法制審議会 民法(相続関係)部会 第9回会議 議事録 第1 日 時  平成28年1月19日(火)自 午後1時29分                      至 午後5時35分 第2 場 所  法務省第1会議室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第9回会議を開会させていただきます。   最初に,お手元の配布資料の確認を事務当局の方からお願いいたします。 ○合田関係官 それでは,配布資料の確認をさせていただきます。本日の資料としましては,まず,事前に送付させていただきました部会資料9「その他の見直しについて」というものがございます。また,席上に配布させていただきました資料として,浅田委員から御提供いただきました資料が3点,一つ目が「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見」と題するもの,2点目が「相続預金に関する各国法令・制度」と題するもの,3点目が「相続預金に関する参考資料」というもの,それから,もう一つ,金澄幹事,増田委員,山田委員,3名から提出いただきました「遺言執行者の権限の明確化等」と題する資料が1部,全部で席上配布の資料としましては4点ございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。席上配布の資料が4点あるということですので,御確認を頂ければと思います。   早速,本日の議事でございますけれども,本日は「その他の見直しについて」ということで,第1の「可分債権の遺産分割における取扱い」という項目から始まりまして第6まで六つのテーマが用意されております。このうち,第1と第2が遺産分割に関わるものでございますので,この二つにつきましては,まとめて御説明を頂きまして,御意見を賜りたいと思っております。その後,第3以下は,個別に御説明を頂いて,御意見を賜るという形で進めさせていただきたいと存じます。   第3が終わったぐらいのところで休憩を入れたいと思っております。その他は全て今日検討する予定になってますので,やや盛りだくさんですけれども,どうぞ審議の方に御協力を頂ければ幸いでございます。   それでは,早速,第1と第2につきまして,事務当局の方から御説明をお願いいたします。 ○合田関係官 それでは,部会資料の,まず「第1 可分債権の遺産分割における取扱い」について御説明いたします。   第5回部会においてお配りしました部会資料5では,可分債権を遺産分割の対象に含めることとした上で,まず甲案として,可分債権は法定相続分に応じて分割承継され,各相続人は原則として分割された債権を行使することができ,遺産分割前に弁済を受けた額がその具体的相続分を超過する場合には,遺産分割において,その超過額につき,その相続人に金銭支払債務を負担させることとする考え方,それから,乙案として,相続人は遺産分割が終了するまでの間は,相続人全員の同意がある場合を除き,可分債権を行使することができないという考え方が示されておりました。   今回の部会資料9における提案は,甲案,乙案,いずれも部会資料5の考え方を基本的に踏襲した上で,対抗要件具備の方法等について,より具体的に記載しております。   まず,甲案について御説明いたします。甲案によれば,可分債権のうち法定相続分に相当する部分の支払請求について債務者対抗要件は不要ですが,遺産分割によって法定相続分を超える割合の可分債権を取得した相続人がその支払請求をするためには,債務者対抗要件を具備する必要があるこということとしております。したがって,相続人が法定相続分を超える支払請求をするためには,譲渡人からの通知又は債務者の承諾が必要となりますが,遺産分割による可分債権の取得においては,契約による場合等と異なり,どの相続人が譲渡人かということを判断することが必ずしも容易ではなく,譲渡人となる相続人の判断を誤ったために譲渡の通知が無効となるような事態が生じないよう,通知すべき者の範囲を明確に定める必要があると考えられます。そこで,甲案では,対抗要件としての債権譲渡の通知は相続人全員で行う必要があることとしております。   甲案については,債務者の過誤弁済のリスクについてどのように対処するかが課題であると考えられますが,今回の提案については,過誤弁済のリスクの対処として適切か否かについても御意見を頂戴したいと考えております。   それから,甲案においては,相続人が遺産分割前に弁済を受けた額がその具体的相続分を超過する場合に,遺産分割において,その超過額につき相続人に金銭支払債務を負担させることとしておりますが,第5回部会では,可分債権は換価や消費がされやすく,相続人に金銭支払債務を負担させたとしても無資力の危険があることから,これを防止するための方策が必要であるとの指摘がありました。この問題への対応策としては,審判前の保全処分を活用することが考えられます。   もっとも,審判前の保全処分による場合は遺産分割の審判又は調停の申立てが必要となりますが,遺産分割前の処分さえ禁止すれば,遺産分割の協議自体はまとまる可能性が高く,審判又は調停の申立てをする必要はないという場合もあり得ると考えられることから,この場合の保全処分については,本案係属要件を不要とすることについても検討の余地があると考えられます。   次に,乙案について御説明いたします。相続開始後遺産分割までの間の相続財産の法律関係について,現在の判例実務の考え方は,遺産共有を一般の共有と区別せず,相続人は持分を自由に譲渡することができるという立場を採っておりますが,乙案は,可分債権については,遺産分割が終了するまでの間,原則としてその処分を認めない考え方ですので,仮に可分債権について乙案を採りつつ,その他の遺産については従前と同様の取扱いをするという場合には,その理論的な整合性をどのように説明することが可能かということが問題になると考えられます。   また,乙案に対しては,第5回部会において,一定の場合には遺産分割前の権利行使を認める必要があることから,仮払いの制度を設けるべきであるとの指摘がありました。現行法の下では,遺産分割の対象となる財産を遺産分割前に行使する必要がある場合には,審判前の保全処分として仮分割の仮処分を行うことができるとされております。この仮処分が認められるためには,本案の審判において,具体的権利義務が形成される高度の蓋然性があることと保全の必要性があることが必要ですが,保全の必要性の要件については,一般に,申立てに係る遺産と金額について,仮に分割を受けなければならない緊急の必要性があることを具体的に疎明する必要があると解されております。したがって,乙案を採りつつ新たな仮払い制度を設けないこととすれば,相続人にとって,現状よりもかなり負担が重くなると考えられます。   他方で,現行の仮分割の仮処分よりも緩やかな要件で仮払いを受けられる制度を新たに設けることとした場合には,その要件をどのように設定し,現行の審判前の保全処分との関係をどのように整理すべきかが問題となると考えられます。この点についても,本日御意見を頂戴できればと思います。   次に,一部の可分債権を除外して遺産分割を行うための方策について御説明いたします。部会資料の4ページを御覧ください。   第5回部会では,甲案,乙案,いずれの考え方についても,不法行為に基づく損害賠償請求権や不当利得返還請求権など,その存否や額について当事者間で争いがある可分債権については,遺産分割をめぐる紛争の長期化を避けるため,分割の対象から除外できるようにすべきであるとの指摘がされました。   一般に遺産分割においては,遺産の範囲を確定させた上で,遺産の全部について一回的解決を図ることが望ましいと考えられますが,実務上,遺産分割を一回的に行うことに支障があるなど一部分割の必要性があり,民法第906条に定める基準に基づいて,最終的に遺産の全部について公平な分配が実現できる場合には,審判,調停又は協議のいずれにおいても,遺産の一部を除外して分割をすることができると解されております。   可分債権を遺産分割の対象に含める考え方を採る場合には,手続の長期化を避けるために,一部の可分債権を分割の対象から除外することができるようにする必要性が高いと考えられます。そこで,部会資料9の5ページ目,第2の部分において,一部分割に関する規律を設けることを提案しております。   現在の実務上は,全部分割をする場合の遺産分割終了の見通しや,早期に分割を受ける必要性が高い当事者の有無,当事者の意向,残部分割の合理的処理の可能性など諸事情を総合的に考慮して,家庭裁判所が一部分割をすべきか否かを判断することになると考えられます。   第2の①の部分は,現行の実務の取扱いを踏まえ,一部分割ができる場合の要件を定めたものですが,抽象的な要件となっていることから,より具体的で適切な要件設定ができないか検討する必要があると考えられます。   次に,一部分割と残部の分割の関係について御説明いたします。遺産分割を2回に分けて行うこととする場合には,残部の分割をする場合においても,一部分割の結果を考慮することなく,遺産の分割方法を定めることができるようにすることが望ましく,そうでないと,遺産分割を2回に分けて行うこととしたことによって,かえって紛争が複雑化・困難化するおそれがあると考えられます。この点については,特に残部分割における特別受益と寄与分の取扱いが問題になると考えられます。   まず,特別受益については,一部分割の中でその全てについて考慮することが可能であり,残部分割においては,これを考慮する必要がない場合が多いものと考えられます。そして,このような場合には,一部分割をすることに相当性が認められる場合が多いと考えられます。   これに対して,一部分割において,いわゆる超過特別受益があるため,相続人の中に民法第903条に定める具体的相続分を取得することができなかった者がいる場合には,残部分割において,その超過分について再度調整をする必要があるものと考えられます。また,例えば,被相続人の預金について,相続人の一人が被相続人の生前に行った引き出しが被相続人に無断で行われたものであるかどうかが争われ,その相続人に対して,不法行為に基づく損害賠償請求訴訟や不当利得返還請求訴訟が提起された場合に,その債権を除外して一部分割をしたところ,その訴訟において,その相続人が引き出した預金の一部が被相続人からの贈与であったとの認定がされた場合には,一部分割の際にはその贈与を特別受益として考慮することができないことから,相続人間の公平を図るため,残部分割において,これを特別受益として取り扱う必要があると考えられます。   そこで,②の本文において,一部分割がされた場合には,原則として残部分割の審判においては特別受益を考慮しないこととしつつ,例外的に②の㋐及び㋑の場合には,残部分割において特別受益を考慮することとしています。   また,一部分割が相続人間の協議によって行われた場合には,特別受益の計算などを厳密に行っていない事案も一定程度存在するものと思われますが,相続人間で一部分割の合意がされ,その中で残部分割における遺産の分配方法について別段の定めがない場合には,一部分割の中で特別受益の処理を含めた清算が終了したことを前提としている場合が多いものと考えられます。そこで,一部分割の協議が成立した場合についても,原則として残部分割においては特別受益を考慮しないこととしつつ,一部分割協議において,相続人の中に別段の意思表示をした者がいる場合には,残部分割においても特別受益を考慮し得ることとしています。   他方で,寄与分については,一部分割と残部分割のいずれにおいても,それぞれ分割の対象とされた遺産に対する寄与を考慮すれば足りると考えられることから,基本的には一部分割と残部分割とを切り離すことが可能であり,残部分割においては,一部分割における寄与分の有無等について考慮する必要はないものと考えられます。   一部分割の要件及び残余の遺産分割における規律の明確化については,今回の部会資料に記載した規律の適否について,本日御意見を頂戴できればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございました。   可分債権の遺産分割における取扱いにつきましては,これを遺産分割の対象に含めるという点では,甲案,乙案,いずれも共通でございますけれども,その取扱いにつき,甲案,乙案,双方の考え方が今まで出されております。分割前に債権を行使することができるかできないかということで後始末も変わってくるだろうということで,そのそれぞれについて,更に残っている問題を詰めた御提案がなされたものと理解しております。そして,このような案を採用すると,遺産分割が長期化することがあり得るだろうということで,一部分割に対する対応を明確化する必要があるのではないかということで,第2の論点が出てきているということかと思います。   この第1,第2につきまして,浅田委員の方から資料が出ておりますので,これにつきまして御説明を頂けると伺っております。 ○浅田委員 早速発言の機会を与えていただき,ありがとうございます。   さて,今回の部会資料で対象となる論点の多くは,銀行実務にとって重要なものでございまして,銀行界からの意見や提案も多岐にわたります。そこで,可分債権の典型例たる預金債権を念頭に,私どもにおいて資料を作成し,お手元に配布させていただき,その上で,少々お時間を頂戴して意見を申し上げたいと思います。   資料は大きく分けて三つです。メインとなるのが「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見」という資料,この場で内容を説明いたします。   もう一つのパワーポイントは,「相続預金に関する各国法令・制度」という題名のものですけれども,これは,併せて配布しております論文集に掲載のフランス,ドイツ,アメリカ,韓国の相続預金法制に関する議論を整理したものでございます。すなわち,韓国以外の3か国においては,相続預金の権利者や払い戻し可能額について,債務者たる金融機関が独自に判断しなければならないということはなく,我が国の相続預金についての判例法理のように,債務者 ―すなわち金融機関を念頭にしますが―,と相続人の双方に負担を強いるものではないということ,これらの国はそのために,近時様々な法令改正や制度導入を行ってきたということ等を御案内し,もって,本部会での審議の御参考のためになればと存じます。   論文集ですけれども,執筆者各位等の御承諾を得て,ここにフランス,ドイツ,アメリカ,韓国,4か国の相続預金法制に関する論考とともに,第5回での可分債権の取扱いに関して私から提案させていただいた案1,案2について解説する私自身の論考を載せております。私の論考については,前回審議,第5回時点の銀行界提案に関するもので,単に御参考という位置付けでございます。   では,先ず,横長の「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見」とのタイトルのパワーポイントの資料を御覧ください。   