法制審議会 民法(相続関係)部会 第5回会議 議事録 第1 日 時  平成27年9月8日(火)自 午後1時30分                     至 午後5時25分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第5回会議を始めさせていただきたいと存じます。   議事に入ります前に,本日から事務当局の方で関係官が一人加わられるということですので,自己紹介をお願いいたします。 ○合田関係官 法務省民事局付の合田章子と申します。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。   それから,続きまして配布資料の確認を事務局の方からお願いいたします。 ○大塚関係官 資料は机上に5点ほどお配りしております。まず一枚物の資料が2点,議事次第と,それから配布資料の目録でございます。それから3つ目が,詳細は後ほど御説明いたしますが,「自筆証書遺言及び公正証書遺言の作成例」と題する参考資料で,自筆証書遺言と公正証書遺言のサンプルを御提示したものでございます。続きましてA3の資料と,A4の2枚物の資料でございますが,これは浅田委員の方から後ほど御説明があろうかと存じますが,「遺言に関する銀行実務の観点からの検討」と,「預金債権の可分性の見直しに関する銀行実務の観点からの検討」,以上5点となっております。よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは,早速審議の方に入りたいと思います。本日は,お手元の「相続法制の見直しに当たっての検討課題(4)」に従って御意見を頂いてまいります。この資料は,その他の見直しということで性質の異なる幾つかの問題が扱われております。第1の,1ページ「可分債権の遺産分割における取扱い」から始まりまして,第2は4ページの「自筆証書遺言の方式の見直し」。第3が6ページの「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」となっております。最後が第4で,12ページでございますが,「遺産分割事件と遺留分に関する事件の一回的解決を図るための方策について」です。この中で第3の項目がやや分量が多くなっておりますので,項目ごとに進めさせていただき,かつ,この第3を二つに分けるということで,都合五つに分けて御説明を頂き,御意見を賜りたいと思っております。   それでは,まず第1の「可分債権の遺産分割における取扱いについて」という項目につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○下山関係官 では,私の方から説明させていただきます。   資料の1ページ目,「第1 可分債権の遺産分割における取扱いについて」ということですが,金銭債権等の可分債権は,判例上相続の開始により法律上当然に分割されることとされているため,遺産分割の実務においても,原則として遺産分割の対象から除外され,例外的に,相続人全員の合意がある場合に限り対象となるという取扱いがされております。   しかし,このような判例の考え方に対しては,可分債権について特別受益や寄与分を考慮することができないため,相続人間の実質的な公平を図ることができないこと,また,可分債権は,遺産分割を行う際の調整手段として有用であるといったことから,遺産分割の対象に含めるべきであるといった指摘がされております。   また,判例の考え方によれば,各相続人は,相続開始と同時に,債務者に対し,法定相続分によって分割承継された可分債権を行使することができることになりますが,債務者にとっては,相続人の一部の者から当然分割後の債権についてその支払を求められた場合であっても,その請求が正当なものであるかどうかを判断するのは必ずしも容易ではないことから,過誤弁済の危険があるとの指摘がされております。   そこで,金銭債権等の可分債権を遺産分割の対象に含めるための方策として,資料2ページ以下において,甲案及び乙案の二つの案について検討を加えております。   まず甲案は,「① 可分債権は法定相続分に応じて分割承継され,各相続人は,原則として,遺産分割前でも,分割された債権を行使することができる。」としつつ,「② 遺産分割において各相続人の具体的相続分を算定する際には,可分債権の相続開始時の金額を相続財産の額に含めることとする。」そして,「③ 相続開始後遺産分割終了時までの間に,可分債権の弁済を受けた相続人については,その取得した額を具体的相続分から控除することとする。」こういった考え方となっております。   甲案の考え方では,遺産分割時に可分債権が存在する場合には,当該可分債権が遺産分割の対象に含まれることになりますが,遺産分割時において可分債権が既に存在しない場合には,具体的相続分の計算上においてのみ可分債権の額が相続財産額に含まれることを想定しております。   また,相続人が遺産分割前に弁済を受けた額が,その具体的相続分を超過する場合には,遺産分割においてその超過額につきその相続人に金銭支払債務を負担させることが考えられます。   これに対し乙案は,「相続人は,遺産分割が終了するまでの間は,相続人全員の同意がある場合を除き,可分債権を行使することができない。」こととすることによって,可分債権を遺産分割の対象に含めるというものです。   これらの考え方を採用する場合に検討すべき課題ですが,まず,遺産分割の対象に含まれる可分債権の範囲をどのように考えるべきかという点が問題となります。可分債権には,預金債権や売買代金債権などのように,その存否及び金額が比較的明確なものだけでなく,不法行為に基づく損害賠償請求権など,当事者間でその存否及び金額について争いになることが多いものも含まれます。これら全てが遺産分割の対象に含まれるとすれば,その存否及び金額が定まらない限り,遺産分割を終了することができないことになり,遺産分割に関する紛争が極めて長期化するおそれがあります。   そこで,可分債権を遺産分割の対象に含めることとする場合であっても,相続人間でその存否及び額について争いがあり,これにより遺産分割事件の解決が著しく遅滞するおそれがある場合などには,その可分債権を遺産分割の対象から除外することができるようにするなどの措置を講ずることが考えられますが,その要件をどのように設定するかといった問題や,除外された可分債権は最終的にどのような形で分割することになるのかといった問題について検討する必要があるものと考えられます。   次に,「(2)債務者その他の第三者との関係について」です。この問題は,甲案を採用する場合のみ問題となります。   まず,「ア 債務者以外の第三者との関係」については,甲案を採用した場合には,債務者以外の第三者との関係は,基本的に物権と同様の取扱いがされることになるものと考えられます。   すなわち,遺産分割前に相続人からその法定相続分に相当する債権を取得した第三者は,遺産分割の遡及効は第三者を害することがないとする民法第909条ただし書,これによって保護されることになるものと考えられます。   次に,遺産分割によって可分債権を取得した相続人と遺産分割後にそれ以外の相続人からその法定相続分に相当する部分を譲り受けた第三者との関係については,判例の考え方を前提とすれば,債権の二重譲渡がされた場合と同様の法律関係となるものと考えられます。   次に,「イ 債務者との関係」について見ますと,遺産分割前に債務者が相続人に対して債権を弁済したときには,債権が消滅し,遺産分割の対象となる財産が存在しないことになりますので,民法第909条によるまでもなく,その弁済が無効になることはないものと考えられます。   次に,遺産分割によって可分債権を取得した相続人と債務者との関係については,債務者以外の第三者との関係を民法第467条によって処理するのであれば,債務者との関係でも同様の処理をするのが理論的にも一貫すると考えられることなどを考慮すると,やはり債務者対抗要件の有無によって処理されることになると考えられます。   さらに,乙案を採用することとした場合には,資料の「(3)各相続人による個別的権利行使」の可否,これが問題となり得ます。   乙案の考え方によりますと,例えば,相続人の中に被相続人から扶養を受けていた者がいる場合であっても,遺産分割が終了するまでの間,可分債権の行使が禁止されるため,その相続人が生活に困窮するという事態が生じることになりかねません。このことは,資金に余裕のある相続人が遺産分割協議を引き延ばすことによって自己に有利な条件で遺産分割協議を成立させようとするなどの問題を生じさせるおそれもあります。   そこで,乙案を採用する場合にも,相続人の生活費確保のために必要があるなど一定の要件を満たす場合には,他の相続人の利益を害さない範囲で,個別的な権利行使を認めることが考えられますが,その要件を適切に定めることができるかという問題があるものと考えられます。   第1についての説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   可分債権の当然分割という扱いに不都合があるのではないかということで,甲案,乙案二つの考え方が提示されるとともに,それに伴う検討課題を整理していただいたということになろうかと思います。   これについて御意見等賜りたいと思いますが,まず浅田委員どうぞ。 ○浅田委員 ありがとうございます。第1の議案につきましては,本席で第1回目の部会資料として,預貯金等の可分債権の取扱いという論点が提示されましてから,銀行界としても非常に問題の関心の高いものとして捉えて,今まで内部で検討してきたところであります。   また,この問題は現在においてもそうでありますし,また本部会で相続分の柔軟化が行われると更に重要な点になると思っておりますので,今回は少々時間を頂戴いたしまして,私どもの問題意識と,それから日々接している問題事例の紹介をし,加えて現時点で考える法制度の方向性について述べさせていただければというふうに思います。   ただ,ご説明すべき事項とか,その基礎となっている法的論点は多岐にわたりますものですから,そこは別途A3のペーパー「預金債権の可分性の見直しに関する銀行実務の観点からの検討」と題する資料にまとめました。これは後日お読みいただければ幸いでありますけれども,本日はこの要点を述べさせていただければと思います。   なお,ここでお話しすること,それから本ペーパーの内容というのは,今回の部会資料を法務省から頂く前に検討したものであります。部会資料に言及することもございますけれども,その点については十分な検討を経たものではないということをご海容いただければと思います。   まず,A3のペーパーを見ていただきたいのですが,本資料は預金を典型例とする可分債権を遺産分割の対象に取り込むという方向性を念頭に,どのような制度設計があるのかということを銀行実務の観点から検討したものです。紹介いたしますと,本ペーパーの上から,1として判例法理に基づく現状の実務,それから続きまして案1,それから案2,これは私どもが考えたものでございますけれども,それを記載いたしました。また,今回の部会資料の甲案,乙案も,それぞれ近しい案に並べて記載いたしました。   そして,各項目ごとに,欄左から制度設計の内容,それから銀行実務から見た有意な点,それから問題点を分析し記載いたしました。   まず,現状の御説明として,現行の判例法理の有意な点と問題点を列挙いたしました。一番上の欄を御覧いただければと思いますけれども,要点は,昭和29年の判例にかかわらず,従来から銀行実務は,ご案内のとおり相続人全員の署名押印がそろわなければ払い戻さないというのが原則的な実務対応であります。これは,ひところは合有説が学説上有力であったなどの経緯もありますけれども,それはさておき,現時点でも当該判例法理だけでは処理できない場面があるからであります。この場面の事例を私なりに分析いたしますと,当該事例パターンというのは,この資料の上の欄の右の「問題点」(1)に挙げております①~⑤のとおり,遺言がある場合。遺産分割協議の対象となる可能性がある場合。3番目として,具体的相続分の主張,特別受益とか寄与分ですけれども,それのある場合。それから4番目として,死亡後の入出金がある場合。5番目として,そもそも当該預金の相続財産への帰属が争われる場合等がございます。また,実際の現場では,相続に伴い発生する事象と主張は実に様々でありますから,関係者からのクレームがないように全員の同意をお願いしているということになります。   もっとも近時では,個別行によって詳細は異なりますけれども,個別ニーズや裁判例に照らして柔軟に対応する傾向があります。したがって,おおよそ先述の5つのケースでなければ,私が思うには法定相続分の支払いに応じているのが多いのではないかと思います。   ただし,やはり二重払いのリスクがある以上,そのリスクを減ずるために相続人全員の同意がある方が望ましいと考えられますので,まずは全員の署名押印をお願いして,そういかない場合には次善の策として,銀行から,例えば各相続人に異議があるかということをお尋ねしているということで処理することが多いと思います。   このような状況下,また本審議会で相続分について柔軟化が図られるとするならば,さらに債務者としては債権者からの請求の対応が困難になると思います。この場合,英米法では,私の理解するところによれば,言わば相続人の代表となるパーソナルレプリゼンタティブ(Personal Representative)に支払えば足りるという簡便な方法で処理できると思います。しかし,我が国の場合は,原則として誰が権利者なのかということを債務者があたかも裁判官のように判断しなければならず,また,判断ができないとして支払を保留すれば,法定利率の損害金を請求されることもあるわけです。   そこで,対応策として2つの案を考えました。まだ詰め切っておりませんので,案というよりはアプローチや考え方といった方がいいかもしれません。案1というのは,分割協議の成立を待って支払いに応じるというもの。案2というのは,法定相続分を弁済すれば債務者は免責を受けられることができるということであります。つまり案1は,取引の言わば静的安全性を,案2は動的安全性を重視したアプローチということができると思います。   それぞれの案について簡単に述べます。まず案1を説明いたします。詳細はペーパーには書きましたので,ここでは要点だけ申し上げます。この内容というのは,1ページの左欄にありますように,預金を相続人間で準共有される財産として遺産分割の対象とし,遺産分割の成立までは各相続人の権利行使はできないとする制度設計であります。   本案は,遺産分割の実効確保という観点で相続人の利益にもなり,銀行としても遺産分割協議の成立を待って支払えばよいから,両者にとって安定的な制度であると思います。もっとも,当座の生活資金を相続預金から確保したいという要望や,被相続人の入院費用や介護費用,葬儀費用などの支払に充てたいという要望は無視できないものがあります。   また,このような案を採用することにより,預金者の死亡を秘して払戻しを請求する者が増加し,かえって後日のトラブルを惹起する可能性も想定されると思いますから,払戻しの安定性確保の見地から,何らかの仮払請求権の法定化ということを検討する必要があるのかなとは思っています。   また,債権者の課題としては,遺産分割協議中の差押えや相殺が可能かどうかということを詰めなければならないと思います。   このような案を考えていたわけですけれども,部会資料を頂戴しまして考えますに,案1というのは部会資料の乙案というものによく似た制度だと考えております。したがって乙案の課題というのは,先に指摘したものと共通することとなりますけれども,詳細は,また後ほど発言できればと思います。   次に,案2の説明であります。案2は2ページの中ほどから記載しております。   制度内容については左端の欄でありますけれども,読み上げますと,可分性を維持しつつ遺産分割の対象とするが,遺産分割の成立までの間も各相続人の権利行使は妨げられないものとし,各相続人の請求を受けた債務者-銀行ですけれども-は,相続人から最初の請求を受けた時点の債務残高につき「法定」相続分に応じた弁済をすれば免責されるという制度設計であります。   本案は,先に説明した相続分払戻しを認める近時の銀行実務の延長上にあると思います。資金が必要な相続人の要望にも応じやすいですし,可分性がそのままなので,債務者としては差押えや相殺についての関係も現行法のままであると思います。   しかし,普通に考えれば,預金を法定相続分で支払った後に,遺産分割で預金の帰属が変更されることになるわけですので,相続分支払は有効であること,しかも法定相続分で支払えば債務者は免責されるということを法文でしっかり書いていただかないと,債務者としては安心できない部分が残ると思っています。   この点については異論もあるかとは思いますけれども,相続分で権利行使はできる。しかも具体的相続分ではなく,法定相続分であるというその帰結までしっかり民法典で書いていただくこと。これは国民にとって分かりやすい民法であることだと思います。特にこの規定が金銭債権一般に適用されるということになれば,専門家ではない債務者の負担にも配慮すべきだと思います。   また,銀行は預金者が死亡したことをすぐに知り得ないため,相続後に入出金が起こることもあります。深刻なのは,銀行が被相続人の死亡不知のまま,ATMや店頭において出金がされ,それが相続人の一人による出金と推定されるケースがあります。銀行としては,各相続人の取り分について悩まされる状態に置かれ,結果として相続人間の紛争に巻き込まれることになります。債務者を相続人の紛争に巻き込まないためには,相続人からの請求があった時点で法定相続分の支払で足りるとするのが適当ではないかと思います。なお,相続人による無断出金というのは,遺産分割協議で調整されることになります。   こう考えますと,頂戴しました部会資料に照らし合わせますと,甲案というのは,私ども案2と親和性があるというふうに思っています。大きな差というのは免責規定の有無であります。   以上,早口で申し上げましたけれども,総じて言えば,部会資料に沿って言いますと,甲案というのは私どもが考えていた案2と親和的であり,乙案というのは第1案と親和的であるということになります。   もちろん,細部の設計や甲案において案2の免責を併用すべきかという点は,今後詰めていただく必要があると思いますけれども,これらを考えますと,今回法務省が出していた両案について,基本的には,賛成したいというふうに思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   2つの案を独自にお考えいただいたということでありますけれども,結果として事務当局の方から出させていただいている甲案,乙案と基本的には対応する形になっているので,方向としてはこれに賛成したいと,こういう御意見だったかと存じます。ありがとうございます。   事務当局と,それから浅田委員の御発言も踏まえまして,何かございますでしょうか。御意見,御質問等頂ければと思います。南部委員。 ○南部委員 ありがとうございます。一般的な意見ということでお聞きいただけたらと思います。今回の説明を聞かせていただいて,まず預貯金が遺産分割の対象から外されているということ自体,私たち一般で生活している者には分からなかった,知らなかったというのが現状です。恐らく私と同じで,一般の方々はそうではないかと思います。遺産といえば,土地,建物,預貯金など全てを想定しておりましたので,そのため可分債権を遺産分割の対象に含めるということには,全く違和感は感じておりません。遺産分割に当たってはなるべく,やはりいつも言っているんですが,分かりやすくシンプルな方法で,当事者にとっていいと言えるような内容に是非していただきたいと思います。   それで,ここに挙げられた,第三者を巻き込む不法行為が問題になるほど多いということになりますと,乙案の方は,やはりいろいろな方が関わりますので,トラブルが多くなるかなという心配をしています。しかし扶養の問題等々もありまして,弱者を排除するような制度になってはいけないというふうにも思っております。例えば,葬儀費用についてもかなり掛かります。遺産分割前でも権利執行ができるような,例外に当たるような要件は付けていかなければならないように思っておりますので,乙案がいい,甲案がいいというのははっきりは言えませんが,それぞれの問題点をしっかりとここで御議論いただいて,私たち一般人が使いやすい制度を是非作っていただきたいと思います。以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   基本的には,甲か乙かはともかくとして,このような方向でという御意見であると承りました。   ほかにいかがでございましょうか。 ○石井幹事 甲案,乙案,いずれの提案につきましても,預金債権を主として念頭に置いた御提案なのかなというふうに受け止めておりますけれども,部会資料にもございますとおり,可分債権一般ということになりますと,不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権などもございまして,特に相続に関する紛争の場合は,相続開始直前に一部の相続人が預金を引き出していて,それが不法行為又は不当利得に当たるのかといった問題が争われることは非常に多いという実情がございます。そのため,こういったものまで取り込んでしまうと,前提問題として争われる事項が増える結果,紛争が長期化するということもございまして,それは部会資料でも御指摘いただいているとおりかなというふうに思います。   ですので,部会資料でも記載いただいているとおり,そういった懸念がある債権については,適切に遺産分割の対象から除外できるような制度設計が望ましいのかなと思いまして,この要件等に関する判断の在り方についても,迅速適切な審理ということに沿うような形で御議論をお願いできればなと思っております。   あともう1点,議論の前提としての質問なんですが,甲案によれば,相続開始時点で被相続人に帰属していた可分債権は,相続開始により,法定相続分に応じて各相続人に分割承継される一方で,遺産分割時点で行使されずに残っていれば,遺産分割の対象になるとされております。一度,分割承継されておきながら,それが後で遺産分割の対象になるということについては,法的にどのように説明することになるのでしょうか。