法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第2回会議 議事録 第1 日 時  平成27年11月27日(金) 自 午前 9時00分                        至 午前11時43分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題  1 要綱(骨子)第一,第二及び第六について         2 要綱(骨子)第五について         3 その他          第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○中村幹事 予定の時刻となりましたので,ただいまから法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会第2回会議を開催いたします。 ○山口部会長 おはようございます。本日は御多忙中のところ,お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。   本日,木村委員,松尾関係官におかれましては,御欠席と承っております。   まず初めに,事務当局から資料についての御説明をお願いいたします。 ○中村幹事 本日新たに配布する資料はございませんけれども,前回の会議でお配りした資料1から27までを机上に置いております。このうち,本日御審議いただく論点に特に関係すると思われる資料が資料12から18まででございます。   また,参考といたしまして,本年の犯罪白書に「性犯罪者の実態と再犯防止」と題する特集が掲載されておりますので,その部分の写しをお配りしております。性犯罪に関する様々なデータが含まれておりますので,御参考にしていただけるものと思っております。 ○山口部会長 ありがとうございました。   それでは,早速審議に入りたいと思います。前回申し上げましたとおり,本日は要綱(骨子)第一,第二,第五及び第六について,審議を行いたいと思います。   まず,事務当局から,これらの諮問事項について,改めてその趣旨や検討経過等について,御説明をお願いいたします。 ○中村幹事 本日御審議いただく予定となっております要綱(骨子)第一,第二,第五及び第六につきまして,このような内容とした趣旨及び検討の経過などを,御説明申し上げます。   お手元の配布資料番号1の別紙要綱(骨子)の第一を御覧ください。   要綱(骨子)第一は,強姦罪について規定する刑法第177条の改正に関するものです。   同条において処罰の対象とされている行為を拡張するとともに,法定刑の引上げを行おうとするものです。   まず,対象行為の拡張について申し上げます。   現行法におきましては,刑法第177条の罪は,第176条に規定する強制わいせつ罪に当たる行為の一部について,特別に重く処罰する加重類型であると理解されております。そして,その対象となる行為は,「女子」に対する「姦淫」行為に限られております。   しかし,この点に関して,第3次男女共同参画基本計画においても,強姦罪の構成要件の見直しが検討事項とされており,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましても,強姦罪の行為者,被害者について性差を解消すべきであり,男性器の女性器への挿入以外の行為にも強姦罪と同様の刑で処罰すべきものがあるとする意見が多数を占めました。   このような議論を踏まえて,要綱(骨子)第一は,その対象となる行為を拡大して,その客体を「女子」に限定しないこととするとともに,相手方,つまり被害者の膣内に陰茎を入れることに加えまして,被害者の肛門内又は口腔内に陰茎を入れることを含むものとし,更に行為者又は第三者の膣内,肛門内又は口腔内に被害者の陰茎を入れる行為をも含むものとしております。要綱(骨子)第一におきましては,このような行為を総称して「性交等」と表現しております。   このような改正を行おうとするのは,現行法においては強制わいせつ罪に問擬されている行為の中でも,いわゆる肛門性交及び口淫は,陰茎の体腔内への挿入という濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものでありまして,姦淫と同等の悪質性・重大性があると考えられますことから,姦淫と同様に加重処罰の対象とすることが適当であり,また,このような行為によって身体的・精神的に重大な苦痛を伴う被害を受けることは,被害者の性別によって差はないと考えられたことによります。   さらに,行為者又は第三者の膣内,肛門内又は口腔内に被害者の陰茎を入れる行為,いわゆる挿入させる行為につきましても,被害者としては,自己の陰茎を他人の体腔へ挿入するという濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものでありまして,被害者の膣内,肛門内又は口腔内に行為者又は第三者の陰茎を入れる行為,すなわち挿入する行為と同等の悪質性・重大性があるものと考えられたことから,これらの行為も同様に加重処罰の対象とすることとしたものであります。   ここで「陰茎を入れる」とは,陰茎が膣内,肛門内又は口腔内に入った状態にすることを意味するものであります。   また,「自己又は第三者」として,第三者を加えている趣旨についてですけれども,行為者が自己の陰茎を被害者の膣内,肛門内,口腔内に入れる行為や,自己の膣内,肛門内,口腔内に被害者の陰茎を入れる行為だけではなく,第三者にその陰茎を被害者の膣内等に入れさせたり,第三者の膣内等に被害者の陰茎を入れさせるという行為も想定されますところ,現行法においても,第三者に被害者と性交をさせるような行為は強姦罪として処罰し得ると考えられますけれども,このような場合についても,第177条の罪として処罰することを明確にするという趣旨で,「第三者」を加えているものでございます。   ところで,第177条の処罰の対象行為の拡張に関し,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましては,膣や肛門に対する手指や異物の挿入についても姦淫と同等に取り扱うべきであるという御意見がございましたが,これに対しては,指や異物の挿入まで含めると外延が不明確になるのではないか,姦淫と同等といえるかという点でも疑問があるといった御意見もございました。   今回の諮問におきましては,異物を肛門内に入れる行為の場合,異物の範囲が無限定でありますことから,性的な意味を有しないこともあり得ると考えられること,異物を膣内に入れる行為の場合,通常性的な意味を有するものと認められるとは思われるものの,その態様には様々なものがあり得ることなどから,全ての場合に被害者にとって姦淫と同程度の濃厚な身体的接触を伴う性交渉を強いられるものと類型的に認められると断ずることまでは難しいと考えられたため,これらの行為は,拡張する範囲に含めないこととしております。   なお,現行の強姦罪につきましては,実行行為を行い得るのが男性に限られる一種の身分犯であるとの理解がございましたけれども,要綱(骨子)第一のとおりの改正が行われた場合には,行為主体について性別を問わないことが明らかとなります。   なお,要綱(骨子)には直接関係しませんが,刑法第176条においては,行為の相手方を「13歳以上の男女」,「13歳未満の男女」と規定しているところですが,これは,第177条において「女子」としていることとの関係で「男女」とされているものと考えられますので,第177条において「女子」を「者」と改正するのであれば,第176条についても「者」としてそろえるのが適切ではないかと考えているところでございます。   次に,法定刑の引上げについて申し上げます。   現行法においては,刑法第177条の罪の法定刑の下限は懲役3年とされておりますが,要綱(骨子)第一におきましては,これを懲役5年に引き上げようとしております。   刑法第177条の罪の法定刑につきましては,平成16年の刑法改正により,下限がそれまでの懲役2年から懲役3年に引き上げられましたが,その際の国会審議における附帯決議においても,他の罪の法定刑との均衡や被害の重大性を踏まえた更なる検討が求められておりました。   また,平成22年の刑法及び刑事訴訟法改正に係る国会審議の際にも,事案の実態や犯罪被害者等を含めた国民の意識を十分に踏まえつつ,罰則の在り方について更に検討を求める旨の附帯決議がなされておりました。   さらに,平成22年12月に閣議決定されました男女共同参画基本計画におきましても,「女性に対する暴力に関する専門調査会」での強姦罪の法定刑を引き上げる見直しを検討するべきであるとする取りまとめを受けて,性犯罪に関する罰則の在り方を検討することとされておりました。これらの指摘を踏まえて議論が行われました「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましても,近時の強姦罪の量刑の状況や強姦罪の被害の重大性などに照らしまして,法定刑の下限を引き上げるべきであるとする御意見が多数でございました。   実際の量刑につきまして,強姦罪と強盗罪などの量刑の軽重が両者の法定刑とは逆転した状態ともなっていることにつきましては,前回の資料説明の際にも申し上げましたが,さらに,別の観点から御説明したいと思います。   お手元の資料18の3ページを御覧ください。   強姦罪の法定刑の下限が懲役3年に引き上げられた平成17年以降平成26年までの量刑を見ますと,強姦罪につきましては,5年を超える懲役とされた事件,つまり,グラフの下の表1の中で「7年以下」という欄から右側の欄の件数を合計すると917件となりまして,全体に占める割合は約31%となります。   これに対し,強盗罪について,7ページを御覧ください。   同じく平成17年から26年までの,5年を超える懲役とされた事件の合計は1240件であり,全体に占める割合は約22%でございます。   続いて13ページを御覧ください。   現住建造物等放火罪については,5年を超える懲役とされた事件の合計は433件であり,全体に占める割合は約23%でございます。   このように,法定刑の下限が懲役5年とされております強盗罪及び現住建造物等放火罪よりも,強姦罪の方が重い量刑がなされる事件の割合が高くなっているということがいえます。   このような最近における性犯罪の法定刑に関する様々な御指摘や,現実の量刑の状況に鑑みますと,強姦罪の悪質性・重大性に対する現在の社会一般の評価は,少なくとも強盗罪,現住建造物等放火罪などの犯罪に対する評価を下回るものではないと考えられまして,現時点において,強姦罪の法定刑の下限は低きに失し,国民意識と大きく異なることとなっていると言わざるを得ないと考えられました。そこで,その法定刑の下限を,強盗罪,現住建造物等放火罪と同様に,懲役5年に引き上げようとするものでございます。   次に,要綱(骨子)第二について御説明いたします。   要綱(骨子)第二は,準強姦罪について規定する刑法第178条第2項の改正に関するものでございます。   その趣旨などにつきましては,前回御説明したとおりでありまして,同項の罪についても,要綱(骨子)第一におけるのと同様に,対象とする行為を拡張し,法定刑を引き上げようとするものでございます。   次に,要綱(骨子)第五でございます。   要綱(骨子)第五は,集団強姦等の罪及び集団強姦等致死傷の罪の廃止に関するものです。具体的には,集団強姦等の罪について規定する刑法第178条の2及び集団強姦等致死傷の罪について規定する同法第181条第3項を削除しようとするものです。   現行法では,集団強姦等の罪の法定刑の下限は懲役4年,同罪に係る致死傷罪の法定刑の下限は懲役6年とされておりますが,要綱(骨子)第一及び第六のとおり,強姦罪及び強姦致死傷罪の法定刑の下限を引き上げることといたしますと,集団強姦等の罪及び集団強姦等致死傷の罪の法定刑以上の法定刑となるわけでございます。   したがいまして,集団強姦等の罪などを廃止したとしても,二人以上が現場で共同して行う強姦等については現行法以上の刑を科すことが可能となっておりまして,集団による強姦という悪質性については,引き上げられた法定刑の範囲内で量刑上適切に考慮することによって適切な科刑が可能となることから,集団強姦等の罪などを廃止することとするものであります。   なお,平成16年に集団強姦等の罪等が設けられた際に,集団強姦等致死傷罪の法定刑の下限について,前科などのない犯人が被害者に対して最善の慰謝の措置を尽くすなどしたにもかかわらず,酌量減軽をしてもおよそ執行猶予を付し得ないとすることには問題があるとの観点から,酌量減軽をした場合において,執行猶予を付することができる限界である懲役6年とされた趣旨は,現在も妥当すると考えられますので,同罪を維持した上でその法定刑の下限を懲役7年以上のものとすることは適当でないと考えられます。このことからも,集団強姦等の罪及び同罪に係る致死傷の罪については,廃止するのが相当であると考えたものでございます。   次に,要綱(骨子)の第六の一及び二は,強制わいせつ等致死傷罪及び強姦等致死傷罪について規定する刑法第181条第1項及び第2項の改正に関するものです。   これは,要綱(骨子)第一及び第二における構成要件の変更並びに要綱(骨子)第三における犯罪類型の新設を反映させた上,要綱(骨子)第六の二において,強姦等致死傷罪の法定刑を引き上げようとするものです。   なお,新設しようとしております第三の罪に関する部分につきましては,第三の罪に関する御説明の際に別途御説明申し上げますので,ここでは,第六の二について御説明申し上げます。   まず,構成要件につきましては,その基本犯たる第一及び第二の罪の対象となる行為を拡張したことから,その結果的加重犯であります第181条第2項の罪についても,この拡張を反映させるものであります。   次に,強姦等致死傷罪の法定刑の引上げについてです。   現行法における同罪の法定刑は,無期又は5年以上の懲役とされておりますところ,基本犯たる刑法第177条の法定刑の下限を引き上げることに伴い,その結果的加重犯を規定する同法第181条第2項の法定刑も引き上げ,懲役6年としようとするものです。   