法制審議会 民法(相続関係)部会 第4回会議 議事録 第1 日 時  平成27年7月14日(火)自 午後1時30分                      至 午後5時30分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第4回会議を開催させていただきます。   初めに,事務局の方から資料の確認をお願いいたします。 ○渡辺関係官 それでは,資料の確認をさせていただきます。   本日の資料といたしましては,事前に配布をさせていただきました「相続法制の見直しに当たっての検討課題(3)~遺留分制度の見直し~」という資料がございます。お手元にないという方,おられますでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは,部会資料の4「相続法制の見直しに当たっての検討課題(3)~遺留分制度の見直し~」という資料に即して検討をお願いしたいと思います。   では,事務局の方から御説明をお願いいたします。 ○渡辺関係官 それでは,説明をさせていただきます。   まず,1ページ目の「第1 問題の所在」の「1 一般に指摘されている問題点」でございます。   まず1点目は,「制度の内容が分かりにくく複雑になっていること」ということでございます。   遺留分に関する規定は,単独相続である家督相続制度を中心とした戦前の旧民法の規定に最小限度の修正を加えただけであったため,現行民法のとる共同相続制度において生ずる問題について十分な配慮がされていないとの指摘がございます。   戦前でございますと,家督相続制度といって,家督相続人が一人で全財産を相続するということが行われていたのですが,戦後はそのような制度は廃止され,配偶者や子がそれぞれの法定相続分に応じて共同して相続人になるという制度に変わりました。この点は非常に大きな改正であったと思われますが,他方で遺留分制度はというと,必要最小限度の修正にとどまっており,配偶者や子らが共同して相続するという現行の制度に十分対応し切れていないのではないかという問題点がございます。   例えば,条文上では,受遺者又は受贈者が相続人であるか,それ以外の第三者であるかによる区別はされていないのですけれども,判例ではこれらの区別がされているということがございます。   まず,民法第1030条によりますと,贈与は,原則として1年以内のものだけが遺留分において考慮されることとされているのに対し,受贈者が相続人である場合には,民法第1030条の規定にかかわらず,原則として遺留分算定の基礎となる財産について時期的な制限を設けない,このように判例上区別されております。   また,遺留の減殺割合について定める民法第1034条の「目的の価額」の算定につきましても,受遺者が相続人である場合には,受遺者の遺留分額を超える部分のみがこれに当たるという解釈が判例によってされておりまして,このように,判例によって遺留分に関する規律の補充がされているという状況にございます。   このように,現行の遺留分制度につきましては,制度の内容が分かりにくく複雑なものになっているという指摘がされているところでございます。   なお,注を御覧いただきたいのですけれども,公正証書遺言の件数というのは年々増加しておりまして,遺言に対する需要は高まっていると考えられるところです。遺留分制度は,遺言の内容を一部無効にする効力を有するものでございますから,遺言をしようとされる方々のためにも,遺留分制度をより分かりやすい制度に見直す必要があるという御指摘もあるところでございます。   2点目は,「遺留分制度の趣旨・目的が妥当する場面が減少していること」ということでございます。   現行の遺留分制度の趣旨・目的につきましては,学説上も様々な考え方がございますが,一般的には遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算等が挙げられております。もっとも,これらの点につきましては,高齢化社会の進展に伴いまして,相続が開始した時点では相続人である子も既に経済的に独立していることが多く,その生活を遺留分によって保障する必要性が少なくなってきたとの指摘や,核家族化等に伴い経済的に一体性を保つ家族が減少した結果,財産形成に対する相続人の寄与の割合が相対的に低下しているといった指摘もされているところでございます。   3点目は,「具体的な貢献が考慮されないこと」ということでございます。   配偶者等の相続人が被相続人の財産形成に対して具体的にどの程度貢献したのかという個別的な事情につきましては,遺産分割事件におきましては寄与分として考慮することができますけれども,遺留分減殺請求事件においては寄与分を考慮することはできないと解されております。   そのため,遺贈の対象とされた財産の形成又は維持について受遺者又は受贈者に相応の寄与分が認められるべき場合であったとしても,遺留分減殺請求事件においては,これらの者の貢献を考慮することができず,その結果,実質的公平を確保することはできないといった指摘もされているところでございます。   4点目は,「相続に関する紛争を一回的に解決することができない」というところでございます。   減殺の対象となる遺贈の目的財産が複数ある場合には,遺留分減殺請求権の行使の結果,通常はそれぞれの財産について共有関係が生ずることになります。例えば,遺贈によって自宅を取得した配偶者や事業用財産を取得した当該事業の承継者は,他の相続人から遺留分減殺請求権を行使されますと,その者と共にこれらの財産を共有することとなるということが多くの事案であり得るところでございます。そして,この共有関係を解消するためには,別途,共有物の分割の手続,これを経なければならないということになります。   また,現行法では,遺産分割は家庭裁判所による家事事件の手続で解決されることになるのに対しまして,遺留分減殺請求事件は地方裁判所の訴訟手続で解決されるということになり,紛争解決手段が異なりますので,これらの法律関係を柔軟かつ一回的に解決することが困難となっているという指摘もされているところでございます。   5点目は,「事業承継の障害となり得ること」というところでございます。   例えば,被相続人が特定の相続人に家業を継がせるため,株式や店舗等の事業用の財産をその者に相続させる旨の遺言をしても,遺留分減殺請求権の行使により株式や事業用財産が他の相続人との共有となってしまう結果,円滑な事業承継の障害となる場合があるという御指摘がございます。   次に,資料の2の「主な検討内容」というところでございますが,この資料においては,遺留分減殺請求権の法的性質や遺留分の範囲等について見直しの方向性を検討しております。   各論点は,基本的にはそれぞれ独立したものでございまして,最終的には様々な組合せが考えられるとは思いますが,例えば遺留分減殺請求権の法的性質をどのようなものと捉えるかによって,他の論点においては採用することができなくなる方策が生ずるなど,相互に論理的な関連性があるという場合もございます。   また,これまでの資料1ないし3で提示した論点との関係が問題となるところもございます。そういった点につきましては,それぞれのところで個別に説明を加えさせていただいております。   以上が第1の「問題の所在」の説明でございます。   引き続き,3ページの第2の「遺留分減殺請求権の法的性質についての見直し」について御説明いたします。   まず,「考えられる方策」ですけれども,遺留分減殺請求権の効果について,遺留分権利者の意思表示によって,当然に物権的な効力を生ずるとされている点を改めるということを前提に,甲案と乙案の二つを提案させていただいております。   「物権的な効力」というのは,遺留分権利者の減殺請求により,直ちに遺贈又は贈与が失効し,その目的財産の所有権又は共有持分権が遺留分権利者に帰属するという効果のことでございます。遺留分権利者が受遺者又は受贈者に対して減殺する旨の意思表示をすれば,裁判所の判決や当事者の協議といったものを待つまでもなく,直ちに所有権や共有持分権が遺留分権利者に帰属するということでございます。この効果につきましては,最高裁の判例によっても認められているというところでございます。   そして,今回の提案というのは,この「物権的な効力」を否定するということを前提に,まず甲案ですけれども,遺留分を侵害された者は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めることができるものとする,それから,受遺者又は受贈者は,金銭の支払に代えて,減殺された遺贈又は贈与の目的財産を返還することができるものとする,というものでございます。   乙案は,遺留分を侵害された者は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分を保全するのに必要な限度で財産の分与を請求することができるが,その具体的な権利は,当事者間の協議又は審判等において分与の方法を具体的に定めることによって初めて形成されるというものでございます。   次に,「基本的な考え方」でございますけれども,まず「甲案及び乙案に共通の考え方」でございますが,これは先ほどの「物権的な効力」を否定するというところでございます。   現行法上は,先ほど申し上げましたとおり,遺留分減殺請求により当然に物権的な効力が生ずることとされているため,減殺された遺贈又は贈与の目的財産は,受遺者又は受贈者と遺留分権利者との共有になることが多いものと思われます。しかし,このような帰結は事業承継を困難にするものであり,また,共有関係の解消をめぐって新たな紛争が生ずることになるという指摘がされているところでございます。   また,戦前の明治民法が採用していた家督相続制度の下では,遺留分制度は家産の維持を目的とする制度であったため,その目的を達成するためには物権的な効力を認める必要性が高かったものと思われますが,現行の遺留分制度は,遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算等を目的とする制度となっており,その目的を達成するためには,必ずしも物権的効力まで認める必要はなく,遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する価値を,現物という形にこだわるのではなく,何らかの方法で返還させることで十分なのではないかという指摘もされているところでございます。   甲案と乙案は,これらの指摘を踏まえ,物権的な効力を否定する,すなわち遺留分減殺請求権の効果を見直し,遺留分に関する権利行使がされても,受遺者又は受贈者が取得した権利が当然には遺留分権利者に帰属しないこととするものでございます。   続きまして,4ページの「甲案について」の基本的な考え方でございますが,甲案は,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権に改めるというものでございます。現行法上,受遺者又は受贈者は,減殺された遺贈又は贈与の目的財産を返還しなければならないというのが原則でございまして,例外的に,減殺を受けるべき限度において,その価額を弁償して遺贈又は贈与の目的財産の返還を免れることができるということとされておりますが,甲案は,基本的にはこの現行法上の原則と例外を逆にした上で,金銭債権を取得させることを原則とするものでございます。   なお,甲案につきましては,一定の計算式によって算出された金額について遺留分権利者に金銭債権を取得させるというものでございますから,乙案とは異なりまして,遺留分に関する紛争は,現行法と同様に,訴訟事項として取り扱われるということを前提としております。   次に,「乙案について」の基本的な考え方ですけれども,乙案は,遺留分を侵害された者は遺留分を保全するのに必要な限度で財産の分与を請求することができるが,その具体的な分与の方法につきましては当事者間の協議又は家庭裁判所の家事審判によって初めて定まるというものでございます。すなわち,遺留分権利者の意思表示だけでは遺留分権利者が取得する権利の内容は定まらず,遺留分権利者が取得する権利というのは,それが物権であるか,債権であるかを含めて,当事者間の協議又は家庭裁判所の家事審判によって初めて具体的に定まることになるというものでございます。   引き続きまして,「検討課題」のところに移りたいと思います。   まず,「甲案の課題」でございますが,「現物返還を認める範囲」,これが問題となると思われます。すなわち,甲案は,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とするものでございますが,受遺者又は受贈者が遺留分権利者に支払うべき金銭を用意することができない場合など,受遺者又は受贈者がむしろ現物返還を希望する場合も考えられるところでございます。そこで,このような場合に備えて,金銭債務の履行に代えて現物返還をすることも可能とすることが考えられるのですが,その場合には現物返還の対象となる範囲をどのように定めるべきかという点が問題となるように思われます。   考え方といたしましては,㋐として,現行法上現物返還の対象となる財産についてのみ現物返還を認めるという考え方,それから,㋑でございますけれども,減殺された遺贈又は贈与の目的財産であれば,現行法上現物返還の対象となる部分を超えても現物返還をすることを認めるという考え方,この二つがあり得るように思われます。   これだけでは少し分かりにくいかと思いますので,具体例を用いて御説明いたしますと,5ページの注のところを御覧いただければと思います。   例えば,受遺者がA不動産とB不動産の二つの遺贈を受け,現行法の規律によりますと,遺留分権利者に対してA不動産の4分の1の持分,B不動産の4分の1の持分をそれぞれ返還しなければならないという事案を想定いたします。   ㋐の考え方によりますと,現物返還の範囲は現行法と同じということになりますので,受遺者といたしましては,A不動産については4分の1の持分,Bの不動産についても同じく4分の1の持分の限度でしか現物返還をすることができず,例えば現物返還の対象をA不動産とB不動産のどちらかに集中させるということはできないということになります。   これに対しまして,㋑の考え方によりますと,受遺者は現物返還の対象を遺贈の対象となったA不動産とB不動産のどちらかに集中させるということができますので,例えばA不動産は返還せずに,B不動産の2分の1の持分のみを返還する,これによって金銭債務を免れるということもできるということになります。   この㋐の考え方というのは,受遺者又は受贈者の恣意的な選択を許さないということを意図したものでございますが,その反面,現物返還が実際に選択されるとなりますと,現行法と同じように,多くの事案において共有関係が残るというところが難点かと思われます。   3ページに掲げた「考えられる方策」の②というのは,㋑の考え方に立つものでございますが,これは現物返還の対象となる財産を減殺された遺贈又は贈与の目的財産に限れば,恣意的な選択がされる余地は少なく,また,遺留分権利者は結果的に被相続人の財産から遺留分に相当する財産を取得したということになりますから,現物返還の対象とすることも許容されるのではないかという考え方に基づくものでございます。もっとも,㋑の考え方による場合には,受遺者が選択した財産の評価額が遺留分権利者の遺留分侵害額を上回る場合や,逆に下回る場合,これらの処理についても更に検討していく必要があるように思われます。   引き続きまして,「遺留分権利者の地位」というところでございますが,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とすることによって,遺留分権利者は,減殺された遺贈又は贈与の目的財産の所有権,あるいは共有持分権,これを主張することができなくなります。したがって,例えば受遺者又は受贈者につきまして破産手続開始決定などがされた場合には,現行法で申しますと,遺留分権利者は,減殺された遺贈又は贈与の目的財産について取戻権というものを行使することができるのに対し,甲案をそのまま採用したという場合には,特段の手当てをしない限りは,遺留分権利者は破産債権として配当に参加するしかないということになります。遺留分権利者が取得する権利を金銭債権化するということは,遺留分権利者の地位を弱めることにつながり得るということになります。   したがいまして,このような点を考慮して,遺留分権利者が取得する権利を原則として金銭債権としつつも,受遺者又は受贈者の資力等が原因で遺留分権利者が金銭債権の満足を受けられない場合には,遺留分権利者に遺贈又は贈与の目的財産について何らかの権利を認めるといったところも考えられるのではないかというところでございます。   続きまして,「乙案の課題」でございます。   乙案につきましては,まず「憲法上の問題点」というのがございます。乙案は,遺留分減殺請求権の法的性質を変更し,遺留分に関する事件を家事事件として取り扱うとするものでございます。現行法上は,遺留分減殺請求権の存否及び範囲につきましては,訴訟手続において判断されるということになるわけですけれども,乙案は,遺留分に関する事件を公開の訴訟手続ではなく,非公開の家事事件の手続で審理,裁判することとするものでございます。したがって,乙案につきましては,憲法の定める公開原則との関係を検討する必要がございます。   この点につきまして,最高裁は,裁判所が当事者の意思如何にかかわらず,終局的に事実を確定し,当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件については,憲法第82条第1項の裁判の公開の対象となる旨の解釈を示しているというところでございます。   このような判例の考え方は,裁判所が終局的に事実を確定すれば,これによって当事者の主張する実体的権利義務の存否について判断することが可能となり,その点について裁判所の裁量の入る余地がないもの,これが純然たる訴訟事件に当たるという理解がその前提にあるものと考えられます。   このような理解を前提に乙案について検討いたしますと,乙案は,一定の要件が充足されれば当然に具体的な権利義務関係が発生することとされている現行法の遺留分制度,これを改めて,裁判所がその後見的判断に基づいて家事審判をすることによって初めて具体的な権利が形成されるというものでございますから,判例がいうところの純然たる訴訟事件には当たらないのではないかと考えられます。したがって,乙案を採用いたしましても,憲法上の問題点は生じないのではないかとも考えられるところでございます。   もっとも,遺留分権利者から請求を受けた受遺者又は受贈者は,遺留分に関する家事審判によって,自己が有していた財産の全部又は一部を喪失し,これを遺留分権利者に引き渡すなどの義務を負うことになるわけですから,このような受遺者又は受贈者の立場を考慮いたしますと,憲法適合性につきましてはなお慎重な検討を要するとも考えられるところでございます。   次に,「遺留分権利者の地位」でございますけれども,ここは甲案と同じ問題意識でございます。乙案によりますと,遺留分権利者が取得する権利の具体的内容は,当事者間の協議又は家事審判によって定まることになりますから,遺留分権利者は必ずしも遺贈又は贈与の対象とされた財産の所有権や共有持分権を取得するとは限らず,場合によっては金銭債権のみを取得するということもあり得るところでございます。いかなる場合に現物返還以外の方法による分与を認めるかにもよりますが,甲案と同様,遺留分権利者の地位を弱めることにもつながり得るというところでございます。   最後に,「紛争の複雑化」でございますが,乙案は,当事者間で協議が成立し,又は家庭裁判所が後見的な見地から裁量権を行使することによって遺留分減殺請求権の具体的内容が形成されるというものでございます。したがって,当事者が遺留分権利者に分与する財産の内容等をめぐって争うなど,紛争が複雑化するという側面は否定することができないように思われます。もっとも,この点につきましては,乙案については事案に応じた適切な解決を期待することができるだけではなく,家庭裁判所の適切な裁量権の行使によって過度に複雑な共有関係の発生を防ぐなど,その後の紛争の発生を予防するという効用もあるものと考えられますので,これらのメリット・デメリットを考慮に入れて検討すべき問題ではないかと考えているところでございます。   説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第1と第2をまとめて御説明いただきましたが,本日の資料は第1から第4までに分かれております。順次御意見を伺ってまいりたいと思います。   第1と第2のうち,まず第1の「一般に指摘されている問題点」等について,皆さんの方から御質問ないし御意見を伺えればと思います。いかがでございましょうか。 ○村上委員 今日の議題と関係があるのかどうかというのはちょっとよく分からないのですけれども,1週間ほど前に私,新聞報道で見ただけですけれども,与党の方から遺言控除を導入するという案が出ていると。これを具体的に2017年度の導入を目指しているのだという報道があったかと思うんですね。この遺言控除の問題というのは,この遺留分とある程度関係があるのか,ないのか,その点についてもし事務局である程度把握していらっしゃれば,少し御説明を頂ければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 遺言控除の点につきましては,正に相続税制の話になりますので,法務省の所管外ということにはなるんですけれども,当省の副大臣が一国会議員として,自民党のある委員会の中で,そういったことが考えられるのではないかという御提案をされて,それについて自民党内で議論がされたと,それが報道されたというふうに承知しております。