法制審議会 民法(債権関係)部会 第89回会議 議事録 第1 日 時  平成26年5月27日(火)自 午後1時01分                      至 午後4後22分 第2 場 所  法務省 第1大会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第89回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,能見善久委員,野村豊弘委員,松岡久和委員,岡田幸人幹事,山川隆一幹事,餘多分弘聡幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 本日は予備日ですので,新たな部会資料の配布はございません。配布済みの部会資料78Bに基づいて御議論いただきたいと考えております。   それから,委員等提供資料といたしまして,日弁連の消費者問題対策委員会の有志の方からの意見書と,大阪弁護士会の有志の方からの意見書がそれぞれ提出されており,机上に配布させていただいております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料78Bのうち,前回の積み残し分について御審議いただく予定です。具体的には,部会資料78Bの「第2 保証人の責任制限」,「第3 債権譲渡」,「第4 約款,提携条項の定義」について御審議いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。   まず,部会78Bの「第2 保証人の責任制限」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○脇村関係官 御説明させていただきます。第2では保証人の責任制限を取り上げております。これまで前々回の部会資料76B第1,2の説明にも記載がありましたとおり,責任財産制限を受けることができる保証契約範囲,責任財産の範囲を判断する基準となる時点,具体的な責任財産の額,保証人が複数の債務を負担する場合の処理,保証人が有する財産の把握の正確性の確保,倒産手続が開始した場合の取扱い等を踏まえて,議論がされてきたところでございます。   この点につきましては,第86回会議におきまして,保証人の責任の限度を保証人が責任を減縮する請求をした時点で保証人が有していた財産,自由財産であるとか,差押え禁止財産を除くものでございますが,そういったものとすべきという意見が出されました。実益としましては,保証人がその時点で有する財産の額を超えて責任を負わない,すなわち,減縮がされた後に保証人が得る収入の額について責任を負わないことにあると解されます。   そういたしますと,この意見を採用するかどうかにつきましては,保証人の責任を一定の時点で区切り,保証人がその後に得る収入の額については責任を負わないこととすることをどのように評価するかが重要になると思われます。そして,その関係では保証人が継続的に給与を得ているような場合に,その給与を見込んで保証契約を締結する場合や将来的に収入を得ることを見込んで保証契約を締結する場合などを考慮する必要があるように思われますし,保証人が有する財産をどのように把握しているのかも重要な問題になると思われます。   以上を踏まえまして,保証人の責任制限を置くこと自体の当否について御検討いただきたいと存じます。なお,仮に保証人の責任の限度を保証人が責任を減縮した時点で保証人が有している財産の額とするとしましても,従前から議論し,説明(1)にも記載したとおり,責任財産の制限を受けることができる保証契約の範囲,責任財産の範囲を判断する基準となる時点,保証人が複数の債務を負担する場合の処理,保証人が有する財産の把握の正確性の確保,倒産手続を開始した場合の取扱い等を解決しなければなりません。   加えて,責任を減縮するとして,どのような形で裁判上争うこととするのかについても解決しなければなりませんが,保証人が有する財産の把握の性格性の担保等とも絡み,解決が困難な問題が多く含まれていると思われます。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○中井委員 この保証人の責任制限問題については,前回の審議でもいろいろ問題点が指摘されて,今回の部会資料でもその問題点が整理されていると理解しております。ただ,これまでの審議において,保証人の保護をどのように図るかという観点から,基本的には第三者保証を禁止する。経営者保証は認めるという基本方向の下で経営者保証の許される範囲,そして第三者保証を例外的に認めることのできる範囲について審議が進んできて,そちらについてはそれなりの方向性が出ているかと思うのですが,問題はそれだけで解決できるのかという点について更に検討が必要だろうと。その最も重要な論点がこの保証人の責任制限ではないか。つまり許された保証について保証人保護の枠組みが何もなくていいのかという点については,やはり考えなければならない。許された保証であっても,現実に社会問題として問題事例が発生している以上,それに対してしかるべき対応を考えておくべきだろうと。この一般論について共通の理解が得られるのではないかと思っています。   現実にその具体化が昨今,経営者保証のガイドラインという形で,これは商工会議所,銀行協会の皆さんで自主的に定められたルールであろうかとは思いますが,金融庁や中小企業庁などもその立案については積極的に関与されたようにも聞いておりますので,一定のコンセンサスを得たガイドラインではないかと思います。その中ではやはり経営者保証を認めるとしても,その問題点のあることを認識して,その保証履行請求権が顕在化したときに,どの範囲で保証人が責任を負うべきか,ということについて合理的な枠組みを設けようとしたと理解できるわけです。   このような実務対応が行われること自体,大変歓迎すべきことであると思います。そのとき,そういう実務対応で問題を解決する方向で進むという考え方もあるのかと思いますが,そのような実務対応を支える基本的な考え方を明らかにしておく,それを法律の形で残しておくという意義はあるだろう。民法にそういう基本的な考え方が定められることによって,今,実務で進められていることを裏付ける,根拠付ける,正当化するということができると思うわけです。したがって,幾つか難しい問題があることは十分理解しているんですけれども,なお検討を続けていただきたいと思います。   また,そのことが国民の声であるということは,前回配布していただいた,法案が成立した地域経済活性化支援機構法ですか,それの改正に当たっての参議院,衆議院での附帯決議でも,この経営者保証ガイドラインを具体化するというんでしょうか,根拠付ける方向での民法の改正が期待されていることが示されているのかと思います。   一般論はそういうことですが,現実に具体化するのは大変難しい問題であるということは部会資料が指摘するとおりであることは私も認めざるを得ません。それでもなお,具体的な提案をしたいという意見がお手元の部会資料78Bに関する提案として日弁連の消費者問題対策委員会の有志の方から出ております。この点,日弁連内部で十分な議論ができたわけではございません。本日出席している我々委員,幹事においても十分議論ができたわけではございませんが,この有志の方々によって今までここで指摘された問題点を何らかの形で解決する方向が具体的に示されているものと理解をしており,なお,検討に値するのではないかと思います。   一つは,山野目先生の意見を基にして,保証履行請求が顕在化したときに,その時点で存在する保証人の責任を,その財産の範囲に基本的に限るという考え方を基礎に置いているということです。この考え方は,経営者保証ガイドラインにおいて示された考え方でもあります。更に限定しているのは,複数の保証債権,保証債務があったとしても,そこの点についてはある意味で考慮せずに,一つの保証債権,保証債務があり,その債務が顕在化したときにこのような形で範囲を限定する。複数の保証債権があれば,それは二重,三重になるので,この考え方だけで解決できるものではありませんが,基本的にはその時点で存在する全ての財産を提供することによって,それ以上の負担のないことを明らかにする,基本的な考え方を示すという意味で価値があるのではないかと思っています。   これまで議論された幾つかの問題点,例えばどの範囲の財産で画されるのかですけれども,減縮の請求をした時点における財産の範囲で画される。それを財産の範囲で画すだけの主文にして,現実的な価額は,次の執行段階で考えるというのが従来の複数の意見だったわけですけれども,今回はそうではなくて,先送りはしない。減縮の申出をした段階の財産の価額を確定することによって範囲を明示しようとする点で従来の問題点を解消しようとしています。その分,保証履行請求の訴訟なりが起こった段階で,財産の価額を決めるという手続が過重になるのは事実ですけれども,結果としてその手続を踏むことによって範囲が明確になるという意味で,従来の問題点を一つは解消するものです。   それから,この手続を訴え,若しくは抗弁でもって行使するという形にして,裁判上での行使と限定した点もある意味で行使の範囲を限った点で評価できるのではないかと思います。加えて,これもかねてからその財産の範囲は結局債務者が言わなければ分からないので,全ての財産を把握することは債権者にとっては困難だと。そのときに隠したらどうなるのかという問題点が指摘されていました。それについても解決の方向として,訴え,若しくは抗弁でもってこの権利を行使したとき,自らの財産を開示することを前提とする。後日,それ以外に財産のあることが明らかになったときには,これは既判力の抵触の問題が避けられないので,明文でもってその判決の変更を求めることができるという提案を付記しています。   これらの提案が直ちにルールとして整合的なものになるのか,更に検討が必要だと私も正直思いますけれども,少なくともこのような具体的な提案が今まで出ていませんでした。この段階で出るのは非常に遅いという御批判はあるのかもしれませんが,先ほど言いましたこれまでの審議の経過,それから国会での附帯決議等も踏まえて,残された時間の中で是非検討を進めていただければと思います。説明が不十分なところ,誤解している部分があるかもしれませんけれども,更に審議をしていただきたいというお願いでございます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見がございましたらお出しください。 ○潮見幹事 中井委員がおっしゃったことについては基本的には分からんではないということは申し上げた上で,一言だけ,やはり気になりますから申し上げておきたいことがございます。   中井委員が先ほどおっしゃられましたように経営者保証ガイドライン等を根拠付けるような改正民法の中に基本的な考え方として示すということ自体については,これができるのであれば私も反対は特にいたしません。ただ,そういうガイドラインを超えるような基本的な考え方というものが,あまりにも一般的な形で記述されるということになると,いささか問題ではないかという懸念を持っているということを申し上げたかったわけです。   例えば辰野弁護士ほかの意見書の中にも書かれておりますけれども,ガイドラインにしても,主たる債務の整理が問題となっているような局面を想定しています。言わばプレ倒産段階,あるいは倒産段階を想定しています。しかも見ている限りですと,残存財産の範囲を隠していないかどうかを精査し,保証人による開示情報の正確性についての表明保証も要求しています。こういった様々な手続を踏んでガイドラインとしての形を成り立たせているのではないでしょうか。   そうしたものを支える基本的な考え方というものを果たして民法の中に書くことが技術的に可能なのかというところについては,慎重に検討していただきたいと思います。どうしてこういうことを申し上げるのかと言いますと,あまりにも一般的な考え方という形で書けば書くほど,およそ個人保証では,保証人が責任限定の請求をすれば,その請求の時点での額しか保証人の責任が発生しないということになり,個人保証とはこのようなものだというような考え方につながることになるのではないかという懸念を持っているからです。   およそ個人保証では,保証人が自らの一方的な意思で責任額を固定することができる。そういう時点を選択することができる。それゆえに,個人保証とは保証人が随時に決めることができる額というものを保証しているという意味が内包しているということにもなりかねない。こういう個人保証の考え方というものはおそらく従来保証で言われてきた一般的な考え方とはかなり違ったものではないかというように私は思います。そうであれば,今申し上げたような保証人の一方的な意思で,額とか責任の範囲とか,そのようなものが一定の時点で決まるというルールをというものを立てる上では,そのことが特に要求される場面に限って,明確な形で民法に基本的な考え方を示す必要がありはしないでしょうか。そうしないと,民法の考え方,保証の考え方というものの根幹が崩れてしまうのではないかという懸念を持っております。   そういうことから,冒頭にも申し上げましたように,中井先生がおっしゃった基本的な考え方自体について共感は覚えますけれども,しかし仮にその条文を置くということであるのならば,相当慎重に文言表現を含めて検討していただきたいなと思っております。このまま一般的な規定が作られたのでは,経営者保証ガイドラインで書かれているものとは違う内容がここに刷り込まれているような感じがいたしまして,その部分について事務局側のさらなる検討が求められるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はありますか。 ○山本(和)幹事 本日の資料の提案というか考え方というのは,私の理解するところでは実質的には破産免責と同一の効果を破産手続を経ずに,判決手続の中で達成するということだと思います。経営者保証ガイドラインに言及がありますけれども,確かに保証人が破産手続に依らずにそういう目的を達成するというニーズがあるということは確かだろうと。破産に対する危機感というものもあります,破産というもののもたらす副作用というのもあると思いますので,そういうニーズ自体はあるんだろうと思うわけですが,もしそうだとすればやはりその手続の中に破産手続,免責の手続が持っている合理性を担保するような手当てというものをやはり設けていく必要があって通常の弁論主義が支配する訴訟手続,判決手続の中で同じことを達成するというのはなかなか無理があるように思います。   私が気になるのは,第一は,繰り返し出ているところですけれども,債務者の責任財産の探知の問題で,破産手続でやはりそういうことができるのは破産管財人という中立公平な第三者がいて,その人が破産者の責任財産を責任をもって探知する。そのための権限,様々な検査権限,あるいは破産者の説明義務が罰則付きで認められている。そういう担保があって初めてその後免責という効果が発生するのではないかと思っています。   そういう観点からすると,通常の判決手続で債権者,債務者の完全な弁論主義に委ねて,そこで責任財産が決まったからといって,それに基づく免責の効果というのはなかなかちょっと飛躍があるような感じがするということであります。   それから,第2に,後から財産が見つかったときの事後的な修正の問題がやはりあると思います。破産の場合には一定の事由があれば,いったん付与された免責について取消しという制度がありますし,経営者保証ガイドラインでも,新しい財産が見つかった場合には,責任財産の限定というのは飛ぶという手当てもされていると承知しています。そうだとすれば同様の制度,新たに責任財産が事後的に判明した場合には,その責任制限というか債務の減免というものが効果を失わせる,解除するような制度というものが必要になってくるのではないかと思っています。   今回の日弁連の提案を見せていただいて,そういう観点からすれば,ある程度合理的な対処がなされているのではないかと,先ほど中井委員からの御説明にもありましたように,債務者の側で財産目録を提出して,それに入ってないような財産が後から見つかった場合には,民訴117条の訴えというのはこういうところで使えるかどうかというのは個人的な疑問がありますが,既判力を外すようなシステムが設けられるというのはそれなりの対応の方法だろうと思います。   ただ,これでもやはり最初の段階では債務者が自分で財産目録を提出して,債権者が後はそれを否認する,争うという正に弁論主義の構造で,第三者の目というのは入らないようなシステムになっているように思われるので,これでなお免責という効果を支えるのに十分なのかどうかというのは,先ほど潮見幹事が言われたように私もかなり慎重に考える必要があるのかな。