法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 旅客運送分科会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成26年10月22日(水) 自 午後1時30分                        至 午後4時25分 第2 場 所  東京地方検察庁 総務部会議室 第3 議 題  商法(旅客運送関係)等の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山下分科会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会旅客運送分科会の第1回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   私,山下友信でございますが,部会に引き続きまして分科会長を務めさせていただくことになりました。皆様方の御協力を頂きながら,充実した検討ができるよう努力したいと思っておりますので,引き続き,どうかよろしくお願いいたします。   それでは,ここで事務当局より,部会及び分科会設置の趣旨をまず説明していただきます。 ○松井(信)幹事 私は,法務省民事局で参事官をしております松井と申します。どうぞ皆様,よろしくお願いいたします。   それでは,議事に入ります前に,法制審議会と部会,分科会について,若干御説明を申し上げます。   法制審議会は,法務大臣の諮問機関でございます。その根拠法令である法制審議会令によれば,法制審議会に部会を置くことができることとなっております。商法(運送・海商関係)部会は,本年2月7日に開催されました法制審議会第171回会議におきまして,法務大臣から商法(運送・海商関係)等の改正に関する諮問第99号がされ,それを受けまして,その調査審議のために設置することが決定されたものであります。   法制審議会に諮問された事項は,「商法制定以来の社会・経済情勢の変化への対応,荷主,運送人その他の運送関係者間の合理的な利害の調整,海商法制に関する世界的な動向への対応等の観点から,商法等のうち運送・海商関係を中心とした規定の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものであります。   そして,この旅客運送分科会は,部会の第1回会議において,主に旅客運送に関する事項について審議をするために,部会のもとに設置されたものでございます。 ○山下分科会長 次に,臨時委員の金子大臣官房審議官から,一言,挨拶がございます。 ○金子委員 大臣官房審議官の金子でございます。旅客運送分科会第1回会議の開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。   皆様には,御多用中,旅客運送分科会の委員・幹事・参考人をお引き受けいただきまして,誠にありがとうございます。   御承知のとおり,商法のうち運送・海商関係の分野は,商法制定以来115年の間,実質的な見直しがされておらず,規定の内容が現代社会に適合していないとの指摘がございます。例えば,現在広く行われている航空運送は,商法制定当時には想定されておらず,商法には,航空運送に関する規定が設けられておりません。また,フェリーなどの海上旅客運送についての商法の規定は,現代社会に合わないものとなっております。そこで,これらに関する規律を新設し,又は見直すなどして,社会・経済情勢の変化に対応する必要がございます。   見直しに当たりましては,現代の実務に即しまして,旅客や運送人を中心とする旅客運送関係者の利害関係を合理的に調整することができる規律とする必要がございます。加えまして,旅客運送の場合には,旅客の保護という視点も必要になってまいります。   そこで,これらの点につきまして,旅客運送分科会で御検討いただくべく今回の諮問がされ,商法(運送・海商関係)部会のもとに旅客運送分科会が設置されるに至った次第でございます。   委員・幹事・参考人の皆様には,このような商法等の見直しに向けた御検討をお願いすることになりますが,より望ましい旅客運送法制の構築のために御協力を賜りますよう,何卒よろしくお願い申し上げます。 (委員等の自己紹介につき省略) ○山下分科会長 関係官及び参考人につきまして,事務当局から説明していただきます。よろしくお願いします。 ○松井(信)幹事 法制審議会議事規則によりますと,審議会においては,その調査審議に関係があると認めた者につき,これを関係官として参加していただくことができますが,この分科会におきましても,関係省庁の御意見を伺うべきと考えられたことから,部会と同様に関係官の皆様に御参加いただいております。   また,参考人の皆様につきましても,同様の理由ではございますが,部会の委員・幹事でない方は分科会の委員・幹事に御就任いただけないということとの関係上,本分科会では常設参考人という立場で御参加いただいております。もっとも,参考人の皆様におかれましても,委員・幹事の皆様と同様に多くの御発言を頂きたく,どうぞよろしくお願い申し上げます。 ○山下分科会長 それでは,次に,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。これも,事務当局からお願いします。 ○松井(信)幹事 本日の資料としましては,事前送付しました分科会資料1「商法(旅客運送関係)の改正に関する論点の検討」と,本日席上配布しました参考資料1として,菅原委員から意見陳述書が出されておりますので,御確認をください。両方ともお手元にございますでしょうか。 ○山下分科会長 次に,議事録についてでございますが,本分科会における議事録作成方法のうち,発言者名の取扱いにつきましては,商法(運送・海商関係)部会と同様,審議過程の透明化を図るなどの観点から,議事録の作成に当たっては発言者名を明らかにするという取扱いとさせていただきますので,よろしくお願いいたします。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   まず,事務当局から,審議スケジュール等について説明をしていただきます。 ○松井(信)幹事 それでは,御説明をさせていただきます。   商法(運送・海商関係)部会における中間試案の取りまとめは,来年2月又は3月を一応の目標として進めているところでございます。   そのため,この旅客運送分科会では,今回から月1回のペースで部会と並行して審議をし,おおむね3回から4回程度で一定の案がまとまることを目指しております。その上で,部会の方に報告をして,部会では,物品運送と旅客運送の全体を統合して中間試案という形で公表することを考えております。 ○山下分科会長 ありがとうございます。   ただいまの審議のスケジュールにつきまして,何か御質問,御意見等はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,分科会資料1について御審議いただく予定でございます。   具体的には,休憩前までに第1及び第2を御審議いただき,午後3時20分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定しております。その後,分科会資料1の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,まず「第1 旅客運送契約」につきまして御審議いただきます。事務当局からまず説明をしていただきます。 ○山下関係官 それでは,分科会資料1の2ページ「第1 旅客運送契約」について,御説明いたします。   初めに,商法の見直しに至る経緯につきまして,商法のうち運送・海商の分野は明治32年の制定以来ほとんど実質的な見直しがされておらず,条文は片仮名文語体のままでございますが,司法制度改革の一環として,本年2月に法務大臣から法制審議会に対して諮問がされ,商法(運送・海商関係)等の現代化の検討を開始いたしました。   法制審議会商法(運送・海商関係)部会では,本年4月から,物品運送及び海商の分野について審議を続けてまいりましたが,陸上・海上・航空の旅客運送については,同部会のもとに設置する,この旅客運送分科会で審議を行うこととなりました。   次に,旅客運送の多様性と商法の役割につきまして,旅客運送には実務上,多様な形態がございます。   陸上運送に関しては,バス,タクシー,鉄道など,海上運送に関しては,フェリーやクルーズ船など,航空運送に関しては,飛行機やヘリコプターがあり,また,国内運送だけでなく国際運送となることもございます。   旅客と運送人との間の契約の締結には,基本的にそれぞれの運送手段に応じた内容の約款が利用されていますが,その多くの運送約款につき主務大臣の認可を受けなければならないとされており,旅客保護等の観点から行政的な規制にも服します。また,主務大臣は,運送約款の変更や,事業者の旅客に対する損害賠償責任に関する保険契約を締結することを命ずる権限を有することもあります。   このように,様々な運送事業についてきめ細やかな行政的規制がある中で,民事基本法である商法には,旅客運送の私法ルールにつき基本的・一般的な規律が定められています。今般の商法の見直しは,陸上・海上運送だけでなく,現在規定のない航空運送をも視野に入れながら,このような基本的な私法のルールを定めるとともに,現代社会に適応しない規律を見直すことなどを目的とするものでございます。   次に,本文の規律につきまして,典型契約としての旅客運送契約に関する冒頭規定として,旅客運送契約は,運送人と相手方との合意によって成立する諾成契約であることや,運送人が旅客の運送を約し,相手方が運送賃の支払を約する双務契約であることを示すものとして,本文の規律を新たに設けることを提案しております。   以上の点につき,御審議いただきたいと存じます。 ○山下分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,御自由に御発言いただきたいと思います。 ○塚越参考人 これは意見というか,頭の整理の部類なんですけれども,鉄道の場合,いろいろなお客様が乗られる形態というのがあって,一般論として旅客運送契約の定義をこういうふうにするということについてはいいのかなとは思うのですが,全てこれで契約の成立時期等を割り切れるのかどうかというのが,なかなか頭の整理がつかないところで,その観点から三つほど御質問がございます。   一つ目が,鉄道の場合,回数券とか定期券の場合は,具体的にどの列車に乗るとか,どの区間を乗るというのが必ずしも明確でない場合があります。その場合に,いつの時点で旅客運送契約が成立したと判断できるのかという疑問があります。最近はICカードもありまして,ICカードというのは,回数券とか定期券とは違って,必ずしも運送に使うものではありません。電子マネーとして,例えば,当社のスイカを買われる方もいらっしゃいます。この場合,人によってそのICカードを買った時点で契約が成立していると解される場合もあるし,逆に私は電子マネーのために買うんだという場合は,具体的に乗ってから契約が成立することになるのか,なかなか全てを割り切れるのかなというのが一つ目です。   二つ目が,無人駅等の場合です。無人駅に入られて列車に乗られる場合に,鉄道事業者側としては,いつの時点で運送を約していることになるのかという点につき,なかなか整理が難しい気がします。   三つ目ですが,そもそも,そのお客様自身がお支払いするつもりがなくて列車に飛び乗ってしまったような場合で,悪質な例としては不正乗車をするつもりで乗ってしまったような場合です。そういう場合に,鉄道事業者側としては,契約に基づいて運送賃を請求するのではなくて不当利得に基づくことになるのかとか,また,運送契約がいつの時点で成立することになるのか,というのが若干頭の整理がつかないところです。 ○山下分科会長 御社におかれては,その点につき,従来から何か整理をされているところはあるのでしょうか。 ○塚越参考人 頭の中の整理としては,やはり具体的に改札を通ってからとか,あるいはその列車に乗ってから具体的に契約が成立するような,例外的な場合はあるかもしれませんけれども,何か物理的な境界を定めて,そこから契約が成立するというような理解です。   ですので,ちょっと具体的にどういう整理をするかという対案がないので申し訳ないのですけれども,実務的にはそういう理解です。 ○山下分科会長 ありがとうございます。 ○山下関係官 全て事案に応じて変わってくる問題であり,また,事実認定の問題にも属するとは思いますが,塚越参考人のおっしゃったとおり,運送契約に基づく運送債務自体は,やはり改札を通るところから始まるという考え方もあろうかと思います。   回数券というものにつきましては,成立の時期としてはその回数券を購入したときと見る余地もあるかもしれませんが,ただ,その回数券を使っての運送債務のスタート地点というのは,やはりその回数券を使って改札を通ったときになるものと考えます。   また,無人駅も同じように,運送人としては,基本的には,トイレを使うとかそういう目的でない限りは,運送債務を提供するためにその駅を開放しているということなので,やはり駅の構内に入ったときとか,そういう辺りから運送がスタートするものとも思われますが,約款や駅の表示などで明らかにされることが望ましいのかもしれません。   三つ目の支払うつもりがない不正乗車の例につきましても,契約の成立の話ということであれば,不正乗車をしようとしている人が,明らかにもう運賃を支払うつもりがないということを対外的に表明しているとか,そういう例外的な事例の場合であれば,それは契約成立に向けた意思がないということになりますので,その場合は契約が成立しないと思いますが,そういう意思の外部的な表示がなく,ただ電車に乗りましたという例では,客観的に見れば運送契約は成立したものと見てもいいように思います。   