法制審議会国際裁判管轄法制 (人事訴訟事件及び家事事件関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成26年7月25日(金)  自 午後1時31分                        至 午後6時12分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  (1)前回の議論について         (2)特別養子縁組の離縁を目的とする審判事件等の国際裁判管轄         (3)子の監護及び親権関係事件の国際裁判管轄         (4)扶養関係事件の国際裁判管轄         (5)相続関係事件の国際裁判管轄 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○高田部会長 では,予定された時刻が参りましたので,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会の第4回会議を開催いたしたいと存じます。   本日も御多忙の中,御出席頂きまして,誠にありがとうございます。   (臨時委員,幹事及び関係官の異動紹介及び自己紹介につき省略)   なお,岡委員,岡田幹事,西谷幹事は本日御欠席でございます。   次に,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきます。事務局からお願いいたします。 ○内野幹事 部会資料といたしまして,資料番号4-1から4-3がございます。 ○高田部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。本日の議題は,部会資料3-1で前回積み残しました養親子関係事件のうち,特別縁組の離縁を目的とする審判事件以下となりますが,前回,御議論頂いた直前の部分とも関連いたしますので,その部分の簡単なまとめと併せて,事務局から部会資料の説明をしていただきます。お願いいたします。 ○河野関係官 まず,前回の部会の終盤での御議論の状況を述べさせていただこうと思いますが,概ねの整理として御理解頂きたいと思います。   前回の部会では,部会資料3-1の第2の1及び2を事務局から説明させていただきましたところ,後ほど述べます,同3の「特別養子縁組の離縁を目的とする審判事件」についての議論を実質的に含む形で御議論が及ぶこととなりました。   まず,養子縁組の成立を目的とする審判事件については,同部会資料第2の1本文としてお示ししたものについて,明確な御異論は示されていなかったと思われます。   次に,同部会資料第2の2の「養親子についての身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え」については,当該単位事件類型とは別に,同部会資料第2の3の「特別養子縁組の離縁を目的とする審判事件」についてのみ,独立の単位事件類型を設けて規律を定めるべきか,という点に関し,そのようなことをしないで,特別養子縁組の離縁を目的とする審判事件を含め,「養親子についての身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え」の規律と併せてまとめてよいのではないかとの御意見がある一方,同部会資料第2の2の「養親子についての身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え」との単位事件類型には,離縁の訴えが含まれておりますところ,むしろ離縁の訴えを含まれないものとした上で,これとともに同部会資料第2の3の「特別養子縁組の離縁を目的とする審判事件」とを併せて別個の単位事件類型とし,同様の規律に服させるべきではないかとの御意見もありました。   また,管轄原因に関する規律に係る基本的な方向性としての御意見も頂きました。   ここでは同部会資料第2の2の「養親子についての身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え」の管轄原因については,同部会資料第1の「実親子についての身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え」と同様に考えるべきかどうかという点に関し,①基本的には,「実親子についての身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え」の規律と平仄を合わせるべきであるが,例えば協議離縁の無効及び取消しについては,協議離婚の無効及び取消しに問題状況が近いのではないかとの御意見,②少なくとも離縁の訴えの管轄原因については,離婚に関する訴えとパラレルに考えるべきではないかとの御意見を頂いたと考えております。   さらに,外国法制をも念頭に,準拠法上,養子縁組制度については,その成立の場面において契約型か決定型かという問題と,効果の場面において実親子関係に関して断絶型か,そうでないものかという問題があるとした上で,国際裁判管轄の在り方を検討するに当たっては,このことをどのように考えるかという御指摘も頂きました。当該御指摘は同部会資料第2の3において,特別養子縁組の離縁を目的とする審判事件を独立の単位事件類型として国際裁判管轄に係る規律を提案しているわけですが,そのような単位事件類型の設け方について,いわゆる養子縁組として想定される準拠法をどの程度考慮に入れるべきかに関わる御指摘と理解しております。   以上が前回の部会での議論の概観でありますが,これから述べます同部会資料第2の3,4の内容を含め,同部会資料第2の2以下をたたき台としまして,①部会資料として単位事件類型のくくりをどのようにすべきか,②それに対応して管轄原因をどのようにすべきか,併せて御議論頂ければと考えております。   では続けて部会資料第2の3,4について,説明申し上げます。   特別養子縁組の離縁を目的とする審判事件については,先ほど紹介しましたとおり,部会資料に記載したような観点から,単位事件類型としてこれのみを取り出すべきかが問題となっております。なお,当該事件については,申立人の住所地に管轄を認めるべきか,特に養子の実父母についての住所地に管轄権を認めるべきだとの見解もあるものと承知しておりますが,併せて御議論頂ければと考えております。   死後離縁を目的とする審判事件につきましては,死亡時の住所地に限らず,証拠の所在等我が国との関連性を考慮し,本文のとおり,当該身分関係の当事者である申立人の住所が日本国内にあるとき又は縁組の当事者の一方が死亡したときに日本国内に住所を有していたときは,管轄権を有するものとする規律を提示しておりますので,その適否について御議論頂ければと考えております。以上でございます。 ○高田部会長 では,部会資料で申しますと,10ページ以下,第2の3及び4を中心に,御意見頂きたいと存じます。 ○和波幹事 先ほど事務局の方から御説明がありましたとおり,部会資料における単位事件類型の分け方は現行法が離縁の訴えと特別養子縁組の離縁とを区別して規定しているということに基づいて整理をされたと理解しております。しかし,外国法制を考えた場合に,日本のように特別養子縁組だけをその他の養子縁組とは別の類型として取り出しているものがどの程度あるのかということとも関連してくると思うんですが,こういう形で切り分けをした場合,本当に裁判所に事件が来たとき,どの類型に入るのか悩むようなことがないのだろうかというところは疑問に思っております。   それから,実質面で考えましても,特別養子縁組の離縁についても,やはり実質的には養親とその離縁を求める申立人との間には,利害対立があり得るものと考えますと,これは離縁の訴え等と同じように,二当事者対立構造に近い面があるのではないか。そのように考えた場合には,特別養子縁組の離縁については,こういった単位事件類型の取り出し方をせずに,むしろ,2,すなわち「養親子についての身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え」と同じような規律とし,必要に応じて特則を考えるという考え方もあるのではないかと思っております。 ○高田部会長 前回の御議論でも,養子縁組について,いわゆる断絶型と非断絶型の間の線引きをするのは難しいのではないかという御意見を頂いたところですが,和波幹事から特則という言葉がございましたように,適切な単位事件類型を設けた上でそれぞれに異なる規律をした方が良いという御意見があれば,養子縁組のどのような点に着目して,そのような異なる規律とするのかという点も含めて,御意見賜ればと思います。   特にないようでしたら,3の方はそういうことでよろしゅうございますか。   では,続きまして,4の死後離縁の方につきましては,いかがでございましょうか。 ○和波幹事 死後離縁についても先ほど申し上げたことと同じような議論が当てはまると思っております。やはり離縁を目的とするという意味では,2,すなわち「養親子についての身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え」と同じ規律を原則としつつ,死後離縁であることに着目した特則をどういうふうに置くかという考え方も十分あり得るように思っておりまして,単位事件類型として分けるかどうかというのは議論の余地があると思っております。 ○高田部会長 御意見頂ければと存じますが,死後離縁に関しては,養子縁組の当事者の死亡時の住所という管轄原因を考慮すべきだということを別にすれば,離縁,さかのぼれば離婚と同じように考えるということが,この場での大方の御意見,御感触といったところでよろしいでしょうか。   では,部会資料3-1,取り分け養親子関係につきまして,なお御発言があれば承りたいと思います。よろしゅうございますか。   では,続きまして,部会資料3-2,子の監護及び親権関係事件の国際裁判管轄について,御議論頂きたいと考えております。まず,部会資料の説明をお願いいたします。 ○河野関係官 部会資料3-2第1「子の監護又は親権に関する審判事件」の国際裁判管轄のうち,本文「1」の管轄原因としての子の住所地及び「2」の子の住所地の認定について説明申し上げます。単位事件類型につきましては,外国法において「子の監護又は親権に関する審判事件」に相当すると解される類型を含む趣旨でございます。   まず,本文は子の住所地を管轄原因として提示するものです。裁判所が子の利益を保護するため後見的な立場から迅速な審理をする必要があることから,子の住所地を管轄原因として挙げております。   続きまして,「2」子の住所地の認定に関して,国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(同条約実施法)の適用がある事案,特に我が国から同条約締約国である外国へ連れ去りがあった場合に,同条約実施法第2条第5項の常居所地国である我が国に当該子の監護又は親権に関する審判事件の国際裁判管轄があることを原則とする規律を置くことも,一応は考えられるところではあります。   このような考え方に対しては,外国へ連れ去りがあったような場合に,外国が当該子の返還決定をするか否かということが明らかではないなど部会資料に記載しましたような問題点を指摘することができるほか,部会資料で引用しました裁判例のように,申し上げたような事案につきましては,個別具体的な事情に応じて,子の住所地が認定されるものとして,事実認定の問題に属するとも考えられるところです。   この点につきまして,御議論頂きたいと思います。   また,同条約の締約国である外国から,我が国に子どもの連れ込みがあったような事案につきましても,同様の問題があると考えております。   よろしく御審議のほど,お願いいたします。 ○高田部会長 では,部会資料3-2の第1の1及び2ということになろうかと思います。どなたからでもよろしくお願いいたします。 ○村上幹事 この単位事件類型については,特に甲案,乙案というような対立案がないというのは,恐らく,子の住所地に管轄原因を認めること自体については,争いがないということからだと思うんですけれども,ただ,住所地の認定の際に,どういった方向性で考えていくかということは,一応,確認しておいた方がいいかなと考えています。すなわち,大きく二つ考え方があると思うんですけれども,一つは子の利益が監護者のいない不安定な状態を速やかに解消するということにあるとすれば,現在,子が日本にいて,何らかの措置を必要としているという限りで,できるだけ広く管轄を認めるという考え方があると思います。これに対しては,我が国の管轄権をあまり広く認めすぎると,結局,矛盾した判断が生じることになって,法律関係の国際的な不統一の状態を生じさせるのはよくないという観点があり得ます。この観点からすると,ある程度絞って住所地の認定を厳しくするという考え方もあると思うんですが,どちらの方向性で考えていったらいいのかというところについて,御意見をお聞かせいただければと思います。   また,ハーグ条約との関係で,常居所地の認定とその住所地の認定をどこまで連動させるかという観点があると思います。ハーグ条約の方は本案である子の監護について判断せずに,子を返還するかどうかということであって,国際裁判管轄の方は,我が国で本案である子の監護について判断するべきかどうかということなので,その基準が違うという考え方もあると思うんですけれども,どこで子の監護について判断するべきかという点については共通していると思うので,ある程度統一的に考えた方がいいのではないかとも考えているんですけれども,その点について,基本的な議論の方向性を教えていただければと思います。 ○高田部会長 今の御発言は,我々としては共通認識を得た方がいいという御意見と賜ればよろしいのですか。 ○村上幹事 そうですね。 ○高田部会長 事務局,その点,今の時点で何かありますか。 ○河野関係官 現時点におきましては,個別的な事案に応じた事実認定に属する問題という考え方もあり得るところではないかと考えておりまして,一概にどちらが広い又は狭いということはできないのではないかとは思っております。   条約との関係で申しますと,条約はやはり条約締約国との間で効力がございます。今回,検討しておりますこの法制に関しましては,必ずしも条約締約国との間でだけ問題となるものでもない一般的な規律です。ハーグ条約に係る規律を念頭に置くとすれば,締約国との間での関係と,そうではない全方位的な関係での事案と,二つあり得ることを踏まえて,御意見を頂戴できればと思います。 ○高田部会長 住所の認定の在り方につきまして,何か御意見があれば承りたいと存じます。事務局としては,現段階では,事実認定の問題,言い換えれば,実務に委ねるものとすることを考えているということかと思います。   あるいは村上幹事の御意見は,実務に対して一定の考え方を本部会として示唆するということもあり得てよいのではないかという御趣旨ともとれます。その辺りも含めて御意見があればお願いします。 ○山本(和)委員 ここだけではなくて,一般的なこととも関係するんですが,この住所ということなんですけれども,住所がない場合はどうかという質問です。住所がない場合,居所を含むのか。「子の監護又は親権に関する審判事件」の場合は最後の住所を管轄原因とするか否かを問題としなければならないということは余り考えにくいようには思いますけれども,事務局のお考えをお示しいただければと思います。 ○内野幹事 今の段階で事務局からこの事件類型について,住所以外の適切な管轄原因はこれであるという提案は,未だ持ち合わせていないという状況でございまして,ここで御議論頂きたいというのが率直なところです。 ○山本(和)委員 要するに,何か親に連れられて世界中飛び回っていて,住所と呼べるようなものがないけれども,居所はあるという場合は,やはりこの場合は居所を管轄原因にしていいのではないかという気が,私はしています。 ○山本(克)委員 今の居所だとすると,ハーグ条約の実施法における常居所概念との矛盾が出てこないか,つまり単に連れ去られてきて日本にいるということが居所だということになり,そして居所に管轄があるということだと,ハーグ条約に批准したこととの矛盾が出てきはしないのか。つまり,連れ去りの場合について,何らか一定の手当をしておかないと居所ということで管轄原因を認めるのは難しいような気もするんですが,違いますでしょうか。 ○山本(和)委員 私自身はその場合には元々住んでいたところが常居所であり,日本法的に言えば住所であるということを前提にして,住所があれば居所の管轄はないのが前提ですので,それは日本には管轄は認められないという認識を前提としていました。 ○早川委員 部会資料3-2の2ページの(2)のところで御説明頂いた点,つまりハーグ条約との関係ですけれども,私も,今,事務局から御説明頂いたとおりでよろしいのではないか,つまり,特別の規定をハーグ条約との関連で置く必要はない,むしろ置かない方がいいのではないかと思います。   要するにハーグ条約との関係をどう調整するかという,今の山本克己委員がおっしゃったこととも関係しますけれども,日本にこれから作る法律によって管轄があるかどうかということと,それからハーグ条約で本案の審理ができるかできないかということとは一応別の問題として考えて,管轄はこの法律によって一応認められるけれども,ハーグ条約が言わばその上にかぶってきて審理はできないという整理の方がよろしいのではないか。条約の締約国も変わることでもありますし,やはり安定的に,特定の国との関係ではない,一般的な規定をここに置いた方がいいと思いますので,そういう整理の方がよろしいのではないかと考えております。 ○池田委員 山本和彦委員は,多くの場合は,常居所地が住所となるものであり,その住所から連れ去られたような場合に,例えば日本が居所になることが多いだろうという,そういうイメージでおっしゃったんですか。 ○山本(和)委員 別にそこまでインプライしたつもりはありません。住所がある限りは居所は管轄原因にならないという限りでの意見を申し上げたということです。 ○池田委員 その場合の住所が常居所であるかどうかはケース・バイ・ケースということですかね。 ○山本(和)委員 ケース・バイ・ケースですけれども,従来,例えば国際倒産についての管轄規定を設けたときに,アンシトラル・モデル法で常居所となっているのを,日本では住所にしたわけですけれども,その当時の法務省の説明あるいは法制審議会の認識は,住所と常居所という概念は,管轄との関係では,それほど大きく異なることはないという認識であったと承知していまして,私はそういう認識を前提にして今お話ししたということです。 ○大谷幹事 外国に常居所があって,いわゆる管轄原因とした住所があって,連れ帰られた子についてという問題は,住所があるところに国際裁判管轄を認めればよいし,それがハーグ条約との整合性があっていいんですけれども,ただ,住所がない,常居所がないというケースというというのは実際にあります。そのときに,子がもし日本に居所があれば,日本に管轄を認めるべきかということについては,私は本当に必要がある場合には緊急管轄という話が出てくるのであって,居所という管轄原因を置く必要はないし,置くべきではないと思います。 ○高田部会長 山本和彦委員は住所が世界中にない場合を想定していらっしゃりましたが,その場合も含めてということですね。 ○大谷幹事 そういう意味です。 ○池田委員 どういうお考えに基づいてそうなのか,教えていただけますか。 ○大谷幹事 先ほどおっしゃったように,やはりハーグ条約との関係で,居所という管轄原因を安易に使われかねない。もちろんそのときには,常居所がほかのところにあるという主張は出てくるのだとは思いますけれども,ただ,居所という管轄原因を置くことで,何か身柄があれば,あるいは少なくとも居所があれば,日本で管轄があるという主張が出てきやすい。そういう管轄原因というのは,今,子の監護に関する国際的な管轄の考え方としてはやはりなくて,子が現にその国にいるということで,保護の必要があるという場合には,その保護のための何らかの特別な管轄というものを考えるというのが国際的な潮流です。したがって,日本もそれに倣うのがいいと思っているという,そういう意味です。 ○山本(和)委員 仮にこれ居所を入れないとすると,私は必ずしもハーグ条約との関係でどうということは申し上げませんけれども,例えば,親に連れられて,子について必ずしもその住所が観念できないという場合があるということを想定したときに,直ちに緊急管轄,およそこの日本法上定めている管轄が日本にないという事態が発生するということが,法制的に果たしてあり得るんだろうかというのが,やや疑問に思っています。他の管轄に係る規律において,その住所を管轄原因とした場合でも住所がない事態というのは常に想定されているわけですね。その場合に,日本法上定める管轄が存在しません。それは全て緊急管轄で賄いますということを前提とした法制というのがあり得るのかというのは,私はやや疑問を持っています。 ○高田部会長 ただいまの御議論は,部会資料3-2で申しますと,2ページの2のところにも関連しているように思います。つまり,住所がない場合に備えて何らかの管轄原因というのが必要ではないかということが実質的な問題だろうと思いますが,その場合には,居所という管轄原因を設定して対応するべきだという御見解と,緊急管轄にならざるを得ないのではないかという御見解が出ておりますが。それ以外と申しますか,住所が存在しない場合に日本で子の保護のために管轄を認めるための管轄原因として考えられるものがあれば,御示唆頂ければと存じます。いかがでしょうか。 ○池田委員 先ほどの常居所があって連れられてきているような場合,通常,事件になるようなころには,日本だと既に連れられてきた人が住民票を入れたりとかしています。このとき,どちらかというと,裁判所はそうなっていれば住所があるというような認定をしている,伝統的にするのではないかという辺りが若干懸念があります。その辺りについて,裁判所の考え方といったものを教えていただけたらと思います。 ○秋吉委員 裁判事項ですので,一概にこうするというのはなかなか言うことができないと思います。