もちろん最終的に相続法制を直した場合に,相続税制をどうするのかというのは密接な関連がある問題としてございますけれども,飽くまでここで議論するのは相続法制であって,相続税制は含まないということになりますので,直接こちらに関連するということではないのではないかと思います。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほかいかがでございますか。第1の現状認識にかかわる部分でございますけれども。 ○西幹事 まだ十分に頭が整理できていないのですけれども,1ページ目の第1の1の(2)のところに遺留分制度の趣旨が書かれています。この趣旨の中の2行目にありますように,遺族の生活保障というのは,これが遺留分の趣旨であるということは広く認識されていると思います。他方,その次の「遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算」という趣旨は,窪田委員の教科書も含めて,最近の教科書に比較的よく見られる記述ですけれども,これは一般にどの程度のコンセンサスを得られているのかというのが,少し気になります。むしろ,それよりは,最近ですと相続人間の平等とか,そういうことが遺留分制度の趣旨として挙げられることが多くなっているように感じます。   余り大したことではないのかもしれませんけれども,6ページ以下のところの,次に御説明あるところかと思いますけれども,遺留分の範囲のところで,この趣旨との関係で議論が展開されているように感じますので,この「遺産の形成に貢献した遺族の潜在的持分の清算」という趣旨が,どの程度広くコンセンサスを得られているのか,教えていただければと思います。 ○堂薗幹事 どの程度広くコンセンサスを得られているかというのは,正直なところ,よく分からないところがございますが,基本的に現行の遺留分制度につきましては,総体的遺留分を決めて,その総体的遺留分の分配の仕方については法定相続分によるということになっております。そして,法定相続の根拠についても様々な見解がありますが,例えば配偶者については,一般に潜在的持分の清算というものがあるといわれておりますので,遺留分制度においても,そういった趣旨があること自体は否定できないのではないかと考えております。   もちろん,遺留分制度の趣旨については,様々な見解があって,必ずしも統一的な見方がされていないというのは承知しておりますが,こちらとしては代表的なものを挙げたつもりです。 ○中田委員 今の西幹事の御質問の後半の部分との関係なんですけれども,相続人間の平等の保障という観点は,最近ももちろんありますし,戦後も,割とあった考え方ではないかと思います。それを遺留分を自由分以外のものと位置付ける外国の法制度と直結させる考え方と,それとは切り離す考え方とがあると思うんですけれども,やはり相続人間の公平というのが考慮されている。それをこの第1,1,(2)で触れていないのが,やや結論を先取りしているように読めないだろうかというおそれを感じます。それはいかがでしょうか。 ○堂薗幹事 あえてここで相続人間の平等ということを入れてないのは,要するにそういった平等を図るべき実質的な理由として,相続人の生活保障としてある程度の財産は確保すべきという点や,遺産の形成に対して貢献がある場合にはそれを反映すべきという点があるのではないかということで,どちらかというと,実質的なところを書いたつもりです。また,相続人間の平等といいましても,完全に平等を図るわけでもないというところがありますので,あえて(2)のところでは挙げていないということでございます。ただ,一定の限度で相続人間の不平等を是正するという機能があるということについてはほかのところでは触れておりますし,そのこと自体を否定するつもりは全くございません。 ○上西委員 税法の世界から民法を見ている者からすると,ある方の説明が非常に分かりやすかったことがあります。財産というのは本来は自由に処分できるのだという考え方に対するアンチテーゼ的なものとして,遺留分制度は親に愛されない子供を守るためだという説明です。ここにおられる先生からも聞いたことがあります。今回は,遺留分について大きく変えるわけですので,見解についてはもう少し─濃淡はあるのでしょうけれども─示した上で議論した方がよいと思います。 ○堂薗幹事 その点は,今後資料を作成する場合に注意したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点は,ここでは遺族の生活保障や遺産の形成に貢献した遺族の持分の清算という,これらの目的については必要度が下がっているだろうということを示すという文脈で書かれているんだろうと思いますけれども,御指摘のように,遺留分制度の目的については様々な意見がありますので,それらに目配りをした形で,今後,記載を整えていただくということにしたいと思います。この点はよろしゅうございますでしょうか。   ほかの点,いかがでございましょうか。 ○米村委員 いろいろな考え方があるということですが,社会学者としては,社会の方から見ると,遺留分制度とはどのようなものだろうかというのを,やはり大づかみにして考えるような順番を採ります。いろいろな考え方がある中で,それらを踏まえながら,でも,そこを一つに統一はしないで検討を進めていくということになるのでしょうか。 ○堂薗幹事 遺留分制度の趣旨については,いろいろな考え方はあり,ある意味では説明の仕方にすぎないようなところもございますが,ここに書かれているもの以外では,先ほど出ました相続人間の平等を確保するとか,あるいは親が偏愛をしている場合に,それによって生じる結果の不当性を是正するとか,そういったことが言われているわけです。遺留分制度を見直すに際しては,制度趣旨をどのようなものとして捉えるのか検討する必要があるというのは御指摘のとおりかと思いますけれども,これだけいろいろな意見がある中で,今回の見直しではこういう趣旨の下でこういう見直しをしますというところまでコンセンサスが得られるかどうかは,今後の御議論によるところが大きいのではないと思っておりまして,現段階の資料としてはこの程度にさせていただいたというところでございます。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○南部委員 ありがとうございます。遺留分制度をめぐる年間の調停というのはどれくらいあって,成立した分がどれくらいあるかという現状をお聞かせいただきたいと思います。 ○大村部会長 遺留分に関する紛争の状況ということですね。 ○南部委員 はい。 ○大村部会長 何かもしデータをお持ちでしたら。 ○堂薗幹事 最高裁の方で何かございますでしょうか。 ○石井幹事 遺留分についての調停ということですけれども,遺留分だけの統計数値というのをとってございませんので,それについてはお答えが難しいところでございます。 ○水野(有)委員 東京地裁の水野でございます。前任庁が東京家裁であったので,たまたま持っていた数字の一部のものなのですが,東京家裁の裁判官が部内で調査した結果によりますと,遺留分減殺調停事件の成立率は平成22年で56.9%,平成23年で51.3%,平成24年で54.8%であり,一般的な調停よりもむしろ成立率が高いという結果になっております。今,理解している情報はこの程度でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。成立率の統計があるということなので,数量の統計もどこかにはあるのかもしれないですね。少しまた探していただいて,見付かりましたら御披露いただければと思います。   ありがとうございました。ほかにいかがでございましょうか。   特にございませんでしょうか。   よろしければ,第1の「問題の所在」につきましては,御意見を頂いたということにいたしまして,次の第2の「遺留分減殺請求権の法的性質についての見直し」に進ませていただきたいと存じます。   甲案,乙案という二つの案が示されておりまして,それについての基本的な考え方,共通の基本的な考え方である部分と違っている部分につき御説明あったかと思いますけれども,甲案,乙案双方含めまして御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○増田委員 どなたからも御意見がないようなので,口火を切ります。   甲案,乙案のみならず,中間的な案も含めて,いろいろな案がここは考えられるのではないかと思います。   まず,甲案というのは,純粋価値権説と考えてもいいと思います。迅速な解決が可能だし,遺言執行については遺留分減殺請求と無関係ですから,早期に執行が完了するという利点を持っていると思います。   挙げられている論点の中の倒産との関係ですけれども,これについては,立法的に目的財産に特別の先取特権を新たに創設して別除権処理をするということで,価値権の保護としては十分ではないかと考えられます。   ただ,特に②については,若干問題があるのではないかと思いますので,幾つか甲案プラスαの考え方を挙げてみます。一つは,調停前置にすべきだということです。金銭債権をいきなり請求するのではなく,物が必要な方もおられるであろうことを考慮して,その辺は一度調停で話合いをして,利害調整を図るべきであろうかと。これは現行法も一応調停前置主義ではあるんですけれども,民訴事件については,運用は必ずしも厳格ではないので,人訴事件並みの厳格な運用を前提とした調停前置主義をここでは考えています。   二つ目の考え方として,物件の返還については,減殺請求者側で選択することもできるようにすべきであるという考え方もあります。現行の物権的請求権ではなくて,債権的な返還請求権とした上で,物件が必要な人はこちらを選択するということもできるようにすべきだという考え方です。   それから,三つ目ですが,甲案の②だと,平たく言えば,要らないものを受け取らなければならないということもあり得ますが,物を所有するということは,価額だけで価値を判断できる問題でなくて,コストもあるし,リスクも伴うものですから,要らないものを受け取る義務は幾ら何でもないのではないかということを考えると,代物弁済と同様に,減殺請求者の同意の下に物件の返還を選択することができるということでどうかという考え方もあります。   要は,物を売却するコストとか,売れない場合のリスクは誰が負担するかという問題だろうと思うんですけれども,オプションということになれば,物の遺贈を受けることを選択した受贈者側が負担すべきなのではないかという考え方につながると思います。   それからもう一つ,私はこれはどうかなと思っているんですけれども,どうしても物が必要な人について,目的物の返還を請求しうる場合を類型的に設ける。例えば,目的物が居住不動産であった場合の居住者,目的物が事業用財産であった場合の事業者,こういう人が減殺請求者であった場合には,目的物の返還を請求できてもよいのではないかと。これは,基本的に甲案を採った上で,例外的に目的物の返還を求める必要性が高い場合というのを類型化する方向の考え方です。   このように,甲案でもいろいろなバリエーションがあると思います。私自身は,基本的に価値権という考え方にはひかれるところがあります。   一方,乙案を基本に考えるという考え方もやはりあるだろうと思います。これは,遺産分割との間の一回的解決に資するということだと思います。特に,相続人間の紛争の場合には,感覚的にも適合する考え方です。ただ,第三者が受贈者だった場合には妥当するのかという疑問はあります。   それから,乙案の問題点としては,憲法上の問題もさることながら,かなり減殺請求者側の権利が弱くなるという問題があると思います。これでは,当初からの具体的権利として発生しないことになりますので,まず第一に民事保全ができません。家事事件の中で形成される権利ということになり,家事事件手続法上の審判前保全処分しかできないということです。   それから,第二に,通常この遺留分減殺請求権が訴訟になる場合は,単独で訴訟になることよりも,遺贈や贈与などの原因行為の無効を主張する中で予備的請求として出てくることがかなり多いです。つまり,主位的請求が遺言無効,予備的請求が遺留分減殺というパターンはかなり多いのですが,このような予備的請求という方法では使えなくなりますので,かえって早期解決を妨げることになるという問題点があります。   それから,三つ目ですが,これは言うまでもなく,既判力がないことで,紛争が蒸し返される危険が避けられないことです。現行法は訴訟ですから,仮に前提である遺産性の問題について争いがあっても紛争を蒸し返すことはできないわけですが,乙案だとその意味では一回的解決ができなくなって,かえって現行よりも解決のスピードが遅くなる場合も生じるのではないかという問題があって,この点は,実務感覚としては大きな問題点ではないかと考えられます。   ただ,あくまで相続人間の場合に限っていえば,相続人間の公平という観点からいって乙案もある程度魅力のある制度であろうと思います。ですから,私自身は個人的には甲案プラスαという,何らかの手当てを付けた上での甲案がいいのではないかと思っておりますけれども,ここはいろいろなアイデアが出せるのではないかと考えております。   以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。いろいろな御指摘を頂きましたけれども,現行法ではかなり強い効力が認められているところから出発して,どのくらい減殺請求権の効力を弱めていくかということで甲,乙両案が出ておりますけれども,増田委員は基本的には甲案をベースとしつつ,しかし,もう少し現行法寄りの選択肢が幾つか考えられるのではないか,こういう御意見だと整理させていただいてよろしいでしょうか。 ○増田委員 はい,結構です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのような意見を頂いておりますけれども,いかがでございましょうか。 ○石井幹事 意見というより,甲案の考え方について少し確認をさせていただきたいんですが,現在の遺留分減殺請求権は形成権と考えられておりますので,権利行使をして初めて物権的な効力が生じるということになろうかと思うんですけれども,提案されている甲案というのは,そこの点については変えずに,何らかの意思表示というか,請求権の行使をして初めて債権を発生させるという考え方として理解してよろしいんでしょうか。訴訟物などを考える上で,何かお考えになっているところがあれば確認させていただければと思います。 ○堂薗幹事 その点につきましては,遺留分減殺請求権は,判例上も行使上の一身専属性があると言われており,その点を変えるという趣旨ではございませんので,基本的に権利行使するかどうかについては遺留分権利者の判断によるということかと思います。したがって,金銭債権化した場合にも,遺留分権利者の意思表示があって初めて金銭債権として発生するということを考えており,そういった意味では形成権というところは変わらないのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 よろしゅうございますか,石井幹事。 ○石井幹事 そうすると,現行法上,権利行使は訴訟上でも訴訟外でもできるということになっていますので,そういった点は変わらず,意思表示によって金銭債権が発生して,それが訴訟物として提示されてくるという理解でよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 はい,そういう理解で結構かと思います。 ○窪田委員 まだ自分の考えもよくまとまっているわけではないんですが,先ほど増田委員からの御指摘あった点は,私自身も強く共感する部分がありました。つまり,もともと遺留分減殺が訴訟事項だされていたのは,贈与の対象が相続人であるとは限らないという状況を前提としており,家事審判手続という枠の中に乗ってこないというのはそういうことだったのだろうと思います。   また,西幹事から最初に御発言があった遺留分制度の目的は何なのかという点,共同相続人間の平等というのを含めるかどうかという問題は,どの局面を念頭に置くかで随分違ってくるということなのだろうと思います。現行の制度は必ずしも相続人ではない者も相手として機能する仕組みとして,一般的なものとして作られたのだけれども,しかし,現に遺留分が機能している場面というのは,多くの場合には共同相続人間の紛争であるということなのだろうと思います。   この甲案,乙案それぞれ十分にあり得る考え方なんだろうと思うんですが,取り分け乙案というのは,共同相続人間の場面において考えると,具体的相続分というのはまだ確定した具体的な権利ではないのだけれども,それをベースとした上で遺産分割がなされるというような発想と比較的近いところで,遺留分減殺という仕組みを考えるものだと思います。その点で,それが一定の手続を経て初めて確定されるというのは,共同相続人間を想定すると比較的理解しやすいのではないかと思います。ただ,それでは,相続人でない者を相手にしたときにこれがうまく機能するのかというと,やはりちょっとよく分からないという気がします。   そうだとすると,甲案,乙案については,相続人,相続人以外の者を全部ひっくるめて,共通のものとして遺留分制度というのを維持するという前提に立って二者択一で考えるというよりは,場合によっては,誰を相手方とする紛争であるかということに応じて区別する形で制度設計するという可能性もあるのではないかという気がします。今後,御検討いただくのでも結構ですし,あるいは,その点について既に何かお考えがあるということであればお聞かせいただければと思います。 ○堂薗幹事 御指摘の点は,第3の2のところで書いてある遺留分の算定方法の見直しとも若干関連するのではないかと思います。資料では,遺留分の算定方法の見直しのところでⅠとⅡというのを挙げておりますが,Ⅱで書いてあるところは遺留分が共同相続人間で問題となっている場合に,遺産分割と一体的な処理ができないかという問題意識で検討しているところがございますので,仮にあのような形でできるのであれば,遺留分についても正に遺産分割と一体のものとして,対象となっている財産から一定の価値を返還するという処理ができるのではないかと思います。ただ,やはり受遺者等が第三者の場合と相続人の場合とを切り分けて,きちんとした制度設計ができるかという点については,正直なところ非常に難しい問題があるなというのが現時点での感想でございます。 ○浅田委員 銀行の中での預金受入者としての立場の意見については後回しにさせていただきます。   まず,この制度の理解をしたいと思います。といいますのは,銀行,信託銀行の場合は特にそうなんですけれども,遺言執行者の立場から相続に関与することがあります。御提案の制度において,遺言執行者がどういう立場になるのか,現状と変わるのかということを確認したいと思います。   そこで,質問ですけれども,現行判例法理のもとでは,遺留分減殺請求権というのは,遺言執行者を相手方として行使するというのも認められていると認識しております。この甲案,乙案が採用された場合に,遺言執行者が遺留分請求権の行使に当たってどういう立場になるのか,ないしは,ならないのかということをお聞かせいただければと思います。この文章だけを見ると,例えば甲案では,相続人間の中で請求権のやり取りがされるのかなというふうにも見えます。そうすると,遺言執行者はこれに関与しないのかなと。乙案の場合にも,協議とか審判等において遺言執行者がどのように関与するのだろうかということがちょっとよく分かりません。何か整理があるのであればお聞かせいただければと思います。 ○堂薗幹事 この点についてはまだ十分な検討ができておりませんが,純粋な金銭債権の請求に関しては,遺言執行者が関与せずにすることができるのではないかと思いますけれども,例えば乙案のような考え方を採った場合にどうなるのかという辺りにつきましては,御指摘を踏まえ検討したいと思います。 ○渡辺関係官 先ほど申し上げましたとおり,まだそこの点については十分検討はできていないんですけれども,ただ,基本的には遺贈又は贈与が全部又は一部失効するというところも否定してしまうというところから出発しておりますので,遺言執行者が関与する可能性というのは低くはなるとは思います。詳細はまた後日検討させていただければと考えております。 ○浅田委員 後で全体像を見て,遺言執行者の役割がどのようなものになるのかということを評価した上で,それが本当に相続の円滑化につながるかどうかということをあらためて検討したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   少し戻りますけれども,増田委員と,それから窪田委員から,乙案も共同相続人間では魅力的な案であるという御指摘がありました。後の方で,共同相続人間であるか,あるいは第三者が混じるかということで区別して考えるというような御提案もあるようでございますので,またそちらも含めまして,分けて考えることが可能であるかということについて御意見をいただきたいと思います。   これまでのところ,甲案,乙案それぞれについて御意見を頂いておりますが,前提としては,現状を動かして甲案あるいは乙案を採用するということを考えるという方向の御意見かと思います。そういう御意見が更にありますれば頂きますし,いや,現行法をベースにするということでよろしいのだという意見もおありかもしれません。どちらでも結構でございますので,御意見を頂ければと思います。 ○村田委員 乙案についての半分質問で,半分意見になるんですけれども,先ほど増田委員が乙案についての問題点の指摘をされた部分,特に既判力や紛争の蒸し返しということで言われたことに若干絡みます。   乙案によれば,具体的な権利は協議又は審判によって形成されるということになっています。そうすると,その前提となる抽象的な部分というのがあるのではないかと考えられまして,そういう遺留分侵害の有無や範囲といったものが抽象的な権利あるいは地位として争われるとすると,それは訴訟事項として残ることになるのではないかと思うんですが,そういう理解でよろしいかというのが質問であります。  