法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 旅客運送分科会 第3回会議 議事録 第1 日 時  平成26年12月24日(水) 自 午後1時30分                        至 午後3時09分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  商法(旅客運送関係)の改正に関する中間試案のたたき台          第1 旅客運送についての総則的規律          第2 海上旅客運送に関する規律 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山下分科会長 それでは,予定した時刻でございますので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会・旅客運送分科会の第3回会議を開会いたします。   本日も,御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は,箱井幹事,田中参考人,小倉関係官が御欠席とのことです。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。まず,事務当局からお願いします。 ○松井(信)幹事 お手元の資料について御確認いただきたいと思います。分科会資料3として「商法(旅客運送関係)の改正に関する中間試案のたたき台」,こちらを事前送付いたしております。 ○山下分科会長 よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議に入らせていただきます。本日は分科会資料3につきまして御審議いただく予定であります。審議の進行次第ではございますが,午後3時30分を過ぎるようであれば,その辺りで適宜,休憩を入れたいと思います。また,審議に当たってのお願いですが,本日は部会に諮るための中間試案の原案の取りまとめに向けた会議でございまして,基本的にはどのような形で最終的にパブリック・コメントに付すべきかという観点から,御審議をいただければと思っております。したがいまして,個々の論点についての実質的な議論は,本日のところは中間試案の原案の取りまとめ方を考えるに当たり,必要な範囲で,適宜,お願いできればと思っております。その点,よろしくお願いいたします。   それでは,審議に入りたいと思います。まず,「第1 旅客運送についての総則的規律」について御審議いただきます。事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 御説明いたします。本日は特に御説明を申し上げた方がよいと思われる箇所に絞って御説明いたします。   「第1 旅客運送についての総則的規律」につきましては,まず,本文3,「旅客に関する運送人の責任」の(1)の第590条第1項を片面的強行法規とするか否かにつきまして,第1回及び第2回会議では,乙案に親和的な御意見として,生命・身体という重要な法益については,たとえ一部の免責であったとしても認めるべきではないという御意見や,消費者契約法の適用範囲が限定的であるため,同法によってのみ旅客の生命・身体の保護が図られると考えるべきではないなどという御意見を頂きました。   他方,甲案に親和的な御意見としては,災害時の運送において,万が一,旅客に損害が発生した場合には,原則として保険の適用がないため,契約上責任限度額を設けることなどによって災害時の運送手段を確保する必要がある旨の御意見や,特殊な運送をする際に運送人が賠償責任を負わない旨の誓約書を交わすことによって,訴訟において運送人が必要な注意義務を尽くしたか否かについて真偽不明になった場合にも,運送人は一定の範囲内でしか責任を負わなくて済むという意味もある旨の御意見を頂きました。   これらの御意見を踏まえまして,中間試案においては甲案と乙案を併記し,特に乙案のような規律を設けるべき具体的な必要性につき,広く意見を募集することとすることが考えられます。   また,本文3(2)の第590条第2項を削除するという提案につきまして,前回会議では,人身損害に係る賠償額を定める際に,被害者及びその家族の状況を必ず斟酌すべきであるとの規律があることにより,旅客が安心し,その予見可能性が高まるため,かかる規律を存置する方が良い旨の御意見を頂きましたことを踏まえて,ペンディングという意味の【P】を付していますが,現在の裁判実務では,被害者及びその家族の状況が斟酌されており,商法の適用がある旅客運送に限り,民法第416条第2項の特則ともいわれる規律があることにつき,合理的な説明も困難であって,商法第590条第2項を存置する理由の説明は必ずしも容易ではないと思われますところ,これを存置する具体的な理由や必要性等について御意見を頂戴したく存じます。   以上の点を含めまして,資料2ページの本文第1の1から3まで並びに資料5ページの本文4及び5のとおり,中間試案の原案として取りまとめることにつき,御審議いただきたく存じます。 ○山下分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして御自由に御発言を頂ければと思います。 ○道垣内委員 議事といいますか,システムの問題なのですが,パブリック・コメントに付す際に【P】を付けるというのはどういう意味でしょうか。もしくは,それは今日,付いているというだけなのでしょうか。 ○山下関係官 今日の段階では暫定的に付しているだけでして,中間試案には【P】を付すことはいたしません。 ○道垣内委員 分かりました。 ○河野参考人 前回,特に第1の「旅客運送についての総則的規律」のところで,商法第590条第1項の規律に関し,私は消費者・利用者の立場から,乙案を支持していますと申し上げました。その時点で,これが今後,両論併記ということで,いわゆるパブリック・コメントにかけていただいて,しっかりと特に乙案においてどのような具体例があるのか,どういう場合に乙案でないと困るのかというふうなところで,広く意見を集めていただければと思っておりますが,その前段といたしまして,このことについて二つ,はっきりとこういった視点で意見を集めていただきたいということを申し上げたいと思っております。   1点は,今回のたたき台の補足説明のところに記述がございますけれども,2ページから3ページにかけて,人身損害の賠償額について上限を定める特約というのが,現状,存在しております。この590条1項の規定に反する特約で,旅客に不利なものを無効とすることの必要性というのを考えたときに,現在,遊覧航空の事業者の約款において,人身損害に対する運送人の責任を旅客一人につき2300万円までに制限する条項というのが,ネットで検索したところ,3件ほど見つかりました。航空法に基づく認可約款であるはずですけれども,人身損害に対する損害賠償額の上限が設けられている問題のある事例だと思います。このような問題がありますので,そういったところもしっかり書いていただいて,乙案に対する賛同がもう少し得られればいいなと思っております。   また,国内線の航空機事故においても,損害賠償責任限度額を定めた約款の効力を無効とした裁判例が,かつて大阪地裁で日東航空のつばめ号の事件と,それから,全日空の自衛隊機雫石事故,その2例で裁判例がございますので,そういったこともあるということも,もしできましたら付け加えていただきたいと思っております。   それから,乙案を支持するもう一つの論点としまして,私たち利用者側,旅客側が運送人の過失の立証に苦労した事例というのがございます。例えば,鉄道旅客運送に関しては標準運送約款がなく,各社の旅客営業規則が契約内容を規定しております。旅客の人身損害についての運送人の責任に係る規定は,置かれていないというのが通例だと理解しております。そのような中で,例えば事故が起きた場合,旅客側が立証するときに非常に困難を伴った事例がございます。例えば,信楽高原鉄道の列車事故の例がございます。   この事案は,第三セクターの信楽高原鉄道の路線上で,同社の車両と直通乗り入れをしていたJR西日本の車両が正面衝突した事案でして,単線の区間で代用閉塞方式が採用されていたんですけれども,実際には閉塞が確保されていなかったために生じた事故です。その点に関しまして,誰がどのような義務を負担し,どのような義務違反や過失があったのかという点が問題となって,原審,それから,控訴審,いずれの判決もその点が詳細に検討されています。利用者には事業者側の従業員や役員が担当している職務分担や行うべき業務の内容などは分かりません。その注意義務違反を主張・立証することはかなりの困難を伴います。結果としますと,この事案というのは,一審,控訴審ともに旅客側が勝訴し,確定しておりますけれども,私たち利用者からしますと,是非,乙案を採用していただいて,商法590条1項の規定に反する特約で旅客に不利なものを無効とするということを,商法の中で明確にしておいてほしいと思っております。   