やはり継続性とか,そういう事実状態を見ながら個別の事案に応じて判断していくとしか申し上げられないのではないかと思います。したがって,住民票があったらどうなるかというお話について直接お答えすることはできません。 ○大谷幹事 今,池田委員がおっしゃったことは,私も懸念はあります。ただ,先ほど御紹介があったように,日本では管轄原因としての住所概念は,管轄原因として使われている常居所と同じであるという整理で今まで来ていて,今回もそうだとすると,その意味では今後の実務に待つしかないのかなと思っています。また,先ほど早川委員がおっしゃったと思いますけれども,ハーグ条約で日本で子の監護の本案をしてはいけないという話と,当該事件の管轄が日本にあるのかという話は,関連はしているんですけれども別問題だと思います。なので,例えば今のような事案,すなわち,子を日本に連れ帰った親が離婚とは別に,子の監護者指定の申立てを日本でしたという場合,子の住民票が恐らく日本にはあります。その住民票があることをもって日本に住所がある,管轄があると当該申立人が主張したとき,裁判所が日本に管轄があるともし思われたとしても,少なくとも本案の判断はしてはいけないということは条約で係ってくるわけですから,そこの歯止めは効くのかなと思っています。あとは今後のハーグ条約の実施の中で,あちらは常居所という概念ですけれども,それは管轄と絡んでいますから,その解釈をどうするのか,認定をどうするのかという実務を発展させていくしかないのかなという気がしています。 ○高田部会長 一つ前に戻りまして,住所が世界中にない場合において,住所以外の管轄原因を居所にすべきだという御意見,それから緊急管轄にならざるを得ないという御意見,それから部会資料3-2で申しますと,2ページの2のところに入っておりますが,研究会の段階では子の利益のために特に必要である場合という管轄原因を検討しましたが,恐らくこれは抽象的ということで,今回の原案には入っていないところでございますが,そうした場合に日本で子の監護について,緊急に判断すべき事件があるとした場合,かつ日本に住所がない場合について,何らかの手当が必要かどうか,かつどのような手当が適切なのかという点について,御所見があれば是非この段階で伺いたいと存じます。あるいはその場合,大谷幹事のように,居所は使うべきではないという御意見があれば,是非もう少し補充をお願いします。 ○大谷幹事 居所を使うべきでないという持論をもう少し補強させていただきます。   もう少し実務的に考えますと,まず,本来の子の住所があるところの国が,本来的に管轄権を行使すべきだとの考えを前提とします。しかし,子の住所がないけれども,その保護の必要はあるという場合には,何らかの措置を考えることとなると思います。そして,仮に,そのままこの子が日本にずっと滞在したとします。このことをもって,継続的に生活の本拠を日本に置くに至ったという場合には,私はそこで本来の意味の住所が日本で発生して,本来的な管轄権を行使ができる状態になると思いますし,そうでなくて,何らかの緊急の保護の必要があるというのであれば,その緊急の範囲で日本で何かすべきことはしたということで終わるということなのかなと思います。法制的にそれが問題だと言われると,答えができないのですけれども,実務的にはそういう展開になるのだろうなという気がしています。 ○池田委員 大谷幹事のお考えだと,いずれにしても,例えば日本とシンガポールを行ったり来たりしている人のような場合,日本にいるときに何らかの管轄を認めることは,緊急管轄その他でできるはずなので,結局は救われるからよいという,そういうことになるんでしょうか。 ○大谷幹事 必要があるときには,対応するという,あくまで非常に例外的な管轄,抑制的な管轄の肯定を頭に置いています。   実際に,公刊されていないケースだったと思いますが,日本と中国を行ったり来たりしている子の監護権に係る事件の管轄について,むしろ日本と中国の両方に住所があるという判断がなされていたと思います。私が申し上げたかったのは,居所という管轄原因を置いてしまいますと,もちろんそれは住所がなかったときということなんですけれども,また,住所がないかどうかの認定について判例が発展していくとも思うんですけれども,裁判所が安易に住所がないと認定して,居所によって管轄が肯定されるようなことの危険がないだろうかという懸念があります。このようなところから,居所という規定を置くことに消極であるという意見です。 ○池田委員 例えば,先ほど日本に子の住所がないものの,その保護の必要があるかどうかということで,行ったり来たりする人とは別の親の面会交流とかということを考えたときに,きちんと面会交流の約束というか,あるいはそれを確立したいと思うような場合が一応想定されると思うんですけれども,そういうのは常に緊急管轄で行くべきとなるんでしょうか。 ○大谷幹事 事案によると思います。つまり,例えば本当に外国と日本とに半分ずつ行っていて,正に本当に半分ずつ両国で過ごしている子について連れ去りがあったときに,常居所をどう認定するかというのは,ハーグの判例法上,非常に争点になっています。問題が面会交流権を確立したいということでの申立てという場合には,常居所をどちらと認定するかというのは,正にハーグ条約上の返還請求が成り立つかどうかという,非常にシビアな問題で,認定が厳しくなります。ただ,面会交流権を認めてほしいという意味での申立てというのは,子が1年のうち半分以上,ある国で過ごしているのであれば,私は多分,その国に住所を認定して本来的な管轄権を行使すると裁判所が判断される可能性が高いし,代理人としてもそういう活動をするだろうなと思います。 ○池田委員 もう一言だけ,それとは別にと言いますか,今,ハーグ条約の締約国とかという話がありますけれども,締約国がどんどん変わるということもありますし,そこで別に締約国だから住所がこうなんだとかということではなく,やはりそこは同一に考えるべきであろうということは共通理解にしていただければと思います。 ○山本(克)委員 A国と日本国のどちらが住所地国かというのが問題になるような場合は,どちらかに裁判所が決めなければいけない場合であって,それは住所があるとかないとかいう場合ではないのではないのかなという気がするのですね。ですから,そういう例を挙げて議論するのは余り生産的でなくて,むしろいろいろな国を渡り歩いているような人が,山本和彦委員が提起された問題について想定すべき例として適切なのではないでしょうか。あるときはアメリカに,あるときはイギリスに,あるときは日本に行き,あるときはシンガポールにいる。それも,どこに行くのかについて規則性があるわけではなくというような場合,どこに住所があるのかが正に問題で,そういう場合に居所でいいのではないのかというようなお話だと理解した方が、議論が生産的になるのではないかなという気がします。 ○高田部会長 今の場合,やはり住所があるということでしょうか。 ○山本(克)委員 私はそういう場合でも,住所地がどこかという問題として裁判所が決めなければいけないという立場です。   先ほど大谷幹事がおっしゃったとおりで,条約がおよそ居所というものを想定せずに,住所地ないし常居地という管轄原因だけしか定めていないのは,やはり居所というような,安易に認定でき,かつころころと変わり得るものを管轄原因とした場合,法律関係の国際的な不統一の問題が出やすくなってしまうことを恐れているからだと思っています。正にそういう住所地がはっきりしない人だからこそ,法律関係の国際的な不統一の問題を生じさせることは,かえって不利益になる場合もあり得るということではないのかなと私は思っております。 ○山本(和)委員 私は先ほど法制的にと申し上げたのは,もし本当にどんな場合でも住所が認定できると,裁判所が認定できるというのであれば,ほかのところでも住所がない場合に居所を管轄原因とする規律というのは要らなくなるはずです。ただ,ほかのところではそれが日本の法制は入っているわけなので,やはり住所がない場合というのは想定せざるを得なくて,その場合に世界中に住所がない場合に,日本から見て全世界のどこにも管轄がありませんという法規定が果たして作れるのでしょうかというのは私の問題意識です。実務上のいろいろな問題が生じ得るということは理解していますけれども,法制的にはそうなるのかなと認識しています。 ○高田部会長 実質論としてそういう場合,日本が管轄を持ち得る場合があり得るということ自体はよろしいのでしょうか。そうしますと,あとは法制の問題で,何も書かないということが法制的に成り立つのかというのが山本和彦委員の御意見でありますし,ここで研究会での議論を紹介するのはいかがかとは思いますが,そこでは,子の保護という観点を,規定の上に反映させることもありえてよいのではないかとの指摘もございました。そのような場合について,全て緊急管轄の規律に委ねるという選択肢で良いのかどうかという点について,もう少し御意見があれば,今後,事務局も次の案を作る際に参考になるかと思います。 ○池田委員 先ほど大谷幹事の方からは,面会交流に係る事件などの場合には,緩やかに住所概念を解するというお考えがあったのですけれども,よく考えてみると面会交流の問題だと,それぞれその場所で執行したりとか,いろいろなこともありますので,どこか一か所でやらなければいけないという要請というのは,実はそれほど強くない,むしろ各地において審判,決定がなされてもしかるべきという気がしております。そのことを考えるとむしろ住所がない場合ですら管轄を認めなければいけない場合があり得るかなと思っています。このような問題意識は,もしかすると検討する対象によっては住所の概念が違ってくるのではないかという,別の問題を提供してしまうのかもしれないんですが。ただ,住所の概念が事項によって違ってくるというのは,余りよろしくないような気がしておりますので,むしろ住所とか居所とかいう概念については,ある程度どの場合も同じように考えつつ,その対象の範囲によって異なりうるのかなとちょっと思ったところです。 ○竹下幹事 今の点,私もどちらかと言えば,この住所という概念について,ほかの管轄原因と余り差を付けて解釈するということは,妥当ではないのではないか。やはり同じ概念で民事訴訟法の中で同じ文言で使われている以上,やはり住所概念をある程度統一的に解釈する。そういった観点からいうと,私も山本和彦委員がおっしゃられたとおりで,世界中にどこにも住所がないといったような場合には,居所を管轄原因として認めればよいのではないかと考えているところです。   そのように考えた場合の懸念が,このハーグ条約との関係です。緊急管轄の規定ができるのか,特別の事情による訴えの却下ができるかよく分からないのですが,ハーグ条約で例えば外国から子が日本に来ていて,返還請求が出ているような事案であったとすると,仮に日本に住所を原因とする管轄があったとしても,特別の事情で訴えを却下するなり,何らかの対応ができると思います。ハーグ条約との関係は早川眞一郎委員がおっしゃったことだと思われますが,正にハーグ条約上,管轄権を行使してはならないような事案というのは,別途の考慮で管轄権を否定すべきで,ここで議論するのはそれ以外の一般的な,ハーグ条約をまずは除いた上での検討をすることでよいのではないかと考えております。 ○山本(克)委員 特別の事情による訴えの却下,あるいは審判の申立ての却下の制度を入れるかどうかという問題ですが,私は一般の民事訴訟の場合とはちょっと状況が違うのかなと思います。基本的な考え方として,まずは原則的な管轄原因を広めにとっておいて,特別の事情による却下という総則的な規律で調整するのは,果たして人事訴訟事件,家事事件において,適切な対応なのかどうか,それ自体をもうちょっと詰めないといけないような気がしております。やはり管轄の安定性と身分関係の安定性がリンクしているようなところがあると思いますので,財産上の請求の場合と同じように考えるのを当然の前提とするのは,もう少し慎重に検討した後でないとまずいのではないかという気がします。 ○竹下幹事 もちろん,全体として見たときに,最終的に管轄権の規定があった上で,緊急管轄的にプラスにする例外的な考慮を最後に行うのか,そうではなくて,民事訴訟法に近いような形で広めにとっておいて特別の事情で絞るのか,そこのところがちょっと固まってこないと,なかなか定見は出せないというのはそのとおりかと思います。 ○高田部会長 ハーグ事案に関しては,管轄を否定してなくても本案をしないという規律がありますから,直ちに特別の事情によって却下するとの結果にと結び付ける必要はないかと思いますが。 ○畑委員 今,おっしゃったことを申し上げようとしておりました。ハーグのルールによって本案の審判をすべきでない場合というのは,特別の事情による却下みたいなこととはまた別でないかなということです。 ○池田委員 そうすると,条約国以外の関係についてはできてしまうというのは,私はそこはちょっと納得しがたいところではあります。 ○秋吉委員 ハーグとの関係につきましては,早川委員がおっしゃったとおりだと思います。部会資料3-2の2ページの1,(2)のところに,ハーグ条約が適用され得る事案として,例示があり,我が国から外国へ連れ去りがあったような事案で,我が国に子の監護又は親権に関する審判事件の管轄原因があることを明確にする規律を置くことが考えられるとあるわけですけれども,返還してどこで本案をやるかというのと管轄の問題は,はっきり分けた方がよいのではないかと思います。   ハーグ条約が適用され得る事案というような,非常に認定が実務的にいうと難しい要件をあえて取り入れて,子の監護又は親権に関する審判事件の管轄に係る規律を設けるという必要性については,実際に暫定的な管轄なのであれば設ける必要はないでしょうし,逆に終局的な管轄をこれで設けてしまうと,結局,ハーグ条約に基づく決定が出たときに,それに反してくるおそれもありますので,やはりまずは別々に考えるという方が,仕組みとしては明確でよいのではないかなと思っております。 ○高田部会長 居所については,賛否両論頂きました。どうも意見集約をすることはこの段階ではできないようでございますので,全体を見通した上で,なお御意見を伺う機会を得られればと存じます。   よろしければ先に進めさせていただきます。では,引き続き説明をお願いいたします。 ○河野関係官 続きまして,子の監護又は親権に関する審判事件の国際裁判管轄のうち,残り議論されていない「3」離婚等の際に附帯処分等がされる場合,「4」親権喪失の審判の取消しの審判事件等,「5」子の監護に関する審判事件等に係る合意管轄又は応訴管轄について御説明申し上げます。   まず,離婚等の際に附帯処分等がされる場合についてです。併合管轄一般の規律に係る後の議論に資する意味を込めてこの論点を取り上げる次第です。   部会資料では,事件タイプ①としまして,離婚の訴え等がされる場合,事件タイプ②として,子の監護に関する処分や親権の指定等に関する審判事件を想定しております。   その上で,このような事件タイプ①と事件タイプ②といった事件を取り出して,その間に類型的な密接関連性が想定できるならば,本来,当該事件タイプが属する単位事件類型に係る管轄規定によっては管轄が認められないときでも,管轄を認めることとするのが妥当かを検討するものです。   具体的には,日本法における規定を参考としまして,本体的な事件について管轄があれば,付随するものというべき事件についても,管轄が本来なくてもこれを認めるものというものです。   なお,不都合な管轄の拡張につきましては,特段の事情による却下などで対応することも考えられるところです。   次に,親権喪失の審判の取消しの審判事件等につきましては,親権喪失等の審判等をした国に国際裁判管轄を認めることが考えられますが,他方でこれらは子の監護又は親権に関する審判事件に係る規律に含めて,不都合の場合はいわゆる緊急管轄に委ねるという考え方もあり得るところです。   続きまして,合意管轄及び応訴管轄につきましては,基本的に子の利益の観点から裁判所の後見的な役割が重要視されることを踏まえ,国際裁判管轄の取得の可否を紛争当事者の意思のみに委ねることは相当ではないとも考えられるところですが,この点,御意見を賜れれば幸いです。 ○高田部会長 では,便宜,部会資料3-2,3ページの3の日本法でいう附帯処分,典型的には離婚訴訟が行われる場合について,御意見を頂きたいと存じます。   離婚に関する訴えにつきまして,甲案,乙案が確定しておりませんので,いずれを採用するかによって若干イメージが異なってきますが,ただ,最終的には甲案,乙案,さほど違いがないという御意見もありましたので,まとめて御意見を頂ければと思います。 ○和波幹事 もちろんいわゆる附帯処分の管轄については日本の実体法だけを前提にすべきではないとは思いますけれども,やはり日本で裁判をやると考えた場合,日本の実体法上は附帯処分として扱うことができるとされているにもかかわらず,国際裁判管轄としては完全に分断されてしまって,実体法上,場合によっては必要的に判断しなければいけないにもかかわらず,管轄がないことによって判断できないというような事態は,できるだけ避けるべきではないかと考えております。そういう意味では,離婚の管轄原因があるけれども,附帯処分に相当するものについて管轄原因がない場合であっても,これは併合管轄の考え方とも関連すると思いますけれども,基本的には附帯処分についても,国際裁判管轄を認め,日本で判断ができるようにするというのが相当ではないかと考えております。   逆に,附帯処分の管轄があるけれども,離婚等について管轄がないような場合というのも想定されるわけですが,そこは必ず全体的な判断をしなければならない必要性があるかといいますと,そこまでの必要性は必ずしもないのではないか。これは先ほど申し上げたように,実体法と直接リンクするわけではありませんが,日本の実体法の価値判断というものを踏まえるならば,今申し上げたように,附帯処分的なものについては一種の併合管轄の考えを取り入れて管轄を認めて判断できるようにするというのが,相当ではないかと思っております。 ○高田部会長 離婚事件について管轄があれば,未成年者の監護事件についての管轄を肯定してよいというのが和波幹事の御発言だったと思いますが,異なる御意見の方はいらっしゃいますか。 ○山本(弘)委員 確かにお立場上,日本の実定法を意識して議論すべきだと発言されるのはよく分かるんですが,やはりこれは実体離婚法の在り方とかなり関わってくる問題で,日本のように,不貞とか,こういう概念が離婚原因として維持されている国であれば,そういう不貞行為についての証拠収集の便宜とか,そういったものを考えるに当たって管轄を決めるべきだという議論にどうしてもなってきて,離婚訴訟を中心とした,ある種の管轄を設定した上で,それに附帯する処分をそこにぶら下げるという発想になってくるとは思います。しかし,やはり世の中には日本的な離婚法ではない国もあるわけで,やはりもう形式的に破たんの概念を簡単に認めて,離婚はとにかく裁判所の判決が必要なので離婚事件を取り上げる。そういう法制の国だと,やはり離婚後の未成年の子の監護をどうするかということが,やはり紛争の中心,中核をなすんだろうと思うんですよね。そうすると,むしろこれは附帯処分というよりも,そちらの方が紛争の中核なので,離婚の管轄なんてそれにぶら下がるものであってもいいのではないかという議論になってくるだろうと思うんです。ですから,これはやはり国際裁判管轄を考える上で,やはりどこまで本案の法制を意識して管轄原因を考えるかという,非常に難しい問題にはなるんですけれども,やはりちょっと私は附帯処分という考え方自体が,日本の実体離婚法にかなり引きずられた概念のような気がしてしようがないというのが,ちょっと懸念されるところです。 ○山本(克)委員 日本人同士の離婚を前提に置いて,子が外国に住所を有しているというケースが問題になるわけですが,その場合に日本で附帯処分として親権者指定なり,監護権についての処分をしたときに,当該外国でそれが承認されないと,子の地位が不安定になるということになってしまいます。これが一番,子の利益にとってはまずいことなので,軽々に日本の法制の当然の前提というか,客観的秩序としての単独親権主義というものを,どこまで推し進めるべきかという,政策判断の問題になるんでしょうけれども,簡単にそう答えが出る話ではないような気がします。 ○村上幹事 私も今の山本弘委員,山本克己委員の考え方に近いのですが,やはり子の監護について,日本に管轄がないのに判断してしまうと,そこで別の本来管轄のある国でまた別の判断が出て,矛盾する判断が生じるということになって,それがまた新たな,例えば子の奪い合いとか,別の紛争に発展する可能性もあると思われるので,やはりそこは附帯処分ということで,併合管轄を認めるべきではないと思います。逆に,離婚についてはないけれども,子の監護については管轄が認められるという場合には,例えば離婚について実質的に争いがなくて,当事者間に合意があるというような場合に限って,日本でいう附帯処分の方に引き付けて管轄を認めるという規律もあり得るのかなと思います。 ○山本(弘)委員 先ほど和波幹事からもお話があったことですが,離婚に伴う附帯処分の管轄というのは,訴訟でいう併合請求の裁判籍の考え方をある種応用したものなわけですが,しかし,世界的に見ると日本の併合請求の裁判籍,これは国際裁判管轄にも作ってしまったのですが,あれはかなり異様な規定だろうと思います。非常に広く管轄を認めていて,果たしてあの管轄原因に基づいて日本の裁判所が本案判決をしたときに,本当に外国で承認されるんだろうかという疑問がかなりあります。なので,ちょっとその点も含めて考えなければいけないことではないか。特に身分関係ですから,法律関係の国際的な不統一といったものの発生を未然に抑止すべき必要性というのは,財産関係よりも非常により重視されなければいけないということもありますので,慎重に考えるべきだろうと思っております。 ○山本(和)委員 村上幹事に質問ですけれども,当事者に離婚について争いがないときは子どもの方に持ってくることができるのではないかというお話だったですが,離婚についても争いがあり,子の親権者等についても争いがある場合は,どうなるのでしょうか。