法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 旅客運送分科会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成26年11月26日(水) 自 午後1時30分                        至 午後3時24分 第2 場 所  法務省 第1会議室 第3 議 題  商法(旅客運送関係)の改正に関する論点の補充的な検討         第1 旅客に関する運送人の責任         第2 堪航能力担保義務 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山下分科会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会旅客運送分科会の第2回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,ありがとうございます。   本日は,鎌木伸一参考人が御欠席のほか,国土交通省航空局の小倉関係官も御欠席とのことであります。   次に,今回の会議から,国土交通省海事局の寺川関係官に代わりまして,小田桐俊宏関係官に御出席いただいております。   小田桐関係官におかれましては,お名前と所属等の簡単な自己紹介をお願いいたします。 ○小田桐関係官 ただいま御紹介いただきました国土交通省海事局内航課の企画調整官であります小田桐俊宏と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山下分科会長 よろしくお願いいたします。   それでは,本日の会議の配布資料の確認からさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○松井(信)幹事 席上に議事次第を配布しておりますほか,分科会資料2を事前送付させていただいていると思います。お手元にない方がいらっしゃいましたら用意しておりますが,よろしいでしょうか。 ○山下分科会長 よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,分科会資料2について,御審議いただく予定でございますが,途中休憩を入れることなく最後まで御審議いただきたいと思います。   まず,分科会資料の「第1 旅客に関する運送人の責任」について,御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 「第1 旅客に関する運送人の責任」について,御説明いたします。前回会議では,旅客に関する運送人の責任についての片面的強行規定を設けることについて,旅客運送以外にも消費者の生命・身体を害するおそれがある事業が多数存在にもかかわらず,旅客運送にのみ私法上の片面的強行規定を設ける必要性はあるのかという御意見や,消費者契約法による不当条項規制などがある現状において,特に旅客の保護に問題があるとは思われないという御意見など,分科会資料1の規律について,消極的な意見が多く出されましたが,この規律の具体的な必要性等について,更なる御意見がございましたら,御意見を頂きたく存じます。   また,現行法では,旅客運送のうち,海上運送人の責任に限り,自己の過失又は船員その他の使用人の悪意重過失により生じた損害の賠償責任に係る免責特約が無効になるとされておりますが,仮に旅客に関する運送人の責任についての片面的強行規定を設けないこととする場合には,基本的に前回頂いた御意見にあるように,消費者契約法第8条及び第10条等を通じて,旅客の保護が図られるべきであることに加えて,陸上運送・海上運送・航空運送の規律間の均衡をとるという観点からも,海上運送人の責任についての免責特約の無効の規律を削除することが考えられます。   以上の点につき,御審議いただきたく存じます。 ○山下分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,御自由に御発言いただければと思います。 ○小田桐関係官 前回,議論の中で,国土交通省で災害時の船舶の活用の検討をしているということについて言及がございましたので,簡単にその御紹介をさせていただきたいと考えております。   現在,国土交通省海事局におきまして,例えば阪神大震災,東日本大震災,また近いところでは伊豆の土砂災害の際にも,船舶を活用した島民の避難ですとか,あるいは被災者等への支援活動を行っておりまして,そういった災害時の船舶活用に関する諸課題について,検討会を行っているところでございます。   この検討の中で論点の一つとして,災害時を想定した輸送契約の締結の在り方,これを約款に盛り込むことも検討事項として考えております。また,天災による被害に対しましては,通常,保険ではカバーされないことから,これは運送事業者等とも話をしていくことだと思っておりますけれども,そういったケースの運航においては責任の限度額を設けるということもひとつの可能性としてあり得るのではないかと考えております。   このような災害時の緊急時の輸送の在り方を考えた際に,片面的強行規定を設けた場合には,現在,旅客にとって不利な特約という抽象的な検討の中ではあるのですけれども,災害地域への輸送の支援の対応ですとか,通常時の輸送では事前に予想し得ない事態が生じる輸送,こういったものが現実に考えられる中で,そのような特約が設けられないことから,運送事業者の懸念を助長して,輸送の引受けを委縮させるようなケースというのが発生するおそれがあるのではないかと考えておりまして,そういった強行規定を設けるのが余り得策ではないのかなと考えている次第でございます。その検討会の中で,具体的にどういった内容を約款に盛り込むかというのはこれからの議論ではございますけれども,現在,そういった形の検討を進めておりますことを,少し御紹介をさせていただきます。 ○山下分科会長 ありがとうございます。 ○河野参考人 前回,論点について,不十分な発言しかできませんでしたので,今回はまず質問が一点ございます。その確認でございます。それをさせていただいた上で,本日の論点となっております二点について意見を申し上げたいと思っております。   まず,質問でございますけれども,前回,第1として示されました旅客運送契約の本文についてでございます。すみません,皆さん御存知だと思いますが,本文の2段落目に書かれておりまして,本文の中の事業者というのをどういうふうに規定するかのところで質問させてください。前回の資料の3ページ目に,本文についてというところがありまして,その2段落目にこのような文言がございます。「商法は,その性質上,営利事業として運送人が運送の引受けをする場合のみを対象とするものである。」という記載に関してなんですけれども,私の周りでもNPO法人等が行う福祉有償運送等がございます。NPO法人は営利を目的としてはおりません。その法人が行う事業は,ここで言う営利事業に含まれるのかどうか,この解釈を伺いたいと思います。有償で行っているのであれば,NPO法人が行っていても営利事業に当たると考えた場合,NPO法人が行う事業は,特定非営利活動とその他事業に区分されていますが,そのいずれであっても有償で行っているのであれば,営利事業になるかどうかということを確認させてください。それが一点目の質問でございます。 ○山下関係官 河野参考人の御質問につきまして,NPO法人の所管が内閣府かと思いますので,最終的にはそちらの御判断も尊重すべきかなというところもありますが,一般的には主体がどうかというところもありますし,また実際にNPO法人であったとしても,そういう対価を得て運送しているといったときに,その内容がただただその実費部分に限るのか,例えば,利益も含まれているような運送の対価の定め方をしているのか,そういったところも影響してくるのかなと思いますが,一概にNPO法人がする運送は,全て商法の適用があるとかないとかという画一的な判断はできないのかなと思っております。 ○河野参考人 ここでは御判断が付かないと受け止めればよろしいでしょうか。 ○道垣内委員 少なくとも内閣府が決める問題ではないと思いますけれども。ですから,ここで判断が付かないというわけではないと思います。御回答はそのとおりだと思いますが,内閣府がNPO法人についての規定を置いたとしても,商法の適用・不適用について決定する権限はありません。 ○山下分科会長 河野参考人,続けてどうぞ。 ○河野参考人 では,運送人の旅客に関する責任について,今日のおまとめですと消極的な意見が多かったとまとめられているところでございますが,私たち利用者側からしますと,その最初に書かれています「商法第590条第1項の規定に反する特約(旅客の生命又は身体の侵害に係る運送人の責任に関するものに限る。)で旅客に不利なものは,無効とする。」との提案に賛成させていただきたいと思っております。   その理由なんですけれども,運送中の事故等により,生命・身体に関わる損害を受けた場合,事業者の注意義務違反,例えば整備ミスですとか,運転ミス等について,旅客の方が立証することは著しく困難でございます。ですので,旅客側にその立証を求めるような特約というのは無効としていただきたいと思っております。また,運送契約においては,旅客を安全に運送することが求められております。そして,生命・身体に関わる損害というのは,取り返しの付かない重要な性質のものでございます。ですので,全部免責するような特約はもちろんのこと,責任限度額を設けるような特約も,やはり著しく旅客の利益を損なうものと言えると思いますので,これも無効にすべきだと考えております。   これが,今の部分でして,それからもう1点,運送人の責任に関して意見を申し上げたいと思っています。これは分科会資料1の4頁の(2)に書かれています,損害賠償額を定める際に,被害者及びその家族の情況を斟酌しなければならない旨の規律である商法第590条第2項については,これを維持すべきだと考えておりますので,その点を申し上げたいと思います。理由ですけれども,現在の裁判の実務において,治療費等の実費,それから休業損害等の逸失利益,それから慰謝料等の算定に当たりまして,被害者及びその家族の情況が斟酌されていること等から,この商法第590条第2項を削除するとの提案については,反対します。消費者側,利用者側からしても,これがここに書かれていることによって,もしこういうふうな状況に陥った場合はこういう補償がされるということが非常に分かりやすく伝わってくると思っております。ほかで担保されるから,例えば消費者契約法で担保されるから,それからこれまでの裁判実績が積み上げられているからという御説明もございますが,是非これは維持していただきたいと思っております。   この間,民法(債権法)の改正の審議が,現在,法制審議会の民法部会で行われていますが,その民法改正の必要性について,法務省民事局より説明がされていまして,私が議事録を拝見したところによりますと,第1回会議,平成21年11月24日の議事録に書かれております。ちょっと長くなりますので,ここでは,その法制審議会民法部会第1回会議,平成21年11月24日の議事録に記載されているとだけ申し上げますが,積み上げられた判例を法文に反映し,法律の明確化を図り,国民に分かりやすくし,予見性を高めるというのは,とても重要な観点であると思っていますので,商法改正においても同様の観点から,是非裁判実務で定着している考え方であれば,なおさら法文として明示し,私たち国民が理解しやすくおくことが必要であると考えております。是非維持していただきたくお願い申し上げます。 ○山下分科会長 ありがとうございます。 ○道垣内委員 先ほど国土交通省の関係官の方からお話があった点ですけれども,これは前回も私が発言させていただきましたし,この資料の2ページにも書いてあるのですけれども,災害時にいろいろなシチュエーションがあって,それによって旅客の生命・身体が思わぬ事態で侵害されるというときには,そもそも運送人の方に別に注意義務違反があるわけではないですので,片面的強行規定としたからといって,その場合にも責任を負わされるという規定になるわけではないことは再度申し上げておきたいと思います。   もう1点は,消費者契約法で対応できるではないかとおっしゃいますが,これは,例えば弁護士さんが仕事で旅客となって依頼者の元に行くときには適用されない可能性があるということを,弁護士さんは取り分けお考えいただきたいと思います。つまり,消費者契約法の裁判例にはいろいろなものがありまして,事業として行っている契約であっても,当該者の事業との関係で全く専門性のない事柄については,それについては消費者であるとして同法を適用するという裁判例もありますが,他方で,やはりそれは事業で行っているのだから消費者ではないということで,適用が否定されるという判決も多々あります。つまり,消費者契約法だけで対応できる問題ではないということは指摘をしておきたいと思います。 ○田中参考人 先ほど河野参考人の方から,NPOのお話がありましたが,まるっきり同じ形態で,運賃だけ違うということでは,介護タクシー等というのがあるわけですね。そちらの方はこれが適用されて,NPOは適用されないというのはちょっとおかしいかなというので,その辺のところを同じような扱いに是非していただきたいなと。結構,タクシーがやっていることを名前を変えて,いろいろなNPOだとか,いろいろなものがやっている場合がすごくたくさんあります。だから,やはり有償でやっているものに関しては,ある一定の基準はあるのでしょうけれども,その辺のところで,もう介護タクシーは使わない等という選択が出てしまうと,ちょっといろいろと支障があると思いますので,是非ある一定の基準の下で,NPOにも介護タクシーと同じようなそういう責任は負うような形にしていただきたいと思います。 ○加藤参考人 片面的強行規定の件ですけれども,現場の実態を申し上げますと,先ほどからお話が出てきておりますけれども,現在の旅客輸送におきましては,当該事業が営利なのか,あるいは非営利なのか,外見上から利用者が判断しづらい,判断することができないというケースが多々ございます。一見すると無償のように見えても,実はきちんと料金を支払っているというケースも多々ございます。例えば,港湾施設までの送迎バスというものを例にとりますと,全く同じ外見のバスを使っていても,無料の場合もあれば有料のものもございます。有料のものは,例外なく商法上のこの旅客運送に当たる路線バスということになると思いますが,無料バスの中には自家用バス,そして貸切りバス,あるいは路線バスと,こういう三つのケースが考えられます。それらが商法上の対象となるかそうでないかということは,個別にまた議論しなければいけないということになってくると思います。   まず,一つ目の自家用バスということですけれども,これは,例えば港についている船会社等々が,自社の集客のために自家用バスを使って無償で運行するというケースがあろうかと思います。二つ目の貸切りバスというケースですけれども,これは,例えばその港湾管理者らが中心となって組織している港の利用促進協議会という,その協議会からの委託費を受けて,貸切りバス会社が運航しているというようなケースもございます。三つ目の路線バスというケースですけれども,これは,路線バスのバス料金が,例えばその港を使っている船の料金にビルトインされている。船の切符を買うと自動的にバス代も支払ったことになるというケースでございます。利用者からすると,それが船の料金として支払っているわけですけれども,船会社が代理で徴収しているという形になります。   この三つのケースを考えますと,例えば商法は営利事業を対象にするということでございますので,一つ目の自家用バスのケースは,本当に無償なので,商法の対象外となる可能性も高いですが,もちろん集客のための輸送サービスですから,何らかの別の形で料金を支払っているという場合もございます。また,結果として本当にバスだけをタダで利用するということで,無料となるというようなこともあろうかと思います。   二つ目の貸切りバスのケースですけれども,これは,旅客とバス会社の間には,運送契約が成立しているとは言えないと思いますので,商法の旅客運送の対象外となる可能性も高いかと思います。   三つ目の路線バスのケースですけれども,これは一見すると無償ではあるんですけれども,本当は有償ということでございますので,旅客とバス会社の間では運送契約が成立していると判断されて商法の対象となる。商法で言う旅客運送の対象となるというような可能性が高いのかなと思われます。   一つ目のケース,これはいわゆる白ナンバーのバスですので,少し知識のある利用者であれば,まあ外見上からこれは白ナンバーのバスだなというのが見分けが付こうかと思いますけれども,二つ目と三つ目のケースというのは,同じく緑ナンバーが付いておりますので,これが貸切りバスなのか路線バスなのかというようなものから,外見上から判断するということは,極めて困難かと思われます。   また,先ほどもお話しございましたが,最近ではNPOとかNGOなどによる事業性を持った活動といったものがかなり広範に行われております。しかもそれが営利の場合もあれば,非営利のものもあろうかと思います。一見して無償で非営利のように見えても,本当に寄附金で成り立っているような非営利のものもあれば,実は広告費等で成り立っていたり,あるいは別なサービスと込みで料金を発生して支払っていたりというような,純粋な営利活動に当たるというものもあろうかと思います。   こうした例を考えてみれば,事業が非常に多様化して,営利・非営利,あるいは有償・無償という境目がぼんやりしたサービスが増えている現代においては,仮に生命・身体の保護の強化が必要な事態になれば,それは,商取引の消費者の保護という観点や切り口で対処していくということではなくて,むしろ公共交通の利用者の保護という切り口で考えて,交通行政上の各種法規の中で対処していくと。約款が足りないのであれば,更に約款の強化を考える,あるいは約款の制度を見直していくということかと思いますが,そうしたものが利用者の意識に合った素直な考え方ではないのかなと考えるところであります。   国土交通大臣による安全規制あるいは約款の認可制度なりが機能している旅客運送事業におきまして,そもそも現時点で前回意見を申し上げましたけれども,片面的強行規定の導入に,今,直ちに緊急の必要性があるとは考えておりませんけれども,仮にそれが緊急の必要性があるということであれば,広く一般に開放されているこの公共交通サービスの利用者につきましては,それが営利なのか,あるいは非営利なのか,有償なのか,無償なのかということにかかわらず,広く等しく取り扱うというのが,真に「消費者」ではなくて,「利用者」の視点に立った議論ではないのかなと考えるところであります。 ○道垣内委員 今の御議論に少し分からないところがありまして,そうすると運送関係の全ての条文に同じことが言えるわけですよね。なぜ,この問題についてだけそのような観点が必要になるのかが分からなかったんですが。 ○加藤参考人 やはり,生命・身体の保護というのが正に先ほどの意見もございましたけれども,公共交通サービスの根幹に関わるところだと思います。有料でこれが行われている,本当に商取引で行われているものについて,例えば,バスの時間が遅れたことによって損害が発生した場合,あるいは手荷物の損害が発生した場合など,生命身体の被害以外のものについては,その受けたサービスの程度との関係が考慮されることは適当と考えられますので,商取引という観点に着目して行うということは,自然の流れといいますか,利用者の視点に立ってみると,お金を払っていないんだからしようがない,お金を払っているんだからこれぐらい要求してもいいだろうという,対価との関係があろうかと思います。商取引の範疇に当てはまるサービスと,商取引の範疇に当てはまらないものとの間に,損害に対する責任関係に差を設けても,許されるのではないかと思います。けれども,少なくとも生命・身体というのは,お金を払っている払っていない,営利・非営利に関係なく,基本的に広く一般にそれが開放されているサービスであれば,誰でも乗る可能性があるわけですから,そこは最低限のものについては,等しく対処していくということが適当でないかと考える次第であります。商取引の範疇かそうでないかが明確であれば,利用者の側で対処のしようもあるかもしれませんが,それが不明確なのであれば,なおさらのこと,商取引かどうかということに着目した法制度の中で,生命身体に関する責任関係を規定するのは適当ではないと考える次第です。仮に,制度の強化が必要というのであれば,それは,交通行政の中で対処すべきという趣旨です。 ○山下分科会長 よろしいですか。道垣内委員。 ○道垣内委員 では少し補足的な発言をします。加藤参考人のおっしゃっている中には二つの理屈が入っているような気がするのです。一つは,ある特定のものが営利なのか非営利なのかが分からない,区別が付き難いところも多々あるという話と,もう一つは,全てに及ぼすべきだという話とがあって,それは理由が違って,前者に関して私は意見を申し述べたわけです。しかるに,手荷物に関しても,お金を払っているかどうかによって違ってくるという話をされますと,実は営利と非営利との区別が付いているということを前提にされているように思われ,少し気になりました。しかし,それだけの話であり,御趣旨はよく分かりました。 ○山下分科会長 今,その適用のある契約というか取引の範囲の問題と,規定内容で590条2項の問題の御指摘もありましたが,あとの方はさておいて,第1の点について言えば,これは商法の適用があるかとか,そういう種類の問題なので,今,この分科会で何かそれを決めるということは難しいような気もするのですが,そこは整理としてはどうなのでしょうか。 ○山下関係官 分科会長のおっしゃるとおり,商法の適用があるかどうかというのを,この場面で決めることは難しいかと思います。 ○山下分科会長 運送法より前に,保険法の現代化を行っておりますが,これは商法の世界にあったのを独立させましたので,営利・非営利を問わず,保険事業をやっているような者の契約というものは広く適用されるようになったのですが,他方で,この運送の分科会ではこれは商法の枠の中でということなので,非営利法人がやっているような事業,これが,一概にもう非営利だから商行為ではないというわけではなくて,そこは解釈問題になってくるという整理で我々学者はいるかと思うので,その点について何かを決めるということはなかなか難しい。そういう整理でよろしいでしょうか。   その点について,何かまだ御質問等はございますか。 ○塚越参考人 ちょっと確認なんですけれども,旅客運送契約の定義で,有償性というか,対価性を要求しているということと,そこには関係しないのかなと思ったのです。例えば,鉄道でも災害のときとか,そういう場合にサービスという観点で無償で運んだりとか,そういうこともあると思うですが,それはその定義の段階で切れるのかなと思ったので,本当に商法全体の議論で吸収されるのかなというのが,ちょっと分からなかったのですけれども。 ○山下関係官 実態として無償の契約であれば,この旅客運送契約の定義には当たってこないと思います。 ○塚越参考人 無償ならそうですよね。 ○山下分科会長 商法の昔からの問題で言えば,商人がいて,事業・営業をして,有償の契約をするけれども,そういうものに先ほども少し出てきたように,付随して何か無償でサービスを提供しているときに,それは付随的商行為として何か商事性を帯びるのかとか,そういう問題になるのでしょうか。 ○藤田幹事 今の点は非常に重要な指摘です。先ほどからちょっとごっちゃになっているところがあって,個別の個々の契約において運賃を払っているか否かという話と,運送という業について,全体として営利性が認められるかというのは,全く別次元の問題です。