ではありませんけれども,「要綱」の段階でもある程度その点を考慮に入れた方が望ましいのではないかと思います。それにはまたいろいろな工夫があり得るとは思いますので,事務当局の方に一段の御努力をお願いしたいと考える次第です。 ○本田部会長 今の点に関連して申し上げますと,これまでの部会のように,要綱案だけを示しても,一般の人には分かりにくいので,詳細な要綱案のみならず,その概要や趣旨などをも書き込んだ形の「取りまとめの案」としております。そういうことで,今までのやり方とはちょっと違ったかもしれないけど,そこはお許しいただきたいなと思います。   それでは,もう時間の関係もございますので,本日の議論はここまでとさせていただきます。   事務当局には,本日の議論を踏まえ,取りまとめに向けて,更に様々な検討を加えてもらいたいと思います。特に,「取調べの録音・録画制度」につきましては,「附帯事項」の書きぶりなどについていろいろな御指摘も頂きましたし,他の点につきましても御指摘がありましたので,資料69に必要な改訂をしてもらい,次回は,それに基づいて,引き続き,取りまとめに向けた議論を行いたいと思います。   そして,可能であるならば,次回は,最終的な取りまとめを行いたいと思っております。   次回の具体的な議事予定につきましては,近日中に事務当局を通じてお知らせいたします。   予定していた事項は全て終了しましたので,これにて本日の議事を終了したいと思います。 本日の議論におきましても,特に公表に適さない内容にわたる発言などはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきます。   是非,次回には,何とか取りまとめができますように,皆様の御協力をよろしくお願いいたします。   次回は,既に御案内のとおり,7月9日水曜日を予定しております。開始時刻につきましては,事務当局を通じて追って連絡をさせていただきたいと思います。場所は,本日と同じ会議室にお集まりいただきたいと存じます。   それでは,閉会いたします。本当に長時間ありがとうございました。 -了-