法制審議会国際裁判管轄法制 (人事訴訟事件及び家事事件関係)部会 第12回会議 議事録 第1 日 時  平成27年4月24日(金)  自 午後1時30分                        至 午後3時08分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  相続に係る審判事件の国際裁判管轄(補論)         死亡時の住所を原因とした管轄権に関する議論 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○高田部会長 では,予定した時刻になりましたので,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会の第12回会議を開催いたします。   本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   まず幹事の異動がございました。幹事について,石井芳明最高裁判所事務総局家庭局第二課長が新たに加わり,更に関係官として事務局に新たに松波卓也法務省民事局付が加わりました。 (幹事等の自己紹介につき省略) ○高田部会長 本日,岡田幹事,久保野幹事,村上幹事が御欠席でございます。   では,まず配布資料の確認をさせていただきます。事務局からお願いいたします。 ○内野幹事 配席図,全体の議事次第,名簿を席上配布しています。事前に,部会資料12-1と12-2の2つを送付しています。 ○高田部会長 本日の議題は,相続に係る審判事件の国際裁判管轄の補論と,死亡時住所を原因とした管轄権に関する議論を予定しております。現在,中間試案に係る意見募集手続を行っているところでございますが,中間試案の取りまとめの際に,引き続き検討するものとされた部分及び専門的な技術的な問題について,今後の議論を展開するための感触をこの段階でお伺いしたいという趣旨でございます。   まず,相続に係る審判事件の国際裁判管轄の補論として,従来具体的に議論していなかった部分について,御議論いただきます。資料の説明をお願いします。 ○内野幹事 部会資料12-1です。   冒頭は,中間試案で掲げました案を,念のため記載させていただいているものです。   相続に係る審判事件に関しては,第8回の部会であったと思いますけれども,中間試案のほかに,一部の類型の事件については,他の管轄原因を加えるべきものや,反対に,管轄原因を限定し,一定の管轄原因がある場合に限り日本の裁判所に管轄権があるものとすべき事件があるのではないか,という問題意識を提示していた部分があります。部会として,未だ具体的に御議論いただいていない部分があり,本日はその部分について,今後の検討の参考とするため,皆様の御感触等を伺いたく思います。   具体的には,部会資料12の1の4ページの「相続の承認及び放棄に関する審判事件」,6ページの「遺産に含まれる財産の管理や当該財産に係る鑑定人の選任等を内容とする事件」,この二つです。   まず,「相続の承認及び放棄に関する審判事件」です。   4ページの(2)のア,「相続の承認又は放棄をすべき期間の伸長」,「相続の放棄の申述の受理」及び「限定承認の申述の受理」の各審判事件について,これまで中間試案で示している管轄原因から更に一つ加えるべき管轄原因があるのではないか,という問題意識があり,日本の民法を参考に,部会資料に記載したような管轄原因を加えることも考えられるように思われます。従前の部会では,相続人の住所地を管轄原因とし,相続人の利便性も考えるべきではないのかという御指摘があったところと認識しています。   次に,5ページの(3),「限定承認又は相続の放棄の取消しの申述の受理の審判事件」について,これらの審判事件は,「限定承認の申述の受理」や「相続の放棄の申述の受理」という審判事件が先行するという点に着目し,先行する審判事件と異なる法廷地で,これらの取消しの審判事件について審判することが想定されていないのであれば,日本で限定承認又は相続の放棄の申述の受理の審判がされたときに限って管轄を認めることも考えられるように思われます。   ただ,このように特定の事件について管轄権を加えたり制限したりすることについては,単位事件類型をさらに細かくすることになることから,外国法が準拠法となる場面をも想定した場合に不都合を生じないのかという点が,大きな論点であるものと認識しております。   資料の説明は以上です。 ○高田部会長 では,今御説明いただいた部分,「相続に係る審判事件の国際裁判管轄」のうち,「相続の承認又は放棄をすべき期間の伸長」,「相続の放棄の申述の受理」及び「限定承認の申述の受理」の各審判事件について,御意見をお伺いします。 ○道垣内委員 一般的に,単位事件類型のどれについてもある話ですけれども,日本の相続法を前提に詳細に書き込むと,外国法準拠の相続事件に対応できないかもしれない懸念があります。特に今の説明では,例外的なというか,落ちているところだけ抜き出されたので,そうなっているのかもしれませんが,特定の法律だけを念頭に置いているように思います。いいアイデアはないのですけれども,その辺,お気を付けいただきたいと思います。 ○高田部会長 そのとおりかと思いますが,何か代案と申しますか,よい括り方,事件類型の立て方というものがございましたら,その点も含めて御示唆いただければと思います。 ○平田幹事 以前の部会で,相続の放棄については,独立の類型としてあった方がよいのではないか,熟慮期間で制限を受けてしまうという点があることから,相続人の利便性というよりは,相続人の保護を考えるべきではないか,と申し上げました。限定承認についても,以前の部会で意見を申し上げたところ,限定承認は別であるという意見が多数であったと思います。限定承認の場合は,財産所在地で考えても別に不利益はないのではないかという気もしますし,財産が日本に全くなくて限定承認を日本で行うというのは,やはり違うのかなという気もします。それから,限定承認を採用している外国法は,それほど多いわけではないと思いますし,限定承認を含めると,鑑定人とか財産管理人とか,関連審判事件が非常に幅広く出てくるという点でも,利便性というだけで管轄原因を広げることは正当化できないのではないかという気もします。したがって,相続人保護という見地から,相続の放棄と放棄がなされた場合の取消しに関しては,相続人の住所地を管轄原因とすることがあってはいいのではないかと考えました。 ○高田部会長 ありがとうございます。 ○和波幹事 今,平田幹事がおっしゃったような,相続人の保護の必要性があるのではないかという点については,確かにそのような面があるのではないかと思っているのですけれども,一方で,相続の放棄は,単に放棄をしただけで終わりではなくて,ないことの証明などの形で,事後的に,相続の放棄をしたことについての確認を求められる可能性があります。そうすると,管轄が複数あり得る場合には,世界中の管轄裁判所について,ないことの証明を求めておく必要がないのか,被相続人の債権者から,そのようなものを求められることはないのだろうか,そういう形で,むしろ相続人にとってのリスクも生じ得る面があるのではないかと思っております。   