商法の適用範囲だとか,運送の章の適用範囲というのは,業としての営利性の方で,つまりその人が運送を収支相償うような形で反復継続しているか否かが問題です。NPOであっても,これを満たすこともありますし,採算を度外視してやっているような形態であればこれは満たさないという話です。   それと別に,運送契約を定義において運賃の支払ということを要件として課すかどうかというのは,商法あるいは運送の章の適用範囲とは違った話で,まさにここで議論すべき話だと思います。ただ,そこで運賃を要求するというのが,個別に運賃という名目で何か具体的な対価を契約で定めることを要求しているのか,何か包括的なサービスを提供して,その中に運送に対応するようなところの対価も含まれているようなものであっても,ここで言う有償性を満たすか否かということは解釈の余地があります。およそ有償性がないような,純粋にボランティアでやっているような付随的サービスか,全体のサービス対価の中で読めるものかという話とは区別して,前者については旅客運送の規定の適用がないということでいいかということを,ここで議論して決めるべきだということになります。先ほどから余り強調されていなかったような気もしますのですが,この点を議論するのであれば旅客運送の定義との関係で議論する必要があると思います。   ついでに,先ほどからの公共サービスの安全性という切り口からやるべきだとの議論について申し上げておきますと,やはりここでは,商法の運送契約の議論をしているわけです。例えば,私が飛行機に乗って外国,国内,どこかに旅行するときに,浜松町からモノレールに乗って,その後,空港の施設,エスカレーターとかいろいろ使って,最後に飛行機に乗っていくわけですが,飛行機のところが運送契約だというのは,これは異論の余地はないと思うのですけれども,その以前にいろいろなサービスがあるわけですね。ターミナル間の輸送だとか,そこに行くまでの輸送だとか。その全てについて,ここでカバーするようなルールがないのであれば,一切規律がない方がいいという議論にはならないと思います。これはモノレールとそれと飛行機のところについて,生命・身体に何かあっても賠償しない,あるいは賠償を制限するという特約を許すか否かというのがここでの議論で,そこを考えるべきで,そのほかのところについて,例えばエスカレーターについては安全性が確保されていない――それは望ましくないことかもしれませんけれども――ということは,商法の規定として旅客運送としてどうするかという議論では出てこなくて当然だし,別のところで議論すべきです。そちらについて別のところで議論するからといって,商法で運送契約についての強行法規性を議論してはいけないということには多分ならないと思います。そこは先ほど座長の整理されたような話なんだという気がいたします。自明かもしれませんが,最後の点については,念のために補足させていただきました。 ○加藤参考人 補足して申し上げますと,モノレールに乗っているか飛行機に乗っているかは利用者は分かるわけですけれども,先ほど私が申し上げましたのは,利用者から,要はそれが商法の対象となっているのかなっていないのかというのは,外見上から分からないケースがあるということであります。そうした場合において,不特定多数の者に対して,広く一般に開放されている旅客運送サービスという,その本質的なサービス形態が同じであれば,それはやはり,商取引にあたるか否かということで区別するのではなく,同一の法体系の中で,等しく法的に対処していくというのが,利用者についての,きちんとした法の考え方ではないのかなということを申し上げたつもりでございます。 ○山下分科会長 それはそのとおりだとは思うのですけれども,今,この分科会で審議しているのは,商法の適用のある世界でどう考えるかということです。そこを一挙に,利用者全部だと言われると,ちょっとここの分科会の任務を超えるかなということではないでしょうか。 ○加藤参考人 すみません,要はこのサービスは,例えばこういう片面的強行規定があるけれども,こちらは保護されない。こちらは保護される,こちらは保護されないということになると,利用者の側からすると,何か全く分からないまま使っていて,それが違ってくるわけです。申し上げたかったのは,現行の国土交通行政の中で行われている消費者保護規制が不十分なので商法で規制強化する必要があるというようなことは,現時点のところでは,ちょっと感じられないんですけれども,もしそういう必要性があるということであれば,それは国土交通行政の中で,きちんと対処していくのが本来の素直な考え方ではないのかなというのが意見でございます。 ○山下分科会長 その点は分かりました。そうすると問題は,適用範囲の点は,先ほどのような整理でよろしいでしょうか。 ○藤田幹事 完全に無償でやるというものは,適用範囲から外していいかということを議論するということですね。 ○塚越参考人 先ほど藤田先生がおっしゃったように,まず有償か無償かというところで適用範囲が決まるのかどうかというのが,ちょっとよく分からないというのと,あとちょっともう少し矮小化する議論なんですけれども,この間も指摘したように,例えば食堂車での食事の提供が対象になるのかとか,例えば今列車でも結構豪華になってきて,いろいろな施設というか,例えばコンセントとか,グリーン車のいろいろな豪華な設備みたいなものができてきていますので,例えばそういうものに欠陥があってけがをしてしまったとか,そういう運送に本当に直接関わるというわけではないんですけれども,付随的なものに関しても,こういうのが適用になるのかどうか。基本的には,事業者の側としてはない方がいいのですけれども,もし作るということになれば,そういう適用範囲についても少し明確化しないと混乱するのではないかという気がしています。 ○山下分科会長 JRさんの場合を考えれば,根っこのところで営利事業として運送事業をされていて,そこで適用範囲に入ってくることは,まず入口のところは問題ないわけですね。 ○塚越参考人 商法が適用になるかどうかはまず問題がなくて,その上で。 ○山下分科会長 その上で,運送営業の規定の適用がどこまで適用されるかという,そういう問題ですね。 ○塚越参考人 そうですね,はい。 ○山下分科会長 どこまで適用があって,どこからはないというのは,一概に答えるのは難しい問題のような気もしますが。 ○山下関係官 分科会長がおっしゃったとおり,結論が一義的に出るというわけではないと思いますが,今,議論の対象になっている片面的強行法規の話は,飽くまでその590条1項に関わってくる片面的強行法規ですので,前回と同じ議論になるとは思うんですけれども,食堂車の利用など,そういう運送に直接的とは言えないようなところが,590条1項の「旅客ガ運送ノ為メニ受ケタル損害」に当たるのかどうか,その事実認定の問題になるのかなと思います。 ○山下分科会長 運送営業に属する運送契約の内容としての給付として,サービスが行われるのであれば,そこの590条1項の適用の問題になって,これが片面的強行規定であればそうなると,そういう整理になるのでしょうか。 ○塚越参考人 そこはもう今までの590条の解釈の中に委ねるというか,そういうことにせざるを得ないということなんですかね。 ○山下関係官 そうですね。590条1項の規律自体を実質的に改正する予定ではございませんので,そうなるかと思います。 ○塚越参考人 第1点についてはどうなんですか。有償無償のことで。例えばこれは適用になると思うんですけれども,一定の人に対して無償でパスをあげて,無償で運んだりとか,そういう場合も鉄道ではあるんですが,そういう場合とか,あるいは災害の場合に自治体から頼まれて無償で輸送してあげるという場合もあるのですが,これについては旅客運送契約の定義に乗らないので,例えば片面的強行法規が導入されても適用されないという,そういう理解なんですかね。 ○山下関係官 先生方,委員・幹事・参考人の皆さま方,どのような御感触でしょうか。 ○箱井幹事 私の感触ということで申し上げますと,JRさんが普段行っているこの運送契約は,通常は有償ということでみな了解しておりまして,当然,その場合の約款が用意されているわけですね。それを,理由があって割引にした場合に,究極の割引はゼロだと思うのですけれども,その瞬間から約款の適用もなくなり,旅客運送ではない何だか分からない契約になるという理解には普通はならないだろうと思います。  多々先ほどからいろいろと現代的な運送契約の多様性が議論になっており,私も非常に勉強になりました。全てが全てだということではないかと思いますけれども,運送の主体にしましても,地方公共団体たとえば東京都が行っているバス事業などでも,これは商法の対象であると考えてきておりますし,この点は今回の改正に関する御提案とは関係がないのだろうと思います。これも従来どおりの理解の延長でよく,ただそれについて強行規定が係ってくるのか係ってこないのかというところでは,利害の問題が生じますので,今はかなりの限界事例が問題になっているのだろうと思います。旅客運送ということでございまして,普段,我々もそれほどなじみがあるわけではないのですけれども,先ほど座長が整理されたような理解を通常はしていると考えております。 ○山下分科会長 ほかにいかがでしょうか。   あと,片面的強行規定にするかどうかということで,今日は消費者側の御意見としては,片面的強行規定とする方がよいということですが,それに対しては,他方で,国土交通省の方,あるいは前回出た御意見で,災害時等の通常でない状況の運送契約について,片面的強行規定の枠がはまったルールの下で,はたして運送を引き受ける事業者が出てくるか懸念があるという,そういう御意見があるということでございます。   後の方の御意見については,道垣内委員の先ほどの,そこは片面的強行規定と言っても,過失責任のルールを片面的強行規定にするんだから,過失があるかどうかというのは,通常の運送時と緊急時で自ずと判断も違うのではないかなという気もするのですが,小田桐関係官におかれましては,国土交通省の検討の中で,特殊な運送についての契約条件がどういうふうなものになるか,あるいはどういうふうなものになってしまうと困るとか,その辺りの議論はされているのでしょうか。 ○小田桐関係官 検討の状況を申しますと,正に来月,標準約款の部分を含めた議論をしますので,まだ現時点で具体的に固まった論点というものが出てきているわけではございません。ただ,これまでにも災害時の船舶活用の検討会を議論していく中で,やはり災害時ですと,例えば東日本の震災の時にも,港が通常と違う状況になっている。つまり,水面下にいろいろなコンテナが流出していたり,あるいは実際,東北の沖合にコンテナが流れ出していて,船は外殻の部分が薄いので,そういったものにぶつかると非常に危険だと。ただ,東日本の震災は何せそういう状況だったので,運航会社の方でも委託があれば最大限引き受けていたというのが実例でございます。事業者の方からは,災害時はやはり平常とは状況が違うので,そこを勘案した約款なり,あるいは約款以外でも制度の運用なりを検討していく必要があるのではないかという問題提起がされています。通常と同じような形で安全を確保したりですとか,そういったところというのはなかなか難しい状況があるので,そのような点を踏まえて検討すべきではないかという問題提起がされているというのが現在の状況でございます。 ○藤田幹事 特定の立場を今採るつもりはなくて,また国土交通省さんの意見を支持する立場から申し上げるのでもないのですが,恐らく次のようなことだと思います。災害時だとか,あるいは非常に特殊な状況の下で運送が行われるケースというのが時折あります。その場合は道垣内委員の言われたとおり,確かにその状況の下で注意義務を果たしたか否かということで,最終的に裁判になったときには恐らく適切な結論は導かれるのでしょうが,ただ,運送を引き受ける側としては,本当は行きたくないのだけれども,どうしてもというのだったら行きましょう,ただし,それはもう自分のリスクで行ってくださいねと言いたいような状況で引き受けることがあり得る。