何かお考えがあれば伺っておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   1点目は,2ページの4の(1)にもありましたけれども,可分債権の範囲をめぐって紛争が生ずることがあるので,そこに対して十分に手当を考える必要があるだろうという御指摘でした。   もう1点は,甲案を採ったときの理論的な説明ということですけれども,この点についてお願いします。 ○堂薗幹事 ただいまの点でございますが,基本的には,甲案は,遺産分割をする際に可分債権がまだ残っているという場合に,それを遺産分割の対象とするというもので,遺産分割において法定相続分とは異なる分配がされれば,遺産分割の遡及効により,最初からそういう権利の移転があったということにはなるんですけれども,ただ,ここに書いてありますように,債務者や第三者との関係では,基本的には,一旦法定相続分に従って相続人に権利が帰属したものを,遺産分割の際に特定の相続人に取得させたのと同じような扱いにするということではないかと考えております。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○上西委員 「問題の所在」の冒頭に,可分債権は法律上当然に分割され,例外的に相続人全員の合意がある場合に限り,遺産分割の対象となると記載されています。法律的にはこういう考えかになると思いますが,実際の税務申告の際に遺産分割協議書を作成する過程においては,この例外的な考え方がほぼ全ての場合の実務になっています。ただ,相続人の一人がどうしても分割をという場合には,その人の法定相続割合で,特定の口座について手続をすることもまれにはありますが,大半は,全員の合意に基づいて,全体の調整をしつつ,預貯金を他の土地等の財産の金額との見合いをしながら分けているというのが実態です。   また,4ページの(3)で,乙案を選んだ場合の問題点の事例として,被相続人の死期が迫った場合に,相続人の一部の者が預貯金を引き出すことの動機付けになるという問題が指摘されています。確かにそういう動機付けになるのかと思います。生活用の資金として定期的に渡しているようなケースでなく,相続の発生の前に多額の資金を引き出すという事例はあります。こうした場合に財産と債務を特定するに当たっては,税務調査の現場では,これは手持ち現金として扱われ,亡くなってからの引出し分は貸付金等として扱われることになります。立証責任の問題はありますが,通常でない引き出しについては財産の一部として扱われていることを指摘させていただきたいと思います。預貯金が手持ち現金に変わるか,貸付金に変わるかの相違です。   2ページの乙案のところです。乙案であっても何らかの例外的な事例は担保しなければいけないのかもしれませんが,やはりシンプルな考え方,多くの人にとって分かる考え方が今後より必要になってくると思います。相続税の申告が必要なくても,大抵の家の場合は分割協議が必要なわけですし,まして今後相続税の申告者数が増えることが見込まれる中,ルールについては簡明にし,そして例外的に何らかの担保措置が必要という形にした方がいいので,私は乙案の方に賛成したいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   御意見として承りたいと思いますが,窪田委員と増田委員から手が上がっていましたでしょうか。 ○窪田委員 それでは,少しだけお話をさせていただきたいと思います。私自身,その金銭債権の相続における問題は非常に気になってきたのですが,取り分け重要なのは,当然に分割承継されるというだけではなく,それによって金銭債権が遺産分割の対象となる遺産を構成しないという判例が形成されてきたことだろうと思います。そのために,もちろん不動産があるような場合だったらいいですが,銀行預金しか遺産はないというような場合には,具体的相続分を実現することが不可能になってしまう。こうした点は問題だと思っていましたので,その点では甲案も乙案も,それに対する一定の対応がとれているということなのだろうと理解しています。   また,甲案においても,従来の判例は「相続分に応じて」と言うわけですが,それが法定相続分だけを意味するのか,指定相続分も含むのかというのは,どうも余りはっきりしなかったような気がします。それを法定相続分だという形で明示できるとすると,浅田委員からも御指摘があった部分ですが,問題としてはより明確に解決できるのではないかと思います。   ただ,その一方で,甲案で十分なのかということを考えてみると,そうした形で預金を引き出したという場合には,多くの場合にはすぐ使われてしまうのではないかという気もします。それを後で遺産分割の際に持ち戻すようなことが適切にできるのかという点では,実効性をめぐる問題があるのだろうと思います。   他方で,乙案についてですが,私自身は乙案の立場で論文を書いたこともあるのですが,乙案が与える影響というのはいろいろな場面に及ぶのだろうと思います。というのは,この考え方を採った場合には,恐らく不動産等についても共有説を前提として,持ち分については自由に譲渡できるということは,当然には出てこなくなるのだろうと思います。その意味では,甲案の方が採りやすいということなのかもしれません。しかし,採りやすいから甲案という考え方もあり得ると思いますが,動産,不動産の場合も含めて問題を一律に解決するということも考えると,乙案には,やはり一定の魅力はあるのではないか。ここで示された立場は不可分債権など,可分債権以外にも及ぶと思うのですが,これが遺産分割を促すという機能を持つということは特に重視していいのではないかと思いました。   あともう1点だけ,長くて申し訳ありませんが,乙案を採った場合に除外される債権について少しだけ触れておきたいと思います。恐らく不当利得や損害賠償請求権というのは,金額がはっきりしていないので大変だということなのだろうと思いますが,しかし被相続人自身が死亡前に既に有していた不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権については,金額的に確定するということが困難であったとしても相続の枠組みに乗るということについては問題がないのだろうと思います。ただ,その上で金額がはっきりしないので,預金債権だけを事前に,ここでは全員の同意によってということですけれども,一部遺産分割という構成もできると思いますが,それによって分けてしまうということは考えられるかもしれません。   他方,少し問題になりますのが,死亡事故による損害賠償請求権なのだろうと思います。これは現在の判例では,当然に法定相続人が相続分に応じて承継するということになっているわけですが,これは私自身も遺産分割の対象から除外していいのではないのかと考えています。なぜそう申し上げるかというと,いわゆる不法行為,死亡事故の場合の損害賠償請求権については,扶養利益侵害説というのと相続構成というのが対立してきて,後者がわが国では採られてきているわけですが,その際の議論の中では,扶養構成にすると損害賠償額が非常に小さくなってしまう。場合によっては負傷させた方が死亡の場合より高くなる。あるいは,逆に死亡の方が安くなる。こうした事態を避けたいとか,もっぱら,そうした点から議論されていました。そうだとすると,相続構成を採用するということについても,実はそこで問題となっているのは,損害賠償額として一定の金額を確保する,あるいは計算しやすい形で処理をするといったことが目的だったのではないか。だとすると,別に相続という構成自体にこだわって,すでに死亡した人に金銭債権を帰属させて,それを相続するということには,実はウエイトはなかったのではないかという気もします。   その意味では,別の観点からということになるのかもしれませんが,取り分け死亡事故における損害賠償請求権については,仮に乙案を採った場合であったとしても,そこから除外するというようなことが十分に考えられるのかなというふうに思いました。長くなって申し訳ございません。 ○大村部会長 ありがとうございました。   基本的には乙案の方向で考えたいという御意見ですね。 ○窪田委員 個人的な気持ちはそういう部分はあるのですが,ただ,乙案を採用するに当たっては,かなりいろいろな検討を求められるのではないかとは思っています。 ○大村部会長 不動産や動産をどうするのかということや,損害賠償請求権の帰属をどうするのかということについても併せて考えて,決める必要があるという御指摘ですね。 ○窪田委員 はい。 ○大村部会長 分かりました。 ○増田委員 今,窪田委員や石井幹事からも御指摘がありましたとおり,現行法では可分債権が当然分割債権になって遺産分割の対象とならないことにより,具体的相続分による調整が働かないということで,今回新たに相続人間の具体的公平を図る方向で,具体的な方法を検討するという方向性については全く異論がございません。特に,具体的相続分が相続ルールではなくて,遺産分割ルールであるというのが最高裁の判例(最判平成12年2月24日民集54巻2号523頁)ですので,遺産分割の枠組みの中に取りあえずは入れなければ,具体的相続分の話は出てこないということになります。   ただ,その方向性ですが,実務感覚としては可分債権といっても,今窪田委員らがおっしゃったように,大体三種類ぐらいに分かれるのではないかと考えています。①は預貯金債権のように,債務者が第三者で,額が比較的容易に認識でき,権利行使も比較的容易であるという類型のものです。②が,死亡事故による不法行為損害賠償債権のように,債務者は第三者ですが,権利の存否や額が争われることが多く,行使には時間と手間を要し,ときには訴訟を必要とする類型のものです。③が,これは実務上はかなり多いのですが,先ほどから出ておりますような,相続人間で死亡直前に誰かが被相続人の財産を取り込んだことによる不法行為ないし不当利得返還請求権です。これは債権債務が共同相続人間に帰属する,要するに債権者も債務者も共同相続人であるという類型です。   ①に関しては,乙案的な共同行使というのでも実務上の不都合は比較的少ないのですが,②③については,共同行使しなければならないということになると非常に不都合になります。個々の権利者が個々の立場に基づいて行使すべきものであって,訴訟をするとか和解をするとかいった場合も,ほかの相続人の意見を聞いてしなければならないというのはかなり困難な問題が生じるだろうと考えられますので,この②③の類型は特に甲案に親和的だろうなというようには思っております。完全に遺産分割から除外するということまでは,私は考えてはいなかったんですが,それもひょっとするとあり得るのかもしれません。   私としては,全体として甲案に親和性を有するものです。元々他の相続人の意向に関係なく金銭債権は権利行使できるものであろうと思うし,債務者にしても,払わなければならないものをいつまでも払わないというのは資産と負債が残って問題の解決にならないわけで,恐らく金融機関等取引の相手方もそういう債務が計数上たまっていくというのは決してよろしいことではないだろうと思います。   あと,乙案につきましては,部会資料にも書いていますが,紛争解決を遅らせることによって有利にしようという相続人は必ず現れるだろうなと,実務家としての日頃の処理の上ではそういう感覚です。   さらに,先ほどの①の類型に該当しそうな債権から,判例により,国債だとか投資信託だとか,そういうものが可分債権から除外された結果,①に該当する可分債権が普通預金とか定期預金とかに限られ,それほど種類としては多くなくなっているというのも,甲案を採る根拠の一つとして考えられるように思います。   ただ,若干問題点がありまして,一つは理論的に,対象財産が可分債権だけでも遺産分割手続を可能にするというのは,現在の理屈からは出てこないことです。さらに,途中でその債権が回収された場合に債権が消滅するわけですが,その場合でも遺産分割手続は続行されるのか,という問題があるんです。これに対し,例えば不動産であれば,持分が誰か第三者に譲渡されるということがあると,その時点で遺産の分割の手続からは外れるということになりますので,そこのところが整合するのかどうかということを,一つ理論的な問題として解決しておかなければいけないと考えます。   もう一つの問題として,具体的相続分を超えて権利行使をした相続人がいた場合に,事後的調整だけでは確保できない場合があるだろうと。つまり資力の問題があって回収できない場合も出てくる可能性がある。そういう場合には,部会資料の中にもあるんですが,何らかの手当が必要だろうと思います。例えば,第三債務者に対する弁済禁止の保全処分ができるようにする。これが審判前の保全処分なのか,民事保全で認められるのかというのは別の話なんですけれども,民事保全で仮に認めるとするならば,実体法上のそういった権利を,差止請求権のようなものを作っておく必要があるだろうと思います。   それから,仮に乙案を採る場合には,紛争解決が遅れるという問題があり,それが一番大きな問題だろうと思いますので,例外的に権利行使を認める場合としては,部会資料に書かれている生活費の確保が必要な場合だけでは不十分であって,逆に保全として仮払いの方の保全処分を比較的広く認める必要があるのではないだろうか。例えば,相続税の支払いのために預金を引き出す必要があるといったような場合とかいうのもありますので,あまりハードルを高くせず,生活費の確保のような場合以外にでも必要性を広く認める方向で,仮払保全処分を検討する必要があろうかと思います。以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   動産,不動産との整合性について考えなければいけないというのは,窪田委員の御指摘と共通の点があったかと思います。それから,甲案を採った場合に,後で調整するということで果たして大丈夫かという御指摘も共通だったのではないかと思います。   乙案を採ったときに遺産分割が早まる方向に機能するのか,それともこれが原因で遅延することになるのかというところで御意見が分かれているという印象を抱きました。 ○水野(紀)委員 ただいまの遺産分割の時間的な影響は,これはどちらに出るか分からないのですけれども,私はとかく民法の母法を照らし合わせながら発想するものですから,本来の筋を考えたいと思います。南部委員が最初におっしゃいましたように,それを全部まとめて遺産だという感覚が本当ではないでしょうか。合有的な扱いを実際にはしていた銀行実務や,上西委員もおっしゃいましたけれども,寸前に引き出しても遺産として扱うという税法上の扱いも,乙案的な考え方で,乙案的な考え方の方が,本来なのだろうと考えます。フランスでは,まず公証人が遺産分割をやることのほかに,税法上の時間的制限もかけられています。死亡時から六か月以内に相続取得税という形で税金がかかりますから,それまでに遺産分割をしてしまって,そして遺産分割で各自がもらった分に相続税をかけるという形です。そうでないとペナルティーがかかるという形で遺産分割が短期間に進められているわけです。   日本でも,私は何とかこの遺産分割の時間的制限というのを設けられないかと昔から考えていたのですが,難しいですね。シャウプ税制で,昭和25年から昭和32年くらいまで,それまでの遺産税ではなく,フランスのような遺産取得税を日本でも採っていた時期があります。でも仮装分割がやたらに出たり,税務当局ではどういうふうに遺産分割がされたかはとても調べ切れないので,結局,無理だということになって,昭和33年から今のように法定相続人数掛ける金額という形で徴税するようになりました。やはりこれは民法の中にそういう遺産分割手続自体を取り込んでおらず,遺産分割手続がきちんと行われる仕組みがないまま,法定相続人の言わば自主的な遺産分割に委ねてきた民法の構造と,遺産取得税という,シャウプ勧告の税法的な技術が合致しなくて,そして民法の方が結局勝ったということなのだろうと思います。   この税制改革のように,戦後直後には,共同相続が原則だという理念が強かったのではないでしょうか。当時の最高裁も,やはり共同相続という形で法定相続分どおりに分けさせるというのが,その前の家督相続に対する反動として原則的に採られていた時期があるのだろうと思います。債務者という第三者には遺産分割の結果はわかりにくいから,わかりやすい法定相続分で帰属させて第三者保護をはかるという要素ももちろん強かったでしょうけれど,頭割りだという最高裁の債権についての判決も共同相続が原則という発想があったのでしょう。でも,実際には遺産分割の制度的な手当てをせず,共同相続人の私的な協議に委ねてしまいました。その矛盾がここに出てきているのだろうと思います。   将来的には,私自身はどちらかというと,やはり乙案の方向で全体の仕組みを書いていく方がいいと思います。遺産分割に何とか時間的な制限を入れ込む形で,その間は止めておいて,遺産分割か,あるいは遺産分割が出来なくてもその時点から先は,個別に引き出せるとか,遅延した相続人に何らかのペナルティーを課して銀行が解放される形の組み方をするということも可能ではないかと思います。浅田委員からの御報告を伺っても,今の銀行実務は,最高裁が戦後直後に採った,共同相続的な,機械的な頭割りという原則と,遺産分割の在るべき姿の間で引き裂かれているように思います。最近では,信託受益権や個人向け国債などについて乙案的な考え方が出る判例がある一方で,先ほど浅田委員は法定利率がかかるとおっしゃいましたけれども,大阪高裁平成26年3月20日の判決はそれどころではなく,法定相続分を支払わなかったことが不法行為に当たるといって,銀行の損害賠償義務まで認めているようです。法的な限界も不明で何がどこに当たるのかもはっきりしないような状態に置かれながら運営をしておられる銀行実務のことも考えますと,やはりはやく整序する必要があるでしょう。甲案も乙案もどちらもありえて,どちらをとるにせよそのもたらす問題に様々な手当は必要だと思うのですけれども,どちらの方向かというと,私自身は乙案的な方向で全体を構成していって,それにうまく合わないところを手当をするという方向の方が筋のように思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   基本的には早く分割すべきで,それに合わせた制度を作るべきである,難点があれば,そのように対応すべきである。こういう考えだと伺いました。 ○水野(有)委員 今,割と有力になっている乙案について少しだけ御質問というか,御検討いただきたい点を御指摘したいと思います。   民事訴訟法に携わっておりますと,訴訟係属中にお亡くなりになる方がとてもたくさんおられます。ですから乙案を採られるに際しては,その場合どういうふうにするのかというのを是非きっちり検討して,方向性を定めておいていただきますと,権利行使する方もとても便宜だと思いますので,その点の方をどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   問題の御指摘として承って,検討していただくということにしたいと思います。   そのほかいかがでございましょうか。 ○浅田委員 テクニカルな質問になりますけれども,まず甲案について三つほどあります。   一つは,甲案というのは,基本的に対抗関係で債務者との関係を規律するものと理解していますけれども,債務者が遺言の有無を尋ねるなどの一定の注意義務を負うことを前提としているのかどうかという話です。部会資料の記載ぶりを見ますと,例えば部会資料の7ページ下から3行目に,「信頼した第三者」という表現がございます。また,8ページ下から8行目を見ますと,「遺言の内容を知り得ない第三者」という言葉があります。かような文言からしますと,その払戻請求者に遺言の有無を確認するようなことを前提としているとも思えます。   また,9ページの上部の(注)において表見法理の構成も提案されておりますけれども,表見法理の構成を採るのであれば,現行実務のとおり,遺言の有無とかを確認する必要があろうかと思いますので,対抗要件だけで処理ができるのかということがちょっと不安になりますので,ご見解を賜れればというのが一つであります。   二つ目は,譲渡禁止特約と対抗関係の問題であります。ご案内のとおり,銀行預金には譲渡禁止特約というのが付されていまして,片や遺産分割は包括承継ではないから,債務者対抗要件の具備を要するというのが現行法令に沿った考えだと思います。そうしますと,譲渡禁止特約がある場合には,債務者の承諾なき限り,債務者に権利を主張できないということになると思われます。包括承継である局面は別として,個別承継の場合と,それから対抗関係という制度設計はどう考えたらいいのかということであります。その点について敷衍しますと,仮にそういう対抗要件を具備するというふうにしたとしても,インセンティブ論ではありますが,承諾を求めるとか通知をするというのは譲渡人ということになろうかと思います。承諾の場合はどちらでもいいのですけれども,通知の場合は譲渡人となると思います。そうしますと,余りそういうことをやろうという人がいないかもしれず,制度としてはワークしないかもしれないと思っております。その点,何らかの手当を考えるのであれば伺いたいと思います。   3番目の質問といいますか,意見でありますけれども,先ほどから死亡後の出金についての議論が出ておりますが,銀行実務は,死亡後の出金については,債務者として基本的に民法478条の免責を主張して,出金後の残高について法定相続分をお支払をするということになっております。   一方,甲案を拝見しますと,相続人間の調整というのは2ページ,甲案の③で書いてあると思いますが,債務者との関係においては,依然として相続発生時点をもって金額を決めるということになります。そうしますと,引き落としがあったのにも拘らず,相続開始時点の金額をもって法定相続分を請求できるということになりますと,銀行としては非常に困った状態になりますし,また本当にそうであるかどうかということについて事実を認定するということにもなりかねないと思いますので,ちょっと問題なのかなと思います。   したがって,先ほどの私どもの提案では免責を主張したわけであります。この点について何かお考えがあればお聞かせいただきたいというのが甲案に係る三つの意見です。   次に乙案に関してですけれども,先ほど申し上げましたとおり,乙案の場合に,その共有関係をどう考えるかになるということ,差押えや相殺が生じた場合にどうなるのかということであります。これは法理論的に解決できる問題ということなのか,それが難しいことであれば,何らかの法的な手当を講ずる必要があるのかということがあります。   