ここから先が意見なんですが,もしそういう理解でよいとすると,何がしか権利侵害の有無・範囲については訴訟で確定するという部分がないと,憲法適合性の問題が出てくるように思います。他方で,結局,訴訟で確定しなければならない部分が残るというのであれば,現行法の下では遺留分減殺請求訴訟としてある種1本の手続で解決できていた紛争のうち,抽象的な権利の確定については地裁の訴訟でやり,具体的な権利の形成については家裁の審判等でやることになって,紛争解決手続が分断されてしまいます。乙案というは,そういう要素を持った提案かなというふうに受け止めました。そうであるとすると,部会資料の第1「問題の所在」のところでも触れられているように,ある局面においては相続に関する紛争を一回的に解決しようという要請を前提に提案がされておきながら,乙案については,逆に,紛争分断の要素があるということになり,その点をどう評価するかということについても,慎重な御意見を頂きながら考える必要があるのではないかなというふうに思います。   以上です。 ○堂薗幹事 御指摘の点につきましては,乙案において,どういった点を考慮して最終的にその分与の仕方を決めるかというところにも関わってくると思います。例えばですけれども,これを家事事件にした上で,寄与分まで考慮するということになりますと,要件のところからして,裁判所の裁量が入らないと権利の内容が定まらないということにもなりますので,そういった意味で非訟的な要素を持つということになると思いますし,仮に寄与分を考慮しないという場合でも,ここでは具体的にどの財産を誰に渡すかという点については裁判所の裁量に委ねるということなので,その意味で非訟的な要素があるということだろうと考えております。乙案は,基本的には財産分与を参考にしたものでございますので,財産分与の関係でも,その前提となる身分関係があるかどうかとか,そういった点については当然訴訟の対象になるんだと思いますけれども,今御指摘があった,例えば遺留分侵害があるかどうかという点については,具体的相続分が訴訟事項とならないのと同じように,訴訟事項にはならない可能性もあるのではないかという感じもしておりまして,その点は今後詰めて検討していきたいと考えております。 ○上西委員 1ページに,「公正証書遺言の件数が年々増加しており,遺言に対する需要は高まっている」とありますが,増やすことは社会的な要請であると思います。   ところが,公正証書遺言の場合は適式の書類にはなるものの,遺留分まで算定し切れているかどうかです。この財産についてはこの人にとするわけですけれども,全体像まできっちりと評価した上でできているかどうか分からないですし,過去の贈与等についても考慮されていないケースの方が多いと思います。そうすると,全体のテーマとして,遺留分制度をより分かりやすい制度として見直す必要があると同時に,より解決しやすい制度にするということもここでの議論だと思います。   そこで,甲案,乙案についてです。4ページに「甲案の課題について」の中にアの考え方とイの考え方があります。中長期的に考えて,共有物はなるべく増やさないようにした方がよいという趣旨から,アの考え方のほかにイの考え方を出して,現物返還の対象となる部分を超えて現物返還することを認める,すなわち集中させると,先ほど御説明されました。別の言い方をすれば,片寄せするということになろうかと思います。この考え方の方が当事者間で解決しやすくなると感じました。分かりやすい制度になっても遺留分減殺の請求の問題は生じ得ると同時に,増えていくと思います。そうすると,解決しやすい方法で,共有関係を避けるためには,イの考え方がよいと考えます。   そして,5ページに,集中させて,片寄せさせて清算をして,遺留分減殺請求に応じても,遺留分侵害額を上回る場合もあれば,下回る場合もあります。上回る場合は,請求を受けた側である受遺者や受贈者が納得して差し出すのですから,それは一つの解決策と思います。しかし,下回る場合については,大半が解決しておれば,残りは現金等での清算ということも主たる選択肢で置いておく必要があります。下回る部分をめぐって共有関係を増やすというのは,社会的な要請からも外れていくという気がします。どの程度が解決すれば残りの部分を現金清算にするかという問題はあるかもしれませんが,なるべく集中させる,片寄せする考え方をメーンに出した方がよいと考えます。 ○大村部会長 御意見ありがとうございます。 ○山本(克)委員 先ほどの多分浅田委員のおっしゃったこととも少し関係するんだと思うんですが,甲案の②の場合の受遺者又は受贈者の側の意思表示があったときの効果というのは,従来どおり物権的効果なんでしょうか。 ○堂薗幹事 ここでは,基本的にはそのようなものを考えております。 ○山本(克)委員 それと,それはそれで結構なんですが,仮に今,上西委員がおっしゃったような,次の4ページのアとかイを採ったときに,予備的請求としてどういう請求を立てたらいいんでしょうか,遺留分減殺請求権者としては。 ○堂薗幹事 遺留分減殺請求権者としては,基本的に金銭債権として請求をし,それに対し受遺者,受贈者側でこういった抗弁が出された場合には,それを金銭的に評価して,その額が遺留分侵害額に達していないときには,その残額部分に限り金銭請求を認めることになると思います。 ○山本(克)委員 しかし,それだけでは,不動産登記の問題は処理し切れないので。受遺者の方に登記が移すためには,別途登記請求を立てなければいけないですよね。 ○堂薗幹事 そうですね。 ○山本(克)委員 では,その場合の登記請求を予備的請求として立てる場合に,特にイの場合にはどうしたらいいんでしょう。 ○渡辺関係官 今の御質問は,最初に請求するときに請求者は困るのではないかということでしょうか。 ○山本(克)委員 抗弁が出た段階で予備的請求を追加するにしても,その請求内容をどうするかというのはもう一つよく分からないなという気がしたのでお伺いしたんですが,適切に,例えば5,000分の4,800なんぼとか,そういうのまで出さなければいけないのか,それともですね。でないと,やはり給付請求として立たないですね,形成訴訟になってしまうので。給付訴訟にするのであれば,そこのところはきっちり,原告が予備的請求を立てるときの指針となるような明確なものがないと駄目なんだろうと思うんですが,こういうふうに割合的権利を渡すというときには,それはかなり難しい問題が生ずるのではないのかなという気がしたのでお伺いしました。 ○堂薗幹事 御指摘の点は十分に検討したいと思いますが,元々は,飽くまでも抗弁が出れば,その段階で現物が遺留分権利者に帰属するというような制度を考えておりましたので,抗弁が出た後に予備的請求を再度立て直してということは考えておりませんでした。もっとも,抗弁を出しただけでは,登記まで取得させることはできないではないかというのはおっしゃるとおりかと思いますので,その点をどういう形で手当てするのかという辺りも含めて,検討したいと思います。 ○沖野委員 今のこととも若干関わるかもしれませんが,1点だけ申し上げます。甲案の場合に,現行法とどこが違うのかなというふうに考えていたんですけれども,取り分け㋑を採ると特に違いが出るというのと,それから相手方の倒産の場合に違いが出ると考えておるんですけれども,㋑を採ることについて,私は,現行法のように,全ての財産に一律に割合で物権的効果が生じるというのは,複数の財産があるときには余り適切ではないのではないかと考えておりましたので,㋑のような形で寄せるということができる方策は入れた方がいいと思っています。   ただ,㋑の提案ですと,その部分が必ずしも保障されないという形になっておりまして,受遺者や贈与を受けた受贈者の選択になりますので,確かに注によれば,A,Bがあるときに4分の1ずつだとなるのが,Bで2分の1になるというのはきれいなんですけれども,場合によってはA,B,Cとあって,それを更に割合を全部分けるようなこともできることになってしまうのは非常に問題ではないかと考えておりますので,㋑にするにしても制約は要るのではないか。その制約の仕方が,増田委員のお考えを一部取り入れますと,例えば相手方の同意を得てとかというふうにするというのは一つの案かと思います。   そして,そうだとしますと,これも複雑になるんですが,㋐になるところを同意を得るならば寄せることができるとか,そういうふうにすることも考えられるのかと思います。ただ,そうしますと,今おっしゃった予備的な請求とかは一層複雑になってくるような感じがしますので,十分対応ができるのかどうか分かりませんけれども,問題点としては,全く相手方が自由にできるのは問題ではないかということです。 ○堂薗幹事 この点については,そもそも受遺者側の利益を考慮して,こういった形で現物返還できるようにする必要があるかどうかというところと関わってくると思うんですが,原則として金銭債権化した上で,債権者が同意している場合だけ現物返還が可能ということであれば,特段の手当てをしなくても代物弁済として可能ではないかとも思われますので,そういった意味では,仮に甲案のような形で考えていく場合には,完全に金銭債権化してしまって,それによる受遺者側の不都合については,何かほかの方策で解決するということも考えられるように思います。 ○中田委員 甲案について,二つ教えてください。   甲案を採る場合の現行法との違いなんですけれども,遺留分権利者は幾ら払えという,金額を請求するということになると思うんですけれども,それに伴う権利者の負担,あるいはリスクというものがどの程度考えられるかということをお教えください。それが第1点です。   第2点は,包括遺贈の場合にどうなるのかということです。全部包括遺贈は,特定遺贈の総体だというふうにもし考えるのであれば,この規律が及ぶんだろうと思うんですけれども,割合的包括遺贈の場合を相続分指定とパラレルに考えるとすると,そちらは金銭にならない可能性があると思います。   相続分の指定については,15ページでなお検討するということになっておりますけれども,割合的包括遺贈ないし相続分指定の場合を金銭返還から外すのか,外さないのかによって,相当制度設計は変わってくると思いますので,その辺りについて御検討されていればお教えいただければと思います。 ○渡辺関係官 ただいまの2番目の点につきましては,正に検討中というところでございまして,割合的包括遺贈の場合ですと,恐らく今の実務では相続分を変えるという形で処理をしているのではないかと思っているんですけれども,果たしてそういった実務でいいのかどうかというところも含めて,整理することができるのであればしたいと考えておりますし,そういった形で整理ができるということになりましたら,金銭請求できるような形にするのか,相続分として幾らか取得するという形にするのか,どちらがいいのかというところも含めて,お知恵を拝借できればと思って問題提起をさせていただいているところでございます。 ○堂薗幹事 1点目のリスクについてこちらで考えているのは,基本的に金銭債権化することによって,受遺者側の資力に問題がある場合に全額回収できなくなるおそれがあるのではないかという点ぐらいです。ただ,その場合に,先ほど増田委員が言われましたように,その目的財産について,法定の担保権,特別の先取特権のようなものを認めれば,そのリスクはかなり減ると思いますし,更に言えば,そういった場合には現物返還を認めるということにすれば更にリスクは減るんだろうと思います。それ以外にこういったリスクがあるということでございましたら,是非お教えいただきたいと思います。 ○中田委員 私がリスクという言葉を使ったので,そちらに問題が行ってしまって申し訳ありませんでした。今の受遺者等の無資力のリスクということ以外に,訴え提起の段階でどのような負担が遺留分権利者に新たに加わるのか,加わらないのかということをお教えいただければということです。 ○山本(克)委員 過少請求をした場合で,全部認容されたけれども,更に本来は取れたという場合をどういうふうに考えるかというのは一番大きな問題として,恐らく中田委員はお考えなのではないのかなと思うわけで,それは黙示の一部請求として扱われるのか,明示の一部請求として扱われるのかというのが,恐らく一番大きな問題点で,黙示の一部請求として扱われると,過少請求をした場合については上乗せ分は取れないというのが判例法理になってしまうと,そこのところをどう考えるかというのが一つ大きな問題ではないですか。 ○渡辺関係官 ただいまの御指摘なんですけれども,ちょっと私の理解が間違っているかもしれませんが,現行法でも生じる問題でございまして,現行法でも遺留分というのは,例えば訴状レベルでは8分の1とかざっくり来るものが結構あるような気がしていますけれども,実際に計算してみると,かなり複雑な数字になって,そこというのはやはりどうしても原告側がきちんと計算しなければならなくなります。実際に認容できる金額と請求の趣旨を比べるとそごが生じるというようなことは,現行法の下でも起きている問題ですので,この甲案を採ったからといって殊更出てくる問題というよりは,計算方法の問題なのかなという気はしております。 ○増田委員 現行法でどうやっているかという話ですが,判決に行く場合には鑑定が入ることが多いと思います。鑑定が終わった段階で,原告がもっと取れると思えば,請求の趣旨を変更して,訴えを拡張するというのが通例になっていると思いますし,それについて訴訟の現場で,時期に遅れているなどとやかく言われることは現実にもないだろうと思われます。それは,甲案を採った場合も同じことだと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今まで出た甲案に関する問題ですけれども,現物返還を認めるということについては,財産を集中するのはメリットをもたらすこともあるけれども,しかし,それによって紛争が増えることもあるので,メリットが大きくなるような方向で,何らかの制約を設けるべきではないかという意見があったかと思います。それから,これに伴う手続的な問題について,現行法上も存在するという問題も確かにあるけれども,新たに生ずる問題もあるのではないかということで,その辺りの整理が必要なのではないかという御指摘を頂いたかと思います。 ○浅田委員 預金受入銀行としての考え方を述べさせていただきたいと思います。   業界内でも議論いたしましたけれども,遺留分減殺請求権の物権的効力を見直すこと自体には異論がございませんでした。私としては,その検討自体は賛成したいと思います。   次に,甲案,乙案どうなのかということについては,まだ十分な議論ができていないと私は思っておりまして,まだ考えあぐねているところでありますけれども,甲案に関しては,直接紛争に巻き込まれることは少なくなるのではないのかなと思っております。といいますのは,現行制度であれば,遺留分減殺請求権が物権的効力を持っているということを前提に,店頭の現場では例えばお客様ないしは関係者から遺留分請求権の行使があったということを仄聞しただけで,預金の支払いが適正にできなくなってしまうという弊害があるわけです。甲案の場合には基本的に,特に①の場合は銀行との問題というよりは,受遺者と遺留分請求権者との間の調整で解決されるというふうに理解できますので,銀行は紛争の当事者から外れるということになると認識できますので,その意味において歓迎できるのかなと思います。   ②に関しては,制度設計如何によっては,ちょっと留保させていただきたいところもあるかもしれません。   乙案に関しては,これも銀行が遺留分請求があったということを認識した場合であったとしても,協議,また,審判等が終了するということを待って手続をすれば,基本的には紛争が顕在化することがないという制度に見えますから,銀行にとっては現状よりは望ましいと思います。   それで,甲案,乙案いずれがベターなのかということはなかなか難しい話だと思います。一つの局面だけ見ますと,先ほど増田委員からありましたように,乙案であれば,具体的な民事保全の手続ができないと。私の理解するところによれば,遺留分減殺請求権者は具体的な権利取得ができないものですから,それを基に仮差押手続をすることができないと思います。そうすると,仮差押えがあれば,銀行も債務者ですので,それなりに紛争の当事者となりますが,そのことから解放されるという意味では,乙案の方がベターだという評価も可能なのかもしれません。ただ,これは次回以降議論されるだろう預金債権の分割の問題にも絡んでくると思いますから,それも併せて考えてみたいと思います。   以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○山本(和)委員 3点コメントです。   まず,甲案のイの点で,先ほど増田委員が言われて,あるいは堂薗幹事の指摘あった特別の先取特権というのが,どの程度フィージビリティーのある話なのかということです。恐らく,対象が不動産であるということを考えると,登記請求権まで与えないと,恐らく実質的には意味がないということになります。   これは,債権法改正のときに,詐害行為取消権の関係で,受益者の反対給付請求権を保全するために,詐害行為の対象になった者に対して特別の先取特権を付与するという提案が,中間論点整理から中間試案までずっと残っていて,沖野委員などが提案をされていたところですけれども,結局,なかなかそれは実現できなかった。いろいろな理由があったんだろうと思いますけれども,同じような理由がこちらにも妥当する可能性はあり得るのではないかと思っていまして,そう考えるのであれば,できるだけ早い段階から具体的な多分提案として考えていく必要があるのかなというのが第1点です。   第2点は乙案ですが,アの憲法適合性の問題は,私自身は,ここの資料に書かれてあるとおりで,少なくとも現在の最高裁判例を前提にすればこうなるのかなということで,むしろ,6ページのところの「もっとも」の段落に書かれてあることが,私にはよく理解できなくてですね,先ほど村田委員からも御指摘がありました,抽象的な権利というのは多分,遺留分権利者が何というか,減殺請求というのを行使すれば,そこでも抽象的な権利は発生していると。あとは,その権利の範囲とか内容等について,家事審判等によって形成していくということだと思いますので,家事審判によって財産権が喪失するというのが私にはよく分かりませんでした。もちろん,具体的にはそうなんですけれども,一般的にはもうその前の段階で抽象的な権利としては,そういう権利義務関係が存在しているということなのではないかと思っています。その点は,正に財産分与をモデルにしたという,財産分与と同じことではないかなと思っていまして,ここが,「憲法適合性についてなお慎重な検討を要する」というのは,私は理解はちょっとできなかったところです。   それから,イの点ですが,この点は確かに,破産した場合を考えて財産分与と同じと考えると,財産分与の場合は,やはり一般的には判例は破産債権だというふうに捉えていて,これは倒産法改正のときも,何とかならないかという話があったわけですけれども,そこはやはりなかなか難しいということになっておりますので,財産分与と同じような形でこれを捉えるとすると,現在では取戻権が認められる場合が,単なる破産債権になってしまうと。そのままにしておけばなってしまうということで,権利は弱くなってしまうということはあるんだろうということで,ただ,財産分与についても批判はありますので,全部合わせてここで手を付けるというのは一つの考え方かなと思いますけれども,相当大規模な事業になりそうな気はするということです。 ○堂薗幹事 憲法適合性の,6ページの「もっとも」以下ですけれども,我々としては,その前の段落までのところで一応憲法上の問題はクリアしているのではないかとは考えているんですが,財産権の全部又は一部を奪われる側から見て,訴訟によらずに権利が奪われることに問題はないのかという御指摘もございましたので,その旨の記載をしたということでございます。もっとも,その点は,現在の判例からすると,裁判公開の問題ではなくて,正に財産権の制約として,そういったものが認められるかどうかという限度で問題になるにすぎないのではないかというのが,こちらの理解でございます。   それから,遺留分権利者の地位については,確かに財産分与並びで考えれば,同じようにするということなんだろうと思いますが,元々,遺留分減殺請求に物権的効力が認めているところを弱めるというところがございますので,遺留分の権利性を弱める場合に破産債権とするというところまでいってしまっていいのか,あるいはもう少し中間的なところを探るのかというところで,出発点が現行法にあるものですから,やはり財産分与以上により問題になるのかなという認識です。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   遺留分権利者の地位を何らかの形で保護するための方策は簡単ではないように思いますが,その方向でいくのならば,更に検討するということが必要かと思いますので,準備をしていただきたいと思います。   そのほかいかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 私も現状がいいとは思っておりません。本来,遺留分の減殺請求は遺産分割と一体的に考えられなくてはならないものですし,そもそも具体的相続分がはっきりしないと,遺留分の計算というのもできないはずです。それなのに,具体的相続分は家裁で,そして遺留分は地裁で行われる現状はおかしいと思っておりました。   そして,訴訟と審判を使い分けなければいけないことになりますと,当事者の負担は非常に大きいですし,全体の手続としても整合的なものではありません。つまり,遺産分割との一体性というのは,非常に乙案に魅力を感じるのですが,ただ,同時に,不安を覚えます。