これは,強盗致傷罪におきまして,被害が極めて軽微で示談が成立し,被害者も宥恕(ゆうじよ)しているような場合に,酌量減軽をしても執行猶予を付すことができないことは酷に過ぎると考えられることから,法定刑の下限が懲役6年とされていることも考慮して,酌量減軽すれば執行猶予を付すことができる限界である懲役6年とすることとしたものであります。 ○山口部会長 本日の審議の進め方でございますが,大きく三つの論点に分けまして,まず1点目として,現行法では「女子」に対する「姦淫」のみが強姦罪として強制わいせつより重く処罰されておりますが,その重い処罰の対象とする行為を要綱(骨子)第一のように拡張することについて御議論をいただきます。   次に2点目として,法定刑を引き上げることについて御議論いただき,最後に3点目として,集団強姦等の罪を廃止することについての御議論という順序で進めるのがよろしいのではないかというように思いますが,そのような進め方でよろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのように進めたいと思います。   では,まず最初に,重い処罰の対象とする行為の拡張についてでございます。   これは,要綱(骨子)第一,第二,第六に共通する問題でございます。この問題につきましては,御議論いただくべき主なポイントとして,4点ほど挙げられるように思われます。   すなわち,第1に,対象となる行為を,現行法の「姦淫」から,要綱(骨子)第一にありますように「性交等」に拡張すべきなのかどうか。第2に,拡張することが適当であるとして,その範囲は,要綱(骨子)第一の括弧内にありますように,膣に陰茎を入れる行為に加えて,肛門,口腔に陰茎を入れる行為を含めるということでよいかどうか。第3に,同じく括弧内の後半部分,「又は」以降でございますが,ここに記載されている行為,つまり被害者の陰茎を自己又は第三者の膣,肛門,口腔に挿入させる行為についても,同じく重い処罰の対象に含めるということでよいかどうか。第4に,要綱(骨子)第二のとおり,準強姦についても同様の行為を対象とすることでよいかどうかという4点がポイントになると思われますので,これらの点につきまして,御意見をお伺いしたいと思います。 ○小西委員 法律家でない立場から,実態についてお話ししておこうと思います。   例えばその対象を性交から拡大するかどうかということですけれども,肛門性交や口腔性交の場合に,通常の性交よりも被害がどうなのか,精神的な被害はどうなのかというデータをお示ししたいところなのですけれども,国際的にもないと思います。なぜかというと,これらが精神的には同一の被害として扱われていることがほとんどだからです。   大体,PTSDの診断というのは,特に研究ではアメリカ精神医学会の診断基準,DSMに従って行われていることが多いですが,現在の第5版のトラウマ体験の要件としては,強制された性交,暴力的な性交だけでなく,オーラルセックスやアナルセックスなども,当然のごとく含まれておりまして,これらは同じトラウマ体験として扱われています。   実際に臨床の体験で言いましても,そういうことを区別するということが何か意味があるようには思えません。PTSDになる方もたくさんおりますし,それからその被害についての治療の仕方も共通だと思います。そういう点では,臨床や治療という側面から見ると,これは当然共通のものと考えていいのではないかと思います。   男性に拡大するかということですけれども,これも大規模な疫学研究は欧米にしかないのですけれども,男性がアナルセックスで被害を受けたというような場合には,むしろ女性よりも高い比率でPTSDが起きるということも言われておりまして,そういう点では,男性の場合も大変精神的な影響が大きいということが言えると思います。   それから,3番目に言われた第三者の膣内,肛門内,若しくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為ということですが,実際に私が見聞きした臨床の経験で,こういうような被害,男性の被害のケースはありました。例えば集団的ないじめの中で性交が一つのいじめとして行われているような場合,それから,例えばもうちょっと犯罪性の進んだ集団の中で,一種の拷問として,そういうことが男性に対して行われる場合などを知っております。そういう点では,特に「第三者の」ということが含まれることは重要だと思っています。 ○齋藤幹事 小西委員に続いて,ほとんど同趣旨なのですけれども,法律以外の面から発言をさせていただければと思います。   「性交等」として範囲を広げることに関してですが,今お話もありましたとおり,海外のレイプ被害に関する調査では,男性の被害者も女性の被害者も調査の対象となっております。また,肛門性交や口腔内の性交も含まれていることがほとんどです。そして,それらのレイプ被害の調査において,被害後にPTSDとなった人の割合は男女ほとんど変わらず,むしろ男性の被害者の方が発症の割合が高いということを考えますと,精神的被害の重大さに男女差や,膣性交と肛門性交あるいは口腔内の性交による差はなく,膣性交ということで区切るということは適切ではないのではないかと考えております。   挿入させる行為に関しましては,児童の施設内では時折起きる行為だということも聞いております。また,少年院等に関わっている先生方からは,性加害行動を行う少年たちに対して成育歴などを聴取すると,無理やり挿入をさせられた,つまり挿入させる行為をされたという被害を受け,その結果,PTSDやトラウマ反応が出現し,それが性加害行動を引き起こした事例も多いと耳にしております。   そして,エイズの患者さんに対するカウンセリング場面などでも,性被害に遭った男性から話を聞くことがあります。従って,男性の性被害というのは恐らく考えられているより非常に多く,女性よりも暗数が多いのではないかと考えられます。強姦に性別の規定があることで,男性は自分たちの受けた被害が適切に認められないのではないかと不安を抱き,警察への届出に至らず暗数になってしまうというケースも多いのではないかと考えますと,きちんと肛門性交,口腔性交も含み,そして性別の記載をなくし,どちらにおいても強姦の罪が成立するのだと示すというのは,非常に重要なことだと考えております。   なので,今ここに提示されているものに関しまして,私も全面的に賛成をしております。 ○小木曽委員 精神医学的に,また被害の実態の観点から御教示いただいたわけですけれども,法的な,保護法益という観点から見ると,こうした罪が誰とそのような関係を持つのかという意思決定への侵害であると考えますと,主体の拡大,行為類型の拡大が正しいのではないかと思います。 ○北川委員 男性の被害者も多く,とても深刻な被害があるということの御指摘,御教示をいただきました。大変重要なことだと思います。そういう意味では,被害者を女性に限らず男性も含めるという意見には賛成です。ただ,それとともに,後の議論に関係しますけれども,強姦罪の範囲について,「性交等」という形で行為類型を拡大せざるを得ないという状況になったときを鑑みまして,法定刑も5年以上に上げると仮定した場合,強姦に匹敵する行為というのは,どこまでの範囲かということを限定的に考えざるを得ません。男性器の女性器への挿入や男性器の肛門への挿入というのは相当であると理解できるのですけれども,疑問に思うのは,口腔内への挿入ということまで含めて5年以上としてよいかということです。強制わいせつの加重類型としての強姦罪で,法定刑もここまで重いものになることとの関係で,少々疑問を持ちます。   さらに,被害者をして行為者若しくは第三者の肛門,口腔内に被害者の陰茎を入れるという行為については,挿入をさせるという行為も伴いますので,そういうことも鑑みますと,かなり拡大するという印象をもちます。性的被害の深刻さ,国際社会あるいは国内の要望を受けての改正というのは,よく理解しているつもりなのですけれども,強姦匹敵行為という一つの柱から,どこまで拡大するのかという拡大対象について少し疑問はあります。   そういう視点から,口腔と,それから入れる行為,相手方を第三者まで含める行為という点については,慎重な検討が必要なのではないかと思います。 ○山口部会長 ただいまの御発言は,「行為の範囲をどこまでにするのか」という問題と,「する」,「させる」の「させる」という方についての御指摘でございましたけれども,その前提となるそもそも「広げるかどうか」ということを含めて,いかがでしょうか。 ○角田委員 広げるということについては,私は賛成です。   今までの強姦罪というのが,女性の膣内ということだけを言わば特別扱いしてきて,そのことによって女性の人権について随分マイナスの効果があったと思っておりますので,それを特別扱いしないという点でも,広げるということは,とても大事なことだと私は考えております。   それから,今,北川委員から疑問を呈されました口腔内ということなのですけれども,これも自分の口の中に陰茎を入れられるという行為を考えた場合に,その被害者の受ける屈辱感や苦痛というのは,ほかのものより低いとはとても考えられないと思います。それからもう一つ対象行為というか,その括弧内の「性交等」の中を,これでよいのかという論点もありました。私は手の指も挿入するものとして広げるべきでないかと思っています。ただ,手の指の場合,手の指を口腔内に挿入するという行為については若干考えなければいけないのではないかと思いますので,挿入するものと場所との組合せで考える必要があるのではないかと思っております。   それから,「物」については,確かに今のままでも強制わいせつになるのですけれども,ただ「性交等」の中に含める場合,やはり5年ということを考えたときに,「物」の定義といいますか,外延がどこまでいくかということは,難しい問題を含むと思いますので,今回は手の指,手指を加えるということを考えていただきたいと思っています。 ○宮田委員 そもそも行為の範囲を広げるかどうかでございます。広げる範囲については,後ほどまた発言の機会を頂戴できればと思います。これは法律家の法律ばかだと言われるかもしれないことですが,弁護士や学者の方々とお話したとき,強姦罪は性的な自由を侵害する非常に悪質な行為であることは間違いないところ,妊娠の可能性や性行為の神聖性等,昔から強姦が特別に処罰されていたことに対しては相当の理由があるのではないか,そしてやはり圧倒的に刑事学的に女性が男性から被害に遭うことが多いのであり,このように圧倒的に多いものを別に処罰するということには理由があるのではないかというお考えの方が非常に多いのでございます。   また,立法の手法として,強姦という構成要件を広げるのではなく,姦淫行為は姦淫行為として置いておいた上で,肛門性交やその他の処罰するべき,あるいは強制わいせつの中で加重するべき行為を別の構成要件として切り出すという立法の方法は,十分にあり得ることかと思います。   現に,頂戴いたしました資料の中に韓国の刑法がございますが,これは姦淫行為は3年以上,肛門性交や口淫などについては,別の構成要件として2年以上という定め方もあるのではないか。   検討会でも,一応発言させていただきましたけれども,そういう方向からの議論も十分にあり得るという考え方が私の周囲にありますので,指摘させていただきます。   私は個人的には,肛門性交までは,正に肛門「性交」という言葉で一般的に言われていることもあり,北川委員と同じような理由で,ここまでは広げてもいいのではないかと個人的には考えておりますが,広げる範囲については,また改めて発言させていただきます。 ○井田委員 私は要綱(骨子)を基本的に支持する立場から発言したいと思います。まず押さえておくべきことは,現行法は単に強姦と強制わいせつとを区別して,強姦の刑を重くしているというばかりではなくて,例えば致傷の場合にも,もちろん刑は変わってきますし,強姦については集団強姦罪という加重類型も設けており,更には強盗強姦罪という独特の結合犯の類型も規定している。このようにして,現行刑法は,男性の女性に対する性器結合の強制のみを種々の観点から特別扱いしているのです。ここでの問題は,それでよいのか,このような行き方を今後将来に向けて正当化できるのかということです。このことがここで押さえるべき第一のポイントだと思うのです。   改正に当たっての一つの方法論は,宮田委員のお考えはそれに近いと思うのですけれども,古典的な強姦のイメージを前提としてそこから出発し,外形的にそれに準ずるものを強姦と同等に扱うことにする,というものです。そういう方法論も採れるかもしれませんが,私にはそれが正攻法であるとは思われない。それよりも,法益侵害ないし被害の実態を前提に置いて,どの範囲の性的侵害行為を言わば加重強制わいせつ罪として類型化するのがよいか,というように考えて行くのが一番よいと考えるのです。強姦罪の処罰規定をそのままにしておいて,強制わいせつ行為の一部をより重く処罰する中間類型を設けるという三分法を採るとすれば,非常に複雑な立法になってしまいます。二分法を前提として,広い意味の強制わいせつ罪の中から,被害の実態を考えて,被害者に強姦に匹敵するようなダメージを与えるものを括り出してきて,強姦を含めて類型化するのがよいであろうと思うのです。   そのように考えますと,小西委員,齋藤幹事のお話にもありましたし,また冒頭の中村幹事の御説明にもありましたけれども,何が性犯罪の被害の実態なのか,そのことをどう認識するかが決定的な視点ということになってきます。性犯罪とは,濃厚な性的な接触を強制するというところに本質がある。性的行為という特殊な経験を無理やり犯人と共有せざるを得ない,その共有を強いられるというところに被害の実態があると私は考えています。   ドイツにおける最近の議論においては,性犯罪の保護法益は,内密領域の防御権であるとするものがあります。確かに我々は人からそこにアクセスされたくない身体的領域,また他人のそういう領域へのアクセスを強いられることもやはり嫌な身体的領域というものを持っています。そういう領域を特定の人との関係では開放する,そこへのアクセスを許すというのが性的行為であり,意思に反して無理やりその経験を共有させられるというところに,性犯罪における被害の実態があるのではないか。意思に反してそういう身体的領域に踏み込まれる,又は,こちらは嫌なのにそこにアクセスしなければならないというところに被害の実態があるとすれば,取り分けその中でも体腔内への陰茎の挿入を伴うような態様のものというのは,特に濃厚な性的経験の強制的共有と評価してよいのではないかと考えられます。