法制審議会 第173回会議 議事録 第1 日 時  平成26年9月18日(木)   自 午後2時00分                         至 午後4時22分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  (1)議題     時代に即した新たな刑事司法制度に関する諮問第92号について  (2)報告案件     民法(債権関係)部会における審議経過に関する報告について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○西山司法法制課長 ただいまから法制審議会第173回会議を開催いたします。   本日は,委員20名及び議事に関係のある臨時委員1名の合計21名のうち20名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   初めに,法務大臣挨拶がございます。 ○松島法務大臣 この度第二次安倍改造内閣におきまして法務大臣を拝命いたしました松島みどりでございます。法制審議会の委員の先生方には今後ともよろしくお願いいたします。   法制審議会第173回会議の開催に当たり,一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ本会議に御出席いただき,誠にありがとうございます。また,この機会に法制審議会の運営に対し,日頃より大変御協力を頂いておりますことを,厚く御礼申し上げます。   さて,本日は御審議をお願いいたしますことが1件,そして部会からの御報告事項が1件ございます。まず御審議をお願いいたします議題は「時代に即した新たな刑事司法制度を構築するための法整備の在り方に関する諮問第92号」についてであります。この諮問事項につきましては,平成23年6月以来,新時代の刑事司法制度特別部会におきまして調査審議が重ねられ,その結果が,本日,本田部会長から御報告されると承知しております。   また,現在の刑事司法制度が抱える諸課題に的確に対処するために,早急に所要の法整備を図る必要がございますことから,同部会におかれましては精力的に調査審議を行っていただいたと伺っております。委員の皆様方には,本日御審議の上で結論をお取りまとめいただき,御答申を賜りますようお願い申し上げます。   次に部会からの報告事項ですが,民法(債権関係)部会における部会審議の途中経過をしていただくことになっていると伺っております。民法(債権関係)部会では平成21年11月以来既に5年近くにわたり審議が行われてまいりましたが,このほど最終的な要綱案の取りまとめに先立ち,部会における改正提案の内容を固めるそういった趣旨で要綱仮案が決定されたと伺っております。本日はこの要綱仮案の決定に至る経緯,そしてその内容等につきまして同部会の鎌田部会長から御報告がされますので,これに関しましても委員の皆様方から御意見をお伺いしたいと存じます。   それでは,これらの議題等についての御審議をよろしくお願いいたします。   なお,私法制審議会というものに出席させていただくのは総会ももちろん初めてでございますので,できればどういうふうに進行していくのか全過程着席して拝見というか拝聴させていただきたいと思っておりました。ただどうしても同時刻に別の会が重なっておりますので,途中までで退席させていただきますことをお詫び申し上げます。本日は本当にありがとうございます。 ○西山司法法制課長 ここで,報道関係者が退出しますのでしばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○西山司法法制課長 それでは,伊藤会長よろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 伊藤でございます。本日はよろしくお願い申し上げます。   まず初めに,本年7月14日に開催いたしました前回の第172回会議以降,本日までの間における委員の異動につきまして御紹介申し上げます。異動内容の詳細につきましてはお手元にお配りしております人事異動表のとおりでございますが,新たに就任されました委員の方が本日御出席でございますので御紹介いたします。   次長検事の伊丹俊彦さんが委員に御就任になりました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○伊丹委員 よろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 ありがとうございました。   それでは本日の審議に入りたいと思います。先ほどの大臣御挨拶にもございましたように,本日の議題は一つでございます。その議題でございます「時代に即した新たな刑事司法制度を構築するための法整備の在り方に関する諮問第92号」の御審議をお願いしたいと存じます。   まず,新時代の刑事司法制度特別部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務められました本田部会長から御報告をお願いしたいと思います。本田部会長,恐縮でございますが,報告者席への御移動をお願いいたします。   それでは御報告をお願いいたします。 ○本田部会長 ただいま御紹介いただきました新時代の刑事司法制度特別部会の部会長の本田でございます。よろしくお願いいたします。当部会におきます審議の経過及び結果について御報告申し上げます。   当部会におきます審議の経過につきましては,昨年の2月8日の第168回会議におきまして中間的な御報告をさせていただきましたけれども,その後新たに就任された委員の方々も多数いらっしゃいますので,本日改めて全体の経過を含めて御報告を申し上げます。   諮問第92号は,近年の刑事手続をめぐる諸事情に鑑み,時代に即した新たな刑事司法制度を構築するための法整備の在り方について御意見を賜りたいというものでございました。平成23年6月6日開催の第165回の会議におきまして,本諮問について,まず部会で検討させる旨の決定をされまして,これを受けて当部会が設けられたわけでございます。   特別部会におきましては,刑事司法に携わる実務家,専門家のみならず一般の有識者の方々にも構成員として加わっていただき,平成23年6月から今年の7月9日までの間,合計30回の会議を行ってまいりました。   本諮問につきましては,捜査活動から法案審理に至るまで,正に刑事司法制度の全般を見据えた審議が必要とされましたので,まずは,部会で検討すべき事項につきまして全ての委員の方々から御意見を頂きながら,関係機関等の視察や警察官,検察官,弁護士,犯罪被害者遺族,無罪確定者のヒアリングなどを実施いたしまして,刑事司法制度の現状についての認識の共有に努めたところでございます。その上で,論点整理を行いながら議論を進めまして,平成25年1月,その後の検討方針及び具体的な検討事項を中間的に取りまとめたものといたしまして「基本構想」を策定いたしました。その内容につきましては,先ほど申し上げましたように第168回会議におきまして,この場で私から中間的な報告をさせていただいたところでございます。この「基本構想」に基づきまして,当部会の下に,二つの作業分科会を設置いたしまして,各検討事項について専門的,技術的な検討を行って,制度設計に関します「たたき台」を作成し,それが今年の2月に部会に報告されたところであります。部会におきましては,その「たたき台」に基づき,各制度について議論を重ねまして,その結果,今年の7月に全会一致によりまして答申案を取りまとめたところでございます。それが,配布資料刑1の「新たな司法制度の構築についての調査審議の結果【案】」でございます。   この配布資料刑1の内容について,部会におきます議論の概要とともに御説明をいたしたいと思います。まず,目次を御覧いただきたいと思います。本文は「第1 はじめに」,「第2 新たな刑事司法制度を構築するための法整備の概要」,「第3 附帯事項」,「第4 今後の課題」という構成といたしておりまして,その後に,「要綱(骨子)」を添付しております。法整備を行うべきとした制度の内容は,その「要綱(骨子)」に記載しておりまして,本文の「第2」は「要綱(骨子)」の概要を記載したものでございます。   本諮問につきましては,検討すべき事項が多岐にわたりまして,実際に部会におきましては,様々な見地から幅広い検討が行われたところでございます。そのため,これらの検討の経過を必要かつ相当の範囲で示しておくことは,今回法整備を行うべきとした制度の趣旨を明確にするとともに,今後とも時代の変化に対応して進化発展を続けていくべき新たな刑事司法制度の姿を考える上で有益であると考えられました。   そこで,本諮問に対しましては,法整備を行うべきとした制度を「要綱(骨子)」として示すだけではなく,新たな刑事司法制度の在るべき姿やその検討指針となる理念,法整備を行うべきとした制度についての重要な考え方や確認的な事柄のほか,今後の課題として位置付けられる事項等も併せて明記することといたしまして,お示しの形で答申案を取りまとめた次第でございます。   その具体的な内容につきましては,部会の事務当局を担当していた者から説明していただきたいと思います。事務当局の方よろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 恐縮でございますが,ここで御報告を中断させていただいてよろしゅうございますか。 ○西山司法法制課長 誠に恐縮ではございますが,大臣は公務のためここで退席させていただきます。           (法務大臣退席) ○伊藤会長 失礼いたしました。それでは引き続き報告をお願いいたします。 ○上冨関係官 それでは,御指名により御報告申し上げます。   配布資料刑1の本文の1ページ,「第1 はじめに」を御覧ください。「1 新時代の刑事司法制度特別部会における調査審議」という項には,新たな刑事司法制度の在るべき姿や検討指針とした理念が記載され,「2 結論」の項には,「要綱(骨子)」に掲げられた制度が一体として法整備されるべきであることが明記されております。   時代に即した新たな刑事司法制度を構築するという本諮問の趣旨からすれば,各制度を個別に検討しつつも,それらが全体として刑事司法制度において機能するか否かを勘案することが重要であり,部会においてはそのような観点から審議が進められてまいりました。その結果,「要綱(骨子)」に記載された各制度が一体として現行制度に組み込まれることによって,時代に即した新たな刑事司法制度が構築されるとの意見に収れんされました。そのような経緯がここに記載されております。   次に,「要項(骨子)」の内容について,2ページ以下の「第2 新たな刑事司法制度を構築するための法整備の概要」に沿って御説明します。   まず,2ページの「1 取調べの録音・録画制度の導入」について御説明します。「取調べの録音・録画制度」については,「捜査段階の供述の任意性・信用性の判断に資する」とともに,「取調べの適正確保にも資する」などの有用性が認められ,これ自体に異論は示されませんでした。もっとも,「その有用性を活かす観点から幅広い範囲で録音・録画が行われるべきである」との観点と,「録音・録画によって取調べや捜査の機能等に大きな支障が生じることがないようにする必要がある」との観点が示され,これらをいかに調和させて制度設計するかということが議論の中心となりました。   まず,制度の枠組みとしては,身柄拘束中の被疑者について,「原則として取調べの全過程の録音・録画を義務付ける制度案」と,「取調べの一定の場面について録音・録画を義務付ける制度案」がそれぞれ提案されました。議論を重ねた結果,録音・録画の有用性を活かす観点からは,前者の制度案,つまり,全過程の義務付け案が望ましく,捜査の機能等への配慮は適切な例外事由を設けることで対処するべきであるとの結論に至りました。   具体的な制度の内容は,三つ目の○の項に記載のとおりであり,検察官,検察事務官又は司法警察職員は,逮捕・勾留されている被疑者を対象事件について取り調べるときは,例外事由に該当する場合を除き,その状況を録音・録画しておかなければならないこととし,併せて,公判において取調べ状況についての的確な事実認定がなされることを確保するため,一つ目の○に記載のとおり,検察官は,逮捕・勾留中に作成された被疑者調書の任意性が争われたときは,当該供述調書が作成された取調べの状況を録音・録画した記録媒体の証拠調べを請求しなければならないこととされました。   