法制審議会民法(債権関係)部会第2分科会          第1回会議 議事録 第1 日 時  平成23年12月6日(火)自 午後1時01分                      至 午後6時11分 第2 場 所  法務省大臣官房訴訟部門会議室 第3 議 題  民法(債権関係)の改正について 第4 議 事 (次のとおり)           議        事 ○松岡分科会長 なかなか長い愉快なチャイムが鳴りまして,予定した時刻になりましたので,法制審議会の民法(債権関係)部会の第2分科会の最初の会議,第1回会議を開会いたします。   本日は御多忙の中,御出席を頂きまして誠にありがとうございます。   もう申すまでもありませんが,この分科会は7月に開催された部会の第30回会議で設置されたものございまして,部会から振り分けられた個別論点を対象として,補充的な審議を行うことを目的としております。分科会の議事においては,個別論点についての意思決定を行わないこととされておりますので,必ずしも意見の一本化を図る必要はありません。そのことは確認をさせていただいた上で,できる限り部会の今後の審議に役立つような,充実した検討を行っていきたいと考えております。   ただ,何分初回,初めてでございますし,私自身不慣れですので,やってみるまでどうなるか分からないところがございます。皆様方の御協力をお願い申し上げたいと思います。   それでは最初に,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。   事務当局からお願いいたします。 ○筒井幹事 本日の会議では,既に配布済みの部会資料31を使わせていただきます。   このほか,山野目幹事から「定期金債権の消滅時効/部会資料31の二つの案の考察」と題する書面を御提出いただいております。ありがとうございます。この資料につきましては,第2分科会で提出された委員等提供資料として,法務省ホームページに掲載するほか,本日の会議の結果を部会に報告する際に,部会の場でも改めて配布させていただこうと考えております。 ○松岡分科会長 本日は,その部会資料31の「第1 消滅時効」の論点のうちで,分科会で審議されることとされたものについて御審議を頂く予定でございます。   具体的には,まず,その2の時効障害事由の「(1)時効の更新事由」,そのイ,ウのところまでを御審議いただきまして,飽くまで予定ではございますが,15時15分ごろをめどに,適宜休憩を入れることを予定しております。そして休憩後に,「(4)当事者間の交渉・協議による時効障害」以降について御審議を頂きたいと思います。   それでは,まず「第1 消滅時効」,「1 時効期間と起算点」のうち,「(3)定期金債権の消滅時効(民法第168条)」について御審議いただきたいと思います。   最初には事務当局から説明をしていただきます。よろしくお願いします。 ○亀井関係官 御説明させていただきます。   部会資料31の8ページ「(3)定期金債権の消滅時効(民法第168条)」の項目です。   このうち,アの現行民法第168条の「最後の弁済期から10年間行使しないとき」という文言を削除するものとしてはどうかという論点については,第34回会議において特に異論はございませんでした。   次に,イについては,甲案,乙案の問題点の有無などを分科会で審議するということとされております。   また,道垣内幹事より,定期金債権と定期給付債権との論理的な関係について検討すべきという御意見が示され,分科会で審議するとされております。 ○松岡分科会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,御意見を伺いたいと思います。   御自由に御発言いただきたいわけですが,山野目幹事からペーパーを出していただいております。かなり長いもので,このまま読んでいただくわけにいきませんが,概要を簡単に御説明いただけますと有り難いと思います。   よろしくお願いいたします。 ○山野目幹事 ありがとうございます。   冒頭に筒井幹事のほうから御紹介を頂きました資料の配布をお願いいたしましたし,事務当局から伺っておりますところによりますれば,事前に本日の分科会に御参加の皆様に配布を頂いたというふうにも伺っておりますから,ただいま分科会長からも御示唆がありましたとおり,全文を読み上げるというようなことをするのではなくて,私のほうからは,お配りしております意見書の1ページの下半分のところに即して簡単に,申し上げようとする意見の要旨を確認の意味で申し上げさせていただくことといたします。   1ページの目次の下のところに「第1 趣旨」というふうにございますが,現行168条の改正について,部会資料31におきまして,ただいま亀井関係官のほうから御紹介のあった甲案,乙案の提示がされているところでございます。   甲案は,そこにありますとおり,支分権である定期給付債権の最後の弁済がされたとき,一度も弁済がされていない場合には第1回の弁済期から一定の長期の期間,10年が例示されておりますが,そのような期間行使しないときに時効が完成するという案でございますし,乙案は,支分権である定期給付債権の最初の弁済期から,既に弁済をされた定期給付債権があるときにはその定期給付債権の弁済期を除き,その次の弁済期から一定の長期の期間,例えば10年間,行使しないときとするというものでございます。   これらの案について,簡単に私が感じましたところを,評価を述べるような仕方で申し上げさせていただきます。   その下のところでございますが,定期金債権のうちの基本債権でございますが,これは,支分権である定期給付債権について弁済があることを契機として時効が障害されることとなるという取扱いが合理的であるというふうに考えられますし,仮にこのような法律関係処理を弁済による時効障害の思想というふうに簡単に呼ばせていただきますと,そのような考え方の発露であると見られる局面が生ずることは,甲案及び乙案の両方に共通しているというふうに見られます。   しかしながら,甲案のほうについて申しますと,今申し上げた弁済による時効障害の思想を,非常に粗っぽい仕方で表現しているものであるというふうに見受けられるという評価を抱いたものでございます。具体的に,どういうふうな意味で粗っぽいのかということを申し上げますと,問題は大きく分けて二つありまして,そこにあります第一というふうに記しましたのは,弁済により障害された時効が再進行を開始する時点がいつからなのかということにつきまして,甲案は弁済がされた時であるというふうにされておりますが,そのことからくる問題があるというふうに感じます。その問題のほうが,後で取り上げます第二の問題よりも本質的な問題であると私は感じております。   この弁済がされた時から再進行を始めるということがなぜ問題なのかということは,2ページ以下にるる記したところでございますけれども,簡単に申し上げますれば,具体的には二つございます。   一つは,弁済の時から再進行を開始するということになりますから,弁済がされた時がいつであるかということが,時効完成の成否の認定判断に当たってシリアスな意味を持ってくることになるものでございますけれども,ここに関して,10年に近い昔の時点での弁済がされた時を精密に認定判断しなければならないという局面が出てくると思われます。そのことに意味があるならば,もちろんそれを避ける必要はありませんが,そのことにさして合理的な意味があるとは思われない上に,そのような認定判断が裁判所に求められることになるというところに一つの問題があると考えます。   それから,今のはどちらかというと訴訟上の認定のような観点からの問題点でございますけれども,もう一つ,むしろ実体法的な観点の問題を申し述べさせていただきますと,ある支分権が弁済されるということになりますと,そこで時効が障害されますが,時効は直ちに再進行を開始するのに対して,債権者のほうは,その再進行する時効を更にもう一度障害するために何をすることができるのかというふうに言いますと,次の弁済期が来るまでは給付訴訟を提起するなどする仕方では,何らかの権利行使をするということは困難があって,簡単に申しますと,指をくわえて見ていなければならない状態になる。もちろん確認の利益が認められる限りは,定期給付債権の存在確認請求訴訟を提起して時効を障害することはできますけれども,そういう場面で一々確認請求訴訟を提起しなければならないというのもおかしな話であろうと感じます。毎月,月末に支分権の弁済期が来るような場合にはよろしいですけれども,例えば,オリンピックがある年の7月14日にあなたに幾らかの年金をお支払いしますというような場面になりますと,10年のうち最大4年間は指をくわえて見ているのに近い状態に置かれるものでございまして,それは問題であろうと考えます。   それから,ペーパーに戻りまして,第二の問題なのですが,その再進行の開始時点が,今提示されております甲案の案文の表現が,単に弁済があった時からではなくて,最後の弁済があった時からとされていることからもたらされる問題があると感じます。   これも後で,2ページ以下でるる申し上げていることですが,時効を援用する債務者のほうで,最後の弁済があった時点を主張立証しなければならないということになりますと,自分は時効を援用すると言いながら,その後の弁済はしていないという不利益な陳述をしなければいけないという状況に追い込まれるということになるように見えます。そこは問題であろうというふうに感じますが,ただし,このこと自体は,その解釈や,それから訴訟の運営においての努力が一定程度図られることによって,適正な解決を得ることもできなくはないと考えますし,現在の訴訟実務上,これに似た局面というのは時に見受けないものでもないものでありますから,そのことを目くじらを立てて,致命的な甲案の欠点であるというふうに言うまでもないであろうとも感ずるところでございます。更に適正な運用がなされるように--申し上げるまでもなく,この提示されている部会資料は法文の案ではありませんから--法文を起草する際に工夫をするといったようなことで,適正な解決に達することができるとも思われるところでありますから,これは念のため指摘させていただくという意味合いにとどまるものでございます。   2ページ以下は申し上げましたように説明を省略いたしますけれども,御質疑がありますれば承りたいと考えております。 ○松岡分科会長 ありがとうございました。   1点,ちょっと申し忘れておりました。先ほど,亀井関係官から御説明がありましたけれども,アの点,つまり現行の168条の1項後段,「最後の弁済期から10年間行使しないとき」を削除することにつきましては,34回会議においても特に異論はなく,ここでもその点については特に触れないということで,専ら,今,山野目幹事から御説明いただきましたイの点について,御議論を頂きたいと思います。   それでは,山野目幹事の御説明についての御質問も含め,御自由に御発言いただければと思います。 ○岡委員 最後の弁済がされたときに,弁済期が到来している支分権がないときにまで,最後の弁済のときに固執する意見,案なのか。それとも,山野目先生がおっしゃるように,弁済期の到来した支分権がその時点でない場合は,その後,最初に到来する支分権から権利行使できるときになるわけですから,そこから10年なり5年なりが進行すると。そう考えれば,そういう案だと理解すれば,少なくとも半分の疑問は氷解するのかなというふうに聞いておったんですが。弁済期の到来している債務がないのに進行するのはおかしいというのは共感するところでございまして,それを排除するまでの文言ではないのかなと思ったんですが,事務局のほうのお考えはいかがなんでしょうか。 ○亀井関係官 甲案は「最後の弁済がされた時」と書いてあるので,弁済された次の弁済期からではなくて,最後の弁済された時から時効が進行するという提案だと思います。 ○岡委員 先ほど申し上げたような修正しても,全然おかしくないようには思いますが。 ○亀井関係官 最後の弁済がされた時の次の弁済期からということですか。 ○松岡分科会長 それは乙案とは違うのですか。少し違うのでしょうね。 ○山野目幹事 岡委員のおっしゃっていることは,本当にぴったり同じかどうかは分かりませんが,やがて乙案に赴くものであろうと感じますが,違いますか。 ○高須幹事 弁護士会の中の議論では,実は甲案が多うございました。   今,岡委員の御発言も,そこを踏まえて,乙案に一定の合理性を感じるけれども,甲案を修正するということであれば疑問は解決するのではないかというのだろうと思います。   ただ論理的には,詰めていけば乙案になるのかもしれないと私も思いますので,ここでは弁護士会の意見を代表してものを発言する場合と,個人としての発言の場合もあると思いますので,今の山野目先生の御意見を伺っておりますと,なるほど,乙案の持っている進行の時期をいつと数えるべきかという実体法上の観点からは,一定の合理性があるのではないかと思います。   ただ,もう1点の,先生御自身もおっしゃられているところですけれども,最後の弁済がなされたときということがもたらす訴訟上のテクニックの問題,いわゆる要件事実的な立証責任の問題は,これは考えようによっては何とでもできると思いますので,本質的には先生のおっしゃった,今その第一の理由のところの実定法上の考え方のところが検討の上ではポイントになるのではないかと,このように思っております。 ○中井委員 岡委員が言われたことが最終的に乙案に帰するのではないかという山野目幹事の御説明ですけれども,そうでしょうか。   山野目幹事の例で言うならば,契約して,11年7月に払わなかった,12年7月も払わなかった,13年の7月に1回分だけ支払った。それが12年7月に払うべきものだったとすれば,乙案によれば,11年7月から10年を経過すれば基本権が消滅するのではないか。   ところが,甲案と複合すれば,最後に払ったのが13年7月とすれば,そのときから10年になります。そこで,岡委員のおっしゃるように,払ったときにもう未払がないのであれば,最初の弁済期が到来するまで何もできないという山野目幹事の御指摘はそのとおりですから,最初の弁済期の到来したその時点から起算することに合理性があります。しかし,複数未払があって後から発生したものを払ったとき,乙案だったら最初の未払の債権の弁済期から起算することになるのはいかがなものか,という疑問が残るのではないでしょうか。 ○山野目幹事 今の中井委員のお話を伺いながら私なりに少し考え始めたところでは,現在提示されている甲案,乙案というものを,最初の何回かの支分権の弁済は規則正しく行われてきて,あるところから弁済が無くなったという場面で考えると,優劣の検討は比較的たやすくて,私は,その場面を考える限りは,岡委員のおっしゃったものはやがて乙案に吸収されていくものと考えます。ただし,甲案についても乙案についても,途中で何か歯抜けみたいに抜けているような弁済のリズムになったときの問題というものは,実は今の甲案,乙案の提示のみでは,まだ少しイメージがつかみにくいというか,論理が詰め切れていない部分があって,そこを議論した上で検討が続けられるべきであるということになるものでしょう。   それは,更に確かに議論をしなければいけないことであるとは感じますが,まずは,弁済がされた時から時効が再進行するか,弁済期から再進行するのかということが,現行法と比較したときにお決めいただく必要のあることであると考えます。そこについて,少なくともここの甲案,乙案の比較では乙案の弁済期からである,ということで,弁護士会の先生方もそこはそう感ずるというふうにおっしゃっていただくのであれば,その後,更に細部を詰めていって,甲案の考え方のようなものを一部吸収して物事を考えていくということはできると考えます。まずは,再進行の開始時点が弁済期であるか,弁済のその時点であるかというところを御議論いただけないものでしょうか。それがつまり,現行法の思想を変更するか,現行法の思想をそのまま維持するか,という本質的な問題の考察にほかなりません。私は維持したほうがよいという考え方であり,弁済期から再進行を始めるという考え方のほうに傾いていますけれども,そのあたりを中心に御意見を伺いたいと感ずるものでございます。 ○潮見幹事 山野目幹事がおっしゃったのは,ごもっともだと思うのですが,今の岡委員とかのお話を聴いていますと,結局,弁済の充当が定期金債権の場合にどのように機能するのかを考えるのが先なのかなという感じもしないではありません。この問題を処理した上で,果たして,そうであれば弁済期から起算するのがいいのか,弁済後から起算するのがいいのかということが問題となるのかもしれません。岡委員等の発言からすると,一方においては,後で弁済されたやつが過去の一番最初のものに充当された場合に,最初のものは弁済があったという形で評価をして時効の進行を考えるという見方と,そうではなくて,正に当該弁済時というものを基準に考えていくのかという見方とで,ニュアンスがあるのかなという感じがします。   ただ,私は,山野目提案に賛成というか,むしろ乙案でいいのではないかと思います。弁護士会の多数意見ともそれほど矛盾はないのではないかという感じはするのですが,いかがでしょうか。 ○道垣内幹事 すみません,遅れてまいりまして,山野目さんの説明を伺っていないのに発言するのは失礼かもしれませんが,定期金債権の消滅時効というのは基本権の消滅時効の問題ですよね。どこに充当されても承認にはならないのですか。 ○山野目幹事 何に対する承認なのかということについて,少し微妙な問題があると考えます。   定期金債権でなくても,普通に,自分は100万円借入債務があるというときに,そのうち70万円支払いましたというのが,割と今までの学説は,100万円の債権全部についての承認であるというふうに考えてきた嫌いがあったと思いますが,あれも,自分は70万の借入金しか債務を負っていないから70万円弁済するのであって,ほかはそうではない,というような議論というのは本当はあり得るんだと考えますが,それを更に相似形にして少し拡大した問題が定期金債権の場合にもあって,ある期のお金を弁済するけれども,それは言うまでもなく,その期の債務について自分が払わなくてはいけないということはもちろん認識した上での行態であるというふうに評価されるとして,それが,基盤となっている争いの対象である定期金債権の全体についての承認であるというふうに解釈してよい場合と,そうでない場合があるように感じます。そのあたりはいかがでしょうか。 ○中井委員 山野目幹事は,最初の弁済期からとおっしゃるけれども,例えば80万円のうち一部,例えば40万だけ弁済したとき,その弁済したときからなのか。その支分権の弁済期,本来80万円払うべき時期からなのか。どちらとお考えでしょうか。 ○山野目幹事 今のお尋ねは,乙案で行ったときの括弧書きの「すでに弁済されたものを除く。」というのは,全部弁済されたものを除くという意味に理解するのでしょうかというお尋ねであると受け止めました。   よく考え込んでおりませんけれども,これは,全て弁済されたものを除き,その次の弁済期からという意味でありましょう。全て弁済された弁済期があったときに,その次の弁済期から時効が進行するというふうに漠然と理解しておりました。 ○中井委員 だとすると,一部弁済したということは,少なくとも支分権についての承認になりますし,基本権に対する承認にもなるので,なぜ弁済した日より前の支払期日から計算することになるのかという疑問が生じませんか。 ○山野目幹事 それが,基本権についての承認に常になるものでしょうか。 ○岡委員 実務家の感覚としては,支分権を弁済すれば,そこでやはり基本権の承認はあったと。そこから再スタートするのが原則だけれども,その時点で弁済期が来ている支分権がない場合には例外を設けるのは理解できると,そんな感覚ですね。 ○山野目幹事 例えば,夫に80万円ずつ給付してきますが,夫が亡くなっても奥さんが存命中は給付しますという理解を一方の人がしていて,片方が,夫が亡くなったらもう奥さんにはあげませんよという理解をしていて,この期はもう夫が亡くなっているから最後の支払であると考えて弁済しているときに,いや,奥さんに給付する部分についても承認したのでしょう,いやそうではない,というふうな議論が起こり得るわけでございますから,そうすると,先ほど一つ前の発言で申し上げたことの繰り返しですが,支分権の弁済が当該弁済期に係る支分権の債権の承認であることは自然に理解できるとしても,それが常に基盤となっている争いの対象たる定期金債権の全体についての承認であると見ることができるかどうかということについては,やや微妙な問題があるように感じます。 ○道垣内幹事 私は,少なくとも山野目さんの例は適切ではないと思いますね。   時効が言えなくなるかという問題と契約の解釈を争えるのかという問題は別問題ですから,契約内容についての認識が異なるときに,どれかを払っても,夫が死んだときにはもはや債務は発生しないと主張できるわけで,弁済にはその主張を放棄するという意味は含まないですよね。   けれども,もっと適切な例はあるのかもしれませんから,山野目さんの見解が妥当ではないというところにはならないのですが,例は余り良くないのではないかなと思います。 ○潮見幹事 話が拡散しているのでは。問題としては,二つのことが同時並行で出ていると思います。一つは,道垣内幹事が最初に言われかけたことですけれども,要するに,定期給付債権という支分権の弁済が定期金債権という基本債権についての時効にどういう意味を持つのか,それが承認に当たるのかという問題です。もう一つは,定期金給付債権のうちの一部を弁済したときに,それが定期金債権にとってどういう意味を持つのかという問題です。この二つの問題があると思います。   中井委員がおっしゃられたのは第二の問題に関わってくるわけで,今伺っていると,この第二の問題よりも第一の基本的な問題,つまり,定期金給付債権を弁済したときに,それが定期金債権の時効にとってどういう意味を持つのかということを,確認したほうがいいのかなという感じがいたします。   ここからは私の印象なんですけれども,従来の議論を前提にした場合には,定期金給付債権の弁済ということがあれば,それは定期金債権である基本債権の承認に当たるということになろうと思います。その限りでは,この弁済がどの定期給付債権の充当と評価されるのかという問題は,ここでは直接には関わらない。ただ,定期金債権の承認ということがいつされたのかということは,山野目メモにもありましたように,その後の時効の再進行にも関わることですから,いつの時点から定期金債権の時効が再進行するのかというところを考える上では,重要なのではないかという感じはいたします。 ○松岡分科会長 今おっしゃったのは,支分債権の弁済は基本債権の承認に当たるという理解を前提にされていますね。そうすると,充当の問題はどう関係するのですか。関係ないのではないですか。 ○潮見幹事 関係ないのか,あるのかということなんです。 ○松岡分科会長 ああ,そういうことですか。 ○潮見幹事 先ほどの岡委員の発言のところでは,その充当が,ある意味では,その時効が再進行することにとって意味があるかのような趣旨の御発言でしたよね。だから,そのようなものとして考えていくのか。それとも,この場面ではもう充当なんて関係なしに捉えていくのかという問題提起です。 ○松岡分科会長 充当が関係ないとすると,どうも最初に山野目幹事がおっしゃったように,甲案と乙案は極めて近似してきて,違いがないような感じをいたしますけれども,そこのあたりは,どうでしょうか。違うのでしょうか。 ○中井委員 潮見幹事に整理していただいたところに戻って,弁護士会は甲案が多数説ですけれども,本日,山野目幹事からの御意見を聴いて,弁済したときに未履行のものがないとき,次に弁済すべきものが先の期日であるとき,こういう例では,山野目幹事のおっしゃることはもっともだと思います。   それに対して岡委員が一番最初に指摘されたことについて,私もやはり同感なわけです。   それを複合させる案というのは,基本は弁済したときから再進行する,しかしながら,その弁済したときに未払が存在しないときは次の弁済期から再進行するというのが,折衷案というか落としどころではないか。私が例示で挙げた,二つの未払があるときの一方,若しくは一つの未払いのあるときの一部でも弁済すれば,弁護士の感覚としては,支分権の承認のみならず基本権の承認もあって,少なくともそこから再スタートでないとおかしい。その時点で既に弁済期の到来したものの未払がないのであれば,次の期からスタートしないとおかしい。こういう整理はあり得ないでしょうか。 ○山野目幹事 中井委員がおっしゃったものは,言わば甲案と乙案の折衷でありまして,何が折衷かというと,その未払がないことが確認されるならば,という条件付きで,実質的に乙案を推すということをおっしゃられたものであり,その考え方は,私は理解することができるとともに,バランス感覚にも共鳴する部分がないものではありません。   ただし,まだ少し直感的な心配にとどまりますが,少し気に掛かるのは,その未払がないときには,というのは,訴訟で攻撃防御を展開しているときに,そのことを確認するプロセスを経て,その確認を経ないと裁判所としては時効の成否について確定的判断ができないということになるものですが,そこは余り複雑にならずに訴訟運営ができるものなのかということでありまして,もう少し考え込んでみないと分からないのですが,時効の成否を見定めるための規律を,中井委員のおっしゃるように精密にしたことによって実体的な精密さは増すのかもしれないのですが,少し運用において複雑で難しい問題を抱え込むのではないか,というような気もして,懸念が残ります。余りそういうことはございませんか。 ○松岡分科会長 山野目幹事の今の御発言ですが,それは最初に問題点として御指摘になった両方に関わるのでしょうか。その二つあるとおっしゃった1点目の,こちらのほうが重要とおっしゃったのは,時効制度の趣旨からして,10年前や20年前に遡って弁済時期を正確に確定することができるかという話です。もう一つは,最後にいつ弁済したという話で,債務者が弁済時期を主張して不利益陳述になることがあるとおっしゃった。どちらにも係りますかね。 ○山野目幹事 そのように言うことができると考えます。 ○松岡分科会長 さて,これでどういうふうに話をまとめていったらいいのか分からないのですが,一つは,先ほど潮見幹事が,問題が拡散しているので整理したらいいと2点を指摘されました。まずは,支分権の弁済が基本権の承認に当たるかどうかについてはどうですか。先ほど山野目幹事は,一旦必ずしもそうではないと御発言になりましたけれども,道垣内幹事から,それとは別の問題だとの御指摘があり,時効中断事由としての承認があると理解するという御趣旨に変わったということですね。