法制審議会 民法(相続関係)部会 第6回会議 議事録 第1 日 時  平成27年10月20日(火)自 午後1時30分                       至 午後5時25分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会の第6回会合を開催いたします。   議事に先立ちまして,委員の交代がございましたので,まず新しく民事局長になられました小川局長から一言御挨拶を頂きます。 ○小川委員 10月2日付で民事局長になりました小川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。どうぞよろしくお願い申し上げます。   それから,本日は,席上の配布資料はないということでございますので,早速,事前配布の資料に従いまして審議に入らせていただきたいと存じます。   本日の審議の資料は,「民法(相続関係)部会 資料6」というもので,「配偶者の居住権を法律上保護するための方策等」という見出しが付いたものでございます。これは,第1から第4の「その他」までに分かれております。4項目ございますので,第2項目が終わった辺りで休息するという目安で進めさせていただきたいと存じます。   それでは,事務当局の方から,まず第1の「配偶者の居住権を短期的に保護するための方策」という部分について,御説明をお願いいたします。 ○大塚関係官 民事局付,大塚でございます。   第1の,いわゆる短期居住権につきまして御説明申し上げます。   今回は二読に入ったということでもございますので,変更点を中心に簡潔な御説明とさせていただきます。   早速,2ページ目の上から4行目に入っていただければと思いますが,部会資料2,つまり一読の時の資料では,短期居住権の原則的な終期を遺産分割の終了時としておったところでございますが,遺産分割の全体が終了していなかった場合でも,配偶者の居住建物の帰属に関する協議が成立したような場合につきましては,少なくとも当該建物については,相続開始に伴う暫定的な権利関係が解消されて,短期居住権を認める前提を欠くということになると考えられます。   そこで,今回の部会資料におきましては,該当部分は①でございますが,①の短期居住権の原則的な終期につきましては,遺産分割により当該建物の帰属が確定するまでの間としております。   次に,⑧,⑨についてでございます。(2)でございますが,平成8年の最高裁の判例におきましては,被相続人がその配偶者との間で使用貸借契約を結ぶ意思を有していなかったことが明らかな場合には,居住権は保護されないということになりますが,⑧と⑨は,配偶者以外の者が配偶者の居住建物の所有権を遺言又は死因贈与によって取得した場合には,配偶者は相続開始時から一定期間(例えば6か月間)に限ってその建物を無償で使用することができるとするものでございます。   なお,部会資料2におきましては,この期間を「例えば1年間」というような形にしておりましたが,この時の議論におきまして,⑧,⑨のような規律を設けること自体に疑問を呈する御意見もあったことなどを踏まえまして,この期間を「例えば6か月間」として,存続期間をより短期に限定した考え方を御提示申し上げておるところでございます。これによりまして,明渡猶予期間としての意味合いがより強まることと考えられます。   次に,個別の論点の法的性質等でございますが,一読の議論におきましては,短期居住権に第三者対抗力を認めた場合には,相続債権者などの第三者に不測の損害を与え,取引の安全が害されるおそれがあるとの指摘などがされたところでございます。   3ページになりますが,そこで,本部会資料におきましては,これらの議論の結果を踏まえまして,①と⑧のいずれにつきましても,短期居住権には第三者対抗力は付与しないということとしております。   このような考え方を前提といたしますと,短期居住権の法的性質は,法定の債権と構成するのが相当と考えられます。   一読と同様の部分は飛ばしまして,「(4)短期居住権の効力等」でございますが,アの2行目になります。前記方策におきましては,配偶者にその居住建物を無償で使用する権利を認める反面としまして,この建物について用法遵守義務あるいは善管注意義務を負わせることとしております。   他方,建物の所有者としては,基本的には配偶者による居住建物の使用を受忍すれば足りることとしております。   次に,5ページ以下の「(5)他の相続人及び第三者との関係について」でございますが,一読からの大きな変更は,「エ 抵当権者等との関係」,6ページ目の上から5行目でございますが,本方策は,先ほど申し上げたとおり,短期居住権に第三者対抗力を与えないということにしましたため,建物の抵当権者との関係では,相続開始後に設定及び登記がされた抵当権にも劣後することになり,その抵当権が実行されますと,配偶者は買受人からの明渡請求を拒むことはできないと考えられます。   また,被相続人の一般債権者が相続開始後に建物を差し押さえた場合も,同様となるものと考えられます。   簡潔でございましたが,以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   一読の際の御提案と変わっている部分を中心に御説明を頂きました。   今,御説明があった点,あるいはそうでない点も含めまして,御質問,御意見等があれば承りたいと存じます。いかがでございましょうか。 ○南部委員 ありがとうございます。質問をお願いします。   5ページのウ「敷地所有者との関係」について。,この当該敷地につきまして,相続開始前の敷地所有者が第三者であった場合,借地権と地上権といった利用権に伴う賃貸料が発生した場合を考えたときに,配偶者と建物所有者,どちらの方が賃料を払うことになるかということを疑問に思っておりますので,そのお答えをしていただきたいなと思います。   それと,合わせまして,6ページのエです。手続の期間の件です。通常と抵当権が実施された場合,どのくらいの期間で手続が行われるのかということで,本来でしたらもう手続が行われたらすぐ出ていかなければならないというような状況に陥りますと,やはり一般人としましては非常に困難かなと思います。これは短期の中に入らないとは思いますが,数か月ぐらいの余裕が欲しいと思います。そういったことが法律でどう規定されているか分からないのですが,ここでどのような手続になっていくのかというのを教えていただけたらと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。では,事務当局から。 ○堂薗幹事 まず,敷地の地代について,配偶者と建物所有者のいずれの負担とすべきかという点でが,短期居住権につきましては,通常の必要費は配偶者の負担とするということにしておりますので,この敷地の地代が通常の必要費に当たるかどうかという問題だと思いますが,建物を使用する場合には当然敷地の利用は必要になりますので,通常の必要費に当たるということになるのではないかと思います。ただ,この点は,一応解釈ということにはなろうかと思います。   それから,抵当権との関係ですが,抵当権実行の申立てがされて,実際に買受人が確定し,その代金が支払われるまでの間にどの程度の時間がかかるかという点についての統計は手元にはありませんが,基本的には物件の調査をし,その評価をしてから買受人を募って,それで入札をするということになりますので,それなりの期間は掛かることになろうかと思います。   ただ,御指摘のように,基本的には短期居住権の場合には対抗力がありませんので,買受人に明渡しを請求されれば,すぐに出ていかなければならないと,法律的にはそういうことになります。この点については,例えば抵当権に対抗できない賃貸借については明渡猶予期間があるわけですが,短期居住権の場合には,やはり無償で使えるということが前提になっておりますので,明渡猶予期間のようなものを設けるのも難しいところがあるのではないかと考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○南部委員 はい。 ○沖野委員 細部ですけれども,幾つか分からない点がありますので教えていただきたいと思います。   一読の点と重複するかもしれませんけれども,一つは,第1の場合の法律関係についてです。3ページの(2)の上のところで,(注)の箇所ですと,法定の債権であるとした上で,債務者は当該建物の所有者になると。したがって,遺産分割を行う必要がある場合にはというのは,共同相続の場合にはという趣旨と思いますけれども,基本的には配偶者以外の相続人が債務者となるんだと書かれています。しかし,建物自体は共同相続ですから,配偶者も所有者です。   そして,例えば組合の場合で,組合の財産を一部の組合員に使わせるとか,あるいは組合と組合,一部の組合員との債権債務関係ですと,組合側はその組合員も含めた合有であるとか,合有的な債権債務という処理になると思うのです。法定の債権だから,別に扱うということはあり得るのかもしれません。ただ,注記のようにするとかえって複雑な話にならないかと思います。むしろ,所有者は配偶者を含めており,共有する財産について,一部の者との間で債権債務関係が立っているという説明をするのではないかと思います。   そうでないと,例えばなんですが,権利が消滅したときに,原状に復する義務を負うとあります。誰に対して負うのかというとそれもはっきりとはしておりませんが,これは所有者ないし債務者との関係でだとすると,配偶者は除かれていいのかという問題がありますし,配偶者が死亡したときの原状回復というのもよく分かりませんけれども,そのときには遺産分割前に生じているわけですから,配偶者の相続人が更に入ってくることになると思うんですが,そういうものは全部除外されることにもなりかねなくて,この法律構成はいささか問題ではなかろうかと思います。説明だけの話かもしれません。   それから,もう少し個別の問題ですけれども,今,既に申し上げましたが,原状回復です。一般的にここの考え方というのは,ある程度の特殊性があるものの,基本的には使用借権を与えるのと変わりはないと。しかし,それが法定で付いてくるということで,それとその前後に相続関係が来るので,そのための特殊性があるということかと思います。   ほかの点は,用法の話ですとか,第三者に対して使用収益させてはいけないとか,終了時に原状回復するとかというのは使用借権と同じだと思うんですけれども,配偶者死亡によって終了したときの原状回復というのは,何を考えたらいいんだろうか。形式的にそういうのが問題になるだけで,実際は何もないということなのか,よく分からないなということがありまして,非常に細かいところですけれども,それが1点あります。   それから,前にも問題になったかもしれませんけれども,占有の喪失が消滅ないし終了の原因になっているという点につきまして,遺産分割まで長期にわたるというようなことも珍しくはないといたしますと,例えば一旦ホームに入居するというような場合もあって,そしてホームへの入居というのは,入ってはみたものの,サービスが違っているとか,思いのほか自分が元気であったとか,いろいろなことで戻ってくるという可能性もあります。そういったときの占有の喪失というのをどう見るのかということですが,意図的にもう自分は要らないというような,そういうような場合だけを指すのであって,取りあえず空き家にしておいて,ほかに移っているというようなことでは占有の喪失にはなお当たらないという理解でよろしいかどうか,中身を確認したいと思っております。   あと幾つかあるのですけれども言ってしまってよろしいですか。 ○大村部会長 まだたくさんありますか。 ○沖野委員 若干あります。 ○大村部会長 どうぞ,続けてください。 ○沖野委員 ありがとうございます。   それから,第三者との関係という点です。第三者としてどういう人を考えたらいいのかというのは,いろいろ出てくるので難しいと思っております。既にいる第三者,具体的には被相続人の関係の抵当権者であるとか,あるいは被相続人の債権者であるとかは分かりやすいと思うんですけれども,相続人の債権者ですとか,あるいは受遺者の債権者などとの関係をどう考えたらいいのかということです。   相続人からの譲受人については記述がございまして,5ページに,まず(5)のイのところで,第三者に当たり,かつ対抗できないという基本的な考え方が出された上で,しかし,占有権原は喪失しないということなので,占有はそのまま主張できると書かれているのですが,これは,第三者に対抗はできないけれども,占有権原は対抗できるという考え方なのか,それとも所詮持ち分であるので,2分の1は配偶者が有しているはずだから,現状を変えることはできないから結果的にそうなるだけだということであるのか。それが,それ以外の相続人側の第三者,例えば相続人の債権者が持ち分を差し押さえてというような場合にはどうなるかといった問題にも関わってきますので,占有権原だけは対抗できるという御趣旨なのか,結果的に持ち分との関係で変えられないだけだということなのかというのを,もう一つ確認したいと思います。   それから,もう1点,第三者の関係では,受遺者の債権者というのが登場するかと思います。また,受遺者からの譲受人というのも登場すると思うのですけれども,そのときに相続人が処分をするような場合には,第三者が登場することによって対抗できないので,そこでこの権利関係というのは失われてしまうというか,主張できなくなると。そうしたときに,では,受遺者から第三者が登場するような場合も同じに考えてよいのか,それとも受遺者については,実質的に明渡猶予期間になるところがありますので,この明渡猶予期間は生きてくるのかどうかというところなのですけれども,あと,敷地の関係がありますが,取りあえずはそこまでです。 ○大村部会長 ありがとうございます。4点ないし5点,御説明いただいたと思いますが,お答えをお願いいたします。 ○堂薗幹事 それでは,まず,3ページの(2)の(注)でございますが,この点に関する御指摘については十分な検討ができておりませんので,御指摘を踏まえて検討したいと思います。   それから,配偶者が死亡した場合の原状回復義務ですけれども,基本的には配偶者の相続人が負担するということを考えております。その場合に,被相続人の相続人と配偶者の相続人が重なる場合もあるんだと思いますが,一致しない場合もありますので,一応その場合には配偶者の相続人が,通常損耗以外の損耗について,原状回復義務を負うという前提でございます。   それから,占有喪失ですね,これを短期居住権の消滅原因としているところでございますが,例えば,建物に荷物を置いたままで施設に移ったというような場合には当然占有はありますので,その場合には短期居住権は消滅しないという前提ですが,完全に空き家にして引っ越したというような場合には,占有自体は喪失することになるのではないかと思います。もちろん,空き家にしても,例えば建物の鍵は自分で持っているとか,そういう事情があれば別なのかもしれませんが,もうここには住まないということで空き家にした場合には,短期居住権は消滅するというのが現時点での整理ということになります。   それから,受遺者の関係ですけれども,この⑧に書いてあるような場合には,本来的には配偶者は無権利になるわけですが,建物を取得した者も基本的には無償で取得したのだから,一定期間は待ってあげてもいいのではないかと,そういった許容性があることを踏まえた規律でございます。そう致しますと,受遺者からの譲受人,あるいは受遺者の債権者については特にそういった事情もありませんので,特に受遺者からの譲受人というのは,基本的には相当価格での買受人も含まれますので,そのような場合にまで短期居住権を主張することができるということは考えておりません。   ですから,ここは,建物の譲受人が受遺者と受贈者である場合に限って,特別に短期間の居住権を認めたという趣旨でございます。 ○大村部会長 もう1点ありましたか,持ち分の問題が。 ○堂薗幹事 それから,占有権原の喪失の理由ですけれども,この5ページで書いているのは,短期居住権が消滅したとしても,持分はありますので,その持分に応じて建物の全部を使用することができると,その限度で占有権原はあるのではないかという趣旨でございます。 ○大村部会長 以上でよろしいですか。 ○沖野委員 はい,今のところ結構です。 ○大村部会長 分かりました。では,その他の方々いかがでございましょうか。 ○石井幹事 手続的なことで確認をさせていただきたいんですけれども,短期居住権の消滅のところで,善管注意違反等の場合は消滅請求というのがございます。これは手続としては遺産分割の手続とは別の手続であって,仮に消滅請求の手続が継続していても,遺産分割のところで決着がついてしまえば,それで短期居住権としては消滅するという整理でよろしいんでしょうか。   今回,全体について解決しなくても,一部,建物の帰すうについてだけでも決着がつけば,その時点で短期居住権は消滅するという御提案ですので,短期居住権が消滅する場面というのは増えるのかなと思うんですけれども,整理としては,今申し上げたようなことで間違いないでしょうか。 ○堂薗幹事 こちらでもそのような整理でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかいかがでございましょうか。御質問,御意見等ございましたら,どうぞお願いいたします。 ○八木委員 後ほどの長期居住権との関係もあるのですけれども,6ページの「(6)消滅事由」の中の,一つは,建物の滅失によって短期居住権が消滅すると。後で長期のところでまた伺おうと思いますけれども。それとともに,再婚ですね。再婚が,一読のときは,消滅事由とすることの当否について検討すべきという意見が出たけれども,今回はそれを採用しなかったと。これは,1年という期間が6か月というふうに短縮されたので,6か月であればそれほど問題はないということで,消滅事由としていないという理解でよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 この6か月というのは,現在の再婚禁止期間と同じになっておりますが,⑧において6か月としたのは,再婚の場合を除外する必要はないというところまで考えたわけではございません。遺産分割が行われる場合には,例えば2年程度掛かることが当然想定されるわけですが,ただ,その場合も,再婚したという一事をもって短期居住権を必ず消滅させなければいけないかというと,そこまでの必要性はないのではないかということで,このような提案をさせていただいておりますが,この点については,再婚を消滅事由とすべきであるという考え方も当然成り立ち得ると思いますので,その辺りについては,この場で御議論いただければと考えております。 ○大村部会長 よろしゅうございますか。   ほかにいかがでございましょう。 ○山本(和)委員 先ほどの第三者との関係のところに戻るんですけれども,5ページのイの一番最後のところで,短期居住権が侵害されて損害賠償ができるという,損害賠償の根拠にもよると思うんですけれども,これは譲渡した場合について書かれていると思うんですが,配偶者の債権者が差押えをして売却されてしまったとか,あるいは配偶者が破産してしまったという場合も,恐らくこの短期居住権が対抗できなくなるのではないかと思うんですけれども,その場合も損害賠償請求というのは発生するというふうに理解していいんでしょうか。 ○堂薗幹事 ここで考えているのは,基本的には他の相続人は配偶者の使用を妨害しないという消極的な義務があるんだろうと,それを前提として,その義務に自ら違反して任意に譲渡した場合ですので,元々,他の相続人が債務を負担していて,それに基づいて譲渡がされた,あるいは換価がされたという場合まで,当然に損害賠償請求が認められるということにはならないのではないかと考えております。 ○山本(和)委員 そうすると,配偶者にとってみれば,勝手に譲り渡したか,差し押さえられたかというのは,あんまり何というか,関係ないというか,いずれにしても,いわば他の相続人の責任で自分が短期居住権を失ったということには変わりはないような気がするんですけれども,やはり任意で譲り渡した場合とそういう差押え等で強制的に譲り渡した場合とでは,かなり違ってくるという。 ○堂薗幹事 今のような事案というのは,短期居住権が成立した時点で他の相続人は既に債務を負っていたということになろうかと思いますので,やはり任意で譲り渡した場合とは違うのではないかと。基本的には短期居住権は,相続人間の内部関係でのみ主張することができ,第三者には効力が及ばないというのが今回の整理ですので,そういった観点からも,その点の違いを説明できるのではないかと思いますが,御指摘の点は,引き続き検討したいと思います。 ○大村部会長 むしろ,損害賠償請求ができる場合もあるであろうということでしょうか,ここで書かれているのは。 ○堂薗幹事 ここで書いたのは,基本的には任意に譲り渡した場合を前提としたものです。 ○大村部会長 そういう場合を中心に,損害賠償ができる場合もあるであろうということだと思いますが。 ○窪田委員 確認だけさせていただけたらと思うんですけれども,任意に持ち分を譲渡した場合に,別途損害賠償請求ができるというのは,何となく感じとしては分かるのですが,根拠は何なんでしょうか。債務不履行という形になるのでしょうか。   それをお聞きしますのは,つまり任意で売却した場合であろうがそうではなく強制執行を受けた場合であっても,客観的には義務が履行されていないという状況は生ずると思いますので,もし債務不履行という観点から損害賠償を認めるのだとすると,両者の区別は本当に可能なのかと考えたからです。一方で,不法行為で特に主観的な要件をここで維持するのであればあり得る区別かもしれないのですが,その場合でもその根拠はそもそも何なのかなというのが少し分からなかったので,教えていただけたらと思います。 ○堂薗幹事 その点は,正に短期居住権が法定の債権なのかどうかというところとも絡んでくるんだろうと思うんですが,この資料では法定の債権という形にしていますので,そういった意味では,債務不履行ということになるのではないかと思います。ただ,短期居住権については,法定の債権という理解のほかに,共有について定めた民法の規定ですと,変更する場合には全員の同意が必要であり,管理の場合には過半数で決するという規律があるわけですが,その規律について特則を設けたという整理も可能ではないかと考えておりまして,仮にそちらの説明を採るのであれば,それは債務不履行というよりは,不法行為ということになるのではないかという気もいたします。ここでの損害賠償の法的根拠については,もう少し詰めて検討したいと考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。解釈論の余地が残るところかと思いますが。 ○山田委員 遺言で遺産分割の禁止の期間を定めました場合,その期間というのは,短期居住権保護の期間に当たると考えてよろしいでしょうか。確認のため伺わせていただきます。 ○堂薗幹事 部会資料⑧の遺言は,基本的には遺言で居住建物の処分が既にされている場合,すなわち,本来ですと居住建物の帰属が確定している場合を考えております。遺産分割を禁止するということであれば,最終的には遺産分割が必要になってくるということだと思いますので,その場合に,この上の方の原則的な規律を適用するのか,この下の方の例外的な規律を適用するのかという辺りは,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。 ○大村部会長 山田委員の御質問は,分割禁止の場合に…… ○山田委員 最長5年の期間禁止できるという規定を遺言で使われた場合,どのように考えたらいいのかということで質問させていただきました。 ○堂薗幹事 確かに,その期間が非常に長いような場合は問題になると思いますので,その辺りは,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。 ○大村部会長 そのほかいかがでございましょうか。   今まで,幾つか御指摘を頂いておりますけれども,当該建物の帰属が確定するまでの間という形で期間を限るということと,それから権利の性質について,債権構成でいって対抗力を認めないということが提案されておりますけれども,それについては,皆様、大筋としてはそれでよろしいという考えでございましょうか。 ○増田委員 確認的な質問なんですけれども,配偶者以外の共同相続人,昭和41年判例とか平成8年判例で居住が認められたのは子の事例だと思うんですが,子などに関してはこの新しい規定は適用されないけれども,従来の判例の解釈がそのまま維持されるという理解でよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 子については,従前の判例がそのまま及んでくるのではないかと考えております。したがって,子については,短期居住権の規律の適用対象外ですが,使用貸借の成立を推認すること等によって一定の限度で保護されるということになるのではないかと考えております。 ○増田委員 それで,実務的には,やはり子が居住継続する場合の方が紛争が起きやすいんだろうということがあるのと,今の相続だと,高齢化社会ですので子も結構な年であることが多いということを考えると,新たな立法の対象を子まで広げたところでどうということはないのではないかと。むしろ,配偶者のみに限定する方が少し奇異な印象を与えるのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 平成8年の判例は特に配偶者に限った話ではありませんので,そこは御指摘のとおりだと思いますが,ただ,他方で,短期居住権を認める根拠として,配偶者の場合には,一般的に配偶者相互で協力・扶助義務を負うことになるのに対しまして,子の場合は,特に既に成人して,自ら経済活動を営んでいるというような場合には,特に親から扶助を受けるという関係にはないという違いがあるように思います。基本的に短期居住権は,婚姻の効力の余後効的なものとして,婚姻が死亡によって消滅した場合にも一定の範囲では居住を認めることには相応の合理性があるのではないかというのを一つの根拠としており,そのような観点から,ここでは,配偶者に限ってこういった規律を設けることとしております。   特に,配偶者というのは,被相続人から見ますと,法律上は最も親しい関係といいますか,基本的に,親等というのは,親族間の親疎遠近の度合いを図るものですが,配偶者というのは1親等ですらないということで,少なくとも法律上は被相続人と最も近い関係にあるというところもございますので,そういった意味で,配偶者に限ってこういった特別の保護をするということにも,一応の理由はあるのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 増田委員,いかがですか,よろしゅうございますか。 ○増田委員 第一読会のときに,婚姻の余後効理論というのが出ていまして,婚姻の余後効の話であれば,内縁などに拡張する話も出ていたかと思うんですが,今回,そのような拡張を否定するのであれば,婚姻の余後効の話はもうないのかなと思っておったんですけれども,それをまだやはり援用しなければいけないのですかね。援用する必要性がちょっとよく分からないんですが……。 ○堂薗幹事 今回の資料でも2ページの(2)の2段落目のところで,前回と違って,同居,協力,扶助義務というのを正面から出してはおりませんけれども,婚姻の余後効というのは根拠の一つになるのではないかという前提で資料は作成しております。また,内縁の配偶者について,法律上の配偶者と正に同じ保護を与えるかどうかというのは,それぞれの規定の趣旨によって変わってくるんだろうと思いますし,法律上の配偶者と内縁の配偶者で取扱いが全く同じだということになりますと,それは現行法が法律婚主義を採っている意味がそもそもなくなってしまうというところもございますので,少なくとも相続の場面では,配偶者と内縁の配偶者においてそういった違いを設けるということにも,一応の説明ができるのではないかと考えているところでございます。 ○水野(紀)委員 その点について私もお伺いしようかと思っておりました。昭和39年10月13日の最高裁の判決は、内縁の配偶者に対して,相続人が所有権に基づいて明渡請求をしたのを権利濫用で封じて,結果的に内縁配偶者の居住権を認めています。この昭和39年の判決と比べますと,今度の法律婚配偶者の居住権はずっと弱くなっている印象を持つのですが,最高裁の従来の内縁配偶者の居住権に対する判例との関係では,今回の提案はどのような御説明になるのでしょうか。 ○堂薗幹事 御指摘の事案で保護された理由は権利濫用ということになりますので,飽くまで一般条項で救済したにすぎないということでございますので,その判例の射程がどこまで及ぶかという問題はあろうかと思いますが,こちらとしては,従前の判例による内縁配偶者の保護よりも短期居住権による保護の方が弱いというようには考えておりません。具体的に,こういった点についてより保護すべきではないかという点がもしあるのであれば,御教示いただければと思います。 ○大村部会長 水野委員,従前より弱くなっているとおっしゃったのは,具体的にはどの部分を指されてですか。 ○水野(紀)委員 この昭和39年の最高裁の判例の理解自体,議論のあるところだとは思います。この判例がどこまで居住権を認めたと考えるのか。今,御説明いただいたとおり,権利濫用という一般条項で,この事案限りという判決を下したという理解ももちろんあり得るでしょう。しかし,この事案限りの特殊判断と言うより、従前は,内縁配偶者であればその居住権を認められる判例理論として理解されることが多かったように思います。   また平成8年判決は,共同相続人間の間でも使用貸借という性質決定で,相当に長く,遺産分割が決着するまではただで住めることを認めております。法律婚の生存配偶者はそれより更に長く住めるという感覚が強かったように思います。私自身は、この御提案自体に反対とまで申し上げるつもりはないのですが,6か月ということになると,従来の感覚よりは保護される範囲がかなり狭くなったと受け止める方がむしろ一般的ではないでしょうか。   従来は,たとえ内縁配偶者であったとしても、そのまま住み続けられて、共同相続人間でも、もめている間はともかくそのまま住ませてあげようという理解で,紛争の決着がつくまではかなり保護されていたのではないか。そういう印象を持っていたものですから。そのこと自体を肯定的に見るべきかというと,また話は別なのですけれども。 ○堂薗幹事 ただいまの点ですけれども,⑧の6か月というのは,飽くまでも遺言で居住建物が遺贈された,あるいは特定の相続人に相続させたという場合を念頭に置いておりまして,遺産分割で建物の帰属が確定するまでの間につきましては,従前どおり,基本的には遺産分割が終了するまで無償で使用できるということでございまして,前回の部会ではその点について,期間の上限を設けるべきではないかという御指摘もあったわけですが,ここではその上限も設けないという考え方に立っておりますので,少なくとも平成8年の判例との関係で,それよりも弱くなっているということはなくて,むしろこの⑧,⑨のところは,平成8年の判例よりも保護の程度が強まっているということになるのではないかと考えているところです。 ○水野(紀)委員 昭和39年の事件では,所有権は完全に原告である明渡しを請求する側にありました。内縁の配偶者で所有権はゼロだった事案に,権利濫用で居住権を結果的には認めたものですので,少し通うものがあるかと思った次第です。 ○増田委員 私もこの案に根本から反対するわけではないのですが,説明の仕方として,相続の方から説明するのであれば,他の共同相続人,例えば子との整合性が問題となり,婚姻の余後効で説明されるのであれば,内縁配偶者との整合性が問題になるのではないかという疑問を呈した次第です。   それから,もう一つ,細かい質問で恐縮なんですけれども,⑧のケースで6か月間無償ということになっていますが,この場合と配偶者が遺留分減殺請求権を行使して一部を取得した場合との整合性の話なんですが,⑧の場合は権利者対無権利者の関係にあるのにもかかわらず,6か月間は無償であるということであるのに,遺留分減殺請求権を行使して一部持分を取得してしまうと,権利者であるにもかかわらず,自分以外の持分に対しては賃料を払わなければならないのではないかという疑問が生じるのですが,その辺りの整合性はいかがなんでしょうか。 ○堂薗幹事 ただいまのは,配偶者が受遺者に対して遺留分減殺請求をした場合という理解でよろしいですか。   その場合につきましては,当然,受遺者の持ち分については,引き続き⑧の規律によって,6か月間は無償で建物を使用できると。したがって,一部共有持ち分を取得したからといって,⑧の規律の適用対象外になるわけではないというのが,こちらの整理でございます。   したがいまして,自分が取得した持ち分については無償で使用できるのは当たり前ですので,御指摘のような遺留分減殺請求権が行使された場合であっても,なお6か月間については無償で建物を使用することができるというのが,こちらの整理ということでございます。 ○窪田委員 一つ前の話に戻ってしまうのかもしれませんが,増田委員からの御指摘,あるいは水野委員からの御指摘もありましたが,私自身は,このような規律を配偶者に関する規律として置くということについては,一定の説明は可能なのではないかと思っています。内縁について明示するかどうかというのは,解釈論に委ねるという方法もあると思います。平成8年の判決の関係で,子供の場合にも広げるべきかどうかという問題になると,子供でたまたま同居していた者には短期居住権という権利が与えられ,そうでない者には与えられないということを,上手に説明するのはかなり難しいのかもしれません。ただ,配偶者については,一定の法的地位にある者という観点から,この規定を説明することはできるのかもしれない,積極的にそうしなければいけないということではないですが,理解することはできるのかなと思っています。   ただ,その上で若干気になる部分というのは,あるいは増田委員の御質問の背景にもそれがあったのではないかと思いますし,また,水野委員の御意見の中にもそれがあったのではないかと思うのですが,従前の判例法理との関係というのが必ずしも明確ではないような気がいたします。   多くの人は,この規定を見たときに,従来,使用貸借の判例があったけれども,そうした判例をこの規定に置き換えるのだと理解する可能性がありそうです。そうだとした場合,従前は別に配偶者に限っていなかったのに,そうした可能性が排除されて,配偶者だけの権利になってしまった。こういう見方をすると,従前の法律関係より大変に限定的なものになったということになるのだろうと思います。   もちろん,今日の御説明の中でも,従前の判例は生きているということではあったのですが,もしそれが生きているということであるならば,こうした配偶者についての居住権,短期居住権の規定を作る以上,従来,判例でほぼ確立した形で実現されている使用貸借について,何か明示的なルールにすることはできないのか,そして,明示的なルールにした上で,それと短期居住権との関係を明確に説明した方がいいのではないかなという気がします。私自身はこうした方向はあり得るのだろうと思うのですが,その点を御検討いただけたら有り難いと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでございましょうか。   皆様の方からは,今,窪田委員が直前におっしゃいましたけれども,従前の判例との関係について,何か書き込むかどうかは別にして,一定の整理が必要であろうということ、それから,第三者が現れたときの後始末について,解釈論に委ねるべき問題点もあると思いますけれども,その辺りについての整理が更に必要ではないかということが指摘されたかと思いますけれども,全体としてはおおむねこのような方向で検討を進めるということについて,御賛同を頂いたと理解しておりますが,そのような整理で先に進ませていただいてよろしゅうございますでしょうか。   ありがとうございます。   それでは,引き続きまして第2の点に進みたいと思います。6ページ以下でございます。   資料の第2で「配偶者の居住権を長期的に保護するための方策」,この部分につきまして事務当局から御説明を頂きます。 ○大塚関係官 同様に簡潔に御説明申し上げます。   7ページの「(補足説明)」に早速入りますが,制度の必要性についてでございます。   一読の議論におきましては,現行法の下でも賃借権の設定などが可能であるとして,制度の必要性自体に疑問が呈されたところではございます。ですが,現行法上,建物を目的とする用益物件は存在しませんので,建物所有権をその用益物件とその余の部分に分割するということはできないことになろうかと存じます。   また,現行法の下では,例えば配偶者の一方が他方の配偶者の居住権を保護しながら,他方の配偶者の死亡後には確実に自分の子がその建物を相続できるようにしたいと考えても,遺言によってこれを実現するというのは困難と考えられます。   したがいまして,長期居住権は,配偶者の居住建物の所有権を,使用権に関する部分とそのような部分とに分割するのに必要な受皿となる権利を新たに創設することを目的とするものとこちらでは位置付けておるところでございます。   次に,個別の論点に移りたいと思いますが,「法的性質等」でございます。   長期居住権につきましては,その存続期間が長期に及ぶということが想定されますので,その保護のためには,端的に第三者対抗力を付与するのが相当と,現時点で整理しているところでございます。   また,今回の方策におきましては,建物所有者には配偶者の使用を受忍する義務以外には特段の義務を負わせないといったことを想定しておるところでございます。   これらの点を踏まえますと,長期居住権の法的性質につきましては,用益物権と構成することを想定している次第でございます。   次に,「取得要件」など,(3)でございますが,9ページ目の冒頭からとなります。   部会資料2におきましては,遺産分割などといった発生原因事実以外の要件としては,配偶者が相続開始のときに被相続人所有の建物に居住していたことのみを上げておったところでございますが,一読の議論におきましては,居住要件を必須の要件とする必然性はなく,むしろその他の保護要件を設けるべきではないかといった指摘などがされたところでございました。   この取得要件をどのように定めるかというのは,制度趣旨とも絡むところですが,この点につきまして,例えば配偶者の現在の居住利益の維持に重点を置くということでありましたらば,この居住要件以外の要件は設けないとすることは考えられます。ただ,このような考え方によりますと,相続人である配偶者が比較的若年であるといった場合には,長期間にわたる継続が見込まれますので,建物の流通が阻害されることになるとの指摘もされたところでございます。   長期居住権の制度は元々,高齢の配偶者が新たに居住建物を借りることに困難が伴うことなどを考慮したものでございまして,その点を強調いたしました場合には,いわゆる高齢者住まい法などと同様に考え,相続人である配偶者について,例えば60歳以上といった年齢要件を設けることが考えられるところでございます。その場合には,この年齢要件と居住要件の両方を要求することとするのか,あるいは居住要件は不要として年齢要件のみとするのかといった点についての検討が必要と考えられるところでございます。   さらには,9ページの一番下でございますが,(注3)として,例えば被相続人との婚姻期間が一定期間(例えば10年)以上継続したこと等の要件を加重するといったところも,一つの選択肢として考えられるところではございます。   続いて,(4)の「長期居住権の効力等」についてですが,この方策におきましては,後ろの財産評価のところで出てくる二つの方式のことを指しますけれども,配偶者が長期居住権を相続分による全額前払いで取得する方式と,存続期間中に対価を支払い続ける方式のいずれも許容することを想定しております。これは,配偶者の希望に応じた柔軟な権利の設定を可能にする趣旨でありますが,ただ,対価を払い続けるといった後者の方式での使用権限の設定を認め,かつ遺言においてもこれをできるとした場合には,私的自治との関係で問題がないか,慎重な検討が必要であろうと考えられるところでございます。   今触れました財産評価の話に移らせていただければと思いますが,11ページの下の方の(5)でございます。   計算式自体は,前回触れさせていただいたところと大筋変わるものではございませんが,以下二つの方式を想定しているところでございます。   ㋐が(全額前払方式)として,要は最初に支払ってしまった上で,後ほどの対価は支払わないという形式,この場合はこのような計算式での評価が想定されるところでございます。詳しい計算につきましては,今後も検討が必要とは存じますが,例えばこのような方式が考えられるところでございます。   次頁の㋑,これは「賃料支払方式」と記載しておりますように,存続期間中に建物使用の対価を支払い続けるという場合でございます。この場合は,例えば遺産分割のときに相続財産に賃借権が含まれる場合と類似した方法で財産評価を行うことが想定されるところでございます。   続きまして,(6)の「長期居住権の優先取得を認めるかどうか」というところでございます。   一読の議論におきましては,仮に優先権を認めるとした場合には,遺産分割に関する紛争の柔軟な解決を阻害するのではないかといった指摘などがされまして,優先権を認めることについて否定的な意見が多かったところでございます。   そこで,今回の資料におきましては,配偶者に長期居住権の優先取得権までは認めないという内容にいたしております。   次に,(7)の「第三者との関係について」でございます。   先ほど申し上げたとおり,第三者対抗力を認めるということにしましたので,例えばアの「建物所有者との関係」におきましては,対抗要件を具備している限りは,譲受人に対しても配偶者は長期居住権を対抗することができるということになろうかと存じます。   次に,13ページの「抵当権者との関係」につきましても,要は登記の先後で優劣が決せられるということになろうかと存じます。   長期居住権につきましては以上でございますが,続いて,第3の「賃貸物件である場合の保護方策」についても,併せて若干御説明申し上げたく思います。   この点につきましては,一読の議論におきまして,何らかの措置を講ずることを積極的に検討すべきとの指摘もされたところではございますが,他方で,あえて特段の措置を講ずる必要はないという指摘もそれなりに多かったところでございます。   そこで,当方としてももう一度検討したところでございますが,この点につきましては,先ほどの長期居住権で優先取得権を認めないとしたことなども踏まえまして,基本的に現行法の規律を維持するのが相当ではないかと考えておるところでございます。その点につきましても,併せて御意見を賜れればと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第3の,配偶者の居住建物が賃貸物件である場合も含めて御説明を頂きましたので,それも含めまして,御質問ないし御意見を頂戴できればと思います。 ○浅田委員 9ページ辺りですけれども,長期居住権を設定する際に関してというのを意見として申し上げるのが一つと,それから御質問が一つございます。   部会資料9ページ3段目に,「建物の流通が阻害されることになるとの指摘」ということが書いてございますけれども,その同様の認識を申し上げたいと存じます。   