法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 第11回会議 議事録 第1 日 時  平成27年3月11日(水) 自 午後1時30分                       至 午後3時10分 第2 場 所  東京高等検察庁第2会議室 第3 議 題  商法(運送・海商関係)等の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山下部会長 それでは,予定した時刻でございますので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会の第11回会議を開会いたします。  本日も御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。本日は,野村修也委員,岡田幹事,藤田幹事が御欠席とのことです。  では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からまずお願いします。 ○松井(信)幹事 お手元の資料について御確認いただきたいと思います。部会資料12-1として「商法(運送・海商関係)等の改正に関する中間試案(案)」を,部会資料12-2として「部会資料10及び11からの変更点の説明」を事前送付させていただきました。中間試案として部会における取りまとめの対象となるのは,部会資料12-1に記載した中間試案(案)でございます。こちらには,昨年12月24日の旅客運送分科会第3回会議において取りまとめがされた旅客運送に関する部分についても記載をしております。部会資料12-2は,これまでの部会等での議論を踏まえ,部会資料10及び11から変更した点を御説明するための資料でございます。 ○山下部会長 それでは,資料は以上のとおりでございまして,本日の審議に入りたいと思います。基本的には途中休憩を入れることなく最後まで御審議いただきたいと思いますが,長時間にわたりそうな場合には,午後3時30分頃をめどに,適宜,休憩を入れたいと思います。審議に当たってのお願いですが,本日も前回に引き続きまして中間試案の取りまとめに向けた会議でございまして,基本的には,どのような形でパブリック・コメントに付すべきかという観点から御審議いただければと思っております。したがいまして,個々の論点についての実質的な議論は,本日のところは,前回同様,中間試案の取りまとめ方を考えるに当たり,必要な範囲で適宜お願いできればと思います。  それでは,審議に入りまして,まず,部会資料12-1の「第1部 運送法制全般について」を一括して御審議いただきたいと思います。 ○山口委員 すみません,失礼します。今回の部会資料12-1で配布された部分で,1点だけ,今日,審議することになっていない部分なのですが,意見を述べたいと思いますが,これは後の方がよろしいでしょうか。それとも,今でもよろしいでしょうか。 ○山下部会長 部会資料12-1に出ている事項以外ですか。 ○山口委員 部会資料12-1に出ている内容で,1点,変更といいますか,中間試案の取りまとめの形として意見を述べたいと思っております。今日のところで出てきていないのですけれども,その場所のところでしたらよろしいですかね。 ○山下部会長 今から,第1部の運送法制全般についての部分をまず区切って,御審議いただきたいと思いますが。 ○山口委員 分かりました。では,区切ったところで。 ○山下部会長 部会資料12-1のいずれかに関連することについては,それぞれのところで御意見を頂いてもよろしいでしょうか。  それでは,事務局から説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは,御説明いたします。なお,本日も,特に御説明を申し上げた方が良いと思われる箇所に絞って御説明させていただきます。  まず,契約に関する事項を記載した書面の記載事項につきまして,部会資料12-1の第2の3(1)アの(エ)と(オ)では,第9回会議で頂いた御指摘を踏まえ,新たに荷送人と発送地を記載事項として加えることとしております。このような書面は,運送人に交付された後,荷受人にも提示されることが多い実態にあろうかと思いますが,荷受人にとっても,荷送人が誰でありどこから発送された運送品であるのかという情報は有用であると思われることによるものでございます。  次に,部会資料12-2ですと5ページになりますが,「9 不法行為責任との関係」につきましては,こちらも第9回会議で特段の規定を設けないという考え方もあり得る旨を示すことが望ましいとの複数の御意見を頂いておりましたので,中間試案としましては両論併記の形に改めることとしております。なお,特段の規定を設けないとする考え方を甲案,規律を新設する案を乙案としておりますが,甲案と乙案との間には優劣はございませんで,中間試案全体を通じて,形式的に,現行法を維持するか又は現行法に比較的近い案を甲案として,現行法を変更する程度の大きい案を乙案として掲げる方針を採っておりますので,御留意いただけますと幸いです。  最後に,資料12-1の「10 複合運送」につきまして,以前は複合運送につき,「(1)の規律の適用については陸上運送,海上運送又は航空運送のうち,商法以外の法令等の規定により運送人が運送品の滅失等についての損害賠償の責任を負うものごとに,それぞれ別の運送とみなす」という表現をしておりましたが,第9回会議においては,内容が分かりにくいとの御意見を頂きました。そこで,中間試案としては従前からお示ししている実質的な内容,すなわち,商法その他の法令等によれば運送人が運送品の滅失等について異なる内容の損害賠償責任を負うこととなる運送ごとにそれぞれ別の運送と見るということをより分かりやすく表現することに重点を置くこととしまして,複合運送に関する規律の全体について,部会資料12-2の5ページ及び6ページに記載しておりますとおり,表現ぶりを改めることといたしました。なお,このような実質を踏まえた実際の条文の規定ぶりにつきましては,引き続き検討してまいりたいと存じます。  以上の点を含めまして,部会資料12-1の「第1部 運送法制全般について」に記載のとおり,中間試案として取りまとめることにつき,御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました第1部につきまして,どの点からでも結構ですので,御自由に御発言をお願いいたします。 ○遠藤委員 冒頭に御説明のありました荷送人の義務の書面の交付義務についてなのですが,今回,(エ)と(オ)を追加され現行法の570条にほとんど近くなっております。570条と基本的に異なるところは,運送状の作成地及びその作成の日,これが570条にあって今回の御提案で漏れているところです。以前,御提案させていただいたのですけれども,運送状を作成するときには日付は少なくとも必要ではないのかと考えております。この規定は国内の航空運送状を含む規定と捉えておりまして,そういう運送状に日付がなくていいのか,実務の感覚としては違和感があるものですから,日付の追加を御検討いただければと思います。 ○髙橋関係官 この点につきましては,従前,運送状と呼んでいたものについて,今回,署名を必要としていないということとも類似するところであろうかと思いますが,運送契約に関する事項を記載した書面によって何らかの法的な権利義務関係が発生するというものではございませんので,そういった書面につきましては,作成日の記載をすることによって書面の証拠価値を高めるかどうかを基本的には実務の慣習等に委ねるという考え方に基づき,法律に規定する記載事項としては,作成日,作成地の記載はあえて要求するまでの必要はないのではないかということで,今回,削除しております。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○松井(秀)幹事 非常に細かいことで恐縮なのですが,7ページの6番の「荷受人の権利」のところでございます。ここでは,貨物引換証が発行されない場合の権利という文言が用いられているのですが,この後を拝見しますと,貨物引換証自体は11番のところで廃止の対象になっております。もちろん,まだ廃止するかどうかは決まっていないので,この書き方でもいいのだろうと思うのですけれども,廃止の対象となった場合には,ここの文言は多分,変わってくるのだろうと思います。この点について,補足説明で書くのか,ここに注記するのか,どちらがよいのかは分かりませんが,やや気になったところでございます。それから,これは海上運送にも適用があるという前提だとのことですので,船荷証券に関しては貨物引換証を読み替えるということでいくのだろうと思います。この点について特に書かないというのも一つの選択肢ですけれども,親切にするのであればその旨を示しておくということもあるかと思いましたので御指摘申し上げます。 ○山下部会長 この点は御指摘のとおりのような気がしますが,表現振りを検討してもらいましょう。 ○道垣内委員 9ページにある8の(1)については,今日,変更点の説明というところで強い異論がある旨をお書きいただきまして,大変ありがとうございます。