法制審議会 民法(債権関係)部会 第93回会議 議事録 第1 日 時  平成26年7月8日(火)自 午後1時02分                     至 午後6後01分 第2 場 所  東京地方検察庁総務部会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第93回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,関係官として渡邊毅農林水産省経営局農地政策課長が御出席の予定です。若干遅れて御出席と伺っておりますが,よろしくお願いいたします。   なお,本日は安永貴夫委員,岡田幸人幹事,餘多分弘聡幹事が御欠席です。   本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 事前送付資料として,部会資料「81-1」から「81-3」までと,「81B」をお届しております。この資料につきまして誤記などがありましたので,事前に部会メンバーには電子メールで御連絡を差し上げましたが,本日机上に正誤表を配布させていただいております。   それから,本日の委員等提供資料ですが,中原利明委員から書面が提出されております。また,本日御欠席の安永委員から意見書が提出されております。また,山川隆一幹事からも書面が提出されております。 ○鎌田部会長 本日は,部会資料「81B」と部会資料「81-1」について御審議いただく予定です。具体的には,休憩前までに部会資料「81B」の全ての論点と,部会資料「81-1」の「第2 債権譲渡」までを御審議いただき,午後3時30分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料「81-1」の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,審議に入ります。   まず,部会資料「81B」の「第1 法定利率」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○忍岡関係官 御説明いたします。   「第1 法定利率」では,第90回会議において行われたヒアリングや御審議を踏まえて,法定利率を中間利息控除でも用いることを前提として,改めて法定利率の制度について御提案しています。また併せて,実務上重要な論点であるとの御指摘がありました法定利率の適用の基準時についても一定の考え方を整理しておりますので,これらについて御審議いただければと思います。   なお,部会資料では触れておりませんが,民法に規律される法定利率を変動制に改めた場合,商法にある法定利率に関する規律をどのように扱うかについても問題となります。民法上の法定利率を変動制に改めた場合には,これとは別に商事法定利率の規律を維持する必要性は乏しく,商法の規律を削除するべきとする考え方がありますが,本日はこのような考え方についても御議論いただければ幸いです。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 法定利率のところ,特に中間利息控除に関しては,損保協会さんからのヒアリングをこの部会でも聞いておりますし,内部でも損保協会さんからいろいろ御意見を頂いておりまして,いくつか懸念が出ておりますが,この御提案のとおり中間利息控除に変動制になった後の法定利率を適用するといった場合に,最大の問題点というのはやはり基準時ということかと思うのですね。基準時が明確になるということがやはり何と言っても必要かと思います。変動の幅,見直しの頻度を変えることによってどれだけ変動をなだらかにしていくかというそちらの議論もあるとは思うのですけれども,まずやはり何と言ってもその基準時というところをきちっとしていただきたいというのは,これは以前から何度も申し上げているところです。特に損保協会さんからは,現在の提案だと,基準時は「損害賠償請求権の発生時」とこういうふうになっているわけなのですけれども,これだと解釈の余地がかなり出てくるのではないかという意見を頂いております。つまり,中間利息控除の場合は将来の逸失利益を現在価値に換算するというようなことになるわけですけれども,現行実務でいくと症状固定の段階になってからいろいろ逸失利益等そういう議論をしているのです。症状固定というのは事故から相当経った後になるわけです。通常は2年未満くらいのところだと思うのですけれども,大体そんなところで症状固定すると。それが実務であります。   ただ,現在は割引率として用いる法定利率が固定制なので,その限りでは余り問題になっていないだけなのです。けれども,変動制になった場合については,事故時と症状固定時の間にはやはり利率が変動している可能性も出てまいります。そうするとどうしても機会主義的な行動をとったりする方もあり得るので,基準時は一義的に明確にならないと非常に困るということです。特に「損害賠償請求権発生時」としてしまうと,このような実務の流れからして,もしかすると基準時は「症状固定時」であるということを機会主義的に主張されて実務が混乱する危険性があるのではないかと,そういったような懸念もありまして,できれば「不法行為時」と改めていただけないかとそういう御意見がございましたので,そちらの方の御検討の方もよろしくお願いしたいということでございます。 ○鎌田部会長 関連した御意見はありませんか。 ○潮見幹事 今の御指摘を受けてですけれども,症状固定は損害項目をどの時点で捉えて,その額をどう評価するかということに結び付くわけでして,今回の案は不法行為による損害賠償請求権が発生したときということ明らかにしているというように私は受け取りました。むしろ不法行為時という言葉を使ったのでは,かえって不法行為というのは一体何であり,それをどれくらい分析することができるのかなどという複雑多岐な解釈論というのが出てくるのではないかと危惧します。不法行為を理由とする損害賠償請求権は判例法理に従えば不法行為時に発生すると言っていますから,そういう意味では現在のこの規定のままでそれほど紛れはないし,むしろこれでいっていただきたいと思います。 ○中田委員 不法行為についてはそうだと思うのですが,安全配慮義務について7ページの御説明が少し分かりにくいと思いました。安全配慮義務違反についても事故発生時ということなのですけれども,塵肺のような蓄積して潜在的に進行する被害の場合に,事故発生時はいつなのかということが余りはっきりしないような気がいたします。   それから,中間利息控除の方は事故発生時としておいて,遅延損害金の方が請求時ということになりますと,そこに差が生じる可能性があるので,それをどういうふうに考えるのかという問題は残るのではないかと思います。   それから,3年ごとの見直しについては次の期の法定利率が何%になるかということが事前にある段階になると予測できるようになるのではないかと思うのですけれども,そうするとそれに対応する様々なプラクティスが発達していく可能性があって,それをどう評価するかという問題が残ると思います。   今大体こういう方向でまとまりつつありますので,これでもしょうがないかなと思いますが,中間利息控除というのも所詮はフィクションの世界の一部を形成するものでありまして,制度全体についての人々の納得感をどう考えるのかということが重要だと思います。   そうしますと,例えば中間利息控除一般については法定利率によるとしておきつつ,人身損害については政策的判断として例えば3%固定にするというような方法もあるのではないかなと思いますけれども,ただもうこの段階ですから特に強くは主張致しませんが,私としてはそういう方法もあると思っております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。   では,中間利息控除以外の点についての御意見があれば。 ○岡委員 中間利息控除の点ですが,先ほどの症状固定の場合の論点です。症状が固定等するまでは休業損害ということで100%賠償されると思います。そして症状固定時以降は労働能力喪失率を計算して逸失利益を計算するわけで,症状固定時以降の将来収入を計算するわけですので,その症状固定時の法定利率を適用するという考えも十分あると思います。   その点について明確化してほしいという損保業界の要望も分かりますが,それはやはりケースバイケースで判断すべきことではないかと思います。症状固定時という解釈も十分あり得ると思うということだけ発言させていただきます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○佐成委員 法定利率に関してあと幾つか意見が出ておりますのでお話しさせていただきたいと思います。一つは利率改定までの周知期間ということなのですけれども,これは多分省令で記載すべき事項,細目的な事項になるとは思うのですけれども,損害保険は1年契約がほとんどであると,そういうのが実務であるということなので,契約者に対する更改の際の説明をスムーズに行うためには,改訂利率確定から新利率適用までの間に実質1年以上の周知期間が必要であるので,省令を整備する段階で是非御配慮いただきたいと。これは今後の細目を詰める作業に関わることだと思いますので,是非そこら辺は御配慮いただきたいということでございます。   それからもう一つは,今回の改正は利率のみの改正であり,実務を変更する意図ではないということを一応念のため確認したいということでございまして,そこら辺もそれでよろしいのかということでお願いしたいと思います。 ○筒井幹事 ただいま確認したいという趣旨で御指摘がありました実務運用のことについては,今回の改正では専ら利率の点についてのみ改正をするということであり,それ以外の実務運用等について何か変更を求める趣旨のものではありません。 ○鎌田部会長 ほかに法定利率関連の御意見ございますか。 ○道垣内幹事 「実務に変更を求めるものではない」というときの「実務」が何を指しているのかが分からないまま,「変更を求めるものではない」というコンセンサスがあるということに私は納得できません。 ○潮見幹事 細かいことでもよろしいでしょうか。意見ということで申し上げさせていただいて,あとは事務局等で検討していただければと思います。この仕組み自体については私は全く異論はございません。これでいいのではないかと思います。その上で1の(1)なのですけれども,利息を生すべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は当該利息が生じた最初の時点ということで記載がございます。中間試案では当該利息を支払う義務が生じた最初の時点という表現になっており,その後の77Bでもその方向が維持されています。今回この文言が変更されたものの,説明がここで加えられていないということは恐らく中間試案で考えられていた方向がそのままの形でこの表現の中で説明をされているのではないかというように考えております。   中間試案の説明のところではここの部分の説明として,利息計算の基礎となる期間の開始時点であり,利息支払義務の履行期とは異なるという丁寧な説明があります。利息の計算をする初日が利息の基準日となるというのは,私も予見可能性の点でこの中間試案の考え方が合理的ではないかと思っているところでありますが,そのときに利息が生じた最初の時点というと,何かしら履行期を想起させる記載にも受け取られかねない,そんな感じもしないわけではありません。   そういう意味では,仮に中間試案で説明がされていることが今回も変わらないのであるという前提でいくならば,それが当該利息が生じた最初の時点という表現で分かりやすいどうかについて,時間は限られているかと思いますけれども,少し事務当局で御検討を頂ければ有り難いと思っております。今日のところは,前提自体の理解が間違っていないかということだけ確認させていただけませんか。 ○鎌田部会長 この点について。 ○村松関係官 前提はおっしゃるとおりでございますので,あとは書き方だと思っておりますので,検討いたします。 ○佐成委員 すみません,ちょっと先ほど言い忘れたのですけれども,これは条文化作業の段階でと思うのですけれども,やはり中間利息控除のところで「将来において取得すべき利益」という表現になっていますが,これは先ほど私例として逸失利益という言葉を申し上げましたけれども,必ずしも逸失利益だけに限らない場合がありますので,損害等適切な用語を用いるようにその段階で検討していただければということでございます。 ○鎌田部会長 分かりました。その点については検討していただくということでよろしいですか。 ○村松関係官 今の点につきましても条文化の段階で検討いたします。実質的にはおっしゃっているとおりだと思っておりますので,判例が明示的にあったのがこちらの方だということで今の現在ではそうしておりますけれども,条文化の段階では検討するということだと思っております。   あとそれから,この間御発言があったところで,中間利息控除についての基準時をどうするのかという点で,私ども事務局の考え方は,基本的には損保協会からのヒアリングでも同様の考え方がございましたように,明確であることが必要だと認識しておりまして,その考え方を前提にこの法文を考えるべきであろうとこのように認識しております。基本的な発想は正に先ほど潮見先生がおっしゃったとおりでございまして,思いは同じであろうと。どう書いたらいいのかという点で若干損保業界の皆様の御意見と事務局とで認識がずれているけれども,私どもとしては潮見先生がおっしゃいましたように,こちらの方がむしろ紛れは少ないのではないかと,このように考えております。   その観点から申し上げますと,先ほど岡先生からの弁護士会での御議論を御紹介いただきましたけれども,やはりこの中間利息控除の割合というのを明確にするという観点でこのような規定を設けるというのが今回の趣旨だというところは是非確認しておきたいなと思いますし,それが実務の安定的な運用に資するのではないかなと考えております。また,それが判例の通常の考え方に照らしますれば,この書き方でそのような意味になってくると,このように理解はしておりますので,念のため申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。ほかに御意見は。 ○岡委員 法定利率について3点申し上げます。1点目は,弁護士会は大方このまとめで賛成ということでまとまりつつあります。しかしながら,やはり世の中にはいろいろ意見がございまして,5年平均で1年毎に見直すのがいいのではないかとか,そういう反対説は未だに残っておりますという御報告でございます。   それから,2点目は,前回も申し上げた約定遅延損害金だけが高止まりして,約定なき遅延損害金だけがこれで下がるではないかという問題意識でございます。それはこの法改正とは関係ないのだという見方もあると思いますが,実務家から見ると約定遅延損害金について14.6%のまま固定して動かず,法定利率だけ変わるのは非常に心配であります。こういう問題をこの部会でどう議論したらいいのかということがよく分かりませんが,法律を変えるときに派生する弊害と言えるような現象についてどう対処したらいいのかということについて,法務省さんで何か工夫していただきたいと思います。   それから最後に,この遅延損害金のアラビア数字2のところですが,これも一旦決まった法定利率でその後変動はないという前提だと思うのですが,この金銭債務の不履行についても1の(1)で規律されるということなのでしょうか,それとも条文化するときにアラビア数字2についても,その後に法定利率が変動しても変わらないという条文を作るのでしょうか。それは最後は質問でございます。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局から御説明をお願いします。 ○忍岡関係官 今御質問の趣旨が1の(1)と同じように一旦定まった利息がその後変動しないのかということであればそのとおりでございます。 ○岡委員 それは条文化しなくても1の(1)があれば明確になるという趣旨なのでしょうか。 ○村松関係官 1の(1)と2は別の条文にしておりますので別の話ということになると思います。それで,利息が生じた時点と書くと,利息は日々生じているので紛れがあるかなと思って最初のをつけ加えたというのが1の(1)の方なのですけれども,2についても同じようにやはり遅滞の責任を負ったというと,日々追い続けているではないかということで紛れはが生ずるのではないかとこういうような話になるのだとすると,同じように最初のとかいうフレーズを入れた方がいいのかもしれませんが,今のところ,語感だけかもしれませんが,遅滞の責任を負ったと言えば遅滞に陥ったそのときをいうと何となくこちらは理解できるのではないかなということでこのようにしております。表現については,条文化の段階でまた改めて考えたいと思います。 ○松本委員 不法行為の専門家ではないので最近の学説は大分変わっているのかもしれないのですけれども,損害とは何かという議論が昔からあったと思うのですね。一つの事故全体を一つの損害と考えるのか,それともバラバラに考えて損害を積み上げていくのかというような対立がありました。先ほど潮見幹事は損害の費目として考えればいいのではないかとおっしゃいました。つまりそれは一つの損害論だと思うのです。今回のこの考え方は損害賠償の請求権が発生した時で固定すると。それは事故時だという説明なので,損害は1個だと,そのあと治療費用がどうこうかかったとかあるいは死亡しただとか,いろいろなものがどんどん発生していくのだろうけれども,そういうものをすべてひっくるめて一つの損害だという考え方でいくと説明はしやすくなるわけです。その場合,消滅時効の起算点との関係について,学説上,事故の時ときから消滅時効の期間はスタートしているのだということでよろしかったのでしょうかという,不法行為を余り勉強していない者からの質問ですが。 ○鎌田部会長 事務当局からお願いします。 ○村松関係官 今おっしゃいましたように,基本的には損害は1個であるという考え方で実務は動いているということを前提に,正にこの論点は非常に実務的に影響の重大な論点ですので,その実務への損害賠償算定の現在のやり方ですね,そのやり方について利率は変えるけれども,それ以外の算定の大枠について実務の変更を求めるものではないという観点でこれを置きましょうということで,考え方については基本的にそういうものを前提にしてはどうかという提案をしております。   時効については,基本的に全部事故時からスタートするということではなくて,やはり権利行使が可能になるという観点で今回もいろいろ整理しようとしていますけれども,同じような発想で権利行使可能かどうかという部分で,損害の発生が全くなく,その認識すらできないような状態で進むということはないという前提であったと思いますので,そこは変わらないということだと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。 ○岡委員 商事時効に対してどう考えるかという,書面にない質問で,弁護士会でも余り議論はしておらないのですが,選択肢としては単純削除して民法と全く同じにするという選択肢か,プラスアルファで1%か0.5%上乗せすると,そのどちらかしかないように思います。   ただ,やはり商売と普通の世界とは違う,時効も法定利率も違うという観念が色濃く頭には残っておりまして,それも妥当ではないかという感覚が非常に強いです。商事時効も商事利率もなくする,全部民法に一本化するということは,それはそれで一つの合理的な政策判断とは思いますが,民法が取引法に染まってしまう改正ではないかというような声を巻き起こす可能性があると思います。最終的には議論ではなくて価値判断ですから,国会が決定することかとは思いますが,個人的には中途半端かもしれませんけれども,0.5%上乗せするというのも一つの考えかと思います。商行為概念をそうしたら残すことになるのではないかという意見もあると思いますが,それはこの民法改正後にかなり乏しくなる商法をどうするかというときに議論していただければいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ただいまの商事法定利率に関して御意見がほかにあれば。 ○佐成委員 意見というほどではないのですが,この論点については内部で議論しておりませんので,今日方向性を出されると非常に困るものですから,一度内部で確認だけさせていただきたいと思います。その上でまた発言させていただきます。 ○鎌田部会長 ほかに御意見ございますか。事務当局もよろしいでしょうか。   よろしいでしたら,次に部会資料「81B」の「第2 債権譲渡(将来債権譲渡)」について御審議いただきたいと思います。事務当局から説明してもらいます。 ○松尾関係官 説明いたします。   「第2 債権譲渡(将来債権譲渡)」は将来債権譲渡の効力の限界に関する規定を設けることの要否を取り上げるものです。将来債権譲渡の効力の限界について,譲渡人以外の第三者の下で発生する債権については,譲渡人には処分権がないから譲渡人による譲渡の効力は原則として及ばないが,当該第三者が譲渡人の契約上の地位を承継したものである場合には,当該契約から生じた債権は譲渡人によって既に処分されており,当該第三者はそれを前提とした契約上の地位を承継することになるため譲渡の効力が及ぶという見解が有力であり,これについてはこれまでの部会の審議においても概ね異論は見られないように思います。もっとも将来発生する不動産の賃料債権が譲渡された場合については特別の規律を設けるべきであるという意見が有力に主張されています。このような規定を設けることの要否については,パブリックコメントの結果を見ても意見が対立しております。   そこで,将来債権譲渡の効力の限界に関する規定を設けることの当否について,特に不動産の賃料債権の譲渡について特別な規定を設けることの要否についての合意形成が可能かどうか改めてお諮りするものです。   甲案(2)の規定を設ける場合には,その正当化根拠や捕捉説明に記載した派生的な問題をどのように考えるかという点が問題になりますので,この点に留意しつつ御意見をお伺いできれば幸いです。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 今の点ですけれども,パブコメの結果からも明らかであると思うのですけれども,不動産業界は非常に強い関心を持っている論点でありまして,不動産業界から私の方で聞いている限りでは,もし規定を設けるなら甲案が望ましく,乙案という形であればこれはむしろ設けないでいただいた方が有り難いと,そういう意見でございます。   不動産の賃料債権の譲渡に関する例外規定を設けないという乙案の考え方が採用されると,本当に抜け殻不動産が流通するというような現実の可能性が非常に高まるということでございます。現在でももちろん抽象的には抜け殻不動産が流通する可能性はあるのですけれども,明文規定がなく,判例で認められているに過ぎないような将来債権譲渡に関して,実際にはそういう流通化というのは行われていないということなのです。しかし,もし仮に乙案だけ明文化されてしまうようだと,これはどうしても不動産業界としては看過できないと,そういうような御意見でございましたので御報告させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見は。 ○中田委員 甲案,乙案をお示しいただいて問題点をきちっと検討していただいたことに非常に感謝しております。私は個人的な意見としては,甲案がよろしいと思いますけれども,もしそれが無理であれば,甲案(1)また乙案の前段のみを規定するという選択肢があるのではないかと思います。   不動産の賃料債権の譲渡について特に規律を置くかどうかについては,実際上の必要性があるかどうか不明だとか,あるいは譲渡について規律を置くのだったら,差し押さえや賃料前払いとのバランスも検討すべきであるという御指摘があります。実際上の必要性については現在のところは賃料債権が譲渡された不動産はそもそも流通市場に出にくいので,結局問題は所有者の倒産時にのみ現れるという現状ではないかと思いますが,今後将来債権譲渡が拡大していきますと今の問題はやはり現れてくるのではないかと思います。   それから,差し押さえとの関係について申しますと,平成10年3月24日の最高裁判決の調査官解説も債権譲渡については今後の検討課題だというように言っております。前払いについても債権譲渡の規定を置けば類推解釈などで適宜対応できるのではないかと思います。元々この問題は旧破産法63条について,破産の場面でのみ特別な規律があるのがおかしいということで削除されたわけですけれども,将来の賃料債権の譲受人と不動産取得者との調整が決着がついたわけではなくて,それは実体法の問題として残されていたと思います。それが正に今ここで検討していることだと思います。   私は結論としてはやはり不動産流通の円滑化,それから「81B」の9ページに記載されたような,所有権と法定果実の分離という問題も重要であると思いますので,甲案がいいと思います。   ただ,もうこの段階ですのでそれが難しいということですと,将来債権譲渡の効力の限界付けについては,平成11年1月29日の判決のいう公序良俗の規律に委ねて,あとは解釈に委ねるということも,要綱仮案の取りまとめという現段階ですので,残念ですけれども,やむを得ないかなと思っております。   