法制審議会国際裁判管轄法制 (人事訴訟事件及び家事事件関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成26年5月23日(金)  自 午後1時30分                        至 午後5時36分 第2 場 所  東京地方検察庁会議室(1502号) 第3 議 題  離婚関係事件の国際裁判管轄 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○高田部会長 では,予定した時刻になりましたので,国際裁判管轄法制人事訴訟事件及び家事事件関係部会の第2回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。    (前回欠席された委員の自己紹介につき省略) ○高田部会長 道垣内委員,岡田幹事は,本日は御欠席でございます。   次に,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきます。事務局からお願いいたします。 ○内野幹事 部会資料,資料番号2,検討課題1,離婚関係・婚姻関係事件というものをお配りしています。あと,参考資料といたしまして,資料番号2から4ということで,関連の最高裁判所の判決をお配りしてございます。   以上,落丁等ございませんでしょうか。よろしいでしょうか。 ○高田部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず,初めに,前回の部会で出た御質問に対する御説明をいただきたいと存じます。人事訴訟法4条の改正経緯につきましては,事務局から,後に問題となる箇所で説明すると聞いておりますので,ここでは,裁判所の委員,幹事の方から,現在の実務で,我が国の身分法において同一のものがない事件,例えば同性婚の解消,それから,準拠法上調停によることができない事件について,どのように処理しているかということについて御説明いただければと存じます。 ○秋吉委員 東京家裁家事部の現在の裁判官に,まず,日本法ではおよそ想定できないような類型の事件というものを実務で扱った経験があるかを尋ねてみましたが,そのような経験を有するという回答はございませんでした。そして,そのような事件についてどのように扱うことになるだろうかという点につきましては,日本法上は存在しない事件類型であったとしても,その事件類型を含む国際人事訴訟法上の概念が存在する場合には,その概念に関する規律に従って処理をすることになるものと考えられます。また,その事件類型を含む国際人事訴訟法上の概念がないと解される場合には,その事件類型と類似点を有する日本法上の事件類型に関する規律,これを類推したり,その趣旨をしん酌したりして処理することになるものと考えられるということでございます。   また,同性婚の解消につきましても,これを直接実務で扱った経験のある者はございませんでした。しかし,国際人事訴訟法上,同性婚の解消については,離婚の概念に含まれるか,あるいは,類似するとして離婚の規律に従って処理するべきであると考えております。   具体的には,まず類似の法律関係である離婚として国際裁判管轄を検討し,国際裁判管轄がない場合はそれを理由に却下する。国際裁判管轄がある場合には,通則法27条によって,準拠法の決定をし,準拠法に同性婚がある場合には,更に通則法42条によって,その規定の適用が公序良俗に反するかどうかを判断することになると考えられます。 ○和波幹事 渉外調停の国際裁判管轄について,改めて補足をさせていただきたいと思います。   まず,実務の運用等も確認してまいりましたけれども,まず,渉外調停についても,国際裁判管轄の問題というものは独立して観念することが可能であろうという考え方が一般的でございまして,これは前回御説明をしたとおりですけれども,まずは,その問題となっている事件類型と申しますか,法律問題について,国際裁判管轄を調停についても検討することになります。そして,国際裁判管轄があるとなった場合に,初めて,今度は準拠法上の問題として当該法律問題について調停が可能かどうかという判断の順序になるであろうということは,実務の方も余り異論がないというところでございました。   次に,準拠法上調停が可能かどうかという問題でございますが,前回,私の方は簡単に準拠法上の問題ということで御説明しましたけれども,若干これは舌足らずでございまして,実務の運用について,更に補足をさせていただきたいと思います。   この問題といいますのは,例えば,準拠法上そもそも当該国では調停に相当するような制度がない場合でありますとか,あるいは,当該法律問題について当事者の任意処分が許されずに裁判によらなければいけない場合,例えば,離婚なんかがよく挙げられているわけですが,裁判離婚だけが認められていて,当事者の合意による協議離婚がないような場合に,これを調停で扱うことができるか。これが,いわゆる調停の可能性の問題と整理をされているんだろうと思います。   この点につきましては,議論のあるところであろうかと思いますけれども,実務の考え方としましては,調停は合意を基礎とするとはいいましても,国家機関である裁判所が関与する手続であるということ,その結果の正当性については調停委員会が一定の判断をしていて,それについての一種のスクリーニングがされているということ,最終的に出来上がった調停調書につきましては,これは日本法上ではございますが,確定した判決,あるいは確定した審判と同様の効力が認められていることを考慮しまして,準拠法上,裁判離婚だけが定められていて協議離婚がないような場合であっても,基本的には調停を行うことは可能であるという考え方が実務ではとられているところでございます。   しかしながら,これも全ての実務がそうだというわけではございません。やはり準拠法上,当事者の任意処分が許されていないような場合には,これは,例えば合意に相当する審判ですとか調停に代わる審判という形で,調停ではなく審判の形で処理をするという実務もあると聞いておりまして,この点については必ずしも統一的な取扱いがされているわけではないということを御紹介させていただきたいと思います。   また,調停という形をとるのか,あるいは審判という形をとるのかに関わらず,準拠法上の実質要件がどういうものであるのか,あるいは,その準拠法上の実質要件を満たした場合の効果がどういうものであるのか,これについては配慮をしているというのが一般的な考え方でございます。したがって,いずれにしても準拠法上の問題は出てくるということになろうかと思います。   この点については,更に,仮に調停を成立させるとしましても,渉外の問題でございますので,外国,当該問題となっている国で承認されなければ意味がないという場合も少なくないと聞いております。そういう点に配慮するということだと思いますけれども,例えば,準拠法上の実質要件について,通常,調停であれば,最終的な合意の内容だけが調書に記載されるわけでございますが,準拠法上の実質要件を満たしているんだということをあえて調停調書の中に記載するとか,あるいは,調停調書の末尾に,この調停調書の効力というのは確定した判決,あるいは審判と同様の効力を有するというような付記を行う。こういうことが望ましいということも言われたりしております。   あるいは,これはもっと実務的な話になりますが,当該国の大使館なりに,こういう合意をして調停をした場合に承認される可能性があるかどうかについて,あらかじめ可能であれば聞いておくことが望ましいというようなことも言われておりまして,実際の実務でも,そういう配慮がされている場合もあると聞いております。   実務の運用ということで,補足をさせていただきます。 ○高田部会長 どうもありがとうございます。   何か御質問等ございますでしょうか。 ○大谷幹事 質問ではないですけれども,1点目の調停の場合の管轄の問題につきましては,今,御説明いただいた考え方が本則だと思うんですけれども,現実には,私自身,全国のいろいろな家庭裁判所での実務経験では,必ずしも訴訟の場合に用いられている管轄の考え方を前提に調停の管轄があるかどうか判断をしているというよりは,むしろ,とりわけ外国に相手方がいる場合の扱いですけれども,外国にいる相手方が,日本の調停手続に応じて出頭する意向があるかどうか,それによって,調停を始めるという扱いもされているのが現状です。   その場合に,裁判所の方でまず呼出状を送ってみて,参加するということであればやりますという場合もございますし,事前に申立人の方で調停に応ずるかどうかの意向を確認してほしいと,それがあれば受け付けますという扱いをされた経験も何度かございますので,補足として申し上げたいと思います。 ○高田部会長 ほかに何かございますでしょうか。   よろしいようでしたら,先に進ませていただきます。   本日から具体的内容の議論に入ります。本日は,離婚関係,婚姻関係事件についてです。事務局作成の部会資料2を基に議論していきたいと思いますが,分量も多いようでございますので,適宜区切りながら議論を進めたいと存じます。   では,まず事務局の方から説明をお願いいたします。 ○近江関係官 それでは,配布資料の2に基づいて説明をいたします。まず初めに,第1として,「離婚に関する訴え」についての国際裁判管轄を取り上げています。   単位事件類型としての「離婚に関する訴え」とは,離婚の訴え,協議上の離婚の無効及び取消しの訴えを想定しております。部会資料の人事訴訟法の条文の後ろに「参照」と付けておりますこと,それから,「なお」以下で注記しましたとおり,部会において,我が国の民法を準拠法とする場合のみならず,外国法を準拠法とする同様の事件も含めて,御議論を頂ければと思っております。   まず甲案は,身分関係の当事者である被告の住所地を一般的な管轄原因とし,他方,身分関係の当事者である原告の住所地は一般的な管轄原因とはしないとする考え方であり,基本的に受動的な立場にある被告の防御権をより十分に保障し,応訴の負担を考慮する必要があるという認識に基づくものです。   ただ,甲案も,身分関係の当事者である原告の住所地には一切管轄を認めないという趣旨の見解ではなく,事件が我が国と更に一定の関連性があるというべき場合については,原告の住所地にも管轄を認め得るとする考え方です。   また,甲案については,昭和39年判決をリーディングケースとする裁判例の動向にも親和的であるというような指摘がされているところです。   もっとも,前回,道垣内委員からも御指摘がありましたが,判例の理解については,より原告住所地管轄を認めることに肯定的とも見られます平成8年判決との関係で,先ほど述べたものとは異なる考え方もできるものと思われます。   もとより,今回の法制について,一定の根拠に基づくものであれば,判例の見解から離れることができないというものではありませんが,現在の判例をどう評価するかということを一応検討しておくことは有益であると思われますので,この点についても,併せて御議論を頂ければと思います。   また,この甲案,乙案の関係について,前回,人事訴訟法の定める国内裁判管轄の規定の変遷との関係について指摘がされました。人事訴訟法の定める国際裁判管轄との関係は,この部分のみならず,幾つかの箇所で問題になるものではありますが,ここでまとめて簡単に御説明しておきたいと思います。   人事訴訟法における離婚の訴えに関する国内裁判管轄の規定は,当初は夫の住所地と定められていました。なお,正確には,住所地ではなく,普通裁判籍を有する地ですが,普通裁判籍か住所かという点については後ほど扱いますので,ここではそれを捨象して,単に住所地と呼びます。   離婚の訴えの国内裁判管轄は,当初は夫の住所地と定められておりましたが,昭和22年の改正によって,夫の氏を称する場合には夫の住所地,妻の氏を称する場合には妻の住所地と改められました。   この改正の理由については,夫の住所地のみを管轄原因とすることは,憲法上の男女平等原則に反するということ,更に,夫婦の婚姻生活はその氏を称する者の住所地を本拠として営むことが通常であると考えられており,そこを管轄地とすることが,証拠収集,あるいは裁判所の審理のために合理的であると考えられたこと,これらのことから昭和22年の改正がされたと説明されています。   更にその後,昭和51年には,次のように段階的に順位付けられた規定に改められます。すなわち,第一順位が夫婦の共通住所地,第二順位が夫婦の最後の共通住所地,なお,この場合,夫婦の一方がなおその地の裁判所の管轄区域内に住所を有している場合に限るという限定が付されています,そして,第三順位として,夫又は妻の住所地,こういう三段構造の規定になりました。   このような三段構造の規定に改められた理由としては,当時の我が国においては,実態として夫婦は夫の氏を称するケースがほとんどであり,婚氏を元来称していた側の住所地を管轄原因としたのでは,実際上,夫の住所地を管轄原因とすることがほとんどとなり,男女平等に反していると考えられたことによります。また,婚氏を元来称していた者の住所地が婚姻生活の本拠地となることが多いことが昭和22年改正の一つの理由だったわけですが,実際に管轄原因となるのは,当該者の訴え提起時の住所地ですから,それが直ちに婚姻生活の本拠地に結びつかないことが指摘され,このような点から改正がなされたと言われています。   そして,人事訴訟法の制定に際しまして,夫婦の最後の共通住所地という三段構造の管轄の第二順位の管轄原因が削除され,その結果,第一順位が第三順位に包摂されたことにより,最終的に,第三順位の夫又は妻の住所地に一本化されるということになりました。   この理由としては,次のようなものが挙げられています。まず,離婚に先立って妻が夫と同居していた住居を出ていっていることが多いという当時の現状のもとで,最後の婚姻住所地を管轄原因にしますと,妻に不利になってしまうことが多いこと,次に,婚姻住所地を管轄原因とする背景には,婚姻住所地には証拠がもっとも豊富に存在する蓋然性が高いことが根拠としてあったわけですが,交通や通信手段が発達し,あるいは,テレビ会議による尋問などの規定が新設されたことにより証拠の所在地でなくとも訴訟等への対応が可能であること,最後に,夫のドメスティック・バイオレンスによって妻が夫と同居していた住居を出たような事例では,夫もその婚姻住所地を離れて裁判所の管轄区域外に転居している場合,妻がもとの婚姻住所地の管轄裁判所の管轄区域内に住んでいるというようなときは,旧人事訴訟手続法の規律を維持しますと,第二順位の管轄があるために,妻は自らの住所地を明らかにしなければいけないため,当該事例では,これは不都合ではないかというような指摘がされたこと,このような点が,人事訴訟法制定の際に住所地の管轄が変更された理由であると言われています。   更に,前回の御議論の中で,人事訴訟法の制定において原告の住所地の管轄を認めるに際して,被告の応訴負担との関係,特に移送の規定があることとの関係が議論されたのではないかという御指摘がありました。   法制審議会の議事録を見直してみますと,人事訴訟法分科会の御議論では,管轄の所在について先に訴えた者勝ちになるのではないかというような議論,原告の住所地への管轄を認めると競合管轄になるわけですが,そうなると移送の申立てが多くなるのではないかというような議論,あるいは,例えば,離婚の事案において,その夫婦に未成年の子がいる場合,子を監護している親の住所地を管轄とすべきではないかとの意見に対し,それは移送で対応できるという議論,こういったような議論があったようです。移送の申立てが多くなるという議論は,被告の応訴負担に特に配慮すべきか否かの問題につながり得るものかもしれませんが,被告の応訴負担の問題自体を取り立てて中心的に議論していたわけでは,どうもなさそうであるということです。   以上が人事訴訟法及び人事訴訟手続法における国内裁判管轄規定の変遷についてです。   国内裁判管轄については,今述べましたとおりですが,甲案については,国際裁判管轄に関し,原告及び被告の住所地を管轄原因とする現行の人事訴訟法の国内管轄とは異なる規律を設けるという提案をすることになります。   国際裁判管轄の管轄原因については,外国の裁判所で手続を行わなければならない負担を考慮すると,国内訴訟と同様に考えることはできないという指摘もされているところですが,この他に,甲案の立場から,国内の裁判管轄との規律の違いを正当化することができる視点を御指摘いただければと思います。   次に,乙案ですが,乙案は,身分関係の当事者である被告の住所地のほか,身分関係の当事者である原告の住所地にも一般的な管轄原因を認めるものです。これは,身分関係の解消を求める身分関係の当事者である原告の救済に一定の比重が置かれるべきであるという考え方に基づくものです。   部会資料の最終ページに外国法制を幾つか引用しておりますが,ブリュッセルⅡbis規則や,ドイツの家事事件及び非訟事件の手続に関する法律などは,条文を見ますと,おそらくこの考え方を採用しているのではないかと思われます。   乙案に対しては,過剰な管轄を許容することになるのではないか,また,その結果として我が国の裁判が外国で承認されないおそれがあるのではないかといった意見もあるところですので,この件についても,併せて御議論いただければと思います。   また,外国裁判の承認の問題については,後に総論的な議論を行う際に取り扱うこととさせていただきたいと思っておりますので,ここでは特段の記載はしていませんが,間接管轄に関する規律というのは,直接管轄と全く同じかどうかには争いがありますが,少なくとも基本的には直接管轄と同様に考えると言われておりますので,そうすると,我が国の管轄権を広く認めることは,外国裁判の承認の観点から見ますと,民事訴訟法118条1号の管轄権の要件についての観点からだけではありますが,外国裁判を承認すべき範囲を広げることにもなります。この間接管轄の点についても併せて考慮に入れた上で,乙案への評価を御議論いただければと思います。   以上では,甲案と乙案とを対比させつつ説明してきたわけですが,しかし,一方で,甲案,乙案の考え方の対立は,緊急管轄ですとか,あるいは特別の事情による訴え又は申立ての却下という総論的な規律の在り方とも関係するものでありまして,これらの議論の規律の在り方,あるいはその解釈によっては,甲案,乙案で具体的な事案における最終的な結論には大きな差異がないことが多いのではないかという指摘もされているところです。   したがって,甲案の③ですとか,あるいは総論における管轄規定の議論,こういったものを念頭に置きますと,甲案と乙案との基本的な考え方のどちらから出発するにしても,具体的事案の解決に差異が出るのか,言い換えますと,どのような総論的な規律,あるいは甲案③のような管轄を設ければ,両者でほぼ同じような具体的な結論が得られるのかという点についても御議論いただきたいと思います。   最後に,先ほど捨象しますと申し上げた点ですが,管轄原因として,普通裁判籍ではなく,住所を提示しています。ここでいう管轄原因としての住所につきましては,国際民事訴訟法上のそれの同義と捉えることになると思われます。   これに対して,国内裁判管轄に関する人事訴訟法4条は,普通裁判籍を管轄の基準として規定しています。そこにいう普通裁判籍の意味は,民事訴訟法4条2項によることになりますので,住所,住所がない場合は居所,それもない場合は最後の住所という段階的なものが想定されているということになります。   財産権上の訴えについては,国際裁判管轄についても民事訴訟法3条の2第1項によって,同じような段階的な概念が管轄原因とされています。   