その上で,【例外事由】の①から④に記載のとおり,「被疑者の拒否その他の被疑者の言動により記録をすると被疑者が十分に供述できないと認めるとき」など,四つの類型の例外事由を設けるものとされた次第です。   また,制度の対象事件につきましては,例えば,「裁判員制度対象事件に加えて,検察の取調べについては全ての事件を対象とすべき」であるとの意見など,できる限り幅広い事件を対象として制度を導入すべきとの意見が示されました。もっとも,そのような意見に対しては,法制度上の整合性の観点からの異論や,捜査機関の負担及び制度の円滑な実施を考慮する観点からの異論などが示されました。また,議論の過程で検察が実務上の運用としての録音・録画の取組を拡大し,「罪名を問わず被疑者の供述が立証上重要である事件の取調べ等についても録音・録画を行う」との方針が示されました。   このような議論の結果,後ほど御説明する10ページの「第3 附帯事項」の「1」にも記載しているとおり,最終的には検察等における実務上の運用をも考慮した上で,制度としては取調べ状況をめぐる争いが比較的生じやすく,取調べの録音・録画の必要性が最も高いと考えられる類型の事件を対象とすることになりました。   具体的には,2ページの【対象事件】の項に記載のとおり,裁判員制度対象事件及び検察官独自捜査事件を対象とすることとされました。その上で,2ページ下から3行目以下の〔実施状況の検討義務〕に記載のとおり,施行後一定期間経過後に,録音・録画の実施状況について検討を加え,必要に応じて所要の措置を講ずるといういわゆる見直し規定を設けることとされました。   次に,3ページの「2 捜査・公判協力型協議・合意制度及び刑事免責制度の導入」について御説明します。   「(1)捜査・公判協力型協議・合意制度」とは,検察官と被疑者・被告人側との間で協議・合意を行い,その合意に基づいて証拠の収集ができるようにする制度です。部会では,「組織化・巧妙化する現在の犯罪情勢に対応し,上位者や背後者の関与を含め,犯罪の全容を解明するため,また,取調べによる供述収集の困難化に対応するために,このような制度の導入が必要である」との意見が多く示されました。他方で,「このような取引的な要素を含む制度については,被疑者・被告人が自己が有利な処分等を受けるために,他人の犯罪事実について虚偽の供述をする危険性もあるのではないか」との懸念も示されました。   このような議論の結果,制度の枠組みとしては,一つ目の○と三つ目の○に記載のとおり,検察官は,必要と認めるときは,被疑者・被告人との間で,被疑者・被告人が他人の犯罪事実を明らかにするため真実の供述や証言などを行い,他方で,検察官が被疑者・被告人の事件について,不起訴処分や特定の求刑等をすることについて合意することができることとした上で,協議・合意の過程に弁護人が一貫して関与することとされました。また,適正な運用をより一層担保するなどのため,〔合意に係る公判手続の特則〕の項に記載のとおり,被告事件についての合意があるとき又は合意に基づいて得られた証拠が他人の刑事事件の証拠となるときは,検察官は,合意に関する書面を裁判所に提出しなければならないこととされ,必ず合意の存在を明らかにした上で,証拠の信用性が吟味されることとされております。   また,4ページに記載のとおり,被疑者・被告人が合意に基づいて真実を供述すべき場面で虚偽の供述をした場合は処罰の対象とすることとされました。   もっとも,本制度が,これまで我が国の刑事司法制度では採用されていなかった取引的な要素を伴う証拠収集手段であることからすると,少なくとも制度の導入段階では,その対象を,本制度がよく機能し,被害者を始めとする国民の理解も得られやすい一定の犯罪類型に政策的に限定することが相当であるとの意見が示されました。そこで,対象犯罪については,組織的な背景を伴うことが多く,密航性も高い犯罪類型であり,かつ,一般に被害者がいないか,いたとしてもその被害が財産的・経済的なものにとどまるものとして,3ページの合意・協議の手続の二つ目の○に記載のとおり,一定の財政経済犯罪と薬物銃器犯罪に限定することとされました。   次に,4ページの「(2)刑事免責制度の導入」について御説明します。現行制度において,証人には,自己が刑事訴追を受け又は有罪判決を受けるおそれのある証言を拒絶する権利が認められていますので,証人がこの権利を行使した場合には,それ以上,証人からから証言を得る手段はありません。しかし,供述調書への過度の依存からの脱却のためには,公判廷において証人にありのままの証言をしてもらう必要があり,特に共犯事件等において本来処罰すべき上位の者を適正に処罰するためには,下位の者による真実の証言が必要となります。そのため,それを担保するための制度として刑事免責制度を導入すべきこととされました。   この制度は,裁判所の決定により,その証人尋問によって得られた供述及びこれに由来する証拠は,原則として,当該証人に不利な証拠とすることができないこととすることにより,この点に関する証人の証言拒絶権を否定して,真実の証言を義務付ける制度です。   次に,「3 通信傍受の合理化・効率化」について御説明します。4ページから5ページを御覧ください。通信傍受については年間の利用事件数が十数件にとどまっておりますところ,取調べへの過度の依存から脱却し,併せて解明が困難である振り込め詐欺等の組織犯罪や暴力団犯罪に対処するため,客観的な証拠をより広範囲に収集できるようにする方策が必要であるとの観点から,「対象犯罪の拡大」及び「手続の合理化・効率化」の2点について検討が行われました。   現行法上,通信傍受の対象犯罪は,薬物犯罪,銃器犯罪等4罪種に限定されており,近時の犯罪情勢に照らし,これを拡大すべきであることに異論はありませんでした。もっとも,いかなる犯罪まで拡大するかについて,「犯罪の重大性」と「捜査手法としての必要性・有用性」という二つの要素を満たすか否かという観点を中心として検討が行われました。それとともに,対象犯罪を拡大するとしても,通信傍受によって対処する必要があるのは組織的な犯罪なのだから,それ以外の事件の捜査で傍受が可能になるのは相当ではないから,傍受の実施要件をより一層限定すべきであるとの意見も示されました。   このような議論を経て,一つ目の○の①から⑤に記載されているように,①殺傷犯等関係,②逮捕・監禁,略取・誘拐関係,③窃盗・強盗関係,④詐欺・恐喝関係,⑤児童ポルノ関係の罪を対象犯罪として追加することとされました。   そして,5ページの最初の○に記載のとおり,新たに追加する対象犯罪については,現行法が規定する傍受の実施要件に加えて,一定の組織性の要件として,「あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われると疑うに足りる状況がある」ことを必要とすることとされました。   次に,「手続の合理化・効率化」についてですが,現行法上,傍受に当たっては,適正担保の観点から,通信事業者の立会い等が必要とされ,かつ,捜査官も通信事業者の従業員などにお願いしている立会人も,通信事業者の施設において通話を待ちながら長時間待機することを余儀なくされており,このような手続が通信事業者にとっても多大な負担となり,傍受の円滑な実施を阻害していると指摘されています。   そこで,通信技術等の発展に伴い,機械的な措置を講ずることによって適正を十分に担保しつつ,通信事業者の立会い等を不要とすることなどが検討されました。その結果,5ページの二つ目の○に記載のとおり,傍受した通信や傍受経過を自動的に記録し,これを即時に暗号化する装置を用いることで立会い・封印等を不要とし,かつ,通信内容の聴取等をリアルタイムで行う方法による傍受と,その聴取等を事後的に行う方法による傍受を可能とすることとされました。   次に,5ページの「4 身柄拘束に関する判断の在り方についての規定の新設」について御説明します。部会では,被疑者・被告人の身柄拘束に関する現状認識について,「本来不要な場合にまで身柄拘束が行われている」との見解が示された一方,「身柄拘束に関する判断は適正に行われている」との相反する見解が示されました。そのため,どのような現状認識を前提とするかについて,一致点を見出すことができませんでした。   そこで,特定の現状認識を前提としないという前提の下で,身柄拘束に関する規定をより国民に分かりやすいものにするとの観点から,「現行法上明記されていないものの,解釈上一般的に認められている身柄拘束に関する判断の在り方を確認的に明記した規定を設ける」という方向で議論が行われました。   その結果,裁量保釈の判断に当たっての考慮事項を明記することとされました。つまり,裁量保釈を定める刑事訴訟法90条では,「裁判所は適当と認めるときは職権で保釈を許すことができる」と規定されていますが,その「適当と認める」に当たって裁判所が考慮すべき事情を具体的に明記することにより,身柄拘束に関する判断のプロセスを明確にしようとするものです。なお,具体的な考慮事項の内容を定めるためには,現在の解釈運用を踏まえて,技術的,細目的な検討を行うことを要することから,現時点では確定させておらず,法案作成の段階で確定すべきものとされました。   次に,「5 弁護人による援助の充実化」を御覧ください。まず(1)被疑者国選弁護制度の拡充について御説明します。現行法上,被疑者国選弁護制度の対象となるのは,「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役等に当たる罪で勾留された事件」とされています。捜査段階における弁護人の援助の充実化を図るという観点からこれを拡大し,「全ての勾留事件」とすることとされました。もっともこの制度は,弁護人の活動に応じて国費が支出される仕組みとなっていますので,後に御説明する「附帯事項」において,「併せて,被疑者国選弁護制度における公費支出の合理性・適正性をより担保するための措置が講じられることが必要である」と指摘されています。   次に,「(2)弁護人の選任に係る事項の教示の拡充」について御説明します。現行法上,被疑者・被告人が身柄を拘束された際,司法警察員・検察官・裁判官又は裁判所には被疑者・被告人に対して弁護人選任権,つまり弁護人を選任することができることを告げることが義務付けられています。「弁護人の選任に係る事項の教示の拡充」とは,弁護人選任権に関する手続保証をより充実化する観点から,弁護人選任権の告知に加えて,「弁護士・弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任の申し出ができる」旨を教示することも義務付けるものです。   次に,6ページの「6 証拠開示制度の拡充」を御覧ください。まず「(1)証拠の一覧表の交付制度の導入」について御説明します。現行の証拠開示制度は,公判前整理手続に付された事件において,検察官側から立証のために請求する証拠の開示がなされた後,被告人側から類型証拠の開示請求,そして主張を明示しつつ主張関連証拠の開示請求を行うことができるという仕組みになっています。このように現行の証拠開示制度は争点及び主張の整理と関連付けた段階的な構造とされ,弁護人が適切に証拠開示請求をすれば適切に証拠が開示されることとされていますので,この仕組みを変えるべきではないという意見が多く示されました。他方で,「どのような範囲の証拠の開示を求めていくべきかの判断が困難な場合もある」との意見も示されました。   このような議論の結果,現行の証拠開示制度の枠組みを維持しつつ,被告人側がどのような証拠の開示を求めるかの判断の「手掛かり」を与え,証拠開示請求を円滑,迅速ならしめるため,一つ目の○に記載のとおり,検察官は,検察官請求証拠の開示をした後,被告人又は弁護人から請求があったときは,速やかに,検察官が保管する証拠の一覧表を交付しなければならないこととされました。   そして,一覧表の記載事項については,その作成交付が円滑,迅速に行われ,かつ一覧表の記載の仕方をめぐる争いが生じないよう,検察官による評価や分類の判断を伴わない,明確かつ一義的なものとするのが妥当であるとの観点から,二つ目の○に記載のとおり,「証拠物については品名・数量」,「供述録取書については標目・作成年月日・供述者の氏名」,「それ以外の証拠書類については標目・作成年月日・作成者の氏名」とすることとされました。   次に,「(2)公判前整理手続の請求権の付与」について御説明します。現行法上,裁判員制度対象事件以外の事件においては,公判前整理手続に付するか否かは裁判所の職権判断に委ねられています。