法制審議会 第174回会議 議事録 第1 日 時  平成27年2月24日(火)   自 午後2時00分                         至 午後4時28分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題   1  民法(債権関係)の改正に関する諮問第88号について   2  民法(相続関係)の改正に関する諮問第100号について 第4 報告事項    国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会における審議経過に関する報告について 第5 議 事 (次のとおり) 議        事 ○西山司法法制課長 ただいまから法制審議会第174回会議を開催いたします。  本日は,委員20名及び議事に関係のある臨時委員1名の合計21名のうち20名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。  初めに法務大臣挨拶がございます。 ○上川法務大臣 法制審議会第174回会議の開催に当たり,一言御挨拶を申し上げます。  委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ本会議に御出席いただき,誠にありがとうございます。また,この機会に法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し,厚く御礼を申し上げます。  さて,本日は,御審議をお願いする議題が二つ,部会からの報告事項が一つございます。   まず,御審議をお願いする議題の一つ目は,平成21年10月に諮問いたしました「民法のうち債権関係の規定の見直しに関する諮問第88号」についてでございます。   この諮問については,「民法(債権関係)部会」において調査審議が行われた結果,「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」が取りまとめられ,本日,鎌田部会長から報告がされるものと承知しております。   この諮問事項については,法制定以来約120年ぶりに所要の法整備を図り,適切な措置を講ずる必要がございますことから,部会におきましても,精力的に調査審議をしていただいたものと伺っております。   委員の皆様方には,慎重に御審議の上,速やかに御答申くださいますようお願い申し上げます。   議題の二つ目は,新たに御検討をお願いするもので,相続に関する規律の見直しに関する諮問第100号についてでございます。   相続に関する規律を定めた民法等の相続法制につきましては,配偶者の法定相続分の引上げ,寄与分制度の新設を行った昭和55年改正以降,大きな見直しはされておりません。   法務省におきましては,高齢化社会の進展や相続に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み,相続に関する規律の見直しの必要性の有無や,その方向性等について検討を進めるため,民法の研究者や一般有識者等の御協力を頂いて,相続法制検討ワーキングチームを設置し,平成26年1月から約1年間をかけまして,慎重に御議論を重ねていただきました。ワーキングチームにおいては,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直す必要があるとの御指摘があり,見直すに当たって,今後検討すべき課題についても様々な意見が出されました。そこで,ワーキングチームにおけるこれらの検討結果等を踏まえまして,相続に関する規律の見直しについて御検討をお願いするものでございます。   次に,部会からの報告事項は,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会における部会審議の途中経過でございます。   国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会におきましては,平成26年2月の諮問以降,積極的な調査審議がなされ,現在,中間試案の取りまとめ,パブリックコメントの手続の実施に向けて検討をしていると伺っております。   本日は,これまでの審議の経過につきまして,同部会の山本弘部会長代理から報告がされますので,これに関しましても,委員の皆様方から御意見をお伺いしたいと存じます。   それでは,これらの議題等につきまして,御審議・御議論をよろしくお願い申し上げます。 ○西山司法法制課長 ここで報道関係者が退出しますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○西山司法法制課長 それでは,萩本関係官,お願いいたします。 ○萩本関係官 法制審議会の庶務を担当しております司法法制部長の萩本でございます。   昨年9月30日をもちまして,会長をお務めいただいておりました伊藤眞委員が退任されましたので,委員の皆様の互選に基づき法務大臣が指名するという方法により,新たに会長を選任する必要がございます。   新会長選任までの間,仮議長を選出すべきかとは存じますが,特に御異論がございませんようでしたら,私が暫時進行を務めさせていただきたいと存じますが,いかがでございましょうか。           (「異議なし」という者あり) ○萩本関係官 ありがとうございます。それでは,引き続き進行役を担当させていただきます。   まず,互選の手続に入ります前に,前回の会議,昨年9月18日の第173回会議以降本日までの間における委員の異動につきまして御紹介いたします。   異動内容の詳細につきましては,お手元にお配りしております人事異動表のとおりでございますが,新たに就任されました委員の方が本日出席されておりますので,御紹介いたします。   まず,中央大学法科大学院教授の高橋宏志氏が委員に御就任になりました。 ○高橋委員 高橋です。よろしくお願いいたします。 ○萩本関係官 よろしくお願いいたします。   次に,株式会社大和総研常務執行役員・調査本部副本部長の引頭麻実氏が委員に御就任になりました。 ○引頭委員 引頭でございます。よろしくお願いいたします。 ○萩本関係官 よろしくお願いいたします。   次に,独立行政法人労働政策研究・研修機構特任フェローの小杉礼子氏が委員に御就任になりました。 ○小杉委員 小杉です。よろしくお願いします。 ○萩本関係官 よろしくお願いいたします。   どうもありがとうございました。   それでは,会長の選任の手続に移りたいと思います。先ほども若干触れましたが,法制審議会令第4条第2項で「会長は,審議会の委員の互選に基づき,法務大臣が指名する」と規定されておりますので,委員の皆様には会長の互選をお願いしたいと存じます。御意見がございましたら,御発言をお願いいたします。   岩原委員,お願いします。 ○岩原委員 高橋宏志委員が,御学識,お人柄,そして,今までの各部会における部会長や委員としての御経験等を考えて,最適任と考えますので,御推薦申し上げます。 ○萩本関係官 ありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。小池委員,お願いします。 ○小池委員 私も高橋宏志委員を会長に御推挙申し上げたいと思います。御承知のとおり民事訴訟法学の泰斗として多大な御功績がある方でございますし,今お話がありましたように,立法法改正に多数関与されて,その学識と深い御経験によりまして多大な貢献をなさってきた方でございます。また,法律あるいは司法制度というものが広く実社会にもたらす作用についても御造詣が深いと承知しております。今後も重要な審議が予定されております法制審議会をおまとめいただくのに誠にふさわしい方であると考えますことから,御推挙申し上げる次第でございます。 ○萩本関係官 ありがとうございます。   ほかにはいかがでしょうか。   ただいま,岩原委員,小池委員からいずれも高橋委員を御推薦いただきましたが,もしほかに御意見ございませんようでしたら,会長には高橋委員が互選されたということでよろしいでしょうか。           (「異議なし」という者あり) ○萩本関係官 ありがとうございます。   それでは,ただいまの議事のとおり,会長には高橋委員が互選されましたので,上川法務大臣に会長の御指名をお願いしたいと思います。 ○上川法務大臣 会長は委員の互選に基づき法務大臣が指名をするということになっていますので,ただいま互選されました高橋宏志委員を会長に指名したいと思います。よろしくお願いいたします。 ○萩本関係官 ありがとうございました。   それでは,私の議事進行はここまでとさせていただきます。御協力ありがとうございました。 ○西山司法法制課長 誠に恐縮ではございますが,大臣は公務のためここで退席をさせていただきます。           (上川法務大臣退席) ○西山司法法制課長 それでは,高橋委員,恐縮ですが,会長席へお移りいただけますでしょうか。           (高橋委員 会長席へ移動) ○高橋会長 高橋でございます。先ほど新任の御挨拶をしたばかりにもかかわらず,会長に互選していただきまして,正直戸惑っております。もとより微力でございますので,どうか御指導,御鞭撻のほどをよろしくお願い申し上げます。   初めに,法制審議会令第4条第4項では,「会長に事故があるときは,あらかじめ会長の指名する委員がその職務を代行する」と規定されておりますので,会長代理の指名をさせていただきます。   長期にわたり法制審議会で御活躍をいただいております井上正仁委員を会長代理に指名したいと存じます。どうかよろしくお願いいたします。   では,本日の審議に入りますが,先ほど法務大臣の御挨拶にもございましたように議題は二つございます。まず,第1の議題からですが,「民法(債権関係)の改正に関する諮問第88号」について御審議をお願いいたします。   まず,民法(債権関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の部会長を務めておられました鎌田薫部会長から御報告をいただきたいと存じます。   鎌田部会長,報告者席までお願いいたします。 ○鎌田部会長 民法(債権関係)部会の部会長を務めました鎌田でございます。着席して御報告させていただきます。   民法(債権関係)部会では,平成21年10月の諮問第88号について,5年余りにわたり調査審議を重ねてまいりましたが,今月10日に開催された民法(債権関係)部会第99回会議において,「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」を決定いたしましたので,本日その御報告をさせていただきます。   諮問第88号は,民事基本法典である民法のうち債権関係の規定について,同法制定以来の社会・経済の変化への対応を図り,国民一般に分かりやすいものとする等の観点から,契約に関する規定を中心に見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたいというものでありました。   これを受けて民法(債権関係)部会が設置され,審議を行ってまいりました。この部会における審議の途中経過につきましては,これまで法制審議会総会に4回の中間報告をさせていただきましたが,本日は,改めて要綱案の決定に至るまでの審議経過を簡単に御説明した上で,最終的に取りまとめました要綱案の概要について御報告申し上げます。   まず,審議経過の概要でございますが,民法(債権関係)部会では,見直しの対象範囲が広いことや,見直しの社会的影響を十分に考慮する必要があることから,審議開始の当初は,最終的な要綱案を取りまとめる具体的な期限を設定せず,その代わりに全体を3つのステージに分けて,ステージごとに目標を設定して審議を進めてまいりました。   最初のステージでは,平成21年11月の審議開始から約1年半を経た平成23年4月に,審議の対象とする論点の範囲を整理する趣旨で,「中間的な論点整理」という文書を取りまとめ,1回目のパブリックコメントの手続を行いました。また,これと並行して関係する団体などからのヒアリングを行いました。   次に,第2ステージは,平成23年7月から1年8か月ほどかけて,整理した論点について改正の要否や改正内容の審議を行って,「中間試案」を取りまとめ,2回目のパブリックコメントの手続を行いました。   そして,平成25年7月から最終的な要綱案の取りまとめを目指す第3ステージの審議を開始し,平成26年8月に,この段階で実質的な改正内容を固める趣旨で,「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」を決定いたしました。この点については,昨年9月に開催された前回の法制審議会総会において中間報告をしたとおりでございます。   要綱仮案の決定後は,事務当局において条文化の作業を行い,そこで見つかった細かな問題点などを部会にフィードバックして更に審議を重ねてきました。