日本の家庭裁判所の手続は,法をまんべんなく適用することによって解決する司法裁判所としては,かなり特殊な性格をもちます。家庭裁判所では,,まず調停で当事者間で話し合い,互譲が推奨されて,緩やかに解決をすることが追求されます。合意さえ成立すれば,財産分与でも遺産分割でも法の定めた基準と全く違う結論でも合法的な結論となりますし,合意がどうしても成立しないときだけ,後見的に裁判所が判断をすることになります。そのようなイメージのある裁判所ゆえに,また権利の存否判断をしてよいのかという憲法問題が出てくるのでしょう。そういう遺産分割手続の中に入れ込んでしまうと,やはり権利性が弱まってしまう気がしてなりません。   遺留分減殺請求権というのは今まで,このカードを切ると,管轄は地裁に移ってしまいますが,同時に非常に強力なオールマイティーカードとして権利性が認められてきました。遺産分割との一体性の中で扱ったとしても,実質的には従来通り権利性が強いものとして計算されるという保障があるのであればよいと思うのです。   現状の家庭裁判所と地方裁判所の分断は問題が多く,様々な御意見が出ましたように,分断という前提で,本来は全部まとめて行われるべき手続がばらばらになっている,要がなくなった扇のような形の相続手続です。それを今まで苦労して運用してこられた実務の,あちこちとの衝突はあると思うのですけれども,でも,何とか一体的に,かつ権利性を弱めないという形で制度設計ができればいいなと思っております。   それでは具体的にどうすればいいのかという案が,提案できればいいのですが,申し訳ありません,まだ詰めて考えておりません。乙案までいってしまったときに一遍に権利性が弱くなりすぎるような危惧がありますが,甲案であったときに,その一体性をどういう形で担保できる制度設計ができるのか,具体的にこうすればそれが可能だというアイデアまでは言えないのですけれども,権利性を弱めない形で,かつ一体性を担保できるような制度設計がいいなと思っております。すみません,感想めいたことで,お許しください。 ○大村部会長 ありがとうございました。御意見として伺って,御検討いただきたいと思います。   そのほかにいかがでございましょうか。 ○西幹事 すみません。自分の専門分野であるにもかかわらず,先ほどから初心者的な質問ばかりで恐縮ですけれども,2点教えていただきたいと思います。   1点目は,話を蒸し返すようで大変恐縮ですけれども,現在,乙の現物減殺が原則ではありますが,一定の場合には被減殺者の選択によって価額弁償も認められています。それでは駄目だと,足りないという理由がどこにあるのかが,今一つ私にはよく分かりません。   遺留分権利者の側からの選択権は認めないという裁判例がありますので,それを修正するというのはもしかしたらあり得るのかもしれませんけれども,現行法を大きく変えて,遺留分権利者の権利を弱めて,なおそのような改正をするだけの現行法の不備があるのかというのを教えていただきたいのが1点目です。   2点目は,非常に細かい話ですけれども,4ページ目の3の(1)「甲案の課題について」のところです。アの「現物返還を認める範囲」のところで関係するのかもしれませんけれども,下から6行目のところに「恣意的な選択」という言葉がありますが,現行法では一部価額弁償が認められています。つまり,現物返還が原則だけれども,任意のものについては価額弁償するということで,遺産の一部つまみ食い的独占というような表現が使われることもあります。今回,甲案のようにした場合,一部現物返還という,今の逆のようなことを認めるおつもりなのか,その2点教えていただきたいと思います。 ○堂薗幹事 まず,現行法の規律のうち,原則として物権的効力が生じ,例外的に価額弁償で対応するという点を見直す必要があるのかという点につきましては,価額弁償でやればいいではないかというのは一つあるんですけれども,ただ,現実問題として,遺留分減殺請求権が行使されますと,基本的には共有状態が生じてしまうと。しかも,現行の計算方法によりますと,共有持分の割合も,何といいますか,非常に大きな数字になって,当事者もどういった持分割合になるのか,およそ予測がつかないような取扱いになっているのではないかと思います。   そして,そういった点が,事業承継の障害となっていることはやはり否定はできないのではないかという点もございますし,また,当然に物権的効力が生じると,そこで基本的には終わりというのが現行法の建前だと思いますので,そういった意味では,後に共有物分割までしないと,最終的には紛争は解決しないという面があるのではないかと思います。   他方,現行の遺留分制度の趣旨からいって,物権的効力まで認めないとその趣旨が貫徹できないのかという観点から見た場合に,基本的には一定の価値,特に金銭であれば,その金銭債権を取得させて,それが満足できるのであれば,それで十分ではないかというところがございまして,こちらとしてはこのような考え方を提示させていただいたというところでございます。   それから,一部現物返還のようなものが認められるかどうかというところでございますが,甲案の②のところで書いておりますのは,基本的には受遺者側で財産を選べるわけですけれども,その財産,要するに現物返還をする財産が遺留分侵害額に満たないと,要するに請求額に満たないというような場合には,その差額分についてはなお金銭債権として認められるという前提でございますので,そういった意味では一部現物返還,一部金銭ということは想定しております。 ○大村部会長 よろしいですか。   そのほかに御発言ありますでしょうか。 ○八木委員 甲案,乙案の趣旨は大体理解できたんですけれども,その前提となる,ではなぜ見直しをしなければならないのかということについてでありますが,1ページから2ページ目に書かれている,まず1ページの下の(2)の「遺留分制度の趣旨・目的が妥当する場面が減少していること」と,こうあるんですけれども,これはそもそもの趣旨に当てはまらない社会的な状況になっているということから考えると,遺留分制度の趣旨・目的の見直しという,そこになりますよね。   それから,2ページ目の(3)の「具体的な貢献が考慮されないこと」というここの部分が,甲案,乙案のところにどういうふうに反映されているのかがさっぱり分からないんですね。むしろ,これは要らないのではないのかなと。(4),(5)は十分甲案,乙案の中に反映されていると思うんですけれども,(3)とさっき申しました(2),この辺りの記述が余り全体として整合しないと,ずっと話を聞いてきて思いましたので申し上げました。 ○堂薗幹事 その点につきましては,まず(2)のところは,第2のところで問題にしているというよりは,第3の1ですとか,そちらの方で問題にしております。といいますのは,現在の状況からすると,子については相続開始時点でそれなりの年齢になっていて,生活保障の必要性は昔よりは低くなっているのではないかということがあり,他方,配偶者については,現行の遺留分制度ですと,離婚の場合に取得できる実質的な持分についても取得できない場合もあるので,その辺りについて見直しをする必要がないかという点が問題となり得るように思いますが,その点については,第3の1のところで取り上げております。   それから,(3)の具体的な貢献につきましては,寄与分を遺留分制度においても認めるかどうかというところで取り上げております。この点については余り明確には書いていないのですけれども,12ページのウのところで,Ⅱのような制度を採った場合には,具体的相続分の算定の仕方と遺留分の算定の仕方が基本的に同じになりますので,こういった制度を採れば寄与分についても考慮することができるようになるのではないかと思います。   そういった意味では,御指摘のとおり,第2のところではその辺りについては余り考慮されていないということだろうと思います。 ○大村部会長 第1のところは全体についての総論という位置付けになっているという御説明があったと思いますが。 ○渡辺関係官 1点補足なんですけれども,乙案を採用いたしますと,遺留分を家庭裁判所で処理をするということになりますので,遺留分の中でも寄与分を考慮することがより可能になるという方向性はあるのではないかと思っております。 ○大村部会長 今,お答えを頂きましたが,もう一つ,八木委員の御質問の中で1の(2)の制度趣旨の議論を根本的にやる必要があるのではないかというお話がありました。先ほどの米村委員の御発言も同様の趣旨だったかもしれません。ただ,遺留分に限りませんけれども,親族相続法上の諸制度については,制度が変遷してきているわけですが,それについて様々な説明が与えられてきて,制度の変遷の中で説明の重点も変わってきているということだろうと思います。民法の場合には,ある明確な政策目的があって,それを実現するために立法がされているということでは必ずしもないので,今回,何らかの立法することによって,今後の制度趣旨の理解は少しずつ動かしていくことになる。そんな位置付けではないかと思っております。 ○増田委員 これは本当に思い付きで,あるいは何らかの欠陥があるのかもしれませんが,乙案の憲法適合性や既判力の不存在などの弱点をカバーするという意味で,乙案のバリエーションとして,乙案プラス形成訴訟という考え方も,これから検討する上での選択肢としてあり得るのかなと思いましたので,一言述べさせていただきます。   ただ,やはり第三者が受贈者である場合にはどうかという疑問は残っていますので,私としては余り推すつもりはないんですが,乙案の弱点を若干なりともカバーできるという案として考えられるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   乙案でいきたいが,いろいろ問題があるという御指摘が複数出ておりますけれども,乙案でやりつつ,何か突破口があるのかどうかということについては,更にもう少し検討していただくということかと思います。   よろしいでしょうか。   よろしければ,次の項目に進ませていただきたいと存じます。   「第3 遺留分の範囲等についての見直し」というところの御説明をお願いいたします。 ○渡辺関係官 それでは,6ページの最終行から始まります「第3 遺留分の範囲等についての見直し」から御説明をさせていただきます。   ここでは,現行制度の枠組み自体を見直す考え方,それから現行制度の基本的枠組みは維持しつつ,遺留分の算定方法等を一部見直し,共同相続にも配慮したものとする考え方の二つの方向性から検討を加えております。   まず,1つ目の「1 現行制度の枠組み自体を見直す考え方」でございます。   ここでは,①として,配偶者は,遺留分として,実質的夫婦共有財産,これは遺留分算定の基礎となる財産のうち被相続人の固有財産を除いたものでございますが,これの2分の1に相当する額を受ける。②といたしまして,子は,遺留分として,被相続人の固有財産の2分の1に相当する額を受ける,という考え方を掲げさせていただいております。   この案の「基本的な考え方」でございますが,この方策は,前回御議論いただいたところと共通いたしますけれども,遺留分算定の基礎となる財産を実質的夫婦共有財産と被相続人の固有財産とに分けた上で,その財産の属性に応じて遺留分の範囲を決めることとするというものでございます。すなわち,実質的夫婦共有財産につきましては,その形成又は維持について,配偶者に相応の貢献があるのが通常であること等を考慮して,配偶者にその一定割合について遺留分を認めることとし,他方,被相続人の固有財産については,配偶者の貢献とは無関係に形成された財産であること等を考慮して,被相続人と血縁関係にある子及び直系尊属に遺留分を認めることとするものでございます。   そして,配偶者の遺留分については,実質的夫婦共有財産における通常の貢献分を確保させるという趣旨で,子と相続する場合にはその2分の1を遺留分としております。   このような考え方を前提といたしますと,実質的夫婦共有財産の残余部分というのは,名実共に被相続人に帰属すべき財産ということになりますので,この部分につきましては被相続人が自由に処分することができるということになります。   なお,この方策は,配偶者の貢献をできる限り実質的に考慮するということをその目的の一つとしておりますので,実質的夫婦共有財産という概念を用いております。したがいまして,先ほど少し申し上げましたけれども,前回御議論いただいた部会資料3に記載されている配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現のために考えられる方策,これのいずれかを採用する場合には,ここで挙げた方策,あるいはそれに類するものを採用することが自然なのではないかと考えておるところでございます。   次に,この考え方の「検討課題」でございますけれども,おおむね前回の御議論と重複するところが多いかと思いますので,ごく簡単に御説明させていただきます。   まず,「紛争の複雑困難化」というところでございます。   この案を採用する場合には,他の共同相続人,受遺者又は受贈者との関係で,実質的夫婦共有財産と固有財産のいずれであるかをめぐって争われるということになりますので,紛争が複雑困難化するおそれがございます。   次に,「相続債務の取扱い」でございますが,現行法では,遺留分は被相続人が相続開始の時において有していた財産の価額にその贈与した財産の額を加えた額,そこから相続債務の全額を控除して算定するということとされております。ですので,この案においても同じように考えるというのであれば,相続債務についても実質的夫婦共同債務と固有債務の2類型に分類する必要があるということになるため,そのいずれに該当するかという点をめぐって,更に紛争は複雑困難化するということになると思われます。そういたしますと,この考え方を採用する場合には,紛争の複雑困難化を軽減するという観点から,相続債務の取扱いを現行法と同じにする必要があるかどうかといった点を含めて検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。   引き続きまして,8ページの「2 遺留分の算定方法等を見直すとともに,受遺者又は受贈者が相続人である場合の特則を設ける考え方」でございます。   ここでは,遺留分の算定方法について2種類の方法を提示しております。まず,「Ⅰ 遺留分の算定方法等の見直し」のところを御覧ください。   ①は,遺留分侵害額は,次の㋐から㋒までの計算によって算出された額とするものということでございます。   ㋐で「遺留分算定の基礎となる財産」を算定するわけでございますが,ここでは,被相続人が相続開始時に有していた財産の価額,これに相続開始前1年間にされた贈与の目的財産の価額,これを足しまして,最後に相続債務の額を控除することとしております。ここで,現行法との違いを申し上げますと,贈与等から相続開始時までの期間が1年を超えるものにつきましては,遺留分算定の基礎となる財産には含めないという点にまず違いがございます。それから,民法1030条後段に相当する規律,すなわち,当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与については,1年前よりも前のものであっても遺留分算定の基礎とするという規定は設けないというところに違いがございます。   次に,㋑の「遺留分額」でございますが,ここでは㋐で算定した額に個別的遺留分の割合,例えば配偶者ということでございましたら,遺留分率の2分の1と法定相続分の2分の1を掛けた4分の1ということになりますが,これを掛けるということになります。ここにつきましては現行法と変更はございません。   そして,㋒の「遺留分侵害額」の算定ですけれども,ここでは㋑で算定された額から遺留分権利者が被相続人から取得した財産が別にあればそれを引き,さらにその後に遺留分権利者が相続債務から負担する額,これを加算するということによって算定しております。この点につきましても現行の判例法理等から認められている考え方と同様の規律ということになってございます。   次に,考え方の②のところでございます。減殺の順序に関するものでございますが,「受遺者又は受贈者は,遺留分権利者に対し,その受けた遺贈又は贈与の価額の割合に応じて①の遺留分侵害額について責任を負う。」ということにいたしております。この点については,現行法では,受遺者又は受贈者が複数いる場合の順序に関する規律がございますが,②はそのような順序は設けないということにしたというものでございます。   次に,2種類目の算定方法でございますが,9ページの「Ⅱ 受遺者又は受贈者が相続人である場合の特則」,ここを御覧ください。   ③は,遺留分権利者は,他の相続人に対して主張することができる遺留分侵害額,この計算方法を定めるものでございます。   まず,これまでと同様に,㋐のところで「遺留分算定の基礎となる財産の額」を算定いたしますが,この案では,「遺産分割におけるみなし相続財産の額」と同じとするというものでございます。具体的には,被相続人が相続開始時に有していた財産,ただし,第三者に対して遺贈した部分,これは除きます。それに特別受益の価額,これを足すということにしております。現行法とどこが違うかということでございますが,一つ目は,遺留分の算定において相続債務を引いたり,後から足したりということはしないというところでございます。それから,二つ目は,第三者に対する遺贈又は贈与の目的財産,これは遺留分算定の基礎となる財産に含めないというところに違いがございます。   次に,㋑の「遺留分額」でございますが,ここでは,㋐で算定した額に個別的遺留分の割合を掛けるというところですが,この点につきましては,現行法やⅠの方法と同じということでございます。   そして,㋒の「遺留分侵害額の算定」ですが,ここでは,㋑で算定された金額から遺留分権利者が被相続人から取得した財産がほかにあればそれを引くということにいたしております。この点につきましては,最後に「遺留分権利者の相続債務負担額」,これを加算しないというところが,現行法あるいはⅠの方法と違うというところでございます。   次に,④ですけれども,「他の相続人は,遺留分権利者に対し,各自が受けた遺贈又は贈与の額から法定相続分に相当する額を控除した額(法定相続分超過額)の割合に応じて③の遺留分侵害額について責任を負う。」ということにいたしております。現行法では,受遺者又は受贈者が複数いる場合の順序に関する規律は,先ほど申し上げたとおり規律があるわけですけれども,④につきましてはそのような順位は特に設けないということにいたしております。   また,後で少し触れますけれども,相続人である受遺者又は受贈者が負う責任の範囲を計算する場合には,現行法下の判例では,減殺される側の遺留分を確保するために,遺留分超過額というものを考慮しているのに対し,ここでは相続分超過額というものを考慮するということとしております。   以上がⅠとⅡの内容の御説明です。   次に,9ページの(2)の「基本的な考え方」でございますが,この案は,受遺者又は受贈者が第三者である場合と相続人である場合とでは,問題状況がかなり異なるのではないかとの問題意識に基づきまして,遺留分の算定方法等を一部見直すとともに,受遺者又は受贈者が相続人である場合についての特則を設け,遺産分割における具体的相続分の算定方法に倣った計算式により,遺留分額等を算定しようというものでございます。   現行法におきましては,相続債務の全額を控除した上で,最後に自己が負担する分を加算するということとしておるわけですけれども,それはどうしてかというと,遺留分権利者が被相続人から承継した相続債務を弁済した後にも遺留分権利者に一定の財産が残るようにする趣旨だというふうに言われております。   このように,相続債務の弁済後も遺留分権利者に一定の財産を確保させることが許容されているのは,積極財産が消極財産を上回っている場合に限られるでしょうから,遺留分制度は基本的には純資産が存在する場合に機能するものとして設定された制度であると考えられます。   そして,その資産超過という概念は,特定の一時点における財産状態,これを示すものでございまして,遺留分制度において問題とすべきは相続開始時の財産状態であると考えられることから,遺留分算定の基礎となる積極財産も消極財産と同様,本来は相続開始時の財産に限られるはずですけれども,積極財産を相続開始時の財産に限定してしまうと,遺留分制度の潜脱が容易となってしまうため,相続開始時に近接する時点でされた贈与等については相続開始時の財産とみなして,遺留分算定の基礎となる財産に含めるということにしたのではないかと考えられるところでございます。   しかし,相続人に対する特別受益につきましては,判例上,相続開始の何十年も前のものであっても,遺留分算定の基礎となる財産に含まれ得ることとされております。随分前の特別受益の額が積極財産に加算される結果,相続開始時には明らかな債務超過の状態であった場合であっても,遺留分算定の基礎となる財産の算定においては,逆に資産超過の状態が生じることとなります。そういたしますと,相続開始時に債務超過の状態であるにもかかわらず,遺留分権利者は被相続人から承継した相続債務を弁済した後にも,同人の手元に一定の財産が残る事態が生ずることになりますが,これは遺留分制度の趣旨とは整合しないようにも思われるところでございます。   また,受遺者又は受贈者としては,遺贈又は贈与を受けた当時の被相続人の財産状況によって,その効力の一部が覆滅されることになってもやむを得ない面があるとしても,その当時の財産状況とはおよそ無関係の事情によって減殺される財産の範囲が大きく変動し得るというのは,遺贈又は贈与の無償性を考慮いたしましても,その合理性にはなお疑問があるとも思われるところでございます。   もっとも,判例が先ほどのように解釈している理由はどういうところにあるかというと,このような解釈を採らないと,各相続人が被相続人から受け取った財産の額に極めて大きな格差がある場合に,特別受益の時期如何によってはこれを是正することができなくなる,こういった点を考慮したものであると考えられます。   