第590条第1項の規律に関してはそんなふうに思っておりますので,今,申し上げました2点について,人身損害の賠償額について上限を定める特約の存在というのをどう考えるのか,それから,旅客側が運送人の過失の立証に苦労した事例もあるということ,そういったところをパブコメで広く意見を募集していただきたいと思っております。 ○松井委員 今の河野参考人のお話がありました部分に,非常に共感を覚える部分は幾つもあるのですが,日弁連の委員会で,甲案,乙案という形で御提示いただいたものについて議論したところ,現時点では,甲案,乙案のいずれの案に賛成すべきか,なかなか判断し難いというのが現状の結論でございます。甲案,乙案の実質的な内容というのはもちろんなのですけれども,それ以前の問題として,第590条第1項の規定が,「注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スルニ非サレハ旅客カ運送ノ為メニ受ケタル損害ヲ賠償スル責ヲ免ルルコトヲ得ス」という非常に短い規定であり,この分科会の第1回の会議でも発言させていただきましたけれども,甲案を採って消費者契約法に基づく制限に依拠するとしても,また,乙案を採って不利なものを無効にするにしても,商法の規定が590条1項しかなく,それが極めて分かりにくい条文ではないかという懸念がございます。   特に,今回の対象は旅客ですので,物品運送の577条と異なりまして,消費者や個人を相手にするという観点からいきますと,一体,何が書いてあるのか,また,何が書いてあって,どういう場合に不利だと言えるのかということが,条文を見て,少なくとも一目瞭然のものとは言い難いのではないかと考えております。分科会の際に御質問させていただいたときの御説明では,590条1項は,立証責任だけではなく,民法416条を介して損害賠償の範囲等も併せて規定していると,すなわち,乙案であっても損害賠償の制限や免責も認められなくなるだろうという御説明があったかと思います。   物品運送の際にも,同じような点について,私は「注意ヲ怠ラサリシコト」ということについて懸念を発言させていただきましたけれども,これは債務不履行の責任を念頭に置いているといたしますと,何を立証すべきかということは必ずしも明確ではなく,債務不履行と同じように債務の本旨に従って履行しない場合に抵触するということであれば,そのことが判るように規定すべきではないかと思います。   物品運送の方は,強行法規として無効になるという議論はなかったので,また,当事者が業者ばかりですので,今までの実務の延長ということでいいのかとも思いますけれども,少なくとも旅客については,そこの部分をもうちょっと明確にして,中間試案ということであれば,590条1項をもうちょっと少し長い文章なり,幾つかの規定にして,立証責任が運送人にあることと,債務の本旨に従って履行がなければ運送人に帰責性が認められること,それから,損害額は民法416条によって,今,お話のあった損害額の制限ができないとか,過失免責はできないとか,そういうものが条文を読んで分かるような規定に改めることを御検討いただければと思います。   この間に,日弁連だけではなくて,運送人の業界の方ともお話をする機会がありましたが,乙案が損害賠償額の上限を設けてはいけないという趣旨であれば,現在のほとんどの約款もそうなっていますから抵抗はあまりないようですが,一体,新しい規定が運送人にとってどういうところが不利になるのかというのが明確ではないので,賛成してよいのか,反対してよいのか,なかなか難しいと,今の約款と違っているわけではないので,反対というのもおかしいし,かといって,この規定がどういう役割を果たすか分からないという懸念をお持ちになっているようです。   実際,前回までも,妊婦の場合とか,火山の話とか,いろいろなお話がありましたけれども,債務不履行と同じであるということであれば,請け負った契約の内容ということで,元々,危険な段階で受けた契約ということですから,債務の本旨に合ったものかどうかということで判断できるのですけれども,この局面で「注意ヲ怠ラサリシコト」ということになりますと,多分,甚大な被害が起こってしまったことを前提に,例えば原発事故と同じようなことで不可抗力にかなり近いケースであったとしても,予見できたのではないかという議論をされるという懸念も,お持ちになっているという話もありました。   限界事例について,軽過失について免責が認められなくて,今までの債務不履行の裁判例と同じで,損害額の上限を認めないという規定であるとすれば,逆に運送業者の方も今,河野参考人の御提案のあった内容に反対する理由もありませんが,ただ,漠とした形で,これよりも不利なのは駄目と書いてあると,一体,何をしてはいけなくて,何ができるのかということが,明らかでないのではないかという御懸念があるように思いました。日弁連としましては,590条1項の内容を明確に規定していただくという前提で,改めて甲案,乙案について検討させていただきたいと考えております。 ○塚越参考人 運送人の立場からの意見なんですけれども,三つほど強調しておきたいことがあります。   一つ目は,資料でも甲案の立場に親和的な意見の二つ目のポツにあるんですが,今までの分科会でも強調されているんですが,なぜ,運送契約のうちの旅客運送に限って,ほかのいろいろなサービスがある中で,こういう片面的強行法規を設けることが必要なのかというのがピンとこないというのが一つ目です。   二つ目ですけれども,今,松井委員がおっしゃったように片面的強行法規にする場合は,そもそも,商法590条がどういう外縁というか,適用範囲があって,どういう義務の内容かということが明確にならないと,なかなか,影響がどこまで及ぶかというのが分かりにくいという気がしています。この分科会でも発言したように,例えば食堂車とか,そういうところに及ぶかどうかというのが,商法590条の解釈によると御説明いただいているんですが,そもそも,590条の解釈がどういうものなのかというのが曖昧な状況で,片面的強行法規を導入されるとなった場合は,影響を図りかねるなというのが二つ目です。   三つ目は個別的な議論なんですが,今回の分科会の資料で,例えば重篤な病気の方を運送する場合の免責の誓約書みたいなのをもらう場合の意味合いを考えてみたんですけれども,この資料では,そもそも,注意義務違反がなければ賠償する必要はないし,注意義務違反があれば賠償する必要があるのだから,誓約書をもらっても,もらわなくても,同じなのではないかというような趣旨の御説明があったんですが,もしかすると限界事例的なんですが,例えば,運送人に注意義務違反があっても,例えば重篤な病気の方は思わぬ損害が,普通の人だったらケガ程度で済むところを,ちょっとした刺激で例えば死亡に至るとか,そういう場合もあると思うんです。   こういう場合に,そこまで危険な場合は本来は運送したくはないんですけれども,どうしてもということで運送を引き受けると,引き受けるに当たっては,そういう特別損害的な思わぬ損害については免責させてもらいたいという趣旨で,誓約書をもらうということもあるような気がしますので,ここの分科会の資料だと,立証責任とか,そういう趣旨に限定した記述になっているような気がしますので,意味合いとしては例えば特別損害について免責を求めるとか,そういうような趣旨で例えば病気の方を運送する場合に誓約書をもらうとか,そういうことがあるのではないかなという気がしました。これは個別的な意見なんですが。 ○加藤参考人 先ほど塚越参考人の意見とも少しかぶるところがあるんですけれども,4ページの3行目から記載された意見に賛同する立場からの補足的な意見でございますけれども,甲案か,乙案かという問題で私どもの協会として最も気にしておりますのは,病人輸送,妊婦輸送あるいは非常時の緊急輸送といったリスクのある輸送の引受けの問題ということに尽きると考えております。通常期におきまして先ほど河野参考人がおっしゃいましたとおり,上限額を設定したり,あるいは立証責任の転換をしたりということは問題であると,これはおっしゃるとおりと考えておりますが,一番気になっているのが病人輸送,妊婦輸送あるいは非常時の緊急輸送と,こういうリスクがある輸送の引受け,これをどうしていくかという問題に尽きるかと思います。   実務といたしましては,例えば病人の輸送,妊婦輸送あるいは非常時の緊急輸送,非常時の緊急輸送というのはなかなか事例は少ないと思いますけれども,通常の病人あるいは御病気の方,妊婦の方という場合には御病状の聞き取りやあるいは輸送に伴うリスクの説明と,こういうものを運送人の側で考えた所定の注意義務を果たした上で,それでもなお,御利用を希望する方,これについて万が一の場合の責任関係についての御承諾を頂いてから,御利用いただいているというのが各事業者の実情と考えております。   仮に裁判におきまして,その注意義務の果たし方が十分ではないと判断された場合,次のような判断に移るかと存じます。すなわち,まず,甲案におきましては利用者から頂いていた責任関係の承諾書の内容が社会通念上の信義則に違反していないか,あるいは消費者契約法の理念に違反していないかどうかといったような判断に移りまして,違反していないとなれば,その承諾は有効となりまして,違反しているとなれば無効となるかと存じます。   