法制審議会 民法(債権関係)部会 第91回会議 議事録 第1 日 時  平成26年6月17日(火)自 午後1時00分                      至 午後4後49分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻となりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第91回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,大島博委員,岡田ヒロミ委員,岡田幸人幹事,山川隆一幹事,餘多分弘聡幹事が御欠席でいらっしゃいます。   それでは,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は予備日として予定していただいた会議ですので,新たな部会資料の配布はございません。前回会議で配布済みの部会資料「79-1」ほかに基づいて御審議いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,部会資料の審議に入ります。   本日,私は,公務のため途中で退席せざるを得ない状況となっております。誠に申し訳ありませんし,大変残念ではありますけれども,私の退席後は部会長代行の野村豊弘委員に進行をお願いすることになっておりますので,よろしくお願いいたします。   本日は部会資料「79-1」,「第9 契約の解除」以降について御審議いただく予定です。   本日も事務当局からの冒頭の説明は省略させていただいて,直ちに議論に入りたいと思います。まず,「第9 契約の解除」について御審議いただきます。 ○潮見幹事 その前に,前回のところで一つ後で気がついて言うべきだったと思うところがございましたので発言させていただいてよろしゅうございますか。   代理の所の117条の無権代理人の責任の箇所があります。責任を負わなくてよいとされている9の(2)のウなのですが,そこの所で,他人の代理人として契約をしたものが行為能力を有しなかったときという書き方になっています。同じ書き方をしていた代理人の行為能力については行為能力の制限という形で置き換えております。同じように,完全に行為能力がなかった場合以外の行為能力の制限を受けているという場合もウから排除される理由はないと思いますので,事務当局で文言についての御検討をお願いできればと思いますとともに,意思能力がなかった場合についてどのようにしたらよいのかということについても少しそれと関連して御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 了解いたしました。事務当局で引き取って検討するということでよろしいでしょうか。事務当局からコメントがあればお願いします。 ○金関係官 まず2点目につきましては,117条の無権代理人の責任は,法律行為自体は有効だけれどもその効果が本人に帰属しない状態であることを前提にしていますので,例えば無権代理人のした法律行為自体が115条で取り消された場合には,そもそも117条の適用の前提を欠くと言われていますし,このことは詐欺取消しや強迫取消し,通謀虚偽表示や心裡留保などでも同じだと思います。そのような観点から,意思無能力者がした無権代理行為については,そもそも無権代理人のした法律行為自体が無効で,117条の適用の前提を欠くので,特段の規律は不要ではないかと考えております。   次に1点目につきましては,117条には他の箇所とは違った問題がありまして,行為能力の制限と言った場合に,それは代理人が当事者としてした場合の行為能力のことを言っているのか,代理人としてした場合の行為能力のことを言っているのかが明確でないという問題です。これについて少しでも解釈に委ねられるべき部分があるのであれば,現行法の文言は変えずに差し当たり解釈に委ねておくことも選択肢としてはあり得るという観点から,現時点ではこのようにしております。ただ,条文化の作業の際には他の部分との平仄も踏まえつつ修正をすべきか検討したいと考えております。平仄の観点だけで言いますと,民法156条も行為能力のあるなしを問題とするような表現をしておりまして,ここも現時点では特段の改正提案はされておりませんけれども,条文化作業の際にはこの156条も含め全体的な対応をしたいと考えております。 ○山本(敬)幹事 意思能力を有しない者の場合はそもそも適用の前提を欠くということですが,文言としては9の(1)で「他人の代理人として契約をした者は」となっていて,意思能力を欠いていても,契約はしていると通常は理解するのではないかと思います。そのような意味では,少しこの文言からは読み切れないように思うのですが,いかがでしょうか。 ○金関係官 意思無能力の状態が更に進んで意思表示すらできない状態となった場合はともかく,通常の意思無能力者は,御指摘のとおり契約を成立させることまではできるということが前提となっていると思います。ただ,民法115条によって取り消された場合,詐欺取消しがされた場合,公序良俗違反で無効である場合など,いろいろなものがある中で,意思無能力によって無効である場合だけを書くというのもなかなか難しいところです。いずれにしても改めて検討いたします。 ○潮見幹事 検討していただくということは是非お願いいたします。先ほど詐欺ということをおっしゃられましたけれども,そうではなくて,177条のような無権代理人が絡んだ場合に意思能力というものがどのように扱われるのかという点がルールとして明確に上げられている必要があるのではないか。そういう趣旨で発言させていただいたところですので,その辺りを少し御勘案いただければと思います。あとはお任せしますが,丁寧にお願いします。 ○鎌田部会長 それでは,その点につきましては検討させていただきます。   ほかによろしければ,「第9 契約の解除」についての御意見をお伺いいたします。 ○福田幹事 第9,「1 催告解除の要件」について述べさせていただきます。   ただし書についてなのですけれども,前回の素案では相手方が契約をした目的を達することができるときはこの限りではないという表現ぶりになっていたかと思います。その表現ぶりでは,判例が認めるよりも解除ができる範囲が狭くなるように読めはしないか,今の判例の下での実務の運用を的確に書き表せていないのではないかという懸念がありまして,その点を御指摘させていただいたところでございます。   この点,今回の御提案は昭和43年の最判も踏まえまして,債務の不履行が軽微であるときはこの限りではないという形にしていただいて,実務的な観点からの懸念という点も払しょくされていると思いますので,私どもとしてはこの案に賛成をしたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○松岡委員 前回お出しした意見書の5ページから6ページにかけて書いた所です。意見が2点と,質問が1点,全部で3点あります。   まず解除の3についてです。債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは,債権者は1及び2による契約の解除をすることができないというこのルールはこれでよいと思いますが,その下に,危険負担の場合などと均衡を図る必要上,この場合において債務者は自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを債権者に償還しなければならない,というルールを付け加える必要があるのではないかと思います。この案ですと,解除権を行使するか,行使せずに抗弁権を主張するかどちらでもよいことになりそうです。そうなった場合,併存させた場合に片方主張するとある効果が生じ,もう片方を主張すると少し違う効果が生じることが根拠付けられればよろしいのですが,違いはないと考えられますので,危険負担の所と同じようにしてはどうか。これが1点目です。   2点目は,中間試案では「その契約の趣旨に照らして債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは」という文言を使っていました。それがその修飾文句の「契約の趣旨に照らして」という部分が削除されていて,単に「債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは」となっています。しかし,他の規定との均衡上も,その部分は落とす必要はないのではないかと思います。そこで,なぜこれをあえて落とされたのかについて御説明を願いたいと思います。   それから,3点目は意見書の6ページにあります。前回も548条を中間試案では削除するという提案があったのに対して,パブリック・コメントで反対の御指摘もあったということで,同条を,少し制限した形で復活させることになりました。しかし,6ページの真ん中辺りですが,こういう例を考えてみました。分割払いによる自動車の購入者が契約解除に値するような大きな欠陥があることを知った。その後,修理に出す直前に,本条を適用するのですから運転ミスがないと困りますので,欠陥と運転ミスの双方に起因する事故で自動車が大破してしまったとします。ややこしいので人身損害はないことにしておきます。この場合,このルールですと大破は本人の過失に基づくわけですから,買主は契約を解除することができず,残代金債務を負い続けることになります。抗弁の対抗のあるローンだったらまだいいのかもしれませんが,そうでないローンだとどうなるのでしょうか。欠陥のない自動車を給付する売主の債務は履行不能となっておりまして,その債務の不履行により買主には填補賠償請求権があるので,それと相殺することになるのかもしれませんが,いかにも複雑と思います。   解除を議論した七八回部会での質疑応答の中で,解除の効果については原状回復義務が規定されているので,明記はされていないけれども,原物返還が不能になった場合でも原状回復義務があり,価値返還義務があると,金関係官から御説明があり,若干の異論はありましたけれども,それでいいのではないかという方向に落ち着いてきたように思われます。   そうした以上,原物返還が不能になってしまった場合でも,解除権を否定する理由はなく,先ほど挙げたようにむしろ解除権を認めて簡略に処理する方がよいのではないかと思われます。先ほどの例ですと買主に解除権を認めて,残代金債務は免れるが,欠陥自動車の価値,欠陥次第ではゼロに近いことになると思うのですが,その価値返還義務を課すという解決の方がいいのではないかとなお思います。この点は御検討いただければと思います。   それから,仮にこの御提案のとおり548条を残すといたしましても,行為を故意に置き換える提案をされているのが問題です。確かにここの「行為又は過失」は,これまで通説的見解によれば「故意又は過失」の意味であるとされてきました。しかし,立法時の見解は「故意」と書かずにあえて「行為」という言葉を選択したと思いますし,そもそも解除権を行使する前は自分のものを壊すのも損傷するのも放棄するのも自由であって,そこで「故意」を本当に語り得るのか疑問もあります。この点は措いてもこの修正提案は548条1項の「行為」を「故意」に直すとだけ書いてありまして,2項も同じく「行為又は過失」という文言が使ってありますので,直すのであればやはり両方直さないと均衡がとれないと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。関連した御意見があれば併せてお伺いしておきますけれども,いかがでしょうか。 ○鹿野幹事 今松岡委員がおっしゃった第3の点についてですが,私も基本的には同じように考えます。目的物自体を返還できないときには価値の返還がなされるという考え方を一般的に採るとすれば,解除をこのような形で制限する必要性があるのかについてなお疑問であります。   さらに言いますと,解除権があることを知りながらあえて,解除をすれば返さなければならなくなる目的物を故意に返還できないような状態にするというような場合については,その行為自体が解除権を放棄する意思を表す行為と見られることがあるかもしれません。しかし,特に過失によって損傷したような場合について,解除それ自体を全く否定してしまうということが果たしてよいのだろうかと疑問に思います。   先ほど松岡委員もおっしゃったように,解除を否定して金銭賠償の問題に移し,最終的には相殺をすることで処理することも考えられるかもしれませんが,例えば特に交換契約の場合などにおいては,解除を認めた上での処理と,そうではなくて解除を否定してしまうのとでは処理の仕方が違うことになります。この最後の場合については,どのような処理がよいのかにつきもしかしたら価値観が分かれるかもしれませんが,先ほど言いましたように,私としては,少なくとも過失によって目的物を損傷したりあるいは返還できなくしたというような場合についてまで解除権を否定することには反対です。 ○中田委員 548条についてですが,今回あるいは68Aの案というのは現行法に比べると解除権の消滅を制限しようという方向の規定ですけれども,結果としてはただし書に当たらない場合には解除権が消滅するという方向にむしろ作用する可能性があるのではないかと思います。ですので,少し中を詰めていく必要があると思います。   一つは,目的物の瑕疵を知って損傷した場合について,先ほど松岡委員から御指摘のあったような場合というのはなるほどあるのだろうなと思いました。   もう一つは,一部のみが履行されていて,残部の履行が遅滞している場合に,解除権が発生しているのかいないのかが余りはっきりしないことがあるのではないかということでありまして,そこをどう考えるのかが課題だと思います。   それから,「その解除権を有することを知らなかった」という要件なのですけれども,これは債務不履行解除以外の解除にも及ぶのでしょうか。例えば個別規定による解除の場合です。これは現行法でもある問題ですが,「解除権を行使することができることを知らなかった」という前回の案に比べて,今回,「その解除権を有することを知らなかった」としたために,民法や特別法の個別規定による解除権については,法律を知らないことは保護されないという命題と結び付きやすくて,反対解釈の力学が働くおそれがないだろうかということを少し懸念しました。そういうことないように何らかの対処が可能であるかどうかを検討する必要があると思います。   それから次に,3の債権者の帰責事由がある場合の解除に関してですが,ここの文言を「債権者の責めにのみ帰すべき事由によるものであるときは,債権者は解除できない」とすることも考えられるかと思うのですが,いかがでしょうか。   以上が松岡委員と関連する問題です。   あと,関連しないのがありますが,それは後にしましょうか。 ○鎌田部会長 ええ,ここまでで事務当局からのコメントをもらうこととします。 ○金関係官 はい。まず536条2項後段に相当する規定を危険負担の箇所のみならず解除の箇所にも置くべきであるという御指摘につきましては,事務局としても規律の実質としては,債権者に帰責事由があるために解除が認められない場合においても536条2項後段に相当するいわゆる利益償還の規律が妥当することを前提としております。ただ,それを前提に解除の箇所にも同様の規定を置くとすると,危険負担の箇所に置いてある536条2項後段と全く同じ内容の規定を置くことになります。すなわち債権者の帰責事由によって履行不能となったこと,その履行不能によって自らの債務を免れた債務者が同一の原因によって何らかの利益を取得したこと,その利益を債権者に償還すべきであること,これらの要件と効果を一言一句全く同様の表現で書くことになります。そうしますと,そのように全く同じ要件と効果の条文を重複して書くのが適切かという問題が生じます。もちろんそのような問題があっても分かりやすさのために書く必要がある場合もあるのですが,ここではその必要性がそこまで高くはないというのが事務局として考えているところです。   次に,契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてという文言がないところについての御指摘ですけれども,事務局としてはその文言がなくても当然にそれらの考慮要素に照らして判断されることを前提としております。今回の資料では,契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてという文言は,善管注意義務,履行不能,帰責事由,債務不履行の軽微性,催告解除ができない場合を示す債務不履行の軽微性,この4つの場面で出てきますけれども,いずれも代表的なところに一箇所ずつしか書いておりません。善管注意義務と催告解除における債務不履行の軽微性については元々一箇所しかありませんので問題にはなりませんが,履行不能や帰責事由についても契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてという表現は一箇所ずつ,履行不能については履行請求権の1の箇所,帰責事由については債務不履行による損害賠償の1の箇所にしか出てきません。最終的に条文を作るときもそのようにするかどうかはさておき,現時点では最も代表的なところ一箇所にのみ書くという趣旨でそのようにしております。ただ,法制的な問題として考えますと,現行法においても,例えば債務の本旨に従った履行という表現は,債務の履行という表現が出てくる箇所全てに出てくるのではなくて,民法415条と493条の二箇所にしか出てきませんけれども,それ以外の債務の履行という表現においても,当然それは債務の本旨に従った履行であることを前提としています。そのような例を見ますと,最終的に条文を作るときも,引き続き代表的な箇所にのみ書くという手法があり得るのではないかとは考えております。   次に民法548条についてですけれども,まず前提として,契約の解除によって発生する545条に基づく原状回復義務というのは,目的物が滅失した場合における価額償還義務を当然に含んでいると理解しております。ただ,中間試案で民法548条を削除するという提案がされたところ,パブコメなどでは,解除権があることを知りながら自ら返還すべき目的物を壊したような場合には,現行法の548条の下では解除権を行使できないのに,この548条を削除してしまうとそのような場合でも解除権を行使できることになるといった点が非常識ではないかという指摘がありました。そのような指摘の背景には,おそらく価額償還に対するイメージの違い,価額償還は万全なものではないというイメージがあるのだろうと思います。価額償還義務を負う債務者が無資力であるという可能性が常にありますし,そもそも価額償還の前提となる目的物の時価の算定についてもそれほど簡単な問題ではない,常に適切な時価の算定がされるわけではないといった問題点があるという認識だろうと思います。正に立法当時においても,そういった価額償還による原状回復の不十分さが考慮されて,民法548条のような規定が設けられたとされていますけれども,そのような考慮がもはや現在では不要になったとまでは言えない面がある,そうであれば現行法を削除することの積極的な根拠という意味で不十分な面があるという指摘ではないかと理解しておりまして,その指摘にはそれなりの合理性があるのではないかとも思われます。無資力の問題については相殺をすればよいではないかという御意見もあり得るかもしれませんが,先ほど鹿野幹事がおっしゃったように交換契約の場合などは必ずしもそうはいかないこともありますし,事務局としても先ほど申し上げたようなパブコメの指摘は無視できない面があるのではないかと考えております。対応策としては,鹿野幹事がヒントをくださったように,故意と過失を分けて過失については548条の規律から除外してしまうという方法が一つあり得るかもしれませんが,民法548条は目的物の滅失損傷の場合のみならず,目的物の加工改造の場合も対象とされていますし,故意と過失との分水嶺,重大な過失はどうするのかといった問題がやはり避けられないところで,なかなか難しいのではないかとも感じております。   次に中田委員から御指摘いただいた点で,解除権がそもそも発生しているのかどうか微妙な場合があり得るという点につきましては,御指摘のとおりの面はもちろんあるのですが,この民法548条自体が現行法の解釈論として必ずしも解除権の発生は必須の要件ではないといった議論がされているところで,典型的には,催告をしている間,すなわち催告期間が経過する前に目的物を滅失させてしまったような場合であっても,548条の適用があるといった解釈がされているところで,その意味でも,その辺りは柔軟な解釈で妥当な結論に落ち着くような処理がされ得るのではないかと考えております。   最後に548条2項の問題ですけれども,ここは規律の実質としては2項も当然変えることを前提としております。