法制審議会 民法(債権関係)部会 第96回会議 議事録 第1 日 時  平成26年8月26日(火)自 午後1時03分                      至 午後5後40分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案(案) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○鎌田部会長 法制審議会民法(債権関係)部会の第96回会議を開会いたします。本日は御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,山下友信委員,大村敦志幹事,岡田幸人幹事,道垣内弘人幹事,餘多分弘聡幹事が御欠席であります。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 本日は,事前送付資料として部会資料83-1と83-2をお届けいたしました。また,委員等提供資料といたしまして,中田裕康委員から「部会資料83-1に関するコメント」を頂いております。それから,これは弁護士委員・幹事の御紹介ということになろうかと思いますが,弁護士11名の方の連名による意見書が提出されており,それも机上に配布させていただきました。 ○鎌田部会長 本日は部会資料83-1について御審議いただく予定です。具体的には,休憩前までに「第1 公序良俗(民法第90条関係)」から「第25 更改」までについて御審議いただき,午後3時30分頃をめどに適宜,休憩を入れることを予定いたしております。休憩後,部会資料83-1の残りの部分全部について御審議いただきたいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,部会資料83-1の「第1 公序良俗(民法第90条関係)」から「第5 無効及び取消し」までについて御審議いただきたいと思います。本日も事務当局からの冒頭の説明は省略させていただき,直ちに議論に入りたいと思いますので,よろしくお願いします。どうぞ御自由に御発言ください。 ○潮見幹事 「錯誤」について発言をさせていただきたいと思います。   2点ございます。   1点は,「錯誤」の(1)の柱書,これは要素というものを,「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」というように,変更するものと見ました。この間の,例えば契約の解除のところにおける重大不履行だとか重大契約違反だとか,そのような場面では,新しい概念に置き換えることに対する警戒あるいは批判というものが数多く聞かれました。そうした中で,今回,要素の部分については,この種の言い換えをされています。しかも,その内容というものは,従来,判例法理が言っていた,これは説明の中にもございましたけれども,主観的な因果性と客観的な重要性というものを前提としながら,こういう文言をお使いになられているというところについて,正直言って驚がくいたしました。   しかし,この時期に及んで,しかもこういう言葉を選択したということは,分かりやすさと法制執務上の様々な要因を考慮に入れてのことではないかと思います。そこで,確認の第1点目ですが,この新しく採用された言葉で,従来の学説と判例が展開し,確立してきた先ほど申し上げました主観的因果性・客観的重要性の公式が,何ら変更されるものではないということを明言していただきたいと思います。どこまでそれに意味があるかは分かりませんけれども,しかし,この場としてはそのことを是非確認していただきたいなと思います。要するに,要素に関する従来の判例法理が採用している判断枠組みというものの変更を意図しているものではないと。従来の解釈がそのまま今後もこの概念の下で展開されるのであるということを確認していただきたいという意味であります。これが1点です。   それから,2点目ですが,動機の錯誤で,不実表示型のものが落ちたというのは残念です。正直言って残念です。しかしながら,それはちょっとおいておくとして,この(2)の「(1)イの錯誤による意思表示の取消しは,当該事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる」という,この部分について確認をさせていただきたいと思います。正直言いまして,これもそのまま読めば,法律行為の基礎,行為基礎を表示すれば,即,錯誤の取消しが認められると読めます。表面だけ読めば,そう読まれる可能性があります。動機といいますか,行為基礎を表示さえすればよいというわけです。もちろん,要素のチェックは入りますが,そのようなふうに読み取られるのではないかという懸念を禁じ得ません。行為基礎事情についての認識というものを表示しただけで,錯誤の効力が否定されるということについて,経済界は懸念を感じないのかと勝手に心配もするような気もしないではありません。しかしながら,これもいろいろな考慮があって,このような文案にしたのではないかと思います。この期に及んではもうどうしようもないのかもしれません。同じようなことは第二次案のときにも少し確認をさせていただいたんですけれども,第二次案と今回の第三次案で文面,表現が違っておりますから,この第2点目に関して,さらに,改めて2点,確認をさせていただきたいと思います。   1点目は,先ほどの第二次案の場合と同じように,動機錯誤に関する判例法理を明文化するために,このような表現方法を選択した。あえて言うならば,現民法の95条の下での動機錯誤に関する判例法理というものが,(2)の今申し上げました要件のところでも,今後も妥当するのかということです。要するに,判例法理に変更はないということを確認させていただきたいし,それと併せてですけれども,そうであればということになりますが,判例法理が一体どこにあるのかというのは,この間の部会でもいろいろな御意見があったように,それぞれの先生方によって見解の相違があるようですけれども,ここに言うところの,(2)に言う「表示」というものが意思表示を意味するということについては恐らくほぼ異論はないのではないかと思います。   そうなると,第2に,「表示されていた」となっていますが,この部分の解釈として,従来,例えばいわゆる法律行為の内容化論だとか合意,内容論化とかいろいろ言われているような解釈,つまり,現在の判例法理の下での解釈というものが,(2)の文章によって否定されているのではない。現在の動機錯誤に関する判例法理,そしてそれを説明するための理論というものが,(2)の下でも承継される。それが否定されるものではないということを確認させていただきたいと思います。 ○鎌田部会長 それでは,事務当局からお願いします。 ○筒井幹事 まず,1点目ですけれども,「2 錯誤」(1)の柱書について,従来の主観的因果性と客観的重要性といった2要件について,それを変更するような意図の下に今回の案文を提示したわけではございません。その点については,従来の解釈を踏まえて,かつ,前回の議論の中でも,要素性においては,2要件以外の規範的評価を読み込んでいた面もあるのではないかといった御指摘もございました。そういったことを踏まえた上で,最終的な条文に近づける観点から関係当局との協議を重ねて,今回このような案文を御提示したということです。1点目のお尋ねについては,従来の解釈の積み重ねを修正する意図は持っていないということです。   それから,(2)につきましても,今,潮見先生から御指摘がありましたように,基本的に判例法理を忠実に明文化するという趣旨でこれまで議論がされてきたと思いますし,その方向で案文を考えてきたわけでございますが,何をもって判例法理と見るかといった点については,これまで様々な議論をこの部会で重ねてきました。そういった議論の到達点を踏まえながら,それを案文として御提示したつもりです。仮にこのような改正がされた場合に,今後はこの文言を前提として,更に従来展開されてきた学説上の議論がまた展開されていくことになるだろうと思いますし,そのような学説の発展について,一定の考え方を否定するような意図で文言を選んだりはしていないということです。 ○山本(敬)幹事 同じく「錯誤」について,まず,質問をさせていただければと思います。(1)及び(2)についての今の潮見幹事の御質問については,私も同様の危惧を感じましたので,聞きたかったところですけれども,今のお答えで,ひとまずはそういうものかと理解しました。   ただ,その上でなのですが,(2)について,「当該事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り」という文言が今回選ばれています。これまでの様々な議論の経緯を踏まえて,言わば落ち着きどころとしてこのような案が提示されているということは,理解しています。ただ,理由を見ましても,これまで出ていた様々な案に賛成する意見もあるけれども,問題を指摘する意見もあるということは指摘されているのですが,(2)のこの表現の積極的な理由は,必ずしも十分に挙げられていないように思います。つまり,「当該事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り」,取消しを認めるとする理由はこうなのであるというものが示されていませんと,今後,解釈を考えていくに当たっても,手掛かりがあるません。   本来ならば,この理由付けに当たるものは,この審議の場で更に検討を積み重ねなければならないところですが,この最終の段階でこのように示されていますので,十分な議論ができません。しかし,その点について何の確認もないまま,これで通ったとなりますと,一体何がそれで意図されていたのかということが分かりにくいと考えられますので,まずはその点を確認させていただければと思います。お答えできる範囲で結構ですので,お願いしたいと思います。 ○脇村関係官 (2)の表現ぶりにつきまして,これを採用した理由としては,なかなか難しいところもあるんですけれども,趣旨としましては,先ほど筒井幹事からもお話がありましたとおり,現在の判例の明文化を何とかしていきたいと。ただ,その判例の理解については,従前から議論があり,いろいろな御意見があると思いますので,そういう意味で,補足説明等ではそこには深く立ち入らない形で書かせていただいたということでございます。趣旨としては,何とか判例の明文化をしたい。判例としては,動機を言っただけでは足りないので,そのプラスアルファが何か要るんだということを,何とかそこを表現しつつやっていきたいなということで,このように書かせていただいたというところでございます。 ○山本(敬)幹事 この新しく提案されている文言を見ますと,「当該事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」とありまして,この「法律行為の基礎」とされているというのは,ドイツ法で行為基礎と呼ばれるものに当たるように思います。行為基礎に関しては,部会資料にもありましたけれども,ドイツ民法の313条の1項が日本法で言う事情変更に当たるものですが,2項が共通動機錯誤に対応する規定でして,主観的行為基礎に関する規定です。   それについて,ドイツ民法では,この契約の基礎になった本質的な認識が誤っていることが明らかになったとしても,効果は事情変更に当たるものに合わせますので,ドイツだと契約の解除と改定に当たるものなのですが,それにさらに要件を付け加えています。つまり,表示者の認識を相手方が認識することができたのに異議を述べなかった場合,又は相手方も同じような認識の誤りを有していた場合に,契約の拘束力からの解放を認めると定めています。   それと対比しますと,この(2)は,卒然と読めば,表意者の方が表示したことのみをもって取消し可能性を認めている。主観的行為基礎に関する一方的錯誤で,一方的な表示で取消しを認めているかのように読めるのは,少なくとも理由を示す必要があると思います。その理由が,今の脇村関係官からの説明にありましたように,従来の判例法理を何とか明文化しようとしたようなものであるというもので,積極的な理由が挙げられない。私も,そのような理由はやはり挙げられないのだろうと思うのです。   というのは,表意者が一方的に表示しさえすれば取消しを認めるのはおかしいのであって,表示して,相手方が何も異議を述べないときには,それを行為基礎とすることが了承された。だからもう取り消せないものとする。あるいは,相手方も同じような認識の誤りを持っていたのであって,その意味で両当事者にとって共通の基礎になっている。だから取り消せない。これは納得がいくものだろうと思います。そして,従来の判例法理を見ても,そのような観点から無効が認められていたとみることができる。それが,これまでの案で意思表示の内容になったという要件が挙げられてきたときに念頭に置かれていたことだと思います。   他方で,今回は取り上げられませんでしたけれども,相手方がこの認識の誤りの原因を作っているような場合は,相手方の方が異議を述べるのもおかしな話ですので,そのような場合は当然,拘束力からの解放を認めるというものではないかと思います。   このようなことを今後,解釈によって,この文言の下で読み込んでいかなければならないことになります。しかし,この文言の下での議論はこれまでしていませんので,そのような解釈のための手掛りが明確に示されているわけではないと思います。今申し上げたとおりになるかどうかは別として,このような解釈を今後していかなければならない。この文言では解釈に委ね過ぎではないかと思いますけれども,そのような問題があるということを強調しておきたいと思います。   先ほど潮見幹事から,経済界の方がこれで本当に大丈夫かというパターナリスティックな指摘がありましたけれども,私も同感です。表意者の方がこれを法律行為の基礎とすることを表示しているときに,相手方はどうすればよいのでしょうか。表示されてしまうと,取消しが可能になってしまうかのように見える。どうすればよいのかというと,やはり異議を述べなければならないのでしょう。そのままにしてはいけない。異議を述べない以上は,了承したものとみなされてしまう。そのような形で解釈が行われるのではないかと思います。ただ,黙示の表示でもよいとなってきますと,本当にそのような機会があるのかなど,難しい問題が生じてくるようにも思います。   少なくとも,この案でこの場は通るのかもしれませんけれども,そのような問題をはらんだものであるということは,やはり理解した上で決定すべきだろうと思います。 ○佐成委員 私が経済界を代表するような意見を述べる立場ではないんですけれども,経済界にはここについてはいろいろ懸念があり,私もこれまでかなりいちゃもんを付けてきて,いささか忸怩たる思いを感じております。ですけれども,おっしゃることは十分理解しておりまして,表示さえすれば要素の錯誤を認めてしまうということは,取引の安定に非常に影響を及ぼすということは十分理解しております。その意味で,先ほど潮見幹事の方から事務当局に御説明を求められたとおり,従前の解釈といいますか,従前の判例法理の解釈が,文言の変更によって変わらないというようなところがきちっと説明されていくということが必要であり,そうされていくのであれば,この部分に関しては,懸念もあるとは思いつつも,経済界としては特段異論を現時点では述べてはいないというところかと思います。   ただ,一般的に我々は,文言の変更についてもかなり慎重で在るべきだということは,繰り返しパブコメなどでも述べておりますし,この部会でも山野目幹事の方から出ておりました「立法の震える手」というようなことにも賛意を申し上げております。ここでは要素という言葉の置き換えもございましたし,そういったところについては慎重で在るべきだということは繰り返し述べておるのは,正にそういった懸念が内在しているからだと思っております。御指摘を踏まえて,十分更に検討していきたいと思います。ありがとうございます。 ○鹿野幹事 既に指摘されたところも含めて,3点申し上げたいと思います。   まず第1点は,今回,惹起型の錯誤が明文では落とされたということについては,私も,とても残念に思います。言うまでもなく,従来の裁判例で錯誤無効を肯定したもののうち,かなりのものが,相手方が表意者の錯誤を惹起するような何らかの行為をした事案に関するものであり,裁判例では,そのような相手方の行為があったことも踏まえて表意者の錯誤無効の主張を認めているものが多いと分析しておりました。もっとも,従来の判例では,そのような考慮は,動機が表示された,あるいは表示されて意思表示ないし法律行為の内容になったという,そういう枠組みの中で行われてきたのですが,これを今回,従来の文言では分かりにくいということも踏まえて,新たに類型化して,これを条文上明確化しようという試みがなされていたものと私は認識しておりました。今の段階で蒸し返すようなことはあえて申し上げませんが,このような試みがありながら,今回,この提案が落ちたこと残念です。もっとも,それは,従来の判例法理を否定するわけではないという御説明でしたから,今回の案で言うと,(1)のイおよび(2)のいわゆる動機の錯誤に関する新たな定式の中において,これを含めた解釈が十分可能ということだと考えております。これが第1点です。   それから,第2点は,先ほど来,潮見幹事,そして山本敬三幹事からも御指摘があったところですが,(2)のところで,動機の錯誤の法的顧慮が最終的に表示の有無に依拠することとされ,あたかも表意者が動機を相手方に告げたか否かが基準であるかのようにも見える文言が使われている点で,この新たな定式自体にも疑問があります。従来の判例においても,表意者が自らのいわゆる動機を相手方に告げたという,その告げるという行為だけで,錯誤無効を認めるという判断がされてきたのではないと思いますし,むしろ「表示」という言葉が,判例においては規範的概念として用いられてきたものと思います。裁判例には,「表示」それ自体を規範的に捉えているものもありますし,あるいは表示されて法律行為の内容になった,あるいは表示されて意思表示の内容になったという一節を一体として捉えているものもあるように見えますが,いずれにしても,その規範的な評価を通して,表意者が自らリスクを負担するべきところの単なる一方的な動機の錯誤にとどまらず,それと区別されてリスクの転嫁を正当化できるようなものをくくり出し,それにつき錯誤無効を認めるという作業がここで行われてきたのではないかと私自身は認識しておりました。   表示という言葉をここに残すことは,分かりやすさの点からは問題だと思いますが,従来の判例の文言をできるだけ変えないようにしたという御説明がありました。そうしますと,ここでの表示は,先に示した判例の整理によると,単に相手方に告げたという事実を意味するのではなく,評価を要する規範的概念としての意味合いを持つものとなりましょうし,少なくともそのような解釈の余地を持つ概念として置かれるのだと私は理解しています。   更に言いますと,(2)では「表示されていたときに限り」とされてはいますけれども,「法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り」という表現ぶりが用いられていますので,これについては,従来,動機が表示されて法律行為の内容になった,あるいは表示されて意思表示の内容になったと判例で言われてきたことを,今回ここにこのような形で書かれたのだと理解できるものと思います。   最後に,3点目は,今のところとも関連するのですが,(1)のイについてです。(1)のイでは,「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反するもの」とされています。文言を修正するという提案がこの段階でどこまでできるのかは分かりませんが,これを例えば「法律行為の基礎とされた事情についての表意者の認識が真実に反するもの」というふうに変えることはできないだろうかと考え,改めて提案させていただきたいと思います。   というのは,(2)の方では,「法律行為の基礎とされていることが表示されていた」とされており,ここでは,必ずしも表意者側だけの問題ではなく,当該法律行為において基礎とされていると評価できることを指すものとの解釈が可能であるような文言があえて使われていると思うのです。そこで,(1)のイも,(2)の言葉に若干近づけまして,「法律行為の基礎とされた事情についての表意者の認識が」と変えるという程度なら,受け入れられる余地があるのではないかと思い,これを提案させていただいた次第です。   以上,3点申し上げました。 ○脇村関係官 特に3点目の表現のことについては,条文化あるいは最終要綱案の前までに,もう一度整理させていただきたいと思っています。その際に先生の今の御意見を踏まえて,検討させていただきたいと思っております。 ○内田委員 錯誤のワーディングについていろいろ御意見が出たのですけれども,二つ申し上げたいと思います。まず1点目は表示についてですけれども,これはこれまでも部会で随分議論されたことで,判例は一貫して動機の錯誤を表示するということを言葉としては要求してきたわけです。それを入れるべきであるという御意見が強くこの部会であったので,この表示という言葉が使われている。ただ,表示したときではなく,されていたという受け身表現になっているのは,表示したという主体的な行為だけではなくて,もう少し客観的に表示されていたと認定できるというようなニュアンスを含めようとしたのだろうと思います。それは結局は相手方からそれが見えるということなのだと思いますので,その点では山本敬三幹事の御懸念にもある程度対応しようとしている表現ではないかと思います。   それから,もう一つは法律行為の基礎ですけれども,この部分は従来は意思表示の内容とか法律行為の内容という表現が使われていて,それに対しては,法律行為の内容という言葉の場合が特にそうですけれども,合意の内容とどう違うんだということが随分この部会でも議論され,合意の内容と読めるのだとすると,狭過ぎるではないかということで,部会の中では法律行為の前提としたという表現ではどうかという御意見もあったわけです。そういった御意見を踏まえて,前提ではなく基礎という表現を使って,しかし趣旨としては,意思表示の内容としたという言葉で表現されていたことを表そうとしたのだと思います。   ですから,これまでの判例法理の明文化を目指したということは全くそのとおりで,表現も判例法理で使われているワーディングについて生じていた疑義を回避するために,やや異なった表現を用いたということだと思います。いずれも新しい表現なので,その点については部会で更に議論すべきなのかもしれませんけれども,これまでの審議の結果を踏まえて選ばれた言葉だということですので,実際の条文にするための作業はまだこれからあると思いますけれども,取りあえずはこういう表現で部会の成果が表されているのではないかと私は思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○岡委員 3点申し上げます。   1点目は,表示という言葉について,第一東京弁護士会及び日弁連のバックアップの大勢は好意的な評価でございました。敬三先生が表示されたら即取消しにつながる理由が示されてないというふうにおっしゃいましたけれども,やはり表示されて,相手方が認識あるいは認知可能になっているとすれば,取消しても相手方にそう不意打ちにはならない,不利益にはならないだろうという,相手方の利益を勘案するための用語ではないかと思います。そのように解釈,今までもされてきたと思いますし,これからもそういうふうに,判例も黙示的表示を認めているわけですから,鹿野先生がおっしゃったように表示をうまく解釈すれば,今までの判例を基に発展させていけるのではないかと,このような意見が多うございました。   それから,2点目は,この事情についての質問でございます。イのところで,法律行為の基礎とした事情,これを平成元年の財産分与の税金の事例について当てはめたときに,どっちになるのかという質問です。二つ選択肢がありまして,税金が掛かるかどうかというのが事情だと。もう一つの考え方は,税金が掛からないという認識が事情とするものです。認識まで入った言葉にするのか,この二つのどちらかということを教えていただきたいと思います。2のイだけ読めば,ここに言う事情というのは,税金が掛かるかどうかというのが事情であって,それに対する認識が間違っているというふうに素直に読めますが,その場合,(2)に持って行くと,税金が掛かるかどうかが法律行為の基礎とされていることが表示されていればいいとなります。