そこにより重く処罰されてよい実態があるのではないかということです。   そこから,口腔への陰茎の挿入もまた,特に濃厚な性的経験の共有を意味するものです。口腔は,顔に近いところにある,そして我々が食事のために用いる,そういう身体的な器官であるわけで,そこに排泄の機能を持つ身体的器官を無理やり挿入されるという経験は被害者にかなり大きなダメージを与える行為なのではないでしょうか。また,被害の実態を見ても,強姦のケースの多くの場合において口淫性交が行われるという事実があります。それは見方を変えれば,犯人の側としても,性欲の満足のために強い欲求を感じる行為でもある。そうであるとすれば,逆に被害者側はそこから特に強く守られるべき行為であるといえる訳です。性的欲求の対象となる度合いが強ければ,それだけ,被害者も強い保護に値するということがあります。口淫性交は,やはり膣性交や肛門性交と同じに扱ってよい理由はそこにあると考えるのです。 ○角田委員 やはり姦淫行為を特別扱いするのは,大変まずいと私は思っています。日本だけで見ていると,男性の被害というのは強制わいせつにしかならないということもあり,やはり男性が性的な被害を受けるというのは,おそらく女性が考える以上に恥ずかしいという受け取り方が,この社会にはあると思うのです。   そのことがあって,つまり強制わいせつにしかならないということと,仮に強制わいせつであっても,それを言うということ,しかも警察とか,言わば公のところでそのことを話すということは,男性の方はおっしゃらないけれども,とても屈辱的なことだと,打ち明ける方は,そのようにおっしゃるわけなのです。   そのことがあって,日本では,結局男性の被害というのがほとんど見えないようにされてしまっている。したがって,私たちには,女性の膣性交の被害だけしか目に付かないということがあると思うのです。そして,そのことは女性に対する膣性交の被害が特別なものだというように間違った考えに容易に導かれることになるので,私はやはり男性の被害が見えていないこと自体が非常に大きな問題だと考え直して,提案のように拡張すべきだと考えております。 ○小西委員 実態に沿った形でということで,この性犯罪の問題を考えると,そもそも今の状態では救いきれていないのだということを,よく考えないといけないと思うのですね。   法務省の被害者調査でも,女性の性犯罪の通報率というのは非常に低いですね。10数%という数字が出ていると思います。女性でもそうです。男性はほとんど出てこないのだけれども,疫学的な調査で海外で行われているものだと,大体女性の被害の10%ぐらいあります。女性の被害の10%あるものは,例えば内閣府の調査で,無理やり性交されたという聞き方ですと,生涯で女性の被害率は6%から7%の間ぐらいあります。非常にたくさんあることですね。それの10%は,決して少なくないです。拾えていないのですね。   それは,やはり拾い方の不備があって,ここにいらっしゃる多くの法律の専門家の方は,そこで拾われた非常に特殊な拾えたものしか見ていないということは,是非知っていただきたいと思う。そこはやはり変えていかないと,その犯罪がそのまま放置されているということになってしまうのだと思います。   それから,オーラルセックスについても何かとても私は違和感があるのですが,実際の被害の状況を聞くときに,オーラルセックスをさせろよと,それだけで犯罪が起こっていることは余りなくて,多いのは性的虐待がたくさん行われた挙げ句に,その一つとしてオーラルセックスがあるとか,あるいは子供で相手が膣性交ができないから子供にオーラルセックスを強要するとか,それから,大人でも,例えば月経中だからオーラルセックスをさせるとか,1回限りの被害でもそういうことがあります。   そういう点では,実態としてはオーラルセックスはどこが膣性交と違うのか,そういうものが暴力的に行われるときにどこが違うのかというのが,私の普段の感覚で言いますと,全く分からないという気がします。 ○角田委員 一つだけ,今の小西委員の発言に関連して申し上げたいのですけれども,日本では男性の訴える場がないというのと,もう一つ,私の経験からしますと,オーラルセックスと膣性交というのは,大体同じ機会に行われていることが多いのです。刑事事件では余りないのですけれども,セクシャルハラスメントの民事裁判をやっている中で,その被害の態様として出てくるわけです。まず最初にいわゆる姦淫行為を行い,言わば仕上げのような形で,オーラルセックスがなされるということは,それほど珍しいことではないのです。そして,被害を受けた人も,やはりオーラルセックスの方は言いにくいというか,セクシャルハラスメントの被害に遭ったのだということを訴えるときに,そこはやはり言いにくいというような状況になっていると思いますので,これは侵害の形としては差がないものとして,同じように扱わなければいけないのだと私は考えております。 ○山口部会長 これまでの御議論ですと,対象を広げることに反対であるという御意見を述べられた方はおられません。広げるということを前提にした上で,従来の強姦罪の規定を広げるのか,あるいは広げた部分については別立ての規定にするのかという御議論がございまして,広げる部分も強姦と同等だから,強姦の規定を拡張する形で規定するのがよいのではないかという御意見と,別立てにするという御意見が述べられていたわけですけれども,その点について更に御発言いただけることがあればお願いいたします。 ○佐伯委員 私は,要綱(骨子)の範囲で強姦罪を拡張することは,適切であると考えております。   拡張する場合に,その強姦罪を残して別の加重類型として設けるというのは,男性の女性に対する姦淫行為を特別視するということになりますので,角田委員がおっしゃるように,法の下の平等の観点から,望ましくないように思います。   関連して1点確認というか,教えていただきたいことがありますので,この機会に述べさせていただいてよろしいでしょうか。細かな話になってしまい恐縮なのですけれども,現在は姦淫という言葉が特に定義もなく使われているわけですが,要綱(骨子)のような形で,膣,肛門,陰茎というような言葉を使った場合に,その範囲について,例えば手術によって形成されたものまで含まれるのかというような点について,もしお考えがあれば教えていただければと思います。 ○中村幹事 今お尋ねのありました点につきまして,事務当局としての一応の考え方を申し上げますと,性別適合手術などがあると伺っておりますけれども,そういった手術によって形成されたものであるから一律に要綱(骨子)第一の膣や陰茎に該当する,あるいは該当しないというものではないのではないかと考えているところでございます。   すなわち,個別の事案におきまして,その外観だとか機能などを勘案して,膣ないし陰茎に当たるか当たらないかというのを判断していくということになるのではないかと考えているところではございますけれども,この点についても,委員,幹事の皆様方の御意見があれば,御意見を承りたいと考えております。   また,本日の段階でも,もちろん御意見を頂きたいと思っておりますけれども,この問題につきましては,性別適合手術といった手術によって形成される陰茎とか膣というのがどのようなものであるのかなどについて,よく把握する必要があるかと思っておりますので,この点については,私どもとしても今の問題提起につきましては,よくよくその実態がどうなのかというところを把握した上で,次回以降に御報告させていただくということも検討させていただきたいと思っております。 ○山口部会長 それでは,そのようにお願いしたいと思います。   今の点について,何か御発言があれば,お願いしたいと思いますが,よろしいでしょうか。 ○今井委員 今,佐伯委員からの問題提起の点は,私も関心を持っているところですが,中村幹事の御説明に賛成するものであります。手術等,人工的に作られた性器等が対象になるかというのは,これから大きな問題になるような気がしておりますけれども,例えば性同一性障害を患っておられた方が,そういう精神的な疾患をなくすために手術をなさった。そして人工的にできた性器に,ここに規定されているような行為が行われたときには,彼又は彼女が感じる屈辱感ですとか,あるいは自分の意思に基づく性的な行為ができなかったという被害の実態におきましては,自然のままの性器に対してこれらの行為が行われた場合と変わるところがないと思いますので,私は基本的に,そのような人工物も対象に入れる方向で考えるべきではないかと現在では思っております。 ○山口部会長 是非引き続き御議論いただきたいと思いますのは,拡張するとしても,どの範囲で拡張するのかということが非常に重要な問題になってくるのではないかと思います。既に頂いた御意見の中でも,口淫は入れるべきでないのではないか,あるいは疑問だという御意見と,入って当然であるという御意見とがあったように思います。そのほかに,膣性交,肛門性交,口淫以外に手の指も含めるべきではないかという御意見もございましたが,これらの点について,特に御意見を頂ければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○宮田委員 度々申し訳ありません。先ほど言いかけたのですけれども,私は肛門性交までは第177条の中に入れてもよいのではないかと考えています。先ほど申しましたように,肛門「性交」というような,姦淫行為と同等に見られるような言葉が実際上あります。また,女性被害者に対して行為が未遂で終わったときに,「私は肛門性交するつもりだった。」と言われてしまうと,強制わいせつになる。私が押し倒されたときに,そんなことになるとちょっと嫌だなと思います。被害者が,客観的,外形的にも同じような行為をされて,それが別な類型になってしまうということに問題を感じます。   構成要件を規定するときには,行為の客観性や類型的な危険性のようなものを考えなくてはいけないのではないかと思われるところ,姦淫行為と肛門性交だと,挿入する直前までどちらの行為か分からない,被害を受ける場所の近似があり,細い器官に対する陰茎の侵襲ということですので,行為の危険性は大きいと思われますし,あるいは相手の衣服を剥がさなければ実行に至れないという意味で,規範の乗り越え方が類型的に口淫とは違うように思われるのです。   未遂のときに,強姦と肛門性交はそうはならないけれども,口淫だったら公然わいせつとなる単なる性器露出とどう線引きするのかということも出てきかねないのではないかと思っています。   先ほど小西委員や角田委員の御意見の中にありましたけれども,口淫は,性交に至るまでの一つのプロセスである場合が多いのではないかと思われるのです。そういう意味で,強姦未遂の中に評価されているために,法務省から頂戴いたしました資料14の中に,口淫のケースは必ずしも多くないのではないかと思われます。   キリスト教国においては,口淫や肛門性交自体が禁忌であって,そういう行為自体,恋人同士であっても,忌まれるような行為です。処罰を求める被害感情も我が国のそれよりも大きいでしょうし,処罰をしなければならないという社会的な要請も大きいのでしょう。日本との間には,そのような文化的な違いがあるように思われるのです。   また,強制わいせつの法定刑の上限が今10年です。量刑の話を先取りしてしまってもいけないかもしれませんが,法務省から頂戴いたしました,資料14を見ますと,口淫の場合,3年以下で処罰されている例がかなり多い。強制わいせつの法定刑の上限が現在10年であることを考えますと,この資料に出ている例を拝見いたしましても,科刑の不均衡が生じるという問題も起こらないことから,口淫については含めないという考え方も十分あり得,むしろ私はそちらの方が正しいのではないかと考える次第です。 ○山口部会長 口淫の問題,これは既に要綱(骨子)に入っている問題で,これを除くべきかどうかという議論ですけれども,要綱(骨子)に入っていない「手の指」の問題については,いかがでございましょうか。 ○角田委員 実際に現在強制わいせつ罪になっているのですけれども,膣に手の指を入れられたという事件の被害者,女性なのですけれども,その方が受けた苦痛というのは,いわゆる膣性交とそれほど差がないというか,屈辱感とかものすごく自分が酷い目に遭ったという,そういう感情については,陰茎だから重くて手の指だからそうではないとは,実態のところではそうなっていないのではないかと私は思っているのです。ですから,膣とか肛門とか,そういう性器,肛門を性器とは変なのですけれども,性器関連部分といいますか,そういう部分に対する指の挿入というのは,指を挿入されることの屈辱感というのは非常にやはり大きいと私は思いますので,この二つの器官に対しては,手の指を入れるという形態に広げてもよいのではないかと思っております。 ○橋爪幹事 結論から申し上げますと,やはり挿入するものは陰茎に限定すべきであって,指,異物については,追加するべきではないと考えております。   まず,そもそも現行法は,一般の強制わいせつ行為と区別して,強姦行為,すなわち陰茎を膣に挿入する行為のみを加重処罰しています。膣性交のみを加重処罰する理由というのは,おそらく,膣性交が妊娠の危険性をはらむ行為であり,また,仮に妊娠する危険が全くないとしても,生殖行為としての抽象的な意味を持っているという観点から,刑が特に加重されていると解することができます。   もっとも,要綱(骨子)第一の罪は,このように生殖行為としてのシンボリックな意味を持つということを離れて,重大な性的侵害という観点を重視していると思われますが,そのような理解は基本的に正当だと考えます。すなわち,飽くまでも性的な行為として濃密な身体的接触があるところに加重処罰の根拠があると考えるべきであり,このような理解からはやはり膣とそれ以外の肛門,口腔を区別して考えるべきではないと思われます。   このような前提から,指や異物の挿入の問題に戻りますが,膣に対する指や異物の挿入は陰茎の挿入と同様に処罰するという理解があり得るとしても,肛門や口腔については,指や異物の挿入すべてを陰茎挿入と同様に処罰するという理解は採り難いと思うのです。そうすると,膣と肛門,口腔で取扱いを異にすべきかということになるわけですが,先ほど申し上げましたように,重大な性的侵害という観点から,膣のみを特別視すべきではないという前提に立ちながら,膣に対する指や異物の挿入行為だけを罰するというのは,前提と結論がやや矛盾しているような感じがいたします。