和波幹事の設例は,おそらく,日本の民法のようにその両者を切り離すことができないという場合は,どういうふうになるんでしょうか。どこがやるのでしょうか。 ○村上幹事 それは準拠法が日本法だった場合ですか。 ○山本(和)委員 準拠法が親権者の指定と離婚を切り離せない法制になっているという場合という意味です。 ○村上幹事 難しいですね。つまり,親権者を指定しない限りは離婚できないという,そういう法制の場合ということですよね。取りあえず調停,話し合うとかですかね。ちょっと難しいと思います。 ○和波幹事 附帯処分とされるものにも恐らく実体法的に2種類あって,必要的に判断をしなければいけないものと,当事者の申立てがあったときにそれをやることができるものがあるように思います。後者については管轄を切り離すということは,もしかすると最終的に政策としてあり得るのかもしれないとは思うのですが,特に親権者の指定については,先ほど山本弘委員から,日本の法制が若干特殊であるというお話はありましたけれども,少なくとも日本の民法としては,そういう価値判断の下で,親権者については離婚の際にはきちんと決めなければいけない,そういう一種の政策決定がされているわけです。それを管轄の方で分断してしまう,判断できなくしてしまうということが,日本の法制としてよいのかという問題はあるのではないかと思いますし,裁判所としては実体法上要求されているものが管轄がないために判断できないということになると,これは大きな問題ですので,そうなると,実体法にまで踏み込んで今回検討する必要があるのかどうか,そういうことにもなりかねないという懸念は持っております。 ○秋吉委員 これは非常に難しい問題だと思ったので,周りの人にも感触をちょっと聞いてみたんですけれども,やはり子の親権だけ別にできるかといったときに,離婚するのに親権者を決めない事態というのは,避けたいという意見が結構多かったんですね。では,離婚と親権とどちらが主かと言ったときに,そういう意味では本当は争いようにもよるんですけれども,実際には離婚ということが,まず先にあって,その後,離婚するとなったときに,附帯処分をどうしていくかという思考がされている例が多いので,そうすると,やはり離婚の方に附帯処分が付いてくるというのは,割となじみやすい。だけれども,子の調査のことなどを考えると,例えば子が外国にいたときにどうするんだろうというところは,非常に悩ましい問題だと思います。しかし,例えば国内事案でも,事実上子の面倒を見ている親がなかなか調査官を子と会わせてくれないだとか,難しいケースというのはあるわけですけれども,それでも何とかいろいろ工夫しながらやっている。そういう実務状況からいくと,子の調査の方が離婚の方に付いてくるというのであれば,今までの延長線でできる可能性がありそうだと思われます。なかなか決め手というのはないのですが,実感としてはやはり離婚を先に主体にした上で考えていくという方がよいのではないかという意見は多かったところです。 ○小池幹事 質問ですけれども,先ほど山本克己委員もおっしゃっていましたけれども,外国に子がいた場合,家裁調査官による調査というのはやるんですか。子の監護等に関する事件について,子を全く見ないで判断を下すというのは,手続法的にいいんだろうかというのはあるんですけれども。 ○大谷幹事 今の御質問なんですけれども,日本に離婚の管轄があると,子が日本にいなくても親権について管轄があるというのが実務の考え方で,日本法が適用になりますと,実体法上も親権者指定をしなくてはいけないということで,親権者指定がなされます。それでかつては子どもが外国に連れ去られたケースで,日本に残った親が離婚の訴えを提起するとします。その場合に親の方がある意味諦めて,もう子が帰ってこないので,離婚したいというためには親権者指定も求めなくてはいけない。職権でもとにかく指定されてしまいますので,ちょっと乱暴な言い方をすれば,離婚するためには親権を諦めざるを得ないみたいな意味で,子どもの親権者をもう外国に行ってしまった親の方にするという申立てをする例というのがありました。そういう場合だと,もう裁判所がそのまま認めるという例がありました。   最近,そうではないケースがあって,つまり離婚とともに親権者を自分にしてくれという申立てをする。離婚はしたいけれども,親権のところは諦めたくないと。子が仮に帰ってこなくてもいいので,親権だけは自分の方にしてもらいたいという請求の方が,若干増えてきたかなという気がします。そういう場合に,調査がされるかどうかなんですけれども,被告が実質的に審理に参加するケースとしないケースがあります。しないケースでは,いわばこちらの言い分で,裁判所は家裁調査官の調査もないし,現実には子の状況が分からないまま,欠席判決とは言いませんけれども,こちら側の出した原告側の書証と尋問とで,また子を連れ去ったということも考慮してだと思いますけれども,親権者を原告側,つまり非監護親の方に指定するという判決が幾つか出ています。でも他方で裁判官が,子がもう向こうに住んでいるのに,あなたが親権者になって,返せというわけにはいかないでしょうと言われるケースもあります。   それから,被告が実際応訴して,本気で争う場合があります。その場合の家裁調査官の調査は実際にはなされていません。家裁調査官の調査を求めたケースもありますけれども,実際に家裁調査官が外国へ行って調査することもできないし,いわゆる日本の国内で使われている監護状況報告書という,それぞれの親が書いて出す書類があるんですけれども,そういうものとか子の学校の成績とか写真とか,そういうものが出てきて,あとは尋問だけでやることになります。実際に家裁調査官に子の意向を調査してくれと言ったケースもあるんですけれども,できないという対応でした。スカイプでやってくれとかしましたけれども,駄目と言われる。それで親が,例えばですけれども,子の様子をビデオに撮って出したケースがあります。そうするとそれがよくない,一方当事者が子どもの状況を出してくることが問題なのではないかといって更に争いになったりしたことがあります。   逆に外国から日本への連れ去りのケースで,特に外国ではいわゆる本当に欠席判決的に子どもを連れ去ったということで,残された親の方に親権を認めるケースがあります。そういう判決が後で日本で外国判決の承認という形で争われたときに,よく日本側の親が調査もしないで出したということで,手続公序に違反するという主張を出すんですね。それとのバランスというのは前から見ていて非常に気になっていて,一方で日本では調査官調査はできない。調査官調査なしに,欠席判決とは言わない,職権探知ですから,だけれども,一方の言い分だけを聞いて出していると。未だ認めたものはないですけれども,外国でそれをされると手続公序という争いが出てきたりします。 ○高田部会長 研究者を中心に,未成年子の保護という観点から,やはり未成年子がいない日本で監護事件を裁判するのはいかがかという意見が出る一方,実務的にはとりわけ準拠法が日本法になる場合が想定されての意見かと思いますが,親権者の指定のように,必要的に離婚事件とともに判断することが想定されている事件について,離婚事件の管轄ある国で親権者指定ができないという法制はいかがかという疑問が出ているという状況かと思いますが。 ○大谷幹事 私は,やはり切り離すべきという考えです。結局,先ほどからいろいろお話が出ている日本の離婚法制の考え方,それから離婚のときに親権を指定するということを必然的にしているという考え方,それから単独親権制を採用し続けているという3点において,比較的ほかの国と違う考え方を採っています。ただ,2点目について言いますと,最近,実は諸外国でも子の親権のところの決定がなされるまでは,最終的な離婚を認めないという法制もありますので,そこが完全に日本だけが独特と思っているわけでは,実はないんです。ただ,単独親権制とも結局関連をしていて,日本で離婚管轄を認めるときに,言わば実体法としての日本法がそこを切り離せないとしているからという理由で,子について日本の国際裁判管轄を認める結果,多くの場合に日本法が適用され,単独親権が指定されるということが,外国からどう見えているのかという問題があります。それは日本の実体法の考え方なので,管轄の規律においても日本はそういう考え方で行くのだというのが,一方の考え方だと思いますし,一方ではやはりそこは切り離す。特に日本において子の親権について管轄権を行使して,特に実体法として日本法は適用されますと,完全にオールオアナッシングになって,先ほどの例もそうですけれども,離婚をしたい,離婚するしかやむを得ないという場合にも,親権についてオールオアナッシングで答えを出してもらうしかないという状況が生まれることの不都合ですとか,いろいろ実務上,そのことによる影響というのはあります。もちろん子の利益の観点から考えるべき問題ではありますけれども,かなり不都合も生じているかなと思います。   他方で,先ほどから御議論のある,では離婚だけして子の親権を指定しないということに問題はないのか。これは実は余り問題には感じていません。どこかの国で必ず決着は付けられ,それをもって親権の指定がないと離婚を最終的に認めない国においても,結局,それをもって最終的には離婚を認めますので,余り不都合には感じていないというのが意見です ○山本(克)委員 原案のような考え方を採った場合,附帯処分について同じような法制を採っている国がどれだけあるか,私,全然承知していないんですけれども,そういうものがどこかの国にあるといたしまして,外国でされた附帯処分としてなされた親権ないしは監護権に関する処分についての日本の承認管轄,間接管轄は,附帯処分としてされた場合に限るということになるのでしょうか。つまり,甲案だとして,両親のいずれかの国の住所地で,子は住所を持たない国で親権についての,あるいは監護権についての裁判がされた場合に,それを日本は承認を拒むことができるのかどうか。つまり,手続形態を区別して,附帯処分の場合は承認しますけれども,単体としてその処分がされた場合には承認しませんということが言えるようになるのですか。そこがよく分からない。先ほど大谷幹事のお話を伺っていて,そういう問題もあるなと気づいたんですけれども,どうなんでしょう。 ○畑委員 意見もいい考えもないのですが,それは財産事件について既にある問題ではないのでしょうか。民訴法3条の6で,本来は管轄はないけれども,日本の裁判所で裁判ができるという場合があるわけですよね。 ○山本(克)委員 単体でやったときも承認できるかどうかという話を今していたのですが。仮に,当該外国において,別の請求について日本法から見てその外国に管轄があるものと客観的に併合された請求については,日本法としては承認を拒絶はできないと思うのですが,それと同じように考えていいかという問題を今出したつもりです。 ○高田部会長 畑委員によると,併合管轄が認められる場合のみ承認できるという場合があるのと同じであるという。 ○畑委員 結論はともかく,同じような状況が生じるのではないかと思ったのですが。 ○高田部会長 この段階での御意見は,離婚事件についてのみ管轄がある場合について,未成年子の監護事件の管轄を関連裁判籍として肯定するということについて,否定的な見解が多かったという理解ですが。 ○山本(克)委員 純粋な併合管轄と同じように考えていいのか,それ自体が問題のように思います。 ○山本(和)委員 私自身はそれは認めてもいいのではないかという感じを持っています。前提は切り離せない,準拠実体法上,その離婚と親権者の指定とが切り離せない場合ということは前提ですけれども,その場合に,完全に両方が泣き別れになるような場合を考えると,論理的には両方でできないということになってしまう可能性,つまり,親権者の方の管轄を持っているところでは離婚の管轄がなくて,離婚の管轄を持っているところは親権者の管轄がない。しかし,実体法上,両方一緒にやらなければいけないという場合も,大谷幹事が言われるように,実体法上,もう切り離してしまうとするのか,どちらかに認めるかしか,論理的にないように思うのです。そして,実体法上,両者を切り離すというのはやや難しいとすれば,それはもう管轄を認めざるを得ないのかなと思っているということです。その場合に,だから必ず離婚の方に付いてくるという形にするのか,親権者の方に離婚をくっ付けるという場合もあり得るのかというところについては,私はまだ必ずしも定見を持っていませんけれども,それはそうなるのかなと思います。 ○山本(克)委員 今,私が申し上げようとしたのも,民訴法の併合の場合の国際管轄は違うのではないかということです。主従関係であるのが前提とされているというので,民訴法と同じ議論にならないという話をしようかなと思っていただけです。それはともかくとして,仮にやるとしても,それは離婚の準拠法が日本法であり,かつ親子関係の準拠法が日本法である場合に限るという限定を付けてなら,まだ許容できるのかなという気がしますが,それ以外まで広げて一般的な形でこれを規定することには,まだ躊躇を覚えるところです。でも,先ほど申し上げたように,子が外国にいるときにそれでいいのかという問題は残ると思います。 ○大谷幹事 山本和彦委員が挙げられたような事例ですと,結局,実務でどういうことが起きるかといいますと,今は破たん主義の国では,離婚そのものは再婚するためとか,あるいは相続の関係とかで,婚姻関係を解消しておくという必要がある場合には必要だけれども,実際には子の親権,監護権の決定の方が重要だったりしますし,あるいはイギリスなどは離婚しても共同親権状態なので,特別の申立てがなければ,そもそも裁判所が親権について判断しないという法制ですから,そこは,子の親権の管轄を持っている国が,仮に離婚の管轄を持っていないとした場合に,当事者としては離婚もしたい。でも,親権も争っているということだとしますと,親権についての争いだけを外国でするという可能性が出てくるんですね。それで決定を得られますよね。その間,日本の裁判所で離婚訴訟は係っているんですけれども,結局,準拠法が日本法だということになると,日本の法制上,親権者の指定なしには離婚ができない。仮にここで管轄がないとしますと,ほかの国でどうしているかというと,待っているんですよね。結局,どこかで決めてそれを持ち込んできて,その結果,最終的にそれをどういう法技術的に考えるのか分からないのですけれども,取り込むような形で,国際案件の場合というのは二つの国,二つのフォーラムで実際には何らかの手続が起きる,あるいはそういうことが起きるので,調停でどこの国でもないところで結局話をして,できるところでやるみたいなことが起きたり,ということで,そういう複雑なことになるのではないかと言われるかもしれないんですけれども,そういうことも含めて,それほど困らないというか,むしろ離婚の方に親権の管轄権を引き付けることの方の問題の方が大きいかなと,比べてみた場合に思っているということです。 ○道垣内委員 私,かつて自分でどう書いたかよく覚えてないのですが,恐らく分けていいのではないかと書いたのではないかと思うのです。前回,前々回から申し上げているように,この審議会を始めるに当たって,いろいろ考えまして,現時点では,親族問題については実体的なことの方がずっと大切だと思うに至っております。子供の問題についてはもちろん生活の状態を見てあげるということが大切だと思いますので,手続的な問題も大切であることは事実であり,実体的な配慮だけではなく,両方関わっているのでなかなか難しい問題だと思います。しかし,切り離すことによって子供が宙ぶらりんの状態に置かれることになりかねないわけです。離婚させないというのなら,それもまた一つの方法かもしれません。しかし,他方,離婚だけは認め,親権者については追って決めるとか,あるいはそこはペンディングにしておいて,離婚の効力発生を遅らせて,親権問題が決着することを離婚の条件とするといった条件付判決のような制度を作ることもあり得なくないかもしれませんが,ちょっと大掛かりすぎるように思います。子供が宙ぶらりんにならないように,親権の問題についても管轄を認めていいのではないかなと今は思っています。   ちなみに,日本でドイツの判決の承認が問題になった平成8年の最高裁判決があり,それを見ますと,ドイツは離婚訴訟において親権者の指定もしています。その事件では,当事者は,訴え提起時,つまり離婚の訴えの管轄を決めるべき時にはドイツにいた人ですが,その直後には父親と一緒に日本に来てしまっている子で,その後,ドイツで離婚と子の親権者は母とするという判決がありました。ただ,ドイツ訴訟は公示送達で開始されたので,民訴訟118条2号の要件を欠き,そのドイツ判決は日本では効力がないというものでした。この事件のように,子の状態を裁判所がチェックすることができないという問題は,管轄基準時以後にも発生するわけです。したがって,管轄基準時に子がいるか否かをそんなに重視して,いなければ管轄を否定するということまでしなくてもよく,裁判官が見れば,事件全体を見れば父母のいずれが親権者として相応しいかぐらいは分かると思うのです。子の状態を実際に見ない限り判断はできないというのは,ちょっと言いすぎではないかと思います。裁判所を信頼して,個別事案における実体的判断をしてもらえばいいのではないかと思います。   もう一つ,外国判決の承認の局面でどうするのかですけれども,表裏が違うというのは余りよろしくないので,承認はしてもいいと思います。日本にいる子について,外国で裁判されて,離婚と親権者決定がされた場合,親権者の問題を争いたいときには,親権者変更の申立てをすればいいわけで,それほど難しい問題にはならないのではないでしょうか。一応当該外国判決は承認されるけれども,その後のこととして,親権者を変更してほしいという争いをすればよく,そのときには裁判官は目の前にいる子どもについて判断できます。ですので,私のように言うと,承認管轄のときも認めなければいけなくなるということは必ずしも問題にはならないように思います。 ○高田部会長 ありがとうございます。なお,御議論は分かれるということでしょうか。確認でございますけれども,離婚に関する訴えについて管轄が認められる場合において,未成年子の監護事件の管轄も認めるべきだという場合は,途中では準拠法上,一体的に解決することが要求される場合に,必要性が高いということについては,多くの方が発言されていたわけですけれども,そこに限定するという考え方もあり得るということでしょうか。 ○大谷幹事 引き付けることに賛成ではないんですけれども,もしするのだったら,ぎりぎりそういう限定をするということはあるかなという気はします。両親が離婚したのに,子の親権が決まっていないというのが宙ぶらりんで,子の利益に反するのではないかという考え方自体が,私はやはり単独親権制を採っている日本固有の考え方だと思っていまして,それは日本が採用している考え方なので,それを日本が維持するというのは一つの日本の意思決定なので,それはそれの問題としてあるわけですが,ただ,その考え方をこの管轄のことにも及ぼすかどうかということ,それを前提に,そういう決定をするのであれば,日本は今単独親権制というのはこれからの議論になる可能性がありますけれども,なお,この人事関係の国際裁判管轄,子の親権監護権の管轄に当たって,やはり私は単独親権的な考え方を前提にしたと私から見ると見えるということは申し上げておきたいですし,逆に先ほど日本が親権が決まらなければ離婚できないという法制を採っていることとの関係でいいますと,仮に子どもが日本にいなくて,親権の管轄権がないから,では条件付き離婚判決をするのか,そういう法制があり得るのか。そのときに,一つの考え方としては,外国に行って親権の指定をしてきてくださいと。それまでは要は離婚を許しませんと。簡単に言いますと。考え方としてやはりそういう考え方なのだろうと思うんですね。そこはちょっと矛盾があるというか,日本に管轄があり,日本法が適用される離婚事件について,およそ親権者の指定がなければ離婚を認めないということは,管轄の問題と仮に切り離して考えますと,そういう結論にせざるを得ない。そういう立場を採るかどうかというふうな考え方もできると思っているのです。 ○山本(和)委員 部会長の先ほどの御質問のお答え,私自身の先ほどの考え方はそれを前提にしていました。切り離せる場合は併合管轄の一般論の中で考えていって,その併合管轄がどうなるか,私自身の頭には一定のイメージがありますが,どうなるかによりますけれども,基本的にはそちらの方で考えてよいのではないかと思っています。 ○高田部会長 念のための確認ですが,それは準拠法によるということになるのでしょうか。管轄と準拠法との関係という他にも幾つかのところで出てきた問題に関係してくるような気がいたしますが。 ○和波幹事 今,部会長がおっしゃったとおりの問題があると思っておりまして,準拠法上,切り離せないときだけ管轄を認めるという考え方になりますと,まずは準拠法を調べて,その実体法がどうなっているかというのを調べた上でないと管轄が決まらないということになってしまうわけですが,日本法であれば別に問題はないわけですけれども,実際に外国法で,その内容を調べることすら非常に難しいような場合に,結局,それが分からないと管轄が決まらないということになってしまうのは,実務的にはなかなか厳しい部分があるとは思っております。 ○山本(克)委員 今のは親権者指定に関しておっしゃったということでしょうか。 ○和波幹事 今のはそういうことです。 ○山本(克)委員 親権者指定ですと,管轄問題は基本的に離婚事件の管轄,現行の法制を前提とする限り,申立てが特に必要はありませんから,離婚事件について管轄があり,そして親権者指定をすべきかどうかのところで,結局,親子関係についての準拠法が何かということを確定した上で,その内容を調査するという過程になるので,その管轄問題が準拠法を調べないと管轄は定まらないという関係にないように思うんですけれども,違いますでしょうか。 ○和波幹事 実際上はそうなるのかもしれませんけれども,理論的な問題として準拠法と管轄を結び付けるというのがよいのかどうかという問題はあるように思います。 ○山本(克)委員 しかし,準拠法が分からなければ,結局親権者指定をすべきかどうかも分からないということですよね。