法制審議会国際裁判管轄法制 (人事訴訟事件及び家事事件関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  平成26年10月24日(金)  自 午後1時30分                         至 午後6時11分 第2 場 所  東京地検304号会議室 第3 議 題  (1)その他の家事事件の国際裁判管轄(各論)         (2)人事訴訟事件等の国際裁判管轄に関する一般的な規律の在り方 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○高田部会長 では,予定した時間になりましたので,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会の第6回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   (関係官の異動紹介及び自己紹介につき省略。) ○高田部会長 なお,岡委員,岡田幹事は本日,御欠席でございます。   では,本日の審議に入ります前に,配布資料の確認をさせていただきます。事務局からお願いいたします。 ○内野幹事 それでは,配布資料の確認をさせていただきます。議事次第と,部会資料の6-1と6-2が皆様のお手元にあろうかと思います。   以上でございます。 ○高田部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,前回積み残しました部会資料5-1の「その他の家事事件」の続き,具体的には,第4「生活保護法等に規定する審判事件」以下について御議論いただきますが,その前に,前回御議論いただきました部分につき,事務局から若干の補足説明があると承っておりますので,まずこの点についてお願いいたします。 ○内野幹事 前回の部会で,「その他の家事事件」の一つといたしまして,戸籍法に規定する審判事件について御議論いただきました。その内容に関しまして,日本の戸籍実務の取扱いについて幾つかの御質問を賜りましたので,その点について,御報告をします。   まず,日本人について,外国裁判所で氏名変更の裁判が行われた場合に,日本の戸籍の実務上どう扱われているのかという御質問がございました。これに関しましては,前回も御説明したところですが,戸籍実務におきましては,日本人に対する氏名変更の許可は,我が国の裁判所の専属的管轄に属するものと解されるということを理由に,これを受理しないという先例があり,これに基づいて運用されているということです。ただ,この運用が,外国裁判の承認という形で問題を捉えた上でそのような取扱いになっているのか,それとも戸籍法上,届出の前提となっているところの家庭裁判所の許可を我が国の家庭裁判所の許可に限るという,あくまでも戸籍法の解釈としてされているのかは,行政先例としては明確な根拠を示すものがないという状況です。実務上,結論において,戸籍法上の氏名の変更の許可は,正に日本の裁判所でした許可であるという扱いになっているということでした。   他方で,外国人について外国裁判所でその氏名の変更を許可するという裁判がされた場合に,我が国の戸籍の記載上どういう影響があるのかという御議論もあったかと思います。外国人については,我が国に戸籍が編纂されるということはなく,外国人がどういう場面で我が国の戸籍に登場するのかというと,これは前回西谷幹事からも御紹介がございましたけれども,例えば,外国人が日本人の配偶者となった場合に,その日本人の戸籍の身分事項欄に配偶者という形で名前が記載されるなどの場合に限られます。この外国人が,その本国で身分変動があり氏が変り,その変更後の氏と日本人である配偶者の身分事項欄に記載された氏とが異なるに至った場合に,どうするのかという問題が生じます。   この場合,外国法制によっては,当該外国における氏の変更が裁判によってされたという場合もあれば,そうでない場合もあると考えられるわけですが,戸籍実務では,外国人の氏名の変更については,身分行為に伴って氏が変動する場合も含め,本国法を準拠法として当該外国人の実体上の氏名の変更があったということができれば,我が国においてその氏が変わったことを前提に取り扱うということになっているようです。換言すると,戸籍実務では,外国裁判所において外国人の氏名の変更が裁判で行われた場合であっても,実体上氏の変更があったと認められるのであれば,確定裁判の承認というかどうかは別として,当該裁判の効力を認める,ないし尊重した形で取り扱うということです。   そうすると,次に,戸籍の記載を改めるためにどのような手続をとるのかという点が問題になるわけですが,戸籍の更正という職権による方法で記載の状況が改められるということのようです。戸籍法には戸籍の訂正というものがございますけれども,これは,戸籍に記載された内容に原始的に誤りがあったという場面を対象としています。したがいまして,事後的に氏名が変わったというような場面においては,訂正では記載を改めることができません。この更正につきましては,具体的な法令の明文の根拠はないようでありまして,戸籍は日本国が管理するものでありますので,事実と違う記載があればそれを職権で改めることができるのは当然ということなのでしょうか,常に職権によってその身分事項欄の記載の変更が行われるということでした。以上,法律上及び実務上の手続について申し上げました。   そして,戸籍法第107条は氏の変更を,第107条の2の名の変更を,それぞれ規定しているわけですが,外国人は当該本人自身の戸籍が編纂されませんので,この戸籍法第107条又は第107条の2に規定された手続によって,その身分事項欄の記載が変更されるということではありません。   以上が,戸籍実務の現状です。   以上を踏まえて,前回の議論について事務局が認識しているところを申し上げますと,まず,戸籍法に規定する審判事件,これは氏又は名の変更についての許可の審判事件を含むものですが,戸籍法に規定する審判事件につきましては,戸籍制度という我が国の制度との関係を考えた上でのいろいろな御意見があったかと思いますが,結論において,我が国の専属管轄ということを支持するという御意見が多かったという印象です。仮にそのように明文で規定するということになった場合,例えば,外国人登録があった時代においては,外国人登録原票に記載された名を変更するために戸籍法の規定を類推適用した審判例があります。   外国人登録原票は現在では特別永住者等以外の外国人であれば在留カードという制度になっておりますが,戸籍法に規定する審判事件について専属管轄とする旨を規定すると,そういった原票や在留カードの記載の変更について戸籍法の規定を類推適用するという前例を妨げられるのではないかという議論がありました。しかし,事務局といたしましては,仮に専属管轄とする規律を設けたとしても,類推適用をする余地は残されているのではないかと考えており,評価はいろいろあるかとは思いますけれども,御指摘を受けたような前例を一切否定するという結論に直ちになるものではないという印象を受けております。   以上が全体の御議論の状況ですが,特に,氏又は名の変更についての許可の審判事件につきましては,若干の別の御見解もあったものと認識しております。場合によっては,実体的な意味での氏又は名の変更ということを念頭に置かれているのかもしれませんが,例えば,原則本国管轄,例外的に住所地管轄といった別途の考慮をすべきであるという意見や,外国人に対して日本の裁判所が氏又は名の変更についての裁判をした場合は,その効力を限定するという発想もあるのではないかという意見等々,様々な御見解がありました。   以上が,前回の議論の補足説明です。 ○高田部会長 では,ただいま事務局から説明のあった点について御質問,ないしは前回の議論に加えて,更に御意見がございましたら承りたいと思います。 ○西谷幹事 戸籍法113条の戸籍訂正についてですが,渉外戸籍の文献によれば,日本人と外国人の夫婦から嫡出子が出生したとき,その外国人の親が父又は母欄に記載され,その親の氏名の記載に誤りがある場合には,戸籍法113条の戸籍訂正によって変更できるとされています。これは,性質上,日本の専属管轄に属すると思われますが,「戸籍法に規定する審判事件」といったときには,外国人の氏名の記載の訂正も含むと理解してよろしいでしょうか。 ○内野幹事 現行法の戸籍訂正といった場合,記載が原始的に間違っていたという場面が想定されているわけですが,そのときは,外国人が日本でその前提となる許可の審判を受けて戸籍訂正をすることは認められているということです。 ○高田部会長 ほかにございませんでしょうか。   では,続きまして,部会資料5-1,その他の事件の第4「生活保護等に規定する審判事件」及び第5「医療観察法に規定する審判事件」の国際裁判管轄について御議論いただきます。資料の説明をお願いいたします。 ○沖本関係官 部会資料5-1,第4の「生活保護法等に規定する審判事件」及び第5「医療観察法に規定する審判事件」について,説明します。   まず,「生活保護法等に規定する審判事件」について,ですが,これは,生活保護法第30条第3項に基づく施設への入所等についての許可に係る審判事件及び同法第77条第2項に基づく扶養義務者の負担すべき費用額の確定に係る審判事件をいうものとして提案をしています。   甲案は,「生活保護法等に規定する審判事件」は,その申立てが可能である限り我が国の裁判所で扱うべきものであり,また,その性質上,我が国の裁判所以外に裁判権を認めることは考えられないという考え方を背景として,我が国の裁判所の専属管轄とすることを提案しています。   乙案は,「生活保護法等に規定する審判事件」は,その申立ての数が非常に少なく,国際裁判管轄が問題となる具体的な場面も考え難いことから,あえて明文で規定する必要性が認められないという考え方を背景として,明文の規律を設けないことを提案しています。仮に乙案を採用した場合は,「生活保護法等に規定する審判事件」に含まれる個々の事件類型について,どの単位事件類型に含まれるのかなど,その国際裁判管轄の解釈が問題となるものとも思われます。   以上を踏まえて,「生活保護法等に規定する審判事件」の国際裁判管轄について,規定の要否や内容につき御審議をお願いします。   続きまして,「医療観察法に規定する審判事件」についても説明します。   これは,医療観察法第23条の2第2項ただし書及び同項第4号に基づく保護者の順位の変更及び保護者の選任に係る審判事件をいうものとして提案しています。   制度の概要は,部会資料の(注)に記載したとおりです。   甲案は,「医療観察法に規定する審判事件」は,その申立てが可能である限り我が国の裁判所で扱うべきものであって,また,その性質上,我が国以外に裁判権を認めることも考えられないという考え方を前提として,我が国の裁判所の専属管轄とすることを提案しています。   乙案は,「医療観察法に規定する審判事件」の国際裁判管轄が問題となる具体的な場合は考え難く,あえて明文で規定する必要性が認められないという考え方を前提として,明文の規律を設けないことを提案しています。仮に乙案を採用した場合は,「医療観察法に規定する審判事件」に含まれる個々の事件類型について,どの単位事件類型に含まれるのかなど,その国際裁判管轄の解釈が問題となるものとも思われます。   以上を踏まえて,「医療観察法に規定する審判事件」の国際裁判管轄について,規定の要否や内容につき御審議をお願いします。 ○高田部会長 では,御意見を伺いたいと思います。いかがでしょうか。 ○道垣内委員 問題の捉え方が,前回の「性同一性障害特例法に規定する審判事件」の辺りからよく分からなくなっているのですが,これらの国際裁判管轄の専属性というのは,これらの法律に基づく裁判が我が国の専属管轄であるということで,その法律の適用対象に外国人が含まれるかどうかは,法律の方で決まっているはずだという前提でしょうか。そうであれば,それはどういう解釈を前提にしているか,が問題となります。「医療観察法に規定する審判事件」の方は,外国人も対象にしないと困りそうな感じがしますけれども,「性同一性障害特例法に規定する審判事件」について,外国人に対してもこの裁判をしてしまっていいのかという点について,説明いただければと思います。 ○内野幹事 事務局の提案としては,単位事件類型は,その法律で定めているその事件そのものを考えており,外国人をその対象に含んでいるのかどうかという点については,今,委員がおっしゃったとおり,それぞれの法律で定まっているものという前提です。管轄規定の方で,外国人が申立てをすることができる場合なのかどうかを限定するという考え方もあるのかもしれませんけれども,事務局の提案としては,そのようには考えておりません。 ○道垣内委員 そうしますと,「性同一性障害特例法に規定する審判事件」が日本の裁判所の専属管轄であるということは,外国の裁判所がその裁判をすることは日本としては認めないが,外国で,当該国の類似の法律でした裁判を日本でどう扱うかは,また別の話だということなのでしょうか。そうすると,国際裁判管轄という意味では,何を基準に管轄が決まるのかは何も決めない,ということを意味するのではないかと思います。事件本人の住所があれば裁判をすることができますとか,そういう管轄原因のことは何も書いていないわけですから。 ○内野幹事 仮にこういう規定を設けた場合に,その規定が何を決めているのかというところについては,検討すべき点であると思っています。研究会報告書においても,何も規律を設けないという乙案が挙げられていましたが,恐らく,その辺りの難しさもあって,解釈に委ねるという意味で提案されていたのではないかと,今回部会資料をご提示したときに事務局としては考えていたところです。 ○高田部会長 道垣内委員は,何らかの管轄規定があった方がよいという前提でございましょうか。もし,そうしますと単位法律関係をどう捉えるかということが問題となりますが。 ○道垣内委員 私の基本的な考え方は,この法制審議会が対象としている事件については,余り細かい規定は置かないで,ざっくりと決めた方がよいのではないか,というものです。そして,立法に際して法の欠缺を作り出すことは避けるべきであって,個々の事件がいずれかの管轄規定でカバーされていることが望ましいと思います。そうすると,この種の事件が現にある以上,難しいから規定を置かないということは,審議会としていかがなものかと思われ,賛成できません。ですので,前提となる解釈及び規定の要否を明確にして,いずれかの規定でカバーできるようにする方がよいのではないでしょうか。 ○内野幹事 そうすると,仮に規定を設けないこととなった場合につきましては,例えば,一般的に条理による管轄の肯定を明文なく認めるというお考えなのでしょうか。 ○道垣内委員 いいえ。ざっくりと決める,というのは,ある人の身分に関する事件について,その人が日本に住所があれば,大体の場合,日本の国際裁判管轄を認めて日本で裁判ができるようにするという意味です。大体というのは,裁判ができない事件がもしかするとあるかもしれないことを踏まえたものです。例えば,性同一性障害で性別を変えたいと考えている外国の方が日本に住んでいる場合に,その人の性別を変えることは,自国民に対して属人的にコントロールを及ぼしている当該外国があるにもかかわらず,日本で勝手に変えてしまうということですので,そのようなことをしてもいいのかは問題だと思います。戸籍上の氏以上に,より国家や国家的利益との関係での問題があるような気がします。ですので,明確には申しませんが,とにかく住所があれば一応の事件について裁判をすることができます,というような規定があって,そこでカバーされるからよい,ということであれば,それで結構です。補足すると,戸籍の事件は,基本的には,先ほど事務局から説明があったように,例外的に外国人の事件があるとしても,基本的には戸籍は日本人の名簿なので,日本人の事件であるということがインプライされていると思います。これに対して,戸籍法ではなく,ほかの法律に規定する事件はそうでもありませんから,専属と書くことの意味が違ってくるのではないか,というところが,疑問の根源にあるのかもしれません。 ○高田部会長 いかがでしょうか。乙案にはいわゆる旧法下の特別家事審判法事件については規定を設けにくいのではないかという考慮もあるという事務局からの御説明もありましたけれども,道垣内委員からは,空白の部分が残るのはいかがかという御意見が出ました。その辺りの感触はいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 生活保護法等と医療観察法は,法律自体が属地的な効力しか持たないと思います。先ほど道垣内委員がおっしゃったように,性同一性障害特例法の場合はむしろ属人的な,日本国民に対して効力を持つ法律のように思いますので,それを一緒にするのはいかがなものかと思います。   属地的な法律だから日本の裁判所しかできないのは当然だということで,第4の「生活保護法等に規定する審判事件」と第5の「医療観察法に規定する審判事件」については,私は規定を設けない方がよいと思うのですが,第3の「性同一性障害特例法に規定する審判事件」については,管轄原因をどう書くのかという点が難しいのですが,何か規定があった方がよいという気がしなくもないです。   ただ,属人的なのだから日本国民であればどこにいようが日本の家庭裁判所で裁判をするのだという話になるのであれば,国籍を管轄原因にするか,管轄原因なしで条文を書いて,内国の土地管轄については別途何か対応しておくというやり方になるのでしょうね。 ○山本(和)委員 今の山本克己委員の,この第4の「生活保護法等に規定する審判事件」が属地的ということの関係で,この費用額の確定の問題は,一種の求償的なもののような感じを持っており,扶養義務者が外国にいる場合に,普通の求償訴訟ならその被告の所で行うということになりそうですが,一種の行政処分の延長線上の問題だから日本に管轄を認めるということはあるのではないかという感じもしつつ,その扶養義務者の住所という考え方もあり得るような気もしています。 ○山本(克)委員 基本的にこれは給付行政で,その前提となる要件事実について裁判所のチェックをかませる必要があるから許可というものが出てきているわけですから,その意味では,属地的というのは当然なのではないかという気がします。 ○山本(弘)委員 「性同一性障害特例法に規定する審判事件」については,道垣内委員がおっしゃることに私も共感があって,例えば,兵役の義務を男子のみに限っているという国で,その国民が性同一性障害で,女性になるというようなことについて,本国は相当利益を持つのではないかという気がしており,この法律自体が,日本国民以外の者の性同一性障害に基づく性別の取扱いの変更について許可をすることを予定しているのかどうかという点は,かなり疑問があります。 ○早川委員 部会資料では,この性同一性障害に基づく性別の取扱いの変更の裁判について,性同一性障害特例法からアプローチしているのですけれども,事案としては,もう少し広くあるいは抽象的に言うと,その人の身分関係が変わる,ということです。例えば,いろいろな身分がある国にあって,Aの身分からBの身分へ移るとか,そういうことがあるかもしれませんので,そのような事件について一般的な受け皿を作っておいて,それについて国籍なり住所なりを管轄原因としておけば,具体的な法律に着目することなく,しかしどこかに受け皿があるという形にできるのではないかと思いました。 ○高田部会長 その場合,本国管轄か住所地管轄かという点は,いかがでしょうか。 ○早川委員 そこは難しいですが,日本の裁判所がやってよいこともあるのではないかという気がしないでもないです。日本に住んでいれば,準拠法を本国法にして日本の裁判所でやってよいということもあり得るのではないかという気がします。 ○西谷幹事 性同一性障害の問題は,特にヨーロッパで最近議論になっておりまして,個人の人権として,本人が体の性別とは別の意識を持っているということであれば,それを身分登録などに反映する方向で,ヨーロッパ人権裁判所の判例も動いてきています。そのように考えることができるのであれば,医学的な知見によって性同一性障害であると診断されるかぎり,個人の身分の変動と同様に,性別の変更も,広く認めてよいのではないかと思います。   ただし,具体的な処理については,事柄の性質上,人の身分の変更の一種であるとしても,適用法規は,日本法とせざるを得ないように思います。日本の性同一性障害に関する特例法は,性別変更にかなり厳しい要件を設けており,性同一性障害であるとの診断がなされ,厳格な手術要件を満たしていることのほか,未婚であること及び未成年の子がいないこと等を要求しています。しかし,各国の法制は,かなり大きく異なっており,例えば,イギリスなどは,もはや手術を要件とせず,基本的には,本人の意思に従って性別変更を認める方向に変わっているようです。このような現状では,仮に,日本で外国人について性別変更を認めるとしても,外国法上の要件具備を審査するのは困難であろうと思います。  もとより,政策的に,外国人について日本で性別変更を認めてよいのかどうかは,別途問題となりますが,医療行為が関係し,医師の診断書の提出も必要になる以上,日本で外国法を適用するのは事実上難しいだろうと思います。 ○早川委員 西谷幹事に質問なのですけれども,外国法を適用することは難しいとおっしゃったのは,それはテクニカルに難しいという意味ですか。それとも,例えば意識だけで変えてよいという本国法があるときに,日本の裁判所がその本国法を適用することは例えば公序的に難しいとか,そういう意味なのでしょうか。テクニカルに,という意味であれば,やってみればできないこともないかなという気がしたのですが,そうでもないですか。 ○西谷幹事 そうですね,たしかに手術要件を外している外国の法であれば,日本でも適用できなくはないかもしれません。しかし,私が調べたかぎり,手術要件の有無及びその程度は,まだ各国で大きく分かれており,多くの国は手術要件を残していますので,それを日本で適用するのは難しいと思われます。実際にも,外国の医師の診断書をそのまま証拠として利用してよいかどうかは疑問ですし,日本の医師が外国法上の手術要件を確認して施術し,診断書を出すのは,きわめて困難であろうと思います。   