法制審議会 民法(債権関係)部会 第94回会議 議事録 第1 日 時  平成26年7月15日(火)自 午後1時01分                      至 午後6後01分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 予定した時刻になりましたので,法制審議会民法(債権関係)部会の第94回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,関係官として中澤亨金融庁総務企画局企画課調査室長,及び松下哲博農林水産省経営局農地政策課農地業務室長が御出席となっております。よろしくお願いいたします。   また,本日は安永貴夫委員,岡田幸人幹事,餘多分弘聡幹事が御欠席と承っております。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日は予備日として予定していただいた会議ですので,新たな部会資料の配布はございません。前回会議で配布済みの部会資料に基づいて御議論をお願いしたいと思います。   机上には前回会議で配布いたしました山川隆一幹事の意見書を改めて配布させていただいております。前回配布分について差替えがあったものでございます。法務省ウェブサイトではこちらを公表することにしたいと考えております。 ○鎌田部会長 本日は部会資料「81-1」の残りの部分について御審議いただく予定です。通常の休憩時間までに終了するのではないかと思って特に休憩を予定しておりませんけれども,成り行きで必要に応じて休憩を入れたいと思います。   本日も事務当局からの冒頭の説明は省略させていただき,直ちに議論に入りたいと思います。   まず,「第3 契約の成立」及び「第4 著しい事情の変更による解除」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いしたいと思いますので,御自由に御発言ください。 ○岡委員 売買のところで質問させていただきます。   まず,代金減額請求のところです。瑕疵担保責任として,調査費用などが売主無過失の場合でも信頼利益の名の下に認められてきた問題があったと思います。この売主に帰責事由がない場合で,損害賠償請求できない場合で,代金減額で処理する際に,買主の方に生じた調査費用等についてはどうなるのでしょうか。今の仕組みでいくと代金減額請求の解釈で対処するのが現実的な方策と思いますけれども,そのような方向で考えていいのかどうか,この点に関する質問が一つ目でございます。全部で三つでございます。   二つ目については,追完請求のところで修補請求ができるということになっていると思います。それも売主に帰責事由のない場合でございます。売主に帰責事由がなくても追完請求の一環として修補請求はできると。その場合に,修補を買主の方が自分でやって,その修補実費を売主に請求することはできるのですか。売主に帰責事由がないわけですから,損害賠償請求はできない,でも修補請求はできる,相手がやらないと自分でやる場合はあり得る。それも新しいこの仕組みでは代金減額の中で処理するしかないように思われるのですが,それでいいのですかという質問が二番目でございます。  それから,三番目については,契約の内容という言葉についてでございます。実務家にとってはかなり関心の高いところでございますので,細かい質問になるかもしれませんが。民法600条で,これは使用貸借のところですが,契約の本旨に反する使用等によってうんぬんと,契約の本旨という言葉が残る,改正提案がなされておりませんので残るのだろうと思います。債務の本旨と言う言葉も残り,契約の本旨という言葉も残る。その中でさらに契約の内容という言葉を新しくもってくるようですが,契約の内容と契約の本旨はどう違うのですかという質問を受けました。   この点について,まず契約の本旨という言葉が残るのか残らないのか。残るとして契約の内容という言葉とどういう関係になるのでしょうか。そういうややこしい内容とか本旨とかいう言葉はやめて,契約に違反するというシンプルにした方がいいのではないかという意見もございました。   この三つについて可能な範囲でお答えいただければと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局から答えてもらいます。 ○住友関係官 まず1点目の帰責事由がない場合に今まで信頼利益として損害賠償が認められた部分について,代金減額で考慮できるのかという点につきましては引き続きと言いますか解釈の余地があるのだろうなと思っております。   次2点目の,修補請求の点なのですけれども,帰責事由がなく売主が修補請求をしなければならない場合に買主の方が自分でやった場合にはそれはどうなるのかということにつきましては,これも帰責事由がなければ損害賠償ができないというふうになりますので,代金減額をせざるを得ないと考えますが。ただ,ここの考え方としましては,そもそも契約不適合があった場合にはもう基本的には売主に帰責事由があるというふうに判断される事案がほとんどではないかということだったかと思います。 ○筒井幹事 契約の本旨という言葉が600条で使われていて,これについては改正提案がこの要綱仮案の原案にはないという点からこのまま残るのではないかという御指摘ですけれども,この点についてはなお検討の余地があるとは思っておりまして,条文化作業の際に全体的な文言の統一感なども含めて今一度考えてみようと思います。そういう意味で,これを改正しないということを現時点で前提としているわけではございません。   そのことを前提として契約の内容という言葉が適当かどうかということは前回の会議でも議論になったところでして,それについての事務当局の所見は前回述べたとおりですけれども。その上で,契約の内容ではなくて単に契約と言った方が適切ではないかといった意見については,これもまた条文化作業の中で引き続き検討させていただきたいと思っております。そういう意味での契約という言葉と区別する趣旨で特に契約の内容とどうしても言わなければいけないとは考えておりませんので,どういった表現が条文として適切なのかというのは引き続き考えたいと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですね。   ほかに,第3,第4に関連した御意見を頂ければと思います。 ○大島委員 「第4 著しい事情の変更による解除」についてでございます。事情変更の法理の明文化については力の大きな当事者ほど当該原則の適用を主張することができ,中小企業にとって不利に働く懸念があるため反対をしてまいりました。繰返し主張しているように,事情変更の法理は極めて例外的な場合でのみ適用されるものであると理解をしております。仮にこの法理を明文化するのであれば,例外的な規定であることを明確にした上で,裁判外で濫用されることのないように限定的な文言にすべきであると考えております。   今回の提案は部会資料「77A」と比較すれば,事情変更の法理が例外的な場合でのみ適用されることが明確になっていると思います。しかし,2行目にございます異常な天災地変その他の事由という文言は,当事者が契約時に想定できなかったあらゆる事情が含まれると理解される可能性があり,裁判外での濫用の懸念がぬぐえません。   事情変更の法理は契約の前提となる客観的な社会状況が大きく変動した場合にのみ適用されるべきであると考えています。そのことが明確になるように,例えば異常な天災地変等予期し得ない社会状況の変化に基づき,契約の基礎とした事情が失われた場合においてなど,より限定的な文言に変更していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○佐成委員 同じく「著しい事情の変更による解除」というところです。いわゆる「事情変更の法理」ということでございますけれども,例外的な場合にのみ適用されるという方向で検討していただいて,適用範囲がかなり限定をされているということについてはバックアップのチームの中でも評価をされておるところでございます。ただ,我々の方は中間試案のパブコメでも,法理の存在を認めつつも,やはり今大島委員がおっしゃっておりましたけれども,濫用的な主張への懸念から反対意見をこれまで述べております。   今回も内部で議論をした中で幾つか意見が出ておりました。まず,要件を限定しようとしているのは分かるけれども,「異常」だとか「著しい」という抽象的な言葉で何度限定しても,やはり不明確さが残るという点がまだ指摘されておりました。それから,「予見する」というところですけれども,この予見というのがどの程度のことまでを予見すれば予見したことになるのかがまだ不明確で,契約書でどの程度手当ができるのかも良く分からないという指摘がございました。あるいはここには「異常な天災地変」ということで例示されておりますけれども,通常我々の実務では天災地変については契約書にそもそも書き込んでおることが専らで,しかもその場合には不可抗力ということで処理されているので,こういった規定が入りますと,逆にこれを基にモデル条項として契約書に書き込まれてしまって,これまでの実務的な部分でのリスク分配の問題がゆがめられる,場合によっては真っ当でない事業者によって濫用されてしまうということがやはり懸念されるのではないかというような意見が出ておりました。今は内部で出てきた意見を単に御紹介しただけですけれども,現時点でもそういった状況でございまして,やはり内部ではまだ反対意見は強いという状況でございます。 ○鎌田部会長 それでは,事情変更に関連する御意見をまずまとめてお伺いしておきたいと思いますが。ほかには御発言ございませんか。 ○村松関係官 今回説明の中に適切に事情変更の解除が認められそうな事例というのも取り上げておりますので,もしそちらについても何か御意見がございましたらお伺いできればと思っております。 ○鎌田部会長 御意見は特にございませんか。   事務当局から何かコメントしておくべきことありますか。 ○村松関係官 先ほど経済界の代表のお二人からなお濫用の懸念があるという御指摘を頂いておりまして,特に大島委員からは更なる修正の可能性も具体的に示唆いただいております。これまでの審議の過程でかなり限定的な運用がされているという趣旨が分かりやすくなるように,ただ行き過ぎないようにという配慮でやってまいりましたので,なおそういった配慮が可能なのか,あるいは正直これ以上は何とも書き込みようがないというような状態になり,そうしましたら最後はコンセンサスが形成できるのかと,そういった問題に帰着いたしますけれども,もう少しいずれにしてもなおその限定的なニュアンスが裁判外の濫用というおそれもまあ余りないだろうという程度になるものかどうかは検討してみたいと思っております。 ○鎌田部会長 ではよろしくお願いいたします。   ほかに第3に関して。 ○岡委員 今村松さんがおっしゃった事例の確認ということですが,「81-3」の7ページの①の事例で,裁判所から出された事例を殊更に拡張して作った事例だと思います。これについて第一東京弁護士会で議論していたところ,何度もここで議論されたことではあるのですが,履行不能と危険負担と事情変更解除の関係を整理したいという意見がでました。まず,この事例でいけば,もの自体は滅失してないから危険負担ではないという理解でよろしいのですか。   それからもう一つ,この引渡しは,ここに引渡しもできないと書いていますが,引渡しは観念的に可能なように思われますので,履行不能ではないと思われます。したがって,事情変更の解除でのみ処理が適切な事案であると,こう理解すれば分からないでもないと思います。しかしそうだとすると,この引渡しができないという記載はちょっと今の理解には邪魔になりますねと,こういう議論をしてまいりました。   今の三つの法理のすみ分け具合というのはどんなふうに理解したらいいのでしょうか。 ○村松関係官 確かにこれまでも議論されていたところでありますけれども,御指摘のようにこの事案については事情変更だけで処理するのだろうと思い,提案しています。一番やはり問題になるのは,その中でも不可抗力との関係というところで,先ほど佐成さんから御紹介のあった経団連の中での御意見にもその不可抗力とのすみ分けがよく分からなくなるという御指摘はありましたけれども,この事例については今おっしゃいましたように,代金を支払うことはどう見ても可能であると。他方で,引渡しの部分については,これは大審院の事例を下敷きにしたところがありましたのでこういう記載になりますけれども,引渡し自体はいずれできるようになるのは明らかであると,ただ今すぐにはできないけれども,いずれできるようにはなる。ただ,その時期は今の時点では不確定な状態になっている,そういう浮動的な状態になっているような事例を指していますので,その意味でおっしゃいましたように履行自体は観念的にはなお可能であるというのが大前提です。その意味ですみ分けはできているのだろうということになるのだと思います。   確かに,こう書きますと履行不能みたいだという御指摘があるかもしれませんけれども,あえてここに更に括弧書きで解説を付ければ,とはいえ履行は可能であるというのが前提であるということでして,あえてこういう事例にしたのは先ほども申し上げましたように昭和19年の事例とある程度似かよらせたという配慮でございます。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○岡委員 引渡しは観念的なもので可能と思います。物理的な引渡しは不能だけれども,法律的な引渡しは可能と,こう理解してよろしいのですか。 ○村松関係官 そのとおりです。 ○鎌田部会長 他にはよろしいですか。   「第3 契約の成立」については特に御意見は。 ○中田委員 第3の1について,これは条文化作業の問題だと思いますけれども,ここにも契約の内容という言葉が出ていますが,この契約の内容というのは売買などのところで出てきたものと若干意味が違っているのではないかと思います。こちらは申込における内容の確定性の問題であるのに対して,売買などで用いられているのは契約の趣旨に近いと思います。その違いについて御配慮いただければと思います。 ○山川幹事 承諾の期間の定めのない申し込みについて簡単に申し上げます。安永委員の意見書の理由において示されている従来の裁判例との関係での懸念につきましては,従来私も申し上げたところであります。ただ,その条文上継続的契約について除外するといったような形にするのは今の段階ではちょっと難しいのかなという感じもしておりまして,これまでの御説明の中では労働契約の合意解約のような場合にはこの規律は基本的に適用は想定されていないというような御説明があったと思いますので,そういう趣旨をどこかで明らかにしていただければと思います。 ○筒井幹事 山川先生から御指摘がありましたように,前回の会議で配布されました安永委員の意見書についての山川先生からコメントを頂いたわけですけれども。私どもも従来から説明しておりますように,この524条について隔地者に対する申込という限定を外すとしても,従来の裁判例において労働契約の合意解約の申込については撤回の制限が及ばないといった判断が積み重ねられている,その現状について何ら変更するものではないという理解をしております。   安永委員からは,そのような理解に立つとしても,それを条文上明らかにする趣旨で継続的契約を合意解約するための申込について適用除外とすることを明文で定めてはどうかという具体的な御提案を頂いたわけでございます。確かに継続的な契約の合意解約であるということは先ほど申し上げました労働契約の合意解約の申込に撤回の制限が適用されないことの理由の一つとして下級審が指摘していることで,そのこと自体にはそれほど異論はないと思うのですけれども,このような形で一般化した命題として条文化することについては,それだけの広がりのある議論の蓄積があるわけでは必ずしもないと思いますので,この段階でこのような明文化をするというのは極めて困難ではないかと思っており,それについては先ほど申しましたような理由から現状を変更するものにはならないということを改めて申し上げて,その点で御理解を頂きたいと考えております。 ○鎌田部会長 他にはよろしいですか。 ○中井委員 重複するのですが,先ほどの岡委員の意見,そして中田委員の意見との関係ですけれども,売買の2の売主の義務の契約の内容について前回問題になって,共通の理解ができていると思っています。ここでの契約の内容は,契約の目的や締結過程,そして社会通念等も考慮して定まるものであるというのがそこでの理解ですが,若干気になるのは第3の契約の成立の所で同じ契約の内容という文言が使われていて,ここは契約の成立に必要なそれを確定するに耐える要素なのだろうと思います。それが同じ言葉で使われていることによって,売主の義務のところの契約の内容が,かなり限定した意味で理解されるのではないかという懸念を感じます。同じ言葉をそのまま使うことについては更に検討していただきたいと思います。   600条の契約の本旨に反する使用又は収益というのも,これは使用貸借契約における内容,そこの内容については売主の義務で言うような契約の内容,使用貸借契約の目的,締結に至る経緯やその動機も含めて定まったものではないかと思うものですから,契約の趣旨に近いと思われます。適切な対案がないままに申し上げるのはよくないのかもしれませんけれども,更に検討していただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○筒井幹事 契約の成立の第3の1のところで使っている契約の内容という言葉が他のところとは意味が違うのではないかということを中田委員,それから中井委員から御指摘いただきました。その御指摘のとおりだと思いますので,その点について条文化作業の際には十分留意しながら適切な言葉を選び,またその議論をこの部会にフィードバックするようにしたいと思いますけれども,差し当たりの要綱仮案としてはこれに代わる言葉を直ちに用意して議論することもなかなか困難な時期に差し掛かってきましたので,ここはよく考えさせていただくということで御了解を頂ければと思っております。   それから,600条の契約の本旨についても重ねて御指摘いただきました。この600条の契約の本旨という文言はやや特殊な理由で使われていたと思いますので,これをどうするのかというのも課題としてあるだろうと私どもの方でも理解しておりますので,その点についても引き続き考えたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。   よろしければ,部会資料「81-1」の「第7 消費貸借」,「第8 賃貸借」及び「第9 使用貸借」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いしますので,御自由に御発言ください。 ○松下関係官 農林水産省でございます。この要綱案の第8の9でございますけれども,減収による賃料の減額請求権について定めました民法第609条及び610条について削除するという案になってございますけれども,農水省といたしましては引き続きこれを継続をお願いしたいという意見でございます。   理由でございますけれども,大きく二つございます。まず1点目でございますけれども,要綱案によれば民法609条及び610条は農地法20条において借賃等の増減の請求権を認めていると,そういうことから実質的にその機能を失っていると,こういうことでこれらの規定を廃止するということでございますけれども,そもそも民法609条及び610条と農地法20条では適用局面が異なるのではないかという考えでございます。農地法20条でございますけれども,この趣旨は,契約当時予想し得えなかった経済事情の変動によりまして,例えば豊作によって農産物価格が大幅に低下したと,それがまた将来とも継続していくと,そのような状況の下で,将来に向かって賃料の増減を請求していくというのが20条の趣旨でございます。   一方,民法609条及び610条につきましては,不可抗力によって収益が低下した場合に,当該年の賃料について減額請求を行うというものでございますので,例えば冷害等の自然災害とか病害虫,鳥獣害等によって当年産の収益が大幅に減少した場合に当該年の賃料を減額を請求するというものでございますので,農地法20条があることを理由に民法609条及び610条を廃止するということは妥当とは言えないのではないかという具合に考えております。   もう1点でございますけれども,仮にこの条項を廃止した場合には,農業経営への重大な影響も懸念されるということでございます。現在災害等の減収に伴う措置といたしましては,農業災害補償法の農業共済制度というのが措置されております。これによって減収があった場合にはその減収を補てんするという保険的なものなのですけれども,そういう措置がなされております。ただ,この農業共済制度も保険設計ができないような作物であれば対処しておりませんので,主要作物を対象にしているということでございまして,全ての農作物が対象とされているわけではないということでございます。   仮に加入していても,例えば水稲の場合ですと秋に収穫をして春に作付をすればいいですけれども,その間に被災した場合には当然ながらこの共済の適用はございません。例えば平成23年3月に東日本大震災で大津波ございましたけれども,あの被災についてはこの共済の対象にはなってございません。   特に近年農業者の方の規模拡大をみますと,所有権によって規模拡大するというよりも,貸借によって規模拡大をしていくというのが現在の市場の姿でございます。この賃貸借によって大規模な農業経営を実現されている農業者が,この共済によって補てんされないような不可抗力による減収に直面した場合,これまで以上に地代が大きな経営上の負担になるということが想定されるわけでございます。   ちなみに,水稲の場合,10アール当たりの賃料が約1万2,000円でございます。1ヘクタールが12万円,10ヘクタール規模ですと120万円。大規模な農業経営の場合50ヘクタール,100ヘクタールというのが一般的でございますので,そうすると500万,1,000万単位で地代の負担がかかってくるということでございます。そういう意味で制度上も賃料の減額請求権を賃借人に認めておくということは耕作者保護の観点からもなお必要であるという具合に考えております。   したがいまして,民法609条及び610条は引き続き存置されたいという意見でございます。 ○潮見幹事 2点おっしゃられましたうちの2点目の方は私とやかく申し上げるつもりはございません。共済の枠組みの中で組み替えるということでも対応可能かどうかはそちらで考えていただければと思いますが。   1点目についてですけれども,まず民法の枠組みというものがどういうものかということを御理解いただいた上で,あるいはここでの審議ではそれを考えていただいた上で,609条,610条を廃止するのがいいかどうかということを検討すればいいのではないか,今の御意見を伺って率直に感じました。   どういうことかと申し上げますと,収益を目的とする賃貸借というものは本来は収益が上がるかどうかということは賃借人が自らのリスクとして負担すべきものであると思われます。そうでありましたならば,収益を目的とする賃貸借の全ての事例に当てはまるような民法のデフォルトルールとして609条とか610条を設けるのは必ずしも適切ではないように私は思います。   また,ある種の収益を目的とする賃貸借で,一定の収益を上げることが契約の内容になっていると,それが対価の面でも考慮されているのだというような場合でございましたら,今回考えられている改正の中では代金の減額請求に関する一般的な規定だとか,解除の規定も整備されるようになっておりますから,先ほど御発言になられた当該年の収益については今の有償契約である売買契約の規定というものの準用で対応が可能ではないかと思います。   法務省の事務当局が説明されたものとは少し理由は違いますけれども,それで十分対応が可能なのではないかと感じるところがあり,民法の理屈としてはそれで十分ではないかと私は思います。今申し上げたのが民法の一般的な枠組みを前提にしたらこうなるのではないかという感想です。   そういう目で609条,610条を見ますと,以前に京都大学での講義の関係で見たことがあるのですけれども,明治の立法者というものは専ら農地の小作関係を想定して規定を設け,その関係で議論をやっているところがございます。そこでは農地の賃貸借というものは先ほどの話を前者,後者と仮に申し上げますと,後者の類型,すなわち,一定の収益を上げることが契約の内容となって,そして対価も決まっているという観点から考慮されて,609条,610条が設けられているというものです。   そうみますと,609条や610条は専ら農地賃貸借に特化されたようなデフォルトルールとして立てられたのではないかという感じもいたします。そうであれば,先ほどのお話ではありませんけれども,今回の民法の改正が考えられている枠組みでも今おっしゃられた部分の第1点については十分対応が可能であるし,更にもし規定が必要であるということであれば,609条や610条の規律対象が今申し上げたところで紛れがないようであれば,農地法に20条と並べて同種の規定を設けるということで対応するというのが適切ではないのかと思います。それを越えて609条,610条を残した場合には,松下関係官がおっしゃられた以外の収益を目的とする賃貸借において,異なったあるいは少し考え方の違うメッセージというものを私たちが伝えることになりはしないかと思うところです。   