一方の乙案におきましては,強行規定となれば,そうした承諾は原則として無効になるという可能性が現在よりも高まるのではないのかなと考えております。もちろん,旅客に不利でないと判断されることもあろうかとは思いますけれども。すなわち,甲案と乙案では裁判において注意義務を果たしたか否かがどう判断されるかによって,その後の承諾の有効性の有無の判断基準あるいは判断の結果に関わってくることになろうかと思います。   注意義務につきまして,こういう形であれば必ず法的にも,あるいは判例的にも注意義務を果たしたことになるという何らかの明確な法的基準が示されているようであれば,そうした問題は少なくなると考えておりますけれども,実際の運送現場におきましては,どこまで注意をすれば注意義務を十分果たしたことになるのかというのが,判然としないという現実が厳然として存在しているということであります。   そういたしますと,運送人の側としては,そうしたリスクのある輸送に直面した場合におきまして,法改正の結果として利用者から頂いた承諾というものが無効になるという可能性が現時点よりも高まる,あるいは判決の結果がどうあれ,そもそも,訴訟が提起されるリスクが現在よりも高まるというようなことになれば,別な形でのリスクの回避,すなわち,あまりリスクのある輸送は,原則としてお引受けをさせていただくことができないというような方向に,現場の運用が流れていかざるを得ないかなというふうな気がしております。   法的な議論はさておきましても,いずれにしても現状におきまして注意義務に関して法的にグレーゾーンがある,あるいは先ほどの松井委員の方から御指摘もありました,不利か,有利かということについても,そもそも,グレーゾーンがあるというようなことを放置したまま,強行規定化を行うということについては,日々,様々なリスクのある輸送に直面しているという現場に,新たな混乱を及ぼしはしないかなということを心配しているというのが協会の意見の趣旨でございます。   今回の商法の改正,これは制定から百数十年が経って,現行の商法が実態と余りにも乖離してしまったということが改正の契機となっていると承知しておりますけれども,であればこそ,今後,商法の改正を議論するに際しましては,運送の実態を踏まえて,現場に新たな混乱が発生するということを未然に防ぐような姿勢で挑んでいただければ幸いと考えている次第でございます。 ○道垣内委員 先ほど松井委員のおっしゃったことなのですけれども,例えば分科会資料の重篤な病気の方を運送する場合というふうなところ,7行目からですが,そのところで運送人が必要な注意義務に違反しない限り,責任を負わないという局面の問題であってと書いてありますね。ここにいう注意というのが590条1項の注意とどういう関係にあるのかというのが分からないというのが多分一つの問題なのだろうと思うのです。形式的なかたちでの債務不履行と,それに対しての例外的な事由としての責めに帰すべき事由がないというふうな構造で考えたときに,「注意ヲ怠ラサリシコトヲ証明スル」というのは,何を証明することなんだろうと。   仮に,これが帰責事由について証明するにあらざれば,だということだとしますと,実は民法415条と同じになってしまうんですよね,現在の運用であっても。責めに帰すべき事由はただし書の問題として,帰責事由がないことについて証明責任が債務者側にあるとされているわけですね。そうすると,運送があって,それで死亡なら死亡,ケガならケガという結果が生じたならば,それだけを被害者側が立証していけば,あとはきちんとした注意義務を尽くしたということを言わなければいけないということなのだろうかなという気もするわけなのですけれども,民法415条との関係で,例えばここにいう注意とどういう関係にあるのか,同じですよというふうな話なのか,どうなるのかということは,もう少し明確にする必要があると思います。第1回目か,最初のときに私がそういう発言をして,もう一回,出てきたときに,つい「いいです」と言ってしまったので,今,悔やんでいるんですけれども,松井委員のおっしゃるとおりではないかと思います。 ○菅原委員 両案併記に特に反対をする立場ではございませんが,先ほど来,議論が出ております乙案については,恐らく二つぐらいの問題点が指摘できるのではないかと思います。その点を簡単にコメントさせていただきます。   一点目は,前回の議論でも申し上げましたが,590条1項「運送ノ為メニ受ケタル損害」の解釈です。まだまだ,この部分に十分な裁判例の集積なり,確定的な解釈指針というものがない中では,旅客も事業者の側も,その範囲をどのように考えるべきかというある種の懸念が出てくるでありましょう。この辺りは前回も申し上げたところでございます。   二点目は,乙案の文言の問題です。「旅客に不利なもの」という表現に明確さを欠くため,この不明確さが乙案にもろ手を挙げて賛成できない論拠の一つになっているのではないかと感じます。この点について特に個人の意見があるわけではございませんが,モントリオール条約26条では「運送人の責任を免除し,又はこの条約に規定する責任の限度より低い額の責任の限度を定めるものは」という表現を用いており,少し明確な書きぶりになっていることを御参考までに紹介したいと思います。   それから,先ほど河野参考人から,パブリック・コメントについての言及がありました。その点に関し,感じたところを少し申し上げます。分科会資料3の2ページから3ページにかけて,現実に「国内航空旅客運送において,旅客の生命又は身体の侵害に係る運送人の責任を旅客一人につき2300万円程度に制限する旨の契約条項がある」ので,このことをきっちり明示してパブリック・コメントに付すべきではないかという御意見と伺いました。確かに「国内航空運送」とは書いてございますが,こうした責任限度額を設けている航空運送事業者は,通常の旅客運送ではなく,遊覧飛行等の特殊な運送形態を営むもので,かつ,その事例も私の知る限りでは国内で3社くらいと非常に少ないわけです。例えば,小型機を用いる近距離コミューター事業者においても,運送約款に責任限度額の定めはないのが通例であります。したがって,国内航空旅客運送者一般に2300万円の責任制限があるかのような書き方をいたしますと,少しミスリードの危険があるのではないかと思います。   また,河野参考人が「日東航空つばめ号事故」などという古い裁判例をお引きになっていらっしゃいましたけれども,定期航空運送事業者は,1982年4月,国内運送約款の旅客死傷に関する責任制限を撤廃しております。したがって,つばめ号事件の裁判例を引用するのは,いかにもミスリードとなるでしょうから,念のために申し上げておきます。 ○山下分科会長 590条1項について今まで御意見が出ておりますが,ほかにいかがでしょうか。 ○河野参考人 甲案,乙案に関して先ほど私も意見を言わせていただきました。本日の資料の甲案,乙案の下に注記として書かれている商法第786条第1項について,これも旅客側からといいましょうか,利用する側からの考えをお伝えしたいと思っております。ここに示されている案では,甲案,乙案のどちらを採用した場合でも削除と書かれております。私自身は甲案が採用された場合は,786条1項については削除すべきではないと考えております。   その理由なんですけれども,786条1項で準用される規定として商法739条というのがあります。ここに書かれているとおりで,739条では堪航能力が担保されていない場合に限らず,船舶所有者の過失及び船員等の使用人の悪意,重過失があった場合に,特約があったとしても損害賠償責任を逃れられないとしています。590条1項に反する特約を無効とする乙案というのが採用されなければ,739条の準用というのは,是非,残していただきたいと思いますし,これがあることによって私たち旅客は守られると感じております。これは,飽くまでも船舶と限定はございますけれども,これを590条が今後,他のモードにもと書いてくださっていますので,ほかのモードにもと考えていただいて,739条の準用規定は,是非,甲案の場合は残していただきたいと,また,甲案の場合にも786条1項を削除するということに関していうと,まだ,十分に議論がされていないのではないかなと感じているところでございます。 ○山下関係官 今,河野参考人から御意見を頂きましたところで,(注)のところで786条1項は,甲案,乙案のいずれの案を採ったとしても削除するものとすると書いてある趣旨というのは,一つは,これは海上旅客運送のみに関する規定ですけれども,今日において,海上旅客運送だけにこれを残しておくということの合理的な説明というのは難しいかと思いますので,仮に乙案のような片面的強行法規というものを設けるということで,分科会の最終的な結論を出す場合には,当然のように786条1項を削除するということになると思いますし,仮に分科会の最終的な結論が甲案を採用するということであれば,商法が規定する旅客運送については,片面的強行法規によって一律に免責特約を無効とする等ということは妥当ではないという結論となるものと思いますので,そういった意味では,先ほど河野参考人がおっしゃった御意見,こういう規律は旅客にとって大事だから残しておくべきという御意見というのは,正に乙案を支持するというところに集約されるのかなという考えの下で,中間試案の中ではこういう形でよろしいかと思っておりますが,いかがでしょうか。 ○河野参考人 乙案が採用されれば,この削除というのも考えられるかなと思っていますが,甲案が採用された場合に関して,今回,船舶だけに関係するもののうち不合理なもの等は落としていこうという,そもそもの整理の方向性というのは私も理解した上で,739条の中身が保証している概念というのは全てのところに残していただければなと思っているところです。ですから,この文言のまま,これがここに残るということがいいのかどうかというところは,法律の解釈に沿わなければいけないと思いますけれども,ここに書かれている考え方ということでいえば,是非,乙案が残ればですけれども,そうした場合にはこれはなくてもいいのかなと考えているところです。申し訳ありません,何となく堂々めぐりの感じで。 ○久保参考人 話が戻ってしまって恐縮です。意見ではなく事実関係だけですが,先ほど菅原委員から2300万の責任限度額が設けられている例は少ないというお話がありましたことに関連しまして,保険会社として具体的な事案で2300万の責任限度額を適用した事例があるかという点について現在の社内の担当者に確認したところ,ここ数年,例はないということでした。一方,ホームページなどで調べてみますと,先ほど河野参考人からは3社とお話がありましたが,4社ほど2300万で限度を決めている約款がありまして,そのほかにも5000万で責任制限をされているものもあります。   国交省の昭和50年の白書を見ますと,それまでは責任限度額が600万だったものを昭和50年4月15日に運送約款を改正して,2300万に引き上げたということです。当時はいわゆるゼネラル・アビエーションという一般事業者もエアラインも同額であったようです。その後,エアラインが責任制限を国内旅客運送,国際旅客運送で撤廃した中で,比較的小規模な事業者はそのまま残しているというのが実情ではないかと思われます。調べていくとほかにも責任限度額をそのまま残している事業者があるのではないかと思われます。 ○山下分科会長 ほかに590条1項の点はいかがでしょうか。 ○加藤参考人 先ほど一緒に申し上げればとも思ったんですけれども,4ページの12行目のところからの具体的な必要性の意見募集という部分についてですけれども,具体的な必要性に関する意見を募るという方針について,業界としては正にそのとおりで賛意を示したいと考えております。いわゆる観念的な必要性ということではなくて,先ほどございましたけれども,法改正を必要とする何らかの問題が発生しているのかどうかという辺りの,正に具体的な必要の検証というものを十分になしていただければなと思います。先ほど2300万の約款という問題もございましたけれども,それが果たして国交省さんの約款の認可の仕方の問題なのか,それは国交省さんの認可の仕方ではなくて,そもそも,法改正できちっと商法の中でやらないと駄目なんだという辺りとか,その辺りも含めて法改正を必要とする具体的な問題というものの検証というものをしっかりやった上で,旅客の運送の現場の実態に合った混乱のない,いい制度を考えていただければなと考えております。 ○山下分科会長 菅原委員か,久保参考人でもいいのですが,2300万といった責任限度額のある約款も認可はされているわけですよね。 ○菅原委員 今,手元に資料がないので軽々に申し上げにくいのですが,航空法上は,本邦航空運送事業者であれば,たとえ遊覧飛行であっても,運送約款に国土交通大臣の認可が必要ではないかと思います。 ○山下分科会長 航空監督事業者の監督の立場で,これはそういうことが必要だから,そういうことをやっているのか,それとも普通のエアラインの方は国際的な動きとも絡んで限度額はなくしていっているけれども,中小のところまではそういう動きを特に見直すことがされないまま放置されてずっと続いているのか,その辺りの事情は何か分からないですか。 ○菅原委員 むしろ,国土交通省さんの方がお詳しいかもしれませんね。  沿革的には,本邦航空運送事業者は,1975年4月,従前600万円であった責任限度額を2300万円に引き上げました。これは,1966年モントリオール協定と同じ責任限度額を定めていた当時の国際運送約款に合わせたもののようです。そして,先ほども触れましたとおり,1982年には,定期航空運送事業者が旅客死傷に関する責任限度額を撤廃しております。しかし,何らかの理由により,遊覧飛行等を営む少数の事業者においては,この動きに追随せず,1975年4月時点の責任限度額が現在でも残っているのだと思われます。 ○久保参考人 先ほど申し上げました白書のところを抜粋で読ませていただきますと,昭和50年の白書では損害賠償限度額の適正化という項がありまして,従来,航空機上又は乗降中の旅客の死亡又は傷害については,航空会社乗客1名につき,国際線,国内線とも600万を限度として損害賠償の責任を負うこととなっていたが,近時の,というのは昭和50年当時ですが,近時の経済情勢あるいは人命重視の傾向に鑑みるとき,この額は十分とは言い難い。このため,国際的にも46年に限度額を3600万に引き上げるグアテマラ議定書が成立するなど,近年,限度額の適正化の動きが活発となっている。しかし,同議定書の発効までにはなお曲折が予想されるため,国際線については諸外国の動きを見守りつつ,これに対処することとし,取りあえず,国内線についてのみ50年4月15日に運送約款を改正し,限度額を2300万に引き上げた。   51年白書にはこの後に,モントリオール協定適用外の国際線旅客についても限度額を2300万に引き上げたというような記述がございますので,正確なところは分かりませんが,比較的小規模な事業者については,このまま残ってしまっているということではないかと思います。 ○山下分科会長 いずれ,その辺りは実態と当時からの動きを正確に調査する必要があるのかなと思います。1項についてはほかにございませんか。   それでは,もう一つ,590条2項については【P】が付いております。これもこれまでのところ,いろいろな御意見があったところですが,この点も御意見があればお願いいたします。 ○河野参考人 【P】が付いたのは恐らく私の発言だと思いますので,改めて590条2項の維持を,今回は何らかの合理的な説明はあり得るかと問い掛けをされておりますが,幾つか利用者側からの不安というのを申し上げたいと思います。私自身は,第2項の維持をしていただきたいと思っております。   まず,不安に思っている1点目なんですけれども,この規定の削除が今のところ裁判例というか,実例が積み上がっているので,これはここから削ってしまっても,何ら困ることはないという御説明なんですけれども,これが消えてしまうことによって,今後の裁判実務に何らかの影響を与えることはないだろうかというふうな懸念がございます。例えば,裁判実務もそうなんですけれども,ADR等の裁判外の和解の解決水準というのは,今,どうなっているのか,裁判ではそういう状況ですけれども,それ以外のところはどうなっているのか,ここに今は書かれていますが,明記された法文がなくなることで裁判外における解決水準への影響というのが心配になっています。旅客は,さすがに裁判実務までを理解して主張することは困難です。私自身もここに書いてあると,こういうことは言ってもいいんだなというのが本当に分かりやすいことだと思っております。   それから,今後はパブコメをかけてくださるということなんですけれども,恐らくこういったパブコメに関していうと,興味・関心がある方より,この事例に非常に日常的に事業関係者も含めまして,よく分かっていらっしゃる方が恐らくパブコメを書かれると思います。私たち一般旅客,利用者にとってみると,商法の改正が今行われていることすら日常の話題には上りませんので,これが落ちてしまうことによって,今後どういうふうなことになっていくのかということは,例えば,旅客事故の被害者の方とか遺族の方,それから,それらの代理人の方の意見を是非聞いていただいて,その紛争解決の実情というのを把握していただきたいと思っております。できればパブコメもそうなんですけれども,ヒアリングの機会というのを設けていただいて,本当に裁判実例は積み上がっているけれども,それ以外のところではどうなっているのかいうことは確認すべきことなのかなと感じております。   それからまた,パブコメを求める文案におきましても,賛否のそれぞれの理由というのを分かりやすく書いていただきまして,意見を求めることが重要なのかなと思っております。利用者は莫大な数がいますけれども,実際に何か問題が起こった場合,旅客,それから,利用者側というのは非常に弱い立場に置かれますので,その辺りをもう一度,考えていただければと思っております。 ○道垣内委員 正にパブコメに付すわけですから,削除するものとすると書いても削除すべきでないという意見が出てくるということは十分あり得るので,この形でパブコメに付すということ自体は問題ないと思いますけれども,河野参考人に若干の誤解があるような気がしますので,申し訳ありませんが,一言だけお話をさせていただければと思います。   例えば,590条2項に「家族ノ情況」と書いてありますが,家族がたくさんいてかわいそうだからといって,今,そのような主張をしても基本的な損害額は増えません。