法制審議会 商法(運送・海商関係)部会 第16回会議 議事録 第1 日 時  平成27年11月11日(水) 自 午後1時30分                        至 午後5時47分 第2 場 所  法務省20階第1会議室 第3 議 題  商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案のたたき台(1) 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○山下部会長 それでは,予定した時刻になりましたので,法制審議会商法(運送・海商関係)部会の第16回会議を開会いたします。   本日も御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。   本日は道垣内委員,岡田幹事,川﨑幹事,田中幹事,谷口関係官が御欠席とのことです。また,松井秀征幹事が遅れてこられるということでございます。   小川民事局長が御就任以来初めての御出席でございますので,ここで御挨拶をお願いいたします。 ○小川委員 民事局長の小川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山下部会長 それでは,本日の会議の配布資料の確認をさせていただきます。事務当局からお願いいたします。 ○松井(信)幹事 お手元の資料について御確認いただきたいと思います。部会資料18として「商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案のたたき台(1)」を事前送付しております。また,参考資料34として松波仁一郎先生の文献,参考資料35として菅原菊志先生の文献,参考資料36として平泉貴士先生の文献,こちらも事前送付しております。更に,席上配布として,参考資料37の日本中小型造船工業会作成の意見書がございます。お手元にございますでしょうか。 ○山下部会長 それでは,本日の審議に入りたいと思います。   本日は,主に部会資料18について御審議いただく予定でございます。   具体的には,休憩前までに部会資料18のうち第1部の「運送法制全般について」を御審議いただき,午後3時20分頃をめどに適宜休憩を入れることを予定しております。その後,部会資料18の残りの部分について御審議いただきたいと思います。   それでは,審議に入りたいと思います。まず,部会資料18の「第1部 運送法制全般について」の「第1 総則」並びに「第2 物品運送についての総則的規律」のうち「1 総論」,「2 物品運送契約」及び「3 荷送人の義務」について御審議いただきたいと思います。   事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 御説明いたします。部会資料2ページ以下の(説明)の「2 危険物に関する通知義務」につきましては,通知義務に違反した荷送人の損害賠償責任に関して,現行法の下では,運送人は信義則上の通知義務の発生に関して,運送品が危険物であることと,その義務違反に関して予見可能性を前提とした結果回避義務に該当する事実の主張立証責任を負うと解されますが,甲案によるときは,運送人は客観的に運送品が危険物であることと,荷送人から通知がないことにより損害が発生したことを主張立証すれば足りる,すなわち,荷送人の主観的要素の主張立証が不要となり,現行法よりも運送人の被害の救済に資することとなります。そして,裁判実務では,危険物の荷送人が無過失とされるには相当の立証を要するという現状もございます。   また,今回の改正項目の全般を見ますと,運送人に有利なものが一定程度見られる中で,全体としてのバランスを図るという必要もあろうかと思います。このような事情を踏まえますと,今般の商法の見直しとしましては,運送人の被害の救済を一歩進めるものという意味においても,甲案を採用することが有力な選択肢の一つと考えられます。   以上を踏まえまして,部会資料1ページの「総則」から3ページの「危険物に関する通知義務」までにつきまして,御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分につきまして,御自由に御発言をお願いいたします。 ○池山委員 危険物の,正に通知義務の違反の効果についてでございます。この点については,過去数年にわたりさんざん議論が重ねられてきた中で,今般,言わば法務省事務当局の意見として,この無過失責任についてはちゅうちょを覚えると,むしろ過失推定責任が有力な選択肢という事務当局の御意見が初めて正式に示されたというのは,我々の業界としても大変重く受け止めております。それを踏まえて検討もいたしました。   しかしながら,もちろんこれはまだ,そういう御意見だということで,判決というわけでもございませんし,これは比喩をしてもしようがないですけれども,仮に判決的なものであるとすると,我々としては控訴しなければいけないと思っている次第でございます。   では,なぜ我々が納得できないかという点について,従前と同じことを繰り返すだけでは駄目だろうということは我々も考えております。他方で,では,全く新しい理由が降って湧いたように出てくるわけでも,それは確かにございません。では,我々がなぜ納得できないのだろうということを,今まで申し上げていたいろいろな論拠の中で何が一番重要な根拠となって納得できないのであろうかということを再検討しなければならないと思っております。   その点から申し上げますと,やはり一番納得できない部分というのは,少なくとも外航海運業界の事実認識としては,無過失責任というのがやはり世界的な潮流であろうということは,これは否定できない事実だと思っております。その根拠となる部分というのは,実はやはり英国法なのです。このこと自体は貨物の方も御理解いただけると思うのですけれども,実務家の感覚としては,英国法というのはやはり,ただ一外国法として,例えばドイツ法だ,あるいは中国法,韓国法などと同列に論じられるものではなくて,外航海運の実務は圧倒的多数は英国法で,それが世界標準だと。大変,日本の弁護士としてはじくじたるものはあるのですけれども,日本法やその他の法律というのは,場合によって,その当事者がローカルな人間であったりする場合に,そのローカルローの一種として採用されるということがあるという位置付けになっているのは事実としてはあると思っています。その英国法が,まず,無過失責任だということ,恐らく,そのことを反映して,国際条約という点についていうと,以前少し,正にロッテルダム・ルール等の話が出たときに,ロッテルダム・ルールは,そうはいっても,まだ発効もしていないし批准国も少ないのではないかという議論は確かにありました,それは事実です。   しかし,この条約というのは,何もないところからぽんとできたものではなくて,元々国際運送に関する規律を統一しようという努力の中で,それ自体,CMIでの検討から始まって10年以上の時間を掛けて検討されて,確かに皆さん署名はしていませんけれども,諸外国の代表が集まった,少なくともコンセンサスとして採択されたものであるという事実はやはり重いのだと思います。国際的な統一をしようとすると,それは無過失責任だということについてコンセンサスが成立したという限りでは言えると思います。もっと言いますと,よく考えてみると,その前の同じような努力であるハンブルグ・ルールでも無過失責任であるということは明示されております。そう考えると,国際的なコンセンサス作りの努力の中では無過失責任ということで決着が付いているということはやはり重いと。我々としては,外航海運業界としては,やはりその国際的なコンセンサス,そして圧倒的な影響力を持つ外国法である英国法と齟齬のある立法は是非避けていただきたいと思います。   この点で,形式的には従前出ていなかった論点として若干申し上げるとすると,従前,学者の先生からおっしゃってくださったことの中に,無過失責任と過失推定責任とどちらがいいかという話の中で,制度設計として,原因者への求償を易しくしやすい方向がいいのかどうかという議論がありました。それを若干敷衍しますと,定期傭船契約にこれを準用するということになっております。定期傭船契約は,典型的な場合は定期傭船はやはり英国法なのですよね。定期傭船契約は英国法で,それで絶対責任だと。一番あり得る事態として,しかし個別の運送契約,船荷証券に出す運送契約,こちらは日本の船会社は,今のところは,やはり日本の会社ですので日本法でやっていると,そこで明らかに齟齬が生じるのです。そうすると,定期傭船者に責任がとどまってしまうと,ここはやはりおかしいのではないかなと思っています。恐らくそこが一番大きなところで,他方では,逆に反対論者の有力な理由として,やはりバランスに欠けるのではないかという部分があって,恐らく,反対論の一番有力な理由は確かにそこだと思います。そこは,一番我々が,運送人の責任とのバランスというのは一番重く受け止めないといけないところだとは思っております。   しかし,それに対して,我々の言い分があるとすると,これは全体的な運送人の責任と荷送人の責任のバランスではなくて,危険物に関する責任という特殊な文脈における責任で,やはり危険物に関する限りは,危険物を保有,管理,利用する人に近い側が役割分担としてリスクをとってもらうと,それがやはり筋なのだろうと。無過失責任が世界的な潮流になっているのも,それが原因なのであって,そこはバランスが欠けているうんぬんというのは,語弊を恐れずに申し上げれば,やむを得ないのではないかなと思います。   これで最後にしますが,あと,保険の問題がございます。この保険の問題についても,よく考えてみると,一方では今議論になっている問題というのは非常に極限的な場合を問題にしているわけです。過失推定責任の方もおっしゃるのは,無過失の反証は非常に難しいと,だから基本的には責任を負うのだと,そこは皆さん異論はないと。だから,今だって責任制限のない非常に重い責任を負っていらっしゃるのです。それに対して保険の手配ができなくて,危険物の運送に不都合を来しているという話は聞かないわけです。それで,極限的な例として,我々が筋論としてやはり無過失責任を求める,そこで責任を重くするということについて,その違いだけで,過失推定責任だったら保険が回る,無過失だったら保険が回らなくなるというのは,実態としては恐らくないと思っています。   先ほどの説明の中で,現行法よりも重くなるということをちょっとおっしゃっていましたけれども,確かに一方で学説上は,日本法の解釈としても過失責任が有力だというのは,「注解国際海上物品運送法」等を見れば書いておりますけれども,実務家の感覚としては,先ほどの最初の話として,実はその学説に対して,実務家は正直,納得をしていなくて,英国法的な物の考え方で臨んでいると。本当にどちらなのかというのは,私の理解する限り,その点を直接判示した最高裁判例があるわけでもないし,NYKアルガスの事件だって,あれは不法行為の判例ですから,判例上は実はないという状態だと思っております。   すみません,長くなって恐縮ですけれども,以上です。 ○山口委員 池山委員がおっしゃった議論は,既に何度もされた議論でありまして,それを再度,長時間にわたっておっしゃるというのはいかがなものかなと思いますが,また一つ一つ反論するのもどうかとは思うのですけれども,実務家は英国法だというのは明らかな間違いでして,そう考えている人はそう考えているだけであって,今は日本法の議論をしているわけで,日本法をどう考えるかということであって,それを,英国法がそう採っているから,それに従わなければならないという考え方は明らかに間違っているだろうと思います。日本は,当初から申し上げているように大陸法の国でして,イギリス法の判例に従う必要など特にないと思っております。   それで,どういう場合に不都合が生じるかと申しますと,これは今まで申し上げませんでしたが,アメリカがやはりセカンドサーキット,第2巡回区裁判所の判例で無過失責任をとったのですが,この事案はどういう事案かというと,1994年に,これは二酸化チオ尿素という貨物の積込みがされて,そこから火災が発生したという事案ですが,実は1994年においてはIMDGコードにおいて二酸化チオ尿素は危険物の指定をされていないという状況でした。ところが,その裁判途中の1998年に,IMDGコード上,危険物の指定がなされたために,判決のなされた2002年では客観的には危険物であったわけです。ですから,それで無過失責任をとったために荷送人に責任が認められたのですが,これは正に後に危険物の指定が行われた,その効果に遡及効を認めるような結果になり,荷送人にとって非常に酷な結果だったと私は思っています。この結果は,日本の法精神からすると明らかな間違った結論だと思っています。そういう結果になるような法改正というのは避けるべきだろうと考える次第であります。   それから,もう一つ,定期傭船に準用されているということですが,もちろんその定期傭船については英国法だと先ほど池山先生がおっしゃいましたけれども,これは自由に,傭船契約ですので,力関係が対等な当事者で,いかようにも決められることですので,それが多く英国法になっているからといって,この日本法の部分について,危険物責任について無過失責任を採らなければいけないという理由はどこにもないだろうと考えております。   それから,先ほどもお話がありましたけれども,無過失責任と過失責任はどれくらい差があるかというのは,これはよく分からないのですが,ただ,少なくとも過失のないものに責任を負わせる理由はないだろうと。それから,運送人と荷送人の責任割合の分配というところからいうと,運送人については堪航能力担保義務についても過失責任ということになっておりますから,当然のことながら,これは国際条約でそのように定まっておりますので,これはやむを得ないのですが,日本において堪航能力担保義務を無過失責任から過失責任にしようという方向性があるにもかかわらず,本件についてだけ無過失責任を荷主に課すというのは,明らかにバランスを欠いた立法になるであろうと思うわけであります。   もしそうであれば,当然のことながら,運送人も無過失責任を負っていただいて,少なくとも自分が間違って知らずに載せてしまったとしても,他の貨物に対しては無過失責任を運送人が負うというのがもし必要があればバランスがとれるのではないかと思いますけれども,そういう議論にはならずに,その部分,堪航能力担保義務についてだけ過失責任を主張され,危険物の申告義務についてだけ無過失責任を負わせるというのは,やはりバランスを欠いているのではないかなと考えております。 ○池山委員 今の御指摘は,前からこういう話にはなっているので,水掛け論だと思うのですけれども,1点だけ山口委員にお尋ねしたいのは,確かに,英国法はどうあれ,ここは日本法を議論する場で,英国法がどうかというのが直接影響を与えるわけではないというのは,一つの考え方としてはそうだと思うのです。ただ,私らが思っているのは,実務において英国法の影響力が圧倒的に強い,つまり多くの場合は英国法準拠で契約されている,そのこと自体は山口委員も御異議はないかと思うのですけれども,そこはいかがですか。 ○山口委員 どれぐらいのパーセンテージで英国法を採用されているのか,私は,確かに多いだろうとは思いますけれども,どれぐらいの多さであるかという認識は,別に統計があるわけでないので分かりません。しかしながら,仮に多いからといって,それに従う理由はなくて,当然,日本法を準拠法とした定期傭船契約も存在いたしますし,そこは特にニュートラルに考えられてよいのではないか,要するに,英国法が多く定期傭船契約で採用されているということを前提にここで立法するというのは,間違いではないかと思います。 ○鈴木委員 今の荷送人の義務というところですけれども,国内法の問題ということなのですが,何かアメリカとかイギリスの話が出てきて,ちょっと違和感を感じておりますが,内航の方からの立場で申し上げさせていただきますと,前にも申し上げましたけれども,危険品というのはやはり,何かあったときに多大な災害を生じますので,特別に輸送させていただくというベースのものなのですね。したがいまして,一般の貨物の中に危険品運送も含まれるというわけではなくて,飽くまで特別に荷主さんの要望によって運送人側がいろいろな対応を図って運送を引き受けさせていただくという前提になっておりますので,その通知に誤りがあったりするということはあってはならないことだと理解しておりますし,この立法の趣旨がそういう危険品による災害というか,損害を防止するのだと,要は,荷送人さんの通知は誤りなんてあってはいけないのだという趣旨で立てられるのであれば,これはもう甲案の方で,特に過失がなかったから免責しますよというような条文を入れる必要は全くないのだろうなと思います。   それともう一つ,先ほどお話がありましたけれども,何か全体の公平の観点からバランスを考えなければいけないというコメントがあるのですが,これはそういう問題ではなくて,危険品輸送というものがいかに大事なものかという観点ではかるべきであって,堪航能力担保義務とか,そういうのは海だけの話でして,この規定は陸海空全部に関わる問題なのです。なので,この両方の均衡をはかるがために考えなければいけないという発想は,ちょっとおかしいのではないかなと私は思います。 ○柄委員 荷送人の立場でお話しさせていただきますと,今,鈴木委員から言われたことも十分理解はしております。ですから,運送人として旅客や運送人の安全を確保しなければいけない,これはもう十分承知しておりますし,その点については全く異議はございません。ですけれども,荷送人の義務として,危険物の通知義務を本当に無過失責任としていいのかどうか。何回も申しておりますが,荷送人には様々な者がいます。それから,危険物の定義が個別的に,あるいは具体的に明確になっていない,このような状況の中で無過失責任とすることは,実務的には現場に大きな混乱を来してくるのではないか,これがやはり非常に大きな問題と考えます。先ほど出ました保険の話についてもこれまで申し上げてきたとおりですし,また,無過失責任になってしまいますと,荷送人としては疑心暗鬼になって,どこまで通知しなければいけないのか,実務的には相当混乱を来してくると思います。   そのように考えますと,やはり部会資料の説明のとおり,危険物に対する通知義務は明文化して安全の確保を図る一方,その責任の在り方については過失責任としていただいて,個々の事情,いろいろな事情があると思いますが,荷送人の事情,危険物の事情,様々な事情に応じた弾力的な判断をしていただくというようなことで進めていただきたい,これが荷送人の立場の意見でございます。 ○池山委員 一方で私どもも,荷主側,あるいはNVOCを代表されるお二方の御意見というのは,非常によく分かりますし,その意味では重く受け止めないといけないという思いは確かにございます。ただ,一方で私は,鈴木委員がおっしゃったことというのは,私は外航海運の場合に特化して,あえて国際的な潮流と申しましたけれども,外航海運にとどまらず運送事業者,ここにほかにもいらっしゃいますけれども,やはり皆さんのこれは実感なのです。なので,ここで変な話,無理やり過失推定責任というのを盛り込んでも,結局はその特約で変えられる人はどんどん変えていくだろうし,もし特約が認可制だということになって特約認可がおりるかおりないかとなると,言ってみれば,そこでもめるだけで,紛糾の種をかえって残すと。やはり運送事業者として納得できないものを無理強いされても困るなという感覚を,私というよりは,言ってみれば私の推薦母体である業界の方々が皆さん持たれていると思います。   それから,本当に混乱が起きるかどうかというのは分からないという言い方が一番正しいのだと思うのですけれども,ああ言えばこう言うになってしまうのかもしれないのですけれども,では,英国法が無過失責任だと,その圧倒的影響力か程度問題かは別にして,ということが事実としてある中で,では,英国法に準拠した運送実務が今現に混乱しているかというと,やはり混乱していないのではないですかね。飽くまでも,本当に無過失責任か過失推定責任かが分かれるのは極限的な場合であることは確かです。その極限的な場合のリスクをどちらがとるべきかという話で,ここはもう筋論として,我々は危険物だから荷主といい,荷主側は,やはり過失責任の大原則なのだから,その場合はしようがないでしょうとおっしゃるというのは,それはそれで分かるのですけれども,解を見いだすのは正直,難しいところかなと思っております。 ○遠藤委員 我々が議論しているのは,一般法である商法の規定です。これは,危険物に関しても,総則の規定で全ての輸送モード,陸上,海上,航空に適用されるものです。それに加えて,商人間の取引だけではなくて消費者を含む規定であるということです。それで,事務局作成の資料の「3 荷送人の義務」の「(2)危険物に関する通知義務」,危険物の定義であるアの部分を見ますと,僅か4行しかないわけです。非常に一般的な規定で,危険物が特定されておりません。これに対して,消費者を含む荷主全体が無過失責任を負わなくてはならないということは過酷にすぎるということであります。   池山委員が国際海上の例をお話しされましたけれども,あれは国際海上に特化されたハンブルグ・ルールやロッテルダム・ルールズの条約のお話しです。国際海上運送に関する条約を,国内のこの一般法である商法にそっくりそのまま適用するというのは,そもそも問題があると思いますので,我々としては,荷主全体の意見だと思うのですけれども,基本的に甲案が妥当な案であると考えております。 ○菅原委員 従前から繰り返し申し上げておりますように,国際航空貨物運送においては,モントリオール条約10条の規律がございますし,実務では,内際問わずに無過失責任ないし厳格責任が定着しているところです。そのことを前提といたしましても,商法の危険物に関する通知義務について,いま遠藤委員がおっしゃるのも非常に説得力があるなと思いました。前々回会議の席上,私も同様の発言をしておりますが,部会資料18の3ページに「危険物を運送過程に接近させないとの効果」が認められる旨の記載がございます。この点を事務当局に言及いただいたことは,大変に有り難いと思っております。   それぞれのお立場や関係で御議論を重ねてきたわけですから,一般法である運送法において,危険物の通知義務を過失推定責任でまとめようとの方向性に対しては,いまさら特段に強い反対を申し上げるものではございません。ただし,これを無過失責任とした場合には,運送の安全という面から「危険物を運送過程に接近させない効果」もあるのだという点を,要綱案にも明示していただければと思います。 ○増田幹事 この論点は非常に議論が尽くされているところで,またこの上に何か重ねるというのも大変申し訳ないところではあるのですけれども,私個人的には,過失責任が現代における債務不履行責任の一般原則だというような認識は全然共有していないものですから,と申しますか,やはり債務不履行責任の帰責根拠というのは,飽くまでも合意の拘束力に基づくのだと,その合意の内容の確定というのは,当事者のした合意の内容ですとか社会通念ですとか,そういったところによって決まってくるものだという認識を前提にしておりますので,山口委員が間違った判決だとおっしゃった,アメリカの第2巡回区連邦控訴裁判所の判決(Senator Linie GmbH & Co.KG v Sunway Line,Inc.,291 F.3d145(2d Cir. 2002)),どちらにも過失認定ができないケースで,運送人ではなくて荷送人の方に責任を負わせたという事案ですが,その判決は間違いだったという認識は,私は日本法の下でも必ずしもそうではないのではないかと思っております。   