ただ,要綱仮案としてどこまで書くのかの問題ですけれども,1項の行為を故意に改めるのであれば,当然2項の行為も故意に改めることになりますので,事務局としてはそのような観点から,2項の改正については要綱仮案には載せない方向で考えておりました。ただ,それでは分かりにくいということであれば,2項の改正についても併せて書くという修正をすることは十分にあり得ると思いますので,改めて検討したいと思います。   すみません,漏れているところがあるかと思いますので,適宜指摘していただければ再度回答いたしますが,差し当たりは以上です。 ○鎌田部会長 ただいまの説明に関連してなお御発言がありましたら出してください。 ○松岡委員 いろいろあるのですけれども,とりあえず最初におっしゃった危険負担と同じことを書くことになるので書かないと言われたのは,危険負担の所でまた議論をすることになると思います。解除との関係で危険負担がいらないと申し上げていたのですが,危険負担を残すのであればむしろやはり紛れがないように繰返しになってもここはやはり重要なので残していただきたいと切に願います。   それから,2番目の「契約の趣旨に照らして」については分かりました,何か所か出てくるので代表的な箇所にのみ書くというのは,ありうると思います。   価格償還の問題につきましては,おっしゃるとおり無資力の場合もあるとか相殺では処理できない場合もあるのは確かですが,先ほど挙げた例のように解除権を否定するのが必ずしも適切でない場合もありますし,パブリック・コメントでの反対意見が問題にしておられるのは,自ら意図的に解除による清算の実質を妨げるような行為をしておきながら解除を主張する行為がけしからんという例です。これは548条がなくてもいわゆる権利濫用や解除権の放棄その他で封じることは十分可能だと思います。548条をあえて存置しますと,先ほど申し上げた例や鹿野幹事が挙げられた例でなお問題が残るのではないかという懸念を禁じ得ません。 ○金関係官 失礼しました。松岡委員から先ほど頂いた事例について回答を申し上げるのを失念しておりましたので,補足いたします。御指摘の事例については,少なくとも御示唆いただいたとおり瑕疵を理由とする損害賠償請求権との相殺による対応が可能ですし,瑕疵を理由とする代金減額請求権の行使による対応も可能だと思います。抗弁の対抗が否定される自動車ローンだったらどうするのかという御指摘も頂きましたが,それは抗弁の対抗が否定されることそれ自体の問題だとも言えますし,そもそも抗弁の対抗が否定されるのであれば,解除権が消滅せずに残るとしても同様にローンの債権者には対抗できないのではないかという気もいたします。いずれにせよ松岡委員の御指摘の根幹の部分は,事務局としても少し前まではそちらの考え方に基づく案を出していたこともあり,十分に理解しているつもりで,この論点は価値判断として両論あり得るという理解をしております。ただ,どちらかに決めざるを得ないところで,パブコメ等の意見も踏まえますと,現行法を変更することの必要性,合理性の立証が十分にはされていないと言わざるを得ないということで,このような案を示しているというのが現状です。 ○潮見幹事 両論あるのでどちらもということでしたけれども,先ほど松岡委員が最後におっしゃった部分で,要するに548条をこのような形で残すことによるデメリットと,それからそうではない形で私どもや鹿野幹事も賛成している方向でルールを立てることによるメリットあるいはデメリットを検討していただければ有り難いところです。私は松岡委員と同じように金関係官さんがおっしゃられている例というのは少し極端な例を前提にしているのではないかという印象を受けましたものですから,あえて申し上げました。   それからもう1点です。松岡委員は2点目は分かりましたとおっしゃられましたが,私はまだなお分かりません。一つ確認したいのですが,「債権者」の責めに帰すべき事由,「債権者」の責めに帰することのできない事由が出てくる部分でこのような修飾語をつけている所がどこかありますか。 ○金関係官 債権者の帰責事由に関する部分では一つもありません。代表的なと申し上げたのは,帰責事由については,主体が債務者か債権者か,それから責めに帰すべき事由によるのか責めに帰することができない事由によるのか,これらを掛け合わせた4パターンと,当事者双方の責めに帰することができない事由,この合計5パターンの類型があると思いますけれども,この5パターンのそれぞれについて一つずつ代表的な箇所に付けるという趣旨ではなくて,この5パターン全体を代表する箇所として415条の債務者の責めに帰することができない事由によるという箇所に一つだけ付けているという趣旨です。 ○潮見幹事 申し上げたかったのは,債務者の責めに帰することのできない事由の側にのみ修飾語をつけた場合に,債権者側について何の修飾語もないということになったら,それはどういう理解をすればいいのであろうということです。債務者の責めに帰すべき事由については契約の趣旨に照らして,新しい言葉で言えば「〇〇プラス取引上の社会通念」というものに照らして判断をするということが明確になっているにも関わらず,債権者の帰責事由についてはそういう文言がないということから,こちらではそのような考慮をすることなく,あるいは別の観点から,極端に申し上げますけれども,不法行為法で言われている故意,過失といった観点から債権者の責めに帰すべき事由というものを考えてもよいのではないかというような妙な解釈が出てこないとも限らないと思います。私どもの3名連記の意見書ではその辺りについても目配りをしていただきたいという趣旨を込めて書かせていただいた次第なのです。   その意味では,どこかに一つ付けておけば,ほかは同じように考えることができるであろうとは単純にいかないようにも思います。お答えは求めませんので,今申し上げたことを勘案していただければと思います。 ○中田委員 先ほどの御質問についての2点確認なのですが。解除権の発生の有無については現行法でも余りはっきりしていない解釈があるのだということなのですけれども,ただ,今回の要件については解除権を有する者がその解除権を有することが知らなかったときというようにそこが表に出ているものですから,より問題が先鋭化するのではないかという趣旨でした。   それからもう1点ですが,債務不履行解除以外の,特に特別法による解除にもこの規律が及ぶのかという点についてはいかがでしょうか。 ○金関係官 失礼しました。先ほどはその点の回答が漏れておりました。ここは債務不履行解除以外の解除権も含むという理解をしております。それは現行法がそう理解されているからということで,現行法の548条1項にいう解除権は,540条にいう契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときという場合の解除権と同様の意味であると理解しております。もちろんその理解を前提としても今回の案について解釈上の問題が様々あり得るという点については,御指摘を踏まえて検討いたします。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○山本(敬)幹事 548条で,1項については松岡委員がおっしゃっている意見に私も賛成なのですけれども,それによらずに,仮にこの548条1項に当たるものをこのように変えて残すとした場合の2項なのですが,「故意又は過失」を同じ表現に合わせるということについては先ほど御指摘があったのですけれども,私は2項の意味がまだよく分かっていません。現行法でもある問題なのですけれども,1項で書かれている場合には解除権は消滅するとされていて,2項では,契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し又は損傷したときは解除権は消滅しないというわけなのですけれども。卒然と読めば,2項は1項によって既に示されていると理解できるのではないかと思います。これはやはり残しておかないといけない規定なのかどうかということをこの段階でお聞きするのもどうかと思うのですけれども,仮に1項を先ほどのように残すという案がそのまま通りますと,やはり問題になるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○金関係官 御指摘の内容自体はおっしゃるとおりだと考えております。多少気になるのは1項の損傷という文言には著しくと付いていて2項の損傷には付いていないとか,多少の違いはあるかもしれませんが,いずれにせよ御指摘の内容自体に異存があるわけではありません。その意味では2項の存在意義が問われるわけですが,ただ,このように1項において消滅する場合の要件を書いて,2項においてその要件に該当しない場合には消滅しないといった規律を書いている規定は,この548条以外にも現行法に存在します。その意味では,548条2項を削除する必要があるのかという問題設定をするならば,削除するまでのことはないという答えにもなり得るところです。その観点から,少なくとも今回の案では2項を残すことを考えておりました。例えば後ほど議論になると思いますが,民法の536条1項と2項がその例の一つでありまして,こういう書き方もあり得るところではないかと考えております。ただ,今回明示的な問題提起を頂きましたので,次の案をお示しするまでには2項を削除する方向で対応すべきかどうか検討したいと思います。 ○山本(敬)幹事 536条はおっしゃるように問題のある書き方がされているわけですけれども,後で話題に上ると思いますが,今回の改正では明確な形で整理して規定すべきではないかと思います。   548条2項に関しては,この表現だけを見ますと,2項にもし意味があるとすれば,契約の目的物が滅失し又は損傷したときは解除権は消滅する,ただしそれが解除権を有する者の行為又は過失によらないときは消滅しないというようなルールと読むのが自然ではないかと思います。ただ,目的物が滅失したときももちろん問題ですけれども,単に損傷しただけで解除権が消滅するとなりますと,1項の原則と合わないことになります。その意味でも少し問題を抱えた規定ではないかと思います。そうしますと,残すことを前提にということではありましたけれども,それが現行法にあるからというだけの理由であるならば,やはり問題でして,ここでは1項を見直すわけですので,併せてよく考え直して,削除するということもあり得るのではないかと思います。 ○鎌田部会長 その点は是非検討させていただきます。 ○深山幹事 548条から離れてもよろしいですか。 ○鎌田部会長 どうぞ。 ○深山幹事 第9の1,2において,催告解除の要件と無催告解除の要件という形で今回は整理をされていますが,従前いわゆる履行遅滞と履行不能を分けて要件を定めていたものをこのような形にされたことは,分かりやすくなって,私自身はよい整理であると思います。   そのことを申し上げた上で,2の無催告解除の要件の所について2点ほど申し上げたいと思います。(1)の履行の全部又は一部が不能であるときというのは,これは現行法どおりの表現ぶりでもあるので,これだけ見ると別に異論もないのですけれども,続いて(2)を見ますと,一部不能であって目的を達成できないときには全部解除できるという規律が置かれています。解釈としては今まで余り異論はないのでしょうが,こういう明文を置くということになると,条文の書き方にもよるのでしょうけれども,この(1)と(2)の関係性がやや分かりにくくなるのではないかという気がします。書き方の問題ではあるので工夫すればいいのかもしれませんが,もし(2)のような形で一部不能であっても残存する部分のみではその契約の目的を達成できないときに全部解除を認めるということを明文化するのであれば,(1)は「全部又は一部」というのを省いてしまって,単純に履行が不能であるときというようにするともう少し分かりやすくなるのかなという気もいたします。これは一つのアイデアということで,いずれにしてももう少し(1)と(2)の関係について表現ぶりを整理された方が分かりやすくなるのではないかという意見です。   もう1点は(3)の所でございます。ここは従前の履行拒絶による解除事由を明文化するという流れで提案されているもので,従前「確定的な意思を表示したとき」という表現がこのような形に改められている部分です。同じような議論を前回損害賠償の所でも申し上げましたけれども,やはりこの表現としては従前の「確定的な意思を表示したとき」という方が望ましいと思います。   履行拒絶の場合に解除を認めた判例などでも,履行期前ではあるけれども絶対に履行しないという意思が表明されており,もうそれが覆らない状況にあるという事実認定の下に,もうそうなると履行不能と同視できる,履行不能と法的に同一の評価が与えられるという判断の下に解除を認めているということであり,そういう判例を明文化するという趣旨もあるのだとすれば,やはりこの「意思がない旨を明らかにしたとき」という緩やかな表現では従前の考え方からもズレてきます。また,先ほど申し上げた履行不能と履行遅滞を併せて要件を定めたことによって(5)という規律もあります。こういう条項もあることも総合的に考えて,やはり(3)を一つの解除事由として明文化するのであれば,「確定的な意思が表示されたとき」という要件にすべきではないかと考えます。 ○金関係官 2点目は前回の会議の填補賠償の箇所でも頂いたところですので,次の案をお示しするまでに十分に検討いたします。1点目につきましては,規律の実質のみをまず説明いたしますと,(1)は全部不能を理由に契約の全部を解除する場合と,一部不能を理由に契約の一部を解除する場合に関する規律を定める趣旨で,(2)は一部不能を理由に契約の全部を解除する場合に関する規律を定める趣旨です。分かりやすいかどうかは確かに問題のあるところですので,これも改めて検討したいと思います。 ○鎌田部会長 そこは引き続き検討させていただきます。 ○中田委員 今の関連なのですけれども,(1)と(2)の関係については金関係官の御説明のようになるのだろうと想像してはいたのですが,分かりにくい理由の一つとして,一部解除についての規律が表に出ていないということがあるのかと思いました。取り分け一部無効についての規律を落とした結果として,一部解除が可能なのかどうかということも余りはっきりしなくて,それを(1),(2)で表そうとしているので分かりにくくなっているのかなと思いました。   それから,(2)と(5)の関係なのですが,履行期前で債務者は履行拒絶をしていないけれども,履行期に履行されないことが客観的に明らかであるという場合は,(2)にも(5)にも当たらないのだろうと思います。それは恐らく(1)の不能を広げて理解するという方向なのかと思うのですが,一方で(3)を規律しながら,今申し上げたケースについて解釈に委ねるというのは少しバランスが分かりにくいかなという感じはしました。 ○岡委員 全部解除,一部解除の関係の質問でございますが,催告解除についても全部又は一部解除がこの条項で許されるという解釈なのでしょうか。 ○鎌田部会長 事務当局からお願いします。 ○金関係官 それは解釈上あり得ることを前提としております。現行の民法541条やそれに相当する部会資料79-1の第9の1も,債務の一部について履行遅滞が生じている場合には,契約の一部解除,その履行遅滞となっている部分が軽微ではないことが前提ですけれども,その履行遅滞となっている部分に相当する契約の一部の解除しか認められないという解釈がされているところですので,そこは同様の解釈があり得てよいのではないかと考えております。 ○松本委員 私も一部解除の所がちょっとよく分からないので,一部履行不能で一部解除ができるというのがコンセンサスだと考えていいのですか。つまり,その点についてのルールは明確であるということであればほかの条文にもちょっと影響してくるのではないかなという気がいたします。とりわけ前回扱った履行に代わる填補賠償の部分については,解除しなくても解除できる要件を満たせば,すなわち催告をして解除できる状態にすれば解除の意思表示をしなくても填補賠償が請求できるということでした。   その実質的な必要性として,確か継続的な取引とか分割給付の取引において,その中の一部の給付のみが履行不能になった場合に,解除を要求すると契約全部の解除をしなければならない,それは不都合であると,契約全部の解除はしたくない,当該分割給付についてのみ填補賠償で確定したいというニーズが実質的にあって,それがこういう新たなルール形成の背後になっているということが以前の部会資料に書かれていたという気がするわけです。   契約の一部解除が当然に認められるのだということであれば,今のような場合に一部解除をして填補賠償を請求することができるというような波及的な問題が一杯出てくる。前回も少し出ましたけれども,損害賠償額の算定の基準時が一体どうなるのだという問題もあります。どの時点で損害賠償額が確定するのかという点で,従来の議論が相当変わってくる。そういう履行障害法全般に影響が出てくるような改正をあえてしようというわけなので。そこがもし一部解除が認められないのだというのであればそういう考えもあり得るかなと私は思うのですが,一部解除が可能だということであればあえて解除もしないのに填補賠償を認めるニーズはないのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○金関係官 まず,債務の一部が不履行となった場合に原則として一部解除しか認められないという規律自体は,中間試案でもそれを前提としていましたので,一応のコンセンサスはあると認識しております。そのことを前提として,契約の解除をせずに填補賠償請求をすることの必要性を根拠付ける際に,これまで確かに継続的契約の例などを出して,継続的契約に基づく債務のうちの一部のみが不履行となっている場合には,その継続的契約の全部を解除するのではなく,その不履行となっている債務についての填補賠償請求で処理する必要性があるといった説明をしておりましたので,そのことと契約の一部解除が認められることとの関係はどうなっているのかという御指摘を頂いたのだろうと思います。ただ,その点につきましては,契約の一部解除が認められると言っても,解除の性質からくる一定の制約はあり得るところでして,例えば1か月ごとに納期が確定的に定まっていて,その納期ごとの権利義務がはっきりしているような継続的契約であれば,債務不履行となった例えば3期分に相当する契約の一部を解除するということが比較的言い易いのだろうと思いますけれども,そのように一部解除をする以上は契約の一部を解消することが可能な程度にその一部分を特定,区分できることが前提となりますので,継続的契約の中身次第では必ずしも直ちに一部解除が可能であるわけではないこともあり得るのだろうと思います。これに対して,填補賠償請求は,債務不履行となっている部分に対応する損害さえ立証できれば,そのように契約の一部を特定,区分できるかといった難しい問題をクリアする必要はないという面があると思います。その意味で填補賠償請求の方が契約の解除よりも比較的柔軟な処理が可能であり得ると思いますので,契約の一部解除という処理を認めつつも,一部解除をしないで填補賠償請求の方法を採ることも認めておくことには,なお合理性があるのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにいかがですか。 ○道垣内幹事 一部解除が認められるかどうかということについての話は,一部無効についても最終的に条文化しないという結論と対応しており,結局,給付の可分性とか契約の可分性とかが前提となり,さらに,可分性が認められるときでも,認められる場合と認められない場合があって,いずれについても要件でクリアに書くことがなかなか難しい。一部無効と同様に,どのような場合に一部解除が認められるかということは解釈に委ねられているということなのだろうと思います。   その意味では,金関係官が一部解除は当然認められるのが前提だとおっしゃったのはちょっと言い過ぎなところがあって,認められ得るということが前提になっているということなのだろうと思います。   そして,それを前提としたときに,私は岡委員がおっしゃったことは重要な話であろうと思います。つまり,もし一部でもありうるということを書くならば,3も4も5も「全部又は一部」と全部書かなければいけないところ,1だけ書いているのはどうしてなのかという話ですね。そして,それが例えば履行が一部不能であるという場合に,一部不能だからその一部が解除できるとなるかどうかが解釈問題に委ねられており,また,一部についての履行の拒絶が一部解除につながるかどうかということについてもその契約の性質に応じた解釈に委ねられているとするのならば,やはり(1)は「履行が不能であるとき」と単純に書いた方が全体としては平仄がとれているのではないか。なお,そのうえで,一部が全部にその影響を及ぼすときのある種の注意規定みたいなものとして(2)があるというのはこれまた分かるのですけれども。恐らく内容についてそれほど意見の対立があるわけではなくて,書き方の問題だろうと思いますので,御検討いただければと思います。 ○金関係官 道垣内幹事が最後におっしゃった書き方については,先ほどの深山幹事の御指摘もそうだと思いますけれども,直前の部会資料では正にそういう書き方をしていたこともあり,事務局としてもその書き方があり得るという問題意識は十分に持っております。本日頂いた御指摘を踏まえて改めて検討したいと思います。それから,一部解除については,私自身も当然に認められるというよりは一部解除できる場合があるという限度でしか申し上げていないつもりでしたので,念のため。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○佐成委員 第9の1についてですが,従来中間試案の段階ではこのただし書を設けることそのものについて我々の方は反対であって,信義則に委ねるべきだと,そういうことを主張しておりました。それで,今回は「軽微」という形に変わって,前回の「目的不達成」というのでは現行の判例の範囲とかなりギャップがあるのではないかという問題があったと思うのですが,この「軽微」についてどうかということで更に内部で議論しております。若干懸念を表明される方もいらっしゃいましたが,どこまで反対していくのかというのはまだ微妙な感じでありまして,収束する可能性も高いかなと感じております。 ○潮見幹事 3点申し上げます。いずれも委員・幹事の先生方が発言されたことについての,一部は意見,一部は質問です。   先ほど佐成委員がおっしゃったことについて,私は別にこれでも構わないとは思うのですが,いずれ解説とかいろいろなことを書かれるときに若干お願いしたいということで申し上げさせていただきたいことがあります。   先ほど福田幹事から,昭和43年判決というものの反映という形でこの提案というものについて高い評価がされたというように私は受け取りました。ただ,ここで昭和43年判決ほかを持ち出してくることが従来の裁判例の理解として正しいものかどうかということについては,私は大きな疑問を持っております。昭和43年判決は御案内のとおり,催告解除を扱ったケースではございません。特別の契約条項があって,その特別の契約条項に対する違反ということを理由として解除が認められるかどうかということが問題になったケースです。その意味では,このケースは催告解除という枠組みからは外れます。   しかも,この判決は,どういう表現を使うかどうかは別としまして,特別の契約条項に対する違反を理由とする解除を認めるということを示した判決であったと理解しております。そのような昭和43年判決を催告解除の,しかもただし書の阻却事由の所での解説等でお使いになられたとしたならば,それは従前の裁判例に対する理解として果たして正しいものかという疑義を感じる方々も,特に研究者の中では少なからずいらっしゃるのではないかと思います。   そういう意味では,仮にこのようなルールの立て付けがいいとしても,少しその解説をするに当たっては御留意をしながら解説を書いていただければと強く希望します。それが1点目です。これは意見です。   次に,2点目です。これは確認なのですが,先ほど中田委員がおっしゃられました履行期前に,既に履行期には履行しないことが客観的に明らかになっているという場面,しかしその履行拒絶の意思は表明していないというような場合について,事務当局でここでお示しになられた案は,それは解除原因にはならないという御趣旨なのでしょうか,それとも中田委員の発言にありましたが,不能というものの解釈を通じて今後議論をすればいいことであって,今回の案では今申し上げたような履行期前に履行しないことが客観的に明らかだという場合についての処理については何ら言及をしていないという御趣旨なのでしょうか。これが2点目の確認のための質問です。   それから,3点目,先ほどの548条の1項ですが,「不正に」という要件ではだめなのですか。前回,条件の箇所で「不正に」の意味を故意プラス信義則ですねと聞いたら,はいというお答えが返ってきたので,そうであれば,それとよく似た状況を想定されておられるのではないかなと感じましたものですから,「不正に」という言葉自体がいいとは決して思いませんけれども,使うのであれば,状況は同じようなものではないかと思いましたものですから。これは意見としてお聞きいただければ十分です。 ○金関係官 2点目の御質問を頂いた点については,解釈論はいろいろあり得ると思いますので,中田委員がおっしゃった解釈論を否定するわけではありませんけれども,事務局として想定していたことを申しますと,履行期前の解除につきましては,(3)の要件に該当するかどうかのみで判断されるという考え方を前提としておりました。そもそも(3)の要件は,本日もいろいろと御批判を頂きましたが,事務局としても一応それらの御批判と同じ方向,すなわち非常に厳格な要件,翻ることのない確定的な履行拒絶があった場合にのみ満たされる要件であることを前提としておりまして,それは逆に言いますと,この厳格な要件を満たさない限り解除権は発生しない,履行期も到来していないのに解除権は発生しないという解釈を前提としておりました。 ○鎌田部会長 ほかによろしいですか。 ○山本(敬)幹事 先ほどの潮見幹事の御発言のうち,第1点目の昭和43年判決の指摘については,私も全くそのとおりだと思いますので,御留意いただければと思います。   もう1点は,以前の部会から確認をさせていただいていた点なのですが,現行法で言えば目的物に瑕疵がある場合,これは不完全履行に相当するものと言うべきかもしれませんが,この場合にどのような要件の下に解除が認められることになるかということの確認をさせていただければと思います。   今回の第9の1のただし書で,「債務の不履行」が「軽微であるときは」とされたということは,瑕疵に当たるものが軽微なものであるときに,催告解除をすることは許されない。つまり,修補を請求して,なお修補に応じないというだけでは解除はできないということがこの1のただし書で示されている。   ただ,従来は,現在の570条によりますと,契約をした目的を達することができない場合には解除ができる。ここには催告ということが一切出て来ませんので,催告をすることなく解除できる。これはもちろん,修補請求ができるかという問題と連動しているのですが,いずれにしても直ちに解除できる。   今回の案ですと,第9の2の(5)が,恐らくこの問題をカバーしているのではないかと思いました。これも確認させていただければと思います。つまり,債務者がその債務を履行せず,債権者がその履行の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるときに,解除が認められる。この規定が何を意味するかと言いますと,催告して修補がされる見込みがあるときには,無催告の解除を認めないということなのか。つまり,およそもう修補の催告をしても無意味であるというようなタイプの瑕疵であるときには(5)で直ちに無催告解除が認められる。しかし,そのような瑕疵でない限り,1の催告解除をしなさいということが命じられたと読むのではないかと思いました。   これは従来からずっと問題にしていますように,比較法的には,このような解除を認めるべきかどうかがポイントになっているのですけれども,まず,私が今申し上げましたような理解になったということでよろしいのでしょうか。 ○金関係官 御指摘いただいたとおりの理解をしております。2の(2)に該当しない場合であることが前提ですけれども,今の御指摘はそのことが前提となっていたと思いますので,事務局としては御指摘のとおりの理解をしております。 ○鎌田部会長 関連した御意見ありますか。  よろしければ次に,「第10 危険負担」についての御意見をお伺いしたいと思います。 ○潮見幹事 3人の連名の意見書を前回用意させていただきました。その中の6ページの所に[8]ということで危険負担の所の「2 反対給付の履行拒絶」についてという箇所において私どもの意見を書かせていただきました。   四角の中にございますように,大きく分けて二つあります。一つ目は契約その他の当該債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてという修飾語をなぜつけなかったのかというところを御説明いただきたいということですが,これは先ほどの金関係官の別の点のお話で返ってくる答えはもう既に予想できておりますから,あえてここでお答えを頂くことは必要なかろうかと思います。ただ,納得をしたというわけでは決してございません。答えはいらないというそういう趣旨で御了解ください。   その意味では,②の部分についての意見を説明させていただきます。(1)の当事者双方の責めに帰することができない事由によってという文言を削除すべきではないかということでございます。理由の所を見ていただければと思います。この部分は多分恐らく重要なところだと思いますので,読み上げさせていただきます。   まず,原案において,解除と危険負担の制度の関係について,部会委員・幹事の様々な見解を取りまとめるため,解除に帰責事由を不要とする一方,危険負担についてもその効果を債務の消滅ではなく,履行拒絶権に結び付けて再構成することによって存置するという案を作成された点につきましては,事務当局のその努力は評価したいと思います。   私どもは今なお解除の一元化が論理的に一貫すると考えております。比較法的にどうなのか,これから先このようなルールができて外国に対してどのように説明をしていったらいいのか,恥ずかしくないのかというところはございますが,しかしこのような併存構成をとって履行不能により履行拒絶権が成立するが,反対債務から解放されるためには解除の意思表示を必要するという枠組みを作り上げたことに対してはこの段階で異を唱えることはいたしません。   読み上げると言いながら書いていないことを言いました。すみません。   もっとも,解除に債務者の帰責事由を不要とした上で,解除と危険負担の併存構成を採る場合には,両制度とも反対債務の負担を債務者に負わせるか,債権者に負わせるかの処理を目的とした制度である以上,どちらの制度によって処理したのでも反対債務の負担者について矛盾のないように制度設計をする必要があるように思われます。また書いてないことを申し上げますが,事前に拝読させていただきました山野目幹事の意見書も恐らく同じ趣旨ではなかろうかと思いました。また,原案もこのことを当然意識して立案することを指向しているようにも思われます。   しかしながら,このような観点から原案を見たときに,当事者双方の責めに帰することのできない事由によって債務の履行ができなくなったという要件を条文に盛り込んだのでは,両制度の間の矛盾を来すとともに,無用の要件を記述することとなり,問題を生じさせるのではないかと思います。   私たちは今から申し上げます理由により,当事者双方の責めに帰することのできない事由によってという文言を削除することを求めるものです。   なお,ここでの前提は飽くまでも解除に債務者の帰責事由はいらないという立場を採るということ,それから解除と危険負担制度を併存させ,かついずれの制度によるのであれ反対債務の負担につき矛盾のない解決を図ることです。   次ですが,一般論として申し上げましたならば,今回示された原案によれば,債権者は債務者からの反対債務の履行請求に対して,債務者の債務が履行不能になったということを主張・立証するとともに,これに加えて解除の意思表示をするか,又は今回の仮案で新たに設けられる規定により履行拒絶の意思表示をすれば反対債務の履行をしなくてよいということになります。従来の理解もこうであろうと思います。この次元では,債務者の帰責事由も,債権者の帰責事由も問題となる余地はございません。このことは現民法の536条1項の下でも認められてきたことですし,解除に帰責事由を不要とした場合にも同様の帰結に至ると思われます。   その上で,まず,債権者の責めに帰すべき事由による履行不能の場合についてみれば,この場合は,債権者は民法536条2項,まさに原案の2の(1)により,反対債務の履行を拒絶することができませんし,今回の原案で示された解除の規律からは履行不能を理由とする解除もすることができません。要するに,債権者の帰責事由による履行不能については民法536条2項及び解除権の発生障害に関する新しい規定で処理されるため,2の(1)が適用される余地はありません。2の(2)もこのことを前提としているものとみるしかありません。裏返せば,2の(1)では現民法536条1項と同様に,債権者の責めに帰すべき事由による履行不能については2の(2)に委ねられているということを前提に規定を設ければ足りると感じるところです。   他方,債務者の帰責事由に関しては,債務者の責めに帰すべき事由による履行不能の場合には債権者は契約の解除をすることができます。これは現民法でも同じです。そしてこの場合に先ほど述べましたように,原案が基礎に据えている考え方によれば,目的を同じくする解除と危険負担の二つの制度で反対債務の負担者について結論を異にする事態を招くべきではありませんから,債権者は,債務者からの反対債務の履行請求に対して,解除ではなくて危険負担の制度に依拠して履行拒絶権によるということで対応するときでも,反対債務の履行を拒絶することができるということにしなければ矛盾が生じます。要するに,債務者の責めに帰すべき事由による履行不能の場合には,従来からの表現によれば債務者が危険を負担するという構成が解除による場合と危険負担,履行拒絶構成による場合のいずれにおいても採用されるべきことになります。   このことは,要件事実的には,債務者からの反対債務の履行請求に対して,債権者が抗弁として,債務者の債務の履行不能を主張し,履行拒絶の意思表示をしたときに,債務者は履行不能が自らの責めに帰すべき事由によるものであったなどというような再抗弁を出して反対債務の履行請求を正当化することができないと,当たり前と言ったら当たり前かと思いますけれども,こういうことを意味するものであって,規範の構造からみても極めて自然な枠組みではないかと思われます。   他方,債務者の責めに帰することもできない事由による履行不能の場合には,要綱仮案原案の下では,債権者は契約を解除することができます。解除に債務者の帰責事由は不要だからです。したがって,債権者からの解除の抗弁に対して,債務者が履行不能が自らの責めに帰することのできない事由によるものであったと主張しても,主張自体が失当ということになります。他方,危険負担の制度による場合は,原案2の(1)によれば,債権者は反対債務の履行を拒絶することができます。したがって,ここでは,解除による場合と危険負担による場合のいずれにおいても債務者が危険を負担するというこういう構成が採用されるべきでありますし,実際に原案もそのような立案をしております。要件事実的には変わりますから省略します。   このようにみましたならば,債務者の帰責事由の有無は,2の(1)のルールの下での反対債務の履行拒絶権の成否を決する上で,意味を持ちません。債務者に帰責事由のある履行不能であれ,債務者に帰責事由のない履行不能であれ,債務者からの反対債務の履行請求に対して債権者は履行不能を理由に契約を解除することができますし,履行不能を理由に反対債務の履行を拒絶することができるからです。   したがって,2の(1)において債権者に帰責事由がない履行不能であることを述べることは不要ですし,債務者に帰責事由がない履行不能であることを述べたことは無意味です。それゆえに,当事者双方の責めに帰することのできない事由によってという文言を削除することを3名連記の意見書では強くお願いし,併せて事務当局他に強く検討を求めることを望む所存です。   以上です。長くなり失礼しました。 ○鎌田部会長 よろしければ山野目幹事からも御意見をお願いします。 ○山野目幹事 ありがとうございます。   ただいま潮見幹事から,当事者双方の責めに帰することのできない事由によって,という文言を削ることが,提案されている規律の趣旨の簡明な伝達にとっては相当であると考えられるというお話がありました。内容,実質の面について潮見幹事がおっしゃったことに同調いたします。   恐らく部会資料を立案なさった事務当局も同じお考えでいらっしゃるものであろうと考えます。そうであるとしますと,その規律の表現をどうするかということについて,あとは規律の文言上どういうふうな表現を採ることが適当かということを具体的にどう解決していくかという問題ではないかと考えます。   潮見幹事のおっしゃったことが本当にごもっともであると感ずるとともに,金関係官がお考えになっているところは,いろいろ法文起草の準備をされていく過程で御苦労があったものであろうとも拝察しました。私の意見書と部会資料とは表現が異なっていて,私の意見書はどちらかというと潮見幹事のおっしゃった方に近いものですが,なおいろいろな観点から検討を要することでしょう。潮見幹事の御意見を伺って更に検討を続けていただきたいと感じます。 ○鎌田部会長 関連した御意見があればお出しください。 ○中田委員 山野目幹事の意見書と関連するのですけれども,反対給付が履行済みであった場合にどうするのかということについて少し規律が分かりにくいのではないかと思いました。代金を支払った後で目的物が両当事者の責めに帰すべからざる理由で滅失したけれども解除権を行使できないという場合です。解除権を行使できないというのは,例えば544条によって行使できないという場合です。   引換給付判決ではなくて請求棄却判決になるという御説明からしましても,これはやはり返還させるべきではないかと思うのですけれども,それが表面に出ておりませんのでむしろ出した方がいいのではないかと思うのです。山野目幹事の意見書の中では,解除か非債弁済で対応できると書いておられるのですけれども,今の例ですとそのいずれでも対応できないので,やはり必要ではないかということです。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御意見あればお願いいたします。 ○山野目幹事 中田委員に御質問ですが,問題提起なさったことはごもっともであると感じますとともに,何かその規律の表現についてアイデアのようなものがおありだったら御教示いただければ幸いです。 ○中田委員 具体的な文言を考えてきたわけではないのですけれども,履行済みでなければ履行拒絶できるし,履行済みであればその返還をするという内容の規律を置いた方が整合的ではないかということです。 ○金関係官 潮見幹事から頂いた御指摘については,山野目幹事からも御指摘いただいたとおり,大きく異なることを考えているわけではないというのが前提ですけれども,ただ,意見書の7ページの(ⅳ)のところの債務者に帰責事由がある場合の処理については,事務局の理解と異なる点があるように思います。現行法の下では,債務者に帰責事由がある場合には填補賠償債務が発生するので危険負担の536条1項の適用はないとされています。そのことを前提に,債務者に帰責事由がある場合には目的物引渡債務に代わる填補賠償債務と代金支払債務とが同時履行の関係に立つという整理をしているのではないかと思います。今回の案は,その点については現行法を変更する必要はないという理解を前提としております。すなわち,債務者に帰責事由があるのであれば填補賠償債務との同時履行を主張して代金の支払を,すみません売買を前提としていますけれども,買主側は代金の支払を拒絶すればよいという整理をしております。なぜそういう整理をしているかと言いますと,今回の危険負担による履行拒絶権というのは,同時履行の抗弁権とは異なり,永久に履行を拒絶できることを前提としておりますが,債務者に帰責事由がある場合にこの履行拒絶権を認めてしまいますと,買主は売主に対して填補賠償請求として満額の請求をしながら,この危険負担による履行拒絶権によって永久に代金の支払も拒絶することができると,少なくともそのように読まれる可能性がありますので,それは適当でないという観点から,現行法の下での処理を変更する必要はないし,変更すべきでもないという理解をしております。   次に,当事者双方の帰責事由によらないでという文言を入れることが無用の要件を定めることになるのかどうかという問題ですけれども,ここは主張立証責任と言いますか,要件事実論と言いますか,そういう観点から見れば,確かに当事者双方の帰責事由によらないでと書いてあっても,これは危険負担の主張をする債権者の側で当事者双方の帰責事由によらないで履行不能となったことを主張立証する必要はなくて,債権者の側では履行不能となったことさえ主張立証すれば,あとは債務者の側でそれが債権者の帰責事由によることを主張立証したり,債務者が自分自身の帰責事由による履行不能なので危険負担ではなく填補賠償債務の問題として処理してくださいといった主張,二つ目の主張は実際にそのような主張がされることは通常ないとは思いますが,そういった主張立証責任の分配がされると思います。