要するにそう考えますと,民法609条と610条は削除した上で農地法に規定を回すということではどうだろうかという感じがいたしました。 ○鎌田部会長 山野目幹事,どうぞ。 ○山野目幹事 松下関係官から609条と610条の削除に関していただいた御意見に接しまして,二つの異なる方向のことを申し上げさせていただきます。   1点目でございますけれども,609条と農地法20条との分担関係については,松下関係官が仰せになったことは誠にごもっともでございまして,この削除の提案に係る部会資料の説明は適切でないと考えます。適切でないということは単に事務当局を批判申し上げているものではなくて,部会資料における説明はここに至るまでの委員,幹事の議論の積み重ねの反映でございますから,私どもも609条と610条の削除について,その意味では研ぎ澄まされた理由をきちんと議論してこなかった部分があり,そのことの御注意を頂いたものであると感じます。その点については理由の差替えが必要であるという意見を申し上げさせていただきます。   もう1点は,これとは異なる方向のことを申し上げますけれども,ここまでの部会における論議の積み重ねに鑑みまして,609条と610条は削除をすることが適切であると考えられます。609条,610条両方とも,取り分け609条がそうでございますけれども,極めて拙劣な一種の事情変更法理の表現である。出来損ないの事情変更法理が盛り込まれているというふうに言わざるを得ない側面があります。これを今後も日本の民法の中に残すことは,21世紀におけるこの領域の規律として極めて不適切であると感じられます。   よく作り込まれている事情変更の法理の具体的な実定上の表現としては,借地借家法の11条や農地法20条の規定などがございます。しかしながら,不動産法制の中には借地借家法や農地法の適用がない領域がございます。しかも最高裁判所の判例によりますと,借地借家法や農地法の適用がない領域について,みだりにそこに賃料地代増減請求権の規定を類推解釈することは認められないということとされております。しかし,実は借地借家法や農地法の適用がない不動産法の領域というものは,今日までも国土政策上重要な位置を占めてまいりましたし,再生可能エネルギーの問題が比重を増してくる今後の我が国の社会経済におきまして,産業政策上極めて重要なものとますますなってくる可能性がございます。建物ではないけれども工作物ないし建造物であるようなもの,例えばパネルであるとかプラントであるとかいうようなものを土地に設置して収益を追求しようとするときに,609条の文言は大変広うございまして,潮見幹事がおっしゃるように,立法の発端というか趣旨は農耕,牧畜を念頭に置いたものかもしれませんけれども,現行法の文言は収益を目的とする土地になっておりまして,これをこのまま残したのではそういうふうな産業政策その他の分野における政策に与える影響が非常に深刻なものになってまいります。   農業のことは重要であると感じます。そうであればこそ,609条,610条の削除に関し,立法事実が十分に備わっていないというふうに関係御当局が御判断になる事項は農地法において規律をきちんと整備して設けていただくことが相当なのではないかと感じます。 ○松下関係官 農地に関する記述がこの条項に限らず,例えば永小作権とかそういう条項もございますので,この条項だけの議論ではなくて,全体として民法がどういう整理をするかという議論の中で農地法のような話は出てくるものだと思っておりますので,よろしくお願いいたします。 ○山野目幹事 松下関係官がおっしゃるとおり,永小作権,それから農業が直接関係しないかもしれないですけれども,林業まで含むと地上権も含めた規律も総合的に勘案しなければいけないということは御指摘のとおりでありまして,そこで見てみますと,地上権の地代と永小作権の小作料は改定しないという基本原則が確認的に規定されてございます。こちらが原則であると考えます。事情変更の原則というものが例外的にしか働かないと考えれば,対価の改定はしないということが原則であって,609条と610条の規律の方が特出したものになっております。それを今後も残すと,他の政策領域に大きな影響を与えるということを先ほども申し上げさせていただいたものでありまして,このまままいりますと,この609条のようなことを考慮しないで土地の評価をしてくれと言っても不動産鑑定において困難が生じますし,土地の所有者が土地を提供することをためらうという要因にもなります。様々な用途での土地の使用が今後の日本の社会経済において予定されていく中で,こういうものが妨げになるということは非常に困る部分がございます。   先般,国土交通事務次官通知が発出され不動産鑑定評価基準が改訂されましたけれども,その中で継続賃料のことつきまして最高裁判所の判例を参照しつつ直近合意賃料の趣旨を踏まえた細密なものにする改訂がされています。しかし,609条や610条のようなものが働くということを想定した不動産鑑定の手法については議論がされてこなかったし,今後もそういうものについての適切な発展を期待することができない状況にあります。   609条,610条の機能について,農耕,牧畜以外のところについて根拠となる立法事実がないのであればやはり総合的に勘案してその規律の在り方を抜本的に変更することが求められているのではないかと感じます。 ○鎌田部会長 事務当局からはよろしいですか。 ○筒井幹事 御指摘いただきました点のうち,609条,610条の関係については,従前の資料で削除の理由について十分な整理がされていなかったという御指摘は十分に受け止めた上で精査したいと思いますが。元々これまでに議論されてきましたのは,今日も話題にもなりましたように収益を目的とする土地ということで,農地等には限らず,むしろ例えばゴルフ場でありますとかスキー場でありますとか駐車場であるといったそういった他の目的による土地の使用などを念頭に,この規律が一般的に妥当するのかどうか,この規律は不当ではないかといった形で議論が進んできたと思いますので,そのように理由の説明は補充させていただいた上で,この規定の取扱いについて引き続き協議させていただければと思います。 ○鎌田部会長 関連した御意見,他にはよろしいですか。   それでは,その他の点についての御意見をお伺いします。 ○山本(敬)幹事 順番に申し上げてよろしいでしょうか。戻りますけれども,消費貸借についてです。消費貸借の「5 貸主の担保責任」について意見を申し上げたいと思います。   「担保責任」という言葉をそのまま維持することが適当ではないという点は前回申し上げたとおりですので,これについては繰り返しません。問題は,(2)の無償の消費貸借について贈与者の担保責任の規定を準用するとしている部分についてです。   これによりますと,前回扱いました部会資料「81B」にしたがいますと,推定をすることになると思います。つまり,貸主は消費貸借の目的である物を消費貸借の目的となることが確定したときの状態で引き渡すことを約したものと推定するということになるはずだと思います。  ただ,消費貸借の場合は,目的物は消費物ですので,種類物のはずです。このような消費貸借では,契約上,目的物について,種類,数量,そして恐らく性質についても合意によって特定をするはずだろうと思います。にもかかわらず,実際に引き渡された目的物がそれに適合しないときに,無利息の場合は,その特定されたものの引渡しで足りると推定して本当によいのか。そのようなはずはないと思うわけです。   つまり,贈与の場合は,何となく特定物の贈与がデフォルトのイメージとしてありますので,先ほどのような推定を語ることがまだできそうに感じるわけですが,借主に消費物を消費する可能性を与える場合は,特定したその引き渡した物のその時の状態で足りるというのはやはりそぐわないのではないかと思います。その意味では,(2)に関しては,このような規定は削除するのが望ましいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 関連した御意見があればお伺いして,特にないようでしたら事務当局からその点についての御説明をお願いします。 ○住友関係官 「81B」の「第4 贈与」ですが,この規律が想定しているのは特定物かもしれませんが,種類物が特定したときも含む規律になっておりまして,そうしますと消費貸借においても同じように考えるのが相当ではないかと思います。と言いますのは,今の民法の590条2項で無利息の消費貸借における担保責任の規定がありますが,これは今の民法の贈与の担保責任の規定と同じような趣旨に基づくものですので,「81B」で提案した贈与の担保責任についても無利息の消費貸借に準用するのがよいのではないかと考えて提案させていただいております。 ○山本(敬)幹事 実は贈与の方も問題なのかもしれないのですが,消費貸借で消費物を借主に消費させる場合は,もちろん,一定の種類や性質を持ったものを想定して契約で定めて消費させるということなのですが,実際に引き渡した物がその種類や性質を備えていなかったときに,その時の状態で消費貸借契約を締結したものと推定されてしまいますと,受け取った物が使い物にならない場合でも,それ以上の請求はできないことになってしまいます。しかし,消費貸借で貸主が借主に消費物を消費させるという契約をしているにもかかわらず,引き渡した物が使えなくても,それ以上は仕方がないということになってしまうのは,当事者の意思に合ってないのではないかと思います。   もちろん,最終的には契約の解釈ではあるのですけれども,デフォルトルールとしてこのような推定をするのはそぐわないのではないかと思うということをもう一度申し上げたいと思います。 ○鎌田部会長 デフォルトルールを適用する前の意思推定規定という構造になるのだと思うのですけれども。 ○鹿野幹事 いま山本敬三幹事がおっしゃったことに関連して,前回の贈与のときに質問し損なった点について,確認させて頂きたいと思います。資料81Bの贈与のところでは,「贈与の目的となることが確定した時の状態で引き渡し,又は移転することを約したものと推定する」とされており,その説明においては「目的が特定(確定)した時」とされています。これは,種類物などを念頭に置いた規定なのだろうと思うのですが,ここで具体的にどういう状態になれば特定ないし確定するということが想定されているのかがよく分かりません。そもそもある一定の性質を持ったものが契約上予定されているのであれば,それと異なった瑕疵があるものを提供しても,少なくとも現行民法401条2項の考え方によると,まだ特定はしないということになりそうです。ですが,前回の資料では,それでも何らかの時点で特定ないし確定することが予定されているようにも見えます。そこであらためて,ここに記載された特定ないし確定はどういう場合に生ずるとお考えなのかということを伺いたく存じます。場合によっては,そのお答えの後にまた質問させていただきたいと思います。 ○村松関係官 それでは,贈与の御質問でしたけれども。先ほどの山本敬三幹事の御発言とも確かに関連する部分ですが,契約の趣旨にそういう意味で適合しない状態のものでは特定しないということが前提になっているのだろうと理解はしておりました。それはそれとしてありつつも,先ほどから御指摘ありますように,贈与については基本的に特定物の方が普通であろうというふうに皆さん理解されていますので,特定物については契約のときですけれども。では,その種類物,不特定の種類物の場合にどうなるのかという点についても,ここで併せてルールを書いておいたとしてもそれほどおかしなことにはならないのではないかと考えております。   別途401条については改正をしないというような方向でこれまで進んでおりますので,401条1項ですね,これも残りつつというのが前提で理解されるのかなとは考えております。その観点から言うと,種類物についての贈与の推定の意味はさほどはないというのはそれはそのとおりではあるのですけれども,あちらについてはそのような整理なのではないかと思います。 ○鹿野幹事 では,さらに確認です。今の御説明によれば,種類物については契約で予定された種類,品質等の物でなければ特定しないということですので,贈与のこのルールは,種類物の場合は要するに,契約に適合したものの履行の提供があったときに特定し,その特定した時の状態で引き渡さなければならないという意味の規定ということになるのでしょうか。そうすると,消費貸借についても,契約で予定された種類,品質,数量等の物という趣旨の規定だと理解してよろしいですか。 ○村松関係官 贈与と同じだということであればそうなるはずだと思っておりますが。 ○山本(敬)幹事 そうすると,私は誤解をしていたのかもしれないのですが,要するに,契約の内容に従った物を目的物として特定させなければならない。特定後に,それと異なる,広い意味での不適合状態ないしは瑕疵が生じたときには,贈与者,そしてまた消費借主は,契約どおりの目的物を給付する義務を免れる。そのような理解で書かれていると理解してよろしいのですか。 ○村松関係官 贈与の方については一応私の方でお答えしておきますけれども,贈与については今おっしゃったようなことだと思います。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○潮見幹事 今の部分もう少し精査していただければと思います。特定をしたからといって契約の趣旨に適合した物を引き渡す義務あるいは債務がなくなるとかあるいは縮減されるとかという理解をしてよいのか,そもそもその贈与であれ売買であれ,およそそういう契約を結んだ以上はその契約の趣旨に適合したものを引き渡す債務というものは特定しようがすまいが変わらずに残ると考えていく可能性もありますから。今回の改正はこの種の問題について,契約の趣旨に適合した物を引き渡す債務があるのだというのを基本的なものとして全体の基礎を見据えているはずですから,それとは違う考えを売買,贈与というそれぞれ有償と無償の基本的な契約の部分で展開することには若干危惧を感じますので,説明のところで遺漏のないようによろしくお願いいたします。 ○道垣内幹事 もの分かりが悪くて恐縮なのですけれども,不特定物の消費貸借や消費貸借は理論的にそうだという話ですが,贈与などでは,どの時点で特定するということを前提にして今議論がされているのでしょうか。 ○住友関係官 特定物であれば特に特定の問題は生じないと思ってはいるのですけれども,種類物であれば先ほど話題に出てきました401条2項の要件を満たしたときと考えております。 ○道垣内幹事 401条2項における「前項の場合」というのは,種類のみで指定した場合という意味なのでしょうか。これは。つまり,種類のみで指定した場合には中等の品質を有する物を給付しなければならないのだけれども,給付に必要な行為を完了したらもう中等のものではなくてもよくなるという意味なのですか。 ○鎌田部会長 いや,それはそうではないと思います。 ○道垣内幹事 そうではないとすると,品質が適合していないものについて給付をするのに必要な行為を完了したからといって2項の効果は発生しないのではないでしょうか。そうしますと,先ほどから山本幹事がおっしゃっているように,その消費貸借の目的物として種類が指定されているとき,それと異なるものについて引渡しの準備を整えたからといって確定しないのではないですか。401条の解釈問題になるのですが。 ○村松関係官 すみません,私たちの理解は今道垣内先生おっしゃった理解ですが。 ○道垣内幹事 そうですか。 ○村松関係官 はい,それはそうなので,したがってこの種類物についての贈与の瑕疵担保責任の推定規定というのはそういう意味では余り意味がないと言えば意味がないのですけれども,きちんとした,例えば中等なら中等というものを渡すという状態にしない限りはこの規定に入ってきませんので,当たり前のことをある意味確認しているようなところはあると。 ○道垣内幹事 贈与は結構なのですが,消費貸借において瑕疵があるものが給付されたときに,瑕疵のあるものの価格を返せばよいという話は特定していることが前提なのではないですか。 ○住友関係官 それはそうだと思います。 ○道垣内幹事 そうすると,さきほど村松関係官がおっしゃった話とは違う局面ということですかね。 ○住友関係官 瑕疵があるものが給付されてその価格を返還するという話と,今の贈与の担保責任の規定を準用するという話は違うのではないかとは考えていたのですが。 ○道垣内幹事 関係ないとすると,村松関係官が,私がこうなのではないですかというふうに申し上げたときに我々としてはそう考えてやっておりますとおっしゃったのは贈与に関する話であって,消費貸借のときの特定の問題はまた別に考えるというのが規律の趣旨なのでしょうか。 ○金関係官 必ずしもそういう趣旨ではなくて,種類債権が特定する場合について定める民法401条の2項は,種類物の贈与でも消費貸借でも同様の処理がされることを前提としていますので,そういう意味で言いますと,消費貸借でも瑕疵ある物を引き渡した時点では特定しないということが前提になると,事務局としても理解しております。ただ,瑕疵ある物が引き渡されたらその瑕疵ある物の価格を償還してよいとされているのは,借主の側でむしろもうその瑕疵がある物でよい,判例がたまに使う言葉で言いますと,瑕疵はあるけれどもその物の引渡しを履行として認容して受領する,そういうワンステップがあればその後は特定したものとして扱うと言いますか,貸主としては401条2項の必要な行為を完了したわけではないけれども,借主の側ですなわち債権者の側でそれでよしとすることによって特定後の世界に持ち込むことができて,それを前提に瑕疵ある物の価格の償還が可能になるという理解をしております。先ほど住友関係官から申し上げたのはその趣旨です。   そのような受領者側,債権者側のイニシアチブによる特定は,民法401条2項の後半の方の債務者が必要な行為を完了したことによる特定の場面ではないとしても,前半の方の当事者の合意が介在した特定の場面とみるのか,あるいは不文の特定の場面とみるのかどうかは,解釈の問題があるかもしれません。ただ,少なくとも先ほど申し上げた整理自体は,これまでもそのように考えられてきたのではないかと思いますし,それは,例えば売買契約において瑕疵ある物を受け取った買主が代金減額請求をするとか,そういった場面でも似たような買主側のイニシアチブによる特定が前提としてあるのではないかと理解しております。 ○松本委員 抽象的な理論をしているから何かよく分からなくなるのですが,消費貸借における種類物というものが具体的に何を念頭に置いて議論すればよいのか,それがもう少し具体化すれば今の抽象的なこの提案はおかしいのではないかという指摘が本当におかしいのかおかしくないのかがもう少し明らかになるかなと思うのです。   金銭消費貸借を除いたところの消費貸借で,実際に経済的に意味のあるものがどれぐらいあるのか。昔授業で習ったものでは例えば近所付き合いで「ちょっと味噌を切らしているから貸してほし」というのがあると。それから,今だと株式の貸借取引というのが結構あるのかもしれないですが,これは金融取引の方だから瑕疵という話にならないのではないかと思うのです。そうすると,あと企業間の取引で原材料を貸してくれというような例があるのかないのかですね。近所付き合いであれば品質がどうこうなんていう話にはならなくて,お味噌とかお醤油とかいうレベルだと思うのです。したがって,手渡されたものでありがとうございますということでよいという話で,瑕疵担保などという話は起こってこない世界だと思うのです。   この紛争が起こる実際のケースというのが一体何を想定して議論すればいいのか,どなたか御説明願えれば有り難いのですが。 ○鎌田部会長 事務当局に回答してもらう以外ないのですけれども。 ○住友関係官 事務当局全体というか私の個人的な考えですが,無利息の消費貸借で,契約の内容について明示的な合意もないもののケースになりますので,先ほどの種類物の話や近所の味噌のような話をイメージしておりました。そうすると品質について明示的な合意をしないで,ある物を消費貸借の目的物として渡したときには,その渡したものの品質が契約の内容と推定される,味噌の消費貸借であれば,この味噌と特定したらその味噌をそのままの状態で引き渡せばいいのだということが推定されるのだと考えておりました。 ○山本(敬)幹事 実際にどのようなものがあるかはよく分からないですけれども,私がイメージしていたのは,原材料に当たるもの,例えば石油などの貸借があり得るとするならば,この規定が適用されるケースではないかと想定してました。 ○鎌田部会長 よろしいですか。   よろしいようでしたら,部会資料「81-1」の「第10 請負」,「第11 委任」及び「第12 雇用」について御審議いただきます。   松岡委員,どうぞ。 ○松岡委員 賃貸借のところで気になることがあります。11ページの4の不動産賃貸借の対抗力の話と6の妨害排除請求権の関係です。   一つは,4の(1)では,賃借権を登記したときは第三者に対抗することができる,というようになっていますが,現在の605条とは大分違う規律の仕方になっています。この前の案からそうだったようでその時に気付けば良かったのですが,意識的にこういうふうに変えたことの御説明は前にありましたか。頭に残っておりませんので,重ねてになるかもしれませんが,御説明いただけませんか。   それからもう1点は,この4の(1)と6について,特別法等についてどこまで言及するかが問題になり得ると思います。対抗力を規律する個所では借地借家法の10条,31条がまったく出てこず登記だけが対抗要件と規定されているのに対して,妨害排除請求の規律の方は「又は借地借家法その他の法律が定める賃貸借の対抗要件」と規定していて,農地法16条などの適用も想定しているのかと思います。民法にどこまで書くのか。一方の規定についてだけこういうふうにかなり詳しく言及するのはおかしいのではないかという気がいたします。少なくとも特別法への言及のルールを立てる必要があるのではないか思います。 ○鎌田部会長 まず事務当局から説明してもらいます。 ○住友関係官 最初の4の(1)の「対抗することができる」のところなのですが,これは中間試案から特段内容を変えているわけではございませんので,特に御説明することはございません。 ○鎌田部会長 ここの点については,かなり前の段階から効力を生ず型か対抗することができる型かについて相当議論をしたところです。 ○山本(敬)幹事 そのことについて,もう最後ですから,もう一度申し上げたかったことがありますので,途中になりますけれども,発言させていただければと思います。   これについては,4の(1)と(2)がありまして,(2)で,賃借人が譲受人に賃貸借を対抗することができるときに,なぜ賃借権が譲受人に対して,例えば物権的請求権があったときの占有正権原になるかと言いますと,この(1)の登記があるときには,(2)で,賃貸借が譲受人に承継されるから,賃借人は譲渡人に対して占有正権原の抗弁を主張できるという関係にあると思います。   現行605条が「賃貸借が効力を生ずる」と書いているのは,正しくこのことを定めているのであって,私は,現行法が適切な書き方をしているのだろうと思います。それを(1)の中で,その他の対抗も含めてすべて対抗と書いてしまうのは,私は改悪だと思います。ほかのところでは,現行法を尊重して変える必要ないところは変えないとしているのに,ここは大胆にも,不適切な改正をしようとしているのではないかと思います。それだけに,譲受人との関係については,(2)から(5)で規定し,(1)が書き表そうとしているのは,譲受人以外の賃貸借の文字通りの対抗問題であるというように書き分けるべきであって,ここは,現行法の起草者に敬意を表すべき事柄ではないかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,第2点について。 ○筒井幹事 御指摘いただいたことはこれまで議論の蓄積があって,その御指摘にはもっともな面があるということはこれまでも申し上げてきたことで,しかしそれに対して改正する理由というのも従前からの部会資料で説明してきたことですので,この形で御理解いただければと思っております。   2点目の借地借家法に言及するかどうかという点ですけれども,4(1)の関係については,民法の外で借地借家法で定められている規律について民法が言及するかどうかというレベルの問題なのだろうと思います。それは従来から民法ではやっていなかったし,今回も特にそれをやろうとはしていないということだと思います。   これに対して,6の妨害排除請求権については,賃貸借の登記をした場合についての規律のみを今回民法に書くとすると,借地借家法には妨害排除請求権に関する規定がありませんので,それについては類推適用等に委ねられることになるわけでございます。そこで,この局面においては借地借家法を引用して,借地借家法の規定によって対抗要件を備えた場合についても妨害排除請求が認められるということを民法に書いた方が適切であろうと考えたわけでございます。   そろえるという観点から,借地借家法のように対抗要件に関する特別な規定があるところに言及しないとするのであれば,規定としては分かりにくいところが残ることになりますし,他方で,借地借家法と民法との関係をこの機会に整理すべきだという議論はもちろんあり得るのかもしれませんけれども,そこまで踏み出さなくてもこのような形で分かりやすい規律を提供することは可能ではないかというのが現在の提示している案でございます。 ○鎌田部会長 4の(1)は民法がどういう場合に対抗力を認めるかであって,6の方は民法を含めて様々な法律で対抗力が認められた場合にはということですから,そこで範囲が違っても論理的に矛盾はないと思いますけれども,いかがでしょうか。   ほかの御意見も。 ○山本(敬)幹事 今のところですけれども,これは確認をやはりしておいた方がよいと思いますので,発言をさせていただきます。4の(1)では,今もありましたように,不動産賃貸借は,これを登記したときには,第三者に対抗することができるということですが,ここで言う「第三者」は,物権を取得した者という例示がありますように,いわゆる法律上の利益を有する第三者を指していると考えられます。   それに対して,6でも同じように,「第三者」が妨害ないし占有しているときという要件が出てきます。しかも,これは柱書で,賃貸借の登記をした場合などに請求が認められるとされていますので,この6の「第三者」と4の(1)の「第三者」は同じ者と見てよいかどうかという問題があると思います。具体的には,無権限の不法占拠者が6の「第三者」に当たるかどうかということが問題になります。仮に4の(1)と同じ意味だとしますと,不法占拠者については規定がないということになるのだろうと思いますし,その場合は,恐らく,対抗要件がなくても請求することができると解釈するのだろうと思います。しかし,4と6では「第三者」といっても違う意味だとしますと,6では,不法占拠者に対しても対抗要件が必要だということになるかもしれません。これは今後の解釈の余地が残されたとみるのでしょうかということの確認は,やはりここでしておいた方がよいと思います。   昭和30年判決がよく挙げられるのですけれども,これは対抗要件があったケースであって,対抗要件備わっていないときに妨害排除請求を否定したケースはないだろうと思います。その意味で,私自身は,不法請求者との関係では対抗要件はいらないのではないかと思いますけれども,それは,4の(1)の「第三者」と6の「第三者」が同じかどうかという解釈問題に委ねられるということになるのでしょうかということの確認です。 ○筒井幹事 そのような理解でよろしいと思いますが。 ○鎌田部会長 対抗問題の第三者と妨害排除請求の第三者が同じだというのはいかがなものかと思いますけれども。 ○山野目幹事 法文を作成するときに,6の項目の所はなお事務当局のお仕事として精査していただきたいと感じます。一,二申し上げますけれども。今話題になった例えば(2)の第三者が占有しているときという所は,賃借人でない者が占有しているときという表現を選ぶ余地はないかということをなお御検討いただきたいと感じます。   それから,(1),(2)と二つのみ並べ,二つをこういう内容にしているということについても,占有訴権の規定との整合性その他を考慮していただき,物権的請求権の行使に係る本権の訴えに関する基本規定がない現在の状況では,ここに設けられた規定が他の解釈問題に与える示唆というものは大きいですから,そのような点にも御留意いただいて精査を頂ければ有り難いと感じます。 ○岡委員 今のと離れて賃貸借の所でよろしいでしょうか。4の合意による賃貸人たる地位の留保と,11番の転貸の効果との関係でございます。   この4の(3)で賃貸人たる地位を譲渡人に留保していた場合,従前の賃借人は適法な転借人になってしまい,11の転貸の効果を受けるのでしょうか。それとも,11番の適法に転貸したときには一切当たらないで,独自の解釈をすれば足りるのでしょうか。その点の質問でございます。 ○住友関係官 今の点についてですが,4の(3)の場合には適法に転貸したときと同じ状態になると考えています。 ○岡委員 そうだとして,では合意解除は転借人に対抗できないという11の(5)の第1文の規定も適用されるということですか。それは何か変なような気がするのですが。 ○住友関係官 そのような形で譲渡人と譲受人の間の賃貸借契約が終了したときには,この4の(3)の「この場合において」以下の規律が働いて,その場合は賃貸人たる地位は譲受人又はその承継人に移転するという形になります。 ○岡委員 合意解除は有効で,賃貸人たる地位が移転するという結果になるわけですよね。しかし,11の(5)を見ると,合意解除したことをもって転借人に対抗できないとなっており,転貸借関係がそのまま残ってしまうという結論のように見えます。そういう規律を譲渡人の留保のところに及ぼす必要はないのではないかという問題意識でございます。 ○住友関係官 更に検討したいと思います。 ○深山幹事 今の岡先生の話でちょっと気になった点の確認です。11の(5)の規律というのは従来の判例法理だろうと思いますが,ここで合意解除を転借人に対抗することはできないという意味合いは,合意解除自体は原賃貸借の当事者間で有効ではあるけれども,そのことを転借人には対抗できなくて,転借人を追い出すことはできないということだと思います。ちょっと岡先生の指摘の趣旨がずれているのではないかなという気がしたのですけれども,違いますかね。   つまり転借人との関係において相対的な意味で原賃貸借がなくなったことを主張できないというだけの限られた意味だと思うので,それを4の場面で当てはめたとしても,そこは変わらないような気がするのですけれども。 ○岡委員 結論として転借人を追い出せないという結論は一致しているのですが,合意解除を対抗できないという法理で保護するのではなくて,留保していた変な賃貸借が終了して原則どおり譲受人かつ所有者との直接の賃貸借に変わるという方がすっきりするのではないかという問題意識でございます。 ○鎌田部会長 これは,4の(3)の第2文が11の(5)の特則になるということで理解してよろしいですか。それに正に岡委員がおっしゃったような法律関係が生まれるように仕組んであるのだと思うのですが。 ○岡委員 どちらでも分かるようにはっきりしていただいた方がいいということでございます。 ○中井委員 消費貸借第7の4の利息ですけれども,部会資料「70A」をこのような形で書き換えていただいた,この趣旨の確認ですけれども。これは当然金銭受取り前には利息の請求をすることができないという表現をするのにこのような1文と2文という書き分けになっている,まずはその理解ですね。   そうだとすると,端的にその結論を書くことはやはりできないのでしょうか。つまり,1で特約なければ利息請求できない。2で特約があっても受け取った日以降の利息だけが請求できる。逆に言えば,特約があっても金銭交付前の利息は請求できないということをおっしゃっている趣旨でこういう構成になっているのだろうと思うのです。法制上の問題なのでしょうか。   結論として利息は交付日以降でないと請求できませんという強行法規的な趣旨を表そうとしているのだろうと思うのですけれども,書きぶりが気になるのですが。 ○住友関係官 今の実質的な規律は先生のおっしゃるとおりで特に変わりはないのですけれども,書きぶりについては更に検討したいと思います。 ○鎌田部会長 (1)の特約がないと利息債権は発生しないというのはそれ自体非常に大きな原則なので,これ自体はこれ自体としてまず規律する必要があって,次にその利息債権はいつから支分権が発生するのかというのが(2)ですから,規定している内容が(1)と(2)はそれぞれ別個なので,2本立てにせざるを得ないのではないかと私は思います。 ○中井委員 あえて言うなら,たとえ特約があっても金銭を受け取る前の利息は請求できないということを更に明示的に書くかのという問題かもしれませんが,こういう書き方しかできないのでしょうかと思ったものですから,分かりやすさも併せて考えていただければと思います。   それからもう1点,どこかの部会で確認したことですけれども,消費貸借の2の消費貸借の予約です。589条を削除するというのは,消費貸借の予約は当事者の一方に破産手続が開始したとき効力を失うという,破産手続開始のときに効力を失う旨の規定を削除するという趣旨と理解をしています。逆に言えば,消費貸借の予約は予約ということが法律上認められる限りにおいてはすることはできる。ただ,書面要件が入るとすれば書面が必要となるかどうかは議論になるかもしれませんけれども,まずそういう理解でよろしいのですね。   その上で,書面を要件とするかどうかはともかくとして,予約というのがあれば諾成的な消費貸借契約とは違って借主がその権利行使しなくて,借りなくても違約金が発生しないというメリットがあると思っているのです。そこはさておき,仮に消費貸借の予約というのを認めるのであれば,その金銭交付前に,当事者の一方が破産手続を開始したときに効力を失うという規定をあえてなくす必要はあるのか疑問に思ったものですから。それは1の(4)でまかなえているから重複して残すまでもないということなのか。ただ,契約類型は違うものですから,念のために確認させていただきたい。 ○住友関係官 民法589条に消費貸借の予約の規律がありますが,消費貸借の予約それ自体が引き続き認められることは先生のおっしゃるとおりですが,この589条が定めている破産手続開始の決定を受けたときに予約の効力を失うというのを削除しております。その削除した理由としましては,諾成的消費貸借を認め,それについて今話題になりました「81-1」の第7の1の(4)が実質的に589条と同じことを規律しておりますので,正に消費貸借の予約のことについて正面から規定したものではありませんが,それが消費貸借の予約にも類推適用されるなどして実質的には同じような結論になるだろうと考えております。 ○中井委員 そうだとは思いつつ,それも分かりにくいと思ったものですから重ねて申し上げました。 ○道垣内幹事 賃貸借に戻って恐縮なのですが,転貸の場合とか目的物の所有権が移転した場合とかの法律関係というのは細かく見ていくと分からない所は多々ありまして,そのことを全部書ききるということにはなかなかコンセンサスも得られないと思いますし,ある程度解釈に委ねなければならないというところがあるのだろうと思います。   ただ,岡委員が御発言になられて,それを承けて一連の議論があった後に,最後に鎌田部会長がおっしゃった言葉が私の聞き違いでなければ若干気になっているのです。それはどういうことかと申しますと。転貸があった後に合意解除があったとします。11の(5)の場合ですね。そのときに転借人に対抗することができないということなのですが,このときに,さきほど鎌田部会長は,4の(3)の後段が適用されるとおっしゃったのでしょうか。そうだとすると,それはどうしてなのだろうかというのが分からなかったのです。   というのは,4自体が所有権の移転を念頭に置いている規定であり,新所有者は本来は賃貸人になるべきところをある種譲渡人にそれを留保させているという状況になるので,留保のたがが外れるというのが(3)の後段であるのに対して,11の(5)の場合というのは,それとはかなりシチュエーションが異なるものですので。もちろん合意解除したことをもって転貸借人に対抗することができないということの意味を賃貸人と転借人との間に賃貸借関係が直接に発生することになるのだという解釈をしたり,またそういうふうに書いたりするということは一つの在り方として十分に理解できるのですけれども,4の(3)の後段が適用されると言われますと,本当だろうかという気がしたのですが。   ですが,最初に申しましたように,転貸とか目的物の譲渡とかに関係する事柄はよく分からないところも多々ありまして,全部が書けるとは思いませんので,別にどこかに何かを書いてほしいという趣旨で申し上げているわけではありません。ただそういう理解でいいのかなというのが少し気になったものですから一言申し上げました。 ○鎌田部会長 すみません,ちょっと勇み足であったのかもしれません。4の(3)の後段は,前段で譲受人,譲渡人,それから元々の賃借人の関係が賃貸借,転貸借という関係になるというふうに規定していて,第2文で譲渡当事者間の賃貸借が終了したとき,これは終了の原因は様々あって,合意解約も終了原因の一つであるから,形式的にはこれの適用の対象になる。11の(5)も当然適用の対象になって,そのときに出てくる効果が,4の(3)ですと譲受人と賃借人の間に直接の賃貸借の関係が発生し,11の(5)ですと,現在は所有者でない譲渡人と賃借人との間の賃貸借関係がずっと残って現在の所有者と譲渡人との間の賃貸借関係はないという状態が続く。これがぶつかり合っているときにどっちを適用するのかという問題なのだと思うのですけれども,転貸借一般の中で非常に特殊な転貸借の関係だというところに着目すると,4の(3)の方が11の(5)に対する特則的地位にあるので優先的に適用されるという,こういう解釈ができるのではないかということで,そのように決まっているというわけではないだろうと思います。 ○道垣内幹事 大変説得的な一つの解釈だろうと思いますが,この案から当然に出てくる論理ではないのだろうということだけが確認できればそれで結構です。私は後になっては鎌田部会長の解釈に賛成するかもしれませんが。 ○鎌田部会長 不十分な説明で申し訳ございませんでした。 ○中井委員 今の点は解釈問題だったら困ると思うのです。つまり,4の(3)で不動産の所有権が譲受人に移転した場合でも賃貸人たる地位を譲渡人に留保した,これは特別に認めたわけですから,その後譲渡人と譲受人との間の賃貸借契約が法定解除はもとより,合意解除の場合はなおさら,これは特別に認めた類型でそういう事態が起こったときには当然に賃貸借契約は,所有権を取得した譲受人と賃借人との間で承継される,それを明確にする意味で(3)の後段が設けられた。そうでなければ弁護士会としては反対せざるを得ない規定になると思うのです。   それに対して11の方は適法な転貸借が行われたときに,合意解約があった後の法律関係については幾つかの見解があり得ると思っています。そこは従来からある問題で解釈問題として残る,そこは全く異論ありませんが,4の(3)の場合,賃借人としては,譲受人が賃貸人として賃貸借契約を承継してもらわないと困る,こういう規定だと理解していますので,そこは解釈問題ではないと思います。 ○道垣内幹事 全く異論がないです。私が申し上げたとおりのことをもう一度おっしゃっていただいただけですから。 ○大村幹事 私も別に結論に異論はありません。法適用の効果はここで定められているとおりで動かないということで,二つの規定の関係についての解釈論はあり得るであろうと,理解いたしました。 ○松本委員 消費貸借の方に戻るのですが,消費貸借の1の(3)と寄託との関係です。寄託も消費貸借も,消費貸借については書面による場合だけですが,諾成化されたと。では,寄託の場合に受寄者が預けなかった場合にどうなるのか,消費貸借の場合に借主が借受けを拒否した場合にどうなるのかという共通の問題が起こってくるわけです。寄託に関しては18ページの(4)のところで,寄託者が寄託物を引き渡さない場合において,相当の期間を定めて引渡しの催告をし,その期間内に引渡しがないときは契約解除できると書いてあって,受寄者側の寄託スペースを確保しておく負担を軽減しようという手立てが行われているわけです。消費貸借の場合,借主側は,1の(3)ではその物を受け取るまで契約の解除ができるということで,借主側の解除権はあるのだけれども,借主が期限が到来しても借り受けないという場合に,先ほどの議論で利息は発生しないわけですね。ただし,損害賠償義務は発生するのではないかという議論が前にもちょっとあったと思うので,損害賠償が認められるのであればそれは恐らく金利相当額だということになって,貸主側としては損はないのかもしれないですが,一定の金額をいつでも引き渡せる用意をしていなければならないというのはかなり負担だと思うのです。その資金を別の用途に振り当てるなり,よそから借りているのであれば返済するなりすることによって,貸主側の負担を消滅させるという手立てが消費貸借のところにもあってよいのではないかという気がしますので,その辺り,事務当局としてどうお考えなのか。 ○松尾関係官 お答えいたします。今松本先生から御指摘があった事項というのは第2読会以降問題になっていたことで,事務当局としてはこの点のそごが生ずるから寄託についても1の(4)のルールは不要ではないかということを問題提起していた次第です。ただ,佐成委員からも御発言があったように,契約実務では寄託については実際に寄託者が持ってこない場合に受寄者が解除権を定める例もあり,ニーズもあるから定めるべきであるという議論の経緯だったと思うのですけれども,他方で消費貸借についてはそのような具体的なニーズまでは指摘されておらず,積極的に規定を設けることを求める御意見は見られなかったので,そこにそごがあることでやむを得ないということで,そのような形になっているのではないかと理解をしております。 ○鎌田部会長 審議をした上でこういう形になっているということで御了解いただければと思いますが。 ○松本委員 私はそのような貸し手になるということはおよそ考えられないのでそもそもニーズはございませんが,本当に金融機関とか貸金業界としてその資金を固定した状況で構わないということなのですか。その関係を清算しようというニーズはないのですか。 ○金関係官 中間試案の前にもその趣旨の御指摘を頂いたところで,ニーズ自体は御指摘のとおりあり得ると思いますけれども,消費貸借に関して言えば,貸主がお金を持参して借主に受け取るよう何度も促しても借主がお金を受け取ってくれないということですので,その借主のお金を受け取らないという行動をもって,第7の1の(3)のいわゆる受取前解除の意思表示がされた,少なくとも黙示の意思表示がされたと扱うことが可能であるといった議論がされた上で,松本委員の御指摘のとおりの貸主が開放されるニーズがあるとしても,貸主からの解除の規定は設けない,先ほど申し上げたような借主からの少なくとも黙示の解除の意思表示が認定できる場合にのみ,貸主を開放してあげればよいのではないかということになったのではないかと思います。もちろん,今申し上げたような理屈は,寄託の場合でも同様に妥当するのではないかという問題があって,寄託者によるいわゆる引渡前解除の黙示の意思表示を認定すればそれで足りることになるのではないかという御指摘を前に松本委員から頂いたところです。ただ,寄託の場合は,消費貸借のように貸主が借主にお金を持って行っても借主が受け取ってくれないというような場面ではなく,逆に,受寄者が寄託者に寄託物を持って来いと言っても寄託者が寄託物を持って来ないという場面ですので,借主の受領拒絶という比較的明瞭な行為が認められる消費貸借の場合よりも,寄託の場合の方が寄託者による解除の意思表示の認定が,飽くまで比較論ではありますけれども,難しいのではないかという議論もされたと思います。それこれ今申し上げたような観点から,消費貸借と寄託とでそこは分けてもよいという整理を事務局としてはしております。 ○中田委員 ただいまの消費貸借の部分で,松本委員の御発言の中で,借り受けないときは損害賠償は利息相当額になるのだろうとおっしゃったのですが,そこは必ずしもここではそういうように統一はされておりませんで,少なくとも利息から貸渡しをしなかったことによって得た利益を差し引く,あるいは調達費用相当額だというようなことは解釈に委ねられていたと思います。   もうちょっと言うと,今のような御発言を伺いますと,もちろん松本委員はその解釈は先ほどおっしゃったこと以外にもあり得るという御趣旨だとは思いますけれども,やはり第7の1の(3)の書き方でも,利息が損害だという主張が実際にはなされてしまう可能性というのは相当あって,それに対して借主の側で貸渡しを免れたことによる利益があるということを証明するというのは結構難しいのではないかなという気がします。今回も表現に工夫していただいたようですけれども,更に利息相当額が当然に損害になるわけではないのだということを分かるような手掛かりを残していただければと思います。難しいかもしれませんけれども。   それから,賃貸借についてもよろしいでしょうか。賃貸借について3点ございます。1点目は,これは項目はないのですけれども,賃貸借の終了についてです。使用貸借では第9の2で,14ページですけれども,期間の定めがある場合とない場合とに分けて規定していて,これは非常にすっきりして分かりやすいと思うのです。そうしますと,賃貸借についてもパラレルにすることも考えられるのではないかと思います。   具体的に申しますと,期間の定めのない賃貸借については現在617条の規定がありますのでそれで足りると思います。他方で,期間の定めのある賃貸借については618条の規定があるのですが,これは若干分かりにくいので,この618条の前段として第9の2の(1)のような規定を置くことが考えられるのではないかと思います。   第2点目ですけれども,賃貸借の7の敷金のところですが,(1)で充当という言葉を使わないで,「控除した残額を返還」という表現になっております。そうしますと,控除の対象となった賃借人の債務とそれに対応する敷金返還債務がどうなるのかが規定の上でははっきりしないように思います。両立していて相殺されるというのだとすると,これまでの判例とは違う考え方になって適当ではないと思います。恐らく両債務は消滅するのだということが含まれていると思うのですが,それがちょっと分かりにくいと思いました。   第3点は,賃貸借の10のところでして,これは第79回の会議でも発言いたしましたし,確かそのときに山本敬三幹事も同趣旨の御発言をされたと思いますが,「賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるとき」という規定の仕方はやはり適当ではないのではないかと思います。結論だけを申しますと,「一部滅失等の場合,賃料はこれこれの割合に応じて減額される。ただし,賃借人の責めに帰すべき事由によって使用及び収益ができなくなったときは,この限りでない。」というような規定にする方がいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 それでは,それぞれ事務当局から説明をしてもらいます。 ○住友関係官 まず1点目の第9の使用貸借の2の(1)が賃貸借にも当たるのではないかという御指摘なのですけれども。今の民法の597条1項は616条で準用されている格好になりますが,この規律自体は賃貸借にも同じように当たると考えておりまして,こちらの第9の2の(1)については賃貸借の方にも規律が準用されるという形になります。   それから次に,敷金の所なのですけれども,もちろん敷金返還債務が抽象的には発生していると言っていいかどうか分からりませんが,そういう状態ではありますところ,具体的に発生するのはこの7の(1)にありますとおり,賃貸借が終了してかつ賃貸物の返還を終えたとき又はうんぬんとありますが,この控除した残額について具体的に敷金返還債務が発生するということをこの(1)で書いてありますので,その従前の判例を変更するというような趣旨ではございません。ちょっと表現が分かりにくいということであれば検討してみたいとは思いますが,今の点も具体的に残額を返還しなければならないと書いてありますので,敷金返還債務が具体的にいつどの額について発生するのかというのは分かるのではないかと思ってはおります。   それから,3点目の10の賃借物の一部滅失等による賃料の減額等についてですが,これはこれまでの賃貸借に関する部会でも議論になっていた所ですが,合意形成を図る点で今のような規律になっていると考えております。   事務当局からは以上です。 ○中田委員 第1点については理解いたしました。   第2点については趣旨はそうだろうと思うのですが,ですから最後は表現の問題なのかもしれませんけれども,その趣旨が明確になるような形にしていただければと思います。   第3については残念だということですね。 ○山本(敬)幹事 第3点目については,私も前に申し上げたとおりなのですけれども,証明責任の所在はどのようになるのでしょうか。 ○住友関係官 証明責任の所在については,現行法と同じように賃借人の方にあると考えています。結局ここの611条関係につきましては元々現行法維持がいいという意見がかなりあり,それで賃借物が一部滅失等した場合には,賃料は当然減額するのだけれども,立証責任の所在については現行法と同じように賃借人に負わせるという案を提示して,これで合意形成が可能になったと考えております。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○松本委員 先ほど中田委員がおっしゃった貸金契約における借主が受領拒絶をした場合の貸主側の損害賠償の話なのですが,恐らく中田委員は貸金業者等を念頭に置いておられて,金銭はそれなりに回転しているということから,ある人に貸さなくても別の人に貸す等で利益を得ているはずだから,利息相当額というのは多すぎるのだろうと。その場合はそのとおりだと思うのですけれども,個人が貸主の場合を考えると,個人で余剰資金,銀行預金をしているお金があったとして,誰かが貸してくれといって,そして書面による契約を締結したという場合に,その約定期日が過ぎても借りてくれないということが生じた場合の損害は果たして何なのかと。ある意味ではゼロなのですよね。銀行に預金していて使っていないわけだということで,損害賠償ゼロと計算するか,あるいは約定金利相当額だと計算するか。恐らくどちらかになるのではないかなという気がします。ゼロだというのは,先ほどから契約をした趣旨という点を大変強調する立場でこの部会が進んでいるわけであって,約束に何の効力もないというのはやはりおかしいのではないかと考えると,利息相当額というのは十分考えられる,今のような個人間の貸し借りではですね。ということからそういう発言をしましたが。