飽くまでも膣と肛門,口腔等を区別をしないという前提からは,一律に指,異物の挿入行為を罰するか,あるいは罰しないという選択しかないように考えております。   そうしますと,やはり口腔内への指や異物の挿入行為を性犯罪として全面的に罰することには無理があることから,結局のところ,異物ないし指の挿入行為は加重処罰から外すという方向にならざるを得ないように思います。 ○山口部会長 指については,不可罰になるわけではなくて,強制わいせつ罪になるという御趣旨ですね。 ○橋爪幹事 はい。失礼しました。 ○小西委員 二つ申し上げたいと思いますが,一つは今の指のことなのですけれども,例えば自分の子供にずっと肛門に指を入れて被害を与えるというような性的虐待は,結構ありますね。その指を入れていることが明らかに加害者の方では性的な行為として行われていると思いますし,そういうときに,後でそのことがトラウマになってくるということは当然あると思う。   だから,被害者の方の被害の重さという点では,例えば今頭に思い浮かぶ例で言えば,電車の中の痴漢にずっと性器に指を入れられていて,PTSDになっているようなケースもあります。ただ,その程度がやはりいろいろなものが含まれてくるなという感じがして,ちょっと私はここのところは被害の重さが個別に違い難しいと自分では思っているところです。   一方で,先ほどの口腔は別だというのは,例えば子供を対象にしたときに,これを別にする理由なんか何もないというのが本当に実態だと思うのですね。性的な犯罪を起こそうと思って,抵抗しない子供を選んで,性器をその口に挿入するというようなケースは結構たくさんありますから,そういうケースがどこが膣性交と違うのかというのは,そこで区別を引くのは変な話だなと思います。大人でも同じような形で口腔を使うということに至っているケースもあり,恐らくPTSDの発生率なんかも何も変わらないと思うのですね。   そこのところは,線引きがよく分からないなと思うところです。 ○角田委員 これは,子供の虐待などを扱っている弁護士の人から聞いた話です。加害者の側にとって,手の指というのは,特に子供が小さい場合は,まだ陰茎を使えないときに,まず手始めに手の指を女の子の膣に入れるとか,そういうことをやって,だんだん時間が経ってきたら,その使うものが性器に変わってくるということなので,手の指を使った行為というのは,実は加害者側にとっては既に性的な意味を持ったものであって,それがだんだん本物の性的侵害に発展していくというケースが少なくないということを聞いております。そういう意味からも,私は手の指というのは無視できないものではないかと思っております。 ○森委員 私は,拡張の範囲につきまして,要綱(骨子)に賛成の立場でございます。   実務で見ておりまして,強姦事件で口淫を伴う事件というのは,相当数あります。それで,口淫ですとか,あるいは肛門性交というのは,性的な欲求を満たす行為として膣性交と同等と評価できるのではないかと思いまして,それを相手の意思に反して無理やり行うというのは,膣性交の強姦と悪質性は同じであろうと思います。それに加えて,被害者の精神的な被害の重さの実態というのも同等であれば,そこまでは拡張してよいのだろうと思います。   ただ,手の指その他の異物となりますと,行為としての意味合いというのでしょうか,それが異なってくると思われますし,それから,構成要件としましても広がり過ぎるということが懸念されますので,私はそこまでは広げるべきではないと思っております。 ○齋藤幹事 手指のこと,口淫のことに関して発言をいたします。手指のことに関しましては,犯行の状況など様々かとは思いますので,一概に性交等に加えるべきだとも私は言い切れません。また,この場で,科学的なデータをお示しすることもできません。しかし,臨床上の感覚として,例えば痴漢の被害などで性器に指を挿入されなかった被害とされた被害では,トラウマ反応が異なるようにも思っています。性器に指を挿入されていないからといって,苦痛感であるとか屈辱感であるとかが軽いとは言えませんし,反応の出方は人それぞれなので一概に言うことはできませんが,ただ,臨床でお会いしている中で,性器に指を挿入された被害者の方は,トラウマの反応としては重篤な場合が多いと感じております。   また,口腔内に関しましては,臨床でお会いしている限り,膣内,肛門内,口腔内に性器を挿入された場合,そのトラウマの反応ですとかPTSDになる,ならないというのがそれほど大きく違うという感覚はありません。また,海外の調査などでもオーラルセックスまでは基本的に含まれているものが多かったので,逆に私は,なぜ膣内,肛門内,口腔内が区別されるのかということの方がずっと不思議でした。そして,犯行が行われる状況を考えましても,口腔内に関しては膣内,肛門内とごく類似した状況で行われることが大半ではないかと考えますので,口腔内というのは,要綱のままということに賛成の意見を述べさせていただきます。 ○山口部会長 現在の強姦を広げるということになった場合に,類型的に強姦と同等かどうかという視点が立法する場合に重要ではないかと思いますので,その点について何か御意見があればお伺いしたいと思います。挿入させる行為については,既に若干御意見を頂いておりますが,その点について更に追加的に御意見を頂ければと思います。 ○宮田委員 させる行為のことをまず述べます。挿入させる行為と挿入する行為は違うのではないかと思うのです。   先ほど,構成要件をどこまで広げるかという話で,行為の客観的な危険性を,まずは考えるべきではないかと申し述べました。器官への侵襲行為といっても,侵襲する行為の危険性と,させる行為の危険性というのは,やはり大きく違うのではないかと思います。侵襲させられたことによって性器が害されることは考えられないわけです。   過去の暗数があるから,あまり意味がないと言われるかもしれませんが,法務省から頂戴している資料15の挿入させる行為の事例は,大人が児童に対して挿入させる行為をしているものです。処罰の必要性が高いのは,こういう若年者に対する行為であるとすれば,強姦罪の範囲を広げることによって対処するのではなくて,若年者に対する保護を強化する対策が一義的に必要なのではないかと思うのです。   侵襲される被害の場合は,行為が受け身で,同意がない,暴行・脅迫などがある,あるいは欺罔されているというように,同意がないという推定を働かせることは容易です。否が応でも入ってしまうわけですから。ただ,侵襲させる行為の場合には,男性の性器を,こういう言い方をこういう場でするのが非常に抵抗はあるのですけれども,男性の性器が膣などに挿入できるような状況になるためには,生理的,あるいは心理的な影響が非常にあり,男性が嫌悪感とか恐怖感から萎えてしまう,いわゆる立たない状態になってしまう場合は多いのではないかと思うのです。   そうすると,いや,これは同意があったからそういう行為ができたのだという形で非常に不毛な争いが出てくる場合もあるのではないか。性的な反応が非常に敏感に出てくる若年者の被害者のことは,考えなくてはいけないのだろうなと思うのですが,これはさせる行為として一般的に規定することによって保護するべきなのかどうかは,疑問に思うところであります。   先ほどの口淫の問題についても,子供の被害が多い,あるいは指の挿入についても子供の被害が多いということであれば,それは児童への虐待の問題として一括りにして考えるべきであって,成人の場合には,口淫あるいは指を使ったいわゆるペッティングと言われるような行為は,性交の前提として見ることができる。つまり,強姦しようとして,そういう行為をする,あるいは強姦できなかったから,そういう行為で取りあえず終わらせておく。障害未遂によって強姦できなかったから,そういう行為で代替すると。口淫の場合には,特にそういう場合も出てくると思われますので,私は,強姦の拡大について,口淫はなくても処罰上,問題はないのではないかと思ってしまうのです。 ○今井委員 今の宮田委員の御意見を承っておりまして,確かにそのような面が非常に大きいというのは理解できるのですけれども,今回の改正をしようとする基本的なスタンスは,先ほど来,御議論がありますけれども,被害者となり得る男女間の性差をなくすという観点が一つあったように思います。   そうした場合に,男性が被害者となって,その意に反して性行為等をさせられたという場合に,それは被害者として女性の場合と何ら変わることなく,自己の意思に反して性的な交渉を持たされてしまったということ,それに伴う精神的な屈辱感というものが生じるわけでありますので,今,宮田委員は,その行為の危険性ということも御指摘されましたけれども,行為の危険性が現実化して被害に遭ったという男性がいる場合を想定いたしますと,挿入させる行為を除外する理由はないのではないかと思います。   日本の資料を見ますと,確かに,先ほど来,暗数ということも言われていて,例えば男性が男性にさせた行為がどれだけ実態として被害報告等あるのか,確かに余りないのかもしれませんけれども,海外の事例などを見ておりますと,これは映画などでも大変よく出てくるテーマでありまして,刑務所内で,インメイト同士でこういうことになって大きな問題になるということは,社会的にも知られていることでありまして,日本でもそういったことがないにしても,あるいは,多くはないにしても,必要な処理をすべく,今回の改正をすべきではないかと思った次第です。 ○小西委員 今の御意見と一つは重なりますが,成人男性の被害は結構あります。今言われたような刑務所の中などではたくさん起こっていますが,出ていないだけ。出せないから,出ていないのだと思いますけれども。   それから,その後,立たないのではないかということを言われましたけれども,そこが性被害に関するとても大きな誤解だと思います。女性の場合も,そういうときに,例えば女性の方も快感を感じたということが,そんなことないのではないかと被害者本人も思っているから,実際にそういうケースはあるのです。生理的反応ですから,当然あります。男性も当然,生理的反応なので,性交ができる状態になることはあります。   それが非常に本人の自責感を募らせる。自分はそういうことを思ってしまったから,これは犯罪とはいえないと思っている人は,非常にたくさんいます。   小さいときからたくさん被害に遭ってきて,しかも私はそのことで快感を覚えてしまったから全部私のせいなのだと思っている子供は,本当に気の毒です。そこは分けて考えるということが,性被害に関して考えるのには大事な点だと思います。 ○山口部会長 ありがとうございました。   大分御意見を頂いているのですが,既に論点について御意見をお述べになっておられない方から特に御意見をお願いいたします。 ○池田幹事 今問題となっております,させる行為についてですけれども,やはり濃厚な身体的接触の強制的な共有という観点から,する行為とさせる行為は区別ができないのではないかと思います。   生理的に対応可能な状態になっている場合もあるではないかという御指摘につきましても,そのことが直ちに同意の存在を基礎付けるわけではないと考えられます。加えて,先ほど今井委員からも御指摘がありました,被害者についても性差をなくすという観点に鑑みましても,させる行為を処罰の範囲に含めることを明示するということは適切ではないかと考えております。 ○田邊委員 私は,「性犯罪の罰則に関する検討会」の段階から参加しておりました。   構成要件を拡張すべきか,またどのような範囲で拡張することにするのかなどという拡張の可否,若しくはその範囲ということについては,基本的には立法政策の問題でありますので,裁判官としては申し上げるべき立場ではないと考えておりますが,ただ,構成要件の外延というものは明確にしていただきたいという意見を申し上げました。   基本的にここで申し上げる点も同じことになるわけですけれども,要綱(骨子)を拝見しておりますと,構成要件の明確性という観点から,特に大きな問題は感じないということはございます。もっとも,先ほど御指摘のありました,例えばこの中にある膣,陰茎といった用語について,その外延をどこまで含むのかといった問題については,更にクリアになるというのは非常に望ましいことかとは思っておりますけれども,基本的には明確性という観点からの問題というのは,特にないものと思っております。 ○山口部会長 今まで御意見を頂いていない点なのですが,要綱(骨子)第二の準強姦につきまして,これも行為を第一の強姦の罪の改正のように「性交等」というように広げるということになっておりますが,この点について何か御意見があれば,お伺いしたいと思いますけれどもいかがでしょうか。 ○橋爪幹事 要綱(骨子)に賛成する方向で,意見を申し上げたいと存じます。   準強姦罪は「準」と付いておりますが,現行法においても,強姦罪とその当罰性において相違はないと考えております。すなわち,強姦罪において暴行・脅迫行為の存在が刑を加重するわけではなくて,意思に反する性行為を強いているという観点が強姦罪を性犯罪として重く処罰する実質であると思われます。   そうしますと,準強姦と申しましても,意思に反する性交等を行うという点において,その法益侵害性は強姦罪とほとんど異ならないと思います。また,脅迫を用いた強姦行為というのは,被害者にとって心理的に抵抗し難い状況を作出し,それを利用して姦淫行為を行うものですので,実際問題として,抗拒不能に基づく準強姦と厳格に区別することは困難です。このような観点からも,両者で取扱いを分けるべきではないと思います。   以上申し上げましたように,第二の罪につきましても,第一の罪と同様に処罰範囲を拡大するべきであると考えております。 ○山口部会長 この要綱(骨子)第一の関連のことにつきまして,いろいろな御意見をお述べいただいたのですが,御意見をお述べいただいていない方で更に御意見があれば,お聞かせいただきたいと思います。 ○塩見委員 今までの御議論とずれる話なのですが,議題に上っていないことで一つ意見を述べさせていただきたいと思います。   それは,要綱(骨子)第一の冒頭の「暴行又は脅迫を用いて」に続いて書かれています「13歳以上の者を相手方として」の部分は要らないのではないかということでございます。   現在の要綱(骨子)は被害者の年齢を13歳以上と13歳未満に分けた上で,13歳以上については暴行・脅迫を手段とする性交等,13歳未満については暴行・脅迫に限らない性交等一般を処罰するという形式になっています。