法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会 第3回会議 議事録 第1 日 時  平成27年12月16日(水) 自 午前 9時12分                        至 午前11時45分 第2 場 所  法務省第一会議室 第3 議 題  1 要綱(骨子)第三について         2 要綱(骨子)第七について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○中村幹事 ただいまから法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第3回会議を開催いたします。 ○山口部会長 おはようございます。本日は御多忙の中お集まりいただきまして,誠にありがとうございます。   本日,田邊委員,松尾関係官におかれましては,御欠席と伺っております。   まず初めに,第2回会議の後に委員の交代がございましたので,新たに委員になられた方から,簡単に御所属,御名前等の自己紹介をお願いいたします。 ○?委員 法務省大臣官房審議官を命じられました?と申します。どうぞよろしくお願いいたします。 ○山口部会長 ありがとうございました。   では,次に,事務当局から配布資料についての御説明をお願いいたします。 ○中村幹事 本日,資料として配布しておりますのは,資料28です。本日御審議いただく予定となっております要綱(骨子)第三において用いられております「監護」という用語に関係する民法などの条文をまとめたものでございます。   また,第1回会議で配布いたしました資料1から27までを机上に置かせていただいております。このうち,本日御審議いただく論点に特に関係すると思われる資料は,資料番号19から22までと,資料26及び27でございます。 ○山口部会長 ありがとうございました。   それでは,審議に入りたいと思います。   本日は,要綱(骨子)第三及び第七について審議を行います。   まず,事務当局から,これらの諮問事項について,改めてその趣旨や検討経過等についての御説明をお願いいたします。 ○中村幹事 本日御審議いただく要綱(骨子)第三及び第七につきまして,このような内容とした趣旨及び検討の経過などを御説明申し上げます。   なお,第2回会議におきまして,要綱(骨子)第一の罪について,「強姦罪」という罪名を維持することは不適当であるとの御指摘もありまして,事務当局といたしましても検討しているところでございますけれども,現時点で決めることができるものではございませんので,以後,便宜上,要綱(骨子)第一の罪について「強姦罪」,要綱(骨子)第二の罪について「準強姦罪」と呼ばせていただくことがございます。この旨,御了承ください。   お手元の配布資料1の別紙要綱(骨子)の第三を御覧ください。   要綱(骨子)第三の一から三までは,18歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して,当該18歳未満の者に対しわいせつな行為をし,あるいは,当該18歳未満の者を相手方として性交等をした者について,現行の強制わいせつ罪ないし要綱(骨子)第一の罪と同様の処罰の対象としようとするものでありまして,これらの行為の未遂をも処罰することとするものです。   現行法におきましては,不同意のわいせつ行為又は性交であって,違法性が高く,かつ,悪質であると類型的に認められるものとして,暴行又は脅迫を用いてなされたもの及び心神喪失又は抗拒不能に乗じるなどしてなされたものを処罰対象としております。   しかしながら,資料21と22の事例集を御覧くださるとお分かりいただけますとおり,被害者の意思に反して行われる親子間の性交等の事案が,強姦罪や準強姦罪ではなく児童福祉法違反などで処理されている例が多くあります。このような現状に鑑みますと,性交等に及ぶ場面だけを見ると,暴行又は脅迫を用いることなく,また,抗拒不能には当たらないようなものであっても,現行法の強姦罪,強制わいせつ罪に当たる行為と同様に性的自由ないし性的自己決定権を侵害し,同等の悪質性,当罰性があるものが存在すると考えられます。   「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましても,「被害者と加害者の関係性ゆえに,被害者が加害者に対して性交に不同意である旨の意思表示ができないような関係を対象とする類型を設けるべきである」などとして,地位又は関係性を利用した性的行為を処罰する規定を設けるべきであるとの意見が多数を占めました。   そこで,要綱(骨子)第三の一及び二におきましては,行為者が18歳未満の者を現に監護しているという関係がある場合には,18歳未満の者が精神的に未熟である上,生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に精神的にも経済的にも依存している,そういう関係にあることに着目し,監護者がそのような関係性を利用して18歳未満の者と性交等を行った場合には,18歳未満の者の自由な意思決定に基づくものとはいえず,性的自由を侵害する行為として,強姦罪などと同様に処罰する規定を設けようとするものです。   本罪の主体,客体に関しては,「性犯罪の罰則に関する検討会」では,新たな規定による処罰の対象とする地位又は関係性について,教師と生徒の関係,雇用関係,医師と患者の関係,スポーツのコーチ等と選手等との関係などをも対象とすることが考えられるという御意見もありましたが,要綱(骨子)におきましては,それらの関係性による影響力を利用した場合を含まないこととしております。   この点につきましては,「性犯罪の罰則に関する検討会」においても,「地位又は関係性を利用した性的行為を処罰する規定を設ける場合には,その地位又は関係性が存するのであれば被害者に有効な同意がないと実質的にみなせるような非常に強い支配関係が要件として規定される必要があり,そうでなければ有効に機能しないのではないか」,「被害者が加害者に扶養されているとか,生存がかかっているような強い支配関係という意味で,同居をメルクマールとすることが考えられる」などといった御意見があり,そのような御意見を踏まえて検討し,「現に監護する者であることによる影響力を利用」した場合に限定することとしたものです。   具体的には,先ほど申し上げましたとおり,18歳未満の者が精神的に未熟である上,生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に精神的にも経済的にも依存している関係にあることから,監護者がそのような関係性を利用して18歳未満の者と性交等を行った場合には,類型的に18歳未満の者の自由な意思決定に基づくものとはいえないと考えられますが,それ以外の関係性,例えば雇用関係や教師と生徒などの関係などの場合,必ずしも生活全般にわたる関係ではない場合も多いと思われ,その関係性を利用した性交等が類型的に自由な意思決定に基づくものでないと断ずることまではできないと考えたためです。   このように,本罪は,強姦罪等と同様に性的自己決定権を侵害するものであり,同等の悪質性・当罰性が認められる犯罪と考えておりますことから,法定刑は,強姦罪などと同様のものとすることとし,要綱(骨子)第三の一の罪については,刑法第176条の強制わいせつ罪と同様の法定刑,要綱(骨子)第三の二の罪については,要綱(骨子)第一の罪と同様の法定刑としています。また,要綱(骨子)第三の三において,強制わいせつ罪や強姦罪と同様に,要綱(骨子)第三の一及び二の罪の未遂を罰することとしております。   本罪の具体的な要件について,御説明申し上げます。   まず,本罪の被害者となるのは,18歳未満の者としています。これは,一般に,18歳未満の者は,精神的に未熟である上,監護者に精神的・経済的に依存していることから,このような者に対し,監護者が影響力を利用して性交等を行った場合には,自由な意思決定によるものとはいえないと考えられるためです。逆に言いますと,一般に,通常高校を卒業する年齢であります18歳程度になれば,精神的にも成熟度が増し,監護者に対する精神的・経済的な依存が弱くなると考えられます。加えて,年少者の保護を目的とする児童福祉法や児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律などにおいても,年少者の社会生活上の実態を踏まえて18歳未満を保護の対象としていることなどをも考慮し,本罪の被害者についても18歳未満の者としたものでございます。   次に,本罪は,「現に監護する者であることによる影響力を利用して」わいせつ行為又は性交等を行うことにより成立することとしております。ここで,「監護する」とは,民法に親権の効力として定められているところと同様に,「監督し,保護すること」をいうものですが,法律上の監護権に基づくものでなくても,事実上,現に18歳未満の者を監督し,保護する関係にあれば,要綱(骨子)第三の「現に監護する」に該当し得ると考えております。   民法の規定などにつきましては,本日お配りいたしました資料28を御覧いただければと思いますけれども,民法上の「監護」が,そもそも親子関係を基本とする概念でありますことから,要綱(骨子)第三の「現に監護する者」と言えるためには,親子関係と同視し得る程度に,居住場所,生活費用,人格形成などの生活全般にわたって,依存・被依存ないし保護・被保護の関係が認められ,かつ,その関係に継続性が認められることが必要であると考えております。   「現に監護する者」であるか否かの主な判断要素としては,同居の有無,居住場所の関係,未成年者に対する指導状況,身の回りの世話等の生活状況,生活費の支出などの経済的状況,未成年者に関する諸手続等を行う状況などが挙げられるものと考えております。   「現に監護する者であることによる影響力を利用して」とは,必ずしも積極的・明示的な作為であることを要するものではなく,黙示や挙動による利用ということもあり得るものと考えております。   次に,要綱(骨子)第七の一から三までは,強姦と強盗とを同一の機会に行った場合の罰則の整備に関するものです。   まず,要綱(骨子)第七の罪全体について,このような罪を設けようとする趣旨を御説明申し上げます。   現行刑法第241条前段におきましては,強盗犯人が強姦をしたときについて,強盗強姦罪として無期又は7年以上の懲役という重い法定刑が規定されておりますが,強姦犯人が強盗をした場合には,このような規定はなく,一般的な併合罪の規定に従って,その処断刑は5年以上30年以下の懲役となります。   この点につきまして,「性犯罪の罰則に関する検討会」におきましては,「被害者にとっては,同じ機会に強盗と強姦の両方の被害に遭うという点で同じであるのに,強盗犯人が強姦をする場合と,強姦犯人が強盗をする場合とで違いが生じる理由は理解できない」,「強姦された上で金銭を奪われた事案の被害は非常に大きい」などとして,強姦犯人が強盗した場合についても,強盗強姦罪と同様に処罰する規定を設けるべきであるという意見が多数でありました。   このような御意見を踏まえて検討しましたところ,同じ機会に,それぞれ単独でなされてもなお悪質な行為であります強盗行為と強姦行為との双方を行うことの悪質性・重大性に着目すると,これまで強姦罪と強盗罪との併合罪が成立するとされていたものについても,強盗強姦罪と同様の刑をもって処罰することができるようにすることが必要であり,また相当であると考えられるため,要綱(骨子)第七の罪を設けようとするものです。   次に,具体的な規定の内容について,御説明申し上げます。   まず,要綱(骨子)第七の一の本文は,同一の機会において,要綱(骨子)第七の一の1に掲げる罪,すなわち,強姦罪,準強姦罪若しくはこれらの未遂罪又は強姦致傷罪と要綱(骨子)第七の一の2に掲げる罪,すなわち,強盗罪,事後強盗罪,昏睡強盗罪若しくはこれらの未遂罪又は強盗致傷罪とを行った場合について,現行法の強盗強姦罪と同様の法定刑で処罰できるようにしようとするものです。   現行法における強盗強姦罪につきましては,判例上,強盗の機会に強姦を犯した場合に成立するものと理解されておりますけれども,要綱(骨子)第七の一の罪についても,これと同じ範囲で,すなわち,同一の機会に強姦行為と強盗行為とを犯した場合に,この罪の成立を認める趣旨でありまして,「一方を犯した際に」の「際に」という語の意義は,その趣旨でございます。   なお,要綱(骨子)第三の罪は,18歳未満の者を監護する者が,そのことによる影響力を用いて性交等に及ぶという犯罪類型であり,これと同一の機会に暴行・脅迫を用いて財物奪取に及ぶことは実際上想定し難いため,第七の一の1に掲げる罪には含めておりません。   次に,要綱(骨子)第七の一ただし書でございますが,これは本文の場合において,強姦行為と強盗行為とがいずれも未遂に終わったときは,刑を減軽することができるとするものです。   同一の機会になされた強盗行為と強姦行為とがいずれも未遂であった場合については,行為の危険性が比較的小さかったことから結果が発生しなかった事案など,本文に定める法定刑で処罰するのが酷な事案も考えられ,刑法総則,刑法第43条本文ですが,刑法総則における未遂犯と同様に,裁量的な刑の減軽を認めることとするのが相当であると考えられます。   もっとも,これを,単に「第七の一の罪の未遂は,罰する。」などとするのみでは,いずれの行為を基準に未遂か既遂かを判断するのかが判然としませんので,この点を明らかにするため,要綱(骨子)第七の一ただし書を設けたものです。   他方,強姦行為と強盗行為とのいずれか一方でも既遂であった場合には,刑の任意的減軽は認めないこととしております。