法制審議会 民法(債権関係)部会 第92回会議 議事録 第1 日 時  平成26年6月24日(火)自 午後1時00分                      至 午後6後06分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第92回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,能見善久委員,松岡久和委員,岡田幸人幹事,餘多分弘聡幹事が御欠席です。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料「80-1」,「80-2」,「80-3」,そして「80B」の4分冊をお届けいたしました。また,本日,机上に部会資料の正誤表,「80-1」と「80-3」についてのものですが,その正誤表を配布いたしました。このように訂正させていただきたいと思います。   このほか,大島博委員から,「個人保証の制限について~個人事業主の配偶者の取扱いを巡って」と題する書面を御提出いただいております。また,本日御欠席の松岡久和委員から,「弁済による代位の効果に関する意見」を御提出いただいております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料「80B」及び部会資料「80-1」について御審議いただく予定です。   具体的には,休憩前までに部会資料「80B」の全ての論点と部会資料「80-1」の「第1 消滅時効」について御審議いただき,午後3時25分頃をめどに,適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料「80-1」の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,審議に入ります。まず,部会資料「80B」の「第1 法律行為(暴利行為が無効になる場合)」について御審議いただきます。事務局当局から説明してもらいます。 ○忍岡関係官 御説明いたします。   「第1 法律行為(暴利行為が無効になる場合)」では,暴利行為について取り上げております。甲案は,以前の部会資料「73B」で提案された甲案と実質的には同趣旨の提案ですが,規律の対象を明確化する観点から,今回の甲案は法律行為一般ではなく,契約が無効となる場面の規律として位置付けることとされています。部会資料「73B」では,乙案として,暴利行為が無効になるかどうかの解釈は,従来どおり民法第90条に委ねることとしつつ,暴利行為に当たるか否かの考慮要素を明示するとともに,民法第90条によって,法律行為の当事者の私的な利益の保護も図られていることを明示することを意図した提案がされていました。しかし,この提案については,規定の趣旨が分かりにくいなどの問題が依然として残るといった批判があったことから,今回は取り上げないことといたしました。   暴利行為については,規律を設けることによって,実務上形成された暴利行為のルールよりも,適用範囲が過度に広がることへの懸念やルールが濫用されることに対する危惧が寄せられている反面,実務上,形成されたルールよりもその要件が限定的にすぎるといった指摘もあります。このように異なる意見があることからすると,適切な要件化についてはなお検討を要すると考えられるところもあり,仮に要件の適切性について疑義があるとすれば,そもそも現時点での判例法理の明文化には障害があると言わざるを得ないことになることから,暴利行為について新たな規定を設けないとの乙案も提示しております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいまの説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 暴利行為の明文化については,濫用のおそれに加え,公序良俗違反の一般条項としての意味を曖昧にすることから,民法に規定を設けることについては反対してまいりました。現在でもこの考えには変わりがないため,部会資料,乙案,暴利行為について明文化しないとの考えを支持いたします。前回の会議では,仮に暴利行為に関する規定を設けるのであれば,部会資料「78B」の乙案であれば受け入れられる旨,申し上げました。暴利行為に関して明文の規定を設ける際には,産業界の懸念を考慮され,部会資料「78B」の乙案をベースにした法文化をいま一度御検討いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかの御意見いかがですか。 ○岡田委員 私たちの立場からするとどうかなと私も周りで随分聞いて回ったのですけれども,公序良俗と暴利行為というのが一致するという理解を持っている相談員は本当に少ないと感じました。その意味では,やはり暴利行為というのは明文化してほしいと思います。今回の甲案に関しては,随分厳しくなったという感じがしますけれども,明文化されるということであれば甲案を推したいと思います。ただ,この最後の「限り」というのが,何でここへこれが入ってきたのかが分からなくて,解説も見たのですが,このことに関しては書かれてないものですから,「限り」は要らないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御意見があれば,お出しください。 ○大村幹事 甲案,乙案の両案を出していただいておりますけれども,甲案に個人的にはいろいろ不満はあるものの,取りまとめをするということであれば,甲案の方向で御議論を頂ければと思っております。産業界から懸念が表明されておりましたけれども,公序良俗に関する規定の後に暴利行為に関する規定を置いているという立法例は外国に複数ありますので,体系的に見てそれがおかしいということはないだろうと思います。また,濫用の懸念等についても御心配されているかと思いますけれども,これについても,前に申し上げましたように,この規定があるからといって,様々な濫用がされているという話はそれほど聞かれないのではないかと了解しております。また,日本の裁判官は,これまでの先例に従ってこれを適切に運用することができるのではないかと考えます。   21世紀の初頭に立法するに当たりまして,この種の規定も置けないということでよいのかどうかということにつきまして,反対されている委員の方々におかれましては,個別の御事情はあろうかと思いますけれども,大局的な観点に立って是非御判断を頂ければ,幸いに存じます。 ○潮見幹事 一言だけ申し上げます。大村幹事がおっしゃられた体系的にこういう規定が必要であるというところについては,私も同感です。ただ,その上で,結論から申し上げますと,私は大村幹事がおっしゃったのとは逆に,こういう甲案を出すのであれば,乙案によるべきではないかという意見を申し上げたいと思います。理由は,先ほど岡田委員がおっしゃったことにもかぶりますけれども,この部分では,過大な利益も含めてなのですけれども,かなり限定的なものを加えております。もちろん,濫用の危険がないという保証があればということは別ですけれども,しかし,条文としてこのようなものをここに設けるということが,一体我が国の暴利行為論としてどのようなものを考えているのかという部分において,若干世界的にも,あるいは今後の日本における解釈においても,少し禍根を残すのではないかと思ったからでございます。   さらに,判例法理よりもこの要件というのはかなり限局されているという部分もございますので,そうであるならば,こういう幾つもの絞りを掛けて,判例とも違うような考え方を示している甲案を書くぐらいであれば,一層のこと,現在の90条の下で暴利行為の議論というものを豊かにしていく方を私は選びたいと思います。 ○鹿野幹事 大村幹事が先ほどおっしゃったところですが,私は,結論的にはやはり甲案の方向で検討するのがよいと思います。従来から何度も繰り返し指摘されてきましたように,暴利行為は既に我が国において明文化が可能な程度に熟したルールとして裁判上も用いられてきたのではないかと思い,それにも拘わらず民法の中にこれにつき公序良俗という形でしか手掛かりがないという状態は,適切ではないと考えるからでございます。   ただし,今回の案につきましては,先ほども指摘がありましたけれども,「あるときに限り」という,この「限り」という言葉が付いており,このような限定表現は避けるべきだと思っております。以前の甲案においては,「されたものであるとき」となっていたのですが,その形でありますと,仮にここで具体化された暴利行為に直接には該当しない場合であっても,場合によっては従来どおり本体である公序良俗の規定に基づき無効と判断をすることが可能であったように思います。また,今まで90条で無効とされてきたものが,今回の改正で無効とされないというような変更は誰も考えていないのではないかと思います。ところが,今回の甲案で「限り」という文言を付けますと,あたかもこれを否定し,暴利行為類型についてはこの要件が満たされない限りはもう無効とされないのだと,そのような誤った印象,誤解を与えることになるのではないかと思います。   そういうことで,甲案の方向で検討を続けるのがよいとは思いますが,その際に「限り」という言葉は削除して元の案に戻すべきであると思います。 ○松本委員 私は,前回の「78B」の議論のときに,甲案について著しく過大なという要件が限定的すぎるのではないかということを申し上げました。今回はその限定に加えて,更に今,何人かの委員,幹事がおっしゃった「限り」ということで,限定が更に限定されているという気がいたしまして,こんなに限定するのなら,立法はもうやめて,判例にお任せする方がよっぽどいいのではないかと思います。   この資料の3ページの一番上の所に,著しく過大ということの趣旨は,「通常の経済合理性の幅を越えて利益や不利益を生じさせるような取引」だと書いてあります。それならまだこちらの表現を使う方がいいのではないかと。つまり,通常の経済合理性の幅を越えて利益を生じさせるような契約は無効とするということであれば,その著しくという制限的なニュアンスが大分減るのではないかと思いますし,「限り」というのも外していただければ,受入れ可能かなとは思います。 ○山本(敬)幹事 おおむね何人かの委員,幹事の方がおっしゃられたことと重なるのですけれども,この規定を明文化することの意味をどこに求めるかということと関係します。現在の90条の下で判例法理が形成されていて,それを目に見えるような形で明文化することが目的なのか,それを変更することが目的なのかということだと思います。これまでの議論の中では,判例法理を否定するという意見はなかったのではないかと思います。その意味では,趣旨はおのずと,判例法理を適切に明文化するということではないかと思います。   それに対して,何人の方からも指摘されましたし,前回までに私も申し上げていましたけれども,「著しく過大」という表現が現在の判例法理を適切に表していないのではないかということでした。これはなかなかコンセンサスが得られないというので,今回は,提案そのものは維持された上で,先ほどから出ている「限り」という表現が入れられています。しかし,これが入りますと,ますます現在の判例法理から離れるのではないかと思います。何ゆえにこの「限り」を付けなければならないのかという説明がやはり必要になってくるだろうと思います。   さらに,ここまでは触れられてはいませんけれども,前回の素案と比べますと,「限り」の前の部分で,例示として「窮迫,経験の不足その他」とされていまして,前にあった「知識の不足」が削られたりしています。これは,以前の部会で意見書を出しましたときに,現在の判例法理の状況をお示ししましたが,現在では,こういった知識の不足だとか判断能力の不十分さが利用されるケースが非常に増えてきています。21世紀に明文化するならば,このような現代的な要素が一つも上がらない,19世紀型の古典的な例示だけであるというのは,適切とは言えないだろうと思います。   更に申し上げますと,この新しい提案の中では,「法律行為」ではなく「契約」になっています。「契約についての合理的な判断を困難にする事情」となっていまして,これは契約に関する規定であるということを示唆しています。しかし,前回までは法律行為に関する規定としてずっと提案されてきたのに対して,これは唐突でして,説明もなかったように思います。これはなぜなのかという疑問と同時に,これはやはり問題だと思います。例えば,権利の放棄や債務の免除をさせるという場合も十分考えられます。そうしますと,やはり法律行為に関する規定として定める必要があるだろうと思います。仮にこの新しい準則によって明文ではカバーされない部分でも,90条に帰って無効判断を行うことが可能になるようにするためには,やはり90条との連続性を保つ必要があると思います。契約に関する規定だとなりますと,法律行為の総則に規定されるのかということも問題になってきます。ますます反対解釈を出されるおそれが高まるのではないかと思います。あるいは,90条との違いを出さないと規定を置けないというような考慮があるのかもしれませんが,そのような考慮から規定をしてしまいますと,むしろ望ましくない結果が生まれてしまうということに十二分に注意を払う必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○安永委員 先ほど来,何人もの方から御発言がありましたが,暴利行為に関する甲案の提案については,範囲を限定しすぎている点で,現在の判例法理から後退を招きかねない懸念を雇用・労働の立場でも強く持ったところでありますので,態度表明をさせていただきます。 ○岡委員 弁護士会の議論も今出たような意見で,悩ましい意見が相次ぎました。その上で,先ほどの大島委員がおっしゃった「78B」の乙案,考慮要素だけ定める規定ぶりで,条文としては異例であり,一般国民から見て明確化に資するかには疑問があるという観点から落とされておりますけれども,「限り」付きの甲案ではやはり賛同し難い。そうなれば,現行法どおりとなるが,でもそれもいかがなものかという苦渋の決断から,「78B」の乙案を中心に,乙案を更に絞り込む方向でもいいとは思うんですが。現行法よりは一歩前に進むのではないかという観点から,「78B」の乙案を中心にした合意形成をいま一度試していただきたいと強く思います。ついては,潮見先生とか,もう甲案だったら乙案でいいという先生方も,「78B」の乙案であれば今よりましだと言っていただけるようには思うんですが,その辺の意見も聞きたいところでございます。 ○筒井幹事 ただいまいろいろ御意見をいただいたのは,大変もっともな御意見であることは承知の上なのですが,岡委員から御指摘のあった部会資料78Bの乙案は,第3ステージに入ってから初めて事務当局から提示した案だったと思いますけれども,暴利行為の明文化についてなかなか合意形成が難しいという中で,我々としても条文に結び付ける見通しに決して自信が持てない異例な規定であるものの,しかし,議論の状況を打開するためということで提示した案であったわけです。   この乙案については,一定の評価をする意見もあるにはありましたけれども,やはり余り支持は得られていなくて,むしろ問題点を指摘する御意見もありました。このように,なかなか大方の積極的な賛同が得られない中で,あのような異例な規定を前向きに検討していくことについては,非常に困難を感じたということです。そこで,今回,理由については部会資料に書いたとおりですけれども,そういった理由で乙案については断念し,なお甲案について合意形成の可能性を少しでも見いだせるような修正を加えて,今回御提示したということでございます。   それについて,本日は御意見を頂きましたので,それを踏まえて,もう決めなければいけない段階まで来ておりますので,いま一度私どもの方でも考え,そして反対意見をお寄せいただいた方と個別に御相談させていただくことも含めて,もう一度考えてみたいと考えております。 ○佐成委員 今,筒井幹事から御説明いただいたので,特段,私の方で意見を述べる必要はないかもしれないんですけれども,一言だけ申し上げます。甲案に関しては,非常に限定されたということを皆さんおっしゃっておられて,我々経済界の方が従来から濫用の危険があると申し上げていた点について最大限の御配慮をしていただいているなとは強く感じております。ですから,その点については非常に経済界としては感謝申し上げているということです。   ただ,やはり大島委員もおっしゃっておりましたけれども,経済界の中ではなかなか甲案,つまり真正面から暴利行為の規定を入れていくということについては,抵抗感がまだ現段階でも残っているという印象を受けておりまして,非常に私も厳しいかなという感じは抱いているというところでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかによろしいですか。筒井幹事からお話がありましたように,本日頂いた意見を踏まえて,「78B」の乙案的な方向での規定の可能性,あるいは本日の甲案の更なる改善の可能性を検討していただき,かつ幾つかの関係団体等との意見の調整等も図っていただくという形で,事務当局における検討を続けさせていただければと思います。 ○内田委員 せっかくまとまろうとしているところで発言しない方がいいのですけれども,ちょっと甲案について誤解があるのではないかという気もするものですから,一言だけ申し上げたいと思います。   民法90条を使った様々な裁判事例,とくに先端的な事例は,場合によっては状況の濫用などと呼ばれるものもありますが,そういったものがきちんと酌み取られていないという御批判もありましたけれども,それについてはコンセンサスの形成は無理であったのだと思います。現在,甲案として挙げられているのは,当事者の一方に著しく過大な利益を得させ,又は著しく過大な不利益を与える契約という絞りを掛けており,つまりそれ以外の場合は対象にしてないわけです。そして,契約に給付の不均衡がある場合についても,本来は経済取引は自由ですので,給付の不均衡は構わないわけですけれども,それが著しい場合については,契約締結プロセスの一定の不当性を要件として付加することによって,無効とすることができるというルールを,これは特に最上級審の判例のコアな部分だと思いますけれども,それが分かるように書こうということなのだと思います。ですから,それ以外の90条の解釈や運用を別に否定しているわけではなくて,給付が著しく不均衡な場合について無効とするための要件を,限定的ではありますけれども,明示したというルールではないかと思います。   21世紀の民法として,これすら置けないのかという御意見もありましたけれども,仮に今回置けなければ,いつになるか分かりませんけれども,遠い将来改正するときにこの種の規定を置こうとすれば,もう一回,一からこの議論を繰り返すということになります。しかし,こういうコアの規定が置かれれば,その解釈,運用の中で,やはりこの要件のこの部分はおかしいから改善しようという形で,明白な立法事実に基づく改正も可能になると思います。甲案については,特に学者の方々からも反対があったのですけれども,今のような意味からすると,それほど反対すべきものではないのではないかという気がいたしましたので,一言申し上げました。 ○中井委員 それなら,なぜ「あるときに限り」なのかということについて,一言御説明が必要ではないでしょうか。前の「78B」は「あるときは」だったわけです。ここが理解できない。今の御説明については納得できないのですが,これは内田先生に言うことではなくて,事務局にお尋ねすることなのかもしれませんが。 ○忍岡関係官 今,何度か御指摘を頂いている「限り」という文言についてなんですけれども,これは「78B」で御提示していた案でも,著しく過大な利益を得させ,又は著しく過大な不利益を与えてというものは,主観的事情を利用したときに暴利行為に当たるはというふうに書いてあったので,それは「あるときに限り」という意味で書いていた意図でして,実質的な何か変更を加えたという意図はありません。「ときは」というふうになっているということは,結局は「限りは」ということなので,そこを明確に書くと,同じ意味だと。確かに,文言上,見た目やや激しく見えるかもしれませんが,法制的な意味としては同じだと事務局としては考えております。 ○中井委員 ちょっと,条文パッと出てきませんけれども,婚姻の規定はどうだったんでしょう。婚姻無効は,限り……。742条は,婚姻は,次に掲げる場合に限り,無効とする。1号と2号以外には予定されてないのではないでしょうか。そうだとすると,ここも同じ読み方をすれば,限りとなると,契約に限る,著しく過大な利益の場合に限る,不当に利用された場合に限る。これは例示ではなくて,これのみの限定なのではないでしょうか。それが日本語としても素直だと思うのです。こんな言葉の議論をしてもしようがないのかもしれませんが。縁組の無効などもそうですね。縁組は,次に掲げる場合に限り,無効とする。それ以外の無効は予定されていない。 ○内田委員 さっき私が申し上げたことの繰り返しになりますが,著しく過大な利益を得させとか著しく過大な不利益を与えるという場面に限ると言っているわけではなくて,そのような給付が著しく不均衡な場合については,原則は有効だけれども,締結プロセスの不当性という事情があるときに限り,無効になると言っているのだと思います。 ○沖野幹事 給付の不均衡ということなのですけれども,この文言ですと,言ってみれば青天井です。不均衡ということを理由とするときに,更に一定の要件の下で無効となるということのほか,やはり中身が非常にひどいといいますか,刑罰金利をはるかに超えたような高利の契約とかいうものですと,内容だけを捉えて公序良俗違反とされる余地もあるのではないでしょうか。それが「に限り」ということになりますと,そういったものはおよそ内容を捉えて無効とする余地がなくなるとも読みかねないと思います。ここは「ときは」と「に限り」とでは随分ニュアンスも違い,適用も違いが生じえます。もし同じだというお考えであるのであれば,元の「ときは」でよろしいのではないでしょうか。 ○内田委員 著しく給付が不均衡な場合は,それのみで無効になる場合があるというのが沖野幹事の今の御発言ですが,当事者が本当にそれを望んだら,裁判所は介入すべきなのでしょうか。やはり原則として,本当に合理的な意思に基づいて著しく不均衡な契約をしたいと望んだ場合には,それはもうしようがないのだろうと思います。しかし,あとで問題となる事案は,実際には何らかの契約締結プロセス上の不当さがあるはずで,それとの相関で判断をするということではないかと思います。 ○沖野幹事 内容面で何らかの,あるいは著しい不均衡があるというような場合には,何らかの意思の瑕疵のようなものですとか,それをもたらす事情があるということは推認されると思います。けれども,そういった事情について厳密な証明をせずとも,この部分を捉えて無効になるという面があり得るということではないでしょうか。そういった余地をおよそ否定してしまうということが,果たして当初より考えられていることなのかどうか。それは正に90条なら90条の問題として余地を残すということではないでしょうか。 ○松本委員 この甲案で書いてある要件を満たせば,当然,無効だという点については誰も異論がないんです。ただ,これでは限定されすぎではないかという異論がかなりあるという所なので,この「あるときに限り」ではなくて,「あるときはもちろん無効とする」とか,「当然のことながら無効とする」とかにすれば,誰も反対しないのではないかと思うんですが,法律としてはエレガントではございません。 ○鎌田部会長 要件事実的には「ときは」であろうと「ときに限り」であろうと,そこに掲げられていたものの準則が必要だということでは変わりないだろうと思いますけれども,どういう表現をすれば,法制上も無理がなく,また実質が表現できているかということについては,検討を続けさせていただきます。 ○潮見幹事 1点だけ。先ほどの忍岡関係官の発言で確認ですが,ここは「ときは」とは書いてはいけないのですか。「限り」としか書けないのですか。そういう趣旨の発言なのですか。 ○筒井幹事 どのような形で合意形成を図るのかという,そういうレベルの問題として御理解いただいた方がいいと思います。 ○潮見幹事 筒井幹事のおっしゃったことは,私は了解しました。ありがとうございます。 ○山本(敬)幹事 先ほどからの議論の中で,契約に限ったことの理由の説明がなかったように思います。それをやはり聞かせていただければと思います。今までの流れから予想しますと,契約に限った方が合意形成がしやすいということなのではないかと推察しますけれども,先ほど申し上げましたように,契約以外の場合について問題が起こらないのかというと,起こる可能性が十分にあるだろうと思います。それと,「限り」と定めてしまうことが本当に適切なのか,今後の法形成にとって望ましいのかということとは,別問題だろうと思います。これは,私としては非常に気になるポイントの一つです。 ○忍岡関係官 この契約の部分につきましては,合意形成というよりも,法制上の観点から考えるに,現在90条がカバーしている範囲と新しく作るこの規律がカバーしている範囲に,一定のきちんとした線引きといいますか,この規律の範囲の明確性というのが必要になると。そういうふうに考えていきますと,やはり一番明確なのがこの契約の範囲だと考えて,このようにいたしました。 ○山本(敬)幹事 そうすると,契約以外の場合はどうなるのでしょうか。 ○忍岡関係官 90条になるということで。 ○山本(敬)幹事 そのときの他の要素はどうなるのでしょうか。 ○忍岡関係官 ちょっと今の御趣旨が分からなかったんですが。 ○山本(敬)幹事 新しい提案で示されている著しく過大な利益,不利益という要素,そして,合理的な判断を困難とする事情の利用に係る部分は,どうなるのでしょうか。 ○忍岡関係官 何も書いていないので,90条に。 ○潮見幹事 多分,質問の趣旨が理解できていないのかなという感じがします。今のような場合に,一方的な債務免除等の場合ですけれども,90条で処理するといった場合に,同条には甲案で書かれているような事柄は書かれていません。にもかかわらず,ここで書かれているものを使うのか使わないのか。使うんだったらなぜ使うのか。使わないのであれば,それはどういうふうに処理するのか。逆に,ここに書かれていることが90条に入っているということであれば,90条でも十分に処理できるのではないのか。それなら,甲案なんていうものは場合によったら必要ないですよね。山本幹事はそこまでおっしゃるつもりではないでしょうが。 ○村松関係官 すみません,私どもがうまく理解できていないのかもしれませんが。今回の甲案も,制限的に見えるあるいは濫用の懸念が乏しくなるように受け止められるように,いろいろ工夫したつもりではいると先ほど筒井幹事の方からも申し上げましたけれども,そういう観点もありますが,ただ,解釈論としては,この「著しい」の文言の読み方等を含めて,今のものより更に制限的にしていくというよりは,皆様おっしゃっておられましたけれども,今の判例法理を相応に適切に書いているものとしても私どもとしては一応提示はしております。ただ,その範囲については,法制的な見地ということになりますけれども,この契約の範囲に限定して,別途90条とは別の確立したルールがあるから,ここに置きますという説明をする方が,より説明がしやすいという部分がありましたので,こちらの方に契約に限って置いてはどうか,ということです。では,そのときに90条の方で契約以外のものが拾えないかと言われたら,そんなことはないだろうと私の方としてはお答えしたいところでございますし,その際の判断の要素としては,同じようなものがありますので,参酌されることにはなるのではないかというような気はいたしますけれども,それは直接の適用かと言われば,もちろんそうではないということにはなろうかと思います。 ○中田委員 そうすると,今の御説明によりますと,この規定は90条とは別に,契約の所に置くということになるのでしょうか。 ○村松関係官 こちら,まだ配置について詳しく詰めておりませんけれども,90条の隣に置くというよりも,むしろ契約の辺りに全く別のルールとして一つ立てるというようなイメージに近いところを考えております。 ○中田委員 それは,「限り」という言葉以上に制限的な効果をもたらすのではないかという気がいたします。私は「限り」については,これで合意形成できるのなら,仕方がないかなと思っておりました。先ほど中井委員からの御指摘もありましたけれども,婚姻無効などの場合には事由が限られているわけですけれども,ここは評価的な要素が入っていますので,その要件の解釈で対応できるのではないかと思っておりました。他方,契約に限るのか,それとも法律行為にするのか,これは,相手方のある単独行為を考えますと,山本敬三幹事のおっしゃいましたとおり,やはりこれは法律行為にし,かつ90条の所に置くというのでいいのではないかと思っております。 ○潮見幹事 本来,質問された山本敬三幹事がお答えになるべきことかと思いますけれども,今の村松関係官のお答えからしますと,先ほどの権利放棄だとか債務免除というものについても,甲案で書かれているような思考様式を経て,無効かどうかということが判断されるのではないかとも思いました。もし仮にそういう趣旨であるのならば,先ほどの直前の中田委員の発言ではございませんけれども,「契約」という文言を「法律行為」に変えた方がいいし,紛れもないし,分かりやすいのではないかとも思いました。 ○鎌田部会長 分かりました。 ○山本(敬)幹事 もうほとんど全て言ってくださっているのですけれども,最初にも申し上げましたように,これを契約に関する準則だとし,しかも,今おっしゃっているように契約の所に定める,つまり90条から切り離されたものとして定めるとなりますと,少なくとも規定の外観からしますと,やはりこれは独立したルールであって,この規定の要件を満たせば無効になり,そうでなければ無効にならないというような,非常に限定的な解釈につながっていくおそれがあるだろうと思います。先ほどから,私だけではなく何人かの方がおっしゃっていますように,これで仮に拾えないとしても,90条が今後もあり,そして従来の判例法理を否定する趣旨はないとすると,90条を通じて無効にするという余地がある。それであれば何とかまだ合意形成が可能であるというようなニュアンスがあったように思いますが,今おっしゃっているような書き方をしますと,その道が更に狭まっていく可能性があります。それも意図してであればともかく,意図せずそうなってしまうというのではあまりに問題だろうと思います。   そして,先ほど申し上げましたように,権利の放棄や債務の免除に当たるようなものについても,やはり同様の考え方が当てはまると考えているのではないでしょうか。判例法理の立て方からしましても,ここでの従来の議論の仕方からしましても,積極的に区別する必要があるということは,全く出ていなかったように思います。とするならば,なぜ殊更,契約に限って,それも90条とは切り離して規定する必要があるのか。その理由はないだろうと私は思います。その意味では,このような規定の仕方は絶対にしてもらっては困ると思う次第です。 ○大村幹事 私は先ほど甲案についての不満は言わないと申し上げましたので,中身については申し上げませんけれども,配置につきましては,仮に甲案を採用するということにする場合には,90条と併せて置くということをお考えいただきたいと思います。比較法的に見ますと,この手の規定が契約法の中に置かれているという例はありますので,これまでの行き掛かりがなくて立法をする場合に,これを契約法の規定として置くということは十分に考えられることだろうと思いますけれども,日本法の下では90条の中でこの準則が生成してきたということがございます。今後の法形成のことも考えますと,この規定を90条から離すということは,望ましくない効果をもたらすだろうと思います。   私は,個人的には契約に関する規定は契約の所に集めた方がいいという考え方を持っておりますが,この規定につきましては,今のような事情がありますので,是非御一考いただきたいと思います。そして,法律行為に関する規定の所にそれに関わる特則として契約に関する規定を置くということは,体系上,大きな支障はないのではないかと思います。 ○鎌田部会長 分かりました。実質的な部分ではそれほど違いはなくて,どうすれば法制的に無理なく,また様々な形での批判的な御意見の方々に納得いただける準則を設けることができるかというところで,事務当局としてはこれまで苦労してきたところでございますけれども,今日,頂戴しました意見を踏まえて,更に検討を続けさせていただければと思います。よろしくお願いします。   次に,部会資料「80B」の「第2 根保証」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○脇村関係官 御説明いたします。   第2の「根保証」では,根保証について取り上げております。ここでは特に元本確定事由について御検討いただきたく,取り上げております。元本確定事由としては,主たる債務者に生じたものと保証人に生じたものがありますが,特に主たる債務者に生じたものを,賃貸者契約によって生じた債務の根保証などの根保証一般に広げることで,支障が生じないのか,御検討いただきたく存じます。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○中田委員 根保証の元本確定事由について甲案と乙案が示されておりますが,甲案というのは貸金等根保証とそれ以外の根保証とを分けるということだと思うんですけれども,少なくとも継続的売買の根保証については,貸金等根保証と区別する必然性はないのではないかと思います。債権者の与信が拡大するという御懸念があると思うんですけれども,債権者に供給義務があったとしても,債務者の信用不安などがある場合については,あらかじめ契約で対応していることが多いでしょうし,そうでなくても,今回,条文化されないにしても,不安の抗弁権などで対応できるのではないかと思います。   他方で,賃借人保証についての御懸念は,問題意識としては理解できます。特に,賃借人が強制執行を受けたり破産した場合でも,賃貸借契約は続いているということがあって,そういった場合については保証人も極度額の範囲内であれば覚悟するということは理解できるような気はいたします。ただ,賃借人の死亡の場合まで除外するということになると,保証人に相続人についてまで保証しろということになりまして,そういう大審院判例はあるわけですけれども,現在ではやはり過大ではないかと思います。そもそも個人の賃借人保証にいつまでも頼るのではなくて,保証会社の保証ですとか保険ですとか敷金ですとか,ほかの手段をむしろ考える方向がいいのではないかと思います。   そこで,乙案を基本にした上で,せいぜい賃借人保証の元本確定事由の例外を賃借人についての強制執行と破産の辺りでとどめるというのが全体としてはいいのかなと思いますが,ただ,その場合に果たして民法で規定するのがいいのか,特別法で規定するのがいいのかというのは,これはまた次の問題としてあると思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見ありますか。 ○中井委員 私も今,中田委員がおっしゃられた考え方に基本的に賛成でして,これは恐らく,賃貸借契約における借主が破産若しくは強制執行を受けたり死亡したときのものを除外するのがメーンの意図であったと思いますけれども,この甲案はその意図を超えている。その典型例として継続的売買取引などの事例が考えられるだろうと。そのときに主たる債務者に対して,強制執行もしている段階で,にもかかわらず,なお債権者は与信を続けて,しかもそれは保証人の財産を当てにしておこなうことを許容することになるので,それは到底容認できないと思います。この甲案は元々発案された目的を超えた手段を与えているように思いますので反対です。   とすると,これが合意に至らないとなると,私も大変残念に思いますので,賃貸借契約における一部の場合について例外的なことを考えなければならない。とすれば,一つはそれを居住用建物の賃貸借契約にまず限るべきだろうと。それから,今,中田委員は,強制執行を受けた場合についてはなお確定させなくてもよい旨の御発言もありましたけれども,強制執行をするということは賃料の不払いが起こっているわけですから,解除できるわけで,解除によって本来的に債権者は債権の発生を防ぐことができると考えれば,強制執行を受けた場合にも確定させていいのではないか。   そうすると,唯一破産の場合にはそれまでも賃料はずっと払い続けている,かつ破産に至っても解除理由はない,破産者たる居住者は継続してその建物を使える,だから賃料債権は新たに発生していく。こういう場面だけではないかと思います。そうだとすると,ここは乙案を原則にして,その例外は,先ほどの中田委員より狭くなるんですが,居住用建物について賃借人が破産に至った場合のみ除外するという,こういう考え方があり得るのかと。   では,そこまで限定した除外を民法のここの条文に入れるんですかというのが,先ほどの中田委員の問題意識と私も同じでございます。そこは何か工夫があるのかと思っております。 ○佐成委員 不動産業界の方も,正に賃借人の破産の部分というのが一番の関心事でございます。ただ,強い意見を持っているわけでも必ずしもないようでございまして,今のように十分議論してほしいということでございます。慎重に,特別法の手当なり何なり,ちょっとお考えいただけるかという程度かと思いますので,引き続いて御議論いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがですか。 ○筒井幹事 御意見ありがとうございます。頂いた御意見を踏まえてどう考えるのかが非常に難しいのですが,この根保証の規律は元々,最も問題が顕在化しているところに対象を限って平成16年に立法化したところでございまして,今回それを根保証一般,貸金等債務が含まれるものに限らない形で一般化するということを,極度額と元本確定事由について提案しておりましたけれども,そのうち,貸金等債務が含まれない債務一般の中で,適用対象に含めることに問題があると指摘されるものが出てきた場合に,どのように対処するのか。指摘されたものだけを除き,それ以外は問題がないという整理をすることが,果たして適当なのかどうかという問題があるように認識しております。   ですから,賃貸借について問題があるという整理をするのだとすると,ほかはどうなのかということを精査する必要が生じます。御指摘があったように,確かに継続的な売買の保証については,元々,貸金等債務とそれほど区別する合理性がなかったのではないかという議論を立てれば,それはそのとおりなのかも知れないとも思いますが,しかし,平成16年改正では問題が顕在化しているところに限ってまずは規定を置いた。その次に継続的売買をこれに含める改正をしようとすると,そこに具体的にどういう問題が起こっているのかを十分整理し,そして,それに関わっている関係者の方々の意見を十分聞いて,適切な規律を考えるというプロセスが必要になってくるのだと思います。   そういうことを考えてみますと,現実に支障があると指摘されているところを除外するという方向でもし議論しようとすると,途中で線を引くというのは実は非常に難しい問題があるのではないか。特に,審議がこの段階まで進んできたところでそういう軌道修正を図るのは非常に難しいという現状認識を持っております。そういう関係で,今回御提示した甲案と乙案というのは,問題の掘り下げ方が足りないと受け止められたかもしれませんけれども,そういった観点から,甲案のような整理の仕方を採らないのだとすれば,元の乙案の方でいくと考えることになるのではないかと思いました。   ただ,その上で,元本確定事由については,現在3種類のものが規定されておりますけれども,それについて個別にもっと分析できるのではないかという御指摘があったと思いますので,その点を含め,本日いただいた御意見についてはよく考えさせていただきたいと思います。なお,この元本確定事由の点については,この部会の中で強く異論をおっしゃる方が仮にいないとしても,パブリックコメントで強い異論が出てきているところであり,それに対して部会の外で意見聴取したり調整を図っていく必要があるという面がございますので,そういったことも含めて検討結果をまた御報告したいと思います。 ○鎌田部会長 そういうことでよろしいですか。   それでは,恐縮ですけれども,次に,部会資料「80B」の「第3 契約交渉段階(契約交渉の不当破棄)」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○合田関係官 御説明いたします。   「第3 契約交渉段階(契約交渉の不当破棄)」について,中間試案及び部会資料75Aでは,契約交渉の破棄が損害賠償義務を生じさせる場合の要件を規定するという考え方が取り上げられておりました。もっとも,この考え方に対しては,これまで裁判例で損害賠償義務が認められた事案を全て包摂するような要件化ができていないとの指摘や,規定が濫用され,紛争が増えるおそれがあるなどの指摘があり,いまだ十分な支持を得ることができていないように思われます。また,この規定によって認められる損害賠償義務の法的性質をどのように考えるべきかという問題もあり,これを明らかにしないまま規律を設けることに対する批判もあり得ると考えられます。そこで,部会資料80Bでは,契約交渉段階においても信義則が適用されるという原則のみを規定するという考え方を提案しております。本日はこのような考え方の当否について御意見を頂きたいと存じます。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○岡田委員 こちらの括弧の中の契約交渉の不当破棄,これはどうしても消費者からすると,悪質業者がこれを盾に強引な契約を迫るという思いがぬぐい去れなかったので,これがなくなるということに関しては,大変感謝したいと思います。   それで,次の交渉段階の信義則,これは判例上明白だというふうに本を見ると書いてあるのですけれども,条文では権利の行使の所しか書いてないということでは,是非ともこれは一般の人に分かりやすくするということ,特に相談員にとっても分かりやすくするということで,明文化していただきたいと思っています。 ○松本委員 この御提案の趣旨についての半分疑問というか質問です。契約交渉の不当破棄についてのルールの表現を変えて,契約交渉段階の信義誠実義務というふうに置き替えるという趣旨なのか,それとも契約交渉の不当破棄というルールは完全に消し去ってしまって,一般論としての契約交渉段階の誠実交渉義務の規定に完全に置き替えてしまうのかというところが,この文章からはちょっとわからないんです。私は,不当破棄に限定しないで,契約交渉段階全般における信義誠実義務の方が射程がうんと広がって,情報提供義務なども入ってくる─解釈的にですね。十分入ってくるので,その方が様々に活用できるのではないかと思いますから,もしそういう趣旨であれば,それで賛成いたします。しかし,契約交渉の不当破棄のルールをちょっと表現だけ変えて置き替えるということだと,その趣旨をはるかに越えた広い射程のものになっているのではないかという気がいたしますので,その辺のこの提案の意図するところをお聞かせください。 ○合田関係官 今御指摘いただきましたとおり,部会資料80Bの考え方は,契約交渉の不当破棄のルールについて表現を変えただけではなく,契約交渉の不当破棄に限らず,もう少し広く契約交渉段階において信義則が適用される場面を射程として考えております。つまり,この規律は,契約交渉の不当破棄には必ずしも限定されないという考え方です。 ○鎌田部会長 タイトルに(契約交渉と不当破棄)と書いてありますけれども,これはこれまでの審議の経過を踏まえて付いているのであって,最終的な提案の段階にまでこれを引きずることはあり得ないと理解してよろしいですね。 ○潮見幹事 今日は規定を設けない方がいいということばかり言って申し訳ありませんが,この形で単体でこのルールだけを規定することに対しては,私は賛成できません。もちろん,それは松本委員がおっしゃられた広い意味でこの規定を置くことを前提にしてのことです。前から何度もこの部会で申し上げておりますように,元々の原則というものは,契約が締結されるまでは,一度開始された交渉を継続するかどうかは,やめるかどうかは自由だということにあるわけです。その部分を抜きにして,契約交渉の所でこのような広い信義則に係る義務というものだけをルール化するということに対しては,私は受け入れられない。ただ,ほかの方々がこれでよいとおっしゃるのであれば,余りこだわりません。 ○佐成委員 この御提案につきまして,内部で議論をしましたところ,契約交渉段階に信義則が一般的に適用されるということ自体について別に異論があるわけではないんですが,今,潮見幹事がおっしゃった,正にそういったような議論であろうかと思います。つまり,我々の内部でも,この規定をここだけで設けるということについては,非常に抵抗がありまして,弊害が大きすぎるという議論が相当出ておりました。実際,M&Aの交渉なんかでは,最終局面で取締役会において余り明確な理由もなしに駄目というふうになってしまうということはよくあると。それでもまだ誠実交渉を尽くしてないのではないかとか,そういうあらぬ紛争が生じるとか,それから,いろいろなクレームのネタになりそうだということで,いろいろ事例が挙がっておりまして,内部では非常に評判が悪い規定であったと感じております。つまり,契約を締結するまでの間は,やはり自由にいろいろ交渉できてしかるべきなのに,ここだけこういう規定を入れてしまうと,特にこの最後の部分が「誠実に交渉を行わなければならない」と,こういうふうになっているのが,非常にクレームのネタになるだろうということで,強い反対が多数出ておりました。ちょっと現段階では受け入れられないかなという感じでございます。 ○鎌田部会長 ほかにいかがですか。 ○大村幹事 これは事務局の説明の中に既に書かれていたと理解しておりますが,契約自由の原則に関するルールの中に,契約を締結するあるいは締結しないという自由についての規定が置かれるものと認識しております。それと対になる形でこの規定がここに置かれるということで,原則部分の重複を避けるという御説明だったかと思います。潮見幹事はそれでもやはり具合が悪いという御趣旨かと思いましたけれども,いま申し上げたことを勘案すれば,ある程度の歯止めはかかるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがですか。 ○岡委員 弁護士会の意見は完全に割れておりますので,これといった意見は言えないんですが,議事録に残す意味で。   理念規定にすぎないけれども,理念を表す意味では賛成であるという意見も3分の1程度ございました。それから,こんなものであればない方がいいというか,ないも同然なのでなくていいという意見もございました。何とかこれよりいいものでコンセンサスが得られるものがないのか考えたいという前向きの人もいたんですが,法務省が考えても考え付かないようなものをなかなかひねり出すわけにはいかず,そういう状態のまま終わりました。   前向きな意見の中で一つ出たのは,交渉の成熟度の段階に応じて信義誠実義務の内容は変わるはずで,それがこの表現ではうまく表現できていないのではないか。交渉に入ったばかりの段階と損害賠償義務が生じる段階の信義誠実の内容が変わるのだから,それを読み込めるようにすべきであると。一問一答等にそういうのを書き込めばいいではないかという意見もありましたが,民法1条2項にある権利行使,義務履行のときの信義誠実の言葉がどうしても頭にインプットされておりますので,その言葉が交渉の全ての段階に一律に及ぶといふうに読めるのは,問題であると。そのような意見がございました。   発言がないのは考えてないわけではなくて,きちんと議論した上で余りまとまらなかったからという報告でございます。 ○鎌田部会長 頂戴した御意見を踏まえて,更に検討を続けさせていただきます。   次に,部会資料「80-1」に移ります。部会資料「80-1」の「第1 消滅時効」について御審議いただきたいと思います。事務当局からの冒頭の説明は省略させていただき,直ちに議論に入りたいと思いますので,御自由に御発言ください。 ○潮見幹事 時効の所をまとめてちょっと確認と意見を申し上げさせていただいてよろしいでしょうか。いずれも単純なところかと思いますので。三つの確認と二つの意見というか,一つの確認と四つの意見かもしれませんが,順番に申し上げさせていただきたいと思います。   一つ目は,消滅時効の1の所の,これは主観的起算点から債務者についての認識を外したという部分についての確認です。債務者を知ったという部分が,従前の案と比べると,これは要件事実から落っこちてくるのか,外れてくるのかということです。また,これは主観的起算点と客観的起算点とで概念を合わせるということになりますから,そうなりますと,両方とも同じ意味として理解してよいのかという辺りの確認です。仮に,債務者を知ったということは,この債権者が権利を行使することができることを知ったときに含まれ,かつ主要事実を構成しているんだとお考えであるのならば,債務者に対して権利を行使することができることを知ったとか,あるいは債務者に対して権利を行使することができるという書き方にしてもいいのではないかという感じもいたしますし,逆に,債務者を知ったというのを外したということは,これは要件事実あるいは主要事実から外しているということであると見るのであれば,先ほどの主観的起算点と客観的起算点の概念を合わせるという所に関わりますが,(2)の客観的起算点については,恐らくこれは現在の判例法理である法律上の障害がなくなったときという考え方を基本的に維持することになろうかと思いますから,そうなると,主観的起算点についても客観的起算点の議論あるいは理解がそのままスライドしてくるのでしょうか。これが第1点です。   それから,2点目は,3ページ目の(7)の天災等の所ですけれども,今回の案で期間が短縮されております。部会の中で,3か月にしろなどという意見は,どなたもおっしゃらなかったのではないかと思いますし,この理由付けというのも,私も阪神大震災でちょっと大変な目に遭ったものですし,東日本大震災のことなんかを考えますと,3か月というので本当に十分なのか,正直言ってよく分かりません。更に申し上げると,今回は時効期間についてはできるだけ統一しようという扱いをしていながら,この部分についてだけ,これは時効時間ではありませんけれども,ほかの所は6か月でこっちは3か月というのは,一体何なのだろうかなとも思います。部会でも出ていない意見ですから,少しどういう経緯でこうなったのかというのを御教示いただきたいのです。これが2点目です。   それから,3点目は,8のエですが,催告とそれから協議の合意との交錯といいますか重複について書かれたルールですが,催告が先にされて,その後,協議の合意がされたとしても,その協議の合意というものについては意味をなさないという形で提案がされています。個人的には若干不合理ではないのかという感じがいたします。一般的に,一方的な意思で催告をして,その後で協議を始めたということは,当事者の合意の下で時効をどうするかということを当事者が取り決めているわけですから,その協議の合意ということをしたという部分については,むしろ尊重すべきではないでしょうか。もちろん,協議の合意が先にされて,その後でそれを回避するために後で催告をするのはけしからんというのはよく分かりますけれども,逆の場合はちょっと違うのではないかと思いました。これも確認というか意見みたいなものですが,3点目は以上です。   4点目は,この辺りから意見になってきますが,前からこの部会でもいろいろ出てましたが,不法行為の主観的起算点からの3年というところが維持されたようですけれども,残念だというべきところなのかもしれませんが,ここの説明というものが私には理解できません。むしろ,短期化を考えた場合に,なぜ不法行為の場合にだけ,そのように被害者の権利行使の期間が短縮されるのか。それは単に証拠の散逸ということで説明ができるのかというところに,釈然としないところがございます。もちろん,これは今後の立法のときに対応したらいいとは思いますけれども,この分についてはあえてさせていただきました。   もう一つは,小さな要望ですが,4ページ目の7の時効の効果の所で,書いている意味はよく分かるのですが,この書き方をした場合に,取得時効の場面での当事者概念,それから正当な利益を有する者というものの意味というものに,解釈上,混乱が生じるのではないかということを危惧しております。もちろん,これはそんなことは心配しなくていいと言われたら,それまでかもしれませんけれども,取得時効のことについても,少し紛れのないような形で考慮いただければ有り難いなと思います。これも意見です。 ○中原委員 (8)のエについては,潮見先生が言われたとおりだと思います。例えば,債権回収実務においては,交渉開始することを目的としてまず催告を行い,次に債務者の対応等に応じて交渉を開始することが一般的です。