ただ,やはりその事案に応じて,事実認定の問題であろうかと思います。 ○山下分科会長 いかがでしょうか。初回でございますので,いろいろ運送の実情などもお話しいただければ幸いでございます。 ○田中参考人 タクシー業界につきまして,今こちらに出ているように旅客運送の多様性ということで,タクシー以外にも個別輸送という分野は今,様々なものが出てきています。例えば,国交省さんが所管をしているもの以外の個別輸送として,今度,地方分権委員会の中で自家用有償と福祉有償として,手を挙げて,その地方自治体が認めればやっていいよというようなものもあります。それから,観光地などに行くと見られる,自転車を乗せるタクシーのようなものもあります。こういうものに対して,運送約款みたいなものが,これからできるのか,又は存在するのか分からないですが,タクシーと運転代行に関しては,旅客に対する損害賠償のための保険契約についての最低補償額というのが,人損につき最低8000万,物損につき最低200万と決まっています。そのような中で裁判で争われることもありますが,今御紹介した運送については,そのような最低額が決まっていないという問題点が一つあります。この点については,所管省庁等において,できれば同じように規制をしていただきたいと思います。   もう一つは,今御紹介の運送は,基本的にはその地域に旅客運送事業者がいない場合には,自家用有償運送,福祉有償運送等をやっていいよという順序はありますが,ただ,これは県単位ではなくて市町村単位なので,都市交通に関する担当者がほぼいない地域が多く,手を挙げた人たちに対しては何か全てやらせてしまうのではないか,そんなときに,個人なのか会社なのかによって補償できる額も変わってくると思いますし,それを知らないで乗ったお客さんたちは,どういうことでその安全性とか補償というのを確保できるのかというのが非常に問題なのではないかなと思います。   もう1点ですが,この前,木曽の御嶽山が噴火しましたが,昔,雲仙の普賢岳が噴火した際,タクシー会社が記者を連れて行ったときに火砕流に遭ってしまったという例がございます。その際に,その記者さんがタクシー会社に対して損害賠償請求をしたという裁判がありましたが,裁判の結果,地元だから危険が察知できただろうということで,そのタクシー会社にその賠償責任があるということになり,結果的にその金額が払えそうもなかったので,うちの会社に買ってくれということでうちが買って,その売買金額でその賠償金を支払ったということがあります。   この場合に,これからどこが噴火するか,地震があるか分からないので,どこが地元として分かっているのかということと,それが無制限になってしまうのかということが問題となります。今であれば対人8000万というその最低の補償額がありますが,具体的にそこまでの責任を負うことで足りるのかということ,それから,この前の福島のときも,やはり報道の方々が主ですが,そういうところに行ったときに,何かあったときには乗車拒否をできるとは思うのですが,それもしないまま行ってしまったら,そこが本当に危険だった場合にはどういう形でどこが補償するのかということも,これから決めておかないと,かなりいろいろなところで不具合が出てくるのではないかなということでございます。 ○山下分科会長 ありがとうございます。 ○山下関係官 貴重な御意見をありがとうございます。まず,保険の関係というのが,特に自家用有償等の新しい運送形態について,保険の整備がされていないところもあるという実情だと思いますが,基本的にはその保険契約の締結義務というのは,国交省等において,陸上運送であれば道路運送法等でそのような義務を課していくことになるのかもしれません。   ただ,後から御紹介いたしますが,仮に,特に人損についての損害賠償額の制限,例えば1000万に損害賠償額を制限する旨の約款については一律に無効とするという規律を設けるとすると,保険填補がされるかどうかは別として,約款に対する行政的規制がない場合であっても,運送人が責任を負わないという内容の約款が現れるのを防ぐことができるものと思います。   ただ,一方で,次に御紹介いただいた雲仙普賢岳のような特殊な運送の話については,運送人が,旅客からそういう危険を引き受けるからということで強く押されて,そういう危険地帯に行ってくれという依頼をされて,仕方なく運送人が応じた場合にまで責任を負わないといけないかという問題がございますが,そういったときには,逆にそういう危険な運送を引き受けるからこそ,もし仮に何か賠償問題が発生したときには一部に制限させてほしいと,また,その代わりに通常運賃程度で行きましょうという約束というのが,例外的な事例としてあるかもしれません。そういった場合には,先ほどの片面的強行法規,すなわち,人損の場合の賠償を制限する約款を無効とするような規律を設けてしまうと,そういう事案に応じた賠償責任についての特約ができなくなります。そのような意味で,今御紹介いただいた二点は,当該論点について,賛成・反対のそれぞれの根拠の一つになり得るものかと思います。 ○山下分科会長 運送の形態が多様であるというのは2ページに書いてありますが,またその中でも,運送の引受け方にいろいろな多様なものがあり得ることの例かなと思います。ほかにいかがでしょうか。 ○松井委員 日弁連の委員会の方で議論があった点について御紹介させていただきたいと思います。   1点目は,3ページの3行目の標準運送約款の話ですけれども,標準運送約款が公衆の正当な利益を害するおそれがないようにということを意図されているというのは,ごもっともだと思います。ただ,それぞれの業法によって,例えば幾つかの行政目的があって,その中には業者の競争規制であるとか,他の目的があるので,私法上の規制として,一律にこの標準約款に規定があるから,それで商法にこういう規定が必要ないという結論に至って良いのかということについて,問題提起がありました。   その前提として,その標準運送約款の制定又は改正の実務がどのように行われているか,どのぐらいの頻度で,また,どういう方の意見を取り入れてやっていらっしゃるのか,それから,極めてまれだと思いますけれども,標準外の運送約款が出た場合の認可の実務というのはどのようになっているのか,その辺りのところを御検討いただいた上で,最終的に私法の中に取り入れる必要はないという結論に至るべきではないかという意見がございました。   もう1点は,今回の定義の中にあります。いつも契約の定義ということで当事者が誰なのかということが問題になるわけですけれども,ここで相手方という形で旅客以外の方が出ております。他方,この3ページの(注)のところでは,運送契約と旅行契約を区別しますと書かれております。したがって,今回の御提案の趣旨としては,最初の第1の(注)にあるように,運送人と相手方の契約のみを旅客運送契約として対象とされていると理解しております。そういたしますと,その旅客になる方と,例えばその旅行業者なりという当事者との契約はこの旅客運送契約としての対象の中に入ってこないということになりますので,後で切符,記名,無記名の等の話からも出てくるわけですけれども,これらの契約は一体誰と誰の間のものであって,今回の運送法制は何を対象としているのかという点を確認する必要があるかと思います。旅客が運送業者の方と結んでいる契約が対象にならないとすると,この運送法制の規制というのが旅客の保護のために,実際にはいろいろな形で及ぶのだと思いますけれど,その保護が旅客運送契約でない旅客との契約にストレートな形で及ぶのかどうかという点で,この相手方の定義,それから旅行契約は入れないというところについても慎重な検討が必要ではないかという意見がございました。   一応,披露だけさせていただきます。ありがとうございました。 ○山下分科会長 ありがとうございます。 ○山下関係官 今,松井委員のおっしゃった相手方の定義ですけれども,基本的にはおっしゃったとおりで,旅客の場合もあれば旅客以外の場合もあるということで間違いありません。よく文献で紹介されている例としては,例えば,子供が旅客となる旅客運送について親が締結するという場合が紹介されています。   旅行業者の点につきましては,旅行業者が相手方になる場合もあると思いますし,バスの運送人と貸切型の運送契約をする場合の旅行業者というのは,その相手方に当たると思います。 ○松井委員 ありがとうございました。山下関係官のおっしゃるとおりだと思います。多分その実務に携わっている方がどういう法律構成をとって契約をされているのかというところが一番大事なことになるのだと思いますけれども,特に旅行業者の方の場合に,旅行業者の方と顧客の方の間のみに契約が結ばれる場合は,先ほどの3ページの(注)からいくと今回の対象からは外すことになると理解しておりますので,そこの部分で最終的な個々の旅客保護というのが,この分科会また部会の審議の対象ということにならないのではないかというのが我々の懸念点でございます。ありがとうございます。 ○鎌木参考人 旅行契約の話が出ていたので,旅行業者の立場からお話しをさせていただきたいと思いますけれども,例えば,今この(注)のところに書かれているような状況ですけれども,お客さんと我々が旅行契約をして,お客様から旅行代金を頂くと,我々は運送機関に対して手配という行為を行って,お客様がその運送機関を使えるような契約をしますといった場合には,やはり場合によっては,旅行契約の相手方は旅行業者になることもありますし,代理媒介をやっている場合には直接お客様が相手方になるということもあります。ただ,いずれの場合においても運送サービスを受けるのは旅行業者ではなくてお客様である旅客そのものになるわけでして,そのような考えを前提にすれば,その運送サービスの契約自体は運送業者と旅客との間の契約となり,運送を受ける権利については旅客が専ら受けることになります。旅行業者ではなくて旅客が運送サービスを受けると,そういうふうな整理をさせていただいているところでございます。 ○山下分科会長 旅行業者さんの方で,この運送人との間で契約を締結するけれども,お客さんとの間で旅行業者が何か運送を引き受けている,そういう考え方は採られていないということでしょうか。 ○鎌木参考人 そういうことです。 ○山下分科会長 そうすると,旅客はその場合には運送人に対して何か直接権利を取得しているということになるんですか。 ○鎌木参考人 そうです。そういう形になると思います。 ○山下分科会長 なかなか複雑な問題で,よく分からないところがあるのですけれども,十分その辺りを検討する必要があるのかなと思いました。   それから,先ほど標準約款の話が出ていたのですが,寺川関係官,約款の関係で何か御意見等ございますか。 ○寺川関係官 約款につきましては,3ページに書いてあるようなことでございまして,一般旅客の方の保護という観点から行政的な規制を課すということで,約款が定められています。旅客船では海上運送法の第9条に規定されているものでありまして,その中にこの運送約款の中身が,また,19条の2には賠償のための保険契約を締結することを命ずることができるだとか,そういった内容のものが規定されていると,そういう形になっています。飽くまでも海上運送法の中での話です。 ○山下分科会長 海上運送で,その標準約款によらないで個別に申請してくる事業者も,あることはあるんですか。 ○寺川関係官 ございます。標準によらない場合は,その部分を書いて提出していただきまして認可を受けるというような形になっております。 ○山下関係官 今の標準約款のところですけれども,各種業法の規制の中で約款を認可する際の要件の一つとしては,公衆の正当な利益を害するおそれがないことというのを法律上要求しておりますので,法律上,旅客の保護というのは一定程度はなされているものかと思います。   あと,各種標準約款においても,例えば人損が発生した場合の損害賠償責任を制限するような標準約款は見当たらないかと思いますので,標準約款の在り方としては現行商法との乖離というのはないのかなと思っております。   他方で,先ほど松井委員のおっしゃった競争目的等の部分につきましては,やはり例えばその運賃の払戻しのところであったりとか,細かい規制も約款には書かれていますので,そういったところから競争の規制等を目的として,約款の内容に影響が及んでいるかもしれませんが,商法の基本的な規定の対象としている旅客の保護とか,そういった辺りにつきましては,現在の標準約款の実務では問題のないところかなとは思っております。ただ1点,先ほど寺川関係官からもお話のありました,標準外の約款を用いたときに認可の実務がどうなっているかというところにつきましては,やはり実態を十分に把握できていないところはあるのかなと思います。 ○山下分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○田中参考人 先ほど言いました自家用有償,福祉有償というのは国土交通省が認可するものではなく,市町村が認可するものなので,市町村が約款の提出をきちんと管理するかどうかというのが一つの問題になると思います。というのも,運転代行も約款はあるんですけれども,元々運転代行は国交省の所管だったのですが,それが警察庁との共管になって,今回から国土交通省も警察庁も所管を外れて,県の公安委員会の所管になりました。その時代に運転代行がきちっと法制化されたので,そこに保険が適用されて,それがそのままこちらに持って行かれただけで,これからできる自家用有償,福祉有償というのが,一応指導は国交省運輸局がするけれども,最終的には市町村がするということになっていて,要は市町村のその輸送の利便性しか多分今のところ考えていないと思うので,それに対する今の保険だとかそういう部分の補償の問題というのは,やはりどこかからそういうことを言わないと規制のないままスタートしてしまうのではないかなということで,その辺りのところだけちょっと意見をいわせてください。 ○山下分科会長 ありがとうございます。ほかに,第1についていかがでしょうか。 ○道垣内委員 全体としてこの分科会で何をするのかといったことや,標準約款の話など,いろいろ重要な問題が出ている中で,非常に論点を矮小化して申し訳ありませんが,第1の定義についてはどうか,というところについてだけ申します。先ほど,シチュエーションによっていろいろな成立時期が考えられるという話が出たわけですけれども,それでは現在はどうなのかというと,旅客運送契約は請負なのでしょうね。そうすると,民法の請負の規定が適用され,諾成契約として成立をすることになっているわけですから,資料における提案はこの点を何も変えているわけではなくて,ただ単に裁判上,その契約の成立が問題となったときに,要件として立証していくものが何であるかということを定めるに当たり,請負の規定でやってもよいのだけれど,旅客運送についていろいろな規定を定めるのだから,旅客運送の定義を置いて,確認しておこうよという話だと思います。このような定義を置いたからといって,現行法下はいろいろありえた成立時期が急に一義的なものに変わるというものではないということは,確認するべきだろうと思います。   そして,その両当事者の合意について立証しなければならないというときに,しかし,いろいろな場面があるわけであって,回数券を買った場合に,もし仮にそれで契約が成立しているとしても,その契約のうちのどのような履行義務が運送人側に発生し,どのような権利ないし義務が,購入者側に発生しているのかという話は,またそれぞれの場面で別問題ですので,第1の定義についてはどうかという問いに関しては,それはそうでしょうというほかはないのではないかと思います。 ○山下分科会長 ありがとうございます。大体,第1についてはよろしいでしょうか。   御意見いただいたところを参考に,なお検討していくことにしたいと思います。   それでは,「第2 運送人の責任」のうちの「1 旅客に関する責任」の部分について御審議いただきます。まず,事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 分科会資料で申しますと4ページのところですけれども,「第2 運送人の責任」のうち「1 旅客に関する責任」について御説明いたします。   初めに(1)の旅客に関する運送人の責任につきましては,商法上,陸上・海上運送のいずれも,運送人は運送に関し注意を怠らなかったことを証明しない限り,旅客が運送のために受けた損害を賠償する責任を負うとされております。   この規律は,旅客の生命・身体の侵害や延着による損害に係る運送人の責任について適用されるものとし,旅客の衣服や装飾品等の身回り品については,後に出てまいります携帯手荷物と整理することが考えられます。なお,参考資料1の菅原委員の意見書の6ページによると,旅客の身回り品につき,航空運送実務でも同様の整理がされているようです。   また,この規律は陸上・海上・航空運送の別を問わず,旅客運送の総則的規律として維持することが考えられます。   そして,本文(1)の商法第590条第1項の規定に反する特約(旅客の生命又は身体の侵害に係る運送人の責任に関するものに限る。)で,旅客に不利なものは無効とするという規律を新たに設けることの当否について,皆様の御意見を賜りたいと存じます。   現行法上,旅客運送契約が消費者契約となるときは,消費者契約法の規律により,事業者の債務不履行責任を免除する契約条項などは無効とされる場合があり,裁判所によって事案に応じた解決がされているようでございます。もっとも,旅客の生命・身体の保護をより強調する観点からは,消費者契約法第10条のような個別的な判断によるのではなく,本文(1)のとおり,商法第590条第1項の規定に反する特約,例えば,運送に関する注意義務違反の立証責任を旅客に負わせる特約や,旅客の生命又は身体の侵害に係る運送人の責任につき責任限度額を設ける特約などを一律に無効とする旨の片面的強行規定を設けることも考えられます。   現在,各種の標準運送約款には,このような責任限度額の特約はないようでございますが,例えば,国内航空運送において,旅客の生命又は身体の侵害に係る運送人の責任を旅客1人につき2300万円に制限する旨の契約条項があるものもあるようであり,本文(1)の規律を新設すると,旅客の利益がより一層保護されることになります。   他方,この考え方に対しては,参考資料1の菅原委員の意見書の5ページにも記載がございますが,現行の消費者契約法に基づいて,裁判所による事案に応じた柔軟な解決をすることで足り,また,危険な地域への旅客運送など旅客がリスクを引き受けた上で行われる特殊な運送を許容する必要性等から,規律の新設につき消極的な考え方もあり得るかと考えます。   この点につきまして,運送賃に与える影響,保険実務の在り方,特殊な運送を許容する必要性なども踏まえて,本文(1)の規律の新設の当否について,皆様の御意見を頂きたく存じます。   次に,本文(2)につきまして,旅客の損害賠償額を定めるに際しては,商法上,陸上・海上運送のいずれも,裁判所は被害者及びその家族の情況を斟酌しなければならないとされております。もっとも,現在の裁判実務において,治療費等の実費,休業損害等の逸失利益,慰謝料等の算定に当たり,被害者及びその家族の情況が斟酌されておりますし,旅客運送に限りこのような規律があることについて合理的な説明が困難であることなどを踏まえますと,本文(2)のとおり,商法第590条第2項を削除することが考えられます。   以上の点につき,併せて御審議いただきたいと存じます。 ○山下分科会長 それでは,ただいま御説明いただいた部分につきまして,また御自由に御発言をお願いいたします。 ○塚越参考人 いろいろ実務を調べてみまして,鉄道輸送の場合,確かに免責条項的なものはほとんどないのですが,二つほど例があって,一つは非常にまれですけれども,例えば病気の方で特別な手当て,例えばストレッチャーに乗っているお客様がいて,余り揺らすと大変だと,病気が悪化する可能性があると。ただ,車で運ぶと非常に時間が掛かったり渋滞に巻き込まれたりするので,是非鉄道を使いたいということが,非常にまれですがありまして,そういう場合,実務としては,何かあっても責任は問いませんという誓約書みたいなものを書いてもらって運ぶということがあります。ですので,そういう場合,そういうものも無効だということになると,そういう運送がなかなかできにくくなるのかなという懸念が,非常にまれではありますけれども,あります。   あともう一つは,この場面の例として適切であるかわかりませんが,鉄道の場合,列車が遅延した場合は払戻しなり,そういうこと以外は賠償しませんという免責条項がございます。これは普通に考えると,列車の運行が遅れて商談に間に合わなかったとか,そういう場合を考慮しての条項なのですが,例えばその遅れたことによって病院に行けなくなって病気が悪化したとか,そういう場合もこの片面的強行法規に入ってしまうとすると,その免責条項の効力が一部否定されてしまうということで,その一律な取扱いというか,列車が遅れるというのは,残念ながら結構ありますので,その場合に個別的な配慮を要するというのは,ちょっと実務では困るなという気がしております。 ○道垣内委員 2点申し上げたいのですが,まず,第590条に関してです。先ほどから火砕流の話とか重病人の話とか出たわけですけれども,結局それというのは,当該契約は運送人がどれだけの注意を払うことが予定されている契約なのかということに密接に結びついているのだろうと思います。そして,その契約におけるリスク配分によって,火砕流は来るかもしれないという前提で,もちろん逃げるべく努力はするけれども,どうしようもないときにはどうしようもないという契約の趣旨なのだろうと思いますし,重病人の方を運ぶというときだって,あえて手荒に動かしてやれといったことをしない限りにおいては,車両による一定の振動があったり,危険回避のために急停車をして,それによってずれてしまうということがあったりするというのは当然であり,契約によって定められた運送人が行うべきことを果たしていないという状況にないのではないかと考えます。   そうしますと,片面的強行法規にするかどうかという問題はさておき,少なくとも,ここにおいて「注意」ということが当該契約の趣旨によって決まってくるということを明らかにする,ないしは確認をしておくべきだろうと思います。これが第1点です。   第2点は非常に小さい話で,私が分かっていないだけかもしれないのですが,先ほどの第1の定義のところで,旅客以外の人が契約の相手方になるという話が出たわけですけれども,そのようなときに,当該契約に免責条項等があったときにはどうなるのでしょうか。例えば,私が旅行会社に行って,旅行会社が免責条項を付けた形で契約当事者となり,私の体を運ぶという契約を締結しているという場合を考えたときに,私はけがをしても実は免責条項があり,損害賠償請求権は有しませんというのは何か変な感じがするんですね。   今までの議論の中で,債務不履行責任について制限条項を置いたときに,それが不法行為の問題にどこまで跳ね返るかという議論があったと思うのですけれども,とりわけ,契約当事者と対象である旅客というものが異なり得ると考えたときに,どういう整理をすればいいのかというのが,ちょっと分からなかったなというのが2番目の話です。 ○山下分科会長 塚越参考人が先ほど言われた病人を運ぶという場合の対応というのは,この運送については責任を一切負いませんと,そういう特約をされることもあるということだったのでしょうか。道垣内委員が言われたように,合理的にどういう注意を払うかということの対応だけではなくて,この運送では一切の責任はないというものでしょうか。 ○塚越参考人 誓約書の言葉としては,運送中に何か起こっても責任は負いませんという文言にはなっています。もちろん,普通の旅客運送の義務違反みたいなものがあって,その場合も全く責任を負わないという,そういうつもりはないですけれども,確かに委員のおっしゃるとおり,普通の揺れとかそういうのでも若干病気が悪くなってしまうという可能性がありますので,そういうのを免責するという,趣旨としてはそういう趣旨なんですけれども。 ○加藤参考人 旅客船の方の事情から申し上げますと,先ほど火砕流というお話がございましたけれども,例えば,阪神・淡路大震災のときには,陸上輸送は,道路も鉄道も全て不通になりましたので,船で有償での緊急輸送を行ったというような事例がございます。また,今回の東日本大震災のときも同様に,船舶が様々な活動をしたというような事例がございます。   そうした事例では,震災が起こってから,その場で判断してそういう緊急輸送を行ったわけなんですけれども,もう少し積極的に行政が絡んで,官民一体となって緊急時に備えた体制を事前に作るべきではないかということで,今,国土交通省において災害時における船舶の活用ということで,調査検討会を開いたり様々な取組が進められているという状況がございます。   そうした中で,どういった結論あるいはどういった形になるのかは分かりませんけれども,運送事業者に対して現在の約款に加えて新たな法規制を設けるということがあると,そうした動きが災害時に船舶を活用して何か緊急輸送なり何なりというものを積極的に行うというものに対して影響があるというようなおそれがございますので,その点について少し注意する必要があるというのが,まず1点でございます。   また,先ほどから標準運送約款というお話が出ておりますけれども,現在,各事業区分ごとに様々な安全規制も行われている中で,そもそも消費者保護の観点から現在問題になっている事例というのは,特段ないような気もいたしますので,そうした社会的な必要性があるのかないのかという点も踏まえて十分に見ていく必要があるのではないかなというのが1点ございます。   もう一つ,一度に多数の身体・生命を害するおそれのあるようなサービスというものは,この旅客運送に限らず,世の中に数多く存在しているわけでございます。例えば飲食宿泊施設,あるいは大規模な集客施設等々,一度に多数のお客様の身体・生命を害するおそれがあるというような事業というものは,世に多数存在すると考えております。そこで,あえて国土交通省による様々な安全規制,あるいは運送約款の認可といったような規制が十分に機能している旅客運送という分野だけをとりだして,新たな片面的強行規定というものを設ける必要性があるのかないのかという法的バランスという面も含めて,やはりしっかりと考えていく必要があるのではないのかなという気がいたしております。 ○山下分科会長 ありがとうございます。 ○松井(信)幹事 先ほどの道垣内委員の話の中で,一つは契約責任と不法行為責任の関係がありましたが,物品運送については,運送人の契約上の債務について,それを軽減するような法律上の規定があるときに,それを運送人の不法行為責任についても及ぼすという方向で検討しているところでございます。   これに対して,旅客運送については,例えば,運送人の債務の消滅時効について見ると,商法では商事消滅時効となっておりますが,それによって不法行為責任の除斥期間や時効が影響を受けるという議論はされていないと思いますので,今回の見直し後も,契約責任と不法行為責任は別であると考えているところでございます。   次に,運送事業者が旅行業者と契約をして,旅客を運ぶという契約をした場合ですが,この分科会資料1のような規定を作らず,消費者契約法によるときは,運送事業者と旅行業者との間の契約は消費者契約には当たらないのだろうと思います。しかし,この分科会資料1のような片面的強行規定の規定をもし作るとすれば,旅客を対象にするということから,旅行業者が当事者となる場合でもその責任制限などを無効にするという効果が生じるかと考えたところです。   先ほど来,雲仙の話など特殊な事情があるときに,この片面的強行規定が働かないというようなルールは,これは物品についても国際海上物品運送法の17条で同様な規定がありますので,運送が行われる特殊な事情による場合にこのような規律が働かないということは十分にあり得ると思うんですが,平時においてもこのような規律が妥当かどうかを特に中心に御議論いただければと思っております。   