その点,窪田委員が「ジュリスト」で書かれた論文の中で一点ご提案がされています。そういう提案などを踏まえて,何らかの立法的な手当ということを考える余地があるのかということについてお尋ねしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   複数の質問を頂きましたけれども,お答えになれる範囲でお答えいただき,あとは検討していただくということでお願いいたします。 ○堂薗幹事 それでは,まず甲案を採用した場合に,債務者の方で遺言の有無についての調査義務が生じるのかどうかという辺りでございますが,これはこの後に御議論いただきます,第3の2の「遺言による権利変動と第三者との関係」というところで,遺言によって法定相続分を変えるというようなことがされた場合に,それについても債務者対抗要件を備えない限りは,その法定相続分を超える部分の取得を債務者に対抗できないということにするのであれば,基本的には,遺言によって権利を受けた側において対抗要件を具備すべきということになろうかと思いますので,債務者の方としては,対抗要件の具備がない限りは支払う必要はないということになるのではないかと考えております。   それから,譲渡禁止特約についてでございますが,基本的には譲渡禁止特約というのは,特定承継といいますか,契約などで債権譲渡がされた場合にその効力を否定する趣旨でされるものかと思いますので,基本的には,相続のような包括承継については,そもそも禁止の対象にしていないということになるのではないかと思います。仮にそういう包括承継の場合も含めて禁止するということになりますと,結局は相続が開始された場合に,債務者が承諾しない限り,結局権利行使できないというようなことにもなりますので,そういったことは余り予定していないのではないかと思いますが,引き続き検討したいと思います。   それから,対抗要件を具備するのが難しくなるのではないかという辺りについては,確かにそういった面は生じるのではないかという印象を持っておりまして,現行法に比べ権利行使がかえってしにくくなるという面があるとすれば,相続の場合にもう少し簡易な方法で対抗要件を具備することができないかといった点について検討する必要があるのではないかと考えております。   それから,死亡後に出金がされた場合でございますが,本来は相続が開始されて,権利主体が変わったという場合には,仮に包括承継であっても,それは債務者にきちんとそういった権利者の変動があったということを書類などで証明をして,それで権利行使すべきということになるのではないかと思いますし,通常は銀行取引約款などでも,そういった規定はあるのではないかと思うんですけれども,それに違反して出金をしたという場合については,そういった違反をした場合の効果として何らかの対応をしていただくということが一つ考えられるのではないかと思います。   御指摘のように,そういった場合も含めて免責規定を民法の中に設けるということにつきましては,既に民法において権利者としての外観を有する者に対する弁済についての一般的な規定がある中で,そういった特定の場面に限って更に免責規定を設けるというのは,法制的に難しい面があるのではないかと思います。   それから,乙案を採用した場合の差押えや相殺との関係でございますが,基本的には乙案は,遺産分割が終了するまでの間,相続人の側の権利行使を否定するということで考えておりまして,基本的にその名宛人は相続人に限られるという前提で考えており,特に包括承継によって第三者の権利行使が阻害されるというのはおかしいと思いますので,基本的には従前できた相殺ですとか,そういったものについては影響を及ぼさないという制度設計をすべきであるというふうに考えているところでございます。以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   浅田委員よろしいですか。 ○窪田委員 今お話しになった第一点の部分についてだけ少しお尋ねをさせてください。   多分,今お話しになった部分というのは,先ほど石井委員から出た御質問にも関連するのではないかと思うのですが,例えば,相続分の指定をした遺言がある。あるいはもう包括的に,「全ての遺産は誰々にやる」といったような遺言がある場合に,その遺言に基づいて支払いをしなければいけないのかということに対しては,堂薗幹事からの御説明で尽きていたのではないかと思います。   ただ一方,ちょっと気になりますのは,そうした遺言があって,ある者がそういう遺言に基づいて支払いを求めている。しかし,他の相続人が法定相続分に応じて払えというふうに言ってきた場合に,銀行は拒むことができるのだろうかという点です。恐らく,どういう場合に免責されるのかという問題で考えると,そういう問題について,こうした場合には支払いを拒絶しても許されるのではないかとか,そういったことが出てくると思うのですが,この甲案のような形で,分割承継されるという形になりますと,法定相続分で一旦は相続人に帰属するわけですよね。それに対して,こういう遺言があるということを既に耳にしていても払わざるを得ない。支払わないと,先ほど水野委員から出たように,法定利率で遅延損害金が発生するということになりますと,これは銀行としては払わざるを得ないということになるのかもしれませんが,これは本当にこれでいいのかなという気がします。何かすでにお考えのことがあったらお聞かせいただけたらと思います。 ○堂薗幹事 例えば,相続分指定の遺言があった場合には,債務者の方できちんと遺言を確認し,法定相続分とは異なる割合での遺言がされているということで,そちらの方に払うべきだというふうに考えた場合には,債務者の方で指定相続分による承継を承諾した上で支払うということになるのではないかと思います。   仮に承諾をして,その遺言を持っている者に払ったけれども,後でその遺言は無効であるという判断がされた場合については,478条の準占有者に対する弁済ということで処理せざるを得ないのかなという感じがいたします。 ○窪田委員 私がお尋ねしたのは,そういうことを主張する人に対して払うということで免責されるかどうかという問題ではなくて,遺言があったとしても,それが最終遺言でなければひっくり返る可能性がある。だから,やはりその人に払っていいかどうかという問題があるわけですが,しかし,そうした遺言があっても,他の相続人が法定相続分での支払いを求めてきた場合には払っていいのだろうかという点です。 ○堂薗幹事 対抗要件を具備しない限りはその債務者に対抗できないということを貫きますと,それは遺言を持っている側で対抗要件を具備するなり,あるいは債務者が承諾しない限りは法定相続分どおりに他の相続人に払っても,それは弁済としては有効だということになるのではないかと思いますが,ただ,そういった事情を知っていて,法定相続分どおりの支払をするのが明らかに不当だというような場合については,信義則のような一般条項で解決をするほかはないのではないかというのが現時点でのこちらの整理ということになります。 ○窪田委員 あと1点,先ほどからの御説明を伺いながら気になっている部分ですが,債権譲渡の場合の対抗要件に準じて考えるというのは,それなりに理解できますし,対抗要件を備えてということもわかるのですが,その場合に,債務者の方の承諾というのを対抗要件の問題として位置づける場合には,結局銀行が判断せざるを得なくなるのではないか。そうすると,先ほど冒頭で御説明があったように,銀行が裁判官のような目で,誰が正しい債権者なんだろうということを判断せざるを得ないということになってしまって,同じ問題が残ってしまうのではないかなという気がします。その点が,やや気になります。   その点で,対抗要件の問題として解決するという枠組みを採用する場合でも,「債務者の承諾」をそのまま「銀行の承諾」という形で置き換えていいのかどうかという点については,少し御検討いただいた方がいいのかと思います。 ○堂薗幹事 検討いたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   問題点の御指摘を頂いたということで,検討していただこうと思います。   そのほかはいかがでございましょうか。 ○村田委員 主に乙案に関して二点,質問がございます。乙案を採用した場合に,結果として遺産分割が早く終わるのか,紛争が長引くのかというのは難しいところだと思うんですが,長引く場合をある程度想定したときに,遺産分割が終了するまでの間,時効中断措置のような保存行為をすることは妨げられないのか,あるいは,先ほども少しお話が出ていましたが,被相続人が交通事故で亡くなった場合の損害賠償請求権を行使したり,訴えを提起したりするといったことは妨げられないのかといった辺りについて,考え方を今の段階で整理しておられるところがあれば,教えていただきたいというのが一点です。   もう1点は,ちょっと土俵が外れているかもしれないんですが,可分債権の扱いについて可分債務との対比で検討している論文等もあるところですが,今回は可分債務の扱いに関しては一切触れないという前提で御提案をされているのか,それとも,場合によっては,可分債権に関する御提案が可分債務の扱いについても波及してくるということもお考えなのか,もしお考えがあれば教えていただきたいと思います。 ○堂薗幹事 乙案を採用した場合に,例外的に,どういった場合に権利行使を認めるかということについては,今後詰めて検討する必要があると考えておりまして,御指摘がありましたように,保存行為であれば,遺産分割終了前であっても権利行使を認める必要があるんだろうと思いますので,その辺りの例外規定をどう設けるかという辺りは検討課題ではないかと思います。   それから,可分債務に対する影響でございますが,この第1の「可分債権の遺産分割における取扱い」の中で可分債務について取り上げるということは考えておりません。この資料で言いますと,第3の2のところで,遺言がされた場合にどうなるのかという辺りについては,多少影響は出てくるんだろうと思いますが,可分債権を遺産分割の中に取り込むことによって,可分債務の方に何らかの影響があるかどうかという辺りについては,御指摘を踏まえて検討したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その他いかがでございましょうか。これまでのところ,甲案がよいか,乙案がよいかということについては様々な御意見が出て,またそれぞれについて検討すべき課題の御指摘も頂いておりますが,基本的には皆様から,甲乙どちらを採るかはともかくとして,この方向で考えるべきではないかという御意見を頂いているように思います。これに対する反対する御意見は特にないと考えてよろしいでしょうか。どちらかでいくとして,両者の得失を更に検討して議論を進めるという整理で,今日のところはよろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございます。それでは,第1の「可分債権の遺産分割における取扱い」につきましては,今日のところはこの程度にさせていただきまして,第2の「自筆証書遺言の方式の見直し」という点につきまして,事務当局の方から説明を頂きます。 ○大塚関係官 では,第2,資料4ページ目の中盤になりますけれども,「自筆証書遺言の方式の見直し」について御説明いたします。   まず,「問題の所在」ですが,現行法上,自筆証書遺言につきましては,御承知のとおり厳格な方式が定められておりまして,専門家の関与も必要とされていないということでございますので,方式違背で無効となるリスクが大きいという指摘がされているところでございます。   ここで,先ほど最初に触れました参考資料の「自筆証書遺言及び公正証書遺言の作成例」を御覧になりながらお聞きいただければと存じます。お手元にございますでしょうか。   1ページ目が自筆証書遺言の作成例。2ページ目以下が公正証書遺言の作成例でございますけれども,この1ページ目の自筆証書遺言につきましては,行書体で書いておりますが,要はこれを全部自筆で書かなければいけないと,このようになっておりますので,高齢者の方々ですとか,その他障害をお持ちの方々が書くには,内容によっては非常に手間が掛かる,あるいは負担になるといった指摘もされているところでございます。   さらに,この黄色く塗られているところでございますが,これが加除訂正の方式を一例として記載したものでございます。「1000万円」を「2000万円」と訂正した上で横に印鑑を押し,「何文字削除し,加えて変更する」と。そしてさらに署名という形で,かなり厳格な方式が定められているところでございます。これらにつきまして,非常に厳格だという指摘がありますので,何らか緩和することができないかというのが問題意識ということでございます。   加除訂正につきまして,この機会に,3ページ目の公正証書遺言についても若干触れさせていただきたいと思いますが,右上の方に,同じく黄色く塗っておるところでございます。8行目の「長男甲野一郎」という部分に二重線が引かれて,その上に「次男甲野次郎」となっており,その点について黄色く塗られた右上の部分で,「6字削除,6字加入」というふうに訂正部分を明示した上で,公証人の印と,それから遺言者の印が押されています。右が証人も立ち会うことになりますので印鑑を押されていますが,法律上は明示的に要求されているわけではありませんが,公証人の実務としては,このようにするのが一般的というふうに聞いております。   このような公正証書遺言の訂正の方式も,それなりに厳格なものではございますけれども,それと比べましても,御本人の署名までは要求されていないというところがありますので,やはりそういう意味でも厳格ではないかとの指摘がされるところでございます。   そこで,「考えられる方策」でございますけれども,まず,自書を要求する範囲を緩和してはどうかというのが(1)でございます。具体的な方策としましては,例えば,遺贈等の対象となる財産の特定に関する事項については,自書でなくてもよいものとする。これが該当する部分ということになりますと,参考資料1ページの作成例で言いますと,1項の①の「土地」,あるいは②の「建物」,こういったところが想定されようかと存じます。   このほかにも,預貯金の表示について,金融機関名,あるいは口座番号等を特定した場合には,その部分を活字で記載してもよいものとするといったことも考えられようかと存じます。   そして,「検討課題」といたしましては,このような全文の自書というものを緩和することになりますと,判断能力が低下した被相続人に第三者が不当な働きかけをして,有利な遺言を作成させてしまうという危険があるのではないかというふうな指摘が考えられるところではありますが,ただ,このおそれは既にあるところではありますので,程度問題ではないかという考え方も成り立ち得るように思います。   他方,このような方策を採用した場合になりますと,本文において遺産の分割方法などについてまずは自書で記載をした上で,その上で活字で印刷された財産目録を別紙で添付するといった運用も想定されるところでございますけれども,例えば,その場合には,別紙につきましては本文との契印を要求するなどの仕切りも考えられるところでございます。   さらには,自書でないとしたときに,パソコンなどによる活字と,それから代筆を同列に扱ってよいかというのも検討の余地がございます。   次に,「押印について」でございますけれども,これは文字どおり押印を不要としてはどうかというのが(2)の方策でございます。これは,近年のクレジットカード等の利用の拡大によりまして,署名のみで取引が行われる事例が増えてきたということなどからすると,重ねて押印まで要求するのはどうかといった指摘がされていることを踏まえたものでございます。先ほどの遺言のサンプルでいきますと,末尾の「甲野太郎」の次の印が必要ではなくなることになろうかと存じます。これが2点目でございました。   そして3点目が,先ほど御説明いたしました「加除訂正の方式について」でございますが,署名及び押印が必要とされている点を改め,署名を必須とはせずに押印のみで足りるものとするという方策を挙げております。   ただ,先ほど申し述べました(2)の押印を不要とするという方策を採用した場合には,こちらの加除訂正の方式につきましても,例えば押印の方を不要にするといった方策,あるいは署名又は押印があれば足りるとすることも考えられるところでございます。御説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   自筆証書の方式の緩和という御提案ですけれども,これについて御質問,御意見等あれば頂きたいと存じます。 ○窪田委員 自筆証書遺言の方式の見直しに関しては,恐らく個別具体的にどういう部分をどう修正するのかというのもあるのですが,基本的なコンセプトとして,自筆証書遺言をもっと使いやすいものにする,もっと簡単に作れるようなものにするということ基本的な方向自体が適切なのかどうなのかという問題があるのだろうと思います。何回目だったかの検討の中で,山本克己委員からも自筆証書遺言を「そんな簡単にできていいのか」というお話があったのではないかと思います。今回示されたのは,多分,それとは逆方向の提案かと思います。こういう形で自筆証書遺言が作れるということになれば,そのうちフォーマットができて,遺言者誰々,あとはサインして,典型的な例で預金口座,不動産とか,あとは必要な事項を記入して,「誰に」というのを書き入れたらもう完成で,自筆証書遺言が簡単にできますよというふうになるのが望ましいのかどうなのかというのが,多分一番の検討課題なのかなと思います。   もちろん,内容として,署名に関する部分,押印に関する部分というのは,それぞれの部分では非常によく分かるのですが,出発点として,まず,こうした点を検討しなければいけないのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   非常に根本的な御指摘を頂いたかと思いますけれども,それも含めまして御意見を頂ければと思います。 ○沖野委員 私も今の根本的なところが気になっておりまして,確かに厳格かもしれないのですけれども,仕方がないという評価もあり,むしろ目指すべきは安価での専門サービスの提供ではないかという観点もありますので,この使いやすくというか,作りやすくするということは,結果的に紛争を多くするという可能性もありますので,直ちにそちらの方向であれば全て望ましいということにはならなくて,やはり紛争の多発ですとか,そういう懸念との兼ね合いでどれをどのくらいということではないかと考えます。   そういうことから考えますと,例えば,財産の特定の仕方などについては緩和の措置はあり得るかなというふうには思うのですけれども,他のものについて果たしてどうかという気はしております。それが今の御指摘についての話ですが,もう一つは,要件というものと効果との関係なんですけれども,例えば,署名のみで押印を不要とするというのは,昨今の取引などからすると署名が重要ではないかということですが,他方で,署名というのは本当に自署なのかとか,筆跡が間違いないかというような問題もありえます。一方押印は,印鑑さえ持っていれば誰でも押せるということがありますけれども,誰でもいろいろな印を持っているわけではないというようなこともあるとしますと,例えば,両方が望ましいのだけれども,効果については押印がなくてもそれで直ちに無効とはしないとか,そういう切り離しの可能性もあるように思うのですが,そういった可能性があるのかどうかというのが二つ目です。   それから三つ目ですけれども,これは個別にまいりまして,6ページの(3),加除訂正の方法で,署名及び押印が必要とされている点を改め,押印のみで足りるとする。(2)の方策のときには,「又は」ということですけれども,これは(2)のときのみがこうなるのか,あるいはおよそ一般的に「又は」ということでよろしいのかというのも一つの点です。   それと,実は第一のところにも多少絡む話でもあるのですけれども,(3)の,例えば「注書き」で,ほかのものとの均衡がとれていないのではないかという御指摘で,検察官面前調書の話と公正証書の話が出ております。ただ,遺言は実際効力が発生する時には本人がいませんので,本人自身が「こんなことではなかった」と言えない立場にあります。そういう特殊性がありますので,果たして検察官面前調書と同じように考えてよいかという問題がございますし,それから公正証書の場合は,今回もモデルを出していただいて分かりやすいと思いますが,まず公証人という専門家が関与しているほか,他の者が遺言者のほか,実務慣行かもしれませんけれども,証人2名が更に印を押すというようなことですと,そういう確保の仕方というか,複数の者の関与によるチェックということが用意されているものですので,単純に比較してよいのだろうかという疑問を持ちます。以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   三つレベルの違う御指摘を頂いたかと思いますけれども。1点目は,大きな方向としては窪田委員の御指摘と同じで,自筆証書の方式緩和が果たして望ましいことか,遺言を作成する人をサポートするのには別の方策,別の方向で考えるべきではないかという御指摘だったかと思います。   2点目は,行為規範と,言わば事後的な判断規範とを分けて考えるということも考えてはどうかということ,3点目は,それぞれ細かな問題,具体的な問題について御指摘を頂いたと理解いたしました。   御質問という形の部分については,何かお答えがあればお願いします。 ○堂薗幹事 まず,御指摘のように,原則として署名押印が必要なんだけれども,押印だけでも一応有効であるというような形で,行為規範と実際の効果とのところを若干切り離して考えるというのは,こちらでは全く考えておりませんでしたので御指摘を踏まえて検討したいと思いますが,例えば,署名押印が好ましいということで,署名押印をした場合に,何らかの付加的な効果が生じるのであれば,あるいはあり得るのかもしれないんですけれども,結局,押印だけでも常に有効だということになりますと,法制上なかなか難しい面があるのではないかという気がいたします。   