しかし,だからといって当事者双方の帰責事由によらないでという文言,現在の民法536条1項の文言を削除するのが相当かというと,それは相当ではないというのが事務局として考えているところです。今回の改正では,要件事実論や主張立証責任の観点から適切な文言や適切な条文構造を選ぶということを提案している箇所もありますけれども,とはいえ,そのような文言や条文構造だけで主張立証責任の所在が決まるわけではないこともまた否定できないところで,その前後に配置された条文の書きぶりや関係する他の条文の書きぶり,あるいは実質的な公平の観点などから主張立証責任は定まると言わざるを得ない面があります。その上,主張立証責任の観点からのみ条文を書くとかえって中身が分かりにくい条文となってしまうことがあるという点も度々指摘されるところで,事務局としてはそのことも意識せざるを得ない面があります。そのような観点からしますと,この危険負担の法理というのは,当事者双方の帰責事由によらないで債務の履行が不能となった場合にはその反対給付債務が消滅する,今回の改正で言えばその反対給付債務の履行を拒絶できるというルールとして,これまでも実体法のルールとしては理解されてきましたので,実体法の規定としては,端的に当事者双方の帰責事由によらないで履行不能となった場合という表現を用いればよいし,用いるべきであると考えております。 ○潮見幹事 ここから,私個人の意見として言わせていただきます。   先ほど冒頭で連名の意見書でここまで調整された事務局の労を多としたいと,賛成したいと申し上げましたが,今のような説明をされるのであれば私はこういう構成に対しては今の理解であれば反対をせざるを得ません。   その理由は,直前におっしゃられた,要件事実の枠組みをどういうふうに組むかというよりは,より本質的な点にあります。   今回,解除と危険負担の制度をどのように組み立てていくのか,基本的な枠組みをどのように構成するのかが問題となり,そこにおいて解除と危険負担がどのような制度目的を持っているのかということを基本に据えて捉えたときに,一方で,解除では,債務者の帰責事由をいらないとすることによって反対債務からの解放ということが大きな意味を持つという制度設計にしました。他方で,そうすることによって従来から反対債務をどうするかということで問題にされてきた危険負担の制度との関係が問題となり,同じ目的を持っているような二つの制度がそのままの形で並ぶと,一方ではその債権者のオプションによって契約が維持される,消えるということが決まり,他方では危険負担の従来の制度でいったら反対債務が消える・消えないという枠組みができて,これは矛盾をしているのではないかという形でこの間の議論は進んできたと思うのです。   その中では,先ほど金関係官が何回か強調されました填補賠償請求がどのようになるのか,それを組み込まなければいけないという形での議論というものは,二次的なものにすぎません。むしろ,本来の姿である二つの制度をどういうふうに関係付けるかということが基本にあったはずです。その部分を抜きにして填補賠償請求が問題になるからという観点から理由づけられるのであれば,ちょっとそれは変ではないのかなと思います。むしろ,ここまでの議論を踏まえれば,もっぱら解除と危険負担の関係をどのように処理するかという観点から捉えて,私のように解除一元化を考えていた人間も,危険負担の所で履行拒絶という形で処理をするのであれば,それほど矛盾は生じないですねというところでそこは納得をし,他方,危険負担制度を維持すべきであるという委員の先生方,とりわけ債務者の帰責事由を除くのはどうかと言っておられた先生方も,解除と危険負担と両方が併存するということであるならばこれでよろしいではないかという形で理解をしていただいているのではないかと思うのです。その枠組みを決して忘れないでいただきたいのです。   それを基にしたとき,填補賠償請求をどうするかは,填補賠償請求については前回御議論がありましたように,独立の条文を作るわけでして,その下で填補賠償請求はどのような要件の下で成立するのかということが考えられていくわけです。その規定で捉えられる填補賠償請求権と,反対債務の履行拒絶とは,何も危険負担の枠の中で一本の条文でまとめて論じる必要が果たしてあるのでしょうか。かえってこれらを一つにまとめて扱うことによって,解除と危険負担の制度の本来の姿が見失われるのではないかという危惧を強く抱きます。   そういう意味で,いろいろな説明の仕方はあると思いますし,山野目幹事からのお話もありましたように,立法技術的にいろいろな問題があるというのは私も理解はしているつもりですが,しかし,それでも,説明をするに当たっては少し気を付けていただきたいということを本当にこれは強くお願いします。ここまで妥協しているわけですから,その分については忖度してください。 ○山野目幹事 少し前の潮見幹事と金関係官の意見交換から明らかになったこととして,差し当たり履行拒絶権が行使された場合の訴訟上の攻撃防御の構造がどのようなものになるかということについてはお二人の間で認識が一致しているものであります。そうであるとしますと,当事者双方の責めに帰することができない事由によって,という文言を規律表現として入れるか入れないかというところにお話が集約されてくることになります。金関係官が一所懸命に御説明になったように,ここに限らず民法の法文が必ずしも訴訟上の攻撃防御に忠実に一貫してそういう態度で起草されているものではありませんし,それから法文の起草に当たられるお立場から言えば,現行の536条に記されている文言を削るということについて説明の御労苦があったり勇気が必要になったりするということもよく理解いたします。   それと同時に,半面におきまして,しかしこの536条は今までのものを単にブラッシュアップするということではなくて,潮見幹事が力説されたように,今後は新しく要件を調えて装いを新たにする解除の制度と二元的に併存することになったものとしての536条の後継規定になるものでありますから,その趣旨や民法上の体系的な位置づけが明確になるよう分かりやすい規律表現を工夫していただくということが,事務当局もそうですし,委員・幹事も努力しなければいけないことであろうと考えます。   そのような観点から,いろいろ御労苦はおありだと思いますが,今日の御議論を踏まえて事務当局におかれましてあと一歩御検討があってもよいのではないかということも感じましたから申し上げさせていただきます。 ○山本(敬)幹事 表現についてはそのとおりなのですが,恐らく内容の理解が分かれていたのだろうと思います。と言いますのは,契約の一方からの相手方に対する契約の履行請求,例えば代金の支払請求に対して,請求を受けた者が他方の引渡債務が履行不能になったことを抗弁として主張すると,これで代金の支払請求を拒絶できるという提案のはずです。ところが,先ほどの御説明によりますと,潮見幹事はこれは奇妙だとおっしゃったのですけれども,請求した側が自分の引渡債務の履行不能について自分自身に責めに帰すべき事由があることを主張・立証すれば代金の支払請求が認められるということを述べられたのだと思います。これは,これだけを聞いても奇妙であるということが分かると思いますが,より一層問題なのは,それで代金の支払請求が認められるかといいますと,請求を受けた側が払いたくないと思えば,解除すればよいわけです。契約解除は,もはや債務者の責めに帰すべき事由の有無に関わりなく認められるわけですので,解除はできる。とすると,一体何のためにこの場合に履行拒絶を否定するのか。解除すれば結局履行請求を拒否できる。これは評価矛盾ではないかというのが,この意見書で示していることです。   お答えになったようなことでは,解除制度とこの新しい危険負担制度との平仄がとれない,何のために履行拒絶を否定するのかという説明がつかない,そのようなことにならないように,両者の要件を整合的に定める必要がある。それならば,不満はもちろんあるのですけれども,まだ容認可能であるというのが意見の骨子です。金関係官がおっしゃったのはそこに抵触する重大問題だったわけですので,潮見幹事がかなり厳しいことをおっしゃったのだと思います。その点では,私もまったく同感です。 ○鎌田部会長 ここで私は退席しまして,野村委員に進行をお願いすることにいたします。断して申し訳ありませんでした。よろしくお願いします。 ○野村委員 それでは,続けたいと思います。金関係官から。 ○金関係官 はい。まず山本敬三幹事が履行拒絶を否定するとおっしゃった点について念のため申しますと,事務局として考えているのは,履行の拒絶を一切否定しようということではなくて,先ほど申しましたとおり同時履行の抗弁権による処理をするということです。履行の拒絶が一切否定されるのであれば,御指摘のとおり非常に大きな問題が生ずると思いますが,必ずしもそうではありませんので,少なくともその点は前提とする必要があるのではないかと思います。その上で,もう一つ前提とする必要があると思いますのは,事務局が考えているこの処理の仕方は,現行法の危険負担の制度の下で現実に行われている処理と全く同じであるということです。現行法の危険負担の制度は,536条1項の文言から明らかですけれども,当事者双方の帰責事由によらないで履行不能となった場合にのみ適用されるものですので,債務者に帰責事由がある場合には適用されません。そういった現行法との連続性を意識しながら制度設計をすることも求められるところだと思います。もちろん解除と危険負担とのバランスについて頂いた御指摘につきましては十分に理解しているつもりで,かつ,極めて合理性のある御指摘であるとも感じておりますが,ただ,制度を一から作るわけではないということもまた無視できない事実で,その辺りはある程度仕方のない面もあるのではないかと考えております。ただ,厳しい御指摘を頂いたことを前提に再度十分に検討したいと思っております。 ○山本(敬)幹事 もう十分お分かりになっていると思うのですけれども,同時履行の抗弁権が原則として使える場合はあり得るかもしれませんが,当然のことながら,弁済期が双方の債務で異なる場合は,同時履行の抗弁権を出すことができない場合が出てきます。しかし,そのときに,先ほど私が申し上げたような解除ができるということとの抵触問題が現実にはっきりと出てくるだろうと思います。その意味では,今の御説明では全てを説明できていないだろうと思います。 ○鹿野幹事 先ほど中田委員がおっしゃったことに関して発言してよろしいでしょうか。中田委員がおっしゃった点について,私も同じような疑問を,これを読んで感じました。   履行拒絶権構成ということについて,今回事務局でいろいろと意見の調整を図られて御努力をされたということは評価したいと思います。しかし,この履行拒絶権構成にしたときに,既履行の場合,つまり債権者が反対給付の全部又は一部を既に履行していた場合にその返還請求はどうなるのかということが問題となります。もしその返還を求めるためには必ず解除の意思表示をしなければならないということであると,この資料「79-3」の補足説明の17ページの所に記載された問題が残ります。つまり,ここでは一元化案に対して出された2点の問題点が指摘されているのですが,その特に2点目で,契約解除については民法544条の解除の不可分性など独自の制限があるために解除の意思表示ができないというような事態も考えられるという問題点が指摘されています。そこで,そのような場合はもう解除の意思表示ができないから取り戻せないということは仕方がないということになるのでしょうか。それとも,先ほど中田委員は恐らく,この場合は解除をしなくても取り戻せるはずであって,それを明確化するべきだという趣旨で御発言されたようにも伺いましたが,それができることが予定されているのでしょうか。この既になされていた給付の返還請求の点について,まず事務局のお考えを確認させていただければと思います。 ○金関係官 事務局としましては,解除権の行使も否定され,かつ,非債弁済にも当たらないような場合であれば,そのような結果になることもあり得るのではないかと考えておりました。ただ,その前提として,非債弁済の要件については,債務がないのに弁済した,債務が消滅しているのに弁済したという場合のみならず,債務について抗弁権があるのに弁済をしたという場合も,非債弁済の規律の対象となり得るという理解をしております。解除権の行使が否定され,かつ,非債弁済にも当たらないような場合に支払済みの代金の返還を認めるべきかどうかというのは,一つの価値判断の問題でもあるとも思いますけれども,御指摘を踏まえて再度検討したいと思います。 ○鹿野幹事 ちょっと私の理解が足りないのかもしれずさらに確認させて頂きたいのですが,契約を解除しなかったら契約関係は続いているということなのですよね。給付義務が当然には消滅しないということだとすると,既になされた給付は非債弁済というものに当然にはならないのではありませんか。例えば,代金の支払いについて先履行の約束があって,既に支払っていた。ところがその後,目的物の引渡しを受ける前に,不可抗力等によって目的物の引渡しができない状態になったというような場合について,伺っております。 ○金関係官 すみません,御指摘の内容を十分に理解していないおそれがありますが,危険負担による履行拒絶の抗弁というのは永久に履行を拒絶できるという抗弁で,あたかも当該債務が自然債務になるのと同じようなことであると理解しておりますけれども,それにもかかわらず弁済をしてしまっている場合に非債弁済と同様に扱うという解釈があり得るということではないかと理解しているということを先ほど申しました。 ○鹿野幹事 だとすると,やはり中田委員がおっしゃったように,必ずしもこの記載からそのような効果が導き出せるかは明らかでないように見えるので,そうであればそのことをはっきり書いた方がよいと思います。いかがでしょうか。 ○山野目幹事 鹿野幹事の御議論と金関係官のお話になっていることとお話がかみ合っていないのではありませんか。金関係官が繰返し,非債弁済というものは債務が存在しない状態でした弁済のみをいうものではなく,抗弁権がある状態でそのことに十分認識をしないでしたものについてもその法理の適用があるという説明をしていることで差し当たっては議論が一歩進んでいると感じます。ただし,中田委員がもう少し前におっしゃったお話は,それよりもう少しサイズが大きい部分があって,代金の一部なりとも支払った後で目的物が滅失などして問題状況に変化が生じたときのこともカバーするように考えていきましょうという問題提起も含まれていて,そこについて金関係官に更にお話をお願いするというのであればそこから議論が引き続きかみ合っていくものであろうと考えます。   そして,それについて申し上げれば,中田委員が示唆されたように,そのこともきちっと書き上げるという規律表現にするか,非債弁済に関する規律の法理を推及などすることにより,非債弁済の場面における解決を参考とした上でその点についての解決を解釈に委ねるか,その点に論議が集約されてきますから,これは今日の議論で論点が浮かび上がってきた事項として,事務当局に引き続き御検討をお願いしなければならないものと認識いたします。 ○松本委員 抗弁権がある場合にそれを知らないで弁済したら非債弁済になるかという点はちょっと私自信ありませんが,それはそれで大変大きな問題としてどこかで議論していただきたい問題です。   それはさておいて,鹿野幹事がおっしゃったところの抗弁権構成による不都合として,今の先履行の場合の処理と並んでもう一つ一般的な不都合として,担保権を設定しているような場合に担保は永遠に消えないという,被担保債務の発生原因となった契約を解除しない限りは消えないというところがございます。では,解除すればいいではないかということになりますが,先ほどの議論と全く同じような解除できない事情があるような場合にどうするのだという論点が残るのではないかと思うのです。これは鹿野幹事からの質問に触発されたことなのですが。   更により一般化して言えば,私自身は多くの人が目のかたきにするような単純併存説というのがそれほど悪いという気は余りしないのです。学者の立場からいけば理論的に重複しているではないかとおっしゃるわけだけれども,実務的に考えればそっちの方が便利であればそれでいいではないかということの現実の例が,先ほどから私が何回か問題にしております填補賠償の請求の所です。解除しなくても填補賠償請求権は成立しているのだと。填補賠償も請求できれば履行請求もできるということをどういうふうに理論的に説明するのか,従来からいくとかなり難しいところになってくる。理論的には余り透明でない状況になるにもかかわらず,そういう制度を入れようとする前提には,一部解除が認められない,あるいはそれが面倒な場合があるから解除しないでも填補賠償が請求できるということにメリットがあるのだということです。確かに一定の紛争類型においてはそういうメリットがある場合があるだろうと思いますから,それが認められることを一切否定すべきだとは言いません。そうであれば,解除と危険負担の併存についても,一部が履行不能という場合において,一部解除で処理ができないときに全部解除しかできないとなると不都合だから,その一部については反対債務が一部消滅するという危険負担で処理をしましょうということにする実務的なニーズはあるのではないかなと。   したがって,私はこの解除と危険負担の問題と解除と填補賠償の請求権の問題というのは同じような性質を持った論点ではないかと考えておりまして,どちらか一方を理論的不透明でも実務的な利益があるから入れて,片一方は実務的な利益があっても理論的に不透明だから採用しないというのはちょっと立法のやり方としてアンバランスかなという感じがいたします。立法するのならどちらも同じルールで処理すべきかと思います。 ○野村委員 それでは,鹿野幹事,何か御発言がございますか。 ○鹿野幹事 山野目幹事が先ほど議論がかみ合っていないのではないかと御指摘されましたので,先ほどの私の発言の趣旨について一言付け加えます。先ほど私が疑問とした事態は,正に山野目幹事が中田委員からの御質問の例として挙げられたのと全く同じでありましたし,先ほど,私自身そういう例を挙げたつもりです。   その上で,確かに山野目幹事が出されたペーパーに一定の解釈が示されているのですが,ただ事務局のお考えとしてどうかということそれ自体は必ずしも明確ではなかったように思いました。また,先ほども申し上げたように,先に代金は支払っていたが,その後に目的物が不可抗力等によって滅失等したことにより,引渡しをすることができなくなったというような場合において,その支払った代金を取り戻すことができるかどうかということが,履行拒絶権ということを書いただけでは必ずしも文言上は明らかではないと思います。そこで,解除しなくても返還請求ができるということで考えが一致しているのであれば,それは明確に書くべきであろうし,あるいはその点については解釈に委ねるということであれば,それはそれでそのことを確認した方がいいという,そういうつもりでありました。 ○金関係官 ありがとうございました。私が問題点を十分に理解していなかったと思います。それで問題点を理解したことを前提にですけれども,事務局としてはやはり,解除権の行使あるいは非債弁済の柔軟な解釈によって対応できない場合があるとすれば,それは返還請求できない場合が極論すればあり得る,ある意味ではそれでよいということを考えております。松本委員が少し御示唆されましたが,そもそも非債弁済の規律では対応できない場合があるという御批判は,中間試案で採られていた危険負担廃止説に対して最もよく妥当する批判で,危険負担廃止説の下では,そもそも非債弁済の規律による対応は一切できないことになります。今回の案は,危険負担の制度は廃止せずにしかしその効果を履行拒絶権構成にしようというもので,危険負担廃止説に比べれば非債弁済による処理がある程度可能,事務局の認識ではほとんどの場合に可能であるという点で,問題点ははるかに小さいのではないかと考えております。むしろこの問題点に完璧に対応する方法としては,解除と危険負担とを単純に併存させるほかないのではないかと思いますけれども,そのような単純併存説については,一部の研究者の先生からは理論的にあり得ないといった主張がされてきたところです。しかし,松本委員からは今必ずしもそうではないという御意見を頂いたと理解しました。中田委員や鹿野幹事もひょっとするとそういうお考えが背後にあるのかもしれないと感じております。それはさておき,事務局としては以上申し上げたとおりの整理をしております。中田委員からは,弁済してしまったものの返還については,特別の規定を置けばよいではないかという御指摘を頂きましたけれども,そのような規定を置くのであれば,非債弁済の規律で対応できる場面とそうでない場面とを書き分けて,非債弁済で対応できない場面だけを取り出して要件化する必要がありますが,それが果たして可能なのか非常に悩ましいところがあるようにも感じます。