したがって,今回,中間試案はこのような形でパブコメに付すということについて,これ以上,異議を唱えるつもりはございません。ただ,もし,お前はそんなことも分からないで今まで議論していたのかと言われると辛いのですが,私は最近,そういうことは余り気にならなくなってきましたので,あえて申し上げますと,運送契約は荷送人と運送人の契約ですよね。しかるに,荷受人の異議をとどめない受取によって消滅するのは,荷送人の損害賠償請求権なのでしょうか,それとも荷受人の損害賠償請求権なのでしょうか。両方なのでしょうか。  どちらにせよ,荷受人が異議をとどめないで運送品を受け取ったときには荷送人の損害賠償請求権が消滅するというのであれば,第三者の行為によって自己の権利がなくなるという極めて特殊な法律制度ではないかということについて気になりますので,私もすぐ忘れてしまうものですから,議事録に残すためにあえて発言をさせていただきました。別に直してくれという意味ではありません。 ○松井(信)幹事 今,道垣内委員がおっしゃったように,荷受人が異議をとどめないで運送品を受け取る場合には,運送契約上の請求は,荷送人からも荷受人からもできなくなると,一般に解釈されているだろうと思っております。その意味では,今,道垣内委員がおっしゃったように,自分の権利が第三者の行為によって変わることはないという法原則から見ると,特別な規律であることは御指摘のとおりだろうと思います。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山口委員 先ほど遠藤委員のおっしゃった点ですけれども,運送状には発行日は入れるべきかなと。というのは,契約が成立したときというものをある程度特定するのが,契約の特定という意味でも,日付というのは非常に重要ですので,現行法にあるものをあえてなくすことはないのかなというのが私の意見です。ですから,その点は遠藤さんと同じということでございます。  もう1点は,複合運送のところでの規定の仕方でございますけれども,前回と表現振りがかなり変わった形になっております。それで,疑問に思うことは,現在,トラック運送なんかを依頼いたしますと,トラック運送とは限らないのですけれども,陸上運送として荷物を依頼いたしますと,運送人が荷送人の知らない間に鉄道を使ったり,あるいは海上運送を使ったりという場合があって,最終的にはトラックで荷主さんに運ばれるわけなのですが,全く荷送人あるいは荷受人の知らない間に別のモードを使うということが起こり得るわけですが,そういう場合に,海上運送の場合は余り大きく差はないと思うのですけれども,鉄道運送の場合は鉄道運輸規程が存在いたしますので,責任制限が必然的に掛かってくるという問題が生じます。  その場合に,荷送人,荷受人が知らないにもかかわらず,あるいは要償額の申告をするいとまもないといいますか,そういう機会も与えられないまま,責任制限が掛かるということになることにはなりませんでしょうか。もし,そうであるのであれば,何か手当てが必要ではないのかという気がいたしますが,その点はいかがでしょうか。 ○山下関係官 まず,前提を確認させていただきたいのですが,当該運送人と荷送人との運送契約の中で,鉄道運送を一切排除する旨の合意もされているということでしょうか。 ○山口委員 それはされていないのではないかと思うのです。この辺は加藤委員の方がよく御存知かなとは思うのですけれども,少なくとも海上運送は比較的フェリーなんかを使ったりして,知らない間に正にトラックで道路を走るか,フェリーを使うかというのは自由だと思いますし,ひょっとしたら鉄道運送なんかも荷主さんの知らないままにどこかの区間で利用されているのかな,いわゆる通運事業なんかの場合,そういうことが起こっているのではないかなと思ったもので,それで,この点,つまり,荷主が知らないままに複合運送になっている場合の適用関係についてはどうするのかという疑問にぶち当たったということでございます。国際海上運送や国際航空運送を含む運送の場合には,複合運送について航空あるいは海上運送を使うということは,多分認識しているので,余り問題にならないかもしれませんが,特に国内の場合は,それを知らない場合に行われていることが往々にしてあるのではないかと思っているわけです。 ○山下関係官 基本的に事務当局の御提示している案というのは,「次に掲げる運送のうち二以上の運送を一の契約で引き受けた場合」と書いておりますので,例えば,先ほど山口委員が御提示された海上運送が使われる可能性があるというのを認識しているという場合には,二以上の運送を一の契約で引き受けた場合に当たり得ると考えます。これは,国内の場合も同様であって,それをあえて明示的に排除していないという場合であれば,この規定を適用して,ネットワーク・システム的に当該滅失等が生じた区間に適用される法令を適用する旨の規定の適用があっても特段問題はないかと思いますし,仮にそういうのを排除したければ,明示的に鉄道は用いないということを合意するということで対処できるのかなと思います。 ○山口委員 これは実務でどう反映するかという問題になろうかとは思います。というのは,一番大きいのは鉄道運送の責任制限の部分だろうと思います。責任制限が唯一,国内の運送について法律上法定されており,要償額を申告しない限りは一定の責任制限が掛かってしまいますので,これはひょっとしたら荷主さんにとっては大きな誤解というか,予想外の損害が生じるかもしれない部分かなと思いますものですから。 ○加藤委員 実務の関係で若干補足させていただきますけれども,先ほど山口委員がおっしゃったように,荷主が知らないうちに輸送手段を変えるというのは,余り実例としてはないと思います。というのは,通常,そのような形で,例えば船を使ったり,鉄道を使ったりというのは,継続的かつ反復的に取引をするお客さんと契約してやる場合が多いですから,どっちかというと約款なり,商法を適用するというよりは当事者間の契約に基づいて責任の内容についても定めている場合がございます。例えば,それが鉄道利用運送だったからといって,それをもとに責任を制限するということにはならないと思いますし,実際に,例えば航空利用運送なんかですとそうなんですが,あるお客様といわゆる航空便の契約をしたとしても,全国に航空便で物を発送するときですけれども,例えば東京・長野間というのは飛行機が飛んでおりませんので,実はトラックで代行輸送しています。ただ,この場合であっても航空便としてお受けした以上は航空利用運送約款を適用して,例えばトラック運送約款と航空利用運送約款が違うとしても,飽くまでも適用は航空利用運送約款を適用して責任を我々が負うとしておりますので,一応,御参考までによろしくお願いします。 ○山口委員 ありがとうございました。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○谷口関係官 若干,約款関係で補足させていただきます。貨物利用運送事業法に基づきます標準鉄道利用運送約款でございますけれども,そちらには,例えば第12条,代替輸送という規定がございまして,読み上げますと,「当社は,荷送人の利益を害しない限り,申込みを受けた貨物の運送を他の運送機関による運送に変更することがあります。」と規定しています。また,第2項で,前項の場合において,運送上の責任はこの約款に基づいて当社が負いますというふうな形で標準約款を定めておりまして,似たような表現が標準貨物自動車利用運送(引越)約款というふうなものにもありますので,現在,こういうふうな処理を約款上はしてございます。 ○松井(信)幹事 最初に,遠藤委員,山口委員からお話のあった運送状の作成日の関係ですけれども,実務上,書面で作成される場合に作成日を書くということ,こういう慣行それ自体は適切であろうと思いますし,その実態を変えようというつもりは全くございません。ここで問題にしておりますのは,書面の交付に際して,契約の中身に即した記載事項は法律でしっかり定めて,そのような運送状を渡していただこうということではございますが,その作成の年月日や作成の場所,こういう事項は書面の証拠価値を高めるという観点でありますので,契約の中身とは若干性質が違うかなと考えたところでございます。  また,電子的に運送状の記載事項を送るという場合に,果たして日付というものが必須の項目になるのかどうか,実際にメールを送る際の履歴を見れば分かるのかもしれません。ですので,法律で定めるのは必要最小限の形にさせていただいて,証拠価値を高める事項というのは電子的なものにせよ,書面によるものにせよ,適切な実務の慣行に委ねてはいかがかと思ったところでございます。ただ,中間試案の補足説明では,今,御指摘のようなことがあったということは,書きとどめておきたいと思っているところでございます。 ○遠藤委員 ここでいうところの運送状も,一応,荷送人が作成する契約書類ということで,一方的に作成するものの証拠書面ではあります。片や新たに設けるウェイビルについても運送人さんが作成して,署名するかどうかは別にして,これも運送人さん側の一方的な証拠書面で,当事者が両方でサインして確認をするという書面ではないというところにおいては,荷送人が作成する書面も同様ではないのかなと思っています。 ○松井(信)幹事 今おっしゃったのは,海上運送状については,船荷証券と同じく,作成地や作成年月日を記載事項とすることを提案しており,商法第570条の運送状についても,これとの均衡を取るべきではないかという御指摘と受け止めました。  確かに,おっしゃるようなところはございますけれども,海上運送状については,商法第570条の運送状だけでなく,船荷証券とのバランスも考えなければならず,記載事項については後者を重視して,作成地や作成年月日をも記載事項に含めたものです。繰り返しになりますけれども,本来,法律は,実務の発展を阻害しないよう,できるだけ謙抑的に規定すべきということを考えております。そして,今,実務上,インターネットなどを用いて陸上の運送状が発行されるときは,作成年月日まで書かれる実態にあるのでしょうか,それとも,そうではないのでしょうか。その辺り,もう少し幅広くパブリック・コメントの御意見を伺いながら検討して参りたいと考えているところでございます。 ○山下部会長 海上運送状については,中間試案でそれほど強い効力を認めるのはやめているわけですけれども,実務上,国際的なルールというものが広く普及しているところで,そこは多少,陸上の運送状と違う事情があるのかなという気がいたしますが,いずれにしても,なお検討するということではいかがでしょうか。 ○山口委員 作成日にこだわって恐縮なんですけれども,現状の570条は既に入っているわけですよね,作成地と作成日が。そこを削除されているんですが,法律は謙抑的だとおっしゃいますけれども,わざわざ削除するほどの意味もなくて,実務では,運送状に日付を書くことは普通にされているかと。単純に言うと,宅配便の運送状だって日付を書いていますので,実務として,通常,電磁的なものは別にしまして,運送状としての日付は存在するだろうと思いますから,特にあえて消すほどのことはないのではないかなというのが私の意見です。 ○松井(信)幹事 私などは,宅配便を送るときに自分で作成日付を書かずに,そのまま渡していることが多いと思いますが,どうなのでしょうかね。おそらく,様々な実務があるのではないかなという感想を持っております。 ○加藤委員 せっかくなので一言だけ,海上貨物については日付が必要だという話もよく分かるのですけれども,今,松井(信)幹事がおっしゃったように,宅配便ですと締切時間というのがありまして,例えば夕方6時過ぎに持ってこられても,その日に発送できないという場合は,正におっしゃったことで次の日の発送になります。ところが,お客様の方で日付を入れられますと,そこからむやみに遅延したというふうな誤解を招くおそれがありますので,総則的な規律としては,できれば日付は入れない方がいいのかなというのが私の個人的な見解です。 ○山下部会長 それでは,この点は,こういう問題があるということを記憶にとどめて,また,次の段階で御議論をお願いしましょう。 ○髙橋関係官 今の関係で1点だけ確認させていただきたいのですが,作成地の記載につきましては,電子的記録を用いる場合には余り意味を持たないように思われるのですけれども,その点については,削ることに特段の御異論はないと伺ってよろしいのでしょうか。 ○遠藤委員 海上運送状と船荷証券については,国際海上でも使われる可能性があると思います。その場合に当事者間で準拠法の指定がないということはまずはないと思うのですが,そういうことが仮にあった場合に発行地が重要になってくるのではないかと考えます。準拠法を判断するときに,発行地法,発行地の法律に準拠するという解釈もあると思われますので,船荷証券とウェイビルについては必要なのではないかと考えます。一方,今,議論している運送状については,国内に限定されているので,発行地は必要ないと考えています。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○山口委員 同じ意見です。 ○山下部会長 では,以上の点はこういうことでよろしいでしょうか。  それで,ほかの第1部に関してございませんか。 ○増田幹事 ここで聞くべきかどうかよく分からないのですが,運送取扱営業に関する記載が中間試案には入っていないように思うのですけれども,これは,特に積極的に変更すべき点はないから落としているということなのでしょうか。 ○山下関係官 基本的に,運送取扱につきましては,以前の部会会議で,存置するという御意見を頂きましたので,その方向で,という意味も含め,また,運送取扱の規律の細かい部分については,第3部の第2の「その他」の所要の整備をするものとするというところで表現しております。このように所要の整備をするということでございますが,大部分につきましては基本的に変更点はないということで,特に中間試案(案)には,運送取扱に関し,具体的な記述として入れることはしておりません。 ○増田幹事 部会資料12-2の方で,倉庫営業について「その他」というところで聞くとなっていますけれども,運送取扱に関しては,倉庫営業と同じような形での聞き方をするという認識でよろしいでしょうか。 ○山下関係官 ここで書きましたのは,ここで倉庫営業については実質的には初めて具体的に記述したということによるものです。補足説明においては,「第3部 その他」の中で,倉庫営業や運送取扱について,多少の記述をしようと考えております。 ○増田幹事 分かりました。わざわざ,ここで申し上げた理由を若干説明しておきますと,一応,ドイツの運送法改正ですと,運送取扱営業の規律を大分,物品運送の規律に引き付けて規定している,例えば,危険物についての申告義務も,荷送人と同様に,運送取扱人に対する委託者にも課しているといったようなところがございますので,そういったところも立法論としては議論した方がいいことなのかもしれないと思いました。どのタイミングで言うべきか分からなかったので,ここで申し上げさせていただきました。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○山口委員 複合運送の規定のところですけれども,航空運送についての条約が(7)から(10)まで出てきておりますが,記載方法の仕方なんですけれども,いわゆる条約の正式名称を記載される御予定なのか,あるいはこういうふうな比較的単純な書き方をされる予定なのか,これはどういう感じでございますか。 ○山下関係官 中間試案としてはこのようにしておりますが,最終的な条文としては,また,別の書き振りになるかもしれません。そこは,更に条文化する際に検討していこうと思っております。 ○山口委員 分かりました。 ○菅原委員 今,山口委員が御指摘された点と一緒でございますけれども,ワルソーもモントリオールも日本語に訳すと同じ言葉になるので,是非,分かりやすい記述を御工夫いただければと思います。 ○山下部会長 ほかはございませんか。  では,第1部につきまして,もし,御意見がないようでしたら,先ほど,補足説明で補足するようなこと,あるいは中間試案後にまた検討するような若干の事項がございましたが,中間試案としては,今日の第1部として提案するということで御了承いただけますでしょうか。ありがとうございます。  それでは,第1部は以上のようなことで御承認いただいたものとしまして,続きまして「第2部 海商法制について」のうち,第1の「船舶」から第4の「海上旅客運送」の部分につきまして,まず,一括して御審議をお願いします。この部分につきましては,事務当局から特段の説明はございませんので,どの点からでも御自由に御発言いただければと思います。 ○松井委員 瑣末なことで恐縮ですが,6ページ,「第1 船舶」の1の「(2)船舶の共有」のところなのですけれども,船舶管理人の計算は,今回,「契約で定める期間ごと」にということで御提案いただいているかと思います。共有の場合ですと,ここで言われるような船舶共有者と船舶管理人の契約というのは,典型的には共有持分の賃貸借契約になるか,それとも組合契約類似の形になるかというのが普通だろうと思うのですけれども,ここの「契約で定める期間」というのは,その賃貸借契約とか,組合契約の期間ということを意図しておいでになるのか,それとも,損益の分配についての期間ということでお考えになっているのでしょうか。後者だとすると,元々,余り適用のなかった条文ですからどうでもいいといえばどうでもいいのですけれども,契約が優先することにほぼなりますので,余計に適用の余地がほとんどないものになります。前者の場合ですと,共有持分の賃貸借契約とかということになりますとかなり長い契約期間になりますし,賃貸借契約であると余り損益の計算の問題は出てきませんので,この条文の適用の余地がどれぐらいあるのだろうというのが疑問になったところです。  元々の計算期間は,航海ごとにということですので,理屈の上では,多分,傭船契約とか,外で使った契約が終わったところで,一回の航海ごとではなくて複数の航海をまとめて計算しましょうというのがあり得べき姿かなとは思います。ただ,問題なのは,傭船に出さない場合も,船舶管理人がそのまま運航する場合もあり,多様なケースが入りますので,こういう形に落ち着かざるを得なかったのかとは思うのですが,この契約が,今申し上げたような共有持分の賃貸借契約とか,組合契約とかということになると,ほとんどこの条文の適用余地がなくなるのではないかと。