また,民法23条1項を見ますと,住所が知れない場合には居所を住所とみなすという規定になっておりまして,これは,先ほど述べたような人事訴訟法の国内裁判管轄の規定,あるいは財産権上の訴えに関する国際裁判管轄の規定と整合的といえるように思われます。   今回提示いたしました案は,いずれも,これとは異なり,住所というものを管轄原因とする案をお示ししています。そこで,普通裁判籍ではなく住所を管轄原因とすることが妥当である理由に関しても御議論いただければと思います。 ○高田部会長 では,一旦ここで区切ります。最後の,住所の問題については,若干性質が違う議論でございますので,その前までの甲案,乙案の対比とその異同等を踏まえて,いずれのアプローチが適切かという点について,まず御意見をお伺いしたいと思います。   どなたからでも,御自由に御発言いただければと存じます。 ○池田委員 質問ですけれども,研究会の報告書では,甲案には,最後の婚姻住所地が括弧付きではあったんですけれども,今回の甲案には全く記載がなくて,補足説明で,ここには入っていないという解説に変わってしまっているんですけれども,これは経緯とか,何かあるんでございましょうか。 ○近江関係官 部会資料における甲案,乙案の提示というのは,甲案と乙案との差を際立たせるという観点から,甲案については,比較的狭い甲案を提示し,それと,割合広めに管轄原因を認める乙案という対比で議論していただくのが分かりやすいと考え,研究会の報告書では亀甲括弧になっていた部分については,本文からは外して提示をしています。 ○高田部会長 今説明があったとおりの事務局の御判断のようでございます。報告書で申しますと,甲案の4にも最後にさらに亀甲括弧が付いているわけでございますが,この部分も外されているということで,複雑な規律を提示するよりも,対比が見えやすい環境を提示することによって御議論を頂ければという御趣旨ではないかと拝察しております。   したがいまして,最終的にどういう形になるかということを見据えて御発言いただければと思いますが,それでよろしゅうございますか。 ○北澤幹事 確認ですが,事務局で御用意いただいた部会資料の2の4ページのところで,乙案を支持する根拠の一つとして,外国法制について紹介されています。このブリュッセルⅡbis規則3条第1項(a)というのが,乙案に非常に似通っている規定であるという理解なのだと思うのですけれども,外国法制等の調査報告書では,このブリュッセルⅡbis規則の第3条第1項(a)号では,確か管轄原因として六つの基準が挙げられていたと思います。そこでは,当事者の一方の住所がEU構成国にあるというような概括的な書き方をしている規定というよりは,第一に,夫婦双方がEU内の構成国の一つに常居所を持つ場合,第二に,夫婦双方が構成国の一つに最後の常居所を持っていて,配偶者の一方がまだその国に居住している場合,第三に,被告配偶者がEUの構成国に常居所を持つ場合,第四に,夫婦双方による共同申立ての場合は,その一方が構成国の一つにその常居所を持つ場合,第五に,原告配偶者が構成国の一つに常居所を持っており,しかもそこに申立て直前の1年以上前から居住している場合,第六は,原告配偶者が国籍を持つ構成国に常居所を持っており,しかもそこに申立て直前の6箇月以上前から居住している場合という細かな基準が挙げられています。この第一から第六の基準をざっと見ると,当事者の一方が住所を日本に有していれば管轄が認められる乙案のような規定と全く同一の基準を採用していると考えるのはどうも適切ではないような気がしております。確かに,ブリュッセルⅡbis規則第3条第1項(a)号の規定には原告配偶者の常居所も管轄原因とされる点で乙案と似通っている部分がありますけれども,例えば,原告配偶者の常居所を考慮する場合には,一定期間の居住の要件が課されるとか,少し限定を付けてお書きいただいたほうが正確なのではないかという,これはどの案を採用するかとかということではなく,確認の質問でございます。 ○高田部会長 御指摘ありがとうございます。条文は,部会資料2の16ページを参照いただければと存じます。 ○西谷幹事 今の御発言とも関係するのですが,乙案の立法例として,ドイツのFamFG98条も挙げていただいています。この規定も,原告の常居所を基準としたうえで,当事者のいずれの本国においてもドイツ判決の承認が否定される場合にはその限りでないと定めており,裸の原告の常居所というものを管轄原因とするわけではありませんので,補足させていただきます。   もっとも,今ご指摘のあったブリュッセルⅡbis規則につきましても,原告の常居所を管轄原因と認めた上で,そこに1年間という居住要件を付しているに過ぎず,被告が行方不明である等の事情を考慮しているわけではありません。したがって,振り分けるとすれば,ドイツのFamFG98条と同じく,乙案に近いと言ってよいと思います。 ブリュッセルⅡbis 規則は,被告の常居所を管轄原因とする場合には居住要件を全く課していないのですが,原告の常居所を管轄原因とする場合には1年間の居住要件を課しており,原告管轄を一定範囲で制限するものと解されます。乙案を採用し,端的に原告の住所地管轄を認める場合にも,更に一定の居住期間を要件として課すかどうかは,研究会でも議論になっておりましたので,もしよろしければ,この点も併せて御検討いただければと思います。 ○高田部会長 ありがとうございます。   では,改めまして,前回も,今回の資料で申しますところの甲案,乙案につき,甲案を支持する御意見,乙案を支持する御意見いただいたところですけれども,本日は具体的な議論に入りますので,改めて御発言を頂ければと存じます。   先ほど事務局の説明で,御議論いただきたい事項を幾つかご指摘いただきましたので,その辺りからまいりましょうか。   まず,判例の理解ということについて,前回,道垣内委員からも御発言いただいたわけですけれども,昭和39年判決の読み方と申しますか,理解の仕方につきまして,その後,財産事件で,被告の住所のみならず,日本と一定の法的関連性がある事件については管轄を持つという判示がされ,更に平成8年判決が出ているということを踏まえて,現時点で昭和39年判決をどう理解するかということについて何か御発言があれば賜りたいと思います。 ○大谷幹事 今日的には,昭和39年判決は,離婚の国際裁判管轄について,一般原則的な被告の住所地基準を認めて,原告の住所地を例外的に幾つかの要件を課して管轄原因とすることを定めたものであって,当事者の国籍に関係なくこの基準が適用されると,少なくとも実務の弁護士の間,あるいは裁判所においてもそのような理解がされていると,実際の事件の中で感じております。   ただ,この判決の判例解説を読みましても,また,今日の部会資料2の2ページに,昭和36年当時の法制審の案を御紹介いただいておりますけれども,判例解説の読み方なのかもしれませんが,素直に読む限り,私の理解では,やはりあの事件では原告が元日本人であったとはいえ,離婚訴訟の段階では外国籍になっていたということで,そこに一種の特殊性があったのではないかと思います。もちろん,昭和36年のこの試案はそのままになっているわけですけれども,当時の乙案でも国籍が一応管轄原因として考えられていた。昭和39年判決のあの事件においては,もし原告が日本人であれば,もう少しそれは認めるべきという感覚が裏にあって,ただ,両者とも外国籍である場合に果たして日本でこの離婚事件を扱うことができるのかということから示された,もちろん大法廷判決ではあるんですけれども,事案の要素というのもあったのではないかと私自身は思っています。   したがって,平成8年判決の方も,これは現在では緊急管轄を認めたものであって,平成8年判決の基準に基づく管轄は例外的に認めるという説明がなされることがある一方で,読み方によっては,平成8年判決の中で傍論的にですけれども,昭和39年判決は事案を異にし本件には適切でないと書いてあるところを少し読み込んで,原告が日本国籍である場合に,もう少し昭和39年判決よりも広く認めるべきだと言ったのだという考え方も,やはり一部にはございまして,今回も,この二つの判決の読み方,あるいは,今どちらかというと住所という管轄基準について議論をしていますけれども,国籍,特に原告が日本人である場合の管轄の考え方を考える際には,やはりその辺りも考慮しながら議論する必要があるのではないかと思っております。 ○高田部会長 ありがとうございます。   先ほど,事務局の説明にもございましたように,恐らく現時点では,日本と一定の法的関連性がある事件であれば被告の住所地以外の管轄原因が認められ得るという点については,ある程度の共通認識があるということで,そうした方向での議論というのは直ちにこの判例の理解に抵触するわけではないという理解ということでよろしゅうございますでしょうか。   それを踏まえて,甲案,乙案ということでございますが,自由に御議論いただければ有り難いですが,先ほど,これまた事務局から,国内事件,国内裁判管轄とのバランスということが指摘されております。国内事件の管轄も,当然のことながら,被告の広い意味での応訴の負担,手続保障という観点を踏まえて,原告の離婚判決を得る利益との調整を踏まえて規律ができているところかと思いますが,これと違う規制を国際裁判管轄について設けることの合理性という観点からの御指摘を受けました。その辺りについて御意見賜ればと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(弘)委員 直接今の御指摘の点とは違うのですが,やはり甲案も被告の住所が日本にある場合だけに限定しているわけではなくて,それ以外の日本との事件の関連性みたいなものを加えたものをやはり想定しているわけで,それと対立するのが原告又は被告の住所が日本にあればいいという乙案なので,やはりそのプラスアルファの部分も踏まえた上ででないと議論がしにくいのではないかというのがちょっと抱いた感想でございます。議事の進め方に異議を述べているわけではないのですけれども。 ○竹下幹事 甲案,乙案で言えば,事務局からの御質問がまずそのどちらだということだと思いますので,私の個人的な意見では,甲案ということでお願いできればと思います。ただ,私が甲案の今の内容を支持するかというと,やはりそれもまた今後詰めなければならないことが多数あると考えております。   1点お聞きしたいんですが,もちろん価値判断があるとは思いますが,仮に乙案から進めるとすると,これまでの判例の考え方とはやや異なるように思われるんですが,その異なる扱いをする立法事実のようなものは何か実務の側から上がってきているとかあるんでしょうか。原告住所地管轄をどうしてもこれぐらい広く認めないと困るというような事情です。例えば,先ほど大谷幹事から発言があった調停の際に原告しか日本にいなくて,外国にいる相手方も応じていいと言っているようなものであるとすると,例えば,2ページ目の参考資料で挙がっているかつての昭和36年のときの法制審議会国際私法部会小委員会のような提案でも十分賄えるような気がいたしておりまして,相手方も応じるのであれば,日本に国際裁判管轄を認めてよいという規律にすれば,十分先ほど御発言があったような調停をしっかりやるということはできると思います。   確かに乙案が国内管轄との平仄を合わせるという観点からの御提案であることは分かるんですが,他方で,やはり議論は国際裁判管轄の議論でございますので,国際裁判管轄を広く認める立法事実のようなものが何か根拠として必要になってくるようにも思われ,何かもしそういったものがあるとするならば,御教示いただければと思います。 ○大谷幹事 立法事実は,少なくとも私自身が関知している限り,ございます。それは,データ等で示せと言われると大変困るのですけれども,といいますのは,私自身が長年,相当高い割合で渉外家事事件を扱ってきている中で,昭和39年判決の基準で非常に困ったことがたくさんあるという自分自身の経験,それから,私自身が渉外家事離婚事件を扱う弁護士からよく相談を受けて,非常にこの管轄の点で困っていると言われます。私自身の経験以外にもたくさんあります。それから,本日どこのタイミングで御紹介しようかと思ったんですが,特に沖縄で女性の方たちから国際離婚の相談を受けておられる団体の方から,日弁連の弁護士を通して,この部会で発言の機会があればということで御意見を頂いていますけれども,その中には国際離婚をしたけれども結婚生活がうまくいかなくて,日本で離婚手続を開始する必要がある方たちが安心してできるように,原告の住所が日本にある場合に日本で離婚訴訟ができるような制度を設けていただきたいという要望書を頂いております。この辺りの感覚は私自身が実務でやってきた感覚と非常に合致しているので,私の方から御紹介させていただきます。 ○山本(和)委員 私自身は前回,若干この点については申し上げまして,今のところ甲案的な方向で,先ほど来出ているように,どこまでプラスアルファ的なものを認めていくかということがあると思うんですが,それで詰めていって,ただ,どうしてもやはり甲案的なアプローチで拾い切れないということになると,乙案の方に行くということも考えられるかなということで,定見は今のところないんですけれども,方向としてはそういうことで考えていくべきだと思っています。国内管轄との違いという点では,これは皆さんに言うまでもないことだとは思うんですが,やはり移送の規定の存在というのは大きいと思っていまして,前回の人事訴訟法分科会で,私も確か参加していたと思うんですけれども,そのときの議論の中では,やはり移送と一種ワンセットで,つまり,管轄を広げた場合に移送でそれを調整するということはかなり多くなるだろうということは前提にしながら,それでも広げようという政策決定をしたんだろうと認識をしておりまして,ただ,国際裁判管轄の場合には,結局この特別な事情による却下というのをどういうふうに考えるかということに関わってくるのかなと思うわけですが,やはり移送とは少し違うということであるとすれば,管轄の方もそれとワンセットだと考えるとすれば,必ずしも国内管轄と一緒ということには,当然にやはりならないんだろうと思っています。 ○山本(克)委員 私も人事訴訟法分科会の幹事でしたので,国内管轄についてそういう議論をされたことは承知しておりまして,今,基本的な考え方については山本和彦委員とほぼ同じだろうという感じがしました。   私が手を挙げたのは,大谷幹事にもう少しその「困った」の内容をお教えいただけられると有り難いなと思ったからです。単に訴えが提起できないので困るというだけでは,多分,国際管轄を認める根拠としては薄弱なので,もう少し詳しく,今日でなくても結構ですから,お教えいただくと議論が活性化でできるのではないかなという気がします。 ○大谷幹事 まず,大前提としまして,甲案と乙案は詰めていくと余り最終的には変わらないところがあるのではないか,どちらから出発するかの問題だという部分があるのは,私もそのように思います。ただ,甲案では被告の応訴の負担,不利益ということが非常に重く考えられていまして,その中には外国の裁判所で手続を行わなければならないことの不利益と説明されるわけですが,これは逆に言いますと原告にとっても同じことで,被告の不利益,つまり日本に呼び出されて日本で手続に応じなければいけない被告の利益というものを重んじ,日本の管轄を否定されると,原告としては,被告のいる外国の裁判所で手続を行わなくてはならない。これは国内で原告の住所地,被告の住所地のどちらで提訴するのかということを超えて,原告にとっては,相当負担なわけです。   その被告の住所地というのが,必ずしも原告がそこで提訴を強いられなければいけないような場所であるかというと,そうでないことも案外あります。つまり,その地が,例えば原告,被告が婚姻住所として生活していた地ということであれば原告,被告ともに関連のある地ですし,そこで訴訟を提起しなければいけない不利益を原告の方が負わざるを得ないというのは一定程度説明が付くと思うんですけれども,被告の方も移動することも結構ありますので,原告にとっては全然関係のない,被告が住んでいるということでの関連性はありますけれども,そこで訴えを提起せざるを得ないという発想が甲案の基本になっているものですから,それは困るというだけでは足りないと思うんですけれども,同じように外国の裁判所で手続を行わなければならないことの不利益というものをどちらが甘受するかという点では,やはり非常に原告にとって酷な基準だというのが実務の中での感想です。   それから,甲案,これは昭和39年判決どおりではないですけれども,それでも,甲案で特に行方不明とか,それから,遺棄されたという言葉が元々はあって,遺棄は今回の提案には入っていませんけれども,でも,甲案の③には行方不明というのが残っています。現実には,この行方不明というのを,どうやって,どこまで立証するのかということが非常に実務の中では案外難しいです。   非常に簡単に行方不明を認定される場合もありますし,そうだとすると,果たして本当に被告の応訴の利益を逆に保障しているんだろうかと疑問に思うような簡単な行方不明の認定もありますし,それから,最近ですと,特にEメール等の方法で被告とは連絡は取れている,だけれども,送達すべき住所がどこかということが分からないような場合に,果たしてこれは行方不明というのかどうかみたいなことをめぐって,管轄の点だけでずっと争うような事案が複数経験があります。   それから,被告の住所が日本国内にあるときと言いますけれども,この被告の住所が,最近の家族というのは結構移動が激しいので,被告の住所,原告の住所,これもどこにあると本当に認定がしにくい。いろいろ出たり入ったり移動している中で,そもそも,例えば被告自身はいろいろ動いているんだけれども,原告ははっきり日本にいるということであれば,日本でできればいいんですけれども,被告の住所が一体日本にあるのか外国にあるのか,外国のどこにあるのか,行方不明というのでもまたないんですけれども,そのことの調査や,その認定をめぐって非常に時間が掛かったり争いになる。   それから,例えばですけれども,被告になる側の外国人配偶者が滞在を超過しまして,退去強制になって自分の本国に帰った場合に,行方不明でも何でもないんですけれども,遺棄と言えるのか,あるいは遺棄に準ずると扱ってよいのか,あるいは,婚姻したんだけれども,最終的にビザが下りなくて日本に来られなかった,このような場合に,遺棄とはもちろんなかなか言えないと思うんですけれども,遺棄に準ずると扱うのか。それから,似たような,理由はたくさんあるんですけれども,外国人配偶者が仕事で外国に行ってしまったと。それも遺棄と扱うのかどうか。婚姻生活はもう破綻していて,離婚の手続をしたいと。ほかにも様々,外国人配偶者の方が外国に行く理由が遺棄とも呼べない,みたいな問題ですね。   それから,更に平成8年判決と合わせて言いますと,最近,平成8年判決の基準が出たことによって,DVで帰ってきたら日本で裁判を起こしやすいみたいな話がありまして,比較的日本での管轄を認めてもらうために,外国の裁判所でできない理由として,暴力を受けて帰ってきたからというような主張が出る。そうすると,それをめぐって,それがあった,なかった,その程度は軽い,軽くないみたいなことで,管轄の点で相当主張をやり合うみたいなことが,非常に訴訟経済とか御本人たちの負担とか,いろいろなことから見て余り生産的でないと。   それから,今申し上げたことに全部関連するかもしれないんですけれども,結局のところ,甲案というのがどうしても昭和39年判決の基準になっていますので,はっきりしない基準が入ってしまう。つまり行方不明とか,それに準ずるとか,著しく困難とか。そうすると,相談を受けた段階で,弁護士としては,日本で管轄が認められるか判断がしにくい,やってみなければ分かりませんという回答になる。