公序法というよりはテクニカルな問題なのかもしれませんが,私自身は,外国法を適用することには否定的です。ドイツでも,本人の本国において性別変更が可能か否かは審査いたしますが,法規の適用上,性別変更の要件はすべてドイツ法で処理しています。事柄の性質上,法廷地法によるという処理は,現段階では致し方ないように思います。 ○内野幹事 そうすると,日本法である性同一性障害特例法を適用得せざるを得ないのではないか,その場合の手続についても,結局,この「性同一性障害の特例に関する法律に規定する審判事件」に関する規律を適用するのではないか,ということでしょうか。西谷幹事のイメージとしては,結局,国際裁判管轄を定めたとしても,この「性同一性障害特例法に規定する審判事件」の手続がそのまま国内の手続として適用されるのだろうということでよろしいでしょうか。 ○西谷幹事 はい。私自身は,日本に住所をもつ外国人であれば,国内手続に則って性別変更を認めてよいと考えております。したがって,管轄原因としては,本人が日本国籍であるか,あるいは日本に住所をもつこととしてよいのではないかと思います。ただし,この点については,異なる御意見もあろうかと思います。 ○内野幹事 ちなみに,仮に,早川委員が先ほどおっしゃった,その身分関係の変更全体を受け止める管轄原因を設けた場合,日本の管轄が肯定されたときには,その国内手続はどの規範によるのかという点については,どのようにお考えでしょうか。その辺りは,別の論点で道垣内委員がおっしゃったことかもしれませんが,国内手続は手続法が努力をすべきであるとして,一般の解釈論に委ねるというイメージでいらっしゃるのでしょうか。 ○早川委員 その点は,道垣内委員がおっしゃった,裁判所にお任せするということも含めて,論点ですね。 ○和波幹事 性同一性障害については,性同一性障害特例法が外国人に適用されるのかどうかといった解釈自体がはっきりしないところもあるので,非常に議論が難しいと思っております。また,仮に,バスケット・クローズ的に身分関係の変更というような形で管轄規定を設けるとしますと,そこにどのようなものが入ってくるのかが明確にならず,運用する裁判所としては規定の適用が非常に難しくなるのではないかと思いますし,その後の手続についても,国内法上のどの単位事件類型の手続によるべきかが曖昧となってしまうという問題があるのではないかという印象を持っております。そうしますと,管轄規定を置かないで解釈に委ねる場合とどこが違うのかという議論もあり得るように思いますので,その辺りは,もし規定を置くのであれば,もう少し具体的に何を想定しているのかということを考えた上で,文言等も含めて検討する必要があるのではないかと思っております。 ○道垣内委員 今のお二人のお話を受けて,ですけれども,通則法には,その他の親族関係等という規定が33条にあります。これに何が入っているかというと,兄弟や親族などの関係です。余り裁判では問題にならないけれども,刑法の適用上,時々使うことがあるということで残されているものだと理解しています。こういった,その他身分に係る事件について,規定を置くことは不可能ではないと思います。ただ,専属管轄になるものはきちんとピックアップして明確に規定しなければいけません。私が申し上げたざっくりしたルールは住所地管轄です。西谷幹事のおっしゃるところの,日本人か日本に住所があるかのどちらかでよいとのお考えとは異なり,一定の事件類型については日本人であることを管轄原因とする専属管轄だと思っていますので,そこは別に規定して,日本人だけについてできるというふうに別の規定を置かなければいけなくなります。そうでなくて,どちらでもよいものは,住所地管轄を定める一般的な規定の適用対象にしておけばいいということになります。今後,何が出てくるか分かりませんので,必要があれば個別の管轄規定を置かなければいけませんし,必要なければ放っておけばよく,漏れがない方が美しいのではないかということを申し上げておきます。 ○高田部会長 バスケット・クローズについて,ほかに御意見ございますでしょうか。バスケット・クローズを設けるかどうかによって規定の要否は異なることになりそうですが,性同一性障害も含めて,第4,第5について,ほかに御意見があれば承りたいと思います。 ○池田委員 日本人について外国で日本法を適用して性別変更の裁判があったというのは,承認すべきものなのですか。結局,先ほど山本弘委員がおっしゃったような発想でいくと,それは承認すべきものではないということになりそうですけれども,個人の権利の問題というふうに西谷幹事の言われたようなお考えだと,承認しなければいけないような気もします。そこはどのように考えたらよいのでしょうか。間接管轄の場合のことも考えると,よく分からないと思います。 ○道垣内委員 もちろん承認すべきではないと思います。これは,戸籍に直結する話なので,日本人の身分をそういうふうに変えられては困るということになるのではないかと思います。 ○高田部会長 早川委員のように,外国法が準拠法として適用される場合を肯定した場合に,問題は生じるかと思います。 ○道垣内委員 法律によっては違いますね。 ○高田部会長 そういうことですね。前回,先送りしました論点ですが,資料で申しますと,3ページの(参考)のところの議論がなお残っているということだろうと思います。その部分について話題に出ましたので,更に御意見があれば承りたいと思います。   特段の御発言がないようですから,では,この辺りにさせていただきまして,先の部分の説明をお願いします。 ○沖本関係官 それでは,部会資料5-1,第6の1の「夫婦財産契約に関する審判事件」及び第6の2の「破産法に規定するその他の審判事件」について説明します。   まず,夫婦財産契約に関する審判事件についてです。   甲案では,単位事件類型を,夫婦財産契約による財産の管理者の変更等に係る審判事件,及び破産手続が開始された場合における夫婦財産契約による財産の管理者の変更等に係る審判事件を含む「夫婦財産契約事件」とした上で,各国内土地管轄と同旨の規律を設けることを提案しています。単位事件類型としての「夫婦財産契約事件」は,外国法において当該事件類型に相当するものと解されるものを含むものとして提案しています。   乙案では,「夫婦財産契約事件」について,これに含まれる審判事件の申立てがいずれも非常に少なく,あえて明文の規律を設ける必要性は高くないとも考えられることなどから,明文の規律を設けないことを提案しています。仮に乙案を採用した場合は,「夫婦財産契約事件」に含まれる個々の事件類型について,どの単位事件類型に含まれるのかなど,その国際裁判管轄の解釈が問題となるものと思われます。   以上を踏まえまして,「夫婦財産契約事件」の国際裁判管轄について,規定の要否や内容につき御審議をお願いします。   続きまして,破産法に規定するその他の審判事件について説明します。   甲案においては,単位事件類型として,破産法第61条第1項において準用する民法第835条に基づく,親権を行う者につき破産手続が開始された場合における管理権喪失に係る審判事件,及び外国法において当該事件類型に相当すると解されるものを含む,「親権を行う者につき破産手続が開始された場合における管理権喪失の審判事件」,それと,破産法第238条第2項に基づく破産手続における相続の放棄の承認についての申述の受理に係る審判事件,及び外国法において当該事件類型に相当すると解されるものを含む,「破産手続における相続の放棄の承認についての申述の受理の審判事件」を設定した上で,前者については子の監護又は親権に関する審判事件の一類型として,後者については相続関係事件の一類型として,それぞれ,その単位事件類型の国際裁判管轄の規律によることを提案しています。   他方で,これらの事件はいずれも申立てが年間10件以下と少なく,国際裁判管轄が問題となった例も見当たらず,あえて明文の規律を設ける必要性は高くないとも考えられることから,乙案では,明文の規律を設けないことを提案しています。   以上を踏まえまして,破産法に規定するその他の審判事件の国際裁判管轄について,規定の要否や内容につき御審議をお願いします。   以上です。 ○高田部会長 では,第6の1及び6の2について御意見を伺います。いかがでしょうか。 ○竹下幹事 第6の2の方ですが,乙案でよいと思います。ほかの単位事件類型の設定の際に,その中に何が含まれているかという説明については,どのような事件を念頭に置くかということは考えますが,単位事件類型自体の説明というものはしなかったと思います。ここだけを,この単位事件類型に含めると明文で書くということの意義が,特に細かい事件であるとすると余りないのではないか。そうすると,この第6の2については,甲案を採っても乙案を採っても,規定の有無に変わりはなく,乙案を採って特段の規定を設けなくても,明文の規定がないわけではない,すなわち,相続関係事件の条文の解釈として,そこに単位事件類型として事件が含まれてくると解釈すれば,別に規定がないわけではないので,ここだけ単位事件類型の内容を明確化する必要性は余りないというのが私の考え方です。 ○高田部会長 おっしゃるとおり,特別家審事件ではありますけれど,若干性質の違う事件類型に入っております。ほかに御意見ございますでしょうか。 ○道垣内委員 第6の1は,ほかにどこかで賄われるならよいですが,明文の規定があってもよいのではないかと思います。第6の2については,竹下幹事のおっしゃることに賛成です。 ○高田部会長 第6の1が解釈によって包含される単位事件類型は,これまでにはないというご理解でよろしいでしょうか。 ○池田委員 住所が両方ともない場合には一切管轄がないということになってしまうことを,明文で言ってしまうのは,いろいろな場合に対応できないことがあって困るのではないかと思いますので,その意味で入れない方に魅力を感じています。 ○内野幹事 池田委員としては,明文がなく,いわゆる条理というようなもので管轄を肯定し得るという前提なのでしょうか。 ○池田委員 前提はそういうことなので,必要なときに管轄を肯定することができるようにしないとまずいのではないかということです。例えば,日本人夫婦でも,たまたま,住所が両方ともどこかへ行っている場合などにできなくなってしまうということのようですから,困るような場合があるのではないかという心配です。 ○山本(克)委員 今の池田委員のご懸念に対応しようと思ったら,その管理に服している者の財産が日本国内に所在するときというのを管轄原因とするのも考え方としてあり得るという気がします。つまり,人の問題というよりも,むしろ,財産の問題,財産管理が日本でどうなるのかという問題と捉えると,そのように考えることもできるのではないかという感じがします。 ○和波幹事 その場合は,日本国内の財産にだけ効力が及ぶという,ほかの財産管理に関する事件の管轄と同じようなイメージでしょうか。 ○山本(克)委員 そういうイメージになってしまうかもしれません。その場合,二つ管轄原因を置くということになりますかね。管轄原因としては二通り置いて,普及的なものと属地的なものとを分けるということになるような気がします。 ○和波幹事 この夫婦財産契約については,通則法上,合意によって日本法を準拠法にすることができるというふうに理解しておりますが,その場合には,日本の民法によるとこの夫婦財産契約について登記をするということになっていると思っております。そうしますと,登記が変更されたにもかかわらず,その効果が属地的なものになるというのは,説明が付くのかという疑問があるのですが,その点はいかがでしょうか。   すなわち,夫婦財産契約については,契約自体が登記をされることになると,当然その契約の効力は,外国に財産があっても及ぶことが前提であると理解をしていたので,この管理者を変更して,変更の登記を日本でするということになりますと,当然,その変更された管理者が外国の財産についても管理者になるものと思っていたのですが。 ○池田委員 今の場合は,住所に関係なく,ということになるのですか。 ○和波幹事 そこは,管轄規定を置くかどうか,置くとしてどのような管轄規定かということになると思いますが,少なくとも日本でそのような変更の審判があり,登記がされた場合には,その登記の効果がその夫婦間で対象になっている財産全部に及ばないとおかしいのではないかという趣旨です。 ○高田部会長 いかがでしょうか。そのことを踏まえて財産所在地管轄をどう考えるか,財産所在地管轄について今まで幾つかのところで御議論いただきましたが,そうした問題との平仄の問題もあろうかと思います。   検討すべきことを御指摘いただいたということですが,これまでの御意見で申しますと,管轄規定を設けた方がよいという御意見が多いということでございましょうか。 ○池田委員 そうなるのでしょうか。私は,いろいろな問題があってなかなかまとまらないので,しかも実質的にもこれは余り使われることがなく,本当に問題が起きるのもいつのことになるか分からないような問題ですから,ここについては何も規定を置かずに,もし事例が集積するようなことがあれば,それを待った方がよいのではないかという意見です。 ○高田部会長 失礼しました。この問題に特有の管轄規定を設けた方がよいという趣旨ではなく,どこかの単位事件類型を含めて管轄規定を想定した方がよいという趣旨で申し上げました。それに対しては,今おっしゃられたように,あえてこの事件について設ける必要はないという御意見はあろうかと思います。 ○山本(和)委員 管轄規定を設けなかった場合は,今までの裁判所の判例などから普通に考えると,逆推知が基本になって,結局,甲案と同じようなことになると思いますが,先ほどの池田委員の御意見は,むしろ規定を設けて,更に国籍なども管轄原因にすべきだという御趣旨のようにも伺いました。何も規定を置かない場合に,裁判所が自由に,必要があるときはできますということになるのでしょうか。 ○池田委員 そもそもこの種の事件は普通に考えると滅多にないので,そのときによく考えるということになるのではないかと思ったわけです。 ○山本(克)委員 先ほどの和波幹事のご質問について,通則法の26条4項は,登記については日本国内においてされた法律行為及び日本にある財産との関係で第三者対抗要件だとされているというふうに読めますが,そうではなく,あまねく世界中にという趣旨なのですか。登記の効力は属地的なので,属地的な裁判で属地的に変えても問題はなく,日本国内でだけ効力を持っていても問題はないのではないかという趣旨です。 ○和波幹事 この条文の解釈については直ちにお答えすることができないのですけれども,ただ,少なくとも日本法に基づいて管理者を登記した場合に,その夫婦財産契約の対象財産として外国にある財産があれば,当然,そこは登記された管理者が管理権を持つのではないかと理解していました。その点につきましては,調査をした上で,間違っていれば,次回訂正させていただきたいと思います。 ○高田部会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   では,続けて第7について御説明いただきたいと思います。 ○沖本関係官 部会資料5-1,第7の「中小企業円滑化法に規定する審判事件」について説明します。   甲案においては,単位事件類型を,中小企業円滑化法第8条第1項に規定する遺留分の算定に係る合意についての許可に係る審判事件をいう,「中小企業円滑化法に規定する審判事件」として,この事件については,中小企業円滑化法の適用が問題となる限り,申立人の国籍や住所を問わず我が国の裁判所に管轄権を認めてよいと考えられること,合意が効力を生ずるための手続として,家庭裁判所の許可のほかに,経済産業大臣の確認をすることとされており,基本的に日本国内で手続をとることが想定されていると考えられることから,我が国の裁判所の専属管轄とすることを提案しています。   他方で,「中小企業円滑化法に規定する審判事件」の国際裁判管轄については,それが問題となる具体的な場合は考え難く,あえて明文の規律する必要性は認められないとも考えることができることから,乙案としては特に規律を設けないことを提案としています。仮に乙案を採用した場合は,「中小企業円滑化法に規定する審判事件」について,どの単位事件類型に含まれるのか等,その国際裁判管轄の解釈が問題となるものとも思われます。   以上を踏まえ,「中小企業円滑化法に規定する審判事件」の国際裁判管轄について,規定の要否や内容につき御審議をお願いします。   以上です。 ○高田部会長 では,御意見を伺いたいと思います。 ○道垣内委員 先ほどの,部会資料の前の方の,法律名を書いて,その法律に基づく事件は,と書く場合と同じ問題ですけれども,甲案では管轄としてはよく分かりません。中小企業円滑化法を見ますと,我が国の経済の基盤を形成している中小企業についての法律なので,日本法人である中小企業であれば日本で裁判をしますということになるのではないかと思います。この手続を,外国でやってはいけないかということは,よく分からないですけれど,少なくとも日本の会社であれば推定相続人がどこにいようとできますということは言えるのではないかと思うので,規定を置くかどうかはともかくとして,管轄原因を書くべきであって,規定ぶりがおかしいのではないかと思います。 ○内野幹事 その場合の日本法人というのは,どのように定義されるという前提でしょうか。そこは解釈問題として残しておいてとよいということでしょうか。 ○道垣内委員 設立準拠法が日本法である中小企業という前提です。 ○池田委員 その中小企業が外国法人であって,子会社とかをたくさん持っている可能性はありますよね。 ○道垣内委員 そういう場合はありますが,この法律はそこまでできるのでしょうか。この法律は,その日本法人である中小企業についての株式等の処理についてのことかと思ったものですから。 ○内野幹事 管轄規定として自己完結的なのかという点は御指摘を受けておりますが,部会資料上の事務局の提案は,今のところ,その部分は全部,当該法律に任せているということです。 今の道垣内委員のおっしゃった,管轄規定としてこれで十分なのかという点については,違う印象をお持ちの方がいらっしゃるならば,御指摘いただきたいのですが。 ○竹下幹事 今の点について,他のところでも登場する事務局の専属管轄という提案の御趣旨は,要するに,実体法の適用範囲でどういった場合に裁判をするかを画するので,国際裁判管轄の規定としては専属,ということですね。御趣旨は分からないではないのですが,他方で,例えば,生活保護法等に規定する審判事件について,外国の保護の実施機関や外国に住所を有する被保護者について申立てがされてきたときに,国際裁判管轄のレベルでは,取りあえず日本の法律に基づく申立てである以上は専属管轄として日本に管轄があるということになると思うのですが,そこはやはり違和感があるという印象です。やはり,その法の適用範囲に全て任せてしまえば,国際裁判管轄の方は考えなくてよいとまで本当に言えるのかは,ちゅうちょがあります。 ○山本(和)委員 第7について言えば,まずは経済産業大臣の確認があるわけですよね。その後,それに引き続いて家庭裁判所の許可,ということなので,今言われているのは,まず経済産業大臣は確認をしないことになるのではないですか。まず経済産業大臣が法律を適用するということだと思うので,それだと余り現実には出てこないということなのかなと思いますけれども。 ○竹下幹事 仮に,経済産業大臣が確認したものについて受け取るということであるとすると,国際裁判管轄の規定をそもそも設ける必要性がよく分からなくなってくるので,規定は不要のように思われます。 ○高田部会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   では,先にまいりまして,これまで個別の単位事件類型に応じた国際裁判管轄の規律を御議論いただきましたが,続きまして,総論に当たる規律の在り方について御議論いただくことになります。   まず,部会資料5-2からでございます。部会資料5-2,第1,合意管轄・応訴管轄について,資料の説明をお願いいたします。 ○内野幹事 それでは5-2の資料の方にまいります。まずは合意管轄・応訴管轄についてです。   合意管轄・応訴管轄につきましては,一般的な規律を設けることはしないという提案をひとまずはしています。人事訴訟事件及び家事事件については,身分関係の公益性などから,国内裁判管轄においても合意管轄及び応訴管轄を一般的に認めることはしていないということのほか,これまでの部会での御議論を踏まえますと,国際裁判管轄についても,合意管轄及び応訴管轄を一般的に認めることはすべきではないと考えています。   さらに,応訴管轄については,外国にいる被告又は相手方につきまして,常に訴状又は申立書を送達する必要性が生じてしまうこともありまして,これは手続経済上の観点から望ましくないとの指摘もあるところだと認識しています。   また,国際裁判管轄におきましては,合意管轄を認めることは,単にどの国の裁判所で裁判を行うかという問題のほかに,その各国の国際私法が統一されていないという現状の下におきましては,適用される準拠法自体が異なるという結果にもつながることを考慮しなければならないという指摘も考えられるところです。   そして,諸外国の法制におきまして,合意管轄及び応訴管轄を一般的に認める法制というのはそれほど多くないという指摘もあったと認識しています。   ただ,個々の単位事件類型又は単位事件類型の中の特定の種類の事件に限って,合意管轄又は応訴管轄を認めるべきという考え方はあり得るところでございます。これまでの部会及び研究会でも,特定の事件,具体的には離婚の訴え,財産分与事件,離縁の訴え,遺産の分割に関する審判事件,家事事件手続法の表現を使わせていただければ,人訴に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(家事事件手続法別表第一に掲げる事項についての事件を除く)の調停事件につきまして,合意管轄又は応訴管轄を認めるべきだという意見もいただいたところです。   調停事件につきましては別途,総論的規律の最後で取り上げる予定ということにさせていただきたいと思っておりまして,ここでは,離婚の訴え及び離縁の訴え,財産分与事件及び遺産の分割に関する審判事件について,これまでの議論を振り返りつつ御議論いただきたいと思っております。   まず,離婚の訴えと離縁の訴えについてです。