考える方向としては恐らくこういう方向なんだろうという感じはしますけれども,まだなお慎重な考慮が必要だろうという印象を持ちました。 ○鎌田部会長 ほかに御意見は。 ○佐成委員 今,山本和彦幹事がおっしゃっていた点について感じたところを申し上げたいと思います。中井委員が御提案されていた部分について,保証人の責任制限という考え方,それ自体については非常にシンパシーを感じているんです。しかし,他方,今回のこの御提案については,山本和彦幹事がおっしゃっていたとおり,破産免責に近いものを裁判の手続の中で認めていくという考え方のようなんですけれども,そうなりますとやはり実体として破産法が規律している趣旨というか,破産免責を認めていく趣旨というのがこの段階でも貫徹されなければいけないのではないかと感じます。   つまり,破産法における免責というのは単に保証人,破産者自身の経済的更生のみならず保証人をめぐる多様な利害関係人の利益の調整を非常に重視しているのではないかと考えられます。ですから,弁論主義が支配するような裁判手続の中で,本当に多数のそういった利害関係者の利益がうまく調整できるのかという,原理的な問題もはらんでいるような気がいたしました。それが感じたところでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○岡委員 この趣旨には賛成だけれども,技術的に疑問が残るという意見が多かったように思います。それならば,その破産法の中に,保証簡易免責みたいな制度を設けて,ここに書いてあるような要件で,先ほど和彦先生がおっしゃった説明義務だとか,文書提出義務だとか,罰則などをかませて保証債務一本の人を簡単に免責する制度を作ることが考えられると思います。これであれば和彦先生としてはそんなに大きな違和感はないと感じられるのでしょうか。 ○山本(和)幹事 まったく考えたこともないあれですけれども,当然免責,破産でいいということになれば免責でカバーできるわけですので,先ほど私が感じたニーズというのは,これはもうこの経営者保証のガイドラインでも,あるいは東日本の個人版私的性ガイドラインのときもいつも感じることですが,破産というもの自体に対する心理的なハードル,その使いにくさというものが破産の外でいろいろな策動というとあれですね,いろいろな工夫を皆さんがやられる原因になっているというところがあるので,もちろん倒産法学者としては破産というものがもっと利用しやすくなるような,いろいろな措置,岡委員が言われるのも一つの試みかもしれませんけれども,そういったような方向で議論をしていただくのが,我々としては非常に有り難いとは思っています。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。原案はこういう制度を設けることは難しいのではないかというニュアンスで書かれているように受け止めているんですけれども,そういった方向性と今日御提案がありましたような形で何とか実現できるように更に工夫すべきであるという御意見と両方が出されているところでございますけれども,ほかの御発言があればお願いしたいと思います。 ○中井委員 今回の提供した資料に対する御批判として幾つかありました。まったく別の解決を求めるという岡さんの意見もあったわけですけれども,もう一度この提案に戻ったときに,一つは潮見幹事がおっしゃられた保証人が任意の時期を選んで,保証責任の範囲を画することができるのではないかという,誤解があるかもしれませんが,そういう批判に聞こえました。その点は,今回単なる意思表示ではなくて,訴え,若しくは抗弁でもってすることとし一定の歯止めをかけているわけです。そこまでのことをするというのはその前提として,保証債務について一括請求がきている。その請求訴訟の中で抗弁として主張する。若しくは一括請求がきているけれども,まだ訴訟が起こる前に積極的に訴えを提起して責任の範囲を限定するという構成になっているわけですけれども,仮に主体的に保証人がその時期を選べること自体が問題だという御批判がメインだとすれば,これを抗弁でもってこの責任範囲の減縮の意思表示ができるとすれば,必ず債権者が保証人に対して,保証債務全額の請求訴訟が提起されている。でも,保証人としてはそれを全額払うだけの財産がない。こういうシチュエーションになるはずで,その段階で抗弁をもってこの主張ができ,そこで初めてこの審議が始まるという構成なども十分考えるのではないかと思いました。例えば,そういう工夫ができないか。   それから,山本和彦先生から,民法のレベルで実質的に破産免責を認める仕組みになってはいないかという御指摘だったかと思いますが,一つは,複数の債権があるときについての解決は,何ら提案できていないわけですから,厳密にというか,破産と比較してそのときにある財産の範囲を超えた責任が全て免れるわけではない。複数の保証債権者が請求してきたら,それは全て認められるわけですから,その場面ではやはり本来的に破産手続を利用することが想定されている。その点で必ずしも破産免責と同じというほどの大きな効果をもたらす提案ではないと思っています。   破産免責の理解にもよるのかもしれませんけれども,この主文は一番最後の9ページに書いているとおりの主文ですので,結局責任の範囲をその時点で明らかになった財産の範囲に限る。それ以上の強制執行を許さないという限りで,他に財産があればなお強制執行を許す仕組みとして提案しているわけですので,先ほどの御批判に対してはやはりそれなりの手当てがなされているのではないかと思う次第です。   ただこういう提案をしていけば,今日ここで出たような,御批判,御意見が出てくるであろうと,また部会資料に書かれているような詳細な技術的な観点からの御批判が出てくるであろうことは予想していたわけです。仮にこのような具体的な規律付けが困難だとしたときの民法の規定のあり方ですが,この許された保証について,保証請求があったときに保証人はその保証履行請求時における財産の範囲を超えて責任を負わないという,抽象的な一文のみを置く。このようなことを考えられないのだろうかと思っておりました。   その効果は何だと,直ちに質問を受けるわけですけれども,経営者保証ガイドラインの考え方等について,若しくは今回の提案の背景にある考え方について,それほど違和感はないとおっしゃっていただいたことからすれば,保証人というものの責任というのは現実に保証履行請求が起こったときにその時点で持っている財産に限られ,それを超えて責任追及がされ続けられること,少なくとも民法レベルでは予定されていないということが言えないか。   そうだとすると,この部会資料で書かれている将来の収入なりを引当てとして,保証契約を締結しているという事例に対して答えられないというか,それは予定しないということを逆に言えば明らかにするわけですけれども。このような保証についてまでも今後も容認していくのか。逆に言えば,今ある財産の範囲で責任を果たしたにもかかわらず,将来の自らの収入,稼ぎから他人の債務の履行を強制されるのは,正に債務奴隷として異常な事態ではないか,そういう共通認識ができれば,今申し上げたような,一般的な考え方を民法にうたう,その具体化はこれからの実務,裁判実務の中で具体化されるというような考え方が採れないのかと思う次第です。 ○鎌田部会長 ほかに御意見は。 ○山野目幹事 弁護士会の先生方がこの論点について引続き熱意をもって御検討いただいた検討の過程のものをお示しくださったものと受け止めました。この論点を議論する際のこの部会におけるこれまでの審議を顧みての確認であるとか,従来法制やその運用に関して形成されてきている従来の取組を少し確認させていただきますと,3点ほど注目しておかなければいけない点があると感じます。   1点目は,公正証書をもって公証人の面前で確認された第三者保証というものをそういう一定の絞りの下で認めようという議論は,この部会における当初の審議の際には論点として明確には認知されていなかったものでございます。部会資料の78Aで今日段階辿り着いているものというのは,それなりの要請があることからこういうものを認めなければいけないというお話になってきていると感じますけれども,その分,第三者保証が許容される領域というものが拡がったという側面があると思います。その領域において,公証人の前でいったん意思確認がされると,その後,入口のところがそういうことになると出口のところについてはノーチェックですということになったのでは困るというふうな問題意識が恐らく中井委員初め弁護士会の先生方にはおありでいらして,中井委員のお言葉から繰り返し,許された保証の領域で問題解決がなお模索されるべきであるというお話が出ることは,そのような背景があると受け止めます。   それから,2点目といたしまして,経営者保証のガイドラインは必ずしもその適用範囲を厳密に限るものではありませんけれども,その名称が示すとおり基本的には経営者が保証人になった場面での保証債務の整理のあり方を示しているものでありまして,第三者が保証人になった場面というそこをピンポイントで狙った政策形成ではございません。   3点目としては,倒産法制上の従来の仕組みのあり方とし,破産手続や再生手続,更生手続などが行われときに,主たる債務者との関係で,破産免責,再生計画,更生計画に基づく債権の効力の見直しがあった場合においても,一般法制上は保証人の責任には影響しないということになっておりますから,その観点から見ますとやはり第三者が保証人になった場合の問題の処理について手当てがないということになります。そういうふうな問題状況を確認しますと,とりわけ保証人となった第三者がごく普通の社会人として活動を続け,また通常の家庭生活を営んでいくことが続けられる状況を多額の保証債務を抱え込んだという事態に対する一定の改善策を与えることによって,その保証債務の整理が倒産手続をしなければ達成することができないという現況を見直して,何か方策を見いだしていようという,ここのところに問題意識を絞った何かを考えるということは,この部会における従来の審議の積み重ねにおいてそれほど不自然なことではないのではないかと感じます。   潮見幹事から御注意があったように,個人保証は何でもかんでも免責するのですか,という感覚を誘うような茫漠としたフィールドで機能する制度にしてはいけないと感じますし,山本和彦幹事からお話があったとおり,破産手続における免責並みとはいかないまでも,その発想を十分に踏まえ純然たる判決手続でないものを考えるということは,もしかしたら必要かもしれませんけれども,狙っているところをピンポイントで絞れば,この問題についてなお考えていく余地があるといいますか,この部会における審議の経過に鑑みれば,その論点は捨ててはならなくて,なお考えなければいけない論点ではないかということも感じます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○畑幹事 私はこれを積極的に押し進めるべきかどうかということはよく分からないのですが,1点だけ,債権者と保証人の間の通常の訴訟で争われることになると問題ではないかという話があったかと思うのですが,そこは必ずしもそうでないような気がしております。弁論主義が適当でないという話がありましたが,ここは債権者と保証人の間の利害の調整ですから,弁論主義であってさしつかえないのではないかと,その1点だけ申し上げておきます。 ○筒井幹事 御議論ありがとうございました。この問題についてそろそろ結論を出していかなければならない時期に来ております。保証人保護の方策については,中間試案では引き続き検討するという形での取りまとめに止まっていて,成案を示すに至っていなかったところですけれども,その後,パブリックコメントの意見などを踏まえて,そのうちの多くの検討項目について成案に結びつける努力が続けられ,一定の成果を上げるところまで来ていると思います。   ただ,この論点については,御案内のとおり第3ステージで既に3回目の審議になりますけれども,依然として指摘されている問題を克服するには至っていないのが現状ではないかと思います。   保証人保護のための今回の施策を全体としてのパッケージで見たときに,経営者保証についての施策が不十分であるという指摘は大変理解できるところですけれども,しかし,民事法の分野で対応することのできることには一定の限界がありますし,また,この分野については,今日も御指摘がありましたけれども倒産法によってカバーされている部分も大いにあるのではないかと感じております。そういったことを踏まえながら,この論点についてはそろそろ今回の改正プロセスで取り組むには限界があるという判断をせざるを得ない時期に来ているのではないかという認識をしております。そういった現状認識をお伝えした上で,なお今日いただいた御意見について改めてよく検討し,その検討結果をまたしかるべき時期にお諮りしたいと考えております。 ○鎌田部会長 というようなことですけれども,追加的に何か御発言があればお受けしておきますが,よろしいですか。   よろしければ,「第3 債権譲渡」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 1の債権の譲渡性とその制限,民法第466条関係は現時点で積み残されている課題について,再検討をお願いするものです。まず,(1)では,譲渡制限特約付債権が悪意重過失の譲受人に譲渡された場合であっても,譲渡人が取立権限を有することとして,部会資料74Aの考え方を修正する考え方を採り上げております。   第83回会議では,譲渡制限特約が付された期限の定めのない債務が悪意又は重過失の譲受人に譲渡された場合に,デッドロック状態が生じることが適当ではないという指摘や銀行預金が譲渡された場合を念頭において,譲渡人による払戻請求の位置付けが不明確になるのではないかという指摘があり,これらの指摘に対応するためには,譲渡人に取立権限を付与することが必要であると考えられます。   (2)では,譲渡制限特約付債権が譲渡された場合に,債務者が供託することによって,債務を免れることができるという考え方を取り上げるものです。現在は,譲渡禁止特約付債権が譲渡された場合に,債権者不確知を理由として供託をすることができると考えられていますが,部会資料74Aの考え方を採用すると,譲渡制限特約付債権が譲渡されたとしても,債権者不確知による供託をすることができなくなる恐れがあるため,新たに供託原因を設けることが必要となります。   (3)では,譲渡制限特約付債権が悪意又は重過失の譲受人に譲渡された場合において,譲渡人について破産手続開始の決定があったときには,譲受人の請求によって供託を義務付けることができるとする考え方を取り上げております。資金調達の促進という観点からは,譲渡人の無資力リスクを回避するための方策が必要であるとの意見があったことに対応するものです。   2の対抗要件制度,民法第467条関係は第83回会議の議論を踏まえて,部会資料74Bで取り上げられたA案の考え方を具体化したものを提示しております。第83回の会議においては,A案に対して取引の安全に支障が生じるのではないかという指摘があり,これに対してA案を修正することによって対応が可能であり,その方向で検討すべきであるという意見がありました。   そこでA案を提示する意見が示唆していた内容に沿って,A案を修正する場合の具体的な方策を提示しております。A-1案は,いわゆる確定日時を付した証書の通知期間を限定する考え方で,A-2案は確定日時を付した証書の送付方法を限定する考え方です。今回は,これらの具体案を御検討いただいた上で,改正の要否及びその内容についての御意見を伺いたいと考えております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のあった部分について御審議いただきますので,御自由に御発言ください。 ○中原委員 まず,債権譲渡について少し意見を述べさせていただきます。今回の提案をベースに,銀行界で銀行取引実務にどういう影響を与えるのかについて検討しました。結論としては,否定的な意見が極めて強かったということです。例えば,譲渡制限特約のある債権自体は確定的に当事者間では譲渡されてしまう。そうすれば,仮に譲渡人に取立権限があったとしても,例えば銀行預金を例にとりますと,銀行は譲渡された預金を別管理しなければならないという手続になるだろうと思います。   一方で,例えば譲渡通知の内容として,平成26年7月1日から7月31日までに発生する預金債権を譲渡するとか,例えば100万円までの債権を譲渡する,そのような通知が来る可能性がある。このような通知に対して実務対応できるのかというと,それは難しいだろうと思います。   