法制審議会 第176回会議 議事録 第1 日 時  平成28年2月12日(金)   自 午後2時00分                         至 午後2時48分 第2 場 所  法務省大会議室 第3 議 題    商法(海運・運送関係)等の改正に関する諮問第99号について 第4 議 事 (次のとおり) 議        事 ○西山司法法制課長 ただいまから法制審議会第176回会議を開催いたします。   本日は,委員20名及び議事に関係のある臨時委員1名の合計21名のうち18名に御出席いただいておりますので,法制審議会令第7条に定められた定足数を満たしていることを御報告申し上げます。   初めに法務大臣挨拶がございます。 ○岩城法務大臣 法制審議会第176回の会議の開催に当たり,一言御挨拶を申し上げます。   委員及び幹事の皆様方におかれましては,御多用中のところ本会議に御出席いただき,誠にありがとうございます。また,この機会に,法制審議会の運営に関する皆様方の日頃の御協力に対し,厚く御礼を申し上げます。   さて,本日は,平成26年2月に諮問いたしました「商法(運送・海商関係)等の改正に関する諮問第99号」について御審議をお願いしたいと存じます。   この諮問につきましては,「商法(運送・海商関係)部会」において,調査審議が行われました結果,「商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案」が取りまとめられ,本日,山下部会長から御報告いただけるものと承知をしております。   商法制定以来の社会・経済情勢の変化への対応,荷主,運送人,その他の運送関係者間の合理的な利害の調整,海商法制に関する世界的な動向への対応等の観点から,商法等のうち,運送・海商関係を中心とした規定を改正する必要があり,部会におきましても精力的に調査審議をしていただいたと伺っております。   委員の皆様方には,慎重に御審議の上,速やかに御答申くださいますようお願いを申し上げます。   それでは,御審議方よろしくお願い申し上げます。 ○西山司法法制課長 誠に恐縮ではございますが,大臣は公務のため,ここで退席させていただきます。 ○岩城法務大臣 では,よろしくお願いします。 ○西山司法法制課長 ここで報道関係者が退室しますので,しばらくお待ちください。           (報道関係者退室) ○西山司法法制課長 それでは,高橋会長,お願いいたします。 ○高橋会長 高橋でございます。本日は,御審議よろしくお願い申し上げます。   まず初めに,昨年10月9日に開催いたしました前回の第175回会議以降,本日までの間に委員の異動がございましたので,御紹介いたします。異動内容の詳細は,お手元の人事異動表のとおりでございますが,新たに就任された委員の方々が本日御出席でございますので,御紹介申し上げます。   次長検事の青沼隆之氏が委員に就任されました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○青沼委員 青沼でございます。よろしくどうぞお願いします。 ○高橋会長 日本労働組合総連合会会長の神津里季生氏が委員に就任されました。どうぞよろしくお願いいたします。 ○神津委員 神津でございます。どうぞよろしくお願いします。 ○高橋会長 本日の審議に入ります。   先ほどの法務大臣の御挨拶にもありましたように,本日は,「商法(運送・海商関係)等の改正に関する諮問第99号」について,御審議をお願いいたします。   商法(運送・海商関係)部会における審議の経過及び結果につきまして,同部会の山下友信部会長から御報告を頂きたいと存じます。   では,山下部会長,報告者席までお願いいたします。 ○山下部会長 部会長の山下でございます。よろしくお願いいたします。   それでは,諮問第99号につきまして,先月27日に開催された商法(運送・海商関係)部会第18回会議におきまして,商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案を決定いたしましたので,部会における審議の経過及び要綱案の概要について御報告をさせていただきます。   まず,部会における審議の経過について御報告いたします。   運送及び海商に関する規定の見直しにつきましては,平成26年2月,法制審議会第171回会議におきまして,商法制定以来の社会経済情勢の変化への対応,荷主,運送人その他の運送関係者間の合理的な利害の調整,海商法制に関する世界的な動向への対応等の観点から,商法等のうち運送・海商関係を中心とした規定の見直しを行う必要があると思われるので,その要綱を示されたいという内容の諮問第99号が行われまして,商法(運送・海商関係)部会が設置されました。