それは,裁判内であろうが,外であろうが,増えないのであり,そういうふうな誤解をもたらしているということの方が実は問題だろうと思います。もちろん,「家族ノ情況」というのは一切考慮されないかというと,慰謝料の算定等で考慮されるということは十分あり得るのだろうと思います。けれども,それは交通事故であれ何であれ,全て同じパターンで行われているわけであって,旅客運送だけに何か特殊なルールというものが存在しているわけではないのだろうと思います。それは,裁判外であろうが,ADRであろうが,何であろうが,全部同じで,そして「家族ノ情況」と書いていなければ「家族ノ情況」を慰謝料について主張しないのか,できないのかというと,そんなことはないわけです。したがって,旅客運送についてだけ明文規定を置く,というのは,やはり極めておかしいだろうと思います。ですから,もちろん,パブコメに付して意見を広く募るということは全然構わないことで,それは大変結構だと思うのですけれども,特殊なことをやっていないところに特殊な条文があるというところに,実は問題があるのではないかなという気がいたします。 ○山下関係官 今,正に道垣内委員におっしゃっていただいたとおりかと思いまして,先ほどの河野参考人の御懸念というのもごもっともな部分もあろうかと思いますので,これを削除することで,何か旅客にとって一方的に不利になるような,現在の実務を変更するような意図はないということは,事務当局が作成する補足説明の中でも書かせていただこうと思っています。   あと,当然,皆さんの御意見,また,ホームページやその他の法律雑誌等でパブリック・コメントに付していることは周知していきたいと思っておりますし,特に被害者側の御意見ということでありましたけれども,正に河野参考人が御存知の消費者団体等の方にも御説明いただければと思いますし,また,この分科会の中には日弁連を代表する弁護士さんにも来ていただいていますが,日弁連というのは当然,事業者側だけでなく,旅客側の代理人をされている先生方も多数いらっしゃるかと思いますので,そういった中で広く皆さんの御意見をパブリック・コメントの中で取り入れていければと思っております。 ○山下分科会長 ほかにこの2項についてはいかがでしょうか。 ○松井委員 今,山下関係官から日弁連の委員ということでお話がありましたので一言申し上げます。日弁連の中では,河野参考人の御意見で先ほどの1項の方で御指摘があった点については非常に親和性を持っており,それから,先ほど786条1項についても当然に削除とすべきではないというのはおっしゃるとおりだと思いますが,日弁連の私どもの検討委員会といたしましては,この項目については,道垣内委員がおっしゃるとおり,今回の提案が新たな変化を形成するわけではないと考えています。例えばこの間,適切な例かは分かりませんけれども,交通事故でお子さんが亡くなったとき,おじいさんとひいおじいさんが直後に亡くなった損害を考慮するかどうかという裁判がありましたけれども,この規定があるからといって,当然におじいさんとひいおじいさんが亡くなられたことについての損害賠償責任が出るとは多くの法律家は思わないと思います。   ですから,この規定は多分,道垣内委員がおっしゃったように,法律の実務,裁判の実務の中では当然,裁判官が考慮することということで配慮はされているだろうと思いますし,これが今の実務ということで私個人も異論はございません。日弁連の部会関連の委員会としては,この点の削除については恐縮ですけれども,異論はないという状況でございます。ただ,消費者関係の委員会からは今後最終意見が出てまいりますので,その段階でその御報告もさせていただければと思っております。よろしくお願いいたします。 ○藤田幹事 まず,パブリック・コメントでこういう形で問うことには賛成です。そして,このように問うても存置すべきであるという意見が強く出れば,それはそれとして考慮し,最終的に存置されることもあり得る,そういうこともまた当然だと思います。ただ,聞くときにミスリーディングな聞き方はしない方がいいということは,道垣内委員の言われたとおりでありまして,現在の書き方には若干,疑念を巻き起こす懸念があるかもしれないという不安を覚えました。   たとえば,2の「本文3(2)について」の最初の段落の最後に,学説には,この規定に意味を持たせるために,特別損害であっても予見可能性を問わないことに存在意義があると説明しているものがあるというふうな説明があって,その次の段落の3行目では,民法416条2項の特則となる規律があることの合理的な説明があるかという形で問うています。これだと,この規定があると何か違った結論をもたらす可能性があって,それに合理性があるかと聞いているかのように受け取られかねないように思います。しかし,先ほどから伺っておりますと,学説は特別損害に対する予見可能性を問わないということを解釈しているのかもしれないけれども,今の裁判実務では,――とりわけ死亡事故の場合には――家族の状況は当然のように考慮するとこととなっており,416条2項を適用しても結局は同じように考慮されるから,規定には意味はないのだというのが削除の主たる理由のように聞こえました。   もしそうだとしますと,本条は特則となっていないから削除すると言うべきなのですが,今の書き方を見ますと,民法416条2項と違った結論をもたらす不合理な特則だから削除するということでよいかと聞いているように見えて,パブリック・コメントに答えようとする人におかしな判断をさせてしまう可能性があります。そういう趣旨でないのであれば,書き方は注意した上で聞いていただければと思います。 ○山下分科会長 この点についてはほかにございませんか。第1全体のその他の点についてもございませんでしょうか。 ○松井委員 抽象的なことで恐縮ですけれども,旅客の総則という書き方になっていますけれども,最終的には,条文としては,数か条が残るだけという理解でよろしいかどうかというのが1点,それから,この後,物品の運送総則ができるわけですけれども,そことの関係では,携行品等の携帯品,それから,預けたもの,そういうものの部分だけに適用又は準用があるという理解でよろしいか,その点だけ教えてください。 ○山下関係官 まず,1点目の御質問については,海上旅客運送等の一部の運送に限定して適用される特則が存在しない限り,御指摘のとおり,総則の規律として数か条が残るということになります。あと,もう1点,手荷物関係については591条,592条という規律が残った上で,場合によっては,本文4のような規律が設けられることになります。 ○松井委員 総則とは関係ない。 ○山下関係官 もし,仮に物品運送の議論の中で,本文4(2)に挙げている規律の内容と異なる結果となれば,旅客についてもこの結果に従うこととなると考えております。 ○松井委員 くどいようで申し訳ないのですけれども,旅客について物品運送総則が適用又は準用される予定はない,すなわち,旅客の生命・身体等々というところに影響を及ぼすような規定は入ってこないということでよろしいでしょうか。 ○山下関係官 現状の議論の限りではそういう規定はございませんので,そのような理解で大丈夫かと思います。 ○松井委員 ありがとうございました。 ○山下分科会長 ほかによろしいですか。 ○野村(修)委員 やや,テクニカルなことで恐縮なんですけれども,旅客運送契約の定義なんですが,旅客というのは特に定義しないということになるんでしょうか。 ○山下関係官 現時点ではそのように考えております。 ○野村(修)委員 旅客というのは,運送契約を結んだお客さんのことかなという感じもするので,一般的には人となるのかなとも思うんですけれども,そうなってしまいますと,例えば先ほど来から議論が出ていますけれども,本来,物品輸送契約を結んでいて,車なんかと一緒に人の運送を引き受ける場合とか,あるいは生動物なんかを運ぶような場合に飼育員の人が同乗するとか,そういうようなケースというのはどっちに整理されるのかなというのがよく分からなくて,それはどういう定義になっているんでしょうか。 ○山下関係官 基本的には野村(修)委員がおっしゃったとおりで,人を運送するときが旅客となるかと思いますので,生動物の運送を伴う場合でも,人自体が運送されているという場合には,旅客運送になるのかなと思いますが,動物については逆に動物を手荷物の中に考えるのか,若しくはまた別途,物品輸送契約が結ばれているのかというのは,どちらの考え方もあり得るかと思います。 ○野村(修)委員 今後,詰めていくことだとは思うんですけれども,飼育員は別に運賃を払って乗っているわけではなくて,動物を運んでもらうときにその人がいないと暴れたりとか,餌をやれないということで同乗しているだけという場合に,その方が物品運送のカテゴリーの中で運送されているのか,あるいは運賃を取る,取らないによって決めるのか,それがよく分からないものですから今日の段階でお答えは結構ですけれども,今後,定義をもし設けるのであれば明確にしていただければと思います。 ○藤田幹事 念のために今の点に関して確認ですけれども,ここで書かれている運送人が旅客を運送することを約し,相手方がこれに対して運送賃を支払うという相手方というのは旅客なのでしょうか,それとも旅客以外に限らずとにかく誰かがお金を払って人を運べば,運ばれている人が旅客で,契約当事者は別にいるということもあり得る,そして,その場合には,何かあったら,運ばれている人である旅客,すなわち,契約相手方でない人が運送人を訴えることができるという形で全部整理しているわけですね,念のための確認です。 ○山下関係官 藤田幹事のおっしゃる後者の立場だと思います。ただし,運送契約の相手方ではない旅客が運送人の契約責任を追及し得るのかについては,現行法の下でも,十分な議論がないように思われます。 ○藤田幹事 後者ですね。 ○山下分科会長 よろしいでしょうか。それでは,第1の方は,大体,御意見は頂いたということで,その集約については後ほどまた御相談することにして,取りあえず,第2の方へ進んで御審議いただきたいと思います。   第2の「海上旅客運送に関する規律」の部分に進んで御審議いただきたいと思いますが,まず,事務当局より説明をお願いします。 ○山下関係官 「第2 海上旅客運送に関する規律」につきましては,堪航能力担保義務に関する規律を削除することの当否につきまして,第1回及び第2回会議ではこの規律を存置すべきであるという御意見もございましたことを踏まえて,【P】を付しております。   これまでの議論を整理いたしますと,まず,堪航能力担保義務と第590条の規定による運送人の義務との関係について,判例では同条に関し,旅客運送契約は運送人が旅客を安全に目的地に運送することをその内容の一つとし,運送人にはそのような契約上の義務がある旨判示されたことを踏まえて,同条によれば,旅客側は運送のために損害を受けたことを主張・立証すれば足り,これに対し,運送人が十分な安全性を確保したことなど,運送に関し注意を怠らなかったことの主張・立証責任を負うとされることから,旅客側が同条とは別にあえて堪航能力担保義務違反を根拠とする賠償請求をすることは,一般的には想定し難いものとも考えられますが,他方で,海運業界における重要な義務であるなどの理由により,存置すべきである旨の御意見もございました。   また,堪航能力担保義務に関する規律について無過失責任のまま存置するか,過失責任に改めるべきか,又は削除すべきか,更に陸上運送や航空運送の規律との均衡をどのように考えるかについては,船舶安全法第1条では船舶の堪航性保持義務が明示的に規定され,消費者契約法や運送約款の認可等を通じても,旅客の正当な利益が保護され得る中では,陸上・航空旅客運送において運送機関の安全性についての免責約款が存在しない現状を見ても,海上旅客運送について堪航能力担保義務に関する免責特約を無効とする商法の規律を存置しなければならないとまでは言い難いように思われる中で,陸上運送,海上運送及び航空運送の規律の均衡を考慮しつつ,第590条の規定による運送人の義務とは別に,堪航能力担保義務に相当する安全性担保義務を観念することの必要性と相当性,更にはこれに関する免責特約を無効とする規律の必要性と相当性について,更なる御意見があれば頂戴いたしたく存じます。 ○山下分科会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,また,御自由に御発言をお願いいたします。 ○河野参考人 今,事務局の方から6ページの最後のところを御説明いただきましたように,堪航能力担保義務を陸上,それから,海上,航空の全てに適用するということをどう考えるかという視点から発言したいと思います。前回,堪航能力担保義務をどう考えるかというときに無過失責任とお答えしたんですが,私自身,この後,いろいろよくこのことを考えまして,ここに書いてある理由等も伺いまして,これは過失責任として堪航能力担保義務に相当する安全性担保義務というのを陸上運送,それから,航空運送にも規定することということについて,是非,検討していただきたいと思っております。   安全性担保義務の規定が置かれれば,裁判において,運送人側が590条1項に従い注意を怠らなかったと主張する場合も,安全性担保義務の規定に沿って,それらが履行されていたかどうかということが問題となりまして,運送人側は過失がなかったことを主張,それから,立証していくことになると思います。安全性担保義務ということを規定するということは,これまで言われています安全配慮義務とは違っていて,運送人が負うべき義務の内容が法文において明確化されるのではないかと,そう私自身は期待しております。   安全配慮義務というのは,判例によって定立された概念ですけれども,具体的に明文化されてはいません。ですから,何か起きたときにどうなるかということであれば,旅客の運送において安全性を担保するということはこういうことなんだということを,商法に是非書いていただきたいなと思っております。法文において明確化されることで,ADRを含む裁判外の和解手続においても旅客側の主張が可能となると思っております。ですから,全体を全てなくしてしまうということではなくて,補足説明の1(2)に書かれているとおり,是非,過失責任として堪航能力担保義務に相当する安全性担保義務を陸上・航空・海上も含めて,全ての旅客運送に規定していただくということで検討をお願いしたいと思います。 ○雨宮幹事 日弁連の事前の検討会において,この点について議論しました結果,中間試案としては,堪航能力担保義務について削除するという1行ではなく,堪航能力担保義務については削除する,若しくは現行のまま存置する,過失責任として存置する,それから,堪航能力担保義務に代わるような安全性担保義務のようなものを新設するといったような意見がございますので,甲案,乙案,丙案などとして色々な意見があるということを示し,様々な意見を広く求めるような形で中間試案をまとめられたらどうかという意見が大勢を占めております。 ○加藤参考人 船の方の立場から申し上げますと,先ほど河野参考人の意見にもございましたとおり,無過失責任で現状どおりということの案でというのは,余りに厳しいのではないのかなと,そういう全く現状どおりの無過失責任で船だけ存置するというような規定がそのまま残るという案が出ること自体が,せっかく見直し作業をやる中で,厳しいのかなという気がするということでございます。 ○塚越参考人 陸上運送にも安全性担保義務ですか,それを規定するということなんですが,まずもって無過失責任のまま及ぼすということだと,実務にも具体的にどれぐらい影響があるのかというのは分からないんですが,影響があるかどうかというのは細かく検討してみないとちょっと怖いなという気がします。逆に過失責任というか,今,ある590条とか,普通の債務不履行責任と同じような形で置くということだと,何が違ってくるのかなというのが今一つよく理解できなくて,今でも過失の立証責任について運送事業者側に課されていると考えていますし,解釈上もそうだと理解していますので,あえて,安全性担保義務というのを規定するのにどういう意味があるのかなというのが,安全性担保義務と言われても具体的にどういうものが規定されようとしているのかというのが分からないので,何ともコメントのしようがないんですが,感想です。 ○山下関係官 正に事務当局でこの案を考えているときにも,そもそも,旅客運送において,過失責任としての,堪航性担保義務若しくは全てのモーダルに関する安全性担保義務に係る規律を存置又は新設した場合に,これと590条1項との関係で,どのような意味があるのかという点について,なかなか合理的な説明は難しいかなと思っていましたが,その辺りは例えば雨宮幹事におかれましては,日弁連の中ではどういった意味を持たせることで存置するという御意見があったか,もし何かございましたら御紹介いただければと思っております。 ○雨宮幹事 安全性担保義務と一言で言いますけれども,例えば構造上の問題なのか,それを操縦する,若しくは運転するような人の資格・資質の問題も含むのかなど,実は日弁連ではそこまで具体的に話し合っておらず,安全性担保義務とはどういうものかというところまで詰めていません。ただ,中間試案としては,堪航能力担保義務を削除するだけではなくて,すなわち中間試案の表記の仕方としてはその1行で済ませるのではなくて,幾つかの案があるということを示す形でパブコメに付したらどうかという意見でまとまりました。したがって,現時点において日弁連として何か具体的な意見があるわけではないです。 ○菅原委員 堪航能力担保義務に代わる安全性担保義務について,これに無過失責任を適用いたしますと,例えば国際航空でも現在11万3100SDRを超える損害は過失推定ですので,こうした国際的規律からもはみ出してしまいます。   それから,先ほど御説明もあったかと思いますが,安全性担保義務に違反する法的効果は,損害賠償責任の発生ということで宜しいわけですね。そういたしますと,590条1項を過失責任の構造として理解した場合,安全性担保義務と590条1項とは,法的効果は一緒だけれども,成立要件と申しますか,要件事実は違うということになるのでしょうか。   例えば利用者,旅客の立場からして,要件事実が異なるため,立証に際し「攻めやすくなる」のであれば,そういう意味での存在意義が認められるのかもしれません。しかし,この点がいろいろ考えても分かりにくいのです。