やってみなければ分かりませんと言って御本人たちが頼むかというと,不安に思う。では,その方たちは,どうすればいいかというと,結局,被告の住所地に行ってやらなくてはいけない。といって,なかなかその後の手続はとれないというような問題というのが,かなりの件数起きているというのが,私自身の実感です。 ○早川委員 大谷幹事にもう一つ伺いたいんですけれども,逆の立場に立たれることもあると思うんですね。日本に住んでいる人の代理人をしていて,外国で裁判が起こされる。この場合に,それほど負担でないということだと,今のお話も更に補強されると思うんですけれども,その辺りはいかがでしょうか。 ○大谷幹事 一つは,この部会のテーマとちょっと離れるかもしれないんですけれども,外国の裁判所では,その本人が期日に出頭するときにテレビ会議や電話会議での出席,あるいは尋問もですけれども,許されることが比較的多くなってきていまして,その点で応訴の負担というのは,弁護士を頼んで応訴するという点は確かに負担はありますけれども,期日への出席とか尋問に関しても負担が少ないと思っています。   もう一つ,先ほど事務局からの御説明の中でも,仮に乙案をとったときには,管轄原因が広がるので,間接管轄を直接管轄と同じ規律と考えると外国判決を承認する場合が広がるけれども,それはよいのかという点も検討の必要があるという御指摘がありまして,そのとおりだと思っているんですが,実際には,今の昭和39年判決の基準ですと,例えば外国で離婚訴訟を起こされたと,私の依頼者が日本人で日本にいるという場合に,被告の住所地管轄の基準からすると,これは後で管轄がないと言って否定できるかもしれないと言って放置したほうがいいと,あるいは放置するという対応が見られます。ところが,実際にはそうすると,向こうでは離婚判決が出てしまうわけですね。日本で承認するかどうかに関わらず,もう配偶者は再婚したりして向こうでは普通に離婚状態になっていると。そのような場合に,では,離婚しないことの利益はどこにあるのかと言いますと,例えば,それで婚姻費用を請求したいと。婚姻費用請求できるではないかと。これは現実的にはほぼ無理です。   そうすると,結局数年たって,日本にいる当事者が,やはり自分もきちんと離婚という手続をとっておきたいと思ったときには,それは,その離婚判決が出てしまったものを,そのときになって,また初めて取り寄せて届け出るのか,それとも,被告の住所のところで提起し直すのかみたいなことで,必ずしも原告の,もう破綻してしまった状態における日本にいる被告にとって,外国の管轄が広く認められてしまうことが不利益になっているかというと,実務の感覚では,余りそうでもないというのが,これは私一人の経験とか見方かもしれませんけれども,複数の事案の中でそのように感じています。 ○早川委員 第1点目のテレビ会議等の話ですけれども,日本で裁判を起こせるかどうかについて,日本の裁判では外国とつないだテレビ会議はできないという前提でお考えいただけますでしょうか。さきほどの私の質問の仕方が悪かったのですけれども,乙案にしたときに,外国にいる被告にとって負担になるかについて,どのようにお考えでしょうか。 ○大谷幹事 私が質問を取り間違えたのかもしれません。外国にいる被告から依頼を受けたとか,そういう場合に負担かということですよね。負担はあります。それは間違いなくありますし,それは手続面で電話会議による出席が認められていないとか,あと,言葉の問題もありますし,負担はあると思います。そこは否定しません。ただ,現実には,被告ももう破綻は破綻で離婚自体はもうやむを得ないと思っている場合が極めて多くて,ただ,その同じ離婚をどこの国でやるかということについて言えば,当然,できれば自分の国でやりたいとかいうことはあり得ます。   ただ,他方で被告になる側の外国人配偶者も様々な考慮要素がありまして,例えば,弁護士の費用が外国でやる場合と日本でやる場合と,実は日本の方いいという場合もありますし,財産分与とか子供の親権の問題などで,結局,日本でやりたいか外国でやりたいかということが単に日本に呼び出されることの不利益というよりは,もっと実質的なところや手続費用,弁護士費用等のようなことも絡んで,どちらがいいという判断をされている場合があります。 ○池田委員 外国の当事者の負担ということでは,端的に言うと,日本で訴えられて,弁護士に頼むお金がないときに,ほとんど争えないという問題があると思います。訴えられて,応じるのはおかしいというか,応じたくないと思っていても,自分一人では仮にやってきてもほとんど何もできずに帰ってしまうとか,そんなことも起きているようです。外国の弁護士の方から話がある場合も,ほとんどお金は払えないんだけれどもという形で日本の弁護士に依頼されるような場合もあって,このまま管轄を認めてしまうのは被告にとって非常に気の毒だなと弁護士として思ったことはあります。   破綻の問題に関して言えば,離婚そのものもさることながら,破綻と原告側が思っていても被告は思っていないということもありますのと,あと,やはり子供さんの関係について言えば,きちんとした手続でしかるべく判断を受けたいということなんですが,それができないというようなことは,被告にとっては非常に不利益な状況になるとは思っております。 ○秋吉委員 具体的,個別的に困る場面というのを煮詰めていって,検討していく必要性というのは非常に感じるんですけれども,今まずここでは,甲案,乙案というアプローチの方法について問われているように思います。そうしたときに,例えば乙案のアプローチでいきますと,結局応訴する被告の防御権の観点から,管轄を認めるのが不当な事案では,特別事情による訴えの却下とか,何か特別事情を使わなければいけないという場合が出てきてしまいます。そうしますと,では,どういう場合にこの特別事情による却下を使うのかという点について考えないといけないんですが,裁判官の間で,この点についてコンセンサスを得るのはなかなか難しそうな感じがいたします。先ほど大谷幹事が,はっきりしない基準が入ると相談を受けたときに弁護士としてアドバイスがしづらいとおっしゃっておられたんですけれども,逆に乙案だと,これはこれでアドバイスがしづらい面が出てくるような気がします。   あと,実務的には,例えば被告が日本にいれば,送達とか,翻訳とか,問題なくいくんですけれども,被告が外国にいるとなると,送達と翻訳の手間だとか,それに基づく審理期間の長期化だとかという問題を,やはり実務家としては考えなければいけないと思います。その点で,準備期間がある原告と,準備期間がない被告とで,全体的なバランスも考えて,アプローチをどちらからするかというのは考えていかないといけないのではないかなと思います。これからの議論をお聞きしながらまた考えていきたいと思いますが,実務的には,甲案からのアプローチの方が,予測可能性の点からも,事務手続の点からも,入りやすいかなという感じがしております。 ○大谷幹事 今,おっしゃったとおりで,個別の問題というよりは,やはりアプローチの問題からというのは大変賛成です。その上で申し上げたいのは,乙案で特別事情による却下ということを入れてしまうと,その判断が難しいのではないか,コンセンサスが難しいのではないかというのは,その御指摘のとおりなんですが,私の問題意識は,甲案の方からアプローチしたときに付けているいろいろなその付加要件,原告住所地だけでは足りないということで付けている要件について,少なくとも今現在,全国の家庭裁判所の裁判官によって判断が異なっていることです。実は,字面だけから見ると厳しそうに見えるけれども,比較的に緩やかに認められている。しかし,それらは公刊された裁判例等で弁護士が目にすることが少ないという中で,確かにその特別事情というのを持ち込んだときの難しさはあるんですけれども,客観的に見えるようなものが実は余り客観的に機能していないということの方が問題なのではないかと思っているということを申し上げたいのと,あと,原告にとっての翻訳の費用,審理期間が長いという問題はあります,確かに。ただ,それを甘受してもなお日本でやりたいと言っている原告に,それが日本ではやってはいけないと。外国へ行って,その外国の弁護士を探して外国でやりなさいということとの比較という観点で考えていくことも,当事者の目線からは必要ではないかと思っています。 ○和波幹事 今お話が出たとおり,正にこれはアプローチの問題だろうと思うんですけれども,そういうふうに考えた場合には,やはり少し裁判所の側から見たときに,一足飛びに乙案の原告の住所を原則として,そこからどういうふうにある意味狭めていくかというアプローチをとるのは,アプローチの仕方としては逆の方がよろしいのではないかなという印象がございます。   そういう意味では,甲案の③,今提案されているものが不明確で,そこの部分で争いが生じるのではないかという御指摘はおっしゃるとおりかなとは思いますけれども,甲案というのは,正にこれから①,②,③以外にどうしていくかという形で恐らく議論が進められていって,そういう形で広げていったときに,そこまで行くのであれば,それだったら原告住所地を全部認めるのと余りかわらないよねという議論になったときに乙案に行くというのはあり得ると思うんです。正にこういう今の御提案では不十分なところをどういう形で付け足していって,それが合理的にある意味明確になるかという形で議論を進めるのがよろしいのかなという印象を持っております。 ○山本(克)委員 今いろいろと議論を伺っていると,当事者間の利害調整問題を基本に考えるような議論がずっと続いているような気がします。しかし,ドイツの条文などを見ますと,やはり婚姻関係の国際的な不統一の防止というのを一つ柱に入れているような気がするのですが,そういうことは考えなくてよろしいんでしょうか。財産法上の訴訟の管轄と同じように当事者間の利害調整だけで済むような印象の議論が非常に強いですけれども,各国で扱いが区々になる法律関係の防止の観点が,婚姻関係においては,一つの重要な考慮要素であるということは,昭和39年判決も最初に言っておるわけです。ですから,そこを無視していいという議論になるのかどうか,もう一つよく分からないのですけれども。 ○高田部会長 今の点,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 ブラッセル条約の域内でではうまくいくように組んであるので,ブラッセルⅡbis規則を,余り参照すべきではないと私は思っております。 ○大谷幹事 一つ目の御質問に答えているわけではないんですけれども,今のブリュッセルⅡbis規則に関して御発言されたこととの関係で,私の方が逆に研究者の先生方に前からお伺いしたいと思っていましたのは,当事者間の利害調整だけでいいのか,あるいは昭和39年判決との整合性とか連続性をどうするのかということのほかに,もう一つは,最後の婚姻関係の国際的な不統一の問題を考えなくていいのかということと関係するかもしれないんですが,外国法制で現在どういう考え方が比較的多くとられているかということとの関連性というのをもう少し見なくていいのかということが以前から気になっています。御指摘のとおりに,そのブリュッセルⅡbis規則はEU構成国間の話ではありますけれども,現実にはその考え方を,その国の国際裁判管轄の考え方として採用している国もあり,そういう意味では,単なる域内規則というよりは,ヨーロッパにおける一つの考え方として採用されているところもありますし,あと,研究会資料ではブリュッセルⅡbis規則とドイツを挙げてくださっているんですが,ほかにもアメリカやカナダ,オーストラリア等々,日本との関係で扱うことの多い国がどういう考え方をとっているかということは,やはり重要な視点ではないかなと思っていまして,その辺りをもう少し参考にして調整を考えていくという視点は必要ではないのかということを,お伺いしたいと思っています。 ○高田部会長 国際間で抵触しない身分関係の確定ということ自体は望ましいことであることには恐らく異論はないと思いますけれども,問題は管轄規制でどこまで図るかということかと思いますが,その点,御意見があればお願いします。 ○西谷幹事 ブリュッセルⅡbis規則との関係ですけれども,同規則は,ブリュッセルⅠ規則とは違って,被告が第三国に常居所をもつ場合にも適用されますので,例えば,被告が日本に常居所をもつ場合であっても,ブリュッセルⅡbis規則に基づいて,EU域内の構成国のいずれかに管轄が発生することがありえます。したがって,日本で管轄ルールを考えるときには,相互の調和,そして相互の判決承認の可能性を考えて,これらの外国の管轄ルールを参考にするのは有益であろうと思います。   それから,もう一つ,婚姻関係の国際的な不統一の回避というのは,国際私法にとっては重要な関心事です。私も,当事者間の利害の調整ということだけを基準として管轄ルールを立てることには,違和感を感じます。   特に,本国管轄を認めるかどうかという点とも関係しますが,本国管轄とは,日本が本国として,その国籍をもつ者の身分関係を規律する必要性から管轄を認めるもので,当事者間の利害の調整というよりは,むしろ対人主権といいますか,本国として裁判権を行使する必要性から論じられるものです。このような管轄原因も,当事者間の利害の調整とは別の考慮要素に基づいて認めてよいのではないかと思いますので,多面的に様々な考慮要素に基づいて管轄原因を立てることに賛成いたします。 ○北澤幹事 今までの議論を伺っておりまして,ブリュッセルⅡbis規則につきましては,EUの域内で使われている規則で,どれくらい外国法制として参照になるのかということですけれども,西谷幹事の御意見にもありますように,EUの域外に被告の住所や常居所がある場合でも使われておりますから,やはりそれなりに参考になる規定であると理解しております。   婚姻関係の国際的な不統一の問題に関する議論をうかがっておりまして,我が国が乙案のような形で原告,被告の住所というように広く管轄原因を認めてしまったときに,果たして外国で日本の判決が承認されるのかどうかというところは,やはり相当慎重に考えていくべきなのではないかと思っております。   例えば,ブリュッセルⅡbis規則の方でしたら,裸の原告住所地管轄ではなくて,居住要件のような何らかの条件のようなものが付加されていますので,そういった発想というのは,我々が立法を行う際にも,やはり参考にして議論していく必要があると思いますし,また,今,西谷幹事が出されていた本国管轄といいますか,国籍を管轄原因とするのかどうかということも,やはり裸の国籍管轄というよりは,何か原告の住所等を掛けてくるような今回の甲案の二つ目の御提案のような形で盛り込んでいくという発想も,検討の余地があるのではないかと考えています。   私自身の意見について言いますと,この二つのアプローチの中では,甲案からのアプローチというのが,やはりいいのではないかと思っております。   元々乙案の当事者の住所地という,原告,被告の住所をそもそも本当に対等な管轄原因として考慮していいのかどうかということは随分前から疑問に思っております。当事者間の利益調整ということをいってしまえば,原告の住所のことも考えなければいけないというのは,それはそのとおりだと思うのですが,訴えられる側の被告の,防御しなければいけない側の不利益とを考えたときに,管轄原因として被告と原告の住所というのを全く同レベルに置いていいのかどうか。まずは,被告の住所地原則があって,でも,原告の住所も考慮するけれども,そこには付加的な要件というものをかけて,原告の住所地を取り込んでいくのはどうか。もっとも,先ほど和波幹事もおっしゃっていたように,付加的な条件の掛け方についての議論の結果次第では,最終的に乙案的な原告住所地と被告住所地とを同レベルの管轄原因として置いていく考え方に行き着く場合もあるのかもしれませんが,ただ,先ほどの議論でも懸念されたように,乙案ですと,やはり後々の処理として一般的なその調整の規定といいますか,特別な事情による訴えの却下の方で広くなった管轄原因を調整していくというような問題も生じてきますので,それに比べますと甲案の少なくとも二つ目の基準までは相当確たる基準だとは思いますので,その点でも裁判での管轄原因の基準としては,かなり明確なのではないかと思います。   ただ,甲案の③の基準になりますと,そこは相当中身というのはどういう基準になるのか不明瞭というのはあるかと思います。 ○竹下幹事 北澤幹事と西谷幹事から外国法のことについては御発言がありましたので,私から付け足すことはありませんが,そもそもこの議論の仕方ということで一つだけ言えば,甲案からスタートしたとするならば,恐らく今現実にある事案や裁判例を分析して,これはやはり認められなくて困るからルールを足していくというのは幾らでもできると思うんですが,乙案からスタートするとどうなるかというと,乙案のルールを実際に適用した現実の裁判例はないわけですから,仮想事例についてこれは認めたらいけないかなというのを若干空想しながら議論しなければならないような気がしております。要するに乙案のルールから何を削るかという議論は今まで恐らくされていないと思いますので,甲案からスタートした方が現実の事案に則した議論はできるのかと思いますが,今,大谷幹事の御発言を伺っていると,どちらかというと,やはりストックとしてできなくて困った事案を多く持ってらっしゃるのではないかなと思いますので,仮にこれがアプローチの違いでどちらから攻めていくかということだけであるとするならば,是非これから,特に甲案では困る事案を挙げていただいて,実質的にある程度固めて,もちろんそれが余りにも細かくなりすぎたりして,先ほど和波幹事がおっしゃられたとおり,もう原告の住所地管轄を認めるのと余り変わらないではないかということになれば,最終的に乙案とすることに,乙案のような形になることに私も賛成いたしますが,ただ,そうなる前に,乙案からやろうとしたときに,これまでの積み重ねとの関係で言うと,やはりなかなか議論自体が難しくなるのではないかと思いますので,甲案の方向性賛成ということでお願いいたします。 ○高田部会長 時間の関係もございますので,そろそろこの辺りでひと区切りをつけたいと思いますが,多くの委員,幹事の方から御指摘いただきましたように,アプローチの違いという面があり,乙案につきましても,特別の事情以外の限定ルールを設けることはやはり考えられるわけでありまして,乙案をベースに必要な限定していけば最終的な到達点は甲案とさほど違わないのかもしれません。他方,甲案のように拾い上げていくアプローチをとった場合には,取り分け大谷幹事から原告の利益と申しますか,原告が婚姻関係を解消し,新たな生活を行うために判決を得る利益という表現が適切かどうか分かりませんが,そうした原告の事情を過不足なくと申しますか,十分に考慮できるかという点が問題となり,さらに,過不足なく取り上げた場合のルールを実務で適切に適用できるルールとして書き切れるかという点についての懸念も表されておりますが,これは出来上がってみなければ分からない点もございますので,さしあたり,最終的な規律が甲案的な規律になるのか乙案的な規律になるのかという点は留保した上で,甲案をベースに,現在の甲案ではカバーできない事例についても考慮していただいた上で,甲案を言わばより洗練されたものにすることによって適切な規律ができるか検討してみる,という方向でしばらく議論を続けたいと思いますが,そういう方向で議論を続けるということでいかがでしょうか。   どうもありがとうございました。   続いて,甲案に入る前にですが,先ほど住所の定め方について御指摘いただいております。甲案,乙案それぞれについて御議論いただく必要があるのかもしれませんが,この段階では普通裁判籍ではなく,住所というアプローチでよいかということの確認を求められているように理解いたしました。