いずれにせよ御指摘を踏まえて改めて検討いたします。 ○野村委員 ほかに御意見はよろしいでしょうか。 ○佐成委員 産業界としましては,従前から危険負担の廃止については消極的な意見を述べております。できたら,従来も述べておりますけれども,単純併存でお願いしたいというふうなことを申し上げてきたかと思いますし,単純併存がベストであろうと思います。あくまで産業界としてですけれども。産業界としてはこれがベストなのですけれども,ただ,法制的な見地から単純併存が難しいということであれば,セカンドベストということで履行拒絶権構成という形であれ,最低限危険負担が残るというのであれば,もちろん内部ではまだ単純併存の方がいいのではないかという意見もありますし,松本先生の今の御意見もありましたところでもあり,単純併存ということについてはまだ心残りはあるのですが,ただ,全体的に収束していくためには,危険負担が何とか残るということであれば考えられない選択肢ではないだろうとは感じております。   ただ,先般内部で議論した中では,こういう中途半端な形で永久に抗弁権という形で残るというのは債権管理の面でかなりコスト的に問題があるのではないかということと,特にそこで出ていたのは,税務処理が一体どうなるのだろうかと,単純にそれを償却できるのだろうかと,そういったところに懸念が出ておりました。そういうことで,仮にこの履行拒絶権構成というのが全体の結論になるとすれば,その辺りについても十分御検討いただきたいと感じております。 ○山本(敬)幹事 そのような場合は解除していただければということはあるのですが,それは置くとしまして,非常に大きく分ければ,論点は二つあるのだろうと思います。一つは,解除制度とは別に危険負担制度を,そのままの内容か,履行拒絶権構成に変えるかは別として,残して,両者の併存をなお認めるかどうかという問題と,両者の要件を一致させる方向で考えるかという問題です。この二つの問題は,関係していますけれども,やはり異なる問題だと思います。   そして,今出ている御意見を全部伺っていても,対立していると思われるのは,解除に一元化するのではなく,何らかの形での併存を認めるかという問題であって,積極的に両者で要件を異にしてよい,あるいは異にすべきであるという御意見は出ていないのではないかと思います。むしろ,併存させるにしても.両者で整合性を持たない結論が出てきてよいということは,積極的な理由もあり得ないですし,そのような実践的な要請があるとも思えません。   ですので,先ほど強く強調したところではありますけれども,少なくとも両者で要件構成は変わらないようにしていただきたいというのが最低限の要望だということを改めて強調しておきたいと思います。 ○野村委員 どうもありがとうございます。   ほかに特になければ。 ○岡委員 潮見先生に質問させていただきたいのですが。債務者の責めに帰すべき履行不能の場合に,債権者に履行拒絶権を与えていいではないかというのはそのとおりだと思うのですが,実務的にはやはり填補賠償請求をすることが多くなるだろうと思うのです。その填補賠償請求したときはその履行拒絶権というのはどうなるのですか。単にあるけれども行使しないだけという整理になるのでしょうか。 ○潮見幹事 填補賠償請求をするということは,履行不能を理由として,あるいはそれ以外の原因に基づいて填補賠償請求をするという判断をされているわけですよね。あとは,それは填補賠償請求のレベルの話であって,契約を解除することができるかどうか,履行拒絶をすることができるかどうかということは,まったく別の問題です。先ほどの御発言させていただいた内容もそこにあるということを御理解いただければと思います。 ○中田委員 先ほどの既履行分について解釈に最終的に委ねてはどうかというのが金関係官の御意見で,それはそれでしょうがないのかなとも思いますが,ただ,その場合であっても解除ができなくて,かつ非債弁済にも当たらない場合にはこれは返さなくてよいということまでは決めなくて,それについてはほかの法律構成,今とっさには思いつきませんですけれども,ほかの構成の余地は残しておくという方がよろしいのではないかと思います。 ○金関係官 ありがとうございます。その解釈論を否定する意図は全くございません。それからついでに1点,先ほど佐成委員から頂いた御指摘に対して山本敬三幹事からその場合には契約を解除すればよいとの御指摘があった点ですけれども,佐成委員の問題意識はおそらく,履行不能となった債務の債務者の方が自己の有する反対給付債権についての管理をどうすべきか困ることになり得るということではないかと思います。つまり,債権の管理に困っている債務者の方には解除権はない場面についての問題を指摘されたのだと思います。それを前提として,特に税務上の処理がどうなるのかという点については,御指摘を踏まえて問題がないか十分に確認しておく必要があると感じておりますが,一応の考え方としましては,債務が消滅しないのに償却処理がされる場面という観点のみから申しますと,破産免責された債権も一般的には自然債務になるだけで免責された債権が消滅するわけではないとされていますが,それでも償却処理の対象にはなり得ます。ですので,債権が消滅しないことそれ自体が償却処理をすることに重大な影響を及ぼすわけではないとも思います。今回の危険負担による履行拒絶というのは,自己の債務が履行不能となってしまった側の者から見れば,自己の有する反対給付債権は言わば当然に自然債務,自然債権になると言いますか,請求力も訴求力も執行力もなく単に給付保持力のみがあるという状態に当然になるのと同様であると理解しておりますけれども,その状態は相手方の資力などとは無関係に半永久の状態として固定されますので,その意味では破産免責された債権以上に償却処理に適しているとも言い得るのではないかとさえ思っております。ただ,そのような理解で本当によいのかという点については,御指摘を踏まえて関係機関とも協議の上,十分に検討したいと考えております。   もう一点,先ほど危険負担と解除の単純併存説にそれなりの支持が実はあるのではないかというニュアンスのことを申しましたが,事務局としては単純併存説でよいと考えているわけではありません。履行不能解除の要件として債務者の帰責事由を不要とした以上,危険負担と履行不能解除との効果の重複を回避する必要がある,それは法制上の問題としてその必要があると考えております。それを前提に履行拒絶権構成の案を出しているということですので,念のため一言申し上げます。 ○野村委員 それでは,大分いろいろ御議論いただきましたけれども,なお,御意見がありましたら,お願いいたします。 ○内田委員 中田委員から指摘のありました反対債務が既履行であったという場面については,解除一元化でも同じ問題があるわけですよね。そしてその場合は,多分解除権の行使要件の解釈論で対応していくのだろうと思いますので,同じような問題は柔軟に解釈で対応できるのではないかという気がいたしました。   もう一つ,山本敬三さんや潮見さんから履行拒絶権構成の危険負担というものを置く以上は解除と要件をきちんと揃えるべきであるという強い御主張があり,それは理論的に非常によく理解できるところではあるのですが。他方で,これ現行法の改正ですので,現在ある危険負担制度をなくさないとするとどう変えるのかという形で議論を立てて立法論をせざるを得ない。そうすると,現在ある規定の下で反対債務が消えるというところを履行拒絶という形に置き換えるということをまず最低限やっているわけですけれども,そこから更に危険負担の射程を広げて,解除との間で不整合が生じないようにしていくかどうかというのは,これは理論的,体系的な観点だけではなくて,やはり立法としてそれが可能かどうかという実践的な判断も必要になるのだろうと思います。   今挙げられたような問題というのは同時履行の抗弁権で対応できる場面もかなりあり,それが使えないような先履行の場面については不安の抗弁という,明文化はされないですけれども,しかし存在している理論があるということで一応対応できるのであるとすると,なぜわざわざ現行法の危険負担の射程を広げる必要があるのだという議論は出てくるだろうと思います。   そういった問題にもいろいろ対応しながら条文を作っていくということですので,必ずしも理論的な整合性だけでは要件を決めきれないところがあるという点は御理解いただく必要があるのではないかと思いました。 ○潮見幹事 すみません,一言だけ。これは私個人の理解かもしれませんけれども,今回3名の意見書という形で出していただいた基礎になる考え方というのは,現在の危険負担の適用範囲あるいは射程を広げるというようなことを考慮に入れてしたものとは思ってはおりません。むしろ,今の制度というものを前提として,そこで先ほどから少し問題にしておりました解除に帰責事由はいらないという構成を採用した場合に,両方の制度を,先ほど山本敬三幹事は要件とおっしゃいましたが,矛盾のないような形で処理するにはどうしたらいいのであろうという観点から出したものです。解除の枠組みが変わることによって,それが現行の危険負担制度にどう変化をもたらすかという観点からではなかったかと思います。   内田委員からのお話を伺っていますと,最終的に出てくる案というものについては場合によれば解除とそれから危険負担において,先ほどの山本幹事の整理によれば二つ目の話,つまり要件というものが変わってくる可能性があり得るということで,もしそのような立法がされた場合には私どもが解釈するときにはその要件が違うのだということを前提として解釈をして,あるいはその事実についても案件処理をしていかなければいけないということになるのだなというように,私自身は自分で整理してみたところです。 ○松本委員 解除と危険負担で,その要件が一緒になったのだから効果も一緒にならないとおかしいではないかという理屈であれば,要件は重なる部分もあるけれども,重ならない部分もあるというのがこの部会資料の立場ですよね。一部解除できる場合も,できない場合もあり,できない場合として不可分性のある場合などがあり得るのだとすれば,そもそも要件レベルにおいて重なっているところと重なっていないところがあるという話だと思うのです。   その上で,更に効果という点で,反対債務の消滅という単純併存説を採れば効果は一緒になってしまうのですが,今回の御提案のような履行拒絶構成だと効果が違うわけです。効果を違わせないと二つの制度の併存を認められないからそうしたという御説明で,したがって代金債務が既履行の場合,先履行している場合にはひょっとするとお金が戻ってこないかもしれないという結果になる。また,抵当権を設定している場合には抵当権を消せない,消滅時効をいずれ言えるのかもしれないのですが,よく分からないです。効果にわざと違いをつけようということでこういう工夫をされたのかなという感じもするのですが。   そうすると,現在危険負担制度の下で実務が動いているとして,それを変えろと民法が要求するということになると思うのです。実務的に不都合があるのであればそれは変えた方がいいのだけれども,実務的な不都合というのは余り聞かないですね。学者的な不都合は一杯言われていて,確かに理論的にすっきりしないと言われるとそうだと学者としては言いたくなるのですけれども。実務的にはそれで動いているのだし,不透明かもしれないけれども,あるニーズはこちらの制度でしかカバーできないのだとすれば,それはそれで残すべきではないかということで私は単純併存説,多くの人から批判される立場なのですけれども,でもいいではないかということを言っているわけです。   その傍証として,先ほどから言っております填補賠償請求権の成立要件の所で不透明な理論構成をしてでも実務的なニーズをくみ取ろうという御判断をされたのであれば,ここでもそういう単純併存にしても構わないのではないかということをもう一度申し上げたいということです。 ○山本(敬)幹事 先ほど潮見幹事から言っていただいたこととほとんど一緒なのですが,内田委員が言われましたように,現行法の改正であるということではあるのですけれども,現行法の危険負担制度は,解除について責めに帰すべき事由が要件になることを前提にして組み立てられた要件構成になっている。そしてまた,それを前提にして,学説でも要件の解釈が行われてきたという面があります。しかし,今回は,解除の要件を明確に変えるわけですので,危険負担の要件がそのままというわけにはいかないはずである,したがって,仮に危険負担制度を履行拒絶権構成に変えて残すとしても,解除制度が変わったことを前提にして,それとの関係でこの履行拒絶権の要件をどう設定するかということが問われるはずである。そして,履行請求に対して,契約を解消するかしないかは別として,その履行請求を拒絶するという効果に関しては両者で重なる側面をあるとするならば,その限りで要件を異にしてよいということは出てこないだろうと思います。これは理論的にそう言えるだけではなく,実践的にも違ってくるというのはおかしいし,そして,何のために履行拒絶権を否定するのかというようなことが問題になってくるということは先ほど申し上げたとおりです。   したがって,このような形で両制度の併存を認めるとしても,要件については,現行法を前提にするのではなく,新しい制度に見合った要件をきちんと設定する必要があるというのが,繰返し申し上げていることのポイントです。 ○潮見幹事 すみません,1点だけ,長くなって申し訳ありません,追加させていただきたいことがあります。   最初に私が先ほど連名の意見書を申し上げたときに,金関係官としては要件事実だとか理論的な枠組みとしてはそうかもしれないとされつつ,填補賠償の話も例に出しながら,実際の条文を立てていくときには様々な考慮の下で考えていかなければいけない結果こうなるのだというような御趣旨でおっしゃられたのではないかと個人的には理解をしました。   そのときの御発言では,今直前から少し問題になっているところに引き続けて申し上げますと,その要件を解除の枠組みで捉えるときと危険負担の枠組みで捉えるときとで変えるのだという表現は一切なかったのではないかと思います。むしろ,立法技術的に考えていったときに,3人の連名の意見書のような形でのピュアな形での条文立てが他の様々な問題に関連付けて捉えたときに難しいところがあるから,今回のような形での要綱の仮案の提示になったのだというような趣旨が多分に含まれていたのではないかと思いました。   そういう意味ではこれはお願いになるのかもしれませんけれども,仮に条文の構成面で無理があるからというだけの理由であるのならば,あるいはそれが主たる理由であるのならば,それが要件面でズレを来さないような形での構成になるように最大限の努力を関係官として図っていただきたいなと思うところです。 ○中井委員 長くなっているところ申し訳ありません。議論を聞かせていただきました。弁護士会として余り申し上げていないのですけれども,まず部会資料の配布を受けて,この第10の2について弁護士会各地に問合せをいたしました。併存説の方はいらっしゃいますけれども,それはともかくとして,この(1)の規定ぶりについて違和感を唱えた弁護士会はありませんでした。この形で履行拒絶構成ができるなら基本的に受け入れるという意見でした。   その時点で3先生方の意見書は見ておりませんでした。その経緯は振り返ってみますと,双方の帰責事由なくして一方債務の履行ができなくなった,当然反対給付請求権は消滅するのだと,なくなっているのだというのが従来の理解で,それが国民の常識にかなう,だからそれは変えてくれるなというのが弁護士会の出発点でした。しかし,これに対してはいろいろな御批判を受け,解除の要件の改正も含めてそれを受け入れた上で,なおこの危険負担を全くなくすことについて解除一元化することについては反対意見を述べてきた。それはあえて解除の意思表示までさせることに対する負担,そういうことを求めることについての違和感が出発だったわけです。   それに対して履行拒絶構成というのを山野目先生が提案していただいて,この考え方であればあえて解除の意思表示をしなくても従来は当然債務がなくなっていたと思っていたものが履行拒絶という形で問題解決が図れる,それであれば十分受け入れられるなと,こう理解したわけです。それは先ほど内田先生もおっしゃいましたけれども,従来危険負担という制度が当然消滅するとしていた,それが変わることに対する抵抗から,それが履行拒絶に変わるなら,それは構わないねといって受け入れたわけです。この部会資料が配布されたときも何ら異議なく受け入れた。まずここまでは私としては国民の目線から見ても,そしてまたごく平均的な弁護士の目線から見ても,危険負担制度が当然消滅ではなくなったけれども,履行拒絶ができるのなら受け入れられるなという,ここまでのコンセンサスがあったからだと思います。   その上で,潮見先生,山本敬三先生の意見書を拝見した後,改めて考えてみたわけですけれども,現段階の私の素直な理解は,一方債務の履行が不能になっているにもかかわらず反対給付請求ができる,これはやはりおかしい。そこで履行拒絶なりが働く。取り分け債務者に帰責事由がある場合に,帰責事由がない場合に当然履行拒絶ができるのに,債務者に帰責事由がある場合になぜできないのかという最初に山本敬三先生がおっしゃった違和感についてはそのとおりだと思います。従来弁護士会が危険負担では当然消滅,これに対する批判として,債務者に帰責事由があれば解除しないと反対給付は消滅しない。そこで解除を求めているにもかかわらず,双方に帰責事由がない場合に解除を求めても別に構わないではないかというのが元々の議論であったと思います。   同じようにここで債務者に帰責事由があるにもかかわらず履行拒絶ができないというのは極めて違和感がある。だから,3先生方の御説明を聞いて,ああ,なるほど,それはそうだねという気持ちを持っております。   したがって,原則履行拒絶ができる。できないのは債権者がその原因を作ったとき,債権者に帰責事由があるときにできないのだと,この整理はやはりあり得るのではないかと思っています。ただ,この点弁護士会全体の意見は聞けてはおりません。理屈と言いますか論理的説明を聞いていけば,なるほどそういう解決というのは十分あり得るのではないかと,こう思いました。   それがここでは非常に理論的なお話として展開されていますけれども,翻ってもう一度元に戻って国民的感覚,普通のごく常識的な感覚,これは一番最初にこれも山本敬三先生がおっしゃられた,繰返しになりますけれども,債務者に帰責事由があるときに何で履行拒絶ができないのだという,ここは本当に履行拒絶だけでいいのではないかという,この原点は国民一般が受け入れられることではないかと思った次第です。 ○野村委員 それでは,大分時間も押しておりますので,この問題については従来のずっと議論してきた経緯もございますので,この程度にしたいと思います。本日いろいろまた新しい論点も頂いておりますけれども,併せて,事務局で検討させていただくということでよろしいでしょうか。 ○沖野幹事 誠に申し訳ないのですが,一言申し上げてよろしいでしょうか。すみません,議論が白熱しているところ,2点を今の点について申し上げたいのです。   債務者に責めに帰すべき事由があるというような場合に債権者が拒めないのかという点については,拒めないとする見解があったのかというとなかったように思われます。とすると,ここに要件を書くかどうかということだと思います。潮見幹事や山本敬三幹事がおっしゃった,このような形で書くとそもそも違う解釈として読まざるを得ないという御指摘につきまして果たしてそうなのかと。この含意は債務者に責めに帰すべき事由があるようなときには債権者はおよそ拒めないという含意まで含んでいるのか,むしろ仮にこの形で規定ができたときには,これは現行の危険負担制度との関係でこのような表現にはなっているけれども,解釈としては,債務者の責めに帰すべき事由があるときが排除されるわけではないと読む余地はあるのではないかとも思います。その点は必ずしも決めは打たれていないのではないかと理解した方が,仮にこの形で表現されるならばという前提ですけれども,と思うということが一つです。   もう一つは,今の理解でよろしければ,債務者に責めに帰すべき事由があるというような場合に債権者が給付を拒めないというその場合の,しかし,懸念としまして,填補賠償請求がされたときの最終的には相殺で決着するような場面において障害になるのではないかという点が指摘されておりました。潮見幹事からは両者は別の問題と言いますかそれぞれで考えればよいことだという御指摘であったと思いますし,また山野目幹事はペーパーの方で検討されておられ,むしろこの場面は533条の準用という形でその先の処理を更にその解釈に委ねるとされています。ですから,別の問題として置いておくことも,また,山野目幹事の御提案の中にあったようにこのような形で規律をするということもあり得るのではないかと思います。   