また,相続に関しては,放棄をした場合には次順位の相続人というのが出てくるわけですが,管轄が複数生じた場合には,次順位の相続人にとって不利益が起きないのだろうかという点についても考える必要があると思っています。特に,国内の管轄では,恐らくその点についても考慮されているのではないかと思うのですが,相続が開始した地に管轄が認められており,実務的にも,できるだけ画一的に,戸籍等の記載を基に判断するという運用がされているものと承知しております。そのような観点からは,複数の管轄が生じることについてのリスクも,併せて検討する必要があるのではないかと思っております。 ○平田幹事 今,和波幹事がおっしゃった点に関して,証明の点は,日本だと申述受理の証明書だけになるわけですけれども,フランス法だと大審裁判所で登録して証明書発行というのがあるはずだし,ドイツでも遺産裁判所の手続があるということですので,その点は,大陸法系の国では,それほど差異がないだろうと思います。次順位の相続人の点に関しては,第一順位の相続人が放棄して,次順位の相続人が日本にいる場合も,やはり保護の必要性というのは,それだけまた高くなってくるとなると,やはり,相続人の住所地による管轄原因を設けておいた方がよいという議論になるのではないかと感じました。 ○高田部会長 ありがとうございます。 ○畑委員 相続人がいるというだけで放棄できると,便利なような気もするのですが,それが他国で承認してもらえるのかという心配もありまして,承認してもらえないとなると,法律関係が複雑になる可能性があるようには思います。 ○高田部会長 放棄については,意見募集手続中でもございますので,それを踏まえて,最終的に御判断いただくということになろうかと思いますが,実質論としては,今まで御指摘いただきましたように,相続人の住所地で管轄を認めるべき事件を想定するか,それをうまく括り出して規定することができるか,という問題かと思います。それに対しては,畑委員もおっしゃられましたように,遺産分割との関係を考えますと,遺産分割をすべき裁判所がある国できちんと承認していただけるかどうかという問題が絡んでくるということでございまして,その点も踏まえて,相続人の住所地で管轄を認めるべき事件類型の括り出しという点について,もう少し御意見があれば伺っておきたいと思います。 ○池田委員 畑委員が言われるように,承認を考えると大変難しい問題があるだろうと思います。しかし,典型的には,日本にいる人が相続人で,亡くなった被相続人に借金が一杯あるといって,債権者が日本の相続人の財産にかかってこようとしたとき,それを阻止するには,どういうことが可能かということを考える必要があると思っています。外国における手続が国によっても相当違うとは思うのですけれども,とにかく債務を相続したくないというところを,少なくとも日本法上はっきりさせておくのが実務的には非常にやりやすいという気がしておりまして,そのようなことをできる機会が必要だろうと思います。 ○内野幹事 今,平田幹事がおっしゃったのは,相続の放棄とその取消しについて,いわゆる相続人の住所地を認めるべきだという,加える方向での御意見とお聞きしました。   一方で,先ほどの議論では,反対に,管轄が認められる場合を限定する方向についても紹介したのですが,加える方向について積極的な御意見がこれ以上ないのであれば,限定する方向についても御意見を頂ければと思います。 ○高田部会長 ここで,限定する,というのは,先行する審判がある場合だけとすることですよね。 ○内野幹事 はい,そういう意味です。 ○高田部会長 相続人の住所地に限定するということではないですね。 ○内野幹事 そうです。 ○高田部会長 特にございませんか。相続人について,相続人の住所地に管轄を認めるべき事件というものについて特に御意見がなければ,(3)の取消しの関係の方に移りたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 取消しは,少なくとも日本民法だとその意思表示の瑕疵のような話だと思うので,その放棄をした国の裁判所が,その放棄の意思表示についてどうだったかということを判断するというのは,それなりに合理的な規律かなと思いました。 ○和波幹事 今,山本和彦委員から賛成というお話がありましたが,逆に,先行する審判がある場合に限定するということにしてしまいますと,外国でそういう審判といいますか,裁判がされた場合に,日本でその効力を争うことが全くできなくなるということになると思います。仮に,日本に相続に係る審判事件の国際裁判管轄がある場合を考えますと,日本の裁判所において審理されている遺産分割の前提問題として相続の放棄の効力が争われるということは当然に想定されるのではないかと思います。そういった場合に,外国に行かなければその審判の効力を争えないということにするのは,若干,手続としては不便な部分があるのではないかという気もいたしまして,少なくとも「限り」という形で限定をするということについては,実務上不便を生じるのではないかと考えております。 ○高田部会長 ありがとうございます。念のためですが,追加の方はいかがでしょうか。 ○和波幹事 これについては,先ほどのお話とも関連するのですが,管轄を細かく分けて複雑にすること自体は,一般的には望ましくないのではないかと思っておりまして,そこは実務上のニーズとのバランスの問題で考えるべきことと思っております。 ○高田部会長 規定としてどうかという御趣旨ですね。分かりました。○池田委員 今,和波幹事がおっしゃったような場合については,外国における放棄がそもそも日本で効力を生じるのかという問題が出てきて,日本における遺産分割等のところで,外国における放棄はいろいろな理由で日本では効力がないという判断をすればよいわけで,むしろ,取消しをわざわざ日本の裁判所で新たに行うことを観念しなければならないということにはならないような気がします。その辺りはどのようにお考えでしょうか。 ○和波幹事 そこのところは,正に,承認が認められるかどうかというところに関わってきます。当然,承認は認められないという前提に立てば,おっしゃるとおりだと思いますが,必ずしも統一的な理解はされていないのではないかと思っております。承認が認められるとの解釈の余地があり得ることを前提とした場合には,先行する審判がある場合に限定することについてはリスクがあるのではないかと思っております。また,「限り」を付けるか付けないかに関わらず,こういった規定を設ける必要性があるかどうかというのは,相続に係る審判事件の管轄が財産所在地管轄を認めることにより複数になるかどうかということとも密接に関係していると思っております。特に「限り」を付けない場合に,どのような場合に日本で争う必要性が出てくるかというと,相続を開始した地が日本であれば,その管轄原因がなくなることはありませんので,いずれにしても問題が生じることはなく,そうすると,外国で被相続人が亡くなられて,先行する審判について財産所在地管轄を日本で認めた後,その財産がなくなったような場合が想定されるにとどまります。そのような限定的な場面を考えて管轄原因を設ける必要性がどのぐらいあるのだろうかということも,併せて考える必要があると思っております。 ○高田部会長 ありがとうございます。ほかに,いかがでしょうか。   