これは,第2回の会議でも申し上げたことでございますけれども,長期居住権が第三者対抗力を有するとなると,相続債権者としては対抗力を備えた長期居住権の出現により,回収期待が阻害されることを念頭に置いて行動することになろうかと思います。債権者は,遺言の内容はもちろん,遺言分割協議の行方も把握できませんから,ある意味,疑心暗鬼に駆られてしまいます。   そこで,仮にここで議論されているような長期居住権が強固,かつ長期な権利として立法された場合には,極端な話,相続が開始する前に,取りあえず仮差押えを行うという行動に出ざるを得ないということもあり得るのではないかと思います。   また,長期居住権は,当該配偶者の死亡により消滅するということですから,その存続期間を予測することは困難です。そうしますと,当該建物について,長期居住権に劣後する抵当権の設定を受けた債権者としては,いつ長期居住権が消滅するか判断し難いため,その担保評価は保守的なものにならざるを得ないと思われます。   もっとも,この点,現行法でも,抵当権に優先する賃借権がある場合と同じではないかという,そういう整理もされているかとは思います。ただし,繰り返しになりますけれども,本長期居住権が不相当に強固であれば,不動産を活用した金融の促進円滑化という観点から,ネガティブな要因があることは否定できない点を,念のために指摘しておきたいと思います。特に,私が思いますに,賃料が生じないようなタイプの不動産が出てくることになり,配偶者が固定資産税の負担だけするということになるとすると,その流通というのがどうなのかということは,ちょっと問題になるかと思います。   したがって,本長期居住権の強度,すなわちその具体的な内容,要件の設計が重要になると思います。この点,部会資料9ページの中ほど,とりわけ(注2)・(注3)等において,配偶者の保護とのバランスを考慮した検討がなされております。この内容で妥当,十分であるのかということについては,現時点では銀行界としての結論はまだ出ておりませんけれども,この点につきましては,何とぞよくご検討を深めていただければと存じます。   それから,質問ですけれども,これも確認ということになるかと思いますけれども,抵当権に基づく物上代位の賃料差押えができるかどうかということであります。とりわけ全額前払方式ですか,11ページの下の(5)のアで書かれているようなものである場合には,これはもう賃料の前払いがされているということでありますので,現行の判例に鑑みますと,差押え前にもう払い渡しがされているということになってしまいますので,これはもう賃料差押えもできなくなってしまうということになろうかと思いますけれども,念のために,賃料差押えの件について御検討があれば教えていただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   第1点は,この問題について考える際の一般的な留意事項を御指摘いただいたものと伺いました。   第2点については,事務当局の方からお答えいただきます。 ○堂薗幹事 建物の抵当権に基づく物上代位の点でございますが,御指摘のとおり,全額前払方式の場合には,既に差押え等は不可能な状態にありますので,物上代位はできないということになろうかと思いますが,賃料を支払う方式の場合につきましては,債務不履行があれば抵当不動産の果実にも抵当権の効力が及ぶことになりますので,賃貸借契約がある場合と同様に,長期居住権の対価についても物上代位は可能ということになると思います。 ○浅田委員 ありがとうございました。   部会長がおっしゃったとおり,現時点で賛成とか反対とか,意見を陳述するものではございませんので,あくまでも検討における一般論というのを前段で述べさせていただいた次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでございましょうか。 ○南部委員 ありがとうございます。   まず,7ページの「長期居住権の制度を設ける必要性について」ですが,この間,私の方から,この議論の中で,より複雑にならないようにということで,何度も申し上げてまいりました。   この7ページの最後の方の3行に書かれています「例えば」の箇所ですが,ここで挙げられているような問題は,そもそも普通の親子関係であれば起こり得る可能性が低いかなと考えております。遺言を書く側からすれば,選択できる手段の一つとして有効な面もあるかも分かりませんが,一方で,やはり問題を複雑化することの懸念もかなりしております。今回,長期の制度を設けるか,設けないかはこれからの検討になっていくかと思いますが,一度設けてしまうと,また戻るということはできないということになりますので,是非,専門家の先生方の方で慎重な御議論をしていただいて,より私たち一般の者が使いやすいものになるようにしていただきたいと思っております。   特に,長期のメリットが,私がこの議論に入ってから余りよく見えないというのもございますので,そういった点も具体的に御議論いただけたらと思います。これは要望です。   もう一つ,9ページでございます。9ページの配偶者の年齢要件についてですが,父親が高齢で例えば再婚した場合,義理の母が子供などほかの相続者と年齢が余り変わらない例も,40歳の差などいろいろなケースが最近見受けられます。そういった場合に配偶者の長期居住権の優先取得を認めてしまうと,他の相続権との関係が逆に公平性に欠ける可能性があると考えますので,長期制度を設ける場合には,更に検討を深めていただきたいということで要望を申し上げたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   何かお答えがあれば。 ○堂薗幹事 その点については,御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。   今,これを設けるとすると,要件の方で一定の枠を掛ける必要があるのではないかという発言が複数ございましたけれども,その点,あるいは他の点についてでも結構ですので,御発言を頂ければと思います。 ○村田委員 今,要件について慎重な検討をという御発言が続いたので,それと関連する趣旨で申し上げたいんですけれども,9ページの一番下の(注3)のところでは,保護の必要性を基礎付ける要件として,婚姻が一定期間継続したことを要件とすることも考えられるという御指摘があります。政策的に長期居住権をつくろうということですので,そういう要件を設定するということはあり得ると思うんですけれども,他方で,この要件に関して,婚姻期間の実質が争われるということは容易に想定されます。このように要件が実質判断を含むものになると,紛争が非常に難しいものになるということもあり得て,実務において困るという事態も生じ得るかなと思います。   そういう意味では,居住要件ですとか,年齢要件ですとか,そういう明確な,客観的に判断できるもので要件が設定される分には基本的に問題はございませんけれども,実質判断を要し,紛争を招くことになるような要件の設定は避けていただきたいなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承って,検討をしていただきたいと思います。   ほかにはいかかでございましょうか。 ○増田委員 前回,第一読会のときには,この長期居住権というのは,審判により賃借権を設定できるか,できないかという論点において,解釈論としてはできないという考え方もあり得るということから,ほかに方法がない場合のぎりぎりのオプションとしての選択ということで検討を進めるという理解をしていたのですが,今回,用益物権というかなり重い形で登場したように思いますので,改めて少し意見を述べさせていただきたいと思います。   まず一つは,本当に生存配偶者の利益になるのかどうかということです。これは,換価性がない権利を取得するということになって,本来であれば,少なくともその不動産の2分の1の価値は換価処分できる形で取得する権利を持っているのにもかかわらず,実際に取得するのが,単に住んでいることができるだけで,換価性のない権利であるということによる問題です。   以前にも指摘しましたが,これでは後に状況が変わったときに,売却して,便利なマンションや,小さい家へ移るとか,あるいは施設に入るとかということもできなくなる。あるいは増改築とか,用途変更とか,そういうのも困難になるということで,本当に配偶者の保護になるのかというところから,まず疑問を呈したいと思います。   それから,先ほど浅田委員も指摘されたところですが,対象不動産について,継続的な利用対価の支払いがない不動産であり,しかも存続期間が不確定という用益物権が付いているという物件は,資産価値が著しく低いものと考えざるを得ないということです。そうなれば,資産の流動性を阻害するし,所有者が何かの資金が必要になったときにも資金の調達ができない,これを担保にしてお金を借りるということも非常に難しいということになります。これは,社会経済的にも大きな損失だろうと考えられます。   それから,相続債権者の方から見ると,配偶者は債務の2分の1を相続することになるんですが,その配偶者が換価性のない資産を保有することになってしまうことになります。これは,相続債権者にとっては,実質的に詐害されることになると考えます。配偶者が取得する資産の実価が総財産の2分の1にならないということは,相続する負債とのバランスがとれないことになります。   相続関係を取り巻く関係者の資産状態だとか,健康状態や社会経済情勢だとかいろいろな要因を含めた環境が,相続開始から生存配偶者の死亡まで変わらないということが前提であれば,それぞれリスク計算が可能になってくるわけですけれども,実際には,仮に配偶者が60歳であったとしても,地上権の残存期間は20年ぐらい想定できるわけで,誰も20年後の社会環境は想定できないわけですから,誰にとってもやはりリスクが大きすぎる制度であろうと思います。   第一読会のときも出ていましたけれども,配偶者の居住を確保するという方法としては,通常は配偶者が居住不動産の所有権を取得させるとか,あるいは持分を幾らかでも取得させるとかというような方法が使われており,圧倒的多数はそれで解決しているわけです。代償金支払能力がないというときには,今はリバースモーゲージ,要するにお金を借りて死亡したときに,不動産を売って返すといった商品もありますし,ほかにも工夫すれば,もうちょっと不動産の価値を活用できるような方法も考えられるだろうと思います。   第一読会で出ましたように,ぎりぎりのオプションとして問題になるのであれば,民法ではなくて,家事法195条の一類型として,裁判所が審判でなし得る分割方法の一つとして,賃借権を設定するという方法を明文化するという方法もあり得るのではないか。家事法194条は換価処分を可能にしていますから,強制的に所有権を奪う換価が可能である以上は,所有権に制限を加えるという,それより小さい処分を立法化するということも不可能ではないのではないかと考えます。その辺りも含めて御検討いただきたいと思いまして,用益物権というような効力が強い割には価値が低いようなものを持たせるという方向は疑問です。   それから,ついでですが,⑨の任意処分は,多分配偶者の保護ではないだろうと思います。配偶者の保護をするのであれば,居住権なんか取得させずに,所有権若しくは持分を取得させるのが一般的であろうかと思います。   任意処分にしても,先ほどから申し上げているように,財産全体の価値を下落させるような処分というのを許すのかどうかという問題がありますし,遺留分の計算においても結構難しいことになります。また,居住権の評価が高く出るようなことになれば,生存配偶者にかえって不利益な結果になることもあるかもしれません。   以上,いろいろ問題点を申し上げましたけれども,やはり長期の方は,今までにない制度を正面から作るということですから,多方面からの検討が必要だと考えます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   1点確認ですけれども,増田委員がおっしゃった個々の問題の御指摘はそれぞれあり得ることなのかと思いますけれども,用益物権であるか,賃借権であるかということについてですが,増田委員が想定されている賃借権というのは,期間が定まった,死亡によって消滅するのではない賃借権を想定されているという理解でよろしいでしょうか。 ○増田委員 そう考えています。ある程度,やはり配偶者の保護に必要な期間と,通常考えられるような一定の期間です。更新は,当事者の合意によってはあり得ることが前提です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは。 ○堂薗幹事 御指摘につきましては,いずれも根本的な問題だろうとは思っております。資産の流動性の点につきましては,御指摘のような問題はあるだろうと思いますので,その点は,配偶者の居住権保護と不動産の流動性の問題の調和をどこで図るかという問題であり,正に長期居住権を認めるための要件をどのように定めるかという点と関連する問題だろうと思いますので,十分な検討をしていきたいと思います。この点についても何か御意見がございましたら,是非教えていただければと思います。   それから,換価性のない物件を取得させることが配偶者の保護になるのかという点でございますが,ここで考えているのは,飽くまでも一部そういった需要があるのではないかと。一般的に相続の場面で,こういった形で換価性のない用益物権を取得させることが配偶者の保護になるのかどうかというのは,別途問題になろうかと思いますが,ただ,一部の方においては,居住建物を換価するつもりはなく,非常に高齢で,短期間に限って居住権だけは確保したいという需要がある場合に,現行法ですと,その需要に応えることが難しいと。そこで,そういった限定されたニーズに対応できるような制度があってもいいのではないかということでございますので,そこは,一般的に配偶者の保護になるかどうかという問題とは別問題ではないかと。   ですから,⑨のところも同じような話でございますが,取りあえず配偶者の居住権を確保しつつ,最終的には自分の子供に建物の所有権を取得させたいという一定のニーズがあって,そのニーズに応えるものとして,こういった制度があってもいいのではないかということでございますので,一般的に相続の場面で使われるようなものとして考えているというわけではございません。   それから,家事事件手続法の194条との関係についても御指摘がございましたが,この点につきましても,家事事件手続法上は,特別な事情がある場合に債務負担をさせることができるということになっているわけですが,ここでいう特別の事情というのは,通常は債務を負担する相続人に現在資力があるというのが前提になっているんだろうと思います。しかし,賃貸借のような形で長期にわたって配偶者が他の相続人に支払をするという場合につきましては,配偶者の資力というのは非常に長期間にわたって問題になりますので,そういった意味で,194条の適用場面とは異なり,例えば10年後に資力不足に陥った場合に,他の相続人に求償できるようにするのかどうかとか,そういった問題も生じてきますので,なかなか家事事件手続法の194条のような形でこの問題を解決するというのも,難しい面はあるのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかに御発言ございませんでしょうか。 ○金澄幹事 すみません。質問なんですけれども,11ページのところの配偶者の居住期間の財産的評価のところなんですけれども,これが,まず評価が非常に難しいだろうと思います。現実の調停なり審判なりというときも,どうやって評価をするのかというところが問題になってくると思います。借地権以上に借家権は個性が強いですし,評価が難しいと言われているので,これをどういうふうにきちんと評価をすることができるのか,調停や審判の中でも問題がありますとともに,それを,では遺言で書くときに,一体遺言を書く人が評価を考えて書くことができるのかどうかという問題がまた出てくるかと思います。そのために,鑑定とかいろいろなことが必要になって,結局,これが遺言でできるのかというところの問題が一つです。   あとは,この長期居住権の評価が,配偶者の相続分を超える場合というのも,また長期の場合だと出てくるのではないかと思います。例えば,60歳であれば,平均余命までに三十何年か女性の場合でしたらありますので,月々10万の家賃と考えても,120万の3,600万ぐらいになるんだろうと思いますけれども,中間利息を控除したとしても,今度,債権法の改正で利率が下がれば,もうちょっと中間控除の額が減るかとは思いますけれども,そんなことを考えると,配偶者の相続分を超えたときにどうなるのか,遺留分減殺をされたときとかなんか,いろいろなことを考えると,なかなかそこら辺が難しいのかなと思っているところです。   あとは,10ページの配偶者の負担についてですが、通常の必要費とか臨時費については,これは配偶者が負担をするということになっているんですが,全額前払方式とか賃料支払方式ということになると,有償で結局は借りているわけです。にもかかわらず、その場でその場で必要費や臨時費を払うことになっているので,通常の賃貸借に比べると,やはり配偶者の負担が重いのではないのかという気がするんですけれども,いかがでしょうかというところです。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 長期居住権の財産評価をどうするかというのは非常に難しい問題だとこちらでも思っておりまして,この点については,別の機会に,不動産鑑定士のような専門家にも入っていただいて,財産評価が適切にできるのかという辺りの検証をした上で,それをこの部会にもお諮りしたいと考えております。   それから,相続分を超える場合の処理ですが,長期居住権は配偶者の具体的相続分の範囲内でのみ取得可能という整理ですので,配偶者の具体的相続分が長期居住権の財産評価を超えるような場合には,そもそも長期居住権は取得できないという前提で制度設計をしております。   いずれにしても,御指摘のとおり,長期居住権については,最初の段階で自分の具体的相続分の中で賃料相当分を支払いをするのか,あるいは遺産分割後に払い続けていくのかと,いずれにしても有償の義務を負担しているというのは御指摘のとおりですので,この必要費--建物所有者からしますと,自分は全然使えないのに通常の必要費まで負担しなければいけないということだと,非常に建物所有者の負担が重くなりますので,ここはやむを得ないかなと思いますが,臨時の必要費,非常の必要費ですね。これにつきましては,ほかの考え方もあり得るのかなとは思います。ただ,ここでは一応,地上権と同じように用益物権ということで考えておりますので,地上権と同じように,基本的には所有者に対して所有に適する状態に置くように求めることはできないという前提で制度設計はしておりますので,そういった意味で,必要費については通常のものであっても臨時のものであっても,配偶者の負担という前提で考えているところでございます。 ○大村部会長 遺言を使うのは難しいのではないかと御質問もありましたが。 ○堂薗幹事 ああ,そうですね。その点も,具体的にこの財産評価をどうするのかというところ次第だと思いますが,いずれにしても,遺言の場合には,長期居住権の財産的評価はおおむねこのぐらいだろうという予測の下に遺言をするというのは,難しい面があるように思います。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○金澄幹事 制度に反対するわけではないのですが、オプション等の一つとして使いたいと希望している人,特に後継ぎ遺贈がなかなか論理的にも難しいという中で,こういう選択肢があっていいのかなとは思います。一般的に,では例えば今お話ししたように,遺言でやるとなると,ちょっと荷が重いのかなという気はしております。   あと,先ほど,相続分を超えることがある場合は,もうこれは設定できないということでしたが,水野先生にもちょっとお伺いしたいんですけれども,フランス法だと,こういう場合は別に,設定を認めるというような法律もあるようで,何かもうちょっとこれを工夫して,うまく使えるような,身軽でいながらフレキシビリティがあるような制度に何とかできないものかなという,お知恵を頂ければと思っています。 ○大村部会長 水野委員,何かございますでしょうか。 ○水野(紀)委員 恐らくモデルにされているものと従来の日本法との体系があまりにも違うことが,一番悩ましいゆえんなのだろうと思います。今の御発言にありましたように,後継ぎ遺贈とか順次相続とかいうもののニーズを,フランス法の場合には実質的にはある程度実現しています。一番伝統的には、用益権の利用です。生存配偶者に広い用益権を与えて,生存配偶者の老後の生活を守った上で,その底地価格としての所有権が血族相続人のところへ行く。つまり,生存配偶者の死後、用益権がなくなるだけで、遺産は生存配偶者の血族の方には流れていかない形でこの問題を処理してきました。そういうひとつの伝統的な発想が7ページの下の方のところには流れ込んできています。   それから,第三者との関係でも,先ほど浅田委員からも,現行業務への弊害がいろいろあるという御発言がありましたけれども,フランスの場合には家族の居住財産というものは,家族がそこに住んでいるというだけでかなりほかの不動産とは違う保護があります。子供たちを育てるための環境を守るなどの配慮から,家族の居住財産そのものが,そこに家族が住んでいるということだけで,債権者たちに対してかなりの力を持つような全体の制度設計になっております。そしてそれらの背景には、不動産登記はすべて公証人が管轄するという制度的担保があります。私人の自由な登記申請に任せてきた日本の従来の不動産業務の流れとは、相当に根本的に違っていると思います。