そこで,これらの点を踏まえまして,今回の案におきましては,遺留分権利者に純資産の一定割合に相当する額を確保させるという要請,それから相続人間の不平等を是正するという要請という二つの要請を,別の制度で実現しようと考えているものでございます。すなわち,遺留分権利者に純資産の一定割合に相当する財産を確保させるという要請につきましてはⅠの制度により,相続人間の不平等を是正するという要請につきましてはⅡの制度により,それぞれ実現を図ろうと考えているものでございます。   また,Ⅱの制度につきましては,「遺留分算定の基礎となる財産」の範囲を「遺産分割における具体的相続分算定の基礎となる財産」の範囲と一致させておりますので,遺留分に関する事件と遺産分割に関する事件の一回的解決を可能とすることも意図しているところでございます。   なお,Ⅰの②でございますが,ここでは,受遺者又は受贈者が負担する責任に順位を設けないということにしておりますが,相続開始前1年間にされた贈与というのは,被相続人においても遺産の前渡しの趣旨で行う場合が多いものと考えられ,その時間的な先後関係によってその効果に極めて大きな差異を生じさせるということが公平と言えるだろうかという疑問もあること,対象贈与をこの期間にされたものに限定すれば,受贈者の法的地位の不安定もそれほど問題にならないと考えられることなどを考慮したものでございます。   同様に,被相続人が各相続人に対して複数にわたって特別受益となる贈与をした場合につきましても,被相続人においては,その時間的な先後関係によって法的効果に差異が生ずるとの認識がない場合が多いと考えられること,あるいは遺産分割における特別受益については,時間的な先後関係によってその効果に差異は設けられていないことなどを考慮して,Ⅱの④の部分におきましても,受贈者又は受遺者が負担する責任に順位を設けないということにいたしております。   以上が基本的な考え方の御説明でございます。   次に,11ページの(3)の「検討課題」でございますが,まず,「受遺者又は受贈者が相続人である場合の両制度の関係について」問題となると考えられます。   受遺者又は受贈者が第三者である場合につきましては,Ⅰの制度のみが適用されることになりますが,受遺者又は受贈者が相続人である場合には,いずれの制度も対象となりますので,両者の関係をどのように規律するのかというところが問題になります。この点につきましては,両制度の職分管轄をどの裁判所にするのか,訴訟手続及び家事事件のいずれにおいて取り扱うこととするのかといった点にも関連するところかと思われます。   両制度を同じ手続で取り扱うこととする場合には,これを同一の訴訟物と見た上で,そのいずれか多い額を請求することができるということも考えられますが,別の手続で取り扱うという場合には,両請求の優先関係等を明確にしておく必要があり,その場合には,例えば,遺留分権利者は,相続人に対しては,Ⅱの制度ではⅠの遺留分額を確保することができない場合に限り,Ⅰの制度によってその差額を請求することができるといったことなどが考えられるところでございます。   なお,単純にⅠの制度は第三者である場合を,Ⅱの制度は相続人である場合をそれぞれ規律することができるというのであれば極めて明確でございますし,複雑な法律関係が生じないとも考えられます。しかし,Ⅱの制度ですと債務を考慮しないということとしておりますので,遺留分権利者が法定相続分の割合によって負担する債務の額が遺留分額を上回るという事態が生じることになってしまいます。したがって,そのような明確な整理は難しいのではないかと考えまして,Ⅰの制度につきましては第三者の場合だけではなく,相続人の場合にも適用対象というふうにしているところでございます。   続きまして,12ページの「特別受益となる贈与を受けた相続人の地位について」でございます。   特別受益は,遺産分割におきましては,飽くまでも具体的相続分の算定の際に考慮されるにすぎず,実際に返還しなければいけないという事態は生じません。   また,現行の遺留分制度につきましては,新しいものから減殺するということになりますので,例えば何十年前もの特別受益については,これが減殺されるという事態は通常では考えにくいかと思われます。   これに対して,Ⅱの制度を採用いたしますと,特別受益となる贈与を受けた相続人に一定の範囲でその価値の返還を求めるということになりますため,その法的地位が不安定になるということも考えられるところでございます。   このため,Ⅱの制度におきましては,家事事件で処理することとした上で,分割払等を認めることができるようにしたり,あるいは遺留分算定の基礎となる特別受益についても,時期的な限定を付すことなどが考えられるところでございます。   引き続きまして,「遺産分割との一回的解決及び寄与分との関係」でございますが,Ⅱの制度における遺留分算定の基礎となる財産は,遺産分割における具体的相続分の算定の基礎となる財産と同じということにしてございますので,これを家事事件として扱うこととすれば,遺産分割の一回的解決が可能になるものと考えられます。もっとも,この場合の処理の方法につきましては,現行法の実務処理等を踏まえて,更に検討する必要があるのではないかと思われます。   また,Ⅱの制度は,基本的には相続人間の不平等を一定の限度で是正するものでございますが,遺贈や贈与によって被相続人から多額の財産を受け取った者は,現にその財産の形成又は維持に相応の貢献をしているという場合も多いと考えられますことから,Ⅱの制度に関する事件を家事事件で扱うことにする場合には,遺留分算定においても寄与分を考慮することができるようにすることなども考えられるのではないかと思われます。   最後に,「遺留分の算定方法の明確化」についてでございます。   現行の遺留分制度におきましては,遺言によって遺留分が侵害される場合であっても,被相続人の財産の一部について帰属が定められていない場合や,相続分の指定によって遺留分が侵害されている場合など,遺留分に関する事件処理とは別に,遺産分割をする必要がある場合が生じ得ますが,このような場合に遺留分侵害額をどのように計算するのかにつきましては,学説上も争いがあるところでございますし,最高裁の確立した判例もないという状況でございます。   また,先ほど申し上げましたとおり,判例によれば,遺贈の減殺割合について定める民法第1034条の「目的の価額」の算定につきましても,受遺者が相続人である場合には,受遺者の遺留分額を超える部分のみがこれに当たるというふうな解釈がされておるところでございます。   もっとも,現行法上このような解釈が採られているのは,遺贈は贈与よりも先に減殺されていることとされているため,自己の遺留分額を超える額の遺贈を受けた相続人が減殺請求を受けることにより,逆に,その相続人の遺留分が侵害される事態が生じ得ることを理由とするというものでございますが,減殺に関する順序に関する規律を見直し,受遺者又は受贈者が負担する責任について順位を設けないこととする場合には,この判例の規律につきましても,併せてその見直しを検討する必要があると言えるのではないかと思われます。   この案の②及び④は,このような観点から,先ほど申し上げた判例が採用する遺留分超過額説,これを見直すというものでございます。   このように,遺留分の算定方法についての見直しをする場合におきましては,現行制度においてその解釈が明確でない部分について,立法的な解決を図るということも含めて検討を行う必要があると考えられるところでございます。   第3の説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第3の中は幾つかに分かれておりまして,御意見を伺いたいんですけれども,その前に,多分御質問を寄せていただくということになろうかと思います。相当数の御質問が出るのではないかと思いますので,中途半端なんですけれども,御説明を頂いたという,ここで休憩をさせていただきまして,再開の後に御質問を頂き,問題を分けて御意見を頂くということにさせていただきたいと思います。   3時45分まで休憩させていただきます。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開をさせていただきたいと思います。   第3の「遺留分の範囲等についての見直し」について事務当局から説明をしていただいところでございますけれども,この部分は7ページの1の「現行制度の枠組み自体を見直す考え方」という部分と2の遺留分の算定方法等を見直すとともに,相続人について別扱いのルールを設けるという部分の二つの部分からなっております。後で順次御意見を伺いたいと思いますけれども,それに先立ちまして,特に2の部分は,かなり込み入った計算になっておりまして,直ちには理解が難しいところもあろうかと思います。そこで,この点に限りませんけれども,御質問等をまず頂いて,それについてお答えをしてから御意見を伺いたいと思います。どうぞ,御質問等ございましたら。 ○窪田委員 少し実質的な判断に関わる部分ということで教えていただきたいのですが,Ⅰ,Ⅱでもそうなのかなと思いますが,Ⅰの方で見たときに,8ページの受遺者又は受贈者間の関係ということで,②のⅲで「受遺者又は受贈者が負担する責任について順位を設けない。」というふうに書かれています。考え方としては,御説明があったとおり,非相続分の死亡の前の1年以内ということであれば,相続の前渡しというニュアンスなんだろうということではあったのですが,誰もかれもがみんな,自分がいつ死ぬかということを分かりつつ生前贈与しているわけではなく,遺産の前渡しのつもりであったけれど,その後も延々と生きているということは幾らでもあるのだろうと思います。   この部分に関してよく分からなかったのは,一方でこの提案では,1年以上も前のものは全て切るという形になっています。それはそれで十分にあり得る制度だし,例外も設けないというのも分かりやすいということだとは思うのですが,それについては,相続時と離れた贈与に関しては,正しく生前の処分なんだからそれを尊重するといった考え方など,いろいろな説明の仕方があると思います。それとの関連で見たときに,生前の贈与であっても1年前のものは遺贈と同じに扱うというふうな仕組みは,本当に十分に整合的に説明できるのかなというのは,ちょっと気になります。つまり,やはり遺贈であるとか,死後に法律効果が生じるものに関しては,死後の財産処分という意味では,やはり特殊なものなのではないかという気がするからです。それに対して,処分してからすぐに死んでしまったとしても,やはり生前贈与というのは自己の財産管理権の一部として,本来の財産権の実現なのだと考えることができ,何かかなり性格が違うのかなという気もします。ですから,その点について少し補足的な御説明を頂けたらと思います。 ○堂薗幹事 資料では,遺贈や生前贈与も含めて,順位を設けないということにしておりますが,御指摘のように,少なくとも遺贈と生前贈与だけは順位を付けるという考え方も十分にあり得ると思います。資料でこういう考え方を取り上げた理由の一つとしましては,例えば,被相続人において,遺産の一部について生前贈与をし,残りの財産は全て特定の人に遺贈するという遺言をすることもあるかと思いますけれども,そういった場合に,被相続人の意思としては,受遺者にできるだけ多くの財産を残してあげたいという意図がある場合も多いのではないかと思います。そういった場合に,遺贈が先に減殺されるということになりますと,結果的には遺贈が全て減殺されて,生前贈与を受けていた方は減殺を受けないという事態も生じるように思いますので,そういったことも踏まえて,資料では,遺贈や生前贈与を含めて同順位にするという考え方を取り上げておりますが,そこはいろいろな考え方があるのではないかと思います。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   ほかにいかがでしょうか。 ○沖野委員 ありがとうございます。1030条後段に相当する規律を設けないという,この趣旨が十分説明されていないような気がしたものですから,その点を補足していただけないでしょうか。 ○堂薗幹事 資料では十分に説明できていないんですけれども,基本的には,現行の1030条後段というのは,両当事者が遺留分侵害について悪意である場合ですけれども,判例の考え方を前提としますと,両方が悪意という事態は,実際上はなかなか生じにくい,将来的に財産関係がどうなるかというところの予測も含めて,悪意と言える場合でないといけないということだと思いますので,両方が悪意という事態は生じにくいというところがあるのに対しまして,実際にこの規定があることによって,贈与を受けた側の法的地位は,かなり不安定になる面があるのではないかと。すなわち,これが完全に1年で切れるということになれば,贈与を受けてから1年経てば,目的財産を取り戻されることはないわけですけれども,結局,あの規定があるために死亡するまで,例えば遺贈の2年後に遺言者が死亡したという場合でも,その後に,遺留分減殺請求がされる可能性もありますし,また,遺留分減殺請求の行使期間もそこから更に1年,それもその1年というのも主観的要件が入っていますので,必ずしも1年経てばもう行使されないというわけではないので,そういった意味で,かなり法的に不安定な地位に置かれるということがあって,特に事業承継で贈与を受けたというような場合については,その財産の処分などについて萎縮的効果が生じることもあるのではないかという辺りを考慮したものです。   それから,今回の提案ですと,相続人については,1年を超える贈与についてもⅡの方で考慮するということになっておりますが,現行法の場合は,1年を超える贈与があった場合には,基本的に1030条後段の要件で争わなくても,遺留分算定の基礎となる財産になりますので,そこで争う必要は全くないわけですが,このように,ⅠとⅡという形で分けますと,相続人にとってはⅠの方の対象になった方が有利になりますので,そういった意味で1年超の規定を残しますと,相続人はこのⅠのところでもその点を争い,そこで認められない場合に,Ⅱで更に請求をするということにもなって,更に紛争が複雑化するのではないかという辺りを考慮しまして,1030条後段に相当する規定は設けないという考え方を取り上げたところでございます。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○沖野委員 はい。 ○大村部会長 そのほかいかがですか。 ○増田委員 ⅠとⅡなんですけれども,第三者と相続人がいずれも同じ遺言書の中で遺贈を受けている場合というのは普通にあるわけなんですが,その場合にはどちらが適用されるのかという質問です。   ひょっとすると,遺留分額が異なるということもあり得るのか,同じ価額の遺贈を受けていても,一方は侵害していないが,一方は侵害しているという場合や,減殺の割合が異なる場合もあり得るわけですが,そういうことが前提の話なのかということをお伺いしたいと思います。 ○堂薗幹事 この点については,基本的には受遺者又は受贈者が第三者の場合であろうと,相続人だけの場合であろうと,相続人と第三者の両方が含まれている場合であろうと,基本的には第三者についてはⅠの算定方式で計算した方法を請求することができることになります。相続人については,ⅠとⅡの制度をどのように仕組むかというところにもよるんですけれども,仮に同一の手続で請求するということにしますと,ⅠとⅡの算定方法で計算された額のいずれか多い額について請求することができることになります。   したがいまして,Ⅰの方では遺留分侵害がないけれども,そういった場合でも相続人との関係ではⅡの制度で遺留分侵害が生じるということがあり得ることになります。 ○大村部会長 よろしいですか,増田委員。 ○増田委員 はい。 ○大村部会長 そのほか御質問ありましたら伺いますが,いかがでしょうか。 ○餘多分幹事 今のⅠとⅡの関係についてお伺いしたい。資料11ページを拝見すると,両制度を同一の手続で扱うというのは今,堂薗幹事がおっしゃったようなことなのかと思ったのですが,別の手続で取り扱う場合というのがよく分からず,その前の部分の記載を見ますと,職分管轄をどの裁判所にするかとか,訴訟手続は家事手続かというようなことが書いてありますので,別の手続というのは家事手続と訴訟手続ということを念頭に置かれているのではないかと思ったのですが,そうだとすると,「例えば」のところに書いてある,Ⅱの制度ではⅠの遺留分額を確保することができない場合に限ってⅠの制度で請求するというのは,例えば家事審判をまず申し立てた上で,そこで請求できない金額について訴訟手続で請求するというようなことを想定されているのでしょうか。 ○堂薗幹事 そこはですね,必ずしもそういうふうには考えておりませんで,仮にここに書いてあるような制度にする場合,そもそもⅠとⅡを違う手続でやるというのは難しいとは思っているんですが,仮にそうすることとした場合に,Ⅰの制度から先に請求された場合には,Ⅱの制度で取得できる額は遺留分侵害額のところで控除するということを考えています。  要するに,受遺者等が相続人である場合には,Ⅱの制度で十分に保障されない場合だけⅠの制度で更に請求できるということですが,Ⅱの制度で請求できる額というのは計算上はっきりしますから,その額については,まだその手続を踏んでいない段階でも控除することとして,更に余りがある場合だけ請求を認容するというようなことを考えております。 ○大村部会長 論理的にはⅡが先行するけれども,手続的にはⅠが先でもいいという,そういうことですかね。 ○堂薗幹事 ええ,そういうことになります。 ○水野(有)委員 関連してなんですけれども,東京地裁の水野でございますが,Ⅱの制度が家裁で,Ⅰの制度が地裁に分かれることが一般的には多いのかな─分けた場合ですね。そうなると,Ⅱの制度において,例えば寄与分とかですね。あと,ちょっと入れるかどうかについては,もちろん疑義が,いろいろな御意見もあるので,入れると決まっているわけではないのですが,夫婦の実質共有財産とか,そういう形成的なものだといいますと,なかなか計算上出るとも限らない制度設計なのかなと思ってもみたりして。   そうなると,前もって控除するというのが果たしてできるのかと。結局,前もって控除するにしても,Ⅰをやった後,結局Ⅱをしなければいけないという御趣旨でしょうかという質問に関してはいかがでしょうか。 ○堂薗幹事 Ⅱの制度で寄与分まで考慮するということだと,それは御指摘のとおりだと思います。ですから,そういう場合には制度として成り立たないのではないかと思います。ここに書いてあるものは,基本的にはⅡの方からいって,Ⅱで取れない場合にⅠで取るということを一応想定はしているんですが,先にⅠからいくことも否定はしませんので,Ⅰの制度で請求をし,さらに,その後にⅡの制度で請求するということも否定はしない,禁止はしないということを考えております。   ただ,先ほども申し上げましたように,このⅠとⅡを設ける場合も,別の手続でやるというのは非常に難しいだろうと思っており,基本的には,同一の手続の中でいずれか多い額を請求するという形でやるほかはないのではないかと思っております。 ○大村部会長 今の件については,御意見はいろいろあろうかと思いますが,一応の御説明としてはよろしいでしょうか。   そのほか御質問いかがですか。 ○垣内幹事 遺留分の制度について全く素人で,完全に議論から取り残されている感があるんですけれども,この御提案のⅠとⅡという制度は,少なくとも素人目に見て,極めて複雑な制度のように見受けられるわけですけれども,現行法に代えてこの制度を導入する必要があると考える場合の,その現行法の下における問題点,弊害として,最も大きなものというのは,10ページの第3段落というんでしょうか,「しかし」というところの段落で書かれている問題,つまり判例上,相続人に対する特別受益については時期の制限がないということの結果として,何十年も相続開始の前にされた贈与があり,かつそれが非常に大きなものであって,その贈与がなければ資産超過であったようなところを,それがあったために債務超過になってですね,結果的に,相続開始時には債務超過であるような場合があり,そのときに,しかし,現行のやり方で計算をすると,遺留分権利者の方に何がしか積極財産が残る。その分については,遺留分減殺請求の相手方,受贈者たる相続人が負担をするということになり,しかし,それでも贈与はたくさん受けているということですから,それをプラス・マイナスすればプラスにはなるのでしょうけれども,しかし,公平の観点から見て,贈与を受けた相続人と遺留分を請求した相続人との関係が公平でないという事態を是正する必要があるので,このⅠとⅡという制度を設けたらどうかという御提案になっているということでしょうか。   仮にそうだといたしますと,そういう事態というのは現在,かなり目に付く程度に出現していて,裁判所等でそれに苦慮しておられるという事情があるのかどうかという辺りについて,もしお分かりでしたら教えていただければと思います。 ○堂薗幹事 現行法上,遺留分算定の基礎となる財産については,原則1年内の贈与に限ると,両方悪意のときは1年超のものも含まれるということで,規定上はそうなっているわけですが,判例で,特別受益についてはその例外で,原則としてどこまでも遡れるということなんですけれども,昭和22年の現行の遺留分制度を作ったときに,本当にそこまで考えていたんだろうかというのがそもそもの疑問としてあります。   もう少し具体的に申し上げますと,例えば,今の規律を前提にしますと,相続開始の直近にされた生前贈与については,当然,債務超過であれば,詐害行為取消権の対象になるんだと思うんですけれども,そういった場合についても,要するに1年を超える特別受益がたくさんあることによって,遺留分の計算では純資産額があることになってしまい,相続債権者と遺留分権利者が生前贈与された財産について,言わば対抗関係のような形で相争うことになるのではないかと思います。