法制審議会国際裁判管轄法制 (人事訴訟事件及び家事事件関係)部会 第15回会議 議事録 第1 日 時  平成27年7月24日(金)  自 午後1時32分                        至 午後6時30分 第2 場 所  東京地検総務部会議室(1501号室) 第3 議 題  (1)外国裁判の承認・執行         (2)要綱案の取りまとめに向けた残された論点の概要 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○高田部会長 では,予定した時刻になりましたので,国際裁判管轄法制(人事訴訟事件及び家事事件関係)部会の第15回会議を開会いたします。本日も御多忙の中を御出席いただきまして,誠にありがとうございます。なお,岡田幹事,久保野幹事,平田幹事が本日御欠席です。   では,まず配布資料の確認をさせていただきます。事務局からお願いいたします。 ○内野幹事 資料目録と,事前に部会資料15-1,2を送付させていただきました。以上でございます。 ○高田部会長 よろしゅうございましょうか。   では,本日は前回に引き続き,要綱案の取りまとめに向けた議論を進めたいと存じます。まず資料15-1,「外国裁判の承認・執行」についてです。事務局から資料の説明をお願いいたします。 ○内野幹事 部会資料15-1の内容としては,外国裁判の承認と執行についてどうするかという二つの大きな論点があります。   まずは前者の承認についてです。本日,具体的に御議論を賜りたいのは,「外国裁判所の家事事件における確定した終局裁判」の承認要件をどうするかということです。   意見募集手続の結果については,外国裁判所の人事訴訟事件における確定判決に関して民事訴訟法118条の適用による規律を維持するという中間試案を公表したところ,特段の批判や反対する意見は具体的にはなかったと認識しています。   一方,外国裁判所の家事事件における確定した終局裁判につきましては,賛成という御意見のほか,幾つか反対という御意見もいただきました。   部会のこれまでの議論としましては,民事訴訟法118条の準用ないし類推適用という形で,家事事件における確定した終局裁判の承認の在り方について議論がされてきて,学説の状況も踏まえると,基本的にはこの中間試案が一つの方向ではないかという御意見があったところです。   ただ,この中で特に議論がございましたのは,民事訴訟法118条2号に相当する要件と第4号に相当する要件についてです。民訴法118条2号に相当する要件の実質をどのようにするのかというところは,これまで必ずしも部会の中でははっきりしていなかったかもしれませんが,そもそも,「外国裁判所の家事事件における確定した終局裁判」として具体的にどのようなものを想定しているのかという部分に関わる問題です。   したがいまして,部会資料上は,論点として,民事訴訟法第118条第2号に相当する要件として,どのような人についての手続保障を問題としていくのかという形になっていますが,その実質は,「外国裁判所の家事事件における確定した終局裁判」として何を想定しているのか,という問題です。そこが不明確であるとすると,こういった規定がおけるのかどうか,ということになってくるように思われます。   併せて,もう1つの論点としては,相互の保証の要件についてです。学説においては,4号に相当する要件を要求することについては若干の異論もないわけではないと認識しておりますが,規定として書いてしまえば,それは基本的には要求されるという結論になります。立法による対応ということで,一つの方向性を出すことがよいのかどうか,この点についても御議論賜りたく思っています。   承認に関する論点は以上です。 ○高田部会長 では,まず①の方の人事訴訟事件については,これでよろしゅうございましょうか。   では,②についてでございますが,外国裁判所の家事事件における確定した終局裁判の承認,その範囲と要件として,なお残されています課題として2号と4号があるという御指摘を頂いておりますが,御意見を賜ればと存じます。 ○西谷幹事 前提としてお伺いしたいのですが,人事訴訟事件について民事訴訟法第118条の適用を維持しますと,4号もそのまま適用されるかと思います。仮に,②の家事事件について4号の相互の保証要件を外すのであれば,人事訴訟事件についても平仄を合わせて4号を外すことを御検討いただければと思いますが,そのような可能性はないのでしょうか。 ○内野幹事 これまでの部会の御議論を反映しますと,議論としてありましたのは,人事訴訟事件について民事訴訟法第118条の規律を維持する方向ではないかということで,このこととの関係で,家事事件については4号に相当する要件を外すことがあるのか,という問題提起だったと思います。結論において外国裁判所の家事事件における確定した終局裁判について,部会としては4号に相当する要件は外すという方向になるのであれば,人事訴訟法について要求することはよいのか,民事訴訟法では要求されているけれどもそれでよいのか,このように遡る議論があり得ないわけではないと思いますが,むしろこれからの御議論といたしましては,家事事件における確定した終局裁判について,今のところ民訴では少なくとも要求されているわけですけれども,外してよいのかという点についてまずは御議論いただきたいということです。 ○山本(弘)委員 2ページの下の方の(注)に書かれていることの趣旨を確認させていただきたいのですけれども,「別表第1に掲げる事件のように,裁判所が行政的・後見的な見地から関わる事件もあると考えられる。後者の事件について,それらの行政的・後見的性格には濃淡があるものと考えられるところ,およそ裁判所がした裁判であれば全て承認の対象になるのか」という記述があるのですが,これは後見的・行政的な性質のものについては,その性質上,たとえ裁判であっても他国がしたそうしたものを別の国が承認するということ,それ自体になじまないという趣旨で書かれているのか,ということです。そうだとして,その趣旨は,例えば行政作用である以上,行政作用が及ぶ領域というのは,言わば属地的なものなので他国では承認できないのだという議論なのか,というのが質問の後半の部分です。執行力が属地的であると考えられているのと似ているのか似ていないのかというようなことも含めて,まず確認のために質問させていただきたい。具体論ですけれども,例えば成年後見開始などは,典型的な国家の行政的保護作用,後見的な立場からの行政的保護作用だと考えられていますけれども,もし外国が下した成年後見に類する決定について,それを我が国が承認できないということになると,例えば我が国で,その人が我が国に財産を持っているときには,その財産を保全する必要上,我が国に,財産所在地を管轄原因とする固有の成年後見の裁判権,裁判管轄を認めなければならなくなってしまうのではないかなという気がします。   これは前々回でしたか,日弁連から,正にそういう財産所在地管轄を設けるべきであるというような趣旨の御意見が出されていたことを思い出しまして,それとも関係があるのかなと思って質問させていただく次第です。 ○内野幹事 まず,「外国裁判所の家事事件」をどう捉えるのかという議論がありましたが,仮に,家事事件手続法が定める家事事件に相当する家事事件であると考えると,今御指摘のありました成年後見の開始の審判はどうなのかという点が問題となり得ます。成年後見開始の審判については,外国でされた場合の承認可能性については解釈論上議論があり得ることから,解釈に委ねざるを得ないという前提で,これまでの部会は進行してきましたが,この(注)で申し上げたかったことは,仮に「外国裁判所の家事事件における終局裁判」を承認の対象とする場合,一部の特定の性質を持つものは,そもそもその承認の対象としての「外国裁判所の家事事件における終局裁判」に当たらないとか,承認すべき効力が認められないといった解釈がされる余地があるのかどうか,ということを御検討いただきたい,ひいては,承認の対象をどのように定義するかということをお考えいただきたい,ということです。   仮に,成年後見の開始等が,およそ承認されるべきものでないということであるならば,たとえ承認を要求されたとしても,性質上,この「外国裁判所の家事事件における終局裁判」に該当しないとか,承認すべき効力が認められないといった解釈をするということになるのか,そもそもそういった議論があり得るのかということを御検討いただきたいということです。 ○山本(弘)委員 今のお答えを踏まえた上での質問ですけれども,仮に解釈として外国成年後見開始決定と後見人選任の裁判が我が国で承認できないとした場合に,先ほど言ったような問題が出てきたとして,それを踏まえて,今後の議論の進行の仕方としては,もう一遍,各事件類型の管轄を考え直す必要があるのか,それともそういう場合は緊急管轄で処理をするのか,そういう問題になってくるわけですね。 ○内野幹事 事務局としては,本日,ただいまご指摘いただきました点については必ずしも具体的に論じていただこうとは思っていませんでしたが,それが必要だということであれば,全体の状況を見ながら考えたいと思います。基本的には,今日御議論いただきたい点は,承認の対象の規律の仕方として,中間試案の姿でよいのかどうか,ということです。 ○大谷幹事 先ほど,西谷先生からの御質問に内野幹事がお答えになる形でやり取りされており,若干蒸し返しになりますけれども,本日の議論の仕方として,①について人事訴訟事件の方は一応その御意見が多かったということで,②で家事事件についてだけ,もう一度検討し直すという形の提示のされ方になっているかと思いますが,人事訴訟事件か,それ以外の家事事件かという切り分けは,日本ではありますけれども,諸外国でそのように分かれているとは限りません。家事事件が非訟というところから別に切り出して,もう一度検討してみようというお話だと思うのですが,やはり検討の仕方としては,私も①,②併せて,それでよいのかというふうに問題を立てないと,日本側の区分けで,日本では訴訟事件だからということだけで,こちらは民事訴訟並びでこれ以上検討の必要がないというのはいかがなものでしょうか。もう一度検討し直すとすればですけれども,①,②併せてなんだろうなと思いますという意見だけ申し上げさせていただきます。 ○高田部会長 ありがとうございます。   内野幹事も先ほどおっしゃられましたように,事務局は,恐らく,「外国裁判所の家事事件における確定した終局裁判」というもので想定していたのは,家事事件手続法の別表第1及び第2に掲げる事件及びそれに相応する事件,というくくりだろうと思いますが,そういうくくりでよいのかということだろうと思います。   取り分け今,大谷幹事の御指摘も頂きましたように,争訟性のある事件,別表第2に掲げる事件に対応する事件だろうと思いますが,それについては訴訟事件との区別というのはなかなか難しいはずですし,他方,争訟性のない事件と評価されている事件の外延をこういうくくりで画していいのか,具体的には外国の非訟裁判の承認という議論が従来ありまして,そこではそれなりの議論があったと思いますので,更にその議論は私の理解するところ,外国の国家行為の承認という議論につながり得るというところまで展開されておりますので,そうしたこれまでの議論を踏まえて,今回規定する際に「外国裁判所の家事事件における確定した終局裁判」というくくりでいいのか,が今回お聞きしたい論点だと私は理解しておりますので,そうした観点から御意見を賜ればと思います。そのことが恐らく,その点が民事訴訟法第118条第2号と第4号に関係してくるというのが事務局の認識だと理解しております。いかがでしょうか。 ○大谷幹事 事務局の方の問題意識を十分把握していないとしたら大変申し訳ないんですが,例えば,私は個人的にも,従前から,相互の保証は外していただくか,むしろ争う方が主張するというように緩めていただきたいという意見を申し上げてきて,今も同じ意見はあるのですが,中間試案を受けての検討に入っています今日のこの時点で,同じ意見を申し上げることはよいのか,それとも,従前からのいろいろな意見について議論がされ中間試案も出ている中で,更に今日,議論すべきポイントというのがあるのであれば,もしかすると余りよく分かっていないかもしれないので,もう一度確認させていただきたいと思います。 ○内野幹事 事務局としては,意見集約を図ることができればできるほどよいと思っております。考え方自体をおっしゃっていたければ結構で,これは言わないでくださいなどと申し上げる立場にはありません。ただ,これまでの議論を踏まえてあるべき法制を選択していかなければなりませんので,部会としてどのような方向性とするかという取りまとめのための議論をしていただければと思います。 ○高田部会長 大谷幹事の4号要件についての御意見は①,②通してということですよね。 ○大谷幹事 はい。付け加えさせていただきますと,例えば従前,なぜ特に4号要件を外してほしいと申し上げているかというと,ほぼどこの国についても相互に保証していると言われている中,例えば中国はそうではないということがよく例として挙げられるんですね。ところが,私は中国の関係の離婚事件とかもたくさん扱っているんですが,最近だんだん分からなくなってきまして,特に財産関係については承認されないというのが確認されている現在の事実だと思いますけれども,身分関係は分からないんです。日本で離婚が成立しますと,中国の方ではそれを反映していただいているようにも見受けられ,これを立証しようと思いますと,条文を引いてくる,若しくは条文でも分からないときには実務を立証しなくてはいけないんですが,その辺りの確認が非常に難しいんですね。台湾も昔は承認されないといっていましたけれども,その後,実は判例は出ているといったこともあり,承認を求める側がその立証の負担を負うというのは,実務家の立場からしますと非常にしんどい規定でして,そのような実務的な観点から従前,意見を申し上げているんですが,更にその思いを最近,中国との関係でも強くしていますので,再度,意見を申し上げることが許されるならば,やはり4号は外していただくことを希望しています。 ○高田部会長 4号について御発言いただいておりますので,4号についてほかに御意見があればということですが,大谷幹事は今の御発言は①,②通してということのようでございますが,いかがでしょうか。 ○西谷幹事 私も身分関係の安定という観点から4号の要件は外すべきだと思っております。このことは,②の家事事件だけではなく,同様に①の人事訴訟事件にも当てはまることですので,立法論としては,双方について4号は外すという方向が望ましいのではないかと考えます。 ○高田部会長 ②もいろいろな事件がありますが,全て外してよいということでしょうか。財産関係事件に近い事件もありそうな気もいたしますが,その点を含めていかがですか。 ○西谷幹事 はい。それも含むという趣旨です。 ○高田部会長 すると,そのようにする理屈が必要となってきそうな気がいたしますけれども,いかがでしょうか。 ○内野幹事 前提として,家事事件の定義は先ほど例えばということで申し上げましたが,想定しておられるのは,家事事件手続法に定める別表第1,第2を通してそれらに相当した事件ということですか。 ○西谷幹事 はい。この点は,2ページの(注)とも関係しますが,外国には様々な制度があり,どのような裁判が出てくるか必ずしも予見できないところはありますが,基本的には日本の家事事件手続法に相当する事件類型が対象になると思います。   例えば,扶養料の支払いの命令について考えますと,アメリカやオーストラリアなどでは行政機関の決定によっており,厳密に言うと日本法で考えるような裁判とは少し違う性質のものかもしれません。けれども,国際私法の発想からしますと,公的機関が下す一種の決定であって,それが司法的な機能を果たしているのであれば,担当する当局が行政機関であっても,我が国でいう裁判に含まれると解されます。基本的には,このような場合も含めて広義での裁判と捉え,承認対象に含める方向で考えざるを得ないと思います。   また,国際私法では,これまで一般に法律行為の承認と公的機関の判断の承認を区別して考えてきています。当事者が行う法律行為自体に創設的な効力が認められるのであれば,我が国の国際私法が指定する準拠法に照らして,要件を具備しているかどうかで承認の可否を判断します。それに対して,公的機関の判断であって,それが何らかの決定ないし創設的な効力をもつかぎり,広い意味での承認対象となる裁判に当たると考えられています。両者の対比から考えても,外国裁判は広い意味で広く捉えざるを得ないだろうと思います。 ○内野幹事 ただいまの点は,恐らく裁判性という部分だと思うんですが,前提としての家事事件の範囲については,先ほど申し上げたような家事事件手続の想定される範囲を想定されておられるということですか。 ○西谷幹事 基本的にはそうです。ただ,この部会でも議論がありましたように,家事事件手続法の別表に載っていないような事件類型も出てくる可能性はありますので,解釈問題は残らざるを得ないと思います。 ○内野幹事 一方で,民事訴訟法118条については,これまで,多くの解説等において,実質その名称が判決となっているかどうかにかかわらず,終局性がある,争訟性がある,双方審尋性が担保されている,そういった実質的なところでこの外国裁判所の判決に当たるというような解釈がされていると思っています。そのような前提からしますと,例えば,形式的には外国裁判所の家事事件における確定した終局裁判に当たるように見えても,これまでは民訴法118条でやっていたという部分もあるかもしれません。このことを念頭に置いた上で,例えば,先ほどおっしゃったような相互の保証の要件を外すべきだという結論になるわけですか。 ○西谷幹事 そうですね。そこは大谷幹事がおっしゃったこととも関係しますが,例えば,離婚についてみても,外国では国王の命令で離婚を命ずる法制や,行政機関の決定として離婚を命ずる法制もあります。このような離婚類型も含めて,実質的に見て司法的な機能を果たしている外国の機関が行った判断であれば,我が国では広く承認対象に含めて考えざるを得ないように思います。従来の解釈論においては,これらの離婚類型も民訴法118条に含めて考えていたと思いますが,今般の改正によって,法制上,人事訴訟事件と家事事件の承認を切り分けることになりますと,①,②のどちらに入るかを別途性質決定することになり,争訟性がないものとして,②に含める可能性も出てくると思います。その意味では,①と②の承認要件の平仄を合わせることに合理性があり,4号要件を②について外すのであれば,①についても外すのが望ましいということになろうかと思います。 ○山本(弘)委員 承認の対象は広く捉えるべきだというのは,私も西谷幹事がおっしゃるとおりだと思います。それはたとえ行政機関がやっているようなものであっても,司法的な作用と解されるようなものであれば,ここで定められている裁判に当たるということは解釈としてもやるべきだと思いますが,そのことと4号要件をどうするかということとは必ずしも結び付かないように思います。私も広く解することは賛成ですが,4号要件を除けと言われると,やはりためらいを感じざるを得ないですよね。というのは,承認されない可能性が残っているときに,我が国だけが相互の保証要件をぱっと外してしまえば,我々としては身を守るものは何もなくなってしまうわけですよね。だから最後の砦みたいなものとして,やはりこれは残しておかざるを得ないのではないかという気がします。その上で,今まで相互の保証がないと言われた国でも相互の保証があるということが事実として立証されたら,それは相互の保証があるということで解釈として処理できるわけですから,要件そのものを法律から外してしまえというのは非常に危うさを感じざるを得ないというところがあります。 ○高田部会長 いかがでしょうか。 ○池田委員 先ほど,大谷幹事が言われたことについて私も全面的に賛成しておりますし,これは日弁連の意見でもございます。相互の保証の関係はむしろ財産に関してもなくすべきというのが元々の考えですが,それはおいおいそのようにしていただきたい,別の場でやっていただきたいと思っています。理論的には山本弘委員のおっしゃるようなことはもちろんあって,それだからこそ元々相互保証があったのでしょうけれども,一つは今おっしゃっている守るべきものが何もなくなるという,その辺りのことをどう考えるかということです。多くの場合に,日本の裁判が承認されるかどうかということが現実に問題になることがないかもしれないのに,常にその点について問題にしなくてはならないということが実務的には非常に負担であると。前に大谷幹事もおっしゃっておられましたけれども,そこの地の弁護士ですら全然分からないというようなことがたくさんあるわけでして,そもそも相互の保証を要件として課していくのが全体の仕組みの中で非常な負担になっていると思いますので,理論的に若干の御懸念はあるのかもしれませんけれども,そこは割り切る方向でいっていただきたいと思っております。 ○山本(和)委員 まず,外国裁判所の家事事件における裁判という切り口の点ですけれども,先ほど,内野幹事が言われたように,従来の解釈としては,家事事件手続法の別表第2に当たるような事件であっても,当事者の双方審尋とか手続保証を前提にして,民訴法118条に相当すると,最高裁の判例でもそう読めるようなものがあるのではないかと理解しております。それが今回のこの立法によってどうなるのかというのは必ずしも分からないところなんですが,私はこういう規定を置けば,そういうもので家事事件における裁判と言えるようなものはこっち側に乗ってくる,言わば移ってくるのではないか,つまり,118条の解釈が変わってくる可能性があるのではないかと思っています。   立法上は,「外国裁判所の家事事件における裁判(確定判決を除く)」とか,そのようなことをする可能性もあるのかもしれませんが,私は,それはそこまでする必要はないのかなと思います。4号要件の話はまた別ですけれども,現在の提案であれば,民事訴訟法118条と実質がそれほど大きく変わるものではないと思いますので,そうなってもそれほどおかしくはないと思っています。   別表第1の方は,結局,個別に考えざるを得ないのかなということでありまして,日本法上,別表第1に当たるようなものでも,例えば児童福祉法や生活保護法の規定に基づくものが承認の対象になると考える人は余りいないような気はします。そういう行政作用の一翼を担っているようなものをたまたま裁判所がやっているみたいなことがあったときに,それが承認の対象となると考える必要はないと思います。他方で,しかし山本弘委員の言われたように,国家の後見的作用であっても,私人の権利義務を直接規制するようなもので法律関係の安定が要請されるような類いのもの,失踪宣告とか,あるいは議論があるかもしれませんが,後見の監督とか,そういうようなものは,外国裁判所の家事事件における確定した終局裁判に含まれる余地というのはあるように思います。外国でどういうものがあるかということは必ずしも分からないというのは御指摘のとおりだから,結局そこは,日本の国際民事訴訟法上の概念としての確定した終局裁判ということで解釈していかざるを得ない部分が残るということかなと思っています。   最後に4号要件については,私は山本弘委員と基本的には同じで,民訴においても果たして必要なのかという池田委員の御疑問は誠にごもっともなところがあるような気はするのですが,現状では民訴にあるということを前提にして,民訴と人訴及び家事事件の境に明確な線を引くことは,なかなか難しいところがあります。現在の日本の実定法の制度で私が承知している限りでは,外国倒産手続の承認については相互の保証というものを求めなかったわけですが,これは私の理解では,UNCITRALのモデル法という枠組みがあって,ある程度,国際的に共通した基盤の上で日本もその制度を作ったというところが大きかったのかなと思っていまして,必ずしもそういう国際的な基盤がない人訴や家事事件で今直ちにこの段階で相互の保証をなくしてしまうということについては,私も躊躇を持っています。 ○高田部会長 ありがとうございます。   今,山本和彦委員から御指摘いただきましたように,恐らく争訟性のある事件については,従前も118条の解釈として同条の適用範囲に入るのではないかという議論をしてきたように思いますし,今回,規定を作るときに118条との関係をどう捉えるかという問題は残りますけれども,なお射程に入ってくるということではないかと思います。   