その際に,事務当局において検討中の実際の条文案を部会に示して,規定の配置等について意見を聴く機会も設けました。また,要綱仮案を決定する際には,合意形成に至らなかった定型約款に関する改正項目についても更に審議を行って意見の調整を進めました。   このような審議経過を経て,今月10日の会議において,定型約款をも含めた改正項目全体について,全会一致で要綱案を決定するに至りました。   次に,要綱案の内容を御説明申し上げます。基本的には項目番号の第1から順番に説明いたします。お手元の配布資料「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」に従って,その順に説明いたします。ただ,時間の関係がありますので,重要な改正項目を中心に,適宜,ポイントを絞って御説明してまいりたいと思います。   まず,要綱案の1ページ目,「第1 公序良俗(民法第90条関係)」は,現在の民法第90条が「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為」と規定しているところを,判例を踏まえて,「事項を目的とする」という文言を削る改正をするものであります。   「第2 意思能力」は,判例を踏まえて,意思能力に関する明文規定を新たに設けるものであります。   「第3 意思表示」では,民法第93条,第95条,第96条等の規定について,判例を踏まえて規定の整備を行うこととしています。例えば,民法第93条の心裡留保については,善意の第三者を保護する規定を新設することとしていますし,また,民法第95条の錯誤については,要素の錯誤という概念を,判例を踏まえて具体化し,いわゆる動機の錯誤に関する規律を明文化するなどしております。   要綱案の2ページ,「第4 代理」では,多岐にわたる改正項目を取り上げていますが,これも基本的には判例を踏まえてルールの明確化を図る趣旨のものであります。例えば,民法第108条の自己契約及び双方代理の規定については,これに違反した場合には無権代理となることを明確化しましたし,表見代理に関する民法第109条,第110条,第112条の重畳適用に関する判例法理を明文化するなどしております。   要綱案の5ページに移ります。「第5 無効及び取消し」では,契約が無効である場合等の効果について,一般的な解釈を踏まえ,不当利得の特則として契約が解除された場合と同様の原状回復義務を負うこと等の規定を新設することとしています。   6ページの「第6 条件及び期限」は,現行民法の「始期」という用語が履行請求の始期を意味するものであって,効力発生の始期に関する規定が欠けていることを踏まえ,効力始期に関する規定を新設するなどするものであります。   次の「第7 消滅時効」は,重要な改正内容が含まれておりますので,若干詳しく説明したいと思います。   現行民法は,債権の消滅時効について,原則的な時効期間を10年としつつ,1年,2年,3年の職業別の様々な短期消滅時効の特則を置いています。この短期消滅時効については,それぞれの規定の適用範囲が不明確であることや,他の債権との区別が合理的とは言い難いことなどの問題点が指摘されていることから,これらの規定を削除することとしています。   これが7ページの「3 職業別の短期消滅時効等の廃止」という項目であります。   次に,職業別の短期消滅時効の規定を削除するのみでは,その適用を受けていた債権の時効期間が10年と大幅に長期化するとの懸念があります。   そこで,6ページの「1 債権の消滅時効における原則的な時効期間と起算点」におきましては,権利を行使することができる時から10年という現行制度の時効期間と起算点を維持した上で,これに加えて権利を行使することができることを知った時から5年の時効期間を新たに設けることとしております。   職業別の短期消滅時効の適用を受けている債権は,基本的に債権発生の時点から権利を行使することができることを知っているものと考えられますので,知った時から起算される5年間の時効期間が適用されることになります。これによって時効期間の大幅な長期化を避けることができると考えられます。   なお,権利を行使することができることを知らない債権者については,現行制度と同じ10年の時効期間が適用されますので,権利を行使することができることに気づかないまま時効が完成してしまう事案が現在よりも増えるおそれはありません。   また,7ページの「5 生命・身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効」では,生命・身体を侵害された被害者の保護を図る見地から,損害賠償請求権の時効期間を長期化する特則を設けるなどしています。   具体的には,生命・身体の侵害による損害賠償請求権については,債務不履行の場合も不法行為の場合も,権利を行使することができることを知った時から5年間,権利を行使することできる時から20年間としております。   さらに,同じページの「4 不法行為による損害賠償請求権の消滅時効(民法第724条関係)」におきましては,民法第724条が定めている長期20年の期間制限について,判例は除斥期間と解釈しておりますが,この長期20年の期間も時効期間であることを明記することとしております。除斥期間だとすると,原則として中断や停止が認められないことなどから,不法行為の被害者にとって不当な結果となる場合があるとの指摘を踏まえたものであります。   消滅時効に関しましては,このほかにも,時効の中断・停止についてその効果を適切に表す文言として,「完成猶予」や「更新」という用語に改めたり,争いのある権利についての協議中に時効が完成する事態を容易に防ぐことができるようにするため,協議による完成猶予という制度を新設したり,天災等による時効の完成猶予の期間を,現在の2週間から3か月に伸長することなども盛り込んでおります。   続いて,要綱案の9ページ,「第8 債権の目的(法定利率を除く。)」におきましては,善管注意義務に関する民法第400条の規定について,一般的な解釈を踏まえて,その注意の程度が契約や社会通念に照らして定まる旨を明記するなどいたしております。   10ページに移ります。「第9 法定利率」につきましては,重要な改正項目ですので,少し詳しく説明いたします。   法定利率は,現在5%で固定されていますが,これを年3%に引き下げた上で,今後の市中の金利水準の動向に応じて変動させる仕組みを新たに設けることとしています。   また,変動制を採用することに伴い,それぞれの債権について,どの時点における法定利率が適用されるのかを定める必要がありますが,法的安定性や実務上の負担などを考慮し,各債権についての利息が発生した最初の時点における法定利率を適用することといたしております。   他方で,判例は将来の逸失利益についての損害賠償の額を算定する際に行われる,いわゆる中間利息控除についても,法定利率によって控除を行うとしていますので,これを踏まえ,損害賠償請求権が発生した時点の法定利率によって控除を行う旨の規定を設けることとしています。   法定利率の具体的な変動のさせ方については,法定利率が適用される主な場面として,不法行為や債務不履行に基づく損害賠償における遅延損害金の額の算定の場面などが想定され,そこでは法的安定性や簡明性などを重視する必要が高いこと,さらには,中間利息控除においても用いられていることから,法定利率の見直しは3年ごとに行うこととし,過去5年分の市中の金利水準の平均が1%以上変化した場合に限り,1%刻みの数値で法定利率を変動させるという,緩やかな変動制を採ることといたしております。   続いて,要綱案の11ページ,「第10 履行請求権等」におきましては,判例を踏まえて,契約及び社会通念に照らして,債務の履行が不能であるときは履行請求をすることができない旨の規定を新設するほか,民法第414条について,強制執行の方法に関する具体的内容は,民事執行法等で定める方向での規定の整理などをいたしております。   「第11 債務不履行による損害賠償」は,判例や一般的な理解を踏まえて,債務不履行の損害賠償に関する一連の規律を明確化しようとするものであります。例えば,民法第415条の債務不履行による損害賠償の規定に関しては,債務者に帰責事由がないことを,同条後段の履行不能のみに限らない,一般的な免責要件として定めた上で,帰責事由の有無は契約及び社会通念に照らして判断される旨を明記することとしています。   13ページに移ります。「第12 契約の解除」におきましては,催告解除と無催告解除について,それぞれ解除の要件を整理し,見直すこととしております。   まず,催告解除の要件に関して,判例を踏まえて,債務不履行が軽微であるときは解除をすることができない旨を明文化しています。   次に,現行の民法第543条では,解除の要件として債務者の帰責事由が必要であるとされていますが,これを不要とすることしています。現行法の下では,例えばメーカーが原材料の仕入れ先との間で売買契約をした後,仕入れ先の工場が落雷で焼失したという事例ですと,仕入れ先である債務者に帰責事由がないとされ,解除することができない場合があり得るわけですが,それではメーカーがこの売買契約を解除して別の業者から原材料を調達する際の妨げとなってしまという問題があります。   そういったことを踏まえ,解除は不履行をした債務者への制裁ではないことを考慮して,解除の要件としては,債務者の帰責事由を不要とすることとしています。   その他,判例や一般的な理解を踏まえて,一部の履行不能により無催告で全部解除が認められるための要件や,一部解除が認められるための要件なども明記することとしています。   14ページに移ります。「第13 危険負担」では,まず,いわゆる債権者主義を定めた民法第534条の規定には合理性がないという一般的な理解を踏まえ,これを削除することとしています。   また,民法第536条のいわゆる債務者主義の規定については,債務者に帰責事由がない履行不能の場合であっても解除をすることができるとすることに伴い,その場合の反対給付が当然には消滅しないとした上で,履行を拒絶することができる旨の規定に改めることとしています。   15ページの「第14 受領遅滞」は,民法第413条が規定する受領遅滞の効果に関して,一般的な理解を踏まえ,債権者が受領遅滞に陥った後は,①債務者の保存義務が軽減されること,②増加費用が債権者負担となること,③当事者双方に帰責事由のない履行不能については債権者の帰責事由によるものとみなすこと,などを定めることとしています。   次に,「第15 債権者代位権」です。債権者代位権は,債権者が他人である債務者の財産管理に介入する制度であるにもかかわらず,民法第423条がその骨格を定めているのみで,具体的なルールは判例で形成されております。そこで,この判例を踏まえて,所要のルールを定める規定を新設することとしました。   具体的には,①金銭債権等を代位行使する場合には,代位債権者は自己への支払等を求めることができること,②債権者が代位行使をした場合であっても,債務者は自ら取立て等をすることを妨げられないこと,③債権者が訴えをもって代位行使をするときは,債務者に訴訟告知をしなければならないこと,などのルールを明文化することといたしております。   このほか,不動産等の譲渡人が,前主に対する登記請求権を行使しないときに,これを代位行使することができるという,いわゆる債権者代位権の転用ケースについても,判例を踏まえて明文化することといたしております。   次に,17ページの「第16 詐害行為取消権」です。詐害行為取消しの制度は,債権者が他人である債務者のした行為の取消し等を裁判上請求するという強力な制度であり,複雑な利害調整を要するにもかかわらず,現行民法では第424条以下の3か条が骨格を定めているのみで,具体的なルールは判例で形成されてまいりました。   そこで,この判例を踏まえて,所要のルールを定める規定を新設することといたしました。   具体的には,①債権者は,債務者がした行為の取消しとともに逸失財産の返還を請求することができること,②債権者は,金銭の支払等を請求する場合には,自己への支払等を求めることができること,③詐害行為取消しの訴えにおいては,受益者又は転得者を被告とし,債務者には訴訟告知をすることを要すること,④詐害行為の取消しの効果は,全ての債権者のほか債務者にも及ぶとすることなどのルールを明文化することとしております。   21ページの「第17 多数当事者」に移ります。   例えば,「2 連帯債務者の一人について生じた事由の効力等」におきましては,いわゆる絶対効によって当事者に予想外の効果が生ずることを避ける観点から,履行の請求その他の事由を絶対的効力とする旨の規定を削除するなど,多数当事者の債権債務の規律を全体として整理し,合理化する見直しを行っております。   次に,24ページの以下の「第18 保証債務」です。ここも重要な改正内容が含まれていますので,少し詳しく説明します。   まず,26ページの「5 根保証」を御覧ください。ここでは,根保証における保証人の保護の拡充を図ることといたしております。