法制審議会 民法(相続関係)部会 第7回会議 議事録 第1 日 時  平成27年11月17日(火)自 午後1時29分                       至 午後5時26分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,時間になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第7回会議を開催いたします。   本日は,席上の配布資料は特にないということでございますので,早速審議の方に入らせていただきたいと存じます。   事前配布のお手元の資料7というもの,「相続人等の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策」というものについて,御審議を頂きたく存じます。   この資料は,中を御覧いただきますと,第1という項目がちょうど真ん中の10ページまでございます。その後に第2,第3という二つの項目が出てまいります。本日は,前半でこの第1につきまして御意見を伺いまして,休憩の後,第2,第3につき順次御意見を賜りたいと存じます。   それでは,まず第1の「配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策」という部分につきまして,事務当局より御説明を頂きます。 ○合田関係官 それでは,関係官の合田より,部会資料7の「第1 配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策」について,御説明いたします。   第3回部会においてお配りしました部会資料3では,配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するという観点から,遺産を実質的夫婦共有財産と固有財産とに分けた上で,実質的夫婦共有財産については,配偶者の取得割合を現行の法定相続分よりも高い割合とする二つの考え方を提案しておりました。   前回の案に対しては,配偶者加算額と現行の寄与分との関係や,遺留分制度に与える影響等についても整理検討する必要があること,実質的夫婦共有財産と固有財産の両方を原資として取得した財産や,実質的夫婦共有財産と固有財産の両方の性質を含む財産をどのように扱うべきかといった困難な問題が生ずること,配偶者の実質的貢献の程度を具体的に考慮すると言いながら,紛争の複雑化を避けるために,実際にはかなり割り切った考え方を採っているため,必ずしも配偶者の実質的貢献に応じた分配とは言えず,事案によっては,かえって相続人間の公平を害する場合が生じ得ることなどが問題点として指摘されました。   今回の部会資料で取り上げております甲案は,前回取り上げた二つの案のうち,遺産の属性に応じて計算した一定の金額を配偶者の具体的相続分に上乗せするという考え方を前提としつつ,御指摘のあった問題点を踏まえ,紛争の複雑化,長期化を避ける観点から,更に一定の修正を加えたものです。   まず,甲案においては,配偶者の具体的相続分に加算される部分の法的性質を,配偶者固有の寄与分と整理し,現行の寄与分の特則と位置付けております。また,前回案の実質的夫婦共有財産の額に相当するものとして,新たに婚姻後増加額という概念を用い,配偶者の具体的相続分に加算する額の算定を簡易にするという観点から,婚姻時の固有財産の価額や,相続及び贈与によって取得した財産の価額については,これを固定し,これらの財産の価値がその後相続開始時までの間にどのように変容したかという点は考慮しないこととしております。   もっとも,甲案は紛争の複雑化,長期化を避けるという観点から,前回の案よりも更に割り切った考え方を採っているため,事案によっては,かえって相続人間の公平を害する場合が生じ得るという前回御指摘のあった問題点を解消することはできておりません。紛争の複雑化,長期化の回避という要請と個別具体的な事案における結果の妥当性の確保という要請は,両立し難い関係にあるため,この両者をともに解決することは困難であると考えられます。   次に,乙1案について御説明いたします。   資料の2ページを御覧ください。   乙1案は,婚姻成立の日から20年又は30年という一定の年数を経過した後に,その夫婦の間で法定相続分を引き上げる旨の合意があり,法定の方式によってその旨の届出がされた場合には,その合意に基づき,配偶者の法定相続分を引き上げることを認めるという考え方です。   一般に,婚姻期間が長期に及ぶ場合には,一方の配偶者の財産形成について,他方の配偶者の寄与の程度が高い場合が多く,また,相続開始の時点で配偶者がともに高齢となっており,その生活保障を図る必要性が高い場合が多いと考えられます。そこで,婚姻成立の日から一定の年数が経過した場合には,一律に配偶者の法定相続分を引き上げるという方策を講ずることが考えられます。   もっとも,一定の年数の経過によって当然に法定相続分が変動するということにしますと,例えば婚姻関係が実質的に破綻しているのに形式的に婚姻関係を継続し,その夫婦の別居期間が長期に及んでいる場合など,被相続人の財産形成に対する配偶者の貢献の程度が低い事案においても,一律に引き上げられた法定相続分が適用されることとなり,かえって相続人間の公平を損ない,財産分与の場合との整合性を欠く結果となるおそれがあります。   そこで,乙1案では,形式的に婚姻期間だけで法定相続分を変動させることの問題点を回避する観点から,①に記載しました婚姻期間経過後に法定相続分の引上げについて,夫婦間の合意があったことを要件とし,夫婦間の合意に婚姻期間が形式的なものではなく,夫婦のいずれにおいても引上げ後の法定相続分に見合う貢献があったことを相互に承認する意味合いを持たせております。   ①の婚姻期間をどの程度とすべきかについては,様々な考え方があり得ると思いますので,乙1案では,これを20年とする考え方のほか,30年とする考え方を併記しております。   乙1案では,引き上げ後の配偶者の法定相続分について,子とともに相続する場合は3分の2,直系尊属とともに相続する場合は4分の3,兄弟姉妹とともに相続する場合は5分の4とすることとしております。   もっとも,婚姻期間が長期にわたる場合には,遺産の形成に対する配偶者の貢献の程度が大きく,その後の生活保障の要請が強い場合も多いと考えられますので,配偶者が兄弟姉妹とともに相続する場合には,兄弟姉妹に法定相続分を認めないという考え方もあり得ると思われます。   次に,乙2案について御説明いたします。   乙2案は,被相続人が法定の方式により配偶者の法定相続分を引き上げる旨の届出をしたこと,その婚姻時から一定の年数を経過した後に相続が開始されたことを要件として,配偶者の法定相続分の引上げを認める考え方です。すなわち,乙2案は,配偶者の法定相続分の引上げの要件として,夫婦間の合意までは要件とせず,被相続人の単独の意思表示で足りるとしております。   また,乙2案では,法定の期間経過後でも,単独の意思表示によって届出を撤回することができるとすることによって,実質的には婚姻関係が破綻しているにもかかわらず,形式的にこれが継続しているような事案に対応することとしております。   乙1,乙2案につきましては,これらの考え方に対する御意見と併せて,法定の婚姻期間を何年とするのが適切か,また,引き上げ後の法定相続分をどのように定めるべきか,特に配偶者が兄弟姉妹とともに相続する場合に,兄弟姉妹に法定相続分を認めないという考え方についても,御意見を頂戴できればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   前回の審議の際に出ました御意見を踏まえて,甲案につきましては,よりシンプルな計算の仕方を御提案いただいたと理解いたしました。乙1,乙2というのは,それを更に単純化しようという発想に立っていると承りました。   この部会での審議の初めの方で,一律に現在の法定相続分を引き上げるということについては,これに賛成する御意見はなかったと認識しております。今回のものは一定の場合に,一定の要件の下に引上げを認めるということを考えてみてはどうかという趣旨だと理解しております。   甲,それから乙1,乙2,それからさらに906条の見直しによって,配偶者の貢献を考慮する考え方も,前回出ておりましたけれども,それらを含めて,皆様の御意見を伺えればと存じます。 ○増田委員 私,どこかで道を間違えたのか,最近算数が苦手になっていますので,ちょっと教えていただきたいと思い,簡単な具体例を設定してみました。   AB夫婦のAが死亡して,相続人は配偶者のBと子供のC,2人だけとして,婚姻時の資産は純資産ゼロ,現在,遺産が1億5,000万あって,債務はない。Bが3,000万の生前贈与を受けているという例で教えていただきたいんですが,まず現行法でのBの具体的相続分を計算しますと,1億5,000万で3,000万の生前贈与ですから,1億8,000万の半分の9,000万から3,000万の生前贈与を引いて,6,000万となります。つまり,現行の具体的相続分が6,000万という前提で,次に甲案で計算すると,aは多分これは特別受益を含めた遺産総額からで幾らというものだろうと思いますので,9,000万ですね。全てが婚姻後増加額なので,これでいいですね。 ○堂薗幹事 計算式のaということですか。 ○増田委員 はい,計算式のaです。   計算式のaは,婚姻後増加額×2分の1で9,000万ですね。bは,「法定相続分より低い割合」を3分の1と仮定しますと,残りの9,000万の3分の1で3,000万となり,a+bが1億2,000万で,これから具体的相続分の6,000万を引きますから,配偶者Bの寄与分が6,000万,これでいいかと思うんですね。   それはいいですか。とりあえずここまでで,お答えいただけますか。 ○堂薗幹事 基本的に,この甲案では,婚姻後増加額を基に計算した額と,現行の配偶者の具体的相続分とを比較するわけですが,当然,現行の配偶者の具体的相続分を算定する際には,特別受益も相続財産とみなして計算をするということになりますが,この婚姻後増加額は,正に相続開始時と婚姻時を比較して,どれだけ財産が増えているかということで,その増えている分について,高い取得割合を認めようというものですので,特別受益として婚姻期間中に配偶者が何らかの財産を受け取っているとしても,そこは基本的には考慮しないという前提で考えております。そこは,いろいろな考え方があるんだろうとは思いますが,婚姻後にどれだけ増えたかという観点からすると,過去に処分しているものは考慮しないという方が自然ではないかと考えております。   そうすると,配偶者に特別受益があるときには,配偶者の取り分が非常に増えるわけですが,ただその場合は,特別受益を考慮しても,今の例で言うと,1億5,000万増えているわけですから,そこについて高い取得割合を認めても,さほど不合理ではないのではないかと考えており,そういった意味で,婚姻後増加額の計算をする場合と,現行の具体的相続分を計算する場合とで,基礎となる対象財産は違うという前提で,ここでは考えております。 ○増田委員 そうすると,先ほどの計算だとaとbの値がおかしい,婚姻後増加額で計算しましょうということなんですね。 ○堂薗幹事 はい。 ○増田委員 すみません。私はその点を無視して計算してしまったんですけれども,その計算でいくと,特別受益の額によって,最終的な取り分の額が違ってきてしまったんですよ,特別受益を3,000万で計算した場合と2,000万で計算した場合で,被相続人Aの残した財産額が同じであっても,特別受益の額が違うというだけで,最終的な生存配偶者Bの取り分の額が違ってきてしまったんですけれども,今堂薗幹事が言われた計算でやれば,そこは必ず同額になりますか。 ○堂薗幹事 今配偶者の取り分と言われたのが,婚姻後増加額で計算した額プラス特別受益を足した額という意味であれば,それは変わってきます。ただそこは,今の例でいきますと,例えば1億5,000万増えていると。その点について,例えば3分の2の取り分を認めるということになりますと1億円になるわけですが,その1億円にプラスして,例えば特別受益で3,000万あれば,当然1億3,000万になりますし,特別受益が2,000万であれば,1億2,000万になるわけですが,ただその特別受益を含めても1億5,000万のプラスになっているという点を考慮して今のような計算をしますので,そういう計算になってもおかしくはないのではないかというのがこちらの整理です。 ○増田委員 確認ですが,特別受益の額と現在残っている遺産の額を足した額が同じであっても,その内訳である特別受益の額が違うことによって,その中での配偶者Bの取り分,すなわち甲案により計算した具体的相続分プラス特別受益額は変わってくる,そういうことでよろしいのですか。 ○堂薗幹事 はい。 ○増田委員 分かりました。 ○窪田委員 私が十分理解できなかっただけなのかもしれませんが,先ほどのお話ですと,婚姻後増加額は増田委員の設例だと1億5,000万円増えているわけですから,それを前提にして計算し,具体的相続分の計算の話とは別に,特別受益は加えずにaとbを計算できるということになるかと思います。そのように計算できるということであれば,今の増田委員の御質問との関係では,特別受益が1億円あろうが5,000万円あろうが,全く無関係にこの額は決まることになるのではないか思います。   問題としたいのは,本当にそれでいいのかという点です。つまり具体的相続分を計算するときには,寄与分と同時に特別受益も考慮して計算をするのに,それと対比で,加算額としての寄与分を計算するときには,特別受益に当たるものは一切どこにも考慮されないということになります。この後別のところで扱うのかというと,多分それは難しいのではないかと思います。そうだとすると,寄与分に当たる計算の部分をこの加算額の計算の中に組み込まないと,説明がつかないのではないかと思います。つまり寄与分を,特別受益を含んだ上で具体的相続分を計算した,でも非常に婚姻後増加額とかというものを踏まえて考えてみると,実際の配偶者,生存配偶者の貢献というのは,これだけ大きいのだから,これだけの差額を認めてもいいという場面において,具立的相続分では考慮されていた特別受益が,加算額というか,ここでの計算をする場合には入ってこないというのは,やはり説明はつかないのではないかなという気がします。   あるいは,入ってこなくてもいいのかもしれませんが,後で特別受益がもし入る可能性があるのだとすると,それがどうなるのかなということを,ちょっと確認させていただきたいと思います。前提となる私の理解が間違っているかもしれませんので。 ○堂薗幹事 基本的には,この婚姻後増加額で計算した場合が,現行の具体的相続分の額よりも超える場合は,そちらを前提に具体的相続分は決めますので,その後,寄与分による調整というのはあり得ると思いますが,少なくともこの甲案を採った場合に,婚姻後増加額の方が現行の具体的相続分の額よりも多いという場合は,基本的には特別受益については考慮しないというのが,一応のこちらの考えです。   それは,そもそもこの場合に特別受益の額も含めて,婚姻後増加額を計算するんだということになりますと,それは過去の分の,過去に処分したものも含めて計算することになりますから,婚姻成立後から相続開始時までの間にどれだけ財産が増えたかというような話とは,違ってきてしまうのではないかということと,さらに,遺産分割の対象財産を前提に,例えばその3分の2を計算した上で,だけれども,後から特別受益だけは引くというのも,考え方としてはあり得るのかもしれませんが,基礎となる財産に含めないのに最終的な計算のところで特別受益の額を控除するというのも,理論的には一貫しないのではないかというようなところもあり,この点についていろいろと難しい問題があることは認識しておりますが,ここでは,婚姻後増加額の方が高い場合には特別受益については一切考慮しないということで考えているところです。   その点については,いろいろ御意見があろうかと思いますので,引き続き様々な事案を検討するなどして,更に精査する必要があるものと考えております。 ○窪田委員 半分分かって半分分からないような感じもするのですが,私自身,第1について,甲案というのは十分に魅力的な考え方だと思っています。甲案に反対するという趣旨ではなく,その内容を確認するという趣旨で,もう一点,同じことになってしまうのかもしれませんが,確認させていただきたいなと思います。特別受益に当たる部分については,流出をしていたとしても,婚姻後増加した額という評価をすることは可能なのではないかと。ですから,そこの部分で考慮せずに,最後引くところだけ引くというのは,それは一貫していないのはそうなのかもしれませんが,この同じ計算の立て方で特別受益に当たるものを,私自身は計算式の中に組み込むことはできるのではないのかなと思いましたので,一度御検討いただけたらと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   増田委員が最初に想定された考え方は,その考え方だったと理解してよろしいでしょうか。 ○増田委員 私はその考え方を想定していたんですが,それでも特別受益の額によって,最終的な取り分は変わってきます。なぜそれを言おうとしているかというと,全く同じ夫婦,同じ寄与度を想定したとしても,特別受益の額だけで寄与分の額が変わり,最終的な取り分の額が変わるというのは,いかがなものかということを示そうとした次第です。そこはやはり何か合理的な説明が,私は必要だと思います。 ○堂薗幹事 ただ,結局遺産分割の対象財産から取れる額は変わらないわけです,先ほどの私の考えでいくと。それにプラスして特別受益の額がどれだけあるかによって,最終的な取り分が決まるわけですが,ただそこは,特別受益に当たる贈与等があったにもかかわらず,更に1億5,000万財産が増えているわけですから,特別受益がなかった場合と比べて,全体の取り分が増えたとしても,そこは問題ないのではないかというのが,こちらの考えなんですけれども。 ○大村部会長 ありがとうございました。   まず水野委員から,多分今の点に関連する御発言があると思いますので,それを伺いたいと思います。 ○水野(有)委員 すみません,質問なのですが,配偶者の方の特別受益は,今考慮しないとおっしゃったのですけれども,それ以外の方の特別受益は足すことを想定されているのか,足さないことを想定されているのか,どちらなのでしょうか。 ○堂薗幹事 それも過去に処分したものですから,足さないという前提です。 ○潮見委員 配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策というので,こういう形で改めて出してこられたことに対しては,ある程度私は評価したいと思います。   ただ,その上でですけれども,理論的に果たしてこの枠組みが説明できるのかというところについては,なお御検討を頂きたいと多々思うところがあります。今日の議論を聞いていても,そうです。特に例えば今のところに引きつけて申し上げますと,通常の寄与分の場合については,いろいろお話があるように特別の受益は考慮するということで,その特別の受益の中には,相続開始後に配偶者に対して行われた贈与等も含まれるわけですよね,しかし,いわゆる配偶者の寄与分方では,そういう特別受益は考慮しない。それはなぜかという部分の説明について,今の堂薗幹事がおっしゃったところで,半分程度は納得しているんですけれども,それ以上は納得をすることができません。   それから,債配偶者の寄与分を考えるときに,今ここで書かれているところから言うと,債務というものも考慮するということをおっしゃっているようです。ところが,通常の寄与分,従来の寄与分を考えるときには,債務というものは考慮の外にあるということになりますが,一体この違いは何なのか。   さらには,現行の法定相続分,あるいはそれに依拠したところの具体的相続分を考えるときに,債務というのは考慮しませんよね。ここでは,配偶者の貢献を考慮するんです,それで公平の観点からそのようにしたのですと言うと,聞こえはいいんですけれども,しかしそもそも相続分という制度は一体なのか,具体的相続分を計算するときに,今言ったようなところの矛盾は避けられるのか。矛盾をさけようとしたならば,今回は使われていませんけれども,実質的夫婦共同財産の清算という側面は,何か従来の法定相続制度とは異質なものではないかというような考慮が働いているのではないか,そうした事柄,要するにこれは礎理論に関わることなんですけれども,多々これで本当に理論的に正当化できるのか,説得できるのかというところについて,疑問を禁じ得ないところがあります。   もちろん,反対しているわけではございませんが,なおこの後,少し今申し上げたこと,あるいは窪田委員,あるいは増田委員がおっしゃられたようなことも含めて,少し,これは具体的な数字がどうなるかということではなくて,理論的に果たして耐えられるのかという趣旨で,更に御検討を頂ければと思います。 ○大村部会長 理論的な詰めをという御指摘でしたけれども,挙げられていた問題の中で,債務の問題については,ちょっとお答えをいただけますか。あるいは,ここに書いているとおりだということになるかもしれませんが。 ○堂薗幹事 基本的に債務のことに関して言いますと,現行法上は,遺産分割に際して債務を考慮せずに計算をしているわけですが,それがどうなのかという問題とも関連してくるように思いますので,非常に難しい問題ですし,それとの整合性ということになりますと,非常に大きな話になるのではないかと考えております。   ですから,そういった意味で,遺産分割において債務を考慮する必要がないのかというところまで踏み込みますと,それは検討としてはかなり大かがりなものになりますので,現時点では,そこまでは考えておりません。それはそのままにした上で,ここについてだけ債務を考慮するという説明が可能かどうかという点については,こちらでも更に検討したいと思います。 ○潮見委員 1点だけ簡単に申し上げます。通常の寄与分を考えるときに,その方の債務,承継する債務ということを考慮に入れなくていいのかどうかだけでも,御検討ください。 ○堂薗幹事 はい,承知しました。 ○大村部会長 ありがとうございました。