590条の文言が現行のままだといたしますと,「運送ニ関シ注意ヲ怠ラサリシコト」と定められているわけですから,立証責任の分担は別にいたしまして,当事者は,損害の発生と数額,その原因行為,因果関係,帰責事由という条文に即した要件事実を主張・立証する必要があります。問題は,こうした要件事実に関し,安全性担保義務という別の条文を立てることによって,何か異なることがあるのか,いったいどこが異なるのか,なのです。それが分かってはじめて,旅客の立場からもメリット,デメリットを検討できるのではないでしょうか。それがもう一つ判然としない中で,ただ「ないよりあった方がいい」という御主張だけでは,仮に両案併記したとしても,なかなか説得力を欠くのではないかと懸念いたします。 ○藤田幹事 今の点とほぼ同じことなのですけれども,まず,パブリック・コメントで削除するものとする,ただ,それと併せ,それと代わるような安全性担保義務のようなもの規定するかどうかといった形で問題を立てるのはいいと思うのですが,それが590条の一般則とどういう関係にあるかということを,明らかにした上で聞いた方がいいと思います。   ただ,その場合に幾つか仮定を置かないと存在意義も議論が非常にしにくいのですが,安全性担保義務のような規定を過失責任として考えるとしましょう。無過失責任にすれば存在意義は明らかなのですけれども,消費者団体の方ですら支持しないような極端な規定内容を前提に存在意義があるなどと議論するのもどうかと思うので,仮にこれを過失責任として考えるとすると,過失責任というのは飽くまで安全性についての注意義務をきちんと尽くした――それをどの時点で尽くしたかというのはまたもう一つ問題になりますが――という意味での過失責任だとして,仮に存在意義を持たせるとすれば次のようになると思います.それは,590条が任意規定になったときにも,安全性担保義務は強行法規である,したがって,安全性に関わるようないかなる特則も無効となり,仮に安全性担保義務に違反して損害をもたらしたとして損害賠償請求がされた場合,安全性担保義務違反が主張・立証できたとすると,損害賠償責任について制限するような特約は効力を持たないという意味を持ってくる。もっとも,590条についてこれは強行法規であると言ってしまうと,その意味が薄れてしまうというか,ほとんどなくなります。そういう意味で,590条の条文の性質次第で,安全性担保義務の条文は意味を持ってくる可能性が大いにあると思います。このあたりの関係が実はかなり複雑で,590条の選択次第ということになってしまうので,パブリック・コメントでは非常に聞きにくいのですけれども,少なくとも590条が過失責任で,かつ安全性担保義務が過失責任なら,何が特則なのですかみたいな聞き方はフェアではないかなという気もします。それは590条の性質次第ですし,余り誘導尋問的にならないような聞き方を工夫していただければと思います。   最後に,もう一つは考えていただきたいのは,仮に590条を任意法規にし,安全性担保の義務の規定も置かないとなると,商法中には,いかなるところにも旅客の安全性について運送人が配慮するという規範が明示的な形では出てこないことになります。確かに安全配慮義務みたいなのは,契約の一般則としてあるのかもしれませんし,あるいは契約の旅客運送のための注意義務のところでも読み込めるのかもしれないのですが,商法を新しく改正するというときに,安全性の配慮が条文上いかなるところにも現れないような形で旅客運送の規定というのを提案するということについては,見識が問われるかもしれない,条文に要件事実的にどういう意味があるかという技術論だけではなくて,商法のありかた全体としての受け取られ方という意味で適切かという視点も,あるいは必要なのかもしれません。ただ,それも590条の性格次第であり,全体としてどう見えるかという話で,個別に技術的に議論するという話ではないので,安全性担保義務に関する箇所ではなくて,旅客運送全体についての視点もどこかで言及していただければいいのではないかと思います。 ○山下分科会長 ほかにございませんでしょうか。 ○宗宮関係官 消費者庁の宗宮です。個別の論点というよりは横断的な話になるのですけれども,今回の中間試案のたたき台でパブコメにかけるものとして,これでよいかという視点から消費者契約法に関する記載について御検討をお願いしたい点がございます。前回申し上げたことの繰り返しになってしまうのですけれども,消費者契約法が全ての旅客に適用し得るものではないということです。そのことを意見の紹介としてではなくて,補足説明の中で明確にすることを御検討いただきたいと思っております。   具体的には,次の二つの場合に,消費者契約法による保護を図ることができないという点です。まず,旅客と運送人との間にそもそも契約関係がない場合が一つ,次に,契約関係があったとしても,旅客が事業として又は事業のために当該契約の当事者になる場合。この二つの場合には消費者契約法の適用がないということです。旅客,イコール,消費者と思われがちですけれども,旅客が消費者契約法上の消費者には当たらない場合が多く考えられます。この中間試案を見た国民の皆様が,旅客であれば皆,消費者契約法の保護を受けるかのような誤解をして,その誤解の下で中間試案の是非を判断するということがないように,その点を明確にしていただくことを強くお願い申し上げます。 ○山下分科会長 ほかはよろしいでしょうか。 ○道垣内委員 第2は終わりましたでしょうか。 ○山下分科会長 宗宮関係官の御意見は全体的な関係だったので,よろしければ,第2以外でもどうぞ。 ○道垣内委員 私は先ほど第1の1だけやっているのかと思って,4のところについて発言をするのを忘れてしまいました。申し訳ありません。以前,ここで発言をさせていただいた覚えがあるのですけれども,例えば588条を準用するということなんですが,携帯手荷物に関して2週間以内に通知を発しなさいと,1年以内に訴訟を起こしなさいと,訴訟まで起こさなくても時効の中断事由があれば,それでいいのかもしれませんけれども,そういう規律についてです。国際海上物品運送法においてもそうなっているのだからということは,分からないではないのですけれども,たくさんの物や旅客を運送しているのだから等という理由というのは,どうも理由にならないと思うのです。たくさんの物を売買している業者もたくさん存在しています。量販店はそうですね。そういうお店は幾らでもあるわけで,私は売買の瑕疵担保責任よりも時効期間を短くすることに何の合理性もないと思うのです。   現行法がそうなっているので,これを残すということなのでしょうけれども,4のところには補足説明もない。これは当然だろうみたいな雰囲気が漂っているのですが,私にはとても当然だとは思えない。私は,通知というものだって2週間というのは,普通の人が旅客運送で手荷物を破損した場合には酷だと思いますし,いわんや1年以内に訴訟を起こせというのを通常の人に要求するというのは,無理ではないかなという気がいたします。これに合理性はないと思うという意見があるということを少しでも書いていただければ,とてもうれしいです。 ○山下分科会長 ほかに個別の点でも結構ですので,全体を通してございましたら。よろしいですか。 ○藤田幹事 一言で言うと,今の道垣内委員に賛成だというだけなのですが,4の(1)はともかく,(2)はよく考えると,そう簡単に言っていいのかなと思うところもあるので,何か説明は加えた上で議論していただければと思います。例えば,やや細かすぎるかもしれませんが,損害賠償の定額化は恐らく次のような論理で提案されていると思います。すなわち預けた手荷物については恐らく物品運送と同じだろうということで,定額化の規律は当然適用されるべきだろう。そして,預けた荷物が損害賠償定額化の適用を受けるのであれば,自分で持っているのも同じであろう,そういう形で最終的に物品運送の規律がそのまま適用されるということになっているように思います。ただ,携帯手荷物については旅客の身回り品が含まれていて,着ている服あるいは義手・義足みたいなものも身回り品には入るわけです。そういったものが物品運送と同じという扱いでいいのだろうか,例えばスーツケースの大きいのを持ち込んでいるという場合とはかなり性格が違う場合もあるのではないかと思うのです。このように若干,違和感があるような例も出てき得る可能性はある。   余りにも細かいことをたくさん書いて不必要な議論を引き起こすこともないのですが,物品運送に関する,旅客のコンテクストでどういうものに,どういう形で適用されるかということは,もう少し具体的に示した上で,パブリックコメントで問うていただければと思います。損害の通知義務の期間なんかについても,どういうことをいつまでに誰が通知しなければいけなくて,例えば行方不明になっていたような人が3週間後に現れたら何も言えなくなるのですかとか,よく分からないところがあります。その辺りも含めて,適用の仕方をもう少し説明した上で問うていただければと思います。 ○山下分科会長 よろしいでしょうか。もし,御意見がないようでございましたら,全体として部会に諮るための中間試案の原案につきまして,ここら辺りで取りまとめをさせていただきたいと思います。   