それから,加除訂正のところで,(2)の押印要件をなくす場合には,「署名又は押印で足りるとすることが考えられる」と書いた趣旨でございますが,これは(2)で押印要件をなくしますと,基本的には印鑑がなくても遺言は作れるということになろうかと思いますので,その関係で加除訂正についても,もちろん押印でしてもいいけれども,署名だけでやるということも考えられるのではないかということでこのなお書は書いておりますが,この(2)をどうするか否かにかかわらず,ここについて,署名又は押印とするという見直しの方向性というのもあり得るんだろうというふうに思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,水野委員,上西委員,浅田委員という順番で伺います。 ○水野(紀)委員 今,お二方の委員から御発言があったのと同じ内容にはなるのですけれども,聾唖者が手話通訳で遺言できるとした平成11年の改正のことを思い出しておりました。私もあの改正の法制審の部会メンバーではいたのですが,非常に不本意な改正になってしまいました。   あの改正は,聾啞者の方々が差別問題だと主張したためにああなったわけですけれども,先ほど窪田委員や沖野委員が言われたように,遺言は,もはや証言できない死者の真意を担保するために様々な面倒くささを掛けていて,その面倒くささが本人意思の担保であるという基本が分かっていない改正だったと思います。つまり,ただ,できる,遺言が簡単にできるということだけを狙ったがために,たとえば手話通訳者が船舶遭難者の意思ではないことをぺらぺらとしゃべってしまったら,それが有効な遺言になってしまうという条文になっていて,遺言法の改正としてはおかしな改正でした。先ほどのお話にあったような,細かい不動産まで全部書かせるかどうかということは考えてもよいかと思いますが,遺言の面倒くささというのは本人の真意の担保であるところもありますので,ある程度の慎重さは必要かと思います。   それから押印の要件なのですが,日本法では,印鑑登録が特別な意味を持っていたように思います。公証人慣行がなくて,登記も完全に私人に任されていて,こういう全くレッセフェールの日本の取引法がそれでも何とか今までうまくまわってきたのは,押印が印鑑登録,つまり西欧にはない住民票や戸籍システムと結びついており,それから不動産登記も,戸籍と並んで西欧にはないようなある種の完璧な登録システムになっています。そして印鑑登録と,この住民票ないし戸籍システムとの連携によって本人意思の確認ができておりました。この実印のシステムによって本人意思の確認ができることが日本の取引安全の相当な部分を担保してきたシステムは,諸外国にはないものでした。実印の押印というのは本人意思である,間違いなくこの人の意思であるということを確認させる趣旨の機能を持ってきたということも申し上げたいと思います。   ただ,遺言に関しましては実印を要求しておりませんので,三文判で押させるのと署名とどこが違うと言われれば確かにそうなのですけれども,あるいは,実印を押した遺言であれば本人意思だというような改正手法も考えられるかもしれません。もちろん,先ほど沖野委員が言われたように,もっときちんとした安価な専門家システムサービスの設計が一番本道だとは思いますけれども。いずれにせよ,それらの波及効果とか背景の構造などをお考えになった上で立法の説明をしていただければと思います。こういう簡略化に対して頭から反対というわけではありませんけれども,よろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   それでは,上西委員。 ○上西委員 自筆証書遺言の特色というのは,一定の方式が必要であり,検認手続が必要であることです。そして,デメリットとは,廃棄,改ざん,隠匿のリスクがあるということであろうと思います。   一定の方式を守っていなければ方式違背で無効となるのは当然であろうかと思います。しかし,この厳格な方式であると,自筆証書遺言を書いていただくように勧めて,目の前で書いていただくような場合は,やはり相当の負担感があるのは事実です。   特に,今日頂いた資料の「自筆証書遺言の作成例」の訂正についてですが,作成に際しては結構間違いがあるんです。単なる誤記訂正で,「町」が「市」になっているとかいうぐらいの話ではなくて,具体的な数字とか相続人の名前の場合は,当然にこうした訂正手続が必要なので,何度も訂正の内容を書くことのなると,そのうち作成が嫌になってくる遺言者もおられるわけなので,一定の緩和は是非とも検討していただきたいなと思います。   そのときに,水野先生が今おっしゃったように,印鑑についてですが,基本的に押印不要でいいと思いますが,印鑑を必要とする場面に関しては,実印にしてはどうかということも検討していただきたいです。   それと沖野先生が,安価なサービスを提供することも考えてはどうかというお話をされました。賛成です。意図的な廃棄とか隠匿,あるいは改ざんは,当然のことながら,自宅にあれば起こり得るわけです。ところが,自宅にあっても遺言書が出てこないということがあります。必ずしも遺言者と相続人が同居しているとは限りませんし,またお一人でお住まいの方の家へ行きますと,生活している部分については,一応一定の清掃や整理等はされていても,それ以外のところは,結構ほったらかしてもあったりします。他の郵便等やいろいろな書類が紛れていると,四十九日や百か日が過ぎ,実際分割協議も終わって,申告して家の中を整理したときに初めて出てくるということもあるわけです。   また,誰かが預かっていても同様です。例えば私も自筆証書遺言をお預かりしておりますが,ずっと関係が続いていると,お亡くなりになったら連絡があって,「遺言書をお預かりしています」と言えます。しかし,御縁がなくなったり,遺言者とは親しい関係であっても,相続人から見れば親しくない場合であったら,亡くなられたことの連絡がないこともあるわけです。そうしたこともありますので,本来は自宅等で保管することを原則としつつも,公証役場とか,他の公的機関で保管するようなサービスも御検討いただければと思います。   当然のことながら,公正証書の場合は,平成元年以降分について,検索システムがあって,どこで保管されているのかということが分かり得るわけなので,それとリンクさせるような保管の仕方も検討が必要です。遺言書が出てこないという事態をなくし得るわけですし,そうしたところに預けると,破棄,改ざん,隠匿のリスクもなくなるわけです。そうした公的なサービスも是非とも検討していただきたいし,そこでもし預けるときに,本人が持って行くことが前提とすれば,訂正の仕方については,若干緩和することも考え得るかなと考えます。   そうすると,押印で訂正するのか,押印又は署名で訂正するのか,場合によっては最後に自署の後に実印を押していれば,あとは全部オーケーですよとするのか等々,テクニカルなことですが,公的なサービスがあれば,手続的なことが緩和できるのかなと思います。   それと,公正証書遺言についての訂正の仕方ですけれども,余りないのではないかなと思います。公証役場で訂正するときは,違っていたらすぐに停止してプリントアウトされます。実際に訂正があるのは,作った上で病院等に出張していただくようなケースなので,例として考えるよりも,参考程度かなと思います。   もう1点です。財産をワープロ打ちして,それを自書した紙とどのようにして契印等をするのかですが,ホチキスと単に押印というのは,どうも不安感があります。こより,ホチキス,のりといろいろなレベルがあると思いますけれども,ホチキスよりものり付けの方がよいと考えます。結構こういうテクニカルなことは重要なのです。当然ながら,押印は実印である方がなおよしかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   簡易化をするとしても,真実性を確保するための方策が幾つか考えられるのではないかという御指摘と,それから改ざん等について,別途新しいサービスを設けることによって,自筆証書の利用を促進することもできるのではないかという御指摘であると伺いました。 ○浅田委員 意見を述べたいと思います。まず,別途事務局の方から配布をしていただいている,私が提出したA4縦紙の「遺言に関する銀行実務の観点からの検討」という資料を紹介したいと思います。   銀行というのは日々他人様の遺言を拝見することが多いもので,私も毎日毎日他人様の遺言を拝見しているわけです。その中から,こうあればいいのになという問題関心であるなり,希望なりというものをまとめたものでございます。議論のご参考までに配布させていただきました。その中で,今回の自筆遺言に関する意見もありますので,それを参照していただきながらコメントを差し上げたいと思います。   まず,今問題になっている形式要件の緩和,又は加重ということでありますけれども,これは私が第1回のフリーディスカッションの最後に,非常に軽微な形式予備で無効と解さざるを得ない事例が多いということを申し上げて,その例として押印の問題や,パソコンで書かれたものであれば,世の中のIT化の流れからすれば有効にしてよいのではないかという考えを述べたわけでございます。今回,それを一部反映していただいたということは非常に有り難いと思います。   ことほどさように,実質的に影響は及ばないのに,軽微な不備により無効になってしまうことの比較衡量において,やはり要件を緩和した方が,遺言者の意に反した結果にならないということを実現するためには,若干の見直しは必要だというふうに思っております。その観点からしますと,このご提案の方向性には非常に賛成するものであります。   一方で,先ほどからご指摘がありますように,遺言の真正性とか,本人意思を反映したかどうかということが疑われやすいかどうかということについての制度的な担保というのは当然考える必要がありますし,緩和化と加重化というのは,一定のバランスが必要だというふうに思います。   その観点からでありますが,ちょっと違うお話であるかもしれませんけれども,このA4のペーパーのポツ3でありますけれども,自筆遺言もそうでありますし,公正証書遺言もそうでありますけれども,問題となるのは,事後的に遺言を撤回したということが事例としては多いと思っております。中には,公証人役場で公正証書遺言を作ったあと,老人ホームなどに入り,いろいろ考えが変わって,非常に簡易な一枚物で撤回みたいなことが書いてあるときに,本当に本人の意思というのがどうなのかということが疑われるようなことも,正直言って,ままあるわけであります。また,死亡時にどれが最新の遺言なのか,これが最新の遺言なのか,と非常に迷うこともあるわけです。先ほど上西委員からも,保管と追跡サービスというご発言もありましたが,最終の遺言であるということを,ある程度第三者からも追跡できる,確認できるという方策というのが何らか構築できないのかなと思います。   公正証書遺言に関しては,公正証書遺言の範囲内では,そういうシステムがあると認識しておりますけれども,それ以外の遺言との関係において,何らか記録をフォローするようなシステムがあれば便利だなと思います。以上であります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   記録をフォローするシステムというのは上西委員と共通の方向の御提案であると承りました。簡易化だけではなく,公正証書の遺言の撤回などについては,少し厳格なものも組み合わせてバランスをとるべきではないかという御指摘もいただいたと思います。 ○窪田委員 全然本質論ではないのかもしれませんが,多分,今日参考資料として出していただいた自筆証書遺言というのは,この具体例を前提とすることで議論しやすいという側面もあるのだろうと思いますが,ただちょっと気になりますのは,3のところで,「その他一切の財産を相続させる」という中に他に不動産も含まれているのであれば,確かに特定をするためにこういう記載が必要なのだろうと思いますが,不動産がこれしかなかったら,「私の所有する不動産を」と記載するだけで多分足りますよね。   また,特定するためだといっても,一般的には,公正証書遺言などでは登記簿の記載に従って,こういうふうに書くのだろうと思いますが,土地の地籍であるとか,建物の種類,構造,1階,2階の何平米かというのは,別になくても遺言としては有効なのだろうと思います。したがって,その点をまず確認させていただきたいと思います。   それから,これは裁判官の委員の方に是非教えていただきたいのですが,この修正の部分で,「第2項1行目『1000』の文字4字を削除し」うんぬんというのは,民法968条2項ですよね,「これを変更した旨を付記して,特にこれに署名し」という部分に従った具体例だろうと思うのですが,仮にこの「第2項1行目これこれを削除し,文字4文字を加えて変更する」という部分がなくて,一般的によく訂正がなされるように二重線が引かれて,その下に「2000」という文字が書かれて署名捺印があった場合にはどういう扱いを受けるんだろうかという点です。つまり,遺言の解釈に関しては,一方で形式要件というのを重視するのと同時に,真意の探求ということも強調されるものですから,実際に裁判官の方々の御判断だとどうなるのかなということを是非教えていただきたいと思います。 ○大村部会長 では,まず最初の点は事務当局の方からお答えいただき,それから2番目の点は,裁判官の先生方のどなたかにお答えをいただければと思います。 ○大塚関係官 作成例についてでございますが,確かに委員御指摘のとおり,分かりやすさもかなり追求したものでございますので,「全ての不動産を」と書くという場合はあり得るのではないかというふうに思います。確かに,不動産の地積等をいちいち書かなくても遺言として有効になり得る場合も中には存するかとは存じます。ただ,弁護士が関与された上で遺言が書かれる場合には,厳密性を追求するために,こういうふうに書くという事例が非常に多いかには聞いております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第2点について,どなたか御感触のようなものを伺えればと思いますが。 ○森委員 森でございます。サンプルで示していただいたものは,刑事訴訟規則でも通用するような書き方だと思うんですが,民法968条2項の法文に書いてあるとおり,変更場所を指示し,変更した旨を付記した上で署名押印すれば基本的にはいいのかなと思います。もっとも,そこでいう変更場所の指示や変更した旨の付記が何を意味するかということについては,やはり解釈の余地があり得るところであり,例えば,変更した旨の付記に当たって,必ず「変更し」という文言が要るかどうかみたいなこだわり方をするのかという点も解釈の問題であるといえます。今申し上げた例については,個人的には,そうしたこだわりは要らないのではないかと思いますし,自筆証書遺言の救済的解釈というのは,かなり広まってきているなというのが実務的な感覚です。お答えになりませんけれども,そうした実務的な感覚からしますと,先ほどおっしゃった二重線というのは一つの表示であると考えて,それに加えて,訂正後の数字の記載と署名押印があれば民法968条2項の要件を満たすと考えることはあり得るかなと思います。 ○大村部会長 窪田委員よろしいでしょうか。 ○窪田委員 前提として,今実際がどうなっているのかなというのを知りたかったものですから大変参考になりました。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○森委員 ついでに申しますと,先ほど浅田委員がおっしゃっていましたけれども,実務的には,確かに同一遺言者の複数の遺言書が出てきて,どの遺言書が本物なのかが争われたり,作成の先後関係が争われたりするケースは少なくありません。私もそうした紛争を多く経験してきました。自筆証書遺言が問題となる場合が多いですけれども,字体が乱れていて中身が判然としない遺言書がある一方で,中身は結構よさそうなのだけれども,形式が具備されていないものもあり,どの遺言書も決め手に欠けるという事例もございます。また,遺言書作成の先後関係についていえば,確定日付の助けでも借りたいなというのが正直なところですが,確定日付という方式は自筆証書遺言には組み込まれていないため,判断に悩む事例もございます。   結局,今日どなたかがおっしゃっていたように,自筆証書遺言の要式を簡易化するのであれば,複数の遺言書が出てくる事例や遺言の撤回といった問題も考慮に入れた上で,簡易化の在り方を検討する必要があるのではないかと思います。そうした観点から要件の組み方を御検討いただく中で,例えば,遺言書作成の先後関係を明らかにするために作成日付に関する要件をどのように組むのかといった点や,作成者以外の者の関与も視野に入れた要件設定を行うかどうかといった点等を御考慮いただけると,実務的には非常に使いやすいものになると思います。   これらの点について手当がされないと,結局,どこまで行っても,遺言の有効性等がエンドレスに争われていって,傍証によって決めるしかないというところは余り改善されないかもしれません。遺言書が2通,3通と出てくるケースや兄弟全員が遺言書を持っているというケースもあり得ますので,恐らく浅田委員のおっしゃっている例も決してレアではないと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   複数の遺言があるという例は,レアではないと思いますので,その場合にどうなるかということを念頭に置きつつ制度設計をすべきだという御指摘として承りました。 ○増田委員 窪田委員の先ほどのお話なんですが,不動産についてこの参考資料にある例のような物件の特定をしなくても確かに遺言として有効は有効ですが,登記ができないです。だから,実務家はみんなこういう例を作ってお勧めしています。この参考資料の例と異なり,銀行預金についても銀行名,支店名,口座番号等,特定できる限り特定するというのが,我々が相談を受けた場合の一般的な指導です。それは遺言が迅速かつ確実に実行できるようにするためです。   元に戻りますが,私は遺言を促進して,できる限り自分の財産を思うように分配することを実現するために,遺言の方式に関しては簡素化する方向に賛成です。   ただ,確かに先ほどから示されているような懸念もありますので,何もかも簡素化というわけにはいかないと思いますが,今回提案されている方策に関しては,この程度なら全く問題ないのではないかと考えております。   まず,対象財産の特定ということなんですが,実際に遺言をするような方には,高齢の方,あるいは病気の方などが多くおられます。そういう方の中には,字を書くのもしんどいという方も少なくないわけで,そういう方に多くの財産について登記に耐えられるような物件目録を作ろうと思えば,かなり手間が掛かります。例えば,田舎で土地をたくさん持っている人なんかだと,筆ごとに書かなければならず,相当な苦痛を強いることになりますので,物件目録については自書を必ずしも要求しない方向がよろしいかと思います。   この場合の,成立の真正を確保する手段をどうしたらいいかという話なんですが,全ページに署名を要求するというのはどうかというのが我々の中の議論では多数でした。確かに,先ほど言われたように,ステープラで止めた書面の割印は余り信用できないです。しかも判子というものが署名より信用できないので,やはり全ページに署名を要求するのが一番いいと考えられます。   それから押印についてなんですが,弁護士の中での議論では,押印が本人性の担保であるという議論は全く出ませんでした。しかし,押印を要求すべしという意見はかなりありました。それは下書きと完成品を区別するために必要なのではないかという意見です。これは日本人の意識をどう捉えるかなんですけれども,出来上がって,まだ修正する可能性があったらしばらく置いておこうとか,「できた,これで完成だ」ということで判子を押すという意識があるのではないかということなんです。判子を押していないものが出てきたときに,下書きか完成品かを区別できるように,押印の要件を外すことについては慎重であるべきという意見の方もおられました。   先ほどから出ていました本人確認という点なんですが,判子というのはどんな判子でもいいということと,それと特に遺言は偽造の動機のある人間が非常に近しい親族ですから,同じ苗字の判子を持っていることがかなり多いと考えられますので,一般的に判子を信用できない以上に,本人確認の手段としては余り意味がないと考えられます。   それから,加除訂正の方式については,はっきりと加除訂正したという事実と,本人がやったということが分かればそれで足りるのではないかということで,この方策であれば問題ないであろうと考えます。以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   御意見がいろいろ出ておりますけれども,皆さん,遺言の真実性を確保するとともに,真意を実現できるように簡易な形にしたい,さらに紛争を予防したい,こうした要請があるということ自体については,御異論はない,あるいは認識は共有されているのだろうと思います。その上で,現在提案されている幾つかの事柄に限って,これを元にして,どのぐらいのことができるかということが議論できるのではないかと思います。   物件目録等については,その真実性が確保できるのならば,自書である必要は必ずしもないのではないかという点については,それほどの異論はなかったように承りました。   その他この点につきまして何かありましたら,お願いいたします。 ○上西委員 自筆証書遺言の場合は,今まで出口の検認手続できっちりチェックしているわけです。もしこれが作成時の入口で公的機関に保管されるような仕組みができたとすれば,今行われているような,「これは遺言者の筆跡ですか」とか,「この印鑑は遺言者の使っておられるものですか」とか,封入されていたかどうか等のチェック事項を減らすことができます。  同時に,検索システムについて仕組みを知らない方がやはり多いです。運用面ですが,もう少し周知されないと,実際に仕組みを変えても,利用されないと思います。  相続人が特定されている場合や,遺言書に書かれていない者もいるかもしれませんが,何らかの形で,公的な機関であれば調べ得るわけです。少なくとも,あるということの通知ぐらいしてもいいのかなとも考えます。プライバシーの問題とのバランスも考えないといけないのですが,遺言書が存在するということについて教えることは決して悪いことではないと思います。