平成16年の民法改正において,個人が保証人である根保証契約のうち,主たる債務の範囲に貸金債務が含まれているものについては,極度額の定めがなければ保証契約が無効となること,保証の元本が確定するまでの期間について,原則3年に制限すること,などの規律が設けられました。   しかし,主たる債務の範囲に貸金債務が含まれていないものであっても,例えば,賃借人の債務の根保証で,賃借人の落ち度で借家が焼失したような事例では,保証人が想定外の多額の保証債務の履行を求められる場合があり得ます。   そこで,極度額に関する規律などについては,今回の改正では賃貸借の根保証を含む根保証契約一般に広げることとしています。もっとも元本確定期日に関する規律など根保証契約一般に適用することに支障があるものについては,現状を維持することとしています。   次に,28ページの「6 保証人保護の方策の拡充」を御覧ください。   その「(1)個人保証の制限」ですが,これはいわゆる第三者保証を制限する規定を新設するものであります。保証制度は,特に中小企業向けの融資において,主債務者の信用の補完や経営の規律付けの観点から,重要な役割を果たしていますが,他方で,個人的な情宜等から保証人となった者が,想定外の多額の保証債務の履行を求められ,生活の破綻に追い込まれる事例が後を絶たないと言われています。   第三者保証の制限の在り方の検討の過程では,第三者が保証契約を締結することを禁止する,あるいは,一律に無効とすべきであるといった意見もありましたが,先ほど述べたとおり,保証制度が果たす役割等を考慮すると,第三者による保証契約を一律に無効とすることは,金融の閉塞を招くおそれがあるとの意見もあり,また,保証人となった者が想定外の多額の保証債務の履行を求められ,生活の破綻に追い込まれるような事態が生ずることを防止するためには,保証人がその不利益を十分に理解しないまま,安易にこれを締結することのないような措置を採るのが重要である,などの意見も出されました。   こうした議論の結果として,主たる債務の額が多額になりがちで,保証債務の履行を求められると保証人の生活が破綻する危険が類型的に高い,事業のための貸金の債務を主たる債務とする保証契約などを対象として,公的機関である公証人による保証人の意思確認の手続を新たに設けることといたしました。   すなわち,事業用の融資の保証契約では,公証人があらかじめ保証人となろうとする者の保証意思を本人から直接確認し,その旨の公正証書を作成していなければ,保証契約を締結しても効力を生じないことといたしております。ただし,主たる債務者の状況を十分に把握することができる立場にあり,保証債務を負うことによる不利益を十分に認識せずに保証契約を締結するおそれが定型的に低いと考えられる一定の者,具体的には主たる債務者が法人である場合の取締役や,主たる債務者が個人事業者である場合の共同事業者や,その事業に現に従事している配偶者に対しては,このような制限を適用しないこととしました。   このほか,保証人保護の見地から,30ページの「(4)契約締結時の情報提供義務」では,事業用の債務の保証を委託する場合に,主たる債務者は保証人に対して自己の財産や収支の状況等の情報提供をする義務を負う旨の規定を設けることとし,「(5)保証人の請求による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務」におきましては,債権者が保証人に対し,主たる債務者の債務不履行の有無や,期限の利益を喪失したこと等の情報提供をする義務を負う旨の規定を設けることとするなど,保証人の保護の拡充を図る措置を講ずることとしています。   続いて,31ページの「第19 債権譲渡」にも重要な改正項目が含まれています。   「1 債権の譲渡性とその制限(民法第466条関係)」を御覧ください。   債権者と債務者との間で債権譲渡を禁止する特約をした場合に,それに違反する債権譲渡は原則として無効であると解されています。この譲渡禁止特約は,債務者にとっては弁済の相手方を固定するという意義を有するものですが,近年,中小企業の資金調達の手段として,債権譲渡という手法の活用が注目されるようになるにつれて,資金調達の妨げとなっていることが意識されるようになりました。債務者が大企業である優良な債権については,債務者は立場が強いため,譲渡禁止特約が付されることが多く,価値が高い債権ほど資金調達の手段として活用することが困難になる,こういう指摘がされていました。   そこで,このような状況を是正するため,当事者間に債権の譲渡禁止特約があっても,これに反する債権譲渡の効力は原則として妨げられないとした上で,その場合であっても,債務者は基本的に譲渡人,つまり,元の債権者に弁済すれば免責されるとする一方で,債権の譲渡人が破産した場合において,譲受人の請求があるときは,債務者は供託をしなければならないこととして,三者間の利益を調整しつつ,債権譲渡の担保としての機能を確保することといたしております。   もっとも,預金債権につきましては,弁済の相手方を固定化する必要性が特に高いことから,現在の規律を維持することとしています。   このほか,債権譲渡に関しては,将来債権譲渡に関する規定の整備なども行うこととしています。   次に,34ページの「第20 有価証券」です。ここでは,民法第469条から第473条まで等に規定されている,いわゆる証券的債権の規律のほか,民法施行法,商法等に散在している有価証券に関する規定について,基本的に現在の規律内容を維持する方向で規定の整理を行うこととしています。   36ページの「第21 債務引受」におきましては,現在は民法に規定のない債務引受に関して新たに規定を設けることとしました。複雑な金融取引等の仕組みを合理的に説明するための法技術としての有用性が高いこと等を踏まえ,判例,学説上一般的に認められていた,併存的債務引受と免責的債務引受に関して,それぞれの要件・効果等を定めることを内容とするものです。   次に,38ページ,「第22 契約上の地位の移転」です。これも現在は民法に規定がないけれども,判例上は認められている契約上の地位の移転に関する規律を明文化するものであります。   同じページの「第23 弁済」では,まず,「1 弁済の意義」において,弁済によって債権が消滅するという基本的な用語の意味を明らかにする規定を新設するほか,「6 弁済の方法」の「(4)預貯金口座への振込みによる弁済」において,現代社会では,金銭債務の弁済として振込みの方法が多用されていることを踏まえ,預貯金口座への振込みに関して,それが弁済としての効力を生じる時期を定める規定を新設することとしています。   そのほか,弁済に関しては,法律関係を明確にする方向で,技術的で細かな内容の多くの改正を盛り込んでいます。   次に,43ページに移ります。「第24 相殺」におきましては,民法第509条の不法行為債権を受働債権とする相殺に関して,一般的な解釈を踏まえ,相殺禁止の対象となる不法行為債権を悪意によるものに限定する一方,生命・身体の侵害による損害賠償請求権については,債務不履行を原因とするものも相殺禁止の対象に含めることとしています。   また,第511条の支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺に関して,判例を踏まえ,差押え前に取得した債権による相殺は妨げられないという,いわゆる無制限説を明確化するとともに,差押え前の原因に基づいて生じた債権による相殺も妨げられないことを明記することにしています。   44ページの「第25 更改」では,民法第513条の更改の要件に関して,「債務の要素を変更する」という難解な文言に代えて,給付内容の重要な変更,債務者の交替又は債権者の交替のいずれかに該当することが要件である旨を明記する等の改正を取り上げています。   45ページの「第26 契約に関する基本原則」では,近代法の大原則であると言われていますが,現行法には規定のない契約自由の原則を明文化することとし,法令に特別の定めがある場合を除いて,契約をするかどうかを自由に決定することができること,書面作成等の方式を備えなくても契約が成立し得ること,そして,契約の内容を自由に決定することができることなどを定めることとしています。   46ページの「第27 契約の成立」では,契約の成立に関して,申込みとその承諾によって成立する旨の基本的規定を新設するほか,現代社会では安定した通信手段が整備されていることから,隔地者間の契約の成立時期について発信主義をとっている現行民法第526条第1項を削除し,契約の成立についても原則として民法第97条第1項の到達主義を採るなどの改正をすることとしています。   次に,47ページの「第28 定型約款」であります。これは重要な改正項目ですので,少し詳しく説明します。   現代の取引社会において,いわゆる約款は,大量の同種取引を迅速かつ効率的に行うために広く利用され,必要不可欠なものとなっています。この約款には通常は相手方がその内容を読まないことなどの特質がありますが,民法にはそのような特質を意識した記述が全く設けられておらず,専ら解釈で対応しているため,法律関係が不安定であるという問題が指摘されていました。   部会における議論では,民法に約款に関する規定を設けることを支持する意見が,学者や法律実務家のほか経済界からもありました。しかし,その一方で,経済界の中には,約款に関する規定の適用の有無等を巡って,新たな法務コストを生ずるおそれがあることなどを指摘して,規定を設けることに慎重な意見があったことから,昨年8月の要綱仮案の取りまとめ段階では,部会全体の合意を形成することができませんでしたが,その後も議論を重ね,調整を図ることによって,最終的には要綱案に盛り込むことができましたので,その内容を御紹介申し上げます。   まず,「1 定型約款の定義」では,適用対象とする約款について「定型約款」という名称を与え,これを定型取引という新たな概念を用いて定義することとしております。そして,定型取引の定義については,一般的な事業者間の取引で用いられる契約書のひな型や,雇用契約が定型約款に該当しないことを明確にすべきであるとの意見を踏まえ,不特定多数の者を相手方とする取引で,内容を画一的にすることが当事者双方にとって合理的なもの,これを指すことといたしております。   次に,「2 定型約款についてのみなし合意」は,定型約款が契約の内容となるための要件を定めるものであります。ここでは,相手方は読まないし交渉もされないという約款の特質を踏まえ,定型約款の個別の条項を契約内容とする旨の合意がなくても,総体としての定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたか,あるいは,総体としての定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ表示していた,この二つの場合には,相手方が内容を理解していなくても,定型約款が契約の内容となる旨の規定を設けることとしています。   もっとも相手方への表示すら困難な取引類型,例えば,電車やバスの乗車契約等については,表示が困難であることを踏まえた特則を個別の業法に設けることを想定いたしております。   他方で,相手方が内容を理解していなくても契約に拘束されることとのバランスを図るため,相手方の利益を一方的に害する条項であって,民法第1条第2項の信義則に反するものについては,契約の内容とならないことも明記することとしております。   このほか,48ページの「3 定型約款の内容の表示」では,定型約款の開示の請求があった場合に,遅滞なく相当な方法で開示すべき義務がある旨の規定,「4 定型約款の変更」では,相手方の利益に適合するか,変更に係る諸事情に照らして合理的である場合に限り,契約締結後において定型約款を一方的に変更することができる旨の規定を,それぞれ設けることといたしております。   続いて,49ページの「第29 第三者のためにする契約」です。第三者のためにする契約は民法第537条に規定されておりますが,判例を踏まえて,契約の締結時に第三者が現に存しない場合や,第三者が特定していない場合であっても,その契約の効力は妨げられない旨を明記するなどとしています。   同じ49ページの「第30 売買」からは,契約各則に関する改正項目を取り上げています。   売買において特に重要なのは,「2 売主の義務」から「7 買主の権利の期間制限」までの,売主の担保責任に関する規定の見直しであります。民法第570条のいわゆる瑕疵担保責任の規定では,購入した商品の品質が契約の内容に適合していない場合に,買主が修補等の請求をすることができるかどうかについて明確な規定がありません。民法第566条の準用という形で,損害賠償と解除についての規定はありますが,そもそも「瑕疵」という用語は難解である上,その解釈について判例実務も分かれており,不安定な状況にあります。