先ほど加藤参考人がおっしゃった,平時においてもホテルなどでは同様の場合があるではないかというのは,貴重な御指摘であろうと考えた次第でございます。 ○加藤参考人 平時の場合を中心にと言われたのですけれども,ちょっと先ほどの追加で申し上げますと,船の場合は,例えば離島航路などでは妊産婦様が乗られるケースも多々ございます。そうした場合,医者の同意書あるいは御家族の同意書とかいうものを求める事例というのは,これは通常においてかなりございます。そうした妊産婦のように,病気ではないのだけれど何かあると大変な事態になるというような方が移動する場合に,どうしても船でしか渡れない所というのが現実日本にはございますので,そうした事例もまたよくよく慎重に考えて御配慮いただければと考えております。 ○松井(秀)幹事 1点確認をさせていただきたいのですが,消費者契約法10条との比較でこの片面的強行規定の話が出てきているのですけれども,消費者契約法10条には信義則に反するという要件が出てきます。この御提案でも,一般条項として信義則の適用はあるのでしょうか。仮にあるとした場合に,実際に立証するにはどういう形で行うのか,あるいは立証責任はどうなるのでしょうか。例えば,ある約款の規定を無効にしたいというときに,その無効の効果を主張する者は,それは旅客に不利であるということを言えばよく,これに対して運送人の側は,この規定は信義則上なお不当ではないと言えるならば無効にならない余地が出てきますでしょうか。先ほど幾つか特殊な例が出てきましたが,例えばストレッチャーで運ぶような場合を念頭において,この約款規定の運用は信義に反するものではないというような反論が認められる余地はありますでしょうか。この信義誠実の原則との関係について,何か御検討されたり,お考えのところがあれば教えていただきたいと思います。 ○山下関係官 今,松井(秀)幹事のおっしゃった信義則の点につきましては,この分科会資料1の4ページの1(1)のところの規律につきましては,正にこの記載のとおりで,信義則の判断というのはせずに,一律に無効とするということでもって,旅客の人損についての予見可能性を高めるという意味があるかなと思いますし,一方で,もし仮に信義則の判断も加えるといたしますと,結局,消費者契約法10条と同じような規定になってしまって,あえて今回規律を設ける意義が小さいものとなってくるのかなと思います。 ○松井(秀)幹事 そういう意味では,旅客の生命・身体が問題となる局面においては,消費者契約法10条よりも厳格な規制を置くという趣旨で理解すればよいということですか。 ○山下関係官 おっしゃるとおりであろうかと思います。 ○山下分科会長 消費者契約法とか不当条項規制の話で言えば,一種のブラック条項の扱いになるから,これに反していれば一律に無効ということか,あるいはいわゆるグレー条項で,何か合理的な理由がある場合は例外を認めるのかと,そういう問題になるのでしょうかね。 ○道垣内委員 しつこいのですけれども,妊婦の方のお話がありましたけれども,出された例では,船会社は注意を怠っていないわけですよね。そして,ここで議論されているのは,注意を怠っていないにもかかわらず責任を負うという規定にしようという話ではないだろうと思いますので,出されたような例において,その妊婦の方についても責任を負うことになるのはおかしいのではないかといってみても,議論がずれているのではないかと思います。そういうわけで,何の議論なのかがよく分からなかったのですけれども。 ○山下関係官 道垣内委員のおっしゃったとおり,この規律自体はそもそも商法第590条第1項の規律というのが大前提にありまして,商法第590条第1項というのは過失推定責任を定めていますので,その運送人が注意義務を尽くしたということを証明できれば責任を負いませんが,基本的には運送人の方に注意義務を尽くしたことについての立証責任があるという規律が第590条第1項でございます。それを前提として,運送人に注意義務違反があった場合に,運送人には損害賠償責任が発生しますが,その損害賠償責任の範囲を限定する規律が無効かどうかというのが,ここでの論点ですので,妊産婦の方が運ばれるという場合につきましても,運送人としては客観的な注意義務を尽くしていれば,その妊産婦さんの特別な事情で何らかの損害を被ったとしても,その点については運送人は注意義務を尽くしましたということで,責任は負わないという結論になろうかと思います。   ですので,今のお話だと,仮に妊産婦さんが乗っていようと誰が乗っていようと,運送人の注意義務違反があった場合にどういう責任を負うか,その責任を制限することがいいのかどうか,その当否について御意見を頂きたいと思います。 ○清水幹事 1点よく分からない点があったので質問させてください。消費者契約法の場合ですと,民商法の任意規定に比して消費者の権利を制限するものが無効となり得るということになりますので,過失責任の原則と損害賠償の範囲に関するものが両方問題になると思います。これに対して,第590条第1項を前提にしてそれを片面的強行法規にするということですと,それは責任限度額の話ではなくて,軽過失免責などを無効にするというところに意味が出てくるのではないかと思うのですけれども。第590条から直ちに損害賠償の範囲というところまで行けるのか,そこのところは必ずしもクリアではないということが1点です。あと,片面的強行法規とすることの場合の意味なのですが,現状行われている大半の旅客運送というのは安全であるとこが前提なのですけれども,ごくごく例外的なものについては危険であることが前提になっていることもあって,これを強行法規化することによって,そういうサービスがおよそ提供できなくなることは考えなくてもいいのかという点については,若干疑問があるかなと思います。 ○山下関係官 まず二つ目に出された御意見につきましては,おっしゃるとおり,そういう意見も十分あろうかと思いますので,そういう危険な場合の運送が出てくる余地を残そうとすれば,この規定は設けないという方向に進んでいくのかなと思います。   1点目につきまして,第590条第1項に反する規律というものが賠償額の範囲にまで係ってくるのかというところですけれども,事務当局の考えとしては,第590条第1項というのは,その損害の範囲についても規定しているものと考えておりますので,その損害賠償の額を低くするというのも第590条第1項に反するものになってくると思います。   その一つの例としては,住宅の品質確保の促進等に関する法律,品確法と呼ばれているものがございまして,その第94条第1項には,簡単に申しますと,請負人は特別な瑕疵担保責任を負うという規律がございます。そして,第2項で,前項の規定に反する特約で注文者に不利なものは無効とするとあり,正に今回と同じような立て付けでございまして,その品確法の立法担当者の解説等を読みますと,請負人の責任限度額を設ける特約も,今御紹介した第94条第1項の規定に反する特約で注文者に不利なものとして無効となるという説明がされておるところでございます。 ○山下分科会長 清水幹事,今の理解とやはり違う理解が成り立ちそうだということですか。 ○清水幹事 必ずしも条文からは,それが非常に明確かどうかはちょっとよく分からないと思います。そういう解釈ももちろんあり得るであろうということはよく分かります。どちらかというと責任制限の話が問題となっておりますけれども,重過失免責などは消費者契約法で難しくなってくるかと思いますが,軽過失免責が大きく問題となるような場面は,あまりないのでしょうか。今までお話に出てきたものは,そもそも注意義務違反がないという認定になるだろうという点では,道垣内先生のおっしゃっていることはよく理解できるところです。 ○山下分科会長 いかがですかね,実務の方で,軽過失免責がどうしても必要な場合とか,あるいは責任制限,ここでは資料の5ページでは,ヘリコプター等について2300万円程度に制限しているものが世の中にはあるようで,あるいはほかにもこういう同じようなものがやはり実務上どうしても必要だとか,何かそういうお話は特にございますでしょうか,今日御出席の参考人の中ではいかがでしょうか。 ○塚越参考人 先ほどお話ししたように,やはり遅延ですね。遅延の場合は,やはりある程度その免責条項の効力を認めていただきたいなというのはあります。 ○山下分科会長 その点はどういう理解でしょうか。 ○山下関係官 遅延に起因して病気が悪化してしまった場合ということですかね。そこはその旅客の生命又は身体を侵害した場合というところに当たるかどうかの問題が一つあろうかと思います。債権法の部会の方でも,消滅時効の点で,消滅時効の期間を5年と20年に延ばすという規律の要件のところで同じように生命又は身体を侵害した場合という規定がございまして,結局,何か一定の解釈が明確化されたわけではないらしいのですが,一つの議論の在り方としては,その旅客の生命又は身体を直接的に侵害した場合というのがこの「生命又は身体を侵害した場合」に当たると考えるものがあるようでして,先ほどの遅延が間接的に生命又は身体の侵害につながったという場合であれば,果たしてそもそもここに当たるのかどうかという問題も1点あろうかと思います。また,仮に当たると結論づけられた場合には,そもそもやはり鉄道事業者の方に注意義務違反があったということが前提になろうかと思いますので,その延着の場合に賠償責任の制限が認められるかどうかの問題に帰着するのかなと思います。   すなわち,鉄道事業者の延着責任が認められる場合というのは,判例等である程度限定されている中で,運送人が延着責任を負うような注意義務違反があったという場合に,その責任のうち人損に関する責任を制限する約款が本当にいいのかどうかという点について,最終的には皆様の御意見をお伺いし,そういう場合には延着責任を制限してはいけないということであれば,こういう規律を設けるということになるのかなと思います。 ○加藤参考人 先ほど航空の一部の事例で2300万円という場合があるというお話がありましたが,船の方では特段の制限はありません。航空という個別の分野において制限額が世間一般から低いものがあるから商法の方で一般規則を設ける必要があるというのは,少し一足飛びのような議論ではないのかなというふうな気もいたしております。   先ほど品確法のお話もございましたけれども,住宅の安全性については品確法で決めているからこれはこれでオーケーで,旅客運送については少し足りないところがあるから,商法の一般規則で書く必要があるということではなく,まずは,商法で規制すべきもの,個別の事業分野ごとの法規で規制すべきものを,きちんと整理する必要があるのではないかと思います。ただ,先ほどの繰り返しになりますけれども,生命・身体を害するサービスというのは世の中にいろいろある中で,所管する行政庁が様々な安全規制なり消費者保護規制というのは設けている中で,あえてそれを商法に書く必要があるのかどうなのかという疑問があります。全てのサービス,いろいろな事業,これをやはり横並び,バランスを見た上で一般規則というものを必要かどうかというのを議論する必要があるのではないのかなというような気がいたしております。 ○山下分科会長 ありがとうございます。ほかにこの点,いかがでしょうか。 ○松井委員 すみません,1点確認をさせていただきたいんですけれども,今の議論から,こういった制限的な規定を設けない場合には消費者契約法第10条の話になるという点ですけれども,そもそも,商法の運送の規定で生命・身体に関する条文は,今お話しのあった第590条しかないわけですね。それで,海上についてもほとんど削除しようというのが今の方向性になっていますので,そうなっていきますと商法には基準となる任意規定がないので,任意規定を基準に何かを考えるということは困難であった,結局,民法の第1条第2項の話しか基準は残らないということなのでしょうか。確認説とか創造説等の議論はありますけれども,商法の中に任意規定があってこそ,初めて消費者契約法第10条についての話は意味があるのではないでしょうか。基本的にはやはりある程度の運送法制としての旅客の生命・身体に対する任意規定がないと,消費者契約法があるから良いという議論にはならないように思うのですが,その辺はいかがお考えでしょうか。 ○山下関係官 消費者契約法に委ねるとした場合の,その比較の対象となる任意規定のお話ですけれども,一つは,先ほどの御説明のとおり,第590条第1項というのが,その損害賠償の範囲も定めていると見ることもできるかと思いますし,もう一つの手掛かりとしては,民法第416条の損害賠償の範囲の規律が任意規定となり得ると思いまして,それとの比較で一方的に消費者に不利ということであれば消費者契約法第10条によってやはり無効とするという可能性もあるのかなと思います。   松井委員が御指摘の,ある程度の運送法制としての旅客の生命・身体に対する任意規定がないと,消費者契約法があるから良いという議論にはならないという点につきましては,何か具体的な規律を設けるべきであるというお考えがあればお聞かせいただけませんでしょうか。 ○松井委員 その議論は日弁連の委員会でも出たのですが,基準となる商法の規定がないというところまで話が出て具体的な規律はどうするか,そこについては十分なご議論を頂きたいというのが日弁連の委員会での結論です。なかなか旅客については,正にいろいろな運送機関があるものですから総則的な規定は難しいと考えています。ただ,消費者契約法に対する考え方が,弁護士ごとにも違うのですが,個人的には第10条にはそれほど期待はできないのではないかというところがこの議論の基にあるところです。 ○塚越参考人 ちょっと議論がずれてしまうかもしれないんですけれども,この,もし片面的強行法規が導入された場合を考えると,どの範囲まで適用するのかというのが微妙になってくると思って,まず一つは,例えば列車の場合,食堂車で食事をして,それで食中毒になってしまったと,これは運行そのものの責任ではないので,第590条ではないから片面的強行法規はかからないと理解するのか,あるいは運送に付随するものだから,やはりかかるとするのか。