なお,海商とはおなじみの薄い言葉かもしれませんが,商法第3編に定められている海上運送,船舶の衝突,海難救助などの規律でございます。   部会ではこの諮問を受けまして,平成26年4月から物品運送及び海商に関する事項を中心に調査審議を行うとともに,並行して旅客運送に関する事項については,旅客運送分科会を設置して調査審議を行いました。そして,平成27年3月に「商法(運送・海商関係)等の改正に関する中間試案」の取りまとめを行いました。   これにつきましては,事務当局において,平成27年4月及び5月の約2か月の間,パブリックコメントの手続を行いました。その後,中間試案に対して寄せられた御意見も踏まえまして,更に調査審議を重ね,最終的に部会を18回,旅客運送分科会を7回開催した上で,先月27日の部会におきまして,「商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案」を決定いたしました。   以上が,部会における審議の経過でございます。   次に,要綱案の概要を御説明いたします。   要綱案は,「第1部 運送法制全般について」,「第2部 海商法制について」,「第3部 その他」の3部構成になっておりますので,この要綱案の項目に従って御説明いたします。   まず,要綱案1ページ以下の第1部は,陸上・海上・航空の運送法制全般に関するものでございます。   航空運送,複合運送についてでございますが,現代社会において頻繁に行われる航空運送や複合運送について,1ページの第2の1及び5ページの第3の1では,商法に各種運送に関する総則的規律を設け,現在は規定を欠いている航空運送や陸上・海上・航空を組み合せた「複合運送」にも,これを適用することとしました。   5ページの10では,複合運送の運送人の責任は,運送品の滅失等の原因が生じた区間に適用されることとなる法令又は条約の規定に従うこととしております。   危険物に関する通知義務についてでございますが,2ページの3(2)危険物に関する通知義務につきましては,現代社会において多様化する危険物の安全な運送を確保するという観点から,運送品が危険物である場合に,荷送人に危険物に関する通知義務を課す規定を新たに設けることとしております。ここでいう「危険物」とは,引火性・爆発性などといった危険性を有する物品を意味するものでありまして,典型例としては,ガソリンや化学薬品などが挙げられます。   この点について,部会では,荷送人に危険物に関する通知義務を課す規定を設けること自体に関しては,特段の異論はございませんでした。しかし,その義務に違反した荷送人の損害賠償責任の在り方に関しては,荷送人に帰責事由がない場合にも荷送人が責任を負うか否かについて意見が大きく分かれました。そして,様々な議論の結果,要綱案におきましては,荷送人は危険物に関する通知義務に違反した場合には,これによって生じた損害の賠償責任を負いますが,その違反につき荷送人に帰責事由がないときは,荷送人は賠償責任を負わないとすることで,コンセンサスが得られました。   現代では,荷物の所有者から運送の委託を受けた元請運送人が,下請運送人に運送を再委託する「利用運送」という業態が一般的になっておりまして,この下請運送の部分については,元請運送人が運送の委託者として荷送人の地位に立つのですが,荷物が封印されたコンテナである場合など,元請運送人がその中身を知り得ないこともあることや,運送品の性質や取扱い方法等について十分に知識を有しない消費者も荷送人になり得ることなどを踏まえまして,個別事情に応じて弾力的な判断ができるようにすべきであることなどの理由によるものでございます。   次に,運送人の責任の除斥期間についてでございますが,4ページの8(2)裁判上の請求がない場合の運送人の責任の消滅につきまして,消滅時効の規律を除斥期間の規律に改めることとしております。すなわち,現行法では,運送品の損傷等についての運送人の責任は,基本的に運送品の引渡しの日から1年の消滅時効に服し,運送人が損傷等について悪意である場合には5年の消滅時効に服するとされています。これを,要綱案では,運送品の引渡しの日から1年以内に裁判上の請求がされなければ,運送人の善意・悪意を問わず,運送人の責任は消滅するとしております。これは,物流の量が著しく増加した現代社会では,多数の貨物を反復継続して運送する運送人のリスクの予見可能性を高めるべきであることなどを理由とするものでございます。   