平成24年7月24日の最高裁の決定は,普通預金債権のうち,差押命令送達日後,同送達の日から起算して1年が経過するまでの入金によって生じることとなる部分を差押債権として表示した債権差押命令の申立が差押債権の特定を欠き不適法であるという決定です。その決定理由の要旨は,普通預金債権のうち,差押命令送達日後,同送達の日から起算して1年が経過するまでの入金によって生じることとなる部分を差押債権として表示した債権差押命令の申立は,第三債務者において特定の普通預金口座への入出金を自動的に監視し,常に預金残高を一定の金額と比較してこれを上回る部分についてのみ払戻請求に応じるということを可能とするシステムは構築されていないなどの事情の下においては,差押債権の特定を欠き不適法であると判示しており,最高裁も今の実務を評価した上で判断を示しています。   預金債権について譲渡制限特約が付されても譲渡人と譲受人間では債権は移転するということになれば,譲渡人に取立権があるとしても,銀行としては譲渡された預金債権を別に管理しなければならないと思います。しかし,先ほど例にした債権譲渡事案,預金債権の発生期間を区切った場合,譲渡金額に上限が付された場合などに対応する管理というのは無理です。今回の御提案である譲渡制限特約というのは極めて今の実務では対応が難しい。したがって,御提案されている譲渡制限特約を導入されるのであれば,銀行預金債権については,これを除外するという手当てを是非お願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○三浦関係官 2点申し上げたいと思います。一つは,譲渡禁止特約の扱いの方でございまして,今回,新しい御提案といたしまして,この部会資料のページで申し上げますと,6ページの上の方の(3)ということで,破産手続のときの供託という制度の御提案を頂いております。ここのところ,これまでの部会審議の経緯を振り返りますと,正に資金調達の円滑化という観点で,部会資料で御提案いただいていると理解しております。   私ども経済産業省は資金調達の円滑化を進めるという趣旨,方向性については非常に賛成するものでございます。その上で,具体的にどこまでの規定が必要かということについては,正に実務ニーズが大事かなと思っております。   (3)のような規定に対するニーズがあるかないか,よく見極めたらいいと思っています。我々は実務というよりはむしろ政策の現場ですけれども,あえて想像たくましくすれば,譲渡禁止特約について悪意で譲り受けるということ自身はとてもありそうなことのような気がいたします。   要するに,例えば中小企業が売掛債権を担保に融資を受けるという場合であれば,正に債権というのは担保なので,元の契約書の現物を見せてほしいと例えば金融機関に頼まれるということがあるのではないか。その際に,契約書の譲渡禁止特約を見つけて悪意となった金融機関が債務者に直接取り立てには行けないので,どうしてくれるんだというときに,それは中小企業が譲渡人であれば,その方が私はきちんと払いますからということになるんですけれども,本当に譲渡人は大丈夫かと,もし破産,倒産のようなことがあったらどうするのかというような,そういう検討なり会話がなされるようなことは十分あり得るかなと一般的には思います。そういう意味では,6ページの(3)のような規律について中小企業が資金調達の場面を念頭にニーズがあるということがあってもおかしくないかなという気はいたします。   ちょっと悩ましいのは,譲渡人の破産ということでございまして,中小企業の方がニーズの声を上げるには自らの破産という想像しにくい,あるいはするのに抵抗のある場面ということなので,ちょっとここはそういう意味でニーズを中小企業ご自身から拾い上げるのが難しい部分かなとは思いますけれども,ここは本当に実務の方でニーズがどうなっているのかというところはよく念を押しながら進めたらいいかなと考えています。   それからあともう1点は,対抗要件制度については,部会資料で申し上げますと,12ページに御提案がなされております。弊省は政策的には資金調達円滑化といっており,登記一元化というのを推進してきた立場でございます。この登記一元化についてはコスト面を初めとしていろいろな御懸念の表明がございまして,そこを何とか乗り越えられないかということで,将来債権に限定して登記一元化というアイデアをお出ししてきた経緯がございます。   今回の部会資料では,登記一元化ではなくて別の方向性の案のお示しを頂いておりまして,これはこれで力作だとは思います。ただ,ここで登記一元化とは違う方向に舵を切るという案でございますけれども,これで本当によいかどうかというのは今一度この部会でもよく御検討していただいた方がいいかなという気がいたします。もちろん,私ども自説にこだわるということではございませんので,当然もう申し分ない代案が出てくれば,まったくそれで構わないわけでございますけれども,一応私どもの方で,今の部会資料記載の案についてアセスをしましたところ,課題は諸々あるなという感触でございました。   ちょっと駆け足で例えばということで,4点ほど申し上げますけれども,例えば今の案の課題といたしまして,一つは承諾というのがなくなっているんですけれども,かねてからこの部会でも同一債務者に対して多数の債権者からの多数の債権を動かすときに,承諾は実務では便利に使われているということがございまして,そこについてはこの部会資料の案ではどうなるのだろうか。そこのところは経済産業省が登記一元化の提案をしたときには,例えば承諾登記というようなことを提案いたしましたけれども,同様の工夫が今回は要らないのだろうか。   それから,2番目に今回譲渡を受けて確定日付を得ても,より優先する人がいるかもしれないということで,それを確認するために一定期間待たなければならないということになっていますけれども,そのことをどう評価するのか。   それから,3番目に,部会資料であるように,確定日付というのは実際には幅を持った形,何時何分何秒というような点ではなくて,何時から何時までの間というように少し幅を持った形で与えられることにならざるを得ないということでございます。そうすると二つの確定日付が互いにオーバーラップするときにどうしたらいいのか。   最後に,これはそもそも今回対抗要件について議論していた動機の一つだと思いますけれども,若干債務者にある程度インフォメーションセンター性が残るというんでしょうか,結局その債務者に聞いたり,確認したり,やり取りをしながら決めなければいけないので,債務者の方の負担感という問題,あるいは債務者の方が間違えてしまったというようなことがあったらどうするかという,ある意味不確実感というのはちょっと残るなというところはあるなとアセスはございました。   ということで,ここで今一度考えた方がいいかなと思ったのは,今諸々申し上げましたような,課題をある種飲み込んでまでこのタイミングで部会資料の案で決めてしまうのがよいのか。それとも少し時間をかけることも含めて,もしかしたら今回の改正の機会かどうかということもあるかもしれませんけれども,少し時間をかけることも含めて登記一元化を将来に残した方がいいのか。ここら辺のところが非常に悩ましいところでございまして,ちょっと慎重に検討した方がいいかなという感じを持ちました。 ○大島委員 私も対抗要件制度についてなんですけれども,今回の債権譲渡の規律見直しに当たっては,中小企業の有する優良債権を資金調達に使うという観点から積極的な発言をしてまいりました。中小企業が資金調達に債権譲渡の手法を活用しやすくするためには,譲渡禁止特約の効力の見直しとともに,債務者の関与を必要とせず,第三者対抗要件を備えるということができる登記一元化が望ましいと考えており,今でもその考えには変わりはありません。   今回の提案では,登記への一元化は実質見送りになっておりますが,中小企業の資金調達に債権譲渡を活用するためには債権譲渡登記の手法を用いることが必要不可欠であると思います。   また,日本再興戦略の中でも,ABLの普及が取り上げられていますが,先日の経済産業省意見にもあるとおり,ABLの普及には,債権譲渡登記の改善が極めて重要であると考えております。時間的に債権譲渡登記の改善が困難であることは承知しておりますが,そもそもこの部会では登記一元化が検討されていたため,是非今回,手続,費用面での見直しを進めていただき,登記に一元化する方策を取り上げていただくよう要望いたします。 ○鎌田部会長 松本委員,どうぞ。 ○松本委員 私も対抗要件の方についての意見,2点ございます。一つは,既に経済産業省の方がおっしゃったことと重なります。この部会の事務当局の考え方の基本として,債務者への通知,あるいは債務者の承諾を対抗要件から外すという一貫した強い姿勢がございまして,債務者を債権譲渡に関与させないんだと,すなわち従来伝統的に言われていた債務者をインフォメーションセンターにするというやり方を全面的に否定したいんだという意向だったと思います。   それを貫徹しようと思えば,今,先にお二人の方がおっしゃったように,登記への一元化というのが一番正しいやり方だと思うんですが,今回の案は,結局債務者をインフォメーションセンターとして温存するというやり方になっているわけです。すなわち,債権譲渡を行い,確定日付の付いた譲渡証書を作って,それを直ちに債務者に送付して,それから1週間ほどたってから私の通知よりも先の日付で譲渡がなされているという通知があったかどうかを確認した上でないと,すなわち,債権譲渡が債権の売買であれ,あるいは融資の担保としてであれ,実際の決済はその点を確認した後でないと,怖くてできないということになるわけです。したがって,債務者はどのような譲渡についての通知が来ているか,その譲渡証書の日付はいつかということをきちんと管理していなければならないし,債権譲受人から質問されたら答えなければならないという状況が残るわけであって,これは事務当局の改正方針に反するのではないか。そうであれば,わざわざ債務者を債権譲渡から外すという大看板を掲げる必要はなかったのではないか。すなわち今回の法改正の根本部分が揺らいでくるのではないかというのが一つの疑問でございます。   もう1点は,危機型債権譲渡,すなわちもう破綻しかかっている相手から何でもいいから資産の譲渡を受けて回収に充てたいということで,債権を譲り受けるという場合であれば決済という問題は起こらないので,その場で譲渡証書に確定日付を付けてどんどん債務者に送るということでいいんでしょうけれども,そうでない正常型,資金調達型の債権譲渡の場合には,決済が必ず必要なわけで,債権譲渡の証書作り,確定日付の取得は決済前に行わなければならない。少なくとも1週間前には行っておかなければならないということから来る弊害がないのだろうかと。すなわち,資金調達のために債権譲渡をする場合に,譲受人,すなわち融資をする側は,安心できるまでは融資はできませんということで,譲渡人は1週間以上待たされます。1週間たって,融資してくださいと言っても実際はしてくれないかもしれないわけです。債権譲渡の食い逃げという事態が生じてくるリスクが必然的に存在するわけです。有効で確実な譲渡を決済と同時履行的に行う手段が可能なのかどうかちょっと私はよく分かりません。という2点,疑問があるということでございます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見,お出しください。 ○沖野幹事 対抗要件の方について,申し上げたいと思います。私自身は,基本的には登記一元化ということが達成できるのであれば,それが明確化の観点からも,それから元々問題になっておりました現在の対抗要件制度が債務者に不当な負担を課すものではないかという問題意識からも望ましいと思います。   しかし,これまでの議論の中で,登記一元化を貫徹するのはなかなか困難であるということがあって,しかしその中でも,現行法そのままよりは,先ほどの問題点,特に債務者の負担感,これ自体はインフォメーションセンターとされるということと,とりわけ承諾の制度によって承諾を求められるということに伴う負担というものも大きいという指摘がある中で,少しでもよいものにできないかという観点から今回の御提案が出てきたものであると理解しております。   したがいまして,債務者に対する対抗要件というか,権利行使要件の問題とそれ以外の第三者の対抗要件と両方がありますけれども,第三者対抗要件について登記に一元化する形で制度を組めるのであれば望ましいけれども,しかしそれでは難しいとすると,なお債務者のインフォメーションセンターとしての役割が一定程度残る,また承諾というようなところもある程度残らざるを得ない,そういう中で,言ってみれば次善の策として,どういうものが考えられるかというのがここで問題ではないかと理解しております。   そういう問題として,これを考えたときに,このような制度でよろしいのかということなんですけれども,御指摘のあった幾つかの点は,既に今申し上げたところである程度の考え方は出るかと思います。また確定日時について幅があるというようなときのオーバーラップする場合の取扱いというのは,現行法でもある問題ですので,現行法の考え方がそのまま妥当すると思われます。ここまでは前提です。  それで具体的にこの2の対抗要件制度の話なのですけれども,このうちのA-1案,A-2案のうちの,特にA-1案の(3)についてです。交付時期の限定をするということで,問題はこの1週間以内なり,あるいは一定期間以内に交付がされなかったときの効果をどう考えたらいいかということで,幾つかの考え方があり得るように思います。一定期間内の交付が通知の有効要件だとしますと,その期間内に到達しなかったようなものは到達しても無効ということで,債務者はもう無視してよいと,日時を照らし合わせて,債務管理といいますかそのような管理としてこれは無視してよいということで,債務者にとっては負担感が少ないのですが,そうしますとおよそ通知としても無効だとしますと,債務者以外の第三者だけではなくて,債務者にとっても通知としての要件を満たさないのかといった問題が出てくるように思います。それに対して,その債務者以外の第三者との関係での優先だけの問題であるということだとしますと,実際には日時は後だけれども,そのような第三者に対しては主張できないという効果になるのかと思います。   そうしたときに,その第三者の範囲がどうなるのかという問題が更にあり,一定期間内,いってみれば待機期間としてその間を待たなければいけなくて,その間を待って決済をするという形で登場した,その第三者に対してだけ主張できないということなのか。それともそういう第三者は登場しなかったけれども,例えば1カ月後に現れた第三者がいたというような場合,そういう者との関係でも主張できないのかが問題になります。言い換えますと,以後登場する第三者に対してはおよそ主張できないというようなことになるのかどうかです。そういったことを考える必要があって,一方で割合にきめ細かにやろうとすると債務者の判断が非常に難しくなる。債務者としては第三者関係で優先するものが分かっていれば,優先するものに払うということになりますので,せっかくインフォメーションセンターとして少しでも緩和しようとしていながら,債務者に過大な負担を課すことになりはしないかということがあって,この効果はかなり難しいのではないか。そうすると,アイデアは分かるのですけれども,このような形よりもう少し簡単な方がよくはないかと思います。 ○中田委員 今,沖野幹事のおっしゃった後半の方なんですけれども,A-1案の(3)の効果をどう考えるのかなんですが,確かにこのままですと,債務者にとっての負担は残るのではないかと思います。債務者が無視してもよいという選択肢もあるとおっしゃったんですが,それにしても1週間後に到達したんだということを債務者の方で言わなければいけないという負担が残ってしまいます。   何らかの形で債務者の地位の安定化を図った方がいいと思いますが,具体的な方法は余りアイデアもないんですけれども,例えば債務者が譲渡人に延着の通知を出すことができるという制度にしておいて,延着の通知をすれば譲渡人の通知の効力はなくなる,延着の通知をしなければ1週間経過後に届いたということを考慮しない,つまり期間経過が治癒されるというようなことにしておくと,債務者が後日,証明する必要がなくなっていいのではないかなと思いました。   ただ全体としてこの方向でいくかどうかということは,A-1案の方がA-2案よりもいいと思いますけれども,A-1案によって得られるメリット,つまり債務者の負担軽減と,デメリット,それは譲受人の負担の増加などですが,これを比較して決めるということかと思います。 ○鎌田部会長 中原委員,どうぞ。 ○中原委員 対抗要件制度について意見を申し上げます。この点についても銀行界でもいろいろ議論しましたけれども,今回は,部会資料11ページの(2)の譲渡人又は譲渡人の指定する者から債権譲渡と譲渡証書が作成されたことを債務者に通知するという方式が提案されています。