これですと,よく知られていることではありますけれども,13歳の年齢について故意が及ぶ必要があるのか,あるいは前段と後段との間で錯誤があった場合にどうなるのかといった問題が生じてまいります。   確かに判例によりますと,同様の規定ぶりである現行の176条に関しまして,13歳未満の者に脅迫を用いてわいせつ行為をしたという事案において,前段と後段の区別なく右法条に該当する一罪が成立すると述べておりますので,今申し上げたような問題は解決済みなのかもしれませんが,むしろこの際,判例の趣旨を規定ぶりに反映させてもいいように思います。   また,一般の方にとっての分かりやすさという点でも,暴行・脅迫を手段とするものは,被害者の年齢を問わず処罰する,それから13歳未満についてはそれ以外のものも処罰する,というように書いた方が分かりやすいように感じております。   そのような修正は内閣法制局で検討されるべき事項なのかもしれませんし,修正するとすると,現行の176条にも及ぶことになりますので,今回の部会の射程範囲を超えるという問題もあるのかもしれません。ただ,もし可能であれば,先に述べた部分を削除することも一案ではないかと考えております。 ○中村幹事 事務当局から,この要綱(骨子)第一で「13歳以上の」という文言を現行法と同じく維持したということの趣旨について,御説明申し上げます。   これは,現行刑法の第177条と同じ趣旨でございます。すなわち現行刑法の第177条前段では客体を「13歳以上」としておりますけれども,これはその第177条後段が「13歳未満」としていることから,これとの対比で注意的に置かれたものと考えられます。また,前段と後段との関係につきましては,塩見委員からも御紹介ありましたとおり,暴行・脅迫を用いて13歳未満の女子を姦淫した場合には第177条の一罪が成立するとされておりまして,第176条の強制わいせつ罪についても同様に理解されているところでございます。   そして,疑義が生じ得るのが,行為者が,被害者の年齢について誤信していた場合ということでございますけれども,つまり,13歳以上の女子を13歳未満であると誤信して姦淫した場合に,前段,後段,どちらの罪を適用すればよいのかという問題がございます。   この点については,現在は,前段の罪,すなわち暴行・脅迫を用いて姦淫する罪においては,「13歳以上」であることの認識は不要であるとの解釈が定着いたしておりまして,13歳以上の者を13歳未満であると誤信していたとしても,暴行・脅迫を用いて姦淫したのであれば第177条前段の罪が成立するとされております。   現在の実務の運用におきましては,塩見委員から御指摘のあった点を含めまして,このような解釈が定着しておりまして,特段の問題が生じていないということから,今回の諮問は,この点については特段の変更は加えないという意味で,現行法と同じく「13歳以上の」と記載することとしたものでございます。   ただ,もちろん御指摘を踏まえまして,更に検討させていただきたいと思っておりますので,この点に関しましても,御指摘,御意見を承りたいと思っております。 ○佐伯委員 事務当局御指摘のとおり,特段の問題は生じていないのだろうと思いますので,この点だけを改正する必要はないと思いますけれども,性犯罪に関する規定を今回大きく変更するということであれば,この際,そういう疑念を払拭するという意味で,この点についても規定ぶりを改めるということは十分考えられることかと思います。 ○今井委員 今の塩見委員の御意見,大変興味深く拝聴しておりましたけれども,現在の第176条,第177条が13歳以上の者かどうかで分けているのは,恐らくそういう年齢に達したときには,精神的にある程度成熟してきて,自分で判断し性的な交渉を誰と行えるかができるという推定,あるいは前提の下に立っているのだろうと思います。   他方で,そういう年齢の制約を外してしまうという考え方は,性犯罪の持っている性的暴行という局面をより重視する観点になじむ,言い換えますと,年齢による制約は取り外しまして,同意については刑法の一般の同意の理論によって処理するという考え方とよりなじむ発想だろうと思います。   しかし,性犯罪には,そういう性的自己決定権の侵害を,暴行等により侵すものという両面がありますので,かつ,私は前者の性的自己決定の保護ということが中心になろうと思いますので,この13歳以上の者,年齢をどこに引くかというのは,また議論があるかもしれませんけれども,一定の成熟した年齢という基準を残す方がよいのではないかと思っております。 ○山口部会長 塩見委員の御指摘の点は,そのように変えてもいいし,別に変えなくても困らないという問題かなというように思いますので,いずれにしても,これは最終的にもし答申されて,決定された場合には,どういう法文になるのかという辺りで更に御検討いただくべき問題かなと思います。 ○角田委員 私も「性犯罪の罰則に関する検討会」のメンバーだったのですけれども,検討会では結局賛成多数とならなかった二つの論点について,少し付け加えさせていただきたいと思っております。   一つは,暴行・脅迫要件の緩和という問題です。もう一つは,今出てきました13歳という年齢をどうするかという話です。検討会での取りまとめ報告書は,お手元の資料7にありまして,7の18ページ以下なのですけれども,そこにも書いてあるように,被害者がどのように抵抗したかということと,著しく抗拒が困難であったかどうかということが,最高裁の昭和24年の判例で,それに対して最高裁が昭和33年6月6日の判決で,その暴行・脅迫の程度というのを被害者の抗拒を著しく困難にする程度を前提にして,それは具体的にどう判断するかということで,言ってみれば総合的に文脈で判断するのだということを言われているわけです。つまり,個々の暴行・脅迫だけを切り離してみるのでないということを指摘されているわけなのです。   それで,検討会でも,例えば資料7の19ページにもあるのですけれども,実務の実際としては,被害者の意思に反する性交か否かというのは,行われた暴行・脅迫を状況証拠として用いつつ認定しているのだと考えられる。だから被害者の意思に反することが間違いなく確信できるという事例について,強姦罪を認めているのだという御説明がされております。   でも,実際には,暴行・脅迫の程度というのが直接議論されて,そして構成要件に必要な程度を満たしていないという事案については,無罪の結論になっているわけです。   それで,その無罪の例を検討会に御参加でなかった方は,後で法務省のホームページで御覧いただくことになるかと思うのですけれども,第6回の検討会資料の資料28が暴行・脅迫の程度に関する裁判例で,最初は強姦罪の成立が肯定された例,その後は成立が否定された例として二つ載っています。一つは,東京高裁の平成26年9月19日の判決,もう一つは,これは被害者支援などをやっている人たちにはとても有名なものですけれども,大阪地裁の平成20年6月27日の例がこの暴行・脅迫要件に引っ掛かって無罪になった例として挙げられております。   これは,よく見ますと,東京高裁の例は加害者が25歳,被害者が15歳の小柄な女の子だということです。頂いた資料自体からは,この二人の知り合い関係というのは分かりませんし,判例検索してみたのですけれども,元の判例に当たれなかったので分からないのですが,大阪地裁の方のケースは,これは判例が公刊されていまして,私の記憶が正しければ,加害者が28歳ぐらい,それから被害者は14歳の中学2年生なのです。二人はほとんど前の日に知り合ったばかりという,関係が非常に薄いケースです。このケースは二つとも起訴されているわけですから,検察官は,この二つの例について,暴行・脅迫の要件を満たしていると判断されたわけです。しかし,裁判所では,総合的に判断しても,抗拒を著しく困難にする程度の暴行・脅迫ではなかったという結論になっているのです。   そこで,暴行・脅迫が不十分だと判断されているのですけれども,具体的にどういうことが行われたかということを見ていただくと,これは暴行・脅迫ありとされた例と遜色ないと,変な言い方なのですけれども,それほど著しい違いがないということなのです。そうなってくると,その総合的な判断というのは一体本当になされているのかどうかと私は考えてしまうのです。   結局,不同意と確信を持って判断されるためには,今挙げた二つの東京高裁,大阪地裁のケース以上に,もっと強い暴行・脅迫が必要だと言われていることになってくるわけなのです。ですから,日本の実務では,結局,不同意ということは,被害者の抵抗の程度で計られている。これは変わっていないと私は思っております。そこが,裁判所が認定するそれと,現実の被害者の抵抗とはかなりかい離があるのではないか。そのため,この取りまとめ報告書が出た後でも,被害当事者の人たち,団体や個人から,やはり暴行・脅迫の要件は緩和すべきでないか,条文としてどうするのかということとは別の問題として,事実認定における考え方として,それは緩和というか,やはり考えなければいけないのではないかと,私は思うのですね。 (齋藤幹事 退室)   それで,この暴行・脅迫の判断に,私は外国のことは知らないのですが,日本の場合は程度論,どの程度かという程度論を持ち込んで判断しています。その程度論という考え方が,実は私はおかしいのではないかと思っているのです。   福岡高裁宮崎支部の去年の12月11日の準強姦で起訴されていた事案ですけれども,結論としては無罪になったケースでした。その事案では,高裁は準強姦の成立を認めたのですけれども,被害者が大して騒がなくて,いわゆる抵抗しなかったので,加害者の方が同意があるものだと誤解したので強姦の故意はないと判断されました。おまけにその判例では,この加害者は無神経な男だということも書いており,無神経な男だから被害者がどういう心理状態にあったか分からなかった。念のために言いますと,加害者は56歳で,被害者は当時18歳の高校生で,彼がゴルフを教えた生徒だったのです。そういう関係があったのです。そうしますと,この暴行・脅迫の要件を被害者の対応といいますか,どの程度抵抗したかということで考えるのが強姦であって,つまり被害者が大して抵抗しなかったらそれは強姦ではないという考え方になっているのです。それがちまたに振りまかれていて,それを結局,裁判所,判例の実務が支持してしまっているのではないかと私は思っているのです。   ですから,この程度論の間違いというのは,やはり真剣に考える必要があるのではないかと思っています。つまり,程度を論じないということ,私は暴行・脅迫撤廃論で,検討会では誰からも賛成がなかったので,今日は暴行・脅迫の維持は仕方がないという立場でお話しするのですけれども,暴行・脅迫の強弱,大小,程度を問わないという考え方を採るべきではないかと私は思っております。   古くは,植松先生がそういう説を,非常に少数説でしたが述べられておりました。今は大阪大学の島岡まな先生が,基本法コンメンタールか何かで,このことを非常に明確にお書きになっている。   もう一つは,検討会でも示されたのですけれども,現場で実際に行われている事実認定では,暴行・脅迫は状況証拠の一つとしていると指摘されているのですけれども,結局,暴行・脅迫の程度が非常に重視されているのが実態ではないかと思われます。そして,その程度を重視した結果,必要な程度に達していませんよとして,14歳の女の子,15歳の女の子の抵抗の仕方が足りなかった,しかも相手は成人の男性です。自分より10歳ぐらい上の男性に対して,そんな抵抗では駄目ですよと言われてしまっているということなので,これはやはりもう一度考え直すべきではないかと思っております。   程度論とは一体いつから始まったかと私は思うのですけれども,恐らく戦前からではないでしょうか。そこでの程度論が出発したときの男性と女性との社会的関係とか,女性を男性がどう見ていたか,取り分け,法律家がどう見ていたかということは,非常にここに大きく関連してくるのではないかと思います。   それから,検討会で諸外国の立法例,この問題に関して,いろいろ頂きました。それで見ましたら,かなりの国で暴行・脅迫要件が入っているのです。暴行・脅迫要件が入っているということと,それを解釈するときに日本のような程度論をやっているのかいないのかということを,外国の法律にお詳しい研究者の方々に教えていただきたいと私は思っております。   それから,先ほどもう一つ,13歳の問題なのですけれども,これは13歳で暴行・脅迫が足りなくて無罪になるケースもあるのですけれども,むしろ13歳とか14歳の頃に,子供時代に被害を受けて,その被害がその後の人生にどういう影響を与えていったかということも,一緒に考える必要があるのではないかと思うのです。   13歳とか14歳の子供,日本ではまだ中学生なのですけれども,判例基準の抵抗行動を取れるのだろうかということは,やはり私は疑問でしようがないです。そして,これも現実からかい離している。現実からかい離しているために,先ほど御紹介しました東京高裁,大阪地裁の判例は,この子供たちの抵抗が足りなかったと,はっきりそのように書いて無罪にしているわけです。これはおかしいのではないかと,もう一度ここで言わせていただきました。ありがとうございました。 ○山口部会長 ただいま,暴行・脅迫の点と,それから,いわゆる性交同意年齢の問題について御発言があったわけでございますけれども,まず暴行・脅迫の点について,何か御発言はございますか。 ○小木曽委員 被害の実態というか,被害者がどのくらい抵抗したのかということの認定と,それから裁判所の判断がかい離しているということがあるのではないか,そういう事案があるのではないかということは私も思いますけれども,結局,暴行・脅迫要件を残す以上,それは事実認定の問題にならざるを得ないと思います。というのは,ほかにどういう書き方,法律の立法の仕方としてあるのかと考えたときに,これはよく言われることですけれども,暴行・脅迫要件を撤廃して,意思に反してと書いた場合に,そう書くことの逆にデメリットというのは,主張立証が非常に難しくなってしまって,それは検察官側もそうですし,被告人・弁護側もそうだと思いますが,そうすると,かえって本来処罰されるべき事案であるにもかかわらず,立証ができなかったから無罪になってしまうというようなデメリットがあるのではないかということが気になるところであります。これは検討会でも議論された点ですけれども,この場でも議事録に残しておいていただきたいと思いまして,あえて申し上げます。 ○角田委員 私は,暴行・脅迫要件をなくせとは言っておりません。