しかし,基本的には,本来相続債権者の引当財産となるべき財産について,債務者の包括承継人との間で相争う関係になるというのは,財産法秩序の観点からいっても問題なのではないかというところがございまして,そういった意味で,特別受益を無限定に積極財産のところに加算するという扱い自体,問題なのではないかというのがまず出発点です。   ですから,本来はⅠの制度だけで済ませるということであれば非常に明快なんですが,ただ,そうすると,判例が問題にしているような,相続人間でかなり取得額にアンバランスがあるような場合に,このⅠの制度だけでは是正ができませんので,それについて別途,Ⅱの制度で調整することを考えたというところでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○垣内委員 はい。 ○大村部会長 そのほかに御質問ございますでしょうか。   では,後でまた質問していただいても結構でございますけれども,次に御意見を頂きたいと思います。   資料は6ページから始まりますけれども,最初に,7ページの1の「現行制度の枠組み自体を見直す考え方」という部分について御意見を頂ければと思います。配偶者と子とで遺留分についての考え方を変えるという御提案ですが,これは前回検討した問題と関連しているわけですけれども,この部分についいての御意見をまず伺いたいと思います。いかがでございましょうか。 ○浅田委員 従前,同様の意見を述べたことがありますので簡単に申し上げます。やはりこの枠組みを変える考え方というのは,実質的夫婦共有財産の概念を使っています。それ自体の当否というのは別として,やはり,実務的な問題としては,その区分けというのは非常に難しいのではないのかと思います。   したがって,銀行のような取引相手方もそうですが,例えば,相続を考えられる個人にとっても,遺言をどうしようかとかというようなことを考える際に,非常に複雑な計算というのも求められるのではないのかなと思います。したがって,各々の社会コストが出てくるということを指摘したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,御指摘いただきましたように,これは前回に御議論いただいたところで出た問題がここに現れるということになりますので,先ほど事務当局からもお話しありましたけれども,前回の問題について,ある考え方をとるのであれば,こういった考え方が出てくるかもしれない,そういうことかと思います。   今,実務上生じるであろうという困難について御指摘を頂きましたけれども,基本的な考え方についても,もし御意見があれば頂きたいと思います。どちらでも構いません。御意見を賜ればと思います。 ○増田委員 これは,それでいいという考え方なのかもしれないんですけれども,ちょっとした違和感があるところとして,この案だと,子は,先祖代々の財産については遺留分があるんですけれども,親の作った財産には遺留分はないということになります。   あと,親は無一文から夫婦で財産を形成していったという場合に,それを全部第三者に贈与ないし遺贈されたというケースを考えると,配偶者が減殺請求しない限り,子の方には全く来ないということになります。これも,それでいいという考え方もあるかもしれませんけれども,私はちょっと違和感があると思います。   夫婦共有財産と固有財産の区別が問題であるということについては,前回も申し上げましたように,そのとおりだと思います。   あと,この資料に書いてない点ですけれども,気になっているのは,直系尊属の遺留分は必要なんだろうかという疑問が前々からありましてですね。直系尊属というのは,本来,相続によって自分のところに財産が入ってくることを期待する利益はないはずなんですけれども,そこの方はちょっと手直ししていただいてもいいのかなとも思っています。   以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第1点は,このように分けてしまうということが,分けられるかどうかということとは別に,問題を含むのではないかということかと思います。第2点の,直系尊属について何かありますか。 ○堂薗幹事 その点は全く検討はしておりませんので,御指摘を踏まえ,検討させていただきたいと思います。 ○大村部会長 増田委員は,直系尊属を考え直した方がいいという方向の御意見ですか。 ○増田委員 私は遺留分は不要ではないかと思っております。 ○大村部会長 わかりました。ほかにいかがでございましょうか。 ○石井幹事 前回も御議論があったところではございますけれども,やはり実質的夫婦共有財産と固有財産とを区別するというのは,実務上も難しいところかと思います。この後,御議論していただくように,遺留分侵害額の算定に当たっていろいろ複雑な計算なども控えておりますし,遺留分については債務も必ず考慮しなければならないということも考えますと,遺留分額の算定の段階から複雑な仕組みを取り入れてしまうと,全体として,紛争が非常に複雑困難化してしまうのではないかと懸念されるところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○窪田委員 ただいまの部分に関連する部分なのですが,これは一般的に相続分を決定するという,前回までのテーマでも少し気になっていた部分なのですが,実質的夫婦共有財産と固有財産とを分けるという話と,債務に関して実質的夫婦共同債務と固有債務とを分けなければいけないのかどうかという話は,当然には関連しないのではないかなという気はいたします。   不動産がある,その不動産を買うためのローンであるというのは,イメージとしては大変に分かりやすいのですが,常にほかの債務に関してそういうふうに実質的な関連性があるかどうかというと,必ずしもそうでないのではないか。債務に関しては,そもそも全然別の観点として債権者保護という視点が入ってきますので,分ける必要がないという考え方もあるのだろうと思います。これは相続分にも関連する部分なのですが,ここのところについて何か補足的な御説明というのがあったら,少し教えていただきたいという思いします。 ○堂薗幹事 御指摘の点はこちらも考えてはいるんですが,まず現行の制度とパラレルに考えた場合に,少なくとも純資産額があるかどうかという点について,要するに実質的夫婦共有財産と実質的夫婦共同債務の多寡を見てプラスが多いと言えるかどうかという点はやはり見る必要性があるのではないかと考えており,他方,最終的に遺留分侵害額を計算する際に,配偶者が負担している債務分を加算する取扱いについては二つに分ける必要はないんだろうと思っております。ですから,最初の点について,債務を考慮しないで,実質的に公平が図れるような方策があればいいなとは思っているんですけれども,現時点では妙案がないという状況でございますので,何かいいお考えがあれば教えていただきたいと思っております。 ○大村部会長 この問題については,皆さんの御感触からすると,前回の,元になる部分がどうなるかによる,あちらが突破できればまたこちらも考えられるのかもしれない,そういう御感触だと受け止めておりますけれども,ほかに何か御発言があれば伺いますが。 ○西幹事 整理してお話しできるか分からないのですが,先ほどから全部改正案に反対ばかりしているような印象を与えるかもしれませんけれども,今回も少し気になる点がありまして。   遺留分というのは,比較法的に見ると,相続財産あるいは相続分と何らかの関係があるというのが一般的な法制だと思います。例えば,フランスとか日本の場合には,相続財産の一部が総体的遺留分になって,それを法定相続人で分けるという形になっておりますし,遺留分の債権的構成を採っているドイツの場合には,法定相続分の2分の1が遺留分という扱いになっています。   そのような中で,今回の御提案では,相続分あるいは相続財産と遺留分との関係が見えないように感じます。全く別物として考えるのであれば,例えば完全に扶養債権として考えるのであれば,それはそれであり得るのかもしれませんけれども,その関係が見えないのは珍しい法制というか,ちょっと違和感がありますので,その辺りをどういうふうにお考えなのか,教えていただければと思います。 ○堂薗幹事 その点につきましては,前回やった配偶者の貢献に応じた遺産分割をどうするかというところと関わってくるんだろうと思います。現行法上,総体的遺留分をどう分けるかという点については,正に法定相続分で分けることとされているわけでございますが,ここで挙げている考え方は,前回取り上げた考え方と同じように,配偶者の実質的な貢献を考慮して総体的遺留分を分けるというのが基本にあります。そういった意味では,法定相続の方をそういうふうに変えるのであれば,それに関連して,総体的遺留分についてもそういう分け方をするということでございますので,法定相続の場合と遺留分とで全く違う考え方を採っているということではないのではないかというふうに理解しているところです。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○西幹事 そうなりますと,遺留分の趣旨としても,先ほどの遺族の潜在的持分の清算というのが結構趣旨として効いてくるということになりますか。 ○堂薗幹事 基本的にこの考え方は,特に①が大きなところで,要するに配偶者は実質的な持分,離婚であれば取れる分については,少なくとも遺留分として確保しましょうというのが基本的な考え方で,仮にこの考え方を採って,総体的遺留分を今と同じように変えないということにしますと,それは結果として子供の遺留分は固有財産の2分の1になってしまうというところがあって,②はそうしているということです。ただ,それについては,先ほど増田委員からも御指摘があったような問題はあるんだろうと思います。   ですから,この考え方は,遺産の形成に対する貢献をかなり前面に押し出した考え方ということになるのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,次の問題に進みたいと思います。   8ページの2では,遺留分の算定方法等を見直すとともに,相続人間の場合については特則を設けるということで,ⅠとⅡというのが出ているというところでございますけれども,いかがでしょうか。 ○窪田委員 先ほどから,計算方法に関してはかなり複雑になるという御指摘もあったのですが,ただ,私自身もⅠとⅡを,両方ともいわば並行的に用いるというような場面を考えると,確かにものすごく複雑になるなという気がするのですが,特に共同相続人間の問題に絞って考えると,実はこれはかなりシンプルな仕組みを提案しているのではないかという気もいたします。つまり,現行法ですと,共同相続人間であったとしても,遺産分割とは全く別の手続として処理をしなければいけないわけですが,これだと基本的には遺産分割の延長のような仕組みで,手続的にも処理することができるのではないかと思います。   現在でも,私自身も正確には分かっていないのですが,遺留分減殺という場合でも,全て物権的な効果は直接出るというわけではなく,相続分の指定のような場合には,そもそも減殺の対象になるのかどうか自体の問題があり,私は肯定してよいと思いますが,減殺をするということを認めたとしても,結局,そこで決まったことを前提に遺産分割手続をせざるを得ないというような場面もあります。その意味では,こうした仕組みを導入するということは,一つの在り方としては考えられるのではないかと思います。   ただ,その上で2点申し上げたいのですが,そうした場合に,果たしてⅠとⅡというのを本当に選択的に,場合によっては行使するという仕組みを考えていいのかどうかという問題が一つです。   そして,あるいはその前提になる問題ということになるのかもしれませんが,こういうふうにⅠとⅡを分けて考えるという場合には,実は共同相続人間における遺留分というのは,固有の意味を持った問題として扱われるべきものなのではないか。仮にそうだとすると,無理にⅠとつなげる必要はないのではないかという点です。その意味では,共同相続人間の問題というのを別個の仕組みで考えるということになるのかもしれませんが,そこまで割り切って考えるという行き方があってもいいのではないかという気がします。   なお,ちょっとだけ補足しますと,西先生のおっしゃったことに反論するつもりまったくはないのですが,私自身の教科書に書いてあるのはとおっしゃられたのですが,私自身は,それに続けて,この説明はあんまり説得力はないとも書いておりますので,そうした理由づけを肯定的に書いているわけではないのですが,共同相続人間の公平というのは,恐らく共同相続人間の問題ではすごく分かりやすい。でも,共同相続人間の公平については,具体的相続分も共同相続人間の公平という説明がされますよね。そうだとすると,共同相続人間における遺留分というのはその延長なのだという位置付けもできるのではないかと思いますし,そうだとすると,遺留分というのは,具体的相続分に対して,いわば共同相続人間における最少の相続分なのだという説明の仕方はあるのかなという気はいたします。   あんまり話を大きくすると事務局の方でも大変なのだろうと思いますが,印象めいた意見ということになりますが,こうした考え方自体はあり得るのではないかと思います。 ○堂薗幹事 御指摘いただいた点のうち,ⅠとⅡを必ずしも選択的にする必要はないのではないかという点なんですけれども,実は我々もそうしたいと考えているのですが,その場合に,相続人についてはⅠのような請求自体を認める必要がないということでいいのかどうか,その辺りについて,もし何かございましたら御意見をいただければと思います。 ○窪田委員 もちろん,相続人ではない者に贈与がされている場合だったらⅠの問題になるわけですけれども,共同相続人間の贈与の問題であるとすると,Ⅱだけで対応するというのもあり得るのではないかなという気はします。そうすると,権利が弱まるという考え方はあるかもしれませんが,具体的相続分の延長としての最小限の相続分として確保される部分が実現されれば,この問題は共同相続人間の問題としては解消されたのだという説明はあり得るのでないかという気はいたします。 ○堂薗幹事 分かりました。   実は,我々も,基本的にはこのⅠの制度は第三者に対してする場合,Ⅱの方は共同相続人間の問題として位置付けられないかということで検討自体は始めたんですが,やはり一番気になっている点は,11ページの注のところで書いているんですけれども,Ⅱの制度というのは基本的に債務を考慮しませんので,相続開始時にプラス財産がある場合でも,Ⅱの制度だけでいくと,結局,相続人は持ち出しになってしまうというか,自分が払う弁済の額の方がもらう額よりも大きくなってしまうという事態がどうしても生じてしまうのではないかと。ここを何とか解決しないと,なかなかそういう形でうまく切り分けることはできないのではないかというところがございまして,我々としてもここを何とかうまく解決できないかというところは今後も検討していきたいと思いますし,何かこの点についてアイデアがありましたら是非教えていただきたいと思っております。 ○窪田委員 すみません。それはもう1点質問したい点にも関係するのですが,Ⅱの考え方を採ると,どうして債務を度外視するのかという点については,一応説明はされているのですが,何か一読してもすっと入ってこない説明のように思います。共同相続人間のⅡの問題であったとしても,飽くまで債務を控除して,実質的に得られるものを確認してというやり方はあるのではないでしょうか。 ○堂薗幹事 確かに,そういうやり方はあるのかなと思いますし,確かにそういうやり方を採れば,今,私が申し上げたような問題は生じないんだろうと思います。   ここで,あえて債務を考慮しないとしているのは,正に遺産分割と一体的な処理をするためには,遺産分割の中ではそういう形で計算されておりませんので,具体的相続分は,債務を考慮せずに計算されていますので,そこと同じような計算方法を採ることによって,遺留分に関する事件と遺産分割に関する事件を一体的に処理したいということでございます。現行法上も,遺留分制度は法定相続分の半分を相続人に確保する制度だということが言われるわけですが,実際には計算方法が全く異なるためにそうはなっていないわけです。Ⅱの制度は,計算方法を合わせることによって,言わば本当に,遺産分割の中で法定相続分の半分は相続人に確保させましょうと,そういった状態を作るために,このⅡの制度を新たに設けたというイメージでおります。 ○窪田委員 すみません,あともう1点だけで。   なるほど具体的相続分のときには寄与分が考慮されるのに,遺留分では寄与分はカウントされないというのは,これはやはりおかしいのだろうなという気がします。整合性が問題になるのではないかと。ところが,具体的相続分のときには債務は考慮しないけれども,遺留分の方では実質的に承継できるものについて,最小限のものを得させるためのものなのだから,債務も計算に入れましょうというのは,別にそれほど変な仕組みではないのではないか,必ずしも不整合ではないのではないかという印象を持っていますが,見落としている問題もあるのかもしれません。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。 ○大村部会長 そのほか,このⅠとⅡについて。 ○水野(紀)委員 まず,窪田委員の御質問と,それから前の垣内幹事の御質問と重なるのですけれども,大前提として,具体的相続分のときに債務を計算に入れていないということ自体が相当変なことではあるのです。遺産分割の前提となる遺産総額を決定するときに,本来は,債務を計算に入れた上で積極財産としての遺産総額を計算し,それに基づいて具体的相続分を計算するという形になるはずでした。でも,日本法では債権・債務は頭割りだという判例法があって,それ以外の財産で具体的相続分を考えるという前提をとるがために,何かすごくますます難しくなっている気がしております。   そして,垣内幹事がおっしゃった10ページの「しかし」以降のところですね。ここのところも,それほど変なことだろうかという気がしてならないわけです。つまり,被相続人としては,長期計画で順番に,子供たちに,生前贈与,いわば生前相続という形で,娘が嫁に行くときには高価な嫁入り支度を整え,息子が独立するときにはそれなりの資産を渡してという形で,分けていって,そして,最後に残ったものは,自分と最後に暮らしていた子供にやりたいと思ったというときに,過去の部分は全部昔のだから消えるというよりは,むしろ過去の生前贈与を考慮するのが自然でしょう。特別受益の発想がそのように生前相続的な発想で渡したものを考慮するという発想です。そうすると,過去の遺留分を計算するときに,むしろ1030条でそれらまで遡って考える方が自然かと思えます。それはそれほど不合理な結論を導くようにも思えなくて,最初のところでちょっとつまずいているのですけれども。 ○堂薗幹事 そこはですね,基本的に相続開始時点で債務超過でなければ,私も特に問題ないと思っているんですが,問題になるのは,やはり相続開始時点では債務超過だと。その場合,結局,過去の特別受益を加算することによって,遺留分権利者の手元に,要するに自分が承継した債務全部を払った後にも財産を残すという結果になるので,それは結果として,相続債権者は自己の債権について完全な満足を得られないにもかかわらず,債務者の包括承継人の立場にあるにすぎない遺留分権利者の手元には財産が残ってしまうということになりますので,やはりそのような事態は,財産法秩序の観点からいっても問題なのではないかというのが問題の出発点であります。   遺産分割で債務を考慮すべきかどうかというところになると,更に大きな問題になってしまいますので,こちらとしてはそこまでの検討はできていないというところでございます。 ○中田委員 債務については,第4の中でも出てきますので,そちらの方が適切かもしれないんですけれども,相続分の指定があった場合には,債権者は法定相続分の範囲か,指定相続分の範囲か選べるというわけですね。そうすると,遺留分には加算される相続債務はないという判例の立場を採ると,弁済資金の前渡しという問題はそもそも生じないのではないかと思うんです。   そうすると,むしろここは遺言の効力ということですと,平成21年の判例も取り込む形で合体できるのではないかと思うんですが,やはり難しいですか。 ○堂薗幹事 御指摘の点については十分に検討できておりませんので,考えてみたいと思います。 ○渡辺関係官 今の御指摘につきましては,恐らく債務についてどのように承継していくのかというところに絡んでくる問題なのかなというふうに思うんですけれども,その点につきましては,次回に債権関係と債務関係を一緒に検討できるところがあればやりたいというふうに思っております。そこでどういう形で承継されていくのかというところのある程度のルールがもしきちんとできるということであれば,それを遺留分侵害額で計算するときに反映させていくというような形でクリアできる部分というのはあり得るかもしれないと思っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ちょっと債権・債務の問題は,この問題全体として考えていくときに,かなり大きな問題としてありますので,今,事務局の方からお話しございましたけれども,その方向性について少し議論いただきまして,こちらにも反映させていくということなのかと思います。 ○上西委員 遺留分制度をより分かりやすくするということですが,遺産の分割のときには債務を考慮し,遺留分減殺の請求のときには考慮しないということも案としてはあります。これどうやって関係者に理解させるのかです。通常の相続事案が発生した一般の方たちに,説明を工夫しないと,なかなか理解はしてもらえないのかなという気がしております。   それと,確かに過去の贈与分等々も考慮するという趣旨は十分に分かった上での話です。