次に,旅客運送人の責任に関する片面的強行規定についてでございまして,5ページの第3の3(1)旅客に関する運送人の責任について,旅客の安全を確保する必要性が高いことなどを踏まえまして,旅客の生命又は身体の侵害による運送人の責任を免除し,又は軽減する特約を無効とすることといたしました。ただし,運送の遅延を原因とする責任についてまでこのような特約を無効とすると,鉄道などの公共交通機関におきまして,遅延の都度,多数の旅客との間に大量の紛争を生ずる結果,運送事業の合理的な運営が著しく阻害され,ひいては運送賃の上昇を招きかねないところがあります。   また,災害地における運送や,運送に伴い通常生ずる振動により身体に重大な危険が及び得る重病人の運送などにつきましては,運送事業者に運送引受義務はありませんが,このような場合にまで運送人の責任を減免する特約を無効としますと,運送事業者が運送自体をちゅうちょし,真に必要な運送が確保されないおそれがあります。そこで,これらの運送については,免責特約の余地を残すこととしております。   次に,6ページ以下の「第2部 海商法制について」の部分では,商法が制定された明治32年から現在までの間に成立した国際条約の内容などを踏まえまして,商法の規律を現代化することとしています。   まず,8ページの第3の2(2)の堪航能力担保義務,すなわち船舶の整備や適切な船員の配乗などによって,船舶が安全に航海をする能力を有することを担保する義務につきまして,現行法の下では,この義務違反による船舶所有者の責任は無過失責任であると解されてきました。しかし,国際海上運送においては,この責任は過失責任とされておりまして,国内海上運送と国際海上運送における責任の在り方が不均衡でございました。また,船舶の構造が複雑化,大型化し,相当の注意を尽くしても船舶の設備等の瑕疵を発見し得ないケースがある中で,国内海上運送の運送人に結果責任を負わせる合理性も乏しくなっております。このような事情を踏まえまして,国内海上運送に関しても,堪航能力担保義務違反による責任を過失責任に改めることとしております。   次に17ページ,第6の2の船舶の衝突によって生じた債権の消滅時効についてでございますが,現行法の下では,被害者が損害及び加害者を知ったときから1年の短期消滅時効に服することとされています。他方,条約加盟国の船舶同士の衝突に適用される国際条約では,多数の利害関係人との間で権利関係を早期に画一的に確定させる等の趣旨から,事故があった日から2年の経過による時効消滅が定められております。このような国際条約の趣旨は,日本の船舶同士の衝突などにも妥当いたしますので,商法においても,条約の規律に合わせて,船舶の衝突を原因とする不法行為による損害賠償請求権のうち,財産権の侵害によるものについては,不法行為のときから2年間行使しないときは,時効によって消滅することとしております。   なお,人身損害に係るものにつきましては,人命尊重の見地から,条約とは異なりまして,商法に短期消滅時効の規律を設けず,民法の規定を適用して,加害者等を知ったときから3年の消滅時効に服することとしております。この消滅時効期間は,現在国会で継続審議中の民法改正法案が成立すると,5年に伸長されることになります。   最後に,24ページの第3部におきましては,商法の特別法として,国際海上物品運送に適用される法律であります「国際海上物品運送法」に関しまして,その元となっている国際条約についての諸外国の解釈に対応するという観点から,適切な内容に改めることとしております。   以上,甚だ簡単ではございますが,要綱案の主な項目につきまして御説明申し上げました。よろしく御審議のほどお願い申し上げます。 ○高橋会長 ありがとうございました。   それでは,ただいま御報告いただきました要綱案等々につきまして,御質問及び御意見を承りたいと存じます。   まず,御質問がございましたら,いかがでしょうか。 ○木村委員 弁護士の木村です。   本件の要綱案,これにつきましては,諮問の趣旨に即しているのみならず,人命尊重,被害者保護等への配慮,あるいは海難救助における環境保護への配慮など,内容面においても高く評価できるものとなっており,部会の先生方の御努力に敬意と感謝とを申し上げたいと思います。   ただ,この要綱案では,現行の規定,制度をそのままとして改正されなかったものがあり,その中にも重要な問題が残されているようにも思うところであります。