山野目幹事,どうですか。 ○山野目幹事 定期金債権の発生の基本となる契約の解釈の問題と時効の成否の問題というのは別であるということは,理論的にはそうであるというふうに考えます。   しかしながら実際に事案の処理をするときに,承認されたものは何ですかということを議論する場面においては,次元が別であるといっても決めなければいけないので,それは単に観念的には別であると思うのですが,そのように言うのみでうまくワークするかどうかについて,もう少し考えてみたいと考えます。 ○中井委員 私の考え方を採った場合,実務がどうなるかという御質問に対しては,この定期金債権に関する問題は正直経験したことがないので,観念的議論をしている懸念がございます。   どちらが分かりやすいかという点で,乙案の最大の問題点は,この括弧書きを含む,一部弁済等のある場合の取扱いで,その最初の支払期について,問題が生じるのではないかという危惧が潜在的にあります。弁護士会の多くの意見は,幾つも債権が同時に残っているかもしれませんので,とにかく最後に弁済の時があってから10年もほったらかしていたら,それは駄目だね。これが実務的感覚に合った意見だと思います。   それに対して,山野目幹事の意見を見て,あっ,それはそうだね,と思った次第です。 ○山野目幹事 中井委員から,弁護士会が甲案を推すと言っても,何か確たるリアルな実務経験に基づいておっしゃっているのではないということを伺って,やや安心しましたし,想像するに,おそらくそうであろうと思います。   それと同時に,私が今日意見書をお出しした趣旨も少し説明しておきたいと考えます。このような守旧的なことを申し上げるのは余り若者らしくないとお叱りを受けるかもしれませんが,なぜこのような細かい規定について,このように力こぶを入れて意見を述べるのかとお感じになった向きもあるかもしれませんが,余り使われていなくて実務的な問題の指摘のないような規定について,今般の債権関係規定の見直しにおいて,観念的に,ちょっとこういう案もあるよね,というような感覚で安易に変えることは,やはり歴史的に顧みて弊害が多いのではないかと考えます。実務的にみても可視的に,こういう体験なさっておられる弊害があるというふうことがないのであれば,現在の規定の,弁済期から時効期間を計算するという思想をむやみに否定しないほうがよいのではないでしょうか。   そうであるとすると,そのような感覚から言えば,確かに今日御指摘いただいたように,充当のような問題を議論しなくてはいけないのではないかというふうな感覚を抱かせる問題との関連で,乙案の最初の括弧書きを中心に,疑義のないような仕方に規律を整備していくことが大事ですが,基本思想は,乙案を起点として物事を考えていくのがよいであろうということは,やはり議論を伺っても変わらないなという印象を抱きます。 ○高須幹事 私も個人的に,全くこのあたりの事件を担当したことありませんから,中井先生がおっしゃったとおりなわけなんですが,考え方として結局,ついつい我々弁護士はトラブルがあったケースばかりを扱っておりますから,何かを読むと常に,何かがあったときにどうしようという観点からしか考えていないと。   ところが,多分この規定を置くときは,本来であれば,定期給付債権については,毎年なら毎年,決められた期間に支払がなされていながら,最終的にいつ時効が完成するかという,まず原則をうたって,その上で我々弁護士が直面するような,途中で歯抜けという話が出ましたけれども,充当しなければならないような事態が起きたときに対する配慮をどこかに置くべきではないかと。   そうすると,原則論から言えばやはり,既に弁済されれば,そこで一旦は承認ということで,私も承認するんだろうとは思うんですが,問題なく支払がなされていれば,次の支払期が来るのは,山野目先生がおっしゃったとおりで,翌期の定期金給時期になるわけですから,乙案的な発想を原則にすること自体はあり得るのではないかと。その上で,既に弁済されたものを除くという,その括弧書きの在り方が結局,いろいろ一部弁済の場合はどうするかとか,以前に弁済期に支払がなされた場合どうするかの配慮の問題になってくるのではないか。   先ほど,甲案原則で,乙案で修正するという中井先生からの意見が出て,我々の実感ではすごくぴんとくるんですけれども,場合によっては,原則と例外というならば,乙案原則があって,事故的な事例があった場合にどうするかを配慮するということもあり得るのではないかと。その意味では,山野目先生が今おっしゃられたような,まず原則ありきということの,その原則をどこに持つかは検討の余地があり,そこは正直言って,我々弁護士が余り得意ではないところだなと思っております。 ○鹿野幹事 私も,基本的には山野目幹事と高須幹事がおっしゃったところに賛成です。まず,支分権の弁済があった場合にそれは基本権についての承認に当たると思います。それを前提にして,ではその場合に,いつから基本権についての消滅時効が新たに進行を始めるのかということについてですが,弁済は支分権の弁済期の早い方から順番に充当されることが多いとすると,そしてある時まで順調に弁済がなされたという場面を想定すると,そのような原則的な場合には,弁済があった支分権の次の支分権の弁済期が到来した時に権利行使が可能となるので,その時から進行を開始するということになると思います。ただ,例外的に,弁済が弁済期の到来している支分権の一部についてのみなされ,ある支分権について弁済した時点で既に弁済期が到来している支分権がほかにあるという場合には,弁済の時から直ちに基本権の時効は進行を開始すると思われますし,そのようなケースを例外として記載すれば,それで足りるのではないかと考えます。 ○松岡分科会長 ほか,どうでしょうか。   いろいろ御意見の対立が激しいように見えつつも,ただ,支分権の弁済は基本権についての承認であることは,山野目幹事の留保は付きますが,認められていて,基本的にどちらの案を採るかについて,観点の相違という対立点がはっきりしてきたように思います。   継続審議にするとどうなるのか,私もよく分かりません。ただ,ここで今,更に時間を掛けても案は煮詰まらないと思います。今日,ほかにも論じるべき点が山のようにございますので,申し訳ありませんが,一旦ここまでにして次の議論に移ってよろしいですか。 ○潮見幹事 確認なんですが,高須幹事,鹿野幹事が乙案を基本に据えるのが原則であるとおっしゃられたところは,先ほどから出ている一部弁済について,何らかの形で規定を設けておいたほうがよいという御趣旨なのでしょうか。それとも,括弧書きに当たる例外ルールというものを一つ設けておれば十分であって,あとは解釈に委ねたらいいという御趣旨なのでしょうか。 ○高須幹事 もちろん明文で決められれば決めておいたほうが分かりやすいと思いますが,それは何か政策的な配慮ということでは全くなくて,論理必然的にどうなるのかの解釈の結論だろうと思っておりますので,それが,意見の一致を見られれば明文化したほうがいいと思いますし,そうでなければ解釈に委ねるのも一つだと思います。   私としては,一部弁済という場合には残っているわけですから,やはりそれは,一部しか弁済されていないときには,その残りの部分の弁済,部分的に弁済期が到来しているものがあるわけですから,そこの時点からということではないかと思っておりますが。 ○中井委員 乙案基本案が強いんですけれども,乙案の危惧するところは,この「最初の弁済期」ということの曖昧さ。1本ではなくて複数あったときに,複雑な問題が生じるのではないか。   やはり甲案を基本に置いて,そのときに未払が全くなかったら次からということについては,誰もが同意できることだろう。   では,そこの建て付けが,山野目幹事がおっしゃったようにできるのか。立証責任の関係で問題が生じないのか。この検証は必要かもしれませんけれども,分かりやすさの観点からすれば,最後の弁済期を基準にするほうが分かりやすいと私は思っています。しかも,山野目幹事の出された例がオリンピックの4年に一遍弁済案ですが,通常は1か月に一遍,若しくは1年に一遍だろうと思うんです。そのときに,10年という期間を与えているわけですから,仮に1年間,何も権利行使ができない,対処のしようがないという山野目幹事の懸念を斟酌するとしても,なお9年間はあるわけですから,それほどの障害事由なのかという気もいたします。   分かりやすさを考えて,甲案というのも十分あり得るのではないか。そこに必要な修正を加えるという考え方でどうかと思います。 ○山野目幹事 今おっしゃったこと自体について言えば,オリンピックというのは分かりやすくするために申し上げたのであって,1年に1度であっても,1年間指をくわえて見ていなければならない状況というのは不当であると考えます。少し誇張して申し上げたほうが論理の構図がお分かりいただきやすいと考えて,オリンピックという例を申し上げました。   なお,分科会における審議の区切りの仕方とか,まとめの仕方というのは,今模索している途上であると考えますけれども,ここでは意思決定を行わないという原則とか,その他のことが確認されておりますことを踏まえて申し上げれば,私なりにこのように感ずるのですが,今の論点を例にして言いますと,結局,岡委員,中井委員のお話を伺っていても,弁済がされたときではなくて,弁済期から時効の再進行を考えるということについては,そうだよねというふうにおっしゃっていただいたものですから,それは甲案なのですか,乙案なのですかというよりも,弁済期からの再進行という思想が共有された上で,周辺の疑義を取り除くために問題点が指摘されたということが,ここまでの議論のまとめであろうというふうに考えます。   それで,分科会の議論の区切りの仕方ですが,恐らくは事務当局の方が,ここで得られた大綱的なガイドラインに従って,あとは少し文章を書いてみたほうが議論としては進めやすいであろうと感ずるようになったところが,多分一個一個の論点の区切りになるのではないでしょうか。ありていに言うと,ここまでの議論を亀井関係官が聴いて,では,もう少し先を書いてみようという気持ちになったかどうかあたりは,やはりこの後の作業に影響するものであろうと感じます。 ○松岡分科会長 続いて岡委員に発言していただきたい。 ○岡委員 平成15年,16年,17年のが未払で,平成17年に17年分を弁済したというときに,15年の弁済期からリスタートするのではなく,17年の弁済したときからリスタートするというのが弁護士の感覚なんです。   先生は,その15年,16年,17年と未払があって,17年に17年分を弁済したときでも,15年分が未払だから,そこから10年カウントするんでしょうか。そうだとすると,かなり実態の対立があると思います。 ○山野目幹事 これは論理ではなくて感覚ですけれども,15年からとは考えません。 ○松岡分科会長 私もその点は確認したかったのです。一部弁済であっても,その次の18年の弁済期から時効が進行することにはならないのですか。 ○山野目幹事 どちらかというと,私はそう考えていました。 ○松岡分科会長 そうでしょう。多分そうお考えになっていると思います。   山野目幹事が挙げられたような例では,全部完済しているような場合ですと,次の弁済期が来ないと権利行使できないことになって,おのずから消滅時効の起算はそこからになりますね。そうすると,それは弁済時からではなくて弁済期からではないかという山野目幹事の意見のほうに,やはり合一していくように思うのですが,いかがでしょうか。 ○岡委員 先ほどの例で,15年,16年,17年未払で,17年だけ弁済したときに,15年,16年はもう未払ですから権利行使できると。だから,その弁済したときからリスタートするのが自然だろうと。15,16,17が全部払ってしまったとしたら,それは先生のおっしゃるとおり,18年からリスタートするんだろうと。 ○内田委員 中身の話ではないのですが,分科会でどこまで議論するかに関して,山野目幹事がおっしゃったようなところまでいければもちろんいいとは思うのですが,ただ,そういう形で詰めていったために,議論できない論点が残ってしまうというぐらいなら,今この定期金債権についてはかなり問題の所在が明らかになって,選択肢が提示され,原則をどう置けばどういう例外が必要かということも分かってきましたので,相当,後の作業がやりやすくなったと思いますが,たとえそこまでいかなくても,適当なときに次の論点に移るということも必要ではないかと思います。 ○道垣内幹事 それで構いませんが,乙案に関して「最初の弁済期から」という言葉が分かりにくいという話があったわけです。しかし,甲案についても,先ほどの岡先生が出された例で,リスタートの時期を仮に18年の弁済期からというふうにすると,甲案と若干何か違うような気がします。書くとすると,「支分権である定期給付債権の最後の弁済がされた後の最初の弁済期から」となるはずであって,リスタートの時期を明らかにするために,それぞれを少し修文して,対立点を明らかにしたほうがいいかなという気がいたします。 ○松岡分科会長 今のは誠に建設的な御意見だと思います。 ○潮見幹事 また水を差すようで申し訳ないんですけれども,議論を伺っていまして,結局,定期金債権の消滅時効のルールを,本来の債権の時効がいつから進行を開始し,いつ満了するのかという観点からと捉えるのか,それとも,先ほどから議論がありましたように,承認というのが典型的な例ですけれども,時効障害,そして時効の再進行という観点から問題を捉えていくのかによって,多分捉え方が,甲案,乙案のそれぞれで違ってきているのではないかと思います。基礎になる発想が違っているように思います。   つまり,甲案というのは,弁済行為というものを重視することによって,弁済行為イコール承認,そして再進行というような観点からと捉えることができそうです。定期金債権の承認というのにも何かなじみがありそうで,弁護士の先生方の感覚にも,その部分は合うのかもしれません。   他方,乙案というのは,山野目幹事のメモと問題点の指摘にもありましたように,権利をいつ行使することができるのかということを視野に入れて,時効障害,再進行という問題が出てきた場合でも,債権者のほうが一体どういう形で権利を行使できるのかという観点から問題を立てている。これが乙案ではなかろうかと思います。   恐らくどっちの面も時効というのは持っているわけで,先ほど,どういう案になるんでしょうかというお話がありましたけれども,結局,両方生かすという方法が取れるのでしょうか。一見すると,最後の弁済がされたときということでまず区切って,そこから次の,最後の弁済がされた時点から後に到来する最初の弁済期とすれば,一見すると,弁済をしたことによって,その時点で債権の承認みたいなこともされているし,再進行も,ある程度正当化はできそうです。しかし,その権利行使は次の弁済期までできません。それなら,乙案的な発想に近づくのかなと思います。   その上で,あとは,事務当局のほうで分かりやすく,あるいは誤解のないような形で文言化することができるのかどうかの問題ではないかとの印象を持ちました。 ○松岡分科会長 どうですか,感覚的には可能でしょうか。 ○金関係官 1点だけ,よろしいですか。道垣内幹事と潮見幹事がおっしゃった,最後の弁済の後の最初の弁済期というのは,最後の弁済の後の権利行使し得るときという意味だと思いますが,最後の弁済をした時点で未払がなければ,最後の弁済の後の権利行使し得るときとは次の最初の弁済期のことなのですけれども,最後の弁済をした時点で未払があれば,その弁済をした時点で既に権利行使し得るときとなっていますので,その弁済をしたときから時効期間が起算されることになると思われます。そうすると,基本的な発想としては,最後の弁済の後の権利行使し得るときが時効の起算点であるけれども,それは,最後の弁済の時点で未払があればその弁済をしたときのことを指し,未払がなければ次の最初の弁済期のことを指すと,こう考えるのではないかと思います。 ○松岡分科会長 それでまとまればよろしいのですけれども。 ○亀井関係官 一つだけ確認をしてよいでしょうか。   先ほど岡委員が出された例の場合において,15年,16年の支分権がまだ弁済されていない場合には,基本権の消滅時効の起算点は,15年からになるということでしょうか? ○松岡分科会長 それは支分権の時効ではないですか。 ○亀井関係官 いえ,基本権の時効の起算点がいつなのかについて確認をさせていただいています。15年の支分権が未払い,16年の支分権が未払い,17年の支分権のみを支払ったときに,基本権の消滅時効は15年から時効が始まっていると聞こえたのですが,そのような理解ではないのですね。この場合は支分権の支払いのあった17年から基本権の消滅時効が進行するということですか。それだったら分かります。   そうすると,15年,16年,未払があろうがなかろうが,17年に支分権を払えば,基本権の時効期間は次の期から進行する,そういうことになりますか。 ○道垣内幹事 そうなのですが,先ほどおっしゃったように,未払分がまだ残っていたら,その時点ですでに行使し得る時期になっているのですね。そこで,全部払ってしまった場合には次の弁済期の到来時点になるけれども,残っていたら弁済の時からだろうという精緻化をされたわけで。 ○亀井関係官 分かりました。 ○松岡分科会長 おおむね,金関係官に先ほどまとめていただいた形でいいのではないでしょうか。   もう一遍申し上げますと,最後の弁済の後の最初の弁済期からというのが基本だけれども,未払のものがあれば弁済時からになる。これがほぼ一致した意見だったように思いますが,よろしゅうございますか。 ○潮見幹事 関係官の方々が,今のまとめで,次のような場合にどう考えるのかだけの確認なのですが,17年に弁済がされたというケースで,15年充当となった場合には,定期金債権の運命はどうなるとお考えですか。 ○金関係官 いずれの場合であっても,最後の弁済以降の時点から時効期間が起算されると思いますので,起算点がその弁済の前に遡ることはなくて,今の事例ですと,最後の弁済がされた時点で未払がありますので,その弁済のときから起算されることになると思います。 ○松岡分科会長 途中で議論になりましたけれども,充当の在り方は多分影響しないのではないだろうかと思います。よろしゅうございますか。   それから,この関係につきましては,先ほど亀井関係官から少し御紹介がありましたけれども,道垣内幹事から,部会の際に,定期金債権と定期給付債権との論理的な関係について検討すべきであるという御意見をお出しいただいていたように思います。ただ,私は,どういう検討をすればよいのか分かりません。道垣内幹事,この点について今御発言いただけることがあれば,お聞かせいただけませんか。 ○道垣内幹事 いや,別にそれほど深い考えがあって言ったのではありません。教科書を見ると,定期給付債権というのは定期金債権から発生するのだというふうには書いてあるのですが,本当にそうなのかというのが,若干よく分からないところがあるかなと思います。 ○山野目幹事 道垣内幹事が部会で意見をおっしゃったところを私も拝聴しておりましたが,そのお考えをきちんと忖度しているかどうかはわからないとしても,私なりに前から近しいことで疑問に感じていたことがあります。   この度の意見書を書くときにも,例を挙げて議論をしなければいけないので例を挙げましたけれども,終身定期金契約以外のものとして,適切なものを想起することができませんでした。   よく文献などには,今の建物区分所有の場合の規約もそうかもしれませんが,地上権に基づく地代の債権が定期に発生する場合について,それに現行168条の適用があると説かれることがありますが,私は,あれはかなり危ない議論であると考えます。地上権に基づく現実の土地利用が行われていて,それによって利益を受けている関係が進行している中で,地代の債権だけが168条で消える,あるいはマンションの場合も,マンションの規約に基づく個々の債権が消えると規約も消えるなどという変な話は私は,ありえないと考えます。   終身定期金契約の場合には,より複雑な終身定期金契約はあるかもしれませんが,ほぼ基本権が消えれば,この契約が実質的あるいは形式的に終了したと見てよい局面であるというふうに考えられますから,例として挙げましたけれども,地上権のような例とか,建物区分所有のような場合について,安易に現行168条を今後も適用していくという理解をしていただいては困るという考えを抱いています。   ただし,そのことは今般の債権関係規定の見直しにおいて決めなければいけない事項ではなくて,そのことが決まっていなくても168条の改正は可能であると考えますから,私は,部会の道垣内幹事の御発言を聞いた時,内容的にはなるほどと思ったとともに,そんなに一所懸命することであろうか,という疑いも併せて感じた次第です。 ○道垣内幹事 そのとおりです。山野目さんの発言に続けますと,地上権の地代は無くなって基本債権も無くなるけれども,賃借権の場合には,無償の賃借権はあり得ないので,個々の定期給付債権の賃料が無くなっても賃借権自体は無くならないというわけです。しかし,そのときは使用貸借になるだけではないかとか思ったりもしまして,どうも非論理的な議論があのあたりではなされているなという気がしましたので,部会で一言申し上げたわけです。山野目さんがおっしゃってくださったとおりです。   しかしながら,定期金債権と定期給付債権について,賃借権と地上権と終身定期金と区分して,どれの場合にはリンケージがなくて,どの場合はリンケージがあるという感じで民法に書くというのは難しい話ですから,今後,解釈論で気を付けましょうというぐらいの話かなと思いますので,その点でも,山野目さんに全面的に賛成です。 ○松岡分科会長 それでは,この議論はもうここまでとさせていただきます。これでも予定より30分ぐらいずれているのですけれども,大体,想定した範囲ではあるとも言えます。   それでは続きまして,「第1 消滅時効」,「1 時効期間と起算点」,それの「(7)合意による時効期間の変更」について,御審議いただきたいと思います。   事務当局から御説明をお願いいたします。 ○亀井関係官 御説明いたします。   部会資料31の16ページに該当するところです。   第34回会議においては,このような規定を設けるべきか否かについて,立場の弱い消費者や労働者への配慮から,設けないとすべき丁案を支持する発言がありました。また,その時効制度というものが基本的には強行規定であるということを指摘して,やはり丁案に賛成する意見もございました。これに対して,むしろ時効制度というのは任意規定であって,このことさえ明記すれば足りるとして,やはり丁案を支持するものがありました。さらに,その時効制度が強行規定か任意規定かの議論が煮詰まっていないことを理由に,消極的に丁案に賛成する御意見もございました。   他方,基本的には丁案がよいとしつつも,規定を設けるとすれば,民法第146条との整合性から甲案を支持するという御意見もございました。   また,時効制度は完全に私益に属するものでもないけれども,一定の幅で起算点や期間に関する合意が認められるとした上で,乙案か丙案にイ--消費者の特則ですけれども--を組み合わせることを支持する御意見もございました。   こうした様々な御意見を踏まえて,更に分科会で審議をするということとされております。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま御説明のありました部分につきまして,御意見を伺いたいと思います。特に縛るわけではございませんが,今の御説明にもありましたとおり,合意による時効期間等の変更に関する規定を置くかどうか。特に丁案は,いろいろな理由で支持する,ある意味で呉越同舟的なものになっておりますので,丁案かそれ以外の案かにつき御意見を頂き,かつ,仮に丁案以外の案を採る場合に,どの案が妥当性が高いのか,こういうあたりにつき御意見を頂ければと思います。 ○鹿野幹事 私は,この議論があった回の部会には欠席でしたので,必ずしもそこでの議論を十分に把握できていないかもしれませんが,あえて申しますと,私個人としては,ほぼ丙案に賛成,より正確には丙案に乙案の一部をプラスした考え方に賛成でございます。   甲案,乙案,丙案,丁案について見ると,甲案や乙案のように時効期間の合意について述べているものと,丙案のように起算点まで含めて述べているものとがありますが,取りあえずは,時効期間についての合意を念頭において述べさせていただきたいと思います。時効期間についての合意を否定する見解は,今の御紹介にもありましたが,時効の公益性という点を挙げ,あるいは,特に時効期間を伸長するということに対しては,民法146条との整合性の問題,更にそれとも関わって,濫用のおそれという問題を指摘して,合意を認めるべきではないとしてきたようです。しかし,従来から,現行法の解釈としても,伸長する合意については否定されるけれども,短縮する合意については否定されるわけではないという見解が,これが一般的な解釈とまで言えるかどうかは分かりませんけれども,比較的多数によって支持されてきたのではないかと思います。それはやはり,時効については公益的な側面があることは否定できないとしても,特に消滅時効においては私益的な側面も強く,私的な権利関係に関わる問題であるということが一定承認されてきたからだろうと思います。   それを前提として考えますと,消滅時効については,公益性に反しない限りで合意を認めるという考え方を採ることが十分に可能なのではないかと思います。それから,濫用という点について申しますと,これは,一方で短縮合意だけ認めて伸長合意は認めないということとは整合しません。伸張合意のみならず,短縮合意についても十分に濫用のおそれはあると私は考えます。そこで,いずれも一定の範囲で合意の可能性を認めるとともに,濫用のおそれの観点,あるいは公益性という観点から,一定の歯止めをかけ,制限を設けるということが必要だと思います。丙案は,短縮についても伸長についても,一定の枠の範囲内で合意を認めようという考え方をとるものと思われますので,これを基本的に支持したいと思います。   さらに,先ほど丙案と乙案の一部を合わせた考え方を支持したいと申しました点について一言付け加えたいと思います。丙案のように一定の枠を設けたとしても,なお,例えば消費者契約とか,類型的に不利益を被るおそれが強い場合,ないしは構造的な格差が認められるような一定の類型につきましては,その弱い立場にある者に不利な形での合意の効力を否定して濫用を排除することが必要と思います。つまり,乙案の②のような措置が,更に追加して必要なのではないかと思います。