法制審議会国際裁判管轄法制 (人事訴訟事件及び家事事件関係)部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  平成26年9月26日(金)   自 午後1時31分                         至 午後5時56分 第2 場 所  東京地検会議室 第3 議 題  (1)後見等関係事件の国際裁判管轄         (2)失踪宣言・不在者財産管理事件の国際裁判管轄         (3)その他の家事事件の国際裁判管轄 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○高田部会長 では,予定した時間になりましたので,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会の第5回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   まず,秋吉仁美前東京家庭裁判所判事から森邦明東京家庭裁判所判事に委員の異動がございました。  (自己紹介につき省略。) ○高田部会長 なお,岡委員,深山委員,金子委員,岡田幹事,筒井幹事は本日,御欠席です。   次に,配布資料の確認をさせていただきます。事務局からお願いいたします。 ○内野幹事 本日,お配りいたしました資料は,部会資料5-1と5-2でございます。 ○高田部会長 よろしゅうございますでしょうか。   まず,前回,最後の方をやや駆け足で通り過ぎたこともございまして,前回の部分について御発言があればお願いします。 ○和波幹事 前回最後に議論になりました遺言書の検認について,実務の運用等も確認して参りましたので,補足説明をさせていただきたいと思います。   遺言書の検認につきましては,その法的性格や管轄原因について,学説上も様々な議論があると承知しておりますけれども,少なくとも実務上は,準拠法として法廷地法を適用していることが多いようでございます。その理由について一義的に申し上げることはもちろんできないわけですけれども,少なくとも日本法上の遺言書の検認ということに関して申しますと,実体法上の権利義務等の効果が結び付けられていない正に証拠保全的なものであると考えられておりまして,そういう手続法的なものであるということを前提として,法廷地法が適用されているのではないかと考えられるところでございます。   その上で,それを前提として国際裁判管轄をどう考えるかということなんですけれども,前回,御指摘もございましたが,証拠保全的なもの,手続法的なものと考えた場合には,そもそも,今回の検討の射程から外れるという御議論は当然あり得るのだろうと思っております。ただ,一方で,最初に申し上げましたとおり,その法的性格でありますとか,あるいは国際私法上の規律ということが明確になっていないということを考えますと,裁判実務の観点からは管轄原因について明確な規定を置いていただけると有り難く,そういうニーズがあるということも,前回,申し上げたとおりでございます。   その場合の規律をどうするかというのは,正にこの部会で御議論いただくことであろうとは思っておりますけれども,遺言書の検認について,遺言書が存在していてその証拠保全的なものである,ということを強調いたしますと,遺言書の所在地管轄というものが素直に出てくるのではないかと思っているところでございます。その意味では,前回,高田部会長が御指摘になりましたが,遺言書の所在地を特別の扱いとして,規定を設けるということも考えられるのではないかと思っているところでございます。   なお,前回,道垣内委員からも御指摘があったかと思うのですが,日本法上の遺言書の検認は,今,申し上げたとおり,証拠保全的なものと整理できるのではないかと考えておりますが,例えば英米法系のプロベーションのようなものなど,実体法上の効果が結び付けられている制度もあると承知しております。そのようなものについて日本法上の遺言書の検認と全く同じように考えるべきか,については,恐らく別の議論があり得るのだろうと思っておりまして,例えば,遺言の有効・無効のようなものがその効果として結び付けられているとすれば,その部分については,例えば日本法上の遺言の有効無効確認訴訟のようなものに引き付けて,民訴の規定によるということも考えられるのかもしれませんし,あるいは,今回問題になっております家事事件手続法上の相続の単位事件類型あるいは単位法律関係に含まれる,そのような法的性格のものもあり得るのではないかなと考えております。   その意味では,日本法上の遺言書の検認と,外国法上の実体法上の効果が結び付けられている制度とは,区別するという考え方もあり得るように思っておりまして,その点も踏まえた管轄規定の御議論をしていただければ有り難いと思っております。外国法に基づくものについては,当然,手続法上の適用問題というものが生じてくる可能性がございますので,それについては,日本の裁判所がどこまで手続を代行できるのか,そのような点が問題になるのではないかと思っております。 ○高田部会長 ありがとうございました。ほかに御発言があれば承りたいと思います。特にないようでしたら,今御指摘の点も踏まえて,次の二読で改めて御議論いただければと存じます。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は前回,積み残しました後見等関係事件以下について御議論いただきます。では,まず部会資料4-2,後見等関係事件でございます。資料の説明をお願いいたします。 ○沖本関係官 部会資料4-2,第1の本文及び補足説明の1から6までについて説明します。   本文では,成年後見等関係事件の単位事件類型を成年後見等に関する審判事件とした上,四つの管轄原因を設けることを提案しています。   補足説明の概要ですが,前提として現行法の規律を見ますと,後見等開始の審判事件の国際裁判管轄については,法の適用に関する通則法,以下,通則法といいますが,通則法第5条に規定されております。通則法の立案に先立つ法制審議会国際私法(現代化関係)部会における議論等については,部会資料に概要を記載しておりますので,そちらを御参照ください。結論として,通則法第5条では,後見等開始の審判事件の国際裁判管轄について,成年被後見人等となるべき者の住所若しくは居所又は国籍を管轄原因として採用しています。これに対し,保護措置に関する審判事件の国際裁判管轄については,同部会で検討はされたものの,結局,規定は設けられることなく,現行の通則法の下では解釈に委ねられています。   以上を踏まえて,まず,単位事件類型についてですが,通則法においては先ほど説明しましたとおり,後見等開始の審判事件の国際裁判管轄についてのみ,明文の規定が置かれています。しかし,成年後見等については,後見等開始による行為能力の制限と保護措置とが密接な関連を有しており,後見等開始の審判事件についてのみわが国の管轄権が認められ,保護措置に関する審判事件についてはわが国に管轄権が存しないような事態,又はその逆の事態が生ずるのは相当でないと考えられます。そこで,保護措置に関する審判事件につきましても,新たに国際裁判管轄の明文の規定を設けることを前提とし,さらに,後見等開始の審判の取消しの審判事件も同一の単位事件類型に含めることとして,単位事件類型を「成年後見等に関する審判事件」とすることを提案しています。   次に,管轄原因についてです。一つ目は,成年被後見人等となるべき者又は成年被後見人等の住所又は居所です。この管轄原因については,通則法第5条において,後見等開始の審判事件の国際裁判管轄における管轄原因の一つとされているところですが,後見等開始の審判による行為能力の制限が,成年被後見人等の保護に加えて,成年被後見人等と取引を行う第三者の保護という公益的な機能を有するものであること,後見等開始の審判事件については,国内土地管轄が成年被後見人等となるべき者の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属するものとされていることなどに鑑み,本文①の一において,成年後見等に関する審判事件について,成年被後見人等となるべき者又は成年被後見人等の住所又は居所を管轄原因とすることを提案しています。   管轄原因の二つ目は,成年被後見人等となるべき者又は成年被後見人等の国籍です。この管轄原因については,通則法第5条において後見等開始の審判事件の国際裁判管轄における管轄原因とされているところですが,わが国においてその者及び利害関係人の保護を考慮する必要がある場合があり得ること,在外日本人保護の観点,外国に居住する日本人に対して後見等開始の審判を行う場合であっても,外国に居住する要保護者に対する陳述の聴取や鑑定の実施については,要保護者が一時的にわが国に帰国した際に実施するほか,司法共助等を得て手続を行うなどの方法を採ることも考えられることなどに鑑み,本文の①の二において,成年後見等に関する審判事件について本国管轄を認めることを提案しております。   管轄原因の三つ目は,後見等開始の審判事件を除き,日本において後見等開始の審判があったことです。保護措置に関する審判事件及び後見等開始の審判の取消しの審判事件については,後見等開始の審判をした裁判所が判断をすることがふさわしいと考えられることから,本文の①の三において,後見等開始の審判を除き,日本において後見等開始の審判があったことを管轄原因とすることを提案しております。   なお,ここまでの説明では,外国でされた後見等開始の裁判の承認及び後見等開始の審判の取消しの審判事件も含めた単位事件類型として,「成年後見等に関する審判事件」を単位事件類型とすることを前提にしております。しかし,外国でされた後見等開始の裁判の承認についてどのように考えるかという点は議論があるものと思われます。このことに関連して,外国でされた後見等開始の審判の取消しの審判事件については,後見等開始の審判がされた国に限って管轄権を認めるものとすることも考えられます。   ところで,通則法の制定当時,本人の財産の所在地を後見等開始の審判事件の管轄原因の一つとすることについては,法制審議会の部会において議論がまとまらず,規律が設けられなかった経緯があります。本人の財産の所在地を管轄原因とすると,本人の財産が所在するわが国で後見人と取引をしたい第三者の便宜を満たすことができ,また,例えば,成年被後見人が外国にいる場合に,わが国に所在するその財産を後見人が管理して収益を上げることが可能となるなど,本人の保護に資する利点もあると考えられます。他方で,少額の財産しか所在しない場合にも管轄が認められることになり,過剰管轄となる場合があり得るなどの問題点を指摘することもできます。   これらの点を踏まえて,本文において,通則法第5条が定める後見等開始の審判事件の国際裁判管轄と同様に,本人の財産所在地を成年後見等に関する審判事件の管轄原因とする提案はしておりませんが,この点について御意見がありましたらお願いします。   補足説明の6までの説明は以上です。 ○高田部会長 では,ここで区切りまして「第1 成年後見等関係事件」の1から6について御意見を伺います。通則法の制定時に既に議論があったところかと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 5の(2)で書かれてあることは,このとおりかなと思っているんですけれども,このような,後見についての付随的な裁判というか審判というものを前提にするときに,そもそも,①の三の管轄以外に,①の一や二の管轄を認める必要があるか,あるいは認めるべきなのか,という問題意識もあると思いました。全部が全部,そうか分からないんですけれども,例えば,成年後見人の監督,報酬の付与,あるいは解任,その類いの処分を考えてみると,それは何か成年後見人を選んだ裁判所,後見開始決定をした裁判所しかできないようにも思えます。住所地が移ったからといって,住所地あるいは国籍国の裁判所に,ほかの国の裁判所が選んだ成年後見人を解任,あるいは監督の処分を求めるというようなことがあり得るのか,疑問に思うところです。先ほど沖本関係官が言われたように,外国の後見等開始決定を承認するかどうかという問題と関係すると思いますが,仮に承認を前提にした場合に,そこが気になっているところです。 ○高田部会長 いかがでしょうか。外国での後見等開始決定があった場合の保護措置について,その全てについて日本の管轄を認めるのはいかがか,という疑問が提起されたということかと存じますが,いかがでしょうか。 ○和波幹事 今,山本和彦委員がおっしゃったことと関連すると思いますが,後見等の開始についてこのような管轄規定を設けるというのは,元々,通則法にもあるというようなところで余り大きな異論はないのかなと思っているのですけれども,保護措置についてこのような広い管轄を設ける法制は,外国での後見等開始の裁判を承認するということを前提としないと,余り想定されないのではないかと思います。外国の後見等開始の審判を承認した場合に,その後の保護措置を日本の裁判所がきちんと行うことができるのだろうかというのは,実務的には非常に気になるところでございます。後見といいますのは,御承知のとおり,個々の取引,個々の法定代理権がどうかという問題ではなく,後見制度そのものを受け入れて,その後の監督をどう行うかということが当然のように問題になってくるわけで,外国法に基づいて開始した後見の保護措置を日本で行う場合に,外国法又は日本法のいずれに基づくのか,そういう問題もありますし,きちんとした監督等が行えるのだろうかというのは,実務的に非常に不安に思うところです。   実際に担当されている裁判官等に少しお伺いしたところ,実際に外国の裁判を承認して外国法等に基づいて後見を行った例というのはほぼないと伺っています。必要な場合には,日本で後見を開始するという取扱いが一般的であるようですので,その取扱いを前提とした管轄原因を考えることもあり得るのではないかと思っております。 ○道垣内委員 この辺りの規定はなかなか難しいのですけれども,通則法の5条によりますと,このような裁判は日本法によるということになっておりますところ,他方で,部会資料の2ページの(注3)の一番最後の方では,外国法において当該事件類型に相当するものと解されるものを含むと書かれています。私は,一般的には,家事事件について余りに日本法に一対一対応しているような規定を置くよりは,もっとざっくり外国法上のそれも含む,どこまで含むかはなかなか難しいのですけれども,含むような規定ぶりの方が良いと申し上げてきました。しかし,ここについては,日本法を準拠法とすると定める通則法5条がある以上は,外国法上のものが含まれるということの趣旨がよく分かりません。外国法上の何らかの裁判をしてほしいという申立てがあっても,準拠法は日本法になるわけですから,この関係がよく分かりません。   しかし,いずれにしても,通則法から国際裁判管轄の規定を削除するという前提であると理解しております。準拠法の規定だけをどのような形で残すのか,その辺がよく分からないのですけれども,そのようにしたときに,外国法上の類似のものも広く含めるようにということで,成年後見等という単位法律関係にすることは私は結構かと思います。とはいえ,今の(注3)のところについてよく分かりませんので,御説明いただければ有り難いです。 ○高田部会長 道垣内委員に,御発言の前提を確認したいのですが,後見開始決定の準拠法は日本法ですが,保護措置の準拠法も日本法になるという理解でしょうか。 ○道垣内委員 部会資料のように書いたときに,そこがどうなるのかがよく分からないのですけれども,通則法の35条にいくということになるのではないでしょうか。 ○高田部会長 あるいは外国でされた後見等開始決定が承認の対象となり,日本で保護措置がされるということはあり得ないということでしょうか。 ○道垣内委員 あり得なくはないと思います。 ○高田部会長 その場合の保護措置の準拠法は,一つの考え方によると承認ですから,法廷地法で認められる効果が認められることになるという考え方も成り立つという御発言があったのではないかと思いますが。 ○池田委員 ただ,実務的には,どのような場面で承認がされるかというと,余り考えにくいような気がしています。明確に承認というようなことをしなければならない場面,例えば,外国における後見人が日本で訴訟をする場合は,それはそういうものとして訴訟をすればよくて,そこで何かそれ以上のことをするということは余り考えられません。保護措置との関係で,承認を前提として何かをするという場面が,直ちには思い浮かべられないんですが,どのような場面を想定しているのか,その辺りを共有できればと思いますが。 ○和波幹事 仮に承認をするとした場合でも,外国から,法定代理人として後見人と称する方が来られて,その権限を認めればよいかどうかの判断をするだけであれば,それほど大きな問題にはならないと思います。ただ,その権限を認めるためには,その根本となる裁判を恐らく承認しなければならず,それが後見等開始の裁判であるとするならば,結局,日本としては,後見等の全体を承認したことになってしまうのではないか。そうすると,一部である法定代理権という部分だけ,つまみ食い的に効果を認めるということにしてしまってよいのだろうかというところは疑問に思います。   そうであるとすれば,これは理念的な問題かもしれませんが,全てに承認の効力が及ぶとするならば,日本の家庭裁判所が,その承認に基づいて後見人の監督や指示などをしなければいけない義務も発生してしまうのではないかと思うところがあります。仮に,個別の法定代理権の有無だけを取り出せるのであれば,別の議論ができるのかもしれませんけれども,そのような切り分けができるのだろうかというのは疑問に思っているところです。 ○池田委員 実務的な印象としては,後見人か否かが争われるというのは,例えば,先ほどの法定代理人かどうかで無権代理かどうかが争われる場面で,その部分についての判断が裁判などでされることはあり得ると思います。しかし,それを認めた上で,丸ごと日本の裁判所が監督するという事態は,考えにくいのではないかという気がします。 ○和波幹事 先ほどのコメントは,理論的には,本来,やるべきことをやっていない状態になるのではないかという趣旨です。 ○山本(和)委員 私の先ほどの発言も,同じ趣旨です。実務的には想定できないとおっしゃるとおりだと思うのですけれども,例えば,外国で選任された後見人が日本で何か財産的な行動をしようとしたときに,日本にいる関係人が,あの人はおかしいというので日本の家庭裁判所に後見人解任の申立てをした場合,日本で後見開始決定が承認されていることを前提とすれば,日本に何らかの管轄原因があれば申立てが認められることがありそうな感じがするのですが,それがおかしいのではなかろうかということです。 ○道垣内委員 特別法を作りましたけれども,外国の倒産手続でさえ一定の要件を満たせば承認する仕組みになっています。ですから,およそ承認する局面がないとか,およそ承認することがおかしいということはないのではないかと思います。倒産の場合には,承認決定を求めているので,そこで承認をすることがはっきり分かり,しかも,承認された場合に何をするかを細かく条文に書いているので,それに則って進めればよいわけですが,後見等の局面では,規定がないのだから何もしないというのか,それとも,理論上,承認ができて倒産の場面でさえ処理しているのだったら,同じように処理を進めるのか。