売買は国民一般が日常的に行っている契約類型であり,法的なトラブルも多いことから,瑕疵担保責任の要件や買主の救済手段は民法に分かりやすく明記されている必要があると考えられます。   そこで,まず要件に関して,「瑕疵」という難解な言葉に代えて,引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものである場合などという表現を用いることとした上で,その場合の買主の救済手段に関して,損害賠償の請求と契約の解除の規定に加えて,売主の追完義務と買主の代金減額請求権の規定を新設することとしました。   また,売主が権利移転義務を履行しない場合についても,目的物が契約の内容に適合しない場合と同様の規定の整備を行うこととしています。   さらに,売主の担保責任についての期間制限の規律も見直すこととしています。目的物の種類,品質に関する契約不適合がある場合には,現行民法では,買主がその事実を知った時から1年以内に権利行使までする必要があると解されていますが,これは実際上買主に困難を強いるものであることが少なくないとの指摘を踏まえ,1年以内に契約不適合がある旨の通知をすれば足りることといたしております。   以上のほか,売買に関しては,民法第557条の手付解除について,判例を踏まえ,相手方が履行に着手した後は解除することができないことを明記するなどの改正項目が盛り込まれております。   続いて,52ページ,「第31 贈与」におきましては,民法第551条の贈与者の担保責任に関して,贈与者も契約の内容に適合するものの引渡し等をする義務を負うことを基本としつつ,その無償性に鑑み,当事者の意思の推定により贈与の義務を軽減する規定に改めることなどを取り上げております。   53ページの「第32 消費貸借」についてですが,民法第587条は消費貸借を要物契約といたしておりますが,実際に目的物を交付するまで契約の拘束力が生じないとすると,例えば借主は安心して住宅ローンを組むことができないことにもなりかねません。このため,判例上,諾成的な消費貸借も有効であるとされていますが,他方で,口約束だけで消費貸借の成立を認めることに対しては,借主保護の観点からの弊害を指摘する意見もありました。   そこで,消費貸借のうち,書面又は電磁的記録によってされたものについては,目的物の交付前に諾成的に契約が成立することとした上で,借主は目的物を受け取るまで契約を解除することができること等の,所要の規定を設けることといたしました。   また,利息に関して,一般的な理解を踏まえ,特約がなければ貸主は利息を請求することができない旨の規定を設けることなども盛り込んでおります。   次に,54ページ,「第33 賃貸借」には多岐にわたる改正項目が含まれています。そのうちの幾つかを御紹介申し上げます。   まず,55ページの「3 賃貸借の存続期間(民法第604条関係)」では,民法第604条が賃貸借の存続期間の上限を20年としているところ,現代社会においては20年を超える賃貸借をするニーズがあることを考慮し,その上限を20年から50年に伸ばすこととしています。   次に,「4 不動産賃貸借の対抗力,賃貸人たる地位の移転等(民法第605条関係)」では,賃貸不動産が譲渡された場合に関して,判例を踏まえて,賃借人がその賃貸借を対抗することができるときは,原則として不動産賃貸人の地位が譲受人に移転すること,この地位の移転に伴って敷金の返還債務も移転することなどを明らかにする規定を新設するとともに,実務上のニーズを踏まえ,不動産の譲渡人と譲受人との合意によって例外的に賃貸人たる地位を譲渡人に留保することを,一定の要件の下で認めることといたしております。   また,56ページの「7 敷金」及び57ページの「13 賃貸借終了後の収去義務及び原状回復義務(民法第616条・第598条関係)」は,いずれも現在は民法に規定がなく,これまで判例の積み重ねによって対処してきたところです。この種のトラブルは市民生活において少なくありませんので,その解決指針となるルールを民法に明記することとしております。   具体的には,敷金に関しては,判例等を踏まえて,その定義,敷金の返還時期,敷金の返還の範囲について規定を設けることとしています。   また,賃貸借終了後の原状回復義務等については,賃借人が通常の使用・収益によって生じた賃借物の損耗や経年変化を除いて,賃借物の損傷を原状に復する義務を負うこと等の規定を設けることとしました。   賃貸借に関しては,このほかにも,例えば,55ページになりますが,「6 不動産の賃借人による妨害排除等請求権」において,賃貸借の対抗要件を備えた不動産賃借人は,第三者に対して妨害の停止や不動産の返還の請求をすることができる旨の規定を新設するなど,判例法理の明文化を行う改正項目が盛り込まれています。   次に,58ページです。「第34 使用貸借」におきましては,民法第593条において要物契約とされている使用貸借を諾成契約に改めた上で,その無償性に鑑み,書面によらない贈与の解除に関する民法第550条を参照して,書面による使用貸借を除き,貸主は目的物を交付するまで契約を解除することができる旨の規定を設けることなどを取り上げています。   諾成契約に改めているのは,今日の経済社会においては,目的物の交付前でも契約の拘束力を生じさせる実際上のニーズがあるとの指摘が存することを考慮したものであります。   59ページの「第35 請負」におきましては,仕事の完成が不可能になった場合等に関して,判例を踏まえて,既にした仕事が過分で,その部分により注文者が利益を受けるときは,請負人はその利益の割合に応じて報酬を請求することができる旨の規定を新設することといたしております。これは,「1 仕事を完成することができなくなった場合等の報酬請求権」という項目であります。   また,「2 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の請負人の責任」という項目におきましては,民法第634条から第638条までの請負人の担保責任の規定に関して,有償契約一般に準用される売買の規定の改正を踏まえて所要の見直しを行うとともに,判例を踏まえて,建物その他の土地の工作物について注文者の解除権を制限している,現行民法第635条ただし書を削除するなどの改正を行うことを取り上げております。   60ページ以下の「第36 委任」では,61ページになりますが,「2 報酬に関する規律」におきまして,民法第648条について,一般的な解釈を踏まえて,委任者の帰責事由なく委任事務の履行ができなくなった場合や,委任が履行の中途で終了した場合には,受任者は既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる旨の規定を設けるほか,報酬に関する規律を明確化する趣旨の規定などを設けることとしています。   「第37 雇用」では,雇用の報酬に関し,一般的な解釈を踏まえて,使用者の帰責事由なく労働に従事できなくなった場合や,雇用が履行の中途で終了した場合には,労働者は既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる旨の規定を新設するほか,民法第626条の期間の定めのある雇用の解除や,民法第627条の期間の定めのない雇用の解約の申入れに関して,労働基準法による規律の現状等を踏まえ,労働者から契約を解除する場合の予告期間を短縮して,2週間前とするなどの規定の整理を行うこととしております。   「第38 寄託」では,民法第657条において要物契約とされている寄託を諾成契約に改めた上で,寄託物が交付されるまでの間,寄託者はいつでも解除をすることができることや,受寄者は書面によらない無償の寄託である場合等に限り解除をすることができる旨の規定を新設することとしています。使用貸借を諾成契約に改めるのと同様の趣旨に基づくものであります。   このほか,寄託に関しては,64ページで混合寄託に関する規定を新設したり,65ページで,消費寄託について,原則として寄託の規定を適用する方向での見直しをすることなどを取り上げています。   65ページの「第39 組合」では,他の契約類型と異なる組合契約の特則に関する一般的な理解を踏まえ,契約総則における民法第533条の同時履行の抗弁等の規定が適用されないこと,組合員の一人の意思表示に無効原因があっても,他の組合員の間の組合契約の効力には影響しないことなどを定める規定を新設するなど,全般的に規定内容の整理と明確化を図る方向での見直しを行うことといたしております。   最後に,67ページ,「第40 その他」は,その他所要の規定の整備をすることとするものであります。   民法(債権関係)の改正に関する要綱案の概要は以上のとおりでございます。大変長くなりましたが,御清聴いただきまして,誠にありがとうございます。よろしく御審議のほどをお願いいたします。 ○高橋会長 どうも御報告ありがとうございました。   それでは,御報告及び要綱案の全般的な点につきまして,御質問及び御意見を承ことになりますが,質問と御意見を分けまして,まず御質問がございましたら,お願いいたします。   それでは,御意見の中での御質問も構いませんので,御意見の方に移ります。御意見がございましたら,お願いいたします。佐久間委員。 ○佐久間委員 まず,5年以上にわたりまして御議論いただき,この度,要綱案が取りまとまったことにつきまして敬意を表したいと思います。   経済界は,今,部会長から御説明のありました改正の趣旨に賛成でございます。ただし,仮案決定以降も継続審議となりました定型約款につきましては,経済界においては実務の混乱を懸念する声がございました。一番の問題は,定型約款の定義が必ずしも明確でないために,約款を用いて行われております企業間取引が不安定になるのではないかという点でございました。   その点に関しまして,専ら企業間取引で用いられる約款,基本契約,契約書のひな型等については,定型約款の定義には該当しないと理解しておりますし,また,そういうふうなことだと思っておりますが,この点につきましては,念のため,取引の安定化のため今後解説書等にその旨を記載したり,国会審議の場においてその旨各所で説明していただき,十分に周知し実務に混乱が生じないようにしていただきたいと考えております。   また,定型約款を含む要綱案全体について,2点お願いがございます。   一つは,民法の債権法は,経済界のみならず国民の経済活動、社会活動全てを律する基本中の基本ルールということでございますので,改正の趣旨及び内容につきまして,丁寧かつ十分な周知をしていただきたいということ。   もう1点は,各規律,これは特に今回契約自由の原則というのが入りましたけれども,各規律が任意規定なのか,強行規定なのか,この点については可能な限り解説書等で明らかにしていただきたいと考えております。 ○高橋会長 3点ございましたが,まず外れるものと言っているのはいかがでしょうか。 ○鎌田部会長 定型約款の定義に関しましては,いろいろと議論のあったところでございますけれども,御発言の御趣旨もB to Bであれば自動的に全部外すべきというものではなかったと思いますが,先ほど申し上げたようにひな型等は外れるように配慮して定義を設けたところでございます。この後の国会審議あるいはその後の解説書等におきまして,我々研究者もそうでありますが,事務当局におかれまして十分に正しくその内容を伝えるように努めていただければと思っております。   残りの2点につきましても,むしろ今後の条文化作業以降の課題だと思いますので,できれば深山幹事からお話をしていただければと思います。 ○深山幹事 引き続きまして,民事局長の深山です。   今,鎌田部会長からお話があったとおり法制審議会の議論においても,第1点目の点は,現在の要綱案の定義で,B to Bで用いられているひな型等は入らないという了解の下で,抽象的な定義,規定ではありますが,作られておりますし,その趣旨をより具体的に様々な広報手段で周知していくというのは,我々事務当局の法律成立後の大きな仕事だと思っておりますので,この点をはじめ,更に各規定の趣旨・内容,取り分け規定の性質,任意規定,強行規定等々も含めて,その周知を図っていく。これは内容が極めて多岐にわたって,影響も大きいということですから,他の一般の法律もそうですが,従来の一般の法律に増して様々な手段で周知徹底をしていきたいと思っております。 ○高橋会長 ほかにいかがでしょうか。古賀委員。 ○古賀委員 先ほど提案されました要綱案は,これまでの部会あるいは中間報告での様々な指摘された懸念をおおむね払拭されたものと受け止めております。したがいまして,この要綱案の内容を維持,堅持し,法案化をよろしくお願いいたします。その上で要望を申し上げます。   まず,言うまでもなく民法は民事の基本的な法律であって,先ほど佐久間委員からもございましたように,この改正の影響は広範に及ぶだけでなく,他の関係法令にも大きな影響を与えると思います。したがって,改正に際しては十分な周知の期間を置き,広く周知していただくとともに,十分な準備期間を設けて,当事者の予見可能性を害することのないような適切な処置を施していただく,そのことを要望し意見とさせていただきます。 ○高橋会長 この点も深山さん。 ○深山幹事 今御指摘ありました周知期間あるいは準備期間の点ですけれども,現在,条文化の作業もしておりまして,今御説明があった要綱案自体には期間の点について触れるところはないわけですけれども,条文として今考えているのは1年2年では足りないだろうということで,交付の日から3年以内の政令で定める日と。実際には2年半から3年ぐらいの準備期間,周知期間を置くということになると思いますが,そういった規定を現在のところ考えているところでございます。   様々な御意見の中にはもっと長くということを言われる方もおられますが,他方で余り長いとかえって難しい面もあるので,この2年ないし3年ぐらいの期間の間に,法務省としても法律成立後は,先ほど申し上げたとおり様々なツール,特に解説書を書くということや,いろいろなところで文章で発表するだけでなくて,他省庁と連携をして,各業界ごとにいろいろ御懸念の点もあるし,各分野ごとにいろいろなことがありますし,今御指摘のように他法令の影響もありますので,業界ごと,あるいは,関係省庁ごとの周知に法務省も一緒になって取り組んでいくということで,遺漏なきを期したいと思っております。 ○高橋会長 古賀委員,よろしいでしょうか。 ○古賀委員 はい,結構でございます。 ○高橋会長 ありがとうございます。   ほかの方。山根委員,お願いいたします。 ○山根委員 長い年月にわたる熱心な議論を経て,部会の皆様の御努力でここまでようやく至ったと思っています。現状の課題を見据えて,消費者保護ということで改正された部分も多くあり,評価をするのですけれども,一方で保証人のところ,もう一歩踏み込んで禁止の徹底等できなかったかとか,約款につきましても,明確化が進みましたようですが,不当条項の取扱いなど,消費者としては心配なところもあると感じております。   契約問題等の議論の際,消費者保護を強く求めますと,よく言われますのが,自由で健全な事業活動を阻害するおそれがあるということですけれども,企業と一消費者の力の差を考えれば,保護ルールの整備というのは当然必要なことと思いますので,それは基本に置いて今後も進めていただければと思います。   それから,周知の徹底ということは消費者としても是非お願いしたいと思います。法律の専門家でない一般の消費者がどれだけこの改正について知っているか,どんな課題や議論があってここまでまとめられようとしているか等々,そして,国民,消費者が十分議論に参加できたかということについても若干疑問を持っております。今から十分な情報提供等御尽力いただきたいと思います。 ○鎌田部会長 御意見は理解いたしておりますが,不当条項の規制に関しましては,今回約款に関して不当な条項についての基本規定は設けましたけれども,これとは別に,約款規制の観点でなくて,文字どおり不当条項規制の観点から,消費者法の中で約款であるか否かを問わず,不当条項規制をしていくということはこれと矛盾するものではございませんので,それはそれで発展していっていただければと考えているところでございます。 ○高橋会長 よろしゅうございますか。   では,八丁地委員。 ○八丁地委員 まず,民法(債権関係)部会におきまして,99回という大変長い間の会合を重ねられまして,しかも,毎回数時間に及ぶ濃密な審議を経られて要綱案をおまとめいただきまして,どうもありがとうございます。特に1896年の現行民法制定以来,多くの判例や解釈論が実務に定着して,基本的ルールが見えにくいという状況の中で,全体の見直しをされて,500項目を超える中間論点を要綱仮案においては200項目に絞られたという大変な御努力に敬意を抱くものであります。   経済界は,先ほどの佐久間委員の意見と完全に同様でありますが,債権関係の改正の趣旨には賛成であります。現代の社会経済に即した新しい取引ルールの下でビジネスが更に成長し,発展をするために,これをよく理解して運用されることを期待するわけであります。今回の改正は,取引に関する基本的なルールを大幅に見直すということでありますので,是非新しいルールの丁寧かつ十分な周知をお願いいたします。あわせて,改正の趣旨につきましても,解説書などによく記載をしていただきたいと思います。   それから,定型約款についてでありますけれども,いわゆるB to B取引で用いている約款は,今回の要綱案において新設された定型約款には該当しないという点だとか,定型約款に該当しない約款も,従来の約款法理の下では依然有効であるという点などにつきましては,細かく,誤解とか混乱がないように周知いただきたいということを重ねて申し上げます。   最後に,民法(債権関係)の改正要綱案は,日本の今後の経済活動を規律するという基本的なルールでありますので,海外の用途にもいろいろな形で翻訳されるということもあろうかと思いますので,グローバリゼーションという観点から,分かりやすく,見やすく,周知が徹底されるような観点が重視されるように期待をしているところであります。よろしくお願いいたします。 ○高橋会長 グローバルな点も含めて。 ○深山幹事 今,最後にお触れになったグローバルな周知という点では,御案内のとおりですけれども,法務省では法令外国語訳事業をして,準公訳を無料でアクセスできる形でアップしております。今回の民法の改正内容の重要性に鑑みますと,もちろん法律成立後ですけれども,いの一番に準公訳を作って,無料で海外からアクセスできる状況を早く実現したいと思っております。 ○高橋会長 ほかに御意見は。岩間委員,お願いします。 ○岩間委員 説明を伺っていてちょっと疑問が生じましたので,教えていただきたいのですが。現行制度があって,それが変更されるという場合は,もちろん混乱を避けるために十分長い過渡期間が必要かと思いますが,民法に規定が存在しなくて,既に判例で慣行が定着しているものが明文化されるというものもかなりあったように思います。その場合はむしろ早めにはっきりと法文化した方が混乱が少なく,また,国民にとっても分かりやすいという面があるのではないかと思いますが,その辺りはいかがなのでしょうか。 ○深山幹事 確かに今回の改正の項目のうち相当部分,実際には半分以上だと思いますけれども,従来の判例理論の明文化という内容のものです。ただ,債権法全体を一括して見直しておりますので,例えば,一つの制度,一つの条文の中でも,この第1項は判例法理を明文化したものです。しかし,それを前提に新しいルールを付け加えたという形で,それが一つの条文になっている,あるいは,制度になっていると。そういうふうにお互いに絡み合っている,全体を見渡していろいろな調整をしています。   したがって,この内容を幾つかに区切って施行時期を分けるというのは考えられないわけではないのですが,今言ったような条文化するときにはそれは一体化して,截然と分けられないものですから,かえってどういう適用関係になるのか難しいことが生じかねないということで,我々とすると全体を一つのパッケージとして一定期間の準備期間を置いて施行したいと思っているところです。 ○鎌田部会長 法律の施行日という点では,今,深山局長のおっしゃったとおりだと思うのですけれども,民法,取り分け債権法,契約法は大部分任意規定でございますので,法律の規定がないと適用できないというわけではございません。むしろ未施行ではあれ改正法が成立したということが,従来の解釈とあいまって,施行日までの民法の適用について大いに寄与して,その方向で確定していくということが期待されると考えております。 ○岩間委員 契約に関してはおっしゃるとおりだと思うのですけれども,例えば賃貸借終了時のルールなどは,実際に毎日とてもたくさん起こっているトラブルだと思いますので,こういうふうに法律としてもなっているのですと,この方向で解決することが望ましいということは,より一層早期に周知されることが望ましいと思います。それはまた周知の対象が違ってくると思いますので,全部一括してやるのではなくて,ターゲットを絞った周知活動が必要になるのではないかなと思います。 ○高橋会長 御意見ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。岩原委員。 ○岩原委員 非常に意見の分かれ得る難しい問題について意見を集約して,このような形で民法という大法典の根本的な改正をおまとめになりました部会の皆様方,あるいは,事務局に対して,心から敬意を表したいと思います。なるべく早く施行されて,社会のルールをよりよくしていただきたいと思います。   もっとも,そのように意見を集約してまとめていく過程で,最初は幅広く議論していたところが,意見の集約が可能な範囲にだんだん絞ってこういう形の案になったと理解しております。ということは,課題はなお残ってしまっているというところがあるわけであります。例えば,私の専門の商法の関係で申しますと,要綱案に従い商事時効と商事法定利率の規定が廃止されますと,ほとんど商行為概念を採る意味が無くなるということになりかねません。もちろん,この二つに商行為概念の意義が限られるわけではありませんが,商行為概念を採る最大の効果はこの二つであります。   それからまた要綱案では,民法における短期消滅時効の規定を全部廃止するということになっておりますが,商法典の中には短期消滅時効の規定が残っているわけでありまして,その間に基本的な考え方としてバランスがとれることになるのかといった問題も生じてきます。したがいまして,この改正が終わりましたら,商行為等に関する商法典の規定についても是非,改正された民法と整合するように根本的な検討をしていただきたいと思います。   それから,もう1点,議論を絞った結果,結果的には従来の民法典に規定されている典型契約の規定の修正に終わったわけで,当初検討されていた新しい重要な取引類型等に関する規定を設けるということは,要綱案の中では実現されていないように思います。しかし,例えば振込取引のように,実際上非常に重要な取引について困難な法律問題があり,判例もかなり混乱していて,立法が必要ではないかと思われる例がございます。各国を見ますと,アメリカですと,U.C.C.-ARTICLE 4Aに振込取引に関する詳細な規定が設けられていますし,EUもEU決済サービス指令に従って,EU各国が振込取引に関する立法化をしております。そういう新しい取引類型についても今後は立法の検討をしていただきたいと願っております。 ○深山幹事 商法典につきましては,御専門ですから,御案内のとおりで,現在は運送法と海事商法の全面的な見直しをしております。これはもう少し法制審の部会の議論がかかりますが,その後の課題として商行為法をどうするのかというのは依然として残っておりますので,十分心していきたいと思います。   もう一つ,新しい取引類型については先生の方からお願いします。 ○鎌田部会長 御指摘のように,当初の論点整理で改正の考えられる項目を列挙させていただいて,恐らくその半分も今回は実現できていないということになりました。取り分け新しい取引類型に対応するものについては議論が分かれて,要綱の中に盛り込めなかったというのは御指摘のとおりでございます。   そういう意味では,解釈に,あるいは,次の立法の課題としてかなりのものが残されたわけでございますけれども,一つは99回の部会の議論の中でこれからの解釈の在り方,あるいは,立法の在り方について,かなり詰めた議論がされたということ。そして,これだけの改正に5年以上かかってしまったわけではありますけれども,この経験が,民法にはまたあと100年手が付けられないというのではなくて,立法での対応が必要であるということの社会的な認識もかなり深まり,民法改正に対する理解も深まったと考えておりますので,必要な時期に必要な内容についての立法議論が展開されやすくなったのだろうというところに期待をしていきたいと考えているところでございます。 ○高橋会長 川副委員。 ○川副委員 今の御議論に関連して思ったことですが,今回の答申によって,むしろ今後の我々実務家に課せられた課題がとても大きいという印象を受けました。今おっしゃいましたように,部会ではたくさんの項目が検討され,ほとんど一致するというところまでいったものも多々あるわけですが,今回の民法改正は非常に大きな作業でございますので,全会一致を目標とするという基本的な方針から,完全に一致に至らなかったかなりのものが落ちていきました。しかし,落とされたからといって,それはネガティブなものとして否定されたということではないわけです。これまでの判例を踏まえ,そして,今後の訴訟等の中で,ある意味では我々実務家は立法事実を作っていくといいますか,作っていくというのは大変おこがましいですが,具体的な案件の中から,これまで部会で議論されたことを,より明確なルールとして形成できるような素地を作っていく必要があるという印象を持ちました。   その意味では,そうした実務動向を踏まえて,また研究者の先生方にも理論的な整理をしていただきながら,法というのは決して固定的ではなく発展的なものですので,次への一歩を是非考えていただきたいと思います。