そういった場合に,後で過失があった,なかったについて問題にされて,無過失を立証しなければ免責されないということだと,とても運送は引き受けられませんという状況というのがあるのではないですかというのが,ここでの問題だと思います。確かに極端な場合というのはないわけではありません。南極に行く運送とかそういうのは,もともととても危なくて,万一事故になってもいいですよというふうな条件でサインしてくれない限り,とても運べませんというのはあるのかもしれない。もちろん生命・身体が問題になるようなときに,そんな契約,そんなものはやはり公序に反するという考え方も一方であるのかもしれません。  実はそういった状況を捉えた法制もあります。国際海上物品運送法の特約禁止の例外の一つに同法17条がありまして,特殊な状況の下で行われる運送については,国際海上物品運送法――これは物品運送ですけれども強行法規です――は適用しないとしている。典型的なものとしては,試験的な運送だとか,非常に特殊な航路を使うような運送で,そういう場合には運送人の責任を軽減する特約を付けてもよろしいという条文です。もし,これに近いような例外が設けられれば,恐らく先ほどから言われている懸念に対しては,一応のセーフガードになると思います。ただ,たとえそういう場合であっても,生命・身体に関する損害に関しては,そういう種類の留保を付けて運送を引き受けるということはよくないというのか,あるいはそれがないと,本当に必要なときに運送を引き受けてもらえずに困ったことになると考えるか,というのがここで決めなければいけない問題の実質だと思います。ちょっと私も決めかねているんですけれども,問題点は決してそんな無過失のところの判断をその事案ごとにきっちり応じてやれば解消するというほど簡単なものではないような気はします。 ○山下関係官 今回この本文の第1に挙げています片面的強行法規を設けるか設けないかという結論というか,中間試案にどのように持って行くかというお話の中で,河野参考人から,先ほど,旅客側にとっては,まず旅客側に高度な立証の負担を求めるのは酷であるという意見と,あと全部又は一部免責の条項が約款にあることも,旅客側にとっては生命・身体というものは重要なので,旅客側にとって酷であるという御意見があったかと思いますが,現行法上,590条1項で,主張立証責任が運送人に課されているという状況下で,片面的強行法規を設けるべき具体的な必要性があれば,是非御紹介いただきたいと思っております。 ○山下分科会長 河野参考人,何かございますか。 ○河野参考人 私のところには,すみません,具体例というのはちょっと今,こういう時にこうだったというのを持ち合わせていないんですけれども,もしこれが片面的強行規定がない場合は,消費者契約法等で何とかなるだろうというお話かと思います。それからまた,先ほどこれは消費者ではなくて,利用者という視点から,約款というか,個々のところでしっかりと担保すればいいのではないかというお話もありました。   ただ本当に,消費者契約法は今見直しも掛かっているんですけれども,消費者契約法は日ごろから本当に消費者と事業者間の契約に限定されているものですので,先ほど道垣内委員がおっしゃってくださったように,弁護士さん,個人事業者さんが仕事で移動する場合は,適用はほぼされないという状況にもなりますし,やはり今私たち国民にとって,移動というか,運送なんですけれども,非常に重要な手段でありまして,それで生命・身体に関わるような損害についての特約が有効であるかどうかについて,消費者に当たるか当たらないかみたいなところで区分することが,本当に適切であるかどうかというのが,消費者契約法の観点からいうと,そういうふうに感じているところで,できればその全ての旅客の移動ということに関して,先ほどから議論を聞いていますと,運送の多様性がありますし,様々な契約形態があって,どこをどういうふうに判断すればいいのかというのは,私も専門家の先生方のしっかりとした御議論を待ちたいと思いますが,本当に全ての旅客に適用されるということがやはり大事だと思っていまして,やはり商法というところで無効と書いていただくことが,一番の安心につながるのかなと感じているところです。具体的事例は,申し訳ありません,ちょっと申し上げられないんですけれども,そんなふうに思っております。 ○山下分科会長 先ほどから出ている,例えば緊急災害時の輸送などについての御議論などを聞かれて,これはどのようにお考えですか。 ○河野参考人 緊急時に関して言うと,事業者の方に本当に最大限の注意義務を果たしていたかどうかという,その辺りがやはりはっきりしてくれば,それは飽くまでも,すみません,法的知識がないので何とも言えませんが,例外な事例としてそういう場合においては,こういうふうな適用になるとしていただければいいのではないかなと思っておりまして,その例外の部分を例外として対処してほしくて,普通の運送に関しては,やはり商法というのでしっかりと担保していただきたいと思っているところです。 ○道垣内委員 発言する前にちょっと伺いたいのですが,片面的強行規定というときは,まず590条にあるような立証責任の転換という面がありますが,それ以外にも,額等の点も含めてということでしょうか。 ○山下関係官 おっしゃるとおり,立証責任の問題や賠償額の問題も含まれてくるものと考えております。 ○道垣内委員 ありがとうございます。そこで,まず立証責任の問題について申しますと,その旅客運送の専門性ということから,過失の立証が通常の場合には旅客にとって難しいということは多分言えるのだろうと思います。つまり,先ほど藤田幹事からモノレールの例が出ましたけれども,モノレールに何かの問題があって,旅客の生命・身体が損なわれたというときに,そのモノレールの構造及びモノレールの当該状況におけるその運転士が何をどういうふうにしたかということについて,その旅客側にはその事実を立証する証拠についての圧倒的な不足があり,そうであるならば,専門家の方で無過失の立証をさせるべきであるという判断は十分にあり得るのだろうと思います。   二番目に,その額の問題等に関して申しますと,それは別段,特に申し上げる必要もなく,現実に被った損害が賠償されなければ困るというのは,これはやはり当然ではないかという気がします。だから,立証責任の問題の方が難しいのかもしれませんが,それについては先ほど申し上げたように思います。 ○宗宮関係官 これまでの議論で,消費者契約法の保護があれば足りるとか,他方,消費者契約法では足りないという御指摘があったので,少し補足させていただきたいと思います。   第1の1(1)の御意見や2(2),第2の(注4)に書かれている,消費者契約法8条や10条を通じた保護が図られるべきという点ですけれども,確かに,消費者契約法8条や10条で旅客の保護が図られる場合はあると思いますけれども,先ほど道垣内委員から御指摘があったとおりで,消費者契約法では旅客の保護が図られない場合もやはりあるということだと思います。   具体的には,消費者契約法8条や10条を始めとする消費者契約法の規律は消費者契約について適用されるものであって,前回の運送契約の定義を前提にしますと,旅客と運送人との間に契約関係は必ずしもあるわけではないということになるので,旅客と運送人との関係において,消費者契約法の適用がない場合があるということが一つです。   また,消費者契約とは事業者と消費者との間の契約ということになっていまして,ここでの消費者というのは個人であればみんな消費者というわけではありません。既に御指摘が出ているところではあるのですけれども,個人であったとしても,事業として又は事業のために当該契約の当事者になる場合は,消費者契約法上,消費者ではなくて,事業者として扱われることになります。先ほど例に挙がっていた弁護士が裁判所の期日等のために運送契約の旅客になるような場合もそうですし,弁護士に限らず,個人事業者がどこか取引のために運送契約の旅客になることもあります。そういう場合に事業者性・消費者性の判断が分かれる場合があるのも実際のところですけれども,旅客だからといって必ずしも消費者とはされず,事業者とされる場合があるということです。   加えて,消費者契約法8条は,事業者の損害賠償責任の免除に関する条項を一定の場合に無効とする規定ですけれども,全部免責条項であれば債務不履行も不法行為に関しても無効としていますが,一部免責条項は,事業者側の故意重過失の場合に無効とすることとなっています。今ここで議論されているものとの違いがどこに出るかというと,軽過失の場合ですが,消費者契約法の適用があると言っても,8条では軽過失に関する免責はカバーし切れないということを申し上げたいと思います。   この背景には,人の身体を時間的・場所的に支配するというのが旅客運送の特徴かと思いますけれども,その特徴を踏まえた旅客運送契約における規律と,消費者と事業者との間の情報の質や量,交渉力の格差が構造的に存在するということを踏まえた消費者契約法の規律とでは,法律の目的がそもそも違っていることがあると思います。そのため,旅客は必ずしも消費者契約法で保護されるわけではない。保護される部分があるにしても,消費者契約法では如何ともし難い部分もあるということだと思います。消費者契約法で保護が図られるからという理由付けが幾つか見られますけれども,今申し上げたことを踏まえて,また御検討いただければと思います。 ○山下関係官 宗宮関係官がおっしゃったとおり,旅客の保護という観点からすると,消費者契約法の8条や10条というのを,まず理由の一つに挙げております。それ以外でも消費者契約という部分に関わらず,やはり従前から御説明しているとおりで,まず国土交通大臣による約款の認可,若しくはその標準運送約款の設定というのも,旅客の保護を図る一つの手段として,現時点で存在していると思います。あと,消費者契約に当たらない,つまりBtoBの契約というのは,分科会資料2の3ページの(注)のところにもありますように,今,国内の海上物品運送の中では,免責約款を無効とする旨の規律というのはありますが,これも物品運送であれば,基本的にはBtoBであろうという前提の下に,この規律を削除するという方向での議論がされておりまして,この議論は,BtoBの旅客運送契約にも妥当するものと考えられ,その場合にも,基本的には契約自由に委ねて,当事者の合意で解決していただいて,ただ,その中でBtoBの契約の中で,やはり一方当事者にとって不当な条項というのは,民法の1条ないし90条などの一般条項によって制限がされるという中での解決が図っていかれるものかなと思っておりますので,消費者契約法による保護が図られないにしても,それ以外の保護というのはある程度考えられるという前提で御判断いただければと思っております。 ○山下分科会長 片面的強行規定にしてほしいというサイドからの御意見は幾つか先ほどからありましたが,片面的強行規定化されると実務上支障があるというのは,先ほどからの緊急時,災害時の運送の例が出ております。   ほかに何か,先ほどの加藤参考人の御意見のように,これは,商法で規律する問題ではなくて,約款の行政的な監督の面から旅客運送全般の規律とすべきという御意見,それは一つの御意見としてあったのかと思います。   実務的に片面的強行規定とされると,非常に大きな支障が出るとか,そういうところは事業者サイドの方はございますか。 ○塚越参考人 これは前回からの繰り返しなんですけれども,やはり鉄道の場合は遅延の場合の免責条項というのがありますので,もし遅延の場合にその生命・身体が侵害されたというか,遅れたために病気が重くなったとか,そういう場合にもそういう免責条項が無効だということになると,ちょっと今の制度における支障に当たってくるかなとは思っています。繰り返しですみません。 ○加藤参考人 正に同じような意見であったんですけれども,ご病気の患者の方を輸送する際,病気が何らかの事情によって悪化し,お客様から運送との因果関係を指摘された場合,その因果関係の適否について事業者の方がそれを検証することは難しいところがあるのではないのかなと思います。重病人でどうしてもとにかくこの離島から本土の方に運ばなければいけないというケースで,万が一,ご病気が悪化した場合において,それが船によるものなのか,あるいはそうではなくて,時間の経過によるものであったかというのは,なかなかその判断が付きづらいことなのではないかなと思います。ですから,やはりそういった限界事例においては,利用者の方からも御説明をいただく必要があるのではないかなという気がいたします。 ○山下分科会長 菅原委員,航空だとその辺りは,どういうふうに考えておられるのか。 ○菅原委員 航空旅客運送のお話を申し上げる前に,加藤参考人の御意見について,別に反対をする立場ではありませんが,一つ整理しておかなければいけないと感じました。  過失推定を採った場合に挙証責任が転換されるのは,あくまで帰責事由だけです。したがって,損害の発生とその数額,債務不履行と損害の間の因果関係の立証責任については,なお請求者の側,旅客の側に残るという理解が正しいのではないかと考えます。   ところで,航空では,御案内のとおり,モントリオール条約26条の規律がございまして,また,国際における旅客の死傷については一定の限度額まで無過失の抗弁権を放棄しておりますし,国内においても過失推定原則を採用いたしますので,片面的強行規定の導入が実務に与える影響はさほど大きくないと考えているところでございます。   御議論の中で恐らく問題となるのは,商法590条の「運送二関シ注意ヲ怠ラサリシコト」や,「旅客ガ運送ノ為メニ受ケタル損害」の「運送ノ為メニ」の範囲ではないかと思います。この条文の解釈について,裁判例等の蓄積などにより,どのように理解すべきなのかという点が,実務上,特に事業者の側では大きな問題なのだろうと感じます。  と申しますのは,先ほど塚越参考人が御指摘されましたが,例えば「食堂車での食事の提供」が「運送ニ関シ」ないし「運送ノ為メニ」の対象なのかどうなのかという御議論は必ず出てくると思うのです。この点,航空では,旅客の死傷の原因となった事故が「航空機上で生じ,または乗降のための作業中に生じたもの」であることのみを条件として,運送人が責任を負うという仕組みになっております。したがって,機内食で食中毒が発生した場合なども,旅客側の寄与過失等の責任減免事由がなければ,損害賠償責任を負うというのが,実務の取扱いです。この点は,航空がそうだから,鉄道もそうあるべきと申し上げているわけではございません。こうした航空旅客運送の仕組みがある一方で,例えば鉄道の場合,「食堂車の食中毒は,運送に関しないので問題はない」と整理できるかという点も含めて,「運送ニ関シ」ないし「運送ノ為メニ」をどう考えるべきなのかを御検証された方が宜しいのではないかと,隣接業界の視点から申し上げた次第です。 ○山下分科会長 ありがとうございます。今日いろいろ御意見をいただいて,この場ですぐ基本的には大勢はこうですねというまとめはなかなか難しいかなと思うので,なお,今日頂いた御意見を参考に,事務当局に次回に向けて検討いただこうと思いますが,考慮すべき点として,何かほかにも御指摘いただいた方がいいということがございましたら,是非お願いしたいと思います。 ○道垣内委員 先ほど山下関係官の方から,ほかのところの重過失免責の特約の無効をなくす方向であるということも考慮に入れながら,というお話がありましたけれども,手荷物でも何でも運送品でも何でもいいのですが,その所有権は自由に処分できるのですね。これに対して,人間の自分の身体・生命は自由に処分できないのです。だから特約の意味は全然違うということで,並べることが余り適切ではないと思います。 ○松井委員 日弁連での議論を御紹介させていただきます。先ほど来ありました行政規制の関係で,きちんとした規制がなされているからよろしいのではないかというのも,ごもっともな意見だと思います。この点,一部の委員からは,今の運用においても,今回御提案のあるような片面的強行法規と同じような過失のある場合に生命・身体については最重要の価値が置かれているはずなので,こういう規定を設けたからといって,何らの過重な負担にはならないはずだという意見がありました。   それからやはり頻繁且つ日常的に大量に繰り返される運送業務というものについては,結果の大きさというものがかなり通常の業務とは違ってくるのではないかということで,この片面的強行法規は入れるべきだという一部の委員の強い意見があったことを,御報告させていただきます。   個人的には,先ほど宗宮関係官が言われたように,この論点は,過失責任の位置付け,即ち軽過失がどうなるかということに多分尽きるのではないかと考えております。もちろん限界事例自体は非常に大事なことだと思いますけれども,軽過失について免責を許すかどうかということが,ここでの一番大きな問題となり,私自身はなかなかどういうふうにしたらいいか,まだ迷っているところではございます。道垣内委員のお話にあるように,弁護士の出張が守られていないというのは非常に衝撃的な話ではありましたけれども,それだけでは決めきれないと思っています。弁護士会の中でも一つの意見にはまとまらない形で,最終的には議論は割れていますけれども,ただ片面的強行法規は必要だというのは,かなり強い意見が一部にあったことだけ御報告いたします。よろしくお願いします。 ○山下分科会長 ありがとうございます。よろしいでしょうか。   それでは,第1の点は,以上を御参考に,事務当局に検討していただくことにして,第2の方に移りたいと思います。まず,事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 「第2 堪航能力担保義務」について,御説明いたします。   前回会議では,海上旅客運送における堪航能力担保義務に関する規律を削除することの当否について,海上旅客運送の運送人についてのみ,商法上,堪航能力担保義務を課すことは,各種運送間の均衡を欠き,その合理性に疑問があるという御意見や,堪航能力担保義務に関する規律を存置した方が,旅客が運送人に対して損害賠償をする際の条文上の根拠となり,適切ではないかという御意見などがございました。   この点につきまして,そもそも商法第590条によれば,旅客側は運送のために損害を受けたことを主張立証すれば足り,これに対し,運送人が十分な安全性を確保したことなど,運送に関し注意を怠らなかったことの主張立証責任を負うとされ,このような主張立証の構造から見て,旅客側がこの第590条とは別に,あえて堪航能力担保義務違反を根拠とする賠償請求をすることは想定し難いように思われますし,そのような裁判例も見当たらないことを踏まえまして,分科会資料1では,このように,第590条における運送人の債務の内容として,当然に旅客の安全な運送が含まれることを前提とした御提案をいたしました。   他方で,前回頂きました御意見のとおり,陸上運送,海上運送及び航空運送に共通して,堪航能力担保義務に相当する安全性担保義務のような新たな義務を課すとの考え方もあり得ますが,旅客運送において,第590条における運送人の債務の内容と,新たな義務との関係をどのように考えるかという点に加えまして,具体的に国際海上物品運送法第5条第1項各号を参考にした規律の新設を考えるに当たり,特に第3号の堪荷能力に相当するものの対象範囲が曖昧となり,新たな義務の範囲が過度に広くなりはしないか等の問題点もあろうかと思われます。   以上の点や外国法制の在り方等も踏まえまして,海上旅客運送における堪航能力担保義務に関する規律を削除することの当否などについて,御審議いただきたく存じます。 ○山下分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,また御自由に御発言いただければと思います。 ○加藤参考人 堪航能力担保義務については,旅客船が一番関係してくる話かなと思いますけれども,まず一点目が,船舶安全法等々の安全法規との関係です。船舶の堪航性に関する基準を定めているのが,船舶安全法,これが最も大きな法律であろうかと思いますけれども,こちらが制定されたのが昭和8年であります。それ以前にももちろん何らかの安全行政はあっただろうかと思いますけれども,必ずしも現在のように十分に整理されていたというわけではなかったかと思われます。行政上の安全規制が発達途上であった時代におきましては,船に何らかのトラブルが生じた場合に備えて,商法上でとにかく運送人に無過失の責任を課しておくということも,一定の合理性があっただろうと思うところであります。また,そもそも国内の旅客船,これは昭和の初期の頃まで木造のものが主流でございまして,構造も非常にシンプルなものであったということがその背景にあったろうと思われます。   しかしながら,現在におきましては商法の制定時と異なりまして,行政上の安全法規である船舶安全法というものが既に存在をしているわけであります。船舶安全法は第1条におきまして,「日本船舶ハ本法ニ依リ其ノ堪航性ヲ保持シ且人命ノ安全ヲ保持スルニ必要ナル施設ヲ為スニ非ザレバ之ヲ航行ノ用ニ供スルコトヲ得ズ」と規定しておりまして,そもそもこの法律に違反するといったような運航は禁じているところでございます。   すなわち,この船舶安全法に従って製造されて,法律どおりに整備されて,法律どおりに運航されていれば,船舶の堪航性は保持されるということで,国自身が法律で認めているということだろうと思います。   この船舶安全法は,単に船舶の安全基準を決めているわけではございませんで,そもそも決められた検査を受けなかったり,あるいは検査証書に書かれた航行区域,定員,載貨重量など,そうした運航条件に違反する運航を行った場合は,罰則も厳格に定められているところでございます。船舶に何らかのトラブルが生じたという場合には,その船舶の堪航性があったかなかったかということについては,この船舶安全法等々に違反する事実が,少しでもあったのか,なかったかのか,そういうもので明確に判断されるということになろうかと思います。   こうした行政上の安全法規が既に確立した現代においては,国が定めた安全法規に違反していなかったのか,違反していたのか。これで判断する考え方。つまり,運送人の過失があったかなかったかで運送人の責任を問うという,過失責任の考え方が合理的ではないかと考えるところであります。   そしてまた,近年の造船技術というものは日進月歩でありまして,新しい技術が登場するたびに船舶安全法の中でそれに対応した安全基準というものが規定されるわけであります。中には,国自身が研究開発して安全基準を作る。その技術を造船所に移植して普及促進を図るというような事例もございます。仮にそうした新技術満載の船について,万が一にもこれはないとは思いますが,万が一,国自身が策定した安全基準に何らか足らざるところがあって堪航性が不足していたというようなケース,これはどうなるのか。堪航性に関する無過失責任の下では,結果として堪航性が不足していたということであれば,何らかのトラブルが生じれば,それは全て運送人の責任ということになろうかと思います。   次に,製造者の責任との関係,これも一点あろうかと思います。例えば自動車であれば自動車メーカーが国の安全基準に従って自動車は製造するわけでございます。運送人自身にできることは,購入した車を国の安全基準どおりにきちんと整備して,安全基準どおりの使い方をするということだろうと思います。例えば製造時点から自動車のエンジンをコントロールするコンピュータのプログラムに隠れた不具合があって,それが原因で何らかのトラブルが発生すれば,それはやはり自動車メーカー自身の責任というものも当然問われようかと思います。   船も同じことだろうと思います。船も造船所が国の安全基準に従って製造したものであります。