それは,先取特権に関して,一つは船舶先取特権の対象となる労働債権の範囲について,また,もう一つは,船舶賃貸借における民法上の先取特権の効力についてという点であります。   私はこの要綱案の結論に異を唱えるものではありませんので,簡単で結構ですが,これらに関する議論状況を御説明いただきたいと思います。また,併せて,これらに関する将来の改正の可否等についても言及していただけると大変有り難いと思います。よろしくお願いいたします。 ○山下部会長 まず,先取特権につきまして,船員の雇用契約債権の範囲についてでございますが,船舶先取特権の被担保債権の範囲につきましては,従来から二つの異なる控訴審判決がございます。具体的には,雇用契約によって生じた全ての債権が被担保債権になるという旨の判決と,退職金等について,在籍期間に対する当該船舶への乗組み期間の割合に応じて被担保債権となる旨の判決とがございます。   商法部会では多々御議論はいただいたのですが,双方に合理的な側面があるということで,現行制度を改正することは見送りまして,引き続き,これは解釈に委ねるということにされたところでございます。   もう1点の船舶賃貸借における民法上の先取特権についてでございますが,商法704条2項は,船舶賃借人の船舶の利用について生じた先取特権は,船舶所有者に対してもその効力を生ずる旨定めているわけですが,最高裁の平成14年2月5日の決定というのがございまして,法定検査に伴い必要となった修繕費に関しまして,民法320条の動産保存の先取特権が成立することを前提として,商法704条2項の先取特権には,船舶先取特権のほか民法上の先取特権,先ほど申し上げた修繕費等に関する債権に係る先取特権も含まれる旨,判示しているところでございます。   この点についても商法部会では多々御議論がありまして,民法上の先取特権は船舶所有者に対して効力を生じないものとすべきではないかという御意見もございましたが,そうでないという御意見もあり,改正をするという考え方につきましては,船舶修繕業者--債権者ですね--その利益を害するほか,船舶修繕業者から早期の代金の支払いを求められる小規模な海運事業者の利益も害するのではないかという趣旨の反対意見が多く,商法部会では,結論としては現行制度を維持すべきであるということで意見が一致したということでございます。   特に,雇用債権の方につきましては,先ほど申しましたように下級審の判例が分かれているというところで,これは将来的にも解釈に委ねるということで,また,船舶賃貸借の先取特権についても,説明しましたように,一応今のところ判例があって,それを維持するということで,今回はそういう結論で,この2点に関しては法改正をしないということで,現時点の状況を踏まえた結論を部会として出したということで,将来またこういう判例がどう動いていくか,そういう辺りを見ながら変わっていくのだろうと思いますが,私がその点について責任を持って申し上げることは適切ではないかなと思います。 ○高橋会長 木村委員,よろしいですか。 ○木村委員 ありがとうございました。 ○高橋会長 ほかに,御質問はいかがでしょうか。   それでは,質問を兼ねてでも結構でございますが,要綱案につきまして御意見を伺いたいと思います。御意見がある人。 ○八丁地委員 経済界としての考え方を述べさせていただきますけれども,明治32年の現行の商法の制定時には,今のいわゆる物流とかロジスティクス,サプライチェーンというようなものはほとんど想定していなかったので,法制が適合していないとか,また,規定自体が存在しないという問題点があり,経済界においては,実務を中心にこの方面の現代化の要請とニーズというのは相当切実なものがあったと理解しております。したがって経済界といたしましては,今回の商法改正の取組は大いに歓迎です。   今回の要綱案の取りまとめに当たりましては,この部会と事務局において,実務の立場から荷主,運送人双方と,そのほか損害保険等の関係者間の意見調整を丁寧に行っていただきまして,大変バランスのとれた内容になったと認識をしています。   また,従来条文化されていなかった航空輸送や,陸・海・空を一体化させた複合輸送に関する規定も整備されましたので,全体といたしまして,標準的な指針が示されたと理解をしております。実務面でも大変分かりやすく,参照が容易な要綱案であります。これによりまして,運送人と荷主間の合理的な予測可能性が高まって,企業の物流ロジスティクス,サプライチェーンにおけるリスクマネジメントという観点からも,大いに資する内容であると評価をしております。   