事務局から最初に説明がございましたように,先行する審判の取消しという事例は幾つか他の所でも出てきます。それらとのバランスも考えざるを得ないとは思いますが,限定承認及び相続の放棄の取消しという相続関係事件であることゆえに設けるべきであるといったという点について,特に御意見があれば,この段階でお伺いしておいた方がよろしいかと存じますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 部会長の御指摘ですが,取消しも,やはり要件によって違うと思っています。後からの事情変更があっての取消しと,それから元々の意思表示とかの申立ての瑕疵による取消しというのが違っていて,後者の方が,どちらかというと原裁判所の管轄を認めることになじむということだろうとは思っています。   ただ,私の先ほどの発言では,余り「限り」というところを意識していなかったので,先ほどの和波幹事の御指摘のように,限定すると確かに問題が生じる場合はあるのかなという印象は持ちました。 ○高田部会長 ありがとうございます。   では,御指摘を受けまして,全体との関係も含めて,改めて事務局の方に考えていただきたいと思います。ここまでの部分,なお御発言があれば承りたいと思いますが,いかがでしょうか。では,また何かございましたら,その段階で御意見をお伺いするということで,取りあえず先に進ませていただければと存じます。   続く部分について,御説明をお願いいたします。 ○内野幹事 部会資料の6ページの2,「遺産に含まれる財産の管理や当該財産に係る鑑定人の選任等を内容とする事件」について,です。   家事事件手続法に従えば,部会資料に書かせていただいたような事件がこれらのものとして考えられるところですが,これまでの部会の議論では,一定の事件が日本の裁判所でされた場合に限り日本に管轄を認めるということが考えられるのではないか,という御示唆を頂いていました。   具体的には,「限定承認の場合における鑑定人の選任及び限定承認を受理した場合における相続財産の管理人の選任」,「財産分離の請求後の相続財産の管理に関する処分」,「財産分離の場合における鑑定人の選任の審判」,「相続人の不存在の場合における鑑定人の選任の審判事件」,「遺言執行者に対する報酬の付与」の審判事件,「遺言執行者の解任及び遺言執行者の辞任についての許可」の審判事件,です。   これらのように,家事事件手続法上は,先行する事件が想定され,それに続く事件があるわけですが,先行することが想定される事件について審判が日本の裁判所であったときに限り管轄を認めるものとする規律を設けることがよいのかどうか,御意見をお願いします。   なお,このような規律を設けることについては,既に先ほど,道垣内委員から御指摘があったように,外国法が準拠法となる場合も想定した場合によいのかどうか,という点については,事務局も問題意識を持っています。   部会資料の説明は以上です。 ○高田部会長 では,御意見をお伺いしたいと思います。いかがでしょうか。 ○山本(弘)委員 ここでも,やはり「限り」が多少問題かなという気がしております。相続財産管理人の選任ですが,日本に全く相続財産がないのに,日本に居住する相続人が日本で限定承認をしたというだけで,財産管理人の選任処分は日本でしかできないとしてしまうのがよいのかという気がしなくもないです。それは,相続人の住所地で限定承認の申述ができるという規律を設けたときの話ですけれども。 ○山本(克)委員 10ページの(5)の,遺言執行者に関する各処分ですが,これは,家庭裁判所の選任に係る遺言執行者についてのみこのような処分ができるというわけではなく,遺言で指定された者や,第三者に委託されて第三者が選任した遺言執行者についても同様の処分が日本法上できるはずなので,部会資料の提案ではまずいのではないでしょうか。家庭裁判所選任以外の場合については,別途何か規律があるという前提であれば問題ないのですが。 ○高田部会長 表現として適切かという御指摘と理解しましたが,事務局としては,実質として,先行すると申しますか,基本となる審判事件がある場合に,そこから派生するないしはそれに付随する問題として捉えることを想定しているものと思われます。 ○内野幹事 部会資料は,先行する審判があった場合について,日本でそれがされた場合に「限り」とするという規律がよいのかどうか,を取り上げました。 ○山本(克)委員 その限りでは結構なのですが,では本則は一体何なのかを書かないと,議論のしようがありません。 ○高田部会長 おっしゃるとおり,本則が何かによってこの「限り」の意味が変わってくるはずですが,事務局が聞いていると思われることは,繰り返しになりますけれども,基本となる審判,事件がある場合に,そこから派生する事件はそこに集中させるという立法政策をとるべきかどうかということかと存じます。 ○山本(克)委員 今の関係ですと,例えば,外国の裁判所によって選任された遺言執行者が非常に日本で悪辣なことをしているというので,解任の申立てを日本の裁判所でもはやすることができないということを意味するわけですね。しかし,それは属地的には日本だけれども,その遺言執行者の権限を剥奪するとか,そういうことはあってもよいような気はします。 ○大谷幹事 道垣内委員が最初に御指摘されたことにも関係しますし,今の御議論にも関係があるのですけれども,非常に細かい一つ一つの事件類型を見ていって,この場合にどういう政策をとるべきかということで御提案いただいたということはよく分かりますが,ただ,そうすることによって,今の遺言執行者が裁判所選任のときに限るのかといった点など,かえって落ちている部分が出てこないでしょうか。そうしますと,わざわざ限らなくてはいけない政策的な要請がどのぐらい本当にあるのか。   和波幹事も先ほどおっしゃったのですけれども,それによって不都合が出る場合等のこともありますし,結局,このような規定があることによって,遺言による遺言執行者の場合はどうかなど,かえって問題が出かねないので,全体の総則に関係するのですが,そのような限定は設けないでおいて,日本で管轄権を行使することに問題がある場合に,例外的に管轄権を行使しない,却下する,ということで済むのではないかと思います。細かく決めすぎること,その方向についても「限り」という規律の仕方をすることについて,かえって弊害を生ずる可能性があるとすれば,そのような規律は設けない方がよいと思います。 ○高田部会長 ありがとうございます。 ○池田委員 今の御意見の趣旨は,この規定を全く入れないということでしょうか。そうすると,例えば,外国で選ばれた遺言執行者について日本で何か悪いことをするので解任したいと思って日本で申立てをしたときに,裁判所は,フランスで選任されたのだから日本に管轄はありませんと判断しそうな気がするのですけれども,その辺りはいかがでしょうか。日本に選任された場合に限る,とはしない場合でも,何となく,裁判所は限ると判断してしまうのではないかという点に不安があります。 ○高田部会長 規定がない場合出てくる帰結は,他の規定によって管轄が認められる場合にのみ管轄を有するということで,限るという制限のない規定を設けるということは,それに加えて,もととなる審判をした裁判所が所属する国も管轄を有するという規律ということになりませんでしょうか。