運送人にできることは,国の定めた安全基準どおりにそれをきちんと整備して,きちんと定められたとおりの使い方をするということでございます。ところが,船のエンジンをコントロールするコンピュータのプログラムに,例えば製造時点から隠れた不具合があって,それが原因で何らかのトラブルが発生すれば,船の場合は当然無過失責任ですから,運送人が100%の責任を負うということにもなりかねないのではないかなと思います。   現代の船は,明治時代のような単純な木造船と異なりまして,高度に電子制御化されたプラントのようなものがございますので,その全てについて運送人に無過失責任を負わせるというのは,過酷ではないかという気がいたします。自動車,鉄道,航空機などと異なり,船だけを取り出して,製造者の責任,あるいは製造の根拠となる安全基準を策定する国の責任等々を考慮せず,その結果においての全ての責任を運送人に負わせるという制度には,少し疑問を感じざるを得ないということでございます。もし,被害者の救済を容易にするため運送人に全責任を負わせることが適当だというのが基本コンセプトであるとすれば,自動車,鉄道,航空機,全てについて同様にそうした責任を負わせるというのが自然の流れであろうと思われます。   最後に,三点目ですけれども,旅客船の輸送シェアについてであります。国土交通省が交通関連統計集の中で発表している平成21年度の国内旅客輸送の輸送機関別分担率によりますと,国内の旅客輸送に占める旅客船のシェアは,0.2%です。ちなみに他の輸送機関のシェアを順に申し上げますと,自動車・バスで65.6%,鉄道で28.7%,航空で5.5%というシェアになっております。自動車・バス・鉄道という陸上輸送が全体の94.3%を占めているわけでございます。残りの5.7%のうち5.5%が航空で,旅客船は0.2%というような状態となっております。こうした旅客輸送の実態も頭に置いて,船だけを取り出して制度設計するべきなのか,バス,鉄道,航空機などの他の輸送モードも視野に入れて制度設計すべきなのかについて,今後の議論を進めるべきではないかと思うところであります。 ○河野参考人 今のことについて,消費者側から意見を申し上げたいと思います。堪航能力担保義務に関しては,今回これを削除することはしないで維持していただきたいという意見を申し上げたいと思っております。   事後の損害賠償請求をするときに,安全配慮義務違反が生じるかどうかというのが主な争点であるので,堪航能力担保義務に関わる規定を残す必要はないという御趣旨だと,今の御意見でも理解したところです。ただ,堪航能力担保義務というのは,私ちょっと関係する方に伺ったところ,海運業においては非常に定着している概念であって,それで出航前にこの義務を満たすだけの準備が行政機関からも求められているというのが実情だと伺ったところでございます。そのように定着し,実務上もその業務運営の核となる概念を商法の規定から削除するということに関して,わざわざ削除しなくてもいいのではないかなと。今,0.2%しかシェアがないとおっしゃっていましたが,それでもこれは今現在,あるものをなくす強い理由にはならないのではないかなと考えたところです。   それから多くの旅客を長期にわたり運搬するというその海運の特性から定着してきた概念だと思っておりますけれども,商法の規定については,その事後の紛争時の解決基準というだけではなく,海運業者さんが今後に向けても,どんなに船の技術革新が進んで,様々なところで安全性が担保され,そういうふうな状況になったとしても,この堪航能力担保義務の規定が海運業者さんが遵守すべき性格であるということを考えますと,この規律は私自身は維持してもいいのではないかなと考えるところです。 ○山下分科会長 ありがとうございます。事務当局,何かよろしいですか。   あるいは海運実務の委員,幹事の皆さん,あるいは研究者の委員,幹事の皆さんはいかがでしょうか。 ○増田幹事 ちょっと確認なのですが,堪航能力担保義務の規定を残した方がいいというのは,どういう内容の規定として残した方がいいという御趣旨でしょうか。現在,特に物品運送との関係で問題になっているのは,現在の日本の国内運送に適用される法の堪航能力担保義務は絶対責任を課しておりまして,過失責任になっていないので,それを過失責任化しようというところが,一つの大きな改正の趣旨だと思うんですね。旅客については絶対責任として残すということなのか,あるいは過失責任として残すという御主張なのかを,残すという御主張をされていた方,河野参考人に御教示いただきたいと思います。  ○河野参考人 そうですね…… ○山下分科会長 加藤参考人は,この点につき,いかがでしょうか。 ○加藤参考人 過失責任ということであれば特に問題はないと思うんですけれども,船に対してだけ無過失責任を課すというのが,法的なバランスを欠いているのではないかという意見であります。 ○河野参考人 その辺りは,今の御意見もございますが,ほかの方の受け止めといいましょうか,皆様の御意見というのも聞いてみたいと思います。私自身は過失の有無というところだと,つまり,軽過失のところで言えば,今ある状況でいうと,あってもいいのではないかなと思っています。 ○山下分科会長 現行法どおり,要するに厳格責任,すなわち無過失だと責任を負わないというのではなくて,過失の有無を問わず堪航能力が欠けているという場合には責任を負うというルールを維持すべきだという,そういうお立場ということでしょうか。 ○河野参考人 はい。 ○道垣内委員 私に強い見解があるわけではないのですけれども,加藤参考人のおっしゃったことの前提を,皆さんが共有されているのかというのが若干気になるものですから一言します。と申しますのは,例えば,自動車の製造段階で,コンピュータ上のバグがあり,それがゆえにバスが変な方向に行って事故になってしまった。この場合に,バスの運送会社は責任を負わないのでしょうか。例えば自賠法で運転者と相手方との関係でいえば,自動車の欠陥に起因する自己であっても運転者は責任を負うわけですよね。 ○山下分科会長 自動車の場合は自賠法の適用が旅客に対してもあるから,免責になるのは今おっしゃったようなケースでは難しいのではないのかなと思うのですけれども。 ○道垣内委員 そうすると,例えば鉄道においても,車両に乗ると,製造業者名のプレートが貼ってあって,「A社」とか書いてあったりしますよね。そのA社の過失によって設計ミスがあり,当該客車が運行中に壊れてしまったというときには,鉄道会社は責任を負わないと解されているのでしょうか。それが前提にならないと,なぜ船の場合だけなのかという加藤参考人のお話の前提が成り立たないような気がしますが,皆さん,その前提を共有されているのですかというのが,伺っていて疑問だったんですが。 ○山下分科会長 そこはどうでしょうか。自動車の場合は自賠法があるので,鉄道とはまた違うということではないかなとも思われるのですが。 ○加藤参考人 民法の590条に基づいて,要は運送契約をしっかり果たさなかったと,運送責任をしっかり果たさなかったということにおいて責任を負う,そしてその法的責任は自賠保険でカバーされるというのは,これは当たり前の話です。けれども,それとは別に,船についてだけはとにかくハードの堪航性について無過失で責任を課しているというのが適当かどうかということが,議論されるべきと思います。十分な安全法規がなかった時代,全国的な航空,鉄道ネットワークがなかった時代に作られた法律について,これを今一度,現代的な目で見て,他の交通モードとのバランスも考慮して,しっかりと議論していただきたいということです。今あるからということだけではなくて,旅客運送における今の情勢に応じて,あるいは今の旅客運送の実態に合わせて,そして,他の交通モードとの並びを合わせて議論していただきたいというのがお願いであります。 ○山下分科会長 確かに船の場合は,現行の堪航能力担保義務の規定だと,それ自体で過失の有無は問わず責任ありとされるという規定が特にあるという点では他と違うというということは言えると思うのですね。しかし,民法の世界で考えたときに,責任がどうなるか。これは解釈の話でよく分からないところはあるというところではないかと思うのですが。 ○増田幹事 自賠法も一応過失責任の世界ではあると理解しておるのですけれども,そうすると堪航能力担保義務の現行のこの規定は,やはり若干厳しいということになるのかなとは思います。ただ,この堪航能力担保義務,過失責任化するというのであれば,やはり堪航能力担保義務というものを仮に置いておいたとしても,それは一種の注意規定のようなものにしかならないので,そういう注意規定を置いておく必要があるかどうかというと,なさそうな気がするというのが,事務局の御提案の御趣旨なんだろうなと私は理解しておるところです。   ちなみに標準約款の方では,どういう規定が使われているかというのを一応確認いたしますと,船の契約であったとしても,堪航能力担保義務を発航時に尽くしていれば免責されるとか,そういったような規定は旅客運送契約の中にはなくて,むしろ自賠法の運行業者責任に近い文言を使って,船舶に構造上の欠陥及び機能の障害がなかったこと,並びに当社及びその使用人が当該損害を防止するために必要な措置を採ったこと,又は不可抗力などの理由により,その措置を採ることができなかったことを証明した場合には責任を負わないといったような規定ぶりにはなっているので,ちょっと貨物と旅客とでは発想が違う部分もあるのではないかという印象は持っております。   仮に,加藤参考人などがおっしゃる過失責任の過失の判断基準がここに挙がっているような程度のものであるとすると,必ずしもそれほど船だから特に緩いというわけでも厳しいというわけでもないのかなというような印象ではあります。 ○道垣内委員 私は,自賠法が無過失責任だと言ったつもりはなくて,自動車に構造上の欠陥,又は機能の障害があったときには,つまりそれは自動車会社がそういうふうな機能の障害を作ったときでも,運転者が責任を負うというシステムになっているということを申し上げたわけです。先ほどから申しておりますように,私に何か強い見解があるわけではないのですけれども,お話の前提は当然ではない,ということを申し上げておきたいと思います。また,もう1点だけ加藤参考人のお話について申し上げますと,別に国の行政上の基準に従っていたからといって,無過失になるわけではありません。民法上の問題としては,それは大きな参考要素にはなろうかと思いますけれども,行政上の基準を守っていたのに責任を負うなんてと言われると困るとおっしゃられますと,守っていたって責任を負うことはありますよ,と言いたくなります。 ○塚越参考人 先ほど鉄道の話が出たので,ちょっと実務上の話を申し上げると,例えば,車両メーカーのミスとか,そういう設計上のミスとか,あるいは製造上のミスによって車両に欠陥があって,それによって事故が生じた場合は,全部の事業者はそうか分かりませんけれども,少なくとも当社の場合は,基本的には責任を負うというか,賠償するという実務をしています。ただ,もちろんメーカーの方にも過失がなくて,鉄道事業者の方にも過失がないという確信があれば,それはもちろん賠償しませんけれども,車両メーカーの過失だからうちは責任は負わないでしょうという言い方は,実務上はしていないです。 ○山下分科会長 それは,鉄道の場合は多少その車両の製造の辺りから鉄道会社もメーカーと少し関わりがあるとか,そういうことがあるということなのでしょうか。 ○塚越参考人 そういうのはあると思います。オーダーメイド的なものがあって,既製品をすぐ買ってくるのとはちょっと違いますし,あるいは点検みたいなものも鉄道事業者の方でやっていますので,恐らくそういう事情があるのかと思います。 ○道垣内委員 JRはそうかもしれませんけれども,例えば京都で市電が廃止になったので,松山の伊予鉄で引き取るとか,そのようなものは幾らでもあるわけですので,運送会社が必ず製造段階から関与しているわけではないと思います。 ○山下分科会長 全部がそうではないと思いますが。 ○清水幹事 少し話がずれるのかもしれないのですが,旅客の関係ではなかったかもしれませんけれども,実務上,堪航義務違反にあたるか荒天遭遇にあたるかがしばしば争われるという話をうかがったことがあります。もしこの規定を無過失責任とすることで違いが出てくるとすると,荒天遭遇としてうまく無過失が主張できそうな場合であったとしても,堪航義務違反にあたるとして責任が生じる場面が,出てくる余地があるのではないかと少し考えておりました。内航の場合は,数日間の移動に過ぎず,荒天が予想されない場合というのは余りないということですので,そもそも悪天候が予想される中で出航していったこと自体に過失があるという判断につながりやすく,非常に例外的かもしれませんけれども,責任の規定の仕方で違いが出てくるのは,先ほどの安全基準を守っていたか否かという場面だけではないのではないかと考えております。 ○山下分科会長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。 ○雨宮幹事 日弁連の事前検討会では,先ほど松井委員が第1の問題について言われたのと同様ですが,第2の問題についても明確な統一の見解が出たわけではありませんが,現行法では海上旅客輸送について堪航担保義務の定めがあるのに特にそれを削除するという必要性はないのではないか,ただ,その場合でも堪航義務を,無過失責任ということではなくて,物品運送と平仄を合わせる形で過失責任にすべきで,さらに強行規定化したらどうかというような意見がありました。それとはまた別に,全輸送モードで堪航担保義務と同様の義務を定めるという意見,若しくは今回御提案のように全く定めないで,運送人の一般的注意義務で処理すべきであり,海上輸送だけ特に堪航担保義務を残すという意味はないという意見があり,全輸送モードで統一的な規定を設けるか,若しくは設けないか,設ける場合についてもやはり無過失責任ではなくて,過失責任で強行規定か,というような議論が事前の検討会でされていました。 ○藤田幹事 質問ですが,そもそも物品運送の方では,堪航能力担保義務は過失責任化した上で強行法規という性格付けで規律を考えておりまして,ここで仮に残すとしてもその線で残すという趣旨だと理解していました。だから今の条文のように無過失責任で残すか,それとも全部削除して債務不履行の一般法に任せるという選択肢で議論するのではなくて,過失責任化して強行法規化した堪航能力担保義務とするか,それとも規定は削除し一般的な債務不履行責任のひとつである安全配慮義務に委ねるということとの間の選択だと思っていました。そこの前提が違うようでしたら議論が変わってくることになるのですけれども,今言ったように考えた場合には,どちらがよいという強い意見はありません。ただ,この事務局のペーパーは,過失責任化してしまってということになると,余り存在意義がないのではないかという方向で議論されています。もしそういう説明をされるのであれば,国内海上物品運送における堪航能力担保義務というのは,どういう存在意義があるとお考えなのでしょうか。国際海上物品運送ならよく分かります。つまり,航海過失免責があるので,船が何かの形で航海中に何か失敗したというときは,原則,それは船長に過失があれば免責される。しかし,それで免責されるにもかかわらず,国際海上物品運送法5条の請求原因でいけば,4条2項の免責事由等と無関係に責任追及できる。だから存在意義がよく分かるのですけれども,国内の場合はそういう特殊な免責事由はない世界です。その場合,どういう意味を,物品にはあってこちらにはないと整理されているのでしょうか。 ○山下関係官 例えば,海運集会所作成の国内物品運送契約書式の中でも,航海過失免責に当たるような約定というのは存在すると思いますので,そこに対する反論という形で,堪航能力担保義務違反というのはあり得るのかなと思います。 ○藤田幹事 航海過失免責というのは,先ほどからの議論で,旅客について有効にできるという前提ですか。 ○山下関係官 旅客ではないです。物品運送の中では,商法739条のうち船主の過失免責について強行法規の規定が削除されることとなれば,そういう可能性というのは,国際と国内の平仄を合わせるという観点からは,あり得るのかなと思います。 ○山下分科会長 物品運送ではそういうことで,一応合理化できるわけですかね。 ○藤田幹事 物品運送について,航海過失免責みたいなものを認める世界があるときに,堪航能力について,やはり強行法規だという規律が一方であって,旅客については両方強行法規だから吸収されて要らないという整理ですね,いわば。旅客は注意義務の方も強行法規で,堪航能力も強行法規で,そうすると両方は競合してしまう。物品の方は,普通の過失のところについては,航海過失免責があるから,堪航能力は独自の存在意義があると,そういう説明ですね。 ○山下関係官 旅客の方で商法590条を強行法規とするかどうかは,正にこの分科会の議論の中で決める問題と思います。 ○藤田幹事 ここについて,もしこれが強行法規ではなくなると,堪航能力は,今度独自の存在意義があるから,こっちがまた復活してくると,そういう関係で理解してよろしいですか。そういう提案ですか。それがはっきりしなかったんですが。 ○山下分科会長 この分科会資料では,そういう論理的関係を前提とはしていません。 ○藤田幹事 ちょっとその辺の何か物品運送と対比した場合の論理的な整合性というのが,ちょっと十分つかめなかったもので,この存在意義がないからという理由付けだけで結論をここで出すことに非常に躊躇を覚えたものですから,その周辺を確認させていただいたということです。 ○山下分科会長 要するに,注意義務の方は過失責任を採って,仮にそれを任意規定として,その際にそれと別に堪航能力担保義務を負うこととするときに,これも任意規定なのかどうか議論の対象になるということでしょう。 ○藤田幹事 これは強行規定でしょう。物品についてすら強行法規なのですから。 ○山下関係官 特に堪航能力担保義務の規律を存置するという前提であれば,それを更に強行法規にするかどうかの議論はしていただく必要があるかなと思っています。 ○藤田幹事 物品について堪航能力担保義務は強行法規なのに,旅客については堪航能力担保義務が強行法規ではないというのは,ちょっと考えられない選択だと思います。その上で,もし先ほどからの議論で,旅客についての運送人の責任について,任意法規にするというのであれば,今度は物品運送の場合との差別化ができなくなってくることになります。ここの説明で書かれているような理由では,ちょっと説明が付かなくなってくるので,ちょっとその辺を固めていかないと,バランス論からの議論はできないような気がします。バランス論以外の理由で議論すれば,またちょっと話は違うのかもしれませんけれども。 ○山下分科会長 この説明というのは,堪航能力担保義務として言われていたような義務というのは,旅客運送に関するその旅客運送人の債務とは何かと考えていくと,やはり安全な状態で人を運ぶ債務だろうから,そこは堪航能力担保義務に当たるような義務も,そこへ当然含まれてきているのではないかという,そういう発想でできていると思うのですよね。だから,義務自体が重複するところがあるので,別に規定を置く必要があるのだろうかという問題意識なわけで,藤田幹事の考え方はそこはちょっとまた違う整理があるということかと思います。 ○藤田幹事 いや物品についても,きちんとした運送手段で運ぶというのは,やはり物品に関する注意義務からだと言えなくない。つまり,このような特殊な義務の全くない法制もあるんですね。ハンブルク・ルールズとかでは堪航能力担保義務なんか廃止してしまったわけですね。一般的なその物品に対する注意義務一本にしてしまって,堪航能力担保義務に相当するような義務については,とんでもない船舶を使ったら,それでやはり物品に関する注意義務を尽くしていないと判断するという枠組みで十分対処できるというルールなのですね。ですから,独自の存在意義というのは,特殊な免責事由がない世界ですと,物品だろうが旅客だろうが,やはり何か問われてもしかるべきものだと思うので,旅客については安全配慮義務があるから,堪航能力と初めて重複が生じるという関係ではないような気がすると私は理解していたんですけれども。 ○山下分科会長 ほかにいかがでしょう。その辺りの理解について,ほかに御意見はございますか。注意義務と堪航能力担保義務の関係について,物品運送のところでは余り細かく立ち入らず議論していたかなと思います。 ○松井(信)幹事 物品運送については,国際的には,運送品に関する注意義務と堪航能力担保義務,これが二つの別の義務として整理されているということが多かろうと思います。それに対して,旅客運送については,アテネ条約の規律を見るように,両者の義務が分かれて規定されたりしてはいないという理解で紹介されていると思っております。 ○藤田幹事 すみません,余りこれに立ち入りたくないのですが,アテネ条約は一定金額まで厳格責任ですよね。そんな世界で堪航能力なんて持ち出す余地がないのは明らかで,乗っていて事故が起きれば当然に責任を負うという世界なので,それはもう問題にする,もう出てくる余地は最初からない世界だと思います。   物品運送についても,ハンブルク・ルールは消えてなくなっています。伝統的に物品についての注意義務と堪航能力担保義務を分けて議論していたのは,やはり特殊な航海過失免責のようなものあるということ,そしてもう一つ言うと,堪航能力担保義務は元々は免責事由だったのですね。つまり航海中に堪航能力が欠けるようになった場合というのはもう免責する。しかし,最初から瑕疵があった場合は責任を負ってくださいよという義務だったので,物品についての注意義務とは全然別物ということになる。日本はちょっとそれとは違った形で今国際海上物品運送法は書いていますが,この運送品に関する注意というところで吸収して読めるか読めないかというと,論理的には読めるような話だと思います。ただし,特殊な免責事由とかその他の様々な法制との関係で特殊な効果を持たせるという議論があり得たという話なので,任意法規で一般的な注意義務で物品運送の法制を組み立てているときに,説明するとやはり多少無理が出てくる。先ほど言われたように免責特約との関係で性格付けるなら,まだ話は分かるんですけれども,そうではないとすると論理的かどうか分からない。これ以上,この場での議論を引き延ばすつもりございませんが,物品運送との違いについての説明は検討整理していただけないでしょうか。 ○松井(信)幹事 御指摘の点,検討はいたしますけれども,少なくとも1974年のアテネ条約は,厳格責任ではなくて過失推定から始まっており,船舶の欠陥という事情,これも堪航能力と必ずしも一致するわけではありませんが,これは運送人の過失を推定する事情の一つとされているにすぎず,過失推定責任とは別の特別な責任を定めているわけではありませんので,この点については,先ほど私が申し上げたとおりだと思っております。 ○山下分科会長 参考資料の外国の立法でもいろいろな規定の仕方があるようなので,なかなか整理は難しいところがあるのかなという気がします。   今日はいろいろ問題点が新たに出てきたように思いますが,今後検討する際に注意すべき点は,ほかにございませんでしょうか。よろしいでしょうか。 ○加藤参考人 ちょっと第1に戻って恐縮なんですけれども,先ほどから削る必要性というのもありましたけれども,なぜこれを削除するのか,そのやはり必要性というのが厳しく問われるべきという御意見もありましたけれども,同じような議論で,やはり議論の一番目の議題についても,なぜ片面的強行規定を入れるのかというその必要性についての議論が必要と考えます。今の約款制度があって,安全規定があって,それを超えてなおこういう問題が発生しているから,その発生している個々の問題についてこう対処しなければいけないからこういう規定が必要なんだ,そしてその規定は商取引だけを範囲とする商法の中で書くべきなんだというような,具体的な必要性が議論されるべきと考えます。