その他,いかがでございましょうか。 ○石井幹事 前回の御提案と比べて,大分割り切った御提案をしていただいたと受け止めておりますけれども,それでも,今回の御提案の中にある婚姻時の資産額,あるいはその後の増加額といったものを算定することは,一般的に婚姻時から相続開始時までかなり長期間が経過していることを踏まえると,実際上,困難な作業になるんだろうと思います。   その上で,御提案では,実際上の算定が困難となる場合を見据えて,計算式で算定される額を上限として,裁判所が裁量で相当額を定めるといったことについても言及されているところですけれども,そのような上限額自体の算定が難しい中で,裁判所としては,どういったところをよりどころにして相当額を定めるのかという点は,なかなか難しい問題ではないかなと認識しているところであります。   そもそも論かもしれませんけれども,2分の1という現行の配偶者の法定相続分というのは,配偶者一般に期待されている通常の貢献を一定程度考慮した上で,設定されているんだと思うんですけれども,今回の御提案では,そうした通常の貢献を法定相続分にプラスする事情として考慮しております。そういった建て付けになっている中で,相当額というのを考慮する際に,配偶者一般に期待されている通常の貢献というのをどのように考慮するのかというのは,なかなか裁判実務的には難しい問題になり得るのではないかなと考えております。 ○大村部会長 御指摘ありがとうございました。 ○増田委員 今の点との関連なんですけれども,現在熟年離婚などで財産分与が問題になることが多いですが,婚姻当時の特有財産がどれだけあったかという証明をすることは,非常に困難です。金融資産などは長い期間の経過により全て記録が廃棄されています。これは金融資産だけの問題ではなく,不動産があったとしても,その取得原資が問題になる場合には客観的な資金の流れが問題になりますが,その証明も非常に難しいです。相続等により取得した財産であっても,その相続等からの期間が10年以上経っておれば,これも同じことであって,相続等でどれだけ取得したかということを証明するのは難しいわけです。   加えて,そういうものを証明する利益,つまり甲案ではy=0,z=0のときが一番配偶者の取り分が多くなるときなので,特有財産を証明する利益は子の方にあるわけですね。ところが,子が自分が生まれる前の婚姻時の特有財産を証明するというのは,これは本当に極めてというか,不可能に近い,より難しい話になろうかと思いますので,結果として相続人に無理を強いることになるのではないかと考えております。 ○大村部会長 今のような困難を勘案して,その相当額を定めてほしいという,そうした提案がされているのかと思いますけれども,そのように問題を投げられると,それもなかなか難しいという御意見が出ていると了解いたしました。 ○浅田委員 取引にかかわる第三者の観点から,甲案,乙案を通じて,ちょっと長くなりますけれども,コメントを差し上げたいと思います。   そもそもこの制度をどちらにするかということについては,どちらかというと社会的なニーズとか家庭の在り方とか,そういうところを考えるべきであって,その際,実務の運用として先ほど増田委員がおっしゃったように,事実上きちんと計算ができるのかということもありますし,例えば乙案にいきましたときに,家庭の内部がどう影響を受けるのかと,例えば結婚から20年目になった夫婦間でどういう会話がなされるんだろうかなど考えると,いろいろ思うところはあるわけなんですが,私からは,第三者の立場から,どういうふうに見えるのかということを御案内したいと思います。   まず,全体的な話でありますけれども,前回,部会資料第3で示された各案に比べると,今回の案というのは,おおむね第三者への影響は小さくなっていると評価できると思います。よって,相対的な話ではありますけが,支持しやすいものになっているなとは考えております。   現段階で,甲案,乙案の是非であるとか,どちらがよいかという考えや,判断を持っているわけではありませんけれども,若干考えたことをお話ししたいと思います。   甲案に関してお話ししますと,第三者への影響というのは,比較的中立になっているのではないかと思われます。もっとも,相続関係者間の紛争が増加,長期化する,これは結果的にそうなることは予想されると思いますけれども,その結果として,銀行がそれに巻き込まれるということもあり得ると思います。ゆえに,改めて申し上げるまでもありませんけれども,制度設計はきちんとしていただきたいという意見でございます。   それに対して,乙案については,幾つか分類してお話ししたいと思います。別に乙案がどうこうというお話をするわけではありません。   まず,相続債権者の立場,いわゆる貸金債権者等の立場からすると,事後的に法定相続割合が変動することになることについては,一見しますと,さほど影響が大きくないとも思われます。まず現行法のもとでも,プラス財産については遺言でいかようにも変更できます。債務の相続については,遺言による相続分の指定は共同相続人間の内部関係にとどまって債権者を拘束しないと考えられております。この点,乙案は債務の相続割合変更を債権者に対抗できる点で,現行の制度と大きな違いがあるようにも思われます。もっとも,実際的なことを考えますと,配偶者の相続割合が増えたからといって,実務対応としては銀行は相続人との間で債務引受契約をするなどして,一部の相続人に債務を寄せるという処理をしているわけでございますから,それが可能な限りにおいては,与信上それほど大きな不測の事態が生じるとは言えないと考えられそうです。   一方で,二つの懸念があるのかなと思っております。   一つは,理論的には詐害的な合意や意思表示による弊害が生じ得るのかなという点でございます。例えば,債務超過の被相続人の推定相続人として,資力の乏しい配偶者と,資力の豊かな子がいると仮定します。このとき,あえて資力の乏しい配偶者の法定相続分を引き上げれば,結果として資力のある子の法定相続分が引き下げられることになりますので,子については,本来の法定相続分による債務の請求を免れるという効果が生じそうであります。このような場合を考えますと,相続債権者,すなわち銀行等は,結果として本来の法定相続分による債権回収を図れなくなる可能性があるのではないかと考えられるわけであります。   そもそも現行法でも,法定相続分は離婚,再婚,相続人の誕生,死亡等によって変化し得るものでありまして,銀行など債権者がコントロールできるものではない,債権者はそれを前提とした対応をする,このように相続分が変化するということを甘受しているということはあります。   それに対して,本提案のように,本人又は夫婦がその時々の財産状況を勘案して,債権者を害する目的で恣意的に相続分を変更することがあるかもしれないということになりますと,そういう甘受の範囲を超えて,どうなのかなということであります。個人的に考えますと,実際に死ぬまでの相続財産の変化を見越して,そのようなことが本当に起こるのだろうかとか,又はこの案であったとしても,相続分の変更の選択肢が一つしかないことから,どれぐらい影響があるのかなということはわからないということもありますが,検証の必要があるかとは思います。   しかし,理論上は,先ほども述べた問題もありますので,法定相続分を変更する合意,又は意思表示については,相続債務への適用は慎重に検討すべきだと思います。そういう意見があったことを指摘したいと思います。   債権者の立場からの二つ目の御指摘ですけれども,乙案,特に乙1案については,次のような問題も踏まえて,慎重に検討すべきであるという意見もございました。   銀行実務の経験則からは,被相続人に子がなく,配偶者の兄弟が相続人である場合には,実際問題として紛争が起こりやすい類型であると考えられています。それは,配偶者と義理の兄弟は疎遠であることが多いからだろうと思います。そうすると,特に乙案の2の(注)にあるように,兄弟姉妹の法定相続分を認めないとした場合には,兄弟が事実上有していた相続への期待を損なうことになってしまいます。そうなりますと,兄弟が法定相続分の引上げ合意の無効を主張して,当否は別としてですが,事実上,争うことも想定されるのではないかなと。そういう側面もあるということを認識していただければなと思います。   続きまして,預金を受け入れる銀行など,相続債務者の立場としてのコメントでございますけれども,三つございます。   一つは,まず戸籍等の公示資料により,法定相続分の引上げが行われていないかを確認する必要が生じ得るということを指摘したいと思います。戸籍であれば,現行法のもとでも相続人から徴求しているものでありますので,余り追加的な負担はないかもしれないと思いますけれども,仮にこの制度によって戸籍とは別の公示方法がされるなどとすると,相続人にとっても銀行にとっても多少の負担が増えるかもしれないという点を御認識いただければと思います。したがって,分かりやすい見やすく公示方法が必要ではないのかなと思います。   二つ目に,これは実務運用の問題かもしれませんけれども,乙案における引上げの合意,届出,撤回の有効性という新たな紛争の種が発生するということになろうと思います。銀行がそれに巻き込まれないことにならないように,届出の撤回においては,行政等において十分な意思確認等の手段が講じられる必要があると思われます。   三つ目は,細かい話になるかもしれませんけれども,問題の指摘と若干のアイデアでございます。   まず現状の銀行実務をお話ししますと,相続預金の払戻しに当たり,銀行はできるだけ最新の戸籍謄本を確認する必要があるとされております。とはいえ,実際の取扱いは,銀行によって異なると思いますし,最新といっても直近3か月とか,それより古いものでも許容する銀行もあるかもしれませんし,幅があるかとは思います。   どのような戸籍謄本を徴求すれば,民法478条の準占有者に対する弁済として保護されるかどうかという目線には各銀行で違いがあるかもしれませんけれども,いずれにしても現行法の下では,相続人の死亡など相続人の範囲が変更される事象は,そう頻繁には起こらない,つまり,当事者がその発生事由や時期をコントロールすることが難しいので,実際に戸籍謄本が銀行に提示された場合に,その戸籍謄本がその時点における実態を反映していないという可能性は,事実上は小さいのではないかなと思われるところであります。   一方で,乙案を採用したときのことを考えますと,届出等のタイミングは,当事者がコントロール可能であると思います。したがって,届出と戸籍の記録の間に生じるタイムラグを勘案すれば,戸籍謄本が真実を表示していない可能性があり得ると思います。たとえば,被相続人の死亡直前に引上げ合意がなされていたが,届出は死亡後になされたために,被相続人の除籍謄本には引上げ合意が記載されていない場合などが考えられるのではないかなと思います。この場合でも,法定相続分を判断する資料として銀行に提出された戸籍謄本が,たとえ3か月前に取得されたものであったとしても,準占有者に対する弁済で救済されると考えております。もしそうでなければ,法定相続分の払戻請求の実務には少なからず影響が生じ得るということを指摘しておきたいと思います。   ただ,ちょっとしたアイデアですけれども,仮に届出は効力要件であるとして,そして被相続人の死亡が記録された以降は合意の届出等を受理しないと設計するのであれば,銀行は少なくとも相続発生後の戸籍を見るわけですので,戸籍に反映されていない届出による相続分変更は生じないということになりますので,係る問題が多少とも減少するのではないかなと思います。   最後に,銀行の遺言執行関連業務の観点からも,意見を申し上げたいと思います。   銀行が遺言作成のアドバイスをする際には,必ず遺留分侵害の有無を検討します。しかし,乙案のように,届出によって事後的に遺留分の割合が変わるとなれば,追加的に適切な管理が必要になるのではないかと思います。   もちろん,被相続人自身から係る告知を受けられれば良いのですけれども,それがないままに相続が開始してしまうと,スムーズな遺言執行ができなくなる可能性があるのではないかと思います。斯様な場合には,実務的な対応ができるかどうか,今後考え方を整理することが必要ではないかと思います。   以上,いろいろ申し上げましたけれども,実務的な問題があるということを,細かいものも含めて御紹介いたしました。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。貴重な御指摘を多々頂いたと思いますけれども,今の時点で,何かお答えいただくことがあれば。 ○堂薗幹事 基本的には御指摘を踏まえて,更に検討したいと思いますけれども,基本的に公示手段としては,戸籍を念頭に置いているところがありますが,そもそも戸籍にこういった事項を記載できるのかと,要するに元々身分関係を公証するのが戸籍ということになりますので,そもそもこういった記載ができるのかという大きな問題もございますので,こちらで考えているのは,戸籍のほかに,夫婦財産契約の登記のような形でできないかとか,いろいろ手段としてはあり得るのではないかと思っております。ただいずれにしても,そういった登記なり戸籍なりで,届出をしたり,あるいは登記ができて初めて効力が生じるというような形にする必要があるのではないかと考えているところです。   したがいまして,死亡後に届出をして,それによって法定相続分が上がるとか,そういったことはないようにする必要があるのではないかと考えているところでございまして,その辺も含めて乙1案,乙2案の方向で考える場合には,更に詰めて検討していきたいと思います。 ○浅田委員 ありがとうございました。 ○窪田委員 今,お話があった部分,浅田委員のご発言にも含まれていたのかと思うのですが,ちょっと乙案について質問をさせてください。   事前に資料を受け取って読んだときに,乙案についてはある種のショックを受けるところがありました。というのは,大変に分かりやすいことは分かりやすいのですが,一方で私は最後まで読んでいて,やはりよく分からなかったのが,乙案による立法をすることに,どういう制度的なメリットがあるのだろうという,大変に素朴な疑問です。   つまり,長期間連れ添った配偶者を保護しようということであるとするならば,恐らくそれは被相続人の意思とは無関係に,一定の保護がなければいけないわけですが,ここでは合意であったり,被相続人の専断的意思であったりということによって決まるわけですから,ハードルを20年,30年という部分で高める部分はあるのですが,本当にそうした制度として機能するのかという点です。   それからもう1点は,結局これは合意の撤回ができるかどうか,届出の撤回ができるかどうかという点についての検討はなされているのですが,相続分の指定による遺言による上書きというのは可能な仕組みになっていますので,そうだとすると,そういうふうに上書きをされる程度の法定相続分の変更の仕組みというのに,一体どういう意味があるのだろうということで,私自身は,これが機能する場面というのを余り具体的にイメージすることができませんでした。かりにイメージすると,浅田委員からも少しお話があった20年,30年を迎えた夫婦が,夫婦の間でどういう会話をするかという程度なのかもしれませんが。甲案の方は,今までの議論の連続性でも,こういうプロセスを経て出てきたということは分かるのですが,乙案はやや唐突な感じを受けたものですから,その辺りについて御説明いただけたらと思いました。 ○堂薗幹事 乙案は,前回の議論の際に,配偶者の実質的な貢献について相続財産を二つに分けることによって考慮するとか,そういうものではなくて,いろいろほかの方向性もあるのではないかという御指摘を受けたのを踏まえ,考えたものでございまして,その際には,昭和55年の際に検討された案なども参考にしたところでございます。   この乙案を考えた場合に,遺言での上書きを認めるかどうかという辺りが,非常に難しいところで,本来はおっしゃるように,このような届出をして,それを公示までするわけですので,その後にそれに抵触するような遺言をしても,それは無効であるということにすれば,それなりの意義が出てくるのではないかと思います。実際当初はそういう形で検討していたんですが,仮にそういう形にしますと,遺言で例えば遺産分割方法の指定として,この財産は誰,この財産は誰という形で分けた場合に,結局引き上げられた法定相続分を侵害するような遺言になってないかどうかというのが問題になってまいります。現行法ですと遺留分を侵害しない限りは,遺言どおりに解決すれば足りるわけですが,引き上げられた法定相続分を侵害していないかどうかというところが,非常に大きな争いとなり,結局遺産の財産評価までしないと,その遺言どおりに分けていいかどうかが分からなくなるということで,遺言の紛争解決機能が極めて低下することになるのではないかという問題があり,やはり遺言で上書きを認めないというのは,難しいのではないかということで,こういった案に落ち着いているというところがございます。   更に言いますと,そういう形で遺言での上書きを認めるのであれば,合意とか届出とかを要件とせずに,一定の期間が経過すれば当然に引き上がるということでもいいのかもしれませんが,そこは,形式的に婚姻期間が継続しているような場合もあるので,そのような考え方は採らなかったところでございます。   その辺りについて,是非御意見をお伺いできればと思っているところでございます。 ○窪田委員 すみません,ちょっと補足したいのですが,私自身は,飽くまで質問をしたということであって,乙案を前提にして,期間が経過すれば自動的に法で相続分が変わるという仕組みを採るのが適切だという趣旨で発言したわけでは全くありませんので,その点だけ確認をさせてください。   あともう一つ,浅田委員から出たお話に関連するのですが,恐らくこの制度を作った場合には,当初からある法定相続分,修正された法定相続分,指定相続分という三つのものが同居することになるのですね。修正された法定相続分が,指定相続分と違って機能する場面というのは,債務の承継の部分ということになるのだろうと思いますが,本当にそういう形で機能させるということが適切なものなのかということは,かなりきちんと検討しないといけないように思います。結局,指定相続分によって上書きされるようなものにしかすぎないのだとすると,にもかかわらず債務の承継だけ機能する合意とかというのは,やはり何か変だなという感じがしますので,御検討をお願いしたいと思います。 ○大村部会長 むしろ窪田委員が最初におっしゃった,これを作ることにどういうメリットがあるのかということについて,もう少し補足していただくとよろしいでしょうか。つまり,これの意義は,どこにあるのかということですが。 ○堂薗幹事 これ自体は,元々は,配偶者の場合には婚姻期間の長短が非常に幅が大きくて,基本的には婚姻期間が長い場合には,通常の貢献しかしていない場合であっても,財産形成に対する貢献が非常に大きい場合があると。婚姻期間が一定程度を超えた場合には,通常の貢献の積み重ねであっても,それなりに財産形成に対する貢献が多い場合が多いだろうという考えの下に作ったものでございます。 ○大村部会長 例えば相続分指定と,どう違うのかというような御質問があったと思うんですけれども。 ○堂薗幹事 この制度によって法定相続分が引き上がりますと,仮にその後に遺言がされて上書きされたことになるとしても,遺留分を算定する際の基本となる割合が,引上げ後の割合になりますので,その分遺留分が増えることになります。他方,被相続人が自由に処分できる財産が減ることになり,その分だけ配偶者の最低限の取り分が確保されるという意味合いがあるのではないかということでございます。 ○西幹事 まだ十分に頭が整理できてないのですけれども,乙案は1案,2案とも,非常に理解しやすいという点で大変魅力的な制度だと思います。魅力的な制度なのですけれども,幾つか疑問に思うことなどがございますので,意見を2点と質問2点と全体的な感想を1点述べさせていただきます。   まず意見ですけれども,今のお話を伺っていて,乙1案と乙2案の実益は,結局死因贈与や遺贈とは違って,債務承継が比較的明確化しやすいということに加えて,遺留分の増加という点にあることが分かりました。ただ,これを本当に「法定」相続分と言ってしまってよいのですかという根本的な疑問です。   それとも関係しますけれども,特にこの乙1案というのは,法定相続というよりドイツの相続契約に非常に近い印象を受けました。相続分だけを変えるということではありますけれども,相続契約というものは,日本民法が想定していないものですし,フランスのように一応建前だけでも明確に禁止している国もあります。今回ここをきっかけに,相続契約のようなものが解禁されるということになりますと,これから先いろいろな形で広がっていく可能性もあると思いますので,この相続契約への道を開くようなそういう一歩を踏み出すには,かなり慎重であるべきだと思いました。   ここまでが意見です。次に,質問です。乙1案のところで,先ほど窪田先生からも御質問,御意見がありましたけれども,これは合意が成立するということが一応条件になっていますが,貢献があったのに合意が成立しないという場合に,配偶者の方から請求,例えば裁判所に対して調停の申立てなどができるのかというのが,一つ目の質問です。   もう1点,今回この合意の中に,配偶者の貢献があったことを承認する意味があるということで,事実上合意にそれを担保する意味があるのかもしれませんが,例えば貢献はないけれども,でも上げるということが運用面では可能なのでしょうか。例えばどういう場面を想定しているかと申しますと,婚姻家庭はあるけれども,それは形骸化していて,ほかに家庭を持ってしまったという場合に,ある種のお詫びの気持ちを込めてということで,こういう選択をする人もいるような気がしますので,それは排除しないのかという趣旨です。   最後,全体を通しての感想ですけれども,3ページの第1段落の終わりの辺りに,「相続人間の公平」という言葉がありますし,4ページの第2段落の4行目から,「実質的公平」という言葉あったり,6ページの上から4行目に,「相続人間の公平」という言葉があったり,全体的に相続人間の公平とか実質的公平という言葉が多く使われているように感じます。そのときの「公平」の何との関係での公平かということが,全体を通してかなり曖昧になっているように感じます。   