そういう非常に大きな全体の相違の下で,それでも何とかこの制度を入れようと,事務方の方で御苦労なさったのですが、それに対して,日本の制度設計というのはそういうことになっていないという,実務全体からの様々な御批判があるのだと思います。   ただ,そもそものこの審議会が開かれることになった経緯の最初は,非嫡出子の相続分が増えた場合の危惧,つまり嫡出子であれば自分たちの意思によって,自分の親である生存配偶者を老後,最期まで居住家屋にそのまま住ませる形で遺産分割するか,あるいは遺産分割を先送りするか,おそらくそういう形で進めるだろうけれども,非嫡出子は直ちに自分の持ち分を要求することになるだろうという問題でした。非嫡出子に限らず、前婚の嫡出子がいた場合も同じ問題を抱えていますけれど、そういう場合は、配偶者は自分の老後をその家屋に住み続けたいと思ったとしても,それがかなわない、つまり僅かな年金とその家屋の自分の相続分しかない生存配偶者は,その家屋を売ることによって遺産分割せざるを得ないという問題があります。この問題を何とかしようというのが,そもそものこの相続法見直しのきっかけであったことを考えますと,やはり大変な御苦労があることは分かるのですが,何とか配偶者の長期居住権の制度を,何らかの形で日本法の中にも入れていただければと思います。   そのときに,従来の銀行業務であるとか,先ほど増田委員から御議論もありましたように,遺留分の減殺請求によって共有持ち分になるという従来の論理などとの均衡を考えなくてはならないということで,大変な御苦労があることは分かります。御苦労の多いこのような御提案について,私は感謝しておりますし,何とかこの方向で頑張っていっていただきたいと思っております。   ただ,先ほど申しましたように,従来の伝統にない制度を入れようとしておりますので,それが従来の日本の不動産についての実務全体とあちこちで齟齬を起こしてしまうということは,これはもう間違いのないことだと思います。それでも,不動産実務を扱っておられる方々に,そういう問題を解決しようという工夫なのだということで,むしろお知恵を拝借する形で,全体の整合性の中でなんとかとり組んでいただければ有り難く存じます。 ○大村部会長 ありがとうございました。御意見として承りました。   そのほかいかがでございましょうか。 ○石井幹事 既に御意見として出ているところと重複する部分もございますけれども,長期居住権の財産評価が非常に難しいという点は一読でも申し上げたとおりであり,鑑定を要するなどして審理が長期化しないか懸念しております。また,今日の御議論を伺っていると,そもそも当事者の方が長期居住権の取得を希望されないこともあるのかなと思います。こうしたことからすると,仮に,審判において,長期居住権を設定するということになったとしても,うまく使えるのかということについては懸念があるところでございます。   他方,調停であれば,合意の中で長期居住権を柔軟に取り込む形で活用できる余地はあるのかなとも思います。もっとも,この点は,長期居住権の財産評価の方法についてどのような規律を設けるかにも関わってくるように思います。この点については,不動産鑑定士の方にも入っていただいて,別途御検討いただけるということであって,明確な評価の方法が確立されれば,それは実務的に非常にありがたいなと思うんですけれども,他方,余りかちっとされてしまうと,かえって柔軟な使い方ができなくなるおそれもあるのかなと思います。現時点で,この点に関して,事務局の方でお考えになっていることがあれば,伺えればと思っております。 ○堂薗幹事 その点につきましては,適切な財産評価が可能なのかどうかというところで,専門家のお知恵を拝借して検討していきたいということでございまして,法制度上,何らかの形でその結果を反映させるというところまでは考えておりません。 ○大村部会長 石井幹事,よろしいでしょうか。 ○石井幹事 資料の記載についての確認なんですけれども,例えば12ページの上の方の(注)の中で,「このような事態が生じないようにするためには,長期居住権の評価額を算定する際に前記リスクを考慮しないこととすることが考えられるが」という記載があります。これは,飽くまでこうした考え方に従って財産評価を行うという限度の意味ということでしょうか。 ○堂薗幹事 ええ,ここはそういう理解でございまして,一読の議論で,長期居住権の場合には不確定要素があるので,そのリスクを考慮した上で財産評価をすることになるのではないかという御指摘がありましたので,その点についてこちらでも検討したんですけれども,ここに書いてあるような問題があるので,なかなかその点のリスクを評価してというのは難しいのではないかと思います。したがいまして,この点について法律上規定を設けるということは考えておりません。 ○村田委員 今の石井幹事の質問と同じところをお聞きしようかと思ったところだったんですけれども,今の御説明を聞くと,長期居住権の財産評価に当たっては,長期居住権について市場価値のようなものが一般的に成立し得るという想定で,それを不動産鑑定などによってどのように算定するかという辺りについて,専門の方の御意見を聴くというようなことをお考えになっているんでしょうか。   規定を設けられるかどうかは別として,財産評価の方法をある種法定してしまうというのは,一つの考え方であると思うんですけれども,他方で,健全な市場形成に委ねるという考え方もあり得ると思うんですね。それらの考え方の間に何か考慮事項を明記するとか,いろいろなやり方は立法の仕方としてはあり得ると思うんですけれども,現時点で,どのぐらいのことまでイメージしておられるのかお聞きしたかったんですけれども。 ○堂薗幹事 御指摘の点は,今後具体的に考えなければいけないと思っておりますが,基本的には,審判でやる場合には鑑定をお願いして,鑑定でどんな評価をするかということになるかと思いますが,そもそも財産評価が鑑定において可能なのかどうかという辺りを含めて検討する必要があると思います。長期居住権の場合は,基本的には一身専属的な権利と考えておりますので,基本的にはその評価をする際には,配偶者が取得する居住利益をどのように財産評価するのかというところに尽きてしまうのかなと思いますので,市場価格でということになるのかどうか,こちらもよく分からないところはありますが,そういった辺りについてもう少し検討を深めていきたいと考えているところでございます。 ○村田委員 仮に不動産鑑定士の方などの御意見を頂くのであれば,どういう前提条件で御意見を頂くかということが多分大事になってくるのかなと思います。単に市場に流通している建物賃借権の価格を一旦出して,それを前提にこういう計算をしろということであれば,多分そう難なくできるんだろうと思うんですけれども,そうではなくて,長期居住権なるものが将来できるとして,それが市場に流通したらいくらと評価できますかというような形で御意見を頂くということになると,なかなか難しい要素が出てくるのかなという気もしております。御意見を頂く際の前提条件をどのように設定するかについては,いろいろなパターンを考えて御意見をお聴きする必要もあるように思いましたので,その点,指摘させていただきます。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて,検討したいと思います。 ○上西委員 一身専属的であるか否か、用益物権であるか否かといった考え方のほか、相続開始時点における建物の評価額を上回ることがあるのかというと,通常はないと考えます。多くのもめない事案を想定すると,相続開始時点における時価は,固定資産税の評価額がそのメルクマールになるかと思います。その評価額の100%とか80%を上限にするということが可能であるとすれば,遺言を書くときであれ,当事者で分割協議するときであれ、その上限額が参考になります。しかし、全てこういう算式で行うと,かえってもめる事例も発生するかもしれませんので、原則としつつも,当事者が別の価格による場合については差し支えないという,実務上ののり代を置いておいていただく必要があると考えます。 ○堂薗幹事 その点につきましては,御指摘のとおり,当事者間の協議で行う場合には当事者間で評価額について合意がされれば,それを前提に遺産の分配をして問題ないと思いますので,御指摘のような形になるのではないかと考えております。 ○沖野委員 ありがとうございます。第2の方策全般については,基本的には選択肢を増やすというのが基本になる観点ですので,多くの場合これでいきましょうということではなくて,現行法ではなかなかできない,ひょっとしたらニッチかもしれませんけれども,そこの部分を何とか対応できないかという制度として考えるというわけですので,そのような選択肢を一つ用意するというのは,結果的に余り使われず,低調であるということであったとしてもよろしいのではないかというふうに考えております。ただ,それだけのコストを掛けていろいろな調整が十分にできるかという問題はあるかとは思うんですけれども,基本的な姿勢としては,選択肢を一つ増やすという観点から検討をするべきではないかと思っております。   そうしたときに,現行法でできないことをどこをやっているのかという問題がありまして,例えば終身の利用というようなことが現行法でできるのかというと,こういったところはなかなか難しいだろうと思いますし,遺言で設定できるのかという辺りも難しい。それから,登記の手続なんかも,ちょっと特殊な登記になるのかもしれませんので,今,例えば何々によって賃借権を設定することができるとか,あるいは賃借権の規定を準用するとか,そういうものでできないところはどこなのかなと,その辺りを入れる必要があるのかという視点も,あるいは一つ可能なのかと思っております。   私は,この制度自体もさりながら,遺言でできるということはかなり大きいのではないかと考えておりまして,評価も難しくて,遺言で本当に使われるのかということですが,十分に財産があるような場合にこの建物については使用させたいというようなことであれば十分考えられるでしょうし,そういった利用が考えられますので,確かに困難な場合はあるとは思いますけれども,そうでない場合も十分あるのではないかということです。   それから,遺言による設定ができるということは大きいのではないかと申し上げたんですけれども,そうしたときに,遺言による設定の場合と分割の協議等による場合とが全く同じなのかどうかということも気になっておりまして,例えば現時の居住という要件ですとか,あるいは先ほどの具体的相続を超えるかという点についても,遺言時にはよく分からないというところもあるかと思います。設定,遺言による場合には,取りあえずそこはセーフでということも十分考えられるのではないかと思いますので,両者でどこが違い得るかということも考えておく必要があるのかなと思っております。   今度は細かいところですけれども,譲渡・転貸関係です。これは所有者の承諾を得て譲渡・転貸というのは賃貸借と同じように見えますけれども,ただ,結果的には,一定期間たっていても死亡によって終了する,しかも当該配偶者の死亡によって終了するということなので,当該配偶者はどこかにいても,突然亡くなれば終了するというもので,やや奇妙とは言いませんけれども,そういう権利を譲渡する。転貸はまだ分かりますけれども,譲渡するということがどういうような意味を持つのかという辺りがあります。   ただ,他方で,もう既に相続の際の相続分で対価を払っているというところがありますので,利用しないときに少しでも換価の手法というか,そういうことを用意するためにこれが設けられているのかと思いました。   そして,そうだとすると,これが現実的かどうかちょっと分からないんですが,取りあえずアイデアレベルなんですけれども,今,評価の困難ということが言われていますが,相続開始時にも一定の評価ができるのであれば,途中でも残りどのくらいになったというようなことで評価ができるんだとすると,それを買い取るというか,そういうふうなことができないだろうか。もちろん,合意で放棄しますと,その対価としてもらいますということで,合意ベースでできるのはあると思うんですが,それが調わないようなときに,何か算定をする手法だとか,あるいは分割して支払うとか,何かそういうようなことはできないだろうか。もし,換価の点が非常に困難というか,その手法を用意するということを考えるならば,そういうことは考えられないだろうかということを思っております。   更に細かなところにいって恐縮ですけれども,「敷地所有者との関係」というところで,13ページの敷地と建物所有が元々同じであったところ,建物だけ売却するとか,敷地だけ売却するとかというような場合に手当をするかと。具体的には,敷地だけを売ったというような場合が想定されて,建物は持っているんだけれども,利用権を取らなかったために,このままでは建物収去,明渡しになってしまうという局面において,物権的な保護が与えられるという前提なのにそういう形で,地震売買でもないですけれども,飛ばしてしまうというのはやはり問題ではないかと思っております。   ただ,そのときに,敷地利用についての物権を取得するというのが適切なのかということは大きすぎるような気もしますし,そのとき建物の所有関係はどうなるんだろうかとか,それから建物所有者に対して収去,明渡請求をし,また,長期居住権者に対して土地明渡請求をしたときは一体どういうことになるんだろうかというようなことを考えていきますと,余り変わらないのかもしれませんけれども,逆に,建物所有の方について敷地利用権を認めるといいますか,それを長期居住者との関係では設定されたものとみなすとか,そういう方向もあるのかもしれません。それで,どのようなことになるか,かなり細かい法律関係を明らかにしていかないとできないですし,そうやっていくと,結果そこまでやるのかということになるかもしれませんけれども,方策としてはそのような方向もあるのかなと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   幾つかの御指摘をいただきましたけれども,前回も出ておりました評価の点につきましては,今回の御提案は何か実務を拘束するようなものではなくて,むしろガイドラインを示す,他の解決も妨げないということだったかと思います。   それから,沖野委員からは,こういうものを作ることを考えるにあたっては,これがないとすると,できないことは何であるのかをはっきりさせるべきだし,あるいは遺産分割と遺言でどこが同じで,どこが違うのかということを整理する必要があるという御指摘を頂きましたが,これは整理をしていただきたいと思います。   具体的な御質問としては,このような権利を認めたとして,買取りというか,換価というか,そのようなものについて何か考える必要はないのかという御質問ないし御指摘が一つ。それから,敷地利用権が失われるという事態を避ける必要があるのではないか、そのための仕掛けとして,建物の使用者の利用権を一定の要件の下で認めるというような方策はどうかという御指摘を頂いたと思いますが,最後の2点につきまして何かお答えがあれば。 ○堂薗幹事 従前から,長期居住権については,必要がなくなった場合に換価できないという点が問題であるという御指摘は頂いておりまして,長期居住権を買い取ってもらうとすれば,その相手方は建物所有者ということになるんだろうと思いますが,賃料を前払いしたような形で評価をするとしますと,残存期間に応じて現時点での長期居住権の評価額というのは一応出せるのかなとも思うんですけれども,その場合に,建物所有者に買取義務のような形で認めるということが制度上どうなのかと。特に,長期居住権の制度というのは配偶者保護のための制度ですので,基本的には配偶者の方が希望しなければ,こういった長期居住権は設定されないということになるわけですが,建物所有者の方は必ずしもそうではなくて,希望していないにもかかわらず,長期居住権の負担付きの所有権を取得することになるというところがございます。そうすると,それにプラスして,更にいつの時点で買取請求があるか分からないということになりますと,かなり建物所有者の負担というのは増えることになりますので,ちょっとそういった制度も置くことはなかなか難しいかなというのが正直なところでございます。   その点については,御指摘いただきましたように,建物所有者との間で任意に何らかの合意をして,一定の要件が満たされた場合にはこういう形で買い取るとか,そういった合意をするということも可能だと思いますが,いずれにしても,その辺りについてはある程度配偶者の方の自己責任といいますか,そういったリスクを背負ってでも取得したいという場合に,利用場面というのは限定せざるを得ないのではないかというのが,こちらの現時点での整理ということになります。   それから,敷地につきましては,御指摘のような問題はあるかと思いますので,建物所有者の方の敷地利用権の設定を法律上みなして,それを配偶者が援用できるという点につきましては,こちらでは全く考えておりませんでしたので,御指摘を踏まえて,その辺りも検討してみたいと思います。 ○沖野委員 1点目といいますか,買取りについては,お考えはよく分かったつもりですけれども,他方で,これがあることによって流通が妨げられ,非常な減価が起こっているということであれば,それを解消できるというのはそれなりにメリットはあるところなのかなという気も一方ではしたということです。   それから,買取りというときに,常に形成権にしなければいけないのかという問題もあるかとは思っております。   それから,後の方については,地代を誰が払うのかとかといったような問題ももちろん出てくるかと思いますので,もちろん既にお考えのことだと思いますけれども,補足しました。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○浅田委員 先ほどの沖野委員の発言及び第1の議題における沖野委員の質問に触発されて質問するわけなんですが,長期居住権消滅後の後始末についての細かい三つの質問です。   すなわち,長期居住権が配偶者の死亡により消滅した場合には,通常の不動産に戻るわけですけれども,その戻す過程において円滑にいくかどうかという問題に関してです。まず登記でございますけれども,例えば配偶者が死亡したときの登記,抹消登記になると思いますけれども,その抹消登記はやはり所有者の単独申請でなければうまくいかないと思います。例えば,相続人等の共同申請ということであれば,協力が得られるとは考え難いので,これは単独申請であるべきだというふうには思います。その点についてはどうお考えかというのが第1問の質問です。   二つ目に,原状回復義務でありますけれども,これも配偶者の相続人に負担,承継されるということだと思います。ただ,当該相続人にとってみれば,長期居住権という権利自体は承継されないものですから,言えば義務ないしは負担だけが承継されるということであります。そういう理解でいいのか。だとすると,その人は本当にやってくれるのかどうかという疑問があるという話です。   三つ目に,これらが合わさった話ですけれども,長期居住権が譲渡された場合であります。そうしますと,先ほどのご指摘にあったように,結局,その期間というのは当該配偶者の死亡までということになろうとは思いますけれども,その配偶者が行方不明とか,死んだか,よく分からないといったときには,誰が,終了時点を決めて,抹消登記まで持ち込むのかどうかというのが分からなくなりますし,また,消滅したときの原状回復義務というのは誰が負うのか,当該配偶者の相続人が負うのか,それとも長期居住権の譲受人が負うのか,これによっても請求が変わってくるのかと思いますので,ご質問する次第であります。 ○堂薗幹事 まず,配偶者が死亡したことによって長期居住権が消滅した場合の取扱いでございますが,ここでは,配偶者が死亡すれば長期居住権は常に消滅するということで考えておりますので,そういった意味では,死亡の事実さえ明らかになればその権利が消滅したことが分かるわけですので,不動産登記においても,建物所有者が配偶者の死亡の事実を証明するだけで単独申請を認めることができないかどうか,この点は検討したいと思います。   それから,原状回復義務ですけれども,この点については,基本的には通常損耗については原状回復義務の対象から外すという前提ですので,通常損耗の程度を超える場合に必要になってくるわけですが,その場合には相続人が義務者ということにならざるを得ないのかと思います。ただ,かなりの事例では,建物所有者が配偶者の相続人であるという場合もあろうかと思いますので,そういった場合については,自分で原状回復をして他の相続人に求償するということになろうかと思いますし,建物所有者が配偶者の相続人でなかった場合には,そこは自分で原状回復をしてしまって費用の請求をするのか,あるいは原状回復を請求するのかという辺りは,建物所有者の選択ということになるのではないかと考えております。   それから,長期居住権が譲渡された場合に,配偶者が行方不明になってしまったというような場合ですと,法律上は失踪宣告の申立てをする必要があるということになるのかもしれませんが,その辺りは,御指摘を踏まえて検討してみたいと思います。   原状回復義務については,基本的に長期居住権の譲渡がされた場合には,もちろん建物所有者の承諾は得ているわけですし,譲受人の方が原状回復義務というのは負うことになるのではないかと思いますし,そこは譲渡の承諾をする際に,建物所有者としては誰に,どういう形で原状回復をさせるのかという辺りは,承諾の前提として合意を得ておくということはできるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○八木委員 若干関連する質問かもしれませんが,一つは,やはり消滅事由のことですけれども,短期のところで,再婚が除外されておりましたが,長期のところでも再婚が除外されております。