債務者を譲渡人の指定する者にすることで,現在の承諾の類似の制度として,対抗要件を具備する方法も提案されていますが,とは言え,譲渡人の指定受けた債務者に,譲渡書面を作成させ,更に公証役場で確定日時を付するという負担を課すことになりますので,現行の承諾制度からすれば,債務者の負担が逆に増えるのではないかとも思います。   また,本当に債務者が譲渡書面を作って,公証人役場で確定日時を取ってくれたのかを譲受人の方で確認しなければ心配だというようなこともあると思います。このように考えると,現行の承諾制度というのは,スムーズな債権譲渡,特に中小企業に対する債権譲渡担保制度としてはうまく機能しているわけですから,あえてそれを変える必要はないのではないかという意見が多かったということです。 ○中井委員 対抗要件が先に議論されているようですので,そちらから申し上げたいと思います。   まとまった話ではないのですが,まず一つは,中田委員はA-1案とA-2案であれば,A-1案の方がよりいいとおっしゃられた点について,できればその理由をお聞かせいただければと思いました。   といいますのは,債務者の立場からすれば,A-1案であれば,1週間以内に届いたか,1週間経過後であったかを確認するという負担がやはり避けられないと思います。1週間以内に二つのものが届いて競合したときには,その証書に付された確定日時の先後で判断できる。この確定日時は確定的ですから,その判断が容易ですけれども,そこにプラスして1週間以内かどうかの判断を債務者に課すことになって,それは債務者にとって酷ではないかと私は思っておりました。それに対して,A-2案は,少なくとも届いた内容証明郵便なら内容証明郵便,これが複数であれば,その複数に付された確定日時の先後で決めればいいし,自らこのただし書き,A-2案のただし書きですけれども,債務者が譲渡人の指定を受けたものである場合は,自ら証書を作成して公証人役場で確定日付をとるわけですから,その先後は分かりやすい。つまり債務者から見れば,A-2案の方が負担が小さいと私は思っておりました。したがって,債務者の負担の点から言えば,A-2案がより好ましいと思っています。   債権譲渡の譲受人の立場からすればどうなのか。松本委員もこの点を御指摘になっているのだろうと思いますが,A-1案であれば,自ら債権を譲り受ける,これが真正売買であればそこで対価を払う。担保であれば担保として確認して,何らかの貸付をするという行為をするときに,本当に自分のとった対抗要件が他より優先しているのかを確認するために,1週間なら1週間,若しくはそれ以上待たなければならないという負担がある。その負担を課すことがどうなのか。   A-2案であれば,一般的に内容証明郵便が届く日時はおおむね一定の日時に限られるでしょうからその把握に努めれば足りる。ただしいずれも債務者から確認をしなければならないという観点からすれば,現行法もそうですけれども,従来の債務者の対応,若しくは応答義務がないということからすれば,譲受人のリスクは現行法もそうですけれども,このA-1案,A-2案をとっても残る。その上で,そのリスクをどこまで確率的なものとして債権譲渡を受けるのか,若しくは担保として認めるかを判断するしかないのか。そうすればその限りで,不安定さは残るし,債務者に対する負担も課すことになる。正にインフォメーションセンターとしての役割を残すことになるし,場合によってはより強く残すことになるのかもしれないと思っております。   それがA-1案とA-2案との比較だとすれば,私は債務者の不安定さ,従来,複数のものが届いたときに,どっちに払っていいのかが分からないという問題の限りでいうならば,A-2案の方がより適当なのかと思った次第です。   ただ,こういうことをつらつら考えていくと,現行法とどこが違うのか,A-2案を採った場合ですが,現行法は,到達したときの先後に結局はなっているわけですが,それに対してA-2案であれば,確定日時の先後ということに転換するけれど,その転換をするだけの積極的な理由が果たしてあるのだろうか。これは正に元に戻った議論になってしまうのですけれども,相当複雑な仕組みを作った結果として,譲受人サイドから見れば,結構負担は大きいし,債務者のインフォメーションセンターとしての役割も残す,残しながらも債務者に義務を課すわけでもないので効果が期待できるわけでもない。   現行法と比べてこれだけメリットがありますという制度設計になっていないものを,現行法を改めてまでする積極的理由が果たしてどこにあるのかとこの段階で改めて思う次第です。唯一,確定日時の先後が明らかであるという点のほかに見当たらないと思います。   加えて,A-2案は,これは逆に妥協の産物でしょうが,ただし書き以下で,A-1案もそうかもしれませんけれども,実質譲渡人の指定するものに債務者を含めることによって,債務者の承諾を第三者対抗要件の関係では残す制度設計になっているので,その点も従来からの批判があった仕組みを残すのであれば,これも同じですけれども,なおこの段階でこれだけ対抗要件制度を大きく変える必要があるのかということに疑問をもつ次第です。 ○中田委員 中井委員からどうしてA-2ではなくてA-1かということなんですが,A-2については資料の14ページに記載されているような不明確性というのはどうしても残ってしまうので,その分,債務者の負担があるのではないかと思ったからです。むしろA-1案で1週間と区切った上で先ほど申し上げた延着の通知を組み合わせることによって債務者の地位の安定化を図るとともに,その確定日付だけで明確に優先劣後を決定するというメリットがあるのではないか,それは逆に言うと現在の到達時説の問題とされているところの優劣判定基準を債務者の主観に依拠することにさせて,到達時の認定を一般の証拠方法に委ねるということの問題点を改善できるのではないかと思ったからです。   なお,債務者の承諾については,私自身は一定の範囲でまだ承諾の制度というものを残してもいいんじゃないかとは思っておりますが,それはちょっとこの問題とは別のこととなると思います。 ○中井委員 きちんと聞いていなかったのかもしれませんけれども,A-2案は譲受人としての不安は残るという指摘はあるんですけれども,債務者としての不安はA-2案の場合は残るのでしょうか。つまり一つしか来てないときには一つでいい,二つ来たときには二つの証書に付された確定日付の先後でいいから債務者にとってはその限りでは不安は残らない提案かと私は思っていたんですけれども,ちょっと誤解がありますか。 ○中田委員 譲受人にとって不明確な期間であるということが問題だというのは,それは御指摘のとおりですが,それはまた同時に債務者にとっても不明確であることの影響が生じ,それだけ不安定な関係が残るのではないかという理解なんですけれども。 ○鎌田部会長 対抗要件制度に関する御意見が集中して出されておりますが,全体としては消極的な意見が多いところなので,積極意見もあればそれも含めてお出しいただきたいと思います。 ○岡委員 弁護士会でA-1案,A-2案,A-2案の方が賛成が多かったんですが,意見は分かれております。全体的に消極な意見もあるし,A-1案賛成もあるし,A-2案賛成もそれなりにあるという状況でございます。   ちょっと御質問させていただきたいんですが,A-1案における債務者の承諾というのがどんなふうに実現されるのかという点であります。(2)でいきますと譲受人が譲渡証書を作成して,確定日付を付して,債務者のところに持って言って,債務者が承諾しますというサインをすれば,これはその確定日付を付した日から一定以内に承諾しますと書いていれば,通知として,確定日付がある通知として対抗要件を持つのでしょうか。そう読んでいいとすれば,実質的には今までの承諾と同じだけれども,呼び名が変わって,混乱をもたらすなという気がいたしました。   確定日付を基準にできるという意味で,A-1案,A-2案とも現行法よりは中田先生と同じように進歩するのではないかと,登記は登記で別途に残るわけですから,一つの進歩だとは思います。   それから,2番目の質問が,(3)で債務者の承諾がどんなふうに実務で動くかという点の質問でございますが,このただし書きを見ると,債務者が指定をされて,譲渡証書を作って公証人役場において付する方法をとれる。これは文書の交付等は債務者がやるのだから要らないという説明だったと思います。この場合には,口授とか書いていませんので,債務者が委任状を出して,その委任状を受けた代理人が行動すれば,これは(3)のただし書きを満たすと理解していいのでしょうか。二つの質問をお願いします。 ○鎌田部会長 質問事項に関して,事務当局から説明をお願いします。 ○松尾関係官 まず,1点目の質問ですが,債務者が譲渡人から指定された場合における確定日時の取得方法については,債務者が譲渡人から指定を受けて,所定の記載事項を記載した証書に確定日時を付せば,それをもって(3)の通知があったと評価することになります。ですので,改めて確定日付の通知をすることは不要であるということになると整理しております。そのことが分かりにくいということであれば,書きぶりの問題のような気もしますが,実質としてはそういうことを意図しておりました。   もう一つのA-2案のお話は,おそらく中原委員が御指摘された問題と同じようなことをおっしゃっているのかなと思ったんですが,岡先生がおっしゃったように,債務者が指定された場合であっても,それ以外のものがその代理人や使者として行動することは妨げられないということだと思います。 ○岡委員 1番目の質問は,A-1案について譲受人が,指定された者として譲渡証書を作り,その証書を債務者のところに持っていって,受領しました,あるいは承諾しましたというサインをもらう方法が考えられますが,このサインを取る方法が通知として有効になるのかという質問でございます。 ○松尾関係官 失礼しました。そういうことであれば,それはそのような理解でいいと思います。 ○佐成委員 積極的な評価というほどでは必ずしもないかも知れませんですけれども,まず債権譲渡全体,1のところについては,確かに預金債権にはちょっと特殊性があるのではないかという議論が内部でありましたけれども,一般企業からしますと,この提案はよく練られているのではないかという評価はありました。   それで,対抗要件に関しては,A-1案,A-2案,どっちが債務者に,債務者になる場合が我々の関心が高いということですけれども,その場合にどっちが負担が少ないかというのは,なかなか分かりにくいんですが,A-1案の方が1週間で効力がなくなってしまうという扱いであれば,その方が明確でないかという議論もありました。ですが,現在の負担がどれだけ軽減されるのかという点は,あまり評価されなかったという感じであります。   まだ根強く現行制度がいいのだという御意見もあったところです。その意味で,よく考えられているという評価は一方ではあるんですが,他方やはり根強く現行制度の方がいいと,そういう御意見もあるというのが経済界の中での議論でございました。 ○中井委員 先ほどの岡委員と松尾関係官とのやり取りの確認ですけれども,まず(2)で譲渡人の指定するものに譲受人も入るということを確認されたでしょうか。それとも,譲渡人が作成した証書を譲渡人から依頼を受けて譲受人が債務者に通知するというシチュエーションだったのかもしれませんが,譲渡人の指定するものというのは,この後の例示で,債務者は明示的に入っていますが,譲受人も排除する趣旨ではないということを確認させていただきたい。   その次はその作成した証書,作成する人が誰かという問題と債務者に通知するものが誰かということはこれも切り離して考えていいのかということの確認をしたいと思います。とりわけそれはA-2案の(3)ですけれども,これは中原委員の御質問というか,前提だったように私にも聞こえたんですが,ここでは債務者が証書を作成するという問題とその作成した証書に公証人役場で確定日時を取るという問題があると思うんですけれども,証書を作成するのは,譲渡人の指定を受けた債務者ですけれども,公証人役場で確定日時を取るのは必ずしも債務者自ら行かなくても債務者から委託を受けたものが行けばよいという理解をしましたが,それでよろしいか。 ○松尾関係官 まず1点目については,譲受人も含むという趣旨です。つまり譲受人が証書を作成した上で,それに確定日時をして通知するということも差し支えないと思っています。それは現行法で譲渡人から代理権を受けて譲受人が通知することができると言われていることと同じことができてよいのではないかということだろうと思います。   2点目なんですけれども,中井先生がおっしゃったようなことも可能であろうと思います。つまり債務者が指定を受けて証書を作ったとしても,その一部を債務者の使者として別の者が行為を行うということは可能だろうと思います。 ○深山幹事 対抗要件については,すでにいろいろな方々の意見が出され,それと重複するところもあるんですけれども,今日の議論でも意見が出たように,債務者の負担を軽減する制度にすべきだというところが議論の出発点だったとすれば,登記一元案が見送られて,それに代わる提案としてなされている,確定日時を基準にするという提案は,いずれにしろ債務者をインフォメーションセンターにするという部分が残っており,あまり目ざましい改正の効果はないだろうという気がいたします。   とりわけA-1案については,既に中井先生からも御指摘があったように,日付の点だけではなく,1週間以内に着いたかどうかということを債務者が管理しないといけないという意味で,今とさほど変わらない負担ということになります。   A-2案の方は,その点はなくなるにしても,やはり債務者にとっての負担は少々減るとしても,まったく問い合わせが来ないということでもないので,程度の違いなのかなと思います。加えて譲受人の方も安心できるかという点が指摘されているのは,全くそのとおりだと思います。   翻って考えると,沖野先生からは,今よりは少しいい制度にしようという検討なんだという御指摘がありましたけれども,それはそのとおりだと思うんですが,果たして昭和49年の最高裁判例以来の到達時を基準に行われてきた制度を確定日時に変えるというのは,それなりに大きな転換になるわけで,そのような大きな転換をしてそれだけの実益といいますか,メリットがあるのかと言うとやはり疑問です。債権流動化,資金調達,ABLといった観点からのニーズがあって,それもこの議論のベースにあるんだとすると,今示されているようなA-1案,A-2案のようなもので本当に促進されるのかなという気がいたします。松本先生からの御指摘もあったように実務のニーズにこれで応えて,こうなると資金調達が促進するのかというと私はやはり疑問だなという気がいたします。   ということで,将来的に登記一元化を目指すということは,検討すべきことだと思いますけれども,ある意味中途半端な今とそう変わらない制度にするのであれば,大きな変化,転換をするべきではないという気がいたします。   ちょっと議論が債権譲渡に集中したのですが,譲渡制限特約の方に戻って,1点,(3)のことについて申し上げたいと思います。(3)の提案に関しては,元々中間試案の段階で譲渡人について倒産手続が開始されたときには,悪意,重過失のある譲受人に譲渡された場合でも特約が対抗できるようにすべきであるという提案がなされていて,その理由とするところは,倒産手続が始まったような場面では債務者が支払先を固定するという利益を保護する必要性がないんだというような説明があったわけですが,それに対して反対する意見もあって,この議論の過程で,部会資料74Aのところでは,その規律は明文としては落ちているという経緯がありましたが,今回の部会資料では,破産手続が開始された場合には供託をさせることができるという形で従前の議論がまた復活したような形になっております。   この点については,やはりその合理性があるのだろうかという気がいたします。(2)で示されているような権利供託的な,債務者の自主的な判断で供託ができるという規律は,これはこれで十分意味があると思うんですけれども,(3)の方は義務供託的なもので,請求があると必ず供託しなければならないということになっておりますので,債務者から見ると譲渡人が破産手続を開始したという自分自身とは全く関係のない事象が発生したことによって,供託をしなければならないという義務を課せられることとなり,それは,やはり酷ではないかなという気がいたします。   そもそも債務者が譲渡制限特約を付した利益ないし地位を譲渡人の事情の変化で奪っていいのかという点に根本的な疑問があるわけですが,加えて供託義務が課せられるということになると,なぜそこまでさせられなければならないのかなという気がいたします。