それから,相殺についてですけれども,相殺は少し局面は違いますけれども,拒絶ができる,拒絶権が認められているような場合に損害賠償との相殺が認められるかという点については,取り分け自働債権について抗弁付きの場合に相殺が認められるかという話がありますけれども,請負の場合の634条の局面では,これは相殺が認められておりますし,それに準じたような,完全に同じではありませんけれども,なおその拒絶権があるような場合でも相殺ができるという結論は導くことは可能であると思います。取り分け山野目幹事の御提案になったような533条の準用というような規律を置いてくると,634条の局面との類似性のようなことが特に意識されますので,その先の相殺はもちろんできるというような解決を導きやすいということも考えられます。ですから,その点については十分対応可能ではないかと思いますので,補足的に申し上げたいと思います。 ○野村委員 どうもありがとうございました。 ○山本(敬)幹事 何度も申し訳ありませんが,沖野幹事が言われた1点目なのですけれども,先ほどから議論になっていた危険負担の場合,特に536条1項に関して,債務者に責めに帰すべき事由がある場合はどうなるかという点については,学説では,我妻先生をはじめとする通説によると,従来から,債務者に責めに帰すべき事由がある場合は填補賠償請求ができるのであって,この場合には536条1項は問題にならないとされていました。したがって,この場合には,一方の債務が履行不能になっても,他方の債務は存続するという前提で考えてきたと思います。   ただ,私が調べました限り,実務家,特に司法研修所に関わる方々が書かれているものを見る限り,536条の理解としては,双務契約において一方の債務が履行不能になれば,他方の債務は原則として消滅する。債権者に責めに帰すべき事由がある場合には,536条2項により,例外的に債権者主義になるというような記述が多く見られました。つまり,学説で述べられているのとは少し違う解釈が行われてきたように思います。   私は,結論としては,その方向で問題ないと思います。それを正に明文化すべきだろうと思います。しかし,現在の提案のように,第10の2で,「双方の責めに帰することができない事由によって」という限定を付けますと,債務者の責めに帰すべき事由があるときはこれに当てはまりませんので,反対給付の履行を拒むことができないという解釈をするのが自然ではないかと思います。それが問題であるというのが意見書の趣旨です。言わずもがなで申し訳ありませんけれども,以上のとおりです。 ○野村委員 どうもありがとうございました。   それでは,いろいろ御意見いただきましたけれども,事務局でなお検討させていただくということにしたいと思います。   次に,「第11 受領遅滞」について御審議を頂きたいと思いますので,御意見ございましたらお願いします。 ○潮見幹事 受領遅滞の3名連名の意見書という所にまた,8ページの所に二つ挙げておきました。見ていただいたらと思います。   そのことも含めて,大体お答えになっていただくような回答はもう既に分かっているのですけれども,しかしこちらの方の意見としてはこのようなものを持っているということも,重複しないような形でなるべく端折って説明させていただきたいと思います。   受領遅滞ですけれども,またここでも危険負担の問題が出てきます。既に先ほど解除と危険負担の制度についていろいろありましたけれども,受領遅滞中の不能の場合も債務者からの反対債務の履行が請求されたときに,債権者は履行不能を理由とする契約解除の抗弁を出すか,あるいは履行不能による履行拒絶の抗弁を出すことができます。この場合において,債務者は受領遅滞を基礎付ける事実と,それから当該履行不能が受領遅滞の後に生じたものであることを主張立証することで債権者からの解除の主張とかあるいは履行拒絶の主張を封じることができます。   今申し上げた枠組みの下では,受領遅滞中の履行不能に関してそのリスクを債権者に負担させるために,その履行不能についての債務者の帰責事由ということが問題にならない,ということはもはや他言を要しないことではないかと思います。それゆえ,ここでは債務者の帰責事由についてだけ申し上げます。   その際,先ほどからも議論がありましたが,ここでも私どもは解除制度と危険負担の制度の平仄は合わせなければならないのではないかと考えております。このような目で見ましたときに,債権者からの契約解除権については今回の要綱の仮案では解除に債務者に帰責事由は不要であるという枠組みが採用されております,これは先ほどから議論あったところです。そして,これも先ほどずっとありましたが,解除と危険負担の制度が今回の仮案の方では同一の目的に向けられているものであるということからするならば,危険負担による履行拒絶権構成に依拠した場合も履行不能についての債務者の帰責事由の有無を基準として債権者の履行拒絶権の成否を決定することは解除権に依拠した場合と同じように避けなければいけないのではないかと思います。   したがいまして,受領遅滞中の履行不能の場合に,債権者からの解除権あるいは反対債務の履行拒絶権を認めるか否かにとって債務者の帰責事由というものは意味をなしません。   このように見ましたならば,解除制度と危険負担制度の整合性を確保するという観点からも,危険負担における主張立証責任の構造の点からも,受領遅滞中の不能において当事者双方の責めに帰することのできない事由という要件を条文中に掲げるというのはよろしくないのではないかという意見です。   これは四角の中に書いてないので大変読みにくいのですが,9ページの(ⅵ),そこに挙げておきましたような規定を,因果関係不存在を理由とする例外のルールですが,このようなものを設ける方が適切ではないかと考えている次第です。   なお更に1点だけ追加で申し上げたいことがあります。それは,意見書で書いたのは(3)なのですが,(4)に関する点です。ちょっと御覧になっていただければと思いますけれども。(4)では(3)の場合において債務者は,債務の履行が不能になったことによって生ずるべき一切の責任を負わないと書かれています。ここに言う責任というのは,その文脈からして,損害賠償を主に想定しているのではないかと思われます。   ところで,第11の(1),今度は(1)ですが,それを御覧になれば,債務者は受領遅滞中も軽減されたものとはいえ,自己の財産におけるのと同一の注意をもって目的物を保存する義務を負っています。したがいまして,受領遅滞中に履行不能が生じたものの,その履行不能が債務者の保存義務違反によって生じたときは,債務者は債権者に対して損害賠償の責任を負う必要があるのではないかと考えられます。仮にそうであるとするならば,(4)の文章では今申し上げたことが反映されておりません。むしろ(4)にただし書を設け,例えばですけれども,ただし,履行の不能が債務者の責めに帰すべき事由によって生じたときはこの限りでないといったような文言を追加する必要があるのではないかと思うところでございます。   この追加部分は私の言葉で申し上げましたが,この前の1週間の間に松岡委員,それから山本敬三幹事と意見交換をして,3人同意見ということでございましたので,私の方から説明をさせていただきました。 ○道垣内幹事 確認なのですが,潮見幹事が(4)についておっしゃったのは,(3)について当事者双方の責めに帰することができない事由によってというのを削除するという意見が取り入れられたことを前提としての御発言でしょうか。 ○潮見幹事 そうです。 ○道垣内幹事 そうですか,分かりました。 ○野村委員 ほかに受領遅滞について御意見がおありでしょうか。   特によろしいですか。それでは。 ○金関係官 御指摘いただいた点のうち,まず債権者に帰責事由がある場合の処理につきましては,解除ですと第9の3,危険負担ですと第10の2の(2)に,それぞれ債権者の帰責事由がある履行不能の場合には解除ができない,危険負担による履行拒絶ができないという規律が既に存在します。ですので,受領遅滞中の履行不能であるかどうかにかかわらず,債権者に帰責事由がある履行不能の場合には,契約の解除ができないし危険負担による履行拒絶もできないことが既に明らかです。それを前提に規律の重複を避ける観点から,この受領遅滞のところでは債権者に帰責事由がある場合を除外する必要があるというのが事務局の理解です。そういう意味では規律の中身自体には理解の相違はないのだろうと思います。分かりやすさのために重複をいとわず書くべきかどうかという問題だと思いますので,そこはどういった書き方が分かりやすいのか再度検討したいと思います。   次に,債務者に帰責事由がある履行不能の場合についてですけれども,事務局としては潮見幹事と異なる理解をしております。つまり受領遅滞が生じた後,売買で言いますと目的物を買主に受け取ってもらえずに持って帰ってきた後,売主が自己の財産に対するのと同一の注意すら怠って目的物を滅失させてしまったような場合,例えば自分で壊してしまったような場合があり得ますけれども,潮見幹事の御意見は,そのような場合であっても売主は買主からの解除権の行使を一切免れることができる,そういう帰結を導くべきであるということだろうと思います。しかし事務局の理解はそれとは逆で,たとえ受領遅滞が生じた後のことであっても,売主が自己の財産に対するのと同一の注意すら怠って目的物を滅失させてしまったような場合には,売主は買主からの解除権の行使やその他の請求を免れることができないということを前提としております。ですので,債務者に帰責事由がある場合に関しては,まずは中身の問題についての議論が必要ではないかと感じております。 ○中井委員 この(3)についてもまず部会資料を受け取ったとき,弁護士会からは異論なくこの部会提案でいいという意見がほとんどを占めました。   その上でですが,この点は履行の提供があった後に債権者に帰責事由があった場合についてはもちろんこのような形の帰結で問題がないと,それが今金関係官がおっしゃられた第9の3でカバーされているかどうかはともかくとして,帰結はそれでいい。ただ,履行の提供があった後,債務者に帰責事由がある場合に,当然これを一般的規律としていいのかということについては,私も金関係官と同じ意見で,常識的にそれでいいのだろうかという不安を覚えます。債権者側の何らかの事由で受領しなかった,拒んだか受け取ることができない場合,それであってもその後,債務者が,壊したというのが金関係官の例でしたけれども,それにとどまらず,債務者に帰責事由があって履行できなくなるというのはかなりバリエーションがあると思うのです。そのときに常にこのような帰結,契約の解除もできない,履行の拒絶もできないということでいいのかということについては基本的に疑問を持ちます。もちろん,潮見先生ら3先生の意見を見ると因果関係不存在の場面を想定して例外ルールを設けるということですけれども,単に因果関係不存在だけなのか,それ以外にもっと広いのではないかというのが素朴な感覚があります。   対比するとすれば,第8,債務不履行による損害賠償の4,遅滞中の履行不能について平仄を合わせるような説明もついておりますけれども,こちらの場合は履行遅滞中の履行不能について,ここでは,当事者双方の責めに帰すことができない事由の場合のみの規定になっています。ここではそれと平仄が合っているという説明も潮見先生の9ページのⅴの所にあるのですけれども,果たしてそうなのでしょうか。この損害賠償はもちろん帰責事由がなければならないわけですけれども,必ずしも平仄が合っているとは思えないものですから,同じように逆の場合の因果関係不存在の例だけを示すことによって解決する問題ではないように思うのです。この部分については私も感覚的に合わないと思っております。 ○野村委員 ほかに御意見はいかがでしょうか。特によろしいでしょうか。 ○中井委員 一歩譲ってですけれども,この(3)を潮見先生のような考え方を仮に採るとしても,この履行の提供があったとき以降に債務の履行が不能になったときは,基本的に債権者に帰責事由があるのだという,つまり第9の3の規律の適用がある,第10の2であれば(2)の適用があるものとみなすないし推定する。つまり,履行の提供があった後に債務者に帰責事由があるときについては,それが機能して,反対のことが言えるようにする,そういう構成の方がまだ理解できる。この(3)をそのまま当事者双方の責めに帰すことができない事由を削除して,債務者に帰責事由がある場合に当然こういう帰結になるというのはやはり不安であるということを申し上げたいと思います。 ○野村委員 御意見はいかがでしょうか。   それでは,受領遅滞については以上でよろしいでしょうか。   改めてまた事務局の方で本日の御意見を踏まえて。いいですね。休憩入れますか。   それでは,あとは残りが債権者代位権と取消権なのですけれども,15分休憩ということで,45分からということで。           (休    憩) ○野村委員 それでは,再開したいと思いますが。   次は部会資料「79-1」の「第12 債権者代位権」と「第13 詐害行為取消権」について御審議を頂きたいと思います。一括して御意見をお伺いしたいと思いますので,御自由に御発言をお願いしたいと思います。 ○中井委員 「第13 詐害行為取消権」の「8 詐害行為の取消しの範囲」について最初に申し上げたいと思います。   大阪弁護士会の有志から6月10日付け意見書を出させていただいております。この趣旨をここで説明させていただきたいと思います。   今回直接の引渡しを認め,かつ相殺の可否については解釈に委ねることを前提に,これは15ページの「9 直接の引渡し等」の所に記載がありますが,それを前提にした結果として,「8 詐害行為の取消しの範囲」について,目的が可分であるときは自己の債権の額の限度においてのみ取消しの請求ができるという規定になっています。この点について果たしてこれでよいのかというのが申し上げたいことです。   すなわち,取消しの範囲の問題と,直接引渡しを認める場合に直接引き渡せと言える範囲の問題,これは分けて考えるべきではないかということです。これも責任財産保全の一環として行われるわけで,例えば財産減少行為があった場合,一つの行為であればその一つの行為全体を被保全債権額に限らず行使できる。契約の目的が家の引渡しとかであれば家の廉価売買であるとか贈与であるとかであればもちろん1個の不可分な行為ですから全体が取り消すことができる。仮に可分なものであったとしても,例えばこれは弁済行為などを挙げれば一番かもしれませんけれども,被保全債権額にかかわらずその一つの弁済行為全体を取り消すことができる,それがまず原則ではないか。その上で目的物が金銭や動産の場合に,直接引渡請求を認めるわけですけれども,そのときには自己の債権の額の範囲に絞っていいのではないか,こういう考え方を大阪は述べています。   中間試案のときでも取消しの範囲については必ずしも自己の債権の額の限度に限らない,一個の行為であればその行為全体を取り消すことができる,ただ,二つ目の行為,一個の行為で被保全債権額を満たしているときに,それを越えた他の行為を取り消すことはできないという限度で定めていましたけれども,少なくとも取消しの範囲を定めるについてはそういう基準でいいのではないか。仮にここで書いているような自己の債権額の限度においてとしてしまったときの問題点について大阪の意見書でも書いています。例えば弁済行為を取り消した場合には,受益者から将来復活するであろう債権に基づいて仮差押え等をするということを例に書いていますけれども,債務者の他の債権者が同じ債権を差し押さえて分配を受けようとするような場合を考えても同じですが,自己の債権の額の限度に限ってしまうと割合的な弁済しか受けられず,不足分が必ず生じる。そうすると改めて取消を求めなければならなくなるけれども,そんなことは迂遠ではないか。   さらに,この提案は債務者に効果が及びますから,受益者は債務者に対して弁済行為等ができるわけで,他の債権者も参加してくることを考えれば,なおさら自己の債権の額の限度に限る必要はないのではないか。この点を是非もう一度再検討していただけないかという意見です。   仮に詐害行為取消しについてそうだとすれば,債権者代位についても同じことが検討の余地がある。ただ,債権者代位については基本的に直接自己に引渡しを求める場合が一般ですので,必ずしもパラレルに考える必要はないのかもしれません。同じ問題は「第12 債権者代位権」の「3 代位行使の範囲」について,ここも当該権利の目的が可分であるときは自己の債権の額の限度においてのみとなっていますが,直接自己に引渡しを求める場合においては自己の債権の額の限度においてのみでいいと思いますけれども,常にそれに限る必要があるのか。例としては極めて少ないですけれども,債務者に対して物の引渡しなど,その権利の行使の結果を帰属させるような場面では自己の債権の額の限度に限る必要はないということも言えるわけで,この代位行使の範囲については併せて検討する余地がなおあるのではないかと思います。債権者代位よりは詐害行為取消の方が大きな意味を持っておりますので,そちらの方は是非検討していただけないか。   詐害行為取消の効果ですけれども,10で認容する確定判決は債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有するとなっております。大阪意見書では,債務者に対してその効力を有するで足りるのではないか。あえてその全ての債権者にというのを入れる必要があるのかという問題提起をさせていただいています。今回債務者にも効力が及ぶことがこれで明らかになるわけで,受益者から債務者に財産が戻ったら,当然その財産に対しては全ての債権者,債務者に対する全ての債権者が行使していけることを前提として規律を設けられているわけですから,そこへあえて重ねて記載する意味があるのか。逆にこれを入れることによって思わぬ波及効果があるのではないか,その思わぬ波及効果についてきちんと見定められているわけではありませんけれども,大阪の意見書の3ページに一つの例を書いております。   そういうことも考えると,ここの全ての債権者というのが本当に必要なのか再度検討していただければと思います。事務当局から全ての債権者はこういう理由から入れたのだということを改めて御説明いただければ有り難いと思います。 ○野村委員 どうしましょう,債権の権利の行使の範囲と行使の効果というのはかなり密接に関連していますけれども,これに関連した御意見がございますか。 ○松岡委員 関連して申し上げます。8の権利の行使の範囲についての中井委員の御疑問はかなりもっともだと思いました。   それから,判決の効果についても,確たる意見がまだあるわけではありませんが,御指摘のように全てに効果が及ぶとすると複数の取消し訴訟が競合したケースでどうなるのかとか,なかなか難しい問題が生じることは,我々も議論をしておりました。   ただ1点,今の大阪弁護士会の御提案についての疑問があるのでお尋ねしたい。意見書1ページの(3)で,金銭の支払いを自己に対して直接求めるときは限度額に限るという提案は先ほどの御説明で非常によく分かるのですが,「又は動産の引渡し」がなぜ入るのかが私にはちょっと理解しかねます。動産の場合には引渡しを受けても一方的な意思表示で代物弁済とするわけにはいかないので,結局競売手続に進まざるを得ず,先ほど御指摘になったように,他の債権者が配当要求をしてきて取れる分が減ってしまうことは同様に生じます。この御提案に「又は動産の引渡し」を入れる理由の御説明を頂けませんでしょうか。 ○中井委員 なるほど,これまで金銭と動産と可分であるものについて直接引渡請求を認める場面で常に同じ規律だったから,ここも右へ倣へにしたというのが回答です。さらに,金銭と動産,金銭だから相殺ができる,動産だからこうだと考えて一緒にしたわけではなくて,これまでの議論の流れからここでは同じ取扱いをしたと御理解いただければと思います。 ○松岡委員 分かりました。「又は動産の引渡し」を削るのであれば私は御提案に賛成です。 ○野村委員 優先弁済ができるとかそういうことではないのですか。動産について執行のときに,そこまで考えているわけではないのですね。   ほかに御意見がないようでしたら,金関係官に御発言をお願いします。 ○金関係官 はい。まず大阪弁護士会から頂いた御意見の1点目ですけれども,詐害行為を全部取り消せるのか一部のみを取り消せるのかという問題は,中間試案の前から繰り返し議論がされてきた問題で,事務局としても全部とする案を出したり一部とする案を出したりしてきたところですので,もちろん両論あり得る問題だと理解しておりますし,御指摘を踏まえて再度検討したいとは思っております。ただ,少なくとも,直接の引渡請求ができるのであれば取消しの範囲は一部のみだという関係が論理必然のものとして前提とされてきたわけではないと思います。