おめくりいただきまして1ページですけれども,ここで取り上げる銀行界の意見は,①「甲案における相続開始後出金の規律のあり方」,②「乙案の実現可能性および仮払い制度の規律」,③「対抗要件主義を預金に適用する場合の規律」,④「遺言執行者が債権を取立換価する権限」の四つですが,ここでは①から③までが可分債権の取扱いに関連するものですので,この場で今説明を申し上げ,④は後ほどに申し上げたいと思います。   第5回会議において,可分債権,なかんずく,その代表格である預金の取扱いについて,案1,案2と称する銀行界独自の提案を行ったものですけれども,その後の審議の展開や当局提案の変化等を踏まえ,甲案及び乙案の内容に即した形に修正した上で再度の提案を行うものが,この①,②項でございます。   1点目の「甲案における相続開始後出金の規律のあり方」から説明します。2ページを御覧ください。   甲案は現行,近時の実務を大きく変えるわけではなく,また,対抗要件が具備されるまでは法定相続分に応じて支払えばよいので,遺産分割の結果は預金分配の割合が遡及的に変更されないという点で,銀行としても一定のメリットがあるものです。前回指摘したとおり,本案は取引の動的安全性を目指したものと言えます。しかし,2ページの設例のような問題がなお残っています。   相続開始後の預金が60万円,相続人A,B,Cの法定相続分が各3分の1という前提,そういう設例を設けたときに,相続開始後に相続人の1人が預金者の死亡の事実を銀行に秘したまま,ATMで40万円を出金したため,残額が20万円に減少してしまいました,銀行には出金者が誰かは分かりません,こういう事例です。その後,他の相続人が自己の法定相続分の額の20万円の支払を銀行に求めてきたときに,銀行はどのように対処すべきかという問題であり,実務ではよく生じている事案です。   この場合の考え方として,3ページのとおり,三つの考え方があり得ますが,定説はないと思います。定説がない中,銀行は相続人間の紛争に巻き込まれていくことになります。そして,甲案の下でも,この問題への解決は与えられていないと私は考えます。   続いて,4ページは,直近の「判例タイムズ」今年の1月号において,勝手に払い戻しされた預金の処理は遺産分割調停や審判における一大関心事であるものの,遺産分割調停や審判のテーブルにのせられるものは一部にすぎないということが,東京家裁の裁判官によって述べられた論考を御紹介するものです。   この問題については,第5回会議では案2として,私から5ページのような提案をしたところです。この考え方ですと,債務者は請求を受けた時点の残高に応じて支払えばよいので,債務者の負担は大幅に軽減されるわけですが,第5回会議において堂薗幹事より,民法478条の特則を設けることは困難であるとの説明を受けています。   そこで,新たな提案として,6ページのような案を御提案いたします。コンセプトとしては,6ページの下にございますとおり,相続開始後出金のリスクは相続開始後の事実を債務者に告知しなかった相続人の負担とし,遺産分割で調整を図る仕組みとすることにより,問題の解決を図るというものです。こうして,公平な遺産分割の実現と債務者が紛争に巻き込まれるという弊害の回避,もって動的取引安全性の確保を一挙に解決しようとするアイデアです。   具体的な提案は真ん中の囲みになります。2ページ記載の事案設例の下で,一つ目の,相続人A,B,Cは相続開始の事実を債務者に告知していない限り,死後に出金された40万円については支払を求めることができないという原則を立てます。そして,先に弁済を受けた相続人については,自己の相続分を上回っている部分を遺産分割で吐き出す義務を負わせるという内容です。   一方,相続人以外の者の出金については,遺産分割で調整できませんから,本則に戻り民法478条の問題にするというのが,真ん中二つ目の箇条書きの提案です。ただ,債務者には誰が出金したかは分からないのですから,まずは相続人において,出金者は相続人のうちの1名ではないということを立証しなくてはならないという要件を課しています。これは,相続開始の事実を債務者に告知しなかったがゆえに負う立証責任と考えてもよいと思います。   以上が甲案に付加すべきと考える提案でございます。   続いて,おめくりいただきまして,7ページの「乙案の実現可能性および仮払い制度の規律」という項目に移ります。   乙案は銀行にとっては,対応が簡明である上,紛争に巻き込まれるリスクも大きく減少するというメリットがあります。第5回の会議で私が申し上げた取引の静的安全性といったアプローチを採るものだと考えています。また,第5回会議での堂薗幹事の御説明によれば,遺産分割成立前でも債権者との関係では相殺や差押えも可能であるとのことで,その点でも賛同できる内容でございます。しかし,部会資料9では,理論上の困難さと仮払い制度の設計,特に裁判所の関与を必須とする場合の相続人の負担について疑問が呈されています。   この7ページでは,理論上の困難さはあるかもしれないが,やはり相応の合理性のある御提案であるということと,まだ銀行界としては,両案のいずれがよいと判断しているわけではないものの,少なくとも現時点で乙案を諦めるのはまだ早いということを,3点の理由を挙げて説明しています。   1点目ですが,甲案では相続人が金銭を費消してしまえば,可分債権を調整手段に使い,公平な遺産分割を実現する,といった立法目的が果たせなくなる可能性があります。現在でも私ども銀行は,相続人の1人から,これから預金を含めた遺産分割を行いたいので,他の相続人からの払い戻しの請求に応じないでほしいとの要望を受けることが大変多く,対応に悩むことがあります。このことから分かるように,他の相続人による費消防止は大変関心が高い問題であろうと考えます。   2点目は,預金を代表とする可分債権について,遺産分割を経ずに各相続人が法定相続分で権利行使できるという意識が国民にどれだけ広がっているかという疑問です。遺産分割を経て具体的相続分に従った適切な配分がなされるように誘導し,一方で困窮する相続人に負担を掛けない仮払い制度を設ける方が,国民一般の意識にかなうという考え方もあると思われます。   3点目は,理論的には最も重要な問題であり,銀行実務からも大変重大な問題提起です。投資信託受益権から分配金や償還金が生じた場合,それは名義人が販売会社に有する口座に一旦入る,すなわち預金ないしは預り金になることは皆様も御存じかと存じます。平成26年12月12日の最高裁判決は,共同相続された投資信託受益権から相続開始後に分配金や償還金が生じて預り金になった場合,その預り金は他の部分と異なり,当然分割されないと判断しました。つまり,預金には,当然分割される部分と,遺産分割を経ないと相続人に支払えないものの二つが生まれたことになりますが,これらを銀行が分別管理するのは困難なことです。乙案であれば,全ての預金について相続人個別の権利行使が認められませんから,この理論的問題がクリアされます。   8ページ以降は,事務当局が提示されたもう一つの疑問点,裁判所の判断を経なければ仮払いを受けられない相続人の負担を軽減できるかという問題意識への一つの回答です。仮払いで保護されるべき利益は,この①,②のとおり,被相続人の負担に帰すべき費用の回収と被相続人に扶養されていた者の生活保障が考えられます。   次の9ページでは,①,②について,仮払いを受けられる理由とその立証方法を法律で明示的に決めることにより,裁判所が関与しなくても金融機関が迅速に仮払いに応じられる方法を提示しています。これはまだ銀行界全体のコンセンサスを得られたものではなく,相続人の負担解消という宿題に対して一つの試み,アイデアとして提示するものでございまして,もう一つのパワーポイントの3ページで紹介しておりますフランスにおける5000ユーロ以下の少額預金払い戻し制度に着想を得ています。   お戻りいただきまして,具体的には①の費用回収については,葬儀費用,医療費などの目的を明確に法律で定め,立証方法も法定化します。葬儀業者や病院の請求書を立証方法と定め,金融機関はその請求書に従って葬儀業者や病院に支払えば,もしその請求書が偽造であったとしても免責されるという立て付けです。   続いて,②の被相続人に扶養されていた者の保護については,定額,例えば100万円については,被扶養者であったことを立証すれば仮払いを求めることができるものとし,その立証方法も法律で定めるという制度です。最後の箇条書きのように,定額ではなくて,その相続人の生活状況に照らして柔軟な額を決めるという考え方もありますが,これは金融機関には幾らか等は判断できませんから,この案を採るならば裁判所の関与が必要になると思われます。   以上が乙案に関する意見と提案でございます。   続きまして,3点目の「対抗要件主義を預金債権に適用する場合の規律」という項目に移ります。10ページになります。   部会資料9では,可分債権については,部会資料1ページの甲案⑥,⑦のとおり,遺産分割による取得も,部会資料9ページの第4の1のとおり,遺言による取得も,遺産分割も遺言も,通知又は債務者の承諾という対抗要件を具備しなければ,債務者その他の第三者に対抗できないという提案がされています。遺産分割の場合は通知義務者は相続人全員,遺言の場合は遺贈義務者たる相続人全員か,遺言執行者がいれば執行者になると考えられます。   まず,パワポ資料の10ページの提案1は,預金は勘定ごとに独立して管理されているので,他の支店に通知がされても銀行は適時に対応するのが困難であるから,通知はその勘定店を特定して行うべきという提案です。   提案2は,預金には動きがありますから,遺言が作成された時点から実際の払い戻しを行うまでに変動があることは日常茶飯事です。遺産分割協議書や審判にしても,最新の預金残高を確認せずに協議や審判が進んだ結果,実態を反映しない分割結果となることもよくあるようです。したがって,金融機関において,その範囲が相続人間の協議や訴訟などによって債務者に明らかにならない限りは履行遅滞責任を負わないとするか,供託を可能にすべきという提案です。   11ページは,対抗要件主義について,預金実務の観点からより広範囲な問題意識を延べたものです。①,②は,果たして通知が相続人全員からのものか,要するに有効な通知と言えるかをどう立証するかという点です。   銀行としては,有効な通知であると判断できない限り,預金の払い戻しに応じることは困難と思われます。現行実務では対抗要件を意識することは余りないのですが,これは債権譲渡禁止特約があるため,可分債権の預金については,包括承継とか,今回の部会資料9の2ページの(注)にも一部書いてあります,それを除いたものについてですけれども,一部の遺言や遺産分割による取得については,銀行は譲渡禁止特約を対抗でき,結局のところ,債務者たる銀行が遺言や遺産分割協議書の内容を確認し,それらによる取得を承諾して払い戻しているからです。   しかし,対抗要件主義を採ることが法文上明らかとなり,かつ,相続の場合には譲渡禁止特約を対抗できないため,通知による対抗要件の具備も可能だとされた場合には,相続預金の承継に係る通知が行われることが増え,それに対応する銀行の負担が増えることになります。例えば,通知から実際の払い戻し請求までに時間が掛かり,その間に相続人の債権者から法定相続分の預金について差押えがあったときは,通知の効力を前提に差押え処理をする必要があると考えられますが,このような新たな論点が発生します。また,通知に関する知識や方式が十分に確立されなければ,要件を満たさない通知や,銀行が預金の承継について判断ができないような通知,―例えば戸籍や遺言等の判断材料が不足している通知だと思いますけれども―,が続出し,混乱を招く可能性もあります。したがって,対抗要件主義を採る場合には,方法等について具体的な手当てが必要と考えます。   ③は,最も問題と思われる点です。通知による対抗要件具備が難しければ,結局,受益相続人は銀行に承諾を求めてくることとなると思われます。これはすなわち,現行判例法理の下で銀行がリスクを負って,裁判所のように遺言や遺産分割協議書の真偽や,それらによる権利承継の帰結を判断するという役目を負わされます。すると,部会資料5に記されているように,債務者の過誤弁済の危険を減少させようとする立法目的が十分に果たされないということになりかねないと思います。   これは,窪田委員が第5回会議で指摘されたことと同じですけれども,したがって,対抗要件主義を相続預金について適用する場合には,通知方法を債権譲渡一般と比して明定することが必要となると考えられますし,相続財産の含まれる債権の多くが預金債権であることに照らせば,そのような特別な規律を置くことも合理性があると言えると考えます。   ④は,民法の定めにもある包括的な相続分の譲渡が行われ,その相続分譲渡証明書をエビデンスとして預金の払い戻しを求めるということが実務上まま見受けられるわけですが,そのような包括譲渡のときも個別債権について対抗要件具備を求めるかどうかという整理をお伺いしたいという趣旨です。   以上で,この資料に関する説明を終わらせていただきます。長時間御清聴いただき,ありがとうございました。 ○大村部会長 ありがとうございました。   事務当局からの説明に続きまして,浅田委員の方から,甲案,乙案のそれぞれにつきまして問題提起と,それから御提案を頂いたと理解しております。   それでは,今の事務当局と,それから浅田委員の御発言を踏まえまして,委員,幹事の方々の御意見を伺えればと存じます。いかがでございましょうか。 ○南部委員 ありがとうございます。甲案と乙案について意見を述べさせていただきます。   乙案に比べて甲案の方が,一般的に見ると,柔軟性があるように感じられます。例えば,乙案の場合ですと,先ほど浅田委員の御指摘もあった通り,一時的にお葬式の費用とか一時的な生活費などが必要なとき,すぐに預貯金が引き出せないという状況が考えられます。相続開始後に現金がすぐ必要になる場合も多くありますので,融通が利く方が使い勝手がよいかと思います。   乙案については仮払い制度が提案されておりますが,裁判所の申立てという手続は一般的に非常に困難だと感じております。一般の方にとって,一時的な費用がすぐ出せないということ,そして裁判所の申立てのような複雑な手続が必要になるということは,かなりハードルが高いように感じるため,仮払い制度をもし創設される場合には,スムーズに申請が行えるような仕組みに是非お願いしたいと思っております。   そして,これまでも申し上げてきたように,私たち一般の者が理解してすぐ使える制度に,よりよいものになるように,重ねて皆さんに御議論をお願いしたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○増田委員 前回の議論の中でも,可分債権といっても様々な種類があり,不法行為に基づく損害賠償債権や,いわゆる取り込みによる不当利得返還請求権などは分割の対象から除外すべきではないかという意見があったところです。私の方でも,検討した結果,やはり分割の対象とする必要性が高いのは金融機関に対する債権であろうということで,端的に預貯金債権のみを遺産分割の対象とするということでいかがかと考えました。   浅田委員からの紹介にもありましたが,民法改正法案466条の5では「預貯金債権」が定義されていて,他の債権と異なる取扱いができることが民法では初めて認められています。このことを踏まえますと,可分債権のうち預貯金債権だけを区別することも法技術的に不可能ではないだろうと思います。   