この場合は,同一の機会に,それぞれ単独でなされてもなお悪質な強盗に向けた行為と強姦に向けた行為とがともになされ,少なくともそのいずれかは行為の目的を達しているということになりますので,その悪質性・重大性は,いずれも未遂の場合と比べて大きいと思われ,あえて刑の減軽をする必要はないと考えたためです。   また,仮に,このような場合に刑の減軽を認めることといたしますと,同一の機会に行われた強盗行為と強姦行為のいずれか一方が未遂の場合に,処断刑の下限が懲役3年6月となります。   しかしながら,これでは,強盗既遂,あるいは要綱(骨子)のとおり法定刑に関する改正が行われたとして強姦既遂のみが行われた場合の法定刑の下限である5年よりも軽くなるというような刑の不均衡が生じます。このような観点から,いずれか一方でも既遂であった場合には,刑の減軽を認めることは適当ではないといえます。   したがいまして,要綱(骨子)第七の一ただし書のとおりとしたところでございます。   次に,要綱(骨子)第七の二は,同一の機会になされた強姦行為と強盗行為とがいずれも未遂の場合において,いずれかの行為について自己の意思で中止した場合には,刑法第43条ただし書のいわゆる中止犯におけるのと同様に,その刑を必要的に減免すべきものとしようとするものです。   中止未遂について必要的減免が定められている根拠については諸説ありますけれども,犯罪の結果発生を防止するという政策的観点からは,強盗行為と強姦行為の一方でも自らの意思で中止した場合には,必要的減免を認めることが相当であると考えられますし,中止未遂を認める趣旨として,違法性や責任の減少を認める立場からも,強盗行為と強姦行為の両者ともに障害未遂であった場合に比べて,違法性又は責任の減少を認めることができるものと思われます。   このことに鑑みますと,強盗行為と強姦行為を同一の機会に行った場合を一つの罪で処断しようとする要綱(骨子)第七の罪についても,少なくとも一方の行為について自らの意思で中止したのであれば,その事実を評価しないのは適当ではなく,他方の行為も障害未遂にとどまっていることを前提に,必要的に刑を減免することが相当であると考えたものです。   最後に,要綱(骨子)第七の三は,同一の機会に強盗行為と強姦行為がなされた上に,そのいずれかの行為を原因として死の結果が生じた場合について,現行刑法第241条後段の強盗強姦致死罪と同様の法定刑で処罰することとするものです。   現行法におきましては,一般に,強盗の機会に行われた強姦行為によって死の結果が生じた場合に,強盗強姦致死罪が成立するものと理解されております。   これに対し,要綱(骨子)第七の三の罪におきましては,強姦行為と強盗行為とが同一の機会になされた場合において,その行為の先後関係等を問わず,いずれかの罪に当たる行為により死の結果が生じたときに成立することとするものです。   また,現行法の下で,強盗強姦致死罪はいわゆる結果的加重犯であり,殺意がある場合を含まないものと解されており,強盗の機会に行われた強姦行為又はその手段である暴行・脅迫から死の結果が生じた場合において,殺意をもって死亡させたときは,判例によれば,強盗強姦致死罪ではなく,強盗殺人罪と強盗強姦罪の観念的競合となるとされております。   これに対し,要綱(骨子)第七の三の罪には,強姦行為又は強盗行為のいずれかの罪に当たる行為により,殺意をもって人を死亡させた場合を含むものとしようとする趣旨です。いわゆる結果的加重犯と解されている現行法の強盗強姦致死罪のように「よって…死亡させた」との用語を用いていないのは,この趣旨でございます。   これは,要綱(骨子)第七の三の罪については,現行法の強盗強姦致死罪と同様の法定刑とし,死刑又は無期懲役という極めて重い法定刑を定めることとしておりますところ,それぞれ単独でなされてもなお悪質な行為であります強盗行為と強姦行為とがともになされ,殺意をもって被害者を殺害した場合についても,これと同様の刑を科すのが適当であることから,殺意がある場合についても,この罪に含めて同一の法定刑とするのが適切であると考えられたためです。   なお,要綱(骨子)第七の三の罪において,殺意をもって強姦又は強盗行為を行ったものの,殺害するには至らなかった場合には,同罪の未遂犯として処罰し,刑法第43条本文の規定により刑の減軽が認められるものと考えております。 ○山口部会長 ありがとうございました。   それでは,要綱(骨子)第三,第七の順に審議を行います。   まず,要綱(骨子)第三につきましては,大きな論点が3点ほど挙げられると思われますので,まずは,それらについて順次議論を進めたいと思います。   まず,一つ目でございますが,要綱(骨子)第三の一及び二にありますような一定の影響力を利用したわいせつ行為や性交等に関する罪を新設する必要性についてでございます。第三は,現行法にはない新しい類型の罪を設けようとするものですので,このような罪を設けるべき必要性について,御議論いただきたいと思います。   次いで,二つ目でございますが,そのような類型の罪を新設する必要があるといたしまして,構成要件が要綱(骨子)第三のようなもので適切であるかどうかという点でございます。その中でも,まず,主体及び客体の範囲をどのようなものとするのが適切であるのか,要綱(骨子)のように,被害者を18歳未満の者とし,行為者を18歳未満の者を監護する者とすることが適当かという点について御議論いただき,その上で,「現に監護することによる影響力を利用して」との要件について,このような要件を設けることの当否について御議論いただきたいと考えております。   三つ目でございますが,法定刑の点でございます。すなわち,第三の罪の法定刑を,強制わいせつ罪及び強姦罪と同様の法定刑とすることが適切かどうかという点について,御議論をお願いしたいと思います。   もちろん,それぞれの論点は,互いに関連するものでございますので,御発言の際に,関連して述べた方がよいと思われる場合には,他の論点に関する御意見をおっしゃっていただくことも差し支えございませんが,基本的には,今申し上げたような順に整理して議論を進めたいというように考えております。   また,以上私から申し上げた論点に当たらない部分につきましても,御意見をお持ちの方がおられるかもしれませんので,そのような御意見をおっしゃっていただく機会も適宜設けたいというように考えております。   このような進行とさせていただきたいと思っておりますが,よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのように進めたいと思います。   では,まず最初に,要綱(骨子)第三の罪を設ける必要性について,御意見を頂きたいと思います。 ○宮田委員 私は,このような類型は必要ないという意見でございます。その根拠としては,第178条の抗拒不能の要件で,この部分についてはカバーができるのではないかと考えるためであります。   検討会のときにも紹介させていただきましたが,日弁連の刑事弁護センターの委員に聴取したところでは,例えば,父親との関係で,父親に嫌われるのが嫌で関係に応じたというケース,教師の影響力を配慮して生徒が拒まなかった事例,あるいは取引関係にある者が関係を拒まなかった事例などについても,第178条で現に処罰がされている例があるということでございます。   このように,新しく監護者の類型を作らなければならないと救われないという事例にはどのようなものがあるのか,もしも具体的なものがイメージできるのであれば,是非事務当局の方から御紹介いただければと存じます。   そして,逆にこのような規定がなければ影響力行使の案件が処罰できないということなのであれば,かえって今の第178条の解釈・適用に対して足かせを作ることにならないかと感じるのでございます。   第二に,立証の問題です。   第178条の抗拒不能であれば,間接事実を積み重ねていった主張と,それに対する立証がなされていくということになるかと思います。   今度,監護者類型を作るということになりますと,監護者である者が被監護者に対して性的な関係を持てば,この影響力が事実上推定されるということになってしまうのではないか。そうすると,このような構成要件の構造というのは,検察官は,監護者だということと,性的な関係を持ったということを立証すればよいということになり,被告人の側で,例えば,被監護者が真の同意があったのだ,あるいは監護者として実質の不存在,実際ここまで言えるかどうかは別ですけれども,そのようなことを被告人の側で主張し,立証していかなければならなくなる,つまり,推定規定を置いて,一種の主張責任の転換が生じてしまうと考えるわけです。刑事訴訟法の原則の大転換を図らなければならないのかという,根本的な疑問があります。   先日,御紹介申し上げましたけれども,強姦犯人だとされた男性に対する再審無罪の事件も出ています。子供の供述は,親の影響等によって左右されて虚偽のものが出てくる危険性があり,それによる誤判の可能性もある。立証責任が転換されてしまうことになると,その誤判の危険はより大きくなるのではないかということを考えます。   そして,第三の問題です。   このような問題は,むしろ児童福祉の問題なのではないかということでございます。   被害者が13歳未満であったら,強姦罪や準強姦罪に問えるわけです。資料21を拝見しておりますと,懲役10年を超えるような類型というのは,13歳未満の子供に対する加害の事例でございます。懲役10年以下の宣告刑でよいということであれば,児童福祉法違反でなぜいけないのか。刑法犯として別類型を立てる必要があるのかどうかということでございます。むしろ,子供の健全な育成のために良くない行為ということで,児童福祉の視点から処罰をするということに何の問題があるのかという根本的な疑問があり,なおかつ,児童福祉の視点で,特に親族に関して加重するという類型を置くのではなぜいけないのかということも考えるのでございます。   第四として,この種の虐待の案件についての対処の仕方という問題でございます。   虐待に対して今,刑罰を重くしようという動きもありますが,虐待の案件については,虐待する親,特に実子については,実親自身が虐待の被害者でもあるということは多いわけです。この虐待,加害行為が一種の文化となって伝わっているような場合もあり得ます。   こういう人たちに対しては,重い処罰をするというよりは,その文化から離脱する,そのための教育であるとかカウンセリングであるとか治療であるとか,そういうものが希求されるべきであり,刑を重くするということでの対処が果たして妥当なのかどうかという根本的な疑問も持っています。   五つ目としては,後で客体の議論のところでも是非もう一度申し述べさせていただきたいと思うのですけれども,女子の婚姻適齢は16歳です。16歳が未熟だということであれば,この規定自身が間違っているということになるのではないかということです。 ○橋爪幹事 私からは,要綱(骨子)に賛成する方向で意見を申し上げたいと存じます。   すなわち,18歳未満の者が監護者から性交等に応ずるように要求を受け,自身が経済的・精神的に監護者の支配下にあることから,性交等を断り難い精神状態に陥り,やむを得ずに性交等に応ずるという事態は,正に重大な瑕疵ある意思によって性的な意思決定が行われていると言えますので,強姦罪,準強姦罪と同様に処罰をする必要性が高いと考えます。   このように,本罪が処罰対象にする行為は,18歳未満の者の健全な育成を保護するという観点ではなくて,飽くまでも被害者の瑕疵ある意思決定によって性的自由が侵害されているという観点から,性犯罪として刑法典に規定する必要が高いと考える次第です。   先ほど宮田委員から,このような類型の行為は準強姦罪で処罰が可能であるという御指摘がございました。確かに,準強姦罪は抗拒不能に乗じた性行為等を罰しておりますし,抗拒不能というのは,心理的又は物理的に抵抗が不可能又は著しく困難な状態と解されておりますので,18歳未満の者が性交を断り難い状態に陥った類型については抗拒不能を肯定する余地があるのかもしれません。   しかしながら,被害者が監護者からの要求を断り難いというプレッシャーを感じつつ,監護者に嫌われたくない一心で性交に応ずるような場合などであれば,なお抗拒不能には該当しない場合が多いように思われます。特に性的関係が継続化し,いわば常態化しているような事例については,被害者の感情,感覚が麻痺しているような場合があると思うのですが,そのような場合につきましては,個別の性行為について抗拒不能を認定することは困難であるように思います。   このような理解からは,準強姦罪などで処罰できない行為について処罰範囲を拡張することの当否が問題となりますが,やはり18歳未満の年少者につきましては,意思決定に瑕疵が生じやすいという観点から処罰範囲を拡大し,その性的保護を強化するということには十分な理由があるように思われます。   更に,宮田委員からは,このような行為類型については,児童福祉法上の淫行させる罪で処罰をすれば十分ではないかという御指摘がございました。しかし,児童福祉法の淫行させる罪は,被害児童の意思内容いかんを問わず,青少年の健全な育成を保護するという観点から行為者を処罰しております。また,資料21の事例集を拝見いたしましても,比較的量刑も軽いように思われます。   これに対して,先ほどから申し上げましたように,飽くまでも本罪は,18歳未満の被害者が瑕疵ある意思によって性交に応じざるを得なくなる,という点において,正に性犯罪としての被害の実質があるわけです。このような観点からは,児童福祉法の犯罪として位置付けるべきではなくて,やはり刑法上の性犯罪として重く処罰をする必要性があるように考えております。 ○小西委員 私もまず,その第一の点について,新設は賛成であるというところからお話ししたいと思いますが,今実例を挙げろとおっしゃっていたので,ちょうど私が経験した例で,援護から外れている例について,個別の事例を特定しない範囲でお話ししようと思います。   実父と一緒に普通に住んでいた女の子ですけれども,小さいときから性的な言動や子供に対する身体的虐待がある。そういう人が長じてきたときに,例えば14歳,15歳の辺りで,それが性的な虐待,性交になった,こういうケースは非常にたくさんあります。   そのときに,どういうふうに子供が言われていたかというと,例えば,こういうふうに男性を喜ばせることの教育をしてやっているのだとか,それから,こういうふうに親に従えない子供は駄目なのだというふうに言われて,そこまでずっと虐待的に育ってきた子供というのは,それに抵抗することなんかできないわけですね。できないままに性交があるのですけれども,当然そこでは抵抗も準強姦の状態というのもない,今までのケースですと,ないことだと思います。   実際にこの人はずっとそれが続いていて,18歳になったときに,ようやく自分から言うことができて,それで虐待者と離れることができましたけれども,結局,刑法の罪には問えていないのですね。いろいろそういう努力もなされていますが,結局問えないままに終わりました。本人への性的虐待の影響というのは,本当にひどいです。治療しないで放っておくと,一生この人は苦しむことになります。   そういう意味では,繰り返して性的な被害に遭うということは,1回限りの被害よりも更に複雑な影響といいますか,個人の人生の幸福に対するすごく大きな影響を与える。そういうケースが一つではないことを考えますと,私は是非この罪は作ってもらいたいと考えております。   それから,幾つか宮田委員がおっしゃっていましたが,加害者には教育が必要ではないか。確かに,こういう行為をする父親自身に,DVの被害や虐待の被害の経験があることはございます。でも,それを言ったら,犯罪を起こした人の多くがそうです。この罪だけがそういうわけではありません。かつ,そういう人だけがこの罪を起こしているわけでもありませんし,自身がトラウマを抱えていて犯罪をするという人と,それからそうではない人,様々な原因が犯罪にはあるわけですけれども,性的虐待だけ取り上げてそれを言うのは,おかしいのではないかと思います。   私は刑法の専門ではないのですけれども,実際に取り上げるときに一つ一つの犯罪しか取り上げてもらえないことが,精神科医の立場からすると非常に理不尽だと思うことが多いのですね。ただ,法律はそうやってやるのであれば,一連の影響下,パワーの影響,その人を自由にさせる権力の下で行われた行為については一つ類型がないと,これはうまく罰していくとか,こういう罪を認識していくということができないのではないかと思います。 ○森委員 まず,検察の実務の実際について申し上げますと,親や養親あるいはこれに準じる立場の者による性的虐待の事案というのはよくございます。そういう事案でよくあるのが,今,小西委員からも事例の紹介がありましたけれども,被害者が性的行為の意味を理解できない10歳前後の頃から性的行為を日常的に繰り返されていて,性的行為の意味を理解できる年齢になった後も同様の行為が繰り返されているという事案です。   このような場合ですと,日常生活の中で繰り返し性的行為が行われて,それが常態化してしまっておりますので,明確な暴行や脅迫もなく,抗拒不能とも言えないような状況で性交等が繰り返されておりまして,そのため,強姦罪とか準強姦罪で起訴することが非常に困難であるということになってしまいます。そのため,先ほど事務当局からも資料21の説明がありましたけれども,現実問題として,そういった事案については児童福祉法違反で起訴していることも多いというのが実情です。   ですけれども,このような事案は,性犯罪として,やはり強姦罪や準強姦罪と同等の悪質性あるいは当罰性があると考えられますので,私は要綱(骨子)第三のような罰則を設ける必要性はあると考えております。 ○角田委員 私は,要綱(骨子)第三については,監護者に限定するのは狭いと思っておりますので,この点はちょっと置きまして,今の議論に加わりたいと思うのですけれども,小西委員がおっしゃったように非常にたくさんある事例なのですね。   私の親しい知人が,やはり10代のときそういう被害を受けていて,彼女はもう40歳を過ぎているのですけれども,最近カミングアウトして,公にインタビューに答えたりなんかしております。その人は10代のときの被害を,40歳を過ぎて今もなお苦しんでいるということなのです。   この犯罪はとても深刻な被害を子供に生じさせる,それは日常生活の中で起きるので,1回限りの強姦ではなくて,繰り返し行われて,それが言わば日常になってしまうわけです。自分が被害を受けているという認識ももちろん小さいからないし,大きくなってもそれが生活そのものに取り込まれているということがある。ですから,刑法の性犯罪として,やはりきちんと位置付ける必要があります。被害の甚大さからいって他の性暴力被害と変わりがありません。   先ほど児童福祉法違反でも賄えるのではないかとの御意見がありましたが,今は,刑法の適用がないので児童福祉法で対応していると思うのですけれども,ただ,児童福祉法の適用と刑法の強姦罪が適用されるのとの大きな違いは,被害者参加の問題があるのではないかと思うのです。刑法第316条の33の第1項,被害者参加の事案に,児童福祉法だとならないわけなので,そこで,被害者として保護されるべきことが行われていないということになってきます。   例えば,被害者弁護士を国選で使えるということもあるわけです。そういう点なんかも,児童福祉法だと保護が薄いという点があるので,やはり私は,刑法の中にきちんと位置付ける,そのことによって,これは深刻な性暴力犯罪なのだということを社会的にも明確にする必要があると思います。   何か先ほど宮田委員の方から,加害行為が文化になっているというような感じのことを言われたのですけれども,どういう意味か私よく分からないのですが,そのこと自体がやはり,もし許容するものがあるとしたら,それはおかしいので,きちんと刑法犯として格上げするというと変なのですけれども,位置付けるということが非常に重要であり,もしそういうことが文化というふうに考えている人がいるとすれば,それを正すためにも明確にしておく必要があると考えております。 ○齋藤幹事 私も,この新設するということに賛成であります。   例えば,中学校や高校に勤めている心理士は,実父や継父,保護者から性的虐待に遭っているお子さんに出会うことは少なくありません。そして,精神科クリニックなどでは,20代,30代になってやっとクリニックに来て,そのことについて打ち明けることができたという被害者の方もたくさんいらっしゃいます。   準強姦の罪に問えるのではないかという話もありましたけれども,私たち,被害者支援の現場にいる者の多くは,準強姦の罪にも問えず苦しんでいる被害者の方々に出会っております。現在の制度からこぼれ落ちている方々は,現実に本当に多くいらっしゃいます。先ほど18歳未満が精神的に未熟であるからというお話がありましたが,私は,これは精神的に未熟であるからではなく,影響力が余りにも強くて判断することが困難であるという関係性が問題だと思っております。   そう考えますと,本当に居住を握られているとか,精神的に逆らうことが困難であるとか,家族の関係性を考え判断することが難しくなるですとか,そうした方々というのがたくさんいらっしゃいますので,影響力を利用した行為,監護者であるとか何か強い影響力を持つ者からのわいせつな行為というものが犯罪なのだと明記されることに,私は賛成をいたします。 ○田中幹事 1点だけ補足なのですけれども,先ほど,実務の関係につきましては森委員から御発言ありましたとおりなのですが,準強姦罪の立件に向かって,いろいろ捜査を主にやっていく際,実務上,過去に行われた虐待行為などをきちっと裏付けをしていくというのは大変難しくて,先ほどお話があったようなケースで,準強姦罪で立件できる場合というのはごくまれだと言えます。やはりそういった観点からも,今の要綱(骨子)の方向性というのはあるのかなと感じておりますので,補足させていただきました。 ○小西委員 ちょっと補足でお伝えしておこうと思います。   PTSDの治療という観点から考えたときに,成人になってあるいは1回限りの強姦被害という方と虐待の被害の方と,どちらも重い。そのトラウマ体験をして,そのトラウマ体験の反応としては,性暴力の被害というのは非常にPTSDになりやすいということ,これはもう定説というか,世界中で実証されていることなのですけれども,その中で,その虐待ケースと,それから1回限りの強姦のケースの治療をしておりまして,自分のところの何十ケースかを見て,それぞれ何十ケースかあるのですけれども,そういうものをはかってみても,性的虐待のケースの方がPTSDも重傷であり,更に治療も非常に困難です。   なぜ困難かというと,やはり長年にわたるその影響下での性交ということが本人の自責感を高め,自己評価を低くし,先ほど確か子供の供述というお話が宮田委員のお話の中にあったと思いますけれども,こうやってある意味では非常に痛め付けられてしまった子供は,自分が被害を受けたということさえ認識することができません。周りの者は大変なことがあったと,それからひどい目に遭ったと思っているのですけれども,本人だけは,私はお父さんの意思に沿えない悪い子だというところで,例えば18歳の高校生であっても,あるいはもっと年齢が高い人であっても,まずそこから出てきてもらうということに非常に大きな治療のエネルギーを使います。   そういう点から言うと,この形で法律がないと,司法で捜査する段階というのは,子供が余りにもひどく傷付いていて,うまくそういうことが言えない段階であることもとても多いのです。大人でもそうですね。そうだとすると,こういう規定が是非必要だと私は思います。   それを付け加えさせていただきました。 ○小木曽委員 先ほど立証のお話がありましたので,その点についてですが,これについては,この後の議論にも関わる,影響力を利用したという部分をどのように解するかということだろうと思いますが,いずれにしても,影響力を利用したという点については,検察官に立証責任があることは変わらないと考えますと,骨子が挙証責任の転換につながるということにはならないだろうと思います。 ○山口部会長 ほかはいかがでしょうか。   必要性の点については,大体御意見はおっしゃっていただいたということでよろしゅうございましょうか。   ありがとうございました。   要綱(骨子)第三の罪につきましては,準強姦罪等で賄えるので設ける必要はないという御意見が述べられましたけれども,多数の方は新たな類型の罪を設ける必要があるという御意見でございました。   次に進めさせていただきます。   次に,要綱(骨子)第三のような一定の影響力を利用したわいせつ行為又は性交等の罪を設けるとした場合の構成要件の在り方について,審議したいと思います。   まず,客体としては18歳未満の者を対象とし,主体については18歳未満の者を監護する者とするというのが要綱(骨子)の内容でございますが,この点につきまして御意見を伺いたいと思います。 ○角田委員 私は,これでは,実態に即して考えたときに狭すぎると考えております。   一番狭いところが親子関係をモデルにした監護ケースだと思うのですけれども,実際のケースを見ていると,頂いている資料の中にもあるのですけれども,教師が加害者というケースが非常に多いと思うのですね。私も現実にそういう事案を何件も扱ったことがあります。先ほどの狭い要件で精神的・経済的依存関係というところを採ると監護者になってしまうのですけれども,実際の被害に着目すると,もう少し教育関係等に広げるべきではないかと考えております。   そうすると,構成要件の明確化の話をどうするのかということが出てくるわけなのですが,私は別にドイツ法に詳しいわけでも何でもないのですけれども,頂いた資料11-6ですね,ドイツ性犯罪関連条文訳というのを見ていますと,第174条のところで,保護を委ねられている者に対する性的虐待という条文があって,「教育,職業教育,若しくは生活上の世話が行為者に委ねられている16歳未満の者に対して」というふうに書かれておりますので,例えば,これなんかも参考になるのではないかと思います。必ずしも監護関係だけではなくて,今申し上げた教師との関係というのが入っておりますし,ドイツ法のことは井田委員がお詳しいのだと思うのですけれども,ただ,これも条文になっておりますので,これで構成要件としては機能しているのではないかと思うのです。   ということで,もうちょっと実態に合わせたところに,監護者が核になると思うのですけれども,広げるべきだと考えております。では,どういうふうに書くのか,それは次のテーマにしていただきたいと思います。 ○木村委員 今の角田委員の意見に,私はかなり近いと思うのですけれども,やはり事実上の親子関係に限るということは,確かに親子関係はひどい事案が多いのかもしれませんけれども,どうしてそこだけに限るのかという合理的説明がなくてはいけないと思います。   この点は,特に教師とかスポーツ指導者,それをなぜ外してしまっていいのかという議論が必要なのかなと思うのですけれども,先ほど中村幹事の方からは,有効な同意がないと実質的に認められる場合というのが,類型的に認められるのが親子関係ではないかというお話があったのですけれども,これまで検討会でも議論してきましたけれども,いわゆる性犯罪が性的自由に対する罪であって,同意が重要だというような議論というのは,保護法益としてもう余り成り立たないといいますか,むしろ人間の尊厳に対する罪だというふうに考えてくると,同意ができないほど徹底的に抗拒不能にならなければいけないみたいな議論につながる議論は妥当ではないように思います。   