やはり合意の拘束力が債務不履行責任の根拠なのだという考え方をベースにすると,そもそも過失がなかったら免責するというルール自体,一般原則から説明できるものでは必ずしもないと思うのですね。むしろ契約の性質といいますか,運送契約においては基本的には危険品ではないことを前提にして運送が行われると,飽くまでも危険物の輸送というのはそれに対する例外なのだと,公法的な規制の中でもそのような扱いになっているということを前提といたしますと,私は現行法の下でもむしろ,Senatorのような事件では荷送人が責任を負うという判断になっても何もおかしくはない,少なくとも理論上の障害はどこにもないと思っております。そういう観点からも,私自身は甲案には賛成しかねると思っているところです。それは,国際的な潮流もそうですけれども,やはり日本法の下でも,筋論で考えていくと,やはり甲案ではないのではないか,過失がなければ免責ということではないのではないかと私自身は思っているからでございます。   また,危険物かどうかがよく分からないものがたくさんあって,そういうものがある中で荷送人に無過失責任を負わせるというのは大変酷ではないかということも,何度も出てきている論点かと思います。ただ,乙案をとったからといって,そういうケースで荷送人が責任を負わないと判断される余地が全くないということになるのかどうか,荷送人が常に非常に過酷な責任を負わされるということになるのかどうかということについては,これもまた,疑問に思っております。というのも,厳格責任をとっているアメリカやイギリスにおいても,危険物責任が争われたケースでは,実際には荷送人の方ではなくて運送人が結局損失を負担せざるを得なかったというケースは複数ございます。ですので,恐らくどちらにも過失認定できないケースというのは,事例として恐らくかなり稀なのだろうと思うのですね。また,危険物に該当するかどうかがそもそも疑わしい場面ですと,やはりイギリスなどでも,危険物に該当するのかどうか,危険物に該当するとしても,どこまでの通知義務を荷送人の側は負っているのかというところが集中的に争われるという傾向がございます。そうなってくると,結局のところ危険物かどうかよく分からないものに関していうと,荷送人の側にもかなりの程度,最終的に責任を負うべきかどうかについては争う余地は残されているということになろうかと思います。   なので,多分,甲案と乙案の違いというのは,争う場所が,過失があるかないかというところではなくて,危険物に該当するかどうか,通知義務の内容はどういうものだったかとか,そういう形で争われることになるということなのではないかと思うのですね。ですから,恐らく,どちらかに過失認定できそうなケースでは,どちらをとってもそれほど差が出てこないのではないかと私自身は思っております。このため,危険物かどうか分からないものがたくさんあるから過失責任にすべきだというのは,根拠としては,理論的には少し弱いのではないかと私は思っております。 ○端山委員 ちょっと論点がぼけるかもしれませんけれども,確かに無過失責任だという論理については,今の先生も含めまして,極めて,理屈も分かりますし,ある意味,こう言っては何ですけれども,美しい。   しかしながら,今の議論は,危険物だからということになっているのですけれども,普通,危険物がどういう定義かというのは置いといて,危険物を適切な方法によらずに運ぶから災害が起こるわけで,損害が生ずるわけで,ということは,まともにやっていればそういうことは起こらないわけですから,あたかも何か無過失ではなくて過失主義にすると,言い逃れて全然責任をとらないでいいというような雰囲気が極めてあるのですけれども,少なくとも私は逆に言えば,危険物だからこそ,何らかの原因でそういう災害が起こったということは,瑕疵があったということなのですよ。それがどこに起因するかといったときに,当事者同士の荷送人と運送人という関係だけでいえばそのとおりなのですけれども,その荷送人がいろいろな立場がある。これが実際に危険物を作っているメーカーだけが荷送人という立場であれば,これは極めて答えは簡単で,私に言わせると,無過失だろうが過失だろうが結果はおのずと同じだと思っているのですけれども,その途中に商社であったりフォワーダーであったりいろいろなところがあるときに,本当に最後の末端の人間がそれなりの責任を持って運んだときに,途中に瑕疵があって,それを分からないまま運んだときに,いの一番に,あなたは無過失責任を負うべきだからというのは余りにも問題があって,その実際の当事者が過失がないと言えても,災害が起こっている限りは危険物であるのですから,必ずどこかで瑕疵があるわけですから,そのときに,それは多分,今の裁判実務だと契約上の債務不履行というか,そういう契約上の概念ではなくて,もう不法行為でいっている場合も随分あるのですね。運送人の皆さん方も,現実的には,ぱっと見て,その相手がどれだけの力があるか,大した力のない,弁済能力もなかったら,そこで無過失だろうか過失だろうとかいうのではなくて,もう一歩,二の矢,三の矢で不法行為でかけているのですよね。   ということからすると,私が言いたいのは,普通で言えば過失と無過失でという今までの議論は極めて分かるのですけれども,危険物だからこそ必ずどこかで問題が起これば瑕疵があって,その原因を追及して,そこに行くためにも何らかの認定の場が必要ではないかと,したがって,問答無用で無過失責任だというのには,結果は余り変わらないかもしれないけれども,一般法である商法にそれを規定するというのには無理があると私は思っています。 ○山口委員 増田先生のお話の中で,推定される過失責任が通常の考えであろうというのには同意できないとおっしゃって,アメリカの判例も,日本でもそうなるのではないかというお話もありましたが,もう一つ,おっしゃった中で,運送人にも過失がある場合があるだろうと思われるのですが,そういうときに,運送人に過失があるから別に荷送人が免責になるわけでも何でもないわけで,運送人が過失があろうがなかろうが荷送人に無過失責任を負わせるというのがこの規定になりますので,そういう意味からいってもバランスが悪いのではないかと思っておるわけであります。ですから,告知の仕方にも問題が出てくるという話ですが,告知の問題で争うという規定にはなっていなくて,一方的に荷送人に告知義務が課されていて,それが瑕疵があれば単純に責任を負うということですので,どんなに十分な告知をしようとも,最終的に結果的に,先ほどの話からいうと,4年後に危険物になったものでさえ,漏れておれば,それが責任を負うという,そういう考え方というのはとても荷送人には酷でありますし,運送人と荷送人の関係では極めて負担が一方的に課されている状況になるのではないかと思いますので,やはり推定された過失責任を問うべきだと。   それから,もう一つは,危険物についての特定が非常に不十分であるとも考えています。今申し上げたIMDGコードだけの問題ではなくて,イギリスで問題になったのは,何か虫が中に入っているというような貨物だったのですけれども,それについて,虫が入っていたら,それは僕はどちらかというと単純にいうと過失責任だったと思うのですけれども,無理やり無過失責任にしたからややこしいのだろうと思うのですが,そういう貨物について,要するに,非常に危険物の境界が余りはっきりしないものも,裁判所が後から危険物だと考えれば,それについて告知すべきであったということになりますので,本当に無限定の義務を課された上で,なおかつそれが無過失責任だというのは,やはり荷主に酷すぎるのではないかと思います。 ○池山委員 ある意味,逆説的かもしれないのですけれども,私は今の山口委員,それから端山委員,柄委員のおっしゃることは非常にそれぞれ説得的だと思いますし,個人的には納得できる部分もあることはあるのです。だけれども,では,それで分かりますかと言われると,言えない。何でなのだろうということを考えたときに,増田幹事の方からある種,理論的なお助けを頂いたのかなと思っております。   それはどういうことかというと,先ほど運送人側の実感という言い方をしましたけれども,運送人側としては,危険物を受けるときには,やはり基本的に危険物の本来的な所有者,管理者に少なくとも近い方は荷送人側なわけですから,それはいろいろな立場があるのですけれども,いざ何かあったら責任をとるという前提で引き受けますというのが運送事業者の前提認識としては,やはりあるのだと思います。   ですから,仮にこれをデフォルト・ルールで無過失責任になったら,特約で変えられる人はみんな変えるでしょうと申し上げました。それはやはり,デフォルト・ルールになるから特約という言い方になるのだけれども,運送事業者の実感としては,やはり無過失責任的なものとして受けているという実感が,皆さん,ここはあるのではないかなと思っています。そこを商法の原則として変えるというのは,むしろ実感に反するのかなと思っています。   それから,その他御指摘があった中で,確かにこれは,本当に無過失責任か過失推定責任かというのは極限的な場合を議論しているだけですし,他方で仮にどちらであったとしても,そもそも危険物であるのかどうか,あるいは危険物であることと損害の間に因果関係があるかどうかというのは常に大問題で,荷送人の側からすると,そこが明確化されていないから無限定になると山口先生はおっしゃいました。私に言わせたら,無限定になるかもしれないと。逆に,こちら側,クレームをする側からすれば,その二つのハードルは,あえて言えば十分重いのだと思っております。 ○山下部会長 大分意見が出ましたが,ほかにこの点に関して,ございませんでしょうか。 ○遠藤委員 1点だけ補足しておきたいのですけれども,この危険物に関する審議の中で,当初は,運送人が知り又は知り得べき場合ということが議論されたかと思うのですけれども,そこのところは最終的には,運送人の主観的態様を考慮しないということで,この案になっております。ということは,我々荷主としても,そこのところを受け入れた上で,かつ,最終的に荷受人の通知義務違反についても過失推定責任主義,我々荷送人が立証責任を負うのだというところまで譲歩といいますか,最終的に運送人とのリスクバランスを,最大限のところまで考えた上で,この案になっているということを,もう一度,御理解を頂ければと思います。 ○藤田幹事 この点について賛否を申し上げるつもりはありませんが,最後におっしゃられた点が気になりますので,その点だけ申し上げておきます。現在の提案において,運送人の主観を問わないことにした理由は,運送人が危険物であることを知っているような場合については,因果関係なり過失相殺なりで処理すれば足りるという理解からそうしたのであって,決して荷主側に妥協を強いたということではありません。運送人が危険物であることを知っているような場合には,荷送人は生じた損害全部について責任を負うことはないという実質は変わらないことを前提に,通知義務の有無については運送人の主観に依存しないように規定したのです。したがって,この点でバランスをとって結論を出すのは適切ではありません。今の点だけは,おかしな誤解が残らないように確認しておきたいと思います。 ○遠藤委員 池山委員が英国法に基づけばというお話をされましたけれども,運送人が知り又は知り得べきとの運送人の主観的態様について,英国法に基づいた日本での最高裁判例もあったかと思いますので,そこのところを改めて一言申しておきたいと思います。 ○石井委員 この点,大分議論されてきた論点なのですが,バランスの観点から一言だけ申し上げたいと思います。池山委員の御意見はやはりごく部分的なところに着目されているのではないのでしょうか。海上運送で,危険物による事故が起こった場合に,船舶の損害もさることながら,積み合わせの貨物の損害がむしろ大きくなることもあり,そのときに危険物の荷送人が運送人に対してのみ無過失責任を負うとなると,ほかの貨物との関係ではどうかという問題もあると思います。それから,先ほど来,中心は英法であるとの話が出ていますが,ここは運送全般の総則規定ですので,陸上運送等を考えたときに,国際海上運送というごく一部のところのみ捉えるものではなく,この辺で全体を見て考えても良いのではないかなとは思います。 ○増田幹事 ちょっと議論の主要な論点からずれるのですけれども,少し前提を確認させていただきたいと思います。仮にここで甲案が採用された場合,国際海上運送については,やはり特則を置くなり海上物品運送法の改正を行うといったことは特に考えないという前提で議論がなされているという理解でよろしいでしょうかというのが第1点です。   あと,第2点目として,先ほど原因貨物以外の貨物の荷主さんが損害を受けた場合というのが問題になっていましたけれども,基本的にはここの規律は契約責任に関するルールで,そのほかの不法行為責任で普通は請求を立てるような部分については特に影響しないと,つまり,不法行為でいく場合は全てどちらにしても過失責任だと,そこの部分は変わらないという認識でよろしいでしょうか。 ○山下関係官 まず1点目,国際海上物品運送法については,この危険物に関する改正の範囲ではないので,特に今回の改正が直接的に影響を与えるというわけではないと考えております。また,不法行為責任についても特に改正はしませんので,従前どおりということで理解いただければと思います。 ○増田幹事 ありがとうございました。国際海上物品運送法に影響することがないというのは,別の解釈を採り得る余地があるということなのですね。 ○山下関係官 はい,解釈に委ねられている現状が維持されることになります。 ○増田幹事 分かりました。ありがとうございます。 ○鈴木委員 法律の詳しいことは分からないのですが,この甲案,乙案で甲案を入れたいという御要望だと思うのですが,この乙案で,特に通知義務だけの規律の場合に,当然に無過失責任になるのかどうかというところがよく分からないのですね。例えば,荷送人さんの方に全くミスがないと,要は,製造業の方から危険品だという申告が全くなかったのだというような場合に,それは荷送人さんに全部責任をとらせるというのはちょっと無理があるかなと思います。そういうケースの場合も,要は,乙案だと,無過失責任ということで責任を負うことになるのでしょうか。その辺,もし分かるようでしたら教えていただきたいと思います。 ○山下関係官 現在,部会資料にお書きしている中間試案の2ページの四角でくくっている部分は,飽くまで実質を書いただけですので,法律に書くときにはまた別途の検討は必要かと思います。つまり,乙案を採って無過失責任を採るのであれば,それに見合うような法律の書きぶりになるとは思います。 ○池山委員 これは運送事業者側の意見統一ができているかできていないかという話かもしれませんけれども,私は,鈴木委員は,荷送人側に全く落ち度がなかったときにはしようがないのではないかというような趣旨を若干おっしゃったやに聞こえましたけれども,正直申し上げて,そういうときにもやはり運送事業者としては,業界としては荷送人側に責任を負ってほしいという考えのはずだと私は思っています。それが無理があるというのをほかの業界の方が言われていて,そこは重く受け止めなければいけないけれども,業界としてはやはり先ほど,繰り返しませんけれども,筋論うんぬんという話に私はなるのだと思っております。   それから,逆に確認ですけれども,もしもこれが過失推定責任になりますと,区分けとしては,国際航空運送については,モントリオール条約は条約上の明文があるから厳格責任で,国際海上運送については,今の法務省の見解だと,一方でそれは国際海上物品運送法の解釈だということで,一応,解釈の余地は残る。だけれども,その他のもの,またここで外航と内航の区別が出てくるわけですけれども,内航運送及び陸上運送については過失推定責任になるという分かれた立法になるということなのでしょうか。妥協の産物としてそれがいいのかどうかというのは,私はどうなのかなと正直,思っておりますが。 ○山下関係官 現時点における整理としては,池山委員のおっしゃったとおりと考えております。 ○松井(信)幹事 我が国の法制は,基本法として商法がありまして,その特別法として国際海上物品運送法やモントリオール条約がありますので,基本法として何を定めるかと,特別法として何を定めるかというのが異なることは十分あり得ると思っております。そして,モントリオール条約について,この危険物に関する通知義務違反の効果を明文で直接書いた規定まではなく,そこも解釈になるのかもしれませんが,その点は,菅原委員から御紹介のあったような解釈というものが十分にあり得るのだろうと思っております。他方,国際海上物品運送法については,危険物に関する11条2項で,危険物を運送して損害が生じた場合に運送人の荷送人に対する損害賠償の請求を妨げないという規定があるところ,この条文の解釈問題が今後も残ると考えております。 ○池山委員 念のために申し上げると,変な話,私が外航海運のことだけを考えているのであれば,それならそうですかという話で,語弊を恐れずに言えば,済んでしまうような話ではあります。ただ,私どもとしてはやはり,さはさりながら,今の解釈として,学説上は過失責任が注解国際海上物品運送法に書いてあるということは私も承知しておりまして,有力だと。そういう中で,一般法として過失推定責任が明文で規定されれば,解釈には影響を事実上与えるだろうという観点で,それを踏まえて,我々は前提として解釈としては無過失責任で在るべきだということを念頭に置きつつ,一般法としてもやはりそう在るべきだということを申し上げているという位置付けでございます。 ○山下部会長 この点について,大体意見は出尽くしたということでよろしいでしょうか。   今日までに出た意見を全部総括して,また,なお次回に向けて検討していただきたいと思います。今議論しているのは「第1 総則」,第2の1から3までですが,この危険物以外のところで何か御意見がございましたら,お願いいたします。 ○鈴木委員 総則の第1の2と3の,例の陸上運送と海上運送のところなのですけれども,以前から私は別案の御検討をお願いしていまして,今回また新たな御提案があったような感じなのですけれども,これで確認をさせていただきたいのですが,航海船による運送が海上運送ということで,非常に分かりやすくなっているなと思っております。問題の湖とか川とか港湾だとか,要は航海船ではないという意味の非航海船による運送は,これは陸上運送になるという理解でよろしいのかというところを確認させていただければと思うのですが。 ○山下関係官 今御紹介のあったのは部会資料の1ページの説明の「なお」の段落の3行目で,海上運送について,「商法第684条に規定する船舶(第2部の第6の3(2)の非航海船を含む。)による物品又は旅客の運送をいう。」というところかと理解しておりますが,これについては,第6の3の(2),部会資料24ページになりますが,非航海船の定義をしておりまして,「商行為をする目的で専ら湖川,港湾その他の海以外の水域において航行の用に供する船舶」,ただし,ろかい船等を除きますけれども,そういった船舶を非航海船というとしております。したがって,こういった船舶による運送も海上運送に入れるということを,ここで書いております。 ○鈴木委員 海上運送に入れるのですか。 ○山下関係官 海上運送に含むと書いております。 ○鈴木委員 これは,海上運送に入れるということは,今までと変わり,平水区域の船というのは海上運送に入るということですか。 ○山下関係官 この案は,そういう案です。中間試案でいうと,乙案の実質的な規律ということになります。 ○鈴木委員 これに関して,ちょっと懸念があったのですが,はしけ運送の方は特に問題はないのでしょうか。 ○山下関係官 具体的に,問題というのは,どういった問題でしょうか。 ○鈴木委員 要は,はしけ運送は陸上運送に入れてほしいという港運さん側の御要望があったように思うのですけれども,この場合は海上運送に入ってしまうということになるのですか。 ○山下関係官 はい,その場合だと海上運送に入りますので,港運事業者の方の意見というのを全て取り入れたわけではないということになると思います。 ○鈴木委員 私が言う立場ではないかもしれませんが,ちょっとその辺が気になることは気になるかなと思っているのですが。 ○松井(信)幹事 この点については,元々鈴木委員の方から瀬戸内海の話を御紹介いただき,そのような運送が現在の法制では陸上運送になっているというのが適切でないという御指摘がございました。その後,船舶の安全に関する法令などを見ますと,瀬戸内海の運送も,湖川における運送も,適切な安全検査をすべきというルールがあるということでございました。このような観点を踏まえ,中間試案の乙案が作られ,海上運送の中には,一般的に水上を航行する構造物を考えていくとなってきております。この部会では,今のところ,このような考え方に賛成される方が比較的多いという認識でございます。   はしけについては,その堪航能力担保義務をどう見るかが問題となりますが,従前のこの部会の議論では,はしけであっても,はしけなりの安全性の確認が必要なのではないか,また,はしけにも,動力を持つはしけや油はしけなど様々なものがございますので,そういうものも考える必要があるのではないかという意見があったと認識しているところでございます。 ○鈴木委員 そうですか,分かりました。私がこれ以上言う立場でもないのですけれども,多分に港運さんの方は,海上運送の特則とかそういうものは受けたくないという御意思だと思っていたので,こういう定義で御納得いただけるかどうか,ちょっと懸念を持っております。 ○池山委員 似たような質問かもしれませんけれども,この別案というのでしょうか,なお書の案の観点からすると,一方で商法684条に規定する船舶だというと,これは航海の用に供する船舶だということなのですけれども,他方で,それに非航海船を含むということであれば,要するに,航海であれ非航海であれ船舶による運送が海上運送だと,むしろ水上運送という方が適切かもしれませんけれども,実質的にはそれに近い定義になっている。そうすると,船舶の定義が何かが問題になってきて,少なくとも,このろかいのみをもって運転するものうんぬんだから除く,そこだけははっきりしているけれども,それ以外についての船舶の定義については商法の解釈に委ねられると,まず,考え方としてはそれでよろしいということですよね。 ○山下関係官 はい,それでよろしいと思います。 ○池山委員 そうすると,一つ質問があるのは,一方で684条に規定する船舶,つまり航海の用に供する船舶といいながら,他方でそれ以外のものを,ここでは非航海船という言い方をしているのですけれども,現実の第6の3の(2)では,専ら湖川,港湾その他の海以外の水域うんぬんという書き方をしていて,結局,湖川,港湾が海ではないということは論理的な前提としているということになる。元々航海の用に供する船舶というときの航海,その海とは何か,そこは手を付けないという話でしたけれども,他方で,非航海船の定義がこのようにあることによって,港湾,湖川は少なくとも海ではないと,そこだけは文理上,逆に明らかにしてしまうということになるのでしょうか。それがいいとか悪いとかいっている趣旨ではなくて,単純に質問なのですけれども。 ○松井(信)幹事 今まではそのように解釈されてきたのではないかと思いますが。 ○池山委員 どこまでも海の解釈について中立的にするのであれば,別に湖川,港湾というような例示を入れなくても,元々が航海なのだったら,その他,海以外,それだけにしてしまうということによって,湖川は確かに社会通念上の海ではないですけれども,港湾については社会通念上の海かどうかというのは,なお争いがあり得るのかもしれないなと思っていまして質問したのですが,やはり例示はあった方がいいですかね。 ○松井(信)幹事 その辺りは政府部内の法制的な検討も含めて,考えさせていただきたいと思います。 ○山下部会長 ほかに,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,今日御指摘のあった点について,次回までに事務局に検討をお願いするということにしたいと思います。   それでは,次に進みまして,「4 運送賃及び留置権」,「5 運送人の損害賠償責任」,及び「6 荷受人の権利」の部分について御審議いただきたいと思います。   事務当局から説明をお願いします。 ○山下関係官 御説明いたします。部会資料4ページ以下の「6 荷受人の権利」につきましては,本文(1)及び(2)の規律に対して,正当な利益を有しない荷受人による権利濫用の危険があるとの御指摘もございましたが,他方で,現行法の下でも,運送品の一部が滅失して到達地に到着した場合に同様の問題が生じますところ,濫用的な権利行使などの実態は見受けられないとの反論があり,これを踏まえますと,本文(1)及び(2)の規律のみを設けることも考えられます。   仮にそのような権利濫用の危険があると考える場合には,これを防ぐためとして,部会資料16で修正乙案をお示しいたしましたが,国際的な売買では,危険は物品を最初の運送人に交付した時に買主に移転するということが基本的な考え方であり,また,国際運送に関しては,世界各地の運送人の外国代理店が荷受人から損害賠償請求を受けることが想定されますが,適時の荷送人への通知が容易でないことも十分に考えられます。そうすると,商法上の通知義務としては,本文(3)のとおり,国内運送に限り運送人の通知義務の規律を設けることも一方で考えられます。   以上を踏まえまして,部会資料3ページの「4 運送賃及び留置権」から5ページの「6 荷受人の権利までにつきまして,御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,自由に御発言をお願いいたします。 ○雨宮幹事 日弁連の事前の検討会において,高価品に関する特例の適用除外,(2)のイですが,重大な過失によって運送品の滅失,損傷又は延着が生じたときには高価品の規定が適用されないとすると,この条文だけ見ると,運送人に重過失があった場合には過失相殺も認められなくなってしまうのではないか,すなわち,現行実務や裁判例等では明告がなかった場合には過失相殺が認められていますが,この条文を素直に読むと過失相殺が認められなくなる懸念があるとの指摘がありました。この点について教えていただきたいと思います。 ○山下関係官 結論から言うとそうではないと思っておりまして,過失相殺は認められると思っております。というのも,このイの規律の適用によって,運送人は重過失が生じたときについては高価品の特則が適用されないというだけですので,それによって結局は,現行法でいうと577条によって損害賠償請求がされて,それに対して,荷送人にも過失があれば,過失相殺されるということになると思います。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○池山委員 二つありますが,一つ,4の運送賃及び留置権のところで,ちょっと細かい話ですが,質問があります。4の(2)の運送品の留置権に関する規律のところです。ここで,運送人は運送賃等々についてのみ,その弁済を受けるまで,その運送品を留置することができるという,「のみ」という規定があって,改めて我々の内部で議事録等を確認する中で,この「のみ」というのは何を排除するのかということについてよく確認した方がいいのではないかという,今日御欠席ですが,道垣内委員の御指摘があって,それで,検討するという御答弁があったと記憶しております。それで,その後,結局,中間試案でも変わっておりませんで,我々もそこは気付いていなかったのですけれども,改めて内部で指摘があって,検討いたしました。   そうすると,元々の趣旨は,現行法で運送品に関してする留置権の特則の範囲として,立替えとか前貸しについても留置権が及ぶと,その立替えとか前貸しというのを削るという御趣旨であって,一方で別途,民法上の留置権の解釈には影響を与えないと,民法上の留置権は別途,牽連性があれば成立し得るのだという整理であったかと思います。そうだとすると,単純に,この「のみ」というのは必要なのでしょうか。これこれについてとすれば,それはそれだけの話で,民法上の留置権は別に排除されない。なまじ「のみ」があることによって,正に道垣内先生がおっしゃったような疑念を惹起するのではないかと思うのですが,その点,いかがでしょうか。 ○山下関係官 この「のみ」という規律の趣旨は,現行商法の立案当初から言われておりますのは,商事留置権を排除すると,商法521条の商人間の留置権というのを排除するという趣旨と言われておりまして,それを今回も引き継ぐという考えを採っております。 ○池山委員 そうすると,分かりました,解釈上,一般の商事留置権といったら変ですけれども,商行為法の商事留置権は排除するけれども,民事留置権は排除しないという整理だと,そこを明らかにするための「のみ」だということですね。 ○山下関係官 はい,御理解のとおりです。 ○池山委員 ありがとうございます。 ○柄委員 4の(1)の運送賃の件ですが,少し実務的な疑問を持っております。これまでの部会資料では,運送人は到達地における運送品の引渡しと同時に運送賃を請求することができるという表現だったと思うのですが,今回は,民法633条の表現と均衡を保つということで,それを支払に変えられております。実務的に言いますと,運送品の受取の立場にいない荷送人が運賃を支払うというのがほとんどだと思います。ですから,受取の立場にいない人が運送品の引渡しと同時に支払うという表現が,実務的に考えた場合,本当によいのかどうか,実務に合っていないのではないかという疑問を持っております。その点をお願いしたいと思います。 ○山下関係官 御指摘のところも,実務という観点からごもっともかなというところもあるのですけれども,飽くまでもこれは民法の特則としての商法ということでして,民法633条の規定振りを踏まえて法制的な観点からの検討も加えますと,やはりこのような結論にならざるを得ないものと考えます。 ○柄委員 分かりやすい商法という初めの趣旨から言いますと,ちょっと実態と合わないような表現ぶりが本当にここで必要なのかどうかということを,もう一度検討していただきたいと思います。 ○箱井幹事 高価品についてなのですが,毎回申し上げていて,多分今日が最後だと思いますし,今まで申し上げたことは繰り返しませんが,この578条につきましては甲案,乙案という形で中間試案が提示されまして,今,乙案は跡形もなくなり,甲案が残っているということだと思います。乙案というのは,いわゆる認識ある無謀行為を取り入れたものでございまして,これは578条に限らず,場合によっては581条でも,そういった検討をするということが最初から提示されておりました。何を申し上げたいかといいますと,本来商法にない認識ある無謀行為概念を商法に導入するかどうかということ自体が非常に大きな問題だったと思います。それと578条が併せて議論されたというところに,若干不幸な点があったかなと思っておりますが,認識ある無謀行為,この乙案が比較的不人気であったと,少数だったというのは,パブリック・コメントや本部会の審議で恐らくそうなのだろうと私は認識しております。今日配られたペーパーにも,故意又は重大な過失という要件に基づき,これを明示することを求める意見が多数見られたと。これは果たして,甲案を支持する見解か多かったという限りでは,そのとおりだと思うのですけれども,前回私が御検討いただきたいと申し上げましたのは,現行規律の維持でございます。   といいますのは,前回の資料に書かれておりましたけれども,民法の重過失に関する理論の今後の発展可能性を見極める余地があるということや,商法学説でも争いがあるということが明示されておりますけれども,商行為法学説では,この点については正に争いがございまして,甲案のように考えない立場がむしろ有力かなと思えるところもございます。それから,これまで荷主さんの方からのお話でも,やはり今の裁判例の現状を残してほしいというような御要望です。それは直接書き込めば明快になるのかもしれませんけれども,現状どおりということであるならば,--故意又は重過失という要件を書き込むという甲案が乙案と相対的な意味で多数というのはよく分かるのですけれども--,現行の規律で駄目なのかという点について,必ずしも甲案というのが部会の多数かというと,私はそのような認識は今持っておらないところなのでございます。諸先生方はいかがでございましょうかということと,ここでの多数であると見られた御当局の理解をお聞かせいただければと思います。 ○山下部会長 この点について,ほかの委員,幹事の皆様で,何かコメントございますか。 ○池山委員 念のために申しますと,運送事業者側としては,もとより高価品特則の範囲というのを狭くするというのは反対ですので,箱井先生の御意見は常々心強く思っているところではあります。ただ,一方で,箱井先生がおっしゃっているのは,運送人の保護のためという趣旨からおっしゃられているのではなくて,理論的には違う話としておっしゃっているのだと思いますし,他方で,確かに運送人の立場からすると,重過失があるときという前提を加えられてしまうと,それを更に絞って,無謀行為等に限るうんぬんというのは,なかなか強く,それこそ国際条約ということを別にすれば強く主張しにくいなと思っていて,余り申し上げてはおりませんでした。ただし,理論的な観点から,箱井先生の御意見がほかの学者の先生方に賛同いただけるのであれば,それはもちろん大変有り難いと思っております。 ○松井(信)幹事 今,箱井幹事がおっしゃったのは,(2)のアやイ,この辺りを明記しないで現行法のままというお話だと思うのですが,そうすると,むしろ学説上は,イのような故意又は重過失という概念ではなくて,単に故意のあった場合だけに限るという見解もあるものと承知しております。そうすると,箱井幹事の御意見は,イの規律ではなくて,今まで学説上に比較的見られた故意だけに限るという見解,これを維持すべきであるというお話になるのかなと思うのです。この点について,ほかの皆様にお考えがあれば伺いたいと思いますし,事務当局としては,そのように故意に限るという見解よりは,パブリック・コメントの結果,故意又は重過失という見解が多かったことから,このような説明の文章を書いているところでございます。 ○箱井幹事 私の考えを聞かれますと,今,松井(信)幹事のおっしゃったとおりでございまして,そこは逃げも隠れもいたさないところでございますが,今そういうことではなくて,ここは商法部会のメンバーとして,立法ということで考えたときに,やはり,今回消えてしまっていますけれども,前回の事務当局の御説明にありましたように,やはり民法学説の展開もあり得る,それから今,御紹介がありましたように,商行為法学説も分かれているところでございますので,あえてここを一方の立場で規律するというよりは,解釈に委ねておくということではいかがかということを,私は前回提案いたしました。それは少数の説なのだろうかと,この場での少数なのだろうかというところですね,いかがでございましょうかということでございます。 ○柄委員 高価品の特則の適用除外につきましては,これまで再三申し上げてきた繰り返しになってしまうのですが,やはり運送人としましては,当たり前のことをやっていただくということ,これは運送を委託する立場として大前提になっていると思います。ですから,運送人に重大な過失があるようなうっかり事案,これにおいて運送人の免責がされるという規律は,ちょっと勘弁していただきたいと思っています。そういうことでいきますと,今回の要綱案のたたき台のとおり,運送人の責任の要件は,故意,重過失として,高価品の事前の明告がなかったということは,過失相殺の中で判断していただくような今回の事務当局の案で,是非ともよろしくお願いしたいと思っております。 ○箱井幹事 水掛け論をするつもりはないんですけれども,「当たり前の」ところというのが相当に引っ掛かっているわけでございます。これは,無申告の高価品の発送というのが前提だということと,それから,今,過失相殺が大幅にかけられているところでもお分かりのように,これはやはり通告義務があるのだと。先ほどの危険物の話と相通ずるところがございますけれども,そのような義務違反の場合の話だという前提のところを御理解いただきたいなということでございます。運送人が普通に預かったものを安全に運ぶと,これは当然のことでございます。それで重過失があっても運送人を免責させろということを私は申し上げているのではなくて,飽くまで無申告の高価品が発送されるという,通常の運送賃を取っての運送が前提にならないという,正に前提を欠いた場合の話だというところを,御理解いただきたいと思います。 ○増田幹事 この論点について,箱井幹事がお一人で頑張っているような印象ができてしまうとよくないと思いますので。私自身も,考え方としては箱井先生のお考えに基本的な立場としては賛成です。高価品の輸送というのは基本的には普通品の運送と違うと思っておりますし,運送人にはきちんとしてほしいとおっしゃいましたけれども,要は,これは荷主の方が,運送人がきちんと義務を果たす前提となる義務の履行をきちんとしなかったケースを問題にしているわけですよね,高価品の申告がなかったというケースですから。ですので,やはりこの部分は,基本的には学説の理解の方が筋論としては正しいのではないかと私は思っております。   ただ,とはいっても,この部分については裁判例においても過失相殺処理によって解決するというのが,既にかなりの程度,定着してしまっている実務のようにも見えるところで,仮にここで無謀な行為といったような言葉を入れたとしても,昔から学説が理解してきたような形で運用されるかどうかというと若干疑問を覚えるところでもあり,そういう意味ではどういう規定を置くのがいいのかということについては,余り確定的な意見を私自身は持ち合わせていない状態です。 ○池山委員 ちょっと違うテーマでもよろしいでしょうか。 ○山下部会長 今の点で,箱井幹事,増田幹事の御意見と,柄委員の御意見とでは,多少方向が違うのですが,ほかの委員,幹事の御感触はいかがでしょうか。 ○藤田幹事 この提案に対してこの段階に至って反対するという趣旨ではありませんが,筋論からは,私も箱井幹事の意見にはそれなりに共感を持つところがあります。イの適用除外事由というのは,やはり余り本来は筋がいいものではないですし,最高裁のこの判決についても批判的な見解は少なくないと思っています。そういう意味では,もし完全に白紙で議論するのであれば,イの適用除外事由について違和感があると言わざるを得ないのですが,ここまで議論を集約された現段階に至って,これがどうしても受け入れられないから反対だとまでは頑張るつもりもありません。これを無謀な行為又は国際海上物品運送法の責任制限阻却事由と規定したところで,どのような解釈をされるか心もとない点もあるので,いっそのこと過失相殺の方でその実を図るというのも実際的な行き方としては考えられますので,そういう消極的な形での支持にとどめたいとは思っております。 ○山下部会長 ほかに,この点,ございませんか。 ○箱井幹事 私が前回から申し上げておりますのは,乙案はもうなくなっただろうと理解をした上で,今から乙案を復活したいということでもって申し上げているのではなくて,やはり学説が相当分かれている,あるいは,今の松井(信)幹事の方からの御紹介ですと,どちらかといえば有力だというふうに紹介された学説があり,また,民法の学説の今後の発展もあり得るということであります。また,今の裁判例がある程度定着しているとしても,これは過失相殺で処理できる範囲の事件が今のところ起きているのだろうとも思います。損害額がべらぼうな金額になったらどうなるのかということもございます。こうした様々なことを考えますと,現行の規律の維持という辺りが一ついかがかということを前回の会議で提案申し上げたということでございます。もし誤解がありましたら,私は乙案を復活するような主張をここでしているのではないということだけ確認させていただきたいと思います。 ○松井(信)幹事 今,何名か皆様から御意見を頂いたところですが,このアやイの規律を設けないと,結局,学説上の争いがそのまま裁判所に持ち込まれる可能性が高くなります。そして,その学説上の争いも,最近に出された文献というのはそれほど多くないところだと思っています。   最近,日本とドイツでこの関係のシンポジウムがあって,私も参加させていただいたのですが,ドイツでは,この重大な過失という概念ではなくて,無謀な行為という狭い概念を使っているにもかかわらず,この点がドイツの弁護士さんの腕の見せ所であると,この概念をいかに広く見せるかというのが重要な問題であるという話がございました。コンメンタールにおいて70ページぐらいの裁判例が紹介されているという話もされておりました。ですので,無謀な行為という概念だからといって必ずしも狭くなるということでは,世界的にはないようでございます。   かつて我が国の学会で唱えられていた,悪意だけに限るという見解は,今ではドイツではないようにも見受けられました。そのような状態の中で,パブリック・コメントの結果によれば,「故意又は重大な過失」という方向性が望ましいという御意見が多いという状況でございました。   法務当局としては,争いが後々に多く残ることは望ましくないと考えまして,このような案を書いておりますが,他方で,様々なお考えもあろうかと思います。この点は,特に荷主の方,運送人の方,それぞれ御関心の高いところだろうと思いますが,実務家の方の御意見が今日はそれほど多くなかったかと思いますので,是非また御意見を考えていただいて,12月の部会で御紹介いただければと思っております。よろしくお願いいたします。 ○野村(修)委員 今,理論的な話がありまして,一つの考え方としては,箱井先生がおっしゃるように,578条を現行法上維持するという考え方もあるとは思いますが,現行法だけですと故意についても不明という,そういう状況になっているわけでありまして,故意については,これは適用除外になるということはほぼコンセンサスがとれているというふうに,これは従来の学説でも言えるのだと思います。したがって,何らかの立法的な手当てをするということについては,一定の立法事実があるとは考えるところでございます。   そうなったときに,故意だけという立法は余り見たことがありませんで,故意だけという立法は法制上恐らくできないのだと思います。そうしますと,故意又は重過失という案か,又は無謀な行為という案にするかという選択肢になるのだと思いますが,現在,国際海上物品運送法上は無謀な行為という概念が定着しつつありますけれども,我が国の法制全般の中では,従来からいくと,故意に近い重過失という概念が解釈によって発展してきたのではないかなと思っておりまして,重過失と書かれているものであったとしても,本来は故意を立証すべきところ,故意が主観的要件であるが故に内心をなかなか立証できないことから,外形的な間接事実の積み重ねによって,その重過失というものを使いながら故意を立証するということに道を開いてきたという部分があったかと思いますので,そういう意味では,立法の形としては,故意又は重過失というのも一つの選択肢として,これも積極的にというわけではないですが,一つの選択肢かと思います。   ただ,重要なことは,ここでの議論の中で,我々は基本的に最高裁の判例を是としたわけではなく,この判例自体に対する疑問というのは審議の中で十分疑問が提起された中で,この立法に対しても,なお解釈の余地が十分にあるということを確認した上で立法するということが大事なのではないかなと思います。 ○山下部会長 この点,以上でよろしいでしょうか。   それでは,なお検討していただくことにして,その他の点は,ございますか。 ○池山委員 先ほどの留置権のところなのですけれども,先ほど思わず,「のみ」というのは商事留置権を排除する趣旨だということで,はい,分かりましたと申し上げてしまいましたけれども,実質的な趣旨からすると,少し撤回をさせていただきたいと思います。   その理由は,これは不勉強かもしれませんけれども,私の理解では,特に内航運送等で継続的な運送がされている場合に,運送の局面でも実態として商事留置権が主張されて,それが是認されるという前提で実務が動いている場合も実はあるのではないかなという気がします。さはさりながら,商法の「のみ」という言葉があるのは,実は昔からそういう,現行法の「のみ」自体がそういう排除するという解釈なのだよと,だから,そこを変更するつもりはないということなのだよといえば,それはそうかもしれませんけれども,ひょっとすると,実務は必ずしもそれで動いていない可能性があって,そうすると,これを改めて再確認して商事留置権を排除するというのが本当にいいのかどうかというのは,こういう時期に至って大変恐縮ではありますけれども,やはり念のため確認をさせていただいた上で,また御意見を申し上げる機会を持たせていただければと思っております。これで,もし荷主側の御意見や,ほかの実務の先生方の御意見があれば,逆にお聞きしたいところでありますが。 ○松井(信)幹事 この規定の趣旨は,御承知のとおり,商事留置権ですと被担保債権と目的物との牽連性を問わないことになってしまいますが,運送については,他人の物を占有する局面が非常に多く,牽連性を問わないで留置権が成立するとなると,非常に広範になり,荷受人の権利を害しかねない。そのために,商事留置権の特則として,589条において,この「のみ」という規定のある562条を準用する形になっております。ですので,ここは基本的に,明治32年にできたこの法律をそのまま維持するという,そういう提案になっているということでございます。 ○池山委員 まず,御指摘の趣旨は分かりました。ただ,私が商事留置権が行使されている例もあるのではないかと申し上げた趣旨は,正に商事留置権の要件を満たす場合,債務者が所有者でもある場合に,当該運送契約と別ロットの,別口の運送契約についての留置権を,たまたま継続的に運送契約が複数行われていれば,運送契約は別ですけれども債務者が所有者ですという例が現にあって,そのときに商事留置権を行使しますという例は結構あるのではないかと。だから,そこは単に皆さんが商法が不勉強だったのだということなのかもしれませんけれども,正当化するならば,やはり商事留置権を本当に排除する意味があるのかということについて実は自覚的に検討されていなくて,実務の側が,むしろ商事留置権があるという前提で実は動いているときも結構あるのではないかなと記憶するのです。なので,いずれにしろ,そこはちょっと確認をさせていただければと思うのですが。 ○山下部会長 この点,何か実務について御存じの委員,幹事,いらっしゃいますか。   池山委員,そういう辺りの実務のことを確認して,何か情報があればお寄せいただけますか。 ○池山委員 はい,承知しました。 ○山下部会長 ほかの点で,特に6の(3)にまだ【P】があるところについての御意見を伺えればと思います。 ○遠藤委員 「のみ」のところでいいですか。 ○山下部会長 どうぞ。 ○遠藤委員 荷主の立場からすると,例えば同じ船社さんのA船,B船に積載をしていて,A船の運賃と関係のない,牽連性のないB船の貨物に留置権が及ぶのは,非常に問題があると思うので,基本的にこの当局案のとおり,「のみ」でよろしいのではないかと思います。 ○山下部会長 ほかにはいかがでしょうか。 ○藤田幹事 【P】のところではなくて申し訳ないのですが,柄委員が質問があった点で,私は誤解がなければと思って確認させていただきたいのですけれども,4(1)について,民法の請負の場合の報酬の支払時期に合わせた改正を新しい規定として追加するという趣旨だということは,現在の583条2項はそのまま残ると理解してよろしいですね。 ○山下関係官 すみません,もう一度お願いしていいですか,何条が残ると。 ○藤田幹事 583条2項,つまり,荷受人は受け取ったなら運賃を支払わなくてはいけないという規定です。4(1)は誰が払わなければいけないか主語はないですけれども,基本的には契約当事者のことであることを前提にしている。逆に言うと,4(1)を付けたからといって,運送品を受け取る前に荷受人に支払義務が発生したりするわけではないということが念のために確認したかったことです。 ○山下関係官 おっしゃるとおり,583条2項というのは,実質改正をせず,残ります。 ○藤田幹事 分かりました。 ○山下部会長 それでは,【P】の点はいかがでしょうか。 ○鈴木委員 荷受人さんの権利のところですね。6の(3)のところなのですが,運送人が何か通知すると書かれているのですけれども,これはやはり荷受人さんが荷送人さんに通知すればいいのではないかなという気がするのですが,いかがでしょうか。 ○山下関係官 御指摘もごもっともだと思います。ゼロベースで考えるとその可能性もあるとは思うのですけれども,ここは飽くまでその通知義務を設ける目的というのは,濫用的な行使をする荷受人対策としてであることを考えると,その通知義務を濫用的な行使をした荷受人に課しても意味がなくて,荷送人と荷受人の利害対立がある状況で,中立的な運送人にそういった情報,荷送人に対する情報提供をしていただくというのが一つの在り方として考えられるのではないかということで,御提案しております。 ○鈴木委員 提案の御趣旨,分からないではないのですが,我々運送人としては荷送人さんと荷受人さんの間には入りたくないというところがございますので,濫用されるかどうかは別としまして,それはもう荷受人さんと荷送人さんの間で話を付けていただきたいと思います。 ○遠藤委員 そこの点はこちらも理解するところなのですけれども,やはり全部滅失ですので,当然のことながら運送債務を負っている運送人さんが運送契約の当事者である荷送人に通知をするということは,やはりやっていただかなくてはいけないのではないのかなと思います。 ○鈴木委員 もちろん,貨物に何かあれば荷送人さんに御連絡はいたします。ただ,この規定は,要は,荷受人さんが権利をとったよということですね。それで,荷受人さんから請求を受けましたということを荷送人さんに通知しなさいということですね。ですので,ちょっと質が違うのではないかなと思っております。 ○松井(信)幹事 この(3)の規律を作るべきかどうかもまた御議論いただきたいのですが,この(3)の提案というのは,運送人が運送中に物を壊してしまったという場合に,運送人は当然,契約相手に連絡を取られるのが通常でしょうと,その運送人と荷送人の間で賠償に関するお話合いを進めているでしょうという中で,突如として荷受人から請求が来たということになれば,当然,運送人としては交渉相手であった荷送人の方に話をされるというのが通常ではなかろうかと思っていまして,ですので,新しい負担と考えるよりは,通常の契約相手に対する情報提供という意味合いと考えることもできるのではないかと思っております。ただ,そもそもそういう濫用的権利行使自体がないということであれば,(3)みたいな規律は要らないということになるのかもしれません。その辺りは,皆様の御意見をいただきたいと思います。 ○菅原委員 鈴木委員の御懸念は,海運事業者のお立場として理解ができるところなのですけれども,損害賠償請求権が発生したとか,あるいは損害賠償を請求したという場面ですので,おそらく運送人は,契約当事者である荷送人に何らかの連絡をするのではないかと思うのですね。たとえば,国内航空貨物の実務では,別に滅失毀損のケースがなくても,貨物が到着地に達すると,運送人は荷受人に到着通知を発しており,かかる通知は荷送人の知るところとなるのが通例ですので,従前の実務について,単に場面が変わるだけではないかという気もいたします。それから,(3)の規定を設ける必要がありやなしやについてですが,航空実務では荷送人と荷受人の権利関係が競合するという実例は非常に少ないものですから,いずれでも影響は大きくないと思っております。他の運送モードでそういった御懸念があるのであれば,特に異存はございません。 ○山下部会長 特に,実務的にこういう規定が要るかどうかという辺りについて,御意見がありましたらお願いします。 ○池山委員 まずは,外航運送の立場について御配慮いただいて国内運送のみに限定していただいたことは,大変有り難いと思っております。では,もう外航運送という立場を離れて運送法一般の立場として,私の考えはどうかということを申し上げさせていただくとすると,やはり正直,こういう新しいルールを入れる必然性が本当にあるのかということについて,非常にちゅうちょを覚えるというのが実感であります。   一方では,通常の場合には通知をするのではないですかという御指摘は当局からあり,かつ今,運送事業者である航空運送人の代表である菅原先生からもあったので,一方ではそうかもしれませんけれども,やはり,通常やるということと法律上の義務として課されるということは大きな違いがあって,その効果は,これは単なる訓示規定ではなくて通知義務規定,通知義務に違反をすると,因果関係がある損害があれば損害賠償義務を負うのだという御指摘がありました。それがどういう場合に起き得るのだろうということを具体的に念頭に置いてみると,その濫用的な請求がされた場合だと。   では,濫用的な請求というのは何かなというのを翻って考えてみると,結局,売買契約上はその滅失の負担が売主側,荷送人側にあるときに,にもかかわらず買主側が請求すると,元々確かにほとんどない場合ではありますけれども,万一それがされた場合に,それを直ちに伝えなかった,その結果として,売主が買主に対してそういう濫用的な請求をやめさせる,あるいは,その結果として,運送人が賠償請求に応じてしまった結果として,そうすると,売主は買主に,荷送人は荷受人に不当利得返還請求的なものができるのでしょうけれども,実際は資力がないなどの理由でそれができないと,そのときに,やはり運送人は責任を負うという新たなルールを作らなければならないほどの必然性が果たしてあるのだろうかと,今までなかったわけですからというのは,やはり運送人としてはちゅうちょを覚えるのは当然なのだろうと思います。   問題は,そういうちゅうちょを覚えさせても,運送人にそれだけの負担を課すだけの正当性があるかというのを考えると,元々のこの議論の発端は,この通知義務先にありきではなくて,荷受人が権利を取得する範囲を増やそうということについて,つまり全部滅失のときにも荷受人が権利を取得するという範囲を増やすということについて,国内運送を念頭に置く方々と国際運送を念頭に置く方々で激しい対立がある。そこで解決が付かないからということで,一つの妥協のための方策として出されたと私は理解しているのですけれども,その妥協のための対策が,突然このぐらいはいいのではないかということで,運送人にやはり新しい義務を持ってこられるというのは,運送人としてはなかなか納得するのは難しくて,できれば,是非,元々の国内運送,国際運送における荷主間の対立は対立で解決していただきたいなと。国際運送を念頭に置く側からすると,乙案ですか,その修正する案でもちろんよろしいのですけれども,その対立は対立として決着を付けていただきたいという思いを持っております。 ○鈴木委員 正に運送人の立場と,そのとおりなのですけれども,菅原委員のおっしゃられた,一般的に荷送人さんに知らせるというのは普通にやっておられるというのもあるのですけれども,ただ,法律の条文として法的に義務付けられるということはちょっとニュアンスが違うと思いますので,この辺は御配慮いただけたらと思っております。 ○山下部会長 運送人サイドから(3)を削るべきではないかと今御意見が出ているのですが,そうすることについて,荷主あるいはその他の関係の委員,幹事の御意見は,いかがなものでしょうか。   議論の経緯は池山委員がお話しのように,全部滅失の場合に荷受人の権利を認めようというところから出ているのですね。しかし,そうされるといろいろと問題があってということで,かなり苦肉の策みたいなところで(3)の規律が出て,しかし,国際取引では問題があるのではないかというので,今日の案は国内に限ってという,かなり変則的な提案になっているのですが,是非こういうことを残しておくべきだという御意見というのはございますか。   では,(3)は削除しても御異論は特にないということでよろしいでしょうか。   ありがとうございます。   その他,今の部分に関してございませんか。よろしいでしょうか。   それでは,もう少し先へ進ませていただきまして,次は「7 運送品の供託及び競売」から「11 貨物引換証」までについて,まとめて御審議いただきたいと思います。   事務当局から,まず説明をお願いします。 ○山下関係官 御説明いたします。まず,部会資料6ページ以下の「8 運送人の損害賠償責任の消滅」のうち「(1)運送品の受取による責任の消滅」のアの本文につきましては,運送人の責任が消滅するのは,運送品に直ちに発見し得る損傷等があるにもかかわらず荷受人がその事実を伝えないという極めて限られたケースでありますし,直ちに発見し得る損傷等がある場合には運送人に商法第588条第2項の悪意があることが多いともいえ,その意味でも,規律の適用場面は限定的であることなども踏まえまして,将来の紛争を可能な限り防止するなどの観点から,本文アのとおりとすることが考えられます。   次に,「(2)裁判上の請求がない場合の責任の消滅」につきましては,損害賠償を請求する荷主は,運送品の受取時から2週間以内に運送人に通知をしていることが前提となっていることなどから,その不利益の程度は大きいとはいい難いものと考えられます。そこで,運送品の引渡し後1年が経過してから運送人の主観的態様が争われることは適当でなく,運送人のリスクの予見可能性を高めるために,本文(2)のとおり,除斥期間の制度に改めることが考えられます。   また,7ページ以下の「9 不法行為責任との関係」の本文(1)につきまして,これまでの御議論及び法制的な観点を踏まえて,ただし書のとおり,荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引き受けた運送人の荷受人に対する責任については,この限りではないとすることを御提案しております。これは,一般に,荷受人は運送品の送付を受けるときは,あらかじめ荷送人と何らかのやり取りがあるのが通常であって,明示又は黙示にあらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたという状況にあれば,運送人からの責任の減免に係る抗弁を認めるべきではないということも踏まえた御提案でございます。   この点につきましては,反対する御意見もございましたが,実務上,運送品の滅失等による損害賠償請求をする局面で,契約責任の追及と不法行為責任の追及とで荷主の立証の負担が大きく異なるとまでは言えないように思われ,また,運送契約については責任を減免する規定が設けられている特殊性を踏まえますと,その趣旨を不法行為責任にも及ぼすことが将来の紛争の予防ないし定型化などの観点からも有益であると考えられます。   また,高価品の特則や損害賠償額の定額化の規律について,運送人の故意又は重大な過失によって運送品の滅失等が生じた場合には運送人の責任の減免の余地はございませんので,(1)の本文の規律が適用になるのは,先ほど反対の意見がありましたけれども,基本的には運送人に重過失がないと判断されるような一定のケースに限られると思います。そして,実務上,売買契約において,到達地までの経路や複合運送の内容が明示されることは余りないようでございますが,このような場合を念頭に置いて,特定の運送手段のみを容認した荷受人に対しては他の運送手段に係る運送人による責任減免の主張を認めないとの規律を設けることは,紛争を誘発する要因ともなりかねないということも踏まえたものでございます。   以上を踏まえまして,部会資料5ページの「7 運送品の供託及び競売」から,10ページの「11 貨物引換証」までにつきまして御審議いただきたく存じます。 ○山下部会長 ただいま説明のありました部分について,御自由に御発言をお願いいたします。 ○松井委員 8番のところで2点ほど確認をさせていただきます。今回の御説明で大変丁寧に書いていただいて,日弁連といたしましては,商人以外の者に対しての御配慮ということでいろいろとお願いしていたのですけれども,このような形で,その検査義務がないと,526条とは別のものであるということを明確にしていただき,かつ,この御説明によれば明らかな損傷,外から見て壊れているものとか,ぬれているものとか,汚れているものとか,そういうケースだけで,箱をあけるとか何らの行為を必要としないということは明らかになったのだと思います。であれば,御指摘のように,588条2項の適用がほとんどのケースであるので,差異といえば重過失ぐらいかと,ドライバーの方,運んできた人も疲れていたか,箱が二つあって隙が見えなかったとかという,そういうケースでの差異であって,極めてまれなケースということで理解させていただいて良いかというのが1点目でございます。   2点目は,細かいことで8の(2)のイのところなのですけれども,この延長ができるというケースで,アの期間は運送品の滅失等による損害が発生した後に限りとあるのですが,この規定はなぜ必要なのかということについて,併せて御説明いただければと思います。というのは,アの期間は合意により延長することができるではいけないのかという点でございます。よろしくお願いします。 ○山下関係官 まず,1点目は,重過失の場合等は含まずに故意だけに限るので,極めてまれなケースであるかどうかの確認ということですね。それはそのとおりであります。極めてまれなケースにしかこの本文の規定は適用されないと考えております。   (2)のイの,損害が発生した後に限り合意というところですかね。こちらにつきましては,基本的に国際海上物品運送法14条2項も,損害が発生した後に限り合意により延長することができるとしておりまして,趣旨はそこと同じでございます。すなわち,法律関係の早期安定を図るという1項の趣旨を踏まえると,事前の契約の中での延長合意までを認める必要はございませんが,損害が発生した後に限っては,さらなる示談交渉の時間が必要であるなどの延長の必要性が存在することを考えて,損害が発生した後に限って認めるとしております。基本的には,国際海上物品運送法14条2項のこのような趣旨と同趣旨でございます。 ○池山委員 9の不法行為との関係について,よろしいでしょうか。一つ確認なのですけれども,今回,文言としてはまた変えた文言で御提案を頂いていると理解しておりますけれども,ここにいう,荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらずうんぬんという部分は,その拒んでいたということについての運送人のその善意・悪意,知・不知は問わないという理解でよろしいのでしょうか。理解になってしまうのでしょうか。 ○山下関係官 おっしゃるとおり,ここは運送人の主観的な事情というのは考えておりません。 ○池山委員 そうすると,運送人の立場に立ってみると,原則は荷受人からの請求にも契約上の抗弁を対抗できると思っていたところが,当該荷受人から,実は私はあらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたのですよということが主張立証されたら,そうだったのですかということになって,不法行為責任の追及を受けてしまうという理解ですか。 ○山下関係官 結論から申しますと,そうなります。 ○池山委員 確認ですけれども,そうすると,元々運送人の立場からすれば,契約上の抗弁の対抗は常に認めてほしいと,国際海上物品運送法はそうなっているではないですかという話が一方であり,他方で,確かに荷受人は契約の当事者ではないので,常に抗弁の対抗を受けるのはおかしいと,平成10年の最高裁判例もあるという中でのバランスとして,この立法ができたということなのですけれども,私が聞くのも変なのかもしれませんけれども,国際貿易における運送に関する限りは,結局この拒んでいた場合というのは,そもそも輸入者が輸出者との間で,その輸出のためにそれを運送すると,運送を委託するということを拒んでいた場合ということなので,実務的にはあり得ないという理解で,実際機能するのは,正に宅急便の事件のような,通常の国際貿易と離れた運送で,例外的に委託した場合があるからという理解で正しいということでいいのでしょうか。 ○山下関係官 正に,私が答えるのもおかしいと思いますけれども,そこはおっしゃるとおり,国際貿易の世界で,あらかじめ運送されることを拒んでいるというような買主,輸入者というのはなかなかいないと認識しております。 ○池山委員 ありがとうございます。 ○松井(信)幹事 最も典型的な例というのは,自分の所有物を修理業者に預けていてそれを返してもらう場合とか,自分の所有物を誰かに貸していてそれを返してもらう場合,そういう場合であろうと思います。 ○遠藤委員 今のところなのですけれども,国際海上の場合は,おそらく,売買当事者間で運送方法について拒むとかというのは,船ですので,現実的にはあり得ないのかなと思うのですが,ただ1点,国際海上物品運送法20条の2は不法行為を規定していますけれども,そこのところは,運送品に関する運送人の荷送人,荷受人又は船荷証券所持人に対する不法行為による損害賠償の責任を準用するということなので,今議論している商法の規定が国際海上物品運送法20条の2には及ばないのではないのかなと思います。 ○山下関係官 これは,今までの部会資料や補足説明等でも書いておりましたけれども,仮にこのように商法の規定を新しく設けた場合には,これに関連して,整備の一環として,国際海上物品運送法20条の2の荷受人に対する不法行為責任というのも,同じような文言で規律するという方向で考えております。 ○山下部会長 よろしいですか,ほかにこの部分について,ございませんか。よろしいですか。 ○遠藤委員 これはちょっと感想めいたものになるのですけれども,不法行為責任との関係においては,当初案は,荷受人が当該運送契約による運送を容認したものに限ると非常に限定的だったのですが,今の案ではほとんど,拒絶していない限りにおいて対象に含まれるということになって,運送契約の当事者ではない荷受人は,運送人さんに対して不法行為で請求することというのは,よほど例外的な場合を除いて,なくなるであろうと理解しております。 ○菅原委員 この点につきましては,どの運送モードを選択するかは売買契約の当事者である荷送人・荷受人の問題だと承知をしているところでありまして,そういう意味では,今回御提案の文言に賛成したいと思います。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。11のところまで,全体について,ございませんか。 ○遠藤委員 運送人の損害賠償責任の消滅のところの裁判上の請求には仲裁の申立てが含まれるという理解をしているのですが,その理解でよろしいでしょうか。 ○山下関係官 基本的に,この規律は国際海上物品運送法14条の規律を参考にしているものでして,14条の立法趣旨も確認しますと,仲裁の申立ても含むようでございますので,基本的には含まれるという解釈になるものと思います。 ○遠藤委員 ありがとうございます。 ○菅原委員 今の関係で,仲裁は分かりましたけれども,調停はどうなのでしょうか。 ○山下関係官 調停につきましても,立法担当者解説を見ますと,含まれると書いております。 ○菅原委員 ありがとうございます。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○柄委員 先ほどの高価品の件と,この不法行為責任の部分はリンクしておりますので,高価品の件の扱いによっては,この案が荷主の立場ではないということ,つまり,この案のままでよいのか,あるいは不法行為責任を荷主として追及できるようにしていただく必要があるのかということは,保留させていただきたいと思います。 ○山下関係官 確認なのですけれども,今の御発言の御趣旨というのは,高価品特則の適用除外の要件に重過失というのが含まれた場合には,請求権競合についてはこちらでも御納得いただけるかなということでしょうか。 ○柄委員 そういう趣旨での発言でございます。 ○山下関係官 分かりました。 ○藤田幹事 中身ではなくて,説明の仕方あるいは条文の正確な理解の仕方についての質問です。10の複合運送について,法制的に引き続き表現ぶりは検討されると言われているのですが,ただ,多分変わらないであろう基本的な点です。複合運送中,滅失毀損が起きた場所が特定された場合の適用法規について(1)で定めていて,そこでは,我が国の法令又は我が国が締結した条約というふうな限定が掛かっています。先ほど松井(信)幹事が言及された国際シンポジウムで,参加したドイツ人の報告者が,この条文の我が国の法令,我が国の締約している条約という限定に非常に関心をもったのですが,どういう規定と理解し説明をするかという点について,お伺いしたいと思います。   たとえば日本からハンブルグまで国際海上物品運送して,ハンブルグからブリュッセルまで国際道路運送した。国際道路運送中に物品の滅失が起きた場合,ヨーロッパの道路運送はCMRという国際条約が適用されることが多いのですけれども,この条文だと日本の運送法総則の規定で考えますという結果になります。結論はそうなのですけれども,これは我が国の法令,我が国が締約した条約の規定という文言がなくても,以下申し上げるような理由から,恐らくは似た結果になる可能性が高い,そういう意味では,適用法令について非常に特殊な限定をいきなり導入しているわけではないというように考えています。   この複合運送の10の規定は,もちろん複合運送の準拠法が日本法の場合に適用されるルールです。そして(1)に書かれている,当該二以上の運送のうちその運送品の滅失等の原因が生じたもののみを荷送人が引き受けたとしたならば適用されることになる規律が適用されるということになっているわけですが,仮にここが全く限定がなく法令あるいは法律などと書いてあったとしても,複合運送の準拠法と当該区間を引き受けたときに適用されるであろう仮定的契約の準拠法が同じであるとすれば,結局,日本法で考えるということなので,日本の商法や日本が締結した条約の規定が適用されるということになる。より一般的に,この仮定的な契約の準拠法が複合運送と同じであると考えるなら,複合運送の規定が適用される以上,準拠法は日本法であり,仮定的な契約の準拠法も日本法,したがって,適用されるのは原則として我が国の法令,我が国が適用した条約の規定ということになる。だから,これは実質法的に限定を加えているように見えるのですが,仮にこの限定を全部削除しても,恐らくは事実上同じ結果になることがほとんどである。