今後でございますけれども,法改正が実現した際には,実務の運用にいかに落とし込んでいくかということを是非お考えいただきたいということでありまして,周知期間の徹底ですとか,現場への周知ということに是非努めていただきたいと思います。加えまして,こういうところは多数の省庁にわたるかと思いますので,関係省庁との連携の下で,標準的な約款を整備されるなどの努力をしていただいて,引き続き関係者の意見聴取を踏まえて丁寧な対応をお願いしたいというところであります。   更に今後の方向でございますけれども,社会活動及び企業活動は,非常にグローバル化しておりまして,ビジネスの現場のグローバル化,変化も非常に早いわけであります。この運送・海商が関わるサプライチェーン,ロジスティクスは,いわばグローバル事業の主要インフラといいますか,バックボーンであるということになります。IT手段の進展などで運送システムとか手段も大いに変化するでしょうし,技術的には自動運転ですとか,環境対応運送手段ということだと思いますが,新しい運送手段,システムがどんどん出てくると思います。ドローンもその一部かもしれませんけれども,そういうことによりまして,事業の主体も変わり,ビジネスモデルも変わってくることが大いに想定と期待をされるわけであります。今後も是非こういう,冒頭にもございましたけれども,世界的な情勢の変化ということを前広に捉えていただいて,是非100年に一遍と言わず,機動的に見直しを行っていただければと期待します。 ○高橋会長 周知徹底等の御質問です。 ○金子関係官 八丁地委員におかれましては,御意見いただきましてありがとうございます。   法改正が実現した後は,法律を所管する立場で徹底して周知に努めていきたいと思っています。その際に,関係省庁あるいは関係する業界の方々等の意見も踏まえながら,丁寧に対応をしたいと思っております。   また,今御意見頂戴しましたとおり,この業界,いろいろな経済情勢の変化に対して的確に対応しなければいけない分野と承知しておりますので,この改正が一つの契機となりまして,今後は機動的な対応も必要になってくるかと思っております。ニーズをきちんと捉えながら,的確な対応をしてまいりたいと思っております。 ○高橋会長 八丁地委員,よろしいでしょうか。   ほかに御意見ございましたか。 ○神津委員 ありがとうございます。今回の要綱案の検討につきましては,労働者の保護という観点も踏まえ,連合からも幹事として部会での審議に参画をさせていただきました。   要綱案におきましては,国際条約などを一義的に当てはめることにより労働者保護が後退するというような懸念がおおむね払拭されるとともに,現代社会に適合した規定となり,現場の実態に即した内容となる点で,一定の改善が期待できるものと受け止めております。特に,先ほど経緯について御説明もありましたが,船舶先取特権を生ずる債権の範囲につきましては,取り分け船員の特殊な労働環境に鑑みて,労働債権の範囲を狭めることのないよう,現行法を維持するということになったと理解をしています。   その他の論点も含めまして,働く者の立場からも前向きに受け止められる内容であると考えております。要綱案に基づく改正法案の取りまとめと国会での成立を願うものであります。   取りまとめに当たりまして,山下部会長を始め皆様方,そして事務局の皆様方の御尽力に敬意を表したいと思います。 ○高橋会長 ありがとうございます。   ほかに,御意見いかがでしょうか。 ○引頭委員 ありがとうございます。一般人としての立場から申し上げさせていただきます。   今回の改正で,陸上,海上に加えまして航空運送,そして複合運送を含めた総則ができたことで,運送全体の形態について法律がカバーできるようなったということは,非常に喜ばしいことだと思います。   特に,その結果,責任の範囲,所在,そして責任に対する義務について明確となり,運送人,荷送人,荷受人の各事業者の予見可能性,つまりビジネスの予見可能性が高まったことは,産業界にとって,先ほど八丁地委員がおっしゃったように非常に大きな1歩になったと思います。   また,一方で旅客運送について,特殊な場合を除いて運送人の責任を減免しないことが明確化され,人命の尊重というのが法意といいますか,法律の根底にあると思うのですけれども,これがはっきりと確認されたことも非常によろしかったと思います。   今回の要綱案についてではありませんが,これで商法が全て平仮名,口語体に変わったと理解しております。私も含めて,一般の国民の方々にとって,とてもなじみやすくなるとともに,日本でビジネスを展開される外国の方々にとっても,法律が読みやすくなるということで,メリットが非常に大きいのではないかと思います。   