誤認していることの表示は要らない,税金が掛かるかどうかということが,基礎であるというふうな表示が認められれば,錯誤取消しが有効になると。このように読むのですかという質問です。その場合にはちょっと広くなって,大丈夫かなという心配はあります。他方,法律行為の基礎とした事情というのは,税金が掛からないという誤った認識だとすれば,(1)のイは非常に読みづらくなります。その代わり,(2)は,税金が掛からないという事情が法律行為の基礎とされていることが表示されているときに限りと言って,すんなり読めると思います。微妙なところですが,どっちを意図しているのかを御説明いただきたいと思います。   それから,3番目は,相手方惹起型の不実表示といいますか,動機の錯誤が落ちたのは,弁護士会も残念であると,遺憾であると,そういう意見が相当強うございました。これについては,ここまで来ていますので,今回は諦めるとしても,3年後か5年後か10年後の次回改正のときに是非導入していただきたいという意見でございます。   2番目の質問をよろしくお願いします。 ○脇村関係官 お答えとしては,先ほどの所得税,税金が掛かる掛からないという前提で考えますと,表示者が税金が掛からないということを基礎としてということで,掛からないということを基礎としているということを表示するということを念頭に置いております。この点を補足説明の2で,少し触れているところでございます。答えとしては,掛からないということを基礎としていることを表示するということになろうかと思います。 ○岡委員 そうだとすると,(1)のイは,「表意者が法律行為の基礎とした事情が真実に反するもの」と,こう書けば,今の主旨がはっきりするかなという気はいたしますが,どうでしょうか。 ○脇村関係官 確かに,今,先生がおっしゃったとおり,それも考え方としてもあると思いますが,今回は,やはり錯誤というものを書くことからすると,認識を入れた方がいいのではないかということも併せて考えて,このような書き方にさせていただきました。ただ,先生から今御指摘いただきましたので,条文化の際にはもう一度,趣旨としては先ほど述べたとおりですので,それをより分かりやすく表現できるものがないかをまた考えていきたいと思います。 ○山本(敬)幹事 先ほどの点,特に事情の中身に関する理解は,脇村関係官がおっしゃったような方向で考えるべきではないかと思います。文言は別として,その方向でよいのではないかと思います。   ただ,岡委員がおっしゃった1点目に関してですが,表示のみに着眼しますと,おっしゃるように,表示されていて相手方が認識可能になっていれば,相手方にとって不意打ちにならないという説明がある程度可能で,学説でも,我妻先生のような考え方ですと,そのように言えるのですけれども,判例法は,表示だけではなくて,意思表示の内容ないしは法律行為の内容になっているという要件を付け加えてきました。そこまで考えますと,相手方の不意打ちにならないということが問題なのではなくて,やはり表示されて,先ほどのような言い方をするならば,表示されていて分かるのであれば,異議を述べなければならないのに述べなかったということは,了承したと見られても仕方がないという説明でないと,従来の判例法を全て説明することはできないのではないかと思います。一つの立場としてはあり得ると思いますけれども,今回の案が今のような考え方でできていると言われますと,私は違うのではないかと思います。おっしゃるような理解ですと,判例法の変更になってしまう側面がありますので,判例法を変更するものではないという先ほどの事務局側からの説明とそごを来すのではないかと思います。 ○松本委員 私は,従来の動機錯誤,そして今回のその判例を文章化したとされている,表意者が動機のレベルにおいて一方的に錯誤に陥っていても,それを表示していれば取り消せるというルールよりは,相手方の働きかけによって動機錯誤に陥った場合に取り消せるとするルールの方が,取引は安定すると思っております。したがって,経済界として,今回の案の方がよくて,不実表示の方がよくないと主張されていることは,既に何人かの方が指摘されておりますけれども,私も理解に苦しむところでございます。   ただし,今度は消費者保護を担当しております組織の代表として言わせていただきますと,消費者紛争の場合には,過大な期待を抱かされて契約をするという形のトラブルが大変多いわけです。それを錯誤でもって解決しようとする場合を考えますと,今回の案は,従来だと明文の規定がなくて,動機の錯誤という一般論でやっていたことに比べると,法律行為の基礎が表示されていれば錯誤取消しを主張できるということが明確になるので,被害救済のために使える一つのツールを提供するものになるのではないかと思っています。これは実際の紛争処理の場でどういうふうに活用するか次第ですけれども,そういう可能性を与えるものではないかと思いまして,不実表示がなくなったのは残念ではありますが,この法律行為の基礎の錯誤の法理を消費者取引の面においてうまくいかしていけば,不実表示に代わるような機能を発揮させることもできるのではないかと思っております。 ○鎌田部会長 ほかの点についても,ほかのというのは錯誤以外のものについても御意見があれば,お出しを頂ければと思います。   よろしいですか。 ○中井委員 同じく「錯誤」の(2)の部分です。表示されているという事実的記載になっていることは否めません。鹿野幹事からもそういう御示唆だと思います。評価的に考えるべきだというところから,ここでワーディングを言うのはレベルの低い話なのかもしれませんが,「表示されていたとき」という事実的な記載よりは,「表示されていたと認められるとき」というような表現ぶりにすることによって,この表示の中に相手方の認識若しくは相手方が異議を述べなかったことまでを読み込む可能性を否定しないことになりませんか。ほかでも,「認められるとき」という言葉が定型約款などにも出てきますが,そういう表現ができないかと感じました。   弁護士会の中に,先ほど岡委員からもありましたが,好意的に受け取っている意見があるのは事実です。これは,法律行為の内容になっているという原案に対して,狭過ぎるという意見が強く出たことから,表示を入れてほしいという意見が多かったわけですけれども,なお山本敬三幹事や潮見幹事のおっしゃるように,やはり表示だけでは足りないのではないか。相手方が認知可能で,それを了解することが必要ではないか,それを何らかの形で明らかにすべきという意見もあることを含んでおいていただきたいと思います。したがって,従来の考え方を変えるものではないということは,弁護士会もそのように理解しているということを付け加えておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。   よろしければ,「第6 条件及び期限」と「第7 消滅時効」について御審議を頂きます。御自由に御発言ください。   よろしいですか。 ○中井委員 これはほかの場面でも申し上げるべきことかもしれません。原案の審議を経て,仮案として83-1をまとめていただいたわけですが,停止条件,解除条件が全て削除になっています。そのほかにも部会で一応合意をして,それは分かりやすさの観点からも,こういう定義的な規定,原則的な規定を置いた方がいいのではないか,そういう形で幾つか整理をした規定が,理由としては,ここまで詳細に書く必要はない,定義的な規定だから要らない,若しくは原則的な規定だから要らないという形で削られている。しかし,それはこれまでの審議の経過からすれば,違うのではないか。どこでどうして突然にそういう形で方針が変更されたのか。この法案が成立した後,国民がこの部会審議の経過を見ても,82までの資料と83の資料とで,急に変わっている。その原因は何だろうか。審議会での審議を十分に反映したものと言えるのか,という疑問を生じさせるのではないかと思います。そういう意味で,幾つかこの削除された部分については,なお検討の余地があるのではないかと思います。   ここでは,その例として,停止条件と解除条件について全文が削除になっていますけれども,なぜそうなのかということをやはりお聞きしたいと思います。この停止条件のところなら,部会資料79-1のかぎ括弧の中にあるものをそのまま書き下す等の方法でも,条文化することができるではないか。今さらとやかく言うのは,この一月余りの事務当局内部における検討を踏まえると,困難なのかもしれませんが,もう一度,当初の考えに戻って,82-1までの原案を何とか尊重できないものかと思うものです。 ○筒井幹事 御指摘いただきました停止条件あるいは解除条件という言葉の意味を括弧書きで書き足していた部分について,今回の案で削除するに至った点については,前回会議で第二次案を御提示したときにここに網掛けをしていたところから御推測いただけるかと思うのですけれども,最終的に内閣提出法案として国会に提出するのに必要となる関係当局との協議の中で,民法中の他の規定とのバランスを考慮し,それから元々,停止条件については,現在の規定でもその意味内容が,定義という形ではないにしてもある程度は書き表されていること等を考慮すると,このような規定を設ける必要性や合理性についての十分な説明がされていないのではないかといった指摘を受けました。同様の指摘を受けたところは多々あるわけですが,これまでの部会での議論の蓄積を基に説明を試みて,理解が得られたところも少なくないのですが,ここについては説明が不十分ということであり,我々としてもその指摘を受け入れて,これについて削除する案を今回お諮りしたということです。   部会での審議の過程に反するのではないかという御指摘は,なかなか厳しい御指摘ではありますけれども,究極的に内閣提出法案を目指す場合に必要なプロセスとして,そういった関係機関も含めて合意形成の上で法案として提出されていくのだといったことも踏まえて,御理解を頂ければと考えております。 ○能見委員 今の点に関連してですが,今回,民法典といいますか,債権法の改正をするときの一つの基本的な考え方は,一般の方も読んで分かるような,分かりやすい民法典にしようということであったと思うのですが,そういう立場から,先ほど問題となったような分かりにくい言葉などについては,定義規定のようなものですけれども,そういうものをあえて入れてきたのだと思います。この部会ではそういう立場から,必要と考えられる定義規定的なものも認めていこうということだったわけですが,そのような民法に対する基本的な考え方が,はっきり言うと,内閣法制局等によって理解してもらえないというところが問題であると思います。内閣法制局も従来の法律を審査するような視点で今回の民法改正を審査すると,どうしてもこれは今まで民法にない規定だからとか,そういう定義規定は民法になかったからということで,これら定義規定などがはねられるわけですけれども,そこは何か基本的な考え方を変える必要がある。ここで,この法制審議会で言ってもしようがないのかもしれませんが,本当は,内閣法制局も考え方を変えてもらわないと困る。法制審議会のこの場においても,そういうことを強く言った方がいいのではないかと思います。   確かにこれまで民法中には定義規定は少ないのですけれども,会社法などでは,形は違いますけれども,法典の冒頭でたくさんの定義規定を入れているわけですよね。これなくしては会社法が使えないぐらい重要な定義規定なわけで,民法の場合はそこまでの必要性はないかもしれませんけれども,必ずしも要件と効果を規定したものではないが,民法を理解する上で必要な考え方を明らかにしていたり,定義をしていたりする規定を設けて,民法典を読む一般の人が分かるようにすることが必要ではないかと思います。今の段階でどのようなことができるのかわかりませんが,民法を一般の人が読んで分かる法律にしていくことをなお追求できるんであれば,してもらいたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○松岡委員 同じことを感じております。諮問の中では,国民に分かりやすい民法にすることが大きな柱だと思います。法制審議会のこの部会の議論ではそういう方向を目指してきました。最終盤で法制技術的な観点から,解釈で読めればいいとして定義がなくなったり読みにくく変わったことは,その諮問の基本的な方向からするとおかしいと思います。元通りにプロ向けの民法になってしまった点は遺憾なので,能見委員もおっしゃったように,この場でこういう意見を述べてももう間に合わないのかもしれませんが,法制審議会の委員として強くそのように感じていることだけは発言させていただきます。 ○鎌田部会長 ありがとうございます。 ○中田委員 ほかのところで申し上げようと思っていたんですが,ただいまの御意見と共通しますので,ここで申し上げます。本日配布していただきました私のコメントの6ページに同趣旨のことが記載してございます。ただ,ここでは絞ったものですから,停止条件等については触れておりませんし,定義規定の場合にはどこまで書くかという選択の問題があり,余り詳しく書くと硬直的になってしまうという問題もありますから,一つずつ考えるべきだと思いますが,全体としてはここに書いたようなことで,ただいまの能見委員,松岡委員の御発言の基本部分について,全く同感です。 ○松本委員 定義規定を置くか置かないかの問題のもう一つ手前に,停止条件,解除条件というプロにとっても大変分かりにくい言葉をこの際変えた方がいいのではないかということを,私は確か第一ラウンドで申し上げました。定義を付ければ,定義を付けないよりは分かりやすくなるかもしれないけれども,やはり定義を付けなくても分かるような概念に変える方が先決ではないかと思います。したがって,次回の改正の際には,このような字面だけからでは分からないような用語は変えるべきだと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○中井委員 この機会を逃したら言えないと思いますので申し上げておきます。前々回あたりから,事務当局も大変御苦労されて,文案の詰めをされているということは,先ほどの筒井幹事の御発言で理解をいたしました。また,それが法制的な見地からということも理解をいたしました。   仮にそうだとすれば,私が疑問に思うのは,仮に法制的な見地からの意見だとすれば,この5年間の審議に際して,時宜に応じて適宜に審議していただければ,そこで理解を深めることもできたのではないか。5年間審議してきたことが,この直近1カ月間における調整で落ちていくということは,私としてはなかなか理解し難いところがあります。手続的にも,もしそうであるならば,この法制審で議論して,なるほどそうかということであれば,私も理解できます。今後,議事録が次々公表されるわけですけれども,部会資料が変わった経過が分からないまま要綱案になることは問題ではないかと思います。 ○筒井幹事 それぞれに御指摘いただいたことには,もちろんもっともな面があるのですけれども,決して私どもとしても漫然と指摘を受け入れたわけではありません。そういう意味では,他の関係当局に責任を押し付ける気は私にはなくて,私どもとして十分に理解を得るだけの材料を用意できていなかったということであろうと思います。定義の規定は一律に何も残っていないのかというと,決してそんなことはなくて,敷金に関しては定義が必要であるということは,やはりこの部会できちっと議論してきたその蓄積によって十分合理的な説明を提示することができて,現在の案文に残っているわけです。そういった議論の蓄積が反映できたものもあれば,十分我々がそしゃくできていなかった面もあって関係当局の理解を得ることができなかったものもあるわけです。それが現状であるということを御報告した上で,今回はこのような案文を御提示していることについて,是非御理解を頂きたいと思います。 ○中井委員 その経緯については理解をいたしました。その上で,松本委員がおっしゃられたとおり,停止条件,解除条件という言葉は,法律家でも分かりにくいと思います。この前後の規定ぶり,効力始期とかの規定ぶりを見ると,いずれも「法律行為に効力始期を付したとき」はという書き下し方です。そうすると,その中に現在の127条がそのまま残るとすれば,ここだけは「停止条件付法律行為は」という言葉で始まり,書きぶりが異なる。仮に「法律行為に効力始期を付したとき」と同じ書きぶりをするなら,停止条件付法律行為は,「法律行為に停止条件を付したときは,当該停止条件が成就したときからその効力が生じる」というような書きぶりになると思います。   しかも,その停止条件なる言葉,解除条件なる言葉が法律専門家でも分かりにくい。そこで一時,部会資料でも,停止条件については効力発生条件,解除条件については効力消滅条件なる言葉が出たことがあったと思います。そうすると,この「付したとき」という言葉を使えば,「法律行為に効力発生条件を付したときは,その法律行為の効力は条件が成就したときから生ずる」とかいう文章になると思います。そうすると,停止条件という言葉よりもはるかにわかりやすくなる。効力発生条件が付されたときは,その条件が成就したら効力が生じる,逆に,解除条件を仮に効力消滅条件を付したときはとすれば,その法律行為の効力は条件が成就したときに失う若しくは消滅する。はるかに分かりやすくなるのではないか。 ○鎌田部会長 部会長といたしましても,これだけ多くの方から御不満が出るような議事進行であったことについては,おわびを申し上げなければいけないと思いますけれども,この後も引き続き表現の問題については検討を進める余地が残っていると思いますので,頂戴した御意見を踏まえて更に検討を事務当局では続けていただければと思います。   ほかにはいかがでしょうか。   よろしければ,「第8 債権の目的(法定利率を除く。)」から「第11 債務不履行による損害賠償」までについて御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○中田委員 先ほどの議論の延長みたいになってしまうかもしれませんが,具体的な点について申し上げたいと思います。   一つは,「第8 債権の目的」の中で,種類債権の目的物の特定に関して,合意によって特定するということが落とされた点についてです。現在の一般的な理解は,合意による特定はこの条文には規定されていないと解していると思いますので,落としてしまうと非常に分かりにくくなるのではないかと思います。この部分を勉強する学生も常に混乱するところです。当然のことだから規定する必要がないということかもしれませんけれども,当然のことが規定されていないのがむしろおかしいのではないかと思います。現に,合意による弁済充当については,規定が設けられています。   見送りの理由として,従前の案のように改めると他の場合を排除するように読める,それから,改正の実務上の必要性が十分に示されていない,という2点が挙げられております。しかし,従前の案は,特定が生じるのを三つの場合に限定するという趣旨ではありませんし,現在の表現を二つに分割するという趣旨でもないと思います。債権者が指定権を与えられているというまれな場合については,これは解釈に委ねていいと思います。もしそこも表したいのであれば,「相手方から給付すべきものを指定する権利を与えられた当事者がその指定をしたとき」とでもすればいいと思いますが,そこまで書かなくていいと思います。実務上の必要性うんぬんということですけれども,民法を勉強する人たちが常に迷うところでありますので,それを明らかにするというのは,正に必要性があると言っていいのではないかと思います。   ほかの項目でもあるんですが,取りあえず第8については以上です。 ○鎌田部会長 事務当局からのコメントはありますか。 ○金関係官 中田委員の御意見そのものに反論があるわけではないのですが,その前提となる事実認識の問題として,当事者の合意による特定については,現行法の理解としても,401条2項の「債権者の同意を得てその給付すべきものを指定したとき」という文言は当事者の合意による特定の場面を含む,あるいはむしろ当事者の合意による特定の場面のことを示すものであるという考え方もあると認識しております。その意味では,401条2項の「債権者の同意を得てその給付すべきものを指定したとき」という文言だと債務者の指定権行使による特定の場面のことしか書かれておらず,当事者の合意による特定の場面が書かれていないという前提は,必ずしも誰もがそのように考えているというものではないと認識しておりまして,その点がなかなか難しいところではないかと考えております。401条2項の「債権者の同意を得てその給付すべきものを指定したとき」という若干抽象的な文言の中に,解釈でいろいろなものを含むことができるという説明といいますか,そういう理解の方がむしろ実務上柔軟に対応することができるという考え方もあり得るところで,そのような考え方を否定することはなかなか難しいのではないかと現時点では考えております。 ○中田委員 御指摘のような見解があるというか,元々,梅先生の説明にもそのようなところもあり,近年になって,改めて検討する見解が出ていることは承知しております。ただ,一般的な学説は,やはり先ほど私が申し上げたような理解ではないかと思います。そうすると,両方の考え方があるから曖昧にしておくというのではなくて,むしろそこを明らかにした方がいいのではないかというのが私の発言の趣旨です。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○沖野幹事 債務不履行による損害賠償の11ページの1のところです。概念整理ないし表現上の整理といたしまして,「又は」で不能と債務の本旨に従った履行をしないときをつなぐという点についてです。補充説明で書かれておりますように,これまでの考え方は,「債務の本旨に従った履行をしないとき」ということで,その後に出てくる債務の不履行をカバーしているのだけれども,不能ということがそれで十分読めるかという点の疑義に備えて,確認のために不能について書いたという理解であり,補充説明もそのような理解であるということは確認されております。   ただ,現行法が言わば表現上,二本立てになっているので,そのことを尊重して,表現上は独立のものとして定めたということから,「又は」でつなぐのが適切であると書かれているのですが,しかし,やはり「又は」でつなぎますと,これは表現上,独立というだけではなくて,概念としても独立というように読まれかねず,第11の1の中で,ただし書では「その債務の不履行が」となっておりますけれども,これを単純に文言だけ読むと,「その債務の不履行が」の中に「本旨に従った履行をしないとき」と不能の2類型があるというふうに読むのがむしろ素直な解釈になってまいりますので,こういう「又は」でつなぎ,しかも説明が表現上は独立だが,内容的には含まれるというような説明をしていくことは,かえって混乱を招くように思われます。恐らく,法制上の様々な考慮からこういう形で事務当局としても正に苦衷の上でだとは思うのですけれども,かえって今後の混乱を招くということもありますので,もう少し表現上考えることはできないでしょうか,かなうならば,そういう指摘が改めてあったということを踏まえて,更に検討していただければと思います。 ○中田委員 「第10 履行請求権等」の1の「履行の不能」について,これも似たような発言です。履行請求権の存在は,履行不能について規定すれば,そこから読み取れるから書かないということなんですけれども,債権の効力として履行請求権があるというのは,最も重要な事柄であって,これはやはり明示すべきであろうと思います。その理由などについては既にコメントの中で申し上げたとおりでございます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中井委員 中田委員がおっしゃられた第8の2,第10の1の意見については,同意見です。 ○山本(敬)幹事 今の2点について,私も同意見だということを述べた上でなのですが,取り分け第11の1の「又は」でつなぐというのは,非常にまずいのではないかと思います。概念の混乱を今以上にもたらす可能性があると思います。110年前は,起草者が心配になって,疑義が生じないようにこのように書いたわけですけれども,110年を経て,疑義が生じないようになったと私は理解しています。ならば,110年たった後に立法するわけですので,少なくとも元の案のような括弧書き程度にとどめなければならないのではないかと思います。   その上で,第11の4の「履行遅滞中の履行不能」についてです。