もっと言うと,デファクトとしては契約がないところで働かなければいけない役割が主だとしますと,今の新たな修正というのは何を目的としてなされたものかというのが分かりにくくなっているのではないかと僭越ながら思った次第で,特にこれを今どうしろということではないんですけれども,今後,パブリック・コメント等でまたいろいろな意見が出るかと思いますし,私どもも何かを出さなければいけないのかなと思っている,そういう次第でございます。 ○宇野関係官 提案の趣旨について説明だけさせていただきますけれども,元々,現行法では「毎航海ノ終リニ於テ」となっていることについて,今松井委員がおっしゃられたとおり,いろいろな船舶共有の形態があろうかと思いますし,また,一回の航海が冒険としての性質を有していたような時代とは違っているだろうということで,これまで「一定の期間ごとに」という特段の限定をしない形での提案をしていたわけです。けれども,逆に「一定の期間ごとに」というと,何で決まるものかも分からない,余りにも無限定すぎるだろうというようなことも考えまして,基本的には組合契約の中で定めることなどを念頭に,「契約で定める期間ごとに」ということとし,その契約にもいろいろなものがあり得ると思いましたので,特段の修飾を付さず「契約に定める期間ごとに」という形で書かせていただいております。そういう意味では,先ほど前者か後者かということで聞かれた点については,後者の趣旨で書かせていただいております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。第1部について,先ほど1点忘れておりましたが,松井(秀)幹事から御指摘があった貨物引換証が発行された場合という記述については,場合によっては直すことがあるべしと,その点を言い忘れておりました。失礼しました。  それでは,第2部,第1から第4までの範囲で,ほかにいかがでしょうか。 ○松井(秀)幹事 度々,細かい話で恐縮ですが,19ページの第4の「海上旅客運送」でございます。こちらについては分科会の検討で削除ということになりましたが,その過程で堪航能力担保義務に代わって安全性担保義務のような話が出たので,ここに(注)が付いているのだと承知しております。ただ,規定がなくなるという提案をしつつ,安全性担保義務をここに記すというのはやや不自然で,この点はむしろ10ページ,11ページの旅客運送一般のところにあった方が理解しやすいのではないかと思いました。議論の経緯からすると,この箇所にある理由は非常によく分かるのですが,安全性担保義務は自動車,航空機等に通ずるものとして提案をされておりますので,全体の中でどこに置くのがいいのかは,少し考える余地があるかとも思いまして御指摘をさせていただいた次第です。 ○松井(信)幹事 御指摘のような書き振りも考えたのですけれども,これが(注)であるというところを我々は考慮いたしました。この部分が甲案,乙案のような形となるのであれば,御指摘のように運送機関を問わずに妥当する規律ということで,第1部の中で記載すべきかと思ったところではございますが,分科会においては,安全性担保義務というものがどういう規律内容を持つものかということについて,余り詳細な御意見が出ませんでした。具体的には,機械や設備等の不備を指すのか,それとも,乗務員の能力の点まで及ぶのか,こういう辺りでまだ規律内容が十分に煮詰まっていないけれども,こういう考え方があるという御主張があったところでございます。  そこで,堪航能力担保義務を削るということとの兼ね合いで,このような規律を作るべきかどうかという,そういう問題提起をしたいということを考えて,この箇所で記載をしているところでございます。最終的に,この(注)が更に具体化され,全ての運送機関に妥当するルールだということになれば,論理的に,松井(秀)幹事のおっしゃるような位置付けになると思いますが,まだ,そこまでの議論が十分でないというところを御勘案いただければと思っております。 ○松井(秀)幹事 ありがとうございました。 ○山下部会長 ほかによろしいでしょうか。相当難しい問題があって,まだ煮詰まっていないということで,補足説明の中では,読んだ人がどういう問題かということを十分理解し,意見を出しやすいように書いていただくということで取りあえずよろしいですか。 ○道垣内委員 先ほどの松井委員と宇野関係官のお話に関連しまして,私が問題の所在を理解できていないのかもしれませんが,船舶管理人は契約で定める期間ごとに船舶の利用に係る損益の計算をして,各船舶共有者の承認を求めなければならないというときに,その「契約で定める期間」というのは,結局,計算をして承認を求める期間のことですよね。ということは,契約によって損益の計算をして承認を求めなければならないということが定められているときには,損益の計算をして承認を求めなければならないという条文だということですよね。当たり前ではないですか。 ○松井(信)幹事 この規律を置かないとなりますと,船舶管理人の職務というものが一切法律に出てこないことになります。しかし,船舶管理人というのは,共有船舶の所有権移転登記に際して必ずその登記をしなければならず,また,船舶管理人は,対行政庁との関係もそうですが,船舶共有者を代表して様々な行為を行うということになっており,その具体的な職務の内容を法律で明らかにしておく必要があろうと思っております。  そこで,期間については契約で様々に定めていただければ結構なのですが,まずは船舶管理人の職務の内容として,船舶の利用に関する損益の計算をして承認を求めるということが法律上定められていることを明らかにする必要があると考えております。そして,船舶管理人は,共有者の中から一人を選ぶ場合もございますが,共有者でない第三者を選ぶことも法律上ございます。ですので,組合関係や賃貸借関係とは別に,まず,所有権移転登記をする段階では,少なくとも船舶管理人と共有者との間で一定の契約,委任契約類似のものがなされる必要があると思っているところでございます。 ○松井委員 先ほど申し上げた点は,道垣内先生がおっしゃったところと同じです。パブリック・コメント等で加えようと思っていたのですけれども,あえて書くとすると,一定期間でも,また契約に定める期間でもなくて,船舶共有者の要請があった場合には,と書けば良いかと思います。それであれば,多分,今松井(信)幹事の言われたような役割としての船舶管理人の業務もはっきりすると思いますし,いろいろなケースがあるので柔軟に対応できると思います。リクエストがあったらやらなければいけないとすれば,そうであれば契約がある場合に限定する必要はないと一般的な規定としては考えられます。今後,御勘案いただければと思います。 ○山下部会長 リクエストがあればと言われると,今度,管理人の方でいつされるか分からないとか,そういう問題はないのでしょうか。 ○松井委員 船舶管理人が選ばれているということは,そこに何らかのアレンジがあるということですので,通常は大丈夫だろうと思います。多分,毎日要求するとかという極端なことになると,前日と同じものを返していただくか,それとも権利濫用等の違った法制でカバーしていただいた方がよろしいかなと思います。 ○山下部会長 ほかの点はいかがでしょうか。ございませんか。  そうしますと,今の共有のところはどうしましょうか。補足説明で少しコメントするということでよろしいでしょうか。それでは,その点はそのように御承認をいただいたとして,ほかの点はいかがでしょうか。 ○遠藤委員 「船舶」の「船舶賃貸借」のところなのですが,前回,鈴木委員から定期傭船のところで文言の指摘があったところです。12ページの「船舶賃貸借」,ここは,船舶賃借人は商行為をする目的で船舶を航海の用に供するときということになっていますが,船舶賃貸借も航海だけではないと理解していますので,ここのところは,定期傭船と同じく利用というのがふさわしいのではないのかなと思いますが,いかがでしょうか。 ○宇野関係官 部会資料でいうと12-1の12ページの「2」のところかと思いますけれども,「商行為をする目的で船舶を航海の用に供するときは」という表現は,現行法にあります商法704条1項と同じ表現でございまして,修繕義務についてもそれと平仄を合わせているというのが提案の趣旨でございます。 ○遠藤委員 前回,定期傭船のところでも,航海の用に供するという点について,利用目的は航海だけではないということで,そこのところを航海ではなく利用に供すると変えたという記憶がございまして,そうだとすると,船舶賃貸借も同様ではないのかなと考えた次第です。 ○松井(信)幹事 実務上,船舶賃借人が航海をする以外にどのような対応をしていらっしゃるのか,御存じでしたら教えていただきたいのですが。 ○遠藤委員 油などを貯蔵をするということで,航海は行わずに貯蔵施設として利用するとか,そういう利用の仕方もあるのではないのかなと思います。 ○山口委員 先ほど遠藤委員がおっしゃったとおりで,日本ではどの程度あるのかは知りませんが,世界的には極めて普通にございまして,要するに新たにタンクを設けると非常にお金が掛かりますので,古くなったタンカーなどを油の貯蔵用として,航海の用に供することなく,船としては使わないのですが,船を海上でタンクを閉じて利用すると。その場合に,船舶賃貸借,ベアボートチャーターをしたり,あるいは定期傭船,タイムチャーター利用をしたりということが,事実としては傭船契約を使いながら,そういう用に供するということが存在はしております。