もっと言うと,例えば駅で段差があって転んでしまったとか,車両に何か不具合というか,くぎが出ていてけがをしてしまったとか,そういう場合もあるのですが,そういう場合はおそらく片面的強行法規がかかってくると思うのですが,先ほども加藤参考人がおっしゃったのですが,果たして,なぜそういう場合にわざわざ片面的強行法規にしなければいけないのか,例えば駅の設備の瑕疵でけがをした場合などは普通の民法というか債務不履行の規律でもいいのではないかという気もしてくるのですが,本当に導入されたときに適用範囲をどこまで絞って規定するのかなというのが疑問に思いました。 ○山下関係官 今,塚越参考人がおっしゃった点につきましては,現行法の第590条第1項「旅客カ運送ノ為メニ受ケタル損害」についての事実認定の問題かと思っておりまして,ここの文言については,今後,現代語化に当たり検討は必要かと思いますけれども,基本的に何か新たに範囲を広げたりとかということは,現時点では考えておりませんので,食堂車での食事の提供ということがこの損害に当たるかどうかという問題かと思います。 ○山下分科会長 ほかにいかがでしょうか。 ○野村(修)委員 ちょっと基本的なことになってしまうのかもしれないのですが,ここで今検討されているのは,第590条を念頭に置いて片面的強行法規を作ろうという話なんですけれども,これまでの民事法制の全体の流れからいきますと,片面的強行法規というのは確かに消費者法制の流れの中に存在していて,これの背景には本来契約を締結するに当たってのバーゲニングパワーに差があって,交渉力に差があるために不利益な条項が設けられやすいということに対して,それが不合理なものになりかねないから,それを規制しましょうという,こういう議論になっていると思うんですが,ここは結論的に今回の御提案を見てみると,むしろ立法趣旨は旅客の生命・身体というものに対する損害というものは完全に賠償されるべきだという考え方なのではないかなと思うわけです。そういう点では,むしろ何となく,形として片面的強行法規という手法を使うよりも,旅客の生命・身体に関する侵害については特約等を持って制限することはできないと直截に規定してしまった方が,むしろ明確な規律になるのではないかなというような感じがしまして,何となく形が消費者法制になぞらえてしまいますと余計な議論を呼ぶことになるのではないかなというような感じがするのですが,その点,ここで今お答えいただく必要はありませんけれども,一応視野に入れて御検討いただければと思います。 ○山下分科会長 (2)で第590条第2項を削除することはいかがかということなのですが,この点も御意見ございませんでしょうか。説明としては民法の賠償枠の算定で,もう既に同じようなことになるので,こういう規定はわざわざ置く必要はないのではないかということだったかと思いますが,道垣内委員,大体こういう理解でよろしいでしょうか。 ○道垣内委員 理解はおかしいと思いますけれど,結論として削除することには全く異存はありません。民法において,そのような事情を斟酌するという構造にはなっているかというと,なっていないですよね。裁判官からすると斟酌しているような感じなのかもしれませんけれども,裁量的に考慮に取り入れるというイメージではないですよね。被害者の情況を斟酌するということの意味がよく分からないですが,例えば損害賠償額の算定にあたって被害者の現在の収入を基準にして算定するという形をとるのは確かですが,被害者の家族の収入が多いとか少ないとか,家族の状況を斟酌して賠償額を定めるという判決が書かれるわけではないですよね。その意味で,民法の原則と乖離しており,かつ,この場合だけ乖離させる積極的な理由はないから削除するというのであれば,異存はありません。 ○山下分科会長 この点はよろしいでしょうか。 ○河野参考人 今の件なのですけれども,ちょっとどういうふうに解釈すればいいかというところは不安なんですが,消費者側の単純な不安を申し上げますと,裁判になれば今現状でもそういった状況は判断の中に加味されているという実情はあると思いますが,私たちが例えば最初に交渉に臨む場合とか誰かに相談する場合に,やはりこういったふうなことが権利としてあるということがどこかに書かれているというのは,非常に安心にもつながるわけです。今回の改正の趣旨からすると,可能な限り分かりやすく,一般にも参照が容易で,予測可能性が高くというところがありますので,これが書かれていることによって消費者は,そういうこともきちんと考えていただけるんだなというところで安心感にはつながるとは考えるところです。 ○山下分科会長 ありがとうございます。ほかにはよろしいでしょうか。 ○道垣内委員 (1)に戻って恐縮なのですけれども,先ほど遅延の場合に,それは過失が生命・身体に向けられたわけではないのでというふうな説明は駄目なのではないでしょうか。つまり,例えば生命・身体を毀損する目的で故意に遅延させたという場合を考えたときに,それは遅延だから生命・身体の侵害に対する故意はないとは言わないですよね。そうすると,遅延はそこに向けられた過失ではない,とはならないのではないかなと思います。ただ,それを踏まえて考えたときには,「注意を怠らざりしこと」というのが,例えばその生命・身体の保護に向けて課されている義務に反していないということが言えれば,その責任を免れることができるというふうな,「注意」のところの解釈として行うことはあり得るのかなという気は若干しましたけれども。 ○山下分科会長 ありがとうございます。   よろしいでしょうか。それでは,頂いた御意見を参考に,また検討いただこうかと思います。   それでは,続きまして2の手荷物に関する責任の部分の御審議を頂きますので,まず事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 分科会資料1で申しますと6ページのところですが,「2 手荷物に関する責任」について,御説明いたします。   本文(1)旅客から引渡しを受けた手荷物(受託手荷物)につきましては,現行法上,運送人は特に受託手荷物について運送賃を請求しないときであっても,物品運送の運送人と同一の責任を負い,また,到着後1週間以内に旅客が受託手荷物の引渡しを請求しない場合には,運送人に供託・競売権が認められているところ,この規律を陸上・海上・航空運送の別を問わず,旅客運送の総則的規律として維持することが考えられます。   次に,本文(2)旅客から引渡しを受けない手荷物,携帯手荷物について,現行法上,陸上・海上運送のいずれも,運送人は携帯手荷物の滅失又は損傷については,故意又は過失がある場合に限り,損害賠償の責任を負うとされております。この規律は携帯手荷物が旅客の保管の下にあることから,受託手荷物と異なり,請求者が運送人の故意又は過失を証明した場合に限り運送人が責任を負うものであり,航空運送を含めた旅客運送の総則的規律として維持することが考えられます。   また,受託手荷物については,運送人の責任を減免する規定の適用がありますが,携帯手荷物については商法上そのような規定はございませんので,この不均衡を是正するため,本文(2)のとおり,携帯手荷物についても旅客の保管の下にあるという事情に留意しながら,運送人の責任を減免する規定等を準用することが考えられます。   以上の点について,併せて御審議いただきたいと存じます。 ○山下分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,また御自由に御発言をお願いいたします。 ○塚越参考人 確認ですけれども,携帯手荷物か受託手荷物かというのは飽くまでも物理的に判断するのであって,例えば携帯手荷物で手回り品切符みたいなもので有償で持って入っていいよという場合もあるのですが,別に有償であっても,自分で持っている分には携帯手荷物としてお客様の責任で保管してもらうという,そういう理解でよろしいですよね。確認ですけれども。 ○山下関係官 その携帯しているもの,携帯しているというか,その物が運送人に引き渡されていないと言えるのであれば,それは携帯手荷物となると思います。 ○塚越参考人 有償でも。 ○山下関係官 有償でもそうなると思います。 ○加藤参考人 すみません,質問だけなのですけれども,携帯手荷物に損害があったことを立証するその責任が,現行は,お客様の方にあるのか,あるいは会社の方にあるのかというのが,ちょっとよく分からなかったものですから,教えでいただけませんでしょうか。 ○山下関係官 携帯手荷物につきましては,お客さま,旅客の方に過失の立証責任があると解されているものと思います。 ○加藤参考人 ありがとうございます。 ○箱井幹事 7ページの(2)の説明ですけれども,物品運送人の責任がベースになる受託手荷物の場合と比べて運送人の責任が重いのは不均衡だという主張,――私は不均衡とは考えていないので立場が違いますが――,次にありますような類推適用の主張がされています。運送人の責任を減免する規定を類推適用する見解が有力だというのは,そのとおりです。そのうち,特に問題だと思っておりました高価品特則が,(注1)でありますように,今回の提案では除外されています。このように書いていただくと,この第578条の類推適用がはっきりなくなるということ,従来の解釈だと多数説では認める類推適用が明文で否定されるという点は,大変結構だと思っております。ただ,不均衡だからという前提自体の理解と,また定額賠償の規定を入れるというところについては,なお気になるということを申し上げておきたいと思います。   商法の場合,補助商としての物品運送営業というところからの発想で,賠償額の定型化の規定であるとか,また国際海上物品運送法は「市場価格」とはっきり出して,運送品が商品であるということを前提に制度設計をしているわけです。けれども,旅客運送の場合,これは手荷物でございますので,到達地の市場価格とか到達地の価格ということが直接的に規定としてなじむのかどうかというところが気になります。   それから,先ほどの不均衡の理解の違いですが,これはどうして運送についてだけいわれるのかという問題があります。特に,第594条第2項でほぼ同様の規定が置かれているわけでありますけれども,それとの関連というのも今後御検討いただければと思っております。 ○山下関係官 箱井幹事のおっしゃった1点目のところで,その損害賠償の定額化の規律が旅客の場合に妥当しにくいのかという話ですけれども,それは受託手荷物の方で物品運送人と同じ責任とするというところに対する批判でもあるということになるのでしょうか。 ○箱井幹事 受託手荷物の場合は運送人が運送品を預かっているという要素がありまして,一律に物品運送人と「同一の責任」と決めていて,それはその効果として当然に係ってくるということは,ここで批判するものではございません。   というのは,物品運送でも商品以外のものが運送されるということは,たくさんあるわけでございまして,おばあちゃんがカーディガンを送ってくれるとか,そういう場合もデフォルトの規定が一律に係ってくることは当然であろうと思います。そうではなく,寄託しないものにまで,しかも旅客の,またバッグなどの手荷物がほぼ占めると思われるものについての規定として,疑問だということです。 ○山下分科会長 今の点についてほかの委員,幹事,あるいは参考人,御意見いかがでしょうか。 ○松井委員 少し論点がずれるかもしれませんけれど,今のお考えでは,携帯手荷物と受託手荷物について,立証責任の問題というのが区別したままで立法するという前提でよろしいわけですよね。 ○山下関係官 私はそのように考えております。 ○松井委員 これは今回の改正の問題ではないのですけれども,どこまでが受託手荷物でどこからが携帯手荷物かという点で疑問があります。引渡しを受けたか否かによるという話がありますけれども,あまり裁判例は見付からなかったのですが,昭和41年のハイヤーの事件があって,ハイヤーの運転手がトランクに荷物を受け入れたのですけれども,このときにはお客さんの方が勝手に入れたと主張しています。しかし,通常ハイヤーのトランクというのは運送人の方が開けたり閉めたりしないと入れられないから,これは引渡しがあったということで,受託手荷物だということになった例が一つ見付かりました。しかし,だんだん乗り物によってよく分からなくなり,リムジンバスの横のトランクだったらどうなのかとか,成田エクスプレスのあの鍵を付けることができる部分だったらどうなのかとか,その引渡しで区別するという基準が果たしてこのまま良いのかというのが問題意識となります。資料で頂いていますアテネ条約になりますと,船室持込み手荷物ということで,物理的な場所で区別されるわけです。この点について,立証責任の転換を維持することは全く異論はないのですが,仮に区別をつけるとすると,この引渡しについてきちんとした何か今回手当てをされることが予定されているのか教えていただければと思います。新しい運送手段が出てくるので,果たして何か今回手当てをすることが良いのかという議論はもちろんありますが,何らかの法律効果の差異がある以上,引渡しという言葉が,多分航空運送のような形でカウンターがあって行われる引渡しであれば非常にイメージがし易いのですが,その他のものについてはどのようにお考えか,教えていただければと思います。 ○山下関係官 今の受託手荷物と携帯手荷物の区別の点につきまして,現行法は引渡しの有無を基準にしております。その引渡しを基準とした趣旨というのは,やはり分科会資料にも書いておりますように,どちらにその物の管理が及んでいるのかというところをもって,引渡しというのを基準にしているのかと思っております。   先ほどのハイヤーの裁判例につきましても,そのハイヤーのトランクの部分を開け閉めする自由というのは旅客にはございませんので,そういう意味では引渡しないし管理が運送人に移っているという意味で,受託手荷物とされたのだと認識しております。