したがって,ここは反対したいと思います。 ○鎌田部会長 債権譲渡の対抗要件制度についての御意見はほかにはよろしいですか。   それでは,ただいまも御意見を頂戴しましたけれども,再び譲渡禁止特約に関わる御意見をお伺いしたいと思います。 ○山本(和)幹事 深山幹事の御指摘の(3)のところなんですが,実質的な内容については特段意見はないんですが,そもそもこういう制度ができるのかということを確認させていただきたいんですが,かつて私どもの理解では同様の試みが会社更生法の改正のときに行われようとして,つまり質権設定者について更生手続が開始したときに,更生担保権者である質権者は取立ができなくなる。管財人も取り立てられないという両すくみの状態のときに,質権者,更生担保権者の請求に基づいて供託させる,供託請求というのを民法336条3項にならって作れないかということがかなり議論されました。   しかしながら結局実現しなかったわけですが,その理由については私がお話しするよりも深山委員が直接の御担当だったので,より正確な御説明ができるのではないかと思いますが,私が理解している限りでは,この民法366条3項の供託請求というのがそもそもどういう訴訟形式に基づいて権利が実現されるかということが,明確にならなかったということにあったように記憶しております。事務当局では,法典調査会の審議録まで調査されてお調べになったようですけれども,結局そこが明らかにならなかったので,ある意味では不明確な制度に基づいて新しい制度,同様の制度を設けることは困難であるということで,かなりニーズとしてはそういうのが必要ではないかというのが,私の理解では,当時の倒産法部会ではかなり有力だったように思います。結局それは実現できなかった。その結果として,現行制度では権利供託という第三者債務者が権利供託できるという制度だけを置いたという経緯がございました。   今回のこの提案はそうすると,倒産部会で議論した難点が乗り越えられてこういう提案になっているのかどうかということ。乗り越えられるとしたら,どういう訴訟形式でこれが実現されるということを考えておられるのかということを御質問したいと思います。もし,それが乗り越えられるということであれば,将来いつかの日か会社更生法の改正のときに,そういう制度ができるかもしれないというようなことを思うものですから,ちょっとその点について事務当局の御見解を伺えればと思います。 ○村松関係官 私も会社更生法の担当者だったので,ああそういえば,あのときに議論した条文だと考えたところがありました。そのときの議論まで遡らずにこの資料を見ていたんですけれども,あのときの議論は複数担保権者がいた場合にとか,もうちょっと複雑な話があった気がしていたのに対して,こちらはそれほど問題があるとは思われない,違う話なのかなと,この資料を見たときには思っていました。局面が違うのかなと認識していましたが,今,言われてもう一回見直した方がいいかなという気がしておりまして,あのときの議論がクリアできたかと言われると,あのときの議論は思い出しては詳しく見なかったということでございますので,確認したいと思いますが,印象としてこちらはもっとより単純で理解し易いことをやろうとしているという印象です。 ○山本(和)幹事 一言だけすると,そのときの議論は飽くまで民法366条3項の制度自体がそもそもどういう訴訟形式を想定しているかということが解明できなかったということだったと思いますので,それにならって制度を作るとすれば,同じ問題があり得るのだろうとは思います。 ○中井委員 お手元に大阪弁護士会有志から意見書を出させていただいております。この御紹介も兼ねて少し述べさせてもらいたいと思います。   まず,譲渡制限特約に関する議論ですけれども,現行法が基本的に無効であるのを有効にしようというのが出発点にあって,それはたとえ譲受人が特約について悪意,若しくは重過失があっても債権は譲受人に有効に移転する。最終的な債権の帰属者は譲受人であるということを前提にこの仕組みが作られている。   他方,債務者の利益は保護しなければならない。それは元々の債権者である譲渡人に対して弁済をする。若しくは相殺をする。反対債権,例えば損害賠償請求権等が生じてもその履行を確保するという観点や手続上の便宜,事務の簡易化,そういう観点から債務者の利益を守るために,どういう制度設計がいいかということだったかと思います。今回の枠組みは基本的には大阪弁護士会が御提案させていただいた枠組みを基礎に置いていただいていると思いますけれども,その考え方は債務者の利益は弁済先を固定するというところに意味があるというところだったかと思います。   それで制度設計がされたのですが,前の審議において,延滞状態になっているときのデットロックを解消する方法として,譲受人に催告という権限を与えることによってそのデットロックを解消しようとした。催告したけれども債務者が弁済期が到来しているのに払わなければ,それはもはや固定特約,制限特約を対抗できませんという形で解消しようとしたわけです。それに対して前の審議において,預金等を念頭に,期限の定めがない債権,催告がなければ遅滞に陥らない債権についてどういう処理をしたらいいのかというところから喧々諤々議論があって,その改正提案として今回(1)で譲渡人が債務者に対して履行の請求をすることができる,つまり取立権限を有するという規律を設けるという提案に至ったのだと理解しております。   前回の問題を解決するための工夫ということで理解できないわけではないのですが,本日配布した大阪の意見ですけれども,それは前に問題になった状況を解決するための手段としては過大ではないか。本来的には譲受人に債権は帰属して,債務者は弁済先を固定する利益さえ確保できればよくて,場合によっては譲受人に払ってもよいし,譲渡人に払ってもよい。こういう構成だったのが譲渡人から取立がされれば,これは応じなければならないという形になる。若しくは譲渡人から給付請求訴訟も起こせるという帰結になるのではないか。それは当初作ったこの枠組みを基本的に超えるものではないかという意見です。   前回の問題,預金等について遅滞に陥らせるということをどう解決するのかですけれども,改めてこの仕組みはどういうことかというと,債権譲渡制限特約があっても,譲渡は有効になされると。したがって譲受人がその債権の帰属者である以上,本来その債権の権限,例えば取立請求ができるはずで,しかし,債務者の利益を考え,そういう請求があっても拒絶でき,この特約に基づいて対抗できる,債務者は譲渡人に払いさえすればいい,譲渡人は受領権限も持っている,こういう構成だったわけです。   とすると,本来的に譲受人は債務者に対して延滞に陥らせることも基本的にはできるのではないか。つまり取立権限もあるのではないか。ただ,制限特約があるがために,債務者からそれを主張されれば,それ以上のことができないに過ぎない。そうだとすれば,その譲受人のイニシアチブで解決するという従来の枠組み,つまり延滞に陥っていたら,譲受人が譲渡人に払いなさいという特別な催告をするという制度だったわけですけれども,それだけでは延滞に陥っていない債務者に対しては使えないということに対する対応としては,譲受人が自らその権限に基づいて延滞に陥らせることができると考えるか,若しくは譲受人のそのような権限に基づいて,その権限を譲渡人に委任して譲渡人がその権限を行使して延滞に陥らせることができる。こう考えれば従来の枠組みをそのまま使えるのではないかと思うわけです。だから,部会資料のような武器まで与えなくてもよいのではないか,というのが大阪の意見書の骨子です。   譲渡人がもはや権利者でないにもかかわらず,そういう遅滞に陥らせる権限を有することを明らかにする必要があるとすれば,この大阪の意見書の(3)ですけれども,譲渡人は譲受人の委任に基づいてその債権の履行の請求をすることができる,という形で,飽くまで譲渡人にイニシアチブはない。取立権限を自ら勝手に行使することはできません,債権の帰属者である譲受人からそのような委任を受けたときにできるとすれば足りるのではないか。こういう意見です。   これは確認ですけれども,またそう読んでいいんだろうと思いますけれども,部会資料9ページ,要項案のイメージがあるわけですけれども,(3)は上記(2)後段の場合においても,となっております。つまり(2)の後段というのは,譲受人に対抗できる場合に限ってのことです。したがって,もはや譲受人に対抗できなくなった場面では,つまり延滞に陥って譲受人から催告を受けたけれども弁済をしないときは,もはや対抗できなくなるわけですけれども,対抗できなくなったら当然のことながら(3)の譲渡人からの履行請求,つまり取立権限の行使はできないと理解できる。この部会資料もそういう理解であることは確認しておきたい。それであっても,譲渡人のイニシアチブで取立権限まで与えるのは過大ではないかという意見は変わらないということを申し添えておきたいと思います。   (3)で,破産の場合についての御議論がありました。私も基本的に深山幹事の意見と同じです。破産のみを取り上げていますけれども,なぜ破産のみなのか。民事再生,会社更生との関係はどうなのかということが素朴に疑問になりますし,更に言えば,これまでの部会資料の審議の経過からすれば,譲渡人に対して差押えがあった場合はどうなのかとなります。この提案からすれば,譲渡人に対する債権者からの差押えがあった場合であっても,譲渡人が支払不能や支払停止になったとしても,または,譲渡人に対して民事再生,会社更生があってもこの規律は適用されないということを想定しているのだろうと思います。だとすれば,なぜ破産の場合だけそうなのかというのは,これまでの審議からすれば,例外のウ,エの両方を排除した経過からすれば若干違和感の残る提案であると理解しております。   (3)について違和感がある実質的な理由として,今回の枠組みは譲渡は有効だが,基本的に債務者は譲渡人に弁済できるという枠組みをとっているわけですから,債務者が譲渡人に弁済するというこの枠組みは,譲渡人が倒産手続に入っても残すべきだ,これが先ほど深山さんがおっしゃったことだろうと思います。   そのとき,譲受人は何ができるか,債権譲渡が有効であった以上,譲渡人が受け取ったものは譲受人に渡す,譲受人は譲渡人に対して請求できる。この権利を認めれば足りる。譲渡人がそれは倒産手続に入ったとしても同じで,倒産手続前に受け取っていれば,それは倒産債権になるし,倒産手続開始後に受け取ったのであれば,財団債権,若しくは共益債権として保護される。それが基本的枠組みではないか。その枠組みを妙にいじっているように思いますので,違和感があるということを重ねて申し上げておきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは今の点について事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 まず1点目で中井先生から確認を求められた点ですが,中井先生の御理解と同じでありまして,つまり譲渡制限特約を対抗することができなくなった場合には,譲渡人の取立権限も当然に失われることになると考えております。   あともう一点は,なぜ破産手続開始の決定の場合だけに限ることにしたのか,その理由がよく分からないという御指摘だったと思います。確かに中間試案までで取り上げていた考え方とは中身が変わってはいるのですが,それは結局なぜこの規定を設けるのかというところの理由が変わっていることと関係するわけであります。中間試案までは債権の奪い合いのような状況になった場合には弁済の相手方が固定されるという利益が失われてもやむを得ないというような説明で差押え,あるいは倒産手続開始の決定があった場合に譲受人が直接請求することができるという考え方を取り上げられていたわけですが,パブリックコメントなどで来た意見などを踏まえると,そうでなく,譲受人が譲渡人を通じて全額回収することができないという事態に何らかの対応をする必要があるという意見が多かったと理解しております。それに対応するという観点からは,差押えが会った場合を入れなければならないことについて理論的な理由ができないように思いますし,民事再生手続や会社更生手続が開始されたときについて言えば,共益債権として保護されるのであれば,実際上,回収できないということを前提に規律を組むと,おそらく異論が強く出てくるのだろうと思います。そういった観点から破産手続開始の決定があった場合に限ってはどうか,というのが今回の案でお示ししたところの理由ではあります。中身については賛否両論あるということは理解しておりますが,ほかにも何か御意見があれば承りたいと思います。 ○岡委員 (3)についてですが,質問を3点申し上げます。まず,債務者に供託させることができるというのは,譲受人が供託せよという意思表示をしたら,それ以降,債務者は破産管財人の方に払ってはいけない。そういう効果まで出るのかという質問でございます。2点目は,供託請求がない場合の破産管財人の権限でございます。この場合,受領権はあるんですよね。それから,取立権については(1)が入ってくれば,管財人にも取立権があるという理解でよろしいでしょうか。   破産管財人については,債務者の権限を承継すると考えれば,取立権も受領権も当然にあると考えられますが,包括執行で差押え債権者に類似する立場にあるということになると,空振りの差押えをしていますので,受領権も取立権も出てこないのではないか。そういう恐れもありますので,この辺については(3)のような規定を置くのであれば,管財人はどういう権限を持つのかというのをはっきり説明していただきたいという点でございます。   それから,3番目は(1)の管財人に取立権があるとされた場合ですが,これについては先ほど中井さんが言ったように,やり過ぎではないかとの意見があります。日弁連の倒産法制等検討委員会で議論したときには,取立権があると書かれちゃうと,その取立する義務まで出てきて,どうせ回収しても持っていかれるのに迷惑だなというような意見も出ました。ですから,取立権があるとまで条文に書き切ったときに,そういう善管注意義務だとかそこまで広がる恐れについてはどんなふうにお考えなんでしょうか。 ○松尾関係官 まず,1点目については供託せよという請求があった後は管財人に対して弁済してはならないということになると思います。請求の後は,供託をしなければ免責されないということになります。   2点目なんですけれども,管財人の権限としては,岡先生がおっしゃったとおりで,結局今回の(1)で取立権限が譲渡人に授与されるのであれば,それは同じように管財人も持つことになるし,取立権限がないということであれば,管財人には受領権限だけが認められということになると思います。いずれにしても,譲渡人の権限をそのまま管財人が承継することになると考えております。   3点目なんですけれども,取立権限があった場合に,取立義務があるのかどうかということは正に管財人の善管注意義務の問題として考えられるべきところで,現段階で結論を申し上げられるわけではないですけれども,少なくとも取立義務が絶対にないとは言えないということだろうと思います。 ○潮見幹事 譲渡制限特約について一言だけ申し上げます。基本的に大阪弁護士会がお出しになっている方向に私は賛成です。多分,これは譲渡人の方に履行請求権を与えるということを中間試案の(4)のエに持っていきたいために,作り出そうとしたものではないかと思います。前にも発言したのですが,冒頭のところで,債務者が債務の履行について遅滞の責任を負う場合において,というこの要件をクリアするためには譲渡人に履行請求権なるものを与えなければ履行遅滞になるものは出てこない。だから,何とかしなければいけないということで,今回,このような工夫がされたのではないかと思います。しかし,先ほど過剰という言葉が中井先生の方からありましたけれども,かえってその工夫が,正に過剰な結果をもたらしているのではないでしょうか。それが基本的に債権譲渡というものは譲渡制限特約があろうがなかろうが有効であるという枠組み自体に対して大きなずれを生じさせてはいないかという懸念があります。   そういう意味では,もしできるのであればこのような譲渡人履行請求権を与えるなどというようなことではなくて,先ほど申し上げました中間試案の(4)のイの冒頭部分の債務者が債務の履行について遅滞の責任を負う場合においてという,この文言表現を何とか工夫して,イの枠組みの中で解決することが望ましいのではないでしょうか。事務局の皆さん方にはちょっと御苦労をおかけするかもしれませんけれども,仮にデッドロック状態を解消しようということであるならば,イのような履行の催告という制度がそのためには好ましいということであるのならば,このようなものを残すという意味で,少し検討していただければいいような感じがいたします。   