ただ,万一そこがズレることを想定し,念のために確認的に実質法上も限定し,明確にしている趣旨だと考えることができる。本来外国法を適用すべき場合に,突如,日本法だけを優先的に適用するかのような法律ではないという具合に理解したのですが,そういう理解でよろしいでしょうか。とにかく,この複合運送の条文は余りここで正面から議論したことがないものですから,今申し上げたような趣旨で理解していいかどうか,お教えいただければと思います。 ○山下関係官 御丁寧に,また緻密な分析をしていただいて,ありがとうございます。基本的に藤田幹事のおっしゃった御理解のとおりと事務当局としては考えておりまして,おっしゃるとおり,仮にこの我が国のとか,我が国が締結したというのがなくても,仮定的な物品運送契約について,基本的には法の適用に関する通則法のような考え方によって,しかも,元々の複合運送契約の準拠法が日本法であるという前提でございますので,基本的には,その仮定的な物品運送契約についても通則法的な考え方を取り込んで,普通は我が国の法律又は我が国が締結した条約になるとは思います。   ただ,例外的な場合もやはり出てくるのかなと思っていまして,それはやはり,例えば,通則法的な考え方によって考えるのであれば,具体的に言いますと,複合運送人の事業所が日本ではないという場合が,これも日本法準拠なので少ないと思いますけれども,そういった場合があれば,それはドイツなどでも裁判で争われているように,一定の場合については現地法というのが適用される可能性があるのかなと思いますが,そういったときに,しかもデフォルト・ルールということも考えますと,そういった場合についても,やはり我が国の法をまずは適用しようと,そして,それが不適切だと考える当事者は,それを特約で外してほしいというのが趣旨でございます。 ○藤田幹事 もう一つ確認させてください。今伺ったのはあくまで理屈の説明ですけれども,実質的な政策判断としては,複合運送人が負う責任と,複合運送人が下請運送人に対して求償するときの責任の内容がずれるということは仕方がないと割り切り,むしろ原則として複合運送人が負うべき責任内容については同一準拠法で考える,複合運送と仮定的な契約とが同じ日本法で考える方が複合運送人の予見可能性という観点から望ましいという政策判断されたと理解してよろしいですね。 ○山下関係官 はい,おっしゃるとおり,複合運送人とか複合運送契約の当事者の予見可能性というのを重視して,そちらの価値判断をしたということですので,その求償のずれというのは,必要と考える契約当事者間において,ずれないように特約していただければ対処できると思っております。 ○池山委員 ちょっと質問させてください。今の御趣旨は,10の(1)で想定する仮定的な区間だけの物品運送契約についての準拠法は必ずしも当然に日本法とは限らないと,そこで,一旦通則法のフィルターを通して,場合によっては仮定的な物品運送契約が外国法になることもあり得るというお話でしたよね,その複合運送人が外国事業者であれば。 ○山下関係官 あり得るというのは,仮定的な契約に何法が適用されるかというのは,これは正に法律では何も書かれておらず,解釈でいろいろ言われているところの限りでしかないと思っておりますので,そういう意味で,あり得るということが正しいと思います。 ○池山委員 そこで,もしも外国法が適用されるという例外的な場合においては,ここで,一方では,商法の規定として,我が国の法令又は我が国が締約した条約の規定に従うとあるのですけれども,そこで仮定的な契約が,日本の国際私法上,外国法になってしまうと,その準拠法選択,仮定的な契約における準拠法適用を通じて結局,外国法,端的に言うと,今の例でいうとCMRとかが適用されることもあり得るということなのですか。 ○山下関係官 いえ,あり得ないと考えています。それは,この「我が国が締結した」という文言で我が国の法令を適用するということを明示していますので,それはないと考えております。 ○池山委員 そうすると,一方で今の例で,ドイツの運送人だとして,仮定的な陸上運送区間の準拠法はドイツ法になっても,でも,結局これが日本で争われる限りは,ドイツ法は適用することには結局はならないと。 ○山下関係官 大前提として,複合運送契約の準拠法が日本法ということでございますので,仮に,複合運送契約の準拠法が日本法だけれどもドイツの複合運送人を使った場合ということであっても,やはり我が国の法令等が適用されるという結論になります。 ○池山委員 これは意見というよりは要望なのかもしれませんけれども,実務家の観点からすると,今のような議論というのは非常に,いかにも法律家がやる議論ではあるのですけれども,非常に難しい話で,確かに準拠法が日本法だという前提なのであれば,その仮定的な契約も実質法を日本法で考えるのですと,だから日本の商法を適用するのですと言い切っていただければ,それはその方が逆にすっきりするのかな。なまじ,場合によっては外国法も仮定的運送契約の準拠法としてあり得るのだと言われてしまうと,その場合にどうなのかというのが,逆に,正直,分からなくなってくるのですけれども。 ○山下関係官 そこは,私個人が何か言っても変わる問題ではございませんので,仮定的契約についての適用法令について,裁判等で争っていただければいいかなと思います。現在御提案しているものは,そのような仮定的契約についての適用法令の如何にかかわらず,デフォルト・ルールとしては,我が国の法令等を適用するというものでございます。 ○山口委員 私はこの規定でよろしいかなと思って,非常に分かりやすいだろうと思っております。複合運送の場合,仮定的な契約ということが出てきておりましたけれども,要するに陸上運送,ドイツであろうと,ドイツからオランダであろうと,そこは日本の陸上運送があると考えるということでありますので,それを前提として,複合運送契約についての準拠法が日本法だという前提でありますならば,飽くまで仮定的な運送も日本法を前提に考えるということなので,それを解釈を明確化して,こういうふうに書くことによって比較的ずれない,裁判規律としても分かりやすい規定になっているのではないかと思うのですね。ここがちょっとぼやけていますと,先ほどの議論もありましたけれども,仮定的な契約が,例えばその現場においてCMRあるいはCIMが強制適用されるのだから,それが優先的に適用され,日本の商法が排除されるという解釈もあり得るかもしれないので,そこを排除したという意味では分かりやすい規定ではないかなと思っております。 ○増田幹事 一応,補足的に,仮定的契約のところを,後々誤解が生じるとまずいと思いますので,補足しておきますと,ドイツでも仮定的契約についての解釈論というのはいろいろあります。ただ,それはドイツ法が適用されることを前提として,ドイツ法の実質法のレベルでの議論として行われているものです。そこでは,確かに仮定的契約の準拠法を判断するときに抵触規則を援用しているのですが,それは国際私法マターだと思ってやっているのではなくて,実質法の問題ではあるのだけれども,仮定的契約についての準拠法を決めるルールなんてどこにも存在しないので,国際私法規則を引っ張ってきてやっているということです。   ドイツでも,やはり結局のところ,仮定ですので,仮定的契約の準拠法をどう決定するのかという際に実質的な考慮要素になっているのは,ドイツ法が運送契約の準拠法として選択されているかとか,あるいは,複合運送のところでよく争点になってくる求償の便宜だとか荷主の予見可能性だとか,そういった要素のどちらを重視するのかとか,そういった点でございます。ですので,そこの部分はどちらにしても実質法マターの話ですので,恐らく日本の立法としては,このような形で荷主側の予見可能性を重視するということをデフォルト・ルールとして明確化しておくということには,特に問題はないと思います。   先ほどの仮定的契約の議論のところは,多分,外国人に向かって説明するときは先ほど藤田先生がおっしゃったような説明の仕方をする方が,欧州ではずっとこのような議論をしてきておりますので,分かりやすいと思います。ただ,日本国内向けに説明するときは日本の商法が適用されるとストレートに言った方が分かりやすいと,その程度のお話なのではないかなと思います。 ○山下部会長 よろしいですか。 ○野村(修)委員 別なことで,非常に簡単なことで,既に説明があるのかもしれませんが,私がちょっと忘れていることかもしれないのですが,10ページの11のところの貨物引換証に関しての条文を削除すると,このことに全く異論がありませんで,削除することになるのは賛成なのですが,国際海上物品運送法10条で貨物引換証の条文が準用されておりますが,この10条の規定はどうなるのかということについて,過去,御説明があったのかもしれませんが,重ねて御質問させていただければと思います。 ○山下関係官 その点につきましては,まず,商法の中に国際海上物品運送法で今まで規定した船荷証券の規定も全て一括して規定することになりますので,その商法に規定する船荷証券の効力として,ずらっとそれらの条文が並ぶことになって,その船荷証券に関する全ての規定が国内国際問わず適用されるということになります。 ○野村(修)委員 ということは,船荷証券に関しては従来どおりの議論のままということですか。 ○山下関係官 はい,おっしゃるとおり,貨物引換証の効力を今,準用しているのが,書き下すという形になると思います。 ○野村(修)委員 何かなくなってしまうので,この条文の文言そのものについて,貨物引換証で議論してきたことについては既にもうなくなっていると思っていたのですが,要するに,船荷証券の方で,もう一度そこについては議論すると。 ○山下関係官 そうです,基本的には,今回実質改正の対象になっていない有価証券の効力についてはそのまま書き下す,現代語化するだけですので,解釈自体はそのまま引き継ぐことになると思います。 ○野村(修)委員 分かりました。 ○山下部会長 ほかには,よろしいですか。   それでは,11のところまで御議論いただいたということで,この部分は余り大きな御異論はなかったのではないかと思います。   それでは,大分予定の時間を超過しましたが休憩に入りたいと思います。あの時計で3時55分まで休憩いたしましょう。           (休     憩) ○山下部会長 それでは,そろそろ再開したいと思います。   再開後は,「第2部 海商法制について」の,「第1 船舶」,「第2 船長」及び「第3 海上物品運送に関する特則」の部分につきまして御審議いただきたいと思います。   まず,事務当局から説明をお願いします。 ○松井(信)幹事 では,御説明いたします。   まず,11ページの3(4)では,定期傭船契約に係る船舶により物品を運送する場合について堪航能力担保義務の規律を準用していますが,その際に,船舶の安全性は航海ごとに確認されるべきという船員法の趣旨などを参考にしつつ,各航海に係る発航の時点で堪航能力担保義務を負うという読替え規定を掲げております。   そして,この箇所と13ページの2(3)では,堪航能力担保義務が強行規定で在るべきか否かにつき,ペンディングのPを付して資料を作成しています。   前回会議では,船舶の安全性に関わる義務は強行規定とすべきとの意見もございました。部会資料の説明中では,現行商法739条の立法趣旨,その後の学説の状況,ドイツの法制などを御紹介し,あわせて従前の議論を御紹介するという趣旨から,参考資料34から36までを事前送付しております。   この点,船主側の堪航能力担保義務を一切免責するという特約は,現実的でもないし公序良俗違反になろうと思いますが,片や実務の方々に伺うと,傭船契約において,適切な積付けのために傭船者側が資材を提供したり作業をしたりする場合があり,このような場合には,船舶の堪貨能力などについて一定の免責事由を合意したいとの要望もあるようでございます。   14ページでは,航海傭船及び個品運送について,甲案から丙案までを掲げています。その理由は,資料に記載したとおりです。なお,丙案,すなわち航海傭船について堪航能力担保義務を強行法規としつつ,他方で定期傭船についてこれを任意規定とするということは,前者の強行法規性の潜脱を許さないよう,どのような配慮が可能なのかという悩ましい問題があると考えております。   中間試案では,定期傭船について堪航能力担保義務を強行法規として提案していたために,航海傭船及び個品運送の在り方について特段の問題提起をしておりませんでした。しかし,パブリック・コメントの結果,定期傭船について任意規定とすべきとの意見が大勢となり,これを受けて,制度間の均衡という観点から問題として取り上げられることとなったものです。理論的にも大変重要な問題ですので,部会に御参加いただいている研究者,実務家の皆様に十分な御議論をお願いしたく存じます。   これらを中心に,第1から第3まで,20ページにわたる部分まで,御意見のほどをよろしくお願いいたします。 ○山下部会長 それでは,ただいま説明のありました部分について,御自由に御発言をお願いいたします。 ○池山委員 何回もすみません。ある意味,本題の先ほどの任意規定の話に入る前に,3の(4)の定期傭船に関する準用規定の読替えの御提案について,一つ質問させてください。   ここでは,「各航海に係る発航の当時」と読み替えるとあるのですけれども,これは,具体的には,当該物品の船積みをして運送をし始める航海のことを指すのでしょうか。   何でこういう質問をするかといいますと,定期傭船の契約の在り方として,特にそれは,一番極限のトリップ・チャーターと言われるもの,一つの航海による運送を前提とした,でも定期傭船という形態の場合は,実際に契約が締結された後,本船の引渡しが行われると。引渡しといっても,その占有移転はないですけれども,俗にいう引渡しが行われて,そこで空船航海,バラスト航海が始まって,そこで積地に着いて,積地で貨物を積んでから正に貨物を運ぶ航海が行われると,通常はそういう書き方になっていて,定期傭船の始まりは,必ずしも貨物の船積み港からではないのですよね。   他方で,その後のことを考えても,つまりそれ以外の場合,運送を複数やる場合で考えても,本船はずっと貨物を積んだ状態であっちへ行ったり,こっちへ行ったりするのではなくて,当然,空船航海の部分と運送をする航海の部分があるという前提があります。そうすると,これは,運送する場合についての準用ですので,各航海に係るという各航海というのは,当該物品を運送するための,その運送品が船積みされた状態での航海のことだということかなと思うのですけれども,それが条文上明確でないものですから,教えてください。 ○松井(信)幹事 この堪航能力が求められる趣旨,堪貨能力も含みますが,こういうものを考えれば,今,池山委員の御指摘のとおりの考え方というものを我々も考えております。 ○池山委員 ありがとうございます。 ○山口委員 先ほどの免責規定のところでございます。パブリック・コメントの段階では,航海傭船契約について,堪航能力担保義務については強行法規,無過失責任主義から過失責任主義にするということがほぼ合意が得られて,その過失責任主義のところの堪航能力担保義務は,少なくとも航海傭船契約については強行法規のまま残すという内容でパブリック・コメントに付されて,それについて大きな反対もなかった状況だっただろうと私は理解しているのですが,そういう状況であれば,仮に定期傭船が任意法規化することについて多数の賛成を得られているということであれば,それにのっとって,航海傭船については少なくとも強行法規化を残し,定期傭船については任意法規化でよいのではないかなと。   確かに,どこで線を切るかというのは難しいわけですけれども,それは,航海傭船と個品運送のところでも,やはり同じ難しい問題が生じるのかなと思うのですが,先ほどもお話がありましたけれども,定期傭船の場合は,正に貨物が将来的に定まっているわけではございませんので,いろいろな貨物を将来的に運ぶことを予定されておりますから,全ての場合において堪貨能力を常に強行法規化で残すというのは無理があるだろうと思うのですが,航海傭船の場合においては,貨物も航海も決まっているということが前提ですので,少なくとも堪貨能力を含めて堪航能力を維持するというのは重要だろうと思いますし,先ほど来お話がありました航海の安全ということを特に危険物について主張されるのであれば,当然,船会社側も航海の安全の基本的な部分でありますところを自由に外してよいというのは,やはり抵抗感が強いなと思っております。 ○松井(信)幹事 すみません,ちょっと誤解があるといけないのですが,定期傭船の場合でも,物品を運送する場合の各航海の発航当時に堪航能力担保義務というものを考えておりまして,その時点では貨物というものは決まっており,船長は,発航前に航海に必要な準備が整っているかにつき検査義務を負うということになります。ですので,定期傭船は何が運ばれるか分からないからという理由で任意規定というのは,ちょっと理屈としてどうかと,そこは航海傭船と同じではないかなとも思うのですが。 ○山口委員 ごめんなさい。私が申し上げているのは,契約の当時において分からないということですので,おっしゃる趣旨はよく分かるのです。要するに,各航海では定まっているのですが,契約の段階においては,いかなる貨物が運ばれるか分からないので,その当該貨物,ある貨物については,場合によってはその積込み資材等の供給を荷主側が負担せざるを得ない場合とか,いろいろな場合もあるだろうと思いますので,それについて,その具体的な航海において一定の特別な約定をするというのは,これはあり得るだろうと思います。それを強行法規化するというのは,やはり多少無理があるだろうとは思うのです。その契約の当時においてね。   そうなってくると,航海傭船契約の場合は,少なくとも航海契約のときに貨物まで定まっていると思われますので,堪航能力担保義務も強行法規化して,少なくとも過失責任の堪航能力担保義務を課すことというのは,さほど無理がないのではないかなと,そこが定期傭船と航海傭船の違いではないかなと私は思います。   だから,その点,誤解しているわけではございません。 ○増田幹事 私自身は,航海傭船について強行法規として残すべきかというところは,いまだに確定的な意見を持っていないのですけれども,航海傭船と定期傭船を区別するという山口先生の御意見に関しては,私も,理解はできるところです。   確か堪航能力担保義務,私の理解が間違っていたら訂正していただければ有り難いですけれども,イギリス法でも,堪航能力を備えていなければいけないタイミングに関して,恐らく定期傭船の場合は,法律上重視されているのは,多分船舶の引渡しのときの船舶の適合性の方ではありませんでしたか,どちらかというと。各航海ごとの堪航能力担保義務というのは,どちらかというと,当然に定期傭船だから適用されている義務というよりは,ヘーグ・ヴィスビー・ルールとかCOGSAをインコーポレートしているから,その結果として,契約解釈上,各航海ごとに堪航能力担保義務を運送人は負っていると,契約上そのような義務を引き受けていると解されると整理されていたと思うのですね。   ですので,恐らく定期傭船と航海傭船を区別するということ自体は,やはり役務の性質の違いから,多分,正当化できる部分ではあると思いますので,実際上は区別が難しいケースがあるのは確かにそうでしょうから難しい問題もあるのでしょうけれども,理論的な筋は通っているのではないかと私は思っています。 ○藤田幹事 もう少し多くの方の意見が出てからお話ししようかと思ったのですけれども,私も,ここは山口先生とか増田先生に近い感触です。まず,そもそもこの問題は法制をいかに整合的に矛盾なく説明できるようにするかという観点から議論されているのであって,定期傭船の本質論とか航海傭船の本質論からアプローチしてもあまり結論が出ないがします。   その上で,三つ出ている案について簡単に印象だけ申し上げます。契約当事者が対等か否かといった観点からのアプローチ――これは以前からなされてきたものですが――は乙案につながるのだと思います。傭船契約というのは対等当事者で,定期船は違うから,そこで線を引くのだというわけですが,これはやはり説明として無理があると思います。   つまり,傭船契約について,国内国際問わず交渉力対等というところまではいいとしても,問題はそういう観点で内航の定期船について対等当事者の契約ではないと言ってしまうのであれば,堪航能力担保義務だけが強行法規だとするのはちょっと無理だからです。   実際,国際海上物品運送法は,対等当事者の契約か否かという観点で,堪航能力担保義務以外の義務責任も含めて,定期船は強行法規,そうではないのは任意法規としているわけです。だから,堪航能力だけ別扱いして,強行法規か否かが交渉力が対等か否かということで差が出てくるというのは,ちょっと無理だと思います。   それなら,一層のこと,国内の航海傭船も個品運送も全部任意法規にしてしまおうというのが甲案の考え方です。確かにこうすると法制上の矛盾といったことは回避できるというメリットはあり,また,これで現実に弊害が予想できると確信を持っているわけでもないのですが,これまで無過失責任を強行法規で課してきたところを,いきなり全部任意法規ですというところまで直すだけのニーズがあるかというと,どうかなという気がします。   陸上運送が全部任意法規であることとバランスがとれるということも考えられますが,貨物運送約款の認可制なども陸上と海上は相当違いますので,商法の中だけで揃えていいかという疑問もあります。そういう意味では,他にどうしようもなくなったときに,この案で矛盾を解消することは考えられなくはないですけれども,最初の選択肢としてこれを積極的に推すというのは抵抗があります。   そうすると,結局は,丙案にのっとって航海傭船,個品運送を問わず,基本的には堪航能力担保義務は強行法規にした上で,ただ,定期傭船については固有の理由付けで強行法規を外す,少なくとも部分的に外すというのが弊害の少ない解決だと思います。この説明資料を見ると,理論的にどう説明できるかというかなりネガティブなインプリケーションがある質問の立て方をされています。日本固有の問題ですので諸外国の文献なんかを見て参考になるようなことが書かれているわけではなく,なかなか理論的な説明は難しいのですが,次のような考え方はあり得ると思います。堪航能力担保義務は,運送する場合に課せられる一種の公序のような義務だと捉え,したがって運送人が義務を外して運送契約を引き受けるということは認めないということを基本とする。したがって,個品運送,航海傭船両方とも強行法規だとした上で,定期傭船にも準用はされることはされるのですけれども,任意法規としての準用だと考えるということができるのかなと思います。   例えば,船主から定期傭船で船腹を確保した定期傭船者が運送人として運送するとします。この場合は,定期傭船された船は運送に使われることが多いので,基本的に船主にも堪航能力を担保する義務を課すのですが,最終的には運送契約当事者間で堪航能力担保義務は確保されますので,船主と定期傭船者の間でどちらが分担してそれを備えるかということは適宜アレンジしていい。ただし,運送人のところでは堪航性は確保する,ここは強行法的に確保することで歯止めが掛かるというわけです。そういう形で,運送人の運送する際の考慮としての堪航能力担保義務が維持されるという仕組みで,一応筋は通るような気はします。   脱法の話も,これも言い出すときりがないのですが,これは繰り返しここでもう確認されたことですが,定期傭船の書式を使って実質的な航海傭船をやるようなケースについては,それは書式の形式にかかわらず航海傭船の規定を適用あるいは類推適用する,そうなると当然強行法規の堪航能力担保義務の規律もかぶるということになる。