法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 第14回会議 議事録 第1 日 時  平成27年9月9日(水) 自 午後1時30分                      至 午後4時46分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討 (3) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○小林部会長代理 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会の第14回会議を開会いたします。   本日は山下部会長が所用により遅参されますので,それまでの間,私が部会長代行を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。   さて,本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   初めに,本会議から新たに住友俊介関係官が参加されます。その場でお名前と御所属等の簡単な自己紹介をお願いいたします。 ○住友関係官 民事局付の住友でございます。今までは債権法のグループにいたのですが,9月から商事グループに異動してまいりました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○小林部会長代理 本日は岡田幸人幹事,野村栄悟関係官が御欠席です。   では,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からよろしくお願いいたします。 ○松井(信)幹事 お手元の資料について御確認いただきたいと思います。事前送付といたしまして,部会資料16,「商法等の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(3)」と,参考資料32の東京高裁の判決がございます。   皆様よろしいでしょうか。 ○小林部会長代理 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,部会資料16について御審議いただく予定でございます。   具体的には,休憩までに,部会資料16のうち第1から第2の「7 運送品の供託及び競売」までを御審議いただき,午後3時20分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定しています。その後,部会資料16の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,審議に入りたいと思います。   まず,部会資料16の「第1 総則」,「第2 物品運送についての総則的規律」のうち「1 総論」,「2 物品運送契約」及び「3 荷送人の義務」の「(1)契約に関する事項を記載した書面の交付義務」について御審議いただきたいと思います。   事務当局から説明をしてもらいます。 ○山下関係官 初めに,資料2ページの(前注)に記載いたしましたとおり,この資料では要綱案のたたき台となるべきものを太字で示し,そのうち特に必要と思われる事項につき説明を記載しておりまして,本日の事務当局からの御説明も,必要と思われる範囲でさせていただきます。   また,更なる議論を要すると思われる事項につきましては,ペンディングの【P】と記載した上,その説明の中で修正案を示すなどしました。   なお,中間試案から実質的変更のある事項については,それぞれの太字の下に中間試案を併記しております。   それでは,「第1 総則」について御説明いたします。   陸上運送及び海上運送の規律の適用範囲につきましては,海上運送の特則の内容,特に堪航能力担保義務及び免責特約の禁止の規律の在り方を踏まえて検討する必要がございます。   これに関連して,定期傭船における堪航能力担保義務と内航の航海傭船における堪航能力担保義務に関して,免責特約を禁止するかどうかにつきましては,10月の次回会議において御議論いただく予定でございますので,この総則の論点につきましては,その議論を踏まえた上で改めて検討することとしております。   次に,第2の3の「(1)契約に関する事項を記載した書面の交付義務」につきまして,本文アの書面の作成年月日は,そもそも契約当事者において重要な契約の成立年月日とは異なるものである上,荷受人における運送品との照合作業等に際しても必ずしも重要ではなく,加えて,電子メールによる場合にその作成日を電子メールの本文中に記録することはまれであることなどを踏まえますと,商法上の必要的記載事項として,作成年月日の記載を一律に義務付けることは適当でないと考えられます。   以上を踏まえまして,資料2ページの「第1 総則」から資料3ページの「第2 物品運送についての総則的規律」,「3 荷送人の義務」の「(1)契約に関する事項を記載した書面の交付義務」までにつきまして,御審議いただきたく存じます。 ○小林部会長代理 ただいま説明のありました点につきまして,御自由に御発言ください。   いかがでしょうか。 ○山口委員 先ほどの,運送人の請求があったときは次に掲げる事項を記載した書面を荷送人が交付するというところですけれども,前回もそうなのですが,作成年月日については入れないという方向性での提案が出ておるのですが,その理由付けのところで,電磁的方法で出された場合に,電子メールに関しても日付を入れないというふうなことが例として挙げられておりますが,運送状に,通常の運送状からいきますと必ず日付を入れる欄があるわけで,現在,実務的にもその通常の陸上運送の運送状の中には入っているものを,わざわざ抜くという理由がないと思うわけです。   電子メールなどの電磁的方法による提供がそれに付け加えられたから,電子メールの場合には日付を必ず入れるものでもないということなのですが,要件として入れておけば,実務的に入れていけば済む話であるし,電磁的方法においても打ち込むような形にするのであれば,例えばホームページとかに入れて打ち込むような形にするのであれば,日付を入れる欄を用意しておけば,荷送人が簡単に入れられるようなものですので,あえて抜くような理由がないのではないかと,やはり考える次第であります。   それから,これは質問なのですけれども,陸上運送と海上運送の総則の定義規定の所ですけれども,これはペンディングで,まだこれから考えるというところですね,【P】の所は。 ○山下関係官 【P】につきましては,そのとおりです。 ○山口委員 分かりました。 ○小林部会長代理 ほかに御意見等ありますでしょうか。 ○藤田幹事 今,山口委員から出た意見だけですと,この場で出た意見というのは日付を入れるべきであるという意見だけだということになりますので,一言申し上げます。特に私は申し上げるつもりはなかったのですけれども,バランス上,やはりこの日付は,理屈からいくとおかしいと思います。   実務で要求して日付を入れてもらうのは,何も私は問題あるとは思いませんし,それは自由にやっていただければと思いますけれども,ここで挙がっているものの性格というのは,結局,運送契約はもう既に成立しており,成立している運送契約に基づいて何らかの情報を,運送人がその運送契約の履行のために必要と思われる情報を要求するわけですけれども,そういったものとして,契約書にもちろん書けばそれは要求できるのは当たり前ですけれども,書かなくても当然に要求できる事項として,運送契約の履行に必要な幾つかの情報というのを挙げていく,これがここのリストなのだと思います。   その中に,日付というのは何の日付か分かりませんが,その情報を送ったときの日付というのが,そういうふうな種類の情報として列挙されるものとしてふさわしいかというと,やはりちょっと性格が違うと思います。どの時点での情報かというのを明らかにさせるといったものは,ここで要求するようなリストとはやはり明らかに性格が違うものですから,それはここに並べるのは必ずしも適切ではないと思います。   その上,実務的に,しかしこれはいつの時点のものとしてその人が送ったということをはっきりさせたいというニーズがあるというのであれば,もちろんそういうふうなことも含めて運送人の側で書かせるような欄を,例えば電磁的に入力する所に設けるなどして,工夫をしていただければとは思います。 ○小林部会長代理 今,二つ意見が出されたわけですが,ほかにどなたか御意見ありますでしょうか。 ○山口委員 藤田先生に質問なのですけれども,船荷証券については先生はどのようにお考えですか。作成日を入れるかどうかという問題。 ○藤田幹事 船荷証券などについては,それ自身が一定の法的効果を当然に与えられるものとして作られている証券ですから,それが入るというのは,どういう効果と結び付くかという厳密な議論はともかく,それほど違和感は持っていないのですが,これは飽くまで契約に基づいて情報を提供する,その情報が列挙されているということで,そういう情報として,何かその作成日というのが独自の意味があるのかという観点から,非常に違和感を持つということです。 ○小林部会長代理 よろしいでしょうか。 ○山口委員 そうすると,考えられている,今改正の議論になっている中では海上運送状があるのですけれども,これについては,この運送状と同じように作成日は必要ないというお考えですか。 ○藤田幹事 海上運送状についても,もしその記載に何らかの効果を考えるのであれば,例えば,受け取った時点というものが受け取った証拠として価値がある書面であれば,受け取って,作成した日付というのが意味を持ち得る可能性はあるのです。ここでの書面とは全然性格の違う,運送人が自分が何かをした証拠として出す書面としては,作成日というのは意味があるかもしれません。それは,別途検討するということだと思います。   これは要するに,運送契約に基づく情報提供義務のようなものを書面あるいは電磁的な方法でやれというふうな規定だと思いますので,そういったときに何か論理的に特定の意味を持たない作成日なるものが含まれることの違和感で,これは海上運送状だとか船荷証券とは,ちょっと違ったものだと思います。 ○山口委員 私はそこはちょっと違う考えで,情報提供義務とはおっしゃっていますけれども,やはり契約内容を示すものでありますので,通常の契約書とさほど差がないだろうと思っておりますので,日付は入れるべきではないかと。海上運送状と船荷証券と本件の運送状,陸上とは限りませんけれど運送状とで,差を設けるべきではないのではないかという考えではおります。 ○遠藤委員 航空運送状は,ここの運送状の規定に該当すると思うのですけれども,航空運送状も作成年月日がなくてよろしいのでしょうか。菅原委員にお尋ねしたいと思います。 ○菅原委員 航空運送状につきましては,国内の場合,運送約款に作成年月日の明記が規定されております。これに対して,国際の場合,モントリオール条約5条で要求する記載事項には作成年月日がありません。この点,IATA統一様式では,運送契約締結の期日を記載するような仕様になっております。遠藤委員からの御質問についてですが,仮に作成年月日の記載が法定されなかったとしても,実務的に特段の支障はないものと考えます。   それから,山口先生,藤田先生のお話を伺っておりますと,お考えの立場の違いだと思いますが,運送状の記載事項として作成年月日を法的に義務付けなければいけないかという点について,個人的には,特に義務付けまでは必要ないのではないかと思う次第です。 ○小林部会長代理 よろしいでしょうか。ほかに御意見等ありますでしょうか。 ○松井(信)幹事 先ほど御指摘のあった,海上運送状とこちらの運送状の違いでございますが,海上運送状は,商法の中では,今検討中の案によると比較的効果が少ないものとなっておりますが,実務上は当然にCMI統一規則を利用するということも見込んでいるものでございまして,それを念頭に置いて考える必要があろうと思っております。   それに対して,商法570条の運送状は,そのような効力がないというものでございますので,その中で,どこまで法律で規定をするのかという観点から,このような太字の案になっているところでございます。   実務上,もちろん必要な場合に署名を求めたり,様々な記載事項を求めたりするというのは十分あり得ると思いますけれども,法律でどこまで書くかというのは,できるだけ必要最小限にしたいと考えておりまして,この点につき御理解いただければと思っているところです。 ○小林部会長代理 それでは,よろしいでしょうか。   (1)につきましては,これで終わらせていただいて,それでは,次に「(2)危険物に関する通知義務」について,御審議いただきたいと思います。事務当局から説明をしてもらいます。 ○山下関係官 御説明いたします。   まず,本文アにつきまして,パブリック・コメントの結果では,中間試案に賛成する意見がほとんどでございましたが,継続的な取引などの場合に,運送の委託の都度に運送人に対する通知を義務付けることは非効率的である,不合理であるとして,本文アに「ただし,危険物であることを運送人が知っている場合を除く。」などと加えるべきであるとの御意見がございました。   この点につきましては,継続的な取引をする運送契約の当事者間において,包括的な通知で足り,運送の委託のたびに詳細な通知を要しない旨の特約をすることもでき,このような特約を意識的に実践することが事故の防止に資するものとも考えられることから,部会では,運送人の主観的事情にかかわらず荷送人に通知義務を課す方向で検討がされてきましたが,これを見直す必要はございますでしょうか。   次に,本文イにつきまして,これまでの部会では,資料4ページから6ページまでに記載いたしましたとおり,様々な御意見を基に審議が行われてきましたが,甲案と乙案の採否を決するに当たっては,なお,危険物に関する通知義務違反が具体的にどのような事情から生じているのか,その事情の下における価値判断として,荷送人に賠償責任を負わせることが実質的に相当かどうか,更には,甲案又は乙案を採用した場合に予測される将来の社会の在り方への影響等についても,併せて検討しておく必要があると思われます。   そこで,資料7ページのアのとおり,「危険物に関する通知義務違反が生ずることとなる事情」として,例えば,①製造業者の作成した安全データシートの記載により,危険物に該当しないとの判断がされていた場合,②製造業者・商社・利用運送事業者という一連の契約関係の途中で,関係者のミスにより,危険物であるとの情報が伝達されなくなった場合,③事業者である実荷主が封印したコンテナの中に,当初から危険物が故意に隠蔽されていた場合,④消費者が梱包した貨物の中に,当初から危険物が混在していた場合などが想定されますが,実務上の具体例や実務の在り方などを広く御紹介いただければと存じます。   また,例えば参考資料32の東京高裁平成25年2月28日判決は,製造業者の作成したSDSの国連分類欄及び国連番号欄などが空白であった事案に関し,実運送人から不法行為に基づく損害賠償請求を受けた商社について,海上運送の荷送人には公法上の危険物分類義務が課せられていることを前提に,「製造業者に危険性評価試験の実施の有無及びその結果を確認し,これが実施されていなかったとすれば,その実施を指示するか又は自ら試験機関に委託して実施させ,その結果に基づいて危険物該当性の有無を分類すべき注意義務があった」などとして,過失が認められる旨を判示していますが,このような価値判断について,皆様の御意見をお伺いできればと存じます。   また,この事案では問題とされていませんが,一般にこのような場合の利用運送事業者の責任や,実務上,封印されたコンテナの中身が運送の過程で実際に確認されることはないようでございますが,資料7ページの③のようにコンテナ内に危険物があったがこれが隠蔽されていた場合における利用運送事業者の責任については,どのように考えるべきでしょうか。   さらに,制度改正による影響につきまして,仮に過失推定責任である甲案が採用された場合であっても,これは任意規定であり,これと異なる内容を定める運送約款は,現在と同様に特約としての機能を果たすものと考えられます。過失推定責任の枠組みにおきましても,実務上は東京高裁の判決でも見られますように,荷送人が無過失を認められるには相当の立証を要するものと考えられます。   他方で,仮に無過失責任である乙案が採用され,標準運送約款でも,これと異なる特約を設けない場合においては,危険物を取り扱う実荷主及び利用運送事業者に対して適当な賠償責任保険が用意されるか,実際にそのような保険への加入が進むかどうかについては明らかではなく,特に消費者が荷送人となる場合については,そのような保険制度の確立及びその加入に関し,相当な困難を伴うことが予想されます。   また,利用運送事業者が無過失責任の危険を避けるため,運送契約の当事者ではなく,実荷主の媒介人などの立場を選択する場合には,現在の利用運送によるボリューム・ディスカウントが得られず,運送賃相場が上昇することが見込まれるとの御指摘もあるようでございます。   このような事情を踏まえて,荷送人が危険物に関する通知義務に違反した場合の責任の在り方について,実務の御紹介や御意見などを頂戴いたしたく存じます。 ○小林部会長代理 ただいま説明のありました点につきまして,御自由に御発言いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○柄委員 商工会議所としましては,今までも危険物については,いろいろな意見を述べさせてもらいましたし,パブリック・コメントにも記載させていただきました。その繰り返しでもあるのですが,運送人や旅客,また航空運送における地上の第三者,これらの安全を図るというのは当然必要だと思いますし,私たちも全くこれには異論ございません。   しかし,この資料にありますように,通知義務違反については,様々なケースが考えられると思います。例えば,前から申していましたように,その荷物が,本当に危険物なのかどうか,つまり何が危険物なのかというのがまだ明確にされておりません。また,安全データシートの記載ミスもありうるなど,様々なケースが考えられます。   一方では,荷主についても,この資料の説明にもありますように,様々な荷主がいると思います。本当に中身を熟知している荷主もいますし,そうでない単なる取次業者,あるいはここにもありますように一般の消費者がいます。このようなことを考えますと,通知義務違反を一律的,画一的に無過失責任にするというのは,やはりかなり無理があるのではないかと私たちは思っております。   したがいまして,運送における安全確保というのは当然明文化する必要はございますけれども,一方では通知義務違反の責任の在り方については,この資料にもございますように,様々な,また個々の事情に応じて弾力的に図っていくというような過失責任,これを是非ともお願いしたいと思っております。 ○小林部会長代理 今,荷主側の方の委員から御発言があったのですが,できれば実務的にどういうようなことで実際にこういう危険物が処理されているのかという具体的な状況を,お知らせいただければと思うのですが,今,荷主側の方からの発言ですので,できたら運送人の側の方からの御発言があれば大変有り難いのですが。 ○池山委員 池山でございます。今お話のあった具体的にどういう事情があるかという点については,この7ページで①から④までという形で分類されていますけれども,これはよく考えてみるとかなり論理的に整理されていて,基本的な起こり方はこれらのパターンがほとんどであるという理解でいいのではないかなと,個人的には思っています。   それから,過失推定か無過失かという点については,実運送業者の立場としては,やはり無過失責任でお願いしたいということは現時点でも変わっておりませんが,先ほどの御発言で一つコメントを付け加えさせていただくとしたら,荷送人といってもいろいろな荷送人がいるということについては,実運送業者の立場からすると,消費者を別にすれば,やはりそういう取扱いはおかしいのではないかなと思っています。   ちょっとこれはこなれていない表現かもしれませんけれども,危険物であるということの通知義務の前提として,その荷送人の側の方は,危険物であるかどうかを,言ってみれば確認するという義務があるわけですよね。そこで契約が連鎖している場合というのは,その運送人の側から見ると,自分が直面している荷送人が,まず,その危険物であるかどうかを確認し,そして通知をしてほしいと,荷送人の属性というのは本来関係ないはずだというのが基本的な考え方で,実は自分たちは商社ですとか利用運送業者で専門家ではありませんといっても,言ってみれば,これは履行補助者的な立場として,その先の製造業者なり,実荷主の方がいらっしゃるのではないかなと思っています。   ちょっとくどくなったかもしれませんけれども,端的に言うと,やはり荷送人であるからには,荷送人としての役割を果たしていただきたいというのが実運送人の立場です。 ○端山委員 荷送人の立場がそうそう変わるべきではなくて,責任として,荷送人である限りはそれなりの注意義務があるというのは,十分分かるところです。ただ,現実的な商売の実務として,例えばですけれども,コンテナというのは当然ながら,中に何が入っているかはきちんと中に入れる最初の人間がエントリーして,それを途中の商社さん,若しくはフォワーダーも含めてですけれども,利用運送人なりが実運送人と契約をしてコンテナで運ぶといった場合に,では,その全てを荷送人の立場として確認すべきだということであれば,その実荷主がどう申告しようと,全てのコンテナを自ら何らかの検査機関,若しくは自らが検査して,これは間違いないということをやらない限りは現実的に無理だと思うのです。   ただし,飽くまでも補助的な立場だからという主張は当たらなくて,当然,極めて荷送人としての当事者としての意識はあるし,相当の注意義務を果たさねばならないのですけれども,実荷主と,先ほどの言っていたコンテナみたいな話になると違ってくるということからすると,いろいろな事象の流れの中で,やはり,まずはそれがどういうことになるのかという,過失推定と言いながらも中身を検証して,これは言い逃れできませんよねといって,初めてそこに過失が認定されると。   世の中の裁判事例は,どちらかというと極めて厳しく厳格に運用されているということですし,この裁判事例もありますけれども,空欄があって,そこになかったからと商社が主張してとなっているのですけれども,その前段階で言うと,実は元々その商品は危険物だと申告していたのですけれども,ある日突然それが危険ではないということで,それを信じたのだけれども,その利用運送人は当然ながら,前は危険物だったのが急にそうでなくなったということはおかしいのではないかということを,そこら辺も疑わしいことについて,全てあらゆる手を尽くすというところまでは分かりますけれども,やはり実荷主と全く同じようなことはできないし,先ほど言ったように,繰り返しになりますけれども,コンテナその他を全部自分で検査する実力もなければ,その検査をやればそれだけのコストが掛かるということでございますので,一律的に無過失責任というのはやはり無理があるということが1点。   直接の話ではないですけれども,もう一つ私が申し上げたいのは,やはりここで無過失責任を問うのであれば,相当にその中身が分かっていないといかんと。つまり,個別具体的にこういう危険物だという具体的な提示があって,初めてそれに対してどう対応するかと。しかしながら,今回の商法のこの一般規定の中において,どこまでその危険物というのが特定できるのかということを考えても,それを特定しないということになれば,やはり,そこが明確にならない,規定しないまま無過失責任であるということにするには,いささか無理があるし,仮にそれが無過失でなくて過失推定主義で裁判になったとしても,現実的な判断としては限りなく無過失責任に近いような判断があるという事象も考えれば,ぎりぎりのところで救済されるべきものを除いて,やはり責任はあるということになるわけで,そういういろいろなことを総合的に勘案すれば,やはり一律的に無過失責任にするというのは無理があるのではないかと思います。 ○池山委員 今の御指摘の中で1点だけ,最初に私が申し上げた点に関係するところについてコメントさせていただくと,正にそのフォワーダーとか商社の場合は自分で梱包したわけではないと。だから,無過失責任を負うと,全部開けてみなければいけなくなるという御指摘があったのですけれども,実運送人側が無過失責任を求める趣旨というのは,全部開けてくださいということを申し上げているのではないと私は理解しているのです。実運送人側からすると,梱包をした,コンテナの中に詰めたのは飽くまで荷主であって,その直接の荷送人さんが詰めていなくても,言わばその先の方々が履行補助者として確認して詰めたはずではないですかと。そこを申し上げたかったのですけれども。 ○山口委員 誰が責任を負うのかというところなのですけれども,実務的にいいますと,利用運送業者がその危険物の申告をするのではなくて,実際問題としては,実運送人がコンテナに詰めたものを,利用運送事業者がその危険物の申告を受ければ,その書面をそのまま実運送人に渡すか,あるいは危険物であるという通知は実荷主から実運送人に直接いったりしますので,そこの中で利用運送事業者が関与することはほとんどないわけであります。   この判例によります危険物分類義務というのは,やはりその物に対してアクセスできるということが前提でありますので,アクセスできる方ができるだけやって,責任を負うべきときは負うものだろうと思うのですが,そこで過失責任かどうかということになりますと,やはり無過失責任を一律に荷送人と名を挙げた人に負わせるというのは過酷にすぎるだろうと,やはりそこに一定の帰責事由が必要ではないかと思うわけであります。   帰責事由は,先ほど端山委員からの御指摘があるとおり,今の東京高裁の判例からいいますと,かなり強い義務を実荷主に課しているわけで,そういう運用が行われているのであれば,推定された過失責任で十分であろうと思うわけであります。   今回の海商法の改正議論の中でも,堪航能力担保義務について無過失責任から過失責任にしようという話が出たように,やはり基本的には帰責事由があることが前提で責任を負うわけで,もし危険物について荷送人にも過失責任を問うというのであれば,当然,逆に言うと海上運送人は堪航能力について無過失責任を負うべきだと思います。そういう議論に当然なってしかるべきだと,それがバランスがとれた議論であろうと思います。   ですから,堪航能力担保義務について,やはりその無過失責任が過酷であるということで過失責任に落とすのであれば,それと同様に,この危険物については荷送人が負うべき責任というのは,やはり推定された過失責任が限度であろうと私は考えます。 ○道垣内委員 過失責任にすべきなのか,無過失責任にすべきなのかということについては定見がないのですけれども,そのような議論をしてどちらかに決めるというときに,運送品の引渡し前に通知しなければならないという時的な要素が加わっていることには,どのような意味があるのかというのが私にはよく分からないです。   と申しますのは,例えば,危険品であると言われれば断るかもしれない,あるいは,その運送賃を高くするかもしれないというのであるならば,契約時に申し出なければならないという話になると思いますし,そうではなくても,仮に過失責任であり,分かったならば申し出ろ,また,分かるように努力しろというのであれば,引渡し後に分かったとしてもすぐに言わなければいけないと思うのですね。   そうすると,「引渡しの前に」と書かれているのは,理論的にはどのような位置付けになっているのだろうかというのがちょっと分からないのですが,これはなぜなのでしょうか。 ○山下関係官 この荷送人の通知義務というのを設けた趣旨は,荷送人が運送品が危険物であることを通知すれば,運送人としてはその通知を受けて,これは危険物なのだからと,また,その荷送人が危険物を安全に運送することに必要な情報も提供しないといけないということになりますので,それを運送人は荷物の引渡し前に通知を受けることで,この危険物についてはこのように運ぶことで安全に運べるなということを認識できると,このような趣旨から運送品の引渡し前に情報を通知しなければいけないということにしております。 ○道垣内委員 全然,私は回答を頂いたように思えないのですけれども,仮にこれが無過失責任であるとしますと,これは引渡し前に情報を提供しなければいけないところ,その時点で危険物であるならば無過失で責任を負うのというのが,このルールであり,その後分かった場合にどのような情報を提供するかというのは,この条文とは別な問題であるというのであれば,よく分かります。   しかしながら,これを全体として過失責任の条文であるとしてイの所で作るとするならば,引渡し後であっても,危険物であることが分かれば申し出なければならないはずであって,引渡しまでの段階では分からなかったけれども,引渡し後に分かったということならば,運送人が適切な措置が講じられるようにするという運送契約上の債務の不履行が荷送人にあり,かつ,帰責事由があるわけであって,アの「引渡し前に」というのがどういう意味を持つのかが私にはよく分からない。それと,もう一つ,今日はイの所は議論するが,アはこれでまあいいよねとなることもありうるような気がしますが,アのところに,「ただし,危険物であることを運送人が知っている場合を除く」といった文言を付け加えるか,付け加えないかという話は,実はイの効果がどうなるかということを決めない前に決まるわけはないと思います。   全体として,一般的に運送契約において荷送人が負っている目的物に関しての情報提供義務というものをどう考えるのかということの議論なしに,この問題は議論できないのではないかと思うのですが。 ○松井(信)幹事 今,先生がおっしゃった,引渡し後に危険だと気付いた場合については,このアの債務不履行の状態がそのまま続いているということで,この中で読み込めると思っております。   すなわち,客観的に危険物が運送契約の対象であれば,引渡しの前に伝えなければいけない。その債務不履行があるとすると,引渡し後に危険物と気付いたとしても,先ほどの引渡し前にすべき通知義務違反の状態がずっと続くことになり,債務不履行が継続することとなります。ですから,引渡しの前に,相手方に伝えなければいけないということでよいのではないでしょうか。 ○道垣内委員 しつこくて申し訳ありませんが,仮にイの所で過失を要求しないとなると,今の松井さんの御説明は非常によく分かります。   しかしながら,私が問題にしているのは,運送品の引渡し前の状態においては,例えば十分に調べることができなかったことに無理はなく,危険物であるということは分からなかったが,その後に分かったというときに,それは引渡し前の状態に既に債務不履行があったと判断をすること自体が,実はこのアについての債務不履行については,その危険物であるということが分からなかったことに対しての帰責事由を要求していないという考え方に立っているのではないでしょうか。そうするとイの結論を先取りした回答ではないかという気がいたします。 ○松井(信)幹事 確かに,過失責任主義の下で,アのような考え方に立つと,先生がおっしゃったように,引渡し当時にはやむを得なかったけれども,その後に気付いたという場合の規律が欠けているということになろうかと思います。   ただ,それが社会的な実情としてよくあることなのかどうか,法律にそれを書くべきなのかどうかという判断が,もう一つ入るのだろうと思います。社会的な要請としては,まず第一に,運送品の引渡し前に危険物である旨を伝えるべきであるという価値判断があろうと思いますので,商法ではその典型的な義務をまず規定するということでございます。   先生がおっしゃったようなケースにつきましては,信義則上の契約当事者間の義務としてカバーされるべき問題ではないかと思っております。 ○藤田幹事 松井幹事の説明と基本的に同じだと思うのですけれども,ちょっと言葉も部分的に変え,別の角度から補足できればと思うのですけれども,基本的に運送人が既に物を引渡し,自分が占有するに至っている段階で,危険な状態,危険物であることを知らないでそれを持っているという状態がないようにするというのが基本的にこの通知の趣旨なので,だから引渡し前に必ず渡してください,調べる間がなかったら調べてから渡してという,基本的にはそういう発想に立った条文であって,それと因果関係がある損害は,過失はちょっと置いておきますけれども,賠償の対象だという作りです。   その後に分かった場合どうするかという話は,実はここで,そこの義務について,知っていた場合を除くとか,そういう条文を入れるとまた別なのですが,知っていた場合,つまり事故の起こった段階で運送品が危険な性質だと知っていた場合というのは,この条文の義務とは一応別に考えて,ただし,その場合に運送人が知っていたような場合は過失相殺なり因果関係なりで責任は否定され得るということですので,当然,自分はうっかり引渡し前に通知を忘れたけれども,危険物を通知し忘れたと思えば,責任を負いたくなければ,直ちに通知することでインセンティブは荷送人がなくなるわけではありませんし,また,それをしなければ,その通知時点,その引渡し時点でしなかった債務不履行の状態が残ったままで,治癒ももちろんありませんし,因果関係がないとかいった,そういった抗弁も立ちませんので,当然責任を負うことになるということで,一応このシステムとしては合理的に作られているように思います。   そのことと,過失責任をとったから問題だということは,やはりそれは別に矛盾するわけではなくて,全てその事後の情報の扱い,事後に運送人が知った,あるいは知る機会がなかったうんぬんというのは,責任を,別の理由で,例えば因果関係なり過失相殺の中で阻却する段階で適切に考慮されるものだと思っております。 ○小林部会長代理 いかがでしょうか,ほかに御意見はありますでしょうか。 ○増田幹事 荷主側の実務について,もう少し補足的に御教示いただきたいと思っております。   先ほど東京高裁の事件の例が挙がりましたが,今の現行法,今の国際条約の体制を見ますと,条約上は,ヘーグ・ルール,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズの解釈としては,荷送人が厳格責任を負っているという理解が恐らくは一般的なのだろうと思うのですね。