その意味で,丙案にプラスして乙案の②を付けたような考え方を支持したい,そのように考えております。 ○道垣内幹事 今の理屈が私はよく理解できなかったのです。というのは,時効の期間を短縮してもよいという理由として,たしか舟橋先生だったと思いますが,書かれているのは,こういうことですね。つまり,ある契約条項に基づく権利行使を,1週間に限るとか,3日に限るという条項は有効だろう。そうなると,それと消滅時効の期間を短縮するのと,基本的に変わらないではないかということです。もし仮にその理由付けが正しいのだとすると,消滅時効期間の短縮について制限を掛けるという理由は分からないですね。例えばある物が配達されて来て,気に入らないときには1週間以内なら返品できますよという権利があったというときに,「気に入らないものは返品できる権利」プラス「1週間の時効期間」と考えると,無効になるという感じがどうもしてしまって,少し分からないなという気がしています。   もっとも,時効期間の短縮についての従来の学説の説明の仕方がそもそもおかしかったのだという考え方はあり得ます。しかし,そうなりますと,短縮についてはみんな合意しているということ自体の認識の妥当性が崩れてきます。   そう考えてくると,私には,まだよく分からないところがあって,丁案でも仕方がないのかなという気がしています。 ○岡崎幹事 私も,この論点が取り上げられた部会に出席していなかったものですから,よく分かっていないところがあるのですが,今,道垣内幹事のおっしゃられた,権利行使期間を定めることができるとされているところから時効期間の短縮を肯定するという議論に対しては,時効制度の存在理由の観点から,権利行使期間を契約上定めることができるということと,時効期間の短縮を認めることができるということでは,いささか考慮要素が違うのではないかと感じているところでございます。   また,この論点が取り上げられた部会では裁判所のパブコメ等の意見は述べていないようなので,今この場で述べさせていただきますと,この時効の問題に関しては,できるだけ客観的かつ画一的な基準で実体法を定めておくというのが望ましいというところでございまして,そういう意味で,合意の有無ですとか内容に関して,後に争いの種になるような規定は可能な限り避けておいたほうがいいのではないかと思います。つまり,紛争を誘発するような規定にしておかないほうがいいのではないかということです。そういうような観点から,丁案に賛成するような意見が多かったところでございます。 ○亀井関係官 岡崎幹事に確認をしたいのですが,時効に関する問題は,客観的・画一的な基準で定めることが望ましいということ御意見ということは,時効に関する事項は合意で変更できないと規定すべきという御意見だということでしょうか。現行法ではこの点に関して何も規定されていないので,解釈論として,合意によって変更できるのか,できないのか,できるとしたらどこまでできるのか,議論があるところだと思います。時効に関する事項について,客観的・画一的な取扱いをすべきだということだとすると,むしろ時効の期間,起算点についての合意はできないと書くべきという御意見と受け止めてよいでしょうか。 ○岡崎幹事 そうですね,そういう意見になろうかと思います。   ただ,何も規定のない現行法上,何か実務上問題になっている状況かというと,そうではないという理解をしておりますので,規定がなかったから何か不都合が生じているというわけではないのではないかと思います。 ○潮見幹事 何も議論がない段階であれば,丁案というのも選択肢として十分にあると思うんですが,パンドラの箱を開けてしまったような状況で,もし規定を置かないという選択をしたときに,一体それがどういうメッセージを与えるのかというのかがちょっと分からない。ただ,だからといって,おまえはどうするんだと言われたら,ちょっと困るところはあります。   ただ,いろいろな議論があるようですけれども,先ほど鹿野幹事がおっしゃられたうちの前半部分には,私は賛成です。つまり,時効制度というものの理解自体がいろいろ今少し流動性を持っている段階で,しかも,従来言われていた「時効は公序だ」という意味自体も少し,一部崩れてきているようなところがあるので,そうであれば,公益性に反しない限りで,その合意の効力を認めてやっていいという観点から考えると,乙案や甲案の基本的な考え方でいいのかなと思うんです。   ただ,その場合に,それなら濫用的な場合について,何か時効のところで特別の規定を置く必要があるのか,それをわざわざここに何らかの具体的なルールとして書き込むのが果たしてよいのかと言われると,そこは少し慎重であったほうがいいのではないかと思います。90条があることですし,約款のほうは約款規制がどういうふうな記述になるのか分かりませんけれども,場合によったら不当条項規制のルールで処理をすれば足りるかもしれないので,ここで無理をする必要はないと思います。 ○高須幹事 弁護士会でも,なかなかこういう形でというのが作りにくいということがあって,丁案という意見は比較的多いという状況でございます。私も基本的には,悩みながら,そうなのかなと。   趣旨としては,ただ,今,潮見先生がおっしゃったように,ここで何も決めないということが,今後どういう影響を与えるのかというのは非常に危惧するところで,とりわけ,時効が任意規定化するんだみたいな議論にだけはしたくないという思いが強うございます。やはり何らかの公益的意味がある。その限りでは,何か任意に委ねるから何も決めなかったんだみたいな理解だけはあってはならないのではないかと思っておって,そういう意味では,今,鹿野先生がおっしゃったように,公益に反しない限度で一定の裁量の余地を認めるというのは,考え方としては一番あり得る考え方なのではないかと思っております。   ただ,それを,では,どう決めるか。抽象的に書くだけだとなると,なかなかそれは,規定という意味では余り意味がないのだと思いますし,1年まではいいですよ,2年まではいいですよというようなところが決め切れるのかどうかとなると,非常に自信がないところということになりまして,そういう意味での思い悩んだ末の,結局,書き切れないのではないかというふうな意見を持っております。   併せて,ここから,これは今まで意見で,次はちょっと教えていただきたいところなんですが,今回こういう形で乙案なり丙案なりを書いていった場合に,従来,いま一つよく住み分けが分からなかった,要するに権利行使期間というのが一方では定められていますよと,道垣内先生がおっしゃったように。ポイントカードの有効期間だとかなんとか,まことしやかに,何か月たったら使えなくなりますというようなことがあって,我々も,そうなのかしらぐらいに思っていて,裁判起こそうという判断は誰もしていないわけなんですが。そういったものも取り込んで,結果的に,もっと統一的な何か,時効によってそういうことを全部規律していくんだというところまで含めての乙案,丙案をお考えなのかどうか。そうだとすれば,かなり意欲的ではあるんだけれども,それはそれでまた大変なんだろうなと思ったりして。そこは全くお尋ねなんですが,そういうことは視野に入れておられるかどうか,もし教えていただければ有り難いと思います。 ○松岡分科会長 多分,事務局が考えているわけではないですね。 ○高須幹事 すみません,伺うこと自体が勉強不足だとしか言いようがないんですが。 ○岡委員 弁護士会の中にも先ほどの岡崎さんの意見に近い,公序と考えて,合意による変更を許さないと,明文化してもいいのではないかという意見も,少数というか,大阪弁護士会という有力な単位会が言っています。   ただ,一定の権利行使期間の約定がいっぱいあることとか,所詮やはり契約に基づく権利なので,一定の変更はいいのではないかと。ただ,それに制限はあってしかるべきだと。その制限を明示するために,丙案というのも分かることは分かるんですが,世の中によくある建物の瑕疵担保請求権なんかについては,事案を見ると,やはり1年とか2年では短過ぎる。その感覚があるものですから,物によって,権利によって,1年を最短とするというのを書いてしまうと,そういうところに悪影響が出るのではないかというふうに非常に思っています。   最近の判例を見ると,ゼネコンの工事業者の買主に対する責任と,買主から買い受けた人に対する責任について,不法行為責任を認める認めないの判例が出ておりますけれども,あれは,請負の契約責任が除斥期間で早目に切れてしまうので,何か不法行為に逃げているように印象を持った事件が結構増えているのではないかと思います。   それをきれいにするためには,やはり,請負の瑕疵担保請求権のようなところについて時効の起算点をはっきりさせることと,時効期間の合意による短縮について,ああいう請負のような場合には,そう簡単ではないよということは明記すべきだろうと思っております。それからいくと,丙案のように,物と関係なく1年まではいいよという定め方には非常な抵抗感がございます。   ただ,弁護士会で話していて,一番問題,関心があるのは,請負あるいは不動産,建物に関する瑕疵担保請求権について,短過ぎることを容認するのは駄目だねと。その話はよく出ております。 ○鹿野幹事 先ほど私は,一定の枠の中では合意を認めてよいのではないかと申しましたし,だから基本的に丙案に賛成だと申しました。しかし,確かに債権といってもいろいろあるでしょうから,その枠にかかる一般的な規律を何年というふうに置いた場合に,適切ではない場合はどうしても出てくる可能性があると思います。それをどうするのかが問題となります。そういう多様性があるから,規定をしないとして,つまり丁案を採るべきことになるのか,それとも,そうではなく,その例外的に不適切になるような場合については個別に,例えば民法の契約類型の中に,あるいは特別法の中に,特則を置くという含みを持たせながら,規定を置くのかの選択がありそうです。特別法ということでうまく対応できるのかについては,疑問を持たれ得るかもしれませんけれども,私自身は,その多様性の可能性は特則など何らかの形で残しつつ,一般的にはこうだというルールを作ることが考えられるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。 ○松岡分科会長 今の鹿野幹事の御意見は,よく分かる反面,逆に,一般的なルールを作ってしまうと,個別の例外が置けないところでは,一般的なルールがそのまま妥当します。その弊害ないしは危惧が指摘されているので,一般的なルールの設定はなかなか難しいとの感触を持ちます。いかがでしょうか。   先ほど潮見幹事が言われたことについても同じ危惧を若干持っていて,確かにここで一般的なルールを置く必要はないことはよく分かります。ただ他方で,仮に不当条項規制の中でそれに相当するものを入れると,逆に,それ以外は自由だというメッセージになります。それもまた困るように思います。 ○潮見幹事 誤解のないように申し上げると,不当条項規制のところで私が想定したのは個別のリストではありません。現在の消費者契約法10条のような枠を想定していたのです。 ○松岡分科会長 そうですか。どうも失礼しました。 ○鹿野幹事 私は,単に例えば90条などの一般条項で対応するということだけではなくて,一定の類型についてはより明確な形で合意に制限を加える方がよいのではないかと思います。先ほど,その一つの例として消費者契約の話をしました。そして今,潮見幹事から,消費者契約法の10条という話もありました。ただ,消費者契約法10条にしても,より明確な消費者契約に関する特則にしても,消費者契約だけにしか適用されないことになるわけですが,それに加えて,消費者契約に該当しないような場合も念頭に置きながら,少し柔軟性のある歯止めを設けるということも考えられるかもしれません。 ○松岡分科会長 こっちから指名して申し訳ないのですが,中井委員,大阪弁護士会で公序的な発想が強いという点からは,いかがでしょうか。 ○中井委員 大阪の意見はその通りなのです。   ただ,この問題を考えるのに,岡委員からもありましたけれども,売買における瑕疵担保責任,請負における瑕疵担保責任,現在,実務では請負人の瑕疵担保責任に関しては,工事請負契約約款で引渡しから,木造の建物なら1年,堅固な建物なら2年と,極めて短期化されています。担保責任を負わない特約も認められている。この実務が現実にある。そことの整合性をどう考えるのかということについて,整理ができていない。   また,会社法の配当請求権もほとんどの定款で短くしていますが,短くすることの当否について特段の議論も生じていない。このような中で,大阪弁護士会は,とはいえ,時効期間,起算点については公序的要素が強いのだから,それを合意で任意に変更できるような規定を明文化することについては,基本的には反対で,明文化したときには,力の強いものに最も有利な形で使われてしまう,使って当然という流れになることについての抵抗感。そこからの意見になっているわけです。   だからといって,今実務で行われている合意について,それが無効で許されないのかというと,そう容易なことではないという認識があり,総則,消滅時効の一般規定には,そういう観点から,規定を置けないのではないか,ということで丁案になっているわけです。   どう整理していいのか迷っているというのが正直なところです。 ○山野目幹事 3点申し上げます。   今のところの自分の意見ですが,上限と下限を設けるという規律を設けることがよろしいのではないかと考えます。ドイツやフランスで上限と下限に関する規律が置かれ,我が国においてもそのような議論が始まったという経緯を考えますと,潮見幹事がおっしゃったように,今次立法において沈黙するということは混乱を招くのみであるというふうに感じますのから,適切な上限と下限を見定めることがよいのではないか。適切な上限・下限というのは,時効のグランドデザインが決まらないと,何年に,というようなところは詰め切れないと思いますから,それは引き続き論議されることであろうと考えます。   それから2点目ですが,権利行使期間というものについての不明朗な問題状況自体が学説によって解明されていませんし,その帰趨にかかわらず,それを立法で完全に解決するということが可能なのかということについて疑問を抱きます。権利行使期間の問題については,時効期間の下限に関する規定の,その脱法行為にならないかどうかということを法律運用の中で,学説の発展を踏まえながら処していくほかないというか,それが適当なのではないかと感じます。   3点目は,やや質問も絡んでの問題提起ですが,丁案ないし丁案に近いお立場に傾いた方の趣旨がまだちょっとよく分かりません。岡崎幹事が裁判所の観点から丁案がよいというふうにおっしゃられて,亀井関係官から質問されて,それは時効をいじる合意はできないと書くという意味ですかと質されて,それに対するお答えは少しはっきりしていなかったように感じます。そう書くか,丁案のように規定を置かないかの選択は,非常に重要な問題ですから,そこのところは更に論議が深められていけばよろしいなというふうに感じます。 ○岡委員 やはり下限を設けるというのには躊躇をかなり覚えておりまして,ではどういうのがいいか,丁案は芸がないではないかというのも全く同感なんですが。   弁護士会で話していたときに,一応二つの案のようなものを考えまして,一つは変更できる,ただし信義則に反する場合は除くと。でも,これはやはりちょっと行き過ぎなのではないかと。そうすると,契約の趣旨,権利の内容,当事者の属性等に照らして,正当な理由のある範囲内において変更できると。これぐらいだったら,制限的だけど正当な理由があればかなり伸び縮みできるということで,いいのではないかという意見はございました。その場で若い人がiPadで調べると,「正当な」という言葉は民法500条に既に使われているので,法制局も通るのではないかという,そんな話もしておりました。 ○松岡分科会長 山野目幹事の先ほどの御発言の3点目については,岡崎幹事にもう一度御発言いただいたほうが良いようですね。 ○山野目幹事 もし今お答えいただけるなら,伺っておきたいと思います。 ○岡崎幹事 正直,その点を詰めているわけではありませんが,先ほど申し上げたような,時効の問題に関しては,できるだけ画一的にというような観点からすると,変更できないという規定を設けるというのが論理的だと思います。ただ,その方向でこの議論がまとまるかというと,恐らくそうはならないだろうなとも思っております。   先ほど,やや分かりにくかったかもしれませんけれども,結論として丁案というふうに申し上げたのは,今現状で何か問題が生じているわけではないという理解をしているものですから,そうだとすると,ここでの議論を一つにまとめるという観点からすると,丁案というのも一つの選択肢ではないかということで,その限度にとどまります。   それから,岡委員から出された御提案につきましては,非常にきめ細かい利益状況に配慮されているとは思うのですが,一方で,ある意味,基準として分かりにくいのではないかと思われます。実際の裁判になったときには,ケース・バイ・ケースということになるような印象を受けておりまして,これが規定として機能するかどうかというところも検討しなくてはいけないのではないかと思います。 ○筒井幹事 今回,部会での議論に引き続いて更に分科会で御議論いただきまして,次に我々がどうしたらいいのかが多少見えてきたように思います。   つまり,部会での議論は,様々な異なる理由から,結果的に丁案が支持を集める形になっておりました。規定を設けないという丁案で収れんするならば,事務当局にとってはその後の作業が不要になり非常に楽なのですが,この段階でそれで収れんさせてしまってよいのかということについて,疑問を持っておりました。それで本日,分科会で更に議論をしていただきました結果,次に部会で審議する機会,つまり中間試案のたたき台を提示する段階では,やはり丁案と対置する案を一つ立てて,その上で,更に議論を深めていく必要があるだろうと思いました。   対置する案として,今回の部会資料では,甲案,乙案,丙案という形に整理いたしました。この整理は非常に難しくて,あれこれ悩んだ末にこういう形にしたのですが,やはり,一定の合意を許容した上でその合意が不当な場合に排除するという場合の,その排除する方のルールについては,区別をして整理した方が議論がしやすかったのかなという印象を持ちました。   丁案に対置される案としては,時効期間の延長・短縮の合意を認めるという案が今のところ比較的支持があるように思いますので,そういった案を立て,あるいは,それに起算点の変更の合意も加えるかどうかという選択肢が必要かも知れませんが,そういう案を丁案と対置されるものとして提示した上で,その次に,不当な合意をどのように排除するかという論点について,一般の不当条項規制における一般ルールに委ねるという考え方,あるいは時効に特化した不当条項規制の一般ルール的なものを設けるという考え方のほか,更に具体的な排除ルールとして変更可能な期間の上限・下限を明記するといった考え方があったと思います。   そういった形で丁案と対置する案を整理した上で,議論を深めていただくというような進め方をしてはいかがかと思いました。 ○内田委員 今まで学説が時効期間の短縮合意だけはできるというふうに言っていたのですが,これは日本に何かそういう紛争があったからというよりは,ドイツでそうなっていたので,その影響で言っていただけだと思います。しかし,それが通説とされていたので,一応それに乗っかった形で案を作るということはあり得るとは思うのですが,時効期間が,今の10年が維持されるのか,それとも短縮されるのかいかんによっては,長くするということについてもやはり考慮する余地は出てくるだろうと思います。ですから,そこは時効期間の原則がどうなるかに依存するのかなという印象を持っています。   それからもう一つ,現在,あえて規定を置かなければならないような不都合が生じていないというふうに先ほど岡崎幹事はおっしゃったのですが,裁判所で御覧になっていてそう感じられるというのは何となく分かるように思うのですけれども,しかし,部会で,あるいは学界でも議論すると,この丁案支持者の根拠は全く正反対の根拠が含まれていて,呉越同舟と松岡分科会長はおっしゃいましたけれども,本当に正反対の立場から丁案が支持されている。ということは,日本でビジネスをしようとする人が,時効期間について,契約に特則を置こうと思うのだけれども,これは可能ですかと弁護士に尋ねたら,全く正反対の立場のアドバイスが出てくる可能性があるということです。これはやはり極めて法的に不安定な状態が日本にはあるということではないかと思います。   立法するときに,不安定だけど決着がつかないからそのままにしようというのは,プロの法律家の間ではあり得る議論かもしれませんが,ビジネスをやっている人たちにとっては迷惑な話なので,やはりルールははっきりさせてくれと思うのではないでしょうか。どちらであれ,これに従えばオーケーというルールをはっきりさせてくれという要請は,実務には,実務というのは裁判実務ではなくて,ビジネスの実務にはあるのではないかという気がいたします。 ○松岡分科会長 ほかに,この点についてご発言はありませんか。 ○中井委員 今の内田委員の御意見,なるほど,ビジネスの世界で明確にしてくださいという考え方については,よく分かるところです。しかし,繰り返しになりますが,大阪弁護士会などが--というか一部弁護士会ですけれども--気にするのは,ビジネスの世界をストレートに持ち込むような提案というのが丙案からの印象で,1年ということが条文上明記されると,10年,5年という原則的時効期間が,契約当事者間の力関係で常に一方に有利な方向に流れやすいのではないかということに対する危惧が基本的にあります。下限1年とか6か月という提案があるとすれば,かなり抵抗感があるというのが正直なところです。   それに対して,先ほど筒井幹事から,一定の制限法理を明文化するという考え方の御示唆があって,それがそれなりに機能するような形で作れるのなら,確かにそういう考え方も十分あり得るのかと思います。ただ,その作り込みにかなり懸念もあるものですから,直ちに同意しかねるところです。   かといって,丁案というときに,弁護士会の中でも正反対の理由から丁案になっているという側面があって,一方は公序と言いながら丁案,他方は全く違う観点から丁案で,御指摘の問題に対して答えがないというのが一番の弱点ということは認識しております。 ○内田委員 ビジネスというふうに先ほど私が言いましたのは,別に自由に契約を定められる大企業の便宜という趣旨ではなくて,消費者のためには,やはり特則を置いて,不利な特約は認めないというようなルールも含めて,取引の世界のルールを明確にしたほうが,そこで活動する人たちにとっては,消費者も含めて,便利であるという,そういう趣旨です。 ○潮見幹事 先ほどの中井委員の発言を受けてのことなんですが,実際に条文を作る場合に,先ほどの例外的な制約ルールを考える上では,本当は根本的な問題なんでしょうけれども,時効における公序って一体何なんだというところを踏まえて,制約ルールを立てなければいけないと思います。公序に違反するときはこの限りにあらずなんて書けませんから。   しかし,時効における公序って一体何なのでしょう。特に短縮合意はいいけれども延長合意は駄目ですよと言うような人たちの意見を忖度すれば,恐らくそれは長期間の継続による証拠の散逸だとか立証困難だとか,あるいは債権者が何も権利行使をしないでいた場合には,そういう債権者は失権しても仕方がないんだとかいったことが恐らく公序の中身を構成していて,だから,債務者の有利になるような形での短縮ならば,それは構わないけれども,延長するということになると,今申し上げたような観点から考えたときの債務者の地位,有利な地位というものをないがしろにする結果になりかねないから駄目であるという枠組みで,短くするのはいいけれども長くするのは駄目だということが,正当化されているのではないかと思います。   ところが,他方,法制審の議論を伺っていますと,多くの委員の方がおっしゃっているのは,時効というものは権利消滅をもたらすからよろしくない。だから,権利消滅という方向での処理は慎重にやるべきであるという発言が,数から言えば多かったのではないかと思います。このように見た場合には,今度は逆に,短縮はいけないが,延長は権利の消滅ということに対してはマイナスに作用するからよろしいということになる。しかも,それが消費者契約なんかの場合には,より有利に働くとされる。こういう観点から捉えられたとき,今申し上げたことも,一つの公序みたいなところがあります。   このように見ていったら,基本的には時効観というものをどう捉えるのかによって,ここの例外ルールというものを,一般的に書くにしても具体的に書くにしても,なかなか難しいところがあって,どうしたらいいんだろうということになってきます。 ○山野目幹事 2点申し上げます。   1点目は,今,潮見幹事からいただいたことは,本質的な問題提起であると感じます。時効における公序観は何なのか,ということを詰め切れないと自信を持って規定を書けないという御指摘は,そのとおりであると同時に,しかしそれは,今している立法作業において詰め切れるんだろうかということも少し心配でございまして,そこが,ここのテーブルにいる人においてすら合意に達することは多分想像することができないものでありまして,それぞれの観点から見たときに,何年以上何年以下という規律を許容することができるよというところを探していくものであろうと考えます。   2点目を申し上げますと,延ばすほうの合意に関して言うと,それは絶対ではないと思いますけれども,こういうことはあるのではないでしょうか。余りに古い権利,古い時期に発生して,その後展開してきたと認められる権利を裁判所に持ち込まれて,裁判所の事務負担ということだけではなくて,裁判所に代表される社会がそのことに対して関心を持つということを要請されるというのには一定の限度があるのではないか,ということです。その権利というのが,単なるプライベートな出来事ではなくて,社会的な取扱いを要請するものであるというふうに考えたときに,その権利はあるかもしれないけれども,それに時間的な限界というものも設けておいたほうがいいのではないかという観点はあるのかもしれません。 ○松岡分科会長 取りあえず先ほど筒井幹事がおっしゃった方向で,案をもう少し検討していただくというとしか今のところはまとめようがないように思います。ほかに御意見はございませんか。   それでは,2の「時効障害事由」の(1)の「時効の更新事由」のイ,ウについて,御審議を頂きたいと思います。   例によって,まずは事務当局から御説明をお願いいたします。 ○亀井関係官 御説明いたします。   