理由ですが,まず,金融機関に対する預貯金債権は,一般市民の意識の中では現金とほぼ同視されている。つまり,常に引き出し得る,手元にあるものと同じような感覚があるということが挙げられます。金融機関に対する債権の中でも,預貯金債権以外の国債だとか投資信託などの金融商品については,判例上,不可分債権とされていて,預貯金債権だけが可分債権として当然分割という解釈が残っているという状況があります。   それから,除外すべきと思われる債権については,前回述べました不法行為や不当利得以外に,同族会社に対する貸付金債権といったようなものもあって,相続人間において,それを行使するかどうかについて利害が対立するものがかなりの程度あると考えられます。このようなものについて,例えば第2の一部分割ということで対応するとしても,他の相続人の法定相続分まで行使を認めるということになると,多数相続人の不利益になる場合も考えられると思います。   さらに,これら存否や額の見通しが立たない債権を遺産分割の対象に入れてくると,最終結果としての取得価額の予測可能性がないので,合意形成が困難になってきます。つまり,審判に行く前の調停での解決というのも,なかなか難しくなってくると思います。   それと,第2の一部分割での解決方法についてですが,不法行為や不当利得などの債権については,法定相続分に応じて権利を行使した者が全額を確保できるということでよいのではないかと考えます。前回の議論でもそういう話だったと思いますが,ここで一部の相続人が自分のリスクとコストでもって回収してきた債権について,更に具体的相続分による清算義務を認めることは,逆にかえって不公平なのではないかと考えられるわけです。   したがって,理論面からも,実務上の必要性という点からも,預貯金債権だけを遺産分割の対象として,その他の可分債権は従来どおり,合意があるものは対象に含めるとし,合意がなければ,それぞれの相続人の分割債権としての行使に任せるということでよいのではないかという意見を申し上げます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   先ほど南部委員からは,できれば甲案で考えていただきたいと,乙案の場合には仮払いが簡単に行われるような工夫をしていただきたいという御発言がありました。浅田委員からは,それに対応するような御提案もあったかと思います。さらに,皆様の方から御意見があれば伺いたいと思います。   それから,増田委員からは,遺産分割の対象に含める可分債権を仕分けて考える,預金債権に限るというのはいかがかという御提案がありました。これについては,いろいろな御意見があろうかと思います。いずれも含めまして,皆さんの御意見を頂ければと思います。 ○窪田委員 最後の点の増田委員から御発言があった点に関して,同じことを多分違う観点からお話しすることだけになるのではないかと思いますが,最終的な結論は,増田委員のお考えというのは十分あり得るのかなと思うのですが,今回,不法行為に基づく損害賠償請求債権,不当利得に基づく返還請求権に関しては,その存否及び額が必ずしも明確ではないことから別扱いとして,一部分割という形で後回しにするという御提案であったと思いますし,それでうまく対応できる場合もあるのだろうと思います。   ただ,私自身が以前から気になっておりましたのは,死亡事故における損害賠償請求権に関してです。特に死亡による損害賠償請求権と呼ばれているものは,本当にあれは遺産なのだろうかという点が大変気になっております。少し前置きが長くなってしまいますがが,以前からもう,この点について,理論的には説明がつかないのではないかということは,不法行為法学の世界では指摘されてきたのではないかと思います。ただ,死後の逸失利益というものを,そもそも死亡した被害者が取得して,それが相続されるということについては,説明はまったくつかないのだけれども,そうしないと金額が少なくなるしという実質的な理由も背景にあって,認められてきたのではないかと思います。そうだとすると,死亡後の逸失利益の相続については大変フィクションとしての性格が強く,本当に被相続人が自分で処分できるものを,その処分権の延長として何か相続されるんだという説明がうまく成り立たないのではないかなと感じておりました。   その意味で,今回の存否及び額が必ずしもはっきりしないのでというのとは違うレベルで,もっと本質的なレベルで,そもそも遺産分割の対象とされるべきではない損害賠償請求権があるのではないかなと考えておりました。   ただ,その上で,もう少し考えていたのですが,死亡による損害賠償請求権というのか,いや,死亡後の逸失利益も含めて,生前に全て金銭的評価される債権を取得しているのかというのは,説明の問題だという可能性もあります。どちらの説明も可能なのだとすると,死亡による損害賠償請求権だけを除外するというのは実はかなり難しくて,死亡による損害賠償請求権というのが定義,概念規定として,うまく機能しないのかなという気もしております。   その点では,大変困ったなと思っておりました。逆に言うと,不法行為に基づく損害賠償請求権を切り分けることができないのだとすると,やや乱暴なやり方なのかもしれないのですが,遺産分割の対象となる債権を預金債権に限定してしまうというのは,資産について分けるという意味では,比較的簡明な方法としてあり得るのかもしれないと感じました。現時点での,まだ十分考え抜いた考えではありませんが,増田委員の御提案というのは,その点では,一つのあり得る方法なのかなと思って伺っておりました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点に関連して,何か御発言ございますか。 ○山田委員 御発言がないので。   これまで不動産,他の分割対象財産の価額の調整,柔軟な解決を実現するために,預貯金等を遺産分割の対象に含めるということができたらということで検討してまいりました中,預貯金だけを切り分けることが立法技術的に難しいのではないかという思い込みもありまして,可分債権一般ということで議論してまいったところでございますけれども,改正民法の条項中にちょっと利用できるような定義規定があるということでございまして,債権法の方でそういうことであるならば,相続の民法改正の部分でも十分検討できるのではないかということで考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかに,いかがでございましょうか。 ○潮見委員 定見はないのですが,この問題は,甲案,乙案という形で,最終的にはまとめなければいけないと思いますけれども,どの観点を重視するかということをもう一度確認しておいた方がいいのではないかと思います。先ほどの合田関係官からの発言もありましたし,それ以外の方々もいろいろおっしゃっておりましたけれども,恐らくこの問題というのは,背後にある観点が三つぐらいあるのではないかと思います。   一つは,先ほどもありましたが,金銭債権,可分債権というものは,これは相続の場合に遺産に属すのであり,それは,共有あるいは共同帰属という状態がそこで認められているのであって,個々人に相続を理由として解体されるものではないという意識を重視すべきであるというものです。   二つ目は,これは浅田委員の今日の御発言にもございましたけれども,可分であるがゆえに債務者が過誤弁済をするというリスクがあるときに,その過誤弁済のリスクというものをいかにして回避あるいは最小化するかという観点というものがあろうかと思います。   三つ目には,これは前から言われていることですけれども,預金というものについては,あるいは預金以外もそうかもしれませんけれども,先ほどもどなたかおっしゃいましたが,増田委員ですかね,金銭と類似という意識があるから,そういう意味では,お財布代わりではありませんけれども,可分債権たる預金債権については,これは相続人の側から見ても,遺産分割を待たずに早期に払い戻しを受けたり,あるいは引き出したりしてもらえることについての利益があるというものです。   この三つの観点というものをどこまで重視して規律を設けていくのかということによって,甲案を採るのか,乙案を採るのか,さらには現行法で言っているような当然分割構成を採るのかというところの落としどころが決まってくるのではないかという感じがいたします。   窪田委員が直前におっしゃったことにも関わってきますし,基本的には同じようなことも考えているわけですけれども,考え方としては,今三つ申し上げたニーズというものが一番的確に反映できるのは,恐らく乙案ではなかろうかと思います。ただ,乙案の場合に,浅田メモにもございましたが,簡易な仮払い制度というものを本当にうまく組み立てることができるのかということについて,一抹の不安があります。ただ,これも預金というものの特殊性を考慮に入れて,特別なルールを立てることができるということであるのならば,それを前提とすれば,私は預金債権については乙案の方が基本的にはいいのではないかと思います。それ以外の金銭債権については,乙案をそのまま貫いていったらいいのかということに関しては,まだ若干,なおちゅうちょするところがございますので,また,もう少し部会もございますから,少し私自身も考えてみたいと思います。   甲案を支持するという御発言もございましたが,甲案を採った場合に,仮に浅田委員のPDFの6ページにあるようなケースをどう考えるのかという点を,お聞きしたいところがあります。ついでに申し訳ありません,浅田委員が長くしゃべったので,私も同じぐらいになるかもしれませんけれども,浅田委員御自身にむしろお伺いしたいのは,6ページのところで,仮に甲案を採った場合,浅田委員の考え方は乙案だというのはある程度分かりますけれども,仮に甲案を採った場合,PDFの6ページにある真ん中のケースで,甲案を採った場合に,40万円部分について払い戻しは求めることができないとした場合に,それにもかかわらず,40万円の弁済をある相続人が受けてしまった場合,例えばAが受けた場合には,その弁済は有効なのですか。478条の要件を満たさないと無効ですよね。そうではなくて,40万円を告知しないにもかかわらず払い戻すということ自体について,これはどうお考えなのか。それから,不当利得返還義務を負うといいますが,相続人が誰に対して不当利得返還義務を負うのかという点は,一体どうなるのか。それから,浅田メモでいうところの最初の問題提起といいますか,事案での発問というものは,銀行はB及びCに幾ら払い戻すべきかということでございましたが,この6ページのケースでいったら,Bは幾ら払い戻しを求めることができるのか,あるいは払い戻しを求めることができないのか。その辺りは一体どうなるんだろうというあたりがちょっと気になりました。   でも,これは私が気になったということでございますから,もし御教示いただければ有り難いという程度のものとして受け止めていただいても結構です。 ○大村部会長 潮見委員からは,この問題を検討する際の検討のポイントを御指摘を頂いた上で,甲乙両案のうちでは,基本的には乙案支持だというお考えをお述べいただきました。しかし,甲案を採るとした場合,浅田委員が示されている6ページの問題はどうなるのか。こうした問題が適切に解決できないのだとすると,なかなか甲案は難しいかもしれない。そういうニュアンスの発言だったと伺いましたけれども,浅田委員の方で何か補足説明はございますか。 ○浅田委員 まず前提ですけれども,甲案,乙案,どちらの支持なのかという立場については,現時点のところ,私の立場としてはどちらでもない,これは皆様の御議論を踏まえてということになると思います。   それで,甲案,6ページの提案の意図というのは,基本的には前回第2案でお示しした免責方式というものを一義的には意図しているということでありまして,要は免責後の処理というのは,相続人間ないしは実際に引き出した者との間で対応するものだということを考えております。ただ,それについては,なかなか難しいということでありましたので,違う方法を考えてみたものでして,飽くまでも次善の策ということであります。   ちなみに,別途御参照いただければと思いますけれども,直接的に免責を図るという法制度というのは,もちろん国によって全然法制度の基礎が違うわけですから,比較対象にはなりませんが,アメリカの一部の州においては,そういう支払があった場合には,例えば言葉とすると,コンスティチュート・コンプリート・リリースであるとか,銀行はノット・ライアブルとかいう規定文言にて,明確化するという制度があるということでございます。   いずれにしても,この6ページの趣旨でありますけれども,ちょっと潮見委員の問題が受け止められていないというところもありますけれども,40万円について支払を受けたという場合ですね。 ○潮見委員 はい。例えば,ATMとかで40万円をカードで払い戻してしまったと。もちろん,その場合には別の問題がありますけれども。 ○浅田委員 民法478条というのは,銀行の債務が弁済というかたちで免責されるかという規律です。それに加えて,今回は,仮にこの条文で免責が図れない部分について,本事例でいう相続人A,B,Cから権利主張が,その預金に関してできるかどうかという部分について,新たな立案によって,払戻しを求めることができないという規律を加えることを企図しています。   いろいろなアプローチ,やり方がある中で,こういう考え方もあるということで御提示しているわけで,別にこの方法にこだわっているというわけではありませんけれども,前回,民法478条がありながら,これに加え別途の追加的な免責を設けることは過重であり立法が難しいということであったので,この案を御提示したものです。すなわち,民法478条は置いておき,それに加えて,銀行が心配する部分について,今度は債権者の方から,又は潜在的な債権者の方から主張することができないという別のアプローチの立法方法により規定化すれば,478条とこの規定が合わさって,円滑な払い戻し手続ができるのではないかと,こういう着想でございます。 ○中田委員 先ほど潮見委員から,論点が三つあるという的確な御発言がありまして,その三つ,確かにそうだなと思います。更に付け加えるとしますと,取り分け金銭債権の場合には,債務者が無資力になるという危険がある,あるいは債権の価値が変動するという可能性がある。その中で権利保全あるいは回収の可能性を保護すべきではないかという論点が,もう一つあるのではないかと思います。   それから,更にもう一つ,預金契約について特別扱いするということの根底には,契約で何を作り出すことができるのかという問題があるのではないかと思います。例えば,預金の中でも,ここで念頭に置かれているのは普通預金が主だと思いますが,定期預金の場合はどうなのかという問題もあろうかと思います。ですので,潮見委員のおっしゃった3点に,重なるかもしれませんけれども,2点を付け加えてはどうかと思います。   その上で,一部の債権について別扱いにするという御提案が何人かの方からありまして,それは魅力的だと思いますが,別扱いするレベルを分割対象とするのかどうかというのと,それから行使を個々に認めるかどうかというのと,二つの問題があると思います。   