法制審議会 民法(相続関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成27年5月19日(火)自 午後1時30分                      至 午後5時17分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,予定の時刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第2回会合を開催いたします。   議事に入ります前に,本日初出席の委員がおられますので,自己紹介をお願いしたいと存じます。   上西委員,お願いいたします。 ○上西委員 税理士の上西でございます。日本税理士会連合会の常務理事をしております。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。   それでは,本日の配布資料をまず事務局の方で確認していただきたいと存じます。 ○大塚関係官 法務省民事局付の大塚でございます。   まず,資料につきまして,御確認をお願いいたしたいと存じます。   まず一つ目が,両面で13ページの右肩に資料2と書いてあります,「相続法制の見直しに当たっての検討課題(1)」でございます。後ほど,これにつきまして,主なところを御説明いたします。それから,机上に配布させていただいております緑のファイルは,各国の相続法制についての調査研究をまとめた「各国の相続法制に関する調査研究業務報告書」でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   では,資料2に基づいて,説明の方をお願いいたします。 ○大塚関係官 最初に御紹介いたしました資料2の内容につきまして,主なところを御説明いたします。   第1の「問題の所在等」からですけれども,配偶者の一方が死亡した場合でも,他方の配偶者は,それまで居住してきた建物に引き続き居住することを希望するのが通常と考えられます。特に,相続人である他方の配偶者が高齢者であるような場合には,住み慣れた居住建物を離れて新たな生活を立ち上げるということは,精神的にも,肉体的にも大きな負担となると考えられますことから,高齢化社会の進展に伴って,このような居住権,つまり居住建物の使用を認めることを内容とする権利を保護する必要性は,高まっているのではないかと考えられるところでございます。   このような相続に伴う居住権の保護に関しましては,平成8年12月17日の最高裁判決ございまして,その内容は,共同相続人の一人が被相続人の許諾を得て遺産である建物に同居をしていたときは,特段の事情のない限り,被相続人と当該相続人との間で,相続開始時を始期とし,遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認されるというものでございました。この判例によりますと,この要件に該当する限りは,相続人である配偶者は遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権が確保されるということになります。   ただ,この判例法理は,飽くまでも当事者間の合理的意思解釈に基づくものであるため,被相続人が明確にこれとは異なる意思を表示していた場合には,保護の対象とされないという事態が生じ得ることになります。   また,国民の平均寿命が延びたことにより,被相続人の死亡後も,配偶者が長期間,生活を継続するということも少なくないように思われます。このような現状を踏まえますと,生活保障を強化する観点からは,配偶者が住み慣れた居住環境での生活を継続したいと希望される場合に,その意向に沿った遺産の分配を実現するための方策につきましても検討が必要と考えられます。   現行法の下におきまして,そのような希望に沿う方策を考えた場合には,配偶者がその建物の所有権を取得するか,あるいは所有権を取得したほかの相続人との間で賃貸借契約などを締結するということが考えられるところではございますが,前者の所有権を取得するという方法を採った場合には,評価額が高額となって,配偶者がそれ以外の遺産を取得することができなくなり,その後の生活に支障を来すという場合も生じ得ます。また,後者である賃貸借契約を締結しようとしても,例えば相手との折り合いがつかなくて契約成立に至らないということになりますと,やはり居住権は確保されないということになります。   このような問題の所在を踏まえまして,今回は配偶者の居住権を法律上,保護するための措置として,遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権と遺産分割終了後の長期的な居住権につきまして,それぞれ検討をしております。これら二つの方策につきましては,内容的に両立しますので,両方併せて採用するということも可能でございます。   まず,第2の遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権,短期居住権につきましては,  次のような方策を講ずることが考えられます。   2ページの①から順に読んでまいりますが,配偶者は,相続開始のときに遺産に属する建物に居住をしていた場合には,遺産分割が終了するまでの間,引き続き無償でその建物を使用することができる。   ②,この短期居住権を取得したことによって得た利益については,配偶者が遺産分割において取得すべき財産の額(具体的相続分額)には含めない。これはつまり,短期居住権は相続における配偶者の取り分とは別個に与えられるという位置付けでございます。   ③ですが,①のような場合には,被相続人が遺言等で配偶者以外の者に,その建物を取得させる旨定めていたときであっても,配偶者は一定期間,例えば1年間は無償でその建物を使用することができる。   ④,配偶者は,短期居住権を第三者に譲り渡し,又は建物を転貸することはできない。   ⑤として,短期居住権は,その存続期間の満了前であっても,配偶者が建物の占有を喪失し,又は配偶者が死亡した場合には消滅すると,このような方策を考えておるところでございます。   この「基本的な考え方」についてですが,この方策は,最高裁の判例ですとか,あるいはフランス法を参考にして,相続開始から遺産分割終了までの比較的短期間につき,配偶者がその居住建物に無償で居住するということを認めることとするものでございます。   先ほど御説明した判例では,被相続人がその配偶者との間で使用貸借契約を結ぶ意思を有していなかったことが明らかな場合には,居住権は保護されないということになりますが,この方策によりますと,このような場合であっても,一定期間は居住権が保護されるということになります。   少し飛びまして,3ページ目の「検討課題」,「法的性質等」に移らせていただきます。   短期居住権を有する配偶者は,法定の期間,無償でその居住建物を使用する権利を有しますけれども,その法的性質をどのように位置付けるかということにつきましては,大きく二つ,法定の債権,これは法定の使用借権等が考えられますが,このような構成,あるいは新たな用益物権とすることが考えられるところでございます。   この方策は,配偶者の居住権保護の観点から,③のように,被相続人が配偶者に短期居住権を取得させる意思を有していなかったことが遺言等によって明らかである場合にも,当然に一定期間の短期居住権を配偶者が取得することとし,その点については強行法規性を持たせるということとしております。その場合,いかなる根拠でそれを認めるのかということが問題となりますが,考えられる説明といたしましては,配偶者双方,例えばAさんとBさんが相互に同居・協力・扶助義務を負っており,この義務が一方の配偶者,例えばAさんの死亡によって消滅するものの,このAさんは,自らの死亡後に,他方の配偶者であるBさんが直ちに建物からの退去を求められるような事態が生ずることがないように配慮をすべき義務を負うと,このように解することが可能と考えられ,このような観点から,被相続人であるAさんの財産処分権に一定の制約を課すということが是認されるのではないかと,このような説明が考えられるところでございます。   他方,短期居住権は,配偶者に一身専属的に帰属するものとし,他人に譲渡することはできず,配偶者の死亡によって消滅することとしております。   次の(2)の配偶者の具体的相続分との関係につきましては,結論的に②で御紹介したとおり,短期居住権は相続における配偶者の取り分とは別個に与えられることとしております。   次のページにある(3)の短期居住権の取得要件についてでございますけれども,先ほど紹介しました判例は,使用貸借契約を推認する要件として,共同相続人の一人が「被相続人の許諾を得て建物に同居していたこと」を挙げております。これに対しまして,今回の短期居住権というものは,被相続人の意思に反する場合にも配偶者の居住権を保護するということとしておりますため,必ずしも,短期居住権の取得要件として被相続人の許諾を得ていたということを要求する必要はないように考えられます。   また,例えば,被相続人が自宅から離れた所で単身赴任をしていたため,相続開始時には配偶者が被相続人と同居をしていなかったという場合についても,配偶者の居住権保護の必要性は,同居していた場合とさほど変わりはないと考えられるところでございます。   そこで,①では,短期居住権の取得要件としては,「相続開始の時に遺産に属する建物に居住していた場合」としまして,被相続人の許諾を得ていたことですとか,あるいは被相続人と同居していたということまでは要件としておりません。   次に,イの「短期居住権の存続要件について」でございますが,相続が開始した時点で,①の要件を満たしていた場合であっても,配偶者がその後自らその居住建物から退去した場合についてまで,あえて特別の保護を付与する必要性までは認め難いと考えられますことから,⑤のとおり,居住建物の占有の継続を存続要件としております。   次に,4ページ(4)の効力等ですけれども,短期居住権の法的性質をどのように見るかにもよるところではございますが,いずれにしても短期居住権は法定の権利ですので,その権利義務の内容は法定するという必要がございます。具体的には,居住建物について,配偶者に無償での使用権限を認める一方で,居住建物の使用や保管について,配偶者に善管注意義務を負わせるということが考えられるところでございます。   他方で,所有者側につきましては,仮に短期居住権の法的性質を用益物権と見た場合,居住建物の所有者である各相続人に配偶者に対する義務を認めるのは,なかなか困難ではないかとも考えられるところでございます。これに対して,法定の債権と見た場合には,配偶者に対する義務の内容をどのように定めるかが問題となります。この点につきましては,配偶者が無償で建物を使用することなどに鑑みて,使用貸借の貸主と同じように,所有者は修繕義務などは負わずに,基本的には,所有者は配偶者による居住建物の使用を受忍すれば足りるとすることが考えられるところでございます。   また,短期居住権は,飽くまでも配偶者の短期的な居住の利益を確保することを目的としておりますので,短期居住権を有する配偶者に居住建物の収益権限を付与するということまでは想定をしておりません。   この下の(注)について簡潔に触れますが,公租公課につきましては,短期居住権の存続期間中は所有者ではなくて,実際に建物を使用する配偶者が固定資産税などを負担するのが相当ではないかと考えているところでございます。   次に,イの存続期間につきましては,①でも触れましたとおり,相続開始時から遺産分割の終了までの間としております。   また,被相続人が相続させる旨の遺言などによりまして,配偶者以外の者に居住建物を取得させる旨,定めておったという場合には,居住建物について遺産分割を行う必要がないということになります。そうしますと,短期居住権が遺産分割終了までの権利だとしますと,この場合は配偶者が短期居住権を取得する余地がないということになってしまいかねませんので,その対策として,③で述べましたとおり,このような場合にも一定期間,例えば1年間については,配偶者に短期居住権を付与することとしております。   他方で,当該建物の帰属を含めた遺産分割の協議が長期間に及んだ場合には,その間も配偶者が無償で住み続けられることになりますため,例えば配偶者が遺産分割の協議をあえて引き延ばすなどした場合には,他の相続人の利益を不当に害することになるおそれがあるところでございます。   そこで,短期居住権の存続期間については,上限を設けることにつき検討が必要と考えられるところでございます。   次に,ウの「第三者対抗力について」ですが,短期居住権にこのような対抗力を付与する必要性があるかどうかは,やや疑問もあるところではございますが,仮にこの後紹介します長期居住権について占有を第三者対抗要件としますと,短期居住権についても同様に居住建物の占有を第三者対抗要件とすることが考えられます。   ただ,短期居住権について第三者対抗力を付与することとしますと,配偶者は被相続人の死亡と同時に短期居住権の第三者対抗力を取得し,その後に建物を差し押さえた一般債権者に優先するということになろうかと思います。このため,一般債権者の側としましては,履行遅滞にある債務者が高齢であるような場合には,例えば相続開始を避けるために早めに差押えをしてしまって債権を保全するといったようなことが考えられ,その結果,かえって配偶者が早期に家から追い出されるということにもなりかねないのではないかと懸念されるところでもあります。この点につきましては,なお検討が必要と考えているところでございます。   最後に,(5)の消滅事由につきましてですが,短期居住権の主な消滅事由としては,消滅期間の満了のほか,占有の喪失,あるいは配偶者御自身の死亡が考えられるところでございます。このほかに,配偶者が居住建物の使用,保管について善管注意義務に違反をしたような場合,例えば建物を著しく汚した場合には,ほかの相続人に短期居住権の消滅請求権や解除権を認めるということが考えられるところでございます。   ここまでが,短期居住権についての御説明でございました。   次に,6ページの第3と記載しております,長期的な居住権の保護としての方策でございますが,これにつきましては①から⑥に記載しております。   以下,読み上げますけれども,①配偶者が相続開始のときに居住をしていた被相続人所有の建物を対象として,遺産分割終了後にも配偶者にその建物の使用を認めることを内容とする法定の権利,以下,これを長期居住権と呼びますが,これを新設し,配偶者は遺産分割の協議又は審判等において,終身又は一定期間,効力を有する長期居住権を取得することができるようにする。   ②,配偶者が長期居住権を取得した場合には,配偶者はその財産的価値に相当する金額を相続したものと扱う。   ③,配偶者は,これは法的性質にもよりますが,①の建物を占有しているとき又は長期居住権の登記を備えたときは,長期居住権を第三者に対抗することができる。   ④,配偶者は,所有者の承諾を得なければ長期居住権を第三者に譲り渡し,あるいは①の建物を転貸することができない。   ⑤,長期居住権は,①の存続期間の満了前であっても,配偶者が死亡した場合には消滅する。   ⑥,被相続人は,遺言又は死因贈与によって,配偶者に長期居住権を取得させることができる。このような方策を考えているところでございます。   この方策の基本的な考え方でございますが,この方策は,遺産分割において配偶者が住み慣れた居住環境での生活を継続することを希望する場合に,その意向に沿った遺産分割を実現するための措置を講ずるものでございます。配偶者に居住建物の使用を認めることを内容とする長期居住権を今回新設して,建物の財産的価値を居住権の部分と,その残りの部分とに二つに分け,これによって,配偶者が居住建物の所有権を取得するよりも安い価格で建物に居住する権利を取得することができるようになると考えているところでございます。   もっとも,長期居住権の存続期間が相当長期に及ぶ場合には,結局のところ居住権の評価額も,所有権を取得する場合とほとんど変わりがないということにもなると考えられます。したがって,長期居住権は,例えば遺産分割時に配偶者が既に高齢に達している場合などにおいて,より有効性を発揮するものと考えられます。   また,現行法の下では,例えば配偶者の一方である被相続人が,他方の配偶者の居住権を保護するとした上で,その死亡後には,確実に自分の子供が建物を相続できるようにしたいと,このように思っても,遺言等によってこれを実現するというのは,現行法上,困難でございますが,今回の方策を講じた場合には,例えば遺言によって配偶者には居住建物の長期居住権を,子には居住建物の所有権をそれぞれ取得させるということが可能になるものと考えられます。   次に,長期居住権の法的性質につきましては,法定の債権,例えば法定の賃借権等と構成することや,新たな用益物権と構成するということが考えられます。   この点につきましては,長期居住権を有する配偶者と建物の所有者との間に一定の債権債務の発生を認めるか否かというところにも関わりますが,例えば建物の一部が損傷したような場合に,その所有にその部分の修繕義務を認めるのでありましたら,少なくともその部分は法定の債権・債務関係ということになると考えられます。   これに対して,建物の所有者が長期居住権の存続期間中は建物の使用権限がないにすぎず,配偶者に対して義務を負うものではないということにしますと,あえて法定の債権と位置付ける必要はないとも考えられます。特に長期居住権につきまして,占有をもって第三者対抗要件としますと,長期居住権は,通常,発生と同時に常に物権的効力を有することになりますので,その点では用益物権と説明をした方が,実態には合致するのではないかと考えられるところでございます。もっとも,長期居住権を用益物権と仮に位置付けますと,特段の定めを置くのでない限り登記が第三者対抗要件になると考えられますので,新たな登記制度を設けるまでの必要性があるかどうかについては,なお検討の余地があるかと思います。   次に,「配偶者の具体的相続分との関係」ですけれども,この方策は,ほかの相続人への影響も考慮しまして,②で御紹介しましたように,配偶者は長期居住権の財産的価値に相当する金額を相続したものと扱うこととしております。その結果,配偶者は,居住建物以外の遺産からは,自分の具体的相続分から長期居住権の財産評価額を控除した残額について財産を取得することになり,配偶者が長期居住権を取得しても,ほかの相続人の具体的相続分は変わらないということになります。   続きまして,(3)の「取得要件」でございますが,長期居住権の発生原因については,全て法定する必要があると考えております。この点につきましては,例えば遺産分割の協議,調停又は審判,あるいは被相続人の遺言,そして死因贈与を発生原因とすることが考えられます。   イの「相続開始時に配偶者が居住していたことを要件とすべきか否かについて」でございますが,長期居住権は,配偶者の居住権保護の観点から新設する権利でありますところ,その権利主体を配偶者に限定していることに鑑みて,①のとおり,その保護要件として,配偶者が相続開始の時に,その建物に居住をしていたことを要求しているところでございます。   ただ,配偶者が長期居住権を取得した場合でも,ほかの相続人の具体的相続分には影響を及ぼさないとしていることに照らしますと,配偶者に特段の保護要件まで課さずに,被相続人所有の建物でありさえすれば長期居住権を設定することができるとすることも考えられます。   なお,長期居住権につきましては,短期居住権と異なりまして,占有を存続要件とすることは想定をしておりません。   続きまして,長期居住権の内容でございますが,長期居住権は,配偶者にその居住建物の使用を認めるものですが,その財産評価を適切に行うことができるのであれば,制度上は,建物使用の対価について,有償,無償のいずれとすることも可能であり,また事案に応じてそのいずれかを選択することができるということも可能ではないかと考えております。   他方,長期居住権は,飽くまでも配偶者の居住の利益を確保することを目的とするものでありますので,配偶者がその建物から収益を上げるということまでは想定をしておりません。ただ,例えば遺産分割において,配偶者が終身の長期居住権を取得したものの,その後に御本人の体調が悪化して養護施設に入所する必要が生じてしまったという場合のように,遺産分割の後になって事情変更が生じた場合の対応策として,配偶者に長期居住権の譲渡を認めるかどうかというところにつきましては,別途検討する必要があろうかと思います。   