果たして,こういう再婚した生存配偶者を他の相続人に比較して保護する必要があるのだろうかという,素朴な疑問があります。   また,不動産の流通のことを考えても,先ほどから随分流通を阻害するような,そういったものになるというような御指摘もありましたし,その辺りどう考えるのかというのが一つです。   もう一つ,細かい点なのですけれども,建物が滅失した場合に,それも生存配偶者の責任でないところで滅失した場合に,建物の建て替えや代わりのところに住む,その費用の負担は誰が行うのか,その辺り教えていただければと思います。 ○大村部会長 では,お願いします。 ○堂薗幹事 まず,再婚した場合でございますが,特に長期居住権は,配偶者も自分の具体的相続分の中でそれを取得するという前提にしておりますので,配偶者以外に長期居住権を取得できる人はいないわけで,その意味では,その現状では配偶者だけを保護しているということにはなりますが,少なくとも財産的には自分の相続分の範囲内で取得しているので,その後どのような事情が生じても,当該配偶者の財産権として保護されるということでよいのではないかというのが,こちらの整理ということになります。   それから,居住建物が滅失した場合でございますが,長期居住権というのは建物を目的とする権利ですので,建物が滅失してしまえば当然,長期居住権も消滅するということにならざるを得ないわけですけれども,生存配偶者に帰責事由はなくて,誰かの過失によって建物が滅失したという場合には不法行為に基づく損害賠償請求をすることが可能であると思います。 ○大村部会長 八木委員,よろしいですか。 ○八木委員 先ほど水野先生の御指摘があったように,例えば非嫡出子がいる場合に,生存配偶者の相続分が小さくて,それでも建物に居住をしたいという場合に,それをどう保護していくのかという問題だと思うのですけれども,その場合に--それとはちょっと違うのですかね。高齢者と結婚したというような場合に,また新たな相手と再婚するという場合に,果たして,例えば相続財産が土地・建物に限定されるような場合に,そこまで保護する必要があるのかと,ということを思ったわけです。 ○大村部会長 先ほどの事務当局の御説明は,仮に長期居住権ではなくて,所有権で相続したという場合には,やはり再婚したとしてもその所有権が失われることはないので,それよりも小さな権利である長期居住権を取得したという場合にも,それは維持されるのではないかという御説明だったかと思いますけれども,八木委員,よろしいですか。 ○八木委員 はい。 ○上西委員 12ページから13ページの「敷地所有者との関係」の箇所です。整理してみます。建物と敷地の所有権を取得した他の相続人が第三者に売却した場合に,配偶者は第三者からの建物退去請求を拒むことができないようにしたい。その解決方法として,別途損害賠償請求できるとしつつも、そのようなことを避けたいから,新たな用益物権や法定の債権を創設してはどうかということですね。   配偶者が長期居住権を取得し,かつ登記する場合には,敷地に地上権を自動的に設定することが趣旨にかなうと考えます。むしろ,敷地に地上権を設定しない場合だけ、設定しないという選択をするということも可能かなと思うのです。やはり,ここでは長期居住権を保護するということを第一に考えれば,流通の阻害の問題もあるかもしれませんが,長期居住権と地上権の設定をセットで行うということを選択肢として御検討いただきたいと思います。 ○堂薗幹事 その点は,先ほどの点と併せまして,再度検討したいと思います。 ○垣内幹事 2点ほど御質問があるんですけれども,1点目は,先ほど八木委員が御質問された点とちょっと関係するかと思うんですけれども,長期居住権の終期について,例えば遺言の中で再婚までの間とか,あるいは遺産分割協議においてそういう形で終期を設定するというのは,御提案の中の「一定期間」という概念に含まれているのかどうかということが第1点です。   それからもう1点なんですけれども,これはもう少し先の段階で考えればいいことなのかもしれませんけれども,例えば遺言で終身の長期居住権を設定して,かつ対価付きのものを仮に設定したというような場合に,終身ですとかなり長期にわたって場合によっては続くということがあり得るわけですけれども,その間,これからの日本でそういうことがあるのかどうか,ちょっとよく分かりませんが,社会経済状況の変化によって,その対価の額が非常に不相当になるに至ったというような場合には,増減請求というようなことを検討されることになるのか。仮にその場面でそういった検討があり得るとすると,前払方式の場合について,同様の修正を行う余地を考えるべきなのかどうか,あるいは仮にそういう余地があるとすれば,そのための手続についてはどう考えるのかということについて,もし既に御検討されている点がありましたら御教示いただければと思います。 ○堂薗幹事 まず,例えば,再婚の場合には長期居住権は消滅するというような遺言が可能かどうかということですが,具体的に検討していたわけではありませんけれども,再婚ということになりますと,期限にも当たらないということだろうと思いますので,基本的にはそういったものは想定しておりませんでした。   それから,遺言で対価を支払う形の長期居住権の設定が可能かという辺りは,遺言でそもそもそういったことを認めていいのかというそもそも論があるのではないかというふうに思っておりまして,個人的にはややそこは難しい面があるのではないかなというふうにも思っておりますので,そこは是非,この場で民法の研究者の方のご意見をお聞きしたいと思っていたところでございます。   それから,仮にそういったことを認めるとしても,結局,遺産分割の対象となっている財産の中にそういう不確定な要素が含まれるものというのはほかにもいろいろありまして,例えば停止条件付債権ですとか,いろいろそういったものがありますので,事後的に何か事情が変わったことによって,それを修正するというようなことは,相続の場合には難しいのではないかと考えておりますので,長期居住権の対価について増減請求を認めるとか,そういったことはこちらでは考えておりません。 ○大村部会長 垣内幹事,よろしいですか。 ○垣内幹事 はい。 ○大村部会長 民法の委員のご意見をという御発言がありましたけれども,その点につきましては,もし何かあれば後で伺うということにいたしまして,山本克己委員の方からまず御発言を頂きたいと思います。 ○山本(克)委員 すみません。私,更に先走った質問をしてしまうことになるんだと思うんですけれども,不動産上の用益物権だとした場合に,かつ一身専属的とはいえ,所有者の承諾があれば譲渡可能であるということを考えると,もうこれは差押可能財産であると,当該物件がですね。長期居住権という用益物権は差押可能財産であるということになるのではないかと思うんですが,その際に,民事執行法の43条2項に挙げられております「登記された地上権及び永小作権」というところに横並びで長期居住権というものが入るのであろうかという点をお伺いしたいと思います。それは,仮に長期居住権を有する配偶者が破産した場合に,破産財団に属するかという問題とも絡む問題ですので,ちょっとお教えいただきたい。   仮に43条2項に入れるんだとすると,強制競売の対象になるとしますと,そのときの所有者の承諾をどういうふうに手当てするかという問題が出てきて,これは借地借家法の20条と似たような話をするのかどうか。しかし,その場合に,先ほどちょっと垣内幹事からお話がありましたように,条件の変更というものを組み込んでいいのだろうかという問題が出てくるのではないかと思います。   換価,全く差押え不可能な,しかし,結構不動産の価値に,当該建物の価値に等しいような権利を設定して,それが換価不可能だというのは,やはりおかしな理屈になるのではないかと思うんですが,私はやはりそういうところまで手当てして,私もネガティブでありませんので,ポジティブに考えつつ,そういうところまで手当てした立法をした方がいいのではないかなという気がしております。もし今までで,御検討で何かお考えであればお教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 基本的には,御指摘を踏まえて今後,検討したいと思いますが,基本的には賃借権について差押えが可能なのかどうか,あるいはその場合にどういった形で換価するのかというのと同じような問題が生じるのかなとは思っておりましたけれども,その点については,賃借権の場合は差押え自体は可能だけれども,賃貸人の承諾がない限りは,実際に換価まではできないというような形になっているのではないかというのがこちらの理解です。そうすると,長期居住権の方も,差押え自体は認めるのかもしれませんが,最終的に換価する場合には建物所有者の承諾を取らなければならないということになろうかと思いますので,実際には換価は難しいのではないかと思っております。その点につきましては,具体的な検討はできておりませんので,御指摘を踏まえまして,引き続き検討したいと思います。 ○大村部会長 山本委員,よろしゅうございますか。 ○山本(克)委員 はい,ありがとうございました。 ○大村部会長 ほかにいかがでございますか。 ○沖野委員 すみません。3点あります。   一つ目が,遺言によって有償の処分が可能かという点でして,基本的には難しいんだろうと思いますけれども,受遺者側といいますか,遺贈については,その放棄で対応できると思いますけれども,相続放棄までしないとどうしようもないような地位に置かれるというのは,やはり無理ではないかと思っております。   それから,これは調査しておりませんけれども,旧民法で賃借権の遺贈があったのではなかったかと思います。それは遺言書に記載された項目や条件に従って相続人が受遺者と賃貸借契約をするという形での処理が想定されていたようですので,既存の賃借権というより新たに賃借権を設定するもので,内容のある部分は相続人と受遺者の契約に委ねますというようなタイプなのかと思います。   そうすると,対価を含めて,内容は協議によるけれども,設定を受けることができる権利というか,それを交渉できる権利というような形で構想することはあるいは可能なのかもしれないと,そのような感覚を持っております。それが1点目です。   もう1点は,また細かいことですけれども,存続期間に関しまして,先ほど申し上げるのを忘れておりました。期間の更新は認めないこととしている点です。基本的にはそれで結構かと思います。けれども,他方で,現行の例えば定期借地などについて,制度上は更新がないのですけれども,合意による存続という話は議論がありますので,認めないということの含意が,もちろん協議をして,その後継続するなら構わないということなのか,あるいはそれとも長期居住権である限りは無理で,あとは賃貸借でやってくださいということなのかということもありますので,少し定期借地の議論なども踏まえながら,これが何を意味しているのかというは詰めておいた方がいいのかなと思っております。私は,合意によるなら,もちろん存続は可能というようなことで考えておりますが,ただ,長期居住権として存続できるのかという辺りが難しいのかなと思っております。   それから,三つ目が,賃貸物件のケースです。賃貸物件について,基本的にここに書かれたような形で結構ではないかと思っております。私が以前から気にしておりますのは,所有財産である場合と賃借財産である場合とで,居住に対しての保護がかなりアンバランスが生じるということであると問題ではないかと思っております。具体的には,例えば所有の場合ですと優先的に居住が確保されるのに,賃貸の方になるとそうではないというようなことではアンバランスではないかということを感じておりました。ですので,両者の比較でほぼ遜色ないと--遜色ないというか,特にどちらであるかによって大きく態度決定が変わるということではない,中立的であるというのが確保されるのであればよろしいのではないかと思っております。   そうしたときに,そうすると,分割協議まで使えるということが本当に確保されているんだろうかとかということは,ちょっと確認をした方がいいのかなとは思っております。といいますのは,現行法でもある程度できるのではないですかという部分がそれで大丈夫なんだろうかということで,ほかにも同居している者があるような場合にどうかというような話は,ひょっとしたら出てくるかもしれません。   そういうことを考えますと,分割協議まではなお配偶者が使えて,かつその賃料については内部的には配偶者が負担するとか,そういった辺りだけ明確にしておくぐらいのことも考えられるのかとは思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   3点御指摘ないし御意見を頂きましたけれども,最初の点は,先ほど事務当局の方から御発言があった負担付きの処分を遺言でなし得るかということについての御見解であると承りました。 ○沖野委員 有償の処分の点です。 ○大村部会長 有償の処分ということですね。 ○沖野委員 はい。 ○大村部会長 対価支払いについて,難しいのではないかという基本線を共有されつつ,幾つかの可能性は残るかもしれないという御指摘だったかと思います。   2点目は,更新の問題も,更新は認めないとして,それとは別に合意による存続はあり得るのでないか。ただ,法的性質がどういうものになるか分からないという御指摘、それから,3点目は,今まで御意見を頂いておりませんでしたけれども,14ページの賃貸物件の場合について,基本的にはこの考え方でよいけれども,分割協議までの取扱いについて若干手当が要るのではないかという御指摘だったと思いますが,何か事務当局の方からありますか。 ○堂薗幹事 合意による存続を認めるかどうかという辺りにつきましては,特に対価を支払わない形で長期居住権の設定を認めて,その場合に合意で更に存続するということになりますと,それは第三者との関係等で問題が大きくなって,流通性がさらに害されるというようなこともありますので,場合によっては,先ほどの差押えが可能かどうかというところと絡んで,執行妨害目的でそういうことも可能になるというような問題もあろうかと思います。したがいまして,長期居住権で,しかも特に無償でありながら対抗要件を認める形で存続を認めるというのは難しい面があるのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 補足なんですが,先ほど私の質問に対して堂薗幹事の御説明は,何か賃借権と並びでお答えになったと思うんですけれども,私が問題にしたのは用益物権だと言い切ったことによる問題点があるのではないかという趣旨でございまして,補足で申し上げますと,国税徴収法の68条1項で,不動産上の物件は全部不動産とみなされて,国税徴収上は。滞納処分による差押え,公売の対象になるとされていますので,借地借家法20条のような規定は不可避ではないかということを申し上げたかったということでございます。 ○堂薗幹事 すみません。御指摘を踏まえて検討させていただきます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その他御発言。 ○窪田委員 ちょっと周回遅れみたいな話題になってしまうのですが,先ほどの負担付きのものについて遺言をすることができるかどうかということについて発現させて頂きます。既に沖野委員からもお話がありましたし,特に付け加えることはないのかもしれませんが,私自身,ずっと伺っていながら気になっていた部分とも少し関わるような気がします。気になっていたのは,結局,長期居住権というのは一体どういうものとして構想するのかという点ですし,そこで有償だということの意味はどういう意味なのかという点です。   正しく賃料のような形で債務を負担して,それを払っていくのだという形式で捉えるのであれば,そんなこと遺言でできるのかということになると思います。しかし,これは基本的には遺産の分割という局面で問題となるものであり,分割方法の一つの選択肢にしかすぎないのではないかと考え,自己の相続分の範囲内で,一定の利用権という形でそれを実現するものなのだと捉えるのであれば,その利用権の価値に相当する部分について,他から得る相続分が減るというのは当たり前のことだということになりますし,それを遺言で設定するということもできるのかなという気もします。   ですから,要は結局,分割方法の指定の一つの方法なのだと割り切るのであれば,その中で利用権として得た分だけ,他からは得られる分は減るのだということを,単に有償という言葉で言い換えているにしかすぎないのかということになると思います。そうではなくて,やはり正しく用益物権的なものとして関連するというところから出発するのか,単に説明の仕方の違いだけなのかもしれませんが,その捉え方によって,先ほどの遺言でできるかどうかという問題についての説明のしかたも異なるのではないかという気がいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その他御発言を頂きたいと思いますが,特に第3の配偶者の居住建物が賃貸物件である場合について,沖野委員から御発言ありましたけれども,他の委員の御感触等も伺えればと思います。 ○村田委員 今,窪田委員から御指摘のあった点は,ひょっとすると,長期居住権の賃料といいますか,対価の設定のところの考え方に関わってくるかなという気がしております。どういう評価といいますか,賃料設定があり得るのかというところは,場合によっては不動産鑑定士の方の御意見なども頂く必要もあり得るかなと思っておりますので,御検討いただければありがたいなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかいかがでございましょうか。   よろしいでしょうか。   この第2点につきましては,長期の利用権は,一方で新しい選択肢を相続人に開くことになるので認めてほしいという御意見がある。しかし,同時に,ある程度取引を阻害することも確かである。したがって,バランスをとりながら認めるべきだ,あるいは認めるならば相応の実効性があるものを考える必要がある。こうした様々な御意見が出ていたかと思います。   全体として,どのようなバランスをとるかということによって,皆さんの態度が最終的には決まるのかと思いますけれども,頂きました御意見を踏まえまして,更に事務当局には御検討いただきたいと思います。   それから,配偶者の居住建物が賃貸物件である場合につきましては,基本的にはここに示された考え方でよいのではないかという御意見があり,他に特段の御意見は出なかったとまとめさせていただきたいと思いますが,よろしゅうございますでしょうか。   では,第3まで終わりましたので,ここで10分ほど休憩させていただきまして,4時から残った問題を御議論いただきたいと思います。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,4時になりましたので,再開させていただきたいと存じます。   残りは14ページの「第4 その他(前回の部会で指摘があった新たな論点について)」という部分でございますけれども,一括して事務当局の方から説明を頂きます。 ○大塚関係官 ここでは,2点につきまして,前回の部会での御指摘を踏まえての新たな論点として御提示申し上げているものでございます。   一つ目が,「自筆証書遺言を保管する制度の創設について」でございます。   「問題の所在」からまいりますが,自筆証書遺言は,作成後に遺言書が紛失したり,あるいは相続人によって隠匿,変造されるおそれがあるところでございます。また,相続人が遺言書の存在を把握できなかったり,あるいは複数の遺言書が出てきたり,さらには遺言書の作成の真正をめぐっての深刻な紛争が生じたりといったところがあり得るところでございます。   これらの問題は,自筆証書遺言を確実に保管し,相続人がその存在を把握することができる仕組みが確立されていないということが一因になっているのではないかと考えられるところでございまして,前回の部会でも何らかの措置を講ずる必要があるとの指摘がされたところでございます。そこで,考えられる方策というものを御提示申し上げる次第です。   ①でございますが,自筆証書遺言を作成した者は,一定の公的機関,例えば全国に存在するような公的機関にその保管を委ねることができるようにすると。   ②として,相続人は,相続開始後に所定の手続をすることにより,被相続人の自筆証書遺言がこの公的機関に保管されているかどうかを検索することができるようにするという方策でございます。   公的機関としてどのようなものが考えられるかというのは非常に問題となり得るところですが,例えば市区町村の役場,あるいは法務省の中で申せば法務局,更には前回の部会では,公証役場という御指摘もあったかと思いますが,例えばそういったところを考えているところでございます。   (3)の「遺言保管制度を設けるメリット」でございますが,このような方策を講じた場合には,公的機関において遺言が確実に保管されることとなりますので,作成後の紛失,偽造又は変造を防止することができ,また,相続人が遺言の存在を容易に把握することが可能になると考えられます。   また,保管を行う公的機関におきまして,手続のときに本人確認を行うこととしますと,そのことが遺言の真正な成立を基礎付ける間接事実となり,遺言の有効性をめぐる紛争の抑止にもつながり得ると考えられるところでございます。   次に,(4)の「検討課題」ですが,アでございます。   公正証書遺言につきましては,全国の公証役場に保管された公正証書遺言を検索することができるシステムが既に導入されているところです。そこで,自筆証書遺言を保管する公的機関ができた場合には,公正証書遺言を保管する公証役場との間でそれぞれ保管する遺言の情報を共有することによりまして,この遺言の存否につきまして一括して検索することができるようにするということも考えられようかと存じます。   