最後になりますが,これも八丁地委員がおっしゃっていましたが,今回117年ぶりの改正ということだったわけですが,正直に申し上げますと少し驚きを禁じ得ません。世の中の流れはもう少し早いような気がしております。そうはいっても無理はできないということも理解しておりますが,できる範囲で,経済情勢の変化にできるだけ応じた法改正というのを行っていくべきではないかと思いました。 ○高橋会長 何かございますか。19世紀の法律だということですが。 ○金子関係官 おっしゃるとおり,飛行機はおろか,トラックによる運送等もまだなかったような時代の法律が,これまで何とか生きていたということであります。もちろん,社会経済情勢の変化に応じて,的確に法改正による対応をしていかなければならないということはおっしゃるとおりでございます。   商法全体で見ますと,大きな改正としましては,17年の海商法の改正と,それから20年の保険分野の改正とあって,なかなか一度に全部というわけにいかなくて,この時期に至ってしまったという面があるのですが,できるだけ機動的な対応に努めてまいりたいと思っております。 ○高橋会長 よろしいでしょうか。   ほかに,御意見を伺えれば。 ○岩原委員 この問題は,運送人,それから荷送人,荷受人,消費者,あるいは労働者,それぞれ立場の違う利害,利益を調整する必要があり,かつ,理論的にも非常に難しい問題があるところを,よくおまとめいただき,各界の理解もいただいて,このような成案ができたということを,非常に高く評価したいと思います。内容的にもリーズナブルなものだと思います。   ただ,ここで希望を申し上げますと,こういった問題は,利害関係者が限られますので,なかなか国会での審議がスムーズにいかないということがあり,他の法案等に遅れてしまうという可能性もあると思いますので,是非,法務省当局には早期に国会で成立するよう努力をしていただきたい。他の法案に対しても優先して,これはインフラをなす貴重な法制ですので,なるべく早く法律が成立するように努力していただきたいと思います。   それから,ついでに希望を述べさせていただきますと,今,引頭委員から,これで片仮名条文がなくなるとおっしゃいましたが,若干の片仮名条文は残るわけです。例えば,仲立営業,問屋営業ですとか倉庫営業等,なお片仮名条文で残っていますし,更に言えば,平仮名にしただけで中身を見直していない条文がありまして,商法総則,商行為総則,それから商事売買等の条文です。これらは,特に債権法改正によって見直す必要がある。例えば,商行為概念は,債権法改正によって商事時効や商事法定利率の規定が廃止されることになりますので,ほとんど意味をなくすのに近いところがあります。残った商法総則,商行為総則,商事売買等についても,是非見直しをしていただきたい。   それから,更に言えば,今までやってきた努力は,既存の商法典の中に規定されている法制の見直しに注力してきたわけですけれども,新しい課題,あるいは商法典が扱っていない課題はいろいろあるわけでございます。例えば,営業的商行為として銀行取引というのがありますけれども,銀行取引に関する規定が一切商行為の規定の中に入っていなくて,例えば,振込みなんかについては,誤振込みに関して非常に判例が混乱した状態にあり,実際上不便を来しております。銀行取引などは社会の正にインフラをなす取引なのに,きちんとした法制ができていなくて,判例が混乱しているというような状態にあるわけで,このような事態に対しては,是非立法をもって解決するよう努力していただきたい。   また新しい取引がどんどん出てきているわけでありまして,例えば,これは余りにも新しすぎるかもしれませんが,ビットコインのような仮想通貨については,マウントゴックスの破産事件で,マウントゴックスに預託していたビットコインを倒産手続でいかに扱うかとか,私法上の問題に直面しています。金融庁の方では仮想通貨について監督法的な立法をしようとしておりますが,仮想通貨の供託手続がどうなるか私法上の問題が分からないので,仮想通貨取引業者に供託義務を課す立法的な手当てができないというような問題も起きています。そういった新しい問題についても,是非これから立法の努力をしていただきたいと願っています。 ○高橋会長 ありがとうございます。   いろいろと御希望でございますが,対応をお願いします。 ○金子関係官 ありがとうございます。   国会の提出のお話がございました。法律が成立するまでには,我々の方で今回の御答申を踏まえた立法化の作業と,それから,国会の提出と国会における審議といういくつかの段階があるのですけれども,前半につきましては我々の努力で昼夜を徹して頑張りたいと思いますが,国会の情勢につきましては不透明なところもございます。