私は,分割対象にするかどうかについては,これは一律にそうした方がいいのではないかと考えております。行使について区別するとすれば,区別の正当化の根拠を示す必要があるだろうと思います。預金についていうと,債務者が無資力になる危険が小さいということは言えると思います。不法行為に基づく損害賠償債権などに比べてですね。ただ,それでも一定額以上については,やはりその問題がありますので,完全に白か黒かということでもないのではないかと思います。   それから,潮見委員が問題提起されました,浅田委員の御意見の6ページの「甲案における相続開始後出金の規律のあり方」という論点,これは非常に実務的に重要な論点だと思います。ただ,この問題は,言わば,本来在るべきでない無権限者による払い戻しの問題でありまして,可分債権について分割対象にするかどうか,行使可能とするかどうかという本来の問題とは,少し次元が違うのではないかと思います。実務的な問題として重要なのはそうなんですが,制度設計の上では,ちょっと段階を区別して考えた方がいいのではないかと思います。 ○大村部会長 御指摘ありがとうございました。 ○堂薗幹事 いろいろ御指摘を頂きまして,ありがとうございました。   可分債権の中でも預金債権だけを遺産分割の対象とするということが考えられるのではないかという御指摘を頂きましたので,その点については,更に検討していきたいと思います。可分債権を遺産分割の対象にする趣旨でございますが,従前から言われているのは,可分債権の形成等に非常に寄与があるような相続人がいる場合に寄与分の調整ができない,あるいは,特別受益が非常に多いような場合もその調整ができなくて,相続人間の公平を図ることができないという点であり,それを解消する手段として可分債権を遺産分割の対象とするというところが大きいのかなと考えておりまして,仮にそう考えた場合に,預金債権だけに限定することについてうまく説明ができるかというところが気になっておりまして,特に預金を無断で誰かが引き出してしまった場合に生ずる不法行為に基づく損害賠償請求権や,不当利得返還請求権というのは,正に預金の価値代替物のような性質のものですので,その点について,元々の預金について寄与分がある場合にそれを考慮できないとか,あるいは,遺産が元々は預金ぐらいしかなくて,それが引き出されてしまった場合に特別受益が考慮できないとか,そういった問題が生じるのではないかと思います。   確かに,債権法改正で預貯金債権については定義付け等もされておりますので,法技術的には別に取り扱うということは可能であると思いますが,この問題を取り扱うに当たって,その辺りについて,どのように考えるべきかという問題があるように思いますので,その点についても御意見を賜れればと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○窪田委員 1点,堂薗幹事に確認させていただきたいのですが,第2のところにも出てきたのですが,今の御説明の中にも,預金債権とか可分債権について貢献した者があった場合にということで,寄与分を特定の財産との関係で位置付けられているのかなという御説明がありました。後ろの方でも,そうした説明があり,ちょっと気になってはいたのですが,その点については,その前提自体が多分,完全には共有されていないのではないかという気がいたしました。その点だけちょっと確認させていただけたらと思います。 ○堂薗幹事 その点については,この部会資料の説明もやや不十分なところがあるのではないかと思っているんですが,基本的には寄与分は,特にそれぞれ個別の財産についての寄与ということではなくて,全体財産の形成について寄与があったというところで見るんだろうとは思うんですけれども,ただ,例えば,争いとなっている債権が遺産に含まれれば寄与分は認められるけれども,仮に遺産に含まれない場合には,そのほかの財産の形成には何ら寄与がないという場合も例外的にはあるのではないかと。そういった場合は,一部分割でその財産を取り除いて分割をした場合には,寄与分は考慮されないことになりますが,その争いになっている財産について,それが遺産と認められれば寄与分は認められるという場合は,やはり例外的にはあるのではないかというところでございまして,必ずしも特定の財産についての寄与がないと寄与分が認められないということを考えているわけではございません。 ○大村部会長 窪田委員の今の御発言は,第2の一部分割の規律に際して,特別受益と,それから寄与分をどう扱うかというのに関わっていると思います。   今の点以外も含めまして,何かその点につきまして御意見がありましたら,頂きたいと思いますが,いかがでしょうか。 ○石井幹事 今,窪田委員から御指摘を頂いたところにつきましては,私も同様の認識を持っております。特に療養看護型の寄与分が主張された場合には,通常,遺産全体に対する寄与が問題になると思われますので,一部分割の対象となる遺産に対する寄与とそれ以外の財産に対する寄与とに切り分けて考えていくというのは,なかなか難しいのかなという印象を持っております。   それから,もう一点,やや技術的なことになりますけれども,一部分割の審判の中で考慮することができた特別受益を残部分割で考慮することを制限するという御提案も頂いております。しかし,現状の仕組みを前提としますと,遺産分割の審判の中で,当該審判において考慮できた特別受益の額や内容が明確な形で示されるわけでは必ずしもありません。この点については調停に代わる審判の場合に特に問題になるのかもしれませんけれども,もし御提案のような形で手続を仕組むということになりますと,一部分割の審判の中で当該審判において考慮できた特別受益の額や内容が明確な形で示されるような立法的な手当てを検討していただく必要もあるのではないかなと考えております。 ○堂薗幹事 御指摘の点はこちらもそのとおりだと思います。ですから,第2の④の寄与分のところは,このような形で書いておりますが,基本的には,一部分割の方で通常は考慮されることになるのだろうと思います。療養看護型の寄与につきましては,一部分割の対象財産よりもその寄与分の額が大きいというのは通常考えられないと思いますので,逆に言うと,一部分割の対象財産よりも寄与分の額が大きいような場合は,むしろ一部分割すべきでないということになるのではないかと思います。したがって,基本的には,寄与分については一部分割の中で全て評価がされ,したがって,残部分割の方では考慮する必要はないのではないかと。   同様に,特別受益につきましても,基本的には,②の㋑は例外的な場合であり,通常は超過特別受益がない限りは,一部分割のところで全て評価されるということであるとしますと,一部分割の審判において,それぞれの相続人に少なくとも一定額の財産が分配されているという場合には,それをもって超過特別受益はないという取扱いをすることもできるのではないかと考えており,こういった形で,第2のところで一部分割の要件を明確化する,あるいは残余分割において,どういう計算でそれをやったらいいかというところを明確にすることによって,基本的には特別受益も寄与分も,ほとんどの場合は,むしろ考慮しなくてよくなるのではないかと思います。   そうしますと,基本的には,残部の債権があるとしても,その残部の債権については法定相続分で分配をすれば足りるということになりますので,こういった規律を明確化することによって,結果的に一部分割をせずに,すなわち,争いがある財産についても,法定相続分に従って分けますと,裁判所で認定された額を法定相続分で分けますという取扱いをすることが可能になってくるのではないかということで,この第2のところは提案させていただいているところです。 ○潮見委員 ちょっと進行上のことだけなんですが,もう第2の論点に入っているということですか。堂薗幹事が先ほどおっしゃったのは,むしろ第1のところで,預金債権以外のほかの金銭債権,可分債権も同じように扱うべきだということで,寄与分だとか特別受益の話をされたと。第1の方もまだ残っている…… ○大村部会長 もちろん,第1についてはもう終わったというわけではありません。 ○潮見委員 分かりました。 ○大村部会長 それでは,潮見委員,御発言があれば。 ○潮見委員 あることはあるんですけれども,対抗要件の方なんですけれども。そうでなければ…… ○大村部会長 増田委員,浅田委員は,今の御議論との関係での御発言ですか。 ○増田委員 私は,堂薗幹事が問題提起された話に対してです。 ○大村部会長 浅田委員の御発言の内容は。 ○浅田委員 乙案に関する質問です。 ○大村部会長 そうですか。それでは,増田委員からまず御発言を頂きまして,それから潮見委員,浅田委員という順番で御発言をと思います。 ○増田委員 堂薗幹事の疑問について,必ずしも回答になっているかどうか分からないんですが,基本的に遺産分割というのは,遺産として認識されている,要するに被相続人が持っていたことについて,ある程度共通の基盤に立ったものについてなされるというのが,非訟的な解決になじむのではないかと考えるところでして,預貯金というのは,それは恐らく,被相続人が有していたことについて争いがないものであろうし,それについて,特別受益や寄与分などの判断を入れていって具体的相続分を決めていくということは,それはそれで望ましいことではないかと考えているわけですが,一旦,被相続人の生前に取り込みが起こったということで,それが不当利得だということになると,全く紛争類型が異なってくる。つまり,相続人間の債権債務として,それは対立する相続人間で決着を付けるべき,要するに裁判上の紛争として決着を付けるべき事柄になってくるので,訴訟的解決の方がむしろ望ましいのではないかと思われるわけです。   ただ,言われるように,特別受益性について争いがなくて,それについて,特別受益であるという処理を全ての共同相続人が合意できるのであれば,それは遺産分割の中に従来と同じで取り込んでいいことだけれども,紛争性が残る以上は,最終的には訴訟で解決すべき事柄ではないかと考えられます。もちろん死後の取り込みは,これは当然,いかなる意味でも遺産ではないわけですから,やはり訴訟的解決になろうかと思います。 ○堂薗幹事 御指摘はよく分かりますが,ただ,相続人間で争いがあると,正に遺産の該当性について争いがあるということで,当然遺産分割でも,可分債権以外の財産については,遺産該当性について争いがあれば,訴訟で決着を付けた上で遺産分割をするということでございますので,今御指摘を頂いたような理由で説明が付くのかという点については疑問もあるように思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   それでは,御検討を頂くということにします。潮見委員,どうぞ。 ○潮見委員 全く違う論点で申し訳ありません。対抗要件のところ,1ページ目の,甲案でも乙案でも⑥と⑦になるんですけれども,簡単な確認のお尋ねが二つと,それから,こういうことではどうですかというのが一つです。   お尋ねの一つは,これは本当に形式的なことですけれども,⑦のところで,⑥の対抗要件はといろいろ書いておられますよね。⑥のところに戻りますと,対抗要件が備えられなければ債務者はその他の第三者に対抗することができないと。この枠組み自体は,部会資料の確か5だったと思いますけれども,債務者対抗要件と第三者対抗要件とは基本的に分けて考えるという意味で理解していいんでしょうね。債権関係部会の部会資料では出ていましたが,今回そこは出ておりませんでしたので,ちょっとだけ確認のための質問です。   そうなると,⑦の,⑥の対抗要件は相続人全員が債務者に通知をし,又は債務者が承諾をすることにより具備されることとするというのは,これは債務者対抗要件に類するものについては,類するといいますか,そちらは単なる通知承諾でよろしいと。その代わり,こういう場合に,甲案,乙案,いずれにしても,第三者との関係での対抗要件については,確定日付ある証書,しかも全員が証書の中で通知をするという形をとらなければいけないということなのでしょうか。これが1点目の簡単な確認です。   それから,二つ目の簡単な確認は,債務者が承諾をする場合ですが,これは,相続人全員に対して承諾をするということをイメージされているのでしょうか。相続人全員が債務者に通知をし,こちらは「全員が通知を」と書かれているのですが,その後のは,債務者が承諾をするとさらっと書いておられるものですから,やはりこれは全員に対してですよねという,そういう趣旨をここに入れておられるのかという確認です。   それから,三つ目は,こういうのはどうですかということですけれども,これは浅田委員のメモにもありましたが,例えば遺産分割調停が調って調停証書が作られたような場合には,別に先ほどのような確定日付ある証書だ何だとか,あるいはこういう⑥とか⑦という,この仕組みにきちんとのせる必要があるのだろうかと。遺言の場合には,浅田委員のメモにはありましたが,若干私は首をかしげるところがありますが,せめてそういう分割調停の辺りのところについては少し,公的といいますか,法的に確認されたような文書でございますから,別扱いを考える必要もあるのではないかという感じがしたと,いかがでしょうかということです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   御質問2点と,それに対する回答を想起されて,御提案を頂いたと思いますが,事務当局の方で。 ○堂薗幹事 まず,最初の御質問の点ですが,これは御指摘のとおり,今回の部会資料で,第三者のところの書き方がやや不正確だと思いますが,第三者については,確定日付ある通知又は承諾を要するという前提でございます。したがって,⑦では,債務者に対する通知を誰が行うかというところについて特則を設けるという趣旨でございまして,そういった意味では,対第三者との関係でもこの⑦の規律は及ぶんですが,ただ,いずれにしても確定日付ある証書で行う必要があるということです。 ○潮見委員 承諾の方はどうですか。 ○堂薗幹事 承諾も含めてです。 ○潮見委員 全員に対して。そこは違いますか。 ○堂薗幹事 承諾の相手方ですが,同じ一つの債権を複数の債権者が取得した場合については,まだ十分詰められていませんが,基本的には,遺産分割でその債権を取得した当該債権者に対して承諾をすれば足りるのではないかというのが現段階での整理です。もっとも,債権者が複数いる場合にそれでいいかどうかという点は,更に検討したいと思います。   それから,調停などが成立した場合ですけれども,これは遺産分割のときも含めて,こういう形で規律を設ける場合は,例えば遺産分割のときも,その意思表示の擬制を遺産分割の審判の中でしてもらうと。家事事件手続法の給付命令を利用するといった方法で,通知をしたことを擬制して,その審判に持って行けば,全員の通知があったという取扱いができるような仕組みを考える必要があるのではないかと思っております。 ○大村部会長 今の関連でですか。 ○窪田委員 すみません。