このような検索システムを更に進めるということになりますと,相続人が相続に伴う諸手続をする際に,保管をしている機関から一定の者に対して,遺言がありますという旨の通知をする制度を設けるといったところも,一案としては考えられようかと存じます。   次に,イでございますが,今回の方策につきましては,遺言者以外の者による偽造などを防止する観点から,基本的には遺言者自身が公的機関に赴いて保管手続をするということを想定しているところでございます。   この点につきましては,遺言者が入院をしている場合など,自ら公的機関に赴くのが困難な場合も想定されますので,このような場合は例外的に他の者による保管申出,あるいは郵送での申出を認めることも考えられるところでございます。ただ,これらを認めますと,遺言者以外の者が偽造した遺言を公的機関に持ち込むなどの事態も特に懸念されるところですので,この点は慎重な検討を要すると考えられるところでございます。   次のウの「撤回について」でございますが,今回の方策によって,遺言者が自筆証書遺言を公的機関に保管する手続を仮にしたとした場合でありましても,現行法上,遺言者は新たな自筆証書遺言を作成するなどして,容易に前の遺言を撤回することができますので,公的機関の保管に係る遺言が最終の遺言であるとは限らず,複数の遺言書が存在することによる紛争を回避することはできないということにこのままではなります。この点につきましては,前回の部会におきまして,公正証書遺言についても同様の問題がある旨の御指摘を頂いたところでございます。   そこで,例えば公正証書遺言や公的機関が保管しているところの自筆証書遺言について,これらの遺言の全部又は一部を撤回するのに,新たに自筆証書遺言を作成して,当該公的機関に保管するか,又は公正証書遺言を作成することを要するとすることも,一つの案としては考えられようかと存じます。   ただ,このような撤回についての制約を設けるといたしますと,遺言者の最終意思の尊重という遺言制度の趣旨との関係では,慎重な検討を要するものとも考えられるところでございます。   ここまで,遺言保管制度についての話でございました。   次が,2つ目の「遺言執行者の権限の明確化等について」でございます。   「問題の所在」のアでございますが,現行法上「遺言執行者は,相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」とされていますが,個別具体的な事案で,遺言執行者にどのような権限が付与されているのかというのは必ずしも明確ではないため,遺言執行者の権限の範囲を法律上明確化すべきではないかという指摘がされておるところでございます。   次に,イの「復任権について」でございますが,現行法上,遺言執行者は,遺言者がその遺言に反対の意思を表示した場合を除いて,やむを得ない事情がなければ,第三者にその任務を行わせることができないとされているところでございますが,このような復任権の要件を緩和すべきであるとの指摘もされておるところでございます。   このような御指摘を踏まえまして,こちらの17ページの下から18ページにかけて記載しておりますような規律を設けることが考えられようかと存じます。   ①はそのまま読み上げたく存じますが,遺言執行者は,就職の後直ちに,被相続人が相続開始時に現に占有していた財産の管理に着手しなければならないというところを検討俎上に上げてみました。   ②以下は,補足説明等におきまして,説明をいたします。   ②に関する部分が18ページ中段のアでございます。「特定物の遺贈等がされた場合における遺言執行者の権限の範囲について」というところでございます。   これは,様々な考え方もあり得るところでありますが,②のアにおきましては,目的財産の引渡しについては,相続開始時に目的財産を被相続人が現に占有(直接占有)していた場合に限り,遺言執行者の権限に含めることとし,相続開始時に被相続人以外の者がその目的財産を現に占有していた場合には権限に含めないという形にしております。これは,相続開始時に被相続人が管理をしていた財産については一旦,遺言執行者の管理下に置き,遺言執行者の責任においてその引渡しを行うこととし,受益者の自力執行を認めないというのが相当と考えられることですとか,あるいは相続開始時に第三者が目的財産を管理していた場合まで遺言執行者の権限に含めることとしますと,遺言執行者の負担が過大になるおそれがあるということなどを考慮しての方策ということでございます。   19ページの2行目以下となりますが,これに対しまして②㋑のとおり,対抗要件の具備行為につきましては,原則として遺言執行者の権限に含めることとしております。これは,対抗要件具備行為は,受益者にその権利を完全に移転させるために必要な行為であることなどを考慮したものでございます。   もっとも,この㋑のただし書のとおり,遺贈等の目的財産が動産だったような場合には,遺言執行者の権限を㋐と同じ範囲,つまり被相続人が現にその財産を占有していた場合に限定することとしております。これは,動産に関する物権につきましてはそもそも公示機能が弱く,即時取得制度などもありますことから,対抗要件具備行為を遺言執行者の権限とする必要性は必ずしも大きくないと考えられることなどを考慮したところでございます。   ページをめくっていただきまして,20ページの㋑でございますが,これが③に当たる部分になります。不特定物が遺贈の目的とされた場合でございますが,この場合には③,④のとおり,遺言執行者は,遺言に別段の定めがない限りは,目的物を特定した上で,これを受遺者に引き渡し,かつ対抗要件を具備するのに必要な行為をする権限を有することとしております。   続いて,ウの「遺言執行者の処分権限について」というのが⑤に対応するものでございます。   端的に説明しますが,⑤は,遺言執行者が相続財産に属する特定の権利を処分することができる場合を明確化するものでございます。処分すべきことを遺言において定めた場合は含まれるが,そうでなければ当然にその権限は有しないということを明らかにする趣旨でございます。   続きまして,エ,21ページの中段になりますが,「遺言執行者がその任務を行うことが困難な場合等の処理方法について」ですが,これは方策の⑥に対応するところでございます。この⑥は,遺言執行者がその任務に属する特定の行為をすることが困難な事情がある場合に,遺言執行を円滑に進めるために,家庭裁判所に対して,当該行為の代理権のみを有する代理人の選任を求めることができるとするものでございます。   次に,オ「復任権について」というのが⑦でございます。現行法上,遺言執行者には,先ほども述べましたが,原則として復任権が認められていないところでありますが,22ページに移りまして,「この点については,」以下でございますが,遺言執行者も,内容如何によっては職務が広範に及ぶこともあり得,遺言執行を適切に行うために,相応の法律知識を有していることが必要となる場合があるなど,専門家に一任をした方が適切な処理が期待できる場合もあろうかと考えられます。   このような事情を考慮いたしまして,⑦におきましては,遺言執行者につきましても,他の法定相続人と同様の要件で復任権を認めることとしたものでございます。   これらにつきまして御意見を賜れればと存じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   大きく分けまして,自筆証書遺言の保管に関する制度に関する問題と,それから遺言執行者の権限に関する問題がございます。性質が違うものを含んでおりますので,まず最初に,自筆証書遺言の保管制度の創設について,御意見を賜れればと存じます。 ○浅田委員 私の方から,まず感謝と,それから意見を二つと,質問を一つ差し上げたいと思います。   前回の第5回会議において私から,「遺言に関する銀行実務の観点からの検討」というタイトルで銀行界の意見として提出したペーパーで,いろいろ検討を御依頼していたところでございますけれども,今回,ご検討を賜りましたこと,まず御礼を申し上げたいと思います。   そして,この項目についても,遺言の撤回という項目で,最新の遺言がどれであるのかをめぐる紛争に銀行が巻き込まれることがあることを紹介させていただいたことを受けてのご検討でありますので,これも誠にありがたいことだと存じております。   その中で,自筆証書遺言の登録制度や公正証書遺言の撤回方法の制限を提案したわけですけれども,今回の部会資料6において,改めてこの指摘を正式な論点として取り上げていただいたことにも,重ねて感謝を申し上げたいと思います。   本制度においては,周知の必要性であるとか,その他社会的なコストなど様々な角度からの検討が必要で,今後検討されるべきだと承知はしておりますけれども,各位におかれましてはよろしく前向きにご検討いただければと存じます。   これから意見です。まず保管に関してでありますが,そういった提案をした立場にかかわらず,具体的な制度設計における更なる意見で恐縮でございますけれども,銀行界の一部の意見としましては,こういうものがございます。すなわち、せっかく自筆証書遺言を保管する制度を創設するのであれば,保管の義務付けをして,保管されていない自筆証書遺言は無効ということにしないと,遺言の紛失や偽造・変造など真正性をめぐる紛争や,遺言が発見されなかったことによる遺産分割のやり直しなどの問題が解決しないではないのかという意見があったということをお伝えいたします。   なかなか難しいとは認識しておりますけれども,それくらい,銀行実務においては,遺言の真正性をめぐる紛争に出会うことが日常茶飯事であるということを指摘したいと思います。   もちろん,本論点におきましては,部会資料の16ページのウの最終段落に,「遺言書の最終意思の尊重」と記載されている点を始め,当該保管システムへのアクセス可能性,特に体の自由が利かない高齢者や入院中の場合など,遺言者本人に関する様々な制約条件がある場合の利用可能性を勘案しなければならないと承知していますので,いろいろ検討を積み重ねていかなければならないとは思います。   ただ,一般論として,それも含めて考えますと,保管された遺言の真正性を高める工夫,それから遺言の撤回の制約について,何らかの方策が講じられることを望みたいと思います。   それから,2番目でございますが,検索システムの実効性の確保についての意見でございます。   保管の制度の利用が可能となるということのみでは,現行の実務上の問題点として,部会資料で指摘されている自筆証書遺言の確実な保管,相続人がその存在を把握できる仕組みがないことが解決されるのか,やや疑問が残ります。   例えば,部会資料15ページ以下では,公正証書遺言の検索システムとのリンク付けが提案されていますが,そもそも公正証書遺言については,全国の公証役場で検索できることが一般国民に知られているのか,疑問なしとはしません。そこで,自筆証書遺言の保管制度を導入するに当たり,相続人や受遺者が能動的に遺言の有無を検索できるような手当も必要となるのではないのかと存じます。あわせて,周知ということも必要であるのではないかと思います。   部会資料16ページの上から4行目以降に,その問題意識が示されているとおりでありますけれども,このような通知システムと,例えば遺言があるということの情報の通知システムというのは有益なものと考えます。更に言えば,被相続人との間で預金や金融商品,貸金庫契約があり,遺言に基づく払戻しなどを求められる銀行としては,この遺言が公的機関に保管されている中では最新であることの証明がなければ,取引の安全が大幅に確保されないと思います。   そこで,相続人や利害関係人からの請求に応じて,保管機関がそのような証明を発行できるような制度設計,つまりこの遺言が最新であることの証明ができるような制度設計が望ましいと考えます。   また,現在の公正証書遺言の検索システムの利用者は,相続人,受遺者,遺言執行者に限定されているようですが,利害関係人の範囲を幅広く,例えば債権者,債務者にも広げていただければ,取引の安全確保につながるのではないかと思います。もちろん,この点については,プライバシーの問題とか,いろいろな角度からの検討が必要だということでありますけれども,検討していただければと思います。   最後に,質問といいましょうか,意見でもありますけれども,遺言保管をする場合に,何らかの要件チェックをしていただいた方がよいのではないかということであります。自筆証書遺言を保管する場合には,形式的な有効性の確認をするということが前提となっているのでしょうか。市町村役場はともかく,法務局や公証人役場が保管機関となるのであれば,法的な専門性の見地から,形式的有効性の審査をすることは可能であると思います。   もし,形式的有効性を確認することができるのであれば,公的機関で保管されている自筆証書遺言が無効である可能性がかなり低くなるのではないでしょうか。紛争防止の観点からも,いい制度になると思いますけれども,いかがでしょうか。 ○大村部会長 ありがとうございます。   制度をより強化するという観点からの御意見と御質問を頂いたかと思いますけれども,事務当局の方,いかがでしょうか。 ○大塚関係官 では,私の方から,最後の点につきましてまずお話しいたしたいと思います。   御意見として賜りました保管をする公的機関で受理をする際に,何らかのチェックを働かせるべきではないかというのは,一つの考え方であろうとは思います。そのときにどのくらいの手間が掛かるのか,あるいはその判断をどこまでするのか,あるいはそこで瑕疵があったときの責任は誰が負うのかといった非常に難しい問題もあるところかと存じます。   あるいは,そういった中身にまで関わるところを公的機関がチェックすることに,かえって抵抗感を覚える方も多数いらっしゃるようにも思いますので,そういった兼ね合いの中でどこまで見るのか。事務当局で考えておりましたのは,封印されているものをそのまま預かるということですと,中に何が入っているか分からないというところでもございますので,例えば開封をさせていただくなりして,内容についてきちんとデータ化するなど,こういったものであるということをはっきりと残していくという,検認に似たような手続というものが一つの案として考えられようかと存じますが,そこから更に進むことについては慎重な検討が必要ではないかと考えているところでございます。   あとは,先ほど保管の義務付けということも進んだところとして考えられるのではないかという御指摘もありましたが,そこについては,どのような制度設計をするのかというところにも関わりますけれども,やはり先ほど申したとおり,公的な機関がどこまで関わるのか,あるいはそういった機関に行くこと自体,公的機関に見られること自体に抵抗感を覚える方がいらっしゃるということも考えますと,そういった公的機関の関与なしに作ることはできないという固い制度を作ることについては,極めて慎重になるべきではないかと考えています。   基本的には,こういう制度も基本的には選択肢としてできますよということが着地点とは思いますが,余り何も効力を認めないということになると,コストとしてどうかという問題も反面あろうかと思いますので,その点については引き続き検討していきたいと思っております。 ○大村部会長 浅田委員,よろしゅうございますでしょうか。 ○浅田委員 はい。 ○大村部会長 そのほか御意見を伺えればと思いますが。 ○八木委員 今の大塚さんの指摘,非常に重要だと思ったのですね。マイナンバー制度もそうなのですけれども,この保管も極めて合理的だとは思うのですが,私としては若干のちゅうちょがあるということです。これは,そもそも私的自治とか自由とは何なのかということになるかと思うのですけれども,いわば自分の財産をどう処分するのかに関わることですが,これについては,可能な限り公権力はタッチしないというところが恐らく自筆証書遺言の趣旨だろうと思うのです。ですから,公権力が関わらないところに自由が確保されるという,ヨーロッパの考え方もあるようですし,その辺もし外国法制が遺言の保管についてどうなっているのかということを御存じの方がいらっしゃれば教えていただきたいと思います。   今のところ保管ということにとどまっておりますけれども,ここでの内容は。しかし,義務付けということになってくると,かなり大きくハードルが高くなるということだと思いますし,その辺の検討は必要だと思います。慎重に考えるべきだというのが私の意見です。 ○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承りました。 ○窪田委員 2点,特に自筆証書遺言自体をめぐる問題は難しいと思いますので,今,どの立場というわけではないのですが,あり得る組合せということについて,少しお話をさせていただきたいと思います。基本的にはこういうふうに預ける形ではない形での自筆証書遺言も有効だという前提を採りつつ,預けた場合には,一旦預けてしまうと,その後の撤回は届出方式でしかできないというのは,ちょっとやはり筋としてはなかなか通らないのではないかという気がします。やはり,撤回について届け出なくても,今まで書いた届け出た遺言を撤回するという遺言を手元に残りしたら,その撤回は有効だというのはあり得るのではないのかと思います。その点で,組合せの問題としては,そういうこともあり得ると考えています。   その上で,第2点ということになるのですが,実は最初の御指摘の中にもあったかと思うのですが,こういうふうに公的機関に預けたということが一体どういう意味を持つのかというの点が明確にならないとインセンティブも働かないし,この制度がうまく機能しないということなのだろうと思います。例えば銀行が預金の払い戻しをする場合にも,公的機関に預けられたものに基づいて支払えばそれは免責されるというのは,恐らく現在でも478条を使って同じような説明ができるとは思うのですが,より明確にできるのかなという気がします。あるいは公的機関に預けられた遺言に基づいて遺産分割がなされた場合において,その後,公的機関に預けられていない遺言が出てきた場合,これを全部無効にするという形になるのかどうかはちょっとよく分からないですが,そこのところで何かやはり一定のグレードを付けるというか,遺産分割協議を完全にはひっくり返さないような形で何か工夫するとか,なにかそういう方法もあるのではないかなという気もします。   あとから出てきた遺言の中に遺産分割方法の指定か何かがあったりすると,遺産分割協議より,遺産分割方法の指定の方がたぶん優先するのではないかと思いますが,しかし,遺言が発見される以前の段階で公的機関に預けられた遺言書を基にして遺産分割がなされたら,それを優先させるということもあり得るのではないかなという気もします。そうした可能性については,検討の余地があるのではないかという気がいたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○上西委員 自筆証書遺言については,保管を委ねることができるというのが適切です。しかし、公的な機関に預けるに際して,遺言者以外の第三者を経由する方法による保管申出については反対したいと思っております。   公証人が病院へ出向く場合と異なる点があります。入院している者を想定した場合,例えば自治体であるとすれば,一定の職員が公証人と同じ役割をするのではなく,遺言書を預かった上,封入,封緘をして持ち帰るという程度のものに限るのではないかなと思います。もっとも、特にこの要望がないのであれば,制度の定着後,様子を見てから検討してもいいのかなという気はいたします。   それと,新たな自筆証書遺言を作成して当該公的機関に保管するとか,公正証書を作成しないと、撤回することができないという点は,財産の処分を自由にするという考え方からすれば,今回は、検討はしたけれども,見送ってもいいのかなという気はしております。   それと,全国に存在する機関が望ましいとあります。この保管する公的機関ですが,前も少し申し上げたことですけれども,全ての自治体がマンパワー的にできるかどうかどうかです。また、小規模なところであれば,お互いに顔見知りということもあります。そこで、その点については範囲を広げて、居住しているところと限らずに幅広く選択肢を設けるようなことも考えていいのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○沖野委員 すみません。この保管制度ですけれども,一つは,やはり保管料は掛かるということでよろしいのでしょうか。そうすると,その保管料の仕組み次第でもあるかと思いますけれども,義務付けるというのは,新たな負担になるということがあるかと思います。   それから,逆に,義務付けなくて,特に遺言の最終意思の尊重という部分,あるいは自由の部分に制約を掛けると,逆に預けない方がいいということにもなりかねませんので,余り大きな効果をもたらせない方がいいのではないかと思います。ただ,安定性ということであれば,窪田委員がおっしゃったような形の効果はあり得るのかもしれませんけれども,ただ,最新のものさえ見れば,当然に保護されるということまでいくのはやや行きすぎかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○窪田委員 すみません。ちょっと気になる点があるので,あと1点補足をさせてください。   途中で御説明がありましたが,開封した上で中身はざっと確認してということであれば,まずそれに対して,恐らくすごく強い抵抗があるのだろうと思います。ただ,恐らく大変悩ましい問題があるのではないかと思いますのは,中身を読んで実質的判断をしなくても,開封した上でデータをとってPDF化し,電子データとして保管するということであれば,現物以外にもバックアップは容易にとることが可能だということになると思うのですが,封緘されたままの書類を遺言として預かったという場合には,こういう遺言を預かっているということのデータは電子データですぐ確認できるのですが,現物はずっと保管せざるを得ないことになります。