そういったことも踏まえ,また松井委員がおっしゃったように,ほかの各種の旅客運送の総則的規律とした場合を念頭に置いた場合には,やはりいろいろな場面に適用が考えられるという意味では,より具体化してしまうと適用がしにくくなってしまうという問題点もございますので,現時点ではこの引渡しというところでも問題ないのかなとは思っていますが,問題点を踏まえた上でのよりよい御提案というのがございましたら,是非お聞かせいただきたいと思っております。 ○松井委員 もうちょっと検討したいと思います。このハイヤーの裁判例については,私どもは地方の裁判所に行きますといろいろな書類を持って行くわけですけれども,あるかばんはトランクに入れて,あるかばんは横に置いておくということによって立証責任が変わるというのは多分,乗っている客の立場からいくと全く理解できないことではないかと思います。弁護士であれば受け入れますけれども,多分一般の人には理解できないのではないかという懸念は,若干はございます。   そういう意味では,携帯手荷物との区別というのは,なかなか難しいものがあるのではないかなということだけ,引き続き,私どもも検討したいと思いますし,御検討いただければと思います。よろしくお願いします。 ○道垣内委員 松井委員のもう一歩手前の話なのですけれど,「手荷物」とは何なんですか。つまり,例えば私がかばんを持って電車に乗ったというときに,かばんは手荷物だけれども,時計は手荷物ではない。だから,その旅客運送に伴う手荷物に関する規律について,物品運送の規律を準用しようという発想が,それは旅客とともに荷物を運んでいるというイメージを持つと非常に分かりやすいのですね。だけれども,では洋服は手荷物なのですかといったときに,その際,その賠償額の算定において一般原則の単なる適用ではなくて,到着地における市場価格とかそういう概念がなぜ出てくるのかというと,私には余り理解できないですね。さらに,遺骨はどうなのだろうかというのが若干ちょっと頭の中によぎったりもしたのですけれども,あれは市場価格はタダじゃないかと思ったりもしますけれども,だから本当に物品運送の規律を準用すればよいという話なのかというのがよくわかりません。手荷物の定義にかなり依存しているのではないかと思うんですけれども,何かそれについては議論というのが一般にはあるのでしょうか。 ○山下関係官 「手荷物」の解釈をしているという裁判例等は私も存じないですけれども,その日本語的な意味として,衣服とか装飾品というのが「手荷物」というのは明らかにおかしいのではないかなという気はしておりまして,そういう意味で,そういう衣服とか装飾品等の「身回り品」について,この2(2)の「携帯手荷物(旅客の身回り品を含む。)」とあえて記載した趣旨は,「携帯手荷物」というワードからは直接含まれない衣服とか装飾品という身回り品を入れたいという趣旨で,この携帯手荷物の後の括弧を付したところでございます。 ○道垣内委員 すみません,理解不足で。括弧を付したということはよく分かりましたけれども,それは,なぜ物品運送に準じた規律にするという合理性があるのでしょうか。身回り品に関しては,どういう合理性に基づいてですか。 ○山下関係官 一つは,そもそも現行法の591条1項で,受託手荷物について物品運送人と同一の責任を課すとしているというのが出発点でして,携帯手荷物も同じような責任を課そうというところでございますので,そもそもその第591条,一つの考え方としては第591条の規律自体がおかしいという批判について,皆さんの意見が一致するということであれば,この規律自体が変わるということもあり得るかと思いますし,また,更に議論が進んで,その受託手荷物,先ほどの箱井幹事のお話にも関係しますけれども,第591条1項の受託手荷物については物品運送人と同じ責任を及ぼすことは妥当だけれども,携帯手荷物については特別な事情があるので,物品運送の規定は準用しないという考え方もないわけではないと思いますので,むしろどういう規律が妥当かという御意見を頂ければと思います。 ○箱井幹事 身の回り品は手荷物にはあたらないとのことでしたが,――解釈上は手荷物にあたると解しているのは私ぐらいでしょうか――,この身の回り品の問題です。やはり第591条,第592条とありますところ,物については寄託した場合には第591条,寄託しない場合には第592条で,そして人については第590条と整理した方が分かりやすいということと,先ほど航空運送の約款の御紹介がありましたけれども,海上運送の条約でもそういった整理ですので,今回そのように整理されるというのは賛成でございます。   先ほどの松井委員から提起された引渡しの有無の問題,この区別ですね。今,例として,リムジンバスの横の荷物置き場に置いた場合というのがありましたけれど,これはやはり仕方がない問題であると思えます。これはコインロッカーとか,また車でも駐車場で保管場所の提供か寄託かとか,ホテルのベルボーイに預けた場合も寄託かどうかというのは,これらも個別的に引渡しがあったかどうか,要するに現状のままでの保管を引き受けているかどうかが問題になります。今までいくつもケースがあって個別的に検討されてきている課題ですので,この点について厳格に何らかの規定をもって画するというのは,これはかなり難しく,解釈に委ねざるを得ない部分がどうしても出てくるのだろうと思います。 ○山下分科会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○田中参考人 先ほどのハイヤーの話ですけれども,タクシーも同じで,例えば人がたくさん乗るときは,トランクに荷物を入れてしまう場合があるんですよね。入れなくても,1人だったらいいのだけれど,たくさんいたから後ろに入れてしまうとかいうのもあるし,今はお客さんのスペースにそのまま,ワゴンタクシーなどはそのままトランクが入ってしまう場合もあるんですよね。だから車種によってそれが変わってしまうというのは,何かちょっと変な感じがします。   それから,例えばお年寄りに対してのサービスの一環として,荷物をお持ちして預かりますよ,お持ちして,例えば助手席に置くとかトランクに置くとかということは結構あることで,その辺のところというのは,あまりはっきり区別してしまって,預かってしまったという話になるよりも,やはり個別の事案でやった方がすごくいいような気がしますね。 ○山下関係官 田中参考人がおっしゃったとおりだと思いますし,ハイヤーの場合も,それは比較的古い裁判例でそういうふうな判断がされているだけであって,最高裁の判例はないところかと思いますので,それは正にこの条文に引きつけると,引渡しがあったかどうかというところの判断であり,解釈の余地はまだあろうかと思います。保管場所によっても変わるという余地もあろうかと思いますし,事案に応じた判断というのは現時点ではされ得ると思っております。 ○山下分科会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか   それでは,この点も頂いた御意見を参考に,なお検討していただこうかと思います。   それでは,ちょうど予定していた3時20分でございますので,15分休憩を入れさせていただきます。3時35分から再開ということで,よろしくお願いします。          (休     憩) ○山下分科会長 それでは,再開させていただきます。   続いて,「第3 運送人の権利等」について御審議をお願いします。   まず,事務当局より説明をお願いします。 ○山下関係官 「第3 運送人の権利等」について御説明いたします。  現行法上,運送賃に係る債権は,1年の短期消滅時効に服するとされ,海上旅客運送について特に同種類の規定が設けられておりますが,これについては陸上,海上,航空運送の別を問わず,旅客運送の総則的規律とすることが考えられます。  また,(注)の危険物の通知義務に関する規律の要否につきまして,物品運送に関しては,危険物が事業者間で恒常的に大量に輸送されている現状などに鑑み,商法(運送・海商関係)部会において,荷送人に危険物に関する通知義務を課すことの当否などについて検討されているところでございます。  これに対し,旅客運送に関しては,旅客の携行するライターなどの取扱いを見ていただければ明らかなように,鉄道や飛行機などの各運送手段により危険物の範囲及びその取扱いは様々でありますので,一律に危険物に関する通知義務を課すことが,国民に身近な旅客運送という観点からは合理的であるとは言えないものと考えます。  また,持込みを制限する危険物の範囲や持込みを許容する場合の条件などにつき,鉄道運輸規程などの運送手段ごとの規則において,詳細に定められている現状を踏まえますと,商法において,旅客に危険物に関する通知義務を課す旨の規律を設けることは適当でないと考えられます。  以上の点につき,御審議いただきたいと存じます。 ○山下分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,御意見を御自由にお願いいたします。 ○道垣内委員 本文の方ですが,これは仮に民法第174条第3号がなくなった場合も,運送に関しては海上旅客運送などにそういう規定があることにも鑑み,1年という規定を置くという案として,できているわけでしょうか。 ○山下関係官 商法に規定する運送営業としては,そういう考えでございます。 ○道垣内委員 これは何ゆえに。 ○山下関係官 理由は複数考えられますが,まず一つは,やはり民法と商法とでは規定している運送というのは違うものと考えられまして,商法の場合は事業者による運送というのを規定しているというところから,大量性,継続性,証拠保全の困難性等に鑑みて,民法におけるものよりは短期である1年の消滅時効にすることが妥当であると言い得るかと思います。   また,陸上及び海上物品運送のところでは,運送賃債権は1年であるという現状に加えて,道垣内委員の御指摘のとおり,旅客運送のところでは,海上旅客運送については1年という規律があって,これは民法の改正の直接の対象になっていないということもありますので,そういう事情に鑑みて,運送賃債権の消滅時効は,現行の取扱いのとおり,1年とするというのが一つ説明にはなるのかなと思います。 ○山下分科会長 よろしいでしょうか。   ほかにございませんか。危険物の点も,特にこういう方向でよろしゅうございましょうかね。もし御意見がないようでしたら,この部分はおおむね御賛同があるということかなと思います。   それでは,続きまして,「第4 海上旅客運送に特有の規律」,1,2とございまして,それに続く「第5 その他」も併せまして,この部分の御審議を頂きます。   まず,事務当局より説明をお願いします。 ○山下関係官 まず「第4 海上旅客運送に特有の規律」の「1 堪航能力担保義務」につきまして,現行法上,海上旅客運送について船舶所有者は発航の当時,船舶を安全に航海をするのに耐える状態に置くことを担保するものとされ,この義務は無過失責任とされておりますが,国内海上物品運送における堪航能力担保義務については,商法(運送・海商関係)部会において無過失の運送人に責任を負わせることが酷であること等から,これを過失責任に改める方向で検討がされております。もっとも,そもそも運送人は運送契約に基づき旅客に対する安全配慮義務を負っており,裁判例においても,この安全配慮義務違反の有無が主たる争点となることが多く見られること等に照らすと,本文1のとおり,海上旅客運送について堪航能力担保義務に関する規律を削除し,債務不履行の一般原則によることが考えられます。   次に,本文2の海上旅客運送に特有のその他の規律につきまして,記名乗船切符や旅客に対する食料無償提供義務など詳細な規定が設けられておりますが,現代の取引実態に適応しない規律も少なくないと言われております。このような現代社会に適応しない規律を存置することは適当でないだけでなく,これと異なる契約条項が消費者契約法第10条により無効とされるおそれがあります。   また,商法制定当時と異なり,現在では標準運送約款が整備されている上,運送約款についての主務大臣の認可,その他の様々な行政的規制も定められていること等を踏まえると,現代の取引実態に適応せず,又は当事者間の契約に委ねることで足りるものであるとして,これらの規律を削除することが考えられます。   最後に,「第5 その他」につきまして,旅客運送の基本的な私法ルールに関して見直すべき事項がございましたら,御意見を頂きたく存じます。   以上の点につき,併せて御審議いただきたいと存じます。 ○山下分科会長 それでは,ただいま説明のあった部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○雨宮幹事 日弁連の事前検討会においては,堪航能力担保義務に関して,議論がなされました。   まず,一つの意見としては,堪航能力担保義務に関しては,物品は別としても,旅客運送に関しては厳格責任という考え方もあり得るのではないかというような意見で,更に海上旅客に特有の規定ではなくて,自動車,航空,鉄道なども含めた全ての輸送モードにおける堪航能力担保義務,その場合には堪航能力担保義務ではなくて,構造上の安全担保義務の適切な文言を用いるべきですが,あらゆる輸送モードにおいて構造上についての安全性を担保する義務を厳格責任として負わせたらどうかというような意見がありました。   それに対しては,例えば国際航空運送に適用されるモントリオール条約や海上旅客運送に適用されるアテネ条約においては無制限に厳格責任としておらず,賠償金額により厳格責任とするのを一定程度制限しておりますので,そのような制限を設けずに厳格責任を負わせるというのは運送人に過大な負担を強いることになるというような意見もありました。日弁連として意見がまとまっているわけではありませんが,今申し上げたような議論が日弁連の事前検討会ではなされました。   