貸主側が何を業としているかによって違ってくるということは当然だと思います。 ○中田委員 個人の場合であっても損益相殺的な調整というのはやはり残るのではないかと思いますけれども。 ○鎌田部会長 いずれにしろ法定するという姿勢を採ってませんので,そこはしっかりと解釈で議論していただければと思います。 ○中井委員 中田先生と松本先生のやり取りをお聞きして大変心配をいたしました。消費貸借を諾成契約化することに伴って期限前に借主が解除した場合,ギリギリ弁護士会は1の(3)の後段の書きぶりで了解をしているつもりです。基本的な理解は,一般的に大量の金銭のやり取りをする通常の貸金業者等を念頭に置いていただいて結構かと思いますけれども,そのときの貸し借りにおいてこのような事態が仮にあったとしても,通常金銭は究極の種類物で,どこにでも使える,誰にでも貸せるというところから,通常は損害が発生しないという理解をしております。損害が発生するのはどういう場合かと言いますと,銀行が企業に対して100億単位の大きなお金を貸す,100億が適当かどうか分かりませんが。当然銀行としてはしかるべき資金調達手段を考えて,その後ろで様々な契約,リスク回避のための契約を結ぶ。金利スワップなどを結んだりもするでしょう。そういう事前準備をして資金を用意して貸そうとしているにもかかわらず借り手から期限前の解除を申し出てお金を借りる必要がなくなった。   こういう場合についてはなるほど銀行の方に資金を準備したことによる損害が発生することがあり得るでしょう,このような場面についてはこの損害賠償することができる,期限前解除によって損害が生じたと認め得る場面で借主に賠償義務が発生する。このようにかなり限定されてしか適用されないものだという理解をしております。   ここで解釈を述べてもしようがありませんが,当然に期限前解除をすれば利息相当の損害が発生するというのは部会の共通認識ではないと思っております。念のため。 ○鎌田部会長 松本委員。 ○松本委員 私は期限前解除の話は全くしておりません。私の問題意識は期限後に受領拒否した場合になぜ貸主側が契約関係から解消される道がないのかというところをそもそも問題にしたわけです。期限後の話です。期限前については中井委員の御意見と異なっておりません。 ○潮見幹事 その論点はよろしいですか。これ以上議論しても仕方がない部分あると思いますので。とはいえ,中田委員,中井委員おっしゃったことに私は共感をしますし,同調しますし,部会の理解もそうではなかったかと思います。   敷金の所の7の(2)の前段なのですが,賃貸人はこうこうこのときは敷金を当該債務の弁済に充てることができると書いています。この規定ぶりは充当行為を前提としていますが,この規定を設けたときに,例の不動産の賃料債権の先取特権と,それから物上代位の所で,相殺のところで当然充当という構成が判例法理で採用されていると思いますけれども,支障はないのですか。あちらの方では充当行為なるものは想定されていないと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○鎌田部会長 これも議論した覚えがあるのですが。事務当局から説明してください。 ○金関係官 いわゆる当然充当に関する規律は,(2)ではなくて(1)の最後の行で,賃借人の債務の額を控除した残額を賃貸人は返還しなければならないという部分,すなわち当然充当がされた残額が敷金返還債務として発生するという部分で示しているという整理をしております。これに対して(2)は,賃貸借の終了前と言いますか,賃貸借契約がなお継続している間に,賃貸人の側は敷金をもって未払賃料の弁済に充てることができる,他方で,賃借人の側は敷金をもって未払賃料の弁済に充てることを求めることができないという規律を定めるものです。(1)が当然充当に関する判例法理を明文化したもの,(2)が当然充当の話に入る前の賃貸借契約の存続中の敷金による弁済に関する判例法理を明文化したものという整理をしております。 ○潮見幹事 賃料債権の物上代位と相殺が問題になる場面というのは,賃貸借が終了したとか,あるいは賃借権が譲渡されたというそういうケースでしたか。途中で解約があるからということでこちらの(1)の方に載せられるというそういう理解ですか。 ○金関係官 はい。 ○潮見幹事 そうですか,分かりました。 ○山本(敬)幹事 この点は,部会資料「69A」の段階では,(2)の前に「上記(1)により敷金の返還債務が生ずる前であっても」と書いてあったので,今のような(1)とは別のルールであるということが比較的はっきりしていたのですけれども,あえて削除されたということは,(1)で明確であって,それに追加した規定なので(1)に当てはまらない場合についての特別なルールであることが読めば分かるだろうという御趣旨なのでしょうね。 ○筒井幹事 その種の言葉を置くかどうかは,分かりやすいけれども説明調になる条文を書くことが適当かどうかということに関わってくる話なので,条文に近付ける作業をしていく中で不必要であるという整理をせざるを得ず,削ることになるものも出てくると思います。いずれにしてもこれがファイナルの条文ということではないので,更に御指摘を踏まえて検討したいと思います。 ○山本(敬)幹事 今の点は,何も前提を知らないままこの規定を見ますと,やはり先ほど潮見幹事が御指摘されたような疑問がすぐに湧いてくるところではないかと思いますので,ここは少し慎重に御検討いただいた方がよいのではないかと思いました。 ○岡委員 先ほどの金さんの発言についての質問と確認です。消費貸借で貸主が借主にお金を持って行っても受け取らない場合の貸主サイドの解除について,持って行っても受け取らないから第7の1の(3)の借主側の解除が擬制されると,こうおっしゃいました。特約で何月何日に借りますという約定をしておれば,債務不履行で貸主サイドから解除できると理解してよろしいのでしょうか。   それから,同じように寄託の場合の第13の(4)の解除権についても,寄託者は何月何日までに持って行きますと明確に約定しておれば,それの債務不履行ということで,受寄者サイドから解除及び損害賠償請求ができると,こう思うのですが,こういう理解でよろしいのでしょうか。 ○金関係官 諾成契約としての消費貸借において,借主が貸主が持ってきたお金を受け取らないこと,これが債務不履行に当たるのかどうかという点は,中間試案の前から部会で議論されてきた難しい問題ですが,語弊を恐れずに申し上げれば,少なくとも当然に債務不履行に当たるとは言うべきでないというのが部会での大方の理解であったと認識しております。もちろん,個々の事案において受領義務を観念して受領義務の債務不履行を認めるべき場合があり得る,これは岡委員のおっしゃるとおりですけれども,飽くまで原則としては,受領しないことが直ちに債務不履行に当たるわけではないという整理を事務局としてはしております。その理解を前提に,先ほど申しましたとおり,貸主がお金を持って行っても借主が受け取らないというような場面では,借主からのいわゆる受取前解除が黙示にされたものと認定して貸主を開放することができるという理解をしております。 ○岡委員 だから,それを前提にして,しかし特約できちんと定めれば,その約定違反の解除及び損害賠償はできるという理解を確認しているのですが。 ○金関係官 まず少なくとも解除について言えば,借主が受け取らないときは貸主の解除権が発生するという特約があるのであれば,その解除権,つまり債務不履行による法定解除権ではなくて,特約による約定解除権の行使として解除する,それは消費者契約法10条や民法90条等にひっかからない限り可能だろうとは思います。 ○岡委員 普通より丁寧に書かなければいけないという理解でよろしいですかね。 ○金関係官 丁寧に書くことの意味にもよりますが,一応そのとおりだと思います。消費者契約法10条等の問題はさておき,受領義務があると丁寧に書かれていることを前提にすれば,受領義務違反を根拠とする法定解除や場合によっては損害賠償請求を認める余地もあるかもしれません。ただ,そこは消費貸借における受領義務に関するいろいろな議論があるところですので,差し当たりは以上です。 ○鎌田部会長 取り分けここは弁護士会の御主張に基づいてなるべく借りる義務は存在しないような解釈をということで御苦労されてきたところだと思いますので,書きさえすればすぐ借りる義務が発生するというのもちょっと言い切れないところがあるかというふうな気がします。 ○山本(敬)幹事 賃貸借の13の賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務についてです。まず,(1)のただし書で,「賃借物から分離することができない物又は分離するのに過分の費用を要する物についてはこの限りでない」とされています。これは,履行請求権の限界についての一般原則を前に検討しましたが,そちらでは全て不能で統一するというのが事務局案だったと思います。   ここで「分離することができない」というのは,不能を指す言葉ではないかと思います。また,過分の費用を要するというのは,履行請求権の一般事由のところでは,不能の中に入っているという御説明だったと思います。   としますと,ここであえてこのような書き方をすることがどのような意味を持つのかという問題が生じると思います。考え方としては,履行請求権の限界の一般原則にならって,ここも「不能」と書いてしまうというのがすっきりはするのでしょうけれども,私自身は,この賃貸借の原案の書き方の方がはるかによいだろうと思いますので,むしろこちらで統一してほしい思うところです。   もう1,2点,これに関して申し上げたいと思います。これは以前から議論があるところなのですが,(1)では,付属物がある場合は,原則として賃借人は収去義務を負う。ただし,例外が今挙げた場合であるとされています。(3)では,損傷,これは通常損耗と経年変化を除くわけですが,そのような損傷がある場合は,原則として,賃借人は原状回復義務を負う。例外は,損傷について賃借人に責めに帰することができない事由があるときとされています。ただ,この両者が重なる場合があり得るということは,以前の部会でも出てまして,ペンキを塗った場合などがその例として挙がっていたと思います。   問題は(3)の場合で,原状回復が不能である場合はあり得ると思うのですけれども,その場合がどうなるかと言いますと,恐らく,この場合は履行請求権の限界の一般ルールによると考えておられるのだろうと思いました。つまり,原状回復義務の履行が不能であるときには,賃借人は原状回復義務を免れる。ここには書いていませんけれども,一般原則によるということなのでしょう。   そうしますと,(1)の附属物がある場合は,賃借物から分離できない物又は分離するのに過分な費用を要する物である場合を特にここに定めています。しかし,(3)は一般原則によるとなりますと,同じ規定の中でなぜ違うのかということが気になってしまいます。考え方としては,(1)も,ただし書は書かずに,履行請求権の限界の一般原則によるということが方向としてはあり得ると思いますが,遠く離れた一般原則によるとなりますと,疑義が生ずるかもしれません。とすると,ここでは,(1)だけではなく,(3)についても,同様に履行請求権の限界事由がある場合には原状回復請求が認められないということを明確に書いておくことも考え方としてはあり得るように思います。   これは非常によく問題になるところですので,国民にとって分かりやすい民法という観点から言いますと,きちんとこの部分は書かれるべき事柄ではないかと思います。   考え方としては,履行請求一般の限界事由の問題と追完請求が問題になる場合は,共通する部分もあるけれども,異なる部分もあり得る。追完請求の限界が問題になる場合は,それぞれの追完請求が規定されているところ,売買と請負もそうなのですが,そこで限界事由に当たるものも明確に個別的に書いていく。ただ,考え方はできる限り統一して整理するというのが,私は規定の仕方として望ましいのではないかと思います。   少なくとも現状では,(1)のみについてただし書があり,(3)では一般原則によるというのは分かりにくいのではないかという気がします。 ○鎌田部会長 事務当局から意見ありますか。 ○住友関係官 (3)の限界が書いてないのは正に先生おっしゃるとおりで一般原則によるからということでございまして。(1)の方なのですけれども,これまで部会の話の中ではこれも不能の具体化,つまり分かりやすさの観点からのものと思っていたのですが。そもそも収去義務の発生の例外規定みたいな考え方もできるのではないかと思いました。特に決まった考えを持っているわけではないので,その点についてどう考えるのが自然なのかについて御意見を伺えたらと思います。 ○鎌田部会長 御意見があればお伺いしたいということでございますが。 ○山野目幹事 住友関係官がおっしゃったような原状回復義務が発生する要件を書いたというような見方で見れば,ただし書があることは自然に理解することができますが,山本敬三幹事がおっしゃったような観点もあると考えます。それからもう一つ,242条の附合法との関係での整理という観点もあると思います。それらを総合し勘案していただいて,また御検討いただくことがよろしいのではないでしょうか。 ○内田委員 今山野目幹事がおっしゃったとおりで,(1)は附合法との関係での特則ですので,必要な規定であるという整理だと思います。 ○鎌田部会長 この表現も243条の表現を借りていると理解しております。 ○山本(敬)幹事 (1)が附合法の特則だというのは,一つの立場としてはあり得ると思うのですが,この点については,かなり以前に,第1ステージぐらいに議論した記憶があります。これは,附合法の問題として捉えていくのか,やはり賃貸借の広い意味での原状回復の問題として捉えていくのかという意見の対立があって,私の理解では,むしろ広い意味での賃貸借の原状回復の規定として整備していくということになったのではないかと思っていました。   ですので,少なくともこの関係では,(1)と(3)は賃貸借が終了したときの,広い意味での原状回復に関する問題ですけれども,これについては,附属物がついている場合と損傷したという場合があることを明確に示した上でルールを立てるのが分かりやすいというのが現在に到達点ではないかと思っていました。そうであるからこそ,先ほど申し上げましたように,できる限り整合的にそのことが分かるような規定にすることが望ましいのではないかと思った次第です。 ○鎌田部会長 その点は検討させていただきます。   ここで一旦休憩とさせていただいてよろしいでしょうか。15分間の休憩をお願いいたします。           (休     憩) ○鎌田部会長 再開します。   貸借型契約について他に御意見がないようでしたら,次に移りたいと思いますが,よろしいでしょうか。   部会資料「81-1」の「第10 請負」,「第11 委任」,「第12 雇用」について御審議いただきます。一括して御意見をお伺いしますので,御自由に御発言ください。 ○中田委員 請負について1の報酬請求権について2点意見がございます。まず1点目ですが,部会資料「72A」では「請負人は報酬及びその中に含まれていない費用を請求することができる」とされておりましたけれども,今回費用が削除されています。17ページの説明を拝見しますと,費用は損害賠償として請求できるから外したということなのですが,やはり報酬に含まれない費用についての規定は残した方がいいのではないかと思います。   その理由は,幾つかあります。まず第1点として,請負契約では報酬と費用の定め方というのは非常に多様で流動的ではないかと思います。費用を報酬に含める総額固定のランプサム方式から別立てにするコストプラスフィーまで,仕事の内容など実情に応じて当事者の合意によって選択されると思います。費用だけを損害賠償とするというのは不自然な感じがします。材料費とか交通費とか実費の立替え分を報酬に含めるか別項目にするかによって法的性質が大きく違うというのは当事者の意識に反するのではないかと思います。   2番目に,費用を損害賠償としますと,当事者双方に帰責事由がなくて仕事が完成できなくなった場合に請負人が請求できなくなるという事態も生じます。しかし,そう変更する必要はないのではないかと思います。特に請負人が提供した材料は注文者に帰属することになりますけれども,その意味でもバランスが悪いのではないかと思います。   3番目に,委任の方では報酬は648条,費用は649条,650条で区別されることになりますが,請負だけ費用を損害賠償と位置付けるのはバランスが悪いのではないかということです。   4番目に,解説を拝見しますと,642条1項について,注文者破産の場合に損害賠償なしに解除できるという制度の下で損害賠償の性質を持つ費用の償還請求を特に認めたのだという立法当時の御説明があるのですが,確かにここの規定が置かれるに当たって先履行義務を負う請負人を保護するという考え方はありましたけれども,費用を損害賠償と同視するという説明は法典調査会においても民法修正案理由書でもはっきりしていないのではないかと思います。   それから,最後ですけれども,第10の3を拝見しますと,642条の1項の後段は現行規定が維持されるという前提の規定ではないかと思うのですが,1項後段は報酬と費用を区別しておりますので,この点でも不整合になるのではないかと思います。   これが第1の点です。   それから第2点ですが,同じく1の報酬請求権についてなのですけれども。注文者の帰責事由によって仕事完成ができなくなった場合に請負人は報酬請求ができるという規定を置かないで,536条2項の解釈に委ねるということになっておりますが,やはり規定を置いた方がいいのではないかと思います。これは報酬が後払いであることとの関係で報酬請求権の成否について不明瞭さが残るからです。   雇用については既に安永委員,山川幹事からそれぞれの意見書が出されておりますけれども,そのことは請負や委任についても同じように当てはまるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。関連した御意見があればお伺いしておきます。   では,事務当局からお願いできますか。 ○合田関係官 まず,「報酬及びその中に含まれていない費用」という部分のうち,費用の部分を削った点について,破産手続開始による解除の場合の民法第642条第1項の「費用」というのがここに明記された理由については,法典調査会の議論を見ていてもはっきりしないのではないかという御指摘は確かにそうかもしれません。   今回の部会資料では,過分かつ利益を有する部分に対応する部分については報酬としてこの規律により請求することができ,それ以外の部分について既に支出した費用がある場合は,他の規定によって損害賠償として請求することができる場合があるという整理があり得るのではないかと考えて,今回このような提案としております。この整理とは違う考え方があり得るのではないかという御指摘については少し検討したいと考えます。   それから,注文者に帰責事由がある場合について,536条2項を実質的に維持する規律を請負,雇用及び委任についても設けるという考え方について,今回それを見送ることとしています。まず請負に関してこのような規律を設けることについては,前回この論点を部会で取り上げた際に,果たしてこのような規律による処理が注文者に帰責事由のある事案全てに妥当するのかという点で疑問であるというような御意見ですとか,一旦全額の報酬請求を認めた上で,仕事を免れたことによる利益を償還させるというスキームが実務の感覚に合わないといったような御意見を頂きました。   雇用については,山川先生の意見書の中での御指摘のとおり,不当解雇や受領拒絶等の事案を536条2項によって処理するということについては判例の蓄積もありますし,異論がないと思われます。もっとも,それ以外の事案において,このような規律で全般的に処理をするということについては,中間試案のころから懸念を示す御意見があったと理解をしております。   そういった御意見を踏まえて,再度事務当局で検討をしましたが,例えば期間の定めのある委任や雇用で,委任者や使用者の帰責事由によって履行不能になったという場合に,契約された全期間に対応する報酬請求権が一旦発生するという結論は不合理ではないかとも思えます。また,期間の定めのない委任や雇用については,それが委任者や使用者の帰責事由によって履行不能になった場合に,いつまでの期間に対する報酬が発生するのかは,この規律によっては必ずしも明確ではないという問題があると考えました。   先ほど申しましたように,従前から反対意見があるということや,必ずしも解釈上明確にならない部分が残るということを踏まえまして,今回規律を設けることを見送るのが相当ではないかと考えた次第です。 ○中田委員 第1点については,では御検討をお願いいたします。   第2点については,多分関心の対象が違っていて,私は仕事が完成していないのに報酬請求権が発生するという部分について手当が必要ではないかということですが,それも現在のように解釈で賄うということであれば,私としては規定を置いた方がいいと思いますけれども,理解はいたしました。 ○山本(敬)幹事 今の中田委員が御指摘された2点目なのですけれども,解釈に委ねるというのは,現行法の536条2項ですと,現に解釈に委ねられていますし,一定の結論が導かれていると思います。しかし,ここから先はどう理解するかということがまだ十分に共有されていないことだと思いますけれども,今のところ,危険負担に関する規定を履行拒絶権構成に改めることが提案されています。これで本当に解釈によって今の問題がカバーできるのかというと,これは恐らく中田委員もそう考えられて質問されたのだろうと思いますけれども,カバーできないかもしれないということです。   と言いますのは,現在の536条は,双務契約で,一方の債務が履行不能になれば,他方の債務も消滅する。例外が,債権者の責めに帰すべき事由による場合であって,その場合は他方の債務は消滅せずに存続する。この点は,結論として,履行拒絶権構成でカバーできると思います。一方の債務が履行不能になった場合に,他方の債務は消滅しないかもしれないけれども,履行請求があれば拒絶できるので,消滅したのと同じ扱いになります。債権者の責めに帰すべき事由による場合は,いずれにせよ,消滅しませんが,履行を拒絶できないという結論は同じです。   ここまでは結論は一緒なのですけれども,今問題になっている請負などのタイプの契約では,一方の債務を履行しないと,報酬請求権が発生しないわけです。実際に不能になっているわけですから,履行できていない。したがって,本来,報酬請求権は発生しないはずである。けれども,債権者の責めに帰すべき事由による場合には,報酬請求権を発生させようというルールを536条から導いていました。しかし,履行拒絶権というのは,債務はあるけれども,履行請求が来れば拒絶できるということを基礎付けることはできるのですけれども,履行してなくても債務が発生することを拒絶権から基礎付けるのは,かなり大きな距離があって,解釈で本当に問題なく導けるかというと,かなり大きな疑問があります。   したがって,このような請負などの,反対債権の発生を基礎付けるというタイプのルールに関しては,やはり明文の規定を置かないと,従来と同じような結論を導けない可能性があります。一律に認められるかどうかは疑問があるという御指摘は,そのような背景によると思いましたけれども,規定を置きませんと,そもそも報酬請求をすることができる場合に本当にそれを導けるかどうかが怪しくなってしまうというのは,非常に怖いと思うところです。 ○山川幹事 もう雇用についてもお話が出ておりますので,本日訂正済みの机上配布資料を用意させていただきました。時間の節約のため,かいつまんで申し上げたいと思います。   これまで中田委員,それから山本敬三幹事のおっしゃられたようなことは,雇用についても同様でありまして,労務の履行不能が使用者の帰責事由による場合の報酬請求権の根拠規定については従来の提案を維持すべきであると考えております。   一方で,雇用契約においては,これも既にお話がありましたように,報酬請求権は労働義務の履行によって発生するという理解がほぼ一般的でありまして,他方で使用者が労働者の労働の受領を拒絶するという解雇事案,及びその他の事案で労働義務が履行不能になった場合にはその履行不能が使用者の帰責事由による場合には536条2項によって賃金を請求できるということになっております。現行の536条2項は,反対給付を受ける権利を失わないという文言ですので,やや解釈上問題がありまして,雇用契約のような場合には既に発生した反対給付請求権が失われないという読み方ではなくて,536条2項により請求権が発生するというふうに解釈しないと,従来の一般的な理解,判例等における一般的な理解が説明がつかないということになります。   これまでのこの部会における議論におきましても,報酬請求権の発生根拠となる規定を設けるということで特段御異論は,少なくとも雇用に関してはなかったと思われます。   今回補充説明の22ページで報酬の範囲が必ずしも明確でないという点が規律を設けることを見送った理由に挙げられていますけれども,これまでの部会では少なくともどういう問題があるのかについては明示的な議論がなされていなかったように思われますし,細かい点は解釈上あるわけですけれども,これは解釈で対応できるのではないかと思われます。   また,山本敬三幹事が御説明されたように,今度は536条2項については反対給付の履行拒絶権構成になっているということで,従来の民法536条2項の解釈が維持できるかどうかについての疑義が生じます。   