このような実態を考えると,催告によって時効の完成が猶予されている間に行われた時効完成猶予の合意が効力を有しないとすると,実務において時効完成猶予の合意を行うことができる機会は,相当程度限定されたものになります。また,催告が当事者一方からの意思の通知に基づく完成猶予事由であるのに対し,時効完成猶予の合意は当事者双方の合意に基づく完成猶予事由です。したがって,このような成立原因の相違からすれば,再度の催告については時効完成猶予の効力が認められなくても,催告後の時効完成猶予の合意に効力を認めても問題はないと考えます。そこで,現実の取引実態に即して活用可能な制度とする観点からは,催告によって時効の完成が猶予されている間であっても,時効完成猶予の合意をすることができるように改めていただきたい思います。 ○山野目幹事 3点申し上げさせていただきます。   1点目は,6の「時効の完成猶予及び更新」の(2)強制執行等の片仮名,イの所でございますが,単に表現の問題ですけれども,ここに「事由が法律の規定に従わないことにより取り消された」という表現が出てまいります。「事由が取り消された」という表現が,少し日本語として調っていないという印象を受けました。「事由が止む」か,あるいは「手続が取り消されるか」,どちらかかもしれませんから,引き続き御検討いただければと有り難いと感じます。   それから,2点目。同じ6の(7)天災等による時効の完成猶予の所について,完成猶予の期間をその障害が消滅した時から3か月というふうに部会資料で御提案いただいていることについて意見がございます。東日本大震災の際の915条の熟慮期間についてされた措置は,災害発災時から計算される月数を示して,民法の915条の3か月よりも更に若干延ばすという措置が採られたものでございます。そのような過去の例とのバランス等を考えると,障害消滅時から3か月というのは,法制的な検討としてはあり得るのではないかと感じます。私の印象としては,部会資料のこの起算点で3か月というのは,あっておかしくないという印象を抱きました。   それと同時に,しかし今後の災害が現実に発生したときの運用のことを考えますと,その障害が消滅した時という概念をめぐって,現実に混乱が起こるような大きな災害も将来的には起こり得るのではないかと感じます。そのようなことでございますから,民法の普通的規律としては,ここで御提案いただいているようなものが法制的検討に耐え得るものとして大いにあり得るものであると考えますとともに,民法の規定が調った段階で,更に1995年や2011年の災害の実態の認識等を踏まえて,民法の規定を前提とした時効の在り方について,特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置の中で,何か別途臨機の対応が可能であるような措置を引き続き検討するということも望まれてよいと感ずるものでございます。潮見幹事からの御注意もありましたから,引き続きそのような所まで視野を広げて御検討いただくことがかないますれば,有り難いと感じます。   3点目,7の「時効の効果」の所でございます。79回会議で中田委員から,それから本日の会議で潮見幹事から,ここの括弧書きの案文の表現が取得時効の今後の解釈・運用に影響を与えるのではないかという危惧が表明されております。私は,ここの当事者と書いた後,括弧書きを添えているものは,取得時効について,時効により直接に利益を受ける者として広く時効援用権を認める従来の判例運用を変更する趣旨を含むものではなくて,これは今般,諮問の範囲が契約に基づく債権の消長ということの検討の求めに応じてのものであったということを踏まえてのものであると理解いたします。もし,案文を更に中田委員や潮見幹事の危惧に対応する仕方で改良する余地があるのであれば,大変結構であると感じますし,法制的な検討その他の観点からこのままの案文で進まざるを得ないのであるとすれば,今のような理解で受け止めてこの提案を見た者がいるということを,議事にとどめさせていただきたいと感じます。 ○高須幹事 少し戻りますが,6の(8)のエの催告と合意の関係でございますが,潮見先生や中原委員から今御説明があったことに私も全く同感でございまして,催告が先行する場合には,その後協議がなされるということは十分にあり得るわけでございまして,そのときに,結局,催告後協議で時効の完成の延長というようなルールがうまく確保されませんと,催告を求めるか,最初から協議を求めるかということで,非常に厳しい選択を迫られることになりますので。協議でいけば延長ができると。催告だとそれはできないというような,非常に使いにくい制度になる危険があると思いますので,やはりここは催告が先行した場合に,その後協議が成り立った場合には,そのこと自体でこの協議の方の規律に移行していくという立て付けにした方がよろしいのではないかと思います。今日の議論もそうですが,意見の一致を見る所がなかなかないわけですから,こういう所はしっかり意見の一致を見たという実績を作っておきたいと思って,意見を言わせていただきました。 ○鹿野幹事 大きく2点申し上げたいと思います。   第1点は,潮見幹事が先ほどおっしゃったうちの第1点だろうと思いますが,第1の1の「債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点」に関する所でございます。この特に(2)につきましては,「権利を行使することができる時から」という言葉が使ってあります。この表現ぶり自体は現行民法166条で用いられているものでありますが,現行民法,のこの規定は,一般的には,権利行使について法律上の障害がないという意味で捉えられているようですが,事案によっては判例でも権利行使の期待可能性ということを考慮に入れて,この起算点を判断するものがございました。   今回,(1)と(2)という形で,主観的な起算点と客観的な起算点ということを設けようとしている訳ですが,その場合であっても,この(2)の「権利を行使することができる時から」という文言の解釈においては,必ずしも法律上の障害ということに限られるわけではなく,なお従来どおり解釈の余地が残されていると,あるいは更に言うと,権利行使の期待可能性ということをここに読む可能性も残されていると,このように理解してよろしいでしょうか。そのように私自身は理解しているのですが,その確認でございます。   ついでに言いますと,(1)は,認識を要件としているので,正にこの主観的起算点というのは,権利行使のより現実的な期待可能性があるときから起算するというような考え方だと思いますが,ごく例外的には,認識があっても,権利行使の現実的な期待可能性がないということもあるかもしれません。しかし,それは当然(1)の前提となって,解釈によって読み込まれうるのだと理解してよろしいでしょうか。これも確認でございます。   それから,大きく2点目は,先ほど潮見幹事が言及されたうちの第4点だと思うのですが,部会の資料では第1の4にある「不法行為による損害賠償請求権の消滅時効」に関する所でございます。前回も申し上げましたが,一般の消滅時効が主観的起算点と客観的起算点の二重の時効を設けて,しかも短期の方が5年とされる中で,不法行為においては特に短期の方が3年とされることの合理的な理由は,今まで示されてはいないのではないかと思いますし,その点にアンバランスがあるように思います。つまり,特に(2)で,長期の方は20年とされており,これは不法行為の被害者の権利保護の観点から通常の場合より長いと説明されうると思うのですが,そのようにされながら,他方で不法行為債権の短期の方は一般債権の期間より短いというアンバランスが存在するのではないかと思います。   そのようなことから,言わば二重の意味でこれはアンバランスな規定だと私自身は思っております。ただ,確かにここでは契約のルールを中心に論じてきたので,不法行為に関する規定については深く全体を議論したわけではありません。そこで,もし問題があるとしても,今後改めて正面からこれを取り上げるということ,つまりこの補充説明に書いてあるように,今後の検討課題とするということを前提に,取りあえず今回は,消極的ながらも支持をせざるを得ないのではないかと私自身は感じております。以上です。ただし不法行為債権の短期につき問題は存在するということを改めて指摘させていただきたいと思います。 ○大島委員 1の「債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点」については,客観的起算点を維持することを主張してまいりました。企業にとって,債権管理は経営の根幹に関わる重大な関心事です。現在は,消滅時効の期間に合わせて契約書類の保管を含む債権管理の実務を行っております。部会での議論を聞いていれば,主観的起算点を導入しても,ほとんどの契約に基づく債権は,権利を行使し得るときから5年で消滅することは理解できます。しかし,これまでの議論の経過を踏まえずに法文に接した場合には,債権の消滅時効が5年なのか10年なのかの判断に迷うことが懸念されます。消滅時効を廃止しても,企業の債権管理の実務を変えようとする趣旨ではないことや,「権利を行使することができることを知った時」というのは,現在の「権利を行使することができる時」との表現とどのような差異が出てくるのかについて,立法者による解説等で具体的例を挙げながら,丁寧に説明をしていただきたいと思います。 ○中田委員 細かいことだけ3点ございます。   一つは,2の「定期金債権等の消滅時効」ですが,条文の部分では,定期金の債権というふうになっております。これは現在の168条の原始規定からそうなっているんですけれども,今回,基本権と支分権とを分けて整理するという立法の方向になっておりまして,それはいいことだと思うんですが,そうしますと,定期金の債権というのは分かりにくい。むしろ定期金債権と言ってしまっていいのではないかと思いました。   それから,次が6の(2)のアの(ウ)と(エ)でございます。部会資料69Aでは,これは「その他の民事執行」となっていたのを,今回,形式的競売と財産開示手続を明示する規定になっております。ただ,形式的競売については,79回会議での関係官の御説明でも,形式的競売にはいろいろなものがあるんだけれども,個別的に判断・解釈するということでした。ところが,今回のように明示しますと,解釈で対応するという余地が狭くなってしまうのではないかと思います。例えば,共有物分割における競売によって取得時効が中断するのかといった問題も起こるかもしれないので,対策としては,例えば留置権の場合を中心に限定的に規定するとか,あるいは(イ)の「担保権の実行」の解釈に委ねるという方法,あるいは,前回の御提案にありましたような,「その他の民事執行」にしておくというような方向も考えられるのではないかと思いました。財産開示についても前回両論ありまして,私もやや違和感を感じておりますが,これは含めるというのが大勢であれば仕方ないと思いますけれども,今の点については御検討いただければと思います。   それから,最後は「7 時効の効果」につきましては,先ほど潮見幹事や山野目幹事のおっしゃったところに同調いたします。 ○岡田委員 5の生命・身体の侵害の所ですが,短い方,5年間というのは損害及び加害者を知ったときで,長い方が20年間ということですが,これが権利を行使することができるときからということで,いずれも不法行為より長くなりますが,ちょっと周りで公害の場合はこれで大丈夫なんだろうかということを懸念する声があったので,それを確認させていただきたいと思います。 ○岡委員 三つ申し上げます。   一つ目は,主観的起算点の導入についての発言でございます。   三つありますが,まず一つ目は,この時点でも消費者委員会,第一東京弁護士会,沖縄弁護士会等,原則的導入に反対の論者はいます。しっかり研究した上で反対であると言っております。その理由は,弱い者にとって財産的な不当利得返還請求権等が現在の客観10年から主観5年に縮まるというところについて,やはりその立場に立てば,社会全体がよくなろうと,その特定の部分については利益が損なわれるので,反対だという意見でございます。それは事実として発言させていただきます。   それから,その次に,先ほどから筒井さんもおっしゃっている部会におけるコンセンサスという意味でございます。ちょっと前から敬三先生とか中井先生とか,歴史的決断をされておりまして,私自身も,弁護士会で反対意見が最後まで根強くあっても,それにこだわることなく,社会全体の立場から法制審部会の委員としては発言すべきであろうと思い,また思うべきであるという観点から,自分なりにはこの部会におけるコンセンサスに参加はさせていただきたいと思っております。そういう意味で,私個人として主観的起算点導入に反対しない態度は採らせていただきたいと思っております。   最後ですが,法制審部会のコンセンサスあるいは国会あるいは国民のコンセンサスといっても,それは全体無理なことだろうと思います。ある法律を作る以上,世の中に8のプラスがあっても,2のマイナスは絶対生じるような法律にならざるを得ないと思います。そういう法律を作るときにどうしたらいいのかと。この法律は作るけれども,そういう社会全体のためにある意味不利益が及ぶ層に対して,どういう措置を講じた上で立法するのかと。それはこの法制審の部会の役割ではないのかもしれませんが,是非そういう所にも配慮というか,当然,法務省さんは配慮しているんだと思いますが,目に見える形で外に出していただきたい。この消滅時効の所については,考えられるのは,しっかり周知期間を置くとか,大島さんがおっしゃったような分かりやすい解説書を書いていただくとか,施行期日を少し先に延ばすとか,よくは分かりませんが,法律,立法のプロである法務省さんにおいて,これでやるけれども,一定部分不利益が及ぶ層に対してはこんなふうに対処すると。これを是非,要綱仮案で書いていただければいいんですが,どこかの時点で明らかにしていただきたい,そういう希望を申し上げます。それが1点目の大きな話です。   あと二つは小さな話です。潮見先生がおっしゃった天災等による時効の完成猶予の3か月ですが,現行法が2週間だから,一気に延ばすのは大変だという趣旨だろうと思いますが,仙台であるとか被災地の弁護士からの話によりますと,3か月は短すぎるんではないかという生々しい発言もございます。国会に行っても,きっとそういう思いを持つ人たちは多いでしょうから,この部会でも6か月説が強力に出たという話を基に,しかるべき所と交渉していただければと思い,6か月説を私の方でも発言させていただきます。   それから,最後,本当に細かい話ですが,催告と書面協議については先ほど来出ている調整規定があると思います。もう一つ,(1)の裁判上の請求と強制執行等で申し立てが取り下げられたり却下された場合に,裁判上の催告として6か月効力があるというのが,括弧書きにあると思います。そうすると,催告した上で,その裁判上の催告が生じたときに,6か月,6か月のダブルは駄目になるだろうと思います。それを条文に書く必要はないかもしれませんが,催告と裁判上の催告の競合の問題もあると思いますので,一問一答等で解説できるのであれば,しておいた方が親切かなと思いました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 第1の1の所で,主観的起算点の導入についてですが,二つ申し上げます。従来,我々は,債権管理の効率性という観点から,客観的起算点を維持すべきだという主張をしておりまして,今回も内部で議論をしました。内部では,大分この部会資料に対して,致し方ないというような雰囲気も出ておるんですけれども,中にはまだやはり強く反対という意見の方もいらっしゃいます。特に瑕疵担保責任等が問題になる場面について,現在は商法の5年が区切りになっているのが最長で10年になるのではないかと。それは企業実務へ影響が大きいのではないかと。そういうような御意見が強くございました。   その趣旨は,ここにペンディングということで(注)が書かれてあって,商法522条を削除するというのがありますが,これを残すという選択肢がもしあるのであれば,それで対応が可能なのかなという気もしております。それが一つです。もう一つは,企業実務は契約による合意という形で通常やっておりますので,時効期間の短縮化の合意が有効にできると,そういうことが明確であれば,現在の実務にそれほど大きな影響は及ぼさないのではないかという,そういうような御意見があったということだけ,取りあえず現時点では報告したいと思います。 ○松本委員 意見ではなくて,この部会資料の書きぶりについての質問なんですが,2ページの6の見出しは,「時効完成猶予及び更新」で,本文は,時効の中断事由及び停止事由に関してうんぬんかんがんというふうに改めるということなので,私の理解するところでは,「時効の中断」という表現あるいは「停止」という表現を変えようという提案だと理解しております。これでよろしいですかということで,多分よろしいと思うんですが,そうなると,後ろの方,22ページの「第10 契約に関する基本原則」の2の見出しは「履行請求権の限界事由が契約成立時に生じていた場合の契約の効力」となっておりますが,本文の所では,「限界事由」という言葉は使われていなくて「不能」となっておりまして,不能という表現については変えないという提案なんですね。この点で一貫しているのか一貫してないのか,私は一貫してないと思うんですが,その辺りの部会資料の書き方についての原則を御説明ください。 ○脇村関係官 表題についても適切に直させていただきたいと思っております。申し訳ございません。 ○道垣内幹事 中原委員と高須幹事がおっしゃったことに関係して,ちょっと読み方を1点教えていただきたいと思います。6の(8)のウの「催告によって時効の完成が猶予されている間」という言葉についてです。例えば,催告が時効期間満了の4か月前になされたとします。そのとき,その4か月間,つまり時効期間満了前の4か月間というのは,時効の完成が猶予されているのかいないのかというと,いないのではないか。残り2か月だけが時効の完成が猶予されているということなるのではないかなと思うのです。   その解釈が正しいのかどうなのかというのが第1点で,仮に正しいとしますと,催告をして,その後に,協議に入るかどうかという話をするというのができないというのは実務的に変ではないかという御意見は,必ずしも成り立っていないのではないかという気がするのです。前提としての読み方についてお聞きするとともに,また,どちらであるのかということは,何らかの形で説明をした方がよいのではないかと思います。 ○山川幹事 「生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効」で,以前,債務不履行,医療過誤とか介護サービスについても,消滅時効期間の延長について御発言しまして,それは繰り返しません。現状を変更するという場面であるとしたら,説明の際にそれなりの積極的な理由付けを充実させる必要があるかと思います。コンセンサスは重要で,もしそれができるようでしたら,私も従いたいと思いますけれども,これまでの資料ですと,変更しても弊害がないという消極的理由付けが中心だったように思いますので,もし現状変更という観点からですと,積極的な変更の根拠付けがより充実した形で述べられることが望ましいと考えます。改正の理由は,改正の議論の際に重要であるだけでなくて,今後恐らく長期にわたって歴史的に残る文章になると思いますので,そういった歴史的観点からの検証もなされるということを予定した理由付けにしていただきたいと思います。 ○村上委員 先ほど道垣内幹事がおっしゃった点については,(6)のイについても同様の問題があり,「時効の完成が猶予されている間」というのは,催告後の6か月間全部という意味ではなくて,催告がなければ時効が完成したであろう時期よりも後の部分だけを指すのだろうと思うのですけれども,あたかも催告後の6か月間全部を指すかのような誤読をしやすい書き方になっているのではないかと思いますので,書き方の工夫をしていただけると有り難いと思います。   もう一つ,6の(2)アの括弧の中で「(ア)から(エ)までに掲げる事由が法律の規定に従わないことにより取り消された場合」という表現がされていますが,この表現でいいのかどうかが気になります。例えば,競売が取り消されるという場合,その理由は,無剰余その他いろいろあるでしょうが,法律の規定に従っていないから取り消されるというよりは,こういう事情があるときには取り消すという民事執行法の規定があって,その規定に基づいて取り消すのではないかという気もします。恐らく現行民法154条の文言をそのまま使っているということなのだろうとは思いますけれども,「法律の規定により取り消された場合」というような文言に改める方が違和感は少ないようにも思います。 ○高須幹事 今の催告と合意の関係の所ですが,催告の考え方については,今,道垣内先生あるいは村上委員から言われたとおりだと,私どももそう思っております。本来の時効期間の完了時点からプラスアルファの部分が猶予されている部分だろうと,そう思います。その限りでは何の異存もないのですが,その場合にも,催告をした上で,今回の制度によるところの合意による完成猶予の制度を利用する必要が生じるのではないか。結局,催告をギリギリに出す,もうあと2日か3日で時効が完成という場合もないわけではない。そうなると,やはり催告は出しても,それから先方からそれに対するリアクションがあって,協議をしましょうとなったとしても,もうそのときには既に本来の期間は過ぎているということはままありますので,やはりそこは中原委員がおっしゃった実務的にそういう要請があるというのは,私も同感と思っているところでございます。時効期間の数え方に全く異議はございませんが,今回の制度の必要性はやはりあるのではないかと思っております。 ○道垣内幹事 必要性があるというのはよく分かるのですが,それは結局,協議による時効の完成の猶予というのを,協議は時効完成時から6か月の間にすればよいという制度にしてしまうという話ですよね。それは通らないのではないですか。 ○鎌田部会長 随分たくさん質問をためてしまいましたので,ここでもし整理可能なら,1から順に,回答のできる部分については回答,あるいは補足的な説明を要するような所については補足的な説明をお願いします。 ○合田関係官 ちょっと漏れがあるかもしれませんが,順番にお答えしていきたいと思います。   まず,1の「及び債務者を知った」という言葉を削除した点についてですが,これは要件事実から外したという趣旨ではございません。部会資料の説明にも記載しましたが,権利を行使するという場合には,特定の債務者に対して特定の権利を行使することが前提になっていますので,「債務者を知った」ということは当然その中に含まれていると考えられます。それから,ここでの「知った時」というのは,不法行為に関する民法724条前段の「知った」と同じ意味であり,実質的な権利行使が可能である,その権利行使が可能な程度に事実を知った,ということになります。債務者を知らなければ,実質的な権利行使はできませんので,ここで「債務者を知った」ということを記載しなくても,債務者を知るまでは時効は起算されないことはこの書き方で読めるという考え方に基づいて,このような提案になっております。   それから,天災等の場合の時効の完成猶予の期間を6か月から3か月に短縮した点について,現行法の161条の趣旨は,天災等で交通が遮断されていたり,裁判事務が休止していた場合に,その期間のみ時効を停止するという点にあり,必ずしも債権者が被災者であることを前提にした規定ではないと考えられます。この天災等による時効の停止だけが他の時効の停止事由と違って停止の期間が2週間とされているということも,権利行使ができない状況が長期間にわたって継続するということが前提になってないからだと考えられます。現行法では2週間と6か月というかなりの差があるところを,他の停止事由と同じ6か月にそろえる根拠をどう説明するのかということを考えたときに,東日本大震災であるとか,そういった大規模な災害を前提にすると,6か月が合理的な期間であるという説明はあり得るとは思いましたが,必ずしもそういった大規模な災害の事案ばかりではなく,例えば1週間とか比較的短い期間,交通が途絶していたという場合に,そのような事情があれば一気に6か月延びるという規定が果たして合理的かということを考えますと,民法に置く規定としては,3か月という期間が合理的ではないかと考えて,今回御提案をした次第です。   それから,協議の合意による時効の完成猶予について,まず「時効の完成が猶予されている間」という文言の意義については,道垣内幹事が解説してくださったとおり,本来の時効期間の満了時よりも後という解釈を前提としております。この規律は,必ずしも催告を先行させた場合の協議の合意が時効の完成猶予の効力を有しないというものではなくて,少なくとも本来の時効期間の満了時よりも前に協議の合意をしておかなければ,時効の完成猶予の効力が生じないというものです。本来の時効期間の満了前に協議の合意をすることを要求するのは,それほど不合理な規定ではないと考えて,今回このような御提案をしています。   逆に,協議の合意が先行した場合に,最後に催告をして更に6か月延ばすというのは不合理だという点は,恐らく共通の認識なのではないかと思うんですけれども,では,協議の合意が先行した場合に後で催告をするのは駄目で,先に催告をした場合は後で協議の合意をしてもいいというのは,どのように合理的に説明ができるのかと考えると,少し疑問があります。現行法における催告が,時効中断の手続をとるための期間である,そして,改正案における催告が,更新の効力を有する手続をとるための期間であるとすると,更新の効力を有しない協議の合意を重ねて行うということは,本来予定していないという考え方もあり得るのではないかと考えております。   それから,7の時効の効果についてですけれども,取得時効における「当事者」という言葉については,十分に議論がされていないということもありますし,そもそも取得時効の「当事者」に一体どういう者が含まれるのかという点については,消滅時効と違って,判例の蓄積が十分ではないということもあります。取得時効について,当事者という現在の文言を別の言葉に置き替えることが果たして適切なのかというと疑問がありますので,ここは「当事者」のまま維持せざるを得ないのではないかということで,括弧書きの中で,消滅時効についてのみ,「当事者」という言葉を言い替えることを御提案しております。   