ただ,それにしても現在の甲案の(1)と乙案の後段はやや中途半端でかつ厳格に過ぎるのではないかと思います。例えば,貸しビルのテナントに対する現在および将来の賃料債権を譲渡して,その後テナントが入れ替わった場合にどうなるのかの規律は,必ずしもはっきりしないと思います。事業譲渡でその事業から将来生じる債権の譲渡との関係についても同じような問題があります。こういったことは今後の判例,実務,学説の展開に委ねていいのではないかと思いますので,後段は規定しなくてもいいのではないか。しかし前段は将来債権譲渡の基本的構造を示すものとして意味があるので,これは残した方がよいと思います。そこで甲案が駄目だったら前段のみとするというのが結論です。 ○深山幹事 甲案の前段あるいは乙案の前段について,中田先生も規定すべきだろうというお考えを言われましたけれども,私も同じ考えです。ここは恐らくここの部会でも余り異論がないところではないかという気がしますので,何も規定をしないということではなくて,この部分については規定をすべきだろうと考えます。平成13年の最高裁判決,あるいは平成19年の最高裁判決を明文化するという意味合いもあろうかと思います。問題は後段をどうするかですが,私はこの後段も入れた方がいいと思います。   次ぎに,甲案の(2),不動産賃料債権についての例外規定を設けるかどうかということが更に問題になるのですが,結論から言うと入れない方がいいだろうと思います。不動産の流通化を阻害するという御指摘自体はごもっともですけれども,部会資料の説明にもあるように,やはり不動産賃料債権だけを例外にすることを正当化するのは理屈の上でもなかなか難しいという気がいたしますし,既に指摘があるように,差し押さえとか前払いとの関係でも,譲渡だけを取り出して規定するのが適当なのかという疑問もあります。   更に言えば,不動産賃料の債権のみならず,例えば知財のライセンス契約など,基本権と支分権が発生するような契約類型はほかにもあるわけです。この規定を置くことによって類推適用をするという解釈はあるのでしょうけれども,明文規定として不動産賃貸借だけを取り上げて,ほかの契約類型について何も規定しないということもいかがなものかという気がいたします。したがって結論としては乙案がよろしいのではないかというのが私の考えです。 ○山野目幹事 甲案と乙案の比較検討について併せて3点申し上げさせていただきます。   1点目は乙案の後段でございますけれども,契約上の地位が第三者に移転した後に,という概念を操作してこの規律を運用しなければならないことになりますけれども,賃貸不動産が譲渡されたときにしばしばみられる実務として,賃借人が同じであったとしてももう一度賃貸者契約を結び直すということが行われます。そのような事象に接したときに,それは地位がそのまま移転したと理解されるか,地位が新しく出来上がったと理解されるかというような問題の認定判断,この規範の要件の操作について困難な問題や混乱が生ずるのではないかということを危惧いたします。従来判例に現れた事象として,賃貸不動産が賃借人自身に譲渡されたケースについて,それをもって賃料債権について従来されてきた処分の効果は制限ないし消滅すると考えるべきであるとしながら,信義則上そのような思考を採ることが適当でない場合には別論であると述べた判例がございます。この信義則上別段に解すべき事情というものがあるかないかといったようなことについて,事象ごとに困難な問題がこのまま乙案の後段の規律を入れると生ずるのではないかということを危惧いたします。   それから,2点目でございますけれども,乙案の取り分け後段を入れたまま甲案でない規律が採用された場合には,賃料の前払をしていた賃借人は賃料債権の譲受人に勝つことができると考えますが,賃料債権の譲受人は不動産の譲受人に今度は勝つことができるということが乙案の帰結でありましてその不動産の譲受人は賃料前払の登記が不動産登記上にされていないと,今度は賃料を前払いした賃借人に勝つことができるということになって,勝敗の関係が循環し始めて収拾のつかない法律関係になるということも危惧されないではない部分がございます。乙案後段をこのまま設けることについては今2点目で指摘したような問題もあるのではないかと危惧いたします。   3点目でございますけれども,甲案の(2)のような規律を設けることは,今のような検討を踏まえますと大変魅力的な提案なのではないかというように感じます。甲案の(2)の規律を入れる際には,併せて地上権の地代についても同じ規律を入れていただきたいと望みます。これは実務上も定期借地権が地上権で設定されるときに地代が一括前払されるスキームというものはしばしば見受けるところでありますからリアリティのある話であります。   それから,リアリティはありませんけれども,そこまで規律するのであれば法制上は永小作権の小作料についても同じ規律を入れなければならないことになり,従来法制上例としては破産法56条の規律のようなものを参考にして,賃貸借,地上権,永小作権までは明文上の規律の対象にするのが相当ではないかというように感じます。   同じく従来立法を参考にしますと,特許権についての専用実施権や通常実施権が設定された場合の対価の権利についてのような規律については,強いてそれを置かなくても甲案(2)のような規律を置いた場合の,それを参考とした上での解釈の展開を待つということも十分に考えられるのではないかと感じます。 ○沖野幹事 甲案の(2)についての考え方なのですけれども,全く個人的には不動産登記に載せるとともに一定の範囲で取得を認めるというのが望ましいと考えておりました。例えば1年ですとか半年ですとか。しかし,これを今から検討するのはおよそ無理だと思います。他方で,甲案の(2)のような形で将来債権譲渡の範囲について今決めを打ってしまうことが大丈夫かということも懸念されます。一方で不動産賃料についての債権譲渡はそれなりに実績もあるように聞いておりますので,それに対する悪影響ということも懸念されます。   この問題自体は恐らくは不動産の賃料という形での法定果実を誰がどのような形で取るべきか,またそのための法制がどう在るべきかということを改めて検討すべきもので,債権譲渡の形あるいは所有権の形あるいは抵当権の形でどのようなものが優先するのかということを考えるべき事項だろうと思います。   そういう中で,この(2)の実質判断をこれまで本当に十分議論してきたのかというと,それはこのような御意見はもちろんあったわけですけれども,十分に議論してきたのかということについては不安を感じます。その点ではこのような決めを打たずもう少し検討した方がよろしいのではないかということです。   そうしたときに,甲案(1)の後段,乙案の後段というこの一般論自体は,このような将来債権の限界付けについて規律が置かれることが望ましいとは思いますけれども,他方で不動産賃料のような重要な問題についてかなりの懸念が出るということであれば,甲案のような形で決めるのではなく,また乙案ではそれが維持されないということであれば泣く泣く断念して前段だけということも十分考えられ,その方がよろしいのではないかという感触を持っております。 ○松岡委員 今沖野幹事が発言されましたこととほとんど同意見ですが,甲案の(2)が不動産賃貸の場合だけを特別扱いしている点について,本当にそれで大丈夫なのか不安があります。また,山野目幹事が御指摘になったように,乙案の方にも後段にはいろいろ難点が残りそうです。しかし,何も規定を置かないよりは,最初に中田委員が次善の策としておっしゃったとおり,甲案や乙案の前段部分に相当する部分だけでも規定を置いてはいかがかと思います。 ○道垣内幹事 意見分布を示すために私も発言いたしますけれども。沖野幹事,松岡委員と基本的には同じ考えです。気になりますのは,山野目幹事がされたお話のうちの前半部分でして,賃貸人に契約上の地位が移転したのか,それとも新しい契約がなされたのかということが不分明な場合があるとおっしゃったわけですが,実務についてよく分かりませんが,恐らくそれは他の種の契約においても同じではないか。そして,契約上の地位の移転について厳格な定義というものが存在しないということになりますと,正に他の契約につきましてもこの当事者の変更というものが契約上の地位の移転に該当するのかどうかという判断をすべきことになり,同じ問題が生じるのではないかと思います。   そうなりますと,なかなか一筋縄ではいかず,いろいろな場合に対応しなければならないということになりますと,甲案の(1),乙案の前段しか事実上規定はできないだろうと私も考えます。 ○松本委員 まず最初に確認なのですが,ここの項目は強行規定だと思うのですが,そういう理解でよろしいですか,それとも任意規定として置かれているのでしょうか。効力の限界というからには強行規定のように読めるのですが。 ○松尾関係官 松本委員の御質問にきちんと答えられるか分からないのですが,この規定が適用される場面では,まず譲渡契約の解釈が先行するはずで,譲渡当事者が譲渡人の下で発生した債権のみを譲渡するということでなればその債権しか譲渡しないことになりますので,第三者の下で発生した債権については一切譲渡の効力が及ばないということになるのだろうと思います。   問題は,譲渡契約の解釈によって,例えば甲事業から発生する一切の債権とか,甲不動産から発生する一切の賃料債権とかいう形で譲渡されていたということになり,必ずしも譲渡人の債権のみを譲渡したと契約の解釈ができない場合にこの規定が適用されることになるわけですが,このときには,どのような契約の解釈がされた場合であっても第三者の下で発生した債権については一定の範囲しか移転しないということになるのだろうと理解をしております。 ○松本委員 任意規定であって債権譲渡の当事者間で特約をしておけばそちらが優先するものなのですか,それとも原債権の関係者の間で特約をしておけばいいというものですか。   甲案の(2)などは賃貸借の場合については非常に強行規定的にこういうルールで決め打ちするというような印象を受けます。説明のところを読む限りでは,こういうルールとこれがよくないというルール両方それなりに説得力のある根拠が挙げられている感じがいたしまして,この場でコンセンサスが採れないのであれば私は法制化しない方がいいという何人かの方の意見と最終的には一致いたします。   ただ,強行規定ではなくて任意規定なのだということであれば,業界としてそのように合意で明文化すればいいではないのということで,不動産業界としてはどんなルールが民法に入っても気にしなくてもいい,(2)が入ってもですね,というようなこともあるいはある。合意で明文化しさえすればいいのだということであればですね,という感じもいたしまして,ちょっとその性質が気になっていたところです。 ○中井委員 確認ですけれども,私の理解をしていたのは(1)の後段部分については当事者が別段の合意をすれば譲受人は取得しない。しかし,(2)を入れた意味は,ここは強行法規的に考えて,当事者が合意してもそれは移転しない,こう理解したのですが,念のため確認させていただけますか。 ○松尾関係官 私が先ほど説明したのは甲案の(1)あるいは乙案のことを申し上げたわけでありまして,甲案の(2)については,中井先生がおっしゃったとおり,債権譲渡の当事者の合意によってこのルールを変えることはできないと思います。 ○岡委員 弁護士会の意見分布を報告させていただき,最後に自分の意見を言いたいと思います。   弁護士会の意見は,深山さんのように乙案でいいという意見が少数あったことは事実でございます。ただ,甲案に賛成という意見が多うございました。   私個人もその甲案に賛成でございます。理由については中田先生のにプラスするとすれば,執行妨害に使われるおそれが高まってしまうという観点が一つでございます。それから,不動産だけ変える理由はないのではないかという論点に対して,賃借人の同意なく不動産の賃貸人たる地位は移転されてしまう特殊性があると思います。それ以外の契約上の地位の移転については債務者の承諾があって初めて移転するので,その点において不動産だけは違うという扱いは十分説明できるのではないかと思います。   それから,先ほど沖野先生が賃料債権だけの譲渡について取引実例があるのではないかとおっしゃいましたが,バックアップに出ている弁護士のレベルでは賃料債権だけの将来譲渡はやはり怖いので,今の時点では余りされていないというような報告もございました。   その上で,最後にやはり甲案の(2)についていろいろ出た御意見を踏まえますと,確かに議論が熟してないというのは私自身も感じるところでございます。その一つとして,前回は承継という言葉を使っていたのが移転という言葉に今回変わりました。承継という言葉を使うと破産管財人等の問題が出てくるわけですが,移転となるともう破産管財人等は関係なくなるという違いがございます。それについてさらっと最後の段階で変わってしまってどう議論が変わるのか,という意見もございまして,承継に戻せという意見も少数ではあるがございました。   そのようなことを考えると,弁護士会としては乙案よりは甲案の方がいい,不動産の取引の空洞化を防ぎたいという意見が多数でございましたが,私個人としては,一切規定を設けないか,前段部分だけということで今回はいいのではないかと思いました。 ○潮見幹事 私も,先ほどの沖野幹事,松岡委員の御意見と同じです。   その上でなのですけれども,先ほど松尾関係官から今回意見の一致を採ることができるかどうかということでお伺いをしたいという発言がございました。その後の佐成委員の発言では,甲案でなければ,乙案ぐらいであれば規定を設ける必要はないという発言がありましたが,乙案の前段だけを規定するということにも佐成委員のお考えからすると反対であるという御趣旨でしょうか。これ自体は先ほどから何回か出ている最高裁の平成11年判決が言っていることで,もちろん理論構成はいろいろなものがありますから意見は分かれていますけれども,結論命題的についてはそれほど皆さんの間で意見の違いはないようにも思いましたものですから発言させていただいた次第です。 ○佐成委員 私の先ほどの発言は,乙案をそのまま設けるくらいであれば設けないでくれという趣旨でありまして,乙案の前段の部分について別に異論があると言ってるわけでは必ずしもありません。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがですか。事務当局からはよろしいですか。   それでは,ただいま頂戴したような御意見を踏まえて更に事務当局で検討をさせていただきます。   次に,部会資料「81B」の「第3 約款」について御審議いただきます。事務当局から説明をしてください。 ○村松関係官 それでは,御説明いたします。   「第3 約款」は,第85回会議,87回会議,89回会議での御審議を踏まえて,約款についての実質的な規律を改めて御提案しております。定型条項の内容の開示については第85回会議で,特に詐欺的な消費者被害事案などで相手方から定型条項の内容の開示を請求されたにもかかわらず定型条項の内容を知られないように開示を諦めさせるといった事案があり,少なくともこのような悪質な事案への対応策を用意すべきであるとの御指摘がありました。   このような指摘を踏まえ,本文3(2)では開示の請求に対して相手方が定型条項の内容を認識することを妨げる目的で不正にこれに応じなかった場合に定型条項が契約の内容とならない旨の規律を設けることとしております。   また,定型条項の変更については,相手方が変更の時点においても多数又は不特定である場合に限って定型条項の変更をすることができることとするかについて議論がございました。しかし,例えばあるサービスの需要が縮小し,契約の相手方が減少していくような局面などに一人でも変更に同意しない者がいると定型条項を画一的には変更できない事態が生ずるとすれば,本来画一的なサービス提供を意図して定型条項を用いていたにもかかわらず想定外の事態が生じて妥当でない結論になるとの指摘がございます。   他方で,現在の提案では定型条項の定義を極めて限定的なものとしておりますので,そもそも定型条項を用いた取引ではその性質上契約締結後にも契約内容の画一性が維持される必要性が極めて高いものということができるのではないかと考えられます。そこで,本文6では,変更の時点において現に変更の対象となる定型条項を契約の内容とした相手方が多数,又は不特定であることまでは求めないこととしております。   しかし,たとえ定型条項の内容を読まないことが多いとはいえ,変更があり得ることを当事者において契約上確定させておく意味はあると考えられることから,定型条項において条項準備社会が定型条項の変更をすることにより個別に相手方と合意をすることなく契約内容を変更することができる旨が定められている必要があるということを引き続き要件とすることを提案しております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 それでは,約款についてですけれども,まず,経済界のニーズをこれまで提案に反映させるように事務当局の方で御努力されたということに対しては毎回非常に感謝申し上げております。しかし,我々はあくまで民法に約款規制を持ち込むこと自体に一貫して反対をしておりますし,その点について現時点で変わりはないということでございます。その点はあらかじめお断りしておきますが,その上で,今回この提案を拝見した上での内部での議論状況について御報告したいということでございます。   まず結論から申し上げますと,この案ならよいというような雰囲気はまだなかったと,全くないという状況です。つまり,個々の条項案についてまだいろいろな部分で問題点が指摘されているということで,私自身もこれではちょっと受け入れ難いなと感じております。これは恐らく約款の実態というのが実務上千差万別だからであって,例えば電話だとか鉄道といった約款もあれば生命保険とかそういった約款もありますし,我々の業界でありますガスとか電気といった約款もあります。それから,銀行取引約款とか,それから裏面約款もあると。そういったものなので,一口に約款と言っても,「定型条項」とくくれるような実態には必ずしもないということなのです。換言すると,各業界さんからの御意見はいろいろな想定されている事態がちょっと微妙に食い違ってるような感じを受けます。そういったところで事務当局が個別の業界の意見をいろいろ経済界のニーズとして拾い上げてくれるのは非常に有り難いのですけれども,その業界とは異なる他の業界さんから見ますと,それでは却ってネガティブな影響があるのではないかという意見を生じることもあります。そういったような形で,ちょっと内部の方でも意見がなかなか集約できないような感じになっております。   ほかにも子会社だとか関連会社,要するにグループの各企業の使っている各種の約款が多くの当事者間で様々な目的で利用されておりますものですから,実際バックアップ委員会の中で議論している我々自身がその実態を必ずしも十分把握できていないといったところもあって非常に不安な感じを抱いているのが現状でございます。   特にそれが表れているというのがやはり約款変更の問題であります。この論点は非常に経済界自身が要望している条項なのですけれども,かなり意見の対立があるようであります。今回の提案を拝見しても,実務運用にとってはむしろ足かせとして作用するのではないかといったような評価をする方もいらっしゃいまして,果たしてこれでいいのかというところがあるかと思います。   それから,特に今回内部で意見が多かったのがやはりそもそもの定義の部分なのです。この定義については,我々は従来からBtoBは外すようにということを主張しておりますけれども,依然として玉虫色的な感じであるということです。今回はバックアップのチームだけではなくて,いろいろな企業法務の方に読んでいただいたりもしているのですけれども,なかなかこの「相手方がその変更を求めずに契約を締結することが取引上の社会通念に照らして合理的であるもの」という,ここの部分の解釈が判りにくく,事務当局から,非常に適用範囲が限定しているのだというようなことを説明してもらっても,我々企業の実務家にはなかなかすっきり理解されないというようなところもあって,適用範囲が非常に不明確で,非常に実務が不安定になるのではないかというような懸念がかなり出ております。   それから,ほぼ同じような取引約款の中にも事業者向けとそれから個人向けと言いますかそういうのがあるのですけれども,それをこの定義だけで本当にうまく切り分けることができるのかという疑問があります。逆にほぼ同種の取引約款にそのような切り分けが必要であるということになってしまいますと,実務運用そのものが非常に難しいものになるのではないかということです。このように,この定義自体についても非常に不安がっておりまして,特にその「合理的」という言葉について,そもそも「合理的」というような言葉で,適用範囲を切り分けようとするところそれ自体が非常に実務的には混乱の元になるということで,懸念や指摘がございましたので,その点だけまず申し上げたいと思います。 ○加納関係官 非常にいろいろな御意見がある中でこういうふうにまとめられていることについては私どもとしては非常に高い敬意を表したいと思っておりますけれども,こういう定型条項の規律を民法に入れるということを前提としましてちょっと補足的に意見ないし,ちょっと確認させていただきたい点もありますのでちょっと何点か申し上げさせていただきたいと思います。   まず,3の開示のところでありますけれども,その中で,これは念のためということでありますけれども,(1)の契約の締結後相当の期間内にというところの意義につきましては,従前の部会資料によりますと契約が継続的なものである場合にはその終了から相当の期間を指す趣旨と書いていただいておりますので,これは逐条解説等でも明記をしていただければ有り難いなと考えております。   それから,(2)のところで今回新しい御提案を頂いておりまして,こういう規律を設けるということについては私どもとしても賛同いたしますが,補足説明の本日のペーパーで言いますと「81B」の17ページのところ辺りで,先ほど御説明もありましたが,詐欺的な消費者被害事案などでということで念頭に置いて一定の不当な目的がある場合に応じないというときに規定しないということで書いていただいているところでありますが。消費者被害事案についてこの種の問題を想定しますと,必ずしも不当な目的があるかどうかよく分からないような事案でも,消費者と事業者の間で言いますと事業者サイドがとなりますが,なかなかその内容を開示してくれないといったトラブルが多いように思います。   詐欺的なというところもさることながら,やはり消費者被害事案というのはやはりどうしても1対多数というところがありまして,要はたくさんの消費者から請求が来るので,事業者からするともうある程度機械的,画一的にやらないとやってられないということで,いろいろ手続を設けたりとか。例えば請求をするということで電話で問い合わせをすると。電話で問い合わせをしてもいろいろガイドがあって,あっち行ってくださいこっち行ってくださいということでやってなかなかたどり着けずに,ようやくその話を聞いているところにたどり着いたらホームページを見てください,ホームページに書いてありますよといってホームページを見たら日本語でなくて外国語で契約条項が書いてあって,結局分からなかったとか。そういうふうにいろいろと,それは事業者としてはそれなりに合理性があってやってるのだということだと思いますけれども,消費者からすると結果的にはなかなか開示に至らないというようなこともあると思います。それがむしろ多いのではないかと思うわけでありまして。そうしますと,今回の条文案で言いますと,妨げる目的というところがやや厳しいのではないか。消費者被害を念頭に置くのであれば厳しいのではないかという気がいたしました。   これは民法においてこのように規定するということと,例えば消費者政策等によって別途やるということはあり得るという前提で私どもとしては理解しておけばいいのかなと思っておりますけれども。消費者被害事案を念頭に置くということであればややハードルが高いのではないかという気がいたしました。   それからもう1点は,大変恐縮ですけれども,確認というか質問になりますが。6の定型条項の変更のところで,(1)のただし書というところで要件として契約内容を変更することができる旨定められているときに限るというところは維持されているということで私どももこういうふうな考え方の方がよいとは思うわけでありますが。   ちょっと確認させていただきたいのは,変更できる旨の定めというのも契約条項になると思っておりまして,その変更することができる旨の契約条項が消費者契約法その他の関係法によって無効となるということも可能性としてはあると思いますが,そういうふうに無効になった場合には(1)のただし書の規律に当てはまらないということになるという理解でよいのかどうかというところをちょっと確認させていただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,今の御質問について事務当局から御説明をお願いします。 ○村松関係官 今御指摘ありました最後の点につきましては,優先して適用される法律で効力を認められなければ,もちろん条項が不存在ということにはなろうかとは思います。ただ,合理的な変更に関する条項というものはあり得るというのが今回の前提ではありますけれども。