部会資料31の19ページの「時効障害事由」,(1)のイとウです。   第34回会議では,この時効の確定的に新しい時効が始まる事由について①から③については特に異論がありませんでした。   ④の「債権者が強制執行又は担保権の実行としての競売の申し立てをした場合」については,執行手続が権利の存否に立ち入らない手続であるということを指摘して,確定判決等と同様の取扱いとすることが理論的に妥当であるのか,既判力がある①,②と同等に扱われる根拠は何かとの問題点の指摘がされました。   また,手続の終了という概念を用いる場合には,例えば債権執行において債権者に取立権が発生する場合,民事執行法155条のように,手続の終了時点がいつなのかが必ずしも明確でないことがあるという問題点の指摘もありました。   さらに,執行手続が様々な理由により終了する場合について,それぞれどのような取扱いにするのが適当なのかを整理すべきであるとの御指摘もありました。   このほか,担保権者による債権の届出も時効の更新事由とすべきだという御意見もありました。   こうした意見を踏まえ,更に分科会で審議をするということとされております。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま御説明がありました部分につきまして御意見を伺いたいと思いますが,今の御説明にもありましたとおり,イについては,第34回会議においても,①から③,すなわち,判決の確定や裁判所の和解等,それから相手方の承認と,このあたりが更新事由になることについては特に御異論はございませんでした。もちろん特段の御意見があればいただきますが,取り分け④の執行に関するものについて御意見を頂戴したいと思います。   それから,ウにつきましては,これも第34回会議では特段の議論はなかったところでございますので,今ここで,甲案,乙案の両案が出ておりますが,どうお考えいただくかというあたりにつき,御意見を頂戴できれば有り難いと思います。   それでは,どちらからでも構わないと思います。御自由に御発言をお願いいたします。 ○筒井幹事 部会の場では様々な御意見を頂きながら,時間の関係でお返事の発言をすることができませんでしたので,オープニングに一言申し上げて,更に御意見を頂戴したいと思います。   今回の部会資料31では,更新事由のうちイの④として,従来の民事執行という抽象的な表現から,少し具体的な内容に書き改めてみましたところ,これについて御意見を頂きました。その中で,④が更新事由となる根拠が何かという重要な問題提起がありましたけれども,それとともに,執行手続の終了という概念を使ったときに,その時期を明確にすることができるのかどうかという御意見いただきました。   まず,後者の点についてですけれども,その御指摘自体は確かにそのとおりです。部会の場で村上委員は債権差押えの例を挙げられたと思いますが,債権差押えの後,第三債務者から供託がされて配当が実施される場面を想定すると,手続の終了時を観念しやすいけれども,しかし,そうではなくて,取立権が発生して債権者が自ら取立てをするという場面を想定すると,手続の終了時は一体どこになるのか。もちろん裁判所の手続上は,債権者からの取立届の提出でしたでしょうか,手続が終了して事件が既済になるための区切りが観念されているわけですけれども,それがこの更新事由を意味することになるのかどうか疑義があるといった問題意識であろうと思いました。   ただ,それはそのとおりなのですが,それは更新事由を設けることによって新たに生じる問題ではなくて,現在でも,差押えが中断事由とされており,その中断後に新たな時効が進行する時点は,民法157条でその中断の事由が終了した時からとされていますから,これによって現在もその問題はあるわけです。しかし,その問題について,民法と民事執行法という現在の組合せでの運用が始まってから既に30年ぐらいでしょうか経過しておりますが,しかし,その問題は顕在化していないということを,実情として指摘できるのではないかと思います。今回の改正で,手続の終了という時点を捉えて更新事由と呼ぶことにすると,従来よりも問題が注目されやすくなるとは言えるかもしれませんけれども,それ自体は現在もある問題であって,直ちに不当とは言えないのではないかということを,まず指摘しておきたいと思います。   次に,この執行手続の終了が更新事由となることを理論的にどう説明するのかという問題提起についてですが,現在の案では,確定判決や確定判決と同一の効力が認められる事由と並べて,民事執行に係る事由が置かれているために,既判力のある確定判決などと並んで,既判力と関係しない民事執行がなぜ置かれているのかという問題提起がされたのだと理解いたしました。   ただ,そのように必ずしも捉える必然性はないと思います。現在の制度では,請求が中断事由とされているけれども,訴えの取下げなどがあった場合には中断しないことになってしまう。その不安定さを解消するために,中断という効果が確定的に覆らなくなる時点を捉えて,新たな更新事由というものを構成しようというのがこの提案の趣旨であります。そうすると,基本的には現在と同じように,この民事執行が更新事由とされる理由については説明することが可能ではないかと思います。   ただ,そういったときに,仮差押えがなぜ無くなっているのだという点の説明が必要になってくると思いますが,これは既判力がないからという説明ではなくて,やはり暫定的な権利行使であって,他のものとはやや異質であるという説明をするのではないかと私は理解しておりました。   以上のような理解をひとまずお伝えした上で,更に御意見を頂ければと思います。 ○山本幹事 今の筒井さんの説明は十分理解できるという,基本的には今と変わらないものであるということだと思うんですが,そうした場合に,今この民事執行で時効が中断する,結局それは,最終的に様々な事由で終了した場合,どの終了事由を捉えて,この更新に当たるものとして振り分けていくのかということと関わってくるのかなと思うんですけれども,現在は,やはり債権者が権利をそこで確定的に行使しているという局面,その終局は何であれ,行使しているという側面が重視されているというふうに捉えていいんでしょうか。それだと,取下げ以外のものは何かここへ全部入ってきそうな感じもするんですが。取下げと,訴えれば訴え却下に相当するようなものを除いては入ってくるということにもなりそうな感じがするんですが。そういう理解でよろしければ,それを前提に,この民事執行のいろいろな終了事由を当てはめていくということになりそうな感じもしますが。 ○筒井幹事 御指摘がありましたように,途中で手続が頓挫した場合をどう見るのかについては,更に検討が必要であろうと思いますけれども,基本的には権利行使の意思がはっきりしている場合,そのことを捉えて,その事由が覆らなくなる時点をもって更新事由とするという考え方からいたしますと,取下げ,そして不適法却下,こういった事由を除いたものについては,更新事由とされやすいという整理をするのではないかという印象を持っております。   部会資料の中では,いわゆる無剰余による不動産競売の取消しについての下級審の裁判例で,時効中断の効力があるとしたものを取り上げましたけれども,こういった下級審裁判例は,その文脈からすると,今後も肯定されてよいことになろうかと思いますが,この辺りはまだ確定的な意見を持っているわけではありません。 ○潮見幹事 今,筒井さんがおっしゃった点の確認です。   時効の中断事由というのが一体なぜ認められるのかについて,承認は別とすれば,それは権利が確定するからだという権利確定説の考え方と,それは債権者が権利を行使したからなんだという権利行使説の考え方からの説明がありますよね。ここで,訴訟物に注目をするのは,権利が確定するという観点から時効中断事由というものを整理していくものです。この立場からは,権利の確定にまで至らないものについては,中断ではなくて,進行停止とか,あるいは停止のほうに持っていく。他方,先ほどの御説明は,権利を行使したという点に注目をして,権利行使意思というものが明確というか,あるいは後戻りできなくなったような時点を捕まえていって更新事由を把握すれば,それで足りるのではないかという御趣旨とも受け取りました。 ○筒井幹事 学説の深い理解に基づいて私は発言したわけではないのですけれども,差押えが現在は中断事由とされていて,それに相当するものとして今後は更新事由を設けるという場合に,権利の確定という観点からそれを説明するのは容易ではないと思います。その意味で,現在の中断事由としても,権利の行使という面に着目して理解したほうが容易なのではないかと思いまして,先ほどの発言をいたしました。 ○潮見幹事 分かりました。おっしゃられたとおりで,正に差押えとかをどう整理するのかが難しいので,体系書や教科書によれば,一応の権利確定というような表現なんかがされるわけですよね。だから,それを取り除くというので,こういう方向を採るというのであれば,それはそれとして,了解はしました。 ○山野目幹事 私も潮見幹事と全く同様で,冒頭の筒井幹事の御説明は,丁寧にいろいろ言葉を重ねておっしゃっていただきましたが,従来の学説分布における権利確定説と権利行使説との対比で言うと,かなり明瞭に権利行使説に一貫して立脚して,それに基づいて①から④を説明しようとなさったというふうに聞こえました。   それを前提として,①から④のような更新後の再進行事由をこういうふうに提案するということも,論理的にはあり得ると受け止めます。   もう一つ,私はあり得るかもしれないと感じたのは,①と②は権利確定説を背景とする時効更新事由であって,判決確定などの時から再進行を開始するけれども,④は権利行使説に立脚した時効更新事由であって,それは正に権利が確定に至らないものですから,更新を着手した時点に時効が障害し,そこから直ちに再進行を開始するという組合せもあり得るのではないかとも感じました。   そうすると,終了がいつかという面倒な問題と付き合わなくていいかもしれないというふうにも考えたのですが,そのような考え方を積極的に推すというものではなくて,潮見幹事がされた従来の整理との突き合わせで,筒井幹事がおっしゃるような比較的きれいな一元的説明もあれば,二元的な説明の可能性もあって,引き続き検討されていかれればよいというふうに考える次第です。 ○畑幹事 すみません,今の御趣旨は,あり得べしとおっしゃった考え方というのは,差押えをした時点で…… ○山野目幹事 そうです。 ○畑幹事 差押えが継続して民事執行手続が進行している間に時効が進行するということでしょうか。 ○山野目幹事 その趣旨で申し上げました。 ○畑幹事 ちょっとそれには,かなり違和感があるということは申し上げておきたいと思います。   あと,ではついでに。私も,部会ではこの④というのはあり得るのではないかということを申し上げましたし,今もどちらがいいかというのはちょっとよく分からないのですが,それは,更新事由にしないとした場合にどうなるかということと関係があって,進行停止ということが部会では資料にあり,議論されたところでありまして,差押えがされて,実際に権利が行使されて手続が進んでいる最中に時効が進むのはおかしいという考え方で,少なくとも進行は停止するということであれば,その限度ということもあり得るような気はいたします。ちょっと部会で言ったのと逆のことを申し上げるようでもありますが,考え方としてはあり得るかなと思っております。 ○山本幹事 私もそういうことを考えて。配当で終局する場合は,結局は,その配当表を争わなければ,それは相手方の承認があると見られるのではないかという気もしますし,争った場合は結局,配当異議訴訟なり請求異議訴訟で最終的に①とかになるので,そこで説明できないこともないと。   結局,だから,固有の存在理由としては,むしろ配当で終了しない場合,イレギュラーに終わった場合,ほかでは説明できないものは,この④で説明されてくると。先ほど無剰余と筒井さんが言われましたけれども,それはこのどれにも当たらないと思いますので,④で固有の多分存在意義があるのかなと思うんですが,そこを認める,やはり権利行使があったんだからということで,認めるのかどうかというところかなという印象は持っておりますけれども。   恐らく--それでは更に続いて--実務的というか,金融界は多分,その無剰余については特に,やはり担保割れが激しいような場合には,結局,ほかで時効中断しようとすると,訴えを起こすということになるんでしょうけれども,そこまで行かずに一応押さえて,結局は無剰余で取り消されても,その後,これだと更新になりますので,進行期間が停止するだけではなくて更新になるというのは,非常に大きな多分メリットなんでしょうが,それを正当なメリットと考えるかどうかということではあるのかなと思いますけれども。 ○畑幹事 更に付け加えれば,その無剰余のような場合はどうなのかというのも一つのポイントですが,配当までいった場合も,全額の配当がされなかった場合に,残りがどうなるかという問題も同時にあるということを申し上げておきます。 ○高須幹事 手続法の先生方のお話を伺って,我々の勉強不足を恥じるばかりなのですが,ただ,素朴な実感として,訴訟を提起して判決をもらう場合には,今,現行では中断,あるいは今度,更新になりますよと。それとの兼ね合いで,執行もしている,執行したんですというときに,執行というのが中断なり更新事由にならないという感覚は,何となくいま一つ据わりが悪いのではないかなと。やはり執行までするというのは,これは権利行使説的なのかもしれませんけれども,それなりの債権者の覚悟と費用をかけてやるものですから,それが中断なり更新という扱いを受けないという位置付けというのは,余り据わりがよくないのではないかと思っております。   執行証書を基に執行するという場合もございますので,裁判をやらずに強制執行するという場合はありますので,そのとき,やはり強制執行したという事実に対しての一定の評価を与えるべきではないかと。そうなると,④のようなものも,どこまでを書くかは確かに難しいのかもしれませんけれども,中断ないし更新事由というふうに考える余地があるのではないかと思います。 ○山本幹事 結局,私も④を入れることには特に反対しないんですけれども,どこまで入れるかというときに,その差押えの申し立てをして,次の日に津波が来て建物が全部流されて,目的物滅失で取消しと。この場合もやはり10年間,更にあれになるのか。さらに,配当要求まで加えると,その配当要求をして,次の日に無剰余で取り消されたと。その場合も,配当要求をしたということで,10年間か分かりませんけれども,更新されるのか。そのあたり,どこまで認めるのが適切なのかというのは,私もちょっとよく分からないところです。 ○山野目幹事 今,山本幹事がおっしゃったことで,10年間と何回かおっしゃったのは,ウの論点とも関連させながらの御意見でしょうか。 ○山本幹事 いや,そういうのではありません。どちらであっても,乙案であっても,要するに,もう一度原則的な時効期間が始まるわけですよね。単に,それまで経過していた部分はチャラになるというところは変わらないわけですので。 ○松岡分科会長 配当要求するためには,基本的には債務名義が要りますね。それはこの問題には関係ないのでしょうか。 ○内田委員 事務当局の説明とか筒井幹事からの発言の中にも出てきた債権執行の場合は,④を入れると,どういう処理が考えられますでしょうかね。 ○畑幹事 先ほど筒井幹事からの御説明があったように,そこは十分に詰められていないと言わざるを得ないと思うのですが,ただ,それは今回,更新事由に入れるかどうかにかかわらず,従来から存在していた問題であることは確かだと思います。そこについて,私はうまい考えはないのですが,もし山本幹事から何かありましたら。 ○山本幹事 いや,うまい考えがないのは同じで。   裁判所の統計なんかを見ても,債権執行というのはすごく期間は長いんですよね。それはどこで終わったかが分からないです。たまたま,だから取立届を出してくれば,そこで終了になるわけですが,取立届を出してこない差押え債権者もいるというふうに伺っていますし,その取立届でも,その一部取り立てを積み重ねていくとかいうことはある話なので。   そういう意味では,転付命令とか譲渡命令,売却命令ははっきりしますけれども,単なる取り立ての場合は,結局,全部取り立て,その債権全部が取り立てられて終了ということになるわけですけれども,それは手続的に明確になるようなシステムには,必ずしもそれが保証されるようなシステムにはなっていないということなので,そこはやはり不明確さは残らざるを得ないということなのではないでしょうか。 ○畑幹事 さらに,取り立てられずに事実上放置というようなことも多分あるのだと思うのですけれども,その場合,では差押えの効力は消えたかというと,観念的には消えていないのでしょうし,--つまり,いい考えはないということを繰り返しているだけなのですが--不明確さは現在でも避けられていないように思います。 ○松岡分科会長 無知をさらけ出すようで申し訳ないのですが,債権額に満つるまでですと,ずっと執行が続くことになるのですね。 ○山本幹事 取り立てられない限りは,ずっとということでしょうね。 ○山野目幹事 冒頭の筒井幹事の御説明の中にも,債権執行の終期の不明瞭の問題は現行法でもある問題だというふうに仰せいただいていて,今,手続法の両先生からもそのことを確認していただいて,それはそのとおりであると,ですから感じます。ですから,今のままの規律を入れることはいいということにはならなくて,そこが決着がつかないなら,④を改めて今般規定の見直しで入れることには,やはり決定的な障害が残っているという評価になりませんか。どうですか,そこは。 ○筒井幹事 御指摘の点については,私も考えてみましたが,畑幹事からも御指摘があったように,これを更新事由としなかった場合には恐らく時効の進行停止事由にするのだろうと思います。あるいは,そうでなくて停止事由にするという考え方もあるかもしれません。いずれにしても,どの時点から次の期間を計算し始めるのかという問題は避けて通れないので,いずれにしても態度決定が必要な問題なのではないかと思います。 ○高須幹事 私も,今,筒井さんからおっしゃったところがあって,結局,この問題は現在のところ,解決できていないので,裁判所は恐らく取下げを求めたり,何らかの決着を事実上要求してきているということが多いんだと思うんですね。中途半端にしておきますと,書記官から電話が掛かってきて,「どうなりましたか」みたいな,「そろそろ取り下げてもらえませんか」みたいな,こういう形で結末を付けていると。   ただ,時効絡みで債権が取れないとなる心配があると,弁護士も取り下げられませんから。取り下げてしまうと,元々の効力が無くなってしまうということが現行法では少なくてもありますから。そうすると,本当ににらめっこになっていると。   だから,現行法上まずいから,「新たに今回ここで入れるのはやめようか」も1点だと思いますが,もう1点は,場合によっては,だから,ここで何らかの,むしろ解決策を見いだすしかないのではないかと。どこかの時点で擬制的な,つまり,やや作り出した感のある終了時ではありますけれども,それを設けて,そこから再スタートと。つまり,更新事由にするということもあってもいいのではないかと。今のように,何か終わらないままずっと,時効も止まっていますし,何もしておりませんみたいな状況を容認するよりは,どこかで再スタートかけてしまったほうが,その時期の選び方さえ間違えなければ,分かりやすいし,御理解も得られるのではないかと思いました。 ○松岡分科会長 具体的に,何かそういうイメージをお持ちですか。 ○高須幹事 ええ,それは聞かれると思ったんですが。 ○松岡分科会長 やはり聞きたくなります。 ○高須幹事 これは御批判もあって,今思い付いただけですから,御批判を受けるかもしれないが,一番分かりやすいのは取立権の付与の時期ですよね。客観的に明確になりますから。   ただ,それが早過ぎるというもし議論があれば,保全において起訴命令みたいな制度があるように,どこかで,要するに,このまま続けるのかどうかということを,債務者なりから債権者に何らかの照会ができるようにして,それに対しての正式裁判を起こすなりなんなりなければ,そこで一応区切りと見なすみたいな制度を新たに,これは執行法のほうの話になると思いますけれども,設けるかどうかというあたりが,今,浅知恵で思い付いたあたりなんですが。 ○松岡分科会長 今おっしゃったのは,ある種の何か催告みたいなものですか。 ○高須幹事 そうです,はい。 ○山本幹事 ただ,その取立権の付与という,差押え命令の時点ということだと思うんですが,第三債務者のほうの資力が十分でないような場合には,かなり分割で弁済するということは当然考えられていて,その分割弁済のときに,最中に時効が進行しているというのは,やはり権利は行使しているんだろうと思うので,そうすると,第三債務者からの弁済を最後に受けたときとか,何かそんなことになりそうな感じがして。先ほどのような話になりますけれども,それでどうか,明確化できるのかなというのは,ちょっと分かりませんが。 ○潮見幹事 ちょっとお尋ねしますが,時効障害事由のこのような場面についての分科会での決着というか,部会への報告というものは大体いつされるのでしょう。   と申しますのは,問題になるような局面を,もう少しいろいろ挙げていただいて,個々の場面では何が問題で,どういうふうに解決したらいいのかというのを個別に意見交換した上で,もし仮に,例えばここの④に書いているようなことでいくのであれば,これでいいということになろうし,あるいは,そうでなければ別の形で,一般化の可能なルールを立てるというふうな方向に歩み出してもいいのかなと思うからです。   今のところ,お二人の民訴の先生方とか,あるいは高須先生から,これこれの場面ではこうではないかという局所的なところはいろいろ御教示をいただいているのですが,それが全体としてまとまったときに,どういうルールが望ましくて,どこに問題があるのかというのが,ちょっとまだ見えにくいなという感じがします。もし時間的に余裕があるのであれば,本当に問題になりそうな場面というのをもう少しピックアップして論じたほうがいいのかと思ったので,発言させてもらった次第です。 ○松岡分科会長 いかがですか。余り課題を入れると結局,宿題が出て,継続審議になるのですけれども。 ○岡委員 先ほど議論していた定期金の承認と,そのリスタートする時期の問題と,同じ問題があるのかなと思ったんですが,今回,債権執行だとか差押えのときに権利行使は始まったんだから,そこで止まると。それで,そのリスタートがどこから始まるかというと,その権利行使が終わったときからリスタートすると。それが何かずれている場面だとすると,そのずれたように整理をすれば分かりやすいのではないかと思いました。   その権利行使,裁判所の決定がある,債権差押え命令とか,不動産競売開始決定とか,動産執行であれば動産執行官の執行着手みたいなもので,とにかく止まると。では,リスタートはどこから始まるかというと,第三債務者からの取り立て中はやはりリスタートしないんでしょうし,第三債務者から払う意思はない,債務はないという回答が来て,取下げ書という書面の名前がよくないと思いますけれども,これ以上やりませんという,その当事者の終了届みたいなものを出させたら,そこからリスタートすると。そういう整理もあるのではないかと思いました。   それから,ちょっと関係ないですが,言葉の問題で,「更新」というのに弁護士会から抵抗があるというふうに申し上げましたけれども,昨日のバックアップ会議等から,「新たな開始」とか「新たな進行」とか,こういうときには何かドイツ語を日本語にしたら分かりやすいのではないかと言う弁護士もいまして。今日聞いていても,潮見先生も筒井さんも,ところどころ,「更新」ではなくて「新たな進行」とかいう言葉をお使いになっているような記憶があるんですが,やはり「更新」より「新たな進行」とか「再進行」とか,そっちのほうが分かりやすいかなというのを改めてまた感じました。 ○畑幹事 全体的にまとめるということではなくて,個別的な問題の一つなのですが,冒頭に少しお話がありました,担保権者による債権の届出については,債権の届出に係らせるかどうかということも問題と思いますが,現在の判例だと時効中断しないということになっていると思うのですが,これには私,従来からちょっと違和感があります。つまり,一般債権者の配当要求のほうは中断するということになっているのですが,担保権者というのは配当要求するまでもなく当然に配当を受けるという立場にあるわけですので,そういう手続は進んでいるのに,しかも少なくとも担保権者としても手続上要求される債権の届出ということもしているのに,時効は着々と進んでいくということは,何かちょっとおかしいのではないかという感じは従来から持っております。 ○山野目幹事 潮見幹事が心配なさった今後のことに関連して,私も少し確認しておきたいことがあります。   債権執行の場合をはじめとして,筒井幹事から,時効進行の停止と考えるにせよ,更新と考えるにせよ,いずれにしても規律の必要性があるという御指摘を頂いたのはよく理解することができましたし,高須幹事からの,むしろ創設的に,時効更新との関係で何か明確な規律を導入すべきであるという御提案も魅力的であると映りました。あとはおのずと,今日の場で細部を詰め切れない部分があるというふうに考えますから,事務当局のお仕事に委ねるべき部分があると思います。   高須幹事に一つ確認というか,意見交換をしておきたいことは,おっしゃった何か新しい規律を設けるというものは,従来から,今ずっと話題になってきた債権執行のところ,あるいは不動産競売の少し不明確なところを,ピンポイントで狙って規定を置くという趣旨でしょうか。それとも,強制執行ないし担保権実行手続の終了という概念について,何か網羅的というか,あるいは一般的な概念規定を設けようという趣旨なのでしょうか。   今直ちには御意見をお持ちでないかもしれませんが,そのあたりのことを,御感触,伺っておいた上で,引き続き少し事務当局で可能な検討をしていただき,それを分科会でもう一回一覧するか,部会に報告するかは,先ほど潮見幹事がそこをおっしゃったものと感じますけれども,それはまた分科会長のお手元で御検討いただくということあたりになるのではないかというふうに感じますが,いかがでしょうか。 ○高須幹事 全く今思っているだけの話で恐縮でございますが。ただ,各種執行手段においては,執行制度においては,終了ということが比較的,現時点でも明確に意識できているものもあると思いますので,そういう意味では,統一的な何か概念を作るというよりは,従来不明確とされてきた債権執行。