この点については御意見はございますでしょうか。 ○山本(和)委員 私自身,研究会のときから少し思っていたことですけれども,住所,居所がない場合,知れない場合に,最後の住所というのは余り意味がないということで,その場合には,現在の甲案でも原告住所の方に戻るということで,それはそういうことかなと思うんですが,問題は住所がないで,しかし居所は認められるという場合ですね。実際にどの程度あるのかよく分からないですけれども,いろいろなところを転々としておられて,ここに確定的な住所というのは必ずしもないけれども,それぞれのところで,それぞれ一定期間定住しておられるようなもので,居所としては認められるというような事案がもしある場合に,そもそも現在の甲案で,それが受けられているのかというのが私はよく分からないところで,③にそれが含まれるかというと,ちょっと何か入らないような気もして,そうすると,どこでも訴えられないのかということにもなりますし,そういう場合に,しかし,また③に入れるとしても,原告の住所に行ってしまうのが相当なのかなというのはちょっと疑問で,居所が特定できるんであれば,その被告の居所を基準にしても,甲案的な考え方であれば基準にしてもいいような感じがしております。 ○大谷幹事 住所が日本にあるとはちょっと言えないのではないか,けれども,居所と言えるようなものがあるという事案は結構あります。より増えてきているように思います。ですので,今のような事案の場合に,では,どうするかということについては,まだ十分考えてきたわけではないので,この場での思い付きになりますが,かといって管轄原因,特にその原則的になる被告の住所,甲案の場合ですけれども,そこに居所を入れてしまうというのは,ちょっと私自身は違和感があると言いますか,その違和感をまだちょっと詰め切れてないんですが,違和感が少しありまして,そのときには,居所があるわけですから,被告の日本とのつながりというのは,それによって比較的あるんですね。   ですから,その場合には原告の住所の方に振ることによって管轄を認めるというほうがすっきりするように感じます。したがって,その場合を被告の住所に取り込むというよりは,あるいはその住所を膨らませて居所を足すというよりは,現住所を使いながら,原告の住所があって,③になるのかよく分かりませんが,甲案の場合ですけれども,そういう形での認め方があるのではないかなと思います。 ○高田部会長 被告の住所地管轄の意義に関わる問題かと思いますが,他に御意見ございますでしょうか。 ○村上幹事 今の話を聞いてと思ったのですけれども,そもそも住所地を認定するときに,被告の住所地と原告の住所地と同じ基準で認めるものなのでしょうか。ある程度相対的に,例えば被告の住所地を管轄原因とする場合は,その応訴の負担とか防御権の保障という観点から認めるとすると,日本にいるのであれば,住所とは言えなくても,ある程度,例えば仕事で長期間日本にいるとか,軍関係の仕事で日本に一定期間配属されているという場合に,それを住所と認めるか,それとも居所とするか分からないですけれども,割と緩やかに,日本にいるということで管轄を認めてもいいのかなとちょっと思ったんですけれども。   他方,原告の場合は,先ほど外国法の紹介があって,住所プラス居住要件を課しているというのがあったので,原告の場合は,やはりその住所地の認定というのは被告に比べるとちょっと厳格になるのかなというような気もしていて,ちょっとそこが違ってもいいのかなと思ったりもしたんですけれども,それはどうなんでしょうか。   そうすると,居所を入れても,被告の場合に住所の中に居所を入れてもいい,そういう考え方もあるのかなとちょっと思いました。 ○高田部会長 被告の住所があることの意味について,応訴するだけの負担,応訴の負担という点に着目すれば居所もあり得るという御発言かと理解しましたが,他方,被告の法的生活に密接に関連する地という観点からすると,居所に管轄を認めることに対する疑問ももしかするとあり得るのかもしれませんが,その辺りいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 住所がないというのは,世界中どこを探してもないと,あるいはそれが明らかでないという場合を前提にしているのか,それとも日本にないということを前提にしているのか,かなり今,議論を聞いていて混乱していたように思いますので,どちらを前提として議論するかというのをまず決めていただかないと,生産的な話にならないと思います。 ○山本(和)委員 私は前者のつもりで申し上げました。 ○高田部会長 山本和彦委員は前者,世界中のどこにも住所がない場合を想定しての御意見ということですね。 ○村上幹事 私は,外国に住所がある場合も含むという趣旨です。 ○高田部会長 村上幹事は,外国に住所がある場合でもいいという御主張でしたね。 ○村上幹事 はい,そうです。 ○山本(克)委員 山本和彦委員が想定されている場合ですと,やはり緊急管轄的なものに何か近付いてくるのかなという気がします。それと,村上幹事がお考えになっているような場合というのは,確かに被告の防御の容易さうんぬんというのはあるのですが,ただ,そのこと自体が身分的な法律関係における,日本が密接な関係を持つ地であると言えるかどうかとことが問題になるのではないのかと思います。財産法上の訴えでは,居所が日本にあるだけでも訴えることが可能である場合もあって,それが住所等に基づく管轄の規定に仕組んであるわけですが,それとは違う観点が人事訴訟については当てはまるのであれば,被告の防御の容易さだけで議論すべきではないということになります。原告の住所地に一定の管轄原因を認めるというのも,やはり正に当該婚姻と日本が密接な関係を持っているということを表すために,甲案でも②,③の場合については原告の住所地と言っているのではないのかなと思います。ですので,被告の防御の容易さということのみで管轄原因として認めるべきであるという議論には,私はちょっと抵抗を感じております。   山本和彦委員がおっしゃる部分については,緊急管轄的なものとして考慮に値するかなという気がします。 ○畑委員 外国に住所がある場合で居所が日本にあるということでどうかということですが,居所という概念自体が,住所の方もそうですが,よく分かっていないのですが,居場所だということだとすると,それがあるから防御も容易と言えるかどうかということ自体も,ちょっと問題かなということを,今のお話を聞いていて思いました。 ○高田部会長 では,この段階では取りあえずこのあたりでよろしゅうございますか。   では,ここで15分間休憩を入れさせていただきます。           (休     憩) ○高田部会長 では,続けて,被告の住所以外の管轄原因について御議論いただきたいと思います。御説明お願いします。 ○近江関係官 では,先ほどの議論を踏まえて,部会長から,まずは甲案的なアプローチから,現在の甲案をより洗練されたものにするという形で議論をしていくのが望ましいのではないかという御発言もいただきましたので,これから甲案の被告住所地以外の各管轄原因に関する議論を進めていただきたいと思います。   まず,管轄原因としての国籍についてです。学説におきましては,伝統的には国籍を原則的な管轄原因として認めるという立場が多数説であったとされていますが,近時では,国籍を管轄原因とすることには消極的で,私人の私法的生活関係の中心である住所を管轄原因とするべきという見解が多いと言われています。   ただし,身分関係の当事者である訴えの両当事者が日本人である場合は,我が国の管轄権を肯定するという見解が有力とされているように思われます。この見解は,身分関係の当事者である両当事者が日本人である場合は,準拠法が日本法となること,それから,当事者の我が国との関連性が強いものと考えられることなどを根拠としているところです。   また,身分関係の当事者の国籍がともに日本であるだけではなく,それに加えて,身分関係の当事者である原告が我が国に住所を有していることを要求する見解も存在し,国際裁判管轄を認めた裁判例も,実質的にはこのような事案であるという指摘もされているところです。   なお,身分関係の当事者である原告及び同じく被告の国籍がともに日本であれば,当該原告,被告とも我が国に住所地を有していなくとも我が国の管轄権を認めるという見解をとる場合は,国内管轄については現行人事訴訟法が住所地と基準とする管轄を定めていますので,このような事例においては,国際裁判管轄は認められるけれども,国内管轄を決める際の行き場がなくなってしまうという状態があり得ることになります。そこで,このような見解を採用する場合は,これに対処するための規定,例えば民事訴訟法10条の2のような規定ですが,このような規定が必要になるものと考えられます。   次に,管轄原因としての婚姻住所地についてですが,本文においては管轄原因として婚姻住所地を考慮するという見解を提示してはいないのですが,身分関係の当事者である訴えの当事者の婚姻住所地を管轄原因として認めるか否かという点を御議論いただきたく存じます。   学説においては,婚姻住所地,これは夫婦の最後の共通住所地ということになりますが,婚姻住所地は身分関係の当事者である訴えの当事者との関連性が深く,かつ婚姻住所地には証拠方法も豊富に存在する蓋然性が高いということから,婚姻住所地を合理的な管轄原因であるという指摘があるところです。   また,そのバリエーションといたしまして,原告が現在もその婚姻住所地に居住している場合に限って婚姻住所地に管轄原因を認めるという見解もあるところです。ブリュッセルⅡbis規則はこの立場を採用しているのではないかと思われるところです。   先ほど申し上げましたとおり,国内裁判管轄においては,人事訴訟法制定の際に婚姻住所地の管轄という段階的管轄の第二順位の管轄を削除したという経緯があるところです。   そこで,婚姻住所地を管轄原因とする場合は,国内管轄との間にどのような違いがあるのか,国内管轄とは違ってもよいのかという点を御議論いただければと思います。   次に,甲案の③です。まず,部会資料に1点誤記がありまして,8ページの1行目の一番最後ですが,「昭和39年判決を踏まえつつ,身分関係の当事者である原告の」と書いてあるのですが,ここは,「身分関係の当事者である」を削除していただければと思います。単位事件類型は離婚に関する訴えですので,離婚の訴え以外の類型の訴えについては第三者が訴えを提起するということもあり得るということです。   説明に戻りますと,管轄原因としての原告の住所地については,昭和39年判決を踏まえつつ,「原告の住所が日本国内にあるときであって,当該訴えに係る身分関係の当事者である被告が行方不明であるときその他当該訴えに係る身分関係の当事者である被告の住所がある国の裁判所に訴えを提起することが著しく困難であるとき」に我が国の管轄権を肯定するものとして提案をしております。   昭和39年判決では,原告の住所地に管轄原因を認めるべき場合として,原告が遺棄された場合を例示しています。しかし,遺棄という言葉は,当事者の一方の有責性を含意する要件であって,これを管轄原因としますと,管轄の有無を判断するに当たって離婚原因に関する実体的な判断に近い判断をする必要が生じるのではないかという観点から,これは適当ではないのではないかと考えられることや,離婚原因である悪意の遺棄と同じ文言で違う内容のものを定めるとすれば,それ自体,法制上問題があるのではないかという指摘があったことから,原告が遺棄された場合を例示することはしないこととしています。   ただ,最高裁の昭和39年判決の判文とは異なって,遺棄の例示を外す場合については,例示が行方不明だけとなりますので,どのような場合が,その他これに準ずる場合に当たるかというのが,より不明確になってしまうという指摘もあり得るところです。ですので,この遺棄の例示を外すことが妥当かどうかということについて,御議論いただければと思います。   被告が行方不明である場合については,昭和39年判決に倣い,被告が行方不明である場合というのを例示するということにしております。   甲案の③においては,上記のような例示のほか,被告の住所がある国の裁判所に訴えを提起することが著しく困難であるとき,これを要件とするということを提示しています。   なお,そもそも,原告の住所地に管轄原因を認めるべき場合を網羅的に全て具体化して規定することは困難と思われますので,ある程度包括的な条項を置くということは,やむを得ないことと思われます。このような条項について,「当該訴えに係る身分関係の当事者である被告の住所がある国の裁判所に訴えを提起することが著しく困難であるとき」という規定ぶりでいいのかどうかという点について,御議論いただければと思います。   また,研究会報告書を御参照いただければとは思いますが,研究会の段階では,甲案の③の文の後に,「又は日本の裁判所で審理及び裁判をすることが当該訴えに係る身分関係の当事者間の衡平を図るため特に必要であるとき」という場合が亀甲括弧で規定されていました。本文の提案からは削ってありますが,先ほど一番最初にも御質問をいただきましたとおり,これは対比をしやすくする観点からのものに過ぎませんので,このような規定についても,御議論いただければと思います。特に先ほど出た甲案,乙案のアプローチの実質的な違いという観点からは,甲案からのアプローチによっても,こういった衡平のために特に必要であるときに我が国の管轄権を認めるような条項を置くことで,両者の違いを更に小さくすることができるのではないかと考えられるところです。   このような規定ぶりについて御感想,あるいはアイデアを含め,この点について御議論いただければと思います。 ○高田部会長 相互に密接に関連しますので,分けて論じることが適切かどうか分かりませんが,議論を拡散させないために,まず,国籍について御議論いただけますでしょうか。   乙案でも国籍は問題となり得ると思いますけれども,取りあえず甲案ベースで御議論いただければと存じます。 ○小池幹事 質問ですけれども,国籍を管轄原因とすることの理由付けとして,対人主権というのが挙がっているんですけれども,この観点からすると,双方が日本国籍を持っていなければいけないとなるのか,それとも一方とか,例えば原告だけでもいいとなるのか,そこら辺はどうお考えなんでしょうか。 ○近江関係官 はっきりこうだということが申し上げられるわけではないですが,個人的な理解でよろしければということで申し上げますと,対人主権ということですので,基本的にはその見解が想定している国籍管轄を純粋な意味で考えるのであれば,一方の国籍を基準にする管轄ということになると思います。ただ,国籍管轄を,事件との関連性という意味,対物管轄的に捉える部分があるとすれば,両当事者が日本の国籍を有していて初めてその事件との十分な関連性が出てくるとも言えるとは思います。しかし,恐らく,対人主権を背景にして国籍管轄を純粋な意味で使う場合には,一方の国籍という趣旨で使われているのではないかと思います。 ○西谷幹事 現在,この資料の甲案では,身分関係の当事者双方が日本人であるときに加えて,原告の住所が日本国内にあることを管轄原因としていただいていますが,私の個人的な考え方を申し上げますと,原告住所という要件を外して,当事者双方が日本国籍を持っていれば本国管轄を端的に認めてよいのではないかと考えております。   その理由ですけれども,この資料6ページの注1と注2のところで挙げていただいておりますように,通則法27条本文では,離婚の準拠法について当事者の同一本国法があれば,それによると定めています。これは,当事者双方がどこに住んでいても,日本人である限りは,日本法を準拠法とするもので,日本と密接な関係を持つ法律関係であると考えていることを意味します。また,注2で挙げていただいているような,日本の裁判所による民法770条の離婚原因の確定の容易さ,当事者自身の日本との密接関係性,使用言語の便宜などの理由に加えまして,日本人夫婦が外国に居住しているときに,現実には,外国では離婚がしにくい,あるいはできないというケースもありうることから,日本の管轄を認めておくのが相当であると考えられます。   例えばフィリピンに日本人夫婦が居住している場合には,フィリピンに離婚制度がないため,現地の裁判所では離婚判決を得ることができないと解されます。また,宗教上の離婚しか制度として認めていない国に日本人夫婦が居住する場合にも,やはり現地で離婚できない可能性があります。そのような場合には,やはり本国として,当事者の離婚請求権を実現するために,裁判管轄を認めるという政策が適切なのではないかと考えております。   それから,領事離婚との整合性もあります。領事離婚については,日本法には明文規定はないのですが,民法741条に領事婚として,日本人間で婚姻をしようとするときには,在外公館にその届出をすることで婚姻をすることができるという規定があります。これを準用することによって,夫婦双方が日本人であれば,在外公館に届出をすることで協議離婚ができると実務では扱われております。しかし,当事者の一方が離婚について争った場合には,当事者双方が外国に居住しているため,現在の甲案でいきますと,結局,日本の裁判所には管轄が認められないことになります。このように,協議離婚は外国で在外公館に届け出ることができるけれども,裁判離婚は日本ではできないというのは,やや整合性を欠くのではないかと思われます。   しかも,外国にいる日本人夫婦が領事離婚を行った場合に,後からその協議離婚の無効,あるいは取消しが争いになることもありえますが,そのような場合にも,現在の甲案では,端的に管轄原因に当たる事情がありません。このようなケースを救うためにも,夫婦双方が日本人である場合には,原告住所を要件とすることなく,端的に本国管轄を認めるのがよいのではないかと考えております。 ○大谷幹事 私も当事者双方が日本国籍の場合に,原告住所を付加せずに,端的に本国管轄を認める今の御意見に賛成です。理由は,ほとんどおっしゃられたことと重なりますので,省略いたします。  あと,付け加えるとしましたら,現実に日本人同士が外国に居住をしていて,日本の裁判所で離婚を求めたいという場合は,かなり多くあります。理由は,いろいろありますけれども,例えばですが,財産が日本にあって,その国で離婚訴訟ができるとしても,結局,財産の分与等の問題は日本で,そこがむしろ争点になっている場合ですとか,子供の問題,特に今の日本の単独親権制度を前提としての話とはなりますけれども,外国で離婚訴訟をしますと,親権についても,その国の法制が適用されて,また,日本に帰ってからその後,紛争が続くとか,そういうこともあって,最初から端的に日本でやりたいという方たちも少なくありません。   もう一つ意見を申し上げたいのは,今の甲案の②では,ちょっと逆の発想ですけれども,今の話は当事者双方が日本人であるときに原告の住所を付け加えなくてもいいのではないかという話だったんですが,甲案の②では,原告の住所が日本国内にあるときに,「かつ」で結ばれていまして,日本人当事者は双方が日本人でなくてはならないとなっているんですが,私はここは,原告の住所が日本国内にあるという日本との結び付きがある程度ある上でのことですから,それに付加する,「かつ」で結ばれる話としての国籍要件としましては,身分関係の当事者の一方が日本人であるときでよいのではないかと思います。 ○竹下幹事 今の御発言の趣旨を御確認させていただくと,要するに,例えば,海外でずっと日本人と外国人の方が結婚して生活をしていて,日本人が日本に戻ってきて訴え出ると,その段階で日本人の住所は日本にあるといったときの管轄を認めるべきだという御意見ということでしょうか。 ○大谷幹事 そのような場合に,日本の裁判所に管轄権を認めたいからという意味で先ほど申し上げたというのとはちょっと違いますので,甲案の今の②ですと,原告の住所が日本国内にある上に,当事者双方が日本人であるときというのが②の話として狭くはないだろうかという視点からの発言でしたので,そこをちょっと付け加えさせていただきます。 ○高田部会長 双方が日本人である場合と一方が日本人の場合とでは若干違った考慮が必要のようにも思いますので,まず,ともに日本人で,しかし,ともに日本に住所がない場合についての御意見を賜ればと思います。先ほどの議論では,積極的な御意見をまず賜りました。 ○池田委員 私個人としては,日本人双方である場合,かつ原告の住所なしでいいのではないかという印象を持っているところなんですが,弁護士会の中で議論したときには,この住所の問題もさることながら,双方日本人であっても,外国に住んでいて,日本でやることはいかがかという意見があったということは申し上げたいと思います。 ○高田部会長 日本に住所のない日本人被告に,日本での応訴を要求することになりますが,それはそれでよろしいということでしょうか。 ○池田委員 それで,そこを実質的に解決するために,そもそもやはりそういう被告がどうしても嫌だというときも日本人だったら認めてしまうのか,あるいは,被告の方でいいという場合に限ってという形に作れないかということも思ったところです。 ○岡委員 同様の疑問がありまして,裸の国籍要件という形で設けた場合に,甲案というのは元々その被告の応訴負担というか,そこを一番の原理として組み立てているのに,裸の国籍要件で認めると乙案よりもっと広くなってしまうわけで,ちょっと甲案から出発しているという軸足と,どう整合するのかなという感じがいたしました。 ○山本(克)委員 甲案は,確かに①は被告の応訴負担というものに重きを置いて,それから,先ほど申しました婚姻関係の国際的な不統一の防止という点でも,非常にこの部分についてだけは確実だというところを切り出したのかなという気がしています。ただ,財産法上の訴えについても被告の住所等を原因とする管轄をまず認めた上で,それ以外のものを別の考慮から認めてくるという扱いになっているわけですね。例えば,不法行為地の管轄というのは,被告の住所とは無関係に管轄権を認めているので,結局日本で裁判をする合理的な理由があるかという問題に帰着するので,必ずしも被告の防御が難しいからというだけでは②を排斥することはできないんだろうという気がします。   甲案の②は日本法が準拠法になるということがやはり大きな要因になっているんだろうと思いますし,日本人同士の婚姻について国家がある程度責任を持つべきだという思想が先ほどの対人管轄ということの理由になっているわけですから,その是非という形で議論すべきであって,被告の防御が,もちろん,そこにも最終的には絡むんだろうと思うんですが,甲案は内在的におかしいということにはならないと私は思っています。 ○和波幹事 今,山本克己委員がおっしゃったことは,正に御指摘のとおりかなと思うんですけれども,やはり裸の国籍原因を認めた場合には,具体的な事案を考えると相当広く取り込むことになってしまうのではないかと考えます。そのような場合に,原告の方は日本でやりたいと思っていて日本で訴えを提起されるわけだろうと思うんですが,やはりそうではないと,日本でそういう争いをしたくないと思っている被告の利益というのは,それなりに重視する必要があるのかなと思っております。   その意味では,国籍があるということだけで,日本での応訴を強制されることが被告にとっていいのかどうかという観点から,更に原告の住所を付加するほうがより日本との関連性は明確になり,その範囲で管轄を認めるべきだという議論は,甲案と親和的なのかなとは思っております。 ○高田部会長 いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 しつこくて申し訳ないですが,原告の住所があることがなぜ甲案と整合的になるのか,もう一つ私は理解できないのです。いずれにせよ水と油なんですよね。甲案の①と②というのは水と油なので,どう色を付けようが水と油は変わらないのではないかというのが私の印象です。 ○大谷幹事 例えばですけれども,原告も被告も夫婦双方が日本人で外国にいるとします。それで,一方が日本でやりたいけれども,他方は日本でやりたくないという場合に,もしも今の甲案の②でどうしてもやはり夫婦の双方が日本国籍では足りなくて,原告の住所が日本国内にあるということが加わった管轄の規律が定められているとします。そうすると,現実に何が起きるかといいますと,日本でやりたいほうは,日本に帰って,日本人ですから一旦帰って,そこで住民登録をし,しばらくいる。これは本当に現実にあります。みたいなことで,案外,原告の住所を日本人が原告として日本に住所があるということを裁判所で認めてもらうために抜け道はあると言わざるを得ません。したがって,考え方として,より原告の住所が日本にあるという場合に,被告が日本でやりたくなくても引きずられることは仕方がないのではないかと,実務で現実的な問題を考えますと,それほどの障壁にもなっていないのかなという気がします。そんなことになるのであれば,端的に本国国籍でもいいのではないかと,少し乱暴ですけれども,そのように感じています。 ○竹下幹事 今,御指摘いただいた点は,ずっと私も思っておりまして,原告の住所があることを要件とするといった場合,やはりこれは,確かに御指摘のとおり,帰ってきて日本に原告が住所を作るということは恐らく可能だと思いますので,ここのところが付加されることが本当に管轄原因の絞り込みになるのかというのが一つ想定されるところです。   では,そうすると,裸で国籍管轄を認めてよいかということになってくるんですが,ただ,そのときに,個人的にはこの中には出てきていないのですが,かつての法制審の国際私法部会の小委員会のように,純粋な応訴管轄ではないんだとは思うんですけれども,例えば一方が日本人であるとかの限定はかかるのかもしれませんが,当事者双方がある程度日本と全く関わりがない存在ではない事例,例えば,外国在住の外国人夫婦が,たまたま応訴管轄で日本で離婚事件をやりたいといった事例ではなくて,一方当事者が日本人であるような場合に,他方当事者もそれに応じるような事例であれば,ある意味,僕は,当然日本で裁判をして何ら問題がないと思っています。なので,一方当事者は日本でやりたくないが他方の当事者は日本でやりたいといったときに,裸の国籍管轄ないしはこの②を認め,日本でやるということを決断するかどうかということになると思うんですが,個人的には,やはり被告の側がやりたくないと言っているとすると,何か被告を日本,それがやはり国籍ということなのかもしれないんですが,ただ,やはり国籍があるということだけでは手続的な保護,ないしは手続法上の権利が否定される理由に十分かというと,何かもう少し違う要素が要るのかなという気はしております。ちょっと曖昧な意見で申し訳ありませんが。 ○小池幹事 確認なんですけれども,先ほど山本克己委員が甲案の①と②は水と油とおっしゃいましたけれども,甲案というのは,応訴負担と提訴負担では,それぞれそれなりに考慮しなければいけないけれども,応訴負担の方をちょっと重く見る。それを出発点として,しかし例外があってひっくり返ることがあると。②はひっくり返しましたけれども,要件をちょっと加重するという意味で,国籍をくっ付けたということなんですよね,多分。 ○高田部会長 事務局もどちらの方向に行くのか,やや悩まれるかと思いますが。お聞きした範囲では,当事者双方が日本人の場合には国籍要件だけでもよいという御意見の方がやや多数ということですかね。 ○山本(弘)委員 先ほど,大谷幹事がおっしゃったことなんで,原告住所要件を課しても,別れたいと思う人は本当に帰ってくるわけですよね。帰国しないと離婚できませんという規律を設けることにどれほどの合理性があるのかなというのが,ちょっと私も納得いかない部分があります。 ○高田部会長 では,大谷幹事が先ほど出された問題です。原告の住所が日本にある場合においては当事者双方が日本人であることを要求する必要はないのではないかという御指摘を頂いたと理解しておりますが,その点についてはいかがでしょうか。 ○竹下幹事 まず,そもそもなんですが,先ほどの続きなんですが,原告の住所は管轄の絞り込みにつながらないようにも思われますが,仮に作るとするならば,ちょっとまだ私の個人的な意見はペンディングみたいなところではあるんですが,この原告住所が外れてしまうとすると,やはり当事者双方が日本人であるということでの日本との関連性,特に当事者双方が日本人であれば準拠法も日本法になるという最初の西谷幹事の御指摘もそのとおりだと思いますし,ここが外れるとするならば,やはり少なくとも規定として設けるとすれば,双方が日本人でなければ,なかなか難しいような気がしております。 ○大谷幹事 ちょっと混乱してきてしまったんですけれども,私の先ほどの意見は,当事者双方が日本国籍の場合は原告の住所は要らないと申し上げたつもりでしたので,そこはそうですね。   本当は,ブリュッセルⅡbis規則は,当事者双方の国籍国の基準,管轄を認めていましたよね。もし間違っていたら,西谷幹事,後で訂正してください。認めていて,それから,ほかにも,例えばオーストラリアなどは当事者の一方の国籍だけで管轄を認めていて,私もそこまではちょっといけないと思っていまして,それでせめてといいますか,当事者双方が日本人でなくてはいけない,原告の住所を入れないでという立場でいます。そのことと,甲案の②の当事者双方がというのが,当事者一方にしてもいいのではないかと申し上げたときの意見は,原告の住所が日本国内というのがくっついての意見として申し上げました。 ○高田部会長 そのとおりかと思います。原告の住所が日本国内にあるときという要件に加えて,当事者一方が日本人であるときという場合についても管轄を認めるべきではないかという御発言を頂いたと理解しています。 ○竹下幹事 先ほどの議論の繰り返しになるんですが,結局,原告が帰ってきて,日本に住所を作ることが比較的実務上容易にできるということであるとするならば,実質,国籍だけで管轄を認めるのとは余り変わりがない。原告国籍だけで管轄を認めることと余り変わりがないことになってしまうので,やはり,そこのところは両方の国籍が要るのではないかというのが私の意見でございます。 ○村上幹事 確認なんですけれども,大谷幹事の御意見は,一方が日本人であればいいということなので,別に原告ではなくて,被告だけが日本人の場合でもいいということですね。 ○大谷幹事 先ほどの②で,当事者一方にしてしまうと,原告の住所,特に原告が日本人である場合に日本国内に住所を設定することが容易であるということの御指摘の観点で言いますと,先ほど,甲案から進めましょうという前の議論のときに西谷幹事がおっしゃったことに関連するんですが,乙案の場合に住所は住所概念を使いながら,プラス居住期間の要件を加えるということが外国法制でも見られて,その考え方は日本でも参考になるのではないかというお話,北澤幹事がおっしゃったんですか,ちょっとどちらか分からなくなりました。   私も以前から,その立場,そういう考え方を議論の俎上にのせる必要があるのではないかと思っておりまして,それは乙案との関連で,いつも発言していたわけですけれども,実は甲案でも原告の住所というのを使いますと,そこでは,そういう居住期間というものを更に甲案にも付けるということも一つの解決策ではないかと思っております。 ○和波幹事 先ほどから議論が出ているところではあるんですけれども,もちろん,管轄原因を考えるに当たっては,被告の防御権だけを考えているわけではないと思いますけれども,やはり実務的な観点からは,どうしても訴えられる側の保護をどうするかというのは,常に念頭に置く必要があるのかなと思います。   そういう観点からしますと,もちろん,最終的に原告住所を付加するかどうかはともかくとしまして,当事者双方が日本人である場合であっても,原告に住所を持つことの関連性を要求するというのは,一つ考え方としてあるのかなということで,今申し上げたところでございます。   その観点から,次に原告の住所があって,当事者の一方が日本人である場合という話になりますと,これも実務的な感覚だけなのかもしれませんが,まだ日本人の方が日本で住所を持って原告である場合というのは日本との関連性はそれなりに強いように思われるんですが,外国の方が日本に住所を持っていて,外国に住んでいる日本人が被告になるような場合にまで当然に日本で管轄を認めるべきかというのは,ちょっと違う考慮が必要なのではないかという感じは持っております。 ○山本(和)委員 私も竹下幹事と同じような感触を持っていますが,次の問題と関係しますが,日本に婚姻住所地があるということであれば良いのですけれども,外国で外国人と暮らしていた日本人が日本に戻ってきたというときに,それで無条件でやはり日本で訴えることができるというのは,私はやや広すぎるような感じがします。戻ってくるのにいろいろな事情が多分あるんだろうと思うんですけれども,そういう理由と全く関係なしに,当然日本に戻ってくれば日本で日本人だから訴えが提起できるというところ,その居住要件を課すという,どの程度のものを課すのかによってもまた違ってくるかもしれませんけれども,私はややそれでは広すぎるような印象を持っています。 ○山本(弘)委員 山本和彦委員が挙げられた事例は,正にそうで,そういう規律を設けると,やはりかなり自国民保護的な発想が背景にあると言わざるを得ないのだろうと思うんですが,多少それは国際裁判管轄の現在の考え方から言って,やはり違和感を抱かざるを得ないというのが私の感想です。   もう一つは,外国に居住している日本人を,外国人である男性が日本に来て,外国人登録をして,それで日本で訴えることができますということになると,今度は逆に,正に対人主権というのはそこまで正当化するのかという問題だと思うんですね。それも何となく時代がかった発想かなという気がいたします。 ○高田部会長 大谷幹事の御発言の基礎には,もしかすると乙案があるのかも知れません。乙案からみれば,原告の住所地を国籍で絞ろうというお考えになるわけでして,その限りでは合理性はあり得るのだろうと思いますが,それは,山本和彦委員の御発言にもありましたように,次にご議論いただく婚姻生活地管轄や原告の住所地管轄をどの範囲で認めるかによって,その意義は異なってまいりますので,その議論を踏まえた上でご検討いただくということにさせていただくということでどうでしょうか。  では,そのようにさせていただきます。   国籍について,ほかに何かございますでしょうか。 ○畑委員 国籍だけで管轄を認めることには,やはりちょっと抵抗がございます。先ほど少数説ということになりましたので,一言だけ申し上げておきます。確かに,両当事者が合意しているとかということであれば,よろしいかと思いますし,日本でやることに合理性がある場合というのはあるのだろうと思いますが,やはり,できれば国籍だけでなくて,何かもう少しその合理性をすくい取るようなことができないかなという印象を持っております。 ○大谷幹事 合理性という意味で言いますと,日本では余りないんですけれども,外国でよく使われているのは,ジョイントアプリケーションというやり方で,日本ではすぐに合意管轄か応訴管轄かという話になるんですけれども,外国では,今のような場合は,ジョイントアプリケーションという形で,やりやすい。日本でも,今,管轄の話だけしていますので,ジョイントアプリケーションという新しいことを持ち込むと,それは今ないと言われそうなんですが,でも,実際には本訴,反訴で,言ってみれば双方から離婚訴訟を提起する。それを同時にやるのがジョイントアプリケーションというだけですので,私は実務的にそこは乗り越えられるのではないか,うまく管轄の規律の話としても解決が可能なのではないかと前からちょっと思っております。   それから,今,甲案で議論していますので,先ほど部会長が整理してくださったとおり,私の発想にどうしても乙案があるというところはあって,もう一回甲案の②の議論として整理し直しますと,先ほど当事者どちらか一方と申しましたが,それでは広くて,原告だけという考え方があるというのは全く異論がありません。ちょっと考慮要素が違うと思います。   その上で,甲案のときに議論していただくのか,乙案のときに議論していただくのかが分からないんですが,正に外国で生活していた日本国籍者が日本に帰ってきたときに,日本で離婚訴訟を提起するのが広すぎると先生方がよくおっしゃることが本当にそうなのかというのが前から本当によく分からなくて,これはアプローチの問題なのか何の問題かよく分からないんですが,一度そこは本当に議論していただきたいと思っています。   それは,外国法制では,私はそこはむしろ認めているのが現在の国際的な標準になっていると思っていますので,日本での発想が狭いのではないかと前々から思っております。 ○高田部会長 最後の点は,文字通り原告の住所地管轄の意義に関わり,日本で婚姻関係を解消し,場合によっては新生活を始める利益をどこまで掬うかということだろうと思うんですが,そうした利益が仮に保護に値するとすれば,それに過不足ない規律を,この後,考えていただければと思いますが,直ちに国籍要件と結び付けることについては,この段階では,やや慎重な意見が多かったということでしょうか。   最後にですが,ともに住所がない場合に管轄を認めるとしますと,国内管轄の規制が必要となるわけですが,この問題については今後何度も同じ問題が出てまいるかと思いますので,最後に総論の段階で改めて御整理いただくことになろうかと思いますが,この段階で何か御発言があれば。   よろしゅうございますか。では,まとめて総論のところで御議論いただきたいと思います。   では,続きまして,次の婚姻住所地ですか,最後の共通住所地ですが,この点についてはいかがでしょうか。 ○池田委員 これは,甲案をとる場合においては,私としては必須であると考えております。先ほどの,後から出てくる遺棄が評価的な要素があって,それは中身に入るという問題もありまして,そういった形ではなく,外形的に定められる形で管轄を決めるということが望ましいということもあると思いますし,実務的にも,婚姻住所地を入れておくことで,公平な解決を図り得ると考えておりますので,これは是非入れたいと思います。 ○山本(弘)委員 先ほど来,本日の会議の冒頭で大谷幹事が乙案的なものでないと困ると,事例がたくさんあるとおっしゃった,かなりの部分は,やはりこういう遺棄とか行方不明とか,そういう離婚原因に関わるような問題をやはり管轄原因の中に組み込こんでしまっていることから生じている問題がかなりあるんだろうと思うんですね。ですから,今,池田委員おっしゃったとおり,こういう外形的なもので管轄原因を明確に定めておくということは非常に重要なことではないかと思いますので,その意味で,池田委員のおっしゃったことに全く同感でございます。 ○西谷幹事 私も,この婚姻住所地を管轄原因として認めることに賛成いたします。例えば,外国人同士の夫婦がずっと日本に居住していたけれども,一方の配偶者が無断で本国に帰ってしまい,他方の配偶者だけそのまま日本に残っているという場合がありえます。ところが,甲案では,遺棄という不明確な概念を管轄原因から除いているため,従来の判例においては,原告が遺棄された場合として,原告の住所地である日本の管轄が認められていたような場合についても,管轄が否定される結果となりかねません。   この場合にも,甲案の③で定めるように,原告が被告の住所がある国の裁判所に訴えを提起することが著しく困難であると言えるのであれば,この③に基づいて管轄を認めることができます。