すみません,順番が前後して少し前に戻りますが,1の債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点の(2)の客観的起算点についてですが,こちらについては従来の解釈を変更する意図はありません。これまでの判例の解釈を変更する意図での提案ではございません。   それから,生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効について,20年の時効期間の起算点が,公害等の事案ではどのような解釈になるのかという御質問があったと思いますが,判例上,加害行為から後れて損害が発生する場合には,「不法行為の時」を損害の発生時とする解釈がされていますので,今後もそのような解釈は維持されると考えております。 ○鎌田部会長 質問をためすぎてしまって,申し訳ありませんでした。あと,724条の3年をなぜ5年にしないんだという趣旨の質問もありましたけれども,これは5年にあえてしないで3年という規範を提示したのではなくて,現行法を変えるだけの議論の蓄積はまだないという趣旨ですよね。 ○合田関係官 はい,そうです。 ○鎌田部会長 あとは,6に関しましては,いろいろと御指摘いただいた点を踏まえて,更に検討していただくということで,よろしくお願いしします。 ○合田関係官 表現ぶりについていろいろと御指摘いただいた点につきましては,御意見を踏まえて,更に検討したいと思います。 ○中井委員 私も6の(8)協議の時効の完成猶予について幾つか確認をさせていただければと思います。   まず,ウの所のただし書で,5年を超えることができないという形で今回設けられました。ここは余りこれまで議論されていなかった所かと思います。協議を現に続けている。それを繰り返している。確かにどこかで上限を設けなければならないというところから,一つの目安として5年というのを選択されたのかなと思いますけれども,真摯に両当事者がなお協議を継続しているという場面は十分あり得るわけで,にもかかわらず上限を決めなければいけないのか。一方当事者が嫌ならいつでも打ち切れるし,合意をしなければ終わるわけですから,果たしてこの5年という制限は必要なのか。   ちなみに,JR西日本での尼崎の脱線事故について,被災者の関係のお仕事をしている人に確認をいたしますと,もう既に事故から9年たつわけですけれども,3割の方がまだ示談ができていない。事実上協議を続けているからなのか,そこに債務承認があるからなのかは分かりませんが,若しくはもう時効援用をしないと表明しているからかもしれませんが,現実にはそういう事例もあることを考えると,果たして5年と区切るのが適切なのか。5年と区切った理由について教えていただきたい,これが1点です。   2点目は,このアについて,これまでの審議の経過を取りまとめれば,こういう形になると思ったわけですけれども,改めて見てみますと,仮に当事者が期間を定めて,例えば1年半協議をしましょうという書面による合意がある,若しくは逆に6か月,8か月協議をしましょうという合意があるとき,この(ア)の規定の適用があって,いずれであれ1年経過したときに終了するのか,若干疑義があると思ったので,もしその辺り整理していたら教えていただきたい。   そして,エについては,これは意見になりますが,私は潮見幹事,高須幹事の意見に賛成です。現実に協議を続けている,しかし時効期間が満了しそうになった。ここまで煮詰まっているから,6か月もあれば協議は整うだろうと債権者側が思って,取りあえず催告をした。しかし,不幸にしてギリギリ6か月で協議が整わず,なお協議続行する合意をする,こういう場面は容易に想像できると思います。そのときに,満了までに先に協議の合意が整わない限りこの規定を使えないというのは,少し窮屈だなと思います。したがって,催告後,本来の期間満了後,催告期間6か月が経過するまでの間の協議の合意についても,是非この規定の適用を認めていただければと思います。   それから,もう1点。6の(1)と(2),これは中身に関わることではないんですが,本文と括弧書き,そしてアとイのこの構成について,一読して分かりにくいなと思いました。例えば,(1)でいうなら,裁判上の請求をしたとき,それが終了するまで時効は完成しない。これがまず大原則がある。そこで二つに分かれる。権利が確定したときは,そのときから新たに進行を始める。権利が確定しないで終わったときには,なお6か月間,時効は完成しない。こういう中身であることは理解するんですが,これを括弧書きで書くことは,何らかの法制上の理由からこうなっているのかもしれませんけれども,一読して読みにくかった。それは(1),(2)に通じて言えたことなので,このような書きぶりにしなければならない何か積極的理由があれば,教えていただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○合田関係官 まず,6,(8)の「協議による時効の完成猶予」のウの5年という期間ですけれども,前回この論点を取り上げた際に,佐成委員から,実務上は5年程度あれば,協議の期間として十分ではないかという御意見があったことが紹介されました。その点を踏まえて,協議を行う期間としては,5年というのが一つの目安といえるのではないかというのが1点です。それから,協議による時効の完成猶予の制度を設けることについては,パブリックコメント等でも濫用のおそれがあるとの指摘がありましたので,余り長い期間協議の合意を続けることができるとすることにも批判があり得ますので,区切りとしては5年というのが適切な数字なのではないかと考えて,このようにしております。   催告の後6か月間は協議の合意ができるようにしたいという実務上のニーズがあることは,今回御指摘を頂きましたので,その点は御意見を踏まえて検討をしたいと考えております。   6の(1)と(2)の括弧書きが分かりにくいという点については,より分かりやすい書き方が工夫できないか引き続き検討したいと思います。   あと,もう1点,中井委員から御指摘があった合意の期間について,ちょっと質問の趣旨をきちんと把握できているかどうか分からないんですけれども,例えば1年半という合意をした場合に,それが有効かどうかという御趣旨でよろしいんでしょうか。 ○中井委員 ええ。結論としてはそういうことになります。 ○合田関係官 それについては,1年を超えた合意は有効ではないと整理をしております。 ○中井委員 逆に,8か月の合意であれば,これは合意のときから1年になるんですか。 ○合田関係官 そうですね。協議の合意があれば,その時点から1年が完成猶予の期間となり,合意によって1年の期間を自由に伸び縮みさせることは前提にしておりません。 ○佐成委員 今回の今話題になっている6の(8)ですけれども,ここは実務上は大変期待している新しい制度ということなものですから,是非手堅く立法化していただきたいと思います。事務局がウないしエについて,ウは割と長めに5年ということですけれども,エを手堅くしているのは,それなりに理解できるところで,きちっと立法化していただいた方が非常に有り難いなとは思います。ですから,強いて時効間際の催告まで救済してやらなければいけないかと,これと重畳適用しなければいけないかというと,私も実務家の端くれではありますが,必ずしもそこまでは必要ないような気もしないでもない。これは個人的な見解で,内部ではもちろん今,実務の皆様から出ているような御意見もありますけれども,他方,そういった感覚もあるというところです。   それから,ウの5年ということについては,これはいろいろあると思います。私も2年ぐらいで大体大丈夫かなという実務的な感覚はあるんですけれども,内部で出たのは5年だったということで,前回5年と申し上げました。今回議論をしましたら,やはりもうちょっと長くしてほしいというような意見もあるんですけれども,これは決めで,手堅く是非ここは立法化して,大きく育てていければいいかなと感じております。 ○岡委員 さっきの村上さんの発言の無剰余取消し,これは更新事由として整理されているのかなと思ったんですが,これはどうなんでしょうか。 ○合田関係官 法定の取消事由によって取り消された場合は,全て「法律の規定に従わない」の方に入ると整理しており,具体的にどういうものがこれに当たるのかについては,現行法上も解釈の問題があると思います。 ○山本(和)幹事 審議の経緯で私の理解しているところでは,この法律の規定に従わないことにより取り消すというのは,取消しの事由としては無剰余以外にも,超過売却とか,あるいは売却の見込みがない場合とか,あるいは不動産滅失の場合とか,いろいろ取消しの事由があるわけで,当初は個々の取消し事由ごとにどちらに入るかということを精査して,それを分類をして,それを書ける文言をというような議論も,私はそういう提案をしたつもりだったんですけれども,しかし,方向はそういう方向にはならずに,基本的にはそこは今,無剰余についても私は両論あると思いますし,両論あり得るんだろうと思いますけれども,そこは解釈に委ねる形にして,現行法の解釈を変えないために,現行法と同じ文言を使うという形で私は整理されたものと理解をされてまして,ですから,私はそういう意味では,村上委員が言われた御提案には,軽々にやはりこの文言を変える--山野目幹事が確か言われたように,事由を取り消すというのは確かに日本語としては分かりにくい表現のような気がします。その表現ぶりはともかくとして,そこのあれを軽々に変えるということについては,私はどうかなと思っております。 ○鎌田部会長 その他のもっと分かりやすい丁寧な説明,あるいは説得力のある説明をというふうな御意見も頂戴したところですけれども,それらについては受け止めて,しっかりと対応させていただければと思っています。 ○筒井幹事 ただいま部会長からありましたように,この消滅時効に関する議論は,大変な意見対立があったところを,まだ固まっていない部分もありますが,しかし,大方の部会メンバーがこの方向で,積極的にせよ消極的にせよ,賛同できる範囲に入ってきているという認識を表明していただきましたことを大変重く受け止めております。その際に,今後の十分な説明を是非しっかりやるようにという御指摘を頂いた点は,重く受け止めて,しっかりやっていきたいと考えております。また,表現ぶりなどについて御意見いただきました点も,今一度よく考えてみたいと思っております。それについては,前回も申し上げたことですが,この要綱仮案の段階で対応できることと,条文化作業の際に更に宿題として検討させていただきたいことの両面があり得ると思いますので,それを留保させていただいた上で,検討していきたいと思っております。   例えばなのですが,中井委員から「6 時効の完成猶予と更新」の(1),(2),(3)の辺りの整理について御指摘がありまして,これは実は私どもの方でも幾つかのタイプの書き方を並べてみて,検討してみました。現在お示ししている案がベストかどうかといえばまだ迷いがありまして,括弧書きにするのが分かりやすいのかどうかというのは,確かに疑問があり得るところだと思います。ただ,従前のように完成猶予の事由がただ羅列されているタイプよりは,少し整理をつけて分かりやすくする努力をしてみたものです。ですので,実質としてこれで御了解が頂けるのであれば,要綱仮案はこの形でまとめていただいて,更に条文化作業の際にどうすれば分かりやすくなるのかということを,引き続き御意見を頂きながら考えるという方法もあり得るように思っております。いずれにしても,本日頂いた意見を十分受け止めて,次の機会にまた修正すべき点は御提案したいと考えております。 ○鎌田部会長 ほかに消滅時効について御意見がありますか。   ないようでしたら,部会資料「80-1」の「第2 多数当事者(保証債務を除く。)」について御審議いただきます。御自由に御発言をお願いいたします。 ○山本(敬)幹事 1の「連帯債務」の部分についてです。以前の部会資料では,「67A」の1行目から2行目にかけての部分で,「法令の規定又は当事者の法律行為によって数人が連帯して債務を負担するときは」とされていたのに対して,今回では「当事者の意思表示によって」というように改められていますが,補足説明でもこの点についての説明がありません。これはどうしてなのかということをお聞かせいただければと思います。連帯の合意というのは契約の一種だろうと思いますし,合意によらない場合があるとしても,それも単独行為だと言えば済むことですので,「法律行為」とした方がすっきりするように思うのですけれども,なぜ「意思表示」に変えなければならなかったのかということを御説明いただければと思います。 ○脇村関係官 ここについては,我々の方でもいろいろ条文を改正するに当たってどのような表現にするのかというのを検討しているところでございますが,一つには,今回,連帯債権,不可分債権についても,不可分債務,連帯債務と同じような仕切りで整理しようとしていること等もあって,また,現行の民法427条あるいは428条の書きぶりを見ますと,現行法では全て意思表示という言葉を使っていることから,今回は我々の感覚かもしれませんけれども,不可分債務,不可分債権から意思表示によるものは連帯に移すというイメージで今回考えているんですけれども,そうであれば,同じような表現でいいんではないかということと,現行法のこの意思表示という書きぶりを必ず変えないといけないということまでの必要性が,そこまでないのであれば,現行法の表現を使わざるを得ないのかなということなどを考えまして,意思表示というふうに改めさせていただいたところでございます。 ○山本(敬)幹事 そうすると,契約の場合は,日本語は単数か複数か分からないのですけれども,両方の意思表示の合致によってというようにこの文言を読むという趣旨でしょうか。 ○脇村関係官 おっしゃるとおり,そういう意味で当事者の解釈だとは思うんですけれども,ここについては契約である場合については,基本的には複数で考えております。 ○山本(敬)幹事 意見としては,現行法の文言はともかくとして,正確に考えるとするならば,やはりこれは法律行為によると考えるべきではないかと思います。あえて「意思表示」と書く必要はなく,「法律行為」として全く問題はないだろうと思いますので,ここは文言を改めてよいのではないかという意見を申し上げておきます。 ○中田委員 仮に意思表示にするとしても,誰の誰に対する意思表示かというのがはっきりしませんで,それは法律行為でも同じなんですけれども,解釈に委ねるということかもしれませんが,もし整理できるんであれば,当初からの連帯の場合と後発的連帯の場合とを分けて考えていけば,できるのではないかなと思います。併存的債務引受の方では当事者が明記されているということとのバランスも考えて,少し詰めた方がいいのではないかなと思いました。 ○潮見幹事 関連することと,もう一つついでに関連しないことももう言っていいですか。 ○鎌田部会長 どうぞ。 ○潮見幹事 関連することの方ですが,私も山本敬三幹事と同意見です。むしろ,ここで法律行為とすることにより,また,それにほかを合わせることにより,連帯債務が何に基づいて成立するのかがはっきりするのではないかと思うからです。ついでながら,その関連の関連でお尋ねしたいのですが,この部分についての連帯債務というものの定義を,この頃のというか,ちょっと前の我妻先生以降の「債権総論」でどのようにされているのかは事務局はお調べになられましたか。 ○脇村関係官 お教えいただけると…… ○潮見幹事 いや,調べられてこうされたのかなと私は思ったからなのです。と申し上げますのは,この定義というものは,我妻榮「債権総論」に書かれている連帯債務の定義そのものなんです。申し上げたいのはここから先で,その後の教科書,体系書等,「注釈民法」等を含めて見ました場合に,この部分で意思表示という言葉を使って説明をされている本というのは,もうほとんど数えるしかない。ほとんどのものは,於保先生もしかり,それからここにいらっしゃる中田先生あるいは内田先生しかり,私もそのうちの一人に入らせていただいたら私もしかり,奥田昌道先生しかり,そのような状況で,意思表示という言葉を使っている教科書というのは,若干それを読み替えた林良平先生ほかの「債権総論」と平井先生が一部使っておられるぐらいです。この部分については別に実務的にどうこう影響があるわけではありませんし,法律行為という言葉を使うことが条文上禁止されているわけではありませんから,そうであれば,なおさら法律行為という言葉でもし変えられるのであれば,ほかも一括して変えていただきたいなという希望を持っております。   さらに,別の質問というか,申し上げたいことがございます。それは連帯債務の免除の所ですが,今回,素案から変更するということで,このような案が出されていて,この案自体を見て,とやかく言うことを申し上げるつもりはありません。むしろ,こう変更したことの理由の説明の所で若干気になることがございましたので,質問をさせていただきたいんです。   それは何かといったら,連帯債務の場合に,現在の判例法理の下では,これは共同不法行為の事件についての最高裁判決が二つありますけれども,債権者が一人の債務者に対して全員を免除する意思で免除と言った場合に,そうしたら,その場合にはその免除の効力というものはほかの人に及ぶという解釈をしていますよね。今回こういう形で仮案の原案を提示されたということは,この判例法理に変更をするという趣旨でこれを出されたのか,その部分についてはなお判例法理の解釈あるいは射程範囲も含めて,今後の解釈に委ねているという趣旨なのか。仮に後者であるとしたならば,ここの説明の書き方は,極めて不適切ではないかという感じがいたしました。 ○脇村関係官 結論的には解釈を否定するつもりはないんですけれども。ちょっと,すみません,先生のお話を伺っていて,確かに書き方,若干というか,問題があったのかもしれませんけれども,ここで言いたかったのは,今,先生がおっしゃったように,全員についての免除の意思表示を1人にすればいいという問題とは別に,連帯債務者A,B,Cがいるときに,Aに対して免除しますが,それを絶対有効にしますよというような規定は置かなくていいのではないかということを,何とか書こうとしたんですけれども。判例等で言われているのは,Aさんに対して,全員についての免除の意思表示をしたときの効力の問題だと思うのですが,そこは従前どおり考えていますし,そこを否定するつもりはございません。ここで書きたかったのは,Aさんに対して,あなたにだけ免除しますよ,でも効力だけ及ぼしますよというようなことを想定しての規定まで置く必要はないのではないですかということを何となく言おうとしたんですけれども,説明としては多分もうちょっと考えて,今後説明していきたいと思います。 ○潮見幹事 ありがとうございました。 ○中田委員 今の免除に関してなんですけれども,連帯債務者の一人が債権者と一部支払い,残部免除という和解をする際に,将来,その連帯債務者は他の連帯債務者から求償される可能性を考慮しなければいけないということになるんでしょうか。特に,今回の提案では,負担部分内での弁済を下回る弁済でも求償を認めているものですから,そうすると,その可能性が現実にもあるのかなと思ったんですけれども,それはどうでしょうか。 ○脇村関係官 恐らく,今回,免除については相対効にしておりますので,デフォルトとしては,免除したとしてもその効力がほかの人に及びませんので,A,B,Cがいる場合にAさんと債権者の間で和解したとしても,効力がB,Cに全く及ばない,債権者がB,Cに請求できるという場面を想定しますと,仮にBが全額払ってしまった場合には,それは求償の問題はどうしても出てくるんだろうなとは思います。ただ,そこは恐らく和解するときに,そうではないやり方をやっていくんだろうと思うんですけれども,相対効にしている以上は,基本的には正に相対効ですので,ほかの債務者が払ってしまったケースについては求償をやらざるを得ないでしょうし,応じざるを得ないだろうとは思っております。 ○中田委員 その場合に,具体的に和解でなすべきことというのは,例えば他の債務者から求償された場合は債権者に求償できるというような合意を織り込んでおくということになるんでしょうか。 ○脇村関係官 多分,実務上,一番多いのは,ほかの債務者も含めてやるというケースが一般的でしょうけれども,先生がおっしゃるようにも,ほかの債務者との関係で交渉できないというケースについては,そういった求償された場合,あるいはその請求しないなりの何らかの約定というのは考えられるところだと思います。 ○中田委員 ここから先はむしろ現実に紛争処理に当たっている方の御意見をお伺いしたいと思うんですが,連帯債務者全員が分かっていない場合もあるわけですよね。全員を巻き込んでといっても,それが不可能な場合もあるわけで,果たしてそれで和解に支障がないのかどうかということが,抽象的には気になります。実際には大丈夫だというのであれば,結構なんですけれども。 ○脇村関係官 今のに1点付け加えさせていただくと,正に今,一つの方法として先ほど求償という話もしたんですけれども,債権者が,先ほど潮見先生がおっしゃっていたとおり,全員に対して免除するということの意思表示をした場合にはそういった解釈可能だと思いますので,つまり,ほかの債務者はいないけれども,債権者と債務者間でほかの人も含めて免除するという和解をした場合には,先生がおっしゃったような問題は生じないと思います。そういったことも一つ考えられるのではないかとは思いますけれども。 ○岡委員 その免除の点については弁護士会でも議論になりました。「80-3」の7ページですが,部会資料「67A」で書かれていた,現民法のような,一人に対して債務を免除する場合において,その者の負担部分について,他の連帯債務者の利益のためにも生ずる旨の意思表示をしたときは,その意思に従うと。現行法のような意思を債権者と特定の連帯債務者の間でやった場合は,その人の負担部分の限りで絶対効が生じると。これは,いろいろなケースがあって完璧とは言えませんが,債権者と特定の連帯債務者との間で負担部分,絶対効の免除はあり得ると思いますので,それは是非できるようにしていただきたいという思いがございます。   その目で今回の案を見ると,相対的効力の原則の所,5ページの所で,原則,相対効だけれども,債権者及び他の連帯債務者の一人,免除する相手ではなくてそれ以外の人と合意をした場合に,初めて全部あるいは負担部分の絶対効が生じると書いていますので,今の案だと,債権者と特定の連帯債務者の間で負担部分につき絶対効のある免除ができないようになっていると思われます。それはやはりちょっと窮屈だろうと思いますので,この「67A」のような表現は残していただきたいという希望が結構ございました。   この「80-3」の7ページの前回の「67A」を落とした理由として,債権者がAだけでなくB,Cの債務も免除したいのであれば,やればいいではないかと。これは確かに全部免除の場合ですので,その人の負担部分割合の絶対効,これを債権者とAとの間でできる。これは実務上の需要はかなりあるんではないかと思います。 ○道垣内幹事 岡委員に伺いたいのですが,実務上のニーズがある「67A」のようなときの免除の仕方というのは分かるんですが,そのときには,例えばAに免除をして,負担部分絶対効が生じるという合意をしたときには,B,Cはその後,みずからの負担部分を弁済したときに,Aに対しては求償していけないという効果を生ぜしめるという意味でしょうか。 ○岡委員 Aの代理人としては,そういう負担部分絶対効の免除であれば,BとCに対しては全額請求しないでくださいねと,何かそういう条項を放り込むと思います。 ○道垣内幹事 いえいえ,全額請求しないのはいいのですが,例えば先ほど中田委員が指摘された4の所で,自己の負担部分を超えるかどうかにかかわらず求償できると考えたときには,4を変えない限りは,負担部分絶対効を生じさせても求償は起きると思うのです。4の(1)の所も変えるという御趣旨でしょうか。 ○岡委員 いや,負担部分絶対効の免除があれば,AはB,Cに対してはもう全額請求できない。だから,もし請求したとしても,債権者が返さなければいけない。だから,求償できない。もし債権者が間違って取ったら,返さなければいけない。そういう論理できれいになるように思っているんですが。 ○脇村関係官 岡先生の問題意識に答え切れてないかもしれないんですけれども,一つ想定していたのは,今の相対効にした場合のデフォルトだけを先に考えると,A,B,Cが連帯債務で30万円を持っていて,負担割合が各10万円ずつのときにAとの間で免除をしたとしても,債権者はBに対して全額請求でき,BはAに対しても求償できる,あるいは,Bに対して10万免除したので20万円だけ請求したとしても,BはCに対して当然持ち分割合で請求できますし,Aに対しても持ち分割合を請求できるというのが,恐らく今のデフォルトだと思うんですけれども,先生のお考えでいくと,ここのデフォルトに対して,Aと債権者との間の意思表示で,BのAに対する求償債権まで使えなくなるというふうにするということのお考えということになるんでしょうか。 ○岡委員 A,B,C3人が10万,10万,10万で連帯債務を負っていて,債権者がAに対して免除すると,負担部分絶対効だという約束をすれば,債権者はもうB,Cに対して20万しか請求できないと。そういう解釈できれいになると思います。 ○脇村関係官 私がお聞きしているのは,20万,B,Cに請求した後に,BはCに対してしか求償できないと考えるかどうかという点なのですが。 ○岡委員 そうです。 ○脇村関係官 そうすると,例えばCが無資力の場合はBが全て負担することになるんでしょうか。 ○岡委員 無資力の場合はまた次の規定で,それがどうなるかはまた考えなければいけないとは思います。 ○鎌田部会長 ほかの点については。 ○道垣内幹事 債権者とAとの間の合意で,Bの求償権の制限というのは難しいとは思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中田委員 連帯債権の方でもよろしいでしょうか。7で,「連帯債権者の一人について生じた事由の効力等」という所なんですが,二つあります。  一つは,連帯債務については求償関係の規定が置かれるわけですが,連帯債権についても利益分与関係の規定があった方が分かりやすいのではないかという気もするんですけれども,そこは解釈に委ねるという趣旨でしょうか。   それから,もう1点ですが,一人について生じた事由として,更改,免除,混同について,絶対的効力だとしておられますが,そうすると,相殺はどうなるのかということです。不可分債権については429条は維持するということで,相殺についてははっきり書かれてはいないんですが,若干の議論があるところです。