堪航能力担保義務の規定を設けることは不必要という趣旨のご説明をいただきましたが,私の個人的な意見としては,物品運送に関しては,堪航能力担保義務は規定されるものと理解していまして,その場合の意味としては強行規定ということにあると考えております。  先ほど来から議論のあった第590条第1項に,旅客の生命・身体に関するものに関しては,特約が無効である旨の規定があれば,少なくとも,身体・生命に関しては強行規定としての堪航能力担保義務の定めを設けなくても,特約を無効にする規定で対応できると思いますが,もしそういう規定を設けないのであれば,一般安全注意義務ではなくて,強行規定としての堪航能力担保義務を残すというのも,あり得ると思っております。 ○山下関係官 今の雨宮幹事のおっしゃった責任制限を付すというところですけれども,これは,人の生命・身体の侵害に係る賠償責任についても一定程度の責任制限を課すという案ということで考えてよろしいのでしょうか。 ○雨宮幹事 そういう意味ではありません。例えばモントリオール条約は10万SDRまでを厳格責任とし,それを超えると過失責任というような仕分けになっているので,そういう条約にならったような形でなく,全て無制限に厳格責任とするのは,堪航能力担保義務だけに限るとしても,少し行き過ぎではないかというような意見だと理解しています。 ○山下関係官 ということは,結果的には,現行法の過失推定責任よりも重くするということになるのでしょうか。 ○雨宮幹事 そうですね。この堪航能力担保義務に関しては,そういう意見が,少なくとも日弁連の一部の意見にはありました。但し,これは日弁連全体の意見ではもちろんありませんし,私の個人的な意見でもありません。 ○山下分科会長 いかがでしょうか。 ○加藤参考人 堪航能力担保義務の件ですけれども,法制定当時,明治の時代は,民間企業が行っている大量輸送機関というのは,おそらく海上交通に限られていたのではないのかというふうに考えております。しかも明治の法制定当時は,おそらく船舶安全法等々の安全法制もまだ十分に整備されておりませんし,あるいは国際条約に基づく国際的な安全基準というものもまだ十分には確立されていないという中で,この堪航能力義務というものが規定されたのではないのかなと,これは想像も入っておりますけれども,そう思うところであります。   ただ,現在では,そうした状況が大きく変わっているのではないのかなと思っております。陸海空,様々な交通手段というものが現在では存在しておりますし,かつそれぞれの交通手段について,それぞれ高度な安全規制というものが国土交通省によって行われており,車検にしろ,あるいは船舶の検査にしろ,定期的な検査というものが国の機関によって行われているというふうに考えております。   したがいまして,そうした状況の中で,海上旅客輸送だけを取り上げて,こうした堪航能力義務を課すということについては,やはり今一度その合理性というか,法的バランスというものも十分に考えて見直していくべきではないのかなと思うところでございます。   旅客船協会としては,海上輸送に対してこうした特別な規律が必要であるとは決して思ってはおりませんけれども,万一こういう規律を残すことになる場合には,全ての輸送機関につき一律な取扱いというものが当然検討されるべきではないのかと考えるところであります。 ○山下分科会長 ただいまお二方から御意見がございましたが,いかがでしょうか。 ○宗宮関係官 旅客運送契約が消費者契約であることが多いという観点で,その運送人の責任を無過失責任から過失責任にするということに関して,きちんと検討していきたいと思っているのですけれども,それに関連して二つ御質問させていただきたいと思います。   一つ目は,分科会資料の中で,無過失責任を過失責任化するということなのですが,過失責任化した場合には,安全配慮義務と異なる独自の意義を見いだすことが困難だという形で説明されているところ,ここで言う安全配慮義務と堪航能力担保義務というものの整理はどのようにされているのでしょうか。具体的な問題意識としましては,二つの義務というのは必ずしも同一視できるものではないのではないかというようなことが気になっております。完全に同一であるとか,あるいは包含関係,包摂関係にあるというものであれば,ここに記載されているようなことが言えるのかとは思うのですけれども,主たる争点が安全配慮義務ということで争われている事例が多いとか,重なる部分があるのだということにとどまるのであれば,同一視することはできないのではないかと思っておりまして,二つの義務の整理といいますか,関係を御教示いただきたいというのが一つ目です。   二つ目は,仮に安全配慮義務というものと同一視できるとか,包摂,包含関係にあるととらえることができたとした場合に,安全配慮義務が旅客運送契約の付随的な義務として判例上も認められてきているし,今までもそういう議論がされているということは理解しているのですけれども,具体的にどういう内容であるかとか,誰と誰との間にどういうふうに認められるかということが明文で明記されているわけではないのだろうと考えています。そうすると,今までであれば,堪航能力担保義務という形で条文上のとっかかりであるとか,責任の根拠というものがあったところが,今後はなくなってしまって,安全配慮義務という形で付随的な義務としての説明なり,適用になってしまうということが,果たしてそれでよいのだろうかということを気にしています。   国内海上運送については,国際海上物品運送法の第5条第1項各号の規定にあるものと同様のものを定めるというような議論がされていると思うのですけれども,旅客運送については,それに代わる明文等は特に置かないで削除するという御提案であって,そのような取扱いをすることとした理由が何かというのを教えていただければと思います。 ○山下関係官 まず1点目の安全配慮義務と堪航能力担保義務との整理につきましては,事務当局としても様々考えているところではございますが,結局のところ,裁判例等を見ますと,旅客運送に関して堪航能力担保義務違反の有無という形で争われたという事例が見当たらず,逆に安全配慮義務違反の有無という争点しか見当たらないものと思っておりますので,裁判実務での区分けというのはあまりされていないのかと思っております。この点について,研究者の皆様で整理がなされているものがあれば,御披露いただきたいと思っているところでございます。   あと,たしか3点あったかと思いますけれども,二つ目は,規律をあえて設けないということにした場合に,裁判例だけに頼ることでは,ちょっと旅客の権利が弱くなってしまうのではないかという御意見でしたでしょうか。 ○宗宮関係官 二つに分かれてしまったのですけれども,要は一つで,何らかの代替的なものの検討はせずに,削除すると考えた理由といいますか,国内の海上運送についての議論ですと,また別途規律を設けましょうということが言われていたはずなのですけれども,そういうような過失責任に変えるに当たって,別の手段の検討もあってもよかったのかと思うのですが,今回,旅客運送に関して削除と考えられた理由はいかがかなという質問です。 ○山下関係官 まず,国内海上物品運送のところでは,新たに設けるというよりは,現状ある規律,堪航能力担保義務の規律がございますので,それをそのまま置いておいて,それをより現代化するという形で,国際海上物品運送法における堪航能力担保義務のような規定に改めることができるのではないかという判断でございます。   物品の方は,今,部会の方で検討されておりまして,一方で旅客の場合はどうかというところでございますが,旅客の方でこの規律を存置するということとして,強行法規性を残すということも一応は考えられますが,そもそも無過失責任として置いておくというのが,現代的な規律として,運送という一般的な契約の中で本当にいいのかどうかという話になるかと思いまして,そうなると,過失責任に改めるという方向の議論になるだろうと,そして,過失責任とする場合に,旅客に対する運送人の責任が安全配慮義務違反の有無という形で争われているという現状で,果たしてこの規律をあえて残しておく意味が見いだせないのではないかという考えで,物品と旅客の議論の流れが結果的に異なっているものと考えます。すなわち,物品の方は,堪航能力担保義務違反が争われるというのは,分科会資料1にも書いてございますように,実務的には,航海過失免責等の主張に対してカウンターパンチとして堪航能力担保義務違反がありましたという議論の枠組があるという意味で,規律を存置する意義が見いだせるとは思いますが,他方,旅客の場合は,そのような意義が見いだせないのかというところで,こういう二つの異なった整理としているところでございます。 ○松井(信)幹事 更に補足いたしますと,今の海上旅客運送の堪航能力担保義務というのは,物品運送の規定を準用しているだけで,どう読み替えるかがはっきりしません。ですので,その中身というのは非常に曖昧であり,それを無理に明確化しようとすると,国際的に例を見ないような規定になりかねないというのを懸念しております。   また,商法上の堪航能力担保義務は発航の当時の能力を担保する義務にすぎないのですけれども,旅客運送においてそのような規律は適切でないのではないか,物品運送に関する最近の国際条約では,発航の当時に限らず担保するという流れになっているわけではありますが,現在の日本の批准している条約では,そこは発航の当時となっているために,物品運送では発航の当時とせざるを得ないという現状にあり,旅客運送について現行法を維持するということが果たしてよいのか,むしろ,より充実した旅客保護が図られる安全配慮義務という形で,航海の最初から最後まで安全配慮義務をしっかりとかけて考えることが望ましく,他の運送手段とのバランスもとれるのではないかと,その辺りを考えた次第です。 ○宗宮関係官 ありがとうございます。ここで反対とか,賛成とかということを申し上げるつもりではなくて,確認というか,質問をさせていただきたかったというところではあるのですけれども,今,松井(信)幹事がおっしゃった最後の点に関しては,結局はその義務の範囲がどこまでなのかというところを考え直すというような対応もあり得ることですし,旅客に関してはこういう義務が必要なんだということが今までの積み重ねである程度あるのだとすれば,そういった規律を代わりに設けるというような検討もできるのではないかということを気にしているということを申し上げさせていただきたいと思います。 ○山下分科会長 この安全配慮義務というのは,先ほどの第2の1の第590条第1項を,今日の提案では片面的強行規定にしようという議論がありましたが,第590条第1項との関係はどういう関係と考えられていますか。 ○山下関係官 例外も考えられますが,基本的には第590条第1項の枠内で安全配慮義務の判断がなされるものかと思っております。 ○山下分科会長 そういう理解でいいのでしょう。債務不履行の債務というか,注意義務の中にそういう意味も含まれており,それが片面的強行規定ということで,単に先ほど付随義務にすぎないのではないかと言われるよりは,もうちょっと強い義務かという気はするのですよね。 ○宗宮関係官 付随義務かどうかというところはそのとおりかもしれないのですが,結局は義務の内容が安全配慮義務という形よりは何かしらの条文があった方が明確になりやすかったり,安全配慮義務というのはどこかに明文であるわけではなく,運送契約とか,一定の契約類型に関する内容として示されているものでもないと思われまして,そうすると,実際の紛争解決に当たり,実際何かが起きたときの交渉においても,主張がしにくくなってしまう。今であれば,準用でしかないというのでいろいろな解釈があるかもしれないけれども,とっかかりがある現状から,それがなくなり,旅客に不利なものは無効になりますとか,そういうやや一般的な形での片面的強行法規等の規律はあるけれども,一般の人から見たときに分かりにくいとか,ちょっと勉強していなければ分からないとかいうことになってしまうことが気になっています。それに対する何らかの御説明であるとか,現状から後退するものではないということが担保されるような御考えがあれば,御説明頂ければと思います。 ○山下分科会長 ありがとうございます。御趣旨はよく分かります。 ○箱井幹事 今,いろいろな御懸念が出ているようですけれども,先ほどの松井(信)幹事がおっしゃった,「より充実した旅客保護」というところがよく分かりません。要するに,旅客運送において堪航能力担保義務が実際上必要ないということですね。しかし,海上物品運送の場合でも,内航の場合に堪航能力担保義務の特別規定が要るかどうかということは同じく問題になります。これについては内航・外航をセットにして,海上物品運送については残しておきたいというのは分かります,一つの議論として。また,先ほど諸外国ということでお話がありましたが,外国にも例がないわけではないですし,書き振りにしましても,船体能力,運航能力についてはさほど難しくないでしょう。そして,堪貨能力は,おそらく旅客の保護を重視して書こうと思えば,全くできないとは思えません。また,もし置くということになれば,かなりの方が,これは発航当時ではなくて,航海の全過程を通じて堪航能力を備えさせるべきだと考えるのではないかと思います。今は物品運送でもそのように規定する条約もできておりますし,フランスの旅客運送の場合には「全過程を通じて」という規定は古くからありますので,先ほどの御紹介が「できない理由」にはなりにくいのかなと感じます。特に,より旅客の保護だとおっしゃられた点が気になりまして,あってもなくても変わらないという説明なら納得するのでありますけれども,旅客の一層の保護とおっしゃられたところの趣旨,何か別のところにありましたら教えていただきたいのですけれども。 ○松井(信)幹事 今のお話の中で,堪貨能力,すなわち国際海上物品運送法第5条第1項第3号をどのように「人」について適用するか,人をどういう状態に置くことについて担保するということになるのか,これを具体的に適用可能な正確性と内容をもって法律上規定するということが難しいと思いました。