つまり,親子関係の準拠法が単独親権主義を採っている場合についてのみ,親権者指定をすべきなので,共同親権主義であれば何も指定する必要はないのではないでしょうか。 ○山本(和)委員 そこが私もよく分からないところがあって,つまり親権者について管轄がないときに,準拠法上,その親権者の指定まで求められているとき,離婚が裁判管轄がないということで訴えが却下になるのか,その請求が棄却になるのかよく分からないところなのですが。 ○山本(克)委員 結局は,申立てが要らないでという部分がどこまで係ってくるかという問題ですよね。つまり,そこが親子法の準拠法の問題だとすると,私が先ほど言ったのとは違う話になってくると思います。 ○高田部会長 確認ですが,山本克己委員によると,親権者指定については,離婚とは別個に管轄を考える必要がないというのが現行日本法だという理解ですか。それは渉外事件についても同じであるということでしょうか。 ○山本(克)委員 完全に一体化しているのが当然だとおっしゃるときはそうだということになるのではないですか、ということを申し上げているのです。そこで管轄があるからやっていると言うのでしょうか。その部分だけを却下するということはあり得ないではないですか。親権者指定について申立てがないのですから,却下はできないはずです。離婚ができなくなるということも,それは却下ではなくて本案の問題になるのではないですか。 ○早川委員 今のお話で,ちょっと私自身も分からなくなってきたのですけれども,私の理解は,その場合も子どもの親権者指定の方について管轄がないとできないのではないかと素朴に思っていたのですが,それはおかしいのでしょうか。 ○山本(克)委員 私が言いたいのは,管轄の問題と準拠法の問題,リンクするのはおかしいとおっしゃいますけれども,そもそも準拠法を無視して管轄を論じても意味がないということを申し上げているつもりです。 ○早川委員 ついでに一つ,親権者指定の話だけが今出ているようですけれども,元々この表題でやっています監護親権に関する管轄は,親権者指定だけではないんですよね。その点と今の問題をどういうふうに整理するのかという点ももしできればお考えいただければと思います。つまり,離婚と親権者指定がセットになっているという前提でのお話ですけれども,例えば面会交流とか,その他の居所指定とかいろいろあり得ますよね。それについても離婚に付随してできるのかという問題があると思うのです。だからこそ,単独親権ではない場合についても問題が生ずるのではないかと思います。大谷さんがおっしゃったのは,単独親権だから宙ぶらりんでよくないという考え方が出てくるということでしたが,単独親権ではない場合には,今度は,ほかの監護関係の裁判について同様の問題があり得るのではないかと思うのです。 ○大谷幹事 それはちょっと先ほど頭によぎっていたんですけれども,例えばカリフォルニア州法だと,親権者指定をするときに必ず非監護親の方に面会交流権を付与するという決定を同時にしなくてはいけない。そういう規律はほかの国にも結構あると思うんですね。そうすると,日本は離婚のときに親権者を決めなくてはいけない。つまり,どちらかにしなくてはいけないという考え方ですけれども,諸外国では一緒にしなくてはいけないというよりは,ある国では親権のことを決めてからでないと最終的に離婚を認めないという言い方をしていることはあるし,それから逆に親権を決めるときには,面会交流のこともいわゆる監護養育についていろいろ決めなくてはいけないと,そこをセットにしている国もあって,早川委員の質問に正面から答えていないとは思うんですけれども,何をどこまで切り離せないかという話は,私たちはやはり日本法を頭に置いて,離婚と親権だけを考えていますけれども,実は離婚のときに子どものことをきちんと決めてあげないと宙ぶらりんになってよくないという考え方を採るのであれば,本当だったら面会交流のことをセットでしろと言っているところの話,そういう準拠法もありますから,そういう国のだとそれも全部引っ付いてきて,それは広い意味で親権監護権の管轄に入ってはいるんですけれども,事項としてはそこまで本当に全部やらなくてはいけないという話になって,それは何か申立てがあろうがなかろうが,本来しなくてはいけないことに入っているので,その話と管轄をどう関連付けて考えたらいいのかよく分からないのですけれども,実は本当はそういう広い問題なんだとは思っています。 ○秋吉委員 子の親権の方が主だというお話もあったのですが,実際に事件を見ていると,子の親権は余り争いなかったりとか,あるいはそれまでの経過からいって,こちらが親権を取るのはそうなんだろうなという事案とかも結構あるわけですが,そういうときでも,もし子の親権の方を主にすると,子の所在地に管轄を持って行って,結局離婚についていろいろ検討したらば離婚が認められなくて,あの管轄は何だったんだろうと。本当に主と従というのが,それほど決まっているのかというところから行くと,やはり離婚があって初めてほかのものが出てくるというところがあり,実務的には離婚が主で子の親権が従という感覚につながっているところがあるように思います。 ○道垣内委員 高田部会長と和波幹事の最初の話に戻させていただきたいのですが,要するに離婚事件について裁判管轄があるときに,子に関する事件についても場合によって裁判管轄ありとしてよいということにするのか,常にしてよいとするのか,です。場合によってというのは,準拠法が離婚の条件として子の親権者指定が定められているときだけに限るということです。私の結論は準拠法の問題と切り離した方がいいと思います。切り離すというのは,準拠法は関係なくて,日本ではいつでもできますということにするということです。ただし,本案を判断していく中で,離婚に伴ってそこまでのことはする必要ないということになればしなくていいですし,あるいは,おっしゃるような面接交流も決めてくださいということであれば,そこについても管轄は当然あるので,本案の判断として認めるか認めないかをはんだんしていけばいいと思いますので,実際に判断するか否かは後になって決まることになります。入口の段階では,全部について管轄を認めることができるいうことでいいのではないでしょうか。もちろん,当事者に処分権が与えられているかどうかも準拠法次第だと思いますけれども,ざっくり全部できますということにしておいて,後で,場合によっては一部の申立ては認めないということもあり得るのではないでしょうか。 ○高田部会長 確認させていただきたいと思いますが,未成年子の監護事件の管轄がある裁判所に,離婚事件の管轄を認めるべきだという趣旨の御意見が途中で存在したように思うのですが,そうした御意見の方がいらっしゃるということでしょうか。 ○山本(弘)委員 一つのアイデアを述べただけですが,それが本当に突き詰めていくと妥当な規律なのかどうかについては,またちょっと私も頭の中の整理が付いていません。むしろ,今日のお話を聞いていると,離婚を押し付けるということよりも,監護を離婚と切り離すという方向の解決の方が望ましいのかなというのが,今日の御議論を聞いていて,だんだんそちらの方向に考え方が傾いています。 ○高田部会長 分かりました。 では,部会資料3-2の5ページの4の親権喪失の審判の取消しについてはいかがでしょうか。 子が移動した場合においては,子の現在の住所地ということでよいのかということでございますが,特に御意見がないということでしょうか。 ○平田幹事 親権,子の監護に関する問題と,後でやる未成年後見の関係で,日本法も比較法的に見ても,未成年後見は親権に近い構成を採っている実体法がはるかに多いだろうと思うんですけれども,そうすると,今のこの原案だと親権喪失の審判だったら,子の住所地だけが管轄になって,その他の場合は緊急管轄で行きましょうという整理になっていて,未成年後見人の解任請求になってくると,子の住所地と子の国籍管轄と,未成年後見審判を日本でした場合の管轄と三つあって,大きくずれてくる。やはりここはパラレルになっていないといけないのではないかと思います。未成年後見審判を日本でやったというのは,未成年後見固有の問題ですから,この管轄がくっ付くのはいいのだと思いますけれども,住所地管轄,国籍管轄とで,ずれが生じているというのは若干違和感があるので,ここはどちらかに合わせる作業が必要なのではないかと思います。親権だったら緊急管轄で救うけれども,未成年後見の場合には国籍管轄がありますという形でずれるのは,ちょっと違和感があるような気がしまして,理論的には別々だという整理はできるのかもしれないんですけれども,その辺,一緒にした方がいいのではないかなという印象を持っています。 ○高田部会長 ありがとうございます。他に御意見がないようでしたら,今の点は,未成年後見のときに改めて御議論頂くということにさせていただければと思います。   部会資料3-2の5ページの5の合意管轄,応訴管轄,更には離婚のときには同意ないしは承諾に関わる管轄というアイデアもあったように記憶しておりますが,この点はいかがでしょうか。 ○池田委員 子の監護について親が取り決めるような場合に,面会交流と密接に関連して,何か違反があった場合にはこちらに戻すとか,そういったような条項があったりすると思うんですけれども,それが別の国に行ったときに,あらかじめそこの地できちんとした裁判をしておきたいというようなニーズが,特に転々とするとか,いろいろな動きがある場合にあると思われまして,多くの場合,調停の合意管轄のような形でできる場合もあるのかもしれないんですけれども,最終的に一致しない場合に審判にしてほしいという場合もあるかもしれず,そういったことを考えると,あらかじめこれから子が行く場所について管轄を定めておきたいとか,そういったニーズがあり得るのではないかと思って,そういうことに応えるようにしておきたいという気はしております。 ○高田部会長 いかがでしょうか。池田委員によりますと,そのニーズに応えるためには,やはり合意管轄によることになるのでしょうか。 ○池田委員 要するに子はまだ審判をしようとする国にはいないんですけれども,行ったときにはそこでの審判に従うということですから,そういうことです。 ○秋吉委員 前回,離婚のときにも合意管轄の問題点が出ていたと思うんですけれども,子の事件というと,更に裁判所の後見的役割とかも,福祉的機能とかも重視される事件ですので,合意管轄,応訴管轄というのは,認めない方向がよいのかなと考えております。 ○池田委員 つまり,将来といいますか,今はまだ子がいないけれども,来たときにするという,何らかの定めというのがないと,安心して例えば日本に送り出せないという場合に,日本の裁判所であらかじめ決めておきたいと。それはそれなりにそういうニーズ,そうでないとそもそも日本に来ることもできないので,決めていないと出せないというときに困ってしまうということがありそうな気が,実際にもあるんですけれども,そういったニーズにはお応えいただけないものなのでしょうか。 ○大谷幹事 そういうニーズがあるのはそのとおりなんですけれども,ただ日本から子が連れ去られて,それで外国で返還の裁判,例えばハーグ条約の下でも,返還裁判の中でいわゆる今おっしゃったような、日本に連れ帰ったときに,日本の中で面会交流をきちっとさせるとか,そういうミラー・オーダーという言い方をされているものがないと帰さないという実務が実際に発展していて,そういうニーズはあるんですけれども,例えば今の例であれば,子の常居所が日本にあるという考え方で管轄を認めることができ,それから子が日本にまだ来ていなくて,外国からいわゆるリロケーションと言われる,日本に一時的か永住的かは別として行かせた後に,面会交流がきちっとされることというのを,日本側で先にオーダーとしてとらないと,一時的若しくは永住的に行かせないという実務が外国であって,そのときには常居所が外国でありますので,今議論しているような本来管轄がないんですね。そのときには合意でないと管轄が発生しないというのはそのとおりなんですが,今のような事例はいずれの場合も,当事者の合意がベースになっているので,これは後の議論で調停合意の管轄を認めるかどうかに関わってくるんですけれども,今,それで大々的に調停という形で,そこを実務上,便宜的に使っているんですね。なので,今池田先生がおっしゃったようなニーズのために,一般的に子の監護事件について,合意管轄を一つの管轄原因として置くということまですると,私はやはり広すぎるのかなと思います。そういうニーズがあることはそのとおりなので,それを今やっているような何らかの実務上の工夫でやっていくのか,若しくは将来的に外国でコンセントオーダーという形でやっているようなもののために,何か特別の管轄原因を置くのか,みたいな話なのかなという気がしています。 ○高田部会長 では,ここで休憩を取らせていただきたいと思います。では,3時40分頃再開させていただきたいと思います。           (休     憩) ○高田部会長 では,再開させていただきます。残りの部分について,御説明頂きます。 ○河野関係官 それでは,部会資料3-2第2ないし第4について御説明申し上げます。部会資料第2及び第4は,子の特別代理人の選任の審判事件と都道府県の措置についての承認等の審判事件の国際裁判管轄の規定につきまして,規定を置かないことを提案するものでございます。   前者につきましては,規定を設けないことといたしましても,嫡出否認の訴えの国際裁判管轄に関する規定があれば足り,少なくとも解釈に委ねるということは考えられること,後者につきましては,我が国の都道府県の措置に対する我が国の裁判所の承認につきまして,我が国,管轄権があることは当然ではないかということ,また,他国が管轄権があるものとして裁判を行い,その承認が我が国で問題となる事態が余り想定できず,一般的な単位事件類型を想定する必要性には乏しいのではないかと考えております。   この点につきましても,お気付きの点がありましたら,御意見を頂戴できればと考えております。   第3の子の財産の管理に関する処分の審判事件につきましては,子の住所又は財産が日本国内にある場合に,管轄権を公定する規律を設ける案と,特段の規律を設けずに,子の監護又は親権に関する審判事件の規律がそのまま妥当するものとする案を提示しております。この点につきまして,よろしく御審議頂ければ幸いです。 ○高田部会長 それぞれ、結論としましては,特に規定を設ける必要はないのではないかというのが原案でございますが,御意見頂ければと存じます。 ○山本(和)委員 第3なんですけれども,どれぐらい世の中にあるんだろうみたいな類型で,個別の規定を設けろとは言わないですけれども。ただ,ここに書かれている乙案の考え方だと,子の監護親権に関する審判と同じということだとすれば,財産所在地の管轄は認めないということになるような気がするんです。何となくこれは民法の規定を見ても,不在者の財産管理人の権限の規定が準用されていたりして,そちらと似たような事件類型であるような感じがしまして,そうすれば甲案にあるような財産所在地の管轄というのはあっていいというか,必要なような感じもするものですから,規定は置かないとしても,少し子の監護,親権と同じだということを断定的に言うのは,ちょっといかがかなという感じはしています。 ○道垣内委員 規定を置かないという趣旨ですけれども,それは,どんな場合でもできるということを意味しているのですか。それとも全体を引き受ける大きな管轄規定を一つ置いて,残りのものは全部その規定に基づいて判断するということなのでしょうか。私は空白地帯を作るのはよくないと思います。大きな規定で手当ができているのなら結構だと思いますけれども,できていないのなら,子の財産の問題は結構重要なのではないでしょうか。数は少ないかもしれませんけれども。めったに使わない規定だから置かないというのは,法律家としてよく分からない理由のように思います。 ○内野幹事 個別の事件類型でも解釈論として受けられるのではないかというのが,まず一つの考え方としてあり得ると思います。また,別途それでも更に疑義があるというのであれば,やはり総論的なところの規定で拾われるべきなのかということがなお議論されることになるのかなとは思っております。したがって,基本的には部会資料にありますように,いわゆる関連する事件類型の一部として,解釈論として受けられるのではないかという認識が御提案の前提としてございます。 ○久保野幹事 今の点の確認なんですけれども,第2,第3につきましては,これで特に規律を設けないと,第1の方のルールが適用されるということかと思って理解していたのですけれども,その点,確認をお願いいたします。子の監護又は親権に関する事件の方で,特に置かなければ,基本的にそこで受けるとまずは考えるということかと思っていたのですが。 ○内野幹事 事務局側の提案としては,必ずしもそういうものではなかったんですが,その方が適切だということであれば,そういう御議論を頂いた上で,再度,二読目に臨みたいなと思っております。 ○道垣内委員 そういうふうに限定してしまうと,遺産分割協議とかの場合,子の代理人に誰か選ぶようなときに,子が留学中だとなると,協議の全体が止まってしまいますね。やはり財産所在地管轄は必要なのではないでしょうか。 ○内野幹事 つまり第3の部分についてということでしょうか。 ○道垣内委員 いや,第2もそうです。利益相反の場合にもです。親が勝手に決めるわけにいかないような問題が起きてきたときに必要なのではないでしょうか。 ○内野幹事 ここのところは,日本の民法ないしは家事事件手続法の事件類型を,まず認識基準といいますか,そこを前提として,単位事件類型をまず想定して記載しております。例えば,部会資料3-2の6ページの第2の注の①の部分につきましては,嫡出否認の訴えの一環として,子の事件が位置付けられるのではないかということを問題意識として持っておりますので,あくまでこれは一つの解釈ではありますけれども,いわゆる嫡出否認の訴えのところの管轄規定でもってその管轄原因が決まっていくということができるのではないかということを提示しております。 ○道垣内委員 しかし,普通の遺産分割のときには,第2の問題として,部会資料3-2の6ページの第2の注の②の部分について,財産所在地管轄を入れた方がいいのではないかと思うわけです。そういう意味で,仮に広い管轄規定がどこかにあり,何か日本に関係していればいいですと定めてあれば,その規定で拾えばいいんですけれども,そうでないとすれば,第1に引き寄せておけばいいというものでも,必ずしもないような気がします。 ○池田委員 今の部分は,そもそも遺産分割とか,そういった対象となることについての管轄が,日本にある場合にのみ,問題になってくるということではないのでしょうか。 ○高田部会長 単独で部会資料3-2の6ページの第2の注の②が問題となる場合で,かつ子の住所では足りない場合ということ,子の住所による管轄原因は認められない場合ということになりますが。事務局は解釈に委ねるということのようでございますが,道垣内委員は財産管理に関する事件という御認識になるのでしょうか。 ○道垣内委員 例えば,子の土地が日本にあって,それに抵当権を付けたいといった場合,未成年の子は留学中ですというときに,その子どもに代わってそれを行う人を選任する手続はできるのでしょうか。 ○高田部会長 規定の仕方として,こうした個別に規定するか,例えば財産の管理という形で規定するかということになるわけですか。 ○道垣内委員 いや,私の最初の発言は,大きな包括的な規定を置くので,それによって全部救われるのであればいいけれども,めったになくても,空白を放置するのは余りよくないのではないですかということを申し上げたわけです。 ○高田部会長 包括規定がない場合にはこうした個別規定について,個々にやはり管轄原因についての規定を設けるべきだという御意見ということですか。 ○道垣内委員 それは美しくないというのは,山本和彦委員と同じ意見です。ざっくりした規定を置いた方がいいというが私が最初から申し上げていることです。 ○久保野幹事 今,御議論されていたことなんですけれども,道垣内委員がおっしゃっていた例というのは,一般的に親権者が未成年者の財産管理をしているときに,いろいろな事情で親権者や子どもは別の外国へ行っていて,土地だけあるときに何らかの抵当権を設定するなどができるようにする可能性についても,考えた方がよいというような事例ですか。 ○道垣内委員 特別代理人を選任しなければならないような場合,そういう場合があるのではないかと思ったものですから。親の借金のために,子どもの土地に抵当権を設定するというケースです。 ○久保野幹事 やはり第2の類型の中でということですね。 ○高田部会長 御意見は了解いたしましたので,事務局にどういう形で規律するか,解釈になるかということも含めて,なお御検討頂くということでよろしゅうございますか。   では,引き続きまして,部会資料3-3「扶養関係事件の国際裁判管轄」について,御議論頂ければと思います。資料の説明をお願いいたします。 ○河野関係官 扶養事件の国際裁判管轄につきまして,部会資料3-3に基づいて簡潔に御説明申し上げます。   まず,本文の概要です。扶養関係事件の国際裁判管轄の規律としまして,扶養義務者の防御の利益を考慮しつつ,本文①は,基本的に,扶養義務者の住所地に管轄権を認めております。   また,扶養権利者の権利の実現を促進ないし保護する観点から,申立人が扶養義務者として申立てをしている場合には,その申立人を保護する要請というものは必ずしも高くないことから,本文①括弧書きでは,扶養義務者が申立人となる場合には,管轄権を認めないものとすること,また,本文②では,扶養権利者を保護する観点から,扶養権利者の住所地を管轄原因として提示しております。   これは,扶養関係事件においては,扶養権利者を保護する観点から,扶養義務者の住所地に加えて,一定の扶養権利者の住所地に管轄を認める外国法制が多いことなどを踏まえるものです。   なお,法制上の問題とも言えますけれども,「扶養義務者」の用例につきましては,例えば家事事件手続法第182条で,「扶養義務者となるべき者」との用例があるところでございます。