今回,最初から配偶者の相続分の趣旨,配偶者の法定相続分の趣旨は,潜在的持分の清算,生活保障というお話がありましたけれども,今回ここで公平という話が出てくるからには,ほかの相続人の趣旨をどう考えているのかということを確認する必要があると思います。つまり,ほかの相続人の法定相続分の趣旨も同じと考えているのかと。もしこれが違うということになりますと,単純に公平という言葉で割り切ることができない問題が出てくるように思いますので,その法定相続分一般の趣旨と配偶者の相続権の相続分の趣旨との関係を,少し明確にしておいた方がいいのかなという気がいたしました。   すみません,まとまらないままですけれども,質問2点についてお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございます。第1点とそれから第3点は,留意すべきことがあるとして,御意見として伺うということで,第2点については,お答えをいただけたらと思いますけれども。 ○堂薗幹事 乙1案は,基本的には貢献があるかどうかの判断を当該夫婦に委ねるということですので,実際には貢献があるんだけれども合意をしないという場合も当然あり得ますし,貢献がさほどないにもかかわらず合意をすると,それは制度上あり得るという前提でございまして,合意が成立しないからといって,調停を申し立てて,そこで合意の形成を図るということは想定しておりません。さらに,貢献がなくても合意が成立した以上は,実際の貢献の有無にかかわらず,法定相続分としては引き上がるということになるのではないかと思います。   さらに,実質的公平うんぬんというお話につきましては,従前から御指摘いただいているところではございますが,基本的にはやはり配偶者の場合は遺産の形成に対する貢献,それに対する清算という意味合いが,少なくともほかの相続人よりは強いのではないかと思いますので,そこが現行の法定相続分のように一律に法定相続分を決めますと,配偶者の貢献が十分に考慮されないことによる不公平が生じているのではないかという問題意識の下に,こういった案を考えているというところでございまして,ただそれが今言ったような形で,単に配偶者の合意だけで担保しようというところがありますので,実態と食い違うことがあるのはやむを得ないところではないかと思います。 ○潮見委員 今のやり取りを聞いていて感じたことを一言申し上げますと,乙案というのは,配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策というよりは,むしろ西さんが的確におっしゃったように,これは相続分というものを誰が決めるのか,何によって決めるのかというところで,当事者の意思,特に乙1の場合には,配偶者,2人の配偶者の合意,意思に基づいて決める。乙2の方は,それは被相続人の一方的意思に基づいて決める。その合意,あるいは一方的意思の効果として,法定相続分なるものが決定されるのだという,そういう考え方で出来上がっているわけですよね。   そのときには,基本的に先ほどの御質問に対するお答えではありませんけれども,では,配偶者間の合意を捉えた場合に,その合意をどういう理由で,なぜやったのかという,いわゆる動機に係るようなことなんていうのは一切関係ないということになりましょうか。仮に配偶者の貢献があったとしても,それを考慮しないという形,あるいは合意をしないという判断をした以上は,それは考慮されないということになってしまいますと,基本的に今回の理論の出発点とは違ったスタンスで,法定相続制度を構築しようとしているようにも感じ取られるわけです。   そういう意味で,先ほど甲の方については,反対しているわけではございませんと申し上げましたが,乙については1にせよ2にせよ,若干以上に危惧を感じるところがございます。   先ほど窪田委員が少し御指摘になったいわゆる相続分指定,指定相続分制度の関係で申しても,確かに遺留分というところで,法定相続分を増やしたということで,遺留分が増えてよいですねということはあるのかもしれませんけれども,しかし例えば仮にこの乙の基本的な枠組みに立って,乙1案で例えば考えた場合に,配偶者が合意をしていると,そこでこういうふうに相続分というものを捉えようとしているにもかかわらず,その後で被相続人が一方的意思によって,それを上書きしてしまうと,これが指定相続分なんだということにして,その当初の合意というものを尊重しないという制度があってよいものかというような感じがいたしますし,乙2の方について言えば,ますます一方的な被相続人の意思によって相続分が決まるということですから,結果的に指定相続分と違うところはどこかと言ったら,債務の問題はもちろんありましょうけれども,先ほどの遺留分当たりでの考慮というものが中心になってくるのではないかと思います。   では,そうしたら乙2のときに,相続分指定という制度と同時に,二つ並べてこういうものを導入するということについて,一体どういう意味があるのかというようなことについても,多々疑問があるところでございます。   ついでながら,遺留分の割合を増やせというのであれば,甲案の枠組みを採ることによって,それなりの対応は可能なのではないかと,それ以上に無理をして乙案のような考え方を採るということについては,解せないし,やるのであれば,現在の指定相続分の制度というものの見直しとセットでお出しいただければ有り難いなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   西幹事からも御発言がありましたけれども,関係者の意思表示に係る制度というのを,どのように説明するのかということについて,御検討いただくということなのかと思います。相続契約という御発言がありましたけれども,内容が自由に決められるようなものではないんだろうと思いますので,どんな説明になるのかということについて,更に御検討いただければと思います。 ○沖野委員 ありがとうございます。   私自身のこの案の理解が正確なのかというのをお伺いしたいということと,それから若干細部について分からないところがあるので,教えていただきたいと思います。   それで,私の理解するところですが,今回の案は,甲案,乙案ともにですけれども,貢献に応じた分割を実現するための方策ということで,基本的な考え方は,しかし個々具体的な貢献というのも決められないという発想に出ており,類型的に決めるしかないだろうと。その類型化が一番端的に表れているのが,この率のところで,これは法律で決めてしまう。しかし,ある程度具体的な夫婦の財産状況だとか,これまでの生活具合ですとか,そういうものを考慮した指標をどこかに求めるということで,甲案は,婚姻後増加した財産がどのくらいあるのかと,そこにも寄与は本当はいろいろあるけれども,配偶者であるというその地位によって,個々の夫婦の関係はともかくとして,類型的に寄与があったとしてしまうという,そういう扱いが甲案ではないかと思っております。   一方,乙案の方は,財産ではなく年数で決めるということで,これぐらい貢献があったというのは,本当は年々歳々変わっていくはずですけれども,そこは切り捨てるというか,あるところでリープがあるというか,えいやっと飛ぶ部分があると。その年数が20年がいいのか30年がいいのかと問われている。他方で,意思に係らしめられているというところも,夫婦の状況ということを考えてのことであるという面があって,合意というのも何かという問題はありますけれども。例えば貢献自体も,本当に財産形成にどういう貢献があるかというのは,実際のところは分からないわけですよね。ずっと寝たきりだけれども,精神的な支えになっていて,この人がいるから頑張れるというようなところもあるわけですけれども,本当にどのような貢献があるのかといったことは全然決められないので,とにかくどこかで定型で切らなくてはいけない。そうすると,年数とともに当事者がそういう貢献があると認識しているということにかけているのが,乙案の1,2ではないかと理解しました。   その上で,それを合意にするか,一方的意思表示にするかというのは,一方的意思表示にするというのは,被相続人自身が多年の貢献も含めて考慮判断するということかもしれませんけれども,ただそれは時期との関係で言うと,いろいろそのような多年の貢献もない段階で意思表示をするということかもしれないので,その時期も問題かもしれませんが,逆に撤回しないということが多年の貢献を考慮するものとも言えます。つまり,多年の貢献をみてこのくらいになってもいいのではないかという自分の財産関係についての判断権を被相続人が一番持っているという発想に立っているのが,乙2案ではないかと理解しています。   乙1案の合意というのが,ちょっとよく分からないところがありまして,説明がやや難しいんですけれども,夫婦ともにそのような形の財産関係であると認識をし,合意をしているのならということかと思いましたけれども,恐らくむしろ機能的な方が大きいのではないかと思っています。つまり一旦それを選択したならば,相手方の同意を取らない限りは,やめられないと,そういう仕組みにするというところに,むしろ乙1案の眼目があるのかなと。その意味では,合意というのはなかなか説明が難しいけれども,眼目がそこにあるならば,そういうところを考えている案なのかなと理解しました。   ですので,貢献という観点からすると,もちろん本当に様々な夫婦関係がある中で,これらの案が,個々具体的な貢献と本当に連動しているのかというのは,言えないことがあるけれども,ある程度割り切りで,このような形で決めてしまうというのは,一応の説明はできるのではないかとは思っております。難しいということも承知はしておりますけれども,そのような案ではないかと理解しました。   その上で,間違っているなら間違っているとご指摘いただいたらと思うんですけれども,一方では乙1案,乙2案について出ておりますのは,遺言との関係ですとか,意思表示による指定相続分等との関係ということですが,これも機能的に見れば,やはり遺留分のところが大きく,その部分も手当できる,それから遺言の要式を採らなくても,別の形で,しかも遺言の前の段階で,生前に法律関係を安定させられるというような,そういうものを用意しているということなのかなと思いました。そういった制度を別途用意するということに,どのくらいの意味があるのかということを,併せて考えていくことになるのかと思います。   そして,ここから質問ですけれども,甲案につきましては,これは既に言われていることで,確かに算定が非常に難しいんだと思います。特に婚姻時の財産状況は,例えば離婚の財産分与であれば,本人がいらっしゃるので,本人がいろいろ言うことができるのですけれども,相続の場合は,一番肝心の本人がいなくて誰も婚姻時の状況について詳述できない状態になることが想定されますので,本当にこの算定は難しいように思っております。   それで,こういう制度がほかにあるのかどうかというのは,私は承知していないんですけれども,もし何かそういう制度が他の国であるとかいうようなことであれば,どこどこにあるというのを教えていただければ,その運用などを含めた調査の端緒になるかと思いますので,もし御存じであれば教えていただければと思います。   2点目は,甲案につきましては,異例の事態なのかもしれませんけれども,やはり事業をやっているという場合の扱いが,非常に気になっております。今回は事業用の財産については,特に区別しないとしまして,その理由としては二つ挙げられております。4ページですけれども,一つは財産の区別が容易でないという点です。もう一つは,事業用の財産の形成に非常に関わったような者があった場合については,その人自身については寄与分制度で対応できるからということです。1点目の事業用の財産の区別というのが難しいというなら,そうだと思うんですけれども,果たしてそれほど難しいものなんだろうかというのが,よく分かりません。これは実務の方の御感触を,もしできたら伺えればと思うところです。もちろん家族の目的にも事業用にも車を使っているとか,そんな話はあるかと思いますけれども,そういうのは常にいろいろな場面であるわけですので,主たる目的はどちらかとかいった形での区別は可能なように思います。事業用の財産というのは,本当にそう区別しにくいものなのだろうかというのが一つです。   もう一つは,これも余り通例とはいえないのかもしれません。実例もあるのかどうかというのは承知していないんですけれども,例えば一番冒頭で増田委員が出してくださった例を借りますと,数値は入れてないんですが,例えばABの夫婦で子供Cがいると。ABはそれぞれ働いている。配偶者Aは事業を行っている,個人事業者であって,子供Cがそれに非常に寄与しているという場合で,別に婚姻関係が破綻しているわけではないのですが,BはAの事業には寄与していなくて,自分の収入があるという場合です。しかもAは今までの財産全てに近い分を事業につぎ込んでいて,ほとんどが事業用の財産である。Aの財産の形成は専らAと子供Cで財産を形成しているというような場合に,この規律はどういうふうに働いていくのかということです。しかもその事業はAが婚姻後に起こしたものであるというような,あるいは大半が婚姻後の増加財産であるとすると,基本的にはほとんどの相続財産の3分の2が配偶者の寄与分,特別寄与分ということになるのでしょうか。その財産は基本的に事業用の財産なので,大半が子供の貢献によって形成されている。取り分け最後はAは病気がちで専らCが事業を行っているというようなことになりますと,甲案はどのように働いてくるのでしょうか。この点を教えていただければと思います。   それから乙案についてなんですが,これは具体的な質問というよりは,考慮点として申し上げたいと思います。乙1案と乙2案は合意と意思表示とで違っているのですけれども,基本的に細部は全て同じ扱いを想定されているように思われます。それがそれでいいのかというのも,よく分からないところで,合意の形で相手方が関与しているというような場合がどうかというのが一つです。あと一方的な意思表示によると,やはり遺言による場合とかなり似てくるということがありますので,例えば遺言による指定相続分によって撤回の意思を含んでいるとかいうことにならないのかとか,もちろん,届出の要式を満たさないと駄目だとすれば,もちろんそうではないんですけれども,考え方として,撤回はいつでもできて,あとは届出1本だとすると,要式行為である遺言で,それと矛盾したような意思表示がされていたら,当然に撤回というふうな考え方もありそうですので,例えばそういったことも内容として考えていく必要があるのではないかと思います。合意によるのと意思表示によるかのとで,本当に同じ規律でいいのかということが気になるものですから,抽象的な話で恐縮ですが,その点の考慮はもう少しあるのかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。甲案及び乙案の考え方についての御理解を示していただいた上で,甲案について2点と,それから乙案について1点,御質問を頂きました。   甲案については,婚姻時の財産の算定というのは,なかなか難しい問題であろうけれども,このような処理の参考になる比較法的な例はないかという御質問,それから事業用財産について,別建てにしないという考え方に立っているけれども,果たして別建てにすることがそれほど難しいのかということと,別建てにしないことの結果が妥当か。こういった御質問を頂いたかと思います。   それから,乙案については,意思表示というものの扱いについて,どのように考えるのかと,特に一方的な意思表示ということであると,遺言の場合との切り分けという問題が出てくるであろうという御指摘だったと思います。 ○堂薗幹事 甲案については,何か外国法制を参考にしてということではございません。基本的には従前からの流れで考えており,離婚における財産分与から発想を得たものですが,それを簡略化していった結果こういう形になったということでございます。   事業用財産について更に分けるというのは,もちろん考えられるんだろうと思いますが,恐らくこの甲案であっても,先ほどから御指摘が出ておりますように,こういった規律で実務にたえられるのかと,特に婚姻時にどれだけ財産を持っていたのかを,どうやって立証するのかという問題があり,やはり現行法に比べますと,紛争が複雑になるのではないかという御指摘があろうかと思いますので,これにプラスして,更に事業財産について別途の規律を設けるということになりますと,紛争の複雑化という問題は更に大きくなるのではないかと思います。   次に,事業用財産を区別するのは,どの程度難しいのかという辺りについては,実務家の先生に御意見をお伺いしたいとは思います。   それから,甲案についてお子さんの貢献が非常に大きい場合はどうなるかというところでございますが,これは基本的には婚姻後増加額で増えた分については,定型的に,子供よりも配偶者の貢献が大きいだろうという考え方の下に割合を決めてしまっていますので,基本的にはそのような場合であっても,奥さんの取り分が非常に増えるということになるのではないかと思います。   ただ,子供については別途子供の寄与分として,そこは一定程度評価されることにはなると思いますが,その場合に配偶者の寄与分と現行法の寄与分の要するに優先関係といいますか,どちらを優先的に認めるかという辺りが問題になってくるのではないかと思います。   それから,乙1案の合意と乙2案の単独の意思表示のところでございますが,基本的には,乙1案は合意が要件となりますので,一定の拘束力を認めたいということで,内部的な検討を始めたわけですが,先ほど申し上げたように,相続分の指定を排除するような効力まで認めると,それはまたそれで非常に紛争が複雑化するので,そこまでは認められないだろうと,ただ遺留分の関係がございますので,乙1案であれば元々の最初の届出は合意であったので,撤回についても合意がないと認められないということにしたということでございますし,乙2案については,これも様式行為で,届出までして,法定相続分の引上げという効果を生じさせたわけですので,相続分の指定とは違って,それを撤回する場合にも届出を要件としたと。もちろん遺言によって相続分の指定がされた場合には,その効力が弱まるわけですが,届出までしないと,遺留分の関係ではなお効力が残るということで,相続分の指定と一応の違いを設けているというところでございます。 ○大村部会長 よろしゅうございますか。 ○沖野委員 ありがとうございます。もう既に申し上げたところですけれども,寄与分との関係だけ,確認させてください。事業用の財産について申し上げたのですけれども,もちろんそれに限らない話だと思います。寄与分がかなり大きくなるという場合というのは,一般的にあり得ますよね。そうではないですか,相続の場合に。 ○堂薗幹事 はい。 ○沖野委員 配偶者の方が,これによりますと,かつ全部が婚姻後増加額の部分であるとすると,3分の2は配偶者の方になるのですよね。他の相続人の寄与分が3分の1に限定されるとは限らないですよね。限りますかね。それともそもそも問題を誤解しているんでしょうか。 ○堂薗幹事 こちらで考えているのは,配偶者の寄与分をまず先に決めて,その残りについて現行の寄与分を考慮するというものですので,そうすると,先ほど沖野先生が言われたような子供に非常に大きな貢献がある場合については,不都合な結果になる可能性があります。そこで,その順番を変えて,現行の寄与分で先にその分を確保した上で,その残りについて配偶者の寄与分を認めるという規律にすれば,子供の貢献が大きい場合の問題は生じないのかもしれませんが,またそれはそれで,いろいろな問題があるのではないかと思いますので,現行の寄与分とこの配偶者の寄与分との関係をどう考えるかというのは,非常に難しい問題ではないかと考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○上西委員 関連で。 ○大村部会長 増田委員,もう少しお待ちください。関連する話だということですので。 ○上西委員 関連する部分だけ申し上げます。沖野先生がおっしゃいましたように,甲案は婚姻後増加額を確定しなければなりません。そのためには婚姻時における純資産価額が必要となりますが,婚姻時の純資産価額を今までの相続実務の中で,確定できるのかというと,相当に困難です。   次に,事業の財産又は事業に起因する債務の区分についての判断です。この区分は比較的容易です。事業の債務については,まず分かります。もちろん,事業用の債務で,実際に事業に使わなかったケースはあるかもしれませんが,少なくとも債務の発生時には分かるわけですし,その後のことについては,お金の流れを追えば,相当確実に把握できます。   そして,事業用の財産についてです。例えば共用している建物でしたら,例えば1階の一部が事業用で,奥の部分と2階が自宅の場合などです。使っているところの面積等に応じて分けることもできますし,機械とか備品等については,事業用のものはそのまま事業用のものです。共用して使われているのは,車両が比較的多いですけれども,どの程度の割合で使っているかということを見れば,そう大きくぶれるものではありません。ですから,事業用の財産と家庭用の財産を区分することはできるとみてよいかと思います。   それと,事業用の財産の形成維持に関して,相続人が貢献したことについて寄与分制度で対応する点についてです。果たしてどの程度,今まで認められた事例があるのかというと,私の認識では,それほど多いものではありません。寄与分を認めないとする反対する側から見れば,貢献に対応する分は,今までお給料でもらっているではないかとの主張があります。この寄与分制度については,紛争といいますか,争点になりますので,寄与分制度で対応できるかどうかについては,疑問を持っております。 ○大村部会長 ありがとうございました。   では,事業用の財産それから債務については,もう少しまた御意見を伺った上で,御検討いただくということでよろしいですか。   増田委員,ずっとお待たせして,すみませんでした。 ○増田委員 かなり議論が出尽くした感もあるんですけれども,甲案に関しては,第3回部会の案よりはかなりシンプルになって,計算しやすくなったけれども,まだやはり先ほどのように計算が2段階になるという辺りから,非常に難しい面が残っていると。  