しかし,逆に言えば,被告が行方不明である場合を除くと,この著しく困難であるという要件を満たさない限りは,日本の管轄を認めることができないことになります。したがって,当事者の公平という観点から,この婚姻住所地の管轄原因を認めておくことは,重要であると思います。 また,そもそも婚姻住所地とは,当事者が自らの責任で,一旦その地で同居することを合意し,その居を定めた地を指します。したがって,当事者と密接な関連性があり,予見可能性もあると解されますので,管轄原因として適切であると考えています。 ○村上幹事 私も婚姻住所地に管轄を認めるのは賛成なんですけれども,その規定の仕方として,原告の住所地のプラスの要件とするのか,それとも単体でするのか。   国籍よりは原告の住所地プラス婚姻住所地の方がよりいいかとは思いますけれども,婚姻住所地単体で管轄を認めるのは,ちょっとペンディングです。まだ,分からないです。 ○高田部会長 西谷幹事の御意見も,原告の住所地が前提になっていた部分もございましたし,理由付けは単体でもよさそうな御意見もいただいたという気もいたしますが,もし補充があれば。 ○西谷幹事 はい。私も,婚姻住所地で,しかも当事者の一方がそこに継続して居住しているという場合を念頭に置いておりました。当事者双方とも婚姻住所地を離れてしまっており,過去に当事者がその地で一緒に住んでいたに過ぎない場合には,現在の管轄原因とするに足りるだけの密接関連性がないと考えられますので,少なくとも一方当事者がその地に継続して居住しているという要件を課してよいと思います。 ○山本(克)委員 例えば,日本人の男性でも女性でもいいんですが,外国で,当該外国である必要はないんですが,外国人の方と婚姻をし,そこで暮らしておられて,破綻して日本に帰ってこられたという場合に,当該外国で残っていた配偶者が離婚訴訟を起こした場合には,その結果を我が国は承認せざるを得なくなるということになろうかと思いますが,その点を含めてよろしいというお考えなんでしょうか。 ○西谷幹事 これは,研究会でも議論があったところでございますけれども,その点も含めて,やはり当事者が婚姻住所地として居を定めて一緒に住んでいたところですので,管轄原因として認めてよいのではないかと思います。場合によっては,特別の事情等で間接管轄を否定することはあり得るかと思いますけれども,原則としては認めてよいと考えています。 ○山本(克)委員 私も個人的にはそう思っているのですけれども,ハーグ条約の担保法の部会の審議の過程などにおいては,特にアメリカは問題になっていましたが,外国に共同住所地を定めるということの意味を本当に分かっているのかどうか,つまり,当該外国では親権がどうなるかが分かっているのかどうか,怪しいのではないかという議論がされたと記憶しています。アメリカですと,親権が共同親権であって,子供を連れて帰ってきたらアメリカの誘拐罪に該当するんだということが分からない人もいるのではないかという議論が多々されたわけです。居を定めたんだから予測可能性があったんだということを国民に納得してもらえるのかどうか,ちょっと気になるところなのです。 ○和波幹事 そこの部分についても,現時点でどうだということを決められるわけではないと思いますけれども,やはり今御指摘があったような点を考えると,これが当然に認めていいほどの関連性があるかという点については,やはりもう少し検討が必要かなと思います。その際には,先ほどの国籍に関する管轄が最終的にどうなるのかと,両方の当事者が日本人の場合で,原告住所を付加するとか,あるいは原告の住所プラス,例えば原告の国籍で認めるとか,そういう管轄原因がほかに入ってくるかどうかによっても,この管轄を認める必要性がどこまであるのかというのは変わってくるように思いますので,そのほかの管轄原因とも併せた上で,最終的には考える必要があるのかなと思っております。 ○大谷幹事 私は,甲案を前提にしたときに,原告の住所にプラス付加で最後の婚姻住所地を付けるという考え方自体には合理性はあると思っていまして,それについて異論があるわけではありません。ただ,その前提として,先ほどからお話が出ているように,その居を定めると,夫婦がそこを選択して現に婚姻住所として生活をしたのだから結び付きが強いし,それから,そこで訴えを提起されることも甘受せざるを得ないということについては,実際には現実にはそれほど簡単ではないということだけは指摘させていただきたいと思います。といいますのは,先ほどから,例えば原告の住所というのも,原告が日本人であれば日本に住所の設定が簡単だという話をさせていただいたんですが,例えばハーグでも,常居所というものそのものが結構実際には争われます。そこに住んだら常居所かというと,それはいろいろな理由で住むことになった,あるいは,現実には住んだけれども,一定期間のものであったとか,あるいは,最近ですとドメスティック・バイオレンスの議論との関係で,夫婦間の力関係のために一方が住むところに他方は従わざるを得ない,そういう場合でも常居所というのかとか,いろいろな議論がされていまして,ここの住所という場合に,その一定の居住期間ということを設けますと,それは意思というよりも,かえってかなり客観的に現実にその期間住んだという意味になってくるかもしれませんが,婚姻住所というものが一体,では,どのように決まったのか,あるいはどの程度の期間本当にそこに住めば,そこが最後の婚姻住所地としてそれほどの重みを持つのか。   例えば,最近は,本当に人がよく移動していますので,今,想定している話が割と2パターンあるように思われるんですが,つまり,日本で国際結婚のカップルが生活をしていて他方が外国に帰る場合,それから,外国で日本人と外国人の夫婦が生活をしていて日本人が帰ってくる場合という,どちらかというとそういうパターンを皆さん念頭に置いてお話しされているように思うんですけれども,現実には双方が行ったり来たりすること,それから,最後の婚姻住所地は例えば外国だけれども,その前によほどずっと長い間住んでいて,外国に居を構えたといってもそれは非常に短期間であったり,いろいろな場合がありますので,そこは,議論するときに是非念頭に置いていただきたいと思います。 ○高田部会長 ほかにいかがでしょうか。   原告の住所とは別に婚姻生活地の管轄を認めてもよいという強い御意見はないということでよろしゅうございますか。そうしますと,やはり原告の住所地に管轄原因を認める場合の付加的要因として,婚姻生活地という拾い方がとりわけ他の規律との関係において有効適切かという問題に最後に帰着するかと思いますので,改めて最後の段階で,もう一度御検討いただければと思います。   では,これまでの議論以外に,どういう要件を課せば原告の住所地に管轄を認めることができるかという点について御議論いただければと思います。これも,どこからでも結構ですので,御意見賜ればと思います。 ○竹下幹事 これまでの議論以外の場合ということ,③を念頭に置いていらっしゃるのかとは思いますが,先ほど来申し上げている,原告が日本に住んでいて訴えたときに被告が応じますよというような場合については,これというのはまだこれから議論されるということですか。 ○高田部会長 いや,いろいろなアイデアがあると思いますので,この段階で議論したほうがいいということは,ここでアイデアを提供いただければと思います。 ○竹下幹事 そういう意味では私の意見といたしましては,純粋な応訴管轄というのは少し違うと思うのですが,原告が住所が日本にある前提で,被告も日本でやることでやぶさかでないという事例については,管轄を認めていいのではないかと考えております。 ○高田部会長 被告の広い意味での同意があれば結局,原告の住所地管轄を認める要因に足り得るのではないかという御発言と理解させていただきました。 ○久保野幹事 今の御意見に賛成いたします。といいますのは,日本は協議離婚の制度がございますけれども,合意によって離婚の合意がなっているけれども裁判所での手続が必要という場合も,こちらに入ると理解しております。この事件の類型に入ると理解しておりますが,そうだとしますと,先ほどの共同申立てというのも関係する話なのかと思いますが,そのような当事者に認めることは,むしろ認めていったほうがよろしいと思います。 ○高田部会長 合意に基づくのか,共同申立てに基づくのか,応訴に基づくのか,微妙な差異も残っているような気もいたしますが,仮に,後に出てまいります合意管轄,応訴管轄という議論を出発点とすれば,その要件を絞る,原告の住所地という要件を付加するということになろうかと思いますが,その点はまとめて合意のところで御議論いただきましょうか。そちらの方が議論の整理がしやすいのかもしれません。 ○大谷幹事 その整理で結構なんですが,ただ,やはりちょっと違うので,この時点で一言だけ発言させてください。   先ほどの議論は,原告,被告が双方日本国籍で外国居住の場合を念頭に置いていたと思います。そこで共同申立てという言葉を使ったんですが,今,議論に出ていますのは,先ほど竹下幹事がおっしゃったのは,原告の住所が日本にある場合でしたので,この場合,被告の住所地基準からいくとできないということがあるものですから応訴管轄だとか合意管轄という話が出てくるんですけれども,実務でもよくあるんですけれども,要するに,原告,被告って,ただの入れ替わりですので,つまり原告に住所があるときに,外国にいる側が日本に起こす場合は簡単にできるんですね。なので,その場合は,より共同申立てといいますか,向こうから起こしてさえくれれば,もうそれで解決してしまう。それを私は応訴管轄と一般化することに余り賛成ではなくて,合意管轄を一般に認めることにも賛成ではない。では,何が違うかと言いますと,管轄に同意するということのインプリケーションといいますか,そこまで本当に分かってやっているのかというのが合意管轄のときに常に問題点として出てくるんですけれども,少なくとも,日本の裁判所に対して自分が離婚訴訟を提起するということまでしている人は,それは単なる管轄の同意とは違いますので,それは仮に双方が外国にいても,当事者が日本国籍の場合ですけれども,認める余地があるのではないかという意味で先ほど申し上げたこともあり,したがって,議論の整理としては,後でまた合意管轄,応訴管轄へ戻ってきていただいてよいと思うんですけれども,ちょっと意味合いは違うと思っています。 ○山本(克)委員 今の議論ですが,第1として上がっているのは離婚関係事件であって,離婚事件ではないということのようです。最初の注に,そう書いてございますね。だから,協議離婚の無効や取消しの場合も同じ議論が成り立つという前提で竹下幹事はおっしゃっているのか,それとも離婚訴訟に特化した形でおっしゃっているのかどちらなのでしょうか。ついでに言っておきますと,第1と第2を切り分ける基準が私には理解できていないので,そこにも絡む問題なんですが,竹下幹事はどの射程でおっしゃっているのか,ちょっと教えていただくと有り難いんですが。 ○竹下幹事 大変申し訳ありません。射程を余り明確に考えていなかったと言われるなら御批判はそのとおりかと思いますが,基本的に私が念頭に置いていたのは,やはりその一番最初に出てきた離婚調停からスタートするような,正に離婚の訴えだけを捉えて考えておりましたので,協議上の離婚の無効,取消しのところまで想定していなくて,そこをどうするかと言われると,もう少し考えさせていただければと思います。 ○高田部会長 確かにその点は整理が必要なのかもしれません。では,恐縮ですが,時間の関係もありますので甲案の③に戻りまして,その③の規定ぶりについて御発言いただければと思います。 ○大谷幹事 先ほど困った事例の中でもそう申し上げたんですが,行方不明という基準が客観的なように見えて,実はそうでもなくて,余り管轄基準として適切な形で運用されていないのではないかという実務上の経験がございまして,ここはもう少し,こういう場合を日本の管轄に取り込むとしても,規律の仕方としてもう少し工夫はないのだろうかと思っています。まだ十分に考えられていないのですけれども,一つの提案としましては,結局,よく実務で問題になるんですけれども,被告の住所地基準をとっていますと,被告の住所が外国のどこにあるとはっきりしないと結局できないでしょうということで,具体例を申し上げますと,住んでいるところを明かしてくれないが私書箱は教えるみたいな形のときに,よく,もうそれは行方不明として扱われたりすることがあるんですね。   それは裁判所では結局,訴状を送達すべき場所という意味での,その人が現にいるところが分からないから,あるいは,今の時代は,Eメール等で連絡がとれるということが本当によくありまして,郵便物等は実家に送ってくれと言われても,実家を送達場所としてやれるかというと,やれない,みたいな意味で何となく行方不明に準ずるみたいなことで扱われたりしています。そうすると,甲案の③は,結局は,送達場所になるような意味での住所が特定されていないことみたいな場合を取り込んでいるのかなと思いまして,それがいいのかどうかは別として,そういう場合をもし取り込むべきというのであれば,規律の表現の仕方として何かもう少し送達のための住所ということに引き寄せられないだろうか。   若しくは,それは結局のところ被告の住所がある国の裁判所に訴えを提起することが著しく困難であるときの中身の一例にすぎないのではないかという整理にもしなるのであれば,今日も御説明の中に遺棄を落とすと行方不明だけが残ってしまって,そのバランスはどうなのかという御発言もあったんですけれども,いっそのこと行方不明を落としてしまい,そういう場合が含まれるということを解釈の中で積み重ねていくという在り方もあるのかなと思っています。 ○高田部会長 いかがでしょうか。   この規律で十分拾い切れているか,拾い切れていない部分が残っているのではないかという御指摘を受けたと理解しておりますが,ほかにそういう具体的なご指摘があれば議論しやすくなるかと思います。 ○山本(和)委員 具体例ということではないですけれども,この遺棄をやめてしまって,遺棄自体は私も適当な文言ではないと思うんですが,この被告の住所がある国の裁判所に訴えを提起することは著しく困難であるという要件だけにしてしまって,本当にそれで拾い切れるかということは,かなり疑問を持っております。典型的に相手方が何の理由もなくいなくなってしまって,ただ,住所はどこにいるかは分かるというような,そういう典型的な場合に,本当にその住所国,それで訴えを提起することは著しく困難とまでは言えない,それなりにお金も持っている人だというようなこともあったりしたときに,しかし本当にそこに行かないといけないのか,それから,先ほど来出てきていますけれども,外国で婚姻をしていて,しかし相手方のDVとか,そういう実態判断はどこまで入るか問題はありますけれども,非常に気の毒な事情で日本に戻ってきたという場合に,それをこの訴えを提起することは著しく困難ということで読めるかどうかということにはかなり疑問があります。そこで研究会では,日本の裁判所で審理,裁判をすることが当事者間の公平を図るため特に必要であるという,何を書いているのか分からないと言われればそのとおりなんですが,そういうものを何か拾っていこうという努力をしましたが,私はやはり何か引き続きそういうことを考えていく必要はあるのではないかと思っていまして,それで私の最初の発言に戻るわけですが,それがやはりどうしても無理だということであれば,私も大谷委員が言われるように乙案ということも考えざるを得なくなってくるというように思っていまして,取りあえず今の段階では,そういう意見です。 ○大谷幹事 すみません,多分,今日全体に私の発言がうまくなかったために,ちょっと誤解があるようなので大変申し訳ないんですけれども,ちょっと整理させていただきたいんですが,私は,実は昭和39年判決で管轄を認めてもらうのに苦労したとか,あるいは困った,難かしかったという事例を御紹介したんですが,結論から言いますと,それで否定されたこともありますが,どちらかというと問題意識としては,狭く見えるのに実は認められているということが言いたかったのです。本当に,そうなんです。   それで,今,議論が甲案の③で拾えているかどうか,拾えてないものは取り出していって書き込むのではどうかと。それで本当に駄目だったら乙案,あるいは,書いてみたところ,それでは乙案に近くなってしまうので乙案という議論があるのではないかというお話だったんですけれども,私の問題意識は実は逆でして,今まで遺棄という,あの狭く見えるもの,あるいは行方不明と狭く見えるものが,実際にはかなり広く使われてきたというほうに問題意識が本当のところはありまして,したがって,今これを行方不明をとって,著しく困難になったときに相当入るんだろうと,皆さん,これに入れ込んで処理されるのではないかと思っているんですね。それがいいのかという問題意識があるんです。   というのは,乙案は皆さん,広すぎると思われるんですけれども,明確ではあるんですね。この場合,予測可能性という点でも,それから,例えば1年の居住というのを付けたときに,1年住んでいるぐらいの国で起こされるのはいかがなものかという議論はあると思われるんですけれども,諸外国の法制との比較からしても,そのときに認められるというのは,日本がそういう法制ならば仕方ないかなと思う人はいるかもしれないんですが,著しく困難の中に,実は著しく困難ではないかもしれない。しようと思えばできるかもしれないものも,相当取り込んで著しく困難として認めているとすれば,それは果たして本当にいい規律の仕方なんだろうかというところに,割と問題意識を持っています。 ○山本(和)委員 私も,もしこういう著しく困難という,仮に立法としてそういう規定を置いたら,やはりこれが拡大して解釈されるようになるんだろうなというイメージは持っています。それで救いたい人を救うときに,この文言を使うんだろうなと,実務的には,そう思っています。   ただ,立法の態度としてそれが適切かというと,それはやはり疑問を持っていて,そこがうまく書けないようであれば,もう原告住所地で認めて,あとは特別の事情で落としていくということに行かざるを得ないのかなという趣旨です。 ○山本(克)委員 ちょっと違う話になって恐縮なんですけれども,先ほど,山本和彦委員から住所がない場合うんぬんというお話があったんですが,どうも甲案,乙案を通じて住所はあることが当然の前提になっているように思うんですが,つまり,③でも当該身分関係の当事者である被告の住所がある国となっておりますので,③において,住所があることを当然の前提にしてよろしいんでしょうか。   最高裁で問題になったケースは住所がある場合,明確に分かっている場合だったと思うんですが,しかし,現実のケースでは住所が分からないという場合もあると思うんです。住所がある国というが分からないのも,被告の住所がある国に訴えを起こすことが困難だに入るわけですね。 ○高田部会長 趣旨としてはそうでしょうね。 ○山本(克)委員 了解しました。しかし,ちょっと普通の日本語ではないような気がします。 ○高田部会長 なかなか難しいのですが,この文言を厳格に解すると狭すぎるのではないかという懸念があるという御指摘と,こうは書いても実際には広がる可能性があるということを踏まえて,こういう規制でよいかという御発言があったと理解しておりますが,立法でございますから,一般的には過不足ない規律ができるような文言で規律するのがよろしいかと思いますが,こういう場合も含めるべきだろうという御意見,文言としてはこういう形で定めるのが最も的確ではないかという御意見,いずれでも結構でございますので,なおいただければと思います。 ○大谷幹事 あと,その文言の規律のほかに一体どういう場合を盛り込むべきだと皆さん,先生方がお考えかというのも重要だろうと思っています。   