そうすると,結局のところはフォワーダーの立場にある方というのは,少なくとも法廷地が日本ではなくて外国であるというケースでは,どちらにしても厳格責任を負わされるというリスクが非常に高いのではないかと思うのですけれども,今の日本の実務では,そういったところは実際上考慮されていないという理解でいいのでしょうか。   山口先生か,荷主業界の方に御教示いただければ幸いです。 ○山口委員 その点なのですけれども,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズ上,厳格責任かどうかについては,やはり国によって判断が違っておりますので,イギリスの最高裁の判例がございますので,旧英法系の国においては厳格責任を問われるだろうと思います。   それから,アメリカについてはセカンドサーキットの事案がございますので,少なくともニューヨーク州等々のセカンドサーキット関係のところにおいては厳格責任が適用されるだろうと思いますが,その他の大陸法の関係の国について,果たして厳格責任がそのまま適用されるかというのはやはり疑問ではあって,やはり通常の過失責任ではないかと我々は考えております。   そういう前提で,責任を問われる可能性があるかどうかという点からいうと,英法系の国で仮に訴訟をやられれば,その責任は負わされる可能性はないとは言えないと思っておるのですが,一方において,利用運送事業者は自国を本拠とするところを裁判管轄地と定めておりますので,例えば英法上であれば国際裁判管轄の合意は有効となっておりますので,それを無視して日本のNVOCCを例にとるならば,全て東京地裁を管轄地としておりますから,たとえ事故が起きたからといって,日本以外のところで訴訟されるということは基本的には余り考えておらず,イギリスで責任を問われるであろうというリスクを大きく考えているわけではありません。   ただ,国際裁判管轄合意が無効とされる国においては起こされる可能性があって,その国が仮に厳格責任をとるのであれば,責任をとらされる可能性が全然ないとは言えないとは思っております。   ただ,前提としては,やはり過失責任を前提に,私どもとしては,日本の少なくともNVOCCとしては,約款構築をして,日本法を前提に考えているというところでございます。 ○増田幹事 ありがとうございました。   実運送業者が発行しているB/Lなどですと,多分,運送人からの荷送人に対する請求は,運送人の主たる営業所所在地の裁判所に専属管轄があるという条項の対象外になっているようなケースもあると思うので,荷送人としてのフォワーダーが外国で訴えられるというケースは,それなりにあり得るのではないかなという気もするのですけれども。 ○山口委員 それは,正にあり得ると思いますし,アメリカなんかは非常に簡単に訴えられますので,それは事実として存在していると思います。 ○増田幹事 あと,恐らく大陸法の国においても,ヘーグ・ルール,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズに関していうと,4条6項の条文は素直に読むと,やはり厳格責任だという判断に傾きやすい文言になっておりまして,だからこそ,多分ドイツも4条6項は無過失責任という理解になっていると思いますので,大陸法の国では過失責任が一般的だという理解は,果たして本当にそうなのかなと,疑いを感じるところです。例えば,中国だとか韓国などでも,確か厳格責任という考え方が採られていたのではないかと思います。   そうなってくると,いずれにしてもフォワーダーに関して言うと,事実上,厳格責任ベースで責任を負わされるかもしれないということを前提にしておかないと,外航に関してはちょっと危ないのかなというような気が致しまして,そういう中で,日本だけ厳格責任でないという立場を採るということに,一体どれほどの意味があるのかというところに,少なくとも外航フォワーダーの立場に関しては,若干疑問を感じているところです。   というのも,フォワーダーの立場からすると,むしろ全面的に厳格責任になっていた方が,恐らく求償しやすいといったメリットもあるのではないかという気もしております。 ○松井(秀)幹事 今のドイツのところだけ,ちょっと確認なのですが,ドイツは過失責任ですよね。今,私が持っているのは過失とありますが,そうではないですか。 ○増田幹事 ヘーグ・ルールズが適用されるところは,無過失です。 ○松井(秀)幹事 なるほど。ただ,ドイツの国の判断としては,商法上は過失責任をとっていて,またそのときの価値判断も影響するのではないですか。 ○増田幹事 ドイツ法に関しては,確か,運送法総則の規律は無過失責任だったと理解しています。海商法の規定は,原則としては過失責任になっています。ただし,ヘーグ・ルールズを適用すべき部分については条約に対応させて無過失責任となっています。 ○松井(秀)幹事 そこはちょっと,ドイツも一律には論じられなくて,かつ,その海商法に関して議論をするとき,先ほど山口先生がおっしゃったように,その運送人とのバランスというような話もしているわけです。   なので,私が思うには,他国はもちろん参考になるのですけれども,日本である意味,利用運送人に一旦責任を全て負わせて,危険物の確認をさせるだけの義務を負わせる必然性がどこにあるのかと,まず前提として確認しなければいけないのかなと。この期に及んで,こんな議論をするのがいいのかどうか分かりませんけれども。   なので,その利用運送人が,危険物に関するその注意を高度に負わなければいけないということを,ここで価値判断としてするというところが,まず議論の対象になるべきで,他国の状況というのは飽くまでも一参考かなというのが,私の個人的な印象です。 ○藤田幹事 多分これは今日結論が出る,あるいは出すべきものではないと理解しておりますので,飽くまで現時点での議論を伺っていた感想だけ申し上げたいと思います。   まず,いろいろな議論があって,これは過失責任にと,無過失責任は厳しいということを言うときに,実荷主を少なくとも念頭に置いた場合には,たとえ能力に限界がある人であれ,自分が持って行った荷物が危なかった,危険であることを認識できなかったことについては,これはやはり責任を問われて当然だというのが,どちらかという多数の意見であるという印象を受けました。   それは,いろいろな能力の方がいらっしゃるのでしょうけれども,消費者はちょっと別かもしれませんけれども,少なくとも自分が持ってきた物について,危ないと自分では思わなかったから通知しなかったという種類の,そういったことというのは基本的には抗弁としては成り立たない,これは過失責任をとったとしても成り立たないのだと思いますけれども,まず,そういう考え方はほぼ多数だったのではないかと思います。   問題は,ですから,実荷主と荷送人が分かれている場合なのですけれども,その場合の無過失責任にしたことの効果についても,決してその,これは池山委員が言われたことなのですが,自分で全部梱包をあけて,あるいはコンテナをあけて見なければいけないというふうなことを念頭に置いて無過失責任にしているわけではなくて,その場合の効果というのは,結果的に,しかし自分が渡した荷物が運送中に何かダメージを与えたとすれば,まずは一旦,運送人に対して契約当事者である持ち込んだ荷送人が取りあえずは全部補償した上で,実荷主に求償してくださいというふうなことにするのか,いや,それとも,過失がなかった以上は,運送人がその実荷主に直接責任を問うべきだ,言うまでもなく実荷主がいけないということは,一番悪いやつだということは異論の余地がないのですけれども,そのルートを一旦は荷送人が負担した上で,荷送人が直接自分が交渉した実荷主の責任を問うというのがいいのか,それとも,直接そもそもどこの誰かも知らないような運送人が訴えるのがいいのかというふうなことで,2段階にすると無駄はもちろんあると言えばあるのかもしれませんけれども,しかし情報の所在などを考えたら,それはそれで分かるルールかもしれません。   直接訴える,過失がなかった以上はどちらも悪くないのだから,訴えるとするとこれは不法行為になりますので,これで,その証拠なんかの所在なんかを考えると,フェアな負担になるかどうかという辺りは考える必要があるかもしれません。   あわせて,過失責任にしてしまうと,過失の部分のところでまた非常に立証が面倒くさくなると言えば面倒くさくなるので,それをむしろ一旦は払わせた上で,直接その危険物について荷主間で争われた方が,あるいは簡単だというふうな考え方も成り立つのかもしれません。   いずれにしても,これは自分でチェックしなければいけなくなる負担が大変だみたいな議論は,やはり実態とはずれている議論ですので,そこら辺は,無過失責任にした場合としない場合というのは,最終的にどこで,どういうところでコストの差が出るかということについて,シナリオはここで非常によく整理されたと思いますけれども,その最終的な負担,これは訴訟の立証の負担なんかも含めて,精密に検討していただいた上で,決断していただければと思います。 ○小林部会長代理 ほかに御意見等はありますでしょうか。 ○遠藤委員 部会資料の中でも取り上げられていますSDSに関して,これは同じく同ページで高裁の判決で議論の焦点となったところでもありますし,実務と大きく関係しておりますので,ここで簡単にSDSの制度について御説明させていただければと思います。   SDS,セーフティデータシート,安全データシートは,化学品の安全な取扱いを確保するために化学品の危険有害性等に関する情報を記載した文書のことです。事業者間で化学品を取引するときまでに,化学品の危険有害性や,適切な取扱い方法に関する情報等を,供給者側から受取側の事業者に伝達するものです。   我が国では,化管法(化学物質排出把握管理促進法(経産省所管)),安衛法(労働安全衛生法),毒劇法(毒物及び劇物取締法(ともに厚生労働省の所管))によって,指定化学物質--約1200強あるのですが--につき,有害性,取扱いや輸送上の留意点など,16項目の情報の提供を法律で義務付けています。また,その中の安衛法では,全ての化学物質についてSDSの提供を努力義務としています。   我々,危険物を判断するに際しては,SDSのデータに基づいて判断をしております。SDSは呼称としてなじみがないのではないかと思うのですけれども,SDSは国内では平成23年度までは一般的にMSDS,マテリアルセーフティデータシートと呼ばれていましたが,現在では国際整合性の観点からGHSと呼ばれる国連文書(「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム」で定義されているSDSに統一されております。   以上のとおり,製造者が作成するSDSは,事業者だけではなく,安衛法のように労働者とか,あるいは事故が起こったときの救急対応者,輸送関係者など,化学品を取り扱う全ての関係者に提供されている書類であります。我々も,先ほど申しましたように,危険物を運送人さんに委託する場合に,危険物明細書というのを提出する義務があるのですが,そのベースになっているのはSDSの第14項の輸送上の留意点を参照して,危険物明細書を作成しています。ですから,全ての化学品を取り扱う関係者の基本になっている文書であるということを御理解いただければと思います。   冒頭に触れました平成25年の高裁判決では,二つの危規則上の危険物について議論されております。そのうちの一つの危険物について,国連分類や国連番号欄及び自己反応性,爆発性欄が空欄になっていたものですが,事情の異なるもう一つの危険物も併せて議論されておりまして,かなり複雑かつ例外的な事例ではないかと思われます。   ですから,空欄だったという一事をもって,一般的に危険物か否かの検証義務,申告義務を製造メーカー以外の荷送人に独自に負担させたとこの高裁判断を位置付けるのは,正しくないのではないかと思います。   また,平成25年の高裁判例自体,荷送人の注意義務に対する過失の有無を議論していますので,その具体的な事例における判断の適否,要は注意義務の水準は別といたしまして,この高裁がこの荷送人の危険物申告義務について無過失責任主義を採用したと判断するのは間違いであって,飽くまで過失責任主義に基づき判断された事案だと思います。 ○小林部会長代理 ありがとうございました。高裁の判決の内容についてもコメントがありました。ほかに御意見ありますでしょうか。 ○鈴木委員 内航関係からお話しさせていただきますけれども,内航の方では危険品専用に輸送する船は別としまして,一般的なフェリーとか,あとRORO船とか一般貨物を運ぶ船があるのですが,基本的に危険品は運ばないというのは原則になっています。危険品をどうしても運びたいということであれば御相談いただいて,それなりの措置をして運ぶというのが実務でございます。   この新しい危険品通知義務を新たに設定していただけるということは非常に結構なことだと思っていまして,まずお伺いしたいのですけれども,この「危険品であるとき」という言葉があるのですが,これは荷送人さんが危険品であるよということを知っていたということなのか,あるいは,その物質自体に危険性があるという客観的な事実があるということなのかというところをお伺いしたいのと,それから,もう一つ,その安全な運送に必要な情報を通知するというところで,この危険物でありますよということと,運送に関して必要な情報と,二つの面で過失があったりなかったりすることがあると思うのですね。これを要は一つ,一体として過失責任とするのか,あるいは無過失責任とするのかと。要は,危険品であることを通知しながら,なおかつ必要で適正な情報を通知しなければ駄目ですよという規定になされるのか。そこら辺はどのようにお考えになられているのでしょうか。 ○山下関係官 一つ目の御質問ですけれども,これは危険物というのを客観的に判断しないといけないと思います。知らなかったからという事情は関係なく,客観的に危険なものであれば,それはここの危険物に当たるという判断になると思います。   二つ目に関しては,その危険物であるということだけを言えばこの義務が満たされるのではなくて,当然その危険物であり,かつ,その運送について必要な情報があるのであれば,それも併せて通知しないといけないということになります。 ○小林部会長代理 よろしいでしょうか。 ○鈴木委員 すみません。内航の場合も,先ほどの一般輸送の場合なのですけれども,要は,原則危険品は運びません,危ないですから,乗組員も危ないし,ほかに乗っている方々にも何があるか分からないと。情報提供を確実に頂いたものに関して運ぶという体制になっていますので,そこのところをちょっと理解していただいた方がいいかなと思っております。   ですので,この規定はそういう,危険であることを分かりながらも黙って輸送を依頼したというようなケースを阻止する意味でも,重要な規定になるのかなという判断をしております。 ○小林部会長代理 ほかにご意見等ございますでしょうか。 ○菅原委員 議論がある程度集約されている段階に今さらでございますけれども,航空運送実務の面から申し上げておきたいと思います。   危険物に関する通知をする,しないにかかわらず,航空機を運航する前提として,その通知だけから運航の可否を判断するということではございません。航空貨物の運送実務では,コンテナの開扉検査を実施することがありますから,この開扉検査により,例えば無申告であったり,あるいは誤った申告をしたという事例も発見することができます。   では,コンテナの開扉検査でどれぐらいの危険物が見つかるものかということでございますが,それはめったにあることではないと言いながらも,現実には年間で複数件の危険物が発見されております。例えば,引火性の液体や腐食性の物質であるとか,極端な例で申しますと,ケース内に「航空輸送禁止」と表示がされたシールが張ってある郵便物が入っていたなどというケースすらございます。   従前発言の繰返しにはなりますが,運送品が危険物である場合の荷送人の通知義務を法定すべきであり,また,荷送人が通知義務に違反した場合の効果については,無過失責任の乙案を支持いたします。こうした通知義務がある上に,更に開扉検査等が実施され,運航の安全性が維持されているという現実がございます。   それから,商法の中で過失責任,無過失責任という議論をするときには,どうしても損害賠償請求権の発生原因事実としてのお話ということになるわけでありますが,運送の安全確保という実務的な点も無視してはならないように感じます。先ほど松井先生が,利用運送人ないしフォワーダーをフロントに立てることの是非について言及されておられましたが,これは非常に重要な御指摘だなと思うわけです。   というのは,運送人の立場からすれば,危険物に関する通知義務の法定化により,もちろん自らも安全運航に最善を尽くす。その一方で,安全な運航に危険性のあるものは近付けない,航空ならば空港に近付けず,その水際で止めるように努める。通知義務違反に厳格責任を課すという一つのメッセージには,危険物をなるべく運航の現場から遠ざけるという効果が認められるのではないかと考えます。これは民事法上の,損害賠償責任の発生原因とは全く別な次元の話でありますが,そういった別な効果もあることを申し上げておきたいと思います。 ○真貝委員 同じく事業者の立場ということで,鉄道貨物輸送の方をお話しさせていただきたいと思いますけれども,こちらの5ページのイの3ポツの所に我々の意見も含めて書いてありますけれども,まず一つは,輸送の実態として,鉄道輸送に持ち込まれるまでの間に,これまでもお話が出ていましたけれども,トラックで工場から運んで,あるいは倉庫に収めてというようなことで,幾つも事業者が入るというようなケースで,それで駅に持ち込まれて手前どもJR貨物の方で運んでいるというようなことで,実際にそこの時点で手前ども,コンテナを開扉することがあるかというと,開扉はしません。   ただ,時たま,例えば重量オーバーが途中でチェックされたとかいうようなケースの場合に開扉することもあるのですけれども,先ほどお話が出ていましたけれども,同じように,実は危険品の品目の通知というのをしますけれども,開扉をしてみるとその通知が間違っているケースは実際にはあります。   したがって,言いたいことは,なかなか鉄道の事業者としては,コンテナの中に危険品が入っているかどうかというところは非常に見えない状況になっているというところが一つです。   それから,二つ目が,やはり非常に大量輸送というようなことでありますので,今のところ幸いにして,日本の国内においては鉄道輸送で危険品を積んでいて途中での事故というのはありませんけれども,海外では幾つかの事例があり,大事故につながっているということです。   これは単に,お客さんの荷物にということではなくて,特に日本の場合は旅客鉄道と一緒の線を走っているということでありますので,都会をJR貨物の貨物鉄道が走っているということで,もしもそういうような事故が起きた場合には,非常に大きな事故につながる可能性が高いということです。   そういうこともございまして,手前どもとしては,この危険品については無過失責任でいくべきではないかというふうに考えているところでございます。 ○小林部会長代理 ありがとうございました。   ほかに御意見等ございますでしょうか。 ○雨宮幹事 日弁連は,パブリック・コメントでは,この過失・無過失責任に関しては過失責任主義が妥当するのではないかという意見を述べさせていただいております。   先日行われました事前の会議でも,特に現時点ではその意見を変える必要はないということで意見は一致をしています。日弁連が過失責任主義を妥当とする理由の一つは,消費者に危険品であるかどうかについて判断させ,厳格責任を負わせるのは少し過酷ではないかということです。議論を聞かせていただきますと,荷送人の性質について消費者を除いて議論されている方がいらっしゃいましたが,消費者を除くのであれば,全輸送モードについて厳格責任とすることは理解できますが,消費者を含めた全輸送モードで考えると厳格責任というのは行き過ぎではないかと考えています。消費者だけを除外して厳格過失とすることが立法技術上可能かどうか分かりませんが,そういうことが可能であれば,そういう議論もあり得ると考えます。これは日弁連としての見解ではなくて,個人的に考えるところであります。   それから,もう1点,部会資料8ページに,仮に過失責任とされた場合であっても任意規定なので,運送約款や契約は現在と同様の機能を果たすものとの御指摘があります。全ての輸送モードの約款を存じ上げているわけではありませんけれども,通知義務違反,若しくは通知がなされたとしても危険品から生じた損害については,荷主は無過失責任を負うというような規定がおかれている約款もあると理解しています。そうであれば法律上において過失責任と決めても無過失責任を負わせたいということであれば,契約で対応もできるものと個人的には思っています。 ○小林部会長代理 ほかにございますでしょうか。   なければ,本問題につきましては,引き続き事務当局の方で検討していただくということで,次に移りたいと思います。   次に,「4 運送賃及び留置権」及び「5 運送人の損害賠償責任」について,御審議いただきたいと思います。   まず,事務当局から説明してもらいます。よろしくお願いいたします。 ○山下関係官 御説明いたします。   まず,5の「(2)高価品に関する特則の適用除外」のイにつきまして,裁判実務を見ますと,無申告の高価品を委託した荷主の帰責性と,うっかり事案における運送人の帰責性に関し,例えば最高裁昭和55年の判決では,ライトバンの後部扉を施錠せずに絵画の紛失を生じさせた運送人に対して不法行為に基づく請求がされた事案において,運送人に重大な過失があるとしつつ,荷送人が高価品の申告をしなかったことにより,4割の過失相殺をした原審の認定判断を是認しており,また,東京地裁平成2年の判決では,軽貨物自動車の後部扉を施錠せずに絵画の紛失を生じさせた運送人に対して,債務不履行に基づく請求がされた事案において,運送人に重大な過失があるとしつつ,荷送人である美術商が運送料金を廉価に抑えるため一般貨物として輸送を依頼したことにより,3割の過失相殺をしています。   このように,過失相殺により適切な賠償額を定めようとする裁判実務を前提に,これを実質的に改める合理的・説得的な理由があるかについては,現時点においても,なお明らかではございません。また,一部の荷主が委託した無申告の高価品に係る賠償責任の負担が,運送賃の形で他の一般の荷主に転嫁されるという不合理さに関する指摘もございましたが,これについても荷主団体側の理解を得ていないように思われます。   このような中では,商法部会での意見集約として,本文のとおり甲案を採用した上で,裁判実務における過失相殺の枠組みにおいて,578条の趣旨が十分に配慮されるべきものとも考えられますが,皆様の御意見を頂戴いたしたく存じます。   また,中間試案の(3)の運送品の延着の場合における損害賠償の額につきまして,パブリック・コメントの結果を見ますと,甲案を支持する意見が比較的多く,荷主団体のみならず運送事業者からも一定の支持があったこと,実務上,運送品の延着の場合における損害賠償の額につき,運送賃の総額を上限とする旨の約款が多く,乙案のような規律は諸外国の法制にも見当たらないことなどを踏まえ,乙案については取り上げないことが考えられます。   このような事情を踏まえまして,「4 運送賃及び留置権」及び「5 運送賃の損害賠償責任」につきまして,御審議いただきたく存じます。 ○小林部会長代理 ただいま説明のありました点につきまして,御自由に御発言いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○山口委員 今ちょっと御説明がなかったところなのですけれども,相次運送の規定についてですが,これは陸上運送の相次運送人に関する規定は,海上運送及び航空運送について準用するものとすると書いてあるわけですが,これは質問なのですけれども,同じ運送モード間の相次運送を認めるということであって,違う運送モード間,すなわち海上・航空間の相次運送について連帯責任を認めるという趣旨ではないということでいいのでしょうか。 ○山下関係官 はい,単一のモードに限っての規定ということでございます。 ○山口委員 もう一つ申し上げると,陸上の場合は国内・国際の相次は,日本の場合,陸続きの領土がないものですからあり得ないのですけれども,航空運送,海上運送の場合は国内・国際の続きの運送というのが考えられるわけですが,その場合の相次運送はどうなのでしょうか。 ○松井(信)幹事 相次運送というのは,一般には,一つの全体の運送契約を締結した後に,その一部ずつを順次,相次いでいくというものと理解されております。   国内と国際の全体につき海上運送の契約を結んだ場合には,国際海上物品運送法1条の国際運送そのものに該当するので,それ自体が国際海上運送になります。ですので,その一部ずつを相次いで運送した場合には,単純に一つの国際海上運送の一部が相次運送されるものと整理しております。 ○山口委員 その全体が国際運送になって,その部分が相次である,だから全員が同じ責任関係を負うという形でもよいという考え方ですね。 ○松井(信)幹事 現行法がそのようになっていると理解をしております。 ○小林部会長代理 よろしいでしょうか。   ほかに御意見等ございますでしょうか。 ○山口委員 もし仮にそうだとすると,航空運送の場合,外国から日本に持ってこられて,日本の国内航空運送が生じるわけなのですけれども,そうすると国内部分だけを運送したものが負う責任というのは,国際運送の範囲内でよいと,国際運送の責任を負うというお考えですね。連帯責任を負うわけですから。 ○松井(信)幹事 今のはモントリオール条約の直接適用の中で,同条約第36条の相次運送をどう読むかということですので,私の方で一義的にいうことはできないのですけれども,基本的には,外国が出発地で,寄航地を経て国内の到達地に至る場合もモントリオール条約の適用になると思いますので,同様の考え方ではないかなと日本法の発想からは考えております。 ○池山委員 今の議論に直接反論するとか,そういうことではないのですけれども,私どもの理解としては,少なくとも相次運送というのは概念的にあるのは分かっていますけれども,実例としては基本的にはないのではないかという気がしております。   先ほど,国内プラス国際の部分というのは一つの国際運送だとおっしゃいました。それは全くそのとおりだと思いますけれども,他方で,一本で国際運送を受けた元請運送人から委託された下請運送人は,単に国際運送の部分を受けたり国内運送の部分を受けただけであって,彼ら下請運送人間の相互の関係が当然に相次運送人になるわけではないという理解でいるのですけれども,そこはよろしいのでしょうか。 ○松井(信)幹事 私が申し上げたのは,理屈の上で相次運送に該当する場合の法律関係を述べたものでございまして,実務上,相次運送ではなくて下請運送の形,利用運送の形が用いられているというのは,池山委員がおっしゃるとおりかと思います。 ○池山委員 ありがとうございます。 ○小林部会長代理 よろしいでしょうか。   ほかに御意見等ございますでしょうか。 ○箱井幹事 度々言っているので恐縮でありますけれども,578条の高価品です。甲案と乙案ということで,パブコメを拝見していますと,乙案の認識ある無謀行為というものを入れることについての抵抗というのは一定感じるわけでございまして,甲か乙かということであれば甲というのも一つの御判断だと思われます。しかし,何度も申し上げておりますように,これですと578条の高価品特則が商法580条,581条と多分同じ扱いになってしまうのだろうと思います。   580条の場合には,運送人が責任を負うというのが前提であって,一般法の適用によれば全額賠償だけれども,運送人に悪意重過失がなければ,この場合は定額賠償を認めるという,運送人にとって非常に恩恵的な規定ですね。軽過失であることを条件にこうした恩恵を認めるということです。高価品特則の場合には,先ほどの危険物の話ではありませんが,無申告の高価品運送はやはり困るわけですね,運送人としては。そういうことをされては困る。その申告がないことを前提にして,高価品であれば運送人は損害賠償責任を負わないというように,ここでは責任を負わないことが前提になって規定があるわけでございます。   決して,運送人に一般法と違った特別に恩恵的な規定,特約とか特則を認めるというものではなくて,この580条を中心とした運送人の責任制度が正に成り立つ前提に関わる規定だと私は理解しておりますし,恐らく学会でも今現在,578条については581条のような規定がございませんので,そのように理解されてきているのではないかと思います。   したがいまして,そこのところの理論的な面での懸念を私も持っています。それから,民法の重過失の解釈の発展とか,最高裁,--正面判示したものはありませんけれども--,その今後の判例を待てというようなお話が出ておるところを見ますと,今さらではございますが,第三案として,むしろ現行法の規律の維持というのも一つの選択肢ではないかなと考える次第でございます。 ○小林部会長代理 ほかに御意見等ございますでしょうか。 ○藤田幹事 今の点で疑問が提起されましたが,それと別の点で2点ほど確認というか,意見を伺いたいところですが,これはきっちり,余り最初に御説明いただいたところではないのですが,まず5の(1)の読み方なのですけれども,運送中に滅失・損傷の原因が生じたり,あるいは延着が生じた場合には損害賠償の責任を原則として負って,ただし書できちんと受取,保管,その他について注意すれば免責される,これだけ普通に字義どおり解釈しますと,運送中に運送品について注意を尽くさなければ当然に責任を負うことになるのですけれども,きちんと注意してもどっちみち同じ結果になったであろうという場合というのは,因果関係がないから責任を負わないと理解してよろしいでしょうか。こういう書き方をすると,条文上は,そういうふうに因果関係を問わないかのようにも読めるのですけれども,そうではないのでしょうねというのが一つ目の質問です。   もう一つは,損害額の定型化の規定について,別に延着の場合は外すという結論をこの場で反対するつもりはないのですけれども,延着の場合に外す理由付けが余り何か理論的な説明がない。パブリック・コメントが多かった,少なかったとか。でも,それだけだと,やはり立法する場合の説明にはなっていないので,取り分け理論的な理屈としての説明は,運送品が全損した場合はそれによって生じた経済的損失というのは賠償しません,物の価値しか賠償しません,他方,遅れて届いたら,間接損害である経済的損失,工場が止まって稼働できなかったというようなものも予見可能である限りは賠償します,失くした方が,あるいは壊した方が人為的なキャップがかぶるのはなぜですかという,これはやはり説明しないと,理屈がないと,立法としては問題があると思いますので,その点についてはもう明示的に指摘もされている以上は,何か理屈を付けて説明していただきたいと思うので,もしそこをお考えがあるのであれば説明していただければと思います。 ○山下関係官 まず,一つ目ですが,不可抗力によって損害が生じた場合というのは,これは藤田幹事がおっしゃるとおりで,因果関係がないということで,責任を負わないということでいいかなと思います。   二つ目につきましては,今までの議論の経緯は,元々,延着の場合の上限についての規律がないので,延着した場合と全損した場合との平仄を合わせるべきだという御指摘によって始まった議論でして,それについては,結局はこういう損害賠償の責任の規定というのは運送人保護の規定になるかなと思うのですけれども,運送事業者側においてもそのような規律を設けるべきであるという必要性についての意見の一致が見られなかったということがありましたので,取りあえず設けないという現時点の案にはなっております。ただ,おっしゃるとおり,理屈だけの面でいうと少しずれている部分が生じますので,そこについては,この案で確定するということであれば,引き続き検討していかないといけないと思いますし,皆さんの間におきましても,もし何かいい御説明等考えられるものがあれば,御指摘いただければと思います。 ○松井(信)幹事 一つには,延着について,そもそも何が延着かというのが,この審議会が始まって以来議論があったかと思います。僅かな遅れというのは,恐らく運送の場面では,皆さん想定していらっしゃる場合が多いのだろうと思いますし,特に海上運送ですと随分遅れることもあるという話だと思います。   延着が問題になるというのは,この時間に着いてほしいと,それを前提にして契約をしたのに,それでも遅れてしまった場合ですとか,通常の契約と比べてよほどの遅れであるというふうな場合に,肯定されるのだろうと思います。   そのような場合には,その遅れることによる利益も当然に賠償されてしかるべきであるということが契約の趣旨から導かれるというふうな,そのようなことも若干は考えたわけではございますが,引き続き様々な説明の仕方を考えたいと思っております。 ○藤田幹事 前者の(1)の方は,イエス・ノーで聞いただけですので,イエスということであれば,その結論は分かりました。この条文で読めるかどうかというのは,ちょっと何か引っ掛かりはあるのですけれども,ほかでもこんな程度の書き方をしてそのような解釈をしている例もあるというのであれば,そういった旨をきちんと立法した後で解説にははっきり書いていただければそれでいいと思うのですけれども,後者の方は,実は理屈は後で考えるというよりは,理屈次第によっては中身に影響しますので,この場でシェアした上でこの結論を採るというふうなことをしなければいけないので,この場でやはりそこは明晰に考えておく必要があると思います。   それで,松井(信)幹事の言われたのが私は唯一とは言いませんけれども,恐らく一番考えられそうな方向での整理だと思います。ただ,そういう整理はこの場で今まで言われていないので,もし,この延着について定型化の規定を設けないのはそういう趣旨であるということであれば,そういうことを認識した上で,そういう決断をすべきだと思います。   繰り返しになりますが,松井幹事の言われたことは,要するに延着というものを相当厳格に解釈するということを前提に,延着については損害賠償の定型化の規定を外すというバランス論なのですね。   つまり,延着というのは普通,運送品とかが遅れるというのは,送る側も込みで考えてくださいと。