法制審議会 民法(相続関係)部会 第1回会議 議事録 第1 日 時  平成27年4月21日(火)自 午後1時32分                      至 午後3時25分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の規律の見直しについて 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○堂薗幹事 それでは,予定の時刻が参りましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第1回会議を開会いたします。   本日は,御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   私は,官房参事官の堂薗と申します。部会長の選出があるまで,議事の進行を務めさせていただきます。よろしくお願いいたします。   法制審議会は法務大臣の諮問機関でございますが,その根拠法令である法制審議会令によれば,法制審議会に部会を置くことができるということになっております。この民法(相続関係)部会は,先の2月24日に開催されました法制審議会第174回会議において法務大臣から相続法制の見直しに関する諮問--第100号になりますが--がされ,これを受けまして,その調査審議のために設置することが決定されたもので,その諮問事項は以下のとおりでございます。   以下,読み上げますと,「高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直す必要があると思われるので,その要綱を示されたい。」というものでございます。   それでは,審議に先立ちまして,当省深山民事局長より一言御挨拶を申し上げます。 ○深山民事局長 民事局長の深山でございます。部会の調査審議を開始するに当たりまして,事務当局を代表して一言御挨拶を申し上げます。   まず,皆様にはそれぞれ御多忙の中,法制審議会民法(相続関係)部会の委員,幹事に御就任いただきまして,誠にありがとうございます。   民法が規律している相続法制につきましては,配偶者の法定相続分の引上げ,寄与分制度の新設等を行った昭和55年の改正以来,約35年間にわたって大きな見直しはされておりません。   しかしながら,その間にも我が国の平均寿命は伸び,社会の高齢化が進展するとともに,晩婚化,非婚化が進む一方で,再婚家庭が増加するなど,相続を取り巻く社会情勢には大きな変化が生じております。このような変化を踏まえて,現行の相続に関する規律を見直すべき時期に来ているものと考えられます。   さらに,平成25年9月に,嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていた民法900条4号ただし書前半部分の規定が憲法に違反するとの最高裁の決定が出されたことを受け,同年12月に,この規定を削除して嫡出子と嫡出でない子の相続分を同等にすることを内容とする民法の一部を改正する法律が成立いたしましたけれども,その過程で各方面から,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から相続法制を見直すべきではないかといった問題提起がされました。   そこで,法務省では,相続法制の在り方について検討を行うため,民法の研究者や一般有識者の方々の御協力を得て,平成26年1月に相続法制検討ワーキングチームを設置し,本年1月28日にその結果を報告書に取りまとめたところでございます。   しかしながら,相続法制の見直しは国民生活に与える影響が極めて大きく,見直しをする場合の方向性についても様々な考え方があり得ることから,今後の検討は開かれた場で,より多くの関係者から意見を聴取して進めていくのが相当であると考えられます。   そこで,高齢化社会の進展等の相続を取り巻く社会情勢の変化に鑑み,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続に関する規律を見直すことについて法制審議会で御検討いただきたく,今回の諮問がされたものでございます。   委員,幹事の皆様方には,適切な規律の整備のために御協力賜りますよう,何とぞよろしくお願い申し上げます。   以上でございます。 ○堂薗幹事 それでは,本日は第1回目の会議でございますので,委員,幹事及び関係官の方々に簡単な自己紹介をお願いしたいと思います。所属と氏名等の自己紹介をお願いしたいと思います。   それでは,恐れ入りますが,着席順で高橋法制審議会長からよろしくお願いいたします。 ○高橋会長 親委員会の法制審議会の会長をしております高橋宏志でございます。民事訴訟法を専門にしており,現在,中央大学に勤めております。 ○浅田委員 三井住友銀行の浅田でございます。よろしくお願いします。 ○大村委員 東京大学法学部で民法を担当しております大村と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○沖野委員 同じく東京大学法学政治学研究科で民法を専攻担当しております沖野と申します。どうかよろしくお願いいたします。 ○窪田委員 神戸大学の窪田でございます。やはり民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○潮見委員 京都大学の潮見と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○中田委員 東京大学の中田と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○南部委員 初めまして。労働組合の連合から参りました南部と申します。よろしくお願いいたします。 ○藤野委員 初めまして。主婦連合会常任幹事の藤野と申します。市民の立場で初めて参加いたしております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○増田委員 弁護士の増田と申します。大阪弁護士会に所属しております。よろしくお願いします。 ○石井幹事 最高裁事務総局家庭局で第二課長をしております石井と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○岡田幹事 内閣法制局から参りました岡田と申します。よろしくお願いいたします。 ○垣内幹事 東京大学の垣内と申します。民事訴訟法を専攻しております。よろしくお願いいたします。 ○金澄幹事 弁護士の金澄と申します。東京弁護士会所属です。どうぞよろしくお願いいたします。 ○西幹事 慶應義塾大学の西希代子と申します。民法を専攻しております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○餘多分幹事 最高裁事務総局民事局第二課長をしております餘多分と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○水野(紀)委員 東北大学の水野と申します。民法を専攻しております。よろしくお願いいたします。 ○水野(有)委員 東京地方裁判所の,こちらも水野と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○村上委員 明治大学で日本の近代家族法史を専攻しております村上と申します。よろしくお願いいたします。 ○村田委員 最高裁判所事務総局で家庭局長をしております村田斉志と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○森委員 東京家裁家事部の森でございます。どうぞよろしくお願いします。 ○八木委員 麗澤大学の八木と申します。専攻は憲法ですが,民法,家族法にも多少興味がございます。ワーキングチームで1年,議論してまいりました。よろしくお願いいたします。 ○山田委員 弁護士の山田でございます。第一東京弁護士会所属です。よろしくお願いいたします。 ○山本(和)委員 一橋大学の山本和彦でございます。民事手続法を専攻しております。よろしくお願いいたします。 ○山本(克)委員 京都大学の山本克己です。同じく民事手続法を専攻しております。よろしくお願いいたします。 ○米村委員 千葉大学の文学部から参りました米村と申します。皆様,法学の専門家なのですけれども,私は社会学で,家族社会学,歴史社会学を専攻にしております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○下山関係官 法務省民事局付の下山と申します。よろしくお願いいたします。 ○大塚関係官 同じく法務省民事局付の大塚でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○渡辺関係官 同じく法務省民事局付の渡辺と申します。よろしくお願いいたします。 ○堂薗幹事 法務省で官房参事官をしております堂薗でございます。改めまして,どうぞよろしくお願いいたします。 ○深山委員 先ほど既にご挨拶致しましたが,法務省の民事局長の深山です。よろしくお願いいたします。 ○金子委員 法務省民事局担当の官房審議官の金子でございます。よろしくお願いいたします。 ○筒井幹事 法務省民事局民事法制管理官の筒井でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○堂薗幹事 それでは,どうもありがとうございました。   なお,上西委員におかれましては,本日は所用により御欠席でございます。   併せて,この機会に関係官について補足して御説明いたします。   法制審議会議事規則によりますと,審議会がその調査審議に関係があると認めた者は会議に出席し,意見等述べることができるとされておりまして,この規定に基づき御参加いただく方を関係官と呼んでおりますが,この部会におきましても,当省の事務当局のほかに最高裁判所事務総局家庭局の依田局付に関係官として御参加いただくことになっておりますので,どうぞよろしくお願いいたします。   