それと,形式的になったために,実質的夫婦共有財産の清算の観点とは完全に乖離したものになっていると言わざるを得ないと思います。その原因は大きいところで2点あって,1つ目は共同生活の事実ではなくて,形式的な婚姻期間で定めているということです。財産分与の場合は内縁期間を入れたり,長期別居期間を除外したりということがあるんですけれども,そういう配慮をしていないということです。2つ目は,生存配偶者が自分自身の名義で取得した婚姻後の財産を考慮していないことだと思います。   乙案についても,すでにいろいろと出たとおりなんですけれども,生前贈与,死因贈与,包括遺贈,その他いろいろな手段がある中で,乙案の手段を選択するメリットは法定相続分を動かすことですが,法定相続分を動かす効果は,既に出ていますように,具体的には債務の問題と遺留分の問題になります。   遺留分に関して,先ほどからは配偶者自身の遺留分の話が出ていますが,乙案では他の相続人,特に子の遺留分を下げるということになります。これがちょっと引っ掛かっておりまして,遺留分というのは,財産処分の自由の限界を画するであり,一方では他の相続人に対する最低保障であると考えられているわけで,法が認めた最低保障を他の者の意思で動かすということについて,それがいかがなものかということです。遺留分を動かす場合,現行法では推定相続人の廃除か遺留分の放棄かということになるんですけれども,いずれも家庭裁判所の手続が要求されており,特に遺留分権利者が自分で放棄する場合ですら,家庭裁判所が真意を担保するための手続を踏むということになっております。   このように比較的厳格な手続が予定されているにもかかわらず,それを遺留分権利者でない者が一方的に奪っていいとする乙案については,その辺りの整合性について,お伺いするとともに,十分に検討していただきたいと思います。   それと,本当に遺留分を変えるといっても,現行法でも4分の3までは自由に譲渡できるわけです。包括遺贈にしても,生前贈与にしても。それが乙案で変わったところで,6分の5に変わるだけで,その差は僅か12分の1です。これでどれほどメリットがあるのかどうかというところがあって,それも少し気になっております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて,検討させていただきます。 ○大村部会長 では,垣内幹事,山本委員,八木委員という順番でお願いします。 ○垣内幹事 すみません,私のは本当に素朴な質問で恐縮なんですけれども,乙1案と乙2案の関係の理解について,私の理解が正しいかどうかを教えていただきたいという趣旨です。   先ほど沖野委員の御発言にもありましたけれども,乙1案は合意で乙2案は単独の意思表示に基づく届出ということで,合意と単独行為という違いがあるという,性質上の違いがまずあると思うんですけれども,そのことと行為の内容についての違いがどう関係しているのかということについて,もしかすると御説明を聞き落としているのかもしれないんですが,ちょっと私の中で十分理解できていない部分がありましたので,確認をさせていただきたいということなのですが,乙1案の合意の内容というのは,これは読みますと,夫婦が配偶者の法定相続分を引き上げるということですので,AとBという夫婦がいたときに,Aが先に亡くなったときはBの法定相続分が大きくなるし,Bが先に亡くなった場合には,Aの法定相続分が大きくなるという合意を想定されていて,一種双務的になっているということであって,専らそれに尽きると。Aが先に亡くなったときだけ,Bの方で相続分を増やすという合意は考えていないという理解でよろしいかどうか。   仮にそうだとすると,そういった双方向的な規律を持ち込むものだという内容の点で,乙1案と飽くまで片面的なものである乙2案というのは,相当に異なるということかと思うんですけれども,そうだとしたときに,乙1案というものが持っている配偶者の貢献に応じた遺産分割を実現するための方策という側面というのは,特に一方,例えばAの財産の増加に対して,Bが寄与していて,専らBの方は余り増えないでAがたくさん増えていると,名義の面では,というときに,Aが先に亡くなればBに行くというのはいいんですけれども,Bが先に亡くなったときに,Bの財産について,遺産についてAの相続分を増やすというところについては,どういう位置付けになるのだろうかというところが,やや私の中で整理がなかなか難しいと感じるところがありましたので,その辺りについて何か御説明いただける点がありましたら,お教えいただければということでございます。 ○堂薗幹事 乙1案と乙2案の違いにつきましては,こちらも御指摘いただいたとおりと考えておりまして,乙1案の方は,合意をすれば,どちらが先に死んでも法定相続分は引き上がると。これに対しまして,乙2案は,その意思表示をした人の配偶者の法定相続分だけが引き上がるという理解です。   配偶者の貢献に応じた遺産分割の実現という目的と,この合意との関係につきましては,明確な関連性はないのかもしれませんが,その夫婦がどちらも財産の形成に貢献したかどうかというところまで見るのは難しいと思います。むしろ,乙案は,20年,30年という期間を設けているんですが,夫婦の合意は,実質的な婚姻関係が存続していて,形式的に婚姻関係が続いているというようなものではないというところを担保するにすぎないものでございまして,そういった意味では,先ほど垣内先生の方が言われたような一方は貢献しているけれども,他方は貢献していないというような場合であっても,やはり法定相続分としては,どちらも引き上がってしまうというところはあろうかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○山本(克)委員 乙1案について,2点お伺いしたかったんですが,1点目はもう既に垣内幹事が今おっしゃいましたので,もう1点だけですが,これは浅田委員がおっしゃったところと関係するんですが,合意をするときに,単に届出上だけ合意があるという形ではなくするのか,それとも合意というものをより様式行為として何らかの方式に服せしめて,更に意思確認を趣旨を明確にして,事後的な紛争に備えるというようなことはお考えになっておられるかどうか,そこだけ教えていただければと。 ○堂薗幹事 ここは,婚姻届と同じように,基本的にはそういった定型の書式を出すということで考えてはおりますが,先ほど申し上げましたように,戸籍ではなくて,例えば夫婦財産契約の登記によってそこを公示するということに致しますと,現行法を前提にする限り公正証書が必要になってきますし,そういったことも考えられるんだろうとは思います。   ただ,ここでは,基本的には,簡易な届出で法定相続分の引上げができるというところにメリットがあるのではないかと思っています。 ○山本(克)委員 ハードルを下げるというのは,一つのニーズであることは認めるんですが,ハードルを下げたゆえに,お子さんと配偶者の間の仲が悪くなるというようなことは,もうリスクも取らなければいけないので,そこはやはり少しもうちょっと慎重に考えた方がいいのではないかなという気がします。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○八木委員 乙案の分がちょっと悪いようなんですけれども,私は何かシンプルで魅力的だなと読みました。もちろん,意思表示の問題があるとは思うんですけれども,これは理論的にはどうか分かりませんが,単純に年数だけを要件にするというのも一つの考えかなと思います。それから,政策論的に見ても,少子化の中で婚姻に人々を導いて,それも長期の婚姻を促していくという,そこはインセンティブになるかなと。それと,婚姻共同体を保護するという部分も非常に大きい,意義としては大きいなというように思います。   質問なんですけれども,離婚の際の財産分与との整合性はどうなっているのかなということですね。例えば20年あるいは30年経過した後に離婚した場合に,その際の財産分与と,この法定相続分との関係はどうなっているのかと,そういうちょっと細かい点ですが,教えていただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   では,お願いします。 ○堂薗幹事 離婚の場合には,それぞれの財産を全て考慮しますし,婚姻中に財産がどれだけ増えて,実際に貢献がどの程度あったのかというところまで実質的に考慮して決めますので,そういった意味では,乙1案,乙2案ともに,離婚における財産分与と比べますと,その貢献が十分に反映されていない場合も出てきますし,そこはある程度形式的に割り切らざるを得ないのではないかということで,離婚の場合の財産分与と整合性がとれていない場合は,どうしても生じてしまうのではないかと思います。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○上西委員 甲案と乙案を比較しますと,甲案には評価の難しさが伴います。乙案は,甲案と比較の上では明快で分かりやすいし,四捨五入した言い方をすれば,法定相続分の割合を変えることによって,寄与分をその中に押し込んでしまっているという見方もできるのではないかと思います。   それと乙1案,乙2案のいずれにも,アイウのうちのウでは兄弟姉妹の法定相続分が5分の1になっています。兄弟姉妹には遺留分はありませんし,婚姻成立から20年又は30年経過したときに,5分の1が果たして必要かどうかです。なくしてもよいというのが実感です。どうしても兄弟姉妹に残したい場合は,遺言を書けばよいのです。この部分は,配偶者が5分の4で兄弟姉妹が5分の1としないで,配偶者に片寄せして配偶者が5分の5となってもよいと考えます。   三点目は,期間についてです。20年と30年が併記されており,贈与税の配偶者控除が例に挙がっております。御案内のとおり,昭和41年度税制改正でこの制度が創設されたときは,25年でした。その後,20年に短縮されたのが,昭和46年度の税制改正です。そのときの理由が,経済成長に伴って個人の財産形成のテンポが速まったこと,妻の座についての税制上の評価が高まったことが理由とされているのです。   ダイレクトにこの理由が当てはまらないものの,実務上,20年たったときに,片方の配偶者から他方の配偶者に,今まで貢献してくれたとか,いろいろな理由はあると思いますけれども,居住用財産の贈与は比較的一般に行われている事例の一つであります。整合性とまでは言いませんが,この乙1案,2案とも30年にせずに,20年でそろえた方が理解しやすいと考えます。   それと,乙2案の場合についてです。これは被相続人が自分だけの判断で届け出ができ,撤回についても届出をした配偶者が法定の方式により撤回できるとなっています。一旦保護された配偶者の割合が,単独の意思表示で撤回されるのもいかがなものかと感じます。この場合に,撤回について両者の合意の必要性が理論的に成り立つのかどうかですけれども,配偶者の立場に立てば,そういった点も検討していただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   事務当局の最初の御説明で,この乙1,乙2については,20年ないし30年という期間についてどう考えるか,それから血族相続人が兄弟姉妹の場合に,その相続分をなくすという考えについてどうかということもお尋ねがあったかと思いますが,上西委員からその点につきまして,20年と30年については,20年の方がよろしいのではないかと,それから兄弟姉妹の相続分というのはないということでもよろしいのではないかという御意見を頂きました。   この点につきまして,もし関連の御発言がありましたら一括して伺って,その他の御意見をその後に伺うとしたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 関連するといえば関連する程度の発言になってしまうかもしれませんけれども,まず甲案につきまして,ついでにそれ以外の点の感想も少し述べさせていただきます。   甲案につきましては,夫婦財産制と相続分という二つの概念で整理をする発想の下で,これまでできるだけ詰めてきてくださったことに感謝したいと思いますし,それが本来の整理の仕方であるとは私も思います。ただ先ほどから御意見がありますように,夫婦財産制や離婚にしても贈与や遺産分割にしても,民法の母法国ではもっと制度的にきちんとしているのですが,日本はそれがありません。その前提では,離婚のときには両当事者に主張させることによって決まってくるけれども,片一方が死んでいるときには,算定が難しいというのは,確かにおっしゃるとおりだと思います。   ですから,実務が果たして甲案を採れるかどうか,かなり難しいところです。筋としては魅力的なのですが,実務がこれを本当に運営できるかどうかは,日本の制度的文脈の中でお考えいただく必要があるように思います。   それから乙案につきまして,これまでも御意見がいろいろ出ておりましたけれども,やはりこの届出とか合意とかいうものに関わらせることが,問題を複雑にしているように思います。そして,その理由としても,別居しているような夫婦の場合には,それがないはずだからということですが,別居している夫婦のような場合はむしろ廃除とか,遺言とかによって,被相続人が自衛をすることができます。それなのに,そういう合意をなぜ必須にされたのでしょうか。それによって法定相続分が変わるということですから,法定相続分の性質に意思性が入ってきますので,議論が難しくなるように思います。   それから,先ほど八木委員の御意見にもありましたけれども,これはある程度,形式的に考えることに意味があるのではないでしょうか。つまり夫婦であることの意味を重く考えるという八木委員の御意見に,私は共感するところがございます。財産分与の実務について議論がされましたけれども,日本法の財産分与は,諸外国の離婚給付と比べますと,非常に異質で,要するにあまりにも安いのですね。配偶者が現存財産の形成に貢献していたかどうかという観点から,本当にきりきりと計算して,別居していたときにはその貢献はないなどと言うわけですが,そういう形で離婚給付を計算するという西欧諸国はないでしょう。英米法のアリモニーにしましても,フランスの補償給付にしましても,離婚後の生活保障という概念の内容で,はるかに高額です。それは婚姻という生涯の運命共同体に入る約束をした二人が,その共同体が壊れてしまったことのある種の補償的なものになります。そういう保障があるので子供も落ち着いて育てられるし婚姻中の平等も確保されると考えられています。どれだけ財産形成に貢献したか等によらずに,夫婦であったということの効果として手厚いものが規定されています。   財産分与にも,配偶者相続権にも,そういう側面があっていいと思います。夫婦であったことの効果として,ある程度形式的に決まった取り分が増えるということでも,いいのではないでしょうか。   そのような意味で,20年ないし25年という年数で,かちっと相続分が上がるという選択肢も,ちょっと諸外国には見られない法制度ではありますけれども,日本法の様々な諸条件を考えますと,あり得る選択肢なのではないかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。意思に係らしめないで一律にどこかの時点で相続分が変動するという御意見で,簡明さという点では簡明なお考えだろうと思います。   20年ないし30年とか,それから兄弟姉妹の相続分については,何か御意見がおありというわけではなかったと理解してよろしいですか。 ○水野(紀)委員 そこまで積極的にはっきりした線の主張はございません。 ○大村部会長 そうですか。分かりました。 ○窪田委員 すみません,水野委員に1点だけ教えていただきたいのですが,20年,30年の要件は満たすけれども,別居している夫婦の場合には,遺言で対応できるということでしたけれども,それは相続分の指定であるとか,そういうことで対応するということであって,この規定はこの規定として機能するということでしょうか。   私はその前提が本当にそれだけで考えていいのかどうかもよく分からないのですが,遺留分はこによった割合で増えたので,もういくということですね。   はい,分かりました。 ○大村部会長 ほかに御意見いかがでございましょうか。 ○石井幹事 先ほどの事業用財産の議論のところで,区別するのは容易ではないかという御指摘もあったんですけれども,裁判所の立場からすると,必ずしもそうではないかなという懸念もあります。理論的には区別できるとしても,争点がその分,増えることになるため,実務的には,それなりの影響があるように思いますので,指摘させていただきます。 ○山田委員 難しい案件が裁判所に行くので,やはり一般論としては,個人の私的な財産関係よりも,少なくとも事業用に関しては,税務申告関連の資料とかペーパーベースで比較的整っているケースが多いのではないかという気はいたします。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほか,この第1の論点につきまして,いかがでございましょうか。   よろしゅうございますでしょうか。   では,甲案,乙案につきまして,様々な御意見を頂きましたので,更に事務当局の方で御検討いただければと存じます。   第2,第3ございますけれども,ここで少し休憩いたしまして,3時25分から再開させていただきます。           (休     憩) ○大村部会長 それでは再開したいと思います。   第2と第3,二つ論点が残っております。10ページでございますが,第2の「被相続人の療養看護等に努めた者に寄与分を認めるための方策」という点につきまして,事務当局より御説明いただきます。 ○合田関係官 それでは,第2,被相続人の療養看護等に努めた者に寄与分を認めるための方策について御説明いたします。   資料10ページを御覧ください。今回,取り上げております考え方は,被相続人の療養看護又は扶養による寄与について,寄与者と他の相続人との間で寄与の程度に著しい差異がある場合には,その寄与が特別の寄与と言えない場合でも寄与分を認めるというものであり,基本的には部会資料3に記載した考え方と同様のものです。   前回の案からの修正点を御説明いたします。第3回部会においては,相続人の寄与の定義について相対的な比較を行う場合に,子同士や兄弟姉妹同士のように同一の身分関係にある相続人間であれば比較は容易であるが,配偶者の負う扶助義務や婚姻費用の分担義務と直系血族及び兄弟姉妹の負う扶養義務とでは,通常,期待される程度が大きく異なるため,身分関係が異なる相続人間での比較は容易ではないとの指摘がされました。   そこで今回の案では,同一の身分関係を有する相続人間で寄与の程度に著しい差異があることを要件としております。また,前回の案では寄与分の要件のみを記載し,この類型による寄与分が認められた場合の効果については特段記載をしておりませんでしたが,今回はこの点についても②において一定の考え方を提示しております。   現行の寄与分制度においては,被相続人の財産の維持又は増加があったことが寄与分の要件とされておりますが,第3回部会では新たな制度においてもこの要件を維持するかどうかによって制度趣旨が変わることになるので,この点については慎重に検討すべきであるとの指摘がありました。   今回の案においては,寄与分の要件として被相続人が療養看護又は扶養を要する状態にあったこと,及び相続人が無償で被相続人の療養看護をし,又は被相続人を扶養したことを掲げることによって,被相続人の財産の維持又は増加と無関係な寄与は,寄与分の対象とはならないことを明らかにしております。   寄与分が認められた場合の効果等について,現行の寄与分制度では寄与分が認められると,相続財産からその寄与分が一旦控除され,その控除後の見なし相続財産の額を基準にして法定相続分等の割合に従い,各相続人の相続分を算定した後,寄与分が認められたものについてはあらかじめ控除されていた寄与分をその相続分に加算するという扱いがされております。   しかし,今回の案において,これと同じような取扱いをすると,例えば被相続人の子としてA,B,Cの3名がおり,Aの寄与の程度が最も高く,Cの寄与の程度が最も低い場合において,A,C間には寄与の程度について著しい差異があるが,A,B間及びB,C間にはそこまでの差異はないという事案では,現行法と同様の取扱いをすると,A,C間の寄与の程度に著しい差異があることによって,Aについてのみ寄与分が加算される結果,A,B間には寄与の程度にそこまでの差異はないにもかかわらず,Bの具体的相続分はAよりも少なくなり,しかもCと同額になります。このような結果はBの利益を不当に害するものと考えられます。   そこで今回の案においては,相対的な比較を行った相続人間についてのみ相続分の調整をすることとし,この寄与分については比較対象の相手方である相続人の相続分からこれを控除することとしております。   もっとも第3回部会では,前回の案について無償で近親者が療養看護等をすることについてインセンティブを与えることにつながり,あるいはそのようなメッセージを社会に発することになり得るが,このような方向性が高齢化社会を迎えた我が国において目指すべき姿と言えるのかという点については慎重な検討が必要であるとの御指摘がありました。   寄与分が認められた場合の効果について,今回の案のような考え方を採った場合は,療養看護を余りしなかった相続人を法的に非難しているかのように受け取られ,よりメッセージ性が強まるとも考えられます。   例えば相続人間の相対評価をするのではなく,相続人の中で被相続人の療養看護に最も貢献した者であって,その者の貢献と他の相続人の貢献との間に一定の差異がある場合には,その寄与が特別の寄与に該当しなくても寄与分を認めることとし,寄与分が認められた場合の効果は現行法と同様にすることも考えられますが,その場合にはその差異がどの程度あることを要件とすべきかという困難な問題が生ずるほか,そもそも現行法の下でも寄与分を認めることができる場合が多いと考えられ,新たな制度を設けることにどれだけの意義があるのか疑問もあります。