すみません,ちょっとごちゃごちゃしましたけれども,準強姦が余りにも狭すぎるのですよね。準強姦が余りにも狭くて,最近の例で言えば,鹿児島のゴルフ場の指導者の例がありましたけれども,あれも無罪になってしまって,しかも検察審査会経由の起訴だったと思うのですけれども,なかなか準強姦が有罪にならないので,警察も検察もいろいろ非常に御苦労されていると思うのですけれども,躊躇してしまう面があるのかなという気はするのですね。   なので,もし改正を親子に限るというのであれば,準強姦をもうちょっと柔軟に考える必要がある。検察も是非躊躇しないで準強姦で起訴していただけるということを,ここでお約束いただけると非常に有り難いのですけれども,それがない限りは,やはり親子で限ってしまって本当にいいのかというのは,やや疑問があります。 ○小西委員 基本的に,私も親子だけでは狭いと思っているものです。そういうケースはたくさんありますけれども,このケースも大変問題だと思っています。   例えば,先ほど要件として,同居,居住,人格形成,影響とおっしゃっていましたけれども,長時間コーチの下にいて,そこで非常に厳しい指導を受けながら,数年を過ごしている子供の例です。だからこそ,被害を受けそうになったときにも,一も二もなく従ってしまうのだと思います。   このケースだけではなく,例えば,中学校の先生が子供に被害を繰り返し与えていてその卒業のときになって発覚したケースも経験しました。大体こういうことで被害に遭っていく子供というのは,親にも話ができないような状況にある子が多いわけです。要するに,家の中では虐待されているとか,あるいは家の中でもほとんど顧みられていなくて,友達ともうまくいっていない,寂しいというときに,担任の先生あるいは教師が優しくしてくれたり,これは例外なのだよというふうに言ったりすると,本当にそれでそう信じてしまうわけです。その被害者も,恋愛関係だと思っていました。だけど,そうではないということが分かってくるのに,やはり何年か要します。   中学生ぐらいは,皆さん思い出していただいてもそうだと思いますが,家よりも学校の方で生活している時間が長い人がほとんどです。しかも,教育は義務教育で,教師との関係というのは,子供が選びとれるものではないわけですね。そういう中で起こっていることというのが,どうして外されてしまうのだろうと。   実際に,確かにいろいろなケースがあります。例えば習い事の先生とか塾の先生とか,ありとあらゆる子供と大人が1対1になるような場所で被害が起きていて,どのケースも知っています。確かにそういうものは一つ一つの関係性というのが難しい,そういうことは分かります。せめて学校の教師,義務教育の教師というのは,関係性としてはかなりはっきりしているのではないかなと,私も思っています。 ○今井委員 ここの主体及び客体を絞るということは大変難しいと思いますけれども,まず,木村委員がこの性犯罪全体につきまして,人間の尊厳に対する罪という観点をより正面から捉えるべきだとおっしゃったことは,とても大事だと思います。しかし,そういった表現を用いますと,全ての犯罪はそれになってくるわけでありまして,例えば,自分が愛着を持っているものを盗られたという被害額としては軽微なものに対する窃盗罪でも,人の捉え方によっては生活基盤,あるいは自分が生きていく上でのイメージ,あるいはガイドライン的なものがなくなったという意味で大きなトラウマが生じる場合もありますので,全ての犯罪にわたるような概念を持ち出すのは,新しい構成要件を考えていく上では,必ずしも適切ではないように思います。   その上で,この要綱(骨子)第三の御説明でありましたように,いずれも現行法の強制わいせつ罪あるいは改正が検討されております強姦等の罪と同列に扱われるべきものを絞り込んで,処罰範囲を明確にするために今御提案されていると思いますけれども,私は,基本的にはこういう方向でまずは検討すべきだと思います。   先ほど齋藤幹事から,精神的未熟というよりも,生活の基盤が全て加害者側に依存してしまっているような場合には,正常な判断が困難になるというお話がありました。そのような御指摘,おっしゃるとおりだと思いますけれども,どういった場合にそういう依存性ができてしまうかといいますと,中村幹事からも御説明ありましたけれども,精神的・経済的に生活が全面的にその加害者に依存してしまっているような状況ということが,一つ明確な類型としてくくり出せるかと思います。   こういう観点を出発点とした上で,どこまで広げられるかというのは御議論があってもいいと思うのですけれども,今教師との関係が話題になっており,義務教育の先生については確かに難しい問題だと思いますけれども,他のスポーツコーチでありますとか習い事の先生というものは,自分の親子,実親子,養親子との関係と比べると,全くその方に全ての生活が掛かっているわけではないでしょうし,先生方も転校,転任等で交代の可能性があるわけでしょうが,親子関係はそうではないということを考えますと,まずは,この要綱(骨子)の範囲が適切かどうかに絞って検討するのがよいのではないかと思っております。 ○北川委員 今,今井委員がおっしゃったこととほぼ同旨になるかもしれませんけれども,確かに教育現場における先生と子供の関係というのは,非常に密接な場合もある一方,必ずしもそうではないという場合が多いのと,やはり先生と子供の関係の場合,生活の依存ということに関しては,通常の義務教育の場合は,お家に帰るというか ,自宅に帰れば親子関係という,他で生活基盤があるので,そこで大きく異なる部分があるのではないかと思います。   今井委員がおっしゃったように,まずは同居関係があって,そして,その関係から養育関係があって,依存性が非常に認められる関係から,精神的又は経済的にという形で拡大していくと,どんどんこの構成要件が広がってしまう。そうなってくると,強姦罪,準強姦罪に匹敵する暴行・脅迫要件に代えて,同等の同列のものを新たな類型として,立証上難しいものを補足的に設けるという趣旨からは外れてしまう。その趣旨から外れてしまっていいのかという問題が,やはり生じてくると思います。 ○宮田委員 主体及び客体の点で,幾つか指摘させていただければと思います。   今井委員から,主体の監護する者ということであれば外延が明確だというお考えをお示しいただいたと思うのですけれども,本当にその外延は明確なのか疑問を持っております。   監護の概念は,同居を始めとした幾つかの概念の中の複合体であるという御趣旨の御説明があったかと思います。そうであるとすれば,内容は一義的に決まるということではないことになります。先ほどの御説明であれば,監護を放棄している親は,この規定の中に入ってこないことになるのだろうと思います。   例えば,母親が男性の愛人であり,たまにその男性が通ってくる場合この男性が経済的には支配関係にあるとしても,子供と同居もしていないし,特に指導も受けているわけではなく,影響力も果たしていない状態であれば,その男性と関係を持たされたというような場合には,「監護する者」に当たるのか。あるいは,同居している母親の恋人なのだけれども,母親の経済に全く依存している,いわゆる若いツバメと言われる類いの男性は,「監護する者」ではないということになるのでしょうか。また,そういう若いツバメがその後経済力を得る状態になったとすると,今度は監護する者に変化することになるのでしょうか。   母親が男性と再婚します。再婚相手を子供には紹介していなかったとすれば,同居1日目で影響力があると言えるのでしょうか。ないとすれば,何日たてば影響力があると言えるのだろう。   同じ関係にある人が,どういうときには影響力を行使しているといえるのか判断していくときに,一義的にこれが本当に明確になるのだろうか。同じ立場にある人が,あるときには処罰され,あるときには処罰されない,少なくともこれは不公平ではないかということは考えるわけです。   今度は客体の問題です。客体の問題と主体の問題が入れ子になってしまっている部分もあります。   客体について,13歳未満の子供については,性交同意年齢の規定がありますから,これは同意があろうがなかろうが強姦,準強姦罪に問えます。13歳以上で18歳未満の被監護者について考えてみます。   学齢期の子ども,6歳から12歳のアンケート調査ですけれども,性的な問題行動をとる子供というのは,男子だけではなくて女子も少なくなく,4割近い女子が性的な問題行動をとると言われています。その中には,進んで性的な関係に入るという形での行動もあり得るわけです。アイデンティティの未確立な子供,特に14歳から18歳までの女子が進んで性的な関係に入るということは少なくない,居場所を作るためにそういう関係に積極的に入っていくこともあり得ます。つまり,積極的にそういう子供の行為があったときに,この「監護する者」がその場で性的に反応してしまって関係に及んでしまった,こういう場合には,この規定には入らないと考えてもいいのでしょうか。それは,真の同意ではないということになるのでしょうか。   もう一つ,先ほど述べた婚姻適状です。女性の婚姻適状は16歳。性的にのみか,人格として成熟していると考えられるから,子供を産み育てて家庭を作るということが認められる,結婚に適した年齢だと考えられているわけです。   16歳,17歳で結婚して,経済力があってうんと年が離れた男性と生活しているのは合法です。一方で,例えば16歳,17歳の女の子が家出をした。長年別居していた実父のもとに転がり込んだ。夫婦ではないです。夫婦ではないけれども,そこで時間がたって,お父さんに経済的に養ってもらいながら生活している中で,例えば,そういうところで性的な関係が生じてしまった。こういうときには,今の要綱(骨子)であれば当然この罰条が適用になるのでしょうけれども,16歳,17歳の女性の同意,性に対する考える能力ということを考えたときに,婚姻まですることを認めているのに,一方で犯罪だとされてしまうというところに,私もうまく説明できないのですけれども,大きな違和感を感じるところでございます。 ○山口部会長 今の御発言の最初の部分で,監護の概念がはっきりしないのではないかという御指摘がございましたので,事務当局としてどのように考えているのか御説明をお願いします。 ○中村幹事 この要綱(骨子)第三の罪の「現に監護する者であることによる影響力」について,今明確ではないのではないかという御質問がありましたので,私どもの考え方を御説明申し上げたいと思います。   この「現に監護する者」というのは,18歳未満の者を現に監督し保護している者でありまして,法律上の監護権に基づくものであることは要せず,事実上,現に監督し保護していれば足りると考えております。   そして,この18歳未満の者を現に監護する者に当たるか否かにつきましては,先ほど宮田委員から幾つか事例をお示しいただきましたけれども,個別具体的な事案における具体的な事実関係によって判断されるものであると考えております。   民法上,監護権の内容といたしまして,居所指定権,懲戒権,職業許可権,第三者に対する妨害排除請求権,子の引渡請求権,それから,身分行為の代理権があると一般に解されておりますけれども,民法上の監護が,そもそも親子関係を基本とする概念でありますことから,要綱(骨子)第三の監護する者と言えるためには,親子関係と同視し得る程度に居住場所,生活費用,人格形成等の生活全般にわたって依存・非依存の関係ないし保護・非保護の関係が認められ,かつ,その関係に継続性が認められるということが必要であると考えております。   そして,「現に監護する者」であるか否かの判断要素といたしましては,同居の有無だとか居住場所に関する指定などの状況,未成年者に対する指導状況,身の回りの世話等の生活状況,生活費の支出などの経済的状況,未成年者に関する諸手続を行う状況などが考えられます。   したがいまして,この「現に監護する者」に該当する否かにつきましては,これらの要素に関する具体的事実を立証していくことになると考えておりますけれども,先ほど子供との関係が経済面だけの場合どうかということについては,正に今申し上げたとおり,「現に監護する者」であると言えるか否かというのは個別具体的な事案における具体的な事実関係によって判断されるものであると考えておりますけれども,仮の話としまして,経済的な支援以外は全くしていない,その他の関係が全く認めらないということなのであれば,通常は生活全般にわたって依存・被依存関係ないし保護・被保護の関係があるとは認められませんので,「現に監護する者」とは言えないものと思われます。   また,一時的な場合にすぎない場合,例えば,同居1日目であったらどうかというような御指摘などがございましたけれども,それも個別の事案における具体的な事実関係によって判断されるものと考えられますけれども,その生活を共にしている期間というのも当然考慮要素に入ってくるかと思いますし,同時に,そのような生活を継続する可能性だとか意思といったものも一つの判断要素となり得るものと考えております。   それから,もう1点が,その被害者側が受け入れるという場合があるかどうかという点でございますけれども,この罪におきましては,18歳未満の者が精神的に未熟であります上に,監護者に精神的・経済的に依存している関係性にありますので,このような関係性を利用して行われる性的行為については,その被害者の性的自己決定権を侵害する,そのような考え方から設けられた罪でございます。すなわち,監護者であることによる影響力がある状況で性交等が行われれば,自由な意思決定による同意というのは基本的には問題にならないのではないかと思われるのですけれども,そのような場合であっても,特段の事情があって,自由な意思決定だと言えるような場合がないわけではないのではないかとも思われるところですので,この点については,委員,幹事の皆様方の御意見を賜れればと思っております。 ○井田委員 私は,今日の冒頭の中村幹事の御説明を伺って非常に説得されましたので,その点について説明させていただきたいと思います。   その前に,角田委員が御指摘になったドイツの規定ですが,法定刑は軽いのです。上限5年の自由刑にすぎません。通常の強姦罪の法定刑の上限はドイツでは15年ですから,かなり軽い類型として規定されているのです。これに対し,今の私どもの課題はそうではなくて,その重さにおいて強姦等に匹敵するような行為を類型化した規定を作るというところにあります。その意味で,かなり事情が異なるのではないかということです。   監護者に限定するという点につきまして,私は,中村幹事の御説明を伺って納得いたしました。といいますのは,少し遡った議論になりますが,立法に当たっては大きな二つのベクトルがあり,その調和,調整を図るという側面があるからです。その一つは,一般化,類型化しなければいけないという面と,いま一つは具体的事情を考慮しなければいけないという面です。この両方のベクトル,それらをうまく調和させることが必要なのではないか。   ちょっと外れるかどうか,例示のためにお話ししたいのは,放火罪を処罰するときに,その取り分け重い類型として,個別の事情の下で人の生命に具体的危険を生じさせる行為が考えられます。立法に当たり,そういう具体的に人の生命に危険が及ぶような場合を条文化し,その規定の適用においては,現にその状況で具体的に危険であったことの認定を要求する,そういう条文を作る。もちろんそれは可能なことです。他方で,現行刑法のように,「現住建造物」という形で類型化し,一般的にはそこに人がいることが多く,人が住んでいる場所ですから,そこに火を付けるのは一般的には危険だというのでこれを重く処罰する,立法論としてこういう行き 方も当然可能であるわけです。   そういう二つのベクトルという視点で,現行の性犯罪の規定を見てみると,13歳以上については同意能力を原則として認めた上で,強姦とそして準強姦と,いずれも具体的な事情の下で,具体的に被害者の同意が否定される場合を予定した規定になっています。具体的な状況下で同意が否定される場合が,そこで問題とされているのです。これに対し,この要綱(骨子)第三が予定しているのは,そういう具体的に同意が否定される場合を捕捉することが問題になっているのではなくて,類型的に同意があることが想定されないような事例を捕まえる条文を作ることが問題となっている。このように私は理解しました。   そうであるとすれば,具体的に同意の有無が問題となるのではなく,およそ類型的に,そういう状況があれば同意がそもそも考えられない場合を規定にするとすれば,やはりそれはかなり限定されたものになってこなければならないし,それはやむを得ない,むしろそれで適切だということになるのではないかと思うのです。   なぜ,そういう立法が適切か,方向性として基本的に妥当かと言いますと,一つは,行動のルールとして,禁止規範として非常に明確なものとなる。具体的な事情の下でこうだったらいい,こうだったら悪いというのではなくて,駄目な場合を明確な形で示せるということです。具体的な事情を考慮すればするほどルールは曖昧になり,こういう場合だからいいではないかという弁解を許してしまうことになってしまう。   二つ目の理由は,同意の有無に関係する具体的事情を考慮すればするほど立証が難しくなってしまう。これは実務家の方はそれ ぞれにお分かりのことであろうと思います。なるべく同意に関する具体的な事情に依拠しないような,同意の問題について具体的な事情の認定に左右されないような規定にするというのは,それは,立証の負担を軽減するものであろうし,同意に関する錯誤を理由にして加害者が刑事責任を免れることも妨げることができる,ということを意味します。類型的に同意が想定できない場合を捕捉するというのは同意の有無に関する具体的な考慮をなるべく排除する規定にするということであり,被害者の保護に資するのではないかと考えられます。   これに対し,監護者以外にも適用範囲を広げていくとなると,また具体的な事情を考慮しなければならないという話になってきますので,規定が曖昧化し,また,それによっていわば「抜け道」ができてしまうということにもなりかねないのです。   最後に木村委員の御意見について一言申し上げます。同意に捉われるなとおっしゃったのですけれども,これは,やはり現行法の建前がそうなっている以上は,それを崩すというのは,かなり根本的な考え方の転換にならざるを得ず,ちょっと難しいのではないかと思うのです。そればかりでなく,今申し上げたように,要綱(骨子)第三は,むしろ同意に関する具体的な事情を捨象する,類型化する規定なのであって,木村委員のお考えの趣旨にむしろ合致するのではないかと私は思いました。 ○佐伯委員 私も井田委員と基本的に同じ意見でございます。   宮田委員から,16歳で婚姻が認められているのに処罰されることには違和感を感じられるという御発言がございましたけれども,現在でも18歳未満の者に対して支配的な関係を利用して性的行為を行えば児童福祉法で処罰されているわけで,要綱(骨子)第三というのは新たに処罰規定を設けて,これまで処罰されていない行為を処罰するわけではありません。   日本の法律は,刑法は性的な自由を保護し,青少年の保護は児童福祉法等の特別法で行うというような役割分担が行われているわけで,今回,要綱(骨子)第三で設けようとしているのは,強姦罪や準強姦罪等と同じように性的自由を侵害する行為として刑法に規定しようというものであって,今まで処罰されていない行為を新たに処罰しようとするものではないということは,一つ重要な点かと思います。   また,強姦罪等の罪と同じような性的自由の侵害があると類型的に認められる行為に限って規定するということであれば,先ほどの井田委員の御指摘のとおり,要綱(骨子)のような形で限定して規定することが望ましいのではないかと考えております。   小西委員がおっしゃられましたように,義務教育というのは,確かにある意味支配関係が強いという点で,監護関係がある場合と,それから,普通の教師の場合,あるいはスポーツのコーチ等の場合との中間にあるものだと思いますので,線引きの問題としてそこまで入れるということも考えられなくはないと思いますけれども,やはり生活の基盤が全面的に依存している監護関係にある者と比べれば,依存関係が弱いということで,監護関係がある場合に限って今回立法することは適当ではないかと思っております。 ○武内幹事 角田委員に賛成する立場から発言をします。   やはり本罪の主体に関しては,もう少し幅広に考える余地があるのでないかと考えます。   資料20ですけれども,昭和36年の改正刑法準備草案あるいは昭和49年の改正刑法草案におきましても,「業務,雇用,身分,その他の関係に基づき自己が保護し又は監督する女子に対し」という切出しがなされております。もちろん,それぞれ偽計又は威力を用いてという構成要件になっておりますから,必ずしも要綱(骨子)第三の罪とパラレルに考えられるものではないと理解してはおります。しかし,このような類型の下では,その承諾が真意に出たとは言い難い場合が考えられる,あるいは被害者の自由な意思決定に不当な影響を与えることが多いという説明もされているところです。ですから,こういった類型に関しても,処罰範囲に取り込んでいく必要性は否定できないのではないかと思います。   仮に,第三のこの罪に含めるというのが困難であるとした場合,すなわち,強姦や準強姦と同程度の悪質性が類型的に認められないものだとしても,例えば,法定刑を下げる形で別途,処罰規定を考えるということは十分に考えられるでしょう。また,先ほど今井委員や北川委員からも,まずは親子類型で,今回は親子類型でというようなお話も出たところです。そうであれば,将来的には本罪の主体に関して処罰範囲を広げていくということも考えていいのではないかと考えております。 ○塩見委員 私も,井田委員,それから佐伯委員とほぼ同じ考えを持っております。   屋上に屋を重ねるようなことを申し上げますが,主体の範囲をどうするかという形で議論されているわけですけれども,条文上は,その「影響力を利用し」という手段も書かれているわけで,主体要件を満たすだけではなくて,影響力を利用したというふうに言えなければならない。この要件をどう考えるかということで,影響力利用をかなり絞り込めば主体を広げることができるし,主体を絞り込むのであれば,影響力利用は余り大きな意味を持ってこないという相関的な関係になっていると思われます。   先ほどの事務当局からの御説明では,1回限り,最小のものでも「影響力を利用し」に当たる,例として,先ほどから挙げられているものは,繰り返されてきた関係と,長年にわたる関係かもしれませんけれども,必ずしもそれに限るわけではないということです。「影響力を利用し」を比較的絞り込まないという方向で解釈をするのであれば,主体の範囲はそれほど広げることはできないというか,一般的にその主体・客体関係が影響力を利用するものと言えるようなものという形で設定する必要が出てくるのではないかと思います。   そういうことで,私も要綱(骨子)に賛成を致します。 ○齋藤幹事 私は,この「現に監護する者」ということに関しては,少し狭いのではないかと考えております。   他の委員のお話,幹事のお話を聞きまして,強姦に準ずるような,としたときに,この要綱(骨子)第三の罪の対象を広げることが難しいという事情も理解できたのですけれども,例えば,祖父ですとかおじですとか兄弟ですとか,家族関係の影響力を行使した場合にはどうなるのだろうということも考えております。そういったものも,せめて含めるべきではないかと考えております。   祖父から孫への性的虐待であるとか親族間での性的虐待というのは,現場におりますとかなり多いという印象を受けておりまして,それらを含める必要があると考えております。   また,ここから先は,仮に,本当にこの第三の罪に含めることが難しいといたしましても,先ほど小西委員であるとか角田委員もおっしゃっていたような,その人の将来に対する影響力が非常に強い関係性においては,意思決定が非常に困難であり,また不同意を示すということも大変難しいということ,そして,そういった事例が準強姦の罪にもなかなか組み入れられずに,起訴されずに置かれている状況があるということは,今後考えていっていただきたいと思っております。 ○池田幹事 先ほどから,主体の限定について御議論がありますけれども,「現に監護する」という概念が曖昧なものではないかという御指摘については,既に中村幹事から御説明があったように,解釈の余地ある規定ではありますけれども,考慮すべき事情というのは,これまでの議論の積重ねの中で明らかであって,規定の明確性に欠けるところはないのではないかと思います。   また,他方で,この範囲が,絞り込みすぎだというお話もありまして,それはそのような側面がないとは思わないですけれども,規定が明確であるということは必ずしも形式的に何かを切り捨てているということではなくて,実質的に,実態に応じて,主体の設定を個別具体的に判断する余地というものを含むものである。そのように考えますと,この表現については,実態に応じた処罰を図るということを可能にする用語法であると思われまして,そもそもの御提案の趣旨であります強姦に匹敵する行為を切り出すという観点を適切に表現できているものと思われます。以上のように考え,要綱(骨子)に賛成したいと思います。 ○山口部会長 ありがとうございました。   この範囲の問題につきましては,委員,幹事の方々から様々に御発言いただきまして,大体考慮されるべき論点は出されたのではないかというように思います。   まだ検討しなければいけない問題もございますので,この辺りでひとまずまとめさせていただきますと,先ほども学校の先生,教師,特に義務教育の教師については入れる方がよいのではないか,あるいは祖父,おじについても入れる必要があるのではないか,スポーツのコーチについても入れるべきではないかという御意見がございましたけれども,要綱(骨子)のとおりでよいという御意見が多数であったというように整理させていただきたいと思います。   ただ,その中で,仮に要綱(骨子)第三の主体を広げないとしても,例えば準強姦罪の適用に当たっては,その具体的な在り方,関係の在り方を考慮する必要があるのではないかというような御発言もなされていたところでございます。   関連いたしまして,先ほども宮田委員の方から問題として出されたところでございますけれども,「監護する者であることによる影響力を利用して」という要件について,更に御意見をお伺いしたいと思います。   この点については,既に第1回の会議の際に橋爪幹事が御発言されておられますので,何か御発言があればお願いします。 ○橋爪幹事 御指名ですので,発言させていただきます。   具体的な検討に先立ち,事務当局に一つ質問させていただきます。要綱(骨子)第三の罪につきましては,監護者が被監護者と性交すれば常に本罪を構成するわけではなくて,今,部会長から御指摘がございましたように,飽くまでも現に監護する者であることによる影響力を利用することが要件とされております。ということは,逆に申しますと,監護者との性交等であっても,その影響力を利用したとは言えない場合があるということが前提になっているように思われますが,具体的にどのような事例について,影響力の利用に該当しないと考えておられるかについて,質問したいと存じます。 ○中村幹事 この要綱(骨子)第三の罪は,18歳未満の者に対し,当該18歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力を利用して,わいせつな行為ないしは性交等をした者について成立する罪でございますけれども,この罪も,強姦罪や準強姦罪などと同様に,性的自己決定権を侵害する罪であります。精神的に未熟な18歳未満の者については,生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に精神的・経済的に依存している関係があることに着目して,そのような関係性を利用して監護者が性交等をした場合には,18歳未満の者が性交等に応じたとしても,それは自由な意思決定に基づくものとは言えない,このような考え方から設けようとする罪でございます。   そこで,この現に監護する者であることによる影響力を利用して性交等をしたということなのですけれども,このように生活全般にわたって保護,依存の関係があることを自己に有利に用いて性交等をすることをいうものと考えております。つまり,これに当たらない場合ということでございますけれども,例えばでありますが,行為者において,自らが犯人であることを相手に隠すため,例えば覆面をして犯行に及んだ場合のように,監護者であるということを相手に認識させなかった場合などが考えられるところでございます。 ○山口部会長 ありがとうございました。   それでは,この点につきまして,何か御発言があればお願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○宮田委員 先ほども少し述べたのですが,被監護者の方が積極的に関係を持つように監護者に対して迫った,そういう言動があった場合にも,やはり影響力の利用ということになるのかどうなのか疑問を持っております。   あと,姦淫行為や性的な行為自体が未遂に終わったということ以外の未遂行為を考えた場合に,性的な意図をもって,第177条であれば暴行・脅迫行為をした,第178条であれば抗拒不能を作り出すような行為をしたところでも未遂が成立し得ます。被監護者に対して影響力を及ぼす,親が子を監護するような行為は,合法的であって社会が求めている行為ですが,この影響力を利用した行為での未遂行為というのは想起し得るのかどうか,この2点について,ちょっとお伺いできればと思います。 ○中村幹事 まず,1点目でございますけれども,先ほど若干申し上げたところと重なるところはございますけれども,この罪におきましては,監護者であることによる影響力がある状況で性交等が行われれば,自由な意思決定による同意というのは基本的には問題にならないのではないかと思われるのですけれども,そのような場合であっても,特段の事情があって,自由な意思決定だと言えるような場合がないわけではないのではないかとも考えられるところでございますので,この点につきましては,委員,幹事の皆様方の御意見,御指摘を賜りたいと思っております。   また,2点目の未遂でございますけれども,この未遂については,監護をする者であることによる影響力を利用して性交等を行うということについての具体的,現実的な危険を生じさせる行為があった時点で着手があり,その時点で未遂が成立すると考えております。 ○小西委員 今の中村幹事の御説明について確認しておきたいのですが,一つ一つの行為を取り上げたときに,被害を受け続けている人が自分から誘ったり,あるいは,そのことが非常にうれしいことであるかのように,錯覚なのですけれども,そういうふうに認識していることは当然あります。   そういうことは,ここに含まれないと,含まれないではないですね,この要綱(骨子)第三のものには,例えば,事前からの影響力の問題として考えることができるというふうに考えればいいのですねということを確認していただきたい。 ○中村幹事 監護する者であることによる影響力を利用して性交等をするというのが,この罪の犯罪行為でございますので,要は,監護者であることによる影響力がある状況で性交等が行われれば,自由な意思決定による同意というのが基本的には問題にならないと思っております。ただ,そういった影響力下,影響力がある状況で性交等が行われていながら,何らか特段の事情があって自由な意思決定だと言えるような場合がないわけではないのではないかというところがございますので,この点について,是非御知見をいただければと思っております。 ○小西委員 それは,例えば,先ほどの話でいうと,17歳の女の子がいて,1日だけ来た母の愛人という人がいたときにどうなのかとか,そういうお話ということですかね。   もちろん,理屈上でそういうことを考えることは,それはできると思いますし,法律家はその理屈上の非常に少ない可能性を捉えて今議論されているのだというのは理解したいと思いますが,現実にそういうケースは非常に少ないし,そのために,あとの99%,何%か分かりませんけれども,そういうケースが救えない今のままになってしまうことについては,むしろそちらの害の方が非常に多いと思います。   現在の刑法上では,たくさんの虐待の被害者がある1件だけを取り上げるために,本人が自由意思で性交したのだというところから逃れられずに何も手が打てないということがあるということを,やはり,もう一度お話ししたいと思います。 ○角田委員 基本的には,小西委員と同じ意見なのですけれども,子供の振る舞いを見ていて,子供の方から誘っているように見えていること自体が影響力の行使下の行為であるということを,大人は知っておかなければいけないのではないかと思っております。 ○山口部会長 今,御質問あるいは御発言がございましたが,この点につきましては,更にいろいろ詰めて検討を深めていかなければいけない,法律論だけでは駄目なのではないかというお話がございましたけれども,少なくとも法律論がしっかりしていなければ立法はできませんので,事務当局においては,その点について更に詰めて検討をお願いしたいと思います。   進行の不手際で恐縮なのですけれども,この後,法定刑について御議論いただくのですが,その前に,法定刑以外の点について,何か問題とされたいことがあればお願いしたいと思います。よろしいでしょうか。   それでしたら,法定刑の点について,この要綱(骨子)は強制わいせつ罪,強姦罪と同じ法定刑とするということとしておりまして,先ほども御発言がございましたように,主体,客体の範囲もそれと連動しているということでございましたが,この点につきまして,御意見があればお願いしたいと思います。 ○佐伯委員 先ほど来の御意見の繰り返しになりますけれども,法定刑の問題というのは,新しい規定の保護法益をどういうふうに考えるかということと連動していると思います。   井田委員から御紹介ありましたように,ドイツは青少年保護の規定も刑法の中に取り込んで,通常の性犯罪よりは軽く処罰しております。日本もそういう方向をとることはもちろん考えられなくはないわけですけれども,従来の日本の立法は,刑法と特別法とで役割分担をして,青少年保護は特別法でというのがこれまでの規定の仕方でしたので,それを維持するとすると,繰り返しになりますが,要綱(骨子)第三の主体はかなり限定して,かつ,強姦等と同じ法益侵害があるということですから,同じ法定刑ということになるかと思います。 ○宮田委員 規定を置くとしても,強姦や準強姦罪と同等の処罰とするのでは重いのではないかと考えています。もちろん,虐待案件が非常に悪質であるということは,そのとおりかと思います。しかしながら,その具体的な事件を見ていると,事件の中では,過去の処罰されている案件などについても,やはり加害者側の事情で考えられるべき事情もある案件もあるように思われます。   先ほど申しましたように,虐待する親の方の加害の原因が何にあるかというところについて,実親の場合には,かなり典型的に,被害の経験が隠されている事例だと思っております。そういう意味で,強姦と同等の処罰とするということには問題があるようにも思われます。   また,新たな構成要件であるということであり,予想されている事案と全く異なった類型が出てくる可能性もあります。それが何であるかということについては,私の方もすぐに事例を考え付けないのですが,もうちょっと考えておかなければならない部分であり,最初から,強姦罪と同等の罰を最初から準備しておくということが妥当であるのかという問題もあるかと思います。   虐待の事案というのは,理想的には親子の再統合に向かうべきものです。性犯罪の事例についてはなかなかそういうことにはならず,被害者も精神的に傷付いていて,親ともう一度会いたいと思わないという場合も確かに多いとは思うのですが,被害を受けたことに加えて,子供に親が重い犯罪者であるという社会からのスティグマを持たせることが本当に正しいのかどうかという気もします。あるいは,親の社会復 帰を促進し子供への援助を支援させるべき案件もあるように思われます。   「僕の父は母を殺した」という本があります。母を父に殺されて,被害者であるのに加害者の子供として,彼が社会の中で差別され,非常に生きづらかった様が記載されている本です。性犯罪の被害者である子供が,重大犯罪の犯人の子供として社会から受ける偏見というのも十分考えられるかと思っております。 ○橋爪幹事 私からは,要綱(骨子)に賛成する方向で意見を申し上げたいと思います。   確かに,宮田委員御指摘のとおり,要綱(骨子)第三の罪というのは,暴行・脅迫を要件としておりませんし,心神喪失,抗拒不能に乗じた行為があるわけでもありません。そのような意味においては,意思の抑圧や強制の程度が比較的軽微なものも含まれているのかもしれません。   しかしながら,やはり被害者が18歳未満であること,つまり類型的に自由な意思決定が困難である者が被害者とされていること,更に,何といいましても監護者,すなわち本来は被害者を保護すべき者が,その地位,権限を濫用して被害者の意思決定に介入し,性交等を行わせるという点に強い不法性を認めることは十分に可能ですので,強姦罪に匹敵する当罰性があり,強姦罪と同一の法定刑で処罰をするという理解は十分に正当化できると思います。 ○角田委員 加害者側の,例えば父親自身に被虐待体験があるとか,いろいろな事情は,それはある事例はあると思うのですけれども,そういうことは個別の事例のときの量刑で考慮されれば済むことであって,ここで法定刑の下限をどうするかというところとは余り直接関係ないのではないかと,私は考えております。 ○武内幹事 先ほど宮田委員から,被害者となる子供にとって,親が犯罪者となってしまうということの負担という御指摘がありました。けれども,本罪の類型は,正にそういった形で,すなわち「家族の中から犯罪者が出ていいのか」という形で影響力を利用して行われることが少なくない。それは,非常に卑劣な態様であって,やはり強姦罪に匹敵する程度の悪質性が認められるのではないかと思います。ですから,先ほど御指摘のあった点というのは,むしろ強姦と同程度の法定刑を科すべきという方向に機能するのではないかと思います。 ○山口部会長 ほかにいかがでしょうか。法定刑については,大体よろしゅうございましょうか。   法定刑につきましては,軽くすべきだという御意見もございましたけれども,要綱(骨子)のとおり,刑法第176条又は要綱(骨子)第一の罪と同様とすべきであるという御意見が多数であったように思います。   もう一つだけお伺いしたいのですが,要綱(骨子)第三の罪の未遂罪を設けることについて,何か御意見がございましたらお願いしたいと思いますけれども,いかがでしょうか。   宮田委員が御発言された問題はありますので,それは検討するということかと思うのですけれども,ほかによろしゅうございますか。   それでは,その点については特に異論なかったということで理解をさせていただきます。   開始してから大分たってしまいましたので,ここで,11時5分まで休憩とさせていただきたいと思います。 (休     憩) ○山口部会長 会議を再開いたします。   ここからは,要綱(骨子)第七について,御議論をお願いします。   要綱(骨子)第七につきましても,大きく三つの点に分けて議論を進めたいと思います。   すなわち,まず一つ目ですが,要綱(骨子)第七の一の本文についてでございます。これは,第七の罪の基本類型となる部分ですので,そもそもこのような規定を設ける必要性が認められるか,そして,それを踏まえた規定の在り方について,御議論を頂きたいと思います。   次に,二つ目といたしまして,要綱(骨子)第七の一のただし書と第七の二についてでございます。これは,要綱(骨子)第七の一の罪について,刑の減軽や免除を認める規定ですが,それぞれの要件などについて御議論を頂きたいと思います。   三つ目は,要綱(骨子)第七の三についてでございます。死亡の結果が生じた場合について,このような規定を置くことについて,御議論を頂きたいと思います。   このように3点に分けて進行させていただくということで,よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○山口部会長 ありがとうございます。   それでは,まず,要綱(骨子)第七の一の本文について,特にこのような規定を設ける必要性があるかということを含めて,御意見を伺いたいと思います。いかがでございましょうか。 ○橋爪幹事 要綱(骨子)に賛成する方向で意見を申し上げたいと存じます。   現行法の強盗強姦罪は,本来であれば強盗罪,強姦罪の併合罪となるべきところを,強盗の機会に更に強姦行為に及ぶということが極めて悪質であることから,結合犯として刑を加重していると解されます。そして,このように考えますと,強盗罪,強姦罪という重大犯罪が同一の機会に行われたことが重要であり,両者の先後関係は本質的ではないと考えることができます。このような理解から,要綱(骨子)のとおり,強盗,強姦の先後関係を問わない形の規定を設けることに賛成したいと思います。 ○塩見委員 今,橋爪委員から御指摘がありましたように,強盗の機会に強姦が行われた場合については,強盗強姦罪という加重規定があるのだから,刑法的な評価上それと大きな差がないと見られる強姦の機会に強盗が行われた場合についても,同様の加重規定を置くべきだという説明は確かに説得力があると思います。   もっとも,強姦強盗罪を新たに作るわけですから,それとして問題はないのか,また強盗強姦罪とのパラレル論に立つとしましても,強盗強姦罪自体が加重規定として問題がないのかという点をやはり考えておく必要があると思います。   強盗強姦罪は,強盗罪と強姦罪の併合罪とされた場合よりも重い,無期又は7年以上の有期懲役を規定するものでありますが,このような加重が肯定される根拠は必ずしも明らかではなく,強盗の機会に強姦が行われることが多いからといった理由付けが一般的と見られます。 強姦などにより生じた反抗抑圧状態を利用して強盗が行われるということが,統計的な問題なのかどうかよく分かりませんが,仮に統計的に見て有意なほど多いのだとしましても,それだけで併合罪による加重よりも更に加重するということの理由となるかは疑問ですし,ある犯罪を犯した機会に重ねて別の犯罪を行うというのは,確かに悪質性が高いですけれども,それは何も強姦罪と強盗罪に限られるわけではないと思います。通常は,適宜量刑において,併合罪加重された量刑の枠内で考慮される事情にとどまるものと考えられます。   より細かく刑罰を加重する程度を見てみますと,要綱(骨子)第七の一では,有期懲役の下限が7年とされておりますが,傷害の結果が生じれば,新しいこの規定がなくても強姦致傷罪として下限が,要綱(骨子)第六の二が採用されたとすれば6年になるのでして,傷害の結果が発生しなかった場合でも7年,更に言うと,7年になると酌量減軽をしても執行猶予が付けられないわけで,これらの点には疑問を感じるところであります。 また,重い方につきましても,実際にはないとしましても,理念的には傷害の結果を発生させなくても無期懲役が科し得ることになることが必ずしも妥当とは思われません。   更に,傷害結果が発生しなかった場合に,無期懲役が言い渡されることも実際上少ないとしますと,その場合に選択される有期懲役刑は,新しい規定では上限が20年となりますが,強姦罪と強盗罪の併合罪として加重しますと,有期懲役の上限は30年となり,怪我はさせなかった以外の点では極めて悪質という事案にどちらが柔軟に対応できるかという問題も残るように思われます。   以上,申し上げましたような理由から,現在の強盗強姦罪を存置し,強姦の部分を今次の改正に合わせて性交等に拡張するのはやむを得ないとしましても,新たに強姦強盗罪に相応するような類型を新設するということについては,慎重であってよいのではないかと考える次第でございます。 ○小木曽委員 今の塩見委員の御発言はごもっともな点が多々あるように伺いましたけれども,ただ,被害者,被害に遭われた方の感情といいますか,その人たちがどのように思うかということからしますと,どちらが先かということによって,刑の下限が変わっているということを納得するのは難しいと思います。   それから,もう1点は,捜査・公判の過程で,これは検討会でも出たのですけれども,どちらが先であったかということについての被疑者・被告人の供述が変わるということがあるというお話があったことも,記憶にとどめておくべきであると思います。 ○宮田委員 塩見委員の意見に賛成でございます。更に付加して,強姦強盗罪の新設に対して1点,疑問点を言わせていただければと思います。   強盗強姦の場合,強盗行為は,被害者に対する反抗の抑圧を要件としております。一方において,強姦においては,第177条においても,相手の反抗を抑圧する行為までは要求していません。反抗を著しく困難にすれば足りるとされております。また,準強姦や準強制わいせつは,著しく抵抗の困難が生じたということを要件にはしておりますが,これは,性的な行為に対してのその反抗の困難ということでございます。   強姦あるいは準強姦の実行行為の段階では,強盗と同程度に被害者の反抗の抑圧が生じていない案件もあるのではないかと思われます。単に強姦が既遂になった,そういう機会に行われた行為,物を盗っていく行為が強盗とされるというためには,更なる暴行・脅迫を要件としなければならない場合も相当あると思われます。私のこのような理解で間違っていないかどうかについて,事務当局にお尋ねしたいと思います。   また,強盗強姦については,強盗の機会に強姦をすることが多いのだという立付けでの立法でございますけれども,反抗を抑圧するような程度の暴行・脅迫が先行している強盗行為が行われる,そして,更に強姦が行われるということなので,抗拒不能が言いやすい一方で,強姦の現場で物を盗る犯意が生じたき,被害者に気付かれずに物を盗った場合には,現在,窃盗で処断されているかと思います。この条文ができることで,強姦の犯人が,その機会に強盗を行ったとき,今は窃盗の類型になっているようなものまで解釈を緩めるようなことがあってはならないと思っておりますが,この点についてはいかがお考えか,事務当局のお考えをお聞かせいただければと存じます。 ○中村幹事 事務当局から,今の御質問の点についてお答え申し上げます。   第七の一の強盗強姦の罪の改正の点でございますけれども,要綱(骨子)第七の一のところに書いてございますとおり,前提として,ここに挙げている,それぞれ掲げられております強盗罪ないし強姦罪が成立するということが大前提でございます。   したがいまして,もちろん個別具体的な事案によって,反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫になっているのか,ないしは著しく反抗が困難な程度の暴行・脅迫かといったところは認定していく必要がございますけれども,いずれにしても,強盗罪及び強姦罪が同一の機会において両方とも成立しているということが大前提であります。   また,2点目でございますけれども,窃盗罪というのが今後この新しい第七の罪の強盗として位置付けられることになってしまうのではないのかという御質問でございますけれども,今申し上げましたとおり,強盗罪として成立しているということが必要でございますので,個別具体的な事案によりますけれども,窃盗に本当にとどまるのであれば,それは窃盗としてしか処断できないということになるかと考えております。 ○小西委員 今の議論は私にはよく分かりませんが,その実態から余り離れたところで言われてもなというのが本当は率直な気持ちです。例えば,今の話って,ナイフを突き付けて財布の中身をとってから強姦するのか,その反対に起こったのかというようなお話だとしたら,被害者にとってはどっちも同じですね。   例えば,どれくらい精神的な影響があるのかということは一言では言えませんけれども,PTSDの発生率,仮にそういうもので見るとすると,強姦が一番高いです。次,強盗という形でされているわけでないですけれども,身体的な暴行が加えられているときは,これは男女差が非常にありますが,どちらにしても強姦よりは発生率は低いですね。強姦の方は男性の方がちょっと高いというのが今出ているデータです,PTSDの発生率については。だけど,被害者一人一人に聞いて,今の二つのことは違うというのをどうやって説明するのというのは,本当にナンセンスな感じに私には聞こえてしまう。ごめんなさい,ここでそういうこと言ってはいけないのですけれども,どうしてもそういうふうに聞こえますということをお伝えしたいと思います。 ○宮田委員 典型的な強姦の例でいえば,小西委員のおっしゃるとおりだとは思いますけれども,現在かなり幅広に解釈されている準強姦についても,この条文にのってくるということを考えますと,やはりこの強盗の要件の発生の部分についてはかなり慎重に対処しなければならないのではないかとは思っているわけです。やはり小西委員がおっしゃった事例とは異なるものもあるということで御理解いただければと思うのですが,いかがでしょうか。 ○小西委員 私としては,要するに,この二つの罪が別の量刑であるということはおかしいと思うという意見だけです。法律的な議論については,ちょっと理解ができません。 ○今井委員 皆様の御意見の繰り返しになるかと思いますけれども,中村幹事が御説明されましたように,ここで想定しておりますのは,強盗,あるいは今回改正にかかっております強姦が成立しているということが前提です。ですから,その際に,実際において問題となるのは,小木曽委員あるいは小西委員がおっしゃいましたように被害者の被害が二つ生じていますけれども,その先後関係がその後の精神的な状況等によって明確にできないという大変悲しい事態があるということも踏まえて適切に対処するためのものでありますから,宮田委員の御懸念のような問題はないのではないかと思っております。 ○山口部会長 ほかに御発言されていない方,いかがでしょうか。   特に御発言がない方は,要綱(骨子)に賛成であると理解してよろしいでしょうか。   更に,この書き方等について何かありましたら,お願いしたいと思います。 ○今井委員 先ほど続けて御質問すればよかったと思いますけれども,本日の冒頭におきましても,中村幹事の方から,この要綱(骨子)第七の強盗強姦のところの御説明ですけれども,強盗強姦罪においては,強盗の機会という現在の解釈を維持するという御説明,その前提に立って条文化を検討されているという御説明があったと思います。   そうしますと,現在の第241条,強盗強姦罪が,強盗が女子を姦淫したというふうな一定の者が一定の行為をしたというふうな書き方をしておりますので,それとの関連でどのような条文の在り方があるのか,少し教えていただければと思います。 ○中村幹事 先ほど冒頭に御説明申し上げたとおり,この要綱(骨子)第七の一の罪につきまして,「一方を犯した際に」という形で,「際に」という言葉を用いておりますけれども,これは,従前の同一の機会に強盗と強姦を行った場合という,一般的な判例上の理解を変更しようというものではございません。したがいまして,この「際に」というのは,従来のその同一の機会にと同じ意味で使っているということでございますけれども,他方,最終的に条文化するときにどのような表現を用いるかということにつきましては,今後も検討していくことになるかと思いますので,もしこの点について,特段の御意見がございましたら,委員,幹事の皆様からもいただきたいと存じます。 ○山口部会長 この段階で,何か具体的に御意見をお述べいただけることがありましたら,お願いしたいと思いますが,いずれにしても条文化に際しては検討の必要がある点かと思います。   いかがでございましょうか。この点についての議論は,大体よろしゅうございましょうか。   ありがとうございました。   要綱(骨子)第七のように,強盗行為と強姦行為を同一機会に行った場合に,その先後を問わずに現行の強盗強姦罪と同様の重い刑で処罰する規定を設けることにつきましては,御議論の状況を拝見いたしまして,疑問がある,あるいは必要がないという御意見がございましたけれども,要綱(骨子)の形でよいという賛成の意見が多数であったというように理解いたしました。   次でございますが,要綱(骨子)第七の一のただし書及び第七の二について,御議論をお願いします。   すなわち,同一の機会に強盗行為と強姦行為を行った場合に,そのいずれも未遂に終わったときには,刑法第43条本文の未遂犯と同様に裁量的な刑の減軽を認めること,それから,その場合において,いずれかの行為を自己の意思により中止した場合には,刑法第43条ただし書の中止犯と同様に必要的な刑の減免を認めることについて,御意見をお願いしたいと思います。   両方が未遂の場合に未遂とし,いずれかを自己の意思により中止した場合には中止犯と同じ効果を与えるという,これが要綱(骨子)の案でございますけれども,この点について御意見を頂ければと思います。   いかがでしょうか。 ○今井委員 要綱(骨子)に賛成したいと思います。   先ほど申し上げましたように,今回その強盗強姦に加えて,強姦強盗と呼べるような類型を考えましたのは,被害者にとってみれば,先ほど小西委員からも御指摘がありましたように,同程度の重大な被害を被っているのに,その先後不明であることによる,正義感情に反するような事態を避けるためということでありますが,その前提といたしましては,強盗罪あるいは今回改正にかかっています強姦罪が大変重大な法益侵害を行う行為であり,重たく処罰されるべきものであるという発想があると思います。   そういたしますと,そのいずれか一方が既遂段階に立っているときには,刑の減軽等を考える余裕,余地はないものだろうと思います。他方で,この要綱(骨子)第七の二のような中止犯の規定ぶりというものは,これは中止犯の理解によって決められるべきものでありまして,本日冒頭に中村幹事から御説明ありましたように,基本的に政策説的な発想をしながらも,中止した部分について違法性ないし責任が減少するということは考慮ができますので,このような政策的判断をとることは十分に可能だと思って支持したいと思います。 ○佐伯委員 私は,まだ確固とした意見があるわけではないのですけれども,現行法の下では,強盗が既遂であっても強姦が未遂であれば強盗強姦罪は未遂となり,強姦を任意に中止すれば中止未遂の規定の適用があるということになっているわけで,今回,強盗強姦と強姦強盗を同じように処罰するということで新たに規定を設けることによって,現行法で認められている未遂が認められなくなるというのが本当にいいのだろうかということについては,少しまだ疑問を持っております。   先ほど塩見委員からも御指摘がありましたけれども,7年という下限で未遂にならないということは,酌量減軽しても執行猶予は付かないということになるわけで,強盗といってもいろいろな類型があることを考えると,それがいいのかという問題。