充実した公判審理を実現するためには,公判準備をどのように進めるかがこれまで以上に重要となることから,現行の規定を改めて,当事者に整理手続に付することの請求権を付与することとされたものです。   その次の「(3)類型証拠開示の対象の拡大」は,現行の証拠開示制度において,検察官請求証拠などの信用性を判断する上で,類型的に重要であると考えられるものとして規定されている,いわゆる「類型証拠」に,①から③までに記載している証拠を新たに加えることとされたものです。   次に,7ページの「7 犯罪被害者等及び証人を保護するための方策の拡充」を御覧ください。まず,「(1)ビデオリンク方式による証人尋問の拡充」について御説明します。現行法上のビデオリンク方式による証人尋問は,性犯罪等の被害者等が被告人等のいる法廷で証人尋問を受けることによる心理的負担を軽減する趣旨で設けられたものであり,証人の在席場所は公判が行われている法廷と同一構内,つまり,同じ裁判所内に限られています。もっとも,公判審理を充実させる観点からは,①から③に記載のように,同一構内に出頭すると精神の平穏が著しく害され,あるいは,自己又は親族に加害行為等がなされるおそれがある証人や,同一構内に出頭すること自体が著しく困難な証人への対応も必要とされます。そこで,そのような証人の負担の軽減のため,①から③に該当する証人を対象として,公判が行われている裁判所以外の場所に出頭させ,ビデオリンク方式による証人尋問を実施することができるようにすることとされました。   次に「(2)証人の氏名・住所の開示に係る措置の導入」について御説明します。現行法上は,検察官が証人尋問を請求する場合,あらかじめ被告人側に対し,証人の氏名及び住居を知る機会を与えなければならないものとされ,証人への加害行為等がなされるおそれがある場合でも,弁護人に対して配慮・秘匿を要請することができるにとどまります。もっとも,例えばストーカー事案などで,被害者である元妻の現在の姓や住居を被告人に知らせると被害者に対する加害行為を行うおそれが強く認められる場合など,現行法上の弁護人に対する配慮・秘匿要請では証人等の保護に十分でない場合もあり,これに対処するための方策が必要であるとの意見が示されました。他方で,証人が誰であるかと特定・識別することは防御の準備のために必要となるから,被告人の防御上の利益が十分に考慮されるべきであるとの意見も示されました。   そこで,一つ目と二つ目の○に記載のとおり,検察官は,証人等の氏名・住居を知る機会を与えるべき場合において,その証人等又はその親族に対し,身体・財産への加害行為又は畏怖・困惑行為がなされるおそれがあるときは,被告人の防御に実質的な不利益を生じるおそれがある場合を除き,①条件付けの措置,つまり,弁護人には氏名・住居を知る機会を与えた上で,これを被告人に知らせてはならない旨の条件を付すること,②特に必要があれば代替開示の措置,つまり,弁護人にも氏名・住居を知る機会を与えず,氏名に代わる呼称,住居に代わる連絡先を知る機会を与えることができることとされました。そして,検察官の措置に不服がある場合は,被告人側から裁判所に裁定を求めることができることとされました。   次に,8ページの「(3)公開の法廷における被告人の氏名等の秘匿措置の導入」について御説明します。現行法上,犯罪被害者については名誉・プライバシーや安全を保護するため,一定の場合に,その氏名を公判廷で明らかにせず,例えば起訴状や証拠書類の朗読において犯罪被害者の氏名等は明らかにしない方法で行うことができることとされています。こうした点については,犯罪被害者以外の証人等につきましても同様の必要性が認められますことから制度の対象に含めることとされたものです。   次に,9ページの「8 公判廷に顕出される証拠が真正なものであることを担保するための方策等」を御覧ください。より充実した公判審理を実現するためには,証人の出頭及び証言を確保することが重要となるとともに,客観的な証拠や関係者の供述が損なわれたり,ゆがめられたりすることなく,ありのまま公判廷に顕出される必要があると考えられます。   このような認識の下で検討された結果として,「現行法上10万円以下の罰金とされている証人不出頭罪等の法定刑を引き上げる」,「現行法上証人が正当な理由なく裁判所の召喚に応じない場合に限り,裁判所が証人を勾引できることとされているところ,あらかじめ召喚に応じないおそれが認められる場合も勾引できることとする」,「犯人蔵匿等・証拠隠滅等,証人威迫等の法定刑を引き上げる」こととされました。   最後に,「9 自白事件の簡易迅速な処理のための方策」を御覧ください。現行法上,明白軽微な自白事件については,起訴とともに即決裁判手続という簡易な公判手続に付することができるとされています。もっとも,一般に起訴後の捜査は制約されていますし,一旦控訴を取り消して再捜査をしても再起訴の要件が限定されています。そのため,明白軽微な自白事件であっても,捜査機関は被疑者が起訴後に否認に転じ得ることを想定し,考えられる弁解を排斥するため,起訴前に言わば念のための捜査を遂げておくのが通常です。そして,そのことが起訴に至るまでの捜査の合理化・迅速化を困難とし,また即決裁判手続の活用が十分でない原因となっているとの意見が示されました。   そこで,即決裁判手続の申立て後,被告人が否認に転じるなどして即決裁判手続によらないこととなった場合には,検察官は一旦控訴を取り消して再捜査を遂げた上で再起訴できることとし,このような道を設けておくことにより検察官に早期に起訴できる動機付けを与え,捜査段階を含む刑事裁判全体の合理化・迅速化を図ることとされました。   個々の制度内容についての御説明は以上です。   次に,10ページ以下の「第3 附帯事項」について御説明します。   「要綱(骨子)」は新たな刑事免責制度を構築するために必要と考えられる法整備の内容を示すものであるため,制度内容そのものでないものは「要綱(骨子)」には記載されていませんが,制度についての重要な考え方や確認的な事柄などについては審議の結果を的確に示すという観点から「附帯事項」として記載されております。   まず,第3の「1」においては,「取調べの録音・録画制度」に関する事柄を記載しております。「取調べの録音・録画制度」の対象事件に関しては,制度の対象事件には当たらない事件であっても,検察等における実務上の運用として録音・録画がなされていくことが見込まれることをも考慮した上で,「要綱(骨子)」が取りまとめられました。そこで,第1段落では,制度の対象外となる取調べにおいても,実務上の運用として可能な限り幅広い範囲で録音・録画がなされ,かつ,その記録媒体によって供述の任意性・信用性が明らかにされていくことを強く期待する旨が記載されています。   また,第2段落では,施行後一定期間を経過した段階で行う施行状況等の検討に当たっては,基本構想及び本答申を踏まえて行われるべきであること,実務上の運用としての録音・録画の実施状況や公判における供述の任意性・信用性の立証状況をも検討の対象とした上で,幅広い観点から分析・評価を行うことが重要であることなどが記載されています。   そして,第3段落では性犯罪等の被害者等のプライバシー保護の観点から,性犯罪等における被疑者の取調べ状況を録音・録画した記録媒体の適切な取扱いを確保するため,関係機関において十分な協議,検討を行い,所要の措置を講じるべきである旨が記載されております。   第3の「2」では,「身柄拘束に関する判断の在り方についての規定」について,先ほども御説明したように,「要綱(骨子)」記載の内容は,飽くまで現行法上確立している解釈の確認的な規定として設けるものであることが明記されています。   また,第3の「3」では,これも先ほど御説明したとおり,「被疑者国選弁護制度の拡充」に関する法整備を行うに当たり,公費支出の合理性・適正性をより担保するための措置が講じられることが必要である旨を記載しています。   次に,11ページの「第4 今後の課題」を御覧ください。「1」では,「取調べの録音・録画制度」のみならず,「要綱(骨子)」に記載したいずれの制度についても,必要に応じて改善が加えられていくべきであり,一定の運用の経験が蓄積された後に,その実情に関する正確な認識に基づいて多角的な検討が行われることを期待する旨が記載されております。   また,「2」においては,「要綱(骨子)」に記載していないものの,一定の検討が行われた事項のうち,今後の検討課題となり得るものについて言及しております。このうち,「犯罪事実の解明による刑の減軽制度」などについては,部会において相当程度具体的な検討が行われたものの,最終的には制度の採否についての意見の隔たりが解消されず採用されませんでした。また,「会話傍受」や「再審請求審における証拠開示」などについては,部会において,現時点で制度化を進めることに一定の異論が示され,具体的な検討までは行われていないため,今後制度を構築するとすれば,制度の基本となる部分を含めて更なる検討が必要と考えられるところです。私からの説明は以上です。 ○本田部会長 ありがとうございました。ただいま事務当局から御説明いたしましたとおり,当部会におきましては,各検討事項について多様な見解が示されましたが,活発な議論を経まして,意見が収れんいたしたところでございます。例えば,「取調べの録音・録画制度」につきましては,最も審議に時間を要しましたけれども,「附帯事項」に記載のとおり,検察等の実務上の運用を考慮し,一定期間経過後の見直し規定を設けることなどを踏まえまして,意見が一致いたしたところでございます。また,その他の事項につきましても,議論を重ねて知恵を出し合いながら,かつ,それらが全体として刑事司法制度において機能するかというような観点からの検討も経まして,意見の一致を見るに至ったところでございます。   その結果,配布資料刑1のとおり,「要綱(骨子)」に掲げられた制度が一体として法整備されるべきである旨の取りまとめを,全会一致で採択したものでございます。   以上で部会における審議の経過及び結果についての御報告を終わりたいと思います。御審議のほどよろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 御報告ありがとうございました。   ただいまの御報告及び答申案の全般的な点につきまして,御質問及び御意見を承りたいと存じますが,まず御質問がございましたらお願いしたいと思います。どなたからでも御自由に御発言ください。 ○能見委員 この「第3 附帯事項」についての質問ですけれども,10ページのところですが。その1の第1段落の趣旨は御説明を伺っていてよく分かったのですけれども,その第2段落の取調べの録音・録画制度については施行後一定期間を経過したうんぬんという部分,この段落の意味合いと言いますかニュアンスがちょっと分からなかったので伺いたいと思います。この部分は一定期間経過した後,いろいろな見直しをするという単純なことが書いてあるだけのようにも思えますけれども,その見直しの方向性についても触れているのか。例えば,今後対象とする犯罪というのが広がる可能性があるというようなニュアンスもそこに含まれているのか,あるいは,逆にどうも運用上いろいろ不便もあるので,捜査が難しい場合には逆に範囲を狭めることもあるというニュアンスも含まれているのか。この文章がどんなメッセージを発しているのかがよく分からなかったので,御説明いただければお願いいたします。 ○伊藤会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○辻関係官 私の方からお答え申し上げます。   ただいま御指摘の点につきましては,正にここに書いてあるとおりでございますが,その一定期間の間の制度の運用状況,それから制度外で検察等が実務上の運用として行う録音・録画,これを踏まえて,その後どうするかというのを見直すべきであるという趣旨でございますので,そういう意味で,今御指摘のような方向性というものは必ずしも含まれていないというふうに理解しております。 ○伊藤会長 能見委員,よろしゅうございますか。 ○能見委員 そうすると,一定の方向性はこの第2段落自体では含まれていないけれども,第1段落と併せて読むと,その今回の適用対象外の事件類型についても録音・録画をしてみたところ,問題もなくできそうだということになると,一定期間後の見直しに際して録音・録画の対象をそういうところまで広げることもあり得ると理解してよろしいのでしょうか。 ○辻関係官 御指摘のとおりかと存じます。一定期間の運用状況を踏まえて,先ほども御説明の中で申し上げました捜査上の支障でありますとか,そういうものも特段なく,更に一層やっていくことが望ましいという見直し結果になるのであれば,それに従った措置が行われるということになろうかと思っております。 ○伊藤会長 よろしゅうございますか。どうぞ,ほかの方お願いいたします。 ○吉田委員 今の関連なのですけれども,この一定期間というのは,法案作成の段階で明記されるのか,あるいはもし明記されないとすれば,どの程度を考えておられるのでしょうか。 ○辻関係官 法案作成の段階で明記するということで部会の御了解を得ているところでございます。その一定期間の内容につきましては,今後の法案作成の過程で,どの程度の資料がどの程度の期間運用すれば集まるのかといった辺りも考慮しながら検討していって定めていきたいと考えております。 ○伊藤会長 よろしいでしょうか。では,佐久間委員どうぞ。 ○佐久間委員 ありがとうございます。通信傍受についての質問でございます。まず,今回対象が広がるということで,これは今の技術的な進歩,あとその有効性からいってある意味では当然の流れではないかと思います。ただ一つ,これは質問なのですけれども,せっかく今回広がった犯罪に対して実際通信傍受を行うときに,数人の共謀によるものという要件に加えて,あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われたと疑うに足り得るうんぬんと,こういう要件がついているということですね。そうすると,明らかに数人の共謀によるのものだとしても,通信傍受ができない場合があるということだろうと思うのですが,実際には,どういうときに通信傍受ができないのでしょうか。ちょっとこの要件が非常に強い制約のように思えるのですが,その辺について具体的に御教示いただければと思います。 ○伊藤会長 これも事務当局からお願いいたします。 ○辻関係官 今御指摘の要件につきましては,組織的な犯罪に対処するという導入の趣旨,あるいは,罪名の拡大の趣旨から,こういう要件を加えるのが適当であろうというふうになったわけでございますが,飽くまでも捜査段階の令状の請求をする段階での要件であり,それを証明する,疎明するということでありますので,例えば,外形的な状況からこういう状況が認められるということが分かれば,それで疎明ができたということになるのではないかと考えております。   もう少し具体的に申し上げますと,例えば振り込め詐欺という事案が最近非常に多発しておりまして,その例を申し上げますと,誰かが被害者のところに電話をかけ,電話をかけられた被害者の方がだまされてお金を振り込む,あるいは,最近だとお金を受け取りに来る受け子という人が来るわけでしょうが,お金を振り込んだ場合にはそのお金が直ちに下ろされていきます。その時間的な経過から申し上げますと,電話をかける人,それからそれを出していく人,それから恐らくたくさんの者が関わっている,その後に電話を使っている状況というものが分かってくるわけでございましょうから,そういうことからすると,あらかじめ定められた役割の分担というものが行われているのであろうということが強く推認されるということになろうかと思われますので,例えばでございますが,そういう状況から疎明していくということになろうかと思います。   そういうわけでございますので,この要件があるから活用が非常に難しいということにはならないのではないかというのが部会の議論でありましたし,一方では,やはりその程度の状況がある犯罪に処分の性質上限るのが適当ではないかと,そのように結論付けられたということでございます。 ○伊藤会長 いかがでしょうか。 ○佐久間委員 ありがとうございます。振り込め詐欺でそういう役割分担があるということは報道等では聞いていたので分かるのですが,例えば傷害とか,何人かでやってしまえとこういうようなときに,必ずしも役割がはっきりしてないので傍受できないということになってしまうのでしょうか,という非常に素朴な疑問でございます。 ○辻関係官 先ほど申し上げました罪名の拡大の趣旨からいたしまして,例えばチンピラ同士が盛り場でそれぞれお酒を飲んでて何か言った言わないでけんかになって,確かに傷害の現場では数人共謀しているのでありましょうけれども,そういうたまたま生じた事案で傍受を行うのは,いささかいかがかという判断があり得ると思われます。その一方で,そうではなくて,同じ傷害であっても事前の計画に基づいたと思われるように,それも犯行の態様から主に考えていくということになろうかと思いますけれども,最初に入り込んで行く者,殴る者,体を押さえる者がいる,あるいはその近くで見張っている者がいる,逃走用の車で待機している者がいると,そういうような犯行態様で非常に重大な傷害を与えたと,こうなればまた大分様相が違ってくるのではないかと,そういう御判断かというふうに理解しております。 ○伊藤会長 よろしいでしょうか。 ○山根委員 今の通信傍受のところなのですが,私は逆にこの犯罪の種類ですとか要件の限定ということが拡大解釈のような運用をされるというような心配がないかということを伺いたいと思います。 ○伊藤会長 どうぞ,その点もお願いいたします。 ○辻関係官 その点も部会で非常に議論のあったところでございますけれども,今申し上げましたような組織性の要件というものが新たに加えられておりますし,それ以外に元々現行の通信傍受法におきまして,補充性の要件と申しておりますけれども,他の捜査手法によっては犯罪の解明が難しいと,そういう場合に限って通信傍受は行うことができると,そういう要件がかけられておりますので,それらの要件に加え,罪名を多少は拡大されますけれども,重大な罪名に限定は依然としてされているというところからいたしますと,先ほど申し上げたような偶発的と言うとちょっと語弊がありますが,日常的にいつもよくあるような犯罪にまで使用されていく,あるいは,市民の皆さんの正当な活動に対して傍受が行われていくと,そういったおそれはないというふうに結論付けられたということでございます。 ○伊藤会長 いかがでしょうか。もしよろしければ,御意見を承りたいと思いますが。 ○古賀委員 今回の最大の論点であった取調べの可視化が限定的,範囲が狭くなったということは極めて私自身は残念でなりません。加えて,その他の制度も含め大変難しい課題が多いことは十分理解しますけれども,課題が多く残っているのではないかというふうに感じざるを得ないわけでございます。しかし,この報告,答申が刑事司法制度改革の大きな第一歩を踏み出すものと受け止め,そして3年にわたって議論を取りまとめてこられた本田部会長はじめ関係の方々の御労苦を多とし,賛成であることを前提にしながら幾つかの御意見御要望を申し上げたいと思います。   まず,取調べの録音・録画制度についてです。10ページの附帯事項に盛り込まれた共通認識,恐らく特別部会において確認された事項だと思いますけれども,この共通認識がゆがめられることなく,この認識に沿った法改正や運用,将来的な見直しが確実に行わることを要望いたします。具体的には,例外規定については,録音・録画が捜査機関によって恣意的に運用されないという工夫,例外判断の当否が後に客観的に検証できるような制度とすべきだと思います。そして,将来的な見直しに当たっては,運用状況や公判における立証状況など,客観的なデータに基づいた分析,評価を行うことを要望いたします。また,検察が独自に行う運用拡大についても,先ほどの共通認識,それに基づいた運用がなされ,録音・録画の本来の目的が達成されることを強く期待したいと思います。   次に,通信傍受についてです。通信の秘密が守られることはもちろんのことですが,新たな仕組みの導入によって傍受に関わる労働者や通信事業者に対して過度な負担が生じないよう,関係者からのヒアリングを徹底するなどして,今後の詳細な制度設計を行っていただきたいと思います。   三つ目に,身柄拘束の在り方については,考慮事情を法律上より一層明確にして,国民にとって分かりやすい制度とすべきだと考えます。併せて,この報告には残念ながら入っておりませんけれども,防御権への配慮についても極めて重要な事項だとあえて申し上げておきます。また,このような現状認識に対する意見の隔たりが大きかった論点であるからこそ,逮捕・勾留や起訴後の勾留や保釈の運用の実態を検証しながら,一定の評価を形成できるような措置を検討すべきだと思います。   四つ目に,今後の課題に提示されていますが,再審請求審の証拠開示についても極めて重要な論点であるため,今後の重要な検討課題として位置付けるべきだと考えます。   以上,今後も関連される方々の不断の努力により,国民が望む改革,そして国民にとって分かりやすい刑事司法制度が実現されることを強く要望し,意見に代えさせていただきたいと思います。 ○伊藤会長 ありがとうございました。それでは,他の委員の方,御意見ございましたらお願いいたします。 ○吉田委員 私も古賀委員と同じような立場なのですけれども,まず新しい刑事司法制度,これに道を開いたという内容で,特別部会の労を多としたいと思います。また,多様な意見がある広範な各論点について集約した点についても,その努力に敬意を表したいということで,この答申については評価したいと考えます。   ただ一方で,特に古賀委員からも言及ありました可視化の問題,これにつきましては,対象事件が限定されているものの,裁量的ではなくて,全過程を射程としていることは評価したい。ただ一方,これは報道等我々も報道しているわけですけれども,対象事案自体は,この対象であれば2,3%にとどまると。一定期間後の検討義務ということを定めておりますので,例えば否認事件についてはどうなのだ,そういう問題点を率直に洗い直して必要な見直しを是非行っていただきたいというのが一点です。   また,可視化の一方で,捜査力を強化する,これは私も必要だというふうに考えますが,例えば通信傍受の拡大の問題,これは非常に新しい制度ですから問題点がこれからいろいろ出てくるでしょう,それについても是非今後また見直し等あるいは再検討をお願いしたいと思います。   もう一つ,合意制度,いわゆる司法取引については,更に問題が多いのではないかというふうに考えざるを得ないと思います。今回の刑事制度の見直しの発端はえん罪の発生だったということを考えれば,この合意制度が新たなえん罪の温床にならないか,ここら辺は慎重に考えていただきたいと思います。また,事案の累積の上で再検討,検証をお願いしたいと思います。   最後に一つ,私も古賀委員と同じなのですが,被疑者あるいは被告人の身柄の長期拘束については,やはり真剣に考えていただきたいと思います。今回は法整備を行おうとする一方で,現在の運用を変更する必要があるとする趣旨のものではないということで解釈について明確にするということでとどまっています。それ自体は特別部会の中で議論が分かれたということで,答申としてやむを得ないと考えますが,例えば,否認による長期拘束,これについてはやはり一般の我々の感情,自分がそういう立場になった場合どうなのか,やはりよく考えていただきたい。特に起訴後の身柄拘束については考えていただきたいというふうに要望したいと思います。 ○伊藤会長 ありがとうございました。他の委員の方でございましたら。 ○高山委員 取調べの可視化について2点ほど申し上げたいと思います。   まず1点目は,先ほど古賀委員がおっしゃっていましたことと全く同じでございますが,例外事由の判断のところがやはり気になる点でございまして,やはりこれは取調官が恣意的に適用するおそれがないのかどうかというところは,今後十分にチェック,確認をしていただきたいと思っております。   それから2点目でございますが,附帯事項の1の第3段落に記載されていることに関連することでございますが。一般の国民目線からしますと,今回録画されるデータですが,対象事件は全体の2%~3%とは聞いておりますけれども,それ以外の対象外の録画も行われるということの前提に立ちますと,膨大な画像データが保存されていくということになるわけです。その際,文字データと違って画像データというのは非常にインパクトがございますし,万が一それが流出をする可能性がないとも言えない,そういうリスクもあると認識しております。やはりその点は非常に気になる点でございまして,各組織においてきちんと管理されたとしても,そういうリスクがまだゼロではないということも考え併せますと,これは法律の策定とは別の扱いかもしれませんけれども,情報の開示の仕方,管理の仕方,そのルール,あるいは流出対策等々も含めて,法律,法制化と併せて国民にきちんと基本方針等は開示されていいのではないかと感じておりますので,その辺も御検討いただけましたらと思っております。 ○伊藤会長 ありがとうございました。