この点についても本日は御意見を頂戴できればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   前回からの修正点を中心に御説明いただきましたけれども,どの点でも結構でございますので,御意見をいただければと思います。   いかがでございましょうか。 ○増田委員 質問から幾つかさせていただきたいと思います。   まず確認的な質問なんですけれども,配偶者の具体的相続分には影響しないのかというのが1点目です。それから,2点目も確認的なものですけれども,配偶者の療養看護による寄与は現在も実務上,ほとんど認められませんが,今後は明らかに認めないという考え方でしょうかということです。それから3点目ですが,寄与分が二つ,要するに現行法の「民法第904条の2第1項に加え,新たに次のような規定を設ける」と記載されていますので,併存する現行法の寄与分と新たな寄与分の2種類の寄与分請求はどういう関係なのでしょうかという質問です。つまり,同一の手続の中で同時に請求できるのか,請求した場合,二つの請求はどのような関係になるのかということです。   それから次に,実務上よく問題になる居住の利益についてです。これは,居住の利益があれば,無償ではないとよく言われるんですが,これは有償であるという理解でいいかということです,   それから次ですが,他の相続人との比較という相対評価となった場合,療養看護をしなかった,あるいはできなかった方の相続人の個別具体的な事情というのは考慮しないのかということです。例えば被相続人の住居との距離とか,あるいは相続人の方の経済状態とか,あるいは相続人が健康を害しているとか障害があるとか,そういう身体的要因でできないなどといったようなことは相対評価の中で考慮されるのかされないのか。やはり介護したくてもできないという方は結構おられるので,その点についてお伺いしたいと思います。   その次ですが,同一の身分関係の中で比較するということですから,子と代襲の孫がいた場合,これは相対評価の対象となるのかならないのか。同一身分関係で順位は一緒でも身分関係は違うので,これは対象にならないとも読めるんですが,どうなのかということです。   それから7点目ぐらいになりますかね。無償ということなんですけれども,被相続人が生きているときには無償とされるものが,何で死んだ途端に対価が発生するのかという疑問があります。次の第3にも関わってくるんですけれども,死んで新しく請求が認められるということであれば,将来的には対価を請求できるという行為となり,それが無償と言えるのかどうかということですね。以上,たくさんありますが,お願いします。 ○大村部会長 ありがとうございます。7点,御質問いただきました。最後の点は基礎理論に関わる御質問のように思いますけれども,その点も含めまして,幾つかおまとめいただいても結構ですので,お答えをいただければと思います。 ○堂薗幹事 まず配偶者の具体的相続分には全く影響しない,この第2の寄与分が認められても配偶者の具体的相続分には影響しないという前提です。   それから配偶者が療養看護した場合については,現行の規律のみが適用され,この第2の寄与分の対象にはならないという前提です。   それから現行の寄与分と今回の寄与分との関係ですが,これはいろいろな考え方があると思いますが,要件として重複する場合もあると思いますので,現行の寄与分の要件を満たし,かつ,こちらの要件も満たすというような場合は当然あると思いますので,その調整をきちんとやろうとしますと,そこは同一の手続でやるということにならざるを得ないではないかと思います。したがって,必要的な併合のような条文を設ける必要があるかどうかについて検討する必要があると思いますが,こちらとしては,両方ある場合は,やはり一つの手続でやった方がいいのではないかと考えております。   次に,居住の利益との関係ですが,ここで無償というのは基本的には療養看護の対価としてもらっているかどうかという意味で,対価としてもらっていれば有償,対価がなければ無償という前提ですので,居住の利益があったとしても,それが療養看護の対価といえるようなものでなければ,この要件との関係では無償ということになるのではないかと思います。ただ,その場合でも,居住の利益を得ているような場合については,寄与分の有無及び額を定めるに当たって考慮されることになるのではないかと考えております。   それから療養看護しなかった相続人の個別具体的な事情を考慮するかというところですが,これは確かにもう少し検討する必要があると思いますが,一応,ここでは要件としては必ずしもそこは考慮しないような形になっておりますが,少なくとも寄与分の額,要するに③のところでは考慮要素になりますので,そういった事情も考慮した上でどの程度の寄与分を認めるのが相当かという判断をすることになると思います。そういったやむを得ない事情がある場合に,そもそも①の要件から除外する必要がないかどうかという点については,引き続き検討したいと考えております。   それから子供と孫,代襲相続があった場合の関係ですが,ここもいろいろな考え方があると思いますが,基本的に代襲相続人は親である子の法的地位を引き継いでいるということだとしますと,そこでほかの子供と代襲相続した被相続人の孫を比較するということも考えられるのではないかと。ただ,その場合は亡くなったお子さんの貢献も含めて,その亡くなった子供の貢献とその孫の貢献を合わせる形で,ほかの子供と比較することになるのかなと。そこはまだ十分に詰めて検討はできておりません。   それから何で死亡したら,無償だったものが有償になるのかというところですが,現行の寄与分も,基本的には療養看護を被相続人との関係では無償でやっていても,寄与分としては認められるという前提ですので,そのこと自体は特に不合理なことではないのではないかと。そこは,そもそも相続の根拠をどのように考えるかというところとも関わってくると思います。相続の根拠については,被相続人の意思ですとか,あるいは財産の形成に対する貢献とか,いろいろ言われていますが,結局,相続財産をどう分けるかということですから,生前,被相続人に対して何らかの具体的な請求ができなかったとしても,相続財産をどう分けるかという場面では,その貢献を考慮するということについては特段の問題はないのではないかと考えているところでございます。 ○水野(有)委員 今,おっしゃったことの中で質問が出てきてしまったのですけれども,必要的併合などを検討するとおっしゃったということは,逆に言えば,元々違う事件類型として寄与分を二つ作ることを想定されているということですか。 ○堂薗幹事 類型としては別の類型にはなりますので。 ○水野(有)委員 そうなりますと,相対的評価の方の寄与分に関しての当事者はどういうことを御想定されているのですか。 ○堂薗幹事 当事者は基本的には二当事者です。 ○水野(有)委員 どうもありがとうございました。 ○大村部会長 ほかはいかがでございましょうか。 ○潮見委員 素朴なことですけれども,2当事者間での相対的なものと,従来の寄与分の判断を併合してできるんですか。 ○堂薗幹事 基本的には現行の寄与分が原則的なもので,そこで特別な寄与が認められれば,通常はこういう調整型のものは要らないんではないかと思います。ただ,現行の寄与分における特別の寄与もあり,なおかつ相続人間に非常に差がある場合に,現行の寄与分で認められたものに更にプラスして,特定の相続人との間だけ調整をするということがあり得るんだとすると,それは一緒にやって,なおかつ両方認められるという場合もあり得るのではないかということですが,いずれにしても両方,事件としてある以上は,両者の関係を含め,現行の寄与分を優先的に適用するのかどうかという辺りも決める必要があるのではないかと思いますので,いずれにしても併合は必要になってくるのではないかと考えているところです。 ○大村部会長 よろしいですか。ほかにはいかがでございましょうか。 ○石井幹事 今のところに若干関連するのかもしれませんけれども,現行の寄与分の審理では,通常の寄与とは質的に異なる寄与があることを認めた上で,それを金銭に換算すると幾らになるかといった形で判断しているんではないかと思うんですけれども,御提案の枠組みですと,個々の療養看護なりにかかっている支出のようなものを積み上げていって,相続人間で支出額にどれだけの差異があるかといったことを判断することが想定されているように思われます。そうしますと,御提案に係る新しい寄与分の審理では,現行の寄与分におけるのとはかなり質的に違う判断をすることになると思われまして,そうすると,なかなか現行の寄与分と御提案に係る新しい寄与分とを一緒に審理するというのは想像つかないなというところもございます。   また,個々の支出を積み上げて判断していくということですと,算定が難しいなという感じもいたしまして,そういった困難な算定を前提とした制度設計をするに当たり,公平性とか合理性が十分担保できるのかということについては,慎重に検討していただく必要があるのかなとも感じております。 ○堂薗幹事 今の点につきましては,第2で挙げている寄与分の算定,どういう形で寄与分を反映させるかという点については,必ずしもかかった費用ですとかそういったものを積み上げて計算するということを考えているわけではありませんで,どちらかというと,これは相続人間の調整的なものですから,寄与分の定め方としても,全相続財産の何%とかそういった割合的に算定する方になじむのではないかと。つまり,財産の増加に貢献した額が幾らあるから,幾らの寄与分を認めるというように金額で定めるというよりは,むしろ割合的に調整するような形で寄与分を定めるという方になじむのではないかと思っております。   そういった意味では,現行の寄与分についても貢献分の清算という考え方と相続人の調整という考え方,両方あり得るんだと思いますが,現行のものがどちらかというと,貢献に対する清算的な割合が強いんだとしますと,ここで挙げているものは調整型の側面が強いということになり,その結果,現行の寄与分は貢献に対する清算型のもので,こちらの方が調整型のものというようなすみ分けがされていくのではないかと思います。   そうだといたしますと,基本的には現行の寄与分によって貢献分に対する清算がされれば,それで基本的には足りていて,その後,更に相続人間で調整をしなければいけない場面というのは,実際にはそれほどないのではないかと考えているところでございます。 ○窪田委員 これを拝見していきながら,私自身が十分に正確に理解できているか,御提案の趣旨を理解できているかどうか,余り自信がありませんが,私自身は同順位の血族相続人間で相対的に判断して寄与分を認めるというのはあり得る方向だと思っておりました。寄与分制度自体について賛否両論あるというのは承知しておりますけれども,こうした方向はあるのかなという気はいたします。   ただ,それでもやはり気になりますのは,第2の②のところで提案されている内容でして,特にイの部分です。他の相続人の相続分は,現行の規律により算定した相続分から①の寄与分を控除した額になるとされています。つまりこれは従来の904条の2とは全く違う仕組みを採ることになるのではないかと思います。今までの寄与分ですと,これだけの貢献があるんだから,本来,遺産からはそこの部分は先に取れるはずだとして,遺産との関係を考えていたのに対して,ここでは相続人間の問題として考えるということになるのだろうと思います。   先ほど,A,B,Cという難しい例がありましたが,Aだけを認めた場合にはB,Cの部分は減るんだという形になるのだと思いますですが,これは単に調整というのではなくて,別途検討されるとなっていた扶養料の清算であるとか,むしろそうしたものとの形の上での相似性,あるいは類似性といったものが出てくるのではないかという気がします。   ですから,現行の寄与分がむしろ清算的な要素を含んでいて,これは調整型なのだといっても,ここにはある種大変に強く財産法的な発想というのが入ってきているのではないかなという気がいたします。   ここまでする必要があるのかなというのはちょっと気になる部分だということと,先ほど,メッセージとしても,これは必ず貢献しなければいけないのだと,兄弟は手を取り合っていかなければいけない。1人,ベルリンにいる,そんなこと知ったものかという話にもなりかねないのかもしれません。私自身は,遠くにいるから貢献しなくてもいいのだという理屈にはならないと思うのですが,しかし,それによって負の要素までを与えるというのは,やはりかなり強い意味を持っているのではないかなという気がいたします。この点については御検討いただけると有り難いなと思います。先ほど,水野先生,潮見先生からも出てきた第2の部分というのは,従来の904条の寄与分との関係で,どう考えるのかという問題にも関わってくるのかなと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 検討させていただきますが,今のお考えですと,我々が問題点にして挙げているA,B,Cで貢献の程度が違って,ただAとCとの間だけこの要件を満たすという場合に,現行と同じようにAの部分だけ取り分けて,その残りをほかの相続人で分けるという取扱いをすることの当否についてはどのように考えることになるのでしょうか。 ○窪田委員 結局,具体例のところでどういうふうに判断できるのかというのは分からないのですが,例えば今のケースでも,Aに2,Bに1という形での寄与分を認めるという計算方法もあるのだろうと思いますし,Aについてだけ寄与分を認めて,Bは中間ぐらいかもしれないけれども,やはり一定の数字には達しなかったよねという形で考慮しないというのはあると思いますし,相対的評価だというのが全部,きれいに順位を並べて,このラインまでいったらこうする,といったところまでがちがちには詰められないのではないかなという感じがします。私自身は相対的評価だといいつつも,かなりざっくりとしたものにならざるを得ないのではないかなという感じを持っていますので,先ほどのA,B,Cについてはそう考えるということではどうでしょうかということです。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 分かりました。 ○山本(克)委員 話を聞いていて,審判の当事者がよく分からなくなったんですが,Aが私は寄与分があるというときに,2当事者ということはCだけを相手にするとかBだけを相手にするということができるということを前提にお話しになったんでしょうか。それで本当に相対的評価は可能なんでしょうか。 ○堂薗幹事 といいますと,どういうことでしょうか。 ○山本(克)委員 つまり,Bとの関係で,Bの方が明らかにCより貢献しているのにBだけへこますということを許すということですよね。それでもいいという。そうすると,Bは今度,Cに対してやればいいというお考えですか。 ○堂薗幹事 いや,ここでの考え方はBはへこまさないというものです。 ○山本(克)委員 でもA,B,Cの間で明らかに差があるわけです。A,B,C,それぞれの間で。Aが1番,Bが2番,Cが3番であるときに,Bだけを相手に,私の寄与分はこれだけありますと言って認められたら,Bの分はへこむわけですよね。そしてCはへこまないということを許すんですかということを聞いているんです。 ○堂薗幹事 第2の(注)でも若干触れているんですが,A,B,Cがいて,AとB,AとCともに著しい差異がある場合は,仮にAがBだけを相手に寄与分の申立てをしてきた場合も,BとしてはCを当事者として引き込んで,Aに認められた寄与分の額をBとCとで按分するというようなことを考えておりますので,要するにここでいう寄与者は基本的に1人であることを前提にしているんですが,その相手方については複数の場合もあり得て,複数を相手にした場合は,当然,その間で調整をしますし,仮にそのうちの1人だけを選択して,審判の申立てがされた場合も,その義務者は他の,同じように同程度のことしかしていない人を引き込んで,責任を負担させることができると。 ○山本(克)委員 そういう引込みまで。現行審判,家事事件手続でもありましたか,そういう引込みが。 ○堂薗幹事 引込みによる当事者参加を考えております。 ○大村部会長 相対的に考えるというのは,Bは関係していないのでBは当事者にならなくて済むという,その限度でということですね。 ○堂薗幹事 ですから,AとBとの間で著しい差異がなければ入ってこない。そこがA,B,Cとあっても,AとBとの間も著しい差異があれば入ってくる。 ○山本(克)委員 しかし,著しい差異があるかどうかは審判の結果として,審理の結果,分かるので,あらかじめ想定されているというのがおかしいのではないですか。 AとB,AとC,それぞれについて著しい差異があるということが審理の結果,分かったら,Bだけを相手にするときにCを誰のイニシアティブで引き込むんですか。 ○堂薗幹事 まず,AがBともCとも著しい差異があると思えば,B,Cの両方を相手にすることになります。 ○山本(克)委員 いや,でもそれは必ずしなければいけないことにはならないはずなのではないですか。だからBだけを相手にしたときにという前提で。 ○堂薗幹事 だからBだけを相手にしたときは,Bが何もアクションをとらなければ,Bとの間だけで決められることになりますし,Bはそれでは不利益を受けると,ほかにも負担者がいるはずだということであればその者を引き込むということになります。 ○山本(克)委員 Bのイニシアティブで引き込むわけですね。 ○堂薗幹事 はい。 ○山本(克)委員 それでそのときに審判事項,申立事項の拘束力とかその辺りはクリアを完全にできるんですかね。 ○堂薗幹事 基本的にここは,仮に著しい差異があった人が複数いようと,Aの寄与分として認められた額は一定なのではないかという前提です。 ○山本(克)委員 そうなんですか。そうすると,Bとしては,裁判所はしかしBの言い分だけを聞いて,AがCにも勝っているというところまで決めなければいけないということですね。仮にBだけを相手にして申し立てた場合には,AがBだけを相手に申し立てた場合は,Bに勝っているだけではなくて,AはCとの間でも勝っているということまで判断しないと,Aの請求というか,申立てを認めることはできないということですよね。 ○堂薗幹事 いえ,そこはそうは考えておりません。そこはA,B間で著しい…… ○山本(克)委員 そこはA,B間なんですか。Cが入らない限りはCのことは無視すると。 ○堂薗幹事 はい,そういうことです。 ○山本(克)委員 Bがそこでミスるとひどく気の毒という気がしますし,では,Cは自分の方がAより勝っていると思っているときはどうなるんでしょうか。 ○堂薗幹事 その場合はCが誰を相手方にするかによりますが,CがBに対してやれば。 ○山本(克)委員 申し立てて,それで両方確定したら別個に。それを必要的併合で処理すると。 ○堂薗幹事 はい。 ○山本(克)委員 それが,必要的併合が必ずうまく機能するんでしょうか。そこ自体が非常に問題のような気がしますが。 ○大村部会長 実体的な価値判断の問題と,それをどのように手続に乗せていくかという問題と二つあろうかと思いますけれども,事務当局のお考えは,今の例でいうと,A,B,Cと3段階あるとすると,AとCの間に貢献の度合いの差があるというときに,その影響がBに及ぶのは望ましくないのではないかという,その実質判断が前提になっているかと思いますけれども,そんなことはないのだということであれば,相対的に決める必要はないということになろうかと思いますけれども。 ○山本(克)委員 何度も発言して恐縮です。それはBが影響を及ぼしていいかどうか,審理の結果,分かることなので,あらかじめばっと網をかけて,同順位の全員を相手にしなければいけないとしておいた方がかえってシンプルであるという可能性もあるんではないのかな。私もまた考えてみますけれども。 ○大村部会長 今の御発言は,実態的な判断が仮に事務当局のような価値判断に立つとしても,手続的には全員を入れておいた方が柔軟に判断できるのではないかと,こういうことですね。 ○山本(克)委員 はい。 ○大村部会長 ほかにこれにつきまして,何かございましたら。 ○藤野委員 今のお話を確認させていただきたいんですが,まずは配偶者がいた場合は2分の1は置いておくということですよね,先ほどの堂薗さんの御回答だと配偶者の取り分は変わらないということなので。配偶者の分は置いておくと。残りの2分の1に対して兄弟が仮に3人いたら,3人のうちの割合を普通にやった人は置いておいて,著しく差異のある2人の間で決めるということですよね。   そのやり方のほかに,今の御意見のように残りの2分の1を10にしたときに,例えば5対3対2に分けるようなやり方もあるわけですよね。この中での割合として。そういうことは考えていないんですね。 ○堂薗幹事 そこはもちろんそういう考え方もあり得ると思うんですが,そうすると基本的には療養看護の点に違いがあれば,そこは寄与分としてそういった割合を決めて調整するということになってしまいますが,当然,子が何人かいる場合に療養看護の貢献の程度が同じということはあり得ませんから,そのような形で細かくやっていくと,非常に多くの事件で寄与分の申立てがされることになって紛争が複雑化することになります。それを避けるために,ここでは要件としては著しい差異がある場合だけ調整をすることにしていますので,その結果,先ほどのような形になるのではないかというのがこちらの考え方です。 ○藤野委員 もう一つなんですけれども,仮に子供さんの療養介護というか,貢献度が配偶者より著しく多くても,最初に配偶者の2分の1を取ることは変わらないということでよろしいんですね。 ○堂薗幹事 そこはそうなります。 ○藤野委員 分かりました。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○藤野委員 私としては,子供が何人いようと子供の中で割合を決めた方がいいように思いました。 ○窪田委員 今の点,確認させてください。904条の2の第1項に加えて次のような規定を作るということであって,ある特定の子供の貢献が極めて大きくて,財産上も評価できる場合には当然,配偶者の具体的相続分に影響を与えるということで,その点については変わりがないということはよろしいですね。 ○堂薗幹事 はい。 ○大村部会長 従前の寄与分でカバーされないものについて,ここで新たな寄与分を考える。それについては同一カテゴリーのものの間での比較を行うにとどめる。