それから,連帯債務については相殺についての規定を置くということですので,ここがどうなるのかなと思いました。ただ,実際には,相殺の場合にAとBを連帯債権者としますと,Aと債務者の相殺について絶対効にするかどうかというのは,Aの無資力のリスクを債務者が負担するのか,それとももう一人の債権者Bが負担するのかという問題があったり,あるいはBの連帯債権について担保や保証が付いている場合,どうなるのかというような問題もありますので,そう単純ではないだろうなとは思いますが,どのようにお考えになっておられるのか,お教えいただければと思います。 ○脇村関係官 求償関係については,先生おっしゃるとおり,原案は解釈で足りるのではないかという前提で書かせていただいているところです。解釈でいけるような気がずっとしておりましたので,少し考えてみたいと思います。   相殺については,今,先生が御指摘いただいた,確かに不可分債権との関係もありますけれども,連帯債権についての,そこはちょっと少し当局でもう一度考えさせていただきたいと思います。 ○岡委員 細かい話を3点申し上げます。質問が多いかと思います。   連帯債務の一人について生じた事由の2の(2)のアの所ですが,連帯債務者が相殺を援用したときは消滅すると。前にも聞いたような気がするんですが,これは相殺の意思表示をしたときはの意味だろうと思うんですが,何でこんな言葉のまま残るのかという質問が一つでございます。   それから,二つ目は,6ページの上から2行目の「過失のある連帯債務者は」という表現ですが,これも現行法ですのであれなんですが,これは他の連帯債務者があることを知りながら払ってしまった連帯債務者はという意味だろうと思いますが,それだったら,そういうふうに書き直した方が分かりやすいと思います。それについて,いやいや,もう現行法は不可侵だということになるのかどうか,教えていただきたいと思います。   それから,三つ目が,4ページの連帯債務者の一人に対する免除の所の表現ですが,これは債務免除の相対効を前提にした規定で,債務の免除があった場合において,その免除を受けた債務者が他の連帯債務者からの求償の請求に応じたときは,債権者に戻してねとは言えませんよということなんですが,これは債務の免除があった場合において,その連帯債務者は求償の義務を負いますよと。求償の義務を負うから払わないかんですよと。払っても,でも債権者には請求できませんよという意味ですよね。何かこの表現では,応じたときはできない,応じないときはできるというふうに読めてしまって,分かりにくいので,何かもっといい表現はないんでしょうかと。この三つの質問でございます。 ○脇村関係官 相殺の援用の書きぶりについては,先生がおっしゃっている御趣旨も十分理解できてございます。なかなか,ただ,現行法の表現を変えるのがちょっと難しい面もあるのかなというふうに,雑駁な印象ですけれども,抱いているところでございます。書きぶりについては引き続き検討させていただきたいと思っております。   それで,過失のある連帯債務者の書きぶりなんですけれども,ここは当局でもどうしようかというのは考えたところなんですが,物の本を見ますと,この「過失のある」という言葉によって,そもそも通知をしたことに,前段部分ですけれども,この書きぶりを根拠として通知しなかったことに過失がないケース,あるケースについて,若干の解釈論がどうもあるかのような記載がありましたので,そうすると,ここの書きぶりがそこの解釈論に影響してしまうのではないかということも考えて,差し当たりこういうふうな表現にさせていただいているところでございます。ちょっとそこら辺についてもし御意見いただければ,また考えてさせていただきたいと思いますが,そういう意味で,現行法を絶対変えないというよりは,変えることの影響をちょっと見定めていて,なかなかそうすると変えるのは難しいのかなという印象を抱いていて,今こうなっているというところでございます。   あと,免除に関する求償の書きぶりでございますが,理屈的には,元々求償の規定があるので,それでいけるんだと。それの除外規定はないんだから,いけることを前提に,そういった求償に応じたケースについてのみ書くということで今書いているところですが,先生がおっしゃっていることも十二分に理解はしているんですが,ちょっとそこを直ちにこう書けばこううまくいけるというのが言えないので,少しそこは長期的に考えさせていただきたいなというのが正直なところでございます。 ○潮見幹事 同じ文言表記のことで,4の(2)の連帯債務者の通知義務,事前通知・事後通知の所で,事前通知の制度を残したというのは,個人的には疑問ですがけれども,仕方がないのかなという感じはしますが,イの文言はいかがなものでしょうか。現在の民法の規定でも同じ文言表現が使われていますから,それに準拠したということだろうと思いますが,イの文章の中に,3行目,「他の連帯債務者が善意で弁済をし」,その後ですけれども,「その他有償の行為をもって免責を得た」というふうに書いているんですよね。ほかは「自己の財産をもって共同の免責を得た」あるいは「自己の財産をもって免責を得た」というふうな書き方になっているのですが,ここだけ違うのですよね。何かこの部分について特別の意味があるんだろうかと思って調べて見てみたのですが,それほど特に議論があるわけでもないし,立法者意思というか,明治時代の立案者たちがどういうふうに考えたのかということを見ても,何ら手掛かりもないし,でも,ここで言っていることの内容というのは,正に自己の財産というか,自分が金を出して免責を得たという趣旨なので,言葉として書き替えてもいいのかなと思いました。しかし,やはりそこはリスクが高いとお感じになられたということでしょうか。それならそれでもう余りこちらの方から深入りすることは避けますが,いかがでしょうか。 ○脇村関係官 先生がおっしゃっている,ここは平仄との関係でいくと,若干個人的にもどうかなと思いつつ,ただ,表現を変えて本当にいいのか,昔の文献を見てもはっきり分からなかったところもあって,そうだとすると,いじんない方がいいのかなということも考え合わせながら,今のところはこうさせていただいているところでございます。引き続き条文化に当たっても検討しないといけないと思っているんですが,もし現行法の説明等,御存じの方があれば,教えていただけると非常に助かります。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○岡委員 今の通知義務の所で,文献調べないままの質問で申し訳ないんですが,アのような過失のある連帯債務者が債権者に対して,相殺によって消滅した債務の履行を請求することができるという規定がイの方にはないんですが,最初に弁済した人が通知を怠ってしまったために,次の人が相殺で勝ってしまったと。その場合に,最初の人は相殺の債務の履行請求をできるという条文がないのは,それはなくていいということですか。自分が払ったものを取り戻せと。アの場合とは違うのだと,そういうことなんでしょうか。 ○脇村関係官 現行法でもないように思うのですが, 今,先生が御指摘いただいたので少し考えさせていただきたいです。ただ,支障はないんではないのかなとは今のところは考えています。 ○道垣内幹事 現行法がどうなっているかということについては,私どもが調べて,ここできちんとした発言をしなければならないのだろうとは思うのですけれども,例えば過失のある連帯債務者は請求することができるという規定というのは,これは過失がなければ請求できないのかというと,そんなことないはずですよね。過失がなくたって対抗されてしまえば,請求できないとおかしいですよね。そうでもないのでしょうか。 ○脇村関係官 一応その解釈として,ただし書で,過失のないときについては請求できない。だから,逆に言うと,過失のないときは制限を受けないという解釈があるらしいのです。つまり,求償の制限を受けないという。 ○道垣内幹事 もし仮にそのような解釈をされるのならば,その前の部分にそう書くべきではないですか。ここの「過失のない」と言葉でそこを読むというアクロバティックな解釈をするために,あるいは,そういった解釈の余地を残すためにこの言葉を残すというのは,幾ら現行法がデフォルトとしてあると言っても,それは余り好ましくないのではないかという気がしますが。 ○脇村関係官 そういう意味では,その解釈を維持したいというつもりは,全然と言ったら怒られますけれども,それほどないんですけれども,そういった問題もあって,これまでそこについて議論もしていないので,そうすると,まだ解釈に置いておいた方がいいんではないかというふうなことも考えたんですけれども,そこは割り切りとして,そもそも過失は関係なく通知1本でいくんだ,だからただし書についても直すんだという議論は十分あると思っていて,もし御意見いただければ,そこを踏まえて考えさせていただきたいと思っております。 ○鎌田部会長 そこは少し詰めて検討をすることにしましょう。   ほかによろしければ,ここで一旦休憩を取らせていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。             (休    憩) ○鎌田部会長 それでは,再開させていただきます。   部会資料「80-1」,「第3 保証債務」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 6の「保証人保護の方策の拡充」の(1)と(2)について,意見を申し上げます。   まず,個人保証の制限については,部会資料の提案に賛成をいたします。その上で,前回多くの委員,幹事の方々から反対の意見が寄せられた個人事業主の配偶者に関する取扱いについては,本日,意見書を提出させていただいておりますので,御参照いただきたく存じます。商工会議所といたしましては,個人保証に依存しない融資を推し進めるべきであると考えております。今回の個人保証の原則的な制限には賛成でございます。同様に,個人事業主の配偶者であっても,できる限り保証をとるべきではないと考えております。   一方,個人保証を制限したことにより,中小企業が資金調達を行うことが困難になるような事態は避けていただきたいと思います。個人事業主の配偶者については,現在,金融庁の監督指針や信用保証協会のガイドラインで,事業主本人とともに当該事業に従事している場合に限り保証することが認められております。個人事業主の場合は,経営と家計が未分離である上,金融機関としても事業を事業主と一体として営んでいる配偶者に対する規律付けが必要との観点から,配偶者の保証が認められているものと考えております。   実際に地方銀行や信用金庫,信用組合などの融資制度を見ても,個人事業主の場合は配偶者の保証を求めることが多いのが実態でございます。このように,配偶者が事業主とともに事業に従事している場合に限り保証を要求していることの趣旨は,債権の保全のためというより,事業主とともに責任を持って事業を行ってほしいという金融機関の期待があるものと考えております。仮に,個人事業主の配偶者の保証は,公正証書の方法によらなければならない旨の規律を置いた場合には,個人事業主が必要な資金を融資により迅速に調達できなくなるとの懸念が払しょくできません。そこで,現在,部会資料で提案されているとおり,個人事業主の配偶者が公正証書の方法によらず保証を行えるという実務は維持していただきたいと思います。   次に,(2)の契約締結時の情報提供義務についてでございますけれども,個人保証を依頼する場合には,主たる債務者は自分の財産の状況や収支の現状を説明しなければいけないことは当然であると考えており,このような規定を設けることは理解ができます。しかし,情報提供義務が生じるのは,事業経営に関係しない,いわゆる純然たる第三者が主債務者の資産の状況等を把握することが困難であるためであると理解をしております。仮にそうであれば,経営者と同様に資産の状況等を把握することができる法人の取締役や執行役など,(1)のエに掲げられた者については,情報提供義務がそもそも生じないような規定を設けることも引き続き検討をしていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○道垣内幹事 大島委員がおっしゃった前半の(1)エの(ウ)の配偶者のことが書いてある所でございます。「又は主たる」という所ですが,一言しておきたいと思います。   以前の部会におきまして,私は主たる債務者が行う事業に従事している者に限るにせよ,配偶者による保証を特別扱いすることに反対し,その意見自体は変わってはおりませんが,公正証書が要求されるのが特別扱いであり,特別扱いの範囲に含まれなかっただけである,外されたのではなく,入れられなかったのだと解することによって,今回は最後まで反対することはしないということにしたいと思います。ただ,大きく分けて2点は申し上げておきたいと思います。   第1点は,説明の在り方です。もちろん,部会で決定するのは本文であり,説明ではないということは重々承知しておりますが,それにしても看過すべからざる説明がされているように思います。この規律が対象としているのは,飽くまで事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又はそのような債務が含まれる根保証契約です。しかるに,そのような事業債務を一方配偶者が負っているときに,それについて民法752条の扶助義務が生じるとでもいう御理解なのでしょうか。また,財産分与を根拠にするのであれば,財産分与の予想額を限度にするということになりそうです。いわんやそれらをまとめて,一方配偶者の財産と他方配偶者の財産を区別するのは相当でなく,というふうに書かれるに至りますと,ああ,ついに日本は夫婦財産の独立性という法理を捨てるのだなという感慨を抱きます。   それは,ではどうやって正当化するのだということになるのかもしれませんが,それははっきり言うと,私の知るところではありません。正当化できないということなのだろうと思いますが,少なくとも現在の説明を維持されることはおやめいただければと存じます。さらには,外国に翻訳されたときに,ああ,日本は夫婦という考え方が他の国とは違うのだなという感じがするとは思いますが,この点について誤解を解いていくことは,みんなの責務なのかもしれません。まあ,誤解ではないのかもしれませんが。   第2点は,配偶者による保証について公正証書は不要であるということになったとしましても,なお判例の展開は期待したいということです。比較法的に見て,配偶者による保証に対して厳しい制限を課す所は多いわけですが,別に明文規定があるとは限らないわけでありまして,不当威圧,信義則違反など一般法理によってそのような保証の正当性には目を光らせているわけであります。そして,配偶者による保証というのは最も不当威圧等の存在が推定されるものであるわけです。そうであるならば,今回の案の形で要綱仮案となり,最終的に法律となったといたしましても,判例によって配偶者保証に厳しい目が向けられることを期待いたしますし,学説もそのバックアップをしていくべきであろうと思います。今後,本規定の空文化に努力したいと思います。 ○筒井幹事 御指摘ありがとうございます。部会資料の補充説明が不適切であったという点については,十分もう一度検討してみたいと思います。その上で,説明ぶりについては,道垣内先生から御示唆いただきましたように,基本的に現在の実務において,大島委員から御指摘があったように,一定の配偶者による保証が重要な機能を果たすものとして行われていて,それについてまで今回の公証人による厳重な意思確認手続を及ぼすのは,現時点では適当でないという政策的な判断があったということだと思いますので,その説明ぶりには十分注意したいと思います。 ○加納関係官 9ページの6の「保証人保護の方策」の(1)の「個人保証の制限」のイの公正証書方式のところでございますけれども,今回の修正していただいた内容そのものにつきましては,おおむね賛同をしたいと私どもとしては考えておりますが,ペーパーでいいますと恐らく10ページのbの下の(イ)とか(ウ)の辺りに関連しようかと思いますが,保証人になろうとする者の意思なり理解なりをしっかり確認するという点につきましては,しっかりとした確認をするということを制度的にも入れ込むべきではないかとか,あと,ちょっと別の観点になりますけれども,執行認諾文言については問題があるのではないかという観点から,以前に消費者庁から意見書という形で出させていただいたところでありまして,そこについては引き続きちょっと意見を維持させていただきたいと考えております。   その理由なんですが,やはり今回の公正証書方式につきましては,一定の適正な手続にのっとって例外として認めていこうということであると思いまして,その手続がしっかりと維持されるということが保証人保護の観点からは非常に重要であると。こういった保証人保護というか,政策的な色彩が強い規定を設ける際には,やはりこれは悪用することはちょっと難しいなというふうに規定を読んだ者に思わせるような工夫がないといけないのではないかと私どもとしては思います。今回,このa,bという所で保証契約の内容についてかなりしっかりと踏み込んで書いていただいていて,これはそういう意味では非常に評価できると私どもとしては思っているんですけれども。   更に一歩進みますと,考える人はやはりこういうことを丸暗記させて言わせるとか,やはりいろいろ考える人が出てくるのではないかというところが気になっておりまして,そういうところを公証人がしっかりチェックするんだと。それはこの(イ),(ウ)で書いてある所で,運用でカバーできるんですということかもしれず,かつ,この(イ)とか(ウ)とか,遺言の場合とかその他前例を踏襲するとやはりこうだということで,いろいろ法制的にも検討をされて,こういうふうな御提案になっているんだろうと拝察はするわけですけれども,やはりそこは今回の保証人保護という所は別途特段の配慮があるということはあってよいし,逆にそういうのが考え方としては要る場面ではないかと思いますので,具体的なやり方につきましては,またしかるべきところでいろいろと意見なり考え方なりを申し上げたいと考えております。 ○潮見幹事 まとまろうとしているところで余りこういうことは言いたくないんですけれども,筒井幹事のお話がありましたから,それは重く受け止めます。しかし,やはり学者としてここに入っている以上,一言言わせていただきたいことがありますので,発言をお許しいただきたいと思います。   配偶者という類型をこのような形で仮に規定に残した場合に,それがどういうふうに世界にあるいは社会に受け止められるかということを,是非重く受けて止めて考えていただきたいと思います。世界的にこのような規定を設けるということは,個人的には非常に恥ずかしいことではないかと思います。日本の社会が一体家族というものをどのように考えているのか,配偶者というものを保証人として付けるということを,特別のルールとして許容するということが一体いかなる意味を持つのか。たかがと言ったら叱られますけれども,公正証書を作成するという一手間を掛けるコスト,それを避けるためにこのような特別のルールを置くということが,どのように社会に対してあるいは国際社会に対してもメッセージとして受け止められるのかということを,よくよく考えていただきたいと思います。   その背後に特に産業界のお考えがあるとしたなら,そういうものを担っていかれるのは今後の日本の経済社会ではなかろうかと思いますし,産業界の,特にここに来ておられる委員の方々は,その部分を御自分の責務として考えて,この先,この部分についての国際的な説明をきちんとしていただきたいと思います。ヨーロッパなどではと言ったら叱られるかもしれませんけれども,近親者保証については,先ほどの暴利行為だのあるいはそれ以外の構成によってこれを否定するという方向が既に定着していると思います。あるいは,先ほど道垣内幹事の話にもありましたけれども,この補足説明はとんでもないということに私は同意見ですし,日本の家族観というものを考えた場合に,このようなものが正面から堂々と規定の中に入るというのはいかがなものかなというところはありますから,是非御勘案いただきたいと思います。   同じことは,申し訳ありませんが,法務省の皆さん方にもよくお考えいただきたいと思います。私どもも--私どもと言ったら,ほかにいろいろな方がいらっしゃいますから,少なくとも私はという言い方をさせていただきますが,この条文には賛成はできませんが,反対はしません。しかし,先ほど道垣内幹事が空文化することに向けて努力をするとおっしゃられましたが,その気持ちは私も共感するところがございます。そういう共感しなければいけないような人間がもう一人いるということを特によくお考えいただいて,今後の説明等に注意を払っていただきたいと思います。 ○中原委員 少し実務的な観点から質問をさせていただきます。9ページ,6の(1)のイの(ア)のaですが,「保証契約」という所で,口授の内容として,「債権者,債権者,主たる債務の元本,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償,その他債務に従たる全てのものの定めの有無」と書かれていますが,銀行取引において往々にしてあるのは,融資金額や利息が貸出実行の直前まで最終的に固まらないということです。特に固定金利貸出の場合には,貸出実行日の2営業日前にならないと固まらないというのが一般的な取引です。ところが,保証契約については,保証証書を作成する以前に公証人役場に行って公正証書を作成しなければならないので,これで実務対応が出来るのか,かなり強い懸念が示されました。したがって,例えば貸出金額を100万円とする公正証書を作成していた場合,実際の貸出金額が増えるのであれば,保証契約は無効になるかもしれませんが,貸出金額が50万の場合はどうなるのでしょうか。要するに,口授した貸出の内容とそれと実際の主たる債務の金額が不一致の場合,保証契約はどうなるのでしょうか。まず第1点,質問です。 ○脇村関係官 基本的には,同一性が確保されているかどうかという問題に尽きると思いまして,金額的には基本的には一致しているのが望ましいと考えております。100万円で公正証書を作ったところ,実際には50万円というケースで同一性を確保できるのかと言われますと,そこは個人的には疑義がある所ではないかとも考えております。 ○中原委員 とすれば,公正証書に記載されている貸出金額をはじめとする貸出内容と実際の主債務の内容が一致しないと保証契約は無効となるのでしょうか。 ○筒井幹事 質問という形での御発言でしたので,差し当たりこれまでの認識で関係官の方からお答えいたしましたけれども,ここの規律というのは,実務がワークするように考えなければ意味がないところですので,中原委員から具体的に御指摘いただいた点について,どういう表現に改める必要があるのか,あるいは文言としてはこれでよくて,その説明ぶりに十分注意することで対応できるのかといった辺りを,よくよく協議させていただければと思うのですけれども。 ○中原委員 意見として申し上げれば,aの主たる債務の債権者,債務者及び主たる債務の元本については,このまま公証人に口授することでよいと思います。しかし,利息については,最終段階まで固まらないのが一般的ですから,厳格に一致しないと保証契約が無効となるとするなら,実務的には対応が難しいと思います。それと,債務の元本につきましても,実際の貸出金額が少ない場合まで保証契約を無効とする必要はないように思います。すなわち,実行した貸出内容が口授した貸出内容の範囲内であれば,保証契約は有効と考えていただきたいと思います。   それから,次に,11ページの(2)の「契約締結時の情報提供義務」についてです。保証提供義務は,10ページの(1)エに規定する者については,会社の内容を知り得る立場にあるので,これは除外をしてもいいのではないかと思います。あるいは,少なくとも最低限,エの(ア)については,これは除外をしていただければと思います。   それから,3の「主たる債務の履行状況に関する提供義務」の4行目に,「債務者は,委託を受けた保証人(法人を除く。)から請求があったときは」という記述がされていますが,ここの部分については,法人保証人を除く必要はないと考えます。債権者にとってみれば,本規定は保証人に対する情報提供について,債務者との関係で守秘義務を逃れる根拠となる規定であるとともに,法人保証人に債務者の履行状況について情報提供を受ける利益を享受させない理由はないと思います。6の(2)あるいは6の(4)の保証契約の取消しや遅延損害金の請求権の消滅は,保護対象を個人に絞るべきですけれども,この今回の情報提供の点につきましては,特に法人を除外する必要はないと考えます。 ○山野目幹事 中原委員が最初におっしゃった主たる債務の元本と利息について,精密に金額が一致した説明が口授されなければならないかという実務の観点からのお悩みを伺って,なるほどと感じましたとともに,少なくとも自分が理解していたところでは,ここの規律の提案の趣旨は,小さい方に変わる分には別に構わないものではないかと思います。筒井幹事がおっしゃったように,もし提案されている規律の中身がそのような理解で皆さんの間で大方異論がないのであれば,そういう方向で成案を考えていただきたいと思いますし,申し添えますと,今のままの文言でも,趣旨からいったときに,元本は100万ですよと言われていたものが90万になったのがいけないというふうには,これは趣旨から規定の意味というものは読むものですから,この文言のままでもその理解は成立可能であると考えます。ここを精密に書こうとすると,非常にごちゃごちゃした文言になって,文章を作ることも大変であろうというふうな気がいたしますから,このままでも私は今,中原委員がおっしゃったような理解で受け止めますけれども,しかし引き続き,筒井幹事がおっしゃったように,説明ないし成案について更なる実務の受容可能な努力をしていただければ有り難いということも感じます。 ○高須幹事 今の利息などの点でございますが,趣旨は山野目先生と同意見なわけですが,何らかの形で決まればよい。例えば利息について,今,中原委員からも,貸し出し実行日の前々日の営業日の利率によるという趣旨の御発言がありましたように,何らかの基準で多分決まるのだと思いますから,そういう定め方がある程度決まっていれば,それでもいいというふうな解釈は十分あり得るのではないかと思います。現に,特定目的会社などのような場合に,資産流動化計画などというのを事前に提出させられるわけですが,その定めも要するにルールが決まっておればいいというふうな取扱いが実務的にはあるということでございます。