最も分かりやすい問題意識としては,100万円の被保全債権しかない債権者が債務者による1億円の弁済や1,000万円の弁済を取り消せるという帰結が本当によいのかどうか,直接の引渡しは100万円の限度でしか認められないとしても,やはり100万円の被保全債権しかない債権者に1億円の弁済の全部を取り消す権限を与えてよいとは言えないといった問題が指摘されてきたのだろうと思います。   その問題について,意見書では2ページの最後の方の3の箇所で,解釈に委ねられればよいという趣旨の記載がされております。ただ,100万円の被保全債権しかない者が1億円の弁済の全部は取り消せないという解釈がされるとしても,ではどの部分まで取り消せるのかという点については特に示されておりません。それは示すことが不可能だからということではないかと思いますけれども,そこを明確にしないままで本当によいのかという問題がやはり事務局としては気にせざるを得ないところです。しかも,今の100万円の被保全債権しかない者が1億円の弁済を取り消すという事案であれば,事案が単純であるだけに,あるいは適宜の解釈論でと言いやすいのかもしれませんが,事案を変えて,例えば100万円の被保全債権しかない者が,債務者による100万円の弁済行為三つを全て取り消せるかどうかという問題は,より難しい面があると感じております。今回頂いた意見書では,3ページの上の方に,民事執行法146条2項を参照して解釈すると書いてありますので,146条2項に従って処理するのであれば,先ほどの事案では一つの弁済行為しか取り消せないことになるのだろうと思います。しかし,一つしか取り消せないのだとすると,結局,この事案では100万円の被保全債権しかない者は100万円の限度でしか取り消せないということになります。そうしますと,意見書の2ページの(2)で指摘されている問題,すなわち弁済を取り消された受益者が配当に参加してくると,取消債権者は案分弁済しか受けられなくなるではないかという問題はやはり生じてしまいます。そうすると,結局,意見書に従って修正をしたとしても意見書に書かれてある問題はなお生じると言わざるを得ないのだろうと思います。それこれ考えますと,むしろ明確な原則を示すと言いますか,比較的カチッとした制度として構築すると言いますか,被保全債権の額に限定するという原則的ルールを設けておくことも,十分にあり得る選択肢ではないかと考えております。   2点目についてですけれども,中間試案のたたき台の頃の部会資料では,債務者にも判決効が及ぶことになるのだから他の債権者に判決効を及ぼすという規律は不要であるという考え方があり得る旨の記述をしていたと思います。ただ,その時の部会の会議では,その考え方に対して特段の支持はありませんでしたし,全ての債権者に及ぶという規律は現行法のとおりとも言えるところですので,現行法を変更するまでの必要はないという判断をしたところです。意見書では,実体法上の取消権が行使された場合との平仄の問題が指摘されていますが,形成訴訟の勝訴判決による取消しと実体法上の取消権の行使による取消しとでは,やはり少なくとも法的な構成は異なりますので,別次元の問題として捉えた上で,詐害行為取消訴訟の認容判決の効力がどこまで及ぶかについては明文できっちりと書いておく必要があるのではないかと考えております。意見書の3ページの最後の方の3の箇所では,民法425条を判決効とは無関係の規定とみるべきであると書かれておりますけれども,少なくとも一般的にそのように考えられているとまでは言えないようにも思いますので,形成訴訟の認容判決の効力という視点で規律を設けることにはなお合理性があるのではないかと考えております。   最後にもう1点,意見書のうちの3ページの2の後ろの方の括弧書きで,転得者に対する判決効に関する記述がありますが,債務者及びその債務者の全ての債権者に判決効が及ぶという規律は,詐害行為取消訴訟の被告になっていない転得者に対して判決効を及ぼすという趣旨ではありませんので,念のため申し上げます。 ○潮見幹事 金関係官に,1点だけ質問です。先ほどの大阪弁護士会の2点目の所で,現在の条文は取消しはですよね。詐害行為の取消しは全ての債権者の利益のために効力生じるとやって,今回の文言は判決の効力が及ぶとなっていて,その部分では金関係官の理解からすると,現在の理解と比べたときに実質的な変更はないというような御趣旨なのでしょうか。   それから,判決の効力が及ぶということは,最後の段階なので少し確認させていただきたいのですが,一体その言葉でもって何をそこに読み込もうとされているのでしょうか。少し御説明いただけませんでしょうか。 ○金関係官 1点目につきましては,現行法の425条が判決効とは無関係の規定だということであれば現行法の実質を変えることになると思いますので,先ほど私が申し上げたのは425条が判決効の問題であるという一つの考え方にすぎないものを前提としていたのだと思います。失礼しました。   2点目につきましては,中間試案の前に部会で議論がされた結果としての理解ですけれども,判決効の中身としては認容判決の形成力と既判力,これらがいずれも債務者及び他の全ての債権者に対して及ぶということを前提としております。形成力というのは,大ざっぱに言いますと,取消しの効果,詐害行為が取り消されたという法律状態が債務者及び他の全ての債権者にも及ぶということで,例えば他の債権者は詐害行為が取り消されたことを前提に,債務者の下に回復された不動産について強制執行をかけるなどの行動をとることが許されるといった意味です。既判力につきましては,その形成訴訟における形成要件の存在についての既判力のことでありまして,大ざっぱに言えば、その詐害行為取消訴訟の原告である取消債権者が詐害行為取消訴訟の認容判決によって詐害行為を取り消し得る地位にあったこと,このことが債務者及び他の債権者との関係でも確定する,既判力によって確定し,もはや蒸し返すことができなくなるという意味です。形成力の方は,とにかく誰か一人の取消債権者が認容判決を得れば全ての債権者,既に敗訴判決を下されていた債権者も含め全ての債権者がその状態を主張,利用することができるということで,比較的分かりやすいようにも思いますが,既判力の方は,それが実質的に機能するのは,例えば他の債権者が詐害行為が取り消されたことを前提に,債務者の下に回復された不動産についての強制執行手続に参加して配当を受けたような場面で,詐害行為を取り消されたはずの受益者がその配当を受けた他の債権者に対して,あの詐害行為取消訴訟の認容判決は実は誤りであって,形成要件が本当は存在しないのに誤って存在すると判断されたものであるなどと主張して,配当金を不当利得であるとして返還請求をするということが起きるかもしれない,そのようなことを既判力によって阻止する,こういう機能を果たすことを想定しております。あくまで認容判決の効力のみの話で,棄却判決にはそのような効力はありませんけれども,以上申し上げたことを前提にここでの判決効の意味を理解しております。 ○中井委員 もう一度最初の問題なのですが,詐害行為取消訴訟においても基本的には自己の債権を保全するために行使するわけで,その行使できる範囲はその保全に必要な範囲ではないかと思うわけです。それを当然に被保全債権,つまり自己の債権の額の限度に限る必然性があるのかというのが基本的な問題意識です。   取り分け他の債権者もいて同じ行動をとろうとしてA債権者の取消判決が出たらそれに対して自らも参加していこうというような具体的な場面が想定される。また,弁済行為を取り消す場合は,受益者は復活した債権で戻った財産に対してかかっていこうと行動するのは当然に予想される。そういう予想される場面では自己の債権に限る必要はない。少なくとも弁済行為であれば半分にしかならないとすれば2倍以上の行使をしなければならないし,他の債権者も行使してくる可能性があればその必要な範囲で取消しができていいのではないか。先ほど100万の債権に対して弁済行為100万が三つあったとすれば,必要性があれば必要な範囲で取り消すことができるという考え方,範囲については解釈に任せましょうというというのが大阪弁護士会の意見の趣旨③です。   結果として債務者との関係で効力を持ちますから,受益者から債務者に戻さなければいけない。戻すときに他の債権者がその権利に対して参加していくことができる。当然取消債権者もそこにかかっていくことができる。自己の債権が100%満足できるような範囲で取り消せば足りる。唯一制限されるべきは自己に直接引渡請求をする場合で,それは自己の債権額に限ればいいではないかというのが大阪の言いたいことの骨子です。そこから,繰返しになりますけれども,なぜ全ての場面で自己の債権の額の限度に限るのかというそこなのです。可分であればあるときには限らなければならないそれほど積極的理由があるわけではないと思いますので,一個の行為を取り消すときにはその全部を取り消すことができるのが原則であっていいのではないかという考えです。 ○野村委員 ほかに,この問題について,御意見がおありでしょうか。 ○山野目幹事 既に御議論になったところですけれども,詐害行為取消権の「10 詐害行為の取消しの効果」の所は,これがその法文の見出しになるのではないと理解していますが,少なくとも当面見出しは取消しの効果という実体法の効果の描写のような表現になっているのに対し,規律案文の中身が,確定判決の効力が及ぶ範囲となっていて,このような若干の齟齬があるような感じで今後成案に向けて話を進めていくことがよいかというところについて,今一つ自分ではその理解に自信を持ちかねるところがあることに加え,先ほど大阪弁護士会の御議論の御紹介であったとおりであり,及びその全ての債権者に対しても,と書くことに意味があるかということについて,金関係官から一応御説明は頂いているとしても,本当に確定判決の効力の問題とし,かつ全ての債権者に,というものを入れることがいいかということは,多分その立案の過程でも必要に応じて手続法の先生方の御意見なども伺って事務当局において準備なさっておられるのかもしれないですけれども,なお慎重にお進めいただきたいということを感じました。   民法のほかの場面においても,ある人とある人との間で判決が確定して,実体的に法律関係がそうなるということになったときには,一定の立場の人は判決の効力がどうのという規定がなくても認めざるを得ないような結果になる場面というものはあるはずであって,そのような他の局面にはね返ったりするようなことが本当にないものであろうかということをなお丁寧に御検討,再確認していただければ有り難いと感じます。 ○山本(和)幹事 今の点ですけれども,私自身の理解ですけれども,その全ての債権者に対してというのが必ず必要かというと,私自身は必ず必要ということはないのではないかという印象を持っているということです。金さんは今形成判決,形成訴訟だからということを理由として述べられましたけれども,形成訴訟でも,例えばもうなくなりましたけれども,詐害的短期賃貸借の取消しというのは形成訴訟だと理解されていたと思うのですけれども,あれは特に誰で判決が及ぶかということは書いてなかったのではないかと思うのですけれども,ただ,あれは債務者が所有者は被告になっているので,その所有者に対する他の債権者等に対しても効力が及ぶということは当然の前提となって,それを反射的効力ということで説明するのか,あるいは判決後の拡張ということで説明するのかはともかく,それはそういうことで説明はできたのではないかと。そういう意味では大阪弁護士会言われている詐欺取消しとかの場合とそれほど違った問題ではないような印象を持っています。もちろん,形成判決の場合は対世的効力型を認めることが多いので,そういう意味で判決効の及ぶ範囲を書いているということが多いのだろうと思うのですが,通常の民訴の判決効の理論で説明できる範囲においては書かなくてもそれはそうなるということはあるのかなという印象を持っています。   ただ,他方で書くことに実害があるのかという点については私はまた金さんと同じ印象を持っていて,転得者はこれは債務者であり債権者ではないので,転得者に及ぶとかという懸念が生じるというのは私にはやや理解はできないと思いますし。松岡委員が言われた債権者が複数いる場合,詐害行為取消訴訟を提起した債権者が複数いる場合に,例えば最初に請求棄却で確定してしまって後で取り消されたらどうなるのかというような取消判決が出たらどうなるのかというようなのは形成訴訟一般にある問題のような感じがして,それは株主総会決議取消訴訟とか行政処分取消訴訟とかでも論理的にはあり得る問題で,それは結局取消しの効力が拡張するということを優先して考えるのではなかろうかという感じがするので。そういう意味ではですからこれを書いて何か問題があるのだろうかというとないような感じがして。私自身はこれは明確にするというか確認的な趣旨で書くということについてはそれはそれでよいのではなかろうかという感じを持って賛成しているところです。 ○畑幹事 私も山本和彦幹事と似たような感触で,書いて困るということは恐らくないだろうと思っております。私個人の意見は多分事務当局のおつもりと完全には一致しないところがありまして,特に既判力が拡張されるということはどうなのかなとは思っております。ただ,実体的な意味での形成力は今回債務者に及ぼすということになったわけですし,ほかの債権者にも及ぶということで全く特に問題はないだろうと。取り分け現行法との連続性ということを考えれば,今まで全ての債権者に及ぶと書いてある所に債務者を付け加えるということで,問題が生じるわけではないだろうと考えております。 ○金関係官 この判決効を他の債権者にも及ぼすかどうかという問題は,かつての部会では,詐害行為時までに債務者に債権を持っていった債権者に限るという考え方や,詐害行為取消訴訟の認容判決の確定時までに債権を持っていた債権者に限るという考え方がある中で,それらの考え方ではなく,認容判決が確定した後で債権を持つに至った債権者も含め,およそ全ての債権者に対して形成力,既判力が及ぶという考え方を採るべきであるということで議論が決着し,その結果として現在の案のようになったと理解しております。そういう意味では,先ほど私が取消訴訟と実体法上の取消権との違いという点を強調して説明したのがまずかったのだと思いますけれども,少なくとも,今申し上げた債権者の時期的範囲を明らかにするという点で一つの意義を見出していた論点ではないかと理解しております。その議論の際には,例えば不動産の廉価売却等に対して詐害行為取消権が行使されて,その詐害行為取消訴訟の認容判決の結果,その不動産の登記名義が債務者の下に戻ってきたという場面で,その後にその債務者の登記名義を前提に新たな融資をして抵当権の設定を受けたような債権者,このような債権者は,仮に先ほどの基準時の問題について詐害行為時までとか取消判決の確定時までといった考え方,その時点までの債権者にしか判決効が及ばないという考え方をとると,その時点の後に現れたそのような債権者に対しては,この抵当不動産は実は詐害行為取消訴訟の結果債務者の下に戻ってきた不動産で,あなにはその判決効が及んでいないので抵当権は認められませんというような主張がされかねない,そういうことがないようにすべきであるという指摘がされ,その指摘などを踏まえて現在の案になったという経緯があります。従前の経緯としてはそういう状況ですので,そこは少なくとも他の債権者に及ぶと書くことに特段の弊害がない以上は重要視されてもよいのではないかと思います。   もう1点,既判力を及ぼすべきかどうかというところで畑幹事から御指摘いただいたところは,事務局としても十分に理解しているつもりで,かつて中間試案の決定の前には事務局としても形成力に限ると明記した案を提示していたところです。しかし,既判力も及ぼしておかなければ先ほど申し上げたような不当利得の返還請求などがされる可能性があるのではないかといった意見が出され,それを踏まえて形成力に限るとは明記しない現在の案に修正されたところでもありますので,御理解いただければと考えております。 ○高須幹事 10の所の効果の問題ですが,結局幾つかの議論を経てここまできていることは事実なわけですが,効果についてはまだまだ議論は煮詰まっていない。この審議の中でも必ずこうしようということまで確実になったわけではないのだろうと思っております。今日の議論を踏まえてもやはり基準時の問題をどこにするのかについて私たちは確信的な意見を持てていない,先ほど金関係官から御指摘があった詐害行為状態が取消権の行使によって回復されて,不動産が戻ってきて,また金融機関がその債務者にお金を貸すという通常の取引状態に戻ってみたいな想定というのは,果たして本来的なのか否か,いったん詐害行為の場面に陥った人に不動産が戻ったからと言って,平気で金を貸す債権者がいったいどこにどれだけいるのかという気もしないでもありませんし,そういう意味では,そういう議論もあってこういう形で収束されてきている,それを確認する趣旨の規定を設けているという程度の議論ではないかというのが実は正直なところかと思います。十分に詰めて,今そういう考えでまとまったとまで言うとなると少し言い過ぎではないかという気がしております。   この10の所の記載そのものに私は今異議があるわけではありませんが,それは以上のような意味であって,もし,この規律を今までと内容を異にする特別な規律を設けることを決断し,それを明らかにすることにしたのだというところまでいくとなると,やはり大阪弁護士会から今日意見が出ているように,そこまで言うのなら削った方がいいのではないですかと,今からでもその見直しをした方がいいのではないですかという議論になると思いますので。   詐害行為の所は制度論の議論として,従来の考え方からある程度変わったものにしていこうという中で非常にいろいろな議論が出てきて,それが十分にはまとまりきれない中でここまでやってきたというところでございますから,現在もそういう中での改正の方向なのだということは真摯に分かっていて,これからの解釈に委ねられる部分は委ねる,新たなもし改正論議が必要になる部分があるなら改めてそれをいつかやる,その必要があるのではないかと思います。   そういう意味では10の所は表現そのものを私は反対はしませんけれども,その趣旨は山本先生や畑先生から出たように,いろいろな考え方があるという前提の中での幅を持った解釈であればよろしいのではないかというところでございます。   それから,もう一つの取消しの範囲の所でございますが,これも結局取消しの範囲と取戻しの範囲を一致させねばならないという前提を維持したうえで,その中でどういう解釈を採るかということに由来しているわけでございまして,そこにどうしても無理が生じる,総債権者のことを考えれば将来の強制執行に備えてできるだけたくさんの財産を取り戻しておきたい,そうしないと十分な配当にはなりませんよと。ただ,取引の安全と言いますか,受益者あるいは転得者の方のことを考えれば必要以上に取り戻されてしまうのはよろしくないということになるわけで,その調整が必ずしもうまくできない。その中での,結局,今できる範囲での解決を図るということで,従来の判例法理の問題点があるとすれば個別に修正するという中で出てきた案ということでございますので,どのような解決策を試みても,完全にこうなりましたという満足感を伴うような内容にはならないのだろうと思います。要するに眼前の問題を克服するために個別修正でやってきたわけですから,全てがこれで抜本的に解決したというわけには行かないわけです。今日の大阪弁護士会の議論は議論として,今後に引き継ぐということを考えていかねばならないと思います。   最終的には,私個人としては一つの問題ではあると思いますが,この問題を今この部会の中でもう一度議論し解決するだけの時間的余裕はちょっと難しいのかなという気もしておりまして,消化不良のままかもしれないけれども,一定の結論を得ねばならない段階にきているのではないかと思います。私自身の考え方はもう繰返し申し上げましたようにこの考え方ではありませんけれども,それも今ここで申し上げる段階ではもうないと思いますので,もっといろいろな考え方が可能だと思いますけれども,やむを得ないかなというように思っておる次第でございます。 ○山野目幹事 今の高須幹事の大変意欲的な御発言にもありましたけれども,新しくできる詐害行為取消しの効果を表現する規律は,広く世の中の人にできた後,見ていただいて,またそれについての議論も活発に続けてほしいと感じます。   そのような観点から述べるときに,既に金関係官がそういうことは御検討になったかもしれないですけれども,判決の効力の範囲として規律を表現することがそれほど望まれているものでしょうか。実体的に書くことということはあり得ないものでしょうか。この1又は6の取消しは債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する,というような民法の実体的法律関係を表現する規律にしておいてもよいかもしれないと私は感じるところがあります。確定判決の既判力とか形成力とかという概念が飛び交って議論しなければならないことによって今後のこの部分についての理解とか論議が無用に複雑になるような気もするのですけれども,どうでしょうか。