それだけかどうかはもう少し考えてみなければならないとは思っておりますけれども,そういったものについての何らかの手当てをしたら,大分それで状況は変わるのではないかと,今のところ,そういう意見でございます。 ○山本幹事 今後の進め方ですが,基本的には潮見幹事が言われたことに賛成で,今の債権執行の問題ありましたけれども,ほかのところ,私,間接強制もいまいち,どこで終わっているのか,よく分からないところがあって。強制金決定,出せば終わりなのか,その強制金決定に基づく執行の部分というのが別の執行になるのかとかという,必ずしもちょっとよく分からないところがありますし,あと,強制管理とか担保不動産収益執行にも債権執行と同じような問題がありそうな感じがします。   個々の執行態様,執行の種類ごと,不動産執行,動産執行,債権執行,非金銭,引渡し執行,代替執行,間接,強制,それぞれ。それから,それぞれが終わるいろいろな事由ですね。その配当等で終わるような場合とか,それから,途中でいろいろな事由で取り消される,今出てきた無剰余とか,目的物の消滅とか,あるいは物が売れないことによって終了,取り消されるとか,そういうような終了事由ごと。それから,出てくる当事者が,今出てきたのでは,差押え債権者,配当要求債権者,それから担保権者,担保権者も債権届出している場合,していない場合。そういうちょっとあれで,どれぐらいの表になるのか分からないですが,それをちょっと全部網羅的に。   私,ちょっと以前の部会で申し上げたのはそういう趣旨だったんですが,そういう網羅的な形で検討してみて,漏れが落ちないようにして。最終的にこの文言で,ちょっとこれ,「法律の規定に従わないことにより取り消される」というのは何言っているのか分からないような気もするので,文言を変えないといけないと思うんですが,それを抽象化,最後に全体を抽象化するような文言を考えるという方向で,帰納的にちょっと考えたほうがよさそうな,この問題はよさそうな感じがしております。どこで考えるのかというのは,よく分かりませんけれども。 ○筒井幹事 ありがとうございます。   ただ今の文言のことに関して,一言弁解をいたしますと,今回の部会資料31では現在の条文の文言を差し当たり使っておいたということにとどまっております。つまり,現在と同じ規律を,その手続終了の時点を捉えて更新事由と呼ぶことにしましょうという提案をクリアに表すために,現在の条文の文言を使ったに過ぎないわけでありまして,これを条文化する過程において,山本和彦幹事から御指摘があったような作業が必要になることは,全くそのとおりであろうと思います。   そして,今後の進行に関して様々な御意見いただきました。この第2分科会において,改めて事務当局から問題提起をして議論をしていただくかどうかは,当面,事務当局の検討課題とさせてください。いつまでにどのような作業をすることがこの部会全体の作業の中で必要なのかを考えながら,もしこの第2分科会で,更にもう一度このテーマで議論していただくことが可能でありましたら,そのようなお願いするかもしれませんけれども,差し当たりは宿題とさせていただいて,どういったことが可能かを更に考え,その上でまた御協力をお願いしたいと思います。 ○中井委員 意見ではなく,確認ですけれども。   今お聞きしている限りでは,担保権にしても,権利行使をしている限りにおいて,そして,それが自らの意思に基づいて取下げ,若しくは法律上の要件を欠くために却下される場合を除けば,その権利行使の重みというのでしょうか,態様というのでしょうか,抵当権について言うならば,債権届出も,他人の手続に乗っかる場合も,そういうものをひっくるめて,全て基本的には更新事由にすることに違和感なしというところまで,理解は共通しているのでしょうか。   権利行使の中にもかなり程度の差があるように思っていたものですから。今の山本和彦幹事のお話によれば,網羅的に,最後までいったら基本的には更新事由になるという方向で一致なのかというところを確認したくて。 ○松岡分科会長 今までの議論の中でも,そこのところはまだ未確定なところがあって,停止ないし進行の停止でも整理としてはあり得るという御意見が二,三出ていたように思います。 ○畑幹事 私自身も,全部更新で問題ないとは思っておりません。先ほど,担保権者による債権の届出について申し上げましたが,全く止まらないというのはやはりおかしいと思いまして,少なくともこの進行停止にはなるだろうということを申し上げたつもりであります。 ○筒井幹事 今の畑幹事の意見を聴いて,進行停止事由という可能性を御指摘いただいたのは,なるほどと思いました。   更新事由とすることに関しては,平成元年だったでしょうか,最高裁の判例との関係で,やはり債権の届出という事柄の性質でしょうか,権利の行使でもなく,裁判所に対して参考資料を提出したにとどまる行為を捉えて,時効の中断事由なり,新しい更新事由とすることに対して違和感があるというのが,恐らく現在の実務,あるいは最高裁の判断の理由だったのではないかと思いますので,そのこととの関係を整理する必要があるのではないかと思いました。   その上で,進行停止事由とする可能性については,更に考えてみる必要があると思いました。 ○山本幹事 個別の問題ですが,債権届出については,平成元年の最高裁をどう読むかですけれども,やはり債務者に対して通知がされるということに限らないと。そこは配当要求と違うところだというところ。   だから,債務者,それから,それに対して債務者が争う可能性,争える可能性ですね。配当要求の場合は執行異議の申立ては可能だと思いますので,そういったようなところをどう考えるのかというところで。だから,その権利行使という側面と,もう一つ,債務者がそれに対してどう対応できるのか。争えるのかという点も一つ,その時効の更新ないし進行停止事由として認められるかどうかの,一つの要素にはなり得るのではないかという印象を私は持っています。 ○山野目幹事 債権届出に関しては,今それぞれ御指摘,御教示をいただいたとおりであると感じましたが,中井委員がおっしゃったことは,もう少しサイズの大きな問題であり,確かに現行法で差押え,仮差押え,仮処分も含めて中断事由になっていますが,今後,新しく時効障害事由が恐らく3種類に再編成される中で,何を更新に整理して何を進行停止に整理するかということについてのフィロソフィーが揺れていて,そこを決めないで刹那的に割り振っていくことについての,その全般的な不安感というか不安定感を御指摘いただいたものと受け止めます。   それで,私は定見がありませんが,更新と進行停止をどういうふうに割り振るか。それから,この議論の冒頭に筒井幹事と潮見幹事の間で意見交換というか応酬があった,かなり権利行使説のほうに寄って整理して更新事由を編成していますけれども,いいんですねというやり取りがあった。あのあたりは引き続き,こういうテクニカルな問題の整理とは別に,思想を整理していかなくてはいけない問題があって,分科会のみその議論をしないで,もっと一般的に,これこそ部会で議論してもらうべき部分が含まれているのかもしれません。 ○松岡分科会長 それはおっしゃるとおりでしょうね。どうも技術的な問題にはとどまらないような気がします。 ○中井委員 その関係で言えば,大阪は3種類ではなくて,更新事由と完成の停止の二つに整理しようという意見が強いものですから,なおさら気になったのですが。 ○山野目幹事 ウの論点の部分も,いいですか。 ○松岡分科会長 これも,甲案と乙案が出ているので決まらないですね。 ○山野目幹事 ウの甲案も乙案もあり得るところであるとは感じますが,イの①から④を仮に権利を行使したというところに着目して,必ずしも権利は確定していないけれども行使したというところに重要性を認めて更新を考えるのであるとすれば,必ずしも論理が直結するものではありませんが,甲案のほうが親和的なのであろうというふうに感ずるという,感触だけ申し上げさせていただきます。   もう一つ,質問いいですか。この①,②で更新したときの,判決で確定した権利が10年で再進行を始めて,その途中で承認があったときの,それによって更に再進行する時効期間が10年になるのか。   10年よりも短いと予測され,想像される,その原則消滅時効期間になるのかということは,何か部会で議論したような記憶もありますが,していないような記憶もあって,それは,どのように理解したらいいのかという,話題提供です。 ○松岡分科会長 御記憶ありますか。今,この点の確認をしていただいております。 ○山野目幹事 その確認はお願いするとして,この部会資料の書き方が,10ページのほうの判決で確定した権利の消滅時効のほうは,判決で確定した権利の消滅時効の時効期間は10年になると書いてありますが,19ページのほうは,①,②の更新事由による場合の時効期間はと書いてあって,これらは,読み方によっては同じことではないと理解される余地があって,先ほど私が問題提起したことについての帰すうによって,どちらかの表現で統一して,いずれにしても立案していただくことがよろしいものであると感じます。 ○松岡分科会長 ただ,この趣旨は,正に連動しているはずですね。そうではないですか。 ○山野目幹事 連動しているのでしょうが,どちらなのでしょうか,10年が進んでいる間に承認があったときに再進行するのは,何年になるか,ということです。 ○松岡分科会長 さあ,どうでしょうか。記憶にないのですけれども。 ○山野目幹事 事務局が意図的に使い分けをしたとか,違う解決を志向しておられるとかいうふうには,毛頭,私も感じませんが,そのような議論を誘発しないように,表現を統一していただいて,かつ,その背景にある実質的な解決については,ある程度皆さんが議論した上でイメージを共通化することを可能な限りでされるほうがよろしいのではないかと考えます。 ○筒井幹事 山野目幹事の御指摘は,そのとおりだと思います。10年の時効が進行中に,承認によって,それよりも短い期間で時効が完成するという規律がおかしいというのは全くそのとおりで,そのことは確か部会資料のどこか他のところでも出てきていたのではないかと思います。 ○松岡分科会長 今,山野目幹事からウの点について御発言を頂きましたが,他の点はよろしゅうございますか。 ○道垣内幹事 以前は,確定するからという説明ですよね,はっきりするからというわけですね。   しかし,仮に先ほどの議論で時効期間の長期化を認めたとしますと,そのときもやはり原則になるんですか。特約の期間ではなくて。 ○松岡分科会長 特約で時効期間を延ばした場合に承認で中断するときですか。 ○道垣内幹事 承認ではなくて,判決が確定する。 ○松岡分科会長 10年より長い特約期間という意味ですか。 ○道垣内幹事 いえ。今のところ,時効期間の長期化・短期化についてはペンディングであるということになっているわけでして,仮に特約による長期化を認めたとします。その一定の期間よりも時効期間が長期化している債権が,判決で確定されたら原則の期間になって,短縮する,というのは変ですよねというだけです。大した話ではありません。 ○亀井関係官 先ほどの山野目幹事の御質問についてですが,部会資料では補足説明には書かせていただいております。部会資料31の23ページの補足説明3の一番最後に「更新がされたことで当初の時効期間の残存期間よりも時効完成時が早まることを避ける必要があるため」,「そのための手当てを講ずることも考える」としてあって,仮に乙案というのを採る場合には,そのような手当てを併せてするということも考えられるという提案があります。 ○松岡分科会長 他には,御発言はありませんでしょうか。 ○潮見幹事 確認だけです。   ①と②については,先ほど申し上げた中断というのはどういう制度なのかという部分との関係で言えば,これによって権利は確定するからだという趣旨の中断と理解してよいですよね。権利を行使する意思がここでの中断を正当化する根拠にあり,権利行使意思が確定的であり,後戻りできないという確たるものであるということが中断の根拠であるとの理由付けを④のみならず①とか②にも及ぼすということは,お考えになっておられないのでしょうね。   というのは,ウのところの甲案,乙案があって,先ほどの山野目幹事のお話にもありましたように,もしこれを権利行使という観点から問題を正当化していこうとした場合には,基本的に甲案のほうに流れやすいんですよね。それに対して,権利を確定するようなことがあったから中断するのだと考えていった場合には乙案に流れていきやすいし,かつ,先ほどの,判決によって確定した権利の消滅時効というルールとの平仄が合うような形で制度設計をしたほうが望ましいということになると思うのです。   そういう意味では,結局,ウの甲案を採るか乙案を採るかというところも,基本的に(1)のアで①,②をどういうふうに捉えるのかに,理論レベルではありますが,影響されるのではないのかなという感じがしたもので,発言させていただいた次第です。 ○筒井幹事 ありがとうございます。そのような御意見,御指摘を頂いたという限度でよろしいのではないでしょうか。つまり,私が理論的に一定の立場を採って,背後にある理論のレベルで何か提案をしているということではなくて,先ほど申し上げたのは,④の執行手続の終了を更新事由とすること,あるいは現行法の中断事由における差押えについて,そういう説明があるのではないかという限度での説明だと御理解いただいて,それに対して御意見をいただければよいのではないかと思います。 ○潮見幹事 1点だけ。先ほどの④のところに戻って申し訳ないのですが,④をどのように捉えるのかによっては,①と②がこれでいいのかというところに跳ね返りませんか。若干危惧持っていることだけ発言しておくということでとどめておきます。 ○松岡分科会長 それでは,よろしいですかね。まだ御意見がありますか。 ○鹿野幹事 私の聞き間違いかもしれませんが,今の潮見幹事の御発言は,①と②についてはこれを権利の確定だというふうに考えると甲ではなくて,原則的な時効期間,つまり乙になるというご意見のように聞こえました。しかし,従来は,権利が公に明らかになり確定されたということであれば,当初の時効期間がたとえ5年であったとしても,新たに進行を開始する時効の期間については,例えばここに書いてあるように10年間というような長期の期間だと考えられていましたし,権利の確定と考えるのであればむしろ長期の方につながりやすいのではないかと私は考えております。   それから,③,④については,正に先ほどから山野目幹事もおっしゃっていましたように,これを権利の行使というふうに考えると甲案につながりやすいのではないかと思います。 ○松岡分科会長 今の点,潮見幹事,よろしいですか。 ○潮見幹事 権利確定してしまうと,先ほどの10ページの(4)と同じようなことになるんですね。 ○松岡分科会長 要するに,今の174条の2の10年にはもちろんならない。どっちになるかはどっちもあり得るということですね。 ○鹿野幹事 そうです。もちろん必然的な結びつきではないのですけれども,そのような考え方につながりやすいという趣旨で申し上げました。 ○松岡分科会長 それでは,これでもやはり30分ぐらいは予定よりずれましたので,今から4時まで,15分程度休憩をさせていただきます。           (休     憩) ○松岡分科会長 それでは,時間がまいりましたので再開をさせていただきますが,一つ,進行につきお断りをして,御了解を頂戴したいと思います。   順番からいきますと,次の時効障害事由の「(4)当事者間の交渉・協議による時効障害」に入る予定ですが,これは少し時間が掛かるかもしれません。今日おいでいただいている畑幹事が,5時半に御退席になると先ほど伺いました。それで,畑幹事がいらっしゃる間に,まず民訴関係の問題を取り上げようと思います。「(5)その他」のうちのア,イ,ウとありますが,それぞれ独立した論点と思われますので,(5)の「ア 債権の一部について訴えの提起等がされた場合の取扱い」を先に取り上げさせていただきます。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,今御覧いただいている,その他のアにつきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○亀井関係官 それでは,御説明します。部会資料31の29ページです。   この論点については,複数の賛成意見が示されております。   さらに,高須幹事から,債権の一部についての執行であることが明示された場合にも,債権の全部について時効障害の効果が生ずるものとすべきであるとの,新たな提案が示されております。   これに対しては,一部請求であることが明示された不動産競売において,差押え債権者が債権計算書を提出する段階で請求を拡張することを否定する判例との関係で,疑問を呈する意見も示されております。   以上の議論を踏まえて,分科会で御審議することとされております。 ○松岡分科会長 それでは,ただいま御説明のありました部分につきまして,御意見を伺いたいと思います。   これも一応確認させていただきますと,今の御説明にもありましたとおり,第34回会議におきましては,規定を設けるとすること自体には御異論はありませんでした。   それでは,御自由に御発言をお願いいたします。 ○高須幹事 一部訴訟のほうから多分議論するほうが分かりやすいかと思ってはおるんですが,今ちょっとまだ御発言がないようでしたので,すみません,私が提起した一部執行のことを発言させていただきますが。   趣旨はもう部会で御説明したとおりで,その場において,今御指摘があったように,山本先生のほうから,それは最高裁の判例の趣旨というのもお伝えいただいたということで。要は,一部訴訟と一部執行の違いは,一部訴訟は請求の趣旨の拡張というのができて,一部請求を起こしておいて,全部にすることができますよと。執行に関しては,最高裁判例もあって,自ら選択して,この範囲で執行を申し立てておいて,うまくいきそうだとなって広げることは許しませんよという一つの判断がありますと。   そこはもうそのとおりだと思っておるんですが,その判断が,一部執行の場合に,残部について時効の障害を認めなくていいということになるかどうかは考え方ではないかと。逆に言えば,一部請求の訴訟のほうに関して言うと,一部請求否定説という,訴訟法上はそういう見解がおありになるということで。それに関して言えば,その理由の中に,一部訴訟を起こしておいても,途中で請求の趣旨が拡張できるのだから,あえて残部請求を認める必要はないというような,言わば一つの批判的な見解があり得ると。ところが,執行に関して言うと,今の最高裁判例を前提にすれば,むしろ残りの執行をするしかないわけですから,その限りでは,残りの執行をするということの保証との兼ね合いで,時効の障害を認めておかないと,むしろ最高裁判例があるがゆえに,拡張はできません,時効にも掛かってしまいましたというような話になるのは,かえって良くないのではないかと。   山本先生の部会での御指摘も,なるがゆえに駄目だという御指摘ではなくて,その点も考えなさいという御示唆ではなかったかというふうに思っておりまして,私は,考えた上でも,やはりこの一部執行についても一部訴訟に準じて,時効障害を残部について認めてもいいのではないかと,このように一応考えております。 ○山本幹事 私の発言の趣旨は,今,高須幹事の御指摘のとおりで,駄目だというふうに申し上げたつもりはなくて,もう少し,この高須幹事の挙げられた例はかなり債権者の要保護性が高い事案のように思えたので,結局,問題は,債務者の手続保証というか,債務者に残部があるということが分かると,認識できるということとともに,債権者のそういう一部で請求することについての要保護性をどう考えるかというところであるように思います。だから,その最高裁の判例には,そういう場合の不動産執行で,要するに登録免許税を節減するために,一部で申し立てるということに対するやや否定的な評価が,そういう債権計算書で拡張を認めないという考え方の背後にあるとすれば,この要保護性をどう考えるかということを検討してみる必要があるのではないかという問題提起の趣旨で発言をしました。   結論的には,それを考えても,私は高須幹事の提案には結論としては賛成していいのではないかという印象を持っております。私自身は,今挙げられた一部請求否定説の立場に立っていて,訴訟の場合も,その訴訟費用を節減するために一部で請求するということがどうかという問題があるようには思っているんですけれども,それと問題としては同じようなことであって,一部請求のほうでそういう政策判断がされるということであれば,一部執行の場合も基本的には同じものとして価値判断できるのかなという,今のところはそういうふうに思っております。 ○畑幹事 ただ,この執行の申立てであれ,訴訟の提起であれ,基本的には,やはり何らかの形での権利の確定なり権利の実現というところに向かっているということで,ちょっと言葉遣いが正確かどうか分かりませんが,取りあえず進行が停止し,場合によっては更新という仕組みになっている。従来そうであるし,今後も基本的にはそうであろうと思います。   ただ,強制執行の場合は,申し立てていない部分は,やはり実質的には権利の実現に向かっていないという面もありますので,ちょっと抵抗があるという気はいたします。一部請求のほうも権利の確定には向かっていないので,それを言うならちょっとどうかということにはなるのですが,そこは先ほどからのお話で,請求の拡張の可能性は基本的にはあり,かつ,残りがありますよということをはっきり言っているということで,何とか正当化できるかなという気もして,その旨の発言もしたのですが,執行のほうがハードルが高いというのは確かかなという気はしております。 ○高須幹事 今の御指摘の中で,要は一部だということが債務者にどこまで分かるかという問題の点は,執行法上は,ペーパーにも書きましたけれども,明示をされることになっておりますので,あるいはそこはそういうふうに考えていただく余地もあるのかなと。   ただ,先生がおっしゃるように要保護性,山本先生の御発言も含めてですが,要保護性の観点で,一部しか執行しない人間をどこまで保護するかという問題のところだとは確かに思うのですが,これも,そこで考え方は分かれるのかもしれませんけれども,やはりここの例に出させていただきましたように,5,000万円の債権を持っている人が,給料債権を押さえるときに,その5,000万円のカードを切ってしまうのかどうかと。どう考えたって5,000万円,一生掛かってもこの人の給料債権からは回収できませんよというようなときに,1,000万円なら1,000万円の限度でというようなことで,残りの部分は次の何か財産があればということで,引き続き調査をしていくというようなことはあり得るし,そのこと自体は一つの肯定的評価をしてもいいのではないかと。執行対象財産との兼ね合いで,一定の範囲で執行をかけるということを是としてもいいのではないかというふうに私は思っておりまして,その限りでは,一部訴訟に準じてもいいのではないかと思っております。 ○松岡分科会長 申し訳ない,実務について全く暗いので,お教えいただきたいんですが,一部請求や一部執行というのが,どの程度行われているのでしょうか。 ○高須幹事 全く私の個人的な経験になってしまいますから,一般化はむしろできないと思うんですが,一部請求に関して言えば,これはやはり訴訟費用の問題なので,その兼ね合いだと思うんですが,執行に関しては,むしろ執行費用に余り関わることではありませんので,要するに,ほかもあるかもしれないと。取りあえず給料債権あることは分かっているから差押えを掛けるんだけれども,ほかが見つかったら,もう速やかにそれにも掛けたいよねという一つの要請と,もう一つは,この給料からはせいぜい月何万円しか回収できませんよと。これに全部執行してみたって,結局,もう死ぬまで掛かっても回収できないではないですかという要素があって,私個人としては,例えば給料債権の差押えのようなときには,一定額に絞って差押えを掛けているということは,ままさせていただいております。 ○松岡分科会長 どちらも同じ程度にあるということでしょうか。 ○高須幹事 これも経験で申し訳ないのですが,私は余り一部請求をやりませんので,一部執行のほうがよくやっています。一部請求は訴訟費用を節約するためにやるなんて,だったらやめたほうがいいよねとか,そう言ってしまいますから。その程度の訴訟しかやっていないということなんですが。 ○松岡分科会長 私の乏しい知識では,試行訴訟といいましょうか,まず勝敗の帰すうが分からないので,取りあえずは小さい額で訴訟を起こすことはままあるように伺っています。 ○高須幹事 大きな事件を扱っている弁護士はそうだと思いますが,私が扱っているのは全部帰すうが分からなくて額も小さい事件ですから,そんなに費用のことで心配しないで,ともかく勝つか負けるかやってみましょうというような形でやっているということ,その経験だと思います。 ○松岡分科会長 ほかの先生方,あるいは裁判所はいかがでしょう。 ○中井委員 実務に関して,訴えの提起の関係で言えば,唯一,コストが理由です。ところが,執行はコストの理由だけではなくて,一つの債務名義を分けて使うという現実的・実務的要請が強いし,対象物の価格がそう大きくないときに,全額で執行しないことがよくあるのではないでしょうか。 ○岡委員 あと,競合債権者が容易に予想される場合は,ちょっと多目にやることもありますね。 ○中井委員 そういう意味では,理論的障害についてそれほど違和感がないのであれば,弁護士会の意見は,債務名義を取った者,債権者の立場からすれば,高須提案に基本的に賛同意見が多いのではないかと思います。 ○松岡分科会長 中井委員からは,理論的障害がないのであれば,高須提案に弁護士会の賛同が多いだろうという御発言がありましたけれども,先ほどの畑幹事の御意見で,執行のほうがハードルが高いとおっしゃったのは,理論的な問題としてでしょうか。 ○畑幹事 そういうことです。 ○高須幹事 その点で,正におっしゃるとおりのところが一つ影響するのは,更新まで認めるか,あるいは進行の停止,あるいは停止にとどめるかと。結局,認めるか,認めないかの問題の次に,どこまで認めるかという,やはり論点もあってもよいのではないかと。   私も,今回の提案では,仮に残部について障害事由を認めるとしても,それが更新になるとは思ってはおらなくてですね。それはやはりそこまでは,畑先生がおっしゃるとおりで,執行もしていない部分にまで,なぜ更新になるのかという問題はあると思います。ただ,進行の停止なり停止なりは認めたほうが,バランスといいますか,その使いやすさという意味では,やはりそのほうが長所があるのではないかと。