これに倣って「扶養義務者となるべき者」とするべきかなどについて,御意見があるかもしれないと考えております。   なお,子の監護に要する費用の分担の処分の審判事件の場合にあっては,子の住所地が日本にあるとき,又は子を監護する者の住所地が日本にあるときに管轄権を認める案を提示しております。この点につきまして御審議頂ければと考えております。   また,詳細な説明は省かせていただきますけれども,日本法にはないような制度,例えば離婚後の扶養につきまして,解釈に委ねることを提案しております。   説明は以上とさせていただきます。よろしくお願いいたします。 ○山本(和)委員 細かい点ですけれども,今,言及がありましたその扶養義務の設定の場合には,やはり扶養義務者となるべき者ということにする必要はあるのではないでしょうか。そうでないと,扶養義務の設定の場合は,この①が働かなくて,②だけになるとかということになりかねないような気もしますが。 ○高田部会長 ありがとうございます。ほかに御意見いかがでしょうか。 ○秋吉委員 この①,②の扶養義務者という言葉ですけれども,最終的な扶養義務者ということではなくて,扶養義務者と主張している者というくらいの理解でよろしいわけでしょうか。ちょっとそこだけ確認をさせていただけると有り難いです。 ○内野幹事 事務局の提案としてはそういう形で出させていただいております。 ○秋吉委員 ありがとうございます。 ○高田部会長 山本和彦委員の御指摘も含めて,管轄規定にふさわしい表現については,なお事務局に御検討頂きたいと思いますが,この段階で何かよいアイデアがあれば,お知恵を拝借できればと思います。特にないようでしたら,そういうものとして資料の用語は御理解頂ければと思います。 ○早川委員 扶養義務者になりそうな人が,複数いるときの扱いというのは,一般的にどこかでやることになりますか。例えば一人だけ日本にいるという場合ですけれども。 ○高田部会長 非常に恐縮ですが,早川委員としては何か御意見ございますか。 ○早川委員 単なる質問ですが,ほかの国にいる人も含めて,日本で起こせるのかどうか。 ○池田委員 扶養請求をする人からすれば,まとめてやりたいニーズはありそうな気はしますよね。 ○高田部会長 ニーズはありそうな気はするんですが,それで管轄を認めてよいかどうか。 ○山本(和)委員 扶養義務者の利益を考えると,アプリオリにまとめるということにはならないような気がして,併合管轄の問題なのかなという気もしますけれども,一応,管轄は別々に考えてということもできるかと思います。 ○高田部会長 そうした扶養であることの特殊性が何かあれば,ここで考える必要があると思いますが,一般的にいわゆる主観的併合の問題として捉えることも可能なような印象もありますが。 ○山本(弘)委員 それは扶養を請求される側の事情にも依存してくるので,併合請求の裁判籍の要件にどれかに当たるのかなという気がちょっとしますね。現在の民訴法の併合請求と同じ条文を置くかどうかは別として,事実上,法律上,同一の原因ということで行けるかどうかなんですかね。 ○高田部会長 貴重な御指摘だと思いますので,なお御検討頂きたいと思います。そのほかの点はいかがでしょうか。 ○道垣内委員 子である扶養権利者の側の住所地にも管轄を認めるのは,権利者から義務者に対する請求という前提ですか。民訴法の弱者の保護規定では,誰から誰への訴えかを分けて書いています。それに対して,これがこのまま採用されると,債務不存在とか,責任限定とか,そういう請求を義務者側からの訴えにも適用されてしまいそうです。そういった訴えに特則は及ばなくていいのではないかと思いますが。 ○池田委員 申立人となる場合を除くとなっています。 ○道垣内委員 分かりました。 ○高田部会長 限定できているかという問題は残るのかもしれませんが,一応,限定はされているということでいかがでしょうか。念のための確認ですが,扶養権利者には,子の監護者も含めるというのが原案でございますが,これはこれでよろしゅうございますか。  特に御意見がないということでしょうか。 ○山本(和)委員 細かいところなんですけれども,部会資料3-2の4ページの(4)の扶養義務の設定の取消しの審判なんですけれども,これは必要でないという結論ですけれども,外国の扶養権利者が日本の扶養義務者に対して日本で扶養義務の設定の裁判をしたという場合に,日本にいる扶養義務者が失業したり,病気になったりとかして,事情が変更したので,その扶養義務を取り消してほしいという請求をする場合には,これだと外国に行かないといけないという規律になるんだと思います。つまり,先ほどのように申立人にはなれない,申立人の場合はできないということになっているので,外国に行かなければいけないということになるようにも思うんですが,そういう場合は,日本の扶養義務者が日本の裁判所がした扶養義務の設定は,日本で取り消せてもいいような気が少ししたんですが。(4)のような規律で受けるのかどうかというのは,別の問題かもしれませんけれども。 ○池田委員 ただ,一方では権利者とされる人は外国とかにいるのに,応訴しないとなくなってしまうという,なんかそこは気の毒な気もするので,全体としてこの権利者に厚くしているという意味では,なくてもいいのかなという気もいたします。 ○山本(和)委員 それは分からなくもないんですけれども,ただ,やはり日本で扶養義務を設定,日本の裁判所がやったというところで,それから結局,扶養義務者の事情変更がここでは要件としては問題になっていて,その扶養義務者は日本にいるということですので,何となく,権利者に確かに気の毒だという見方もできるのかもしれないですけれども,私自身はなんか日本でできてもいいのかなと思います。特に気の毒な場合は,それは何か特別な事情とか何とかというのでもいいような気もしています。 ○久保野幹事 今のと直接重なるのではないんですが,少し似たようなケースで,扶養義務者が申立人となる場合には,順位の決定ですとか変更のときに,義務者の間でやりたいというときにも,同じような問題がないでしょうか。 ○山本(克)委員 先ほどの親権喪失のところもそうですけれども,日本の裁判所が外国の裁判所のした処分を取り消したり変更できるというのが,当然の前提になっているのですが,それはできるということでよろしいのでしょうか。つまり,他国の国家行為の取消しないし変更ですよね。日本の国家行為を他国に取り消してもいいですよ,変更してもいいですよと、日本が言う分には勝手かもしれないですけれども,外国の国家行為の取消しや変更を,日本の裁判所ができるのでしょうか。それがよく分からないのです。 ○山本(弘)委員 この外国の裁判ということを考えずに,純粋,国内の裁判を考えても,やはり再審というのは,再審の対象になる判決をした裁判所に申し立てるわけですし,請求異議の訴えなんかも,そういう形で恐らく管轄規定は出来上がっているのではないかと思うんですね。だから,国内においてすらそうなのに,まして,要するにこれは国家行為ですから,外国国家行為なので,それを取り消すというのが自明の前提なのかというのが,私もちょっと引っ掛かりを感じました。 ○大谷幹事 国家行為と言われるとそうなんですけれども,ただ,渉外事件やっていますと例えばアメリカなんかでも,監護権を決定するとか,それから監護権をターミネートするという,喪失させるとか,それはその共同親権者間でどちらにするかという問題,それから完全にそれを喪失させてしまうみたいな違いはありますけれども,いわゆる監護に関する管轄権の行使としてやっていて,それをほかの州とか国が変更するというフレームワークで議論していると,今まで私は思ってきて違和感を感じていなかったので,それを国家行為,他国がしたことを取り消せるのかと言われると,例えば1996年,子の保護条約,日本では親責任条約と言われていますけれども,あそこでもそれはなんかそういうことが前提になって議論されていると今まで思ってきました。それはいいのではないかと思っています。 ○山本(克)委員 条約がある場合には問題ないと思います。条約で国同士がそう決めたわけですから。その場合以外にできるかどうかを問題にしています。問題の設定の仕方を変えて,扶養義務の内容変更であるとか,扶養義務の喪失とか,そういうものなんだと考えるべきかどうかという話でして,日本の今の内国法制の用語で議論していることが問題であるだけであって,実質的には実体法上の権利義務関係の変更の処分だと位置付けていくべきだということであれば,それはそれで了解できるのですが。 ○早川委員 私も,今,山本克己委員がおっしゃったとおりで,外国の裁判の内容とか形式にもよると思いますけれども,多くは要するに上書きという形で済む話なのではないかと思っておりました。 ○道垣内委員 私が申し上げた親権者の変更の裁判も,変更という言葉ではありますが,基準時以降の事情に基づいて現時点では他方の親の方がいいという裁判なので,それまでにした裁判を取り消すわけではありません。一般には外国の国家行為に対しては,もちろん勝手に日本の裁判所が手を出せないのは当たり前だと思います。 ○高田部会長 私もそのような理解をしておりました。義務者の住所が日本にあるときで,かつ申立人となる場合,幾つか穴を開ける必要がある場合が出てくるのではないかという御指摘を頂いたように理解しております。個別に規定を設けた方がいいということか,取りあえず,山本和彦委員からは,(4)取消しないしは変更の審判について,設定の審判をした国という管轄原因を加えるべきではないかという御意見を頂いておりますが,その点については何か御意見ございますでしょうか。 ○山本(克)委員 先ほど言いましたように,審判の取消しであれば日本がやるべきだということになるのですが,そうではないというくくりにすると,やはり親権喪失のところと同じように,緊急管轄で拾えるときだけ救ってやるというのでいいような気がします。 ○畑委員 新しいことを言うわけではないのですが,私も義務者対権利者の場合については,穴を開ける必要は特にないのではないか。あるいは開けるとすればそれをどういうふうにうまく作るのかが,ちょっと難しいかなという気がしています。ただ,久保野幹事がおっしゃった義務者対義務者という場合については,多分この原案はそれは想定していないと思われますので,そこはちょっと考える必要があるかなという気がいたします。 ○和波幹事 義務者から義務者へ何らかの申立てをする場合には,申立人側の義務者ではなくて,相手側の義務者の住所が管轄原因となると読めるのかなと思っていたのですが,そこは違う理解なのでしょうか。 ○竹下幹事 私も誤解しているかもしれないんですが,順位の話のところで,久保野幹事が挙げられたんですが,基本的に①の規律で上手くいくと思っていて,すなわち,義務を変更したいと申し立てる人が,相手方の義務者のところに行って裁判しなさいというのは,正に義務者対義務者が,もちろんここの扶養関係事件の中に入ってきて,通常の民事訴訟ではないものの,やや対立的な様相があるとすると,①でほかの義務者のところの住所地に行って訴えなさいということでよいのではないかと個人的には思っています。 ○小池幹事 公的機関の費用償還のところで,性質が違うというような理由付けで外すということが書かれているんですけれども,国によっては法定移転という形で,扶養権利者の権利がそのまま公的機関に移るという制度を採っているのがあるので,先ほど山本克己委員がおっしゃったように,それはもう求償の問題だから民訴でやれよということで受けているという理解でいいんですかね。これを外したという場合ということですけれども。 ○河野関係官 まだ定見というものではないですけれども,原案の趣旨としましては,やはりここで想定している扶養権利者と言いますのは,正に扶養を必要としている人というものを想定していまして,他方で公的機関に移った場合につきましては,そういった保護を必要とするものではないかもしれないと現時点では考えております。そういった考慮を含めまして,法定移転の国もあるということは,研究会の中でも言及されていたかと思いますが,現時点での提示としましては原案には含めていないというところでございます。 ○高田部会長 小池幹事としてはやはり求償の問題だからという理由で外すのが適切であるということですか。 ○小池幹事 そうしないと,受け皿がなくなってしまうので,どこかで受けないとまずいとは思いますから,受け皿があれば,それはそれでいいと思っています。 ○大谷幹事 離婚後扶養なんですけれども,この御提案では,特別な規律を設けないこととすることが考えられるという御提案ですが,そうするとこれは財産分与という性質決定をし,そっちの国際裁判管轄で行くのか,この扶養関係事件と性質決定するのかを解釈に委ねると,オープンにするという御提案と理解してよろしいんですよね。 ○内野幹事 結構です。 ○竹下幹事 今の点と関係して,一般的なことなんですが,国際私法の単位法律関係だと,ある具体的な問題については,いずれか一つの単位法律関係に性質決定しなければならないと言われている一方で,解釈に委ねるといったときに,複数の単位事件類型に性質決定という言い方がいいかは分からないんですが,そうされる可能性もあるということなのか,そうではないのか。この単位事件類型というもの,ちょっと確認だけさせていただければと思います。 ○内野幹事 この部会での単位事件類型に係るご議論は,日本の事件類型を一つ認識基準として,準拠法等が外国法になったときを必ずしも直ちに排除しない,そういうものとして事件を捉えていったときに,規律としてどう在るべきかを議論しようということで,始まっていますので,事務局として,今の段階で竹下幹事からの御質問に直ちに答えることは困難なんですが,単位事件類型とはどう在るべきかというところは,もう1回この部会でのテーマとしてやるべきことなのかなと思っています。 ○竹下幹事 ということは,基本的にその辺りはまだ解釈で,これからどういう規定ができてくるかによっても変わってくるだろうということでしょうか。 ○内野幹事 御議論頂きたいと思っています。 ○大谷幹事 離婚後扶養については,個人的には財産分与と性質決定すべきと私個人は考えています。それで,あえて解釈に委ねると。なんか一問一答とかで書かれるのか,判例に任せるのか分かりませんけれども,一つの考え方としては,準拠法についてですけれども,扶養義務の準拠法に関する法律では,同じような問題が出ることについて,離婚の当事者間の扶養義務については,離婚の準拠法と決めているわけですよね。決め打ちしているので,同じような考え方で,子の扶養関係事件の国際裁判管轄から,いわゆる離婚時,離婚後扶養を除くとかいう規律の仕方もあるのかなと,私は個人的には思っています。 ○早川委員 今の点については,そのとおりだと思うのですけれども,一つだけ付け加えておくと,日本の現在の扶養義務準拠法に関する法律の元になっている1973年ハーグ条約の改訂版が,2007年のハーグ扶養条約の議定書(プロトコール)としてできていて,そちらでは,元夫婦の間の扶養の準拠法の決め方について,元の条約の,離婚の準拠法によるという規定が非常に評判が悪かったので,全く新しいやり方に変えたのですね。その議定書はまだ日本は批准していませんけれども,そちらに変わるとまたちょっと話は変わってくるので,一応,それだけコメントしておきます。 ○大谷幹事 私は日本も早く2007年条約に入ってほしいなと思っているので,それだとむしろ扶養関係に入れているということですか。 ○早川委員 すみません,資料が手元にないので正確なことは申し上げられませんが,離婚の準拠法によるのでは駄目だというので,全く新しい方法に変えています。扶養権利者の常居所地法を原則としつつ,最後の共通常居所地法など,より関係の深い法律があるときにはそれによるというような複雑な決め方をしていると思いますけれども,むしろ扶養としての性質決定に近いのではないかなと。 ○大谷幹事 もしそうだとすると,ちょっと先ほどの発言を留保ないしは撤回したいと思います。 ○高田部会長 この際ですので,離婚後扶養について何かほかに御意見,御提案があれば承りたいと思いますが。  特にないようでしたら,先ほど事務局からありましたような趣旨で解釈に委ねるということとを想定するということで,取りあえず先に進めたいと思いますが,ほかに扶養につきまして,何か御意見ございますでしょうか。   ないようでしたら,先に進みたいと思います。それでは,続きまして部会資料4-1「相続関係事件」について,御議論頂きます。資料の説明をお願いいたします。 ○沖本関係官 それでは,部会資料4-1のうち,まず本文及び補足説明の1から3までについて,説明いたします。   本文では相続関係事件の単位事件類型を相続に係る審判事件とした上で,二つの管轄原因を設けることを提案しています。   続いて補足説明です。管轄原因の一つ目は,被相続人の住所地に関わるものです。相続開始のときにおける被相続人の住所地は,被相続人の生活の本拠であり,これが日本国内にあるときは相続に関する証拠や,関係人の多くが日本国内に存在する可能性が高いと考えられることなどから,一般的に,我が国の裁判所が関係者の利害を調整し,事件を適切に処理することを期待することができると言えます。   そこで,原則として,相続開始のときにおける被相続人の住所地を管轄原因とすることを提案しています。もっとも,推定相続人の廃除の審判事件,推定相続人の排除の取消しの審判事件,遺留分の放棄についての許可の審判事件,遺言の確認の審判事件については,被相続人の死亡前に申立てをすることが可能であり,そのような申立ての場合については,単に被相続人の住所地を管轄原因とすることを提案しています。   ところで,遺産の分割の審判事件のように,相手方のある事件類型については,相手方の住所地を独立の管轄原因とすることも考えられますが,このような事件は相続人共通の利益のために申立てをされる面があり,相続人間の公平の見地から,相手方の住所地を独立の管轄原因とする必要はないと考えられます。そこで,本文では相手方の住所地を管轄原因とすることを含む提案をしておりませんが,この点について,御意見がありましたらお願いいたします。   管轄原因の2つ目は,相続財産の所在地に関わるものです。相続財産の所在地を管轄原因としますと,相続財産の管理や清算の実効性を確保しやすいなどの利点があるものと考えられます。しかし,相続に係る審判事件一般について,単に相続財産の所在地を管轄原因とした場合には,我が国の裁判所において外国に所在する相続財産まで含めて分割をした審判が,直ちに当該外国で承認されるとは限りませんし,相続財産の大半が我が国に,僅かな一部分が外国にそれぞれ所在し,当該外国で相続財産全体の分割の裁判がされた場合に,我が国において間接管轄の要件が具備されていないことを理由として,当該裁判の承認,執行がされない場面は少なくなると考えることもできます。これらの点を踏まえ,本文では,相続財産の所在地を管轄原因とする場合には何らかの限定をすることが相当であるという考え方に立ち,民事訴訟法第3条の3第3号を参考に,日本国内にある相続財産の価額に着目した限定をすることを提案しています。   仮に,相続財産の所在地について何らかの限定をして管轄原因とする場合,そのような限定の方法としては,本文の提案のほかに,事件類型を限定する方法,管轄権の行使を限定する方法,相続財産を限定するといった方法,複数の要素を組み合わせた管轄原因を設ける方法などが考えられます。   このうち,まず,本文の提案については,民事訴訟法の規定を参考にしたと申し上げましたが,相続に係る審判事件の場合は,相続財産全体を考慮しなければならない場合がありますので,必ずしも民事訴訟と同様に考えることはできないという批判も考えられるところです。   次に,事件類型を限定する方法についてです。相続財産の所在地と密接な関連を有すると考えられる事件類型としては,例えば,相続財産の保存又は管理に関する処分,財産分離,相続人の不存在の場合における相続財産の管理に関する処分,特別縁故者に対する相続財産の分与,遺言執行者の選任,相続の場合における祭具等の所有権の承継者の指定の各審判事件を挙げることができます。しかし,相続財産の所在地との密接な関連性と申しましても,程度問題であり,事件類型によって管轄原因とするかしないかの線引きが困難であると考えることもできます。   次に,管轄権の行使の範囲に制限を設ける方法としては,例えば,日本国内にある相続財産のみを対象として管轄権を行使することができるという限度で,相続財産の所在地を管轄原因とすることは考えられます。しかし,我が国の国際私法が相続統一主義を採用していることなどからすると,このような方法の採用は困難であると考えることもできます。   次に,一定の要件を満たす相続財産の所在地を管轄原因とする方法としては,例えば,不動産の所在地,登記又は登録が可能な財産について登記又は登録をすべき地,といった相続財産の種類に着目した要件,相続財産のうち主要なものに着目した要件,一定の価額以上といった相続財産の価額に着目した要件を設けることなどが考えられます。さらに,今挙げた各種の方法や要件を組み合わせて管轄原因とすることも考えられるほか,単に相続財産の所在地を管轄原因とした上で,事案に応じて,特別な事情による却下に委ねるといった方法も考えられます。   以上の点を踏まえ,相続財産の所在地を管轄原因とすることについては,そもそも管轄原因とすることの是非を含めて,仮に管轄原因とする場合にどのような方法で管轄原因とすべきかについて,御審議をお願いいたします。   続いて,被相続人の国籍についてです。被相続人が国籍を有する当該本国に相続財産や関係人が存在する蓋然性が必ずしも高いとは言えないことから,直ちに被相続人の本国で裁判をすべき具体的な必要性があるとまでは言うことはできないとも考えられることから,本文においては,相続に係る審判事件に共通する管轄原因としては,本国管轄を認めることを提案しておりません。この点について御意見がありましたらお願いいたします。なお,事件類型に応じて本国管轄を含む特則を設けることにつきましては,部会資料4-1の補足説明の4以降で説明をして御審議をお願いする予定です。   補足説明の3までの説明は以上です。 ○高田部会長 補足説明の1から3までについて御意見を頂きたいと存じます。