依田局付,先ほど自己紹介をちょっと御遠慮されていたようです。もしあれでしたらどうぞ。 ○依田関係官 最高裁事務総局家庭局で局付をしております依田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○堂薗幹事 では,よろしくお願いいたします。   それでは,次に部会長の選任に移りたいと存じます。   法制審議会令によりますと,部会長は,当該部会に属する委員及び臨時委員の互選に基づき会長が指名することとされております。当部会は本日が第1回会議であり,部会長が指名されていない状態でございますので,まず初めに部会長の互選の手続を行いたいと思います。   それでは,皆様から部会長の推薦をしていただきたいと思いますけれども,御意見はございますでしょうか。   では,窪田委員,お願いいたします。 ○窪田委員 部会長についてでございますが,私からは大村敦志委員を御推薦させていただきたいと考えております。   本部会に付託されたテーマは相続制度の見直しに係るものですが,そうした相続制度については,いわゆる家族法についての見識と,また,いわゆる財産法についての識見を踏まえての検討が求められるところだと理解しております。大村委員は,改めて申し上げるまでもないところでございますが,正しくこうした民法全般にわたって研究をしてこられ,卓越した御業績を上げてこられました。   また,大村委員は法制審議会児童虐待関連親権制度部会の委員,法制審議会民法(債権関係)部会幹事を始めとして,様々な立法に携わってこられています。さらに,本日の資料として配布されております相続法制検討ワーキングチームにつきましても座長を務められてきたということを踏まえましても,大村委員に是非,部会長を引き受けていただけたらと私は考えております。   以上,大村委員を推薦させていただく次第です。 ○堂薗幹事 どうもありがとうございました。   それでは,ほかに御意見ございますでしょうか。   潮見委員,お願いいたします。 ○潮見委員 私も同様の理由で,大村委員を部会長として推薦したいと思います。 ○堂薗幹事 ありがとうございます。   ほかに御意見ございますでしょうか。   それでは,ただいま,窪田委員と潮見委員から部会長として大村委員を推薦する旨の御発言がございました。ほかに御意見がないようでございますので,部会長には大村委員が互選されたということでよろしいでしょうか。   では,高橋会長,よろしいでしょうか。 ○高橋会長 先ほど御説明がありましたように,部会長につきましては互選に基づき会長が指名するということになっております。ただいま互選されました大村敦志委員を部会長に指名いたします。   では,大村部会長,よろしくお願いいたします。 ○堂薗幹事 ただいま高橋会長に大村委員を部会長に御指名いただきましたので,以後の進行は大村部会長にお願いしたいと思います。   どうぞ,よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ただいま部会長に御指名を頂きました大村でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。非力ではございますけれども,本部会の議事が円滑に進みますよう努力をして運営をしてまいりたいと存じますので,御出席の皆様方には御協力のほどをお願い申し上げます。   ここで,高橋法制審議会会長は,所用のために退席されると伺っております。どうもありがとうございました。 ○高橋会長 失礼いたします。 ○大村部会長 それでは,まず最初に,審議に入ります前に,当部会における議事録の作成方法のうち,発言者の取扱いについてお諮りをさせていただきたいと存じます。   まず,現在の法制審議会における議事録の作成方法につきまして,事務当局から説明をしていただきます。 ○堂薗幹事 それでは,法制審議会における議事録の作成方法のうち,発言者名の取扱いについて御説明いたします。   法制審議会の部会での議事録における発言者の取扱いにつきましては,平成20年3月26日に開催されました法制審議会の総会におきまして,次のような決定がされております。   以下,読み上げますと,「それぞれの諮問に係る審議事項ごとに,部会長において,部会委員の意見を聴いた上で,審議事項の内容,発言者名を明らかにすることにより自由な議論が妨げられるおそれの程度,審議過程の透明化という公益的要請等を考慮し,発言者名を明らかにした議事録を作成することができるという範囲で議事録を顕名とする。」というものでございます。   若干,分かりにくい文章になっているような気もいたしますが,要は審議過程の透明化という公益的要請の観点から,原則として議事録を顕名とするとした上で,ただ,それを明らかにすることによって自由な議論が妨げられるおそれがあるという場合には,例外的に顕名としないことができるという趣旨ではないかと思います。   したがいまして,皆様には,当部会の議事録につきましても発言者名を明らかにしたものとすることでよいかどうかを,この決定に沿って御判断いただく必要があるものと存じます。   説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは,ただいまの事務当局からの説明につきまして,まず質問等がございましたら御発言お願いいたします。   特になければ,御意見等,もしございましたら。   特にございませんでしょうか。   それでは,当部会につきましては,部会長の私といたしましては,諮問事項の内容等に鑑みまして,発言者名を明らかにした議事録を作成するという方針で臨みたいと存じますが,いかがでございましょうか。   よろしゅうございますでしょうか。   では,当部会につきましては,発言者名を明らかにした議事録を作成するということにさせていただきます。   それでは,続きまして,配布されている資料につきまして事務当局から説明をしてもらいます。 ○堂薗幹事 それでは,配布資料について確認をさせていただきます。   まず,部会資料でございますが,事前に送付させていただいたものとして,資料番号1「相続法制の見直しに当たっての検討課題」という書面がございます。次に参考資料でございますが,これも事前に送付させていただきましたが,「相続法制検討ワーキングチーム報告書」と,それから,「これまでの改正の経緯」と題する書面でございます。お手元にございますでしょうか。 ○大村部会長 それでは,資料を御確認いただきましたので,次に事務当局に相続法制の見直しの意義や今後の審議スケジュール等についての説明をしていただきます。 ○堂薗幹事 それでは,相続法制の見直しの意義について簡単に御説明いたします。   法務省において相続法制の見直しを検討するに至った直接のきっかけとなったのは,先ほどの深山局長の御挨拶にもありましたとおり,平成25年に最高裁判所において,嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていた規定が憲法に違反するとの決定がされたことにあります。   これを受けて,法務省ではこの規定を削除することを内容とする法律案を作成いたしましたが,これを国会に提出する過程で各方面から,この改正が及ぼす社会的影響について懸念が示されました。   取り分け,この規定は法律婚の尊重を趣旨とするものであったことから,これを削除することに伴い,法律婚の尊重を図るための措置を別途検討し,バランスをとるべきであるという指摘がされたところでございます。   また,相続法制につきましては,昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げ等をして以来,大きな改正はされていない状況にございます。   しかし,その間にも我が国の平均寿命は男女ともに7歳から8歳程度伸長しております。これに伴いまして,相続開始時における配偶者の年齢が70代,80代に達している場合が多くなっており,配偶者の生活保障の必要性が相対的に高まっている反面,相続開始時における子の年齢は40代,50代に達しており,既に親から独立して安定した生活を営んでいる場合が多くなっていることから,子の生活保障の必要性は相対的に低下しているのではないかといった指摘もされているところでございます。   他方で,高齢者の再婚が増加するなど家族形態にも変化が見られることから,法定相続分に従った遺産の分配では実質的な公平を図れない場合が増えてきているといった指摘もされているところでございます。   また,高齢化社会の進展に伴いまして,要介護高齢者や独居老人の増加など,様々な社会問題も生じております。これらの問題の解決を相続法制に期待するのは,必ずしも相当でないと思いますが,例えば遺産分割において被相続人に献身的な介護を行ってきた者の貢献をいかに反映すべきかといった問題点を検討するに当たっては,これらの社会情勢の変化も十分に踏まえた上で議論を進めていくことが必要になるものと思います。   これらの点を考慮して,法務省においては,平成26年1月に省内に相続法制検討ワーキングチームを立ち上げ,相続法制に関する現状の問題点や考えられる見直しの方向性等につきまして議論を整理し,本年1月にワーキングチームとしての取りまとめをしたところでございます。   このワーキングチームでは,ただいま御説明したような諸事情を考慮して,主に以下の4点,すなわち配偶者の居住権の保護,配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現,寄与分制度の見直し,遺留分制度の見直しといった4点について検討を行いました。   