とはいえ,優先する法律の適用の中でそれが排除されたのならもちろんそれはないという前提になろうかと思います。   それから,「相当の期間内に」の意味も御指摘のように従前から説明変わっておりませんので,継続的なものについてはその終了後ということで,今回もそのとおりの前提としております。   妨げる目的の解釈についても,消費者被害の事案に対処する観点と,それから他方で民法一般でございますので,取引に与える影響等々を勘案してというバランスとして一つこの辺りかなというのが今回の提案というのが趣旨でございます。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。ほかの御意見いかがですか。 ○神作幹事 定型条項の変更について御質問させていただきます。6の(1)は,相手方の合意なしに契約内容を変更することができるという条項がないと一切定型条項を変更することができないというご趣旨なのかどうかについての御確認です。たとえば,相手方の利益に適合することが明らかな場合でも契約変更に係る6(1)の条項がないと,定型条項を変更するためには相手方の同意が必要となるのかという御質問です。例えば税法の改正等で定型条項のある条項が無意味でかえって不合理な内容になってしまったというようなときでも,変更に係る条項がない限りは当該定型条項を変更できないという趣旨だとすると,私はやや硬直的なのではないかと思い,その点について御確認させていただきたいというのが第1点です。   次に,相手方と同意することなく定型条項を変更する場合,例えば相手方に異議があれば契約解除ができるなどの一定の手続を置いた上で,当該手続を経て異議が出されなければ相手方の合意があったものとみなします,あるいは合意があったものとしますというような,6(1)以外の定型条項の変更に係る規定を置いた場合には,6(1)の規定の適用を外れることになるのか,という御質問です。個別に相手方と合意をすることなく契約内容を変更する場合,ということはどこまでカバーしているのか,6(1)の射程についてお尋ねしたいと思います。   もし6(1)以外のルートで先ほど述べたようなタイプの定型条項の変更があるとすると,6(2)の周知をしなければいけないというのは(1)の規定に基づく場合だけではなくて定型条項を変更する場合に一般的に係ってくるべき規律なのではないかとも思われますので,この点についても,教えていただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○村松関係官 すみません,ちょっとよく聞き取れていなかった部分があったような気がして申しわけございません。お答えが足りなかったらまた申し付けていただければと思いますけれども。この変更について合意することなくということの意味自体は個別に合意をして変更することは一般にできるけれども,ここではそれをしないでやるルートとしてこういうルートがありますということを規定しています。   先ほどおっしゃった手続を定めるというのをどういう形で行うのかというのがあるかと思いまして,例えば法律で別途特例を定めるということはもちろんできるだろうという気はしております。それとは別に何となく今伺って思いましたのは,定型条項の中にそういったこういう手続を設けるので,その上であればよろしいですよねといったようなことを設けるということだとすると,それはある意味変更に関する定めはありつつ,その変更の仕方について自らが合理的と思う仕方を定めていて,それに従ってやるということだと思いますので。ここの中に入った上で(1)のイでその手続の合理性を踏まえてその内容の審査を行うということかなという気がいたしました。   それから,若干この変更について契約上明瞭にしておくという観点ですけれども,変更することができるということを約款に盛り込んで合意しなければいけないというのは硬直的だという観点は確かにあり得ます。ただ,新規の契約についてはこういうことを入れるというそういう実務慣行を養っていただくということでよいのではないかなという気もしておりまして。   この間,経済界の方からの御意見で変更が使いにくくなるのではないかと,このようなただし書を設けますと使いにくくなるのではないかという御指摘がございまして,その理由は,一つには既存の契約で入れていないものが多数まだありますと,入れているものも相当あると思うのですけれども,入れてないものもあり,そういった既存の契約についてこの新法をどのように適用していくのかという問題があるということでした。一つは経過措置の問題ですので,遡及適用するのかという問題があり,遡及させたとして,ではこの合意についてどのように扱うのかという問題が更に別途出てくるということでございます。そういった辺りについては今の実務も踏まえつつ,悪影響が出ないように経過措置において様々な配慮があり得るのだろうと考えておりますので,そういった配慮は必要になってくるのではないかとは思っております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○沖野幹事 既に御回答を頂いたところなのですけれども,念のためということで申し上げたいと思います。一つは,定型条項の変更という点でして,神作幹事がおっしゃった懸念を非常に強く持ちます。元々この定型条項の変更は,本来は一旦契約したものを変更するには個別の合意が必要なところ,それが困難であってかつ必要性や合理性があるという場合に例外的にルートを作ろうというものであり,元々変更できるという約定がある場合,その変更できるという条項が合理的な形で全てを書ききっているというようなものであればそれは条項の問題であり,書ききってないのであれば不当条項の問題だということですから,むしろ条項がない場合の変更こそが本来の規律ではなかったかと思います。   そういう個別の合意によらず,条項がないというような場合であっても,多数ですとか不特定といったことから個別合意をとるというのは著しく困難で,しかしながら法律への対応ですとか明らかに相手方にとって利益になるというような場合についてはルートを設けるということが大量な取引にとって望ましいというか必要な規律だという考え方からしますと,これはルートとしては逆ではないかとも思われるところです。   ただ一方で,個別にそれぞれの約款に,この規律が入れば常に変更できるという定めを置くことになるのだと思います。かつ,それは非常に重要な定めですから契約の締結に当たっては個別の説明などが必要な条項ということになってくるのではないか,したがって,それによって,こういうときには変更される余地がありますよと,常にアラートするということになります。そういうような形で契約の実務が行われていくのであれば,一定の合理性もあるかとは思います。しかし,神作幹事がおっしゃったような局面において全くできなくなるということは非常に問題だと思われます。   条項を置くということになりますと,これは関係官からの御質問に対しての応対でよく分かったのですけれども,当初この資料を読んだときには,もう一方的に変更できるという条項ばかりが入ってしまうということになり,かえって不当条項ばかりが存在するということになりかねないという懸念を持ちました。けれども,御回答によりますとそういう条項を置いたとしてもそれは無効なので定めがなくて,そうすると新法対応のようなものについても変更はできないということになってしまうという話になります。本当にそれでいいのかというのも懸念を持ちます。このただし書については再考する必要があるのではないでしょうか。   そして,不特定多数というのに限るということが少し問題であるならば,それは例示とした上で,しかし個別合意を取り付けることは困難であるという要件は残した形にすることも考えられるのではないかと思います。それが1点です。   もう1点は内容となるための要件についてなのですけれども。2の(1)で表示をしたときについて,前回は異議を述べないでというのがありました。しかしそれは無意味であるということで削除されました。さらには,その異議を述べておきさえすれば拘束力を否定できるかのような誤解を生じさせるおそれもあるので,この表現は削除したと書かれています。相手方からこの契約はこの条項によりますと表示されて,いや,それは困りますと言った場合,これによらないなら条項準備者の方が契約を締結しないというのがむしろ合理的です。それで結構だということであれば,そのような誤解を生じさせるおそれもあるという記述が果たして適切なのか。それから,異議を述べないでと書いても,異議を述べたら普通は契約しないのだから契約が成立しているということは余りないといっても,考え方として,一方的に表示さえすればもうそれでいいのだというのではなくて,異議を述べないという消極的合意があるときにはという形で当該約款によるという合意がされている,基礎付けとなる当該約款による合意について,言ってみれば積極的になされている場合と,消極的な合意の場合という双方がありえて,消極的な合意の形を示す意味で異議を述べなかったということを置くことにはそれなりの意味があるのではないかと思います。もう一度考え直していただけないかという趣旨です。 ○潮見幹事 沖野幹事がおっしゃられた後半の部分について,私も同意見です。その上で,先ほどの佐成委員の御発言があって,この案でも納得されないということでしたから,私の方からも少しそれに関連した意見を申し上げさせていただきたいと思います。   私自身は佐成委員とは全く逆の意味でこの案というものについては若干承服できないところがあります。その意味は,先ほど沖野幹事がおっしゃられたところにも関わりますけれども,基本的に契約で約款になぜ人が拘束されるのかということを考えたときに,相手方の意思というものを抜きにしてその約款への拘束などということを考えるというのは無理ではないかと思います。異議を留めた場合には沖野幹事おっしゃったとおりで,むしろそれは約款による契約の成立が認められないというか,約款自体が契約内容にならないというそういう方向にもっていくのがむしろ自然ではないかとも思います。そのように見たときには,78Bがギリギリと言いましょうか,あれなら皆さんがいいと言うのであれば強く反対はしないつもりでした。ところが,今回のこの案を見たところでは,先ほど沖野幹事おっしゃられた2の(1)というようなものが新たに入ってき,さらに異議を留めずという部分が落っこちています。そうなるとそもそも約款による拘束というものがどうして認められるのかという基本的な枠組みというものが完全に変質してしまっているのではないかと思うところがございます。   そういう意味では,変更約款の技術的なところはともかくとして,そもそもこういう約款による契約というもので定型条項という規定を置くことで,この種の規定内容を民法典に定めるのはやや性急ではないのか。あるいは少なくとも民法の理論とそごを来すのではないか。そういう意味で,佐成委員がおっしゃった意味とは逆の意味でこの案には私は賛成できません。 ○大村幹事 私も沖野幹事の御発言に関わる点でございますけれども,後半の部分については沖野幹事,それから潮見幹事の御指摘に賛成で,異議なくというのは残していただいた方がいいのではないかと思います。   その上で,全体として約款に関する規律を残すか残さないかという点については,潮見幹事のお考えはよく分かりますけれども,できるだけ約款に対する考え方を維持し得るような案を残すということで合意調達をなお図る必要があるのではないかと思います。   沖野幹事がおっしゃった第1点についてですが,具体的な御提案として6の(1)の柱書きのところに個別の同意を得ることが著しく困難ということを書き込んではいかがかということだったと理解いたしました。私はそれができればそれがよいのではないかと思いますけれども,それが難しいということであれば更に一歩後退して,イの中に個別の合意を調達することの困難さという要素を一つ加えるというのがもう一つあり得る選択肢かと思っております。   ただ,前回の審議までの案ではずっと個別の合意を得ることが著しく困難であるということが明示されておりましたので,何らかの形でそれを残すということはお考えいただきたいと思います。事務当局からの御説明の中では,それは定型条項による契約というものに内包されているという御説明でした。その説明は分からないではありませんけれども,なぜ個別の合意なしで契約条項の変更ができるのかということについて説明の手掛かりになるような文言を是非明示的な形で,場所はどこであれ残していただくということを強く要望いたします。その上で,それで何とかやっていきたいと思っております。 ○岡田委員 今まで大変心強い御意見をたくさん頂きましたので,私としてはとても勇気を頂いた感じです。ただ,佐成委員の御意見を伺っていて約款規定や定義について,いろいろなものがあって,ここに一言で盛り込まれないものが多いから反対だというようなことを言われたように理解しましたが,だからこそ約款の定義,約款規定というのが必要だと私たちは思います。ですが今回の提案は内容的にも私たち消費者から見てどうも分かりにくい文言になってしまったと思いますし,この約款規定全体に加えて,佐成委員の大変御配慮を頂きましてという言葉を横で聞いておりますと事務局の御苦労というのは伝わってきます。ですが,是非ともこの民法改正部会の大きな目玉であるということに関して,決して消費者のためだけではない,中小企業だってそれから大きな企業だって約款というものは規定が必要なのだという声も聞いております。その意味では一つの経済界の意見で私たちが結局従わざるを得ないような状況になったとすれば大変残念に思います。   それと中身なのですが,先ほどらい加納関係官がおっしゃった3の(2)が加わったことに関して,私も評価しております。ただ,妨げる目的で不正にということでダブル締め付けが入ったということに関して,何で二つ必要なのかな,これ二つともいらないのではないか。ないしはどうしてもというのであればどっちか一つでいいのではないかと思えて仕方がありません。   それから,6のことに関して,変更に関してはもう皆さんおっしゃるとおりで,元々私たちが合意してないし,内容もよく理解してないのに拘束されるという形になりますので,納得できません。ですが,学者の方々の御意見を聞きますと,まあないよりはいいし,事務局の御苦労というのも大変伝わってきますだけに,ここに関しては私の意見は差し控えます。   ただ,5に関して,これも私はこの約款規定の中で消費者契約法の10条との違いがよく消化できてない気がしますが,これは大変評価したいと思いまして,是非ともこの規定も残していただきと思っております。 ○山本(敬)幹事 既に何人の方かがおっしゃっていることと重なる部分が多いのですが,前からこの約款ないし定型条項については何度か意見を申し上げてきました。基本的な考え方は,先ほども出ていましたように,本来は,約款によるという合意が必要であって,そしてその前提として,契約内容を見ようと思えば見られる状態にすること,原則として開示が必要であるということが出発点だったはずですが,それだけではいけない場合が,取り分け公共交通機関の約款などを見ればあるということは従来からも認められていて,それをどう表すかということが課題になっていたと思います。   そのような例外が認められる場合は,恐らく,今回の提案で言いますと,2の(2)に書かれているような場合ではないかと思います。つまり,約款によるという表示をすることも困難であって,しかし同種の契約において定型条項によるのが通常であって,しかも特定の定型条項によることを公表しているような場合であれば,その例外を認めてもよいでしょうし,このような場合であれば,3の(1)で,これはそのままでよいかどうかはもちろん問題なのですけれども,開示に代えてこのような手続を用意する。しかし,このような手続すら守らない場合は,やはり契約の内容にならないというのが本来の筋ではないかと思います。   したがって,仮にこの案を事務局の御苦労に鑑みて何とか残すとしても,やはり最初の定型条項の定義がまだ緩いのではないかと思います。2の(2)に当たるような事柄まで絞り込めば,何とか維持できるかもしれない。しかし,定義としてはそこまで絞れない。しかも,2の柱書きにある合意した場合のほかの例外が(2)だけではなく,(1)のようなものをどうしても残さなければならないというのであれば,そしてまた3の開示に当たる要件をここまで,開示とすら全く言えないようなものにまで広げるとするならば,何人かの方がおっしゃっていましたように,これはもう維持できないのではないかと思います。   その他の点についても幾つか申し上げたいことはあるわけですけれども,ここでは差し当たり以上のように意見を述べたいと思います。 ○松本委員 何人のかの方が指摘された3の(2)です。契約の締結前に定型条項の内容を見せてくれと言われても断って構わないと。ただし,それが内容を認識することを妨げる目的で不正に断ったのだという立証を相手方がした場合に限って契約内容にならないというのは余りにも狭すぎて,(1)に書いてあることと全く逆のことを言っているということになると思います。   したがって,この(2)が残ってるような案であれば私は賛成できません。せめてここをひっくり返して,ただし,請求に応じられなかったことに相当の理由があった場合はこの限りではない,契約内容になるのだというふうにしていただきたい。少し一般条項的になりますけれども,事前の請求に応じられなかったことに正当の理由があったかなかったかという判断基準で,その立証責任は定型条項準備者側に負わせるというのが,一般民法の基本的考え方だと山本敬三幹事が強調されていることだと思いますので,是非3の(2)についてのルールの変更を御検討いただきたいと思います。 ○山下委員 約款のこの現在の提案全体について諸外国の約款の規律などと比べると相当後退したものになっているというのは明らかで,先ほど来多々問題点が指摘されておるところで,佐成さんに御了解いただくためにいろいろこういうことになっているわけではありますけれども。まあ,そうではありながら,民法に約款の規定を作ろうというのが事務当局の基本的な方向性ということであれば,民法の規定としてはこれで全体のコンセンサスが得られるのであればこういう方向でまとめていければと思っております。   ただ,今回加わった6の定型条項の変更の所は,やはり先ほど来委員,幹事の先生方の御指摘あるように,これだと変更留保条項をどの約款にも置きなさいということを奨励しているようなもので,これは先ほど加納関係官もおっしゃっていたと思いますが,何も限定を付けないで変更できますというのは典型的な不当条項で,それを民法が基本型として置くというのはやはりどこかおかしい。何でそういうおかしいところへなってきたかを考えると,これ通常の約款は変更するのがなかなか難しいので,こういう便法を設けて少しでも佐成さんが了解しやすいようにしてあげましょうということになっていたのですが,そこへお客が多数でない,あるいは特定でない者がいて,それだと使えないから駄目だという声が出て,それを何とか採り入れようとして,何か変な方向になってきて現在のような案になっているのだと思います。   多数でない,少数だからというのはどのぐらいが多数あるいは少数なのか,そんなきっちりした定義もないので,約款ですからそれを使い始めたころは相当のお客さんはいた。それがたまたまある商品なりサービスというのは次の新商品が出たりしてお客さん少なくなったといっても,そんな一人二人まで減ったというのであれば,これはもう個別の処理をすればいいだけで,お客さんの数が減ってきたといっても相当の数はいるのではないかという気はするのですね。そうすると,そういうお客さんが減った場合に使えないからというような声を全部いちいち気にして条文に反映させる必要があるのか。この6の変更の規定を使える場合というのは一般的に緩やかな意味での多数であれば使えるぐらいのところでして,こういうただし書のような変な規定は設けないという辺りの処理をしてはどうか。   少なくとも(1)のアの相手方の利益になるときでさえ変更留保条項を置いておかないと変更できないというのはこれは明らかにおかしい硬直的な扱いなのですね。その点は少し現実的に規定の案を考え直していただいた方がいい。それで変更の規定は私は本来なくてもいいと思っていたのですが,どうしても妥協のための手段で必要だというのならそういう形で残す。今回の提案で言えば(1)のただし書は削るという辺りで処理できないかなと思います。 ○中田委員 基本的に今,山下委員がおっしゃった御意見に賛成です。佐成委員が一貫して反対のお立場を示してこられているのですが,これは恐らく経済界の中にもいろいろな業種があって,それぞれの御意見を反映しようとするとまとまらないという背景があるのではないかと思います。しかし,その結果として個別の意見に対応しようとして全体としての成案がかえって妙な規律になってしまうというおそれもあると思います。ここは何とか大局的に民法に規定を置くという方向で御検討いただければと思います。   中身については私もいろいろ言いたいことがありますし,例えば沖野幹事が先ほどおっしゃったようなことは2点とも賛成です。特に変更条項について申しますと,今山下委員のおっしゃったことに加えまして,6の(1)のイの文言のうち,「変更の必要性」というのを「変更の必要性及び相手方との個別合意を経ずに変更することの必要性」とし,それから「定型条項に変更に関する定めがある場合にはその内容」とあるのを,「定型条項に変更に関する定めがあるか否か,ある場合にはその内容」と書き込むことによって,変更の合理性を実質的に確保するという方向がよいのではないかと思います。 ○鹿野幹事 もう既に多くの意見が出されたところで,重複する部分もあるのですが,改めて意見を申し上げたいと思います。   まず第1点は,約款規定の必要性についてです。なお佐成委員からこのような規定を設けることに反対という意見が出されてはいるのですが,これも繰返し言われてきましたように,今日の取引社会においてこのような約款ないし定型条項を用いた取引が非常に多いにもかかわらず,最低限のルールさえ民法に置かれていないという事態が果たして適切なのかということは,やはり改めて考えた方がよいのではないかと思います。   それから,特に約款の組入れについては,今までのルールが余りにも不明確だったで,その点について,ここでの議論より前には,実務でそれほど意識されず,特に経済界では余り意識されなかったところがあるのかもしれません。しかし,既にここで指摘されてきましたように,基本的な考え方としては,契約の内容になるためには原則として当事者の合意が必要であり,一方当事者が用意した条項が当然に契約の内容になるものではないこと,ただ,特に多数の当事者と取引をすることが予定されているような場合に個別的な合意を得ることは難しく,実際の必要性から,約款につき一定程度,合意要件の緩和を認めざるを得ないこと,それでもなお,契約というからにはその中に組み入れられるための最低限の要件が設けられるべきだということがあり,具体的にどこまで必要とされるのかということで,組入れ要件についての議論があったのだと思います。   佐成委員の先ほどの御発言を聞いておりますと,仮に約款の規律を設けたとしても,約款の定義に該当しないものについてはフリーであるというような,つまりここでの組入れ要件を満たさなくても契約内容になりうるという理解に基づく御発言があったようにも聞こえました。しかし,私の理解するところでは,この1の定型条項の定義に該当しない場合は,たとえ2の要件を満たしてもそれだけで直ちには契約内容にはならないということであり,そのことは当然ここで前提とされているものと考えておりました。お聞きしていて,そこのところにつき今一つまだ意思の疎通がないのかもしれないと思いました。   なお,私としては,先ほども申しましたように,約款についての最低限のルールは民法に入れるべきだと思っておりますが,仮にこれが実現されなかった場合でも,ここで議論してきた基本的な考え方が何らかの形で今後の解釈論に反映されるということを期待したいと思っているところです。   ですが,規律を設けるということを前提にしてさらに申しますと,先ほどの基本的な考え方に照らしましても,2の(1)において,異議を留めないということの文言が落ちてしまったことは残念です。異議を留めないということによって,消極的であれ,これを契約内容にすることについての合意があったときにそれが内容になるということが確保されていたように思います。この異議を留めないということについては,可能であれば復活していただければと思います。   それから,3の開示の所についてです。前回私が欠席をしましたときに,これについてもいろいろな議論があったのかもしれません。ここに記載された内容は,本来の姿からはかなり後退しており,また他国と比べても進んだルールとは言えないようにも思われます。ですが私は,3で積極的な開示というものは要求されてはいないけれども,消極的な形で認識可能性の確保は最低限要求されているものと理解した上で,これを消極的ながら支持したいと考えているところです。   それから最後の点になりますが,6の(1)のただし書につきましては,既にご指摘がありましたように,このただし書をこのような形で入れると逆効果となることが懸念されますし,これにより積極的効果を期待することは非現実的な側面もあります。そこでむしろ,定義ないし前提要件の中に個別の変更合意を取り付けることが困難である場合であることを盛り込んだうえで,ただし書自体は削除するというような方向でよいのと思います。 ○高須幹事 非常に難しい問題というか改正の難所が幾つもあると思ってきて,難所を幾つか乗り越えてきたと思っていたのですが,やはりここ最後の最後の難所になっているような気がします。   この種の規定を置くことの問題点について,いろいろな立場からの御発言があって,なかなかいい案だねという形での収まり方を全くしていないというのは,今日の議論の状況で私どもも理解しているおるわけなのですが。ただ大事なことは,この約款の規定を置かなかった場合との対比ということを考えねばならないのではないかと思いました。5年間の改正作業の中で債権法の改正ということで随分いろいろな議論をさせていただいて,私どもも大変勉強させていただいて,契約の拘束力ということについて非常に大きな関心を持つようになったというのが率直なところでございます。それと同時に約款というのは希薄な合意という言葉で議論してきましたように,必ずしも通常の契約法理と同列に論じることのできない異質なものであるということが明らかになってきたのだろうと。そのときに,従来から約款取引って有効だよねと何げなく言ってきているわけですが,本当にそうなのだろうかということを考える契機になったような気がします。これはこのメンバーだけではなくて,この法制審議会の審議の内容を見守っている多くの法律家や,その他にもいろいろな方が同じような意見を持ったような議論の経過ではなかったかと思います。   そのときに,一方で契約の拘束力ということを重視する契約法理を設けておいて,約款法理について何も規律を設けないということになったときに,従来の約款法理がそのまま本当に今後適用されるのだろうかどうか,民法に何の規律もないにもかかわらず希薄な合意のままで本当に何らかの法規範を形成できるのだろうかということが心配になります。その意味では,今回の規律が十分なものでないにしろ,やはり何らかの規律が民法にないと,これは法の欠缺と言われてしまうのではないか。そうだとすると,それなりにいい法律を作ろう,いい民法を作ろうと思ってここに集まっている我々でございますから,作らないことに対して,それは大きな悔いが残ることになると思います。内容が必ずしもベストなものではなくても,必ずしも皆さんの意見が完全に一致するものではなくても,やはりないよりはましなのではないか。諸外国に比べて緩やかであったり,遅れているとしても,ない国よりはいいのではないかと思います。   そういう意味ではやはりここまで努力したのですから何か形を残せて,それが次の法律家の,あるいは法律家ではなくても社会全体の何らかの礎になれば,苦労したかいがあるのではないかと思います。約款論について何とか規律が残せないか,今日の議論の中で表現がいろいろ問題があるということであればもう一度事務局に,大変申しわけありませんが,その表現ぶりを検討してもらう,今回はB論点ですからある意味ではまだ表現づけるところまできてないと思いますので,表現ぶりも考えていただいて,具体的な案としてのものを出していただいて,それで最後にともかくそれでいけるかどうか判断するということがもう一回許されてもいいのではないかと思います。私どもが作った民法に欠缺はないと言えるような法律にしたいと思いますので,是非ともそういうふうにしたいと思います。 ○山本(敬)幹事 続けて発言をさせていただきます。私自身は先ほども申し上げたとおり,約款に関する規定が必要であるということが大前提です。ただ,このような提案をそのまま規定にするわけにはいかない。仮にここに提案されているものをいかすとするならば,適用される定型条項の範囲を絞るしかないのではないかということを申し上げました。ないよりはましではないかというようなことが出ていますけれども,仮に定めて何か弊害が出てくるようなことがありますと,やはりない方がよかったということになるかもしれません。   私自身が一番気になりますのは,2の(1)については既に何人の方かが指摘されていますけれども,3の(1)も大きな問題があるだろうということです。3の(1)が定型条項の範囲を絞ればあり得るということは先ほど申し上げたとおりなのですが,定型条項の範囲が少し広いまま残ってしまいますと,この3の(1)を卒然と読めば,相手方から求められない限り,事前に定型条項の内容を示す必要がないというメッセージを送ることになると思います。しかし,御承知のとおり,現在の市場社会の公正なルールとしては,当事者に自己責任を求める前提として,少なくとも自己責任を引き受ける上で重要となる事柄については事前に分かるようにしておくことが要請されています。だからこそ,多くの法律で事前の開示規制が強化されているわけです。   そのような方向性と,この3の(1)が広い範囲に適用されるとしますと,やはり相容れないのではないかと思います。民法では事前の開示が必ずしも要求されていないのだから,開示をする必要はないというような声がもし出てくるとしますと,それは弊害と言わざるを得ないのではないかと思います。仮にこのような規定を置くとしても,適用される対象を先ほど申し上げたように限定することが不可欠ではないかと思います。   それから,6の定型条項の変更についても,先ほどから出ているとおりなのですが,山下委員その他の方がおっしゃいましたように,このような(1)のただし書を定めますと,変更留保条項を置くことを約款実務としてはせざるを得ないと思うのですが,これは,やりたくてやるわけではないのだろうと思います。特に健全な企業にとっては,このような怪しい条項を自ら入れなければならないことになるのは,耐え難いことではないかと思います。そのような実務を後押しするようなことを民法がすることになってしまうというのも,弊害の一つになるのではないかと思います。 ○中井委員 これまでの議論を聞いてまして,研究者の皆さんがこの案に対して厳しい意見をお持ちだということは理解いたしました。   まず,弁護士会の皆さんの意見を聞きました。その結論だけ言いますと,約款規制は是非民法に入れてくれ,今回の提案についてやむなし,受け入れたい,というのがバックアップ委員の皆さんの意見でした。かなり研究者の皆さんとのニュアンス,感覚の違いをこの席で聞いていても感じました。   個別に私の意見を申し上げますと。沖野幹事が最初におっしゃられた6の変更(1)のただし書については御指摘のとおりだと私も思います。ここは何とか資料「77B」の形を参考にして練り直していただけないかと思います。   沖野幹事が言われたもう1点,2の(1)表示のみになって,75Bにありました異議を述べないということが削除されている。ここについてかなりの研究者委員,幹事の皆さんから御批判がありました。しかし,ここは考えようによってはのみ込めないのか。表示があった,その後それを知って契約をしたわけですから,異議があれば契約をしなかったとも言えるわけで,契約をしたということから異議がなかったのでしょうということで無意味な記載だと事務当局が説明されたのも理由がないわけではないように感じます。   しかし,その点はさておき,弁護士会の感覚を先に申し上げますと,なぜ賛成かと言うと,今の御議論でも4の不意打ち条項,5の不当条項,この点についての言及はそれほどありませんでした,反対もそれほど少ないのではないかと思います。弁護士会が思っているのはこの二つの条項が約款規制に入るということを目指したいという点にあります。研究者の方々からすれば合意の拘束力の根拠,約款に拘束される根拠は当事者の合意だと。当事者の合意を最低限この約款の中で盛り込むとすれば,表示と少なくともそれに対する異議はないという態度から定型条項による合意を推認させる,ここで正当化を図ろうとされているのだろうと思います。しかし,実務感覚を正直に申し上げますと,事前に提示をしても現実に約款の中を精査し読んで確認をしているのかといったら,恐らくそういう実務ではないと思っています。この異議なくというのをどの程度考えるのかによりますけれども,基本的には表示があって,それが見れる状態にして,その上で契約を締結するとすれば,基本的に異議なくになるのではないか。   若干言い過ぎになるかもしれませんけれども,この組入れ要件を余りギリギリとしなくてもむしろ組み入れていい,その代わり不当条項規制や不意打ち条項規制の内容規制にこの民法が介入する,こちらの方に相当ウェイトがある。仮にこの組入れ要件がこうならなくても現実の実務では,これは佐成さんが内心思っているのかもしれませんけれども,約款は全ての契約に適用されて,事実上拘束されている,その実務があると思うのですね。ここで今先生方が御議論されていることで,一歩か二歩か三歩か分かりませんけれども,前に進むのだろうと思いますけれども,その効果は理論的には決定的に重要かもしれませんけれども,実務的には正直言ってそれほど差異がないのではないかという感じを持っています。   とにかく約款規制を作る,その中に内容をコントロールするための条項を少なくとも入れていただく,これが民法にあるということの意義,これを弁護士会は強く感じています。何とか残せないものかと改めて思う次第です。 ○道垣内幹事 異議を述べなかったというところはなくても何となるのではないかということについては中井委員のおっしゃるところに私も賛成いたします。ただ,その理由として,合意ないしは当事者の意思というものを契約の拘束力の根拠だと一生懸命言わなくても,実務は変わらないというとおっしゃって点については,そのような認識で民法作っては駄目だと申し上げておきたい。ただ,結論については賛成します。 ○潮見幹事 同じことを言おうと思っていたので,ちょっと別の言葉で申し上げます。実務がやっているというのはそのとおりかとは思います。ただ,そういう実務がやっていることというものが民法の考え方としてどのように捉えられるのか,あるいは今実務がやっていることは本当に正しいことなのか,そういうことを含めて約款というものの法制度の在り方というのを考えていき,それを民法の規定としてできるのであれば実現するというのがむしろ本来の筋ではないかと思います。   そういう意味では,先ほど高須幹事がおっしゃられたところにも異論をはさんでしまうこととなり,申しわけありませんけれども,約款というものの規定を置かないということと,約款についての変な規定を置くということの比較というのはやっていただきたいと思います。この段階で約款の規定が入らなかったからといってこの議論が無になるわけではありません。ここでの議論が無になるわけではないと思いますから,そういう意味では少し慎重にその部分は考えて,雰囲気に流されない方がいいのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。今回の資料で変更を加えた点を中心に様々な観点からの御意見を頂戴いたしました。これを踏まえて更に検討を続けたいと思いますが,事務当局から補足的な御説明を。 ○筒井幹事 本日も多くの意見を頂きまして,ありがとうございました。依然として合意点を見出すにはまだ距離があるわけですけれども,引き続き合意点を探る努力を続けていきたいと考えております。   その上で幾つか御指摘いただいたことについて,また担当の関係官から補足があるかもしれませんけれども,1点申し上げておきますと,定型条項の開示について,現在は組入れ要件と一応切り離した形で開示の義務というものを規定しています。その理由については以前の部会資料で詳しく説明したとおりですし,この部会での合意形成という観点からはこのような仕切り方を変更するのは非常に難しいのではないかと考えております。   その上で,今回は,開示について組入れ要件とは一旦切り離した上で,しかし明らかに正義に反するような拒絶がされた場合についても何ら対応できないのでは問題が大きいといった前回の御指摘を踏まえて,今回は3(2)を設ける方向で修正したわけです。これについて要件が厳しいとか,あるいはそもそも開示を組入れ要件から一旦切り離すということ自体に問題があるという御指摘があるのは,御意見としては理解いたしますけれども,取りまとめの方向としては,これまでの議論をくみとりながらこの修正案を御提示したということを御理解いただきたいと考えております。 ○村松関係官 今筒井の方からも発言ございましたけれども,今日指摘が集中しております三つの論点のうち3の(2)については従前の基本的な考え方をこの間の議論を踏まえて修正してきているというところでございまして,基本的な考え方をここで示しております。この論点については法制的観点も踏まえつつ,洗練と言いますか,ある程度条文を意識したような形での表現にするに至っていないとこちらでも認識しております。今日も御意見を様々いただいておりますので,それらも踏まえてもう少し条文を意識した形にできればと思っております。3の(2)については基本的な発想はこういう発想であると。消費者の事案などを念頭に置いてそういった不当に拒んだような人たちの対策も立てなければいけない,そこの点では歩み寄りというと語弊があるかもしれませんけれども,なおそのバランスをとりにいこうとこういう発想ですので,この書き方が最終的にどんな形になってくるのかをまた御覧いただければなとは考えております。   それから,2のところで,特に2の(1)の関連で,「異議を述べないで」という文言を外した理由はここにも書いたとおりですけれども,異議を述べて契約を締結するということは実際あり得ない,それはその契約は不成立になっているはずだというのが事務局として考えたところです。したがってそういった契約には拘束,元より全体との関係でも拘束されないという結論になるはずだ。したがって,ここに書くのはおかしいのではないかと,このように整理されるだろうということを考えたところでございます。それをなお残すというのがどういう理屈でそうしていけるのかという点も含めてもう少し考えてみたいとは思います。2についてもその意味でもう少し検討を進めたいと思います。   あと,6番の(1)のただし書で変更に関する条項を置くということについてですけれども,この関連で個別合意の困難性というものをイの中に盛り込むとよいのではないかという御意見を大村先生,中田先生から頂いておりまして,確かに変更の必要性の中にはそういったことも入っているはずですけれども,書くのと書かないのとでは理念の分かりやすさというのが確かに違うような感じもいたしまして,その点はよく考えた方がいいのかなと話を伺っていて感じております。   それから,ただし書のこの条項を設けることが実務的にどうかという点と,それからそういった条項が蔓延することがちょっとおかしなことではないか,不当条項の典型といわれる条項を設けることを奨励するのは変ではないかというのはある種分かるところではあるのですけれども,今回の定型条項の変更の考え方は,定型条項の定義の部分で既に一定の類型に限っていますので,そういった変更というものがある程度そう必要になりそうだということが基礎付けられている。それに加えて個別合意の困難さも踏まえて合理性を確かに判断するという枠組みのはずですので,先ほど御示唆いただいたところですけれども,そういったことも踏まえてその変更については要否を考えていく,そういうことがこの変更を正当化する基礎なのだろうと私も感じております。   つまり,定義とそれから困難性のところは合理性の中で判断していくという前提ですけれども,そういったことを前提にその合理性は考えていく。   それに加えて,ではなぜこういう変更に関する条項が必要かと言えば,それはその条項に基づいて,それを正当化根拠として変更するとは私ども説明するつもりはございませんで,せめてそこぐらいは相手方との関係でも定型条項の中に入れておいていただきたい,それぐらいはしていただきたいというだけであろうと思っております。ある意味,この新しくできた定型条項の変更の規定による変更をしますよということを示せというだけのことですので,それを全体として不当条項が蔓延するということになるなどとまで言わなくてもよろしいのではないかというような気が個人的にはしております。もちろん変更すること自体おかしい類型があると,いくら定型条項という類型であってもそういった変更することはそもそもちょっと合理的ではないよねと一般的に思われれば,最初の話ですけれども,他の規定,一般条項の規定で効力が否定されるということはある。ただ,他方でそれなりに変更は必要だという意見も多うございますので,そういったものについてこの条項を根拠にするということではないですけれども,この条項がないと法律では変更できない,その変更のスイッチのようなものが条項の中に入っていないといけないという意味合いで御理解いただけないものかなというような気もしております。   引き続きここも頂いた今回の宿題,大きな三つということで理解しておりますので,検討いたします。 ○山本(敬)幹事 今の説明については,何度も申し上げますように,定型条項の限定が必ずしも十分でないということを繰り返した上で。さらに,定型条項の変更についても,かなり以前,中間試案の段階ぐらいまではあったように思いますけれども,変更留保条項を入れることに合理性があるのは,変更留保条項の中にどのような場合にどのような変更するのかということが示されている場合だろうと思います。そして現実に,健全な企業であれば,定型的に変更せざるを得ない事態が予想されるときには,そのような形で限定して変更留保条項を入れるのではないかと思います。そのような限定をしない包括的な変更留保条項は不当条項の典型であって,入れたくないというのが本当のところだろうと思います。それが,このままの形では入れざるを得なくなってしまうのが問題であるということを改めて述べておきたいと思います。   さらに1点質問をさせていただいてよろしいでしょうか。5の相手方に過大な不利益を与える契約条項の効力で,最初の方に岡田委員が指摘された所なのですが,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害するものであるときは」というのは,やはりどう見ても消費者契約法10条の文言と重なっています。これは以前から私だけでなく,山下委員も何度か御指摘されていたのですけれども,消費者契約の不当条項規制と,事業者間取引も含み得る約款の不当条項規制とで基準が本当に同じでよいのかという問題があります。それにもかかわらず,今回,消費者契約法10条に倣った文言をこのように書いておられるということは,消費者契約法の規制基準との関係でこれは同じだとみておられるのでしょうか,それとも何か違いがあり得るということなのでしょうか。それを確認させていただければと思います。 ○村松関係官 書き方としては非常に似通っておりますが,結局その信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものかどうかといったところの判断は,消費者契約法は消費者契約法の趣旨に従ってもちろん判断していくことになると思っておりますし,こちらの定型条項の方はその定型条項の定義に表れているような特質がある,その前提で判断していく。その点はある程度後段の考慮事項の中にも表れているのかもしれませんけれども,いずれにしてもそういった定型条項による契約の特質というものでそちらを判断するという点が一応の違いなのかなと思います。 ○山本(敬)幹事 今のは,違うと答えられたということですか。つまり,同じ文言だけれども,埋め込まれている法律が違うのでそれぞれの法律の趣旨に従って解釈される結果,同じ文言だけれども違いが生じるという説明だったのでしょうか。 ○村松関係官 違いは生じ得るのだろうと思いますけれども,基本的な判断の枠組みというかその設定の仕方はそういう意味では非常に似ております。その点を別に否定するつもりはないのですけれども。趣旨が異なるということの結果,出てくる機能としても違いは生じ得るということだと思います。 ○山本(敬)幹事 これはユニドロア原則などほかの国際的な動向とも重なるのですけれども,そこでは同じ一つのモデル法の中で規定がありますので,今問題になっているような,法律が違うのでその趣旨の影響を受けるということはありません。したがって,そこではやはり,事業者間取引に適用される基準と消費者契約に適用される基準とで,重なる部分はあるとしても,違いが明確に分かるような文言で規定がされています。   今の御説明の趣旨は,両者は違うということを当然予定しておられるわけなので,そこであえて全く同じ文言を使うことが合理的なのかという点がやはり疑問として残るのですけれども,いかがでしょうか。むしろ,規定の仕方を少し変えることが,その違いをより明らかにするために必要ではないかと思います。もちろんどう変えるかということは,この段階になると難しいので,それ以上聞いてほしくないということなのかもしれませんけれども,しかし方向としてはそうではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 信義則判断がそれぞれの法律関係によって違うのだというふうなところに仮託されているのだと思いますけれども,その点も含めて検討させていただきます。 ○潮見幹事 山本幹事が聞かれたのは,民法1条2項に規定する基本原則に反してということは,が消費者契約法あるいは消費者契約不当条項規制の場合には意味がある。しかし,これを民法の不当条項規制の所にそのままスライドさせてよいのであろうかというところが恐らくお聞きになりたかった核心ではないかと思います。話が少し食い違っているのではないでしょうか。お答えはいりません。 ○鎌田部会長 それでは,引き続きたくさん頂戴しました宿題を踏まえて検討を続けさせていただきます。   次に,部会資料「81B」の「第4 贈与者の責任等」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○村松関係官 それでは,「第4 贈与者の責任等」について御説明をいたします。   贈与の瑕疵担保責任については,従前の部会での議論を踏まえ,資料に記載いたしましたように贈与の目的物が確定したときの状態で引き渡すことを約したものと推定すること規定するという案としております。   推定規定とした趣旨は資料にも記載いたしましたけれども,特定物ドグマに立脚しているとの誤解を避けることなどを考慮してこのような規定としております。   また,他人物贈与については,中間試案以来贈与者が取得義務までは負わないということを明文化することを提案しておりました。もっともこれはデフォルトルールですけれども,このようなルールまで設ける必要があるのか,それが適切であるのかには疑問もありますので,その要否について改めて御検討いただきたいと思っております。 ○鎌田部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について御意見をお伺いします。 ○潮見幹事 今回は前の案と比べると非常によくなっているのではないかという印象を持ちました。その上で幾つか確認も含めて申し上げたいことがございます。   よくなったとは申しましたけれども,1点ちょっと確認したいのは,この内容の規定は,どうしても551条は残さなければいけないということで置くのだと思います。そのときの説明においては贈与の無償性を考慮に入れて贈与者の責任,責任と書いていますが,これは債務ということでしょうけれども,贈与の無償性を考慮に入れたときの債務内容をこういう形で表現し,しかもこれは任意法規であるという形で示したものではなかろうかと思います。   そうであれば,端的に例えば贈与の目的が物であるときには引き渡されるべきものの種類だとか品質だとか数量に関してその贈与者が負う義務の内容というものが,その贈与が無償であること,そのほか契約の趣旨,取引上の社会通念に照らして定められるのだというような書き方はできないものでしょうか。つまり,贈与の無償性そのほかという形で明確に示すという方法は採れないのでしょうか。   併せてこの推定の意味というものは,先ほど村松関係官のお話にもありましたように,これは性質が契約内容にならないのだという特定物ドグマをとらないという前提であって,つまりほかの契約責任あるいは債務不履行のところと理論的には何らその整合性を欠くものではない形で今回の推定ルールができているのだということで理解してよいという御趣旨ですよね。うなずいておられるからそうだと思いますが,そのようなものとして考えるのであれば,こういう規定の仕方はあるのかなと思いました。   さらに,その上でのことですが,問題は他人物贈与の方でして,これも恐らく基本的には法定責任説的な枠組みは採らない,しかも任意法規であるということをお考えになったのではなかろうかと思います。そうであれば,例えば20ページの(1)の書き方ですが,第4の1の贈与の担保責任の所についてはこれこれと推定するという形を採りながら,こちらの方で(1)のような書き方をしたならば,これは(1)と他人物贈与の場合とで考え方が異なっているのではないかというような誤解に出たような理解がされる可能性がなきにしもあらずだと思います。   端的に申し上げますと,他人物贈与の規定を設けるにしても,(1)については4の1と同じように推定する型のスタイルを採った方がいいのではないかと思いました。もちろんこういう形での推定というものがこれまで民法にはなかったことですから,その当否は別としまして,少なくともそろえた方がいいのかなと思いました。   とはいえ,現民法でも551条には他人物贈与の規定はありません。今回551条を削除するわけにはいけないから何とか苦労してこのような形で規定を作ろうという方向がかなり強く出ているのではないかと思います。