ただし,それは絶対その日に着かないと,たとえその後に何も壊れずになくならずに届いたとしても大変なことになりますよという場合は延着というのが考えられ,延着責任というのが発生し得るのですよと。だから,当然,いつまでには絶対届けるというふうな約束もしているだろうし,届かなかったら大変なことになりますよという前提で,運送人はそれを分かって引き受けていると。そういった場合は,確かに,壊れていない以上は全然,損害額ゼロですというのでは困る。そういう場合を想定して延着というのを考えるし,そうではない場合というのは,そもそも延着責任ではないのだと整理しているから,それで一応バランスがとれているのだという御説明です。これは,延着責任の成立する場合というのを相当厳格に考えることで一貫するという御説明です。   更に言えば,そういうふうな解釈を採れば,例えばそういう種類の,つまり届かなかったら大変なことになるよというふうな延着責任が発生するような種類の運送を引き受けたのであれば,全損が生じた場合ですら,それは間接損害を一切賠償しないでいいのか。むしろ黙示の契約解釈として,そういったものも賠償すべきということまでいくのかもしれない。そこはブランクで,確かに条文があるので,それを適用するという考え方もあるかもしれませんが,ひょっとしたらそんなところまで影響するかもしれない。そういったことを込みで,この延着については定型化の規定を設けませんというのであれば,私はそれは一貫した考え方なので支持いたしますけれども,今までそういう認識で,恐らくこの場で,この延着については定型化の規定は設けるべきではないとは言われていなかったと思いますので,それをはっきりさせた上で議論していただければと思います。 ○小林部会長代理 ほかに御意見等ございますでしょうか。 ○松井(信)幹事 冒頭に箱井幹事の方からおっしゃったお話で,高価品に関する特則の部分について,無謀な行為という概念を導入するかどうかという点でございます。   事務当局の今回の案は,不法行為に基づく請求ではありますが,最高裁判決の価値判断として,その事案では,高価品の申告をしなかった荷主の過失割合につき大体4割程度とされておりますところ,これを中間試案の乙案のように改めると0対10という形に変わってしまう。そこは少しちゅうちょされたということから,甲案の形で書いているところでございます。   そして,その点に関する解釈の明確化という見地から,法制審議会の中で,具体的な適用除外の要件について御議論いただいてきたところでございますが,先ほど,その辺りは更なる今後の解釈に委ねるという余地もあるのではないかというお話もございました。この点についても,御意見があれば伺っておきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。 ○真貝委員 実際に運送事業をやっているということで,先ほどの藤田先生の方のお話で,運送人の責任のところなのですけれども,実際に,手前ども,ダイヤで着く時間というのは決まっているのですけれども,特に近頃自然災害--今日もそうなのですけれども--が多くて,不可抗力によって到着が遅れるというケースもあります。それで,お客様によりましては当然,着のお客さんにお届けするためにトラックに切り替えるとか,そういう措置をするときに,必ずその部分の金額をどちらが負担するかというようなことがかなり大きな問題になるケースがありますので,是非,先ほど不可抗力のところのお話がありましたけれども,不可抗力による場合についてはそういう責任が発生しないといったことについて,是非,解説とかそういったものでも結構ですので,入れていただくと,手前どもも実際にいろいろ交渉事になりますので,大変有り難いと思います。 ○松井(信)幹事 今,真貝委員がおっしゃったことについては,法律の文言になりますと,ほかの条文との平仄など様々な検討がございますけれども,不可抗力の場合に運送人が責任を負わないというのは一致した結論だろうと思いますので,今後,我々の解説などの中では十分考えてまいりたいと思います。 ○小林部会長代理 ほかに,御意見等ございますでしょうか。   松井(信)幹事からの御意見で,高価品についての点ですが,何か。 ○箱井幹事 甲案,乙案ある中,現行法の維持というのも言いにくいところがございますけれども,恐らく甲案を支持された方というのは,先ほどの御説明にもありましたように,昨今の特に下級審裁判例を中心とした過失相殺による解決を指向する司法実務を支持されておられるのだろうと思います。これを書き込んだ方がよいという事務当局の御判断は今伺いましたけれども,私はこれによる影響というのも懸念いたします。また,ここに書かれておりますように,様々な点での今後の展開,解釈の発展などを考慮するということを強調するのであれば,ここは現行法の規律をむしろ維持するべきではないか,そういう考え方は一つあり得るのではないかということを,先ほどの意見で申し上げた次第です。   過失相殺で妥当な解決を図るということですが,今の578条にはまだ何も重過失の場合の規定がございませんので,過失相殺がかなりの割合でかかってきていますけれども,今回の提案のように重過失の場合に責任を負うのだということが正面から書かれたときにはどうなるのかということも,強く懸念しております。   大抵の場合,滅失・損傷について荷主側に過失があるということはまずございませんので,ここでの過失相殺での「過失」というものが問題になるとしたら無申告だったという点,すなわち申告義務を前提としてこれに違反しているという判断だと思います。現行の条文であればそのように判断してもらえるのかもしれませんが,提案のような変更があってこれが維持されるのかどうかは不安でございます。 ○小林部会長代理 ほかに御意見等ございますでしょうか。 ○松井(信)幹事 ここの甲案,乙案は随分意見が対立して,いろいろあったはずだと思うのですけれども。特にこの高価品については争われることが多く,そして,甲案を採るのか乙案を採るのかという実質について相当な隔たりがある中で,このまま解釈に委ねることが果たして本当によいのかどうか,御意見いただければと思いますが。 ○山口委員 御意見の確認なのですけれども,これは重過失,従来の過失のときに,高価品に対して責任を負うということで,先ほど箱井幹事から御指摘がありましたけれども,荷主の無申告という過失,これは裁判実例の中で過失相殺されるであろうということを想定しているということですよね。 ○松井(信)幹事 この部会資料の太字で書いたのは,そのような重過失という現在の裁判の枠組みの中で考えていくべきではないかという提案でございます。 ○山口委員 ここの選ばれている二つの判決は,重過失と見てもよさそうな事案だろうと思います。   それから,もう1点は,神戸地方裁判所のやはり高価品の事例があるのですけれども,それは,高価品が,これはフロッピーだったと思うのですけれども,それを運送人が運んでいて,荷受人に渡そうとしたところ,荷受人が不在であったために玄関先に置いて帰ってきたという事案で,そのまま貨物が紛失したという事案について,これは確か運送人が責任,それで当然,過失相殺を致しまして,運送人側の責任がやはり重たく認められた事案だったと記憶しているのですけれども,その事案については確か6対4だったと思うのですが。   ですから,たとえ片一方に重過失があっても,今までそう大きく変わらず,仮に重過失さえあれば過失相殺で弾力的な運用を行うという考え方ということになりますかね。それでよろしいですか。 ○小林部会長代理 よろしいですか。 ○池山委員 一応,議事録に残すための発言のようなことになるかもしれませんけれども,申すまでもないですけれども,運送事業者としては,甲案よりは乙案の方が有り難いという点については,もちろん変わってはおりませんで,それで理論的にも甲案では望ましくないところがあるのではないかという箱井先生の御指摘というのは大変心強くは思っております。   ただ,議論もここまで来ていますので,法務省の案として甲案が出てきて,その方が過失相殺の適用を通じて柔軟な解決が図れるのではないかという御指摘は,それはそれで運送業界としても重く受け止めるべきであろうとは思っておりますけれども,乙案の方が有り難いという点については変わりありません。   それから,先ほど山口先生がおっしゃった,この引用されている二つの判例について,これは重過失と判断されてもいい事案であろうというふうにちらっとおっしゃいましたけれども,正にそこは価値判断なのだと思いますけれども,そこを,こういう事案について正に責任を認めるべきか認めないかというところが実質的な判断の分かれ目で,実運送業者として乙案を支持する一つの理由は,このような場合について責任を負わされるというのはかなり酷ではないかと。   これは変な話,「後部扉を施錠せず」とは書いてあるのですけれども,それは結果的に実はしていなかった,確認不十分だったというところが問題でして,運送人としては,したつもりだったはずなのですよね。そのうっかりミスをどう評価するかということですので,そこは価値判断としても分かれてしまうことはしようがないのかなと思っています。 ○山口委員 補充いたしますと,これは東京高裁が前にありまして,東京高裁は運送人の重過失と明確に認定しております。これは正にうっかりミスで,バン型の車について,ばんと閉めて,通常であればかかっているかどうかを確認するのだけれども,それもせずに運送を始めたところ,何か車の振動で半ドア状態になって落ちてしまったというような事案ではなかったかなと思うのですけれども,それを重過失と見るかどうか,いろいろな事案がこれは今後生じるだろうとは思いますけれども。 ○小林部会長代理 以上でよろしいでしょうか。   それでは,次に「6 荷受人の権利」及び「7 運送品の供託及び競売」について,御審議を頂きたいと思います。   まず,事務当局から説明をしてもらいます。 ○山下関係官 「6 荷受人の権利」について御説明いたします。   これまでの審議では,特に国際海上運送及びこれを含む複合運送については,乙案のような規律の新設に対するニーズが高かったところ,この規律は運送契約という三者間の法律関係についての中心的な規律であって,陸・海・空の各運送手段によって規律を異ならせることは複雑にすぎるため,運送契約一般に妥当する規律として検討する必要がございます。   乙案に対しては,正当な利益を有しない荷受人による権利濫用の危険があると指摘されておりますが,他方で,現行法の下でも運送品の一部が滅失して到着地に到着した場合に同様の問題が生ずるところ,濫用的な権利行使などの実態は見受けられないとの反論や,荷送人及び荷受人の双方が賠償請求をすることは極めて少ないとの反論がございます。   また,仮にこのような危険があると考える場合には,その弊害を防ぐべく,資料12ページの【修正乙案】のように,中間試案の乙案の(1),(2)に続いて,「(3)乙案の(2)の場合において,荷受人が損害賠償の請求をしたときは,運送人は,遅滞なくその旨を荷送人に通知しなければならない。ただし,荷送人が既にこれを知っているときは,この限りではない。」という規律を追加することが考えられます。   この修正乙案は,一般的に運送品の滅失・損傷の事案において,運送人は契約の相手方である荷送人に遅滞なく連絡をすることになることを念頭に,これを通じて荷送人に必要な措置を採る機会を与えることを目的としています。なお,表現ぶりについては,賃借物について権利を主張する者がある場合に,賃借人の賃貸人に対する通知義務を定める民法615条などを参考にいたしました。   このような事情を踏まえて,「6 荷受人の権利」及び「7 運送品の供託及び競売」につきまして,御審議いただきたく存じます。 ○小林部会長代理 ただいま説明のありました点につきまして,御自由に御発言いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。 ○池山委員 二つございます。   一つは,修正乙案なのですけれども,これについて単純に質問なのですけれども,この運送人に通知義務という新たな義務を課すということですけれども,これは通知義務違反の効果というのは何なのかということが当然問題になるので,そこをどうお考えでしょうかということが一つです。   それから,二つ目は,これはあえて言えば意見なのですけれども,運送人側からすると,誰が権利者かということができるだけ明確であった方が望ましいという観点から,従前,全部滅失という要件を付け加えることについて必ずしも反対はしないけれども,この全部滅失ということの判定が難しいことがあるのではないかということを申しました。   その点について,今回のこの資料ですと13ページの所に,現行法の下でも588条や580条などで,この全部滅失かどうかで効果が分かれると,したがって,それを判断せざるを得ない場合というのはあるのではないかという反論があると理解しております。   これは,確かに一方では理解できるのですけれども,ただ,私どもが思いますのは,588条や580条は,実務的にはその主位的抗弁あるいは予備的抗弁的なものができるシチュエーションなのですね。全部滅失であるとすれば運送人の責任はこうなる,一部滅失とすれば運送人の責任はこうなるという連続的なものですので,そのどちらか分からないというときに,それぞれに応じた主張をして,最終的な判断に従って責任が決まるということだと思うのですけれども,今回は全部滅失が認められるかどうかによって,そもそも我々が義務を負う相手方ががらっと変わる話なので,ちょっとこの588条や580条で使われているから,ここで使ってもそれほど弊害はないのではないかというのには少し抵抗があると思っております。 ○山下関係官 御質問の1点目,違反の効果につきましては,荷送人に何らかの損害が生じた場合において,その損害とこの運送人の通知義務違反との間に相当因果関係があると認められるのであれば,そこは債務不履行の一般原則に従って損害賠償責任を負うことになるかと思います。 ○松井(信)幹事 事務当局といたしましては,物が全部壊れたというときには,運送人は通常荷送人に連絡を取るだろうと,それを前提として,この新しく作る通知も含めて遅滞なくその通常されるべき連絡をしていただければ,十分に責任は果たせるのではないかと考えております。   2点目について,全部滅失かどうかの判断に苦慮するのではないかという点でございますが,今回の修正乙案では,一部滅失であろうが全部滅失であろうが,荷受人側が何らかのアクション,損害賠償請求ないし引渡しの請求というものをした場合には荷受人の方が優先するということになっておりますので,全部滅失かどうかで効果が異なって対応に苦慮するということにはならないだろうと考えています。 ○池山委員 いずれも,ありがとうございます。少しまた,これはいずれも,特に前者の方は新たな提案でもあるので,少し検討の時間を頂ければと思います。 ○石井委員 今までいろいろこの点について発言してきたのですけれども,今回の修正乙案は,保険者の立場からは歓迎すべき提案だと思います。   今,池山委員の御意見を伺っていても,やはり国際海上運送と国内陸上運送とでは,視点をちょっと分けて考えておく必要があるのではないのかと思います。保険の実務から見ると,国際海上運送の場面で荷受人から運送人に損害賠償請求をするというのがごく一般的な話であり,逆に荷送人から海上運送人の方に請求が行くというケースは多分ほとんどなく,持ち込み渡し条件のような特殊な事案に限られるのだろうと思います。   池山委員が御懸念されていたように,荷受人から請求があったときに,すぐ荷送人に通知をしなくてはいけないのかという問題は,国際海上運送に限っていえば,そのようなケースというのは基本的にはないのだろうと思います。全部滅失と一部滅失の話についても,今のように貨物が途中で全損になっても,一部滅失,一部損害があっても,それを受け取った受荷主,あるいは受け取れなかった受荷主が,海上運送人に求償するわけでありますから,私の感覚からいくと,そこは国際海上運送では余り問題にはならないのではないのかと思います。   国内の陸上運送のことを考えると,貨物に損害があった場合に荷送人が賠償請求をするという事例も多いし,運送人の方も途中で全部滅失があった場合には荷送人に事故報告をして対応を協議するというような実態が多いわけですから,それで済めば別に問題はないと思います。修正乙案にあるように,余り直接の関係のない荷受人からぽんと請求が来たときに,運送人としては荷送人に御照会いただいて,こういう請求が来ましたけれどもというような通知をすれば済むのではないかと思います。保険者としては国内陸上運送で貨物運送業者賠償責任保険なども相当数扱っていますが,そのような実務上の経験から考えても,このような修正乙案のとおり行われれば,正当な権利者についての危惧はなくなるのではないかと思います。 ○小林部会長代理 ありがとうございました。   ほかに御意見等ございますでしょうか。 ○池山委員 質問させていただいていいですか。ここでいう荷受人というのは,一般的な定義からすると,運送契約上,その貨物の受取をする権利がある者として指定された者ということだと理解しているのですけれども,これは,船荷証券が発行されている場合の船荷証券所持人というのは,一方で彼らは荷送人でないことは間違いないですけれども,ここに言う荷受人にも入らないという理解でよろしいのでしょうか。 ○山下関係官 はい,入らないという理解でいいと思います。 ○小林部会長代理 ほかに御意見等ございますでしょうか。 ○池山委員 すみません,先ほど,この修正乙案については更に検討させていただくと申し上げたので,検討させていただくという結論に変わりがないのですが,一個だけ申し上げるとすると,先ほど石井委員のおっしゃったように,国際海上物品運送の場合は,荷受人からの請求がむしろ通常であると,そうすると,船荷証券が出ていない場合については,基本的には荷送人に通知を毎回しなければいけなくなると。   現状は,実は先ほどと逆のことですけれども,船荷証券はそれほど出ていなくて,海上運送状が出ている場合が多いので,カーゴクレームを受けた場合にはほとんど常に通知をしないといけなくなる。そうすると,国際運送をやっている運送人として,カーゴクレームの通知を全部,世界的に東京の本社でコントロールしていれば,それは通知も簡単ですけれども,世界中の代理店で受けているという場合に,代理店が揚げ地の荷受人から通知を受けました,それを本店かどこかで集約をして常に輸出国側の出帆に通知をするということになるのかななんて思っているのですが,これは勘違いなのでしょうか。勘違いであれば,むしろ御指摘をお願いします。 ○石井委員 国際海上運送においては,受荷主が運送人に損害賠償請求するときは,インボイス,B/L等々のドキュメントを提出します。これはもう以前からずっと論議されているところですが,CIFだとかCFRとかFOBとかと書いてございますので,当然,運送人の立場としては,その荷受人に請求権があるかどうか,リスクを負っているかどうかということは容易に確認ができるわけであります。更に保険の観点から言えば,貨物保険者は,そういう書類を受けて,受荷主に保険金の支払をした上で代位求償というアクションをとっているのですが,その際事前に荷受人の方にリスクがあって,保険金請求できる立場にあるのを確認しているのが実態です。それは,運送人が損害賠償に応じる際にも確認をしていると考えられるので,その都度,世界中の荷送人に通知を送るようなことは,必要はないのではないかと思います。 ○池山委員 そうすると,これも質問のようなものですけれども,今おっしゃっている趣旨は,多くの場合は荷受人が正当な権利者であるということが確認できるはずであるから,そのときには,別にここでいう通知義務を果たしても果たさなくても,正当な権利者である荷受人に損害を与えることはないと。だから,仮に形式的にはこの義務は果たさなくても,運送人が新たな損害賠償債務を負うというようなことはないから心配しなくてよいと。むしろ運送人として疑義が生じた場合,荷受人が正当な損害賠償請求権者だということについて疑義が生じた場合には,この通知をするということになるのだという御理解でしょうか。 ○石井委員 そういうことです。先ほど申し上げましたように,特殊なケースとしては持ち込み渡し条件などで,荷送人がそのまま輸送中のリスクを負っている場合もありますから,そういう契約にもかかわらず荷受人から請求が来たということであれば,そこは確認する必要があると思いますが,それは現在でも同じ問題ではあるかと思います。 ○雨宮幹事 質問なのですが,修正乙案では,運送人が通知をせず,荷送人に損害が生じた場合には,運送人は損害賠償責任を負うことを効果としては想定しているとのご説明がありました。これは運送品の滅失等の損害ではありませんから,いわゆる責任制限とか定額賠償の適用はなく,それから,出訴期限または時効期間も,1年ではない,いわゆる普通の債務不履行責任ということになるのでしょうか。 ○山下関係官 そうです。通知義務違反について,因果関係のある損害についての賠償責任ということであれば,おっしゃるとおり定額化の規定等は働かないということになるかと思います。 ○雨宮幹事 時効期間も1年ではないということですか。 ○山下関係官 そうですね,1年ではないということになると思います。 ○雨宮幹事 そうなることを想定しているということですね。分かりました。 ○小林部会長代理 よろしいですか。   ほかに,御意見等ございますか。荷主側の方からも,何か御意見いただければと思いますけれども。 ○遠藤委員 私は特に異論はありません。日本の国内では持ち込み渡しが国際海上に比べて多いということもあって,権利濫用の懸念が指摘されていますが,元々,売買契約書上,危険負担が決められており,そういう問題はないと思います。乙案が加えられたことによってそれが完全に担保されることになるので結構だと思っております。 ○小林部会長代理 ほかにございますでしょうか。   もしなければ,一応時間ということですので,ここで休憩を取りたいと思います。休憩時間としましては,今から約20分弱ですか,45分まで休憩ということにさせていただきます。           (休     憩) ○山下部会長 それでは,予定の時刻ですので,再開したいと思います。大分遅れて参りまして,失礼いたしました。   それでは,休憩前までに7の項目までの審議を頂いたということなので,次に「8 運送人の損害賠償責任の消滅」について御審議いただきたいと思います。   まず,事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 御説明いたします。   まず,「(1)運送品の受取による責任の消滅」に関し,運送賃その他の費用の支払という要件を削る点につきまして,運送品に直ちに発見し得る損傷等があった場合には,荷受人が将来における運送賃債務との一括処理を念頭に置いて,あえて直ちに異議を述べないという行動をとるのが一般的であるという事情もなく,直ちに異議を述べて証拠を保全することが通常であることを踏まえれば,運送品に関する賠償責任と運送賃債務の消滅時期を異ならせることとしても著しく不公平ではないと考えられます。   また,588条1項本文により,運送人の責任が消滅するのは,運送品に直ちに発見し得る損傷等があるにもかかわらず,荷受人が何ら異議をとどめないという極めて限られたケースであって,この規律は将来の紛争を可能な限り防止する等の観点からなお有用であり,荷受人にとって過度な負担とまではいえないと考えられます。   さらに,国際海上物品運送法との相違点や商人以外の者について第588条を適用することに関する指摘もございますが,現状における具体的な弊害その他の立法事実に関する御指摘まではなく,このような中では,中間試案に賛成する意見の状況に鑑みても,この指摘に沿って運送営業のコストを増大させる方向の見直しをすることは困難であると考えられます。なお,標準貨物自動車運送約款や標準宅配便運送約款は,荷受人が商人であるかどうかを問わず,契約の類型に応じて運送人の責任消滅の要件を定めており,これにも一定の合理性があるものと考えられます。   次に,「(2)期間の経過による消滅」につきまして,実際には運送品の一部滅失又は損傷の場合に損害賠償を請求する荷主は,588条により運送品の受取時から2週間以内に運送人に通知をしていることが前提となり,運送品の全部滅失の場合も,運送人との間で交渉が遅滞なく行われているのが通常といえるため,荷受人が消費者である場合を含め,中間試案のような見直しが荷主に甚だしく不利益であるとまでは言えないように思われます。   そして,不特定多数の貨物を反復継続的に運送する運送人のリスクの予見可能性を高めるべきであること,運送品の引渡し後1年が経過してから運送人の主観的態様が争われるのは適当でないこと,荷主が賠償請求に要する準備期間は運送人の主観的態様によって異ならないこと等を理由に中間試案の取りまとめがされましたが,その内容には一定の合理性があるものと考えられます。   このような事情を踏まえて,御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいまの8についての説明を受けまして,御自由に御発言いただければと思います。 ○松井委員 日弁連といたしましては,パブリック・コメントの所で,消費者について御配慮いただきたいということでお願いをしてございます。今御説明を頂いた,直ちに発見することができるものに限ると,このくだりは多分,商法526条の検査を前提にした言葉だと思うのですけれども,消費者について特段問題になっている事実が確認できていないという御説明がありましたけれども,消費者の方にそれほど周知徹底されているのかと,直ちにそのクレームを言わなければ自分たちの請求ができなくなるということが徹底されているのかということは,やはり疑問なしとはしないところがありますので,立法技術的にどうするかということはありますが,例えばその荷受人が商人でない場合と,それから,直ちに発見することができるものに限るというのですから,双方が商人の商人間の場合に限るとか,そういうことはできないことはないのではないかと思うのですけれども,その点はどのようにお考えになっているか,教えていただければと思います。 ○山下関係官 そのように限定するということも理屈上はあり得るかもしれないのですけれども,一つの問題点としては,やはりその荷受人が消費者であるかどうかというのが大事なポイントだと思いますが,一方で運送契約というのは荷送人と運送人との間の契約ですので,その運送契約の二当事者の間では分からないような事情,荷受人の名前を書いたとしても,それが消費者かどうかというのはその荷受人の名前からだけでは判断できないと思いますので,そういった事情によってこの規律の適否が変わってくるというのは,ある程度法的安定性を害してしまうのではないかという気もします。また,先ほどの松井委員の御指摘は,この直ちに発見することができる場合には通知しないといけないということが周知徹底されていないのではないかという御指摘でしたので,そこはむしろ法的な,法律の規定の内容の問題というよりは,それを周知徹底させるべきであるという御意見として捉えた方がよろしいかと思います。   ただ,現行の標準宅配便約款についてはこの規定は適用されないので,実際にこの宅配便以外で消費者が運送契約を締結する場合に限っての規律になることを踏まえますと,周知徹底はすべきではあると思いますけれども,その範囲というのは少し狭いものになるのかなという気もいたしております。 ○松井委員 ありがとうございました。私の考えは,その周知徹底をすべきというのはもちろんなのですけれども,仮にその場で権利がなくなるということについて,そもそも消費者には期待可能性が余りないのではないかというところでございます。   この点については,仮に消費者の部分についての手当が余りされないようであるとすれば,そもそも当初の案に反対すべきであったのではないかというような意見も日弁連の委員会の方にありましたので,ちょっと持ち帰って,また相談をさせていただきたいと思っております。 ○山下部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○山口委員 これは,直ちに発見することができるものに限るということですが,直ちに発見できないものについては2週間の通知期間というのは残すという前提でよろしいですか。 ○山下関係官 はい,残します。 ○山下部会長 松井委員から日弁連の方の御意見というのを御紹介いただきましたが,ほかに余り御意見がないというのは,この部会資料の提案で基本的には御異論はないという趣旨だと理解してよろしいのでしょうか。 ○道垣内委員 私は,すでに何度も反対していますので,再び言うのもどうかなと思っただけですので,異存がないなんてとんでもない話です。 ○山下部会長 では,改めて伺ったということで… ○藤田幹事 異論というほど強くはないのですが,ただ,これは先ほどから意見が出ているように,この規定が確かに消費者に限定しないにしても厳しいのではないかという意見は過去出ています。   それとの関係で,526条という商人間売買,これは商人間のものなのですが,それについてすら,相当その解釈論としてはかなり思い切ったことを最近裁判所は言うようになってきている。売買の方は受け取ってから一定期間,半年以内に言わなければ全ての救済を失うということなのですけれども,受取という言葉の解釈を相当無理なことをしてでも裁判所は適用を回避しようとしているところがあります。受取というのは,普通は売買契約上の売買の目的物の受取を指すと解釈するのが普通の読み方なのですが,例えば梱包した状態で倉庫で受け取っても,それはこの条文にいうところの受取ではないのだといった解釈ですね。普通の売買契約上の受取とは違った意味に解釈している,そういうことをしています。   もし,この条文をこういう形で立法した場合に,解釈として,そういうものは配慮しない余地はあるのか。この受取というのは,普通に読めば運送品の引渡し,運送契約上の引渡しのときのはずなのですけれども,ここの条文に関する限りは異議が言えるような,あるいは目的物がチェックできるような,そういった機会が確保されたような受取に限定して解釈して,そこから起算する。   例えば,余りいい例かどうか分かりませんが,宅配ボックスなどに入れられていて旅行に出ている間に入っていたと,2週間後に返ってきてめちゃくちゃに壊れていた,もう2週間たっているから駄目,この条文を適用すればそうなりかねないのですけれども,それは受取とはこの場合は言わない,帰ってきて,あけたときが受取の時になるとかですね。   いろいろ,それに限りませんけれども,それなりの柔軟な解釈の余地は残した上でというのが反対派の人からしても恐らく譲れる最大の線だと思いますので,その辺りは,それは条文でどう書くかというところでは書けないのかもしれませんけれども,せめてそのぐらいの含みは残したような提案であってほしいというふうに感想としては持っております。 ○松井委員 今,山口先生から御質問があった2週間というお話がありましたけれども,BtoBであれば直ちにでも構わないと思うのですけれども,法律上の条文としては全て2週間ということで,法的安定性は果たして害されるのでしょうか。消費者というそのくくりも抜いてしまって,直ちにではなくて,支払部分が抜けた分,代わりに全て2週間ということ,2週間の適否も議論になるところだと思いますけれども,少なくとも直ちによりもいいのかなと思います。   そうであれば,ここには消費者の関係の代表の方はおいでになりませんけれども,それを代弁すると,常識的な,子供が病院に行っていてその日に行けなくても次の日は行けるかなというぐらいの範囲ではないかと思うのですけれども,そこも併せて御検討いただければと思います。よろしくお願いします。 ○松井(信)幹事 現行588条は,基本的に,直ちに発見することができる場合は直ちに異議を述べるべきであり,そうでない場合は2週間以内にすべきであるというものです。その解釈については,先ほど藤田幹事がおっしゃったように,荷主の権利に厳しいルールであることを十分に勘案しながら解釈されるべきものであろうと考えております。   しかし,直ちに損傷を発見できて,そのようにすぐ言えるよというような場合に,その後2週間まで猶予を与えるということが,本当に必要なのかどうか。また,それを例えば消費者だけに限る場合には,消費者か否かをめぐる争いもまた起きてくる可能性がございます。直ちに損傷を発見できるというのは,本当に例外的な場合なのだと思いますし,梱包されている袋が破れて中側も壊れているのが明らかといったような場合に,普通はその場で文句を言うのが当たり前だと思いますけれども,そのような点も考える必要があるのではないかと考えています。   この辺りにつき,運送事業者側の方の御意見もあれば,お伺いした上で考えていきたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○松井委員 消費者という言葉は多分,適切でなかったのだと思いますが,商人であるかないかという区切りであれば,商法上の分類,区切りからいって,それが不明確であるということにはならないのだと思いますので,そこは御検討いただければと思います。 ○松井(信)幹事 協同組合などでよく議論がございますが,商人と非商人との区別も最近様々でございます。現行制度が一律に取り扱っている点につき,本当に区別を設けた方がよいのか,その区切りの在り方が本当にいいのかどうか,というのはあるかもしれません。 ○山下部会長 運送事業関係の委員,幹事から御意見はございませんか。 ○加藤委員 今,松井委員,あるいは,いろいろ御意見いただいたところなのですけれども,商人か非商人かというのもあるのですが,消費者保護の観点からいえば,先ほど山下関係官からもあったように,約款では,例えば宅配便では2週間,それから引っ越しに至っては3か月という猶予があります。ですから,その中ですぐに見付けられないとしても,その間に言っていただければ損害賠償に応じますということで一定の緩和をしていますので,それについては,ある程度,消費者が保護されているのかなという気はしています。   それから,先ほど藤田幹事がおっしゃったように,宅配ボックスに入っていたからというのは一般的には我々としては主張はしませんので,飽くまでもその方が現実にその宅配ボックスをあけた日から数えてということでよろしいかと思います。 ○道垣内委員 申し上げたいことは何回も申し上げたので申し上げませんが,2週間になっているというのは,消費者保護になっていません。