これは,これまでの議論を踏まえて,最終的にこのように書いているわけなのですが,履行の不能が債務者の責めに帰すべき事由によるものであることが証明できるときは,第11の4ではなくて,第11の1の原則規定でも,債務者は免責されるのだろうと思います。第11の4は,債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に,その債務の履行が不能となったときはということですから,不能となったことが債務者の責めに帰すべき事由によるかどうかに関わりなく,つまり,債務者の責めに帰すべき事由を証明するまでもなく,債務者の責めに帰すべき事由によるとみなすという趣旨の規定なのだろうと思います。   それが要件事実ないしは証明責任についての一般に受け入れられている考え方に基づく理解でして,補足説明ではいろいろ書いておられるのですが,私が今述べたような理解に従って正確に書いていただかないと,混乱するのではないかと思う次第です。文言についてもはや変更の余地がないのかもしれませんが,せめてそのようなきちんとした説明をしていただきたいということを述べておきたいと思います。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。 ○山本(敬)幹事 「第14 受領遅滞」の4の「受領遅滞中の履行不能」についても同じことが当てはまりますので,もうそこでは申しませんが,同じことだと理解しておいてください。 ○金関係官 第11の4の点につきましては,前回も申し上げたとおり,実質的な攻撃防御方法としての位置付けや主張立証責任の所在については,山本敬三幹事と同様のことを考えております。ただ,山本敬三幹事から御示唆いただいた書き方は,履行遅滞中に履行不能が生じた場合にはその履行不能は債務者の帰責事由によるものとみなす,ただし債権者の帰責事由によるものである場合はこの限りでないというものだと思いますけれども,その書き方ですと,履行不能が債務者の帰責事由によるものである場合にも第11の4の規定が適用されることになります。しかし,実体法的にみれば,履行不能が債務者の帰責事由によるものであるのになぜ第11の4の規定を適用して債務者の帰責事由によるものとみなす必要があるのか,この点の必要性の説明に窮することになるように思われます。新規の規定を設ける際には,その規定の必要性を十分に説明しなければならないと思いますけれども,この第11の4の新規の規定について,履行不能が債務者の帰責事由によるものである場合にまで適用されるような書き方をすることについては,その必要性の説明が非常に難しいところであると考えております。それらを踏まえますと,実体法の書き方としては,履行遅滞中に当事者双方の帰責事由によらないで履行不能となった場合という現在の書き方をせざるを得ないのではないかと考えております。 ○山本(敬)幹事 ここで議論しても仕方がありませんので,一言だけ述べて終わります。実体法的にはとおっしゃいますけれども,要するに,遅滞中に不能になればとのみ要件を書けば,それは債務者の責めに帰すべき事由があるときを含むというようなことではなくて,債務者の責めに帰すべき事由があるかどうかに関わりなくと読むのが,要件事実ないしは証明責任に関する法律要件分類説の基本的な読み方だと思いますので,そこに今おっしゃったように,債務者の責めに帰すべき事由があるときも含めてみなすのは実体法的にはおかしいとおっしゃるのは,違うのではないかと思います。しかし,文言としてはこれでもう仕方がないと思いますので,証明責任については,先ほど申し上げたとおり,紛れのないようにお書きいただければということだけ申し上げておきます。 ○潮見幹事 ほぼ同じことなんですけれども,恐らく,山本敬三幹事もそうだと思いますし,松岡委員も同じだと思いますけれども,以前にお出しした私たちの考え方に対して,事務当局の皆さん方は,そのときは理解をしていただけたのではないかと思います。そういう趣旨の御発言もございました。その上で,分かりやすさという御発言もございましたが,そういうことからこの種の文言を選択したということなのでしょう。しかし,規範構造がどうなるのかだけでなく,証明責任がどうなるか,山本敬三幹事の言葉に出ました法律要件分類説というものが,この文言表現の中で果たして貫徹できるのかといったような,様々な問題が出てくるのではないかと強く思います。   そんなことを踏まえて考えますと,先ほどの山本幹事のお話ではありませんが,文言としてはこれで仕方がないということであったとしても,説明の部分で,抽象的な言い方ではなくて,簡単なケースで結構ですから,この種の場合にはどういう形で主張・立証の構造が出てくるのか,そこにここの文言表現に表れている要件がどう反映していくのかということを,分かりやすくお書きになっていただきたいということを強く望みます。その上で,この文面については,私はもうこれ以上申し上げるつもりはございません。   あと,1点,先ほどの中田委員あるいは中井委員,ほかからも出ていましたけれども,ほかもそうなんですけれども,結局,第三次案は,ますますプロ仕立てになったのだなと,私も正直思います。履行請求権しかり,それからここで併せて申し上げますけれども,例えば売買のところでの適合物の引渡し義務というものがなくなってしまったというところもしかりです。ほかの条文を読めば分かるでしょう,追完義務のところを見たら分かりますよねというのは,プロが見たら分かりますけれども,一般市民には分かりにくい。しかも,基本的なことでありながら書かれていないというのは,今後ますます市民から民法を遠ざけていくことになりはしないか,学生には余計な解釈技術を妙に磨かせることになりはしないかという懸念も覚えているということを,ちょっと併せて申し上げさせていただきました。 ○筒井幹事 ただいま,潮見幹事,そして山本敬三幹事から第11の4についての十分な説明をという御要望があった点については,しっかり受け止めて対処していきたいと思います。   それから,履行請求権や債務不履行による損害賠償のうち履行不能の位置付けに関わる書き方の点について,多くの方から御注文を頂きました。修正した理由については,今回の部会資料の補充説明に書いたとおりであり,そのことを踏まえての御意見だったと思いますので,こちらの説明は繰り返しませんけれども,そういった事情で現段階での要綱仮案としては,このような形での取りまとめを是非お願いしたいということを重ねて発言したいと思います。その上で,可能性があるのかないのか即答は難しいのですけれども,ここで頂いた御意見を踏まえて,条文化の作業の際に,できることとできないことを見極めながら,十分検討していきたいと考えております。 ○鎌田部会長 では,よろしくお願いします。   ほかの御意見はいかがですか。   よろしければ,「第12 契約の解除」から「第14 受領遅滞」までについて御審議を頂きます。御自由に御発言ください。 ○安永委員 「第13 危険負担」の「2 反対給付の履行拒絶」について申し上げたいと思います。前回の部会でも発言したことと重なりますので,簡単に申し上げたいと思います。民法536条2項の法律効果に関して,今回の案も前回同様,「債権者は反対給付の履行を拒むことができない。」と規律するとされております。しかし,この点については,報酬請求権を有することをより明確化する観点から,「反対給付を請求することができる」との記述としていただきたいと考えております。  また,民法536条2項に関連して,雇用,請負,委任に報酬請求権の発生根拠を明確化する条文を置くことも見送られたままになっておりますが,「役務提供型契約の各章に報酬請求権の発生根拠を明確化する条文を置いていただきたい」という考え方は今でも強く思っておりますので,この点についても重ねて申し上げておきたいと思います。 ○潮見幹事 安永委員が直前におっしゃられた第2点目については,私もせめて雇用のところに報酬請求権の発生根拠に係る条文があった方がいいのではないかという感じはいたしました。が,いろいろお考えになってこうされたのかなとは思います。でも,分かりにくいなというところは否めません。   それから,これは条文にするときのお願いというか提案ですが,一部不能,それから一部履行拒絶に関する部分です。ここに書かれている内容は,第二次案と比較したら極めて分かりやすくなったのではないかと思いますが,実際に見た場合に,この整理の仕方ですと,要するに,契約全体の解除と契約の一部解除という立て付けで整理がされています。ただ,よくよく考えてみますと,むしろ一部履行不能,一部履行拒絶の場合に,契約の一部が解除できるのか,更に契約全体の解除が可能なのはどのような場合かという形で,両者をくっ付けて整理をする方が分かりやすいのではないかという感じがいたしました。プロと言ったら言い過ぎかもしれませんが,従来,法律をやっている人間からしても,一部無効や一部取消しについての従前の整理の仕方も参考にして,条文化に当たって御勘案いただければと希望します。 ○筒井幹事 安永委員,それから潮見幹事から御発言いただいた点ですけれども,まず請負・委任・雇用について報酬請求権に関する規定を設けるかどうかということについては,この部会でも異なる意見があり,そういった議論の結果として,現時点では規定を設けない方向の案になっているということ,そして,雇用に限ってその点を明記すべきではないかという御意見も前回の議論の際に出ておりまして,それ自体は理解できないわけではないのですが,それについてはまた異なる意見もありまして,雇用についてのみ規定を設けることによる弊害を指摘する意見もあります。そういったことを踏まえて,今回はそのような契約各則上の規定は設けないという案を維持した形で御提案申し上げております。   そして,安永委員から重ねて第13の2(2)における「履行を拒むことができない」という書き方について,問題を指摘する御意見を頂戴いたしましたけれども,その点については,従来から説明してきたとおり,現在の536条2項に基づいて報酬請求権が発生するという説明をしている,その解釈論に何らかの変更を求めるものでは全くないということを繰り返し申し上げてまいりましたし,そのことを今後も的確に説明していくようにしたいと思います。そういう前提で,この案文で御理解を頂きたいと考えております。 ○山川幹事 基本的には,安永委員が先ほど言われたことと同じ発想です。今,筒井幹事の言われたことは,恐らく前回でしたか,金関係官から御発言のあった,第13の2の(1)は履行拒絶権の問題であるけれども,(2)の方は履行拒絶権の問題と,あと,場合によっては反対給付請求権のないしは報酬請求権の発生根拠として読み得るという,現在の判例法の理解を変更するものではないということで,それは解説書等でお書きいただくということは,もちろん是非お願いしたいと思いますけれども,仮に,案としてはこの要綱案でいくとしても,まだ条文上の体裁等については御検討の余地があるようでしたら,非常に広い意味での条文上の作り方と申しますか,やや些末かもしれませんが,見出しとか項の立て方とか,いろいろなことも含めてなお御検討いただければと思います。それがやはり条文の解説を見ただけでは分からないということではちょっといかがかと思いますので,御努力をお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 では,よろしくお願いします。 ○沖野幹事 潮見幹事が御指摘になった2点目の契約の解除のところです。この整理の仕方としまして非常に分かりやすく整理はしていただいたとは思うんですけれども,ただ,今回の整理によりますと,13ページの3の解除が一部の不履行に対して一部解除という形になっておりますけれども,そうしますと,なぜ履行不能と履行拒絶だけなのかという疑問を生じさせるように思います。典型的な場合ということだと思いますけれども,催告解除でも一部解除・全部解除は問題となり得ますし,また,頭の中で考えますと,定期行為性などについても,団扇の売買の場合にそのうち一部は中元用であとは販促用であるとか,そういうふうなことも考えられます。   そうしますと,このような形の整理の方がよろしいのか,それともむしろ逆の形にしまして,債務の不履行がある部分と解除の対象が一致しない場合を書き出すというやり方もあるかと思います。例えば,2の(3)の方をむしろ別立てにいたしまして,不履行は一部なんだけれども,解除は全部であるというような場合を外に書き出し,更にその対象として,不能,履行拒絶だけではなくて,もう少し網を掛ける,例えば2の事情がとか1の事情が一部のみに存するときであってもというような形で書くことも考えられます。これは整理の仕方だけですし,典型例を出しているということで今回の案について一応説明はできるかと思いますけれども,そのような考え方もあり得るということで,今回であるのか,要綱案であるのか,条文化であるのか,適宜の場所で念のため参考にしていただければと思います。 ○山野目幹事 意見ということではなくて,自分なりにもう少し勉強してみたいと感じていることを,少し確認の意味で申し上げさせていただきたいと考えます。   2点ございまして,1点目は,契約の一部の解除という概念が,前回審議以降からの経緯とは別に,今回このような形で登場してきていることについて,自分なりにこういう形で法制化がされたときにどういう説明をしていくものであろうかということについて,まだ自信を持ちかねる部分がございます。部会の審議を顧みますと,一部無効や一部解除についての,取り分け一部無効についての議論がされ,しかし,それが見送られたというような経緯があって,そこに一定の議論の蓄積があったと考えます。それとは別に,一部解除の概念が今般登場してくるわけですが,これが契約各則のところの代金の減額請求権や報酬の減額請求権,さらに,賃料の当然減額などの規律との関係で,どのような整理をしていったらよいかということについては,自分なりにもう少し勉強してみたいと感じております。   それから,もう1点は,危険負担に関する536条2項の規定の見直しに関して,現行の規定が反対給付の請求権を失わないという規律になっているところから,拒むことができないという規律に変更されることによって,何か実質的に変わるかというようなことは考えてみなければなりませんし,御心配を指摘する御発言を頂いたものでありますけれども,考えてみますと,従来の失わないという文言の下でも,判例は,まず雇用契約について,大審院の判例が債権者の責めに帰すべき事由によるときには反対給付の請求権があるとし,その根拠を536条2項に求めていますし,最高裁判所になってからの判例で,請負契約について債権者の責めに帰すべき事由があるときに,反対給付の請求権を失わない,その根拠は536条2項であると説明していますが,536条の「失わない」という従来の文言にしたところで,あそこから債権者の責めに帰すべき事由があるときの反対給付の請求権があるという,契約の規範構造的なルールの導出ということが本当に可能であったものかどうか,十分な説明をしてきたものであるかということは,自分なりには考えてみてみたい部分があって,そのような検討を踏まえ,この「拒むことができない」という要綱仮案に向けて提案をなさっていただいているところについても,もう少し考えてみたいと感じております。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 前回までに問題提起させていただいたことが,結局どうなったのかということの確認をさせていただきたいと思います。契約の解除についてですが,現行法で言いますと,目的物に瑕疵があった場合に解除が認められるのは,570条で,契約をした目的を達することができない場合に限られています。それがこの改正案によると,結局変わるのか変わらないのかという問題提起をさせていただきました。少なくとも,瑕疵が重大で,契約をした目的を達することができない場合は,第12の2の無催告解除の方でカバーできるのだろうと思います。しかし,瑕疵が契約をした目的を達することができないとまでは言えないものであるときに,改正法によるならば,売買でも修補請求を認めることになりますので,催告解除の可能性が生まれてくる。卒然と読めば,1がそのまま適用されるのかと思うわけですが,結局,どうなったのでしょうか。このような場合でも,瑕疵そのものが軽微でないとき,ないしは修補しなかったとしても,軽微な不履行にとどまるときは解除できないというのか。あるいはそもそも,このような瑕疵の場合については,催告解除の適用は想定していないのか。三つぐらいの可能性があると思うのですけれども,結論として,どのような整理の下にこの提案が最終的にされたのかということの確認をさせていただければと思います。これは,実務的にかなり重大な問題だろうと思います。 ○鎌田部会長 では,事務当局からお願いします。 ○金関係官 瑕疵担保責任の場合について,現行法の下では,契約をした目的を達することができるかどうかで解除の可否が判断されているという理解を前提に,今回の改正案は,それとは形式的には異なり,瑕疵担保責任の場合についても,催告解除については第12の1のただし書の債務不履行が軽微かどうかで解除の可否が判断されるという案であると理解しております。すなわち,瑕疵はあるけれども契約をした目的を達することができるという場合であっても,その瑕疵が軽微ではないと判断される限り,買主は催告の手続をとれば契約を解除することができるというルールがこの部会では採用されたと理解しております。この点については,前々回,中井委員から本当にそれでよいのかという御指摘がありましたけれども,他方で,潮見幹事から,債務不履行による催告解除の一般的な要件については,債務不履行が軽微かどうかで解除の可否を判断するのが実務上妥当であるとしてそのような案を採用した以上,瑕疵担保責任の場面だけを取り出して別のルールとするのは説明がつかないという御指摘も頂いたところです。それらを踏まえまして,現時点では今申し上げたような整理をしております。   ただ,強調しておきたい点としては,契約をした目的を達することができるかどうかで解除の可否を判断するルールから,債務不履行が軽微かどうかで解除の可否を判断するルールへと変更があったというのは,確かに法文の字面上はそのように言わざるを得ない面がありますけれども,ただ,実際の実務上の処理としては,第12の1のただし書にあるように,当該契約及び取引上の社会通念に照らして瑕疵が軽微かどうかの判断がされる,すなわち語弊を恐れずに言えば,各事案における実務上の妥当な解決がどのようなものかという観点から瑕疵が軽微かどうかが柔軟に判断されるということでもありますので,その意味では,実務上の処理自体が現行法から大きく変わるということは結果的にはないのではないかとも考えております。そこは,今後の運用次第というところではありますけれども,少なくともルールとして想定しているのは,今申し上げたとおりのものです。 ○山本(敬)幹事 もう一度だけ確認ですが,軽微性の判断で結局解除ができるかどうかが決まってくるということだったのですけれども,瑕疵そのものが軽微かどうかという言い方を今されたように伺ったのですが,そのような理解なのでしょうか。 ○金関係官 そのように理解して申し上げました。 ○山本(敬)幹事 従前の審議の中では,先ほど申しましたように,当初不履行自体が重大か軽微かという問題と,催告して,しかし相当期間が経過して不履行が続いている。その不履行が重大か軽微かという判断をするという,二通りの理解が出ていたと思いますが,今の御説明は当初不履行とおっしゃったように思うのですけれども,そのような理解だということでしょうか。 ○金関係官 いえ,そのような理解ではありません。第12の1のただし書のところで,その期間を経過した時における債務不履行が軽微かどうかという表現を用いておりますので,催告期間の経過時,つまり解除権の発生時における債務不履行が軽微かどうかという判断がされると理解しております。この理解を前提に先ほど瑕疵が軽微かどうかという言い方をしてしまったのですが,正確には山本敬三幹事がおっしゃるとおりです。申し訳ございません。 ○山本(敬)幹事 分かりました。ただ,実務には影響を与えないとおっしゃいましたけれども,従前の売買に関する瑕疵担保責任の理解は,法定責任説で,修補請求はできないという前提に立っていますので,実務上どうしていたかは別として,理論上は,催告は特約がない限りできないはずでした。それを前提にするならば,この第12の1により解除が認められるのは,実務の変更に当たるのではないかと理解しています。そして,前にも申し上げましたけれども,瑕疵担保責任に当たるものについて催告解除を認めるのは,比較法的に見ると,必ずしも主流とは言えない方向ではないかと思います。それをあえて選んだということになりますけれども,本当にそうですねという確認をした結果,そうですという返事が返ってきたというように理解しました。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいでしょうか。 ○中田委員 12の6の解除権の消滅についてです。これは前にも御質問して,検討していただくということでしたので,重ねてお伺いしたいんですけれども,ただし書で,解除権者が解除権を有することについての知・不知を判定基準として,解除権の消滅を限定しようという規定になっております。この解除権には債務不履行解除以外の解除権,法定解除権も含むのだろうと思います。そうしますと,例えば請負契約で注文者が過失で未完成の目的物を著しく損傷したときは,641条の解除はできなくなるということになるのではないかと思います。というのは,注文者は請負契約であることを認識している以上は,641条の解除権を知らなくても,これは法の不知の問題ですから,考慮しないということで,そうなるんだろうと思います。そうしますと,ただし書は実際上,機能しないことになるのではないか,取り分け特別法上の様々な解除権についてそういった問題が起きるのではないかと思います。これは解釈問題かもしれないけれども,現在の素案ですと,解釈の余地が非常に乏しいような感じがしますので,もう少し解釈の余地がある表現が工夫できたら,その方がいいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。   よろしいようでしたら,「第15 債権者代位権」及び「第16 詐害行為取消権」について御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○山本(和)幹事 倒産法の関係での整備について御意見を申し上げてもよろしゅうございましょうか。 ○鎌田部会長 はい。 ○山本(和)幹事 補足説明の13ページのところに,破産法等の否認の規定についての整備を要するかどうかについては,今後検討する必要があると考えられるということで,これについての若干の意見というか,希望を申し上げさせていただきたいと思います。ここで書かれている文言の修正について,それ自体についてのコメントではありません。倒産法でどうするかということなんですが。   基本的な考え方としては,私自身はやはりこの詐害行為取消権のところで文言を従来と変える場合においては,倒産法の否認権に関する規定についても,文言を一致させるべきであろうと考えております。異なった文言が倒産法に残った場合に,どうして違うのかというような,ある意味余計な混乱といいますか,そういうものをもたらすということは,一般論としては適当ではないと考えております。   ただ,この5の過大な代物弁済等の督促の部分で今回の文言の変更,4の(1)にかかわらずという文言を入れて,4の(1)との関係を明確化するという部分については,これを倒産法の場合にもそのまま変えるということについては,やや慎重な検討が必要ではないかと思っております。これは破産法に引き直せば,破産法160条2項の否認のところで,破産法162条,偏頗行為の否認についてですが,それの規定にかかわらず,これこれ否認できるという規定ぶりになるのではないかと思うわけでありますけれども,破産法においては,この160条2項というのは詐害行為否認の一種として規定がされているわけでございまして,162条は今の偏頗行為否認の規定であって,詐害行為否認と偏頗行為否認を分別して規定して,そこにかなり否認の類型としての相違があるということで概念を整理するというのが,破産法の否認法改正の一つの大きな趣旨であったところであります。   ところが,この162条の規定にかかわらずということを入れてしまうと,一種,中田委員の御意見にも若干そういうことが書いています。この160条2項が162条の何か督促であるような印象を与えるような規定ぶりになってしまいまして,それ自体やはり余り望ましくないのではないかと思います。