さらに,これまた御指摘のとおり,別表第1に掲げる事件と申しますか,争訟性のない事件につきましても,今まで御指摘いただきましたように,実体的な形成行為的な性質を持つ外国の国家機関の行為については承認というアプローチがあり得るという議論を従来してきたように思いますし,そのとき118条との関係についてどう考えるかについても従前,議論があったわけで,今回それを決め打ちできるかどうかという問題に関わってきているのかもしれません。その点も含めて,この要件でどうかということが問題として残っているということかと存じますが,その辺り,なお御意見を賜ればと存じますが,いかがでしょうか。 ○大谷幹事 4号要件についてもう一度戻って恐縮ですが,その最後の守るべき砦みたいな考え方について疑問がございます。一つはその背景として,そのような外国の裁判所の判決を受け入れていいのかというところがもしその実質的な理由だとすれば,それは公序のところで拾えている話だと思います。そうではなくて,飽くまで相互性,日本の同様の判決が外国においては承認されないにもかかわらず,こちらが片面的に承認することが問題だというのであれば,正に4号はそういう意味だと思いますけれども,それを個別事件で考えますと,ある外国裁判所の判決があって,その事件の当事者がそれを日本で承認・執行したいという個別事件において,その事件において,同じ当事者の間で日本の判決が外国で承認されるかが問題になるというケースは余りないです。そうしますと,ここで日本が承認してしまうことによって,将来,別の当事者の間で日本の同じような判決が承認されないという不公平というのは,飽くまで何か国家レベルの感覚のような気がいたしまして,それを個人のレベルで今問題にしている事件の中で,そういうことがあるから,この事件においてはそこを当事者が証明しない限り承認しないということを飽くまでそれほど頑張らなくてはいけないのかというのが私自身は余り納得ができていません。   体系的な整合性ということを言われると非常に弱いんですけれども,ただ,やはり法というのは発展していきますので,民訴ではあるけれども,今は家族関係,身分関係の議論をしていますので,そこにふさわしい法制というものを考えて,その結果,ほかのところと整合性が崩れていく,それによって法が発展していくということはあり得る,あってよい法の発展形態だと思っております。 ○山本(克)委員 今,大谷幹事がおっしゃった点は,相互性一般に常に言われている問題で,国家間の国際法的な関係を私人間の問題に移し替えるような相互性というのはおかしいのだと,これは古くから言われていることです。それを言うのであれば,やはり民訴法118条から変えていくべきであって,中途半端に一部だけ変えるというのは,やはり日本法の体系的整合性が崩れるし,問題は結局,この原案でいけば適用条文は違えども結果は同じになるわけですね。どの裁判についても承認対象であると考えれば結果は同じになるわけですが,仮に②でだけ4号を外す,あるいは人訴も含めて4号を外すというような立法をとったときには,それは民訴法118条固有の問題なのか,それともほかの新設される規定の問題なのかという解釈問題が激化して,非常に困った問題が生じ得るのではないのかと思います。   例えば,遺言信託に関して海外で何か裁判がされたとして,それは信託だから一般民事なのか,それとも遺言だから家事なのかというようなことを,真剣に考えなければいけなくなるわけですよね。私はおっしゃられている趣旨はよく分かっていて,私もむしろ4号は外した方がよいと思うのですが,外すのだったら全てにおいて外すべきであって,中途半端に外すと,今言ったような難しい限界付けの問題がたくさん出てきて,むしろ実務が混乱するという場面もあり得るのではないかということを危惧します。私は,やるのであれば,将来においてあらゆる承認法制について一定の日本のまとまりが付いた段階で,外国裁判の承認に関する法律というようなものを別途制定して,そこで一本化するなり何なりということを考えるべきなのではないのかと思います。ただ,それは今回の諮問の対象外だろうと思いますし,現時点では時期もまだやはりそこまで議論が成熟しているとは思いませんので,差し当たり,私は原案のとおりで4号についてはよろしいのではないかと思います。 ○大谷幹事 また実務の観点からの意見で申し訳ないのですが,私は実は実務で家事事件しかやっていません。そうしますと,理論的に整合性が崩れることに対して,まだ,大きな企業や個人が依頼者の財産関係事件ですと,相互の保証があることを調べて証明しなくてはいけないというコストのところがまだ許容範囲に感じることがあります。ところが,身分関係事件は,そのことによって身分を確定するものや,今私が扱っている中でも当然あります扶養料回収のように,非常に金銭的にも細かい事件もあります。経済的な問題は全く含まない身分だけの問題もありますけれども,相互の保証について本人が外国法制あるいは実務を一々立証しなくてはいけない負担,コストというのはやはり,多くの当事者が必要とする場面が多いこの類型の事件においては深刻なものがあります。そこは理論とはちょっと違いますけれども,現実に生じる当事者へのコスト感は,この類型においてはやはり解消していただきたいというのが強い思いです。 ○高田部会長 ありがとうございます。 ○西谷幹事 私も同意見でして,財産関係の民事訴訟法の118条の適用の場面と,ここで議論しているような人事訴訟事件と家事事件というのは一応区別できるのではないかと思っております。特に身分関係の安定性は重要な問題で,国家間の相互の保証がないというだけの理由で外国の判決ないし裁判の承認が妨げられますと,当事者にとって大きな不利益になります。この部会の検討対象となっている事項についてだけでも,相互の保証を外すという立法政策はあり得るように思います。   また,後で執行について御議論いただきますように,人事訴訟事件における確定判決と家事事件における確定した終局裁判についてだけ,債務名義とするための手続の職分管轄を家庭裁判所に移すことも御検討いただいているわけでして,承認要件についても性質上,これらの事件類型についてだけ相互の保証を外すことはあり得るように思います。ドイツの承認法制においても,家事,人事関係については,原則として相互の保証を要件としておらず,財産関係とは異なった扱いをしています。このような比較法的な知見も,参考になるかと思います。 ○山本(弘)委員 厳密に言うと,民訴法118条で言えば4号の要件が満たされているかというのは,これは法の解釈問題ですから職権調査事項ですよね。だから,こういう条文がもし残っていて,当事者が分からないのであれば,国が調べてくださいと言えばよいのではないかという気がしますが。 ○大谷幹事 その点だけは明らかにしておきたいんですが,現実には職権調査事項というよりは,当事者と原告側に主張立証責任が負わされています。 ○山本(弘)委員 それは理論的に間違っていると思います。 ○高田部会長 恐らく当事者サイドから見ると,そうした視点もあり得ると思いますが,財産関係事件であっても当事者に負担が掛かる事件はあるような気もいたしますし,結局,具体的に家事事件と財産事件はどう区分けできるかという,先ほど山本克己委員がおっしゃられた問題が最終的な問題になりそうな気がいたしますが,理論的には何をもって区別できるということになるのでしょうか。立法としてはそこの問題かと存じますが。 ○大谷幹事 人訴と家事事件の中の財産的要素が含まれる事件の中にもまた類型があるので,議論が複雑になるのですが,扶養料などは,財産的な要素はありますけれども,やはり本人の保護という側面が非常に強くて,そこは一般民事訴訟事件の財産関係事件とは性質を異にすると思っています。 ○高田部会長 相互の保証という観点から,性質を異にするということが理屈として必要ということになるんだろうと思うのですが。 ○山本(和)委員 遺産分割とか,そういうものも同じだということですか。 ○大谷幹事 家事事件の中にもまた類型があって,遺産分割については意見を留保したんですけれども,少なくとも扶養料回収事件については,財産関係事件的要素はありますけれども,民事訴訟の財産事件と区別するより,その権利者の利益保護を考えるという点で違う扱いをすることについては,私は合理的説明が付くと思っています。 ○山本(克)委員 話が細かくなっていって恐縮ですが,仮に扶養料は要保護性が高いという考え方をとったとしても,例えば人身侵害に基づいて稼働能力が喪失したことによるその逸失利益賠償というのは,正に被害者の生活保障の意味合いを持っていると言われていますので,そういうものについては民訴法118条で相互性があるというところを完全にはクリアし切れないですね。何が要保護性が高いのかという議論をするのであれば,家事事件というくくりではなくて,本当に細かくこの手の家事事件を更にピックアップして整理していって,なおそれでも118条に該当するものと優先度が高いものは何かという議論を積み重ねていかなければいけないわけですが,外国の裁判について,そんなことをするのは不可能だから118条のようなぼわっとした規定でずっときたわけですよね。仮に相互の保証を外すのであれば,扶養についての何らかの特別規定を作るなり何なりという形でやらなければならず,そのときもいろいろな考慮要素があると思います。それでも相互性はなお必要だという意見もあり得るのではないでしょうか。   例えば先ほどの中国の話ですと,中国に在住する子の扶養料請求権は日本で実現できるけれども,日本に居住している子の扶養料請求権は中国では実現できないというようなことを不正義だと考える人も世の中にはたくさんいるわけですよね。だから,その辺りも含めてもう少し考えなければいけない問題で,私は,今回この問題を議論するのは不適切というか時期尚早であって,もっと時間を掛けて個別の問題についてやるのであればやる,あるいは先ほど申しましたように相互性を外すという一般法的な決断をするのか,いろいろな選択肢はあると思いますが,取りあえず今回やれることというのはこの程度でしかないのではないかという気がします。 ○内野幹事 今までの御議論を伺っておりますと,やはり事件としての区分けはかなりセンシティブな問題で,相互の保証を一義的に外すという立法的な措置をするとなると,その点についてまでこの部会で議論がまとまることはなかなか難しいという印象です。やはり今の段階では,相互の保証を明文で外すことは難しいのではないかと,今,伺っていて思いました。   ただ,立法技術でうまい線引きができるかどうか分かりませんけれども,中間試案が各号列挙で書いたからそのような印象を受けるのではないか,実質的に民訴法118条と同じなのだから同条を準用すると書いておいて,あとは解釈に委ねるという議論もあるのかもしれないとも思いました。そういった選択肢も含めて,直ちに相互の保証の要件を外すというところまで,この部会でコンセンサスが得られるのか,実際それで実務がもつのかという点については,疑問が残るというのが印象です。 ○池田委員 本当に実務がもたない例がどんなふうにあるのか疑問に思っています。この部分は,今,単に申立人等に不当な負担を強いているだけになっている感じがします。結局,論点が一つ増えて,裁判所がやってくれるわけではなくなぜか当事者がやらなければならないという,そこがおかしいので,それは全く違う,きちんと理論どおりになるということであれば,まだましかもしれません。それでもやはり裁判所にとっての御負担になり得るわけで,そこにリソースを割くということ自体いかがか,ということをお考えいただけたらと思うんですね。はっきり言うと余計な負担になっている。この点について,次回の議論の場で煮詰まるまでずっと待っている間に,たくさんそのリソースが消費されるので,本当にそこは何とかしていただきたいと思っているところです。   今回の部会は一つの機会だと思いますところ,この点についてそのままにしてしまうと,当事者も,何かやらなければいけない代理人も,本当にそのコストの負担に困ってしまうわけで,非常に,国民,外国人も含めてですけれども,困った事態となっています。ですので,相互の保証の要件が存続しないと困る例というのを本当に挙げていただきたいぐらいです。 ○高田部会長 4号要件が存在することの問題点は十分御指摘いただいたところですけれども,基本的に従来の議論,従来の議論が何かということも議論がありますけれども,そこを変えて,今回4号要件を外すという決断をするだけの共通理解ができているかという点だろうと思いますが,2号要件の方はいかがでしょうか。これは,何がこの対象に入ってくるかということと密接に関連しているところでありまして,いわゆる争訟性のない事件についてどうカバーしていくかという問題に絡んできておりますが,これは何か御意見があれば賜りたいと思います。 ○山本(和)委員 部会資料の3ページの一番上に書かれていることの御趣旨というのは,中間試案のような書き方ではなくて,要件としては手続開始の通知を受けたことというふうにする方がよいのではないかということですか。 ○内野幹事 問題意識としては,手続的な公序のうちの一部を独立に要件化しようとしたときに,これまでの御議論を前提としたいわゆる家事事件を想定すると,どのような人に対してどのような手続がされれば,その部分の手続的な公序が満たされているというべきなのか,このような規律を設けることが難しいのか,それとも,手続的に想定される一定の立場の者についてこのような手続がされていれば,手続的公序のうちの一部が満たされていると言えることになるのか,この辺りについて御検討いただきたいと考えていました。厳密に当事者のみとすると,当事者についてこのようなことをすれば,手続的公序のうちの一部が満たされたことになりそうですが,現在の家事事件手続法においては,当事者のほかに,審判の効力の影響を受ける立場の者についても,様々な手続関与の機会が確保されているわけで,このことも踏まえつつ,どのような者にどのような手続があれば手続的公序の一部が満たされているとする承認要件を掲げることが適切か,それとも,要件としては掲げられないのか,という点を御検討していただきたい,ということを書きました。 ○山本(和)委員 内野幹事と私の認識が同じかどうか分かりませんが,私は,3号にも手続公序は含まれており2号は,手続が始まるところの部分を一部,ある意味で抜き出して,最低限その当事者とされるべき者については手続が始まったということを知らされることが必要であるとしたもので,恐らく,民訴法118条2号の趣旨と同じであるイメージを持っていました。審判を受けるべき者に対する手続保障の問題は別途ありますけれども,日本法では,審判を受けるべき者に全て手続開始を伝えるということにはなっておらず,必要がある場合に意見を聞くなどの規律があるわけです。それは,私の理解では,もしそれが日本法として許すべからざるものなのであるなら3号で弾くわけだけれども,2号は当面,日本でもしている当事者に対する最初の通知のことを書いている趣旨であると理解して,それならばこれでよいと思っていたところです。 ○内野幹事 前提として参考とすべき民事訴訟法の解釈の確認も含めて,その点を御議論いただきたかったところです。事務局としても,民事訴訟法第118条第3号の手続的公序のうちの一部,分かりやすく判断できる部分を書き出したものが2号であるという解釈があるものと認識しています。そのような解釈自体がどうか,それをそのまま反映した形で規律としてどう書くべきか,書くことができるのか。そのような位置付けでよければ,部会資料に例えばとして書いているものも一つの選択肢かもしれませんので,位置付けも含めて御議論いただきたいということです。   形式的なところを申し上げると,例えば申立書は,日本の家事事件手続に想定されている事件の全体を眺めると,常にあるのかどうかが分からないものですから,例えばとして書いている案を出しているわけで,その点を含めて,御検討いただきたいということです。 ○高田部会長 今の点,よろしゅうございますか。 ○西谷幹事 2号をこの手続的公序の一種と見るか,あるいは別の要件と見るかは,学説も分かれているところです。私は,2号は,仮に本人が通知を受けなかったとしても,後からその利益を放棄したいと思ったときには放棄できると定めるものですので,むしろ手続的公序とは違うものと見た方がよいのではないかと考えています。つまり,外国で裁判をするときに,通知を受けておらず,そのまま裁判がされたという場合であっても,例えば本人が日本の戸籍窓口等に自ら届出をして承認を求めてきたときには,この2号の瑕疵が治癒されると実務では解釈されています。このことを考えますと,性質上,手続的公序とは区別されるように思います。   ただ,要件の書き方としては,申立書と書くか,それとも3ページのように書くかという点に余り実質的な違いがないようにも思われまして,特に定見はございません。 ○高田部会長 2号要件についてほかに何か御指摘いただくことはございますか。 ○山本(克)委員 細かい話ですが,②の2号について,送付と送達を分けるのは国内法についてはそうだと思うんですが,なぜこのコンテクストで分けなければいけないというのがもう一つよく分からないです。前に,ハーグの送達条約との関係で,送付は条約の適用対象外であるかのような議論があって,一方でそれを否定する見解もあったと認識していますので,ここでは送達と書いて広い意味の送付のようなものを含むと解釈すればよいのです。送付と送達では,書類が要件になっていますが,書類を送るという行為と通知とはまた別ですから,通知と送付・送達を分けるのであればそれなりに理解ができますので,それはよいのかなと思います。それと「又は」以下ですが,これは「ら」ですから,送付,送達と通知を全部含むこれら,という意味ですね。それなら結構です。 ○内野幹事 ちなみに本日は別表第1のような事件も入るという議論をしていますが,そのような部分については,仮に2号のような規定を書いたときにはどういう考え方になるかという点について,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 例としては,別表第1のような事件にも申立人以外の当事者がいるという前提ですか。 ○内野幹事 基本的には適用があり得ることを前提として,これでよいかどうかということです。申立人以外の当事者がいない事件等については,この要件が空振りになるという理解になるのかどうかという点についていかがでしょうか。 ○山本(克)委員 よく分からないのですが,この申立人以外の当事者というのは当該外国手続法制上,当事者とされている者なのか,日本の家事事件手続法上の審判手続において当事者とされるべき者なのか,どちらなのでしょうか。それによって今の質問に対する答え方が変わると思います。そこについてまずコンセンサスを持っておかないと議論ができないのではないでしょうか。 ○内野幹事 この辺りは,いかがでしょうか。 ○道垣内委員 私は,日本法上その当該外国手続に相当する,あるいは類似する手続において手続保障をすべきもの全てを意味しており,外国法のものではないと思いますが,これではちょっと分からないですのでうまい書き方があればもっとよいと思いますけれども。   それから,ついでに,118条ですと訴訟開始時という時点が書いてあるのと,呼出しというそれに伴うのがスムーズに出てくるのですが,部会資料の案にはこれらが書かれていないので,開始してから大分後の手続もここでカバーするということなのでしょうか。日本の手続であればもっと早い段階で送達しておかなければいけないのに,随分後になって結果だけ通知された,送達されたような場合まで含まれる,それはおかしいと思うので,日本から見てきちんと知らせるべき人には知らせ,呼び出すべき人は呼び出す,ということが読めるような条文にしていただければと思います。 ○内野幹事 今のところは2号と3号がどういう関係なのかというところとも関わると思います。3号に手続的公序が含まれていて,2号は,そのうちの,はっきりしている部分を書き出したものという位置付けであると見るのであれば,その部分を取り出して,典型的に手続的な保障をすべき者に対する一定の行為を書き出すということは立法技術的には可能かもしれないと思います。取り出す実質的な内容が定まることが必要と思っており,今の御意見は,その考え方の一つの視点であると理解をしております。 ○道垣内委員 西谷幹事が先ほど,この要件は放棄できる程度のものだ,だから公序というものよりは少しレベルが低いのではないかということをおっしゃいました。私もそう思いますが,最高裁は,118条に関する判決の中で,条約違反をしているのは直ちに駄目だと言いながら,しかし応訴したからよいと言っており,公の秩序を守っているのか当事者を守っているのかよく分からない判断をしていまして,それをベースにするとすごく説明し難いのですけれども,そこは割り切るのですか。要するに,条約違反があった場合については,本来は当事者が放棄できるはずはないですね。しかし,最高裁はそれを認めているわけですよね。そもそも3号の要件との切り分けは非常に分かり難くなっているのではないかと私は思っているのですが,それは余り関係ないかなと思いました。2号と3号の切り分けは,そう簡単ではないということです。 ○高田部会長 簡単ではないというか,関係性についての解釈はいろいろあり得るというのはそのとおりだと思います。   道垣内委員の先ほどの御意見は,例えば3ページの案に「適時に」とかという言葉が必要だということでしょうか。 ○道垣内委員 そうです。適時,という手続の途中のものも全部含む趣旨なのか,最初だけにするのかによっては,118条との乖離が生じます。 ○高田部会長 118条は最初の段階と適時にということが想定されているという御意見を承ったと理解しておりますが,その辺の文言の工夫の余地はなおあり得るということだろうと思いますけれども,ほかに御指摘いただく点はありますでしょうか。   では,以上を踏まえてどう考えるかですが。 ○早川委員 2号をどう書くかは非常に難しいと思うのですね,いろいろなことがあって。一つのアイデアとしては,先ほどどなたかおっしゃったかと思うのですけれども,118条を準用することとして,あとは解釈に委ねるというのも一つの手かなと思います。 ○高田部会長 118条準用という選択肢もあり得るのではないかという御指摘と理解させていただきましたけれども,準用の意義というのは,118条どおりということですか,それとも,冒頭の方で申しましたけれども,118条については非訟との関係ではなお解釈の余地があるという議論が従前あったわけですが,その辺りについては早川委員としてはどういう御感触をお持ちか,もし御意見があれば。 ○早川委員 その点については,いろいろな裁判の種類がありますからよく考える必要がありますね。財産の非訟事件はどうするかという話もありますし‥‥‥。 ○高田部会長 そうですね。 ○早川委員 2号はしかるべき人に参加する機会を与えるという趣旨なので,多分,その具体的なあり方は事件のいろいろなタイプによっても違ってくるだろうと思います。開始のときだけでよいのかということも問題になるような気もしますし‥‥‥。そこで,準用としておいてあとは解釈に委ねるというのではどうだろうかと思う次第です。 ○大谷幹事 2号の読み方の点で質問なのですけれども,今の2号の書き方を普通に読みますと「申立書の送付若しくは送達を受けたこと,申立てがあったことの通知を受けたこと又は」になっているんですが,そうすると,これをこのまま読みますと,事件類型がどうかということをちょっと抜きにして抽象的に質問しますが,申立書を受けておらず申立てがあったことの通知を受けただけでも2号を満たすと読んでよろしいのですよね。そういう場合はあるのかもしれず,ただ,それでいわゆる2号要件として十分かと言われると,足りない場合も出てくるかもしれなくて,私もここで何かきちんと書こうとすると難しい場合が出てくるように感じています。それで,もちろん私は4号についての意見は維持しているんですが,ただ,これをまた家事事件用に書き直そうとするのは非常に難しくて,むしろ今のまま,118条なら118条のままで,あとは事件の類型によって,結局,2号が必要とするような手続開始のために必要な呼び出しを受けたこと,その機会を与えられたこと,というのを満たしているかということを見ていくしかないのかなという気がします。 ○高田部会長 ありがとうございます。ほかに御意見を賜ればと思いますが。   118条準用という御意見を賜りましたが,実質は従前の議論,解釈論の引き継ぎ,今後の解釈論を促し,今後の解釈論の展開を妨げないような規律として一つの選択肢ではないかという御趣旨かと理解しましたが,その辺りも含めて何か御意見を賜ればと存じます。 ○山本(克)委員 私も準用に傾いているんですが,②の柱書きの括弧書き,この部分をどうするかという問題は準用のときに残された問題として存在しているのではないでしょうか。これを入れた上で準用すると,118条2号を除く,同条2号を除くというふうな形にただし書を付けるか何かするという必要があるのかもしれないです。 ○高田部会長 その点はいかがでしょうか。先ほどの事務局のお話では,結果として空振りという選択肢もあり得るという御示唆もあったように感じておりますが,やはりただし書を入れることによって準用関係をはっきりさせた方がよいという御意見があれば,なお承っておきたいと思いますが。 ○山本(克)委員 ただし書を置いておいた方がよいのではないでしょうか。つまり対審性のある事件に限られるというように読まれる可能性もなきにしもあらずなので,仮に別表第1の事件も含めると考えるのであれば,そこを明確にしておいた方がよいのではないかなと思います。 ○道垣内委員 先ほどの御意見にあった,日本では相手方なり関係者として必ず引き込むべき人がいるけれども,当該国ではそのような人がいない,いなくてよいという制度になっているという場合に,具体的にどれか分からないのですが,それは,この当事者がいる事件,いない事件のどちらになるのですか。私は,やはりそれも,当事者がいる事件として,その送達をきちんとやっていなければ駄目だというべきだと思うのですけれども,そこがうまく読めますでしょうか。日本であれば,いるべき事件は,いなくてよい事件というふうに書かないと分かり難くなるのではないかと思うのですが。 ○山本(克)委員 そうですけれども,それが法制的に可能なのかどうか,私には判断する能力がありません。私の言った趣旨は今,道垣内委員がおっしゃったとおりです。 ○池田委員 ただ,日本であれば,相手が複数いて,すごく重要で欠くべからざる人と,割とどうでもよい人といったいろいろなレベルがある場合に,外国では欠くべからざる人は満たしているけれども,割とどうでもいい人は満たしていないというような場合に,全て否定してしまうというのもおかしな話だなと思います。結局全部,日本の仕組みになっていないと駄目みたいにいうのは,やはりおかしい気がします。 ○道垣内委員 おっしゃるとおりだと思います。部分承認というのは主観的にもあってよいと思うので,XとY1との関係ではいいけれども,Y2以下との関係では駄目だという手続はあり得るのではないでしょうか。 ○畑委員 よく分かりませんが,日本の現在の家事事件手続法でどうでもよい当事者というのは余りいないのではないかなという気がいたします。ちなみに,今議論されている問題は,ただし書を書くにせよ,書かないにせよ,その先の解釈問題として常に残ることになり,それはそれでしようがないのかなという感じがしております。 ○和波幹事 解釈問題が残るというのはおっしゃるとおりだと私も思っています。ただ,その前提として確認をさせていただきたいのですが,今の道垣内委員のお考えだと,逆のパターンの場合,すなわち外国法の手続では当事者になっているけれども,日本法では当事者になっていない者に対しては,申立書の送付等は不要ということになるのでしょうか。 ○道垣内委員 当該国ではどうやって裁判しているかですが,当該外国法上,違法な裁判だったということですか。 ○和波幹事 はい。それは2号の要件とは違う要件になると思われます。 ○道垣内委員 判決効が生じているのかどうかは,元々の出発点は判決国で見るのではないでしょうか。 ○和波幹事 仮に外国法上,有効であったとしても,日本法上,当事者である者に申立書の送付等がされていないと,2号の要件を満たさないという理解でよろしいのでしょうか。 ○道垣内委員 でしょうか。ちょっと分かりませんけれども。 ○高田部会長 議論があるところですが,そういう理解もあり得るし,外国で再審で取り消すべきだという議論もあり得るところであると思いますが。 ○山本(克)委員 今の点は,裁判の効力を受けるべき者の場合に一番あり得る話ですけれども,私は,その人に何らの手続の係属が告知されないまま,却下ではないのでポジティブな決定,認める旨の決定がされているようなものの承認は,3号で駄目になるということでよろしいのではないのかなという気がします。   私は西谷幹事や道垣内委員と違いまして,2号は手続的公序で,3号にもその種のものがあると考えています。放棄可能であるということは手続公序の概念と何ら矛盾するものではなく,公の秩序といっても,その中には個人を保護するための公の秩序があると考えれば済むことだろうと思います。民法の90条についてもそのような議論が有力にされていると私は認識しておりますので,個人が手出しをできないようなものだけを公序と考えるのは,少なくとも手続的公序については違和感を感じます。 ○和波幹事 先ほどの質問に対してお答えいただいたことを前提にコメントとして申し上げると,今のようなかなり難しい解釈論が残るとすれば,柱書きの括弧内のただし書で「除く」としてしまうのはかなり大きな問題になると思います。準用するような場合は別ですが,柱書きの括弧内のただし書を削除して,2号について解釈に委ねるというのは一つの方法ではないかと思っております。 ○内野幹事 論点について明確にお示ししていただいた気がしており,それぞれの解釈論を包含するアイデアなのかもしれませんが,準用すると規定してはどうかというアイデアも頂いていますので,今日の御議論を踏まえて,また考えてみたいと思います。 ○高田部会長 よろしゅうございますか。   では,先に進ませていただきます。   続きまして,外国裁判の執行について資料の説明をお願いいたします。 ○内野幹事 論点としては,判決手続とするのか決定手続とするのかという点,それと,国際裁判管轄そのものというよりも国内の裁判管轄の在り方に関する議論ですが,一部の事件について家庭裁判所にその管轄を移すのかという点が残っています。   意見募集手続の結果などを見ますと,判決手続でよいとする意見が多かったものの,それに反対する意見もありました。また,管轄を家庭裁判所に移すことについては,賛成する意見と反対する意見がそれぞれ寄せられました。   部会の御議論においては,給付命令を内容とする裁判についてその執行力を付与する目的の制度として,民事事件と家事事件,人事訴訟事件の各部分について手続自体が異なるところがあるのかという御指摘もあり,制度としては,やはり訴え,判決によるべきものとする方が,制度的な統一性がとれるのではないかという印象を受けています。   また,管轄を動かす点については,先ほど御紹介した意見募集の結果を踏まえて,改めて御議論をお願いしたいと思っています。 ○高田部会長 両者関係しているかもしれませんが,順次お伺いできればと思います。まず,債務名義を得るための手続について,執行判決か執行決定かという点について御意見を賜ればと存じます。   従前の議論は,今,事務局から御説明いただきましたように執行というレベルで考えた場合においては,家事事件を特に取り出して差別化するのは難しいのではないかという意見があったと理解しておりますが,その点いかがでしょうか。 ○山本(弘)委員 形式的なことですが,人事訴訟について外国の人事訴訟に相当する判決を我が国で執行するときの要件の判断手続を決定手続にし,しかし,民事訴訟においては,依然としてその執行判決訴訟というのが維持されているということをどう説明するかと言われると,先ほど来,問題になっていることと同じですけれども,何か説明に工夫が必要になってくるのではないかなという気がします。 ○内野幹事 これまでの部会では今おっしゃったとおりの御指摘があって,事務局としては,理論的に区別ができるのかという点に疑問を持っており,手続としては,訴えで統一せざるを得ないという印象は持っています。 ○池田委員 元々,この執行判決の手続自体がすごく重くなっておりますので,現状のすごく不条理なともいうべき執行判決の手続を前提にした場合に,実務的には,1回は外国で行っているのを日本でやるということで,できる限り手続を軽くしてほしいという要請があることを,相当程度御考慮いただきたいと思っています。   今の御提案では,ほかの民事事件と違って家庭裁判所でやりますという話になっているわけですが,そうだとすると,家庭裁判所でやるものについては決定手続,ということで,一応,見た目ははっきり区別できます。入り口のところで,家裁の管轄なのか地裁の管轄なのか分からないのではないかという御心配はあるかもしれませんけれども,そのような争いは何件起きるかどうかという程度のことであれば,全部決定手続でやるということにした方が,全体としては相当程度省力化できるのではないかと思います。 ○内野幹事 家庭裁判所の管轄とするのかどうかというところ自体も論点ですので,その点についても併せて御議論いただければ有益です。 ○山本(克)委員 今,外国で一度やったことだから,というお話が出ましたが,本当に外国で一度やったのかどうかということ自体が実は問題になる場合もあり得るわけですよね。2号要件を欠くような場合に外国でやったと言えるのかどうか,ということなので,やったことだからといって軽減できるという話ではありませんし,例えばヨーロッパの法制ですと,ヨーロッパ域内のものについては簡易な手続でやるけれども,域外のものについてはやはりまだ判決手続を維持している国も結構あると思うんですね。   現状の執行判決の手続が重い理由は私はよく存じませんので,それはそれで改善していただければよく,どういう国のどういう判決,どういう裁判が来るか分からないという状況では,執行判決の手続によるとされている意味はそれなりに重く,現状の手続が重いからすぐ決定に,というのはやはりどうなのかなと思います。決定だとすると,決定手続の中身を整備していかないといけなくなります。家事事件手続法では現にいろいろな審判事件の種類に応じた手続の定めをしてきたわけですから,それについてこの決定手続にするとして,ではどういう決定手続にするのかという議論をまたしなければいけないわけです。そうしていくと,かなり判決手続に近いものになってくるのではないか。つまり,執行の要件として,あらかじめの債務名義の送達が前提となりますから,それに類する手続を作っていかなければいけない。一からやらなければいけないということにもなりますし,やってもいいのでしょうけれども,時間的にその余裕があるのかどうかという問題もあります。決定にしたからといってインフォーマルで何でもできるという話には直ちにはつながらないので,決定にすればよいということだけではまずいのではないのか,決定手続の中身を具体的に提示して,こういう決定手続なら大丈夫ですと言わないとまずいのではないのかということです。   それと,先ほど来,118条の準用がどうかという話,相互性の問題もありますけれども,なぜこちらだけ決定手続とするのかという点は,やはり説明が難しいのではないのかという気はします。 ○池田委員 決定とすべき理由のもう1点は,人訴は別ですけれども,海外では,日本でいうと公開ではなくやられている場合もそれなりにあって,そういったものが全て判決手続になると,日本でいう家事事件に当たるものも全部,判決手続で公開の法廷で審理されるということになり,このことも一般的にはやはり問題があります。むしろ,決定手続によることとされている仲裁などの方になじみがあり,その点も加味して決定にすべきということです。 ○大谷幹事 決定にするとして,具体的にではどういう手続になるのか,そこの具体的なイメージなしに議論することは問題ではないかという御指摘は,確かに伺っていてそのような問題点はあるなと思いました。   ただ,他方で現実には今,判決手続で,地裁でやっています。そもそもどういう事件で外国判決の承認・執行をやる場合があるかということについて,家事事件の分野ですけれども,例えば,私が現実に扱うものは,財産分与,それから扶養料です。最近は面会交流が出てきています。外国で面会交流の決定が出ているとしても,今まではなかなか日本の裁判所にアクセスしにくかったのが,ハーグ条約の下で援助が受けられるようになった結果,そういう事件も多分増えてくると思います。現に私も経験しています。そうしますと,例えば,養育費でも面会交流でもよいのですが,今は,地方裁判所でそれを判決手続でやっているわけなのです。御存じのとおり,公序要件について,外国判決が確定した後の事情も考慮の事情に入れるという考え方が採られることがあり,そういう場合,養育費をどういうふうに支払ってどう弁済されているのか,あるいは面会交流や子の引渡しですと,子の現在の状況,そういう話が実際には出てくるのです。それをどこまで考慮するかという問題はもちろんありますけれども。それについてだけ家裁に管轄を持って行けば手続は決定にしなくても判決でよいではないかと言われるかもしれないですが,少なくとも,どちらの管轄にするかと判決か決定かという二つの論点は,必ずしも絶対に関連しているとは思いませんが,現在の実務において実際に家事事件のうちどのような事件類型を承認・執行するかという観点から見ますと,私は,現在,地方裁判所で判決手続でやっていることは不合理で,少なくとも管轄は家庭裁判所に移していただきたいし,また,決定手続の方が手続自体に柔軟性があり,手続も迅速だと思いますし,そうしないとその間の事情も全部考慮してよいということで入ってきてしまいますので,手続公序や実体公序といいますけれども,その考慮の際にも,決定手続の中で柔軟にできることというのは多分あると思っています。 ○高田部会長 ありがとうございます。   山本克己委員の御発言ですと,決定手続であっても,なおどこまで柔軟な手続かという問題が残るということですし,これも純粋理論の問題ですけれども,決定だから公開が直ちに外せるかどうかもまだ論点として残り得るということだろうと思いますが,そうした承認要求を審査するということを前提に,人事訴訟事件及び家事事件だけ,他の民事事件と区別することができるかという問題が残っているということだろうと思います。その点を踏まえて,なお御意見があれば承りたいと思いますが。 ○山本(和)委員 私は,前から申し上げているとおりだと思いますが,家事事件については決定手続でよいのではないかと思っていて,池田委員も言われましたけれども,非公開等の手続でやってきたのに,急にそれを日本で執行するということになると公開の法廷で厳格な手続を求めるということが果たして相当かなと思っていました。   手続については,今の仲裁法の決定手続,口頭弁論又は双方が立ち会うことができる審尋の期日を経るというような手続のイメージで考えていました。ただ,確かに,家事事件というものを国際的なところで本当に厳密に区別できるのかということもあり,やればできるのではないかという池田委員の発言にシンパシーは持ちますけれども,この段階においてはなかなか難しいかなとも思っています。そして,決定手続にしないなら,管轄裁判所を家裁にする必然性はそれほどなくて,むしろ区別をしないということであれば,民事執行法24条のとおり,地方裁判所で承認・執行はやるということでよいのかなと思います。ただ,将来的には,先ほどの相互の保証と同じで,私は,執行判決についても本当に判決手続である必然性はあるのだろうかと思っています。   ですから,先ほど山本克己委員が言われたので,将来的に検討する機会があるのかなという印象を持っています。もしそういう機会があれば,その点も含めて将来的には直していただきたいとは思いますが,現段階ではやむを得ないのかなと思いつつあるということです。 ○高田部会長 ありがとうございます。 ○山本(弘)委員 今の山本克己委員の御意見の補足ですけれども,仲裁判断について執行決定制度を採用したのは,そもそも仲裁手続が非公開であり,非公開であることにメリットがあるというところが強調されたわけですから,それに執行力を与える手続を公開にしてしまったら頭隠して尻隠さずになってしまうということで決定手続になっているわけで,それは整合性があるんですよね。そうだとすれば,家事事件の審理を非公開にするということ自体に大きなメリットがあるわけですから,それにもかかわらず,その執行力を与える手続についてだけ必ず公開しなければならないというのは,整合的ではないと思っております。   あと,ある種,手続に過誤があるかどうかということを判断する手続に,判決手続が必要なのか,というように,問題をより大きく設定すれば,既に民訴法を作るときに再審事由の判断手続を決定手続化してしまっているわけですよ。だから,大きなトレンドの中で,将来,執行判決手続についてもどう考えていくかということになると,むしろ,再審事由の判断手続を決定手続化したというところがスタートラインに置かれるべき基準になってくるのかなというのが私の感想です。しかし,それは今日ずっと話が出てきていますように,今回のこの立法提案でできる問題を超えているのではないかと思っております。 ○山本(克)委員 今,山本弘委員がおっしゃったことに私も賛成で,将来的には全てを決定手続化するというのはあり得る選択肢だと思っております。ただ一点,今,山本和彦委員と山本弘委員のおっしゃったことに異論があるのですが,家事事件が非公開であるというのは日本の前提であって,今回対象になるのは海外の家事事件手続に相当する手続における裁判ですので,それが公開であるか非公開であるかというのは分からない。公開である可能性も十分ありますので,それを理由として非公開の手続をやるべきだという話には必ずしもならないであろうと思います。それ以外の点については,将来的に全て決定手続に一本化するというのは,先ほどの承認の4号,相互保証要件と同じように,将来,外国の裁判の承認・執行に関する法律でも作れば,こちらは民事執行法だけ改正すれば済むのかもしれませんけれども,そのようなことで何らか手当をするということはあり得ると思いますが,差し当たり,なぜこの場合にだけ決定にするのかというのは,私はまだ現状では説明できないだろうと思います。 ○大谷幹事 私は決定を支持しているのに言うのはおかしいなと思って黙っていたのですが,山本克己委員がおっしゃった,外国ではこの種の事件が公開かもしれないというのはそのとおりで,そこはちょっとつながっていないなと実は思っていました。   それはさておき,今回この部分だけ決定にしないのであれば,その管轄も家庭裁判所に移す必要はないのではないか,若しくは切り分けが難しいのでそうすべきではないのではないかという点に関しましては,決定にするのが難しくても,管轄の点については,なお別の話として切り分けの問題はあるのですが,私は検討していただきたいと思っています。理由は,繰り返しになりますが,先ほど申し上げたとおり,今,全てこの種の事件を日本では家裁が扱っているのに,地裁の裁判官が突然これを扱われることになる。手続公序とか実体公序ということを判断する上でも,普段そこをされていない裁判所にその点を委ねることになるんですね。実際,私も事件でやっていますと,余計慎重になられて非常に時間が掛かる。それはやはり実務上,繰り返しになりますけれども,当事者にとっては大変コストが掛かっています。その前提として,外国裁判所がきちんとやったからということを付けてしまうと,やっていない場合があるという御反論が出るのは承知しているのですが,それでもなお中身の点を考えても,管轄は専門性のある家裁に移していただきたいと思っています。 ○池田委員 日弁連の検討で,家裁の方がこの間接管轄についての検討になじみがあるということもあり,家裁が望ましいのではないかという意見があったことをお伝えします。 ○和波幹事 管轄については,裁判所としては,従前から申し上げているとおり家裁の管轄としていただきたいと思っております。池田委員,大谷幹事からもお話があったとおり,面会交流だとか子の引渡し,扶養料等の国内事件を扱っているのが家裁であるということからすると,当事者にとっても,外国の裁判であったとしてもそういったものを家裁で扱うということは自然ではないかと思っております。また,理論的にいろいろ難点はあるかもしれませんが,先ほどから話に出ている公序の判断については,国内事件を日常的に扱っており,一定程度の知見が蓄積されている家裁が判断することに合理性があるのではないかと思っているところです。   その上で,判決にするか決定にするかという点について,法体系の一体性という問題もありますけれども,それでもなお間違った場合の処理というのは,我々としてはどうしても考えざるを得ません。家裁に行くべき事件が地裁に行ってしまった,あるいは地裁に行くべき事件が間違えて家裁に行ってしまったような場合でも,同じ判決手続であれば移送という形で救済をすることができるのではないかと思っておりまして,そういった観点からも,手続はそろえつつも家事については家裁で一次的に扱うこととしていただくというのは合理性があるのではないかと思っております。 ○高田部会長 ありがとうございます。 ○内野幹事 御意見について確認をさせていただきたいのですが,管轄裁判所を移すべき事件の対象ですけれども,それは,外国裁判所のした家事事件のうち執行が問題になるようなものが中心になっていることは御発言から理解できたところです。今回の部会資料では,人事訴訟事件をあえて明示しておりますが,人事に関する訴えとともにされている,日本でいうところの附帯処分のようなものについての執行判決を求める訴えについても,家裁に移すべきだという御趣旨でしょうか。 ○和波幹事 人事訴訟そのものの執行は考え難いと思いますので,基本的には附帯処分の部分になるかと思いますが,その実質はやはり家事事件だろうと思いますので,いずれにしても家裁に移すのが相当ではないかと思っております。 ○内野幹事 もう一点,日本法に引っ張られた疑問になるかもしれませんが,いわゆる関連損害賠償請求というのが日本の手続では存在していて,抽象的にはこれは民事訴訟ではないかという議論があるわけですが,この部分についての執行の訴えの扱いはどのようにお考えなのでしょうか。 ○和波幹事 法技術的にできれば,という条件が付くのかもしれませんが,一体的解決という意味では,家裁で判断できるようにしてほしいという要望はございます。   ただ,この部分については,本質が民事訴訟である関連損害賠償請求は単に併合されているにすぎないということから考えるとなかなか法制的な理屈が立たない,ということであれば,最終的に切り分けることはあり得るのだろうと思っております。あとは,当事者の便宜として,従前申し上げましたが,一つの裁判書に家事事件とそれ以外の事件の判断が含まれているような場合に家裁と地裁に別々に申立てをしなければいけない負担について配慮できるかどうかという問題ではないかと思っております。 ○高田部会長 管轄裁判所の方に議論が移っておりますので,では,管轄裁判所についてなお御意見を賜ればと存じます。   念のための確認ですが,大谷幹事の先ほどの御意見では,メインとなるのが面会交流,財産分与,扶養関係ということでしたけれども,メインとなるものがそこである以上,家事事件全体をということでしょうか。 ○大谷幹事 はい。和波幹事がおっしゃったのと同じで,人訴事件はその承認・執行という手続が余りないので,実際に出てくる事件ということで先ほど申し上げたもので,それらだけという趣旨ではありませんでした。   それから,附帯処分については,例えば,外国の裁判所で離婚判決の中で同時に養育費の命令などがされることがありますので,私は,日本的にいえば附帯処分ですけれども,それも含めて,という点でも和波幹事と同じ意見です。損害賠償などの民訴事件が併せて判断されている場合というのは,経験上は余り考えられないのですが,あり得るので,ではどうするかということについては,日本的にはこれはこちらの事件,これはこちらの事件という言い方をしますけれども,外国の方で一体それをどう性質分けしているのかという切り分けが,見ていましてもよく分からない場合があるんですね。そうしますと,性質的には違うけれども,一つの判決の中で一つの裁判体がやったものについて,こちらでまたその性質を区分けをして,性質決定して振り分けるというのが非常に難しいという観点から,特に,繰り返しになりますが,私は4号を外してほしいと言っていますけれども,そこが同じで,かつ仮に判決のままなのであれば,管轄自体は家裁にそろえるということがスムーズといいますか,実務的にやりやすいのだろうと思っています。 ○高田部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 家庭裁判所になぜ行かなければならないのかという論拠として,手続公序についての判断は家裁の方がやりやすいのではないかというのは,それなりの説得力があると思うのですが,今まで家庭裁判所でやっていたのに家庭裁判所以外の所にいかなければいけないというのは,外国法制で家庭裁判所というものがある国とない国がありますし,家庭裁判所という名前の裁判所だけれども,それは日本でいう官署という裁判所ではなく,知財高裁みたいなものを家庭裁判所と呼んでいる法制もありますから,そこは余り理屈にならないのではないかと思います。   私が一番問題にして考えるのは,単にその執行判決なり執行命令をする場合だけが執行裁判所の役割ではないという点で,それ以外の幾つかの執行法上の処分主体として執行裁判所がなっていくという点をどう考えるのかという点です。地・家裁が同じ庁舎でやっている裁判所というのであれば,その執行を地裁で執行担当している方が兼任をされれば済むような場合もあるのかなと推測していますが,私の住んでいる所の土地のように地・家裁別で距離が離れているというような場合に,様々な執行処分の部分に果たして本当に家裁が対応できるのかどうかという点がやはり問題になる。家裁は今,執行官を直接監督しておられるのでしょうか。また,書記官のノウハウの問題等もあって,それらの点を考えると,効率が悪いようにも思えます。そして,日本の裁判官は家裁と地裁の仕事をいろいろと行き来されていますので,必ずしも家裁でなければ家裁の特有の公序則が分からないということにもならないと思います。   それから,これは前から言っていると思いますが,入口の段階でごちゃごちゃするのは非常に問題が生じ得る。確かに,最高裁の判決は,執行関係訴訟においては家裁から地裁の移送,家裁から地裁への移送,どちらも可能だと考えているようですので,確かに移送は可能だと思います。しかし,入口でもめること自体が当事者にとっては余り望ましい話ではないので,できるだけ窓口は一元化しておいた方が私はよいのではないかと思います。 ○大谷幹事 執行官の監督,あるいは地裁と家裁が離れているからということについて言いますと,今,日本でも,子の引渡し,面会交流等の執行については,執行裁判所は家裁でやっているわけですから,特に問題はない。   それから,日本は地裁,家裁の裁判官の交流があり,公序則の判断を必ずしも地裁の裁判官ができないわけではないのではないか,という点について,もちろん,されていると思います。ただ,具体的な例を申し上げますと,東京で外国判決の面会交流ですとか扶養料回収の承認・執行判決を提訴したとします。それは東京地裁にするわけですよね。民事の部がたくさんあります。その中のどこかに当たるわけですよ。本当にその部でそういう事件をどのぐらいの割合でされるか分からないですけれども,それが東京家裁に仮に集中したとします。そうすると,少なくともそういう事件が集中して,よりたくさん扱われるようになる。先ほどの4号要件の話とも関係するのですけれども,元々外国の法令にそういうものがあるかというのは職権で調査すべきといっても,そうはなっておらず,今は事実上,立証責任がほぼ原告の方にあります。仮に4号要件が維持されたままとなると考えますと,例えば面会交流あるいは養育費の判決について外国判決の承認要件がこの国はこうなっている,といったことの知見がなるべく裁判所に蓄積されていることが,いつも原告が調べてきて主張しなくてはいけないという負担の緩和にもつながりますし,私はかなり現実の実務的に違いが大きいと思っていますので,家裁の管轄にしていただくことによる当事者へのメリットというのは大変大きいと思っています。 ○和波幹事 今,大谷幹事がおっしゃったこととも重なるのですが,その執行の段階で分かれるかという話につきましては,現在でも,債務名義の作成までは家裁で行い,実際の執行手続は地裁で行うというような区分けがされています。しかも,間接強制については,間接強制決定までは家裁がした上で,その執行は地裁が行っております。子の引渡しについても同様です。執行判決というのは,外国の裁判書について日本における債務名義化をするというところが実質ではないかと思っておりまして,そういう意味で,その部分について家裁が行った上で,実際の執行は地裁あるいは地裁の執行官が行う,ということについては,恐らく日本の現在の制度ともそれほど違うことはなく,特段の問題はないと思っております。   それから,入口のところでの紛争というのは,確かにあると思うのですが,恐らく限界的な事例というのはそれほど多くはなくて,通常であれば,これは家裁だろうというのは多くの場合には分かると思います。むしろ,そういう事件について家裁で扱うという方が当事者にとって分かりやすい部分もあると思っておりまして,そういった観点からも,家裁で扱うことには一定の合理性があると思っております。 ○山本(克)委員 代替執行はどうなのかというのが私は気になっていたところなのですが,代替執行にあるような債務名義はほとんどないだろうということなのかもしれませんが,二つの所に行かなければいけないということになるわけですね。つまり,債務名義作成段階,執行判決を作成する段階は家裁で,いざそれが典型的に金銭執行であれば地裁に行かなければいけない。扶養料の間接強制等の場合は別として,行かなければいけない。だからどちらにしろ地裁に行かなければいけないのであれば,最初から地裁に行けばいいという理屈も当然成り立つのではないのかなと思いますけれども。 ○大谷幹事 繰り返しですが,今,日本の実務が正にそうなっていて,債務名義化のところまで,決定をもらうところまでは家裁に行かなくてはいけなくて,その後の執行レベルのところが地裁ということで,私たち家事事件をやっている者はその実務になじんでいまして,特に違和感を感じておりません。   私も和波幹事がおっしゃられたのと全く同意見でして,外国裁判所の裁判が一回出ているのに,なぜその承認・執行判決をとるというところをしなければいけないかというと,それは日本における債務名義化の手続だと思っていまして,そこを家裁でしなくてはいけなくて,最後の本当の執行部分を執行官にやってもらうとか,執行手続のところで地裁に行かなければいけないというのは,それは日本の今の制度の中にむしろ乗せた形だと思っています。 ○高田部会長 いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 今の点は,デフォルトをどこにとるかですよね。国内手続をデフォルトにとるのか,それとも全く日本とは関わりのない人が日本で執行したいと来た場合はそもそも家裁などは知らないという点をデフォルトにとるのか。どちらにとるのかで答えが変わってくることなので,水掛け論なのかなという気がしました。 ○山本(和)委員 私は先ほど申し上げたように,決定にしないんであれば,地裁に全部まとめた方が簡単ではないかと思っているところがあります。最終的に民訴法第118条準用という規定にするかどうかはともかく,実質的には承認要件は同じ要件になるので,確かに,人訴,家事だから公序や相互の保証について特別の異なる要素が含まれて,その部分の専門的知見を家裁に蓄積した方がよいという議論は分からなくもないですけれども,ただ,通常の判決手続の承認と執行と重なり合う部分もまた多くあり,それを地裁と家裁で分散させるのがよいかどうかという問題の立て方もできるような気がします。元々それほど数が多い事件類型ではないので,そうだとすれば,むしろ地裁の方に情報を集積するという考え方も十分成り立ち得るのかなという印象を持っています。そこも水掛け論なのかもしれませんが。 ○西谷幹事 特に3号要件との関係で,実体的公序の判断をするに当たって,面会交流や子の引渡し事件では,本当に執行してよいのかどうかを実質的に判断する必要があります。家庭裁判所であれば,調査官を利用して,子の状態などをきちんと調査した上で公序に反するか否かを判断できるように思われますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 家裁調査官の議論は前にもしたわけですけれども,判決手続になるということを前提とすると,自由な証明はできないということになるのではないでしょうか。 ○西谷幹事 そもそも調査官の利用は,想定されないのでしょうか。 ○山本(和)委員 判決手続とするのであればできないのではないでしょうか。 ○山本(克)委員 補足しますと,人訴法上,判決手続固有の部分については家裁調査官の調査資料というのは使えなくて,附帯処分である本来の性質が家事事件であるものについてのみ,家裁調査官の行った事実調査を使えるということになっています。判決手続で制度を組む限りは,そこはクリアできないというのが現行人訴法の立案の趣旨です。では決定手続にするならよいのかという話になりますと,決定手続でも,果たしてこの手のものを自由な証明の対象にしてよいのかどうかというのはまた別論だと思うんですね。仲裁の執行決定についても自由な証明でよいとは多分考えていないと思います。 ○山本(弘)委員 そもそも家裁の管轄にすることのメリットは家裁調査官が使えるということだけれども,判決手続では家裁調査官は使えないし,本来の決定事件についても,今お話があったとおり,家庭裁判所の調査というようなものを本当に使うことができるのかという議論は,全然詰められていないと思います。   もう1点,民訴法118条1号から4号までの各号に相当する要件が承認・執行の要件となるということを前提とした上で,大谷幹事や家裁への移管に賛成される方々がおっしゃるように,これらの要件について,家事事件に特有の公序といったものが本当にあるのかどうかが私にはよく分からないところです。普通の素養を持った日本の裁判官に,家事事件に特有の公序則があるからそれは家裁でなければいけないということを,どういう事態を想定しておっしゃっておられるのかがよく分からないというのが正直なところです。 ○大谷幹事 あると認識しています。どこまで具体例を申し上げればいいのか分からないですが,引渡しとか面会等については子の利益に関わることで,それは普段からそういう事件を日本の法制の下でやっている家裁に専門性があると思っています。それから,財産分与とか扶養料等についても,結局,その公序のところで,外国法制と日本法制等を見比べるようなことが実際には出てくるのですけれども,そうしたときに,例えば,外国で決まった扶養料について,その収入の推定認定とかいろいろな外国でのやり方が,一体,日本との関係で,公序に反するというべきかどうか,といった点においても,日本の実務,日本の法制実態がどうなっているかということとの比較が出てきまして,そこは私は家裁がやるべきだと思っています。 ○山本(克)委員 今おっしゃった,扶養料の相当性の判断で何らかの一定の推定則のようなものを設けているかどうか,提供したかどうかというのは公序なのでしょうか。 ○大谷幹事 実務の中では,実際に公序として争われるんです。 ○山本(克)委員 争うのは勝手ですけれども,裁判所は公序としてそれを認識してやっておられるのですか。 ○高田部会長 実質審理ではないかという御指摘ではないかと思います。 ○山本(克)委員 実質的再審査に該当するので,そもそもしてはいけないと言われていることになりはしないかという意見です。 ○和波幹事 実質的再審査の関係でいろいろ難しい議論があるというのはおっしゃるとおりだと思います。しかしながら,特に家事事件の場合には,一回限りの取引ではなくて,将来にわたって,例えば扶養料を払うとか,面会交流についても継続的に行うというようなところもあり,実質的には裁判手続の公序の判断の中で,判決確定後の事情といったことも取り込んで判断しているのが実際ではないかと思っております。そういう意味では,やはり普段から家事事件について扱っている家裁の裁判官がそういった部分について判断を行うということについては,一定の,もちろんこれは地裁の裁判官ができないという趣旨ではありませんが,メリットがあるのではないかと考えております。 ○村上幹事 私が思っているイメージは皆さんが今議論していることと違うかもしれないのですけれども,和波幹事が今おっしゃったこととかなり近いかもしれませんが,公序要件の審査の中で基準時後の事情を考慮するのではなくて,それは切り分けて,言ってみれば外国裁判の承認と変更を併せてすることができるから家裁でやることに意味があると私はずっと考えてきました。質問なのですが,仮に家裁で判決手続で執行判決請求訴訟をするとして,その手続と,例えば親権者の変更の裁判,審判とを併合してすることはできるのでしょうか。 ○内野幹事 今の御質問ですと,異種の手続ということになると思います。御質問は,執行判決を求める訴えは訴訟ですが,それと親権者変更を一緒にやることを想定しておられるのですか。 ○大谷幹事 今の御質問への直接の回答かどうか分からないですけれども,前提としては,和波幹事が先ほどおっしゃられたように,争いはあるかもしれないですけれども,現在,実務では,公序については,再審査ではないのですが,外国判決確定時以降の事情を考慮する,取り込む形で執行判決の審理がされています。それから,それは変更しているのかと言われると,飽くまで変更ではなくて,外国判決は外国判決で確定しているのですが,それに執行力を付与するか否かのところで弾くかどうかという形になっていますので,仮に日本で執行判決はとれなかったとしても,外国判決自体は残っている。それを更に変更したいという場合には,わざわざ変更の申立てをしなくてはいけない。例えば監護者指定ですと,逆の当事者から監護者をこちらに変更しろという話になります。ただ,監護者指定そのものは,承認・執行という話ではないので,引渡しの執行をしようとしたら,引き渡せと言われた人が,いや,むしろ自分を監護者に指定してほしいという手続を日本で起こす。それから養育費であれば,養育費請求権を持っている人が執行しようとしてきているのに対して,債務者の方がその減額の申立てをする。今のように対抗的に申し立てる,いわゆる変更の部分というのは,家裁の管轄になります。 ○村上幹事 そうすると,もしその執行判決を求める訴えの管轄を家裁に持ってきたとしても,対抗して変更の申立てをしたりしたとしても,それは一緒にはならないということですか。 ○大谷幹事 一緒の,一本の手続ではないですけれども,事実上,同じ当事者間のものとして適宜の取扱いがされるとは思います。 ○高田部会長 事実の問題として,同じ裁判所で並行している,ということをおっしゃっているのですか。 ○大谷幹事 そうです。 ○村上幹事 同じ裁判所で同時に審理できるということにはならないですか。 ○大谷幹事 同時に審理,の言葉遣いかもしれないですけれども,同じ裁判所,裁判体ではないですね,同じ裁判所で,同じ当事者間の,事件番号も当然違うし,手続も違うけれども,家裁がやることになります。今のように地裁の管轄ですと,完全に分かれた形で,それぞれが進行するということになります。 ○内野幹事 手続上,その受訴裁判所ないし受申立裁判所が同一になることは法律上保証されていないので,同じ裁判所というのは結局,簡単に言えば同じ建物の裁判所でやることがあり得るというだけです。 ○村上幹事 併合というわけではないということですね。 ○山本(克)委員 その後の事情を考慮するというのが本当に適法なのかどうかは,それ自体が議論のあるところではないか。実務でやっているといっても,最高裁でそういうことをやっていいという判決が必ずしもあるわけではありませんので,私はそちらがおかしいと思います。実務でそうだから,というのは私は説得力を感じないです。というのは結局,執行の段階で,はねると言っているけれども,実質的には変更しているわけですよね。実質的には変更して,しかも,日本の裁判所に管轄があるかどうか分からないですよ。つまり家事審判,家事事件手続法上の管轄があるかどうかも分からないのに変更しているということを認めてよいのかどうか,それは私は非常に大きな問題点だろうと思います。飽くまでも執行の限りで日本の裁判所に管轄があるのに,実質的には変更に等しいことをしてしまっている,これは本当によいことなのかどうか,かなり疑問の余地があると思いますので,そのような実務を前提に立法するのはよいのかどうか。つまり,そういうことをやってよいのだということを当然にオーソライズするという意味合いを持ちかねないわけで,それが本当によいことかどうかというのは,慎重に判断しなければいけないポイントなのではないかと思います。   それから扶養料の場合について,例えばドイツ法ですと,日本の家事審判でやっているようなものは全部,訴訟です。訴訟で回帰的給付の判決であり,かつそれには既判力があると言われていて,それを変更するためには,日本の民訴法117条の変更の訴えに相当する訴えでしか変更できないとされているわけですよね。そういうものが,日本では,契約に基づかない場合ですから家事審判相当のものだとして,日本で勝手に既判力がある判断を変えてよいのかというような問題も生じ得ます。既判力は承認していることになっていますので,オートマチックに民訴法118条経由で認められるということもあり,かなり疑問の残る取扱いだと思いますので,実務がそうだからということを前提にすることは,私はかなり抵抗を覚えます。 ○池田委員 山本克己委員のおっしゃるのはそのとおりだと私は思うのですけれども,問題は,例えば判決手続のために送達にものすごく時間が掛かって,その間に子の状況も全部変わってしまうという別の要素があるというところをそのままにしておいて,そこの理論のところだけ言っても実務に合わせることができないという点にあると思うのです。   だから本当はその理論に整合するように,もっと実務的なというか,ほかのバックグラウンドについて整備する必要があるので,そこのところはいろいろな場で強調して申し上げておきたいと思います。 ○高田部会長 ありがとうございます。   どうも議論はなお分かれたままのようですが,ほかに御意見を賜ればと思います。 ○大谷幹事 今,実務では,外国判決の確定時以降の事情を公序の際に考慮することになっているのですが,それに引きずられた議論をするのはおかしいというのは御意見としては分かります。ただ,実際それを最高裁まで持って行って争うことは,実務家としてはそこまで実際にはできない。本当にそこがおかしいというのであれば,今,少なくとも家事事件についての承認・執行要件を議論しているわけですから,むしろこういう議論をしている中で,その公序の際の事情としては外国判決確定後の事情は考慮しないとか,何か立法的な解決が図られるのであればともかく,やはり今の実務は実務であって,扶養料とか面会交流とか子の引渡しとか,和波幹事がおっしゃられたように,本当に継続的な案件を扱っているんですね。だから,理論的なお話は分かるんですけれども,私は弁護士として,この場に実務の立場から参加している人間としては,やはり現在の実務というのは念頭に置いていただきたいと思います。 ○高田部会長 それはそのとおりだと思いますが,なおそれには理論的な問題点があるということでして,なお議論は分かれている状況だと理解しておりますが,今日承った意見を踏まえて,次回改めて御提案いただくということでよろしゅうございますか。   では,休憩をとらせていただきます。           (休     憩) ○高田部会長 では,再開させていただきます。   続いて,資料15-2に移ります。   前々回から要綱案の取りまとめに向けて御議論いただいておりますが,なお残された論点と申しますか,意見の一致を見ていない点がいくつかございます。これらの点について,議論を深めていただきたいと存じます。   まず,「婚姻・離婚に関する訴えの国際裁判管轄(等)」について,事務局から資料の説明をお願いいたします。 ○内野幹事 まず一つ目といたしましては,人事訴訟事件につきまして,単位事件類型をどのようにするかというものです。   これまでの議論を振り返りますと,部会資料に書きましたとおり,婚姻・離婚に関する事件等について個別に検討してまいりました。個別の検討をしてきた結果,おおむね支持されている甲案をベースにということですけれども,管轄原因が重なってきているところです。また,これまでの議論の推移の大まかなところを眺めますと,それはやはり訴訟である以上は,争われるべき審理の対象となるべき身分関係の当事者間の争訟性というものにまずは着目していこうというのが,大まかな共通項だったかと思います。   また,人事訴訟法では,第2条にありますとおり,個別の訴えのほかに,「その他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え」というものが想定されているわけです。こういった人事訴訟法のそもそもの持っている法制の在り方などを総合的に考慮しますと,この際,その他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴えという部分も含めて,一つの管轄規律として提示していくということが考えられるかと思われます。   したがいまして,こういう方向で考えることについて,これまでの議論を踏まえますと,おおむねの異論はないかと思っておりますが,改めてお諮りする次第です。 ○高田部会長 では,単位事件類型について,御意見を承りたいと思います。これまでの議論で管轄原因が重なってまいりましたので,あえて個別の事件と申しますか,婚姻・離婚等と親子等を分けて規定する必要はないのではないかということかと存じますが,これも(2)以下の具体的な管轄原因と関連しておりますけれども,この段階で御意見があれば承りたいと思います。   では,特に御意見がないようでしたら,もちろん個別の管轄原因の内容によっては,やはり分けた方がいいのではないかという御意見が出てくる可能性がございますが,それはそこでまた御議論いただくことにさせていただきまして,先に進みたいと思います。 ○内野幹事 続きまして,論点として一つ残ってございますのが試案,いわゆる甲案の①で,身分関係の当事者の被告側の住所の管轄を認めるときに,いわゆる居所というものも一定の場合において管轄原因とすべきかという議論です。   この居所というものについて,その身分関係と一定程度の関連性があるという評価ができ得るのではないかというような点,被告側の応訴の負担という点を考慮して住所を管轄原因とした趣旨との連続性というのも一定程度評価できるのではないかという点,こういったところから,居所というものを一定の場合に管轄原因としていいのではないかという議論があります。   そこで,最終的な全体の取りまとめをするに当たって,そういったものを含めることも一つの考え方かと考えているところですが,改めてお諮りしたいと思います。 ○高田部会長 この点も確認したいということだろうと思いますが,従前から居所で日本と事件との関連性として十分かという御指摘を頂いておりますので,その点について,なお意見があれば承りたいと存じます。   居所しかない場合であっても,日本で裁判をするということでいいのか,取り分け現時点では離婚に限られておりませんので,例えば嫡出否認の訴え等においても,同じく被告の居所さえあれば管轄が得られるということでいいのかという点が問題となろうかと思いますが,御意見はいかがでしょうか。 ○畑委員 これを認める方向が多数であるように認識しております。私個人としては若干抵抗があるのですが,皆さまが認めるべきだとおっしゃるなら,やむを得ないかなと思います。   ただ,これは前回,池田委員もおっしゃっていたことなのですが,その次のページの(5)被告の同意がある場合の原告住所地による管轄との関係については,十分考える必要があると考えております。 ○高田部会長 居所で関連性を肯定できるならば,同意でも肯定してよいのではないかという御趣旨でしょうか。 ○畑委員 そうですね。しかも,原告の住所地はあるということが前提ですから。 ○高田部会長 いかがでしょうか。畑委員からは御意見を頂きましたけれども,居所に慎重であるべきという御意見は他にはないということで,よろしゅうございますか。 ○山本(弘)委員 理由をはっきり申し上げるのは難しいのですが,私もちょっと居所というものに対しては多少抵抗があるとずっと感じ続けておりました。 ○早川委員 私も若干抵抗がありますが,ただ,やはり前回,山本和彦委員がおっしゃったことも大変よく理解できますので,皆さんが居所を含めるべきであるとおっしゃっているなら,いいのではないかと考えております。 ○大谷幹事 私も強く反対するのではないのですけれども,正直ちょっとよく分からないと思ったところがあります。