どなたからでも,御自由に御発言頂ければと存じます。 ○山本(和)委員 先ほど質問したのと同じことなのですが,本文の1の住所地というのは,居所あるいは最後の住所を含むのかどうかという原案の御趣旨をお聞かせいただければと思います。 ○沖本関係官 含んでいないという前提です。 ○山本(和)委員 そうすると,住所がない,世界中に住所がなくて,居所だけある人というのは,本文の1の対象にならず,本文の2だけで受けるという前提でしょうか。 ○内野幹事 論理的には,本文の提案としては,そのようになります。離婚等の議論の際に,管轄原因に住所というものを採用する場合,いわゆる普通裁判籍というような観点で,段階的に,居所,最後の住所と進んで行くべきかどうか,という点に言及があったとか思いますが,ここでも,本文の提案としては住所であるということで御理解頂いた上で,その適否を御議論頂く。その方が適切であると考えて提案しています。 ○山本(和)委員 この相続財産所在地の管轄がどうなるかにもよると思うんですけれども,まず,管轄原因から相続財産所在地が消えてしまうとすると,先ほど私が申し上げたような法制的な問題,すなわち,世界のどこにも管轄がなくなるという問題が発生するということ,それから,仮に,管轄原因として相続財産所在地が残ったとしても,相続財産が世界中に散らばっている場合,それぞれの所在地が管轄を持つということになりますが,それがいいのかどうかということが問題になり得る気がしています。民事訴訟法の3条の2は,普通裁判籍ということで,住所,住所がないときは居所,居所がないときは最後の住所という段階的な連結にしているように思いますし,誤解かもしれませんが,恐らく,家事事件手続法における相続開始地というのも,段階的な連結をしているものと思っていまして,それと違える必然性がどこまであるのか,疑問に思います。 ○高田部会長 いかがでしょうか。この問題は繰り返し出てきておりますが,住所管轄を認める趣旨にもよるかと存じますが。 ○山本(克)委員 身分関係の場合と違って,相続関係事件については山本和彦委員の御提案に賛成で,最後の住所まで含めるという点も含めて,管轄原因を広く認めていく方がいいのではないかと思います。 ○高田部会長 いかがでしょうか。相続財産の所在地に関わる管轄原因に関わりなく,被相続人の住所地に関わる管轄原因により,最低限一つは管轄を有する国が確保されるような法制にすべきではないかという御意見と存じますが。 ○竹下幹事 今の点で一点気になります。私も,基本的には住所概念を統一的に定める方がよいと思っており,居所と最後の住所とのいずれが優先するのかについては,基本的に山本和彦委員の意見に賛成で,民訴法では,住所がないなどの場合に居所,居所がないなどの場合に最後の住所により管轄権が認められます。しかし,相続関係事件の場合,被相続人が亡くなるとき,日本の住所はもうなくなってしまっているが,たまたま居所が日本にあったという場合と,居所は別の国にあるが,最後の住所は日本であったという場合を考えると,居所と最後の住所の優劣関係だけはもう少し検討する必要があるのではないかと思いました。 ○高田部会長 では,その点については御意見頂いたということで,なお御検討頂くことにしたいと思います。   ほかに御意見ございますでしょうか。 ○山本(克)委員 相続財産の所在地管轄について,私は,属地的,つまり,日本国内でのみ効力を有するような処分をする場合,典型的には相続財産管理人の選任ですけれども,そういう場合に限って相続財産の所在地管轄を認め,ほかは本文の1の方の本来的管轄に委ねるべきであると考えています。本文の1の方でも,被相続人の死亡時の住所地がある外国の裁判所がした相続財産の管理に関するような処分について,日本で承認すべきであると思いますが,日本でされた処分と競合してよいかどうかなど,難しい問題があります。ですが,まだ相続開始地で何らの処分もされていない段階で,日本の相続財産を守るために,日本で何らかの処分をすることはできてよく,その限りで相続財産の所在地管轄を認めるべきではないか,そして,その場合の処分は,属地的な効力,日本の国内でのみ効力を有するというような仕切りでどうかと考えます。承認援助手続のような考え方になるということです。 ○山本(弘)委員 全く私も同じことを考えていまして,相続放棄,限定承認,財産分離,相続人不存在の場合の相続財産法人など,相続関係事件のうちかなりの部分が,基本的には清算ですよね。なので,モデルとして,直接管轄,間接管轄,承認援助を含めて,やはり倒産事件の管轄が,私の頭の中にイメージとしてあります。だから,財産所在地の管轄は,正に属地的なその財産限りで,国内債権者保護のために日本が例外的に管轄権を行使する,そういうイメージが,この相続問題を処理するときに,一番すっと頭の中に入ってくる処理なんですね。なので,御提案だと,相続財産が日本国内にあるときであっても,準拠法が相続単一主義を採っているので,全世界にその効力が及ぶというのが原則だという立場から書かれているけれども,どうも私はそれはぴんと来ないんですね。 ○北澤幹事 御提案の最初の部分で相続全体に管轄が及ぶというところは,これは肯定するとして,二つ目の財産所在地を管轄原因とする場合には,やはり効力は限定されるべきだと私は考えております。原則としての最初の管轄で効力が認められる範囲と違って,この相続財産所在地管轄を認めなければいけないときというのは,今,山本弘委員もおっしゃっていましたように,非常に例外的な場合なのではないかと。たまたま財産が日本にあったことで,ほかにも財産が外国にあるかもしれないにも関わらず,相続財産全体にまで効力が及ぶということには,非常に疑問を感じております。   事務局の方で最初に御用意頂いた資料の中に,相続の処理について,日本は国際私法上,相続統一主義を採っているから,それとの整合性はどうなのかという疑問が提起されているわけですけれども,例えば,準拠法について相続統一主義を採り,管轄原因として被相続人の常居所を設け,更に財産所在地管轄を設けているような立法例として,今回資料で挙げられておりますEUの相続統一規則があります。これは,原則的な管轄原因として被相続人の常居所地管轄を認めているということですが,元々,この規則は,準拠法決定ルールについては被相続人の常居所地法によることとしていますので,管轄と準拠法の一致,そこでは正に相続を統一主義的に扱うルールなんだと思います。この規則はさらに補充的な管轄原因として財産所在地管轄を挙げていますが,財産所在地管轄には幾つか段階がございます。EUの相続統一規則では,4条が原則的な管轄で,常居所地管轄ですね。これは相続全体に効力が及ぶ管轄です。それに対して,10条の方は,財産所在地管轄ですが,これは1項と2項とに分かれていまして,財産所在地管轄の中にも,相続全体に効力が及ぶ場合と,もっぱら財産にのみ効力が及ぶ場合とで,規定が分かれています。10条1項の方は,裸の財産所在地管轄ではなくて,死者が死亡時に加盟国の国籍を持っていたこととか,財産所在地と被相続人との間の何らかの関連性の要件を付加した上で,相続財産全体に効力が及ぶような財産所在地管轄を認めています。それに対して10条2項の方は,正に裸の財産所在地管轄で,今この部会で提案に出ているようなものだと思いますけれども,EUの規則の方では効力が及ぶ範囲を限定しており,事務局のご提案のようにそこまで広い効力を財産所在地管轄に認めてよいのだろうかというところが,私のそもそもの疑問です。このEUの規則のように,相続統一主義に立つような立法であっても,財産所在地管轄については,細かな配慮を別途しながら規定を設けている例もありますので,そういったものを参考にしていくと,そこまで強い効力を財産所在地管轄に認めてよいのかという点で,私は相当疑問を持っております。 ○和波幹事 相続の問題については,単位事件類型の中に様々なものが含まれているということで,一括で議論するのが難しい面もあると思うのですが,遺産分割を取り出してみると,相続財産が日本にある場合に,被相続人が外国にいても,相続人が日本にたくさんいらっしゃるという場面は幾らでも想像できます。そのような場面で,相続財産の価額がどの程度かという問題はありますが,日本にあるかなりの財産とともに,外国にも幾らか財産があり,それについても遺産分割という形で,相続財産全体について判断を求めたいというような事例が実際にありますし,当事者の方でそのようなニーズもあるのではないかと思います。もちろん,外国にある財産を含む相続財産全体について遺産分割という形で判断をした場合に,その審判が外国でどういうふうに扱われるか,例えば,その審判が外国で効力を有することを前提に実際に預金が下せるのかどうかといった問題はあるわけですけれども,少なくとも当事者の方がそのようなリスクも踏まえて,なお日本で相続財産全体について遺産分割等で判断をしてほしいと望んだ場合に,判断の対象,効力が日本の国内にある財産だけであるということでよいのかどうかは,議論の余地があると思っております。 ○山本(克)委員 遺産分割については,複数当事者がいるわけですので,申立人だけが外国にある財産を含む相続財産全体について遺産分割をしたいと思っていることをもって,ニーズがあると言えるかどうかが問題であると思います。全員がそのように思っているのであれば,管轄合意をすればよいのです。被相続人の死亡時の住所地国でされた裁判と,日本で一部の相続人の申立てによりされた審判とが抵触するような場合に,どう扱うべきか,という点が問題になるわけですから,少なくとも申立人のニーズがあるというだけでは,外国にある財産を含む相続財産全体について遺産分割をすることができることにはならず,当事者全員がそのような処理を望むのであれば合意管轄で処理することになるのではないでしょうか。 ○和波幹事 今の点は重要な御指摘だと思うのですが,遺産分割の場合には,当事者が多数いて,そのうち一人だけが,遺産全体について遺産分割をすることについて反対をしているという場面も割と想定できます。そういった場合にも,絶対に全員が同意をしていない限り,遺産全体について判断することを認めるべきでないということを,管轄の場面で認めるかどうかというのは,議論があり得ると思っております。 ○山本(克)委員 それは,多数決原理を妥当させていい場合かどうかという問題なので,私は無理であると思っております。 ○山本(和)委員 和波幹事に質問なのですが,今のお話は,相続財産がある程度あれば,という前提でお話しされたと思うのですけれども,そのある程度あればというのは,全体との比率で相当程度を占めているという話なのか,あるいは,相続財産の価額を絶対額で見て,という話なのでしょうか。 ○和波幹事 実質論を考えれば,今,山本和彦委員がおっしゃったように,全部の相続財産のうちで主要なものがある場合,とするのが望ましいのかもしれません。ただ,主要なものがあるかの判断をすることは非常に難しいという場合には,事務局の提案では価値が著しく低い場合を除くということにはなっておりますが,一定の財産があり,先ほど山本克己先生がおっしゃったように,一部の申立人のニーズだけで認めてよいのかという問題はあるのかもしれませんが,当事者の方にその一定の財産について遺産分割を求める意思がある場合には,管轄を認めるとするのはあり得る判断ではないかと思っております。もちろん,このような意味での財産所在地管轄が必須であるということまで,今,申し上げるつもりはありませんが,少なくとも財産所在地管轄を前提として遺産分割をしているという実務はあるように思いますので,それを踏まえた御議論は必要かなと思っております。 ○山本(和)委員 仮に,本文の提案が,相続財産の額を絶対額でみる,ということだとすると,私は,やはり民事訴訟法の3条の3の第3号の場合とはかなり状況が違うように思います。民事訴訟法3条の3第3号の財産は,強制執行の前提としてそれなりに意味のある財産,あるいは,道垣内委員などのお考えかもしれませんが,請求額と比較して一定の額の財産をいうもので,それは分かりますけれども,相続財産の場合,絶対額というのは多分意味がありません。絶対額として1,000万というと,我々からすればものすごい財産だと思うわけですけれども,世の中には1,000億の遺産を持っている人が一杯いるわけで,そのような人にとっては,当然,1,000万の財産があるからといって何で日本に管轄があるのですかという話になるように思います。そうすると,相続関係事件の場合は,やはり全体との比率で考えざるを得ないような気がいたしておりますが,それは,和波幹事もおっしゃったように,多分非常に難しいと思うんですよね。ですから,私は,民事訴訟法の3条の3の第3号を参考にして財産額で区切るというのは,相続関係事件の財産所在地管轄を考える場面においてはなかなか難しかろうという印象を持っております。 ○高田部会長 いかがでしょうか。御意見を伺って恐縮なのですけれども,この民事訴訟法3条の3第3号を参考に財産の額で区切るのは難しいけれども,他の区切り方はあり得るという御趣旨なのでしょうか。それとも財産所在地管轄を認めること自体がやはり難しいだろうという御趣旨なのでしょうか。 ○山本(和)委員 今,両山本委員と北澤幹事がおっしゃった御意見の間にはやや違いはあったのではないかと思いますが,私の意見は,どちらかといえば北澤幹事の御意見,すなわち,相続統一主義というのはなかなか難しい問題のようには思うのですけれども,日本にある財産の限りで分割する,先ほどの倒産の比喩でいえば,一種の並行倒産ということになると思いますが,その限りで清算をするということが認められてもいいのではないかなと思っています。もちろん,それは主たる管轄地である住所等がある国ではまだ遺産分割がされていない場合ということになりますので,日本でされた遺産分割の結果がその主たる管轄国でも尊重されて分割がされるであろうということを期待し,また,外国の財産所在地でそのような分割がされた場合には,日本でもそれを考慮に入れて分割をするという形で処理ができるのではないかなという印象を持っており,そのようなことは考えられないかということです。 ○内野幹事 相続に係る審判事件は多様な事件を含んでいるのですが,今のお話は,少なくとも遺産分割の場面についてのものでしょうか。 ○山本(和)委員 そうです。それ以外の場合は,山本克己委員,山本弘委員の御意見に賛成で,相続財産管理や財産分離といった類いのものは,財産所在地管轄を基本的に無条件に認めてよく,例えば,特別縁故者や祭具等の所有権の承継などは,基本的には遺産分割とパラレルに考えるべきものであって,そちらで財産所在地管轄が認められるかどうかということに係ってくるのかなと思います。やはり,事件類型ごとにかなり違うというのは,和波幹事が言われたとおりだと思っています。 ○高田部会長 議論を錯綜させないために,直前に問題となっております遺産分割に議論を絞らせていただきたいと思いますが,財産所在地管轄を認めるべきでないという御意見と,財産所在地管轄を認めても,日本国内の財産のみの分割というものを想定すべきであるという御意見がございました。北澤幹事は,EU規則の10条を引用されましたけれども,そこでは,10条1項に基づいて管轄が認められれば,相続財産全体を分割することになるわけですね。 ○北澤幹事 EU規則のように,財産所在地管轄に何か付加的な要素を掛け相続財産全体を分割するといったような管轄原因の規律については,立法としては非常に興味深いものであると考えてはいますが,果たして実際に何が付加的な要件として適切なのかという点については,まだ詰め切れていない部分がございまして,今のところは,事務局からの提案のようなシンプルな形のものを考えております。 ○高田部会長 遺産分割についてはいかがでしょうか。 ○山本(弘)委員 遺産分割について,属地的な処分をするものに限定して財産所在地管轄を認める場合,考えられる事案としては,被相続人住所地で遺産分割はやってしまったのだけれども,たまたまそこから漏れた財産が日本にあったということが後から分かったという場合があります。この場合に,もう一遍遺産分割をやり直すというのは非合理的ですから,日本にある財産を競売にかけて,相続分に応じて分配するというようなことはあるだろうと思いますが,そういう場合でない限り,やはり遺産分割というのは,遺産全体をまずリストアップして,それを具体的相続分なら具体的相続分に応じて,相続人の誰に配るかというスキームの決定なわけですから,これはそもそも属地的な処分をすること自体になじまないのだろうと思います。そういう意味では,財産所在地管轄を遺産分割について管轄原因とするということについては,今,私が申し上げたようなごくごく例外的な場合であればともかく,そうでない限り,むしろ認めるべきではなく,管轄の合意が可能であればそれをすべきであるし,それができないのであれば,被相続人の住所地管轄地でやるべきものではないか,というのが私のイメージです。 ○秋吉委員 例えば,日本には自宅があって,外国に,ほかにちょこちょこといろいろな資産がある,というときに,仮に,日本にある財産に限って遺産分割をした場合には,代償金のようなものは支払えないということになるのであれば,金銭を受け取ってもらえればうまく分割できるとしても,その支払ができない以上,遺産分割は断念するということになるのでしょうか。あるいは,遺産分割の際には,よく,特別受益や寄与分などの御主張も出されますが,それらについては,相続財産についての全体的な解決という枠組みだから実体に合った解決ができるという感覚があります。その辺りがどのようになってしまうのか,イメージがつかみにくいのですが,教えていただければと思います。 ○山本(和)委員 私は,基本的には,日本に財産があって外国にどの程度の財産があるか分からないという,和波幹事がお話されたのと同じような場面についてのイメージを持っています。ただ,主たる財産がある,財産の比率が大きい,といった要件を管轄の規律に書き込むということはなかなか難しいと思いますので,主たる管轄がある外国に,かなりの財産があることが明らかな事件については,特別の事情で却下するということで考えざるを得ないのではないかと思います。しかし,そうなると,管轄が全然ないというときに,緊急管轄でこれが拾えるのだろうかというのは,私はやや疑問を持っているところなので,そういう意味では,この財産所在地という管轄を残さざるを得ないし,残すとすれば,そういう属地的なものと考えざるを得ないのではないかということです。 ○秋吉委員 属地的にしたときに,寄与分や特別受益というのは,それぞれで考えていくわけですか。 ○山本(和)委員 そうですね。それは確かに難しい問題ですけれども,それぞれで考えるということになるのでしょうね。 ○秋吉委員 その辺が,統一的な解決というところからすると,本当にそれでよいのかなという感じがします。 ○高田部会長 いかがでしょうか。想定できる事件としては,山本和彦委員がおっしゃるように,日本にかなりの財産がある場合,例えば,リタイアされた方が身一つで外国で生活を送られ,被相続人も専ら日本に住所を有し,相続財産も日本にほとんど存在するという場合があり,この場合に,被相続人の死亡時の住所地,相続開始地によっては日本に管轄が得られないことがあり得ますが,そうであっても,結論として日本に管轄を認めるということがあり得るというのが,和波幹事や山本和彦委員の御意見です。ただ,財産所在地という形で管轄を法定するのが妥当かどうかというのは,別の問題ではありますが,その辺りの御感触はいかがでしょうか。  山本克己委員,山本弘委員は,今のような場合でも,やはり相続開始地,例えば,リタイアされた方が身一つで生活を送っていたオーストラリアならオーストラリアで遺産分割をすべきだということになるのでしょうか。 ○山本(弘)委員 やはり遺産というのは,被相続人のものですから,被相続人が亡くなったところで遺産分割をするのが筋ではないでしょうか。 ○池田委員 先ほど,日本にある財産がたまたま遺産分割の対象から漏れてしまっていた場合,というお話が出たのですけれども,例えば,外国で日本人が亡くなった場合に,その外国の管財人のような人の権限が及ぶ範囲は,場合によって結構違っていて,日本にある不動産にはその権限が及ばない場合がありますよね。だから,日本にある相続財産が外国における処理の対象とならずに残されることは,必ずしも例外的ではなくて,頻繁に起こるという感じがします。 ○早川委員 言葉の確認ですが,本文の2のただし書の方にある,相続財産の価額が著しく低いときを除く,ということの意味について,山本和彦委員は絶対額とおっしゃっていたようですけれども,それは本文の記載だけではちょっと分からないのではないかと思いますが‥‥‥。私はむしろ,人によって額が違う,含みがある言葉なのかなと理解していました。 ○山本(弘)委員 私は,結論的にはこの財産所在地管轄は残さざるを得ないだろうと思いますが,先ほど池田委員がおっしゃったように,そもそも清算型の相続制度を採っている国でも,清算人の権限を属地的にしてしまっている国は幾らでもあるわけです。そういう場合は,受け皿として,属地的だけれども日本の相続財産についてそれを分割する権限を与えないとどうしようもないわけですから,それは,やはり財産所在地管轄で救わざるを得ないと思いますが,そういうイレギュラーな事態に対する例外的な対応として位置付けるべきなので,財産所在地管轄があるから相続財産全部に日本の管轄権限が及ぶんだというような考え方は,採らない方がいいのではないかというのが私の意見です。 ○山本(克)委員 相続単一主義を根拠として,財産所在地である日本でした遺産分割審判が普及主義的な効力を有するというのは,おかしいのではないかと思います。相続単一主義を採った場合には,普通は,競合管轄が生じないようにする,管轄裁判所は一国にしかないようにすることにつながるわけで,今,山本弘委員がおっしゃったのは,それではうまく行けないところを落ち穂拾い的にやりましょうということですね。例えば,アメリカで属地的な遺産分割がされ,日本とシンガポールにも財産がありますという事例で,日本にある財産について落ち穂拾い的に分割をするときに,シンガポールの財産にまでその審判の効力が及んでいいのかは,また別の問題です。