この点につきましては,居住建物の所有者は建物の使用者がどのようなものであるかについて重大な利害関係を有していること,それから民法上は使用貸借,あるいは賃貸借のいずれにおいても貸主の承諾を得ずに,その権利を譲渡,あるいは転貸することはできないとされていることに照らしますと,配偶者が長期居住権を第三者に譲渡,あるいは転貸するには,建物所有者の承諾を要件とするのが相当と考えられるところでございます。   10ページのイ,「存続期間」に移らせていただきます。   長期居住権の存続期間につきましては,基本的には配偶者の具体的相続分の範囲内で,例えば終身期間とすることも含めて,配偶者の希望に応じて定めることになると考えられるところでございます。   もっとも,所有権を取得する方の相続人は,長期居住権の存続期間中はその建物の使用,収益を自ら行う権限がないということになりますため,できる限り長期間にわたって長期居住権を取得したいという配偶者と,これをできる限り短期間にとどめたいほかの相続人との間で利害が対立することも想定されるところでございます。   したがって,このような場合に,配偶者とほかの相続人の利害の調整をどうするべきかという点を検討する必要があると考えております。   次に,ウの「第三者対抗要件について」でございますが,長期居住権は,存続期間が長期に及ぶことが想定されますので,その分,建物所有者によって建物の処分が存続期間中にされるというおそれが高まると思われますことから,このような場合でも,居住権を保護するために,第三者対抗力を付与するのが相当ではないかと考えておるところでございます。   では,何をもって第三者対抗要件とするかにつきましては,法的性質をどのように考えるかにもよると思われます。   まず,長期居住権を新たな用益物権と位置付けた場合には,登記を第三者対抗要件とすることになると考えられます。また,配偶者が簡易に第三者対抗要件を取得することができるようにするために,登記だけでなくて占有についても第三者対抗要件とするということも考えられるところでございます。   これに対しまして,長期居住権を法定の債権と位置付けた場合には,登記を第三者対抗要件とすることも考えられるところではございますが,賃借権と同様に,居住建物の占有をもって第三者対抗力を付与することにも相応の合理性があると考えられます。また,居住建物の占有のほかに登記も第三者対抗要件とすることも併せて考えられるところでございます。   次に,(5)の「長期居住権の財産評価」でございますが,このような長期居住権を新設するとした場合には,遺産分割において,この財産評価が必ず必要になりますので,では,どうやって財産評価を行うのかというところが問題となります。   この点につきましては,仮に長期居住権を有する配偶者が無償でその建物を使用できるとするのでありましたらば,この財産評価については遺産分割時に配偶者が自らの相続分によって賃借権類似の権利を取得するとともに,存続期間全体について賃料相当額の全部前払いをしたのと同様の評価をすること,すなわち,建物賃借権の評価額に,存続期間分の賃料総額から中間利息を控除したものを加算するという方法が考えられます。   これに対して,長期居住権を有する配偶者が,その存続期間中に建物所有者に対して賃料相当額をずっと支払い続けるということを前提としますと,その財産評価は,賃借権自体の評価とほぼ同様の方法によることになるものと考えられるところでございます。   次に,(6)の「消滅事由」でございますが,これは存続期間の満了と,それから配偶者の死亡が考えられるところでございます。   このほか,配偶者が使用,保管について善管注意義務に違反している場合ですとか,あるいは勝手に譲渡,転貸をしたという場合には,この義務違反を理由として,長期居住権の消滅請求権,あるいは解除権を建物所有者に認めるということが考えられるところでございます。   12ページの「その他の検討課題」でございますが,まず,「他の共同相続人との関係(長期居住権の優先取得について)」でございます。   現行法の下では,遺産分割において,どの相続人がどの財産を取得するかということについて相続人間の協議が成立しない場合には,裁判所が審判においてこれを定めるとされておりますけれども,長期居住権については,配偶者が長期居住権の取得を希望した場合に,他の相続人に優先してその取得を認めることとすべきではないかというところが問題となります。   この点につきましては,配偶者の保護を十全のものとするために,何らかの優先権を認めるということも考えられますが,他方で,これを無条件に認めてしまいますと,居住建物の所有権を取得するほかの相続人の利益との衝突が問題となり得ますので,優先権を認めるとしても,その範囲を限定するのが相当と考えられます。   具体的には,こちらの㋐,㋑のような方策を講ずることが考えられるところでございます。   ㋐は,配偶者が,例えば10年間について,ほかの相続人に優先して居住権を取得できるけれども,この10年なら10年を超える期間の長期居住権の取得を希望した場合には,家庭裁判所の方で,その当否を決するという方策です。   他方,㋑は,原則として配偶者に優先権を認めるとする一方で,家庭裁判所の方で各種の事情を考慮し,このような優先権を認めるのは著しく不当だと認められる特段の事情があるという場合には,長期居住権の取得を認めない,あるいは存続期間の制限をするということができるようにすると,このような方策が考えられるのではないかと思っておるところでございます。   次に,イ,「敷地所有者との関係について」ですが,被相続人が建物とその敷地を所有していた場合を想定すると,第三者からの建物退去請求に対して,配偶者がそれを拒むということは可能であると考えておりますけれども,遺産分割により建物とその敷地の所有権を取得したほかの相続人が,その建物のための敷地利用権を設定しないでその敷地を第三者に売却してしまったという場合には,配偶者は,この第三者に対して,敷地の占有権原を主張することができない結果,原則として第三者からの建物退去請求を拒むことができないことになってしまうと考えられるところでございます。   そこで,このような事態が生ずることがないようにするために,配偶者の居住建物だけでなくて,その敷地についても,例えば新たな用益物権ですとか法定の債権を創設するといったことも考えられるところでございます。   ここまでが,長期居住権についての御説明でございました。   最後に,第4の「その他」でございますが,まず,賃貸物件である場合の保護方策について申し上げます。   ここまで申し述べてきました短期居住権と長期居住権,二つの方策は,いずれも配偶者の居住建物が被相続人の所有だった場合を前提としておりますが,このような場合だけではなくて,配偶者の居住建物が第三者から賃借をしていた建物であった場合も十分考えられるところでございますので,こういう場合についても配偶者保護のための措置を講ずる必要があるのかどうかという点が問題となります。   このような観点から,例えば,「遺産分割において,配偶者は居住建物の賃借権を優先的に取得することができる」とすることも考えられるところでございますが,他方で,あえてそのような方策までは講じないということも考えられるところでございます。   その他,配偶者の居住権の保護方策として,ここまで御紹介したほかに考えられる方策がありましたら,併せて皆様方にお伺いしたいと考えております。   説明は以上でございます。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   御説明いただいたものは,最後に触れられたその他というのを除きますと,第2で扱われています短期居住権についての御提案と,第3で扱われております長期居住権についての御提案に分かれるかと思いますけれども,まず,第2で扱われている短期の居住権の方について,御質問ないし御意見を承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○増田委員 すみません,今,第2と言われましたけれども,その前の第1のところでちょっと質問があります。   現在の判例の到達点について,最判平成8年12月17日で居住権が確保されているという御説明だったと思うんですけれども,共同相続人の一人の居住権,すなわち占有権自体は,既に最判昭和41年5月19日以来,判例はほかの物権法上の共有と同じように認めていて,一部でも共有持分があれば,全体についての利用権があるというのが,確立された判例理論だと考えています。したがって,共同相続人の利用権に関しては,当事者間の合意的意思解釈うんぬんではなくて,現行法上は,共有の理屈上そうなるんだということだと思うんです。ご指摘の最高裁平成8年12月17日判決は,事件自体も不動産の明渡請求事件ではなくて,相続財産を利用している共同相続人に対する賃料相当損害金ないし不当利得の請求事件であって,利用の無償性を明らかにした判例だと思うんですね。   つまり,確かに判例は,無償性については,当事者間の合意的意思解釈を根拠としてはおりますが,居住権それ自体については当事者の意思解釈でも何でもなく,持分がある以上,当然だというのが,判例法理だろうと思っているんですが,いかがでしょうかというのが一つ目です。   もう一つは,建物の所有権を取得した他の相続人との間で賃貸借契約等を締結する方法による場合には,賃貸借契約等を成立することが前提となる,すなわち契約が成立しなければ確保されないといわれておりますが,実際の審判例で,賃借権を設定している事例もあるのではないかと思います。例えば東京高裁の平成22年9月13日決定などは,2年間の短期ではありますが,一時使用のための賃借権を設定しています。これは賃借人が,配偶者ではなくて子なんですけれども,共同相続人の一人のために設定をしている,そういう例もありますし,遺産分割ではないですが,財産分与として賃借権を設定したという裁判例もありますので,現行法を前提にしても,他の相続人の意思にかかわらず居住権を確保する方法はあるのではないかと思います。   その2点について,取りあえず共通認識があるのかどうか,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 それでは,私の方から御説明いたします。   まず,1点目ですけれども,基本的に,法定相続で配偶者が少なくとも2分の1の持分を持っているという場合には,第三者から明渡しを請求されることはないのではないかというのは,そのとおりではないかと思います。ただ,ここで考えているのは,例えば,被相続人が相続人の誰か1人に建物の所有権を遺贈した場合も含め,一定期間については例外なく居住権を保護する必要がないかということでございますので,共有についての判例理論だけで全てが保護されているということにはならないのではないかという点があると思います。   それから,二つ目の賃貸借契約の設定によって,使用権限を設定することができるのではないかという点でございますが,これについても,なぜ遺産分割の審判で契約を成立させることができるのかということが問題になると思います。そもそも契約ですので,本来は,当事者間の合意がないと成立させられないということになりますので,御指摘のような裁判例があることはこちらも承知はしておりますが,理論的な説明が難しいところがあるのではないかと思います。したがって,これらの現在の裁判実務,あるいは判例理論を前提としても,保護が十分ではない部分があるのではないかというのが,こちらの問題意識でございます。 ○大村部会長 よろしゅうございますか。更にもし何かあれば,どうぞ。よろしいですか。 ○増田委員 前提となる判例理論は,それでよろしいということですね。③はちょっとほかのと異質だと,私は考えていますので,また後で,これについての意見を申し上げますけれども,今回の議論の前提としての判例の考え方は,私が先ほど述べたような考え方でいいということですね。 ○堂薗幹事 ただ,御指摘の判例も,「多数持分権者は当然には明渡しを請求することができない」という説示がされているかと思いますが,その「当然には」というのがどういう意味なのかという点については,必ずしも明確にはなっていないように思います。   したがって,共有に関して,仮に,誰が使用するのかというのが管理に関する事項だということになりますと,共有者間の協議によって多数決で決めることはできることになります。その点については,法定相続分を前提とすれば,配偶者は少なくとも半分は持っていますので,過半数で使用方法を決めるということになったとしても保護されますけれども,相続分の指定がされているような場合を含めて考えますと,現行法の解釈上も,不明な部分はなお残っているのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 よろしいですか。   それでは,そのほかいかがでしょうか。 ○中田委員 やはり第1なんですけれども,2ページの上から5行目に,二つの方策は内容的に両立するもので,両者を併せて採用できるとあるんですが,この二つの方策の関係について,どう理解したらいいかということです。   私が拝見して思ったのは,両者は根拠付けも,規律の在り方も随分違っているなということでした。短期の方は,婚姻から導かれる配慮義務に基づいて強行法的な規律をかけるということであり,それに対して長期の方は,生存配偶者の居住保障という,どちらかというと政策的な配慮から新しいメニューを提供するということであるように思いました。そうすると,それぞれにおいて出てくる問題点も違っていると思うんですが,この二つを統一的に考え,根拠付けるということを目指すのか,それとも二つの制度を併存させるという方向でいくのか,あるいはどちらか一方だけでも設けるということを考えるのか,その辺り,この二つの方策の関係といいますか,内容的に両立するということの意味について,お考えをお聞かせいただければと思います。 ○堂薗幹事 ここで両立するというのは,二つ方策があって,どちらも併せて採用することが可能だという意味でございますが,基本的には,目的や趣旨は全く異なるものと考えております。短期居住権の方は,どちらかというと相続によって急に出ていかなければいけなくなるような事態がないように,明渡猶予期間的な発想で,少なくとも一定期間は住めるようにしましょうというものです。したがって,短期居住権は一定の要件を満たせば,当然に効力が発生するというものであるのに対しまして,長期居住権の方は,現行法上,建物の使用権限だけを配偶者に取得させて,そのほかの部分については,他の相続人に取得させるという形で遺産分割をすることが,なかなか理論的にも難しい面があるので,それを解消するための制度として新たなオプション,選択肢を設けるという趣旨でございます。 ○大村部会長 よろしいですか。ありがとうございました。   先ほど,ちょっと言い方が不適切だったかもしれませんが,第2と第3の間で分かれますので,第2までをまずやるということで,第1についてもどうぞ,もしまだございましたら併せて御質問,御意見を頂ければと思います。 ○南部委員 ありがとうございます。南部です。   第1のところですけれども,裁判の現状ということをお聞きしたいと思います。立法事実として,こういったニーズがどれくらいあり,そしてトラブルになっている事例がもしあれば,お聞かせいただきたいと思っています。   というのは,例えば父親が死亡して,母親と子供が相続するというときに,ほとんどの場合,母親が高齢であれば,そこに最後まで大体住まわれるのが普通ではないかなというふうに私は思っております。ですので,どういった事例でこういうトラブルが起こるか知りたいと思います。こういう根拠があるので,この法律をどう変えていくかと考えないと,少しポイントがずれていくのかと思います。実態等々,お分かりの先生方がたくさんいらっしゃると思いますので,教えていただけたらと思っております。 ○堂薗幹事 まず短期居住権の方は,先ほども御指摘がありましたように,現行の判例によりかなりの部分は,既に保護されているものと思います。ですから,このような規律を設ける意義というのは,その点を法律上も明確にし,更に現行の判例理論によりますと,一部,保護の対象から外れる部分があるので,そこも含めて,保護の対象にしようというところにございます。   長期居住権の方につきましても,何かこういった事例で困っているというのが具体的にあるというよりは,先ほども申し上げましたように,制度上,所有権を,使用権の部分とそれ以外の部分に分けて分割するというのが難しいので,それを解消するためのものとして考えているところでございます。 ○上西委員 上西でございます。   相続税の申告実務をしている観点から申し上げますと,短期居住権でもめた事案というのは未見です。また,相続事案を手広くやっている同業者と意見交換する中でも,短期居住権について新たに積極的に保護しなくても,事実上の居住権というのは保護されていると思います。   ただ,長期の居住権につきましては,所有権に至らない居住権--適切な言い方ではないですが,所有権とは違う,もう少し手前の段階の居住権を創設することは,実態から見ると非常に有り難いものになると考えております。 ○窪田委員 一つ前に御質問があった関係で,発言させて頂きます。特に短期利用権に関してどういうニーズがあるのかという御質問,これは,さきほどの増田委員の御発言にも関わるのかなというふうに思いますが,少なくとも2分の1の相続分があるので,取りあえずそこから追い出されることはないというのは確かですし,実際にそのまま妻が,あるいは夫が住み続けるということがあるというのも確かなのだろうと思います。ただ,恐らくこの部分というのは,短期居住権を認めて居住できるようにしようという部分と同時に,短期居住権に関しては無償であるという部分を明確にするということが,特に重要な意味があるのではないかと理解しています。   そういう意味では,増田委員の御発言にあったように,単に利用権を認めるということだけではなくて,これは無償の利用権であるということを含むという意味で,やはり最高裁の判決を受けたという点が重要なのかなと思います。もちろん,どの程度の数の事件があるのかという点について私は存じ上げませんが,現に判例でもそういうふうに登場しているということ,そしてここで示された判例のルールというのが,必ずしもそれほど明確なものではない。当事者の合理的な意思の解釈だというふうには言うわけですけれども,どうも非常によりどころが余り確かなものではないということは言えると思いますので,その意味ではやはり,ちょっと今,短期居住権の話に限ってということになりますが,一定のニーズはあるのではないかと私は理解しております。 ○沖野委員 ありがとうございます。   短期居住権の方ですけれども,これが入ると,現行法下とどう違うのかという点についてです。一つのポイントは強行性と言われましたけれども,例えば相続させる遺言ですとか,あるいは第三者への遺贈などがあったときも,この1年の限りでは無償で居住が確保されるとなりますと,例えば子供に相続させるという遺言をしていて,事実上,そのまま居住を継続していたけれども,1年内にトラブルが起こったというようなことが仮にあったとすると,現行法とは違ってきますし,第三者に遺贈したような例というのは,やはりかなり現行法と違ってくると思うんですけれども,そういうことはない,基本的に変更を生じさせるような事態が現在はないと考えていいのかということが一つです。   もう一つに,気になっておりますのが抵当権との関係です。抵当不動産であるという場合に,抵当権が実行されるというようなことはありそうに思います。提案では,一般債権者の差押えとの関係が書かれていますけれども,既に抵当権がついている不動産について抵当権が実行されたときも,明渡猶予期間ということで,その猶予は受けられるという前提で理解したらいいのか。そうだとすると,実際,現行法とはかなり違ってくる場合が生じると思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 まず,抵当権との関係でございますが,短期居住権の③で書いてあるのは,基本的には被相続人による処分を制限するという限度で強行法規性を持たせるということを考えておりますので,短期居住権に優先する抵当権が既に設定されていて,それに基づいて処分がされ,所有権者が変わったという場合についてまで,明渡猶予期間を認めることは考えておりません。 ○浅田委員 先ほど沖野委員から抵当権の話がありましたので,銀行の立場から状況について概論をお話ししたいと思います。   特に私が統計的な数値を持っているわけではないので,経験的な側面からお話しすることになると思うんですけれども,まず銀行が行う住宅ローン,典型的なもの,に関しては,通常,団体信用保険が付保されてます。そうしますと,被相続人の死亡に伴ってローンが弁済されるということになりますので,その債権者との関係ということでは,一旦切れるということになるので,そういう典型的な処理に関しては,それほど問題が生じるかというと,そうではないようにも思えます。   ただ,これはそういう特定の商品のことでありまして,その他の一般的な商品については沖野委員の問題提起というのは当てはまり得るということだと思います。簡単に言いますと,例えば自宅を担保にしたフリーローンと言われるものとか,あと個人事業者で借入れのために自宅に担保権を設定しているとか,また債権法改正でいろいろ議論がありましたけれども,中小企業に対する貸金に関して,代表者を保証人として,その保証に関しての担保,抵当を入れるということや,また近時開発,検討がされていますリバースモーゲージについては,抵当権者として,また一般債権者として,賃借権との相克というものが問題になり得ると思います。   したがって,この賃借権と抵当権との相克,対抗関係に関しては,銀行界としても非常に大きく関心を持っているわけでございます。具体的にどういう関心を持っているかということについては,縷々述べたいところはあるわけですけれども,第2の第三者対抗要件というところで議論をさせていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○窪田委員 よろしいでしょうか。   短期居住権の方について,あるいは長期居住権の方も同じ部分が気になる部分があるのですが,期間に関して若干気になっている点がありますので,それについてお尋ねさせていただきたいと思います。   基本的には,短期居住権,遺産分割までという形の,多分,組立てになっていると思いますし,遺産分割時というのは,恐らくそこから長期居住権が始まるという意味では,すみ分けの基準時としては分かりやすいとは思うのですが,一方で,例えば相続させる旨の遺言があるというような場合,要するに遺産分割が不要であるようなタイプのものについては,例えば1年間といった一定期間の利用を認めるということを言うのであれば,遺産分割がある場合であったとしても,例えば1年間といったような利用権を認めるというような,言わば遺産分割にかかわらず下限があるのかという問題です。そして,もう一つの問題は,遺産分割がいつであるかということにかかわらず,上限があるのかという問題もあり得ると思いますが,特に下限の方について少し気になっています。   このような質問をしておいて,自分自身の考えは迷っているという部分だけ,お話ししても仕方がないと思うのですが,一方で,恐らく相続させる旨の遺言があったとしても,1年間の利用権は認めるということから言うのであれば,遺産分割があったとしても1年間は認めましょうというのは一つの在り方なのだろうと思います。   ただ一方で,そうは言いつつ,遺産分割というのは生存配偶者も関わってなされるものですから,むしろ,遺産分割時を基準時としてもいいという考え方もあります。また,政策的に言うと,遺産分割があっても結局1年間は短期居住権を排除できないということになれば,むしろ何か遺産分割をさっさとやるということに対するマイナスのファクターになりかねない部分もあるようにも思われます。これは場合によっては,できるだけ速やかにやはり遺産分割をして,最終的な財産の帰属を決めた方が望ましいのではないか,マクロの視点から見ると,マイナスのものとして働く可能性もあるのかなという気もいたします。   その意味で,どちらがいいのかということを自分の中で決めた上でお尋ねをしているわけではないのですが,現時点で法務省の側で何か考えているというようなことがあったら,教えていただければと思います。 ○堂薗幹事 確かにこの資料上は,存続期間について上限を定めるという方しか触れておりませんが,御指摘のとおり,例えば③の期間を1年とした場合に,遺産分割が1年未満で終わった場合はどうするかというのは検討課題であって,その場合でも1年は居住できるようにするのかどうかという問題はあろうかと思います。   そういった問題は,特に③の一定期間をどの程度の期間にするのかというところと,密接に関わってくるのではないかと考えておりまして,この期間を長いものにいたしますと,そういった問題は生じると思いますし,この期間をかなり短いものにすれば,基本的にはそれほど問題にはならないのかなという気もいたします。この一定期間をどの程度にするのか,あるいは窪田委員に御指摘いただいたようなデメリットの点をどう考えるのか,短期間で遺産分割が終了する場合というのは,基本的には生存配偶者も同意をして協議で成立している場合が多いのでしょうから,そういった場合にも例外を設けるまでの必要があるのかどうかといった点について,検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○森委員 さきほど南部委員から実務の実情について御質問がありましたので,少しコメントをしておきたいと思います。   これは全体の感覚ではありませんし,具体的なところは後で家庭局の幹事の方から補足していただければと思うんですけれども,被相続人の配偶者が高齢の方ですと,施設入所を予定しているため従前の居住建物での生活を望まれない場合も少なくないように思います。そのため,配偶者の居住建物の取得をめぐって相続人間で争われる事案というのは,それほど多くはないように思います。すごく雑駁ですけど,例えば東京家裁とか大阪家裁ですと,遺産分割担当の裁判官は1年間で数百件ほどの事件を担当していると思いますが,その中で,配偶者の居住建物の取得をめぐって相続人間で争わる事案というのは,せいぜい1件か2件ある程度といった感覚です。   それから,生存配偶者が居住を継続することに対して,被相続人が明確な反対の意思表示をしていたために,平成8年の法理が使われなかった事案があるかどうかというのは,直ちにはちょっと分からないですが,家庭局の方から補足していただけることがあればお願いします。 ○石井幹事 今の後段の方のところにつきましては,事務当局としても特に統計的に資料を持っているわけではございませんので,被相続人が反対の意思を表示していたために平成8年の最高裁判例の射程が及ばなかった事案というのがどのぐらいあるかということにつきましては,直ちにはお答えできないというのが実情でございます。   それからもう1点,先ほど期間をどのように設けるかというような御議論がありましたけれども,仮1年なりの上限を設けた場合には,その期間までに遺産分割が終了しない場合も当然出てくるだろうと思います。先ほどの御議論などを聞いておりますと,その場合には,平成8年の最高裁の判例の枠組みではなく,期限が来たら短期居住権も消滅することを前提に御議論がされていたように聞こえたんですけれども,平成8年の最高裁判例との関係について,そのような前提で御議論していくのか,あるいは期限が来ても,遺産分割が終わるまでの間は,平成8年の最高裁判例の枠組みで使用貸借権を認める余地があるとするのかは,考え方が分かれるところだと思いますので,こうした点についても,もう少し御議論を頂ければというふうに思っております。 ○大村部会長 八木委員からも手が上がっていますので,八木委員の御意見を伺って,事務局にまとめて答えていただきますか。 ○八木委員 御意見というか,南部委員の御質問を受けまして,森委員からお答えがあったんですけれども,私なりの補足でもないのですが述べたいと思います。   この部会のミッションにも関わることだと思うのですけれども,例えばということですが,相続人の子供の中に非嫡出子がいた場合,これを想定せざるを得ないということですね。そして相続財産が,夫婦が住んでいた土地と家だけというケースは都会では結構多いと思います。その際,相続の際に,嫡出子の場合は,おじいちゃんが亡くなった場合,おばあちゃん,つまりお母さんがそこに住み続けるということを承諾すると思いますけれども,非嫡出子については,自分の相続財産を得たいということで,夫婦が住んでいた家屋敷を売らざるを得ないというケースが出てくると思います。そういったときに,配偶者をどう保護していくのかというのがここでの趣旨だと思うんですね。それを短期で,その居住権を認めるのか,長期で認めるのか,そこの違い,またその法的な取扱いの違い,あるいはその妥当性というのが,ここでの課題というふうに私は理解をしております。 ○大村部会長 短期,長期について,どういう必要があるのかということにつき,何人かの方々から御発言を頂きましたけれども,森委員,ごく少ないけれども,紛争はあるというお話だったと思いますが,もしよろしければ,どういう紛争なのかということを教えていただけますと,今の八木委員の御発言との関係で少し議論が深まるかなと思いますが。 ○森委員 さきほど,配偶者の居住権をめぐる紛争は少ないと申し上げましたが,それは,ワーキングチームで御議論されていたときに,東京家裁と大阪家裁の遺産分割事件の実情を聞く機会がありまして,その際,さきほど述べたような感触が得られたということで申し上げた次第です。そのときの感じでは,年間300件程度担当している裁判官が配偶者の居住権をめぐり争いのある事案を担当した件数は,2年間で,多い方で2件,少ない方は0件ぐらいとのことでした。具体的な事案の内容までは御紹介することができず,申し訳ないと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   長期について,こんな紛争がある,あるいはあり得るということについて,何かほかに御発言ありましたら,どうぞ。上西委員からは,先ほど長期について,ここで提案されているようなものができると有り難いという御発言があったと思いますが。 ○上西委員 今の八木委員のお話ですけれども,東京や大阪等で,土地建物がほぼ唯一の財産であるような事例の場合は,所有権一本だけですと非常にもめやすいです。代償分割という形で代償金を準備する手法がありますが,借入れをしなくてはいけないというケースも出てきます。所有権から見れば評価額の小さい長期居住権というのを一旦確定させて,その長期居住権を控除した残りの部分を他の相続人で分けるという形で可能であれば,解決はしやすくなることは確実です。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○窪田委員 先ほどの石井幹事からの御発言,私の発言が分かりにくかったのかと思いますが,私自身は,1年間にするという固定的イメージではなくて,むしろ今提出されている案でも,遺産分割時というのが基準になると思うのですが,遺産分割時というふうに言った場合,遺産分割がずっとなされない場合もあるけれども,ものすごく早くになされた場合,例えば3か月ぐらいで遺産分割の協議はすぐ成立してしまった。そうすると,もうそこで本当に短期居住権というのは終わってしまうのかどうかという,言わば下限の話というのを伺ったということだけです。恐らく法務省の方のこの提案でも,1年間というのでもう切ってしまうという趣旨では,多分ないだろうと思います。私の方が発言すべきことであったかどうかもよく分かりませんが。 ○堂薗幹事 御指摘のとおりでございまして,短期居住権は,原則として,遺産分割終了時までを想定しており,例外的に存続期間の上限と下限をそれぞれ定めるかという問題があるということでございます。このうち下限については,遺産分割が早めに終わってしまった場合,ですから判例の基準によると,その時から保護されないことになるわけですけれども,その場合でも,少なくとも一定期間は保護をするかどうかということでございます。 ○増田委員 先ほどの実態の話なんですけれども,私,家事調停委員を10年以上やっていた経験もあるんですけれども,生存配偶者の居住権を奪う,要するに配偶者を追い出そうという事例には一度も遭いませんでした。   それと,先ほど八木委員が非嫡出子対配偶者という対立構図をおっしゃいましたけれども,そういう構図もほとんどがないんですね。実は非嫡出子というのは実際には遠慮する人が多いので,そういう構図はなく,むしろ嫡出子であるけれども,その人の子ではない人と生存配偶者とが激しく対立する事例の方は結構あります。だから,嫡出子か非嫡出子かということ自体は余り関係がないというのが,実感です。 ○大村部会長 今の御発言,興味深く伺いましたが,嫡出子で,もちろん親が違うというケースをおっしゃったと思いますけれども,そういう紛争が,居住権をめぐって存在するという認識ですか。 ○増田委員 居住権の問題としては,多分なかったです。自分の親である前配偶者と生存配偶者との対立関係を潜在的に引きずっているために遺産紛争が激烈化しやすいケースとして挙げたまでで,非嫡出子は何となく引け目があるのか,遠慮する人が多いですね。 ○山田委員 先ほど,極めて短期に遺産分割ができたという事例のお話がありましたけれども,そういう事例は当事者間で円満に合意ができたということで,その先についても,例えば居住権の設定等についても合意ができるような事案かと思います。   一方,裁判所にお世話になる事件というのは,どれぐらい掛かるかというと,大きな事件では10年掛かる案件もあり,非常に裁判所に頑張っていただいても,2年,3年掛かる事例はざらかなというふうに思っています。   同時に,今度,相続税の申告は,上西先生,今,10か月でしたか。 ○上西委員 相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内です。 ○山田委員 そうですね。10か月程度で,できれば遺産分割が完了して申告したい。それが間に合わなければ,法定相続分で申告するというのが実務でありますけれども,私どもが御相談を受ける中で,やはり当事者間で争っていると,相続税の部分で非常に後々問題が生じてしまうというようなケースもございます。   例えば,相続財産を換価して納税しなければならないような場合,ちょっと記憶が定かでないんですけれども,2年以内に処分すれば譲渡所得税の問題が生じない。長期になってしまうと,今度,相続税を支払った上で譲渡所得の支払が生じてしまうとか,何かいろいろ問題があるケースも出てくる中で,税金の問題というのは実務的には非常に大きく,それとの絡みで,やはり期間等も御検討いただく必要があるのかなということをちょっと感じておるところです。   定かでない知識のところで,中身にそごがあるかもしれませんが。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○沖野委員 実態の詳細を把握しているわけではないので教えていただきたいのですけれども,例えば贈与などですと,家屋を子供に贈与する場合に,親の扶養を条件として負担付贈与を行う,しかし,その後,仲が悪くなって追い出すというような例も,かつての判例などで目にするところです。そういった事象は現在でも生じそうにも思うのですけれども,そういう懸念は,もう今はないと考えられるのかというのが一つです。もう一つは,高齢社会に伴って再婚の事例というのが増えてきますと,先ほど出ました子供の親ではない生存配偶者があり,居住ですとか,財産の承継などその後をめぐって争いになるというのは,報道などもされているところです。そのような場合に問題がありそうにも感じていたのですが,実際はそういった紛争はあまり起こっていないと理解してよろしいんでしょうか。 ○大村部会長 今のような場合があり得るのではないかという御発言ですけれども,なかなか具体的な統計等があるわけではないので,確認は難しいでしょうね。 ○村田委員 先ほど申し上げたとおり,最高裁の方でもきちんと統計を取っているわけではありませんけれども,いろいろなところからお聞きしているところの感じと,今の御議論を総合してみたときに,例えば前妻の子と後妻との間で遺産分割の争いが起きて,八木委員がおっしゃったような,対象となる財産が居住不動産しかないといったケースは,それなりにあるんだろうと思うんですね。   ただ,その場合でも,居住用不動産から出ていけというところまでおっしゃる方々がどのぐらいの割合いるかというのは,必ずしもよく分からないところがありますが,仮にそこまで真剣に争うということになった場合には,先ほどもお話が出ていたとおりですけれども,代償金の問題が出てきて,高齢の配偶者では借入れ能力がないということになると,いずれにせよ,その居住不動産をそのまま維持するということは現実的には難しくて,結局売却して代金を分けるというのが現実的な解決になる場合が多いのではないかと思います。そうすると,配偶者に居住権を設定するという話は飛んでしまうということかなと。   仮に,その問題もクリアして,所有権と何がしかの居住権とに分割できたとしても,要はそこまで真剣に争っている前妻グループ対後妻グループを,大家と店子の関係にすることが果たしていい解決なのかといった問題が別の次元の問題としてあるのではないかなというふうに思っております。 ○大村部会長 上西委員から先ほど御指摘がありましたけれども,金額の問題,金銭で処理するときに,どのぐらいの金額で処理できるかという問題があるだろうけれども,しかし,利用権が残るというのがいいかどうかも分からないという御指摘だったかと思います。 ○上西委員 期間の件についてです。相続税の納税資金を確保するために,相続財産を譲渡した場合に,取得費--譲渡した資産の原価のことを取得費というのですけれども,取得費の加算の特例というのが認められております。これは相続の開始のあった日の翌日から申告期限の翌日以後3年を経過する日までの間に譲渡した場合,簡単にいえば,相続の開始から3年10か月の間に売った場合については,相続税額のうちの一定金額を取得費とする特典があります。これは通常,分割が終わったことを前提とした規定でございます。これはいい制度だと思います。   次に,申告期限までに間に合わない場合,3年間延長することが認められます。3年間延長してもらうことによって,何が保留できるかといいますと,配偶者の税額軽減と小規模宅地等の特例です。通常は2分の1の法定相続分と1億6000万円の多い方の軽減が後からでも使えるということ。正しくは評価減ではないんですけれども,小規模宅地の課税価格の計算特例という,事業用土地や居住用土地についての特例が認められることです。これらは3年間の猶予なんです。税務署長の承認を得ることによって,更に延長することもできます。元々は実態を見て3年という期間ができていたかと理解しておりますけれども,一旦この制度ができると分割協議をゆっくりしようというマイナスのインセンティブが発生するという実態もあります。取りあえず「3年以内の分割見込書」を提出しておけばオーケーなんだから,3年間ゆっくり考えようではないかということを,納税者に我々も助言するわけです。今回の検討事例では,例えば1年の上限を設けることとしてはどうかということや再延長的なことも示唆するような提案がなされていますけれども,いたずらに延ばすことはマイナスになる危険性があると考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第1についていろいろな御意見が出ましたが,期間の問題は第2についての御意見かと思います。第2の中身についても御意見を頂ければと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 ちょっと細かいあれになるかもしれませんが,資料の6ページの一番上の方,「他方で」というふうに書かれているところで,先ほども若干議論が出てきました,居住建物が差し押さえられた場合,一般債権者に差し押さえられた場合で,ここに書かれてあるとおり,確かに第三者対抗力を占有を要件として認めると,一般債権者の差押えに対しても対抗できるということになるというのは,書かれているとおりかなと思います。   それはやはり,私から見ると変な感じはします。