もちろん,その点も我々,最大限努力したいと考えております。   それから,今回の諮問にはなかった分野で,確かに片仮名の部分が委員御指摘のとおりあるのでございますが,この点につきましては,平仮名化をこの機会にしようということで,内容面は変更しないまま平仮名化をするということは検討しているところでございます。   また,平仮名化しても,それが取引の実態に合っていない分野があるではないかという御指摘,特に商法総則,商行為の分野についての御指摘がございました。また,今国会に継続中の民法改正法との整合性の問題も確かにございます。この商法総則とか商行為の分野につきましても,できるだけ早い機会に見直しの検討をしていきたいと考えているところでございます。   また,新しい課題が次々出ているという御指摘もごもっともかと思いますので,その辺のニーズも踏まえて検討を進めていきたいと思っているところでございます。 ○高橋会長 よろしいでしょうか。   ほかに御意見いかがでしょうか。   それでは,御意見も伺いましたので,原案について採決に移ろうかと思っていますが,採決に移ってよろしいでしょうか。   それでは,御異議もございませんようですので,採決に移ります。   諮問第99号につきまして,商法(運送・海商関係)部会から報告されました要綱案のとおり答申することに賛成の方は挙手をお願いいたします。 (賛成者挙手) ○高橋会長 どうぞ,お下げください。 ○西山司法法制課長 採決の結果を御報告申し上げます。   議長及び部会長を除くただいまの出席委員数は17名でございますところ,全ての委員が御賛成ということでございました。 ○高橋会長 採決の結果,全員賛成でございましたので,商法(運送・海商関係)部会から報告されました要綱案は,原案のとおり採決されたものと認めます。   採決されました要綱案につきましては,この会議終了後,法務大臣に対して答申することといたします。   それでは,山下部会長におかれましては,多岐にわたる論点につきまして,長い間,調査,御審議いただきました。誠にありがとうございました。 ○山下部会長 ありがとうございました。 ○高橋会長 本日予定した議題は以上でございますが,せっかくの機会でございますから,法制審議会全般につきまして,何か御意見を承れれば有り難いと存じますが。 ○木村委員 中身の問題ではないのですが,日程調整につきまして,大体2か月前ぐらいに連絡を頂けると大抵の予定は調整可能だとなりますので,その辺りを是非御配慮いただきたいなと思います。 ○高橋会長 そうですね,御指摘ごもっともと存じます。   ほかにいかがでしょうか。   それでは,本日は終了となりますが,その前に1点,本日の会議における議事録の公開方法についてでございます。今日の御審議の内容などに鑑みますと,会長の私といたしましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開すると,顕名で公開をするということでどうかと思っておりますが,いかがでしょうか。   よろしゅうございますか。   それでは,本日の会議における議事録につきましては,議事録の発言者名を全て明らかにして公開することといたします。なお,その関係で,本日の会議の内容につきましては,後日,御発言を頂いた委員等の皆様には,議事録案をメール等にて送付させていただきます。御発言の内容を確認していただいた上で,法務省のウェブサイトに公開をするという手順となります。   では,最後に,事務当局から連絡がございましたらお願いします。 ○萩本関係官 次回の会議の開催について御案内申し上げます。   法制審議会は2月と9月に開催するのが通例となっておりまして,次回の総会の開催日程につきましても,現在のところ,例年どおり本年9月に御審議をお願いする予定でございます。具体的な日程につきましては,後日改めて御相談させていただきます。先ほど,2か月ぐらい前には日程調整をお願いしたいという御希望いただきましたので,できる限り早く調整の御相談をさせていただきたいというように考えております。委員・幹事の皆様方におかれましては,御多忙とは存じますが,今後の御予定につきまして御配意いただきますようお願い申し上げます。 ○高橋会長 ありがとうございました。   それでは,これで本当に本日の会議は終了でございます。   本日も,お忙しいところお集まりいただきまして,熱心な御議論,誠にありがとうございました。 -了-