この点,専門家ではないのですが,536条2項一般の規律の仕方として反対給付の履行拒絶権のほかに,契約の類型によっては請求権も発生し得るというふうに読み得るような規定を設けるのであれば疑義がある程度解消するということはあり得るかと思いますけれども,難しいとしたらやはり従来提案されてきたような規律を盛り込むことが求められるように思います。   あとは資料への追加ですけれども。請負については門外漢ですが,中田委員のおっしゃられたように私も思っております。言うまでもないことでしょうけれども,昭和52年の最高裁判決は請負については536条2項で反対給付請求権を認めているところですし。また,報酬請求権の範囲については疑義があるかもしれませんけれども,この点は役務提供契約の議論におきまして成果完成型役務提供契約というような議論により分けて取り扱うということもあったところですので,解釈上あるいは規定上別の規律をするということもあり得るかと思います。門外漢ですので余りその点突っ込んで申し上げるような資格もございませんけれども。   いずれにしても雇用の場合は通常訴訟,それから労働審判,それから行政の斡旋も含めてこの536条2項で反対給付請求権の発生を根拠付けるというようなことが非常に頻度が高いものですから,分かりやすい民法という点でも規定を盛り込んでいただいてはどうかと思っております。 ○鎌田部会長 関連した御意見ございますか。 ○中井委員 請負に関する中田委員の第2の提案については,先ほど関係官から説明があった考え方に賛成です。現状のこの原案を維持していただきたいと思います。その理由については先ほど説明があったとおりということで,繰返しません。   ただ,今山川幹事から御提案のあった雇用については必ずしもそうではなくて,部会資料「73A」の第1の1(2)のような形の規定を設けることは十分あり得ると考えています。では,なぜ請負と雇用で違うのか,若しくは委任と違うのかという点については,これも前部会でお話ししたことかと思いますけれども,雇用の場合は日々労務の提供ができる,日々労務の履行を受けるどうか,使用者側で事実上コントロールできるものだと思います。にもかかわらず使用者の責めに帰すべき事由で労務の提供できない状態があるとすれば,その間の報酬請求が原則536条2項若しくは「73A」の(2)に基づいてできると思います。   ところが,請負にしても委任で一定の期間を定めた委任等が念頭に置かれますけれども,全期間報酬請求ができるとなったらその全ての報酬請求,委任についても全ての期間の報酬請求,それができるがごとくに解される余地のあることに対して懸念を示しています。そういう観点から請負については原案に賛成をいたします。雇用については今の山川提案を検討することも考えられると思います。 ○高須幹事 今,中井先生から御指摘いただいた内容に私も賛成ということでございます。理論的には各先生方から御指摘いただいたような536条2項をどうここで使いこなすかというようなこと抜本的に考えねばならないのだろうと思ってはおるのですが,ただ実際問題として請負にその規律を導入したときに,一旦いわゆる請負代金請求が可能になる,その上でかからなかった費用等は控除するという構成が実際の裁判実務においてはそのかかった費用を除外するというところの立証というのはかなり大変な作業になると思われるものですから,前にもそんなことをお話した記憶があるのですが。やはりその構成は,理論的には分かりやすくとも,実際の裁判ではやはり使い勝手が悪いと思います。こんなことを言うと実務的な疑問,困難みたいなことしか言ってないと言われるかもしれないのですけれども,やはり未だに問題があるような気がしておりまして。したがって,この段階で改めて議論を詰めて行き,よりいいものを作っていくのは難しいのではないかと思っております。   ただ,雇用に関しては通常はその雇用によってもたらされる対価,給与なら給与というものについて,その給与のうち幾らは働かなかったのだから経費がかからなかったのだからなどという算定は通常しないわけでございますので,その意味でやはり同じ役務提供型でも請負と雇用に違いがあるのかなというのはかねがね思っておったところでございまして。その意味では今日の御提案で雇用の部分に関してだけということであれば,考える余地はあるのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ほかに関連した御意見は。 ○山野目幹事 少なくとも雇用に関しては,山川幹事が要望として意見をおっしゃった規律を設けていただくことを是,非今の段階から難儀なことであるかもしれませんけれども御勘案いただければ幸いであると感じます。雇用についてそのような規律が設けられた場合には,この後は解釈に期待せざるを得ませんけれども,請負についても雇用と同様事情の状況が調ったという主張立証を経た上で,請負のある部分については雇用の規律の類推解釈によって同様の解決を導くということもできなくはないのではないかと感じます。   請負についてそのような柔軟な法律運用の期待ができるとすれば,合田関係官が御心配になったような請負についての不適切な結果が生ずる場合という問題についても一定の対処をすることが可能なのではないかと感じます。   事柄は,売買とそれに対するところの請負や雇用のような契約の構造が異なっているということを民法の読み手にきちんと分かってもらう,という典型契約の体系と言いますか,構造論がここには関わっておりまして,そのような意味では536条2項の現行の規律を履行拒絶権構成に改めたときのその解釈運用に全部投げ出してしまうということは,かなり乱暴な,非常に問題の残る禍根を招く解決ではないかと感ずるものでございます。   私たちは合意形成をして危険負担を履行拒絶権構成に転轍するということについて,ほぼその方向を見定めつつありますし,それはそれとして適切な解決の見出し方であったと考えますけれども,その思わざる弊害というようなものについてもきちんと対処をしておく必要があると感じます。   履行拒絶権構成を強くおっしゃった高須幹事が併せて山川意見を支持されるということをおっしゃったことは,責任をお取りになったのではないかと感ずる部分もございまして,むべなるかなというふうにお聞きいたしました。 ○中井委員 山野目幹事の考え方に基本的に賛成いたします。請負に関しても雇用類似のものはもちろんある,委任についても雇用類似のものがあるかと思います。したがって,雇用に係る山川提案のようなものが定められたときに,それが類推して解釈されることについて私も否定するものではありません。しかし,積極的に置くことについては反対いたします。 ○金関係官 民法536条2項との関係ですけれども,履行拒絶権という言葉がいろいろと問題を生じさせる原因になったのかもしれませんが,少なくとも案文の字面としては,債権者の帰責事由による履行不能の場合,すなわち注文者や使用者の帰責事由による履行不能の場合には,注文者や使用者は反対給付の履行を拒むことができないと書かれています。事務局としましては,この反対給付の履行を拒むことができないという文言は,報酬の発生のメカニズムにかかわらず適用されるものだと考えております。つまり,売買代金債権について言えば,買主は,契約と同時に既に発生している売買代金債権の履行を拒むことができなくなるという読み方になりますし,報酬債権について言えば,使用者や注文者は,契約と同時には発生しない債権が536条2項の適用される場面では発生するから,その報酬債権の履行を拒むことができなくなるという読み方をすることになると整理しております。   現行法の536条2項は,債権者の帰責事由による履行不能の場合には反対給付債権は消滅しない,反対給付債権は失われないという書き方をしております。この消滅しないという文言は,字面上は売買代金債権のように既に発生している債権が消滅しないことを表現していると読むのが自然であるとも言えますが,現実にはそういう場面だけではなくて,雇用の報酬債権のように契約時には発生しない債権が事後的に発生するという場面でも適用されています。消滅しないという文言を使っている現行法ですら,まだ発生していない債権が発生するという場面で適用されるのであれば,拒むことができないという文言を使っている改正案でも,まだ発生していない債権が発生するという場面で適用されると説明することは十分に可能ではないかと考えております。まだ発生していない報酬債権が発生するから雇用の使用者や請負の注文者はその報酬債権の履行を拒むことができないという読み方です。 ○潮見幹事 ちょっと確認だけさせていただきたいのですが,先ほど中井委員からのお話で,請負については規定を置く必要はないといったところのその際の御発言の中で,請負の場合にはもし規定を置いた場合に全期間の報酬請求ができるかのごとく解される余地があるという,確かそういう形でおっしゃられたと思うのです。それはそれで私は納得したつもりだったのですが,金関係官のお話を伺った途端に,金関係官の頭の中からすると,536条2項を解釈することによってその請負報酬債権のような将来発生するような債権についても報酬請求をすることができるのだという解釈が可能であるというような感じで御説明いただいたと思うのです。そうなると,中井先生が考えているイメージと金関係官が考えているイメージと全く逆の方向での解釈というものが今後出てくるおそれがあって,それで本当に大丈夫なのだろうかという感じが率直に言っていたしました。   私は,山野目幹事がおっしゃった意見に全くと言っていいほど賛成なのですけれども,そういう中で,この部会でどこをどう理解して,例えば規定を設けないというふうに消したのかということを確認せずにこのまま進んでいいのだろうかと思いました。すみません,妙な意見で失礼しました。 ○山本(敬)幹事 関連することですので,もう一言だけですけれども,危険負担に関する規定については,いろいろと経緯があって最終的に履行拒絶権構成に落ち着いたということがあります。これをやむを得ないと考えたのは,これは当然消滅の規定ではない。双務契約で,一方の債務が消滅すれば,他方の債務は消滅するというままで残るのであれば,解除制度との整合性がとれないので容認できない。しかし,履行拒絶権構成というのであれば,実質は重なってくるのかもしれないけれども,当然消滅構成は採らないということだろうというので,何とか容認可能だろうと考えました。   ただ,先ほどの金関係官の説明を聞いていますと,「拒む」ということから債権・債務の発生・消滅に関する事柄が出てくる,ないしは当然に予定されているかのような説明がありましたが,そうだとすると,これは履行拒絶権構成からはかなり隔たりがあると感じました。そのような理解をする方々が今後出てくるだろうと思いはしますけれども,履行拒絶権構成というのは発生,消滅,存続に関わるルールではなく,飽くまでもある請求に対してそれを拒めるところに趣旨があるということはやはり確認しておきたいと思います。   そうしますと,履行拒絶権構成から直ちには,債権者の責めに帰すべき事由による場合に債権・債務が発生しないということが導かれるはずであって,それを前提とするならば,中井委員や山野目幹事がおっしゃっているような帰結になり,雇用については,それが余りに問題であるから特別な規定を設けたということは,それとしては整合的な説明がついているように思いました。   ただ,請負に関する従来の解釈として,536条2項によるということが基本的には想定されていたと思います。この点は,現行法の下での確立した解釈の変更を来した,そのような立場決定をここでしたということになっているのではないかと思いながら伺っていたところです。 ○山川幹事 やはり536条2項について新たな規律を設けるとしても疑義が生じないようにする必要はあろうかと感じた次第です。   それから,先ほど合田関係官の御説明にあった有期契約の場合の解雇が無効になった場合の規律ですけれども,それは期間の定めがない場合でも同じ取扱いになる。ある意味では期間の定めがない場合は事実上定年までの雇用というようなことになりますので,それほど本質的な違いがあるわけではないように思われます。判決主文は通常の場合期間の定めがあるなしにかかわらず,本判決の確定に至るまで幾ら幾らを払えという主文になっている。期間の定めがある場合はそれよりも先に期間が到来する場合は限定があるかもしれませんけれども,そういう形で期間の定めがあるかないかによって本質的な違いはないように思われます。   それから,あとは実務の問題ですけれども,そもそもそのような形で勝訴判決が出た場合に,例えばずっと長い間労務を提供しないで賃金の支払いを受け続けるという事例はそんなには多くないのではないか。どこかの段階で転職したり和解したりという形で実際上は解決がなされる。あるいは労働者の側で就労の意思を失うというような形で紛争が自然に消滅していくというような形で実務は展開しているのではないかと思いますので,それほど心配されるような事態ではない,あるいは解釈で対応できるのかなと思います。 ○金関係官 先ほど御説明申し上げたことは,少なくともこの規定の文言を見れば,債権者に帰責事由がある履行不能の場合には債権者は反対給付の履行を拒むことができないという結論がはっきりと書いてありますので,その文言のとおり,売買における買主も,雇用における使用者も,請負における注文者も,反対給付の履行を拒むことができないことになると考えればよいだけで,反対給付債権の発生のメカニズムが異なるという一事をもって,この規定が適用されたり適用されなかったりするという解釈をする必要はないのではないかということです。例えば売買契約でも,当事者の合意で目的物の引渡しを先履行にした上で,その目的物の引渡しによって初めて売買代金債権が発生するという合意をすることは理論的には可能ですけれども,そういう合意をするとその途端に今回の536条2項の適用がなくなるとは言わないはずで,反対給付債権の発生のメカニズムが異なるのであれば異なることを前提に,この536条2項の反対給付の履行を拒むことができないという文言をそれに応じて読むのではないかということを申し上げたつもりでした。山本敬三幹事の御指摘に対して直接のお答えにはなっていないと思いますけれども,一応そのように申し上げます。   潮見幹事から御指摘いただいた点については,請負や委任や雇用など,報酬債権が契約締結時には発生しない,仕事の完成などによって初めて報酬債権が発生すると最近では理解されている契約類型についても,少なくとも現行法の下では536条2項が適用されることを前提に実務は基本的に運用されていると思いますので,その意味では,そこは現行法を変えるわけではないと整理しております。ですので,極論すれば中井委員が不当だとおっしゃっていた結論が導かれることになるかもしれませんが,それは現行法もそうであるという整理です。ただ,前の部会で中井委員が強く指摘されたのは,仮にそうであったとしても,請負などの個別の箇所に536条2項と同様の規定を設けると,もうそこはある意味では解釈や運用が固まってしまうのではないか,契約総則の箇所に536条2項があるだけであれば,それぞれの契約類型に応じて柔軟な解釈,柔軟な実務上の運用がされる余地があるけれども,個別の契約類型の箇所に反対給付の全額請求を常に認めるような規定を設けるのは非常に問題であるという御趣旨だったと思います。事務局としては中井委員の御指摘をそのように理解した上で,今回の536条2項も引き続き現行法と同様に一般論としては請負などにも適用され得る規定であるという説明をして,それで中井委員や弁護士会にも御納得いただけるのではないかと考えているところです。 ○鎌田部会長 発生ないし成立と履行期の関係,必ずしもよく分からないところが残りますけれども,今のような説明で。 ○内田委員 金関係官の説明は解釈が開かれているということだと思います。536条2項が請負の場合にどう適用されるかについて,同じ趣旨がストレートに適用されるという考え方もありましたけれども,それに対する異論もあったので,ここを明文で決めるということはしないというのが現在出ている案だと思います。したがって,請負の場合については解釈に委ねるということであって,一方に決めるということではないのだと思います。   ところが,雇用について規定を明記しますと,請負について非常に強く解釈上一定の方向が示されることになるのではないか,そこに少し懸念を持ちます。雇用類似の場面には類推適用が可能になるという御意見が何人かの方から出ましたけれども,それはもう明らかに一定の方向を指し示しているわけで,請負について536条2項がそのまま適用できるという考え方は否定されるということになるのだと思います。それは多分この部会のコンセンサスではないのではないかと思います。雇用について規定を置くかどうかについては,強い御意見が出ましたので更に検討されると思いますけれども,置くことによって生ずるリスクについても十分な検討が必要かと思います。 ○合田関係官 先ほどから雇用についてはこのような規定を設けるということについて御意見が複数ありましたけれども,その検討の前提として少し御意見をお伺いしたい点がございます。   解雇の事案ですとか,労務の受領拒絶の事案については,いつまでの報酬が請求できるのかが明確であると思われますけれども,例えば就労場所を限定した雇用契約でその就労場所が使用者の帰責事由によって燃えてしまったとか滅失してしまったということで就労できなくなった場合の報酬請求権の処理については,余り判例の蓄積もなく,十分に議論されているとは言えない状況なのではないかと感じております。もし規律を設けるとすると,そのような事案も含めてカバーするような規律にする必要があると思うのですけれども,現在の536条2項と実質的に同じ規律でそのような事案を処理して本当に合理的な結論になるのかどうか。一体いつまでの期間の報酬請求を認めることになるのかという点について,これまでの部会で余り議論がされていなかったように思いますので,どのように理解すべきか,今後の検討のために御意見を頂ければと思います。 ○山川幹事 今の御質問はいわゆる限定正社員のように,新聞でもよく取り上げられている事項にも関わりますけれども,基本構造は536条2項の使用者の帰責事由がある場合には賃金債権は発生し得るということで,536条2項だけ取り出すとそうなるかと思いますけれども,労働関係の場合は使用者がいろいろな人事措置を執り得るということで話が進みますので,使用者に帰責事由があるとはいえ就労場所が消滅した場合についてはほかの所に配置転換するなどの措置が通常はなされるということになるであろうと思います。解雇がなされる場合もあります。ほかに配転のしようがない場合は。   その解雇の有効性に今度は話が関わってきますし,そうでない場合は,転勤とか配置転換をすることによって就労場所ができるというようなお話になると思われますので,就労場所が使用者の帰責事由によって消滅して,その状況がその労働関係においてずっと固定されていくというご指摘の事態自体がなかなか実務的には想定し難いような感じがいたします。 ○鎌田部会長 ほかに御意見。 ○潮見幹事 こだわって申し訳ないのですが,先ほどのところで金関係官がおっしゃられたこと,それから内田先生がおっしゃられたことは,要するにこういう理解なのでしょうか。つまり,現在の日本の民法の規定で言うと536条2項というものがある。536条は危険負担の規定である。危険負担の規定については今般の部会においては先ほどから出ておりますように履行拒絶権というものを否定するということを内容とした規定である。と同時に,536条2項は反対給付の履行請求権を根拠付ける規定でもある。その意味では反対拒絶の履行拒絶権をどうするかという形での危険負担の制度の再構成を超えた部分で,履行請求権の発生根拠となるということが超えたというところで捉えられるものである。   そして,536条2項について,仮に雇用においてその種の規定を設けないということであるのならば,536条2項の規定の意味は,それぞれの契約の局面で契約の類型あるいは特性に即して,履行拒絶をすることができないという点に限られる場合と,それに加えて反対給付の履行請求権が認められるという場合とがある。それは契約の類型によって決まるものであって,民法の条文を見ただけでは分からない。このような立てつけになると理解してよろしいですか。 ○金関係官 基本的な理解はもちろん御指摘のとおりなのですが,最後におっしゃった民法の条文を見ただけでは分からないという点については,やはり必ずしもそうではないと考えておりまして,請負における注文者や雇用における使用者にとってみれば,自分の帰責事由によって請負人や労働者の債務を履行不能にしてしまえば,自分の反対給付債務の履行を拒むことができないと明確に書いてありますので,それは正に文字どおり反対給付債務の履行を拒むことができないのであって,報酬債務の履行を拒むことができないというように読むのが少なくとも一般の読み手にとっては自然で分かりやすいのではないかと考えております。   危険負担に関する536条をいわゆる履行拒絶権構成にしたのは,基本的には536条の1項の問題として,反対給付債務の履行を拒むことができるという効果に改めるべきであるという議論がされたところを受けたものですけれども,536条2項の方の債権者の帰責事由による履行不能の場合の反対給付債権の帰すうの問題,これはそもそも危険負担の問題とみるべきかどうかが一つの問題ではありますけれども,それはさておき,この2項の拒むことができないという表現は,1項が拒むことができるとなっているので2項も拒むことができないとなっているにすぎないとも言えるところで,先ほども申し上げたとおり,少なくとも2項は,個々の契約類型ごとの報酬発生のメカニズムに応じて柔軟に読むことが可能なのではないかと考えております。   最後に1点だけ,先ほど部会長から,売買契約の成立と売買代金債権の発生とその履行期の到来との関係についての御指摘を頂いたところですけれども,先ほど申し上げた売買の例というのは,売買契約の締結時,成立時に,当事者間で目的物の引渡しを先履行にした上でその目的物の引渡しがあったときに初めて売買代金債権が発生するという趣旨の合意,すなわち売買契約の成立後も売買代金債権は発生せず目的物の引渡しによって初めて売買代金債権が発生し,かつ,その時に履行期も到来するというような合意がされている場合に,目的物の引渡しがされる前,すなわち売買代金債権が発生する前に買主の帰責事由によって目的物の引渡しが履行不能となったという事例を挙げたつもりでした。そのような事例では,目的物の引渡しによって初めて売買代金債権が発生することになりますけれども,だからといって今回の536条2項が適用されないとは言わないのではないか,そのような事例でも今回の536条2項を適用して,まだ目的物の引渡しはされておらず売買代金債権は発生していないけれども,536条2項の適用によって売買代金債権が発生したものと扱うのではないか,そのことはつまりは反対給付債権の発生のメカニズムとは関係なく今回の536条2項を理解することが可能であることの一つの証拠なのではないかということを申し上げたつもりでした。 ○山本(敬)幹事 ようやく全体像が見えてきたのですけれども,そうしますと,非常に大きな疑問が生じるという点を指摘させていただきたいと思います。  請負の10の1で,注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合において,既にした仕事の結果のうち,可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは,その部分を仕事の完成とみなす。ですから,この場合には,第2文で,注文者は受ける利益の限度で報酬を請求することができる。これは,基本的には現在までできている分についての報酬におおむね相当するのではないかと思います。   としますと,この部分的な報酬請求は,注文者の責めに帰することができない事由によって完成することができなくなった場合に認められるわけですから,注文者の責めに帰することができる事由による場合であっても,当然請求できないとおかしいのではないでしょうか。何のために「注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった」と書かれているかと考えたときに,これは,注文者が責めに帰することができる事由による場合は,部分的ではなく,全部の請求ができるということを含意しているのではないか。つまり,従来の提案にあった536条2項に当たる規定の明文化がされないとしても,536条2項に相当する規定の解釈によって全額の請求ができるということを念頭においた文言の定め方になっているのではないかと理解しました。最初の質問もそれを前提にしていました。   しかし,今の議論の展開を見ますと,これ自体が解釈に委ねられるとすれば,この10の1の規定の「注文者の責めに帰することができない事由によって」は削除しないとおかしくないでしょうか。注文者の責めに帰すべき事由がない場合はもちろんのこと,ある場合であっても,少なくとも,可分な給付であって注文者が利益を受けるときには,その利益を受けた分の報酬は請求できるという規定に改めないとおかしいのではないかと思います。特に中井委員の見解からするとそうならないとおかしいのではないかと思います。   仮にこの文言のまま残しますと,私が最初に申し上げましたように,これは536条2項がやはり注文者の責めに帰すべき事由がある場合には効いてくるのであるということを示唆した規定だと理解されるのではないかと思います。