今の関連で,もう少しだけ確認をさせていただきたいのですが,審判のお話がありましたけれども,遺産分割協議が成立した場合の協議書でも同じことが言えるのかということと,もう一つ,先ほどの潮見委員からの御質問にもその点が含まれていたのだろうと思いますが,その場合に,遺産分割によって法定相続分を超える部分を取得したということと,それに対抗するという問題を2段階で構成しなければいけないのか,遺産分割によってこれこれのものを取得したということで,その権限を示して行使しているのだとすると,遺産分割協議書なり審判書を示す,そして,その中で更に債権譲渡についての意思表示を見いだすなどという2段階をとらなくてもいいのかなという気もします。逆に言うと,そこの2段階にこだわる理由は何なんだろうということをお聞きしたいと思います。 ○堂薗幹事 すみません,2段階というのは。 ○窪田委員 つまり,遺産分割によって権利の所属が決まるわけですよね。なおかつ,⑦の方では全員による,それによる変動に関しての通知が必要だと,これが対抗要件だとしているわけです。遺産分割の審判書があるとすれば,その中で債権譲渡の通知に相当するものを見いだすというか,読み込むということだったのですが,遺産分割協議によって最終的な債権の帰属がはっきりしたわけですから,その証拠をもって,自分が権利者であるということを言えばいいだけではないのかなという気もしたものですから,遺産分割による権利の確定ということと対抗ということを本当に2段階に分けなければいけないのかどうかということの理由をお聞きしたかったということです。そのことをお聞きしている背景には,先ほど浅田委員からも御指摘あったと思うのですが,債権譲渡に関しての通知承諾という枠組みを使いますと,通知だけではなくて承諾が入ってくるのですが,本当にそれが適切なのかなということもあって御質問している次第です。 ○堂薗幹事 基本的には,債権譲渡とパラレルの方が分かりやすいかなという程度のものなんですが,例えば遺産分割協議書を持って行けば,それで債務者にも対抗できるというような形にした場合に,対抗要件として必要な遺産分割協議書というのはどういったものになるのかといった辺りについて,きちんと整理をする必要が出てくるのではないかと。   ただ,御指摘のように,遺産分割の場面で,通常の債権譲渡の枠組みを使って債務者対抗要件を考えることが本当に妥当なのかというところはあるかと思いますので,遺産分割の場面に限って,こういったものを示せば債務者にも対抗できるという仕組みを作るというのは十分考えられるのではないかと思います。   それから,遺産分割協議の場合も,基本的には協議ですので,その協議が成立する際に,それぞれ他の相続人から通知についての委任を受けるなり何なりをして,併せて通知をするということが,協議の場合は可能になるのではないかと。それに対して,審判の場合はなかなか協力が得られないという場合があるので,先ほど申し上げたような,審判書の中で通知を擬制してそれを送れば,それで対抗要件が具備したことになるという取扱いをする必要があるのではないかというところでございます。 ○窪田委員 ちょっと1点だけ。遺産分割協議書の場合であっても,遺産分割協議書には相続人全員の署名捺印があるわけですよね,それを示す以外に,通知について,委託を受けてという構成が本当に必要なのだろうかという点はちょっと気になりました。それだけです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   その点は更に御検討いただくということにいたしまして,浅田委員の方からも御発言があるということでしたが。 ○浅田委員 乙案の御解説に関する質問でございます。3ページになります。   甲案,乙案,繰り返しになりますけれども,銀行界ではいろいろな意見がありまして,まだ決めかねているというところでありますし,またパブ・コメ等を含めて,いろいろな意見を受け入れた上で決定されるべきことだと思います。繰り返しになりますけれども,乙案について,ここで断念するというのはまだ早いという観点からの質問なのですけれども,まず1点目です。   部会資料の2(2)の1段落目の最後に,「仮に可分債権については乙案を採りつつ,その余の遺産については従前と同様の取扱いをする場合には,その理論的整合性をどのように説明することが可能かという問題がある」と記されています。しかし,乙案は,可分債権が可分であることは維持しつつ,単に遺産分割成立までは各相続人の権利行使を禁止するものですから,やはり可分債権についても,理論的には従前と同様というレベルではないでしょうか。それは,第5回会議において堂薗幹事より,債権者の相殺や差押えは現行判例法理同様に可能であると述べたことからも明らかだと思います。したがって,理論的整合性の点から問題があるという点はどういう趣旨であるのかということを今一度,整理のためにお伺いしたいと存じます。   二つ目でございますけれども,同じく2(2)の(注)には,「現行の判例実務によれば,可分債権は,相続開始と同時に当然に法定相続分に応じて分割され,不動産等の遺産とは異なり,遺産分割前の権利行使に何らの制約もないのに対し,乙案を採った場合には,不動産等の遺産よりも,権利行使につき重い制約が課されることとなるが,この点を正当化することができるかという問題もある。」とございます。しかしながら,重い制約というのは,必ずしも当たらないのではないかと感じているところでございます。   従前から私が指摘していますとおり,相続財産に含まれる金融資産のうち代表的なものと言える株式,投資信託受益権,個人向け国債については,いずれも判例により,共同相続されたときは相続人間の準共有になり,相続人個別の権利行使は許されていないとされています。また,先ほど申し上げたとおり,判例によれば,預金の中にも当然分割されない部分もあります。そういたしますと,可分債権,その代表たる預金について,権利行使について重い制約が課されるというのは,制度の評価としては必ずしも妥当しないのではないかとも考えますけれども,この点について御説明を頂ければと思います。 ○堂薗幹事 まず,御質問のあった理論的整合性の点でございますが,これについては,乙案は必ずしも合有説を採るというものではありませんで,今御指摘を頂きましたように,本来的には当然分割される可分債権であると。したがって,本来は権利行使可能なんだけれども,相続の場面では政策的に権利行使を原則として認めませんというような説明をすることは可能なんだろうと思います。   ただ,結果として,合有説を採った場合とほぼ同様の取扱いをするということになりますので,可分債権以外の財産ではそのような考え方を採らないにもかかわらず,可分債権についてだけ本来権利行使可能なものについてそれを否定するのか,どういう理由で違いを設けたのかという点については,やはり説明ができないと,なかなか法制上は難しい面があるのではないかというところでございます。   それから,(注)の点につきましては,これは飽くまで現行の実務における取扱いとの違いを記載したという趣旨でございまして,権利行使の容易性という観点からいうと,現行は不動産等の遺産,もちろん不可分債権もあるではないかという御指摘はそのとおりかと思いますが,例えば不動産と比較した場合に,現行法は可分債権の方が権利行使がしやすいのに対しまして,乙案を採った場合には,それが逆転しますので,変化としては甲案を採るよりも急激な変化になるという趣旨でございまして,この点は特に理論上の問題というわけではありません。   ただ,乙案を採りますと,やはり原則的には権利行使は禁止されるということになりますので,仮払いの制度を設けたとしても,やはり権利行使が難しくなる面は出てくるのではないかと。それは,生活費等で必要な場合ですとか,葬式費用とか,そういったものについては払戻しができるとしても,例えば,相続人間で遺産に関する紛争があって,弁護士を頼む際の費用などについて仮払いができるかとか,そういったいろいろ問題が生じてきまして,やはり甲案に比べますと,融通が利かないという問題があるのではないかということで,なかなか乙案はハードルが高いなという趣旨でございます。 ○大村部会長 浅田委員,よろしゅうございますか。 ○浅田委員 いろいろな問題があるということは当然ありますけれども,パブ・コメ等に記載される場合には,評価ということについては正確に書いていただいた方がよろしいかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○沖野委員 第1について,3点を申し上げたいと思います。1点目は,対抗要件と言われる問題について,先ほど窪田委員が,承諾を入れることはどうなのかという疑問を呈されました。その問題がどこにあるのかというのをもう少し説明しておいていただくと,今後のためにいいのではないかと思います。これはむしろ窪田委員に質問になります。   あるいは,第1,甲案の⑥,⑦というのは,基本的に遺産分割によって法定相続分を超える割合を取得したということを,ある程度公的なというか,書面等によって示せればいいのであって,債権譲渡の対抗要件にのせるということ自体が,債務者との関係では必要ないと。それ以外の第三者との関係では,一般の対抗の問題だけれども,ということであるのか,あるいはそうではないところに,むしろ承諾ということに問題があるのかというのをお聞かせいただければと思うというのが第1点目です。   2点目,3点目は,違うところですけれども,一通り申し上げてもよろしいでしょうか。   それから,預金の別扱いというアイデアについて,これは非常に魅力的なアイデアだと感じております。その別扱いの意味ですけれども,先ほど堂園幹事が,別扱いとするという点について,預金については分割対象に含めてくるという意味での別扱いと言われたかと思います。中田委員からは,分割対象とするかということと,行使の方法をどうするかの区別が指摘されました。さらには免責をどうするかという問題も少し分けて考えられるのかなと思っております。仮に預金を特別な扱いをするとしても,どの部分でかというのは,もう一つ考える余地があると思います。   既に議論の中で明らかになっていると思いますけれども,一つの考え方は堂園幹事が言われたような考え方だと思いますけれども,むしろ免責ですとか行使方法,特に免責のところで別扱いをするという考え方も十分あるのかなと思っておりまして,取り分け,潮見委員がおっしゃったことですけれども,預金の現金類似性というものですとか,それと関連するのかもしれませんけれども,特に普通預金のような場合,あるいは定期も実質的にはそうかもしれませんが,要求払いで大量処理をせざるを得ないというような性格というものをどう見るかというのは,むしろ免責の方につながってくるのではないかと思います。私自身は,対象とするよりは,行使とか免責の方で特別扱いをするという方が,他の貸金ですとか,いろいろなものを考えたときには,適切ではないかと思っております。   3点目が,これも潮見委員が浅田委員への御質問という形で言われた,浅田委員のパワーポイントの6ページについてです。御議論の中で,潮見委員,中田委員から,無権限の払い戻しの問題なので,そういう問題として別扱いで考えるべきではないかという御指摘がありました。   確かに無権限でなく,権限がある者で払い戻していれば問題はない,だけれども,権限者なのか無権限なのか分からないということから,債務者の安定性というか,安心して払い戻しに応じられるというのをどう確保するかという問題ではあると思います。無権限の問題ではあると思いますけれども,ここでは,潮見委員が御指摘になった,可分ゆえの過誤払いに代表される債務者のリスクの回避,減少ということを考えますと,ここで,相続によって法律上当然の可分になるということに伴うリスク減少というものをどう考えるかという点からは,やはり相続の場合に特有の問題として考えるということではあるのだと思います。   それで,ちょっと細かいことですけれども,この6ページで,一体どうなっているのだろうかということをつらつらと考えていたんですけれども,暫定的な御提案なので,それの法律構成がどうなるのかということを考えることは余り意味がないのかもしれませんけれども,浅田委員のような御説明や御提案になりますと,相続開始の事実を債務者に告知するまでは相続によって可分債権になっているということを主張できないという構成であり,しかも,プラスアルファとして,その告知がされるまでの間に引き出されたものについては適切な管理者によって引き出されたものと推定するというようなことが絡んで構成されることになるのではないかと理解しております。告知された後は可分になっていますので,残りの部分は推定が及ばないので,20万円について法定相続分に応じて払うというようなことになり,推定を崩すためには,無権限者に対して第三者に払い戻しましたというような話をしていくと。しかも,相続人間では一種の権限みたいなものが更に推定されていると,そういうような構造かと思います。その理解が正しいとしますと,こうやって説明していきますと,かなり特殊な,かつ478条から,かなり超えた保護だという感じがします。それが相続によって法律上当然に可分になっていることに伴って債務者が不安定になるということだけで十分に説明できるかというと,やはり預金だから,取り分け要求払いで普通で大量でというようなものだからこそということではないかと考えまして,これが本当に実務上,非常に必要であって,これに類する規律を入れるとすると,やはりこの部分を預金ゆえの特殊性ということで持ってくることになるのではないかと感じております。 ○大村部会長 ありがとうございます。預金について,幾つかのレベルで特別扱いをするかしないか考える余地があるだろうということで,具体的な御指摘を頂いたと思っております。   何か関連でございますか。 ○窪田委員 先ほどのことを多分,繰り返すだけにはなるのだろうと思うのですが,債務者が承諾するということに関して,私が若干違和感を持ちましたのは,一つは結局,通常の債権譲渡と違って,このケースというのは,そもそも誰が譲渡者かも分からないということを前提として,相続人全員と言っているのではないかということです。その状況において,債務者の方が,その譲渡について承諾しましたというのは,何か場面として想定しにくいような気がします。   つまり,遺産分割協議書は全然知らないのだけれども,これは何となく承諾したというものを考えるのだとすると,これは浅田委員から御指摘があった点ですが,例えば,支払側に大変にリスクを負わせることになるのだろうと思います。結局そこで問題になっているのは,遺産分割協議が適正に成立しているかどうかということだけなのだとすると,わざわざ2段階で対抗要件という考え方を持ってきて,なおかつそこでも,通知だけではなくて,承諾というのも一方であるからということまで用いなくてもいいのではないかなというのが先ほどの御質問の趣旨でした。 ○堂薗幹事 実は今の点に若干関連するんですが,遺産分割の場面での通知にしましても,結局,通常の債権譲渡の場合は,債務者は譲渡人が誰かというのを分かっているのに対しまして,ですから,自分が認識している譲渡人から通知があれば,それは払っていいんだなということになるのに対しまして,遺産分割の場面では,相続人らしき人から通知が来ても,本当にその人が相続人なのか分からないというところが問題ではないかと感じておりまして,ですから,先ほどの過誤払いの点とも関連するんですが,こういった相続包括承継の場面では,当然債務者は誰が相続人かというところも含めて分からないので,少なくとも被相続人が死亡したことと,その相続人の範囲が分かる資料については債務者の方に提出しなければいけないというような規律を設けるということも考えられるのかなというような印象も持っておりまして,その辺りも含めて,更に検討したいとは思います。   