遺贈しているかどうかは中身を見ないと分からないので受遺者は別として,公証役場や一定の公的機関から遺言者の法定相続人には連絡する仕組みも,例えば遺言者がその手続をした場合にするのか,あるいは自動的にするのか,少しこの点については整理しないといけないと思いますが,併せて御検討いただければと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その点について,事務当局から何か。 ○堂薗幹事 検討します。 ○大村部会長 では,今の御指摘は,浅田委員からも同様の御指摘がありましたので,どういうことが考えられるのか事務当局の方で検討をお願いしたいと思います。   その他,この問題につきましていかがでございましょうか。よろしゅうございますでしょうか。   それでは,引き続きまして,第3の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」,6ページ以下でございますけれども,このうちの前半の2項目,「各制度の適用場面について」と,7ページの「遺言よる権利変動と第三者との関係について」,この部分の御説明を頂きたいと思います。 ○渡辺関係官 それでは,御説明をさせていただきます。   6ページの「第3 遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」のうち,まず1の「各制度の適用場面について」でございます。   被相続人が遺産の一定割合に相当する財産を承継させる方法といたしましては,相続分の指定と包括遺贈の二つが考えられますし,被相続人が特定の財産を付与する方法といたしましても,遺産分割方法の指定と特定遺贈の二つが考えられます。このような法的効果が類似する二つの制度を存続させる意義については疑問があるとの指摘がされているところでございます。そこで,この機会にこれらの制度の適用場面等について整理をすることが考えられるのではないかというところでございます。   見直しの方向性といたしましては,例えば,㋐相続分の指定や遺産分割方法の指定を遺贈に統合し,必要に応じて受遺者が相続人である場合についての規律を設けること,㋑相続分の指定や遺産分割方法の指定は相続人の場合に,遺贈は第三者の場合に,それぞれ適用されると整理をした上で,それぞれについて必要な規律を整備することなどが考えられるところでございます。   続きまして,7ページの「2 遺言による権利変動と第三者との関係について」でございます。   まず,「問題の所在」でございますが,遺言による財産処分の方法といたしましては,相続分の指定,遺産分割方法の指定,特定遺贈,包括遺贈などが定められております。これらの方法によって財産処分がされた場合に,債務者その他の第三者との関係でどのような法的効果が生ずるのかという点につきましては,規定上は必ずしも明確でない部分がございます。   また,債務者や第三者からいたしますと,遺言の内容を把握することは困難であろうと思われますが,判例では相続分の指定による不動産の権利の取得については,登記なくしてその権利を第三者に対抗することができるなどとされております。このような考え方に対しましては,取引の安全を害するおそれがあるといった指摘や,登記制度に対する信頼が害されるおそれがあるといった指摘がされているところでございます。   さらに,判例は,「遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債権者の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力は及ばない」としておりますので,この点について規定上明確にするということも考えられるのではないかと思われます。   そこで,次に「考えられる方策」についてでございますが,積極財産に関する規律としては,「相続人は,その法定相続分に相当する割合を超える部分については,登記その他の対抗要件を備えなければ,第三者に対抗することができない」としております。   そして,消極財産に関する規律については,「遺言により相続債務について各相続人の承継割合が定められた場合であっても,各相続人は,その法定相続分に応じて相続債務を承継する」ということとしつつ,「各相続人の負担部分は,その承継割合による」としております。   続きまして,その「基本的な考え方」でございますけれども,まず,「遺言による権利の取得について」でございます。今回の提案は,遺言による権利の取得については,登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないとするものでございます。相続による権利取得という包括承継の一場面ではございますが,取引の安全の確保等の政策的理由などをその根拠に求めることができるのではないかと思っているところでございます。   なお,ここでは不動産や動産の所有権のような物権だけではなく,債権も含めるという趣旨であり,第三者には相続財産に属する債権の債務者も含める趣旨でございます。したがいまして,債権譲渡に関する第三者対抗要件や債務者対抗要件も備える必要があるということになろうかと思っております。   次に,「相続債務の承継について」でございますけれども,今回の提案は,相続債務につきましては,法定相続分と異なる承継割合が定められた場合であっても,法定相続分に応じて承継されるということを明確化するというものでございます。   他方で,相続分の指定や包括遺贈により法定相続分とは異なる割合で遺産を分配することを定めた場合には,相続債務についてもこれと同じ割合で承継させることにも一定の必要性,合理性がありますし,相続人間の内部負担の問題に限定すれば特段の問題は生じないとも考えられますので,各相続人の内部負担割合については,相続分の指定等による承継割合によることとしております。   その結果といたしまして,法定相続分より少ない相続分の指定を受けた相続人が,その内部負担割合を超えて弁済をした場合には,その相続人は他の相続人に対して超過弁済部分について求償することができるということになろうかと思われます。   続きまして,「検討課題」でございますが,債務の引当財産を確保するという観点からは,相続債権者にとっても指定相続分等に応じた債務の承継の方が望ましい場合もあり得るように思われます。そこで,相続債権者が承認をしたような場合には,当該相続債権者との関係においても,指定相続分等に応じた債務の承継がされるとすることが考えられますし,更に進んで,指定相続分等に応じた債務の承継を承認するか否かの催告権を相続人に付与するといったことも考えられるのではないかと思っているところでございます。   説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   遺言による財産の処分の方法としては,相続分指定,遺産分割方法の指定,遺贈といったものがあるわけですけれども,その相互の関係が不鮮明なので,この点を整理したらどうかというのが前半の御提案でした。   それから,それぞれの処分がなされたとして,その後,積極財産,消極財産が具体的にどういうことになるのかということがやはり不鮮明であるということで,この点についても一定の考え方を明らかにしたらよいのではないかということであったかと思います。特に積極財産については,相続と登記と総称される難問があるわけですけれども,そのうちの遺言と登記について考え方を明らかにしたらどうかという御提案だったと思います。   ある意味ではちょっと大きな問題かもしれませんけれども,御質問,御意見等を頂ければと思います。 ○浅田委員 実務的な観点から,コメントと若干の質問があります。   まず,預金受入銀行など債務者の立場から考えますと,提案の1については,多分,大きな議論があると思いますけれども,いずれにしてもその方向性,つまり権利義務の関係を整理することというのは,提案の2も同様に,実務からは非常に歓迎されるものと思います。また,その方法として債務者対抗要件等の考え方を導入することにより,弁済義務の内容をより正確に確知できるということは,細部の設計はもちろん詰める必要があるとは思いますが,方向性としては賛成できるものだと思います。   一方で,遺言執行業務をする立場からは,特に債権について法定相続分に相当する割合を超える部分について対抗要件の具備が必要となると,遺言執行業務における負担が大きくなるということが,当然ながら明確化のコストとして生じるということがあると思います。遺言執行者は預金債務者も兼ねる場合もありますけれども,他行が預金債務者である場合に,わざわざ民法467条における通知を受けたり,承諾を行ったりしない場合もあり得ることから,二重譲渡の有無の確認等においてどのように対抗要件を具備すべきか,実務的なレベルとしてどう対応すべきかということにつき懸念があるという意見もございました。   また,貸付業務を行うなどの債権者の立場から考えますと,相続債務の取扱いについての提言が重要だと思います。その点,現行の判例の当然分割承継説と,それから相続人の意向や債権管理のニーズからの債務処理について,債権者の同意を要するということをベースとしたこの提案というのは,現行の実務に沿ったものでありまして,違和感がございません。   なお,部会資料の10ページの上部に「催告権」という記述がありますけれども,この催告権というのは現行実務との対比で考えますと,対応する応答義務が貸付人に課せられるということになると思います。設計自体は合理的だというふうに思いますので,細部の設計に当たっては,時期や方法など,その詳細な内容についてよく検討していければと思います。特に催告権を有する相続人の範囲や,複数の相続人からの催告権行使があった場合の期間の考え方がどうなのかということに関心があります。   質問,これは確認的でありますけれども,先ほど「第1」のところで対抗関係と,それから債務者の注意義務ということをご質問いたしました。そこでちょっと先走って,信頼した第三者等のお話をいたしましたけれども,基本的にはこの対抗関係と,注意義務という考え方の関係というのは,先ほどの議論と同じように考えてよろしいのかということを確認したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   権利義務の明確化という方向自体には御賛成だという上で,対抗要件の具備等々,負担がどのくらい軽減できるか。それに伴って最後の御質問も出ていたかと思いますけれども,そこのところを御確認いただければと思います。 ○堂薗幹事 ここも先ほどと同じように,基本的には対抗要件が必要であるということになりますと,債務者側としては,基本的にはその旨の通知を受けない限りは弁済しなくてもいいということになるのではないかと思います。もちろん債務者の方で承諾した上で弁済するということはできるわけですが,基本的にはその点について債権譲渡があったかどうかについての注意義務というのは負わないということになるのではないかと考えております。   それから,例えば,相続させる旨の遺言があった場合に,その債権の取得についても対抗要件が必要だということになりますと,その要件をどうやって具備させるのかという問題があるかと思うんですけれども,特に部会資料8ページ以下で書いてありますように,基本的には遺言による権利変動について対抗要件が必要だというような考え方を採る場合には,現行の遺言執行者に関する判例で,例えば相続させる旨の遺言についてはその本人ができるので,遺言執行者の権限とならないという判例があるかと思いますけれども,そういった辺りを含めて遺言執行者の権限をどこまで認めるか,遺言執行者に対抗要件具備に関する権限を認めることも含め,検討してみたいと思います。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○浅田委員 その他の話になるかもしれませんが,先ほどの遺言執行者の権限に関しましては私どもとしても関心があるところです。お配りしましたA4縦の資料「遺言に関する銀行実務の観点からの検討」の2ページ目の1ポツ目で,相続させる遺言の場合には遺言執行者の権限が原則としてはないとされていますけれども,それをあるという制度設計にしてはどうかという提言も書いております。銀行界の意見について若干の紹介をいたしました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   その点は検討していただくということでお願いいたします。 ○増田委員 今の遺言執行者の権限の話ですが,現在,遺言執行者の権限については法文上明らかになっていない部分が多々ありまして,これは是非法定をして,根本的に見直しをして,遺言執行者の地位,さらに資格,それから権限といったものを明らかにしていく方向での改正が望ましいのではないかと思います。   具体的には,地位を相続人の代理人とみなすという民法1015条の規定がありますが,これは私は明らかにおかしいと思っております。遺言執行者というのは遺言者の意思を死後実現するという,そういう使命を持っている者で,相続人とは根本的に利害が相反するものであるのに,現行法では相続人の代理人という構成がされています。   それから資格なんですが,現行法では,相続人だとか,あるいは受遺者なんかでも遺言執行者になれないわけではないんです。その辺りの利害関係のある人が遺言の指定によって遺言執行者になることにより相当数の紛争が生じる事態になっております。   あとは権限ですが,排他的財産管理権がないために,それが遺言執行者ではない人との権限とかぶったときに,その他の人も行使できてしまうということになってしまうんです。遺言執行者には,遺言に記載された財産についての排他的財産管理権を付与するのが,恐らくは死者の意思を最も実現する方法だというふうに考えますので,そういう方向での改正を検討すべきと思います。これは本題から外れましたけれども。  本題の方は,基本的に部会資料の方向で第三者との権利関係も明確にしていくのが望ましいかと思います。   ㋐と㋑では,問題状況が違うのですから,㋑の方がいいのかなと。㋐で遺贈に統合し,またその中で問題状況の異なる対相続人と対第三者とに分けるということは,前回も遺留分のところで少し議論があったような,非常に複雑な構造になってきますので,できれば㋑の方向で根本的に見直してみるのがいいのかなと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。   直接の提案の部分についての御意見と,それから遺言執行者については様々な問題がありますので,今回どこまで可能かということは別にして,根本的に検討した方がいいのではないかという御指摘として承りました。   そのほかいかがでございますか。 ○森委員 相続債務の承継割合を債権者に対する「催告」によって調整するという考え方について,教えていただきたい点がございます。この点については,浅田委員の方からもう少し厳しい御指摘が来るのかなと思ったんですが,債権者や債務者が複数出てくる場合において,催告の仕方とか,その催告による効果がどのようになるのかといったことを考えますと,なかなか難しい問題だなと思います。先ほど浅田委員は「催告の応答義務」とおっしゃったけれども,これに実質的に違背した場合の効果というのはすごくデリケートな問題であり,要するに実体法の秩序に影響するものがあると思うんです。   一つの家族ないしは一人の被相続人と複数の相続人の問題を処理するに当たって,債権者をどのぐらい巻き込んで,なおかつどのぐらい据わりのいい解決を図るのかという問題は,増田委員がおっしゃった遺言執行者の問題もそうですし,後継ぎ遺贈の問題とも絡んでくると思いますけれども,相当大きくて重い問題であると思います。その際には,倒産法制まではいかなくても,それに準じたシステムを作る必要がありますし,実体法的な効果も考えなければならないように思われます。   当局として今回そういうことまで考えているのか,それとも,飽くまでも1対1の債権債務関係を前提にして,複数の債権債務関係についてはその延長線で捉えており,担保物権とか連帯保証とかのことまで全部包摂してうまく処理できるところまでは考えていませんということなのか。その辺の外延をしっかりしていただかないと,恐らく債権者の御立場から,いろいろな意見が出てくるのではないかと思います。債権者の中には担保権者や共同債権者といった様々な立場の方がいますし,同じ不動産の担保権者といっても,先順位者と後順位者とがいます。また,債務者の中には被相続人との共同債務者や被相続人の所有不動産の居住者といった立場の方がいます。そういった様々な立場の債権者,債務者の利益をすべてうまく調整することまで当局として視野に置いているのかといったことについては,何かお示しいただけるときになったら,お示しいただきたいなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   権利義務を明確化するというのは,言葉の上では皆さん賛成されることだろうと思いますが,御指摘のように,では明確化しようということになりますと,その及ぶ範囲は非常に広いことになりますので,どこで線を引くかということについては早目に見通しを示していただくとよいかと思います。 ○浅田委員 先ほどご指摘及び注意喚起がございましたので,お話しさせていただきたいと思います。   基本的に私が想定したのは,通常の,例えば典型的な住宅ローンで相続が発生しましたというときに,デフォルト的な処理としては,当然分割承継説に従っていると。よって,その合意ができない限りにおいては,分割承継説のとおり取り扱わざるを得ない。当然,管理の問題やお客様の意向とかを踏まえて,実務的には債務引受けをさせたり,連帯保証をしたり,またその担保の処理をするということで,合意があればそれができるという話であります。   私のここでの理解は,この催告権というのは,その処理のエンドを決めるということとともに,そのエンドまでに合意ができなかった場合には,基本的にはデフォルトの状況に戻るということです。   そうなると,基本的にその現行実務との対比では,もちろん与信判断を早めに迫られるという意味で実務的につらいこともあるかもしれませんが,権利義務関係に関しては,著しく毀損するようなものはないのかなと思っていました。注意喚起を踏まえてもうちょっと考えてみたいと思いますが,催告権というものの内実が問題になるかと思います。私は応答義務と言いましたが,ともかく存在効があったらそれをどうするか,承認するかどうかということ,それはイエスかノーということだけだというふうに思いましたが,そこでノーと言ったときの効果ということをもう少し考えたいと思います。 ○堂薗幹事 もちろんこの催告制度について,今後検討を進めていくということになりますと,詳細にいろいろな場面を想定して検討していく必要があると思いますけれども,今,一応ここで考えているのは,1つ1つの債権について,それぞれ相続人全員との関係で指定相続分で承継するのか,法定相続分で承継するのかという点について,その債権者の判断を聞くということで考えておりまして,ですから,その債権者がその催告に応えた場合には,その相続人全員との関係で,指定相続分なり法定相続分で承継をするということになろうかと思います。   当然,原則は法定相続分での承継ということになりますので,催告制度を設けて,一定の期間を設けて催告して,その期間内に回答がなかった,応答がなかった場合には,当然法定相続分で承継する,原則どおり法定相続分によるということになるのではないかと考えております。   そのほか,担保権がある場合とか,いろいろな場合が考えられると思いますので,そういった場合に不都合が生じないような制度設計が可能なのかどうかという点については,今後引き続き検討していきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○上西委員 相続債務に関する基本的な考え方は,基本的には記載のとおりと理解しています。遺言により相続債務について各相続人の承継割合が定められた場合であっても,各相続人はその法定相続人として相続債務を承継するのが原則なのですが,これをあえて積極的に明確化することについてどうかと考えますので,実務の観点から意見を申し述べます。例えば不動産業や不動産賃貸業などの事業をやっている場合に,その事業の借入金というものをどう考えるかです。これを法定相続分によって債務承継するのは実態から離れます。また,多くの場合は自宅が担保になっており,事業を承継しない人がその自宅を相続する場合もあります。債権者を害しないことが必要なことは十分承知はしておりますが,余りここをきっちりと書くと,動きがつきにくくなるような可能性もあるので,原則はこうでありながらも,一定の場合については他の方法もあるというような,少しのりしろの多い解決の仕方を御検討していただいたらどうかと思います。 ○大村部会長 それも検討していただくということにしたいと思います。 ○窪田委員 私自身は,今日御提案いただいた方向は大変にスムーズに理解できましたし,十分考えられるのかなと思うのですが,1点私自身が気になっている問題がございます。9ページの最後のところで示されている債権者の承認による指定相続分等の扱いというのは,これは最高裁の判例にも沿ったものということになりますが,私自身がちょっと気になっていますのは,その派生したところといいますか,延長上の問題ということになるのかもしれないのですが,遺産分割協議で,あるいは遺産分割の段階で,ある特定の相続人が実際に丸ごと承継するといったような,他の相続人は事実上の相続放棄をするというような形のタイプのものです。これは実際にも非常にたくさんあるのだろうと思うのですが,そうした場合にも,実は同じような問題があるのかなという気がします。そうした場面においても,この債権者の承認によるという枠組みが及ぶのか,あるいは,やはりそれは別の問題なのだと考えるのか。今後検討するということでもいいですし,もう既に何か御検討されているのであれば,伺わせていただけたらと思いました。 ○堂薗幹事 遺産分割で,一応債務割合を決めた場合という前提ですか。 ○窪田委員 いえ,実際によくあるパターンというのは,実際には生前贈与なんかを受けていなくても,相続分皆無証明書というのを出して,事実上の相続放棄をみんなやってしまって,長男だけが相続するというようなタイプです。それだって,相続分皆無証明書の中には十分な生前贈与を受けてあるので何の変更もないのだという説明は可能だとは思いますが,でも実際には,共同相続人の中の一人の者が単独で承継しているということだと思います。