関連して,ほかのところについても意見を申し上げます。譲渡制限特約の(3)です。11ページに,なお書きの段落があります。このような規定を置いた場合には,債権譲渡と相殺の優劣部分について権利行使要件の具備ということを譲受人による供託の請求と読み替える規定などを設けることを検討する必要があると書かれておりますが,果たしてこのような検討が必要なのか。つまり権利行使要件が具備された時点までの原因ということで,相殺への期待というものが十分に保護されているのではないか。それが一方の(3)の要件を満たしたというたったその一言だけで相殺する,つまり債務者の側の相殺への期待というものがより膨らんで保護されるということについては,私は個人的にはかなり疑問を感じるところがありますので,これも慎重に検討していただければ有り難いなと思います。 ○沖野幹事 繰り返しになってしまうので恐縮ではありますが,債権譲渡の1の(1)と(2)についてです。(1)の履行の請求については中井委員や潮見委員,あるいはほかの委員がおっしゃったように少しやはり広すぎるだろうと思います。時期の点といいますか,もう一つは場面といいますか,すでに明らかになっていることですが,時期の点では,あるいは場面と関連してくるかもしれませんけれども,基本的に譲受人に対して対抗できるという場合に限ってということですので,例えば今回ここに書かれていませんけれども,前回この点も明文化すべきではないかといわれた債務者が承諾をしたときというような場合は,もちろん取立権限はない,履行請求はできないわけですので,そういった場面もございます。承諾については,譲渡自体は有効に行われているので,それを承諾するのはどういうことかという性格の問題はありますけれども,例えばこういう履行請求という書き方をするのであれば,その点も明確にしていった方がいいのではないかと思います。もちろん,すでに遅滞に陥っているような場合の場面もそうなんですけれども。   もう一つは,履行請求と取立権限を有するということが同じなのかという問題もありますけれども,単に履行請求ができるとか,取り立てをすることができるということにしますと,例えばその取立権限を更に第三者に付与することができるのかとか,従業員ではなくてもっと別の主体に付与することができるかとか,もう少し別の問題も出てくるように思われます。飽くまで譲受人のために行使する範囲で履行請求ができるということを明らかにする必要があるのではないかと思います。ここに来るときには,譲受人のために請求することができる取り立てをすることができるとか,あるいは逆に債務者の方が拒めないという形で書けないかということを考えてきたんですけれども,譲受人の委託に基づいてという,この委託がどのくらいのものであれば委託と言えるのかという解釈の余地はありますけれども,大阪弁護士会が出された提案であればその点は解決するのかなと思いました。   次に(2)について,供託の制度を設けるというのは,それは賛成です。1点だけ少し気がかりでありますのは,説明の方の話で,これ自体は少し矛盾したというかアンビバレントなところがあるんですけれども,本当に現行法の下でもおよそ供託というのはできないんだろうかということです。確かに,債権譲渡は有効だということですので,債権の帰属主体は悪意であったとしても譲受人になっているという意味では債権者は譲受人であるので不確知とは言えない。しかし,債務者との関係では債務者はなお自らにとっての債権者は譲渡人であるというような扱いができるということがこの譲渡禁止特約を対抗できるということの根底にあるのではないか,もしそういうことだとしますと,債務者としては結局誰に弁済すべきなのか分からない状態になるというのは同様であって,すなわち譲受人が善意であれば,もう譲受人に対してしか先はないわけですけれども,悪意であれば自らはいずれも主張できるという状況ですので,承諾は強制はされないわけですから,いずれに支払うべきかが分からないという場面は現行法の下での状況と同じで,現行の債権者不確知ではおよそ読めないんだろうかというのがよくは分かりません。   しかし,そうは言っても,その点は明らかではなくかえって疑義があり,明確化を求める必要というか,明確化を図る必要があるということからすると,こういう制度が是非とも必要だとは思うのですが,これが仮に入れられなくても本当に供託ができないのかという点が疑問に思うものですから,およそ現行法の下では無理なんだというよりは,もう少しニュアンスのあるような説明になるのではないかと思いましたが,間違っておりましたら指摘していただければと思います。 ○松尾関係官 潮見先生から御発言を頂いた点について補足して御説明を申し上げたいと思います。まず,1点目で,部会資料74Aの(3)の考え方,の債務の履行について遅滞の責任を負う場合という要件を動かすことでデットロック状態について対応するということが考えられないのかという点についてです。この点については事務当局の方でもそういった考え方があり得るということで,検討はしてみたのですが,この時期を早めるということになりますと他方で債務者側の立場の方々からはやはり抵抗があるのではないかということを懸念しております。つまりまだ履行遅滞の責任も負わない段階で弁済の相手方を固定するという利益が奪われてしまうということについて,どれだけ納得感が得られるのかというところについて心配を持っておりまして,そういった方向で対応するのではなく,譲渡人に取立権限を与えるということで考えるしかないのではないかというのが今回部会資料を作成した背景にはございます。ただその範囲が広すぎるということは確かにあるのかなと思いましたので,もう一度よく考えてみたいと思います。   もう一つ,潮見先生から御発言を頂いた点で,部会資料11ページの説明のなお以下の部分が本当に必要なのかというところでございまして,ここは中間試案の(4)の柱書き後段で書いてあるところと同じものが必要なのではないかという趣旨で記載したものです。つまり従来も仮に債務者の弁済の固定の利益が奪われるような局面を作るのであれば,その時点までに生じていた抗弁の主張の機会や相殺の期待などは保護しなければならないのではないかということがこれまで御意見としては出ていたように思いましたので,それは引続き今回(3)のような規律を仮に設けるとしてもなお必要なのではないかと考えたということです。   沖野先生から最後に御指摘いただいた点で,現行法の下で本当に債権者不確知の供託ができるのかできないのか分からないのではないかというところについては,我々もそれほど自信を持って言えるわけではないのですが,今回の譲渡制限特約の考え方は,譲渡の事実を債務者に対抗することができないという規律になるわけではなくて,譲渡自体はあるけれども,債務者が履行拒絶権を持っているということですので,やはり債権者は債務者との関係でも確定的に譲受人になっているのではないかと思いまして,そう考えるとやはり債権者不確知にならないと考えて,今回の説明では,部会資料のような書き方をしていたということです。説明ぶりについては,もう一度よく検討してみたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○内田委員 一番最初の中原委員の御発言に対して質問させていただきたいのですが,銀行預金との関係で,譲渡制限特約に問題があるという問題意識はよく理解しているつもりです。ただ,譲渡制限特約付の預金債権が譲渡されると基本的には供託できるというルールが今回入ることで,譲渡されても元の預金者が請求してくる限りはそのまま払戻に応じて何の問題もなく,かつ譲受人が直接請求してきたり,あるいは倒産手続が始まりそうだとか,あるいは差押えがかかるという場面では即座に供託すれば免責されるということですので,あえて別勘定とまで言わなくても対応可能なのではないかという印象も受けるのですが,その点はいかがですか。 ○中原委員 今回の御提案では,譲渡制限特約が付されていても確定的に譲受人の方に預金債権は移るとの立て付けですから,銀行としては譲渡人に取立権があるとしても,銀行との関係においても確定的に預金債権が譲受人の方に移っている以上,その管理は必要ではないかと考えています。譲渡人に弁済すればよいのではないかということですが,銀行との関係における債権者は譲受人ですから,銀行とすれば別に管理する必要があると考えています。 ○内田委員 一般論としてはよく分かりました。ただ,これも一般的な言い方になりますが,預金者が誰であるかというのは実は結構難しい問題があり,銀行としては最終的に預金者が誰であるかよりも,誰に弁済すれば免責されるかが一番重要なのではないかという気もしまして,その点についての手当てがなされているということではないかと思います。 ○中原委員 それは重々理解していますが,預金債権が移転していることを知りながら,権利のない従前の預金者に対して弁済を続けていくということで本当に良いのか,その点が銀行界とすればなかなか腑に落ちないというか,頭の中で整理できない。そういうことです。 ○鎌田部会長 ほかに御意見はよろしいでしょうか。   それでは,ここで15分間の休憩をとらせていただくことにします。           (休    憩) ○鎌田部会長 では,再開します。   「第4 約款(定型条項の定義)」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○忍岡関係官 第4の約款では,定型条項の定義につい提案しています。部会資料75Bで提案された当事者の一方が契約の内容を画一的に定めるのは合理的であると認められる取引において用いられるものかどうかという基準は,画一的に契約内容を定めることが当事者の一方にとって利便性が高い場合をも包含するように読め,製品の原材料の供給契約等のような事業者間の取引にも広く適用されるとすれば問題であるという指摘がありました。   そこで今回の部会資料78Bでは定型条項を用いた契約の締結過程には,契約交渉が行われないことが取引通年に照らして合理的であるという特徴があることに着目した定義を提案しております。具体的には取引の客観的な対応を踏まえ,その取引が一般的にどのようなものと捉えられているかといった一般的な認識を考慮して判断することになります。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議を頂きますので,御自由に御発言ください。 ○佐成委員 1点,確認というか質問なんですけれども,この15ページの四角のところに定型条項とはと書いてあって,「約款その他いかなる名称であるかを問わず」という文言が前は入っていましたが,今回この文言が削除されているように見えるんですが,何か理由があるのでしょうか。 ○忍岡関係官 特に意味が変わったわけではなくて,条文化を踏まえた際に文言が長くなってくることのバランスと,前に御提示していた定型条項を初めて出したときにはやはり約款と呼ばれているものを含んでいるということがなかなか皆様の御認識に伝えづらいかなと思いましたので,こういうフレーズが入っていたのですが,今は定型条項という文言が少しは耳慣れてきたのではないかと思いまして,今回外したに過ぎないということです。 ○佐成委員 分かりました。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○佐成委員 経済界というか我々のところは基本的に民法に約款の規制を入れることについては反対である。これは変わらないんですけれども,今回,定義について見直しをされたということで,それについて議論してきましたので,その中身について御紹介をさせていただこうかと思います。   今ちょっと確認したところは,我々の方としては定義に,いろいろなものが入ってしまって,とりわけBtoBの中のかなりの部分が取り込まれてしまって,非常に弊害が大きいのではないかという懸念を表明しておりましたので,それを踏まえて,適用範囲を絞るような趣旨かなと思っていたものですから,もし仮にそうであれば経済界,産業界としてはある意味では非常に評価できるところと思われたわけです。   つまり,先ほど確認した趣旨は「約款その他いかなる名称であるかを問わず」という文言が入ることによってかなり広いイメージが生じるため,これを外したことによってそのイメージが狭まったのかなと,そういうことを考えてちょっとお聞きしたということでございます。   今回も,バックアップ委員会でいろいろ議論したんですけれども,やはり議論が紛糾しまして,予定していた時間もはるかに超えてしまったような格好でなかなか議論が収拾しないような状況であったということがございました。   この定義については,私の見たところでは内部に大きく二つの考え方・御意見がありました。即ち,一つはやはり限定的にしてくれという御意見で,非常にそれは強くて,とりわけBtoBが取り込まれることについては,非常に困るのだと,だから,限りなく限定的にしてくれという,そういう立場からの御意見です。これでもまだ曖昧である,範囲が非常に曖昧であるというような御意見でありました。これでもまだ限定が足りないので,むしろ具体的に限定列挙するような定義にしてもらえないのかと,そういう御主張もありました。  他方,もう一つの御意見の方は,確かに限定的にしていくというのは分かるんだけれども,この定義のままでは,それに伴って従来約款だと思われていたもの,いわゆる約款だとして取り扱ってきたものが,外れたり,外れなかったりという,そういったところで,どれが入るのか不明確な部分というのがあるんですけれども,それだったら今まで約款として扱われていたものが,きちんと入るような定義にしてもらえないかという,まったく対極にある意見もありました。つまり,そちらの意見の方は定義の方はできるだけ広くとった方がいいのではないかという意見であります。従来,約款だとして処理してきたものが,これは約款ではないと外れてしまうと,非常に困るというような御指摘でありました。そちらの方の御意見の方は,どちらかというと個別の規制,個々の不意打ちだとか,そっちの方を絞るような格好の手当てはできないのか。そんなようなことをおっしゃっておられたので,議論が収拾しにくかったところであります。   それから,今回は約款の定義は限定するという方向にしていただいております。これは産業界としては概ね結構なことだと思っているわけなんてすけれども,そうしますと,裁判所でこれが紛争になったときに,具体的には,一連の規定,不意打ち条項だとか,組入要件とか,そういった一連の規定が適用されるかどうかが争いになったときとか,定型条項か否かという紛争が起こったときに,裁判所によってその判断がまちまちとなる可能性があるのではないかと思われます。その場合には,裁判所ごとに組入要件の適用を考えたり,不意打ち条項の適用が判断されるといったことが起こり得て,そういったことによって一つの約款をめぐって,およそ最高裁で判決が確定するまでは実務が安定せず,統一されない恐れがあるのではないか。そういう御指摘がございました。   それから,BtoBについて,この間も申し上げていたんですけれども,適用をできるだけ制限してもらいたいというような立場からの意見として,BtoBに関しては,例えばインターネットの出店契約,事業者間のBtoBの出店契約について,民法の約款規制の対象にならないようにしてもらいたいという意見がありました。しかし,他方,インターネットでの電子商取引,BtoCに関しても,同種の契約が行われていて,これらを定義上明確に区別できるのか。そういうような御指摘もありまして,どういうふうにそこをうまく切り分けていくのかというような意見がございました。   それから,特に新規のビジネスに関して,この「契約の内容が画一的であることが通常である取引」というのは,新規のビジネスが通常である取引と言えるかどうかというのが不明確ではないか,そういう御意見もございました。   今回,定義の中で,範囲を限定するために,「契約の内容が画一的であることが通常である取引において」という要件を掲げ,さらにこれを取引通念に照らして相手方が変更を求めることなく締結することが合理的であるものと限定しています。しかしながら,こういうような限定をつけることによってもなお,その適用範囲がやはり,冒頭申し上げましたとおり曖昧であると思います。また,ここまで定義をいじると,一体何のための議論をしてきたかがよく分からなくなってしまったと,そういった感想を漏らされている方もいました。 ○鎌田部会長 ほかの御意見をお出しいただければと思います。 ○松本委員 単なる文言の問題といえば文言の問題なんですが,約款取引の実際からいくと,今回,補充された部分,相手方がその変更を求めずに契約を締結することが取引通念に照らして合理的であるものという定義が,相手方がその変更を求めても,変更に応じないで契約を締結することが取引通念に照らして合理的であるということという方が実態にあっていると思います。