我が国の民法では,これらの事件について合意による離婚又は離縁が認められていることから,管轄の問題においても合意管轄や応訴管轄を認められるべきではないかという議論です。   いわゆる自庁処理というものが認められる国内管轄とは異なり,国際裁判管轄においては合意管轄及び応訴管轄を認めるべきニーズも存在するという指摘があり得るところです。   他方で,国内管轄において,これらの事件について合意管轄及び応訴管轄を認めていないことのバランス,身分関係の公益性という問題点があり,合意管轄及び応訴管轄を否定する御意見も強く出されていたように認識しております。   このようなこれまでの御議論を踏まえますと,合意管轄・応訴管轄を認める必要性があるのか,必要性があると考える場合に先ほど述べたような問題点についてどのように考えるのかという点について,御議論賜りたいと思っております。   次に,財産分与事件及び遺産の分割に関する審判事件についてでございます。これらにつきましては,財産関係事件という側面もあるのではないかという問題意識から,合意管轄及び応訴管轄を認めるべきという御意見があり得るかと考えております。国内管轄という点に目を向けますと,合意管轄が認められているというところもあります。   他方で,国内法におきましては,これらの事件についても弁論主義の適用が排除ないし制限されているところもありますので,そういった意味で公益性というものはやはり否定できないのではないかという視点,また,先ほど申し上げましたように,国際裁判管轄を認めると結局準拠法も変わるという結果もあることからいたしますと,合意管轄及び応訴管轄については慎重,否定する見解もあり得るかと考えています。   以上のような観点を踏まえまして,財産分与事件及び遺産の分割に関する審判事件について,合意管轄及び応訴管轄を認めるべきかを御議論賜りたいと思っております。   また,先ほど述べました種類の事件のほか,家事事件手続法別表第二に定める事件の一部につきましても,国内管轄で合意管轄が認められているというところもありますので,国際裁判管轄においても合意管轄を認めるべきであるとの議論もあり得るかと思ってはいます。   ただ,これまでの部会での御議論を踏まえますと,家事事件手続法の別表第二に定める事件につきましても,例えば子の監護又は親権に関する審判事件のように,国際裁判管轄においては合意管轄を認めるべきでないと考えられるものもあります。そういったところも考えますと,国際裁判管轄において合意管轄を認めるべきであるとする場合,やはり公益性の観点などを踏まえた検討が必要ではないかと思われます。   部会資料にいろいろ書かせていただきましたが,そういった事件につきまして,合意管轄を認めるべきか否かも本日御議論いただきたいと考えております。   更に,合意管轄を認めるとした場合に,更に検討すべき点が考えられます。一つは,単に合意のみで管轄権を認めていいのか,付加的要件を付すべきではないのかという議論があります。また,合意による管轄の排除を認めてよいかという御指摘,つまり,合意によって管轄を発生させるという場面のほかに,本来存在する管轄を排除する合意も認めてよいのかどうかという御指摘もこの前の部会でありました。   更に前回,本来当事者が複数になるべき場合につきまして,合意は誰と誰との間にあればよいのかも議論されたところでありますが,合意は本来当事者とすべき者全ての間に必要だというわけではなくて,当該人事訴訟事件又は家事事件において現に当事者となっている者全ての間に存在すれば足り,本来当事者とすべき者全てが当事者となっていない場合には,管轄権の欠缺以外の理由によって訴え又は申立てが却下され得るということになると考えられるのではないかという御指摘も頂いたところであります。以上のような問題点があるのではないかと思われます。   これまでの御議論を踏まえますと,今の点に関しましては,本来合意の当事者となる者が複数となるべきかどうかというのは,国際裁判管轄における合意管轄の要件としてというよりも,そのほかの法廷地の手続法又は準拠法の要請のどちらかによって判断されるということであったように思われます。   例えば,遺産の分割に関する審判事件につきましては,現に当事者となっている者全ての者の間に管轄に関する合意があれば我が国に管轄権が認められることになるものと考えられます。しかし,例えば我が国の民法が準拠法になる場合など,準拠法上遺産分割に共同相続人の全てが関与する必要があるとされている場合には,共同相続人の全てが当事者になっていないときには,当該遺産分割に関する審判の申立ては最終的には却下されることになると考えられます。こちらは準拠法を見なければ分からない問題だということですが,おそらく結論としてはやはり申立てが却下されることに今の事例ではなるのではないかと考えています。   合意の時期や方式につきましても,部会資料上言及させていただいております。合意管轄を認めるとした場合につきまして,その合意の時期や方式をどうするかという問題も生じてきます。   さらに,部会におきましては,合意がされてから相当程度の時間が経過した後,当該合意に基づいて管轄を認めるべきではなく,合意は当該訴え提起若しくは申立て後,又は訴え提起ないしはその申立て前で非常に接着した時期に必要であるという御意見もあったところです。   事務局では,単純な合意管轄と区別するために,同意による管轄などという言葉を使わせていただいて,これまで部会として推移してきたというところがあります。   一方,方式の点につきましても,恐らく財産権上の訴えと同じ方式は要求すべきことになるのではないかと思われますけれども,人事訴訟事件ないし家事事件という事件の性質を踏まえ,更に何らかの加重的な方式を要求すべきであるという意見もあり得ると思っております。   これらの問題があり得ることを踏まえまして,合意管轄及び応訴管轄を認めるべきか否か,認めるべきであるとした場合,今申し上げたような付加的要件や,合意の時期,方式,こういったところをどのようにすべきかという点について併せて御議論いただきたいと思います。   部会資料の第1につきまして,概要を簡単に申し上げると,以上のとおりです。 ○高田部会長 相互に関連するのかもしれませんが,便宜,合意管轄の方から御議論をお願いできればと存じます。   これまた相互に関係するのかもしれませんが,まず最初に部会資料の本文にある包括的な合意管轄の規定の要否について,今までも既に御議論いただいているかと思いますが,御意見賜れればと思います。 ○池田委員 どちらかというと全体として,包括的な合意管轄についてネガティブな方向であると思うのですけれども,その場合に,間接管轄との関係では,外国で合意管轄によって管轄権を認めて裁判をした場合にその外国裁判は我が国で承認されないということになると思うのですが,私自身は,それについてもやはり不都合かと思っております。 ○西谷幹事 離婚事件に関する外国法制として,ヨーロッパの国々と,アメリカ,オーストラリア,それから中国,韓国といった国を可能な限りで調べたところ,合意管轄を認めている国はございませんでした。   応訴管轄については,中国で認められているようですけれども,合意管轄は,そもそも比較法的にほとんど例がないと言ってよいかと思います。   大谷幹事が以前に指摘されていたように,EUのブリュッセルⅡbis規則によりますと,夫婦双方の共同申立ての場合には,そのどちらか一方の常居所地で裁判を行うことができますので,その限りでは,当事者が合意によって選択する余地はあるのですけれども,合意管轄として決めている法制は,主要な国ではないと見てよいのではないかと思います。 ○大谷幹事 間接管轄を考えたときに,外国で合意管轄でされた判決を日本で承認できないことになるのかという池田委員の先ほどの御質問については,今の西谷幹事のお話とも併せて考えると,そもそもほかの管轄原因がないのに合意だけで管轄を認めるという法制の例がないと理解していますので,そういうことは実際起きないのではないでしょうか。 ○池田委員 それについては,おっしゃっているのは離婚だけですが,私は人事訴訟事件及び家事事件全体について申し上げていて,離婚だけの話ではありません。 ○大谷幹事 しかし,少なくとも離婚事件について考えるとすると,ほかの管轄原因がないのに合意だけで管轄を認めるという法制がないのであれば,我が国においてそのような裁判についての承認の問題は起きないことになります。また,これも前から申し上げていることなのですが,離婚に関して言いますと,外国は管轄原因がかなり広いので,その本来の管轄原因以外に合意だけで管轄を認めるということが実際ないと理解しています。   それから,離縁ですけれども,先ほど御説明いただいた部会資料の(2)のところで,特定の類型事件について合意管轄又は応訴管轄を認めるべきという意見が出たものの,類型として挙げられている中の①と③,離婚と離縁をセットでお書きになっていて,日本的に考えればそうなのですけれども,私も外国法制を全て分かっているわけではないのですが,日本の養子縁組の在り方は割と独特で,離縁が,協議離縁が認められたり,離婚に近い形で考えられています。合意管轄の可否というのも並べて出てきているのかなと思うのですが,外国での養子縁組の法制とか利用のされ方を考えますと,そもそも合意での離縁というのが余り考えにくい上,管轄原因としても合意というものを考えるというのが極めて日本的であると思います。日本での管轄規定を作ろうというのですから,そのように考えること自体は,論理の筋道は分かるんですけれども,ちょっと若干何か違和感を感じました。調べたわけではないのですが,外国法制では,離縁についても合意というのは余りないのではないかと思いました。 ○北澤幹事 外国法制の話との関連ですけれども,合意管轄に関して相続事件関係でいろいろ議論があったときに,EUの相続規則でも合意管轄が認められているということについて,事務局から御紹介があったかと思います。そういう個別の事件類型について合意管轄を認める立法例がある場合にも,これはやはり範囲は相当限定されたものでして,どこの国の裁判所の管轄についても合意していいかというと必ずしもそうではありません。例えば,EU相続規則ですと,もちろん例外はありますけれども,原則として,被相続人の常居所を管轄原因とし,準拠法については被相続人の常居所地法によるという構造になっているところ,準拠法についてはさらに被相続人による準拠法選択を許容していて,被相続人が国籍を持っていた国の法律を選ぶことができるわけです。そうすると,準拠法は国籍を持っていた国の法律が選べるのだけれども,管轄の方は原則常居所地管轄になってしまい,管轄は常居所地国と準拠法は国籍を持っていた国とで管轄と準拠法がずれてしまうので,合意管轄によって被相続人が準拠法選択している国の裁判所を選ぶことができるとなっているわけです。そうすることによって,準拠法は国籍を持っている国の法だし,かつ,管轄する裁判所も国籍を持っている国の裁判所ということで,そこは準拠法と管轄が一致するわけです。   それ以外にも,合意管轄を認める場合にはその方式等細かな要件が付いていますが,これは,元々遺留分等についていろいろ想定している相続人たちの予測可能性もやはり害してはいけないと考えることによるものです。先ほど事務局の御説明にもありましたように,合意管轄を認めるとすると結局,裁判所が変わるということは準拠法も変わってきてしまうわけですから,そこまでの影響に配慮して,合意管轄を認める場合にも相当範囲を限定しているわけです。そのように考えると,一般的に合意管轄を認めることについては,私は相当ネガティブに考えておりまして,事件類型ごとにこれを個別に認めていく場合にも,その範囲はやはり相当限定したものが想定されるべきなのではないでしょうか。   ただ,私は,合意管轄を認めた場合に詰めるべき細かな点,当事者の範囲であるとか,合意の時期であるとか,方式であるとか,いろいろ考えていけば考えていくほど,これを認めることにネガティブになっていっています。 ○大谷幹事 今の北澤幹事の御発言に関連してですけれど,遺産分割は日本では大きく家事事件の中に入れて議論していますけれども,私が知っている欧米の国においては,基本的にはもう財産事件であるという考え方でやっていますので,そういう意味では遺産分割については,その他の家事事件と少し違って,合意を取り込むという考え方があるのかと思います。   それからもう一つは,今,一般的に合意管轄を認めるかはともかくとして,事件類型毎にこれを認めてはどうかという議論があったのはそのとおりで,ただ,今日は①から⑤というふうに類型を分けてくださったのですが,例えば①で離婚について合意管轄をもし認めてしまったときに,附帯処分の管轄を離婚本体の管轄に引き寄せるという考え方がこれまでの議論では強かったと思っており,そうだとすると,このように分けたとしても,結局,離婚について本来的な管轄がないのに合意を基礎に管轄を認めた場合,ほかのものも引きずられるのではないかと考えています。特に子の親権や監護に関する事件については部会資料の次のページに御紹介がありましたように基本的には合意を認めないという意見が強かったと思うのですけれども,そうならないようにするためには,本体である離婚事件が合意によって管轄権が発生した場合は,子の親権や監護に関する事件は離婚事件に引きずられないという整理をするのかなど,やはりかなり複雑であると思います。したがって,離婚事件については合意管轄を認めるのが便利ではないかというような簡単な話ではないというのは,強調させていただきたい点です。 ○高田部会長 もう既に個別の事件類型の方に議論が移っておりますので,そちらの方で議論を進めさせていただければと思います。   今までの御議論からしますと,事件類型以外の限定の仕方はあり得ると思いますが,合意管轄を認めて良いのではないかという御意見をこれまでにいただいた事件類型としては、部会資料に挙げられている①から⑤までがあるのではないかというのが事務局の整理でございますが,それぞれにつき既に異論が出ているところではございます。池田委員は個別の事件類型に限って合意管轄を認めていくというアプローチを採るとすると,狭過ぎるという御主張になるのでしょうか。 ○池田委員 漏れがなければいいとは思います。今のところ,具体的にこの場合は必要であるという事件を考えているわけではないのですが,ただ,一般論として,全体として,私の立場は被告の応訴の不利益を考えているので,その被告がオーケーと言えばいいという考えです。そこで合意による管轄を認めないとちょっとアンフェアなのではないかと思います。その問題があるので,少なくともその部分については,セットだというところは譲れないのではないかとは思っているところです。 ○高田部会長 すると,個別事件類型について合意管轄を認めていくことでカバーしていくというのでは不十分だということでしょうか。 ○池田委員 いえ,ですので,それは被告の応訴負担に着目している場合に,応訴管轄を認めるのであれば結構です。 ○高田部会長 分かりました。従来はここにありますように離婚,離縁という,これも議論ありますけれども,当事者の処分が一定の範囲で認められている類型と,大谷幹事が指摘されておられましたけれども,②,④は実質財産事件ではないかという整理で御指摘いただいたように思います。 ○池田委員 ②もそうなのでしょうか,④はそうおっしゃっていましたけれど。 ○高田部会長 たしかに,②は議論があるのかもしれません。②については部会資料にもありますようにまだ十分な議論がされていないような気がいたしますけれど,この整理について御意見があれば承りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 質問ということになるかもしれませんが,この②及び④のところで書かれている否定的な議論の根拠として,一つは合意管轄を肯定すると当事者に予期しない影響を及ぼす可能性があるということが指摘されていますけれど,当事者が合意をしているのでそれは予期しているようにも思うんですけれども,そこはいかがでしょうか。 ○内野幹事 要件の立て方かもしれませんが,その点が合意管轄を認める場合の論点であると指摘をさせていただいているというものです。 ○山本(和)委員 もう1点は,その弁論主義等の排除を捉えて公益性があるものというべきという指摘がありますが,これも国内管轄で合意管轄を認めたときに,これらのものについては,その公益性がさほど高くないので合意を認めるという説明を,法務省の書かれた本で読んだ記憶があるのですが,先ほどは公益性が否定できないというような説明で,まあ否定はできないと思うんですけれども,さほど高くないとすれば合意管轄を国際的場面でも認めることに,それほどハードルにはならないのかなという印象を持っているということです。 ○北澤幹事 ただいまの山本和彦委員の御意見を伺っていて考えたのですが,当事者間で合意しているからということにつきましては,私も最初そうだろうと思っていたのですけれども,4ページの合意管轄を認めた場合の(3)のその要件のところで,合意の当事者の範囲を最初は現に当事者となっている者全ての間で合意があればよいという形になっていて,これは準拠法を指定したことによって判明する当事者となるべき者ということではないわけです。そうなってくると,最初は当事者性にかなりの不明確さが残っているところでの合意管轄になりますので,全ての当事者が合意しているのだからというときは,もっと厳密な当事者であってほしいと,懸念を懐いているところです。   ただ,4ページの(3)で書かれているように,実際に準拠法で判断して当事者となるべき者の範囲が分かった場合の処理方法がありますので,そこでの手当てはできているのではないかと,他方で考えました。   それから,一番懸念しておりますのはやはり過剰管轄のところでして,付加的要件というのをどういうふうに課すのかという点です。以前研究会の報告書を見ておりましたときに,日本が同時に財産所在地であるということであったり,部会資料の方にも原告の住所地というものが出ていたかと思います。具体的な付加的要件として何をかけていったらいいのだろうかというのは正直なところ判断に迷っておりまして,付加的要件という縛りがもう少し入ってくると,また感触は変わってくるように思っております。 ○大谷幹事 合意管轄を肯定した場合に,その当事者に予期しない影響を及ぼす可能性があるということについて,これは前から諸外国で合意管轄が認められていないということのほかに,実質的になぜその合意管轄にそれほど消極的なのかということで繰り返し申し上げていたかと思うのですけれども,例えば国内ですと合意管轄というのは一つの法域の中で現実でどこに裁判を行うかということだけなのですけれども,国際訴訟の場合,管轄をどこにするかというのは,当然準拠法に影響があり,その準拠法の中身を,しかも外国法が入って来ることが多いので,その結果を本当に予測して合意をするというのは相当高度な専門的なアドバイスがないとできないのだと思います。現実に渉外家事事件をたくさんやってきましたけれども,準拠法への影響の予測はどこの国の弁護士もなかなか本当の意味ではできないというと大げさですけれども,難しいというのが実務の中での感覚です。   したがって,ほかの国も認めていないということに加え,果たして合意管轄を認めるという方にかじを切るということは大変大きな選択だと思っていまして,それはやはりすべきでないと考えます。また,合意が実際に準拠法にどのように影響するのかの予測というのは非常に難しいというのをもう一度発言させていただきます。 ○道垣内委員 私も合意管轄は認めなくていいと思っております。部会資料に書かれていること,あるいは今までおっしゃったことに加えてですけれども,民事訴訟法3条の7の5項,6項で,消費者契約,労働契約については合意管轄が制限されています。身分関係事件では,日本も含めて,全ての国が弁護士強制主義ではないので,どちらか一方だけがお金をかけて弁護士を使ってうまく自分に有利な法廷地を選択するということもあるし,あるいは何も考えずに裁判所から呼び出しがあったので出かけましたという人が,応訴をしたとなってしまうことも出てくるおそれがあるのではないでしょうか。要するに,法的な弱者が存在する可能性が非常に高いので,合意管轄は認めない方がいいのではないかと思います。それは,先ほどおっしゃった,重大な結果が生ずるかもしれないのでということの裏返しだと思います。 ○高田部会長 ②,④事件も同様に合意管轄を認めるべきではないということですね。 ○道垣内委員 そうです。 ○池田委員 今の,正確に理解した上での同意ということに関しまして,先般弁護士会での議論の中では,仲裁法の仲裁合意について,消費者に関して非常に詳細な規定で,真意の仲裁の合意という形の場合に認めるというアプローチがあるので,少なくともそういった真意を担保した上で当事者の意思を尊重する方法が検討されていいのではないかという議論はありましたので,御紹介します。 ○高田部会長 いかがでしょうか。北澤幹事もおっしゃいましたが,準拠法も併せて指定できるような当事者を想定すれば別なのかもしれませんが,一般的に準拠法まで含めますと予測可能性というものについて問題があるという御指摘を受けました。②,④について,ほかに御意見があれば承りたいと存じます。 ○山本(和)委員 先ほどの道垣内委員の御発言は,遺産分割についても消極だということですか。 ○道垣内委員 はい。そうです。 ○山本(和)委員 私も全部の事件について合意管轄を認めるべきだとは必ずしも思っていないのですけれども,遺産分割についてはニーズがありそうな感じがかなりしています。つまり,被相続人は外国にいて,相続人である子供たちは全員日本にいるような場合です。財産も主として日本にあるという場合を考えると,もちろん合意以外の,相続開始地以外の管轄原因を作れば別ですけれど,そうでない場合に合意管轄を認めるニーズはあって,そして,それを否定するような理由も余り見いだせないような感じがちょっとしているのです。 ○高田部会長 山本和彦委員から御指摘いただきました点は,恐らく付加的要件にも関係してくるのだろうと思うのですが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 遺産分割については,民事訴訟への移管論もあるぐらいなので,付加的要件を要求することについてはどうかないう感じがしなくはないんですけれども。 ○高田部会長 いわゆる付加的要件というのは考える必要はなく,合意さえあればよいということですね。その辺り,いかがでしょうか。 ○山本(弘)委員 遺産分割に限って言うと,今もう議論が出ているとおり,いつの合意かという点について,相続開始後の合意に限定するというのは割と簡単にできると思うのです。だから,その点も,遺産分割はちょっと別に考えた方がいい要素の一つだろうと思います。 ○高田部会長 ほかにいかがでしょうか。付加的要件については個別に考えていく必要があり,既に原告住所地や財産所在地というアイデアが出てきているわけですが。 ○池田委員 付加的要件の関係では,ニーズがある場合はいろいろな場合が想定されると思うので,住所地とかいった形でピンポイントの付加的要件を要求する方法ではなく,やはりその土地との何らかの関連というような形にすべきで,余り限定的な形にすると本来のニーズには添えないのかなとは思いました。 ○高田部会長 いかがでしょうか。実質的関連性を抽象的に示す,より緩やかな規律の方が望ましいのではないかという御意見いただきました。 ○内野幹事 先ほど池田委員の方から,日弁連内の議論の御紹介を頂いたのですが,そのときに当事者の意思を尊重すべきという意見を紹介されましたが,合意管轄には管轄を付け加える合意と,限定する合意も考えられるわけですけれども,そのどちらの意味での当事者の意思を尊重すべきということなのでしょうか。 ○池田委員 要するに法定管轄,つまり普通の管轄原因では管轄がない場所について,当事者がそこを法廷地にしたいという場合に,そういう意思を尊重して,合意,同意による管轄を認められてしかるべきではないかという議論です。 ○高田部会長 付加的要件について御発言がなければ,今の点,(2)ですが,付加的合意のみを認めるという御意見を先ほど頂いたように思いますが,専属的合意と申しますか,法定の管轄がある国の裁判権を排除する合意も認めるべきだという見解の方はいらっしゃいますでしょうか。   事件類型にもよるのでしょうけれども,家事事件手続法自体が付加的管轄しか認めておりませんので,国際裁判管轄ではより積極的に専属的な合意をも認めるという御意見はもしかしたら難しいのかもしれませんが。 ○山本(克)委員 遺産分割に限って申し上げますと,家事事件手続法66条は合意の時期的限定をしていないわけですよね。ですから,そういう時期的限定をした上で,法定管轄地を排除することを認めるというのは,それなりに意味があるのではないですかね。 ○内野幹事 ただいまおっしゃった時期的限定については,これまでの部会の中では,論点としてはあるという認識はあったのですが,必ずしも皆様方全体の印象を伺えていないところもありますので,もしその点に今日の段階で御意見があるならば,伺っておきたいところではございます。 ○山本(弘)委員 例えば離婚の訴えを例にとると,民事訴訟法で労働契約について労働契約終了後に成立した合意に限定していますが,そのような明確な時点が果たして離婚で決められるのだろうかという気がします。実質的に婚姻が破綻した後でなされた合意というような形で合意の時期を限定しても,明確ではありませんので,本当にそれで実務が動くかなという気がします。 ○池田委員 私は,少なくとも管轄について争いがある場合は合意がある場合には入らないと,そういうイメージでいます。つまり,裁判の時点において管轄について合意があるのかないのかも含めて争いがあるというようなものは排除されるべきと,こういう考えです。 ○山本(弘)委員 応訴管轄を認めるという感覚に近いのですよね。 ○池田委員 そうです。感覚としては,応訴管轄で,単に送達はしないというイメージです。 ○高田部会長 それも一つの考え方ですが,争いがあれば合意管轄は認めないというところまで限定するということについて,共通理解はあるのでしょうか。途中で同意という表現が出てまいりましたけれども,実質的には訴え提起後の同意に限りなく近い印象でございますが。 ○山本(克)委員 私は民事訴訟法の国際裁判管轄では応訴管轄を広く認め過ぎてしまったのではないかと最近は考えているんです。   ドイツの応訴管轄の規定を見ますと,地方裁判所では応訴管轄を無条件に認めています。なぜなら弁護士強制があるからです。区裁判所では裁判所が管轄違いであることについて被告に対してきちんと教示をしなければならないこととされており,漫然と本案について異議なき応訴をしただけでは,応訴管轄を認めないという法制を採っています。それはつまり管轄利益についての自覚がない者について異議なき応訴による管轄発生は認めないというふうにしているわけです。そのことを考えると、日本の応訴管轄はすごく広くて,かつ,国際的な訴訟について,民事訴訟法3条の7と3条の8の二つの規定が,合意管轄については非常に厳しい制約がかかり,応訴管轄についてはかかっていないという法制になっているのですが,それがよかったのかどうか非常に怪しいなと、最近,考え始めています。   それはともかくとして,やはり,応訴管轄ならいいという発想はおかしいのではないかと思います。 ○山本(弘)委員 既に議論が出てきていることですけれども,結局,決め手になるのはインフォームド・コンセントがあることをやはり確保しなければいけないんだけれども,そのためにどれぐらいコストがかかって,また,立法するについてもどのぐらいコストがかかるかということであって,かつ,それに見合うだけの本当にベネフィットがあるのかというのが,ちょっと得心がいかないところではあります。 ○早川委員 事務局の御提案がどれであるかということなのですが,3ページの⑥で扶養義務に関する事件が挙げてありますけれども,これは合意管轄を認めるべき類型には一応入れないというのが御提案ですね。 ○内野幹事 ⑥については,合意管轄を認めることに消極的に考えています。 ○早川委員 分かりました。その点について,一応インフォメーションとしてだけ申し上げると,2007年のハーグ扶養条約では,子に対する扶養以外については,承認のときに合意管轄を認めるという前提で作られています。日本が同条約に入るかどうか分かりませんし,また,条約に入ったとしてもそのような合意管轄を認めないという留保もできるので,だからその意味ではそれほど重要な参考資料ではないかもしれませんけれども,一応,子供の場合と,それ以外の場合の扶養とを分けて,それ以外のものについては合意管轄を認めるという選択肢はあるかもしれません。 ○高田部会長 今,早川委員のおっしゃった子供というのは,未成年子と理解していいですか。 ○早川委員 子供というのは,未成年者です。 ○山本(克)委員 今の早川委員の御発言に関連してなのですが,扶養が,扶養契約に基づく場合,その契約上の義務の履行としての扶養請求の場合には,民事訴訟事項として広く合意管轄が認められているわけです。それとの対比で,形成的な裁判を求めるときには,合意管轄が認められないということがちょっとバランスが悪いかなという気が,ちょっとしてきました。 ○高田部会長 ほかに御指摘は,ございますでしょうか。   確認になりますが,途中で御意見をいただきましたけれども,応訴管轄一般については否定的な御見解ということで,よろしゅうございますね。   もし,他に御意見なければ,ここで一旦休憩に入りたいと思います。           (休     憩) ○高田部会長 では,時間になりましたので,再開させていただきます。   続いて,併合管轄の議論に入ります。資料の説明をお願いいたします。 ○近江関係官 それでは,次に,部会資料には併合請求,併合申立てと書きましたが,併合管轄について御議論いただければと思います。   併合管轄においては,客観的併合の場合と主観的併合の場合とを区別して議論する必要があると思われます。また,人事訴訟事件につきましては,附帯処分等に特有の議論が存在すると思われますので,これについても区別しながら議論していただければと思います。   そこで,まずは客観的併合についてですが,本文の①から③までは,それぞれ人事訴訟事件,家事審判事件,家事調停事件について,財産権上の訴えと同様の規律を提案するものです。   部会資料の「なお」以下は,附帯処分等の所で御議論いただくことかと思われますが,本文④,⑤のような附帯処分等の規定を設けるべきではないというふうに御判断いただいた場合,附帯処分等に該当する事件について,なお本文①の一般的な規定によって併合管轄を肯定し得るのかどうかという問題を提示しています。   客観的併合において特に問題となりますのは,我が国で附帯処分等として扱われている事件についての扱いかと思われます。本文の⑤については,附帯処分等に該当する事件について,離婚の訴え又は婚姻取消しの訴えと併せて申し立てられる場合について,離婚の訴え又は婚姻の取消しの訴えと附帯処分等との間に密接な関連性があることを要件として,附帯処分等に該当する事件についても我が国の管轄権を肯定することを提案するものです。   ただ,一口に附帯処分等とは言いましても,我が国のような法制,つまり離婚等の際には親権者の指定が必要的とされ,附帯処分は必要的とまではされていないことを考慮すれば,親権者の指定についての裁判と附帯処分とを,二つの種類のものとして区別して議論していただく必要があるのではないかと思います。   そこで,まずは親権者の指定についての裁判についての説明からさせていただきたいと思います。   この点に関しまして,部会においては,離婚の訴え又は婚姻の取消しの訴えと親権者の指定についての裁判との間で併合管轄は認めるべきではないとの御意見,離婚の訴え又は婚姻の取消しの訴えについて管轄権が認められる場合については,親権者の指定についての裁判についても管轄権を認めるべきである,つまり併合管轄を肯定すべきであるとの御意見,それから,準拠法上,離婚の訴え又は婚姻の取消しの訴えと親権者の指定についての裁判とを同時にすべきものとされている場合については併合管轄を認めるべきであるとの御意見,このような3種類の御意見が出されたものと認識しております。   なお,2番目に述べました見解と少し似てはおりますが,これと全く逆の発想に立ちまして,親権者の指定についての裁判について管轄権があるときには,離婚の訴え又は婚姻取消しの訴えについての管轄権を認めるべきであるというような御意見も当初出されていたところですが,部会での議論の中で,最終的には離婚の訴え又は婚姻の取消しの訴えと親権者の指定についての裁判との併合管轄を認めないとの御見解に収れんされたのではないかと認識をしております。   ところで,これら三つの見解についてはそれぞれ批判もあり得るところです。   まず,婚姻の訴え又は婚姻の取消しの訴えと子の親権者の指定についての裁判との間で併合管轄を認めないという見解に対しましては,我が国の民法のように,準拠法上,離婚等の際には子の親権者の指定をすることが必要的であるとされている場合についてはどのように対処するのか,対処に困るのではないかという批判があり得るところです。   他方,併合管轄を認める見解に対しては,我が国の民法は,離婚等と子の親権者の指定とを同時にしなければならないものとしていますが,そのような法制を採用していない国も存在するという批判もあり得るところです。   もっとも,併合管轄を認める見解からは,少なくとも我が国においては,離婚等と親権者の指定とを同時にすべきであるという理念が,準拠法以前の問題として存在するという反論ですとか,我が国の民法を初めとして,両者を同時にすべきものとする実体法が準拠法となる可能性があるのであり,そうである以上は,そのような場合に対応できるような管轄規定を置いておく必要があるといった反論があり得るところかと思われます。   そして,両者の見解の折衷のような見解である,準拠法が離婚等と子の親権者の指定とを一体のものとして扱っている場合には,どちらも裁判ができることにすればよいという見解に対しましても,本来,準拠法は管轄が決まった後に決まるべき問題であり,管轄の有無の判断において準拠法を参照することが許されるのかとの批判があるところです。   ただ,前回の部会での御議論の内容からしますと,この最後の御見解は,むしろ離婚等と不可分とされている子の親権者の指定につきましては,そもそも子の親権者の指定について,独立の裁判の申立てが観念できないのであるから,離婚の訴えとは別個に子の親権者の指定についての裁判管轄を考える必要はない,つまり,離婚の訴えのみの管轄を肯定し,離婚準拠法を参照した際に,離婚と子の親権者の指定とが不可分であれば,両方の判断をすることができるのだという御意見であったようにも思われます。   そして,仮にそうであったとすれば,管轄を決定する際に準拠法を参照することはできないはずであるという立場からの御批判は当たらないことになると思われます。しかし,他方,裁判をする以上は,その前提として裁判権の存在というのはやはり必要なのではないか,したがって,子の親権者の指定の裁判について管轄権を観念しないことはそもそもできないのではないかという観点からの批判はあり得るところです。   離婚の訴え又は婚姻の取消しの訴えと子の親権者の指定の裁判との併合管轄については,以上のような点を踏まえて御議論いただければと思います。   次に,いわゆる附帯処分に当たる事件との併合管轄についてです。事件の類型ごとに説明をしていきます。   まず,財産分与事件についてです。前提として,財産分与事件自体の管轄原因についての議論を振り返りたいと思います。財産分与事件の法的性質につきましては,清算的要素のほか,扶養的要素,慰謝料的要素が含まれ得るとされていますが,部会におきましては,まず清算的要素を主たる観点として御議論いただきました。その議論の中では,財産分与は確かに清算的要素が中心的なものではあるものの,三つの要素を有していますので,これらの各要素ごとに管轄原因として考慮すべき事項は異なるのではないかという御指摘も頂いたところです。   他方で,やはり我が国の民法上の財産分与につきましては,これら三つの要素をそれぞれ明瞭に分解することはできないという見解が一般的なのではないかと思われます。また,各要素ごとに分解して管轄原因を分けて規律を設けることは,その当てはめがまちまちになり過ぎ,かえって管轄に関して無用の混乱を生じさせるのではないかとも思われるところです。   そこで,仮に財産分与事件として一つにまとめた管轄に係る規定を置くとしますと,その場合,財産分与事件の管轄原因については,財産分与は離婚の効果であるとして,離婚の訴えを含む離婚に関する訴えの国際裁判管轄の管轄原因とすべきという見解と,これとは異なり,財産分与は財産権上の訴えに準じるものとして管轄原因を規定すべきであるという見解があり得るところかと思われます。   このような財産分与事件についての管轄原因の議論を前提にいたしまして併合管轄について考えますと,財産分与事件の管轄原因を離婚に関する訴えの管轄原因とそろえるという御見解によりますと,併合管轄によって管轄権を肯定する実益はないことになります。他方,財産分与事件について,財産権上の訴えに準じるものとして管轄原因を規定する場合におきましては,併合管轄を検討する必要が出てくるものと思います。   財産分与事件の国際裁判管轄の管轄原因を財産権上の訴えに準じて考える見解においては,併合管轄を認めるべきかについて両論あるところではあると思いますが,先ほど申し上げましたとおり,少なくとも財産分与の中心的な要素といいますのは,清算的要素ではないかと考えられるところから,財産分与というのは正しく婚姻関係の清算であるとして,離婚の訴えと密接な関係にあるとして,たとえ財産分与について財産権上の訴えに準じるものと考えるとしても,なお併合管轄を認める方がよいのではないかとも思われるところです。   また,部会におきましては,海外では離婚給付の主要な要素が離婚後扶養である場合が多く,必ずしも清算的要素を中心に考えることができないのではないかという御指摘も頂いたところです。ただ,そのような離婚後扶養の性質の強い申立てにつきましては,単位事件類型への当てはめの仕方として,むしろ扶養関係事件に該当するとして扱うというような方法で対処をすることもできるのではないだろうかとも考えられるところです。   子の監護に関する処分の審判事件,例えば面会交流が典型例かと思われますが,これにつきましては,子の利益を重視すべきであり,併合管轄を認めるべきではないという反対意見と,人事訴訟法上,同時一体的解決が強要されていることから,併合管轄を認めるべきであるという賛成意見の両方があったところです。なお,部会資料の本文では,併合管轄を認めるといたしましても,密接関連性を条件とすることを提案しておりますが,この点に関しましては,部会資料に記載いたしましたとおり,例えば,離婚原因に着目して密接関連性を考えるということもできるかと思われますが,この点についてどのようにお考えになるかということも御議論いただければと思います。   次に,年金分割事件についてですが,年金分割事件について併合管轄を認めるか否かというのは,年金分割事件の国際裁判管轄を専属管轄と考えるか否かに係ることになると思われます。厚生労働省の担当の方に実情を確認いたしましたところ,外国裁判を提出されて,年金記録の書替えを求められた事例は把握されていないということでした。部会におきましては,公的な登録に関するものに準じるとして,我が国の専属管轄として扱うべきではないかという御意見を頂いたところです。そして,このような見解に従いまして,年金分割事件を我が国の専属管轄とすべきであるという結論に至るのであれば,当然,併合管轄は認めるべきではないという結論に至ることになると思われます。   以上,それぞれの類型がありますが,この類型を踏まえて,附帯処分に当たる事件について,併合管轄に関する御議論を頂ければと思います。   本文の④は,関連損害賠償請求につきまして,密接関連性を要件とせずに併合管轄を認める規律を提案するものです。もっとも,部会におきましては,関連損害賠償請求については,民事訴訟法の国際裁判管轄ルールによるべきではないかという指摘もされたところであります。   これらの点を踏まえまして,附帯処分等あるいは関連損害賠償請求に関する併合管轄の御議論を頂ければと思います。 ○高田部会長 では,便宜,客観的併合についてと申しますか,本文①から③までについて,主観的併合に当たるただし書の部分は後回しにして,御意見を伺えればと思います。いずれも財産権上の国際裁判管轄に関する規律と同様に考えられるのではないかという御提案ですが,いかがでしょうか。 ○内野幹事 便宜上,併合管轄を御議論いただくために,客観的併合の事例の具体例としては,人事訴訟事件同士の併合では,例えば同一配偶者間の離婚の訴えと婚姻無効の訴えにおいて併合管轄を認めるか否か,というものが考えられます。 ○高田部会長 いかがでしょうか。本文の①については,国際裁判管轄ではこれでは広過ぎるという御意見があれば,承ることになろうかと思います。本文の②については,国内の管轄規定では書き切っておりますが,一般的規定を設けざるを得ないとすれば,こういう形になるのではないかという御提案かと存じます。 ○山本(弘)委員 例えば先ほど言われた婚姻取消しの訴えと離婚の訴えを併合提起するときに,その際に要求される密接関連性というのはどういうことなんだろうかというのがよく分からないのです。婚姻関係の解消である限り,当然に密接関連性の要件は満たすと考えないと,これは別訴禁止との関係で,少なくとも日本法が準拠法になる限りは,まずい問題が出てくるような気もしますが,どうでしょう。ちょっとそこが気になったものですから。 ○山本(克)委員 手続は法廷地法によるという原則を採ると,別訴禁止はあらゆるものに掛かりそうな気もするんですが,これはよく分からないですね。別訴禁止の規定を手続法と見るかどうか自体が争いがありそうですが,一般的には当然法廷地法の適用があるということから出発して,合理的な反論が成り立たなければ,やはり手続法と見ることになるのではないでしょうか。 ○内野幹事 もしこの同一配偶者間の離婚の訴えと婚姻無効の訴えという例が不適切であれば,いわゆる客観的併合と言われているものとしての適切な例がございますれば,それを御提供いただいた上で,客観的併合と言われる場合のその要件の在り方として何がいいかということを御議論いただければと思います。 ○高田部会長 山本弘委員は,恐らく,密接関連性の要件との関係で,婚姻取消しの訴えと離婚の訴えという例をカバーできなければ,カバーできる併合管轄の規定を設けなければ不十分ではないかという御指摘かと思いますが。 ○山本(弘)委員 ですから,解消されるべき婚姻関係が一つである以上は密接関連性があるという解釈が可能ならば,それは問題ないと思うんです。 ○内野幹事 一応,当てはめの問題ではございますけれども,そうではないかなと考えています。 ○山本(弘)委員 ただ,そこでそういう解釈を採ると,今度は子の監護などの所でも,親権者の指定などでも,離婚と同時に申し立てられている限りは当然に密接関連性があるというふうに言ってしまうと,どちらかというと私はそれには反対なのです。 ○内野幹事 それは,部会資料でいくと本文⑤の議論に若干言及されておられるのでしょうか。 ○山本(弘)委員 そうです。同じ言葉が使われているわけですよね。 ○高田部会長 いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 同一の身分関係に係る場合以外に密接関連性のある場合というのは,人訴上の訴え相互間でどういう場合に肯定されるんでしょうか。 ○内野幹事 例えば,離婚の訴えと養親である配偶者の親に対する離縁の訴えや,二人の子,このとき双子は想定していませんが,その同一父に対する認知の訴えというようなものが抽象的には考えられるのではないかと思います。身分関係としては複数の身分関係が観念できるので,人事訴訟法だと5条の規律ということに恐らくなるんだと思うのですが,これらが考えられるのではないでしょうか。 ○山本(克)委員 後の方の二人の子の同一父に対する認知の訴えがなぜ密接関連性があるのか,私は容易には理解できないんですが。 ○内野幹事 これが密接関連性を充たすのかどうかということ自体も議論になり得るところだとは思いますけれども,そうすると,振り返って見れば,密接関連性という民事訴訟法を参考にした規律が,人事訴訟において適切なのかどうなのかという所に跳ね返ってくるようにも思っております。 ○山本(克)委員 離婚の訴えと養親である配偶者の親に対する離縁の訴えも,なぜ密接関連性があるのか,私もこれももう一つ理解できないですけれども。 ○内野幹事 そうすると,逆に客観的併合を認めるための要件は,人事訴訟では,どういう要件立てがいいのでしょうか。 ○山本(克)委員 同一の身分関係に関するという要件はどうでしょうか。 ○内野幹事 同一の身分関係に関するものに限るということですね。 ○山本(克)委員 それ以外は,二つの請求の両方に国際管轄がある場合に限って国内法の国内管轄の併合ができるというふうに,国内より国際の方を狭くしておいて,たまたま国際管轄で両方そろった場合には併合できるというふうにするのが一つの考え方だと思います。 ○高田部会長 今の御見解は,併合管轄を否定されるということですね。 ○山本(克)委員 そうです。併合管轄は同一身分関係に係る,例えば婚姻無効と婚姻取消しと離婚というような場合に限るんだという考え方です。 ○高田部会長 併合管轄は先ほど否定されていたわけではないのですね。 ○山本(克)委員 いや,否定していないです。同一身分関係に関する訴えという限りでは認めていいと思います。 ○高田部会長 では,その限りならば併合管轄を認めてもいいということですね。 ○山本(克)委員 その限度で密接なという要件を充たすと思います。それより広く広げる必要があるんでしょうか。 ○高田部会長 同一法律関係の場合には,一つの請求について管轄があれば,構わないということですね。 ○山本(克)委員 はい。ただ,事務局の提案されている管轄原因が今までの仕切りだと,離婚と婚姻取消し,婚姻無効で全く一緒なので管轄原因が変わらないのですが,前から言っていますように,離婚と婚姻取消し,婚姻無効を分けるべきだというのが私の前提ですので,その場合には併合管轄を認める意味があることになります。 ○山本(和)委員 先ほどのいわゆる婿養子を一方で離婚して,他方で離縁するという例なども,離婚の原因,離縁の原因という事実上の原因は同じような原因である場合はありますよね,そういう場合は一体でやってもいいような気はするのですが,駄目でしょうか。 ○山本(克)委員 ただし書の方の問題ですね。 ○大谷幹事 私も国際裁判管轄で一つの単位事件類型,例えば管轄原因がAという単位事件類型にはあってBという単位事件類型にはないときに,密接関連だからといって,Bにも管轄が生じるというのは,やはりちょっと納得ができないんです。理由は,国内の併合管轄を考えているときは,それはやはり密接に関連しているから一緒に扱おうというような,割とそういう発想だと思うのですけれども,国際裁判管轄の場合,特に一つずつ単位事件類型ごとに,どこの地で管轄があるかで準拠法まで関わってくる話として考えているのに,密接関連をどこまで厳しく考えるかによるかもしれないのですけれども,いきなりそれで本来管轄がないものに管轄が生じてしまうという所がやはりいささか乱暴な気がしまして,それぞれの管轄原因がある場合についてのみ管轄が在るべきで,それをその後,国内で例えばAもある,Bもあるとなったときに,それをいわゆる審理を併合するかどうかというレベルでは,それは併合するとかしないとか出てくると思うんですけれども,併合管轄は認めるべきではないのではないかなという気がしてきました。 ○高田部会長 念のためですが,財産事件と異なる扱いをするということの理由はどのような点にあるのでしょうか。 ○山本(克)委員 それは財産的法律関係については,国際的に不統一な法律関係の発生についてそれほど考えなくてもいいんですが,身分関係についてはそれが問題になり,かつ,日本の特に主観的併合の管轄は非常に広いと言われていますから,その関係からジャスティファイできると考えます。民事訴訟よりも絞る意味があるんだと言えるのではないでしょうか。 ○高田部会長 そのためにも同一身分関係という限定を前提にせざるを得ないという御指摘ですが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 それすら認めないという考え方もあります。もう一切認めないという考え方もあると思います。 ○西谷幹事 私も一般的な形で併合管轄を認めることについては,否定的に考えております。財産関係事件であれば,技術的な性格をもつものですので,一回的に紛争を処理するために,客観的併合によって管轄を広げてもよいと思うのですけれども,人事及び家事事件の場合には,それぞれの事件類型ごとに様々な利害関係を考えて,細かく管轄ルールを立てているにもかかわらず,それを取り払う形で,密接関連性があるというだけで,本来なかった所に管轄が発生してしまいます。この点は,当初の検討段階から疑問に思っておりました。 ○和波幹事 確かに,密接関連性という要件だけで本来管轄がないものについても管轄を認めてよいのかという議論があるというのは,今お聞きして理解したところではあるのですが,一方で,民事訴訟法とは異なって,家事については,密接関連性が一応あると裁判所が判断した場合でも,併合審理することが一切できないということでよいのかどうかというのは慎重に考える必要があり,直ちに規定を設けなくてよいという所までは踏み込めないという気がしております。   また,少なくとも,本文の提案でいきますと,⑤の部分,これは前にも申し上げたところでございますが,離婚と子の監護の問題については,これは一般的に密接関連性があるというような価値判断もできるところではないかと思っておりまして,それについては,仮に一般的な密接関連性の要件で規定を設けないとしても,別途考慮する必要があるのではないかとは思っております。その場合には,今申し上げたように,少なくとも日本の法制というものを前提としますと,一般的な密接関連性があるという価値判断が裏にあるとも考えられますので,それに加えて密接関連性という要件を付加する必要があるかどうかというのは,慎重に考える必要があるとは思っております。 ○高田部会長 ⑤はよろしければちょっと後回しにさせていただいて,併合管轄を認める必要はないのではないかという御意見も出てきていますが,いかがでしょうか。 ○池田委員 私も別に併合を認めなければいけないとは思わないんですけれども,その場合に,たとえ当事者が一緒に解決したいと思っても,否定すべきだと皆さんは考えるということをここで確認しておきたいと思います。 ○大谷幹事 否定すべきだという考え方です。 ○畑委員 定見はないのですが,先ほどの話で,実質は財産事件だから合意のようなものを考慮することがあってもいいのではないかと言われているような事件については,もう少し柔軟に考える余地はあるかなという気はしております。 ○高田部会長 ②,③ですね。①は併合管轄を認めなくてもよいということですね。今,議論が②,③に移りましたが,②,③についてはいかがでしょう。②の審判事件については,畑委員の言葉を使わせていただくと,財産事件等の性格を有する事件ではあり得るのではないかという御指摘を受けたようにも思いますが,審判事件についての併合管轄はいかがでしょうか。 ○内野幹事 ちなみに,今,畑委員の御意見について,具体的なイメージがあればということなのですけれども,財産事件の性格を有するもの同士ならば併合を認めていいという趣旨なのか,身分的な事件に,財産的性格を有する事件を併合してもいいという趣旨であるのか,どちらをどちらに併合するのか,双方向的にいろいろ組み合わさるものですから,どのようなイメージでおっしゃっているところなんでしょうか。 ○畑委員 先ほどの発言は,本体の性質は特に問わずに,併合管轄でくっ付いていく方が財産事件としての性格を有していればいいのではないかということです。 ○高田部会長 財産事件が付いていく場合ということですね。 ○山本(弘)委員 両親が同時に事故で死んでしまったという場合の遺産分割なんていうのは,考えられなくもないという気がするんですが。 ○高田部会長 両親の死亡時の住所地が違う場合ですか。 ○山本(克)委員 ある被相続人が死亡後,その相続人の一人がまた死亡して相続が開始したという場合の二つの相続に関連する事件を併合するというのは,あり得るのかなという気がします。 ○高田部会長 ①については併合管轄に限定的な御意見を伺いましたけれども,今,②も限定的な立場からの例外的な取扱いという発想で御発言を頂いていますが,②,家事審判についてはいわゆる併合管轄に当たるものをもう少し広く認めるべきであろうという御見解の方は,いらっしゃるのでしょうか。   いらっしゃらないとすると,くくり方は難しいですが,併合される方が,併合管轄によって管轄が肯定される事件の方が財産事件の場合にどうかというのが現在のくくりですが,他により適切なくくりがあればご発言をお願いしたいと思います。 ○山本(克)委員 ②の家事審判の手続が同種であるというときの同種性というのは,必ずしも明確ではないと認識しているんですが。家事審判同士で同種でないというのは,別表1の事件と別表2の事件だけなんでしょうか。 ○内野幹事 家事事件手続法,日本法に移しますと,そういうことです。 ○山本(克)委員 それは国際的なコンテクストでも使えるんですか。 ○内野幹事 そこも御議論だと思います。今のところは全体として併合管轄はよくないのではないかという御意見が強いように感じますが,いかがでしょうか。 ○高田部会長 特にないようでしたら,先に進ませていただきます。いわゆる附帯処分等でございますが,日本法が準拠法になる場合が取り分け問題となるわけですけれども,親権者の指定についての部分についてはいかがでしょうか。もう既に御議論を頂いておりますが,併合管轄という観点から全体を見通したときに新たな御意見があるかということで,改めてお聞きします。 ○大谷幹事 和波幹事がおっしゃったように,確かに親の離婚と子供の親権者指定が密接に関係するということ自体を否定するつもりはないんです。それはやはり離婚ということがあるので,親権者の指定をする必要があるというのが一般的な物事の流れですので。ただ,多分前々回ぐらいに申し上げた意見なのですけれども,今日もう一回整理して申し上げようと思いましたのは,日本は確かに実質法,実体法で,離婚と親権者指定を同時にしなくてはいけないとなっています。それが子の利益にかなうと,親が離婚するときに子の親権を指定しないということが,抽象的・一般的に子の利益・福祉の観点から好ましくないという考え方を採っている法制だと思います。ただ,それは,繰り返し申し上げるんですが,やはり単独親権の考え方と私は密接に関連していると思っていまして,そのことを我が国が実体法として採っているのはいいのですけれども,その考え方を国際裁判管轄の規律として採用するかどうかというのは,私はやはりもう一度考えても,別問題だと思っています。   それで,私はやはりここは子の利益の福祉の観点から,子の親権者指定の管轄原因を子の住所地とするという以上は,離婚の場合にもその管轄原因はそれを貫くべきだと思っています。つまりは,附帯処分等だからといって,附帯処分等を引っ張ってきて管轄を認めることはしないという考え方です。子の住所が日本にあればもちろん構いません。私のような考えに対しては,子の住所が日本にないときにどのように対処するのかが問題になるという意見がいつも出るんですけれども,これも繰り返しですが,日本がどうしても離婚の際に子の親権者指定がされてない離婚は認めないという考えを貫くのであれば,子の住所がある外国で離婚後の親権者指定ができるまで,日本の裁判所における離婚判決を出さないという形の解決をするしかないのではないか,そういう考え方による解決の方が好ましいのではないかと思います。 ○村上幹事 今の大谷幹事の意見に賛成なんですけれども,ちょっと素朴な疑問でお聞きしたいのですが,部会資料の6ページに書かれている,もし併合を認めないという立場に立った場合に,親権者の指定ができないから,離婚の訴えは実務上本当に棄却されてしまったり却下されてししまったりするものなのですか。大谷幹事がおっしゃったように,それはちょっと待って,外国で親権者が決まってから離婚判決を出すということができるのであれば,そうした方がいいと思うのですけれども,今の実務として,もう棄却ないし却下してしまうことになっているのかどうかがちょっと気になったんですけれども。 ○内野幹事 いきなりで申し訳ありませんが,実務として何か御紹介いただける点があるのかどうかというところなので,裁判所の委員の方,どうですか。 ○森委員 実務でご紹介できるような事案はないでしょう。 ○和波幹事 今はむしろ離婚と親権者の指定の両方が判断できることを前提に処理をしていますので,できないという場面は多分想定していないと思います。 ○村上幹事 それは管轄があるということが前提なんですか。それは併合管轄があるとしているということなのでしょうか。 ○和波幹事 その点解釈問題ですが,どのような解釈をとるかにかかわらず,当然にできるという前提で実務は動いていると思います。 ○村上幹事 併合ができるということですか。 ○和波幹事 それを併合と考えるかどうかは別途検討すべき問題になると思います。 ○久保野幹事 今の併合というか,離婚と附帯処分等は当然一緒にすべき,裁判として分離できない性質のものなのかとか,いろいろ難しい問題があるようにも思っていますが,今のお話の方向ですと,離婚の裁判管轄のある所で附帯処分等の裁判をすることを認めるのをむしろ出発点と考えつつ,その限定を考えていくという方向に傾いているように思いまして,しかも密接な関連があるときというのも,やや広い方向が志向されているように感じますので,基本的に大谷幹事の結論に賛成ということで,微妙にニュアンスが違う所があるかもしれませんけれども,ちょっと意見させていただきたいと思います。   問題は,婚姻と親権を手続上も密接関連であると基本的に見ているということが,結局実体法上の婚姻と親権を密接に関連させて規律されている民法819条2項に由来するということでして,民事実体法について立法論的なことを言うつもりはありませんが,ただ,ほかの国でどうなっているのかというふうなことも考えたときに,そこにどれほど重点を置くかという所に疑問があるものですから,その点についてちょっと意見させていただきます。   言いたいことは,離婚後に単独親権になぜなるかということは,今申したとおり,日本で婚姻している父母にはともに親権を与えるけれども,婚姻していない父母には片方というふうになっていることに典型的に表れているように,婚姻と親権とを一体として捉える,非常に密接に捉える枠組みがあるので,婚姻が解消されれば,その婚姻家族が分割してしまうのだから,どちらかにしましょうということも帰結されるということではないかと思います。しかし,今日でも民法の条文は変わってないのでというところはありますけれども,むしろ見方としましては,そういう見方というよりは,夫婦の解消ということになると,子供の利益にどうしても影響はしてくるので,そのようなときに子供の利益のために親権の所在などを規律していくべきだというような見方の方,ちょっと言い方は難しいんですが,そういう見方に傾きつつあるのではないかという気がします。   仮にそのように考えることができるとすると,離婚のときに親権者を指定するというのは,離婚で婚姻家族が別れてしまう,分割されるから,分割のときにその帰属先を決めるというよりも,先ほど大谷幹事から出た所と同じなんですが,結論として,離婚に向けて夫婦関係が動揺し,子の利益に影響が及んでいくということが見込まれる状況の下で,遅くとも離婚までには子の利益の確保のために手当をしておきなさいという趣旨と解する余地もあるように思います。つまり,先ほど出たように,親権のことについて決着が付いていなければ,離婚ができなくても仕方がないという方に立つということは考えられないのかということです。日本の民法の条文上の限界はありそうですが,裁判例で民法766条を類推適用して別居中の夫婦の監護の問題について解決が迫られるような状況にはなっていて,一定程度,類推適用がされているというのも,そういう理解を助けるように思います。   そのような実体法の見方をしますと,国際裁判管轄の問題について,離婚の裁判が認められる国で,子供のことが決められないから離婚ができないのは不適当と言うべきなのか,むしろ,本当は子供のことが決められないはずの国の裁判所で離婚ができてしまうということが不適当なのかというのについて,もう少し慎重に考えてみてもよいのではないかと思います。   それで,名古屋地裁の平成11年11月24日の判決を見たりもしたのですが,部会での審議の中で,子供の住所地国で子供の親権について判決をまず受けて,その後,日本で離婚の訴えをしたら,日本では離婚が認められなくて宙ぶらりんになってしまうというのは,落ち着きが悪いという御趣旨の御発言があったように思うのですけれども,今言ったような見方からしますと,むしろ離婚係争中の夫婦の状態を想像したときに,子供との関係で円満な生活環境が確保できているということは余り多くないというふうに思われまして,そうだとすると,何らかの形で子供の親権について法的判断が先行するということは,それほど憂慮すべきことなのかということにちょっと疑問を持ちます。先ほど挙げた名古屋地裁の判決が,子供の福祉の観点からむしろ望ましいのではないかというようなこともチラッと言っているところのようです。   それで,子供の住所地国の原則を貫こうというときに懸念されていることとして,子供の住所地国で親権者の指定などの裁判が受けられないときに離婚ができなくなってしまうのではないかというお話があるかと思いますけれども,この懸念についてもどの程度当たるのかということにやや疑問を持っています。といいますのは,まず,離婚後に共同親権が保たれることを原則としている国の場合には,離婚のときに親権に関する判断をするという発想がないのではないかといったような議論をしているような気もするんですけれども,例えばフランスですとかイギリスですとかドイツで,父母が共同親権を離婚にかかわらず保つのだから法的には介入しませんと考えられているかというと,むしろ現実に婚姻関係が破綻して,別居して,離婚していくという父母の状況に応じて,何らかの法的判断を行えるという仕組みが整っていて,だからこそ共同親権という無理がありそうなこともできているという構造ではないかと思います。   なお,台湾法の場合,離婚後,単独親権制度ということなんですが,離婚に先立って別居がある程度以上続くと,離婚のときの親権者指定の規定が準用される扱いになっているということです。日本法が準拠法になったときはこのような扱いはちょっと無理があるかもしれませんが,やはり民法766条を類推適用して,一定程度,裁判所がそのような需要に応えられないかという気もいたします。   これらの外国で今私が申し上げたような法的介入があり得るとしても,それはもちろん日本において裁判離婚時に親権者を指定するというものと全く同じものではなく,ずれが生じるとは思うのですけれども,そのずれが対処不可能であるとか,許容できないほど不適切な結果をもたらすとかいうほど大きなものなのだろうかということはちょっとなお考えてみたいという気がするわけです。   それで,子の住所地国の原則を貫くべしというお考えの国際私法の学説の中で,ただし,裁判離婚の法廷地での親権者指定の裁判の否定が,かえって子の福祉に反するような例外的な場合には,管轄を肯定できるような柔軟性を残しておくべきだというようなお話もありまして,そういうことで対処できる部分もあるのだろうということを考えますと,出発点として,子の親権者の指定の管轄が離婚に引っ張られるという考え方を出発点とするよりも,親権者について決まってないうちは離婚をできないということを出発点に考えることでいかがかという意見です。 ○道垣内委員 今,何人かの方から,外国に子供の住所があれば,外国での子の親権者の指定の裁判を待って離婚の裁判をすれば良いというお話がありました。しかし,それはなかなかうまくいきそうにないように思います。うまくいくこともあるかもしれませんけれども,うまくいかない可能性が相当にあるように思います。そのため,私は,前にも申し上げたかもしれませんけれども,離婚管轄があれば,子の親権者の裁判はやっていいのではないかと考えています。今はそのように思っております。   そうしますと,この⑤の下から3行目について,更にこれに加えて密接な関連があるときという要件を課す必要はないのではないかと思うのです。ただ,現在の提案では,子がどの子のことか分からないので,離婚あるいは婚姻無効の当事者の子であることが分かるように書いていただければ,それで十分だと思います。子の住所地が日本でない場合には、事案によっては,子の状態がよく分からないために,非常に裁判が困難だということがあるかもしれません。そういう場合には,特別事情による却下という制度が恐らくは設けられると思いますので,それで対処すれば良いと思います。今の久保野幹事のお話は,救う方を考えたらいいのではないかというお話でしたけれども,私は逆に,そのような場合は,特別の事情による却下で外せばいいといいますか,裁判しないことを例外的に認めるのでいいのではないかと思っています。 ○山本(弘)委員 以前見た資料では,親責任及び子の保護措置に関する管轄権等に関する条約やブリュッセル規則が果たしてどこまで国際相場を反映しているものなのかどうかというのは,議論の余地はある所だと思うのですが,いずれもやはり子の住所地国が子の身上監護,財産の保護措置を取る管轄権を有するというふうになっていますが,例外的に,子の住所地国でなくても,離婚について管轄権を有する国が,子の監護についても処分をすることが子の最善の利益にかなうときは,管轄を認めるというルールになっているようなのですね。前者が10条ですし,後者のブリュッセル規則が12条です。そこで大谷幹事にお伺いしたいんですけれども,先ほどの御意見は,子の住所地国以外の国で子の監護の決定をすることが子の最善の利益にかなうようなケースというのは考えられない,だから,例外なく子の住所地国でやるべきだという,そういう趣旨の御意見だったんでしょうか。 ○大谷幹事 かなり厳しい限定が付いていたのではないかという記憶なのですが。 ○山本(弘)委員 なぜそれが必要なのかというのはよく分からないんですが,親責任及び子の保護措置に関する管轄権等に関する条約は両方の親の合意を条件としているようです。一応それは置いておいて,子の住所地国以外の国が子の監護の処分について管轄権を行使しなければならないような例外的な事情というのは,条文でそういうことを書き起こす必要があるような事件というのは,想定できないという御趣旨でしょうか。 ○大谷幹事 そこまで言っているつもりはないのですけれども,ただ,一般的には,そのような事情があるときは緊急管轄の考え方で,本来管轄のある国が本来管轄権を行使するまでの暫定的な子の保護は,それは子の身柄がある国ができるというのが一般的な考え方であると思います。96年条約やブリュッセル規則が国際的な相場かということについては,国際的にと言ったときにアフリカの国とかアジアの国のことを考えているのか疑問はあるという気がしますけれども,ヨーロッパ全部,それから96年条約は既にEUが入って,あと,アメリカも入ることに向けて今動いていますし,オーストラリアとかも入っていますから,日本と関連のある国においては相場になっていると思います。   それから,道垣内委員が先ほどおっしゃったことについてですが,子供の所在地国で親権者指定をするまで離婚を認めないというような扱いがうまくいくのかとおっしゃったんですが,そもそも渉外家事事件,渉外離婚事件では,どうしても管轄の争いの判定が難しかったり,あるいは非常に事件が複雑化することが多くて,国内事件でも離婚事件は相場観でいうと1年が平均審理期間で,これに渉外要素が加わると1年半,2年というのが通常です。さらに管轄の争いが入ってくるケースでは,2年ぐらいかかるというのは割と普通のことです。それぐらいかかるのが比較的普通というのが情報提供の一つです。   それから,それでは困るということであれば,離婚の管轄原因をほかの国では比較的広く認めていますので,子供がいるということは大体どちらかの親がいるということですから,子供の親権者指定がされた国で離婚をしても問題ないわけです。離婚する場合に子の親権者の指定を待っていればよいというのは,そこまでして子供がいない側の親が日本で離婚したいということであれば,待つしかないのではないかということを申し上げたかっただけで,実務的にはそれは子の所在地国の方で離婚もすべきという解決というのは,十分あり得ると思っています。 ○森委員 実務の紹介も大分出ているようなので,少しだけ話をさせていただくと,まず,長期化の原因になるものは裁判官としては減らしたいと思います。それから,今の議論に限っていうと,道垣内委員の考え方に私はむしろ魅かれるのです。   それから,もう少し遡りますけれども,どのようなものに密接関連性を認めるかという所なのですが,親と子,家族というものを考えた場合に,先ほど内野幹事が御説明された密接関連性を検討すべき例として出された類型も,私はいずれも関連性のある例だと思っています。例えば連れ子が養子となっている場合でその親が離婚するときがそうですけれども,夫婦が壊れると親子も壊れる場合に,これを一緒にやらないで良いのかというのは,御議論をお聞きして素朴に思っていたところです。山本克己委員が併合管轄を認める場合について,一つの身分関係の場合に限定すべきで,それがむしろ原則だとおっしゃるけれども,家族法を考えるときに,親と子を分離して一つずつの身分関係であると厳格に考えるのかなと素朴に思います。   親と子の関係についてのいろいろな考え方については,先ほども議論がありました。もちろんいろいろな議論があることは存じており,共同親権が良いのかどうかというのは実際の現場でも争われています。しかし,私は今の現状の民法に従って動いている裁判官ですので,現在,そのような民法があるというところで,それを前提に,今,管轄も考えています。今日の御議論の最後のあたりで出てきた御意見を聞いていると,実体法を超えたというか,実体法を変えていく発想で管轄の議論をされているような気がしたのです。良いか悪いかは別にして,やはり今の民法は,婚姻中は共同親権,別れたら単独親権ということでできています。それをベースに日本の国際裁判管轄法を考えるということが,今議論すべき範囲だと私は考えていますので,子供の親権の管轄があったら,離婚の管轄も認めるという考えは,私の実体法の理解からすると,逆転してしまうという感じがしています。 ○山本(和)委員 私も以前準拠法上親権者の指定も同時に定めなければいけないというときは,当然に併合を認めるべきではないかという意見を述べたと思います。先ほどの御説明の中では,最初の管轄の段階で準拠法まで判断して決めるということは難しいのではないかという御指摘がありましたが,もしそういうことであるとすれば,私としては,先ほど道垣内委員が言われたようなことにやはりならざるを得ないかなと思っています。先ほど来出ている,子供の住所地で親権者を決めるのを待って離婚の判決をするという御意見は,結局,外国が一種の停止条件付きの裁判をしてくれるということが前提になっていて,そうしてくれる所もあるだろうとは思うんですけれども,ただ,日本の裁判所がそういうことをするかというと,やはりなかなかそれは非常に難しいんだろうという感じがします。そうだとすれば,そういうことを常に前提として日本として安定した管轄法制を作るということは難しいのかなと思いますので,離婚の方に親権者の指定の管轄を合わせざるを得ないと思います。ただ,それがもし不当な裁判だということなのであれば,子の住所地で親権者の変更等を後にしてもらうということにならざるを得ないし,それで実質的には足りるのかなという感じがしますので,基本的には合わすべきだと考えます。   それで,密接関連性を要件として求めるかどうかということなのですけれども,当然に親権者の指定が併合されていれば常に密接関連性が認められるということにするのだとすれば,密接関連性の要件に一体何の意味があるのか疑問です。それは後の附帯処分の方では,やはり密接関連性というのは実質的な審理内容が関連しているということを意味しているように書かれているのに,子の親権者の指定の方では,もう親権者の指定というのは当然に密接関連性があるという形になっていて,ここまで言うのであれば,子の親権者については密接関連性というのは求めないで,当然に併合を認めるということでもいいのかなと思いました。 ○村上幹事 今の密接関連性についてなのですが,私は山本委員や道垣内委員と違って,併合は認めない方がいいという立場からの意見ですけれども,仮にそれが難しいとして,一定の要件の下で認める必要があるとする場合,その付加的要件については,密接関連性という要件はちょっと不適切なのかなと考えています。その理由は,部会資料の9ページの上で挙げられている例として,子に対する虐待等が要因となってという所なんですけれども,それをもって密接関連性とするのであれば,そういう主張を取りあえずすれば,それで併合管轄が認められてしまうということになって,それはやはりちょっとよろしくないのかなと思います。もう少し別の要件,例えば子の住所地国では速やかに子の親権者指定ができないとか,そういった子の福祉に反するような事情がある場合という要件の方が適切かと思います。 ○山本(弘)委員 今,村上幹事がおっしゃったのとほぼ同じことを考えていまして,この密接関連性の要件というのは,後の子の監護権者の指定の所で出てくるように,要するに裁判資料を流用できるという所に意味がある概念なのですが,先ほど私が申し上げたように,子の利益とか子の福祉という角度とはちょっとずれる要件なんだろうと思うのです。今,村上幹事がおっしゃったように,外国では速やかに子の監護権者の指定の裁判が得られないというようなことが子の利益に反するから,例外的に日本で管轄権を認めるのだという発想になってくるので,この密接関連性の要件を,親権者の指定と,それからその前に既に離婚の所でも使われていますが,それから監護権者の指定あるいは財産分与を同じ概念を使って規律することが果たして適切なのかなというのがちょっと気になっている所です。 ○山本(克)委員 離婚の訴え等に併せ,親権者の指定についての裁判をする場合,単独親権主義に伴う親権者指定の親権者指定事件というのを併合しているというふうに観念するのですか。それ自体が私には疑問です。そもそも併合だと考えること自体が間違っているのではないかという気がします。道垣内委員のように,親権者指定は全部密接関連性があるので,当然に,密接関連性などという要件を立てずに,親権者指定はできるのだとすると,準拠法が共同親権主義をとっている場合にも,親権者指定は当然できてしかるべきだということになってしまうのではないでしょうか。管轄があるので,その国で当然,併合して審理をして,子の親権についての準拠法の要件を満たしたら,親権者を変えていいということですよね。それはちょっと広過ぎるのではないのかと思います。だから,申立てがあって初めて判断しなければいけない場合は併合だという気がしますけれども,先ほど述べた場合の子の親権者の指定についての裁判は申立てがなくても当然判断すべきなんです。そのようなものを併合と呼ぶべきなのかどうか自体が私は分からないのです。前に議論したときも,準拠法の問題,実体法の問題ではないのかということを申し上げたと思うのですけれども,やはり私はまだ併合であるということに納得できないのですけれども,いかがでしょうか。 ○高田部会長 先ほど事務局の説明の中で山本克己委員のお考えについて質問が出されようにと思うのですけれども,その場合,管轄規定なくして権限行使はできるということになるのでしょうか。 ○山本(克)委員 離婚事件の管轄があれば,その離婚の準拠法によって,親権者の指定の裁判をすることが命じられているんだと考えないとしようがないのではないでしょうか。 ○大谷幹事 ちょっと場合を分けますが,最初に,国内の考え方として,やはり離婚と子の親権者の指定は私は事件として別だという理解で今までやっています。それは普通は離婚訴訟において,請求の趣旨の中でもちろん親権者指定というのは求めるのですが,仮に抜けていたとしたら,職権でその部分を扱うことになります。しかし,そうだとしても,やはり観念的には別物である,ただ,それを併合という言葉を使うかと言われると,それは附帯請求なので,附帯請求という言葉と併合という言葉の違いかもしれませんけれども,附帯請求として普通は申し立てていますし,申立てがなければ,職権で事件として取り込んでくるという理解でやっています。でも,それは国内の話です。   今,国際裁判管轄の議論をしているので,やはり単位事件類型としては,それは諸外国では明らかに別事件です。完全に申し立て事件として別で,ただ,事件番号が二つ別に付いてわざわざ併合されているかと言われると,そうではなくて,日本と多分同じような扱いで,附帯という言葉をやはり外国でも使いますので,その言葉使いが今,併合という話と附帯という話とで少し混乱してきているような気がしているのですけれども,やはりそこは単位事件類型としても別だし,管轄としては別だと思います。そこはやはり日本が離婚のときに単独親権を決めなくてはいけないとなっていることに引きずられた議論をするのは,私は適切ではないのでないかなと思っています。   それと,親権者指定,いわゆる監護事件一般について,子の福祉の利益の観点から,子の住所地国に管轄を置くべきということを一般的に考えながら,離婚のときには離婚の管轄国が子の親権者指定をすることがよいのだという,そこは子の利益の観点から説明がされないと納得ができないのですけれども,最終的に皆さんがおっしゃっている離婚の管轄国が子の親権者指定の管轄も持つという結論にもしなるとすれば,子供がいなくても,子の住所地国でないのに離婚を扱う管轄国が扱うということが,子の利益の観点からもう少し説得的に説明されなければ,足りないのではないかなという気がしてなりません。   それから,一旦そこで決めてしまっても,不都合があれば,子の住所地国で変更すればいいではないかということについては,やはりそれは,日本でもそうですけれども,指定という場面と変更という場面では,その実体的要件が普通変わってきますし,アメリカは今96年条約に入る予定で,UCCJEAというアメリカの国内の管轄法を改正する動きがありますけれども,少なくとも現時点においては,一旦,親権者指定をした管轄地が専属的・継続的にずっと管轄を持ち続けますので,基本的には後でほかの国が変更できないという考え方を採っていて,そういうこともあって,後で子の住所地国で変更すればいいという考え方には,私はちょっと賛成できないです。 ○道垣内委員 併合事件かどうかという手続的なことは余り関心がなくて,親が離婚する,あるいは婚姻無効だと言って争っているときに,子供のこれからをどういうふうに世話をするかという問題がそこにあるわけです。そのような状況において,子供の住所地管轄で判断すべきですという手続的な理由で日本での裁判をしないで終わってしまうのは,それはよくないだろうと思って申し上げています。裁判所としては,できる限りの司法共助を必要があれば使えばよいし,それでもできなければ仕方ないですけれども,基本的には管轄を認めてあげれいいのではないかというだけのことでございます。もちろん,それが準拠法上できなれば,また別ですけれども。 ○山本(克)委員 大谷幹事のおっしゃった点で,私はいわゆる附帯処分で申立てが必要なものは併合だという前提ですので,子の監護について併合でないなどということは言っていません。親権者指定は民法に規定があって,離婚裁判所がすべき判決内容を定めているので,これは民法の問題だという前提でお話ししているということです。いわゆる附帯処分の場合は,離婚裁判所に離婚判決に伴ってそういうことをしろとは,どこにも命じてないわけですから,それは申立てがあって初めて判断対象になるので,申立てがあれば一緒に審理されるわけですが,これは正に併合の問題です。子の親権者の指定についての裁判と附帯処分とが混乱しているわけではないということは,申し上げておきたいと思います。 ○久保野幹事 正に附帯ではなくて一体だということについて,ちょっと疑問なんですけれども,外国では別々にやる所も多く,だから離婚に備えて親権者を指定する事件とかというのが結局ある国もあるわけで,そのようなものが日本で提起されたときに,国際家事事件としては別の事件として扱わざるを得ないのではないかという御指摘が先ほどあったのかなと思っております。 ○山本(克)委員 私は別だと言っているつもりです。だから,裁判所が当然にやらなければいけない場合は併合でないと言っているので,当然には判断しなくていい事項について申立てによって判断されているときは,併合だと言っているつもりです。 ○高田部会長 その場合は,別段の管轄規定なくして判断できるという御理解ですよね。 ○山本(克)委員 離婚等の事件の中身なのだから,離婚等の事件の管轄規定がその判断の可否について規律しており,離婚等の事件の管轄があれば当然できるという理解です。 ○高田部会長 そうですね。 ○山本(克)委員 はい。だから,実体法が離婚の判決をする,あるいは婚姻取消しの判決をする際に,親権者指定をしなければいけないと命じているということは,これは離婚事件の中身であって,親権指定事件ではないというのが私の理解ですので,外国法で親権指定事件の申立てが必要であって,それが当然にはできない,職権ではできない裁判とされているのであれば,それは当然,併合だという理解です。 ○高田部会長 離婚事件というくくりですね。したがって,道垣内委員のおっしゃる特段の事情の適用の余地もないということになるわけですね。そこで差が出てくると思うのですが。 ○内野幹事 ちなみに,申立てがあった場合の規律はどのようなものが適切だというお考えでしょうか。 ○高田部会長 今のご質問は,日本法が準拠法ではないという前提ですね。 ○山本(克)委員 それは今まで大谷幹事がおっしゃっているのに賛成です。 ○高田部会長 分かりました。 ○久保野幹事 二つありまして,一つは,ちょっと先ほど実体法について踏み込んだ発言をしましたけれども,私自身は婚姻と親権の結び付きについてどう考えるかというのは極めて難しい問題と思っておりまして,それほど方向性も含めて明確な方向を示したつもりはございません。ただ,そうだとしてもというようなことをお話ししたつもりで,方向性として,今議論になっております密接な関連があるときというのが基本的には認められるといった方向には疑問があって,狭めて考えるべきだということを申し上げたいということです。   もう一つは質問でして,先ほどの道垣内委員のお話の中にあった点かと思いますけれども,子が別の国にいて,それでも子の親権者の指定は日本でやるというときに,人事訴訟法32条4項の子の意見聴取とか,あるいは子供の状況についての調査ですとか,そのようなものがどのようにされるのかということについて,もう少し具体的なイメージというか,教えていただけると有り難いなと思います。 ○大谷幹事 私も先ほど道垣内委員の発言を聞いて,ちょっと発言しようと思っていたんですが,少なくとも自分が今まで経験した限りでは,この調査のために司法共助が使われたことはないです。ですので,そういう場合でも司法共助でできるではないかということは,ちょっと現実の実務とは異なるかなと思っています。   それから,外国に子供がいる場合で,両親が日本で離婚したいと言っているときに,先ほど道垣内委員が離婚について争っているときにとおっしゃっていたかと思うんですけれども,離婚を争うというのは,日本では完全な破綻主義ではないので,まだ有責主義というか,離婚原因の所でかなり離婚するかしないかが争いになることが結構あります。ただ,それは日本の裁判のイメージとしてはそうなのですけれども,破綻主義を採用している国というのがかなり多い中で,そこの国に管轄があるという場合,一定期間の別居又は破綻さえあれば離婚は認められるので,特に国際結婚の場合その傾向が強いんですが,離婚そのものが争いになるということは,余りないです。ですので,これは何回もいろいろな所で発言しているんですけれども,特に渉外的な離婚では,離婚後の子供の監護や親権や面会交流がどうなるかということや財産の処理が争点なので,そういうこともあって,私は離婚の方に子供の親権の管轄を引き付けるということが,やはり方向性として逆方向に行っているような気がいたします。   それから,これも前々回ぐらいに申し上げたんですが,諸外国の法制では,むしろ,これは共同親権が前提になっているとは思いますが,身上監護を定めるときにはその非監護親の方の面会交流を必ずセット決めなくてはいけないという法制が見られ,若しくは養育費も必ず決めなくてはいけないという所もあります。日本はそこはなくて,離婚と親権者指定だけを必ずセットにしなくてはいけないと言っているわけです。私は,本当に婚姻家族の解消のときに,それは親と子という形の家族の解消における子の利益というのを,離婚時にきちんと決めなくてはいけないということを日本として言うのであれば,これはもう実体法の議論になりますので,この部会の議論を超えていると思いますけれども,親権者の指定とともに面会交流や養育費のことまで全部決めるということがあって初めて本当に子の利益にかなうと思っていまして,そういう法制でない日本において,離婚事件の管轄に引き付けてくるということには大変疑問を感じています。   例えば今のような考え方を採ったときに,子の住所地国である外国で親権者の指定がされるまでの間,日本の裁判所が離婚の訴えを棄却するのか,却下するのかといいますと,私のイメージでは,待っていてほしいということなんですね。期日をどうするかは別として,多分,森委員から反対の御指摘があるのではないかと思いますけれども,しかし,外国でもそうですが,やはり外国での裁判の進み具合を見ながら日本で処理するとか,二箇所で裁判が掛かっていると,全体的に最後にきちんとした形になるように,お互い見ながら進めていくということはやはりあって,日本はEUのように裁判官同士が調整するとかいうやり方はしませんけれども,でも,離婚と子の親権者指定というのがどうしても切り離せないという考え方を採るのであれば,そういうやり方を追求していくということの方が理にかなっていると思います。 ○池田委員 私自身は,外国の裁判を待ってということについては,やはり非常に問題があるとは思います。実務的には一方を待たないとできないというのは困ります。特に,私の最近の印象では,日本の方が迅速に裁判ができるということがありまして,外国で延々と時間を掛けてやっているような事件もあることなども考えると,外国での事件が終わるまで待つという仕組みについてはやや疑問を感じています。   あとは,先ほどは大谷幹事のおっしゃった場合は,両国の裁判所が協調的にやっているという例の御紹介がありましたが,場合によっては,一方当事者に対し,外国の裁判は全部やめろ、やめないとコンテンプト・オブ・コートだというようなことを言ってくる裁判所も外国には存在しますので,そういったことも含めて,大谷幹事のおっしゃったような,外国裁判所の判断を待つとか,そういった仕組みについてはいろいろな問題があるかなと思います。   それともう一つは,ハーグの関係ではいろいろなことを迅速にする仕組みがちょっとはあるんですけれども,それ以外では司法共助の実例は確かに全然なくて,多分非常に時間も掛かるということもあるのだろうと思いますが,それは問題だと思っています。ただ,司法共助について,全く昔どおりで全然できないという点については,むしろもっとその辺に改善の余地があるのではないかと思いますので,それは希望としてはそういったことができるようにすべきではないかと思います。 ○山本(克)委員 先ほど森委員がおっしゃったことなんですが,すごく先進的な実体法解釈を前提にして,無限ループが断ち切れるかという問題だと思います。つまり,日本では子の親権者指定がなければ,離婚できないとなっており,向こうでは,離婚が親権者指定の要件となっているので,離婚ができなければ親権者指定もできないということで,お互いに見合いするという,一種の無限ループ状態にあります。私も決して今の建前がいいとは思っていませんけれども,先進的な民法の解釈によるのであればそれが解消できるかもしれないということを前提に立法するのはおかしいので,そのような議論はやはり民法典を変えてからやるべきです。   日本法では民法の条文がありますから,そうなっていますというぐらいにしてあげないと,先進的な裁判例が下級審でありますと言ったところで,それは本当に日本法なのですかというふうに言われかねないわけです。やはり民法改正を伴わない限りは,おっしゃるようなことは実現できないと思います。単独親権主義はもうやめた方がいいと個人的には思っていますけれども,しかし,民法がそうである以上は,それを前提とせざるを得ないのではないでしょうか。 ○和波幹事 若干繰り返しになる所も多いと思いますけれども,やはり裁判所としては現在の民法を前提にしなければいけないというのは,今,山本克己委員もおっしゃったとおりでございますし,外国で本当に離婚の前に親権者指定の判断をしてくれるということが保証されているのかどうかというのは,やはり日本の裁判所としては気になる所かと思っております。   それから,子供の調査ということに関しては,従前,秋吉委員からも少しお話があったと思うのですが,国内事案であっても子の調査が難しい場面というのは多々あるわけでございまして,外国にいるから難しい,日本にいるから簡単だというような問題ではないだろうと思っております。実務でも,外国にいる子から陳述書を送ってもらったりとか,そういったことによって意見を聴いている場面というのが実際にあります。司法共助がほとんどないという御指摘もありましたが,これは本当に必要ということであれば,むしろ司法共助をきちんと使って,子供の意見を聴くということを努力すべきだろうと思っておりまして,それが難しいから,管轄を認めるべきでないというのは,ちょっと議論としてはいかがかと思っております。 ○道垣内委員 司法共助の点は,今,和波幹事がおっしゃったとおり,必要なければしなくていいわけですが,子のことですから,親権者指定ほど日本国として慎重に判断しなければいけないことはないと思います。外国の裁判所が判断するのと日本の裁判所が判断するのとで,それほど判断が違うことがあるのでしょうか。それで,日本の裁判所としては,日本から見て適当でない側を親権者に指定されると,それは公序違反というべきです。したがって,内外の裁判所の判断がぶれることはほぼないのではないでしょうか。そうであれば裁判してあげればいいではないかと思います。要するに,ずっと私が申し上げているように,実体が大切なので,手続的なことで,みすみす門前払いをするのはよくないということです。それだけでございます。 ○久保野幹事 実体法を変えるのが先だろうというお話がありまして,課題を頂いているような感じがいたします。実体法の改正を見据えて管轄を考えるという考え方がおかしいというのは御指摘のとおりだと思うんですけれども,実際的な感覚として心配しておりますことは,何かの事情で外国で先に子の親権者の指定についての裁判がされていて,今度,日本で離婚となったときに,今,例えば一つの事件で一緒にできるというふうなことになったときに,その外国の判決はどうやって扱われるんだろうかという所を1点ちょっと確認したいというのが一つです。それと関連して,そもそも子の親権者の指定についての裁判が,当該離婚を規律する実体法上離婚事件の内容であるという考え方でやりますと,子の親権者の指定についての裁判については子の住所地国で判断することが手続的にはより望ましいかもしれないという価値判断が全く入らないのではないでしょうか。これはそれこそ価値判断が入っていますが,実体法的な状況等を考えると,できれば子の住所地国で判断してもらいたいという考えがありまして,子の住所地国でやらずに,離婚のできる日本で一緒にできますよというのが余り前面に出るのはなというのが,ちょっとあります。 ○大谷幹事 日本でやるのと外国,子の住所地国でやるのとでそれほど違いがあるのかという御質問については,ものすごく違うと思います。むしろそこがあるから意見を主張しています。日本で例えばその夫婦がイギリス人同士だったりドイツ人同士だったりすれば,それは共同親権法が適用になってということになりますけれども,多くの場合,通則法32条でいくと日本法が準拠法になることが多くて,そうすると単独親権になってしまって,それはその親にとってはものすごい大きな意味をなします。親権を失うということ,それに伴って連れ子養子のときの同意権もないし,子供の氏の変更とか,様々なことに非常に影響してきます。それが外国であれば,その子供の住所地国では共同親権制であれば,そこは必ずというか,ほとんどかなりの確率で少なくとも法的な親権は失わないし,先ほど申し上げたように,面会交流は必ず指定されるといったような,そこは日本とは大きく違います。そこを,ちょっと先ほどの議論に戻りますが,そこに証拠もあるからということで,本来,子の監護に関する事件は子の住所地国でその国の法制でやるべきだという考え方を,ここでそれほど簡単に崩せるというのが,私にはやはりまだ納得ができていないです。   それから,外国でいわば停止条件の付いた親権者の指定についての裁判をしてくれるだろうということを見据えて議論するのはいかがなものかという指摘がありましたが,それは確かにおっしゃるとおりだと思います。ですので,私が言いたかったことは,そこに不安があるのであれば,繰り返しになりますが,離婚したい当事者は離婚を子の住所地国でするという選択が普通は可能なので,必ず私も日本の裁判所で離婚をしなければいけないというのが在るべき姿だと言っているつもりはないです。それから,むしろ司法共助をこれからよく使っていくべきだ,それによって解決すべきだというのも,そういう制度があることはあるのでそれはそうだと思いますけれども,そこはやはり現実を考えると,本当にそれで上手く行くのだろうかと疑問があります。少なくとも,今まで子の意見を聴取するといっても,陳述書など子の書いたものがちょっと出てくるとか,あるいはその子を監護している親の書いた書面のようなものが出てくるだけということが多いです。現実に国内でも調査が難しい事件があるということはそのとおりですが,一応,管轄,つまり司法権が及んでいる中での現実の難しさの話と,管轄を超えて,司法共助を使わないと本来的な調査はできないという制約が掛かる話とはやはり別で,それでも子の住所地国という原則をここで変えて,離婚の管轄地がやるべきだということが本当に言えるのかというのは,やはり今でも疑問です。 ○高田部会長 実質的な御議論は頂いたと思いますが,それをどう管轄規定に結びつけるかということになろうかと思います。確認ですが,山本克己委員のお立場ですと,日本法が準拠法になる場合についての親権者の指定の管轄規定は要らないというご理解ですね。 ○山本(克)委員 特別の管轄規定は要らないという理解です。 ○高田部会長 離婚事件として単位事件類型の決定をするということですね。 ○山本(克)委員 はい。 ○高田部会長 しかし,日本法が準拠法にならない場合がありますから,親権者の指定の管轄規定は別途必要な場合が生じますので,それに対する備えはなお必要だという理解でよろしいわけですね。 ○山本(克)委員 検討が必要ではありますが,そこは別に一緒にしなければならないとは私は余り思わないということです。 ○高田部会長 そうしますと,日本法が準拠法になる場合についての管轄規定は,山本克己委員の立場からすると,離婚と共にされる子の親権者の指定についての裁判については,子の親権者の指定についての裁判に係る管轄規定の適用外だということになります。ただ,山本克己委員のお立場も一つの立場でありまして,違う立場もあり得るかもしれません。   その上で,なお管轄規定が必要だとしますと,離婚の訴えについて管轄が認められる場合に,親権者の指定についても管轄が認められるという御意見が一方にあり,その御意見の下では,特別の事情で却下する場合もあり得るということに加え,特別の事情については後で出てきますとおり特別の事情の判断に際して子の福祉についてどのように取り扱うかという点にも関わりますが,別途,子の福祉に関する制限事由を設けるべきではないかという御意見が,村上幹事ほかからいただいたように思います。この点,離婚とともにする場合を認めるにしても,子の福祉等で制限すべきルールを付加すべきではないかという御意見があり得るところで,そのような意見を実際にいただいたわけですが,その辺りについてなお御意見があれば伺いたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○西谷幹事 私も日本の現行法の制度を前提としますと,離婚事件について日本に管轄があれば,原則として,親権者指定も合わせて行うと整理してよいと考えております。ただし,両親が親権の帰属を争っているところ,子が外国にいるために,日本では全く子の生活状況を調査できないなど,日本の裁判所で親権者を決めることが子の福祉に反するような場合には,特別の事情を援用することで,親権者指定の部分は審理せず,却下することが可能であろうと思います。   他方で,事件によっては,両親が親権者指定について争っておらず,合意で父母のどちらを単独親権者とするかを決めている場合もあろうと思います。そのような場合には,各国の親権法においても,特殊事情がないかぎり,両親の合意を尊重して親権者を指定するのが一般的です。このような場合には,子が一方の親とともに外国に居住しているときでも,むしろ日本の裁判所が離婚事件を審理する際に,合わせて親権者を指定しておいたほうが,親権者が早く確定して子の生活が安定し,望ましいように思います。仮に子の住所地の裁判所が親権者を指定したとしても,通常は,同じ結論になるでしょう。この点も考慮いたしますと,日本に離婚事件の国際裁判管轄が存する場合には,親権者指定についても,原則として,日本で一緒に審理する扱いでよいのではないかと思います。 ○山本(和)委員 今,西谷幹事の御意見は,親権者の指定の部分だけを特別の事情で却下するという御意見でしたでしょうか。離婚だけは判断するのですか。 ○西谷幹事 通則法32条が定める親子間の法律関係の準拠法が,必ず離婚時に親権者指定をするものと定めているのであれば,一緒にやることになると思います。 ○山本(和)委員 そうすると,離婚自体が却下されることになりますね。 ○西谷幹事 そうですね。そうなると,離婚の方も合わせて却下することにならざるを得ないですね。 ○山本(和)委員 そういうことであれば,私も西谷幹事の御意見に賛成です。 ○高田部会長 離婚の方も却下するという御意見ですね。御意見が分かれそうですが,いかがでしょうか。   もう1点,大谷幹事を初め,併合管轄は認めるべきで,親権者の指定は子の住所地によるべきだという御意見に,子の住所地に加えて,例えば離婚裁判所,離婚訴訟が継続している国という管轄原因を一定の要件の下に認める余地があるのではないかという御意見があり,それについては,それを加える理由についてより積極的な基礎付けが必要だという大谷幹事の御発言がある状況ですが,子の親権者の指定ないしは監護という事件類型の管轄原因に,離婚事件が係属している場合には,子の住所地に子の福祉にかなうといった特別の理由を加えた上で,離婚事件の裁判所を加えるという立法技術もあり得るような気がいたします。久保野幹事がおっしゃった見解だと思いますが,そうした立法技術もアイデアとして御指摘を受けたような印象もございますが,そうしたアプローチについて何か御意見があればお願いします。 ○大谷幹事 私は将来的には,やはり日本は80年条約へ入ったので,それと一体的に運用すべきだと言われている96年条約にも入るべきと思っていますので,96年条約が認めている範囲で離婚の管轄のある所に認めるということは,それに整合する形であれば,私としてはそこは受け入れるというか,賛成です。 ○高田部会長 特別の事情で却下すべき場合の特別の事情の内容と、限定した管轄原因が一致するのであれば,両者の提案は同じことを裏表から言っていることになるのかもしれません。   ほかに親権者指定について御意見ございますか。   では,関連しますので,いわゆる附帯処分について,子の監護と財産分与は性質が違うのかもしれませんが,密接関連性があるときは併合管轄を認めるというのが事務局の提案でございますが,この点については御意見を伺えればと思います。 ○山本(弘)委員 財産分与について密接関連性というのは,どういうことを想定しておられるのかというのがもう一つよく分からないんです。それこそ離婚原因が例えば暴力とか何かということで,それが慰謝料的な性質を持つ財産分与ならば,密接関連ということは考えられるかなとは思うんですけれども,そういう場合を想定しておられるという理解でよろしいですか。 ○内野幹事 基本的にはそういう理解,事案によるという理解です。 ○山本(弘)委員 そうすると,そういうファクターがない事件,暴力とかそういう不法行為性のない離婚の場合には,この密接関連性という要件ではむしろちょっと狭過ぎるのではないかというような気もしなくもないですね。 ○内野幹事 そういう御意見,つまり事案の内容ではなく,事案の性質の問題として併合管轄を認めるべきだということになれば,場合によっては密接関連性などという要件は,もうこの際附帯処分の部分では要求しないということも一つの選択としてはあり得るかなと思っております。 ○山本(弘)委員 子供の問題とは違って,財産分与は余りそういうことを厳密に言わなくてもいいのではないかなと思います。基本的には夫婦当事者間の問題ですので。 ○山本(克)委員 事案の性質上,常に密接関連性があるということでいいのではないかなという気がします。 ○近江関係官 今の御意見は,財産分与自体の管轄原因を離婚とそろえるという御意見なのでしょうか,それともそうではなく,併合管轄を認めるという御意見なのか,いずれなのでしょうか。つまり,財産分与というのは離婚の効果だと考えるのであれば,財産分与事件自体の管轄原因を離婚とそろえて,併合管轄によって管轄を認める必要性はないと理解をするのか,それとも,財産分与自体については財産事件だというふうに区分をした上で,なお離婚との密接関連性が常にあるということで,併合管轄を認めるという御意見なのでしょうか。 ○山本(克)委員 どっちでしょうね。余り考えていなかったんですが,どちらでもいいとは思いますが,後者の方も有力な選択肢ではないでしょうか。 ○内野幹事 今の御指摘は,個別の管轄原因がずれていれば併合管轄で採ればいいし,管轄原因が同じであれば別に併合管轄を具体的に議論しなくてもいいだろうと,こういうふうに伺いました。 ○道垣内委員 離婚の管轄がどうなるかにもよりますけれども,私はこれは財産事件だと思うので,子供の事件とは違って,別に実体を重視して広く管轄を認めてあげて,一緒に裁判をしなければいけない理由もないと思います。これについてだけはきちんと被告の手続的な利益を守ってあげてくださいということもあり得るのではないかと思います。 ○内野幹事 そうすると,財産分与については,一旦,併合管轄を認めておいて,不都合な事案があれば特別な事情で却下しろという発想にはならないわけですね。 ○道垣内委員 多分,私は子供の事件とは違う感じがします。 ○和波幹事 我々としては山本克己委員とほとんど同じということになるのですが,実態として,やはり離婚と財産分与はかなり一体化して考えている当事者の方は多く,それを一体として解決してほしいというニーズもかなり高いのではないかと考えております。そういったものが日本の実際の手続法の中でも表れているということを考えますと,国際裁判管轄の理解としても,もし管轄原因が異なるのであれば,これは一般的に併合できるという考えを採るか,あるいは一体のものとして,場合によっては全く同じ管轄原因であれば,単位事件類型として分けないという考え方もあり得る所だとは思っております。 ○池田委員 ただ,財産分与は離婚と時期を別にしてもできますから,一応,独立の管轄原因を取っておく必要はありますよね。 ○和波幹事 単位事件類型が分かれるのであれば,もちろんそういう形になると思います。 ○山本(克)委員 道垣内委員は、余り一体性がない,日本法においては,離婚後の扶養というものは財産分与の中へ入ってないと言われますけれども,実質的にはそれは少なくとも一方当事者にとっての離婚後の生活の糧になるものが,そこから出てくるということがあり得るということがやはり日本の今の法制の前提であって,関係ないとは言えないのではないかなという気がするんですけれども。 ○道垣内委員 もちろん関係なくはないのですけれども,極端に言えば,慰謝料請求が主たる請求であるような場合に,離婚に至った原因かもしれませんけれども,そうでないかもしれないので,それは別に考えてもいいのではないかなと思うのです。 ○山本(克)委員 私も本当は三つ一緒で,という議論は嫌いなので,財産分与は夫婦財産制の清算に限るべきだと思っていますけれども,今,日本の一般的な考え方は一緒なので,しようがないなと思っています。 ○森委員 ちょっと実務の感覚を申し上げさせていただきます。財産分与が全ての離婚に伴って申し立てられるわけではありませんが,財産分与の申立てがされ,財産分与に相当時間がかかって,離婚の本体の裁判ができないというときに,裁判所は,財産分与だけ後でやりませんか,子と離婚のことを先にやりませんかという話をすることがあるのですが,私の経験では,代理人がある程度納得しても,財産分与だけ取り下げて,離婚や親権だけを判断したという例は,ほんの数件しかありません。ここで私が言おうとしていることは,離婚しようとする方は,清算,扶養,それから慰謝料という三つの要素のうち,特に清算と扶養は,結構離婚とくっ付けていると思うのです。清算や扶養と離婚とは,それほど簡単に離して截然とやれている感覚ではないというのが,その当事者の方を見て,私の感じているところです。私は,個人としては,「あなたが本当に今,早く離婚して子の親権を取りたいのだったら,財産分与は確定後にもできるから,一旦手放しなさいよ」と勧めることはあるんですけれども,当事者は簡単には放しませんね。だから,財産分与については,財産的要素はすごく強いけれども,遺産分割とは全然違うという所があります。遺産分割は亡くなった方との関わりで,あとは仲間同士,仲間ではなくなっているんですけれども,その中での取り合いのようなものですが,でも,財産分与はその夫婦の経緯があって,それを切ろうというときに,財産分与は別だという,そういう極めてドライな形で割り切れるのでしょうか。日本の当事者だけではなくて外国でもそうだろうと思うので,経験の豊富な弁護士の先生方に聞いてみたいのですが,正に我々が今,立法を語るときの事実として,当事者のメンタリティーがどうなのか,私は日本の当事者を見ていてそのような割り切りはできていないと感じるし,日本で会ったロシアの方,中国の方,それから,フィリピンの方,いずれも財産分与と離婚を切り離すという考えを受け入れてもらうのはすごく難しいように感じています。この点についてはいかがでしょうか。 ○大谷幹事 夫婦財産制の話と財産分与の話は非常にそこが難しくて,先ほど御説明の中で財産事件と見る所から出発するのかどうかというお話があったんですけれども,一般的な感覚としてですけれども,諸外国でも財産分与の話を財産事件とは見ていないです。むしろ財産分与はそれこそ離婚と一体で考えていて,例えばプレナップなんかでも,夫婦財産契約について契約するといって,その中で実は離婚のときのいろいろなことも決めるんですけれども,そこはシームレスにつながっているような所があって,財産の清算の話と扶養的な要素と離婚とは切り離せないところがあると思います。   ただ,日本は慰謝料を認めて,そこだけはちょっと諸外国と違って特殊な所で,慰謝料は不法行為ですから,本当はそこを一緒にするのは私はおかしいのではないかなとは思っているんですけれども,ただ,そこだけを切り離して,では何か規定を作れと言うかというと,そもそも離婚慰謝料を認めている国が非常に少なくて,唯一とは言わないですけれども,日本が私が知る限り実務上はもうほぼ唯一みたいな国なので,そこは一緒にして管轄規定を置いても別にいいかなと思います。実体法で認めるか認めないかの議論に行ってしまえばいいかなという気はしています。   ですので,私は離婚と財産分与はむしろ,国内でもそうですし,逆に諸外国の法制では,日本で子の親権と離婚とを切り離さないのと同様に,財産分与が済まないと離婚を認めない,財産分与と離婚をセットに絶対にしなくてはいけないという所が割と多かったりしますので,私は今の整理で,一緒でいいのではないかということに賛成です。 ○高田部会長 ありがとうございました。   では,続きまして,④の関連損害賠償請求についてはいかがでしょうか。 ○大谷幹事 ここが今発言した所で,本当は私はこれは不法行為なので,本来は別だと思っているんです。ただ,ではこれを別にしたところで,国内案件でも一応,財産分与に三つの要素があって,慰謝料請求という項目で立てることもできるけれども,財産分与の中に慰謝料的財産分与として入れ込むことができるので,そうすると,管轄を分けたところで,その不法行為としての管轄はなくても,財産分与の方に入れ込んで請求できてしまうので,少し変だなと実は思っているんですけれども,実務的なことも考えますと,わざわざ併合管轄を認めないとする必要はないのかなと思います。離婚慰謝料のことを念頭に置いて話していますが,④だと,それは国内でそもそも併合ができる場合というのは,そこで密接関連がもう掛かっているからという御理解ですよね。 ○高田部会長 原因が一致している場合の規定ですね。 ○大谷幹事 そうですよね。原因の一致している場合ですね。それならばそこはそれでいいのかなと思います。結論的には賛成でいいです。 ○高田部会長 規定がわざわざ要らないという方向も基礎づけ得る議論のようにも思いますが,④でよろしいということですね。 ○大谷幹事 よろしいという意見です。 ○山本(克)委員 結論は同じなんですけれども,慰謝料を財産分与に入れ込めるかどうかは,離婚の準拠法次第,財産分与は離婚の準拠法次第なので,これがむしろ国内のコンテクストよりも国際のコンテクストでより必要だと私は思いますけれども。 ○池田委員 国際事件ではほとんど使われることがないですよね。外国ではそもそも慰謝料を認めていないので。 ○山本(克)委員 離婚原因で暴力を振るわれたという場合,慰謝料が取れるのではないですか。 ○大谷幹事 暴力とかを個々の不法行為と見て,離婚原因になった個々の不法行為に基づく損害賠償請求と,離婚の原因が専ら相手にあるということで,離婚慰謝料,離婚そのものの慰謝料として請求する場合と二つあって,前者については,ほかの国も一般不法行為法がありますので,それは認められる可能性はあると思います。他方,後者の意味において,離婚慰謝料が認められる国はほとんどないと思います。 ○山本(克)委員 私が申し上げたのは,一般不法行為としての訴えと併合を認めるべきだと言っているので,誤解されていたのではないかなという気がします。 ○池田委員 多分,一般不法行為としての慰謝料が日本法ほど簡単には認められないというか,別訴というものが,多分,非常に困難なのではないかという印象を持っています。