理由は,被告の応訴負担に配慮した管轄原因であるからということでつないでくださっているのですが,応訴負担に配慮した管轄原因であるからということと,被告の住所がどこにもない又は知れない場合に,その居所を管轄原因とすべきというところがうまくつながっているのかどうかが少しよく分からないのです。   前から申し上げていますとおり,最近,被告の住所の認定は非常に難しくなっていまして,いわばモバイルな人たちが増えていますので,どこに住所があるということが確実に決め切れない場合,あるいは連絡等は取れているのですが住所は知れないとかいう場合がかなり多いのですね。そのときに,居所というのをどの程度厳格に認定するかとも関係するのですけれども,訴え提起時に,被告が今日本にいるということで基準時にさえ管轄原因を一応満たせば満たすことになってしまうので,そこで本当に捕捉して管轄ありということでいいのだろうかというのが前から疑問に思っていました。ですから疑問は2点です。被告の応訴負担とこれは本当に論理的につながっているのかということと,現実の事件を考えますとそういうことができてしまうということがあるということがいいのかどうかということです。 ○池田委員 理由がよく分からないのですけれども,仮にこの居所を認めない場合には,原告にとってみると被告の住所は分からないから,その次のルールは原告の住所になってしまいそうな気がするのですが,私としては,まずは居所がある被告の居所の方を先に優先すべきではないかと思っております。ただ,そこで例えば被告が居所は日本だけれども住所は本当は例えばアメリカなのだとかと言って主張を出してくれば,そこでアメリカの管轄とかということになり得るのかなと思うので,被告にとっても別にそれはそれでいいのだと割り切っていいのではないでしょうか。そうでないと,被告の居所しか分からない場合,原告の住所に行くという方が,やや不正義といいますか,甲案からするとちょっと整合しないという気がします。 ○高田部会長 最終的には池田委員のおっしゃった論点が従来から論じられてきたところですが,その点についてどちらの案を採るのが適切かということかと思います。何人かの方々から違和感が提示されましたが,従前からの議論ですと,ひとまず管轄原因としては居所をカバーしておいて,個別の事案において必ずしも密接関連性がないということになれば,特別の事情の適用の可能性も考慮した上で,実際に管轄を認めるかどうかを決めていただくということになるのでしょうか。 ○大谷幹事 ちょっと細かい議論に入ってしまって恐縮ですが,そうすると今の場合,居所ということで管轄原因を仮に認めたとしますと,その日本の居所に送達をするということになるわけですね。そうしますと,一応それは国内送達になって,国内送達ですと別に翻訳も要求されていませんので,日本に住所を構えている人に対して国内送達をするというのは仕方ないのかなと思うのですが,住所がもしかしたら外国にあるかもしれない,住所が分からないが日本に居所はあるという場合に,国内送達でやるということも含めていいということなのか,そこだけちょっと確認させてください。 ○高田部会長 いかがでしょうか。翻訳等が付かないということでいいのかという御指摘だと思いますが。 ○池田委員 最近はサービスで訳文を付けてくれという場合が裁判所によってあるという話もちょっと聞いたことがあります。通常の日本に住所のある外国人でも,日本語を解しない者に対して付けるのだという取扱いをされているところがあるというふうには聞いております。いずれにしても,それは日本に住所のある外国人の場合と居所の場合と同じという理解です。 ○大谷幹事 そこは法律上の要求ではないので,裁判所によってもかなり扱いが違いますから,そういう実務があるということで,外国人の被告の手続保障がカバーされているではないかという議論の仕方は,すべきではないと思っています。 ○高田部会長 御議論がなお分かれているのかもしれませんが,従前の議論からしますと居所管轄を肯定するという方向の御意見の方が強いと申しますか,そうした流れであったように思いますので,基本的にその方向でなお検討していただくということになりましょうか。では,(2)の点は,そうさせていただければと存じます。   では,続きまして,御説明をお願いします。 ○内野幹事 次の(3)の部分は,いわゆる身分関係の当事者の双方の国籍による管轄の肯定という部分です。管轄を認めていくということ自体は一つの方向性としてあるわけですが,依然残っておりますのが,それに加えて原告の住所というものが日本国内にあることを要求するのかというところです。   この点については,関連性の観点からは,国籍というもので関連性を肯定するということができるのではないかというような御指摘もあり,原告の住所を更に要求することまでは不要なのではないかというような意見が幾つかあり,他方,異論もあったかと認識しております。そういう状況でございますので,この際,その要否,適否につきましてお議論いただきたいと思っています。 ○高田部会長 この点も前々回御議論いただきましたけれども,なお御議論,御意見があれば,承りたいと思います。事務局の認識としては,原告の住所がなくてもよいという方が意見としては多かったのではないかという御認識のようでございますが,いかがでしょうか。 ○和波幹事 前回,この点を議論したときの状況は十分認識しているわけでございますけれども,当事者の両方の国籍がいずれも日本であるということで,日本との関連性が非常に密接であるということ自体は全く否定するところではないわけですが,やはり実際に裁判の実務を担当する立場の感覚からしますと,どちらの当事者も日本にいないということで,本当に適正,迅速な審理が確保できるのだろうかという点については,どうしても疑問が残るところでございます。   もちろん,後見等について国籍だけで管轄を認めているという例はあるわけですが,それについては,やはり本人保護という観点が非常に強く出てきているというところもございますし,対立当事者間の争いではないというところも考えますと,裁判所が積極的かつ職権的に後見をすべきであるという観点から,日本人に対する保護を与えるというのは,説明が付くのだろうと思うのです。しかしながら,特に訴訟のような対立当事者間での争いについては,もちろん人訴の場合には職権的な側面もあるものの,当事者の協力が必要な場面において,どちらの当事者も日本にいないということについては,裁判所としてはやはり証拠収集という点で不安が残り,適正,迅速な解決という観点からは若干不安が残るというのは,率直なところでございます。   その意味では,原告の住所を要求していただきたいというのが第一次的な要望ですが,これも従前申し上げたとおり,これに加えて,身分関係の当事者ではない第三者が原告になった場合にどう考えるかというのは,更に大きな問題ではないかと思っております。日本の法制ですと,例えば,身分関係の無効確認のようなものについては,第三者は自分の扶養義務に関わるような場合には養子縁組の無効であるとか,離婚の無効であるといった訴えを提起できると言われているわけでございますが,身分関係の当事者双方は外国に住んでおられる日本人の方であり,その身分関係について当事者自身は特段争うつもりがないにもかかわらず,第三者が自分の権利義務の実現のためにその無効確認の訴えを日本で起こすということについてまで,身分関係の当事者が甘受しなければいけないのかということを考えますと,そこまで広げるのは少し行きすぎではないかという気もしております。   その意味で,身分関係の当事者の原告の住所という要件が入らないとしても,第三者が提起する場合についての何らかの手当を考える必要があるのではないかというのが現時点の意見でございます。 ○高田部会長 ありがとうございます。 ○池田委員 確かに今のような場合に問題になりそうですけれども,その場合は特別事情による却下という形で処理するということでは足らないのでしょうか。つまり,今のような場合でも,日本でやった方がいいという場合がありそうなのに,その余地が封ぜられてしまうということについて,心配しております。 ○和波幹事 その点は,簡単に申し上げると,原則と例外をどちらに置くかということに尽きると思っております。 ○高田部会長 いかがでしょうか。 ○池田委員 多分,現状の実務は,これでは原則認めていないような気が私はしております。ですので,例外的にやってくださいと言っても,なかなか難しいのではないかと思うものですから,むしろその原則は認めるけれども,特別事情で却下という方が,ニーズがあるときに救済される余地が出てくると見ております。 ○和波幹事 正におっしゃるとおりで,今の実務の感覚からすると,日本国内に当事者がいない場合に裁判を行うということについて,非常に困難を感じているというのが我々の実感でございます。そういう迅速,適正な裁判の実現のためには,やはりそれを担保できるものを管轄として取り込むべきであり,それ以外の場面は本当に救済が必要な場面で例外的に救済すべきではないかと考えているところでございます。 ○畑委員 私も国籍だけということにはやや抵抗があるのですが,管轄を認めた方がよさそうな事案というのは例えばどういうものでしょうか。 ○池田委員 典型的には離婚事件で,夫婦が外国に住んでいるけれども,そこで裁判をするとなると外国語でする必要があったり感覚も違うなど,いろいろな問題があるので,日本でやる方が便宜だと,あるいは証拠とか立証の関係でも日本でやる方が便宜だというような場合は,それなりに存在していると認識しています。 ○大谷幹事 私も,当事者双方とも日本に住んでいないけれども双方が日本国籍のケースで,日本でやりたい,日本でやる実益があるという場合は相当数あると認識しています。例えばですけれども,財産の大部分が日本にある場合とか,あと,今も池田委員も御指摘になられましたが,外国で裁判をしなければならないということになりますと,なじみのないところで弁護士費用も相当掛かるというところで,もちろん調停でまとまればいいのですけれども,中身について争いはあるけれども,双方とも日本で裁判をやりたいという場合等もありますので,ニーズはかなりあると思います。   最近,日本国籍同士だけれども,外国で婚姻生活を送っている人というのは非常に増えていますので,一定数のニーズはあると思っています。 ○畑委員 和波幹事がおっしゃったことと重なるのだろうと思うのですけれども,そのようなニーズを国籍ということだけで拾い上げることが適当なのかどうかが問題かなという印象はあります。 ○大谷幹事 これも感覚論なのかもしれないのですけれども,一応日本の国際私法が身分関係について準拠法は本国法主義を採っており,私はこれはやはり身分関係について本国とのつながりというものを重く見ている法制だと思っていまして,当事者の意識もそうである中で,国籍のみで関連性を認めることはそれほどおかしくない,当事者の期待にも沿っていると私自身は思っています。 ○高田部会長 ほかの方は,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 今,大谷幹事がおっしゃったことは私も同感なのですが,それと日本は戸籍によって身分関係を公証するという制度を採っているわけですから,日本で裁判をして,すぐ戸籍に反映されるということは,海外に居住している人にとってもそれなりのメリットはあるのではないでしょうか。それと,パスポートを取ったり,子が生まれたときの手続であるとか,そういうことに対して日本で戸籍に反映されていて,領事館でそれをすぐ反映してもらえるというのは,生活上のメリットとして十分あるのではないのかなという気がします。 ○内野幹事 その視点は,先ほど和波幹事からは,第三者提起の場面は別の扱いも考え得るという部分もありましたが,その点を踏まえても同じというふうに考えられますか。 ○山本(克)委員 ええ,そうです。 ○山本(和)委員 大谷幹事も言われたように,私自身は準拠法の点をかなり今まで重視して考えてきました。その場合は,第三者申立ての場合も同じであろうと思っていて,それで適正,迅速な裁判ができないということであれば,池田委員が言われるように,それは正に特別な事情による却下の守備範囲の問題なのだろうと思います。確かにどちらが原則でどちらが例外かというのは微妙なところなのかもしれませんけれども,あえて第三者申立ての場合だけは違うとする必然性まではないような印象を持っています。 ○和波幹事 おっしゃることは非常によく分かりますけれども,やはり今お伺いしても,第三者提起の場合まで本当に今の議論が妥当するのかというところは,まだ自分としては必ずしも十分納得できていないところがございます。身分関係の当事者であれば,日本の戸籍に自分たちの身分関係を反映させたいということは非常によく分かりますし,それについて一方の当事者は少なくとも日本で裁判をやりたいと言っている場合に,相手も日本人なのだから日本に来て裁判をしてくださいということも一定の合理性があるように思うのですが,第三者提起の場合に,特に両当事者が外国に住んでいて,我々は別に日本で裁判をしたくもありませんというときにまで管轄が原則として認められるとすることが本当によいのかというのは,どうしてもまだちゅうちょを覚えるところです。しかも,身分関係ということになりますと,客観的な証拠が紙として残っていることが余り多くないということがあるとすれば,証拠関係は当事者の供述に頼る部分が非常に大きいのだろうと思うのですが,そうであれば,少なくとも一方当事者が日本にいないと,証拠の収集という意味で裁判所としては厳しい部分があると思います。しかも,最終的に判断はできるが,ただ時間が掛かるというとき,あるいは適正な判断について若干の不安が残るというときに,却下ができるかというと,これは多分できないだろうと思います。そういう意味では,第三者提起の場合に全く同じように考えてよいかというのは,やはりもう少し検討が必要ではないかと思います。 ○西谷幹事 第三者提起の場合も,先ほど山本克己委員がおっしゃったように,戸籍に身分関係を反映することに利益をもつ場合もあると思われますので,繰り返しになりますが,身分関係の当事者双方が日本国籍であれば,端的に管轄を認めてよいのではないかと思います。   当事者間の関係としてみても,協議離婚であれば,外国に居住する日本人同士の夫婦であっても,領事離婚をし,あるいは本籍地に離婚届を送付することで成立しますが,一方当事者が争っているときには,日本の裁判所に申立てができず,日本で離婚判決を得る可能性がなくなるのは,やはり平仄を欠くように思います。その意味でも,当事者双方が日本国籍であれば,端的に本国管轄を認めてよいのではないかと考えております。 ○森委員 基本的には和波幹事の申し上げたとおりで,重なるところがありますが,身分関係の当事者双方が日本の国籍を有するものの,いずれも日本にいないという事例については,同僚等に話しをすると,調停でも訴訟でもそうですけれども,両方の当事者が日本にいないということについて,手続進行上すごく不安を感じているということがあります。   ただ,今まで多くの委員・幹事の方たちがおっしゃっているとおり,日本における戸籍という制度を考えると,日本でできるだけ裁判をやるということは,戸籍の記載を変更するという意味で仕方ない,やむを得ないとは思うのです。ただ,実務としては,調停の段階でも,例えばアメリカに長く住んでいる日本人同士の夫婦がいて,子もいて,日本に調停を申し立ててきたようなときに,相手が全然対応してくる態度がないとか拒否的な場合に,裁判官はどうするかというと,結局困ってしまって取下げを促したりすることもあるわけです。訴訟の場合だったらそうはならないかもしれませんが,やはり当事者が両方いないというときに,その手続を主宰する側としては,ちょっとちゅうちょを感じますので,まずそれを一つ申し上げます。   その後のところですけれども,第三者が提起するという場合については,実務的にも現実の必要性があるのか,戸籍その他を形成している当事者ではない第三者が,どういう目的で裁判をするのかということについては,具体的な必要性を肯定した上で入るべきであり,そこについてまで,戸籍が日本にあるかどうかという問題で第三者が日本で裁判ができてよいのではないかという点は,ちょっと首肯し難いと思います。   身分関係を実際に形成しているのはその二人だけというときに,そこに第三者が入ってきて提訴する場合には,相応の必要性がないといけないのではないかという感じがしています。   結局,和波幹事の言ったことの繰り返しになりますが,最後の第三者提起のところは,今一度お考えいただきたいと思うところであります。 ○高田部会長 少なくとも第三者提起の場合については,なお考えていただきたいということですが,その点,ほかに御意見ございますでしょうか。 ○池田委員 例えば養子縁組を行った二人,養親と養子が外国に住んでいて,その養親の実子が日本に住んでいるというような場合に,その養子縁組が何らかの理由で無効だと実子が全部相続するということにもなり得るので,実子がその養子縁組を争いたいというような場合というのはありそうな気がします。その場合,養子と養親は事情は分からないですけれども,ある種の通謀をしていたりして,日本で裁判をする気がないと言っているような場合に,日本で裁判をやることは非常に不合理だというふうにお考えになるのですか。 ○和波幹事 個別具体的な事件で認める余地はあり得ると思いますけれども,今のような事例でも本当に実子の利益を保護すべきかどうかというのは,やはり審理してみないと分からない部分があるのではないかと思うのです。外国に住んでおられる養親子の方は全く縁組について問題がないと思っていて,争うつもりもないというときに,実子の方が自分の利益のために日本で裁判を起こすことが常に保護に値するかというと,そこは必ずしもそうは言えないのではないかとは思っております。 ○山本(克)委員 保護すべき場合もあるということはお認めになっているわけですよね。そういう場合,どこで拾うのでしょうか。緊急管轄では拾いかねるのではないでしょうか。そうであるとすれば,管轄を認めた上で訴えの利益でスクリーニングするか,場合によっては特別の事情による却下でスクリーニングするかということにならざるを得ないのではないでしょうか。 ○和波幹事 そこは先ほどから申し上げているとおり,原則,例外,どちらに置くかということだと思います。 ○山本(克)委員 例外を救う方法があれば,それでまた考えてもいいと思うのですが,例外を救う方法がないのではないのかということを申し上げたいと思います。 ○和波幹事 そこは正に緊急管轄で拾うぐらいの必要性があるかどうかというところまで場合によっては検討すると思っておりますし,また,その方が原告として日本にいれば別の管轄要件があり得るわけですので,それを超えて,たまたま対象となる身分関係の当事者双方の国籍が日本であるというだけで管轄を認める必要が一般的にあるかというと,そこは我々としては低いのではないかと思っているということです。 ○山本(克)委員 そこはやはり身分関係というのは,本国主義法を採っている日本国としては,両当事者が日本国籍である場合については面倒を見ますよというのが基本線だということで,第三者提起だからといって,そこが大きく変わるというふうには思えません。変わるとすれば,訴えの利益の問題だろうという気がします。 ○高田部会長 第三者提起の場合,慎重であるべき場合があり得るということは御指摘のとおりで,それを第三者提起の場合は付加的要件を要求するなどして管轄権を制限するということでカバーするのが適切かどうかという問題なのだろうと思いますが,これまでの議論からしますと,やはりひとまず管轄原因としては救っておいて,そうした考慮があるということで特別の事情による却下で対処するのが妥当ではないかという意見が多いのではないかと理解しておりますが,いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 和波幹事の御意見は,第三者提起の場合は原告住所要件でカバーしろということなのでしょうか,それとも,国籍要件をやめろということなのでしょうか。 ○和波幹事 第三者提起の場合は,国籍で管轄権を認める必要はないのではないかというのが,基本的な発想です。 ○山本(和)委員 私は山本克己委員と同じで,和波幹事は一般論として原則,例外の問題とおっしゃるわけですけれども,今日の御議論次第ですが,恐らくは緊急管轄の規定は入らないのだろうと思っておりますので,そういう不文の法理に基づく場合と,それから特別の事情による却下という明確に書かれている法理に基づく場合とでかなり違うと思いますので,それを前提にすると,やはり私は原則はやや広目に管轄を取っておいて,あとは特別の事情による却下で落としていくということにならざるを得ないのではないかと思っています。 ○和波幹事 御議論の状況は認識しているつもりではあるのですけれども,そもそも,国籍だけで管轄権を認めることについて,実務上の懸念があるというところが出発点ですので,そこのところは最終的には若干見解の相違になる部分があるとは思っております。 ○高田部会長 では,取りあえず御意見は承ったということで,本日のところは原告住所要件を要求すべきではないという意見の方が多かったように理解しておりますが,なお全体を見通して御意見を承る必要があろうかと思いますので,改めて次回以降,御意見を賜ればと存じます。 ○内野幹事 続いて,それでは(4)のところでございます。いわゆる甲案④の規律でございます。   このような形で管轄を認めていくという方向については大きな異論はないというふうに,これまで認識しております。ただ,それに加えて,部会資料の方で示したものといたしましては,日本の裁判所に訴えを提起する以外に,原告の審理及び裁判を受ける権利を実現することが著しく困難な場合といったようなものも含めるべきかというような議論がございました。   この点について,どのようにするかというところが論点なのではありますけれども,事務局の感触といたしましては,これはなかなか要件としての定立は,かなり困難な部分が多いかなというところもございまして,甲案④の規律の中に,そういったものを織り込んでいくというのは,なかなか現段階では難しいかなという印象も受けております。   ですので,そういう方向でよろしいかどうかという点を改めて御議論いただきたいということです。 ○高田部会長 いかがでしょうか。 ○池田委員 ちょっと確認的なことなのですけれども,仮に相互の保証を必要とした場合には,外国で裁判をしても確実に日本では承認されないという国がございます。確実に相互保証がないといった場合は,この規定に当たって最初から日本でできるという理解でよろしいのでしょうか。つまり,例えば一方が日本人であれば,日本の戸籍を変えたいので,それを実現するためには日本で裁判をやらざるを得ないというようなことになり得るかと思いますが,そういう場合はここに含むことを予定しているかどうかをお聞きしたいということです。日本でできないといけないと私は思いますけれども,いかがでしょうか。 ○内野幹事 結局最後は解釈論になり得るわけですけれども,今のような部分を含めて,これまでの議論では一応含み得る,被告の住所地で提起することが著しく困難な場面に当たり得る場合もあるだろうというようなところがこれまでの部会の皆様方の感触だったかなという認識は持っております。 ○池田委員 訴えること自体は簡単にできるのですね。訴えることはできるけれども,訴えても日本では承認されないから,日本で効果がないということなので,その場合もここに明確に入れてほしいということです。 ○近江関係官 内野幹事の方からもお答えしましたが,最後は解釈の問題にはなりますが,池田委員がおっしゃるような場合,当該外国で訴えて判決を得ても日本では承認されないわけですので,結局平成8年判決の場合と似たような状況が起こるわけです。そういう意味では,外国で提訴すること自体できるとはいっても,無意味な提訴を強いるだけですので,それは結局外国での提訴ができない場合に等しく,この規定の適用対象になり得るという認識です。   最後は解釈ですので,断言することは難しいかもしれませんが,事務局としてはそういう趣旨で部会資料を作っていました。 ○内野幹事 部会の議論をそのまま反映して,こういう甲案もあるみたいな姿になっています。そうすると,個別の事案の当てはめと解釈の問題に係るところが大きいと思いますが,事務局としては,適用対象になり得るとは考えております。 ○竹下幹事 ①で居所が入ったこととの関係で,④で,世界のどこにも住所がないときには居所がある国の裁判所に訴えを提起することが著しく困難であるときという形で修正がされるのでしょうか。 ○内野幹事 恐らく今の御示唆のような方向での規定の整理というのをした上で,また皆様に御議論いただくということを考えております。 ○高田部会長 貴重な御指摘,ありがとうございます。   では,④は今回は中間試案の提案をベースに考えていくということで,よろしゅうございますか。 ○内野幹事 続きまして,今度は「被告の「同意」がある場合の原告の住所地による管轄の採否」です。   先ほど畑委員の方からも若干この点に関連する御指摘をいただきましたけれども,この部会におきます議論は,管轄を当事者の意思という部分に係らしめるということについて,比較的ネガティブといいますか,消極的な評価をしてきました。   それはやはり,そういった管轄というものが,もちろん関連性の観点がございますけれども,公益的な観点があるというところで,ただいま申し上げたような消極的評価がされてきたところでした。   したがいまして,「被告の「同意」がある場合の原告の住所地の管轄の採否」という部分について,どのようにお考えなのかというところを,まず御議論いただきたいと思います。 ○高田部会長 この点は,前回ももちろん異論が提出されており,多様な御意見がございましたけれども,やや否定的な意見の方が多かったように理解しておりますが,そうした方向で検討するということでよろしゅうございますか。 ○池田委員 私はそれでは困ると考えています。そもそも理論的に被告の応訴の利益ということで甲案は出発していると思うものですから,被告の同意による管轄を認めないということは理論的にどうなのでしょうか。被告が原告の住所で裁判をしてもいいと言っている場合に,その点を考慮しないことは理論的に問題があると思います。それと,ちょっと前の議論の中で,外国法制等においてはジョイントアプリケーションというような形で同様の事態に対応しており,要するに当事者双方がそこで裁判をやりたいと言っており,しかもそれが全く関係ない地ではなく,原告の住所地であるというような場合に,それは当然認められるというのが通常の合理的な考え方ではないかと思われます。ただ,ジョイントアプリケーションという制度は日本にはございませんし,逆に被告から起こしてもらえば足りるという指摘もありましたが,それはまたそれで全く違う話でございますので,この原告が原告の住所で訴訟を起こすという場合で,被告がいいと言っている場合であれば,できるように,何らかの手当をする必要は絶対にあると思っています。   今申し上げたようなことがあるせいか,これまでの実務も被告の方で日本で裁判をしていいと言っている場合には,管轄権を認めていることもあり,それは実務的に妥当な結果だと思っておりまして,それとの連続性の観点からも,特に否定する理由があるとは思われない中,やめてしまうというのは,余りにも実務の要請から外れていると思います。 ○山本(克)委員 おっしゃるような規律が妥当するのは人事訴訟一般なのでしょうか,それとも離婚に限られる,あるいは離縁もかも知れませんがが,そういうふうに和解による解決が可能な事件に限られるのでしょうか。どちらをお考えなのでしょうしょうか。 ○池田委員 そうでないものというと,例えばどういうものを想定されていますか。 ○山本(克)委員 婚姻取消しの訴え,婚姻無効の訴えとかです。 ○池田委員 その場合に,婚姻取消しの訴えについて,原告住所地でやることは駄目なんだという,その理由はどのようなものなのでしょうか。 ○山本(克)委員 管轄について当事者が任意に決めることができるかどうかは,結局,その審判対象の処分権の問題と普通は連動して考えてきたわけですよね。それとの関係ということです。 ○池田委員 私は,基本的には,被告の応訴の負担というのがコアの出発点なので,元々の日本の人訴でも原告又は被告の普通裁判籍という規律があったわけで,それが外国の場合には,より被告の応訴の負担に重きを置いてということが出発点だとしますと,潜在的に原告の住所という選択肢があり得ることを前提として,被告がオーケーすればよいのではないかと考えている部分はございます。 ○山本(克)委員 結局,専属管轄性との関係をどう捉えるかということで,応訴の負担だけの問題ではないのではないでしょうか。現在は日本法の専属管轄はぐちゃぐちゃになってはいますが,一応,専属管轄性が外れる理由として,被告がいいと言えば外れるというのであれば,人訴だけではなく,あらゆる場面について,被告がオーケーですよと言えば,専属管轄性というのは全部外せることになりかねないので,そこを心配しているのです。 ○池田委員 原告住所で,被告がいいという場合であれば,全部外した場合に,それほど問題があるとは思いませんけれども。 ○山本(克)委員 いや,でも人訴以外のほかのコンテクストでは,被告がいいということでは専属管轄性は外れてないですよね。 ○池田委員 人訴でない場合ですか。 ○山本(克)委員 はい。 ○池田委員 ここでは人訴の枠組みの中で議論すれば足りるのではないでしょうか。 ○山本(克)委員 それは,そうはいかないのではないかなという気がしますが。 ○高田部会長 いかがでしょうか。 ○畑委員 少数であることは自覚しておりますが,理屈の上では,先ほど,池田委員がおっしゃったように,原告の住所地ということで,関連性という意味では被告住所地と同様にあるということを前提に,被告側の同意をてこに専属性を緩和するということは,それほどおかしくないような気が個人的にはしております。   実務的なニーズのことはよく分からないのですが,被告の居所だけが日本にあるのをつかまえるとかいうことよりは,正当なニーズがそれなりにあるのではないかと推測しております。 ○高田部会長 念のためですが,対象となる事件は人事訴訟事件に限られないという御趣旨でしょうか。 ○畑委員 限らないという趣旨です。 ○和波幹事 理屈の問題としては,先ほど山本克己委員がおっしゃったところも,そのとおりだと思いまして,部会資料にも書いてあるとおり,国内でなぜそれが認められていないのかという根拠は,国際の場面でも同じように妥当するのではないかと思います。   さらに,実務の感覚から申し上げると,先ほどから申し上げているところですが,やはり裁判所としては,その裁判の手続というのがどれだけ迅速,円滑にできるかというところを考えるわけでございますが,この被告の同意というものをどのように取っていくのか,その同意の有効性等をどうやって判断していくのか,そういった点についてどうしても入口である管轄のところで時間が掛かってしまうという不安が残ることからすると,国際的な要素を有する訴えの場面であえてこの同意というものを入れておくという必要性は,裁判所の側としては,なかなかないのではないかと思っております。 ○池田委員 国内で認められてないというのは,国内管轄は原告,被告両方の普通裁判籍ですから,認められていると言うべきではないでしょうか。   これは一般の合意管轄の話ではなくて,原告の住所で認める場合が,被告が同意した場合にはあるという,そういう視点で見ていただければと思っています。 ○竹下幹事 調停から引き続くような形で行われる場合については,個人的にはこの同意というもので認めてもよいのではないかと考えています。すなわち調停のところで同意による管轄というのが恐らく認められるのではないかと思われるのですが,手続面は民事訴訟法の専門の委員の方にお任せしますが,調停から引き続いて,そのまま両当事者が裁判で行うことについて特段異論がないということであれば,認めてもよいのではないかと考えているところです。調停との平仄という観点から,その限りで認めてもよいのではないかという意見です。 ○近江関係官 今の竹下幹事の御指摘ですけれども,調停の場合であれば合意による解決ですので問題は少ないのですが,訴訟になれば当然,法廷地の変動は準拠法の変動を伴い得るということになりますが,調停の場合から引き続いている場合は,準拠法が変動し得ることも構わないという御趣旨の御意見でしょうか。 ○竹下幹事 基本的に構わないという前提です。本当に双方当事者が日本でやることについて,異論がないという前提ですけれども。 ○内野幹事 種々御意見出てきておりますが,元々その審判対象の任意的な処分性ということとの関連も,やはり理論的には考えなければいけないんだろうというところは感じておりまして,また,これまでの部会の議論の推移を考えれば,基本的には消極の方向になろうかと思っておりますが,そういう形で基本的な取りまとめの案を作らせていただきまして,また全体の評価を頂くということで,今日のところは次の論点に進行させていただきたいと事務局として思っています。 ○池田委員 1点だけですが,手続上の問題がかねがね言われておりますが,今日お配りしております日弁連の意見で,5ページ以下に一応の試案のようなことも書いてございますので,そこも後で御覧いただければと思います。 ○高田部会長 ありがとうございます。   では,人事訴訟については,これでひとまず一通り御議論いただきましたが,今までの点で何か全体を見通して補充したいという点があれば承りますがいかがでしょうか。   では,よろしければ家事事件の方に移りまして,「死後離縁を目的とする審判事件の国際裁判管轄」について,御説明いただきます。 ○内野幹事 既に離縁の訴えの場面で,当事者の共通国籍を管轄原因とすべきであるという提案があったことを踏まえ,「死後離縁を目的とする審判事件の国際裁判管轄」につきましても,その対象となる縁組の当事者,一方は生存していて,他方は死亡しているという状況ですが,その双方ともが日本の国籍を有しているのであれば,国籍管轄を肯定すべきではないかという御議論がありました。   この部分については,必ずしも明確な御議論がなかったものですから,改めて方向性について確認をしたいと思います。 ○高田部会長 いかがでしょうか。   死後離縁という単位事件類型自体も御議論いただきましたし,国籍管轄についても御議論いただきましたが,議論がここまで来ましたので,全体のバランスとして,ここにも国籍要件を入れるということになるのではないかという確認かと思いますが,審判事件であるということから国籍要件を外した方がよいといった御異論があれば,承りたいと思います。 ○和波幹事 審判事件だから特別だというつもりはございませんので,基本的には訴えのときの管轄の議論とそろえていただくということかと思っております。 ○高田部会長 では,その方向で,たたき台を作っていただくことにして,お願いしたいと思います。   では,続いて,「3 相続に関する審判事件の国際裁判管轄」について,御説明いただきます。 ○内野幹事 相続に関する審判事件につきましては,財産所在地管轄を認めるか,この部分が一つの大きな論点として残っており,改めて取り上げます。   これまでの議論の中身について,改めて御紹介することは避けますが,肯定するということになりますと,元々被相続人の住所地等を管轄原因として認めるという点は御異論がないという状況ですので,これと並行する国際裁判管轄を肯定するかどうかという議論になります。そして,財産所在地管轄と認める対象事件について,これまでの議論としては,相続に関する事件,すなわち,被相続人の住所地等で管轄を肯定する事件と同じ事件について,財産所在地による管轄を認めることを考えていました。この部分については,間接管轄まで念頭に置いた上で検討すべきと考えていますが,部会資料に書かせていただきましたように,仮にこれを否定するとした場合に,この被相続人の住所地等で管轄を取る場面を狭いと見るのか広いと見るのかといった評価にも関わることかと思っています。   仮に財産所在地管轄を肯定することになると,これをどのように限定するかという議論もあります。大きく議論が分かれているところですので,併せて御検討していただいた上で,財産所在地管轄を認めるかどうかについて,一定の方向性が出ればよいと思っています。   仮に,財産所在地管轄を肯定する場合の限定の仕方も含めて,取りまとめの方向性が出せないということですと,国際裁判管轄として肯定することについて疑問があり見解の一致が得られないという結論になりかねず,そうなるとすると,この段階で財産所在地管轄を認めることにするのは困難ではないかという結論になり得るのではないかと考えております。 ○高田部会長 では,財産所在地管轄について,御意見を承りたいと思います。いかがでしょうか。 ○山本(和)委員 部会資料の3ページに書かれてある「必ずしも管轄権が認められる場面が狭すぎることはない」と,財産所在地管轄を認めなくてもとよいというところで,括弧内で「日本に管轄権が認められない具体的な場面としては,日本に一度も居住したことがないが」,財産を有する者で合意管轄が認められない場面と書かれていますけれども,主としてこれまで念頭に置かれていたのは,日本人がオーストラリアに移住した,しかし,財産は日本に多くあり,相続人も日本にいるけれども,合意管轄ができない場合で,日本に一度も居住したことがないというような場面は余り念頭に置かれてなかったように思うのですが。 ○内野幹事 ここはミスリーディングです。 ○山本(弘)委員 そうすると,「狭すぎることはない」という評価にはなりにくいような気もします。 ○内野幹事 申し上げたかったことは,①の管轄原因との関係を踏まえて財産所在地管轄を認めるべきかどうか,つまり,財産所在地を認めますと間接管轄を認めるとことになりますので,どのような事件を念頭に置くかというところにもよりますけれども,例えば,遺産分割も入っているわけで,理論的には内容において審判効が抵触する場面があり得ると考えられるわけです。論理的ないしは抽象的に危険性があるから財産所在地管轄を認めないという方向でいくのか,それとも,具体的な提案があるわけではありませんが,何らかの調整原理があり得て,法律関係に混乱を生ずることを恐れなくてよいのか,この点を決める必要がある,ということです。 ○池田委員 今おっしゃった後者の方,つまり間接管轄等の御懸念というのは,理論的にはもちろんあると思いますけれども,実務的なことを考えると,できないということの方が非常に困ります。日本で財産があるから全ての遺産についてやるのかどうかといったことも,いろいろな事情によって決まってくる場面があり得ると思いますので,例えば,順番として被相続人の最後の住所地等が優先するけれども,そこでできなくて,しかし日本に財産があるということであれば,日本で,それも全部日本でやった方ができるということであれば日本で優先してするということもあり得ると思うんですね。外国でやった場合には何か欠陥があって困るという場合に,日本でできるという場合もあり得るということで,実務的に直接管轄で困ることがないように作るべきだと考えます。   間接管轄等で何らかの支障が出ることについては,実際には実務的に妥当な解決が得られる場合が多いと思われますのと,そちらの方の心配よりは現実の方の心配を先にしていただきたいという希望がございます。 ○高田部会長 確認ですが,被相続人の住所地では全体についてできない,かつ日本で全体ができるという場合に限定するという御趣旨ですか。 ○池田委員 そこをかっちり決めてしまうと,困ったことになるのではないかという懸念です。 ○高田部会長 分かりました。 ○山本(克)委員 そこを決めないと承認の問題は処理できないので,まずいのではないでしょうか。つまり,財産所在地管轄が普及主義的に全部やれると決めておけば,海外でやられてしまったら,それは日本で承認せざるを得なくなるし,属地的にその国にある財産しか扱えないということになれば,海外でも当該国の分でだけ承認するということになりますので,そこを決めておかないと承認の規律が取れないのではないでしょうか。実務的に適当な方向で,とすると,承認も実務的に適当な範囲で承認するという,承認ではない理屈になってしまいますよね。ですから,お気持ちは分かるのですけれども,そこは直接管轄だけを考えていただくのではなく,間接管轄のことも視野に入れた形で議論していただかないと,非常に難しい問題が生ずるのではないのかなという気がします。 ○池田委員 簡単に決められるのであれば,それもあり得るかなと思いますけれども,多分,それほど簡単には限定できないのではないか,いろいろな変則的場合があり得るのではないかと思われるわけです。例えば,その国において全ての財産についてはできなかった場合,というような定めをするべきだというお考えでいらっしゃいますか。 ○山本(克)委員 日本で財産所在地の管轄を仮に認めて,遺産分割で分割の審判の対象は日本国内のものに限定するのか,それとも世界中にある財産についてやるのか,二者択一だと私は思うのですが,その二者択一ではないというお考え,そもそもあってはならないというお考えが前提なのでしょうか。 ○池田委員 二者択一について,要するに,被相続人の相続開始時の住所である別の国で全部の財産について対象にできて,ただ日本の財産だけができないというのであれば日本に限定すればいいわけです。しかし,それは必ずしも明らかではなくて,その被相続人の住所地の法制ではそこの国の不動産しかできないというふうになっていると,第三国における不動産について遺産分割ができないということもあるかもしれなくて,そのときに日本だけに限定してしまうと困ったことになるといった,いろいろな事例が考えられるのではないかと思うので,それらを全てカバーするような書き方をするのであれば,異議はございません。 ○山本(克)委員 多分,アメリカ的な属地的な遺産分割を前提に前も議論されていたので,そういうふうにおっしゃっているのだと思います。それは私は緊急管轄で拾うべきだと思っており,それを一般ルールとしての前提として議論するのが納得できず,違和感をずっと感じているのです。   どの範囲の財産に効力が及ぶかという点は,最後の住所地に代わる緊急管轄としてやるのであれば全部に及び,財産所在地管轄だったらそれは財産所在地の当該国にある財産の限りで,というのが筋のような気もしますけれども,財産所在地であっても全部やれるという立場もあると思います。あるのだけれども,あるのだったら,それは,外国でやられたらそれは承認します,文句は言えませんということまで含んでいるということまで御承認いただいた上で,御議論しておられるのかどうかということをお伺いしたいのです。 ○道垣内委員 破産事件については,直接管轄は財産所在地管轄があり,承認のときは財産所有地管轄を外していますよね。そういう内外で違うという扱いは不可能ではなく,事案の状況としては類似性も相当あると思うのですが,ただ,破産と同じようにやれということになると大変な仕組みですよね。ですから,本来は大掛かりなことをしないと,あらゆる事件についてうまく調整するというのはできないと思うので,それを緊急管轄でいくのか,あるいは逆にそのまま認めておいて,特別の事情による却下で制限するのか,結局同じ,その考え方自体は破産法と同じようにするとすれば,どちらでも同じではないかなと思います。 ○山本(和)委員 道垣内委員と同じですが,どちらでも同じことなのだったら,私は先ほど申し上げたように,緊急管轄は入らないということになりそうですので,そういうことであるとすれば,管轄は相対的に広く取って,特別の事情による却下で調整するということなのかなと思います。遺産分割が主として念頭に置かれていますが,今回のこの提案だとその区別はしないということなので,相続財産管理あるいは保存といったような事件も対象になることになります。私は,そのような事件についてはやはり財産所在地管轄を認めるべきなのではないかなと思っていて,財産があるところで,裁判所がその管理人を選んで,その管理人の監督もしていくというのがやはり筋で,外国の財産まで管理するということが本当によいのかと思います。遺産分割とそれ以外を分けるというのは一つの考え方かもしれませんが,そうでなくて全体をやるのだったらば,管轄を広く取って特別の事情による却下で調整するということなのかなと思います。 ○山本(克)委員 私が先ほど財産所在地管轄は属地的な管轄として扱うべきだと言ったのは,正にそういう場合を念頭に置いていました。つまり,相続財産管理との関係では管理者の権限は国内だけというのは十分あり得る法制ですので,そういう場合はそうだと思うのですが,遺産分割に限って申しますと,遺産分割を複数の場所でやり得るということについて,大きな違和感を持っているということで,少なくとも日本人の考える遺産分割は,1か所でしかできないものだと私は思っていますので,それをばらばらに適当に分けてやれるということがそもそもおかしいのではないか。だから緊急管轄で拾わないといけないような例外的な場合に限ってやれるという程度でよいのではないのかということなのです。相続全般については,今,山本和彦委員のおっしゃったことに何の異論もございません。 ○和波幹事 遺産分割については,今,山本克己委員がおっしゃったとおりだと我々も考えておりまして,基本的には遺産分割というのは,相続統一主義のことを考えますと1か所で全ての財産について行うべきであり,そういう意味では管轄原因を複数認めるのは相当ではないと考えております。そうすると,分割漏れがあったような場合には,緊急管轄で例外的に拾うこととし,それ以外の場合には,基本的には一つの管轄原因で全ての財産について判断をするというのが相当だろうと思っております。   管理系の事件についてですが,相続という概念の中で,いわゆる純粋な管理系の事件がどれだけあるのかということだと思います。相続財産管理人は,名前は管理人ですけれども,実質的には相続財産の清算になりますので,これはむしろ1か所で全ての財産について清算を行う,すなわち,相続人の捜索から始まって,その遺産をどのように分割するか,それができない場合には,最終的には国庫帰属ということまで考えなければいけないとなると,これは,いわゆる管理系,不在者財産管理とは全然違う性格のものと思います。   そのように考えていくと,結局,相続の中で財産所在地管轄を認めて管理をしなければいけない事件がどれだけあるのかということになりまして,むしろ一つの管轄原因に基づいて1か所で全ての相続について処理をするというのが相当ではないかと思っているところです。 ○山本(弘)委員 私は最初イメージしていたのは,今,和波幹事がおっしゃったように,相続財産の清算を伴うような事件については,国際倒産の管轄のルールがモデルになるだろうと考えていたのですが,今日の部会資料には,そういう事件類型で財産所在地管轄を設ける事件類型とそうでないのを分けることは困難であるというのが多数の方向であるという趣旨のことが書かれていますので,それは駄目なのかと思いました。もしそうだとすると,遺産分割については先ほど山本克己委員が言われたとおりで,遺産分割は1か所でやるべきだと思っていますので,遺産分割に限って財産所在地管轄を残すということにはむしろものすごい違和感があります。 ○高田部会長 その点ですが,従前より議論されていた,今日も山本和彦委員が最初に言われたところですが,リタイアされた日本人が単身でオーストラリアで老後生活を送っている,めぼしい財産は全て日本に残しておられる,相続人も日本である,日本で遺産分割をするのが望ましい,むしろオーストラリアで遺産分割をやってもらえるのかどうか分からない,という事例があり得ることを,かなり早い段階で御指摘いただきましたが,そうした事案につきましては,山本克己委員は,それは緊急管轄で救えばよいということであり,山本和彦委員は,先ほどの話ですと,一応カバーしておいて,それ以外の場合は特別の事情による却下で切るという選択肢もあるのではないかということでしたが,相続統一主義の下でも,被相続人の最後の住所地以外の要因に着目して,日本で分割する事件があるのではないかという議論については,緊急管轄による処理でよいというのが皆さんの御意見ということでしょうか。 ○池田委員 実務の観点からいけば,最終的に何かできるならばよいとは思うものの,これが緊急管轄でよいというのは,日本の遺産分割についての考え方,1か所で全部やるという日本の考え方がベースにあるからであると思います。英米等では分けてやっているというのが普通で,英米法的な分け方というのは全然違うわけです。その意味ではしょっちゅう起こり得ると思われるのだけれども,それを極めて例外的に行うという緊急管轄にするというところだけ私としてはやや心配をしております。何となく緊急管轄がしょっちゅう起こり得るというのは,一般にこれまで言われてきた緊急管轄とはちょっと違わないのかなという,そこだけです。 ○山本(克)委員 それは,先ほどアラブ首長国連邦の話をされたと思いますが,イスラム圏のごく一部の国だからめったに問題にならないけれども,英米法的な相続法制をプロベートコートからいろいろとやるという法制を採っている国が多数あるという,そういう違いだけです。