それは,原則は民法の時効の規定が適用されるわけですから,2週間なんていうのは大幅な消費者の権利の制限であると御理解いただければと思います。 ○山下部会長 ほかには。 ○柄委員 荷主の立場から考えて一番初めに懸念しましたのは,大量に受け取る商品について詳細に検品をしなければいけないという趣旨かということでございまして,大変懸念しておりました。しかし,今回の資料の説明によりますと,「直ちに発見し得る損傷等があるにもかかわらず,運送品の損傷等の事実を伝えないという極めて限られたケース」という説明がされていますので,その趣旨であれば,私どもとしましても,ある程度理解できるところでございます。   ですから,この「直ちに発見し得る」というのを,先ほど幹事が言われたように,本当に壊れ,外から見て分かるものだ,というぐらい,中小企業の方にも分かるような説明を加えていただければ,もっと理解できるのではと思います。 ○山下部会長 2週間の点については,道垣内委員から少し御意見ございましたが,よろしいですか。   それから期間の責任の消滅の方についても,御意見があれば是非お出しいただいておいていただければと思いますが。 ○松井委員 記録にとどめるために言っているようなことになりますけれども,日弁連といたしましては,期間の消滅についても,消費者についての特別な御配慮をということでお願いしておりましたけれども,その点については今回は御対応いただけないという案だと思いますので,併せてもう一回持ち帰って相談をさせていただきたいと思っております。よろしくお願いします。 ○山口委員 下請運送人に関する規定がイの所に入っておるのですけれども,ちょっと考えてみましたところ,荷主側からいたしますと,直接物を運んでくる運送人というのは下請運送人であることも多いのではないかと思うのですね。そうすると,下請運送人に対して通知を行ってというときには,下請運送人が今度,元請運送人の方に通知を行うという場面が起きてくるのではないかなと思うのですけれども,この規定ではそれはカバーされるのですか。 ○松井(信)幹事 この規定は,飽くまで契約当事者間でどのような手段を採って責任の消滅を防ぐかどうかということでございますので,荷受人が通知をすべき相手方は,法律的にはその荷送人が契約を締結した相手方,運送人自体であって,下請の方に対して通知をするという法律の条文にはならないと思います。   御指摘のようなケースでは,履行補助者と評価して一定の考慮をするという余地はあろうかとは思いますけれども,原則形態としては荷受人は荷送人の契約の相手方に通知をし,更にその後,下請運送契約があれば順次通知がされていくべきと考えております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。 ○松井委員 期間の話は,先ほどの所へちょっと戻ってしまうのですけれども,柄委員がおっしゃった,直ちに発見することができるものに限るという,このレベル感については,松井(信)幹事が言われた外観上見て明らかということで我々も理解はしているのですけれども,それは先ほど私が申し上げた526条2項にも同じ言葉があるのですが,あちらは検査をしてから見るのでレベルは違うのだという認識でよろしいということかどうか,そこだけちょっと確認させていただきたいと思いまして,お願いします。 ○松井(信)幹事 現行法の文言の解釈の問題にもなろうかと思います。しかも,商法526条では,まず1項で検査義務が課せられた上で,2項で6か月という規定があるのに対し,商法588条では,そもそも検査義務の規定はなく,更に2週間という厳しいルールになっています。学会でどのように判断されているか,この場ではお答えが困難ですが,このような違いに伴い,異なる解釈がされても全くおかしくはないし,その条文に沿って請求者側と相手方のバランスが適切に図られるべきではないかと思っております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   今日の御意見では,(1)のアにつきましては,ただいま議論がありましたように,どういう場合に適用されるのかという点につき,もう少し詰めた検討をする必要があるのかなというところです。   また,(1),(2)含めて,従来から,こういう規律については消極的な評価をされる御意見もまだあるということでございます。   それから,日弁連の方でもなお御検討いただけるということで,そういう辺りを踏まえて,次回までにまた事務局の方で検討していただこうかと思いますが,そういうことでよろしいでしょうか。 ○山口委員 この規定は倉庫業者にも準用されておるかと思うのですけれども,それはそのまま維持されるという,つまり変更した形で維持されるということになるのでしょうか。 ○宇野関係官 倉庫関係について,現在この規定は準用されていますけれども,倉庫営業について複券主義を廃止すること以外に実質を改めるべきかどうかについては,必ずしも全く同じ趣旨が妥当するわけではないということもありまして,これから先の議論にもよるかもしれませんが,今のところ直ちに影響するものではないということで考えております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,この8については以上とさせていただきまして,「9 不法行為責任との関係」,「10 複合運送」,「11 貨物引換証」の3点について,御審議を頂きます。   まず,事務局から説明をお願いします。 ○山下関係官 まず,「9 不法行為責任との関係」につきまして,前回会議では,実務上,荷受人は運送を容認しているのが通常であり,勝手に運送品が送り付けられる事態はまれであるため,運送人を保護するための運送責任の体系は原則として荷受人にも及ぼすべきであるとの御意見や,仮に国際海上物品運送法20条の2第1項についても乙案のような改正がされると,船荷証券所持人に対しては無限定に抗弁の対抗が認められることとの対比上,海上運送状の利用を阻害する一大要因となりかねないとの御指摘がございました。   最高裁昭和44年の判決では,運送人の責任に関し,運送契約の債務不履行に基づく賠償請求権と不法行為に基づく賠償請求権との競合を認め得るとされますが,その後,最高裁平成10年の判決は,荷受人が運送人に対して宅配便約款における責任の限度額を超える額の不法行為責任を追及した事案において,荷受人は少なくとも宅配便によって荷物が運送されることを容認していたなどの事情が存するときは,信義則上,責任限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることは許されないと判示しており,契約責任の在り方が不法行為責任の在り方に影響を及ぼすことを認めています。   運送人の契約責任については,例えば,580条の損害賠償の定額化や588条の責任の消滅に関する規律のように,将来の紛争を可能な限り防止するとともに,紛争を生じた場合でも画一的に処理することにより,運送営業のコストに関する配慮がされ,これは民商法の典型契約の中でも取り分け特徴的といえ,これを踏まえると,荷主による不法行為責任の追及のための立証活動に殊更に応訴する負担を強いることは,相当でないと考えられます。   そして,実務上は,特に国内運送を中心として,運送人の契約責任に関する商法の任意規定と同内容の標準約款が利用されることも多く,その場合には契約責任に関する商法の任意規定と異なる約定の意思解釈という手法を採ることができませんので,法律上,契約責任を減免する旨の商法の規定が不法行為責任に及ぶ旨を規定することを検討する必要がございます。   このように,契約責任と不法行為責任とを問わず,同様の責任の減免の規律に従うことは,ヘーグ・ヴィスビー・ルールズ,モントリオール条約,ドイツ商法などを見ても,運送法制に関する世界の潮流であるようにも思われます。   そして,乙案の規律のうち,どのような荷受人につき運送人の責任を減免するかに関し,最高裁平成10年判決を踏まえますと,典型的には当該物品が運送に付されることにつき荷送人と荷受人との間で了解があった場合には,荷受人に対しても,運送人の責任の減免の規律を及ぼすのが相当であると考えられ,このほか,荷受人が運送品を受け取った場合も,運送賃等の支払義務を負うこととの均衡上,同様に考えることができますが,これらに加えて,先ほど御紹介した立証責任の在り方に関する御指摘を踏まえますと,資料18ページの修正乙案のとおり,中間試案の乙案の(1)の荷受人について,「荷受人(当該荷送人の委託により当該運送品が運送されることを容認していない者を除く。(2)において同じ。)」に改めることが考えられます。   この修正乙案は運送契約の具体的な約定を問題とするものではなく,荷受人がその具体的な約定を認識する必要はないことを前提としておりまして,荷送人が売買の相手方である荷受人の予期に反した運送手段を利用した場合は荷主内部の問題であり,運送人から抗弁の対抗を受けて損害を受けた荷受人は,当該荷送人に対して賠償請求をすることとなります。   このような事情を踏まえて,「9 不法行為責任との関係」,「10 複合運送」及び「11 貨物引換証」につきまして,御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明いただいた部分につきまして,また御自由に御意見,御発言をお願いいたします。 ○池山委員 早速ですが,この修正乙案の趣旨について,ちょっと確認をさせてください。   この18ページの下の方,最後6行辺りを見ますと,この荷受人がその具体的な約定を認識する必要なはいことが前提であるとか,あるいは,荷送人が相手方である荷受人の予期に反した運送手段を利用した場合は荷主内部の問題であるとあります。   ただ,恐らくこの修正乙案を考えていただいた趣旨からすると,この前段の具体的な約定を認識する必要はないというのは,より正確に言うと,具体的な約定を容認する必要はないということであって,それから,後段のこの部分も荷受人の予期に反したというのにとどまらず,荷受人との契約に反した場合であっても,それは内部の問題だというところまでいかないとおかしいのではないかと思っております。   なぜそういうふうに申し上げるかといいますと,前回私どもから申し上げた懸念に関連して,更に一番最後,18ページから19ページにかけて,CIF売買の場合は荷受人は修正乙案の容認をしていることは明らかだとあります。ただ,より正確に言えば,恐らくCIF売買には単にCIFということで合意しているだけとは限らなくて,その実際の荷送人が手配すべき運送契約の相手方,端的に言うと船齢何歳以下の船で積みなさいとか,あるいは船会社を指定しているというような場合もあり得るわけです。その荷送人と荷受人との契約に反した船積みを荷送人が実際してしまった場合に,ここで荷受人は容認していませんと言われると,それこそやはり運送人としては困るのですね。   元に戻って言うと,ここの最後の書きぶりからすると,今申し上げたような場合でも,およそCIFであれば容認しているのだということのようですから,18ページの表現に戻っていくと,この認識というのは容認する必要はないと。それから,予期に反したというのは契約に反したものであってもいいのだと,そこまでのかなり広いものだと理解しておりますが,いかがでしょうか。 ○山下関係官 まず,その運送契約の具体的な約定を問題とするものではなく,荷受人がその具体的な約定を認識する必要はないことを前提としていると。 ○池山委員 実際,認識していることはあるわけですよね。つまり,売買契約の中身として,こういう人と運送契約を結んでくださいというのが,売買契約の約定の中であることはあり得ると。それに反したときに,その容認していないということになって,荷受人からの損害賠償に対して,私はお宅で運送されることについては容認していませんでしたと,契約違反なのですよと言われても,やはり困るということなのですけれど。 ○山下関係官 基本的に,その具体的な約定自体はこの修正乙案には書いていないので,今のところは関係ないと思います。というのも,修正乙案というのは,荷受人の後に括弧で,当該荷送人の委託により当該運送品が運送されることを容認していない者を除いているだけですので,その具体的な約定がどうかという点については何も関係なく,認識の対象としては,荷送人が送ったということと運送品が運送されているということだけですので,そこについて容認していない事情があるかどうかだけの問題と捉えていただければいいかなと思います。 ○池山委員 ありがとうございます。私が今,御発言させていただいた趣旨は,正にそのことを確認したかったのです。   解説の方を見ると,その認識とか予期とか,ちょっと弱目な表現になっているのですけれども,本来はこの条文の趣旨からすると,より強い解説をしてくださってもいいのかなと。この修正乙案の文言,規定ぶり自体がどうこうということではないのです。 ○野村(修)委員 今ちょうど修正乙案の話が出ていましたので,それに関連して発言させていただきたいのですが,容認もしていないし拒絶もしていないのだけれども,この運送手段で来るとは普通考えないよねという場合についての取扱いというのが,やはり元の案と修正乙案との間で逆に振れるのだと思うのですが,恐らく,通常こんな貴重なもので壊れやすいものは宅配便では運んでこないだろうと想定していて,どうやって運送するかということについての話合いすらなく,当然受け取る方の側としては自宅に運んできてくれるだろうなと期待していたと,ところが宅配便で送り付けてきましたというときに,明確に拒絶はしていなかったのだけれども,その場合については責任が追及できなくなるのかどうかということについて,どういうふうな御判断になっているのか,ちょっと教えていただきたいと思います。 ○山下関係官 まず,元々の中間試案と今回の修正乙案を内容的に大きく変えたという趣旨ではなくて,中間試案をより具体的にしたというイメージで,事務当局としては,修正乙案を提示しております。その前提で,野村(修)委員のおっしゃったような事例であれば,特に今回の修正乙案というのは,ある荷送人がその運送品を運送してくるということを容認していないという状況がなければいけないので,先ほどの条件に照らすと,そこについて容認していないと認められる事情はあまりないかなと思いますので,この規律の適用を受けて,減免規定の適用を受けることになるかなと思います。 ○松井(信)幹事 規律の趣旨を申し上げますと,実務上売買の当事者が運送手段について事細かに決めるということまではしないことも多いと聞いております。しかも,利用運送が途中で挟まるということもままありまして,荷送人と荷受人の間ではそれほど運送手段についてはこだわりがない。そうすると,そのような意識をしない,積極的に意識をしない荷受人が,運送契約に基づく抗弁の対抗を受けてもやむを得ないのではないかと思っております。   仮に荷受人が運送手段にこだわるというのであれば,それは荷送人との間で個別にしっかりと約束をして,しかも荷送人と運送人の間で契約がされたときに,その契約書を見せてもらうなどして自分で防御する機会もあり得るのではないか。実務上は恐らくそうされないと思いますけれども,そのようなことを考え,また,運送人側としては荷送人と荷受人との間の約束を知りようがないという事情をも踏まえ,このようなルールを考えたところです。 ○山下関係官 1点だけ,先ほどの私のコメントに補足いたします。先ほどの御回答は一般的な運送なのか宅配便なのかというところが容認の対象になっているのですけれども,宅配便で送られるのか,若しくはもう持参してくるかというところになってくるとまた話は別で,運送していることを容認していないという場合が出てくるかなと思います。というのも,まず持参するしかないだろうと思っていたということは,運送されること自体を容認していないと思いますので,その場合には結論が分かれてくるかもしれません。ここで持参というのは,本人が持参するとか,運送を使わないという意味です。 ○山下部会長 野村(修)委員,よろしいでしょうか。 ○野村(修)委員 容認していないということは,明確に,それは困りますと言っていたわけではなく,客観的に見て,その容認していないということが認められる場合であるということでよろしいということですね。 ○山下関係官 はい。 ○野村(修)委員 分かりました。 ○遠藤委員 今,野村(修)委員が質問された点を正にお聞きしようと思っていました。具体的には国際取引で例えばCIF東京という取り決めがあったときに,こちらは船で送られてくると想定していたところ,なぜか航空で送られてきたというときに,それも容認していると言えるのか,この点をお聞きしたかったということでございます。 ○山下関係官 その場合には,運送されるということは容認しているといえ,運送されることを容認していないとは言えないので,この修正乙案を前提にすれば,その場合の荷受人は減免規定の適用を受けるという結果になると思います。 ○藤田幹事 確認をしたかったのは実は同じ所で,実は元々の案というのは当該運送契約と言っているので,極めて具体的に読める。