現にそうしたケースでは,債務の方もその者が負担するというパターンが多いのではないかなと思うのですが,そうした状況と今回の提案というのがどういう関係に立つのか,全く関係ないというのもあり得ると思うのですが,お聞きしたかったということです。 ○堂薗幹事 御指摘の点については十分な検討ができておりませんので,引き続き検討してみたいと思います。 ○窪田委員 結構です。 ○大村部会長 窪田委員,それから上西委員も,この枠組みにうまく乗らないようなケースが出てくることはないだろうかというご指摘をされ,それについても妥当な解決が導けるようなルールを考えるという方向で検討をしていただきたいという要望だと承りましたので,それを踏まえて更に検討をお願いしたいと思います。 ○村田委員 全然次元の違うことを二つ申し上げたいと思います。一つは,今の上西委員,窪田委員の御発言にも若干関連し,それから先に私が質問させていただいたことと関連するんですけれども,可分債務について当然分割説を前提にして全てを組み立てていくと今回のような設計になるでしょうし,その場合の隘路ということで,今のような御疑問,御指摘というものが出てくるんだと思います。しかし,可分債務について当然分割説を前提にして立論することに関しては,きちんと確認しておく必要があるのではないかという気がしております。私自身には定見がないんですけれども,人によっては,今回乙案のように,遺産分割までは可分債権を行使できないとする一方で,可分債務については「あなたの分はすぐ履行しなさいよ」と言われることに対して抵抗感を感じる方もいらっしゃってもおかしくはないなと思います。また,個別な当てはめとして,上西委員や窪田委員が言われたように,原則はそう置きつつも,例外として膨らみがある部分というのがあるのではないかということを考えるとしても,本当に原則はこれでいいのかということを一度見直しておく必要があるのではないかなと思います。   それから,もう1点は細かい次元の話になるんですが,仮に当然分割を前提にして,今御提案されているような形の検討を進めていって,債権者に対する催告の手続を具体的に考えようという段になった際には,余り実例はないかと思うんですけれども,債権の準共有のような形で,一つの債権について債権者が複数存在するケースがあるとすると,催告への対応に関して債権者間で意見が分かれたようなときにどう処理するかとかいうことも,場合によっては考えなければいけなくなるかなという気がしますので,その点もあらかじめ指摘しておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   2点目は,法律的な問題として御検討いただくということになろうかと思いますが,1点目は,1番最初に村田委員がおっしゃった点でもありますけれども,債権の問題と債務の問題があって,それらは今日の資料では別のところで出てくるわけですが,どちらも遺産に属するものであるということで,両者の関係について,別々に取り扱うならばそれでも構わない,しかし説明が必要だという御趣旨ですね。その点についても更に検討をしていきたいと思います。   そのほかいかがでございましょうか。 ○垣内幹事 今,話題になっております第3の2の遺言による権利変動,積極財産の方の関係で御提案されている①の考え方,対抗要件が必要であるということと,冒頭第1のところで御議論があった可分債権の取扱いに関する甲案の①の部分の規律との関係についてちょっとお尋ねしたいと思います。   多分,既に第1のところの御議論を通じて共通の了解が形成されていたのかもしれませんので,私が十分に理解が及んでいないだけだろうと思うんですけれども,甲案の①のところでは,可分債権は法定相続分に応じて分割承継されるということがあるわけですけれども,この考え方を前提としたときに,遺言による,「ある債権は相続人の誰それに相続させる」というような遺言があったということを考えますと,8ページの①の対抗要件が必要だということになりますと,対抗要件がなければ,そういう遺言による承継の指定があっても,それは債務者には対抗できないので,債務者としては法定相続分に従って承継がされているという前提で取扱いをするということになるのかなというふうに理解をしております。   そう考えると,最初の甲案の①というのと,この8ページの①というのはセットになって機能する側面があるのかなというように感じます。仮にそうだとすると,これは別個の論点ですので,別々の規律が各個の論点について採用されるということは論理的にはあり得ることかと思うんですが,先の論点について甲案①を採った上で,この今の第3のところでは現行法どおりと申しますか,全て対抗要件が必要だというようなことにはしないということになった場合には,これはむしろ前にお聞きすべきだったのかもしれませんけれども,第1のところの甲案の①というのは,遺言等との関係ではどういうふうに機能することになるのか。対抗要件がなくてもそういうことは主張できる場合があったとすると,法定相続分に応じて分割承継ということは,この場合どういう形で具体化されるのかということを少し確認,お教えいただければというふうに思います。以上です。 ○堂薗幹事 今の点でございますが,甲案の①というのは,基本的に法定相続分による包括承継については,対抗要件なくして権利取得を主張できるという前提でございまして,これ自体は現行法と基本的に同じということになりますので,債権者としては被相続人の死亡と,自分が相続人であるということの証明ができれば,それだけで権利行使ができるということになるのではないかと思います。   それと,この8ページの①との関係ですが,8ページの①も,法定相続分による包括承継については対抗要件は必要ないという前提でございまして,ただ,判例の考え方ですと,遺言によって他の相続人は全く権利を取得せずに,その指定された相続人だけが権利取得するという形で考えていて,したがって対抗関係にはならないという理解なんだと思うんですが,その点については見直しをして,他の相続人も,少なくとも法定相続分の範囲では一旦権利取得する。権利取得するといっても,それを第三者に処分した場合に有効に権利移転ができるという限度ですけれども,そういった見直しをすることによって,第三者との関係については対抗問題として処理をするということでございますので,基本的に甲案の①と,この8ページの①は必ずしもリンクせずに,どちらかのみを採用することも可能ではないかと思います。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○垣内幹事 多分,私の方で前提に誤解があったんでしょうか。甲案は法定相続分に応じて分割承継すると言っていて,これは従来判例は「相続分」に応じてというようなことであったけれども,それは法定相続分なのか,指定相続分なのかということについては疑義があり得たところ,この案は「法定」相続分ということを明記しているという点に一つ意義があるというふうに理解したんですけれども。ですから,遺言がどうかということに関わりなく,法定相続に従ってやればいいと。   遺言で何か債権について処遇が決められている場合に,それが対抗要件なくして債務者に対して主張できるような場面は,現在でもないということでしょうか。法定相続分を超える部分が取得できる相続人に関して。そういうことはないですか。   仮にそういうことがあるとしても,8ページの①を採れば,それは対抗要件が必要になるので,法定相続分については対抗要件なく,当然分割承継されて,債務者との関係でそういう規律になるんだけれども,それを超える分については対抗要件で決まりますという,一つ明確な規律だというふうに思うんですが。仮に甲案①を採って,かつ8ページの①を採らないという選択肢があったときに,その法定相続分を超える取得について対抗要件なしで債務者に対して言える場合があるのかどうかということをまず前提として御確認すべきだったのかもしれません。 ○堂薗幹事 今の点につきましては,現行法を前提にしますと,遺言で,例えば5分の3の債権をAに取得させるということがあった場合には,Aは相続によってその分を取得したということになりますので,その事実さえ書類なり何なりで証明をすれば,対抗要件なくして債務者に対しても権利行使できますし,仮にほかの相続人が,法定相続分に従って第三者にその債権を譲渡したとしても,それは無権利者からの譲受人ということになりますので,権利は取得できないということになりますから,現行法上は遺言で権利変動があった場合には,対抗要件なくしても基本的には権利主張ができるという前提になっているということでございます。 ○垣内幹事 そういう場合があり得るということですね。その場合,8ページの①を採れば,債務者としては遺言があるかどうかというのは,さしあたり度外視して法定相続分だけ考えていればいいということになるなと思うんですけれども,これを採らないで甲案の①だけを採った場合には,ここでは法定相続分というふうに言っていますけれども,遺言によって変動があって,それが対抗要件なく債務者が主張できる場合があるんだとすると,法定相続分に応じてというふうに明確化したといっても,それは第3のところで具体的にどういう規律が置かれるかということによって,そのことの実際に果たす機能というのはかなり異なってくるという意味で,セットになっている面があるといる理解でよろしいのかというのが,お尋ねしたかった点です。 ○堂薗幹事 確かに,債務者の過誤払いの危険をなくすためには,この2ページの①の部分と,8ページの①の部分を併せてやることによって,債務者としては初めて対抗要件に従って弁済すれば良いという状態が作れますので,そういう意味では確かにセットということだろうと思います。 ○垣内幹事 分かりました。どうもありがとうございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。そのほかよろしゅうございますか。   難しい問題がいろいろあると思いますけれども,更に検討していただくことにいたしまして,今日のところはこのぐらいにさせていただきたいと思います。   ちょっと長くなりましたので,ここで休憩いたしまして,その後で残る二つの問題を御検討いただきたいと思います。4時15分まで休憩ということにさせていただきます。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開したいと存じます。   10ページの「後継ぎ遺贈について」というところから後につきまして御意見を頂きたいと思います。   まず,この3の「後継ぎ遺贈」という項目につきまして事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○大塚関係官 「後継ぎ遺贈について」でございます。10ページの上から5行目からということになります。   いわゆる後継ぎ遺贈につきましては,これまでの部会におきましても検討,議論すべきではないかという御指摘を複数頂いていたところですので,この機会に検討したいというものでございます。   「問題の所在」でございますけれども,この後継ぎ遺贈の定義自体,必ずしも一義的ではございませんけれども,遺言者が実現したい内容としましては,こちらに記載しておりますが,遺言者が死亡した場合には,第一受遺者Aに目的財産に関する権利を帰属させるが,その後Aが死亡した場合には,その権利を第二受遺者Bに帰属させるというような点にあるのではないかというふうにされております。   ただ,このような後継ぎ遺贈自体について有効かどうか学説上争いがあるだけでなく,このような内容の遺言を法律上どのようなものと捉えるべきかといった前提自体がそもそも不明確なのではないかといった指摘もされているところでございます。   この点に関しまして判例はございますが,内容としましては資料に記載しておるとおりでございまして,後継ぎ遺贈の有効性自体について明確な判断を示したものではございませんけれども,①から③に記載しているとおりのような三種類の解釈があり得るのではないかと,大要このような判示をされているところかと認識をしております。   他方で,後継ぎ遺贈の有効性を承認することによるメリットも複数あるのではないかと。下のⅰ,ⅱでございますが,ⅱでは,例えば障害を持つ子の親御さんが,「親亡き後」と俗に申しますが,そういった問題に対する一つの解決策になるのではないかということも指摘されているところでございます。   そこで,この機会に後継ぎ遺贈,あるいはこれに類似する新たな遺言の類型を設ける方策というものについて検討を加えたのが(2)以下ということになります。大きく二つ,甲案と乙案について書かせていただいております。   まず,甲案でございますが,これは「使用収益権と所有権の分割遺贈型」というような書き方をしておりますけれども,①遺言者は,その所有する特定の財産について,第一受遺者であるAに対してはその使用収益権を,第二受遺者であるBに対しては所有権を遺贈することができる。   ②このような遺贈がされた場合には,Aの方はこの使用収益権を処分することができず,使用収益権はA自身の死亡などによって消滅をする。次にBの方は,Aが使用収益権を有している間は当該財産を使用収益することができない。このような形態が考えられないかということでございます。   他方で,乙案でございますが,「不確定期限付遺贈型」というような形で記載しているところでございます。内容といたしましては,遺言者は,その所有する特定の財産について,Aに対してはその死亡を終期とする遺贈を,Bに対してはAの死亡を始期とする遺贈をすることができる,このような方策を考えたところでございます。   甲案の基本的な考え方としましては,特定の財産の所有権を用益権とこれを除いた所有権とに分けて,二人に遺贈することができるとするものでございます。これを採用した場合には,使用収益権の法的な性質ですとか,あるいは財産評価をどのようにするかといった問題について検討する必要があろうかと存じます。   なお,この甲案を採用しつつ,併せて長期居住権を,これは部会資料2で取り上げたところでございますが,これを採用する場合には,この長期居住権は配偶者の居住建物について甲案の特則を設けたものと位置づけられることになると考えられるところでございます。   他方,「乙案について」でございますが,これによりますと,Aの死亡によって第一遺贈が将来に向かって失効し,遺言者からAへの所有権移転の効果が消滅すると同時に,第二遺贈の効果として,遺言者からBへの所有権移転の効力が生ずるということになろうかと存じます。   それぞれについての「検討課題」がございますが,まず,「遺贈の対象物について」でございます。これについては,二人目の受遺者を想定するということになりますと,ある程度永続性のあるものでなければならないのではないかという考え方があろうかに思います。その場合は,例えば不動産等に限定をするということが考えられますが,特段の限定をしないということもあり得ると思います。   次に,乙案を採用します場合には,イでございますが,相続開始後に第一受遺者が目的物を第三者に遺贈した場合,第二受遺者とどういう関係に立つかという問題があろうかと存じます。乙案による場合は,第一受遺者の方で特段の措置を講じれば別ですけれども,そうしない限りは,その生存中に目的物を第三者に売却をすることができるということになります。このため第二受遺者の期待権,いずれ自分が所有権を得られるんだという期待権を保護するための何らかの公示手段を検討する必要があろうかと思います。   さらに,ウでございますけれども,乙案を採用する場合には,第三,第四の受遺者への遺贈の可否というものも問題となろうかと思います。これについても検討が今後必要になろうかと考えております。説明は以上でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   後継ぎ遺贈と呼ばれる,先ほど御説明ありましたような遺贈でありますけれども,これについてどうするかというのは悩ましい問題として議論がされてきたところです。この点につき,一定の対応策を講じたらどうかというのが御提案の趣旨だったかと思います。甲案,乙案と二つの案が出ておりますけれども,御質問,御意見等がありましたら承りたいと思います。 ○村田委員 質問なんですが,乙案の関係です。乙案の御説明については,なるほどなという思いもしたんですが,他方で,第1遺贈がAの死亡を終期とするという説明については,そこでいう終期というのはいわゆる民法総則でいう期限という法的概念の射程に入るのだろうかという点で,やや素朴な疑問を抱きました。第1遺贈によって生じる所有権の移転という法律効果は,遺贈の効力発生と同時に完結しているため,第1遺贈はその時点で法律行為としては終了しているように思います。そうしますと,第1遺贈について終期を付すといっても,何についてどういう期限が付いているのかというのが今一つ分かりにくくて,研究者の先生方などの御意見を伺えればなと思っていたところです。 ○大村部会長 今,研究者の方々の御意見をということで御指名がありましたけれども,どなたかいかがでしょうか。 ○沖野委員 前にしゃべった方が,後の人から訂正してもらえるという安全弁がありますので,そういうつもりで先に申し上げます。私がイメージしておりましたのは,一種解除条件付きのようなイメージで,その効力が更には遡及しない。しかし,人の死亡は必ず来るものであるので条件ではない。そういうようなイメージでとらえておりました。民法総則のところで言われる期限は,履行期限が典型だと思いますが,そうでないタイプの期限もあるということですので,そういうものとしてここを構成するという提案ではないかと理解しております。 ○村田委員 期限と条件の区別というところは全くおっしゃるとおりで,そういう発想だろうなと私も理解をしております。ただ,その法律行為が予定している効果というのが,既に法律的にも社会的にも完全に終わってしまっているのに,とにかく期限のあるものに掛からしめれば,後から完全にひっくり返すことができるというのは非常に強力な効果といえます。こうした強力な効果をもたらす終期というものについても,法律行為の付款に過ぎない期限の本来的な射程に入っているのかという点が,非常に素朴な疑問なのですが,それはそういうものであるという整理なのでしょうか。 ○大村部会長 何か補足の御発言はありませんか。沖野委員あるいはほかの委員の方々から。 ○窪田委員 この点について発言するのは,多分最も適当ではないのだろうとは思いますが,従来からも後継ぎ遺贈の議論をする中で指摘されてきたこととして,こういうふうな期限付きの所有権というのを考えること自体が,やはり所有権の概念とは基本的に抵触するのではないかという指摘があったと理解しています。   もちろん所有権の移転について,移転という法律行為について条件を付けるとか,期限があるとか,その話であればともかく,所有権そのものについて必ず期限が来て,そこで終わる所有権というのは一体何なのだろうかと。それは,実はもう既に本来の所有権とは異なるものを観念しているのではないかというような議論はあったと思います。   ですから,沖野委員も,こういうふうに説明したらうまくいくよというよりは,多分,仮に説明するとすればそういうことになるのではないかということであったので,所有権という基本的な発想とは,何か違和感を伴うなというのは私自身も感じるところではあります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   順序としては,多分窪田委員がおっしゃった方が先で,所有権に期限が付いている方に違和感がある。そこで,所有権の移転の前提になっている法律行為に期限が付いていると考えれば,所有権絶対の原則に抵触しないのではないかという理屈だろうと思います。   水野紀子委員,何かありますか。 ○水野(紀)委員 私自身も,この問題については所有権の絶対性との衝突が一番基本的なことなのだろうと思っております。そして,後継ぎ遺贈についてのニーズそのものにつきましては,西欧法でも,元々一番基本的に言われてきたのは,この改正の一番メインのテーマでもあるわけですが,生存配偶者の老後を何とか担保したいということでした。ドイツとフランスはそれぞれ,ドイツ法はベルリン式遺言という形で,夫婦共同遺言を有効にして,それである程度担保をし,フランス法は用益権という全く別な概念でこの問題をクリアしてきました。   日本の場合にはそのような手法がなかったので,戦後の配偶者相続権立法後は,妻の老後はきちんとしたいけれども,その後は妻の血縁の方へ行くのではなく,自分の血縁の方へ流したいというニーズが非常に強く言われておりました。でもそういう遺言を書くと所有権の絶対性とぶつかってしまうということで問題になってまいりました。  今度の御説明の中に書かれておりますけれども,フランス法も,障害者が相続人の遺族にいるときに,その障害者の生活に対するある程度の担保をしたいということで,最近の改正は,この後継ぎ遺贈の範囲を少し広げて立法しております。しかしあくまでも相続法の中での部分的改正で,範囲の親族を限る等の制限を加えてあります。   一方で信託という,何でもできてしまう手法があります。フランス法は,相続との衝突を避けて信託を立法しましたが,日本の信託法の民事信託は,それを狙った立法になっていて,相続法との衝突が深刻です。肝心の聞かれたことから違うことをしゃべってしまいましたけれども,今度の御提案は,そういう形に民法で後継ぎ遺贈を設計していこうという御提案だとして,私自身は本来的ニーズのある問題だと思いますので,限定を入れてきちんと書き込んでいただけるというのはとても有り難いことだと思います。   そのときには,やはり甲案的なものの方が書きやすいように思います。不確定期限付遺贈の場合には,やはり所有権の移転に期限を付けるということの説明がなかなかクリアにはできません。それからもう一つ,最初に昭和58年の最高裁判決を御紹介いただきましたけれども,その58年の判決は,「こんなこともできる,あんなこともできるかもしれない」と書いていますが,この判決がいみじくも表していますように,そもそもその所有権の移転が縛り付けること,負担付贈与が一体何なのかというような,一番基本的なことについての了解がどうも確立していない。その結果,こういう,「何でもできるかもしれない」みたいな判決が書かれたような気がします。   負担付死因贈与の場合も,先に負担の先履行が可能で,それによって死因贈与が取り消せなくなるという最高裁の判例があります。これは負担付贈与の概念としてはおかしな理解です。負担付贈与は,大きな贈与が実際に実行され,その上に小さな負担が乗っかっているものです。