その場合に,日本でも属地的に分割をしましょうという選択肢を採るのか,それとも,アメリカでは扱われなかった財産については全部日本で分割をしましょうという話になるのか,どちらにするかという議論をすべきであると思います。 ○山本(和)委員 今の早川委員の御質問ですが,事務局の提案の御趣旨はどういうことなんでしょうか。 ○沖本関係官 事務局としましては,絶対的な額ということで考えていたところです。 ○高田部会長 解釈に委ねる余地はあるかと思いますが,文言自体が民訴法と同じ文言でございますので,同じ解釈の仕方が想定されているということではないかと思います。一つ前の議論に戻りますが,属地的な効力を持つ分割を想定されるという議論は,当然解釈論として成り立つわけでございますけれども,その場合,そのことを規定にも明文で記載すべきだという御趣旨の御意見なのでしょうか。 ○畑委員 私は,それはやはり難しいのかなという気がしております。外国で分割が行われて,そこからあぶれているものがある場合を規定に書くのは,ちょっと難しいかなということです。緊急管轄の方でカバーすることとして,効力が属地的かどうかという辺りも,解釈で対応するぐらいがよいのではないかなと思っております。 ○竹下幹事 今の点でございますが,一方で,これから議論される特に失踪の宣告については,効力を限定している文言があるので,相続関係事件について審判の効力を限定する文言がなかったら,何やら財産所在地管轄に基づく審判が普及的効力を有するように見えてしまうようにも思われます。緊急という意味を与えるかはともかく,少なくとも所在する財産についてのみの管轄権を有するということを条文に書く努力はしてもいいのではないかと思います。もちろん,文言上書けないということであれば仕方ないとは思うのですが。 ○畑委員 先ほどの私の発言は,遺産分割については財産所在地管轄を条文に書かないという趣旨です。その他の,特定の財産の保存などの事件については,財産所在地管轄はあってよいと思いますし,そういうものは,条文に書かなくても,性質上,属地的な効力になるのではないかという印象です。 ○高田部会長 いかがでしょうか。遺産分割に限れば,財産所在地管轄に否定的な御意見,財産所在地管轄を明文で規定することについて消極的な御意見が多いようにも存じますが,そういう理解れでよろしいのでしょうか。 ○池田委 財産所在地管轄が全然ないと,すごく心配ですよね。 ○畑委員 そのような規定が合理的な場合をうまくすくい取れればいいのですけれども,財産があるということの一事をもって管轄ありとしてしまって,あとは特別の事情による却下に委ねるというのは,逆に過剰な感じがするということです。 ○高田部会長 実務的にニーズがあるとして,仮に財産所在地管轄を入れるとすれば,既に頂いております様々なご意見のように,限定をするなり,あるいは付加的な要要件を付け加えるなりの工夫をすることが必要となります。難しいのではないかという御意見はもう既に頂いているわけではございますけれども,なおよいお知恵があれば頂ければと存じます。 ○道垣内委員 私は,財産所在地管轄を認めるルールがあってもいいと思っています。財産所在地国管轄を認めることにより,日本では日本の国際私法で準拠法が決まることから,準拠法が違ってくる可能性がありますが,それほど実体的に見れば不正義にはならないのではないかと思います。誰かが相続財産を独り占めできるわけではないですから。限定する必要があるかどうかですけれども,相続財産の割合又は額のどちらかという書き方もあり得ると思います。また,一定割合以上又は一定額以上というように,どちらかの基準でクリアしていれば管轄を認めるということでもいいのではないかなと思います。 ○和波幹事 繰り返しになって恐縮ですけれども,遺産分割の場合は,できるだけ全ての財産を明らかにしてもらって,その全部について判断するということですので,その時点で明らかになっているものについての割合ということであれば,当然,判断はできるだろうと思うのですが,事後的にほかに大きな財産が見つかったような場合に,既にされた遺産分割はさかのぼって無効になってしまうのか,などの問題を考えると,割合的なものを管轄原因の中に持ち込むと,判断は非常に難しいのではないかと思います。限定という点については,先ほど秋吉委員からも発言がありましたけれども,遺産分割は遺産全体を見た上でバランスを考えて分割をするという日本の制度を前提とした場合には,限定的に日本にある財産のみ分割をするというのは,実務上は難しい面があると思っています。 ○秋吉委員 財産所在地管轄を認めないと,たまたま被相続人が余生をオーストラリアなどで過ごそうと思って,財産はほとんど日本にあるというようなときも,日本に管轄が認められなくなりますが,本当にそれでよいのかという感じがします。また,限定の方法は難しいというお話について補足しますと,不動産については評価額が遺産分割の本体の中で深刻に争われますので,価額を管轄判断の時点でハードルとして設けると,入口のところで紛糾してしまうという危険も考えられます。対案を提示することができないのは申し訳ないのですが,今の審議の流れで本当によいのかなという感じはしております。 ○高田部会長 ありがとうございます。では,まだ御意見もあるのかもしれませんが,余生を外国で過ごされている方のような場合においてはニーズがあり,実務的には何らかの手当があれば望ましいという御意見を頂き,財産所在地管轄をうまく規定することによって,そのニーズに応えられないかという御意見は頂きましたが,過不足なく規律できる規定を現段階では想定できておりませんので,なお,その辺りについて御意見を賜りながら詰めていくということでよろしゅうございますでしょうか。   遺産分割については以上でございますが,それ以外の事件につきまして,財産関係については財産所在地管轄はあり得るという御意見を頂いておりますが,それはそれでよろしいということでございましょうか。その場合には事件類型を限定して線引きをする必要が出てくるわけですが,その辺りについて,もし何か御意見があれば承りたいと思いますが。 ○池田委員 相続の放棄・承認はどのようになるのか,皆様の御理解をお教えいただきたいと思います。 ○山本(克)委員 相続の放棄・承認は相続全体に関わる事項ですので,属地的に日本ですることのできることに限ってするという立場からすると,それらは財産所在地管轄を認めるべき事件から外れると理解しています。属地的に日本でだけ相続の放棄があって,外国では相続の放棄の効力はないなどということは,相続放棄の法制として考えにくいと思います。 ○池田委員 英米法のような清算型のところでは,多分,相続の放棄・承認という概念が余り考えられていないように思われますが,ただ,日本において,債権者から責任を追及されると困るので,相続の放棄は絶対にしたいというニーズがあります。しかし,相続の放棄をすることはできないと言われてしまうと困ってしまうのではないかという点を懸念します。 ○高田部会長 その点,御意見ございますでしょうか。 ○山本(弘)委員 今の御質問について,山本克己委員は,相続の放棄や限定承認の申述の受理の問題を多分言われたもので,それらは属地的ということはあり得ないのだから,原則的な管轄地だけでよいということです。だけれども,それらの申述の後に,債権の届出など,いわゆる清算の手続を進めますよね。そういう,相続の放棄・限定承認の効果としてのある種の財産の清算のようなものは,申述の受理とは別に考えることができると思います。正にそういう場合に,日本にある財産についてだけ属地的なある種の清算というものを考えることは可能なのではないかと私は考えているのですが。 ○池田委員 放棄については,そもそもそういうことが余り観念されないのではないですか。日本では相続の放棄ができないということですよね。 ○山本(克)委員 アメリカの国際私法を全然知らないのでよく分からないのですが,アメリカに住所を有している日本人が亡くなったという場合に,アメリカ法では本国法主義を採っているんですか。採っていればまた別の話になりませんか。 ○池田委員 例えば,オーストラリアで相続が開始した場合に,日本の相続法とは違うオーストラリアの規律に従い,清算すると言われたことがあります。 ○山本(克)委員 国際私法について統一ルールがない以上は,いろいろなことが起きるのですが,先ほど畑委員がおっしゃったように,緊急管轄的なもので何か拾うということは考えられるけれども,一般的にそのようにするのがよいとは私は思えないということです。 ○池田委員 清算型の国で,多分,相続の放棄ということや,そもそも債務の承認ということは余り考えられていない国々がそれなりにたくさんあって,一方で,日本に若干の財産があって日本に債権者がいる,あるいはどこかから債権者が来るというような場合に,相続人としては責任の追及をされることが非常に恐ろしいわけなので,相続の放棄をすることができるようにして救済する必要があるのではないかという懸念です。 ○山本(克)委員 ですから,そのような場合は,もう緊急管轄の問題として処理せざるを得ないのではないかという気がするのです。つまり,オーストラリア人がオーストラリアで亡くなって日本に財産を有しているときというのは,相続の放棄の余地はないわけですよね。相続法上,放棄というのはないわけですから。それに対して,日本人がオーストラリアで死亡して,日本では本国主義を採っているけれども,向こうでは最後の住所地法主義と開始地法主義を採っていたような場合に,問題が生ずるのではないかと思うのですが,その場合は,相続の単一性を前提とするとなかなか考えづらい場合ですから,落ち穂拾いの問題であって,畑委員がおっしゃったような形で処理せざるを得ないのではないかと思っているということです。 ○平田幹事 限定承認では日本に財産がある場合もあるかもしれないんですけれども,相続の放棄に関しては,日本に財産がない場合にむしろどこで放棄をすることができるかが問題になるのであって,財産所在地管轄を認めるかどうかの問題とは別に,相続放棄の必要性から管轄を考える必要があるのではないかと思います。日本に財産は全くなくて,アメリカで死亡した日本人が借金を相当抱えているというときに,その相続人はアメリカまで行かないと相続放棄できないというのは困るし,熟慮期間の開始時点をかなり柔軟な解釈で補ってあげないと大変なことになるのではないかと思います。相続の放棄は,緊急管轄的なものではなくて,一般的に救済するような制度がないと困るのではないかと思います。 ○和波幹事 私も同じことを申し上げようと思っていたのですけれども,やはり,債務超過,あるいはもう債務しかないというような方が亡くなった場合に,日本におられる相続人が日本で相続の放棄の手続を採りたいというニーズは,それなりにあると聞いております。そういった場合に,財産所在地管轄,それから被相続人の住所地管轄以外に,何らかの手当を考える必要があるのではないかと思っております。 ○山本(克)委員 利害状況の分析は不十分ですが,それであれば,むしろ相続人の住所地管轄を認めるべきであって,財産所在地管轄である必要はないと思います。 ○和波幹事 その点はおっしゃるとおりで,財産所在地管轄というよりも,相続放棄については別途管轄について考慮する必要があるのではないかという趣旨で申し上げました。 ○高田部会長 取りあえず,相続放棄についてはその方向を探ってみた後でもう一度考えるということかと思いますが,なお,財産所在地管轄を認めるとすれば線引きの問題が残りますので,その点について何かこの時点で何か御意見があれば承りたいと思います。   では,財産所在地管轄については,また各論で戻ってくる可能性はございますが,ひとまずこの辺りにさせていただければと思いますが,なお御発言があれば承りたいと思います。   では,続いて,国籍管轄についてはいかがでしょうか。被相続人の国籍でございますが,設けるべきであるという御意見はないということでよろしゅうございますか。   では,この点も改めて全体を見通した後で,必要あれば御意見を賜りたいと思います。では,次の事件類型に応じた特則について,御説明頂きます。 ○沖本関係官 それでは,部会資料4-1の補足説明の4について,説明いたします。総論として渉外相続事件に関する国際裁判管轄を原則的に一律に定めることについては,批判もあることから,部会資料では,相続関係事件について,本文で提案したような原則的な規律を限定し,又はこれに付加をするという趣旨で,事件類型に応じた特則を設けることの可否やその内容を検討しています。まず,このような特則を設けること自体について,御意見がありましたらお願いいたします。   次に,各論として,この部会資料では五つの事件類型,すなわち,推定相続人の廃除の審判又は取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分の審判事件,遺産の分割に関する審判事件,相続の放棄・限定承認の申述の受理の審判事件,遺言書の検認事件,遺言執行者の選任の審判事件について,特則を設けることの是非及びその内容を検討しています。   まず一つ目が,推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分の審判事件についてです。これについては,家事事件手続法上,国内土地管轄は推定相続人の廃除の審判事件又は推定相続人の廃除の審判の取消しの審判事件が係属している場合は,その係属裁判所とされています。そこで,国際裁判管轄においても同様に,原則的な規律に関わらず,推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の係属している裁判所に管轄を認める国内土地管轄の規定と同じ趣旨の規律を設けることを検討していますが,その是非について,御意見をお願いいたします。   続いて,二つ目が,先ほど御意見を頂きました,遺産の分割に関する審判事件についてです。ここでは合意管轄,応訴管轄について検討しています。国内土地管轄について,家事事件手続法上は,合意管轄が認められている一方で,応訴管轄は認められておりません。この点は,家事事件手続法の立案時に,応訴管轄を認めた場合は家事事件手続法の別表第2に掲げる事項についての審判事件が,管轄権を有しない家庭裁判所に申し立てられると,移送する前に相手方に申立書を送付し,相手方の態度を待つなどの配慮が必要になり,手続が遅滞しかねないことや,家事審判事件においては,期日を開くとしていつ開くかについては裁判所の裁量に委ねられているところ,相手方のどのような態度をもって応訴があったと認められるかを定めることは必ずしも容易ではないことなどを顧慮し,採用する意義はないと考えられたものです。国際裁判管轄においても,国内土地管轄と同様に,原則的な規律に付加をする趣旨で合意管轄を認め,応訴管轄についてはこれを認めないことが考えられますが,合意管轄については,合意の主体である当事者や,合意の内容をどのように考えるかといった点について検討が必要となると思われます。遺産の分割に関する審判事件に関して,合意管轄を認めることとする場合,過剰管轄となることを防止するために付加的な要件を設けることの適否や,設ける場合の要件の内容などについて,御審議をお願いいたします。   続いて,三つ目が,先ほど御意見を頂きました,相続の放棄・限定承認の申述の受理の審判事件についてです。これについては別紙4-1でまとめていますとおり,外国等の法制を見ますと,この事件類型についてのみ独立した単位事件類型を設け,被相続人の本国,相続人の住所地又は相続財産の所在地を管轄原因とする例が一般的であるとは直ちに言うことができないものと考えられ,仮に我が国において今申し上げたような管轄原因を採用したとしても,我が国の裁判所においてされた審判が,外国において承認されないことが多いのではないかとも考えられるところです。この点を踏まえ,相続の放棄・限定承認の申述の受理の審判事件に関しては,特則を設けないとすることも考えられるところですが,更に御意見がありましたら,お願いいたします。   次に,四つ目が,遺言書の検認事件についてです。まず,原則的な規律に付加をして,遺言書の所在地又は遺言書が発見された地を管轄原因とする特則を設けることについてですが,相続の開始した地ではない地で遺言書が発見されることが多いとまでは言えないものとも考えられ,また,遺言書の発見の主体を誰と考えるのか,何をもって遺言書が発見されたとするのかなどについて,検討が必要となるものと考えられます。このような管轄原因についての特則を設けることの是非について,御審議をお願いいたします。遺言書の検認事件に関しては,本国管轄についても検討しておりますが,遺言者が日本国籍を有することのみを理由として,我が国の裁判所において遺言の検認をすることを認めるべき場合を想定することは困難であると思われ,特段提案はしておりません。原則的な規律に付加して本国管轄を認める特則は,これを設けないとすることについて,御意見がありましたらお願いいたします。   最後に,五つ目が,遺言執行者の選任の審判事件です。遺言執行者の選任の審判事件については,遺言者の最後の住所地や,仮に何らかの形で遺産の所在地を管轄原因とした場合の遺産の所在地に加えまして,更に遺言者の死亡当時の国籍が管轄原因とされていなければ,利害関係者の保護に欠く場面を想定することは困難であるとも考えられます。遺言執行者の選任の審判事件に関して,原則的な規律に付加をして,遺言者の死亡当時の国籍を管轄原因とする特則を設けないことについて,御意見がありましたらお願いいたします。   以上,部会資料においては五つの事件類型について検討していますが,これまで申し上げた事件類型のほかに,原則的な規律を限定する趣旨又はこれに付加をする趣旨で特則を設けることについて検討するべき事件があるのかないのか,また,仮にそのような事件があるという場合,どのような管轄原因を設けるべきかについて,御意見がありましたらお願いいたします。   相続関係事件についての説明は以上です。 ○高田部会長 先ほどの総論のところで,相続財産の所在地についての考え方が事務局の提案とは若干違う意見も出ておりますので,ここでは若干補足説明とは違う議論が必要な場面もあるかと存じますが,取りあえず部会資料に基づいて御議論頂ければと存じます。どの点からでも御意見賜ればと存じます。   既に頂いた御議論では,遺産分割について合意管轄を認めるべきであるという御意見を頂いているように理解していますが,単に合意があればよいのか,それとも何か合意に付加的な要件が必要なのかという辺りが,なお残された問題かと存じます。いかがでしょうか。 ○平田幹事 実感としては余りよく分かっていないのですけれども,遺産分割審判事件を考えたときに一番悩ましいのは,遺産分割の前提問題である訴訟事件が,人事訴訟事件から一般民事訴訟事件までたくさん出てくることで,例えば,遺産の範囲の確認訴訟で,日本法が準拠法になると,固有必要的共同訴訟として全員を相手にしなければいけないが,財産はアメリカにあって,被相続人の住所地もアメリカであったけれども,ほとんどの相続人は日本国内にいるというようなケースもある。そういう場合に,日本で遺産の範囲の確認請求訴訟が確定したのだけれども,日本には遺産分轄の審判の管轄が一切ないという事態が起きることを救えるのは,合意管轄と応訴管轄しかないのかなという気がするのです。そういう場合に,合意管轄だけで行けるのかというと,結構微妙かなという気もしますし,合意管轄を余りここで制限してしまうと,当事者の便宜にかなり反する事態が出てくるような気がするので,ほかの場面と違って,遺産分割に限っては,私は合意管轄も広く認めてよいのではないかという印象を持っております。 ○和波幹事 遺産分割の合意管轄については,先ほどの財産管轄が認められるかどうかということとも大きく関係しているとは思いますが,実務上一定のニーズがあると言われております。しかしながら,合意管轄については,今までのところ,合意の有効性をどのように判断するのか,形式面や意思の確認の方法を含めて,いろいろ難しい問題があると言われておりますので,その点は併せて検討する必要があるのではないかと思います。   更に申しますと,先ほど申し上げたことと若干重なるのですが,遺産分割については,一応,全世界の財産を対象にし得る。合意管轄の場合は,恐らくそれを想定した上での管轄ということになると思うのですが,例えば,合意管轄を前提として遺産分割の審判をしたような場合に,外国でその審判の効力がどうなるのかというところは,少し気になりまして,学者の先生方で知見があれば教えていただきたいと思っております。 ○山本(弘)委員 この合意というのはいつなされた合意なのでしょうか。相続開始後の合意を想定しているのですよね。補足説明における提案は,遺産分割手続を外国でするという被相続人の生存中にされた合意が有効であるという前提なのか,教えていただきたいんですが。 ○内野幹事 これまで,合意による管轄というものを一般的に認めるべきかどうかについては,何度もいろいろなところで論点として出てきており,前々からあった合意による管轄を認めることはいかがなものかという御議論もあったやに記憶しております。事務局としては,合意の時期を相続開始の前後のどちらかに決めるものとした提案をするつもりはなかったのですが,ただ,これまでの御議論を踏まえますと,今,山本弘委員がおっしゃったような,生前からあった合意ではなくて,より審判に近い時期での合意が想定されるようにも思われます。   ですので,これまでの他の事件類型に関する御議論を踏まえた上でのことではありますが,ここで合意管轄を認める場合には,いつ,誰の間で,どういう要件でされた合意であることを要求するのかについて,御議論頂きたいところです。 ○山本(和)委員 国内管轄においては,既に合意管轄は認められているわけですよね。和波幹事の先ほどの御発言は,国際管轄合意の場合は特別なことがあるからなかなか難しいのではないかという御趣旨だったのでしょうか。 ○和波幹事 いえ,むしろ実務上のニーズという意味では,国内管轄でも認められておりますので,国際管轄でも認める余地,あるいはニーズはあるのではないかと思っております。