配偶者は1人なので同一カテゴリーということはないので,血族相続人の間で相対的な寄与について,一定のレベルに達した者については考慮する。一定のレベルに達した人が1人いるが,あとの人たちの間に差があるときに,その差がないかのように扱ってよいのか,それともその差は比較対象を固定するという形で考慮に入れられるのか。こうした点が,今の分かれ目になっているかと思いますが。   ほかにいかがでございましょうか。 ○浅田委員 第三者の立場からコメントを申し上げますけれども,このように案が加わりますと,考慮要素が増えるということでありますので,実質的な公平性が保たれる一方で,いわゆるいろいろ調整のプロセスの時間,コストが掛かるという面はあろうかと思います。ただ,銀行実務という観点だけ見ますと,寄与分に関しましては従前から分割協議の中での議論をもって判断するという話ですから,考慮要素として新たに特殊なものが増えるというわけではないという観点からは,直接的な影響があるかといえば,中立的なものとも評価できそうな気がいたします。   ただ,繰り返しになりますけれども,先ほどの議論を伺って感じたところでもありますけれども,見直しによって相続人間の紛争が増加,長期化するということになるのであれば,第三者が巻き込まれるということも増えると思います。制度設計というのは分かりやすく,また明確に解決できるようにきちんと検討していただきたいと思います。   その点で確認のための質問でありますけれども,取引関係の明確化という観点からは,銀行としては預金に適用される規律がどうなるのかということに関心を抱かざるを得ないと思います。この点は,部会資料5の「可分債権の遺産分割における取扱いについて」の論点の中で甲案,乙案が提示されて議論がされたところです。   その論点がまた審議されるときに議論されることだろうと思いますが,仮にこの寄与分の提案が導入された場合において,例えば部会資料5の甲案,つまり相続開始とともに預金債権は分割承継されるとした上で,債務者との関係は基本的に対抗要件で律するということを併せて考えた場合には,この寄与分引上げの規律が入ったとしても,最終的には債務者に対する通知の対抗要件の有無に従って債務者は行動すればいいということになりますので,この規律の導入によって新たに債務者としての考慮要素が増えると,性質的に増えるというものではないということをここで確認させていただければと思います。 ○大村部会長 どうもありがとうございました。   そのほか,この第2の論点についていかがでございましょうか。事務当局,よろしいですか。 ○堂薗幹事 今の点は御指摘のとおりではないかと思います。 ○大村部会長 それでは,もう一つ,論点がございますので……。 ○増田委員 以前にも申し上げましたけれども,何で療養看護とが相続財産の分け前につながるのかという点に根本的な疑問があって,療養看護の対価は労働の時間とかその質によって評価されるべきであって,相続財産が多いとか少ないとか,ほかの相続人に比べてやったとかやらなかったとか,そんなことで評価が決まるということには,やはり根本的に疑問がありまして,何らかの形で生きている間に報酬請求権を付与した方がスマートだろうと思うんですね。   だから,例えば財産法レベルでは事務管理とかいった形で,事務管理の中で報酬請求権を決めるとかいう形も採れるだろうし,くしくも資料には「療養看護又は扶養」と記載されているように,財産のない者については扶養の制度があるわけですけれども,身体能力がない者については何も今,ないわけですよ。親族間扶助の一環としてこれをパラレルに考えることは可能だから,介護に関する何らかの求償規定を親族法の中に新設するということもできないことはないと思うんですね。   また,財産管理能力の欠如の場合には後見だとか保佐だとか補助だとか,管理能力によってこれを補完する制度があって,いずれも報酬請求ができるわけですから,身体能力が欠如している者についても同じような制度というのは考えられないわけではないんではないかと思うんですね。   わざわざ何で,先ほど言ったように無償のものが死んだ途端に対価が発生するとか,あるいはほかの寄与分,すなわち家業に従事したとか仕送りをしたとか,そういうものとは別途,性質の異なるものを同じ紛争の中に巻き込んでやらなければいけないのかというのが今一つ,分からないところがあります。だから,どうしても寄与の枠組みということでいくんだったら,今,療養看護について一番ネックになっているのは「特別の」という要件なので,そこだけを外したら,何とかなるのではないかなという気もしています。   何かこの狙い撃ちとかいうのは,兄弟げんかを促進する法律のようにしか思えないですよね。生きているうちは別にそれでもさほど争いもなく,仲良くやっていたのが突然,自分が介護をやったから,やっていないあんたを狙ってというようなことをやった場合には,どうも人格的非難とかそういうものも出たりして,要らぬ紛争が激化するような気がしますし,先ほど,山本克己委員も言われたけれども,寄与分の紛争というのはなかなか結果が読めないというか,予測可能性が低いものですから,何を主張,立証するかというのもよく分からないところもあるし,間に挟まれた人もどういう主張,立証してもいいのか立証課題も分からないというような問題もありますし,それで紛争が長期化するということは十分考えられますので,余り私としては積極的に賛成はできないと思っています。 ○大村部会長 第1点は寄与分という制度を広げること自体に対する根本的な御議論と承りましたけれども,仮に作るとしても,相対的に考えるというのは紛争を増やすことになるのではないかというのが2番目の御意見だと承りました。何か。 ○堂薗幹事 2点目について御指摘のような問題点があるというのはこちらも認識しておりまして,むしろ前回は効果について余り十分な検討ができていなかったんですが,仮にこういう形で相対的に評価するということにしますと,どうしても御指摘のような問題が出てくるのではないかと思います。   身体的能力の欠如があった場合に,介護した人について,例えば事務管理とかそういった他の権利の行使を認めればいいではないかという点については,こちらも第3の最初のところで検討したわけですが,基本的には介護の必要性はあるけれども,資力も十分あるというような場合に,少なくとも他の親族に求償請求をすることはできないのではないかと思います。   そうしますと,あり得るのは本人に対して請求するということなんだろうと思いますが,基本的に介護しているような場合というのは,介護している方も介護されている方も当然分かってやっているわけですので,通常の場合は,少なくとも生きている間にその分について報酬を請求したり,あるいは費用を請求すると,費用は分かりませんが,少なくとも報酬を請求するとという意思はないと思います。介護される側も,少なくとも生きている間は当然,無償でやってもらうという前提なのではないかと思いますので,そういった共通の認識がある場合に果たして事務管理のような形で当然に請求権を認めるということができるのだろうかと。   仮に理論的にあり得るとしても,そういった形で,これまで無償でやってきたところを,本人が生きている間も,その労務の提供について,本人に対して報酬請求をすることができるというような制度を作ることが受け入れられるんだろうかというような疑問がありまして,そういった意味では生前はできないけれども,被相続人が亡くなって,一定の財産がある場合に,その財産に対して権利行使を認めるというのはあり得るのではないかということで,第3の制度を考えたところでございます。 ○増田委員 一言だけ。死んでから紛争が生じるということを本当にみんな望んでいるんでしょうかという話なんですよ。生きているうちにきちんとお金を払ってから片を付けるんだったら,その方がいいのではないでしょうか。そういうことを考えると,契約するという方向をむしろ促進するようなメッセージを送るべきだろうと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございました。 ○潮見委員 精神論は別として,堂薗幹事が先ほどおっしゃった意味がよく分からなかったんです。生前に合意があって,報酬請求権がその合意から出てくるのではないのですか。生前は請求できないけれども,当該合意なるものから報酬請求権というものが発生すると言って,どこが悪いのでしょうか。   それからもう一つは,事務管理でどうして構成できないのかというのが分からなかったんで。もちろん事務管理でいった場合に,有益費用の償還請求止まりです。報酬というのは難しいですよねということはまた別の議論としてはあるのかもしれませんけれども,今おっしゃられた趣旨が正直言って,まだ頭の中で整理できませんでした。   今,おっしゃられた例の場合には,身体の能力が欠如しているというか,不足しているから,それでやっている,やられている方も分かっているという場合については,そこに何らかの身体の介護等に関することを内容とする合意というものが成立している,つまり契約がそこで成立しているとお考えなのか否かです。   それから,その契約に基づいて,今,申し上げたような対価請求権というものは出てこないとお考えなのか否かです。   それから,そのような合意というものが私はそれほど簡単に認められるとは思いませんけれども,もし認められなかったような場合に事務管理という枠組みで構成をすることによって,少なくとも有益費用の償還請求まではいけるのではないか。その相続ということは考えられるのではないか。以上の3点についてお話をお聞かせいただけないでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的には介護ですから,事実行為について,介護される側は要請をし,それに応じて,黙示的かもしれませんけれども,実際に介護をしているわけですので,そこには一種の準委任契約的なものがあるのではないかと。少なくとも一般的に事務管理で想定されているのはそういった要請などがないにもかかわらず,第三者が労務の提供をしたというような場合に費用請求できるかどうかというところですので,特に家族間で介護をしているような場合に,本当に報酬についてまで支払うという前提で介護を依頼しているのかという点については,こちらとしては極めて疑問に思っているところです。   更に言いますと…… ○潮見委員 ということは,無償の準委任契約というものがそこで成立するとお考えになっておられるということですか。 ○堂薗幹事 委任ですからもともと原則無償なんだと思いますが,特に親族間でやっているような場合は,当事者間の合理的意思としてもそういう前提でやっているものが多いのではないかと思います。ここで問題となっている事案の多くは,少なくとも生きている間は労務の提供について支払請求をするということは考えていないけれども,相続になった場合にはやはり取り分は主張したいというものではないかと思います。しかし,相続人ではないために,それは第3の方ですけれども,請求できないというところがやはり問題で,更に言いますと,先ほど,御指摘がありましたように,少なくとも介護の場合は基本的には労務を提供しているわけですが,それに対して報酬請求ができないという点で,現行の事務管理には限界があるのではないかということです。 ○大村部会長 増田委員あるいは潮見委員から御指摘をいただいた問題はあるのだろうと思います。寄与分を認める前の問題として,生前の当事者の関係をどのように理解するのかということがまず前提問題になるだろう。寄与分という制度を設けるとすると,生前の関係が寄与分によってどのように受け止められることになるのか。そこについて整理する必要があるのではないかという御指摘を頂いているのだろうと思います。   今,お答えの中で堂薗さんの方から第3の項目の話が挙がっております。第3の「相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」というこの項目の中で,類似の問題が現れてくると思います。両委員,大変恐縮なんですけれども,そこで多分,同じ議論を繰り返すことになると思いますので,こちらについて事務当局の方から御説明を頂いた上で,この論点に舞台を変えて,更に議論を続けたいと思いますが,増田委員,潮見委員,よろしいでしょうか。   では,そのようにさせていただきます。では,第3について事務当局の方から。 ○合田関係官 それでは「第3 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について御説明いたします。資料の13ページを御覧ください。   第3回部会では,相続人以外の者の貢献を考慮するための新たな制度を設けるかどうかを検討するに当たっては,まずその前提として,現行法上,親族に対して扶養又は療養看護をした者がどのような法的手段を採ることが可能なのかを整理する必要があるとの御指摘がありました。   この問題は元々,一定の親族が被相続人の療養看護等をしたにもかかわらず,その者が相続人でないために遺産の分配を受けることができないことによる不公平を解消しようとするものですが,このような問題の多くは通常,被相続人が要扶養状態にはないが,要介護状態にある場合に生ずるものと考えられ,扶養制度の見直しだけでは問題の多くが解決されないまま残ることになるものと考えられます。   他方で,療養看護等の事実行為をしたものが相続人である場合には,被相続人の死亡後に寄与分の申立てをすることが可能ですが,療養看護等の事実行為をした者が相続人ではない場合には,これに相当する手段はありません。そのため,相続人でない親族が被相続人に対して療養看護等の事実行為を行った場合を対象として,相続財産について権利行使を求める新たな制度を設ける必要性があると考えられます。   部会資料に記載しました二つの考え方のうち,本案は被相続人の直系血族,若しくはその配偶者又は兄弟姉妹で相続人でない者が,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合に,相続人に対して金銭の支払いを請求する権利を認めるというものです。   部会資料3では,相続人以外の第三者が療養看護又は扶養による貢献をした場合を対象として,新たな制度を設けることを検討しておりましたが,第3回部会では療養看護と扶養の場合のみならず,事業に関する労務の提供等で貢献した場合も想定した規律を検討すべきであるとの指摘がされました。   そこで,本案では現行の寄与分制度と同様に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により,被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与があったことを要件として,相続人に対する権利行使を認めることとしております。   権利行使の主体について,本案は相続人と近い身分関係の者が相続財産の形成に貢献し,又は被相続人の療養看護に尽くす事案を対象として,現行の相続制度が形式的に相続人を定めていることに伴う不都合を修正する制度としての意義を有するものです。ですので,権利行使の主体について基本的には相続人に準ずる法的地位にあるもの,すなわち現行の相続人と近い身分関係の者に限定することが相当であると考えられます。   他方,本案は寄与の類型を現行の寄与分と同様としており,特に被相続人の事業に関する貢献は被相続人の兄弟姉妹にも認められる場合が相当程度あるものと考えられます。そこで本案では,権利行使の主体を被相続人の直系血族若しくはその配偶者又は兄弟姉妹であって相続人でない者としております。   権利行使の相手方について,本案では遺産分割手続との併合を強制することによる不都合を回避する観点から,これとは別個,独立の手続において権利行使を認めることとしており,必ずしも相続人全員を相手方とする必要はないため,各相続人に対する個別の権利行使を認めることとしております。   権利行使の手続について,本案ではこの手続における紛争を遺産分割に関する紛争とは分離して解決することを前提としております。もっともこの手続の相手方は遺産分割事件の当事者に含まれますので,家庭裁判所の裁量的判断により,遺産分割事件と併合することは当然に可能であり,これによって遺産分割事件との一回的な解決を図ることもできると考えられます。   また,相続人にとっても相続人以外の親族からの請求があるかどうかによって遺産分割協議の内容も変わってくると考えられますので,紛争の長期化を回避するためには本案による権利行使が可能な期間を限定する必要性があると考えられます。   この期間をどの程度とすべきかについては様々な考え方があり得ますが,被相続人の財産の維持,形成に特別の寄与をした者であれば,比較的,容易に被相続人の死亡を知ることができる場合が多いと考えられることなどからすれば,権利行使の機会の保障としては比較的短い期間でも足りると考えられます。   そこで本案では,請求権を行使することができる期間を相続開始を知ったときから6か月あるいは1年以内としております。各相続人に対する請求金額について,現行の寄与分は被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができないこととされており,遺贈された財産について寄与分を認めることはできないこととされております。   本案は相続人以外の者についても現行の寄与分と同様の要件の下で権利行使を求めるものですので,少なくとも寄与分が認められる相続人よりも有利な地位を認めるのは相当ではありませんが,相続人以外の者は相続債務は一切承継しないことになるため,権利行使の範囲を検討するに当たっては,この点を十分に考慮する必要があることになります。   すなわち,本案においても現行の寄与分と同様の制限しか設けないこととすると,例えば相続財産が債務超過である場合には,相続人は寄与分が認められる場合でも相続債務を弁済した場合には,自分の手元に財産が残らない事態が生ずるのに対し,相続人以外の者については相続債務を承継しない結果,寄与分に相当する額が手元に残ることになり,結果的に相続人よりも有利な地位に置かれることになって,相当ではないと考えられます。   このため,本案による場合には相続人以外の者の寄与分は,相続開始時における純資産額,これは積極財産から相続債務を控除した残額となりますが,この範囲で定めることとするか,相続人の遺留分を侵害しない範囲で定めることとするなどの方策を講ずる必要があるものと考えられます。   次に別案について御説明いたします。別案は現行法の下では,相続人以外の第三者が要介護状態にある被相続人に対して療養看護等の事実行為をした場合に採り得る法的手段がないこと等を踏まえ,直系血族又はその配偶者がこれらの行為をしたことを要件として,相続人に対する権利行使を認めるという考え方です。   別案においては,寄与の対象となる行為を療養看護等に限っていることから,請求権の範囲についても一般に療養看護等の事実行為を無償で行うことが多く,有償契約の締結等の手段を用いることが困難な者に限定する必要があるものと考えられます。そこで別案では,直系血族又はその配偶者に限って,権利行使を認めることとしております。   その他の点については,基本的には本案で検討したことがそのまま当てはまるものと考えられます。本日は本案,別案,それぞれの考え方について御意見を頂戴できればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の御説明の中で本案,別案という言葉を使われておりましたけれども,16ページの考えられる方策というところで①から④まで挙げられているものが先ほどの本案というもので,その下に別案と書かれているものがおっしゃった別案になるということかと思います。先ほど,途中で議論を打ち切って,大変恐縮でしたけれども,先ほどの議論というか,ここでの第2,第3の議論というのは,相続人に特別な寄与があれば現行法の下で寄与分というのが認められることが前提になっている。   相続人の寄与であるけれども,特別でないというものについてどうするかというのが先ほどの議論だったと位置付けられるかと思いますが,今の第3の論点というのは,非相続人の寄与で,それは特別なものだと言えるかもしれないけれども,相続人の寄与でないものをどのように扱うのかということで御議論を頂くということかと思います。   増田委員や潮見委員から御発言がありましたけれども,従来,認められているような寄与分というようなものに乗せる以前に考えるべき事柄というのがあるのではないかという御指摘を,先ほど頂いていたところだと了解しております。   ということで,もしよろしければ,続けてどうぞ。 ○潮見委員 意見として聞いておいていただければと思います。恐らく増田委員の基本にしている発想と同じだと思うですが,二つ申し上げます。   一つは,被相続人が生きている間は何も財産的な請求権を有しないと。それが相続開始と同時にといいますか,それ以降は相続財産から自らが行った行為に対する対価,あるいは対価以上のものを取ることができるようになるということを,どのように正当化することができるのかということがよく分からない。   それからもう一つは,先ほどの堂薗幹事の答えの中にもあり,若干,私も少し言ったかもしれませんけれども,仮にここで,今おっしゃった意味での準委任契約というものが成立している場合に,しかもそれが生前には何も請求できず,亡くなったら何らかの形で相続財産あるいは相続財産を超えて,引き出すことができるというようなことになるという,そのような契約というものを果たして無償契約と言ってよいものでしょうか。   それが仮に無償とは言い切れないようなものであるならば,生前の場合に返って考えた場合に,これは2点目の続きになりますけれども,それを単に財産的な請求権がないというような形で説明してよいものでしょうか。むしろ,そこまで考えていったら,これは相続という枠組みは超えてしまいますけれども,本来考えるべきなのは介護だとか,あるいはそれに類するような事柄に関する報酬請求権の制度,対価を与える制度をどのように組み込んでいくのかというところがむしろ本来の姿ではないのかと感じた次第です。   それから先ほど,準委任契約というのはそれほど簡単に認められるんですかということを申し上げましたが,準委任が認められない場合に,先ほども言いましたが,事務管理という枠もあるわけですよね。