ただ,承認についての決定が要らない判決と類似の制度にするかのか否か,どちらの方向が収まりがよいのか,が問題なのではないのでしょうか。 ○山本(和)委員 確かに,倒産手続があるように,後見手続というのが存在をして,一連の後見手続,例えば,フランスには後見裁判官というのがいますが,後見開始決定から保護措置的なものに至るまで一貫して行うような一種の手続みたいなものがあるとすれば,それを承認する決定のようなものすごく大掛かりな制度を作るというのも,理論的にはできないことではないようには思っています。ただ,恐らくここで想定されているのが,そういう大掛かりなことではないのであれば,結局,保護措置は,基本的には後見を開始した国でやってもらうほかはないのではないか,保護措置の全部かどうかというのは自信がないところですが,固有の監督措置とか,報酬を決めるとか,そのような措置は後見人を選んだところでやってもらうほかはないのではなかろうかと思います。ただ,先ほど池田委員がおっしゃったように,例えば後見人が日本で訴訟をやろうとしていたときに,その裁判が承認されるのであれば,日本でその人は後見人として行動できるという意味での承認はあるということではないのか,という漠然としたイメージでした。 ○山本(弘)委員 要するに倒産法の承認決定のようなものではなくて,通常の外国判決の既判力の承認のようなものだと考えればよいのではないでしょうか。その人に代理権があるといったときに本当に代理権があるかどうかは,外国でその人が後見人に選任された裁判の効力を承認することができるかどうかを判断し,承認することができるのであれば,代理人として扱う,というような,通常の判決の自動的承認のシステムと同じものだと私は理解していたのですが,そこから先,どこまで日本の裁判所がそれを引き受けるかという問題が出てくることはよく分かりました。 ○池田委員 実務的な感覚からすれば,先ほど山本和彦委員がおっしゃったような,外国で選ばれた後見人はおかしいから解任してほしいというときに,日本の裁判所で解任をしようとは余り思わず,選ばれたところへ行って解任してもらわなければ駄目だ,と考えるのが一般的であるように思います。現実に外国で開始した後見等に引き続く手続について,日本の家庭裁判所で判断等をするというのは,法律的な疑義もたくさん生じそうで落ち着きが悪いし,実務的に非常に考えにくいという気がしています。 ○高田部会長 外国で後見等開始の裁判があった場合における日本での保護措置の管轄というのは考える必要はないのではないかということかと思いますが,外国で開始決定のみがあった場合であって日本で後見人等を選任しなければいけない場合,あるいは重ねて選任しなければいけない場合というのがあり得るかどうかいう点については,いかがでしょうか。 ○山本(弘)委員 そういう法制の国がないとは言い切れないですね。 ○山本(和)委員 日本法的には追加で選任ができます。 ○和波幹事 その場合には,部会資料で言いますと②の規定に基づいて,日本に選任についての管轄が発生し,それから,準拠法については通則法35条2項1号で,日本法に基づいて日本で後見人等を選任することができるということになると思います。外国の開始の承認をするという形を採るのか,あるいは本国法に基づいて後見等が開始する原因があるという要件を満たしたことをもって,日本で後見人等を選任することができると考えるのか,そこは複数の考え方があり得ると思います。 ○高田部会長 今の場合おきましては,承認というルートは経ていないということでしょうか。 ○和波幹事 そこはいろいろ考え方があると思いますが,一つの考え方としては,35条2項1号で,本国法によればその者について後見等が開始する原因がある場合,この要件を満たした場合の効果がどういうものかということによると思っております。それを承認と考えるならば,外国法に基づいて後見が開始されていることをもって,今度は日本法に基づいて日本の後見人が選任できるということになるわけです。他方で,仮に,これは日本での後見開始原因であるという解釈を採ることができるとするならば,それは日本法上,日本の後見が開始し,それに引き続いて日本法上の保護措置を開始することができる,そういう解釈も可能ではないかと思っています。 ○池田委員 今の関係で,外国法によれば後見等の仕組みがない場合は,どうなりますか。 ○和波幹事 その場合は,いずれにしても日本で日本法に基づいて後見を開始させて,後見人等を選任するしかないのではないかと思います。まず,後見開始についての管轄が日本にあり,そして,準拠法上の要件を満たしているということであれば,当然,日本法に基づいて後見等が開始し,保護措置もとることができるということになるのではないかと思いますが,そこは,是非,御意見を伺いたいと思います。 ○高田部会長 いかがでしょうか。保護措置につきましては,①の三と②があれば十分であるというのがここまでの御意見ということになるのでしょうか。難しい問題ですが,この時点で何か他に御発言はございますでしょうか。 ○畑委員 ①の一で成年被後見人等が完全に日本国内に本拠を移していてずっと住んでいるというときに,元の開始決定をした国まで必ず行かなければいけないというのも,少しちゅうちょされる面がある気がします。 ○竹下幹事 今,畑委員がおっしゃられた事案だと,少なくとも,もう一度,日本で後見開始の審判をスタートさせて,外国の手続とは別に日本で独自の後見開始の審判,更には後見人選任等をすることができる,というのが先ほどの議論だったようにも思うのですが,その辺りはいかがでしょうか。 ○畑委員 今の御質問の前提は,先ほどの議論で,外国の開始決定を承認しないということですか,それとも,承認はしているのでしょうか。 ○竹下幹事 外国での後見開始の審判がされて,その効力が承認されるとしても,それに重ねて日本で後見開始の審判をすること自体が否定されるかについて,日本で後見開始の審判をすること自体は,日本における手続として行うことは否定されないならば,開始決定をした外国まで行かなくてよいようにも思われたのですが。 ○山本(和)委員 畑委員が言われたように,私も先ほど,全てのものについてはちゅうちょがあると申し上げましたけれども,後見等開始の審判の取消しについては,先ほど畑委員が言われたような場合で,本国で取り消してもらわないといけないのかというと,この取消しは,結局,行為能力が戻ったというような場合であるとすれば,本人がいる場所で取り消すのが適当であるという考え方もありそうな感じがしていまして,その辺りは更に精査が必要かなとも思っています。 ○池田委員 ただ,現在,日本の家庭裁判所が後見人等を選任した場合は,被後見人が外国に住んでも,そのままずっと続くんですよね。被後見人になって,例えばアメリカにずっと住んでいるという状況でも続くのですけれども,そのときに突然,アメリカの裁判所によって介入される事態は,いかがかと思います。手続に,日本で選任された後見人が参加することが実質的に非常に難しく,適切な攻撃防御が難しいというようなことも考えると,いかに被後見人が所在するとしても,実務的には,今一つ腑に落ちないような気がします。後見開始決定の取消しの場合も,後見人の解任の場合も,同じことです。例えば,日本で行われるのであれば,後見人が,実は本当は本人の行為能力はそんなではないんだとか,きちんと財産を管理する能力はないんですということを主張して,その上で判断を求めることはあり得べしと思うわけです。しかし,被後見人がいる場所で行われるとすると,そのような道が妨げられますから,いかに被後見人がいるとしても,そこで開始の取消しをするということについては抵抗があるということです。 ○高田部会長    ほかに御意見があればお願いいたします。 ○竹下幹事 山本和彦委員がおっしゃられた点について,外国判決ないし外国裁判の承認の考え方の如何にもよるのですけれども,仮に,外国で後見開始の審判と類似する審判を受けていて,ただ,その人が,日本にいて,事理弁識能力を欠く常況にあるとは言い難いとするならば,公序則によって当該裁判を日本で承認しない可能性は十分にあり得るのではないでしょうか。   そうすると,外国で受けた後見開始の審判と類似する審判は,日本で効力が認められないことになります。公序則の基準時をどこにとるかという議論が国際民事訴訟法上されていると思いますが,能力を回復した状態である現在の時点において最初の時点でされた裁判の承認をするのが,現在の秩序との関係で問題であるから承認を拒絶するという考え方と,裁判が行われた時点の公序を基準に承認をするかどうかを確定的に判断して,それ以降の事情については考えない考え方と,学説上は両方あるような気がします。仮に前者,すなわち,常に現在の状態に照らして承認すべきか否かを考えるという考え方を採るならば,後見開始の取消しをしなかったとしても,そもそも,当該裁判が承認されないという形で処理がされ得ることになります。日本で実際に外国の後見開始の審判を取り消すことができるか,とは違う視点からの検討ですので,議論がずれるのですが,一応,発言させていただきます。 ○西谷幹事 私も,基本的に竹下幹事と同様に考えております。ただし,この点については,承認制度をどのように構成するかということに加え,外国でなされた後見開始の審判を承認するという前提に立つのであれば,国内事件との整合性を考え,後見登記を使えるようにするなど,何らかの公示手段を考えておく必要があるように思います。   それを前提といたしますと,外国裁判所においてその人の事理弁識能力が不十分であることを理由に後見開始の審判がなされ,日本でもそれを承認して後見登記がなされており,その後に本人が事理弁識能力を回復したような場合には,日本において一旦承認された外国裁判の効力の問題として,取消しをすべき場合に当たるのではないかと考えられます。竹下幹事がおっしゃったように,事案によっては,公序に反することを理由に承認が拒絶されることもあり得ますが,一旦,日本で外国裁判の効力が認められ,後見登記がなされた後に本人が事理弁識能力を回復したときには,日本での取消しが問題となり得るように思います。 ○高田部会長 ほかに発言はございますでしょうか。これまでの議論によりますと,保護措置について①の一,二で管轄を認めるべき場合は余り想定できないということのようですが,取りあえず,そうした理解を踏まえてなお検討するということでよろしゅうございましょうか。   保護措置につきましては,取りあえずこの辺りにさせていただきまして,後見等開始事件については結論としては通則法をそのまま踏襲するというのがこの案でございますが,その点とくに財産所在地管轄につきまして御発言があれば承りたいと思います。 ○大谷幹事 財産所在地を管轄原因にするかどうかについてですが,研究会のときにも,この点について,日本に財産がある場合に取引の相手方の便宜,ひいてはそれが成年被後見人の保護になる場合もあるので,これも管轄原因とすることについてどうかという議論がありました。私は,その点については消極意見なのですが,改めて考えてみました。   結論は消極で変わらないのですけれども,1点,研究会のときには余り気にしていなかった国際的な考え方はどうなのだろうかということが気になりました。資料にも挙げていただいていますハーグ未成年者保護条約での扱いですけれども,財産所在地国の管轄が,かなり劣後する管轄原因として,かなり例外的に,段階的に最後の方で,しかもいろいろな条件が付いて一応認められているということを確認しました。結局,日本はまだ締結していない条約ですけれども,これを日本で同じような形で管轄原因にするのは難しいような規定ぶりになっていることから,この条約を考慮に入れたとしても,財産所在地国の管轄を認める必要はないという意見を申し上げたいと思います。 ○北澤幹事 ただいまの財産所在地管轄について,私もかなり消極的に解しています。消極的に解する理由として,財産こそ日本にあるけれども日本に居所もない外国人について,日本の裁判所が本当に適切な判断を行うことは困難ではないかという疑問があります。また,仮に財産所在地管轄を認めた場合に,日本の裁判所の管轄権というのが日本に所在する財産に関する事項について及ぶということは分かるのですが,本人の身上に関する問題についてまで及ぶのかという疑問もあります。では,財産に関する事項と本人の身上に関する事項というのが区別できるかというと,この辺も必ずしも私の中では明確に整理できない状態にあります。   それから,財産所在地管轄という問題は,例えば,相続事件や失踪宣告事件についても検討対象となっているかと思います。失踪宣告の方は規定に入っていますが,そもそも,その前提として,当事者の住所地管轄や本国管轄ということがまず認められていて,その後に副次的な管轄として財産所在地管轄というのが出てくると思うのです。それに対し,後見に関しては,国籍,住所に加え,居所が管轄原因として挙げられています。この居所というのは,実態として多くの場合,財産所在地のようなものも含意しているのではないかというようなことを考えていくと,相続事件や失踪宣告事件について財産所在地管轄を認めるかどうかということと後見事件でこれを認めるかどうかでは,若干,議論の前提が違うような気がしています。その意味でも,ここでは,例え国際条約でそれが副次的な管轄と認められているということであるとしても,私はかなり消極的に解しているというわけです。 ○山本(弘)委員 後見人の代理権というのは,代理権だけがあるわけではなくて,本人の身上監護とも密接不可分な関係にあるわけですから,相手方がその財産について取引をしたいという便宜があるという点だけに着目して,後見のような制度をその財産限りで使うというのは,制度の在り方として正道ではないというのは,皆さんがおっしゃっていたことの繰り返しです。 ○池田委員 私も,財産所在地管轄が前面に出てくるということに,決して積極なわけではないのですけれども,いろいろな場面があり得ます。国際条約等で,劣後的にせよ,そのような管轄原因が定められているというのはニーズがあるからと思っています。最終的に緊急管轄で保護していただけるのであれば,それはそれでよいですし,ほかの国で対応できるのであれば,もちろん,わざわざ財産所在地管轄を設ける必要はない,というのはそのとおりだと思っていますが,私の理解では,例えばフィリピンでは後見制度のきちんとしたものはないのではないかと思っていまして,フィリピンの人が,日本に財産がそれなりにあるにもかかわらず,それが管理されず,処分してお金になればきちんと療養看護に努めることができるけれども,それを適切に行うことができないというようなことがあった場合に,後見人が処分して,そのお金をフィリピンに送って病院に入ってもらうというようなことが当然のようにできればよいのではないかと考えたりしまして,そういうときに,日本の裁判所には管轄がないというのでは,不都合なのではないかと思っています。 ○大谷幹事 部会資料4-2にも余り細かくは書いていないのですけれども,国際条約に一応規定があるといいましてもかなり例外的な書き方で,しかも,財産所在地国の管轄も,その財産に関する限りという限定がありますし,本来管轄を有する常居所地国の裁判所がとった措置と矛盾のない範囲,など,いろいろな限定が付いています。財産所在地に管轄を認める必要性が全くないわけではないからこそ,規定が置かれているんだと思うんですけれども,そうであったとしても,認められているのはかなり狭い場合です。では,そのような狭い規定の仕方を日本でするかというと,かえって,裁判所の方でそうした判断を行うのは,非常に複雑になって困難ではないかと思っています。   緊急管轄でどこまで救われるかというのは,実務でやってみないと分からないですけれども,実務的な感覚を申し上げますと,これまでも,明文規定がない中で,管轄について,どちらかというと消極的な対応を受けたこともありますし,逆に,本当に必要であるといろいろ主張しますと,非常にクリエイティブに認めていただいたこともあります。なので,そういうときこそ,日本は締結していないけれどもこういう条約もある,などと,管轄を認めるべき必要性をいろいろ述べて頑張るのかなという気がしていまして,一般的な管轄原因として財産所在地という管轄原因を置くということは,広すぎるのではないかと思っています。 ○小池幹事 緊急管轄で拾えばよいという話が出ていましたが,相続事件におけるような緊急管轄を用意して対応するおつもりなのか,それとも,財産が問題になるようなところではもう少し広い形で緊急管轄を認めるという趣旨で,特別のところに規定を置くのか,という点については,どうお考えでしょうか。 ○池田委員 何も規定が置かれていない場合に救われる場合がある,というのが日本の緊急管轄であると聞いております。 ○高田部会長 緊急管轄という枠組みで拾うのが妥当かどうか,という問題にも関わるのかもしれませんが,小池幹事の御意見は,ここではもう少し,そういった場合を拾うことができるような規定を作ることはできないか,ということかと思います。その点にも関連しますので,よろしければ先に進んで,「本人保護の必要性を考慮した管轄原因」の方に進ませていただいてよろしいですか。もちろん,随時話を戻していただいて結構ですが,よろしければ「成年後見等開始事件」の残りの部分について御説明いただいた上で改めて御意見を伺います。 ○沖本関係官 それでは,部会資料4-2,第1の補足説明の7から9までについて説明します。   管轄原因の四つ目は,本人保護の必要性を考慮した管轄原因として提案しています。成年後見等に関する審判事件の国際裁判管轄について,本人の住所若しくは居所又は国籍を管轄原因とすることのみによっては,必ずしも本人保護の必要性を反映させることができないとも考えられ,このような見地から,本文の①の一ないし三のほかに本文の②において,保護措置に関する審判事件について,成年被後見人等である外国人の本国法によれば,その者について成年後見等が開始する原因がある場合であって,わが国における成年後見等の事務を行う者がないときは,管轄権を有するものとすることを提案しています。これは,わが国に住所も居所もないが所有する財産が所在する外国人について,本国で後見開始の審判がされ,わが国に所在する財産を管理する人がいない場合にも,例外的に日本法による保護措置をとることを可能にしている,通則法第35条第2項第1号の規定を踏まえたものです。このような本人保護の必要性を考慮した管轄原因の要否や,仮にこのような管轄原因を設ける場合の具体的な規律の在り方について,御審議をお願いします。   次に,通則法第5条についてです。後見等開始の審判事件を含む成年後見等に関する審判事件の国際裁判管轄に関する規律を通則法とは別に新たに設けることとした場合に,通則法第5条の内容を,後見等開始の審判の準拠法は法廷地法となることのみを定める内容に改めることが考えられます。現行の通則法第5条にいう審判とは,わが国の裁判所が行うもののみを想定しているものと解されることから,同条については,「後見開始,保佐開始又は補助開始の審判は,法廷地法である日本法による。」などと改めることが考えられますが,この点について御審議をお願いします。   また,保護措置に関する審判事件及び後見等開始の審判の取消しの審判事件の国際裁判管轄については,外国でされた後見等開始の裁判の承認に関する議論もございます。先ほど御意見をいただいたところですが,外国でされた後見等開始の審判の承認を前提に日本法で保護措置をとることができるかについて,管轄原因の規律の在り方との関係でどのように考えるべきか,更に御意見がありましたらお願いします。   