浅田委員が資料の6ページで提起されている問題については,今のような,相続人の範囲を明確にする義務のようなものを契約上盛り込むことができるのであれば,あえて免責とか,そういうことに踏み込まなくても,それに対する義務違反の効果として解決するという方法もあるのではないかということも考えているところでございますので,その辺りも含めて,更に何か御意見があれば,お聞かせいただきたいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点に関連する御発言があれば,まず伺います。 ○浅田委員 先ほどの堂薗幹事の最後のところで,いろいろな考え方があると,その中に契約的な構成ということの解決法もちょっとあるということで,非常に私自身も魅力的な話ではあります。   ただ,御説明しておきますと,銀行の預金約款において,例えば,死亡時においてどうなるということについては明確な定めはございません。なぜならば,それは約款自体が,死亡したときに相続人に承継されるかどうかということについては余りはっきりしていないからであります。   もっとも,今回お配りした資料,他国の制度を見ますと,どうやら,例えば韓国とかドイツとかというのは,一部承継するという判例ないしは制度というのがあるようでありまして,そういう契約の承継ということが理論的に確立されているのであれば,そういう預金約款の手当てによって,一定のこの問題の解決が図れるのかなとは思っております。ただ,我が国では,現状の解釈状況,学説等の議論の状況において,契約により解決が図れるかというのは,私は,なお検討作業が必要なのかなとも思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   第1の論点,それから第2の論点も含めまして,ほかに御発言があれば承りたいと思います。   事務当局の方から,この点はいかがかという御質問などがございましたら,どうぞ。 ○森委員 一部分割について質問があります。御提案になっている一部分割というのは,分割対象以外にも遺産があるかどうか分からない状態で行われ,後日,残余の遺産が判明したという場合の当初の分割を指しているのでしょうか。それとも,あらかじめ分割対象以外の遺産があることが分かった上で行われる分割を指すのでしょうか。いずれの場合でも,審判や調停の場面で,分割対象以外に今回分割すべき遺産はないということで事件を終局させることは可能なのでしょうか。その辺はどのようにイメージしておられるのかという点について,ちょっと質問したいんですが。 ○堂薗幹事 基本的には,ここで念頭に置いているのは,遺産性に争いがある場合に,争いがあるもの以外の財産を対象として一部分割をするというものでございますので,結果として遺産性に争いがあるものについて,遺産ではなかったということになると,本来的には一部でなかったことにはなりますが,ここで念頭に置いているのはそういったものです。   ただ,必ずしもそれに限定する必要はないのではないかというところがありまして,ここの要件は例示を挙げていることからいろいろ書いているように見えますが,実質的には,一部分割をする必要性があって相当と認めるときということしか書いていませんので,基本的にはその点について裁判所に判断をしていただくという前提でございます。 ○森委員 典型的な調停条項を想像していただくと,まず,相続人は誰々であるということを第1項にうたいます。第2項では別紙遺産目録を引用して,本件遺産分割の対象を確認します。第3項以降では分割方法等を取り決め,最終項では第1項でうたった相続人間において第2項で確認した遺産に関する一切の分割が完了したという文言を入れて当該事件全部を終局させるんですね。これとの対比で考えた場合に,御提案の一部分割をするときは,分割対象とされていない残部の存在が前提とされているということなのでしょうか。 ○堂薗幹事 ここでは基本的に,民訴の一部請求,残部請求と似たようなところを考えておりまして,要するに一部分割だと,当事者がそういう前提で,あるいは裁判所の方で,そういう前提で行う場合を念頭に置いておりまして,だから,結果として,後から遺産が実はあったとか,そういったものは,ここでいう一部分割では当然ありませんし,争いがあるものについて明確に除外する,要するに,一部分割のところで対象とされていない財産,それが最終的に認められるかどうかは別にして,そういった残余財産があるという前提で行うものを想定しております。したがって,通常の場合は,遺産分割の審判のところで対象財産が書いてあれば,基本的にはそれが全部なんだろうという趣旨で,基本的にはされていると思いますし,仮に後から遺産が見付かった場合の処理についても,もちろん規定として置く場合はあるのかもしれませんが,ここで言う一部分割は,明確に,まだ遺産分割の対象とされていない財産があると,もちろん,最終的に訴訟で認められない場合は,ないことになりますが,それを除きますと,基本的には,遺産分割の対象がまだ残っているということを認識した上で行うものを想定しているということでございます。 ○大村部会長 森委員,よろしゅうございますか。 ○森委員 はい。 ○垣内幹事 すみません,これは全く理解のための基礎的な質問なんですけれども,現在の実務における一部分割というものについても,必ずしもよく理解が及んでおりませんので,第2のところで想定されている規律のイメージについて,ちょっと確認させていただきたいと思います。   あるいは,今の森委員の御発言にも若干関係するのかもしれませんけれども,ここで想定されている,私の質問の対象は遺産分割の審判についてですけれども,一部分割の審判というものがあった場合には,その遺産分割手続はそれによって終了するということなのか。それとも,訴訟の場合の一部判決ですと,残部については当然訴訟が係属しておりますので,残部について引き続き審理を遂げて判決をするということになるかと思うんですけれども,今の御説明で,残部があることを意識しつつする分割であるという場合には,手続としては,残部についてなお係属していくということを想定されていらっしゃるのか,それとも一応,全体についての終局的な審判だということなのかということについて,確認のためにお教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 そこは一応,考え方としては両方あるんだろうと思いますが,一応こちらとしては,遺産分割事件があった場合に,一部だけ除外して遺産分割をすることができ,それによって当該事件は基本的には終了すると。したがって,残部について更に必要があれば,再度申立てをしてもらうということを想定はしております。 ○大村部会長 垣内幹事,よろしいですか。 ○垣内幹事 はい,ありがとうございます。 ○大村部会長 そのほか,この第2について,いかがでございますか。 ○増田委員 先ほど第1のところで一緒に話してしまったことと若干重複するんですけれども,預貯金以外の可分債権が除外された場合に,一部の相続人のみが自己の法定相続分だけを行使した時も,具体的相続分による調整を働かせるという提案に,第1と併せて読むと,そう読めるんですが,そういう趣旨でいいのかどうか。つまり,自分が自分の分を,自らのコストとリスクの下で回収してきたものについて,他の相続人が,場合によってはただ乗りすることが許されるのかどうかと。その辺りについてお伺いしたい。 ○堂薗幹事 まず,権利行使については,第1の②のところで書いてありますように,基本的には,遺産分割前は法定相続分でしかできないということになりますので,実際に弁済の受領行為などについては法定相続分の範囲内でないとできないと。ただ,債権についての遺産該当性について争いがあるということに通常なりますので,存否及び額について争いがあるということになりますので,相続人がその債権の法定相続分を超える部分についても,少なくとも債権存在の確認請求,通常で言う遺産確認請求に匹敵するものだと思いますが,そういったものは認める必要があるのではないかと。そういった形で,全体の債権として幾らあるかということが分かった場合には,それに基づいて具体的相続分が算定されるということになりますので,そうすると,債権の存否及び額については,全ての相続人が利害関係を有するということになりますので,仮に,遺産確認請求について,第三者を相手方とする場合も固有必要的共同訴訟だと考えるのであれば,そこは同じような規律になるのかなと考えておりますが,正直なところ,ちょっとその辺りは,まだ十分に詰めた検討はできていないというところでございます。 ○増田委員 今のが遺産確認だとするならば,恐らくは債務者と全相続人とを含めた固有必要的共同訴訟になるのではないかなと推測いたしますが,そうではなくて,私が質問したのは,給付訴訟をして自分の相続分,法定相続分だけを回収してきた場合の処理について質問したということなんですけれども。 ○堂薗幹事 いや,そこは,この第1のところで書いてある処理をするということになりますので,基本的には,実際に法定相続分に相当する部分は回収できるわけですが,仮に残部の遺産分割において,特別受益なり寄与分で調整しなければいけないというときには,場合によっては,第1の⑤で書いてあるような債務を負担させる方法での遺産分割もあり得るということにはなると思います。   ただ,先ほども申し上げましたように,この第2のような規律を前提にすると,原則として,残部分割においては特別受益も寄与分も考慮しなくてもいいという場合が,事案としてはほとんどではないかと思いますので,仮にそうだとすると,結果としては,法定相続分で残部の債権については分割していいということになりますので,その場合は,他の相続人とは無関係に,自分の法定相続分に相当するものだけ取得して,権利行使すればいいということで,個別に対応が可能になるのではないかということでございます。 ○窪田委員 すみません,周辺的な事柄になると思うのですが,1点だけ御質問させてください。後ろの方にも出てくることなのかもしれないのですが,遺言があった場合に,例えば相続分の指定の遺言があった場合,あるいは,ある預金債権については全てAに相続させるものとするという,いわば分割方法の指定があった場合については,現在の考え方でいうと,それが相続分指定を伴うものだったとすると,法定相続分との関係でも置き換わるのではないかという問題,あるいは分割方法の指定があったとすると,そもそも遺産分割の対象とならずに直接帰属するといったようなことがあるのですが,その点,何か御検討されている部分があったら,少し教えていただけますでしょうか。ひょっとすると,第1の部分に戻ってしまうのかもしれないと思うのですが。 ○堂薗幹事 対抗要件との関係でしょうか。そうではなくて。 ○窪田委員 そうではなくて,単純に相続分の指定や分割方法の指定があった場合に,第1のところで示された規律はどうなるのかなという点が,少し気になったものですから。 ○堂薗幹事 そこは,例えば相続分の指定であれば,相続分の指定を前提に,具体的相続分は算定することになると思いますし,特定の財産について遺産分割方法の指定がされた場合は,その分割方法の趣旨が,その余の財産について法定相続分で分けるという趣旨なのか,あるいは,この財産は相続人Aに渡すけれども,全体としては法定相続分で取得させるという趣旨なのかによって変わってくるのではないかと。 ○窪田委員 すごく単純で,まず甲案の方を前提とすると,相続分の指定があったときに,法定相続分に応じてというのは指定相続分に変わるのですかという疑問と,乙案の方に関しては,可分債権を遺産分割の対象に含めるものとして,遺産分割が終了するまでは行使できないとするわけですが,当該預金債権についてはAに相続させるものとするという遺言があった場合にはどうなるのかなという質問です。後ろの方で遺言の対象についてはありますが,多分第1との関係でも問題となると思ったものですから,ちょっと確認をさせていただけますでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,特に②については,債務者との関係も含めて考えておりまして,債務者としては通常,遺言の内容は分からないので,基本的には,法定相続分に応じて請求がされた場合に,それに応じて払えば,当然債務の弁済として有効だということで考えておりますので,相続分の指定があった場合も,②の規律は原則として生きるという前提でございます。   逆に,乙案の場合は,可分債権について,例えばAに相続させるというような遺言がされた場合に,⑥,⑦の規律は及ぶという前提ですので,その点について対抗要件を備えれば,法定相続分を超える権利行使も可能になるという前提になります。   遺言の場合は,例えば遺言執行者が対抗要件具備行為もできるということになっておりますので,必ずしも相続人の全員が行う必要はなくて,遺言執行者がそういう形で対抗要件具備行為をすれば,それに基づいて,受益相続人あるいは受遺者は権利行使が可能になるという前提でございます。 ○大村部会長 窪田委員,よろしゅうございますか。 ○窪田委員 私としては,恐らく相続させる旨の遺言について,それを前提として考えなければいけないということではなくて,場合によっては分割方法の指定に関しての遺言に関しては,無条件に遺産分割の外に置くのだという点について,見直しをするということも十分にあり得るのだろうなと思いますので,その点については幅広く,むしろ検討していただいたらよろしいのかなという趣旨でお伺いしただけのことです。 ○水野(有)委員 すみません,今の点の質問です。乙案の方の御回答のときには,遺言によって指定された相続分と読み直して,あと対抗要件で修正とおっしゃったのに,甲案についてはむしろ,元々が②が生きるとおっしゃったのですが,ちょっと私,これを読んだときに,もしかしたら甲案も,②も指定相続分に修正されるんだけれども,対抗ができないとなるのかなとも読んだのですが,どちらの御趣旨か,ちょっともう1回御教示いただけませんか。 ○堂薗幹事 その点はまだ十分に詰められていないのかもしれませんが,一応こちらで考えているのは,原則は法定相続分で,ただ,法定相続分を超える部分について,甲案でも,遺言執行者等が通知をするなどして対抗要件を備えた場合は,法定相続分を超える部分も対抗できるという趣旨です。ですから,②,⑥で法定相続分と明確に書いているのは,指定相続分ではないという趣旨も一応含んでいるということです。 ○水野(有)委員 そうであると,内部的にもという趣旨になってしまうのかがちょっとよく分からなくて。 ○堂薗幹事 内部的にといいますと。 ○水野(有)委員 内部的にも法定相続分に応じてになるけれども,対抗要件を備えたら内部的にも外部的にも変わるというのが,ちょっと気持ち悪い感じがしまして,対外的にはという趣旨だけで書かれているならとてもよく分かるのですが,ちょっとそこら辺が。 ○堂薗幹事 基本的には対外,対第三者,あるいは債務者との関係です。 ○水野(有)委員 どうもありがとうございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   そのほかの点,いかがでございましょうか。 ○金澄幹事 すみません,本来第1のところで伺うべきだったのかもしれないのですけれども,実務として考えると,遺産分割の申立てについてですが,遺産が預金しかない場合,分割の申立ての前までに,それを全部,法定相続人が法定相続分によって引き出してしまっていたような場合,遺産としては申立時点では何も残っていないわけです。ところが,その後に寄与分とか生前贈与とか特別受益とかがあることが分かった場合に,遺産分割の申立てを行い,⑤に書いてあるような金銭支払債務を負担させるような遺産分割の申立てというのができるのでしょうか。甲案ですと可能なように思えるのですが,これから遺産分割の申立てをするときに疑問になってきたんですけれども,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 それは基本的にできるという前提でございまして,その場合は,既に一部の人が実際の具体的相続分を超えるような形で取っていますので,遺産分割方法としては,いわゆる価額分割というんでしょうか,基本的に,ここに書いてあるように債務を負担させる方法で分割するしかないことにはなりますが,それは特別受益がどの程度あるかとか,寄与分がどの程度認められるかというのは,遺産分割の中でないと判断できませんので,それはそういった,今御指摘のあったような申立ても一応認めるという前提です。   ただ,余りそこを無条件に認めると,やはりそういった形で,債務を負担させる方法での分割ということになってしまいますので,そこを事前に権利行使を否定するような措置というのも別途必要ではないかということで,補足説明の中では触れさせていただいていると。ただ,現行の審判前の保全処分は,審判あるいは調停の申立てがないと,保全処分をすることができませんので,現行の審判での保全処分を前提とした場合に,相続人の権利行使を的確に抑制できるかという問題はあるのではないかと。 ○金澄幹事 そうすると,代償金を求めるような遺産分割というのもできるようになるということになるわけですか。 ○堂薗幹事 はい。 ○金澄幹事 となりますと,次の疑問として,不動産の持分のときに,相続人が不動産に法定相続分の持分を持っていて,相続登記をして,それぞれをみんな自分の持分を売ってしまったような場合も,やはり同じようにいろいろな,生前贈与とか寄与分などが後からわかった場合は,それも遺産分割を今度もう1回やるということになるわけでしょうか。 ○堂薗幹事 今のお答えと同じように考えれば,基本的にはそうなるということではないかと思いますが,その辺りについては,まだ十分には詰めて検討できていませんので,引き続き検討はしたいと思います。ただ,一応現段階では,そうなるのではないかと思いますけれども。 ○金澄幹事 ありがとうございます。 ○増田委員 今の点は,前回この議論をしたとき,不動産については従前どおりとおっしゃったような記憶があるんですが,そうなってくると,それは変えられても構わないと思うんですけれども,今のお答えどおりだと,何が遺産なのかというところに話が戻ってしまうんですよね。どの程度のものが遺産の変形物として,遺産と同様に取り扱われるのか,あるいは,変形物というのが残っていなくても,それは遺産とみなすのかなど,ちょっと複雑な問題が,もっと根本的な問題として生じてくるように思います。 ○堂薗幹事 御指摘を踏まえて検討したいと思います。 ○大村部会長 今の点はもう一度検討していただくということにいたしまして,そのほか,いかがでございましょうか。 ○西幹事 今回だけに関わることではなく,全体に関わることなのかもしれませんけれども,特に今日の第1のところで感じましたので,1点伺いたいと思います。   今回の改正は,民法の改正ということで始まったように記憶しておりますけれども,特別法を作るという可能性もあるのでしょうか。と申しますのは,今日,浅田委員の方から,フランスの法制度として乙案的な制度の御説明がありましたけれども,フランス法全体としては甲案的な制度で動いているのではないでしょうか。2006年改正前の法律がちょうど甲案のような形です。その上で,預金などについてだけ,今日御紹介があったような特別法を作って対応しているということではないでしょうか。しかも,その特別法も,民事法の特別法かどうか必ずしも明らかではないところもあるように思います。特別法での対応も今回,ここで審議できる中に入るということであれば,またちょっと別の選択肢もあるのかなと思いましたので,確認させていただきたいと思いました。 ○堂薗幹事 こちらでは民法の改正ということしか考えていませんでしたが,この法制審との関係でいいますと,法形式に何か限定があるわけではありませんので,相続法制に関する見直しであって,特別法を作る必要があるのであれば,それはそういった処理も可能だとは思います。ただ,現段階でそこまでは考えてはおりませんでした。 ○西幹事 ありがとうございました。 ○大村部会長 そのほか,いかがでしょうか。よろしいでしょうか。   それでは,遺産分割に関する二つの論点については,更に事務当局で御検討いただきたいと思います。第3まで進んだところで休憩しようと思っていましたが,かなり御意見を頂きましたので,ここでちょっと休憩させていただきまして,遺言に関する問題を後半で扱いたいと思います。休憩しまして,45分に再開したいと思います。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,遺言の問題に入らせていただきたいと存じます。   まず最初に,「第3 自筆証書遺言の方式の見直し」という点につきまして,事務当局より御説明を頂きます。 ○大塚関係官 「自筆証書遺言の方式の見直し」,第3でございまして,資料の7ページ以下ということになります。1から順次説明してまいります。中心としましては,部会資料5からの変更点を主に説明申し上げたいと思います。   1の自署を要求する範囲についてでございますが,①の遺贈等の対象となる財産の特定に関する事項については,例外的に自署でなくてもよいものとすると,これは前回と同様でございます。新たに加えましたのが②でございまして,「財産の特定に関する事項を自署以外の方法により記載したときは,遺言者はその事項が記載された全てのページにその氏名を自署し,」の後に括弧書きでこれに押印をしなければならない旨を加えたということでございます。   それから,2の加除訂正の方式につきましては,変更箇所に「署名及び押印」が必要とされている点を改め,「署名又は押印」のいずれかがあれば足りるものとすると,このような提案をさせていただいているところでございます。   変更点について,まず,自署の要件の緩和から御説明いたします。   これにつきましては,第5回の部会におきまして,基本的な方向性に賛成していただける意見も複数ありました一方,遺言の厳格な方式は,死後に自ら証言できない遺言者が自己の真意を遺産相続に反映させるための担保として設けられたものであるから,遺言者は一定の煩雑さは甘受すべきであると,このような指摘もされました。確かに自筆証書遺言が安易に作成されたり,それによって,かえって相続をめぐる紛争が増加するといったことは避けるべきです。ただ,近年の高齢化社会の進展などに鑑みますと,手の障害などによりまして,作りたくてもなかなか作れない,あるいは事実上作れないという方も増えてくるのではないかと予想されるところでございますので,そういった社会情勢の中では,全文の自署に代わる柔軟な遺言作成方法の必要性は更に高まっていくところもあるのではないかと考えられるところでございます。   そこで,本部会資料におきましては,部会資料5の考え方を基本的には踏襲しつつ,前の部会におきまして,自署以外の記載があるページに遺言者の署名を要求してはどうかと。これは増田委員からの御指摘だったかと思いますが,このような御指摘などを踏まえまして,遺言書のうち自署でない部分があるページには,その全てに遺言者の署名,あるいは署名及び押印,この辺りは御意見を賜れればと思いますが,これを要求することによって,方式緩和による紛争の防止に配慮したところでございます。   また,加除訂正の方式につきましては,部会資料5におきましては,変更箇所に署名及び押印が必要とされる点を改め,押印のみで足りると。要は署名を落とすということとしておりましたが,第5回部会におきましては,必ず押印を要求する必要はなく,署名又は押印のいずれかがあれば足りるのではないかと。これは沖野委員の御指摘だったかと思いますが,このような指摘がされたことなどを踏まえまして,署名又は押印のいずれかがあれば足りるものと案を変更いたしております。このような考え方によりますと,遺言者において署名又は押印のうち便宜な方法を選択することができ,実務上の混乱も生じにくいと考えられます。   なお,部会資料5におきましては,これらの提案のほかに,自筆証書遺言の方式のうち押印を不要とすることも提案いたしておりましたが,この点につきましては,押印は遺言書の下書きと完成品を区別する上で重要な機能があると。したがって,これを不要とすることは必ずしも相当でないのではないかといった御指摘がされたことも踏まえまして,本部会資料におきましては,押印を一律に不要とする考え方は採らないこととしております。   最後に,3の(注)の部分につきまして,加除訂正の方式についての歴史的な経緯を若干補足させていただければと思います。該当箇所は資料8ページの下から5行目以下の(注)でございますが,現行民法の加除訂正方式は,明治31年制定の旧民法に定められた方式をそのまま引き継いだものですが,この方式につきましては,旧民法の草案段階から,厳格に過ぎるといった強い反対意見が出されておりました。また,戦前の相続法の改正作業におきましても,こちらに記載しております㋐や㋑のような緩和方策が検討されていたという経緯がございます。しかしながら,その後の戦争の激化によって改正作業が頓挫して,改正が見送られてしまったという経緯もございますので,本方策の緩和の方向性というのは,このような経緯にも沿うところはあるのではないかと考えておるところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今御説明がありましたように,前回部会資料5につきまして頂きました御意見を踏まえて,緩和の範囲について調整をした上で再提案を頂いているというものでございます。御意見がございましたら承りたいと存じます。 ○増田委員 まず,質問なのですが,③の加除訂正のとき,「署名又は押印」とありますが,この押印というのは,遺言書になされた印鑑に限るのかどうなのかという点をお伺いしたいと思います。 ○大塚関係官 そこは基本的に,限ったものとまでは認識はしていませんが,場合によっては一つの押印でなければいけないということもあり得ようかとは思います。 ○増田委員 それであれば,押印のみというのは非常にリスクが大きいと考えますので,意見として申し上げておきたいと思います。遺言について利害関係のある人には,同じ氏を持つ人がかなり多いと思われますので,斜線で消して自分の判子を押しておいても,その場合に,本人の意思が入っているかどうか判別することは非常に困難であると思いますので,異なる印鑑による押印を認める前提であれば,押印のみというのはかなり危険ではないかなと思います。 ○大村部会長 御意見として承りたいと思います。 ○水野(紀)委員 なぜこのように自筆証書遺言を簡便にしなくてはいけないのか,今一つよくのみ込めていないところがございます。自署が困難な者につきましては,公正証書遺言という手段もあるように思います。たしかに費用はかかりますが,自筆証書遺言はとても危うい手段ですし,遺言がある場合には必ず公証人が遺産分割をしなければならないフランス法等と異なり,日本ではなおさら危険性は高いだろうと思います。   少し,背景の話になってしまいますけれども,先ほど明治31年の民法のこと,8ページのこともおっしゃいました。相続法のこの辺りにつきましては,起草者が余りよく分かっていなかった点が少なくないように思われます。例えば遺言執行のあたりはドイツ法を参照していますが,ドイツの遺産裁判所の働きや,公証人が遺産分割を行うフランス等は,相続の過程に,手を掛けて面倒を見るという社会的制度が背景になっておりますのに,起草者にはその前提の自覚がなかったように思います。そういう制度的背景がない日本で,遺言様式の1点だけもらってきて,そこを更に簡便にすることに危惧がございます。   日本の社会は日本の社会なりに,ドイツやフランスのような制度的背景は持っていないのですけれども,代わりに代替的にあった制度的背景があります。つまり,戸籍を基盤とした人間についての完璧な登録システムと,不動産についての完璧な登録システム,この二つがあったことです。戸籍と住民登録は制度的には連結していて一体ですから,住民登録を基礎に印鑑証明を取ることによって,その人間がその契約意思を持っていることを立証できるようにしています。そういう母法の社会にはない登録システムがあるお陰で,何とか今まで取引社会を動かしてきたわけですが,その結果,ある種の土地本位制みたいなものが出来上がっています。相続財産の規律が曖昧でも,何となく土地本位制のお陰で何とかなってきました。でも,これらの登録システムは,後でまた遺言の登録システムのところでもお伺いした方がいいと思うのですけれども,基本的に届け出てくるのを受け取るという形で記載をするシステムで,公証人の遺産分割のような中立のプロフェッショナルが関与して中身を確認しながら行うものとはかなり違っています。   例えば戸籍についてもそうで,当事者から出てきた届出を受け取るという家族の私的自治に任されています。遺言よりももっと重大な身分行為でもそうです。養子縁組でも,これはもうあまりに無防備で,御遺族が知らないうちに独り暮らしの被相続人が養子を取っていて,その養子が相続人として名乗りを上げてくる事態があります。後見に付しても身分行為は1人でできるとされていますが,それは母法では,身分行為は重い要式行為だからです。例えば市役所で挙式をするときに,それについて後見人にいろいろ言わせないとか,あるいは養子縁組も全部裁判所でやるとか,そういう前提があるのです。それがない日本で,身分行為意思は行為能力がなくてもできるという民法は,どう考えればいいのか。届出だけで何のチェックもなく,実態の保障がないときに,ともかく受け付けるという制度的前提は,構造的な困難をかかえているように思います。   そういう大きな制度的相違があるときに,31年の議論でそうだったからというのは,どうでしょうか。31年の議論では,日本人はもともと遺言を残さない民族でしたし,起草者たちは,遺言がどういうものかと言うことも,あまり分かっていなかったろうと思います。印鑑そのものは江戸期以降の社会でずっと力をもっておりましたので,こういう議論もあったかと思うのですが,今の民法のシステムの中では,その全体像を視野に入れて相当に慎重に考えないといけないでしょう。怪しげな養子縁組がいっぱいやられてしまう事態の,遺言版みたいなことにならないでしょうか。