黙示的な合意というものが認められないということであれば,やはり事務管理という枠組みは残るはずなんですよね。   これは繰り返しになりますけれども,事務管理の制度ですと有益費用は取れます。それに加えて,報酬請求権まで認めるべきなのかどうか,そしてまた,介護が問題となるような事務管理については報酬的なものまで踏み込んでいいのかという辺りを少し詰めて考えていただかないといけないのではないでしょうか。意見としてお聞きいただければということです。 ○窪田委員 増田委員の先ほどのお話の続きでもいいのかもしれませんが,増田委員,それから潮見委員の御発言も踏まえた上で確認をさせていただきたいのですが,第3の部分,つまり第2の部分では寄与分という枠組みの中で扱っていたものですから,まさしく相続という仕組みの中で今のことを扱うことになっています。それに対して,第3では基本的には生前にいろいろな形で貢献をしたという人が相続人に対して金銭の支払いを求めることができる。こここでイメージとして想定されているのは,場合によってはまさしく事務管理に基づく有益費用償還請求権を具体的な局面に特別法として引き直したという説明も可能なのかなと思って聞いておりました。ですから,その意味ではお二人からの問題提起というのは,第3は第3で,また第2の部分とは違う答え方があるのかなと思いました。   ただ,私の理解の前提が正しいのかどうかも分からないのですが,仮にそういう理解をしますと,なぜ請求権者が被相続人の直系血族若しくはその配偶者又は兄弟姉妹であって相続人でない者に限定されるのかよく分かりません。これは相続人でない者で構わないのではないのかなと。むしろ正しく相続人でないけれども,きちんとそういうふうな形で特別なことをやったことに対して,相続人はやはりきちんと清算をしなければいけないよと。清算というのは財産法的な意味ではないかもしれませんが,そういうニュアンスだとすると,ここで絞る理由というのが,ちょっとあとの方に書かれている理由を見ていてもよく分からなかったので,少し御説明を頂けたらなと思いました。 ○堂薗幹事 今の点のお答えと潮見先生の御疑問に対する回答が若干かぶるところがあるんですが,こちらで考えているのは,要するに生前,無償でやっている,それが仮に準委任契約だとして,準委任契約の効果として,死亡した後に相続財産に対して何らかの権利が発生するということを考えているわけではありません。   ですので,ここでは飽くまでも,本来的には相続,要するに被相続人の財産をどう分配するのが適切なのかという観点から考えた場合に,相続の根拠にはいろいろあるとは思いますが,被相続人の意思ですとか,あるいは財産形成に対する貢献あるいは相続に伴う財産関係の清算として,どういったものが法秩序として望ましいのか。そういったいろいろな観点から考えた場合に,相続人に近い親族がこういった療養看護などについて相当の貢献をしている場合には,相続の実質的な根拠から考えても,相続人以外の者に対して相続財産の分け前を与えることについては説明が付くのではないかと。   そうであるにもかかわらず,現行法において,その人に対して分け前が与えられていないのは,それは形式的に身分関係だけで相続人を画しているからであって,そこの相続人の画し方というのは別に現行法の規律に限られるわけではありませんから,,その点について,相続人を形式的に決めていることに伴う不都合を一定程度解消するものとして,この第3の制度を考えたというところでございます。   したがいまして,本来は遺産分割の中でこれも請求できるとした方が素直なんだと思いますけれども,そういうことにしますと,遺産分割の手続が非常に複雑化するということで,それは手続的な観点からあえて分けることにしたというにすぎないわけでございます。ですから,ここで考えているのは,飽くまでも本来は相続財産をどう分配するかという観点で考えているわけですので,契約構成を考えているわけでもありませんし,事務管理の特則という形で考えているわけでもありません。 ○潮見委員 今の考慮は分かりますけれども,それだったらどうして生前の請求権に反映しないのかが私は分からない。 ○大村部会長 生前ですか。 ○潮見委員 生前です。生前に同じような行為をやっているわけです。そのやった行為をした人に対して一定の利益を分配しようというわけです。分配の理念というものは,恐らく今,相続というところでおっしゃられた事柄と同じような考慮がそこでも働くはずだと思います。そのような考慮が働かないというんだったら,なぜかということは示していただかなければいけないと思います。であるならば,少なくともこの問題を生前の問題から切り離して,相続独自の世界で財の分配という形で処理することに対しては,納得はできないということです。 ○窪田委員 私の質問は,単純です。今のお話を伺って,堂薗さんが相続法の枠組みの中で解決しようとしてこの問題を捉えられているということは分かるのですが,16ページの考えられる方策を見ている限り,別に相続法の規律ではないのではないかということです。   つまり,被相続人が受けた利益に関して,相続人に対して一定の金銭を求めることができるということだけだとすれば,別に相続人の範囲をもう少し広げましょうとか,そういうレベルで議論しなくてもいいのではないかということです。   実質的にもこうした立て方は,例えば息子の嫁であるとか従来からも言われてきた相続人ではない者の寄与という問題に対して,あえて道を塞ぐわけですが,それほど頑張って,こういうふうに直系血族であるとか兄弟姉妹に絞らなければいけないという理由がやはり私にはよく見えないという。これは意見ということになってしまうかもしれませんが,確認だけさせていただけたらと思います。 ○大村部会長 増田委員もずっとお待たせしていますので,増田委員に御発言いただいて,それで堂薗さんにまとめてお答えいただきます。 ○増田委員 お2人のご意見に付け加えることは特にないのですが,やはり第3の方が第2よりもっと先鋭化していると思うんですよね。金銭的な請求権ですから,被相続人になかったものが何で相続人に発生するのかというのが分からない。要するに被相続人からある義務を承継したということだったら説明が付くんですが,自分は何も利益を受けていないのに,そこで義務が発生するというのが分からんわけですよね。   第三者というか,相続人以外の人たちがやっている権利よりも相続人の相続分の確保の方が今の話だと優先するという感じですよね。プライオリティーからいっても,相続人の方が優先するというのは,遺留分を侵害しないとかそういう話になっているわけだから,それもどうかと思います。   それからもう一つは,請求権者の範囲なんですけれども,相続人不存在の場合は特別縁故者に対する財産分与になって,誰でもいいわけですね。療養看護しましたという人は特別縁故者の範囲に入っています。この場合は誰でもいいのに,たまたま相続人がいることによって一部の人に限られるというのも,これもよく私には分からないところがあります。   根本的にやはり分からないのは,同じことをやって,同じように一生懸命介護しながら,相続人と相続人の周りの一定範囲の人と全くの第三者とどうして違うんだろうかというのは一番分からないところです。 ○窪田委員 すみません,発言の訂正をさせてください。先ほどの発言で触れた息子の嫁は,考えられる方策の中でその配偶者ということで入っておりますので,その部分については発言を撤回させていただきます。ただ,その点を除くと,質問の趣旨は同じです。 ○沖野委員 増田委員と潮見委員に教えていただきたいことがありまして,生前か死亡後かで大きく法律関係が変わることを十分に正当化できないのではないか。逆に言うと,相続だけの問題ではないではないかということの意味は,生前からも具体的な請求権として立っているのであって,請求できると。したがって,例えば療養看護している者の債権者が差し押さえることもできる。そういうような権利として既に確立しているという御理解なのでしょうか。それともその段階では抽象的なというか,潜在的なものにとどまっていて,具体的に請求できるのは死亡してからとかいうようなことをお考えなのか,生前,完全に普通の債権として立っているという御主張なのかどうかというのを教えていただけたらと思います。 ○潮見委員 違っていることを考えているかもしれません。私は前者で考えています。 ○沖野委員 普通の債権として立っているということですね。 ○潮見委員 はい。どう組み立てるのかということを考えた場合には,そういうふうに考えて。 ○大村部会長 潮見委員がおっしゃっているのは,生前から債権が立っているのならば,その債権を行使すればいいし,立っていないのならば何もできないでしょうと。どうして性質が変わってしまうのですかという,そういう御趣旨ですよね。   沖野委員がおっしゃっているのは,それとは違う理解の仕方がありませんかということを含んでいますか。 ○沖野委員 そういうことを含んでのお考えだったのかなと考えておりました。つまり,性格としては法的な性質は事務管理等の性格を持っているのだけれども,端的に請求できないか,あるいは生前はむしろ請求しないというのが当事者の意思だというような説明ではないかと。そうしたときに,それを普通の債権だとか,あるいは相続債権者として扱ってよいのかという正にもやもやとしたものをここで受けようとしているという考え方もあるのではないかと思っております。   場面は違いますが,夫婦の実質的な財産の清算の話では,寄与があるけれども,そこは債権としては端的には立っていなかったり,所有権としては認められていなかったり,しかし,ある段階で具体化して清算しようというような話がありますので,それと似たような構造をここに見ているというのが事務局提案だと考えております。事務管理という場合に,性格的にはそういった性格を持っているという説明もありうると思われたものですから,うかがいました。 ○潮見委員 ちょっとだけ言いますと,債権は具体化しているかどうかということであれば,具体化していると思います。そのときに今,沖野委員がおっしゃった最後の部分ですけれども,恐らくそこに生前は請求しないという特約が付いていると考えれば,事務局提案で言っているようなことを言わなくても足りるんではないのかとの感じはしています。 ○山本(克)委員 今の沖野委員と潮見委員のやり取りを聞いていてよく分からなくなったんですが,相続人が限定承認をした場合に,相続財産の限度で支払えというのが相続債務の場合にはあり得るんだけれども,この金銭債権に係る義務,債務との関係ではそういうことは生じないということなんでしょうか。つまり限定承認の場合の扱いを教えていただきたいと思います。 ○堂薗幹事 こちらは債権としては成立していないという前提ですので,限定承認のような場合には請求できないことになり,相続債権者に劣後することになると思います。 ○潮見委員 それは違うでしょう。 ○山本(克)委員 それはおかしいんではないでしょうか。なぜ相続債務,劣後するという話は。それよりもむしろ固有債務になるのではないか。相続人の固有債務であるような説明をされたような気がするんですが。 ○堂薗幹事 この制度は,プラスの財産がある場合に分け前として与えるような性質のものと考えています。 ○山本(克)委員 その問題と額をいかにして決定するかという問題と,それが限定承認の対象となる債務になるかというのはまた別問題だと説明しないと多分,崩壊するんではないでしょうか。   つまり潮見委員がおっしゃっているのは,立場で金銭が具体化していないけれども,生前から存在するという立場もあり得るわけですよね,潮見委員がおっしゃるのと堂薗さんがおっしゃるものの中間として。それを具体的な額を形成する裁判として家事審判が入りますと。でも,相続債務としての性質を失わないと,そういうふうにおっしゃれば,限定承認の場合に相続債務の限度で支払えという主文になるはずなんですよね。   ところが,堂薗さんの御意見は,それは全く生前にはなかったものをこの審判によって生み出すんだとおっしゃっている以上は,固有債務なので額の決め方についてはおっしゃるとおり,純資産額で限定を加えるかもしれないけれども,やはり固有債務なのではないかなという気がする。でないと,限定承認で対象になるのは飽くまでも相続された債務ではないですか。相続された債務でないとおっしゃっていて,相続された債務ですと今,おっしゃるのはやはり矛盾しているような気がしますけれども。 ○堂薗幹事 十分に理解できていないのかもしれませんが,飽くまで第3の請求権者には,この要件の下に基本的に相続人と同様の地位を与えます。その場合の相続分としては,その者の貢献の程度を考慮して裁判所で決めますというだけですので,具体的に何らかの債権を持っていて,それを行使するという前提ではないということです。 ○山本(克)委員 しかし,審判が出れば,債務名義化されるわけですよね。 ○堂薗幹事 ですから,そこは基本的にはプラスの財産がないような場合は認められないという前提です。 ○山本(克)委員 限定承認をするかどうかというのは,プラスがあるかないかではなくて,仮にマイナスだったときに備えて限定承認するわけで,債務超過であるということは前提としていないはずですよね,限定承認には。だから資産超過であって限定承認した場合に,相続財産の限度でという留保を付けた審判をすべきかどうかということを伺っているわけです。 ○山本(和)委員 それは債権と,一応,被相続人の資産と債務が確定するということを前提として,プラスのところの範囲内でどれぐらいかということを裁判所が審判で決めるということなので,相続財産の範囲でということは要らないという前提を採られている。そこは決まっているという。 ○山本(克)委員 相続財産の範囲でというのを,つまり差押え可能財産の範囲を限定する効力があるかどうかというところと関連するので,差押え可能財産が保有財産まで,当然にその場合でもいけるんだという立場を採れば別ですが,そこが問題。 ○山本(和)委員 それはいけるという前提なんではないでしょうか。金額のところであれするという前提を採られているんだと。 ○山本(克)委員 それでもう1点,それとの関連で。資産超過だと思って審判を出して確定してしまいましたと。後に債務超過であるということが何らかのことによって,資産が毀損するとかあって,相続財産破産になってしまいましたというときに,届出はできるんでしょうか。 ○堂薗幹事 相続財産破産だとできないということになるのではないでしょうか。 ○山本(和)委員 それは恐らく審判が実態的に見て誤っていたということなので,だから取消しができるんであればあれですけれども,再審事由がなければ。 ○山本(克)委員 ただ,債務超過の発生というのは必ずしも相続時に,開始時に資産超過であっても,立派な豪邸があったのに焼けてしまったということで,それで保険が掛かっていなかったというようなことで減ることもあり得ますよね。 ○堂薗幹事 そもそも今の場合は相続債権ではないという理解です。 ○山本(克)委員 ですから,今のは和彦委員に対する反論ですが,実態的に間違っていなくても,基準時の取り方次第では債務超過になるということがあり得るんではないかという前提でお尋ねしたという。 ○山本(和)委員 それは相続開始のときに相続共有が発生しているので,だからそれはそれで仕方がないという理解ですかね。 ○堂薗幹事 先ほど言ったのは破産債権ではないという。相続開始前の原因に基づいて生じたものではないので,そもそも相続財産破産で債権者たる地位は与えられないのではないかという趣旨です。 ○山本(克)委員 すみません,しつこく言って。結局,そうすると理念的には限定承認の対象になる債務ではないということとパラレルでないとおかしいはずなので,そこは。それだけを確認したかっただけです。 ○堂薗幹事 1点,御質問させていただいてよろしいですか。潮見先生のお考えによる場合に,例えばボランティアなどで労務の提供をした場合に,それは事務管理として請求できることにならないですか。 ○潮見委員 有益費用はできるでしょう。事務管理だと主張するんであれば。 ○堂薗幹事 そうすると,費用だけであれば事務管理ということになると思いますが,ここで問題となっているのは介護をした場合の対価ということになりますので,逆に言うと,何で療養看護をしたときだけ報酬まで請求できるようになるのかと。 ○潮見委員 そこまでの部分についての何らかの補填ということをしたいということで今回の議論は出ているのではないのですか。そこが違うというのだったら,それはそれで構いませんけれども。こういうものについては,何らの報酬等については払う必要はないとまでは言っていないのです。 ○大村部会長 潮見さんがおっしゃっているのは,相続が始まって,このような形で処理をするということを考えるならば,論理的な前提として,生前にも請求権が立つはずである。そちらをまず対処すべきではないかという,そういう御発言ですね。   相続法の中で問題を捉えなければいけないというのは,介護についての一定の給付というのを介護を行った人に認めてやろうという,そういう前提に立っているのだろうから,正面からそれを認める方向で考えるべきではないかと。増田委員も多分,そういう御趣旨の発言だったと思いますが,沖野委員は違うスタンスだったように思いましたが。 ○沖野委員 自分のスタンスとして確固たるものはないんですけれども。それぞれの考え方がどういう立場に立っているのかというのを解明したいということです。   ただ,あるいは堂薗さんがおっしゃっているのは,基本的にはできないところを,それは相続財産があるから,積極財産である意味,所詮,棚ぼたではないかというようなものがあるときには,今おっしゃったような本当は報酬まで取れないというようなものでも,ここは広げましょうと。ほかでは報酬までは取れないのに,なぜここだけ取ろうというのかというなら,およそ最初から事務管理も全部,報酬も取れるしということにすべきではないのかということになるのでしょうけれど,何か特別なことを入れているのは,やはり相続だからということを入れざるを得ないのではないかという御説明なのではないかと伺ったんですけれども。 ○堂薗幹事 そういう趣旨です。ありがとうございます。 ○増田委員 相続だからというのではなくて,そういう介護という事務を行ったからということができないかということを考えているわけなんですね。事務管理であっても,お医者さんは報酬を取れるんですよ。死にかけの人を治療して報酬を取れないなんて,そんなばかなことはないわけですね。   かりに健康保険法などの特則が適用されなくても,それが取れるのは,通常は有償で行う業務の範囲だからだろうと思うんですね。それを考えると,現行法の解釈としても,介護行為に対しても同じように考えていいんではないかと。   また,これは立法の議論をしているわけですから,何も現行法に明文の報酬請求権がないからといって,それに縛られる必要はないと考えます。現行民法制定時とは違って,介護保険制度があるように,介護というのが通常有償でなされるべき行為として浮かび上がってきているわけだから,その現状を背景にして立法できないかという話をしているわけです。 ○堂薗幹事 御指摘は非常によく分かりましたが,そうすると一応,制度としては生前も本人に請求自体はできると。だけど,実際には余り生前に請求することはなくて,通常は死亡した場合に使われることが多いのではないかという前提で制度を作った方がいいのではないかという御趣旨ということでよろしいでしょうか。   仮にそうだとすると,生前に請求できるということ自体がかなりご批判を呼ぶことは間違いなくて,家族間でありながら生前本人に対して介護の請求をできるような制度を作ったのかという批判がされることは十分に予想されるところなので,なかなか難しいのではないかなというのが正直な印象ですが,ご指摘の点も含めて,どういった方法が考えられるのか,さらに検討はしたいと思います。 ○増田委員 一生懸命介護をやっていたのに,ある日突然意思能力がなくなって,お前なんか寄せつけへんというようなことになったとき,どうなるのかという話もあるのではないですか。生きているうちに請求できても私はいいように思いますけれども。 ○大村部会長 村田委員から手が挙がっていましたので,まず伺ってからにさせてもらってもいいですか。 ○村田委員 潮見委員,増田委員のおっしゃるところは一法律家として非常によく分かる御意見で納得できるところがあるんですけれども,他方で,今回のテーマにしても,この部会でやっている一連の議論の中で,事務局の方でいろいろ御提案されているのは相続の実質化というか,実質的公平を図ろうという一貫した趣旨に基づくものであり,別の言い方をすると,その枠の中で何ができるかということをいろいろ御提案されているんではないかとも思うんですね。   確かに在るべき姿からしたときに,相続と全然違うアプローチから考えられるのではないかという御指摘については,立法論としてはあり得るとは思うんですけれども,だからといって,相続という切り口から何かできないかと考えることが否定されるのかというと,そのようなことにはならないのではないかと思うんですね。ほかに確固たる手段があるから,ここで考えていることの立法事実がないんだというところまでおっしゃられるんであれば,それは突き詰めるべきかと思いますけれども,そうでなくて,オプションを幾つか広げようということであれば,この相続の場面に限定して,取りあえず何が考えられるかという議論をした方が,議論が集約していくんではないかと考えられるんですけれども。   ここで言われている請求権者についても,相続の実質化という観点からある程度,類型化して枠をはめないと,相続という中では説明できないということで限定をされたのではないかと考えていたので,それはそれなりにお考えになられた提案ではないかなと受け止めました。 ○潮見委員 村田委員がおっしゃるのは,非常によく分かるんです。法制審でも最後の段階辺りでしたら私は同じことを申し上げると思います。ただ,今の段階で,相続という観点からどういう切り口があるのかを考えていくことについても,私は異を唱えたつもりは今のところはございません。   