「成年後見等関係事件」についての説明は以上です。 ○高田部会長 取りあえず,便宜,7の部分について,御意見があればお願いいたします。 ○竹下幹事 7のところで,8ページの下から9ページにかけて,わが国に住所も居所もないが,所有する財産が所在する外国人について本国で後見開始の審判がされ,わが国に所在する財産を管理する人がいない場合にも,例外的に日本法による保護措置をとることを可能にしているという趣旨ということが書いてあります。しかし,通則法の立法のときには,多分,そこのところには踏み込まず,仮に財産所在地管轄のようなものが認められるとしても,通則法35条2項1号は未成年後見の場合を中心的に念頭に置いた規定であったように思われ,成年後見の場合にこの措置をとることまでも想定して法例の改正を行ったということまでは言えなかったのではないかと記憶しています。   先ほど指摘した部会資料に書いてある趣旨を認めてしまうことは,財産所在地管轄を認めるということとイコールだと思うのですが,法例改正のときには,そこのところはオープンにして,少なくとも,日本で保護措置をとるような場合には日本法を準拠法にする,特に外国人未成年者が日本にいる場合に,日本で後見等の事務を行う者がいないときに,保護措置をとるための準拠法を日本法にすることが,35条2項1号の一番の趣旨だったと思います。ですので,通則法35条2項1号の趣旨を,成年後見の方で保護措置をとることを可能にしているとまで読むのは,もちろん,そういう解釈もあるとは思いますが,一歩,進んだ解釈かなと思います。曖昧ですが,立法時の記憶ということで発言させていただきます。 ○高田部会長 ありがとうございます。それを踏まえて,竹下幹事は,今回,改正するにしてもそこまでの必要性はないというお考えでしょうか。 ○竹下幹事 ②のところにつきましては,要するに,これがどういう場合に使われるかという問題で,確かに,先ほど来,緊急管轄のようなものが議論に出ているとおり,部会資料に書いてある事例,すなわち,外国在住の外国人について日本で保護措置をとる必要があるという場合に,何らかの形で管轄を認める必要性があり得るということはそのとおりかと思われるものの,②を丸々認めてしまうと,特に「必要であれば」という文言もないわけですし,広すぎるのではないか,という印象です。 ○池田委員 今,竹下幹事の言われたような,裁判所が必要と認めるとき,といった,より制限的な文言を置くということが可能であれば,それでよいのではないかという気がしております。一方で,先ほど申し上げたような,「外国人の本国法によれば」というところについて,もちろん,本国法でない場合も問題ですが,本国法の場合に後見等が開始されるということを申立人の方で裁判所に示さなくてはいけなくて,それは,外国法が非常に混沌としているような場合には実務上困難を極めることから,このような条件をどうしても付けなくてはならないのか,気にしております。 ○竹下幹事 私も考えがまとまっていないのですが,そもそも,なぜ,通則法が「本国法によれば」となっているのかといえば,通則法の方では,原則的に,準拠法として後見について本国法主義を採っているからです。日本で保護措置をとる場合に本国法を適用するかというと,保護措置の手続を行う限りでは日本法を準拠法としたいからということで,法例改正のときに日本法を準拠法とするために通則法35条2項が設けられたと思っています。先ほどの話と関係するのですが,通則法35条2項1号は主として未成年後見を念頭に置いて規定されたもので,成年後見を念頭に置くとすると,先ほどの外国後見開始審判の承認の話とも関係してくるのですが,本国以外で後見開始の審判がされる場合も十分にあり得るわけですから,そのような場合に,「本国法によれば」というのがどう関わってくるのかがイメージしづらい。要するに,日本で保護措置をとるにしても,果たして「本国法によれば」ということで本当に必要性が書き切れているのか,やや違和感があります。 ○高田部会長 ほかにいかがでしょうか。このままの形で管轄原因とすることについては,消極的な御意見が多いように思いますが,全体として削除するということでよろしいでしょうか。 ○竹下幹事 削除というよりは,緊急管轄の規定との兼ね合いだと思います。もし何ら緊急管轄の規定を設けないのなら,こちらで何らかの手当をすることはあり得るかもしれません。 ○高田部会長 その場合にも,直前の御発言との関係では,「本国法によれば」という準拠法要件を課すべきではないということでしょうか。 ○竹下幹事 準拠法要件は余り意味がないのではないかという感触です。 ○高田部会長 分かりました。 ○山本(和)委員 私の理解では,通則法には,一応,緊急管轄的なものがあって,本文の②はそれを表しており,「日本における成年後見等の事務を行う者がないとき」という文言に,必要性みたいなものがインクルードされているのかなという印象を持っていました。これをどう解釈するのか分からないところもあり,もっと良い文言があれば,その方がいいかなと思いますけれども,そのように理解していました。それから,仮に,このような規定を置く場合,その効果は,日本における成年後見の事務に限定され,その意味では属地的な措置になるのかなと思っていました。失踪宣告の方では,その場合を明文で書くのだとすれば,この場合も明文で書くことになる感じがします。 ○池田委員 文言に関して,部会資料の21ページにあるスイスの例に,「事件本人及びその財産の保護のために必要な場合」という文言があり,日本の法律では余りなじみがないのかもしれませんが,それを参考にした規律ができないかと思います。それから,そのような規律を設けた場合に,日本における事務に限定することについて,それはそれで一つあり得るかと思うのですが,先ほど申し上げたように本国では後見等の制度がないとかというような場合も考えると,無理に,日本に常に限定するということにも問題があるように思います。日本にある財産を処分して本国に送って,その人のために使う,というところまでできた方が良いであろうという場合は存在する気がしており,それを正面から否定するとまずい場合があるのではないかという点を懸念します。 ○山本(和)委員 私の前提は,日本においてある措置が必要であるという要件でその措置に係る裁判を出すのであれば,その効果は日本に限られるだろうということです。もっと広い要件で,世界中である措置が必要であるなどというような抽象的な要件でその措置に係る裁判を出すということであれば,その効果を外国に及ぼすということもあり得るのだろうとは思います。 ○池田委員 従来,そういった場合には,ほかのところの管轄とバッティングするということが,通常,問題になっています。バッティングするような場合に,効果の及ぶ範囲を非常に減縮して,日本に限るということは当然あると思いますが,ほかのところと管轄がバッティングすることがない場合に,わざわざ効力の及ぶ範囲を狭めると問題が生じるのではないかと思います。 ○高田部会長 ほかに御意見はございますでしょうか。 ○道垣内委員 今のバッティングの点は,通則法35条2項が当然予定しているので,それほど気にしなくても良いとは思います。それから,準拠法を書くか否かについて,「本国法によれば」という文言を書かないとすると,単に必要がある場合ということになってしまい,どの国の制度の措置をとっているのか分からないという気がします。ここで「本国法によれば」と書いているのは,承認という話を回避し,そこは書かないで,日本から見てそのような状況にある人であるから助けましょうという意味ではないかと思いますので,確定的にどれが良いということはこの段階では申し上げられませんが,お考えいただければと思います。 ○高田部会長 7について,別の角度から規律すべきだという御意見でも結構ですので,本人保護のための管轄原因を他に認めるべきという御発言があれば,この機会に承りたいと思います。 ○西谷幹事 ②について「成年被後見人等である外国人の本国法によればその者について成年後見等が開始される場合」という要件を付すか否かについてですが,比較法的には,成年者の保護措置については法廷地法で処理するのが一般的になっています。特にハーグ成年者保護条約は,原則として本人の常居所地の裁判所の管轄を認め,その裁判所が国内法としての法廷地法を適用して保護措置をとるという構成になっています。日本は,伝統的に本国法主義によってきましたが,外国人の本国法上,成年後見等の開始原因があることを要件としても,当該外国との間では準拠法の一致が図られないとなりますと,どこまで合理性があるのか疑問です。   また,通則法5条は,かつての法例4条とは異なって,後見開始の審判について本国法によることなくすべて日本法によると定めていますので,結局,通則法35条2項1号においてのみ,本国法によって後見開始原因があるかどうかを見ることになります。これは,通則法制定当時から,果たして通則法5条と35条が整合的であるのか,気になっていた点です。  これらの点を踏まえますと,ご提案いただいた②の管轄原因について,本国法の要件を付すことには消極的です。むしろ,文言を工夫し,緊急管轄として,端的に要保護性を根拠として管轄を認める方が良いのではないかと思います。 ○道垣内委員 私は別にこだわりませんけれども,日本から見てその保護が必要だという場合には,日本で後見開始の決定をする審判ができるわけですね。通則法35条2項1号では,それはしていないけれども,後見に関する事務だけが必要な状況で,少し間口を広げているのではないかと思います。そして,それとともに,おっしゃるように,法例の時代から本国法主儀であったという残滓が少し残っているという面もあると思います。ただ,法例の改正から余り時間がたっていないので,これだけの本国法主義を議論で変えてしまっていいのか,心配です。 ○高田部会長 承認というルートの可能性がなお残っており,そこが決まっておりませんので,若干,不透明な部分が残っているかと思いますが,7につきましてはこの程度でよろしゅうございますでしょうか。   では,残りの補足説明の8,9について御意見を賜ります。 ○道垣内委員 補足説明の8では,管轄規定が抜けた後の形として「など」と書いてあるので,部会資料に記載してあるとおりの文言になるとは限らないと思いますけれども,少し格好が悪いように思います。例えば,日本の裁判所によるこうこうの審判は日本法による,あるいは日本の裁判所においてする何々の審判は,というように,もう少し工夫していただければと思います。「法廷地法」という言葉が出てくるのは,国際私法のルールとしては変な気がします。 ○高田部会長 ほかに何か御発言はございますでしょうか。9については,後見等開始の審判の取消しの審判事件をどう位置付けるかという問題がなお残っており,既に御意見を賜ったところですが,さらに御発言はございますでしょうか。   よろしければ,次の「未成年後見関係事件」に移りたいと思います。部会資料の説明をお願いいたします。 ○沖本関係官 部会資料4-2の第2について説明します。   本文では,未成年後見関係事件の単位事件類型を「未成年後見に関する審判事件」として,四つの管轄原因を設けることを提案しています。   補足説明のうち,まず,単位事件類型についてです。法制的には,未成年後見関係事件の国際裁判管轄の規律を,「成年後見等に関する審判事件」の国際裁判管轄に係る規律と統合することも考えられます。しかし,一般的には,成年後見等は,裁判所等の公的機関の判断によって初めて後見等が開始され,財産管理を中心とする制度であるのに対し,未成年後見は,法律上の要件を充足すれば後見が開始され,親権との連続性の観点から未成年被後見人の身上監護に重点が置かれることが多く,両者の性質には差異があるということができることから,本文においては,未成年後見関係事件の国際裁判管轄について,「成年後見等に関する審判事件」の国際裁判管轄とは別に規律を設けることを前提として,単位事件類型を「未成年後見に関する審判事件」とすることを提案しています。もっとも,未成年後見については,未成年子の監護の態様の一つとして,むしろ,監護関係事件の単位事件類型に含めて考えるべきとする見解もあるところり,このような見解も踏まえまして,未成年後見関係事件の単位事件類型について御意見がありましたらお願いします。   次に,管轄原因についてです。「未成年後見に関する審判事件」の国際裁判管轄について,基本的には「成年後見等に関する審判事件」の国際裁判管轄の管轄原因に関する議論が妥当すると考えられることや,外国居住の日本人である未成年者の保護が強く要請されることなどから,本文の①の一及び二において未成年被後見人の住所若しくは居所又は国籍を管轄原因とする内容の規律を提案しています。未成年被後見人の住所又は居所を管轄原因とすることは,家事事件手続法上,未成年後見に関する審判事件の国内土地管轄が,未成年被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属するものとされていることと整合的であると考えることもできますが,本国管轄についてはどのように考えるべきかについて,御審議をお願いします。   なお,未成年被後見人の財産の所在地を管轄原因とすることについては,成年後見等に関する審判事件において管轄原因として財産所在地を採用することを消極とする議論が同様に妥当すると考えられることなどから,これを認める内容の提案はしておりません。   次に,本文の①の三において,管轄原因として,日本において未成年後見人の選任の審判があったことを提案しています。これは,当該未成年被後見人の住所又は居所がわが国になく,かつ当該未成年被後見人が日本人でない場合,例えば,当該未成年後見人の解任や当該未成年後見人に対する報酬の付与等について,わが国の裁判所が管轄権を有しないこととなるおそれが生じ,このような事態は,未成年後見制度の実効性を阻害するものであり相当ではないと考え得るという見地からの提案ですが,御意見がありましたらお願いいたします。   さらに,「成年後見等に関する審判事件」と同じく,未成年後見人の住所若しくは居所又は国籍を管轄原因とすることのみによっては反映させることのできない未成年被後見人の保護の必要性を考慮した管轄原因を設ける必要があると考えることもできるほか,「未成年後見に関する審判事件」については,成年者とは異なる未成年者の保護という未成年後見特有の考慮も必要となるものと思われます。そこで,本文の②において,「成年後見等に関する審判事件」における本文の②と同様の規律を設けることを提案していますが,このほかにも,未成年者に対する緊急の措置が必要となった場合に管轄を認めるための管轄原因を設けることなども考えられるところです。未成年者の保護の必要性を考慮した管轄原因の要否及び設ける場合の具体的な規律の在り方につき,御審議をお願いいたします。   ところで,先ほど単位事件類型の説明のところでも申し上げたこととも関係しますが,「未成年後見に関する審判事件」を監護関係事件の単位事件類型に含めて考えないこととすると,親権喪失等の審判がされた場合には,直ちに未成年後見人を選任する必要があることから,「未成年後見に関する審判事件」の国際裁判管轄と,「子の監護又は親権に関する審判事件」の国際裁判管轄との整合性が問題となり得ます。   この点につきましては,部会資料3-2で提案させていただいた,「子の監護又は親権に関する審判事件」における「子の住所地」という管轄原因が,「未成年後見に関する審判事件」における管轄原因に,部会資料の方は「含む」となっておりますが「含まれる」ものであると言えることから,仮に提案している本文の内容によるものとすれば,特段,問題はないものと考えることができます。   「未成年後見関係事件」についての説明は以上です。 ○高田部会長 では,第2について御意見をお伺いします。 ○早川委員 質問ですけれども,単位事件類型を成年と未成年とで分けるという説明は,今後の議論で規律の内容が違ってくるかもしれないということを前提として,あらかじめ分けておこうということですか。 ○高田部会長 成年後見事件について御議論いただきまして,若干,変わる余地が出てきておりますので,その辺りの影響もあり得るかと思いますが,今の御発言との限りで申しますと,とりあえず,個別に検討してみる,裏からいえば,同じ規律でよいかどうかということがポイントかと思います。その点も含めて御意見を承れればと思います。 ○平田幹事 前回,親権に関するルールと未成年後見に関するルールをパラレルに考えた方が良いのではないか,というお話をしました。先ほどの成年後見のルールと未成年後見のルールが同じ色合いを持ってくるのかどうかについて,違う部分も多分あるだろうと思いますが,どこがどう変わるのかがよく分からなくなってきたのですけれども,少なくとも,親権のルールと未成年後見のルールのずれは,ない方が良いのではないかといった点に関しましては,日弁連内でも議論しまして,現実の規律としては,事務当局の提案のように別々に考える方が妥当ではないかという結論になりましたので,その点だけご報告いたします。 ○高田部会長 ありがとうございます。 ○西谷幹事 単位事件類型について,外国法制を念頭に置きますと,監護関係事件と未成年後見事件の線引きが難しい場面が出てくるように思います。例えば,ドイツでは,親権の一部を取り上げた場合に,必要な範囲で身上監護を代わりに行う者として補佐人を選任しますが,補佐の制度を監護関係事件と未成年後見事件のいずれに振り分けるのか,性質決定は容易ではありません。また,イスラム法系では,一般に養子縁組を禁止しており,代わりにカファラと呼ばれる一種の里親制度を設けていますが,このような制度についても性質決定が難しい場面が出てくるだろうと思います。むしろ,監護関係事件と未成年後見事件は,いずれも子の保護を目的とした措置であり,管轄ルールとの関係で配慮すべき子の福祉及び当事者の利害関係は,基本的に一致するように思います。この点を踏まえますと,1996年ハーグ子の保護条約等にならい,両事件類型の管轄ルールの平仄を合わせておくことに合理性があるように思います。 ○道垣内委員 本文の提案の②の方ですが,未成年被後見人である外国人の,というところが,最初から未成年と決まっているように読め,この言葉遣いには相当違和感があります。本国法を適用してみて初めて未成年かどうかが判断されるはずですから,本国法によれば,で良いのではないかと思うのです。その者について未成年後見が開始する原因がある,というのも違和感がありまして,未成年とされる者なのに後見制度がないという国がある場合にどうするか,という問題は例外的にあるかもしれませんけれども,要するに,行為能力がない,ということですね。通則法の4条とつながっているはずなので,行為能力がない者について,日本における未成年後見の事務を行う者がないとき,これは先ほどの成年後見の場合と一緒ですけれども,行う必要があるとき,としておけば,先ほどの成年後見の場合についても賄えるかもしれません。いずれにしても,未成年者であるかどうかを決める通則法4条とのつながりがはっきりするように書いた方がすっきりすると思います。未成年であるのにもかかわらず審判がないと,後見が開始する,後見に付することができる状態には常にあるのではないかと思うのですけれども,私の理解からするとやや違和感があって,そうすると,本当に一つの規定で書けるのかどうかというのが気になります。