その上で,和波幹事から御指摘いただきましたように,相続に関してそのような事件がどの程度あるのか,どのような事件類型についてそうした付加的な規律を設けるかどうか,という問題は残っていますけれども,基本的に,中間試案の①,②の規律の範囲で管轄を認めることでよいかという問題につながるような印象を持ちます。その辺りは,今日御議論いただいてもよいですけれども,意見募集手続の結果を踏まえてもう一度御議論いただこうと思っています。取りあえず,繰り返しになりますけれども,もととなる審判をした裁判所の管轄ということについては,これを認めてよいという御意見を頂いたように思いますし,それに限定する規定をわざわざ設ける必要はないのではないかという御意見も頂いたように思います。 ○山本(和)委員 基本的に,大筋としてはそうだと思うのですが,ただ,報酬の付与とか,辞任の許可とか,その類の事件を,本当に全然違う国の裁判所がやるのかという疑問はあります。ただ,先ほどの大谷幹事の御意見のように,そのようなものは全部特段の事情で却下していくという考え方を採れば足りるということもあるのかもしれないという気もしますので,わざわざそれだけ書くかというのは,余りに細かいのではないかという気持ちもします。 ○大谷幹事 前提として,本当にそういう申立てがあれば,特段の事情でいけばよいのではないかと思いました。そのもう一つ前段階の話として,今日の御説明の中に書かれているとおり,恐らくそういう申立て自体がほとんど想定されないだろうとして,想定されないだろうから限る方向にいくのか,想定されないだろうから規律を設けないでおいて,仮に申立てがあった場合には,特別の事情による却下があるのではないか,という考え方があって,私の意見は後者の方だということです。 ○和波幹事 審判をした国でそれに付随する裁判をするという価値観自体に,特段異論はないのですけれども,それを規定するためにこのような規定を設ける必要性があるかという点については,改めて検討する必要があると思います。先ほど申し上げましたとおり,これは財産所在地管轄を認めなければほとんど意味がない話でして,しかも,先行する審判について財産所在地管轄が日本に認められた後,その財産がなくなったような場合に限られるということになると,非常に限定的な場面であり,特に鑑定人は財産がなくなった場合に鑑定する必要があるのかという議論にもなり得ると思っておりますので,そういう管轄原因を設ける実益があるのかという観点から御議論いただければと思っております。 ○高田部会長 ほかに付け加える御意見がございましたらお願いいたします。 ○道垣内委員 相続人が不存在の場合に,管理人が相続人の捜索をするのだと思いますけれども,結局いないということになった場合に,遺産は無主物になります。それについて,国際私法の準拠法に関する議論では,相続の問題ではなくて,むしろ無主物の財産の帰属の問題として目的物所在地法によるべきだとされています。ただ,日本の民法第958条の3の特別縁故者への財産移転も相続としてではなく、所有者の死亡により無主物になった財産の帰属の問題かということについては,他の方の御意見も聞かなければいけませんが,私は,日本が所在地の場合,国庫帰属の前に所有者死亡により無主物となった財産については特則が置かれていると考え,目的物所在地法によればよいのではないかと思っております。そのように考えると,その国庫帰属については少なくとも審判は要らないことになり,特別縁故者への財産の分与について,部会資料の提案では,相続事件の一環だという前提のようですが,そのように考えてよいのかどうか議論が必要だと思います。   日本に動産や不動産があれば,特別縁故者への財産移転の審判について管轄があってよいと思います。しかし、被相続人の有していた世界中の財産について,被相続人の最後の住所地が日本だったからといって,特別縁故者へのすべての財産の分与を日本の裁判所が決めるということはよいのかは問題ではないかと思います。先ほどの準拠法の議論を参考にすると,ドイツにある財産についてはドイツ法を適用する,フランスにある動産についてはフランス法を適用する,そんなふうになってしまいますが,そうすると,それらの法はそもそも特別縁故者への財産分与を認めているのかという問題が生じてきます。この点を議論する必要がありお考えいただければと思います。 ○池田委員 日本法では,相続人の範囲が限定されており,いとこに相続権がないわけですけれども,諸外国では,親等が遠い人にまで相続権があったりして,なかなか特別縁故者が分与を受けることにならなくてもよいようになっている気もしますから,その辺はどうなのかと思いますね。 ○高田部会長 規定の仕方次第ですかね。 ○内野幹事 事務局としては,今の道垣内委員の御質問に答える案を持っておりませんね。 ○高田部会長 今の点については,準拠法次第ということで受け皿だけ作っておくという選択肢はあり得るところではございますけれども,事務局も今のところを悩んでおられますので,準拠法問題も含めて,取り分け国際私法の先生方でアドバイスがあればお願いしたいと存じます。   道垣内委員の御指摘は,準拠法次第では,外国法を適用してまで被相続人の住所地であった日本の裁判所がやるべきか,ということですよね。 ○道垣内委員 はい。もしこの事件類型を切り出すとすれば,その問題は相続に入っていないという扱いをするという考え方があり,そうすると,その財産の帰属を決められるのは属地的に管轄を持つ裁判所であって,規定はないですけれども,日本にある財産についてだけ日本の裁判所に管轄があるということになるのではないかと思います。 ○高田部会長 道垣内委員のお立場でも,明文規定に細かく限定しなければ,解釈によることになるわけですね。 ○道垣内委員 ええ。 ○高田部会長 では,その点も含めて,なお御示唆いただくことがあれば,この場でなくても結構ですので,いただくということで,規定を作る際には,その点も十分注意して規定すべきだという御示唆として承りたいと思います。   では,御意見を承ったようですので,相続に係る審判事件の国際裁判管轄(補論)の部分全体について,なお御意見があれば伺いたいと思います。先ほど池田委員からも御発言ありましたように,この他にも検討すべき事項があるということであれば,この段階で御意見を承っておいた方がよろしいかと思いますが。   では,皆さんの御感触は大体事務局もつかめたと思いますので,今日の議論を踏まえて,かつ意見募集手続の結果を踏まえて,次の案を提示していただくことにしたいと存じます。   よろしければ先に進みたいと存じますが,よろしいですか。   では,続きまして,部会資料12-2の方に移ります。   死亡時の住所を原因とした管轄権に関する議論に入ります。資料の御説明をお願いします。 ○内野幹事 死亡時の住所の取扱いをどうするかという論点がありました。具体的イメージは,部会資料の1ページの真ん中辺りに掲げてある実親子関係事件の甲案の②のような規定を設けるべきか否かというものです。   これまでの部会では,冒頭から問題点が指摘されていたところでありましたが,個別の単位事件類型の性質に応じた適切な管轄原因は何かという各論的な議論を先行させようという部会のコンセンサスがございましたので,このような問題点があるということを認識しながらも本日に至っています。   