例えば,不動産を与えてくれた贈与者に対して年金を払うというふうな形で行われるのが負担付贈与の概念で,日本の判例が認めたように,先にわずかな負担をやっておけば,後でその大きな贈与を確実にもらえる,双務契約の履行としてもらえるというのは,これはもうフランス法的な考え方では,負担付贈与とは性質決定されないでしょう。そういう贈与の概念であるとか,あるいは所有権の移転の概念であるとか,より大きなところについてのコンセンサスが日本法にはこれまでなかなかなかった。その結果,「できるかもしれない」という58年型の最高裁判例が出たり,負担付贈与についての不当な判決が出たりして,それで混迷になっているのだろうと思います。その辺りまで視野に入れた上で,きちんと後継ぎ遺贈について書き込んでいただけますと大変すっきりすると思います。お願いするばかりで申し訳ありませんが。 ○大村部会長 ありがとうございました。   村田委員よろしゅうございましょうか。 ○村田委員 違和感の所在が分かりました。ありがとうございました。 ○大村部会長 では,増田委員,窪田委員の順番でどうぞ。 ○増田委員 もっと素朴な質問なんですが,第一受遺者は用益権や担保権を設定することができるのでしょうか。甲案のときは,多分用益権は無理だろうと思うんですけれども,乙案だったら。矛盾抵触する処分ではないような気がします。そういうことは可能なのでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的には,第2受遺者の所有権を取得する期待をどう保護するかというところと絡むんだと思いますが,何らかの形で将来所有権を取得するという地位について公示をすることが可能であれば,第1受遺者の生前に担保権の設定なり何なり処分がされたとしても,その後Aが死亡した後には,むしろ第2受遺者の方が優先するということになるかと思いますので,担保権設定自体は,Aが死亡するまでの間はできるということも十分あり得ると思うんですが,ただ,A死亡後には,それは対抗できなくなってしまうということになるのではないかと思います。 ○増田委員 何で担保権が対抗できないのか,なくなるのか分からないんですけれども。担保権というのは,後から現れた所有者に対しては対抗できますよね。 ○大村部会長 第2受遺者の権利が何らかの形で公示されるという前提を挟んでおられるのだと思いますけれども。 ○堂薗幹事 現行法でそれをやろうとすると,第2受遺者の所有権の取得について,仮登記で公示をしないといけないということになりますが,仮に乙案のような形で制度設計をする場合に,仮登記という手段ではなくて,何らかのほかの公示手段を設けて,それがされれば,その後の担保権の設定等についても対抗できるということは考えられるのではないかと思います。 ○増田委員 それともう一つ。これも素朴な質問です。第1受遺者が遺贈を放棄したら,目的財産は相続財産に戻るのでしょうか。 ○堂薗幹事 そのような場合については,いろいろ考え方があり得ると思います。第1受遺者が遺贈を放棄した場合に,直ちにBに行くとするのか,それとも全体としてその遺言が無効になるのかという辺りは,検討する必要があろうかと思います。 ○大村部会長 増田委員の今の2番目の質問は,甲案の場合,乙案の場合というのを区別されての御質問ですか。それとも両方についてでしょうか。 ○増田委員 多分こういうことになるのかなと思ったのは,甲案では,第1受遺者が放棄した場合には第2受遺者が所有権を普通に取得するということになると思います。しかし乙案の場合には,第1受遺者が放棄してしまうと,その段階で相続財産になるので,第1受遺者の死亡という第2受遺者の所有権取得の始期が意味を失い,その結果として,Bが取得することはなくなるのではないかなと思った次第なんですが。 ○堂薗幹事 そこは制度の仕組み方次第だと思いますので,放棄した場合にBが取得するというような形にすることも可能だとは思いますし,増田先生が言われたような形でそこは手当をしないということもあり得るんだろうと思います。 ○大村部会長 その点は取りあえずよろしいですか。   それで窪田委員,上西委員,浅田委員という順番でお願いいたします。 ○窪田委員 私の質問というのも増田委員の質問と同じで,うっちゃりみたいなものを仕掛けるようなことになってしまうのかもしれませんが,やはりこの問題を考えるときには,増田委員から出た問題も考える必要がありますし,もう一つは,多分従来からも典型的に考えられてきた問題として,第2受遺者が第1受遺者より先に死んでしまった場合,一体どのような法律関係になるのだろうかという点があると思います。   これも甲案,乙案それぞれでいろいろなパターンは考えられると思うのですが,今までの考え方だったら,もう2番目の承継の部分だけが実効性がなくなったので,最初の承継だけで切るということではあるのかもしれません。しかし,甲案を採った場合ならば,あくまで第1受遺者には利用権を与えただけである。相続というルートは,やはりむしろ第2受遺者の方というのを考えているのだとすると,そこの方で第2受遺者を相続人だということを前提として考える余地があるかもしれません。   一方で,でも第2受遺者というのはあくまで,相続人一般としてではなく,特定の者として指定されたものであるという説明ももちろんあり得るんだろうと思います。今のいずれかなのかを答えてくださいということではないのですが,恐らく甲案,乙案それぞれにおいてそうした問題についてのルールを明確にしておかないと,後でかえって紛争を残すという可能性があるのではないかという点は確認しておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   増田委員御指摘の点と合わせて,双方の当事者が死亡した場合どうなるのかということについて,考え方は幾つかあるかと思いますけれども,見通しを持っておく必要があるだろうという御指摘として承りました。   では,上西委員,それから浅田委員という順番で。 ○上西委員 第1受遺者をAとして第2受遺者をBとすれば,究極のところBにこの財産を残したいという要請があるわけですよね。そうした場合に,その要請どおりにいかないこともあるわけです。実際に長い年月の先ですので,第2受遺者Bが,「それは欲しくない。別のものが欲しい」という場合です。特に,例えば第1受遺者との間に,新しくCが生まれた場合,「それはむしろCの方に相続していただき,私は別のものが欲しい」ということもあり得るわけです。しかし,例えば甲案にすると,もう所有権をBに移しているわけなので,その選択肢がなくなるわけです。また,この第2受遺者Bが非常に小さい子供等であった場合について,その選択をすることなくそれを固定してしまうことになる。ところが,乙案であれば,Bは遺贈ですので,放棄するチャンスもあるという点で少し違うと考えます。   それともう一つ,使用収益権と所有権を分けるのが他国においても比較的多く行われているようですが,実際にその使用収益と所有権以外のところはどうなっているのかとなると,なかなか分かりにくいのです。具体的には税務申告をどうするのかという疑問を置いた場合に,例えば,第1受遺者Aが使用収益権を持った場合,それがアパート,マンションだったとすれば,その果実は第1受遺者のAに行くわけです。でも所有者が本来契約をし,固定資産税はその者に課税され,そしてその維持管理というのを本来所有者がするものであろうと思います。この点を整理しておく必要があります。所有権がなくても,一定の場合においては使用収益権を有する者が一定の負担をするとかいうルールを定めておく必要もあります。   信託の場合も同様で,使用収益権と所有権を分けた場合に,どちらが維持管理するのとか,実際に所有者が維持管理するのを原則としても,使用収益者がする場合もあり得るわけです。そうした場合に,その資産部分や減価償却をどうするのか議論したことがあるのですが,明確なルールがないのです。   そうしたことも併せて議論しておかないと,民法的なルールはできても,税の議論が残ります。ここで議論することではないかもしれませんが。   それと,シンプルなことを考えれば,やはり乙案の方が分かりやすいというのは確かです。民法的に解決すべきものはたくさんあるのかと思いますが,乙案にして,仮登記等々で,あとは補正していくということを検討していけばやっていけるのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   税の点は御指摘のとおりかと思います。乙案で対応することも可能ではないかという御意見だったと伺いました。 ○浅田委員 本点については十分な検討をしたわけではございませんし,賛否も判断していない状況でございます。お聞きしていますと非常に複雑な問題がありますし,一方で障がい者等の福祉に用いるニーズもありそうだということもあります。一方で最高裁の判例もあるものですから,その存在自体は否定できないということでありますけれども,その中で解釈も分かれ得るということでありますと,言わば不明瞭さから生じるコストとを削減するために,ルールの明確化が望ましいのではないかなと個人的に思いました。   ここでは,いつものことながら,第三者の立場から考えたことについてコメントをしたいと思います。   まず第1に対象資産,部会資料12ページのアに関することだと思いますけれども,例えば,預金資産を対象とするということになると,甲案でいう使用収益権というのが何なのかというのが分からないということになりますし,また乙案であったとしても,その対象たる流動性預金において,その後継ぎ遺贈対象の財産と,それから第1受遺者の固定財産として入ったものが預金として一緒になった場合に,一体どうなるんだろうとか考えますと,極めて複雑な権利関係が生じるということになりますので,せいぜい部会資料のご提案のとおり,不動産等に限定すべきであろうと思います。   第2には,制度設計においては,取引相手方たる第三者の権利義務関係に中立になるようにしていただきたいと思います。例えば,甲案においては,その使用収益権と所有権が分離するということになりますけれども,相続発生前に設定登記を受けていた抵当権について,例えば,その賃料の物上代位権が一体どうなるのか。使用収益権が分離してしまうことになると,従前どおりの賃料差押えが可能なのか。またその手続はどうなのか。このようなことが問題にならないような設計にしていただきたいと思います。   あと,乙案で,例えば第1受遺者の持っている権利に対して第1受遺者の相続発生前に抵当権が設定された場合に,競売実行するというケースを考えますと,その配当において,第1受遺者が設定した担保の価値というのが一体どうなるのかということが明確にならないと,第2受遺者等による後順位担保設定が,言わば担保評価ができないことを理由に躊躇されてしまう。そうしますと国民経済的にも,財産の利用価値が減ってしまうということもありますので,検討がなされる必要があるのではないかと思いました。   あと,三つ目に,12ページのウに係ることですけれども,乙案を採用する場合に第3,第4受遺者とどこまで行くかという話であります。後継ぎ遺贈に類似する方式として,信託法には受益者連続信託というものが,ご案内のとおり信託法91条にあります。信託法改正のときの議論を振り返ってみますと,やはり半永久的に最終的な所有権者が決まらないということは問題だという認識の中で,当該信託が設定されたときから30年が経過したときに,現に存する受益者が当該定めるにより・・・というように期限を定めたわけであります。この信託法の規定と,後継ぎ遺贈というのは,言わば競争関係になると思います。バランスを欠くとまた問題ですので,その期限に関しても,信託法と平仄の合う設計をしていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○堂薗幹事 検討させていただきたいと思います。 ○沖野委員 前提の確認といいますか,入口の確認といいますか,ここで出されている後継ぎ遺贈の制度は,恐らくは一定の家族というか,親族というかそういった関係にあるような者の中で,最終的には全面的な権利をBに当たる者に取得させたいのだけれども,その間の限られた期間の利用ですとか,そのまま直接に利用するなら居住ですし,それを経済的価値に換えるならば,あるいは賃貸に出すというようなこともあり得るのかもしれませんし,担保権を設定するということもあるのかもしれませんが,そういうタイプのものにどうこたえるか,あるいはその範囲で何か利用できるようなものを民法に規定を置こうということでよろしいのかどうかです。   事業の承継のような場合は,こういう話は全く問題にならないということでよろしいのかという点だけを確認させていただければと思います。なぜそういうことを伺うかといいますと,2段階ぐらいの承継者を決めておきたいというようなときがあるのかどうか。そうだとすると,財産は「不動産」でよいのか,「不動産等」の「等」に何が入るか,含みがありますが,例えば,法人の存在を考えるなら株式は入ってくるのかもしれません。さらにそういうことを考えると,それでは多分甲案型では余りうまくいかないと思われるのですけれども,一方で,むしろ居住の確保のようなことが主眼になるのだとすると,居住確保パターンと権利を少なくとも2段階ぐらいの承継はコントロールしたいというニーズにこたえるパターンと両方があって,「甲案か,乙案か」ではなくて,「甲案型と乙案型両方もあり得る」というような話にもなってきます。私にはニーズの方は全く分からないものですし,あるいは事業の承継などは,それはむしろ信託を使った方がいいということもあり得るかと思います。ですので,どういうものを念頭にこの制度を考えていく必要があるのかという点について確認できればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   この問題を議論するときに,今沖野委員が御指摘になった二つのパターンがあるのではないかと言われているわけですけれども,その双方を想定しているのか,それとも利用権を保護する,特に住居の確保ということを取り上げているのかということですね。 ○堂薗幹事 こちらで検討した際には,この資料の10ページのⅰ,ⅱで書いてあるような事例に対応するものとして考えておりますので,事業承継とかそういったものを念頭に検討したということはございません。   そもそも,後継ぎ遺贈の場合は,受益者連続型信託よりも,先ほどの所有権の永続性との関係など,いろいろな問題があるんだろうと思いますので,それを認める期間についても,受益者連続型信託よりもむしろ限定的に考えるべきではないかという印象を持っており,12ページの「第3,第4受遺者への遺贈の可否」という辺りについても,むしろ後継ぎ遺贈は信託よりも制限的に考えるべきではないかということで検討しております。 ○窪田委員 もう今お話を頂いたことで尽きているのかもしれませんが,居住権の確保というパターンでいきますと,もちろん甲案でも乙案でも両方とも対応できるということは確かです。つまり,甲案でも取りあえず対応できるのだろうと思います。それで,なぜ乙案で対応しなければいけないのかということを考えたときに,より乙案の方が単純だという見方もできるとは思うのですが,所有権というかなり基本的な部分に立ち入った形でこういう解決を示す,その必要性があるのだろうかということが問われているのではないかと思います。   その必要性に関する説明は,一つ沖野委員から出たことであったと思うのですが,今のお答えの中では,もう基本的には居住権の方にウエイトを置いてということでありましたので,その点ではやはり甲案ということになるのかなという気がいたします。   乙案に関して,私が若干気になりますのは,これは本当に遺贈の問題だけなのだろうか。つまり,自分が持っているものの所有権を誰かに譲って,しかし君が死んだらその所有権は次の者に行くのだということを,所有者の処分権の中にそこまで含まれているのだろうかという問題です。これは別に遺贈ではなくても,贈与でも全く同じことが考えられるわけですが,その点では,乙案というのは,相続の問題に限られない実は大変大きな道具立てを用意してしまうことになるのではないのかなという点が気になっています。 ○大村部会長 ありがとうございました。   では,増田委員,石井幹事という順番で。 ○増田委員 先ほどの第1受遺者の担保権設定に関する質問と関連して,今度はそもそも論なんですが,人は死亡により権利能力を喪失し,財産管理権は死んだときに終わりになるのに,自分が死んだ後まで生きている人間を拘束するということが根本的にそれでいいのかどうかということなんです。   後を引き継いだ,生きている人間は,やはり生活をしなければいけないわけだから,その生活のためには資金を調達しなければいけないこともあるだろうし,いろいろなことがある。そこで資産価値をあえて下げてまで資産に拘束力を付けるということが本当にいいのかどうかという,何かそもそもの疑問がありますので,制度設計はいろいろと考えられると思いますが,根本的なところにも疑問を呈しておきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど来出ておりますように,信託で一定のことができるわけですけれども,更に遺贈を使ってどの程度のことを実現する必要があるのかということで,窪田委員や増田委員が出されているような観点も考慮に入れて,仮に認めるとして,その限度をどう画するかといった議論になるのかと思いました。 ○石井幹事 先ほど来,仮に立法するのであれば,問題点について明確な手当が必要だという御意見が続いていたかと思いますので,若干その点で,裁判手続との関係で気になるところを補足させていただきます。まず,第1遺贈,第2遺贈とあった場合に,第2遺贈の効力が発生する前の段階で紛争が生じたときに,第2受遺者に対して遺留分の減殺請求ができるのかといったことについては,何らかの明確な基準を設けていただく必要があるのかなと思っております。また,第2遺贈の効力発生前に遺産分割が行われる場合において,第2遺贈を特別受益として算定することになるのかといった点についても同様に明確にされる必要があると思います。加えて,第1遺贈,第2遺贈を特別受益として算定する場合には,その制度設計にもよるとは思うんですが,これらをどの程度強い権利として評価することになるのかということも明らかにしておく必要があろうかと思います。第1遺贈にしても,第2遺贈にしても,遺贈の対象は完全な所有権ではないと思いますので,完全な所有権を遺贈の対象とした場合よりは低い評価することになると思いますが,それぞれ独立に見ますと,全部合計しても完全な所有権の価値に至らないという事態が生じることもあるのかなと思います。そういったことの是非等についても検討いただけると有り難いなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   更に検討していただきたいと思います。 ○金澄幹事 弁護士会で検討したときに,この制度が果たして,本当に女性のための,残された妻のための制度になるのだろうかというところに疑問が出ております。普通第1受遺者は残された年老いた妻に,第2受贈者は被相続人の子になるだろうと思いますが,この制度はあくまでも第2受贈者のための制度ではないかと思うのです。   というのは,何よりもまず,第1受遺者が亡くなれば,第1の遺贈が終期となるのと同時に第2受贈者への遺贈の開始となり,不動産が第2受遺者にストレートに遺贈されるということであれば,やはり,変な言い方ですけれども,第1受贈者である年老いた妻の立場が弱くなり,第1受遺者に対しての介護とか,いろいろ世話とか,そういうところがおろそかになったりすることもあるのではないのかというところの問題意識が一つ出ておりました。   そのような視点から見れば,跡継ぎ遺贈という特殊な形式を取らなくとも,例えば甲案であれば,長期の居住権を設定することで保護すればそちらの方で足りるのではないかというところですし,第2の方であれば,老人ホームに入るのであればきちん不動産の持分を習得することで,将来の処分ができるとか,そういうようなきちんとした処分権があった方が,残された妻のための保護になるのではないかというところで,このような制度が果たして本当に第1受遺者のためになるのかというところについて疑問が出ておりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   事務当局から御説明がありましたけれども,今御指摘のあった長期の居住保護と関連しておりまして,そちらがどうなるかということとも密接に関連する問題だということかと思います。 ○水野(紀)委員 また単なる情報提供なのですが,先ほど沖野委員の方から御発言のありました事業の継承について,中小企業庁の方で委員会に出ておりまして,中小企業のニーズはあるようです。といいますのは,家族内のそういう移転だけではなくて,番頭さんに当たるような人に,子供が成長するまで一旦その人に経営を任せたい。そして,その後,自分の後継ぎに戻したいというようなニーズはあって,そしてそういうニーズにこたえられるような形で中小企業の継承円滑化法を改正しようという委員会が開かれて,うまく組めないまま沙汰止みになっているという状況です。やはり経営は経営の問題で,株式の問題がありますので,相当特殊な判断が必要なのかと思います。   それから,これはまた全然別の話ですけれども,先ほどから信託との関係がいろいろと議論になっておりますけれども,私は当初から信託と民法の相続法は相容れないという立場を採っていて,信託法の立法に対して非常に疑問を持っていたのですが,ともかくできたものは何とか調和を取るように運用しなくてはならないと考えております。これから大変な解釈問題がいろいろ起きてくるでしょう。つまり,信託に対して信託財産を相続法の中でどのように位置づけるかということについては,まだ学説も定まっておりません。できれば,信託ならばできるはずだからという議論ではなく,相続法のところで必要なものはできるような形で組み込んで,かつほかの様々な民法上の所有権の絶対性とか,様々な理念と整合的な形になるような形で組んで,問題を解決するような道を作っていただければ有り難いと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。ほかにいかがでございましょうか。   