まして一部訴訟のほうが,もし仮にそういう考え方を採れるのであれば,一部訴訟のほうはそういう御提案を資料で頂いていると思うんですけれども,そうであれば,それと軌を一にすることができるという意味でも支障はないのではないかと,このように考えた次第でございます。 ○山野目幹事 民法の実体法の観点から,余り整理して考えていないのですけれども,やはり一,二,気になることがありますから,2点申し上げさせていただきます。   1点目は,やはり一つ前の論点の議論の続きですが,事由ごとに時効障害はなぜ起こるのか,という原理論的な観点からの整理に,最後は堪え得るように整理していかなければいけないと考えます。休憩前の更新の議論を,権利確定説よりは比較的強い権利行使の意思の表明があったことというほうに若干,シフトという言葉がいいのか分からないですが,軸足を動かしながら理解したような嫌いがあります。それに加えて,強制執行や担保権実行の一部の申立てについて,その一部以外の残部のところについても時効障害を認めるということになると,そして取り分け更新としてそれを認めるときには,そのことは,かなり考え方の基本的な整理を要すると危惧いたします。   ですから,高須幹事の御提案に反対ではありませんが,更新にするのはきついでしょうし,きついなという直感を抱いて,進行停止にするかどうかはなお議論の余地がありますといったところを是非整理していただいて,最終的に時効進行停止事由--大阪弁護士会の考え方ではそれがないそうですけれども--仮に設けたときに,それと更新との間の整理がどうなるのかということは,やはり通奏低音のように留意していかなければいけないというふうに感じます。   それからもう1点は,小さなことで,確認でしかありませんけれども,高須幹事がおっしゃっていることと全く次元を異にすることですが,不動産登記実務上,抵当権の設定の登記において,1,000万の債権のうち700万という仕方での登記が認められていますが,それに基づく抵当権実行申立てで700万の執行をしようというようなときの,残った300万がどうなるかというような問題は,今御提案いただいている御趣旨とは全く違う問題ですが,しかし,感覚的には連続する部分がございますから,何か実務家の感覚としてお考えがあったら承っておきたいと思います。 ○高須幹事 明確な回答があるわけではないですが,根抵当のことはちょっと考えたことがございまして,極度額があると。1,000万円の債権は持っているけれども,極度額700万で根抵当を付けているというような場合には,執行は700万でしか不動産執行できないわけですが,それでも多分,それは1,000万円の債権があるということで,ただ極度額の定めがあるので700万しか執行できていないと。したがって,それは全部の部分についてやはり,つまり残部についても認めてもいいのではないかと。それとの兼ね合いで言うと今回も,1,000万の債権があるけれども,700万だけで抵当権を付けてしまったので,それしか実行できないんだと考えれば,根抵当権の極度額の定めが被担保債権額を下回っていた場合と同様に考えてもいいのではないかと思いますが,間違っておるでしょうか。 ○山野目幹事 いや,間違っているとかそういうことではないんですけれども。 ○中井委員 確認ですけれども,29ページの提案においても,時効障害事由にするけれども,更新事由とするという提案ではないと理解しております。高須幹事の提案もそうですけれども,訴え提起も執行も,その一部についてしたとき,全部について時効障害事由になるけれども,更新事由になるのはその一部のみで,判決確定したら判決確定した部分だけ,執行だったら執行が行き着いたところについての,その一部のみが更新事由になるのであって,その拡張部分については,進行の停止若しくは時効の完成停止という提案ではないか。   その上で,大阪は時効の完成停止という点で積極的に賛成すると理解していただければと思います。 ○松岡分科会長 今の点は御確認の質問だと思いますが,それでよろしいですか。 ○亀井関係官 そういうことだと思います。 ○岡委員 一部執行の,その執行部分は更新事由になるというところについての,先ほどから思っている疑問なんですが,先ほどの更新事由の説明のところでは,執行が終了したときが更新事由になる,再進行事由になるというお話でしたよね。   先ほど山野目先生のところで話があった,執行手続で裁判所が関与して開始決定があったので,権利行使ではなくて確定というか,そこが更新事由になり,その更新事由がやんだところから再進行がスタートするというのだったら分かるんですが,執行手続が終了したことが更新事由になるという今の説明なんですか。差押え申し立てをして,開始決定が出て,執行が終了するところまでは進行の停止で進んでいて,執行手続が終了したら,終了したことが更新事由になるという理解なんですか。   そうすると,更新事由が権利の確定なのか,権利の行使なのかという議論もありましたけれども,何かそれは,終了したことというのは権利行使が終わって再進行がスタートするという意味では理解できるんですが,権利,訴訟の確定だとか,それにパラレルに考えられるような更新事由として,執行手続が終了したことがパラレルになるというのが,ちょっと理解できなくなったんですが,そこはいかがなんでしょう。執行手続における更新事由というのは何かという質問ですが。 ○筒井幹事 御質問に対する的確な答えができるかどうか分からないのですが,しかし,執行手続が終了したという事由自体が何か特別な効果の基盤になっているわけではなくて,やはりその終了したという時点を捉えて,更新事由が生じたという整理をしないと,従来のように中断はしたけれども,また後に覆るかもしれないという不安定な状態が残る。それを解消するために,終了という時点を捉えて,手続が終了したことをもって更新事由とするのだと私は理解しておりました。 ○中井委員 素直には,訴え提起したことが時効障害事由になって,それが行き着く先は,確定すれば更新になるし,確定しないで何らかの事由で取り下げて終わってしまったら,その時点で進行の停止なら進行の停止というふうに,将来道が分かれていく。それを,どういう言葉の整理の仕方をしていくのかという問題だと理解しています。基本的には同じことかとは思いますが。 ○筒井幹事 同じだと思います。ですから,強制執行の申立てが時効の進行停止なら進行停止という事由になり,それで,手続の最後まで行き着かなければそれで終わるわけですけれども,最後まで行き着いたときにはそれが更新事由というものになる。訴え提起の場合は,それがたまたま確定判決という形で手続が終了するので,そこに特別な意味のある現象が起きており,他方,執行の場合はそれとは異なりますけれども,いずれにしても,その終了の時点を捉えて新たな更新事由として整理をしようということではないかと思います。 ○岡委員 その執行の場合に,執行の申立てがまず進行の停止事由になると。開始決定が出れば,そこで更新事由になると。更新に基づく再スタートが始まるのは執行手続が終了したときと。そういう考え方はあり得ないですか。 ○筒井幹事 それは,現在で言えば,開始決定があった後に取り下げた場合の取扱いをどのように考えるのかという問題を,今後もなお引きずることになるのではないかと思います。 ○高須幹事 私が提起した問題ですから,それで議論が複雑になって申し訳なかったんですが,要するに素朴に,もう一回ちょっと振り返らせていただきますと,指摘させていただいたペーパーの事例に書かせていただいたように,債権執行のような場合で給料債権のような場合には長期間かかると。これは先ほど,実は別な例でも御指摘がままあったところなんですが,例えば8年越しで債権の回収をしていくというような場合があったときに,その全額についての請求債権で執行を掛けずに,一部の請求額で執行を掛けましたと。それで,その部分ですら回収が8年掛かりますというときに,例えば時効期間が今般の改正の中で,例えばですが,5年とかになったときには,執行途中で残部については裁判を起こさなければならないという事態が起きると。そういうことを債権者に要求することは,余り価値判断としては適当ではないのではないかと。やはり強制執行までやっているなら,その間は,その様子を見るということが許されてもいいのではないかと。これが,一部訴訟において残部についても時効中断を認めるというのであれば軌を一にするのではないかと。これが私の発想といいますか,基本的な考え方ということでございます。 ○山本幹事 先ほどの畑さんが言われたこと,結局,この一部請求と一部執行がどうディスティングイッシュされるのかという話なんだろうと思うんですけれども,一部請求の場合には当該訴訟の中で請求を拡張するという可能性が常に開かれていて,そういう意味では,潜在的な訴訟物になっているという言い方もできなくはないと。しかし,執行手続においては必ずしもそうではないということは,御指摘のとおりだと思うんですが,執行手続は手続の構造上そういうことになっていて,それから,不動産執行については判例があって,先ほどの債権計算書では拡張できないという形になっているわけですが。強制執行なんかでは,その債務名義の一部について差押えをまずして,もう少し高く売れそうだという場合に配当要求をするということは,これは多分認められるんだろうと思うんですけれども。そのような場合には,やはり訴訟とは違うんでしょうかね。 ○畑幹事 それは私も考えておりました。配当要求の終期までは何かしらそういうことができるということはありますので,そこはあるかなと思いました。ただ,そうすると,配当要求の終期の段階で切るとかいう可能性もあるということになるのかなと考えてはきたのですが,何かそれも複雑ではあると思いました。 ○山本幹事 だから,その手続の何か,そうすると,終期後に二重開始決定とか,そういうものではやはり別の手続になるということなんでしょうかね。だから,その手続でやはり何か拡大する余地があるというところを重視するのか。結局,その一部で請求しているということは何らかの事情があるんだけれども,通常は,残部についても条件が整えば請求するつもりであるという,そういう意味で残部についても権利行使の意思が認められると。債務者にもそれが分かっているはずだという,その実質論があれば,その部分については進行停止を認めてもいいんだというふうに考えるかということかなという感じはするんですけどね。私は,それでもいいのかなと先ほど申し上げましたが,それでもいいのかなという印象は持っているんですけれども。 ○高須幹事 結局,もう最後はどう考えるかだと思うんですが,一部訴訟で請求の拡張の可能性を言っても,それも口頭弁論終結時までということですよね。だけど,そういう細かな議論せずに,ここでは,従来の判例は一部請求を明示しておれば,もっとも,判例はまた別ですけれども,考え方としてはそういうふうに。そういうことをもって一部請求の肯定説の根拠にしてきたということを考えると,ここでも今のように,正に配当要求といえば終期という話が出るんですけれども,潜在的な可能性というか期待性というか,あるいは意思というか,そういうことであれば,もう少し大きなところで捉えてしまってもいいのではないかと。理論的には御説明ができなくて,大変力不足で申し訳ないんですけれども,むしろそうしていただくことは可能ではないかと思っております。 ○畑幹事 私も不可能だと思っているわけではありません。おっしゃるような考え方を採ると,従来から存在している裁判上の催告と呼ばれているようなことを非常に広く,恐らく解釈論上も認めていくということにはなるのだろうなと思います。それはそれで一つの政策判断,やや債権者側に偏った判断とは思いますが,一つの判断だろうとは思います。 ○内田委員 一部執行については一応議論が一巡したようには思うのですが,一部請求のほうで,一部であることを明示した請求についてもということは,つまり,一部であることを明示しないで一部請求した場合についてはもちろんのこと,全体について時効障害になるということが前提になっているのだと思います。畑幹事は,部会ではそれに異論を述べられたかと思うのですが,その点についてはいかがですか。 ○畑幹事 私の意見は部会で申し上げたとおりです。ただ,パブコメの結果を見ていると,そういう意見もちらほら見たような気はいたしました。 ○道垣内幹事 争い方がよく分からないのです。つまり,1億円の債権のうち7,000万円を請求するときに,被告が支払義務を争うためには,債務額が7,000万円よりも小さいと言わなければいけないのですか。仮にそうだとしますと,7,000万円の請求の際に,実際の債務額が7,000万円をどれだけ上回っているかということについて文句を言うチャンスは,被告にはないということですよね。   さらに,執行にも関係するのですけれども,山野目さんのおっしゃった例でして,1億円の被担保債権のうちの7,000万円ですよと書いてある抵当権が実行されるというときに,抵当不動産所有者が被担保債権額を争う場合には,被担保債権総額が7,000万円よりも小さいというふうに言われなければ,抵当権者への配当額を変えることができませんから,いや,1億円の被担保債権のうち7,000万円だと書いてあるけれど,実は,8,000万円の被担保債権のうち7,000万円だといって争うことには,意味がないわけですよね。   そう考えてみると,債務者側に争うチャンスがないのに,どうして全額について何らかの効力が生じるのかというのが疑問に思えます。ただ,仮のものとしての時効期間の進行停止だから,まあいいのかなと思うのですが,どうも頭の中での整理がし切れていないのです。 ○山本幹事 頭は全然私も整理されていないんですけれども,その根拠はやはり,被告にはそれが一部だということが分からなくて,将来その残部について争わなければいけないということが予見できないというか,備えられないと,そこが根拠だということですか。それは確かにそのとおりのように思いますけれども。 ○道垣内幹事 畑さんがおっしゃっていることと,私の言ったこととは一緒ですね,結局。 ○山本幹事 何か訴訟物の範囲で時効中断の効果が及ぶという関係を,この広めるほうにも縮めるほうにも,もう適用しないという。訴訟物を基準にしないということになるんですかね。 ○畑幹事 何かここで議論してもあれですが,前提としては,黙示のときの訴訟物はどうだという前提でしょうか。 ○山本幹事 全体だという前提ですけれども。 ○畑幹事 それはしかし,それ自体,怪しいし,御自身のお考えも違う説だったと思います。 ○山本幹事 もちろん私の考えは違いますが,判例は,そう考えているというふうに一般に見られているのではないでしょうか。 ○畑幹事 私は昭和32年の例の判例はよく分からないという理解をしております。その理解は共有しているのだろうと思いますけれども。 ○山本幹事 ええ。既判力という,やはり言葉を使っているのではないですか。 ○畑幹事 あるいは,あり得べき利益衡量の在り方として,例えば先ほど申し上げた昭和32年の判例というのは,黙示の一部請求をした後は残部は請求できないという準則であるというふうに一般に理解されているので,せめて訴訟が進行している間は,残部があるとしたら時効の完成ということはストップしておくという,そういう利益衡量としては理解できるかなという気はしておりますけれども。それと,明示の場合は,残りがあるし,請求するかもしれないよと言っているということによって,中断なり進行停止なりされるということとは,根拠が違うのかなという気もしております。 ○道垣内幹事 時効期間と訴訟期間との関係で考えるならば,それが,それぞれどの期間か分かりませんけれども,かなり延びる可能性がありますね。時効期間が10年なのに,訴訟に5年掛かりましたといったら,5年も止まっていることになりますね。 ○松岡分科会長 それは何かおかしいですか。私はよく分かりません。 ○畑幹事 残部についてということですね。 ○道垣内幹事 そう,残部について。若干変な感じはしますけれども。 ○松岡分科会長 やはり私は問題の焦点がよく分からなくなってきています。特に議論として出されているのは一部請求であることを明示していた場合,権利行使の意思を重視する考え方によって残部については権利を行使していないと理解すれば,なぜそこまで中断ないしは停止が及ぶのでしょうか。それはやはり説明がうまくつかないようで,気になりますね。 ○内田委員 中断ではなく,飽くまで停止か進行停止の話で,既判力とか,更新の問題とは区別しているというのが前提です。 ○松岡分科会長 そうですね,すみません。 ○高須幹事 結局,突き詰めていけばそういう確かに問題になるし,だから,一部請求などという中途半端なことをしてはいけないんだという価値判断が通れば,いわゆる残部請求否定説になっていくということなんだろうと思いますけれども,現実には,今までは一部請求なるものは確かに認めてきた。その認めてきた理由は,訴訟のコストの低減とか,あとは試験訴訟などとよく言われるように,ともかくやってみての結果で拡張しましょうと。そのことをもし良しとするとなると,今回の議論で出てきたように,抽象的には拡張し得る可能性があるんだと。権利を行使し得る含みを残しておるんだということをもって,良しとしてきたということだと思うんですよね。ですから,それが理論的に確かに十分ではないのかもしれないけれども,やはり時効の問題を考えるときには,いわゆる今までこういうことは認めてきたということの兼ね合いは,やはり全然考慮しないわけにはいかないのではないかと。   その観点から考えると,最高裁が一部でも明示した場合にはそれを否定してきたということに対しては批判もあって,残部請求を認めるなら時効も中断しておかないとバランスは取れないのではないですかという,やはり議論もあったわけだから,ここでは,そういう方向で考えるかどうかを考えるときには,必ずしも理論的に詰め切れていないというだけではいけないような気もしてはおるのですが。 ○潮見幹事 結論はもう先ほどから出ているようにも思うのですが,弁護士会はこれでいいんですよね。 ○中井委員 はい。実務的要請から賛成。 ○潮見幹事 理論的にも,恐らく手続法的な説明としては何とかなるのではないのかなとは思います。先ほどから発言しなかったのは,このレベルでは,いかようにでもと説明できるのではないかと思ったからです。   ただ,先ほどの直前の分科会長の発言ではありませんけれども,むしろ,民法の理論から見たときには,果たしてこれでうまく説明ができるのかというのが,正直言って,よく分かりません。権利を行使しているからということでいえば,残部については権利行使していないわけです。しかしながら,だからといって,権利行使という面に注目をしているのではなくて,一部請求をしていることによって,その請求の基礎になる債権というものの存在自体が何らかの形で拡張されるんだという形で捉えようとしたら,時効障害のうちの停止事由をこの部分に限ってしまう理由が分からなくなります。むしろ中断というところも含めて同じように考えなければ,一貫はしないのではないかとも思います。   そういう意味で考えると,先ほど道垣内さんのお話では,こちらの場合には,仮の権利の確定と言ったらいいのでしょうか,そういう発想で説明されているのであれば,それはよく分かるのですが。   中断と,進行停止と,停止は,質が違うのではないかというところがあって,ちょっとうまく整理できないのですが,理論的には気持ちが悪いんです。ただ,実際の落ち着きの良さというところで,これがいいということであれば,それはそれでいいのかなと思います。 ○松岡分科会長 決定的に不合理というわけではもちろんないですね。 ○潮見幹事 はい。 ○亀井関係官 一つだけよろしいですか。効果のところですけれども,時効障害事由として一般的に3類型のものを作る場合にはこちらについても進行停止になるのでしょうか。それとも,一般的な時効障害事由をどのように設計するのかにかかわらず,ここは特別にこのような効果とすべきという議論なのでしょうか。 ○高須幹事 確かに,進行の停止にすると,請求あるいは請求をしていない部分についても,その裁判をやっている間が自動的に止まっていると,で,残りの期間のカウントになると,裁判に時間に掛かれば,その分だけ自動的に延びているんですよと。そこまでの保護というか保証を与える必要があるのかどうか。ある一部分についても,裁判やっている間に残りが請求できなくなるのが問題ではないかという視点に限るのであれば,必ずしも進行の停止ではなくて,先ほどから御指摘がある満了の停止という部分でとどめるというのも,そもそもこういうことに対して障害を認めるということにすら気持ちの悪さがあるとすれば,最小限度にとどめるというのであれば,ここは一つ満了の停止というのも判断としてはあり得る。私も,どっちだというまで思っているわけではなくて,どっちかだぐらいしかまだ思っていないんですが,一つ考えどころではあるかと思います。 ○内田委員 一言だけ。その気持ちの悪さというところなんですが,私は余り気持ち悪いとも思わなくて。だから,学者もいろいろなのがいて,時効障害の趣旨が断固たる権利行使であるか,権利の確定であるかなんて,そんなのは後から学者が考えればいいので,実際にはいろいろな要素があるのだと思うのですね。政策的に望ましいことをやれば,あとは潮見先生が立派な体系書で説明を書かれるということなのではないかと思いますので,そうこだわることはないのではないかと,個人的にはそう思います。 ○山野目幹事 今の内田委員の御注意に,そのとおり,と思ったのと同時に,少し,さはさりながら,ということを一言だけ記録にとどめておきたいと考えます。   時効を障害するために何をすればよいか,何があればよいかということについて,今日の議論の進行の中で,そういう言葉がいいのかどうか分からないんだけれども,何か少しインフレーションがあるような気がします。すごく素朴に考えると,従来の学説論議で,権利が確定したら何かが起こる,権利が行使されたら何かが起こるというアングルで考えるときに,素朴に当てはめると,更新は権利が確定したときで,進行停止は権利を行使したときというモデルがあるかもしれないなと思って議論を始めたところが,民事執行をどうするかというときの筒井幹事のきれいな御説明があり,あれは,たしかにきれいな御説明だと思ったけれども,あそこのところでまず,権利行使であっても更新になり得るよという若干のインフレがあって,しかも今度は進行停止のところで,僕は,一部請求,一部執行というのは,あれは権利行使説ですらなくて,今まではなかった権利行使の潜在的意思の表明という観念のみで時効を障害するという新しいスーパーバージョンができ上がってきて,そこまで格上げしようということになり,全体に何かワンランクずつ下駄をはかしてあげた学年末試験みたいな感じで,インフレが起こってきているような気がします。   潮見幹事のおっしゃった気持ち悪さはそれなのでしょう。内田委員の,その気持ち悪さは理解できるが気にするな,という話もよく分かりますが,やはり気持ち悪いものは悪いと感じます。   結論としては,やはり弁護士会の先生方がおっしゃる一部請求,一部執行は,需要としてはごもっともであるというふうに感ずる部分もありますから,余計それですごく苦しい部分があって,この悩みは少し申し上げておきたかったものです。 ○中井委員 大阪弁護士会から出ている意見ですけれども,そもそも進行停止について反対していることを,重ねて申し上げておきたいんです。こういう事案について進行停止を認めることによって,計算が極めて複雑,煩雑になる,時効管理コストが高くなる。こういうことが一つの理由ですけれども,本件のような問題についても同じことが当てはまる。   大阪としては,一部請求をしていた,時間がたった,はたと気付いたときに残部について期間満了で何もできない,これは気の毒だね。そのときに,少なくとも時効完成の停止事由に該当すれば,その終了時点から6か月以内に事を起こせば権利行使はできる,そこは認める。時効管理についてもコストは掛からない。潜在的権利行使かもしれませんけれども,ここは債権者・当事者の立場としては,その限りでの権利保全は認めてほしい。それが実務的要請にもかなう。   一部行使の提案について,弁護士会もほぼ違和感なく受け入れている。そこに高須幹事からの御提案があって,日弁連のバックアップ委員会に諮りましたけれども,ほとんど異論は出なかった。それは債権者の代理人として一部請求をしたときに,残りについて,そう簡単に権利を失ったら困る。この実務感覚は是非理解していただきたい。   先ほど,理論的に大丈夫であれば是非採用していただきたいと思ったのはそういう趣旨です。 ○山本幹事 時効の停止事由ということであれば,現行法の下でも明示の一部請求がなされている場合には,残部については少なくとも催告の効果を認めるべきではないかという議論があって,下級審の裁判例では微妙なあれですが,それを認めたようなものもあるような気がしますので,そんなにおかしなことでもないような気はしますけれども。 ○鹿野幹事 実は(4)のところで申し上げようと思っていたのですが,私も基本的に,中井委員が先ほどおっしゃったように,そもそも時効の進行停止という制度を新たに設ける必要性があるのか,その理念はどこにあるのかを,改めて考えたほうがよいと思います。   そして具体的には,今は(5)番について問題となっているわけですが,このように一部請求等があった場合に,その債権全体の時効を停止しなければならないと考えられる理由は,ある一定の期間,権利の行使ないし潜在的行使がなされているにもかかわらず,その一部請求にかかる訴訟が終わったら,もう残部は時効に掛かっていて改めて権利行使をすることができなくなるのでは適切ではないということではないでしょうか。そうであれば,その事由が終わった時点で,時効完成までにある一定の十分な権利行使の機会が与えられれば,それでよいのではないかと思います。そして,そうだとすれば,時効の進行停止ではなく,むしろ現行民法が定めるような完成停止を認めればよいのではないかとも思われます。その事由が終わった後にどれぐらいの期間を与えれば,果たして権利行使として十分な期間と言えるのかということについては,各事由に即して考える必要があると思いますけれども,進行停止というものを新たに設ける必要性が本当にあるのかについては疑問を持っています。 ○松岡分科会長 ほとんど意見は出尽くした感じですが,よろしゅうございますか。   それでは,議論を再度整理していただくのはなかなか大変ではありますが,この論点につきましては,ひとまずは今のところまでにさせていただいて,ページを戻らせていただきます。   (4)の「当事者間の交渉・協議による時効障害」につきまして,事務当局から御説明をお願いいたします。 ○亀井関係官 部会資料31の27ページです。   「(4)当事者間の交渉・協議による時効障害」のアについては,規定を設ける方向の意見が複数ありました。