中間試案におきましては,実親子関係事件の関係では,死亡時の住所を管轄原因とすることを明示した上で,婚姻・離婚に関する訴えについては明示をしないで若干両者で違いがある形で提案して,意見募集手続にかけているという状況です。   そこで,婚姻・離婚に関する訴えにおいて,この死亡時の住所をどのように扱うかというのが,まず最初の議題です。   日本法を前提にいたしますと,部会資料のとおり,離婚の訴えについては,例えば身分関係の当事者が死亡した相手方との間の離婚を求める訴えを提起するということはできないと解されているようです。ここに,少なくとも日本法を前提にするとそう解釈されていることを踏まえて,国際裁判管轄の規律としてはどのような規律とするのかというのがまず一つ目の論点になります。   もっとも,人事訴訟法の国内管轄規定においても,離婚の訴えをあえて除外することはしないで,死亡時の住所地を管轄原因とした規定を置いていますので,事務局としては,国際裁判管轄についても,特に離婚の訴えを除外することはしないで,こういった管轄規律を一応設けておくことも考えられるのではないかと考えています。これは法制的な問題ともいえますので,部会で議論すべきものなのかという若干の危惧はございますが,事務局としては,離婚の訴えをどうするかという問題があることを認識した上で,なお,婚姻・離婚に関する訴えという包括的な単位事件類型を設けて,身分関係の当事者の死亡時の住所というのを管轄原因として掲げておくということも一つの方策なのではないかと考えているところです。   以上が部会資料の1の部分でありまして,2と3という部分は実親子関係事件,養親子関係事件との関係です。実親子関係事件につきましては,中間試案において死亡時の住所地を管轄原因として掲げておりますので,この点については今日,特段の御議論はないのかもしれません。ただ,養親子関係事件,特に離縁を目的とする訴え等については議論があり得るかも知れません。日本法だけに着目すれば,死後離縁を目的とする審判事件との関係という問題が出てくるわけでありますが,それを踏まえても規定をおくことを是とするのかどうかという点が部会資料の3ページの3辺りの議論かと思っております。   説明としては以上でございます。   まずは,婚姻・離婚に関する訴えとの関係で,身分関係の当事者の死亡時の住所というのを掲げておくことについてどのように考えるかということについて,御意見を賜りたいと思います。 ○高田部会長 この問題につきましては,全体としてバランスがとれているのかという御指摘を繰り返し受けておりましたが,中間試案の段階では,取り分け離婚について甲案か乙案かという選択がまだ未確定であることもございまして,二つの案の対立がより分かりやすい形で提示できるように,死亡時の住所地は入れないことにしたということだったと理解しておりますが,この点について,この機会にもう少し詰めて,次に控えております甲案,乙案の選択に備えたいというのが事務局の御希望かと存じます。   このようなことを前提に,婚姻・離婚に関する訴えについて,死亡時住所を入れるかどうかという点について御意見を賜ればと思います。どなたからでも,よろしくお願いします。 ○山本(和)委員 中間試案の規律にそのまま従って,仮に死亡時住所が入らないとしたときに,甲案で協議離婚の無効確認の訴えなどだと日本法が準拠法となる場合でも身分関係の当事者の死亡後に提起することがあり得るというお話だったと思いますが,その場合に,甲案の④が当然適用になるという理解だったのでしたかでしょうか。つまり,その場合,原告住所地で管轄が認められるという理解だったでしょうか。 ○内野幹事 議論の推移としては,婚姻・離婚に関する訴えについて,あえて死亡時住所を管轄原因から排除して,身分関係の当事者の死亡後は甲案④で管轄を認めることになる,というふうに積極的に考えて進行してきたわけではないと記憶しています。   むしろ,日本法上,身分関係の当事者の一方が死亡している場面を想定した訴えの類型が明示的にあるとされている実親子関係事件の方の議論を先行させたというのが部会の推移だと認識しております。   そういった部会の進行を前提として,今の御質問に答えるとすれば,事務局としては,積極的に④で受け止めるという,そこまでの議論はなかったとは思っています。   そして,婚姻・離婚に関する訴えについても,この単位事件類型の少なくとも一部の訴えについては,日本法においても身分関係の当事者が死亡した場合でも訴えが適法とされる場面があり得ることが自覚され,かつ,こういった身分関係の当事者が死亡した場合についての管轄原因について,死亡時の住所を管轄原因とすることもあり得るという部会での感触がありましたものですから,この際に改めて論点として明示しているというところです。 ○山本(和)委員 もう1点,死亡時の住所を入れた場合ですけれども,実親子関係事件の甲案では今もう入っているのですが,これを入れた場合は,やはり原則は被告の死亡時の住所がある国の裁判所で裁判をしなければいけなくて,4の実親子関係事件の甲案だと⑤で原告の住所地の管轄権が認められるかという場合,被告の死亡時の住所がある国の裁判所で裁判をすることが困難であるという場合でないと,⑤の原告の住所地には戻ってこれないという構造になっていると理解していいのですか。 ○内野幹事 結果として,恐らくそうなってしまうように思われます。もし何か御異論があれば御指摘いただきたいとは思っていますが。 ○高田部会長 ただ,甲案③で最後の共通住所地が日本にあればよいということですよね。 ○内野幹事 ほかの②③の管轄原因で原告の住所地に管轄が認められる場合はもちろんございます。 ○山本(和)委員 共通国籍と共通住所地があれば,それはそれで原告の住所地にも管轄が認められるということですね。 ○内野幹事 それはそうです。 ○高田部会長 ですから,今,御議論頂いている具体的事例は,部会資料でいきますと,2の2ページの(3)の具体例の部分で,問題となりますのは,協議離婚後に夫婦の一方が日本に移住してきて,その方が日本で死亡された場合に,ほかに何も関連性がないときでも,日本での訴えを認めるだけの関連性があるかどうかということだろうと思います。この点について,事務局からも御指摘いただきましたように,部会の中で共通認識があるのかどうかまだはっきりしないところもございますので,御意見賜ればと思います。 ○山本(和)委員 十分な定見があるわけではないのですけれども,私は,実親子関係事件で死亡時の住所が入ったときの印象では,この場合,日本法だと検察官が被告になるわけですけれども,実際上はその死亡した人の親族のような人が補助参加などで入ってきて攻撃防御をすることが多いということを考え,その者が実質的被告になるとすれば,その本来被告となるはずだった者の死亡時の住所には相対的にそういう実質的な被告になる親族等がいる可能性があるということがあって,そうだとすれば,まずそちらで,死亡時の住所でやるべきだということにもそれなりの合理性はあるような気がして賛成したような記憶があります。そうであれば,同じような事情が婚姻等の場合にもあるとすれば,婚姻等にも死亡時の住所が入っていいのではないかというぐらいの感触です。 ○山本(克)委員 今,山本和彦委員がおっしゃった点は私も同感なのです。別の指摘ですけれども,部会が始まった頃から申し上げている,婚姻の無効・取消しと離婚とを同じ管轄の規律に服させていいのかという問題については,この資料はもう一緒の規律でいいということが当然の前提のように書かれているように思うのですが,本当にそれでいいのかなという疑問があります。取り分け,離婚について身分関係の当事者の一方である相手方死亡時の管轄については,どういう法律が外国にあるか分かりませんから,外国法が準拠法になればその一方の死亡後に離婚の訴えができるという法制があり得るにしても,そのようなものをわざわざ切り出して規定するというのは,他のところとの平仄が合わないのではないのかなと思います。   むしろ,先ほどの相続のところでは,日本法にべったり寄りすぎていて問題ではないかとの批判もあるくらい,日本法を念頭に置かれているのに,なぜここだけ外国法でこのようなものがあるかもしれないという議論をしなければいけないのかというのは,やや理解に苦しむところがありまして,それはひとえに,婚姻取消し・無効と離婚とを同一の規律に服さしめるという前提があるからそういうことになっているのではないのかという気がいたします。 ○高田部会長 おっしゃるとおりかと思います。ただ,今御指摘のあった,準拠法次第であるから念のために設けておくという面と,更に,国内管轄でも離婚と婚姻の無効・取消しとを一緒にしているということも恐らく背景にあるだろうと思いますが,今の御指摘の点も一つの論点でありまして,離婚と婚姻の無効・取消しとを分けて考えるか,適用されない場合を想定しつつ包括的な規定を設けるのがよいのか,それとも離婚事件を切り分けるという方がよいのかという点も,法制問題という側面もあるかと思いますけれども,御意見があればお伺いすべき点かと存じますが,いかがでしょうか。 ○内野幹事 正に今,部会長が御指摘されたとおり,人事訴訟法が,緩やかといいますか,包括的に,死亡時の住所を含めて,離婚と婚姻の無効・取消しを分けずに書いてあるということも一つ参考にしているところはあります。 ○高田部会長 念のためですが,山本克己委員は,国内管轄とは異なり,やはり国際裁判管轄であるがゆえに,離婚事件は切り分けた方がいいという御趣旨でしょうか。 ○山本(克)委員 直感的にはそう思っているのですが,甲案についてどういうふうにそれぞれ分けて考えるかというところまでは,考えが至っておりません。 ○高田部会長 特に御意見なければ,繰り返しになりますが,この問題は法制問題でもあり,事務局になお御検討いただきたいと思います。では,一つ前に戻りまして,部会資料の(3)の具体例について,死亡時の住所に管轄原因を認めても良いのではないかとの御意見を山本和彦委員から頂きましたが,他の方からも,死亡時住所のみで日本の管轄を認めるべきかどうかということについて御意見を賜ればと存じます。   身分関係の当事者双方が生存していれば訴えを提起できた国が,関連性を肯定するのに十分かということかと存じますが,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 私は一般的にこの種の事件類型についての管轄は広く書いておけばいいという立場ですから,ここも広めに書いておけばいいと思います。また,先ほど相続について被相続人の最後の住所地でその人の財産の最後の処理をしましょうということが出てきましたが,婚姻関係もその人に関係するので,最後の処理を最後の住所地でしましょうというのは全然無関係ではなくて,それ以外のどこかでするというよりは,その最後の住所地がその人の身分関係の処理をするにはいいかなと思います。もちろん,そこですること相当でないということであれれば,特別な事情で訴えを却下するということを含んだ上でということです。 ○高田部会長 管轄原因として認めていいのではないかという御意見を賜りましたが,いかがでしょうか。   特に御意見がなければ,やはり意見募集手続の結果を見た上でなお慎重に御議論いただくということにさせていただきたいと存じますが,よろしいですか。   では,離婚事件を含めて,婚姻・離婚事件について,なお御指摘いただく点があればお願いいたします。 ○西谷幹事 1点確認なのですが,住所に限らず,共通本国が管轄原因となるときには,その死亡時の日本国籍が管轄原因となるという理解でよろしいのでしょうか。 ○高田部会長 なるほど,御指摘ありがとうございます。 ○内野幹事 これまで特段,死亡当事者の国籍というのは議論していないようにも記憶しています。 ○高田部会長 重要な御指摘ですが,今まで明示的には議論していないというのは内野幹事のおっしゃったとおりかと思います。死亡時に日本国籍であった場合を排除していたのかどうかという点はいかがでしょうか。 ○池田委員 今,甲案・乙案とも,原告の住所地を要求するのかという問題はありますが,共通の国籍がある場合に管轄を認めるということになっています。その場合に,共通の国籍という場合には,当事者の一方が亡くなった場合には,亡くなった人の国籍も含めて考えるのだ,と何となくそういう気もしていたと思ったのですけれども,あえて死亡時の場合には死亡時の国籍という規定がないと,それを認めるのは難しいということになるのでしょうか。 ○西谷幹事 いえ,そのような意味で申し上げたのではなく,今の提案のままでも,一方が死亡した場合の死亡時の国籍を含む趣旨かどうかを確認させていただきたかったということです。 ○高田部会長 今,池田委員もおっしゃったように,その場合を排除してなかったと思うのですが,その理解でよろしゅうございますか。 ○山本(克)委員 AとBとが夫婦であったというときで,Bが先に死亡したとします。その時点では,2人とも日本国籍でしたが,その後,Aが別の国籍に変わった場合に,共通国籍があると言えるかどうかというのは,問題がやはり出てくるのではないでしょうか。死亡時の共通国籍なのか,そのような考え方でいくと今の例は共通国籍が認められるのですが,必ずしもそこがはっきりしないところが残りますよね。共通国籍だと言ったから,2人とも生きていて,訴え提起時に国籍が共通であるということを前提としているわけですが。 ○池田委員 今,山本克己委員が挙げられた,死亡後に他の一方の国籍が変わってしまった,つまり訴えを起こす段階では違う国籍になってしまったという場合は,共通国籍の要件を満たさないような感じがします。 ○山本(克)委員 満たさないでしょうね。 ○高田部会長 その場合は排除していいのでしょうね。 ○山本(克)委員 はい。 ○山本(和)委員 私はこの共通国籍というのは,国際私法における議論と同様だと考えていたところがあるのですが,国際私法の先生にお聞きしたいのですが,通則法では,今のような場合はどうなるのでしょうか。 ○西谷幹事 準拠法の決定については,口頭弁論終結時が基準時点となります。たとえば離婚無効の訴えのように,通則法27条本文及び25条が適用される場合には,その時点において同一本国があることが必要であると解されます。すでに死亡した者については,もとより死亡時の国籍が基準となりますが。 ○山本(和)委員 口頭弁論終結時に必要。 ○西谷幹事 はい,口頭弁論終結時に同一本国がなければ,段階的連結の次の連結点に行くことになります。 ○山本(和)委員 やはりそれでいいのでしょうね。分かりました。 ○高田部会長 はい。そちらはそれでいいのでしょうね。逆に,共通本国がある状態で一方が死亡した後に他の一方に国籍変更がない場合は共通本国と認めるということでよろしいですか。 ○内野幹事 今の点については確認しておいた方がいいような気もするのですけれども,いかがでしょうか。 ○近江関係官 通則法だと口頭弁論終結時ということでしたが,管轄だと,訴え提起時で共通国籍の有無を判断することになるのだと思います。 ○高田部会長 だから,一方当事者の死亡後に他方当事者の国籍が変わり,その後訴えを提起した場合には,変わった後の国籍で判断することになりますか。 ○内野幹事 部会の皆様が,今部会長がおっしゃったように,死亡した当事者のみを念頭に置いて死亡時に日本の国籍を有しているか否かを判断し,生存当事者については訴え提起時に日本国籍が必要であるとの趣旨かという点は,念のため,御確認頂いた方がいいような気がします。 ○高田部会長 分かりました。確認ですが,今の御議論ですと,甲案の②で管轄を得るためには,基準時が訴え提起時だとしますと,訴え提起時において双方が日本国籍を有していることが必要であるということになりますが,それでよろしいですね。協議離婚無効確認の訴え等で,一方が死亡している場合には,その死亡した方の国籍は死亡時以降は変更ないはずですので,死亡したとき日本国籍だった場合には,解釈上,訴え提起時にもなお日本国籍であるとみなすという理解でよろしいということですか。   では,それを法制的にどう規定するのが適切かというのは,なお事務局に検討していただきます。 ○道垣内委員 法の適用に関する通則法には幾つか本国法の判断基準時を明示している規定があって,ある人の本国法というときには,その人が死んでいれば最後の本国をそれとみなすというふうに書いてあります。通則法ではこのことをわざわざ全部書いています。全部書くのは煩瑣ですので,私は書かなくても解釈でできるのではないかと思っていますけれども,そういう通則法のような例はあります。 ○高田部会長 規定として書き込んだ例はあるという御指摘をいただきました。法制問題でもありますが,解釈としては先ほど述べた解釈ができるような規定を準備していただくということでよろしいですか。   では,なお規定の仕方については事務局に検討していただきたいと思います。   他に御指摘いただく点,ありますでしょうか。 ○竹下幹事 先ほどの通則法における本国の判断について考えていたのですが,死亡後提起が問題となる離婚無効の訴えなどでは,準拠法は離婚時の準拠法が不変更主義に基づいてその後も適用されるのではないかと思います。   管轄のルールとしては訴え提起時を標準時とするということで合理性があると思うのですが,そこは準拠法とはずれる可能性があるのではないかという指摘だけさせていただきます。  おそらく,その点について不変更主義と考えられているので,通則法も婚姻関係のところでは道垣内委員がおっしゃられたような当事者が死亡した場合の規定というものはないように思われます。 ○高田部会長 貴重な御指摘ありがとうございます。今のような準拠法解釈があり得るということを前提に,管轄について配慮が必要ということがあれば,この段階で御意見を承っておきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○竹下幹事 続けて言いますと,準拠法における考え方と一致させるということを突き通したとすると,むしろ死亡時,というか離婚時の段階での共通の日本国籍ということになるような気はするのですが,個人的には,そこまで準拠法における考え方との一致というのが必須なのかと言われると,管轄の場面で不変更主義をとる準拠法の解釈とそこまで平仄を合わせなければならないかというと,それはないのではないかと思います。 ○高田部会長 今の点も,なお②の国籍,住所をどう捉えるか,取り分け原告住所との関係をどう捉えるかという問題にも関係してくるように思いますが,この段階で御指摘いただく点があればお願いします。   では,管轄という観点から,準拠法とはある程度離れて捉えてよいという御示唆も得ましたので,その点も踏まえて,なお事務局に御検討いただくことにしたいと思います。   ほかに御指摘いただく点,ございますでしょうか。   では,よろしければ先にまいりまして,実親子関係についてでございますが,これにつきましてはいろいろ御議論ございましたけれども,甲案について,中間試案の段階では,部会資料の1ページ目に書かせていただいているような甲案の②という提案をしておりますが,婚姻・離婚について議論をしたこの段階で,なおこの点について御発言があれば承りたいと思います。   よろしければ,3の養親子関係事件にまいりますが,「養親子関係についての身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え」につきましても甲案の②として同じ案が提示されているところかと存じますが,これにつきましても,この段階で御意見があれば受け承りたいと思います。よろしいですか。   最後の「離縁を目的とする訴え」ですが,これは先ほどの山本克己委員の御発言とも関係してくるところです。「離縁を目的とする訴え」という単位事件類型を現時点では考えておりますが,先ほどの離婚の訴えについての山本委員の御指摘のような問題があると考えられますが,「離縁の訴え」についてはいかがでございましょうか。 ○山本(和)委員 死後離縁を目的とする審判との関係というのは,準拠法となる外国法の規定を見て解釈し,訴訟的なものか審判許可のようなものかという振り分けをしていくという,そういうことになるということでしょうか。 ○内野幹事 その点も論点だと思っておりますけれども,日本法の建前からアプローチするとすれば,普通養子縁組の離縁について,その一方当事者が死亡していた場面において何らかの申立てがあったときに,書面上は訴えと書いてあっても,死後離縁を目的とする審判事件だと理解して管轄権の有無を判断することが考えられます。   つまり,離縁を目的とする訴えについて,日本の民法は,身分関係の一方当事者が死亡している場合を想定していないと考えられるため,仮にそのような「訴え」がされた場合については,死後離縁を目的とする審判事件として受理するということが考えられるのではないかと思っています。 ○山本(和)委員 架空の法制の議論をしても仕方がないような気もするのですけれども,ある国が,生死にかかわらず日本の離縁訴訟のように一定の要件があった場合に裁判所が審理して離縁することを認めるような法制をとっている場合,日本の死後離縁を目的とする審判は,結局,姻族関係を断ち切るだけのための手続で,ほとんど一般には濫用的でない限り許可するというようなものであるので,本当に死後離縁を目的とする審判と考えていいのかなという疑問はあります。しかし,これ以上何か架空の法制を議論していても仕方がないような気もします。 ○内野幹事 人事訴訟法も,被告の死亡の場面について,あえて離縁の訴えだけを除いて規定しているものではないので,法制的にもそういう規定の仕方が許容されるとすれば,訴えについては,他の単位事件類型における管轄原因と同じ規律になるとすれば,他の単位事件類型とまとめて一つの規律としてしまうことが考えられます。   