そこで,当部会においても,これらの論点を中心に御議論いただくことが考えられるところではございますが,この点の当否を含め,本日はフリートーキングという形で皆様から忌憚のない御意見を頂戴したいと考えているところでございます。   次回以降の具体的な検討の内容につきましては,本日の御議論によるところもございますので,ここで確定的なことは申し上げられませんが,次回会議から個別の論点について御審議いただき,中間的な取りまとめをした後にパブリックコメントに付すことを考えております。相続法制につきましては,国民の間にも様々な御意見があると思われますので,パブリックコメントの期間も相当程度確保する必要があるものと考えております。   現時点では,どの範囲で見直しをするのか不透明な部分が多く,この部会でどの程度の期間御審議いただく必要があるかという点につきましては確たることは申し上げられませんが,おおむね1年半程度は掛かるのではないかと考えているところでございます。   私からの説明は以上でございます。 ○大村部会長 ただいまの事務当局の説明につきまして,御質問がございましたら伺いたいと思います。いかがでございましょうか。   よろしゅうございますでしょうか。   それでは,また何かありましたら後でフリーディスカッションの際に伺うということにいたしまして,本日の具体的な検討,審議に入りたいと思います。   本日は,事務当局から相続法制の見直しに当たっての検討課題につきまして御説明を頂いた上で,相続法制の見直しにつき,今申し上げましたように皆様にフリーディスカッションをしていただくということを考えております。   それでは,まず事務当局から,相続法制の見直しに当たっての検討課題につきまして説明を頂きます。 ○渡辺関係官 それでは関係官,私,渡辺のほうから事前にお配りいたしました部会資料の1について説明させていただきます。   本日は,相続法制の見直しについてフリーディスカッションをしていただきたいと考えておりますので,そのための材料という趣旨で部会資料1を作成させていただきました。この部会資料1というのは,大きく分けて二つの構成からなっております。   一つ目は,第1「相続法制の見直しにおける基本的な視点」という部分でございまして,これは言わば総論に当たる部分かと思います。ここで,相続法制を見直すに当たっての大局的な視点につきまして,委員の皆様方の御議論をお願いしたいと考えておるところでございます。   そして,二つ目は,第2「考えられる検討項目」という部分でございまして,ここでは考えられる論点ごとに問題点を整理させていただいたというところでございます。各論点における詳細な御議論は次回以降にお願いすることになるかと思いますが,その前提として,基本的な方向性について皆様の御意見を頂戴することができましたら幸いに存じます。   では,第1の「相続法制の見直しにおける基本的な視点」というところでございますが,事前にお配りさせていただいた参考資料2,「これまでの改正の経緯」でも少し記載をさせていただいておるところでございますが,相続法制につきましては,昭和55年に配偶者の法定相続分の引上げ,それから,寄与分制度の導入等の改正がされて以来,大きな見直しというものはされておりません。   しかしながら,その間にも高齢化社会というのは更に進展をしておりまして,その結果,相続開始時点での相続人,特に配偶者の年齢が従前より相対的に高齢化していると思われることに伴い,配偶者の生活保障の必要性が相対的に高まっていると思われますが,それに対しまして,既に経済的に自立しているであろう子の生活保障の必要性は相対的に低下しているというような指摘がされているところでございます。   また,要介護高齢者が増加し,相続の際にもその療養看護の在り方が問題となることがありますでしょうし,また,高齢者の再婚が増加し,長年連れ添った配偶者と子のみが相続人になるといった典型的なケースばかりではなくなっているようにも思われるところでございまして,このように相続を取り巻く社会情勢にも変化が見られるのではないかと考えているところです。   このような社会情勢の変化等に応じ,配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から,相続法制を見直すべき時期が来ているものとも考えられるところでございますが,皆様の御意見を賜れればと考えております。   次に,第2の「考えられる検討項目」というところでございます。ここでは,検討項目といたしまして,1として「配偶者の居住権の保護」,2「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」,3「寄与分制度の見直し」,4「遺留分制度の見直し」,5「相続人以外の者の貢献の考慮」,6「預貯金等の可分債権の取扱い」,7「遺言」,これを掲げさせていただきました。   また,本日はフリートーキングでございますので,検討の対象はただいま申し上げた7点に限られるものでは当然ございませんので,最後に8「その他」として,この七つ以外にも検討すべき論点がございましたら御指摘を頂ければと考えております。   では,順番に御説明してまいりたいと思います。   まず,1の「配偶者の居住権の保護」でございます。   配偶者の一方が死亡した場合に,他の配偶者がそれまで居住してきた建物に引き続き居住することを希望するのが通常かとは思われますが,特にその配偶者が高齢者である場合には,住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を始めるということは,精神的にも肉体的にも大きな負担があるのではないかと考えられます。   また,高齢化社会の進展により,相続開始の時点では配偶者が高齢のため,自ら生活の糧を得ることが困難である場合も多くなってきているものと思われます。   こうしたことから,配偶者につきましては,その居住権を保護しつつ将来の生活のために一定の財産を確保させる必要性が高まっているものとも考えられるところでございますが,このような観点から,残された配偶者の居住権を保護するための方策,これを検討すべきであるという御指摘がございますので,この点を検討項目として提示をさせていただきました。   次に,2の「配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現」というところでございます。   相続人となる配偶者の中には,婚姻期間が長期間にわたり,被相続人の財産の形成又は維持に貢献している者もいれば,反対に,高齢になった後に再婚をした場合のように,婚姻期間も短く,被相続人の財産の形成又は維持にほとんど貢献していないというような者も想定されます。   しかしながら,現行法上は,配偶者の法定相続分,これは一律に定められておりまして,個別具体的な事情は寄与分において考慮されるにすぎないということになっておりますので,必ずしも当事者間の実質的公平が図れていないといった指摘もされているところでございます。   また,離婚における財産分与においては,配偶者に実質的夫婦共有財産,すなわち夫婦が婚姻中に協力して得た財産,これの2分の1を取得する取扱いが実務上原則化しつつあることからいたしますと,遺産の多くが実質的夫婦共有財産である場合には,配偶者は遺産分割において自己の実質的な持ち分,これを取り戻したにすぎず,被相続人の実質的な持ち分,すなわち名実ともに被相続人の財産となる部分から何ら財産を承継していないことになっているのではないかというような指摘もあるところでございます。   このような観点から,遺産分割におきましても,財産の形成に対する配偶者の貢献の有無及び程度をより実質的に考慮し,その貢献の程度に応じて配偶者の取得額が変わるようにすべきであるとの指摘がされているところでございます。   他方で,個々の遺産分割に関する紛争におきまして,遺産の形成に対する配偶者の貢献の有無及び程度を実質的に考慮するということになりますと,この点をめぐって当事者間で主張立証が繰り返され,相続に関する紛争がより一層複雑化,長期化するということが予想されるところでございます。   また,相続の場合には,離婚における財産分与の場合とは異なり,婚姻関係の当事者ではない他の相続人がこの点について主張立証しなければならなくなるため,これを適切に行うことができるのかどうかというような疑問がございまして,また,さらには結果に対する予測可能性,これの低下を招くというような御指摘もございます。   このように,配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現につきましては様々な指摘がございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたというところでございます。   続きまして,3の「寄与分制度の見直し」というところでございます。   高齢化社会の進展に伴いまして,要介護高齢者も増加しているものと思われますが,例えば被相続人に複数の子がいる場合のように,被相続人に対して扶助義務を負う者が複数おりまして,療養看護についても同等の役割を果たすことが法律上は求められているにもかかわらず,実際にはそのうちの一部の相続人のみが専ら療養看護を行うなど,貢献の程度に顕著な偏りがある場合も多いと言われておるところでございます。   しかし,寄与分の要件である特別の寄与というのは,一般に被相続人との身分関係に基づいて通常期待される程度を超える貢献があったことを意味すると解されておりますので,扶助義務を負う者がした療養看護につきましては,寄与分が認められにくいという指摘もされておるところでございます。   このため,療養看護についての貢献については,高齢者に対する療養看護の重要性が増していること等を踏まえ,寄与分の要件を緩和すべきであるというような御指摘もございます。   