他の委員の方で御発言ございましたらお願いします。 ○佐々木委員 ありがとうございます。私も今と全く同じ点が気になっておりまして,この録画・録音の証拠物というのをどういう方法で,どこに,何媒体で保存するとか,それをどのぐらいの期間保存するとか,電子媒体は意外と寿命が短かったりすることもありますので,それをではどういう時点でそれがきちっと使えるものかを確認するのか。これは一,二年で来るわけではありませんが,どういうところで確認してそれが証拠物として継続して使えるものかを確認するのかなどなど,あるいはこの保管,運用,管理のところを含めて,かなり細かく丁寧に,そして明確に決めていく必要があるのだろうと思いますので,これを是非しっかりやっていただきたいと思います。   それから,証人尋問のところのビデオリンク方式によるというような表現にもちょっと気になります。全てのこのIT関連の話というのは時代とともにものすごく技術が発達していくので,ほかのケースでもありますが,何々方式とか明記すると,その方式がとても古くて,3年もたったときにはその方式を使うのにお金がかかったり,その何かある一つの方式に縛られたがために大変運用が難しかったりということがあるのですね。なので,この件だけではございませんけれども,これから様々なものを保管したり,あるいは新しい発想で証人尋問も含めてできる時代あるいはした方がいいと国民も思う時代がくる中で,このIT関連のところの専門家の方にもきちっと,それも新しいものを知っている,昔のスタディをしてきた人ではない,今の時代や先の時代を見ているようなITの方ともきちっと相談をしながら,管理とか運用とか,あるいは最終的な言葉をどういう言葉を使って法律にするのかも含めて最終吟味を是非していただきたいと思います。 ○伊藤会長 ありがとうございました。ほかに御発言ございますか。 ○能見委員 今回の答申で取り上げられた問題,いろいろ難しい問題はあると思いますけれども,今後のあるべき刑事司法制度の構築に向けて第一歩を踏み出した点については評価しているものですけれども,この録音・録画については,私の本当に素人の観点からの意見ですけれども,2点ほど意見を述べたいと思います。   一つは,対象となる事件でございます。これが狭いということは既に何人かの委員から御意見が出たところですけれども,私も同様の意見を持っております。この対象となっているのが基本的に裁判員裁判の対象となる事件ということで,ある意味で重い事件ですね,これらの事件が対象となること自体は全く問題ありません。この種の重大な犯罪においては自白を求めようとして圧力がかかったりして任意性のない調書が作られる危険があると思われるので,こういう事件を対象にするというのは全く問題ないことだと思います。しかし,逆に,軽い事件というのでしょうか,そういう軽い犯罪ですと,被疑者は利益誘導に弱い。自白をすれば刑が軽く済むというのか,ちょっと素人なので表現が適切ではないかもしれませんが,罰金などの軽い罪でおさまるなら,妥協して自白しようなどという心理が働く場合があるかもしれない,あるいは場合によっては,自白すれば起訴されないかもしれないとか,そういうことで自白をしてしまうということが軽い犯罪ではあるかもしれない。そういう意味では,重い事件だけでなく軽い事件においても,適切な取調べ,その過程での自白の任意性などについては十分に確保されるような仕組みが必要なのではないか,こういうところにも録音・録画の制度が適用されることが重要ではないかと思います。   もう一つは,これも本当に全く素人の感覚なのですが,捜査・取調べのどの時点から録音・録画するかという問題です。民事の紛争においても,適切な対応をすることがいろいろなところで求められていて,最近の傾向としては,企業は対顧客との関係で,顧客からの相談,クレームの時点からテープを録って,後で問題にならないようにするというようなことが行われています。そういう観点から見ると,今回の録音・録画の制度は,逮捕された後からの取調べを対象にしているようで,もちろんそこがメインであることは当然ですけれども,それだけでなく,実はそれ以前の段階,逮捕される前にいろいろ警察で調べられるということがあると思いますが,その段階も適切性の確保が重要ではないかと思います。痴漢の事件などで,早く帰りたいので認めてしまうというようなことがあるとも聞いています。将来の課題としては,いろいろ難しい問題はあるでしょうが,このような逮捕前の段階についても,録音・録画制度の適用を検討することも必要かもしれないということだけ意見として申し上げたいと思います。 ○伊藤会長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。 ○川副委員 これまでに出された御意見とほぼ同趣旨ではございますけれども,私自身刑事弁護の現場に長らく携わりますとともに,日弁連でも刑事司法改革の取組に関わってきた者の一人として,若干の概括的な意見を申し述べさせていただきたいと思います。   特別部会では時に激論を含めて非常に厳しい御意見が交わされました。日弁連の委員もそれこそ飲み難いような思いもしながら,しかし全ての委員が何とか全員一致を目指すということでこぎつけられたことを議事録を拝見して承知しております。このことにまず敬意を表します。特に法律家以外の有識者の委員の方々が,中には御存じのとおり御自身の非常に深刻な実体験を踏まえて,市民の常識と感覚という視点から本当に真摯で建設的な御意見を出され,この度の取りまとめに大きな役割を果たされました。このことは,国民的な基盤を持った刑事司法改革という意味では非常に大きな意義があったのではないかと思っております。   私ども日弁連はえん罪を生まないための刑事司法ということを追い求めてまいりました。その立場からいたしますと,この答申案には,なお多くの課題が残っているとは感じておりますものの,このような刑事司法改革の大きな流れの中で,被疑者・被告人の防御権を充実させる,捜査段階の供述調書に過度に依存しない新たな刑事司法を作っていくというために,先ほどからお話がありますように,一歩を踏み出したというふうに評価しますし,また,これから我々実務家はそうしなければならない,それが国民に対する責任だろうと今思っているところでございます。   その上で,これも先ほどから繰返し指摘されていることですが,取調べの録音・録画制度に関し,今後の見直しが求められている基本的な観点についての確認です。「第3 附帯事項」の1の第1段落に書かれていますように,まず供述調書の収集が適正な手続の下で行われるべきこと,そして,取り分け公判に顕出される被疑者の捜査段階の供述調書の任意性・信用性が明らかになることを確保するための制度とする必要があるという,特別部会の基本構想で示されたこの二つの事項は,基本的には事件の軽重や種類を問わない問題だと思うのです。このことは,例えば九州の鹿児島県で志布志事件という公職選挙法違反事件がありましたが,身体拘束されていない場合でさえも極めてひどい取調べが行われたことは御存じのとおりです。そういったことを含めて考えますと,ここで指摘された二つの事項は正に普遍的なものであり,今後の見直しにおいては,このことが基礎とされるべきだと思います。   次に新たな制度の具体的な運用上の課題につきまして,今までの御意見と重なる部分もございますけれども,私が感じたところを四つほど申し上げたいと思います。   まず第1は,取調べの録音・録画の例外についてでございます。これはやはり捜査官の裁量が入る事項が含まれておりますので,これが緩やかに運用されるということになりますと,この制度そのものが骨抜きになりかねません。捜査機関の方々に対しては大変失礼な言い方かもしれませんけれども,刑事弁護の実践を経験してきた者としてはやはりそこは危惧せざるを得ません。飽くまでも例外ということで,抽象論ではなくて個別具体的な事実に基づく厳格な運用が必要だと思います。   2点目ですけれども,通信傍受の対象範囲の拡大についてです。これもこれまで御指摘されているところでございますけれども,通信の秘密あるいは個人のプライバシーの制約を伴う制度ですから,適正な運用が確保されるべきです。新たに拡大される対象事件につきましては,先ほどから御説明がありますように,現行法の要件に加えて,「あらかじめ定められた役割の分担に従って行動する人の結合体により行われると疑うに足りる状況」という組織犯罪性ということが要件とされています。特別部会での御議論で,この要件が盛り込まれるに至った経緯を拝見しますと,今回の拡大によっても,言わば日常的に発生するような事件についてまで傍受が行われるものではないというふうに理解されるべきですし,またそのことは特別部会での共通認識だと承知しております。   3点目に,捜査・公判協力型協議・合意制度の導入についてです。今も御指摘がありましたように,被疑者らが自分の刑事責任を免れたり軽減しようとして他人に罪をなすりつける虚偽の供述をしえん罪を生むおそれ,これは否定できないと思います。そのため,この制度による供述の信用性は慎重の上にも慎重に判断されなければならないと思います。私事で大変恐縮ではございますが,私は正にこの制度の対象とされている薬物犯罪の事件の実行行為者から首謀者と名指しされたうその引込み供述によって無実の罪を着せられ,十数年間服役した後に再審無罪判決を得た,こういう事件の再審弁護に関わった経験がございます。この制度がそうしたえん罪の悲劇を決して生んではならない。そのためには,裁判所や捜査機関はもちろんのことでございますが,この手続に関わることとされました我々弁護人の役割も非常に大きいと改めて実感しております。   最後でございますけれども,被疑者国選弁護の対象が全ての勾留事件に拡大することになりました。これは弁護士会が手弁当で始めた当番弁護士制度発足以来,四半世紀に及ぶ私どもの悲願でした。今回の刑事司法改革は緒についたばかりでございまして,まだまだ多くの課題が残されていると思います。例えば身体拘束の問題のように,今回は意見が分かれて決着を見なかった問題を含めて,今後在るべき改革を実現するためには,裁判所,検察庁,警察だけではなく,刑事弁護の在り方もますます鋭く問われるものだというふうに考えております。今回の対象範囲拡大を契機に,私ども弁護士は刑事弁護の使命を改めて確認しまして,日弁連全体として弁護実践の更なる充実に努めていく決意を新たにしているところでございます。この機会に国選弁護制度の重要性への一層の御理解と御支援を是非お願いしたいと思います。   ちょっと長くなりましたけれども,私の意見は以上でございます。 ○伊藤会長 ありがとうございました。それでは,原案につきまして採決に移りたいと存じますが,よろしゅうございますか。 ○山根委員 一言だけ要望です。今回は可視化のスタートということで評価をしております。要望は,今回進められるいろいろな法整備によって何が変わるのか,実際に裁判がどういうふうになるのか,なったのか,というようなことを広く分かりやすく国民に示してほしいと思っています。それが裁判員制度への理解とか司法全体への信頼の向上になると思いますので,是非積極的な情報提供というか,そういったことを希望したいと思います。 ○伊藤会長 ありがとうございました。それでは,他に御発言がございませんようでしたら,採決に移りたいと存じます。よろしいですか。   諮問第92号につきまして,新時代の刑事司法制度特別部会から報告されました答申案のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。           (賛成者挙手) ○伊藤会長 では,手を下ろしていただきますようお願いいたします。   採決の結果につきましてお願いいたします。 ○西山司法法制課長 採決の結果を御報告申し上げます。議長及び部会長を除くただいまの出席委員数は18名でございますところ,全ての委員が御賛成ということでございました。 ○伊藤会長 ありがとうございました。   ただいま確認がございましたように,全員の委員の方に賛成を頂きましたので,新時代の刑事司法制度特別部会から報告されました答申案は,原案のとおり採択されたものと認めます。   採択されました答申案につきましては,会議終了後,法務大臣に対して答申することといたします。本田部会長におかれましては,部会におきまして,約3年間,多岐にわたる論点につきまして調査審議をしていただきました。心より御礼申し上げます。ありがとうございました。 ○本田部会長 どうもありがとうございました。 ○伊藤会長 それでは,どうぞお席へお戻りいただきますようお願いいたします。   