この相続が開始する前に差押えがなされれば,その配偶者は占有補助者ということになるのかどうか,とにかく退去する義務を,当然その執行手続では負うということになるはずで,この短期居住権というのを認めるにしても,それは飽くまでも相続人内部というか,そのグループの中で保護しようという話ですから,債権者にとっては関係ない話なので,そこが保護される結果になるというのはおかしいだろうと思います。   あるいはまた,相続財産破産の破産との関係でも,対抗力を認めると,破産手続の中でも対抗できる,管財人も解除できないということになりそうですけれども,それもやはり非常におかしい感じがします。そういうことからすれば,第三者対抗力をそもそも認めないということであれば,その問題は発生しないと思うんですが,認めるとすれば,やはり消滅原因のところで,現在は配偶者の占有喪失とか死亡が基本的となっていますが,その建物の差押え,売却とか,あるいは相続財産破産の開始とか,そういうのも消滅原因にしないと,おかしな結論になるかなというふうに思っています。 ○大村部会長 御指摘,どうもありがとうございました。   そのほかにいかがでしょうか。 ○浅田委員 先ほどの山本委員の御指摘の点に関連してということであります。   まさしく部会資料の6ページに書いてある問題意識を,銀行は債権者としても有するということを話したいと思います。担保権がない一般債権者である場合には,長期居住権,短期居住権,いずれの制度設計においても,居住権について対抗要件を具備されてしまえば,一般債権者としては,その引当てとなる財産が減少するということになります。死亡時は債権者にとっては予想不可能でありますし,かつ相続が発生したときに,相続人が対抗要件を登記など何らかの形で具備をする時点と,債権者がそれに気付いて,慌てて抵当権を設定するということの前者の方が早いということになりますと,債権者の一般的な行動様式としては,そういう不測の事態を避けるべく,何らかの対応を迫られるということになると思います。   まず考えられますのは,当然のことながら,本来ならば担保を設定する必要がないものを,そういう事態を想定して,抵当権設定をお願いするということになるという可能性が増えるかなと思います。また,そうでなかったとしても,対抗要件を有しない一般債権者からすると,何らかの形で相続発生の可能性を探知しただけで,不動産を差押えまたは仮差押えをしておこうというインセンティブが働き得るということになります。   そうしますと,制度設計いかんにもよると思いますけれども,結果として,本来ここで考えようとしていた配偶者の居住権の保護を追求していこうという制度設計とは,若干のずれが出てくるかもしれないと思っております。つまり,一般債権者からすると,居住権の対抗要件具備の時点が予想できないということで疑心暗鬼ということもありますので,早期の保全を行うというインセンティブが生じるということであります。これをまず指摘したいと思います。   せっかくですのでちょっと付言いたしますと,居住権の対抗要件具備時がいつになるのかということを改めて考えますと,第一に,対抗要件を占有とした場合においては,配偶者居住の物件については,短期居住権は相続の発生と同時に対抗要件を具備するということに,この案ではなりそうであります。また,長期居住権のことを考えてみますと,この提案から最速の事態を考えると,遺言や死因贈与を用いるケースについては,やはり相続発生時に対抗要件を具備できるということになりそうであります。   また,ちょっとこれは考えすぎなのかもしれませんけれども,例えば対抗要件を登記とした場合においても,先ほど申し上げたとおり,相続発生時点の探知については,債権者は遅れますから,疑心暗鬼になるということはあります。加えて,ちょっとこれも先の議論で恐縮ですけれども,仮に請求保全効のための1号仮登記みたいなものを認めるという,また認められるという制度設計になるのであれば,実体法上の居住権の発生,不発生にかかわらず,順位保全効が仮登記の時点で認められることもあり得るかもしれない。そうすると,一般債権者としては正式な担保権の取得,登記の実行ということに傾かざるを得ないのかなということを恐れるということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○増田委員 私も基本的に山本和彦委員のご意見に大賛成です。   そもそも論なんですけれども,この短期居住権というものを共同相続人間だけではなくて,対第三者間で効力を有するということにすること自体に疑問を感じております。共同相続人間の紛争において居住権が保護されるということは比較的分かりやすい議論なのですが,対第三者間ということになりますと,もともと被相続人が持っていなかった権利を相続という偶然の事情によって相続人が新たに取得し,それが不動産の一つの負担となるという,そういうことはちょっとあり得ないのではないかという気がしております。   ほかのことでもいいんですか,あと。 ○大村部会長 ひとまずそこで終わっていただいて,残りは後ほどお願いいたします。浅田委員から御発言があったうちの長期居住権に関する問題も,また後で議論をしたいと思いますけれども,短期の居住権について,その対抗力の問題について否定的な意見が続けて出ておりますけれども,何かそれについて他にご発言はありませんか。 ○水野(有)委員 すいません。私もこれを読んだとき,山本委員と全く同じ疑問を持ったのですが,ただきっと,もしかしたら第三者といっても2種類あって,被相続人の一般債権,被相続人関係グループと,もしかしたら,あと,元々での③で想定して譲り受けた人がまた売る場合という,③でよかったですかね,遺贈でその権利を譲り受けた人が売るときの第三者と,何か2種類,第三者がいるような気がいたしまして,その二つを同列に議論していいのかどうかが,これを読んだときよく分からないなと思ったということです。ただ,私は整理できていなかったのですが,今の議論で大分分かりましたので,どうもありがとうございます。それを踏まえて,いろいろ御教示いただければなと思っております。 ○山本(和)委員 私の先ほどの発言の趣旨は,もし今,水野委員が言われた後者の場合,③の特定承継人のような者に対する関係では,やはり保護する必要があるというふうに,実体法上,御判断なされるのであれば,第三者対抗という制度は必要であるかもしれないというふうに思いましたので,それで必要であれば,しかし,被相続人の一般債権者による差押え,あるいは相続財産破産の場合に,なお対抗力を認めるというのは相当ではないので,その場合には,⑤の短期居住権の消滅事由を拡大すると。第三者対抗力は認めながら,消滅事由を今のような場合に拡大するという方向で対処するということも,考えられるのではないかという趣旨の発言でした。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点につきまして,更に御意見がありましたら承りたいと思います。 ○山本(克)委員 今,水野委員から,二つに分かれるのではないかというお話がありましたけれども,私は三つに分かれるのではないかなと思っていまして,他の共同相続人が持分を譲渡した場合,あるいはその他の共同相続人の持分を共同相続人の固有債権者が差し押さえた場合という辺りも,その三つぐらいに分けてきっちり整理しないと,まずいのではないか。私も今日,相続人破産のとき,こんなのでいいのかなという気はしておりまして,ちょっと第三者対抗力を認めるにしても,どういう範囲で何の目的のために認めるのかというのをもう少し詰めていった方が,生産的な議論ができるのではないかと思います。   それと,1点お伺いしたいんですが,第2の1の①ですが,遺産に属する建物というのは,これは遺産に建物の共有持分が属する場合は含まないということでよろしいんでしょうか。つまり,2分の1の共有持分が遺産に属していたと。で,被相続人と生存配偶者がそこで同居していたというような場合は,これの適用対象なのか,適用対象外なのか,その辺りも少しお教えいただければと。 ○堂薗幹事 共有の場合については余り詰めた検討ができておりません。資料では,短期居住権においても,第三者対抗力について触れていますが,御指摘のとおり,基本的には共同相続人間でどうするかという話でございますので,共有の場合であっても,配偶者以外の相続人が相続によって共有持分を取得したことを理由として,配偶者に明渡しを求めることはできないということにはなるのだろうと思います。他方で,被相続人が持っていた共有部分以外の共有権者が明渡しを求めてきた場合に,配偶者が短期居住権を対抗できるとか,そういったことまでは考えておりません。 ○大村部会長 今,その他の問題について,対抗要件そのものの問題以外の問題も出ましたけれども,増田委員から先ほどもう一つ問題があるということでしたが。 ○増田委員 もうちょっと元に戻って,第2の短期居住権は,遺産分割が終了するまでの間と,第3の長期賃借権は遺産分割終了後ということですが,その遺産分割の前後が本当に截然と分かれるのかどうかという疑問もあるんです。  ただ,それとは別に,今は,遺産分割の前後で,共有の性質が変わるという理屈を採られるのかどうかということをお伺いしたいと思います。   現行法には,遺産分割の前と後で遺産の管理方法などが変わるというものはないわけです。判例上も,遺産分割前の遺産共有は,物権法上の共有と何ら性質は変わらないという法理が確立されております。そのような中で,こういう非常に限定された,端っこの法律関係について,遺産分割の前後で変わるというような法制度を採ることにどういう意味があるのかということを聞きたかったのです。遺産分割の前後で法律関係を変えるという提案があるんだったら,遺産の管理方法とか,遺産の果実の帰属とか,そんな問題の方が,先に検討すべきものなのではないかということが,この質問の伏線にはあるんですけれども,取りあえず質問としては,遺産分割の前後で共有の性質が変わるということを前提にされているのか,それとも変わらないのかということをお伺いします。 ○大村部会長 遺産分割の後の共有というのは,どういう状況を想定されておられますか。 ○増田委員 ごめんなさい。遺産分割の後の共有というのは,よくある共有分割,すなわち遺産分割の方法として共有のまま遺産分割の審判がなされたとか,そういうケースのことです。共有として確定的に帰属している状態を想定しています。 ○大村部会長 遺産分割の前は相続財産が共有状態になっているけれども,遺産分割後に共有状態が残った形で分割がされているときに,その前後で性質が変わるのかという問題意識ですか。 ○増田委員 端的に言うと,遺産分割前の共有状態が,物権法上の共有状態と違うということを意識しておられるのかどうかということです。 ○堂薗幹事 それはしていません。判例の理解に従って,遺産分割前も,通常の物権法上の共有と基本的には変わらないという前提で考えております。遺産分割の前後で共有の性質が変わることによってどういう問題が生じるのかというのは,今一つ理解できていないところがございますが,どの辺りが問題だという御認識でしょうか。 ○大村部会長 増田委員がおっしゃるのは,遺産分割後も共有状態が残っているとして,その共有状態について何らかの対応策を採らずに,遺産分割前だけ対応策を採るということにアンバランスがあるという御趣旨ですか。 ○増田委員 いや,違います。遺産分割前後で共有の性質が変わらないのであれば,短期,長期を,遺産分割というその時点で分けるということがまずよく分からないということです。   それと,今,部会長がおっしゃった話にくっつければ,遺産分割前の状態というのが浮動的状態であるにもかかわらず,共有の性質が物権法上の共有と変わらないということになっているのが,立法としては問題であるという認識があって,遺産分割前の遺産の管理方法とか,あるいは先ほどもちょっと言いましたけれども,果実の帰属など,広い意味では,居住の利益だって一つの果実に類するようなものですが,そういうものと引っ掛けて考えると,もっと先に検討すべきことがあるのではないかということです。遺産分割前と後とを区別するという発想をするのであれば,根本的に遺産分割前を合有というものにするのか,あるいは相続開始時から共有という従来の概念で進むのかということ自体から考えていくべきではないかということを申し上げているんです。 ○堂薗幹事 遺産共有が合有なのか,物権法上の共有と同じなのかという辺りが,そもそも今回の諮問事項に入っているかどうかというところも問題になってくるとは思いますが,仮にその点について検討するということになりますと,それこそ相続法制の根幹について大きく変更することになろうかと思いますので,居住権のところではそこまでは考えていないということでございます。   それと,遺産分割の前後で共有状態が続くという場合は,基本的には例外的な場合なのだろうと思います。本来,遺産分割というのは,遺産共有状態を解消して,財産をどう分けるかを最終的に決めるという話であるはずなので,法律の建前からすると,そういう共有状態を残した,しかも法定相続分どおりで遺産分割を終わらせるというのは,例外的な事象なのではないかと思います。   そういった例外的な分け方がされた場合も,基本的には遺産分割で,最終的にそういう形で遺産を分けるということが決まったのであれば,少なくとも相続を原因として若干不安定な遺産共有の状態になっていたのが解消するわけでございます。飽くまで短期居住権というのは,遺産分割が終了するまでの暫定的な権利関係が生じている期間については,特別に配偶者を保護してもそれほど問題は生じないのではないかという問題意識に基づくものでございますので,遺産分割終了後も共有状態が続く場合があるとしても,通常の場合と同様の取扱いをする,すなわち短期居住権は消滅するというのが,こちらの整理ということになります。 ○大村部会長 増田委員,今の件はよろしいですか。 ○増田委員 ここで止まっていては前に進まないので,そういうものだという前提で考えることとします。ただ,共有分割が遺産分割方法として非常に例外的だということについては,若干異論があります。結局協議では決まらない場合に共有の形で残すということは,それが望ましいものかどうかという点は別としまして,実務上例外的に数少ないかと言われると,それは少なくはないだろうということだけ申し上げておきます。 ○中田委員 山本和彦委員の提起された問題について,お伺いしたいんですけれども,被相続人,あるいは相続人たちが賃貸借契約をして,賃借人に引き渡した場合に,賃借人がその後の差押債権者に対抗できるということは問題ないと思うんですけれども,そうすると,ここで問題なのは何なんでしょうか。つまり,法定の賃借権類似の権利を付与して対抗力を与えることと,任意の賃貸借契約でもって対抗力を取得するということとの違いなんですけれども。 ○山本(和)委員 私が答えるべきかどうなのかよく分かりませんが,今,議論しているのは第2というふうに理解してよろしいですね。   私の理解では,これは判例が認めているような使用貸借を停止条件付きで設定するというようなものがあるけれども,それではなかなかカバーできないものがあって,そういう法定で,そういう類似の権利を設定しようという構想だというふうに理解をしておりまして,そうだとすれば,これは使用貸借が設定された場合には,当然,差押債権者には対抗できないわけですよね。それで,そもそも使用貸借が設定されない場合は,先ほど申し上げたように占有補助者という位置付けになると思いますので,これは当然に退去義務を,相続開始前に差し押さえられた場合には退去義務を負うような占有者だというふうに理解をしておりまして,それを差押えに対抗できるようなものにまで強化するという趣旨が含まれている提案なのかというふうに考えると,先ほど申し上げたように,それはそういう趣旨までも含んだ提案ではないのではないかというのが,私の理解であるということですけれども。 ○中田委員 そうしますと,これは賃貸借であれば問題はないけれども,使用貸借という性質を持っているから,たとえ法定で占有権原を認めたとしても,その本質が無償であるからいけないということになるんでしょうか。 ○山本(和)委員 確かに賃貸借を設定する,法定で設定してということであれば,問題はないのかもしれませんね,それは確かに。 ○中田委員 ごめんなさい。私の疑問は,賃貸借契約を被相続人,又は相続人が締結した場合には,賃借人が引渡しを受けていれば対抗できることは問題がないわけですね。それで,法定で対抗できる使用権限を認めるのがよくない,疑問であるというのは,それは結局その本質が使用貸借的なものであって,本来は第三者に対抗し得ないものであるからということだろうというふうに,今,伺いましたが,そうすると,法定しても,使用貸借類似のものであれば駄目だと,こういうことになるんでしょうか。 ○山本(和)委員 だから,この制度で一体何を目的としているかということだと思うんですけれども,差押債権者とか,要するに相続債権者グループに対してまで対抗できる,それは当然,先ほど浅田委員が言われたように,そうすると,相続債権者の取り分が,それほど大したことはないかもしれませんが,1年ぐらいだと。しかし,減るという部分を含んでいるわけですよね。そういう,言わば相続債権者に迷惑をかけてまで,この配偶者を保護するような制度なのかといえば,そういう制度ではないのではないかと。だから賃貸借であれば,確かにそれは対抗できるという制度にすることは可能なんだろうというふうには思いますけれども,可能なんだというか,そうなるんだろうというふうには思いますけれども,そんなことを目的とした制度ではないのではないですか。 ○大村部会長 問題の整理としては,よろしいですか。 ○中田委員 はい,理解しました。   そうすると,やはりこの制度がそもそも何に基づくものかというところに戻ってくると思うんですが,それとの関連で一つお伺いしたいんですが,婚姻関係が破綻していた場合に,かつ遺言で配偶者以外の者に不動産を与えるとした場合にも,やはりこの規律は及ぶと考えてよろしいんでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,最終的には解釈に委ねることにならざるを得ないように思いますけれども,基本的には法律上の婚姻関係にあれば,ここに書いてある要件を満たす限り,短期的な居住権は保護されるという前提です。もっとも,完全に婚姻関係が破綻している場合にまで,こういった特別な保護を与える必要があるのかという問題意識で,そういった場合はこの保護の対象から外れるんだというような解釈の余地は残るのだろうと思います。 ○西幹事 今,中田先生のおっしゃったことは,先ほどから私も気になっておりました。非常に効果の大きな権利だとは思いますけれども,そこの説明の中で,ワーキングチームのときに申し上げたことと矛盾するようで恐縮ですけれども,被相続人の許諾を得ていたことを要件から外して,更に同居をしていたことも外してしまうということになりますと,論理的には婚姻破綻,直前の状態でも入るということになろうかと思います。そうであるにもかかわらず,居住権の根拠が婚姻の効果の一つである同居・協力・扶助義務に求められているというのは若干違和感があると申しますか,婚姻破綻の場合には同居・協力・扶助義務は消えるということになっていることを考えますと,難しいのかなという気がいたします。   恐らくこの婚姻の効果としての居住権という説明は,フランス法を参考にしたものと思われますけれども,フランス法の場合には同居がやはり要件になっております。そもそも背景にあるフランスの短期と長期という分け方,今回もそれを参考にされたと思いますけれども,短期,長期という分け方というのは,恐らく短期の段階では公証人が入って債務の清算をする,そこの辺りを恐らく短期としてフランスは念頭に置いていて,それを超える部分が長期ということなのではないでしょうか。日本の場合には,相続開始後に公証人のような方が入って債務の清算をして,ある程度まとまった段階で安定的な状況に入るということには必ずしもなっていませんので,その意味でフランス法を参考にする,どこまでも参考にするというのは,やはり無理があるのではないかと。   それよりも,今,遺産分割が終了するまでの短期的なというお話になっていますけれども,むしろ明渡猶予期間的な発想の方が日本にはなじむのかなという気がいたします。そうなりますと,フランスよりはむしろドイツ的なものの方が,公証人の動きなどを考えると分かりやすいような気がいたしました。 ○大村部会長 今の西幹事の御発言は,中田委員の御指摘との関連で言うと,どういうことになりましょうか。 ○西幹事 婚姻破綻している場合を含める場合はもちろんのこと,仮に含めないとしても,それに近い状況は,同居しておらず被相続人の同意がないという場合でも入るのであれば入ってしまう。その場合に,居住権を婚姻の効果として説明するのは難しいのではないかという,そういう発想です。ですから,同居・協力・扶助義務ということで根拠付けようとせずに,単純に明渡猶予期間ということにしてしまった方が,いろいろ説明が楽なのではないかということです。   あるいは反対に,婚姻破綻とか,それに近い状態を外すということであれば,解釈に委ねるだけでなく,フランスのように,例えば同居要件,あるいは単身赴任の場合も入るような潜在的な同居要件を残しておくとか,そういうことをしないと,ちょっと婚姻の効果という説明は難しいのかなと思います。 ○大村部会長 第一次的には,破綻していても保護はされるという方向で考えるということでしょうか。 ○西幹事 そういう場合には,婚姻の効果という説明は…。 ○大村部会長 説明を変える必要があるのではないかということですね。 ○西幹事 あるいは,破綻していた場合には除外するということにしてしまって,婚姻の効果というのを説明,根拠として残すというか,どちらかと。 ○中田委員 私も,同居・協力・扶助義務との関係がどうなるかということが,一つ気になっておりました。   それからもう一つは,仮に遺言にもかかわらずというか,正に破綻しているから遺言するのではないかなと思うんですけれども,遺言にもかかわらず,短期居住権を優先するんだとすると,生前に処分するという方向にインセンティブが働くのではないかなという気もします。そこで,根拠付けの点と,実際上の影響の点と,両面から検討する必要があるかと思いました。 ○大村部会長 今の御意見は,むしろ遺言がされている場合についてまで,強行規定的なものを認めるのには疑問があるという方向ですか。 ○中田委員 飽くまで今回の御提案をベースにして考えてみると,どんな問題があるかということを考えてみた次第です。冒頭に申しましたとおり,短期と長期とはかなり性質が違っていて,短期については婚姻の効果から強行規定性を導いているということですが,それに伴う問題がいろいろあるのではないかということです。 ○堂薗幹事 問題点は御指摘のとおりかと思いますが,基本的には,この同居・協力・扶助義務との関係で言いますと,例えば不貞行為の慰謝料請求の事案で,婚姻関係が破綻しているというような主張がよく被告側から出てきますが,そういった場合でも,実際に婚姻関係が破綻していて,損害賠償義務は負わない場合というのは極めて少ないのではないかと思います。これを踏まえますと,婚姻関係がかなり悪化していても,実際には,こういった民法上の義務がなくなっているというところまでいく事案というのは,それほど多くないということになりますので,この同居・協力・扶助義務から,ある程度の部分は説明ができるのではないかと考えております。仮に婚姻関係が完全に破綻していたという場合には,解釈上,保護の対象から外れる余地があるのではないかというのが,先ほど申し上げた趣旨でございます。   ただ,あえてこういった同居・協力・扶助義務から説明しなければいけないかというと,必ずしもそうではないと思いますし,明渡猶予期間という観点から説明する方が妥当なのかどうかという辺りを含めて,更に検討してみたいと思います。 ○窪田委員 確たる意見があって申し上げるのではないのですが,先ほどから破綻ということが出ていて,恐らく破綻というのは,今,堂薗幹事からもあったような形で,不貞行為に基づく損害賠償の場合というのを念頭に置いて,例外に当たるのではないかという議論とも接点があるのかなと思うのですが,私自身は,不貞行為に基づく損害賠償の話とこの場面は,完全に切り離した方がいいのではないかと感じております。   というのは,不貞行為に基づく損害賠償の場合については,そこで婚姻生活というのが保護法益となっているとされるわけですが,それは法的な形式でもあると同時に,法的な形式を通じた上での実体的な関係というのが保護法益になっていると思います。他方,恐らくここで問題となっているのは,婚姻に基づいて,例えば配偶者名義の不動産に住んでいたという婚姻関係に基づく事実なわけですよね。幾ら破綻していても,要するに他人の家に当然に住むということはあり得ないわけですから,それを支えるとしたら婚姻関係しかないです。それに基づいていたという居住の事実というのが,一体どこまで保護されるのか,例外的なものであるのだけれども,短期居住権という形で保護されるのかという問題なのだろうと思います。   その意味では,同居・協力・扶助義務からストレートに説明するというよりは,やはり何かもう少し婚姻の,ちょっと漠然とした言い方ですが,婚姻の予後効であるとか,また西幹事の御発言では,猶予期間ということに触れていたのだと思いますが,生存配偶者の生存権というのはちょっとまた行きすぎなのかもしれませんが,でも,ニュアンスとしては,何かそういうタイプのものなのかなというふうな気がいたします。だから,その意味では,私自身はやはり破綻しているかどうかというよりは,そこでの生前の状況というのが,どういう法律関係によって制度化されているのかということだけで,形式的に判断すべきではないかと思います。   ただ,そうはいいましても,先ほどから出ている問題の,つまり積極的には配偶者の承認を得てというようなことを要件としないとしても,でも,追い出せなかったのだから,現にそれは承認を得ているのと同じ状態だよねという説明はできるとは思うのですが,しかし,他人に遺贈するというふうなことをした場合には,そこでは被相続人の意思は明確になっているわけです。にもかかわらず,なお一定の期間はそこに居住することができるのだという説明は,何か最終的にそういうことを政策判断として認めるということはあるのだろうとは思いますが,かなり説明としては難しいことは確かなのではないか思います。 ○村田委員 紛争が生じたときにいろいろな意味で解釈の余地が残らざるを得ないのはそのとおりですし,そのために基本的な原理,理屈をどうお考えになるかという観点から,いろいろ御発言があったと思いますので,そこは更に詰めていただければと思うんですけれども,全然違う次元からの視点として,短期の居住権の問題を議論するのにすごく解釈の余地が広くなると,そこをめぐっての争いが長期化するという非常に本末転倒の状態が生じかねない。そういうことをできれば避けて,分かりやすい,簡明な制度を目指すべきではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○増田委員 ③の関係なんですけれども,同居・協力・扶助義務を根拠とするとなると,全く同一の義務を負う内縁はなぜ保護されないのかという話になってきます。しかし,発想を変えると,基本的にこの③はほかのと違って,相続の問題ではなくて,一時的な生活の保護の問題に帰着させることができるのかなと思ったりはします。で,最初に感じた違和感から言うと,遺贈だと,相続人は遺贈義務者として履行義務を負う立場ではないのか,引渡義務を負っている方の立場の遺贈義務者が,その権利者の権利を制限するような権利はあるのかということです。そこが非常に違和感を感じたところですので,ここは権利というのではなくて,多分,明渡猶予,それも3か月とか6か月とか短期のもの,そういうような話で落ち着けた方がよろしいのかなと。だから,③以外の短期居住権の問題とは切り離して考えた方がいいのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。それは,遺贈の場合についてということですね。 ○増田委員 そうですね,遺贈の場合ですね。 ○浅田委員 ちょっと話は戻るかもしれませんけれども,先ほどの山本和彦委員からの,この制度は一体何なのかということについての銀行界からの考えについて改めて整理させていただきたいことと,加えて今問題になっている③についての意見ないしは疑問提起をしたいと思います。   まず,この制度の基本的な部分に関して言いますと,私としては,相続間の利害調整を考えているということでありますが,この場合,その外部にある第三者,取引債権者も含みますけれども,に対しては,この制度設計においてネガティブな影響がない,すなわち中立的であるということが望ましいと思っております。したがって,今回の短期居住権に関しても,現在の判例理論によると使用貸借だと言われているものが,賃貸借等のいわゆる一般債権者に対抗できるようなものに変容してしまうということであれば,それは問題なのかなということをまずは申し上げたいと思います。   その上で,これは長期居住権にも関係するわけですけれども,仮に対抗要件ということになるというのであれば,まず最低限押さえておきたいこととして,銀行が抵当権設定登記を経た場合においては,その登記時点において,抵当権者としては対抗要件を具備しており,基本的にはその後の相続発生等において,いわゆる対抗力が失われないという制度を望むものであります。   その上で,新たな疑問点として③のところでありますけれども,この部会資料の3ページの3,(1)法的性質等の3段落目のところで,その点についての強行法規性ということが書かれているわけでありますけれども,これに関しては非常に,銀行取引独自の特異な論点なのかもしれませんが,例えば銀行としては,抵当権設定契約はするけれども,登記は留保している場合,被相続人,所有者との契約において,その抵当物件について処分をしない,賃貸に出さないというような処分禁止を債権的契約として結んでいるということがあると思います。抵当権設定契約を結ばなくても,俗にネガティブプレッジと言いますけれども,債権保全のために一般資産,引当資産を維持するために,債務者に対して,自己の資産に対して処分をするなということを約諾させるということがあります。   こうした場合に,議論はあるとは思いますけれども,約諾者について相続が発生した場合においては,その契約上の地位が相続されるというふうに理解することができると思っております。そうした場合に,可能性としてですが,相続人が新たな賃借権を設定するということは,債権者との間の契約において約定違反を主張でき,ないしは履行請求ができるという地位にあるのかなと思っております。それが強行法規ということになれば,そういう約定というか権利が,現状での法的効果の議論はさておき,基本的に否定されることになろうかと思います。   したがって,この観点からしても,ちょっと現行法から劣後するのかなという懸念を持っています。 ○堂薗幹事 ③の点ですけれども,私の先程の御説明が不十分であったと思いますが,ここで考えているのは,被相続人の処分権を一定の範囲で制限するという趣旨なんですけれども,ここで遺贈あるいは死因贈与を例として挙げているのは,被相続人が無償で処分をした場合については,短期的な居住権に劣後してもやむを得ないのではないかという点にその趣旨がありますので,被相続人の処分であっても,何らかの経済的な合理性があってやっているもの,有償の処分などについては,強行法規性の対象にはならないという前提です。ですので,今,浅田委員が言われたように,抵当権の設定契約の中で,何かの約定がされたような場合に,それに優先させるということまでは考えておりません。 ○大村部会長 御議論は,先ほど山本和彦委員がおっしゃった第三者というのをどのように整理するのかということにつながるかと思いますけれども,その辺りはまた少し整理していただければと思います。   ほかにも御議論があるかもしれませんが,ちょうど中間ぐらいの時間になりましたので,もし今までの話と続けて是非ここで,という御発言があれば,それを承りますが,よろしければ,ここで少し休んで後半の議論に移りたいと思います。特に,何かございますか。   よろしいでしょうか。   では,今,3時30分ちょっと前ですので,3時40分まで休ませていただきます。           (休     憩) ○大村部会長 それでは再開させていただきたいと思います。   長期の問題も残っているのですけれども,短期の方について,今日の段階で言っておきたいという御意見がありましたら,まず伺いたいと思います。 ○水野(有)委員 1点だけお尋ねしたいのですが,短期の居住権というものに関しては,遺留分減殺のときはゼロと評価するという御認識で作られているのでしょうか。それともその件については特に何も考えてられないんでしょうか。   それと関連して,譲渡はできないと書かれているということは当然,差押えなどもできないという御認識で書かれているんでしょうかというのが,そこは御質問したいところでございます。 ○堂薗幹事 当然,遺留分減殺請求権との関係でも,短期居住権を取得したからといって,その分,配偶者が一定の価値を取得したという前提で算定することは考えていません。   それから,4で譲渡転貸禁止ということにしておりますので,当然,短期居住権自体を差し押さえるということもできないことになると思います。もっとも,短期居住権は,長期と違って,占有を喪失すると権利が消滅するという前提ですので,4がなくても,基本的には他人に譲り渡したり転貸をしても意味がないということになろうかと思います。 ○水野(有)委員 ありがとうございました。 ○垣内幹事 大勢に影響はないところだと思いますので,大変細かい質問で恐縮なのですけれども,存続要件と申しますか,消滅事由に関する⑤のところで,占有を喪失しということが要件になっているんですけれども,ここでいう占有を喪失というのは任意に占有をやめた場合だけでなく,占有を奪われた場合も含んでいる概念なんでしょうか。 ○堂薗幹事 理論的には占有回収の訴えをして占有を回復すれば,その間は占有が継続していたことになるので,権利は喪失していないという扱いになるのではないかと思いますが,建物ですので,実際にはそういった場面は想定し難くて,基本的には任意に明け渡した場合を想定しております。 ○上西委員 差押えとの関連で,長期居住権のところで質問しようとしたことです。短期居住権のところ,5ページに注書きで,公租公課について言及されておられます。短期居住権の存続期間中は配偶者が公租公課を負担するのが相当と考えられると。また,9ページの下から5行目の注1でも,公租公課については短期居住権と同様に配偶者が負担するのが相当と考えられるとあります。負担するということと納税義務者になるということは別でして,御案内のとおり,1月1日が賦課期日でその時点の所有者に課せられるわけです。所有者が納税する金額について負担するという位置付けにしないと,地方税を巻き込んだ大改正になります。また,滞納処分の手続も含めますと大変なことになりますので,現行の枠組の中で,納税義務者としてではなく,結果としての負担する者になるという位置付けであるべきだと思います。その考え方でよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 はい。ここは,基本的には相続人間で,短期の方ですと相続人間でどう負担するかという問題ですし,長期の方ですと建物所有者と長期居住権者の内部関係として,どちらがどう負担するかという問題になるものと思います。   したがって,建物所有者が納税した場合にその求償関係をどうするかという点を定める趣旨でございまして,納税義務者を変えるという趣旨ではございません。 ○上西委員 了解いたしました。 ○石井幹事 占有の話が出たので,それとの関係で一点申し上げさせていただきたいと思います。遺産分割の場面ですと御高齢の方が多いので,施設に入所されたりするような方も多いのではないかなと思いますが,一口に施設への入所といっても,短期の入所から帰宅を予定しないようなものまでいろいろあると思います。基本的には事実認定の問題なのかもしれませんけれども,施設への入所という事情が占有の有無の判断にどのような影響を及ぼすのかについても御議論いただき,要件を明確にしていただくということも一つの方策かなというふうには考えております。 ○大村部会長 長期の方でもホームへの入居などの問題が出ておりましたけれども,用語をどうするかという問題はありますけれども,区別の基準をどのように考えているのかということについて,少し明らかにする必要はあろうかと思います。   そのほか,よろしければ,第3から後,第4も含めて,御質問,御意見等をいただければと思います。 ○窪田委員 長期居住権に関して,先ほど,短期でも長期でも期間の点が気になると申し上げた,その期間の点についてですが,長期的な居住権の保護ということで資料2の6ページのところに①として,終身又は一定期間という形で定められていますが,ただ,実際に意義を持つのは恐らく終身の方なのかなという気がいたします。もちろん比較的若い生存配偶者が5年間だけかというのも可能性としてはあり得ないわけではないですが,余りリアリティーがないだろうと。   そうすると終身ということを定めざるを得ないし,それに対して,この場合には一定の対価に当たるような,財産価値に当たるようなものを支払わなければいけないということで,それをどうやって算定するのかという問題が出てくるのだろうと思います。   一定期間でも終身ということでも,全く同じように年数なり月数掛ける負担額という計算は可能なのだろうと思いますが,一方で,恐らくここで示されているものは終身というふうに言って,それを算定するという場合には,現に終身の期間が何年だったかという話ではなくて,予想される期間ということを前提として計算するということが正しく11ページの計算式の中にも示されているのかなと思います。   したがって,早く実はその関係は終了しても,それが更に長く続いても,それに関して,何か不当利得の問題だとかそういうことは生じないということなのだろうと思います。ご質問したい点は2点あるのですが,まず,その点はそれでよろしいということでしょうか。 ○堂薗幹事 そういう理解です。 ○窪田委員 その上で私,ちょっと気になりますのは,比較的,高齢の人という場合で,平均余命までの残余期間とするというふうなことが出ていて,これは逸失利益の計算でもよく使う式ではあるのですが,本当にこれで合理的な計算というのができるのかなというのが気になっている部分がございました。   というのは,つまり非常に若い年齢ですと,平均余命というのがそのまま生存可能年数ということになると思うのですが,60歳,70歳の人に対しても同じように計算するのかと。あるいは平均余命を超えておられる,正しくここで一番保護しなければいけない生存配偶者ということになるのですが,こんなのは些細な問題なのかもしれませんが,実はここで示されたほど,その期間の計算というのは単純ではないだろうなと。単純ではないとすると,その期間というのを基にして,短くても長くても動かさないというときに,十分にいろいろな議論に耐え得るものになるのかというのが少し気になりましたので,その点,御質問ということになるのかもしれませんが,お尋ねさせていただきました。 ○堂薗幹事 逸失利益の場合も含めて,例えば平均余命を超えている場合にどうするかとかいうのは,問題としてはあるわけでございますが,確かに終身ということにしますと,その期間が本当にどの程度あるのかというのが予測になりますので,そういった意味で長期居住権を取得する側にもリスクになりますし,建物所有権を取得する側にもリスクになるので,そこのリスクをどう評価するのか。リスクがあるからその分を考慮して財産評価額を減じるということは考えられると思うんですけれども,ただ,その場合にどちらから減額するのかという辺りが問題になるのではないかと思っておりまして,その点については今後も詰めて検討していきたいと思います。 ○窪田委員 特にこの部分にそれほどこだわるつもりはないのですが,今言ったリスクというのが実は双方向に平等に働くリスクではなくて,一方向により強く働くリスクなのではないかという点が気になっています。つまり,本当にここで保護しなければいけない高齢者ということになりますと,余り縁起でもない言葉なのかもしれませんが,予定していたよりは早くに亡くなってしまったというのは実は比較的,短期間の差しかもたらしません。ところが,幸い,非常に長生きしたということになりますと,そこでは非常に長い期間になるということもあり得るわけですよね。   そうなった場合に,所有者側の負担というのは実は大変に大きなものになるのかという点です。それが蓋然性に基づいて計算した式で,全部,正当化されるのかということでご質問した点の背景です。ただし,対案があるわけでは全然ございません。 ○上西委員 平均余命についてです。これは割り切りだと思います。相続税には未成年者控除というのがあります。