現在のこの表現だと相手方がその内容に納得して変更を求めることがないような契約条項というニュアンスがちょっと入ってくるので,若干不適切かなという気がいたします。 ○鎌田部会長 その点は表現上の工夫が可能であれば工夫していただければと思います。 ○山下委員 先ほど佐成委員がおっしゃったようなことを私も何となく疑問に思ったところです。例えば,損害保険の分野なんかで考えると,企業向けの保険でも普通保険約款というのがあるのだけれども,大口の契約者はそこで個別の交渉をして,場合によっては普通保険約款を修正する特約をしたり,あるいは修正まではしないけれども,この普通保険約款のこの条項はこういう趣旨であるとか,こういう適用の運用をするとか,そういう特約書を交わすような場合があると思うのですけれども,そういうときに今回の定義だと交渉は現にある,あるいはその余地があるということで,そういうのは普通保険約款全体が,ここで言う定型条項ではなくなるという考え方で作られているのでしょうか。   個別に約款の修正をすればただし書きで,そこは適用が外れるというのはいいのですが,個別にそういうことをやっていると,交渉の余地があったりするようなことになると全体がここで言う定型条項でなくなって,この定型条項に関して今提案されているような規律が全然適用されないことになるのか。そういう疑問で,もしそうだとすると,佐成さんがおっしゃったような,今までBtoBでも約款と思っていたのが,約款でなくなるのはまた困るというふうな疑問も出てくる余地があるのかなという気がします。   ここで言う定型条項の外に何かまた約款という概念があってもいいと考えるのか,ここで定型条項に規定を置いたら,それは網羅的であって,それ以外に約款的な現象があってはいけないと考えるか,そこら辺でもまた考え方が違ってくるかと思います。ここで提案されている趣旨から考えられているのはどういうことかを御説明いただければと思います。 ○村松関係官 今の御指摘ですけれども,今回の考え方は例えば損害保険であって,これは正に企業向きの損害保険としてPL保険とかそういうものがある。そういった一群のものが正に切り出せるような場合にはそれについて基本的に交渉するようなものなのかどうなのかを見ていきましょうという考え方になりますので,まず第一段階,そこでのスクリーニングがかかり,それはもう交渉するようなものであるということであれば,そういう意味では定義から落ちていってしまうというような形にはなります。その意味で,従来約款だと呼んでいたものは人それぞれの部分はかなりあると思うんですけれども,意識されていた約款というようなもののうち全てを取り込んでいるかというと,もしかするとそうではないかもしれず,ここはやはり名前も変えてしまっていますけれども,定型条項という名前の下で,一つのセットとして定型条項の変更の規律まで含めてということになりますけれども,ルールを提供しているという位置付けといわざるを得ないのではないかなと思っております。その意味で,この外側に定型条項の類推であるのか,あるいは従前の約款論の援用なのかという点はございますけれども,そういった思考を働かせる余地がなくなることまで意識して改正したというと言い過ぎであろうと思います。これは今の社会現象を捉えて,その適切なルールを提供したい。そのセットとしてはこういう定義の下で,こういうセットとして提供したいというのが今の提案の趣旨になっていると思います。 ○山下委員 ここでの定型条項についての提案はそういう定義に該当するものについての規律であって,これには該当しないけれども,従来約款現象と呼んできたものがあって,それについての理論がいろいろあって,それは解釈論として生きていくだろうと,そういう理解でよろしいですか。 ○村松関係官 そういう部分がおよそなくなるとまではちょっと論証できないのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 これは今回の御提案ではなく,以前から出ている部分なのですが,ただし書きの部分です。当事者が異なる内容の合意をした契約条項を除くということです。これは恐らく,交渉等をしていても,実際に交渉したかどうかの確定が難しいので,異なる内容の合意をしたという場合は明白なので,この場合にのみ定型条項の規律から外すということなのだろうと思います。ただ,現実には,今の山下委員の御発言の中にも少しありましたけれども,実際にこれでよいかどうかという交渉を経て,しかし結論としては,ほかの条項で譲歩したということもあるかもしれませんが,この条項部分はこれでいくと合意する場合は,少なからずあるのではないかと思います。   そういった場合に,変わっていないのだから,やはり定型条項の規律が妥当すると本当に考えるべきかというと,それは違うのではないかと思います。内容は同じであれ,合意が行われているのであれば,通常の合意と異なる特別な規律が当てはまる理由はないように思います。これはいかがでしょうか。 ○山下委員 今の点に関して言えば,交渉のようなものがあって,それでもこの約款のとおりやりましょうねというところは比較的明確に認定できれば問題ないと思います。先ほどの保険の例のように大口の非常に関心のあるお客はここはこう変えろと言い,そこで交渉が始まるけれども,多くの顧客は何も言わないで受け入れる。そういうような状況のときもどう考えるか。その辺りも併せて少しお考えを伺えればと思います。 ○山本(敬)幹事 一言だけ補足ですけれども,先ほどの私の発言は,比較法的に言いますと,例えばドイツ法がそうでして,約款についての詳細な規律を置いているわけですけれども,個別合意があれば,それが優先するという規律がずっと以前から置かれています。その場合の個別合意というのは,必ずしも約款の内容と異なるものでないといけないという限定は加わっていない。それは,先ほど私が申し上げたような考え方によるのだろうと思います。   その意味では,このただし書きは,先ほど申し上げたような実践的な危惧からこうしておかないと危ないということで書かれているものだろうとは思いますけれども,少し行き過ぎているのではないかと思う次第です。 ○中田委員 私もただし書きの趣旨がよく分かりませんでした。75Bでは括弧書きにあったのを外に出しただけなんですけれども,契約条項の総体について変更を求めないことが合理的だということと,異なる内容の合意をした契約条項を除くということとは次元が違うことのような感じがしました。ただし書きの結果,異なる内容の合意をした契約条項があれば,全体として定型条項でなくなるのか,それとも全体としては定型条項なんだけれども,その契約条項には定型条項に関する規律が及ばないというのかを明確にした方がいいと思います。   仮にその条項にだけ及ばないというのであれば,今の山本敬三幹事の御発言もそれと関連するかもしれませんけれども,定義の問題というよりも効力の問題になるのかなというふうな感じがいたしました。 ○忍岡関係官 まず作ったときの趣旨として御説明したいと思うんですけれども,確かに本文部分とただし書き部分というのは,多少次元が違っていまして,まず本文部分は取引の客観的性質で分ける。先ほど山下先生からおっしゃったように,一般的に多くの顧客は細かく言わないというか,交渉しないのが合理的というか,通常だというような場合が取引に当たりまして,ただ偶然に交渉して異なる合意をした場合というのがただし書きに当たるということを想定しています。   確かに,交渉が本当にあったんだけれども,結果的には変えられなかったという場合については,微妙なところがあるんですが,約款に関する規律をいろいろ検討する中で,交渉があったかどうかというところの認定が極めて難しいという御指摘がありました。何かいろいろちょっと言ってみたけれども,結果的にすぐ引いてしまったとか。あるいはよく読んで納得したんだけれども,別に何も言わなかったとか。そういういろいろ微妙なケースで,それが本当に交渉,あるいは合意があったと言えるのか言えないのかというのが非常に実務の方の目から見て区別が分からないということが多く寄せられました。   その結果,定型条項に当たるかどうかというところを合意があったかとか,交渉があったかというところで明文化して,要件にするというのはかなり厳しいなというような感触がありました。特に,交渉していたけれども結果的に同じ合意になったという場合を外してしまうと,一番困ってしまうのは,変更などです。ある人は交渉していて同じ内容になっている。ある人は交渉しないで同じ内容になっている。この人の関係では変更できないけれども,一方の人とは変更できるということになってきますと,定型条項を使って画一的にその顧客を扱うという趣旨からすると大分困ったことになるということが起きてくるのではないかという御指摘がありまして,いろいろ考えました結果,今のような案になっているということでございます。 ○松本委員 私もこの定義が何のためのものかという点はかなり重要かと思います。交渉しなかった部分,あるいは変更しなかった部分について,不当条項規制がかかるとか,あるいは不意打ち条項規制がかかるということは分かりやすいんですが,その後の約款の変更の効力についてまでこれでつなぐと,いろいろ弊害が出てくる可能性があるかなと。つまり先ほどどなたかがおっしゃったある条項は原文のままでいいけれども,別の条項はこう変更することによって全体としてバランスをとってこれでいいと考えている場合に,最初の合意で内容を変えていない部分は約款であって,したがって後に一方的に変更できるんだというのは当初の当事者の意思から見ると違う場合もあり得るのではないかという感じがしました。   他方で,今,関係官がおっしゃったような,ある条項について話はしたけれども変えなかった場合について,条項準備者が後に一方的に変更できるのかできないのかというようなところでもやはり問題が出てきます。後の変更の問題を切り離すのであれば,この定義でそんなにおかしくないと思うんですが,変更まで込みにするとなると,もうちょっと慎重にやる必要があって,一切当初の条項の変更を許さないもののみが約款なんだと定義をすれば,変更までセットで効果を認めるということが理解しやすいのではないかと思います。一部はいじれるけれども,いじれなかった部分があっても,やっぱり約款だというのは,なかなか最後まの説明が難しくなるかなと思います。 ○忍岡関係官 変更との関係での御指摘でお伝えしたいのは,変更のところとの関係で,せっかく合意した,そのところについて話し合いをして決めたのに変えられてしまったら困るじゃないかというところについては,変更しないという合意というところがあれば,今度はそこの効力によって変更ができなくなる,一括の変更ができなくなる,と考えることはできないでしょうか。 ○鎌田部会長 変更の合理性というのも……。 ○山本(敬)幹事 今の松本委員の御意見の背景にもあるのですけれども,定義が何のためのものかということがやはり前提問題なのだろうと思います。かなり以前に,第2ステージぐらいのころだろうと思いますけれども,定義について議論が紛糾した際に,やはりどの効果と結び付けられた要件なのかということをはっきり理解する必要があるということが指摘された記憶があります。特に,当時は不当条項規制が念頭に置かれていて,そのような規制がかかってくるための要件としての定義というニュアンスが強かったように思います。そして,今出ているような変更という,約款に関わるけれども,約款そのものとは少し違う問題に関する規律の適用要件としてどのようなものを設定するかという問題は,少し性格が違っています。それだけに,定義の部分は可能な限り広く拾っておいて,問題のある規律についてはそれを限定するというような方向が適当ではないかという話もされていたように思います。そういったことをもう一度忘れずに思い起こす必要があるのではないかという気がした次第です。 ○高須幹事 もう時期的には終盤の段階に来ている中での議論だと思うのですが,5年間ここで議論をしてきております。5年間の間にいろいろと私どもも勉強させていただいております。元々は法律を使う立場でありましたので,法律を解釈,運用するということについて非常に腐心していたつもりなのですが,5年間,ここに出席させていただいている間に法律を作ることについても頑張ろうという気持ちになりました。そういうことが恐らく私一人ではなくて皆さんそうなんだろうと思います。今日の段階でもやはり定型条項の定義を作ろうということで,できるだけいいものを作ろうということで議論を詰めている,この間詰めてきたし,今もまだその努力をしているということだと思うのですが,どこかでは作った法律を使うという場面が来る。これはもう目に見えているというか,そのために作っているわけですから,当然なことなのですが,その段階になれば,解釈によって法律の運用が実践されていく。そのための法律を今,われわれは作っている,解釈に委ねられる部分もあるということを我々もそこはもう少しは信用してもいいのではないかと思います。   今日出た質問に対しても,例えばこの条項をこういう形で置いたときに,解釈論でまったくそれが解釈できないということではないと思います。山下先生から御指摘いただいた保険会社のケースなども実際にあると思いますが,それもやはり例えば通常どこまで一般的に変更を行うのか,それともよほど大口のときだけなんですよということなのかとか。そういったような切り口からも一定の解決が図れるような気もいたします。   それから,異なる内容の合意の部分も,この言葉でいいかどうかは確かにもう少しお考えいただいてもいいのかと思いますが,いずれにしてもその表現をどう理解して,解釈していくかということの問題になるのではないかと思います。   それから,先ほどの変更のところは既に御意見が出たように,変更の要件をどう考えるかである程度の要件が用意されるわけですから,それを前提に解釈,運用していくということがあっていいと思います。もっといいものを作っていこうということ自体についてはもちろん私も大事だと思っているのですが,いよいよこの辺りで作らねばならない時期に来ているのではないかと考えたときに,今回,ここまで定型条項,定義を詰めていただいた,微調整はあるにしても,大きな方向性としては,一つの今後の法律解釈の指針にはなるのではないかと思います。   佐成さんのお話を聞いても,経済界の方々もやはり皆さんいろいろと意見をお持ちで,その理解を巡っていろいろとお考えがあるということですから,そういう意味では,あまり固定的になってしまうというのではない要件であれば,今後いろいろな立場の人がいろいろな知恵を出し合う中で,一定の定型条項法理というものが定着していけばいいのではないかと思います。そういう意味では,今回作っていただいたものをベースにして,案を作っていただくということがそろそろ検討されてもいいのではないかと思います。 ○佐成委員 私の先ほどの発言は飽くまで立法すること自体に反対であるという立場からのもので,それを前提にしているということであります。それがまず一つであります。ですから,そもそも立法を強要しているわけではなくて,仮に立法された場合にどんな弊害が生じるかというのを今中でいろいろ議論をしているということであり,できたら作ってほしくないというのが中での議論の論調です。   特に,今回の定義については,相手方が変更を求めるかどうかという,ちょっと実質的な判断基準が入ってきているわけですけれども,これはBtoBでも,16ページに「例えば」と書かれていて,「ある企業が製品の原料取引契約を多数の取引先企業との間で締結する場合」という例が上がっていまして,BtoBではよくあるケースとなっているわけですけれども,通常変更を求めずに契約することも多いと思います。   ただ,その中で変更を求めるか求めないかという話はどちらかと言うと,これはBtoCにも通じることなのかもしれないんですけれども,我々の感覚からすると,本当は交渉したいんだけれどもできないということであります。それが現実なのです,つまり,こちら側に十分な交渉力がないから交渉しない,できないというのが実態であり,現実だということで,ある論者の方もまさにそうおっしゃっていました。   そういう実態が非常に多い中で,このような定義を入れてしまうということは,どちらかというとバーゲニングパワーが強い方に軍配をあげるような定義になっているのではないか。そういう指摘もされているところであります。定義のあり方についても十分慎重に御議論いただきたいと思います。   私は個人的には,定義はできるだけ広くとった方がいいのではないかという意見です。つまり,私自身は,あまり限定的にするとよく分からなくなってしまうので,できたら広い方がいいとは個人的には思うんです。