そうであれば,先ほどの村松関係官のお話にもありましたが,他人物贈与について果たして規定を置く必要があるのでしょうか。従来の判例も学説も不透明なところがございます。それは補足説明のところにも少しほのめかされていると思います。そういうところも含めて考えますと,551条の規定を変更した第4の1を,本来であればなくてもよいにもかかわらず作ったということまで考えますと,わざわざ他人物贈与についての規定をここに設けるまでもないようにも思います。要するに,第4の1についてはこれでいいとは思いますが,他人物贈与については規定しない形で残しておいて,将来の解釈に委ねていただきたいと希望します。 ○鎌田部会長 他人物贈与については必ずしも議論の蓄積があるわけでもありませんし,実態としてそれほど数多く登場するわけでもないので,今のような御意見であればむしろ他人物贈与については規定を設けないという方向でまとめさせていただければ事務当局としても多分助かると思います。   ほかにはいかがでしょうか。どうぞ。 ○松本委員 贈与でこういうおもしろい推定規定を置くということだと,売買でも同じような推定規定を置くということが考えられるという意見が出てきてもおかしくないと思うのですが,その辺は全く考えられていないわけですか。 ○村松関係官 今回推定という形で設けましたのは,そこは意見が分かれますけれども,贈与についてはなお従来あるように責任ないし債務の内容というものが贈与者にとって軽減されるというのは,それが基本形であるということについてパブコメ含めましてそういう意見がやはり多数であったということで,こういう規定をこういう形で設けて特定物ドグマはとらないということも含めてここで規定しようという,幾つかの配慮に基づくことでございまして,そういう意味では特別にここにこういうルールを置くということになっているのだろうと認識しております。   先ほどちょっと潮見幹事から御指摘がありましたけれども,こういった規定を置かない形でもう少し抽象的に無償性を考慮してその引渡債務の内容を定めるという前提を法律に書き込めないかというような御指摘がございまして,確かにそういったことは理論的にはそのとおりだと思っておりますけれども,ただその極めて抽象的な軽減の仕方ということになりますと,他方でその基本的な贈与の姿は変わってないのではないかという方からしますと,どうして現行と同じようなデフォルト的な分かりやすいルールが書けないのかといった部分であったり,当てはめとして結局どうなっていくのかという点が分かりにくいというような問題がございます。また,無償契約ということが契約の内容あるいは契約の趣旨といったものの外側に置かれることが法制的に説明できるかといったこと等々の指摘があり得ようと思っておりまして,その関係も考慮して今回は何とか推定という形で強行的に何かが決まっているということではありませんということを明示的に示したいと,このような趣旨でございます。   売買については同じような配慮が妥当するのかというところがあり得るのだろうと思っておりまして,今のところは売買は正に多種多様なものであるということが前提になるだろうということでこういったことを設けてはおりませんけれども,贈与について設けた趣旨は今申し上げたところです。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○岡委員 2点申し上げます。1点目は,この推定するという表現について反対はなく賛成ではあったのですが,質問を一つさせていただきます。任意規定と推定規定の違いでございます。20ページの上を見ると,合理的と考えられるものを規定する場合は任意規定であって,合理的ではなく数が多いだろうという場合を規定するときが推定規定だと理解したのですが,そういう理解が一般的なのかどうかという点が一つでございます。   それからもう一つは,実務的に,任意規定である場合は別途合意があることを立証すれば逃げられると思います。この推定規定の場合も別途の合意を立証すれば推定から離れられるということだとすると,実務的には全く一緒と考えていいのか。それとも推定というのは合意の立証までしなくて何か違う別途の意思表示があったということを立証すれば逃げられるので,少し広いのだと,逃げやすいのだということでしょうか。実務上の違いが出るのか出ないのか。この二つについて質問させていただきたいと思います。   それから2番目は,他人物売買の推定規定のところで,鎌田先生のおっしゃる規定なしでいいのではないかという方向についてでございます。取りあえず弁護士会のバックアップ会議ではいろいろ議論がありまして,義務を負わないという推定あるいは任意規定そのものに反対であるという意見も少数ございました。それから,規定なしでいいのではないかという意見もございました。ただ,多数はこの原案でいいのではないかという原案を支持する意見が数としては多うございました。   その中で,えらい細かい話でございますが,ゴチックの案の(2)の方ですが,贈与者が他人の権利を取得したときは推定規定を準用するというところについて,このままだと贈与契約時の状態が推定されることになりそうですが,細かく考えると,その他人の権利を取得したときの状態で渡すという推定の方が緻密というかいいのではないかと,そういう意見もございました。 ○村松関係官 それでは,今御質問と御指摘のあった所についてですけれども,なかなかお答えしにくい部分もあるのですが,前者については,そのように任意規定について合理的だという前提の規定だという言い方がされているのは御承知のとおりだと思いますので,それとの違いをここでは差し当たり説明をしているというところでございます。   任意規定と意思推定の規定で,実務的な違いが果たして出てくるのかという点については,恐らくは実務的な違いは余り生じないのではないかなというようには考えてはおります。ただ,細かく見ると違いがあり得るのではないかと思いますけれども,調べた限りではこの違いを細かく論じた文献がそれほど見当たらなかったところでありますので,ちょっと確たることを申し上げにくい点ではありますけれども,大きな違いは少なくとも実務的には多分なかろうとは考えております。   それから,他人物贈与について,推定した場合の時期ですね,ここをそのまま文字どおり読みにいくのか,意味を読み替えて準用するのか,そこはあり得るところだと思っておりますが,正にそこも一つの考えどころでして,果たして契約時ではなくて取得時でいいのかも,他人物贈与の類型によって何か違いそうな気もするなというところも感じております。そういったときになかなかどう判断していいのか判断がつきにくく,それはやはり事例もさほどなく議論の蓄積もないことが原因だろうと思っております。それらこれらの事情を考えるとなかなか規定は置きにくいなというのが今回感じたことなのですが。 ○道垣内幹事 細かい話で別に議論をするほどのこともないと思うのですが。贈与者の責任について,任意規定の内容は契約に適合したものに移転するということですよね。そして,それに反対の特約があるということが推定されるわけですよね,理論的には。あと整理のときにどこかに頭に置いて考えていただければ。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   ここで……。 ○中井委員 休憩に入りそうなので。贈与のことではなくて約款に戻るのですが,お許しいただけますか。山本敬三先生が先ほどから後半になって,定型条項の定義についてこれを更に限定すべきだということを何回か2,3度おっしゃられて,それが気になったまま終わったものですから。その発言が2若しくは3の組入れ要件との関係でこのような緩々なものになるのなら,極論すれば鉄道約款のようなものに限定した形で規律していくというのが一つの考え方ではないか。また,定型条項の変更のところでも問題がありましたので,その問題を踏まえればそういう方向の御意見のように聞こえたのです。仮にそういう方向の意見だとすると,弁護士会としてはかなり慎重に考えていただきたいと思います。   繰返しになりますが,やはり4の不意打ち条項,5の不当条項,こういうものに対して適用される定型条項ということを考えたときに,組入れ要件がためにそこが狭められるということについては正直いかがなものかという意見になります。6の定型条項の変更の問題については何がしかの修正を加えて1の定義で耐えられるようにしていただいて,組入れ要件の問題については弁護士会としてはのみ込んで,4,5の適用をしていただきたいというのが方向性としての意見でございます。   山本先生の御発言の誤解であれば今のは意味がございませんが,もしそういう絞るという方向だとすればそういう意見だということで御理解いただきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 誤解ではなく,定義は絞れるならばそれが一番簡明ではないかと思っていましたし,仮にそれが無理だとしても,2と3のルールが妥当する前提としての要件は先ほどのような限定されたものではないかと思った次第です。   絞るとどうなるかと言いますと,その絞られた定型条項に当たらないものについては,民法上は明文の規定がないという状態になり,あとは従来の法理がそのまま生き残るか,あるいは新たに作られたこの定型条項の規定を見ながら新たな解釈論が展開されていくことになるのではないかと思いました。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   それでは,ここで一旦休憩とさせていただきます。           (休     憩) ○鎌田部会長 時間になりましたので,再開をさせていただきます。   部会資料「81B」の「第5 雇用」について御審議いただきます。事務当局から説明してもらいます。 ○合田関係官 御説明いたします。   「第5 雇用」の期間の定めのある雇用の解除,民法第626条関係について,中間試案及び部会資料73Aでは,民法626条2項が定める解除の予告期間を3か月から2週間に改めるという考え方が取り上げられておりました。また,期間の定めのない雇用の解約の申入れ,民法第627条関係について,中間試案及び部会資料73Aでは,民法627条2項及び3項を削除するという考え方が取り上げられておりました。   もっとも,これらの考え方を採った場合には,労働基準法の適用がない雇用契約において,使用者からの解除の予告期間又は解約申入れの期間が現状よりも短期化することになります。今回の改正の主な目的が労働者からの解除予告期間及び解約申入れ期間を短期化する点にあることからすれば,使用者からの解除予告期間又は解約申入れ期間については現状を維持するという考え方もあり得ると考えられます。   本日はこのような考え方の当否について御意見を頂きたいと存じます。 ○鎌田部会長 ただいま説明のありました部分につきまして御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○佐成委員 我々の方の労働法制関係の方から意見が出ておりますので,述べたいと思います。   まず,1の(2)ですが,「使用者は3箇月前に」というふうに使用者サイドだけに予告期間を設けるということで,片面的な規定を設けるということに形の上でなります。けれども,これについては,内部では反対意見が強いということです。特に今回老人介護とかを念頭に置いて,終期が不確定な場合を踏まえた現代的見直しをするというのに,使用者のみに3か月という現行の予告期間を維持するというのが本当に合理的なのかということでありまして,そういった問題もあるので,ここは中間試案のとおりでお願いしたいという意見でございます。   それから,2の所ですが,これについてもやはり片面的な規定になるということでありますが,それのみならず特に労基法20条で修正されている規定を民法でわざわざ新たに改正するというのはちょっとどうなのかということです。それでは,分かりやすい民法という観点から見ても,改正の趣旨にそぐわないのではないか。また,627条3項を残すということになると,年俸制適用者の場合には3か月の予告が必要ではないかというそういった話になりそうですが,実務的には年俸制適用者であっても一般労働者同様,労基法20条の適用は受けるということで何ら問題ないのではないかという,そういう御指摘でございます。 ○鎌田部会長 この点に関しましてほかの御意見があればお伺いいたします。事務当局からは。 ○山川幹事 今回の御提案の理由で,改正の主な趣旨が労働者側からの解除の予告期間を短縮するということで1も2も共通のような形になっておりますけれども,これまでの議論の中では確かに辞職の自由ということが中心にはなっておりましたけれども,解約申入れ期間が長期にわたることを避けるという点では,使用者側からの解除についても労働基準法20条が優先的に適用されるという解釈で必ずしも固まっていない部分もある。先ほど佐成委員からもお話の出ました年俸制の場合の解雇等については議論がなおある。そういう観点で解釈を統一するというような必要も議論の中ではあったのではないかという感じを持っております。その意味では中間試案の提案で特段疑問を感じていなかったところです。   ただ,もうこの段階ですので,改正が実現されるコンセンサスがえられるということでしたらどちらでも特段異存はないというのが正直なところです。実際上は労基法の適用が優先されるというような見解が有力であることは確かですし,それで実務が運用されるということでしたら余り差がないということになるのかなという感じです。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがですか。   では,事務当局から今の点について御説明を頂ければと思います。 ○合田関係官 先ほど御指摘いただきましたように,事務当局の整理としましては,民法の規定よりも労基法20条が優先することを前提にしております。今回現状を維持することとしたのは,そもそも労基法の適用がない部分についてであり,例えば家事使用人等がこれに当たりますが,これらについては実際どのような雇用の状況なのかが不明確ですので,その不明確な部分について解雇の予告期間を2週間に短期化してしまって問題が起きないのかというと,なかなか判断が難しいという問題があるということで,今回このような提案に変更をして御意見を伺ったという次第です。   具体的なニーズがある部分に限って改正をするということも考え方として採り得る,許容できるということであれば,この考え方でコンセンサス形成を図れないかと考えておりますので,御検討をお願いできればと思います。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御意見いかがですか。   佐成委員の御意見も,実際上の問題もあるけれども,それ以上に片面的な規定になることが問題であるという趣旨でしょうか。 ○佐成委員 片面的ということもそうですが,分かりにくくなるという面もあって,現段階でこれでオーケーとは言えないということですね。中間試案の段階でももちろん議論が出ていたところではあるのですけれども。 ○鎌田部会長 ほかに御意見がないようでしたら,ただいまの御意見を踏まえて事務当局で更に検討を続けさせていただくことといたします。   次に,部会資料「81-1」に移らせていただきます。   まず,「第1 法律行為総則(公序良俗(民法第90条関係))」について御審議いただきたいと思います。この81-1に関しましては従来と同様,B型の資料とは異なり,事務当局からの冒頭の説明は省略させていただき,直ちに議論に入りたいと思います。御自由に御発言ください。   特に御異議がないと思ってよろしいですね。   では次に,部会資料「81-1」の「第2 債権譲渡」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 債権譲渡の所で,3.の債権譲渡の対抗要件についてでございます。中小企業が債権譲渡により資金調達を行う場合には,債権者の関与なく債権譲渡の対抗要件を備えることができる制度を設けることが重要であると考えております。このため,債権譲渡の対抗要件については,登記一元化が望ましい旨これまで申し上げてまいりました。今回の部会資料では債権譲渡の対抗要件は見直さないとの提案がされております。限られた時間の中で債権譲渡の利便性の改善や登記費用を抑えるということなどを実現することは困難であることは理解しております。しかし,中小企業が債権譲渡による資金調達を行う際には,債権譲渡登記を用いることが最も合理的であると考えているため,登記制度の抜本的な改善は必要不可欠であると思います。   そこで,民法部会では対応が難しいとしても,債権譲渡登記の抜本的な改善に向けた検討を開始していただくことを,法務省及び関係省庁にお願いしたいと存じます。よろしくお願いいたします。 ○筒井幹事 ただいま大島委員から御要望があったことは十分受け止めていきたいと思います。もちろん将来のことを今の段階で何かお約束することは難しいわけですけれども,これまでのこの部会の審議経過といたしましては,いわゆる登記一元化という案も有力な一つの考え方として議論されてまいりまして,それについて早急に動き始めるというところではコンセンサスは得られなかったわけですけれども,しかし,長期的あるいは中期的な課題として見た場合に,その妥当性について根本的に何か大きな批判があったということでは必ずしもなかったと思います。そういった議論の経過を踏まえた上で,本日そのような御要望が改めてあったということを受け止めておきたいと思います。 ○山野目幹事 大島委員及び筒井幹事から御発言がありましたから,この際,債権譲渡の対抗要件についてここで方向として示されていることにつきまして私なりの理解を申し上げますと,部会資料では通知又は承諾を第三者対抗要件とする現在の規律の本質的な根幹部分を維持するということが簡明に示されているものと理解しました。この論点はもちろん制度の本質をどのように見るかが論じられるべきでありますとともに,技術的,細目的な検討を通じて最終的に制度が定まる部分も大きいですから,引き続きそのような観点からの検討を進められてよいと考えます。   第7回会議における発言や,第81回会議に提出した意見書においても言及いたしましたが,民法施行法の定めるところを見直すなどの観点には今後も留意されることが望まれます。また,これも現在と同じく民法の規律においては示されませんが,登記により債権譲渡を公示するという契機が今後も重要であり,そのことは大島委員も指摘なさったとおりでありますし,その方面での制度改良が積み重ねられるべきであることを意識させるものとして,ここまでの私たちの部会における論議には意義があったと考えます。現実にも,いわゆる事前提供方式の導入など,近時の動向も注目に値するものであり,このような取組が今後も望まれることを切望するものでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかの論点も含め,債権譲渡についての御意見をお出しいただければと思います。 ○松岡委員 意見というより単純な質問が2点あります。1つ目は,1ページの第2の(2)の譲渡制限特約のところです。悪意又は重過失の譲受人に対抗できないことを原則として,例外を設けることになっていると思います。この中に債務者が承諾をした場合が見当たらないのですが,私の見落としでしょうか。中間試案やその後の案の中には,債務者が承諾をした場合もあったように思います。   もう1点は,言葉の問題にすぎないかもしれませんが,3ページの3及び4の(2)辺りの整理の仕方についてです。467条1項を現在のとおり「対抗することができない」と書き,1項を債務者対抗要件,2項を第三者対抗要件という現行の用語をそのまま維持する書き方になっています。一方で,4の(2)のアに限定してという趣旨かもしれませんが,権利行使要件という表現が使われています。これまでの学説では資格要件などの用語が用いられていて,これは対抗要件ではないという理解があり,この用語はそれを色濃く反映している気がします。そうすると1つの案の中で「対抗要件」と「権利行使要件」が混在してややちぐはぐな感じが残るのですが,何か理由があってこういう整理をされているのかを伺いたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局から。 ○松尾関係官 まず1点目で御質問いただいた譲渡制限特約を対抗することができない場合として債務者が承諾した場合を書いてないのは,前回の部会資料74Aからでありまして,今回もそれを引き続き維持をさせていただいているということでございます。74Aの資料に対して,承諾をした場合に特約を対抗することはできないというルールを書くことを復活すべきだという御意見があったことはもちろん承知しておりますが,そこは今回も引き続き見送らせていただいたということです。   もう1点,「4 債権譲渡と債務者の抗弁」の(2)で,権利行使要件具備時という言葉を使っていることの意味ということですが。確かに松岡先生がおっしゃったように,債権譲渡の対抗要件について基本的には現状維持するということになったことの関係でこの権利行使要件具備という言葉がそのままでよいのかという問題はあろうかと思います。ただ,ここは用語の問題というところもありますので,条文化のときにこれでよいのかということを最終的に検討させていただければとは思っております。 ○鎌田部会長 松本委員,どうぞ。 ○松本委員 私も単純な質問ですが,債権の譲渡性とその制限の部分であります。本来のルールとしては債権譲渡禁止特約があっても譲渡は有効であって,それはたとえ悪意・重過失の第三者との関係でも有効である。ただし,債務者は債務の履行を拒めるという抗弁権がつくという話ですね。   しかし,2ページの(5)で預貯金債権について譲渡禁止特約がついている場合については特別であると。特別であるということの中身は,(5)のアで悪意又は重過失のある第三者が譲り受けた場合は債権譲渡自体が無効になると理解したのですが,補充説明の4ページ,すなわち今の(5)の説明のところの2の「改正の内容」というところを読みますと,「素案アでは,上記の問題の所在の踏まえ,預貯金債権については,譲渡制限特約付の預貯金債権の譲渡を無効とすることとしている」と,悪意・重過失ある第三者が譲り受けた場合かどうかを問わず無効としているかのような書きぶりになっています。だから,これによって銀行は名義人だけを債権者として扱えばよいという現在の運用を維持することができると書いてあります。   悪意・重過失のない第三者が譲り受けた場合は無効にならないわけですよね。すなわち,そういう人から請求された場合はそっちに払わなければならないわけだから,現在の運用を維持することができるということにはならないのではないかと思うのですが。   それとも現在の運用としては銀行預金債権は譲渡禁止特約がついていることがもう常識であるから,譲り受けた者はすべからく故意か重過失であるという運用がなされているので,したがって一切考慮する必要がないからこういうふうに法律が変わったとしても同じだということなのでしょうか。 ○松尾関係官 説明の書き方が不十分だったという御指摘だと思うのですが,確かに預貯金債権に譲渡制限特約が付されていることにつき,悪意又は重過失の譲受人に譲渡された場合に限って譲渡が無効となるということですので,今後の説明では留意したいと思います。 ○松本委員 ということは,銀行は今後実務を変えなければならないという書き方の方が正しいのでしょうか。それとも,こういうふうになったとしても銀行は実務を変えなくていいという評価でよろしいのでしょうか。 ○中原委員 今回の御提案いただいた内容は現行法と変わらないと理解しています。最高裁昭和48年7月19日の判決において,各種の預金債権については一般に譲渡禁止の特約が付されて預金証書等にその旨が記載されており,また預金の種類によっては,明示の特約がなくとも,その性質上黙示の特約があるものと解されていることは,広く知られているところであって,このことは少なくとも銀行取引につき経験のある者にとっては周知の事柄に属するというべきであると述べており,最高裁判所にも預金に譲渡禁止特約が付されていることは周知のものであると言っていただいています。したがって,預金の譲渡通知が来てもそれは無効として対応するのが現在の実務の取り扱いです。したがって,現在の銀行実務を変える必要はないと思います。 ○松本委員 了解しました。 ○鎌田部会長 中原委員,どうぞ。 ○中原委員 将来債権譲渡の(2)です。心配しているのは,将来債権の譲渡後に付された譲渡性を制限する特約の対抗という点です。これは前回も一度議論させていただきましたが,将来作成する預金債権の譲渡通知が届いた後に預金契約を締結し,当該預金が譲渡されたときに,譲渡制限特約をもって対抗できるのかと,いう点について若干心配しています。   前回の議論では,そういう通知をした者とは預金契約を締結しなければいいではないかとか,あるいは預金に譲渡制限特約が付されていることが周知されているということであれば,譲受人も譲渡制限付預金の譲渡であることを認識しているのだから,対抗できるという解釈もあり得るのではないかという話があったと思います。特に後段の考え方が安定的にされる可能性があるのかどうかについて,事務当局の御意見をお伺いできればと思います。 ○松尾関係官 事務当局の一致した意見というわけではないかもしれませんが,確かに中原委員が御指摘になられたように前回までの部会の中では,預金について譲渡禁止特約が付されていることについて,一般的に悪意・重過失であるということが考慮されるのではないかという御意見があったことは事実なのだろうと思います。そのような考え方があり得ることを否定するつもりはないですが,他方で譲渡禁止特約が付されるということについて,譲受人が悪意・重過失であるという事実だけをもって債務者対抗要件まで具備した債権につき,後から譲渡人と債務者との間に譲渡禁止特約を付すことを正面から認めること自体についてはおそらく異論もあり得るのだろうと思います。   現時点で我々がその点についてどちらかの見解であると申し上げるのは難しいのかなとは思っており,そういう解釈が安定しないのであれば,別途何か規定を設けるべきだという御意見ということであれば,またこの場の御意見を伺った上で考えてみたいと思います。 ○中原委員 安定的な実務運用を行うために,そういう規定を入れていただければありがたいと思います。 ○道垣内幹事 また説明のところで恐縮なのですけれども,補充説明の3ページにおきまして絵が描いてあります。ここにおいて上から2段落目のところに,「というような特殊な問題が生じ得ると指摘されている」となっています。指摘されていることは確かなのでそれはそれでいいのですが,その後だんだんとこの指摘は正当であるという雰囲気に文章が変わってくるのですが,これは預金担保とかいろいろな問題に影響を及ぼす問題ですので,指摘されているという客観的なスタンスに一貫した方が,ほかのところに対する影響がないのではないかと思います。 ○岡委員 2つ申し上げます。1つ目は,預貯金債権についての特則が入ったことについて,あれほど無理だとおっしゃっていたのが,最後の段階で入ってきました。弁護士会で議論したところ,賛成であるという意見の方が多く,私も個人的には賛成でありますが,昔,松尾さんが話していた民法に入れるのは違和感があるという意見もかなり多うございました。最後の段階で決断に至った理由を説明していただきたいというのが1つでございます。   それから,もう1つは質問ですが,将来債権譲渡の定義のところで,2ページですが「債権が現に発生していることを要しない」とあります。この表現は,条文ではないのは承知しておりますが,相殺のところで債権がある原因に基づいて生じたと,「生じる」という言葉を随分いっぱい使っています。ここも,単に「意思表示のときに債権が生じていることを要しない」と書けば足りると思うのですが,「発生」という言葉をここであえて採用したことに何らかの意味あるいは違いが出てくるのでしょうか。また「現に」という形容詞か副詞を入れた心といいますか法律的な意味はなんでしょうか。その2点を質問させていただきたいと思います。 ○松尾関係官 とりあえず,なぜこういう提案になったのかという経緯を御説明いたします。   部会資料の74Bなどで事務当局から申し上げていたのは,その時点までで,預金債権についての例外を設けるべきだという御意見の主な理由は,マネロン対策だったのだと思います。ただ,そういう御意見だとすると,そもそもなぜ例外を設けるのが預金債権に限られるのか。あるいは預金に関する例外を設けるとしても,そういった観点から民法に規定を設けることが適切なのかという問題はどうしても出てくるのだろうと思います。   ただ,前回の部会以降,預金債権について例外を設けるべきだという御意見は,理由が大分変わっております。その御意見の中では,預金債権の成り立ちの仕組みなどとの関係で,その債権の性質上,管理が困難になるというところが強調されていると思います。そこは正に預金債権に特殊の事情であり,それであれば預金債権について例外的な規定を民法に設けるという考え方はあり得るように考えましたので,今回このような提案をさせていただいたということです。   あと将来債権譲渡について「現に発生している」という表現と「生じている」というところの違いが何かあり得るのだろうかというところについては,特に違いがあるとは考えておりません。そろえた方がよいという御意見ということであれば,今後条文化の際になるかもしれませんが,更に検討していきたいと思っております。 ○中田委員 預貯金債権についての特則を置く理由付けをいま御説明いただきまして,また81-3の御説明でも一応理解したのですが,例えば種類物の継続的な寄託契約においても残債権が増えるということはあり得るのではないかと思います。どうしてそういう一般的な規律にしないで預金に絞ったのか。恐らく,その背景には先ほどおっしゃった反社とかマネロンとか,あるいは今回は出ておりませんけれども相殺可能性の確保という実質的な考慮が入っているのではないかと思います。それを一切捨象して債権の額が当然に増減するということだけで説明できるかというと,やや無理があるのではないかと思うのですがいかがでしょうか。 ○松尾関係官 いま中田委員から御指摘のあったことはそれはそうであろうと思っていまして,我々も,部会資料では,複数の理由を挙げているつもりであります。最も大きな理由として挙げられているのが,1預貯金債権の性質に関わるものですが,他にも,預貯金債権については引き出して現金化することが可能であって,譲渡を認める実質的な必要性が乏しいため,それが譲渡される場合が詐害的である可能性が高いということも考えられるだろうと思います。   ですので,いろいろな理由から特則を設ける必要を説明すべきであるという御指摘であれば,それはそうだろうとは考えております。 ○沖野幹事 預金の点です。確認させていただきたいのは,ここで想定している預金債権又は貯金債権というものがどういうものかということです。具体的には定期預金のようなものが入るという理解でよろしいのかどうか。   説明で書かれているのは入出金自由で振り込みなどもあって,総合口座ですとか普通預金のようなものが想定されているように思われますが,そのような限定をする趣旨なのか。また,限定しないとすると,定期預金のような場合はここでの御説明が妥当すると考えてよいのかということです。   この点は,この部分もそうですが,この後に消費寄託のところでも出てまいります。普通預金はともかく本当に定期預金も同じように考えていいのかどうか。この文書あるいは全般を通じて預金にかかる契約ですとか,預金債権というもので捉えているものがどういうものかということを確認しておきたいというのが1つです。   それから,もう1つは松岡委員から御指摘のあった債務者の承諾の点です。相対効というか譲渡無効ではないとすると,債務者の承諾というものは履行拒絶の否定事由になりますが,承諾者が履行拒絶できないのは当然ということになるかと思います。これに対し,債権の譲渡が無効であるという部分が預金について残る場合に承諾によってそれが遡及効をもって治癒されるとか,その間の第三者の権利を害することができないとか,そういった規律を一部明文化しなくてよろしいのかどうかというところが気になりました。それは,最初の松岡委員の御指摘と併せて考えていただくことがあればと思います。 ○松尾関係官 1点目で,(5)のルールの中に,普通預金などの流動性のある預金以外に定期預金も入るという趣旨なのかということについては,それは入ることを考えております。確かに預金債権の成立等に関わる説明は基本的には普通預金が念頭に置かれていると思いますが,先ほど申し上げたようにそれ以外の理由なども含めて考えると定期預金も含めてよいのではないかと我々としては考えております。また御意見を承って考えたいと思いますが,現実的な問題として,普通預金と定期預金の切り分けを条文上できるのかというと,それはなかなか難しいような気がしております。   もう1点,債務者の承諾に関するルールを特に(5)等の関係で設ける必要があるのかどうかということについては,今回なぜアとイという2つのルールだけを設けたのかといいますと,現実に預貯金債権について,債務者の承諾と差押えが重なって問題になるという場面がどれだけ起きるのかというと,それほど現実的ではないと思われたことを考慮したものです。これまでの判例法理が引き続きこの類型の債権について残っていくことを否定するつもりはないのですけれども,あえて明文の規定を設けるまでの必要性がないのではないかと考え,今回は差押えが可能であるということだけを書いてはどうかと御提案した次第です。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。松本委員,どうぞ。 ○松本委員 中田委員の御質問との関係ですが,なぜ債権総論という抽象度の高いところに預貯金債権という非常に具体的な債権が特出しされているのか。ほかにも債権残高が変動するような債権があるではないかという御指摘に対しての事務当局の御説明は,まだ必ずしも十分ではないという感じがいたしました。   先ほどのご説明の定期預金と普通預金を書き分けるのが難しいからこういう書きぶりにしたことの結果として,定期預金のような補充説明の3ページに書いてある図が必ずしも妥当しないような債権まで入ってくる結果になってしまっているのだろうと思います。   そこで,民法の債権総論にふさわしいもう少し抽象度の高い表現としては,「債権残高が増減する債権の譲渡については」という形で一般化することが考えられないのかどうか。そうなったとしても,一番ニーズを感じている銀行業界には影響はないはずです。先ほどの最高裁の判決がある以上は,預貯金債権とはっきり書いてもらわなくても預貯金債権は当然入ってくるわけだからニーズは満たせる。その上で民法の債権総論にふさわしいもう少し抽象度の高い表現にできると思うのです。あとは,定期預金債権をどうしてもここに入れたいという社会的必要性があるのかどうかというところに還元されるのではないかと思います。 ○中原委員 預金の管理について少しお話をさせていただきたいと思います。本日,私どもの方で用意しました資料でございますけれども,1ページを開いていただければと思います。   今の銀行実務は,預金については先ほど述べましたように譲渡禁止特約が付されており,しかもそれは昭和48年7月19日の最高裁判決において周知のものとするという判例法利を前提として組み立てられています。したがって,現在では預金債権の譲渡通知はほぼありません。仮にあったとしても,それは無効であるとのスタンスで対応しております。   ところが,預金の譲渡が制限されないとすると,銀行とすれば管理手続きが大変になります。これは普通預金とか定期預金にかかわらず共通して言えます。6ページをご覧ください。債権譲渡はいろいろなバリエーションがありますから,これに対応しようとすれば,簡便,迅速な預金取引の維持は極めて困難になるといわざるを得ません。平成24年7月24日の最高裁決定は,普通預金債権のうち差押命令送達時後同送達の日から起算して1年が経過するまでの入金によって生ずることとなる部分を差押債権として表示した債権差押命令の申立ては,第三債務者において,特定の普通預金口座への入出金を自動的に監視し,常に預金残高を一定の金額と比較して,これを上回る部分についてのみ払戻請求に応ずることを可能とするシステムは構築されていないなど判示の事情の下においては,差押債権の特定を欠き,不適法である,としています。定期預金についても,一定の残高を管理するようなシステムは持っていません。     銀行としては,安全で安定的,かつ迅速な預金取引を維持していくという重大な使命を帯びておりますので,そのためには定期預金あるいは普通預金に限らず預金債権については同じような取扱いの法制度をお願いしたいと思います。   したがって,預金の種類毎ではなく,預金債権一律について現行法と同じ効力の譲渡制限特約制度を認めていただきたいと思います。 ○潮見幹事 これは事務局に確認した方がいいのかもしれませんが,いま中原委員がおっしゃったこと自体に別にどうこう言うことは私は申し上げません。ただ,もしこの規定を置いた場合には,ほかの取引類型,先ほど中原委員からの発言もございましたが,そういうところにこのルールが適用とまではいけないにしても類推されたり,あるいはその法意というものを通じて本来は原則であるところの1の(1)ではない処理がされるのではないか。その余地が果たしてあるのかというところをお示しいただきたのです。   もし,そういう類推なり法意なりを通じて他の取引類型,あるいは他の性質の債権にもこの考え方が通用するということであるのならば,この規定がなぜ外出しされているのか,どういう観点から特別扱いされているのかというところを,もう少し慎重に理由をつけていただいた方がいいのではないかという感じがします。   これは預貯金債権を対象とした規定であって,ほかには推及できないという趣旨であれば,それはなぜかというところをお尋ねしたいです。 ○筒井幹事 預貯金債権の例外を認めることについて,幾つか御意見を頂きました。ただ今の潮見先生からの御指摘については,こういう特則を設ける当初から類推適用の余地を考えているわけではなく,例外を認めるべきニーズが明確であるものを取り出して例外を認めるものであると考えております。したがって,それについて類推適用の余地があるかどうかというのは,もちろん今後議論の余地があるでしょうけれども,具体的なニーズに基づいて例外を認めることとしたという点は,今後の解釈論においても十分に吟味されるべきであろうと思います。そういう理解を前提として,このような例外を認める理由の説明ぶりについていろいろ御指摘いただいたことは,十分に精査していきたいと考えております。   それから1つ前の松本委員からの御指摘は,趣旨とするところは共通しているのかもしれませんけれども,もう少し規定を抽象化して,規定の趣旨に適合する範囲を適切に捉えるような方向で検討はできないのかといった御発言がありました。一から議論するのであればそのような方向を追求することもあり得るとは思いますけれども,この議論の経過の中で,中原委員から先ほど御紹介ありましたような具体的なニーズ,合理的な必要性が指摘されています。それについて合理的な期間内に結論を出すという観点から,その指摘に特化した形の例外を設けることを提案しているわけでありまして,このような手法も立法の一つのあり方として合理的なのではないかと考えております。   その説明ぶりについて十分注意すべきであるといった御指摘については,先ほど申し上げたとおりであり,十分考えていきたいと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。中井委員,どうぞ。 ○中井委員 預貯金債権を別扱いとすることについては賛成いたします。ただ,弁護士会の中でも,また特にこの債権譲渡制限特約についていろいろ立法提案をした大阪の有力メンバーからは(5)は入れるべきではない,(1)ないし(4)で本来解決できるという意見を頂いています。   しかし,私としては,また中原委員からも御説明がありますように現在の銀行実務を前提とすれば,預金管理の観点のみから考えてもやはりこれを例外としなければ大変な混乱,また実務的に対応できない事態が招来するであろうと私も思いますので,結論は別扱いをするというこの考え方に賛成いたします。   ただ,中田委員もしくは潮見幹事がおっしゃられているように,では預金と同種の例えば残高の変動する債権についてどうなるのだという,このような問題が生じ得るのだろうと思います。そこで,こういうことが可能なのかどうか私はわかりませんが,民法本文の中には預貯金については触れない。つまり松本委員の考え方でもなくて,そこを探求していくのは時間的にも無理ですから,これは実務的観点,預貯金という管理の問題から対応できないという,その1点を理由に除外するとすれば,例えば民法の附則とかで,預貯金は当分の間従前の例によるというような形にする。場合によってはコンピュータシステムが発達していって個別管理が容易になる,つまり全銀協のシステム管理が抜本的に改められたら別にできないわけではない作業と思うものですから,ひょっとしたら20年先の話になって20年間民法の本文から読めなくて,読めないところに規定が残るという煩わしさ,わかりにくさはあるのかもしれませんが,そういう考え方もあり得るのではないかと思っている次第です。 ○鎌田部会長 御指摘の点も検討してもらうということで,説明の仕方も含めて検討を深めていただきたいと思います。債権譲渡に関して,ほかの点はいかがでしょうか。深山幹事,どうぞ。 ○深山幹事 将来債権譲渡について,素案においては,債権の譲渡やその意思表示のときに債権が現に発生していることを要しないという表現の提案がなされています。これがそのまま条文になるわけではないとは思いつつ,この点は日本語としてもいまひとつこなれていない感じがして,皆さんがどうお感じになるかをお聞きしたいのです。非常に御苦労された結果だということは補足説明でもわかるんですが,その補足説明でも,将来債権が債権に該当するかどうかということに立ち入らずに,しかしながら将来債権の譲渡が債権の譲渡の概念に含まれることを明らかにしたと説明されています。債権に該当するかどうかに立ち入らずに,その譲渡については債権譲渡に当たるという表現ぶりに,非常に苦労がにじみ出ているというような気がしますが,恐らく条文の中に将来債権という言葉は出てこないことになるのかなと感じました。   それが果たしていいのかということです。御案内のとおり,将来債権といったときに,どういう債権が該当するのかということは,いろいろと議論があるわけです。しかしながら,そこは中間試案のような形で,将来発生する債権を将来債権と定義したとしても,更にそこからいろいろ解釈が展開されることは当然予想されます。それでも私は中間試案のような形で将来債権という言葉を明文化して,その範囲については解釈に委ねるという方が,今後の解釈の発展にも資するのではないかと思います。   今の素案のように,債権の譲渡について債権が現に発生していることを要しないということを書くよりも,その方がいいのではないかという気がします。研究者の先生方から何も意見がないのであれば,規定を設けることについては積極的に賛成していますのでこれ以上申し上げませんが,御意見があればどなたか承りたいと思います。 ○鎌田部会長 法制上の観点も含めてどのように表現するのが最も適切かということについては,更に事務当局を中心に検討を深めさせていただければと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。 ○中井委員 戻りますが,1の(2)ですが,前回の78Bでしたか,譲渡人に取立権限を付与する提案がありました。これに対して,前回,私もその提案を批判した1人ですが,撤回されました。結論としてはそれでよろしいかと思いますが,念のための確認をしておきたいと思います。   この結果,期限の定めのない債務の取扱いについて前々回の審議で議論があり前回の提案に至ったという経緯があると思うのですが,この規定に戻ったとき期限の定めのない債務についてどのような対応を想定しているのか。この規定の適用についての対応を想定しているのか。問題は解決するという趣旨の補足説明があって,そこの説明では譲受人が譲渡人に対して取立権限を付与する形で,その合意によって解決することができるという趣旨の記載があります。ここを念のため御説明いただけないかと思います。 ○松尾関係官 基本的には,前回大阪弁護士会の有志の方々から意見書でいただいた内容と同じようなことを考えているつもりです。つまり,悪意・重過失の譲受人がいたときに,悪意・重過失の譲受人も取立権限は持っているが,債務者から抗弁を主張される立場にある。その悪意・重過失の譲受人が有している取立権限を譲渡人に付与するという形で,その付与された取立権限に基づいて譲渡人が取り立てればよいのではないかと考えた次第です。   ただ,それにはもしかすると異論があるかもしれませんが,とりあえず説明はそのようなことを考えておりました。 ○中井委員 確認ですけれども,その結果として譲渡人から取り立てがあると,期限のない債務については期限が到来し遅滞に陥り,かつ支払いに応じる義務が生じるというところまで行くという理解でしょうか。 ○松尾関係官 そのような前提で考えておりました。 ○中井委員 更にそうすると,それを拒絶するときには結局は譲受人に払うということになるし,譲受人からは次の催告をすることによって当然譲受人に直接の取立権限も発生する。こういう理解をすることになる? ○松尾関係官 恐らく譲渡人からの取立てに対して拒絶をすれば,それは譲渡制限特約付債権の譲渡を承諾したと評価すべきことになるでしょうから,それで譲受人が取り立てられるということになるのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○潮見幹事 承諾という部分には別に異論はないのですが,その前の発言のところは本当にそうなのかという疑問を覚えます。つまり悪意譲受人で,要するに債務者に対抗することができない者が契約で譲渡人に取立権限を授与したところでその取立権限で債務者との関係で正当な権利主張ができるのでしょうか。 ○中井委員 今の問題が出ることを予測して念のためにお尋ねした次第です。譲受人は当然悪意・重過失ですから債務者に対して請求をしても抗弁が立つ。では,その譲受人が第三者に取立権限を委任して,その第三者が取立てをしても譲受人と同じ立場ですから債務者は抗弁を主張できる。   しかし,譲受人が譲渡人に取立権限を与えたとき,譲渡人から債務者に対して取立請求があったときに債務者は,この大阪提案は弁済先固定特約と実質考えていますから,譲渡人に対してはそれを拒めない,そのような抗弁を認める必要はないという判断から譲受人が譲渡人に対して取立権限を付与している場合は譲渡人からの取立てに対して応えざるを得ない。それを拒絶したら,いま松尾関係官がおっしゃったように承諾したものと考える。こういう整理をしているという理解でよろしいというか,事務局との理解が一致しているかどうかの確認でもあるのですけれども,潮見幹事のご疑問に対してはそういうふうに考えています。 ○松尾関係官 先ほどの説明をもう少し敷衍して申し上げますが,先ほど私の方から悪意・重過失の譲受人から取立権限を付与されれば譲渡人が請求することができるのではないかと申し上げましたのは,(1)のイで債務者が履行を拒むことができるのは悪意又は重大な過失がある第三者に対してであって,第三者ではない譲渡人に対して履行を拒むことができる理由がどこにあるのかというところにあるように感じています。その理由がない以上,やはり譲渡人からの請求は拒むことができない,つまり取立権限自体に瑕疵があると見る必要はないと考えたということです。 ○鎌田部会長 ということでよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 取立権限を譲渡人以外の者に与えて,その譲渡人以外の者が債務者に取り立てできたときには同じようになるのですか。それとも違うのでしょうか。 ○松尾関係官 それは,取立てを拒めるということになるのだと思います。 ○山本(敬)幹事 譲渡人に取立権限を与えた場合のみが違ってくるということですか。 ○松尾関係官 はい。 ○鎌田部会長 もともと譲渡人だけに取立権限を持たせているから,それを行使するということでは……。 ○潮見幹事 今のは,約定での取立権限の付与ですよね。そうであれば譲渡人に対する取立権限の約定による付与と,譲渡人以外の者への約定による取立権限の付与でどうしてそういう違いが出てくるのでしょうか。 ○松岡委員 先ほどの松尾関係官の御説明をこういうふうに理解していますが,正しいのでしょうか。譲渡制限特約は,弁済先を固定するという債務者の利益を守るためにある。無断で譲渡された場合,悪意・重過失の譲受人に対しては当然に弁済を拒める。譲受人が悪意・重過失であれば当然弁済を拒めるので,譲受人が更に第三者に弁済受領を委任したとしても同じで,債務者はやはり弁済を拒める。しかし,譲受人が譲渡人に対して取立てを委任する場合には,結局譲渡制限特約によって保護された債務者の弁済先を譲渡人に限るという利益は守られていることになるので,抗弁は立たず,債務者は譲受人から委任を受けた譲渡人に弁済しなければならない。こう理解してよろしいのでしょうか。   譲渡権限があるかどうかに余りこだわると,潮見幹事や山本幹事のおっしゃるとおり,第三者に対する委任と譲渡人に対する委任でなぜそんなに違うのかがやはり説明しにくいですが,説明は今申し上げたようになると私は思います。 ○松本委員 所詮は説明の仕方だけだと思います。賃貸借の場合の賃貸物件の所有権の移転と契約上の当事者の地位は分離することもあり得るのだというロジックでやっているわけなので,ここも考え方によっては,債権が譲渡された後に譲渡人に取立権を委任したと考えるのではなくて,譲渡担保の二段階物権変動説のように,もう一度債権譲渡をして,債権の中身,財産的帰属の部分は戻さないけれども,取立権という一種の契約上の地位に近いものは当初の譲受人に残すという形で一部戻したんだと考えれば,全くの第三者への取立権の委任とは違うという説明が可能だと思います。 ○松尾関係官 いろいろと説明ぶりについて御指摘をいただいたということは,確かに分かりにくい説明をしてしまったかもしれないので,もう一度考えてまとめて御説明するようにしたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかの点はいかがでしょうか。   中井委員,どうぞ。 ○中井委員 4の「債権譲渡と債務者の抗弁」の(2)の「債権譲渡と相殺」のところですが,今回のアとイという整理と,ちょっと前に私がこだわりました支払いの差し止めを受けた債権を受働債権とする相殺の規定ぶりとの平仄です。差し止めを受けた債権を受動債権とする相殺のところは(1),(2)の2つに分かれていて,(1)は差押さえ後に取得した債権による相殺をもって対抗できない。この場合において,差押さえを受けた債権の第三債務者は,差押さえ前に取得した債権の相殺をもって対抗することを妨げられないとわざわざ2段階に書いていてよくわかりませんという問題提起をさせてもらいました。   今回のアの債権譲渡と相殺のところは,差押さえのときの後段部分,対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって対抗することができるだけになっています。これは意図があって差押さえの場合の相殺と債権譲渡の場合の相殺のアの規律を,差押さえの方では(1)ですけれども,変えたのでしょうか。なぜこうなったのかがよく理解できなかったものですから。 ○松尾関係官 511条の方は,まず原則として505条で相殺をすることができるというルールがあって,その例外として511条で差押えとの関係で相殺を対抗することができない場合があるというルールになっています。511条では,やはり相殺を対抗することができないというところから書き始めなければいけないということがあると思います。   それに対して債権譲渡と相殺の場面については468条2項との関係が問題になるのですが,譲渡人に対して生じた事由や譲渡人に対して持っていた相殺権を例外的に譲受人に対抗することができる場面を規定しているものなので,書き始めが債権譲渡と相殺の場合については対抗することができるという方向から書いているということで,ここを意識的に書き分けているというのは御指摘のとおりです。 ○鎌田部会長 よろしいですか。ほかの点について,潮見幹事,どうぞ。 ○潮見幹事 債権譲渡と相殺のところで,(2)のイですが,この書き方の方が前の案よりはよくできているのではないかと思いました。その上でのことですが,前からの議論で,例えば請負人における瑕疵修補に代わる損害賠償請求権とか,あるいは必要費償還請求権だとか,あるいは有益費償還請求権がこれに当たるのかどうかということがここでも議論され,分科会でも結論は出ていないというか,いろいろ議論があって,しかしこうだという形での着地点については明らかにされていません。そういう状況下でこのようなルールを持ってくるということは,ここでいう債権が生ずる原因を「その契約に基づいて生じた債権」という部分の解釈として今後このルールが民法に載った場合に,学者や実務家なりが頭を使って考えなさいという御趣旨と受け止めたのですけれども,そのような理解でよろしいのでしょうか。   一問一答等で何かその部分について言及される予定がおありになるのかどうかということを,この際ですからお教えいただければ助かります。 ○松尾関係官 先々よく説明をしていかなければならないという御趣旨だと思いますので,それは十分に受け止めていろいろな形で説明申し上げていくようにしたいと思います。   これまで具体例として確かに挙がっていたのは必要費・有益費の償還請求権があり,そこについては意見が分かれていて,私が前回の部会で申し上げたことについては中井先生からも更にまた異論があったところです。部会の中でも,やはり解釈について分かれるものはあったのだと思います。そこはその経緯,あるいは考えの分かれ目などをきちんと御説明するように今後も務めてまいりたいと思います。 ○鎌田部会長 よろしければ次に進みたいと思います。   次は,順番からいきますと81-1の第3,第4ということでございますけれども,事務当局側の都合によりまして第5の「売買」,第6の「贈与」について御審議いただきたいと思います。一括して御意見をお伺いいたしますので,ご自由に御発言ください。 ○岡委員 売主の義務の表現のところでございます。中間試案までは「契約の趣旨に適合した」という表現になっておりましたけれども,今回は「契約の内容」という言葉に変わりました。「契約の趣旨」というのが採用できないという理由はわかりましたが,この「契約の内容」という言葉に変わりますと,契約だけで決まってしまうという心配を弁護士会の多くの者がしております。   従前,契約の一切の事情に基づき,かつ取引上の社会通念を考慮して定まるという合意がこの部会でできていたと思います。この「契約の内容」という表現になってしまうと,取引上の社会通念を考慮する,あるいは照らすという部分が抜け落ちてしまうという心配でございます。ここについて何とかならないかという議論を昨日も随分いたしました。   法制上とおるかどうかは別ですが,こんな案が出たということを御報告したいと思います。1つは,帰責事由とか履行不能のところで採用されている「契約及び取引上の社会通念に照らして定まる」をここでも採用し,「契約及び取引上の社会通念に照らして定まる契約の内容に適合した」うんぬんという表現ができないのでしょうかという意見がありました。   それだと少しどぎつすぎるということであれば,先ほどの約款のところにありましたような,81Bの12ページですが,この不当条項の5番の第2文に,「無効か否かについて判断するに当たっては考慮する」という表現があります。これを少し変形させて,「契約の内容を判断するに当たっては契約の趣旨,目的,及び取引上の社会通念を考慮する」,こういう形で入れられないかという意見も強うございました。   補足説明を見ると,従来の「契約の趣旨」とこの「契約の内容」は変わるものではないと書かれているのですが,やはり条文になると違うと思います。この「取引上の社会通念」をどこかに入れることについては事務当局としてどんなふうに考えていらっしゃるのでしょうか。 ○筒井幹事 御指摘いただいた点は,確かに中間試案から見た目が変わっている点でありますし,これまでの議論の経緯に照らしてそのような御意見があることは十分理解できます。このような案を御提示した理由ですけれども,すでに御案内のこととは思いますが「契約の趣旨」という中間試案で使った言葉には内容的に不明確なところがあり,その言葉のままで条文化することに非常に困難を感じているということがまずございます。   その上で,「契約の内容」という言葉を使うとしたときに,これについて何々を考慮するという修飾語をつけるかどうかということですけれども,ここでの「契約の内容」が何によって定まるかは,正に契約の解釈そのものです。その契約の解釈についての一般的なルールを設けることは,前回の議論でもなかなか困難であるという一定の結論に至ったところです。そういたしますと,そのうちの一つの要素である「取引上の社会通念に照らして」等ということを書き込むのが適当なのかどうかという点が当然に問題になるだろうと思います。   また,そのような考慮要素などを細かく書き込んでいくことが,この規定の置き場所である売買の周囲の規定との関係でバランスがとれているかどうかについても,十分留意する必要があるだろうと思います。   そのようなことを踏まえて,もちろんこれまでの議論に表れていたとおり,ここでの「契約の内容」はもちろん契約書の記載によって決まるなどと考えているわけではなく,契約の締結に至る経緯等を考慮して取引通念も参酌して定まるという理解に立っていますけれども,条文表現としては「契約の内容」とさせていただき,そしてそのような考慮が働くことは,例えば債務不履行による損害賠償の免責事由のところなどを参酌しながら解釈していただく,そのことを手がかりに解釈していただくという整理で御理解いただけないかと考えた次第でございます。 ○松本委員 今の御説明との関係で,売主の義務あるいは瑕疵担保責任の本体であるところの債務不履行の部分を見ますと,これは前々回のものですかね,債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときはという表現が使われています。ここでは,「債務の本旨」となっています。債権総論では「債務の本旨」という言い方にする。契約各論では,「契約の趣旨」という言い方を使わないで,「契約の内容」という言い方にする。そういう表現ルールと理解してよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 「本旨に従った」という文言どれほどの意味を読み込むのかという問題はあると思いますけれども,基本的には債務の内容が履行されないという意味であろうと理解し,それと同じことが「契約の内容」という言葉で表現されているという理解だと思います。 ○中井委員 同じところを申し上げることになりますが,契約の内容について懸念点として2点あります。1点はやはり「内容」とだけ書くことによって,ある意味でかねてから言っているギラギラの合意,極論すれば書面による合意のみが考慮されるという懸念です。この点は筒井幹事におっしゃっていただいたとおり,実質ここでの理解としては取引の経緯のみならず取引通念が考慮されて決まるのである,ということが理解されているとはいえ,この「契約の内容」という言葉だけになってしまうと,やはりその懸念が拭えない。これが岡委員から申し上げたかったことです。   もう1点は,ここで契約の内容といえば,これは当たり前のことを書いていて,内容に従ったものを供給しなさいよとなり,常に売買においてその内容を探究しないと適合しているか適合していないかが判断できないということになろうかと思います。そうすると実際の大量の取引を見たときに個別に品質・性能,ここで言うと種類・品質ですか,について合意していない場面も多々ある。従来の理解としては,特段の合意がなければ目的,対象物が通常有する品質・性能を備えたものを引き渡せば足りるという形で,それ以外に当事者間で合意をすれば,当然その合意に従ったものを引き渡さなければならない,こういうルールだろうと思います。そうしたときに,特段当事者間で合意がない場面で一体どうなるのかというルールがこれでは見えなくなるのではないか。   その点例えば,これはかつてお配りいただいたドイツ民法は合意しているときは合意した内容のものを引き渡さなければならない。しかし,次に性状について合意がなされていないときにはどうか。物が契約において前提とした使用に適するもの,もしくは物が通常使用に適し,かつ同種の物において普通とされ,買主がそのものの種類から期待できる性状を有するもの,そういう規定がある。   とすれば,例えばここで合意がないとき,もしくは合意が明らかでないときかもしれませんけれども,通常有すべき種類,品質の物を引き渡す義務を負うと書くのか,先ほどの贈与のところを考えれば物を引き渡すことを約したものと推定すると書くのか。そういう一般的なルールが見えにくくなるな,そういう懸念もある。   申し上げたかったのは2点です。社会通念,取引通念を考慮して決まるのだということを明らかにする必要性があるということと,もう1つは合意がない場面での一般的ルールが見えにくくなって,全て個別合意の中身を探究しなければならなくならないか,こういう懸念に対する対応を考えていただく必要がないかということです。 ○山野目幹事 中井委員がおっしゃった懸念の整理を受け止めながら,今の岡委員と中井委員の御議論について考えるところを申し上げさせていただくとすれば,1点目の,契約の内容の前に取引上の社会通念に照らしその他,を入れるという解決は,ギラギラの合意優先にならないようにしようという注意として,おっしゃっていることの感覚はわかるような気がします。しかし,それは,ここの部会でずっと議論してきた私たちにとっては,そのようなものをたとえ書いていなくても読み込んで解釈するということが当然の考え方であるということを共有ししつつ,また同時に,先生方が契約の内容と書くとギラギラの合意優先になるということとちょうど反対側の心配があります。   ここの議論の経過を知らない人が社会通念に照らし定まる契約の内容に適合して義務を履行せよ,と書かれた文章を見たときに,人々が抱く印象の想像として反対向きのことが私はすごく心配です。それは所詮個人的な語感の感覚の問題だから君のように感ずる人は世の中にはいないと言われてしまうとそうかもしれませんが,社会通念に従って義務を履行せよ,という文章をよく理解しない人が読んだら,ある意味では大変な社会になるような恐れ,そのような社会へ向かってしまう規律として読まれる恐れというものも反対側にあるような気がしますから,そこも先生方に一歩踏み止まって考えていただければありがたいと感じます。   それからもう1つは,中井委員の後半の,もう少し契約の内容のところを外国立法例やモデル例等も勘案して詳しく書き込んだら,というお話ですが,私はそれは気持ちとしては賛成であり,あるいは,といいますか,もっと言うと,だから契約の解釈に関するルールを入れるべきだったのではないですか。だけどそれはもう決まったことですから,いま中井委員は売買のところについて局地的におっしゃいましたけれども,いわば契約の解釈の一般論の3つあったルールのうちの一部を実質的にはお述べになっているものですよね。あれは入れないということを決めたのですが,それをもう1回蒸し返してここでしようとおっしゃるのであれば,それは個人としてはしてもいいのではないかという気持ちは持ちますけれども,審議の手順の問題として契約の解釈のルールを実質的にもう1回持ち出すという決断をしない限り,その後半の2点目はかなり難しいであろうと私は感じます。 ○道垣内幹事 山野目幹事がおっしゃったところが,私が2点申し上げようと思っていたことと全く同じです。 ○岡委員 取引上の社会通念に照らして契約の内容を決めろと,そんな大々的なことを言っているわけではありません。契約の趣旨の定義のところで合意したように,契約の目的,経緯等に基づいた上で,第二次的に控えめに取引上の社会通念も考慮して定まる契約の趣旨ということを申しあげているのです。あくまで契約が第一義的だけれども,補充的な要素として取引上の社会通念を入れるというのが部会の合意だったわけで,取引上の社会通念だけで決めろとは誰も言っていないと思います。 ○道垣内幹事 その御提案は賃貸借のときの賃貸目的物についても書く,全部に書くということですか。全部に書くのだったら前に出せというのが普通のパンデクテンの作り方ですよ。それは山野目幹事おっしゃったことですが,売買の問題ではないですね。 ○岡委員 以前は「契約の趣旨」がはっきりと定義されており,その言葉を使っての契約の趣旨不適合だったので,瑕疵という文言から置換えることについて違和感なく弁護士会もついてきたわけです。今回はその大元のところがなくなったので,この瑕疵担保のところで問題点が現れているのだろうと思います。取引上の社会通念を絶対的な価値としてドーンと押し出せと言っているわけではなく,契約の補充的なものとして取引上の社会通念をうまく入れようというのが今までの合意だったわけで,それを何とかできないのかという意見です。どうしても無理だったら先ほどの筒井さんのように普通の一問一答ではなく,特別な一問一答としてきちんと書いていただくのでも仕方がないのかなとは思っておりますが,弁護士会では,この部分について随分変わったなと,それだったら契約の解釈のルールを明文化する案を復活させるべきではないかという議論も出ました。 ○道垣内幹事 もう1回伺いますが,それは賃貸借のところにも書くのですね。全てに書くのですね。 ○岡委員 理論的にはそうなるでしょうけれども,実務家として一番気になるのは売買・請負の瑕疵担保のところ,ここが一番気になります。 ○松本委員 折衷案ですが,「内容」という言葉を使うとギラギラしてきて,この部会の当初の議論でも行われた「契約により引き受けていない事由」という議論を彷彿させるというのが弁護士会の御主張だと思います。「内容」は消してしまって,「契約に適合したもの」とか「契約に適合した権利」というふうにしてより漠としてしまう。そうすれば契約書に書かれていることも,それ以外のことも入ってくるということになるのではないか。どこかで契約不適合とか契約適合性という表現が使われていたと思います。そうであれば契約に適合する,しないということで,中身については今議論されて,皆さんコンセンサスがとれているはずの内容で読み込めばよろしいのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 それは3,4に全部連動する言い回しになっていますから,全体を通じてどういう表現をしていくのが一番適切なのかという検討しなければいけないので,御指摘いたただいた点も含めて全体を見直す際に整理をしてもらいたいと思います。 ○中井委員 1点だけ。先ほど道垣内幹事からほかのところにも入れるのかという御質問がありました。先ほどの贈与等の責任等に関する81Bの御提案ですけれども,贈与についても贈与契約における中身を探究して,それに適合するものを引き渡すというのが本来的なところだけれども,贈与の無償性という特殊性に照らして贈与の目的となるものが確定したときの状態で引き渡せば足りるのだ。こういう任意規定,一般的なルール,通常あるべき引渡しの内容を定めよう,推定という形で定めようとしたわけですから,今回売買のところでどういうものを引渡すのかということの一般的なルールとして,まず何もなければ通常有すべき品質・性能のあるものを引き渡すのだ。当事者が合意すれば当然合意した内容の物を引き渡すのだというルールがあることはそれほどおかしなことではなく,かつほかの契約類型も全部書くのかという質問に対しては,売買の規定は,559条でしょうか,ほかの有償契約にも全て使われるわけですから,ほかのところにも同じように書かなければならないという理屈までにはならないのではないかとも思うものですから,なおここに置く意義はあるように思います。また,それが従来の裁判例の考え方から乖離しているわけではなくて,売買の品質・性能についてはとりわけそういう議論の仕方があったのではないでしょうか。 ○潮見幹事 中井委員がおっしゃったことについてですが,まずは通常の性質を見て,特別な合意があったら,それを次に見るというニュアンスでおっしゃられましたけれども,むしろ逆が本来の姿ではないですか。ドイツもそうだと思います。私自身は「契約の内容」と書くことで何も違和感はございません。むしろこう書くべきだと思います。 ○山本(敬)幹事 現行法でも,品質に関しては中等の品質とするという規定がありますが,この中等の品質をどう理解するかは,実のところよくわからないし,この規定が実際に使われるケースはほとんどなかったという経緯があります。   そして,売買の目的物一般について,デフォルトルールとして「物が通常有すべき性質」と書くことはできないだろう思います。それは,対象とされる契約に応じて予定される性質は違ってくるわけであって,「通常有すべき性質」が一体何かは一般的には決まらないと考えられるからです。特に土地のように,汎用性のあるような物では,何が通常有すべき性質か。例えば土地の中に何か埋まっていることはどうなのかということまで考えますと,デフォルトルールを立てきれないだろうと思います。その意味で,言おうとしておられることは理解しますが,それを明文化することは難しいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。御指摘の趣旨は大体理解できてはいますが,それをどう規定化していくかというところについては御提案のとおりではちょっと難しい。それをどこで受けることが可能か,あるいは可能でないのかということはもう少し検討する必要があると思います。   岡委員,どうぞ。 ○岡委員 次の瑕疵担保のところに移りたいのですが。今の論点は鎌田先生の今の締めでいいということでいいのですね。   では,次に瑕疵担保の表現のところでございます。知ってから1年の期間制限がかかることにつながるものとして,2の(2)で売買の目的が物であるときで,種類・品質に関して契約の内容不適合な場合には1年の期間制限がかかる。その場合の物というのははっきりしていますが,この種類・品質に関してというのが1年の期間制限がかかるかかからないかの分かれ目になります。   今だって瑕疵というのが明確かと言われると明確ではないのですが,今後はこの物についての契約不適合について種類・品質に関するか関しないかで,期間制限の1年がかかるか,かからないかが決まってしまいます。そういう絶大な効果をもたらすときの要件事実として種類・品質という言葉で大丈夫なのかという実務からの不安でございます。   例として言えば居住用建物で自殺していたことを言わなかった場合はどうでしょうか。品質自体には問題はないけれども,やるべき検査をやっていなかった場合はどうでしょうか。後者はかろうじて品質に引っ掛かるのかもしれませんけれども。実務から見て種類・品質に関してという外縁を,何かわかりやすい形で説明していただきたい。また種類・品質に関すれば,何故1年の期間制限がかかるのかという点につき,理論的な説明はうまくできるのでしょうか。その理論なり立法趣旨が明らかになれば,こういう普通名詞であっても解釈としてうまくいきそうな気もします。この種類・品質という言葉についての理論的な立法趣旨と,実務的にどう考えていくのか,そのあたりをお聞きしたいと思います。 ○住友関係官 前回の売買の部会でも似たような話になったかと思うのですが,「種類・品質」という用語に負荷がかかるというのは否めないところかと思っていますし,先ほどのお話にもありましたとおりやるべき検査をやっていなかった例など,種類・品質と一体として考えることができるものはこれに含まれるという解釈の余地が残ることは否めないと思っています。   それから,この種類・品質についてだけなぜ期間制限を設けるのかということにつきましても,種類・品質の契約不適合を立証すること自体が数量の契約不適合と比べると難しくなってくるのではないかということがその区分けの説明になるのではないかと思います。もちろん数量との違いは程度問題ではあるとは思います。 ○潮見幹事 関連しないかもしれませんが,どうしても未練があるので申し上げます。前回,部会資料75Aで取り上げられたときに数量を省いていることについて説明がなっていないのではないかと御意見を申し上げたと思います。今回も,性状の欠点は数量不足の場合と違って比較的短期間で瑕疵のものの判断が困難になると説明されています。しかし,実はそうではないのではないかということを,前にも申し上げました。それでもなお数量の場合について除外するというところが,私にはまだ理解できません。最近のモデル準則などでも,数量だけを省いて規定するのは,私が見た限りでは見つかりません。どうしてここだけ省かなければいけないのか。そんな強く省かなければいけない立法事実があるのかというところについて納得がいきませんが,説明は変わらないという理解をした方がいいということでしょうか。 ○住友関係官 はい。 ○潮見幹事 分かりました。賛成はできませんけれども,ほかの方がそれでいいと言うのだったら,深入りはしたくありませんので,諦めます。 ○中田委員 表現だけの問題ですが,先ほど中井委員から「品質・性能」という言葉が出ましたが,最高裁でも「品質・性能」という言葉を使っています。それを「品質」に限定されたのは,ここでの品質の中に性能も含んで読む,こういう趣旨でしょうか。 ○住友関係官 以前の部会で,「性状」の用語について御指摘をいただいて,また中間試案で用いていた「種類・品質」の用語に戻したということですが,この中間試案の用語では「品質」には性能も含めて理解されているものと理解をしております。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○山本(敬)幹事 目的物が物であるときに,「種類,品質及び数量」と書きますと,文言だけを重視して,それに従った解釈をするならば,物自体に内在しているような「種類,品質・数量」が念頭に置かれると思いますが,物そのものでなく,物の外にある環境,特に建物等ですと,日照や通風などが分かりやすい例ですけれども,眺望などもそうかもしれませんが,そのようなものもこの概念に入ってくるかどうかは,強いて言えば,「品質」の解釈に委ねられる。そして,従来,このようなものも含めて瑕疵を語る裁判例があったということは,恐らく今後も解釈上生き残っていくのではないかと思います。これは確認だけをさせていただきたいのですが,それでよろしいでしょうか。 ○住友関係官 いま山本先生がおっしゃられたとおり解釈に委ねられる点があると思っております。 ○岡委員 そうすると一問一答には従来の瑕疵を言い換えたのが物に関する種類・品質の契約内容不適合で,従来の解釈を変えるものではない,そんなふうな記載になっていくのですか。しかし瑕疵とこの数量,品質に関する契約不適合というのは違うような気がします。実務家からすると,1年の期間制限をかけていいような不適合と解釈したくなると思いますが,研究者の先生はこれでいいんですか。「種類・品質」ということで今後の実務は大丈夫だと皆さん考えているのだったらジタバタしませんが,非常に不安を持っております。 ○山本(敬)幹事 このような契約不適合,ないしは従来で言う瑕疵担保責任に関しては,今回の改正では,債務不履行責任として構成し直すということですから,今後は債務不履行の一般原則,従って期間制限に関しては消滅時効の一般原則に委ねるべきであって,ここで従来570条に規定されていたような短期の期間制限はなじまないし,説明がつかない。