フランス法のように,「旅客の安全を確保する」というふうに,非常に曖昧な表現ならば可能でしょうが,それは安全配慮義務と変わらないと思いますので,その辺りの御示唆を頂けるとありがたいと思います。 ○箱井幹事 答えを持ち合わせていませんが,今でも商法第738条は旅客運送の場合に準用されておりまして,一応,旅客運送の場合の堪航能力担保義務の内容について解釈上はこうであろうということを具体的に議論してきておりますので,そういうところをもとにして,できるか,できないか,もし作るとなれば検討する必要はあるのだろうと思います。 ○道垣内委員 2点あるのですが,1点は,安全配慮義務があるからという説明の仕方の問題でして,正に山下関係官がおっしゃった,さきほどの第590条とも関係するのですけれども,その旅客運送における主たる給付義務の違反があって,それによって旅客の安全が害されたような場合を,ざっくりと安全配慮義務と呼んでしまっているような安全配慮義務の話と,例えば駅のホームに柵がない,あるいは船に柵がないでもいいのかもしれませんが,そういうふうな主たる給付義務とは観念しにくいものについて,安全配慮義務を根拠にして一定の責任を認めるという類型とは,同じく安全配慮義務という言葉を使っていても,かなり性格が異なるものではないかという気がするのですね。そこで,この堪航能力担保義務の削除によって代替されるというのはいずれの話なのか,あるいは両方の話なのか。とにもかくにも安全配慮義務という本来的には主たる給付義務が存在しない場合について発展してきた概念でざっくり説明してしまうと,多少誤解が生じ得るのではないかという気がいたします。それが第1点目です,感想ですが。   2点目は,私は本当に不勉強で分からないのですけれども,旅客運送で借りてやっていると,例えば船を借りてやっていると,旅客運送をやっていますという場合,バスでも─バスは堪航能力はないかもしれませんけれども,そのときに,現行法ですと船舶所有者の義務と書かれていますよね。その船舶所有者が責任を負うという話というのは,いわゆる安全配慮義務,先ほど批判しましたが,あえてこれを使いますと,安全配慮義務の話として包摂できるのか,それとも契約の実情ないしは類型に関して根本的な勘違いをしているので,そういうふうな疑問が出たのか。いずれにせよお教えいただければと思います。 ○山下関係官 ちょっと確認したいのですけれども,船を借りている傭船者が運送人として旅客と契約した場合についての船舶所有者の責任ということでしょうか。 ○道垣内委員 そうです。 ○箱井幹事 海上運送の場合は,前もここの部会でやっておりますけれども,船舶賃貸借については第704条第1項があって,これは運送契約の話でございますので,いずれも,運送人である船舶賃借人の安全配慮義務と,それから堪航能力に関する注意義務が問題になってくるということだと理解しております。 ○山下分科会長 船舶所有者という言葉遣いは古い使い方ですから,今でいう運送人という意味で使っていたので,今後改めましょうということです。 ○松井(信)幹事 堪航能力についていろいろ考え方があるかと思うのですが,例えばこの概念を残して陸上運送やほかの運送に及ぼそうとしたときに,例えば,運送事業者である参考人の皆様が,御自身の業種のどこが堪航能力に相当するものなのかという限界線をうまく付けられるかどうかという問題なのかもしれません。例えば,鉄道において,先ほどホームの話がございましたが,この辺りを堪航能力という言葉ないしそのイメージでとらえるのかどうか,その辺りもし御印象があればお伺いしたいと思います。 ○塚越参考人 あまりここは関係あると思って検討しなかったのですが,例えば,やはりホームというか,駅の設備に瑕疵があるとか,そういう場合は,今まで御指摘のように普通の商法の安全配慮義務の範囲内で処理するというか,何か瑕疵があれば,当然民法第717条の問題もあるとは思いますけれども,それにプラスして運送契約上の安全配慮義務違反ということで,被害者の方から訴えられますし,当社もそのつもりで主張をするということになります。ただ,当然,無過失責任という頭はないですから,過失がなかったことを証明できれば責任はないと意識していますので,それが無過失責任になってしまうというと,ちょっと変わってきてしまうのかなとは思います。 ○松井(信)幹事 旅客に関する堪航能力の裁判例を一生懸命調べても見当たらないという実情でして,旅客に関する堪航能力を検討する素材について御指摘を頂ければ,具体的にどのような場合があるということを教えていただければありがたいと思った次第です。 ○松井(秀)幹事 瑣末な話で恐縮なのですけれども,手荷物を預かる場合,手荷物との関係では物品運送に準ずるものとして,堪航能力担保義務というのは残るのでしょうか。 ○山下関係官 受託手荷物については,受託手荷物の保存に適する状態に置く義務なども考えられますし,物品の運送人と同一の責任を負うという形で,残ることになります。 ○松井(秀)幹事 ということは,旅客運送をやっている運送事業者は,旅客との関係では堪航能力担保義務に基づく責任を問われることはないけれども,手荷物を預かる限りにおいては,やはりなお物品運送人と同一のものとしてその義務があるという,こういうイメージになりますでしょうか。 ○山下関係官 現状の案ではそういうことになると思います。 ○松井(秀)幹事 先ほど携帯手荷物も物品運送に準ずるというような規律を置くという話がございまして,その中に堪航能力担保義務も含まれるということでしょうか。 ○松井(信)幹事 携帯手荷物の場合は,条文でいうと国際海上物品運送法第5条第1項の何号に当たるという形になるのでしょうか。 ○松井(秀)幹事 私もちょっと厳密には分からないですけれども。 ○松井(信)幹事 イメージがしにくいかと思いますが。 ○松井(秀)幹事 条文でいいますと,第591条が海上運送に準用され,第591条は,受託手荷物については物品運送の責任と同じだというので,物品運送人と同じ責任という中に堪航能力担保義務が含まれるのではないか,という読み方をしたのです。そもそも第591条にいう物品の運送人と同一の責任という文言の中に,堪航能力担保義務は入らないと読めばともかく,ここに入ると読んでしまうと,結局手荷物に関しては担保義務が残ってくるかと思います。先ほどの携帯手荷物についてどうするかという問題と関連して,また少し厄介な問題が出てくるのではないかと思ったものですから,念のための確認としてお伺いいたしました。 ○加藤参考人 確認なんですけれども,車両なり,航空機の機体なりというものについては,旅客の堪航能力義務はないけれども,手荷物についてはバスも鉄道も航空も全て堪航能力義務があるということなのでしょうか。それとも,それは,船以外のバス等の手荷物についてはないという理解でよろしいのでしょうか。 ○山下関係官 バス等の船以外のものについては,堪航能力担保義務というのは,今現時点では商法上規律されていないです。 ○山下分科会長 ほかにいかがでしょうか。   いろいろな論点が指摘されたと思います。なお検討していただこうかと思いますが,その他の第4の「2 海上旅客運送に特有の規律」を削除するという点,あるいは第5その他でほかに何か検討すべき点がないかと。この辺りはいかがでしょうか。   2の第777条以下の規定を削除するという方向について,何か御意見はございますか。何か問題がある,あるいは残すべきではないかというような御意見は特にはございませんでしょうか。   ないようでしたら,その他の点もいかがでしょうか。 ○塚越参考人 ちょっとこの場で言うのが適当かは分からないのですが,鉄道の場合ですけれども,ネットワークですので,例えば東京駅で東京から福岡までの切符を買っていただいた場合は,その間に,例えばJRだけでも東日本,東海,西日本,九州と,複数の運送人が関与しています。これは,現行法の解釈として正しいかは分かりませんけれども,一応鉄道側の解釈としては,それぞれの区間に応じてそれぞれの運送人が契約をしているという,いわゆる連絡運輸という解釈をしています。そういう解釈がこの旅客運送契約を定義することで変わってくるのかどうか。変わらないのであれば別にいいと思うのですが,変わってくるのかどうか。  あと複合運送とか,そういうところでもしかすると議論されているのかもしれませんけれども,例えばそういう場合にこういうのが連絡運輸ですよとか,そういう推定規定というか,任意規定的なものを置く必要はないのかなと。置いていただいた方が明確になるのかなという気持ちがあって,ちょっとあまり考えがまとまっていなくて分かりにくいのですが,何かそういう議論をされているところがあれば教えていただきたいと思います。 ○松井(信)幹事 物品運送の場合に,複合運送がされるときは,運送品の損傷等がどこで生じたかが非常に分かりにくいという現実がございます。しかも,その場合に,どこで損害が生じたかによってルールが違うということも生じます。そこで,そのための規律というものを設ける方向で,今部会の方で検討しているところです。  これに対して,旅客運送の場合には,お話のような理解だと,各個別の事業者と旅客の間で契約をされて,旅客に損害が生じた場所というのも比較的明らかなことが多かろうと思います。現行法の下で事故が起きた場合に,損害賠償請求がされ,また対応していらっしゃると思いますが,特段対応に困られたという御経験がおありでしょうか。そうでないのであれば,現行法のまま規律を設けないということも十分あるのではないかと思いますが。 ○塚越参考人 実務上は被害を申告される会社と,事故の発生した場所の会社と,あと車両を違う会社が持っていたら,本当の原因になっている会社が違う場合があって,どこが対応すればいいのかというのは一応議論になって,ただ,整理としては発生場所で一応対応して,あとで求償みたいな,内部関係で処理するということをやっていまして,特にそれが非常に問題になるというわけではないのですが,少し気になったのは,運送契約の定義をすることで,そこの解釈がもし変わってくるのであると少し混乱するのかと思います。 ○松井(信)幹事 分科会資料1の2ページの旅客運送契約の冒頭規定は,今日の初めに道垣内委員からもお話があったとおり,現在の請負契約と解されている民法の規律を商法の運送に即して整理したというものですので,現在の法制の実質を変えるものではございません。ですから,今おっしゃったような御懸念は特に当たらないと考えています。 ○塚越参考人 分かりました。ありがとうございました。 ○山下分科会長 ほかに何かございますでしょうか。 ○松井(秀)幹事 たびたび申し訳ありません。戻ってもよろしいでしょうか。  第4の「2 海上旅客運送に特有の規律」の関係で,ちょっと実務が分かれば教えていただきたいのですけれども,第781条に解除に関する規定があるのですが,例えば,実際に発航前に旅客が解約したいというときに,どういう扱いをされているのでしょうか。もしこれを単純に削除すると,解約権がなくなってしまうのですけれども,どういう扱いで対処されるのか,もし分かれば教えていただきたいと思います。 ○山下分科会長 加藤参考人,これに関して何かご存知でしょうか。 ○加藤参考人 すみません,約款上正式にどうすべきなのかというのは,あるいは法律上どうすればいいのかというのはちょっとさておき,実際の現場では,乗る前のキャンセルであれば通常全額払戻しをさせていただいているというのが船社の取扱いだと思います。目の前で切符を買っていただいて,やはり何か電話が入って,急用ができたから乗らないと。それはその場でお返しするというのが通常のやり方だと思います。 ○松井(秀)幹事 おそらくは,約款のきちんとした規定を見なければお分かりにならないかもしれないですけれども,約款等で対処している可能性が高かろうということではあるのですか。 ○加藤参考人 約款といいますか,約款上それが正式なのかと,何かキャンセル料を取るべきなのかどうなのかというのは少し分かりませんけれども,実務上はほとんどの船社でそのままお返ししていると,切符はその場で払戻しをしているというのが現状だと思います。 ○山下関係官 海上旅客運送の標準運送約款を見ますと,基本的には発航前については券面記載額全額の払戻しをするということになっております。 ○松井(秀)幹事 そうなると,約款は法律の規定よりも旅客に有利な形の規定を置いているわけなんですけれども,もしこの規定を削除すると,単純に約款でそれが置かれるという状況が生じて,解約に関する根拠規定は商法の中にはなくなるという,こういうことになるのですけれども,それはさほど問題はなかろうという御認識でいらっしゃるのでしょうか。 ○山下関係官 おっしゃるとおりであり,商法に根拠規定はなくなるということになると思います。 ○松井(秀)幹事 分かりました。 ○山下分科会長 ほかにございませんか。   もしないようでしたら,「第5 その他」まで御意見を頂いたということで,頂いた御意見を参考に,また事務局に検討いただくということにいたします。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   次回の議事日程等につきまして,事務局から説明をお願いします。 ○松井(信)幹事 本日はどうもありがとうございました。次回は,来月11月26日水曜日,午後1時半から午後5時半までの予定です。場所は,この法務省20階の第一会議室でございます。ただ,終了時刻につきましては,本日もこのように早く終わっておりますし,次回の資料を作成してメールで送信する際に,おおむねこの程度になるであろうということを御連絡させていただきたいと思います。  次回の議題につきましては,本日議論した論点のうち,中間試案の取りまとめに当たり,なお議論が必要と思われる論点の二読という形でさせていただきたいと思っております。 ○山下分科会長 それでは,よろしくお願いいたします。   本日の審議はこれで終了します。どうもありがとうございました。 -了-