本日の議題は以上でございますけれども,引き続き現在調査審議中の部会からその審議状況等を報告していただきたいと思います。本日は民法(債権関係)部会の部会長でいらっしゃいます鎌田臨時委員にお越しを頂いておりますので,部会における審議状況等を報告していただき,御報告の後,委員の皆様方から御意見を伺いたいと存じます。鎌田部会長,恐縮ですが報告者席への御移動をお願いいたします。   それでは,どうぞよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 御紹介いただきました部会長の鎌田でございます。着席のままで失礼いたします。   民法(債権関係)部会におけるこれまでの審議状況等について御報告を申し上げます。   お手元に資料番号民1から民4まで4点の資料をお配りさせていただいております。まず,民1の「民法(債権関係)の見直し」という資料を御覧ください。その上のほうにありますように,民法のうち債権関係の規定の見直しにつきましては平成21年10月に開催されました法制審議会第160回会議におきまして諮問が行われました。諮問の内容は,「民事基本法典である民法のうち,債権関係の規定について,同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り,国民一般に分かりやすいものとする等の観点から,契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい」というものであります。   これを受けて,民法(債権関係)部会が設置されました。当部会におきましては,同年11月からこれまで合計96回の部会会議,18回の分科会会議を開催し,債権関係の規定の見直しについて議論を重ねているところであります。部会の審議状況について,法制審議会総会におきましては,この資料の中段右側に記載してございますように,平成22年10月の第163回会議,平成24年2月の第166回会議,平成25年2月の第168回会議においてそれぞれ中間報告をさせていただきました。本日は4回目の中間報告となりますが,当部会におきましては先月26日に審議の節目となります要綱仮案の決定が行われましたので,本日はこの要綱仮案の決定に至るまでの審議状況の概要,要綱仮案の内容,今後のスケジュール等について御報告をさせていただきたいと考えております。   これまでの審議経過につきましてもこの資料の中段にございますけれども,当部会におきましては,必要な時間をかけて慎重に審議を進めるという趣旨で,平成21年11月の審議開始の際には最終的な要綱案を取りまとめる期限を設定せず,全体のスケジュールを大きく三つに区分し,それぞれのステージ毎に目標を定めて審議を進めてまいりました。   すなわち,まず第1ステージにおきまして審議対象とすべき論点の整理を行い,第2ステージで中間試案を取りまとめ,そして第3ステージでは総会において御議論いただくための最終的な改正要綱案の取りまとめを目指すことといたしました。   このうち,第1ステージでは審議開始から1年半を経た平成23年4月に民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理を取りまとめ,1回目のパブリックコメントの手続を行いました。また,これと並行して関係する団体などからのヒアリングを行いました。平成23年7月から開始しました第2ステージでは,1年8か月ほどかけて審議を行い,中間試案を取りまとめました。部会から総会への前回の中間報告は平成25年2月で,その際には間もなく中間試案を取りまとめる予定である旨を御報告いたしましたが,その後予定どおり中間試案の取りまとめに至りました。中間試案につきましては部会の審議過程では2回目となりますパブリックコメントの手続が行われ,団体193通,個人469通の意見が寄せられました。   第3ステージは,平成25年7月の第74回会議から最終的な要綱案の取りまとめを目指して審議を開始いたしました。第3ステージにおきましては,中間試案についてのパブリックコメントの結果を踏まえ,おおむね異論のない項目については要綱案のたたき台を直ちに提示して実質的な改正内容を固める方向での議論を行い,他方,意見の対立がある項目については,複数の考え方の論拠を比較検討するなどの論点検討型の部会資料を提示し,合意形成の可能性を見極める審議を行ってまいりました。   このような審議経過を経て,本年8月5日の第95回会議では「要綱仮案の第二次案」に基づく審議が行われ,8月26日開催の第96回会議で「要綱仮案(案)」に基づく審議を行って,同日「要綱仮案」の決定に至った次第です。   この「要綱仮案」というのは,当部会としては最終的な要綱案を決定する役割を担っているわけですが,それに先立って実質的な改正内容をこの段階で固めることを目的とするものであります。最終的な要綱案の決定プロセスを言わば2段階に分けるものだということができます。   こうした手順を採った理由といたしましては,第一に,民法は国民の日常生活や経済活動に関わりの深いものでありますから,条文表現も分かりやすいものとする必要があり,そのためには,条文化の作業を進めた後の実際の条文案に近いものについて法制審議会での審議の機会が確保されていることが望ましいと考えられることがあります。   それを前提としますと,予想される要綱案の分量は膨大で,内容も複雑であって,事務当局における今後の条文化の作業には相当程度の時間がかかると考えられますので,あらかじめ実質的な改正内容を確定しておく必要があるということで,要綱仮案で実質的な改正内容を確定し,それを踏まえて条文化の作業を行い,最終的な要綱案を決定するという2段階にさせていただく。これが,第二の理由であります。   次に,要綱仮案の内容を御紹介申し上げます。   資料民2の「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」を御覧いただきたいと思います。目次を御覧いただいてお分かりになるかと思いますが,この要綱仮案にはこれまでの審議を踏まえて多岐にわたる改正項目が盛り込まれております。このうち国民一般に分かりやすいものとする観点からの改正項目にはおおむね異論がないものが少なくありませんが,社会・経済の変化への対応の観点からの改正項目は実質的なルールの変更を伴うものであることから,大きく意見が分かれていたものもありました。そこで,本日は後者の観点からの改正項目のうち,これまでの審議過程で大きく意見が分かれており,時間をかけて審議を行ってきたものを中心に御報告したいと思います。   具体的には,要綱仮案のうちの「第7 消滅時効」,「第9 法定利率」,「第18 保証債務」,「第28 定型約款」について紹介させていただきます。ただし,この要綱仮案におきましては,ただいま申し上げました「第28 定型約款」,資料民2の46ページですけれども,そこには「【P】」とのみ記載され,具体的な案文が掲載されておりません。これは,要綱仮案を決定した日の審議におきまして,この定型約款に関して要綱仮案(案)で提示された案文に対して一部の委員から異論が述べられ,この段階での合意形成には至らなかったことから,この項目に限ってペンディングとし,引き続き検討することとなったためであります。この点につきましては後に改めて御紹介申し上げたいと思います。   まず,要綱仮案の6ページをお開きいただきたいと思います。「第7 消滅時効」につきまして,時効期間と起算点に関する項目についてのみ御説明申し上げます。   まず,7ページの「3 職業別の短期消滅時効等の廃止」についてでございます。現行民法は債権の消滅時効について原則的な時効期間を10年としつつ,1年,2年,3年という職業別の様々な短期消滅時効の特則を置いています。この短期消滅時効につきましてはそれぞれの規定の適用範囲が不明確であることや,他の債権との区別が合理的とは言い難いことなどの問題点が指摘されていました。このことから,これらの規定を削除することとしています。この点については部会において特段の反対意見はみられませんでした。   次に,6ページの「1 債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点」について御説明申し上げます。職業別の短期消滅時効の規定を削除することとした場合には,その適用を受けていた債権の時効期間が10年と大幅に長期化することに対する懸念があります。また,商事消滅時効を含めて時効期間をできる限り単純化,統一化することは時効管理のコストや紛争解決のコストなどの削減の観点からは望ましいと考えられます。そこで,原則的な時効期間と起算点をどのように見直すべきかが検討課題となり,中間試案におきましては甲案と乙案のほか,(注)として別案が示されており,どの考え方を採用すべきかについて意見が大きく分かれていました。   中間試案の甲案は「権利を行使することができる時」という現行制度の起算点を維持しつつ,時効期間を10年から5年に短縮化するという考え方です。この考え方に対しましては,消滅時効の起算点が客観的かつ明確であるというメリットがあるとして支持する意見がある一方で,時効期間を現在の10年から5年に短縮すれば権利を行使することができることに気付かないまま時効期間が満了してしまう事案が現在よりも増えるおそれがあるとして強く反対する意見がありました。   また,中間試案においては(注)に掲載されておりました別案は,権利を行使することができる時から10年という現行制度の時効期間と起算点を維持した上で,これとは別に,事業者間の契約に基づく債権については5年,消費者契約に基づく事業者の消費者に対する債権については3年の時効期間を新たに設けるという考え方であります。この考え方に対しても,消費者の保護に資するとして支持する意見がある一方で,消費者に対する債権の時効期間を殊更に短くすれば,債権者が精力的に債権を回収することになり,かえって消費者の利益を害するおそれがあるなどとして反対する意見もありました。   他方,中間試案の乙案は,権利を行使することができる時から10年という現行制度の時効期間及び起算点を維持した上で,これに加えて債権者が債権発生の原因及び債務者を知った時から3年,4年又は5年のいずれかの時効期間を新たに設けるという考え方であります。職業別の短期消滅時効の適用を受けている債権は基本的に債権発生の時点から権利を行使することができることを当事者が知っているものと考えられますので,この考え方によれば知った時から起算される短期の時効期間が適用されることになり,時効期間の大幅な長期化を避けることができます。他方で,権利を行使することができることを知らない債権者については,現行制度と同じ10年の時効期間が適用されるので,権利を行使することができることに気付かないまま時効が完成してしまう事案が現在よりも増えるというおそれはありません。この考え方では,現在10年の時効期間が適用される私人間の貸金債権などについては時効期間が知った時から5年と実質的に短期化することになるため,反対もありましたけれども,議論の結果,最終的にはこの乙案の考え方が多くの指示を得ました。   要綱仮案はこの考え方に基づいて,権利を行使することができる時から10年という現行制度の時効期間及び起算点,これを維持した上で,これに加えて債権者が権利を行使することができることを知った時から5年という消滅時効期間を新たに設けるという内容で取りまとめられたものであります。   次に,「第9 法定利率」について説明させていただきます。資料民2の10ページを御覧ください。法定利率につきましては,現在,民事については年5%で固定されておりますが,それを年3%に引き下げた上で,その年3%の法定利率を固定するのではなく,市中の金利水準の変化に合わせて変動させるという変動制を採用することとしています。   また,変動制を採用することに伴い,それぞれの債権についてどの時点における法定利率が適用されるかを定める必要がありますが,それについては各債権について利息や遅延損害金が発生した最初の時点における法定利率を適用することとし,その後に法定利率の変動があったとしても同一の債権について発生する利息等については同一の法定利率を適用することとしています。   また,法定利率に関する以上のような改正案を前提として,将来の逸失利益についての損害賠償の額を算定する際に行われるいわゆる中間利息控除については,当該損害賠償請求権が発生した時点の法定利率によって算定する旨の定めを置くことといたしました。