暴行・脅迫要件を,ここでなくすのは難しいでしょうから,それは暴行・脅迫という言葉で残しておくのであれば,それをめぐる議論の中で,程度論というのはもうやめるべきではないか。それから,もう一つ,私はこの問題を考えながら思ったのですけれども,刑法の教科書で,暴行・脅迫の要件について,必ず程度の問題が論じられているわけなのですが,そのときに昭和24年の最高裁の判例は引かれているのですけれども,昭和33年の総合的に判断しろという判例について,それほどはっきり書かれていないように思われます。だから私も含めて実務家は,総合的な状況によって,暴行・脅迫の程度も考えなければいけないのだと言われ,検討会でも暴行・脅迫は状況証拠の一つだと説明を受けたのですけれども,でも,実際に起きていることは,結局,暴行・脅迫をそれ自体として評価していて,それが構成要件として要求される程度に達していないと駄目よというように言っているのではないかと思います。一つお願いしたいのは,ここで言う話ではないと分かった上で申し上げるのですけれども,教科書の中で,そのことを明確にしていただきたいと思います。そうすると,随分その点についての誤解が消えていくのではないかと思うのです。   それと,外国では,そこの議論がどうなっているかと,私は本当に知りたいと思います。法務省から頂いた資料は,どういう条文になっているかということで頂いたのですけれども,それをめぐってどういう議論があったのかということについては全く私は分からないものですから,教えていただきたいと思っています。 ○山口部会長 私も教科書を書いていまして,責任の一端を負わなければいけないと思うのですが,ただ,最近,強姦罪における暴行・脅迫が一体どの程度のものとして要求されているのかということについては幾つか論文が発表されております。そういう意味では,教科書レベルではなお更にアップデートしていかなければいけないと思うのですけれども,論文という場で見ますと,かなり学説の立場からも検討が進められていて,認識が深まっているということは,申し上げさせていただきたいと思います。 ○角田委員 今のアップデートの問題なのですが,私は古い人間なので,団藤先生の「刑法綱要」で勉強しました。それで,その教科書は一体いつ発行されたのかを見ましたら,昭和41年なのです。その団藤先生の教科書には,実は昭和33年の最高裁の判決は引かれていないのです。それから,その後1960年代に出た「注釈刑法」がございますね。あの中で,所一彦さんが非常に有名なことをお書きになっています。些細な暴行に屈するような貞操はこの条文では保護しないのだと,する必要はないというようなことをおっしゃっているのです。今は,そんなことをお書きになる勇気のある方はいらっしゃらないと思うのですけれども,その「注釈刑法」だって,最高裁の判例の変化を全然反映していないと思います。だから学説はとてもアップデートされるのが遅いのではないかと私は思っておりますので,その点も含めて,是非正しい認識をみんなが持てるように,つまり,みんなというのは学生だけではなくて,宮崎支部の事件の被告人だって,そう思っているわけです。この程度は,つまり彼女が抵抗しないのだから,強姦になるためには抵抗が必要だというように普通の人が思っている,ここをやはり何とかしなければいけないと私は思っています。 ○小西委員 少し実態をお知らせしておきたいと思いますが,臨床で見ていますと,この暴行・脅迫要件で引っ掛かって,事件として認知されなかったり,不起訴の山という感じになります。要するに,警察に行った段階で,これは無理だという形で判断されてしまうので,例えば何か脅したときの跡が机についていればそれでよくて,そうでないと全然最初から抵抗できてないということになってしまう。口頭で脅迫されただけでも人はすぐ恐怖を覚えるのが普通です。けれども,そのことが分かっていない。もし程度問題だというのだったら,その被害者の心理について,もっとよく知ってほしい,そうでないと,程度なんか言えないでしょうというのが私が思うことです。   例えば,今の最後の抵抗の問題で,ちょっと思い出したケースがあるのでお話ししますけれども,やはり150センチぐらいの若い女の子で,相手の加害者は巨漢の人というケースがありまして,最初抵抗しているのですよ。だけど,もう途中で抵抗をやめてしまうのですね。スポーツ選手でさえ,レスリングだって,3分ぐらいしかできないではないですか。それほど人が抵抗を続けられるわけないと思うのに,その後,抵抗せずに一緒に歩いていったり,あるいは担がれて踏切を渡ったりみたいなことがあって,そのときも静かだったという理由で,そこに疑いがあったりするのです。そのケースは意見書を出しましたけれども,それほど当たり前のことに精神科医の意見書が要るような状況なのだということがあります。   大体,被害者が抵抗できないことには二つの理由があって,一つは,余り怖いと人の感情は麻痺する,そういうことが被害の中で起こってくる人もいます。麻痺しますと,相手の言うことを淡々と聞いてしまいます。一方では,早く自分が助かるためには,なるべく言うことを聞こうと考える人もいます。これもすごく当たり前のことだと思うのですけれども,例えば,被害に遭った後にコンビニに行って一緒に買物をしている,早く逃げたいから言うことを聞いているというようなところがまた法律では引っ掛かったという例もあります。本人に聞くと早く逃れたいと思ったようなのですけれども,裁判ではその場面だけを取り上げて,抵抗していないじゃないかという主張がなされる。そういう意味では,全体を判断しなければしようがない総合的な問題なのだと思います。私は角田委員が言われることをきちんと理解できてないのですけれども,そうだったら,せめてそういうことがたくさんの人に起こる普通のことで,男だって,自分より2割方身長が高くて体重が5割増しぐらいの人に襲われたら何もできないでしょう,黙って言うことを聞くでしょうというような被害者の心理についてやはり分かっておく必要が当然あると思います。   それが分からないところで,総合的判断というのは,非常に一方的な議論ではないかと思います。 ○森委員 少し検察の実務について説明させていただきますと,検察の現場では,先ほど来出ております最高裁の昭和33年6月6日判例に基づいて,暴行・脅迫の客観的な程度の強弱だけではなく,その他の被害者の年齢,精神状態ですとか,行為の場所,時間等,諸般の事情を考慮して,社会通念に従って,それが抵抗を著しく困難にさせる程度の暴行・脅迫と言えるかどうかというところを判断しているところです。   その過程におきましては,小西委員から御指摘がありましたような被害者が途中で抵抗を諦めてしまう心理状態になることがあり得るとか,あるいは恐怖で凍り付いてしまうことがあるといったことにつきましても,科学的な知見の理解に努めて判断しているところです。本日の御指摘を踏まえまして,今後も研修等を通じて,そういった辺りの理解を深めていくようにしたいと思っております。 ○小西委員 いろいろ努力されていることは承知しておりまして,変わっていくといいなと思っていますが,多分一番被害者が駄目と言われるのは,司法の第一線のところなのですね。やはりそこも変わっていかないといけないかなと思っています。   それから,もう一つは,今お話ししたようなケースで,言葉を尽くして裁判で専門家の意見として意見を書いたりして,抗拒不能だということが認定された場合に,結構,相手はそのことを認識していなかったのだから,結局,罪に問えないというような結論が,自分が持っていたケースでは2件ぐらいあった。つい最近ありました。それはやはり,そうすると物分かりが悪い偏見に満ちた人は無罪になるのかと,極論すれば,そういうことを私は素人ですから考えてしまいます。   そこのところが,皆さん余り疑問がないのかどうかもよく分からないのですが,とてもおかしいなと私は思っていますので付け加えさせていただきました。 ○三浦委員 警察の方で現場でいろいろな被害の申告なども頂くわけですけれども,もとより警察の方もいろいろ性犯罪に関する様々な研修でありますとか,あと近年女性の警察官をそうした事件捜査に極力当てるようにしているようなことであるとか,いろいろと被害者の心情に配意した捜査ということにも努めているつもりではあります。ただ,まだまだ現場で浸透し切れていないという部分もあるのかもしれませんけれども,警察組織全体としても,そういう方向を向いて努力をしているということは,是非,御理解をいただきたいというように思います。   ただ,現実の問題として,一つの事件を扱っていく中で,やはりどこまで証拠が収集し切れるのか,あるいは公判に堪えるだけの証拠をどれだけ収集できるのかというのは,常に現場も悩んでいるところでありまして,ただ,極力,小西委員がおっしゃったような被害者の心情というものをよりよく理解をして,そうしたところに寄り添って捜査をしていくということが正に必要であると感じていますので,更に努力をしていきたいというように思っています。 ○山口部会長 ありがとうございました。   性交同意年齢の点について,何かございますでしょうか。 ○武内幹事 要綱(骨子)第一について,日弁連の犯罪被害者委員会を中心とした被害者支援に取り組む弁護士と議論を重ねてまいりましたが,性交同意年齢について,これを引き上げるということを検討すべきではないかという強い意見も出されています。   これについて,事務当局あるいは御出席の委員の皆様の御意見,お考えをお聞かせいただければと思います。 ○佐伯委員 検討会でも申し上げたことなのですけれども,私は,性交同意年齢は現行法のままが妥当ではないかと考えております。   性交同意年齢を引き上げるということは,同意があっても一律に強姦罪,強制わいせつ罪で処罰するということを意味するわけですけれども,それはちょっと行き過ぎではないかと考えております。   引き上げないということが保護をしないということを決して意味しておりませんで,現行法の下でも,児童福祉法等の特別法,あるいは条例などで青少年保護の規定というのはございますので,刑法だけではなくて,そういう特別法,条例を含めた法律全体として,児童の保護ということを考えていくべきだろうと思っております。 ○橋爪幹事 私も原案に賛成でございます。確かに年少者の性的保護という観点からは,同意年齢の引上げにも十分な理由があると思うのです。ただ,同意年齢に満たない者との性交は,同意があってもなお強姦罪を構成しますので,仮に性交同意年齢を引き上げますと,例えば13歳,14歳の児童の方から性行為の要求があり,その要求に応じて性行為を行った場合についても強姦罪が成立することになり,波及効果としてかなり大きな問題が生ずるように思います。 ○山口部会長 いろいろと御意見が述べられましたが,今まで出ていない観点からの御意見があれば,是非お聞かせいただければと思うのですけれども。 ○井田委員 先ほどの塩見委員の御発言のときに確認すべきであったのですが,機会を逸してしまいました。大変細かなことですが,176条の強制わいせつ罪の文言は,現在は「男女」となっているのですけれども,これは177条の方がジェンダーニュートラルになった場合には,「男女」というのはおかしいですから,「者」に変わるという理解でよろしいのでしょうか。 ○中村幹事 先ほど若干その点についても御説明したつもりではございましたけれども,この176条で「男女」とされているのは,現行の177条で「女子」としていることとの関係で「男女」としていると考えておりますので,そうだとすると,177条で「女子」を「者」とするのであれば,176条についても同様に「者」とするのが適当ではないかと考えているところでございます。 ○北川委員 今,暴行・脅迫要件の程度の緩和ということと,性交同意年齢のお話が出ましたがこの要綱(骨子)では,私の勘違いであれば事務当局の方から御修正いただければと思いますが,一般に強姦,準強姦,また強制わいせつもそうですけれども,佐伯委員がおっしゃったように,一律暴行・脅迫を要件とし,また年齢については13歳のままとする案になっているのは,年齢も暴行・脅迫要件も緩和しなくても,児童福祉法による対処が可能であることに加えて,さらに,骨子の第三の要綱にも関係しますが,この新設部分に「18歳未満」とあるので,13歳以上18歳未満で,暴行・脅迫要件を用いてという立証ができないものでも,この第三のところで一定の範囲が対応可能になる,ただし,どこまでの範囲とするかどうかはまた別の問題だと理解しています。それでよろしいでしょうか。 ○中村幹事 今おっしゃったような理解で,基本的によろしいかと思います。 ○橋爪幹事 要綱(骨子)第一は,「強姦の罪(刑法第177条)の改正」とされておりますが,仮に原案どおり,肛門性交や口淫行為についても処罰対象に含むことになりますと,処罰対象がもはや強姦行為に限定されておりませんので,強姦罪という名称が使えなくなるようにも思います。もし事務当局の方で既に新しい罪名に関するお考えがあれば,教えていただきたいと思います。 ○松下幹事 事務当局といたしましても,仮にこの要綱(骨子)のとおりに御答申を頂いた場合には,罪名についても検討する必要があると考えておりますので,ここで皆様から御意見を頂けると有り難いと存じます。   また,併せまして,要綱(骨子)で,「性交等」ということで,あと括弧書きで書いておりますけれども,その「性交等」という用語を用いることや,括弧内の定義の表現ぶりなどについて,事務当局としては,構成要件の明確性を意識しまして,このような表現を用いているところなのでございますけれども,条文としてよりよい文言や表現などがございましたら,御意見を頂ければと思っております。   例えばフランスでは,性的挿入行為という文言を用いていて,それ以上の具体的な定義は,条文には書いていないというようなことでございまして,そのような規定ぶりというのは考えられるかどうかといった点も併せて,御意見を頂ければと考えております。 ○山口部会長 今の段階で,何か御意見は。明確性の問題は非常に大きいかと思うのですけれども,何か御意見がいただければ。   この段階ではよろしゅうございますか。 (「異議なし」の声あり)   ありがとうございました。それでは,本日頂いた御議論をまとめさせていただきますと,まず現在の強姦罪の対象行為を拡張するかという点については,拡張することに反対の御意見はございませんでした。