それによって緊急管轄の適用範囲が変わっても,それは何ら私は違和感はないですけれども,たまたま日本で遺産分割だと考えているものと違う考え方を採っている国がたくさんあるだけだと,それだけでよいのではないでしょうか。 ○和波幹事 私も山本克己委員と同じような印象を持っておりまして,緊急管轄というのは,実際にその権利実現ができないときに,それでしか救済できないという意味でのやはり緊急管轄であって,その事例が多いか少ないかということとは必ずしもリンクしないのではないかと思っております。   その意味で,外国でその処理ができないという場合には,日本でしか処理ができないわけですので,そういう観点から緊急管轄が出てくるのは,私自身はそれほど違和感がありません。 ○山本(弘)委員 私も全くの同感で,要するに相続全般について属地主義を採っている国があれば,例えばイギリスなら,それはイギリスの裁判所が選任した相続財産管理人は,日本の財産には手が出せないわけですから,そうだとしたら,それは日本で何とかしなければいけないというのは当然のことで,それが正に緊急管轄なのです。それはイギリスの事件がたくさん起きますということとは関係がないことだろうと思っています。そうでないと,我が国にある財産について我が国にいる債権者や相続人は手が出せず,彼らの権利が実現できないわけですよ。そのときに正に物を言うのが緊急管轄なわけです。 ○大谷幹事 今しきりに緊急管轄で救えばいいという話があって,私も最終的にはできればよいと思っているのですけれども,そうであれば,緊急管轄の規定は是非明文で置いていただきたいということだけ申し上げます。 ○高田部会長 ありがとうございます。   以上,今の点は,そういうことのようでございますが,もう1点は,前回,【甲B案】,相続事件をなお事件類型に応じて分類して検討するという案は,余り支持が得られなかったと理解しております。そうしますと,先ほど出てまいりました財産管理系ですか,相続人の不存在等も含めてですが,そうしたものについて,財産所在地管轄を認める必要性がある事件があるのではないか,それをどう拾うかという問題がなお残っているようにも思いますが,その点についてはいかがでしょうか。この時点で【甲B案】を復活させるという選択肢もないわけではありませんが,遺産分割とは一応別個に考えられる事件が存在しないかどうか,かつ,財産所在地管轄になじむ事件があるのではないかという御指摘を頂いたと理解しておりますが。 ○山本(克)委員 先ほど和波幹事がおっしゃった相続人不存在の場合の相続財産管理人というのは,正に全体財産の清算を対象とするべきものだと思いますので,私の立場からは,それは財産所在地管轄とはなじまないとならざるを得ないと思います。ただ,そうではなくて,トランジットな,一時的な保存のための相続財産管理制度というのも多数あるわけですので,そういう場合については財産,外国法制がどうなっているのかということを抜きに議論するのはなかなか難しいところはありますが,少なくとも日本人の被相続人が海外で死亡したという場合について,そういうトランジットな保存のための相続財産管理というのは,属地的に日本で行われるということは,それは不在者の財産管理と似たようなものとして考え得るのではないのかなという気がします。 ○高田部会長 その場合,規定の規律の仕方はどうするのがよいということでしょうか。 ○山本(克)委員 それは知恵を絞ってください。 ○山本(和)委員 日本法でも,相続財産の保存に必要な処分その他,今,山本克己委員の言葉で言えばトランジットなものは認められて,それは諸外国でも十分ありそうな感じがして,それが財産所在地でできないというのは,かなり不便な感じもするということです。 ○高田部会長 いかがでしょうか。   選択肢としては,大きく特別の事情に期待して一応覆っておくという選択肢と,前回消極的な御意見を頂いた【甲B案】のように,事件をくくり分ける,山本和彦委員の御発言ですと財産の保存に関する事件を改めて括り直すという試みをする,という二つの選択肢がありますが,お二方の意見としては,やはり事件類型を再び括り分けるということになるのでしょうか。 ○山本(克)委員 そうですね。どれが別表の第一で,どれがそれに当たるのかというのを見極める作業は全然していませんが,そこを是非事務局に一度やっていただくとよいと思います。 ○高田部会長 大きくカバーして,特別の事情に期待するというのは,やはり適切ではないということでしょうか。 ○山本(克)委員 私は,やはり遺産分割と遺産分割以外とで分けるという選択肢はあると思いますが。 ○高田部会長 ありがとうございます。その点,何かいいお知恵があれば,承りたいと思います。 ○山本(克)委員 相続放棄の申述受理とか放棄の申述受理については,私は一元化した方がいいと思いますので,その他の相続事件とするのはまずいと今思い直しました。 ○高田部会長 ありがとうございます。事務局になお何ができるか検討していただくということで,そのほかに相続関係事件について御意見があれば承りたいと思いますが,よろしゅうございますか。 ○山本(弘)委員 これは,後の方で問題となる事柄と連関しているわけですが,先ほど来,山本和彦委員や山本克己委員がおっしゃっていることは,結局財産の保全の問題,要するに保全処分の問題なのではないかなという気がします。本案の管轄の問題として処理するよりも,例えば外国で本案の相続に関する事件が係属していて日本にある財産が危機的な状況にあるという場合に,日本で保全処分としてどういうことができるかというような問題として議論した方がよいのではないかなというのが何となく頭の中にあるのですが,しかし保全処分がどうもこういう状態なので,やはり本案の管轄の問題として処理をせざるを得ないのだとすれば,ますます,事件類型での選別というのをやらざるを得ないのかなと,そういう感触でおります。 ○高田部会長 では,今日頂いた御意見を踏まえて,なお事務局に検討していただきたいと思います。   では,よろしければ先に進めさせていただきたいと思います。   続きまして,「併合請求(附帯処分等)」について御説明いただきます。 ○内野幹事 附帯処分等の議論です。   今回の部会資料で書かせていただいて,この場で確認いただきたい部分といいますのは,これまで,日本の法制をある程度参照して,親権者の指定という部分についてのみ,この離婚の訴え又は婚姻の取消しの訴えと併せてされる場面について管轄権があるということで考えてきました。これは中間試案の提案だったわけですが,その一方で,それは日本の民法に依拠しすぎているのではないかという御意見もあり,一つの国際裁判管轄の在り方としては,いわゆる子の監護に関する処分,こういうものも含めて併せてされる場合には,管轄権が一定の場合に日本の裁判所に認められるのではないか,そういう法制もあり得るのではないか,というご意見が部会では多くの支持を集めてきたというところがありました。   他に具体的な議論としては,そうはいっても子の利益にかなわない,子の利益に反するといった場合をどのように調整していくのかという論点が残っております。そこで,あえて書かせていただいたものが4ページ以下の別案というものですが,こういった要件として書いていくような規律もあり得ますが,むしろそうではなくて大きく管轄権があるとした上で,個別の事件の調整というのは,特別事情による却下に考慮事情として子の利益を考慮するということを明示し,それによる調整に委ねるという方向もあるのではないか,こういったところが一つの確認すべき事項かと考えております。   事務局としては,事案に応じた柔軟な配慮ができるという点を踏まえ,また,こういった一つの婚姻関係にある当事者が別れていく場面において,子がいるというときに,その子に関する親権でありましたり,子の監護の処分というものでありましたり,こういった部分についてコミットすることがむしろ子の利益にかなうというのが原則だという評価もあり得るのではないかということも併せ考え,広く3ページに書いてあるような案で管轄権があるということを基本的な態度としつつ,特別事情による却下によって調整するというのも十分あり得る考え方なのではないかと考えているところです。これは前回の部会でも先生方から一部御意見賜ったアイデアではあります。   したがいまして,別案というような方向性もありますけれども,広くまず管轄権を採っていくというような在り方が一つの採用すべき方向性としてあり得るのかということについて検討していただきたいと思います。 ○高田部会長 前回の議論を踏まえますと,このように整理できるのではないかということかと存じます。改めてどのような方向で規律を試みるか,お諮りしたいと存じます。 ○池田委員 必ずしもきちんと理解できておりませんのですが,これはこの規定がないと困るという政策的な考えが入っているということなのですか。 ○内野幹事 いわゆる必要的な処分,例えば離婚の訴えで離婚の判決をするときに必要的な処分として一定のこういった附帯的な親権者の指定,日本ではそういうことになりますけれども,そういった部分については規定がなくても対応できるという考え方というのは,この部会でも披露されていたところだったかと思います。   ただ,部会の議論からすれば,こういった併せてされる場面での管轄権という部分について,それが観念できる場面があるのではないかという考え方もあり,そうだとすれば,こういった規定を置いておくのが実務上の対応も含めて,むしろ適切ではないかと,これが部会の中で示されてきた見解でありました。   そういう意味で,こういう規定を設けておくということの意味はあるということが今日までの部会の到達点ではないかと思っております。 ○池田委員 前々から思っていたものの,議論が進んでいく中では申し上げにくかったのですけれども,私自身は必要性に疑問を感じております。 ○高田部会長 この条項がない場合にも,できるという御主張なのでしょうか,それとも認めるべきではないという御主張ですか。 ○池田委員 認める必要はないと思っています。 ○高田部会長 はい,分かりました。 ○道垣内委員 私は全く逆ですが,この部会の冒頭のときから申し上げているように,財産事件ではともかく,家族関係の事件については,その手続的正義よりも実体的正義が大切で,日本の裁判所を信頼すれば変なことにはならないはずだと考えられますので,広目にざっくり管轄権を認めて,どうしても変だというときは特別の事情で却下するということがいいと思います。ですので,本案でよいということになります。 ○大谷幹事 元々は私は不要論でした。この規律は,結局子が日本にいない場合を念頭に置いているわけですよね。そこは共通認識として議論しないといけないと思うのですけれども,抽象的に離婚のときに子のことを決めた方がいいかどうかという話ではなくて,子が日本にいない,つまり子の監護の管轄原因で認められない場合に,離婚に引きずって管轄権を認めるかという議論をしてきたと思っています。   それから,もう一つは,先ほど御説明の中であった,離婚のときに子のことを決めることが子の利益にかなわないという考え方は一般的にないのではないかという趣旨のことをおっしゃられたと思うのですが,それは抽象的に言ってしまうとそうなのですけれども,ただ,指摘しておきたいことが2点ありまして,これも前から申し上げているとおりで,今世界的に共同親権,共同監護が潮流になってきている中で,日本法が適用されるとしてですけれども,日本流の単独親権,つまり離婚後はどちらかの親だけが100%親権を持つという形で整理をするということを離婚時に決めるという感覚の離婚後の子の在り方を決めるというのと,共同親権,共同監護の法制において,離婚のときに離婚後の両親の関わり方を共同養育計画を出しなさいと,そのときには親権,監護権の帰属だけではなくて,その配分方法,面会交流の在り方,頻度,それから養育費,全てをセットで出しなさいという形で,そこまで面倒を見て,離婚後の子の在り方について,そのとき決めることが必要と言っている国の考え方とでは,相当違うと思うのです。そこのことは,やはり念頭に置いて議論しないといけないと考えます。   そのことが今日の部会資料の下線の部分に関係があるのですけれども,前から申し上げていたように,日本的には離婚のときに親権者をどちらかに一方にそろえてしまうということを子の利益と思っていると思うのですけれども,そこは諸外国では違うので,子の親権を決めるときには面会交流も決めなくてはいけないと,要するに養育計画という形で出さなければいけないという法制の国があると,そうすると,そういう準拠法が適用される場合には,結局子がいなくても,そこまでをやりなさいということになるとか,その辺りの議論が十分でないまま,やはり日本の実体法的発想でこの規定を元々作られていたように思って,非常に問題を感じていました。   そういう意味では,今日の下線のところで確かに広げてくださっているようには思うのですけれども,その解決が正しいのかどうか,なお私としては疑問があります。   それから,今日の部会資料に書かれている別の案,子の利益を書き込むという考え方ですけれども,これも子の利益の捉え方が日本と諸外国とでかなり違いますので,離婚のときにおけるその後の子の在り方を決めるということについての子の利益をどう考えるのかという中身の議論が非常に難しく,その争いが管轄の有無に入ってくるので,私は今日の御提案の中で言いますと,子の利益を書き込むというのは難しい,そこでまた管轄の争いが始まってしまうなという感じを受けましたので,もし置くのであれば,やはり特別事情による却下で切るしかないのかなというのが今日頂いた案についての意見です。 ○高田部会長 ありがとうございます。   大谷幹事は,今日は特別の事情による却下で切るということでやむを得ないということですが,従前のお考えですと,別案②のような考え方も大谷幹事の御意見から出てくる余地はあるような気もいたしますが,この辺りも含めていかがでしょうか。 ○大谷幹事 そのとおりです。多分その別案②というのは,前に私が部会で発言したことも酌んでくださったのだなと思いました。その考え方自体は変わっていないんです。こういう規定を置くのであれば,子の利益の観点で切るべき場合があるという点は変わっていなくて,ただ,法制の問題として子の利益ということを文言に入れてしまったときの難しさという意味で,やはり特別事情による却下によって切っていくということに,規定としては戻らざるを得ないかなという意味です。 ○高田部会長 ありがとうございます。子の利益という表現の問題点は,前回も御指摘いただいたところでして,それを踏まえて本案,部会資料3ページの案ができているのではないかとも存じますが,その辺りも含めていかがでしょうか。 ○村上幹事 私は別案の②の考え方を支持していたのですが,確かに今いろいろな方がおっしゃられたように,子の利益の判断というのがすごく難しくなるというのは分かるのですが,それは取りあえず置いておいて,少しずるいですが,それは置いておいて,附帯処分であっても,つまり子がいないで判断しても,それができるだけ外国で承認されやすくするためには,やはり積極的要件として挙げた方がいいのではないかと考えています。   特別の事情による却下ですとか消極的要件にすると,管轄を認めない方向になるので,承認の問題にいかないので,余り意味がないと言ったらあれですけれども,積極的要件にしてこそ承認のときに意味を持つのではないかなと思うので,別案を支持します。 ○山本(克)委員 私も村上幹事と同じように別案②の方がいいと思っているのですけれども,それは,つまり子が住所を有する国で承認されなかったときというのは一番困る話なので,そういうものが子の利益だと,承認される見込みがあるとかいうものをここに読み込んでいくというようなことで,別案②の方がよろしいのではないのかなという気がします。   一般的な今の国際的な潮流だと過剰管轄と見られる可能性が極めて高いわけですので,その点はちょっと配慮をして,日本もきちんと配慮していますよということを明らかにするという意味もありますし,実質的にはやはり子の住所地国で承認してもらえるということが担保がない限りは,やはりやるべきではないと思います。ただ,私は,前から言っていますように,準拠法上必要的な処分は別物だというのが私の立場ですけれども,その場合はやむを得ないところだと考えています。 ○大谷幹事 今,子の利益のことが子の住所地国で承認されるかどうかという懸念と結び付いて議論されているというのをちょっと伺ったので,その点だけなのですが,これもまた実務上の感覚と経験を申し上げて大変恐縮なのですが,恐らくですが,子の住所地国は子の住所地国として管轄を行使します。それで,日本の裁判所がした決定については,宙に浮いてしまうことになります。今までの経験から言いましても,子の住所がある国から見て,子がいない国の裁判所が管轄権を行使してやったものについて,やはりそれはなかなか受け入れて承認するというよりは,むしろ当事者はやはり子の住所地国として,また別途裁判を起こすということで紛争がむしろ続く,どちらかというとやはり子の住所地国での管轄権を尊重して,そちらに合わせていくという形でない限り,なかなか紛争は終息しないというのが今まで現実に経験しているところですので,なかなか日本が管轄原因として子の利益を配慮して管轄を置いているよと,そういう国として管轄権を行使したのだからという理屈で受け入れていただけるという見込みというのは余り感じませんので,子の住所地国で承認されやすくするということが理由でしたら,余りそこは私は結び付いていないように思います。 ○和波幹事 私も今,大谷幹事がおっしゃったことと同じような印象を持っていまして,この規定を入れることによって承認が本当に担保されるのかというと,そこは必ずしもそうではないという印象がございます。むしろ手続上と書くかどうかは別にしまして,子の利益について管轄で争いになると,その利益がどういうものか必ずしも明確ではないという方が,審理をする側の負担としては大きくなるのではないかという懸念を持っております。 ○山本(克)委員 そうすると,何のために管轄を認めるのかという問題は和波幹事はどうお考えになっているのでしょうか。肝心なところでは承認されない裁判をわざわざ日本がそれなりの労力を掛けてやるということについて,どのように考えるのでしょうか。 ○和波幹事 そこは,日本の法制が一定程度併合的に裁判をすることを認めているということについて,当事者がそれをやりたいと言ったときの手続的な保障をしておくということではないかと理解しておりまして,やはり原告の側で離婚と併せて,こういったものについて判断をしてほしいという場合に,それを国際裁判管轄がないからということで切るのは,国内の法制の整合性として疑問ではないかというところが一番大きな理由かと思っております。 ○池田委員 相手方が,それは一緒にやってもらっては困るということを激しく争ったような場合にも,やるようなイメージということなんでしょうか。 ○和波幹事 少なくとも国際裁判管轄として,それが存在しないという形での却下はないだろうという趣旨です。 ○山本(克)委員 しかし,一般的には,国際裁判管轄があることについて,国内管轄を認めているという順序になるのではないのですか。 ○和波幹事 理論的には,おっしゃるとおりだと思います。 ○山本(克)委員 だから,今の和波幹事のおっしゃった理屈からは,きちんと子が日本に住所を有しているときには併合できますよということになりそうな気がするのですけれども。 ○和波幹事 どこの範囲まで附帯処分としての管轄を広げるかという論点はあるとは思っているのですが,我々の立場からすると,管轄の段階で準拠法の内容は見ないということがありますので,最低限,そこのところについては管轄という形で広げておく必要はあるだろうとは思います。それに加えて,先ほどの繰り返しになりますが,国内管轄としては子の住所ということではなく,離婚に付随する事件として処理をするという価値判断があるとするならば,国際裁判管轄においても,そこは同様に当てはまるのではないかということに,説明としては尽きるかと思っております。 ○道垣内委員 今言われたことかもしれませんけれども,国際裁判管轄を考えるときに,承認されるのかということは,考えないわけではないですけれども,正義は国によっていろいろなので,それを細かく全て考えては切りがないのが国際私法,国際民訴の世界です。日本として共にやるべきだという判断をすれば,実効性はその先の話ですので,それは裁判をすればいい話で,もし承認されないのであれば,もしまだ子が外国にいて裁判が必要であれば,もう一回そこでやればいいのではないかと思います。   もしここで承認されるか否かを考えるのであれば,ここ以外のいろいろなところでも承認されるかを考えなくてはいけなくなりますが,そうすると全体として外国法制次第ですというようなことになってしまうので,それは日本の立法としてはおかしなことになりかねないのではないかなと思います。 ○池田委員 この附帯処分等の部分が,何か当事者が望まないのについてきて,紛争がより大変になってしまうという要素もはらんでいるような気がしておりまして,特に入れてほしいという人が入れられるようにということなのですけれども,入れてほしくない人のところに無理に入ってきて解決が遅れてしまうというような要素もありまして,本当にこの規律があるべきなのかというのは,なお,やはり私は疑問です。 ○道垣内委員 親権者指定とか監護権者指定という申立てがないのに,あえてやるということではないですよね。 ○池田委員 申立人の申立てだけでやるわけですよね。 ○道垣内委員 申立てがあったときにやりますということです。その時に管轄がないですと言ってしまうと,それは,子の点は白紙のまま離婚だけ認めますということになりかねないので,それはかえって子にとってよくないのではないかというのが私の考えです。 ○西谷幹事 先ほど道垣内委員がおっしゃったように,我が国の管轄ルールを決める際に,外国での承認の有無というのは,決定的な要因とはならないと思います。また,現実にも,この点に関する外国の管轄ルールを見ましても,例えばドイツ法上は,離婚の管轄は端的に附帯処分にも及ぶと規定されていますので,日本の裁判が承認される可能性は高いように思います。   部会資料の案につきましては,私自身は別案の①がよいのではないかと思っております。たしかに子の利益をめぐって解釈が分かれる可能性はありますが,手続としてみたときには,紛争の一回的処理のため,基本的に離婚事件が係属している裁判所で,併せて親権者の指定,あるいは監護処分をすることに子の手続上の利益があると推定できるように思います。それがない場合には,例外的に管轄を否定するのがバランスのとれた解決であるように思います。   特別の事情による却下で処理するという方法もあり得ますが,実際には,特別の事情の考慮要素として,子の利益が重要なファクターになるように思います。そうであれば,むしろ正面から要件として書き込んだ方が,判断基準としてもより明確になるのではないかと思います。 ○山本(和)委員 西谷幹事に教えていただきたいんですが,外国における承認を考える場合に,当然自国の直接管轄との関係で承認というのを考えると思うのですけれども,諸外国の中で,この別案の①とか②みたいな形の管轄規定を持っている国というのは多いのでしょうか。 ○西谷幹事 このような管轄規定を持っている国は,多いとは言えないように思います。ただ,それを言い始めますと,離婚の管轄ルールの建て方も,かなり我が国特有のやり方ではありますので,外国に類似のルールがないこと自体は理由にならないかもしれません。 ○山本(弘)委員 私も同じことを国際私法の委員にお聞きしたいと思っていたのですが,正にこういう離婚裁判をやるところで,子の将来の監護者を誰にするかというようなことを併せて決めるというのは,諸外国においてもそれほど異色の制度ではないという御認識と理解してよろしいでしょうか。私は,むしろそれは子の住所地でやるのが当然のことだというのが世界の風潮なのではないかなと思っていたのですが,私は外国法制についてはあまり通じておりませんので,その辺りの相場がどんなものなのかということをちょっと教えていただきたいのですが。 ○山本(克)委員 あわせて,一点よろしいでしょうか。   協議離婚を認めていない法制においては,事実上の協議離婚に相当するものは裁判所の許可による離婚という形になっているわけですよね。ですから,そういう法制においては,先ほど大谷幹事が言われたように,その離婚後の監護の状態まできっちりと合意した上で,それで許可を出しますというのが離婚の裁判になるわけですよね。