そんなことはなく書けるのということであれば,そのようにしていただければと思います。 ○和波幹事 道垣内委員に質問ですが,未成年後見というのは,未成年者であることだけではなくて,親権者を行う者がいない場合の話かなと思ったのですが。 ○道垣内委員 それも絡ませて書かなければいけないと思いますが,親権者が日本できちんと事務を行ってくれればそれで良いわけですよね。 ○和波幹事 そこは本国法によると思うのですが,例えば,日本の民法ですと,838条により,未成年者に対して親権を行う者がないとき,あるいは親権を行う者が管理権を有しないときに未成年者について後見が開始します。これが,正に,未成年者について後見が開始する原因なのではないかと思いまして,外国法でもそういった要件があることを前提に,親権者が存在しない,あるいは親権者に相当する方がいらっしゃらなくて,別途,後見人を選任しなければいけない状態になったときが,正に,後見が開始する原因があるときではないかと理解していました。 ○道垣内委員 そうすると,私の先ほどの発言はやや言い過ぎたところがあったと思います。前半の,未成年被後見人たる外国人の,だけを取り,あとは活かしてよいのではないでしょうか。後見人を付すということは,親権者がそのような状態にあるということを含意している,ということですね。 ○高田部会長 いかがでしょうか。今のようなご趣旨だとすると,要件は違いますが,成年後見とあえて書き分ける必要はなくなる可能性があります。ただ,成年後見については本国法要件について議論が出ておりますので,その点について一定の立場を採ると,書き分ける必要が出てくるということになりましょうか。 ○竹下幹事 果たして本文の②が本当に必要なのかという点について,要するに②の場合というのは,未成年被後見人となるべき者について,日本に住所もなければ日本人でもない場合が前提となるのではないかと思われます。そうすると,一番問題となりそうなのは,財産所在地,財産が日本にある場合に,未成年後見等に関する審判を日本で行うということなのではないかと思います。今の書きぶりですと,財産がなくても管轄が認められ得るような書きぶりになっているので,それでは恐らく広すぎると思うのですが,本当に例外的に緊急管轄のような形で認めるのであればともかく,そうではなく,ここまで広く管轄を認めておくことがよいのか,更に言えば,未成年後見というものについては,先ほどの西谷先生の御意見と近いところがあるのですが,未成年被後見人となるべき者,その対象の本人がその場にいるというのが原則ではないかと思います。今議論している②の対象は,日本にその者がいない場合と思いますので,余り広く管轄を認めすぎることはちゅうちょを覚えるところがあります。 ○池田委員 可能性としては,日本人と外国人との子であっても日本国籍を留保しなければ日本人ではなく,そのような子が外国のどこかにいて,両方の親が死んでしまって日本に帰りたいけれども,パスポートを取ることなどに支障が出て日本には帰れないといった場合に,適切な後見人を定めて日本に帰ってくるといったことも考えられる気がします。必ずしも,余り狭くしなくても,その子の保護のため,日本に戻ってくるためにも,そのような審判が必要な場合があるのではないかなと思います。 ○大谷幹事 今の池田委員が挙げられた例について,国籍留保の制度の問題点はさておき,冷たく聞こえるかもしれませんが,国籍がなければ,今の例で日本で管轄権を行使すべきというのは,ぴんときませんでした。   もう1点,関連するのですが,先ほど平田幹事からご紹介いただいたとおり,日弁連の中でも,未成年後見について,性質決定の話として,親権・監護権とそろえる,そちらにむしろ含ませる,若しくは平仄をそろえる必要があるかという議論をしまして,結論的には,先ほどご紹介いただいたように,これでいいのではないかというようなまとめ方で終わったのは確かです。しかし,その後も個人的に考え続けていまして,現在,私は,そうはいっても本来は親権・監護権の性質決定に含まれ,単位事件類型としては同じに考えるべきと思っています。日弁連では,未成年後見を親権・監護権の方とそろえることと,成年後見の方とそろえることとで,どこに違いが出てくるのかという議論をしたのですけれども,親権・監護権の方にそろえますと,基本的には住所地ですので,大きく違うのは本国管轄を認めるかどうかということです。そのときの議論としては,子どもの保護のために本国管轄を認めることをやめようとまで言う必要はないのではないかということで,先ほどのようなまとめ方になったのです。ところが,今日も何人かの先生方からも御指摘がありますように,準拠法に関する本国主義というのがありますが,管轄に関していうと,成年者の保護にしても,96年の子の保護条約にしても,本国管轄自体が結構制限的に規定されています。その中で,漠然と子の保護ということで,本国管轄を認めることはいいことである,と丸めて良いのか,ということを昨日から考え続けています。   先ほど西谷幹事が,外国法制では,後見の方に単位法律関係を性質決定すべきか,親権・監護権の方か,はっきりしない例があるということを挙げてくださったのですが,私が考えているのは別の類型の話で,国際的な子の事件をやっていて問題になるのは,日本では単独親権で離婚後に親権者になった方が亡くなられるということがありますと後見開始原因になりますが,親権者変更の申立てがされることもあって,争いが起きることがあります。この点で,外国人の親が含まれますと割と熾烈な争いになることが多いのですけれども,結局,本国管轄を認めていますと,子どもが日本に住んでいない場合に,日本の方から見ると後見開始原因があるということで,日本に管轄権があるということになるのだと思います。ところが,子どもがいる国,住所地の方では,生存親の方に親権があるという可能性もあります。そのような事件が具体的に起きるかどうかは別として抽象的に考えますと,そのような場合に,本国管轄ということで日本が手を伸ばしていくことが,子の保護と一般的に抽象的にいいますといいことのように聞こえるんですけれども,本当にそれは必要なのだろうか,いいのだろうか。今のような事例を考えますと,むしろ,そこは親権・監護権の管轄と一致している方が,管轄をめぐる無用な争いが減るのではないかとも思います。今の時点では,親権・監護権の方にそろえて本国管轄を一切置くべきでない,というところまでは,考えが整理し切れていないのですが,もう少し丁寧に検討した方が良いのではないかなと思っています。 ○池田委員 全体として,管轄はこれといったときに,優先劣後の関係がこれまで全く俎上に上っておらず,だからこそ,いろいろな議論になっているような気がしています。例えば,外国においても,その所在しているところで後見開始がなされた場合,それにもかかわらず,日本でできるとすることには問題があり得るという気はしますので,そのような場合に劣後する形の管轄原因を観念することができれば良いのではないかと思っています。ほかの場面もそうなのですけれども,直ちに緊急管轄と言ってしまうかどうかは別として,原則はこれだけれども,救われない場合にここまで救われるという形を,ある程度,予測される部分までは定めていただいた方が良いのではないかと思っています。 ○高田部会長 その場合,直前の大谷幹事の御意見との関係では,本国管轄をどうするかが直ちに問題となりそうです。その点について,なお御意見があれば承りたいと思いますが。 ○大谷幹事 池田委員がおっしゃったような,順番を付けるという考え方は,一般論として,私は意味があると思います。その上で,部会資料には劣後と書いてありますが,例えば,成年者保護条約とか,96年子の保護条約においては,順位として第一順位が常居所地で,それがなければ本国管轄,というような単純な意味ではなく,調整がされるような規定ぶりになっていると思います。劣後,という言い方をしてしまうと,第一順位のところが管轄権を行使しなければすぐに第二順位のところが管轄権を行使できるようなイメージに聞こえますけれども,そうではないということだけ注意喚起のために申し上げたいと思います。 ○高田部会長 いかがでしょうか。現時点では本国管轄は肯定・否定の両説に分かれているということでしょうか。 ○久保野幹事 本国管轄との関係で,先ほど大谷幹事から出していただいた例との関連で教えていただきたいのですけれども,離婚後の単独親権者が死亡した場合に後見が開始するか,それとも,他方の親に親権者ということで指定するかというのが管轄との関係で問題になってくるというケースについては,例えば,祖父母がいて後見を開始するか,それとも,他方の親に親権者を指定するか,という場合を典型的に想像するのですけれども,その場合ですと,私人として子どもを守ろうという人たちが争っているという場面だと思うのです。他方で,親権者などの,自ら進んで子を守ろうと争うような人たちがいない状況で,誰がどのように子どもの保護の立場に入っていくかという場面もあり得て,日本人の子どもが外国に常居所地があって,親族であるとか親権者となり得る人が全て亡くなってしまったというような場面を想定したときに,どのように保護され得るのかということと本国が手を伸ばしていくべきかということが関係してくると思います。誰もいないというときに,本国管轄を置かないとするとどういうことが想定されるのかということが,もう少しイメージを持てると有り難いんですけれども,いかがでしょうか。 ○大谷幹事 割と私たちが頭に置きやすい,比較的なじみのある国と,余りその国の法制度がどうなっているか分からない,その他たくさんの国との間で違いがあるのかもしれませんが,例えば,欧米諸国などを念頭に置きますと,ざっくり言ってしまえば,子どもを保護する人が誰もいない状態で放置されることは基本的にはなく,ただ,それがいわゆる他方の生存親なのか,あるいは親戚なのか,それ以外の保佐人みたいな話になるのか,それは最終的には分からないけれども,裁判所が最終的にはきちんと保護する措置をとるということは言っていいと思います。 ○久保野幹事 恐らくそういうことだろうとは思っておりますが,そのような外国でとられるだろうという措置を信頼していいのか,本国管轄を置かなくてよいか,それとも,いろいろなことを想定して,先ほど来出ている優先順位というのはあるかもしれませんけれども,本国管轄をある程度,残した方がよいかというところは,もう少し考えたいなと思います。 ○高田部会長 本国管轄については取りあえずよろしゅうございますか。本文の提案の三については,先ほどの山本和彦委員の御発言との関連でいえば,今回は後見人等選任の審判ですから,選任以降の事件しか想定しておりませんので,ますますこの場合の管轄原因は選任した裁判所の所属する国ということになる,ということでしょうか。 ○山本(和)委員 そういうことです。 ○高田部会長 そうなりそうですが,ほかに,本文の①の三について御意見があればおうかがいします。ないようでしたら,本文の②について,これまたなお議論が分かれているところかと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 先ほどの竹下幹事の質問ですけれども,通則法の35条2項1号というのは,主として未成年の後見の場合を想定して規定されたというお話だったと思うのですが,実は先ほどの御発言は,本文の②について否定的なニュアンスの御発言だったような気がするんですが,それは,そもそも35条2項1号がおかしいということを含意しているんでしょうか。 ○竹下幹事 おかしいかどうかは,それぞれいろいろな考え方があるとは思いますが,通則法の35条2項1号が限界事例でどういう事例を対象としているかは,なかなか,明確化はしにくいんですけれども,中心的に念頭に置いている事例は,後見を必要とする外国人の未成年者が日本にいて,そのときに何か保護措置のようなものをとるときに,準拠法が35条1項に従って本国法となるのではなくて,日本の家庭裁判所で手続をやる限りは日本法にしたいと,そこのところに35条2項1号の一番の理由があったのではないかと思います。すなわち,今,申し上げている中心的に念頭に置いている事例というのは,むしろ,管轄という意味でいえば,①の方に含まれていて,日本の裁判所で手続を行うときに日本法を準拠法としたいから,35条2項1号というものが作られたというのが,私の記憶です。その上で,管轄の議論をするという段階で②を置くとするならば,どこに意味があるかといえば,それ自体は,法例改正のときにも議論は否定されていなくて,財産所在地管轄を認めるかどうか,仮に認めたとしても,35条2項1号があれば,日本法が少なくとも家庭裁判所での手続では準拠法とすることができるだろうし,認めないとしても,先ほど申し上げた中心的な事例で日本法を準拠法とする意味があるということで,35条2項1号はどちらにも読めるという前提で作られたのではないかという記憶です。だから,35条2項1号が誤りというよりは,35条2項1号から管轄のルールを引っ張ってくるというのは違う議論なのではないか,違う議論となったときに,そこから引っ張ってきて本当にどこで効いてくるかというと,今の②の書きぶりですと,2項1号に当たる場合は常に日本に国際裁判管轄,言ってみれば,日本に財産がなくても国際裁判管轄が認められてしまい得る文言だと思いますので,それは広すぎるのではないか。仮に認めるとしても,財産所在地管轄ないしは,個人的には,先ほど来出ているとおり,本国管轄についてどう考えるかは議論があり得ると思うのですが,第一義的に中心的に管轄を有すべきは子の住所地の国であろうという考え方があるので,余り広げすぎることは問題ではないかということで,管轄ルールとしての②については否定的という趣旨です。 ○高田部会長 ありがとうございます。   35条2項1号の受け皿としての規定が必要ではないかというのが部会資料の提案ですが,竹下幹事の御意見によると,①の一でカバーされているはずだということだと思います。それでカバーされていると見ることができるかどうかについてなお御意見をお願いします。 ○竹下幹事 先ほど池田先生がおっしゃられたような事例,おじいさんかおばあさんが日本で申立てを行うという事例で,本当にしなければいけないとすれば,こういった形で35条2項1号から引いてくるような形で要件を作るのではなくて,正に必要があるときという緊急管轄のような発想になってくるのではないか。そういった場合でも,原則的には子がいる場所に行って申立てを行うというのが基本かなと思うので,どこまで緊急的なものを認めるべきかという意見はまだ固まっていないんですが,少なくとも,今の②だとちょっと広いのではないかというのが私の意見です。 ○高田部会長 いかがでしょうか。①の一に加えて緊急管轄でカバーするか,②のようなものを設け,なお,表現をより適切なものにするかということかと思います。 ○西谷幹事 私も,②の管轄原因は,挙げない方がよいと考えております。むしろ,ごく限定的に緊急管轄のような形で,保護の必要があるときに管轄を肯定する旨の規定を入れる方が望ましいと思います。 ○大谷幹事 私も,②のような形では設けずに,率直に子の保護の必要があるときみたいな書き方で設けることに賛成です。 ○和波幹事 確かに②の要件だと,広すぎるという御意見はあるんだろうと思うのですが,逆に保護の必要があるときという要件だけで管轄規定を設けたときに,それが明確な管轄規定なのかというと,実務的にはもう少し要件を付加するなどの制限をしないと,結局は管轄規定としてはむしろもっと広いものになりかねないという懸念は有しております。 ○高田部会長 子の監護について御議論いただいた際にも同じような議論があったと記憶しておりますが,そことも平仄を合わせながらなお検討するということになろうと思います。この時点でなおほかに御意見はありますでしょうか。 ○道垣内委員 今の②を削除するなり,別の形に変えるときに通則法の35条2項1号はどうなるのでしょうか。このまま置いておけば良いということですか。 ○竹下幹事 外国人未成年者について日本で何らかの後見の措置をとるような場合,これがなかったら,そのまま本国法が準拠法となって,本国法に照らした手続を日本で行うということになりますので,そうではなくて,それを日本法に変える,準拠法を変える意味はあると思いますので,このままでいいのではないかと思います。 ○高田部会長 では,これまでの御議論を踏まえ,未成年後見関連事件を独立の単位事件類型とするかを含めて,改めてご検討いただくことにしたいと存じます。では,この辺りで休憩を取らせていただきます。           (休     憩) ○高田部会長 では,再開させていただきます。   続いて,任意後見関係事件の国際裁判管轄について御議論いただきます。資料の説明をお願いします。 ○沖本関係官 部会資料4-2の第3について説明します。   本文では,任意後見関係事件の単位事件類型を「任意後見に関する審判事件」とし,二つの管轄原因を設けることを提案しています。   補足説明のうち,まず,単位事件類型についてです。わが国の任意後見契約に関する法律,以下,任意後見契約法といいますが,任意後見契約法で定められている任意後見制度は,法定後見,すなわち,わが国においては成年後見及び未成年後見がこれに当たりますが,法定後見と同じく本人保護と取引安全の双方の確保を目的としていると考えられます。しかし,任意後見は,委任契約の一類型を基礎としている点で法定後見とは大きく異なっており,このような違いを踏まえ,任意後見について法定後見とは異なる独立の単位事件類型を設定し,別個に国際裁判管轄の規律を設けることを前提として,「任意後見に関する審判事件」という単位事件類型を提案しています。   もっとも,任意後見関係事件について,独立の単位事件類型を設定して国際裁判管轄の規律を設けている外国等の法制や,わが国において「任意後見に関する審判事件」の国際裁判管轄が問題となった事例は見当たらず,独立の単位事件類型を設定する必要性には疑問があるということもでき,特に規律を設けないとすることも考えられるところです。そこで,そもそも,任意後見関係事件の国際裁判管轄について規律を設けることの要否や適否について,御審議をお願いします。部会資料では,仮に,任意後見関係事件について独立の単位事件類型を設定し,国際裁判管轄の規律を設けることとする場合,本文の一及び二においては「成年後見等に関する審判事件」の国際裁判管轄の規律についての提案の本文に倣い,本人の住所若しくは居所又は国籍を管轄原因とすることを提案しております。   ところで,任意後見契約法に基づく任意後見契約の場合,本人及び取引の相手方の保護の見地から,嘱託又は申請により,法務局において登記がされますが,わが国において登記がされている任意後見契約については,当該契約の当事者にわが国の任意後見制度を利用する意思があるとも考えられ,そのような当事者の意思を尊重するとともに,本人及び取引の相手方の保護を図る必要があるとして,管轄原因の特則を設けることが考えられます。仮に,このような特則を設けることとする場合,わが国において任意後見契約の登記がされているとしても,本人,任意後見受任者又は任意後見人のいずれの住所又は居所も日本国内になく,かつ,本人が日本人でない場合については,「任意後見に関する審判事件」の国際裁判管轄権を我が国に認める場合を想定し難いとも考えられることから,例えば,本文の提案に付加して,渉外的な要素のある家事事件手続法別表第1の111の項から121の項までに定める審判事件については,我が国で任意後見契約の登記がされている場合であり,かつ,任意後見受任者又は任意後見人の住所又は居所が日本国内にあるときに,我が国の管轄を認める,などの規律を設けることも考えられます。   