相続開始の年齢と二十歳との差額について,27年1月1日以降でしたら1年当たり10万円の控除額になります。障害者控除でしたら85歳と相続開始時の年齢との差額について1年当たり10万円です。この85歳というのも平均寿命の伸長等に応じて変更になるので,年数の設定については,ある意味,割り切りかなという気はいたします。   ただ,問題となるのが評価額です。11ページで建物賃借権の評価額というのは,各国税局が出している借家権割合によります。原則30%になっていまして,これは分かりやすい数字です。このように,何らかの割合を持ってくれば,建物賃借権の評価額は出ます。しかし,建物適正賃料額はなかなか難しいんです。  例えば通常の借地権でしたら,借地権割合を単純に掛けるという形になりますし,定期借地権でしたら存続期間に応じた年金複利現価率を乗じるという形になります。ところが,存続期間については,一種の割り切りで解決したとしても,建物適正賃料額は土地のようには簡単ではありません。土地については路線価が全国的に示され,他の評価方法もありますが,大体,評価額は固まります。他の要素を考慮することが余りないんです。不整形地等についてもルールがほぼ決まっております。   これに対して,建物については固定資産評価額以外に公的な尺度がなくて,なかなか難しいです。実務の観点から見ますと,建物の中の家具や据付けの家具等の建物の一部になっているものもあります。建物の固定資産評価額とかなりかい離している事例も見当たります。ですから,どのような尺度を持ってくるのかです。別の尺度がないとすれば,固定資産評価額となるのですけれども,そのままダイレクトに使うのか,一定の評価の加減算を当事者で行うのかですね。   当事者で評価を行う方法についてです。一定の評価額を決める方法は,経営承継円滑化法における自社株式について固定合意と除外合意があります。そのうちの固定合意は,弁護士,税理士,公認会計士が証明した金額でやりなさいというものです。そういう余地を残しておくのかどうかについても,御審議いただければなと思っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   11ページの5の長期居住権の財産評価の部分ですが,この中に式が出ているわけですけれども,そこに入るべき数字というのがどういうものになるかということについて御意見を頂いておりますけれども,この点についてほかに御意見ございませんでしょうか。 ○垣内幹事 全く単純な内容の確認なんですけれども,11ページの(注)で書かれております平均余命ですが,これは例えば配偶者が現在75歳であれば,75歳の方の平均余命を想定しているものと私は理解していたんですけれども,そういう理解でよろしいんでしょうか。 ○堂薗幹事 はい,そういうものです。先ほど,既に配偶者が平均余命を超えている場合も一定の考慮をした上で…… ○垣内幹事 つまり75歳の方は平均して,あと普通に生きる。 ○堂薗幹事 ええ,そこはそうです。 ○山本(克)委員 平均寿命と平均余命の違いを今,お答えになっているので,平均余命を超えることはあり得ないのではないですか。 ○堂薗幹事 すみません。平均余命はそうですね。 ○大村部会長 御質問は,年齢ごとの平均余命というのを想定しているのかということかと思いますけれども,それはそういう前提ですね。 ○堂薗幹事 はい。 ○大村部会長 そのほか。 ○増田委員 そもそも論ですみません。   そもそもこれは単なるオプションなんですか,それとも形成権的に生存配偶者がくれと言ったらもらえるものなんですか。 ○堂薗幹事 資料12ページの(7)の「その他の検討課題」アのところで書いておりますが,配偶者の優先取得を認めるのか,あるいは完全に遺産分割のオプションとしてそういった分け方ができるということにとどめるのかという辺りが大きな問題ではないかと思います。   優先取得まで認めるということになりますと,他の相続人との利益をどう調整するのかという辺りが非常に難しい問題として存在するのだろうという認識でございます。 ○増田委員 オプションということであれば,冒頭で言ったように今でもやろうと思えばできるんだろうと思いますし,かえってこういうものを明文化することによって,保護にならない場合もあり得るのかもしれません。居住権を確保する代わりに現預金はわずかしか取得できないような分割であれば,単に住む家があってもお金がないので生きていくには不都合であるということもあると思います。   これを明文化する意味がよく分からないわけですね。協議であれば,どんな内容の協議でもできるわけであって,具体的相続分の計算も余り必要ないだろうし,審判でやる場合だったら,式を別に法定しなくても,裁判所が具体的な事案によって具体的相続分を定められるでしょうし,明文化のメリットは端的に何なんでしょうか。 ○窪田委員 ここに定められているような内容については,先ほど,堂薗さんからも御説明があったかと思うのですが,ここに定められているような内容というのを現行法でもできるというのは本当にそうなのかという点については,少し気になります。   つまり,当事者間で賃貸借契約を結んで,そしてそれを踏まえた上である1人の人が全部,まるごと,名義だけを取るというようなことは,遺産分割協議のレベルであればできると思うのですが,遺産分割審判において,裁判所が介入をする中でそうした処理をするということは可能なのでしょうか。   可能なのだとすれば,この制度の必要性は確かにそれほどないということになるのかもしれないのですが,その点について教えていただければと思います。 ○大村部会長 いかがでしょうか。どなたか。 ○石井幹事 十分なお答えになっていないかもしれませんが,一般的にはこういった遺産分割審判の中で居住権を設定するような例というのは,さほど多くなく,建物なら建物,不動産なら不動産を取得させるという例がやはり多いのではないかなというふうに思っております。   逆に私の方でお伺いしたかったのは,優先取得というのは,裁判所が一切の事情を考慮して遺産を分割する上で,裁判所の裁量に一定の制約を定めるようなものと理解してよろしいんでしょうか。   事案によっては,例えば居住権の価格を算定すると非常に低額になってしまって,自分の具体的な相続分との兼ね合いで見ると,本当だったら建物自体を取得できるんだけれども,短期居住権とお金でもらいたいというような希望を述べられる方もいると思うんですが,そういった場合でも,裁判所は希望通りに分割をしなければならないということなのでしょうか。 ○堂薗幹事 仮に優先取得権を認めた場合に,どういった形でそれを実現するかという点については,詰めて検討できているわけではありませんが,一つ,イメージとして考えられるのは,配偶者が長期居住権の取得を希望すれば,自分の具体的相続分の範囲内である限り,配偶者は当然に長期居住権を取得し,その部分については誰も何も言えなくなるということがあり得ると思います。   その場合には,配偶者は,長期居住権を取得した残りの部分について,ほかの財産を取得するということになりますが,残りの部分については従前の遺産分割と同じように,協議ができなければ,裁判所が裁量の下で分けるということになりますので,そういった意味で優先取得権を認めるということになると,裁判所の裁量権に一定の制約を課すということになるのではないかと思います。 ○大村部会長 裁量に対する制約の度合いは幾つかの案を考えているということなのではないかと思いますが。   ほかに何か。 ○南部委員 長期居住権の方が短期よりかかなり問題があるというようなイメージでして,皆さんの御意見もそうであったかと思います。私も,期間の問題があると思います。質問が二つあります。かなり高齢化になってきておりますので,例えば父親が亡くなる寸前に再婚されて,法律的には子供と親子関係はあるけれども,実質,血縁関係はないというふうなパターンもあるかと思います。そうすると,自分と血のつながっていないお母さんのために家を取られ,そしてずっと固定資産税だけ払わなければいけないということもあり得るのでしょうか。もう一つは,実のお母さんであったとしても,途中で再婚なさるということがあったときには,この居住権という考え方では再婚なさった方もそこに住むことはできるんでしょうか。 ○堂薗幹事 再婚した場合も長期居住権の場合は,それをどう利用するかというのは,長期居住権を取得した配偶者の自由で決められるということになりますので,そこは再婚した人を住まわせるということも当然できるという前提でございます。 ○南部委員 仮に再婚した後,母親が先に亡くなって夫だけになった場合は。 ○堂薗幹事 長期居住権の場合は,それを設定した場合に残りの所有権は他の相続人が取得するという前提になっていますから,配偶者が亡くなった時点で,その建物所有権を取得した人が使用権限も有することになります。したがって,その場合には,再婚した後に住んでいた人は明渡しをしなければならなくなるということになります。 ○南部委員 分かりました。 ○窪田委員 今の点に関連して1点,第2の方に戻ってしまうのですが,ご質問させてください。再婚の問題というのが長期居住権の方で再婚が終了原因にならないというのは正しく対価を払ってその利用権を取得している,遺産分割は一つの形態だからというふうに説明することができるとは思うのですが,短期居住権に関して再婚が終了原因になるという可能性については,検討はする必要はないのでしょうか。短期の方です。   つまり,長期の方は正しく対価を払った利用権なので,これは再婚しようが何しようが関係ないけれども,短期利用権というのは言わば無償で,婚姻の言わば予後効として認められるものなのだとすると,再婚というのは場合によっては終了原因になるのかなと今,御質問を伺いながら,ふと気になったものですから。 ○堂薗幹事 終了原因としてそういったものを含めるかどうかというのは,検討の余地があると思いますので,こちらでも検討したいと思います。 ○大村部会長 選択肢としてはありえますね。いいかどうかは別として。 ○窪田委員 余り深刻に考えることではないのだろうと思います。 ○大村部会長 長期の方に戻っていただきまして,御意見あるいは御質問,ほかにありましたら是非頂きたいと思います。 ○中田委員 長期について今,再婚の話題も出たところですけれども,長期間ですからいろいろなことが起こり得る,しかし,終身だという制約がついている,そういう立法例として,既に高齢者居住安定確保法があると思います。そこでやはり当該賃借人が亡くなった場合,どうするかとか幾つかの問題点が検討されていると思います。それから期間付きの場合についても別の規定があるんですが,それとの比較ということも,もし検討しておられたらお聞かせいただきたいですし,まだであれば,今後,した方がいいのではないかと思います。   もう一つ,11ページの算式のところなんですけれども,2種類の方程式が書かれているのですが,第1の方は無償で使用する場合ですけれども,ここで存続期間の定めがある場合もあり得ると思うんですが,その場合には途中で死亡するリスクを減価しなければいけないことになるのではないかと思います。   それからもう一つの有償で利用する場合には,賃借権が含まれる場合とほぼ同様というふうに書かかれているんですが,これはしかし,やはり通常の賃借権ではなくて,期間の定めがある場合には多分,更新がなくて,かつ終身だという制約がついてる,先ほど申し上げた法律に出てきているようなタイプのものですから,やはり普通とはちょっと違うんではないかなと思います。 ○大村部会長 この計算の部分は,基本的な方向性を示しているということで,もう少し詰めて考える必要があるかと思いますけれども,最初の高齢者の住宅とのことについてはいかがですか。 ○堂薗幹事 それとの比較についても今後,更に検討を進めていきたいと思います。 ○金澄幹事 ⑤のところなんですけれども,これは長期居住権ということで期間を定めるなり,平均余命なりということにするんですけれども,そうすると,残存期間の居住部分,設定期間よりももっと短いときに亡くなったときに,その残存部分というのを今度,またお子さんが相続をするということになるんだろうと思うんですけれども,そのときの経済的な価値の評価の仕方というのがまた非常に難しくなるということが一つと,逆に平均余命より長生きした場合についても,今度,やはり完全な使用権というのを相続するということになると思うんですけれども,そのときには全然,評価をしないで,そのまま完全な所有権を取得するということになるのか,短くなったときには残存期間の経済価値をまた子供が相続するということになるので,そこのところの再度の相続のときに非常にバランスというか,考え方が難しくなるのではないかなということを心配をしております。   それともう一つ,先ほど,増田委員がおっしゃったことなんですけれども,用益権の設定の方法による遺産分割の可否ということについて,非常に昔の裁判例なんですけれども,富山家裁の昭和42年1月27日,家月の審判例などでやはり用益権を設定した事例というものがあったり,東京家裁でも昭和52年1月28日にやはり用益権,22年間の土地の賃借権を設定した事例というものもあるので,そういうものをうまく活用することによって,こういう新しいものを特に作らなくても解決ができるということもあるのではないかということを補足させていただきます。 ○大村部会長 2点,御質問ありましたけれども,1点目から順にお願いします。 ○堂薗幹事 まず,基本的には長期居住権も死亡すれば消滅するということで,一身専属的な権利という理解ですから,相続の対象にはならないという前提です。ですから存続期間満了前に亡くなった場合も,その分は建物所有者が利益を得るわけですが,それは仕方がないと,そもそもそういう権利だという前提でございます。ですので,再度の相続というのは想定しておりません。   それからもう一つ,遺産分割の審判で用益権の設定ができるかという点については,正にこの制度が必要かどうかに関わってくるところだと思いますが,少なくとも建物については,物権として,用益物権が用意されていないという点が問題だろうと思っております。用益物権の設定による分割ができない以上,あとは賃貸借契約なり使用貸借契約で使用権を設定するということになりますけれども,通常,契約について当事者間の合意以外で成立を認める場合には,それは法律できちんと書いてありますので,法定の賃借権なり何なりということで書いてありますので,現行法の下でそういった規定がない中で,本当に遺産分割の審判で,裁判所が当事者間の合意もないのに賃貸借契約なり使用貸借契約の成立を認められるのかという点については,こちらとしては極めて疑問に思っているところです。   現行法ではこういったことをしたくても,受け皿となる権利がないのではないかということで,今回の方策をお示ししているということでございます。 ○大村部会長 先ほど,増田委員も御指摘になられたところだと思いますけれども,どこまでのことをやるのかということがあるだろうと思います。今のような選択肢を作る必要があるかどうかということが一つと,それからそれを遺言等で被相続人があらかじめアレンジをすることができるのかというのがもう一つ。何段階かあるかと思いますけれども,最初の点については,堂薗幹事がお答えになったように,現にやっているものはあるかもしれないけれども,より安定した基礎付けが必要ではないか。そういう御趣旨だったかと思います。 ○浅田委員 また第三者から見た話でありますけれども,長期居住権に関しても,対抗との関係については短期のところでお話ししましたとおりのことがございまして,ここでは改めて繰り返しはしませんけれども,やはり対抗の関係で問題になり得るので,その制度設計についてはご配慮いただきたいということがあります。   そのほかに,新たな権利を設定するかということについて,第三者から見て,若干細かい問題提起でありますけれども,例えば賃貸借であれば,抵当権が優先していた場合には,賃料に対して物上代位で賃料差押えができると思います。   今回提案されている居住権というのは,基本的に賃料相当分というのは相続分において計算されるということなので,期中において掛かる賃料の受け払いがなされるということは想定されていないということになろうかと思います。   そうしますと,抵当権者という非常に限定された立場からではありますけれども,そういう賃料相当分に対して何らかの権利を主張するということが阻害されるのか,ないしはそれに相当するような代替手段というのを検討されているのか,ということが気になるということであります。   それに関連して,もうちょっと細かい話をしますと,例えば競売を行った場合においても,例えば賃貸借であれば,現行の民法395条において,買受人が出現しても,6か月間の猶予があるということがありまして,こういう猶予期間を置くということは,長期居住権の制度設計に関しても十分参考になり得ると思います。   ただ,その一方で395条の2項を見ますと,基本的に賃料の支払いという期待というのは失われていないという制度設計だというふうに思っておりますので,そういう395条類似の検討をすることにおいても,やはり賃料に対する債権者の期待というのをご配慮いただければと思います。 ○堂薗幹事 長期居住権については,第三者対抗力まで付与する必要があるのではないかというように考えておりまして,その場合に抵当権者との関係をどう考えるかというのは非常に難しい問題だと思います。ただ,現行法上も,例えば,被相続人が自分の死亡を効力の発生時期として,第三者と賃貸借契約を締結し,賃料の前払いもしていたというような場合であっても,基本的には被相続人の死亡後に第三者が対抗要件を取得すれば,その後に設定された抵当権には優先するということになるのだろうと思います。長期居住権の場合には,基本的には,遺産分割などでこれを取得した時点で第三者対抗力を取得することになりますから,その時期と抵当権の登記時との前後関係で,優劣を決めるということにならざるを得ないのではないかと思います。   したがいまして,長期居住権を取得した配偶者は,無償で建物を使用することができるということにしますと,賃貸借契約で賃料を全て前払いしているのと同じ状態になりますが,そういった問題は現行法上もあって,そこはやむを得ないのでないかというのが現段階での整理です。 ○浅田委員 抵当権設定の登記が先にあって,その後,相続が発生したことによって,その時点において長期居住権が発生,及び占有によって対抗要件が具備されたという場合においては,私も検討の余地があるという理解です。ありがとうございました。 ○増田委員 オプションだということになると,それほどうるさく言う必要はないのかもしれませんが,少し懸念材料だけ列挙させていただきます。   まず,具体的相続分として居住権を取得することによって,手元にお金がないという状況になった場合,後発的事情によって引っ越す必要が出た場合,現行だと,家を売って小さいマンションに引っ越すと,家を売って施設へ,より充実した高い施設へ行くというようなことが考えられるけれども,お金が手元になければ,それができなくなる。   相続の際に相続税の支払いのために換価が必要な場合,家を処分しなければいけないのに,生存配偶者が居住権を主張して頑張ったら困るのではないかという問題がある。  社会経済的に見て,長期にわたって不動産の流動性が阻害されるという問題がある。その不動産に関しても,不動産といっても不動産マイナス居住権になってしまって,非常に価値が低くなり,ひいては,その不動産を担保に取ろうとする場合には,将来の担保価値が下がるリスクがある。無担保債権者にとっても,債務者の責任財産の価値を予測しにくくなる。   ちょっと笑い話みたいになるけれども,今は同居している配偶者がいる人の方が与信する上では信用があるんですけれども,この制度ができると逆に信用がなくなるのではないか,相続が起これば責任財産減少のリスクが高まるという意味でなくなるのではないかという懸念がある。あと,先ほど,再婚の話が出ましたけれども,再婚の相手には承継されないということになると,再婚しにくくなるかもしれない。   それから,審判においてもそういう選択肢を作るということなんですけれども,先ほど申し上げた共有分割の審判というのは理論的にはできるだけ避けるべきだとされていて,それは後日,共有者である共同相続人間の紛争が残るからだと言われています。