いかがでしょうか。 ○金関係官 御指摘いただいたとおり,注文者の帰責事由による履行不能の場合には536条2項が適用されることを前提としております。ただ,536条2項が適用されるとしても,個別の契約類型や個別の事案に応じて,全額請求できるのかどうかというのは柔軟な調整がされ得るはずであるというのが弁護士会のおっしゃる実務感覚に適合するということで,事務局としてはそのことに異論はありません。しかし,その536条2項の適用における柔軟な調整の結果として請求できる金額は,この第10の1の割合的な請求が認められる金額を下回ることはない,そういう整理をしております。   弁護士会からは,特に請負や委任の箇所などで536条2項と同様の規定を設けるのは妥当でないという御指摘があり,現時点ではそのような個別の規定は設けないことになっていますが,しかしその前提としては,やはり伝統的に請負なども含めた全ての契約類型に536条2項が適用され得る,少なくとも個々の具体的な事案を離れて抽象的にだけ述べれば536条2項が適用されるということにはそれほど異論がないという理解があると考えております。その意味では,山本敬三幹事からこの第10の1の書き方は請負にも536条2項の適用があることを示唆するのに近いという御指摘を頂き,それはそのとおりなのですが,事務局としてはむしろそうあるべきだと考えておりますし,弁護士会としてもそれ自体は問題がない,飽くまで総則の規定として,契約総則なのか債権総則かはさておき,総則の規定としてそういう規定を置くのであれば,弁護士会としてもそれで異論はないということではないかと理解しております。 ○山本(敬)幹事 少なくとも実践的に考えましても,請負人が注文者に対して部分的な報酬を請求していくときに,注文者の責めに帰すべき事由にはよらないけれどもということを主張立証しないといけないのは奇妙だと思います。やはり,既に仕事は一部行っている。それは可分であり,注文者の利益にもなるということが言えれば,それでその部分についての利益についての報酬は請求できるというルールにしないといけないのではないでしょうか。金関係官の言われるようなものだとしても,主張立証責任を考えますと,この限定はどうもおかしいという気がします。 ○金関係官 帰責事由に関する主張立証責任を条文上も正確に示すべきであるという議論は以前からあるところですが,現行法でも536条1項が当事者双方の帰責事由によらないでという書き方をしつつ,しかし必ずしも536条1項の適用を主張する側が当事者双方の帰責事由によらない履行不能であることを主張立証する必要はないという理解がされていると思います。帰責事由に関する主張立証責任を条文上正確に示そうとすると,かえって実体法の規定としては分かりにくくなってしまうことがあるという指摘も度々されるところでありまして,そのような観点から,帰責事由については主張立証責任を正確に示すことよりも,実体法の規定としての分かりやすさを重視して書いているということだと思います。第10の1についても,その規定の適用を主張したい請負人の側で注文者の責めに帰することができない事由による履行不能であることを主張立証する必要はないということが前提となっています。もちろん書き方については引き続き検討すべきだと思いますけれども,規律の中身は山本敬三幹事がおっしゃったことと違うことを考えているわけではありません。 ○中井委員 山本敬三先生に教えられて改めて部会資料「72A」の第1の1を見ますと,三つの規律になっている。(1)は仕事が完成することができなくなった場合ですから,原因を問わない。そのときに可分であって利益があったらその報酬を請求できる。(3)でそれに加えて注文者の責めに帰すべき事由がある場合について規律していた。私も(3)がなくなったものと思って読んでいました。   今回「81-3」の補足説明を見ますと,仕事を完成することができなくなった場合を具体的に明確にするために「注文者の責めに帰することができない事由によって」を入れた。しかし,この説明では整合しないですよね。注文者に帰責事由があろうがなかろうが,仕事が可分でかつ利益があれば当然に報酬請求はできる。請負人は帰責事由のありなしに無関心の場合もあって,出来高に利益のある限り,(1)の請求権行使はもちろんできる。相手に責任があるからけしからんと思ったときには別途請求できるというのが,実務的発想になるわけです。   そうだとすると,(3)を削除することに弁護士会賛成なのですが,(1)は元の案ではいけなかったのか,なぜ変えたのかを積極的に説明していただく必要があるように感じました。 ○合田関係官 今御指摘をいただいた点ですけれども,前回の部会資料では,単純に「仕事を完成することができなくなった場合」とだけ書いていて,主張立証責任の問題だけではなくて,契約を解除した場合の規律がここに含まれているのかどうなのかが不明確であるということを前回の部会において御指摘を受けました。今回の規律では,その点が明らかになるようにしております。「注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合」というのは,契約が解除されておらず,契約が存続していることを前提にしており,これに加え,契約が解除された場合も含まれることを明らかにするために,今回修正をしたということになります。   こういうふうに書きますと,前回の部会資料「72A」で書いておりました(2)の規律については不要になるということで,これを削り,この1文になっております。   「注文者の責めに帰することができない事由によって」という言葉をここに入れていますのは,注文者の責めに帰すべき事由によって仕事を完成することができなくなった場合については,この規律ではなく536条2項が適用され得るということを示唆し,規律の振り分けが分かりやすくなるように記載をしたということです。請負人は可分かつ利益を有するということさえ主張立証すれば,その部分についての報酬請求は認められるということになるのですけれども,ここに何も書かなければ,全ての場合についてこの規律の限度でしか報酬請求ができないと読まれるおそれもあると考えまして,このような書き方にしてあるということになります。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○中井委員 「72A」の(1)だけを残して,あと(3)については解釈問題,536条2項が,請求権を根拠付ける規定になり得るのですけれども,なるという考え方とならないという考え方の両方があるのかもしれませんが,それは解釈問題として残ったという解決も十分あり得るのではないでしょうか。 ○鎌田部会長 では,御指摘いただいた点を踏まえて更に検討させていただきます。委任等についてはほかに御意見よろしいでしょうか。 ○岡委員 請負ですが。 ○鎌田部会長 はい,どうぞ。 ○岡委員 請負についてやはり期間制限に関連して二つの意見と質問がございます。   一つ目ですが,第10の2については目的物についての特則だろうと思います。請負の場合はシステムの開発でありますとか,仕事の目的が権利である場合がかなりあると思います。その目的が権利である場合については(3)の期間制限は一切かからず,知ってから5年,更新できるときから10年,その一般論が適用されるのでしょうか。   そうだとした場合に,目的が権利と物でそんなに大きく違っていいのか。現行法がそうなっているからということになるのかもしれませんが,権利と物でこれだけ大きく違うのだという理由についてどういうふうな説明をするのか伺いたいと思います。   それから,(1)についても修補請求権の限界について,物についてこういう特則を置くけれども,目的が権利であるときは一般論でいくと,そういうことになるのでしょうか。その場合に,2の(1)の物についての特則の積極的な意味がどういうふうに理解したらいいのか,その点を教えていただきたいと思います。 ○合田関係官 今御指摘いただいた点につきましては,現行法の規定においてもこの規律が仕事の目的物を前提にしているということで,今の規律自体不合理だという共通の認識があるのかどうかという問題だと思うのですけれども。現行法との連続的な理解としてはこのような規律になるのではないかと考えております。その点については,それが共通の理解ではないのではないかという御指摘なのでしょうか。 ○岡委員 いえいえ,物と権利が大きく違う理由についてどう説明するのかということです。現行法でそうなっているのを引き継ぐだけだとこういう説明になるのでしょうか。積極的に物についてこういう期間制限を設けている理由は今回審議したけれども,正当であるのでそのまま承継したと説明するのでしょうか。この点については余り議論していないような気もするのですが,どう説明するのかというところをお聞きしたいです。 ○合田関係官 その点についてはこれまで議論がされてきたかどうか余り記憶が明確ではないのですけれども,現行法がこのような規律になっているので,それに沿った形で期間制限についての規律を改めたということになります。目的物の場合と権利の場合の差異というのをどういうふうに説明していくのかという点については,今すぐには答えを持ち合わせていませんので,少し検討させていただければと思います。 ○内田委員 これは解釈論ですから,私の個人的解釈ですけれども,現行法は目的物がある場合とそうでない場合で分けている。そうでない場合の典型というのは,歌を歌うとか何とかという,修補などの余地のない請負ですね。それと物がある場合とを区別していて,それを踏襲して今回の改正案できていますので,ソフトウェアのような知財の権利などが対象になった場合に,どちらに寄せるかということは解釈論として残るのではないかと思います。それについて,目的が権利である場合について明示的に規定を置けという形での議論はなかったので,そういう規定は置かれていないわけですけれども,解釈論として,有体物ではないから当然に期間制限がかからないということにはならないのではないかと思います。 ○岡委員 売買のところでも期間制限について立法趣旨を明確にしていただいて,解釈のよすがにしてほしいという意見を申し上げましたが,ここでも今のような議論を是非欲しいなと思っております。しかし,歌を歌うという例が出てくると,ソフトウェアというのは目的物に近いというような解釈が十分出てきそうに思います。でも,それは期間制限というのが債務不履行の一般原則からいったらかなり特則であって,限定解釈すべきであるという立場からいくとなかなか危険な議論のようにも思います。   この辺は研究者の先生は研究されており,いろいろ何か調べたら分かるのでしょうか。 ○道垣内幹事 調べたら期間制限に合理性がないということになると思います。 ○潮見幹事 場所は同じ所ですけれども,先ほど山本敬三幹事が賃貸借で言ったところに関わる部分,もう既に言及されている部分も含めて幾つか確認の質問をさせていただきたいと思います。   当面のところから申し上げますと,一つは第10の請負の2の(1)のところに種類が入ってますよね。種類が入っているということは,これは製作物供給契約,例えばタイルだとかレンガだとかそうしたものの製作ということを目的とした請負というものが想定されているという理解でよろしいのでしょうね。   そうであるとしたならば,そういうタイルだのレンガだのそのようなものについて瑕疵があった場合に,それの修補は狭くないですかと。追完という言葉の方がよろしいのではないでしょうかという意見及び確認の質問,これが1点です。   それから2点目が,これが山本幹事が先ほど賃貸借で言われたところですが,今回の634条第1項のただし書が消えているのですよね。これは先ほどからのいろいろやり取りにもありましたが,履行請求権の限界事由の規定がここにも妥当するという御趣旨で書かれているのではないかと思うのですが,そうでしょうね。   絡め手で申し訳ないのですが,例えば売買の所でも売主の追完義務,買主の追完請求についての規律があって,そこで追完請求については一種特別の処理がされているわけですよね。そうであれば,ここの場面でも,追完請求についての限界というものを置いておくという選択肢もあり得たのではないかという感じが若干するところもありますので,お願いも含めて検討していただきたいところです。   更に申し上げますと,634条の1項はこういう形で改正されるようですけれども,2項は維持するという御趣旨なのでしょうか。そうなれば,修補に代わる損害賠償,修補とともにする損害賠償ですけれども,この部分に特化したみた場合にはこれも債権総論の一般規定で十分に対応が可能であるし,事務当局がお考えになっている発想からすると,債権総論の規定を基にそれぞれの損害賠償請求権がどういう形で出てくるのかということが決まってくるはずです。そうであれば,この2項というものがどうして必要なのでしょう。そん度するに,その部分の後ろに533条の準用が書かれていますから,その部分がいるのかなという感じもしたわけですけれども,そうであればその部分だけを残して規定にすればよいのではないかとも思います。そうしないと,1項は債権総則の規定とかぶるから削るが,2項はかぶるけれども残すというのは,若干説明が通らないのではないかという感じがいたしました。   それから更に申し上げますと,解除なのですけれども,635条削除というものは大賛成です。ただ,そのときに請負のこの辺りの契約不適合の部分に関しては解除について言及した規定というものが存在しないということになります。もちろんこれは先ほどからの話で,債権総論をみていただいたらそこに解除が書かれているから十分ではないですかとお考えになっているのだと思いますが,他方で売買のところには,「81-1」の7ページ目のところの5ですが,そこに追完,代金減額はここは関係ないので追完だけ申し上げますと,この規定による権利の行使については,債務不履行の一般の規定による損害賠償の請求及び解除権の行使を妨げないという念のための規定というものが置かれているわけで,売買でこれを置くのであれば,同じことは請負でも必要なのではないでしょうか。それなのに,なぜ請負ではこの種の規定を設けなかったのかということが私には解せません。   そういう意味で,この辺りの規定の整理というものについて,お時間限られていると思いますけれども,少し検討していただければ有り難いです。お願いを込めて申し上げておきます。 ○鎌田部会長 では,事務当局からお願いします。 ○合田関係官 2の(1)の「種類」という言葉についての御指摘ですけれども,製作物供給契約を念頭に置いているものかどうかという御指摘だったと。 ○潮見幹事 「種類」で想定してるのはどういう請負ですかということをちょっとお尋ねしたかったと言った方がいいかもしれません。 ○合田関係官 何が種類で何が品質なのかというのは,余り区別すること自体には意味があるものと…… ○潮見幹事 端的に申し上げますと,先ほど製作物供給契約の例を出したのは,レンガでしたか,レンガの製作請負などというものは,普通は,請負でも考えられ得るというふうにも言われている分野だと思いますけれども,そうであった場合に,焼き上がったレンガに瑕疵があったというような場合に,これをどうやって救済するのかといった場合に,そういうものを作り直してくれということに多分なると思うのですよ。そのようなものを修補という言葉で置き換えていいのかということがちょっと気にかかったというだけです。その意味ではマージョナルな話かもしれません。 ○合田関係官 現行法を前提にしても,作り直すという場合も,これまで修補の中で読んできたのではないかと思いますので,その点については今回設ける規律でも同じであり,それは修補のやり方の問題なのではないかと考えております。これまで修補として認められてきたものについては,今後も修補として認められるべきではないかと。それが追完という言葉を使わないと読めないのではないかという御指摘なのかもしれませんけれども,修補という言葉の中で解釈できるのではないかと整理しております。 ○潮見幹事 分かりました。今回の民法を作るというときに,追完という言葉が入りますよね,追完という言葉で,基本的にこの種の規定を整備するということですよね。   そうであるならば,請負のこの部分だけ修補という言葉にこだわる必要があるのだろうか,追完という言葉をここで使ってどうして悪いのだろうか,という疑問なのです。修補のところでおっしゃられたようなことが今まで理解されてきているということには,私もそれは違和感は覚えるわけではございません。ただ,先ほどの契約の内容ほどではありませんけれども,同じ一つの要綱で,片一方で追完という言葉を新たに導入し,片一方で伝来型の修補という言葉で全てを包接するというのは,見たときにイメージがつかみにくいかなと思っただけです。それ以上はこだわりません。 ○鎌田部会長 考えていることが違うのではなくて,どう表現するのが最も適切かということですから,御指摘を踏まえて検討してください。 ○合田関係官 そのほかの御指摘についてお答えいたします。   634条1項ただし書が削除されているという点については,御指摘いただきました通り,履行請求権の一般原則の方で読むという趣旨で今回ただし書が消えているということになります。その整理の仕方については,御指摘いただいた所も踏まえて,そのほかの規律との関係についても検討したいと思います。   634条2項が維持されるのかどうかという点につきまして,これまで2項は検討対象にされておらず,2項を削除するのか維持するのかという点については部会で議論されたことがなかったと記憶しております。2項の規律自体を削除すべきだというような明確な御意見もこれまでに頂いたことがありませんでしたので,2項について維持することが問題だという御指摘はなかったという前提で,現時点では維持することを考えておりました。御指摘のように,一般原則で対応可能なのではないか,わざわざ2項を残す意味はないのではないかという御指摘もあると思いますので,この点については御意見を賜りたいと考えております。   その場合には,533条を準用するという部分についても,これが今後も特則として意義を有するのか,それとも残す必要がないのかという点についても御意見を頂ければと考えております。   それから,解除についての635条を削除している点については,これも債権総論の解除についての規定で読めますので,ここで改めて重複する規律を置く必要がないと整理しております。売買の箇所では確認的な規律を設けているのに,ここでは何も書いてないということがアンバランスなのではないかという御指摘がありましたけれども,請負だけに重複して書くというのも,そのほかの有償契約についてはどうなのか,全ての契約についてそのように書くのかという問題もあります。請負だけに書くというのもまたかえってアンバランスになるおそれもありますので,その点はほかの規律との関係で考えたいと思います。   現時点では,債権総論の方で書かれているので,重複した規律を置く必要はないというふうに考えております。 ○山本(敬)幹事 関連して発言させていただきます。634条1項ただし書を残していただきたいということは先ほども申し上げたとおりでして,潮見幹事の御意見に賛成します。その上で,634条2項ですけれども,この規定は,従来の通説的な解釈では,無過失責任を定めた規定であると考えられていました。これは,損害賠償について,債務不履行責任の特則でもあるけれども,担保責任の特則でもあるというような理解が背景にあったのだと思います。いずれにしても,この規定には過失に当たるようなことは何も書かれていないこともありまして,これは無過失責任を定めた規定だと解釈されてきました。   しかし,今回の改正法では,これは債務不履行の一般原則の現れであって,したがって債務者の責めに帰すべき事由によらない場合は,債務者は免責されるということが前提にされているのだろうと思います。もちろん,請負は結果債務ですので,免責事由がどのような場合かというと,限定されことになるわけですが,責めに帰すべき事由によらない場合の免責は残るだろうと思います。   としますと,634条2項をそのままの形で維持すれば,それが読み取れないことになります。修補に代えて又は修補とともに損害賠償請求できると書くだけでは,それは読み取れないとなりますと,やはり問題があると思います。したがって,潮見幹事が言われるように,およそ規定を置かないか,あるいは債務不履行の一般規定である何条により損害賠償の請求することができると書くか,書き方はいろいろ考えられますけれども,一般原則によるということが明らかになるように改める必要があると思います。   それから,もう1点だけ,関連することですけれども,期間制限の規定,2の(3)を見ますと,ここで解除ができるということも表れているのですが,それとともに代金の減額の請求もできるということが前提とされていて,それが期間制限にかかってくると定められています。   これは以前の部会でも議論があったように記憶しているのですけれども,請負の場合に代金減額請求を認めるかどうかは一つの論点です。ただ,比較法的にみても,これを認めるのが通常と思いますし,この代金減額請求ができるという前提を採ることは賛成なのですが,売買と違って,請負には明文の規定がないということは,恐らく売買の規定が559条を通じて有償契約である請負にも準用されるという理解ではないかと思います。   解除の方は債務不履行一般原則の適用そのものでよいのですけれども,この売買の規定の準用によるというときには,有償契約でもその契約の性質がこれを許さないときはという例外がありますので,そして従来はこの点は規定明文がなかったわけですから,やはり代金減額請求が請負契約について認められるということは少なくとも補足説明でしっかりとしていただく必要があるのではないかと思います。 ○岡委員 (4)の民法638条を削除するというところについての質問でございます。弁護士会の一部に強烈な反対意見があることは前から申し上げているとおりです。そこで確認をさせていただきたいのですが,この改正提案によると,不適合を知ったときから1年以内の通知,権利行使できることを知ったときから5年,権利行使できるときから10年,この三つの期間制限になるという理解でまずよろしいのでしょうか。   そうだとすると,現行638条の引渡しから5年,10年という規律よりも,知らなかったら期間は事実上長くなる。権利行使できるときイコール引渡しという判決もありますけれども,そうではない判決もありますので,むしろ今の638条の引渡しから5年,10年という規律よりも新しい考え方の方が合理的ですよという説明を分かりやすく是非していただきたいです。   またこの638条2項というのも,瑕疵によって滅失又は損傷したときに,不適合を知ろうが知るまいが損傷のときから1年以内に権利行使しろと,こういう規定になっていますが,新しい考え方だと,もし滅失したとしても,不適合あるいは権利行使できることを知らなかったら,滅失等から1年以上経過していても権利行使できるようになりますと,こういう改正だと思うのです。だから,引渡しからというよりも,合理的になりますよということを法務省から是非分かりやすく説明していただければと思います。 ○筒井幹事 岡委員から非常に的確に説明していただいたので,それに付け加えることはないのですけれども。元々この議論はそういうことだったと思います。現行法で引渡しの時から1年と637条で規定されているところを合理的にしよう。それから,638条2項において滅失,損傷のときから1年という期間が走り始めるというのでは必ずしも合理的でない場合がある。そこで,知った時から起算することにしよう。そのように考えていったときに,それとは別に5年,10年という638条1項の規律を残すことの意義は極めて乏しいし,実際にも5年,10年が過ぎて以降もその不適合を知らなかった,あるいは権利を行使できることを知らなかったという事態は生じ得るはずである。こういった議論の到達点として,638条を削除するという提案がされているのだと理解しております。 ○中井委員 今の点に関することですけれども,638条2項は滅失又は損傷が現に起きたときなのだろうと思うのです。ところが,(3)になるとそうではなくて,滅失,損傷が起こる前であっても不適合の事実を知ったときという限りにおいては,事実を知れば滅失,損傷していなくても期間制限にかかることになるのではないか。また,堅固建物は不適合を知ると現在の10年より短くなる。   そういう観点から,(4)のとおり638条を削除したとき,確かに岡委員がおっしゃるように,知ったときから5年,行使できるときから10年という限りでは伸びる場面もある。他方,特に建物を念頭に置いたときに,契約不適合の事実を知ってから1年で失権し,堅固建物で厳しくなる場面もあるという批判がある。   これはなかなか難しいのかもしれませんけれども,638条の削除はいいとしても,土地工作物,取り分け建物について(3)の適用はないという考え方が採れないものか。先ほど道垣内先生も結局(3)についてはかなり不適切というか合理性のない規律という御示唆もありました。本来ここをもっと議論すべきだったのかもしれません。(3)については売主ないし請負人の保護の観点から残ったわけですけれども。取り分け建物,土地の工作物について現行法では買主若しくは注文主に保護を与えているわけで,それがこの限りにおいては一定厳しくなる,(3)が不合理な面があれば建物について適用しないという選択肢がないものか,今さらなのですが検討できないものかと思います。 ○筒井幹事 御提案の趣旨は理解できないではないのですけれども,現行法の下においても滅失,損傷から1年という期間制限がかかっていることとの対比において,現在の案では逆の場合もあるという中井委員の御指摘はありましたけれども,知った時からという合理的な規律にそこを改めるという提案がされているわけでございまして,現状でもそのような規律があるにもかかわらず,建物については期間制限をかけないで一般の時効期間に委ねるというのは,実務に与える影響が大きく,合意形成が非常に困難ではないかと考えております。この案で是非とも御理解いただきたいと考えております。 ○中井委員 もう1点,今さらながらの指摘かもしれませんが,一部の単位会から強く指摘を受けていますので,申し上げておきたいと思います。   解除の関係で635条削除なのですけれども,現行法541条と543条周りの解除についてはここで合意形成ができて部会資料「79-1」の第9として催告解除と無催告解除に分けて,催告して履行しなかったとき原則解除できると。ただし,軽微な場合は除くという規律になったわけです。   この規律の決め方の経過については様々議論があったわけですけれども,弁護士会も異存のないところです。その規律が売買と請負の契約不適合の場合にもそのまま適用される,統一されるわけです。請負で言うならば,その前項第10の2の(1)で不適合があったときに目的物の修補を請求することができ,目的物の修補の請求について催告をする。催告をしたけれども,修補しなかったとすると,一般原則で軽微でない限りにおいて解除できる。この規律は本当にそれでいいのかというのが当該単位会からの申出であったわけです。   現行法は541条ないし543条での解除の規律とは別に売買及び請負のところでは一旦目的物を引き渡した,その後の修補請求,つまり追完請求に関しては契約目的不達成という概念を持ち込んでいた。これまでこちらの契約目的不達成というところから逆に一般の解除の要件にする意見があったわけですけれども,それについては部会で一致することはなかった。   果たして,一旦履行,給付はしたが,そこに瑕疵等があるために追完請求する場面,取り分け修補の請求があってその催告に対して応じないから解除というのは,541条でその方向の言い方をしていた私として言いづらいところもあるのですが,果たしてそれでいいのか。現行法が売買若しくは請負に関して瑕疵がある場合の規律として契約目的不達成としたのは,やはりこの段階での解除を認めるのは全く履行していない場面での解除よりは要件を厳しくしたのだろうと思うのです。   これまで解除一般の要件を議論し,結論が出たところで売買や請負についての追完請求についての解除の要件も右へ倣えという形でさっといったのですが,本当にそれでいいのかという指摘に対して,一応ここで申し上げさせていただいて,いや,それで特に問題はないのだというその当該単位会の方に対する説得の意見を是非お聞かせいただきたいという観点から申し上げました。 ○鎌田部会長 それでは,御意見をお聞かせください。 ○山本(敬)幹事 以前の議論の際に何度か意見を申し上げたことですが,これは請負に限らないのですけれども,瑕疵がある場合に,今言われているように催告をすれば,その催告に応じない場合に契約の解除を認めてよいかという点に関しては,比較法的にも議論のあるところですが,結論としては,催告解除は認めないというのが一般的ではないかと思います。重大な契約違反を来すような場合であれば,解除が認められるけれども,瑕疵が重大な契約違反を来さないような場合に,催告して解除することは許されないというのが一般的傾向ではないかと思います。   この点は,解除の一般原則についての規定を立てるときに議論しました。その際にも,私自身幾つかある問題の一つとして気になったのは,瑕疵がある場合,あるいは不完全履行の場合に,このような形で催告解除を認めることは本当に適当なのかということでしたが,どうも結論としては,不履行が軽微でなければ解除を認めるということに落ち着いたのではないかと理解していました。しかし,本当にそれでよいのかということは問題だろうと思います。その意味で,ようやく中井委員に御理解いただけたということはありますが,すでにこの段階であるということをどう受け止めるかということかもしれないと思いました。 ○松岡委員 中井委員が今おっしゃった事例では,瑕疵があるとしても給付はまがりなりにもなされており,契約目的が必ずしも達成できないわけではない事例です。解除ができるとしても,それはある種の一部解除であり,代金減額や損害賠償の問題だけになって,全部解除が当然にできるわけではないのではないでしょうか。結論的には山本敬三幹事がおっしゃったのと同じように,契約目的の不達成が要件として必要になるように思います。この規律でも恐らくそういう解釈論がなお可能なのではないかと思うのですが,そういう理解では駄目でしょうか。 ○中井委員 仮に今のようなお考えだとするならば,541条ないし543条は部会資料「79-1」のとおりとなり,売買若しくは請負のところで先ほど潮見幹事がおっしゃられたように,2(1)の追完請求をした場合にも解除の規定の適用はあるという形で記載されるのですが,そこにただしというところで契約目的不達成の場合に限る,つまり原則論は軽微な場合を除くわけですけれども,ここでは契約目的不達成のときに解除できるという特則を設ける。それは現行法の規律の仕方と整合しているのではないかとも思うものですから,重ねてそういう置き方も可能ではないのか。いや,それはやはり論理一貫しないのかという辺りの確認もさせていただければと思うのですが。 ○松岡委員 重ねて規定を置くのは,もちろんあり得る選択だろうと思います。ただ,規定を置かなくても,先ほどからちょっと違う文脈でかもしれませんが金関係官が繰り返しおっしゃっているように,基本の一般規定とは別に契約類型毎に多様な変形が出てくるという解釈の余地があるように私は感じます。 ○道垣内幹事 松岡委員がおっしゃったのは,その「軽微な」というのはある種の規範的な解釈要素であって,現在の条文であっても,つまり,請負に関する634条1項の「瑕疵が重要でない」という文言についても,その契約目的が達成できるかどうかというのが非常に重要な意味を持つという解釈論のだから,それで解釈できるということですね。これに対して,中井委員がおっしゃるように請負の特則として契約目的が不達成か否かという基準の特則を置こうということになりますと,他のところでは軽微性の判断について契約目的との関係で考えることを否定するという反対解釈を生みうるわけで,私は中井委員の見解に賛成できないです。 ○潮見幹事 私もこの間いろいろな意見申し上げました。一つもうおさらいみたいなことですけれども,中間試案では,催告解除のただし書部分は,契約目的達成可能という形でのルールを立てていたと思うのです。そうであれば,その催告解除をどういうふうな枠組みで捉えるかは別として,解除自体の目的,制度というものについては一貫した説明ができていたはずなのです。ところが,いろいろな意見というか中井先生はもうお分かりだと思いますけれども,いろいろな意見が出まして,催告解除についてのただし書は軽微という要件に変わりました。そこでは,これは金関係官が前に説明されたことだと思いますけれども,契約目的が達成することができる場合で,そこに更に軽微な場合と軽微でない場合があるという整理をされて,今回の要綱仮案みたいなものに仕立てたという理解を,私はしております。   そういう理解をした場合には,催告解除の規定は,契約目的達成不能という観点から正当化することはできない,そういうものが契約総論の一般的な規定として置かれることになり,その部分については恐らくこの部会の中で一致をみたのでありましょう。だから,私たちはもうそれを前提にしてこの先議論しなければいけないのではないかというように思っております。   その上で,おっしゃられている請負で,あるいは売買もそうだという御趣旨だと思いますが,契約目的達成不能の場合に限るべきではないかという考え方をお示しになられておるのですが,ではそうであれば,しかも現行法どおりで望ましいというのであれば,なぜその場面を催告解除のルールに載せて説明しなければいけないのでしょうか。これは端的に契約目的達成不能という解除の枠組みで捉えればそれで足りるのではないでしょうか。それにもかかわらず,催告解除という枠を維持しながら契約目的達成不能という観点をそこにこの部分にだけすり込ませるという説明は,私は通らないのではないかと思います。   不完全履行には請負あるいは売買の瑕疵の場合もありましょうし,それ以外の付随義務のようなものもありましょう。いろいろな場面で同じような問題が出てきて,それを全て含んだ形で先ほどの催告解除の一般理論というものを作るというふうに判断したのではないかと思いますし。そうであるのならば,催告解除という枠組みを維持しながら,その上で契約目的達成不能というような形でただし書を変えようという御趣旨かもしれませんが,そのように捉えることには,個人的には賛成はできません。   もとより,中井委員の御発言の趣旨として,売買,請負のところの瑕疵が問題になる場面では,催告解除などというものはやめてしまえというような御趣旨も含まれているのかもしれませんが,そうであれば,そしたらまた先ほどのそれ以外の不完全履行の場合との平仄はどうなるのかの辺りも含めて考えると,この部分についてはその種の特則をここに置くということについてにわかに賛同し難いということです。 ○道垣内幹事 潮見幹事のおっしゃることに多くは賛成なのですが,個人的には解除の箇所のあのような整理にもかかわらず,契約目的の不達成という概念が軽微性の解釈等において重要な意味を持ってくるということは今後の解釈論としては十分にあり得ると思っておりますので,潮見幹事の御発言のうち,そのような見解は否定されたというご理解の部分には反対いたします。 ○内田委員 今の問題というのは軽微という言葉を文字通り理解することによって導かれる問題で,言葉の選択に問題があったと言えば言えるのですけれども,現在のような案を前提として考えると,催告解除のところで軽微という言葉で意味しようとしていたのは,本当の文字通り軽微,軽いという意味ではなくて,付随義務違反などで簡単に解除できるわけではないという判例法を明文化するために,初めは契約目的という言葉を使っていましたけれども,それでは十分判例の明文化にならないということで軽微という言葉が選ばれたということなのだと思います。   ですから,その経緯を踏まえて軽微を解釈する必要があると思います。例えば,引渡債務について,売買契約で物を引き渡さない,催告してなお引き渡さないといとき,これは軽微ではないわけですね。軽微でないというのは催告期間経過後のそういう程度の不履行のことを意味をしている。これに対して本当に軽い付随義務違反については,催告をしても,それはなお軽微なので解除できないと,元々そういう趣旨で使われたのだと思います。   その上で請負の場合について,修補についても催告解除があり得るという中井先生の前提,多分この部会でもそういう考え方を共有されている方は多いと思うのです。その場面で軽微をどう理解するかなのですが,請負の目的物に契約不適合があって,それが非常に重大であって,それ自体でもう契約を維持できないというようなものは直ちに無催告解除ができる。この無催告解除の要件は,契約目的が達成できないとき,と現在の案はなっています。   修補を請求するというのはそうではない場合ということですから,その時点で契約目的の達成がなお見込める場合ですよね。つまり,修補すれば直るかもしれず,そうすれば契約目的の達成が見込める。そこで修補請求して催告をする。催告すると通常は修補しますね。修補することによって不適合の度合いがより小さくなる。小さくなったにもかかわらず,完全には直らなかったという場合に,これでは駄目だというので解除するというのが催告解除だと思うのです。その時点では修補請求をする最初の時点よりも不適合の状態は小さくなっている場合が多いと思われますが,小さくなっているにもかかわらずなお契約を維持できないという場合のことを軽微でないというふうに表現している。それは契約目的が達成ができないということとイコールではないかもしれないけれどもかなり近く,少なくとも,文字通り軽い場合以外のことではなくて,元々修補可能であって直るだろう,契約目的を達成する見込みはなおあるだろうということで催告をして修補してもらい,ある程度修補はされたけれども,催告期間経過後にこの状態ではやはり駄目だというのを軽微でないというふうに表現している。それは通常の引渡債務の催告解除,つまり催告期間を経過したのに目的物を引き渡していないという状態を軽微でないと表現するのと同じような重さのものを意味している。そう理解するしかないのではないかと思います。   軽微という日本語が,そのような理解を表現するのに適切かかどうか,自然かどうかはともかくとして,改正案の解釈としてはそういう理解はあり得るのではないかと思います。 ○鎌田部会長 残り時間も少なくなってまいりましたので,請負,委任,雇用についての発言を禁止はしませんけれども,「第13 寄託」及び「第14 組合」についての御意見もお出しください。 ○合田関係官 本日御欠席の安永委員から事前に意見書を頂戴しておりますので,ここまでの議論で話題に上らなかった点につきましてお答えをしたいと思います。   まず,請負の修補請求権に冠する規律について,売買と表現を合わせた点について,この修正が請負契約の定義や対象を変えるという意図かどうかという御質問がございましたが,この点は売買に関する規律と表現上の平仄を合わせるという観点で書きぶりを修正したという趣旨でして,請負契約の定義やその対象を変えるという意図はありません。   それからもう1点,請負の担保責任の期間制限について,現行の637条の規律を維持すべきとの御意見を頂戴しておりますが,現行法の規律に対しては,瑕疵を全く認識しないまま引渡しから1年で権利行使をすることができなくなるというのは注文者にとって酷であるとの意見が従前からあり,また,売買の担保責任の期間制限との差異を合理的に説明するということも難しいのではないかと考えております。現行法を維持するという考え方でコンセンサスを得るということは現時点では困難であると考えております。 ○鎌田部会長 それでは,寄託,組合を含めて御意見をお伺いいたします。 ○中田委員 委任について,今さら言ってもしょうがないと思うのですが,準委任の規定の改正が見送られたというのは非常に残念に思います。各種のサービス契約の受け皿としての機能を準委任が十分果たしていないということについて,この部会でも非常に長時間を費やして議論しまして,最終的に役務提供契約についての受け皿規定や総則規定ではなくて準委任の規定の改正で対応しようということになったと思うのですが,それも見送られるというのは非常に残念です。できれば復活できないだろうかということをいまだに願っております。   寄託について,2点ございます。第1点は,1の(2)寄託者の解除権と,5の寄託者による返還請求の両者を通じてなのですが,いずれも後段は「寄託者は,受寄者に対し,これによって生じた損害を賠償しなければならない」という表現になっています。これは消費貸借の規定の仕方を今回改めたのと異なっているのですが,これは消費貸借と寄託とでは実質が違うという趣旨なのかどうかです。   81-3の23ページの解説によりますと,受寄者の損害の内容は受寄者が得べかりし利益から債務を免れたことによって得た利益を控除したものだと記載されておりますけれども,消費貸借については先ほども少し話題に出ましたが,必ずしもそういった理解ではまとまっていなかったと思います。そこで,この点についても消費貸借と寄託とを区別するという趣旨なのかどうかです。   どちらも損害の内容は契約によって違ってくるので,カテゴリックには決まらないと思うのですけれども,もし積極的に区別する意図がないのであれば,表現あるいは説明がずれているというのがやや奇妙な感じがいたします。   もう1点ありますが,それは後にいたします。 ○鎌田部会長 それでは,今の点について。 ○松尾関係官 損害賠償責任の書きぶりについてずれがあるというところについては,この表現の違いによって実質の違いを表現しようという意図ではありませんので,ここは改めたいと思います。実質については先ほど中田先生がおっしゃったとおりでありまして,寄託についての損害賠償責任の範囲については前回の部会で若干議論がありましたが,一律に何か決まるというよりは,契約によってそれぞれ個別に認定されていくということになろうかと思います。それが消費貸借と同じルールかどうかということについてはもしかすると議論の余地があるのかもしれませんが,寄託については少なくともそういった実質を考えておりまして,その実質を表す表現としてはこれまで議論があったところでありますので,できれば消費貸借の書きぶりに合わせる方向で検討したいと思っております。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。   そうしたら,留保された点について。 ○中田委員 もう1点は,7の(3)の消費寄託における預貯金契約についての規律です。今回新たな御提案が出たのですが,一般の消費寄託でも受寄者の利益というのは想定できますので,預貯金契約との相違は程度問題のような気もいたします。ですので,もうちょっと一般化して,「受寄者にとっても利益のある消費寄託は」というような規律の仕方もあり得るとも思いますが,そもそもそういう規定が必要かどうかというのが十分確信を持てておりません。   それから,これに関して,期限前の返還を認めるという規律になっておりますが,そうしますと,消費貸借における,13ページに記載されております6の規律とやや平仄が合わないのではないかと思います。つまり,素案ですと,銀行から借入れをしたときに,借主が期限前に弁済すると損害賠償を払わなければいけないけれども,他方で銀行に預金をしたときに銀行が期限前に弁済すると損害賠償は不要だということになりますが,ややバランスが悪いのではないかと思います。   預金契約には消費寄託とともに委任ないし準委任も含まれているというのが判例学説の理解だと思いますが,期限前の返還を無賠償で認めるということになりますと,委任の任意解除における損害賠償の規律との関係も問題となってくるのではないかと思います。   ということで,この7の(3)の規律の要否,もし規律を置くとしても損害賠償との関係というのは,なお検討する必要があるのではないかと思います。 ○沖野幹事 すみません,同じ項目についてです。内容的には同じなのですけれども,そもそもこの規律が果たして適切なのかという点も含めてです。この補足の説明の所によりますと,「81-3」の25ページなのですけれども,この中で一つには,定期預金について返還時期前に寄託者が自由に返還を請求することはできないとされている現在の契約実務に影響が生じることを懸念すると記されています。これは寄託者側からの返還請求なり解除なりについてはむしろ自由にできないという話です。他方で,25ページの下から3行目には,預貯金契約についてはその実態を考慮し,寄託物の返還に関する現状の規律を維持する趣旨でというふうに書かれています。そして,現状というのは,ここに書かれていますのは,寄託者の方からは自由にそのような返還請求できないということです。これに対して,受寄者の側から自由にできるというのが現状なのかということでして,その点は特に損害賠償との関係もあるのですが,定期預金について自由に解約が金融機関からできるというのが現状と理解してよいのかというのは疑問に思います。ましてや何の損害賠償もないということは非常に疑問ではないかと思われます。   それから,その理由付けにつきまして,なぜこのような規律にするかという預貯金契約の特則の理由付けが26ページに書かれておりまして,これは一般には寄託者の利益のためなのだけれども,受寄者にとっても利益があるとされており,その受寄者にとっての利益は金銭を運用することを前提とする契約類型であるということですから,運用原資が確保されるという利益のように思われます。   そうだとしますと,寄託者から自由に返還請求ができないとして,寄託者による解約や返還請求を制約するという点では理由になるように思うのですけれども,受寄者の方から自由に返還できるということが,ここに記載されている,運用をも目的としていて,受寄者の利益のためにもなるからということとどう結びついているのか,十分に理解ができないところがありますので,このような規律の趣旨,それから損害賠償の点も含めて,本当にこれで妥当なのかということを改めて確認させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに関連する御意見があればお伺いしておきますが,よろしいですか。   よろしければ,事務当局から。 ○松尾関係官 中田先生,沖野先生から御指摘いただいたことについてお答えいたします。まず,7の(3)で損害賠償について言及がないのは,おかしいのではないかというところは,確かに今考えてみると消費貸借の今回の改正のルールと合ってないのかもしれないなと思いました。沖野先生からそもそも受寄者が自由に解除してよいというルールが現状なのかという御指摘があったことについては,少なくともそういう認識はございません。ここで申し上げたかったことは,消費寄託については,663条2項の規定により,やむを得ない事由というものがなければ返還することができないというルールが現状妥当しているかということについては,それはそうではなくて,一定の条件の下で期限前に相殺するということはあるのだろうと思いますが,「やむを得ない事由」という要件が掛かることについては,特に金融機関から現在の実務に反することになる点についての御懸念があったのだろうと思っております。受寄者が何らの制約もなく返還をしてよいと認める趣旨ではないので,それをどう表現することがよいのかということについては更に検討してみたいと思います。   その上で,この規定が必要なのかどうなのかということなのですけれども,663条2項の規定を適用するということにした場合に,まずそもそもこの規定が任意規定なのかというところが問題になるのだろうと思いますし,仮に任意規定であるとなった場合であっても,任意規定から離れた契約ルールを置くことによって,その契約ルール自体が消費者契約法などのコントロールに服するということ自体に御懸念があったのだろうと思います。今の契約実務が合理的かどうかということについて,評価は色々あり得るのでしょうが,それは置くとして,少なくとも預金契約に関しては,現状を変えることについての合理的な説明がないということや,ルールが変わることへの御懸念があるということがかねてからパブコメ等で指摘されていたことで,それには相応の合理性があるのではないかと考えて,このような特則を設けることで合意形成ができないかということをお諮りしている次第でございます。 ○沖野幹事 今のお話で663条2項がそのまま適用され,やむを得ない事由がない限りは期限前返還が許されず,かつこれは強行的に解釈される,ないしは消費者契約法の問題からこれと異なる契約内容について,取り分け受寄者側からもう少し緩やかに返還ができるというような契約内容にすることが効力を認められないとなることへの懸念というのはよく分かったのですけれども,しかしそのときの規律が,無理由で,いつでも返還できるというものとするというのは,果たして妥当なのかというと,それは実態にも合わないし,行き過ぎではないかと思われます。   懸念について,特約で排除することができることが必要なのであればむしろ特約で排除できるということを書くというやり方もあるように思われるものですから,本当にこの規律でよいのかというのは私は疑問に思いますので,少し意見を伺っていただければと思いますが。 ○松岡委員 私もこの案を読んだときに,受寄者から任意に返還できる理由が分からず,沖野幹事と同じ疑問を共有していることだけを発言させていただきます。 ○道垣内幹事 中田委員も含め4人目として同じ疑問を提示します。 ○中原委員 銀行界の懸念としては,先ほど事務局から御説明がされたように,現行の取引実務,例えば相殺による回収の実務に影響があるのではないかということです。現在の銀行取引約定書に規定されていますが,相殺する場合は,債権債務の利息,割引料,損害金等の計算は計算実行の日までとしています。そして,利率や料率は,原則として銀行の定めるものとすることを特約しています。改正によってもその特約が維持されるということであれば実務に影響しませんが,特約が維持されるのかが不安であったことから,銀行界として,可能であれば期限前の返還を無賠償で認める規定を設けてほしいという趣旨です。 ○中井委員 私も7の(3)は疑問と思った一人です。のみならず,中原委員がおっしゃられたように,これは当然合意でいかようにも解決できるし,現に解決していると思うのです。預金契約の約款などで,その預金者に対して貸付金があって,その期限の利益が喪失した場合について定期預金等であっても相殺する実務が今でもある。それはきちっと約款等でその効力を認めて,繰り上げ弁済できる,だから相殺できる。そういう処理は何ら妨げられないのではないでしょうか。したがって,この規定はいらないと思います。 ○山野目幹事 7の(3)は要らないのではないかという御議論をこの部会でもかつて何回かしてきたはずです。私もそのように考えます。それにもかかわらず預金又は貯金を扱っている事業者のサイドから根強く特約に任せたのではうまくいかないという懸念が残るということでしょうか。