外国で婚姻生活をしていて,配偶者から暴力を受けて帰ってきた場合というのが割とよく事例に出されるのですけれども,現実には,暴力といっても今,定義が非常に広いですから,どういう場合を暴力というのか。それから,生活費を入れてくれないで,自分は外国人であるので,そこで生活は困難であるということで帰ってくる場合,在留資格の更新に相手方が協力してくれなかったので帰ってきた場合,その辺りは割と分かりやすいと思うんですが,外国での裁判は非常に費用が高いです。それができないと言って帰ってきた場合はどうか。それから,外国で裁判を起こされそうというので,そうなると応訴は大変だというので帰ってきた場合はどうかとか,実際には本当にいろいろなケースがあって,その規律の文言もそうですが,どの辺りを取り込むかという議論もやはり必要かなという気はいたします。 ○高田部会長 おっしゃるとおりかと思います。   例えば,今出てまいりましたような例は,どのように判断すればよろしいでしょうか。お二方から出てきた例は,外国では裁判費用が掛かるということが見込まれるので,日本に帰ってきたという場合辺りはいかがでしょうか。 ○大谷幹事 婚姻住所地が最後の場合であるほうのことは考えなくていいんですね。最初の頃に出した例としては,例えば,配偶者が退去強制で帰ってしまった例の場合,あるいは来られなかった場合を考えたんですが,帰ってしまった場合は,婚姻住所地がこちらにあります。来られなかった場合,婚姻はしたんですけれども,日本で婚姻生活を始める前に,そもそも日本にビザが取れなくて来られなかったので離婚したいという相談って結構あるんですね。そのときには原告が日本にいて,婚姻住所地が日本にあったとは言えませんので,拾うとすると③なんですが,今のような事例のときに著しく困難かと言われますと,今のような事例では婚姻自体は外国でしていますので,外国へ出かけていって婚姻をできた人が,そこで離婚はなぜできないのかと言われると,それは著しく困難ではないというべき場合と皆さんが例えばお考えになるかどうかとか,そうした事例なども,今先ほど挙げた例とはちょっと類型が違うものとして,実務上は比較的あります。 ○山本(克)委員 印象論ですが,費用の問題等をその困難性の要件に入れることは,甲案でなく乙案でも大丈夫だと言っていることを否定する理由になりませんでしょうか。   つまり,原告だけが日本に居住していて被告が海外に居住しても,応訴はきちんとできますよというのが乙案の①のはずなんですね。それを,根本的に否定することになるような気がします。結局,原告の都合で決まる管轄法制を作ろうという話に聞こえてしまうのは私だけなんでしょうか。 ○大谷幹事 私の立場は,乙案をとったときにはそういうことが起きるということは,ある意味もう予測可能性も含めて規律ではっきりさせるので,それはもう仕方がないという立場です。ところが甲案は,そういう場合を取り込むか取り込まないかの価値判断が人によって違うのではないか。現実に裁判官によっても違うかもしれませんし,それから,それを著しく困難と読むのかどうかということが予測も付かないのに対して,私は乙案のときに,先生がおっしゃるように,もう原告が選択したところに引きずられてしまうという,費用の問題も含めて,それはある意味,厳しいんですけれども,やむを得ないという発想に立っています。 ○山本(弘)委員 しかし,それは結局,乙案をとったとしても特段の事情による却下の問題が増えるだけで,そこで予測可能性という問題は,やはり出てくるはずだと思います。 ○大谷幹事 その場合を特段の事情として却下されるべきだと考えていないという意味です。私自身は,そう考えていないという意味です。 ○山本(和)委員 大谷幹事の個々の疑問に答える能力は到底ないんですが,ただ,やはり何というか,視点というか,あれとして,外国に行って外国の裁判所へ訴えを提起することが困難かどうかというのが一つの視点としてあることは間違いないと思うんですけれども,先ほど大谷幹事が挙げられた幾つかの例を見ると,外国に行けるかどうか,行って裁判できるかどうかという話とはやや別の要素が含まれているような感じがして,例えば就労ビザの取得とかに協力をしてくれないとか,そういうようなのは,その後,外国に行って裁判できるかどうかということとは多分,余り関係がないような話で,そういうようなものも取り込もうとして,その研究会では当事者間の公平というのが一つのキーワードみたいなものとして取り上げられたのかなと私は理解していまして,だから,その部分は全部切り落としてもいいんだと価値判断をすれば別なんですけれども,そこも取り込む余地を残そうとすると,やはり私自身は甲案では,この文言だけではややというか,狭すぎて,もう少し別の考慮要素で光を当てる側面というのがどうしても必要になってくるのかなという,全然具体的な提案をできずに申し訳ないんですが,そういう感触を持っています。 ○高田部会長 いかがでしょう。実質論を一つずつ挙げていってもよろしいのかもしれませんが,今,山本和彦委員からも御指摘いただきましたように,甲案の③の持つ意味について共通認識は現時点では必ずしもないという印象を持ちます。昭和39年判決をベースに考えますと,被告に日本に出向くことを要求することが衡平に適う場合といったアプローチをするのかもしれませんが,乙案ベースで考えると,むしろ原告が身分関係を解消する利益というものを被告の防御の利益との関係で調整する必要があるのではないかという発想のようにも思えまして,その辺り,全体としてどのような御感触なのでしょうか。   もし後者だとすると,昭和39年判決の文言をベースにするのはやや狭いという御批判を,山本和彦委員からお受けしているということだろうと思うのですが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 昭和39年判決の位置付けなんですけれども,最後は韓国か北朝鮮に行かれたのですが,そこが最後の共同住所地と言えるかどうかという問題はなきにしもあらずだという気がするんですね。行った途端に破綻した場合のようにも読めるので,日本が最後の共同住所地だとも言えなくはないように思います。ですから,これが本当に甲案の③のベースにしていい判決なのかどうかというのも,もう一つよく分からないのです。それで,事例判決的な意味があると,大谷幹事ですか,おっしゃったと思うのです。更に申しますと,そういう緊急管轄的なものを無理やり法文化するのがいいのかどうかも,私はちょっと気になっているところなんです。一方,広く管轄原因を認めて例外で切るというやり方についても同様の感触を持っていまして,財産法上の訴訟と同様に緊急管轄は立法化はせずに,解釈に委ねる,裁判所に委ねるというやり方もあるのではないでしょうか。 ○高田部会長 今緊急管轄という言葉にどういう意味合いを込めるかによるのだろうと思うのですが,緊急管轄的な規律に委ねればよいということですか。 ○山本(克)委員 ええ。ですから,先ほど私が申し上げたのは,最後の共同住所地という概念をもう少し柔軟にして,そういうルールを作った上で,本来の緊急管轄的なものは立法から外すというのも一つの選択肢ではないかということを申し上げたつもりです。 ○大谷幹事 今の山本克己委員の御意見だとすると,例えば,この①,②のほかに③で原告の住所プラス最後の婚姻住所地というのが立つとすれば,ここの③は,言わば離婚という場面での国際裁判管轄からは外すというお考えになるということなのかというのを確認したかったのと,あと,正に今,御指摘のあったとおり,それが先ほど私が問題提起したことでして,最後の婚姻住所地というのは解釈でそこもいろいろと出てきますという,正におっしゃったようなことがよくあるということはありますので,そこをめぐってまた争いというのは出てくるんだろうなと思います。 ○池田委員 今のお考えだと,通常の被告の行方不明というのも,原告の住所地に管轄原因を認めるべき場合として全く入らないということになるんですか。 ○山本(克)委員 いや,そういうことを申し上げているのではなくて,そういうものは日本の優秀な裁判官にお任せしましょうということを申し上げているだけです。そういうものを積極的に排除すべきだという趣旨ではなくて,オープンにしたままの立法をすべきだということを申し上げているのです。 ○池田委員 通常の被告の行方不明みたいなのは非常に明確,少なくともそれは何か明確にして規定に入れておきたい,明確性のために入れておきたいという気はちょっと実務的にはするんですけれども。 ○大谷幹事 私は池田委員にちょっと御質問したいんですけれども,通常の被告の行方不明とおっしゃっているのが本当の意味の行方不明で,被告の住所が分からないということだとすると,それは,逆に緊急管轄で拾えてしまう。例えば,緊急管轄というのを設けるとすれば,結局,管轄がない,どこかにない,あるいは,被告は本当に行方不明だけれども,原告は日本に住んでいて,かつ最後の婚姻住所地が日本にある,若しくは原告が日本に住んでいて,当事者双方が日本人である場合というのは,それで拾えるということにはならないでしょうか。   なので,私もまだ整理が付いてないんですけれども,仮に被告の行方不明というのを原告の住所地に管轄原因を認めるべき場合として規定するものから外すとしても,だからといって困らないのかなという気がしているんですけれども,違いますでしょうか。 ○池田委員 私自身は,典型的な被告の行方不明の場合には,別にその最後の住所地が日本になくても,原告がどこか外国にいて,それで日本に帰ってきて,それでもう被告が行方不明なんだからというときに日本での離婚を認めるべきだという価値判断を持っているので,それはこの①,②の婚姻住所地の中には直接は入らないんですけれども,ごく明確に原告の住所地に管轄原因を認めていいのではないかという考えです。 ○高田部会長 今の場合は緊急管轄に含まれるかどうかということについて御議論があり得るかもしれませんが,山本克己委員は,行方不明の場合も入れてしまうことになるという御発言だろうかと思いますが,それらは実務の知恵に任せて,離婚訴訟の管轄規定としては緊急管轄的な規律を外して条文化すべきであるというご意見をいただいております。立法する以上そこでいう緊急管轄的な要素も,もし条文で書き表すことが可能であれば,書き下ろすことを試みるべきであるというご意見もあるようにも思いますが,その点も含めて御意見賜れればと思います。 ○岡委員 一つには,その緊急管轄的な事例を救いたいけれども明文の規定は設けていないという全くオープンな条文だと,ちょっとやはり実務的にやりにくいところがあるのかなということと,それから,いずれにしろ緊急管轄的な事例について,まだちょっと個別の事例でどれを救おう,どれは要らないという議論が十分煮詰まっていないと思うんですよね。何かもう少しその事例を,微妙と考えられる事例を少し整理して,皆さんで共通認識を持って,それで最後どうするかという形にしていただいたほうが有り難いかなと。それを立法趣旨ということで,実務は運用していけることになりますので,その実質のところを,もう少し御議論いただければと思います。 ○高田部会長 おっしゃるとおりかと思いますが,たとえば,先ほど池田委員の提起された問題については,いかがでしょうか。 ○大谷幹事 私はやはりそこには疑問がありまして,言葉遣いの問題かもしれないんですけれども,それほど典型的な被告の行方不明というのが,昭和39年判決は,もう日本に原告が帰ってきてから相当たっていますので,本当にその当時の通信事情とか,いろいろなことを考えましても,行方不明に準ずるとは少なくとも言ってもいいような状況だったのかもしれない。ところが,現在において,失踪宣告のような本当にかなり厳格な意味ならまた別なんですけれども,典型的な被告の行方不明という概念が,どの程度のことを指すのかというのは,実際に事件をやっていますと非常に疑問です。非常に相対的に,変な言い方ですけれども,原告が日本に帰ってきて,被告が行方不明ですと言って,最後の住所地と思われるところにEMSで手紙を出して,受け取られなかったぐらいのことでも,裁判所は,案外,被告の行方不明として扱っていたりするぐらいでして,典型的な被告の行方不明の事例については,それを切り出して書いておくということが仮に好ましいとしても,典型的な被告の行方不明というものと捉えることは難しいと私自身は思っていますので,そういう場合を切り出して書くとしたら,ちょっとやはり言葉遣いとか,何を念頭に置いているかということは十分議論をしていただきたいと思っています。 ○平田幹事 先進諸国との間での婚姻の問題だったら大谷幹事のおっしゃるとおりかもしれないですけれども,日弁連の中の議論では,それ以外の国々で,やはり典型的な行方不明という,音信不通ケースというのはやはりあるんだというお話をうかがっています。基本的には,遺棄という有責性をにおわすような文言は外して欲しいとの要望です。でも,有責性に関わらないものとして行方不明という文言を残して,著しく困難というものの例示として挙げるというのは有意義なことなのではないかという気はします。ただ,この裁判を提起することが著しく困難という文言になっているのは,日弁連内でも狭いのではないかという意見もありました。形式的には裁判を提起できるけれども,裁判機能が動いていないような場合もあり得るということが日弁連内で出ていて,そうすると,裁判を提起することが著しく困難と実質的には言えるのかもしれないんですけれども,もう少しいろいろな被告の手続保障を外してもいいような事由があるような場合を包括的に文言で示すようなアイデアがないかというのを日弁連でも話しているんですけれども,まだ,誰からも具体的なアイデアは出てないというのが現状です。 ○高田部会長 おっしゃっているように,文言はいろいろ工夫がありえると思いますが,岡委員の御発言は具体的事例として,どの辺りが境界線なのか議論いただきたいというかと思いますが,その辺りはいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 被告の行方不明が拡大解釈されるというのは,実際上,婚姻関係の国際的な不統一という問題を増やしているということを意味しますので,私は,それもあって,③のような立法をするよりは,もっと幾つかのパターンのものをルール化してほうがいいのではないのかなと考えているということです。 ○高田部会長 その場合には,最終的には裁判所の判断に委ねるということになりますか。 ○山本(克)委員 どんな立法をしようとも,そこはオープンになっているはずですから,先ほど申し上げたような考え方もあると思います。 ○高田部会長 なかなか共通の認識を得ることができないところがございますが,貴重な御意見をいろいろ賜りましたので,いただいた議論を踏まえて,改めて考え方について整理した上で,お諮りしたいと存じます。   時間の関係もございますので,先にまいりまして,その先の方を御説明いただきます。 ○近江関係官 では,次に,渉外的な要素を有する離婚に関する訴えについて,合意管轄及び応訴管轄を認めるべきか否かという点を御議論いただきたいと思います。   身分関係の当事者である被告が我が国に住所地を有しない場合,当該被告が我が国での訴訟に合意をしているとき又は当該被告が任意に応訴をしているときには,合意管轄及び応訴管轄として我が国の管轄権を肯定する見解も有力です。   また,当該被告が我が国での訴訟に合意していること又は被告が任意に応訴していることに加えて,原告の住所地が我が国にあれば,我が国の裁判所の管轄権を肯定するという見解も存在します。   しかし,他方で,人事に関する訴えについては,国内裁判管轄において人事訴訟法4条で専属管轄とされているため,合意管轄及び応訴管轄は認められないこととされています。この国内裁判管轄との関係を考える必要があるものと思われます。   また,応訴管轄については,これを認めるとすれば,応訴管轄が成立する可能性があるため,海外にいる被告への訴状の送達が常に必要となり,手続の迅速の要請や訴訟経済の観点から望ましくないという指摘があります。   これらの点から,合意管轄及び応訴管轄を認めるべきではないという指摘があるところです。   ただ,我が国の民法におきましては,離婚に関する訴えのうち,離婚の訴えについては特に協議離婚が認められるなど,実体法的に見れば,当事者の任意処分をおよそ許さない権利ではないとされていること,更に離婚に関する訴えのうち,離婚の訴えについては,その当事者適格は身分関係の当事者にのみ認められていることから,国内裁判管轄においても,離婚に関する訴えが本当に専属管轄にするほどの公益性があるのかというような議論がされ続けてきたところでありますし,人事訴訟法制定の際にも,そのような議論がされたところです。   もっとも,最終的には離婚の訴えも含めて,人事に関する訴えの管轄はすべて専属管轄とするのだと人事訴訟法制定の際にも結論付けられましたし,この立場は,人事訴訟手続法制定以来,一貫しているところです。実質的にも,身分関係は社会の基盤となるため,個人の存在そのものを同定し,また,身分に伴う権利関係の基礎となるものであるため,全ての身分関係が公益性が強い法律関係であるというような指摘もされているところです。   以上のような観点を踏まえて,合意管轄や応訴管轄について御議論いただければと思いますが,その際,合意管轄,応訴管轄を肯定する場合につきましては,以上のような国内裁判管轄が専属管轄とされていることとの関係をどのように考えるのかという点を含めて御議論いただければと思います。   なお,原告の住所地が我が国にない場合でも,両者の合意のみによって我が国の裁判所に管轄権を認めるという立場に立つ場合,これは先ほど話に出ましたが,国際裁判管轄は認められるけれども国内での訴訟の受け手となる裁判所がなくなってしまうという問題もあり得るところです。また,合意管轄を認めるとすると,国内の特定の裁判所での裁判を合意していた場合,例えば東京家庭裁判所での裁判に合意しますというような合意をしていた場合,国際裁判管轄合意部分と国内裁判管轄合意部分に分けられるのか,例えば,国際裁判管轄の合意は有効だが国内での裁判管轄の合意は認められないので,その分は無効であると分けて考えるようなことがそもそもできるのかどうか,こういった問題もあるところですので,合意管轄を肯定すべきだという場合には,こういう点も含めて御議論いただければと思います。 ○高田部会長 先ほど来,関連する議論は出てまいっておりますが,改めて御意見賜ればと思います。いかがでしょうか。 ○池田委員 先ほど来の議論では,一般的な合意管轄については否定的な御意見もあると思うんですけれども,特定の場合について,被告が管轄に応じているということを理由として,本来であれば認められないものについて認めるべきというところについて,かなり大方の御支持があったような印象は持ちました。少なくとも,それが可能になるような形での立法ができるといいなと思っております。確かに,応訴で送達することの負担という点があると思うので,そこはなかなか難しいだろうと思っておりますのと,一般的な合意管轄という形で,ずっと昔の合意を根拠として管轄を認めることに問題があるというところも思っておりますので,普通のものと同じにすることには若干躊躇があるかなというところです。 ○高田部会長 いかがでしょうか。   池田委員の御意見は,原告の住所地に関わりなくという御意見と承ってよろしいのですね。 ○池田委員 そうです。 ○高田部会長 先ほど大谷幹事からは,離婚に関して言えば原告の住所地については合意管轄を認めなくても,実際上の工夫によってカバーできるであろうという御指摘をいただいたと理解してよろしいのでしょうか。 ○大谷幹事 ええ,ほぼそれに近いんですけれども,むしろ応訴管轄を認めるべきだという事例について,私はやっぱり応訴管轄に反対なんです。