その1点しかないということで,それが真正に保管されたものかどうかも確認するということは必ずしも容易ではないという問題が生ずるようにも思います。その点については,制度設計を考える場合に深刻な問題になるのかなという点は思いました。 ○大村部会長 では,増田委員,水野委員まで伺って,事務当局の方からお答えいただきます。 ○増田委員 遺言というものがそもそもどういうものであるべきかという話なんですけれども,やはり遺言者の最終意思を尊重するということだと思うんですね。しかも,できるだけやりやすくしようと,特に方式については法定の最低限の方式を守ってさえおれば,できるだけ広く自由にしようというのが,恐らく世界的な考え方ではないかと思います。   したがって,私は,結論として,こういう制度自体があってもいいとは思うんですけれども,それに撤回制限を含めた法的効力を付与することについてはやはり反対だし,撤回を遺言と同じ方式でできないと,例えば外国に居住していたり,いくら何でもこれは例外にするのかもしれませんけれども,危急時遺言をしなければならない事態というのは当然あるわけで,必然的に一定程度の例外は考えざるを得ないし,結果的に紛争を完全に除去することはできないわけなので,あとで法的効力に問題が生じるようなことはできるだけ避けた方がいいのではないかと思います。   事実的効力として幾らか信用性が高まるだろうというのは,そのとおりなのかもしれません。だから,そういう事実上の効力で我慢しておくというか,そういう程度のものであれば,誰が保管しようと,これは自由ですので,それに対して特に反対するものではありません。   それから,ちょっと余計な話なんですけれども,先ほどからの話で気になったんですが,後から遺言が見つかった場合の処理は,ここでは問題になっていませんけれども,確かに遺産分割が完了した後,後から遺言が出てきた場合とか,あるいは遺言にしたがって全て分け終わった後で遺言の無効の判決が確定したとか,そういう事例も実際にはありますので,そういう場合の処理については,別途何らかの方策が考えられてもしかるべきかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○水野(紀)委員 遺言の部分まで今回の改正の対象を広げるのだとすると、遺言の全体像をどのように制度設計するかは、ものすごく難しいところだろうと思います。母法であるフランス法では,遺言がある場合,あるいは遺産に不動産がある場合は,全部、公証人が遺産分割をするという前提です。そのシステムがある国から条文だけをもらっています。特に気になりますのは1013条です。次の問題でお話しした方がよかったのかもしれませんが,遺言執行者が付いているときには,相続人の処分権を奪うという条文で,この条文は,例えば我妻先生なども取引安全を害するので一刻も早く何とか削除したほうがいいという立法論をもう何十年も前に言っておられました。それが今までそのままになっていたのは,遺言を残す人々が余りいなかったから何とかなっていたのでしょう。今はもう遺言が御存じのようにどんどんふえてきていますから,この1013条辺りも,考える必要があるでしょう。相続人がこういう遺産分割をしましたといって,それを完全に信用して相続人から買ったら,後で遺言執行者付きの遺言で第三者に全部行っていたというようなこともあり得てしまうという事態になっています。遺言執行者のない遺言の場合の遺贈と登記の判例では救えませんし、94条2項でどこまでカバーして救えることができるのか,それもかなり心もとないところがあります。遺言の問題を扱われるのだとすると,遺言の存在の周知の問題と1013条の問題なども絡めて,お考えいただければ有り難く存じます。 ○大村部会長 では,事務当局の方で。 ○大塚関係官 先ほどから御指摘いただいた点も含めながら幾つか,ざっと5点ほど御説明申し上げたく思います。   まず,八木委員から御指摘がありました他国の法制ですが,当方で把握できている限りで,フランスはもう御指摘いただいたとおりかと思いますけれども,ドイツでは自筆証書遺言の保管につきまして,遺言者が区裁判所に対して自筆証書遺言の保管を求めることができるとの規定はあるようです。当方で把握しているのは以上になります。   次ですが,撤回の制限につきましては,いろいろと御指摘のとおりの点が多いかと思いますので,慎重に検討をしたいと思っております。   それから,インセンティブをどこに持たせるのかという点についての御指摘がございました。これは,沖野委員の御指摘にも対応するところでございますけれども,安価なサービスということで比較的気軽に利用できるといったところは一つ考えられようかと思いますし,その観点からしますと,手数料は安くしなければいけないということにはなろうかと思います。   あとは,検索をすることができる,こちらに聞けば,遺言があるかどうかというのが分かるといったところは,インセンティブの一つとして考え得るのではないかというふうに思うんです。   それから,自筆証書遺言を公的機関に預けることを義務付けるという点については,先ほどから反対の議論も幾つか出されているところでございますが,若干余談になりますけれども,実はこれ,明治民法の制定時の法典調査会というところで検討された経緯があるようです。議事録を拝見していますと,裁判所に預けることとして,そうしない限りは無効としてはどうかということが,自筆証書遺言について提案された経緯がございますが,それはちょっとねということで,そのまま採用には至らなかったという経緯があるようでございます。   そこから現在に至るまでの100年の間に,実現のコスト的なもの,あるいは保管についての技術,それから検索についての技術といったものも大きく変わってきているところはありますので,その当時とは違って,インセンティブを持たせるという形での保管制度を設けるということは一つ考えられるかと思います。   それから,先ほど御指摘いただいたところの,保管に係る自筆証書遺言に基づいて遺産分割が終わったけれども,後で別な遺言が見付かったときにどうするかという処理について考えるべきではないかという指摘につきましては,今後,また改めて検討してまいりたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 若干補足ですが,水野委員から御指摘がありました1013条と関係につきましては,当然,保管との関係でも問題になるとは思いますけれども,法定相続分による譲渡については,登記を備えなければ第三者に対抗できないという規律を設けるということを前回御議論いただきましたけれども,そういった規律を設ける場合には,当然この1013条との抵触関係が生じると思いますし,また,遺言執行者の権限のところでも,今回,かなり遺言執行者の処分権限を限定する方向で考えております。そういった意味でも,御指摘の1013条との関係をどういうふうに整理するのかというのは,重要な検討課題ではないかと認識しております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   これは,まだ前回に出たばかりの案でございまして,今回,事務当局からは仮の提案がされているということでございます。できるだけ早い時期に御意見を賜って,次の案をお示ししたいということで,今日ここに出ているということかと思います。ですから,幅広い観点から御意見を賜れればと思いますが,何かほかに御指摘等ございますでしょうか。 ○金澄幹事 聞き逃したのかもしれないんですけれども,検認との関係はどうなっているのかということを教えていただけますでしょうか。 ○大塚関係官 そこにつきましては,どちらも考え得るとは思っているのですが,例えば最初の保管手続の受理の段階で,内容がどういったものになっているのか,要件を満たすかどうかの判断は別として,保管の手続を取る中で,中身を確認するということが伴うのであれば,それをもって検認が足りるということで,後の検認を不要とすることもあり得ようかとは思いますが,必ずそうするというところまで意思決定をしているものではございません。その点につきましては,御意見を伺いながら検討していきたいと思っています。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。   どのくらいの効果を認めるかということ等の見合いで入口の厳格さも決まってくるだろうと思いますけれども,効果の方につきましては様々な御指摘があったと理解しております。   ほかに,今日の段階でという御意見がありましたら,是非伺いたいと存じます。 ○沖野委員 もう既に出た御意見の繰り返しではあるんですけれども,私は,16ページのイの第三者が持ち込むという点については,これは本当に慎重に考えた方がいいと思っておりまして,かえって紛争を多発するというようなことにもなりかねないと思います。ただ,そういたしますと,自分で持ち込めないという場合が出てまいりますので,もちろん赴くということもありますけれども,それでも問題が多いという点からすると,やはり全面義務付けというのはやや行きすぎではないかと考えておりますし,撤回の制約についても行きすぎではないだろうかと思います。   撤回につきましては,本当にきれいに対応して撤回するものばかりでもないと思います。新たに書いた部分があり,ある部分は解釈によって実は撤回になっているとかというようなこともあり得るとすると,そういった判断も含めて,きっちり対応するということはなかなか難しいのではないか。   それから,途中で出た御意見の中で,段階的に発展させていくということもあり得るかと思います。つまり,もう保管をする,預けるのが当然であるというような意識になってきたときには,更に制度をもう少し拡大していくとか,例えば最近の例では動産・債権の譲渡登記なども段階的に拡張していっているというようなこともありますので,同じ話では全然ないんですけれども,全て一気にやってしまうということではなくて,まずはこの辺りから生んでみるということも十分考えられていいのではないかと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   段階的に徐々にという御意見は,先ほど上西委員からも承ったところですので,事務当局の方でも御勘案をいただきたいと思います。   その他よろしゅうございますでしょうか。   では,この点につきましては,更に本日頂きました御議論を踏まえまして,事務当局の方で御検討いただきたいと思います。   残りが16ページ以下の「遺言執行者の権限の明確化等について」という部分でございます。   この部分についての御発言を賜れればと存じます。 ○浅田委員 この点も,前回の会議において私どもが要望させていただいた点でございまして,そのペーパーでは相続させる遺言等における遺言者の権限とか,遺言執行者が第三者に遺言執行を任せることの可否ということの検討を要望しました。これもいろいろ検討を賜りまして,誠にありがとうございます。各位におかれましては,是非とも前向きに検討していただければと思います。   その中で,これは銀行,預金に関わることでありますのですけれども,申し上げたい意見が一つございます。それは,預金は通常の金銭債権と違って,やはり現金と同等のものでありまして,そこでの遺言執行に係る実質上の処分というのは,単なる対抗要件具備,いわゆる債権譲渡の対抗要件具備にとどまるのでなくて,実際に預金を解約するとか,名義を書き換えるとか,そういうことが多くて,かつ遺産の中での主要な財産を占めていると。そういう意味で,もう一歩突っ込んだ権限設定というのができないのかどうかということでございます。   例えば,銀行実務上よくある例としては,例えば三井住友銀行の預金を長男に相続させるというシンプルな文言だけあった場合に,取立権限とか換価権限とか何も付されていないということが見られる遺言であります。このタイプの遺言について,遺言執行者の払戻権限が問題となっているということがありまして,それを踏まえて前回会議でペーパーを提出させていただいたわけでございます。この点,今回の部会資料の20ページのウでは,「遺言において,相続財産に属する特定の権利を受益者に取得させることが定められた場合には,遺言執行者は必要な範囲でこれを受益者に引き渡し,対抗要件を具備させるのに必要な行為をすることができれば足り,それ以上に遺言執行者にその目的財産の処分権限まで認める必要は乏しい」とありますので,そうしますと,処分権限が示されていない遺言では,執行者に払戻権限は認められないことになります。   しかしながら,やはり実態を見ますと,そして遺言者の真意を図ろうとしますと,このような場合でも遺言者は遺言執行者に,預金の取りまとめであるとか,預金の解約回収,資産の取りまとめというのを依頼しているということが多いのではないかと思います。したがいまして,金銭債権全体というカテゴリーについてはといった整理になるかとも思いますけれども,預金に関しましては,そういう処分権限までお認めいただくような立付けということをご検討いただけないかというのが意見でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 その点についてはこちらでも検討したのですが,特に預金のような可分債権でも対抗要件を具備しなければ債務者としては支払わなくていいという規律を設けたことを前提として,さらに今,御説明があったような相続人の一人に相続させる旨の遺言があった場合に,ほかの相続人が遺言執行者として指定されているという事案で,その遺言執行者に預金の払戻権限を認めて,全額引き出せるということまで認める必要があるのか。そういったことを認めますと,それは不正に流用するおそれというのも当然出てまいりますので,そういった権限まで本当に認めていいだろうかという点については,かなり疑問に思っているところでございます。   したがって,遺言者の方でそういった財産を処分させることが遺言の中から明らかである場合には,ここに書いてある方策でも,遺言執行者はそれを引き出すことができるということになるわけですが,そういったところが表れていない場合には基本的にはできないと。ただ,この部会資料でも(注)で書いてありますが,遺言執行に必要な費用ですとか,あるいは報酬などについては,相続財産の中から遺言執行者は取れるということになっておりますので,そういった範囲であれば,預金債権の中からそれを回収するということはあり得ると思いますけれども,基本的に一定の財産,権利を移転させるというだけの遺言がされている場合に,それについての処分権限を一律に遺言執行者に認めるということについては,かなり大きな問題があるのではないかと考えているところでございます。 ○浅田委員 おっしゃることは分かりますけれども,その点については実態を踏まえて,私どもも問題整理をしたいとは思いますが,引き続きご検討いただきたいと思っています。   なお,先ほどご指摘があった部会資料20ページの(注1)の,言えば遺言執行者が任意の相続財産を換価,取立てが可能であるという点についてのコメントです。つまりそれは,執行費用を回収するために行うときということでありますけれども,ただ,現実においては,執行費用というのは多分,全体額からすると微々たるものでありますので,それがために預金を全部処分することを認めるという構成は,ちょっと躊躇するような感じもすることを指摘しておきたいと思います。いずれにしても,検討していただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○上西委員 遺言執行者の復任権についてです。ここに書かれていますとおり,「遺言執行者は,自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。」ということに賛成です。   18ページの該当箇所に,「この場合において,やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う」と書いてあります。このやむを得ない事由とは,どのような場合を想定されているのか教えていただきたいのです。場合によっては,これは要らないのかなという気もいたしましたので。   17ページに戻りまして,遺言執行者の権限の明確化についてですが、賛成です。就職後,直ちに財産の管理等々に着手するわけですが,現実に分割協議で行うケースもあります。全く違う内容ですることもあれば,遺言の内容にほぼ即して,部分的に違うだけということもあります。いずれであっても、遺言執行者が就職したということについての通知義務は,民法上なかったかと思うのです。   相続財産の目録の作成については1011条に書いてあり,遺言執行者に対する就職の催告というのは,相続人サイドからできるという規定がありますが、遺言執行者から就職の通知をすることによって,この遺言どおりやってよろしいですか,それとも別途協議されますかという機会を相続人に与えるといいますか,熟慮するチャンスを設けることができます。権限を明確化するのであれば通知義務ということもなじむのではないでしょうか。法的に御検討いただきたいと考えます。これは,遺言執行者に義務を課するという意味よりも,むしろ遺言の存在を知らなかった者に検討する機会を与えるという意味で検討すべきものと思います。   就職するに当たっての承諾についてです。就職したということについての方法ですが、通知を義務とした場合に,口頭と書面のいずれでするのか,あるいは書かない方がいいのかについても検討課題になるのかなと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 まず,18ページの⑦のところで,やむを得ない事由とありますのは,基本的に法定代理人が復代理をする場合の規定を参考にして,ここでも同じように考えたというものでございまして,具体的にどういう場合がこれに当たるかという点は十分に調べられておりませんけれども,例えば遺言執行者が病気になって入院しなければいけなくなったとか,そういったような事情がある場合,要するに自分で遺言執行事務をできなくなってしまったことについてやむを得ない事由がある場合には,監督についてだけ責任を負うけれども,そうではない場合,自分は本来できるんだけれども,第三者に委ねるという場合には,その遺言執行者の自己責任ということを記述をしているものでございます。   それから,遺言執行者の就職についての通知義務でございますが,この点については今回初めて御指摘をいただきまして,こちらでは全く検討できておりませんので,今後,検討させていただければと思います。 ○水野(有)委員 浅田委員のおっしゃったところと重なるところでございますが,債権についてどのようにお考えかを,まとめてご説明いただけると有り難いと思います。  第1点目は,①のところで現に占有していた財産というとき,債権の場合はどういう状態のものを占有していた財産とするのかという点です。   第2点目は,例えば不動産を母親,一切の預貯金を含む金銭債権は長男と次男というような遺言があったときに,②でいう特定の権利を,相続人その他の者に取得させたことが定められた場合に当たるとするのかという点です。   3点目は,債権といった場合,浅田委員もちらっとお触れになったのですが,存在も内容も明確な預貯金債権から,相続人間の被相続人財産の横領を巡る損害賠償請求債権など被相続人自体の請求の意思の有無さえ争われる存在も内容も明確でない債権など,本当に様々なものがありますが,それらの債権を一律にこの規律で規定するというご趣旨かという点です。   4点目は,浅田委員ご指摘のとおり,今回のご提案だと従前の実務との変更点が多いのかもしれませんので,対抗要件の問題も含め,実務への影響という観点でいろいろご検討いただけると有り難いというお願いでございます。   今,お聞きいたしましたことに,何かございましたら,お教えいただけるとと思います。  よろしくお願いいたします。 ○堂薗幹事 御指摘の点は,引き続き検討したいと思いますけれども,基本的に債権については,債権を取得させるという遺言がされた場合には,遺言執行者としては,対抗要件を具備させるということでも足りて,それによって基本的には債務者の方は譲受人の方に払わなければいけなくなるという状態がつくれるのではないかと。   ここで基本的に考えているのは,①ですとか②の方は,動産ですとか不動産ですとか,実際に引渡しをしなければいけないようなものを念頭に置いておりまして,ここで考えているのは,この引渡しについて,基本的には被相続人が有していた権利状態といいますか,事実状態も含めて,それをそのまま受遺者に承継させると。すなわち,第三者が占有をもともと,被相続人が生きているときから第三者が占有していたものについては,そのままの状態で引き継げばいいと。ただ,被相続人が自分で占有管理していたものについては,それは被相続人と同じような状態をつくり出すためには,受遺者に対してそれを引き渡さないといけないということになりますので,その引渡義務まで遺言執行者の事務とするというようなイメージでございまして,引渡義務については今のような考え方で規律を設けたということでございます。   それに対して,対抗要件具備行為については,ここで挙げているのは,基本的には対抗要件具備行為は全て遺言執行者の権限であるということなんですけれども,ただ,対抗要件具備行為についても同じように,被相続人が有していた状態と同じような状態にすればいいというふうに限定すれば,被相続人が自分のところに登記を持っていた場合は,それを受遺者の方に移転させなければいけないけれども,第三者がその登記を持っていた場合は,もうそれは遺言執行者ではなくて,本人に回復はさせるというようなことも考えられるのではないかというところでございまして,まだ検討は不十分ですので,いろいろ細部を検討する必要はあると思いますけれども,基本的には,今申し上げたような考え方を前提としております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。