その規定内容については,明確性を確保するため,合意や通知に書面を要求する方向の意見がありました。同様に,明確性確保の観点から,時効の進行を停止させる旨の合意を要求すべきであるという御意見がありました。この点については,時効障害事由としてではなく,一定期間は時効を完成させない旨の当事者の合意の効力を認めるものと構成すべきであるという御意見もありました。   また,明確性の確保に関して,イにおいて,どのような時効障害事由とするかによって明確性の要求水準が変わるという指摘がございました。   他方,アについて,消費者が債務者である場合に,事業者の時間稼ぎに利用されることを懸念する御意見がございました。   また,アに賛成しつつ,③の規律を設けることには反対という御意見がございました。   イについては,甲案に賛成する御意見がございました。   以上の議論を踏まえて,基本的には時効障害事由とする点には賛成が多かったけれども,その内容について多様な意見があったため,分科会で審議するということとされております。 ○松岡分科会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御説明のありました部分につきまして,アとイがありますが,まとめて御議論を賜ればよろしいかと思います。よろしくお願いします。 ○中井委員 ここも鹿野幹事から意見をお聴きしてからのほうがいいのかもしれませんけれども,弁護士会の中では意見が分かれていますが,大阪弁護士会案の話をさせていただきます。これも,時効の進行の停止を認めるのかどうか,完成の停止事由に限るのかという問題と密接に関連していると思います。   まず,当事者間が交渉・協議をしているにもかかわらず,債務者から時効が完成していますと援用があって,権利行使できなくなる。これは問題だろう。基本的な認識はそこにありますから,何らかの時効障害事由の制度を設けることに大阪弁護士会としては賛成したい。   そのときに,進行の停止という制度を設けるのかどうかという点についてまず議論をすべきであって,これについては設けるべきではないという考え方を採っています。それは先ほど申し上げた理由もありますし,この当事者間の協議による時効障害を認めるときに,開始時点と終了時点を決めて,それがあれば,その期間,時効期間が延びる,こういう考え方を採ると極めて複雑になって,それこそ時効管理が困る。   専ら問題になるのは,先ほど申し上げましたように,当事者が交渉しているにもかかわらず,あるとき突然に時効の援用があって,権利行使ができなくなるという事態を防ぐ。これができれば目的を達するのではないか。とすれば,簡明な方式として完成の停止事由にする。そういう方向付けをしたときに,どういう要件になるかという問題に戻る。   大阪の意見としては,交渉・協議という客観的・外形的事実があれば基本的には足りる。スタート時点について,書面とかできつく縛るのは適当ではない。完成の停止事由にしていますから,終了事由が明確であればいいわけで,交渉継続について拒絶の意思表示等が債務者からあるとか,そういう時点で区切って,そこから一定期間,6か月なら6か月で時効が完成する,そういう仕組みでいいのではないか。それで先ほどの問題状況は解決する。こういう考え方を取っています。 ○鹿野幹事 先ほども申しましたが,基本的には,今,中井委員がおっしゃったことに賛成でございます。   正に,この交渉・協議による時効障害をなぜ認める必要があるのかというと,やはり,権利行使の期待ができないような状態のままで,時効が完成し,もはや権利行使ができなくなってしまうということではまずいということなのだと思います。そこで,基本的には,従来の完成停止という意味での,つまり現在の民法にある停止についての考え方をここに及ぼすことができるのではないかと思います。   更に申しますと,恐らく実務的には,(4)の交渉・協議の場合のほうが,先ほどの(5)の場合より一層,進行停止を認めることによる期間計算の複雑さは増すでしょうし,それによる弊害も大きいのではないかと思います。ですから,資料27頁のイにつき,乙案に賛成です。   一方,そのような考え方を採ったとしても,停止事由となる交渉・協議というものをどのように捉えるのかということが,更に問題となります。ここでは,催告とは別に交渉・協議による時効完成の停止を認めようとしているわけで,それはなぜ認めるのかというと,先ほど申しましたように,債権者に,その期間中に権利行使をすることを期待できないから,つまり別の方法で更新事由をもたらすことを期待することができないからだと私は考えています。そのように考えると,停止事由となる交渉・協議とは,債務者の方で交渉に乗ってくれていること,債務者が対応するという状態が少なくとも必要なのだと思います。   ただし,そうではあっても,書面による交渉合意というところまで必要なのかということに関しては,もう少し要件を緩やかにしてもいいのではないかと思います。この点は恐らく,交渉・協議を進行停止として認めるのかどうかとも関連すると思いますけれども,先ほど申しましたように完成停止として認めればよいという立場からすると,その停止事由となる交渉・協議の要件は,ここに書かれてあるよりは緩和してよいのではないかと私は考えます。 ○道垣内幹事 先ほど鹿野さんがおっしゃったことですが,催告という制度は存続していることを前提として考えるのでよろしいのでしょうか。 ○松岡分科会長 はい,停止事由として存続しているということでしょう。 ○道垣内幹事 そうしますと,中井先生や鹿野さんがおっしゃったような形で,実質的に交渉していればよいといった要件で考えると,催告をしてきた債権者に債務者が反応したら損するということになりますよね。催告を放っておけば6か月以内に訴訟提起しなければいけないけれども,催告に対して「いや,ちょっとね」とか何とかいうふうに言っていると,もうそれで協議になって,「ちょっとね」と言っている限りにおいてはずっと時効は完成しない。私は,これはおかしいと思います。   だから,仮に交渉・協議というのを認めるのでしたら,ここにあるように,合意とか通知とかをしなければならないと思います。また,拒絶する旨の通知が必要だというのも本当はおかしいと思っていて,交渉するということになって,債権者は何回も電話を掛けてきていたり,やってきていたりしたところ,来なくなったから諦めたのだと思うのは人情でして,そのときに拒絶の証書を出していなかったら交渉が継続していることになって時効が完成しないというのは,妙だと思うのですが。   全体の作りがちょっと私にはよく分からなくて,みなさんの価値判断も少しよく分からないところがあるのですが。 ○中井委員 道垣内先生の御意見に対して,催告に対して債務者が応答するからこそ,債権者は催告後6か月以内に特段の行為を採らなくてもよいという信頼が生まれた,そのような交渉・協議を念頭に置いているわけです。   確かに放っておいたほうが債権者は行動を採らなければならない事態になって,応答すればそういう事態にならないという御指摘は,その限りで正しいと思いますけれども,債務者がそういう応答をした以上は,債権者がそれ以上の行動を採ることが期待できない場面というのは,あると思うんです。そういう場面ができたときに,債権者が何も行使しなかったら,はい,終わりというのは酷でしょうと考える訳です。   後半の部分は何でしたか,二つ目は。 ○松岡分科会長 書面を出していないと交渉が続いているとするのはおかしくないかという御質問です。 ○中井委員 拒絶の通知をしなければならないのはおかしいという点については,例えば,最後の交渉をしてから3か月間,何らの交渉がなかったら,それはその時点から6か月経過すれば,時効は完成するという,拒絶の意思表示がない場合の手当てを用意しておくことで対応したいと考えています。 ○潮見幹事 今の中井先生の御発言で,確認したい点があります。   (4)ですが,見出し自体が「当事者間の交渉・協議による時効障害」とあります。交渉という部分で,今の,請求して何かレスポンスがあったというようなもの自体に,合意を認めないのかどうかということです。つまり,何か言ってレスポンスがあったという事態を捉えて何らかの時効障害事由みたいなものとして観念するのか。それとも,事務局でまとめていただいたアの①ではありませんけれども,この場面では交渉・協議をする旨の合意があるからこそ,こういう時効障害事由というものが観念できるのだという御趣旨なのか。 ○中井委員 少なくとも客観的に交渉・協議をしているという状態が必要です。交渉・協議をしている以上,暗黙の合意があるのかもしれませんが,交渉・協議をしていると評価できるような関係が成立しているということを念頭に置いています。そこに書面までは要求しない。   そのときに暗黙の合意というのを要件にしているのかと言われると,事実上の交渉があるわけですから,その前提として暗黙の合意があるのかもしれません。 ○道垣内幹事 潮見さんが,私が申し上げたかったことを非常に理論的にきちんと整理をしてくださったような気がします。どういうことかと申しますと,この事由を禁反言的なものとして捉えて,これまでは時効の援用が信義則に反するといったかたちでの処理がされていたものを明文化するという条文として捉えるのか,それとも,正に潮見さんがおっしゃったような合意の効果として捉えるのかという,こういうことなのだろうと思います。   どちらなのだろうというのがよく分からなくて,禁反言的なものとして捉えますと,なかなか要件付けが難しいのかなという気がしておりまして,やはり合意の効果というふうにして捉えていく方向なのではないかと思います。その合意の効果も,もちろん延長の合意とか,援用しないという合意があったとなりますとまた別になりますから,そして,それは別に書面である必要はないですから,いろいろな状況に応じた証明になってくるのかもしれませんけれども。いやしくも,この条文に乗って何を主張するというときには,その合意とが明確な形式に従ってなされているということを要求するのは,さほどおかしいことではないような気がするんですが。 ○鹿野幹事 合意の効果なのか,それとも信義則違反,禁反言が理由なのかということをおっしゃったのですが,私は,先ほど言いましたように,従来の完成停止という意味での停止制度においては,時効完成の時期が近づいた時点において,債権者に権利行使を期待することができないような何らかの事由が生じたときに,そのまま通常どおりに時効を完成させるというわけにはいかないという考え方が採られて存在したのだと思います。   そしてここでの問題も,その延長線上で捉えることができるのではないでしょうか。確かに,反応したほうが債務者にとって不利になり,債権者は訴え提起を直ちにする必要は無くなるという点は,結果としてはそのとおりかもしれませんけれども,どうしてそうなるのかというと,債権者としては,債務者が検討するから待ってくれというふうに言ったからこそ,訴え提起等をせずに待っていたというような状況があるわけです。つまり,訴えの提起等の権利行使を期待することができないという状況があることのゆえに,これが停止事由になるのではないか,そのようなものとして位置付けたらどうかということでありました。   もちろん明確性という観点は必要でしょうから,停止事由として一定の要件は設ける必要があるとは思うのですが,ただ,書面による合意ということまで要求するのかについては,もう少し緩和する余地があるのではないかと申し上げた次第です。 ○中井委員 鹿野幹事の発言に同じです。   大阪で議論したときも,先ほどの二つの考え方,合意の効力か禁反言かと,非常に分かりやすい整理をしていただいたんですけれども,意見としては禁反言なんです,背景的事情としては。   合意の効果として認める。進行停止は,3回でも,4回でも,合意の効果とつながりやすいんですけれども,そうではなくて,時効完成間近に当事者間が交渉しているということはよくあることで,そこで債務者が,では何とか支払いますと言っておきながら,時間が経過したところで期間満了して,権利者の権利行使ができない,その事態は信義に反しますよね。   それを一定類型化して,確実に権利者のほうが権利行使できるような形にしましょう,そこで時効の完成停止という一類型に位置付けた。大阪弁護士会のこれに賛成する意見としてはそうだと思います。理論的に詰めたというよりは,そういう感覚です。 ○潮見幹事 申し訳ありません,仮に禁反言的に考えるのであれば,条文がなくても,今でも時効の援用について信義則で封じられるという可能性はありますよね。   それはおくとして,もしそういう観点から立てられるとしたら,どういう条文になるのかが見えないんです。先ほど道垣内さんがおっしゃられたのにも関わるかもしれません。   それからもう一つは,確認なのですが,以前の部会発言で岡委員の発言で,弁護士会の中では合意が明確であることを要するという意見もあるという御意見も出されたかと思うんですが,それはむしろ,今,中井先生がおっしゃるのとちょっと対極にある考え方と理解してよいでしょうか。 ○中井委員 先に言っておきますと,今,私が言ったのは,大阪弁護士会の意見です。   日弁連を代表して岡さんに。 ○岡委員 対極ではなく,別の局面を念頭に置いているんだろうと思います。並立した意見です。 ○亀井関係官 中井委員や鹿野幹事のお考えの場合には,例えば明確性の確保の方策を置くとして,どういうものを想定すればいいのでしょうか。 ○潮見幹事 本当は岡先生の発言を待ってからもう一つ言おうと思ったんですが,もう先にそこの話になるのであれば,一言申し上げます。仮に,信義則的に構成してルール化しようということになったら,アは何とかなるのかもしれませんが,イはどういうふうにルールとして書くのかというのがより見えなくなる。 ○松岡分科会長 停止でしょう。 ○潮見幹事 停止事由にしたら,その効果は満了延期ですよね。何か知らんけれども,レスポンスがあったというときに,これで時効は援用できなくなるけれども,ある一時から,また時効を援用することができるようになるわけですよね。そこをルールとしてどういうふうに書きこむのかというのがちょっと分からなかったんです。 ○鹿野幹事 それは正にアをどうするかによって決まってくるのだと思います。 ○潮見幹事 だから,その分を含めてアをどう書くのでしょうかという質問です。 ○鹿野幹事 理論的には,イについて乙案を採ったとしても,アについては明確性の観点から,ここに書かれているような①から③のような要件を課すということは十分あり得るわけです。ただ,考え方として,そこまで厳格にする必要があるのかについては検討する余地があるというふうに申し上げました。もし,そういう乙案プラスのアの①,②,③ということであれば,停止するのは,書面による交渉合意があったときからということになるのだと思います。 ○潮見幹事 でも,今の中井先生からの御発言の中であったら,①のところでは合意は要らないんですよね。合意は要件ではないんですよね。要件とすべきではないんですよね。 ○松岡分科会長 ええ,合意を要件とすると重くなり過ぎるという御意見だったと思います。 ○潮見幹事 重くなり過ぎるというよりも,発想自体が違うから。 ○松岡分科会長 そうですね。 ○内田委員 発想が違って,二つの異なる制度が議論されているような気がします。道垣内幹事のおっしゃった,禁反言的なものと,合意による何らかの障害と。   その合意による障害事由のほうは,実際に取引上必要性があるという声があります。つまり,当事者双方が協議の間は止めたいということで,必要ならその文書を交わして止めるということ,それを認めてほしいという声があるので,それはそれで制度化することは考え得るのではないかと思います。しかし,そういう趣旨だとすれば,その効果を,満了延期というか,現在の停止事由にするというのは,私はちょっと違和感があるのですけれども,これは問題はないのでしょうか。 ○鹿野幹事 実務的に違和感があるかどうかは分かりませんけれども,確かに二つのことが議論されていて,一つには,合意の効果として,時効の進行を止めるということを認めるかどうかという話がありました。これは,休みの前に話題になった「合意による時効期間等の変更」ということの延長線上として,どこまで時効に関する合意の自由を認めるのか,そして,どの範囲での期間伸長等を認めるのかということに係ってくるのだろうと思います。そことの関連で議論する意味はあるのだろうと思います。   それと,もう一つとしては,しかし従来から,時効期間の満了間際になって交渉がなされるというような事態があり,その場合における方策を考えるべきではないかが議論となっていました。そしてこの場合,確かに信義則とか権利濫用とか,そのような一般条項によって,交渉に臨むような対応を自らした債務者が,後に時効が完成したとして時効を援用するということを食い止めることも不可能ではないかもしれませんが,そういう場合の法的処理につき一定範囲で明確にルール化することには意味があるのではないかと私は思います。 ○松岡分科会長 今,二つの違うものを一緒に議論していることになるのでしょうか。内田委員の御指摘だと,どうもそれぞれに念頭に置いているものが相当異なっているような印象があります。 ○山野目幹事 大阪弁護士会のおっしゃる禁反言構成は,潮見幹事も御指摘になったのですが,法文を設けなくても,その解決自体は否定されていないというふうに私は考えます。ですから,それはそれで否定しませんけれども,時効完成間際に時効期間の合意による変更を認めるとしても,下限を下回るような微調整をする必要が,合意によってする必要ないし需要があるときに,その効果は明示で定めておいたほうがよいのではないかという問題は議論をしていただいたほうがよろしいと考えますけれども,いかがでしょうか。 ○道垣内幹事 潮見さんの発言を誤解しているのかもしれませんけれども,禁反言を理由にして,信義則で制限するのだったら現在でもできますというのは,信義則で現在は処理しているものを条文化すべきではないということは意味していないのだと思います。これまでもいろいろなところで出てきた話です。   ただ,アの①から③でも何でもいいのですが,要件の組み方として,仮に禁反言・信義則構成を採るのであれば,債権者に信頼を引き起こすといった要件の書き方になってくるはずであって,それは書けるのかという問題がもちろんありますが,少なくとも,ここに書かれている①から③のようなものでは多分済まないと思います。①から③の三つの要件を仮に定めるとすると,それを定めるときの理念そのものが変わってくるんだろうと思うんですね。さらには,信頼というものが徐々に形成されると。ないしは,その信頼の終了というものが徐々に無くなるというふうにしますと,では,どの時点で停止するの,どの時点で再開するのという問題が出てくるわけであって,なかなか要件化は難しいのではないかという気がします。   もちろん,このように申し上げることは,合意構成の条文を必ず置けというふうなことを言っているわけでは必ずしもないんですけれども,禁反言構成で条文化するのはなかなか困難なところがあるのではないという気がします。潮見さんのおっしゃることを誤解しているかもしれませんが。 ○潮見幹事 誤解という話でないと思うんですが,内田委員のお話に戻りますと,やはり議論している領域が二つあるんでしょうね。中井委員とか,あるいは鹿野幹事もひょっとしたら同じグループかもしれませんけれども,つい先ほども,禁反言的な,あるいは信義則的な観点からの時効障害という場面を想定されているとおっしゃられました。どうもそこの背景にあるのは,完成が停止するというのか,満了が延期するというのか,そういう場面を想定して,従来,時効の援用というものが信義則で封じられる,そういう一つの局面を想定されているのではないかと思います。その場面であれば,仮にその効果が完成停止のようなものになるというのは何となく分からないではない。   条文化することができるかどうかということについては,またそれは難しいのではないのかというのは道垣内さんがおっしゃられたとおりだと思います。   その話と,もう一つ,合意という形で何らかの新しい障害事由を作るべきかどうかということが,ここで問題にされるべきことではなかろうかとも思うわけです。この合意という時効障害事由を考えるときに,先ほどの山野目幹事のお話ではありませんが,平常時にされる合意と,時効完成の間際にやられる合意というのでは,少し違ったルールを立てたほうがいいのかもしれません。   平常時にされる合意,交渉合意については,多分,内田委員と問題意識を共有していると思います。合意までしているのに,なぜそれが満了停止というか,通常の停止に限定されて,進行停止みにならないのかが分からない。 ○中井委員 時効の進行の停止をしましょうという合意をして,半年とか1年協議をする。で,再開をする,進行の停止の考え方を採れば。また合意をすれば,また停止する。恐らくそういうことを念頭に置かれているのかもしれません。それは,基本に戻りますけれども,少なくとも大阪弁護士会は,進行の停止という形を取り入れて,この交渉・協議についても,そういう合意による進行の停止を入れれば,それこそ時効期間がどれだけ経過したのか,確認が大変になるし,時効管理も困難になる。基本的にはそれが基になって,その考え方を採らないとまず選択をしているわけです。   その上で,二つの,合意による時効の--停止と言うかはともかく--完成を妨げる事由と,信義則的な時効の完成を妨げる事由,二つの考え方があるときに,私は,その合意によって時効の完成を妨げる事由の存在を決して否定するものではありません。直前に,時効完成間際に合意して,あと1年間協議しましょう。1年間協議して,期間満了後,完成の停止事由として,そこから6か月以内に訴訟を提起すれば,それはよろしいと。   合意による完成の停止がなぜ論理的に矛盾すると潮見幹事がおっしゃるのか僕は素直に理解できなくて,完成間際に債権者と債務者が,完成するから訴訟を提起する,いやちょっと待って,1年は交渉しようよ,何らおかしな話ではないのではないでしょうか。   それから…… ○潮見幹事 意味は分かりました。 ○中井委員 もう一つは,信義則違反というのは,今日の議論を聞いて,大阪弁護士会の議論の背景はそこにあると再構成して,大阪の意見を申し上げたわけですが,意識的にそう考えて意見ができたわけでは決してありません。   ただ言えることは,時効完成間際に交渉・協議をしているという事実があれば,それで足りると考えていることです。そういう交渉・協議があれば,直ちに債権者は,時効完成間際であっても,何らかの権利行使,時効障害事由として,訴え提起とかしなくてもよいという,信頼は保護する。それは明文がなくても保護できるというのであればなおさら,明文化ができるなら明文化してもよろしいでしょう。   この制度はあって困らないし,債権者にとっての権利救済にもなるのではないでしょうか。それを否定される理由も,またよく分からないというのが正直なところです。 ○潮見幹事 2点目のほうですけれども,それがどのようなルールとして示されるのかという具体的なものを,むしろお示しいただければと思います。   1点目のほうは,中井委員のお話を伺っていて,先ほどの山野目幹事がおっしゃられたところの意味がますます明らかになったのではないかというか,むしろ想定している合意の場面が,どうも中井委員と私とで違っているという印象を持ちました。   中井委員は,先ほどの御発言にもありましたように,時効の完成の間際の合意を想定されていて,しかも,その合意というのは,ある程度短い期間といいましょうか,短期間で決着を付けるような,その種のタイプのものを想定されているのではないかと思います。   これに対して,私が少なくとも念頭に置いていたのはむしろ,日本でもそうですし,他国でもそうですけれども,例えば交通事故などの場合に,事故が起きて,そこから被害者と加害者が交渉を始めるという場面です。それは結構時間と期間を要するものです。私はそのような合意を考えていて,合意による交渉で1年も2年も掛かってしまう。ここで,不法行為の時効は3年ですから,3年のうちの2年ぐらいまで交渉で費やしてしまったような場合に,これが,時効の完成停,満了延期のような形で処理されるというのはいかがなものでしょうか。その交渉期間内というものは,時効については一切の進行を停止するような状況が生じているというように理解するほうが合理的なのではなかろうかと思うところです。   ただ,こういうことをいろいろ考えますと,やはりどういう場面で合意がされて,それがどういう目的でされているのかによって,実際にここで生ずる障害という効果の中身が変わってくるのかもしれないという印象を持ちました。 ○鹿野幹事 先ほど申しましたように,やはり時効について合意をどこまで認めるのかという問題との関連もあって,進行停止の合意をそれとの関連で検討するということは考えられると思います。ただ,これも先ほどから申しておりますように,いわゆる完成停止の事由の一つとして交渉・協議を入れることには意味があるのと考えております。   先ほどから繰り返し,信義則あるいは権利濫用によって,十分に解決できるではないかというお話も出たのですが,正に,完成間際というか,時効期間満了に比較的近い時期になって,訴えの提起はとりあえずせずにお互いに話し合いましょうということで,自分たちで話し合う期間を設けることについては,債権者の側からも債務者の側からも,そのニーズはあるのではないかと思います。ところが,その交渉が終了したときに,どこまでの権利行使の期間が保証されるのかというのは,一般条項によるのでは明らかではありません。そのように不明確なままでは,当事者としてはなかなか間際の交渉をやりにくいということになるのではないかと想像します。一方,それが類型的にルール化されるとすると,このルールに基づいて,時効期間満了の間際で訴訟を提起しようとも考えたけれども直ちにそうするのではなくて,当事者間で交渉をするということが,促進されるのではないかと思います。そして,それには一定の意味があるのではないかと思います。   ただ,具体的な要件についてのイメージとしては,中井委員のお考えよりは若干,私の方が厳格な要件を考えているのかもしれません。それは,そのような完成停止事由とするからには,やはり一定の明確性が必要なのではないかと考えるからです。ですから,要件としては,比較的①,②,③に近いようなものが想定されるかもしれないけれども,これについてはなお検討の余地があると考えているところです。 ○山野目幹事 イメージする場面が,やはりニックネームを付けると,間際段階と,はるか先段階と,二つあるんだと思うのですね。   