合意管轄にも反対でして,ただ,そういう必要がある,あるいは認めていい場合があること自体は否定していないです。それは私自身は乙案に賛成なので,乙案で拾える場合があるということが念頭にあるのもありますけれども,甲案を前提に議論をしていた場合にでも,その共同申立てというものを真正面から認めるかどうかは別としまして,例えばですけれども,反訴という形で明確に訴訟提起をするというぐらいまで被告が日本の裁判所に対する行動をとっていれば,それはもう問題ないと思っていまして,それによる解決という実務的な解決方法で,なお乗り越えられない場合がどこにあるのかなということが,よく分からなくなっています。   合意管轄に近いものとしては共同申立てという,両方が申し立てるという制度は日本ではありませんが,少なくとも日本でやってもいいということが分かっているのであれば,そういうアプローチをとってもらうという実務を発展させていくことの方が,より解決としてはいいのではないかという問題意識がありまして,管轄として,それを取り込むことがうまくできるのか,必要な場合を入れようとして広くなりすぎるのではないかという懸念がやはりあります。 ○和波幹事 合意管轄につきましては,先ほど関係官の御説明にもありましたけれども,国内において合意管轄が認められていないということは,やはり国際裁判管轄を考える上でも重視すべきではないかなとは考えております。   もちろん,離婚自体については協議離婚が認められているというお話はございましたけれども,単位事件類型として「離婚に関する訴え」ということで規定を設けた場合に,その中で離婚の訴えだけを取り出すということで,整合的な説明ができるのかというようなところは,やはり十分に検討する必要があるかなと思っております。実質的にも特に完全に裸の合意を認めてしまったような場合には,離婚について合意でどこの国でも選ぶことができるというのがそれほど一般的なのかなというところもございますので,そこは慎重な検討が必要かなと思っております。 ○高田部会長 今の点にも関係しますが,原告の住所地に付加してという状況と原告の住所地もない場合というのは若干性質違うような気がしますが,最も典型的には原告,被告とも日本国内に住所がない場合に,合意の存在だけで日本に管轄を得ることは認められるかという点ですが,その点についても御議論いただければと思います。 ○池田委員 先ほどの議論では,双方日本人でも,その合意があることを要求したいという立場もあるという理解ですね。 ○高田部会長 そうですね。原告の住所のみならず,付加的な要因全てとの関係で問題となりますね。 ○山本(克)委員 合意管轄を考える場合,まず付加的なのか専属的なのかという問題がありますね。他の法定管轄を排除する旨を含むものまで認めるのかどうかという問題です。それともう一つは,合意の時期の問題があります。例えば,婚姻時に夫婦財産契約を結ぶ際に,ついでにそれをしたためた公正証書に日本国の裁判所に提起するものとすると書かれてしまった場合,離婚訴訟はどうするのかというような問題です。合意の時期は,しかし,うまくコントロールできないのですよね。ですから,余りに早い時期の合意を排除する法理を立てられるのであれば,付加的に限ってということですが,可能な選択肢ではあると思うんですが,それを合理的に排除する可能性はないような気がします。多くの場合,夫でしょうが,夫の方の優越的な地位の濫用的な合意を排除しようとすると,本案前の争いを増やすだけであって,望ましくないですし,そもそも合意管轄を認めることは,先ほど来,何度も言っています婚姻関係の国際的な不統一の問題をよりたくさん生み出す要因になり得るわけです。そのような次第で,合意管轄は全く取り入れるべきではないというのが私の立場です。 ○池田委員 私もその昔の合意というのを原因としたいというか,するべきという考えではなく,要するに裁判提起時点において,そこで裁判をすることについて同意しているということが確認できる必要はあるのではないかと思っています。 ○山本(克)委員 それを合意管轄と呼ぶかどうかは言葉の問題であって,それは先ほど来,多分,竹下幹事がおっしゃっている応訴管轄がそれに近いように思います。本来の応訴管轄よりも,もうちょっと積極的に「ここでもいいよ」と言ったものを想定されるようにうかがいましたので,それは,また一つの選択肢だとは思いますけれども,それを合意管轄というのは,ちょっとミスリーディングであると思っています。合意管轄は飽くまでも事前合意であって,それが訴訟上証明された場合において管轄が生ずる場合だけに限っておいたほうがいいと思います。片や本来の応訴管轄は異議なき応訴ですので,それとも違う中間型を考えるということになるんだろうと思います。大谷幹事のおっしゃるジョイントアプリケーションに近いものになってくるのかなという気もしなくはないんですが,しかし,やはり頭が固いのかもしれませんが,婚姻事件について,そういうことをしていいのかどうかそれ自体が問題であると感じています。   実は,私は現行人事訴訟法ができるときに,人事訴訟法分科会におりまして,離婚訴訟と離縁訴訟は弁論主義でいいということを強硬に主張して,退けられた経験がございます。つまり,現行の人事訴訟法は民事訴訟とは基本的に違うんだという発想できているわけです。そこに離婚訴訟にだけ,国際的とはいえ合意管轄的なものを入れ込むということは,やはり立法としては一貫性を欠くのではないかという感じもしています。 ○畑委員 離婚訴訟について,国内事件で合意管轄が認められていないというのは確かにそのとおりですが,そのときの議論は確か自庁処理などもあるので,というようなことで折り合いがついたような気がいたしますので,ここで合意的なものを多少認める余地はやはりあるのではないかと思っております。   その後,これも皆様に申し上げるまでもないと思いますが,家事事件では,調停で処理できる,当事者間の合意で処理できる事項については合意管轄を認めることになりましたので,国内事件も若干そちらの方に動いていると言うこともできるのではないかという気もいたします。 ○山本(克)委員 純粋国内事件についていえば,そういうふうに考えることもできると思うのですけれども,協議離婚を認める国がそれほど多くない現状で,協議離婚ができることを前提としたような国際的な規律を置くことが国際管轄立法の在り方として適当かどうかという点も併せて考慮すべきだと考えています。 ○大谷幹事 研究会のときから,ずっと合意管轄に反対していますけれども,国内裁判管轄との比較の点からいいますと,国内裁判管轄でさえ認められてないのに,国際裁判管轄で認めるべきでないという感じをやはり強く持っていまして,国内であれば管轄というのはどこでやるのか,裁判所へのアクセスとか,そのレベルの話かもしれないんですが,国際裁判で管轄を合意するということは,そのことによって準拠法,適用される法律が変わること等も含めて,非常に複雑な問題です。これを婚姻時の夫婦財産契約で合意する例が今,増えてきていますけれども,それを真正面から認めるという国はなかなか少ない中で,日本が本当にそんなのを認めるんだろうかというのもありますし,では,破綻しているとき,破綻後であれば,離婚が顕在化しているときであればいいのではないかと言いましても,そこにはやはり当然,力関係の差というのがありまして,そこで持っている情報量とか経済力とかの中で合意というのはされることがあります。   私が先ほど来申し上げているのは,合意による管轄ではなくて,自分も自らその裁判所に訴えを提起するというところまでやる人は,それは排除するはことないし,諸外国でも国際合意管轄を認めていないながら,そういう形で来る人たちのものは扱っている。これは,協議離婚が日本は独特と言われますけれども,諸外国で裁判離婚でなくてはいけないと言いながら,当事者たちは合意して持ってくるというのと同じような話でして,真正面から,その合意を認めるのとは違う実務上の運用というのを諸外国でもやっていて,日本もそれに倣う形で,そのようなニーズは拾っていくべきではないかというのが私の意見です。 ○高田部会長 いかがでしょうか。   消極的な御意見が相次いでおりますが,今,大谷幹事がおっしゃられた方法では実務的に十分カバーできない場合があるとすれば,なお検討をすることになるということでしょうか。 ○池田委員 何か非常にテクニカルな感じになっているのですけれども,例えば,相手方には代理人が付いていないと,なかなか反訴という形を作ることが難しいのかなと思います。ただ,いろいろな場合が考えられ,ちょっと難しい場合もありそうという懸念を持っております。 ○大谷幹事 すみません,何か弁護士同士のテクニカルな議論に入ってしまっているんですけれども,結局,例えば合意管轄,訴訟提起時に例えば国内でも離婚調停なんかで合意管轄でやろうというときに,結局その時点で管轄合意書を作って,どちらか一方が作って,それで相手に弁護士さんが付いていらっしゃれば弁護士同士でやりますけれども,御本人のときでも,どちらかが作ったものに同意してくださいみたいなことでやっていることがあるわけでして,それを国際版で,そういう管轄合意書が出てくれば認めるのかという議論を結局,今していることになっていると思っているんですけれども,それに同意してもらうという,例えば相手に代理人がいないときに,そのときに例えばですけれども,日本の裁判所で離婚訴訟をするということに,あなたの方も望むのであれば,最低限簡単でいいから,そういうものを出してくださいということを言って,代理人をお付けになるか自分でやるかはともかくとして,そこまでやってくるという意思が確認できた人について扱う余地は残すかもしれないけれども,結局,代理人が付いていない例というのを考えますと,こちらが作った合意書面にサインしてもらうという,その程度で本当に認めていいんだろうかという問題意識があるという意味です。 ○高田部会長 よろしいでしょうか。御意見は賜ったということで,この合意管轄,応訴管轄,それから,その中間形態ですか,全体に関わる問題でもありますので,全体についてご議論いただいた後改めて御議論いただく機会もあろうかと思いますが,この段階で,なお御発言いただくべきことはございますか。   では,続きまして,附帯処分について御説明いただきます。 ○近江関係官 では,次に,いわゆる附帯処分及び関連損害賠償請求の管轄権です。附帯処分は子の監護に関する処分,財産の分与に関する処分等を想定しています。関連損害賠償請求の典型例は離婚に伴う慰謝料請求等です。   ただ,いわゆる附帯処分や関連損害賠償請求については,子の監護に関する処分を除いて,離婚に関する訴えのうちの離婚の訴えに付随させて管轄を認める方向性自体には特段の異論はないものと考えられますので,この点については,各論的な検討の後に,総論的な検討のなかで併合請求に係る管轄原因の在り方の検討を行う予定ですので,その際に御議論いただければと思います。   特に議論があると考えられます子の監護に関しては,子の監護に関する処分の審判事件に係る管轄の在り方の検討の際に取り上げることとさせていただきたいと思います。   なお,前回,子の監護に関連して,未成年の子がいる場合,その夫婦についての離婚に関する訴えについては,離婚に関する訴えに係る管轄原因自体を子の監護に関する処分の審判事件の管轄原因を踏まえて議論すべきではないかという御指摘がありましたが,この御指摘は,未成年の子がいる夫婦の離婚に関する訴えについては子の監護に関する処分の審判事件に係る管轄原因が肯定される場合に限って管轄原因を肯定するという趣旨の御意見ではないかと理解しておりますが,この点についても,子の監護に関する処分の審判事件に係る管轄を検討してからの方が議論がしやすいと思いますので,その上で御議論いただきたいと思っております。   財産分与事件については,後に「第3」という項目を設けて,その中で少し議論をしていきたいと思っております。 ○高田部会長 ということで,個別の単位事件類型又はそれに含まれる個別の事件類型ごとに併合管轄をどの範囲で認めるか御議論いただくということにさせていただければと存じますが,この段階で何か御意見ございますでしょうか。よろしゅうございますか。   以上で,取りあえず離婚関係事件の国際裁判管轄については,一通り御意見賜ったということかと思いますが,なお,御発言があれば承りたいと思います。 ○山本(克)委員 私のブラッセルⅡbis規則についての発言がどうも誤解されていたようなので,議事録に残しておきたいので発言させていただきます。   私は第三国に被告が居住しているときにブラッセルⅡbis規則の適用がないという話をしたつもりはなくて,ブラッセルⅡbis規則の加盟国の間では,その管轄規定に基づいてされた離婚の訴訟の結果が承認される結果,域内では婚姻関係の国際的な不統一の問題が生じなくなるので,そういうことを前提としたものとして受け止めるべきだということを申し上げたつもりでしたので,念のために補足させていただきます。 ○大谷幹事 自分でも整理がついてない部分ですけれども,できれば先生方の御意見も伺いたいということで,1点だけ発言させていただきます。先ほどの被告の行方不明の問題で,基本的に被告の住所地主義をとって,被告の応訴の負担,被告の防御の利益というものを,むしろ重視するという考え方に立つ甲案において,被告が行方不明のときに,なぜ突然原告の住所地に管轄を認めてよいのかということと,それから,現実の実務では,被告の行方不明と呼んでよいのかどうか,私自身疑問に思うような場合にも,被告の行方不明ということで拾われているということを,もう一度ちょっと考えていました。被告の応訴の負担とか被告の防御の利益ということを考えますと,本当であれば,原告は単に本当の居場所が分からない,ただ,その国にいることは間違いない,送達場所がはっきりしないという場合に,本当でしたら,被告がある国にいるということが特定できているのであれば,その国の中の国内の離婚訴訟手続において,場合によっては送達も,その国の送達制度としては,もしかするとより簡単にできるかもしれないと思うのです。   その国においても公示送達になってしまうような場合には,その国へ行って外国で公示送達による判決を得てしまうと,それが承認されないということが出てしまう。そのときに初めて,それであれば原告からの離婚は日本で認めるしかないということになるから,被告の行方不明の場合に管轄を認めようという発想があるのかどうか。もしそうだとすると,やはり今の日本の実務は,本当にその国の手続において公示送達になるような場合でない場合まで,かなり広く拾ってしまっているような気がしまして,そういう意味で,被告の行方不明という言葉というか,想定している場面というのをやはりもうちょっと絞って,本来であれば,被告の住所地主義でいけば,果たして日本から送達するという意味においては何かしにくいかもしれないけれども,その国の中の裁判手続であれば十分できるという場合に,本当にそのことで原告の住所地に認めて,それは合理的なのかどうかということでちょっと疑問に思いましたので,問題提起させていただきます。 ○竹下幹事 私の意見といたしましては,今,御説明いただいたとおり,正に現地に行っても公示送達になってしまうような形で,原告としては恐らくこれから日本で住んでいくだろう,日本での権利関係がやはり重要になってくる局面を考えたとすると,やはり現地に行って,公示送達が駄目だったから,もう一回日本という手続を踏むのではなくて,直接日本で離婚を求める権利を認めてはよいのではないかと。恐らく,そういった事例について,どう制定法に持ってくるかはともかく,更には,被告の行方不明という言葉を使うかどうかはともかくですが,恐らく日本で管轄を認めることについて異論はないのではないかと考えているところでございます。 ○大谷幹事 私もそう思います。そうだとしますと,例えば,その国で本当にやっていれば,公示送達にならずに,直接交付とかで,送達が十分できるようなケースまで,結構日本では行方不明ということで取り込んでしまっているように見えるということを申し上げたくて,そこにちょっと問題点を感じております。 ○竹下幹事 恐らく,そこのところというのは,先ほどの甲案の③のところについて,結局,どこまで拾っていくかのところで,私自身も上の,要するに原則的,ある意味③って例外的なものなのかなという気が個人的にはしておりますので,原則のところが見えた上ではないと,ちょっと自分の意見を言えなくて申し訳ないんですが,大谷幹事が今おっしゃられたような事案というものは引き続き検討させていただきたいと。ただ,行方不明として考えているのは,そういった事例ではなく,純粋な本当に公示送達になってしまうようなことを念頭に置いているということだけ発言させていただきます。 ○高田部会長 今の整理ですと,訴え提起が困難であるというよりも,むしろ日本で承認されないなど,そのような事情がより重要になってくるということでしょうか。 ○竹下幹事 より重要となってくると言われると,複合的な要素だとは思うんですが,正に核として一番中心的に私がイメージしているところは,やはり日本での権利関係の清算というものに対しての直接的な影響というところがあって,そこのところはやはり日本で認めてあげなければならないのではないかと。本来,被告の行方不明で言われていた,念頭に置かれていたのは,そういったもので,ただ,それでは救えない事案があるので,実務で恐らく違う考慮がされているのだと思いますが。しかも,飽くまで私の理解ということでございます。 ○大谷幹事 私はなるべく今,甲案の発想で考えようとしているんですけれども,甲案の発想で考えれば,別の要素で原告の住所地基準を認めるような場合はちょっと除きまして,その被告が行方不明的な場合に,なお,それを原因として日本に原告の住所地があるということで管轄を認めるべき場合というのは,本当はもうちょっと狭いのかなという気がしています。つまり,原告は本来であれば被告の住所地で弁護士を探して,その国における所在調査の方法とか何らかを使って本来やるべきで,それでは公示送達になってしまうので後で承認されない,それでは困るというような,端的に言うと,そういう場合には拾うということなのかなとも思っていまして,そこは引き続き考えてみたいと思います。 ○高田部会長 ありがとうございました。途中でも申し上げましたように,現在のところ,甲案も取りあえずのアプローチでございますし,甲案の中でも,被告の住所地が原則であって,それ以外は限定的な例外だという立場もありますし,甲案の枠組みで原被告間の利害の調整を図ろうというアプローチもなおあり得ると思いますので,その点をも踏まえたうえで,本日の御議論を事務局に整理していただきまして,改めて御意見を賜ればと存じます。   では,予定された審議事項をかなり積み残してしまいましたけれども,予定した時間が参っておりますので,本日はこの辺りまでにさせていただければと存じます。   それでは,次回の議事日程等について,事務局から説明していただきます。 ○内野幹事 それでは,次回の議事日程でございますが,次回の日程は6月27日金曜日,午後1時半から午後5時半まで,場所は法務省の大会議室となっております。   次回の議題等は,今,部会長から若干説明がございましたが,法案の③の部分の在り方,また,今のアプローチ論で,また委員の皆様方で出ておらないところの御議論などをしていただく。そしてまた,今回の部会資料中,婚姻関係事件以下の部分を積み残しておりますので,その部分のほか,親子関係事件,子の監護及び親権関係事件,更に扶養関係事件ということを一応の議論予定とさせていただきたいと考えています。 ○高田部会長 よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も不手際の多い司会でございましたけれども,長時間,熱心な御審議賜り,どうもありがとうございました。 -了-