部会の審議では法定利率を年3%に引き下げることや,年3%の法定利率を固定せずに,変動制を採用すること,これらについては比較的早い時期からおおむね異論がなくなりました。   他方で,法定利率の具体的な変動のさせ方や各債権についてどの時点における法定利率を適用すべきか。また,中間利息控除において用いる利率に関してどのような定めを置くべきかについてはいずれも意見の対立があり,パブリックコメントの結果も踏まえて審議が重ねられました。   まず,法定利率の具体的な変動のさせ方につきましては,市中の金利水準と法定利率とを緊密に連動させるべきであるとの立場から,法定利率の見直しは毎年行うこととし,市中の金利水準が0.1%でも変化すれば法定利率もそれに応じて変動させるべきであるとの意見がありました。   これに対し,法定利率の変動を可能な限り緩やかなものとすべきであるとの立場からは,法定利率の見直しは数年毎に行うこととし,市中の金利水準が一定程度以上変化した場合に限り,法定利率を変動させるべきであるとの意見がありました。   部会の審議では,法定利率が適用される主な場面として,不法行為や債務不履行に基づく損害賠償における遅延損害金の額の算定の場面などが想定され,そこでは法的安定性や簡明性などを重視する必要が高いこと,更には,中間利息控除においても用いられることとなることも考慮され,法定利率の見直しは毎年ではなく3年毎に行うこととし,過去5年分の市中の金利水準の平均が1%以上変化した場合に限り,1%刻みで法定利率を変動させるという緩やかな変動制の案が採用されました。   また,各債権についてどの時点における法定利率を適用するかについても,法的安定性や実務上の負担などを考慮し,各債権についての利息が発生した最初の時点における法定利率を適用するという案が採用されました。これが1の(1)ですけれども,遅延損害金については,2で,遅滞の責任を負った時の法定利率とされています。更に中間利息控除において用いる利率についてどのような定めを置くべきかについては,現在の実務上の取扱いを可能な限り維持すべきであるとの立場から,法定利率について変動制が採用されたとしても,中間利息控除において用いる利率については引き続き現在の法定利率である年5%の固定利率とすべきであるとの考え方があり,中間試案ではこの考え方が採られていました。   これに対し,遅延損害金の額を算定する場面などで用いられる法定利率と中間利息控除において用いられる利率とが異なるのは公平性に欠けるとの立場から,法定利率を年3%に引き下げる以上,中間利息控除においても年3%の利率を用いるべきであるし,法定利率が変動すればそれに伴い中間利息控除において用いる利率も変動させるべきである旨の意見がありました。パブリックコメントにおいてもこのような意見が多数寄せられたことも踏まえ,部会の審議におきましては,公平性や法的安定性などを重視し,中間利息控除において用いる利率は年5%ではなく,損害賠償の請求権が発生した時点における法定利率とするという案が採用されました。   次に,「第18 保証債務」について御説明申し上げます。28ページを御覧ください。保証債務のうち,「6 保証人保護の方策の拡充」の「(1)個人保証の制限」について御説明申し上げます。   ここでは,いわゆる第三者保証を制限する規定の新設を提案いたしております。保証制度は特に中小企業向けの融資において主たる債務者の信用の補完や経営の規律付けの観点から重要な役割を果たしています。しかしながら,他方で個人的な情宜等から保証人となった者が想定外の多額の保証債務の履行を求められ,生活の破たんに追い込まれる事例が後を絶たないと言われております。平成16年の民法改正では,保証契約を慎重に締結することを求めるため,保証契約を締結する際には書面の作成を要することとされました。   部会におきましては,平成23年に金融庁の監督指針において第三者保証の原則的禁止が盛り込まれたことなど,平成16年民法改正後の実務動向を踏まえ,第三者保証の制限の在り方を検討してまいりました。その中では,第三者が保証契約を締結することを禁止し,一律に無効とすべきであるといった意見も出されましたが,先ほど述べたとおり,保証債務が果たす役割等を考慮すると,第三者による保証契約を一律に無効とすることは金融の閉塞を招くおそれがあるとの意見や,保証人となった者が想定外の多額の保証債務の履行を求められ,生活の破たんに追い込まれる事例が生ずることを防止するためには,保証人がその不利益を十分に理解しないまま安易にこれを締結することのないようにする措置を採ることが重要であるなどの意見が出されました。   そして議論の結果,主たる債務の額が多額になりがちであり,保証債務の履行を求められると保証人の生活が破たんする危険が類型的に高い,事業のための貸金の債務を主たる債務とする保証債務などを対象として,公的機関である公証人が保証人となろうとする者の保証意思を確認し,公正証書を作成していなければ保証契約を締結することができず,無効になることとしております。   ただし,主たる債務者の状況を十分に把握することができる立場にあり,保証債務を負うことによる不利益を十分に認識せずに保証契約を締結するおそれが低いと考えられる一定の者,具体的には主たる債務者が法人である場合の取締役や,主たる債務者が個人事業者である場合に,その事業に現に従事している配偶者等は,このような公正証書を作成しなくても保証契約を締結することができるようにしています。   次に,少し戻りますが,26ページの「5 根保証」について説明します。ここでは根保証契約における保証人保護について提案しています。平成16年の民法改正において,個人が保証人である根保証契約のうち,主たる債務に貸金債務が含まれているものについては極度額の定めがなければ保証は無効になるという規律,一定の期間が経過すれば保証の元本が確定するという元本確定期日に関する規律,及び,一定の特別な事由が生ずれば保証債務の元本が確定するという元本確定事由に関する規律が設けられました。しかし,その改正のときから,そういった規律を個人が保証人である根保証契約全般に広げるかどうかが検討課題であるという指摘がありました。これを踏まえ,部会では貸金債務などの根保証契約以外の場合でも,例えば賃借人の債務の根保証契約では,賃借人の落ち度で借家が焼失したような事例では,保証人が想定外に多額の保証債務の履行を求められる場合があるなどとして,極度額に関する規律などを根保証契約一般に広げるべきであるとの意見がありました。もっとも,貸金債務などの根保証契約とそれ以外の根保証契約とでは性格が異なるところがあることから,最終的には極度額の規律と元本確定事由の規律の一部を根保証契約一般に広げる一方で,元本確定期日に関する規律などは根保証契約一般には広げないこととしています。   次に,定型約款について説明します。現代社会において,いわゆる約款は大量の同種取引を迅速かつ円滑に行うために広く利用され,必要不可欠なものとなっています。この約款には取引に参加する一方当事者が内容を読むことが期待されないことなどの特質がありますが,民法にはそのような特質を意識した規律が全く設けられていません。そこで,約款による取引の安定性を高めるために約款に関する規律を民法に設けることの要否,あるいはその内容につきまして審議を続けてまいりました。   部会の審議におきましては,民法に約款に関する規定を設けることを支持する意見がある一方で,主に企業の立場から,約款に関する規定を設ける具体的な必要が生じていないことや,企業間取引の実務に支障が生じることが懸念されることなどを指摘して,規定を設けることに反対する意見があり,また約款に関する規制の検討は民法ではなく消費者保護関係の法令で対処すべきであるとの意見もあるなど,民法上の規定の必要性自体について意見の対立があったところです。   このような意見の対立を踏まえ,合意形成の可能な案を模索する審議が続けられ,規定の内容について様々な工夫が検討されてまいりました。その成果として,8月26日に行われた部会で提示された案がお手元の資料民3,部会資料83-1です。この部会資料83-1の案に沿ってこれまでの議論の概要を御紹介申し上げます。   まず,「1 定型約款」におきましては,「定型約款」という概念を用いることとして,その定義を設けることが提案されております。約款という言葉の指す意味につきましては,論者によって広狭の差がありますので,これが法律上定義された語であることが分かるように,定型約款という言葉を用いることとしたものであります。   また,事業者間の取引で用いられることの多い契約書のひな形につきましては,それが契約の内容となるかどうか等について疑義が生じているとは言えません。したがって,規定の対象とする必要が乏しいといった指摘に対応する観点から,これが定型約款の範囲に含まれないような要件としています。   次に,「2 定型約款が契約の内容となるための要件」につきましては,定型約款の個別の条項を契約内容とする旨の合意が必ず必要であるという考え方もあるところですけれども,インターネット取引や公共交通機関での運送取引のように,そのような合意の認定が困難な取引が実際には多く存在しておりますので,現在の実態を踏まえたルールとする必要があるとの指摘がありました。   そこで,定型約款の個別の条項を契約内容とする旨の合意がなくても,定型約款の条項を契約内容とする旨の表示がされた上で,その取引を行う旨の合意をしたときは,その定型約款の条項が契約の内容になるなどとしています。   また,2の(2)におきましては,定型約款の条項の内容が不当である場合において,その条項が信義則に反して相手方を害するものであるときには契約内容とならない旨の規律を設けることも提示されています。当初,特に消費者保護の観点から民法に不当条項規制の詳細な規律を設けるべきであるという意見もあったところですが,政策的に消費者保護を図る趣旨のルールを民法に定めることは適切でないとの意見も強いことから,今回の改正では不当条項の排除ルールの存在を示すのに必要な限度で規定を設けることとされています。   このほか,3では定型約款の開示義務に関するルール,4では定型約款の変更に関するルールを定めることとされています。   以上のような案に対しましては賛成する意見が広くみられた一方で,一部の委員から定型約款の定義が必ずしも明確でないため,このルールの適用の有無をめぐって紛争を生ずるおそれがあることや,定型約款の変更に関するルールが既存の契約にも適用される旨の経過規定の内容がまだ明らかになっていないことなどを指摘して,現時点では賛成することができない旨の意見がありました。   そのため,この定型約款に関する項目については,要綱仮案の段階では成案を得るには至らず,指摘された問題点などについて継続して審議されることとなっています。   最後に,今後のスケジュールについてでありますが。要綱仮案ではペンディングとなっておりますただいま紹介申し上げました定型約款について更に審議を重ねるとともに,法務省における条文化の作業等の中で見付かった問題点等についての審議を行った上で,来年1月頃を目途に,部会において要綱案を取りまとめ,その後の総会において最終的な御報告を申し上げ,お諮りしたいと考えております。   部会からの報告は以上でございます。 ○伊藤会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの鎌田部会長からの御報告の内容につきまして,御質問あるいは御意見いずれでも結構ですので,御発言をお願いいたします。 ○八丁地委員 部会長から御説明がございましたように,2009年に部会が設置されて以来,90回以上の会議を開催されまして要綱仮案が公表されましたことに,敬意を表するものであります。   ただいま,部会長から幾つか,特に約款のところで御説明がありました。若干の課題がそこにあろうかと思いますが,経済界としては,民法を現在の経済・社会に適合したものとして,国民に分かりやすくするという御趣旨とその運用にはこの案に賛成であります。   もっとも,決定が保留された定型約款に関しましては,現在の案文におきまして経済界にとって懸念があると私は理解しております。特に,約款の中には御指摘のとおり,いわゆるB to C型とB to B型があろうと思います。B to C型にはそれほどの課題はないと思いますが,いわゆる企業間取引の約款が定型約款に該当するかどうかに関しましては,内容がケースバイケースであり,定型約款の定義に該当するか不明確であるケースが見られます。是非,この辺をもう少し詰めていただいて,部会審議においてこの課題が解決できる御努力をお願いしたいと思っております。