個人的な感覚からすると,非常にドイツ的な,世に約款と言われるものが全部入るような,そういった形の約款の定義の方が,本来約款規制ということの考え方からすればはるかに望ましいのではないかというのは個人的な意見としてはもっています。ただ,産業界では,限定する意見と広げる意見,私のように極端に広げる意見ではないんですけれども,広げた方がいいんじゃないかという意見とがかなり拮抗して議論されているという状況でございます。 ○山本(敬)幹事 先ほど申し上げたことと,今の佐成委員の御発言と少しつなげてもう一度言い直しますと,今回の定義の趣旨が,先ほど松本委員がおっしゃられたように,本来は変更を求めても応じないのが通常である取引であるとしますと,これはどのような規制を念頭に置いているかというと,不当条項規制を念頭に置き,それにつながる前提としての定義という意味合いが出てくるようにと思います。必然ではないのですけれども,それに近づいてくると思います。その意味では,このような定義をして,しかし約款についての不当条項規制を置かないとなりますと,何のための定義かということが疑問になるという可能性があります。抱き合わせで不当条項規制がきちんとした形で行われるのであれば,問題はないだろうと思いますが,仮に必ずしも「理想的な」不当条項規制でないものになる可能性があるとしますと,約款の定義をもう少し広く,中立的なものにしておくということもあり得ると思います。   私自身は,先ほど申し上げましたように,定義のところでは,やはり中立的で一般的な定義を置くのが望ましいと思います。といいますのは,かなり以前に申し上げましたように,組入れに当たる規制といいますけれども,これは規制でも何でもなく,契約内容になってもらわないと困るので,そのために必要な要件を定めるというものであって,これは規制ではなく,不可欠な制度だと思います。その適用の前提としては,包括的に契約内容に組み入れられるのが通常であるようなものを広くとらえられるようにしておく方が,顧客の側だけではなく,事業者側にとっても必要なことではないかと思います。その意味では,元の案の方がよいと思いながら,しかしこれでコンセンサスが得られるのであれば,それでも仕方がないかもしれないと感じている次第です。 ○内田委員 先ほど高須幹事から重要な御発言を頂きました。第三ステージの最終段階でかつ資料はBタイプということですので,具体的な代案なしに,疑問があるとか問題があるとかという御意見だけであれば,約款についての審議はこれで終わりという,そういう段階の提案です。そういうものとして御議論いただきたいと思うのですが,山本敬三幹事から効果との関係で定義を考える必要があるという御指摘がありました。それはまったくそのとおりで,そういうものとして今回の案は出されているのだと思います。定義については過去においてかなり広くとって,約款の組入れが安定的に行われるようなルールを提供する。そういう方向の案が出たことがあるのですが,これについてはコンセンサスの形成ができなかったわけです。   広くするとどうしても警戒感が強くなってコンセンサスの形成ができない。そこで,実際に提案されている約款の規律の内容は何かと見てみると,基本的には組入れと内容の合理性の確保と変更ですが,内容の合理性の確保に関しては,現にあるルールを明確に分かるようにする,透明性を高めるということであって,付加的な規制は一切かけないという内容に今はなっていると思います。もちろん文言の書き方によっては広がってしまう余地はありますけれども,基本的な発想としては,今裁判で争われれば無効になるようなもの,あるいは契約内容になっていないと評価されるようなものについて,きちんとそういうルールが存在することが分かるようにするということですので,内容の合理性確保のルールが新たにできたからそれに対応するために何か定義を考えるという必要はないと思います。仮に定義が狭くても,そこに置かれている規律は今あるルールの明文化ですので,この定義に当てはまらないような,先ほど出たこの定型条項の外にある約款についても当然指針にはなるものなのだろうと思います。   そうすると,新たな規律としては組入れと変更ということになりますが,組入れの要件はかなり緩くなっています。緩くした理由は,典型的には公共交通機関とか,公共サービスといった,約款によることが不可欠な場面において,間違いなく組み入れられるということを確保してほしいという声が強くあり,それに対応するためにかなり緩くなっている。かつ変更についても,限定的ですけれども,ルールを置くということですので,そうなるとこれらの規律が適用されるものはそんなに広げるわけにはいかないわけで,そこで定義は相当絞って,典型的な付合契約と呼ばれているもののコアの部分を捕捉できるような定義を試みているということだと思います。   これはいろいろな試みをしている中で一つの試案を出してみたというのではなく,ほかの定義についてコンセンサスができなかったから,これが最終的に残っている選択肢だということですので,これを更に拡大して新たに提案し直すという余地は今の段階ではもう極めて見込みが薄いのだろうと思います。   その上で,この定義によって何を排除しているかなのですが,これは経済界の懸念に最大限対応しようとした定義でありますので,佐成委員にもできれば御理解を頂ければと思いますけれども,佐成委員から内部の議論として,バーゲニングパワーの結果,たまたま多数の相手方との契約が同じ契約内容になっている場面がどう扱われるのか不安があるという御指摘もありました。この定義では内容の変更を求める交渉をしないのが合理的であるような場面に絞って取り出そうとしていますので,バーゲニングパワーの結果,たまたま一方が大企業であるために,事実上同じ内容になっているというBtoBの契約はここからは除かれるのだろうと思います。こうして,BtoBの契約について,たまたま同じ内容で多数の相手方企業と契約が締結されていても,当然には定型条項にならない,という形で除外しながら,対象を相当に絞った定義をしているということだろうと思います。   文言はまだまだ検討の余地はあると思いますけれども,こういう方向で果たしてコンセンサスの形成ができるかどうか御議論いただければと思います。 ○岡田委員 前にもお話ししたと思いますけれども,消費者契約法の大きな柱が約款規定です。ですが,なかなかあの規定が裁判の場では機能しないと認識しています。それは民法の中に根拠となる規定がないからだと私どもは思っています。民法の中に消費者契約法に沿ったような規定を入れろとは言いませんが,少なくとも約款の基本的な定めは入れていただきたい。その上で,消費者契約法の約款規定をより充実させてもらいたいと思っています。この規定では満足ではないです。加えてかつ今,内田先生がおっしゃったように,経済界のことを随分配慮したということになると,これは一般消費者から見ると大変不満としか言えませんが,この場にいる私としては,もうそれもやむを得ないだろうと思っていますので,文言の詳しいことはちょっと分かりませんけれども,是非ともこの規定であれば,私どもも受け入れられるなと思いますので,進めていただきたいと思います。   それから,もう一つ佐成委員にお伺いしたいのですが,いまや取引も国際的になり,特に経済界はほとんどそうだろうと思います。その場合に外国には約款規定があって,日本にないといったときに,日本の企業はどうなさっているのでしょうか。結局は外国の規定に沿うような形にならざるを得ないと思いますが,そのことについてどうお考えなのでしょうか。それでもなお日本の消費者ないしは一般の人には自らが勝手に作成したルールを強いる現状が当然と思っていらっしゃるのでしょうか。その辺を是非とも考えていただきたいと思います。 ○大村幹事 個人的な意見としては山本敬三さんに賛成ですが,当面の立法の問題としては,この定型条項の定義からどうなのかという点につき,山下委員の御発言があり,それについて村松関係官は否定されなかった。内田委員はより積極的な発言をされたということで,そういうことであれば,これでよろしいのではないかと思います。 ○松本委員 どこまで立法で欲張るかという話だという気がいたします。一番押さえたい約款現象をきちんと押さえるということであれば,この定義のただし書の部分を削除して,そして本文の部分についてそもそも交渉の余地があるかのような文言も削除してしまって,交渉の余地がない一方によって準備された契約条項の総体であって,それで一般的に契約が締結されるのが合理的なものとかいうような約款の典型現象に限定してしまえば,あとはあまり難しい議論はしなくていいと思います。それであれば差止めまで一貫した定義でやっていけると思いますが,こういうただし書があると,一部変更があった場合についてはある人にとってはそこも含めて約款だけれども,ほかの人にとっては約款でないんだというような大変分かりにくい状況になってくると思います。   例えば価格の部分というのは,交渉によっていかようにでも変動できる場合が結構あると思います。しかし価格以外の部分はこれじゃないと駄目ですという場合,価格を外して,それ以外が約款だと。しかし,電力料金ののような公共料金,あるいはインターネット上の様々なサービスの場合は価格について交渉の余地がなく,正に価格という中心条項そのものを事後的に約款の変更で変えてしまいたいと,そこまでやるんだぞというのが今回の原案なわけですから,そうするとそういう場合は価格も含めて約款なんだという話でいいかと思います。   ですから,交渉の余地があると最初から想定されているものは約款から外してしまう。そのようなもので不当な部分についてどう考えるのか,考え方はいろいろあると思うんですけれども,取りあえず定義規定からは外すというのが,大変分かりやすいかと思います。 ○鎌田部会長 御提案の趣旨を踏まえて,更に検討は継続させていただいて,場合によっては付随的な要件はそれぞれの個別の効果に関わる条文の方に移すということもあるかもしれませんので,その辺更に検討させていただきます。   ほかにはよろしいでしょうか。   特にないようでしたら,本日お出しいただいた御意見を踏まえて,この定型条項については更に検討を継続させていただくということにさせていただきます。   特にないようでしたら本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の会議ですが,前回会議で御案内いたしましたように次週6月3日火曜日は会議を開きません。次回は6月10日火曜日,午後1時から午後6時まで。場所は本日と同じ法務省20階の第一会議室になります。次回の議題は,これも前回会議で御案内いたしましたように7月末を目標とする要綱仮案の取りまとめに向けて最終段階の議論に入っていきたいと考えております。   この日の会議に向けては,要綱仮案の原案的なものを,3分割のその一として事前にお届けして議論していただくことを考えております。その準備の都合上,3分割と申しましてもその1が分量的に3分の1に達するかどうかまだ分かりませんけれども,一定のまとまった分量のものをお示しして御議論いただきたいと考えております。また,どのような順番でどのような項目を取り上げるかについても,なお検討中であり,一部の論点については,いわゆるBタイプの部会資料で御議論をお願いする可能性があります。   それに加えて,次回6月10日につきましては,前回会議で御決定いただきましたように,日本損害保険協会の方にお越しいただきましてヒアリングを実施する予定でございます。こういった内容で次回の会議を開かせていただこうと考えております。よろしくお願いいたします。 ○山本(敬)幹事 今後の進め方についての所感に過ぎないのですけれども,予備日を使うことが,本来あってはならないけれども,しかしほぼ確実に予想されるというときに,従来のように,部会資料としては3分割で3分の1を,3分の1ではないかもしれませんが,3分1をまず送る。しかし,それを2回にわたって検討するというような方法を守り続けるのが本当によいことかどうかといいますと,作成される側の負担もそうですし,検討する我々の側の負担を考えても,その方がよいのか,それともそこはもう少し融通をきかせて考える方がよいのかという点は少し御検討いただいてもよいことではないかと思いますが,これはいかがでしょうか。 ○筒井幹事 正規の会議と予備日を区別する方式をとっている理由は,この部会の議論に参加するメンバーをサポートするバックアップ会議などをお持ちの方にとって,その会議の開催頻度に関わるからでございます。従前から,部会資料を事前に送付するのは正規の会議に限るという約束事の下で,それに相応するバックアップ会議の開催予定を立てていただこうという趣旨で,正規の会議と予備日を使い分けてまいりました。今後は3分割ではなく6分割にして毎週の会議ごとに順次提示するという方法ももちろんあり得るわけですが,これまでの約束事との関係でそれは必ずしも適当ではないので,3分割でまとめてお届けし,それに対応するバックアップ会議を開いていただいた上で,実際の会議の進行については2回に分かれることがあり得るということを想定しておりました。   ただいまの山本敬三幹事の御指摘は,仮に部会資料はそのような形でご提示するとしても,各回の会議でどこまで審議するのかという目処を示すという方向も示唆されていたのでしょうか。そういったことであれば,見通しを申し上げることが可能かどうか検討いたしますけれども,それもかなり不確かなことになりそうですので,その辺りは適宜御判断いただきながら,議論に御参加いただければと現時点では考えております。 ○山本(敬)幹事 バックアップ会議の頻度を減らすという御趣旨はよく分かりました。ただ,これまでと違って,最終段階になりますと,1回あたりの資料が,量は少ないかもしれませんけれども,扱う範囲は従来に比べると相当広がるだろうと思います。それを従来どおり検討するのが合理的なのかと感じたという次第です。 ○中井委員 今のことに関連して,予備日という呼称はやめて,これはすると決める,そうでないと1回目に中途半端な議論で終わってしまうという印象が少なからずありました。バックアップ会議の開催頻度を少なくしていただくという御配慮はありがたく,日弁連の執行部予算を担当している部局が聞けば喜ぶと思います。しかし,審議は最初から2回に分けて行う。1回目はここまで。2回目はここから後と,一つの資料を2分割にしていただけないでしょうか。火曜日ころに届いてから翌週の火曜日の準備をするというのは,弁護士会内部としても大変な負担になっております。そこは準備期間がもうあと1週間伸びるということが最初から分かっていれば,もっと慎重な意見形成ができると思います。また,日弁連もこの段階になれば,やはり全国の単位会に資料を送って,可能限り意見を吸い上げたいと思いますので,予備日とは言わずに,もう2回開催するというのはいかがでしょうか。基本的には敬三先生の考えと一緒だと私は思っています。 ○鎌田部会長 恐らく日本中からバックアップのために参加する方は弁護士会が一番多いので,そこに対する配慮が大きいと思うんですけれども,準備側も2週かかることを前提にしながら2回分の資料をいっぺんに作るのは大変といえば大変なので,事務当局で御検討いただいて,最も合理的で部会資料の中身が充実できる方法を模索してください。 ○筒井幹事 ありがとうございます。部会長の御指示のとおりに進めようと思いますが,具体的には最初の6月10日の分の資料を作成しながら考えさせていただいてよろしいでしょうか。6月10日の次の6月17日にも必ず会議を開催することを見込んで最初の資料をお届けするのか,最初にご提示する資料の分量にもよると思いますので,そこは走りながら考えさせていただければと思います。 ○中井委員 仮に今のようなことがあるなら,分量が非常に少なく,これは普通に考えても1回で審議できるというのが第1回目に出るとしたら,10日の開催はやめて17日に開催してもらいたいというのが本心です。 ○筒井幹事 それはどういう御趣旨でしょうか。 ○中井委員 それは十分に検討する機会を確保したいという,それだけの趣旨でございます。 ○筒井幹事 御趣旨は理解いたしました。ただ,6月10日につきましてはいずれにしても損害保険協会のヒアリングの予定も既に組んでおりますので,是非開催させていただきたいと思いますし,どのような進め方が最も適切であるのか考えながら,次の準備を進めさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 いろいろと御負担をおかけしますけれども,工夫をしながら最善の方法をとれるようにしていきたいと思います。よろしく御協力のほどをお願いいたします。   それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御議論を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-