ここの説明のところに書かれてある過大な代物弁済等が常に過大な部分に限ってのみ取消しが認められるとの誤解を生じかねないという懸念でございますけれども,少なくとも倒産法との関係では,これは私の承知している限り,一問一答以来,あらゆる解説書,教科書,コンメンタールの類いは,このような誤解が生じないように記載がされていると認識をしておりまして,少なくとも現在の倒産法においては,このような誤解が生じる余地は私はないだろうと思っております。そういう意味では,あえてこのかかわらずというような文言を入れる必要性というものはないし,入れることはかえって誤解を生じさせかねないのが倒産法の状況であると思いますので,民法の方で仮にこのような修正を加えたとしても,私は倒産法については,この部分はそれに合わせる必要はないのではないかというのが私の認識でございます。 ○金関係官 山本和彦幹事から頂いた御指摘のうち,まず「4(1)にかかわらず」という文言を入れるべきではないという点につきましては,事務局としても,その文言を破産法等に入れることを検討すべきだという趣旨で補充説明を書いたつもりではありませんでした。補充説明の13ページのところですけれども,第16の5の「部分に限り」という文言を「部分については」という文言に変更したことに伴い,破産法160条2項等の整備を要するかどうかを検討する必要があるという説明をしておりまして,「4(1)にかかわらず」という文言を入れた点については,破産法等の整備をすることは想定しておりません。山本和彦幹事から御指摘いただいたとおりではありますけれども,破産法の否認権においては財産減少行為と偏頗行為を峻別しているのに対して,民法の詐害行為取消権においては,いわゆる偏頗行為を含む全ての行為が第16の1の債権者を害することを知ってした行為に該当する,該当しなければそもそも取消しの対象とはならないことを前提に,第16の2以降でその特則を設けているという整理をしておりまして,だからこそ,財産減少行為に関する5の規定の中で,偏頗行為の4(1)にかかわらずという文言が入り得るという整理をしております。したがいまして,そもそもの整理の仕方が異なる破産法等では,財産減少行為に関する規定の中で,偏頗行為の規定にかかわらずというような文言を入れる必要はないと理解しております。   2点目の「部分に限り」を「部分については」に改めたことに伴いそれを破産法等にも取り入れる必要があるかどうかという点についてですけれども,この点についても,財産減少行為と偏頗行為を峻別している破産法とそうではない民法とでは,そもそもの整理の仕方が異なるので,民法で「部分については」という文言を用いたとしても,破産法等では引き続き「限り」という文言を用いることに問題はないという判断が十分あり得ると考えておりましたけれども,山本和彦幹事の御指摘のとおり,倒産法の領域では「限り」という文言を用いることによる誤解は生じ得ないということで,それも踏まえて今後の条文化作業の中で十分に検討したいと考えております。 ○鎌田部会長 ほかにないようでしたら,「第17 多数当事者」及び「第18 保証債務」について御審議いただきたいと思います。御自由に御発言ください。 ○中原委員 「保証債務」の「6 保証人保護の方法の拡充」の(1)イの(ア)のaのところですが,口授の内容として利息が引き続き入っています。利息の定め方には例えば確定的に年何%という具体的な数字が入るケースや変動利率の場合にはベースとなる指標,例えばLIBORプラス何%というような定め方などがありますが,この利息については,債務者との間の金銭消費貸借契約書に記載される利息の定め方を,そのまま口授すればよいという理解でよろしいでしょうか。 ○筒井幹事 利息が主債務において変動性で定められているのだとすると,そのとおりの内容を保証人が理解していればよいというのがここでの趣旨だと思います。ですので,お示しいただいた理解のとおりだと思います。 ○中原委員 もう1点。貸出の場合には途中で主債務の内容が変更される場合があります。例えば利息の定め方が,従来は固定金利だったものを変動金利に変える場合,例えばLIBORプラス何%に変える場合には,改めて利息の定め方について,公証人のところに行って口授してもらうという必要があるのでしょうか。 ○筒井幹事 主債務の変更に伴って,それが保証人に不利益にならない限度で保証人にも及ぶという関係の下においては,特別な手続は必要ないという理解になるのではないかと思います。そういうことではなくて,主債務の変更内容を踏まえて改めて保証契約を締結するということになった場合は,これは解釈問題があり得るかもしれませんけれども,別途手続が必要となる可能性は現時点では否定されないのではないかと思います。 ○中原委員 分かりました。 ○中田委員 今の6の(1)のところですけれども,整備法のことかもしれないんですが,確認したい点が1点あります。個人保証に公正証書を要求しているわけですが,裁判所の和解や調停において利害関係人が保証人となるというような場合については,公正証書は要らないのではないかと思うのですけれども,いかがでしょうか。   もしかしたら今後の裁判所の和解においては,保証ではなくて連帯債務にするというような実務運用が形成されるということかもしれないんですけれども,そうすると,保証の規律を潜脱することを前提とした実務運用ということになり,やはり適当ではないと思います。これは現実に生じ得る問題だと思いますので,整備法の問題かもしれませんけれども,更に御検討いただければと思います。 ○筒井幹事 御指摘ありがとうございます。確かに裁判官の面前での和解ということですので,裁判官において第三者の意思を確認することは想定され得るわけですけれども,必ずしもここで公正証書の作成を義務付けている趣旨の全てをカバーできているのかどうかという点には,現時点ではなお疑義があり得るようにも思いますので,それを踏まえて,関係法律の整備等において更に検討すべきことがあるのかないのかについては,中田委員の御指摘を踏まえて十分検討したいと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○中田委員 戻りまして,「第17 多数当事者」について2点ございます。   1つは,2の(4)の時効の完成というところなんですけれども,今回,他の連帯債務者からの求償権を正面から規定しております。時効の完成については,以前に次のような指摘をしました。つまり,債権者との間で時効が完成した連帯債務者は,債権者からは請求されなくても,他の連帯債務者から求償されるという可能性が残ると,時効が完成した連帯債務者は弁済の証拠をいつまでも保管しなければならなくなります。特に,他の連帯債務者の存在を知らなかった場合には問題が大きいので,手当が必要だということです。それに対しまして,事務当局から片面的連帯などによって解決できるという御回答がありました。   従来の案ですと,「他の連帯債務者からの求償の請求に応じたときは」という表現でしたので,今のような解釈の余地があったと思います。ところが,今回の案ですと,求償の請求をすることができると正面から書いてありますので,常に求償できるように読めてしまうのではないか,何らかの手当が必要ではないかと思います。例えば,時効が完成した連帯債務者が他の連帯債務者がいることを過失なく知らなかった場合は求償債務を負わないというような,何らかの手当がないと,このままだと常に求償できてしまうということになるのではないかということです。   それから,もう1点は,第17の「7 連帯債権者の一人について生じた事由の効力等」の(1)の「相殺」です。今回,相殺の絶対効をお示しいただいて,それは弁済と同様だということから説明をされています。それはそれで理解できるんですが,ただ,相殺の場合には,債務者が無資力の連帯債権者に対する債権を安く取得して,それで相殺するという場合の問題が残るわけです。それに対する手当が必要ではないかと思います。 ○脇村関係官 まず,時効の完成につきましては,以前から先生から御指摘いただいていたところだと認識しております。連帯債務者の一人が他の連帯債務者を知らないケースは特に問題になるという御趣旨かと思いますが,当事者の意思表示によって連帯債務が発生する場合については,連帯債務者となる者の同意ですとか,そういったものがなければ,基本的には連帯債務が発生しないと考えられていることからしますと,連帯債務者が他の連帯債務者を知らないということはあんまりないのではないかなと思っております。   ただ,一方で,法令の規定によって生じるケースについてどうかという御指摘もあろうかと思いますが,法令の規定,例えば,今ですと共同不法行為等,そういったケースですけれども,そういったケースの多くは現行法でも不真正連帯債務と整理され,不真正連帯債務のケースというのは,時効の完成も相対効だと言われていたことからすると,恐らく先生がおっしゃっていた問題というのは,現行法でも生じていた問題であろうかと思いますし,ある意味,時効の完成の相対効,あるいは全体的に今回,相対効を増やしたことによって生じてくる問題ではないかと認識しております。   そういったことから,全体的にはやむを得ないんではないかと思っているところでございますが,今,指摘いただきましたので,改めて改善できる点があれば改善していきたいと思いますが,なかなか,ただ,全体のパッケージとの関係があるので,一部だけ直すというのは難しいのかなと思っております。   また,連帯債権の相殺につきましては,連帯債権者の一人に対する債権を安く買ってきて,それによって安く弁済,結果的にしてしまうことがいいのかどうかという問題があるとの指摘だと思います。我々としても,今回,相殺を提示したところでございますので,条文化の際にはもう一度考えてみなければいけないのかなとは思っていますが,今回の案といいますのは,相殺によって連帯債権者の一人が債務を免れるということに着目していることからすると,安く買ってきた債権でもって相殺したケースも区別できないのではないかなという気も少ししておりまして,その辺を少し条文化の際には改めて考えたいなと思っております。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○中田委員 条文化はなかなか難しいかもしれませんが,第1点の時効については,719条の場合,現行法でもある問題ではあるんですけれども,正面から求償権を認めると書いてしまいますと,その問題がよりはっきり出てくるのではないかということについての懸念です。   相殺については,安く買ってきた債権での相殺を,しようがないと言ったら,しようがないかもしれませんけれども,ただ,ほかのところではそれに対する手当を置いているところもありますので,それとのバランスも考える必要があるのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかにはよろしいですか。 ○中井委員 26ページ。25ページの「保証人の通知義務」に関するイですが,前の案から,保証人の後ろに付いていた「主たる債務者の意思に反して保証した者を除く」を削除した上で,後段に,「主たる債務者は,保証人が主たる債務者の意思に反して保証した者でないときであっても」という文言が追加されています。仮に前半を削除するとしても,後半のこの追加が要るのか。これは債務者の意思に反しても反してなくても有効という結論でしょう。注意的に入れたのかもしれませんが,かえって分かりにくくなっているので,この辺り御説明いただければと思います。 ○脇村関係官 この(3)イにつきましては,この3には出てきませんけれども,民法462条2項との関係で,このイの規定が発動しないケースであっても,意思に反するケースについてはもう有効であったとみなされることになることから,そのすみ分けを明記した方がいいのではないかということで書かせていただいております。前回の案ですと,その辺が逆に見にくくなるのではないかということで,分かりやすくこっちの方がなるのではないかと思って書いたんですが,確かに先生の御指摘も十二分に私の方で理解させていただいているところでございます。ここは条文化する際に,462条と並べて書いたときの書きぶり等も影響してくると思いますので,分かりにくくする気はないですが,うまく書けるかどうか自信ないんですけれども,先生の指摘を踏まえて,できるだけ分かりやすくしたいと思っております。 ○鎌田部会長 ほかによろしいようでしたら,次に「第19 債権譲渡」から「第22 契約上の地位の移転」までについて御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○大島委員 「債権譲渡」の「1 債権の譲渡性とその制限」について御意見を申し上げます。債権譲渡禁止特約の効力の見直しについては,中小企業が債権譲渡による資金調達を行いやすくする環境整備に必要不可欠なことから,積極的な意見を述べてまいりました。今回,債権譲渡禁止特約の効力を見直し,特約違反の譲渡も有効とされたことは,少し前進したものと評価をしております。しかし,中小企業は,債権譲渡を禁止する特約に反して債権譲渡をすることについては,心理的な抵抗感がございます。中小企業が債権譲渡による資金調達を行いやすい環境整備を図るため,このような抵抗感を払拭するような施策が必要であると考えます。民法部会では対応が難しいとしても,特別法などでの対応を含めて,今後,更なる検討を継続していくことが必要であると考えております。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはいかがでしょうか。 ○沖野幹事 債権譲渡について3点ございます。   1つ目は,31ページの「1 債権の譲渡性とその制限」の(4),差押えとの関係です。今回は表現として,強制執行した差押債権者というふうに改められまして,これは担保権に基づく差押えを除外する趣旨だというふうに補充説明ではされています。ただ,例えば,約定の質権ですとかあるいは譲渡担保ということを考えたときに,差押えということがどのくらいあるのか,端的に取り立ての請求をするのではないかとも考えられますし,他方で,法定の担保権が付いているような場合,一般の先取特権などに基づいて実行するというような場合は,逆に除かれてはまずいのではないかと思われ,むしろ,一般の差押債権者並びではないかとも考えられます。ですので,この表現がいいのか,それとも一つ前の案を維持して解釈に任せるのがよいのかということもあるかと思いますので,その点を踏まえて,今回ということではないんですけれども,補充説明も含めて検討していただければと思います。   2点目は,(5)のところですけれども,預金の場合です。これは前回,中田委員が御指摘になり,また,今回のコメントについても書かれているところですけれども,(1)の一般規定については第三者となっており,(5)の預貯金債権については「譲り受けたときは」となっておりまして,譲受人だけに限定されているように見えます。しかし,これは恐らく意図的に範囲を変えているものではないと思いますので,この平仄を合わせるような書きぶりにした方がよろしいのではないかということです。書き方としては,1の(1)のイに対応したような書き方を預貯金について書くということも考えられるかと思いますので,それを含めて検討していただければと思います。第三者がいいのか,譲受人その他の第三者がよいのかというのは,中田委員から御指摘があることかと思います。   次に,将来債権譲渡の話です。これは今回の訂正に関わるところではないのですが,32ページの2の(2)です。将来債権の譲渡後にされた譲渡制限の意思表示の対抗ということなんですけれども,これは現在,また一つ前のバージョンからですけれども,権利行使要件具備時を基準として,それより後に譲渡禁止,譲渡制限の意思表示,従前特約と言っていたものですが,それがされたというときには,1(1)イの規定は適用しないとなっています。これは,適用されない結果,履行拒絶できないということになるわけですけれども,そうしますと,逆に権利行使要件具備前は適用するということになりまして,適用するということは,1の(1)のイが妥当しますので,結局,主観的要件が係ってくるということになります。ただ,そうしますと,解釈の余地があって,現行法の下では,解釈論として四つぐらいの考え方が出されていると思います。常に善意であるという考え方と,悪意というよりは,全く問題にならないので,第三者保護ということは全く働かないという考え方と,それから将来についての予測を問題とするという考え方と,権利行使要件といいますか,債務者対抗要件の時期で段階的に分けるという,四つぐらいの考え方が明らかにされています。その解釈がそのまま持ってこられるということになりかねません。そういう趣旨ではなかったと思いますので,単純に適用しないという書き方でよろしいのかどうか,中身を確認した上でということになりますが,従前はむしろ権利行使要件の具備で完全に分けてしまって,主観は問題としないということだったと思いますので,それが分かるような形に書きぶりを改めた方がよいのではないかと思います。 ○松尾関係官 ただいま沖野幹事から御発言いただいた点についてお答えしたいと思います。   第1点目で,1の(4)の書きぶりを改めたことによって,例えば法定担保権に基づく差押えの場合に妥当な結論を導けるのかという御指摘だった理解しております。確かに,法定担保権に基づいて差押えをした差押債権者に対して,特約を対抗することができるようにする必要があるのかというのは,議論の余地があるような気がしておりまして,そうすると,やや限定し過ぎた書きぶりになっているのかなと思いますが,他方で,従前の案のように一切解釈に投げてしまうというのは,それはそれで分かりにくさもあるところのような気がしますので,全て書き切ることは難しいような気がするんですが,どこまで解釈に委ねるかというのは,引き続き考えていきたいと思います。   続きまして,2点目についてですが,これは中田委員からメモを頂いていることと関わる問題でございまして,全体については,例えばこの第三者という言葉を使うことが果たして適当なのか,あるいは,その中でもやや(5)のアのような,譲受人が念頭に置かれているような規律のように読めるところもあり,他方で(3)のところでは,同じように譲受人を念頭に置いた言葉として債権者という言葉が使われていて,このような形での整理が本当に分かりやすいのかというところは,十分に前回の御指摘も踏まえて受け止めているつもりではありますが,ただ,全体的に整合的な書き方をどのようにすれば分かりやすくなるのかというのは,なかなか難しい問題でございまして,他に御指摘を頂いた平仄の問題も含めまして,引き続き条文化の際まで検討させていただければなと思っております。   最後,2の(2)の中身についてでございますが,ここについては沖野幹事から御指摘があったとおり,従前,権利行使要件の具備の先後のみで対抗の有無を決するということで案を御提示し,恐らくそのような内容で部会の中でもコンセンサスができていたのではないかと理解しております。つまり,権利行使要件具備前に付された譲渡制限特約であれば,譲受人の主観を問わず,対抗することができるという結論でよいと我々も考えております。そのことを書き表す表現として何がよいのかというのは,一応,今の案でもそのことは解釈によって導けるとは思っておりますが,御指摘のような問題があり得るということは理解しましたので,ここについても引き続き検討していきたいと思っております。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○山本(敬)幹事 1の(5)の「預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力」についてです。これは,「対抗することができる」という書き方に改められて,その理由も述べられているのですが,「対抗することができる」という定め方をしますと,やはり債権譲渡は有効だけれども,内部的な譲渡制限をこの要件が充足する場合には主張することができるという構図になるのではないかと思います。そうしますと,債権譲渡は有効となりますので,債権者はやはり譲受人ということになるという理解でよろしいのでしょうかというのが1点目です。   それから,譲渡制限の意思表示において,債務者の承諾を得ない譲渡を無効とする特約をしていれば,実際上はカバーできるではないかということが書かれていたように思います。当事者が無効とすると書けば無効になるのかということは,大きな問題なのですが,単に債務者の承諾を得ずに債権を譲渡することはできないとのみ書いた場合はどうなのかなど,様々な問題を残す可能性があるように思いますが,この点はどう見ればよいのかというのが2点目です。   危惧されたのは,一定の条件を付して,その条件の下であれば債権譲渡はできるけれども,その条件を満たさない限り譲渡できないという場合,一律に無効になってしまうと読まれる可能性があるということを書かれておられましたけれども,それは法律行為の付款等がある場合でして,それだけであるならば,従前の案に加えて,「ただし,その債権の譲受けが当該譲渡制限の意思表示によっても許されるときは,この限りでない。」というように,疑義が生じないように書いておけば足りたのではないかと思います。この問題をカバーするために,今まで議論してきた構成を,「対抗することができる」という構成に転換すると,本当に大丈夫かという心配が生じるのですが,いかがでしょうかというのが3点目の御質問です。 ○松尾関係官 今,頂いた3点については,どこまで答えられるか分かりませんが,まとめてお答えしたいと思っております。   まず,現在のような修正をしたことによって,譲渡は有効だが,譲受人が譲り受けたということを主張することができないということになるのではないか,つまり,債権者は譲受人というふうに判断されるのではないかという御指摘だったと思うのですが,それはそうはならないのではないかと理解しております。つまり,今の修正後の書き方は,現在の民法466条2項に合わせた書き方でありまして,この文言を根拠として,今の判例は,もちろん様々な修正は加えているわけですけれども,少なくともその理由中では譲渡は無効であるということを述べていると思います。そのことは,現在の条文の文言を変えなかったわけですから,維持されると考えておりますし,しかも今回は,「(1)アの規定にかかわらず」という文言も加えておりますので,そのことは解釈が可能なのではないかと思っております。   それが果たして従来の案と比べて分かりやすいかどうかという問題は確かにあるのだろうとは思いますが,ただ今のような説明で,預金については,少なくともこれまでの判例法理によって認められてきた効力が引き続き認められるのだと考えております。それで大丈夫なのかどうなのかというのは,我々は少なくともそれでよいのではないかと思っておりますが,皆様がどう受け止められるのかということかと思いますので,御意見を承りたいと思います。   修正案として,山本敬三幹事から御提案を頂いたところについて,ちょっとまだ十分に理解できていないというか,考え切れていないのですが,先ほど山本敬三幹事が一部の禁止については条件ないし付款と考えればいいのではないかとおっしゃられましたところについては,従来はこれは一部譲渡を禁止する意思表示と捉えられていたのではないかと思っておりまして,それを書き分けていくというのが果たしてできるのかなというのがやや疑問に感じたということだけ申し上げさせていただければなと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですか。 ○中原委員 「預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力」の件は,銀行界としても強い関心と懸念を持っています。従来は「効力を有しない」という書き振りでしたので,であれば,銀行界の懸念は払しょくされると思っていました。今回新たな形に書き直されていますが,事務当局から,現在の民法466条2項に合わせた書き方であること,かつ現在の民法の文言の下で譲渡は無効であるという判例の考え方が維持されるだろうとの御説明がありましたので,我々としても一応は納得しているという状況です。本音は,前回までの案である「効力を有しない」という形に戻してもらった方が明確であり,有り難いと思っています。 ○鎌田部会長 ほかの点についても御意見がありましたら,お出しください。   