よろしくお願いいたします。 ○伊藤会長 よろしいでしょうか。 ○古賀委員 ありがとうございます。私どもの組織からも関連の部会には委員が出席をし議論に参加しておりますけれども,せっかくの機会でございますので,働くこと,いわゆる労働分野に限って御意見を申し上げたいと思います。   債権法部会において約5年にわたり検討されてきた事項は幅広く,当初は労働分野に直接的,間接的に影響を及ぼすことが懸念される論点も多く含まれておりましたが,この要綱仮案では,これまで部会あるいはパブリックコメント等々で指摘された懸念がおおむね解消されたものと受け止めております。   また,依然として一部に懸念が残る論点も残ってはおりますが,その多くについては,審議会の場で「労働分野に悪影響を及ぼすことはない」という共通認識があったと思います。したがって,その趣旨については,今後も懸念の解消に向けて十分な説明とともに,解説書などにも盛り込んでいただくことを要望いたします。   ただ,懸念が残る論点の中でも,とりわけ労働分野にとって影響の大きい論点である「民法第536条2項の見直し」については,「従来からの取扱いが維持される」という審議会での認識を解説書等に盛り込むことはもちろんのこと,条文の文言上も請求権の存在が明確化されるように,引き続きの御努力をいただくようお願いをしておきたいと思います。   この民法の改正の目的の一つとして,国民一般に分かりやすい民法という提起がされております。条文化に向けた作業においては,例えば,条文の見出しを条文の内容の適切な理解にも資するようなものとするなど,改正民法をより分かりやすくするという観点から条文の体裁全体を工夫することにも御配慮いただくことを要望し,意見といたします。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。御指摘の点については十分に意識して説明あるいは解説書の記載等について工夫するとともに,条文化に当たりましても御懸念が解消できる方向を目指すように事務当局にもお願いしながら分かりやすい条文を作るという方向で努力をして,その結果をまたこの総会に出させていただければと思っております。 ○伊藤会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。 ○佐久間委員 ありがとうございます。今まで長きにわたって御議論いただいて,本当にありがとうございます。   私も約款についてでございますけれども,やはり今部会長の方からも御紹介のあったいろいろな懸念,特に実業界の方から出ている懸念,これについて十分考慮した上で,更に十分議論を重ねていただきたいと思います。5年間も御審議いただいて大変申し訳ないのですけれども,急ぐ性格の改正ではないと考えていますので,何より慎重に十分議論するということが重要だと思っております。   あと,次は質問でございますが,この今御紹介いただいた部会資料83-1からの抜粋,これは強行法規として設計されている,こういう前提でございましょうか。これは単なる質問でございます。 ○鎌田部会長 必要に応じて関係官からも補足をしてもらうことにします。性質上強行法規か任意規定かという御質問にぴったりのお答えかどうか分かりませんけれども,約款の組入れ等につきましては組入れ要件緩和の合意というのは想定できないと思います。それ以外も,基本的には任意規定として合意による排除が想定されるようなものは性質上余りないのではないかというふうに考えておりますが,細かい点については精査をする必要もあろうかと思います。 ○佐久間委員 1点確認なのですが,そうしますとその約款そのものではなくて非常に短いいわゆる皆さんが考えている契約の中で,もしこれが新たな民法に規定されたとした場合に,その条項が適用されないと明確に合意していれば,それは適用されないと,こういう理解でよろしいのでしょうか。 ○鎌田部会長 具体的な場面がよく理解できないのですけれども,組入れ要件については,全く当事者が読むことができない約款でも一方当事者の用いている約款は絶対に適用されるという合意をすればそうなってしまうかというと,それはない。そういう意味では,強行規定と言ったほうがいいと思います。それから不当条項排除についても,様々な事情を総合的に判断してもなお不当とされる条項でもその約款については適用しますというような合意の効力を認める根拠は見出し難いと思います。 ○伊藤会長 佐久間委員のただいまの御指摘については,それを踏まえて検討いただくことにいたしましょう。 ○佐久間委員 ありがとうございます。 ○白田委員 消滅時効の件で御質問をさせていただきたいと思います。問題点のところに記載いただきましたように,民事と商事の区分の合理性がないということでございますが,実質的に現在書かれている職業別の中の,特に売掛金の2年という数字は非常に実効性のある一般的に広く認識された時効年数であると思われます。事実2年間という期限をもって実務界では一般の売掛金に関して,会計の担当者から営業担当者に売掛未回収の部分について督促をするようにというような行動が執られていることは広く知られているところだと思います。これが5年に延長されますと,実務界では少なからず混乱が生じるのではないかということが懸念されます。   これは商取引上の強者と弱者,売る側と買う側にどのぐらいの力関係にあるかということも関係してくるとは思いますが,一般的に今は,この2年という数字が債権回収における最後の切り札になっているところを考えますと,例えば非常に回収が難しいような弱い立場にある会社の場合,売掛金が5年間分累積されて財務諸表上に表示されることとなる訳です。つまり簡単に言えば資産が2.5倍ぐらい売掛金の部分だけ膨らんで表示されることになりまして,当該企業の外観を呈する数字が実態とどんどん乖離していくこととなります。その結果,その会社の信用状況を評価するときに,実際の当該企業の実態よりもかなり資産額が膨らんで見えるようになってしまうということが考えられるのではないかと思われます。この点について,是非実務界から広い意見を聴取していただきまして,最終的な案を取りまとめていただければと思います。 ○鎌田部会長 少なくともこれまでの部会の審議の中ではそういった観点からの御指摘は実業界も含めてございませんでしたので,少し検討をさせていただきます。 ○伊藤会長 よろしくお願いいたします。 ○川副委員 先ほどから議論になっております資料民3の定型約款でございますが,結論的には,私はやはりこの際,この規律を盛り込む方向で一層の御議論をお願いしたいと思っております。   申すまでもなく,約款を使用した取引が非常に広範に行われているということは立法事実として存在しています。判例においても,その要件や効果に関して幾つかの考え方が積み重ねられていますけれども,実定法上の定めが存在しないというのはやはり異例の状態ではないかと思います。そういう意味では,消費者ないし相手方の保護というだけではなくて,約款を準備する側にとっても,法的安定性を確保するという意味では有益だろうと思っております。どこに規定するかということですが,定型約款がこれだけ広い取引で使われている以上,市民生活に関わる基本法としての民法の中に定めるというのがやはり原則的な在り方ではないかと考えております。   定型約款の定義についてどこまで立ち入るのかということはいろいろな御議論があるところでしょうが,今回示されている資料民3の文言は,確かに多少解釈の余地は残るにせよ,この点は,基本法である民法という法律の性格上一定の解釈の幅はあり得るのだろうと思います。   資料民3の案では,従前中間試案で検討されました不意打ち条項だとか,不利益変更の場合の適切な措置といったものが外されております。その点で個人的にはやや物足りない感じもいたしますが,この案の内容そのものは従前の判例でもほぼ認められているものだと思われますので,定型約款準備者の側に対して,今回のこの規定が新たな負担をもたらすということではないと私自身は理解しております。   そういう意味で,定型約款とその変更を契約内容に取り込むための基本的な手続を定めるという意味で,この規律は是非実現する方向で一段の御議論をお願いしたいと思います。   仮案全体について若干の感想を申し上げさせていただきます。消滅時効期間の統一あるいは賃貸借契約終了に際しての原状回復義務の限定等々は,私ども弁護士としてこれまで実務に関わる中での感覚に沿うものが非常に多いということで,今申し上げました定型約款を含めて実現を期待しております。   他方で,中間試案で検討されていたもの,例えば暴利行為や錯誤における不実表示,事業用貸金債務の個人保証における過大保証の履行請求権の制限だとか,あるいは判例で積み重ねられています契約交渉段階の規律などが取り入れられなかったということにつきましては,確立した判例を踏まえながら,条文自体からできるだけ規律の意味が理解できるようにするという今回の民法改正の観点からいたしますと,個人的にはいささか物足りない,残念な気はいたします。しかし,基本法の改正におきましては,議論を尽くした上でコンセンサスの形成を重視するというお考えでこの仮案にまとめられたというふうに承知しており,そのようなものとして積極的に受け止めたいと思っております。   長年にわたる御努力に敬意を表しまして,今後限られた期間ではございますけれども,パブリックコメントの結果も十分に勘案されて,大方の国民の納得が得られる最終的な要綱案を取りまとめていただくよう願っております。 ○伊藤会長 ありがとうございました。   ほかに御質問御意見はございますでしょうか。   それでは,鎌田部会長,ありがとうございました。引き続き部会におきます審議をよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。 ○伊藤会長 以上で本日の予定は終了でございますが,ほかにこの機会に御発言いただけることございましたらお願いいたします。   よろしいでしょうか。   それでは,本日はこれで終了といたします。   本日の会議における議事録の公開方法につきましては,審議の内容等に鑑みまして,会長の私といたしましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することといたしたいと存じますが,この点いかがでしょうか。よろしいでしょうか。           (「異議なし」の声あり) ○伊藤会長 それでは,議事録につきましては発言者名を全て明らかにして公開することにいたします。   なお,本日の会議の内容につきましては,後日御発言いただいた委員の方々には議事録案をメール等で送付させていただきますので,御発言の内容を確認いただいた上で,確定したところで法務省のウェブサイトに公開したいと存じます。   最後に,事務当局から事務連絡がございましたらお願いいたします。 ○萩本関係官 次回の会議の開催について御案内申し上げます。法制審議会は2月と9月に開催するのが通例となっておりまして,次回の総会の開催日程につきましても現在のところ例年どおり来年2月に御審議をお願いする予定でございます。具体的な日程につきましては後日改めて御相談させていただきたいと存じます。委員,幹事の皆様方におかれましては御多忙とは存じますが,今後の御予定につき御配意いただけますようお願い申し上げます。 ○西山司法法制課長 最後になりますが,伊藤眞会長におかれましては法制審議会委員の任期が本月30日までとなっております。よろしければ伊藤会長から一言御挨拶を頂戴できればと存じます。 ○伊藤会長 平成25年2月8日の第168回会議におきまして,委員の皆様方の御推挙で会長の重責をお引き受けすることになりました。それ以来,民事,刑事の両分野における重要な事項につきまして本日予定のものも含めますと,五つの答申をすることができ,また,できる運びとなりました。この間,私の議事進行についての不手際で委員の皆様方には御負担をおかけしたかとは存じますが,御協力いただいた結果,ただいま申し上げましたような重要事項についての答申に至ることができたわけでございます。改めてこの間の御協力に対しまして深く感謝を申し上げ,私からの退任の御挨拶とさせていただきます。   ありがとうございました。 ○西山司法法制課長 伊藤会長におかれましては長年にわたり法制審議会への御尽力を賜り,誠にありがとうございました。 ○伊藤会長 それでは,本日は御多忙のところを御参集いただきまして,お礼申し上げます。また,熱心な御議論を頂戴したことについても厚く御礼を申し上げます。   本日の会議はこれにて終了いたします。 -了-