前にも申し上げましたが,以前のものについての贈与額について,どうやって当事者で認識し合うのかということです。古いものを持ち出せば持ち出すほど紛争の複雑化,長期化ということにもなりかねません。1年がよいのかどうかは別としまして,一定の短い年数で区切るというのも一つの考え方であると考えています。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○村田委員 先ほどの窪田委員の御指摘については非常になるほどなと思うところがありました。今回のⅠとⅡの提案は,何といいますか,それぞれを別々に見ると,現行の制度よりはかなりいろいろなことをシンプルにするための工夫が盛り込まれていると思うんです。それはそれでよい検討ではないかと思うんですけれども,ⅠとⅡを両方一遍に考えなければいけないという局面が生じたときに,途端に頭が混乱してしまうという点が,この問題を難しく感じさせる一番のところかなと思っております。   裁判所の立場としては,裁判所はプロなんだから,それぐらいちゃんとやれよと言われれば,それはやらざるを得ないということにはなるんですけれども,他方で,遺留分に関する紛争は,家事調停事件においても扱われており,一般市民の代表である調停委員に,このⅠとⅡを両方,しかも1本の遺言でも両方出てくる場面があるということを理解していただくのは非常に厳しいのではないかなという点が危惧されるところです。   そうしたことを考えると,先ほど窪田委員のお話があったように,ⅠとⅡとで適用される局面を完全に切り分けるというのは,ある種魅力的な御提案ではないかなと思います。受遺者又は受贈者が「第三者」である局面ではⅠを適用し,「相続人」である局面ではⅡを適用するという切り分けをする場合には,部会資料の11ページの下から12ページにかけて書かれている問題が生じますが,それは,Ⅱの方式では債務を考慮しないとすることによって生ずる問題であり,なぜ債務を考慮しないのかというと,それは遺産分割との連続性を考えるからだということだと思うんですね。だとすれば,Ⅱの中身について,もうちょっとそこをオープンに考えられないのかなと思います。この点については,先ほど,第2のところで,私の発言に対して堂薗幹事の方からあった御説明のように,遺留分の権利性をものすごく弱めてしまおうというところまで踏み込んでお考えになるのであれば,例えばですけれども,相続分の指定の割合を変更する場面においてしか遺留分による修正を認めないというような,かなりドラスティックな割り切りをするのであれば,ⅠとⅡとが適用される局面というのは完全に切り分けられるのではないかというふうに思われるわけでして,そのくらいのところも視野に入れて一度議論をしてもいいのではないかなと思ったところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかの問題については,例えば相続財産を二つに分けるとかという考え方が出ているわけですけれども,窪田委員の御提案は,遺留分という同じ言葉は使われておりますけれども,違う制度なんだと割り切って,二つの方向で展開したらいいのではないかということかと思います。村田委員は,それを具体化された形で,Ⅱについてこういうものとして扱うといことをおっしゃったかと思います。こんな形でⅡを生かすことはできないだろうかという御意見が出ているという状況かと思います。   ほかにいかがでございましょうか。 ○垣内幹事 同じところをぐるぐる回っているようで大変申し訳ないんですけれども,先ほどの水野委員の御質問に対するお答えの中で,遺留分権利者の手元に積極財産が残るにもかかわらず,相続債権者は満足を得られないような事態が生ずることが問題であるということで,確かにそういうことが生ずるとすれば,それは問題であるように思われるんですけれども,そこで想定されている事案というのは,どういう場合にそうなるのかということなのですが,例えば相続人AとBといて,Aの方は生前にたくさん贈与を受けていると,しかし,それは1年以上前であると。Bの方は,それによって遺留分を侵害されている関係になるというときに,遺留分権利者であるBが何かいち早く遺留分減殺請求をして,Aの財産を取ってきてしまうことによってAが無資力になったりする場合を想定されているということでしょうか。 ○堂薗幹事 どちらかというと,Aが無資力になることが問題というよりは,例えば,Aが相続開始の直前に贈与を受けた相続財産について,本来は詐害行為取消権を行使することによって,相続債権者の責任財産となり得るものについて,債務者の包括承継人である遺留分権利者がその財産の価値を取得することができるということ自体が問題ではないかと。そういう場面が現に生じているのかと言われますと,具体的にそういう事件があるというのは承知しておりませんけれども,そもそもの問題として,やはり特別受益を無制限に含めることにはそのような問題があるのではないかということです。   特に,遺贈であれば,財産分離を利用することによって,相続債権者の利益を守ることは可能なんだろうと思いますけれども,例えば相続開始の直近にされた生前贈与のようなものについては,詐害行為取消権を行使しない限りは責任財産になりませんので,それと遺留分権利者の遺留分減殺請求権の行使とが競合すると,物権的に相争う関係になるというところが問題なのではないかということです。 ○垣内幹事 そうしますと,物権的に相争うというのは,現行法の遺留分減殺請求の効果を前提とした場合にということで。詐害行為取消権を行使しなければ,被相続人の財産として扱われることにはならないというのはそうなんですけれども,相続人A,Bがいれば,相続債務としてAとBはそれを一定の割合でそれぞれ承継するということにはなるので,問題が顕在化するのは,Bは遺留分減殺請求を行使して,それで戻ってきた分もあるので,自分が承継した部分は十分に弁済ができると。しかし,何かの理由でAの方が資力がないので,もうその超過部分についてAに掛かっていくことができないというような場合に限定されるのかなという感じもいたしまして,仮にそうだとすると,減殺請求との競合というか,正にある種の対抗問題というか,早く権利行使をした方が得をするという話にはなるのかもしれないなという感じはしております。それは,問題としては残るのかなという感じはしているんですけれども,その点そのものについてはそういう理解でよろしいでしょうか,あるいはもっといろいろあるということでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的にはそういうことだと思います。例えば,AとBの二人が相続人である場合に,それぞれ2分の1で債務を承継するわけですが,少なくともBの方については,遺留分減殺請求権を行使することによって,自分が承継した債務を全部弁済した後に一定の財産が残るということ自体が問題なのではないかということなんですけれども。 ○大村部会長 もう一つ,その前提として,先ほど事務局がおっしゃっていたのは,かつてなされた生前贈与は,特別受益では計算上は持ち戻されますけれども,現実に取り戻されることはない,しかし,これだと現実に取り戻されることがある,その差が今のようなところに現れるということかと思います。   ほかにいかがでございましょうか。 ○山本(克)委員 今の話を聞いていてよく分からなくなったんですが,第2の甲案で①だけを採った場合,②は入れないというときにも今の話は妥当するという前提でしょうか。つまり,遺留分権利者と相続債権者は金銭債権者同士だというときも,やはり遺留分権利者の方が先に取ってしまうのはけしからんという話になるんでしょうか。 ○堂薗幹事 3ページの甲案を採って金銭債権化して,計算方法については現行と全く同じ計算方法を採って,それを金銭的に単に評価するということになった場合は,同じ問題は残るのではないかと思っております。 ○山本(克)委員 同じ問題になると。 ○堂薗幹事 はい。 ○山本(克)委員 先に取ってしまうから。 ○堂薗幹事 はい。 ○山本(克)委員 先に取ってしまう保証はどこにもないのではないですか。 ○堂薗幹事 私の理解では,相続債権者とその債務者の包括承継人が,本来相続債権者の責任財産となるべき財産について取り合うということ自体が問題だろうと思いますし,もちろんそれはどっちが先に取るかは分からないわけですが,ただ,詐害行為取消権の場合には,何らかの形で裁判所の関与がないと,対抗力を取得できませんし,受遺者側からすると,相続債権者に持っていかれるぐらいなら,遺留分権利者にあげた方がましだということもあるのではないかと思いますので,やはり問題としてはあるのではないかと考えているところです。 ○山本(克)委員 いや,そこで仮に問題だとして,先ほどの垣内幹事の例でいえば,Aが破産させて,管財人に否認権行使をさせるというのでは対応できないんでしょうか。つまり,遺留分の制度というのは,責任財産としての相続財産の枠を超えていますよね。そもそも遺留分の,判例の立場でというか,もう1年前を入れている段階で超えているわけですよね。超えているんだからしようがないとなぜ言えないのかというのが,そもそもよく分からないんですけれども。 ○堂薗幹事 基本的に,条文上は相続開始前の1年に限定して,もちろん1年を超える場合も想定はされるわけですが,その1年,あるいは1年を少し超えた期間の中で,もともと資産超過だったのが債務超過になるという事態はそれほど多くはないのだろうと思うのですが,特別受益で期間を無限定に入れるということになると,正にそういった事態が十分に起こり得ることになるので,やはりそこには大分違いがあるのではないかと思います。現行法は,飽くまでも本来は相続開始時点での財産状況を問題にすべきところを,遺留分制度の潜脱ができないように短期間での期間制限を設け,さらに,双方が悪意の場合はそこから少しはみ出してもそれは仕方ないでしょうということで制度設計がされていたのではないかという疑問を持っているということでございます。 ○山本(克)委員 大分分かってきたんですけれども,でも,それはですね,基本的に相続債権者の方がプライオリティーが高いというふうにしていないこと自体が問題ではないんですかね。つまり,相続債権者の方がプライオリティー高くて,遺留分権利者とか受遺者とか劣後するんだという法制をして,相続債務をまず完済してから次の相続人間の分配に移るべきだという法制を採っていない以上,それはもうしようがないような気もしないではないんですが。 ○堂薗幹事 ただ,財産分離とか限定承認の場面では,相続債権者に弁済した後でないと受遺者には弁済できないというふうになっておりますので,そことも均衡はとれていないのではないかという感じが致します。 ○山本(克)委員 いや,均衡をとらなければいけないのだとすると,もう単純承認制度はやめてしまうというぐらいにいかないと均衡はとれないのではないかなという気がしているということです。 ○大村部会長 かなり根本的な価値判断にも関わるところかと思いますけれども,御指摘はよく分かりましたので,御検討いただきたいと思います。 ○増田委員 今の点は,確かにプライオリティーは相続債権者の方が高くないとおかしいのではないかとは思うんですが,そのことはさておいても,ⅰで1030条の適用はないという部分を排除すると,相続人に対する贈与も1年以内に─1年以内というのはどうかと思うんですけれども,一定の範囲に限定するという考え方自体は,それはそれでいいのではないかというふうに私は思っていまして,大昔のものを減殺の対象にまでするということは,やはりおかしいのではないかと考えています。   先ほどの水野委員の御意見は,一定のものをAにBにCにと分け与えるという発想だったと思うんですけれども,現実には,被相続人の方の資産状態というのは一定ではなく,常に変動しているわけです。何十年も前からだったら,いいときもあれば悪いときもある。その中で,Aが結婚したとき,Bが結婚したとき,Cが結婚したとき,それぞれ資産状態がよかったり,悪かったりするわけで,その時々で公平に配慮したとしても,実際にもらっている額は違うかもしれない。そういうものを全て持戻しの対象として,それを遺留分の基礎にするというのは,どうも私には違和感があります。その時々で公平かつ相当であったものを,後の評価で判断するのはどうかというのが基本的な考え方です。   ただ,相続人に関しても1年で切ってしまうということになりますと,自分の本当の死期は分からないですから,余命宣告を受けたりして死期が近づいたことを自覚した時点で特定の相続人に対して生前贈与したりするようなこともあり得るわけですので,そういうものについてはやはり減殺対象に含まれるべきだろうと考えると,例えば3年とか5年とか,相続人に対する贈与については,第三者に対するものよりも少し遡った形で,一定の年限を設けて減殺の対象にするというのはどうかと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。違う線を引くことによってバランスをとるという御意見かと思いますけれども。 ○水野(紀)委員 母法,つまりフランス法では,制度の社会的条件が違っています。特別受益になる贈与などはみんな公証人が関与して行う要式行為になっておりますので,遺産分割のときに特別受益を計上することは難しくないのです。そういう国の条文を,そうなっていない国が継受してしまったということです。   それからフランスでは,遺産分割の在り方も,相続開始から間もない時点で,債権債務の整理もしつつ,特別受益などもすべて心得ている公証人が遺産分割するものですし,遺言があったときにはその手続の中で公証人が遺留分の減殺請求もさせる制度になっています。そういう制度の下ででき上がった条文を,全然違う日本で,公証人の関与という条件がないところで運用していますので,もちろん問題は山積しています。御提案はこの問題をいくらかすっきりさせるようには見えます。でも,やはりまだ10ページに書かれたことについて今一つよくわかりません。債権者はそのときの被相続人の現存財産というものを当てにして貸金をしていたはずです。それで見込み違いで取り切れなかった。一方,遺留分権利者は,昔,兄弟のうちで,お父さんが裕福であったときにたくさんもらった兄弟がいて,その人から少し余分にもらう,それが公平だというのは,それはそれで何か理屈が付くような気がしてならないのですが,やはりおかしいでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,この制度だと,Ⅱの制度で実現すればいいのではないかということで,Ⅱの制度であれば,ほかの相続人がたくさんもらっていれば,それはもらいすぎだということで,返してくださいということが言えますので,相続人間のアンバランスの調整というのは,全てⅡの方でやって,Ⅰの方は飽くまでも相続開始時にプラスの財産がある場合に,そのうちの一定の財産を遺留分権利者に確保させると,そういう趣旨の違うものとして切り分けられないかということでございます。 ○増田委員 先ほどの意見は,一般的な遺留分の算定方法として考えたわけで,Ⅰ,Ⅱの区別をした上で,Ⅱで補完するという意味ではありません。村田委員がおっしゃっていたように,やはりこのⅠ,Ⅱの区別は,ⅠとⅡが同時に存在する場合の解決方法を何か考えないと,デッドロックに乗り上げると私も思っています。ただ,ⅠとⅡの区別の発想自体が相続人間紛争と対第三者紛争では紛争の実態そのものが全く違うということから来ている点については私も共感を持っていますので,窪田委員がおっしゃるように,Ⅱは遺留分の問題ではもう既にないのかな,という発想で進めていくことについては特に異論のないところですが,遺留分という形で今と同じようなことでいくと,やはり同時に存在する場合について何か仕切りを付けないといけないと思っています。 ○大村部会長 多分,水野委員は,このⅡのような制度を考えたとして,その中で遺留分の減殺請求権に相応の,一定の強さというか,そうしたもののを確保しておかなければいけないというお立場であろうと思います。価値判断について御意見が分かれているところがあるかと思いますので,その辺りも明らかにしながら議論を続けていく必要があろうかと思います。ほかに,いかがでしょうか。 ○石井幹事 遺留分算定の基礎となる財産に含まれる生前贈与の範囲については,先ほど上西委員からも御指摘があったと思うんですが,あんまり古いものは立証が難しいと思いますので,そのような立証の難しいものを算定対象に入れることができるとしたからといって,実際に相続人間の公平が図られるかということについては検討の余地があると思います。むしろ,一定の期限を区切って,当事者になる方を限定していくというのも一つの考え方ではないかなと思います。   あともう1点,算定方式のⅡの考え方というのは,遺産分割との一回的解決という要請を非常に意識したものであり,遺留分算定の基礎となる財産について,遺産分割におけるみなし相続財産と同じように考えるものと理解しているんですけれども,可分債権のことを考えますと,これは,遺留分の算定の基礎となる財産には含まれる一方で,現行の法の理解を前提とすると,遺産分割におけるみなし相続財産には原則として含まれないことになると思います。そのため,この点をクリアしないと,なかなか一回的解決というのは難しいように思います。そういうことであれば,先ほど来幾つか御指摘もあったと思うんですが,もう少しドラスティックなというか,思い切った考え方で全体の仕組みを考えていくといったこともあるのかなと思っておりました。 ○堂薗幹事 可分債権については次回,御議論いただければと思っておりまして,そこでこの両者の整合性をどう保つかという点も含めて,検討したいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○中田委員 補足だけなんですけれども,村田委員の先ほどの御発言の最後のところで,Ⅱにおいては相続分の指定の変更しか認めないという制度設計もあり得るのではないかということをおっしゃいましたが,仮にそれを採る場合に,私がさっき提起した債務について相続分の指定があったときの処理と結び付けることができるのではないかと思います。その場合に,法定相続分によって,債権者に対して,負担を負っている人たちについて何らかの手当てをしておけば,全てが一遍に解決できるのではないかと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   このⅠ,Ⅱにつきまして,ほかに御発言ございませんか。よろしいでしょうか。   それでは,最後の問題になりますけれども,13ページの「第4 その他」の部分について,事務局からの御説明をお願いいたします。 ○渡辺関係官 それでは,最後に,13ページの「第4 その他」について御説明いたします。   ここでは,1として「円滑な事業承継等の障害となり得る点を緩和する方策について」,2として「特殊な類型における事件処理の明確化について」の二つの観点から論点を整理させていただいております。   まず,1の「円滑な事業承継等の障害となり得る点を緩和する方策」でございますけれども,現行の遺留分制度につきましては,円滑な事業承継の障害になっているとの指摘がされておりまして,この点につきましては,いわゆる中小企業経営承継円滑化法というものがございまして,遺留分制度の特例が既に設けられているというところでございますが,その適用場面以外でも,例えば農家の場合のように,遺留分制度のために後継者が農地を一括して取得することが困難となり,それが農業経営の零細化,競争力の低下につながっていると,こういった御指摘もされているところでございます。   そこで,事業承継の円滑化等の観点から,14ページにございます(1)として「遺留分の放棄等に関する規定の明確化」,(2)として「遺留分権利者が承継する相続債務額を加算する取扱い」に関する規律を設けることが考えられるように思われます。   なお,これらの考え方につきましては,円滑な事業承継の実現を目的とするものではございますが,相続財産に事業用財産が含まれる場合のみ適用されるというのではなく,一般的な規律とすることを想定しているところでございます。   まず,(1)の「遺留分の放棄等に関する規定の明確化」についてでございますが,現行法上,遺留分の放棄には特定の遺贈又は贈与に対する減殺請求権の放棄を含むと解されているようでございますけれども,規定上はどの範囲で遺留分の放棄が可能かどうか,必ずしも明らかではないということでございます。   また,中小企業経営承継円滑化法では,中小企業の事業承継の円滑化を図るために,一定の要件の下で株式等の財産を遺留分算定の基礎となる財産から除外する,一般に除外合意と言われておりますけれども,それができるというふうにされておりまして,一般的には除外合意がされた場合には,その対象とされた株式等については減殺請求をすることができないというふうに解されているようでございます。   そこで,遺留分請求によって当然に物権的効力が生ずる点を見直すという場合には,遺留分権利者と受遺者又は受贈者との間の合意,遺留分権利者の単独行為によって除外行為に類する効力を一般的に認めるということも可能になるのではないかというふうに考えられるところでございます。   また,これらの点を踏まえ,遺留分権利者がその権利の全部又は一部の放棄ないしこれに類する処分をすることができる場合やその要件を整理し,これを法律上明確化するということも考えられるのではないかと思われます。   次に,(2)の「遺留分権利者が承継する相続債務額を加算する取扱いについて」でございます。   先ほど御説明申し上げましたとおり,現行法上,遺留分侵害額の算定におきましては,遺留分権利者が承継する相続債務の額,これを加算するという取扱いがされております。これは,遺留分権利者が相続債務を弁済した後,遺留分権利者に一定の財産が残るようにするためというふうに考えられますけれども,遺留分権利者が取得する権利を金銭債権とする場合には,相続債務の額の加算というのは受遺者又は受贈者が遺留分権利者の弁済資金を事前に提供したのと同じ状態を生じさせるということになるかと思います。   