よろしいようでしたら,次に「第23 弁済」から「第25 更改」までについて御審議いただきます。御自由に御発言ください。 ○中田委員 弁済の担保保存義務についてです。41ページにあります第23,10の(5)のウの部分ですけれども,この表現が前回までの案とは変わっております。前回までは,「その担保を債権者に代位して行使することができるものと期待することについて,合理的な理由があると認められないとき」であったのが,今回このような表現になっております。83-2の御説明では,これは表現の明確化を図るもので,実質的な内容の変更はないということですけれども,前回の案ですと,保証人など法定代位権者の合理的期待に着目していたのに対しまして,今回の案は債権者の行為の合理性に着目しているという相違があると思います。504条については,保証人などの代位権者の保護と金融取引の円滑の両方の要素を考慮する必要があると思います。引用されている平成7年の最高裁判決も,特約の効力というレベルですけれども,債権者の行為の合理性と保証人などの正当な代位の期待の両面を考慮しております。今回の案ですと,そのうちの一方の要素が切り捨てられることになりまして,この規定の沿革から見ても,やや切り落とし過ぎではないかなという気がいたします。判例法理とのそごも出るのではないかと思います。   そこで,このウの文章に少し付け加えることができないだろうかと思います。例えば「代位権者が正当に有すべき期待及び取引上の社会通念に照らして」うんぬんというように,「代位権者が正当に有すべき期待及び」というのを前に入れることによってカバーできるのではないかと思いますので,御検討いただければと思います。 ○松尾関係官 一応,修正の理由も含めて,御説明をさせていただければと思うのですが,ここは御承知のとおりであるとは思いますけれども,前回の案で,期待の有無,それについて合理的な理由があるかということを基準としていたことについて,複数の委員,幹事の先生方から,基準として分かりにくいのではないか。特に,期待というのは代位する者からすると,常にあるように考えられて,基準として果たして適当なのだろうかというような御意見もあったように記憶をしております。   そうしたときにどう改めるのかということは,いろいろと検討はさせていただいたのですけれども,先ほど中田委員がおっしゃられた最高裁の判例の調査官解説などでも言及があるのですけれども,少なくとも担保の消失又は減少についての合理的な理由の判断の中で,要するに代位をする者の有すべき期待について,どのような理由があったのかということを考慮するという枠組みで捉えればよいのではないかと考えておりまして,確かに規定の文言上は,代位者の期待という言葉は落ちてはいますが,それはこの合理的な理由の判断の中で捉えていかれるべき事情の一つとして考えられるという説明で御理解を頂けないかなと思っております。言葉を加えていくということは,それはあり得るのかもしれませんが,前回の御意見を踏まえると,この文言がどのような場合に機能するのか,基準として分かりにくいということだったと思いますので,この素案の中に明示的に掲げるのは適切ではないということなのかなと受け止めたという次第でございます。 ○中田委員 独立した要件として立てることについての批判は分かっておりますので,考えてきましたのが,正に今おっしゃったことと同じなんですけれども,「合理的な理由があると認められるとき」の前に,「取引上の社会通念に照らして」だけではなくて,「代位権者が正当に有すべき期待及び」というのを入れることによって,合理的理由の判断要素としてそのことを盛り込むという,そういう趣旨の発言であります。 ○松尾関係官 すみません。それであれば,私が聞き違えて誤解をしていた部分があったと思います。もしよろしければ,そこは条文化でどこまで書けるのかということで検討させていただければなと思うのですが,よろしいでしょうか。 ○中田委員 それで結構です。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。 ○山本(敬)幹事 2点ありまして,1点目は,これは「第23 弁済」の「4 債務の履行の相手方」の「(1)債権者以外の者に対する弁済」です。これは今日の前の方にも出ていましたけれども,当然のことは規定しないというプロ向けの書き方になっていて,原則に当たるものが見えにくくなっていることは否めないのではないかと思います。アを削除すればそうなってしまうと思います。それはもう仕方がないことなのかもしれませんが,ただ,表題はアがあるからこそ,「債権者以外の者に対する弁済」になると思うのですけれども,アを削除してしまいますと,なぜこの表題になるのかが分からないという問題があります。表題は,実は原則を表そうとしているのに対して,原則を前提にした元のイのみを定めますと,表題と中身の平仄が少し合わないのではないかという気がします。これは条文化される際にもう一度よくお考えいただければと思います。  ついでに申し上げますと,5の「代物弁済」も,(2)が削除されますと,ルールがやはり不透明になるのではないかという感じが否めません。いずれにしても,任意規定だと思いますので,デフォルトルールとして置いておくことにやはり意味があったのではないかという意見のみを述べておきます。   もう1点は,質問なのですが,「6 弁済の方法」の「(1)特定物の現状による引渡し」で,483条を改めるという提案が出ています。これも補足説明を見ますと,これまで想定してきたもの以外のタイプの債権債務については,このような規定を置いておかないと不透明になるという指摘は,理解はしました。ただ,この書き方をしたときに,例えば,取引上の慣習や信義誠実の原則などによって,引渡しをすべき時の品質が定まる場合はどうなるのか。それは恐らく,取引上の慣習や信義誠実の原則等によって引渡しをすべき時の品質が定まるのであれば,それによるのだろうと思うのですが,それはこの規定の文言でどう受け止めることになるのかという点は,考えておく必要があるのではないかと思います。いかがでしょうか。 ○松尾関係官 結論としては,取引上の慣習であるとか信義誠実の原則で定まるときは,それによるということになるのだろうと考えております。そのことが確かに文言上読みにくいというのは,そのとおりかなと思うのですが,他方で,今の問題は401条でも同じような問題がもしかするとあるのではないかなという気がいたします。ですので,この文言を直すことで対応すべき問題かどうかということは,ちょっとそういったことも含めて考えなければならないのではないかなと感じました。 ○山本(敬)幹事 やはりこれは,広い意味での契約内容の確定に関するルールが本来,一般的に整備されているべきであって,広い意味での当事者の意思の解釈に関する規定と慣習に関する規定をきちんと整備していれば生じなかったはずの問題が,整備しないということになりましたので,このような個別の条文で生じてしまっているのだと思います。おっしゃるように,ほかにも共通する規定があって,ここだけの問題でないというのも全くそのとおりだと思います。それだけにどう書くかは,非常に難しいだろうと思います。最低限,補足説明で,今のような一般規定を置かなかった結果と言うかどうかは別として,至るところで同じような問題が共通して生じているということは,是非とも説明していただきたいと思います。 ○潮見幹事 関連するので申し上げます。民法の483条はほとんど使われないもので,これをここで議論するというのは少し気が引けるんですけれども,補足説明についてのお願いです。内容はいろいろまた御検討いただければと思いますが,不当利得の例が持ち出されているという箇所が理解に苦しみます。価値変形といいますか,そこへ転形するというまで踏まえて考えると,果たしてこの例をここで持ち出すのが適切なのかという疑問です。これは最後の段階の説明のときに検討していただければと思います。   それから,もう一つは,その説明の次の段落のところで,売買の例を引き合いに出していますが,これは強いお願いですけれども,この書き方を卒然と読みますと,特に特定物売買の場合に,売買というものの外側に品質だとか数量に関する合意というものが別枠であるようにも読まれかねない形になっています。むしろ,後で出てくる売買のところは,従来の議論からいうと,売買における売主の義務というものは,売買契約の典型的な内容から決まるという建付けになっていて,その典型的な内容というのは一体何なのかについては,契約の内容に適合した種類だとか品質だとか数量だとか,そういうものを引き渡す義務があるという前提で規律が設けられています。そうであれば,むしろ素直に,今回,条文から消すことにされましたけれども,売買のところにあった義務の提示の(1)だとか(2)のような書き方でここを説明していただきたいというところです。   なぜこれを申し上げたのかと申し上げますと,今回の改正でいわゆる特定物ドグマ,法定責任説を採用しない,契約責任という観点から考えていこうという方向性が強く押し出されています。そうした中で,説明の部分で,それとそごを来すような説明がされると,特に従来,この部分で法定責任説に立って議論を展開されてきた方々にとってみたら,一体これはどういう観点から今回の改正はそれぞれのルールを立てようとしているのかということについて疑問が出たり,あるいは疑問だけだったらいいんですけれども,あらぬ解釈が出てくる可能性が出てくると思うのです。ですので,本当に細かいことですけれども,少し慎重に書いていただきたいというお願いです。 ○鎌田部会長 ほかの点はよろしいでしょうか。 ○中井委員 同じところの文言の確認です。「当事者の意思によってその引渡しをすべき時の品質を定めることができない」というこの意味ですけれども,これは引渡しをすべきときの品質が明らかでない,分からないときという意味ですか。つまり,これは読み方によっては,当事者の意思によって定めることができない。売買等であれば,当然,当事者の意思によって定めることができるわけですけれども,その場合であっても,当事者の意思によって品質が分からないとき,それを想定していると思うのです。にもかかわらず,「定めることができない」という用語は,それを適切に表しているのかが,そもそもこの文章を読んだときの疑問です。確認したいのですが。 ○松尾関係官 すみません。ちょっと御質問の主旨がよくまだ理解できていないので,もう一度御説明いただいてもよろしいでしょうか。 ○中井委員 「品質が明らかでない」ということを,ここでは「定めることができない」という言葉で表しているのか,端的にその確認ですが。 ○松尾関係官 それはそういうことになるのかなと理解をしているんですけれども。 ○中井委員 それを「定めることができない」という表現を使う。 ○筒井幹事 中井委員の御疑問はよく分かるのですけれども,ここでは現在の401条の書き方を参考にしているものですから,御指摘のような問題は元々あるのだと思うのです。ですから,それも踏まえて,しかしそうは言っても分かりにくいという御指摘だと思うので,それは条文化の作業においてそういう御指摘があったことを踏まえて検討したいと思います。 ○山野目幹事 筒井幹事と同じことを申し上げようと思いました。明らかではないということを,現在の法文は「定めることができない」としていますから,直すのであれば,401条1項も併せて直していただくということになりましょうか。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○沖野幹事 40ページの「弁済による代位」のところで,これは全く表現だけの問題なんですけれども,(1)の書きぶりを今回,ウの形に改められたのですけれども,これは現行法をそのまま表現として持ってくるという形かと思います。趣旨としては,当然に代位するという形で,467条の準用はないという,イを除外するということだと思うんですけれども,現行法はむしろアに相当する,弁済と同時に債権者の承諾が必要であるというところに対して当然に代位するという点に力点があって,499条2項の方も,弁済と同時に債権者の同意を要するようなものについてはという,前項の場合については467条を準用するという構造になっています。それに対して,今回のこの書き方だと,直ちにはウが何を抜いているのかがよく分からない,ウの限りでは,アで書いてあるではないかという感じがするものですから,確かにこれだけを見ると現行法の表現ではあるのですけれども,むしろ前の案の方が明確でよかったように思います。いずれにせよ,やはり表現を工夫していただく必要があり,あるいは条文を分けるなどを含めて,対応が必要ではないかと思います。 ○松岡委員 その点,全く同意見です。法定代位と任意代位をくっ付けてしまったので,かえって三重構造みたいになって,非常に分かりにくくなっています。沖野幹事がおっしゃるとおり,元通り分けた方がよろしいと思います。 ○鎌田部会長 ほかに。 ○中井委員 今のところですけれども,分かりにくいと思いました。ウとして独立したから分かりにくいので,イのただし書であれば,イの例外といいますか,イの後ろに,「ただし,弁済をするについて正当な利益を有する者はその限りでない」,つまり,467条の規定は準用しないということが明らかになれば,それで足りるように思います。趣旨としては,沖野幹事,松岡委員と同じ意見です。 ○鎌田部会長 よろしければ,ここで一旦15分間の休憩をとりたいと思います。           (休     憩) ○鎌田部会長 それでは,再開をいたします。   「第26 契約に関する基本原則」及び「第27 契約の成立」について御審議頂きます。御自由に御発言ください。 ○潮見幹事 26の契約に関する基本原則の2,履行の不能,いわゆる原始的不能,この部分ですが,損害賠償だけ書いているのは,代表的な効果を部会の議論を踏まえて書いたということで,こういうふうに書かれた理由は分かりましたが,卒然と読めば,それ以外はどうなるのだということが何も出てこない。外国の研究者や実務家が見たら一体何と思うだろうという余計な心配までしてしまうところもあります。せめて解説に,せめて解除と代償請求権とか主だったものについては挙げていただきたいですし,更にこれから先の条文化に向けて二つ以上でも書けるというのであれば,せめて解除は書いていただけないかという方向で御検討頂ければ大変有り難いです。 ○中田委員 同じところですが,私は潮見幹事よりも諦めが悪くて,できれば前の文章に戻していただければなと思いますが。そのための説得材料として,交換契約の場合を考えたらいいと思います。一方の債務が原始的不能でも他方の債務が存在していることを前提にして効果を導くというそのプロセスを安定的に行うためには,やはり前の案の方がいいのではないかということでございます。 ○松本委員 潮見幹事は外国人が見たらどう思うかとおっしゃったけれども,私は日本人ですが,やはり大変疑問を感じました。これは素直に読めば反対解釈をすることになります。それをこれは代表であってそれ以外にもいろいろあるんだというふうに読めというのは,書いてあることとの逆を読ませようとするわけで,分かりやすい民法という観点からは全く逆方向だと思います。   要綱仮案の第二次案の方が法律家にとっては分かりやすいですが,契約の効力を具体的を挙げろということであれば,損害賠償その他契約が有効である場合の効力を妨げないといったように,損害賠償は一つの具体的例示にすぎず,その他の効力も当然認められるのだということが明らかになるような書き方の方がいいのではないかと思います。 ○山本(敬)幹事 同じ点なのですが,さらに言わずもがなの危惧を述べますと。損害賠償はまだしも,解除ができるかどうかは,従来の理解にとらわれている限り,なかなか出てきにくいだろうと思います。そこを変えるというのが今回の改正の共通理解ではないかと思います。肝心の部分が不透明なまま残してしまうのでは何のための改正かということにもなりますし,仮に文言にとらわれて,原始的不能の契約は元々効力が発生するはずがないものであって,解除もあり得ない。したがって,解除は主張自体失当であるというような解釈が出てきますと,全体の体系的な整合性から言いますと,非常に大きな問題をもたらしてしまうことになると思います。   したがって,この書き方は極めてまずいのであって,考え直す必要があるのではないかという意見を述べておきたいと思います。 ○中井委員 繰り返しませんが,今まで出た意見と弁護士会の意見は全く同じです。 ○筒井幹事 そういった御意見を頂いた趣旨は大変よく分かります。とはいえ,前回までの案を修正した理由については補充説明に書いたとおりでありますし,やはり前提を書かずにいきなりその効力を妨げられないと書くということ自体は,やはり前提としての含意を知らなければ理解できないものでして,前回までの案も決して分かりやすいとは必ずしも言えない面があったのではないかと私は思います。   それを踏まえてもなお今回の案について更に検討すべき課題があるという御指摘は,大変よく理解できるところですので,要綱仮案としてはこれで御了解いただいた上でなお御指摘を踏まえた検討を重ねていきたいと考えております。そのような方向で是非とも御理解いただきたいと思います。 ○金関係官 少しよろしいでしょうか。いわゆる原始的不能の場合にそれだけでは契約は無効にならないというルールは,この第26の2だけではなくて,例えば第8の2の選択債権の410条に関する改正項目,ここでも,現行法の410条の第1項は「初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるとき」という書き方をしていて,そのうちの「後に至って不能となったもの」という部分は,原始的不能の場合にはそれだけで当然に契約が無効であることを前提に,原始的不能ではない後発的不能の場合のことを示している,同じ理由で410条の第2項の「不能となったとき」という表現も後発的不能のことを示しているといった説明がされています。しかし,今回の第8の2では,「債権の目的である給付の中に不能のものがある場合において」という書き方,原始的不能と後発的不能を区別しない書き方をしております。そういう書き方をしているのは,原始的不能の場合にはそれだけで当然に契約が無効であるという理解を前提としていないからです。   また,契約の解除の箇所でも,現行法の543条は,履行が「不能となったとき」という表現を用いておりまして,この「不能となった」という表現は,契約の締結後に不能となったという意味であると説明されています。つまり後発的不能の場合のことを示す趣旨でそのような表現が用いられていると説明されていますけれども,今回の改正案では,そこをあえて「不能であるとき」と表現しております。契約締結の前後いずれの時点で履行不能が生じたかを問わずに,とにかく履行が不能であれば契約の解除をすることができるという理解を前提とする表現です。   以上に申し上げたところを前提にしますと,確かにこの第26の2の箇所だけを見れば御指摘のような反対解釈の可能性があり得るのですけれども,今回の改正案を全体として見れば,原始的不能の場合にそれだけでは契約は無効にならないという基本的な考え方が十分に表れているのではないかと考えております。 ○鎌田部会長 御指摘があったように,この場合には解除がかなり重要な役割を担うので,可能であればその辺のところが条文に入るかどうか検討していただければと思います。   ほかにはいかがですか。   それでは,次に,「第28 定型約款」と第「29 第三者のためにする契約」について御審議頂きたいと思います。御自由に御発言ください。 ○安永委員 「第28 定型約款」の「1 定型約款」について申し上げたいと思います。   約款に関しましては,今日まで何度か定型条項と労働契約のひな形との関係について質問させていただいて,労働契約については一般的には交渉で修正され得るため,ひな形も含めて定型条項には該当しない場合がほとんどであるという旨の答弁を頂いてきたところです。   そして,就業規則については特別法である労働契約法が適用されることから,定型条項の規定は労働契約には実際はほとんど影響がないと理解しておりました。  しかし,今回の定型約款の提案では,「取引内容の全部又は一部が画一的であること」等,定義に変更がされておりまして,83-2の補充説明では従前の案から変更はないとの説明がされてはいますが,このままでは労働契約への影響が非常に懸念される規定となっております。   そのため,定型約款の規定を民法に置くとしても,現提案では例示となっております「相手方が不特定多数」という部分を要件とするなど,労働契約への影響がないことを明確になるように条文化していただくようにお願いを申し上げたいと思います。 ○佐成委員 定型約款に関してですけれども,我々の組織,即ち経団連としては,従前から民法に約款に関する規律を設けること,それ自体に反対をしております。今回の部会資料においては条文を意識した形での新たな案が提示されておりまして,こちらについて内部のバックアップチームで相当時間をかけて,8月だけでも6時間ぐらいこの論点だけで内部で議論をしております。企業サイドの意見も聞きながら,事務当局の方で部会資料の提案がなされているということは大変感謝を申し上げておりますが,結論としては今回の案でもまだちょっと受け入れることはできないというのが現状であります。   約款の変更に関する経過措置をしっかりしていただく等の条件の下で受入れ可能と言っている個別の会社もあるとは思うのですが,内部での議論の中では今回の案についても幾つもの懸念点が示されておりますので,ここでその内容について御紹介したいと思います。   まず,一番大きな懸念点が定義でございます。今安永委員の方からも出ておりましたけれども,我々の方もここについては適用範囲,約款規制が適用される範囲ということなので,カチッとした形にしてもらいたいというのがやはり従前から申し上げているところです。定義に該当するか否かというところ,即ち適用範囲がここでは「合理的」というような言葉が用いられるなど規範的な当てはめが必要となっておりまして,非常にその適用範囲が不明確であると思います。入口の段階で紛争が生じるというのは非常に実務家にとっては混乱の元になるということで,何とかここを限定的な文言にしていただけないかというのがかなり大きな要素でございます。   それから,従前から申し上げているのは,ここからB to Bをきちっと排除してくれというそういった意見も根強くありまして,この提案だとなかなか受け入れられないというところであります。   先ほど来今回の民法はプロ向けというような話になっておりますけれども,この説明ですとやはり同じようなことがここについても言えまして,全く外形上同じ約款であっても個別具体的な取引の状況などを見ると定型約款に当たったり当たらなかったりと,そういったような事態も起こると思います。また,訴訟になった場合を想定しても,定型約款に当たるという前提で進めていたものが訴訟で「当たらない」と判断されたり,あるいは当たらないという前提で進めていたものが,結果的に訴訟で,「いや,これは当たるのだ」というふうになって逆の結論が出てくると,そういった形になってしまいますので,ここは本当に明確化していただかないと実務的な混乱の元になると感じております。   それで,今不特定多数等の話が出てましたけれども,まずここは例えば「不特定かつ多数」というふうにすることが考えられます。これは消費者契約法の適格消費者団体が差止請求をするときの対象約款は「不特定かつ多数」という形で限定的になっておりますので,これに倣うわけです。さらに,不特定かつ多数であって給付の内容が均一である取引と,ここで切っていただいて,「その他」以下「合理的な取引」までを全部削って,その上で,例えば,法人間取引は除くみたいな形にすると,B to Bが排除されることがかなり明確化してすっきりはするだろうと思います。しかし,ちょっと内部でその議論もしてみたのですけれども,「法人間取引は除く」という限定を付けることに一部反対もありまして,私もそれ以外に,B to Bをきちっと排除できるような妙案を思いつきませんし,なかなかここのところも収束ができずにおりますので,少なくともこのままの形での定義規定を受け入れるというのは非常に難しいというのが現状でございます。   それから,組入れについては,あらかじめ定型条項によって契約の内容が充足される旨を相手方に表示することが困難である場合についての規律が(注)に落ちているというところであります。部会資料83-2の39ページのところです。