他方で,このような見直しを仮にいたしますと,寄与分を認めるか否かの判断のために,寄与分を主張する相続人だけではなく,寄与分を主張していない他の相続人の貢献の程度についても裁判所が資料収集する必要が生じてくるなど,寄与分を定める事件の紛争の複雑化,長期化のおそれがあるという御指摘もされているところでございます。   このように,寄与分の程度の見直しにつきましても様々な御指摘がございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたというところでございます。   続きまして,4の「遺留分制度の見直し」というところでございます。   明治時代に制定された旧民法では,単独相続である家督相続が中心とされていたのですが,戦後の改正で家督相続制度は廃止されております。   しかし,遺留分に関する規定につきましては最小限の修正を加えたのみで,ほとんどが旧民法の規定を踏襲したものであるため,現行民法のとる共同相続,これを前提として共同相続人間で生じ得る問題について十分な配慮がされていないのではないかというような御指摘があるところでございます。条文上では,受遺者又は受贈者,これが相続人であるか,それ以外の第三者であるかによる区別はされておりませんが,判例上では,例えば次のような整理がされているところです。   民法第1030条は,贈与は相続開始前の1年間にしたものに限り遺留分算定の基礎となると定めているのですが,このような定めがあるにもかかわらず,受贈者が相続人である場合には,原則として遺留分算定の基礎となる財産についての時期的な制限は設けないということに判例上解されておりまして,また,遺留分の減殺割合について定める民法第1034条の目的物の価額,この規定がございますが,その算定につきましても,受遺者が相続人である場合には,受遺者の遺留分額,これを超える部分のみがこの目的物の価額に当たるというような解釈が判例上されているというところでございます。このように,判例によって遺留分に関する規律の補充がされているという状況にあると言えるかと思います。   このように,現行の遺留分制度につきましては,戦後の昭和22年の民法改正の際に現行の共同相続制度を踏まえた十分な検討がされなかったために,分かりにくく複雑なものになっているのではないか,このような御指摘がされているところでございます。   また,続きまして,現行の遺留分制度の趣旨,目的につきましては,学説上も様々な考え方があるようでございますが,一般的には,遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持ち分の清算等が挙げられているところでございます。   もっとも,これらの点につきましては,高齢化社会の進展に伴いまして,相続が開始した時点で相続人である子も既に経済的に自立していることが多く,その生活を遺留分によって保障する必要性が少なくなってきたとの指摘や,核家族化に伴い経済的に一体性を保つ家族が減少した結果,財産形成に対する相続人の寄与の割合が相対的に低下し,相続人が寄与した分を取り戻すという遺留分の機能,これが必ずしも妥当しなくなっているとの指摘もされているところでございます。   このような観点から,遺留分制度の在り方そのものを見直すべき時期に来ているのではないかといったような御指摘もされているところでございます。   さらに,現行法の下では,遺産分割事件は家庭裁判所における家事事件の手続で解決されるのに対しまして,遺留分減殺請求事件は地方裁判所の訴訟手続で解決され,紛争解決手続が異なっているということから,これらの法律関係を柔軟かつ一回的に解決することが困難になっているとの御指摘もございます。   また,現行の遺留分制度におきましては,受遺者又は受贈者等の財産形成に対する貢献を寄与分として考慮することはできないと解されておりますが,これでは当事者間の実質的な公平を図ることができないといった御指摘もございます。   そこで,このような事態を解消するため,遺留分減殺請求事件を家庭裁判所で取り扱うこととした上で,遺留分制度におきましても寄与分を考慮することができるようにすべきであるとの御指摘も一方ではございます。   しかしながら,他方で,このような見直しをいたしますと,当事者が寄与分に関する主張立証を繰り返し,又は家庭裁判所による裁量権の行使の在り方を巡って争うなど,紛争が複雑化する可能性は否定することができませんし,また,訴訟手続によることなく受遺者又は受贈者の財産権の一部を喪失させることの当否についても慎重に検討すべきであるという御指摘もございます。   以上のように,遺留分制度につきましても様々な御指摘がされているところでございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたということでございます。   続きまして,5の「相続人以外の者の貢献の考慮」というところでございます。   現行法上,寄与分は相続人にのみ認められているものでございますので,相続人以外の者,例えば相続人の配偶者等が考えられるところでございますが,そのような者が遺産の形成又は維持に多大な貢献をしている場合であっても,遺産の分配を受けるということはできません。このような結論につきましては,実質的公平に反するとの御指摘がされているところでございます。   そこで,この点を改め,相続人以外の者であっても一定の貢献をした場合には遺産の分配を求めることができるようにすべきであるという指摘が一方ではございます。しかしながら,他方で,遺産分割におきまして相続人以外の者の貢献を考慮することにつきましては,相続人以外の者にも一定の範囲で権利行使の機会を付与する必要があるため,実際には評価するに足りる貢献をしていない者が遺産分割手続に参加して遺産の分配を求め,そのために遺産分割に関する紛争が長期化するなど,相続人の利益を不当に害するおそれがあるのではないかといった御指摘もございます。   このように,相続人以外の者の貢献の考慮につきましても様々な御指摘がございますので,これを検討項目として提示をさせていただいたという次第でございます。   続きまして,6の「預貯金等の可分債権の取扱い」というところでございます。   現行法上,預金債権等の可分債権は,相続によって当然に分割され,原則として遺産分割の対象にはならないと解されております。しかしながら,預貯金等の可分債権は,各自の相続分に応じて遺産を分配する際の調整手段としても有用でございまして,これを遺産分割の対象から除外するのは相当ではないのではないかというような御指摘もされているところでございます。こういった点を踏まえまして,検討項目として提示をさせていただきました。   最後に,7の「遺言」というところでございます。   この点につきましては,特に具体的な問題点を掲げているものではございませんが,現行の遺言制度,例えば遺言の方式,遺言能力,遺言事項等について見直すべきところがないのかどうか,皆様の御意見を広く賜ることができればと思い,検討項目とさせていただきました。   そのほか,本日はフリートーキングでございますので,先ほどの7点以外の項目につきましても相続法制について見直しを検討すべき事項がございましたら,御指摘を賜れればと思っております。   資料の説明につきましては,以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは,御意見を承る前に,ただいまの事務当局の御説明につきまして何か御質問がありましたら,お伺いしたいと思います。   いかがでしょうか。相続法制全般についての説明と,それから,検討課題についての説明を一遍にしていただきましたので,なかなか難しいところもあることはございますが。 ○浅田委員 まず確認しておきたいことですけれども,今回は七つの議題に加えて「その他」というものも含まれており,フリートーキングの場としていろいろな提案ができ得るものと理解しております。ただ,時間の制約もあり,例えば業界の中での検討が不十分なものもございまして,本日この場で提案ができない場合もあります。その後の審議の場で,もちろん時期を逸しないようにはいたしますが,御提案を差し上げるかもしれませんけれども,そのときにはよろしく御審議を頂けるかということを確認させていただきたいです。 ○堂薗幹事 今回の諮問事項の関係で申し上げますと,まず昭和55年からの社会情勢の変化に対応する必要があるということと,それから法律婚の尊重,あるいは配偶者保護の必要性が高まっているのではないかという観点から諮問がされたという経緯がございます。ただ,昭和55年以来の社会情勢の変化というものの中には,様々なものが含まれてくると思いますので,そういった事項について御提案があるような場合には,御提示いただければ,こちらの方で検討させていただきます。   その関係で申し上げますと,もちろん今日ということではないんですけれども,できるだけ早い時期に御提案いただけると,事務当局としては助かりますので,よろしくお願いいたします。 ○浅田委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ほかに質問,いかがでしょうか。 ○増田委員 先ほどのお話で, ここに書かれている検討課題にかかわらず,相続関係全般について議論をすることはできるということは理解できましたが,民法以外,例えば手続法である民事訴訟法や家事事件手続法などの改正が必要な分野で,この提案の中に入っている遺留分関係以外についても,議論してよろしいのでしょうか。   つまり,今回は民法部会ということなので,他の法律には手をつけない,という前提で立法の検討がなされる場合もありますが,今回はそういう制約はないと考えていいのかどうかということをお伺いしたいです。 ○堂薗幹事 基本的に諮問事項の関係で言いますと,相続に関する規律についての見直しということになりますので,もちろん民法が中心だとは思いますが,先ほど御指摘がありましたように,例えば遺留分事件については家庭裁判所でできないかというようなところも検討対象に含まれてくると思いますので,相続に関する規律に含まれるものであれば,手続法であっても検討対象にはなり得ると考えております。 ○増田委員 相続に関わるもの,遺産の分割に関わる手続ならば構わないということですね。 ○堂薗幹事 はい。 ○大村部会長 民法(相続関係)部会ということでございますけれども,しかし実体法を変えると手続法に及ぶこともあるので,それを排除する趣旨ではないということですね。 ○堂薗幹事 はい。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   では,そのほか御質問,いかがでしょうか。 ○潮見委員 確認のための質問をさせてください。   諮問のところで,堂薗幹事がおっしゃったように,昭和55年以降の社会情勢の変化というのと,それからもう一つの柱で,配偶者の保護の可能性を探るという,この2点を挙げられておりましたが,これは「又は」でつながっているわけでしょうか。   昭和55年以降の社会情勢の変化については,先般の民法の債権関係に関する改正を巡っても,いろいろな議論があったと思います。そうした中で,債権関係部会では何回か申し上げたのですが,その部会での改正の考え方が相続法制にも及ぶ,あるいは及ぶべきであるという部分が多々ございました。そうした部分についてもここで検討をするに値するということなのでしょうか。債権関係法の改正の方も今いろいろ動いているところがございますから,その動きを見ながら,場合によればそちらについても,それなりの審議をここでしても構わないという御趣旨なのでしょうか。それとも,今回の検討課題に挙げられている部分がむしろメインであって,その部分について主として検討するということなのでしょうか。   非常に一般的なお尋ねで申し訳ありませんけれども,何かお考えになるようなところがあれば御説明いただければと思います。 ○堂薗幹事 それでは,ただいまの点ですが,社会情勢の変化あるいは配偶者の生活への配慮というのは,必ずしも「かつ」でなければならないということではないと理解しております。ただ,社会情勢の変化の例示として,諮問事項の中にも高齢化社会の進展,あるいは家族の在り方に対する国民意識の変化が挙げられてはおりますので,主に考慮すべき事項はこれらのものであろうということは言えると思います。   それから,その見直しの方向性についても,一応,「配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等」となっておりますので,それに限られるものではないわけですが,相続法制全般について無制限にというところまでは想定されていないように思われます。もっとも,先程も申し上げたとおり,改正すべき点について御指摘いただければ,事務当局の方で検討させていただきたいと考えております。 ○潮見委員 今のお答えで了解しました。どうもありがとうございました。 ○大村部会長 そのほかは,質問はいかがでございましょうか。   それでは,また質問がございましたら後で出していただくということも妨げませんので,ここから相続法制の見直しについてのフリーディスカッションに移らせていただきたいと存じます。   先ほどの事務当局からの御説明を伺うと,資料第1で,第1の「相続法制の見直しにおける基本的な視点」という総論的な事柄と,それから第2の「考えられる検討項目」というのがございます。検討項目は1から7まで具体的な項目が挙がっているものと,今直前に話題になっていました「その他」の点というのがございまして,本日の資料は,大きく分けると三つに分かれるように思います。   ただ,フリーディスカッションということでございますので,皆様から御自由に,この3点のどれにわたるものであっても結構ですので,御発言を頂きたいと思います。   なお,細かい技術的な点につきましては,この後,個別の問題に即した形で検討を進めていくということになろうかと思いますけれども,本日は初回でございますので,この先の審議全般に関わるような大きな観点からの御意見を頂ければと思います。これは全体についても,それから個別の論点についても,そのように思っております。委員,幹事,どなたからでも結構でございます。 ○中田委員 基本的な視点についての意見というよりも,むしろ御質問になるんですけれども,二つございます。   一つは社会情勢の変化ということに関しまして,相続開始時点での相続人の高齢化という御指摘がございました。他方で,具体的な検討項目を拝見してみますと,配偶者の貢献ということが一つの重要なテーマになっていると思います。そうしますと婚姻期間の長期化という現象があるのかどうかを,もし分かれば教えていただきたいと思います。   と申しますのは,一方で高齢化があるわけですが,他方で晩婚化ですとか,あるいは熟年離婚の増加というようなことがありますと,必ずしも婚姻期間の長期化というのがあるのかどうかがよく分からないものですから,そこを教えていただきたいというのが一つです。   もう一点は,それとも関係するんですけれども,全体を通じて相続債務の問題というのが重要だと思うのですが,それが相続人の高齢化ということと何か関係があるかどうかということです。つまり,若いうちですと住宅ローンなんかを抱えていることがありますが,高齢になってくると,だんだんそういうのが少なくなるというようなことがあるのかどうかです。以上の2点についてお教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 それでは,最初の点でございますが,配偶者の貢献の程度につきまして,婚姻期間が長期化しているという統計は把握しておりませんけれども,高齢者の再婚が増加しているというようなところはございまして,特に60歳以上の方の再婚の割合というのは,昭和55年当時と比較しますと,かなり増加しているという統計資料がございます。   そういった観点から,婚姻形態につきましても様々なものがありますので,昭和55年当時にも議論の対象になりましたけれども,今のように一律に法定相続分で取り分を決めるというようなことがいいのかどうかという辺りは,高齢化との関係でもかなり問題になってくるのではないかという気がいたしております。   それから,2点目の相続人の高齢化と債務との関係については,申し訳ございませんが,正直なところよく分からないところがございますので,もしこの点について何か御存じの方がいらっしゃるのであれば教えていただきたいなと思っているところでございます。 ○大村部会長 中田委員,よろしゅうございますか。 ○中田委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 社会情勢の変化ということと検討課題の関係に関する御質問だったかと思いますけれども,基本的な視点について,ほかにどなたかございませんでしょうか。今の御発言と関わる形,あるいは関わらない形,どちらでも結構です。 ○山田委員 昭和55年当時も,既に高齢化社会へ向かってということで,かなり当時,議論があったかと思います。この改正時に想定していた家族像と,今般,先ほど再婚が増えたというお話がございましたけれども,それに加えて何か大きな変化があるということかどうか,55年当時に2分の1に引き上げた際に想定していた家族像について,分かる範囲でお話を伺えればと思っております。 ○堂薗幹事 現行法は,全ての事案について法定相続分は一律に定められておりますので,配偶者の法定相続分を定めるに当たっては,恐らく典型的な家族モデルというのを想定して,それを前提に決めているということはあるんだろうと思います。   実は昭和55年当時も,婚姻期間によって配偶者の貢献がかなり異なることから,婚姻期間によって法定相続分の割合を変えることが検討されました。その当時の部会資料などを見ますと,婚姻期間が20年を超えるようなものについて現行と同じく法定相続分を2分の1にするという案も提案されておりますので,現行の配偶者の法定相続分は,やはり婚姻期間が相当長期間に及ぶ場合を想定して定められたのではないかという推測がされるところでございます。   ただ,それからかなり家族も多様化して,いろいろなパターンがある中で,現行のままでいいのかどうかというところが正に今問われているのかなと認識しているところでございます。 ○山田委員 ありがとうございました。 ○大村部会長 ほかにこの三十数年の間の社会の変化といったことについて,この際,発言をしておきたいという委員や幹事,いらっしゃいませんでしょうか。 ○南部委員 55年以降の家族情勢というのは,かなり変わっていると考えております。配偶者の居住権の保護というのは,この間の変化を踏まえると必要かなとは考えます。しかし,現在,家族の在り方というのはかなり変わってきておりまして,配偶者だけに今回限定されて検討されるのかどうかというのが質問です。例えば今,話題になっております同性婚であったり,事実婚に対して,どのように考えていくかということも含めた議論を,今後この場でするのかどうかというのが1点目の質問でございます。   もう一つ,今マイクを持たせていただいたので,よろしいでしょうか。   配偶者の貢献に応じた遺産分割についてという項がございます。実際どれくらいのニーズがあるか,救済すべき事例はどれくらいあるのかということを,今日でなくて次回で結構ですので,具体的にデータなどが示せたらお出しいただきたいということでございます。 ○堂薗幹事 まず,第1点目でございますが,当然,配偶者の保護を図るという観点から仮に見直しをいたしますと,当然,事実婚の場合はどうなるんだという議論は出てくるんだろうと思います。そういった意味で,この場でそういった点を含めて御議論いただくことになるんだろうと考えておりますが,他方で,この諮問事項にもありますとおり,「配偶者の生活への配慮等の観点から」という,この「配偶者」は法律上婚姻している者を予定しているというところはあると思います。   