以上について,わが国において任意後見契約の登記がされている場合に関する特則を設けることの要否や,仮にそのような特則を設ける場合の具体的な規律の在り方について,御審議をお願いします。   次に,わが国において任意後見契約の登記がされている場合を除き,受任者の住所地又は居所地を管轄原因とすることについて,です。受任者の住所又は居所が外国にある場合は,任意後見人に対する実効的な監督が困難であるとも考えられることから,これを単独で管轄原因の一つとすることや,管轄原因の必須の要素とすることも考えられます。しかし,受任者が我が国に住所又は居所を有しない場合であっても,任意後見人に対する監督がおよそ不可能というわけではないと考えることもできます。受任者の住所地又は居所地については,先ほど説明しました我が国において任意後見契約の登記がされている場合において管轄原因の要素とされることがあればその場合を除きまして,単独で管轄原因の一つとしたり,管轄原因に必須の要素としたりすることについて,部会資料ではそういった提案はしておりませんが,御意見がありましたらお願いいたします。   最後に,本人の財産の所在地についてです。任意後見における裁判所の関与は,本人の精神の状況を考慮しつつ,その財産を管理又は処分する代理権を授与された受任者を監督することに主眼が置かれていることから,財産所在地管轄を認める実益に乏しいと考えることができること,また,「成年後見等に関する審判事件」の国際裁判管轄における本人の財産の所在地を管轄原因とすることについての議論が,「任意後見に関する審判事件」においても妥当すると考えられることから,本人の財産の所在地を管轄原因とする規律の提案はしておりません。この点につき,御意見がありましたらお願いいたします。   「任意後見関係事件」についての説明は以上です。 ○高田部会長 では,第3について,もし可能であれば,最初に規律を設けることの要否,是非について御意見を賜れればと存じますが。 ○池田委員 弁護士会内で前に聞いたことがある例として,在日韓国人の方が任意後見契約をしたのだけれども,日本人でないという理由で任意後見監督人の選任が認められなかったという事案が報告されています。国際裁判管轄に関する規律が何もないと,その事案のように取り扱われるという心配があることからすると,部会資料の提案のように,住所又は居所が日本にある方が必ず救われるという道を作っておく必要があると思ったところです。 ○高田部会長 ありがとうございます。 では,今の点も含めてで結構でございますので,規定すべき内容も併せて御議論いただければと存じます。 ○山本(和)委員 部会資料の16ページの3のところに書かれてある,要するに,任意後見契約の登記をしてわが国の任意後見制度を利用する意思があればそれを尊重すべきではないか,というのは,私もそう思います。この制度は,登記とそれに基づく裁判所の審判というのが一体になっている制度のような感じがするので,登記を一旦認めておきながら,いざ,必要になったときには審判はしません,というのは疑問です。外国でやってくれればいいですけれども,多分,外国では,日本のこの制度に基づいて何か裁判をしてくれるというのは,余り期待できないような気もするので,それを考えると,登記のときに制限しないのだったら,裁判の方もやってあげないと平仄が取れないという感じがします。 ○大谷幹事 例えば,外国人が,日本で登記したいということで任意後見契約をしたとき,準拠法はどうなるんでしたか。 ○池田委員 この制度は,少なくとも日本で公証人が公正証書を作成することが予定されていますよね。その定める方式にのっとった任意後見契約,要するに日本におけるこの枠組みでないと,全然,話が働かない。 ○大谷幹事 公正証書を作成するとしても,日本に住んでいることは別に必要ないわけですよね。 ○池田委員 そうですね。そこはそうなのではないですか。 ○大谷幹事 なぜこの論点を出したかというと,プレナップなどでもよく問題になるのですけれども,日本の婚姻前の夫婦財産契約の登記をするような場面がありますが,確かに,登記を受けておきながら,その後の手続ができないというのはおかしいというのは,先ほどおっしゃっていたとおりだなと思いました。ただ,登記を受け付けるときには,形式審査で,どういう準拠法に基づいたものかは見ないのかもしれないのですけれども,本当は,そのような契約が有効かどうかとかいうことは,登記を受け付けるかどうかの形式審査の問題ではなくて,準拠法上有効でなければ,最終的には意味を持たないのではないかなと思って,それで確認をしようと思ったのです。 ○池田委員 日本において登記があって公正証書があったり,公証人が契約についても作成するという形を想定しているもので,通常,日本の公証人に外国法に従った後見契約を公証することは期待されていないと思われます。この仕組み自体が,日本法による任意後見契約でのみ,ワークする仕組みになっているのではないかと思うのです。日本の公証人が外国法に従った契約を書く,正しい契約として認証するなどということは,そもそも,想定できないのではないでしょうか。 ○大谷幹事 池田委員がおっしゃることも,少なくとも公証人が作る任意後見契約の公正証書は日本の任意後見契約を念頭に置いたものだろうというのは,何となく分かるのですけれども,ただ,日本で登記を認めておきながら,その後の手続ができないのはおかしいのではないかということに関していうと,例えば,外国人が,公証人のところへ来られさえすれば,別に日本に住んでいなくても,日本の任意後見契約をしておくということは可能であって,そのときに作る公正証書は確かに日本の任意後見契約だろうと思いますが,それが果たして後見の準拠法からして,最終的に有効なものなのかどうかという話は別だと思っています。ですので,日本で登記がされることがあり得る,もっと翻って言うと,日本の公証人が外国人についても日本の任意後見契約の公正証書を作ることはあり得るということから,直ちに日本で管轄を認めておかないとおかしいということになるのかどうかというところが,整理ができていないのです。問題点としては指摘させていただきたいと思います。 ○平田幹事 任意後見契約をして登記できるかという問題と,任意後見に関する審判をできるかという問題は別次元の問題で,任意後見契約を外国人が日本国内でやって登記をするということは自由にできるはずですよね。できるけれども,法定後見と違って,任意後見の場合には,本人と任意後見人と任意後見監督人の三者関係になってくるので,日本に本人も任意後見人もいない場合に,任意後見監督人を日本で選任する必要性があるかというとそれは全くない。原則としては本人の住所地でもって保護を図るというのが基本にあって,本人の財産が日本にある場合に処分するときのために登記をしておくというのだったら,日本に来て日本で任意後見監督人を選任してもらってスタートさせるしか方法はないのだろうと思うので,ここはある程度割り切らないと,任意後見監督人を選任しても何も動きが取れないということが出てくるのではないのかという気がします。 ○道垣内委員 公正証書によるというのは,国際私法上は典型的な方式の問題です。通則法10条によれば,行為地法によればよいということですから,日本法を準拠法にして後見開始契約を外国でする場合に,当該国の法で単に書面でよいとなっていればそれでよく,契約は成立したとされるはずです。 ○池田委員 単なる公正証書であれば,外国の公証人というようなことも観念できるのかと思うのですけれども,任意後見契約自体は,後見監督人が付いて家庭裁判所が監督するという独特の枠組みになっています。少なくとも,想定されている枠組みでないものを広く受け入れるような仕組みには,なっていないのではないかという気がしています。   それから,先ほど平田幹事は,本人も任意後見人も日本にいないときは全く必要ないとおっしゃったのですが,任意後見契約は非常に長い間,効力が生じて,例えば50代半ばで契約をして,90歳ぐらいまで生きるということもよくあることなので,何十年にもわたって両者がずっと日本にいるかという保証は全然ないけれども,何かあったときにはこの人に頼みたいというようなことがあります。両者がいろいろなところに動くということが想定できることを考えると,全世界の財産全部についてこの人に任せたいという本人の意思というのは尊重すべきなのであって,この時点において日本にいないということの一事をもって全くその必要がないとは,実質論として考えにくいのではないかと思っています。任意後見の効力の発生が必要となった時点において両方の人が外国にたまたまいるけれども,それに対して,受任者の方が,家庭裁判所の後見監督人として別途選ばれた人に報告をするなどの形で一定の監督を受けるということは一応は可能だと思うので,それを真正面から否定し去ることについては私はいかがかなと思います。 ○平田幹事 私も全否定するつもりは全然ないのですけれども,海外に出るという事情が生じた場合に,任意後見人に任せる意思が果たして本当に存続しているのかどうかは疑問です。なぜなら,任意後見契約における効果意思は,単に任意後見受任者を指定するというだけでなく,適切な任意後見監督人の選任を得ることを前提に任意後見受任者を指定するというものだからです。移動したときにもそういう意思を持ち続けているのであれば,移動した先で何らかの法的準備をとってもいいのではないかと思いますし,移動した後に判断能力を失った後,意思が存続しているかどうか分からないとなったら,意思の断絶というのを認めた上で法定後見のシステムに移動させていく方が,むしろ素直な考え方かなという気がするのですけれども。 ○高田部会長 実質的には,部会資料の13ページの本文の二つの要件の補充的なものとして,何が必要かということかと思います。登記がある場所において多くの場合監督がされるものと思いますが,監督関係についての管轄を認めることが適切ではないかという御意見と,そこまで考える必要はないのではないかという御意見があるかと存じますが,なお,御意見を賜れればと思います。 ○池田委員 法定後見自体は各国にいろいろな法制があると理解しておりますけれども,この任意後見は,自分の定めた人に頼みたいという,その意思を相当程度尊重する仕組みだと理解しております。将来的にどこか外国で別の人がやるよりは日本で,あるいは定めたこの人に,という気持ちがある場合も当然あると考えております。その地の法定後見が当然優先するかというと,当事者の意思からするとそうでない場合も相当程度あると思われます。 ○畑委員 法定後見の方では保護措置のようなものは別ではないかという話をしていたかと思うのですが,任意後見ではそういうものは想定しなくて良いのかということが気になります。つまり,法定後見については,後見開始決定の審判があったときはその後の保護措置はうんぬんという話をしていたのですが,それに対応する問題が任意後見にないかどうかということで,今の登記に着目するというのは,そういう類いの議論だと思うのです。それと両立すると思うのですが,もう一つの可能性としては,実際に後見が始まるポイントとして,任意後見の効力を発生させるための後見監督人の選任に着目するということもできるのかなという気もします。 ○山本(弘)委員 任意後見は法定後見と違って純粋に契約ベースの制度ですよね。そういったものについての本国管轄がどうやって正当化できるのかというのがよく分からない部分があります。 ○池田委員 先ほど大谷幹事から準拠法の問題というお話があったのですけれども,後見に関しても,契約として日本法を選んで日本法で公正証書を作るということで,準拠法を選べるような種類の契約なのではないかと思っておりますので,後見の準拠法という問題とは別に考えられるのではないかと思ったのですが。 ○大谷幹事 誰を後見人にするかとかを選んでおきたいという,いわゆる契約型の話として見るべきなのではないかという話が出ていますが,誰にするかということは別としても,最終的には本人の保護という,後見の法律関係の話ということで考えると,国際裁判管轄をもし定めておかなかった場合に,仮にそういう申立てをしたいという話が出てきたとき,成年後見の管轄規定に引き寄せて,そちらで判断するという整理というのはできないのでしょうか。 ○高田部会長 最初の規定の要否にかかる問題に戻るわけですが,むしろ,設けない方が良いということでしょうか。 ○大谷幹事 そういう選択肢もあり得るのではないかということです。 ○山本(和)委員 そうすると,全部,解釈論ということになると思うのですけれども,逆推知だとすれば,国内管轄は住所地になっているので,住所地になりますよね,そうすると,先ほどのような国籍については,解釈論として,国際裁判管轄は別だという議論はもちろんあり得るとは思いますが,そういう意味では不安定にはなるのだろうと思います。 ○大谷幹事 逆推知とかの話ではなくて,先ほど議論していた成年後見等関係事件の管轄規律を,今度,何らかの形で置くわけで,任意後見関係事件も含む広い意味で成年後見事件という単位法律関係を性質決定すれば,別途,任意後見契約についての任意後見関係事件の管轄規定がなくても,成年後見事件に含まれる,その場合,成年後見等関係事件についての今の提案ですと本国管轄もあるわけですから,そちらでいけるのではないかという意見です。 ○山本(和)委員 もちろん,成年後見等という事件の定義をして,任意後見もそれに含まれるという解釈をすれば,そうなるということだと思いますが,条文に書けば明確なのでしょうけれども,書かずに解釈論に委ねられたときに,本当にそういう解釈になるかどうかというのは分からない感じがします。成年後見等関係事件の提案の②のようなものがどうなるかにもよると思うのですけれども,このような管轄原因が本当に任意後見の場合にも適用されるのかどうかなど,解釈論としてはかなりどうかなという感じになるようには思います。それから,先ほど畑委員がおっしゃったことですけれども,私は任意後見の場合もそうなるのではないかと思っていて,どこまで含まれるかは分からないですけれども,少なくとも任意後見監督人についての処分とか解任とか,その類いの話は任意後見を開始した裁判所の管轄になるのではないかなと思っています。 ○高田部会長 畑委員に確認ですが,登記ではなく監督人の選任という規律の方が適切だという御趣旨も含めた御発言でしたか。 ○畑委員 私は登記とどちらがよいかについてはコメントしなかったつもりです。 ○高田部会長 了解しました,別個の議論だということですね。としますと,法制的にはいろいろ考えられますが,今のところ,本国管轄について議論は分かれているようにも思われますが,その点についてなお御意見があればおうかがいしたいと思います。  本国管轄を認めるということは,山本弘委員の御意見とは逆になりますけれども,本人保護ということで後見に近付けて理解するという大谷幹事の発想には,よりなじむ議論かとも存じます。そうした理解でよろしいということでしょうか。そのほか任意後見について御意見はございませんでしょうか。   よろしければ,続きまして,部会資料4-3,失踪宣告・不在者財産管理事件の国際裁判管轄について御議論いただきます。資料の説明をお願いします。 ○沖本関係官 部会資料4-3,第1の本文及び補足説明の1から4までについて説明します。   本文では,失踪宣告関係事件の単位事件類型を「失踪の宣告に関する審判事件」とし,これに含まれる失踪の宣告の審判事件と失踪の宣告の取消しの審判事件の事件類型について,共通する管轄原因とそれぞれの事件類型特有の管轄原因などの規律を設けることを提案しています。   補足説明の概要ですが,前提として現行法の規律を見ますと,失踪の宣告の国際裁判管轄については通則法第6条に規定されています。通則法の立案に先立つ法制審議会国際私法(現代化関係)部会における議論については,部会資料に概要を記載しておりますので,そちらをご参照ください。結論として,通則法第6条は,第1項で,原則的管轄として本国管轄と住所地管轄の双方を認め,第2項で,不在者が我が国に住所を有しない外国人である場合には,第1項により原則的管轄が認められない場合であっても,不在者の財産がわが国にあるとき又は不在者に関する法律関係がわが国に関係があるときは,わが国の裁判所に失踪宣告の例外的管轄が認められるものとしています。これに対して,失踪の宣告の取消しの国際裁判管轄については,通則法に明文の規定は設けられておらず,解釈に委ねられています。   以上を踏まえ,まず,単位事件類型についてですが,外国の裁判所等でされた失踪の宣告の効力を我が国において承認することを前提としますと,失踪者が生存していたこと又は死亡の時点が異なっていたことが判明することにより,相続関係に影響が生じるなどの場合には,既にわが国において承認の効力が生じている外国の裁判所等がした失踪の宣告の取消しを認める必要があると考えられます。しかし,失踪の宣告の取消しの審判事件の国際裁判管轄については,管轄原因の時的要素など,失踪の宣告の審判事件の国際裁判管轄とは検討すべき内容が異なる点があるものと考えられることから,本文においては現行法上,明文の規定のない失踪の宣告の取消しの審判事件の国際裁判管轄の規律を設け,単位事件類型を「失踪の宣告に関する審判事件」として,失踪の宣告の審判事件と失踪の宣告の取消しの審判事件の双方の事件類型に共通する管轄原因以外の管轄原因については,事件類型ごとに特有の管轄原因を付加して設けることを提案しています。   次に,本文の①についてですが,失踪の宣告の審判事件と失踪の宣告の取消しの審判事件との共通の管轄原因として,不在者又は失踪者が生存していたと認められる最後の時点,これは,失踪者については,失踪宣告により死亡したとみなされる時点とは異なる時点に死亡していたことが判明した場合に失踪の宣告の取消しを認めるべきことから,実際に死亡した時点となりますが,この時点における不在者又は失踪者の住所又は国籍を管轄原因とすることを提案しています。   続いて,失踪の宣告の審判事件に特有の管轄原因についてです。通則法第6条第2項の規定を踏まえ,本文の②において,不在者が我が国に住所を有しない外国人である場合であっても,その財産や法律関係を我が国で確定的に処理することが必要なときもあると考えられることに鑑み,不在者の財産が日本に所在すること又は不在者に関する法律関係が日本に関係があることを例外的な管轄原因とする規律を提案しています。   さらに,通則法第6条第2項は,不在者の財産の所在地又は不在者に関する法律関係との関係性を例外的な管轄原因としており,これが認められる場合には失踪宣告の効力,範囲が限定されることを規定しています。本文の③は,通則法第6条から失踪宣告の国際裁判管轄に関する規律を切り離し,同条第2項の内容を失踪の宣告の審判事件の国際裁判管轄と合わせた規律を設けることを提案しています。なお,通則法第6条第2項の規定にそろえるとすれば,本文の②の冒頭に,「①に規定する場合に該当しないときであっても」などと付け加えることも考えられます。   次に,通則法第6条の改正についてです。これまで説明してまいりましたように,失踪の宣告の国際裁判管轄を含む「失踪の宣告に関する審判事件」の国際裁判管轄や通則法第6条第2項の内容を含む規律を,通則法とは別に新たに設ける場合,通則法第6条の内容を,失踪の宣告の準拠法は法廷地法となることのみを定める内容に改めることが考えられます。