ですから,先ほどから岡委員が何度も言われるように,立法理由を適切に示すことはできないのではないかということを私も申し上げてきました。ただ,非常に残念ではありましたけれども,この部会での多数の意見は,従来の短期の期間制限をいきなり変えるのは難しいだろうということで,これを残したということです。   そうしますと,説明としては,ここで言う「種類・品質」というのも,基本的には従来の瑕疵担保の規定がカバーしていたものと重なるとみるというような説明をするしかないのではないかと思います。私自身は今なお,このような期間制限を設けることは説明がつかないと思っていますけれども,説明をするとすれば,今申し上げたようになるのではないかと思います。 ○松岡委員 先ほど潮見幹事が数量不足の場合の規律が欠けているのは困るとおっしゃいました。一人だけの意見のように思われるとまずいので私は潮見幹事の意見の支持を表明します。   そもそも,前もどこかで申し上げたと思いますが,今回の改正でなくなる565条の数量指示売買の規定の性質は,従来の瑕疵担保責任の一種と理解されています。それゆえ先ほどの岡委員から,瑕疵と数量・品質の不適合は同じかと問われますと,今回の御提案では7で数量を除いていますので,ちょっと違うと言わなければなりません。そのことの説明がつくのかと言われると疑問です。先ほど山本幹事がおっしゃったように,短期の期間制限は債務不履行責任の一般規定の中に吸収する方向が目指されたのですが,多数意見にならなかったわけです。その上で,7番で数量を落として期間の点でも565条と違う規律にすることに,なお強い抵抗を感じます。 ○道垣内幹事 すみません,この部会資料の読み方ですが,潮見幹事,松岡委員が前提とされていたところに関連しまして,6はどのように読むのですか。つまり「561条~567条までの規律を次のように改める」と書いてあるけれども,括弧内に「565条及び期間制限に関する規律を除く」と書いてありますね。「除く」というのは改めないということなのかなと思って,そうすると数量も1年なのかなとこれを見たときに思っていたのですが,そうではないのですか。 ○松岡委員 それは違うでしょう。事務局から説明していただくのがより適切だと思いますけれども,565条の現行の規定は廃棄するのではないのですか。道垣内幹事のおっしゃるのとは違って,ここの565条は現行の565条ではないのではないですか。 ○筒井幹事 最初の道垣内先生の御質問で,6のところで括弧内でなぜ除いているのかというのは,その部分については4の代金減額請求権であったり,7の期間制限であったり,そちらで新たな規律が,削除も含めてですけれども提示されているので,6では除いているという意味でございます。 ○道垣内幹事 ただ,7の期間制限は現行法ですと570条で566条が準用されることによって3項で期間制限がかかっているのですね。それに対して数量指示売買のところは564条が準用されることによって期間制限がかかっているのであって,現行570条に関しての566条のところを除いたからと言って,数量指示売買に期間制限がかからないという案にはならないのではないかという気がします。心の底では松岡委員,潮見幹事に賛成ですけれど,今内容のことを言おうとしているわけではなくて,もう少しそこを少なくとも分かりやすく要綱にしていただかないと,私のようなつまずく人間が現れるのではないかという気がいたします。 ○筒井幹事 できる限り分かりやすく書けというのはもっともな御指摘なので,改めて精査いたしますけれども,ただ今の御指摘については7(2)で削除する規定を具体的に明示しておりますので,ここに含まれているのではないかと思います。 ○鹿野幹事 2点質問させてください。第1点は,4の(2)のウのところについてです。4は代金減額請求権の規律で,要するに契約に適合しないような物の引渡しがあった場合における買主の代金減額請求権に関する一連の規律が置かれているのだろうと思います。ところが,ウのところでは,「売主が履行しないでその時期を経過したとき」と書かれており,その表現が気になります。ここでは,契約の内容に適合しない物の引渡しがあったけれども,その追完がなされないままでその時期を経過したときということが想定されているのではないかと思うのです。そうであれば「追完をしないで」などの表現の方が適切なのではないでしょうか。この「履行しないで」という表現を用いると,全く履行しないような場面が想定されているかのように見えてしまいます。その点,何か特別な意図があるのかどうかをお聞かせください。   それからもう1点は,7の(1)のところで確認なのですが,今回の期間制限はあくまでも瑕疵を知らないままに瑕疵ある目的物を引き渡してしまった売主にいわば善後策を講ずる機会を与えるという目的のものであって,現行民法570条の準用するところの566条3項とは意味合いが異なるのだということを前提としている。そこで,(1)に出てくる「通知」の意味も,従来の570条,566条3項の下で1年内に行うことが要求された行為とは当然異なるのだという理解でいるのですが,それでよろしいでしょうか。   より具体的には,現行民法570条,566条3項の解釈として,御承知のとおり最高裁の平成4年10月20日の判決は,損害賠償請求権を保全するためにはこの期間内に裁判上の権利行使までは必要ないけれども,少なくとも売主に対して具体的に瑕疵の内容と,それに基づく損害賠償請求をする旨を表明し,請求する損害額の算定の根拠を示すなどして売主の担保責任を問う意思を明確にする必要があるとしているわけですが,そのような判決は今回の新しい期間制限には妥当しない,そのように理解してよろしいかという質問です。   最後に,この時期に申し上げてよいのかとも思いますけれど,私も数量だけここで除かれていることについては疑問です。主には2点の質問につきお願いします。 ○住友関係官 1点目からお答えさせていただきます。正に4の(2)のウで想定している場面は鹿野先生がおっしゃられたとおりでございまして,だとすると売主が履行しないでこの時期を経過したときというのではなくて,売主が履行の追完をしないでというのが正確ではないかという点は更に検討していきたいと思っております。   それから,2点目の7の買主の権利の期間制限のところについてですが,鹿野先生がおっしゃられたとおりでございまして,これまで権利行使が必要だったけれども,それを変えて通知で足りることとするということでございます。 ○山本(敬)幹事 この段階ですので,少し細かいことを幾つか指摘させていただければと思います。5の損害賠償の請求及び契約の解除で,「3の(1)及び4の規定による権利の行使は,債務不履行一般の規定による損害賠償の請求及び解除権の行使を妨げない」とあります。しかし,4は買主の代金減額請求権ですので,これを行使したときは,解除権を行使することは考えられません。もとの規定の仕方から,重複を避けるためにこのように改められたということですが,このような問題が発生してしまいますので,書き方についてはもう一度お考えいただければと思います。   もう1つは,8の競売における買受人の権利の特則ですが,これは1行目の終わりで,「4及び」,これは訂正があって「債務不履行一般の規定により」とあるわけですが,4は違うのはないでしょうか。要するに,従来で言う瑕疵担保に関する規定は排除するわけですので,4をここで上げてはいけなくて,恐らく6のことではないかと思うのですが,これも確認をさせていただければと思います。   最後に要望ですけれども,先ほど道垣内さんが指摘されていましたけれども,私も全体として何が削除されて,どこがどう変わるのかということが非常に読み取りにくく感じました。次回で結構ですので,参考資料として,結局この売買の部分が全体として,残る部分を含めてどのように改められるかをお示しいただけますと,混乱がなくなるのではないかと思いました。 ○住友関係官 1点目の5の書き方については更に検討していきたいと思います。   それから8についてですが,「4(6によって準用される場合も含む)」という意味内容にですので,さらに検討したいと思います。 ○村上委員 11の買戻しの(1)アに「現実」に提供してとある部分についての意見です。以前の部会でも申し上げましたけれども,買戻しに関しては,あらかじめ受領を拒んでいる場合には口頭の提供で足りるという判例があります。大審院の大正7年11月11日の判例がそうですし,最高裁の昭和40年10月12日の判例でも同様の理解を前提にした説示がされています。そこで,ここに「現実」に提供してと書きますと,判例を変えるということになりますが,判例を変えて,常に現実の提供が必要だということにしようという議論がされたのでしょうか。 ○筒井幹事 御指摘の点は,そうではなくて判例を変える意図はないということでございます。ただ,ほかにも「現実の提供」という言葉を使った改正項目があったと思いますけれども,「口頭の提供」で足りる場合があるという判例があることはそのとおりなのですけれども,それを適切に要件化して条文の中に組み込むことが難しいので,条文上は現実の提供と書くけれども,例外としての口頭の提供で足りる場合があることは,その限度で解釈に委ねられている。そこについては従来の判例を変える趣旨ではないという整理なのだと思います。それが分かりにくいという御指摘があるのは十分理解いたしますけれども,適切な解説などで明らかにしていきたいと考えております。 ○村上委員 単に「提供」とだけ書いたのではまずいということなのでしょうか。 ○筒井幹事 原則と例外があることを表現する必要があるかどうかという問題だと思うのですね。 ○鎌田部会長 弁済の提供の方法に関する一般規定はなくなってしまうのですか。現行法のように提供すると書いておいて,弁済の提供の方法のところで現実の提供が原則でという,こういう形でよろしいのではないかというのが村上委員の御指摘ですね。そこはまた法制上の問題も含めて検討させていただければと思います。 ○中井委員 これは5の「損害賠償の請求及び契約の解除」のところでの確認ですけれども,3の(1),つまり追完請求をした場合に解除できるというこの場面ですけれども,本来的な請求権を行使して,不履行だから催告をして解除する,これは部会資料79の1で催告解除の制度を設けて,ただし書きで軽微であれば解除できません,こうなっていたと思います。そのときの部会資料で契約目的不達成との関係についての補足説明があったと思います。今回,現民法ではこの追完請求については契約目的不達成の場合のみ解除できるとなっている。ここで債務不履行一般の規定による解除権の行使を妨げないとすると,この原則,前回の79の1の契約の解除の催告解除の要件で足りることになるとすれば,軽微ではないけれども契約目的を達成できる場合は解除できるという結論になる。私自身,従来の79の1の不履行があるところで本来的な債務の履行を催告して,履行しない場合は原則解除できる。解除できないのは軽微な場合だということについて積極的な発言をしたのですが,ここの追完請求をした,つまりここで言うならば修補の請求をした。その修補請求の催告をしたわけですけれども,その催告に対して応じなかったときに,やはり原則論からいうと軽微基準になりますが,ここはやはりそうなるのでしょうかという確認です。本来的に債務の履行をしないときの催告の解除とここでの追完請求をしたときの解除の基準が本当に全く同じでいいのか。これは今更ながらですが念のために確認というか,それでいいのだと,確認をさせていただければと思います。 ○住友関係官 事務当局の案としては先生のおっしゃるとおりで,債権総則の規定がそのまま適用されると考えております。 ○中井委員 そうすると念のためですけれども,現行法は契約目的不達成の場合にのみ解除できるとなっているので,解除の範囲を変えた,原則論を変えたことによって広がった,ここは明らかに広がったという理解になるのでしょうか。 ○住友関係官 軽微ではないが目的は達成できる部分については広がったと言わざるを得ないと考えています。 ○中井委員 原則の催告解除については部会資料79の1の提案のとおりに弁護士会として申し上げたことは間違いがないのですが,ここの修補請求に対しても全く同じでいいのかなという点については,今回これを整理しているとき,ある弁護士会から強く指摘を受けたものですから改めて,今頃言うなよ,ということなのかもしれませんけれども確認した次第です。ただ,このままだったらそういう帰結になるということは理解いたしました。そうなるのだろうなと思いながら質問したのですが。 ○潮見幹事 言い方が難しいのですけれども,住友関係官の説明はそれなりの一貫性はあると思います。つまり追完請求,それから履行請求を考えたとき,追完請求権が履行請求権の1つの対応にすぎないと考えるのであれば解除の規定をどのように適用するのかに関しても債務不履行の一般準則に従い判断をすれば足りる。そのとき催告解除のルールの適否が問題になった場合には,一般の催告解除のルールに従って処理をせざるを得ない,こういうことになろうと思います。その意味ではやむを得ないのではないでしょうか。   ただ,中井委員がおっしゃられたところに少し関係するところがあるのですが,今回の原案の3の売主の追完義務のところの規定,特に(1)で,これは追完請求権のことを書いています。追完請求権を書いていて,(1)で本文があった上でただし書きがあります。このただし書きは,追完請求権が履行請求権の態様であるということでは説明がつきません。つまり,本来の履行請求権においては債権者の帰責事由の有無とは関係ない形で履行請求権があり履行請求権の限界が定まるという枠組みをとっていますから,これをそのままスライドした場合にはここの追完請求権でこんな論理が出てくるはずはない。   しかし,これが合理的だという判断をされたということは,売買における追完請求権については一般準則とは違ったものがここで妥当すべきであるという考慮が働いたのかもしれません。そうであれば,先ほど中井委員がおっしゃられたような追完請求,催告,不応答の場合については,特殊な状況があるのであって,売買の場合には催告解除の一般ルールというものがそのまま妥当すべきではないのだという考え方に一理あるのならば,ここで特別の扱いをするというのも選択肢として否定されるわけではないと思います。それを取るかどうかは別だということを留保しながら,それから先ほどは3の(1)のただし書きということがありますからと申し上げましたが,個人的には3の(1)はこれでいいのかなと思う部分がございます。このことを含んでのこととしてお受け止めください。 ○鎌田部会長 事務当局からは特にないですか。 ○山本(敬)幹事 別のところですが,よろしいでしょうか。10の「目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転」です。ここでは,売主の責めに帰することができない事由があるかどうかを問題にするのはよいとしても,証明責任をどちらが負担するかが問題だと思います。この素案を文字どおり受け止めますと,買主側が目的物の滅失又は損傷を理由とした請求をするのに対して,売主側が,その滅失又は損傷の前に目的物を引き渡したということに加えて,その滅失又は損傷が売主の責めに帰することができない事由によることまで主張・立証しなければならないというように読まれるのではないかと思います。   しかし,考え方としては,売主としてはその滅失又は損傷の前に目的物を引き渡したということで足り,あとは買主の方でその滅失又は損傷が売主の責めに帰するべき事由によることを主張・立証するという方が適当ではないかという気もします。   仮にそれが適当だとしますと,書き方としては,本文では「その引渡しがあった時以後に滅失した」とだけ定めて,その上でただし書きで,「ただしその滅失又は損傷が売主の責めに帰すべき事由によるときにはその限りでない」というように定めるべきではないかと思います。この点は,そもそも証明責任の所在の理解が今申し上げたようなことでよいかということからして問題かもしれませんが,お伺いできればと思います。 ○住友関係官 債権総則の危険負担でも同じような議論になったかなと思いますけれども,総則の危険負担と併せて検討していきたいと思います。 ○松本委員 先ほど村上委員が御指摘された買戻しのところですが,579条については,現在「返還して」となっているのを「現実に提供して」と置き換えるのだということ。判例上,現実の提供まで要求していない場合もあるのだと。そこは判例に任せると。   他方で583条については改正するという提案はないのですが,583条1項は単に提供しなければ買戻しすることはできないと書いてあるので,ここは579条で現実の提供という,より厳しい要件を前に持ってきているのだから,後ろの期間内に提供の部分は単に提供でかまわないのだという御判断なのでしょうか。ここも現実の提供にしておく方が紛れがないかなと思うのですが。 ○住友関係官 更に検討していきたいと思います。 ○中田委員 単に表現だけのことです。4の代金減額請求権の(2)のイですが,「追完を拒絶する意思を明確に表示したとき」という表現になっておりますが,「明確に」という書き方はちょっと珍しいのではないかという気がしたのですが。前の75Aですと「確定的な意思を表示したとき」だったのが改められたのですが,他方で79の1で債務不履行による損害賠償,それから契約の解除では,履行拒絶の部分は,「債務の履行をする意思がない旨を明らかにしたとき」となっております。もし中身に違いがないのであれば表現をそろえた方がいいのではないかと思います。 ○筒井幹事 御指摘をありがとうございます。ここは要綱仮案の原案その1からその3までを通じて,最初から統一的に書いているわけではなくて,原案その1の審議の際に,従前の案で確定的な意思が表示されたというのにもう少し近いニュアンスを出すべきではないかという御指摘があったことを受け止めて,従来の「確定的に」という言葉では条文になりにくいという認識はそのときには申し上げたとおりですが,何かもうひと工夫できないかということで今回は「明確に表示した」という表現にしてみたということです。   いずれにしても条文の少し手前での文言選びにとどまりますけれども,こういった表現でよろしければ,以前に御指摘があったところも同じような表現に改めようと考えております。 ○鎌田部会長 いずれにしても文言の点は最終的な段階での調整をお待ちいただければと思います。 ○金関係官 1点だけよろしいでしょうか。「明確に」という表現が珍しいという御指摘だったのですが,少なくとも日本の現在の法令の中では,「明確に表示した」という表現を使っている例はいくつかありまして,他方で,「確定的に何々した」という表現を使っている例はありません。それらを踏まえて,いま筒井幹事から申し上げたとおりの結果になっているということです。 ○岡委員 2点発言させていただきます。1点目は,やはり期間制限のところの種類・品質にどうしてもこだわるわけですが,立法趣旨を一問一答等にはっきり書いていただきたいと思います。それは先ほどの住友さんの発言とか,敬三先生の発言を聞いていると,原則は一般の消滅時効にかけるべきだけれども,従来の法律もあるので,一部分だけは期間制限を残さざるを得ないと理解しました。余りきちんとした説明ができないということがあるにしても,やはり大きなところですし,法定担保責任説が債務不履行責任説明にガラッと変わって実務に相当影響を与えますので,種類・品質に限って昔の条文を承継して期間制限を設けた趣旨はこうであるというのを是非きちんと書いていただきたい。それについてのコンセンサスがここにあるのかどうかが疑問ですが,それは是非書いていただかないと実務は混乱すると思います。   その観点からいくと数量を落としたのは,先ほどの住友さんの発言でいくと,数量だと売主の方は言われなくてもわかる,立証が容易だ,種類・品質については言われない限り売主の方は引き渡したら終わったと思って安心するが,数量の場合はそうでない,ということでしょうか。知ってから1年以内に行使されない場合に売主を保護すべき必要性がないという立法趣旨になっていくのでしょうか。そこの質問が1つでございます。   もう1つは,売主の追完権で,3の(2)のところでございます。前回までは契約に適合する方法が明記されておりましたけれども,今回はそれが抜けております。当たり前だと言えば当たり前ですが,従来から追完権という債務不履行した人に権限的なものを与えるのに抵抗が強かったところでございますので,何かこのままだと異なる方法で自由にやれてしまうように読めますので,可能であればやはり「契約に適合する方法」とか,それを残していただいた方が国民にわかりやすいし安心感があるように思います。以上2点です。 ○筒井幹事 数量について外した理由は,岡先生から御指摘があったとおりだと思いますし,そういったことを丁寧に説明すべきであるということは全く御指摘のとおりだと思います。   若干補足しますと,期間制限に関して,設けることは本来不合理であるがという前提で先ほどの御発言をされたと思いますが,そういう御意見ももちろんありますが,必ずしもそう言われているわけではなくて,むしろ合理的であるという説明もございます。その上で合意形成の仕方として,こういう規定が機能しているという現実を踏まえて,それを修正しながら存続させる方向で合意形成を図ってきたということではないかと理解しております。 ○道垣内幹事 細かい点に噛みついて申し訳ありませんが,法定責任説から債務不履行説に変わったわけではないと思います。現行民法が法定責任説に立脚していると我妻先生は書いておられますが,別段判例がそう言っているわけでもありませんし,そこにコンセンサスがあるわけではありませんので,その点は誤解なきよう。 ○山本(敬)幹事 この素案では改正の対象になっていないのですが,572条を見ますと,「担保の責任を負わない旨の特約」という言葉が出てきます。そして,これは売買だけではなく,ほかのところにも出てきますし,相続法でもこれを受けて「担保の責任」という言葉が出てきます。この「担保の責任」という言葉は,売買に関する特別な責任という歴史的な経緯を引きずった表現であるのに対して,いま話題に出ていますように,改正法では,売主の責任は債務不履行に基づく責任だとされています。としますと,これを「担保の責任」と呼ぶのは適当ではないと思います。どう改めるかはもちろん問題ですが,少なくとも担保の責任を負わない特約については,「何条から何条に定める買主の権利を全部又は一部認めない旨の特約」というような表現に書き直す必要があるのではないかと思います。これは,どの段階でどう考えるかという問題はありますけれども,相続法まで含めることになってくると思いますので,是非お考えいただきたいところだと思います。 ○筒井幹事 御指摘いただいたように要綱仮案とは別にという話になろうかと思いますけれども,条文化の作業においては民法の規定も含めて,要綱仮案に載っていないけれども整備的な改正が及ぶ可能性があるということは以前にも申し上げたとおりです。それに類する検討課題としていろいろとお考えがおありであれば,事務当局にお知らせいただければ条文化作業の際に取捨選択をしながら考えてみたいと思っております。   差し当たり「担保の責任」という言葉を修正するかどうかというのは,山本敬三先生もおっしゃったように,もし変えるとしたらどう変えるのかという問題があるでしょうし,このままでおかしくないという御意見も恐らくあるような気がいたしますので,いろいろ御意見がおありでしたら引き続きお知らせいただければと思います。 ○潮見幹事 変える方向で考えていただくのはいいと思います。先ほど山本敬三幹事がおっしゃられたのでご案内だと思いますが,相続のところは特に慎重にお願いします。 ○鎌田部会長 81の1の第3,第4及び第7以下が全部審議未了でございますが,予定した終了時刻になってしまいましたので,本日の審議はこれまでにしたいと思います。   次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回ですけれども,予備日として予定していただいておりました来週7月15日(火曜日)に開催することにしたいと思います。時間は午後1時から午後6時まで。場所はいつもの法務省20階第1会議室でございます。次回の議題といたしましては,部会長から御紹介がありましたように要綱仮案の原案の続きをお願いすることになると思います。よろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 なお井上関係官におかれましては,今回でこの部会への御出席が最後になるとお伺いしておりますので,この場で御紹介させていただきます。 ○井上関係官 金融庁の井上でございます。5年間にわたる議論のうち1年間でございましたけれどもお世話になりました。ありがとうございます。明日付で庁内異動がございまして,あと3回の議論と要綱仮案の取りまとめを見られないのは大変残念ですが,後任の中澤に引き継がせていただきたいと思います。   民法の改正の議論に携わった者として整備法の立案ですとか,あるいは改正法の施行,更にはその実務への定着まで見届けるのが責任だと思っておりますので,個人的にそういう方面で貢献していきたいと思います。本当にありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   それでは本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御議論を賜りまして,ありがとうございました。 -了-