運送としての実質があるということであればそういう形で処理すれば一応,脱法は処理できると思います。予見可能性がなくなる批判はあるかもしれませんが,脱法を避けるためには予見可能性をある程度犠牲にすることはやむを得ないということだと思います。   以上,今のところ,そういうふうな感触を持っております。 ○箱井幹事 私も,増田幹事,藤田幹事と理屈も結論も全く同じでございます。   脱法,潜脱のところは確かに問題になろうかと思いますけれども--737条は削除の方向ということでございますけれども--,要するに,航海傭船とされるものについてどういった規定になるのかということではないでしょうか。これに代替的な規定が置かれるのであれば,藤田先生がおっしゃられたように,書式に定期傭船と書いてあればいいというものではないはずですので,実質を見て運送契約だという評価ができるかと思います。   その737条がどうなるのか,その点だけちょっと確認させていただけますでしょうか。 ○松井(信)幹事 今,何条とおっしゃっいましたか。 ○箱井幹事 航海傭船の一番最初の運送契約書の規定ですね。それは削除されるということなので,航海傭船が何たるかの規定がどうなるのかということによって,それに当てはまるワントリップの定期傭船の実質があれば,航海傭船契約の規定の方でいけるのではないかということを申し上げたいと思いました。 ○松井(信)幹事 定期傭船については,資料の11ページの3の(1)で,このような冒頭規定を作るということを申し上げているところですけれども。実務上,ワントリップというのが,定期傭船なのか航海傭船なのか判別付き難いものが多いということは聞いております。 ○箱井幹事 すみません,私の言い方が悪かったのでしょうか。737条の航海傭船,運送契約の冒頭,海商編の運送の冒頭に,船舶の全部又は一部をその目的とするというところがございまして,この規定そのものは削除と伺っておりますが,その内容が別な形で航海傭船が何たるかということが出てくるのであれば,実質的にそちらの方を適用するということで。   これは今も傭船契約なのか,賃貸借契約なのか,船舶賃貸借なのかというところでも,そういった解釈が普通にとられていると思いますので,そういった形で潜脱防止が図れればと考えております。 ○松井(信)幹事 部会資料では,航海傭船という表題のもとにいろいろな改正項目を書いておりますが,当然,航海傭船についてそれを最初に示す単語のところでは,この737条に書いてあるように,船舶の全部又は一部をもって運送契約の目的とするという趣旨,これを規定する予定でございます。 ○山下部会長 今,研究者の方々の御意見が幾つか出ましたが,ほかにいかがでしょうか。 ○池山委員 この問題については,確かにこれまで,内航について,航海傭船についての強行規定となってきたという言ってみれば100年の実績があって,それで,その強行規定である故に非常に困っているということで内航運送事業者が悲鳴を上げているかというと,そうではないので,恐らくそういう意味では,しようがない面もあるのかもしれないと,正直思っております。プラス,定期傭船と航海傭船の区別は一応可能なのではないかと言われると,それもそうかもしれません。   ただ,一方で,やはりそうすると,一番こういうときに発言力のない内航運送事業者が,俗っぽい言い方をすると,また泣きを見るのかなという点で,変な言い方ですけれども,同情を禁じ得ないと思っております。それはなぜかというと,やはり外航については,航海傭船についても任意規定なわけで,やはりこのままにすると,外航と内航の区別が,なぜ内航の方が強行規定で,外航が任意規定なのかということに対する説明が付かないと。そこの部分は,やはり大きいのではないかと思います。   そこで,今回,参考資料として古い文献や,あるいは平泉先生の過去からの経緯を詳細に調べられた文献を出してくださっていますけれども,私は,こういう文献をわざわざ法務省の方で発掘というと語弊がありますね,渉猟してくださった趣旨があるとすると,やはり,内航運送について,航海傭船についても強行規定化されたのには,それなりの19世紀のブラッセル会議うんぬんという経緯があったところ,その強行規定をもって規律しなければいけない歴史的な事実は,もうなくなっているのではないかという問題提起が実はあるのだろうと思います。   そうすると,確かに今までそうだった,悲鳴を上げていないかもしれないと,でも,外航との区別をどう説明するのだというときに,やはり内航運送の航海傭船について強行規定を課さなければならない,これを今まで100年たちました,これをまた何十年と続けなければならない必要も実はなくて,やはり立法事実はむしろなくなったという評価もできるのではないかと思います。   当然,堪航性については重要ですけれども,やはり19世紀と今との違いは,公法的な規制が全然違うと。公法的規制というのも2段階あって,一つは船舶安全法的な正に技術的な見地からの安全規制ですけれども,加えて,内航の場合は外航と違って約款規制が自動車と同じような形であると思うのです。ですから,別に任意規定化したとしても,内航運送人が好き勝手な契約をするとは実態としては思えないのです。   そうすると,やはりこの100年ぶりの改正の機会に,本当に強行規定を,19世紀の事情で作られた強行規定をこのまま存置すべきなのかというのは,やはり,できれば白紙から考えていただいて,その必要は絶対にあるというのでないのであれば,外航と合わせていただきたいし,内航の方は,正直そこを,変な言い方ですけれども,うまく言えていないだけだと思うのですけれども。 ○鈴木委員 ありがとうございます。内航に関する深い御理解をお話しいただきまして,大変感謝申し上げたいと思います。   内航の方は正に零細企業でございまして,立場も弱くて,とても荷主さんには物を申せないような,そういう世界でございます。歴史的にずっと強行規定だったので,そういう強行規定でしようがないねという状況に甘んじていたことは間違いないと思います。   私の方から申し上げたいのは,外航でも,傭船関係は航海・定期にかかわらず免責特約の禁止は除外されているということで,その状況の中でも,特に荷主さんとか傭船者さんに不利益を与えるような特約というものは見当たらないといいますか,ないという理解でございます。   仮に,今回改正において契約者同士の私的自治に委ねられる形にしていただいた場合にでも,特に荷主さんや傭船者さんに対して不利益を与えるような特約というのは,まず現れないだろうと,まず実現不可能ではないかと感じております。   そういう意味で,免責特約を禁止するという強行法規性がどうしても必要なのかというところは,少し御配慮いただけたらうれしいなと思っております。   私が言うのも変ですが,最近ですか,外航の方で,御存じだと思いますが,ホワイトフジ号とホワイトコーア号という外航の船があったのですが,ちょっと積付けが具合悪くて,荒天にも遭遇したのですが,荷崩れを起こして転覆して沈没してしまったという事例がございます。この事例の判決が,発航の当時,船体の堪航能力が欠けていたという判断をされまして,船主さんの方が貨物も含めて賠償責任を負わざるを得ないという判決が出ていると伺っております。   もちろんその船の方は,発航前に当然安全運航のために堪航能力担保義務を果たしているわけなのですが,その積付けというのは荷主さん側といいますか,傭船者側が手配して行うものですから,それに対して,もちろん注意義務は果たしているのですけれども,荒天に遭ったというところもまた問題にはなるのですけれども,結果的に船は沈んでしまう,船長,機関長,尊い人命が失われてしまったというような状況において,なお船主に全責任を負わせるべきかということに対して,皆様方の御配慮を頂けたら有り難いなと思っております。   我々の方としましては,どんな具体的な特約があるかと言われると思い付かないのですが,今回のこの事件のように,ヒマラヤ条項ならぬホワイト条項とも言えるかも分からないのですが,積付け不良の場合は船主の責任というものも少し免除いただけるような特約の締結も,可能性としては考えられるのかなというようなことも思っております。 ○野村(修)委員 先ほど冒頭の理論的な御説明で,増田先生の議論,あるいは藤田先生の議論というのは,私も納得できるところでありまして,要するに,定期傭船と航海傭船,理論的にはやはり運送をベースにしているものと船舶の利用契約を中心としたもの,カテゴリーとして根本的に違うということは,私も同じように考えております。   その上で,一つの考え方として藤田先生のように,運送に関しては,やはり強行規定を維持するという一つの考え方が示され,弊害についても,それはそれで解釈の余地があるのではないかという議論に今なっていると思うのですが,私はちょっと違っていて,運送について,そもそもこの堪航能力担保義務というのを強行法規的に要求する必要が今あるのかどうかということ,ある意味では,この話でいきますと最初の案ですか,甲案というのでしょうか,というところに一度立ち返ってみた上で,この堪航能力担保義務というのを契約ベースの中で本当に要求する必要があるのかどうかというのをまず出発点として考えた上で,そこで理論的な説明が付くのかどうかということをやる必要があるのではないかなと思っております。   といいますのは,従来739条という非常に不幸な形で始まった立法が元々ありましたので,当然のごとく,この強行法規だということで議論してきたわけで,強行法規性というのを余り考えたことがなかったと思うのですね。   その739条というのがあるから,当然強行法規。では,739条は何だろうといったら,ちょっとおかしな立法だよねということでずっと議論してきたわけなのですが,よく考えてみますと,やはり契約条項の中でこういった安全性を管理するということについて,一定の時代には必要性があったような気もするのですけれども,今の時代の中で本当にその安全性の管理が必要なのかどうかということが一つと,それから,強行法規は一般的にはバーゲニング・パワーとの関係で,契約当事者の間に,その一方的に作り出される約款が不利益を発生させることに対して後見的な介入をするということになっているのだと思いますが,その点については,約款規制の最近の動向からいけば,やはり行政的な形での一つの対応と,正にそういったバーゲニング・パワーを補完するような形での行政的な事前の約款規制と,それからまた司法的な規制といったようなものによって,一定程度の担保ができているという状況に立ち入った中で,果たして今この条項自体が当然のごとく強行法規であるということが必要なのかどうかということに,やや疑問を持っております。   そういう意味では,池山先生と非常に似ている感覚なのかもしれませんが,そこが説明付かない形で,当然のごとく739条がもたらしてきた効果を所与のものとしてそれを維持するということについて,余り説得力があるような感じがしないので,その点を少し詰めていただいた上で,私は甲案をベースにして,あとは政策的な理由から乙案があるのかどうかを検討するのが筋ではないかなと考えております。 ○池山委員 補足させていただくと,先ほど外航との不均衡を申し上げましたけれども,やはり陸上運送との不均衡と,陸上運送についても,その運送手段である車両の安全性というのは極めて重要で,それは公法的な規制があり約款規制があるという中で,商法は任意規定の体系になっていると。1人内航運送だけがなぜ強行法規なのかということについて,やはり歴史的な経緯しかない。   確かに実際,運送人は任意規定化したって,それほどおかしなことは,やはりすれば市場から排除されるし,特に今はそういう法的な規制があればやらないだろうと私は言っていいと思うのです。その上で,やはり商法の体系として考えるならば,正に野村先生がおっしゃったように,なぜ内航海上運送だけ強行規定でなくてはならないかと,陸上運送と比べてもなぜかと,そこまで遡っていただく必要があるのではないかなと思います。 ○山下部会長 ほかの委員,幹事,いかがでしょうか。   この論点は,中間試案以後,急に大きくなってきたもので,できるだけ広い範囲の御意見を伺いたいと思います。 ○小林委員 本日この問題が非常に重要なポイントだということで,事務局の方からいろいろ御案内いただいたのですが,私は,結論的には大体,池山委員と同じなのですが,やはり外航,内航との比較という点でなるべく調和をとった方がいい,そういうような観点からなのですが,結論的には乙案を支持したいということであります。   一応簡単に,結論だけ申し上げさせていただきます。 ○雨宮幹事 日弁連としての意見が確定しているわけではないですが,事前の検討会議では,強行規定から任意規定にすることによって,安全性の確保の点が著しく悪化するようであれば,強行規定を維持すべきだろうという意見が出ました。他方,公法的規制,私的自治や約款規制等などから,安全性が著しく悪化するようなことが本当にあるのだろうかという疑問も出されました。仮に安全性に問題がないようであれば,本来商法は任意法規が原則ですから,航海傭船,個品運送を含めて任意規定とするのも一案というような意見も出ておりました。   結論を申し上げますと,日弁連としての結論は出ていないのですが,議論の中では,任意法規とすることに対して特に強い反対はないようでした。 ○増田幹事 私自身も,ここは余り結論的な考え方を,何度も申し上げますとおり持っていないところで大変迷うところなのですが,外航との比較で,外航との均衡を確保するために内航も任意法規化すべきなのではないかという理解については,私は外航における堪航能力担保義務の任意法規性というのも,それほど広く自由にやってくださいというものでもないのではないかという認識を持っているものですから,根拠としては適切なのだろうかと,ちょっと疑問に思っているところです。   例えば,船荷証券が発行されているケースですと,外航の場合は,少なくとも船荷証券所持人との関係では強行的に堪航能力担保義務が適用されるはずで,実際に外航の場合は船荷証券が発行されるということはやはり多々あるわけですから,任意法規ベースで動いている範囲というのは,それなりに限定的なのではないかなと思います。船荷証券が発行される限りで,多分限定されるのだろうと思うのですね。   更に言いますと,この堪航能力担保義務には,例えばイギリス法などではやや特別な地位が与えられているといいますか,オーバー・ライディング・オブリゲーションだと言われていて,排除するのも必ずしもそれほど簡単ではないはずではないかと思います。そういう特別な位置付けが与えられているのは,多分,沿革的にはヘーグ・ルールズができる以前の,免責約款の濫用が盛大になされていた時代に,裁判所が制定法上の根拠がない中で解釈技術を駆使して契約内容を規制していった結果,最後の砦のような形で残ったのが,多分堪航能力担保義務だったからだろうと思うのですね。ですから,ある意味,今最初からやり直しても,ひょっとしたら行き着く先は一緒なのではないかなと思わなくもありません。運送債務,運送という役務の内容自体は,今も昔もそれほど大きく変わらないはずだと思いますので,実は大して変わらないのではないかという気がしなくもないところです。   また,公法的な規制との関係でいうと,公法的な規制がなされるから私法上の堪航能力担保義務の規定は緩和してもいいという考え方についても,私自身は,やはり公法上の義務と私法上の義務というのは基本的には別だと思っておりますので,若干違和感を覚えるところであります。   更に言うと,内航海運に関しては,確か,航海傭船の部分に関しては約款規制は行われていないと理解しております。公法的な介入というかなり強い形での契約への介入をしていないのは,正に事業者同士の契約だからだろうと思うのですね。旅客運送と全く同じように,公法的規制があるから大丈夫だとは,ここは考えることはできない部分ではないのだろうかとは思っているところです。   結論としては,本当に任意法規化して弊害があるのかどうかというのは,ちょっとよく分からないので,結論としてはよく分からないとしか言いようがないのですけれども,若干外航と並べて議論するということについては,私は余り適切ではないのではないかと感じているところです。 ○池山委員 確かにおっしゃるとおり,外航と内航を比較する,それだけの言い方をすると,それほど説得力がないと言われれば,そうかもしれないと私も思います。むしろ,野村委員があの後ある種より敷衍しておっしゃってくださったとおり,やはり運送法の体系の中で,100年ぶりの改正で一から考えたときに,そもそも内航にのみ強行規定を課す立法事実があるかという考え方をするかどうかだということだと思います。   外航については,それは確かにここでまた先ほどの世界的潮流うんぬんの議論になるかもしれませんけれども,世界的に任意規定ということがある中で,日本法だけ突然強行規定になるということはないと理解していますけれども,そこは確かにそれ以上でもそれ以下でもなくて,単純に私としても,外航との不均衡というのは確かに結果でしかないというのはおっしゃるとおりだと思います。   それから,念のため申し上げますと,オーバー・ライディング・オブリゲーションうんぬんという言い方をされていましたけれども,ここでまたロッテルダム・ルールズを出すのがいいのかどうか分かりませんけれども,例えば,ロッテルダム・ルールズでボリュームコントラクトについて規定をするときに,堪航能力担保義務については外せないということにはなっておりましたけれども,私が勘違いしていなければ,他方で傭船契約については適用除外なので,やはり外せるということになっていると理解していますので,義務の重要性に鑑みて,強行規定でなければならないということには,やはり必ずしもならないのではないかなと思っております。 ○山口委員 立法事実というお話からいきますと,先ほども誰かがおっしゃったように,外航運送の場合はかなりの頻度で船荷証券が出ておりますので,最終的に荷主は堪航能力を担保された運送の利益を受けることができるのですが,事実として,今,国内運送には一切発行されていないわけです。そうなってくると,唯一その傭船契約が運送契約の内容となるということになりますので,そこで,航海の安全に最も重要な堪航能力担保義務が一方において任意法規化されるということになれば,それは濫用のおそれが十分にあるだろうと思っております。   先ほど池山委員がおっしゃったように,運送人としては,自分らの考えと違うところがあれば約款に入れて当然変えるのだとおっしゃいましたから,やはり責任を逃れたいと思うのであれば,任意規定であれば当然外すという約定を作ってくるだろうと思われます。   これは傭船契約ですから,特に約款規制はございませんので,余り荷主がそれについて注意を尽くさなければ,単純に言うと,そういう堪航能力のない船も約款上有効となって,公法上の規制はあるかもしれません。でも,公法上の規制があったとしても,すぐに無効になるわけではなくて,それが重要な違反である場合でしか多分無効にはならないのではないか。いわゆる取引規則だけであるということであれば,ただの取締規定だということであれば,すぐには無効にはならないわけで,そういうものを許すということ自体が今の日本の運送状況からいうとよろしくないのではないかと思っております。 ○野村(修)委員 私は,とにかく基本的には,強行法規であるという世界が当然の前提として議論されるのではなく,まず任意法規であるかもしれないということを前提とした上で,どういう法律的な手当をしていくことが必要なのか,その必要性はどこにあるのかという議論の仕方をすべきではないかということで,最初,土俵の設定を申し上げたわけです。   そういう点で,結果的には,根拠として今出てきているのは公法上の規制を補完する私法上の約款というものはなお必要なのだという意見と,それから,約款規制の方でいきますと,通常の議論でいけば,契約締結の交渉力について差異がある場合について,強行規定によって,あるいは片面的強行規定によって,一方当事者を保護するという議論が今まであったので,この内航を中心とした世界の中に,今,池山先生がおっしゃっておりました例えば鉄道運送とかそういうのとは異なる,そういった規制を残す必要性というのはどこにあるのかというのを丁寧に議論した上で,そこに何らかの形の規制が必要だというのであれば,その限りにおいて強行規定を残すという議論をすべきであって,今強行規定だから,そこからなくなることに対する弊害という議論の仕方は確かにあるのですけれども,立法論として組み立てていくときには,まず原則任意規定,私的自治の原則であることを前提とした上での本当に必要性があるところをきちっと整理していただきたいなということを要望しているということでございます。 ○石井委員 甲案は,個品運送についても任意規定にするという御提案なのですが,これは,今御意見があったように,一から見直して基本任意規定で考えてはどうかというような御趣旨かと思います。しかし,少なくとも各種条約等々を見ても,個品運送についてはやはり堪航能力担保義務というのは強く求められているところだろうと思いますし,この御提案の中で,B/Lが発行されている場合には除外だということですが,先ほど来話がありましたように,内航の場合にはB/Lは発行されていませんので,そこを任意規定とするのはどうかと思います。   現在は絶対責任だということもありますし,陸上との差という問題はあるとは思いますが,やはりトラックで運送する場合と比べ,船で運送する場合は海上での危険も多く,その堪航能力,航海に堪える能力があるかどうかは安全性の観点からもかなり意味が違ってくるので,そこを同じふうに考えるのはどうかなという気がします。   池山委員から外航との比較という話がありましたけれども,そうであれば,少なくとも甲案のところはどうなのかな,乙案,丙案というあたりでどちらかという考え方はあるのかなとは,個人的に思っています。 ○池山委員 今の一つ前の山口委員のおっしゃったことに対する感想めいた意見なのですけれども,運送人は,これを任意規定にすると,気に入らなければ約款にするのだということになってしまうかもしれないという御指摘があったかと思うのですけれども,それは危険品についてそういう言い方を,先ほどしてしまうのではないかという私の個人的な予想をしたことは事実ですけれども,他方で,当然全てのものについて運送人は気に入らなければ約款で変えるということにはならないわけで,ケース・バイ・ケースなわけです。   前提として,外航の場合は,多くの場合に船荷証券が出ているから,そこでそれほど弊害が起きない,内航は船荷証券が出ていないから違うという話がありましたけれども,外航でも,特に太平洋やアメリカや欧州,長距離の場合は,今や圧倒的多数は海上運送状ですから,実は船荷証券は出ていないではないですか。でも,現実には,例えば定期航路や,もっと申し上げますと,それはコンテナ船のことを今念頭に申し上げましたけれども,不定期船の世界でも,一方で航海傭船契約があり,その航海傭船のもとで船荷証券ではなく海上運送状が出されるという例は現実に非常に多くあります。そういう場合も含めて,それほど弊害が起きるということは多くないと思っております。   一方で,その当事者間の契約の中で,確かにしばしばこの例として出されるGENCON書式のように,運送人がより軽い責任で勘弁してくださいという約款を現に実務として使っている場合がある。