通則法第6条の失踪の宣告は,立案担当者の説明によると,我が国の裁判所が行うもののみを想定していることから,同条については,失踪の宣告は法廷地法である日本法による,などと改めることが考えられますが,この点について御審議をお願いします。   補足説明の4までの説明は以上です。 ○高田部会長 ここまでについて御意見を賜りたいということですが,いかがでしょうか。 ○西谷幹事 議論の実質とは関係しませんが,部会資料5ページでご紹介いただいているドイツ法について補足させていただきます。日本の一般的な国際私法の教科書では,ここに記述していただいているように,ドイツ法など,失踪宣告によって死亡を「推定」するだけの法制においては,本人の生存が確認されれば推定が覆るにすぎず,失踪宣告の取消しは問題とならないと書いてあります。しかし,調査したところでは,実際には,ドイツ法上も失踪宣告の取消しの裁判が制度として存在しています。これは,人の生死に関係する重要な問題であるため,本人の生存が確認された場合には,失踪宣告の効果を消失させるために,改めて裁判を行うという趣旨であると解されます。 ○高田部会長 失踪の宣告の取消しについては引き続き御議論いただきますが,失踪の宣告の取消しの事件を別にすれば,通則法を踏襲するということでございます。特に御意見はございませんでしょうか。   では,取消し事件について御説明いただきます。 ○沖本関係官 部会資料4-3,第1の補足説明の5について説明します。   まず,失踪の宣告の取消しは失踪の宣告の是正であり,当該失踪の宣告をした裁判所がこれをすることが相当であると考えられることから,本文の④の一においては,わが国において失踪の宣告があったことを管轄原因とすることを提案しています。また,人の生死が当該人の本国の戸籍に反映される重要な問題であることや,生存が確認された失踪者の住所がわが国にある場合における当該失踪者,わが国の民法上の失踪宣告の取消しであれば利害関係人を含みますが,それらの者の便宜にかなうことから,本文の④の二においては,失踪者の生存が判明した場合について時的な要素を審判時点とすることとして,失踪者の住所又は国籍を管轄原因とすることを提案しています。   次に,失踪者の財産の所在地又は失踪者に関する法律関係との関係性についてです。先ほど説明しましたとおり,失踪の宣告の審判事件の国際裁判管轄については,本文の②の一及び二において,不在者の財産がわが国に所在すること,又は不在者に関する法律関係がわが国に関係があることを例外的な管轄原因とする規律を提案していますが,失踪の宣告の取消しの審判事件においては,これらの例外的な管轄原因を管轄原因とする必要性は必ずしも高いとは言えないとも考えられることから,同様の管轄原因を設けることを提案しておりません。この点につきまして御意見がありましたらお願いいたします。   さらに,審判の効力が及ぶ範囲について,です。失踪の宣告の取消しの審判事件については,本文の③において,失踪の宣告の効力が不在者の一部の財産又は法律関係にのみ及ぶことがある旨を定めている通則法第6条第2項の内容を反映した規律を併せて設けることを提案していますが,外国の裁判所等でされた失踪の宣告の取消しの場合に,当該取消しの効力が及ぶ範囲についても失踪者の一部の財産又は法律関係にのみ及ぶと整理することもできます。   このような整理を前提として,例えば,裁判所は④の二に規定するときは失踪宣告の取消しをしようとする者の財産が日本国内にあるときは,その財産についてのみ,その者に関する法律関係が日本法によるべきときその他法律関係の性質,当事者の住所又は国籍その他の事情に照らして日本に関係があるときはその法律関係についてのみ,失踪の宣告を取り消すことができる,などの規律を設けることも考えられますが,このような規律を設けることの要否につきまして御審議をお願いします。なお,仮にこのような規律を設けることとする場合は,先ほどの失踪の宣告の審判事件についての本文③の説明で申し上げたところと同じく,本文④の冒頭に,「①に規定する場合に該当しないときであっても」などと付け加えることも考えられるかと思います。   「失踪宣告関係事件」についての説明は以上です。 ○高田部会長 では,失踪の宣告の取消しの審判事件について御意見を伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○池田委員 取消しの効力の範囲の話でもよろしいですか。外国で全体についてされた失踪宣告について日本でその取消しをするという場合に,効力の及ぶ範囲を日本の財産だけにしておいた方が,影響が少なくていいという考えが一応あるのかもしれないのですけれども,外国でされた失踪宣告の効力は全体に及んでいます。外国に行って全部を取り消すということも選択肢としてはあるのですけれども,それをたまたましないとはいえ,日本で取り消すということを考えた場合に,部分的に取り消すというのは,かなり問題があるのではないかと思っております。特に,相続関係などについて,日本法で進めるという場合には,ほとんど全ての財産について及ぶという前提で考えればよいのだとすれば,ほとんど限定がなきに等しいという気もいたしますので,失踪の宣告の取消しの効力を限定する意味は少ないのではないかという気がしております。 ○高田部会長 今の御発言は,日本で取消しをすること自体は管轄を認めるということでしょうか。 ○池田委員 失踪の宣告をされた本人が出てきたので,できれば宣告をされた元の国に行って取り消すのが筋だとは思うのですけれども,何らかの理由で日本でどうしても取り消すということまでは,否定しなくても良いということです。 ○高田部会長 失踪の宣告の取消しを認める以上は,日本に関連する財産ないし法律関係に限定するという立て付けは不適切ではないかという御意見ですが,いかがでしょうか。取消し事件は日本法でいう失踪宣告のあった国に赴いてすべきであるという御意見の方は,いらっしゃらないということでよろしいんでしょうか。  そうしますと,あとは取消しの効力が及ぶ範囲の限定という先ほどの問題ですが,これも積極的に支持される方はいらっしゃらないという理解でよろしいのでしょうか。 ○池田委員 念のためにお聞きしたいのですけれども,今,この提案は,失踪者が日本に住所がなくても日本の国籍を有しているというだけで,失踪宣告の取消しが無制限に日本でできるということなのですか。かつ,この失踪宣告の取消し自体は親族などでもできるわけなので,外国にいて失踪の宣告を受けた人が生存することが分かったということで,その取消しを広く日本でやってしまうということですね。 ○竹下幹事 部会資料の8ページの(4)の「失踪者の財産の所在地又は失踪者に関する法律関係との関係性」のところで,取消しの管轄原因とはしないということでお書きいただいているのですが,日本において失踪の宣告が②,③の管轄に基づいてされた場合には,取消しはできるということですか。 ○高田部会長 ②,③の失踪宣告において限定付きの失踪宣告の取消しが想定されているのかどうかということでしょうか。 ○内野幹事 部会資料上,④の一で読めるのではないかということですが,そこ自体も御議論いただければ,という考えです。 ○山本(和)委員 日本で,②,③で失踪宣告をした場合は,④の一で取消しについての管轄もある,元々,失踪宣告の効力は③で限定されているわけで,その限定されているものが全部取り消される,そういうことですよね。 ○高田部会長 何も書かなくてもそうなるということですね。8ページのゴシックの部分についての積極的な御意見はないということでよろしゅうございますか。その前の池田委員の御発言についても,外国に住所があるということで外国で失踪宣告がされた場合においても,日本人であれば日本での取消しが可能というのが原案ですが,それも良いということでご確認いただいたということでよろしゅうございますでしょうか。 ○道垣内委員 ③で書き分けているわけですね,②の一と二を。これは,管轄原因はどちらであるかということを明確にしなければいけないのではないですか。両方あることもあるわけですけれども,それは両方です,で良いのですか。管轄原因は本当は一つあれば裁判ができるはずですけれども,②の一の管轄原因と二の管轄原因が競合している場合には,そのことは裁判で明らかにしておいてあげないと分からないということですね。 ○高田部会長 現行通則法の解釈はどうでしょうか。 ○道垣内委員 通則法の規定は,日本法による,と書いてあるので,管轄があろうとなかろうと日本法によることになるわけですけれども,こちらは裁判してしまった後,管轄原因がどちらかということを明記しておかないと決まらないのではないかということですけれども,そうではないんですか。 ○和波幹事 裁判で明示するかどうかはともかく,少なくとも,通則法の6条は,2項で,前項に規定する場合に該当しないときであっても,となっていますので,1項の管轄があるときは2項では管轄は行使できないということが前提になっていると思います。ですので,2項でいくためには1項の管轄原因がないことを前提としておりますので,競合することは少なくとも通則法ではないのではないかと思います。 ○道垣内委員 私は,②の中の一と二のことを言っています。 ○和波幹事 その場合には,結局,日本の国内にある財産に限らず,法律関係についても,1号であっても2号であっても,解釈上失踪宣告の効力が及ぶとされておりますので,余りそこは区別する意味はないのではないかと思います。 ○道垣内委員 そうすると,ここは書き方を変えた方が良いのではないかと思います。③の書き方が1対1対応しているような感じがするからです。 ○池田委員 2号の場合は日本の中だけではない可能性があるわけですよね。日本法によるべきもので,端的に相続などだった場合に全部,全世界の財産に関係してこないのですか。 ○和波幹事 日本に関係する法律関係という意味では全て含まれるということになるし,財産については日本に所在するもの全てが含まれるので,1号,2号で効力の範囲が違ってくるということはない,というのが,通則法の解釈だと思っております。 ○道垣内委員 通則法は,対象物があってもなくても,準拠法を決めているだけなので,どちらでも良いのですけれども。 ○和波幹事 ただ,通則法の6条は,2項で効力の及ぶ範囲を限定していますよね。 ○道垣内委員 限定しています。あろうとなかろうと,という意味は,そのどちらかしかなくても日本法でいく,ということです。こちらは,一の管轄原因でやったときにはその財産についてのみ,二の管轄原因でやったときにはその法律関係についてのみ,と書いてあるので,それは明記しておかないと決まらないのではないですかということです。それは実務上,何か変ではないですか。 ○和波幹事 おっしゃるとおりです。その意味では,通則法の解釈から変わった書き方になっているので,基本的には通則法と同じ解釈になるような文言にしていただく必要があるのかなと思っております。 ○高田部会長 通則法を変える意図はないと思いますので,表現については改めて検討していただこうと思います。「失踪宣告関係事件」についてはよろしゅうございますか。   では,続いて「不在者財産管理事件」について御説明いただきます。 ○沖本関係官 部会資料4-3の第2について説明します。   本文では,不在者財産管理事件の単位事件類型を「不在者の財産の管理に関する審判事件」として,財産所在地管轄を認めることを提案しています。   補足説明のうち,まず,単位事件類型についてですが,不在者の財産の管理については必ずしも失踪宣告を前提とするものではなく,不在者の財産上,身分上の法律関係の終結を目的としない一時的な財産保全のための制度であると捉えることができることから,本文においては,失踪の宣告に関する審判事件とは別に単位事件類型を設けることとし,単位事件類型として「不在者の財産の管理に関する審判事件」を提案しております。もっとも,不在者の財産の管理について,これを失踪宣告の準備段階として利用されることが多いものであると捉えるならば,失踪の申告に関する審判事件と同一の単位事件類型に属するものと考えることもできること,通則法には不在者の財産の管理に関する規律は設けられていないこと,不在者財産管理事件については,その国際裁判管轄について判示した裁判例や,明文の規律を設けている外国等の法制が直ちには見当たらないことなどの事情を踏まえ,不在者財産管理事件の国際裁判管轄について明文の規律を設けることなく,解釈に委ねることも考えられます。そのほか,不在者の財産管理,相続財産の管理,失踪の宣告など財産の管理の側面を有する事件類型を包括する単位事件類型を設定し,この単位事件類型に係る国際裁判管轄について,財産所在地を管轄原因とする総則的な規定を設けた上で,個別の事件類型ごとに必要な規律を設けるといった方法も考えられます。   以上を踏まえて,不在者財産管理事件の国際裁判管轄の規律の要否や,規律を設ける場合の単位事件類型の在り方について御審議をお願いします。   仮に,不在者財産管理事件について独立の単位事件類型を設けて,国際裁判管轄の規律を置くこととする場合,次に,管轄原因をどうするか,ですが,本文では不在者の財産の管理の実効性を確保する観点から,不在者の財産の所在地を管轄原因とすることを提案しています。他方で,本文においては,不在者財産管理人の管理権限が外国に所在する不在者の財産にも及ぶと解することは困難であると考え,財産所在地以外の管轄原因を提案しておりません。   なお,不在者財産管理人の財産管理権限が及ぶ範囲の解釈によって,「不在者の財産の管理に関する審判事件」の国際裁判管轄について,財産所在地以外の管轄原因を認めることの可否が異なってくると考えるのであれば,財産管理権限の及ぶ範囲についても解釈に委ねるとした上で,不在者財産管理事件の国際裁判管轄について明文の規律を設けないものとすることも考えられます。このような点も踏まえ,財産所在地以外の管轄原因を設けることについて御意見がありましたらお願いいたします。   さらに,不在者財産管理人の管理権限が外国に所在する不在者の財産にも及ぶと解することは困難であるとして,その旨を,具体的には,不在者財産管理人の財産管理権限の及ぶ範囲が日本国内にある不在者の財産についてのみであることを明示する規定を設けることにつきましても,御意見がありましたらお願いいたします。   「不在者財産管理事件」に関する説明は以上です。 ○高田部会長 では,御意見を伺いたいと思います。 ○池田委員 仮に規定を設けることを前提として,不在者の財産が日本にあるものだけを対象とするという提案になっていると思うのですけれども,不在者財産管理人を選ぶ非常に多くの場合というのは,遺産分割の場合であると理解してします。被相続人が日本人で全ての財産が外国にある場合にも,遺産分割のために誰かを定めておかなければならないという,実務のニーズがあると思われまして,そうした場合に,日本での遺産分割のために,相続人が全員日本にいるような場合に,日本で全ての手続を済ませることを前提として,日本で不在者財産管理人を選任する必要があり,ただ,財産が全て外国という場合にも対応できるようにしておくべきではないかと思います。そういった極端な場合でなくても,遺産分割で一部の財産が外国にあるというのは非常によくあるわけで,その外国に及ばないというのはいかにも支障を来しますので,限定すると実務的な問題が生じ得ると思います。 ○山本(和)委員 今の池田委員の御意見ですが,その人の財産全て世界中のものに及ぼすとすると,財産所在地の管轄というのは変なような感じがします。従来の住所地というか,いなくなった人の元の本拠地でやったものは世界中に及び,財産所在地でやったものはその国だけ,というのが合理的なような感じがするのですけれども。 ○池田委員 例えば,先ほどの失踪宣告の場合からすれば,不在者に関する法律関係が日本法によるべきなどの日本に関係ある場合に日本全部に及ぶ,ということを加える必要があるかなと思っています。 ○早川委員 池田委員が挙げられた例について,部会資料の提案ではそもそも日本での裁判管轄がないような場合ですね。だから,山本委員がおっしゃったように,ほかの,例えば最後の住所などを入れないとまずい,という御意見でもあるわけですか。 ○池田委員 最後の住所すらないことを考えると,日本法による,など,もう少し別の理由が要るのではないかと思ったところです。 ○高田部会長 いかがでしょうか。不在者財産管理人という日本法に依拠した表現が使われており,かつ,今,池田委員がおっしゃられたように,本来,遺産分割までを想定した制度か,ということにも関わっておりまして,単位事件類型のくくり方がなかなか難しいように思います。裏から申しますと,不在者の財産管理に関する事件という形で単位事件類型を設けることが適切か,ということにつながることかと存じます。その辺りについて御意見を賜れればと思います。 ○和波幹事 今,部会長がおっしゃったことと関連するのですが,不在者財産管理というのは,正に財産を管理するために管理人を選任するものです。実際,遺産分割等で使われているという実務があるのはおっしゃるとおりだと思うのですけれども,法律上,管理人には財産について管理しなければいけない義務も発生するわけですので,そういう意味では,日本で管理人を選任しつつ日本には管理する財産がない,というような状況が本来的に想定されるかという点は検討の必要があると思います。そういった場合に,裁判所として管轄があって,管理人を選任しなければいけないということになりますと,管轄としては広すぎるのではないかなという懸念は持っております。 ○池田委員 例えば,外国の銀行預金か何かについて相続人全員に異議がない旨の書面を持ってこいと言われたときに,いない相続人についてしかるべき権限がある人が何かしなければいけない,そんなようなことが簡単に思い付きます。そういったことを認めてもらわないと,実務的には非常に支障があると思うのですが。 ○高田部会長 この制度しか受け皿がないというのが恐らく池田委員の御発言の趣旨かと思いますが,そのニーズをもし踏まえることが必要であるとすれば,どういう立て付けにするのがよいか,ということかと存じますので,なお御意見をいただければと思います。 ○竹下幹事 まず,今,単位事件類型として日本法から持ってきて議論はしているんですが,他方で,池田委員がずっとおっしゃられているような事案は,仮に規定が設けられたとしたら,相続関係事件の方の管轄の規定に引き付けて解釈される事案のようにも思われます。ここで主として念頭に置いている事案,ないしは伝統的に財産所在地管轄というものが主張されてきた事案とは,やや事案を異にするようにも思われました。 ○高田部会長 いかがでしょうか。遺産管理,遺産分割に係る事件であれば,相続関係事件の単位事件類型に落とし込めるような立て付けにすべきではないか,逆に,ここでもし規律を設けるとしたら,表現は難しいのですが,純粋な不在者の財産管理というのを想定すべきではないか,という御意見かと思います。その上で,単位事件類型として,そうした不在者財産管理事件というのを想定することが適切かどうかということについて,御意見があれば承りたいと思います。 ○山本(和)委員 今,座長のおまとめのように,もしこの提案のような形で財産所在地にのみ管轄を認めるという規律だとすると,規定を置かないとどうなるのかということですが,部会資料に書かれてあるのは,一つは失踪宣告に引き付けるということですけれども,先ほどの議論によれば,失踪宣告だとすれば最後の住所地にも管轄が認められるということになりそうですし,仮にどれにも当たらないで逆推知ということになれば,日本の国内管轄は従来の住所地なので,財産所在地ということには必ずしもなっていないということになります。