今指摘された商法典の問題もそうですし,今回の部会で議論されながらも最終的には取り入れられなかった,不実表示とか契約締結過程における情報提供の問題,あるいは契約の付随義務といったものは,かなり一致できるものだろうと思いますので,今後の立法事実を踏まえつつ,新たな展開を期待したい,またそうすべきだという感想を申し上げておきたいと思います。 ○高橋会長 ありがとうございます。   ほかに御意見。   一歩進めばまた一つ課題が出てくるということで,いろいろな御意見,あるいは,御注文と申し上げてもよろしいかと思いますが,そういう御意見も出ました。しかし,今回の要綱案を本法制審議会で採択するかどうかの決議をお願いしたいと存じますが,まだ早すぎるでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,慣例にならって挙手で採決を採らせていただきます。   諮問第88号につきまして,民法(債権関係)部会から報告された要綱案のとおり,答申することに賛成の方,挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ○西山司法法制課長 採決の結果を御報告申し上げます。議長及び部会長を除くただいまの委員数は18名でございますところ,全ての委員が御賛成ということでございました。 ○高橋会長 全員賛成ということでございますので,民法(債権関係)部会から報告された要綱案を,原案のとおり当法制審議会は採択したということになります。   採択されました要綱案につきましては,この会議終了後,法務大臣に対して答申することといたします。   鎌田部会長におかれましては,5年以上もの長きにわたり,多岐にわたる論点につきまして調査審議をしていただきました。誠にありがとうございます。 ○鎌田部会長 こちらこそどうもありがとうございました。 ○高橋会長 第2番目の議題に移ります。「民法(相続関係)の改正に関する諮問第100号」についての御審議をお願いいたします。   初めに事務当局から諮問事項の朗読をお願いいたします。 ○堂薗参事官 民事局で参事官をしております堂薗でございます。それでは,諮問を朗読させていただきます。  諮問第100号   高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたい。  以上でございます。 ○高橋会長 続きまして,この諮問の内容,諮問に至る経緯及びその理由につきまして,事務当局からの説明をお願いいたします。 ○深山幹事 それでは,諮問第100号につきまして御説明いたします。   民法の相続関係の規律の見直しに関する諮問第100号につきまして,提案に至りました経緯及び諮問の趣旨等を御説明申し上げます。   民法が規律している相続法制につきましては,配偶者の法定相続分の引上げ,寄与分制度の新設等を行った昭和55年の改正以降,約35年間にわたって大きな見直しはされておりません。しかしながら,その間にも我が国の平均寿命は伸び,社会の高齢化が進展するとともに,晩婚化・非婚化が進む一方で再婚家庭が増加するなど,相続を取り巻く社会情勢には大きな変化が生じています。このような変化を踏まえて,現行の相続に関する規律を見直すべき時期に来ているものと考えられます。   さらに,平成25年9月に,嫡出子でない子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていた民法900条4号ただし書前半部分の規定が憲法に違反するとの最高裁判所の決定がなされたことを受け,同年12月に,この規定を削除して,嫡出子と嫡出子でない子の相続分を同等にすることを内容とする民法の一部を改正する法律が成立いたしましたが,その過程で,各方面から配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続法制を見直すべきではないかとの問題提起がされました。   そこで,法務省では相続法制の在り方について検討を行うため,民法の研究者や一般有識者の方々の御協力を得て,平成26年1月に相続法制検討ワーキングチームを設置しました。ワーキングチームは約1年をかけて議論を重ね,一つ目に被相続人の配偶者の居住権保護,二つ目に配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現,三つ目に寄与分制度の見直し,四つ目に遺留分制度の見直しについて検討し,本年1月28日にその結果を報告書に取りまとめました。   これにより,残された配偶者の生活への配慮等の観点から,取り上げるべき相続法制の問題点及びこれに対する方策について論点の整理がされるとともに,今後,相続法制を見直すに当たって更に検討すべき課題が明確にされました。しかしながら,相続法制の見直しは,国民生活に与える影響が極めて大きく,見直しをする場合の方向性についても様々な考え方があり得ることから,今後の検討は開かれた場でより多くの関係者から意見を聴取して進めていくのが相当であると考えられます。   そこで,高齢化社会の進展等の相続を取り巻く社会情勢の変化に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直すことについて,法制審議会の意見を求めるものであります。   諮問第100号についての御説明は以上のとおりでございます。よろしくお願いいたします。 ○高橋会長 ありがとうございます。   それでは,今説明のありました諮問第100号につきまして,また御質問と御意見を分けてお伺いいたしますが,最初に御質問がございましたら,お願いいたします。   それでは,御意見の方を承れればと思います。   能見委員。 ○能見委員 中身に関する意見です。相続に関する法制について,先ほど御説明があった点を検討するのが中心になるというのは,そのとおりだと思いますけれども,もし検討の対象に入れられるものであれば,夫婦の共有財産の問題は密接に関連する問題だと思いますので,それが中心的な位置を占めなくても結構だと思いますけれども,是非この問題も御議論いただければと思います。 ○高橋会長 ありがとうございました。   ほかに。高山委員,お願いします。 ○高山委員 今回の相続法制の見直しは,ただ今の諮問にありましたように,高齢化社会の急速な加速と,家族の在り方に対する国民意識の変化と,そういう意味では日本社会の喫緊の課題に合わせた改正の検討ということで,非常にタイムリーであり重要性が高いと認識しております。その意味では,法制化の検討に当たりましては,個人の権利という視点からだけでなく,日本の社会構造や社会的な課題などマクロの視点から多角的な検討がなされることを期待いたします。あわせて,現在の実態だけでなく,将来の変化のトレンドも少し見据えていただいて,法制化された段階で実態とずれることがないように検討をお願いしたいと思っております。   具体的な例を申し上げますと,65歳以上の高齢者人口に占める単身者世帯の割合が非常に増加していて,現在,女性の割合は2割を超えているということですとか,あるいは,高齢者の貧困率という観点から見ましても,男性よりも女性の貧困率が高いといったような実態。一方,そうは言いながらも高齢者の貯蓄率も高くなっていて,消費に回らずに貯蓄に回ってしまうということが経済の活性化という観点からどうなのかといった観点ですとか,非常に多角的に検討されるべき問題が多々あると感じております。   幾つか事例を申し上げましたけれども,そういった観点から周辺の社会課題ともすり合わせながら,検討を進めていただきたいと思いますし,そのためには,法律の専門家だけでなく,高齢者問題の専門の方,あるいは,地域で高齢者のサポート活動をされている方,介護の問題等も入ってまいりますので,そういう幅広いメンバーを集めていただいて御検討をお願いできればと思います。よろしくお願いいたします。 ○高橋会長 岩間委員。 ○岩間委員 高齢社会ということで今までになかった問題がどんどん増えてくると思います。また,家族の在り方も非常に変わってきておりまして,複数回結婚する人も決して珍しくなくなっているという現状もありますので,そういう点を十分考えて,相続が過度に訴訟になりやすくならないようにするにはどうしたらいいかということを考えていただきたいと思います。   あとは,高齢者が増えると,配偶者が亡くなった時点で相手の配偶者もかなり高齢である場合がありますし,あるいは,配偶者が亡くなった後,その高齢者がかなり長生きして介護が必要になる。その場合にもちろん遺産がその方にあることが必要だという視点は分かるんですが,介護するのは実質的に子である場合もあります。また,年とともに高齢者は判断能力が落ちていきます。それは様々な高齢者を対象とした詐欺があることでも分かると思います。その場合に,果たして高齢者が財産を全部持っておくことが,本当にその人のためにいいことなのか。むしろ子も相続財産を持っている方が,リスク分散になる場合もあるのではないかというのを,私は自分の身の回りに現実に起こっていることを見て思わないでもありません。これは相続だけではなく,社会のあらゆる面で,高齢者は配偶者が亡くなった後もかなり長生きする可能性があり,その間に様々な事情が生じ得る。判断能力が落ちてくるかもしれないし,あるいはまた,別の人と結婚するかもしれない,というようないろいろな状況が生じ得るので,ルールがあまり複雑になると適用がとても難しくなる場合もあるのではないかということも十分考慮していただければと思います。 ○高橋会長 川副委員。 ○川副委員 今後の審議手続の御議論をされた後に申し上げようかと思っていたのですが,既に中身についての御発言が出されておりますので,関連して今後の審議において御留意いただきたい要望ということで申し上げたいと思います。恐らく部会を作って専門家を含めた広範な委員による御議論がされると思いますけれども,そこでの今後の議論の一つの側面ということでお聞きいただきたいと思います。   先ほどの御説明にありましたように,法律婚の保護を相続にできるだけ反映するということ,そのこと自体には一般論として異論はないところかとは思いますけれども,問題はその具体的な在り方だと思います。相続法制につきましては,御説明にもありましたように,昭和55年に大きな改正がされました。率直に申し上げますと,その後,現行制度は国民の間に広く定着していると私自身は思っております。   相続法制は特に,調停とか審判,訴訟における裁判規範として機能するだけではなくて,そこまでに至らない多くの国民にとって,例えば,裁判外での遺産分割協議をする,あるいは遺言書を作るといった場面では,とても身近な相続を経験する際の行為規範として機能している。そういう意義が重要だと思われます。その意味では法律家でない一般の国民に分かりやすく,利用しやすい制度であることが取り分け大事だと思うのです。   先ほど御紹介がありましたワーキングチームの報告書を拝見しました。もちろんこれがそのまま部会の議論になるというわけではないのでしょうけれども,一つのたたき台にはなるのでしょう。私なりに読み込ませていただきましたけれども,配偶者の居住権の創設,あるいは,配偶者の法定相続分や遺留分を定める上で,実質的夫婦共有財産とそうでないものを分ける。さらには,療養看護の寄与分制度を新設するといった,かなり抜本的な改正が検討されています。   しかし,これらの中には,ワーキングチームの議事要旨などを拝見しましても,例えば実質的夫婦共有財産というものの範囲をどうやって定めるのか。他方で,これに関する相続債務をどう分担するのか,あるいは,それに対する債権者の保護をどう考えるのか。それらとの関係で,先ほどの御説明にもありましたが,相続紛争が非常に複雑化するとともに,長期化するおそれがあるのではないか。こういった基本的な部分で大きな問題が指摘されていると思います。私自身も相続紛争を多数取り扱いましたけれども,そういう経験からしてもその懸念はやはり拭えません。   先ほど申し上げましたように,相続法制は取り分け一般の国民に分かりやすく,利用しやすい制度であるべきです。したがって,その改正は国民生活に非常に大きな影響を及ぼすということを十分に考慮するとともに,紛争をいたずらに増やしたり,混乱を招かないようにすべきです。何よりも相続については国民の誰もが直面するわけですから,そのことについて具体的な見通しを持って行動できるものでなければならないと思うのです。   そうした観点からいたしますと,今回検討されている改正が本当に国民にとって分かりやすいものになるのかどうなのか疑問があります。諮問がされていてこういうことを申すのは恐縮ですけれども,あえて法改正をする必要性を裏づける立法事実があるのだろうか。一般的な高齢社会への対応という以上に,現在の相続法制では対応できないような立法事実があるのかどうなのかにも立ち返って,特に慎重で丁寧な御審議をお願いしたい。言葉は過ぎるかもしれませんが,ゼロからの御議論をすべきだと私は考えております。   相続法制は,一般国民にとってもそうですけれども,裁判実務にも非常に深く関わっております。