そこで,その下で船荷証券ではなくて海上運送状が出される場合であれば,場合によってはそれも通用することもあるかもしれないという例はありますけれども,それによって大きな弊害が出ているという話は元々聞かないわけです。   他方で,やはり物事の実態を見るときに,先ほど鈴木委員が言われた,内航海運業者というのは外航に比べて非常に弱い存在であるという実態認識は,やはり私は持っていただいてもいいのだと思うのです。そこで,よりバーゲニング・パワーが弱い内航運送人についてだけ,弊害のおそれがあるからといって強行規定を残すというのは,やはりどうにも合点がいかないと。   残るのは結局,変な話,これが強行規定で残ったとすると,内航運送業者にすれば,納得できる理屈は,確かに100年こうだったからしようがないと言えばしようがないのかなと,本当にそれはしようがないのかもしれないです。本当,それしか実感としては残らないと思います。果たしてそういう立法をして,これまで100年我慢したのだから我慢しろという立法をしていいのかなというのは,私としてはちゅうちょせざるを得ないと思っています。 ○山口委員 今,池山委員がおっしゃったSea Waybillだからいいのではないかというお話ですけれども,Sea Waybillだって約款でヘーグ・ヴィスビー・ルールを入れている場合もありますし,ほとんどの場合入っているわけで,それから,もっと申しますと,日本の国際海上物品運送法上は船荷証券の条約を批准しているのですが,適用をSea Waybill,いわゆる国際海上物品運送であれば全てに適用されていますので,日本法を前提にする以上,Sea Waybillが出ているか船荷証券が出ているかは大きな差ではないだろうと思っております。   一方,国内運送を見ますと,一切船荷証券なんて出ていないわけですから,ここで堪航能力担保義務が外れてしまうと,船荷証券が発行されていない航海傭船契約という運送において,堪航能力担保義務がどこにも出てこないという契約が存在し得ることになりますので,それは,やはりやめた方がよいのではないかと思っておるというところです。 ○野村(修)委員 私は,先ほど石井委員が御意見があったのは,私の考えている枠組みと同じような発想だと思っています。というのは,私は必ずしも甲案でいきましょうと言ったわけではなくて,甲案というのがまず基本形として考えられるけれども,それに対して,それでいいのかということの議論の中で必要なものを見付け出していくというプロセスではないかということで,少なくとも個品運送についてはその規制が残るべきではないかという御意見で,その御意見について,例えば,国際海上物品運送法ではそうだから,条約はこうだからというのでは,なかなか私は立法するときには説得力がややなくて,むしろ,それらが一体何の目的で個品運送について強行法規にするというふうにしているのかということを考えた上で,個品運送についてはその一方を残す必要があると。   そうなってくると,やはりそのバーゲニング・パワーの問題を例えば考えてみるとすれば,確かに私が個人で海上運送を利用するということがあったとした場合,多くの場合,個品運送というものが利用されることにはなると思いますが,傭船契約を使うことはまずないと思いますので,そういう意味では,その背景事情として考えられるものとしては,やはりその典型的な,例外はもちろんありますから,例外を挙げてしまったら意味がないことなのですが,主として立法するときに,おおむねこういった形の社会的現象があるだろうということを想定したときの荷送人側の形態というものの違いというところから,やはり荷送人側をサポートするために一定程度の強行法規が必要かどうかという議論をするとすれば,私も個品運送契約については強行法規を残すという,その甲案から発想しても,乙案はあり得るのではないかなとは考えているところであります。 ○山下部会長 ほかに,この点。 ○池山委員 念のため申し上げますと,私も甲案ではありません。   そこは,こういう言い方は,恐らく理論的にはまだプリミティブなのだと思いますけれども,確かに,運送人が一方的に運送条件を定めて,付合契約としてその契約をするという類型のときに,公法規制とは別に私法的に強行規定を残すというのであれば,それはそれで理解できないわけではないと思っております。 ○山下部会長 今までの意見で,荷主のサイドの御意見はまだ余りないように思えますが,何かどうしてもということはございましょうか。 ○遠藤委員 もう議論が尽くされている感じがして,私が何か付け加えて言えることはそうはないと思うのですけれども,荷主の立場からすると,現行法が航海傭船,個品運送を含めて無過失責任であり,なおかつ強行規定であるところを,無過失責任を過失責任にし,加えて強行法規性も外すということについては,どういう問題が起こるのかというところについてはよく分かりませんけれども,2段ほどハードルを下げるということからすると,実務感覚としては,それで大丈夫なのかなというのが実感でございます。   一方で,国際海上運送と平仄を合わせると言われていながら,例えば,スタートポイントとしての甲案という野村(修)委員の御発言がありましたけれども,国際海上物品運送法の方は,私が理解している限りでは,5条で堪航能力担保義務を規定し,16条で例外規定を設けているのは飽くまで航海傭船の方であるということで,少なくとも国際海上においても,個品運送については堪航能力担保義務が強行規定として課されているという理解ですので,そこのところはさすがに維持をすべきだろうと思います。   それと,航海傭船について,強行規定を外すということになると,先ほど来から委員の方から御発言がありますけれども,荷主としては,担保する手段としては船荷証券を発行しなければならなくなります。   ただ,一方で,現状でも全く船荷証券はどうも実務では発行されていないというようですので,先ほど山口委員がおっしゃったように,国際海上物品運送法でも船荷証券と規定しているけれども,Sea Waybillで代替できるのであれば,これはちょっとテクニカルな問題になるのですけれども,そうであるとすれば,国内の航海傭船契約においても,例えば,今回の改正において,海上運送状に関する規定が新たに設けられますので,本来国際海上を念頭に置いた規定で趣旨は異なりますが,国内においても海上運送状を発行して,それでもって,例えば担保するというようなことも考えられるのではないかと思います。 ○鈴木委員 先ほど,内航と外航と合わせる理屈は余りなさそうな御発言があったのですが,ある事例で,外航で運んできた貨物を二次輸送で内航で運んだケースがありまして,そのときに二次輸送の内航船が沈没してしまった。お客さんの方からは,二次輸送の内航船では堪航能力担保義務は強行規定なので,そこを理由に損害賠償請求を全部内航の方に持ってきたというような事例もあるやに聞いておりますので,その辺は内航と外航とはやはり統一していただいた方がよろしいかと思います。 ○野村(美)委員 どちらの立場に立っていたわけではないのですけれども,余り長々としゃべられないので,ひょっとすると誤解を生むかもしれないのですが,一つ教えていただきたいのですが,内航の業者が零細だから堪航能力担保義務を強行されては困るということ,この理屈ですが,経済的な意味としてはどんなことを考えられているのでしょうか。   理屈だけでいうと,恐らく強行法規を外すと,マーケットが強いのでたくさんの人が参入してくるとなると,ひょっとするとクオリティーも落ちるのではないかというふうな理屈も考えられるところ,零細だから強行法規化されると困るというのはどういうふうな経済的な効果を考えられて言われているのか。別に零細な業者に味方するとか味方しないというのではなくて,一つの視覚として教えていただきたいと思うのですけれども。 ○池山委員 私の方は,別に零細なところに,その業者に対して任意規定化するとこういう経済効果があるというようなことは,正直,そういう考え方で申し上げたつもりはございません。   私が申し上げたかったことは,外航と内航を比べた場合に,内航業者の方が一般的に言うと零細業者が多いと,内航でも大手はいるし,外航でも中小はいるわけですけれども,ざくっと言えば,内航の方が零細業者の方が多いのではないか,そして,にもかかわらず,規制の厳しさが内航の方が強行規制が厳しいというのが,平仄が合わないのではないかと思いますと,言ってみれば,それ以上でもそれ以下でもないです。経済効果というような話ではないです。 ○野村(美)委員 もしそういう理屈なら,私が別に丙案というわけではないのですが,理屈の話だけでいきますと,零細だから強制しないといけないという理屈も立つのではないかと思うのですが,何か少し,どこかに論理が抜けているような感じがするのですけれども,いかがでしょうか。 ○池山委員 逆に,その零細さということと強行規定を外すということに論理的な関連がないのではないと言われると,そこは,すみません,私の今の頭では直ちに正直言って答えはないですが,ただ,やはり違和感が拭えないということは言えるのではないかと思うのですが,どうでしょうか。 ○野村(美)委員 それは,非常に抽象化しますと,どうして内と外で規律が違うのだと言われれば,おかしいということなのですが,では,その規律を同じにする理由とか異にする理由というのは何かと考えたときに,もし内航の方々から具体的に,強行法規によってこういうふうな具体的に困ることがあるというようなお話が出たら,そのとおりだと思うのですけれども。 ○池山委員 そこは,ある種,立証責任が何か転換されたような気がして困るのですけれども,一方では,確かに内航業界が零細業者が多い,そして,現実に100年間強行法規性で来て,そのことによって内航業界が非常に苦しんでいるという経済実態が本当にあるのかと言われると,鈴木委員は異なる御意見をお持ちかもしれませんけれども,私は,一方ではそこまで言えないのかもしれないと。その意味では,現行法どおりというのであれば,やむを得ない選択肢としては,法政策的な選択肢としてはあるのだろうと思います。   ただ,一方で,立証責任を転換という印象を申し上げた趣旨を申し上げるのは,逆に,今まで100年間そうだったということは別に考えて,かつ,その理由が100年前の状況を前提にしていたと考えたときに,今,強行法規でなければならない理由が逆によく分からないと。野村修也委員から正にそこを問い直すべきだと言っていただいたと思っているのですが。 ○野村(修)委員 答えになるかどうか分かりませんが,先ほど遠藤委員からもお話があったところなのですけれども,私の基本的な考え方は,思考の,ただ物の考え方で,実は国際海上物品運送法の船荷証券に関して強行法規化されているのも,それなりの理由があるから強行法規化されているので,原則は元々自由だったと。それは,歴史的には非常にそれに濫用的な免責約款が入って,あとは運送人は,その運送するだけしか義務がないと言われる時代があったことが背景だったということが,これを生んでいるわけですよね。   そう考えたときに,経済的に弱者であるかどうかということを私は議論したつもりはなくて,契約交渉力を見たときに,その荷主とそれから運送人との間に,例えば対等な関係があって契約交渉が十分できるのだとすれば,それにパターナリスティックな形で後見的介入をすることの必要性というのは余りないというのが基本だと思います。   そういう点で考えたときに,もし万が一内航運送業者が荷主に比べて強い交渉能力を持っているという実態があるのだとすれば,それは何らかの形で,この運送形態が個品運送契約ではなく航海傭船契約の形をとっていたとしても,そこには何らかの形で歯止めを掛けなければいけないということはあると思うのですが,むしろ逆に,実態としては,内航運送人は荷主よりも交渉力が弱いような人たちが圧倒的に多いという状況があるのではないかということが指摘されていたり,あるいは,少なくとも対等であって,強い権限を持って運送の契約関係を支配するような,コントロールできるような実態を持っているわけではないので,そこに法的な介入をしていく必要性というのは見当たらないのではないかということを言っていたということでございます。 ○石原委員 以前はしけ組合の方に来てもらってお話を伺ったときに多分出たと思うのですが,これは検査費用との問題が出てくるのではないかと思いますが,いかがでしょうか。多分,強行規定になりますと,やはりこれは定期的に検査を受けなければいけない。ところが,任意規定だと検査をやらなくてもいいということになってきますと,その船に対する堪航性をどこまできちっと守れるのかという問題だと思います。   それから,今一つは,それに伴って保険料,荷主にとって保険料がどういう形で変わってくるのか,同時に賠償責任保険の絡みもあると思うのですけれども,その辺はいかがなのでしょうか。 ○鈴木委員 堪航能力担保義務自体は免れないというところは原則としてあるということなので,検査費用も当然船主の方で負担しなければいけませんし,はしけ運送さんも,もし海上運送ということになれば堪航能力担保義務を負うことになりますので,そのはしけの堪航性によって,それなりのコストは掛かってくるだろうとは思います。   私が申し上げたかったのは,要は,先ほど野村(修)委員がおっしゃられたように交渉力といいますか,荷主さんとか傭船者に対して不利益になるような堪航能力担保義務を免れるような特約というのは結べないということを申し上げたいのですね。要は,そんなことは畏れ多くてできないというような現在の業界状態ですので,ですから,堪航能力担保義務自体はもちろん義務として我々運送人,船主が負うというのは当然でございまして,ただ,それを強制的に,法律で強行的に何が何でも船主のところでやらなければいかんという形だとちょっと困りますよというのが,我々内航業界の希望でございます。 ○山下部会長 大分議論がされたと思います。論点はかなり出尽くしたところかなと思いますが,次回に向けて,今日の議論を踏まえて,なお検討していただくということでよろしいでしょうか。   それでは,それ以外の,今取り扱っている部分について,何かございませんでしょうか。   よろしいでしょうか。 ○池山委員 他の部分というのは,「3 個品運送」のところも今の部分に入るという。 ○山下部会長 そうですね。共同海損の前までのところです。 ○池山委員 細かなところで,すみません,若干ございます。   2点ございます。大きなところではないですが,まず「3 個品運送」の「(2)船積み及び陸揚げ」のところでございます。   ここは,正に前回か前々回これを議論したときに,従前の船協案を御説明させていただいて,そこは契約で対処すればよいのではないかという御指摘を頂いて,それはそれで了解をしているところなのですけれども,一方で,半分は質問なのですけれども,そうすると,運送人はデフォルト・ルールとして船積み及び積付け義務は明記されると。しかしながら,陸揚げについては,荷受人の陸揚げ義務を削除する,それだけなので,陸揚げ義務については,デフォルト・ルールとして何も規定がない状態になって,ここは別に規定の体系的な美しさだけの問題でしかないかもしれませんが,やや平仄が合わないというか,違和感がある形ですので,陸揚げ義務があるということは別に入れていただいても逆にいいのかななどと思っておりますが,いかがでしょうか。 ○松井(信)幹事 船積み,積付け,陸揚げというのは,いずれも運送の一環の中に入ってくるものでございます。ですので,運送人が荷送人から運送品を受け取って,最後に荷受人に引き渡すまでですので,規定がなくても陸揚げというのは当然に義務があるということになります。   では,なぜアの方で船積みと積付けのことを書いているのかなのですが,749条2項の話を前回の部会でもしましたが,これを怠ったときに船長の発航権というものが導かれてきます。それの絡みで,ここに書いてあるということでございます。 ○池山委員 分かりました。   それから,複合運送証券の関係で,ちょっとよろしいでしょうか。これも似たような確認的なものなのですけれども,複合運送証券の規定については基本的には船荷証券の規定を準用するということになっていて,従前特段の異議を申し上げていなくて恐縮ですが,はたと気が付いたのですけれども,発行義務者を「運送人又は船長は」ということも,そのままになっております。別にそれでも不都合はないのですが,実態としては,複合運送証券を船長が発行するという例は余り聞いたことがないので,余りというか全く聞いたことがないので,そこは,あえて残す必然性はないのかもしれないと思っております。   元々船荷証券にある方が歴史的な経緯を踏まえていまして,船荷証券による義務を負うのは運送人ですから,運送人が発行すると。でも,実務として,その運送人の被用者と単純には必ずしも言い切れない独立の存在であるところの船長が船荷証券を発行して,その船長の使用者は誰かということは争いがあり得る中で,実務として船長が発行することがあるので,船荷証券については船長というのを独立な立場として今まで書いていた,これを残す,これはいいのですけれども,複合運送証券については,一方でそういう実務はない中で,あえて残す必要はないのかななどと思っております。   それから,それと関連して,発送地及び到達地を記載事項として加えるかどうかについて,複合運送証券のうち受取型の証券,つまり,受け取った段階で出す証券のときのみ,その二つも書くのだと。しかしながら,私が勘違いしていなければ,複合運送証券でも,船積み後に複合運送証券を出すという例は現にあって,ここでも許容はされていると思うのですけれども,そのときには,発送地,到達地の記載義務が逆にないように読めると。でも,一方でこれこそ仮に発行のタイミングが船積み後であっても,その運送責任をどこからどこまで負うかというのは極めて重要なことですから,複合運送証券である限り,発送地及び到達地の記載は義務的にしてもいいのではないかなと逆に思っております。   最後の点は,勘違いでしたら御指摘ください。 ○山下関係官 まず1点目ですけれども,船長というのを入れているのは,基本的に船荷証券と同じものであって,船荷証券に由来するものだという理解をしておりまして,特に海上運送から始まって陸上運送があるというようなケースについては,もしかすると「for the Master」のように船長の名前で発行するようなものもあるのかなと思っておりました。この点につき,本当に船長名で発行する例がゼロなのであれば,そう言っていただければ消すということもあり得るのかもしれませんけれども,可能性としてやはり船荷証券に由来するという経緯があって,元々は海上運送だけだったけれども,最後のところの陸上区間が結構長くて複合運送になりましたといったような場合に,本当に船長名で発行するものがゼロということが言えるのかどうかに掛かってくると思いますので,御教示いただければと存じます。   もう1点につきましては,今回の御提案については,複合運送証券を発行した場合には,20ページの一番上のイのところで,「並びに発送地及び到達地」を加えるということを記載事項に加えておりますので,それを法定記載事項として追加しているという認識です。 ○池山委員 入れるときに,その「(2)アの規定中「除く。)」とあるのは」という読み替えですよね。そうすると,はめて読むと,「受取船荷証券にあっては」というのを,「受取複合証券にあっては」(キ),(ク)を除く,プラス,発送地,到達地も入れるのだというふうに読めるので,結局,受取複合運送証券という場合だけということなのかなと思ったのです。   他方で,複合運送証券についても,受取りと船積み後の船積みと両方区別されていて,それは,実際実務でもあるのでと思ったのですが。 ○山下関係官 御理解がやや間違っていると思います。   「除く。)」なので,「除く。)」で,そこの時点で,「受取船荷証券にあっては」はもう終わっていますので,プラス,受取証券と船積証券とに関係なく,「並びに発送地及び到達地」でございますので,両方について記載事項になっております。 ○池山委員 すみません。分かりました。ありがとうございます。 ○山下部会長 ほかにございますか。 ○遠藤委員 少し戻ってしまうのですけれども,ページ16の航海傭船に関わる,これは個品運送にも同様な規定があるのですけれども,「(7)発航前の任意解除権」のアのところで,「発航前においては,全部航海傭船契約の傭船者は,運送賃及び滞船料を支払って契約の解除をすることができる。ただし,契約の解除によって運送人に生ずる損害の額がこれを下回るときは,その損害を賠償すれば足りる。」ということなのですけれども,下回るかどうかというのは荷送人の方では分かりませんので,例えば運送賃全額が請求されたといった場合は,損害の額がこれを下回らなかったということを運送人の方で立証していただくということになろうかと思うのですけれども,そういう理解でよろしいのでしょうか。   損害の額が下回ったときに,下回った額というのをこちらは分からないので,運送人さんが立証してもらうことになるかと思います。 ○松井(信)幹事 これは,荷主側が任意に解除する場合ですので,基本的には,運送賃及び滞船料を支払っていただく必要がありますし,分からないというのであれば,適宜交渉していただいて,その額を考えていただいて,適切な額を払っていただくということになろうかと思います。 ○遠藤委員 解除があった場合,そうすると内実は分からないので,仮にその運送人さんが他の荷送人を見付けて船積みをしたといった場合でも,幾らの運賃かというようなところまでの詳細は分からないのですが。 ○松井(信)幹事 分からないというのは理解できるのですが,だからといって,適当な金額を荷送人が提供すればいつでも任意に解除できますというのでは,逆に運送人にとっては酷になると思うのです。ですので,客観的に適切な額をしっかりと提供する必要があろうと考えております。 ○池山委員 今の規定については,運送人側から補足させていただくと,やはり当局から言っていただいたとおり,本来任意解除というのを簡単にされては困るわけで,解除はできないのが原則であって,任意解除するのであれば損害額を払ってくださいと,従前のような2分の1,3分の1という一義的な規定はやめてくださいということですので,これはこれで合理性があって,今遠藤委員のおっしゃった点は,正に運送人と交渉して明らかにさせるべきだし,もしそれが訴訟になれば,それこそ,実際立証責任の分配うんぬんで決着が付く場面というのは実態としてはほとんどないわけで,運送人に対して文書提出命令なり何なりで立証させてというか,証拠を出させて,立証責任としては形式的には荷送人側にあると。そのための努力を,訴訟の手続の中でしていただくということなのかなと思っております。 ○山下部会長 よろしいでしょうか。   それでは,ないようでしたら先へ進みまして,今度は第2部の「第5 共同海損」から「第9 船舶先取特権及び船舶抵当権等」までと,更に「第3部 その他」ですから,要するに残り全部について,まず事務当局から説明をしてもらいます。 ○松井(信)幹事 御説明いたします。   この中で,特に説明を記載しておりますのは,30ページの4(1)ですが,こちらでは,商法704条2項の船舶の利用について生じた先取特権のうち,特に平成14年の最高裁決定で認められた民法上の動産保存の先取特権について,修繕費に係る債権者とその債務者でない船舶所有者が民法の例外として先取特権の負担を負うことの利害の調整として,その効力を1年に限るという提案をするものでございます。   これは,船舶先取特権の被担保債権については1年以内の決済ができていると考えられ,定期検査の修繕費についても同様の取扱いができるのではないか等の理由によるものですが,この点については,後ほど御紹介がありますように日本中小型造船工業会から参考資料37の「意見書」が提出されております。