現在,日本でどの程度使われているかは知りませんが,遠藤委員がおっしゃっているのはそういう場合だろうと思っております。 ○松井(信)幹事 今おっしゃるような事案で,船を航海の用に供さず,動かさずに止めたままにするという場合について,現行法の下で,海上危険があると考えられて,海上企業に関する法律と言われるこの海商編の適用があると考えられていたのかどうかが,非常に大きな問題ではないかと思います。一般には,海商編の冒頭の船舶の定義として,船舶とは商行為をする目的で航海の用に供するものをいうとされており,商法第704条第1項で,船舶の賃借人が船舶を航海の用に供したという文言も,海上危険に直面するような航海を前提にしているのだろうと思っております。  確かに,定期傭船の箇所で,部会資料12-1の13ページの3の(1)で,「一定の期間艤装した船舶に船員を乗り組ませてこれを相手方の利用に供する」という表現をしております。しかし,艤装した船舶に船員を乗り組ませてという前提からも明らかなとおり,単に船舶を貯蔵目的で利用することまで規律内容に取り込もうとするものではなく,定期傭船は,物品の運送目的に利用される以外に,海洋調査などに利用されることもあり得るという御指摘等を踏まえたものにすぎません。元々は,「相手方の利用に供する」という表現ではなく,部会資料3で,「当事者の一方が相手方の指示に従い船舶を航海の用に供する」という表現を提案しておりましたが,船主側と定期傭船者側のいずれが航海をしているのかという関係で非常に分かりにくいという御指摘を受け,このように表現を修正したものであり,それを越えて,航海をしない船舶についてまで定期傭船の規律を妥当させる趣旨ではなかったと理解をしております。  それに対して,船舶賃貸借の方は,賃借人の方が専ら航海をすることが明らかでございますので,従前の商法と同じように,航海の用に供するという方が今までの法体系からの連続性という観点でも優れていると思ったところでございます。皆様におかれて,航海の用に供するもの以外の船舶について海商編の適用があると見るのかどうか,もし御意見があれば頂きたいと思います。 ○山下部会長 いかがでしょうか。今説明があったように,定期傭船の方は定期傭船という非常に難解な契約類型に即して,こういう表現ぶりに変えられたということですので,それが船舶賃貸借にそのまま当然に移るとか,同じような表現となるというものではないような気は確かにいたします。一応,そういう問題の御指摘があったということはどこか補足説明の中ででも触れて,御意見を仰ぐということでよろしいでしょうか。 ○山口委員 先ほどおっしゃったような航海の用に供しない船,そういう利用の場合であったとしても,汚水が流れ出るとか,残油が流れ出るとかいうことで漁業者等に損害が生ずるおそれはあるわけであります。その際に,これが船舶賃貸借でないとすると,責任主体はどちらかという点が明らかでなくなりまして,船舶賃貸借であれば,当然船舶賃借人が責任主体となるわけですが,航海の用に供するものでないので,船舶所有者が責任を負うべきだということになりますと,管理をしていないのに責任を負うというようなことになって難しい問題になるのかなと。つまり,責任主体が余り明らかにならなくなる感じがするというイメージでございます。というのは,実務としては,裸傭船契約を使っている場合もかなりございますので,そして,船舶としてまだ登録が残っているという場合に,航海の用に供しないというだけで,突然,責任を船舶所有者に持ってくるというのは,責任関係上,少し問題が生じるのではないかなという危惧感を持っているということです。 ○松井(信)幹事 ただ,今のような事例ですと,商法第704条を介さなくても,普通に考えて,民法の規定により不法行為をした者が責任を負うのは当たり前でございますので,そのような危惧はそれほど当たらないのではないかと思います。一般に,商法第704条第1項により,同法第690条中「船舶所有者」とある部分は「船舶賃借人」と読み替えられますが,同法第690条は,船主が航海中の船員に対して指揮監督することが困難なこと等を踏まえて民法第715条の特則を定めたものといわれており,これによれば,航海の用に供しない船舶に商法第704条を適用することは相当でないと思われます。このように,商法全体として航海を前提にして作っておりますので,御指摘のような考え方は,より大きな問題が出てくるのではないかなと思っております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。ほかの点はよろしいですか。  そうしますと,第2部の第1から第4につきましては,補足説明で若干付記していただくということで,中間試案としてはこういう形で提案するということで御了承いただけたものかと思います。  それでは,続きまして,第2部の「第5 共同海損」から「第9 船舶先取特権及び船舶抵当権等」までと,それから,併せて「第3部 その他」につきましても,一括して御審議をお願いします。まず,事務当局から説明をお願いします。 ○髙橋関係官 それでは,「第3部 その他」のうち,倉庫営業に関する部分について御説明いたします。部会資料12-2の14ページでは,「第2 その他」に関連して倉庫営業に関する規律の扱いについて補足的に説明させていただいております。倉庫営業につきましては,いわゆる3PLと呼ばれるような物品の保管と運送を一元的に引き受けるような物流サービスも見られるなど,運送営業と関連する面も少なくありませんが,他方で,物品の移動を伴わないので事故の発生が少なく,また,長期の保管が少なくないため,継続的契約として当事者間の信頼関係が重視される側面もございます。このような点を踏まえますと,運送営業に関する規律の見直しに際し,当然に倉庫営業の規律もこれに併せて改めるべきということにはならないものと思われます。  もっとも,現代において利用実態が全くないような規律を残したまま,現代語化だけをするというのも相当ではございませんので,例えば,倉庫営業に関する有価証券のうち,預証券と質入証券,これを両方使うというような,これに関する規律は,これを削除して船荷証券に一本化するということが考えられます。それ以外の点につきましては,現時点で特に見直しを要すると思われる事項は特に承知してはおりませんが,この点につきましては中間試案の補足説明で説明を付した上で,パブリック・コメントで意見を求めることを考えております。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,また,御自由に御発言をお願いいたします。 ○山口委員 船舶先取特権のところで意見を述べたいと思います。船舶の所有者等の責任の制限に関する法律95条の先取特権について,当初,削除というお話がございました関係で,是非残していただきたいと私は申し上げて,場合によっては順位は後方でいいんですよということを申し上げたんですが,今回の甲案,乙案と出てきている両方ともが,船主責任制限法95条の先取特権が船舶抵当権に劣るという案になっております。私としては,丙案として,現状のまま全ての船舶先取特権が船舶抵当権に優先するという規定といいますか,そういう案を,丙案として残していただきたいと思っております。  理由は二つございまして,一つは,船舶先取特権と船舶抵当権について,後で生じた事故により,船舶抵当権者が非常に大きな損害を受ける,要するに船舶の価値を毀損するようなことが生じるので,ファイナンスに大きな影響があるという指摘があり,船舶抵当権者からすれば,船舶先取特権は邪魔であるということになるわけです。しかし,95条の先取特権については,少なくとも日本に寄港する船についてはほとんど優良なPI,いわゆる賠責保険会社が付いております関係上,もし仮にそういう事故があったとしても,船舶そのものの価値が毀損されることはなく,賠責保険会社が支払をするということが行われておりますので,その危惧は当たらないであろうと思います。それから,仮にかなり大きな事故が生じたとしても,いずれにしても船舶の所有者等の責任の制限に関する法律上の船主責任制限手続を行えばそれで足りることであり,責任制限手続に関する基金はPIが積むということになりますので,そういう意味では船舶抵当権を害することにはならないだろうというのが一つ目の理由です。  二つ目の理由として,PIが付いていない船が事故を起こす,これはまたあり得ることでございます。あるいは,優良なPIが付いていない船舶が事故を起こすというのはあるんですが,どういう場合に起きるかというと,日本に寄港しない船が日本の近海を通っているところで漁船と衝突する,あるいは魚網を破損するという場合です。事案は違いますけれども,1997年か1998年に,ナホトカ号が,これはタンカーでしたから油を流しまして,最終的には油濁賠償基金から賠償されましたので本件の問題とはならないわけなんですが,そういうふうに優良PIが付いていないような場合が生じたときに,唯一の捕獲すべき財産がその船ということが生じます。  そうなってくると,ほとんどの船というのは抵当権が付いていますので,実際上,事故で被害を受けた人たちが保護されない。