それから,強盗が既遂になった場合には,もうその犯人には中止未遂の余地がないわけですけれども,それも,強姦の被害者の保護という観点から本当にいいのかという点については,なお検討が必要ではないかと思っております。 ○井田委員 その点ですけれども,私も検討が必要だということ自体はそのとおりと思うものです。ただ,現行の第241条については,第243条が未遂処罰を予定していることから,解釈論上,立法者が第241条の未遂を想定していることを否定できない。 そこで,通説は,強盗の既遂,未遂は関係ない,この犯罪の重点は強姦部分にあるのだということで,強盗強姦の未遂は,強盗の点で既遂であろうと未遂であろうとそれは関係なく,ただ,強姦が未遂にとどまったという場合だけが強盗強姦未遂となるとしています。それは,現行刑法の文言からはそう解釈せざるを得ないということにほかなりません。   翻って,それが本当に正しい解決かどうかについては,私はかなり疑問があると前から思っています。しかし,それは,現行法の下では立法論の問題になってしまうわけです。最初の中村幹事の御説明にもあったのですけれども,もし強盗を行って既遂となり,そこで終わったというときには,処断刑の下限は5年です。これに対し,更に強姦を行って,途中で障害未遂に終わったというときに,処断刑の下限が現行法だと3年半の懲役に落ちるのです。ましてや中止になると免除の可能性も出てくるというのは,やはりバランスを失する。現行法の解釈としてはしようがないといえばしようがないのですけれども,今回の法改正に当たり,そこのところを訂正するというのであれば,私には十分理解できるところです。   ちょっと付言しますと,先ほどの塩見委員は,現行法の強盗強姦罪の規定自体,合理性があるのかどうかという問題を提起されました。強盗強姦罪について,やはり大事なのは下限でありまし て,下限が7年に上がっているということ自体に意味があると思われます。単に強盗罪と強姦罪の併合罪として扱うというのではなく,下限を7年に上げているというのは,それ自体意味があることであると思うのです。また,実態として,強盗を行った人間が被害者を黙らせるために強姦を行う等々の事例を考えてみれば,そこには単なる併合罪以上のプラスアルファがあるのではないかと考えられます。また,事務当局から頂いた資料を見ても,強盗強姦罪はかなり重いところに量刑水準があって,しかも無期刑も相当に科されているということ等を併せ考えますと,現行の強盗強姦罪にも相応の存在理由はあるのではないかと思われるのです。こういうことから,要綱(骨子)の御提案に私は賛成です。 ○武内幹事 現時点で要綱(骨子)に反対の立場をとるものではありませんが,若干自分でうまく整理が付いていないところもありまして。中止未遂のところなのですけれども,強姦が既遂に達した後で強盗の実行行為を中止したときには刑が減免されることになろうかと思います。この点,要綱(骨子)どおりの改正が行われると,単純強姦の場合は5年以上の懲役になる。他方,その後,強盗に一旦着手したのに,それを自己の意思で中止した場合,必要的な減免となってくると,ちょっとバランスとして本当にこれで大丈夫なのかなと思います。確かに,ここは政策的に決められるところだと思いますけれど,社会全体の理解を得られるのかなという疑問を持っています。 ○中村幹事 この要綱(骨子)第七の二においては,第七の一のただし書に該当する場合が前提となっておりますので,強盗未遂,強姦未遂,両方とも未遂の場合において,いずれか一方が中止である場合に必要的減免としようということでございますので,御理解いただければと思います。 ○武内幹事 了解しました。そういうことであれば,今の疑問は撤回します。 ○宮田委員 佐伯委員の疑問としておっしゃったことを理由として,私はむしろ積極的に反対の意見ということでございます。   強盗や強姦の犯人が自ら中止した場合に,政策的に減軽を認めるということ自体には賛成です。しかしながら,現行法でとられている解釈よりも狭い形にしてしまうことで,その政策的な効果が減じることはないのかというところでございます。 ○山口部会長 ありがとうございました。   ほかにいかがでしょうか。   いろいろ問題点など,御指摘がされたところでございますけれども,これは基本的に反対であるという御意見があれば,是非お聞かせいただきたいと思います。   何か関連した問題で,気の付かれたことで御指摘いただけることがあればお願いしたいと思うのですけれども,よろしゅうございますか。 ○橋爪幹事 大変細かいことなのですけれども,要綱(骨子)第七の二の中止行為に関する規定について,一つ質問を申し上げたいと存じます。   要綱(骨子)では,いずれかの犯罪を中止していれば,刑を必要的に減免することになりますので,例えば,まず強姦に着手したが,被害者がかわいそうになって強姦行為を中止した後,その後新たに強盗の犯意を生じて暴行・脅迫に及んだが,抵抗されて未遂に終わったという事案につきましては,これは強盗も強姦もともに未遂犯でありまして,しかも強姦行為を自ら中止しておりますので,要綱(骨子)第七の二が適用されることになります。その結果,刑として有期懲役を選択した場合には,少なくとも必要的な減軽を行うことになりますので,その刑は3年6月以上10年以下ということになるかと存じます。   しかし,現行法ですと,これは強盗未遂と強姦未遂の併合罪となりますので,強姦罪について中止減軽をするとしましても,仮に強盗未遂罪については任意的減軽をしないという処理をした場合,その処断刑は5年以上30年以下の懲役となりますので,むしろ併合罪として処理をした方が刑が重たいという逆転現象が生じます。   このように考えますと,仮に要綱(骨子)のとおり法改正をした場合であっても,要綱(骨子)第七の二の適用がある事例については,なお強盗未遂,強姦未遂を切り離して併合罪としてより重く処罰することが可能なのかという問題が残るように思われます。この点につきまして,事務当局のお考えをお聞かせいただければと思います。 ○中村幹事 今,橋爪幹事から御指摘のあった点でございますけれども,その処断刑におきましては,そのようなものが生じる場合があり得るとは思いますけれども,御指摘のような事案というのがどの程度発生するのか,それはかなりまれではないのかという点がまず1点あります。また,仮にそういった事案が発生したとしても,実際の量刑上はそれほど問題は生じないのではないかと考えております。 つまり,有期懲役を選択した場合,3年6月以上10年以下という範囲で適切な量刑というのは可能なのではないのかと考えておりますので,政策的目的を達成するという趣旨を重視して,この要綱(骨子)第七の二のようにしたわけでございますけれども,このようにすることについて,皆様方からもまた御意見いただければと思っております。 ○北川委員 今,橋爪委員から御質問があった事例は,強姦が未遂にとどまり,かつ,かわいそうに思ってやめたのだけれども,その後強盗に着手して,そっちの方は障害未遂にとどまったと,このような事例でよろしいわけですね。   この場合は,果たして同一の機会に犯されたものと考えてよろしいのでしょうか。犯罪を中止した段階で,同一機会と言えるのかなとちょっと思いましたものですから,先ほども同一機会という言葉の御説明がありましたので,その解釈はどういうふうに考えるべきなのかとちょっと疑問を持ちましたので御質問させていただきますが,これは事務当局の方にお願いしたいと思います。 ○中村幹事 今の点でございますけれども,同一の機会と言えるかどうか,これは,個別具体の事実関係によってくるところでございますので,その中でどのように同一の機会であると判断していくのか,具体的には時間や場所等々を勘案して判断していくことになるのだろうとは思っておりますけれども,そのような意味で,同一の機会という場合もあり得るし,事案によってはないのかもしれません。 ○山口部会長 ほかにいかがでしょうか。   この要綱(骨子)第七の一のただし書,第七の二,未遂,中止犯に相当する部分につきましては,技術的な性格も強いということがございまして,なかなか難しい議論になったかと思われますけれども,重要な御指摘が幾つかなされました。   第七の一については,現行法の下で減軽される範囲よりも狭くなるのではないかという問題,それから,中止未遂として現在であれば必要的減免となるものが,要綱(骨子)の下では必要的減免にならないのではないかという問題,それから,第七の二については,これを適用する方が,先ほどの橋爪幹事からの御指摘ですけれども,併合罪として処理するよりも処断刑が軽くなる場合があるのではないかというような御指摘がなされておりまして,これらについては,いずれも検討が必要だと思われます。   まとめますと,この部分については反対の意見もございましたけれども,基本的にはよろしいのではないかという御意見が多かったのではないかと思われますが,いずれにしても,これらの今申し上げた点については更に検討が必要ですので,事務当局において,今なされました御指摘を踏まえて更に御検討をお願いします。   最後になりますが,第七の三について御審議を頂きます。   死亡の結果が生じた場合について,この第七の三,このような規定を置くことでよいかどうか,また事務当局から,殺意をもって行った場合もこれに含まれ,そして,その場合に,殺害が未遂に終わったときには,第七の三の罪の未遂犯として処罰するという御説明がございましたが,そのような規定として設けるということでよいかどうかについて,御意見をお伺いしたいと思います。 ○今井委員 簡単に結論だけですが,冒頭に中村幹事から御説明あった理解に賛成するものであります。   現在の第241条の強盗強姦致死罪におきましては,御説明ありましたように,判例におきましては殺意がある場合が含まれていないと言われておりますけれども,その法定刑は死刑又は無期懲役という一番重いものとなっておりますので,現在の有力な学説におきましても,殺意が含まれるという見解が多々主張されております。   そういった学説状況も踏まえますと,今回の要綱(骨子)第七の三におきまして,同様に死刑又は無期懲役に処するとしているものにつきましては,殺意を含むという理解を基に検討していくべきではないかと思います。 ○井田委員 確認なのですけれども,殺意を含むという解釈になるという根拠は,文言上,「・・・を行い,よって」とはしていないから,ということでよろしいのでしょうか。 ○中村幹事 冒頭の御説明でも若干その点申し上げたところでございますけれども,この要綱(骨子)としては,「よって・・・死亡させた」という結果的加重犯に典型的に用いられる文言を用いていないところが,文言上の取っかかりと考えております。 ○山口部会長 ほかにいかがでございましょうか。   よろしければ,まとめさせていただきまして,この第七の三のような規定を設けること自体,それから,殺意をもって行った場合をも含むとすること,そして,殺害が未遂に終わったときには第七の三の罪の未遂として処罰することについては,特に反対の御意見はなかったということでまとめさせていただきたいというように思います。   以上で,本日の審議は終了ということにいたしたいと思います。   本日で1巡目の議論が終了いたしましたので,次回からは2巡目の議論を行いたいと考えております。   まず,要綱(骨子)第四の非親告罪化の問題につきましては,第1回会議の議論におきましては,特に要綱(骨子)に反対する御意見は述べられませんでしたけれども,2巡目において,何か付け加えて議論すべきことがございますでしょうか。 ○宮田委員 私の周囲の人間に,反対の意見もございますので,是非御紹介させていただきたく,また,私自身も非親告罪化に疑問を持っておりますので,一度発言の機会を与えていただければと存じます。 ○山口部会長 分かりました。   ただいま宮田委員からの御発言もございましたので,要綱(骨子)第四についても,2巡目の議論を行うことにいたしたいと思います。その際,宮田委員から御意見,あるいはそれに関連する御議論をお願いしたいと考えております。   それ以外の論点につきましては,要綱(骨子)に反対という御意見,あるいは検討の必要があるという御意見,御指摘がございましたほか,事務当局において検討することとしている点もございますので,これらの点について2巡目の議論を行うことにしたいというように思います。   そこで,次回以降でございますが,1巡目の議論の順番に従いまして,要綱(骨子)の第四,それから「第一・第二・第五・第六」,第三,第七という順序で議論を進めたいと思いまずか,そのような進行とさせていただいてよろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのような進行とさせていただきます。   次回会議の場所等の予定につきまして,事務当局から御説明をお願いします。 ○中村幹事 次回の第4回会議ですけれども,来年1月20日水曜日午前9時15分からでございます。場所は,本日と同じ法務省20階の第1会議室でございます。 ○山口部会長 それでは,次回は平成28年,来年の1月20日の午前9時15分から,この第1会議室でということで行うことにしたいと思います。   なお,本日の会議の議事につきましては,特に公表に適さない内容に当たるものはなかったと思われますので,発言者名を明らかにした議事録を公表することにさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございましょうか。 (「異議なし」の声あり) ○山口部会長 ありがとうございました。それでは,そのようにさせていただきます。   では,これをもって終了いたします。本日はどうもありがとうございました。 -了-