この意見書によると,部会資料のような見直しをする場合には,1年を超えて支払猶予をすることができなくなり,船舶賃借人が不利益を受けるおそれがあるとの指摘もございます。   元々この問題は,債務者でない船舶所有者ないし船舶共有者の保護を図るべきという意見から議論が始まったものでございますが,船主と船舶賃借人の間の利害の調整をどのように図るかという視点からも,十分な御議論をお願いしたく存じます。よろしくお願いします。 ○山下部会長 今,当局の説明にありましたとおり,参考資料37として日本中小型造船工業会から意見書が提出されております。窓口をされている国土交通省海事局の村田関係官におかれましては,この点について概要の御説明をお願いできますでしょうか。 ○村田関係官 ありがとうございます。村田です。   簡単に御紹介させていただきますが,中小造工からの意見ですけれども,実際の商慣行上どうなっているかという形ということを前提とした意見になっております。   除斥期間1年という形になってきますので,その期間との関係におきまして,実際の商慣行上,発注者側の希望で船舶の修繕費用の支払が1年を超える場合が多々あることというのが一つ。   それと,もう一つは,事務局の資料の中に定期検査の話が出てきますが,船舶の検査の場合,定期検査のほかに中間検査というのがありまして,それが,定期検査はおおむね5年に1回ですが,中間検査が2年半から3年に1回やるようなパターンが出てきます。船種によっては1年に1回というのもありますが,おおむね2年半から3年という形になっています。   その場合には,実際の慣行として,2年半から3年程度,次の検査までに支払してくださいというような形での取引をやることもあるという,そういう実態があるということだそうです。それを踏まえたときに,除斥期間が1年でいいのかどうかということを御議論いただければと思います。 ○山下部会長 ありがとうございます。   それでは,説明のありました部分全体について,御自由に御発言をお願いいたします。 ○松井委員 もう時間もありませんので,同じことは繰り返さないつもりなのですけれども,先ほど堪航能力担保義務の議論を伺っていて,大変うらやましく思いました。最高裁の判例があって,無過失責任であって強行法規であるという判例がありながら,皆さんが何もないところからの議論をしていただけるのは大変うらやましいなと思いました。   この中にもありますけれども,民法の先取特権,賃貸借の場合に,その船以外の場合にも,その所有者は自らが債務者でもないにもかかわらず先取特権の制約を受けなければいけないという,そういう価値観が共有できるものであるとするならば,それはもちろんごもっともなことだと思います。けれども,民法の追及効の弱い先取特権が,船の場合には差押えということを介して大変厳しい制約になるということを考えていただくと,先取特権を余り広く認める,また,その被担保債務を広く認めるということは適当ではないのではないかと思います。   今お話のありました日本中小型造船工業会の御意見がありましたけれども,多分ここに書かれている除斥期間という御理解は必ずしも正確ではないように思います。704条2項について今回御提案いただいている丙案というのは,除斥期間というよりも,その適用期間を短くするだけで,債権そのものがなくなる,また担保権そのものがなくなるというものではないと理解しております。そこで,在るべき価値観としては,先ほど申し上げたように船舶先取特権よりも劣後する,また,より弱い保護すべき価値が低い先取特権がより長く残るということについて,いかがなものかというところがあります。先ほどのお話で,その検査期間が3年であるから,次の機会までに払えばいいよというようなお話がありましたが,その実務慣行自身が,その他の通常の商慣行からいけば大変優しい世界だと思いますし,それが果たして正しいのかどうかということも御検証いただく必要があると思います。   ただ,前回の議論も含めて,本来在るべき姿についての個人的な意見としては,この検査費用というものが仮に船にとって特別なもので,現在ある船舶先取特権以外のものとして保護すべきものであるとすれば,93年条約などの立場から見れば,抵当権に劣後する形で何か新しい先取特権を作るというのは一つの考え方で,そうであるとすれば,1年間の除斥期間に係る権利ということも,整合性のある形で説明ができるのではないかと思っています。   ただ,事務局のお立場,反対意見ももちろんありますし,新しい先取特権を作るというのが容易でないことも十分に理解しているところでございます。そういう意味では,日本中小型造船工業会の3年とかという御提案はちょっと理解というか,受け入れることは難しいと思います。けれども,仮に丙案ということであるとすれば,1点だけ確認させていただきたいのですけれども,今回も書いていただいておりますように,部会の中でも,学者の先生方からも,この14年決定というのが必ずしも現在の法秩序として正しいものかどうかという疑問があるというような御意見もいただいております。これは,今ある704条2項の先取特権の範囲を法制化するものではない,すなわち,しつこいようですけれども,今後まだ争う余地があるということか,先取特権としては,14年決定は動産保存の先取特権が対象になっていましたけれども,これも含めて今後争う余地があるという理解でよろしいのかどうかだけ確認をさせてください。 ○松井(信)幹事 争う余地があるかないかを,法務省として何か言うというのは,難しいのではないかと思います。行政庁としては,最高裁が一定の判断をしたら,それを尊重すべき立場にあると思います。 ○松井委員 質問の仕方が悪かったのだと思いますけれども,現在あるところの船舶先取特権,条文どおりにきちんと読まないといけないですけれども,ここのところで言っています「船舶の利用について生じた先取特権」というのを変えることではないと,現在の法律を変える趣旨ではないということでよろしいでしょうか。 ○松井(信)幹事 改正提案の趣旨は,ここの4の(1)と(2)に書いたことであるということでございます。 ○松井委員 ありがとうございました。 ○石井委員 海難救助についての「3 債権者間における救助料の割合」の(5)のところです。救助業者が救助をした場合には,救助料は船員には配分せずに船舶所有者に支払わなければならないという規定ですけれども,実際の救助に当たっては,救助業者が自社の船を使う場合ももちろんありますけれども,他の船を傭船する場合もありますので,そのような場合の救助料は,当然救助業者が受け取るわけですが,(5)の規定でいくとその辺の趣旨が不明確になるのではないかなと思います。 ○山下関係官 ここで書いておりますのは,飽くまで被救助者と救助者との間の権利義務関係を定めているだけですので,一旦その救助業者が,傭船か自社船かはともかく,一旦支払ってもらった救助料を,その後誰かに支払うということは全く問題ございません。 ○石井委員 そうではなくて,救助料の全額を船舶所有者に支払わなければならないというのは,つまり,被救助者の方が救助料を払うときに,船舶所有者に支払うと書いてあるわけですよね。大規模な救助作業というようなことであれば,救助業者の船はもちろんそうですけれども,救助業者が傭船した船が多数関与する場合があるわけですから,そのようなときに,その傭船された船の船舶所有者に払わなければならないというふうにも読みかねないのではないかなと思います。 ○松井(信)幹事 今のお話は,救助した船舶所有者というのが何人いるということになるのですか。 ○石井委員 いろいろな船が救助に関与してくる場合ですから,船舶所有者というのは,そのそれぞれの船ごとにいるということになりますよね。 ○池山委員 私なりの石井委員の御意見の補足のつもりですけれども,この805条の規定自体は,元々1項から読み直していくと,救助に従事したる船舶がうんぬんという話から始まって,実態として,ある単独の船舶が救助に従事するということを最初から念頭に置いた規定になっていると。それが任意規定があれば,その船員等にも配分がいるけれども,単独で救助に従事する船舶所有者が救助業者であれば,それは船舶所有者に行くと,それを書こうとされているのだと思うのですね。   それは,その限りでは正しいのですけれども,一方で石井委員がおっしゃったのは,実態としては,そもそも救助の実態が単純に単独の船舶所有者が救助業者で救助するという,立法が前提としている事実自体が実態と違うと。救助業者という業者がいて,その業者が,他から一つの船舶を傭船して,傭船者たる救助業者が救助することもあれば,もちろん複数の船舶を用いて救助することもあると。その中の全部を傭船することもあれば,一部は救助業者の自社船で,他方,一部は他からの傭船で救助することもある,そういういろいろな実態があると。   そういう中で,とにかく救助業者が救助した場合には,救助料は救助業者に行くと,それだけであって,そこで複数の船舶が従事していたとしても,複数の船舶所有者に行くことはあり得ないと,そのことを明確にしてくださいという御趣旨だと思うのです。そうすると,単純に(5)を書き直すのであれば,船舶所有者というよりは,救助者が救助を業とする者であるときには,その業者がもらうと,単純にそういう書き方をすればいいのではないかということですよね。 ○山下関係官 御指摘の趣旨は承知しましたので,また改めて詳しい御事情を教えていただければと思います。 ○山下部会長 ほかにございませんか。 ○鈴木委員 先ほどの先取特権の方に戻りたいのですけれども,正に中小型造船さんの御意見ですね,内航海運がいかに零細かということが表れていると思うのですけれども,ドッグ費用を払えなくて,後払いでしてもらっているという慣行はございます。   先ほど松井委員の方からおっしゃられました,1年にしたいという御意向も理があるとは思うのですけれども,内航の方から申し上げたいのは2点ありまして,まず,これが1年になると,多分現場が相当混乱するだろうと。中小型造船工業会の方々が,改正になったら現在の慣行を維持できないというようなことをおっしゃられるのであれば,相当現場が混乱するおそれがございます。   それと,もう一つは私の個人的な質問なのですけれども,この先取特権というのは,何か民法の動産の先取特権とお伺いしているのですが,これを商法において民法の先取特権って何年の有効期間があるのか分からないのですけれども,この改定によって1年に縮めるということは何か法的に問題はないのかなという,何か民法で権利があるのに商法で縮められてしまったというのは,いいのかどうかというのがちょっと判断付かないのですけれども,何か問題ありそうだなという気はしております。 ○松井(信)幹事 民法上の動産先取特権,特にここでは修繕費に係る動産保存の先取特権ですが,通常の事業者であれば5年間の商事消滅時効になります。それをこの局面で1年に縮めるということの合理性ですが,そもそも民法では,債務者の所有する物に対してしか先取特権は掛かっていけないということになっています。商法で,正にこの条文で,その例外として,賃借人に対する債権であっても所有者に対して掛かっていくことができるとしておりますので,例外をどのような場合に作るのかという,その中の政策判断の一環であるということで説明はできるのではないかと思っております。 ○松井委員 今,鈴木委員が言われたように,中小の零細な方があるというのは,もちろん存じ上げているところでございます。   今,実務の混乱というお話がありましたけれども,少なくとも私の理解では,平成14年の決定が出るまでの間は,動産保存の先取特権がこういった定期検査をカバーするというふうに広く認識されていたとは理解しておりませんので,少なくともその新たな実務というのは,ここ10年に出来上がったかどうかということだろうと思います。   ただ,その動産保存の先取特権が平成14年決定によって認められる以前にも,多分同じ実務は続いていたはずなので,そういう意味では,この動産保存の先取特権がない場合と1年の場合と現在の場合とで,多分,実務は変わらないのではないかと思うのですけれども,いかがでしょうか。 ○鈴木委員 私も想像でしかないので何とも申し上げにくいのですが,少なくとも現時点で,業界の方でこういう話題が出ているもので,どうかという問い合わせをしたところ,やはり1年に短くなるというのは,現状を変えるのはやめてほしいという意見がありましたので,御報告させていただきます。 ○小林委員 今,松井幹事の方から御説明いただいたとおり,本条は船舶賃借人の船舶の利用について生じた先取特権が船舶所有者に対しても効力を有するということで,非常に珍しいというか,例外的な規定だということになるわけですが,多少気になるのは,この条項の基になったドイツ法なのですが,それが,2年前に大きく変わってしまい,むしろなくなってしまっているという,そういう状況にあって,この商法704条2項を日本法においてどういうふうに利用したらいいかということなのですが,そういう状況からすると,余りその適用の範囲を広げないといいますか,できるだけ限定して解釈した方がいいのではないかというのが私の感触です。   今出てきた中小造工会の方で3年とするというのも,できたら余り延ばさない方がいいのではないかというのが実感ですし,それから,(2)の点なのですけれども,この点についても,定期傭船について準用するものとするというふうに書いてありますが,これも確か前回だったですか,山口委員の方からの質問に対して,明文でこれを一応書くのだということで承ったのですけれども,果たしてそれがいいのかどうか,そういう点が多少気になります。商法704条2項は,その母法がなくなってしまったのですから,余りその適用の範囲を広げるのはどうかと考えております。 ○松井(信)幹事 今回,定期傭船について新しく規律を設ける以上は,準用するのかしないのかを結論付けないといけないと思います。その上で,今まで議論を続けておりましたけれども,定期傭船者の取引相手の保護を図るべきであるという観点から,実質として賃借人と同じように704条2項を及ぼすという議論がされてきたと理解しております。   ですので,この点は,法律上規定するのはやむを得ないのではないかと思います。 ○小林委員 明文で規定するよりも,むしろどちらかといえば解釈に任せて,余り触れない方がいいのではないかというのが私の感触です。 ○山下部会長 ほかに,よろしいでしょうか。 ○池山委員 1点質問なのですけれども,前提として,船舶先取特権の場合や今回の案だと,発生から1年ということなのですけれども,この発生時というのは,実際工事が行われたときに,もう既に発生するという解釈でよろしいのでしょうか。   先ほどの鈴木委員の御説明だと,やはり履行期を2年,3年と延ばしているという例があるということでしたけれども,問題は,それが法的な保護に値するのかどうかと,慣行として保護に値するのかどうかということであって,そこで松井委員の方から否定的なニュアンスの発言があったと思いますが,その場合,例えば,2年間の弁済猶予を与えると,通常の債権の時効はその2年後から5年ですよね。他方で,ここで言う先取特権の発生というのは,弁済期が来ていなくても,もう工事が終われば発生しているという理解になるのでしょうか。純然たる質問なのですが。 ○松井(信)幹事 同じ問題は,現行法の商法847条1項における船舶先取特権でもあると思うのですが,それは,どう考えられていますか。 ○池山委員 正直申し上げますと,そこは不勉強で余りよく分かっていないのですが,我々が理解するときに,余りその弁済期が長期間猶予されて,そこからという議論はした記憶は余りないのですが。議事録上,明らかでないので,あえて言いますが,山口委員がうなずいていらっしゃるのが私から見えますが。 ○松井(信)幹事 この場で資料を持ち合わせていませんので,戻ったら調べてみたいとは思います。 ○池山委員 その点の解釈によっては,場合によっては議論の状況がひょっとしたら変わるかなと思ったので,質問した次第です。 ○松井委員 そういう意味でお話をすると,多分油のケースとかというのが一番多いのですけれども,そこは確かに支払期から請求を受けることがあります。必ずしも入れた瞬間という解釈はしていないですね。油を入れた瞬間からのみ842条を計算するということではないかと思います。   ただ,その猶予の期間が長すぎると,そこはそこでまた違った議論が出てきますけれども,基本的には,確かに債権の発生が前提になっているということだと思います。 ○池山委員 そうだとすると,2年猶予するとか3年猶予するという事例だと,そこから1年ということに,この新しい案でもなるということなのですか。 ○松井委員 そういう可能性もあると思います。そこもちょっと検討する必要はあり,これに正におっしゃるとおり,その点もふさわしいかどうかということを改めて検討する必要があると思います。 ○山口委員 その起算点についてなのですけれども,我々は,もしその先取特権を行使する側に立った場合,どこを起算点にするかということについて争いがあるとすれば,最も早い時を起算点として考え,その1年以内に行使しなければ法的な問題が,一つバーが上がりますので,実務的に私がやるときは,必ずその入れた段階,あるいは修繕が終わったら修繕が終わった段階,修繕が終わって引渡しがなされた段階から1年という考えで今までやってきていました。   猶予はされていようが,それは第三者であります差押えをする側からはなかなか分かりにくいというところもあって,猶予をしているのは分かるのですけれども,それを,単なる合意ですから,それを第三者である船舶債権者に対して対抗できるかどうかというのはかなり疑問があったので,今まではそのようにしておりました。確かに問題はあるのかもしれませんのですが。 ○山下部会長 なお検討していただくことにして,ほかの点についてどうぞ。 ○松井(信)幹事 今の30ページの4(1)の1年に限るかどうかという点なのですが,先ほど内航の関係からは御紹介がありましたけれども,これは外航についても同じような規律が妥当すると思うのですが,外航の観点で今の段階で特に御発言はないでしょうか。 ○池山委員 非常に発言をしにくいなというのが実感でして,ここで問い合わせはされておりまして,議論はしましたけれども,少なくとも現時点において,外航で2年,3年も猶予するのが通常の実務で,それができなくなって困るという大きな声は,特段ありません。   他方で,変な言い方ですけれども,元々外航海運業者の立場としては,先取特権の範囲というのは,それは狭い方がいいので,債務者でない場合,債務者でないにもかかわらず先取特権の負担を生じる場合というのは,できるだけ限定してほしいという一貫した立場ではあります。ただ,いろいろな議論の中で,先ほど定期傭船の話も出ましたけれども,やむを得ない部分もあるのかななどということは議論しております。 ○山下部会長 では,この点は,なお御検討をお願いします。今の点はよろしいでしょうか。   では,別の件ということでお願いします。 ○山口委員 一番最後の国際海上物品運送法の一部改正のところなのですけれども,少し文言の構成を変えられているのですけれども,これはどういう理由でしたのでしたか。今の文言だと,どういう問題があるからこれにしたというのは,何か理由はございますか。 ○松井(信)幹事 計算の仕方で御説明が若干複雑でして,中間試案の補足説明にしっかり書いておりますので,そこを後で御覧いただけますでしょうか。 ○山下部会長 ほかにいかがでしょうか。 ○池山委員 先ほど通過してしまった海難救助についてです。   海難救助の第7の2の(1)のところです。これは,中身としては前回申し上げたところと同じでして,救助料の決定に関して裁判所が考慮すべき事情というのに対して,海難救助条約の文言と違って,海洋汚染防止の地理的な範囲等について限定が加わっていないというのは条約と齟齬があるのではないかということを申し上げて,前回,法務省からは,これは考慮事項なのだからこれでいいのではないかというような御指摘がありましたけれども,御指摘の趣旨というのは理解するのですけれども,やはり立法趣旨が1989年条約に基本的に合わせるということに元々なっていて,かつ,元々の中間試案以前の段階だと,規定の位置が特別補償と同じところにあって限定が加わる形になっていたと。規定ぶりを変更して,これを2の(1)の前に持ってきたことによって突然外れるというのは,やはり理論的には説明が付かないと。要は,もう立法のテクニックだけの問題ですので,その条約でいえば,環境損害というものについて最初の定義を付けてコースタル・ウォーターズという限定を付けているわけなので,できれば,何とか工夫を頂けないでしょうかということは,任意規定ですからしようがないかもしれませんが,やはり要望だけはまだ取り下げないで,改めてさせていただきたいと思っております。   それから,海難救助についての同じ点で,3の一番最後の(注)のところ,806条から808条までの規定の読替えの関係で,これこそ本当にアカデミックな問題ではありますけれども,任意救助の場合に船員への分配があって,その船員がその分配に不満があったときに,まずは管海官庁に異議を述べるという規定についてです。   前回の御説明だと,そこは残して,船員が異議があれば,その管海官庁の処分について行政訴訟を起こすのだという理解だとおっしゃっておりました。実例は余りというか,恐らく聞かれたことがある方はいないかとは思うのですけれども,果たしてここで管海官庁の関与をそのまま残すかということについて,変な話ですけれども,昔の商法がそうなっているからという以上の理由はなくて,そこは,規定ぶりを工夫して,それについて船員が不満があるのであれば,船舶所有者に対して適宜債権の存在確認あるいは給付訴訟などを起こして,裁判所へそのまま持って行くという訴訟にしていいのではないかなと,これも要望にすぎませんけれども,一応申し上げておきます。 ○松井(信)幹事 特に後者の点については,最終的に裁判所に行くのはともかくとして,その前段階として管海官庁の審査をするということには一定の意味があると思っております。単に歴史だけというわけではなくて,その管海官庁の審査を外すべき積極的な理由というのがやはり分からなかったので,この点は現行法を維持するということにしております。 ○山下部会長 ほかに,よろしいでしょうか。   それでは,先取特権の点はなお検討するということかと思います。   それでは,ほかになければ,本日の審議はこの程度にさせていただきます。   最後に,次回の議事日程等につきまして,事務当局から説明していただきます。 ○松井(信)幹事 次回は12月9日水曜日,午後1時半から5時半までで,場所は法務省地下1階大会議室を予定しております。   次回は,今回のたたき台の第2読というものを作って,事前送付させていただきます。   また,部会の後に,いつも議事録を御送付して内容を御確認いただいているところでございますが,特に早期のホームページへの公表を求める声が強くなっております。その関係で,皆様のお手元にお送りしてから2週間を期限とさせていただき,その間に御覧になっていただきまして,その期間経過後には掲載手続を進めたいと思っております。   もちろん,可能であれば2週間以前に送り返していただければ,国民から見て,どういう議論がされているかがホームページで早く分かるということになりますので,是非御協力のほど,よろしくお願い申し上げます。 ○山下部会長 それでは,本日の審議はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。 -了-