そこまで意識していたかどうかはともかく,読みようによっては契約条項まで容認していることが想定されているようなものに見えたのに対して,今回は極めて抽象的な,自分で持ってくるということではないのだという,業者が運ぶのだということまで容認していれば十分だと読めるような提案で,かなり両極端の選択肢が示されているような気がします。   実は,最高裁の事件についてここで言及されていますが,最高裁はもう少し中間的なものを恐らくは想定していて,あの判決の中では宅配便というものの性格論を割と詳細に認定した上で,低廉な金額で大量に運ぶから,だから当然,責任の制限,限度額みたいなものが当たり前な種類の運送ですと認定した上で,その上で最高裁は,宅配便で運送することについて容認している場合は,信義則上,荷受人もそれは対抗されて仕方ありませんというので,つまり,そういう種類の責任の内容が限定されてしかるべきであるような運送手段であることを容認していたということが最高裁の恐らくは一番重要な決め手なのです。   それでいきますと,先ほど遠藤委員が言われたように,責任制限がある運送とない運送の違いとか,あるいは,およそその責任限度額が全く違う運送なんかについて容認していたことをもって,実際に運んだ運送の契約上の抗弁を当然に対抗されるというのは,少なくとも最高裁とは相当違った政策判断をここで採用するということを,この乙案は意味しているということになってきます。それのよしあしはあって,そもそも国際海上物品運送法は,知っていようが知っていまいがとにかく当然対抗できるのだというのはあるので,それを出発点にしてしまえば,また違ったことになると思うのですが,少なくともこの宅配便の判決からは相当違った政策判断を是とするという前提での提案と評価されることになるのですが,私は率直に言って,少し抵抗があります。ここまで抽象化することには抵抗はあります。   その上で,ただ,では,その中間的なそういう種類の,そういう責任の内容であるようなものについての容認などというのは条文で書けないことも重々分かっておりますし,元々の案が細かすぎるから,元々の案のように書くとまた別の意味で問題があることも重々分かっておりますが,そこから先は難しいのですが,この程度でオーケーとしつつ,その趣旨というのは,とにかく自分で運ぶのではないことを,業者が運ぶことさえ容認しているというのはちょっと解釈の仕方としても極端なので,そこら辺をもう少し限定的に解釈するという前提の提案であれば,考える余地は,賛成する余地もあるかと思うのですが,ここまで言い切られてしまいますと,ややまだ抵抗は思って,それは所詮荷主間の話ですとおっしゃられるかもしれませんが,最高裁自身,荷主間の話であったとしても,そんなおよそ種類の違うような責任が変わってくるようなものについては容認とカウントしていなさそうだということは,やはり押さえた上での提案にすべきかという気はします。 ○松井(信)幹事 部会資料にも記載しましたが,最高裁とは異なる場面を議論しています。最高裁判決は,法律の任意規定とは全く異なる30万円の責任制限というルールを作っているために,そのような宅配便約款によっていることを容認しているというのを要件としております。そのように,任意規定とかけ離れる程度が大きければ,当然それに対する容認が要求されるということです。   それに対して,今回御提案しているところといいますのは,商法の規定のうち責任減免の部分,具体的に申し上げますと,損害賠償額の定額化,高価品免責,責任の消滅に関する先ほどの議論になった規律,これらの契約ルールについて,それを不法行為責任に及ぼすかどうかという話になります。   そこで,まず商法に新設する総則的規律としては,運送には任意規定として原則として先ほどのような責任減免が伴うわけですから,契約によって運送されることを容認しているかどうかで判断すべきであると考えました。   そして,国際海上物品運送法第20条の2で同様の規律を考える際に,仮に国際海上運送だと随分責任体系が違うことを重視しようといたしますと,現実の取引において,先ほども申し上げましたが,陸上・航空・海上,どれを使うかというのが比較的緩やかに,下請運送人を使ってよいという実務があるようでございますので,そうしますと,荷受人が具体的な運送手段を知らないことも多かろうと思っております。そうすると,運送事業者側から見ると,正当な取引の中で自分が運送を引き受けているにもかかわらず,荷主間で適切な合意をしていないために荷受人が運送手段を知らず,そのために運送人側の抗弁が全く通用しなくなってしまうというのは厳しいのではなかろうかと考えた次第です。   なお,今回の提案が中間試案と両極端かのような御発言もありましたが,中間試案でも,これまで御説明してきたとおり,具体的な契約の約定を問題にしないという前提であり,単に契約に基づく運送を容認していたという趣旨でしたので,今回の提案はこれを具体化したに過ぎないものです。   ただ,この提案に対しては,様々な見方というものはあろうかと思いますので,この審議会で御議論いただければと思っています。 ○藤田幹事 今の説明,よく理解したつもり,趣旨はよく分かったつもりなのですが,最後に言われた点ですね。つまり,どういう運送手段を使うかについてブランクにしているというのは容認しているとみなされても仕方ない場合と私も思っておりますし,それは幾つもパターンがあるのですが,明示的にこれはこれでないと困るよというふうな指定までした場合であっても,今の提案ですと,つまり責任制限がないやつにしてください,いや,無過失責任の運送手段にしてくださいという場合であったとしても,これは全くカウントされない,運送することを容認している以上はというそういう仕切りで今の懸念に対処しようというのはちょっと筋が違うのではないか。むしろ,それは容認ということの程度の解釈の問題であって,ちょっと極端に走ったかなというような印象を,それが御趣旨なのであれば,そういうふうな印象を持ちます。 ○松井(信)幹事 荷送人と荷受人の間のそのような約束を運送人が知る手立てがあれば,それを及ぼすというのもあり得るかもしれないですが,現実にはそれを知りようがないというのが運送事業者側の声ではないかと思います。そのために今のような案になっているという説明は,させていただきたいと思います。 ○石井委員 運送人の被用者の責任のところです。実務でよく問題になるのは下請運送人の不法行為責任が生ずるかどうかという点ですが,ここでいうその被用者の範囲というのはどう考えられているのか,御確認をお願いしたいのですが。 ○山下関係官 ここでいうところの被用者というのは,下請運送人を含まず,実質的な指揮監督関係がある者を指すと考えております。 ○道垣内委員 その問題に移ったので一言申し上げたいのですが,私は以前に発言したことも忘れてしまいますし,従来の商事立法も近時の商事立法も文言がどう整理されているのかよく分かっていないのですが,その点をお許しいただきたいと思います。その上で,お聞きしますと,運送人の故意又は重過失というのと,運送人の被用者の故意又は重過失というのを分けるというときに,裁判上,運送人の故意又は重過失というのは,どのようにして立証された場合がそれに当たると考えられているのでしょうか。   つまり,運送人の指揮命令関係にある従業員が故意で物を壊してしまったという場合には,それは被用者の故意であって,運送人の故意ではないという整理になるのですか。 ○山下関係官 先ほど道垣内委員がおっしゃられたように,例えばその条文の中で,その運送人の過失とその被用者の過失というのを分けて書いているのであれば,それはそれぞれ別のものについての過失ということになると思います。具体的に言うと,商法739条というのは船舶所有者の過失とその使用人の悪意重過失と分けていますので,ここについては事実としての別の主体についての過失となると思います。 ○道垣内委員 運送人というのは,これは企業も運送人であり得るわけですね,ここにいう。 ○山下関係官 おっしゃるとおりです。 ○道垣内委員 すみません,法制審はいつもそうなのですが,だんだん条文が整理されてきますと,改正されない条文については,資料に書かれなくなるので全体像がよく分からなくなってくるのですが,581条はそのまま残るわけですね。そうすると,そこには運送人の悪意又は重大なる過失という概念が出てくるわけですね。 ○山下関係官 はい。 ○道垣内委員 それと特別された形で,被用者の故意又は重大な過失という概念があるというわけですが,では,581条の運送人の故意又は重大な過失って,どうやって立証するのですか。 ○山下関係官 その581条の運送人の故意又は重大な過失というのは,被用者の故意又は重大な過失も含むということと解釈されると思います。 ○道垣内委員 ということになると,乙案の(2)って空文ではないのですか。 ○山下関係官 ここの乙案の(2)のところは,運送人と分けているので,乙案の(2)は運送人の被用者の故意又は重大な過失について規定しています。 ○道垣内委員 581条は額の問題だからですか。 ○山下部会長 581条は運送人の責任が問題となる場合で,この乙案の(2)が言っているのは,被用者自身の不法行為責任を減免できるかどうかと,それは重大な過失がある場合は減免できないということですね。 ○道垣内委員 分かりました。 ○山下部会長 よろしいですか。   ほかにはいかがでしょうか。修正乙案という辺りについて,御意見いろいろ頂きましたが,その他の点はよろしいですか。 ○池山委員 今,審議の対象には,この10の複合運送のところも入っているという理解でいいでしょうか。 ○山下部会長 はい。 ○池山委員 そうすると,10の複合運送について一言だけ補足的に申し上げたいのですけれども,ここで,「パブリック・コメントにおいて特段の反対意見はなく,その実質を踏まえた表現振りにつき,引き続き検討する」と言っていただいていることに特段異論はございませんが,私どもの方では正にその表現ぶりについて,パブコメの段階で意見を述べさせていただいております。   中間試案の複合運送ですと,例えば海上運送について,国際海上運送とそれ以外の海上運送ということは,国内の海上運送を列挙するのではなく分けておりますので,そうするとそれらの2以上の運送を1の契約で引き受けた場合,別の言い方をすると,国内運送と国際海上運送を引き受けた場合というのも一種複合運送だと読めかねないという危惧を述べさせていただいております。   私どもの理解は,それが一つの契約で受けられている場合は,結局は途中で積みかえがあるだけで一個の国際海上運送であるという理解でおりますので,是非その点の誤解が生じないような規定ぶりをお願いしたいと思います。 ○松井(信)幹事 中間試案の際には,例えば沖縄の離島から沖縄本島まで船で運ぶ,その後,沖縄から東京まで飛行機で運ぶ,その後,東京港から外航で運ぶ。そのときには,内航と外航が複合運送になることもあり得るのではないかと。 ○池山委員 そのこと自体は理解できるのです。ただ,正に今の事例であれば,運送モードが2種類入っているわけですよね。だから複合運送になるのであって,その運送モードが,要は運送モードという意味は,海上か陸上かというのが単一である限りには,そして,それが単一の運送契約でカバーされる限りは複合運送にはならないと,この理解自体は正しいということでよろしいのですよね。 ○松井(信)幹事 それ自体が一つの国際海上運送だからということで結構だと思います。 ○池山委員 ありがとうございます。 ○増田幹事 中間試案の複合運送のところで一番気になるのは表現ぶりなのですけれども,こういう法令や条約を列挙したような形の規定になるのか,試案のような表現ぶりの規定を御提案される方向なのかというところを1点お伺いしたいと思います。   あと,もう1点,確認させていただきたいのですけれども,これまでの議論だと,外国の鉄道運送区間についても鉄道営業法が適用されるというような前提だったように思います。ただ,戦前の文献などを見ておりますと,鉄営法の地理的適用範囲は内地に限定されるという理解で,国際的な通し運送は関係国で取決めをして運送条件などを定めて行うことを想定していたようでして,そうすると,むしろ,鉄道営業法はこのような場合適用されないといった解釈の余地はあり得るのではないかという気もいたします。こういう解釈の余地がある理解も,可能であるということでいいでしょうかどうかというところについて,御意見を頂きたいと思います。 ○山下関係官 まず,1点目の御質問につきましては,法制的な見地からの検討が必要になりますが,現時点では,中間試案にあったように,(1)から(14)のように,それぞれの運送モードについて列挙するという形は考えておりません。もう少し一般的,抽象的な規律にしたいと考えております。   2点目につきましては,すみませんが,もう一度お願いいたします。 ○増田幹事 日本法が準拠法になってこの複合運送の規律が適用される場合,日本の法令が適用されるとなっていて,その適用される日本の法令の中には,仮に実際の運送区間が外国であったとしても,日本の鉄営法も含まれてくるというような話がなされていたと思うので,それは違う解釈があり得るのではないかという話です。 ○山下関係官 確かに中間試案の御提案というのは,我が国の法令,我が国が締結した条約と書いていましたので,外国で,外国の鉄道運送上の損害については,それは我が国の鉄道営業法が適用されるということになると思うのですけれども,それでは問題があるという御指摘なのでしょうか。 ○増田幹事 いえ,戦前の文献を見ていますと,鉄営法の適用範囲は内地に限定されていて,台湾とか朝鮮などの外地は,別に立法措置をとっていたみたいなのですね。そういった昔の状況からすると,そもそも鉄営法の事項的適用範囲が国内に限定されるという解釈があり得るのではないでしょうかという趣旨の質問です。 ○松井(信)幹事 そのように解釈をされると,具体的には複合運送で外国の鉄道には何を適用したらよろしいとお考えなのでしょうか。 ○増田幹事 それは商法の物品運送の総則的規律の規定が適用されるということでよいのではないでしょうか。といいますか,鉄営法の規定はやはり日本の鉄道運送を念頭に置いた規定だと思うので,むしろ外国の鉄道運送にはフィットしない部分が結構あるのではないかという気がしていて,そこはむしろ一般法であるところの商法の規定,これに補充的に適用される民法が適用されるというくらいに考えておいた方が,本当はいいのではないかなとも思わなくもない部分でもありますので。すみません,そういう趣旨の指摘です。 ○山下部会長 ほかにはいかがでしょうか。   複合運送については,今日のところはペンディングということで,まだ今後,案が出てくると思いますので,そこで御議論を詰めていただくということでいいかと思いますが,不法行為との関係につきましては,よろしいでしょうか。 ○遠藤委員 今さらそもそも論で誠に恐縮なのですけれども,荷主の立場としては,資料の16ページの一番下にも書いていますように,不法行為責任に係る困難な立証に成功する場合にまで,契約責任と同様の責任の減免を認めるべきではないという意見でして,パブコメでも述べさせていただいております。   不法行為は元々違法性のある行為なので,それを債務不履行と同列に扱うということは問題があるのではないのか,不法行為まで封じるのはいかがなものかということを一言申し述べさせていただきたいと思います。 ○柄委員 同じく荷主の立場からの話ですけれども,先ほど言われたような,競合を認めない理由の中のもう一つの理由として,コストが安い,ということが資料に書いてございます。しかし,世の中には重い責任がありながらコストが安いような取引を強いられている業者はたくさんいらっしゃいます。したがいまして,コストが安いという理由でこの競合を認めないというのは,私たち中小企業の立場から言いますと,余り理由にならないのではないのかと思います。法的にこうだということを示していただければもっと理解はできるのですけれども,運賃が安いから競合を認めないのだという理由付けというのは,私たち中小の業者としてはなかなか理解しにくいというか,逆に反発したくなるようなことと思います。 ○山下部会長 乙案を全体として採用するかどうかについて,なお御意見があるということで,今日頂いた御意見も踏まえて,なお検討していただくということで,その他いかがでしょう。よろしいでしょうか。   もし,ないようでしたら,ここの項目も以上にさせていただきまして,一応予定の項目まで参りましたので,もしほかに御意見がないようでしたら,本日の審議はこの程度とさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明をお願いします。 ○松井(信)幹事 次回の日程について御連絡いたします。次回は10月14日水曜日,午後1時半から午後5時半までを予定しております。場所はまだ決まっておりませんので,決まり次第,御連絡を差し上げます。   次回の議題は,海商法制全般について,要綱案の取りまとめに向けた検討を全体的に行っていくという形を考えております。   そして,今回と次回10月の議論,これを踏まえた上で,11月に全体の要綱のたたき台というものをお示しして,更なる議論をお願いしたいと考えているところです。 ○山下部会長 それでは,そのようなことですので,よろしくお願いいたします。   では,本日の審議は以上といたします。本日も活発な御意見,ありがとうございました。 -了-