それから,配偶者の貢献に応じた遺産分割実現に関して,統計上の根拠をお示しするのは難しいところがあるんですけれども,そういった観点から何か御説明できることがないかどうかという点については,引き続き検討したいと思います。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。そのほか,いかがでしょうか。 ○潮見委員 最初ですから,御検討いただけるのであればというお願いです。   遺留分のところですけれども,今回の検討課題のところの文章にしても,先ほど増田さんがおっしゃられたような部分もありますと同時に,今の遺留分制度というのは,基本的に現物返還というものが原則になっていて,価額賠償あるいは価額返還というのは例外というスキームになっているのですが,果たしてそういうスキーム自体がいいのか。遺留分の減殺請求権あるいは遺留分自体の価値権化という考え方は前からございますし,私自身もそういう方向がある意味では正しい方向ではないのかとも思っているところがあります。   それはともかくとして,そうした観点からの捉え方が今回の配偶者の保護等との関係でどういうふうに枠付けられてくるのかとか,あるいはそれが望ましい方向なのか,あるいは現状の形がまだなお維持されるべきなのか,さらにそれが手続法的な側面でどういうふうに影響を及ぼしてくるのかといったような観点から,法務省事務当局におかれましても少し整理をしていただければ有り難いところです。要するに,現物返還,原状回復それ自体を所与のものとして考えるのではないという方向で,検討いただきたいというお願いです。 ○大村部会長 御意見,御要望として承りました。   そのほかに,いかがでございましょうか。 ○増田委員 要望なんですが,比較法的見地からの検討も必要だと思いますので,事務当局のほうで,できれば諸外国の相続制度について資料を作ってお教えいただければ,大変有り難いと思います。 ○堂薗幹事 次回から個別の論点に入っていければと考えておりますが,その際には,できる範囲で参考になりそうな外国法制などについても御紹介できればとは思っております。   ただ何分,外国法制については我々は非常に不得手な部分がございますので,先生方にもいろいろ教えていただきながら,御議論させていただければと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 比較法的な資料を可能な範囲で準備いただけるということでございますけれども,ほかにはいかがでございましょうか。 ○八木委員 ちょっと卑近な話になりますけれども,昨年来の事件といいますか,社会問題としては,一つはいわゆる後妻業と言われておりますけれども,金持ちの高齢者を狙って結婚して,それで遺産の大部分を持っていくと,こういうのが一つです。   これはワーキングチームで検討した配偶者の貢献をどう評価するのかという部分で一応解決ができるかもしれませんけれども,この辺り,一からまたここで検討していただくことになるかと思います。もう一つは,これまたここのところ問題になっているのは,高齢者の養子縁組ですね。これまたお金持ちの,どちらかというと身寄りのない方を狙った形で,しかも認知症及び認知症の寸前ぐらいのそういう意思能力を持った方を狙った形で養子縁組をして,その財産を持っていく。こういうのも社会問題になっているようであります。   この辺り,国民の多くが関心があると思いますので,この辺もワーキングチームの検討課題にはなってなかったと思いますので,この辺も押さえていただければと思っています。 ○堂薗幹事 今の点も恐らく高齢者の再婚と同じように,現行の配偶者の法定相続分が婚姻期間の長短にかかわらず2分の1となっていることに伴う問題点だろうと思いますので,御指摘の点を含めて検討させていただきたいと思います。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。 ○浅田委員 最初ですから,全般的な意見を申し上げたいと思います。   私は銀行界におるものですが,この部会委員の中には他に経済団体の委員はいないという理解です。その立場,視点から一言お話し申し上げたいと思います。   相続法制については,主には,市民社会,国民社会として法制度がどうあるべきなのかという観点から議論されるべき問題だと思います。   一方で,例えば私ども銀行でありますと,相続に際しては金融商品,預金という相続財産の重要な部分を占める資産をお預かりしている立場でございます。また,最近においては遺言信託など資産づくりのお手伝いや助言をしているという立場でもございます。また,信託併営業務のいては遺言執行者になるという場合もございます。加えて,例えば個人様宛てに住宅ローンとかの取組をすることもございまして,そうした場合には,私どもは相続人に対する債権者としての立場も有することもございます。   こうした場合に相続財産,積極財産と消極財産の両方含みますけれども,それの帰趨については,銀行は非常に大きな関心を持っているということでございます。私どもとしては,その帰趨に非常に大きな関心を持っているのに加えて,その内容がどういうふうに確定するのかということにも非常に関心を持つということでございます。   またその確定の過程において,今回,事務局説明にもありましたように,紛争が長期化,複雑化するということになりますと,つれて取引相手方,例えば銀行にも,その紛争につき合っていかなければならないという状況も生じるわけであります。典型的な例としては,預金の帰属を巡る紛争というのは,日常茶飯事のものです。   今回の提案を見ますと,配偶者を含めて,いろいろな関係者の利害関係をどちらかというと柔軟に設計していこうと看て取れるわけでありますけれども,その設計においては,取引相手方に対する配慮,権利関係がどう確定するのか,どう確知できるのかということも御配慮いただければと思うわけでございます。   加えて,今回の提案の中で第2の6「預貯金等の可分債権の取扱い」は,銀行としても非常に関心のある提案項目でございます。   この点につきましては,業界の中でもまだ議論は十分でございませんので,この場で賛成,反対とかいう意見を申し上げる段階にはございません。ただ,先ほど触れましたとおり,預金をめぐる紛争というのは多いわけでありまして,その中でやはり当然,遺産分割協議をしていても預金は分割承継であるということから来る紛争というのもありますので,この提案というのは非常に私どもとしては関心があると思っています。   考えてみますに,御案内のとおり,個人向け国債,投資信託,一部の郵便貯金について,不分割債権であるというようなことが判例上言われています。預金に関しては,その性質については一部先ほどの債権法改正の審議で議論されたということもありますので,その点も見ながら,預金の性質,また相続に関する取扱いということも,本席で御議論いただければと思います。   長くなりましたけれども,以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。御意見,重要な点だと思います。承りました。   先ほど中田委員からも債務の問題についての御発言がありましたけれども,相続財産中の債務債権双方について検討が必要であるという御趣旨かと思いますが,事務局の方から何かありますか。 ○堂薗幹事 御指摘のとおり,昭和55年の際にも,婚姻期間で法定相続分を分けるという考え方について議論がされましたが,その際には,対債権者との関係で非常に困難な問題が生じるということから断念したという経緯がございますので,債権者との関係で法律関係を明確にするという観点は,この手の見直しをするに当たって非常に重要なところだろうと思います。   それから,預金債権の取扱いにつきましても,例えば仮にこの「6」で書いてあるような方向で見直しをする場合には,遺産分割までの間の法律関係がどうなるのか,個々の相続人による処分といいますか,預金の引出しを認めるのかどうかという辺りを含めて,慎重に検討する必要があると思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。  そのほか御意見,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 東北大学の水野でございます。   先ほど外国法との比較,相続法について比較をという御意見がありましたけれども,比較をするときの難しさを,一言だけ家族法学者の観点から申し上げたいと思います。   つまり,相続法という小さな,小さなというと語弊がありますね,すごく大きな枠ではありますが,でも相続法という枠だけで比較しますと,間違ってしまうリスクがございます。つまり,家族法全体を通してみる必要があると思います。先ほど八木委員から後妻業があるというお話がありましたけれども,それも日本法ゆえというところがございます。日本の家族法は明治民法の家制度を引き継いでおります。そして,これは非常に特殊な家族法でございまして,家の自治を最大限に認める形で設計されておりました。つまり婚姻とか養子縁組は,言わば家のメンバーの家同士のやり取りでございまして,そのやり取りは極端な私的自治,家の自由にまかせて,単にそれを届け出るだけという形になっておりました。そして,それは戦後の改正でも,家の自治が当事者の自治に変わっただけで,基本的に変わっておりません。もちろん家制度を廃止はいたしましたけれども,そういう我が国の家族法の基本的な特徴を維持したまま,最低限の改正をしただけです。外国の場合には,婚姻の手続にしろ養子縁組の手続にしろ,もっとはるかに重い手続で,それを日本は届出だけでできるという問題があります。   それから,特別受益を考えるときにも贈与などが問題になるわけですが,贈与であるとかあるいは遺言の場合もそうですけれども,日本では,まったく私的に行われるのが前提です。日本法の基になったフランス法の場合には公証人,ドイツ法の場合には公証人ではなくて相続裁判所などの公的な機関が関わります。