なかなか,この規律の内容を解釈論で実現するというのは難しいような感じもします。 ○高田部会長 ありがとうございます。前提として,不在者財産管理という単位事件類型を想定するとすれば,財産所在地というものを管轄原因として想定するのが適切だという御意見かと思いますが,そこはよろしいでしょうか。では,その点を踏まえて規定の要否を考えるということで,本日は整理させていただきたいと思いますが,それでよろしゅうございますか。   それでは,続きまして,部会資料5-1,その他の家事事件について御議論いただきます。資料の説明をお願いします。 ○沖本関係官 部会資料5-1,第1の「総論(国際裁判管轄の規律を設けることの要否等)」について説明します。   部会資料5-1において議論をお願いする「その他の家事事件」とは,家事事件手続法の施行前,特別家事審判規則において規律が設けられていた,戸籍法に規定する事件,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律,以下,性同一性障害特例法といいますが,同法に規定する事件,生活保護法に規定する事件,破産法に規定する事件,中小企業における承継の円滑化に関する法律,以下,中小企業円滑化法といいますが,同法に規定する事件,それと心身喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律,以下,医療観察法といいますが,同法に規定する審判事件の総称です。   その他の家事事件は,基本法である民法に規定する実体法上の権利を実現するための手続ではない,わが国独自の法制度に由来するものが多く,諸外国の法制度をも包含する単位事件類型を設けることが難しい行政的性格が強く,外国の裁判所による取扱いになじまず,国際裁判管轄が問題となる具体的な場面を想定することが難しい,申立件数が僅かであるものが多く,一部の類型の事件を除き,国際裁判管轄が問題となった事例を確認することができないといった特徴があると言うことができます。   このような「その他の家事事件」について,その国際裁判管轄に関する規律を設けることは,国際裁判管轄を検討すべき単位事件類型が外国の法制度をも念頭において設定されるべきものであることに照らすと,整合的ではないと考えることもできます。また,国際裁判管轄の規律は,直接管轄のみならず間接管轄をも規律するという側面を有することから,「その他の家事事件」について国際裁判管轄に関する規律を設けることには意味があると考えるとしても,飽くまで日本法を準拠法とする事件の直接管轄に関する規律のみを設けることとなることから,規定を設ける実益が限られたものとなると考えることもできます。さらに,国際裁判管轄の規律の中に,準拠法が限定された規律と限定されていない規律とが混在することになり,その当否も問題となるものと考えられます。   「その他の家事事件」につきましては,以上のような特殊性を踏まえて,国際裁判管轄の規律を設けないとすることも考えられるところです。もっとも国際裁判管轄の有無についての明確性を期する観点から,少なくとも実務で問題となる典型的な事件類型や外国の法制度をも念頭に置いた単位事件類型を設定することができるものについては,できる限り,規律を設けるべきと考えることもできると思います。   補足説明の第2以下におきましては,個々の事件類型に応じて「その他の家事事件」に関する国際裁判管轄の規定の要否を検討し,各乙案としては特に規律を設けないこととするという提案をしておりますが,個別の事件類型に関する議論に入る前に,まず,「その他の家事事件」一般について,国際裁判管轄の明文の規律を設けることの要否について御審議をお願いします。   その上で,仮に日本法を準拠法とする事件の直接管轄について規律を設け,かつ,わが国の裁判所の専属管轄とした場合には,外国の裁判所による日本法を準拠法とする当該事件の裁判は,わが国において承認されないことになると考えられますが,この場合に,日本の裁判所が外国法を準拠法とする同種事件の裁判をする場合の直接管轄や,外国の裁判所が外国法を準拠法とする同種事件の裁判をした場合の間接管轄については,何も規定されていないと考えられるのか,それとも何らかの規律がされているという結論が導かれるのかについても,併せて御意見をお願いします。 ○高田部会長 総論というくくり出しをしていただいておりまして,いわゆる特別家事審判事件と言われていた事件についての基本的なスタンス,態度決定について,御議論いただければという趣旨かと存じますが,取り分け,規定の要否について御議論を賜れればと思います。いかがでしょうか。  直ちに個別の議論に入った方が良いということでしょうか。その前提として,部会資料3ページの(参考)の部分の①,②についてどう考えるかということについて事務局からお伺いしたいということですが,この点について,御発言をいただけますでしょうか。特にないようでしたら,こうした問題があるということも踏まえて,個別の事件について御議論いただきましょう。   では,第2,戸籍法に関する審判事件の国際裁判管轄について御説明いただきます。 ○沖本関係官 部会資料5-1,第2について説明します。   「戸籍法に規定する審判事件」とは,氏又は名の変更についての許可に係る審判事件,就籍許可に係る審判事件,戸籍の訂正についての許可に係る審判事件及び戸籍事件のついての市町村長の処分に対する不服に係る審判事件を含む単位事件類型として提案しております。   「戸籍法に規定する審判事件」は,わが国の身分登録簿としての戸籍に関する事件ですが,戸籍の記載が個人を特定するために必要な公共性を有するものであることから,身分登録上の記載の変更を伴う裁判は性質上,その身分登録簿を管理する本国によってされるべきであると考えることができます。そこで,甲案では,「戸籍法に規定する審判事件」をわが国の裁判所の専属管轄とすることを提案しています。なお,この場合にわが国の裁判所が外国法を準拠法とする同種の事件を取り扱うことができるかどうかについては,先ほど総論で御意見を伺ったところです。   他方で,乙案では,「戸籍法に規定する審判事件」について,国際裁判管轄に関する規律を設けないこととする旨の提案をしています。これは,通則法において身分登録に関する準拠法について特別の単位法律関係を規定した上での規律が設けられていないことや,本部会資料の第3以下にあります「その他の家事事件」に含まれる他の事件類型についての乙案の提案,これらはいずれも国際裁判管轄に関する規律を設けないこととする提案ですが,それらとの平仄などを考慮したものです。仮に乙案を採用した場合は,「戸籍法に規定する審判事件」に含まれる個々の事件類型についてどの単位事件類型に含まれるのか等,その国際裁判管轄の解釈が問題となるものと思われますので,この点についても御審議をお願いします。   ところで,氏又は名の変更につきましては,身分関係の成立・変動に伴って氏の変更が生ずる場合と,身分関係の成立や変動に伴わず,本人の意思に基づいて氏又は名の変更が生ずる場合とがございます。このうち,身分関係の成立・変動に伴って氏の変更が生ずる場合に関する事件については,その身分関係に関する審判事件と併合して申立てがされる場合と,それのみの申立てがされる場合とが考えられます。これらのうち,身分関係の成立・変動に伴って氏の変更が生ずる場合であって,身分関係に関する審判事件と併合して申立てがされる場合については,併合管轄の議論に含まれるものとして総論において検討させていただくこととしまして,本部会資料では,身分関係の成立・変動に伴って氏の変更が生ずる場合であって,それのみの申立てがされる場合と,身分関係の成立や変動に伴わず,本人の意思に基づいて氏又は名の変更が生ずる場合について検討を加えています。   氏又は名の変更についての許可の審判事件は,外国法においても類似の事件が想定され,また,実際に,わが国において外国人が申立てをして国際裁判管轄が問題となった事例もあるものと承知をしております。そこで,単位事件類型として,氏又は名の変更についての許可の審判事件,これは外国法において当該事件類型に相当するものと解されるものを含む趣旨ですが,このような単位事件類型を設定し,「戸籍法に規定する審判事件」に含まれる他の事件類型に係る規律とは別に,独自の国際裁判管轄の規律を設けることも考えられるところです。しかし,仮にわが国の裁判所において,外国人に対し,その氏又は名の変更を許可する審判がされた場合,当該外国人の本国において当該審判が承認されるか否か,及び仮に承認されるとして,この承認に基づいて,例えば,本国の発給する旅券等の記載が変更されるか否かなどについては必ずしも明らかではないことから,外国人に対してわが国の裁判所で氏又は名の変更を認める必要性が類型的に高いとまでは直ちに言うことはできないと考えることもできます。このような観点から,外国人の氏又は名の変更についての許可を想定した国際裁判管轄の規律を設けることなく,事案によって,いわゆる緊急管轄の規定によって,申立人の保護を図ることとすることも考えられます。また,氏又は名の変更についての許可の審判事件について,独立の単位事件類型を設けることなく,「戸籍法に規定する審判事件」をわが国の裁判所の専属管轄とする場合,外国の裁判所等において日本人について日本法を準拠法として氏名変更等に係る裁判がされたとしても,わが国においては間接管轄の要件を満たさないとして,その裁判は承認されないことになるものと思われますが,人の同一性の表示という氏名本来の効用の重要性を踏まえると,そのような承認を望む者は,わが国において改めて氏又は名の変更についての許可の審判を申し立てていただいても,必ずしも酷とまでは言えないと考えることもできると思います。なお,戸籍実務におきましては,日本人に対する氏名の変更の許可は我が国の裁判所の管轄に専属するものと解されるとして,外国裁判所による指名変更の裁判に基づく届出は受理されておりません。   以上の点を踏まえまして,本文においては,氏又は名の変更についての許可の審判事件について,「戸籍法に規定する審判事件」に含まれる他の事件類型とは別に独自の国際裁判管轄の規律を設けることは提案しておりませんが,この点について御意見がありましたらお願いします。   続きまして,部会資料の(4)では子の氏の変更についての許可の審判事件について検討しています。わが国の民法上,子が父又は母と氏を異にする場合には,子は家庭裁判所の許可を得て戸籍法の定めるところにより届け出ることによって,その父又は母の氏を称することができ,子が15歳未満であるときはその法定代理人が当該子に代わってその届け出をすることができることとされております。この家庭裁判所の許可に係る事件が,子の氏の変更についての許可の審判事件ですが,これは,本文の甲案における「戸籍法に規定する審判事件」には含まれていないことから,その国際裁判管轄が問題となるものと思われます。なお,身分関係の成立・変動に伴う子の氏の変更については,親の身分関係の変動に伴う場合と子の身分関係の変動に伴う場合とが考えられますが,ここでは身分関係に関する審判と併合して申立てがされる場合を除いて検討しています。   子の氏の変更についての許可の審判事件については,民法第791条第1項にいう届出がされることにより,わが国の身分登録簿である戸籍に反映されるものであるということを踏まえますと,単位事件類型及び国際裁判管轄については,子の氏の変更についての許可の審判事件のほか,甲案における「戸籍法に規定する審判事件」に含まれる各事件類型を全て含む新たな単位事件類型を設けて,甲案と同じくわが国の専属管轄とする旨の規律を設けることが考えられる一方で,子の氏の変更についての許可の審判事件を独立の単位事件類型として,甲案と同じくわが国の専属管轄とする旨の規律や,国内土地管轄規定を踏まえ,子の住所地を管轄原因とする規律を設ける,といったことも考えられます。他方で,民法第791条における子の氏の変更とは,いわゆる民法上の氏の変更でありまして,いわゆる呼称上の氏の変更,戸籍法第107条第1項の場合をこちらに含まれることを前提としておりますが,呼称上の氏の変更とは異なると考えることもできます。この点に着目して,子の氏の変更についての許可の審判事件については,氏の変更の原因となる身分行為等に係る事件が想定される場合には,当該事件が含まれる単位事件類型に含まれるものとする,又は,子の氏の変更についての許可の審判事件の国際裁判管轄は,氏の変更の原因となる身分行為等に係る事件が想定される場合には,当該事件が含まれる単位事件類型の国際裁判管轄の規律によるものとする,といった整理も考えられます。ただ,その場合には氏の変更の原因となる身分行為等に係る事件が想定されない場合については,別途,検討が必要になってくるものと思われます。さらに,子の氏の変更についての許可の審判事件の国際裁判管轄について,明文の規律を設けないとすることも考えられるところですが,その場合には国際裁判管轄の解釈が問題となります。   以上を踏まえ,子の氏の変更についての許可の審判事件の国際裁判管轄についてどのように考えるべきか,御審議をお願いいたします。   部会資料の補足説明第2については以上です。 ○高田部会長 戸籍法に規定する審判事件と子の氏の変更についての許可の審判事件という二つの問題について御説明を受けたと理解しておりますので,取りあえず,戸籍法に規定する審判事件について御意見を頂ければと思います。このくくり方自体についても議論があるのかもしれませんが,どこからでもお願いいたします。 ○大谷幹事 戸籍法に規定する審判事件の管轄について,規律を設けないよりは設けておいた方がいいと思います。それから,今の御説明の中にもいろいろ出てきましたけれども,外国人が日本で氏あるいは名前の変更をしたいという場合はあり得る,それから,日本人が外国で氏又は名の変更をする必要があり,実際にする場合もある。そう考えますと,先ほどの専属管轄とした場合の話ですけれども,本当にそれでいいのかというのが気になっていまして,それ以外のところは余り気になりませんでした。そう考えると,結局,単位事件類型としての戸籍法に規定する審判事件,これが戸籍という日本の制度に関するものなので専属管轄というところは割とすんなり,そうかなと思うのですけれども,この事件類型の中に,氏又は名の変更についての許可を入れてしまっていて,それ自体は戸籍制度がない国でも実際,いろいろな場面で必要になることが多い。前に,研究会で,日本で氏又は名の変更をしたからといって,その国の,例えばパスポートですとか,そういうものに反映されるのかとかいうことを考えると,結局,本国で変更してもらうしかないのではないかという話が出たと思うのですけれども,本当にそうなのか,パスポートなどを考えるとそうかもしれないのですけれども,案外,外国人の事件をいろいろやっていますと,名前がどこどこの国では何々ということになっていますが,ほかの国では違うとか,いろいろな話が出てきて,パスポートの名前とか,銀行での名前とか,ドライバーズライセンスとか,いろいろ出てくるので,簡単に,名前を変えたいときは本国へ行ってやってもらうしか駄目ですよ,ということで良いのか,というのが気になっています。どうしたら良いのかということについて,一つあるとしたら,戸籍関係事件については専属管轄にしても良いかもしれないけれども,氏と名前の変更についてはもう少し丁寧に考えた方が良いと思っています。 ○和波幹事 今,大谷幹事がおっしゃったことと共通する部分と少し違うところとがあるのですけれども,戸籍法に規定する審判事件と言ったときには,正に日本の戸籍制度そのものに関係するものですので,かなり行政的な色彩も強く,そういう意味では日本の裁判所でやるのは当然かなと思うところがございます。ただ,大谷幹事もおっしゃったように,外国人の氏又は名の変更については,戸籍法を類推適用して,必要に応じて審判を行っているという例がございまして,これが仮に戸籍法に基づく審判事件に含まれるとすると,これを専属管轄にしてしまうということは問題があるのだろうと思われます。ほかにも,配偶者が外国人である場合の戸籍訂正も問題になることがございまして,外国人に対して戸籍法が適用あるいは類推適用される場面があり得ると考えますと,戸籍だからといって専属管轄の規定を設けて問題がないかどうかというのは,かなり慎重な検討が必要ではないかと思っております。このように考えていきますと,一般的に戸籍法に基づく事件について,明文の管轄規定がなくて困る場面がどれぐらいあるのかと考えることになりまして,そういう意味では解釈に委ねても大きな問題はないのではないか,逆に専属管轄のような規定を設けることによって,不都合が生じる場面があるのではないかという意見が出ています。 ○竹下幹事 私の意見としては,乙案で良いのではないかと思っていますが,甲案の趣旨について,戸籍法に規定する審判事件の管轄権は日本の裁判所に専属するものとするとして,そのあとで本国によってされるべきというところが幾つか出てきます。例えば,部会資料の4ページの甲案の説明のところでも,身分登録簿の管理をする本国によってされるべきとありますが,ここは個人的にはずれがあるような気がしておりまして,今,和波幹事がおっしゃられたような外国人配偶者についてとかの例も考えると,本国によってされるべきだとすると,日本人についての文言が付加されないと,今,甲案の説明で書かれているような趣旨にはなっていないのではないかというのが気になります。専属するものとする,という趣旨が分かりにくかったので,日本人についてのみという趣旨なのか,御説明いただければと思います。 ○早川委員 多分,そういう意味の本国ではなくて,日本の戸籍については日本の裁判所で,と,そういう趣旨でお書きになったのではないかなと思いますけれども,いかがでしょうか。 ○沖本関係官 事務当局の整理としましては,日本の戸籍の事件については本国で,という趣旨です。 ○竹下幹事 外国人についての事件も含むということでしょうか。 ○沖本関係官 外国人の事件については,先ほど和波幹事がおっしゃいましたように,現在の実務では,戸籍法の類推適用で処理されている例があるものと承知しておりますので,そこに入ってくるかどうか,という整理です。 ○竹下幹事 要するに,この案の中では,そこのところは一切言及がないということですか。 ○沖本関係官 そのとおりです。 ○西谷幹事 日本人と外国人が婚姻すると,日本人を戸籍筆頭者として戸籍が編製され,その身分事項欄に外国人と婚姻している事実が記載されます。仮に夫婦が別の氏を称しており,外国人配偶者の氏が本国での身分関係の変動によって,例えば養子縁組をしたために変更され,身分事項欄に記載されている外国人の氏の変更申立てがあったといたします。このような場合も,戸籍法に規定する審判事件に入るのでしょうか,あるいはこの点もオープンなままでしょうか。 ○沖本関係官 この部会資料の整理としては,そこもオープンになっているという提案です。 ○早川委員 今の点ですけれども,提案としてはオープンなのだろうと思うのですけれども,これは専属にしないというのはどういうことかというと,外国で裁判を起こして日本の戸籍を変えろというのを出してもらって,それを日本の戸籍が反映するということを認めるということですね。