ただし,強制わいせつ罪よりも重い刑で処罰するものがあるとしても,強姦とは別に構成要件を設けるべきだという御意見がございましたが,多数の御意見は,現行の姦淫よりも強姦罪の規定を拡張するという形で処理すべきであるという御意見であったように思います。   その上で,拡張する範囲についてでございますが,口淫は除くべきだという御意見がございました一方で,膣等への指の挿入も含めるべきだという御意見もございましたが,多数の御意見は,要綱(骨子)のとおりということであったように思います。   また,要綱(骨子)第二の準強姦罪についてでございますけれども,第一と同様の行為を処罰の対象とすることに反対の御意見はなかったように思います。   また,先ほど御指摘された点でもございますけれども,手術によって形成された性器の問題と,それから「性交等」の括弧内の書き方の問題などにつきましては,事務当局において更に御検討いただきたいと思います。   ここで休憩をさせていただきたいと思います。休憩後に,法定刑に関する審議に入りたいと思います。   11時5分に再開ということにさせていただきます。 (休     憩) ○山口部会長 それでは,会議を再開いたします。   ここからは,法定刑についての御議論をお願いいたします。   法定刑につきましては,第1に,要綱(骨子)第一の罪の下限を懲役5年とすること,第2に,要綱(骨子)第二の罪,準強姦罪につきましても同様に下限を懲役5年とすること,第3に,要綱(骨子)第六の2,強姦致死傷の罪の法定刑の下限を懲役6年とすることという三つの点が問題となってまいりました。   これらの点につきまして,併せて御意見をお願いします。   引き上げる理由につきましては,先ほど事務当局の方から御説明がございましたが,いかがでございましょうか。 ○橋爪幹事 結論から申し上げますと,法定刑の引上げに賛成したいと考えております。その賛成の理由を申し上げた上で,事務当局に1点質問をさせていただきたいと考えております。   現在の強姦罪の法定刑の下限は3年でございますので,法定刑の下限が5年である強盗罪とのギャップが生じていることは,先ほど来,御説明があったかと存じます。また,性犯罪が被害者の人格に対して重大な被害を及ぼすことを考えますと,強盗罪よりも強姦罪の法定刑が軽いということは,やはり大きな矛盾をはらんでいるように思います。また,資料18を拝見しましても,量刑傾向につきましても,強姦罪については,現住建造物等放火や強盗罪よりも重たい量刑傾向にあるようです。そして,正に量刑傾向というものが現在の社会における性犯罪に対する処罰感情なり処罰の必要性の反映であると考えますと,やはり強姦罪と強盗罪との間のギャップを解消する方向での法改正が必要であると考えております。   そういう観点からは,もちろん強盗罪の法定刑を引き下げるという方向の法改正もあり得るところかと思います。しかし,現在の強盗罪の法定刑が過度に重すぎるとまではいえないように思いますので,強盗罪の法定刑を基準としつつ,強姦罪をこれにそろえるという方向での法定刑の改正もにあり得る選択肢ではないかと考えております。このような理解から,原案に賛成したいと思います。   もっとも,このような理解は,飽くまでも現在の量刑傾向が正当な判断である以上,それに対応するかたちで法定刑を修正するべきという趣旨でございます。したがいまして,今回の立法提案というのは,現在の強姦罪の処罰が余りにも軽いから,法改正によってより重く処罰する必要があるというメッセージまでは含んでいないと,私は考えております。   端的に申し上げますと,今回の法改正は,今後の実務においては求刑,量刑が従来よりもプラス2年で行われるべきであるというメッセージを発するものであってはならないと思うのです。飽くまでも現在の量刑傾向に適切に対応する形で法定刑の修正を行うという趣旨で,今回の事務当局の御提案を評価すべきだと思います。   質問と申しますのは,このような形で今回の改正の御提案の趣旨を考えてよいのか,という点について確認させていただければ,と考える次第です。 ○中村幹事 事務当局から,今回の諮問の法定刑引上げについての考え方に関し,御質問の点について御説明申し上げます。   今回の諮問につきましては,現行法の強姦罪の法定刑,つまり3年以上の有期懲役となっておるわけでございますけれども,現行法のそういった法定刑の下におけるものとして,強姦罪の求刑だとか量刑が軽きに失して不当であるという認識を前提とするものではございません。   要綱(骨子)のように,法定刑を引き上げる趣旨につきましては,先ほど冒頭御説明申し上げましたとおり,最近における性犯罪の法定刑に関する様々な御指摘,それから現実の量刑の状況に鑑みますと,強姦罪の重大性,悪質性に対する現在の社会一般の評価が,強盗罪,現住建造物等放火罪などの犯罪に対する評価を下回るものではないと考えられることなどから,その法定刑の下限を強盗罪,現住建造物等放火と同様の懲役5年に引き上げようとするものでありまして,強姦罪の悪質性,重大性に対する法定刑としての評価を適切に反映させようとするものでございます。   また,法定刑を引き上げる法改正をした後の実務における求刑や量刑の在り方についてでございますけれども,そのような改正の趣旨を踏まえて,検察官又は裁判所において適切に判断されるべきと考えております。 ○佐伯委員 私は検討会でも申し上げましたけれども,法定刑の下限の引上げについては慎重であるべきであると考えております。   元々強盗罪の下限が重過ぎると考えていることもございますし,現住建造物等放火罪については,やはり生命に対する危険性が非常に高いということを根拠として下限が定められていると考えております。   そのように,私自身は引上げには慎重であるべきだという考えなのですけれども,ただ,先ほど橋爪委員から御指摘があり,事務当局が御説明があったことは,仮に法定刑の下限の引上げがなされた場合であったとしても,非常に重要な点であると思いました。 ○北川委員 法定刑の下限という点に関して,先ほど御説明のあった量刑の経緯,量刑に関する資料からは強姦がだんだん重くなってきているという状況があるということなのですけれども,それは飽くまで強姦の話ですよね。つまり,強制わいせつは含まない,重い事例はこうであるという統計ですね。   何を言いたいかというと,この議論の前提として,「性交等」という形で強姦に匹敵する行為を広げた場合に,ある一定程度の重い強制わいせつ罪が入ってくるということも想定しながら,それでも5年以上ということでよいのかというお尋ねです。対象行為の基本部分の軸足を定めないとぐらついてしまいますので,お伺いしたいと思いました。 ○加藤幹事 事務当局から,ただいまお尋ねの点について,説明いたします。   事務当局からの説明の中でお示しした資料は,御指摘のとおり強姦罪のみを対象とした統計であり,いわゆる性交類似行為を含む強制わいせつ罪をその中に含んでいるものではありません。ただ,強姦未遂は含まれています。   それから,今回の改正に当たって,強姦罪に関する資料を法定刑の引上げを御検討いただく一つの根拠としておりますが,現在強制わいせつ罪として問擬されているものの中にも,冒頭の説明でも申し上げましたように,それと同等に評価すべきもの,すなわち現在強姦罪とされている行為と同等の悪質性,重大性を備えるものがあるのではないか,その部分については,現在強姦罪とされているものと同等に評価するのが相当なのではないかという考え方で,その部分についても,要綱(骨子)第一どおり強姦罪の法定刑を引き上げた場合には,同等の法定刑とすべきものがあるのではないかという御提案申し上げているということでございます。 ○北川委員 ありがとうございます。分かりました。   法定刑の引上げによっては,やはり性交等の行為の類型化の範囲と密接に関わりますので,御確認いただきましたこと,ありがとうございます。 ○宮田委員 私は法定刑の引上げには反対の意見でございます。そもそも,強姦罪の構成要件を広げないという前提でも,5年まで上げる必要はないという考えでございます。   現行の罰則の中で,確かに量刑傾向は重くなっているとはいえ,法定刑の中で収まっている刑の言渡しがなされているということは重要かと思います。現在,非常に執行猶予が付きづらい状態にはなっていますが,それが更にこれを引き上げるべき立法事実になるのかは疑問です。   また,執行猶予を付けるべきではない事案には付けなければよいというだけで,酌量減軽しなければ執行猶予は付かない形に条文を変えることには,問題があるのではないかと考えます。   そして,傷害致死は3年以上,殺人は5年以上です。やはり,生命への侵害に対して,このような法定刑であることとの権衡は考えなければならないと思っております。   更に,被害者の精神的ダメージの問題です。嫌がらせをされてPTSDになった,これはそのPTSDの診断書を出して,傷害罪で処断することは可能です。   PTSDや適応障害あるいは不眠などの精神症状が出ている強姦罪の被害者について,診断書を出して,これを強姦致傷に問えないのでしょうか。あるいは強姦の中で,被害者が非常に重い精神的な苦痛を受けていることが,例えばカウンセラーから,カウンセリングの過程で非常に心理的に酷い状態になっているという証言が出てきたら,それは犯情の重い事案ということで,現行の強姦罪の中でも重いものとして処罰が可能なのではないでしょうか。   逆に,被害者の精神的被害を強姦の中に取り込んで考えていくということは,比較的軽微な診断名の診断書が出されて強姦致傷だと言われたら,これは強姦の中で評価され尽くしているから,これは強姦致傷にはならないという方向での議論にもつながり得るのではないかと思いますし,被害者の精神的な苦痛について,カウンセリングなどの資料を更に付けて重く処罰をすることができなくなってくるのではないかということを感じるのでございます。   もう一つ,要綱(骨子)への意見です。構成要件を広げて,なおかつ処罰を重くするという要綱(骨子)でございますが,頂戴した資料12を見ますと,ドイツの刑法は,性的行為については原則1年以上で,重い性交類似行為の類いは2年以上です。韓国は,強制的な性行為は3年以上,口淫や肛門性交は2年以上ということのようです。   資料14を見ますと,口淫の事例は多くはありません。先ほど申しましたように,口淫は,性交に至るまでの一つのプロセスとしてなされる場合も多い。口淫をさせたけれども,これは強姦まで至るまでに例えば被害者に抵抗されて行為はやめてしまったので,強姦未遂というような事例は,数多くあるかと思います。   口淫は,肛門性交を含むいわゆる性交に対しての準備的な側面もある。そういう意味では,口淫の科刑は軽くてもいいのではないか。現に頂戴した資料14の中の執行猶予を含む3年未満の事例は,18件中の7件だったと思います。3年というのが3件で,過半数が3年以下であった。要綱(骨子)は,この刑を引き上げろというメッセージを発するのですか,という疑問を持ってしまうわけです。   やはり,下限が5年という議論は,飽くまで,今まで言われていたいわゆる強姦行為という,非常にコアになるものに対する議論ではなかったのかと思うのです。 ○小西委員 今のお話なのですけれども,私は当然,PTSDは傷害として処罰されるというのは妥当だと思っている者です。ただ,また今,強姦の中に差が付くというお話をされているのですけれども,そういう形では傷害の差はとれないということを先ほど申し上げたと思います。被害者の側からすれば,どの形の類型でも同じであるということは,申し上げたと思います。   過半数が3年以下と言われましたが,被害者の方から言いますと,強姦被害者の約半数が大体PTSDが診断されることが分かっていますよね。半数のPTSDの患者の中でまだ今ごく一部の人が臨床にしか来ないというのは,そうなのですけれども,来られた方の平均の受診までの期間は,6〜7年かかっていました。   今,私は,レイプワンストップセンターと一緒に関わっていますので,被害後非常に早い時期の人を診るようになりましたけれども,今までの臨床では,それから日本の多くのところでは,受診するまでだけに6〜7年かかるのですね。被害の後も,本当に家を替えたり,職業をなくしたりする人がいろいろな犯罪類型の中で高いです。強盗より当然高いです。そういう点では,その被害の大きさから考えても,強盗より低いということは考えられないのではないかと思います。   もう一つ言いますと,被害者の方に直接伺うと,どういう刑がいいのというと,ずっと入っていてくださいとか死刑にしてくれと言われます。もちろんこれは主観的な御本人の印象ですけれども,そのくらい傷付いているということは事実だと思います。 ○井田委員 基本的には橋爪幹事のおっしゃったことに賛成なのですけれども,少し補足して申し上げたいと思います。法定刑は確かに実際に科すことができる刑の幅の上限と下限とを決めているということはもちろんそうなのですけれども,そればかりではなくて,やはり法の目から見たそれぞれの犯罪に対する評価,あるいは被害法益に対する評価というものを示しているという側面がとても大事だと考えています。そういう点から見て,今の強姦罪等の刑の在り方はこれでよいのかどうかということが問われているのだと思います。   そういう目で見ますと,確かに強盗の場合ですと,その被害額,財産的な損害の額が低いとか,または犯人が経済的に困窮していてかなり同情すべき面もあるというような事情があって,やはり軽いケースというのが想定できる。それにもかかわらず,強姦の法定刑の方が下の方に幅広になっていること自体,法定刑の在り方として理解しにくいという面があります。そして,現在の量刑水準では強姦と強盗との間に逆転現象も生じているということは,もう指摘のあったところです。   また,殺人との関係でいいますと,殺人というのは,御提供いただいている資料にもありますけれども,元々量刑が大きく2極分解する,重いものと比較的軽いものとに分かれる傾向があります。グラフに二つの山ができる犯罪であって,軽い類型というのも想定しやすいのです。そこで,殺人と比べてどうのという議論は必ずしも当たらないのではないかという感じがいたします。   それから,今回,強姦罪の範囲を広げるということの関係で申し上げますと,改正に当たっての基本的な考え方は,従来よりも強姦罪の範囲を広げて,より軽いものも取り込むのだ,というものであってはならないと思います。そうではなくて,従来は不当にも軽い類型に包括されていた行為を正しく評価する,強姦と同じ重い行為の類型の中に収めるのだという考え方をすべきです。