フランスの場合ですと公証人がこの特別受益の贈与にも,あるいは夫婦財産制にも関わり,それから遺産分割に当たっても,不動産があったり遺言があったりする場合には,必ず公証人が関わるということになっております。つまり基本的に,日本のようにもめない遺産分割は全部私的自治に任されているという制度にはなっておりません。   日本で特別受益を主張しますと,相続人すべてが過去にさかのぼって主張をはじめて何が特別受益に当たるかという争いから,すさまじい紛争になってしまいますが,母法のフランスでは,贈与も全部,公証人のところで把握できておりますので,特別受益の計算も,そういうことにならずに機械的に行われるという仕組みになっています。   そういうふうに公証人慣行が関わる,あるいは裁判所が関わるという重い手続で,夫婦財産制についても事前の関与があり,要所要所が押さえられた結果,夫婦の間のことは夫婦財産制の精算で決着がついて,被相続人個人の財産について遺産分割することになりますが,日本ではその辺りのことが全部まとめて相続紛争となり,そうなった相続の場合には非常に決着が難しいことになっております。   ただ,人間の身体が複雑系であるのと同じように社会も複雑系ですので,日本の場合にも,何らかのそのような不備を補完するようなものが働いていて,それは例えば私の僅かに知る範囲ですと戸籍のシステムであるとか,あるいは住民登録,それに印鑑証明などで個人の本人意思の確認がかなりしやすい仕組みが出来上がっていて,そういうものに依存する形で相続が運営され,相続財産取引なども行われてきたのだろうと思います。   もっとも,戦後の改正が家督相続から共同相続に変わったにもかかわらず,それに必要な様々な手続を手当しておりませんでしたので,よくこんなぼろぼろの形で戦後70年間もやれてきたというような相続法の実情であることは確かです。   申し上げたいのは,相続法の外国法との比較といったときに,相当に構造的な,様々な日本固有の問題を抱えておりますので,そういうものについての目配りもしながら今回の議論をしていただければと思います。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。関連する制度を見ながら,実質的に比較せよという御指摘かと思います。   そのほかには,いかがでございましょうか。初回でございますので,是非,検討のための様々な観点,あるいは要検討事項をお挙げいただければと思います。今,検討事項として挙がっているものについての検討の視点も御指摘いただければと思います。いかがでございましょうか。 ○沖野委員 検討の視点ではなくて,むしろ範囲についての質問事項です。配偶者の保護であるのか,実質に応じた対応であるのか,その定式化はともあれ,その財産関係に関連するとなりますと,夫婦財産制の在り方ですとか財産分与をどうするかという問題と密接に絡んでくると思います。夫婦財産制や財産分与は,所与のものとして考えていくのか,それとも,それらについても見直しの余地はあると考えてよろしいのかというのが範囲の問題です。   それから,ちょっと個別の問題かもしれませんし,浅田委員の御指摘で大分分かってきたところもあるんですけれども,一方でのキーワードは多様性とそれに応じた柔軟性,あるいは具体性,具体的な考慮ということかと思うんですが,常にそこにはそれに伴う紛争の多発や複雑化,長期化,あるいは証明等の困難ということが指摘されていて,さらに幾つかの項目については,結果に対する予測可能性の低下ということも挙げられています。そして,特に最後の予測可能性という点なんですけれども,関係者全員にとって予測可能性という問題はあると思うんですが,取り分け誰の予測可能性をこの分野は問題にすべきなんだろうかというのが,あるいは財産法の場合とは違ってきたり,個別の問題で違ってくる面があるかと思いますので,現時点でこのような整理だということがあれば教えていただければと思います。もちろん,むしろそれ自体を検討していくべきだということかとは思います。   繰り返しですが,先ほど浅田委員から債権者の視点とあるいは対第三者の視点ということがあるというのを御指摘いただきましたので,一部疑問は氷解しております。 ○堂薗幹事 まず,夫婦財産制との関係でございますが,当然配偶者の法定相続分などについて検討する際には,夫婦財産制との関係というのは非常に密接に関わってきますので,そこをどう整理するのかという辺りは,この諮問事項にも含まれ得るのではないかと思います。   例えばでございますが,死別による婚姻関係の終了の場合にも,別産制自体は維持しながら,財産分与と同じように相続の前に夫婦財産を清算する手続を設けるべきであるという御指摘もされているところでございますが,そのような見直しは,要するに相続の対象となる範囲を現行法よりも狭めて,その前の段階で,相続とは別の清算手続を設けるということになるわけでございますけれども,現行法を前提としますと,やはり相続に関する規律の変更ということになると思います。したがって,そういった意味で,夫婦財産制につきましても,正に相続に関する規律の見直しと言えるものについては,検討対象に含まれ得るというのが,一応こちらの理解でございます。   それから,御指摘いただきました家族形態の多様性とそれに応じた柔軟性の問題と,紛争の複雑化,長期化,あるいは予測可能性の問題,これは正に二律背反のところがございますので,ここをどういう形で調整するのか,どこでバランスをとるのかというのが今回の見直しの最も難しいところであり,重要なところではないかとこちらでも認識しているところでございます。   相続の場面では,誰にとっての予測可能性を重視すべきかという点については,こちらでは全く定見もございませんので,その点についても御議論を頂ければと考えているところでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   ほかの御意見,いただけますでしょうか。 ○水野(紀)委員 先ほど申し上げるべきことだったように思うんですが,今の沖野委員の御発言で,一言また付け足したいことを思い出しました。   先ほど申し上げた大体重い手続になっていると申し上げたものの一つは,被相続人が取引社会の中で取引の主体として様々な活動をしておりまして,責任財産を持ってそれに応じて,債権者たちと取引をしているわけですけれども,その主体が消えてしまうということになりますと,その主体の喪失について何らかの整理が必要になります。それは,我々の市民社会の中では非常に必要な作業ですし,それにふさわしい一定の手続が諸外国の場合には組まれているのですが,日本の場合には,先ほど申しましたけれども,家督相続でございましたので,その主体が自動的に次の一人に1対1に引き継がれるということで,かなりその手間を省いても余り困らないということがございました。   その結果,この部分が非常に後れておりまして,言わば放置されたまま何十年もたっているというふうなことがございます。それは,第三者が絡んできたときには,その途端に銀行業界などにも御苦労を掛けているわけですが,難しいことになるんですが,そうではなくて紛争が生じない限り長々とそのままになっていて,私の大学は被災地にございますけれども,今度の大震災でたくさんの被災地の整理をしなければならないということになりますと,その土地の1筆の土地に一体何十人,何百人の方々の承諾を得なければならないのかということで,非常に現場も困るということになっております。   そういうふうに,ずっと放置されている限り,いつまでも遺産分割がはっきりしないというふうな形で回ってきてしまったという日本の相続法の戦後の改正の問題点というのも,これも構造的な問題の一つでございます。   家族法学会,学説自体,相続財産の議論をするときに,誰にどれだけ取らせるかというふうな形の議論は比較的進んでやってまいりましたけれども,その相続の清算の過程について,いかにしてこれを素早くきれいにし,第三者に対する関係でも安定したものにするかという観点からの研究というのは比較的後れていたように思います。   そういう意味では,家族法学者たち,民法学者たちの力不足を,この部会でいろいろと御迷惑を掛けることになるのかなという気がいたしますけれども,そういう問題も抱えておりますということを申し上げたいと思います。   民法の先生方が異論がおありでしたら,どうぞ御訂正ください。 ○大村部会長 ありがとうございました。民法の先生方に限りませんが,皆さん何かございましたら,御発言を頂きたいと思います。   今,手続に関するお話がございましたけれども,手続法関係の御専門の方も少なからずいらっしゃると思いますが,何かこういう点に注意すべきだといった御指摘がもしこの段階でございましたら,伺えればと思いますが,いかがでしょうか。   ほかに御発言ございませんでしょうか。事務局のほうでは,こういう点について伺っておきたいというようなことはありませんか。 ○堂薗幹事 この資料では,遺言については,具体的な見直しの方向性を示すことができておりません。現行の遺言制度がどの程度利用されているかという点につきまして明確な統計はないんですけれども,公正証書遺言の作成件数ですとか,あるいは遺言の検認手続の件数などを見ましても,やはり全体の相続に占める遺言相続の割合というのは,まだかなり低いというところがございまして,そういった観点から,もう少し遺言相続が増えるようにすべきではないかという御指摘もございます。   他方,遺言による相続が増えますと,今度は遺言能力についての争いというのが増える可能性もございますので,遺言能力に関する争いはなるべく生じないようにしながら,遺言相続が増えるような方策はないかと,こちらでも考えてはいるんですが,なかなか妙案がない状況でございます。   このような観点から,遺言制度の見直しについて何か御意見やご示唆をいただけると,大変助かりますが,何かございますでしょうか。 ○窪田委員 遺言そのものが増えるほうがいいのか,そうではないのか,それはやはりよく分からないところがあるだろうと思います。遺言という制度を知らないので利用しないわけではなくて,遺言というのが場合によってはかえって紛争を巻き起こすということがあるからこそ,法定相続に委ねるという選択もあるのだろうと思います。   その意味では,遺言全般を全部見直すかどうかというのは所与の問題として扱う必要はないと思いますが,ただ,今回の扱う材料との関係で言いますと,ある種の遺言に関しては少し検討を加えた方がいいのではないかもしれないと考えています。   具体的には後継ぎ遺贈と呼ばれる領域です。後継ぎ遺贈に関しましては,そういった将来の所有権の帰属について,処分することができるのかどうなのかといった抽象的な議論もあるのですが,恐らくは生存中,配偶者に居住権を与えるという一つの方策として使われてきたという側面もあると思います。そうだとすると,今回の相続制度の見直しとの関係では,ある種,目的を共通にするような部分もある。そうだとすると,そうした遺言について一定の手当をする,どのような場合に,どのような範囲で有効とするのかといった点は,検討の対象になるのかなと思います。   その上で,恐らく先ほどからちょっと出ていた点にも関わることですし,また,どこまで範囲を広げるのかについては難しい部分があるだろうと思いますが,恐らく信託との関係についても,その点ではやはり全く検討せずには済まないだろうなという気がいたしております。限られた範囲でということにはなりますが,そうした点は検討対象になるのかなと感じている次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   沖野委員からも手が挙がっていたと思いますので,続けてお願いいたします。 ○沖野委員 遺言に関してなんですけれども,今回の諮問の問題意識というのを十分に理解していないところがありますので,それからはずれるのかもしれませんが,遺言自体については,現行法の下で一体何が遺言でできるのかということが非常に不透明であると感じております。窪田委員のおっしゃった後継ぎ遺贈もそうですし,先ほど例えば債務の関係ですとか,あるいは主体の消滅に伴う清算ということを考えたときに,例えば遺言でこの財産を売却して,そうして弁済をして,それから分けるというような形ですとか,あるいは単純に売却して分けるようにというような遺言というのは,恐らく現在もあるのではないかと理解しておりますし,遺言執行者が付いていれば遺言執行者がやるということになるんですけれども,そもそもなぜそんなことができるのか,例えば売却せよというような遺言ができるのかということを,改めて考えると,なぜできるのかがよく分からないということがあります。財産処分の範疇として何でもできるのであれば,どのような処分もできるのかもしれません。オプションを与えるということなのかもしれません。大元から現行法の下で一体どういうことができるのかと,それがまたどういうことが必要であるのかというのと,両方は絡んでいるんだと思うのですけれども,なかなか制度的な根拠も十分でないまま動いているというところがあちこちにあるように思われます。   そういったもののうちどこまでを今回対象とするのかという,その線引きが,私自身ちょっとよく分からないところがあります。言い出したら切りがないというところもありまして,遺言執行者の権限だとか,その地位というのを改めて考え直す必要もあるように思います。そういったことを言っていくと,どんどん相続法のいろいろなところを検討していく必要が出てくると思うのですけれども,今回の検討対象とすべき問題としては,様々に波及的に検討課題が生じうる中で,諮問事項の問題意識によってどこで線を引くのかということだとは思うんですけれども。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。遺言事項の明確化という点も,遺言をもう少し積極的に活用すべきだという方向で考えるのであれば,それに資する面があろうかと思いますので,そういった点も含めて,検討させていただきたいと思います。   どうもありがとうございました。 ○沖野委員 先ほどの発言の補足を少しだけさせてください。遺言の活性化自体が,それ自体追求すべき価値なのかどうかということは分からないんですけれども,他方で多様な家族関係に対応するということの一つの方策はあるいは遺言ということかもしれない。ただ,遺言者の濫用ということもあり得ますので,それを抑えながらだということだと思いますけれども,そういう観点から,遺言の手法の一定の活用ということはあるのかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○浅田委員 制度の見直しにおいては,立法事実の確認が必要だとは思います。その点私はデータ等は持ち合わせておりませんが,日頃銀行実務で経験して感じたことをお話し申し上げますと,特に自筆証書遺言に関してはトラブルが多いということでございます。後日,その有効性をめぐって紛争に発展するのは日常的なことかと思っております。   紛争の原因には,もちろん遺言能力とか,そういう根本的な議論もありますけれども,一つ気付きますのは,遺言には一定の方式を整えなければならない。方式違背の場合には無効になる懸念があるということであります。例えば日付の記入漏れであるとか,一部パソコンで作ったとか,押印漏れだとかいうことの例に接することが多いわけです。もちろん偽造防止の観点から言ってこれは確保しなければならないということもあるわけですけれども,ただ,このようなパソコンがはやっている時代において,それが必須なのかどうかということは疑問に思うことがあります。   リテラシーの向上で対応すべきということもあるかもしれませんけれども,常識に照らして,これでいいと思ったものが形式要件の点で後に引っくり返される懸念があり,そのときにはその当人はいないという状況にも鑑みれば,遺言の形式要件については今一度見直したほうがいいのかなとは思います。   次に,公正証書遺言に関しても,これはもちろん公証人の関与の下,作成されるものですから,法的安定性があると一般的には思われているところでありますけれども,これも例は少ないながら,やはり紛争が生じることがあります。遺言能力をめぐる紛争が後日起こるということもあるわけでございます。   これは私が考えるに,遺言作成上の運用ということもあるのかもしれないなと思っております。原則どおりの遺言者が口授をして,公証人が作成して,それを遺言者に読み聞かせるというプロセスを経ているというものであれば,その遺言能力が問われる,疑問に思われるということは,遺言の作成時に遺言者がそういうことができたわけですから,事実上ないのかなとは思います。一方で,そういう事例があると仄聞するのですけれども,なかなかそういうことができない高齢の方については,一定の書面をあらかじめ用意して事実上それを口授したという形にして,公証人が読み聞かせ,それに遺言者が「はい」と言って,それで遺言が作成されるというようなことも運用として行われているやに聞いております。こうした場合においては,特に遺言能力をめぐる紛争が多いのかなと思っております。   公証人が関与して作成した遺言については遺言能力についてチャレンジする場合の要件を厳しくするとか,ないしは有効とみなすとか,さらには銀行に関していえば免責の要件を低めるとか,いろいろなやり方はあるとは思いますけれども,公正証書遺言という一定の方式のものであれば,法的安定性が維持されるような運用制度というのが望まれると思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。遺言につきましては,今回の具体的な検討課題との関係でも問題になるのではないかというのが窪田委員からの御発言だったかと思います。複数の委員が御指摘になっているかと思いますけれども,柔軟な多様な選択肢をあつらえるということになりますと,それに伴って不安定さが出でくる。遺言についてもそうした不安定さの解消が求められるのではないかという御意見を伺ったと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。   様々な要請に応えることになると,制度は複雑になってトラブルが増える可能性がある。ならば,こういうトラブルを塞いでおいたら,よりよい制度少になるのではないかということも,それぞれの場面で皆さまお感じになっているのではないかと思いますけれども,そのような御指摘もあれば承りたいと思います。   他にご発言がなければ,今日のところは,この辺りでよろしいでしょうか。   本日頂いた意見につきましては事務局の方で検討していただき,次回以降の審議に反映させていただけるかと思います。   また,今後の審議の中で御意見,あるいは御疑問等も生ずることがあろうかと思いますけれども,そうしたものにつきましては審議会の席上はもちろんですが,あるいは事務局宛に個別にもご連絡を頂ければと思っております。   ほかに,何かございますでしょうか。   では,本日はこの程度にさせていただきたいと存じます。   最後になりますけれども,事務当局に次回の議事日程等についての御説明を頂きたいと思います。 ○堂薗幹事 それでは,ありがとうございました。   次回の議事日程でございますが,次回は5月19日火曜日の午後1時半から5時半までを予定してございます。場所は本日と同じ20階の第1会議室でございます。   次回の議題は「生存配偶者の居住権を法律上保護するための措置」を今のところ予定しております。次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 それでは,民法(相続関係)部会を閉会させていただきます。   本日は御熱心な御審議を賜りまして,ありがとうございました。 -了-