例えば,15ページの注を御覧いただきたいのですけれども,遺留分算定の基礎となる積極財産が1億円,相続債務が6,000万円,被相続人の配偶者及び子2人が相続人という場合におきましては,現行法上,子である相続人に最終的に残る財産,これは遺留分額でございますが,500万円ということになるわけです。そして,加算される相続債務負担額,言わば弁済資金の前渡し分ということになるわけですけれども,それが1,500万円ということになり,実に遺留分侵害額の4分の3を占めるということになります。   しかし,例えば受遺者又は受贈者が被相続人の経営する法人を承継し,相続債務のほとんどがその法人が負う債務を主債務とする連帯保証債務であったという場合を想定いたしますと,主債務者が弁済を行う限り,遺留分権利者は債務を弁済する必要はないということになりますし,また,受遺者又は受贈者が個人経営者である場合にも,遺留分権利者がその承継する相続債務の支払をしないからといって,その分の支払を怠ることが事実上できないような場合も多いと考えられます。そのような場合に,受遺者又は受贈者がその分を上乗せして遺留分の支払をし,その後,遺留分権利者に対してこれを求償するというのは迂遠であると考えられるところでございます。   また,そもそも事業を承継する受遺者又は受贈者にとりましては,遺留分権利者に弁済資金の前渡しをするくらいであれば,むしろ期限の利益を放棄して,相続債権者に直接弁済したいという場合も多いように思われます。   このような観点から,遺留分権利者が承継した相続債務の全部又は一部について,受遺者又は受贈者が相続債権者の同意を得て免責的債務引受けをしたような場合,重畳的債務引受けをして受遺者又は受贈者が引き受けた債務について相当の担保を供したような場合,遺留分権利者が承継した債務について相続債権者に第三者弁済をしたような場合などにつきましては,遺留分侵害額の算定におきまして,遺留分権利者が承継する債務の額を加算しないというような取扱いをするようなことも考えられるように思われるところでございますが,この点につきましても御議論いただければと考えております。   最後に,2の「特殊な類型における事件処理の明確化」でございます。   この点につきましては,具体的な御提案というものが現時点であるというわけではなく,単なる問題提起にとどまるという側面がございますけれども,現行法上,減殺の対象となることが条文上明らかであるのは,遺贈と贈与のみということでございまして,相続分の指定であるとか,持戻し免除の意思表示,こういったものにつきましては遺留分に関する規定に違反することができないというような規定はございますけれども,実際に減殺の対象になるのかどうかについては,必ずしも明らかではありませんし,仮に減殺の対象になるといたしましても,その場合の減殺の順序や減殺された場合の効果等につきましては,依然として解釈に委ねられているという状況でございます。   判例等を見ますと,相続分の指定や持戻し免除の意思表示に対しても減殺することができるというような理解が前提とされているようでございますし,その効果についても一定の判断が示されているという面はございますけれども,全ての問題が実務上解消されているわけではないのではないかと思われます。   そこで,この機会にこれらの点につきましても,その法律上の取扱いを明確にするということが考えられるところでございますが,もっとも,このような方向での見直しというのも,遺留分制度の原則形態をどのように見直していくかというところに関わってまいりますので,その部分が確定しないとなかなかその点について議論することが困難なところはあるのかなと思っておるところでございます。したがいまして,遺留分制度の原則形態をどのようにしていくのかというところの議論を先行させるということになるのではないかと思っているところでございますが,こういった問題点,これについての検討を加えることの当否やその方向性につきまして御議論いただければと考えているところでございます。   説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その他ということで,1と2につき今御説明を頂きました。1の方はかなり具体的な内容でございますけれども,2はこういう問題もありますねという御指摘で,これを更に検討するということについて御意見を伺いたいということでございます。1,2,区切りませんので,どちらについてでも御意見を頂ければと思います。どうぞお願いいたします。 ○水野(紀)委員 中小企業の承継円滑化等に関する法律につきまして,立法の際に少しお手伝いをいたしましたので,その経緯を少しだけお話ししておこうと思います。   立法の際には,基本的には承継でもめることは中小企業のエネルギーをひどくそいでしまいますので,それを防ぎたいということが念頭にはありましたけれども,均分相続を変更して後継ぎにたくさん上げたいという判断では実はなかったのです。後継者はできるだけ会社の資産を多くしたいと思いますので,本来自分が受けるべき社長としての手当なども抑え込んで,その分を全部会社の資産に入れてしまい,その後継者の労力が事実上,株式価値に反映されることになりがちです。でも株式自体の名義人は被相続人,つまり引退した先代であるという状態であったときに,後継者の労力と能力の成果である株式がそのまま相続分に従って分配されることになると,むしろ実質的には不公平が生じます。その不公平の是正が基本的な問題の発想でした。   そして,遺留分は大きな権利ですので,きちんとした事前の放棄がないといけないだろうということで,円滑化法の組み方にしたのですが,余り使われていないと聞いております。なぜ使われないのかというと,これは口頭で伺っただけなのですが,多くの会社経営者は,できれば兄弟たちには遺産分割のときに放棄してもらうこと,遺留分の減殺請求などはされないことを期待していて,こういう遺留分の事前の放棄を持ち掛けると,兄弟たちが自分に遺留分があるということを知ってしまう。それは困るのでという理由で,この手続を取りたがらないということでした。遺留分があることは,みんなすぐ分かると思うのですけれども,事実上はそういうことで,余りうまくいっていないということです。   今回,遺留分について,中小企業の承継円滑化法を超える形で,大きく設定をされることになりますと,そこで論じられたものとは違う一歩を踏み出すことにはなると思いますので,そのことについての説明は必要だろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   円滑化法のときの経緯とその後の使われ方について情報提供していただきました。   ほかに何か御意見,御指摘ございますでしょうか。 ○浅田委員 中小企業経営承継円滑化法の関連で,かつ,本議事には直接関係しないかもしれませんが,事業承継にしろ,通常の資産承継にしろ,信託を使うことがあり得ると思います。そうした場合に,信託の設定とそれからそれによる遺留分侵害の問題というのは,必ずしも整理がされていないと認識しております。この点について,この審議会でもいいですし,ほかの場でもいいんですけれども,何らかの調整が図られる可能性があるのかどうかということについてお尋ねしたいと思います。 ○堂薗幹事 信託との関係で,どういった問題が生じているかという点を把握した上で,検討すべきものがあれば検討したいと考えておりますが,現時点で具体的に何か検討をしているという状況にはございません。 ○大村部会長 分かりました。   信託について何か御発言があれば承りますけれども。 ○山本(克)委員 今おっしゃったのは,共同相続人がいる場合に,受益権を一部の相続人にだけ与えるような信託を設定するというやつですよね。そのような信託の設定が遺留分侵害になるかどうかについて整理をしなければいけないという話ですね。私は脱法行為のような気がしています。 ○堂薗幹事 その点は検討したいと思います。 ○沖野委員 理論的にはかなりの問題があり,余り議論は多くありませんけれども,見解が分かれている問題ですので,それだけに実務的にははっきりした方がいいという要請はあるのだと思いますし,取り分け株式しか財産がないような場合というのは,深刻になると思いますが,そもそも何が対象になるのか,相手方はどうか,行使の結果どうなるのか,さらに,今回の第2の甲案,乙案になったような場合にどうかといったように,問題がかなり出てくる事項ではあります。そういった状況ではあるということは確認したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   これもなかなか難しい問題を含んでいるということのようですので,どこまで考えられるかは分かりませんけれども,視野に入れていただくということかと思います。   そのほかいかがでございましょうか。   石井幹事,お願いします。 ○石井幹事 遺留分の放棄等に関する規定の明確化として,合意ないしは単独行為によって特定の財産を遺留分遺留分算定の基礎となる財産から除外できるということが提案されていますけれども,現行の民法1043条で規定されている家裁の許可という規律は維持されるのか,あるいは全く別のものを今後考えていくのかという辺りについては,どのようにお考えでしょうか。  ○堂薗幹事 私の理解が正確ではないのかもしれませんが,現行法で遺留分の一部放棄といわれているものについては,減殺の対象となる財産があって,その減殺自体を放棄するというようなことが考えられているのではないかと思うんですけれども,現行法上は,基本的には減殺の対象となる財産については,どういう順序で減殺がされるのかということも全て法定されていますから,この財産を減殺の対象から外したいという要望があったとしても,なかなか受遺者あるいは遺留分権利者側でそこを調整するのは難しいところがあるんですけれども,ここで考えているのは,遺留分権利者が,少なくともこの贈与については全面的に効力を認めますと。そうすると,それについては遺留分算定の基礎の財産からも外れますし,減殺の対象にもならないと。そういうことにしますと,一部第三者の利益との調整が必要になりますので,恐らくは,その財産についての受遺者の負担部分については,贈与を承認することによってその負担部分に相当する財産を取得したのと同じような取扱いにしないといけないのかなとは思いますが,そういった調整をすることによって,特定の遺贈とか贈与についても完全に効力を承認するというような制度が考えられないかということでございます。 ○石井幹事 家裁による事前の許可が必要かどうかというところについては,まだ特に明確なお考えがあるわけではないということなんでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的には事前にそういった形で遺贈又は贈与の承認をするという場合には,現行法と同じように考えれば,やはり事前の場合には家庭裁判所の許可を得る必要があると考えるのが自然だと思いますが,その辺りについて御議論いただく必要があるのではないかと考えております。 ○大村部会長 よろしゅうございますでしょうか。   そのほかに御発言ございますでしょうか。 ○八木委員 先ほどの水野先生の指摘は,ここの根本の問題だと思ったんですけれども,中小企業の経営承継円滑化法というのが余り活用されていないということであれば,ここに農業経営の話が出ていますが,これはどの程度ニーズが今あるのか,あるいは日本の農業を強くするという視点から見て,この遺留分の放棄ですか,そのアイデアがどの程度意味があるのかと,そもそも論ですけれども。   これ,特例ではなくて,一般的な規律を設けるという,非常に大きな制度改革ということになると思うんですけれども,全体として,果たしてニーズがあるのかという点をお聞きしたいと思います。 ○堂薗幹事 その点は,何か具体的なニーズがあってということよりも,我々としては,現行法の下では,遺留分全体について放棄ができる,もちろん事前にやる場合には家庭裁判所の許可が要るわけですが,許可を得れば遺留分全体の放棄ができることになっているのに対し,ここで取り上げた特定の遺贈又は贈与の承認は,一部放棄に近いものですから,全体ができるのであれば,一部についてもできていいのではないかと。具体的にどの程度そういうニーズがあるかというのは,こちらでも十分把握できていないんですけれども,事業承継が現在よりも円滑にいく場合はあるのではないかという程度の認識です。今後,これを具体化するのであれば,その辺りの立法事実を含め,更に詰めて検討する必要があると思います。 ○大村部会長 よろしいですか。ありがとうございます。 ○山本(克)委員 今の八木委員の御質問の続きみたいなんですけれども,これは一般法化するというのは,対象財産についても限定を掛けないということです。というと,事業承継には関係のない場合にも使えるということも含めてやるわけですか。 ○堂薗幹事 はい。 ○山本(克)委員 でも,これはかなり,この手のものって強制の契機が入るから,本当に家庭裁判所の許可だけでいけるのかどうか自体も問題なんではないのかなと思いますし,被相続人の生前にやるわけです。   生前にやるのでないと,基本的には意味がない場合が多いですから,遺贈でやる場合だとか,相続分の指定なり何なりの場合を除けばあれですよね。一般法化するのだったら,生前のやつは外さないとかなり,後でまたそのトラブルが,不満がものすごく出てくるのではないですか。無理やりあのときは放棄させられましたというような話が出てきて,かえって円滑でなくなる可能性もあるのではないのかなと思って,慎重に検討していただかないと,あれがあるから一般化できるという話に簡単になるような気はしないんですけれども。 ○堂薗幹事 山本先生が御指摘のような問題はあるのかもしれませんが,それは遺留分の全部を放棄する場合にも同じように生じる問題ではありますので。 ○山本(克)委員 確かに遺留分全部の放棄はできるんですが,本当に機能しているんですかね。真正の確保とか何なりというのは,私はかなり,現行法の建前自体がかなり後々遺恨を残すようなことで,こういうことをまた制度化していくと,それが現実になされた後で裁判所が苦労されるというようなことが,あるいは相続人同士の間でのトラブルが増えるというようなことにもなりかねないのではないかなと,むしろ現行法自体がおかしいのかなという気もするんですけれども,そこはもっときっちりした方式とか,あるいは年齢の問題であるとか,親権者によるこれは代理できないとか,そういうようなことまで含めて考えていかないとね。親が勝手にやって,成人したら私遺留分なかったというような話で納得するんでしょうか。私はその辺りすごく微妙だと思う,少なくとも生前の分についてはそうだと思うんですけれども。 ○水野(有)委員 今のお話し伺って,実務を御紹介したらいいかなと思うのですが,まず親権者が代理できるかというと,確か利益相反行為に該当するのでできないこととなり,特別代理人を選任した上で子の代理をさせることになるので,そこは御心配されなくていいと。一応家裁では,遺留分放棄の申立てがございましたら,真意を確かめる調査はした上で判断はしております。ただ,その真意の確かめの過程で何か問題がございましたら,相続放棄などと同様,無効確認訴訟も可能で,同種の事件と同じレベルで手当もありますし,真意を確認するシステムにはなっております。   あともう1点ですが,審判の取消しという制度がございまして,一旦そういう遺留分放棄するという審判が出た後でも,御本人が翻意して,やはり遺留分放棄が嫌だということで,真意が変わりましたら,やはりそれはやめます─やめますというのは正確でないんですけれども,審判の取消しということがなされる裁判例もございますので,御本人の真意の確保の期待,何といいますか,機会はある程度設けられておりますので,少なくとも御心配の点がそのまま全て当てはまるという制度や実務の運用にはなっていないかと思いますので。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほどの八木委員の御発言と山本克己委員の御発言とは,裏表のところがあろうかと思います。遺留分の放棄の規定は戦後,実質的な単独相続を招くのではないかと危惧された制度であったわけですけれども,実際にはそれほど使われていないということだった。水野委員から先ほど御紹介もありましたけれども,円滑化法のときにも同様にいろいろと危惧はあったのですけれども,しかし,これも余り使われていないというようです。   今回,一般的な制度を導入することによってそれが画期的に使われるようになると,山本委員がおっしゃるような乱用というような可能性も出てくるわけですけれども,しかし,依然として余り使われないということだとすると,八木委員がおっしゃるように,作ってもどうなんだろうというような話にもなってまいります。家裁実務の御紹介ございましたけれども,実態につきましてもデータ等を少しお調べいただきまして,更に詰めていただくというのがよろしいかと思います。 ○上西委員 円滑化法のとき水野紀子先生が座長をされました委員会でも発言させてもらったことです。通常は,遺留分権利者と受遺者,受贈者の関係は分かっているのです。しかし,生前の贈与を考えますと,誰が遺留分権利者となるか分からないこともあるのです。どの段階でするのか,あるいは個別ごとにするのかということになるのですが,もしお互いに主張し合わないようにするのであれば,全員が同時にするということも一つの方法かなと思います。   非上場株式の納税猶予制度のように,事業承継の基礎となる制度でも余り使われていないわけです。感覚としては,生活用財産,学校教育の費用,いわゆる嫁入り道具などについて個別に請求することは,通常はないであろうと思いますので,お互いにある段階,例えば成人してから包括的にするというのが一つの方法と考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御指摘も踏まえまして,更に御検討いただきたいと思います。   今,遺留分の放棄について御発言が集まっておりますけれども,そのほかの点について何か御発言がありましたら頂きたいと思います。 ○浅田委員 14ページの(2)の相続債務額を加算する取扱いについてのことでございますけれども,銀行の立場からすると,この問題設定というのは非常に理解できるところでございますし,私個人としてもこのような方向性で検討していただければと思っています。   また,翻ってみますと,経営者として連帯保証を負っている方にとっても,実質的な衡平性が保たれる方向ではないのかなと思っております。   ただ,細部の制度設計に関しては,もう少し詰める必要があるのかなと思っておりまして,具体的には15ページの「このような観点から」というところで,①から③というのがありますが,銀行では大体こういうときに免責的債務引受による処理をするということが多いです。ですから,①に関してはそのとおりだとは思っております。もっとも,例えば②に関しては「相当の担保を供」するということになっており,これは実質的な配慮ということで方向性については理解できるところでありますけれども,ただ,相当な担保というときに,その相当とは幾らぐらいなのとかということになりますと,実務において迷うこともあるのかなとも思いました。   また,③に関してその範囲でありますけれども,例えば相続人が会社の債務を連帯保証している場合に,例えば明日とか明後日でも倒産しそうで,具体的な弁済が見えているというときにおいては,まだ弁済してなくても,カウントできるようにした方が実質的には衡平だと思います。ただ,形式的な判断が難しいというところもありますので,ここら辺の制度設計というのは詰めていただければと思います。   以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほかいかがでございますか。 ○増田委員 特殊な類型における事件処理の明確化ですが,これは是非,お願いしたいと思います。特殊類型とありますが,実務上はどれが特殊類型といえないほど,非常にいろいろなものがあって,特に遺留分に関しては,御承知のとおり平成になってからの判例が多数あるように,解釈上分からないことが非常に多いわけです。   少し戻って恐縮ですけれども,遺留分減殺請求をして,かつ残りの物について遺産分割をしなければならないというような事案の処理方法は,まだ確立された判例もなければ,定説も見ないという状況にありますので,その辺りのところは,せっかくの機会ですから立法した方がいいだろうと思います。これは,我々実務家は遺言を作る方でもありますので,遺言を作ったがために余計もめて,時間がかかったという笑い話も,これは冗談ではなく,結構普通に聞きます。ですので,ここは是非特殊な類型も含めて,法律上の取扱いを明確にする作業はこの機会にやっていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかにいかがでしょうか。   では,今,御意見を頂きました点を踏まえまして,更に検討をしていただきたいと思います。   本日予定しておりました審議は以上でございます。   最後に,次回の予定等につきまして,事務局の方からお願いいたします。 ○堂薗幹事 それでは,次回でございますが,次回の日程は,御案内のとおり,9月8日火曜日の午後1時半から5時半までで,場所は本日と同じこの20階大会議室を予定してございます。   次回で一応第一読を終えるということを考えておりまして,次回はこれまでに取り上げていないその他の事項を取り上げることを予定しております。具体的には,遺言に関する事項,あるいは可分債権の取扱い等について御議論いただければと考えておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   本日は大変活発な御議論を頂きまして,ありがとうございました。   これで閉会いたします。 -了-