ただ,遺産分轄だけなぜ合意管轄を認めるのかということについては,やはり他の事件類型とのバランスの検討が必要になると思いますので,遺産分割については合意管轄を認める必要性が高い理由を説明することができ,明確に判断をすることのできる一定の要件を設けるのであれば,合意管轄を認めるべきではないかという趣旨です。更に申し上げますと,国内の遺産分割の合意管轄については,相続人の方全員による合意で,かつ,書面によることが必要であると思いますので,国際裁判管轄の場合も最低限同じレベルの要件は必要となるものと思っておりますが,合意の時期等を含めてそれ以上の要件が必要かどうかは,議論が必要であると思います。 ○内野幹事 例えば,国内裁判管轄との比較で,国際裁判管轄は何がどう違うのかというところに視点を置いて御議論頂けると,事務局としては有り難いということでございます。 ○大谷幹事 私は,遺産分轄に関しては合意管轄を認めてよいという立場です。理由は,国内管轄との並びということもありますけれども,それ以上に,遺産分割に関しては,諸外国においてはむしろ財産法上の事件と考えられていて,いわゆる家事事件と考えられていないことにあります。財産関係については,国際裁判管轄についても,書面による合意を要件として合意管轄を認めているという理解でよろしいのですよね。私は,その並びでよいと思っており,更に何か制約を課すということについては,余り想定ができておらず,その必要性,あるいは制約の内容は,考えられなくて,むしろ普通に合意管轄を認めてよいのではないか。ただ,合意の在り方として,書面によることとか相続人全員によることとか,そのような要件は出てくるのだろうなとは思います。 ○池田委員 私は,一般に合意管轄を認めることに積極なので,もちろん遺産分割について合意管轄を認めることも積極なのですけれども,ただ,先ほどの議論などがあると,結局,フォーラムによって,相続人が違う場合や,本来管轄の合意をすべき人が違ってくる場合があり得るのではないかという点で,理論的には難しい問題があると思いました。 ○山本(克)委員 今の点は,相続人が誰かということとは無関係であって,申立人とその相手方の間で合意があれば足りるわけです。もし,抜けている人がいれば,それは申立人も相手方にもなっていないということですから,当事者適格を欠くということで,申立てを却下すればいいだけの話です。 ○池田委員 例えば,オーストラリアで相続が開始した場合,日本では相続人が親と配偶者であるのに,オーストラリアでは仮に相続人が配偶者のみとなることが明らかであれば,日本では遺産分割の話になるから合意管轄が問題となる余地があるけれども,オーストラリアではそもそも遺産分轄の話にならないことになります。日本では合意管轄で国際管轄が取れてしまうのに,本来のオーストラリアでは国際管轄を取れないという不思議な結果になるという問題がある気がしました。 ○山本(克)委員 それは,合意管轄を認めた場合のあらゆる場合に存在する問題です。相続法だけではなくて,準拠法が違えば結論が変わりうるのは当然です。だからこそ,フォーラム・ショッピングをどこまで許容すべきかという一般論になるわけですから,遺産分割についてだけその問題があるからどうにかしましょうという話にはならないのではないでしょうか。もっと一般的な話のような気がしますけれども。 ○道垣内委員 今,山本克己委員がおっしゃったのは,1対1の事件だけについてでしょうか。相続人全員が申し立てるべき手続の場合,そのうちの二人だけでよいと先ほどおっしゃった点が分からないのですが。 ○山本(克)委員 相続人のうちの二人だけではなくて,当事者になっている者の全員が合意している必要があると申し上げたのです。 ○道垣内委員 抜けた人がいても構わないということですか。 ○山本(克)委員 抜けた人がいれば,その人は申立人にも相手方にもなっていないということだから,当事者適格を欠いて申立てが却下されるだけだということです。 ○道垣内委員 申立てが全体として却下されるということですね。分かりました。   そのような場合,被相続人の最後の住所地として,本来日本に管轄があるのだけれども,管轄の合意をしていたので,日本の管轄が排除されて門前払いになるということも当然想定しているわけですね。そういったことが起こるのはどのような状況なのですか。先ほどのお話では,管轄の合意は相続開始後にされたものに限るということであったようですけれども,どこか多くの財産があるところで手続をしましょうということで,一度は管轄の合意ができたとして,その中の誰かがやはり日本で手続をしたいと思って申し立てたとしても,それは駄目ですということになる。その理由は,全員で外国で手続をすると決めたでしょうということですね。それでいいのでしょうか。日本の管轄を認める場合の合意管轄はよいのですが,私には,応訴管轄というか,全員の申立てなら管轄を認めてよさそうですが,日本の管轄が排除されるという場合も生ずる管轄の合意まで認める必要があるのか,合意管轄を認める規定を置くメリットが今一つ分かりません。 ○山本(克)委員 それは相続単一主義だからではないですか。競合管轄はそもそも排除されるべきだという前提の下に合意管轄を認めた以上,そうなってしまうということになるのではないですか。 ○道垣内委員 本来,日本で遺産分割の申立てができるにも関わらず,外国を専属管轄裁判地とする合意があるから,申立てが却下されても仕方がないということですね。そこまでの必要があるのかどうかは分かりません。 ○山本(克)委員 合意管轄を付加的なものとした場合に,並行状態になった場合の処理を考えなければいけなくなります。つまり,Aさんは日本で手続をとり,Bさんはドイツで手続をとった結果,並行状態になったというような場合の処理です。 ○道垣内委員 いや,申し上げているのは全員による申立ですから,並行状態にはならないのですけれども。 ○山本(克)委員 付加的にしてしまうと,並行になり得るのではないですか。 ○道垣内委員 日本の管轄を排除する合意は認めず,日本に管轄がないときに相続人全員が日本で申し立てるなら,国際管轄を認めてあげようということですけれども。 ○山本(克)委員 日本が被相続人の死亡時の住所地であり,その後の合意でドイツで手続を取りましょうという話になったが,気が変わった人がいて,日本とドイツの両方で,それぞれ,別の共同相続人の一部が申立てをした場合,並行状態になるので,並行状態の処理を考えなければいけなくなるのではないですか。 ○道垣内委員 それは,世界中の管轄ルールが同一でない限り,例えば,財産所在地であれば常に管轄を認めますという国が一つでもあるなら起こりますよね。 ○山本(克)委員 そのときには,日本から見て管轄がない国の手続は法的に無視すべきです。しかし,日本法上,競合的に管轄があるという建前を認めてしまうと,管轄がない国の手続を無視できないということになりますら,並行状態の処理というのを考えざるを得なくなります。倒産法は正にそう考えているのではないでしょうか。 ○高田部会長 いかがでしょうか。今の御発言は,手続競合に対する手当が必要となり得るのではないかというものだったと思います。 ○和波幹事 私は,合意管轄について,そこまでの効力を想定しておらず,当然,付加的な合意が認められるという前提で考えておりました。付加的な合意を認めた場合に並行状態が生じるというのはおっしゃるとおりだと思いますけれども,それは先ほど道垣内委員がおっしゃったとおりで,ほかの類型でそれぞれ管轄を認めた場合にもあり得る話ですので,そういう意味では,合意管轄について,特に専属的合意にしなければいけないとまでは考えていなかったというのが現状でございます。 ○高田部会長 その点について,他の委員,幹事,御意見があれば承りたいと思いますが。 ○山本(和)委員 特に付け加えることはありませんけれども,私も和波幹事のように思っていました。並行の問題は,二重起訴などの規律を置くかどうかという一般的な問題として,何らかの形で解決する必要はあります。 ○山本(弘)委員 先ほど平田幹事が言われたことと関連するのですけれども,遺産確認のような,遺産分割の前提問題となる実体的な権利義務関係についての管轄合意というのは,いわゆる付加的合意に限らず専属的合意も可能なわけですよね。ところが遺産分割手続についての合意は,付加的合意しか認めないということになると,遺産分割とその前提問題たる実体的権利関係についての訴訟とが,別の国で行われるということになるわけで,それはやはり余り望ましいことではないような気もします。むしろ,訴訟も非訟も一つの国で解決したいというのが,合意をする人の合理的に推測される意思なのではないかという気がするのですけれども。 ○大谷幹事 私も,合意管轄を支持しますと言ったときに,合意が専属的であるという頭では言っていませんでした。ただ,今の議論を聞いていて分からなくなってきたのですけれども,今の最後の御発言は,遺産分割について合意管轄を認めるときには,前提問題となる訴訟の部分についても合意を認めるべきであるという御意見だったのでしょうか。 ○山本(弘)委員 少なくとも,前提問題が財産関係である限りは,合意管轄が可能なはずです。 ○大谷幹事 前提問題は,財産関係ではない場合がありますが,そこについても合意管轄を認めるべきだという御意見ではないですか。 ○山本(弘)委員 そこまでは言っていません。 ○高田部会長 その点は本日はこの辺りにさせていただきますが,その1つ前の管轄の合意の要件限定につきましては,大谷幹事から,国内事件と区別する理由はないのではないかという御意見を賜りました。その辺り,他の委員,幹事の方,いかがでしょうか。 ○山本(弘)委員 今申しましたことと関係して,遺産分割についてだけ要件を限定すると,前提問題としての遺産確認などの合意管轄は,それよりも緩やかな要件で認められるわけですから,管轄がばらばらになる可能性がありますが,やはりそれは適切でないので,どちらかというと,私は,この遺産分割手続についての合意に限って要件を限定するという考え方には,賛成しがたいところがあります。 ○高田部会長 ほかに御意見ございますでしょうか。特に御意見がないようでございましたら,遺産分割については,他に付加する管轄原因があるという御意見があれば承りますが,何か御意見ございますでしょうか。  相続の放棄・限定承認の申述につきましては,先ほど相続人の住所地という管轄原因を加えるべきではないかという御意見を賜りましたが,他方,補足説明によりますと,外国で承認される可能性まで含めると,適切な規律ではないのではないかという疑問も提示されております。その辺りはいかがでしょうか。 ○池田委員 別に外国で承認されなくても,日本で認められればいいだけというニーズもありますので,それは是非とも必要と思います。 ○山本(和)委員 放棄については,私も全く同意見ですが,限定承認はかなり違うのではないかという印象を持っています。限定承認というのは,申述をした後,公告や相続財産管理人の選任など,いろいろな手続がありますよね。日本法を前提にすれば,相続人全員の申述が必要ということなので,一種の合意管轄的なものとして問題はないような気もするのですけれども,外国法で,単独の相続人でも申述をすることができるような制度はあるのではないかという気がするので,そういう場合に申述人の住所だけで管轄を認めてしまうというのは,やや,正に過剰管轄という印象を持っています。限定承認は区別して議論したほうがよいように思っています。 ○道垣内委員 諸外国の法制はよく分からないので,何か日本で想定していないような手続も必要になるかもしれません。いずれにしても,そのような事件の管轄を認めることができるような受け皿が何か一つあった方がよいように思います。 ○山本(克)委員 日本法の立場からは全く縁もゆかりもない,外国における申述というものの受理が,裁判行為として承認をすべき対象になるものなのでしょうか。それがもう一つよく分からないのですけれども。やはり裁判だという前提なのですか。つまり,相手方がいない意思表示なので,やむを得ず家裁が受けているだけだという程度のことなのではないかという気もしなくはないのですが。 ○高田部会長 管轄を定める必要がないということでしょうか。 ○山本(克)委員 余り行きすぎるとまずいのですけれども。しかし,本当に裁判行為なのかなという疑問が有しています。遺言の検認も同様で,事実の確認だけですから,そういうところはあります。 ○和波幹事 今の点は,おっしゃることはごもっともだと思うんですけれども,国内法上の立て付けは,裁判所としては家庭裁判所で受けるという形になっておりますので,その前提としての国際裁判管轄について,きちんと規定を設けていただいた方が,裁判所としては有り難いと思っております。 ○山本(克)委員 いや,そういうことを申し上げているのではなくて,日本の立場として事件をどう受けるかは別として,そもそも承認が日本や外国で得られないからということを論拠に,管轄について別途の定めをするのは適当でないと言えるかどうかという話をしたわけです。 ○高田部会長 他に御意見ございませんでしょうか。   では,時間も押しておりますが,道垣内委員から既に御意見を頂きましたけれども,ここに列挙されているもの以外についても御意見があれば承りたいと思います。 ○畑委員 質問ですが,部会資料4-1の7ページの補足説明の4・(2)・アの推定相続人の廃除の審判云々の確定前の遺産の管理に関する処分の審判事件についての,ゴシック体で記載されている規律というのは,どういう意味で特則になっているのでしょうか。 ○内野幹事 推定相続人の廃除の審判事件又はその取消しの審判事件が日本国の裁判所に係属しているときは日本国の裁判所に限られるという意味で,本文の一般的な規律の適用範囲が限定される,ということです。本文の方の一般的な規律とは違って,これらの事件については,補足説明の4・(2)・アに記載している管轄の規律で全て処理されるという意味での特則を提案しています。 ○山本(克)委員 今おっしゃっているのは,部会資料4-1の1ページの本文で,1と2という二つの管轄原因を認めているので,相続の開始地で手続を進めているときに日本が財産所在地であるからといって管轄権を認めることはないということですね。推定相続人の廃除の審判又はその取消しの審判の確定前の遺産の管理に関する処分の審判事件については,1と2は管轄原因から除くという立場を採れば,これは要らないということになるということでよろしいですか。 ○内野幹事 はい。そういうことになるかと思います。 ○高田部会長 他に部会資料4-1につきまして,よろしいですか。 ○山本(克)委員 先ほど畑委員から処分の属地性について,規定を設けることは難しいのではないかというお話があったと思うのですが,通則法の6条2項では,失踪宣告について属地的な失踪宣告を認めていますので,全くできないというわけではないと思います。相続財産管理等については,この辺も御勘案頂いて,御検討頂ければと思います。 ○秋吉委員 遺言書の検認事件について,実務的には,補足説明にあるとおり,保全的な意味から,遺言書が出てきた場合には外国まで行かずに遺言書の所在地で検認をしたいという要請がないわけではありません。検認の内容や効果との関係,あるいは承認との関係でいろいろ問題はあるのだろうと思いますけれども,引き続き検討事項にしておいていただけると有り難いと思います。 ○高田部会長 その場合には,遺言書が発見された地という管轄原因になるという御趣旨でしょうか。 ○池田委員 あるいは遺言書がある場所ということですよね。 ○高田部会長 はい。 ○池田委員 遺言書があって,内容が分からないまま封をしてあるので内容を早く知りたいが,遺言書の所在地以外の場所へ遺言書を送っている間に紛失してしまうのではないかなど,いろいろな心配があると思います。 ○和波幹事 遺言書が存在している場合に,遺言書を置いたまま被相続人の方が外国に行ってしまうという事例があり,遺言書の所在地が日本にある場合に検認を日本で行いたいというニーズはあると聞いております。ただ,管轄原因を遺言書が発見された地とすると,発見された地の認定にいろいろ問題が生じることがあると思いますので,管轄原因を端的に遺言書の所在地とすることはあり得ると思っております。その場合,日本ですることができるのは日本法に基づく検認であって,英米法等に基づく検認とは違うものということになるのではないかと考えられます。また,日本で検認をしてしまったために,本来,外国で行うべき手続ができなくなるというリスクがあり得るわけですが,そこは相続人の選択に委ねざるを得ない部分があるように思います。少なくとも日本では手続をとることができないという形で門前払いをするのは,いかがかという疑問が出ているところかと思います。 ○山本(克)委員 私が先ほど申し上げたのは,承認云々ということを考える必要があるのかどうかということも含んでいます。仮に承認が問題になり得るような裁判を当事者が求めてきたときには,日本の手続法が予定している検認ではないということで却下すべきであり,それ以外の,単に保全の意味を持つだけのものであれば,遺言書の所在地に管轄権を認めればよいのではないのか,ということです。 ○道垣内委員 国際私法の立場からは,手続法は実体問題について外国法が準拠法になるような場合もできる限りその実体法上の権利や法律関係を実現する努力をすべきだと思います。日本の実体法が適用される手続しか日本ではしませんというのであると,離婚にせよ,法定別居にせよ,外国法に基づくものはすべてできないということになってしまいます。 ○山本(克)委員 いや,そこまで強いことを言っているわけではなく,遺言書の所在地を管轄原因とする場合には日本法に基づく検認に限るべきであって,被相続人の死亡時の住所地国として日本に管轄権が認められる場合には,別途また考えるべきだと言っているのです。 ○道垣内委員 国際私法の立場からは,管轄原因に関係なく,日本の国際私法が命じる法律を実体法として適用することになります。手続法として全く対応しようがないということであれば,それは仕方ないですけれども,それほどのことは余りないような気がします。 ○和波幹事 そこは遺言書の検認の法的性格をどう考えるかという問題と思っています。少なくとも日本法が想定している遺言書の検認は,証拠保全的なものであって,実体的な法的な効果を伴うものではないという前提で考えるならば,ある種,これは手続的な問題であって,実務的には,恐らく,日本の裁判所でできる検認手続というのは,日本法上の検認手続だけであると考えているのではないかと思います。 ○道垣内委員 日本語で置き替えればそうなるのですけれども,日本語でいう検認,すなわち日本法上の検認の手続をしようとするわけではないのです。プロベイトにせよ,何にせよ,何語か分かりませんけれども,その当該国の法律が定めていることを日本の裁判所に申し立てて来るわけです。そのような申立てを,日本法に基づく検認ですねと勝手に決めるわけにはいかないのではないです。そういう意味で管轄規定はいろいろな国の実体法に対応できるように,バスケットクローズを置いておく必要があると思います。そういう準備をしておいて,できる限り事件を受けてあげようということではないかと思っております。 ○高田部会長 和波幹事も山本克己委員も,日本の裁判所が当該国の制度である事件を受けること自体を否定されているのではなくて,当該国の制度である事件の申立ての場合には,本文における提案にある被相続人の住所地管轄のみが認められるという御趣旨だと思いますが。 ○道垣内委員 ですから,それは管轄原因とは関係ない話だと私は思います。 ○大谷幹事 日本で,とにかく検認をしておきたいというニーズがあるというのはそのとおりですが,今の議論をお聞きしていて,やや整理が必要な感じがしているのは,例えば,遺言書の所在地若しくは発見地ということで管轄を認めたときに,和波幹事は,飽くまで日本法の検認手続であるとおっしゃっているように聞こえます。日本法の検認手続を使う根拠として,準拠法が日本法となる場合で管轄原因が遺言書の発見地又は所在地のときに,その手続だけに関しては日本法が適用されるということが前提になっているということなのでしょうか。 ○和波幹事 先ほど申し上げたとおり,日本法上の検認手続が手続的なものであることを前提に,要するに,手続は法定地法によるという考え方と同じような理解で検認手続というものを考えていて,その意味で管轄について考えていたということです。ですから,特殊な管轄ルールなのだろうと思っています。 ○大谷幹事 そうすると,相続関係事件ではないほかのところで,日本の手続であって専属管轄的に日本でしかしないことが予定されているものの管轄を認める議論と似た議論をされているような気がします。先ほどの,ニーズがあるから事件を受けられるようにしておくという話は分かるのですけれども,今議論をしている,相続関係事件の管轄の一般的な話とは,かなり違う話をされているという気がします。そうであるからといって,認めるべきでないとまで思っているわけではないのですけれども,そこは整理して議論しないと混乱しているような気がしました。 ○高田部会長 では,予定した時間を大幅に超過しておりますので,本日はこの程度にさせていただきたいと思います。   次回の議事日程,議題等について,御説明頂きます。 ○内野幹事 次回でございますが,今日終わりの部分で駆け足になった部分があるかなという評価になりますれば,若干,最後の方をもう一度時間を取ってやらせていただくこともあろうかと思われます。   次回は,9月26日の金曜日の午後1時30分から午後5時30分までということになっております。場所の方ですが,事務手続の都合上,未定となっておりますので,別途御連絡をさせていただきます。日にちは,9月26日の金曜日ということになっておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。テーマにつきましては,後見等関係事件の国際裁判管轄及び失踪宣告・不在者財産管理事件の国際裁判管轄についての御議論を賜りたいと考えておりますが,その先の議論についても予定はしたいと思っております。 ○高田部会長 それでは,ほかに特に御発言がございませんようでしたら,本日の部会はこれで閉会させていただきたいと存じます。   本日も長時間,御熱心な御審議賜りまして,ありがとうございました。 -了-