ですから,そういう法制の国でこのような規律を設けていたとしても,日本のように争訟的な離婚とはちょっと違うのではないのかなという気がしております。ドイツの離婚手続というのは完全に調停とか非訟とか訴訟とかが完全にハイブリッドになった手続ですよね。ですから,ドイツでこのような規律があるからというのは,ちょっと私は納得しかねるところがあります。 ○西谷幹事 外国法制を全部調べたわけではないのですけれども,ドイツの場合には,離婚事件で併せて親権者の指定ないし子の監護処分をするときには,当然に管轄を及ぼすという直接管轄の規定になっています。ドイツにおいては,EU以外の第三国との関係で,このルールが間接管轄にも妥当しますので,現在挙げられているどの案に従っても,日本の裁判は,ドイツで承認され得ることになるかと思います。   ただ,山本克己委員がおっしゃった点につきましては,日本の家庭裁判所でも,ドイツ法が離婚準拠法となれば,調停において当事者間で合意が成立しても,調停に代わる審判をするのが通常です。管轄ルールを決めるに当たって,必ずしも外国の事件と日本の争訟性のある事件との違いを考慮する必要はないように思われますが,いかがでしょうか。 ○山本(克)委員 争訟的な離婚事件,つまり離婚自体に争いがあるというような場合で,その附帯処分を併せてするという規律が本当にワークしているのかというのが,各国の制度がワークしているのかどうかというのが,もう一つよく分からないのです。取りあえずそういうときには離婚だけ決着を付けて,離婚が確定した後に子の監護については別途裁判するというのも合理的な選択肢なのかもしれないなと思っているということです。 ○山本(和)委員 私は前回,日本の裁判が外国で承認されるためにより有利になるのであれば,子の利益を独立の要件として設けるということも考えられるのではないか,ただ子の利益の判断というのは,かなり難しいものになると考えられるので,それは特別の事情の中で要素として考慮するという方が判断は柔軟になるのではないかという印象を申し上げたのですが,今伺った印象では,ドイツなど,こういう処分を同時にやるという国もあるというお話で,しかも,特に子の利益にかなうときに限りといった要件は必ずしも設けられていないとすれば,先ほどの大谷幹事のお話も含めて,別案を採ったからといって必ずしもそれで承認がより進むというわけでもなさそうであるというお話を伺いました。そうすると,道垣内委員の御意見と同じで,日本は日本の判断として,特別の事情がない限り,やはり同時に裁判をした方が私は子の利益に基本的にはなるのではないかと思っていますので,部会資料の本案と言っていいのかどうか分かりませんが,特別の事情による却下で対応するという案でいいのではないかという印象を持ちました。 ○山本(克)委員 西谷幹事に御質問したいのですが,ドイツの場合は,子の監護に関する処分というのは必要的な処分なのでしょうか,それとも申立てがあった場合にできる処分なのでしょうか。 ○西谷幹事 申立てが要件になっております。一方当事者が申立てをすれば,判断がなされます。 ○高田部会長 附帯処分等における子の利益は何かということについては,なお共通理解ができていないかも知れず,いろいろな考え方があるところでございますが,管轄考慮における子の利益にかなうときは一緒に判断すべきであり,そうでない場合には別に判断できる余地を残すべきだという点については,ほぼ共通理解ができているのではないかと思いますので,それを踏まえて,主たる争点は,どのような規定にすればそうした理解をうまくワークさせることができるかという問題に移っているように感じております。今日の議論を踏まえて,なお事務局に御検討いただいて,次の案を出していただくことにしたいと思いますが,それでよろしゅうございますか。   続いて「緊急管轄」について,御説明を伺います。 ○内野幹事 次は,「緊急管轄」でして,今日既に何度か御示唆を頂いておりますが,部会資料で書かせていただいているとおり,やはり人事訴訟事件及び家事事件というものについてのみこのような規定を置く固有の理由はなく,人事訴訟事件及び家事事件についてのみ規定を設けるのは,民事訴訟法との関係を考えますと困難なのではないかというのが今日までの事務局の印象でございます。   したがいまして,部会資料におきましては,これまで提案を書かせていただいておりますが,やはりそれぞれ法領域においてどういったものが緊急管轄の要件として掲げることが適切かという部分は,今日の御議論にもございましたとおり,事件ごとに考えられるところはあるだろうとも思っておりますし,また繰り返しになりますが,民事訴訟法との関係も踏まえますと,今般の法整備においては,このような法制を明文で設けていくということについては難しいところがあると考えています。   この部分につきましての説明は以上でございます。 ○山本(克)委員 私は財産権上の訴えの国際裁判管轄のときの,いわばリベンジとして,何とか規定が設けられないかと思っていたのですが,いろいろと種々御検討になった結果,やはり難しいということであれば,やむを得ないのかなと思います。他の論点では財産権上の訴えとの横並びを確保する観点での発言もしていますし,横並びでよろしいのではないでしょうか。 ○道垣内委員 私は緊急管轄の規定が入ることは諦めていたのですけれども,むしろ今日の議論を聞いてまだ可能性があるかなと思いました。類型的に緊急管轄が出てきそうな事案もあり,その場合に不文の緊急管轄権を認めることにためらいはないということでしたが,そうであれば,それは,その類型を明文で書くべきではないかと思います。   財産事件との違いは,財産事件は給付判決だけではないですけれども,給付判決を念頭に置けば,その国で判決をとって当該国で執行してしまえば日本ではその効力は実際上問題にならないということは多々あるわけですが,家族関係の事件は,やはり承認だけが問題になる状況になることが多々あって,それで,日本では当該国の裁判の承認が見込めない国々が幾つもあるということであれば,やはりそれは外国でやりなさいというだけでは済まないことが多々起きてくる可能性があります。したがって,この表現でいいかどうかはともかく,外国で裁判をしても,日本での法律関係の変更あるいは形成ができないという場合には,日本で裁判をしてあげるということはあっていいのではないかなと思っております。   それからもう一つ,人事訴訟事件では,最高裁判決があると,平成8年判決があるので,現にそのような事態が起きているということも指摘しておきたい点です。 ○池田委員 やはり明文規定を入れておいていただいた方が,実務的には安心です。いずれにしても,先ほどのように,頻発しそうな類型について緊急管轄で対処するということであれば,すぐに裁判例は出るかとは思いますが,そうは言っても,なかなか最初に裁判所等で御抵抗があるかもしれないというふうな気もいたしますので,規定はあった方がやりやすいと思います。 ○和波幹事 先ほど緊急管轄があり得るということを申し上げたのですけれども,そういった事案を本当にこの案できれいに拾えているかというところが一番大きな問題だろうと思っております。個別具体的な事情に基づいて救済するということは当然あり得るわけでございますけれども,条文で規定を設けるということになると,その射程範囲が当然問題になってきますので,そこをきちんと切り分けることができるかというと,民事訴訟ですらできておらず,条文がない中で,人事訴訟や家事事件についてだけきれいに規定を設けるというのは,なかなか難しいのではないかとは思っております。 ○池田委員 規定を設けた方が良い理由として,もう一つは,対外的な説明として,債権法でもそうですけれども,現在,なるべく規律は条文にすることが望ましいという考えというのはそれなりにあって,特に今回の規律は,今後,海外の弁護士や外国人との関係でも英文化されて使われるようなことになり得ることが想定されるわけですから,そのときに,緊急管轄が存在することは確実に認められるのだと言えるのか,認められる余地があるのだけれども明文にはなっていないと言わなければならないのか,しかも最近できたばかりの法律で認められる余地があるのに書いていないという説明はしにくいなというのはあって,実務的なニーズとしては,あった方がはるかによいと思います。 ○高田部会長 御指摘のとおり,もし解釈上認められるということが確実であれば,規定はあった方がいいという御意見は十分説得力があろうかと思いますが,和波幹事からも御指摘いただきましたように,作る場合には文言を確定しなければいけないわけですが,認められるべき範囲について過不足ない表現ができているかという点についても,従来御指摘いただいており,なおこの表現では不安だという御意見も承っているところではないかと理解しておりますが,その辺りも含めていかがでしょうか。 ○池田委員 規定があれば,外延が不明確であっても,これの類推適用とかいうのは言いやすいのではないかと思います。規定が何もないときにこれも認められるかもしれないというよりは,やはり基本となる条文があった方が実務的にも使いやすいだろうと考えます。仮にそこに入らないものがあったとしても,この規定を類推適用してできますというのは,それはそれほど難しい話ではないと思います。 ○高田部会長 今の池田委員の御発言ですと,最低限認められる範囲で規定を設けるということになるのでしょうか。 ○池田委員 いえ,私自身は,今の御提案でそれほど大きな問題ないとは思っておりまして,明らかに外れている事案があるのではないかとは思ってはおりません。ただ,それでも,もちろんいろいろな事案があるでしょうから,ここに入らない事案もあるかもしれないですけれども,だからといってここに入らないからそれだけで認めないとはならないので,御心配されなくてもいいのではないかと思います。 ○和波幹事 繰り返しになるかもしれませんが,この文言では,やはり裁判を受ける権利の実現という点もどこまで明確に判断できるかなど実務的にはなかなか難しい部分があるのではないかと思います。最低限認められる範囲という意味で書かれれば,それは一つあり得るとは思うのですけれども,むしろ今の文言では広くなりすぎていないかという懸念も一方ではあるように思いますので,そういう意味では,文言について合意を得ることはなかなか難しいのではないかという印象を持っております。 ○山本(和)委員 私は繰り返し緊急管轄は入れるべきで,財産事件とは違うということを言い続けてきたわけですが,ただ,この規定の文言を詰めるという作業が必ずしも十分には行われておらず,離婚のところでは,先ほどの④についての議論がずっとされて,文言の変遷をたどりながら最終的には現在のものになっているという状況があって,この「申立人の審理及び裁判を受ける権利を実現することが著しく困難」という文言と,訴えの提起が著しく困難という文言が同じなのか違うのかという点も十分には詰められていないように思いますので,その状態でこのままの条文で入れるということには,やはり積極的な私でもやや不安があることは否定できないのです。ですから,そういう意味では,もう少し前の段階で今のような御議論が百出していればという感じはするのですけれども,この段階になると,今回の立法ではちょっと難しいのかなという率直な印象です。 ○高田部会長 ありがとうございます。   後半の関連性要件が必要かどうかということについても,議論が残されたままのような記憶がございますし,規定を作ることが望ましいという御意見は委員幹事の方々から十分以上に頂いたところですけれども,残された時間で的確な表現が得られる可能性は必ずしも十分でないということであれば,今回の議論を踏まえて,今後の解釈論ないしは下級審裁判例に期待するということも一つの選択肢ではないかとも思いますが,その辺りいかがでしょうか。 ○竹下幹事 緊急管轄の規定が今回設けられないというのは,今の時点で文言が詰まってないということで仕方がないとは思うのですが,ただ,逆にそうだとすると,先ほど池田委員がおっしゃった,相続の際の遺産に属する財産の所在地での遺産分割のようなものをどこで救うのかという問題で,それは緊急管轄だということですが,条文がないとすると管轄権を認めるのにかなりハードルが高いようにも思われますので,遺産分割の点とも併せてお考えいただければと思います。 ○山本(克)委員 今の遺産分割に関する点ですが,遺産に属する財産の所在地での遺産分割を認めるときに考慮している要因というのは,裁判を受ける権利の実現が著しく困難ということではなくて,遺産分割漏れの財産があることが問題だということですので,仮にこの条文を置いたところで解決にはならないわけですから,やはりどこかで不文の緊急管轄を想定せざるを得ないわけです。   私は,裁判を受ける権利を実現することが著しく困難であるという要件は,かなり訴訟に偏った要件ではないかという印象を持っていまして,本当に今回の検討対象である家事事件に完全に目配りが利いた要件設定になっているとは思えないのです。ですから,先ほどこの段階に及んでは規定を設けることは難しいということを申し上げたのです。今申し上げたように,条文を置けば何とかなるというためには,それぞれの裁判の種類ごとにかなり詳細な要件設定をしていかざるを得なくなってくるのではないのかなと思いますので,むしろ,やはりそれは不文の法理があるのだということを部会として認めた上で,それを文言化するのは困難だという結論に至ったということにしておいた方が望ましいのではないかなという気がします。 ○竹下幹事 私も,今正に山本克己委員がおっしゃられたように,現在の文言でいいのかは不確実ですので,緊急管轄は今回は置かなくてよいというのが結論です。ただ,先ほどの議論の中で幾つか類型的に出てきた場面というのがあったので,もしそういった場面について,緊急管轄ではなくて相続の方で何か手当ができるなら,それをお考えいただきたいという趣旨です。 ○山本(克)委員 分かりました。 ○池田委員 将来のこともありますので,お伺いしたいのですけれども,遺産分割がそもそもできない場合,例えば先ほど分割漏れとおっしゃっておられましたが,元々外国では構造的に日本の不動産は分割の対象になってないという場合に,日本の不動産について遺産分割という裁判を受ける権利を実現することができないというふうに理解できるように思うんですが,ここに当たらないというのは,どのあたりが問題であるとお考えでしょうか。 ○山本(克)委員 ここでの裁判を受ける権利というのは,もう少し抽象レベルで考えているのではないのかなという気がするのです。この文言が出てきた経緯としては,多分,準拠法のフォーラム・ショッピングに使うことを認めないというために,裁判を受ける権利という文言にされたのだと記憶しています。つまり,離婚であれば,本来の管轄地の国際私法によって指定される準拠法では離婚できないから日本で裁判をするということまで含まれるのではないかということで,それを避けるためにこの文言が採用されたのではないかと思うわけでして,裁判を受ける権利という文言にしたのは,実体とは無関係,本案とは無関係ですということを言いたいということだったのだろうと思います。しかし,果たして非訟的な事件の場合に,本案と無関係な裁判を受ける権利というものを抽出できるのかどうかというのが,そもそも問題ではないかという趣旨で申し上げました。   そこは事件ごとに,相対的に裁判を受ける権利というものを考えればいいのだという立場もあり得るかもしれませんが,それは憲法論と絡む問題になってきますので,容易には答えが出る話ではないのではないのかと思います。そもそも非訟が憲法の裁判を受ける権利の対象なのかどうか自体が議論が分かれるところですから。 ○高田部会長 ほかに御意見ございますでしょうか。   では,今日の議論を踏まえて,改めて事務局から御提案いただければと存じます。   では,最後になりますが,「家事審判事件を本案とする審判前の保全処分の国際裁判管轄」について御説明いただきます。 ○内野幹事 前回までの議論を若干振り返りますと,家事審判事件を本案とする審判前の保全処分の議論につきまして,ここは本案が調停という部分も厳密にはあるわけですが,国内規律を踏まえた上で,その法案係属要件を国際裁判管轄というところにも要求するというようなものを試案として提案しました。   ところが御承知のとおり,部会の中では,これについての御批判を賜りまして,さらに工夫ができないのかと,いろいろな御議論がございました。ただ,いろいろ御提案いただいたところでありますが,必ずしもこれが良いという内容について共通の御提案にまでには至りませんでした。また,少なくともその御批判の中には,そもそもこの審判前の保全処分というものと民事保全というものは一体どういう関係にあって,どの程度違うのかというような御指摘もありました。   要するに,我々が共有いたしました問題点というのはそもそもの審判前の保全処分の国内規律そのものについての御批判が中心でした。そういたしますと,国際裁判管轄について,本案係属要件を課さず,それ以外の要件によって規律したとしても,結局は本案係属がなければ申立てが却下されることになってしまいます。それはそもそも国際裁判管轄として意味があるのかという議論もございました。一方で,それに対応した特別の審判前の保全処分についての規律をここで設けられるかということが問題となりますが,それが民事保全との関係を十分踏まえた上で制度構築できるかという部分を考えますと,なかなかこれも困難ではないかと考えています。   このような議論状況などを踏まえますと,この部分についても今般の法整備の中では,一つの在り方を決め打つことはなかなかできないところでないか,むしろ議論の中で指摘のあった国内手続を含め,財産保全のための手続の在り方というものを検討した上でないと結論は出ないのかという印象に至ったわけでございます。   したがいまして,結論的にはこの点についても今回は立法的措置をしないという内容を部会資料で示させていただいたところです。 ○高田部会長 では,御意見を賜りたいと思います。 ○池田委員 緊急管轄は,内容的には合意が得られておりまして,存在することは間違いないけれども条文にならないというだけでしたので,結構だということになるわけですが,こちらは救われないわけですし,これについての緊急管轄を観念されるわけでもないわけです。そうすると幾ら正攻法ではないと言われても,元の財産分与等のところで財産所在地管轄というのを入れていただくなどして,それでもちょっと理論的に難しい部分がありそうな気もしますけれども,現実に救われるやり方を編み出していただかないと,それは緊急管轄の場合とは全く問題状況が異なるという点を是非御考慮いただきたいと思います。 ○竹下幹事 前提として確認なんですが,要するに中間試案では本案が係属しているときに限りすることができるものとするという規定を作ると言っていたところを,今回は,その規定も置かなくて,国際裁判管轄は完全に解釈に委ねられることとなり,解釈上認められるかもしれないし,認められないかもしれないし,どうなるかは意見がまとまらなかったという理解で大丈夫でしょうか。 ○内野幹事 私が今申し上げたのは,そのような趣旨です。ただ,その場合であっても,国内手続自体は本案係属要件を要求しておりますので,本案係属要件を要求していない形で解釈論上の国際裁判管轄を肯定したとしても,現状の家事事件手続法を前提とする限り,それが審判前の保全処分と整理されるものであれば,その部分において不適法なものとなるという結論になってしまうということになります。 ○道垣内委員 当然に不適法になるのですか。日本で承認されるような国で本案をやりますでは駄目ですか。 ○内野幹事 それ自体が一つの解釈論ということになろうかと思いますが,この部会の中で,それ自体にコンセンサスが得られるのか,いわゆる承認可能性というのを考慮して,それは国内手続に係る規律において本案係属要件があることと同等と見るという解釈論が必ずしも可能なのかどうかという点について,議論があり得るのではないかと思います。 ○池田委員 それは,無理だと思います。本案係属要件が課されている趣旨は,家事事件の本案手続では権利義務関係の形成の当否及び形成される内容が判断の対象となるため,被保全権利が存在することの蓋然性の判断は,本案を審理している裁判所であるからこそできるという点にあると伺っております。そのことからすると,外国で何をやっているかも分からないところで,何が起きているかは知らないのに被保全権利の蓋然性を判断することができるというのは,そもそも本案係属要件を課した趣旨と根本的なところで一致しないということになろうかと思います。もし本案が係属していない場合にも審判前の保全処分の管轄を認めるとすると,そもそも全然できないのは困るからという,何か緊急管轄的な考えでやっていただくしかないのではないかと思います。   ただ,保全の場合,緊急管轄が認められる場合は,本案よりも非常に狭いと思いますので,正攻法ではないといわれるかもしれませんが,財産分与について財産所在地の管轄を認める必要があると考えます。 ○高田部会長 まず本論といいますか,審判前の保全処分の管轄権の方はいかがでしょうか。かなり早い時期より,問題は管轄問題でなくて,現行家事事件手続法における審判前の保全処分制度の立て付け,ないしは民事保全制度の立て付けの問題だという御指摘を頂いていると思います。現行法を前提にする限り国際裁判管轄規定だけを作っても機能しないということのようでございまして,今回,将来の現行規定の改正に備えて管轄規定だけ作っておくというのもいかがかと思いますので,今回は規定を設けないということになりそうですが,そうした方向でよろしゅうございますか。   では,方向性としては,保全についての管轄規定は設けないということにさせていただければと思いますが,先ほど池田委員からは,管轄規定が設けられないのであれば,従前の単位事件類型のうち財産分与と遺産分割事件についての管轄を,その観点からももう一度見直す余地はあるのではないかという御指摘を頂いたと理解しておりますが,もしその点,何か御意見があれば伺います。   では,御意見をいただいたということで,事務局としても問題点は認識しているところかと存じますが,保全のためにのみ財産分与や遺産分割事件全体の管轄を広げるということの問題点も十分あろうかと思いますので,その点も踏まえて,改めて御議論いただければと存じます。   本日予定していた議事は以上のとおりですが,何か御意見ございますでしょうか。 ○西谷幹事 部会資料4ページにある離婚事件と親権者指定の併合管轄との関係で,1点補足させていただけますか。  1996年の子の保護に関するハーグ条約は,原則として子の常居所のある締約国に管轄を認めた上で,一定の場合には,他の締約国も管轄をもつとしており,EUブリュッセルIIbis規則も同様の準則によっています。具体的には,96年条約8条及び9条では,両親の離婚事件が係属している裁判所が,子の最善の利益をよりよく評価できると解される場合で,両締約国の裁判所が管轄行使について了承すれば,離婚事件の裁判所が親権者指定を行うことができます。また,同10条では,離婚事件の裁判所は,一方親の常居所と両親の合意,そして子の最善の利益にかなうことを要件として,親権者指定を行うことができます。   この96年条約の管轄ルールは,締約国間の協力関係を前提としたうえで,離婚事件の裁判所が子の最善の利益を評価するのに適している場合には,親権者指定を行うことを認めるものです。そして,締約国間の協力関係がある以上,通常は,離婚事件が係属している締約国で親権・監護権に関する裁判をした後に,子の常居所のある締約国が別途裁判をすることは想定されません。そのため,国内法上の直接管轄のルールとは,同一に論じえない部分もあると思います。  他方,国内法上の直接管轄のルールとして,子の利益にかなうことを要件として併合管轄を認める立法例は記憶にございません。この点は,もう一度調査したいと思います。 ○高田部会長 ありがとうございます。別案の起源はその条約にあったと記憶しておりますので,貴重な御指摘を頂いたと思います。   よろしゅうございますか。   では,本日の審議はこの程度にさせていただければと存じます。   最後に,次回の議事日程等について説明いただきます。 ○内野幹事 次回の議事日程でございますが,次回は平成27年8月7日,午後1時半から午後5時半までということになります。   次回も,取りまとめに向けた議論を継続させていただきたいと思っております。 ○高田部会長 では,本日の審議はこれで終了といたします。本日も長時間,御熱心な御審議賜りまして誠にありがとうございました。 -了-