ありがとうございます。 ○増田委員 水野委員の質問されたことに近い質問を一つだけさせていただいた後で,五つほど方向性について意見を述べさせていただきたいと思います。   質問は,2のアで,相続開始時に被相続人が現にその財産を占有していなかったときはこの限りでないということですが,遺言者が当該財産の引渡請求権を有していた場合に,その引渡請求権を遺言執行者は行使できないのかということと,もし,引渡請求訴訟中に遺言者が死んだら,それは誰が受継するのかというのが質問です。まず,それをお答えいただけますか。 ○堂薗幹事 基本的に②のアの考え方というのは,要するに第三者が占有している場合に引渡しを求めるのかどうか,あるいはどういった形でその紛争を解決するのかというのは,遺言執行者の判断によるのではなくて,正に権利者である受遺者あるいは受益相続人の方で判断すべき事項ではないかということで,その部分は除外しているというところがございますので,引渡請求権が発生している場合であっても,その引渡請求権を行使する権限は遺言執行者にはないという前提でございます。   したがいまして,訴訟継続中に被相続人が亡くなった場合に受継すべき者というのは,遺言執行者ではなくて,その受遺者なり受益相続人となるのではないかというのが,こちらの整理ということになります。 ○増田委員 ダイレクトに受遺者に行くのかどうかね。ちょっと検討の余地があるとは思うんですけれども,今のお答えを踏まえて,方向性について五つほど述べさせていただきます。   まず,遺言執行者の法的性格を明確にしていただきたいということです。遺言執行者というのは,恐らく遺言者の意思を死後に実現するための機関であると考えられます。現在,1015条では相続人の代理人となっておりますが,相続人とは本来利益相反の関係にあって,相続人の利益のために行動するということは現実にもありません。1015条は,相続人への効果帰属といったような表現に改められるべきだと考えております。   それから,2番目ですけれども,遺言執行者が遺言者の意思を実現するという目的を達するためには,堂園幹事のご意見とは異なり,遺言の対象財産についての排他的財産管理処分権が認められるべきであろうと考えております。例えば,遺贈の目的不動産について,その賃料の収受は相続人がするといった解釈で,結果的に不当利得が生じるようなことを認めているのは,私はおかしいと思います。   それから,第3に,遺言執行者の権限規定ですけれども,先ほども少し触れましたが,訴訟の当事者適格ということをも念頭に置いて整理すべきだろうと思います。それは,遺言者が訴訟継続中に死亡したときに誰が受継するかという問題になります。先ほどの質問のケースで,対抗要件を具備しないうちに受遺者が直接受継するというのはどうかなと私は疑問に思っておりますが,ただ,自らが取得できないことが分かっているような相続人に受継させても,適切な訴訟追行は期待できないわけですから,先ほどの例の引渡請求訴訟中であれば,その物を受遺者に引き渡す義務を負っているというか,義務を負っているという点の見解は異なるのでしょうが,少なくとも受遺者に引き渡す権限を有している遺言執行者が受継するというのが適切であろうかと思っております。   あと,当事者適格に関しては,御承知のように,遺贈の履行請求や,遺留分減殺請求の被告適格については問題がある,これらは既に学説・裁判例で議論されている問題ですが,この辺も明確にしていただきたいと思います。   四つ目ですけれども,相続債権者との関係も少し整理していただきたいと思います。日本の遺言執行者は,現行法では清算人的性格はないということになっていて,それについては維持でいいんだろうと思うんですが,執行対象財産を占有している状態であれば,債権者が相続人に対する債務名義でこの遺言執行者の持っている財産に対して執行できるのかどうか,あるいはその逆の問題があります。   この点学説上は,相続人に対する債務名義では,遺言執行者の所有している財産には執行できないというような解釈もあるように思われます。ただ,その実体的な根拠は明らかではないですので,その辺りを含んで,債権者の関係でも執行者の権限を整理していただきたいということです。   五つ目ですけれども,遺言執行に関して,類型的に利益が相反する者については,遺言執行者の欠格事由とすべきだと考えています。典型的なのは相続人,受遺者。巷では,よくこういう人が遺言で遺言執行者として指定されている例が見られます。   先ほど浅田委員の御質問に対してお答えがあったように,債権者として債権を取得しない相続人が遺言執行者に指定されている場合には,また別の困った問題が起こるだろうと思います。   相続人,受遺者は当然に,その親族まで入れるかどうかはともかくとして,一定範囲の者について遺言執行者の欠格事由とすべきだと考えております。ちなみに,弁護士は,相続人の代理人が遺言執行者になると,懲戒事由になり得ます。この点からも,利益相反する者が執行者に就任するというのはおかしいだろうと思います。   以上,五つの方向性という形で御要望申し上げました。この点については,また弁護士会の方でもいろいろと細かい点について,現行法の問題点などを提出したいと考えております。 ○堂薗幹事 基本的に今,御指摘いただいた点につきましては,こちらで検討したいと思いますけれども,ただ,排他的な財産処分権限を与えるということについては,それはどういう根拠で遺言執行者にそこまで広い権限を認めるのか。特に,不動産を誰々に相続させるとした場合に,不動産をなぜ換価できるのか。債権もそうですけれども,債権のままその権利を取得したいという相続人もいると思いますけれども,そういった場合にも遺言執行者の判断でそれを換価できるというようにすることについては,なぜそういう強大な権限が遺言執行者に付与されるのかという辺りが非常に問題になるのではないかと考えております。   特に,先ほどの利益相反との関係で問題になるのかもしれませんけれども,現行は相続人に遺言執行者を指定しているという場合も一定程度ありますので,そういった場合に,その相続人に包括的な財産処分権限を与えることについては,非常に大きな問題があるのではないかと考えているところでございます。   それから,御指摘いただいた当事者適格,被告適格の問題については,基本的には実体法上の管理処分権限が誰に帰属するのかという辺りを確定させれば,ある程度のところはそれによって解決ができるのではないかというところもございまして,今回,その辺りの整理を試みてみたというところでございますが,ほかにもいろいろな問題があると思いますので,その点については引き続き検討してみたいと思います。   それから,類型的に利益相反となる場合に,相続人を遺言執行者の欠格事由とすべきであるという点につきましては,これも検討したいとは思いますけれども,恐らく現行法上,相続人が利益相反になる場合であっても,特に権限の制限がされていないのは,遺言によって遺言執行者が行うべき事務がもう確定されていると。したがって,例えば双方代理,あるいは利益相反の代理人であっても,債務の履行はできるというのと同じような理屈でそうなっているのではないかと思いますので,民法の利益相反,あるいは双方代理の規定との整合性をどう考えるのかという問題もあろうかと思いますので,その辺りも含めて,先生方の御意見をお伺いしながら,引き続き検討してみたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○沖野委員 すみません。時間を取ってしまって恐縮なんですけれども,遺言執行者の権限というものが,これが正に権限として固定するということなのか,いわばミニマムのデフォルトルールなのかという,その扱いの問題があろうかと思っておりまして,例えば妨害排除なども含めてこの人にやっていただきたい,わざわざ弁護士の方を遺言執行者にしているのはそういう趣旨なんだとか,そういうようなこともあるかと思いますが,そういうものをどこまで入れてくるのかという問題があるかと思います。   その際に,今回はかなり権限を縮減された提案だと思うのですけれども,その際の出発点ないし支える考慮は三つぐらいでしょうか。一つは遺言執行者に過度の負担にならないようにという点と,そもそもそのような権限を持つ根拠はどうかと言われた点で,そこまでの権限を与えるだけの十分な正当化ができるのかという点,そして三つ目が,誰がこれについて意思決定をすべきなのかという点で,むしろ受遺者であるとか,実質的な受益者ではないのかという点かと思います。   ただ,いずれにつきましても,関係者が望んでいるときにどうかという問題が一つはあろうかと思います。そうすると,一方では,遺言において別段の定めがあるような場合は,もう少し広げてよいのかということが出てくるかと思います。19ページの(注2)に書かれているものですけれども。   それから,関連して二つ目なんですけれども,最終的な意思決定なり,意向で決定的な意向を貫けるのは誰かというときに,相続人ではないと思うんですけれども,被相続人なのか,受遺者なのかというその調整の問題も出てこようかと思いますが,ここでは,基本的に最後はやはり受遺者,受益者であるという想定を考えておられるようにも思うんですけれども,そうした場合,増田委員が御指摘になった1点目との関係で,今,やはり相続人の代理人として扱うというのが本来は効果帰属だけであるところを,過度の制約になっている可能性もあるのかなと思いまして,その観点での見直しが必要ではないかと。   関連してなんですけれども,細かいところで恐縮ですが,18ページの復任権のところの,本人に対して選任,監督についての責任のみを負うという箇所につきまして,本人とは誰かという問題でして,1015条との関係では相続人のようだけれども,これはむしろ受遺者等ではないかという気がいたしますものですから,その点明確にする必要があるのではないかということです。   それから,18ページの半ばで書かれております和解等の,紛争があるような場合で,紛争がない場合は権限として認めていいのではないかという感じはしているんですけれども,紛争があるような場合について,最終的にどのように決着するかということは受益者本人に決めさせるべきだという点ですけれども,その場合に遺言執行者には権限がないとすることが唯一の方法なのかという点でして,例えば遺言で書かれているような場合は認めてよいという可能性が一つですし,さらには遺言で書かれている場合も,受益者の意向を聞かなければならないとか,受益者の指図に従わなければならないとか,そういうような規律を設けるということはあり得るかと思います。   ただ,もう一つの可能性としては,遺言執行者もミニマムなものに固定してしまって,あとは任意に,その人にお願いするなら受遺者頼めばよいというやり方もあろうかと思いますけれども,そこまでのことを本当に要請していいのかというのは気になるところです。   そしてあと,時間がないところ本当に申し訳ありません。表記だけの問題です。お話を伺って分かってきたのですけれども,17ページの②の㋑のところでただし書は,動産に関する物件であるときはアの範囲に限るということなんですが,登録自動車とかそういうことはありますので,そうすると,ここでは一体,引渡しのことをいっておられるのか,およそ動産についてはということをおっしゃっているのかちょっと分からなかったもので,御説明からすると,対抗要件具備であればいいということですから,書き方はいろいろあると思いますけれども,あるいは㋑の括弧の中に動産の引渡しについては㋐の範囲に限るとか,そんな書き方もあろうかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 基本的には,今,御指摘の点も検討させていただきたいと思いますが,1点,基本的には②,③の規定は,特に遺言に特段の定めがない場合はこうなるということで,④に書いているんですが,遺言において別段の定めがされている場合には適用しないことになりますので,遺言者の方でそういう指定がされている,引渡権限まで遺言執行者の権限として認めているというような場合には当然,遺言執行者の権限になりますし,明確に書いていない場合でも,全体の趣旨からして遺言者の合理的意思としては,そういう別段の定めをしているのだろうと思われる場合については,遺言執行者の権限になるという前提で考えているところではあります。   それから,登録自動車の点は,御指摘のとおり,それは,ここでは考えておりませんで,仮に登録自動車のようなものがあれば,それは通常の対抗要件具備行為と同じ話になるという前提でございます。その点については,表現等を工夫したいと思います。その余の点については十分な検討ができておりませんので,検討の上で次回に考えをお示しできればと思います。 ○山本(克)委員 増田委員と堂薗幹事の間のやり取りのうち,訴訟法的な点について2点コメントをさせていただきます。御返答は不要ですので。   1点目は,遺言者が所有権に基づいてだと思うんですが,第三者が占有している物件が私のものだというので引渡請求をしているというときに,その訴訟継続中に死亡した場合の誰が次原告になるべきかという問題ですが,民訴法124条1項1号の解釈問題になると思うんですけれども,そこでは,普通考えているのは包括的に実体的な権利を承継した者か,包括的に管理処分権を承継した者のどちらかと考えていると思いますので,特定受遺者はそれには含まれないので,特定受遺者が仮に何かその訴訟に関与できるとしても,それは49条参加しかあり得ないのではないかと思いますので,そこはちょっと御再考いただいた方がよろしいのではないかというのが私の見解です。   それからもう1点は,実体法の職務権限と当事者適格との関係ですが,増田さん,当事者適格を念頭に先に考えろということですが,それはちょっと,私はそれは理屈が通らないのではないかと思います。もちろん,当事者適格の点を念頭に置きながら議論しなければならないのは当然ですけれども,今,堂薗幹事がおっしゃったように,実体法の職務権限というものの範囲で当事者となるという前提で議論をすべき事項だと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。御指摘に従って,更に検討をお願いしたいと思います。   そのほかいかがでございますか。 ○浅田委員 遺言執行を行う者としての立場から若干のコメントないしは質問,確認めいたものも申し上げたいと思います。   遺言執行者の責任に係ることであります。これは原則としては民法1012条2項の受任者の義務と,善管注意義務を中核として義務を負っていると考えているところです。そこで,17ページの②のア,イの,動産は,相続開始時に被相続人が占有する物だけについて引渡義務があるとする提案について,こういう意見がございました。   相続開始時の被相続人による占有の有無をもって遺言執行者の権限の有無が決まるとすれば,遺言執行者としては,就任に当たり,相続開始時の同遺産の占有状態を調査する必要があると思われます。実務上,相続開始から相当な期間が経過してから,執行者に対して死亡通知がなされることもあるようで,そうすると,占有状態が調査不能であるために遺言の執行が滞りかねないことや,調査に時間を要したために執行が遅延して遺言執行の責任が問われかねなくなるということを懸念する意見がありました。併せて,相続人の一部等が相続開始前又は後に遺産の占有状態を恣意的に移転することにより,遺言執行を妨害しようとすることを懸念するという意見もありました。   それから,同じような文脈のコメント等ですけれども,相続させる遺言における登記権限と責任,部会資料の19ページの(注1)辺りのところだと思いますけれども,相続させる遺言において遺言執行者に不動産の所有権移転登記申請権限があるとする制度と,前回会議の部会資料5で示されていた相続による物件変動も全て対抗要件の具備の先後で優劣を決するという制度を組み合わせるとすると,遺言執行者が適時に登記申請をしなかったということで,受益者から損害賠償請求を追及される可能性があるかということを懸念する意見がございました。   というのは,銀行は遺言信託業務を提供していますが,相続させる遺言で不動産の帰属を決めている場合には,現行判例では受益者だけが登記権限を有するので,執行者は係る登記実現の義務を免れています。今回の制度改正によって登記権限まで有するということになると,損害賠償リスクが出てくるのかなということでございます。これは,ある意味当然なのかもしれませんが,ただ,余り過度なもの,適時にせねばならないとかいうことになりますと,遺言執行者としては遺言者の死亡の認識まで時間が掛かるということもありますので,なかなかこの義務を果たせないということもあり得ます。義務の内容というのは解釈問題になるとは思いますけれども,そこについては柔軟かつ実務的な考えで内容を決定していただきたいところであります。この点について,ご提案の事務当局等において何かご見解があれば承りたいと思います。 ○堂薗幹事 まず,①の基準時を相続開始時にしている点でございますが,基本的には最終的にどう制度設計するかというところに関わりますけれども,ここで考えているのは,遺言執行者が就任した時点で,被相続人が占有しているものについては当然引渡しなどをするということですけれども,それが分からない場合は,基本的には遺言執行者はそれについて引渡しをする必要はない。第三者が占有していて,それが相続開始時よりも前なのか,後なのか分からない場合は,基本的には権限の範囲外であるという前提で一応考えております。   ただ,相続開始時に占有していたんだけれども,それを妨害する意図で占有移転がされた場合には,遺言執行者の権限に含めるということでございますが,この点については,必ずしも相続開始時を基準時にする必然性はないと思いますので,その基準時をどこに定めるかという点については,引き続き検討したいと思います。   それから,相続させる旨の遺言がされた場合の登記権限でございますけれども,ここでは遺言執行者にも権限を認めるということではございますので,先ほど御指摘があったような問題は生じるかと思いますが,ただ,他方で受遺者側でも自分で単独で登記申請ができるという点は変わらないということでございますので,それによって何か損害が生じた場合に,自分でもできたわけでございますので,自分で損害を回避する手段があったということで,損害賠償請求は認められない,あるいは責任の範囲が限定されるということは十分に考えられるのではないかと思っているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか御発言ございますでしょうか。 ○村田委員 資料18ページの⑥で,遺言執行者が任務に属する特定の行為をすることが困難な事情があるときに,家庭裁判所に代理人の選任を求めることが書いてありまして,その説明が21ページのところに書いてあります。21ページの説明では,遺言執行者の権限の範囲が必ずしも明確でなくて執行が円滑に進まない場合が記載されていますが,それ以外にも,遺言執行者が任務に属する特定の行為をすることが困難な類型が幾つかあるのではないかと思われて,その類型ごとに多分,裁判所が判断すべき内容が違うような気がするんですね。権限の範囲内か,範囲外か分からなくてもめているようなケースは,正にそれを判断すればいいかと思うんですけれども,権限の範囲内であることは明確なんだけれども,例えば遺言の執行に専門的な知見を要するために,その遺言執行者ではなくて別の代理人が必要だというようなケースもあれば,それ以外にも幾つかパターンがあるような気がして,それぞれのケースにおいて裁判所が何を判断すべきかということや代理人としては類型に応じてどういった者が考えられるのかという辺りを分けて分析していただけるとありがたいなと思います。   また,例示されているところの権限の範囲が必ずしも明確でないために執行が進まないというときは,問題となっている特定の行為は遺言執行者の権限の範囲内ですよという判断ができたら,当該行為をする権限を更に遺言執行者以外の代理人に与える必要があるのか,それとも,当該行為をすることは遺言執行者の権限に属するということについてお墨付きを与えるだけでいいのか,ちょっとその辺りもよく分からないところがあるので,更に検討していただけたらありがたいなと思います。 ○大村部会長 それは,更に検討していただくということで引き取らせていただきたいと思います。   そのほかいかがでございましょうか。   よろしゅうございますでしょうか。   それでは,御指摘いただいた点につき,事務当局におかれましては更に御検討をお願いするということにさせていただきたいと存じます。   本日予定しておりました審議事項は以上でございます。   次回以降の日程等につきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと存じます。 ○堂薗幹事 それでは,次回の日程でございますが,次回は,既に御案内のとおり,11月17日火曜日の午後1時半から午後5時半頃までを予定しておりまして,場所も本日と同じこちらの20階第1会議室ということになります。   次回は,一読の際,大変白熱した議論を頂きました配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現などを取り上げたいと思っておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ということでございますので,どうぞよろしくお願い申し上げます。   本日も熱心に御審議を頂きまして,誠にありがとうございました。   これをもって閉会させていただきます。 -了-