現実にこれを入れた場合にはどういう不都合があるんですかというような質問が,先ほど座長の方から挙がりましたけれども,それは逆にいうと,そこに至る前の問題として,なぜこれを入れなければいけないのかという必要性を,まずはしっかりと検討した上で今後の議論を進めていくべきではないのかなと思うところであります。   特に,第一の議題については,他のサービスとのバランスの比較考慮というバランス論,第二の議題でも,海と海以外のサービスのバランス論,あるいは貨物と旅客のバランス論というのもあったろうかと思いますけれども,やはり商法全体を通して,ある程度のバランスを考えた上で議論していくべきではないのかなと思います。二番目の議論については,船だけを残す理由はやはり何なのかというのをきちんと議論して,船はほかとこう違うから,だから無過失責任なんでしょうという話なのか,あるいは例えば仮に過失責任に変更して船だけこれを規定するということであれば,なぜ船だけこの過失責任としてのこれが必要なのか,ほかのサービスではなぜ不要なのかと,こういう議論をきちんとやはり整理を付けた上で規定していかないと,正におっしゃるとおり,何かちょっと,でこぼこというような,ちぐはぐな規定になってしまうのではないかなということもございます。是非,一番目の議論について,なぜ今片面的強行規定が必要なのかという,実際問題としてこういう困った事例があるというのが,やはり何か議論する必要があるのではないか。二番目についても同じで,これを積極的に残すということであれば,船だけなぜこれが必要なのかという,やはりそこの必要性を同じく,もう少ししっかりと議論していく必要があるのではないかなと思うところであります。 ○山下関係官 今,加藤参考人からお話のありましたところで,船舶以外の運送人の方,若しくは消費者サイド,旅客サイドの方で,船舶以外にもこの堪航能力担保義務のような規定を設けるべきか否かという点について,御意見がありましたら頂戴できればと思うのですが。 ○塚越参考人 先ほどからいろいろ議論があるのですが,その堪航能力担保義務をもし適用するとした場合に,厳格責任という形であると,ちょっと今までの実務と大分変わってきてしまうのかなと思いますし,逆に普通の過失責任として,注意的に置くのであれば,それは別に今の義務とそう変わるわけではないので,それほど大きな影響はないかなとは思うんですが,ちょっと前提として,どういう形で置くのかというのが今一つイメージできないので,ちょっとこの場ではなかなか難しいかなと思います。 ○藤田幹事 これを今回決めるわけではないでしょうけれども,堪航能力担保義務――そもそも無過失だとすると担保義務という表現は適切ではないですけれども――として,物品運送に完全にパラレルな形の規定で残すことだけにこだわる必要も必ずしもないのかもしれません。確かに,旅客については,堪荷能力なんかに対応するところはうまく書けないというのはそのとおりです。やや,しつこくて申し訳ないですが,アテネ条約――1974年の条約でも――では,船舶の欠陥から事故が生じた場合というような規定は入っています。ですから,船舶の欠陥があるような場合について,それによって生じる損害というのを外出しするということというのは,旅客についてもあり得るのかもしれませんし,また全部吸収させるという考え方もそれはあり得るのかもしれません。ただいずれにしても,旅客運送に関する規定を任意法規としてしまうのであれば,少なくとも船舶の安全性ぐらいは強行法規として義務として課した上で責任を課すようなことは,考えてもおかしくないように思いますし,その場合,条文の書き方そのものは,物品運送の場合の堪航能力担保義務と完全に同じようなものではないように,その書き方を工夫し,ただし船舶の安全性に関する義務――ただし注意義務を尽くしたという反証を許す内容の義務ですけれども――そういった形でいくようなことが工夫される余地もあるのかもしれません。これに対して,旅客運送は強行法規として,そもそも免責を認めないとしてしまうと存在意義というのが薄くなるという御指摘は,その通りかもしれませんので,この種の特別の義務は認めないというのも,それはそれで一つの整理かなという気はいたします。 ○山下分科会長 ほかによろしいでしょうか。 ○松井(秀)幹事 戻ってよろしいでしょうか。本当に理論的な説明の仕方の点だけなのですが,先ほどの第1点の「旅客に関する運送人の責任」のところについてです。要するに,商法にこの強行規定を入れる場合,営業として行う者について,この強行規定がかかるという結論になるわけですね。この点について,今までなされてきた説明は,旅客の生命や身体は非常に重大な法益であって,これは保護する必要があるからだという方向の議論だったかと思います。このような議論の方向性自体は全く私も否定しませんし,結論において強行規定が入ることもあり得るのだと思います。ただ,以上の点に加えて,なぜ営業として運送を引き受ける者について強行規定がかかるのかという説明は,一言付け加えた方がいいのではないか,と思います。それは,たとえば利潤を追求する者については相応の責任を負うということなのか,あるいはまた別な説明がありうるのか分かりませんが,そういう営業との関連での説明があると,特に商法にこの種の規定が入ることの理由というのが説明できるのかなという感じがいたします。 ○山下分科会長 現状の商法という法典を前提に考えるのかどうか。商法の在り方自体をいずれ検討しなくてはいけないはずのところなので,そこを今の商法を前提に焦点を絞って考えていっていいのか,若干悩ましい点はあると思います。その点も併せて検討してもらおうかと思います。 ○田中幹事 船舶の運航者という立場で一言御意見を申し上げたいと思います。   本日御議論いただいているところは,現にある法律に対し,どのように規律を維持しながら,時代に合わせて変えていくのかということなんですが,船舶の運航をする立場からすると,その規律が商法なのか,あるいは船舶に関わる業法の中で決められていることなのかというのは,実際の実務では日常的には余り意識はしていないわけです。この商法の議論の中でも出てきました,例えば雇入れに関する文言などに関しては,商法にも規定がありますし,船員法の中にも規定がありますが,運航実務の中ではその区別は余り意識をせずにやってきているのが実態です。   ですから,今回議論になりますこの堪航能力担保義務について,船員の立場からすれば,堪航能力のない船に乗ることはあり得ないわけですし,ましてそこに旅客が乗るような船についての堪航能力は,一般の商船もそうですが,特に旅客運送に携わる船に求められるもの,規定についてはかなり厳格に決められてきております。ですから,それが元々商法にこういうベースがあって,実際の各業法といいますか,船舶安全法なり,設備規定とか,そういうところに事細かに決められているんだと,こういうふうに解釈をしています。ですから,例えば今あるルールが簡素化されてしまうようなものであれば困るわけですけれども,そうでない規律の文言変更であれば,特に問題ないと思います。   今一点,更に付け加えれば,現代においてはいろいろな輸送モード,輸送形態があるわけですけれども,やはり商法制定時には海上旅客運送というのは人が移動する手段としては非常に重要なものでありました。タイタニック号を始め,悲惨な事故というのが国際的にも大きな問題となりました。船舶は一旦,港を出れば,ある一定の期間,陸地に着くまでは,船の堪航性や船内での供食体制の維持など陸上ではあり得ないようなさまざまな状況が海上輸送においてはあったという,歴史的な背景が現在も規律として残っているのだろうと思います。技術的な革新はいろいろありますけれども,やはり海の上を走るということは気象海象で陸上では想像ができないような状況に遭遇するということは,今もってその船舶においてはあり得るということを前提に是非その点も法整備の中で御考慮していただければ幸いです。 ○山下関係官 田中幹事からの,海の危険というのは陸とは違って存在するという御意見につきましては,堪航能力担保義務の規律を存置するという話にもつながるのかなと思うのですけれども,ところで,河野参考人におかれましては,陸上ないしは航空においても同じような規律を設けるべきというお考えまでお持ちなのかどうかをお聞かせいただければと存じます。また,陸上と航空については,今,商法上の規定はございませんけれども,新たに置くとした場合には,どういう内容の規定がよいとお考えなのか,もし御意見があればお聞かせいただければと思います。 ○河野参考人 私たちが運送人の方と契約をして移動することにおいて,使うモードといいましょうか,乗り物が,そもそもきちんとしているということが全てのモードにおいて基本的には大前提だと思います。ですから,ここの海上旅客運送に関する特有の規律として堪航能力担保義務と書かれていますが,ここで言われていることは,利用者側からすると,全てのモードにおいてこれはあってしかるべきだと感じています。ただ,今,お話にあったように,これができた当時からすれば,こういうふうな形で商業的なその移動に関してはこういうふうな保証がされている。ですから,これがあるからこそ,そのほかのモードでも大前提として,様々なその業法でこれと同等のことが保証されているのではないかなとは感じているところです。   どこで規定するのがいいのかというのは,何とも言えませんけれども,この一番大きなところにこれが書かれていることの意味というのが,古くなったからもうこれはいいだろう,ほかでも代替できるからこれはいいだろうというふうなところでは,そうですかというふうな簡単な理解に行かなかったので,今回はですね。いろいろやはり専門家の先生方の現在の解釈というのは私も尊重すべきだと思っておりますので,ただただこれを維持してほしいというわけではなくて,今御指摘があったというか,御質問があった他モードとの関連も含めて,こういうふうなことをどこでどういうふうに今後考えていただけるかというところを,専門家の先生方にある道筋を付けていただきたいと思っているところです。 ○田中幹事 ちょっと付け加えたいのですが,私の意見としては,この第2の規律を維持すべきという意見ではございません。要するに,それをなくすことの影響,それから残すことの影響というのは,商法以外の他の業法も含めた全ての法律の中でどの様に実務に影響を及ぼすのか法律的な知識を持ち合わせていないので,いわゆる海上実務の実情として御意見を申し上げたわけであり,この規律は残すべきだとか,なくすべきだということの意見ではございません。 ○山下分科会長 よろしいですか。   ほかは,よろしいですか。今日は,二回目の議論で,問題点がどういうことかということについて大分議論が深まってきたのかなと思います。なお,第1,第2とも,事務当局において次回に向けて検討いただこうと思います。   それでは,今日予定していた審議は以上のところでございます。   次回の議事日程につきまして,事務当局からお願いいたします。 ○松井(信)幹事 次回の日程は,12月24日水曜日,午後1時半から午後5時半までとなっております。場所は本日と同じく,法務省20階の第一会議室でございます。   次回におきましては,旅客運送の全般に関する中間試案のたたき台を事務当局から御提示したいと思います。今日のようななかなか難しい御議論もございますので,どのような案が適切なのか,両論併記が適切なのかそうでないのか,その辺りも皆さまの御意見を踏まえながら考えて参りたく,そして,可能であればその取りまとめということに至れば結構ですし,難しければ1月28日の予備日という形になろうかとは思っておりますが,どうぞ,よろしくお願い申し上げます。 ○山下分科会長 それでは,そういうことでよろしくお願いいたします。   本日はこの審議はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。 -了-