例えば松尾関係官がおっしゃったように消費者契約法10条の規定の適用との関係でなお不安を払拭しきれないというふうに何度もおっしゃるものですから,やむを得ず,というと叱られるかもしれませんけれども,7の(3)を置いたのではないかというふうに審議の経過を理解します。   7の(3)のような規定は,問題を特約に委ねることとし,ないことが最もよろしいと感じますけれども,置くのであれば663条2項は適用されないということを必要十分な形でそっけなく書いていただくのがよいのではないでしょうか。いつでも,とかというものをやめるような形で何か案文の御工夫を頂ければ有り難いと感じます。 ○鎌田部会長 ほかの御意見いかがですか。 ○中井委員 実務としては預金者側に債務不履行があったときに機能すればいいわけで,預金者側に債務不履行があれば,それは別契約なのだけれども,これについても当然に期限前に返すことができる,これが実質なのだろうと思うのですね。ただ,それはなかなか表現しにくいのかもしれません。債務不履行がないにもかかわらず,定期預金しているのにある日突然に返しますと言われて,それは困るでしょう,というのが素朴な法感覚です。 ○松尾関係官 御意見の内容を確認したいのですけれどもよろしいでしょうか。任意規定であるということを書けばそれで解決するのかということがよく分からないのです。つまり,無条件で返還することができるというルールがおかしいというのはよく分かるのですが,そうであれば,例えば,損害賠償をして返還しなければならないという内容を書かないとおかしいのではないでしょうか。単に任意規定であるということだけ書いたのであれば,御懸念に対応した規定になっていないような気がするのですが。どういった方向で直せばよいのかということについて,もし今の方向で問題があれば御意見伺えればと思います。 ○鎌田部会長 御意見があればお出しください。   現行規定の下で,かなり具体的な支障が出ているわけではないのですね。 ○中原委員 預金契約は消費寄託といわれていますが,現行法では消費寄託には消費貸借の規定が準用されています。しかし,改正法では消費貸借の準用ではなく寄託の規定が適用されることになったので,従来の特約の有効性の考え方も変るのではないかが心配になった。出発点はその点です。 ○深山幹事 部会の意見としては,「この規定はいらない」と考えている人が多いような気がしますし,私もそう思います。松尾さんが言われたように,返還は認めるけれども,損害賠償はしなければならないという定め方も,一つの考え方としてあり得るのは分かるのですけれども,そうなると,ではその損害というのは何なのかという問題になります。例えば定期預金であれば定期預金金利なのかというようなことになるのですけれども,ほかのところでも解除したときにその損害賠償をするというタイプの規律について,その損害が何なのかという議論が生じ,かえってややこしいことになるのではないかという気がします。スパッと規定を置かないということにするか,どうしてもそれで不都合があるというのであれば,先ほど山野目先生がおっしゃったように,現行法との関係で配慮した規定を全く別の規定として置くということはあるのかもしれません。しかし,そこまでの必要が立法事実としてあるのかというのが部会長の御指摘だと思うので,私は単純削除でよろしいのではないかという意見です。 ○鎌田部会長 ほかの御意見をお伺いして,その上で更に検討させていただくということにしたいと思います。 ○沖野幹事 消費者契約法などの問題があるということかもしれませんが,私は任意規定であって特約を許すということだけでは駄目だということが必ずしも十分に分からないのです。   それから,山野目幹事がおっしゃったような663条2項は適用しないというだけの定めにしておけば,返還の時期の定めがあるときにその期限前の返還というものができるか,一種の期限の利益のようなものをどう考えるかという話にもなってきますし,かつ,寄託のところのこの規定の適用がないということから,その性格というのは一種消費貸借と消費寄託のミックスのようなものだから寄託の規定の適用が排除されているのだと考えられる中で解釈の展開もできますし,そのような規律も十分考えられるのではないかと思います。 ○中田委員 今回の「81-1」で預貯金についての新たな規律が提案されたわけなのですが,ただいまの消費寄託のほか,債権譲渡制限特約に関する特則もそうですが,更にこれは以前からありましたけれども,預貯金口座への払い込みによる弁済の規定もあります。そうであれば思い切って預貯金契約についての体系的な規定を置いたらいいのではないかとも思います。ただ,それが今の時点で難しいということであれば,余り断片的にのみ取り込むというのは,かえって規定としてのバランスがよくないのではないかという気がいたします。 ○岡委員 山野目先生の663条2項の適用はないという規定だけ置くというのには反対でございます。消費貸借で借主が期限前弁済するときは損害が発生したら損害請求できると,あの規定が入っているのに,663条2項を外すだけだとその損害についての規定がなくなってしまいます。消費者についてはバシッと規定を置いて,金融機関の場合にはそれを置かないのか,という見た目のアンバランスが非常に目立つと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見いかがですか。 ○畑幹事 別の点でよろしいですか。 ○道垣内幹事 その前に一言だけ申し上げておきますが。特約が許されるというふうに書けば消費者契約法で全部オーケーになるわけではないと思います。先ほど中井委員がおっしゃったように,1年ものの定期預金ですよと言って受け入れておいて,いつでも返せますとこっそり書いてあっても,だからといって2カ月後にもう返してよい,そして,そのときには普通預金の利率でよいのだということになると,これはもう明らかに消費者契約法10条の違反だろうと思います。それに対して,債務不履行があったときに相殺をするために弁済期を到来させることができるというのはもちろん合理性のある規定であると思います。しかし,特約ができるということになれば,消費者契約法の適用は全部クリアになるというわけではないということだけは確認をしておきたいと思います。すみません。 ○中原委員 銀行としても何ら特段の事情のない状況で定期預金を期限前に返還するということは考えていません。懸念しているのは,先ほども述べましたが,相殺をするとき,すなわち相手方債務者に債務不履行があって相殺するときに特約が制限されて,今の実務に影響が生じないかという点でして,その点が問題ないということであれば結構です。 ○鎌田部会長 ほかの御意見いかがですか。消費者契約法も任意規定と違う特約もむやみに全部無効にするというわけではないのですから,そこのところを踏まえて検討する必要があると思います。   ほかに御意見がないようでしたら,今まで頂戴した意見を踏まえて検討させていただくことにします。 ○畑幹事 寄託の3の第三者の権利主張という所です。基本的に実体法のルールと思いますので,特に私の意見がどうということではありません。これの(2)のアのただし書に括弧書で,確定判決と同一の効力を有するものを含むというのが付け加わりまして,裁判上の和解等も含める趣旨であるという説明がされております。前の議論をよく覚えていないのですが,裁判上の和解というのは基本的に両当事者の意思を基礎に置きますので,確定判決と同視できるかどうかということについては若干疑義があるかもしれないと。ただ,確定判決と言っても欠席判決でも何でもいいわけですから余り変わらないという考え方もあるいはあるかもしれません。この点について皆様がそれでよいということであればよろしいかと思います。   それからもう1点,これも既に議論したかもしれませんが,この(2)のアの本文の方の第三者が寄託物について権利を主張する場合というのは恐らく(1)を受けたものであるように思います。そうすると,寄託物について差押えなどがされた場合も含むということになっているように思うのですが,差押えがされたものを勝手に寄託者に移してしまったりすると場合によってはちょっとまずいのではないかと。刑事法的に問題が生じる可能性さえあるのではないかという気がちょっといたしました。もちろん既に議論済みであるとか,あるいは何らかの形で整理が付くということであればこれで結構かと思います。 ○鎌田部会長 今の点について何か。 ○松尾関係官 2点目についてのみお答えいたしますが。今畑幹事がおっしゃられたのは寄託者の債権者が債務名義に基づいて寄託物を差し押さえた場合を想定すればよろしいでしょうか。 ○畑幹事 (1)が何を想定しているかということだと思いますが,恐らくそういうシチュエーションでしょう。 ○松尾関係官 今申し上げたようなシチュエーションは差押債権者に引き渡せば免責されることを前提に考えており,一応部会でもそういう議論があったと思います。ただ,書きぶりについてはもう少しよく考えなければいけないなと思っていますので,検討させていただきます。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。 ○岡委員 質問でございます。17ページの委任契約の任意解除権のところでございます。3の(2)の所で,大審院の大正9年4月24日の判決を変えることになるのかならないのかという質問でございます。   私が完全に理解しているかどうかちょっと自信はございませんが,やむを得ない理由がある場合か,委任者が解除権を放棄したと解されない事情がある場合にのみ任意解除できるというのが大審院大正9年4月24日判決と思います。この判決と比べると,3の(2)は,解除自体はやむを得ない理由があろうとなかろうと解除できると,その代わり損害賠償で処理するとこう読めますので,大正9年4月24日の判決より解除できる場合を広げることになると思うのですが,そういう理解でよろしいのでしょうか。 ○合田関係官 受任者の利益を目的とする委任であっても,委任者が委任契約の解除権を放棄していたものと解されない事情があるときは,やむを得ない事由がなくても解除することができるというのが最高裁昭和56年1月19日判決の内容だと理解しております。   これを前提にしますと,受任者の利益をも目的とする委任は,解除権を放棄すれば当然解除はできないということになりますので,そうでない限りは受任者の利益をも目的とする委任であっても解除自体はできる,ただその場合には損害賠償請求の問題になると考えております。今回の案は,判例よりも解除できる場合を広げたというわけではなく,判例を前提に整理するとこのような規律が適切なのではないかと考えております。 ○岡委員 その最高裁の昭和何年の判決に沿ったものだと私に質問してきた人に説明すれば足りるのでしょうか。 ○合田関係官 最高裁昭和56年判決を前提にすれば,実質的にはこのような規律が適切ではないかという整理です。 ○岡委員 分かりました。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中田委員 組合もよろしいですか。組合代理の規定で,従来は「組合員の過半数をもって代理権の授与を決定」するとあったのを,今回「組合員の過半数の同意」となりました。解説を拝見しますと,前回の案を基本的に維持するという御説明なのですが,今回の規律に別に異論があるわけではないのですけれども,やはり前回と今回とでは違っているのではないかという気がいたしました。   つまり,前回の案だと,各組合員は常務については組合契約上当然に相互に代理権を持っていて,それを越える部分について過半数決議で代理権を授与するという発想に割と近いものであったのに対して,今回は,各組合員は元々単独の包括代理権を持っていて,それについて過半数の同意という制限が付されて,更に常務についてはその例外を認めるという構造になっているのではないかと思いました。   具体的な違いとしても,前回の案ですと,過半数決定ということですので,少数派の意見が聞かれる可能性が多いのに対して,今回の案ですと多数派だけで事を進めることが可能になるのではないか。それから,過半数の決定ないし同意がない場合の代理行為について,無権代理ではなくて内部的手続違反に過ぎないという解釈も生じ得るのではないか。結果的に今回の案の方が前回よりも組合代理の成立要件が緩やかになるのではないかなと思いました。   その結論や構造についてはいろいろな考え方があり得ますので,今回の案に異論があるわけではないのですけれども,必ずしも前回と同じではないのではないかという理解をしましたが,いかがでしょうか。 ○髙橋関係官 私どもとしましては,基本的には実質的な規律をなるべく維持しようという一方で,「決定」の文言が何度も出てきてしまうことによる混同を避けたりとか,これまで御指摘いただいていたような問題を回避するためにこういった文言に改めておるわけですが,確かに,今中田委員から御指摘のあったような違いがないとは言えないところもあるのかなとも思いますので,御指摘を踏まえて更に条文化に向けて検討を進めてまいりたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○中井委員 先ほど畑先生がおっしゃられた,3(2)アの確定判決が和解の場合でもいいのか,私もこれを読んだときにそう思いました。はっきりとした意見があるわけではないのですけれども,当事者間でいつでも確定判決と同種の効力を有するものを作ることができますので,たとえ欠席判決があるとはいえ和解とは質的に違うと思うものですから,私からも疑問として提示しておきたいと思います。   もう1点は,委任に戻りますが,3の委任契約の任意解除権の所で,報酬については明確に除くと明文を入れているのですけれども,それでよろしいのでしょうか。取締役の報酬を考えたときに,2年の任期途中で解除されたとき,取締役の報酬は全く損害にならないと言い切っていいのか。そいう場面を想定すること自体が間違いなのかもしれませんけれども,素朴に思いました。そういう理解なのかどうか,確認を含めて質問させていただきます。 ○鎌田部会長 では,今の御質問について。 ○合田関係官 今御指摘いただいた点ですけれども,報酬を除いたところは,今回の資料の「81-3」21ページでその趣旨を御説明をしているとおりです。まず,時期が不利であることから生ずる損害については,どの時期に解除されたとしても報酬は受け取れなくなりますので,これは時期が不利によることによる損害ではないというのが一般的な解釈なのではないかと考えております。   受任者の利益をも目的とする委任を解除した場合の損害の内容については,受任者の利益をも目的とする委任における「利益」とは,専ら報酬を得ることによるものを除くというのが判例の立場だと理解しております。そうすると,その場合に請求することができる損害というのも,報酬を受けることができなかったことによるものは含まれないということになるのではないかと考えて,受任者が報酬を受けることができなかったことによるものを除いたということになります。   部会資料の説明に書きましたとおり,判例を前提とするとこのような整理になるのではないかと考えたのですが,それについてもし違う考え方があるということであれば,御指摘を頂ければと思います。 ○山野目幹事 合田関係官が御説明になったように判例の展開を踏まえたものですし,中間試案からこのようになっていたと考えます。ここのところを変えると,この受任者の利益も目的とする委任という概念が茫漠としてきて,大抵のものはこれに当たることになってしまいますから,逆に変えたときの方が規律の運用としては不安定になるのではないかということを恐れます。 ○高須幹事 御趣旨はそうだと思います。今まで判例法理というふうな形で検討してきたのは,今御説明のあったようなところだと思っております。ただちょっと疑問になってきたのは,中井先生からの御指摘もあったように,今の説明の付いている方の資料の21ページの所の,相手方の不利な時期に委任を解除した場合の損害というのは,解除の時期が不利であることから生ずる損害だという原則を立てたときに,継続的に取締役の報酬のように発生しているような場合に,早くやめさせれば結局それで報酬が途絶えるわけですから,そういう形のものについては何か例外があり得るかもしれない。ただ,その例外を一般化してしまうと今山野目先生がおっしゃったようにまた違う何か問題が起きるのではないかというようなところはあるのだなとは思っておるのですが。一律に委任というタイプの問題について報酬は除くという原則を立ててしまっていいのかが,ちょっと心配だなと思っておりまして,何か妥当な手当できないかと思っておりますが。 ○道垣内幹事 いろいろな根拠を述べながら説明することができないのですが,現行法の下でも,通常の委任契約における受任者の報酬と取締役の報酬については別個に解されてきたものであり,取締役の報酬についてなぜ取締役の期間中の解任の場合に当初期間の最後までの報酬が取れるかという点については,多くの場合取締役の選任期間が短いということを根拠に説明されてきたようです。   しかるに,会社法の下においては取締役の選任期間をとても長くすることができまして,そうなると今までの商法の中に入っていた会社の規定を前提にして説明したいたことが本当は妥当しなくなってきている可能性があります。例えば10年ということが可能になっていて,それでは,そのときも1年目にいろいろなことで解任したら残りの9年分全部の報酬が取れるのかというと,民法の現在の解釈に戻した解釈がなされなければならないのではないかという意見も出つつあるところであると認識しております。   結論から言いますと,別に現行法の下でも取締役の報酬については別個に解されてきたわけであり,1年間なら1年間といった選任期間であるという場合にはそのことを変更することにはならないのではないかと理解しているところであります。 ○筒井幹事 寄託物についての第三者の権利主張についても複数の方からコメントがありましたが,確定判決と同一の効力を有するものを含むという括弧書きを付け加えたのは,この段階ではなくてもっと以前ですけれども,第2ステージぐらいからずっと議論があったところで,確かに和解の場合や請求認諾の場合などを考えると必ずしも合理的ではないという指摘はあり得るわけですけれども。しかし,先ほど来話題になりましたように,確定判決であっても欠席の場合のように何らかの形で不当なことが行われる可能性というのはこの要件で完全に排除することはできないわけです。そこで,ここの規律では,受寄者による(1)の通知を義務づけることにより,寄託者の適切な行動によって不当な結果をできる限り排除することを期待する。それでも排除できなかった場合については,不当なことをした人との関係での賠償責任で処理をするという規律になっているのだと理解をしております。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○山川幹事 先ほどずっと前ですけれども,合田関係官の質問に対する私の回答で趣旨が不明確な部分があったので明らかにしたいと思います。   勤務場所が限定されている場合に,その勤務場所が焼失した場合にいろいろな措置を採り得るというふうにお答えしましたけれども,それは転勤については勤務場所が限定されている場合に,任意的に転勤を申し出,提案すると,それを従業員側が拒否した場合には解雇もなし得る場合がある。そういう場合は解雇によって問題が解決できると,そういう趣旨のことを申し上げたつもりでしたけれども,不明確であったかもしれませんので,もう一回明確化しておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○松尾関係官 消費寄託のところで先ほど議論になった(3)とは別に(2)についてなのですが。「81-3」の補足説明でも若干言及したのですけれども,中間試案以降民法588条を準用するというふうな規定になっているのですが,果たしてこれが必要なのかどうなのかということについてもし御意見があれば伺えれば。すみません,書いてなかったかもしれません。申し訳ありません。   588条について,準用するというルールは中間試案以降提案されているのですが,消費寄託の成立については寄託の規定を適用するというふうな説明をしているということとの関係で,準消費貸借の規定を準用する必要があるかどうかということについては御意見,もしかしたら異論があるのではないかと思います。もし何か御意見があれば伺えればなと思うのですが,いかがでしょうか。 ○山野目幹事 ご想像のとおり,異論があります。発言を控えておりましたけれども,588条は要らないと考えます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですね。 ○岡田委員 今回取り上げられなかったことで一言申し上げたいと思います。契約交渉段階情報提供義務,これはいろいろ研究者や弁護士さんにも助けていただいたのですが,やはり入らないということで大変残念に思います。つきましては,消費者契約法の3条をより拡大してより強力にしてもらうことを期待するだけで,今日関係官はいらっしゃらないのですが発言しておきます。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   それでは,最後に次回の議事日程等について事務当局から説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回につきましては,既に電子メールなどで御連絡を差し上げましたように,来週7月22日は会議を開催いたしません。次回は7月29日火曜日午後1時から午後6時まで,場所は本日と同じ法務省20階第1会議室でございます。   次回の議題ですけれども,要綱仮案の第2次案を事前にお届けして議論していただくことを予定しております。本来であればその全部又は一部を7月22日の会議用に事前に配布して議論していただくことを想定した議事日程を組んでおりましたけれども,事務当局側の準備の都合により7月22日は会議を開催せず,7月29日の会議用にその第2次案を御提示することにさせていただきました。   この関係で,取りまとめの目標時期として7月中の取りまとめを目指すと申し上げてきたことをこの段階であきらめると名言するものでは必ずしもないのですけれども,現実的に7月22日と29日という2回の会議を想定しておりましたこととの関係で申しますと,8月5日の取りまとめを目指すという形にならざるを得ないとも思っております。   したがいまして,8月5日につきましては,当初から会議開催の可能性があるという御案内をしておりましたけれども,その可能性は依然としてあり,より高まっていると言った方がいいのかもしれませんが,ということを改めてお伝えしたいと思います。 ○鎌田部会長 なお,永野厚郎委員,萩本修委員におかれましては今回でこの部会への御出席は最後になるとお伺いしておりますので,この場で御紹介をさせていただきます。 ○永野委員 永野でございます。この度7月18日付で前橋地方裁判所長に異動することになりました。私は平成22年の7月から丸4年間,この部会でお世話になりました。この間,鎌田部会長始め委員,幹事の皆様には大変多くのことをお教えいただきまして,大変感謝しております。また,これだけの大事業をここまでおまとめになってこられた内田先生始め法務省の皆さんの御尽力と御労苦に改めて敬意を表したいと思います。私自身,実務家としてこういった歴史的作業のひとこまに身を置かせていただいたということを大変に光栄に思うとともに,幸運だったと思っているところであります。   振り返ってみますと,改正案がこうやってまとまってくる過程で膨大な検討や議論の蓄積があったわけでございますけれども,こういったものを今後私どもも解釈や運用に生かしていきたいと思っております。   また,審議の過程では私ども実務家と民法の先生方との間で幾つかの論点で意見が対立する場面もございました。特に感じているのは判例の捉え方とか,判例が現実に機能していることの理解の仕方,あるいは法律を作った場合に紛争解決や紛争予防にどのような影響を及ぼすのかといった,この見立ての部分について意見の溝があったと思っています。   法科大学院ができて多くの実務家が教員となっているわけではございますけれども,こういった基本的な部分について,実務家と民法の先生方との間の対話をなお促進していく必要があるのではないかと思っておりまして,私どもも今回の審議といったものをきっかけにして,もう少し意識的に対話の努力を考えていく必要があることを痛感しているところでございます。   本当に最終局面での戦線離脱ということで若干残念ではございますけれども,この改正作業が良い形で成就されることを祈念いたしております。   本当に長い間お世話になりました。ありがとうございました。 ○萩本委員 私も18日付で民事局から司法法制部というところに異動することになりました。今永野局長からもありましたとおり,いよいよ要綱仮案が取りまとめというこの段階での戦線離脱に残念な思いがありますが,異動先の司法法制部は法制審議会の庶務を担当している部署でして,総会には出席いたしますので,委員,幹事の皆様方には要綱案の策定に向けて引き続きの御尽力をお願いしたいと思いますし,来年の総会には約款の規定も盛り込まれた要綱案が上がってくることを期待して待っていたいと思っております。   この間大変お世話になりました。ありがとうございました。 ○鎌田部会長 どうもありがとうございました。   それでは本日の審議はこれで終了といたします。本日も熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-