本日,主として御議論があったのは第1の3の(1)と(2),それから,今の第2というところでしたが,第1の3の(1)(2)については,それぞれ,御意見がございましたが,全体としての御意見としては中間試案として3の(1)(2)というところで公表して,それについて意見を求めるという辺りで,大勢の御賛同を頂いているのかと思います。しかし,第2につきましては,現在のゴシックでペンディング,【P】を取り,これを削除するというだけの中間試案ということについては,なお,いろいろな御意見があったように思います。ただ,3の(1)のように削除するものとするという案に対する代案がきちんと提案できる状態になっているかというと,まだそういうものとしてはないようなので,甲案,乙案の併記は,そういう意味でなかなか難しいのかとも思いますが,削除するだけの中間試案というよりは何か補足をした方がいいのかなということで,その辺り,事務局の方ではどうでしょうか。 ○松井(信)幹事 今,山下分科会長からお話がございましたところは,事務局として真摯に受け止めまして,例えばの御提案ではございますけれども,第2のところを商法第777条から第787条までを削除するものとするという言葉に続けて,例えば,(注)として,過失責任として,全ての運送機関について安全性担保義務に関する規律を設けるという考え方があると,そういう考え方があったということを明記することも考えられますが,いかがでしょうか。 ○山下分科会長 提案がございましたが,いかがでしょうか。また,第1の方についても,補足説明では,今日までに頂いた御意見を十分反映して,論点を分かりやすく対外的に説明すると,それから,それぞれ,第1もそうですが,第2の方も特に堪航能力担保義務に関する規定を設ける,あるいは安全性の配慮に関する義務というような議論をするのだけれども,それがどういう意味を持つかということについては今一つ,まだ,我々としても完全な理解に達していない。そういう意味では,いろいろな考え方がある中で,どういう考え方を,今,提案しようとしているのか,あるいはそれに対する別の考え方としてどういうのがあるのか,というような論点の整理をしないと,何か現行法にあって何となく被害者を保護しているような規定がなくなると何となく嫌だねという,そういう雰囲気の議論だけで事が進んでも困るので,そこら辺は,補足意見の中で,これまでの議論を踏まえて,きちんと理論的な,あるいは政策的な論点提示をするということが前提になろうかとは思っていますが,そういうことでよろしいでしょうか。 ○松井(秀)幹事 今の(注)の点だけ確認です。これは,第2の(注)に入っておりますが,ひとまず海上運送との関係でそのような提案が入ることになるのでしょうか。 ○松井(信)幹事 (注)としては,全ての運送機関についてこういう意見があったというのが,本日された議論に沿うのではないかと思ったところでございます。 ○松井(秀)幹事 ありがとうございます。 ○松井委員 確認なのですけれども,第1の3の(1)の乙案について,この記載を維持するということでもよろしいかと思いますけれども,(注)を付していただくという話がありましたが,又は590条1項の規律を明確にするとか,何かそういう後ろの特約と整合するような表現を入れていただくということが可能かどうか,御検討いただければと思います。 ○松井(信)幹事 具体的な提案につきましては,当方としてもじっくりと考えてまいりたいと思いますので,中間試案としてはこのような形とさせていただき,引き続き,中間試案後の検討に向けて,事務当局の方で更に検討を重ねていきたいと思っております。 ○山下分科会長 よろしいでしょうか。 ○藤田幹事 続けて,念のために確認ですが,中間試案後と言われたのですが,一応,分科会はこれで終わりですが,部会でもう一度,これのバージョンアップしたものを拝見させていただいて,パブコメにかかる前にそれについてコメントする機会は,分科会のメンバーではなくて部会のメンバーであればあると理解してよろしいわけですね。 ○松井(信)幹事 中間試案の取りまとめは商法部会の方で行いますので,その場に御提示をするというものでございますけれども,メンバーとしては,正にここにいらっしゃる方々に非常に密接なものでございますので,もし何らかあれば今のうちに出していただきたいと思いますが。 ○藤田幹事 今,出してくれというよりは,出てきた新たな提案の条文について,文言について白紙委任というわけにはいきにくいものですから,部会で何かを申し上げる機会はあるのですねと確認させていただいただけです。今,言われた方針で作っていただくのはいいんですけれども,その方針で書かれたものについての意見を言うことがパブリック・コメントの前にもう一度あるということだけ確認させていただければと思います。 ○松井(信)幹事 今日の結果を踏まえた微修正につきましては,部会長の指示を受けながら考えてまいりたいと思っております。 ○山下分科会長 よろしいでしょうか。 ○小田桐関係官 細かい点で恐縮なんですけれども,パブコメの意見の聞き方についてですが,本日の第1の3の(1),両論併記のところで,いずれの立場としても具体的な必要性,具体的な事例に即してパブコメで意見を聞いたらいいのではないかということで御意見が出ていたかと思いまして,私も全く同感なんですけれども,そういった内容というのも,パブコメの(注)として,要は具体的な事例,具体的な必要性をお寄せいただければというようなことというのは書かれるんでしょうか。念のための確認です。 ○松井(信)幹事 補足説明の中に,その点を踏まえて書いていただきたいと記載することも可能です。 ○小田桐関係官 分かりました。 ○山下分科会長 よろしいでしょうか。ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。 ○野村(修)委員 やや技術的なことですが,786条の削除というのが第1の3の(1)の(注)のところに1か所と,結局は第2のところでも出てくるという形になっていると思うんですけれども,これというのは786条1項の739条絡みの部分についての削除は,第1の3の(1)の(注)のところで議論してくださいという,そういうことになるんですか。これはどういう整理になっているんですか。786条自体はどういう形なんでしょうか。 ○山下関係官 今の点につきましては,2ページ目の本文3の(1)の(注)というところで786条1項を削除ということで書いておりますのは,飽くまで590条1項との関係が深いということで,こちらに書いた上で,更に第2のところでも書いているということでございます。二重にも読めるかもしれませんが,分かりやすいようにこのように二つに分けているというだけですので,中間試案としてはこのように記載した上で,意見としてはどちらの場所で頂いても反映はできるかなと思っております。 ○野村(修)委員 逆に,第2の方は,おおむね海上旅客運送について特則は要らないだろうというのが一般的な理解だと思うんですけれども,こちらに大勢が支持をしていても,先ほどの786条の739条の括弧書きの部分,この部分については削除しない方がいいという意見になったら,それだけが準用条文として残るという形になるんでしょうか。 ○山下関係官 仮にそうなれば,これだけが残ってしまうということになります。 ○野村(修)委員 分かりました。 ○山下分科会長 よろしいでしょうか。もし,ございませんようでしたら,中間試案として公表されるのはゴシックの部分であろうかと思いますが,本文第2については,先ほど松井(信)幹事から説明がありましたような(注)を加えるという修正を加えて,残りは本日の提案を維持し,いろいろ御意見があった部分については補足説明の中で正確かつ誤解を受けないような説明を工夫すると,そういうことで今日の取りまとめとさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。ありがとうございます。   それでは,修正後の表現ぶりをこの場で細部まで確定するということはなかなか難しいかと思いますので,その辺りは分科会長の私と事務当局に御一任いただければと思います。   それでは,最後に,今後につきまして事務当局から説明をお願いします。 ○松井(信)幹事 本日は,中間試案の原案をお取りまとめいただきまして,本当にありがとうございました。今後につきましては,この原案を商法部会に諮りまして御了解いただいた上で,来年3月頃を目途に事務当局において作成する補足説明とともに,パブリック・コメントの手続に付させていただきたいと考えております。その後,頂きました御意見を踏まえて,来年度において再度,旅客運送分科会の会議を開催させていただきますので,引き続き,どうぞよろしくお願いいたします。日程については,追って御連絡を差し上げるということにいたします。 ○山下分科会長 それでは,予備日として設けていた来年1月28日の分科会会議は開催しないということでよろしゅうございますね。また,来年度以降,よろしくお願いいたします。   それでは,本日の審議はこれで終了いたします。本日を含めまして,本年中におきまして熱心な御議論を頂きまして,誠にありがとうございました。来年も引き続きよろしくお願いいたします。 -了-