ですから,軽いものを取り入れて広げるのだから法定刑を上げてはおかしいという議論には,必ずしもならないと思います。 ○池田幹事 先ほどから量刑傾向について指摘がなされているところですけれども,宮田委員が御指摘になられたように,現行の法定刑の範囲内でも重く評価されている事案があるわけでありまして,量刑傾向が重い方にシフトしているということから直ちに法定刑の引上げが基礎づけられると考えることにはならないのではないかと思います。   しかし他方で,井田委員も御指摘になられたように,その他の法定刑を異にする犯罪と比較して,実際に言い渡されている刑が逆転しているということは,考慮要素として非常に重要なものだと思います。   そのことと,その他の法定刑との均衡や,あるいは法定刑の下限を,酌量減軽なしでも執行猶予を付し得るものとして今後も維持するかどうかということ,またこれらに加えまして,度重なる議会での附帯決議がなされていることや,共同参画基本計画等に示されている要請に鑑みますと,社会全体として法定刑の見直しを要求する意見というものが現に存在していることから,立法事実の存在も認められるのではないかと考えております。   このような見解から,要綱(骨子)に基本的に賛成でございます。 ○宮田委員 先ほどの事務当局からの御説明で,強姦致傷については下限を6年に上げるという案が出されました。酌量減軽で,やはり執行猶予が付くべき事案があるのではないかというお考えだったかと思います。強姦致傷と強姦の量刑傾向のグラフを拝見しておりますと,強姦のピークは5年ぐらいのところにあります。強姦致傷のピークが,やはり7年以下の辺りのところにあります。つまり,大体強姦致傷と強姦は,2年ぐらいはピークに差があるのではないでしょうか。   そうすると,やはり強姦致傷ですら酌量減軽で執行猶予が付くよう6年にするということであると,強姦を5年にすることは,現実の量刑自体からみて重くなりすぎ,強盗,強姦致傷との関係での刑の採り方として,いかがなものということを感じるのでございます。   あと,これは今ここで述べるべきことかどうか分からないのですけれども,第1回のところで性犯罪とえん罪の話を私がいたしましたが,えん罪と量刑は関係ないのだと小木曽委員がおっしゃったわけですけれども,重い刑のものに対しては,例えば国民がその捜査に協力しなければいけないという思いから,曖昧な目撃証言であっても,これは情報として出さなければいけないと思う,あるいは被告人に対する取調べ圧力が高まる,捜査官だって,あるいは国民全体だって人間ですから,人間がものを扱う以上は,そこの刑法のメッセージというのは捜査に必ず反映するのであると思うわけです。   ですから,刑を上げるということが直ちにえん罪につながるとは言いませんが,それは関係ないからというのは,私は違うのではと申し上げます。 ○小木曽委員 名前が出たからというわけではないですけれども,量刑というのはどういうものなのかということから考えて見ますと,今,井田委員や池田幹事から御意見がありましたけれども,やはりその行為に対する社会のというか,主権者の評価を枠として示す意味があるのだろうと思います。   では,その主権者の意思がどのようなところに表れているのかということを判断するのに,池田幹事がおっしゃったような様々な機関での決議なり現在の量刑傾向なりをその指標として見ることは,必要なのだろうと思います。それから,その行為を刑法の体系の中で,それ以外の犯罪との関係でどのように評価するかということで考えますと,やはり財産刑との比較という観点があってもいいのだろうと考えます。そうすると,現在の3年というのは低すぎるという意見があってもおかしくないと考えます。 ○佐伯委員 繰り返しになって恐縮ですけれども,私も小木曽委員,あるいは池田幹事と同じように,あるいは橋爪幹事が最初におっしゃったように,強盗罪と強姦罪はやはり同じ法定刑の下限であるべきだと思います。しかし,強盗罪の法定刑を引き下げることが難しいから,現実の問題として難しいから,強姦罪の方を引き上げるべきだというのは,やはり刑事政策として妥当なものとは思わないということです。 ○角田委員 検討会の中でも,強盗の刑を引き下げるのが難しいから,その代わりにと言ったら何ですけれども,強姦罪を上げるという認識はなかったのではないかと思います。   私は,やはり強姦罪と強盗罪の保護法益が質的に違うというところに着目して,今までの3年という強姦罪の扱われ方が余りにも酷いのではないかと,だから井田委員もおっしゃったように,今まで不当に扱われていたものを,きちんとしたそれにふさわしい扱い方にするという考えで,要綱(骨子)に賛成です。 ○塩見委員 私も,象徴的な意味も法定刑にはあると思いますし,近時の量刑傾向等に鑑みて,5年に引き上げるのは致し方ないというか,支持できるのではないかと考えます。これは事務当局の方から御説明いただければと思いますが,強制わいせつ罪についてはそのままに,法定刑の下限が6月になっております。強姦罪に当たる新しい罪で5年に引き上げますと,下限でかなり差が出てくることになります。強制わいせつ罪の法定刑には触れない点については,どういうお考えだったのかを御説明いただければと思います。 ○中村幹事 「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましても,強制わいせつ罪の法定刑をどうするのかといったことについても御議論いただきました。それを踏まえた上で,強制わいせつ罪の法定刑については,下限,上限についても現行法のまま,現行法を維持するという前提で,このような諮問に至っているわけでございますけれども,これは強制わいせつ罪に問擬される行為というのは,かなりいろいろな行為というのが考えられるだろうという考え方でございます。つまり,量刑が下限の6月に近いような事案から,上限に近いような事案というのもあるだろうと考えたものです。   また,今回,従来強制わいせつ罪で問擬されていた行為のうちの一定の行為を,強姦罪と同等に処罰するということにいたしておるわけでございますけれども,そういった行為のほかにも,例えば膣や肛門内に異物を挿入するとか,顔面へ射精をするといった依然として強制わいせつ罪で問擬される行為の中にも,かなり重い量刑に値する行為もあるだろうと考えまして,その結果といたしまして,この下限,上限については,現行法を維持していいのではないのかと考えた次第でございます。 ○塩見委員 ありがとうございました。 ○宮田委員 「性犯罪の罰則に関する検討会」のときには,5年ではなくて4年という意見も出ていたかと存じます。事務当局の方で,この5年という案をお出しになった,その理由について,お聞かせいただければと存じます。 ○中村幹事 事務当局の方の考え方でございますけれども,先ほど来,御議論いただいているところとも重なるところもございますけれども,下限が5年という法定刑として,刑法の中には,例えば強盗罪,現住建造物等放火罪といったものがございますけれども,そういった強盗罪や現住建造物等放火罪と強姦罪を比べたときに,強姦罪に対する社会の評価というものが強盗罪を下回るものではないのではないのかというところであります。さらに,強姦罪については,一般に凶悪重大犯罪と言われていますが,一般に凶悪重大犯罪と言われている強盗ですとか放火という罪と同じく,刑法の全体の中で法定刑としても位置付けられるべきであろうという点でございます。   また,その4年とするかどうかでございますけれども,強盗罪を5年としつつ強姦罪を4年とした場合には,依然として強盗罪と強姦罪との間には差が残るわけでございます。強盗罪の法定刑を引き下げた上で4年にそろえるという選択肢というのもあり得るかとは思いますけれども,他方,強盗罪について,その法定刑を引き下げるような特段の事情はないのではないのかというところもございまして,以上のようなところを総合的に考慮いたしまして,下限を5年としたらいかがかということで御提案申し上げている次第でございます。 ○山口部会長 消極の御意見が述べられました。要綱(骨子)を支持する御意見も述べられておりましたけれども,何か今までの御意見と違った観点から御意見があれば是非お願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。   よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり)   ありがとうございました。   本日頂きました御議論をまとめますと,法定刑の下限を引き上げる必要がないという御意見がございましたけれども,要綱(骨子)のとおりにする,強姦罪及び準強姦罪の法定刑の下限を懲役5年に,強姦致死傷罪の法定刑の下限を6年に引き上げるという御意見が多数であったと理解させていただきました。   それでは,最後に,要綱(骨子)第五の点,すなわち,ただいま御議論いただきました強姦罪及び強姦致死傷罪の法定刑を引き上げるということを前提として,集団強姦等の罪及び集団強姦等致死傷の罪を廃止することについて,御意見を承りたいと思います。いかがでございましょうか。 ○角田委員 私は,廃止には反対です。確かに基本の強姦罪の下限は上がることになると思うのですけれども,それでもこの集団強姦罪というのは,犯罪類型が普通の強姦罪とは基本的に,本質的に違った悪質なものだと考えておりますので,その悪質性をきちんと評価すべきではないかと考えております。   そうすると,下限は何年にするのかということになってくるわけなので,強姦罪と同じということには多分できないでしょうから,6年に上げるかということは考えざるを得ないのではないかと思っております。 ○今井委員 集団強姦罪とは,御案内のように,一連の経緯があって,緊急に対処すべきということで作られた規定ではないかと思っております。それが今回の諮問に応じまして,先ほど来,井田委員も明確におっしゃっておりましたけれども,強姦罪とされる範囲を広げつつ,その法定刑を上げていくということで,本来の正当な評価をするということで,強姦等の罪,あるいは致傷等の罪の法定刑の引上げについては,おおむねの合意が得られたところですが,それによりますと,従前その機能を担っていた集団強姦の罪は,ほぼ新しく作られる罪の中に取り込まれてしまうということもありまして,集団でなされた悪質性が高いものが存在することは分かりますけれども,共犯類型における量刑事情を適切に評価することで従前と変わらない量刑ができるのではないかと思いますので,私は今回の御提案に賛成するところであります。 ○井田委員 強姦罪はその基本類型としても既に大変重い犯罪であり,法定刑の上限を見ると懲役20年です。例えば,傷害罪は,被害者の目をくり抜いたり,その腕を切り落としたりする行為を含みますが,その上限は懲役15年であり,強姦罪はその基本類型においても,それよりも重い犯罪として規定されているのです。ですから,集団強姦罪の規定を仮に削除したとしても,重いケースについては基本類型により十分重く評価することができるはずです。また,法定刑の下限について見ても,今回の改正により強姦罪の刑の下限を引き上げて,そのままでは執行猶予を付けられない,つまり酌量減軽という特別の判断をしないと執行猶予にはできないということになれば,その意味でも,この集団強姦罪を置く理由はなくなってしまうのではないかと思います。 ○山口部会長 ほかに,いかがでございましょうか。   集団強姦等の罪については残すべきだという御意見が述べられましたが,先ほど御議論いただきましたように,強姦罪等の法定刑の下限を引き上げると,特別の類型として集団強姦等の罪を殊更に置く必要はないという御意見であったように思いますが,いかがでしょうか。 ○橋爪幹事 私も要綱(骨子)に賛成でございます。集団強姦は確かに極めて悪質な犯罪ですが,現在の実務の一般的な理解に従いますと,姦淫行為自体を複数人が分担する必要はないと解されておりまして,例えば暴行・脅迫の共同実行,更には実行分担がなくても実行共同正犯に匹敵するような関与があれば,集団強姦罪が適用されているようです。   このように,強姦罪の共謀共同正犯を適用すべきケースと集団強姦罪を適用すべきケースというのは,実は紙一重のところがあり,実務的にも困難な問題をもたらしているように理解しております。   このような実務的な問題もありますので,集団強姦行為につきましては,むしろ同一の構成要件の内部で,量刑評価の問題として対応する方が適当であるように考えております。 ○山口部会長 維持するという御意見が述べられ,廃止してよいという御意見が述べられておりますが,ほかに,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。 (「異議なし」の声あり)   ありがとうございました。   集団強姦罪等を廃止することについては,反対の御意見,維持すべきだという御意見が述べられましたけれども,廃止することに反対だという御意見はほかにありませんでしたので,廃止するという御意見が多数であったと理解させていただきます。   それでは,本日の審議はこれで終了とさせていただきたいと思います。   次回の予定につきましては,前回申し上げましたとおり,要綱(骨子)第三と第七について,御審議をお願いしたいと思います。   次回の予定につきまして,事務当局から御説明をお願いします。 ○中村幹事 次回の第3回会議は,12月16日水曜日,午前9時15分からでございます。場所は,法務省20階の第1会議室でございます。 ○山口部会長 それでは,次回は平成27年12月16日水曜日,時間は午前9時15分から法務省20階の第1会議室で行うことにいたします。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったのではないかと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することとさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○山口部会長 それでは,そのようにさせていただきます。   なお,お配りしております犯罪白書の抜粋につきましては,参考資料でございますし,近日中に法務省のホームページで公表されるものでもございますので,本部会の資料として,あえてホームページに載せるということまではしないということにさせていただきます。   それでは,これで終了いたします。本日はどうもありがとうございました。 −了−