つまり,PIに入っていないと保護されない,あるいは優良なPIでなければ保護されないという事態が生じますので,その場合は,被害者を保護するということは非常に重要であろうと思います。要するに,いろいろなPIが付いている場合であろうとなかろうと,優良なPIが付いておれば船舶抵当権者を害することはないし,優良なPIが付いていない場合は被害者を保護するという意義からも,船主責任制限法95条の先取特権については抵当権に優先する,つまり,今のままという案を是非に加えていただきたいということでございます。 ○雨宮幹事 ただ今山口委員がご意見を述べられました問題については,日弁連の事前検討会においても検討いたしました。船主責任制限法第2条6号の物に関する損害のうち不法行為に基づく損害の賠償請求権に付与される船舶先取特権が抵当権より優先または劣後するかについては,パブリック・コメントに付して,広く議論していただきたいと思っています。山口委員がその理由を述べられていますので,それに付け加えて理由を述べますが,現行法上は,他船との衝突や魚網,岸壁の破損などの海上行為による不法行為に基づく損害賠償請求権に付与される船舶先取特権は,抵当権に優先していますので,差押えを行う,若しくは差押えを行うと通知することで相手方と交渉して,保証状を取得している実務がございます。  この提案でも抵当権に劣後するだけで先取特権は維持されますから,差押えが認められる場合もあるかもしれませんが,船価が下がり,剰余が出ない場合には差押えが取り消される可能性があります。取り消されることが明らかであるのに費用を掛けて差押えをすることはためらわれ,そうであれば保証状が取れないということもあり得ます。最終的な結論は議論に委ねられるところですが,現行の実務に影響を与えるので,少なくともパブリック・コメントには付して,広く意見を求めていただきたいと思っております。  外国法ですが,山口委員は以前の部会において債務不履行に基づく損害賠償請求に関してはstatutory right in remが付与されていると述べられたと思いますが,確かにstatutory right in remは抵当権に劣後します。しかし,不法行為に基づく損害賠償請求に関しては,maritime lienが付与されて,イギリス法でも抵当権に優先しています。また,例えば,中国でも不法行為に基づく損害賠償請求は船舶優先権が付与され,それは抵当権に優先しています。私の知る限りでは,不法行為に基づく損害賠償請求に付与される船舶先取特権の場合には,抵当権に優先していることの方が多いのではないかと考えています。 ○柄委員 今,両先生が言われる方に同調しているのですが,商工会議所においても,この問題の議論が出てきております。中小の業者にとりましては保険を掛けていないというケースが多く見られると思いますので,被害者保護という観点からは,従来どおり,抵当権より船舶先取特権を優先していただきたい。もし,先ほど山口先生が言われたように,丙案が駄目なら,せめて注記としまして,このような意見があったということを是非とも付記していただきたいと思っております。 ○山下部会長 今,3人の委員・幹事から御意見を頂きましたが,この点に関して,ほかに御意見はございませんか。 ○宇野関係官 これまでの議論も踏まえつつですけれども,元々,船主責任制限法95条の船舶先取特権のうち,財産損害に関するものについては,債務不履行に基づくものであっても,保険実務との関係で船舶先取特権を奪うべきではないと。それはなぜかというと,最終手段としては船舶先取特権に基づいて差押えができることを前提に,PIの保証状を取るという形で保険実務が運用されているということでした。ただし,そうであれば,船舶先取特権があれば,仮に順位が船舶抵当権より劣後したとしても,差押え自体は可能であり,保険実務に支障はないのではないかと。  先ほど無剰余取消しの話がありましたけれども,民事執行法でいえば,無剰余判断をするのは,差押えをして,売却基準価格を決めて,正確には買受可能価格ですけれども,それとの比較で剰余が出るかどうかの判断をするのではないかと思っております。ですので,基本的には,無剰余の問題があるから差押え自体ができないということにはならないと思っております。そういう意味では,PI保険が付いている場合に,仮に船舶先取特権が船舶抵当権に劣後したとしても,現行の保険実務に余り影響はないのではないかということが,これまで検討されてきたところだろうと思います。  そして,もう1点,担保権実行によって配当までいくという場合に,確かに船舶抵当権との優先関係というのが正に問題になってくるわけですけれども,その点につきましては,これまでの部会の中では,船舶先取特権に基づいて実際に差押えがされて,かつ,それが日本の準拠法の下において配当までいくという事案が基本的には余りないと伺っておりましたので,その意味でも影響は余り大きくないのではないかと考えて,今,この提案ということになっているところでございます。 ○山下部会長 この点,実際には,保険会社の方も関係しているかなと思うのですが,この点で何かございますか。 ○石井委員 先ほどPI保険が付いている場合と付いていない場合という例がありましたけれども,基本的にはPI保険や賠償責任保険が付いていると思います。そこで,今の御説明のように先取特権の行使ということになれば,保証状が出て,それから次の段階にいくということになるのですが,PI保険が付いていなくて実際に船舶を差し押さえて,そこから配当となった事例の経験はありません。多分,そのような船の場合には,船主の経済状態も非常に不安定で船舶の保守管理も不十分であったり,不法行為責任ということですから,船舶の衝突で相手船の貨物や船体に大きな損傷が生じたという状況でしょうから,自船も損傷を被っていることも予想されこの状態の船に対してどれほどの経済的な価値,担保力が認められるのかは,疑問です。逆に,その船を押さえたことによって経済的にマイナスになる,費用が掛かってしまって十分な配当も得られないということもありますので,保険実務の経験では余りなかったというのが実態です。 ○山下部会長 ありがとうございます。山口委員,雨宮幹事,何かその辺りで御意見がありますでしょうか。 ○雨宮幹事 確かに,差押えをすること自体は可能かもしれません。船価を鑑定してから取消手続が行われますから,ある程度の期間差押えが継続するわけで,それを避けるために保証状発行に応じてくる場合もあると思います。ただ,弁護士費用等々を掛けて差押えを行っても,差し押さえられる方は取り消されることが分かっているので,しばらくの間船を止めておくことを選択しないわけではないと思います。そのようなことがどれほど多いかは分かりませんが,ただ,抵当権に優先している現行実務に多大な影響を与えるので,議論の場には乗せてほしいなということです。 ○山口委員 先ほどのお話で,最終的には無剰余かどうかというのは船価鑑定を待つわけですが,船価鑑定を待たずとも明らかに抵当権が多く付いているという場合もございまして,どの程度債務が残っているかは我々には分からないんですが,往々にして申立てをしますと,裁判官の方から債務がどの程度残っているのか疎明をしてほしいとか,これはほとんど無理な話なんですけれども,そういうことも言われて,抵当権に劣後しますと,不動産の無剰余のときにそういう問題が生じているんですけれども,同じ問題が船舶で生じると思うのです。それで,日本の国内の不動産と違って,抵当権の残余債務というのを疎明したり,あるいは調査したりというのはほとんど不可能でございますので,その段階で無剰余の可能性が高いから,なかなか出してくれないというようなことになるのであれば,丙案として,現状を変えない,船舶抵当権に船舶先取特権が優先する形の案をパブリック・コメントに示していただきたいなというのが強い希望でございます。 ○宇野関係官 今,2点御意見を頂いたところでございますけれども,基本的には,強制競売や担保権実行で開始決定をするというときに,無剰余かどうかの判断をするかについて,少なくとも法律上は,そのようなことが判断事項になっていることはないと承知をしております。無剰余の判断というのは,飽くまでも開始決定をして差押えをして,現況調査や評価をして,売却基準価格,買受可能価格が決まってからの話ではないかと思っております。事案が余り多くないもので,それにどれぐらいの期間が掛かるのかということを一般的に申し上げることは難しいわけですけれども,公刊された函館の事件などで掛かった時間などを見てみますと,少なくとも開始決定から買受可能価格が決まるまでの間に1か月半から2か月くらいの期間を要しております。そうすると,その間,ずっと運航を止めておいても全く構わないというようなことは余りないのかなというような気もしておりまして,実際には余り問題にならないのではないかと思っております。 ○松井(信)幹事 先ほど雨宮幹事から,英米法などを見ても,契約債権に基づく請求権については,statutory right in remになるということで,船舶抵当権より後れるというふうなお話があったわけですけれども,山口委員のお話というのは,今の英米法との関係ではどうなるのでしょうか。 ○山口委員 英米法との兼ね合いからいうと,正に雨宮先生のおっしゃるとおりかもしれないなとは思っています。