ここでは個別の「一定の取引」について民法とは別途で個別の規律を設けるということになっているのですけれども,要するに個別業法で対応するというような形になっておりますので,その部分が現在「一定の取引」として想定されていない類型の取引について救済の余地をなくしてしまって,その点で非常に不安が残るというそういう声も強く出ております。   それから,不当条項規制については,これは2の(2)ですけれども,不意打ち条項規制と一本化した形でこういう提案になっているわけですけれども,そこで判断基準になっているのが民法1条2項の基本原則,すなわち信義則であります。これは消費者契約法10条とほぼ文言上は同じということでありまして,この点についてもやはり内部では相当強い違和感が表明されております。消費者契約法ならまだしも,一般法である民法においては契約自由の原則を大前提として余りにひどいものだけを救済するという民法90条の公序良俗を判断基準にすることが望ましいということで,ここも強く主張すべきであるという意見で現時点では内部は固まっております。   それからあと変更についてですけれども,変更につきましては前回に引き続き今回の案についても変更条項を定めておくことが変更することができる条件であるとそうされておりますけれども,この点については補足説明でも触れられている経過措置についてしっかりと御検討頂きたいということでございます。そうでないと実務が混乱するということであります。   経過措置をしっかり設けていただくということで,納得というか理解を示されている企業さんもおられるのですけれども,同じく変更に関しては第93回の部会でも少し御議論があった点ですけれども,変更条項を定めていなければ有利変更すらできなくなることについては,今回内部で議論したときも強い疑問が提示されておりました。現在実務的には有利変更はオーケーとそういうふうに,これは異論はあるかもしれませんけれども,実務的には少なくともそういうような認識でいたと思います。ところが,このような規定が入ることによって定型約款ですら変更条項が入っていないと変更ができないのだから,定型約款に当たらない約款についてはなおさら変更条項が入っていないと変更できないとそういうことになりかねず,現在の実務が変容してしまうということでございます。ですから,少なくともアは,アというのは83-2の40ページの一番下,4の(1)のアですけれども,「相手方の一般の利益に適合するとき」という要件,これは外した方がいいのではないか,むしろ解釈に委ねた方がいいのではないかという指摘もなされております。   そういうことで,現状いろいろ問題があるのですけれども,更に用語についても一旦は「定型条項」という用語で議論が進んできて,「約款」という非常にいろいろなイメージがこびりついているそういう言葉を避けたということについては,私もこの部会で非常に評価をする発言をさせていただいたのですけれども,また最終局面で「約款」という用語に戻っている点,この点についてもやはりちょっと問題があるのではないかということを感じております。   その意味では,例えば「約款」ではない,ここでは補充というような概念が使われておりますので,例えば「定型補充条項」とかそういったような別の用語に変更していただけないかということもあります。   ということで,全体的にはまだちょっと受入れが難しいということでございます。   それから,最後に申し上げておきたいのは,これまでこの部会で私もいろいろ発言をしてきまして,約款規制そのものが日本の制度において不要だという発言をしているわけでは必ずしもなくて,約款規制そのものについては別にあってもいいだろうとは思うのですが,民法に入れることについて懸念を表明しているというところであります。   それで,今月ですけれども,8月5日に内閣総理大臣から消費者委員会の委員長宛てに消費者契約法の契約締結過程及び契約条項の内容に係る規律等の在り方を検討することという諮問がもう既に出されておりますので,民法でかなりゆるゆるの規定を入れてしまうよりも,消費者法の専門分野の方で立法事実に基づいてきちっとした議論をされて,的確な規定を入れていただいた方が経済界としては有り難いのではないかというのが現時点での意見でございます。 ○岡関係官 先ほどの安永委員の御意見と類似の意見です。4月の部会のときに労働契約のひな形は変更があり得るということであれば約款には当たらないのだという御回答もいただきましたので,今回の補足説明では特に例示としては挙がってはいないのですけれども,今後解釈例規,コンメンタール,一問一答といったところで例示としても出していただいて明確にしていただけると有り難いと思います。 ○加納関係官 佐成委員からいろいろと御指摘も頂いたところでございまして,私どもの方から消費者委員会に諮問したことも御紹介頂きましたけれども,約款の問題は消費者問題において典型的に表れるものではございますが,それに限らない問題も多々あると思いますので,民法においてこういう規律を設けるということについては私どもとしても非常に意味のあるものであり,これまでの事務当局の御努力については高く敬意を表したいと思っているところでございます。消費者契約法で例えばやるから民法でやらなくていいとかそういった考えは一切ございません。   それを前提として,今回の御提案につきましてもいろいろ御検討頂いた上でこういう御提案ということで理解をしておりますが,1点だけ気になる点がございますので申し上げたいと思いますけれども,2の(2)のいわゆる契約条項の組入れ要件として書かれているところなのですが,書かれているところが消費者契約法10条と同じような規定ぶりというふうに見えまして,そうした場合にはむしろ不当条項としてその効果については無効とするというふうにするのが他の法律との並びでは整合的ではないかと思われますので,そこは再度御検討頂ければ大変有り難いなと思っております。 ○山本(敬)幹事 幾つかあるのですけれども,まず,2の「定型約款によって契約の内容が補充されるための要件等」に絞って申し上げたいと思います。3点あります。   まず,1点目は質問なのですが,(2)の部分で,「当該定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして」とされています。これはその後ろに係っているのだろうと思いますが,この判断がどう行われることが想定されているのかが少し不透明なので,お聞かせいただければと思います。補足説明を見ますと,定型取引の態様によって不意打ち的な条項も一定の範囲でカバーできるということが説明されているのですが,特に「取引上の社会通念に照らして」ということがどのように働くのかが,これを見てもよく分かりません。実際にどのような意味を持つと想定されているのかという点を御説明頂きたいというのが,1点目です。   2点目は,今の加納関係官がおっしゃった点とも関わるのですが,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」というのが消費者契約法10条とどのような関係に立つかということが問題になると思います。先ほどの「当該定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして」ということが入るかどうかが違うだけのようにも見えます。しかし,それでどのような違いがもたらされるかということは必ずしもはっきりしません。   もし実際上の違いがあまりないとしますと,消費者契約法10条で無効にされてきた条項のうち,約款に定められているものはほとんどだと思いますが,それは消費者契約法10条によるまでもなくこの民法の規定によって契約内容にならないということになるのではないかと思います。そうしますと,論理的には,条項が無効とされる余地はない。消費者契約法10条はその限りで適用されないということになりかねない。それはどう説明するのかというのが2点目の質問です。効果がどちらも無効であれば,いわゆる二重効の問題でどちらかを選択すれば足りるという説明ができるのですが,効果が違う,しかも一方が契約の内容にそもそもならない,他方はなった上で無効であるという効果では,二重効と同じ説明がしにくくなるだろうと思います。   もし消費者契約法10条の適用の余地がなくなるとなりますと,差止めの問題にも波及してきますし,事は消費者契約法だけではなく,他の様々な法律で定めている不当条項に関する規制とも関わってきます。その意味では大きな問題が生じる可能性があるのですが,これは大丈夫なのでしょうかというのが2点目です。   3点目は今の点と関わるのですが,効果として今言いましたように「(1)の条項には」「含まないものとする」という,要するに契約の内容から外すという構成は,民法に規定がない場合の裁判所による法形成としてはよく理解できる手法なのですが,民法に定めるのであればもう端的に無効とした方が簡明ではないかと思います。不意打ち条項を本当に一般的に規定するのであればこのような規定の書き方にすべきだろうと思いますが,不意打ち条項を一般的に規定するのではなく,内容の不当性の問題に絞るのであれば,そのような契約内容に入らないという構成を採る必要はないだろうと思います。   むしろこのような定め方をしますと,合意の解釈ないしは広い意味での契約の解釈がかなり多様な役割を果たすことになってくると思います。それはそれで便利な面もあるのかもしれませんけれども,しかし不透明になる可能性もある。そうしますと,これはもう不当条項規制として無効だと定めるのが,紛れがないのではないかと思います。   差し当たり2については以上です。 ○筒井幹事 今回御提示した案は,従前B型の部会資料でお示しした案と比べて,取り分け見た目の点で大きく変わっております。幾つか頂きました御質問は,この案についての非常に重要な部分についてのお尋ねだと思いますので,それについては後ほどこの部分の担当官から回答しようと思います。それはそれとして,本日の審議をどうするかということに関してですが,本日は全体として要綱仮案の取りまとめを目指す会議ということであります。この定型約款に関して頂いた御意見のうち,安永委員からの定義の部分に関する御懸念は,その実質については共通理解があって,その書き方が適切であるかどうかという御指摘であったと思いますが。他方,佐成委員から重要な問題として幾つか御指摘いただいたことは,今回の案に関わるかなり大きな点についての御懸念であったと思いますので,それについて今回の会議で直ちに結論を出せるような議論が可能かどうかという問題があろうかと思います。そういうことも踏まえて,この定型約款の項目の取扱いについては,今後の進行とも絡みますけれども,後ほど部会長の御判断を仰がなければならないようにも思います。   したがいまして,定型約款に関する本日のこの後の審議につきましては,ただいま頂いたような重要な点の御質問については我々の考えていたことを御説明しようと思いますけれども,基本的にその限度にとどめていただく,あるいは佐成委員の御発言に対しての御意見にとどめていただくのが適当ではないかと思います。そういう前提で,担当の関係官から御質問についてのお答えを差し上げようと思います。 ○村松幹事 それでは,これまでに頂いている御質問について可能な範囲内でお答えできればと思います。   まず,佐成委員,それから安永委員からそれぞれ定義について御指摘頂いております。労働契約については定型約款から除かれるということで従前から申し上げておりまして,それは労働契約の実態に鑑みればこの定義には当てはまらないだろうということで御説明申し上げておりました。その中で今回取引の内容の全部又は一部が画一的というところで,一部ということを書いてしまったがためにその一部となるとほんのごく一部でも一緒であれば,ここは極めて小さな部分ではあるけれども,当事者双方にとって合理的だというような場合が含まれ得るというような読み方もされて,労働契約においてもそういう部分があるのではないかというような御懸念があるというような御趣旨だと承りました。   そういった部分をもちろん意図しているわけではございませんで,全部が一緒でなければならないかというとそうでもないものも当然あるだろうと。約款といっても例えばものを買うときに個数がちょっと違うといったような差はあるわけですので,全く一緒ではないという趣旨を表すために全部又は一部という表現を使いましたけれども,確かに厳密に読むと一部というのは1%でも一部であるということも言えるかもしれず,そういったところの表現についてはこの間法律らしくということで修正した部分について少し直し方が適切ではなかったのかなという部分がございますので,御提案のあったような直し方も含めまして定義についてはもう少し直した方がいいというような話ではないかというふうに承りました。   それから,今山本敬三先生から御指摘頂いておりますところで,特に2番の(2)で不当条項と不一致を一本化あるいは不当条項の方に寄せたような形に見える,そういったような内容に変更しております。御指摘にありましたように,消費者契約法と非常に似ている表現に確かになっている部分はございますけれども,消費者契約法は消費者契約法の趣旨に従ってこの条項は解釈するということで,恐らく判例を含めてそのような理解がされているところだと思います。   それに対して,この定型約款と今回呼びましたけれども,この定型約款につきましては定型約款あるいは定型取引の特殊性というものを前提に判断していくということが極めて重要というふうに考えられまして,その趣旨を定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らしてというところで考慮要素を並べておりますが,その中で特に指し示そうとしております。つまりそこには,例えば消費者と事業者との間の情報格差があるといったようなものではなくて,取引の締結態様といったところの違いでその趣旨が変わってくるというようなところですので,当てはめの結果もおのずと違い得るということを表現したいというところでございます。   その意味で取引態様の部分が最も述べたいところでございますので,特に重要なのは取引の態様で,先ほど申し上げたような特殊性があるというところですけれども,それだけを書くというよりも,それに併せまして,社会通念等も考慮するのだということは書いておこうというところでございます。   定型取引の態様というのは抽象的に言えば先ほど申し上げたような中身をよく見ないでも契約が成立していくという特殊な効果が発生する,あるいは特殊な取扱いになるという部分ですけれども,それがどのように行われるのかの実情でありますとか,あるいはその当該取引ごとにどのような取引通念に支配されているのかといったことも当然理解しながら信義則に反して相手方の利益を一方的に害するのかどうかということを判断していただきたいという趣旨でこういった要素を並べたというところでございます。   それから,消費者契約法との関係あるいは無効としないでどうして含まないというような整理にしたのかという部分でございます。ここは法律にするときの整理というところでございますが,2の(1)の部分で契約の内容となるとこれまで表現していた部分につきまして,もう一つ中間項を入れまして,合意があったものとみなすというような表現に変更してございます。これは民法で通常想定される,あるいは民法の条文で通常想定されている意思表示なり契約なりというものについては基本的にその内容を認識するものであり,それが合致しているから拘束するのであると,そのような理解が前提になっていると思われますけれども,ここではそういった細部についての認識はないままに合意があったものと扱われる結果,契約の内容になったと扱われていくというようなところを表現したいということでございましたので,正にその旨を合意したものとみなすという形で表現するのがよいという判断で2の(1)ではこのような表現に改めたというところでございます。   そういたしますと,テクニカルな話にはなってまいりますけれども,そのみなしの対象の中に2の(2)で言う不当条項あるいは不適切な条項が2の(2)では想定されるわけですけれども,そういった条項も含めて一度みなしの対象として合意したということにした上で無効にするというのはいささかどうなのかという点がございますので,そのみなすという法的なテクニックを用いることとした結果,そもそもそこに含まないというような整理にするのがよろしいのではないかという判断でこのようにいたしております。   先ほど御指摘がございましたように,無効とはその意味で論理的には少し違うということですけれども,基本的に大きな差はないということでございますので,こういった表現でもさほど問題はないのではないかというような気がしております。   それから,消費者契約法との兼ね合いで申しましても,あちらは正に実体的な無効ということで整理されておりますが,こちらの方はその意味で契約が成立したけれども,無効になるというよりは契約の成立過程の中でみなしがかかっているのでそこから外すということで,整理はもちろんちょっと違うということが前提なのではないかと思います。   2の(2)についても内容の不当性のみでここを判断されるのだからというふうに先ほどちょっとどなたか御指摘があったように思いますけれども,私申し上げておりますように,内容の不当性ももちろん重要でございますけれども,その契約の締結過程の部分も重要で,これまで議論頂いていたような不意打ち的な要素で例えば典型的には不当な抱き合わせ販売の条項についてその効力を否定し得るというような考え方ございましたけれども,そういったものは2の(2)で拾えるという考え方であるというところでございます。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   先ほど筒井幹事からも御発言がありましたけれども,佐成委員から明示的な反対意見が出されているところでございます。その取扱いにつきましてはこの後で別に御相談をさせていただきたいと思います。その御相談に至るまでの間はこの仮案についての御審議を進めていきたいと思いますので,第三者のためにする契約も含めて御意見がありましたらお出しいただければと思います。 ○山野目幹事 加納関係官の先ほどの発言の前半のところに私も賛成でございまして,内閣総理大臣が消費者委員会に諮問したから約款はそちらでどうぞということには,やはりならないのではないでしょうか。このような基本的な契約の拘束力に関わる事項は,民法に規律を置くことができるのであれば置くことがふさわしいと考えます。   その上で,しかしながら反面におきまして佐成委員から意見ないし要望が経済界の危惧,御心配に基づいてお出しいただいたところも理解することができます。幾つかの点を仰せになりましたけれども,一,二私が感じたことを申し上げれば,定型約款の定義に関して,例えば不特定多数というふうに現在5文字で書いてあるところを不特定かつ多数というふうな表現にして,その定義で考えていくというようなことは十分にあり得るのではないかと考えます。   あと1点申し上げますと,定型約款という言葉も今回事務当局が非常に苦心してこの言葉をお選びになったものであろうということはよく理解することができます。従来法制上基本約款という言葉と契約約款という言葉はありますけれども,この二つの概念ともここで考えているいわゆる約款とは全く性質の異なるものでありまして,それらとの区別に腐心されてこの言葉を選ばれたものであると想像します。   しかしながら,耳に新しくて,また佐成委員が御心配になったように,いろいろな誤解を招く部分もあるかもしれません。中田委員からも用語の御提案を頂いていますし,私個人は定型条項,スタンダード・タームズという言い方でこれまで用いられてきた概念の一つの活用として,定型条項ないし定型約款にするということもあっておかしくはないように感じます。ただし,この後に部会長が進行等についてお考えをお示しになるであろうと思いますし,要綱仮案の段階で用語をガチッと決めてしまうものではないということも恐らく佐成委員も含め委員,幹事において了解していることではないかと理解しますから,用語についてはまた一所懸命考えなければならないと考えます。 ○高須幹事 本日は,大村先生は御欠席ですが,大村先生の御著書を読んだときに,民法という言葉は明治の初期に津田真道という人がフランスの民法を翻訳した際に名付けたということを読みました。真っ直ぐな道と書いて津田真道だそうでございます。以来120年,必ずしも真っ直ぐな道ではなかったと思いますが,いろいろなことがありながらも私たちは120年間,この民法を使ってきて現在に至っていると思います。   その中でこの約款の問題というのは,正に現代的なテーマとして非常に重要な問題になっているということだと思います。ですからこれだけの議論を積み重ねてきているのだと思います。先ほど佐成委員のお話を伺っても,真っ直ぐな道ではないけれども,少なくとも我々はこの道を歩いているのだと思います。ですから,道半ばかもしれませんが,今の努力をやはり断念するべきではないのだろうと思います。今日の佐成委員のお話はとても具体的で,幾つかの懸念事項というものをはっきりと示していただいたという意味では意義があると思います。そこをしっかり我々も受け止めて,何らかの解決方法を示していくことが大切です。かなり時間はなくなっているのかもしれませんけれども,まだ道半ばではないか。抽象的な言い方ですみません,ただ,そういうことでございますので,もう一頑張りをしたい,すべきだと思います。 ○潮見幹事 幾つか申し上げたいことがあります。基本的には先ほど加納関係官,それから山本敬三幹事が言っていたことと基本的に方向は私も同じものを考えていると思っております。事務局の皆さんが考えておられること,それからどこに落とそうかという先ほどの村松幹事がおっしゃったことは理解できるのですが,特にこの定型約款の2に絞って言えば,2の(2)で含まないものとするというふうに構成している部分についてはやはり個人的には違和感を覚えます。こういう捉え方というのは従来の約款理論とか,あるいは消費者契約法の理論だとか,あるいは広く民法の意思表示理論のそこのどこにもなかった捉え方であると少なくとも私は認識しております。   その上で,従来の約款の消費者契約法の理論,民法の意思表示・法律行為論というものは従来いろいろな議論を積み重ね,いろいろなルールを立ててきたというのも事実であろうと思います。そうした中で不当であると判断されたものが,不当であるとの理由で契約の内容に取り込まれないという評価をした場合に,他の領域の問題に思わぬ影響を与えないのかという感じが強くいたします。例えば,先ほどから出ている消費者契約法における個別契約における不当条項の規制だとか,あるいは定型約款に当たらない約款における不当条項の処理というものは一体どういうふうに説明をするのでしょう。更には,民法で個別契約で当該条項が公序良俗に反するというふうになった場合に,ではそれについては合意が成立しないのですかなどといったところにも波及しかねない危険性をはらんでいるのではないかというように思います。   恐らく今回御提案になったものは定型約款,定型条項に限った趣旨でこの枠組みを苦労して作られたのだと思いますけれども,そうであればなぜ定型条項についてこういう枠組みが妥当して,それ以外にはこの論理が及ばないのか,及ばないのだというその部分の是非説明をしていただきたいと思うところです。   もう一つ具体的に申し上げますと,こういう含まないものとするという枠組みを取ったときに,例えば消費者契約ではない定型約款を使っている取引で,例えばその中に損害賠償額の予定条項があったり,あるいは違約金条項があって,それがちょっと金額的にどうかという問題があるという,従来から言うと一部無効だとか契約の条項の切取りとか問題になっているような場面ですけれども,そういうときに,一体理論的にどのように説明をされるのでしょう。先に当該条項の有効,無効の評価をした上で,次にその条項が契約内容になる,ならないという判断をされるのでしょうか。恐らくこういう手順というものは従来民法で考えていた手順とは真逆の発想を採るのではないでしょうか。そういう意味では,条項一部無効の場合の処理を含めて,この先時間があるのであれば検討していただいて,場合によれば先ほど加納関係官がおっしゃったようなところかと思いますけれども,無効処理というような方向に転ずるのも一つの方法としてはあってよいのかもしれないと感じました。特にここで組入れにこだわる必要はないというそういう意見として受け取っていただければと思います。 ○鎌田部会長 ほかには。 ○鹿野幹事 既に言及されたところではありますが,3点申し上げたいと思います。   