それなのに協議で賃借権など利用権を設定できないような仲の悪い共同相続人間で仮にこういう審判ができるとしても,同様に紛争が後日に残るので,そのような審判が相当かどうかということについてはかなり慎重な考慮をしなければならないので,結局適用される事案はかなり特殊な場合に限られる,そういう問題もあるようにと思います。  散漫になって恐縮ですが,一通り,懸念材料を並べさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。幾つか御指摘があったかと思いますけれども,一番最初におっしゃった,所有権ならば換価の余地があるけれども,この長期利用権の場合にはその点はどうなるのかという点は,御説明の中に入っていたとは思いますけれども,改めてお答えいただいた方がよいかと思います。 ○堂薗幹事 長期居住権の場合は,そういう事情の変更,例えば終身そこに住むつもりで長期居住権を取得したけれども,施設に入らなければいけなくなったという場合でも,換価は難しいというのは御指摘のとおりだろうと思います。   ですから,そういった点も踏まえて,配偶者はその選択をしなければならないということになろうかと思います。仮にこれを換価できるようにしようということになりますと,手段としては,例えば,建物所有者に対する買取請求権のようなものを設けることが考えられなくはないんですが,そうすると建物所有者の負担というのは更に大きくなりますので,なかなか難しいのではないかと考えています。   したがいまして,ここで考えているのは,基本的には建物所有者に長期居住権を買い取ってもらって明け渡すか,あるいは建物所有者の承諾を得て,それを第三者に譲り渡したり,転貸するということです。ただ,この手段も,長期居住権の場合は配偶者の死亡によって消滅しますので,なかなか換価は難しいという面があるのは御指摘のとおりかと思います。 ○大村部会長 ほかにも幾つかの御指摘がありましたけれども,利用権がついているという状態は所有権単独の状態に比べれば,複雑な権利関係が生ずるということになりますので,それに伴って不動産流通はマイナスを被るでしょうし,紛争もそれに伴って増える可能性があるという御指摘かと思います。そういう面は確かにあるでしょうね。   そのほかいかがでしょうか。 ○中田委員 長期の方は遺言で排除できるという理解でよろしいでしょうか。相続させる遺言ですとか第三者への遺贈とか。 ○堂薗幹事 そういった形で遺言がされれば,その後,配偶者は長期居住権は取得できなくなりますので,短期とはその点は違うという前提です。 ○中田委員 分かりました。そうだとしますと長期居住権の根拠付けは公序ではなくて,政策的な判断になるのかと思いました。そうだとすると,要件の方にも跳ね返ってきて,例えば高齢配偶者の保護ということですと,対象となる方の年齢要件を定めるとか,先ほどの高齢者居住安定確保法ですと60歳以上というふうになっておりますけれども,あるいは配偶者の潜在的共有持分の保護ということですと,ある程度の婚姻期間があったことを求めるとか,あるいは居住保護ですとある程度の居住期間があったことを求めるとか,いろいろな政策判断に応じた要件設定ということはできると思うんですけれども,多分,そうなってくると非常に特殊な制度になってくるのだろうと思います。そうではなくて一般ルールとして認めるとすると,一体,根拠は何なのかということがまた元に戻ってきて,はっきりしないなということが問題点かと思います。 ○大村部会長 今,おっしゃったのは優先取得を想定されてですね。 ○中田委員 はい。取り分け優先取得との関係でも遺言の方が更にそれよりも優先するということのようですので。 ○堂薗幹事 御指摘のとおり,長期の場合に保護要件としてどういったものを設けるのかというのは非常に難しい問題であると思っております。この資料では,単に相続開始時に被相続人所有の建物に居住していたという点だけを保護要件として挙げておりますが,それだけの理由で配偶者だけが権利主体とされている点について合理的な説明が可能かという問題はあろうかと思っております。   ただ,なかなかこれを年齢で区切るというのも難しいところがありますし,また,長期居住権の場合には,若い配偶者が終身の権利を取得しても,その評価額は所有権を取得した場合とあまり変わらなくなると思いますので,仮に年齢要件を定めなくても,一般的に,この制度を利用するメリットがあるのは高齢の配偶者となるのではないかと思います。   そういった観点から,高齢になればなるほど,転居が肉体的にも精神的にも困難になるので,そういったことがないように選択肢をより広げたという説明ができないかと考えているところでございます。 ○山本(克)委員 私は居住要件が必要なのかどうか,それ自体,問題のような気がするんですが。例えば本宅と別宅を持っていて,夫婦で本宅に住んでいたけれども,本宅を売り払わないことには相続税を払えないというんで,別宅にこういう長期居住権を設定してあげるという選択肢だってあり得るのではないでしょうか。なぜ同じ場所に住むということが必ず必要なのか,そこがよく分からないんですが。 ○堂薗幹事 特に他の相続人の具体的相続分には影響を及ぼさないこととし,さらに優先取得権も認めないということを前提にしますと,そもそも保護要件は必要なくなるのではないかということは十分考えられるのではないかと思いますが,逆にそこまでいくと,今度は何で配偶者にだけ権利取得を認めるのかという問題があるように思います。 ○山本(克)委員 違います。私が言っているのは居住要件は保護要件ではなくて,ほかに保護要件があるのではないかということを申し上げたつもりです。つまり,単独では生計を維持する手段を持たないので,一般の賃貸住宅には入居できないような人とか場合とか,そういうような場合を念頭に置いて保護してやるべきであって,何かそういう財産的な要件で画すべきであって,当該建物に居住していたかどうかというのは余り大した話ではないのではないかということを申し上げた。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえ検討したいと思います。 ○山本(和)委員 先ほどの換価がどうかという話なんですけれども,これもやはり相続債権者の立場から見たときに,こういう形で分割がされると結局,長期居住権はほとんど換価できない,差し押さえても換価できないということになり,他方,建物の方は,これは配偶者がいつまで生きるか分からないので,買う側は最大のリスクを考えますから,ほとんど値段が付かないようなものでしか売れないような気がするんですね。   そうすると,こういう分割がされることによって,事実上,債権者側から見れば,一種の差押え禁止財産に近いようなものができてしまうような気もしていまして,それで直ちにもちろんいけないということではないと思うんですけれども,そういう観点からするとかなり問題はありそうかなという印象は受けました。 ○堂薗幹事 そういう問題はあるのだろうと思いますが,ただ,賃貸借でも,同じように非常に長期の賃貸借を締結し,賃料を全て前払いしてしまったという場合ですと,同じような問題が生じるのではないかと思います。ただ,御指摘の問題点については引き続き検討したいと思います。 ○窪田委員 あまり中身のある発言ではないのですが,今まで議論を伺っていて,弁護士の先生方から今までの遺産分割だってそれはできたのではないかというご発言がありましたが,私自身は先ほどの堂薗さんの認識と同じで,遺産分割協議ではできたとしても,遺産分割審判で本当にできたのかという点については,その根拠がよく分からないなという気がしています。ただ,仮にそれを前提としても,今回の話というのは短期居住権,長期居住権という二つの居住権を設定するというイメージなのですが,実は長期居住権については,今,山本和彦委員からお話があったとおりなのだろうと思うのですが,実は遺産分割の方法を定めているだけなのではないかと。つまり,遺産分割の方法として今までいろいろな方法があった中に,長期居住権という形での遺産分割の方法を定め,したがって,遺産分割協議ではもちろん,遺産分割審判においてもそういう選択をすれば処理することができるという枠組みなのではないかと。   仮にそういうふうに理解した場合には,現金がない場合にも一定の合理的な遺産分割ができることになります。不動産を換価処分しなくても分割ができるということで,それ自体としての制度の合理性を説明できるのではないかという気がします。その上で,むしろ2段階目で出てくるのがこうした長期居住権を配偶者が選択した場合に,それに優先権を認めるかどうか,これは次の別の問題として政策判断としてあるのかなと。   そういうふうに2段階に構成して考える,あるいは長期的な居住権の保護,第3という形で挙がっていますと何か新しい権利が生まれるというイメージなのですが,実は単に遺産分割の方法を定めたという理解で考えていった方が議論をしやすいのではないかなという,これは感想めいたもので恐縮なのですが,印象を受けました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどからオプションが増えるだけなのかという御指摘もされていましたけれども,オプションが増えるということと,そのオプションを選択する生存配偶者にどの程度の権利を認めるかという,2段の問題になっているという御指摘だったかと思います。さらに,被相続人がどうするかという問題もありますので,三つ問題はあるかと思いますけれども,そういうものの組み合わせとして,どれを認め,どこまでいくのかということが検討の対象になるという御指摘だったと思います。 ○垣内幹事 今の窪田先生のお話に関連するかと思うんですけれども,私もこれは遺産分割方法について一つのオプションを加えるものであるように思いまして,そうだとしますと,オプションの内容として今,御提案になっているのはかなり特殊な長期居住権という内容の権利で,生存中のみしか存続しないとかその他の内容を持っているわけですけれども,端的に通常の賃借権を設定することができるというオプションを導入するという選択肢が採られてはならない理由というのはどこにあるのかということについて御質問したいのと,もしそういうふうに考えた場合には,もし仮にそういうものがあり得るとした場合,窪田先生も2段階と言われたわけですが,私の角度からしますと次の段階として,賃料を受け取るべき相続分で前払いをすることができるという遺産分割をすることはできるかという次のステップがまたあろうかというふうに思うんですけれども,そのような選択肢についてはどういうふうにお考えでしょうかということをお教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 長期居住権の内容をどう設定するかという点については,資料ですと9ページの(4)のアのところで書いているわけですけれども,ここで①から⑥で書いている内容はどちらかというと無償で,賃料を払わないという前提で書いております。もっとも,必ずしもそれに限られるわけではなくて,制度設計としては,法定賃借権のような有償のものにするということも考えられますし,無償と有償,どちらも選択することができるとすることも考えられるのではないかとは思います。   ただ,仮に有償だけにして,法定の賃借権ということにしますと,資料の6ページで書いてあるもののうち,⑥の「被相続人が遺言で配偶者には長期居住権を取得させ,建物所有権は他の相続人に相続させる」というようなやり方は難しくなるのかなと思います。すなわち,そもそも,遺言によって権利を取得する人に有償の義務を負わせることが可能かという辺りが問題になってくるのではないかと思います。 ○山本(克)委員 今の点と関連するんですが,仮にこれを賃貸借というふうに構成された場合に,借地借家法の第2主張の適用関係はどういうふうになるというふうにお考えなんでしょうか。   私の関心はむしろ現在,審判によって設定されている賃借権の中身が借地借家法に拘束されているのかどうかという方が関心があって,法定の犠牲的な賃借権を設定するんであれば,借地借家法の適用関係についてはその権利の内容として定めることが可能であると思われますけれども,現行の今やっていることは,その辺のこと,リスク。例えば10年と定めた後に更新の問題はどういうふうに処理されるとお考えになっているのか私には理解ができませんので,私はむしろ作った方がいいという立場なので,仮にオプションを増やすのでは,現行でいけているというのは私は必ずしも納得できないところがありますので,その辺のお見通しについてお教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 仮に法定の賃借権のような形で認めた場合も,そこはきちんと財産評価をした上で,賃料を払うにしても払わないにしても,その存続期間に応じた財産評価をすることを前提としておりますので,基本的には期間の更新というような形で借地借家法の適用を認めるのは難しいのではないかと考えております。   もちろん法定の賃借権でも有償だということにすれば,場合によっては可能なのかもしれませんが,今,ここで考えているのは基本的には期間限定で,期間が満了すれば更新もされずに終了するというようなものを念頭に置いております。 ○山本(克)委員 仮に期間を定めたら,定期賃貸借のようなものを借地借家法で定めているというのは別の方式ないし要件の下に認めるということを意味するんだということでよろしいですか。 ○堂薗幹事 はい。 ○大村部会長 賃貸借の場合と比較しながら検討するというのは必要なことなんだろうと思います。   この制度を新しい権利を作るという形で考えるときに,賃貸借と比較してどこを変えたのかというように考えていくのか,あるいは法定賃借権のようなものを考えて,それで不都合があるところをどうやって直していくのか,二つの方向があるだろうと思いますけれども,いずれにしましても垣内幹事の御発言から始まった議論は,賃借権並びで考えたときにどんな問題があるかということを検討せよという御指摘として受け止めさせていただきます。   そのほかいかがですか。 ○米村委員 専門外なので素朴な質問ですが,先ほどから遺産分割のオプションとしてというお話ですとか,それから,中田先生から高齢者居住安定確保というお話がありました。超高齢社会になってくると子供も高齢者に近かったり,すでに高齢者であったり,居住権の保護という意味で,生活保障の観点から,住み続けることが必要な人が配偶者以外にもいるかと思います。オプションというような形にしたときに,それは配偶者だけ優先的にということになるのか,必要に応じて,ほかの相続人にも適用されるのかというところはどうなのでしょうか,教えてください。 ○堂薗幹事 そこも,この制度をどう説明するかというところに関わってくるのですが,現行法上使用権の設定という形で遺産分割をするのが難しいことから,遺産分割のオプションとしてこういう制度を設けたというだけであれば,それは,対象を配偶者に限定する必要がなくなってきますので,その権利主体を他の相続人にまで広げることも,選択肢としてはあり得るんだろうとは思います。   ただ,そもそもそこまでいくと,今度は逆に相続の場面でだけ,使用権の設定ができるようにする理由もなくて,例えば,建物についても用益物権を認めればいいではないかとかいう議論にもつながっていきますので,現時点では,配偶者に限って,しかも相続の場面だけで,使用権の設定を認めるということを考えておりますが,ただ,その点の説明の仕方については工夫が必要であろうと思っております。 ○大村部会長 米村委員,今の説明で,よろしいですか。 ○米村委員 はい。 ○大村部会長 そのほかいかがでしょうか。 ○水野(有)委員 これも質問なんですが,6のところの被相続人は,遺言又は死因贈与によって配偶者に長期居住権を取得させることができるという規定があるのですが,これに対する遺留分減殺請求というのは想定されているんでしょうか,されていないのでしょうか。 ○堂薗幹事 この場合は当然,無償で長期居住権を取得しているという前提ですので,その部分については財産的評価をして,遺留分減殺請求の計算の中でもそこは考慮するということを考えております。 ○大村部会長 ほかにいかがでございますか。 ○西幹事 思いきり原点に戻る話になってしまいますけれども,この長期居住権がフランスにおいて非常に重要な制度だというのは私もよく分かります。ただ,日本において今,それほど魅力的な制度に仕上がるのかというのが今一つ,まだ十分に理解できていないところがあります。   と申しますのは,日本は,フランスが今,どうなのか分かりませんけれども,死ぬまで自宅に居続けるというのが必ずしも一般的ではない時代になってきていると思います。また,持家比率というのも都市部では既に50%を切っているというのが現状ですので,次のところに賃貸物件である場合の保護方策というのがありましてそれは重要だと思いますけれども,そういう状況の中で持家についてこのような相続分に含められてしまう長期居住権が作られて,喜んでそれを選択する配偶者がどれほどいるのかというのが私はまだ分からないところがあります。最初の段階では,相続の段階では確かによさそうに思えるかもしれませんけれども,古くなって,ある程度,死ぬ段階で古いと思いますけれども,更にその古い家にあと何十年か住み続けるということを前提にそれを選択するという人がどれほどいるのかというのがやはり疑問です。制度の魅力を上げるためには,先ほど,途中で換価ができないというお話がありましたけれども,転貸の可能性以外にも,例えばその段階から終身定期金に変えるというか,つまり,支払った前払い賃料を取り戻すというようなイメージになるかもしれませんけれども,途中から定期金のようなものに変えられるとか,何らかのそういうものがあれば非常に魅力的だと思いますけれども。今の日本の状況を考えると,必ずしもフランスにおける長期居住権と同じだけの意味を持つ長期居住権が必要なのか分からないところもありますので,その辺りの立法事実というほど,大げさなものではありませんけれども,立法の背景をどういうふうにお考えになったのかというのを教えていただければと思います。 ○大塚関係官 一般的なデータにつきまして御説明いたします。これは内閣府が出しております平成26年版の高齢社会白書から取ったデータでございますけれども,高齢者の方が介護を受ける場所としてどういうところを望むのかという調査事項について,自宅を望むという方が一番多いという結果になっていまして,男性が42.2%,女性が30.2%となっています。最期を迎える場所としてどういうところを望むのかということについても,自宅を望む方が54.6%で最も多いという結果になっております。   それから,現在の住居についても,それぞれいろいろな住居があり得るかと思いますけれども,高齢者のうち89.3%の方は現在の住居に満足していらして,たとえ体が弱っても自宅に住みたいと考えていらっしゃる方が66.4%を占めているということもございますので,古くなったにせよ,現在の住居に住み続けたいというニーズはある程度存在するのではないかと認識しております。 ○西幹事 ありがとうございます。 ○大村部会長 もちろん現金がいいという方もいらっしゃるかと思いますけれども,住宅を望む人も一定数いるということですね。 ○堂薗幹事 高齢者の再婚が増えているというデータはあるんですけれども,前回,窪田委員からも御指摘がありましたが,後継ぎ遺贈的なものとして,現行法ですと,例えば,再婚した高齢者に居住権は確保したいけれども,配偶者が亡くなった後は配偶者の連れ子ではなくて,自分の子供に所有権を取得させたいという場合に,相続においてそれを実現するのは難しいところがあると思います。この制度を設けた場合にはそういったことも可能になりますので,そういった意味で高齢者の再婚が増えている現状を踏まえて,こういった選択肢を設けるということには一定の意味はあるのではないかと思っております。 ○西幹事 ありがとうございます。 ○窪田委員 今の点に関連して,後ほど,その他というところで申し上げようかなと思っていたことなのですが,遺言の扱いに関してです。第3の6で,被相続人は,遺言又は死因贈与によって配偶者に長期居住権を取得させることができるという形で,短期居住権の方では,遺言というのは配偶者に不利な遺言があった場合の扱いを書いていましたが,むしろごく自然なケースとして,配偶者に積極的に終身の利用権を与えたいというタイプの遺言はあるのだろうと思います。   