ただ,船主責任制限法95条の債権というのは,不法行為と契約上の債権の両方を含んでいますので,それを中間で分けるというのもどうかなというところで,それであれば契約に基づく債権,船主責任制限法95条のうち契約に基づく債権だけを劣後させるというのも,何か非常に奇異な感じがしますので,そのために船主責任制限法95条の先取特権全体を抵当権より優先させるという,現状のままでよいのではないかということでございます。 ○松井(信)幹事 技術的には,債務不履行請求と不法行為請求を切り分けるということは不可能ではないと,現に英米法でやっておりますので可能だろうとは思うのですけれども,そのような中で,英米とはまた違う方策というのを採ろうという積極的な理由は何かあるのでしょうか。 ○山口委員 貨物であっても,当然,直接契約がある相手というのは,場合によっては船舶所有者であったり,場合によっては間の傭船者であったり,場合によってはいわゆるNVOCCであったりするわけです。そうすると,船荷証券が発行されたからといって,船舶所有者に対する債権というのは必ずしも契約に基づく債権ではないわけで,たまたま,NVOCCから発行された船荷証券を持っていると,これは不法行為だから差押えができ,抵当権に優先する。しかしながら,たまたま船舶所有者が発行した船荷証券を持っておれば,これは船舶所有権に対して直接契約に基づく債権であるから船舶抵当権に後れる,そこに合理性はないのではないかと私は考えております。 ○野村(美)委員 今の部会資料12-1の29ページの(2)のところでは,今,議論になっております甲案と並んで乙案もございますが,乙案の場合は,第4順位又は第5順位の船舶先取特権よりも船舶抵当権を優先するという案になっております。甲案も乙案もそうなんですが,素人が聞いていて,どうしてここだけ船舶抵当権をある種の船舶先取特権に優先させると規定されているのか,その理由をもう一度,お聞かせいただけますでしょうか。 ○宇野関係官 大変一般的な話になってしまうかもしれませんけれども,船舶先取特権というのは公示がされない権利でありますし,船舶抵当権を設定した後に海難事故などが起これば,どんどん新たに付着してくるということで,船舶抵当権者としては,どれぐらい船舶先取特権が最終的に付着するのか予見が難しいと。その上,現行法の規律では,船舶先取特権は一律船舶抵当権に優先をするという形になっておりますので,これが船舶抵当権者を害し,ひいては船舶金融を害するということが昔から言われているわけでございます。  ただし,船舶先取特権が認められる債権であっても,これが船舶抵当権に劣後するという形になりますと,船舶抵当権ないし船舶先取特権によって担保権実行がされて船舶が換価をされるという場合には,最終的には船舶抵当権者が,その配当金から船舶先取特権者に優先して配当を受けるということができますので,船舶金融を害する程度は相対的に低いのではないかということがいわれております。伝統的に船舶金融を害すると言われてきた船舶先取特権について,例えば93年条約などのように制限的に考えるべきであると言われてきた中で,今回,船舶先取特権を削除している債権も一部ございますけれども,併せて船舶金融を害する程度が相対的に低いということで,一部の債権については船舶抵当権に劣後させるという形として,船舶金融を害する程度を下げるということで,今のところ検討がされてきております。その中で,それぞれ,甲案,乙案に掲げられている債権について船舶抵当権に劣後するという形になったとしても,現在船舶先取特権が認められている実質的な趣旨が損なわれないかということの検討を今しているというところなのではないかと思っております。 ○野村(美)委員 船舶金融を阻害するからと,こういう理由なんですが,確かにそういう御意見もこの部会ではあったと思うんですが,反対に,例えば第4順位の航海継続の必要によって生じた債権ですと,油とか,昔なら薪とか石炭とかを供給する業者を保護するために先取特権を認めていたと思うのですが,どうも一般的に船舶金融を阻害しないためにという理由というのは,少なくとも明確にパブリック・コメントでそのような選択肢について示されていないと,航海継続に必要な物品を供給した業者の保護という観点が簡単に阻害されてしまうのではないかと思うんですが。 ○宇野関係官 今,提案している趣旨でございますけれども,一般的に言われているところとしては,燃料や食料品など,船舶に対して航海継続に必要なものを供給する業者の側としては,仮に船舶抵当権に劣後した場合でも,船舶先取特権自体はあるということになりますと,その船舶先取特権に基づいて船舶の差押えをすることができる。その船舶が差押えをされることになりますと,船舶国籍証書を取り上げられて運航ができなくなり,船主の側としては運送契約上の債務不履行になるなどの重大な不利益があるということで,船主側としては,債務の弁済を事実上強制されると。この限度での保護で足りるのではないかというような指摘がされてきたこともあって,今,こういう提案になっているというところでございます。 ○野村(美)委員 補足なんですが,以前の部会で少し検討をお願いしたのですが,私は国際私法をやっていますもので,実際の裁判例としましても,便宜置籍船がパナマとかタックスヘブンとかですと,実際に港に船が寄港することはありませんので,船用品供給業者がいないために先取特権との関係では船舶抵当権の方,つまり,銀行の方を優先した規定を持っているんです。ところが,日本の場合は寄港しますもので,昔の薪とか薪炭とかをちゃんと補給するのを優先しているということもありますので,ここの船舶抵当権というのは,日本法に基づく船舶抵当権ではなくて,そういうようなタックスヘブンの国で付けられた船舶抵当権というのも,考慮していただきたいとお願いしたいんですが,それもよろしくお願いします。 ○宇野関係官 今,甲案,乙案という形になっているところでございまして,乙案の場合は航海継続の必要によって生じた債権も船舶抵当権に劣後するという形になりますが,甲案の場合には,そちらについては船舶抵当権よりも優先するという形になっており,航海継続の必要によって生じた債権については両論併記という形になっておりますので,その点については,今の御指摘を踏まえて補足説明で説明をしていきたいと思っております。 ○道垣内委員 私はどちらがよいかという意見はありませんが,今までの議論の中で,若干気になったことを2点申し上げます。一つは,無剰余措置がなされるとしても,差押えそのものは可能であるというお話なのですが,無剰余であることが明らかな場合に差押えをしたときに,不法行為にならないかというのはまた別問題のような気がします。つまり,無剰余であることが明らかであるけれども,交渉のために差押えをするというのは,恐らく不法行為だろうと思いますので,そう簡単な話ではないのかなというのが第1点です。  第2点として,不法行為と契約上の債務というものが区別できるかという話で,区別のしようもあるのではないかという話なのですが,信託法が立法されたときに,不法行為債権と契約上の債権との扱いを信託財産が引き当てるなるかという問題について大きく変えようという意見に対して,我が国においては債務不履行においても不法行為的に構成でき,また,取引的不法行為と言われる類型がたくさんあるということで,結局,扱いは変えられないとなったわけです。その辺りとの整合性というのも求められるのではないかと思います。どういう結論につながるのかということについては,何らの意見もありませんが,議論を拝聴しておりまして気になった点を2点,申し上げました。 ○山口委員 先ほどの宇野関係官のお話ですけれども,船舶先取特権と船舶抵当権のどちらを優先するのかという,正にファイナンサーと事故による被害者のどちらか,あるいは薪炭供給業者の利害関係のどちらを優先するのかという問題なんです。それで,先ほど申し上げましたように,船主責任制限法95条における債権については,賠責保険会社が付いている以上,賠責保険会社が支払うわけですから,船舶抵当権を害することはほとんどない。つまり,日本に入ってくるような船会社については優良なPIが付いているわけですから,回収は賠償責任保険会社からされるわけで,船自体から回収されるというのは事実上,ほとんどないわけでございます。そういう意味では,今言ったバランスからいっても,船舶抵当権者は十分保護されていて,それが優先されることによって被害者が保護されないという状況に陥るので,現状を変えないという案をパブリック・コメントには付していただきたいというのが私の考えです。 ○山下部会長 この点についてほかにございますか。 ○雨宮幹事 第4順位,第5順位の船舶先取特権が抵当権に劣後する御提案の理由を説明いただく中で,抵当権者保護,ファイナンサー保護という視点があげられ,それが世界的な潮流であり,93年条約も制限的であるという趣旨の御説明があったと理解しています。ただ,少なくとも不法行為に基づく損害賠償請求については,93年条約でも先取特権が付与されていて,抵当権には優先していると思います。抵当権者保護といっても,不法行為については契約関係等々がない者が被害を被るわけですから,被害者保護の視点からは,むしろ,抵当権者よりも優先されるのではないかと個人的には考えています。 ○山下部会長 この点の御意見は,大体そういうところで出そろったということでよろしいでしょうか。 ○松井(信)幹事 今,第5順位の船舶先取特権に関し,いろいろ御意見を頂きまして,今日,突然の御提案でしたので,ファイナンサーである抵当権者側も,恐らく御意見の準備ができていなかったところかもしれません。また,この船舶先取特権を船舶抵当権に劣後させることについて問題があるという御指摘もある一方で,実務上,どの程度の問題があるかはよく分からないとの御意見もありました。そういうことで,甲案,乙案と書いておりますが,例えば,この下に(注)を書き加えて,船主責任制限法2条6号の物損の関係について,現行法を維持するという考え方もあるという形でパブリック・コメントに付して,また,我々の方で,今日出た御意見についても丁寧に御説明をして,全体として国民の皆様の御意見を聴いてみることも考えられますけれども,そのような形ではいかがでしょうか。 ○山下部会長 そのような提案ですが,いかがでしょうか。丙案ということとなると,こういう文章の書き方では,はっきりした提案をこういう合理的な理由があってするのだというところまでかなり詰めるところは詰めておかないといけない。先ほどの旅客運送における安全性保持義務と似たような話かなと思うので,(注)とした上で補足説明には十分問題点を書くということ,全体の意見はそういう辺りかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 まとめとして大変適切であると思いますが,伺ってまた分からない点が1点,2点というべきかもしれませんが,ありました。まず,1点は,船舶ファイナンスの面で問題が生じているというお話と,最後まで至る場合はないというお話は,話として両立し得るのでしょうか。実務上はさほど問題がないからよいではないかという話と,船舶ファイナンスに支障が生じているというのは,並べて書くとどっちなのだろうかという感じがするような気がいたしますので,その辺もお気を付けいただければと思います。第2点は,法律でございますので,説明が合理的に付かなければいけないと思うんです。したがって,余り問題にならないからよいではないかというわけにはいかなくて,どうしてここで優劣の問題を切るのかということについて,めったに起こらないからいいではないかという理由ではまずいだろうと思います。ただ,本日のまとめとしては極めて適切ではないかと思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。それでは,この点は,以上のような処理をするということにしたいと思います。  ほかの点はいかがでしょうか。第3部も含めまして残り全体ですが,よろしいでしょうか。 ○山口委員 補足説明のあった倉庫営業のところでございます。ほとんど使われていない条文をそのまま残すのはどうかというお話がございましたけれども,今,預証券と質入証券は削除しようということですが,あと,618条の保管料の請求でございます。これは,「倉庫営業者ハ受寄物出庫ノ時ニ非サレハ保管料及ヒ立替金其他受寄物ニ関スル費用ノ支払ヲ請求スルコトヲ得ス」と書いてありまして,元々,予定しているのはこの物をこの期間,預けると,そして,報酬を幾らと定めると,保管料を幾らと定めるということは予定されているんですが,現在の倉庫実務においては多くの場合,月決めあるいは10日決めぐらいのことで費用,保管料を決めているということがほとんどでございます。それを現実的には賃料と同じように月払いで頂いているというのがほとんどの場合だろうと思われます。  実は,これは民法の寄託の方の規定を見ますと,民法665条で民法648条の委任契約の規定が準用されておりまして,基本的には無償なんですが,報酬を定めることができると,報酬を定めたときは委任契約を終えたときに報酬請求することができるんですが,2項ただし書で,期間によって報酬を定めた場合は,その期間を経過した後にこれを請求することができるとなっておりまして,民法においては期間を定めて保管料を定めたときは,期間経過ごとに頂くことができるんですが,商法の特則,つまり,倉庫営業者になりますと,突然,期間を定めて報酬を定めて手当をしても,デフォルト・ルールとしては出庫の際に初めて保管料請求が発生するという形になっていまして,これは現実からかなり乖離しておりますので,民法が原則かどうか分からないですが,少なくとも民法と同じような648条2項ただし書のような規定,例えば期間によって保管料を定めたるときは,その期間を経過したる後にこれを請求することができるというような規定を,商法の618条にはただし書が一つありますので,非常にややこしくなってしまいますが,ただし書の1,2みたいなところを以下の場合にはその限りでないとかいうふうな書き方をして,1は一部を出庫した場合,2はその保管料を定めたような場合は,その期間を経過した後に請求することができるというデフォルト・ルールを作っていただくと,今の現状に合っているのではないかなと思います。 ○松井(信)幹事 倉庫営業につきましては今回の部会資料に書きましたとおり,中間試案の補足説明の中で,実務上改正を要すべき事項について広く意見を求めまして,その全体としてのボリューム感などを見ながら,どの程度改正を行うのか,その辺りを考えてまいりたいと思っております。 ○山下部会長 それでは,今のような御意見も踏まえて,また,その次の段階の中で忘れないように検討していただくということかと思います。  ほかにございませんか。 ○遠藤委員 1点だけ,戻ってしまって恐縮なのですけれども。 ○山下部会長 今議論をしている第5以下のところでしょうか。 ○遠藤委員 一番最初の第1部です。 ○山下部会長 それでは,第5から最後までのところにつきまして御意見がないようでしたら,この部分につきましては,先ほどの29ページの2の(2)のところで注記を付けるという修正を行うということで,その他の点は中間試案として提案するということで,よろしいでしょうか。では,その点を御了承いただいたとして,それでは,遠藤委員,どうぞ。 ○遠藤委員 言葉の問題なのですけれども,先回も停泊料についてお話しさせていただいたかと思います。停泊料が何を意味するのか。滞船料を意味するのか。船舶の差押えのときに「航海中(停泊中のものを除く)」という文言もあったかと思います。その停泊中というのは,アンカリングしている状態のことだと思います。普通,停泊しているというと,岸壁に停泊していることを指すと思いますが,停泊料と先ほど言いました停泊中のものを除くというのは,どちらも同じ停泊を使っており,紛らわしいのではないかと思います。停泊料のところが滞船料だとすると,法文として問題があるのかよく分かりませんが滞船料という文言にしてはいかがかなと思います。  滞船料だけではない,発航前の解除のところで言及されているように,滞船料だけではなくてもろもろの経費(港費)が掛かるということであれば,広い意味での停泊料ということになるのでしょうけれども,停泊料というのが一般実務では全く聞かれない言葉ですので,もし,変えないのだとしても,停泊料の意味が何なのかということは,パブコメに付されるときに一言,触れておく必要があるのではないのかなと思います。 ○宇野関係官 商法上の停泊料というものがどういう内容を指すかということについては,引き続き検討して参りたいと思っております。 ○山下部会長 そういうことでよろしいでしょうか。  それでは,全体で更にございませんか。  それでは,幾つかの点につきましては原案を修正する,あるいは注記を加えるということになりましたが,その点を含めまして原案に修正を加えた内容ということで意見照会を行うということでよろしいでしょうか。ありがとうございます。  なお,中間試案の修正後の表現ぶりをこの場でまた細部まで確定することは難しいかと思いますので,本日の審議の結果に従いまして修正をするということで,具体的な表現ぶりにつきましては部会長と事務当局に御一任いただければと思いますが,この点もよろしいでしょうか。ありがとうございます。  それでは,そのような取扱いとさせていただきます。  それでは,最後に今後につきまして事務当局から説明をしてもらいます。 ○松井(信)幹事 本日はどうもありがとうございました。  今後につきましては,今日頂いた御指摘を踏まえて必要な修正をさせていただき,今月下旬頃を目途として,今日お取りまとめいただきました中間試案を,事務当局の方で作成する補足説明とともに,パブリック・コメントの手続に付すことにしたいと思っております。パブコメの期間については,今月下旬頃から1か月半程度を予定しております。この期間経過後,お寄せいただいた御意見を踏まえて,6月半ば過ぎから,再度,部会の会議を開催させていただきたく思っております。日程につきましては,今日,この後にでも事務当局の方から皆様の方にメールで御連絡を差し上げたいと思っております。引き続き,今後の審議につきましてもどうぞよろしくお願いいたします。 ○山下部会長 以上のとおりでございまして,したがいまして,予備日として留保していただいた3月25日の会議は開催いたしませんので,その点,よろしくお願いいたします。  それでは,本日の審議はこれで終了といたします。本日まで熱心な御議論を賜りまして,誠にありがとうございました。来年度も引き続きよろしくお願いいたします。 -了-