そういう意味では,改正論議をされる際には,これまで積み上げられてきた調停,審判,あるいは訴訟における実体と手続の両面における実務の在り方というものは無視できないと思います。それらについても慎重な御配慮をお願いしたいと思います。   そういう意味では,今後,部会で御調査・審議をされるについては十分な時間をかけていただきたいと思いますし,また,適宜の時期に国民への的確で十分な情報提供を行って,本当の意味で広範な国民がこの改正論議に実質的に参加できる機会を確保して,その理解を得る必要があると思っております。そういった観点を十分に踏まえた御検討をお願いしたいと思います。   多少ネガティブな意見になったかもしれませんけれども,それだけ重要な問題だという認識だけはお伝えしておきたいと思います。 ○高橋会長 能見委員。 ○能見委員 一通りいろいろな御意見が出たと思いますので,これをどういう形でやっていくかということについての意見を述べたいと思います。   今,皆様の御意見を伺っておりますと,いろいろな方向性があるというのでしょうか,必ずしも皆様同じような考え方ではないということが伺われます。恐らくその原因は,家族の構成の多様性などから,寄与分の問題にしても,配偶者の相続分にしても,それぞれ違った考え方をお持ちになるわけでして,かなり意見の異なりうるものをどうまとめるか,そういう難しい問題をこれから扱うのだろうと思います。   私も,仕事の関連でこうした問題にぶつかることがありますが,相続の問題は非常に新しい問題であると考えています。寄与分の問題などは身近によく起こることだと思いますけれども,誰が亡くなった親の世話をどれだけ見ていたか,それをどういう形で相続に反映させるか,させないかという問題,これ一つをとってもなかなか意見が一致しにくいと思います。しかし,それだけにかえってここで,相続に関する問題を根本的に議論しておくことが必要なのだろうと思います。   なかなか一致を見出すのは難しいテーマでありますけれども,是非これは慎重な形で検討していただきたいと思います。あまり拙速にやるのは適当ではないと思いますので,いろいろな意見を聞きながら,十分に問題点を検討する必要があると思います。ただ,これは今述べたことと若干相反することなのですけれども,できるだけみんなが一致するというのは当然いいことなのですが,単にいろいろな意見を集約するというのではなく,あるべき姿というのでしょうか,こういうふうに持っていくのが将来の社会のために良いということを目指すような議論をしていただきたいと思います。   そのためには,少人数の小さい研究会でやるというのではなくて,多くの方が参加できるような,法制審のような場でもって御審議を頂いて,また法制審議会の総会にもそれを紹介していただいて議論をするという方向がよろしいかと思いますので,法制審議会の部会を立ち上げてそこで議論することを私は提案したいと思います。 ○高橋会長 岩間委員。 ○岩間委員 もう1点申し上げておきたいのですが,この「法律婚」という表現には,法律婚ではない結婚があるということが前提とされていて,民法が制定された当時にそのようなものは,法律上の配偶者があるにもかかわらず別の関係から子どもが生まれるということを想定されていると思うのですが,現在の社会では法律婚でない,事実婚には,それとは全く異なるものが増えてきています。つまり,夫婦別姓が認められていないために仕方なく事実婚を選んで,普通に夫婦として社会生活を営んでいるカップルもたくさんあるということも念頭に置いてこの問題を考えていただければと思います。夫婦別姓に関する最高裁の判決ももうすぐ出るそうですけれども,そういう問題も絡んでいるということを認識していただければと思います。 ○高橋会長 私,民事訴訟の専門家で,家事調停,家事審判も一応専門の中でございますので,横でよく見ておりますが,なかなか家事調停の現場は大変だと感じております。手続法の方が家事事件手続法ということで先行いたしましたが,実体の規律についてもいろいろ現場では苦労されているようでございます。そこで,相続関係の実体法をこの機会に見直すということは,大きな方向としては得心できるところだというのが多くの方の御意見だと思います。   しかしながら,非常に難しい問題がある,マクロの観点を含めて多角的に,そして,法律の専門家だけの観点ではないものも入れて,何よりも一般の国民の方が相続には必ず遭遇する確率が高いわけですから,一般の国民の方にも分かりやすく,あるいは,納得してもらえるような改正にしなければいけない。慎重に丁寧にということが多くの御意見だったと思います。各論では方向はいろいろあろうかと思いますが。   そこで,能見委員から御指摘がありましたように,部会を設置するということをお諮りしたいと思います。部会を設置することに関していかがでしょうか。   これは挙手は不要なようでございますが,部会を設置するということでよろしいでしょうか。           (「異議なし」という者あり) ○高橋会長 御賛同いただいたと受け止めました。   諮問第100号につきましては,新たに部会を設置するということにいたします。   次に,新たに設置する部会に属すべき総会委員,臨時委員及び幹事に関してでございますが,これらにつきましては,会長である私に御一任いただきたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。           (「異議なし」という者あり) ○高橋会長 ありがとうございます。それでは,会長,私に御一任いただいたというふうに扱わせていただきます。   ところで,前後いたしましたが,部会の名称でございます。諮問事項との関係から,「民法(相続関係)部会」という名称にしたいと思いますが,これでよろしいでしょうか。           (「異議なし」という者あり) ○高橋会長 ありがとうございます。   先ほど来御意見を伺いましたが,部会を設置することになりましたので,部会の審議の進め方につきましても,既に御意見を頂戴しておりますが,改めて御意見がおありでございましたら,伺いたいと存じます。   それでは,諮問第100号につきましては,民法(相続関係)部会で御審議を頂き,部会での御審議に基づきこの総会において更に御審議を願うということにいたします。   議題の方は以上でございますが,引き続きまして,もう一つ,現在審議中の部会からその審議状況等の報告をしていただく案件がございます。   本日は,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会の部会長代理である山本弘臨時委員にお越しいただいております。当該部会における審議状況等を御報告していただき,御報告後,委員の皆様方から御意見等を伺いたいと存じます。   それでは,山本部会長代理,お願いいたします。 ○山本部会長代理 ただいま御紹介にあずかりました部会長代理の山本と申します。着席して御報告させていただくことをお許しいただきたいと存じます。   国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会におけるこれまでの審議状況等について御報告いたします。   関係者に外国人を含むなどの国際的な要素を持った紛争の解決においては,いずれの国が裁判管轄権を有するかという国際裁判管轄が問題となりますが,財産関係事件の国際裁判管轄については,平成23年に民事訴訟法及び民事保全法の改正法が成立したことにより,規定の整備を完了しております。   他方,人事訴訟事件や家事審判及び家事調停を含む家事事件については,いまだ国際裁判管轄に関する規定の整備はされておりません。その整備の必要性は財産関係事件の国際裁判管轄の規定を整備した際にも認識されておりましたが,当時,家事事件に関する手続を定めた家事審判法等について全面的見直しの検討を行っていたため,その見直しの結果を待つこととしたという経緯がございます。   その後,家事審判法に代わる家事事件手続法が平成23年に成立し,平成25年から施行されております。   これらの状況を踏まえて,昨年2月,法制審議会第171回会議において,法務大臣より人事訴訟事件及び家事事件の国際裁判管轄法制に関する諮問が行われ,その調査審議のため国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会が設置されました。この部会では,平成26年4月から本年1月までの間,約1か月に1回のペースで,合計9回の会議を開催しました。本日はこれまでの審議の状況について御報告いたします。   議事の概要について御報告申し上げます。先ほど申し上げましたとおり,国際裁判管轄の検討とは,国際的な要素を含む事件について,どのような場合に我が国が裁判管轄権を有するのかを検討するものです。例えば,日本で生活をしている日本人同士の夫婦の一方が日本の裁判所に離婚の訴えを提起するといった事例では,日本に裁判管轄権があることが争点となることは考えにくいところです。しかし,日本人と外国人の夫婦の一方が離婚の訴えを提起するといった事例のように国際的な要素を含む事件については,裁判権の行使が国家主権の行使であることから,我が国に裁判管轄権があるのか否かの問題が顕在化します。   人事訴訟事件及び家事事件には,離婚の訴えなどの離婚に関する事件,親権者の指定の審判事件などの子の監護又は親権に関する事件,遺産分割などの相続に関する事件,成年後見の開始の審判事件などの後見関係事件など,多種多様な事件類型が含まれています。このことを踏まえ,部会の審議におきましては,共通の特徴を持つ事件類型を一つの単位としてまとめ,その単位ごとにどのような場合に日本が裁判管轄権を有するものとすべきかを個別に検討してまいりました。これを私どもは「単位事件類型」と呼んでおります。   ところで,人事訴訟事件及び家事事件に関して,日本が裁判管轄権を有するか否かは,当事者に日本の裁判所における訴訟追行を認めるにふさわしいほど,当該事案と我が国との間に関連性が認められるかという観点から検討されます。その中で考え方の違いが大きく現れるのは,原告の住所地であることのみを理由として日本の裁判管轄権を認めてよいか否かという問題です。この点については大きく二つの異なる意見があり,その点はいまだ一つに収れんすることなく現段階に至っております。   財産関係事件については,原告はいつでも訴えを起こすことができますから,原告は十分に準備をした上で訴えを提起することができるのに対し,被告は準備不十分の段階で裁判所における手続に応じなければならないという負担を負うことになります。そのことによって,原告・被告間のバランスがやや原告に有利に傾くということになりますので,それを回復するため,原告は被告が住所を持っている国に行って訴えなければいけないというルールが設けられているわけです。被告の住所地である国に裁判管轄権があるというルールがそれです。   人事訴訟事件等においてもそのような考え方が妥当すると考え,身分関係の一方の当事者である被告の住所地を一般的な管轄原因とする考え方があります。他方で,人事訴訟事件等については,財産関係事件と異なり,原告・被告間の身分関係を確定するために,より原告の利益や利便性を考慮しなければならないと考え,被告の住所地のほかに,原告の住所地である国にも裁判管轄権を認めてよいとする考え方があります。   具体的なイメージを持っていただくために,例えば日本人と外国人の夫婦の離婚の訴えを取り上げます。仮にその夫婦が日本で生活をしていた場合で,夫婦の一方である外国人が本国に帰国して,現在の住所がその本国にあるというとき,夫婦の他方である日本人は日本の裁判所に離婚の訴えを起こすことができるのかが問題となります。このケースでは,被告となる外国人は本国に帰国し,そこに住所がありますので,最初に申し上げた一般的に被告の住所地である国に国際裁判管轄を認める考え方によると,日本には裁判管轄権がないと考えることになりますが,原告の住所地である国にも国際裁判管轄を認める考え方によると,日本にも裁判管轄権があるということになります。   もっとも一般的に被告の住所地である国に国際裁判管轄を認めるとの考え方を採っても,例えば夫婦の最後の共通の住所地が日本にあれば日本に裁判管轄権を認めるなど,現在の住所地以外の事由を根拠とする管轄を認めるべきであるという考え方もあります。この考え方に従いますと,夫婦は日本で婚姻生活を送っていますので,そのことを根拠に日本に裁判管轄権が認められることになります。   このような二つの考え方は対立するとは言いましても,具体的な帰結がそれほど異なるものではないと評価することもできますが,いずれにいたしましても,過不足のない管轄規律とはどういうものかを,それぞれの考え方のメリット・デメリットを考慮して検討しております。   単位事件類型ごとの国際裁判管轄以外にも,合意による管轄を肯定するかといった論点についても鋭意調査審議を重ねております。   今後の予定でございますが,今後の部会につきましては,今月の27日に第10回会議が予定されており,中間試案の取りまとめに向けた議論が行われます。