第1点は,加納関係官がおっしゃったところですけれども,定型約款に関するルールについては,これが消費者契約法に専ら委ねておけばよいという問題ではないからこそ,民法の基本的な考え方として導入することにつき,議論してきたのではないかと思います。ですから,もちろん一方で消費者契約法そのものについては更に検討する必要があるとは思いますけれども,それとは別に,民法において更にこのようなルールについて何らかの規定を置くということを模索していくべきだと思います。時間が限られているとは思いますが,そのように考えております。   その上で第2点ですが,先ほど佐成委員からは,特に定義規定だけではないのですけれども,定義規定についての曖昧さということが指摘されました。その点については,少なくともその幾つかは,見直す余地があるのではないかと思います。定型約款という言葉を使うかどうかということについてもそうですし,あるいは不特定多数ということについても,その不特定と多数の間に「かつ」という言葉を入れるとより明確になるということもあるかもしれません。また,「内容の全部又は一部が」という言葉を入れることによって誤解を招くおそれがあるということであれば,その部分を削除するということも考えられるかもしれません。このように,文言を多少改めることによってどこまで明確性を確保できるかということを含めて,更に追求していく必要があると思っております。   それから第3点ですが,これは既に山本敬三幹事,それから潮見幹事もおっしゃったところですが,2の(2)のところについてです。この(2)のところでは,従来のいわゆる不意打ち条項に関する項目を独立した項目から落として,ここに言わば合体させるというような趣旨もあり,そのような経緯も考慮して,「含まないものとする」という言葉を用いた提案がされているのだろうと私は認識しました。そして,先ほどの御説明によれば,「含まないものとする」という文言の意味するところは無効と余り変わらないということのようでした。しかし,考えてみますと,やはりこれは無効とは違います。「含まないものとする」という文言をとると,論理的には無効より前の段階で契約から外されるということになって,無効という判断が直接は及ばないように見えてしまいます。その結果,山本敬三幹事がおっしゃったように,例えば消費者契約法との関係でその規定との関わりはどうなるのか,特に差止請求との関係がどうなるのかということについて,無用な誤解ないし議論を生むということにもなりかねないのではないかと思います。   従来の約款や不当条項等に関する議論との整合性ということも踏まえて,ここはやはり無効として整理した方がよいのではないかと,私も考えております。 ○沖野幹事 内容的には重複なのですが,個人的には私は次回は出席できないものですから,一言申し上げたいと思います。次回があるかどうか分かりませんけれども。あったとしたら,ということです。重複ですが申し上げたいと思います。   2点ございまして,一つは2,もう一つは4の変更についてです。先に4の変更についてから申し上げますと,これは佐成委員からも御指摘があり,既に御指摘が幾つかあったところですけれども,定型約款中に変更の定めがないと発動しないということにつきましては,前回まではただ変更の定めとあったのが今回からはこの規定によるということですから具体的には民法何条の規定によって変更ができるというようなことで,合理的な形での変更が可能であるということを事前にアラートする条項を入れておかなければいけないし,そういうものを入れておけばこれに乗ることができるということで,アラートする機能というようなことも含めて検討されて,改良の工夫をされていると思うのですけれども,それにしてもなぜ,その変更条項が本当に必要なのかということについての疑問は払しょくできないでおります。理由につきましては以前に申し上げたことと同じですので繰返しはいたしません。   それから,2の点の補充の要件ということで,やはり(2)が含まないものとするということについてこれまでに御指摘になった鹿野幹事,山本敬三幹事,潮見幹事と全く同じ感触を持っております。そこで,重複ではありますけれども,改めて申し上げますと,今回の考え方というのは非常に工夫されていると思います。そして,定型約款についての規律として,この世界だけで完結しているならば十分あり得る考え方なのだと思います。すなわち2の(1)ではこの定型約款の個別の条項についても合意をしたという扱い,個々の条項について全て合意をしたという扱いになるという規律とされた上で,その上でしかし不合理な内容にまで合意したということは無理であるというのを(2)で書かれている。そこには法律的な要素そのものも中身としては含む余地も出てきうるということです。そういう考え方は,全く何もないところに新たに何か作るのであれば考え方としてはあり得ると思うのですけれども,既に他の契約関係の規律がありますし,また取り分け今問題になっております消費者契約法において,いわゆる不当条項規制として一般条項として,またそれ以外に個別に条項についての効力を定めたものがあり,それとの関係や整合性が問題となります。消費者契約法は消費者契約法で民法は民法でという御説明も少しあったようですけれども,そう切り離して考えることはやはりできず,消費者契約法の基礎には民法の規律がありますので,もしこのままの形で入りますと,消費者契約の条項についても,含まない,合意内容にはならない,という場合が生じます。消費者契約中の条項も,前提としては2の(1)を前提としたものだと言え,ここに表れているのは認識も十分にできないような希薄な合意であるようなものについては,不合理な内容のものはそもそも合意内容と認めることはできないのだという基本的な考え方で,それが民法で打ち出されているということになります。   その上で,1の定型約款の定義が絞り込まれますと,これに当たらないタイプの問題状況としてはかなり似たような問題状況も生じるものが消費者契約においてはかなり出てくる可能性があり,そのようなものについては民法の考え方によれば,そもそも合意内容になっていないというよりも契約内容を構成しないという段階ではねられるというのが民法の基本的な考え方なのだけれども,規定はない。民法には規定がないし,消費者契約法もそういうことは書いてないので規定がないということになります。それを解釈で埋めなければならないのか,それともそういうことを考えるならば消費者契約法の規定を改めて,無効とすると書かれているところを契約内容とはならない又は無効とするというような書きぶりに改めないと十分ではないのか。あるいは不当条項の個別リストについても内容とならない又は無効となるというような規定ぶりにせざるを得ないのか,そういったものを特商法を始め様々なところでやっていかなければいけないということにもなりかねず,この世界で完結したものとして扱うことはやはりできないのだと思います。   そうすると,この中ではそれなりの合理性を持っていても,他の既に存在している規律との対応関係というのを考えていく必要がありますので,2については(1)の効果とセットだと思いますけれども,取り分け(2)が含まないものとするということについては民法だけでは済まないということをやはり重々考えていかなければいけないのだと思います。 ○岡田委員 私の方からもやはり約款規定に関しては民法に入れてほしいということを一言申し上げたいと思います。   消費者契約法制定のときに関わった管理官がある会合で,消費者契約法の条文を作るに当たって,ここまで民法にないものに踏み込んでいいのだろうかということが一番悩ましく思ったし苦労したということを言っていました。私はこの民法部会に参加したときに,本当に消費者契約法が民法にないものをここまで決めていたのかということで改めて消費者契約法の重みというものを感じたのですけれども,改めてその関係官の言ったことが胸に迫りました。   そういうことから考えますと,今回改正するに当たっても,民法に入るか入らないかによって消費者契約法の内容も変わってくることは間違いありません。   それからもう一つは,裁判の場においてなかなか消費者契約法が使われてないという場面が私たちからするとうかがえて仕方がないのですね。例えば簡易裁判所の調停や裁判においても消費者契約法の案件が結構増えていますが,もう一つ消費者契約法に踏み込んだ解釈が避けられている印象を受けます。民法に基本となる部分が入ってくるともっと消費者契約法に関係者も関心を持ってくださるかと思いますし,活用もされるのではないかと思っております。内容に関する専門的なことは申し上げる立場ではありませんが,民法に約款の規定を入れるということに関しては切にお願いしたいと思います。 ○山本(敬)幹事 4点申し上げたいと思います。2点は意見で,2点は質問に当たります。   まず,今問題になっている2の(2)についてですが,意見は先ほど申し上げたとおりなのですけれども,約款規制に関してはドイツでかなり長い歴史がありまして,約款規制法ができる前は,長らく組入れ要件に当たるものとともに不意打ち条項の準則が判例法理として形成されて,その中で不当条項に当たるものも不意打ち条項として契約内容に入らないという処理が行われていました。それを踏まえて,70年代に約款規制法ができるときに,純粋の不意打ち条項の問題とは区別して,内容の不当性に基づくものは不当条項規制として定めることになりました。これが混ざり合った状態ですと,不意打ち条項規制が非常に曖昧に広がったり狭くなったりする可能性がありますので,これをきちんと分けようということで,立法が行われました。   そのような経験を踏まえますと,日本で新たに立法をするのであれば,やはりこの両者はきちんと分けておく必要があるだろうと思います。ましてや消費者契約法等で既に不当条項規制の規定があるわけですので,あえて両者が混ざり合ったような形で規定する必要も理由もないだろうと思います。   その意味で,このような経緯を踏まえれば,先ほど申し上げたとおりになるのではないかと思います。   その上で2点目ですが,佐成委員からの懸念に対しては,定型約款の定義ないしは要件がまだこれでも曖昧であるという懸念が本当に当たっているかどうかの精査はしていただく必要があるかもしれませんが,仮にこの懸念があるとするならば,不特定かつ多数という限定は,この定義であれば問題なく入るのではないかと思います。   ただ,法人取引をおよそ外すというのは,その理由も必要もないのだろうと思います。例えば補足説明にもありましたように,法人がコンピュータソフトウェアを購入するようなときには,当然約款が付いてくるわけですけれども,それが適用されないとおかしいのではないかと思います。定型取引の要件を限定しますと,法人のみを外す理由はなくなってくるのではないか。その意味では,先ほどのような形で限定をして,それで了承が得られるのであれば,立法に至ることができるのではないかと思います。   もちろん一番懸念されているのは,先ほどの2の(2)が適用されてくることだろうと思います。これは以前からこの部会でも私自身申し上げてきましたけれども,やはり消費者契約法との差別化ができるかどうかが鍵ではないかと思います。つまり,消費者契約以外の事業者間取引にも適用される可能性のある規定であるとするならば,消費者契約法とはやはり違う,つまり無効になる範囲がより限定されるような規定であることが必要ではないかと思います。そのような意味で,先ほど私がお聞きしましたように,これで本当に消費者契約法10条と差別化できているのかという御質問につながったわけです。   村松幹事からの先ほどの御説明では,特に定型取引の態様を非常に重視しておられるということでしたけれども,比較法的にみますと,それよりはむしろ,例えば当該取引分野において一般的に用いられている,それ自体不合理とは言えないグッド・コマーシャル・プラクティスに当たるものから著しく逸脱している条項は,事業者間契約に関する不当条項として無効にするというようなものも挙げられています。それがもしかすると取引上の社会通念に対応しているかと思ってお聞きしたわけですけれども,可能性があるとすればそういうものなどが考えられます。   あるいは,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して」というのも,「それに反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの」と書くだけでは消費者契約法との差別化が難しいとしますと,何らかの加重要件を入れることが考えられます。それで経済界の納得が得られるのであれば,立法に至るのではないかと思います。しかし,それも解釈で読めるという趣旨で提案されているのだろうと思いますので,それで理解が得られるのであればやむを得ないかもしれないと思います。   質問があと2点ありまして。1点目は,3の定型約款の内容の開示義務についてです。これについては,例えば,インターネット取引などでそのような場合があり得ると思うのですが,相手方の方が定型約款の内容の開示を請求したくても請求できるような設定がされていない場合があり得るだろうと思います。このような場合はどうするのでしょうか。この規定は,相手方が請求しようと思えばできることが前提とされた規定で,請求可能性がおよそない場合は定めていないとみるのかもしれないと思うわけですが,つまり解釈に委ねられているとみることができるのかもしれないと思うのですが,本当にそうなのでしょうかということです。これは,今後実際によく起こり得る問題だろうと思いますので,確認が必要だと思います。   4点目は,4の定型約款の変更のうち,(1)のただし書で,「定型約款にこの4の規定による定型約款の変更をすることができる旨が定められているとき」ということですが,これは先ほど沖野幹事も少し触れられていましたが,どこまでのことを書くことが要求されているかということが実務的に重要ではないかと思います。単に「必要がある場合には,定型約款を変更することがあります」と書いておけば足りるのか。しかし,それは一見すれば,正しく不当条項のようにみえる。そのように書いても,結局4の規定に従って変更が認められるのか,それともどうなのかという点を確認させていただければと思います。このようなことを考えていけば考えていくほど,本当にこのような定めをしておくことが必要なのかということが問題になってくると思います。特に経過規定でみなし規定まで入れるとしますと,実はこの定めが本当に必要なのかということも疑問になるようなことが出てくるかもしれません。変更の合理性ないしは相当性があれば基本的には変更を認めるということが,より安定的なルールになるのではないかという気もします。   長々と申し上げましたけれども,最後の2点が質問です。 ○村松幹事 御質問頂いた点と,それからその直前に特に無効とせずに契約の内容としないというのに似ておりますけれども,合意したものとみなすものの範囲に含まないというような言い方をした部分についてたくさんの先生方から御指摘を頂いております。これを無効とするか,このような書き方をするかは法制的な観点からの検討を含めて事務当局としてもかなり悩んだところでございまして,苦渋の決断といったところでこのような形にしたところでございます。確かに御指摘のようにここで無効というふうにすると類似の分野でどうなるのかという点は気にはなる。おっしゃいますように,この規律だけでみればそれなりに合理的で筋の通ったものとみえるかもしれないけれども類似の分野でどうなのかという指摘はそうだなという部分がないわけではございません。   もちろん,従前議論をしていた不意打ち規制についても,契約の内容とならないというような説明をしておりましたので,当該事案をみたときに消費者契約法10条で無効となるということであれば,実は今日いただいた御指摘と同様の問題は生じていたと思いますけれども,こちらの方が問題がより大きいものと受け止められるというのは御指摘のとおりです。   2の(2)の信義則に反して一方的に害するものについては含まないということで,恐らくこの条項でこれまでの裁判例などをみてみたときにどのようなものを拾うのかというのは考え方いろいろとあるかも分かりませんけれども,単純に公序良俗違反だというような整理をしている判例ばかりではございませんで,契約の解釈の手法を使ってという表現が正しいのではないかと個人的には思いますけれども,そういった表現で契約の条項に拘束されないというような結論を導いているものもありまして,必ずしも無効だというようなロジックでなくてもギリギリ耐え得るのではないかというようなことも考えたというところで,これは若干言い訳めいておりますけれども,そういう考慮もしつつ,こういう形でもギリギリ耐え得るのではないかというようには考えてはございました。   おっしゃいますように消費者契約法との関係について若干の整理が必要なものがこのような整理をすると出てくるかどうかについては検討の必要があるであろうと思いますけれども,差し当たり今このようになっているのはそういう理由だということでございます。   それから,御質問の点で,3番の(1)については,すみません,御指摘の趣旨が私適切に受け止めることができたかどうかはございますけれども,請求ができる場合の問題かと言われれば請求ができることは一応の前提だとは思いますけれども,また後ほど確認させていただければと思います。   それから,4番の(1)のただし書の変更条項についてですけれども,実務的に民法の何々条の規定によると正確無比に書かなければならないというほどのものではないのではないかと考えております。約款あるいは契約の変更については有利変更であったとしても本当に一方的にできるのかという観点はあるでしょうけれども,民法の中にこのような規定ができれば基本的に約款の変更が行われますということを書けばこの規定に基づくものであるというように思われるような気もいたしますので,正確に民法何々条によるとまで書くことを求めなくてもよいのではないかとは思っております。   ただ,条項をみたときになぜこのような規定が置かれているのかと言えば,このただし書を見れば分かるように,飽くまでもここで言っているのは民法の規定に従って行う合理性のあるものを前提にしたものを条項として皆さんが設けているというのが前提でこのような規定が設けられているというような説明ができるのではないかと考えてこのような記載をしたというところでございます。 ○山本(敬)幹事 先ほど不明確に申し上げたかもしれません。3の(1)ですけれども,これは,定型約款準備者は,「定型取引合意の前又はその合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には,遅滞なく,当該定型約款の内容を示さなければならない」とありますが,定型取引を行う際又はその後相当な期間内に請求をしたくてもできないような状態にあることが起こり得るだろうと思います。例えば,インターネット取引で,請求したいのだけれども,どう請求すればよいかがプログラムされてないので,例えば電話をかける,あるいは事業者を見つけて請求しなければならないとなっていて,事実上請求したくてもできない状態にある場合はどうも想定されていない可能性があって,そのような場合はどうなるかはここには規定されておらず,解釈に委ねるという趣旨ですかという質問でした。 ○村松幹事 確かにそのような事態について想定した規定としては設けられておりませんので,解釈することになろうかと思います。 ○鎌田部会長 ほかによろしいでしょうか。 ○佐成委員 一言だけ申し上げます。皆様の議論を聞いておりましてちょっと内部の意見を思い出したので一言加えたいと思います。   民法に約款規制を入れることの立法趣旨について内部ではよく分からなくなってきたと,そういうような議論がありました。今回このような約款規制が仮に入った場合には,恐らく一般社会へのメッセージとしては消費者保護が民法に入ったというそういう理解になるのではないかというふうに感じております。つまり前回の案が提示されたときに7月9日の新聞などにマスコミ報道されていましたけれども,あれは一様に民法に消費者保護の規定が入ったと,そういうふうに報道されておりますので,世間一般へのメッセージ性としてはそういう方向になるのではないかと思います。ただ,我々部会の中では必ずしも消費者保護というようなのではないと思うので,その辺りかなり世間の受け止めと我々の内部での議論の受け止めが違うように感じておりますので,既に誤ったメッセージ性が付着してしまっているという点だけは御留意頂きたいなと思います。 ○岡田委員 私たち消費者はもちろんそのようには思っていませんし,消費者にとって一方的に有利な内容になるとは考えていません。ただ民法に入ったことによって現在全く規定がないことをいいことにいわばやりたい放題の約款が姿をなくすことになって,約款規定が正当化し紛争の解決にも貢献します。加えて現在の消費者契約法の約款規定にもいい影響があると信じています。経済界の一部の方の完全な誤解かと思いますが,その誤解の原因に新聞報道も影響していると考えます。 ○鎌田部会長 ほかによろしければ,先ほど申し上げましたようにこの問題の取扱いは後でまた相談させていただくこととして,次に進ませていただきます。   「第30 売買」及び「第31 贈与」について御審議頂きます。御自由に御発言ください。 ○鹿野幹事 第30の2の売主の義務のところについてです。既にほかの方々から,他の箇所においても,原則的な規定が外されて,言わば例外の規定からスタートするというのはいかがなものかという御指摘がありましたが,私も,特に第30の2のところで,契約の内容に適合した権利を買主に移転する義務についての従来の提案を削除するということについては,非常に疑問を覚えます。しかもここでは,従来の提案について内容的な異論が出されたからということではなく,内容的には恐らく異論はなかったのだろうと思うのです。この点が特に問題だというのは,ここでは従来のいわゆる特定物売買におけるところの法定責任説の考え方は採らないのだという重要な意味合いがあるからです。一方で,例えば先ほど指摘された履行請求権などについては,これも私は定めた方がよいとは思いますが,これは当たり前だから定めなくても分かると言われればそれはそうかなと思えるところがあります。しかし,この第30の2では,従来からの解釈論の経緯もあるので,その一番重要なところをきちんと明確にしておく必要性が特に高いのではないかと思います。   この補足説明では,後ろの3における追完義務の定めなどを見るとそれは分かるとされているのですが,後の各則的なところを見て初めてそれが分かるということでは,ここに関しては不十分だと思います。やはりこのような大切なところについては,正面から定めを置く方がよいのではないかと思います。 ○鎌田部会長 ほかの御意見はいかがでしょうか。 ○潮見幹事 1点だけ確認です。お答えを頂いたらそれで十分ですけれども。売買の10,目的物の滅失又は損傷に関する危険の移転の部分ですが,売買の目的として特定したものに限るというのが入っているところですけれども,種類別売買の場合に,現在の言い方を使えばですが,瑕疵のある種類物を選定して引き渡すと,こういう局面は個々に言うところの特定に当たるのか当たらないのか。当たらないとすればどういうふうな形でこの辺りを処理しようとお考えになっておられるのかというところについて事務当局がどうお考えになってこれを入れたのかという説明をお願いできればと思います。 ○住友関係官 この10の(1)の特定と言いますのは,現在の民法401条2項の要件を満たすときには特定しているというふうに言われていると思うのですけれども,その意味と同じ意味で使っているところです。 ○潮見幹事 はっきりと答えていただけませんか。というのは,種類債権の401条をめぐってはそこに言うところの特定にいわゆる種類物で瑕疵のあるものを選定した場合に,それが不完全ながらも,特定には当たるという考え方もありますし,いや,そうではなくて種類債権の場合にはそのような瑕疵のあるようなものなんていくら選定してもそのようなものは特定には当たらないのだという考え方もあるわけです。ですから,その意味でどちらの御趣旨でここをお書きになられているのかというところを具体的にお話しいただければ有り難いと思います。 ○住友関係官 事務当局としては後者の考え方で考えております。瑕疵がある場合には特定しないことになると思います。 ○潮見幹事 ということは,瑕疵のあるものを選定して引き渡したとしてもこの10の適用はない。それはいわゆる種類売買における契約適合あるいは不適合履行と言ったらいいのでしょうか,そういうものとして処理をし,その賠償範囲の問題等でここに対応していきましょう,この種の問題に,こういう理解をしておられるということでしょうか。 ○住友関係官 はい。 ○内田委員 今事務当局の担当官からはそういうふうに答えられましたけれども,文言上ははっきりとは書いてないですよね。文言上は目的物を引き渡した場合ということなので,目的物の引渡しと評価できるかどうかという解釈問題なのだろうと思います。少しでも瑕疵があれば目的物の引渡しとは評価できないという解釈はあり得ると思いますけれども,ささいな瑕疵であれば目的物は特定して危険は移転するということもこの文言からは全く排除されていないように思われ,その点は文言上はいずれとも決めていないのではないかと思います。 ○潮見幹事 後の解釈に委ねると。 ○内田委員 はい,現在もそうであるように,今回の改正においても,いずれとも明確には文言上は決めていないという見方もできると思います。 ○潮見幹事 はい。 ○鎌田部会長 よろしいですか,ほかの御意見は。よろしいようでしたら……。 ○中井委員 そうしますと,解釈によるということかもしれませんけれども,仮に契約に適合しない目的物を引き渡した場合,これも仮に当たるとして,その後両者に帰責事由がなくて滅失した場合に,買主は全額払わなければならないというのはおかしいと思いますので,ここで買主はその滅失又は損傷を理由とする限りにおいてはできないが,逆に言えば代金減額,価値は低いわけですから,差額分についてはなお処理が残るという理解をしてよろしいのでしょうか。 ○内田委員 これは現行法でも同じことですけれども,ささいな瑕疵に過ぎないときは目的物は特定して危険が移転するという解釈論は可能で,その場合には,滅失したこと自体を理由とする責任追及はもはやできませんけれども,瑕疵を理由とする担保責任の追及はできる。修補請求はもちろんできませんが,代金減額とか損害賠償とかは可能であるというふうに解釈されていると思います。 ○中井委員 ありがとうございます。 ○鎌田部会長 それでは,次に「第32 消費貸借」から「第34 使用貸借」までについて御審議頂きます。御自由に御発言ください。 ○筒井幹事 関係部分のうちの「第33 賃貸借」の9,減収による賃料の減額請求等につきまして,前回の会議で,本日も農林水産省の渡邉関係官が御出席ですけれども,御意見がありました。この点については要綱仮案としてはこのような案文にしておりますけれども,当然のことながら今後の立法プロセスの中で必要となる省庁間の協議の問題は残っているという認識ですので,引き続き農林水産省の担当課との間で協議をさせていただきたいと考えております。その旨を明示的に発言しておこうと思います。 ○鎌田部会長 ほかに御意見ございますか。 ○山野目幹事 表現のみですけれども,賃貸借の53ページの4の不動産賃貸借の対抗力,(4)所有権移転の登記の「所有権移転」の5文字のところ,「所有権の移転」の登記としていただければと思います。あるいはこの「移転」は要らないのかもしれませんし,あるいは登記先例とする通達などを出すときの普通の言い方では「権利取得の登記」というふうに表現したりもしますから,今後チェックしていただきたいと望みます。   法制審査というものが,こういうところを見つけるという本来の御仕事をなさっていただくと,まことに宜しいと感じます。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがですか。   それでは,次に「第35 請負」から「第37 雇用」までについて御審議頂きます。御自由に御発言ください。 ○山本(敬)幹事 35の1の「仕事を完成することができなくなった場合等の報酬請求権」です。これは,これまで何度も発言をしてきましたけれども,最初の「注文者の責めに帰することができない事由によって」と書く必要はないのではないかということを申し上げましたが,最終的には書いた方がいろいろな意味でこの規定の位置付けがはっきりするという趣旨で書かれたのだろうと思います。ただ,少なくともこの「注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなった場合」と定めている理由は,注文者の責めに帰することができる事由による場合は危険負担に関する規定の解釈に委ねるという趣旨であること,そして,この規定による完成部分の報酬請求については,注文者の責めに帰することができない事由によることの証明は不要であるということは補足説明ではっきりと明記していただきたいと思います。よく理解すれば必ずそうなるということは分かるのですけれども,卒然と読めば何を書こうとしているのか分からないだろうと思います。それははっきりと書いていただくことをお願いしたいと思います。 ○鎌田部会長 よろしいですね,そこは。   ほかに。 ○中田委員 同じところなのですけれども,前回の報酬だけではなくて費用も請求できるようにした方がよいということを申しましたところ,83の2の46ページで検討していただきまして,どうもありがとうございました。ただ,その中で642条1項と同じ文言にというように書いてあるのですが,私は必ずしも同じ文言ではなくてもいいわけでして,注文者の受ける利益に対応する費用も請求できるようにするということが趣旨でございます。   解釈に委ねるということなのですけれども,条文だけ見て解釈しますと642条1項の反対解釈がされる可能性があると思います。   それから,委任について648条がありますが,そこでは報酬に費用が含まないことが明らかですので,その類推適用の可能性もあると思います。ですので,解釈に委ねると単に報酬と書くと費用を含まないという方がむしろ自然になるのではないかと思います。そうしますと,642条1項とは区別できる表現で費用も請求できるとした方がいいと思います。   ただ,もう現時点で修文が難しいということであれば,次のような理解を確認させていただければと思います。つまり,請負の場合は報酬と費用の関係が多様でありますので,報酬が費用を含む場合もあれば,報酬と費用を両立てで定める場合もある。いずれについてもここの報酬という文言によって費用を当然に排除する趣旨ではないという理解でよいかどうか。私としては差し当たってこういった理解を採りたいと思いますけれども,要綱案の作成に向けてよりよい表現が可能かどうか更に御検討頂ければと思います。 ○合田関係官 今回報酬とのみ記載したことに,この規定によって請求することができるものから費用を除く意図があるわけではございません。委任では報酬と費用とが分けて規定されていますけれども,委任には無償の場合があるので,報酬とは別に費用についての規定を置いておく必要があるのに対し,請負は有償の場合のみですので,通常は報酬に費用も含めて請求することが多いということが前提になっており,注文者が請負人に払うべきものは全て632条の「報酬」に含まれるとも解釈し得るのではないかと考えております。   そうすると,請負において当事者が役務の対価とは別に費用を支払うという合意をした場合においても,既に履行した部分で,過分かつ注文者に利益がある部分に対応する費用も,この規律によって請求することができるという解釈が成り立ち得ると考えております。   ただ,請負のところでも642条1項では費用という言葉が出てきておりまして,ここでの費用の意義は必ずしも明確ではないので,請負における「費用」と「報酬」の関係については解釈に委ねられているというほかないのではないか,そのような趣旨で,今回部会資料には解釈に委ねられていると記載した次第です。 ○鎌田部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○山本(敬)幹事 いずれかの段階で確認しようと思ったのですけれども,もう最後の機会だと思いますので,今日確認させていただければと思います。   請負人の責任等に関する規定の適用範囲について確認をしたいと思います。と言いますのは,現行法の解釈では,従来の通説は,現行法の請負の担保責任に関する規定は仕事が一応完成した後にのみ適用されるのであって,仕事が完成するまでは債務不履行の一般原則が適用されるというように考えてきました。これは,特に解除に関するルールを念頭に置いた解釈論だと思いますが,それが今回の改正法を全体としてみたときに変更されるのではないかということの確認です。   従来の通説の発想の根底には,請負の担保責任というのは債務不履行の一般原則の特則でもあるけれども,それと同時に売買の担保責任,つまり法定責任としての売買の担保責任の特則でもあるという二重の性格付けがありました。特に売買の担保責任の特則という側面に引きずられて,請負人の担保責任も債務不履行責任とは違う特別な責任だという理解があったとみられます。無過失責任だと言われたりするのも,そういうことによりました。   さらに,特に解除については,現行法では,建物等の場合は解除できないという限定的な規定が置かれていましたので,請負の担保責任の規定の適用範囲を狭く限定する必要もあって,完成前については債務不履行の一般規定によるということだったと思います。   更に言いますと,請負契約については,特に建築請負を念頭に置いて,請負人に広範な履行上の裁量を認める,つまり完成するまでは請負人の裁量に委ねるという考え方もあって,先ほどのような解釈論が展開されてきたと思います。   それに対して,今回の改正では,売買もそうなのですが,ここで認められる請負人の責任は,債務不履行の一般原則を下敷きにして,それを具体化したり,あるいは必要な補充をしたりするものとして位置付けられていると思います。と言いますよりも,この第2次案を見ますと,規定されているのが修補請求と損害賠償だけでして,解除についてはここに定められていませんし,代金の減額についても売買の準用によるということです。   そうしますと,これまでの通説の前提が崩れているわけでして,ここに規定されているものの適用範囲を仕事の完成後に限定する必要はもうなくなっているというように考えられます。つまり,仕事完成前であったとしても,ここに定められているような請求は可能であるということが前提になる。残る問題は,期間制限に関する規定です。ただ,これは目的物を引き渡した場合,あるいは仕事が終了した場合を想定してそこからの期間制限ですので,これは,いずれにしてもここに定められているとき以降に適用される期間制限だと理解し,それ以外の責任を基礎付ける規定については,特に仕事の完成の前後を問わず,契約あるいは取引の内容に即してそれらの請求が認められることは否定されないと理解することになるのではないかと思います。   このようなことも,実はこれまでの間に議論しておくべきことだったのではないかと思います。解釈に委ねると言いましても,解釈に委ねればこうなるのではないかということを述べておくことにも意味があるのではないかと思いましたので,以上,少しお時間取って発言させていただいた次第です。 ○鎌田部会長 ありがとうございました。   ほかにはよろしいですか。   よろしければ次に,「第38 寄託」及び「第39 組合」について御審議頂きます。御自由に御発言ください。   よろしいですか。   先ほど来の御議論でこの部会資料83-1について様々な有益な御意見を頂戴したところです。このうち「第28 定型約款」に関しましては佐成委員からの御意見があり,結論的には現時点では定型約款に関する規定をこの形で設けることには賛成できないという御趣旨であったと思います。   これまでも反対意見を無視して結論を出すということは余り行ってこなかったと思いますが,他方で佐成委員の御意見は,現時点では賛成できないけれども,今後の議論の余地も全くないという御趣旨ではないと理解いたしております。   そうでありますと,この要綱仮案のうち「第28 定型約款」については決定を保留して,引き続き最終的な要綱案の取りまとめに向けた審議を継続するということにしてはどうかというふうにも考えられます。   他方,それ以外の部分につきましては様々な御異論も含めて御意見を頂いたところでございますが,本日頂戴しました御意見を踏まえて,字句の微修正を試みる,あるいは事務当局の条文化作業における検討課題とさせていただくということで処理させていただければと考えているところです。   こういった取扱いの方向性について御賛同頂けるようでありましたら,事務当局におかれましては今後も更に過密な作業のスケジュールが控えておりますので,本日の時点で定型約款の項目については全体を保留という扱いにした上で,それ以外の項目につきまして要綱仮案の御決定を頂く。そして,字句の微修正等につきましては部会長であります私と事務当局とに御一任頂けると幸いでございますが,こうした方向での結論を出させていただくことについて御意見を頂ければと思います。   よろしいでしょうか。どうぞ。 ○岡委員 方向性としてはそれでよろしいと思いますが,今後どうなるのかということについて,12月ごろに,あるいはめどが立ったところでもう一度やるのかどうか,その辺りをお伺いしたいと思います。 ○鎌田部会長 日程についてはまた事務当局の都合等でこの後説明をしてもらおうと思いますが,いずれにしましてもこの「第28 定型約款」については保留をしておりますので,この部分について見通しが立ったところで部会を再度開催し,御議論を頂くと,こういうことを考えているところでございます。その議論を踏まえて,「第28 定型約款」の取扱いについての最終的な結論を出させていただきたいと考えております。   事務当局からその点について説明してください。 ○筒井幹事 ただいま部会長から「第28 定型約款」について保留するという御提案がございました。その場合の取扱いといたしましては,継続審議ということでございますので,この部会としての最終的な要綱案の取りまとめ,これは年明け1月頃というのが一つの目安として見込まれるわけですが,それ以前の段階で改めて何らかの案をお諮りし,御議論いただきたいと考えております。   その場合に,本日,主に佐成委員から幾つか具体的な御指摘を頂いた点については,経過措置などに関する今後の検討結果とも関連してまいりますので,そういった全体としての私ども事務当局の検討と併せて,それについての見通しを立てながら並行して意見のすり合わせを目指すことになろうかと思います。ですので,しばらくお時間を頂いて,例えば来週とか9月中にすぐに審議を再開するというよりは少し長めにお時間を頂きまして,その再開が10月なのか11月なのかはまた改めて御相談ということになりますけれども,しばらくお時間を頂いた上で審議を再開させていただくことを現時点では考えております。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。 ○中田委員 確認ですけれども,先ほど字句などの微修正を部会長に御一任するということで,もちろん結構なのですけれども,それは要綱仮案についてなのですか,それとも要綱案についてなのでしょうか。 ○筒井幹事 本日の御意見の中でも具体的な案文についてより適切な文言に微修正する提案などがございましたので,意味内容の変わらない範囲で反映できるものがあるかどうかを精査してみたいと思いますし,それから部会外で誤字ではないかという御指摘を既に頂いているところもあるものですから,そういった点で字句の微修正はあり得るということだと理解いたしました。 ○鎌田部会長 これは要綱仮案についてですね。 ○筒井幹事 はい,要綱仮案としての修正をするという限度のことでございます。要綱仮案について,本日の会議で,字句の微修正を部会長と事務当局に一任するという形で御決定いただき,所要の微修正をしたものについて後日改めて公表するということでございます。 ○山野目幹事 定型約款を保留にすること,とその余を部会長に字句の推敲を一任することについては賛成です。その上で,ここで今決定されようとしていることのイメージを理解しておきたくてするお尋ねです。ドキュメントの体裁ですけれども,保留された「第28」のところは完全に削られるような形で抜いて要綱仮案になるものでしょうか。そうであるとすると29から後ろが番号が一つずつ繰り上がることになります。そうではなくてそこは引き続き検討するものとするというような体裁になるものでしょうか。   申し上げておきますと,その点をどうするかも,私個人の意見では部会長に御一任申し上げます。ただ聞いておきたいと感じますから伺いました。 ○筒井幹事 御一任ということですので,そのようにさせていただきたいと思いますが。全体の番号をずらすのは余り適当ではないと考えております。「第28 定型約款」については,本日お示しした案文にはなお異論があり,項目全体として保留となったという理解ですので,案文をすべて消して,項目番号と見出しだけを残し,これまでにも時々使っておりましたPというマークを付するというイメージで考えております。 ○鎌田部会長 前回の資料82-1の「錯誤」のところが「2 錯誤(民法第95条関係)」というタイトルと【P】の記載だけあって中身がなかったという,それと同じような形での整理をさせていただければと思います。 ○深山幹事 本論の話からは外れるのですけれども,経過措置については,ある一定段階で,事実上の議論という趣旨なのもしれませんが,議論する場を設けるという趣旨の御説明を頂いて,年末頃に部会が開かれるというふうに前回伺いました。そういうことなのですかということの確認が1点です。   もう1点,これも本論ではないのですけれども,当初規定の配列についても検討事項の一つとして挙がっていて,それは全体が見えてきたところで議論するということでペンディングになっていたというふうに私自身は理解をしていました。この点については元々は検討項目の一つに挙がっていたようなことでもあるし,部会からも幾つか山本敬三先生始め具体的な提案等もあったかと思います。   今後のスケジュールの話が出たので,現在お答えいただける範囲でお答えいただければと思うのですが,規定の配列についてもこの場で議論することが今後予定されているのかどうかという点について教えていただければと思います。 ○筒井幹事 その点についても以前から申し上げていることと同じだと思いますけれども,この要綱仮案の決定というプロセスをはさむことにした理由は,この部会としての検討結果である実質的な改正内容をこの段階で固めて,それを基に事務当局における本格的な条文化の作業に入るためであり,その節目としてこの決定をはさむということです。   この条文化作業におきましては,条文そのものとともに経過措置についての検討を行う。それから,他法律への波及についても検討を行う。そういう作業を進める中で更に検討課題が出てきた場合には改めて部会にお諮りすることになります。   それから,条文化作業を進める際には今ちょうどお尋ねがありましたような規定の配列についても一定の答えを出していく必要があります。そういう形で私どもの作業を進めた上で,最終的な要項案の決定以前に,例えば12月あたりというイメージがあり得るわけですけれども,そういった時期に,必要な回数の会議を開いて御意見を伺うことにさせていただきたいと考えております。それに加えて,今日の段階で保留になった検討項目がありますので,それについての検討の機会も持てるようにスケジュールを考えていきたいと考えております。 ○中井委員 確認です。要綱仮案決定後,条文化作業を進め,その調整が入って要綱案になるというイメージと思いますけれども,そうすると例えば12月頃に仮に審議があるとして,その時点では,提出予定とまではいかないかもしれませんけれども,それなりに想定された条文構成になったものが一応案として出来上がっている状態ではないかと思うのです。会社法の要綱案と条文との関連の問題で弁護士会から幾つか意見が出ているのですけれども,今回は,要綱案を決定する際にはそれが反映された条文が大体どのようなもので,どういう配列で,どういう形で既存の条文と並ぶのか,これらが一応見えたかたちで議論できると理解してよろしいのでしょうか。 ○筒井幹事 最終的な国会への法案提出プロセスには様々な手続がありますので,完全に一致するものを示すということまではお約束できませんけれども,できる限りそれに近いものを仕上げてこの部会の御意見を最終的に確認させていただき,御決定いただくというのは,私どもが今回の改正作業の進め方として目指しているところでございます。是非そのような方向で進めたいと考えております。 ○中井委員 是非そのような方向で進めていただきたい。例えば請負の契約不適合の辺りについて立法化に合わせた検討が必要だと書かれたままになっていますので,是非拝見させていただいて要綱案の最終的な審議をさせていただければと思っています。 ○岡委員 二つ質問させてください。一つ目は,字句修正を終えた要綱仮案の公表はいつ頃になるのかという質問が一つでございます。   それからもう一つは,心構えとして要綱案の承認の部会は先ほど1月とおっしゃいましたけれども,今までの話からいくと2月の親委員会ということですので,遅くとも2月上旬までに何かもう一回招集されて,そこがおしまいと,このような時間の予想をしておけばいいのでしょうか。その場合やはり火曜日が候補になるという理解でよろしいですか。よろしくお願いします。 ○筒井幹事 かなり具体的な話になってきましたけれども,現時点で想定しておりますスケジュールは,答申を得るための法制審の総会は,定例で大体9月と2月に開かれていますので,今回は来年2月の総会で審議をしていただくことになろうかと思います。この部会の使命としては,その2月の法制審総会に間に合うように総会で議論すべき要綱案を決定をするということですので,その時期の目途としては来年1月中ということになろうかと思います。   それに先立って,先ほど来申し上げているように,必要な回数の会議を年内適宜の時期に開催させていただくことになろうと思います。その際の曜日についてはこれまでと同様に火曜日でお願いしたいと考えておりますので,これは最後に申し上げようと思っておりましたが,ある時期からの火曜日の日程確保にまた御協力をお願いしたいと思っております。 ○岡委員 仮案の公表日はいかがですか。 ○筒井幹事 今日の議論の結果を改めてよく確認してみないと,どれぐらいの字句の修正をするのかしないのかという見極めが難しいのですが,誤字などの点検も十分にした上でということですので,中間試案のときも同じようなことを申し上げたと思うのですが,1週間から10日ぐらいの期間をみていただいた方がよいと思います。   本日御一任を頂いた微修正の作業を終えた後は,中間試案のときと同様に法務省ウェブサイトにおいて公表することとし,そして部会メンバーには通常の部会資料と同じように直接お届けをするという形を採ろうかと考えております。 ○鎌田部会長 よろしいでしょうか。   先ほど御意見を頂戴したように,一部保留が残った形ではございますけれども,民法(債権関係)改正に関する要綱仮案の取りまとめが行われたこととさせていただきました。   この間非常に長い時間もかかりましたし,いろいろとこの仮案をまとめるために耐え難きを耐えていただいた委員,幹事の皆さんも多かったと思いますけれども,この時点で一度心よりお礼を申し上げます。   また,この後仮案の保留部分の審議から要綱案に向けての審議をお願いいたしますけれども,引き続きよろしくお願いいたします。   どうもありがとうございました。   スケジュール等について改めて説明してもらいます。 ○筒井幹事 次回の会議日程でございますけれども,先ほど来の発言と重複する部分もございますが,来週火曜日等の既に連絡済みの会議については開催しないことにしたいと思います。   そして,秋以降の会議日程について,今日の結果を踏まえて改めて考え直すことになりますが,9月以降の火曜日を全て確保していただく必要はないと思いますので,本日の時点では11月,12月と1月の火曜日につきましては,引き続きこの部会の開催可能性があるということで空けておいていただけますでしょうか。不要という判断ができましたときにはできるだけ早めにその旨の御連絡をしようと思います。また,逆に10月の火曜日にどうしてもということがもし起きるとすれば,また別途御相談をさせていただきたいと思います。ちょっと不確定な要素がありますので,そういった形になりますけれども,差し当たり11月以降の火曜日の日程確保に御協力頂きますようよろしくお願いいたします。 ○鎌田部会長 それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきます。   本日も長時間にわたりまして大変熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。 -了-