日本だったら簡単に慰謝料が払われるようなケースも,ほとんど無理だというふうに外国の弁護士がアドバイスするという経験があります。 ○大谷幹事 それが認められるような場合は,DVでも刑事事件になっていて,要するに,刑事事件の中でそちらの方で附帯的に請求するとかいうことはあるとは思います。 ○山本(克)委員 たしかに,損害賠償命令はありますが,でも,それは日本の刑事裁判権が及んで立件されている場合だけですから,必ずそれが保障されているわけではないですよね。 ○大谷幹事 ただ,外国でも刑事で立件されるような場合ぐらいでないと,ほぼそれを一般不法行為で夫婦間であったこととして民事請求をするというのは,実務としてはほとんど考えられないということです。もちろん,理屈上あるのは分かりますけれども。諸外国の法制や実務がどうなっているかということに関しての情報提供としては,今のとおりです。 ○高田部会長 不法行為地が日本であれば,併合管轄を認めなくても管轄が認められますから,④は,外国で不法行為があった場合に,併合管轄がないと,外国での不法行為事件について,日本で離婚と一緒に訴えられなくなるということに対する手当てだと理解しています。そうしますと,大谷幹事によれば,そんな事例はないだろうということになるようにも思いますが,手当てが不要だという御意見ではないように理解しました。 ○竹下幹事 要するに,ここで決めるのは,恐らく一般不法行為事件としては日本に管轄がないが,離婚の事件の管轄が日本にあるときに,当該暴力事件に基づく損害賠償請求の裁判ついても日本で扱うか扱わないかが議論となっていて,実際に不法行為請求が認容されるかどうかは,恐らく直接には余り関係がないということだと思います。そして,国際裁判管轄の議論として,日本で審理すべきかどうかといえば,私は審理すべきだと思いますので,④の御提案でいいのではないかと思います。 ○高田部会長 では,子の監護についてなお御意見があれば,お伺いしておくべきだろうと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 私は御提案どおりで,例外的にというか,密接関連性がある場合に限って,併合というか,附帯の請求についても管轄を認めていいのではないかなと思っています。 ○池田委員 特に日本で子の住所がないというような場合の離婚の際の面会交流とか,そういったものについて認めることがあっていいのではないかという気はしております。 ○高田部会長 認める場合の限定として密接な関連があるときという限定がよいかという問題だろうと思うのですが,いかがでしょうか。 ○山本(弘)委員 先ほども発言したことですが,やはり密接関連性というものは,本来は裁判資料の流用可能性を考えているものなので,ここで議論すべきなのは,子の福祉にかなうかどうかという形で要件設定を考えるのが適切なのではないかという気がします。 ○高田部会長 先ほどの,親権者指定について,必ず一緒に判断しなければならないとはされていない準拠法が適用された場合について申し上げたことと同じような状況になるかと存じますが。 ○山本(克)委員 私の立場からすると,そこは完全に一緒に扱うべきなのではないかなと考えています。 ○高田部会長 先ほどの整理で,両側からのアプローチ,つまり,併合管轄を認めて特別の事情で却下をするというアプローチと,一定の限定を加えた上で併合管轄を認めるというアプローチがあり得るということではないかと私自身は理解しておりますが,この段階でなお御指摘いただく点があればお願いいたします。 ○久保野幹事 念のためといいますか,そろえるといったときにいろいろな方向がまだありそうな気がするので,私としては,大谷幹事がおっしゃったように、1996年条約が詳細な条件を設けていて,それで両方そろえるということも十分あり得る選択肢ではないかということで,念のため発言させていただきます。 ○高田部会長 子の監護事件について,子の住所地に加えて,離婚事件の管轄裁判所を,一定の限定の下に管轄原因を加えるというアプローチもなお有効ではないかという御指摘を頂いていると理解しております。  よろしいでしょうか。では,続きまして,併合請求,主観的併合の所の説明に移らせていただきます。 ○近江関係官 では,次に主観的併合についてです。   本文の①のただし書は,主観的併合について,国内裁判管轄及び民事訴訟法の国際裁判管轄と同様の規律を提案するものです。主観的併合については,併合管轄により我が国での応訴を余儀なくされる一方の被告の負担を考慮して,慎重な検討が必要であるとの御意見もあったところではありますが,他方,固有必要的共同訴訟となる類型が存在すること等を考えますと,やはり併合管轄の規律というのは必要ではないかと思われるところです。   なお,固有必要的共同訴訟等の場合も含め,主観的併合により管轄を認めた場合に,一方の被告にとって特に不利益である場合については,特別事情による却下の規定を設けるのであれば,特別事情による却下で対応するという方法が考えられるところです。   また,例えば配偶者に対する離婚の訴えと養親である配偶者の親に対する離縁の訴えとを提起する場合などについては,併合管轄を認めるべきか否かには異なる御意見があろうかと思いますので,御議論を頂ければと思います。   なお,これまで,各論的な規律における被告又は相手方が複数である場合を想定した規律と,この総論的な主観的併合の管轄権の規律との関係が問題となったところでありますが,総論において主観的併合の規律を設けるのであれば,各論において被告又は相手方が複数である場合を想定した規律というのは不要となるのではないかと考えています。   提案といたしましては,一つの訴えで二つ以上の請求をする場合の併合管轄という書き方をしていますが,これには,複数の身分関係に関して二つ以上の請求がある場合と,固有必要的共同訴訟に該当するような場合,すなわち一つの身分関係に関して二つ以上の請求がある場合を含むという趣旨です。   主観的併合については以上です。 ○高田部会長 併合管轄を認めるべき場合が限定されておりますので,限られた場合になるかもしれませんが,なお認められる場合において主観的併合が問題となる場合についての手当ての要否についての問題かと存じますが,御意見を賜りたいと思います。 ○山本(克)委員 原告側でもいいのですけれども,原告側の固有必要的共同訴訟は余り考えられないので,被告側に限定して述べますが,被告側の固有必要的共同訴訟のときは必要があると思うんですが,それ以外の場合になぜ併合管轄が必要なのかと疑問に思います。先ほど言った理由から,私は森判事の御感覚には反していますが,やはりそんな日本法の感覚で全てを併合管轄で認めてしまうというのがいいのかどうかというのは,疑問があります。 ○大谷幹事 主観的併合についての意見というか,具体的な例を想定してなのですけれども,離婚事件でよく主観的併合があるのは,それこそ不貞行為なんかで離婚慰謝料を配偶者に請求して,不貞の相手方も被告にするという形での併合が多いのですけれども,今のこの①の御提案だと,離婚の管轄をどう規定するかにも関わるのですが,その場合が広く入ってしまうのではないかと思います。例えばですが,被告の住所地基準でいうと,原告と被告が両方日本にいれば当然ですし,原告が外国にいて被告が日本にいる場合,若しくは日本に原告がいて被告が外国にいるけれども,例外規定で日本に離婚管轄があるという場合に日本に離婚管轄があります。ですので,離婚の慰謝料請求も日本でやるという場合に,不貞の相手方と原告が主張している人が外国にいる場合も,今の書き方だと,同一の事実上及び法律上の原因に基づくということで,管轄が日本に発生するというふうに読んでいいのでしょうかという確認なのですが。具体的な事例としてそういう場合が想定されるので,いかがでしょうか。 ○内野幹事 今の例えば事例そのものでいきますと,不貞の相手に対する損害賠償請求というのは,結局,④の議論になり得るだけということになるのではないかと思います。①は,一つの訴えで人事訴訟に係る数個の請求をする場合となっているので,不貞相手に対する損害賠償請求は人事訴訟に係る請求に当たらず,ここには基本的には入らないという前提で,①は提案しているということになります。 ○池田委員 ④には主観的併合が含まれない感じがしていますけれども。 ○内野幹事 今の提案だとそう読めるかもしれません。 ○高田部会長 そうですね。④についてどう考えるかという問題は残っていますね。 ○道垣内委員 ④についてはそもそも私は疑問ですけれども,今の例のものも入るのだとしたら,ちょっとそれはひどいのではないですか。 ○内野幹事 ④の在り方の検討の中で議論され得るという趣旨でして,御議論いただければと思います。 ○大谷幹事 私が言いたかったのは,ある規定を作って今のが入ってしまうと,広過ぎると言いたかったのです。 ○内野幹事 不貞相手に対する請求というのは,少なくとも①で提案している規律の中からは外れています。 ○高田部会長 先ほどもあった山本克己委員のご発言のように,①の場合で主観的併合というときに,何を想定するかという問題に戻りますでしょうか。 ○内野幹事 具体例が不適切であれば,そのような御指摘も頂ければと思います。例えばでございますが,離婚の訴えと養親である配偶者の親に対する離縁の訴え,二人の子の同一父に対する認知の訴え,子の提起する両親間の協議上の離婚の無効確認の訴えなどが当事者が複数になり得る類型として考え得るかと思っておりますが。 ○早川委員 二人の子の同一父に対する認知の訴えなのですけれども,これは、母親が同一という趣旨ですか,それとも母親が別々の場合も含む趣旨ですか。 ○内野幹事 母親が同一という前提です。 ○早川委員 分かりました。 ○山本(和)委員 多分,評判が悪いと思うのですけれども,私は財産関係事件とそれほど違うのかなという感じがどうも否めなくて,先ほどの離婚の訴えと養親である配偶者の親に対する離縁の訴えと二人の子の同一父に対する認知の訴えのような場合というのは,その請求原因がかなり共通しているようなものであるとすれば,併合管轄を認めて,どうしても問題であれば,特別の事情で却下するというやり方も考えられるような気はしています。 ○内野幹事 本日の御議論では,客観的な併合それ自体にかなり消極的な御意見があったように思っておりますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 人事訴訟法でこの客観的な併合がどういう場合に認められるかということ自体が今いちはっきりしなかったので,ということもあったのではないでしょうか。 ○内野幹事 確かに,人事訴訟法5条では併合管轄を規律している所は,一の人事に関する訴えで数個の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする数個の請求をする場合となっていまして,何をもって併合として議論すべきかという所については,若干,民事訴訟法と本当に同一なのかという所は,確かに議論はあるかとは思います。 ○高田部会長 人事訴訟法5条並びの規定の是非ということですが、いかがでしょうか。 ○大谷幹事 今まで個別の単位事件類型ごとに規定を考えてきて,よくこれを置くべきか置くべきではないかという議論のときに,各論的な規定を置かないでおいても,どうしてもやらなければいけないことになったときには,緊急規定のようなもので救おうという議論をよくしてきましたよね。併合に関しても,わざわざ置く必要があるのかないのかという議論があると思います。今日も具体例を出していただいて,そう思うんですけれども,本来は,先ほど申し上げたとおり,個別の規定で管轄が認められる場所で裁判がされるべきで,たまたまAの人にあるからといって,Bの人についてまで管轄を認めるのはどうかなと思うのですけれども,ただ,全体を見たときに,全部やってもいいのではないかというような事例が仮に出てきたときに,この規定がなくても認めるべきというような事例があるのであれば,それは認めていいかなと思います。ただ,そういう場合を想定して併合規定ということで規定を置いておくべきか,特に主観的併合規定ということで置いておくべきかと言われると,何だか具体的にどういう場合があるのだろうかとちょっとよく分からなくなってしまうんです。 ○高田部会長 いかがでしょうか。民事訴訟法でも,規定は設けつつも,特別の事情の適用の余地が少なからずあるだろうという議論はしていたと記憶しておりますが,そうした特別の事情による却下という安全弁を使うことを想定しつつ,一応カバーと申しますか,手当てはしておくべきかどうかという問題かと存じます。また,規定の仕方についても,民事訴訟法と違う規定ぶりが良いかどうかという問題もあるかと存じますが。 ○池田委員 やはり被告との関係で,被告の合意があるときには、よりやりやすいというような問題はありそうなので,その点も一応指摘しておきます。 ○山本(克)委員 固有必要的共同訴訟の場合について,例えば親子関係事件の資料3の1の甲案の①ですと,当該訴えに係る身分関係の当事者である被告,数人あるときは,そのうちの一人の住所が日本国内にあるときというような規定を置いているということは,特に固有必要的共同訴訟が想定されるような場合についての特別の併合のための別途規定を,置かなくていいということにならないのですか。全ての管轄規定がこういう形で書き切れないかもしれないので,受け皿として置いておくという趣旨なのですか。 ○内野幹事 一応,個別の管轄規定の中に書き切れれば,総論において固有必要的共同訴訟となる場合に対応するための主観的併合の規定はそれで恐らく要らなくなってしまうのではないかと思います。 ○高田部会長 では,第3,反訴について御説明,御議論を頂きたいと思います。 ○近江関係官 反訴については,財産権上の訴えの国際裁判管轄と同様の規律を設けることを提案しています。 ○大谷幹事 私は反訴の所はちょっと前から意見がありまして,研究会でも申し上げていたんですけれども,国際案件で反訴がよく起きる場面としては,日本にいる配偶者が協議離婚届を出して離婚したということになっている人が外国にいまして,離婚届は偽造だと主張して協議離婚無効確認訴訟を起こすという場合があります。外国にいますと,被告が日本にいますので,日本に管轄があるということで日本に訴えを起こすということになります。そうしますと,今度は被告が反訴で予備的反訴的に離婚請求訴訟を起こすということが,今の提案だとできるということになると思うんですね。それがいいのかどうかというのは前から気になっています。私は元々離婚事件の管轄を広く取るべきだと考えているのでいいのですが,多くの方は離婚の管轄の所で被告の利益保障ということを重視されていて,そういう管轄規律にしたときに,今のような場合に,協議離婚を勝手に出されたので,それを是正しなければということで訴訟を起こしているのに,反訴で離婚の訴えについても引き込まれる形になるのですね。そこはいいのかということは問題提起させていただきたいと思います。 ○池田委員 個人的な意見ですけれども,私自身は一旦,訴訟になっていて,日本で裁判をやっているということで,反訴についても日本でやることについてはどちらかというと抵抗感は少ないんですね。元々訴訟を起こしているということで,弁護士も普通は付けてやっているということがありますので,その中で反訴も一緒にやるということの効率性なども考えて,そういった場合の,要するに原則的な離婚事件の管轄の枠組みが被告の利益重視であったとしても,この反訴を併せてできるという仕組みにすることについては,私自身は問題はないと考えています。 ○大谷幹事 でも,そのような場合は日本で起こすしかないから起こすのですね。だから,そこで引き込まれるのが,一旦,弁護士も頼んで起こしているんだから,いいではないかというふうには私は感じないので,それを引き込むことになる規定なので,私はやはりちょっとそこがフェアではないのではないかと思っています。 ○池田委員 今の御意見と,離婚の管轄をすごく広くとって,被告が引き込まれることを認めるという本来の離婚事件の管轄原因の考えとの関係は,どういうふうに解すればいいのでしょうか。 ○大谷幹事 私は,そこは元々,離婚のときに広く管轄を認める立場を採っているので,その立場を採る以上,今のような場合に,当然,この外国にいる人は本来起こされていいと私は思って,そういう価値観で考えているので,いいということなんです。 ○内野幹事 恐らく,今の大谷幹事の御指摘は,基本的な考え方や思想の整合性としてどうなのかという所につながるのかもしれないとは思っております。 ○高田部会長 いかがでしょうか。併合管轄については限定すべきだという御意見があるとすると,反訴についてももう少し限定すべきという御意見が当然あり得ます。取り分け山本克己委員のお考えですと,同一の身分関係という限定をこちらにも加えることが考えられるのではないかと思いますが。 ○山本(克)委員 例えば夫婦間でお金を貸し借りした場合,妻が夫に1,000万円を貸したのに,返済をしないまま婚姻関係が破綻したという場合に,夫の方から離婚請求をしたとき,妻が夫に対して1,000万円の借金を返せという請求をすることは,反訴でできるということになりはしませんか。それは客観的併合の場合とずいぶん違うような気がするのですけれども。異種の訴訟だから反訴ではできないという縛りが掛かってくるということでしょうか。そうすると,結局,財産法上の請求だと,離婚原因に伴う不法行為請求しかないということになるのですかね。 ○畑委員 第3が反訴だけでいいのか,若干気になります。反対申立てのようなものも入れないと,本当は漏れていることになるようにも思います。 ○山本(克)委員 附帯申立てを含めるということでしょうか。 ○畑委員 あるいは,家事審判の申立てに対しての反対申立てというのもあり得ると思いますけれども。 ○山本(克)委員 そうですね,家事審判ではそういうことになりますね。 ○高田部会長 確かに、併せて反対申立ての規律が必要かもしれませんし,そのときは規律の整合性をもう一度検討する必要があるかもしれません。 ○山本(克)委員 別の機会に畑委員とは議論したことがありますけれども,反対申立てということがあり得るのは,婚費分担で,妻が夫に申し立てたのに対して,妻が夫に対して,そちらこそ分担しなさいという申立てをした場合ですけれども,それは審判物が同一だから,そもそも申立てが必要なのかどうかとか,そういう問題と本当は関わるはずですよね。 ○大谷幹事 私はやはり先ほど提起した問題については余りすっきりしていなくて,少なくとも予備的反訴というのは外せないかなどと考えています。というのは,やはり新しい法律を作るので,立法事実というか,現実にどういう事件があるかというのも考慮していただきたいのですけれども,残念ながら離婚届を偽造して出されるケースというのはやはりありまして,そのときに自分がそれを是正したくて裁判を起こすと,本来管轄がないのに反訴にも引き込まれてしまうことというのは,何かおかしいのかなと思っています。自分は勝手に出されたものを是正するための弁護士を頼んで,協議離婚無効確認の訴えをしなくてはいけないので,そこまでは被告の住所地国でしなければならないのはいいということで訴えを起こしていると思いますが,ところが,そのときに,反訴がされてしまいますと,結局,協議離婚無効が認められても,どうせ離婚が認められるのだからと言って,ほとんど審理をしようとしてもらえなかったりとかいうことがあるんです。そこはやはり本来の反訴とも違って,予備的なのにそれで管轄まで本訴被告の側に認められてしまうというのが,私としてはまだちょっと納得ができていないので,予備的なものは外すとか,何かそういう考え方というのはできないのかなと考えています。 ○竹下幹事 今の点,大谷幹事がおっしゃられた点でちょっと気になるのが,今おっしゃられている協議離婚無効の確認という訴えと,離婚の訴えが本当にここで書いている本訴の目的である請求又は防御の方法と密接に関連する請求を目的とするときに限りという要件を満たしているのかが,ちょっとよく分からないんですが,訴訟法の先生方の御感覚はいかがでしょうか。 ○山本(克)委員 多分,竹下幹事がおっしゃった疑問は正当な疑問だと思います。ただ,私は,先ほどは同一身分関係と言ってしまったので,そうすると入ってしまうのですね。   大谷幹事の発言に対してコメントをさせていただきますと,予備的かどうかというのは,被告の申立てに掛かることになり,申立ての趣旨が予備的であれば予備的反訴であって,条件を付けてなかったら単純な反訴だと普通考えていると思うので,予備的かどうかで切るのは多分難しいと思います。 ○山本(和)委員 竹下幹事の御疑問は,先ほどの併合請求の所の同一の事実上及び法律上の原因に基づくとか,結局,審理対象が実質的に重なり合うという所を問題にするのであれば,具体的な書き方は分かりませんけれども,もうちょっと限定するということはあり得るのかもしれないと思います。 ○大谷幹事 竹下幹事がおっしゃった疑問は全くそのとおりで,実際,下級審では一つ裁判例があったはずです。ですので,今,山本和彦委員がおっしゃられたような方向性,一つの婚姻関係としてしまうと入ってしまうんですけれども,もう少し整理して,先ほど私が申し上げたような事例が外されるような線引きがないかなというのは,なお考えたいと思います。山本克己委員の御指摘で,予備的かどうかで外すことは難しいということが分かりましたので。 ○高田部会長 よろしゅうございますか。   それでは,本日はこの程度にしたいと思います。   次回の議事日程,議題等について事務局から説明をお願いいたします。 ○内野幹事 それでは,次回の議事日程等について御連絡申し上げます。次回の日程は,平成26年11月21日,午後1時半からということになっております。場所は東京地検の1501号会議室です。次回の議題は,今日残っております,部会資料でいきますと6の1,6の2に係る議論,緊急管轄等の議論,外国裁判の承認・執行と,離婚に関する訴えの甲案・乙案という所の大きな対立があるわけですが,その辺りの議論を取り上げてみたいと考えております。 ○高田部会長 それでは,特に御発言がないようでございましたら,本日の国際裁判法制部会はこれで閉会とさせていただきます。   本日も長時間,御熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-