一定の需要はあるようだけれども,しかし幾つかの不明瞭さ,不明確さを抱え込むことにはなるだろう,その兼ね合いでどうするかということだというのが皆さんの共通の認識かと思いますけれども,今日の段階で更に御発言はございますでしょうか。よろしゅうございましょうか。   それでは,更に事務当局の方で御検討いただいて,案を練っていただくということにします。本日残っております最後の話題に進ませていただきたいと存じますが,  その前に,第3の「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」の部分がこれで終わったことになりますので,浅田委員の方からいただいている「遺言に関する銀行実務の観点からの検討」というペーパーのうち,何か話し漏らしておられる点がございましたら,浅田委員,補足をどうぞ。 ○浅田委員 機会を設けていただきましてありがとうございます。A4の紙で示しているところでありますけれども,せっかくですので,挙げた項目のうちでお話しできなかったことについて,要点だけ述べさせていただければと思います。四点ございます。   1点は,A4の紙の1枚目の2ポツのところ,「公正証書遺言の安定性確保」ということであります。これは第1回のフリートーキングのときに,私が最後に述べたことでもありますけれども,現実には,公正証書遺言といえども紛争となることが多くて,先日も私どもの銀行で起こりましたが,それはやはり遺言能力の問題,遺言能力の欠如を理由に争われることが多いわけであります。認知症の問題は特に複雑で,遺言書を書いたときには遺言能力があったでしょうけれどもその後に失う場合とか,又は同じ日でも遺言能力があるときとないときがあるとか,いろいろと複雑な場合があるわけであります。やはり,この問題を事後的に白黒はっきりさせるというのは非常に難しいということがあると思います。   とはいえ,公正証書遺言の信頼性というのを高めるためには一定の措置が必要だと思いますので,公正証書遺言の一定の推定力であるとか,又はその遺言の内容を信用した第三者というのは免責を図れるとか,そういう手当てがあることを望むわけでございます。   二つ目は,「遺言の撤回」ということで,1枚目のポツ3番目でございます。これも先ほど申し上げたことで,自筆遺言については述べたとおりでありますけれども,公正証書においては,特に先ほど申したとおり,信頼性を高めるためには,少なくとも,公正証書は公正証書遺言以外では撤回できないという制度というのが望ましいのではないかと。そうすると,公正証書の信頼性が高まるのではないかと思いました。   3番目は,2ページの上から丸ポツ二つ目でございますけれども,「遺言執行者が第三者に遺言執行を任せることの可否」ということであります。現行法では,遺言執行者の復任権は原則として認められないと思います。ただ実際には,遺言において遺言執行者に指定された一般人,多くは相続人だと思いますが,当該一般人が弁護士や金融機関等の専門家に遺言執行を任せるケースも多くなっているということでありますけれども,その有効性というのが問題になるわけであります。   しかし,類似する規定がある信託法についても平成18年の改正において,受託者権限について第三者委託ができる場合を実質的に拡大しているということもあります。自己執行義務との関連だと思いますけれども,この点についての立法的な解決が望まれるかと思います。   4番目は,次の「遺言内容の解釈」です。実に,自筆証書遺言のときは特に,その文言の解釈に非常に悩むということがあります。これはもう,銀行に遺言の提示があった場合には,銀行は裁判官のように,その遺言者の思いをそん度して考えざるを得ないという状況もあるわけでありますけれども,そういう問題ないしはトラブルを避けるために,例えば専門家のチェックを通したり,解釈の仕方をある程度法定化する,解釈指針を示すというような見直しができないかどうか。なかなか具体策としては難しいとは思いますけれども,そういう問題提起をさせていただきたいと思います。   その他,いろいろ問題認識とか困った例というのはありますけれども,詳しくはこの2ページの「その他」というところもご参照いただければ幸いであります。 ○大村部会長 ありがとうございました。   現在我々が検討している問題との関連で,対応可能なものにつきましては事務当局の方で御検討いただきたいと思います。   それでは戻りまして,第4の「遺産分割事件と遺留分に関する事件の一回的解決を図るための方策について」という点につきまして事務当局から御説明を頂きます。 ○下山関係官 それでは,最後に資料の12ページ,第4の「遺産分割事件と遺留分に関する事件の一回的解決を図るための方策」,これについて御説明させていただきます。   現行法の下では,遺留分については地方裁判所の訴訟手続で,遺産分割については家庭裁判所の家事事件手続において,それぞれ事件処理がされるということになりますが,これらの紛争は相互に密接な関連を有するものでありますので,同一の手続の中で一回的な解決を図ることができるようにすべきであるといった指摘がされております。   その方向性といたしましては,まず①遺留分に関する事件を家事事件手続において処理し,遺産分割事件との併合審理を可能とすることや,②遺産分割事件を遺留分に関する事件と併合して審理する場合には,遺産分割事件を訴訟手続の中で処理することができるようにすることなどが考えられるところです。   もっとも,まず①の方向性で見直しを検討する場合には,その前提として憲法82条の裁判の公開との関係が問題となります。この点,例えば遺留分に関する事件においても寄与分を考慮することができるということとすれば,裁判所の裁量的な判断がなければ権利内容は確定しないということになりますので,裁判の公開を要する純然たる訴訟事件に当たらなくなるといったことが考えられますが,他方,例えば遺留分権利者が取得する権利を金銭債権に改めることとした上で,かつ寄与分に関しては考慮しないこととした場合には,これは裁判の公開原則との関係では深刻な問題が生じるであろうと考えられるところです。   他方,②の方向性で見直しを検討する場合には,家庭裁判所と地方裁判所のいずれでこれを審理するのかという問題が生ずるほか,併合審理する場合の手続的な規律をどのように定めるのかといった点についての詳しい検討が必要になるものと考えられます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   一回的解決が図れればそれに越したことはないのですけれども,①,②両案について,それぞれ問題があるだろうという御指摘かと思います。   これにつきまして御意見あるいは御質問等を頂ければ幸いに存じます。 ○水野(紀)委員 まず,現在の実務とは大きく乖離した発言をすることになってしまいますが,お許し下さい。家庭裁判所の審判に既判力がないということがそもそもおかしいと思っております。①の憲法問題ですけれども,憲法82条がその前の暗黒時代に対する反動で,非常に厳格な公開の原則を採っているわけですが,プライバシーの問題のある家事事件に,果たしてそもそも裁判の公開が必要だったのかということを考えますと,比較法的にはもっと柔軟に考えていいのではないかと思うのです。   それから2番目の問題ですが,私も従来から遺留分に関する事件が,地裁へ行ってしまったときには,そのまま遺産分割事件も地裁ができるということで,何も専属管轄をそれほど厳しく考える必要はないと考えておりまして,それはもう解釈論で何とかできそうに思い,最高裁がそう判断してくれないかと考えておりました。ただどちらの方にこの際立法でやらせるかということになりましたら,遺留分の減殺請求権事件は遺産分割の一部だと思います。ですから家庭裁判所に,既判力を持つ形で,まとめる方が筋だろうと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今のような御意見を頂きましたけれどもいかがでございましょうか。 ○山本(和)委員 私自身は,この第4に書かれていることを,全体についてはそれぞれそれほど違和感はなかったです。ですので,若干のコメントですけれども,最初に,相互に密接な関連を有するので,一回的解決を図ることができるようにすべきである。これもそのとおりだろうと思うんですけれども,ただ,遺産分割と密接な関連を持っているけれども一回的解決がされていない事件というのはその他多数あるわけで,遺産分割の前提問題となっている遺産確認とか,あるいは相続人の範囲等の問題については,これは今は訴訟事項だと考えられていて,しかも地裁の民事訴訟ということになっておりますので,これは別々になっている。   ですから,問題としては遺留分だけをここでやるのか,あるいはそれ以外の遺産分割の前提あるいは関連問題とされている事項もまとめて同じように取り扱うのかということは当然に問題になって,遺留分だけやるとすれば,なぜ遺留分だけやるのかという説明が合理的にできる必要があるのかなという印象を持ちました。   それから,その後に書いてある二つの方向性のことで,第一の方向性については,これもこのとおりだと思いますが,書かれていることについて,寄与分がかなり強調されているのですけれども,言うまでもなく遺産分割というのは寄与分の制度ができる前から非訟事件でやっていて,それは憲法違反ではないという最高裁の判例ですので,寄与分が決定的というわけでは恐らくなくて,その分け方について裁判所が合目的的な裁量に基づいて行うことが認められるというところがポイントなのかなと思っています。   ですから,遺留分権利者が取得する権利をもう完全にこの金銭債権で固定して,あと裁判所がもういじれないと,つまり死亡の時点でもう確定的に権利としてできてしまっていると考えれば,これはあと裁判所がやるのは権利,実体権の確認作用ですので,これは最高裁の法理から言っても,必ず公開が要請される純然たる訴訟事件であるということは争いようがなくなると思います。   そこを分け方が必ずしも金銭債権だけではなくて,物でも裁判所が何か裁量に基づいて与えられるというような,分与できるというような制度を仕組めば,最高裁の法理からも公開でなくてもいいということが言える可能性は出てくるのかなということです。   それから,最後の第二の方向性につきましては,これは人事訴訟法を作るときに,先ほどの相続の前提問題も家裁移管をすべきではないかというような議論が一部で行われ,その際にこういう一体的な処理というのができないかということは若干考慮された,検討されたのではないかと思います。   やるとすれば,恐らく訴訟事件に対して,この遺産分割を付帯させるという,人訴の付帯処分的な構成なのかなと。逆は恐らく,今の憲法上の問題があってできないと思うので,遺産分割の方を付帯させる。それは家裁でも地裁でも論理的にはできるんだろうと思いますけれども,人訴の場合との,恐らく一番大きな違いは,人訴は人訴自体が職権探知で,非訟も職権探知なので,その中核的な審理方式は共通していたので,そういう意味で一体化になじみやすかったんだろうと思いますけれども,この場合は民訴ですから,弁論主義と,遺産分割は職権探知というところが原理的に整合させることができるかどうかということが大きな問題になるかなと思います。   考え方としては,その民訴部分は弁論主義でやって,遺産分割の非訟部分は職権探知で分けるということは考えられなくはないかもしれません。ただ,共通する部分,事実の部分はあると思うので,それをどっちでやるのかという問題は出てくると思います。   そうでなければ,恐らく弁論主義に合わせるしかないと思うので,遺産分割を弁論主義でやるということになります。これは,遺産分割は家裁の方が強調される当事者主義的運用というのは現実になされているので,弁論主義でどれだけ困るのかという気がしないでもありませんけれども,ただ原理的には,単発でやるときは職権探知なので,合わせたときに弁論主義になるということが果たしてうまく原理的に説明できるかということは一つのハードルになり得るかなと思います。大体そんなところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ①,②それぞれについてどういう問題があり,どういう形で乗り越え可能かということについて御指摘を頂いたと思います。それから最初の,他の問題との切り分けということもございましたけれども,それは少しまた事務当局の方でお考えを頂きたいと思います。 ○増田委員 私も方向性としては一回的解決を指向するのが望ましいと考えております。また,山本和彦委員がおっしゃったように,できればほかの関連紛争とも一回的解決が望ましいのですが,なかなかそれだと重装備の立法になりますので,取りあえずこれだけということであっても,そこはそれで従来よりはましになるのだろうと考えております。   それで,手続をどうするかということに関してはいろいろな考え方があって,我々が議論していても三つぐらいあります。部会資料にも書かれているように①家事審判,②家庭裁判所の管轄での訴訟,③地方裁判所の管轄での訴訟という考え方があって,それぞれ一長一短があるんですが,家事審判にする場合は,遺留分の計算において寄与分を入れるか入れないかという問題はむしろ些末な話であって,遺留分減殺請求権というのは具体的権利なのかどうなのかというところから議論のスタートだと思うんです。その権利性が,裁判所が形成する権利だということになると,非常に遺留分減殺請求権というのは弱くなります。しかも審判事項になると民事保全が使えないので,物が逸失する危険,どこかへ行く危険は高まる。仮に遺留分減殺請求権について金銭債権という立法をしたとしても,執行対象物がどこかへ行く危険性が高まるということになります。そのほか本質部分で検討すべき事項としては,そもそもこれは財産法事件なのか,親族事件なのか,家庭の事件なのかということです。基本的に家庭裁判所がやるべき事件なのかどうなのかというところから考えていっていただきたいとは思います。諸外国では,多分この手のものは地裁事件として扱われているのではないかと考えられます。   あと,今,山本和彦委員がおっしゃったような当事者主義的運用が遺産分割ではなされているということから,地裁の審理であっても親和性があるのではないかと思われる。そこを理論的に踏み越えられるかどうかというのは,和彦委員がおっしゃったことと同様です。   また,遺産分割事件は審判手続であっても実際には職権調査はされておりませんが,職権調査をすべき余地があるのかどうかとか,後見的である必要があるのかどうかというようなことも検討していただきたいなと考えております。   審判に関しては既判力がないという問題もまた大きいかなと。一旦決まったことがまた覆される可能性というのは,特に利害関係人が増えれば増えるほど問題が大きいし,多くの紛争を同時に取り込んでおきながら既判力がないというのは,方向性としては相反する方向へ行っている可能性があると思います。  私個人は,家庭裁判所での訴訟というのが一番いいのかなと考えていますが,三つとも一長一短があるので,そこはよく検討していただきたいと思います。よろしくお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御指摘を踏まえて更に検討していただきたいと思います。 ○水野(有)委員 実務的な観点で,私は前任庁が家裁だったもので,遺留分の調停にも携わっていたものですから申し上げたいんですが,今,全体的な評価は別として,遺留分の調停も遺産分割の調停も,それぞれのパターンを前提としてそれなりに確立して,有用な働きはできているかなとは思っておるのですが,ですからそのよさをいかして,かつよさを殺さないような形のという,調停の方もちょっと配慮に入れた上での制度設計を作っていただければなと思いますのでよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 これも重要な指摘かと思います。ありがとうございます。 ○垣内幹事 実質的には,先ほど山本和彦委員が言われたり,増田委員が言われたり,今,水野有子委員が言われたことにつけ加えることはそれほどないんですけれども,やはり問題の出発点としては,これは増田委員が強調された点に重なるかと思いますが,遺留分減殺請求権という権利,あるいはそういった制度をどういう実質のものとして考えて作っていくのかということにかかっている。それに応じて手続もしかるべく決まってくるものではないかと考えております。   幾つかコメントさせていただきますと,先ほど増田委員が言われました既判力の関係ですけれども,これは審判はもちろん既判力はないという前提で理解をされているわけですけれども,同じような問題はほかのところでも,審判事項にはいろいろあって,少なくとも理論的には訴訟で争えるのであるという事柄が幾つかあるわけです。遺留分減殺請求について審判事項にした場合に,理論的には何か訴訟で争えるものが残るかどうか。残るとして,それがどういう実質のものとして残るのか。例えば,今,民法の規定で申しますと遺留分の帰属とか割合というのは1028条に書かれているわけですが,ここに書かれているようなことぐらいしか訴訟事項として残らない。要するに,兄弟姉妹外の相続人に当たるとか,何かそういったものしか残らないということであるとすれば,それは既判力がないとしても実質は形成的な,審判における形成力で全ては決まるのであって,これ自体別個に争っても余り意味がないということが圧倒的に多いということになれば,それほど実質的な問題はないんだろうと思います。ですから,そういう意味では審判事項にすることも,遺留分という制度の理解によっては妨げないということもあり得るのではないかという感じがしております。   他方で,先ほど山本和彦委員の方から別の関連紛争について幾つか御指摘があって,御指摘としてはそのとおりだと思いましたけれども,そちらの方,例えばある財産が遺産に帰属するかどうかとか,ある者が相続人の地位を持っているかどうかというような事柄について,これを訴訟事項ではなくするという議論は,これは非常に難しい。判断の性質からいって,相続人というのは一定の法律上の要件があれば法定相続人になるということですし,遺産が被相続人に帰属していた財産だったのかというのは通常の民事法上の問題であって,これを何か形成的に決めるとかいうことは通常考えにくいということからしますと,これを訴訟事項から審判事項にするというような形で全てまとめるというのはやはり難しいであろう。考えられるとすれば,訴訟事項であるとして,その管轄裁判所をどうするかということは一考には値するかもしれないけれども,しかし審判事項ではないですし,先ほど御指摘のあった審理原則も違うということになりますと,家裁に移すことがどれだけ一回的あるいは合理的な解決に資するのかどうかというのも併せて検討する必要があるのではないか,というような感想を持っております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   権利の性質がまず前提になりますけれども,それを踏まえた上で遺留分というものの事件の性質を考えると,他の問題と切り分けができるのではないかという方向を示唆していただいたと受け止めました。   ほかにいかがでございましょうか。 ○村田委員 今の一連の皆様方の御発言に連なるものといいますか,その中に当然含意されているだろうと思うことをあえて確認的に述べさせていただきます。関連紛争を一回的に解決できればもちろんいいだろうなと思うのですが,裁判所の実務の現場からしたときに,先ほど水野有子委員が言われたとおり,現場では調停も含めていろいろな工夫をして,迅速かつ適切な解決ができるようにしている中にあって,遺産分割の調停・審判はやはり長く掛かる,あるいは難しい事件の筆頭に挙げられるものですし,遺留分も身近な訴訟の中では非常に長期に,紛争解決に時間と手間が掛かる訴訟だということになっていますので,難しいものと難しいものを合わせて一か所でやれればいいかというと,そういう問題ではないんだと思うんです。結果的にやはり非常に早く合理的に紛争の解決に至ることが望ましいということから考えると,遺留分については,たまたまかもしれませんけれども,この部会の中で既に御議論いただいているところでもありますし,その紛争の迅速な解決という観点も加味した上で,今,御議論に出ていたような権利性といいますか,中身の設計をお考えいただくということも重要ではないかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○増田委員 既判力については理論的な意味以上に,結果が既判力を有するということが手続の追行の上で実質的に有する意味が大きいわけです。これは実務家の皆さんは承知だと思うんですけれども,既判力がある手続だからこそ,当事者が迅速に主張,証拠を提出し,この場で早く決めようという意識が働くのです。既判力の有無そのものに実質的にどれほど意味があるのかと言われたらそうなんだけれども,理論的にいつでも覆せる可能性があるということによって,どれほど遺産分割の手続が遅滞しているか。当事者,裁判所を含め,実際にはそういう状況があるということも,立法する上では考えてみた方がよいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。そのほかいかがでございましょうか。   難しいものと難しいものを合わせるという話なので,なかなか解決は難しいのですが,できることがあれば,是非何らかの形で実現するということをもう少し検討していただきたいと思います。   ほかにこの問題について御発言がなければ,今日はこのぐらいにさせていただきたいと存じます。   それでは最後になりますけれども,次回の日程等につきまして事務当局の方から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 次回の日程でございますが,次回は10月20日火曜日の午後1時半から5時半までを予定しておりまして,場所は本日と同じ20階第1会議室,こちらの会議室ということになります。一応,本日で一読を終了して,次回から二読に入るということを予定しております。本日頂いた新たな論点などについても随時検討していきたいと思いますけれども,次回は一応二読ということで,配偶者の居住権の保護などについて御議論いただくことを予定しております。次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 それでは,本日の会議はこれで閉会させていただきます。長時間熱心な御議論を頂きましてどうもありがとうございました。 -了-