むしろ言いたかったのは,今の段階で,しかも相続の実質化という観点からどういう切り口があるのかを考えていくときに,隣接するような問題とかあるいは相続には絡まないけれども,しかしそれに関わるような,しかも特に密接に関連するような事項があるのであれば,それをはなから検討せずに,ここでの説明の中で「できません」という一言だけで片付けて,それでこういう議論をするということ自体に対する違和感というものを少なくとも私は感じて,発言をしたところです。   恐らく増田委員の背後にも同じ理解があるのではないかという感じはいたしました。取り分けこの問題では,介護行為,営業用看護行為というものに対してどういう評価を与え,その行為をしたものに対してどのような報酬とか対価とか,あるいは出捐した費用を償還させるのかということがメインの問題の一つとしてなってくるわけであって,その部分のスキームを考えずに相続からの切り口だけで問題を処理する方向を一生懸命考えましょうというのは,ある意味では片落ちではないかと思いますし,もちろん堂薗幹事がおっしゃられたとおりで,そこまで広げて,生前の問題の介護についてまで制度をざっくりと変えましょうといったような場合には,恐らくそんなところまでという反発が来るというのは,私も当然,それはあると思いますけれども,しかし,その反発がもちろんあるということも踏まえながらも,しかし,現在のところではここまでできますと,あるいはこういう問題がありますというところぐらいまでは,法制審の部会ですから,せめて最初の段階辺りあるいは中盤段階では議論をしておいた方が,あるいは検討しておいた方がいいのではないかと思って発言をした次第です。   その結果として,先ほど,沖野委員がおっしゃられたような問題とか,あるいは審判上の問題というのも出てきたわけですから,そういう部分の成果というものを踏まえて,次の段階にまた進んでいただくのであれば進んでいただければと思います。少し気になりましたので発言させていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。村田委員のおっしゃったことと潮見委員がおっしゃったことは多分,両立しているのだろうと思いますので,この部会の中で議論できる問題とできない問題とあろうかと思いますけれども,枠を絞るとしても,周辺との関連付けは必要であろうという御趣旨での発言だと理解させていただきたいと思います。 ○八木委員 関連すると思うんですけれども,このテーマは社会的なニーズもあって,目指す方向には大賛成なんですけれども,確認なんですが,寄与分の法的性質についてですね。これは相続権の一部と考えなければならないと思うんですけれども,相続人でない者に果たして寄与分が認められるのかという基本的な確認なんですが,その辺はいかがでしょうか。 ○堂薗幹事 そういう問題はあるわけですが,現行の相続人自体が一定の判断の下で一定の身分関係の者にのみ認められているというところがありますので,そこは必ずしも絶対的なものではないと思います。法定相続分という形で割合的に常にもらえるような相続人ではないんですが,一定の貢献をしている場合にはそれを要件として,相続人に準ずる身分関係を有する者についても相続人とほぼ同様の法的地位を与えるということはあり得るんではないかというのがこちらで提案した内容ということになります。 ○八木委員 そうだとすると,この904条の2だけをいじるだけで解決する問題なのかどうかと。ほかのところに波及しませんかと。そもそも相続とは何なのかという部分の考え方が変わってくるのではないかという疑問です。 ○堂薗幹事 今の御指摘も先ほどの潮見先生の御指摘も同じように,こういった制度を新たに設けることによって,ほかの制度あるいは現行の制度にどういった影響を与えるかという点の検討をもう少しすべきではないかという御意見だと思いますので,その点は検討したいと思います。 ○山本(克)委員 本案と別案という言い方なんですが,これは非両立ではないわけですよね。両立はするように思ったんですが。 ○堂薗幹事 別案は基本的に貢献の対象を療養看護だけに絞ったということです。 ○山本(克)委員 そうですか。しかし,これは本案は財産の維持,増加が要件で,後者は要件ではないというんで,どうも非両立するように思ったんですけれども。 ○堂薗幹事 そこは療養看護だけに寄与の対象を限定した場合に,財産の維持又は増加についての特別な寄与という書き方がいいのかどうかというところが若干あって,こういうような表現をしていますが,こちらの意図としては飽くまで寄与の対象を限定したという趣旨です。 ○山本(克)委員 そうですか。一応,非両立だとお考えになっているということですか。 ○堂薗幹事 はい。 ○山本(克)委員 でも両方,一度,立法化することも可能なようではないのかなと思うんですが,その場合に第2の方と別案の関係なんですが,片方が具体的な金額化された主文で給付命令を出すというのと,片方は寄与分の割合を宣言するという審判をするということを想定していることがうまく説明できるのかなという気がしたんですが。 ○大村部会長 第2というのは先ほどの論点の第2ということですね。 ○山本(克)委員 はい。 ○堂薗幹事 ですから,こちらで考えているのは,別案も飽くまでも財産上の特別な寄与があって,それについて金銭請求しか認めないという趣旨ですので,そういった意味では第2とは全然,性質が違うということになるかと思います。 ○山本(克)委員 何か同じように見えたんですが,それは違うんですか。また結局,潮見さんや増田さんが提起された問題につながるんですが,なぜ相続。本当の狭い意味の相続の範囲だったら,割合的な問題になり,本来,相続人ではない人のところにいくと金銭債権になるのかと。それは相続法だと言えるのかなという気がするということです。 ○藤野委員 私は一つ教えてほしいんですけれども,堂薗さんの御発言の中で,家族だからという意見がありまして,相続人という考え方と親族というんですか,姻戚も含めた考え方と,あと同居人という考え方があると思うんですけれども,家族と今おっしゃったのは一緒に住んでいるということを指しておられるんでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的には一定の身分関係にある親族という趣旨です。 ○藤野委員 相続人ではないけれども,一定の身分関係にある親族ということですか。 ○堂薗幹事 はい。親族が介護した場合は,特に基本的には無償で行うことを考えているんではないかと申し上げたのは,基本的には相続人も含めてですけれども,そういう御本人と近い身分関係にある者については,一般的にはそういうふうに考えておられる方が多いんではないかという趣旨で申し上げたと。 ○藤野委員 分かりました。例えば現行法の中でも遺言とか養子縁組とか,そういう方にも何らかの遺産がいく法立てはありますよね。そこにもう一つ加えて,今,契約というお話があるんだと思うんですけれども,現行法を活用することでうまくいくことと,今の現行法を変えなければならないということが今一つ,よく分からなくて,先ほど,窪田先生が親族の関係のところを取ってしまって,これを適用するとしてもいいのではないかとおっしゃったんですけれども,その辺りがやはり家族というか,今,堂薗さんがおっしゃる定義に限って,この法律を変えようとしているところが何か意図というか,家族に介護をさせるというのを感じるんですけれども。 ○堂薗幹事 そういった御批判は当然あり得るだろうと思います。ただ,こちらで考えているのは,この制度については,やはり相続の枠内で考えざるを得ないのではないかという前提がありましたので,その場合に余り権利行使できる人を広げすぎると,非常に紛争が複雑化することになるので,そこはできるだけ限定すべきではないかという考えの下に,このような説明をしているということでございます。   ただ,相続とは完全に離れて,事務管理の特則になるのかよく分かりませんが,そういった制度を設けるということであれば,あえて請求権者の範囲に限定する必要はなくなるのではないかという気がいたします。   それから先ほどの山本克己先生の御指摘とも絡むんですが,ここは繰り返しになりますが,こちらの考えとしては,本来は遺産分割の中で清算すべき問題ではないかという整理だったんですが,前回の御議論で遺産分割の中で一遍にやると非常に紛争が複雑化して,それは実務的にももたないだろうということで,そこは飽くまで手続的な観点から手続を分けたという説明ですので,そういった意味で,例えば民法910条ですか,後から認知されて相続人が出てきた場合には,金銭的に解決するという規定がありますが,あれと若干似たような趣旨で,この場合には金銭請求しか認めないようにして,そういう紛争の複雑化を回避しようとしたというのが一応,こちらの考えということになります。 ○窪田委員 コウモリみたいにあっちに行ったりこっちに来たりということで申し訳ないのですが,少し戻りますが,潮見委員から問題提起があったことというのは私もそのとおりだろうと思います。村田委員からもすでにお話をいただいたところですが,基本的には正しくこの中にも挙がっている農家の嫁というようなものについては,ずっと貢献していたにもかかわらず,それを相続という枠組みに反映させる方法がないために,相続人である夫の寄与分の中に組み込み,そして,夫の死亡後は代襲相続人である子供の寄与分という形で組み込んでというような,かなり無理な形で今までは解決してきたということがあるのだろうと思います。   その意味では,本来,これは相続人ではない者についての貢献の問題ですので,本来,相続法の枠組みの外である問題であるということは当然なのですが,にもかかわらず,そういうふうに解決をしてきたということについては,今回,法務省だけがそういう問題について財産法的な請求は難しいと考えているわけではなくて,恐らく家族法の世界では財産法は十分にはこの問題を受け止められないんではないかという認識で来たのではないかと思います。その意味では私自身は今回,こういうふうな問題の立て方をしているということについて,十分に理解はできると思いました。   ただ,その上で繰り返しということになってしまうのですが,そうだとすると,なぜ更に相続という枠組みにこだわらなければいけないのかという点が問題となります。また,そこで相続に関わるということの意味なのですが,先ほど,沖野委員からもちょうど触れられた点かと思うのですが,要は相続というのは棚ぼたでぽとんと落ちてきた。落ちてきたものが残っているのだったら,そこに対して請求しようというものを認める。この実態は一体何なのかというと,本来は恐らくやはり事務管理としての性格を持っているものなのだろうけれども,それが言わば相続という局面において,相続財産に対する処理という枠組みの中で具体化されて,特別法として特別のルールによって規定されたという位置付けを考えることはできるのではないかと思いますし,生前からあったものに対してこの部分で行使するのだというと,恐らく時効の問題とかも出てくると思いますので,そうした点でもこういう方向というのは十分にあり得るのだろうと思います。   そこから後は繰り返しになってしまうのですが,だとすると,こうした権利を認める者を限定する必要はないんではないかという気がします。私は最初,案を見たときに全然違う分野ですが,民法711条,近親者の慰謝料請求権を想起しました。あれは両親,配偶者,子供と限定されていますが,少しずつ広がってきた。ただ,あれはある意味で精神的苦痛を受ける人を近親関係で絞ろうということがありますので,まだ一定の範囲に区切るとかということも理解できるのですが,この局面においては限定することについて合理的な説明というのがやはり難しいのかなという気がします。   ある意味で近親者であれば,一定の法的な義務はあるのではないか。あるのだとすれば,それに基づいて履行している以上,むしろ請求できないのではないか。より遠い人はそういう義務がないにもかかわらず,やっていた場合には何ら手当がなくて,それは財産法でいってくださいと。しかし,その場合には財産法は本当に受け止められるのという問題に直面することになると思いますので,この点だけは是非御検討いただけたらと思います。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○米村委員 議論なされたことを法律論の外側から要望として申し上げますと,介護ストレスや負担が特定の個人に集中していることについての負担感や不公平感は広く社会に広がっています。そうした現状に相続という枠組みからどのようにこたえることができるのかという関心は,社会的に大きくあると思います。何ができて,誰が救われて,誰が救われないかということが説得的でないと,かえって新しい不公平感を助長するのではないかという懸念もあります。広く人々が了解できるような制度設計を是非お願いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。様々な御意見を頂いておりますけれども,相続が開始することによって既存の権利関係が変化するのかしないのか。変化するとしたときに,それは相続人の権利が変化するにとどまるのか,それともそうではなく,およそ相続財産を引当てとする権利については同様に変化すると考えるべきなのか,というようなところで各委員の御意見が対立しているように思いますけれども,なかなか決着をつけるのは難しいところです。どういう整理でこの制度を構築するのかということについて,皆さんの方から,どれになるかはともかく,もう少し検討する必要があるのではないかと,こういう御指摘を頂いたと受け止めております。   取りあえず今の点につきましては,そのようなまとめで引き取らせていただきたいと思いますけれども,さらにこの問題につきまして御発言がありましたら伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○西幹事 このような場でこのようなことを申し上げるのはどうかという気はしますけれども,実際に今,先生方がおっしゃったような法的構成,財産法的な,できれば生前の処理をすべきだというのはよく分かります。もちろん当事者が両方生きていますので,実際,どの程度の寄与があったのかというのも分かりますし,その法的処理の意義は非常によく分かるのですけれども,社会の実態として見たときに,例えば私は,祖父母の介護をしなければいけなくなったとき法定相続人ではない私が行くということになった場合,そのときに報酬を自分は請求できる権利があると分かっていたとしても,絶対に請求しないと思うのです。多くの人がみんな,そういうふうに動いていると思います。それでもし相続のときにまとめてもらえるのであれば有り難いという。   そういう人を救いたいという気持ちがやはりあって,そうなりますと,実際に契約構成でもらってこなかった以上,貢献した人に何とか報いるために今の相続の段階で何とかしたいという気持ちになります。他方,先生方からお話がありましたように,それを一度認めてしまうと,制度としてそれができてしまうと,今,介護したらいずれ相続のときに報われるのだからということで,介護の無償性とか家庭内化が固定し,介護の社会化が進まないという問題が非常に大きいものとしてあります。   ただ,そうなったときに,だから生前でみんな処理するようにして,相続のときには駄目だから早目にみんなやりましょうと言うことで回るのかというと,やはり今,目の前にいる貢献したけれど何ももらっていない人を救いたいという思いもあってジレンマが続くと思うのです。そのジレンマはどこかで断ち切る必要があると思いますけれども,ただ,ある時点でぱたっと切られてしまうと,やはり国民としては非常に裏切られたという気がすると思います。   今の履行補助者構成では無理であるとかいろいろな問題があって,生前の処理に移すのであれば,何らかの受け皿をしばらく過渡的なものとして用意しておいていただきたいと思います。その過渡的な制度としてどういうようなものが考えられるのかと言われますと,全然,何も思い付かないのですけれども,例えば意識の面では黙示の遺贈というイメージでしょうか。遺贈というともちろん要式行為性の問題がありますので,それを黙示でできるかという話はありますけれども。つまり相続債権者にはもちろん劣後しますけれども,何らかの形で余ればもらえるという,そういう辺りなのかなという気もします。  あるいは生前に請求するという発想はないとしても,もらえるものならやはりもらいたいという気持ちがあると思いますので,贈与を促すような何らかの仕組みを作っていただくと非常にうれしいのですけれども,その仕組みとしては,例えばもちろん皆さん,早目に財産をあげましょうということを言うのもあるかもしれませんが,税制をそのような方への生前贈与について非課税にするとか,法律の外でできることもあるのではないかなという気がします。いずれにいたしましても,何らかの受け皿を過渡的に用意していただきたくて,ただ,それは固定化するものであってはいけないと思いますので,このような相続の枠内でというのはどうかなという感想です。 ○大村部会長 ありがとうございます。幾つかの考え方があると先ほど申し上げましたけれども,どれかを採るということではないだろうという御意見だと伺いました。仮に契約的な構成が我々の社会の進むべき方向だとしても,現状で何か受け皿が必要ではないかというようなお話だろうと思います。   反対に相続時に清算がされるのだとしても,生前に契約をするということを阻害する必要もないので,それはそれでそういうこともあり得るというようなことを併せてメッセージとして発することもありえます。先ほど,委員の方々の御理解は幾つかありましたけれども,その中で択一的な解決を採らなくてもいいかもしれないという御指摘として承りました。   ほかにいかがでございましょうか。 ○森委員 基本的には先ほど,村田委員が指摘したことに賛成なんですけれども,今回,御提案になっている新しい寄与分に似た制度として,特別縁故者の制度がございます。特別縁故者の制度が創設されたときも当然,潮見先生,その他の方が御指摘になった点が議論されていたんだろうと思うんです。それがどう収れんしたのかということは,今回の議論にも役立つのではないかと思います。   実務上,相続財産管理人が選任されている事件では,特別縁故者からいろいろと申立てがされることがありますが,主張を分析して請求権として立つ場合には,生前の被相続人に対する債権者として扱うこともオプションとしてはあり得ます。もっとも,請求権としての立証が難しい場合にはそうしたことはできないわけですが,御提案に係る新しい寄与分の制度についても,被相続人の息子の配偶者のような方が寄与分の立証をできないときにどういうオプションで救済するのかということが議論のスタートにあったように思うんですね。   そうした議論をする際には,例えば特別縁故者の制度が創設されたときの議論の背景を参照するなどして,一歩でも二歩でも議論を進めていただければなと思った次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。大変貴重な御指摘をいただいたと思います。これまでに我々が作ってきた制度の中でどんなふうに考えられていたのかということを振り返って,参照できるものは参照していくということは非常に重要だと思います。   ほかに。 ○水野(紀)委員 今の森委員の御発言をうかがって,少し付け加えたいことがございます。特別縁故者を考えた当時,念頭にあったのは内縁の夫婦とか事実上の親子ということでした。それはやはり家族ということを考えたのだと思います。家族はその中にケアをされないと生きていけない弱い存在,あるいはお金を稼げない弱い存在を抱えています。そして家族は,財とケアを持ち合って生存を支え合う最小の単位です。   必ずしも法的な家族とは一致しなくても,そういう支え合う義務感で支え合ってきた事実上の家族がいたときに,相続にあたって,それにふさわしい一定の財産権を与えるべきだという発想がありました。また,事実上の家族は法的な家族と同じように扱うべきだという中川先生の当時の通説的な考え方も,その背景にあったのだろうと思います。   私は内縁準婚理論に代表される,このかつての通説的な考え方には反対の立場ですが,ただ,そこからやはり酌み上げるべきものはあると思います。つまり,家族とはそういう義務を負い合うものであるという考え方は,そう簡単に吹っ切れるものではないと思うのです。もちろん,私自身,老親介護の対価を相続時に与えるからということで,ケア役割を事実上,家族に,ことに嫁に強制することに対しては非常に批判的で,何とか介護労働を財産法的なもので整序していけないかと思います。そしてケア役割の法的義務づけは,夫婦間と幼い子供を育てるときだけに限るべきではないかという発想で,基本的には家族法の解釈をしてきました。ですから,潮見委員たちの言われることもよく分かるのですが,ただ,やはり事実としてそういう家族ゆえの義務感を持って行うケアの場合と,赤の他人がボランティアでやってみようという場合とでは,ケアを行った者の救済の必要性において違いがあり,一線を画しているように思います。そういう義務観念をもって義務を果たした事実があったときに,一定の割合でそれに対して配慮することも必要でしょう。結論的には局長がおっしゃったことと同じようなことになるわけですが。 ○大村部会長 ありがとうございました。本日の議論はなかなか難しくて,非常に手続的な細かな議論から原理的な大きな議論まで出てまいりましたけれども,相続法の問題というのはそういう問題が多いのだろうと思います。それで事務当局としても準備は非常に大変だと思いますけれども,本日頂きました御意見を踏まえまして,更にまた案を練っていただきたいと思います。   この辺で本日のところは閉会ということにしたいんですけれども,よろしゅうございますか。   それでは,次回の予定等につきまして,事務局の方からお願いいたします。 ○堂薗幹事 どうもありがとうございました。   では,次回ですが,次回日程は御案内のとおり,12月15日,火曜日の午後1時半から5時半ぐらいまでということで,場所はこちらの20階,大会議室ということになります。次回は遺留分制度の見直しについて二読を行うということを予定しておりますので,次回もどうぞよろしくお願いいたします。本日はどうもありがとうございました。 ○大村部会長 本日も熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。   これをもって閉会させていただきます。 -了-