それは考えにくいのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○大谷幹事 逆側からの発想として,例えば,外国人で外国に居住している場合に,何らかの理由で,日本の戸籍を直さなくてはいけないという理由はかなりあると思うのですけれども,そのときに乙案だと,解釈に委ねられるということになりますが,日本に管轄を認める必要性は絶対にあると思います。外国で何かしてきたものによってそのまま日本で戸籍を直すことができるかと言われると,きっとできないという話になってしまう,日本の戸籍実務としては,日本の裁判所のものがないとできないと言われてしまうというのが実務感覚です。そうすると,できるとしておいてもらわないと困る。そこを解釈で,そのときにそういう事件があったらきっと大丈夫だろうから,というよりは,私は規定があった方が良いという感覚です。同じような話は,特にフィリピン人のケースなどで,偽造パスポートとか理由はいろいろあるのでしょうけれども,名前の訂正を後でしなくてはいけない場合があります。また,戸籍に名前を書くときは外国人の名前は片仮名書きするんですよね。それが実は違った形で書かれてしまったりとかして,後で同一性の問題などのために,直す必要があるとか,何かいろいろな場面があるのですが,それも全部,解釈で大丈夫だろうとおっしゃればそうですけれども,もし規定を置いて害がないのであれば,はっきりとあった方が楽だなという感覚です。戸籍訂正とかは問題がなく,氏と名の変更については別途の考慮が必要ではないかということです。 ○高田部会長 その場合戸籍訂正の申立てでニーズは満たされているということなのでしょうか。他方,日本の戸籍訂正に係る場合には専属になるのではないかという点についてが,いかがでしょうか。 ○大谷幹事 ただ,先ほど西谷先生が出された例だと,外国で名前を変えるわけですよね。そうすると,氏又は名の変更についても戸籍関係事件にしてしまって,全部専属となると,結局,それが承認されないということになりますよね。なので,氏と名の変更については専属でないとすれば,外国で取ったものが承認され,それに基づいて戸籍を訂正するところは専属で良いい,こう考えています。つまり,一つの考え方として,実体的に名前を変える,あるいは氏を変えるというところについて,外国の裁判所に管轄がもしあれば,そこでの決定は専属管轄の規定がなければ日本としては承認ができる,ところが承認したものを戸籍に反映させるというのは,これ自体は日本の裁判所の決定がないとできないということになる場合には,ここは,正に,日本の戸籍制度に関するところなので専属管轄でよい,ということです。 ○高田部会長 確認ですが,今の場合,日本の裁判所のする審判は戸籍訂正で足りるということなのでしょうか,それとも改めて氏の変更の審判も必要だということなのでしょうか。 ○大谷幹事 実際の実務で,訂正で済む場合と済まない場合の振り分けが分からないときがあります。今の場合,訂正で済むのであれば訂正ですし。 ○西谷幹事 戸籍法上,戸籍訂正の対象となる事項は限定されています。外国人の氏が本国で変更された場合に,それを戸籍に反映することは,戸籍訂正事件に当たらないと思います。そもそも現在の戸籍実務は,外国人の氏については,本国で称されている氏をそのまま戸籍に反映するという発想で動いています。したがって,外国人の氏の変更については,基本的に本国が判断することが前提となっており,本国において氏が変更されれば,日本においては届出だけで,その氏の変更が戸籍に反映されるように思います。 ○高田部会長 切り分けがなかなか難しそうですが。 ○沖本関係官 大谷幹事にお伺いしたいのですけれども,先ほどありました,外国で氏又は名の変更がされて,それをわが国の戸籍に反映するという場合に,その一段階目の,外国で氏又は名の変更をする,その根拠というのは,日本法に相当するものとしては何になるというお考えなのでしょうか。 ○大谷幹事 日本法でいうと何になるかは分からないのですけれども,私の依頼者でもそういう手続を取っている人もいて,実際にはそういうことがあります。ただ,先ほどからの話に関係してくると思うのですけれども,日本は戸籍があるので,名前が戸籍と結び付いていて,氏又は名の変更についてもその許可を得るという規定が戸籍法にあり,呼称の問題と,民法にある,実体的なというか,本当の名前の変更の方と,そう切り分けて考えていると思うのですけれども,外国は別にそういうわけではないと思います。人を呼称する名前を変更する,それが何法なのか分からないんですけれども,そこは多分,外国は一本なのだと思うのです。 ○竹下関係官 今のお話を聞いていると,日本の戸籍は実際に法務局でどうやっているのか,きちんと押さえてから議論をしないと,前提がはっきりしないのではないですか。 ○内野幹事 先ほど申し上げましたとおり,日本人に対する氏名の変更の許可,これを我が国の裁判所の管轄に専属するという前提で戸籍実務は確立されております。今,議論されておるところの外国人についての氏の変更の裁判が,例えば外国の裁判所であったときに,日本の戸籍にそれをどう反映させるのかという部分については,戸籍実務において,具体的に出されている通達などは,今資料としてございませんけれども,また機会を改めまして,ご報告をさせていただきます。 ○高田部会長 本来ご報告を踏まえてということかも知れませんが,氏又は名の変更の事件について,戸籍法に規定する審判事件とは別個に管轄規定が必要かどうかというところについて,なお,御意見をお伺いする必要があるようにも思いますが。 ○池田委員 この規定がないと認められない場合が実例としてもあったということですか。 ○大谷幹事 認められない場合があるのではないかと心配しているということです。 ○池田委員 この点に関しては私は余り心配しておらず,規定がなくてもある程度,今の類推適用その他で可能なのかなという印象は持ったのですけれども,少なくとも今の甲案だけでは足りないということですよね。大谷幹事の言われているような事例は全然カバーしておらず,オープンということになっているわけですから。 ○大谷幹事 私は甲案で足りていないとは思っていなかったのですけれども。 ○高田部会長 繰り返しますが,たとえば,日本に定住している外国人の氏または名の変更について,本国に常に赴かなければならないという規律を想定するということになりましょうか。 ○池田委員 先ほどもおっしゃったように,外国人の場合に,外国では非常に緩くいろいろなことが認められていて,日本においてのみ,日本のいろいろな手続法との関係できちんとしておく必要があるという場合は幾らもあるので,その意味では本国に行くことなく,日本でだけやる必要があるという場合は観念できると思います。 ○高田部会長 そうしますと,この規定ではカバーできないことになりませんか。外国でも管轄を認める必要がありますし,日本でも管轄を認める必要があるということですと,日本の裁判所に専属するでは不適切ということになりませんでしょうか。 ○大谷幹事 氏と名の変更についてはそうだということで。戸籍に関しては専属でいいと思います。 ○高田部会長 としますと,氏と名の変更についてもし今のようなニーズがあるとすると,甲案では不十分ということになりますので,具体的に規定を設けるとすると,何か工夫をする必要があるということになろうかと思います。その点について,事務局としても御意見を頂きたいと思いますので,御発言いただければと思います。 ○大谷幹事 後日,訂正するかもしれませんけれども,本国,それから,住所地,取りあえず,そのぐらいでカバーできているのではないかと思います。 ○高田部会長 いかがでしょうか。 ○西谷幹事 部会資料の3ページの(参考)では,日本法を準拠法とする事件の直接管轄を日本の裁判所の専属管轄と整理したとしても,①外国法を準拠法とする同種事件の裁判をする直接管轄,そして,②外国の裁判所が外国法を準拠法とする同種事件の裁判をした場合の間接管轄について規定するものではないと記述していただいています。外国人の氏について,先ほど和波幹事から,戸籍法を類推適用し,日本で氏の変更を認めた例があるというお話でしたが,これは,①に該当し,外国法を準拠法とする同種事件の直接管轄として,ここでの規律の対象外であると理解してよろしいのでしょうか。 ○内野幹事 先ほど和波幹事がおっしゃられたのは,日本の戸籍法を類推適用するという御紹介だったと認識しておりますので,ここで書きました①の部分での御議論とは違うものと聞いていました。 ○西谷幹事 和波幹事がおっしゃっていた事件では,日本の戸籍法の類推適用によって,外国人の氏そのものを変更する審判をしたと理解してよいのでしょうか。 ○和波幹事 私が説明しましたのは,今,内野幹事がおっしゃったとおりで,日本の戸籍法の類推適用ですので,日本の戸籍法が準拠法になっているということが前提です。ですので,外国法が準拠法になっているということは,想定していないというのが大前提です。日本の戸籍法を類推適用して氏又は名の変更をした場合に,それが当該外国でどういう効力を持つかというのは分かりませんけれども,例えば日本ですと,旧外国人登録原票上の氏名について,日本の家庭裁判所が戸籍法を類推適用して変更した場合に,それが証明書となって変更することができる,そういう実務があります。実際には外国人について,それは日本だけの効力かもしれませんが,戸籍法を類推適用して,その氏名を変更するというような事例があるとのことです。そうしますと,それが仮に戸籍法に関する事件として日本の専属管轄になると,外国は当該外国人の氏名について,変更することができなくなるというような解釈を生む可能性がありますので,そういう意味で,そこを専属管轄にしてしまうというのは若干,懸念があるのではないかということを申し上げました。 ○大谷幹事 最後の点ですけれども,懸念の内容は分かりました。そうすると,専属管轄と書くのがいいのかどうかも議論がまだあるかもしれませんし,そもそも,規律を設けないでいいのではないかという御意見もあるんだと思うのですけれども,仮に規律を設け,専属管轄と書くのがいいとした場合,日本の戸籍制度に関わることものだけを単位事件類型にしてしまうと,今のようなお話が出るのかなという気がしますので,そこは書きぶりでも解決可能な気はしました。 ○高田部会長 法制的に難しい問題があるのかもしれませんが,ほかに御意見はございますでしょうか。 ○道垣内委員 戸籍のこの規定とは離れて,そこだけ取り出して考えた場合に,日本人の氏及び名についての審判は日本の裁判所に専属するとした場合に,困ることがありますか。外国で日本人の氏や名の変更の裁判がされた場合,それを日本が承認するというのも私としては嫌な感じがします。 ○山本(弘)委員 全く同じ角度からの質問ですけれども,正に戸籍の問題を捨象して,要するに人の氏とか名前とかを変更するということについて,本国が管轄をする利益とか根拠,更には本国以外の国にそれを認めないことの根拠というのは,何なのだろうかというのを先ほどからずっと考えていて分からない。自国民の同一性識別の問題なのだから,対人主権からくるんだという議論なのでしょうか。 ○道垣内委員 私はそう思っています。だから,認めたくないと言っているわけです。 ○山本(弘)委員 その問題があるのか,そこをクリアにしないといけないのではないかなというのが,古くさい19世紀的な発想かもしれないんですけれども,そこに引っ掛かりを感じますね。 ○竹下幹事 今のところで一つのアイデアではあるんですが,通則法に改正される前の大分昔の法例のときに,まだいわゆる禁治産とかが残っていた時代に,禁治産の宣告の解釈について,本国管轄を原則管轄として,住所地管轄を例外管轄とするような発想が昔はあったのではないかと思います。今,ここで出ている懸念を解決する一つの方策として,本国管轄が原則管轄で,住所地管轄のようなものは例外管轄で,その効力というものが属地的にしか及ばないというような整理,それこそ19世紀のという話になってしまいそうではございますが,本国管轄が原則ということを考えたときには,住所地管轄のようなものを例外管轄と捉えて,飽くまで外国人に対して氏や氏名の変更をするという審判の効力は,日本の領域内にしか及ばないと日本の側からも考える。そうすると,外国で日本人について審判がされたとしても,日本の側から間接管轄を認め得るのは,その国の領域内でどう呼ばれるかだけであって,日本にまではそれが及んでこないので,戸籍等にインパクトを与えることはない。本国管轄が原則ということで考えるというのは,一つの方策かもしれません。 ○高田部会長 道垣内委員にご確認ですが,日本人については日本の専属管轄ということは,外国人についても外国の専属管轄という含意はあるということでしょうか。外国人について日本で管轄を認めることは考えなくてよいと割り切れるというご趣旨でしょうか。 ○道垣内委員 私が今,申したのはそういう前提の話です。 ○高田部会長 そこの割り切りが可能であればシンプルな規定になりますが,なお,御意見を賜れればと思います。 ○大谷幹事 現代で完全な対人管轄を本国,専属管轄だけというのは実体に即していないのではないかと思います。ただ,日本ではそこは本国管轄,対人私権を原則的な考え方とするのだということであれば,先ほど御意見が出たような,第一義的には本国で,二次的に住所とかという考え方もある,別にそれは悪くない,そのときは住所というのは飽くまでその地限りという考え方は,割と実態になじんでいるのかなと思います。 ○道垣内委員 民訴法3条の5第2項の,日本の登記登録に関する訴えについて日本に専属管轄があるという規定の背後にある考え方が何かということとも関係すると思います。3条の5第2項とは違うという説明がきちんとできるのであれば反対はしませんが,それよりも戸籍に記載のある日本人の氏名に対する日本国の関心の方強いような気がします。日本国民の同一性を識別する利益,どういう氏を名乗らせ,どういう名前なのかということを,しかも戸籍という制度を労力をかけて管理している国として,日本国が当然決めます,日本国だけが決めますよというのでいいのではないかと私は思います。それを外国でした場合に,日本に効力が及ばないという特殊な扱いをするのはまた別の話かもしれませんが。 ○高田部会長 両者の御意見を頂いたと理解しておりまして,取り分け,日本に生活の根拠を置いている外国人について日本で氏又は名の変更をする余地を認めるべきではないかという御意見で,その場合には効力限定もあり得るのではないかという御意見を賜ったということにさせていただきたいと思いますが,それらを踏まえてなお検討するということにさせていただきたいと思います。   では,若干,性質が違うかもしれませんが,(4)子の氏の変更について,これまた,日本法に引き付けた表現が用いられておりますが,これについて御意見いただければと思います。いかがでしょうか。直前の議論と違う扱いが必要か,あるいはそもそも規定が必要か辺りについてもし御意見があれば賜りたいと思いますが。 ○池田委員 子の氏の関係といいますか,そもそも同一人物についても日本の戸籍に書いてある名前と,それから,例えば二重国籍の場合で,アメリカで名乗っている名前が違うというような場合も結構存在しておりまして,そういう意味では,一応,日本の国籍のある者については日本だけでやるという仕切りでいいのではないかとは思っているのですけれども,名前はかなり相対的な感じがしているので,どこかで決めたのが絶対的に全世界で使われるのかという点が,そもそも前提として違っているという気がしました。 ○高田部会長 独自の規定を設けるべきだという御意見の方はいらっしゃいますか。 ○池田委員 私自身は,一切規定はない方が良いのではないかと思っております。つまり,イメージしている制度が非常に区々なんですけれども,そこを統一的にこれと一つに定めることはかなり難しい。ただ,考え方としては,恐らく,戸籍の訂正というか,名前を本当に変えるということについては,基本は本国でということで,あと,その国限りで変える場合というのを全く認めないわけではないけれども,先ほど竹下幹事のおっしゃったような効力限定というようなこともあり得るとは思うのですけれども,それを書き尽すというのは非常に難しいのかなと思っております。 ○竹下幹事 先ほどのは飽くまで一つのアイデアでございまして,個人的には,特段,規定がなくてもいいのではないかという意見です。 ○高田部会長 他に御発言はございますでしょうか。   では,第3,性同一性障害者の性別の取扱いに特例に関する法律について御説明いただきます。 ○沖本関係官 部会資料5-1,第3について説明します。   「性同一性障害特例法に規定する審判事件」とは,同法第3条第1項に基づく性別の取扱いの変更に係る審判事件を言いまして,部会資料では,外国法においてこれに相当するものを含まないものとして提案をしています。ところで,仮に外国人がわが国において性別の取扱いの変更に関する裁判をすることができるよう,わが国に外国人の性別の取扱いの変更に関する裁判の国際裁判管轄権を認める規定を設けるということとする場合には,その前提として,性別の取扱いの変更に関する裁判の準拠法,外国人に対する性同一性障害特例法の適用の有無,わが国でされた性別の取扱いの変更の裁判の承認といった論点について整理をすることが必要であると思われます。これらの論点につきましては,以下で紹介します本文の提案を検討するに当たり,必要な限度で御意見を頂ければと思います。   本文の提案についてですが,「性同一性障害特例法に規定する審判事件」について特に国際裁判管轄を定める規定を設けるということを前提にして,この事件は身分登録に関わることから,甲案としては,わが国の裁判所の専属管轄とすることを提案しています。もっとも,外国の裁判所が日本法を準拠法として性別の取扱いの変更の裁判をする余地を残しておくために,専属管轄としないといったことも考えられるところです。   他方で,性別の変更に関する事件の国際裁判管轄についてはその前提論点も含め,なお,解釈に委ねられている部分が多いと言えることから,事例の集積を待つこととして,乙案としては,特に明文で規律を設けることとはしないという提案をしております。仮に乙案を採用した場合には,性別の変更に関する事件に含まれる事件類型につきまして,どの単位事件類型に含まれるのかなど,その国際裁判管轄の解釈が問題になるものと思われます。   以上を踏まえ,「性同一性障害特例法に規定する審判事件」の国際裁判管轄につきまして,規定の要否,内容につき,御審議をお願いいたします。 ○高田部会長 いかがでしょうか。 ○池田委員 これは,弁護士会内で議論したときに,事例の集積がまだという状況なので,もっと状況を踏まえてから明確な規定を置いた方が良いのではないかという結論でした。 ○高田部会長 ありがとうございます。   規定を設けることを試みるべきだという御意見の方はいらっしゃいますでしょうか。もし,設けない場合におきましては,どうするのかという問題が残ります。それについては,一つは解釈に委ねるという選択肢もありますが,審議会として何か考え方を明らかにおくべきだという御意見の方があれば御発言いただければと存じますが,特に御意見はないということでよろしゅうございますか。   それでは,本日はこの程度にさせていただきたいと思います。  (次回の議事日程,議題等について事務当局から説明) ○高田部会長 では,本日の部会はこれで閉会させていただきます。   本日も長時間,御熱心な議論を賜りまして誠にありがとうございました。 -了-