間際段階について,先ほど中井委員が,信義則パターンと合意パターンと両方あるのを否定しません,両方あるのを認めますとおっしゃったのを僕は力強く感じました。そうであるとすると,どちらかというと信義則パターンのほうが,書かなくてもいいし,書きにくいしという問題がありますから,むしろ合意パターンについて何か規律を設けるということになるのでしょうか。信義則パターンも決して否定しないけれども,合意パターンの法文化についても大阪弁護士会の先生方にお知恵を借りたいということを,今日の議論を聴いていて感じました。   それから,はるか先段階に関して言うと,そこを手当てする必要がある,需要があるとおっしゃった内田委員と,需要があるけれども時効期間の合意による変更の制度との調整の必要があるとおっしゃった鹿野幹事は,多分需要がないとおっしゃっている中井委員のお立場ではないように僕には聞こえましたが,そのお立場となどを比べつつ,そのあたりの制度的なツールの間の調整と需要についての認識の齟齬について,引き続き議論が必要であると感じます。 ○松岡分科会長 私も一言だけ申し上げたい。進行役なのにすみません。   信義則で済むではないかという意見に対しては,先ほど鹿野幹事が御発言になったとおり,交渉が終わった後の権利行使が認められるのかどうかは,信義則だけでははっきりしないと思います。それから,確かに禁反言型のある種のものとなるのかもしれませんが,特に中井委員が御主張になっていることからすると,この場合には定型的に,交渉・協議という事実で足りて,あえて信頼惹起等の要件は要らない。したがって,鹿野幹事の御意見とは少し違うのですけれども,もう少し単純な要件設定になるような印象を受けます。そういう整理はできませんでしょうか。 ○内田委員 お答えが出るまでのつなぎかもしれませんが,禁反言とか信義則というのは,ちょっと私,違和感があります。禁反言とか信義則というのは,債務者のほうがちょっと待ってくれと言って,あたかも弁済するかのように振る舞っている,それで待っているという,そういう交渉を想定しているように見えるのですね。   私が典型的に想定している交渉・協議というのは,潮見幹事が言われた不法行為なんかもそうですけれども,あるいは企業間のプラント工事で欠陥があるかどうか,瑕疵があるかどうかをめぐる紛争があって,一方は損害が発生したから払えと言っている,他方はそんなもの責任はないと言っている,そういうのが典型なんですね。その場合に,払えと言われて,それに対して責任はないと拒否すると,これが信義則上,時効の援用ができなくなるような事由に当たるのかというのは,ちょっとよく分からないですね。払えと言っている側が,債権の時効の完成を阻止するためには,やはり訴えを提起しなければいけないとすると,それは,債権の存在を否定している相手方にとっても負担でしょう。だから,とにかく協議している間,時効を止めようという,そういう形で時効の進行停止は機能するのではないかと考えていたのです。それはちょっと信義則とか禁反言には乗りにくいと思います。   そういう場面を想定するならば,はっきり,そのための制度を作ったほうがよくて,それは,時効の完成を一時的に遅らせるとか停止する合意というよりは,やはり交渉・協議による進行停止という一つの制度を作って,その要件効果についても法律で明確に規定をして,それを利用するという合意を当事者ができるようにしたほうが,責任を否定している側も乗りやすいのではないかと思います。   他方で,そのような場面を除いた,中井先生が考えておられるような場面を吸収するのに,どう書けばうまくいくかですね。多分信義則・禁反言ではないのではないかという感じもするものですから,そこをもう少し詰める必要があるかなと思いました。 ○中井委員 どうも最初の2分類説に乗っかってしまって,どちらかといったら合意の効果ではなくて信義に反する効果だと,反射的に答えたがために窮地に追い込まれているような感じがします。   内田委員がおっしゃった場面のあることは想定していますし,その場面において機能することを決して否定するわけではありませんし,それも含んで議論しているつもりです。   では,それを禁反言のみで説明するのが不適切だと言われれば,説明の仕方を考えなければいけないということは理解しました。   その上で,要件の立て方としては,合意の効果というよりは事実として,交渉・協議をしていることに重きを置いているところですので,それ以上に信頼関係,信義則的なことを,要件の中に盛り込んだ提案にはなっていません。事実,協議があって,それが終了した時点で時効完了間際,若しくは時効完了経過後,一定期間,権利行使の機会を与えましょうという枠組みを考えていますので,もう少し客観的要件を想定しています。   それから,山野目幹事がおっしゃられた,ずっと先の話というんでしょうか,時効完成のずっと前の1年間協議しましょう,これを想定して1年間時効期間を延長させましょうという,進行の停止は大阪は反対しています。反対しているというのは,そういう需要がないからではなくて,そういう需要はあるでしょう。需要があるというか,訴訟の提起はいますぐにせずに,まずは協議しましょうという。協議することはもちろん自由ですけれども,そのときは時効期間満了までに権利行使すればいいではないですか。2年間協議したけれども決裂したんだったら,その後,時効期間満了までに権利行使すればいいだけの話ですから,それをあえて取り上げて時効期間を延ばしてあげる必要があるんでしょうか。素朴に,それは複雑化を招くというデメリットとの兼ね合いで,そういう仕組みは作らなくていいのではないでしょうか,と大阪は申し上げているわけです。 ○山野目幹事 先ほど,その趣旨で申し上げました。ですから,立法の,つまり規律を設ける需要はないというふうに認識しておられると理解していました。 ○岡委員 弁護士会で,合意で時効の障害を明確に定める場合は認めていいではないかという意見を申し上げたんですけれども,それは内田先生がおっしゃったようなシーンを念頭に置いています。そのときの発想としては,交渉期間は時効の進行から抜きましょうねという合意もあるでしょうし,この期間,交渉した後,6か月間は訴え提起しても時効は援用しませんよという合意もあるでしょうし,それは完成の延期あるいは進行の停止,いずれも合意で明確にきっと定めるだろうし,定めたら,それに従っていいのではないかというような発想で話をしておりました。   だから,内田先生のように一発で決めてもいいかもしれないけれども,合意は,それこそいろいろあるんだし,明確な合意で時効制度の本質を侵害しないのであれば,それは合意の内容に従っていいのではないかというふうに考えておりました。 ○松岡分科会長 しかし,岡委員の想定されるケースでは,合意内容は極めて明確にならないと困りますね。そうすると,そこには中井委員の想定されていたケースは当然入って来ませんね。 ○岡委員 全く違うケースを念頭に置いて。私と中井先生は対立しているわけではなく,違う局面を救おうとしているだけでございます。 ○松岡分科会長 だから,それを一つの制度でまとめ上げようということに少し無理があるというのが,議論をしていて感じるところであります。ただ,繰り返し中井委員が御指摘になっているように,中井委員は,特に時効の進行の停止というものに,複雑化の問題が生じるから基本的には反対ということですね。その点については,進行の停止に賛成の方からは御意見を頂戴していないのですが,反論とまで言わなくてもよろしいのですけれども,御意見はございませんでしょうか。 ○中井委員 部会審議のときでも,この論点についてほとんど議論がなされなかったという点について,なぜなんだろうと思っています。是非お聞かせいただければ。 ○松岡分科会長 気になるところです。先ほどの岡委員の想定されているケースで,明確に当事者が定めているのであれば,それはそれで計算済みなのだから,その合意通りでいいのだということになるのかもしれませんね。 ○岡委員 大阪弁護士会は,シンプルにするために,進行の停止事由を作るべきではないと,(2)でいえば乙案だろうと思いますが。   弁護士会は甲案でもいいと,進行停止事由はあっていいという意見も相半ばするぐらい存在しております。 ○潮見幹事 ちょっと質問だけですけれども,進行停止という新しい制度を作るべきかどうかということも,この分科会の対象事項ですか。 ○松岡分科会長 いや,それは多分違います。 ○潮見幹事 違いますよね。 ○松岡分科会長 ただ,そこのところの議論と関わってこざるを得ないので,それを全く棚上げにして議論するのは無理だと思います。 ○潮見幹事 そうですね。恐らく進行停止という枠組みを作るべきだというのは,基本的に中断の場合にはもう全部無駄になるが,停止の場合には,最後のところでちょっとだけ操作をする。進行停止は,一定の期間を抜くということで,この両者のいずれとも違う。   先ほどの岡委員の御発言の中にも言葉がありましたけれども,一定の期間は時効の期間の計算から抜くという場面が望ましいという事例があるとすれば,進行停止というツールを設けておくのが一般的に望ましいということではないのでしょうか。   その上での発言ですが,そもそも一般論として進行停止という観念自体を採るべきではないということなのか,それとも,一般的なツールとしては進行停止という,期間を抜くという発想自体は時効障害の捉え方として適切なのだけれども,交渉・協議による時効障害の場面については,一定期間を抜くという発想は採るべきではないということなのかというのが,いま一つわからない。 ○岡委員 裁判所の催告という今の制度と,この進行停止はよく似ていると思うんです。そうではないんですか。 ○松岡分科会長 似ていると思います。 ○潮見幹事 これこそ,最初のところの鹿野幹事の発言に対して道垣内幹事がおっしゃられた発言につながっていくのではないのでしょうか。一方的請求である場面は催告ですよね。それと交渉・協議という場面の関係は,どのようになるのでしょう。一方的請求というのは一種の緩いタイプですが,交渉とか協議については,仮にここで合意を想定するのであれば,両者を同質のものとするのは,きつい。   少し敷衍しますと,先ほど中井委員がおっしゃったような,交渉とか協議をしているという事実から何らかの時効障害というものが導かれるのだというような考え方を採り,かつ,その事実を緩めれば緩めるほど,先ほどの催告と同じようなタイプのものとして扱ってもよいのではないかという方向に,論理必然的ではありませんけれども,向かう可能性があると思います。   ところが,そうではなくて,合意という観点からここの時効障害事由を捉えていくという方向で考えれば考えるほど,これは催告とは全く異質な観点から出たものであって,同列には論じ難いということではないでしょうか。 ○松岡分科会長 どういうふうに議論の収束を図るべきでしょうか。これでよろしいですかと言っても余り意味はありません。 ○鹿野幹事 先ほどの進行停止の合意についてですが,どうもそこでの合意というのは,単に交渉することの合意ということではなく,交渉をするからこの時効の進行を止めましょうとか,時効の期間の計算から外しましょうということについての合意のように,私には聞こえました。そこで,もしそうだとすると,この問題は,時効期間を伸張する合意をどの範囲で認めるのか,そもそも時効に関する合意を認めるのかという問題と関連するというように私は受け止め,そう申し上げたわけです。   一方,完成間際型については,もちろん完成間際であっても明確に時効の進行を止めるというよう内容で合意することも考えられるでしょうけれども,そうではなくて,お互いに協議をしましょうという形での合意があれば,それに基づいて協議がなされている間は時効が完成せず,更にその協議が終了した後,一定の期間は権利行使の期間として債権者に保障される,という形での完成停止の制度を導入するべきだとの主張として捉えていました。   そうすると,ここで言うところの合意の内容が,両者で異なるようにも聞こえるのですが,いかがでしょうか。 ○松岡分科会長 自ずから少しずれていて,両者の合意内容は違うのではないでしょうか。 ○山野目幹事 鹿野幹事のおっしゃるとおりですが,それはあり得ると考えます。それが,ですから,信義則・禁反言構成と,明確に時効の満了延期をする合意との中間にある,実質交渉要件型とでも言いますか,それはあり得ると考えますし,中井委員は,先ほど後悔したとおっしゃった発言以降,そちらに近付いてきていると思います。   ただし,そうすると,その実質交渉というものは,もう少し規範で書けるように,かつ,裁判上の立証に堪え得るような輪郭のものでなければいけないのですが,そこがまだ少し分からないような気がするというのが率直な感想です。 ○中井委員 御批判の中身はよく理解しました。 ○松岡分科会長 もう少し議論を整理して重ねる必要があるのは,明らかになったと思います。さらに具体的な案として御提示いただいて議論することになるかもしれません。   それでは,残り少しの時間の中で,(5)の「その他」のイとウにつきまして御説明を賜ればと思います。よろしくお願いします。 ○亀井関係官 部会資料31の31ページのイについては,部会では賛成の意見が示されました。   それに対して,現在の民法155条との関係で,保証人に対する保証債務履行請求を主債務者との関係での時効の更新事由とすることまでは,実務的に必ずしも必要でないという御意見があり,また,理論的にも慎重な検討が必要であるとの御意見が示されました。   以上の御議論を踏まえて,分科会で審議することとされております。   ウについては,34回会議では特に御意見がございませんでした。分科会で補充的な審議をするということとされております。 ○松岡分科会長 それでは,今のイとウにつきまして御議論を賜ればと思います。よろしくお願いします。 ○高須幹事 部会で申し上げたことの,口火ですから繰り返しになるわけですけれども,イのところには二つのことが実は書かれていて,保証債務の履行請求のために訴えを提起すると,この場合に主たる債務者に対する訴え提起を要せずして済ますことができないかという問題と,それから,抵当権の実行等の競売の申立てをした場合にどうかという問題と,二つが並列的に書かれていて,是か非かと,こう書かれておるわけですが。   その後ろの競売の手続の申立てをしたときに,別途,訴訟まで起こさねばならないかとなると,これは確かに,訴訟を起こすことの負担等を考えれば,そこまでのことを求めなければならないのかは疑問の余地があると。それと,何より現行の155条で,そのときは通知をすれば,知らないところで中断にならないように,通知は要りますよという前提は付した上ですけれども,その種の措置が図られておると。   したがって,そこに関しては,今回の改正でも当然それを生かしてもいいのではないかと思うのですが,もう一つのほうの新たな提案になる部分ですが,保証債務の履行請求だけ裁判起こしたときに,それを主たる債務者に通知すれば,主たる債務者に対する時効も止まるというのは,一つの考えではもちろんありますけれども,あえてそこまでせねばならないのかどうか。通知だけで時効が中断されるんだという不利益を考えますと,やはり主たる債務者にも訴訟を起こして,是か非か,そこで争う余地は与えるべきではないか。訴訟を起こすという問題に関していえば,保証人に対しては,裁判を起こすのであれば共同訴訟で起こせばいいわけですから,別途,物すごく負担が掛かるというわけではないわけですので,その新たな訴訟提起の部分に関しては,それほどのものを認める実益はないのではないか。主たる債務者側の利益を考えれば,むしろ認めないということでいいのではないかというのが,私の意見でもありますし,弁護士会も基本的にはそういう意見だったというふうに申し上げられると思います。 ○山本幹事 私も部会で発言したのではないかと思いますけれども,今,基本的には高須幹事と同じような意見で,私は,先ほど申し上げましたが,この時効の更新とか進行停止という,その債務者の側が争えるかどうかというところが一つの要素になるかなと思っていまして,担保権実行のほうは,債務者に対して通知が行けば,直接その担保権実行債務者は攻撃できるのではないかと。その被担保債権がなければ,執行異議なりの申立てをして,争えるのではないかと思うんですけれども。   この訴訟のほうは,訴えは保証人だけが被告にされていますので,債務者は通知を受けても,直ちにはその手続で争うことはできなくて,自ら補助参加なり保証人に,補助参加なりをして争うということになるんだろうと思うんですけれども,そういう形で,参加という訴訟行為をしなければいけないと。かつ,補助参加をしても,最終的に債権者・債務者間でその債権の存否は確定されるわけではないわけなので,せいぜい参加的効力は発生するだけですから,債権者・債務者間で最終的に,その債権,確定してもらえる地位は債務者には与えられないような感じがしていて,随分債務者の地位というのは違うような感じがするので,その場合にまで,なお時効中断を認める必要があるのかなという,そういう疑問でした。 ○高須幹事 あとはもう付加的なというか,細かな点ですが,確か山野目先生から部会で御指摘があったとは思うんですが,仮に155条的な部分は残すとした場合に,イで書かれているのですと,「債権者や保証人らから債務者に対して通知されたときは」と書いてあって,誰が通知するかということに多少のこだわりを残しているように見えるんですが,現在の執行実務では,競売開始決定が送達されれば,それをもってこの155条の通知と見なすと。誰が送ったかではなくて,認識できたかどうかがポイントだという理解になっておりますから,今回そこを変える必要はないんだろうと。そこを変えるかのような表現は避けたほうがいいだろうと,このように思います。 ○筒井幹事 そうすると,本日の議論の大勢は,基本的には現状維持ということですね。   部会の場では,経済界の立場から,結果が好ましいという趣旨にとどまる御発言であったかもしれませんけれども,賛成意見があったと思いますが。更に補充的な議論をしてみると,問題があるのではないか,現状維持でよいのではないかという意見が,この分科会では大勢であったというまとめになりましょうか。 ○高須幹事 この場に佐成委員がいませんので,そう言ってしまっていいかどうか。ただ,佐成委員の御趣旨を善解すると,やはり訴訟リスクを,余計なリスクを負わされるのは経済界としても負担が大きいということだから,その訴訟リスクの負担が実質的にどの程度のものであるかを検討の上で,現状で,ある程度のリスクは,高いものではないとなれば,それでいいのではないかと思っております。 ○松岡分科会長 今の訴訟リスクとは,何のことを言っておられますか。 ○高須幹事 すみません,リスクではありませんね。訴訟,そのコストですね。失礼しました。競売だけしていればいいのに,別途,時効中断のためだけに訴訟を起こさねばならないコストを考えたいというような御趣旨であったと。すみません,訂正でございます。 ○松岡分科会長 イの点について,どなたか,その提案に賛成という御意見はございませんでしょうか。   時間も大分迫っておりますので,ウの点についてはいかがでしょうか。これは特に第34回会議ではどなたからも御意見はなくて,分科会で一応補充的な審議をするということにはされております。 ○道垣内幹事 削除するのは結構なのですが,今回の民法の改正において重要なことの一つは,裏から書かないということなのだと思うのです。そのような観点から考えますと,その担保する債権と同時でなければ時効によって消滅しない,というのは裏からなのですね。表から書くと,担保とする債権と同時に時効によって消滅するということなのかなという気がいたします。 ○松岡分科会長 積極的に書き換えるという意味ですね。 ○道垣内幹事 そうそう。 ○松岡分科会長 ところで,諮問事項との関係では,396条というのはどうなるのでしょうか。私は,その点を気にしていまして,消滅時効には関係はしますけれども,物権の話と言えばそうですよね。 ○道垣内幹事 条文のタイトルも直していただければと。これ,抵当権の消滅時効の条文ではないですから。 ○筒井幹事 「消滅時効と抵当権」ならよかったですか。 ○道垣内幹事 それは何か散文的ですけれども。 ○筒井幹事 諮問事項との関係での説明ぶりは整理しておく必要があるのですが,差し当たり,関連論点として整備的に改正した方がよいと考えられるものを表に出して議論して頂くのは決して悪いことではないと思いますので,そういう観点から,遠慮なく御発言いただければよいのではないかと思います。 ○潮見幹事 396条の規定を改正して,しかも道垣内幹事がおっしゃったように積極的に書くということであるのならば,別にこれは抵当権に限ったことではありませんので,留置権のところに規定を置いて,準用という形で処理してもよいのではないですか。 ○松岡分科会長 だんだん諮問事項からは遠くなっていく感じがします。 ○潮見幹事 怒られそうですけれども。 ○道垣内幹事 そうか,抵当権は時効によって消滅しないという条文だから,そう書くのですね。はい,分かりました。積極的に書くという発言はよくなかったかもしれません。 ○松岡分科会長 撤回ですか。 ○道垣内幹事 まあ,撤回です,はい。そうすると,抵当権は消滅時効に掛からないというだけですよね。 ○松岡分科会長 それ自身は消滅時効にはかからないということですね。しかし,それは抵当権の話,あるいは,潮見幹事がおっしゃるように,担保権全体の話ですかね。   余り反対はないのかもしれませんが,最後は,実質的にそこまで改正の内容に入れるかどうかが問題になります。   そのほかの点はいかがでしょうか。もう予定した時刻は過ぎております。一部積み残しになっているのは覚悟した通りです。取りあえずここまでのところで,御議論の漏れているところがあれば,ここで御発言をしていただいておくとよろしいと思います。 ○岡委員 今,積み残しとおっしゃいましたが,次の分科会でやるんですか。 ○松岡分科会長 いや,私もその点は確かでありません。そうなるのだろうと想定してはいたのですが。 ○筒井幹事 はい,私は当然そういうことになると理解しておりました。本日の検討対象とされた事項は,第2分科会に割り振られておりますので,それについて議論が終わらなければ,第2分科会が開かれる次の機会に議論を続行することになろうかと思います。また,それまでの間に,更に第2分科会に配点された事項についても,併せて議論していただくことになろうかと思います。   この発言の機会に付け加えますと,本日の議論の途中で,時効の更新事由について,更に事務当局で何がしかの整理をすることが可能かどうかが話題となりましたが,それをどなたか分科会メンバーの方で用意していただくことを決して否定したわけではありません。いずれにしても,たまたま時効についての第2分科会における検討が続行となっておりますので,次回に向けて準備をお願いするかどうかを考えてみたいと思います。   それから,先ほどの交渉・協議による時効障害のところで,幾つかいろいろなイメージの意見が出されたところですが,この点について更に御自身の提案のイメージが固まりましたら,是非それを御提案いただいて,更に協議をすることも考えられるのではないかと思いました。そのようなことも,本日の分科会のメンバーの皆様にお考えいただければと思いました。 ○松岡分科会長 では,今の御発言のとおり,本日積み残しになった議題については,次回,冒頭になるのでしょうか,そこで引き続き審議することといたします。   ほかに御意見はございませんでしょうか。 ○内田委員 交渉・協議の具体的な規定のイメージについては,こういうことを申し上げていいのかどうか分かりませんが,中井先生に,そのお考えに沿った形で書くとどうなるというようなのを御検討いただくわけにはまいりませんか。正式なオブリゲーションということでなくても結構ですけれども。 ○中井委員 大阪弁護士会がとりあえず作ってきたものを読み上げてよろしいでしょうか。   債権者と債務者との間で債権に関する交渉又は協議が開始されたときは--これだけなんですね--次のいずれかのときから6か月を経過するまでの間は,時効は完成しない。   ア,債務者が債権者に対して交渉又は協議の続行を拒絶する旨を書面で通知したとき。   イ,最後の交渉又は協議のときから3か月が経過したとき。   ですから,後のほうはともかくとすれば,要件のところは単に「債権者と債務者との間で債権に関する交渉又は協議が開始されたときは」だけです。これが第一案で,イメージは,そういう事実としての交渉・協議があれば足りるというのが基本です。 ○松岡分科会長 そうですね。交渉又は協議の終わりをできればはっきりさせたいが,はっきりしなければ期間で決めたい,という御趣旨ですね。 ○中井委員 終わりだけが具体的に,書面での通知,それがなければ,最後の交渉から3か月経過したときと,そういう案です。 ○岡委員 でも,文言について若い弁護士が調べたら,「協議」という言葉は民法に結構ほうぼうにあって,「交渉」はないんだけれども,「協議」だったらいけるのではないかという話もありました。 ○道垣内幹事 それは,「親族法・相続法における「協議」について」という鈴木禄彌先生の論文があって,ほとんど条文の文言としては意味を持っていないとされていたのではないかと記憶しています。 ○松岡分科会長 それでは,どうさせていただいたらよろしいのでしょうか。公式な議事録には載せるなとおっしゃいましたので。   もうちょっとたたいていただいてお出しいただけますか。あるいは,たたいても案は変わらないのでしょうか。 ○中井委員 岡さんも,弁護士会の中で二つの案があるわけですから,別の案をお考えいただいて。 ○松岡分科会長 二つの想定されるものが違う場合に,こういう違うルールとして提案できるのであれば,そういう案を御提示いただくと議論は一層進むと思いますので,是非よろしくお願いいたします。   それでは,今日は進行も不手際で,慣れませんでしたので,相当というほどではないかもしれませんが,小一時間分ぐらいは審議案を残しております。取りあえず次回に続きを行うということで,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等につきまして,事務当局から御説明をいただきます。 ○筒井幹事 この分科会,第2分科会としての次回会議は,来年2月21日,火曜日,午後1時から午後6時まで,場所は法務省20階の第1会議室で予定されております。次回の議題については,そのときまでにこの第2準備会に付託されたテーマと,本日の積み残し分ということになろうかと思います。どうぞよろしくお願いいたします。 ○松岡分科会長 それでは,本日の審議はこれで終了といたします。   本日は熱心な御議論をありがとうございました。また次回,よろしくお願いいたします。 -了-