それを正しく第3の6で書かれているということではあると思うのですが,ただ,ちょっと気になりますのは,長期居住権という制度が認められないと,こうしたことが本当にできないのかというと,現行は後継ぎ遺贈については随分,議論がありますが,正しくそうした居住権を与えるということを目的としているようなタイプのもの,これは負担付き遺贈でもできるとは思うのですが,こうしたものについてきちんと効力があって,なおかつ実効性も担保できるというような制度を立てるというのは,これとは両立するものとしてあり得るのではないかと思います。もちろん長期居住権という制度が設定できた場合には,より簡単に遺言に組み込むことができるのかもしれませんが,その正否とは一応切り離してでも,その部分はなお検討していただければ有り難いなというふうに思っております。 ○大村部会長 今の御指摘は,この制度によって後継ぎ遺贈,配偶者なら配偶者に終身の利用権を認めた上で,配偶者の死亡後は別の相続人に承継されるという遺言と同様の結果が実現されるけれども,正面から後継ぎ遺贈を認めるような遺言を考えてもよいという,こういう御指摘ですね。 ○窪田委員 本当は後継ぎ遺贈にする必要はなく,つまり,Aのところに行った後,Bにというふうにする必要はなくて,本当は最初からBのところに所有権を移転した上で,Aに終身の利用権を与えるというようなタイプの遺言の効力,それが負担付き遺贈であったとしても,そうした遺言の実効性を担保できるようなものとして作れば,少なくとも⑥の部分というのは長期居住権の正否に関わりなく,実現できるのかなというふうな気がしました。   というのと,一番最後のその他の方策として,何があるのかといったときに,やはり被相続人が積極的に生存配偶者の保護を図るような遺言を残した場合には,それをよりサポートしていくような仕組みというのを考えるということはできるのではないか思ったということです。 ○大村部会長 今,その他のところについての御発言がありましたけれども,その他のところの1で,居住建物が賃貸物件である場合というのが挙がっております。これも含めまして御意見を頂ければと思います。もちろん長期の居住権について引き続き御意見を頂いても結構です。 ○森委員 遺産分割の審判によって賃借権を設定できるのかということについては,増田委員が御紹介された例,あるいは金澄幹事が御紹介された例があることは私も存じ上げております。   ただ,実務家としての感覚を申し上げますと,そのような事案は,将来にわたって債権債務が発生し続けることに関して相続人間で基本的な合意ができているものの,賃貸借期間等の点で合意ができていないような場合に,そこを審判で示したという例ではないかと思いますし,将来的な債権債務を形成するような審判は,そうした場合でなければ難しいのではないかと思っております。   また,今日の議論では優先権の問題,期間の問題,評価の問題等が出ておりますが,遺産分割の審判をする立場からいたしますと,これらの問題を議論する際には,どのような事項について,どこまで裁判所の裁量を認めるのかという点を明確にしていただければと思っております。 ○大村部会長 御要望として承って,事務局の方で御検討いただきたいと思います。   ほかにいかがでございましょう。あるいは先ほど,長期を議論しなければなるまいと思って,短期の方の議論をあるところで打ち切って進ませていただきましたけれども,短期の方についてさらに御意見があれば,それも含めて伺いたいと思いますが。 ○窪田委員 御検討いただきたいと言うだけのことでございますけれども,2ページのところで第2,考えられる方策で①から⑤まで挙がっております。先ほど,特に③の部分が議論になって,これは例えば退去についての猶予なのではないかということで西幹事からもお話がありましたが,それに対して,①,②というのは現在の判例からでも一定の説明はできるところだろうと思いますので,実は随分,性格の違うものが入り込んでいるのかという気がします。ですから,①,②,③と並べて,短期賃借権の保護とすると,どうも性格の違うものが入ってしまうのではないか。場合によっては切り分けがうまく分かるような形で整理していただいて,そして検討するという方がいいのかなというふうに思いましたので,御検討いただければということです。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほどの森委員の御発言もそうかもしれませんけれども,一体として出ているものを少し分節化して,どこまで認められるのか,何を定めることになるのかを明らかにした方がいいという御指摘として受け止めさせていただきます。 ○増田委員 先ほど,米村委員から御指摘がありましたが,保護の必要性は配偶者には限らないはずなんですね。高齢,障害,その他の理由で保護が必要な子というのは一定程度いるわけで,長期の方は特にオプションということであれば,個別事情によって,当然,子の方に居住権を与えるというのはあって然るべきだし,そこで配偶者という限定を法律上の要件としてつけてしまうと,反対解釈として子は駄目だというような,変な解釈もあり得ないわけではないので,保護の対象とすべきは配偶者だけではないということは御考慮いただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。先ほど,堂薗幹事からお答えがありましたけれども,どこまで認めるかということによって,どの範囲の人に選択を認めるかということも違ってくるのかもしれませんが,御指摘も踏まえて,事務局には御検討いただければと思います。   そのほかはいかがでございますか。 ○浅田委員 銀行としては余り考えてはいないことですけれども,第4の1で,賃貸物件である場合の保護方策ということが書いてあります。このような観点から,例えば遺産分割において,配偶者は居住建物の賃借権を優先的に取得することができるかという意味合いでありますけれども,賃貸人,不動産のオーナーの立場からは当然,賃借権の相手方を選ぶ権利というのは一定程度あろうかと思うわけですけれども,この規律を作った場合に,賃貸人との関係でどういう整理がなされるのかと。この制度は配偶者が賃貸人に対して,自分が住むことができるということを主張する権利を創設的に作るのかどうかということのようにも見えるわけなんですけれども,その検討の内容について教えていただければと思います。 ○堂薗幹事 相続の場合には基本的には包括承継になりますので,賃借権の譲渡,転貸には当たらず,相続人が引き続き権利を取得できるという前提であり,相続財産の中に賃借権がある場合には,それも含めて遺産分割をするわけですけれども,その場合に配偶者にそれを優先取得させるということは考えられるのではないかと思います。   ですから,配偶者が優先取得した場合には,賃貸人としては配偶者を賃借人として認めざるを得ないという前提で,ここでは書いているということでございます。 ○浅田委員 ここは私自身も整理していないところでありますけれども,包括承継として,共有持分を各相続人が持っていて,一義的には相続人が居住することができると。共有持分ですから,誰がどういうふうに住むのかということについてはケース・バイ・ケースだとは思いますけれども,私が住みたいと配偶者が言った場合には,その他の相続人を排斥して居住することができるということであって,それは現行法,相続法の観点からも言えると。ただ,相続人間の関係において,あなたは住むことはできないということの権利が主張できるということを今回,明記すると,そういうことですか。 ○堂薗幹事 はい。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   今の賃貸物件の件,何かほかに御意見,御質問ございますか。   ここでは付随的に第4の1というのがあって,こういうことも問題になり得るという形で出ておりますけれども,今回,これを積極的に取り上げるかどうかということについて,何か御意見等がありましたら伺えればと思います。   特にございませんか。所有権の場合については一定の選択肢ないし保護というのを与えようということを検討しているわけですけれども,賃貸の場合について,それならば同じように対応しようという考え方と,賃貸借にはまた別の考慮が必要であり直ちに同じような対応はできないという考え方の両方あろうかと思いますけれども。特にその点については強い御意見があるというわけではないということでしょうか。 ○沖野委員 強い意見があるわけではないですけれども,高齢であって,なかなか一般的には賃貸借もできないという場合を考えますと,今ある賃借権を,もちろん賃料支払義務を負うわけですけれども,そのまま継続できるという要請は所有権以上に強いのではないかというふうに思われますし,所有権の方ですと,賃借権にすればまた別かもしれませんけれども,新たな権利創設によってかなり複雑な問題も生じますし,所有権を取得する者の不利益とその調整ということもありますので,そういった問題もあるということを考えますと,賃借権の方がより問題が少なく,制度趣旨を達成しやすいという面もあるので,併せてこういう方策を考えるというのをむしろ積極的に検討した方がいいのではないかと思っておりますけれども。 ○大村部会長 賃貸についても考えた方がよいのではないかという御意見だったかと思いますけれども,ほかに何かございますか。あるいは第4の2にその他の方策ということで,先ほど窪田委員からこれに関わる御発言がありましたけれども,この点についても何か御意見があれば承ります。もちろん第3に戻っていただいて長期でも構いませんし,あるいは更に遡っていただいて短期についての御意見でも構いません。 ○藤野委員 主婦連合会,藤野でございます。敷地,土地のことを確認したいんですけれども,12ページに敷地所有者との関係というのがありますが,前提として,短期も長期もなんですけれども,相続人間でもめるという場合と相続税を払うのに何かを売らなければならないという場合が二つあって,それは分けて考えていただきたいというのがあります。   それと同時に,相続税を払わなければならない場合になるのかもしれませんが,土地というものが非常に高価なものに,特に都会でなってしまっていて,それこそ住む以外に何も生まないわけですよね,そこの土地は。住んでいるだけで,貸していれば多少,お金が入ってきたりするんですけれども,余りにも土地が高いために相続税がとてもかかって,どうしても売らなければならないというときに,要するに今の賃貸とも関わるのかもしれませんけれども,土地は自分のものではない,又は被相続人のものではない場合等に,でも高齢の残された者が住み続けなければならないというときにどんな方策があるのかというのがやはり分からないんですね。   私は専門は建築の設計でして,相続が発生するたびに土地が小さくなっていくということ自身がそもそも問題ではないかと思っていまして,相続で土地が大きくなることは決してないではないですか。それで,小さくなった土地というのが先ほど,増田委員からも土地の流通が妨げられるということが一つ,負の要因だとおっしゃったけれども,小さくなって流通することが本当に社会にとっていいことかというと,違うのではないのと思うこともありまして,やはりある程度の規模を確保していかないと適正な居住環境というのが保たれないというのもありまして,相続がきちんと行われることによって,敷地が分割されていってしまうということもすごく大きな問題ではないかと思うし,かつそこに住み続けることができなくなるということも大きな問題だと思っているんです。   私は,だから前提にこの土地を分割していくことを止める方策はないのかということは本当に考えてもらいたいなと思っているんですけれども。この委員会ではないのかとは思いますが,敷地所有者との関係というか,土地のことをもう少しきちんと,相続のときにどうなるかということは考えないと,ただ誰がどれだけの権利を有するとか住み続けられるということだけではないのではないかなと思っていまして,その点,何か少し私に理解できるような話はないんでしょうか。 ○大村部会長 遺産分割をして,単独の所有権の形になって土地が流通するということがいいことだという前提で話しているけれども,そうではない価値観というのもあるのではないかという御指摘として伺いました。   もちろん不動産を分割しないでもとのままの所有権という形で誰かが相続して,それで流通するということもありうるわけですけれども,しかし,分割せざるを得ないことがあるわけですね。そのときに所有権だけで考えて分割するのではなくて,所有権と利用権という形に差し当たりは分けておくという選択肢を設けておくことには,今の御指摘にもかなうところもある。そんなふうに整理できるように思いますが,いかがでしょうか。 ○藤野委員 座長がおっしゃるとおりでございます。12ページから13ページにかけて土地のことを一生懸命書いてくださっていますよね。だけど,もう少し本気で考えないと。ただ,それは付いて回る問題だという程度ではなくて,もう少し大きな問題として考えておかないと本当にまずいのではないかなと思っているということなんですけれども。 ○大村部会長 非常に大きな問題を提起していただいたと思います。基本的な問題は,土地に限らないわけですけれども,相続によって様々な財産が分割されていくということがマイナスの面を持つことがあるのではないかということですね。 ○藤野委員 そうです。リバースモーゲージではないですけれども,相続税等も,要するにここに一緒に住んでいる方が亡くなった後に初めて払えばいいとか,土地の価値を借りていく形で賃料として払っていったことにして,一緒に住んでいた方が亡くなったときに初めてそれを精算するとか,要するに分割しないでも済むような方策というのを何か考えた方がいいのんではないかという意味です。 ○大村部会長 御指摘はよく分かりました。正面から何かできるかどうかはなかなか難しいですけれども,どういう制度を採ると,御指摘があったようなことを目指している関係者にとってプラスになるのかということは考えられる。常に分割するという方向ではなくて,財産をあるまとまった形で残したい。しかし,相続人の利益には一定の配慮をしたいという相続人たちのために,何か選択肢を設けることはできないかという形で考える。ここでの問題との関係で言うとそういう位置づけになるかと思って伺いました。   それから,今の御指摘との関係で12ページの敷地所有者との関係というところについて,事務局の方で何かございますか。 ○堂薗幹事 ここについて御意見を頂ければと思います。 ○大村部会長 この問題について今まで御意見を頂いておりませんので,もしありましたら御意見を頂けると幸いです。   これはかなり悩ましい問題で,手当を何かするかどうかということかと思いますけれども。御意見あるいは御示唆を頂ければと思います。どなたか御発言ございませんか。 ○堂薗幹事 この敷地利用権についても何らかの権利の創設を考えた方がいいのか,あるいはそこまでは考えなくていいのかという問題でして,こちらでは,実務上どのような問題が生じているのかよく分からないところがありますので,何か御意見があれば頂ければと思います。 ○沖野委員 問題を分かっていないと思いますので確認させていただきたいんですけれども,敷地と建物が同じ相続人が有しているところを敷地だけを売却し,売却にあたって利用権限を設定されていないという前提ですね。建物自体の利用権がついているけれども,建物自体がもはや敷地を利用できないので建物収去になると。建物を収去してしまえば,もう長期利用権はいずれにせよ,消滅原因の中には当然,目的物滅失は入るわけですね。そのときに長期利用権の保持者が敷地利用について主張できるということは,その限りで建物も維持されて,建物所有者は反射的に収去を免れるというような法律関係をここに入れるべきではないかということなんでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的には,建物に関しては,長期居住権に第三者対抗力を認めれば,建物から出てくださいと言われても,それは出ていかなくていいという状態が作れるわけですが,土地と建物が被相続人の所有である場合には,長期居住権を有する配偶者は,建物所有者の敷地利用権を援用できるにすぎませんので,そうすると,ここに書いてあるような事例では,結局,長期居住権を取得したけれども,建物収去を求められた場合にそれが維持できないという事態が生じ得ます。したがって,そういった事態も生じないように,敷地利用権についても,例えば長期居住権の取得を目的とした地上権を設定できるようにするとか,そういった手当まで必要なのか,あるいはそこまでは考えなくてよいのかという問題意識です。 ○浅田委員 一応,今回コメントだけしておきたいと思います。余りこの点についてはしっかりと検討しておりませんでしたけれども,ただ,聞いていますと,法定地上権における抵当権との相克と似たような問題が出てくるのかなと思います。   したがって,いろいろなケースを分析して,関係当事者の予測可能性に反した結果が起こらないかどうかと思います。典型的な例としますと,更地に抵当権を設定し。その上に建物を建てたといった場合に,その抵当権を実行したとき,その法定地上権みたいなものが本制度において出て,かつ対抗ができないといったときには結局,更地の抵当権者からすると,事実上借地減価がされてしまうということも反射的に生じるのかなと思った次第であります。   したがって,この点についてはよく検討をこちらでもしたいと思いますけれども,その分析的な検討というのも併せてお願いできればと思います。 ○大村部会長 今の段階ではここまで考える必要があるかどうかという問題提起がされているということかと思いますが,御指摘のような問題との関連で,更に詰めて整理をしていただくということにしたいと思います。   そのほか,いかがでございますか。 ○中田委員 ただいまの敷地との関係,それから先ほど出ておりました居住建物が賃貸物件である場合,両方を通じてなんですけれども,そこで配偶者を保護する制度を作るとすると,それが所有権の場合と目的が違ってくるのではないかなという気がいたしました。所有権の場合には遺産分割の方法の多様化,安定化で,2番目に配偶者を優先することの根拠,この2段階あったわけですが,賃借物件について言うと,むしろ居住の保護ということが正面に出てきますし,敷地の利用権についてはどっちに寄せるかということが問題になるかと思います。それぞれ目的が違ってくる。そこを整理する必要があるのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。垣内幹事からも手が挙がっていましたけれども。 ○垣内幹事 賃貸物件である場合の保護方策ということに関しまして,先ほど,沖野先生が言われたことは全てそのとおりではないかというふうに思って拝聴しました。反面,現行法から見て,ジャンプしなければいけないところは少ないわけですが,ということは,逆に現行法の下でも裁判所で遺産分割審判をする際に,現に居住している配偶者に借地権を渡すというようなことは十分できることであるような感じもいたしまして,そういう面から見ると,新たな制度を設ける必要性は相対的には少ないという面もあるのではないかという感じがいたします。   他面で,増田先生から御指摘があった点にも関わりますけれども,具体の事案において,誰に居住を継続させるのがよいのかということに関しては,障害のある子供とかそういうものが問題になることもあり得そうに思えますので,その辺りを法律で,一律配偶者に優先権を与えるというような規律の仕方をすることが適切かどうかというのは,慎重に考慮を要する面があるのかなという印象を持ちました。 ○大村部会長 ありがとうございます。確かに賃借権は今でもやれるではないかという面はあるだろうと思いますので,そのことも含めて,検討していく必要があろうかと思います。   そのほか,何か御指摘ございますでしょうか。   それでは,本日の審議はこの程度にさせていただきたいと思いますが,次回につきまして事務局の方から御案内をお願いいたします。 ○堂薗幹事 それでは,次回の日程について御連絡いたします。   次回は既に御案内のとおり,6月16日,火曜日の午後1時半から5時半までを予定しておりまして,場所は本日と同じく20階第1会議室ということになります。   次回は,配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現などについて御議論いただくことを予定しておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   では,本日はこれで閉会したいと思います。   熱心な御議論,ありがとうございました。 -了-