その場で中間試案の取りまとめがされることになれば,これを公表するとともに意見募集の手続を行うことになります。その後は,意見募集の結果を踏まえて,更に調査審議を行っていく予定です。   以上でございます。 ○高橋会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの山本部会長代理からの審議経過報告につきまして,今度は御質問,御意見分けずに,どちらでも結構でございます。御発言がございましたら,お願いいたします。   川副委員。 ○川副委員 再々発言の機会をくださりありがとうございます。御説明いただきました,特に離婚事件を例とした国際裁判管轄について,資料にありますように「甲案」,「乙案」という名称の仕方で整理されておりますけれども,この違いをめぐる議論に関連して若干の感想を申し上げたいと思います。   これは離婚事件以外でも,言わば対立当事者構造の事件に基本的に共通する議論のようです。御説明と同じことの繰り返しになるかもしれませんが,私なりに理解したところを大ざっぱに申し上げますと,甲案は基本的に被告ないし相手方の応訴の負担を重視する。そして,被告等の住所地を原則的な管轄原因にするというものです。しかしながら,その場合でも,原告ないし申立人の利益を保護すべき一定の類型ごとに検討して,原告等の住所地をも管轄原因とする。さらに,それらの類型に当たらないものであっても,特に日本の裁判管轄を認める必要がある場合には,緊急管轄といった一般法理で救済するという考え方のようです。   他方,乙案というのは,今御説明がありましたように,まずは原告・申立人側の訴訟提起の便宜に配慮する。それによって当事者のいずれかの住所地を広く日本の裁判管轄とすると考えた上で,被告あるいは相手方の応訴負担が大きいといった場合に,日本で裁判をすることが適当でないというときには特別事情による却下という,これまた一般法理で手当をするということのようでございます。そういう意味では,一般条項がプラスとマイナスの逆方向に働いているという考え方だと理解しております。   そうした理解を前提としつつ,これまた実務的な感覚ということで恐縮ですけれども,いずれの考え方を出発点にするにしましても,当事者の代理人として実務に携わる立場からいたしますと,訴訟現場では,緊急管轄による救済であれ特別事情による却下であれ,そのような一般法理が実務上どういう形で運用されるのかというのは非常に関心があるわけで,ここは大きな枠組みの中で検討されるわけですから,私からどちらの方がいいか悪いかということは即断できないところですけれども,そのような一般法理・一般条項の適用に持っていくことの慎重さが求められるのだろうと思っております。そういった意味では,こうした一般法理が実務上どう運用され得るのかということももう一度想定されながら御検討をお願いしたいと思っております。   そのような認識に立って,3点ほど考えたのですが,一つには,その際に外国の法制度の調査などといった管轄原因の有無に関する主張立証について,当事者に過度の負担を掛けないようにできないか。二つ目は,管轄の有無という入口での争いはもちろんですけれども,その後当然訴訟等の手続で実体法をめぐる争いに入っていくわけで,その全体を通じてできる限り当事者間の公平をどう図っていくのかということ。それから,三つ目は,当然のことですけれども,管轄のすき間あるいは漏れがあって戸惑うことがないように,明快な立法化をお願いしたい。なかなか難しいことであり,いささか抽象的ではございますけれども,そういった3点をもう一度配慮した立法を構想していただきたいと思っております。   私なりに部会の一読目の議事録を拝見いたしました。極めて緻密な議論がされておりまして,今,私が申し上げた点も勘案しながら進められております。しかし,これらの論点を両立する,あるいは,鼎立するのは非常に難しい。時に大変厳しい御議論なされているというのも承知しております。「釈迦に説法」とは存じますけれども,近く示される中間試案を経て二読目の御審議におきましても,引き続きこうした実務的な観点をも十分に勘案した御検討を是非お願いしたいと思います。   以上,やや雑ぱくな感想めいたことを申し上げて恐縮ですが,よろしくお願いいたします。 ○高橋会長 御意見ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。能見委員。 ○能見委員 全くの素人なので的外れの質問なのかもしれませんが,日本の裁判所の管轄をどういう要件の下で認めるかという御議論としては,先ほど御説明いただいた幾つかの案はそれぞれ一定の合理性があるように思います。そのどれを採るべきかについては私は特別な意見はないのですけれども,伺いたいのは,こういう国際間の例えば離婚などいう問題は,仮に,一方の当事者は日本に住んでいて,その者が離婚の訴訟を提起する上で日本に裁判管轄があるとして,しかし,同じ当事者間の離婚について,相手方が自分の国に戻っていて,そこの国にも相手方から訴えを提起する場合の裁判管轄があって,二つの判決がぶつかったり矛盾する内容になったりすることが考えられます。例えば,日本の裁判所は離婚を認めるけれども,外国に裁判管轄がある方の訴訟では離婚を認めないという判決が出て,それを日本で承認するのかしないかとか。そのほかにもいろいろな難しい問題が次から次へ出てきそうなのですが。そういう点についてどう考えるべきか簡単に教えていただければと思います。   もう1点は,こういう問題を考えるときに,裁判管轄について,外国の一般的な考え方というのは何か,何か一般的な流れといったようなものがあるのか,ないのか。あるとすれば,日本もそれに沿う方向で検討すべきではないかという問題はないのか。以上の2点を簡単に教えていただければと思います。 ○山本部会長代理 最初の問題は,一つは外国で下された判決を我が国で承認するという制度がございます。民事訴訟法118条という条文がございますが,そこで既に我が国で先に判決が確定していて,それと矛盾する内容の判決があるということであれば,承認されないというルールが現在既に存在しております。だから,その問題で処理されるということになります。   もう一つの方は,国際的二重起訴と言われる問題で,我が国において同じ夫婦の離婚事件が係属していて,同時に外国でもその夫婦についての離婚事件が,言わば原告と被告を異にする形で係属しているというケースでございます。これは別に人事訴訟だけではなくて,通常の財産関係訴訟でも起きることでございます。これは財産関係訴訟の管轄規定を作るときに,それについての明文の規律を設けるかどうかを散々議論いたしました。結局設けないことになりました。   今,部会の中で人事訴訟において国際的二重起訴に関する明文の規律を設けるべきかという議論をしております。金曜日に中間試案の取りまとめがつつがなく終われば,そこでもその案を提示させていただくことを予定しております。各界からお寄せいただいた意見を踏まえた上で,国際的二重起訴の問題をどのように規律するかということを改めて,再開後の部会で議論することを予定しております。   もう一つ,2個目の問題を聞き漏らしたのでもう一度お願いできますでしょうか。 ○高橋会長 国際的なトレンドがあるのか,甲案,乙案どっちが,国際的な潮流のようなもので。 ○山本部会長代理 基本的には原告の住所地が日本にあるというだけで,例えば離婚訴訟の管轄を認めるというのは,国際的には主流の考え方ではないと思います。ただ,我が国の人事訴訟法の国内の土地管轄の規定はそうなっているのですね。そこが考え方が分かれるところなのです。 ○高橋会長 能見委員御指摘のように,現行のことでは,日本ではある夫婦は離婚したけれども,外国ではその婚姻は続いているというちぐはぐな関係は生じてしまうのですね。そうならないように,管轄だけで調整できるものではありませんけれども,いろいろ考えなければいけないということですね。   御指摘,どうもありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。   また余計なことを申しますが,先日,国際家事事件に造詣の深い弁護士さんの講演がございまして,私も聴きに行ったのですが,その弁護士さんが,普通の弁護士さんが陥りやすい間違いの一つとして,国際的な家事事件がきたら,準拠法ですね,どの国の法律が適用になるのか,すぐ弁護士さんはそれを考えてしまうと。でも,そうではないのだと,依頼者は日本できますから,日本に管轄があるのかないのか,あるとしても,日本でやるのがいいのかどうなのか,管轄のことを最初に考えるのが国際家事事件で一番大事なことですということを力説されておりました。   国際裁判管轄は地味な分野ですけれども,重要性ある分野だと私も思っております。9回も審議していただいたようですが,更に審議を引き続きよろしくお願いしたいと思います。   それでは,山本部会長代理,ありがとうございました。引き続きの御審議をよろしくお願い申し上げます。   本日の議事二本と中間報告一本,予定したものは終了となりますが,せっかくの機会でございますので,法制審議会関係全般につきまして,御意見,御発言があれば承りたいと存じます。いかがでしょうか。   能見委員。 ○能見委員 民法の債権法の改正については,現在,法務省のホームページで審議資料などが長く掲示されて非常に助かっているのですが,こういうのはどのぐらいの期間続けていただけるのでしょうか。できるだけ長く続けていただければ有り難いと思っています。 ○萩本関係官 債権法に限らず,法制審議会の資料,議事録全般の問題だと思いますけれども,現在,特段掲載期間を決めてはおりません。容量が許す限りは掲載し続けるということになろうかと思いますが,学術的な価値もあろうかと思いますので,その取扱いにつきましては,ただ今の能見委員の御指摘も踏まえて,国民全体の資産として有効に活用していただけるように,将来的な課題として法務省全体で考えていきたいと思います。 ○高橋会長 貴重な御指摘,ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,本日の会議における議事録の公開方法につきまして,お諮りいたします。本日の審議の内容等々に鑑みまして,会長である私といたしましては,議事録に発言者名を全て明記して公開するということでよろしいのではないかと思っております。議事録に発言者名を明記するという形でいかがかということをお諮りいたしますが,いかがでしょうか。           (「異議なし」という者あり)   わかりました。ありがとうございます。それでは,議事録につきましては,発言者名明記 ということで公開することにいたします。   そこで,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言を頂いた委員等の皆様には議事録案をメール等において送付させていただきます。御発言の内容を確認していただいた上で,最終的には法務省のウェブサイトに公開することになります。   それでは,本日の最後になりますが,川副正敏委員は3月9日をもって任期満了に伴い御退任ということになります。平成25年以来,川副委員におかれましては,法制審議会に対する長年の御尽力,誠に有り難く思っております。   よろしければ一言御挨拶を頂ければと思います。 ○川副委員 2年間にわたり議論に参加させていただきまして,本当にありがとうございます。毎回貴重なお時間を割いて,いささか長めの発言をお許しいただきました上に,時には的外れの意見を申し上げ,お耳障りの点も多々あったかと存じますが,私なりによりよい立法のためという思いからでございます。どうか御寛容にお許しください。   法務関係の重要な立法の過程に関わるという,とても貴重な機会を与えていただきましたことを大変光栄に思い,心より感謝しております。法制審議会には,今日諮問のありましたものも含めて,これからも大変難しい案件が山積しておりますが,ますます充実した御議論がなされますよう願っております。ウェブサイトの方で今後の議事録等も拝見したいと思っております。本当にありがとうございました。 ○高橋会長 どうもありがとうございました。   それでは,事務当局からの事務連絡がございましたら,お願いいたします。 ○萩本関係官 最後に次回の会議の開催予定について御案内申し上げます。法制審議会は2月と9月に開催するのが通例となっておりまして,次回会議の開催日程につきましても,現在のところ例年どおり本年9月に御審議をお願いする予定でございます。具体的な日程につきましては,後日改めて御相談させていただきたいと存じます。   委員,幹事の皆様方におかれましては,御多忙とは存じますが,今後の御予定につきまして,御配意いただきますようお願い申し上げます。   以上でございます。 ○高橋会長 それでは,これで本日の会議を終了といたします。本日は,お忙しいところをお集まりいただきまして,かつ,熱心な御議論を頂き,誠にありがとうございました。 -了-