このような規律を設けた場合には,その規定の部分の意義については解釈に委ねられるところがあるということになると思いますが,日本法を前提とした理解からすると,その部分は空振りになるということが考えられます。 ○高田部会長 いかがでしょうか。 ○和波幹事 これは,特別養子縁組の離縁のときに申し上げたことと関連してくると思っておりまして,どこまで外国の法制を念頭に置いて考えるかという話だろうと思っております。   離縁を目的とする訴えについても,様々な外国法制があり得ることを前提に死亡時の住所地を管轄原因とした規律を入れる,あるいはそれ以外の単位事件類型とまとめて一つの規定にするということになれば,審判と訴えとの区別はありますが,あえて離縁の訴えと死後離縁を目的とする審判との違いを議論する必要があるのかということがいえるのではないかと思っておりまして,そういう意味では,審判と訴えに関する管轄原因をまとめて一つの規定にするということも改めて検討の俎上に載せていただければと思っております。 ○内野幹事 論点としてあり得ることは認識しております。 ○高田部会長 いかがでしょうか。先ほどの事務局の説明ですと,解釈次第という指摘だったように思いますので,今,和波幹事もおっしゃいましたように,実質論としては,審判事件か訴訟事件かということに余り拘束されずに,単位事件類型としてどういうものを捉え,どういう管轄原因を設けるのかどうかという議論をしていただいた方がよいのかもしれませんが,いかがでしょうか。   まず,離縁の訴えに関して,離縁の取消しという問題が起こるとすれば,これは離婚の訴えとパラレルに考えるということでよろしいのでしょうか。   次に,死後離縁についてどう考えるかということになりますが,この段階で御意見があれば承りたいと思います。中間試案の10ページですが,中間試案の段階では,当該身分関係の当事者である申立人の住所が日本国内にあるとき,又は縁組の当事者の一方が死亡のときに日本国内に住所を有していたときという形で規定されており,実親子関係,養親子関係とは微妙に違う規律の仕方にはなっているわけですが,この関係をどう捉えるかという問題もなお残っておりますけれども,御指摘があればお願いいたします。   実質論としては,死後離縁について,先ほどと同じ議論ですが,死亡時の住所地を管轄原因とすることを認めてよいかということだろうと思いますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 もし外国に死後の離婚や死後の離縁といった制度があるにしても,私には,その場合にそこまで被告の利益を重視して,その死亡時の住所地を管轄原因とする必然性が感じられません。 ○高田部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 離婚の場合でも離縁の場合でも,その場合,死亡時の被告の住所地が日本であった場合,日本で訴えが可能だということになりますが,そのときも被告は検察官であるということになるということでよろしいですね。 ○高田部会長 その訴えを認めるかどうかという問題が残っておりますが,訴えを認めた場合には……。 ○山本(克)委員 被告は,当然に検察官なのですか。いや,そこが手続法の問題なのか実体法の問題なのかという問題があると思うのです。 ○道垣内委員 それは実体法の問題であるというわけにはいかないので,外国の検察官にやってくれというわけにはいかないと思います。 ○山本(克)委員 いや,そういう意味ではなくて,当該準拠法で被告とされるべき者が被告となるんだと。 ○道垣内委員 ですから,そうすると外国の検察官ということもあるということですよね。 ○山本(克)委員 その場合の検察官は,当該準拠法国所属の検察官でなければならないものなのですか。 ○山本(和)委員 少なくとも,その準拠法が相続人を被告とするとしているときは,やはり相続人が被告になりそうな感じがします。 ○高田部会長  準拠法が手続法に委ねているときは,日本の検察官でいいという御発言だと理解しましたが,その点は解釈問題であり,管轄の問題を超えておりますので,そうしたこともあり得ることを前提に管轄をどう定めるかということで御検討をお願いしたいと思います。   山本和彦委員からは,現在の死後離縁を目的とする審判の提案,すなわち申立人の住所地に加えて,縁組の一方当事者の死亡時の住所地を管轄原因に加えるという規律が落ち着きがいいのではないかという御指摘を頂いたと思いますが,そうしますと,そのほかの部分と少し違う可能性があるという御示唆も頂いたのかもしれません。   山本和彦委員は,死亡時の住所地を管轄原因とすること自体は構わないということですか。申立人の住所とセットになっていなくてもいいということですか。 ○山本(和)委員 はい。 ○高田部会長  では,ここまでの議論を踏まえ,全体として死亡時の住所地を原因とする管轄権についてバランスのよい規律としてはどういうものかということについて,なお御指摘いただく点があれば御指摘いただきたいと思いますが,いかがでしょうか。   特に御意見がないようでしたら,婚姻・離婚に関する訴えについては甲案か乙案かという問題が残っており,それによって死亡時の住所地を原因とする管轄権の位置付けも変わってくるところはございますが,その議論を踏まえて,なお改めて死亡時住所についての提案を全体のバランスを考えた上で事務局にしていただくということにさせていただければと存じますが,よろしいでしょうか。   それでは,本日の審議はこの辺りにさせていただければと存じます。   今後の予定について事務当局から説明をお願いします。 ○内野幹事 次回の議事日程につきまして御連絡申し上げます。   次回の日程は,5月22日の金曜日午後1時半から午後5時半までを予定しています。   場所は,第一会議室を予定しています。   意見募集手続は5月15日まででして,この日程からしますと,事前に,確定的なものとして,その結果を取りまとめることは客観的に不可能と思っています。事務局としては,鋭意,作業はさせていただきますが,暫定版という形で,議題となり得る一部分について資料としてお示ししながら御議論いただくという進行を考えております。   したがって,次回は,少なくとも婚姻・離婚に関する訴えの国際裁判管轄について,甲案,乙案のいずれを採用すべきかという部分について,部会としての見解の方向性を決めていきたいと考えています。   付随して,今日の御議論にもあったとおり,「訴え」とされる事件が幾つかありますので,この部分についても同時に御議論をお願いしたいと考えています。   そして,先ほど申し上げましたとおりまた,意見募集手続の結果については恐らく暫定版のようなものにならざるを得ないと思いますのでお許しいただき,これをお配りするなどした上で議論をしていただくということになろうかと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。 ○高田部会長 何か御質問等ございますか。   では,本日の審議はこれで終了させていただきたいと思います。本日も御熱心な御審議を賜り,どうもありがとうございました。 -了-