保障の場合に一定の限度はあるかとお思いますけれども,一定のルールはあるわけですから,そのような知恵がここでも使えるのではないかと思います。乗り越えられない問題ではないと思っております。   もう1点,複数の方から出たのかもしれませんが,契約締結時の情報提供義務と6のエの(ア)のような,理事のようなものはリンクさせて,分かり得るものについては情報提供義務を課さなくてもいいのではないかという考え方は,あり得る考え方とは思いますが,恐らくこのエの(ア)を入れたのは,あんまり実質基準を持ち込まずに,形式的な判断でできる人を入れようという趣旨だったと思います。例えば理事には当たるけれども,法人との関係如何によって契約締結時の情報提供義務を免れさせることが妥当かどうかみたいなことを考えるという解釈論が生じる,つまり,法人との関係が疎遠な理事には情報提供義務を免れされることはできないのみならず,保証意思の確認についても公正証書によることを不要することはできないとか,そういう解釈論が出てきてしまう危惧があると思いますので,やはりここは切り離して,公正証書等によらないグループは誰かということは形式的に決め,そのグループに当たる人にも情報提供義務は別に課すという方が,恐らく基準としては分かりやすいような気がします。情報提供義務とリンクさせますと公正証書を不要とするグループについて実質的に判断しようみたいな議論に発展するのではないかと思いますから,私は今回の資料で頂いた提案でいいのではないかと思います。 ○大村幹事 少し戻らせていただいて,配偶者の問題について発言をさせていただきます。前回この問題を検討したときは所用で中座をいたしましたので,その際の議論については存じませんが,十分に検討をされた結果,本日,道垣内幹事も潮見幹事もここに至ってはやむを得ないという御発言をされたものと理解しました。それを蒸し返すようで恐縮ですが,このことに関してお願いとお尋ねないし意見が一つずつございます。   お願いは,既に道垣内さんや潮見さんがおっしゃったとおりでありますけれども,説明の中で日本の家族の在り方について触れられる際に,ある特定の家族の在り方を強調するような表現は,慎重に避けていただきたいということです。   それから,質問の方ですが,配偶者の扱いについては,中間的な解決については既に前回検討され,その上でこうした形になっているのでしょうか。主たる債務者が個人である場合,その配偶者が主たる債務者と共同して事業を行う者に当たるということであれば,それは前段の方でカバーされるということになるかと思います。他方,配偶者が事業に従事していない場合には保証人にできないということに異論はないわけです。問題は,共同事業者とは言えないけれども事業に従事しているという場合だろうと思いますが,共同従事者とは言えないということで,一律に保証人から外すのはいかがかということが心配されているのだとすると,事業に従事している配偶者は共同事業者であると推定するという規定を置くということが考えられるように思います。もう既に検討されているのかもしれませんが,念のために一言だけ御質問はさせていただきたいと思います。   それでは駄目だということになった場合に,次はその書きぶりの問題になりますが,今回のものでは「主たる債務者の配偶者」と書かれて,まず配偶者であれば保証人になりうるとしています。その上で括弧書きで「主たる債務者が行う事業に従事している者に限る」という限定が付されています。これは実質をお書きになったということだろうと思いますけれども,「主たる債務者の配偶者」と書かないで,せめて「主たる債務者が行う事業に従事している配偶者」とお書きいただけないだろうかと思います。 ○鎌田部会長 その点は十分検討させていただきます。 ○松本委員 中原委員の指摘された口授の場合の金利についてなんですが,保証人になる者にはいろいろな人がいて,すごいビジネスの達人もいるかもしれないけれども,そうでない人も入ってくるわけです。したがって,保証人としての責任がどれぐらいになるのかというのが,公証人への口授の段階できちんと説明がされて理解できる状況でないと,一般ルールとしては駄目だと思います。したがって,元本については,山野目幹事のおっしゃったように,上限幾らでそれ以下の場合もあるということでいいと思いますし,金利についても,最高これぐらいになるということはやはり明らかにさせるべきではないかと。非常に合理的なビジネスの世界であれば,何とかレートにプラス何%したものとかいうことでいいのかもしれないけれども,今回の提案は言わばそうでない人をも保証人として取り込もうという制度なのです。そうすると,合理的ビジネスマン以外の人もどんどん取り込もうという制度ですから,そちらの方をやはり配慮して,数字できちんと少なくとも上限は出すということにしないと,一般論としてはやはりおかしいのではないかと思います。 ○中原委員 上限を定めるという点においては,遅延損害金利率,それを口授するという形で上限を画することは可能だろうと思います。銀行取引においては,大体14%が銀行取引約定書上にも表示されている損害金の利率ですので,それを超えることはないと思います。 ○山本(敬)幹事 契約締結時の情報提供義務について意見を述べたいのですが,その前に,先ほどの配偶者について一言だけ追加をさせていただければと思います。定められた手続を踏まなくても保証人とすることができると明文で書いてしまうのは,立法者がそれを容認するということでして,これはやはり説明が付かないのではないかという思いを私も禁じ得ません。特に,ヨーロッパで現在見られるような傾向からしますと,いかに手続をきちんと守っていたとしても,配偶者があえて口授をしたり,公正証書を作成せざるを得ないのは,そうせざるを得ないほど追い詰められているという状況があるからだろうと考えられますので,そのような場合は,例えば日本でいえば,公序良俗違反で無効だという判断が下されてもおかしくないだろうと思います。したがって,それを正面から容認するのは非常に大きな問題があると考えている人間がもう一人いるということを付け加えておきたいと思います。それ以上の点については,先ほど皆さんがおっしゃられたことを超えるものはありません。   本来申し上げたかった契約締結時の情報提供義務ですが,これを規定することは非常によかったと思うのですが,(2)のアを見ますと,(ア)(イ)(ウ)は全て,保証人になる者がどれだけのリスクを負っているかということに関する情報です。しかし,以前の部会では,それももちろん重要ですが,保証契約の内容についての説明ないしは情報提供も必要ではないかという意見が,私を含めて何人かの方から出されていました。これを落とすのは,やはり問題があると思います。   先ほど少し出ましたように,事業者間の保証契約のほか,法人の理事や取締役などに当たる人が保証人になるときは,保証契約の内容について特に説明が必要とは言えないかもしれません。けれども,先ほどの配偶者はもちろんのこととして,その他の例えば総社員又は総株主の議決権の過半数を有する者であっても,保証契約をすることの意味がもう一つよく分かっていないことも十分あり得るだろうと思います。公正証書の作成によるまでの必要はないとしても,先ほどの口授の対象とされているような事柄については,やはり情報提供をする必要があるのではないかと思います。この段階ではもう難しいのかもしれませんけれども,積極的にこれを落とす理由があるかというと,私は疑問を禁じ得ないということを申し上げておきます。 ○鎌田部会長 ほかには。 ○岡委員 配偶者問題について一言発言させていただきます。先ほどの時効の所でも申し上げましたが,消費者委員会等,これはやるべきではない,配偶者については規定するべきではないという意見は根強く今でも存在いたします。私個人としても,これを載せた要綱仮案に賛成したという委員に名前を残したくないという気持ちも強いところがございます。ただ,現在の金融実務の中で困っていらっしゃる中小企業を,理念と理想に基づいて金融の邪魔はすべきでないし,したくもないとも思っております。そういう観点で,ギリギリの努力を更に法務省さんにお願いしたいという気持ちを強く持っております。姑息な話かも分かりませんが,民法ではなく特別法で定めるとか,中小企業さんもこれがいいと思っているわけではなく,今の実務でこれを直ちにやられたら困るということですので,何か時限立法を行うというような工夫ができるのかできないのか,何かそういうことは是非立法過程の中でも努力していただきたいと思います。   さらに,具体的な思い付きのような提案で大変申し訳ないんですが,更にこれについては制限するとすれば,同居している配偶者に限るとか,事業に現に従事している者に限るとか,さらに,現在の実務を邪魔しない限りでできるだけ狭く規定したんだという努力は,最後までしていただきたいと考えます。 ○鹿野幹事 繰り返しになりますけれども,私も配偶者による保証については類型的に非常に問題が多く,むしろ一般の保証よりも慎重であるべきだという趣旨のことを繰り返し申してまいりました。この手続の点についても,配偶者だからという理由で直ちに,保証における通常の手続を回避できるとするべきではないという意見を申してまいりました。仮に配偶者についてこの公正証書による手続の免除を合理的に説明できる場合があるとすると,それはその配偶者が実質的には共同経営をやっているような場合だと思いますし,そうであれば仮案の「又は」以下は要らないのではないかということも,前回申し上げたつもりです。   しかし今回,これがなお残ったのは,削除の方向でコンセンサスを得ることが難しいと考えられたからだろうと思います。支持できるわけではありませんが,配偶者という文言を残すことは仕方ないとなるのかもしれません。ただ,仮にそうであっても,先ほど大村幹事がおっしゃったことと関わりますが,解釈としては,主たる債務者の事業に係る債務につき配偶者が保証をしようとする場合には,配偶者も共同事業を営んでいることの一応の推定が働くのでこのような規定が残っているということであって,実質的にそうではないと認められるときには,例外としてこの規定の適用が排除されるとする解釈の可能性もあるのではないかと思います。また,いずれにしても,この丸括弧の中に現在ある「事業に従事して」いるということが,安易に緩やかに解釈適用されることがないよう強く望むものであります。   それから,これは道垣内幹事がおっしゃったので,もうこれ以上長くは申しませんけれども,その指摘された点に関する補充説明の記載については私も非常に驚きましたし,この説明は適切でないと思います。 ○中田委員 ただいまの鹿野幹事の大村幹事の御提案についてのコメントですが,解釈・運用において大村幹事のような御提言を生かすというようにも聞こえたんですけれども,元々大村幹事はむしろ,可能であれば,「事業に従事する配偶者は共同事業者と推定する」というような表現の方がいいのではないかという御提案だったとように思います。それがもし可能であれば,その方がいいのではないかと思いますけれども。 ○鹿野幹事 もちろん,大村幹事が御提案なさったような形でこれを明文化することができれば,そちらの方がよりよいと私も考えています。ただ,今からこれをそのように変更することが難しいということであれば,解釈上そのような可能性を追求できるのではないかと,そういう趣旨でした。 ○筒井幹事 いろいろ御提案いただいたところについて,少なくとも見ばえの点ではもっと配慮すべきであるというところを何とか酌み取れるように,よく考えてみたいとは思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○潮見幹事 9ページの4の「連帯保証人に対する履行の請求の効力」は,458条の規律を次のように改めるもので,「連帯債務者の一人について生じた事由の効力に関する規定は,主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する」とあります。これは現行の規定もこうなんですが,この文章はおかしいのと違いますと。むしろ,保証人が主たる債務者とも連帯して債務を負担する場合というべきではないのでしょうか。これは微々たるもので,先ほどの配偶者保証とか情報提供とは違いますので,技術的なことですけれども,その方が正確だと思いますから,是非御考慮を頂きたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,次に,部会資料「80-1」の「第4 有価証券」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○中田委員 12ページの第4の1の(2)のアですが,内容ではなくて純然たる形式の問題なんですけれども,民法の規定において他の法律を準用するという方法はほかには見当たらないような気がするんですけれども,あるんでしょうか。民法を基本に置いて,分かりやすいものとするという観点からは,他の法律を準用するというスタイルは余り例がないような気がするんですけれども。 ○髙橋関係官 確かに,おっしゃるとおり,民法の規定において他の法律の規定を準用する例は,現在ではほかにございませんで,ここが唯一ということにはなりますが,現行法上,商法519条は,その特別法である手形法の規定を準用するという形をとっております。今回,有価証券の規定として,商法の規律を民法に取り込むことになりますと,手形に関する規定を準用している部分についても,そのまま引き継がれることになってくるとも思います。   もちろん,書き下すという選択肢もあり得るのかもしれませんが,裏書の方式に関する手形法の規定には,条件付きの裏書は無条件のものとみなすとか,一部裏書は無効とするとか,白地式裏書を広く許容するとか,全ての有価証券について妥当させてよいのかどうか,それが現代において果たして適切なのかどうか疑問のあり得る規律もございますので,これを民法に書き下すこととした場合には,非常に目立った記述になってしまうというところがございまして,やむを得ず,準用という形にさせていただいているところではございます。   あと,もう一つ,適用か準用かということでいいますと,この手形法の規定というのは,飽くまでも手形についてのものでございますので,指図証券との関係ではやはり準用ということにならざるを得ないのかなと考えております。 ○中田委員 純然たる形式のことかもしれませんですけれども,やはり民法の位置付けということからすると,大変かもしれませんけれども,書き下しの方向ができれば望ましいと思います。 ○神作幹事 裏書の形式について手形法の規定を準用せずに書き下すことは,とくに白地式裏書などの取扱いなど,どのような裏書が有効であるかどうかは指図証券の種類によって異なり得るため,指図証券の裏書の方式を一般的に明確な形で書き下すというのは,有価証券の定義を置くことが困難であり適切でもなかったのと同様,相当にむつかしいと考えます。他方で,裏書の連続に対しては,善意取得等の非常に重要な法的効果が付されておりますので,裏書が有効になされているのかどうかは,やはりある程度はっきりした基準を示しておく必要があるという側面があります。このように相矛盾する要請の間で,どのような立法を行うのが適切と考えるというと,私は,現在のところ,手形法の裏書の方式に関する規定を準用するというのは,現在の商法がとっている立場であるますけれども,合理的な選択肢の1つであると思います。いずれにしても,裏書がどういう場合に有効なのかということは,裏書の形式の問題としてある程度の基準を定めておく必要がある一方で,先ほど申しましたように,裏書の形式についてはある程度の柔軟性を認めておくことが望ましいということかと思います。裏書について形式を定めるとともに,手形法の裏書の規定を準用するという形を支持する立場から,一言申し上げさせていただきました。 ○鎌田部会長 御意見を踏まえて少し検討させていただきます。手形法の規定をそのまま書き写すというわけには多分いかない。書き下すという場合にはそうはならないと思いますので,その実現可能性も含めて検討させていただければと思います。   ほかによろしいですか。   よろしければ,次に部会資料「80-1」の「第5 債務引受」と「第6 契約上の地位の移転」について,一括して御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○岡委員 3の「免責的債務引受による引受けの効果」の所ですが,これはまず求償権を取得しないということについては,誤解を招きやすいとずっと言われ続けておりますので,解説等にはきちんと書いていただきたいということを申し上げます。   それから,この免責の(2),(3)と併存的債務引受の(2)のア,イ,ウの関係でございます。(2)の併存のイの表現に合わせて,免責的債務引受の効果の(3)を書き直すというのは,正誤表で頂きました。この(2)の併存的債務引受のウの相殺権の所は,免責の所に持ってこない理由をお伺いしたいと思います。これは免責的債務引受のときは,相殺権のこの拒否権は消えるということなんでしょうか,それとも3の免責の(2)の抗弁の中に相殺権が入るということなんでしょうか。でも,併存的債務引受の方で,抗弁とは別に相殺権を書き表しているとしたら,3の免責の方にも相殺権を書く方が分かりやすいと思いますが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○松尾関係官 まず,3の(1)の求償権を取得しないということの内実については,今後の説明でよく配慮していきたいと思います。   それと,御質問を頂いた点で,3の免責的債務引受の効果として相殺権について言及していないことの意味は,引受人は履行を拒絶することができないことになります。債務者が反対債権を持っていたからといって,それを理由として履行拒絶することができるというのは,他人の債権を処分するかのような形になるわけですし,求償の循環も生じないことからすると,履行拒絶を認める実質的な理由がないので,このような規律は不要であると考えたということです。この点について説明がなかったのは,前回までの部会資料の提案から特に変更がなかったので,説明をしていないということです。 ○山野目幹事 部会では法制的な精査のようなことをしないということですから,期待のみ申し上げることにいたしますけれども,併存的債務引受,それから免責的債務引受というこの言葉,今までは部会における調査審議でしたから,この表記とこの表現でしてきたものだろうと理解しておりましたけれども,最終的に法制的にどのような表現になさるのかということを大変に楽しみにしております。御案内のとおり,「併存的」,「免責的」という言葉は現行法にありませんし,それから現行法は「債務の」と「の」が入った上で「引受け」で,「け」が送られるものですけれども,これらの点の法制上の表現については既に検討されておられるんであろうと想像しますから,その成果を楽しみにお待ち申し上げたいと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○松本委員 4の「免責的債務引受による担保権の移転」という所なんですが,この(1)を見ますと,債権者は免責的債務引受において債権者の独自の判断で担保権を移転することができるという規定です。(3)の「担保権の移転は,引受人以外の者がこれを設定した場合には,その承諾を得なければならない」というのは,これは債務者も入っているということでよろしいですか。つまり,債務者が設定した担保を,債権者の一存で引受人に移転することはできないんだということでよろしいですか。 ○松尾関係官 債務者については(3)の引受人以外の者に入るので,承諾が必要だということです。 ○松本委員 分かりました。 ○潮見幹事 今の所に関係することで,担保権の移転なのですが,前の素案の所では確か「担保を設定した者」という言葉と「担保を供する者」という言葉を使い分けておられたのではないかなと記憶しております。むしろ,担保を設定した者の承諾ということになると,正に設定した人の承諾ということになるから,だから担保を供する者という形でここの辺りを書こうとされていたのではなかったでしょうか。少なくとも一時期そういう御議論があったのではないかと記憶しております。   今回の4の例えば(3)ですが,「担保権の移転は,引受人以外の者がこれを設定した場合には,その承諾を得なければならない」ということは,これは設定した場合はと,その承諾と書いていますけれども,これは別に設定者に限らない。むしろ,当該引受けの時点において担保を供している状況にある者の承諾という意味で読んでくださいという趣旨なのでしょうか。あわせて,もしそうであれば「担保を供する」のような言葉を使うことができないのかということも,これもいろいろ議論があるんだと思いますけれども,お教えいただければと思います。 ○松尾関係官 まず,趣旨としては,潮見幹事が今おっしゃったように,設定した者その者ではないものの担保を供している者も含むという意味で「設定した」という言葉を使っているということです。その理由がなぜかということなんですけれども,それは現行の518条がこれに対応する規定になると思うんですけれども,ここでは「第三者がこれを設定した場合には」と書いてあったのですが,元々,素案の段階でも部会資料67と部会資料69で平仄が合ってなかったので,「設定した」の方にそろえたということです。実質を表す言葉として「供している」の方がよいのではないかという御意見だとは思いますが,他方で,518条については,現代語化のときに,元々「供している」という表現だったのを,あえて「設定した」に直したという経緯もあるので,そういったことも含めて,どうしたものかということは,今の御指摘も踏まえてもう一度考えてみたいと思います。 ○道垣内幹事 2点申し上げたいと思います。1点目,近い方で潮見幹事がおっしゃった話,あるいは,潮見幹事と松尾関係官がおっしゃった話なのですが,518条だけなら,「設定した」を「供した」に直してもよいのですが,根抵当の所を中心に,「設定者」という言葉が現時点の「抵当目的物所有者」であると理解されている所が多々ありまして,1か所だけ変えますと,ほかの所の解釈に影響が及んでくるという意味があるかと思います。かといって,全部直していきますと,今度はそれが本当に設定した人という意味なのか,それとも現在の所有者を含むのかといったことを,1条1条確定していかなければならないということになって,多少困難かなと思います。   2番目は,松本委員がおっしゃったことなのですが,松尾関係官のお答えに対して,松本委員は,それならば分かるとおっしゃった。つまり,引受人がたまたま担保目的物の所有者であったという極めて例外的な場合だけが当然に移るということですよね。ならば,そのことから書いてしまうとやはり疑問が生じてしまうというのが松本委員の最初の質問の根本にあることだと思うのですよね。「すごく例外的な場合から書いてない?」みたいな感じですね。もちろん,技術的に書き方としてこういうふうな書き方の方が美しいということならば,それはそれで結構なのですが,卒然と読んだときに若干疑問が生じるのはそういうことかなと思います。単に感想ですが。 ○中田委員 これも表現だけのことかもしれないんですが,第5の1の(1)のアで,併存的債務引受の引受人が債務者と連帯して債務を負担するとあるんですけれども,不可分給付の場合もこの表現でいいのかどうかということです。つまり,連帯か不可分かということについては,今回の御提案では給付内容が可分か不可分かで分けている。それとここが平仄が合っているかということです。形式的なことですけれども。   それから,もう一つ,先ほど岡委員がおっしゃったことをちょっと私,聞き逃してしまったかもしれないので,重複してしまうかもしれないんですけれども,3の免責的債務引受の効果の(1)で,「引受人は債務者に対して求償権を取得しない」と書いてある部分ですが,これは本来は免責的債務引受の原因によって規律されることで,例えば対価関係の合意があれば,それによるということになる。これは第79回の会議でも,更改についてですけれども,中原委員からの御質問に対してそのような御説明があって,そのとおりだと思います。ほかにも事務管理とか不当利得による求償の可能性もあるのではないかと思います。そうすると,そもそもこういう規定を置く必要があるのかなという気もしますけれども,どうしても置くのであれば,この規定の趣旨は免責的債務引受の構造としては,求償権を発生させるものではないということにとどまる表現にした方がいいのではないかと思います。例えば,「引受人は,債務者に対し,免責的債務引受によっては求償権を取得しない」というような表現ですけれども。でも,そもそもそんなのが要るんだろうかという気もいたします。 ○松尾関係官 今の中田委員から御指摘があったことについて,若干,以前の私の説明が足りてなかったような気がするので,補足して説明を差し上げたいと思います。   3の(1)の債務者に対して求償権を取得しないという規律の内容について,以前,中原委員からは,例えば典型的には債務者と引受人との間で契約があった場合に,それに基づいて対価関係が発生することを妨げるものではないという理解でよいかというお尋ねがあったと記憶しておりますが,それについては,そのとおりであるとお答えしたつもりです。他方,事務管理とか不当利得に基づく返還請求権については,むしろ,この3の(1)によって発生しないということが基礎付けられるということを考えておりました。これは分科会でも議論があったところだとは思いますけれども,免責的債務引受はそういうものだとして,メニューの一つとして整理をすることとし,それを明らかにするという趣旨,すなわち,いわゆる法定債権は成立しないことを明らかにするというのが3の(1)の規定の意義であると考えていた次第です。ですので,中田委員が先ほどおっしゃったことと違うことを私は今申し上げたんだと思いますが,それを前提にまた御意見を賜れればと思います。 ○中田委員 確かに,前回の御回答は,中原委員の対価関係の合意は別だということについてのものでありました。ただ,私の問題意識は,内部における求償の問題とそれから免責的債務引受の問題とは,ずれることがあるのではないかな,それを必ずセットで考えなければいけないのかどうかということがよく分からないということです。ただ,こういう形で免責的債務引受というものをセットしてしまえというのであれば,それはそれであり得るのかなと思いますが,ただ,事務管理などによる求償を認めつつ,免責的債務引受の効果を認める場面がないんだろうかと考えると,何かありそうな気もいたします。 ○鎌田部会長 今の点は,前から議論をしてきて,ある意味での政策的判断を経たのが現在の形だと認識しておりますけれども,なお別の御意見があれば,それは承った上で検討をさせていただければと思っています。 ○松本委員 道垣内幹事が4の(1)から(3)までの並べ方がエレガントでないという指摘をされて,私,ようやく自分が理解にもたついた理由がよく分かりました。確かにそうなので,もうちょっと分かりやすい表現に並べ替えてほしいと思います。その上で,この部分は,(2)の所では「担保の移転は」ということで,人的保証と物的担保の両方を書いておって,(3)が「担保権の移転は」ということで,ここは物的担保のみを考えていて,(4)で今度は人的保証が付いている場合を考えているという書きぶりになっております。人的保証について,(4),(5),(6)と並んでいるわけですが,人的保証をしている保証人が引受人になる場合についての特段のルールはないんです。恐らくこれは混同によって消滅するから,そんなものは要らないという趣旨だろうと思うんですけれども,そうであれば,一層(3)のような裏から書いたような書きぶりは,やはり大変分かりにくいので,表から書いていただきたい。担保権設定者の承諾が必要だが,ただし,引受人が担保権の設定者である場合については,承諾は要らないとかこの限りではないとかいう方が分かりやすいと思います。 ○鎌田部会長 そこはちょっと工夫をさせていただいて,どうすれば一番明快で分かりやすくなるかということについて,検討させていただきます。   ほかにいかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 その際に併せて御検討いただければと思いますが,4の(2)で,「(1)の規定による担保の移転は,あらかじめ引受人に対してする意思表示によってしなければならない」とされています。ただ,補足説明を読みますと,この「あらかじめ」というのは,「免責的債務引受と同時にされた担保移転の意思表示も有効であることを前提とする」と書かれているのですけれども,「あらかじめ」で,本当にそう読めるのかということがよく分かりませんでした。併せて検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 了解いたしました。   よろしければ,次に,部会資料「80-1」の「第7 弁済」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○中原委員 16ページの2の「第三者の弁済」の(1)のただし書に「ただし,債権者が債務者の意思に反することを知らなかったときは,この限りではない」が意味するところですが,これは債権者の過失は問われるのでしょうか。それとも債権者が善意であれば弁済は有効になると考えてよいのでしょうか。 ○松尾関係官 善意であればよいということで,過失の有無は問わない趣旨です。 ○潮見幹事 幾つかあるのですが,よろしいですか。それから,あわせて,松岡委員が出しているこの意見書にも関わることもございますので。別に代理人ではございませんけれども,追認はしていれそうですが,どうしましょう。 ○鎌田部会長 区切りを入れてお願いします。 ○潮見幹事 簡単な方から幾つかと申し上げます。一つは,弁済の提供の所ですけれども,17ページの8で,そこに挙げられている内容での同時履行についての規定にしようという形での提案がされています。この部分は,確か前の案では,アとイと二つありましたよね。アの方が現民法の弁済の提供に関する規定をそのまま書くというもので,弁済をしたら受取証書の交付を請求することができるという規定でありました。それに,イとして今回出されているものを付け加えられていたのですが,今回はアが消えています。現行法の規定を別に残した上でこれを追加するという可能性もあっていいのではないでしょうか。つまり,前の案の方が,むしろ払った場合には受取証書の返還を請求でき,これから払おうとするときには同時履行であるということが,クリアになっていいのではないかと思いました。現行法の規定としてもあるわけですから,それにこの規定を追加したという形で収めることではいかがかということを,少しまた検討していただければというのが1点です。   それから,もう1点は,これこそ松岡意見にもかなり関わる所で,松岡委員の示す結論,それから理由部分のかなりの部分は私も共有している所でございますから,二つほど申し上げたいと思います。   一つは,松岡委員が出されているこの意見書の特に力説されている,いわゆる物上保証人兼保証人の部分ですけれども,頭数一人説,事務当局は保証人一人説とおっしゃっておられますけれども,これを明文の規定で置くことが果たしていいのであろうか。つまり,従前の最高裁の判決なるものが,こういう形で一般化・抽象化するのに値するのかというところについては,かなり具体的な事案も含めて疑問もありますし,また,学説の中でもこのような一般的な展開について,今回の改正のこの審議を離れても,多々,多様な意見があります。そういう意味では,明文の規定として,物上保証人兼保証人の場合について,頭数で処理するというルールを固定することに対しては,再考していただけないでしょうか。松岡意見も同意見だと思いますし,そこに出ている例を御参照いただければと思います。   さらに,弁済による代位の所については,これは文言だけですけれども,またほかの所に何かこういうものあるからというお叱りを受けるかもしれませんが,弁済による代位,10の所のウの(ア)の第三取得者の括弧書きですけれども,この括弧書きは狭すぎないでしょうか。「第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者に限る。)」とありますが,債務者から譲り受けたというこの意味合いが,そこからの更なる転得者等を含んでいるのかと言われたときに,卒然と読むと,これはかなり限定的な意味を持たされているのではないかと思わざるを得ないところがあります。同じことは,ウの(カ)にも言えることで,「物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者」という形で書かれておりますけれども,この部分も含めて,松岡意見にも出ておりますけれども,紛れのない形で表現できるような工夫を少し試みていただければと思います。意見,要望も含めて,以上申し上げました。 ○鎌田部会長 そこは検討させていただきます。どこまで網羅的に書けるかということと,代表的なものを書いて,あとは解釈に任せるというのと,どっちがいいかということだろうと思います。   ほかの点はいかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 2の「第三者の弁済」についてですが,内容の問題というよりは書き方の問題かもしれません。今回の御提案では,(2)の最初に「(1)で規定する第三者が弁済することができる場合であっても」ということが入れられています。これは,説明によりますと,債権者が受領拒絶することはできるという規律が機能するのは,第三者が弁済することができる場合に限られるので,それが分かるようにこれを入れられたと書いてあります。ただ,これは474条2項の改正案ですので,現在の474条1項は維持するということだと思います。ということは,474条1項によりますと,債務の弁済は第三者もすることはできるという原則はそのまま維持する。としますと,債権者が受領を拒否することができるのは,この474条1項に関する効果だと思います。つまり,ここで言う2の(1)に当たる場合は,そもそも弁済することはできないので,受領を拒絶することが問題にならないだけではないかと思います。   少し分かりにくくて申し訳ありませんが,2の(1)は474条1項に対する例外ないし限定の規定であり,2の(2)は第三者が弁済する場合の債権者の権利に関する規定であって,(1)に規定する「第三者が弁済することができる場合であっても」というのは,入れない方がよいのではないかという気もします。結論としては,現在の1項の場合の効果をそのまま書けばよいというだけだとも思うのですが,いかがでしょうか。 ○松尾関係官 今,山本敬三幹事から御指摘を頂いた点については,恐らく説明の書き方が悪かったのだろうと思いまして,そこをまずお詫びを申し上げなければならないのかなと思っております。結論としては,やはりこの(1)に規定する「第三者が弁済することができる場合であっても」というのは必要であると思っています。と申しますのは,債権者が弁済の受領を拒むことができるのは,1項によって第三者が弁済をすることができる場合一般に妥当するのではなくて,そのうち,弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者が弁済をすることができる場合に,その受領を拒むことができるということで,中間試案以降,案を御提示してきたつもりです。そのことが構造が変わったこと,あるいはまた説明がやや不十分だったことによって,分かりにくくなったのだと思いますが,その実質は変えるつもりはないので,この2の(2)の冒頭の部分の限定は,やはり必要なのだろうと考えております。 ○山本(敬)幹事 細かな所で恐縮ですが,474条1項で,第三者も弁済可能である。しかし,債権者は受領拒絶が可能である。ただ,第三者も弁済可能であるという1項の原則が2の(1)で限定されているということではないのかと思ったというだけです。 ○中田委員 今,山本幹事のおっしゃった474条1項の場合には第三者も弁済ができて,受領拒絶はできないということで。 ○松尾関係官 受領拒絶できる場合があるということです。   2の(2)というのは,474条1項で第三者も弁済することはできるとされているけれども,債権者は受領拒否することはできますということを明らかにする規定です。 ○中田委員 私もここはよく分からなくて,自分で表を作ったりして読み解こうとしたぐらい難しかったです。それで,この(2)のただし書で言っているのは,正当な利益がなくて,債務者の意思に反しなくて,債務者の委託があって,それで債権者がそれを知っているというような場合になるのかなと思ったんですけれども。その理解が正しいかどうかもよく分からないんですが,いずれにしても,1項も含めてもうちょっと分かりやすい書き方にしていただければと思います。 ○松尾関係官 多分,このまま,口頭で御説明しても混乱するだけのような気がするので,図か何かにして整理をお示しして,中身を御議論いただいた方がいいかなと思いますので。すみません。 ○鎌田部会長 条文には図が付きませんので,条文を読んだだけで分かるような表現を是非お願いします。 ○中井委員 そのような図表があった方がいいのかもしれません。これは念のためですけれども,(2)のただし書に書いている,「その第三者が債務者の委託を受けて」となっているんですけれども,このような債務者から委託を受けた第三者であっても,正当な利益を有する者でない第三者に当たるんですか。そこがよく分からなかったんですが。 ○松尾関係官 それはそういう前提です。判例では,利害関係を有する第三者から委託を受けた第三者が弁済をすることについては,利害関係を有する第三者に当たらないといった判例があると思いますけれども,同じようなことになるのではないかなという考え方が前提です。 ○鎌田部会長 ほかの点での御意見もお伺いしたします。 ○潮見幹事 これも確認だけというか,もっとほかにいい言葉はないのでしょうかという意見です。一部弁済の所のウですが,これは満足面における原債権者優先というルールを書いているんでしょうが,「ア又はイの規定に基づき債権者が行使する権利は,その権利の行使によって得られる担保の目的となっている財産の売却代金」,そして,次の「その他の金銭」というのが,一見すると分かりにくい。物上代位等を考慮に入れて,この文言表現を用いたのだと思いますが,見た目が少し気になる所がございますから,もっといい言葉がないか,引き続き御検討いただければと思います。 ○松尾関係官 趣旨としては,その前の「その権利の行使によって得られる」というところで限定をしているつもりではありますけれども,引き続き言葉の問題はよく考えたいと思います。 ○中井委員 同じ所のウですけれども,これは担保の目的となっている財産の場合だけの規律で,逆に言えば,一般財産は関係がないと。更に言えば,破産手続が開始した場合のことを考えたときに,実体的にこの優先劣後関係があるというところまで意味するのか,そこまでは意味していませんということでしょうか。 ○松尾関係官 担保権実行の場面に積極的にしようとする限定する趣旨ではありません。それが説明の所で少し問題提起をしたところですけれども,判例は抵当権の実行の場面についてこの法理を提示しているとは思いますが,それを一般化するということがよいかどうかということを再三御議論を頂いてきたところであり,特に破産手続が開始した場合については,いろいろと御意見を承っていた所だと思いますが,その議論の経緯に基づく整理は今も変わらないということです。 ○中井委員 変わらないということは,一部弁済をして,原債権の一部代位をした場合,例えば保証人ですけれども,保証人の持っている権利よりも原債権者の権利が優先するとなると,今の破産法における開始時における額に応じて按分するという考え方は採らずに,原債権者が優先して,実体法的に優先できるのだから,とれると,こういう所まで含意しているんですか。 ○松尾関係官 そこはそうではないという整理で収まったのではないかと思っています。つまり,開始時現存額主義の議論というのは,求償権を行使した場合のルールなのだろうと思います。この一部弁済による代位の要件・効果というのは,求償権を行使した場合ではなくて,弁済による代位によって得られた原債権を行使した場合の話なので,開始時現存額主義の議論は引き続き維持された上で,それとは別に,つまり,求償権と重ねて行使することはないと思いますけれども,あえて原債権を行使したというような場合があれば,それは違うルールになってくる可能性があるということだと思います。これは,今回このルールを設けるから出てくる問題というよりは,元々あった問題なのではないかとも思っております。 ○潮見幹事 そうであれば,このウは,中井委員がおっしゃったような場面もありますので,説明だけの問題でしょうけれども,担保の目的となっている財産についての規定を置いたんだのであって,それ以外についてはなお関連する点も含めて,今後の解釈あるいは実務に委ねられているという説明にとどめておいた方が危なくないような気はするんですけれども,いかがでしょうか。恐らく,中井委員の御懸念というか心配というのも,その辺りにあるのかなということも感じましたし,また,求償権と原債権というものが破産手続開始後にどういうふうな位置取りになるのかということについても,民事実体法の考え方がそのままスライドするのかどうかを含めて,多々議論もありますから,少しオープンにしておいた方がいいのかなという印象を受けました。 ○鎌田部会長 でも,今のようにすると,この素案自体も書き直さないといけないということにならないですか? これは担保に限らず適用できるように,あえてこのように書いたように読めるんですけれども。 ○松尾関係官 それは今,部会長がおっしゃったとおりです。あえて担保の場面にだけ規定を置いて,その他について何も規定を置かない状態にするということが本当によいのかということがあるように思うのです。それならば,あえて502条自体をいじることがよいのかどうかという問題が出てくるのではないかなという気がやはりいたします。 ○中井委員 担保については全く異論がないんです。ここで,その他の金銭となっていたから,何だろうなと一般財産も含めて思ったものですから,そこで優先権を与えてしまうとなると,破産手続のときに影響するという理解であったわけです。それも一つの考え方かとは思いますけれども。 ○山本(和)幹事 正確でないのかもしれないですけれども,破産手続でももし原債権だけが行使されれば,それは優先するのではないですか。ただ,求償権にはこの規律は及ばないので,代位弁済した者が求償権を債権届け出してき場合にはその優先権の効力は及ばないので,それで松尾関係官は先ほど,実質的には現在の開始時現存額主義と変わらない結果になるのではないですかという御説明だったと私は理解したんですが。 ○鎌田部会長 実際には担保権実行以外でこれを使う場面が生ずるかどうかは,相当に疑問ではあるんですけれども,考え方としては,オープンな考え方を採れるような素案になっているということでございます。   ほかによろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 8の「弁済の提供」についてです。以前の部会資料までですと,これだけではなくて,契約の解除をすることができる場合でも,債務者が弁済の提供をしたときは,債権者は契約の解除をすることができないということが入っていたわけですけれども,それが今回落されています。ずっと以前の段階では,「債務を履行しないことによって生ずべき責任を免れる」だけだったわけですけれども,それでは損害賠償しかカバーできず,解除をカバーできないのは問題だというので,中間試案あたりで,先ほど申し上げたようなものが付け加えられたという経緯がありました。これは,解除の要件を現行法から変更し,損害賠償とは,少なくとも責めに帰すべき事由が必要か必要でないかという点で,要件が変わることになるということと関係します。このように改正されますと,解除は,もはや責任の問題ではないと理解されることになります。したがって,現行法の下では,この「責任を免れる」ということでカバーできると考える余地はありますけれども,このように解除の制度を変更する以上,「責任を免れる」だけでは解除はカバーできない。したがって,やはり解除についても明確に規定を置くべきだと思います。そのように修正をお願いしたいという提案をさせていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 その点については。 ○松尾関係官 中間試案のときにそのような御指摘を頂いて中間試案に掲載したという経緯は,十分承知していますが,ただ,そのことが,492条のこの「責任を免れる」という文言から,論理的に絶対に読めなくなってしまうのかというところは,やはりいろいろな理解があり得るのではないかと思っております。山本敬三幹事のような御理解を全く否定するつもりはないんですが,そういうことを考えると,どうしても規定を設けなければならないのかという問題があるように思いますので,今回はここは解釈に委ねてはどうかということで御提案を差し上げていましたが,また御意見があったことは承りましたので,もう一度検討はしたいと思います。 ○山本(敬)幹事 解除制度が,債務者が債務を履行しないことによって負うべき債務者の責任であるという理解は,現行法の下では通説だったかもしれませんが,こここそが解除制度の変更の一番重要なポイントであるという理解が前提にあります。責任についていろいろな理解がありますというのは,現行法の下での可能性であって,ここではやはりきちんと解除制度が変わったことを踏まえて定める必要があると思います。 ○中井委員 もう一回,先ほどの(3)の一部弁済ですけれども,山本和彦先生がそうおっしゃられますと,ああそうなんだと思わなければいけないのかもしれませんけれども,求償権だったら,原債権者と求償権者が割合的に請求できる。でも,求償権を担保するために与えられたこの原債権を行使すると,原債権者が優先する。違和感があるというか,それでいいんでしょうかという疑問を正直に持ちました。現実には求償権で届けているからそれで済むのであって,仮にそれを担保するための原債権を倒産手続で行使したら,劣後してしまうというのは,違和感を感じたということを申し上げておきます。   ほかに2点。   1点は,6の「弁済の方法」の(4)に,預貯金口座に対する振り込みという規定が新たに設けられました。なるほどこういう規律もあるのかなと思いますけれども,なお若干ちゅうちょするのは,この(4)と(5)の関係と言ったらいいのかもしれません。弁済を受ける預貯金口座をあらかじめ指定していた場合に,その口座に振り込む。それによって弁済の効果が生じる。これは全く異存がないんですが,あらかじめ指定もしていない場面で,数ある預金口座の中に振り込まれたからといって,弁済の効果が生じる,つまり(4)の原則ですけれども,ただし書の規定の適用がない限り,つまり反対の意思表示をしない限り,また,取引上の慣習がない限り,その効果を生じるというのは,いかがなものか。たまたまどこかに口座を持っていて,もはや休眠口座かもしれない所に振り込まれたからといって,弁済の効果が生じるということもあり得るということになります。素直に預貯金口座をあらかじめ指定していた場合に,その口座に振り込まれたら弁済の効果が生じるということで足りないのかという気がいたしました。これが1点です。   2点目は,20ページに戻るんですけれども,担保保存義務,(4)のイですけれども,それの最後のただし書,これは単純に文言だけの問題なんですが,「その担保を債権者に代位して行使することができるものと期待することについて」,次の「合理的な理由がある」,合理的な理由というのが一体それで規律できるのかなという。これは正当な理由という言葉ではいけないのか。正当な理由とどこが違うのかとなるわけですけれども,合理的な理由というのが一体何が合理的なのか,基準になっているのかという気がしたものですから,ここはこの言葉に特別の意味があるのかどうか,教えていただければと思います。 ○松尾関係官 まず,御質問を頂いた点についてお答えしますが,19ページ,(4)担保保存義務のイのただし書の合理的な理由という言葉に何か意味があるのかということですが,あえて何か従前の案と意味を変えようとして,合理的な理由という言葉を使ったわけではありません。ここはほかの法令等との整合性も見ながら,その「期待することについて」という言葉を受けるのには,どういった言葉がよいのかということを精査して,例えば合理的な理由があるかどうかという要件で考えてはどうかということを,御提案しているということにとどまります。中身としては,要するに,今まで申し上げていたとおり,例えば正当な担保の差し替えであるとか,あるいは一部期限前弁済するために担保の目的となっていた財産を売却するような場合とか,そういった場合を拾おうとしているということに変わりはないということです。   あと,19ページの(3)に戻って,中井先生から違和感があるとおっしゃられた所ですけれども,そのこともかつて議論になったような気がしていまして,つまり,原債権が行使された場合と求償権が行使された場合で結論が違うというのが本当によいのかということなんですが,原債権というのは,結局代位によって取得した債権者の権利にすぎないわけだから,それを行使する場合には債権者に劣後するのはしようがなくて,本来的な権利である求償権を行使する場合には,それはそれで自分の権利として満額というか,平等に弁済を受けられることになるといいう結論は,それはそれとして正当化することができるということで,議論があったところではないかと思います。   あと,6の(4)から(6)の中身については,今回,実質的にまた前回までとは違うというか,これまでの議論を踏まえて新たな提案を差し上げているところですので,ほかの方ももし何か御意見があれば,今回承っておきたいと思っておりますので,よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 是非御意見をお出しいただければと思いますが。 ○潮見幹事 意見というのではなくて,先ほどの松尾関係官からの回答の中にあった,中井委員が聞かれた所ですけれども,「他の法令との整合性等を考慮し」とおっしゃられました。説明の所にはなかったので教えていただきたいんですが,どのような法令のどのような文言あるいはどのようなルールを参照して,「合理的」という言葉をお使いになられたのですか。私は先ほどの中井委員のむしろ発言の方向に,この点に関しては全面的に賛成したいと思います。 ○松尾関係官 今詳細な手控えがないので,一部のお答えにとどまりますが,例えば労働契約法などには,期待の有無は合理的な理由の有無で,期待について合理的な理由があるかどうかということを評価するというルールがあると思います。潮見先生が最後におっしゃった御意見は,合理的な理由の有無という文言よりも正当な理由の有無の方がよいという御趣旨と承ればよろしいでしょうか。 ○鎌田部会長 そこはまた少し検討してください。代位権者ならいつでも期待することは正当だというような気もするので,それを正当な理由と言われたのでは,いつでもだとなりそうな感じがして,何を排除しようとしているかを精査した上で,また日本語を選んでもらうことになるんだと思います。   もしよろしければ,部会資料「80-1」の「第8 相殺」及び「第9 更改」についても御意見を伺いたいと思います。 ○中田委員 相殺について2点ございます。   まず,2の「不法行為債権を受働債権とする相殺の禁止」で,実質はもうこれでコンセンサスができていると思いますが,(1)の表現で,「悪意による不法行為」という表現がやや分かりにくいのではないかということです。例えば破産法ですと「悪意で加えた」になっておりますし,あるいは中間試案だと「損害を加える意図で与えた」となっておりますし,そういう方が多分,分かりやすいのではないか。あるいは,故意ではいけないのかということも含めて,ここは表現をもうちょっと検討する余地があるのではないかと思います。   それから,もう一つ,非常に細かいことなんですけれども,「相殺の充当」について,4で,これまでもあったことですけれども,489条を準用するという部分が少し拡大しているんですが,それはいいんですけれども,489条を準用することによって,「債務者のために弁済の利益が多い」という概念がここに入ってくると思います。そうしますと,その債務者というのは誰なのかということです。相殺ですから両方あるので,(1)で言う相殺をする債権者を基準に考えるのか,それとも充当の対象となる複数の債権の債務者を指すのかという疑義があります。これはひょっとしたら解説事項かもしれませんけれども,条文で表せるのであれば表した方がいいのではないかと思います。   それから,ここの「相殺の充当」の所で,490条には特に触れていないわけですけれども,そこは解釈に委ねるということでしょうか。 ○松尾関係官 まず,2の不法行為を受働債権とする相殺の禁止については,悪意という表現がよいかというのは,確かに前回も部会で御意見を承ったところではあり,いろいろ検討はしてみたところではありますが,実質を表すためには,悪意という表現が,現時点では一番よいのではないかなとは思っております。他方,故意では駄目かというと,それではやはり中身がまず変わってきてしまうのですが,それでは相殺禁止の範囲が広すぎるという御意見が部会であったと思います。ですので,やはりここの悪意という言葉は,故意とは違う意味での悪意であって,故意では置き換えられないということだろうと思います。   相殺の充当について御質問というか御指摘を頂いた点のうち,債務者の利益というのが誰を指すのかということなんですけれども,そこは相殺権者ではないかと考えてはいました。つまり,相殺をした者の利益で判断するということで考えてはいたんですが,それではまずいというか,あるいはそれは読めないのではないかということであれば,条文化の際にはもう少し細かく書くことを含めて,考えたいと思います。   490条については,中田委員が御指摘されたとおり,解釈に委ねるということを前提としておりました。 ○中田委員 悪意についての御説明は理解いたしました。その上で,例えば破産法の表現となぜ区別するのかということが分からなかったんです。それは表現の問題ですから,御検討いただければと思います。   それから,相殺の充当の債務者が誰かというのは,私はむしろ松尾関係官のおっしゃったのと逆に,もう一つの選択肢の方で理解しておりました。というのは,相殺した人を基準にすると,どっちが相殺したかによって充当が変わってくるということになるんですけれども,4の(2)と(3)の関係もありますので,非常に不鮮明になるのではないかなと思いました。 ○岡委員 私も2点申し上げます。   1点目は,今の2の悪意の所ですが,故意よりも絞り込むというところでコンセンサスができているのであれば,あえて反対するつもりはないんですが,弁護士会では悪意は絞り込みすぎだという意見が結構まだ根強くございます。故意でいいのではないか,あるいは原案でもいいのではないかという意見もある状況でございます。私個人としては故意でもいいのではないかという意見を持っております。そこは法務省の事実認定でしょうから,あえて異は唱えませんが,悪意で解釈問題が出るぐらいであれば,故意でもいいのではないかという意見です。   それから,2点目ですが,3番の511条の改正案の所で,この表現がどうして出てきたのかというか,こっちの方が本当に分かりやすいんでしょうかという質問でございます。この(1)の第2文というのは,なくてもいい文章ですよね。それが必要な理由というのは何かあるのかという質問と,それから,入れたとして,「妨げられない」じゃなくて,「対抗することができる」と書いた方が分かりやすいように思うんですが,この(1)の第2文について必要性と,「妨げられない」という持って回った表現の意味を教えていただければと思います。 ○松尾関係官 511条について,第2文を設けた趣旨というのは,結局,無制限説をどうやって明文化するのかということと関わっております。現在の案の第1文は,現在の511条ほぼそのままになるわけなんですが,無制限説をなぜ採るのかというのは,結局511条の反対解釈をめぐって争いがあったところですので,511条の前段だけ置いておくのであれば,結局現在と何も変わらないということになるので,その反対解釈として特に弁済期の先後による制約はないんだということを確認するための規定を設ける必要があると考えて,後段の規定を設けたということです。そういった中身ですので,ある意味では当たり前のようなことを書いてあり,そのことを表す趣旨で,ここでは,「妨げられない」という表現が適切ではないかと考えたということです。 ○永野委員 それほど強い意見ではないのですけれども,先ほど岡委員が言われた2の(1)の「悪意による不法行為」という部分についてなんですが,実務上,故意の不法行為で問題になるものとしては,例えば詐欺,脅迫,名誉毀損,暴行,傷害,器物損壊あるいは不法占有といったものが問題になってきます。そういう意味では,刑法でいういわゆる刑法犯に当たるようなものが故意の不法行為類型としてよく見かけるのですが,こういった類型の不法行為について,更に悪意をかぶせることが,この2の(1)の規律を設ける趣旨にかなうのかどうか。むしろ,カッとなって物を壊したとかいう場合について,更にそれが悪意によるものかどうかを重ねて詮索するというようなことになると,そこは紛れが出てきてしまうのではないか。破産の免責の関係で幾つか裁判例を見ていますと,詐欺による債権について,詐欺だという認定をしながら,なお悪意がないといったような認定をしている裁判例もあるものですから,こういう刑法犯の故意に当たるようなものを前提にして,更に悪意をかぶせるということが本当に必要なのかどうかという点は,先ほどの岡委員の意見に私どもも共感を持つ面があります。ただ,それを強く主張するつもりはありませんが,御検討いただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかには。 ○山本(敬)幹事 2点申し上げたいと思います。   まず,順序は逆になるのですが,今問題になっている「不法行為債権を受働債権とする相殺の禁止」の(2)の方です。これによりますと,「債務者が債権者に対してした人の生命又は身体の侵害に基づく損害賠償請求権」となっていますが,この趣旨は,先ほどの(1)と違って,このような場合には現に給付を受けさせる必要性が高いと説明されています。としますと,「債務者が債権者に対してした」というのが少し限定しすぎているのではないかという気がします。履行補助者による場合は問題ないのですが,使用者責任も入るのではないかと思いますけれども,本当に債務者が債権者に対してしたと言えるかどうか,問題になってくる可能性があります。さらに,例えば工作責任や危険責任というようなものになってきますと,「債務者が債権者に対してした侵害」という文言では,厳密に言いますと包摂し切れていないことになるのではないかと思います。その意味では,(1)と表現を合わせる必要はないのではないか。趣旨が違う以上,そのような必要はないのではないかと思う次第です。   もう一つは,その上の1の方です。これは表現の分かりやすさの問題だけなのですが,今回の素案では,2項のただし書のみを変えるという提案をされています。本文,つまり,「前項の規定は,当事者が反対の意思を表示した場合は適用しない」という本文は維持するということですが,以前の部会資料では,本文の方も,「当事者はその意思表示をもって相殺することはできない旨を定めることができる」と変えることを提案しておられたのですけれども,それでは明確でないという趣旨なのか,ただし書のみを変えるということのようです。しかし,現行法の「反対の意思を表示した」というのも十分に分かりにくい規定でして,もとの素案でよいのかどうかは別として,現行法をそのまま維持するというよりは,その趣旨がより分かるような表現に置き替えるのが望ましいのではないのかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしいようでしたら,「第10 契約に関する基本原則」及び「第11 第三者のためにする契約」について御意見をお伺いします。 ○山本(敬)幹事 これは本日御欠席の松岡委員から意見を承ってきた問題なのですが,1の「契約自由の原則」の書き方について問題点を述べさせていただきたいと思います。   ここでは,(1)(2)(3)と並んでいるわけですが,(1)と(3)は恐らく,表現はともかくとして,強行的なルールなのだろうと思います。それに対して,(2)は,当事者で別段の定めをすることが容認されるようなルールではないかと思います。そして,元の素案では,法令に特別な定めがある場合のほか,当事者が別段の定めをする場合を入れていたわけですけれども,それは明らかであるとして,今回は落されています。ただ,(1)(2)(3)と並ぶ場合には,やはり(2)は違うのであるということを明確に示した方がよいのではないか。こういう意見があることをお伝えしておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○高須幹事 すみません。ただ振り返ってというだけの発言になりますが。部会資料の「80-3」の今までの経緯のところで,取り上げなかった論点の所で,契約の解釈の所が落ちているということに関して,結論の是非を今言う段階ではないと思ってはおりますが,昨日の弁護士会での事前検討会議みたいな中でも,これが落ちてしまうことに対して,今後,この新しい民法が使われていく中で,やはり必要な規定だったのではないかということで,この規定が落ちることに対して不安を感じるという意見がたくさんあったということをお示しするとともに,私自身もそういうふうに思っているということを発言させていただきます。5年間この作業に関わらせていただいて,契約ということについて,今回の民法が,今まで私どもが学生時代に教わった考え方と大分,違ってくるのではないかということを,それなりに実感してきたつもりでございます。そうすると,この法律を使っていく社会の在り方も変わっていくときに,その契約というものがうまく社会の中で機能していくルールみたいなものをやはり民法がある程度用意しておかないと,なかなかその規律の維持が難しいのではないかということを心配するところがございまして,そういうこともあって,大変,残念であるということだけ一言申し上げます。失礼しました。 ○山本(敬)幹事 私も契約の解釈についてはかなり強く意見を述べてきた者ですので,この機会に所感を述べさせていただきたいと思います。   これが取り上げられないことになったのは,率直に申し上げて,残念としか言いようがありません。前回の第85回会議のときにも申し上げましたように,今回の改正では,様々な箇所で,債務の発生原因,特に契約を基準として定めることが提案されています。そうしますと,その契約の内容をどのようにして確定するかということが決定的に重要になってきます。契約の解釈の方法や基準について大きく理解が分かれるようでは,せっかく契約を基準にすると定めても,その適用は不安定にならざるを得ません。したがって,契約の解釈については,最低限基本的な枠組みを定めておくことが不可欠であるということを申し上げました。   しかし,この部会資料「80-3」の32ページの囲みの部分にまとめられていますように,第85回会議ではこれに反対する意見や懸念を示す指摘があって,コンセンサスの形成可能な成案を得る見込みが立たないとされていますが,これは残念ながらそのとおりなのだろうと思います。もっとも,中間試案に示されていた三つの準則のうちの,特に「当事者が共通の理解をしていたときは,それに従って解釈する」という第一準則などは,歴史的に見ても比較法的に見ても,異論のない解釈準則として確立しているということができます。率直に申し上げて,この法制審議会での審議が始まる段階で,この第一準則ですらコンセンサスの形成ができないという事態は,予想もしていませんでした。なぜほかの国々では問題なく受け入れられている解釈準則が,現在の日本では受け入れられないのか。これは法社会学的な観点を含めて,検証されなければならない問題なのだろうと思います。   この場でこれ以上申し上げることが適当かどうか,問題かもしれませんけれども,最後の機会だと思いますので,もう一言だけ付け加えさせていただきますと,この契約の解釈もそうなのですけれども,もっと広く法の解釈については,どのように解釈するかという方法,もっと正確に言いますと,解釈を正当化する方法について枠付けが行われませんと,それによって行われる法的推論,したがって,またその結論が恣意的なものになってしまいます。法の解釈は,言うまでもないことですけれども,解釈者の思うがままにどのような結論でも導くことができるものではなくて,共通の枠組みの下で守るべき方法と基準を守って行われるものです。そのような法の解釈についての共通理解が法の支配を支える前提なのだろうと思います。そうした前提の必要性と重要性に対する理解が,残念ながら必ずしも十分とは言えない。少なくとも,それについてコンセンサスを形成するに足りるほど十分ではなかったということが非常に残念なことでした。   これは,ほかでも,それ自体としては異論のないはずのルールに対して,濫用の危険があるという指摘がされたり,あるいは,抽象的な文言が入ると,曖昧だという指摘がされて,成案が得られなくなったりするということがこの部会でもあったということにも通じる問題だと思います。法の解釈は恣意的に行われるものではなく,一定の解釈の枠組みに従って行われるものであるということに対する共通の理解とそれに対する信頼があれば,少なくともそれがもっと強ければ,結論はもう少し違ったものになったのではないかと思う場合もあります。   このようなことばかり申し上げていますと,実務家の方々を一方的に批判しているように聞こえるかもしれませんけれども,それは違います。そうではなくて,法の解釈について共通の枠組みが不可欠であって,それが重要だということは,法学研究者がもっと明確に示してこなければいけなかったのだろうと思います。それが不十分であった。少なくとも,学生に対する教育と実務家の方々に対する発信が十分ではなかったところに,日本法学の問題があったのではないかと思います。率直に力不足と努力不足を反省せざるを得ないところです。   しかし,このような法の解釈には守るべき共通の枠組みがあるということに対する理解と信頼が不十分なままでは,法の支配を確立させることはできませんし,本当に必要な立法をすることも難しくなってしまいます。真摯に自ら反省して,今後も努力を続けなければならないということを,この場では少しふさわしくなかったかもしれませんけれども,次の世代の人々へのおわびとお願いとして述べさせていただければと思う次第です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかに御発言はございませんか。 ○中井委員 時宜に遅れたところで申し訳ないんですけれども,第8の「相殺」の3の「支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺」,先ほど岡委員からもこれで分かりやすくなったのかという発言がありました。私もこの(1)と(2)の分け方については,読みにくいなと思っています。重ねての発言になるかもしれませんけれども,(1)でいうならば,第1文があった後,第2文の頭書きが「この場合において」なんですけれども,「この場合において」というのが何を指すのかがよく分からない。これは明らかに第1文は差押え後に取得した債権,第2文は差押え前に取得した債権ですから,その間の「この場合において」というので,何を意味しているのか。差押え後に取得した場合において,ではあり得ないわけですから,まずここがよく分からないと思いました。かつ,先ほど岡委員がおっしゃられたように,第1文と第2文,これは当たり前のことで第2文を書いているのではないかというのが次の疑問です。   それから,(2)で,分からないのは,このただし書が卒然として出てくるわけですけれども,(2)の第1文は,差押え前の原因に基づいて生じた差押え後に取得した債権,これは例外的に対抗できますと。つまり,(1)の第1文の例外。(2)のただし書は,(1)の第1文の例外である(2)の第1文の更なる例外として,差押え後に他人の債権を取得したものは,この限りではない。こういう構造になっていると思うんです。でも,これは前の部会資料「69A」ですけれども,差押えがあったときに,差押え前の原因に基づいて生じた債権,これは二つあり得る。差押え前に既に取得している債権,これは当然相殺できる。他人性があろうがなかろうが,相殺できる。差押え後に発生した債権は,前に原因があるから相殺できるけれども,他人性が認められたら相殺できない。正に委託なき保証に基づく求償権は相殺できないということを明言したい。そうだとすると,この(1),(2)が今のことを表現しているのか。取り分け(2)のただし書の「他人の債権を取得した」というので卒然として出てくるわけですけれども,理解できるのか。この構成についてはお考えいただけないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○沖野幹事 契約の解釈について,高須幹事,山本敬三幹事と全く同じように,努力不足だという点も含めてそういうふうに感じております。契約の解釈について三つの準則があって,そのうち取り分け第3の準則は,必要性や場面もよく分からないという御指摘もあって,これはなくてもしようがないかなと思っておりましたけれども,第1準則については,基本的な考え方を示すということの意味が非常に大きかったのではないかと思います。契約というのが一体どういうものであるのか,そのことは非常に重要な意味を持っており,そして,内容自体も第1準則のみをとらえれば反論の余地のない内容だったと思います。更に言いますと,その規律の内容について,当初は例えば共通の意思を探求するとか,そういった文言から始まって,しかし問題があるということで,かなりの時間を掛けて文言も研ぎ澄ましてきたというものではなかったかと思います。   それから,第2準則については,より実践的な有用性もあるという御指摘は前回も頂いていたところですので,三つ全ては無理かもしれないけれども,第1,第2だけでもという希望と期待を持っておりました。確かに問題点があるという御指摘も伺いましたが,ただ,実際に行われていることを正に書き表せばこうなるということを,むしろお示しいただいたとも理解できるような御発言ではなかったかと思います。しかし,見通しとして,もはや成案が得られないということであるならば,もうそれはそう言われてしまうとどうしようもないのですが,しかし,第1,第2,あるいはせめて第1だけでも入れるというようなことは考えられないのでしょうか。未練がましくて申し訳ないのですけれども,いかがでしょうか。 ○筒井幹事 御指摘はよく分かりますし,契約の解釈について当初から長い時間をかけて議論してきたというのは,全くそのとおりなのですけれども,その言わば生き残りの可能性も含めて,前回の機会にB型の資料を提示して御議論いただいた結果として,今,さらに刻んで第1準則だけでもというところまで御意見をいただきましたけれども,それも含めて困難であろうという判断をしたということです。そのような方向で御理解を頂ければと思います。 ○沖野幹事 大変図々しいのですけれども,例えば裁判所のお立場からして,第1準則が置かれるということでは,やはり障害になるのでしょうか。最後の機会ですので,裁判実務のお考えをお聞かせ願えればと思いますが,いかがでしょうか。 ○永野委員 私は黙っていたいなと思っていたんです。だけれども,山本敬三幹事が御発言になられた後,やはりこれにお答えしないといけないかなと思いました。   今回,契約の解釈について立法化の御提案を頂いて,当初から実務界では,こういうことが立法化されることについて非常に違和感を持っておったわけです。ただ,その違和感について,前回のここでの審議に臨むに当たって,やはり我々も自分たちが裁判の実務でやっている契約の解釈というのはどういうことなのかと,どういうふうに受け止めてやっているのかということを,もう一度きちっと考えて説明をしないと,なかなか学者の皆さん方には理解していただけないんだということで,いろいろ議論をして,前回の審議に臨ませていただいたわけです。   前回の審議が始まる前に隣の席の中田委員から,「どこに違いがあるかが分かるということが大事だ」というようなことを言われて,我々,学者の委員,幹事の方々と議論をさせていただきました。山本敬三幹事を始め,多くの方々の御意見にお答えする中で我々の頭も整理されてきたところがあるのですが,やはりこの過程で一つ大きいなと思ったのは,契約の解釈というものが事実認定の問題と不即不離の形で結び付いているということだろうと思います。ですから,原理的な部分で大きな違いがあるわけではなくて,そこの事実認定の部分と解釈の部分を切り離して規律を設けることが果たしてできるのかどうか。それから,もう一つは,こういう規律を設けることが全体の紛争解決等に与える影響がどうであるかという,どちらかというとプラクティカルな部分についての見解の対立があったんだろうと思っています。   ただ,事柄の大きさからすると,なお短い時間での議論でしたので,本当にそこの部分だけなのかというのはよく分からなくて,むしろ今回こういう対話をさせていただいたという機会を,もう少し発展的に活用させていただくベースができたのではないか。実際の記録などを前提に,学者の方々と実務家とで契約の解釈の問題についてどういうふうに争点整理の過程から進んでいくのか,その部分についてお互いの思考がどういうふうに違うのかを,実際の生の作業を通じて対話させていただけると,もう少し解明されていくのかなと思いました。   そういう意味では,今回の立法の過程に乗せるというのは,他にも反対意見がある中で,全体のコンセンサスを得ることが時間的にも難しい状況になっているんだと思います。しかし,ここで議論させていただいたベースはありますので,それとは別に今後も是非対話を続けさせていただきたい。そういう意味では,山本幹事の方で今回,これが乗らなかったことについて反省の弁を述べられましたが,我々の方もきちんと御説明をして,今後しかるべき運用ができるように共通の基盤を作っていかないといけないなと,私どもの方も対話の努力不足について反省をしているところであります。   すみません,沖野幹事に対するお答えにはなってないと思いますが,私どもが考えているところを最後に述べさせていただいたということで,お許しいただければと思います。 ○大村幹事 契約の解釈についてのルールが入らないことは私も大変遺憾なことだと思いますけれども,この段階で事務局に再考を求めるというのも難しいということは,先ほどの筒井さんのお返事から推察いたします。いろいろな方々から御意見が出ましたけれども,契約の解釈に関するルールは,契約の拘束力とも密接に結び付いております。このルールが民法典にないことによって,契約というのはどういうものであって,なぜ拘束するのかということが説明しにくいということがございます。教育の観点から見たときに,こうしたルールがあるということに一定の意味があるということも,一言申し添えさせていただきたいと思います。全体として,この後の審議の中でも引き続き,民法をこれから学ぶ人たちの観点とを,できる限り御勘案いただければ幸いに存じます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいですか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等について事務当局から説明をしてもらいます。 ○筒井幹事 本日予定していた議事を全て終えることができましたので,来週に確保しておいていただきました予備日については,会議を開催しないことにしようと思います。したがいまして,次回は7月8日火曜日,午後1時~午後6時まで。場所は前回の第91回会議と同じ検察ゾーンの15階,東京地方検察庁の総務部会議室になります。次回は,要綱仮案の原案を3分割で御提示するうちの最後,原案その3を御提示し,また,このほかにいわゆるBタイプの部会資料で幾つかの論点を取り上げることを予定しております。部会資料につきましては,今週金曜日あるいは遅くとも会議の1週間前にお届けできるようにしたいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岡委員 次回,まだB論点が出てくるんですか。 ○筒井幹事 はい。 ○岡委員 そうなると,7月8日と15日がその3とBの予定日で,その次の7月22日には本当の仮案の原案がぼんと全部1分冊で出てくるという理解ですか。 ○筒井幹事 7月22日と29日にどのような部会資料を用意するかというのは,次回の会議までに考えたいと思っておりますが,7月29日に決定をするという前提であるならば,7月29日の会議に御提示するものが要綱仮案の(案)というものになるだろうと思います。これは全体を一括して示したものになると思います。また,7月22日の会議についても,それに準ずるもの,つまり原案その1からその3までについて頂いた御意見を踏まえた改訂版をお示しすることになりますが,それが全体を一括して出せるのか,中間試案のときのように,前半の改訂版が7月22日に出て,後半の改訂版が7月29日になるという可能性は,次回の会議の様子次第であろうと思います。   その要綱仮案の原案の改訂版をお示しする際に,この間の会議でB型の資料で取り上げたものについて,要綱仮案の方に入るものとして昇格してくるのか,あるいは取り上げない論点の方に振り分けることになるのか,そこを見極めて,それは7月22日用の資料として提示することを基本的には考えております。ただ,原案その1を提示した際に併せてB型で提示した項目について,それが例えば原案その3に入ってくるという可能性自体は,今の段階で否定しているわけではありませんので,そのような準備が整えばそのようにしたいとも考えております。 ○岡委員 8月については,心覚えをしてほしいと言われたような記憶があるんですが,まだその心構えはしておいた方がいいんでしょうか。 ○筒井幹事 はい。私としては,7月29日に取りまとめをできるように全力を尽くしたいと考えておりますが,しかし,会議で決めることですので,そこで決まらなかったときに,決まらないけれども会議をこれで打ち切りますというわけにはいかないので,是非8月にも続けて議論させていただければと思います。ただ,やはり合理的なところで結論を出す必要があり,7月末を目標に議論をするということでこれまでスケジュールを組んできましたので,まずは7月29日を目標として議論すると。どうしても決まらない場合には,8月の最初の火曜日も会議を続けるということで御準備いただければと思います。 ○岡委員 8月は1週目だけですよね。 ○筒井幹事 いかがでしょうか。私はその先も火曜日はあけておいていただくことはお願いしようと思いますけれども,そこまで会議をやりたいわけではありません。 ○鎌田部会長 毎回宿題を頂いておりますので,どこまで整理が付くか難しいですが,なるべく回数を少なくしたいと思っておりますので,よろしく御協力のほどお願いいたします。   本日も大変長い時間にわたりまして有益な御議論を賜りまして,ありがとうございました。   以上で終了させていただきます。 -了-