手続法の先生方お二人の御発言を伺うと,こういうふうな表現で盛り込むことによって有害ではないが特段有益なこともないというお話であり,そうであるとするとなにかそのようなこともできればお考えいただきたいと感じます。 ○山本(和)幹事 私が先ほど有益でも有害でもないと申し上げたのは,その全ての債権者に対してという部分でございまして,債務者に対しては判決効が及ぶということを書かないと,現在の提案は,私の意見は違いますけれども,債務者は被告にしないという,ただ訴訟告知だけをするということですから,民事訴訟の通常の理解からすれば債務者に対しては到底判決効は及ばない,既判力は及ばないはずであります。   ですから,仮に形成力,形成的効果というか実態的効果が債務者に及ぶと書いたとしても,訴訟法上は債務者に既判力は及ばないということになってしまいますので,そうだとすれば債務者のその他の債権者に対しても既判力は及ばないということになり,金関係官が繰返し言われている不当利得等の問題が発生する可能性があるということになりますので,その全ての,債権者の部分は私はどちらでもいいというかどちらか考えられると思いますけれども,債務者に対してはやはり確定判決の効力が及ぶということを書かないとなかなか難しいのかなと思っているということです。 ○野村委員 ほかに御意見はいかがでしょうか。 ○沖野幹事 債権者代位でもよろしいでしょうか。 ○野村委員 もしこの判決の効果と取消しの範囲について,今の段階で特に御意見がなければほかの点についてでも結構です。 ○中井委員 繰返しで申し訳ありません。今回従来とは異なって債務者に対しても効力を及ぼすというところは大転換をしたわけですから,確かに従来の取消権の範囲についての議論はあったにしても,そこの転換部分を忘れるのはよろしくないのではないかというそこだけ申し上げておきたいと思います。   同じことは取消しの効果についても,現在425条で全ての債権者の利益のためにその効力を生ずるという規定があるから,そこに債務者を足しただけだというような御発言もありましたけれども,今回訴訟告知をすることによって債務者に対しても効力を及ぼすということが確認されて,効果として債務者に及ぶということを書けば,当然対債権者との関係でもそのものに対してかかっていけることを意味するわけなので,不要な記載ではないか。かえって記載することによって波及的な問題が生じないかという懸念を申し上げているわけです。   なお1点,先ほど,意見書3ページの括弧書の転得者と書いた部分について御批判があって,確かにこれを読んだだけではそのような御批判のでること,なるほどと思いました。この起案者の意図は,この転得者がたまたま債務者に対する債権者だったらどうなるのだろうかという危惧,それが債権者に対しても効力を生じると書くことによって,その当該債権者がたまたま転得者だったら取消しの効果が及んで所有権自体果たしてどうなるのかということを危惧したからのようです。 ○野村委員 それでは,また後でこの部分について御意見があれば伺いますけれども,先に進めましょうか。沖野委員,御発言をどうぞ。 ○沖野幹事 話題が債権者代位権の方で,かつ前回質問させていただいたことと全く同じことなのですけれども,これがあるいは最後の機会かと思いますので,念のため確認させていただきたいという点があります。表現等をめぐってです。   まず,「第12 債権者代位権」の「1 債権者の代位権の要件」という所のただし書の記載です。これが二つ目で,差し押さえることができない権利はこの限りでないとされていまして,中間試案では差押えが禁止されたという形になっていたところ,前回資料でこのような表現にされました。   その際にこの1については,一つには債権者代位権というのが強制執行の対象と違うような権利でも権利行使ができるというのが一つの特徴として教科書的には説明されており,解除権,取消権,あるいは解約権などの形成権というのも債権者代位なら行使できるという説明がされております。また今回,前回の資料からそうなのですけれども,いわゆる責任財産保全型と転用型と言いますか,そういうものをそれぞれ区別して,転用型についても一般則的なものを設けるということを取り止め,その結果,登記についてだけは規定を置くけれども,それ以外はむしろこの1においてその部分の展開も予想されるということになりますと,代位行使される権利の中には物権的請求権,妨害排除請求権とかそういったものも入ってくることになります。そうすると,そういうものが差し押さえることができる権利なのかというと,かえって疑義が出かねないと思います。あるいは,差し押さえることができない権利ではないという説明をするのかもしれないのですけれども。あえてこのように変える必要があるのか疑問です。あえて変えられた理由があるのですかとお伺いしたところ,趣旨としては変えるつもりはないのだというのが前回の御回答だったと思います。   今のような点を考えて,なおこの表現の方が望ましいということを今回判断されたと思うのですけれども,十分に理解ができなかったものですから,念のためなぜこちらの方が中間試案よりも適切な表現であるのか,これらの権利についてはもちろん債権者代位が否定されるという趣旨ではないと思うのですけれども,否定される趣旨ではないということを確認させていただきたいというのが1点目です。   もう1点目は,これもまた前回お聞きしたことと重なってしまうのですけれども,「8 登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権代位権」についてです。これは柱書と言いますか説明がありまして,登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位権について次のような規律を設けるものとすると書かれておるのですけれども。しかし,本文として設けられるものの中には,その登記又は登録の請求権を有する者であるとか,それを保全するためであるとか,そういったものは書かれないというのが前回の御回答で明らかになったことなのですけれども,本当にそれでよろしいのかということを念のため確認させていただきたいということです。前回のやり取りの中では登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更と第三者に対抗することはできない財産を譲り受けた者というのはもう常に登記又は登録の請求権を持っているのだという前提であるとのことでした。その契約の所には今書かれるかどうかがちょっと分からないのですけれども,売買だと請求権が書かれるけれども,贈与はどうかというのが確か山本敬三幹事から御指摘があったと思います。ここにそのような,財産の譲渡があれば譲受人は登記登録の請求権というのは当然有するということがここに実は書かれているということになるのかどうか,その点です。例えば財産を譲り受けたのだけれども,登記登録については留保するというような約定をするということも考えられなくはないわけなのですけれども,そのときも請求権は持っているので,しかし直ちには行使しないというようなことを約束しているというような場合であっても,もちろんしかし相手方が行使をしていなければ自分としては留保するから請求はしないのだけれども,それでもこれでかかっていけるというようなことまで含意しているのかどうか。そういうことを考えたときにもう少し書き足さなくていいのだろうかというのがなお気になっているものですから,もう一度お考えを確認させていただければと思います。 ○金関係官 1点目につきましては,差し押さえることができない権利と表現することによって中間試案から何か実質を変更しようという意図はありません。このような表現を用いたのは,差押禁止財産について法令上こういう表現を用いることが多いという程度のことですので,御指摘を踏まえてよりよい表現を検討したいと思います。   8のいわゆる転用型の債権者代位権についてですけれども,例えば売買契約や贈与契約における所有権移転の効力に関して停止条件が付いていたりすれば,それは8の譲り受けた者には該当しないということになると思いますが,それぞれの事案において8の譲り受けた者に該当するかどうかは解釈に委ねざるを得ない部分があるのではないかと考えております。典型的には,先ほどのような契約はしたけれども所有権は取得していないような場合には比較的明確に該当しないと言えると思いますけれども,先ほど沖野幹事がおっしゃったような場面はむしろ該当すると言ってよい,少なくともそういう解釈,認定は十分にあり得ると考えております。ただ,もちろん逆の解釈,認定もあり得るとは思っております。いずれにせよ,この第12の8は,第12の1との関係で独自性があるからこそ存在するもので,その独自性というのは,この8の要件さえ満たせば1を介さずに債権者代位権を行使することができるという点だろうと考えております。それに見合う者かどうかという観点も考慮しつつ,妥当な運用がされるのではないかと考えております。その際には,以前の部会でも議論されましたけれども,いわゆる転用型の債権者代位権と呼ばれてきたものについては,この8の要件を満たさない場合であっても,1を根拠に,1の転用,類推という手法で,いわゆる転用型の債権者代位権を行使することが可能であることを前提としておりまして,この1と8を用いて適切な運用がされ,今後も債権者代位権の行使が認められるべきものが認められていくことになると考えております。 ○沖野幹事 先ほどの登記などは留保するというか,そういった特約をしていた場合は解釈に委ねられるというのは,8の解釈ということなのでしょうか。それともそういう場合は8では否定されるという想定なのでしょうか。 ○金関係官 登記を留保するというのは,所有権を確定的に取得した者がしかし登記請求権は行使しないという特約をするということでしょうか。そういう特約が許されるかどうかはともかく,8に該当するかどうかという点は解釈に委ねられるということだろうと思います。逆に,そういう場合の該当するかどうかを線引きするための要件を適切な文言で表現することが難しいところで,ほかにも登記請求権に履行期限が付されている場合などいろいろと検討しましたけれども,現在の文言を前提にある程度の解釈の余地は残す形でコンセンサスを得られないかというのが事務局の考えているところです。 ○道垣内幹事 沖野幹事と金関係官のお話なのですが,この文言で解釈で対応できるのではないかというのは,結論としてはそのとおりだと思うのです。ただ,そのとき重要なのは,1と違って8の場合にはこれだけで認められるという説明はしないことだろうと思うのですね。つまりどういうことかというと,8の債権者代位権行使のときには被保全債権というものを主張していかなくてよいのかというと,8だけでできるのだということになると主張していかなくてよさそうな感じがするのですが,沖野幹事が指摘されたように「登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位権」という題名になっていて,ここも被保全債権の存在を前提にしているのですね。しかし,そのことが本文の所には出ていない。沖野幹事はそのことを問題にされたように思います。したがって,1と独立に8はあるのだというのではなくて,8も債権者代位権なのだという説明をしておく必要があるのではないかと思います。 ○野村委員 ほかにいかがでしょうか。 ○岡委員 詐害行為取消権に戻ってよろしいでしょうか。 ○野村委員 どうぞ。 ○岡委員 簡単な質問を三つさせてください。   転得者詐害取消しの問題でございます。まず,6番の所で,受益者に対して1の取消しを請求することができる場合においてと書いてますので,従来の確か昭和49年判例の受益者が善意であっても転得者が悪意だったら取り消せると,この判例は変更するということでよろしいのでしょうか。その後の部会資料にもし書いてあるかもしれませんが,確認させていただければと思います。   それから,二つ目は,7番の(1),(2)の行使の方法の所ですが。特に(2)の転得者の場合でございますが,財産の返還を請求することができるというのは,財産の債務者に対する返還を請求することができるという意味だと思います。分かりやすいという観点からいけば,債務者へ返還せよという請求ができると書いた方が分かりやすいと思うのですが,それを書かない理由というのは何かあるのでしょうか。これが二つ目の質問でございます。   それから三番目は,転得者取消しに関する6番と13番でございますが,今までの説明を見ますと,倒産法の規定を見ながら解釈を踏まえながら,それを合理化する規定にきれいになったのだろうと思います。そういう意味では倒産法よりも一歩進んだ条文になるわけで,この倒産法への波及と言いますか,整備法等で何か調整することがあり得るのか,それは近い将来の倒産法の改正に委ねるのか,その倒産法との関係を教えていただきたいと思います。   以上の三つです。 ○金関係官 1点目につきましては,変更するという趣旨です。破産法にその点は合わせるということで,現在の判例の下での結論が変わると理解しております。   2点目につきましては,直接の引渡請求が可能な場合もありますので,債務者に対してと書いてしまいますと,不正確か少なくとも誤解が生じ得ると考えております。この15ページの上から二つ目の(2)の箇所では債務者に対して返還とだけ書いて,9の箇所で直接の引渡しについての規律を書けば,トータルで見て正確に表現されることになるのではないかという御指摘であれば,確かにそれはそういう考え方もあり得るとは思いますけれども,事務局としては今申し上げたような問題意識でそのようにしております。   最後の点につきましては,倒産法との関係では,14の行使期間を20年から10年に改めている点,6の転得者に対する詐害行為取消権の要件について,いわゆる破産法の二重の悪意の要件を民法では採用せずに要件化している点,13の転得者の前者に対する反対給付や債権に関する取扱いを新規に規定している点,これらが主に問題となると思いますけれども,これら全ての点を今回の民法改正と同時に整備できるかどうかというのは十分に検討したいと思っております。今私が申し上げた順序で民法改正と同時に整備法の範囲内で倒産法の改正をしやすいのだろうと感じていますけれども,そこは今後更に詰めて考える必要があると考えております。   ついでに,倒産法との関係では,前回の審議の際に,山本和彦幹事からも同様の御指摘を頂いたところで,具体的には,受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権について,債務者の破産手続が開始される前に詐害行為取消権が行使されて敗訴した受益者と,破産手続が開始された後に否認権が行使された受益者とがいる場合に,現在の改正案がそのまま実現して倒産法に何らの措置もされないとすると,否認権を行使された方の受益者は,その反対給付の返還請求権,価額償還請求権が財団債権と扱われるのに対して,民法の詐害行為取消権を行使された方の受益者,つまり破産手続開始前に取消訴訟の認容判決が確定したが,債務者から反対給付の返還を受けない間に,債務者の破産手続が開始してしまった場合の受益者は,その反対給付の返還請求権,価額償還請求権が破産債権と扱われてしまうのではないか,この点を御指摘いただきましたけれども,その点も問題意識としては十分に認識しておりますので,念のため申し上げます。 ○野村委員 よろしいでしょうか。   ほかに。 ○山野目幹事 また債権者代位権に戻ってよろしいでしょうか。いずれも大きな重みのあることではなくて確認の意味のこと,小さなことを2点申し上げさせていただきます。   1点目は,話題になりました8の登記又は登録の請求権を被保全債権とする債権者代位権に関しては,先ほどの意見交換で金関係官の方から,プラス解釈によって運用される部分もあるというか,それが大きいというお話があって,そのとおりであろうと受け止めました。一つの例として,先般のここの審議の際に松岡委員の方から登記又は登録をしなければ対抗することができないという場合もさることながら,登記又は登録をすることによって効力が生じる場面もあるではないかというような注意喚起というか問題提起もありましたけれども,あのようなものもこの規律の表現で構成上は組み立てておいて,その解釈運用で類似のものとして処理されるというふうな含意で御提案になっているものではないかと受け止めました。   それからもう一つは,債権者代位権の2の関連ですけれども,裁判上の代位が廃止されることに伴って,これは事務的なことですけれども,非訟事件手続法に措置をしなければいけないというようなことがありうることでしょう。ずっとこの要綱仮案のたたき台のドキュメントを拝見してきて,ゴシックではない明朝体の注記で他の法令に言及しておられるところもあったりなかったりしますけれども,恐らく非訟事件手続法のようなものは,別に非訟事件手続法が軽いのではなくて,ここでの提案からほぼ派生的に,かつかなり事務的な問題として出ていることなので,完全に整備の次元の話であって記さないということであるかもしれません。そうではなくて,内容的に要綱仮案の理解として必要な事項については最終的にとどめるかどうかはともかく書き記すというようなお気持ちで全般を処されているのではないかと理解しました。   そのようなことも含め,最終的にドキュメントにしていくときにどういう見映えにしたらいいかということは,なお事務当局で御検討なさっていかれるものであろうと理解しております。 ○野村委員 ほかに。 ○筒井幹事 2点目の点について現時点での整理をお伝えいたしますと,整備あるいは用語の整理に関する事項は民法の規定に関するものであっても積極的には取り上げていないというのが現在の要綱仮案原案の作り方でございます。ですから,民法の規定の改正に伴って他の民法の規定に技術的な整備が必要になるところもないわけではありませんが,それは記載していないわけでございます。   先ほど御指摘があった非訟事件手続法の整備が必要になるというのは全く御指摘のとおりだと思いますけれども,専ら技術的な改正であろうという趣旨でそれは書いていないわけでございます。   前回と言いますかこの資料ですけれども,民事執行法について言及しておりますのは,諮問事項との関係で最終的にどうするかはまた改めて考えるけれども,このような改正をする方向で検討しているということをこの部会で念のために御確認いただきたいという趣旨で掲載したと,現時点ではそのような整理をしております。 ○野村委員 ほかにいかがでしょうか。   債権者代位権,詐害行為取消権についてはよろしいでしょうか。 ○中田委員 確認だけなのですけれども。詐害行為取消権の13の「5 過大な代物弁済等の特則」についてです。前回御質問したのですが,例えば100万円の債権の代物弁済として500万円の財産を受け取ったけれども,取り消された場合には,受益者は400万円を返すと,その財産が不可分の場合には400万円の価額償還をするということになるわけなのですが,結果として受益者は500万円での買取りを強いられたことになります。これは恐らく破産法の規律も勘案されながらこういう御提案をされていると思うのですが,その400万円がどこにいくかというと,取消債権者の所にいくわけで,そこはバランスという観点でいうとどうかなという気もしますので,御検討の結果をお教えいただければと思います。 ○金関係官 御指摘いただいたとおり破産法の規律との関係でこのように整理せざるを得ないと考えております。中田委員の問題意識を踏まえて更に十分に検討したいとは思いますけれども,前回御指摘いただいた点を既に検討した上でこうならざるを得なかったところではあります。 ○野村委員 よろしいでしょうか。   ほかに御発言よろしいでしょうか。   それでは,大体この二つについては御議論いただいたということでよろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思いますが,   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明をお願いいたします。 ○筒井幹事 次回会議はもう来週になりますが,6月24日火曜日,午後1時から午後6時まで。場所は法務省20階第1会議室でございます。次回の議題といたしましては,要綱仮案の原案その2を新たに御提示いたしますので,それについて御議論いただくことを予定しております。また,いわゆるBタイプの部会資料についても幾つかの論点を取り上げる可能性がございますので,それについても御審議いただきたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○野村委員 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日も熱心な御議論賜りまして,どうもありがとうございました。 -了-