もちろんそれは,現在の自筆証書遺言自体が抱えている問題でもあるのですけれども,そういう危険性を内在的に抱えているところで,更に簡易にいくよりは,公正証書遺言の方へ誘導する方がいいのではないかという気がしてなりません。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかに御意見いかがでしょうか。 ○大塚関係官 先ほどの御指摘につきまして,若干申し上げたいところがございます。   大変示唆に富む御指摘だったと思います。確かに公正証書遺言をより活用すべきではないかというのは,全くごもっともかと思いますし,実際にもその活用は,かなりの急ピッチで進んでいるところかとは思います。ただ,自筆証書遺言という制度が実際に定められている中で,しかも近時の状況で,それを事実上使うことができない人が増えてきている,あるいは,それがかなりの部分を占めているということがもしあるのであれば,それはその障害というものを除くということも方向性としてはあり得るのではないかと,こういった問題意識に基づくものでございますので,それは,どちらかというよりは,両立し得る考え方ではないかとは思います。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。 ○窪田委員 自分自身の立場も全然まだ固まっていないのですが,特に高齢の方々で,自筆証書遺言を作るのが大変だということだったのですが,この新しい仕組みによって救済される,救済という言葉が適当かどうか分からないですが,新たに自筆証書遺言が,今までは書けなかったのに書けるようになる人たちというのは,どういうカテゴリーの人を考えているのでしょうか。   つまり,本当に認知症で,いろいろなことが判断できないということであれば,むしろここの部分だけ簡単に印刷したものをぽんと渡して,おじいちゃん,ここに名前書けばいいんだからねということでやるのは,多分適当ではないのだろうと思うのですね。そうだとすると,むしろ,はっきりとした判断はできるのだけれども,しかし,不動産の表示とかまで細かいことまで書くのは,わしは嫌だという層なのかなとも思ったのですが,ちょっとその辺りが,具体的にまだイメージがうまくつかまえられなかったものですから,教えていただければと思いました。 ○大塚関係官 具体的にどのように利用されるかについて,明示的に予測を示すというのは難しい面もあるとは思いますが,確かに判断能力のない方がふわっと遺言書を作ってしまって,何となく紙として残ると。あるいは,何かチェックリストのような,確か前回のときにも御指摘を頂いたかと思いますが,非常に簡単に安易に遺言を作れてしまってということをこちらが志向しているわけでは全くございません。   若干話はそれますが,相続税の基礎控除が下がった,あるいは相続をめぐる終活と申しましょうか,そういったところについて関心を持ち,なおかつ判断能力もあり,そして自分の身支度というんでしょうか,そういったものをきちんとしておこうという中で,公正証書遺言に行かれる人は,もちろんそれはそれでよしと。ただ,それ以外の選択肢というものを用意するということも,それは一つあり得るのではないかと。その中に,弁護士等に相談しながら,あるいは自分で作るといった層が,ある程度考え得るのではないかとイメージをしております。 ○上西委員 まず,公証役場に行かなくても済むというメリットは非常に大きいと考えます。公証役場に行くことについては,心理的な抵抗がまだ残っていると思うからです。また,土地の筆数が多い場合については,自筆証書遺言を作成することを,その段階で諦めてしまうことも出てきます。この二つの提案のうちの,財産の特定に関する事項についてワープロ打ち等を可能にすることは,この方向で賛成いたします。   次に,署名及び押印か,署名又は押印かについてです。財産の特定の部分について簡便な方法が採られた以上は,この加除訂正の方式については厳格さを残していても,それほどのデメリットなく,むしろ問題が発生しにくくなると考えます。 ○大村部会長 御意見ありがとうございました。   賛否両論出ておりますけれども,他の委員の方々の御感触をお聞かせいただければと思いますが,いかがでございましょうか。 ○西幹事 加除訂正の方法について,又は押印でいいということになりますと,変造の可能性が非常に高まるのではないかと感じました。全体として,先ほど水野委員もおっしゃっていましたけれども,むしろ公正証書遺言をもう少し使われるようにする方向は考えられないのでしょうか。   周りを見ておりますと,公正証書遺言を避けて自筆証書遺言という人は,大体費用のことをおっしゃいますし,そのほか,公証役場に行かなければいけない手間,負担感など様々なデメリットがあるということはよく聞きます。例えば,その公正証書遺言作成の費用の援助制度,出張の公正証書遺言作成のための費用の援助など,何らかの形でそのような方面からの支援というのも,もちろん民法の問題ではありませんけれども,考えていただけると,もう少し,自筆証書遺言に掛かっている,あるいは期待されている役割の重さが軽減されるのかなという気がしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○上西委員 多くのサンプルを持っているわけではありませんが,相続税の申告が必要であり,かつ税理士関与であるというグループを考えた場合は,費用のことは余りおっしゃらないと思います。財産をそれなりにお持ちですので。ただ,公証役場に行くことをおっくうに感じられる方は,高齢の方には相当おられると思います。私の関与している方については,費用面で行きたくないという方はおりません。行くのが面倒なので,公証人が来てくれるのであれば,作成しようという方はいます。 ○大村部会長 そのほか,いかがでございましょうか。 ○八木委員 要するに,利便性は非常に高まるということですから自筆遺言しようかという人は増えるとは思うのですけれども,その問題と,やはり変造の危険性も同時に高まるわけですから,そのバランスをどう図るか,変造の危険性をいかになくすかというところに尽きるんだと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   署名及び押印を署名又は押印に変えるというのについては,反対意見が多いように思いますけれども。 ○堂薗幹事 基本的に,1で様式を緩和するのであれば,加除訂正の方式についてはむしろ厳格にした方がいいのではないかというのは,非常に示唆に富む御指摘だと思いますので検討したいと思いますが,自筆証書遺言の方式緩和のところで,一つ思いますのが,当然,全て自筆を要求している趣旨というのは,偽造等の不正な作成を防止するという点が大きいんだろうと思いますけれども,具体的な財産を特定せずに,例えば全財産を誰々に相続させるというような遺言がされた場合でも,それが有効だということであれば,こういった個々の財産の特定に関する事項を自署させることによって,どれだけそういった不正な遺言の作成を防止できるのかという点は,やや疑問があるのではないかというところもございまして,自筆証書遺言の方式の緩和についてその必要性があるという点はいろいろなところから聞きますし,厳格な方式を要求している趣旨との関係からいっても,現行の方式というのは厳格に過ぎるのではないかという問題意識もありまして,御提案をさせていただいているというところでございます。 ○窪田委員 まだ立場は全然決まってはいないのですが,私自身は,やはり本当に,先ほど水野委員から御指摘があった部分なのですが,そこまでして自筆証書遺言を活用できるようにするということが,本来今望まれている方向なのかなという点は,やはり気になります。   それと,もう一つは,全ての財産を誰々に譲るという遺言は大変に分かりやすい遺言です。だから,書いている本人も意味は分かるだろうと。それに対して,添付書類が多くなれば多くなるほど複雑なものになって,本文と添付書類との間というのは,一定の知的判断ができないとうまくリンクできないというようなことが出てくるということを考えると,むしろやはり,そうしたものに固有の危険性はあるのではないかという感じはいたします。   特に,来てくれるのだったらいいけれども,行くのは嫌だという人たちのニーズにこたえる必要があるのかなというのと,ちょっと言葉を返すようですが,やはり,特に非常に不動産について筆数が多いような場合,それだけたくさん不動産を持たれているんだったら,やはり公正証書遺言で扱った方がよろしいのではないか,それが本来のあるべき姿なのではないかという感じは一応いたします。ただ,先ほどニーズはあるということだったので,そういうことはあるのかもしれないのですが。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかに,この点について御発言のある方はいらっしゃいますか。 ○藤野委員 一般の者の感覚ですけれども,私も,プロがいるものはプロに任せるということは非常に大事なことではないかと思うので,水野委員がおっしゃったような公正証書遺言を推進していく方法を考えることは,一つすごく大事だと思います。遺言があることで紛争が防げるというのも思っていますので,遺言はもっともっと広まっていった方がいいのではないかという立場において,そう思います。   ただ,自筆証書遺言もあってしかるべきと思いまして,そのときに書き方が,例えばフォームがしっかり与えられるとか,ワープロで打たなくても簡便に内容はきちんと書けるような,多分,御本も一杯出ているんでしょうけれども,そういう方法も残しつつ,これは無効ではないという書き方が,もう少し普通のものができるようになりつつ,やはりプロにお任せするということを進めていっていただきたいと思っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 基本的に,公正証書遺言の利用も促進し,なおかつ,自筆証書遺言も促進できればいいなという考え方の下にやっておりますが,御指摘があったように,公正証書遺言の方で利用促進策を設けようとしますと,それは民法以外のところで何か策を講じないと難しいという面もありますので,この法制審の中では,そこはなかなか取り上げにくいところがございます。方向性としては,一体として,遺言の利用をもう少し進めるようにできないかと。そのうちの一つとして,自筆証書遺言についても,方式を緩和することによって利用を促進できないかという趣旨でございますので,引き続き御指摘を踏まえて検討していきたいと思います。 ○沖野委員 念のための確認ですけれども,②で,特定に関する事項を自署以外の方法により記載したときというときの財産の特定に関する事項が,非常な細目だけであるのか,そうはいっても自筆で書かなければいけない部分はあるということなのか,およそ不動産とかいうことも含めてワープロ打ちでいいのかというのは,大分印象が違うと思います。   それで,前回示していただいたのは非常に詳細なもので,ここまで全部書かないと駄目なのかという印象を与え,しかし,それに対しては,これはフルに書けばこうなるということであって,実際にはここまで書かなくてもいいんだというか,許容されているんだという御指摘もあったと思います。そうすると,それによっても随分印象が違うと思います。ですから,きれいに切り分けはできないと思いますけれども,ちょっとそこの,どこまでを自署し,どういうものをワープロなりでいいというイメージとして,②が提案されているのかというのは,もう少し明らかにする必要があるのではないでしょうか。 ○堂薗幹事 そこは,基本的にこちらで考えているのは,その記載だけから当該財産が正に特定できる,その記載によって,どの不動産なのか,どの預貯金なのかというのがきちんと特定できるようなものについて,ワープロでも可ということですので,例えば,どこどこの不動産とだけ書いてあって,その記載のみでその不動産がどのものを指しているのか必ずしも判明しないとか,そういったものまで手書きでなくていいという趣旨ではありません。正に7頁の(注1)で書いてあるような,その記載が明らかになればどの財産かが明確になるという場合のみを手書きでなくていいということにするという趣旨でございますので,そこは,条文でどう書くかという問題はあるんですけれども,こちらで考えているのは,基本的にはそういったものでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。手書きでない部分に何を書くかということと,そこに何か書いたとして,手書きで書くべき部分はないかという御指摘もあったかと思いますので,その辺りも含めまして,遺言の利用を促進するために,どんなことが民法の改正として考えられるか,更に御検討いただくということにしたいと思います。   第3につきましては,そのようなところでよろしゅうございましょうか。   それでは,次の第4に進ませていただきます。   資料9ページ以下でございますが,「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」という項目でございます。事務当局の方から御説明を頂きます。 ○渡辺関係官 それでは御説明いたします。   9ページを御覧ください。   今回は,1の積極財産に関する規律と2の相続債務に関する規律に分けて記載しております。①から③までは,若干表現を改めたところはございますが,内容的には部会資料5と変更はございません。変更点がございますのは④から⑦ということでございます。   部会資料5では,債権者の承認によって指定相続分等に応じた債務の承継を認めることや,債務者の債権者に対する催告権を認めることも考えられる旨の記載をしておりましたが,第5回部会では,そのような考え方を採用する場合には,債権者及び債務者となる相続人がそれぞれ複数いる場合も想定して制度設計すべきである旨の御指摘がございました。   これを受けまして,今回の資料では,債権者が承諾したときは,各相続人は相続分の指定又は包括遺贈によって定められた割合に応じて相続債務を承継することとし,さらに,相続人は債権者に対して承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができ,債権者がその期間内に確答しないときは承諾しなかったものとみなすこととした上で,債務者となる相続人が複数いる場合を想定して規律を整備するということとしております。   この点につきましては,10ページの補足説明の2を御覧ください。   まず,(1)「債権者の承諾の効果」でございますけれども,債権者が承諾をした場合には,法律関係の複雑化を防ぐという観点から,その効力は全ての相続人に生ずることとしております。もっとも,承継割合の変動を全ての相続人に確知させる観点から,承諾の相手方につきましては全ての相続人とすることも考えられるところではございますが,そのようにした場合には,一部の相続人に対して承諾の意思表示が到達しなかった場合の取扱い等についても規律を設ける必要があるということになってしまいます。若干細かい問題ではございますが,この点についての考え方を(注)のところで記載しておりますので,御参考にしていただければと思います。   続きまして,(2)「債権者に対する催告の制度」でございます。相続分の指定又は包括遺贈により,積極財産につき,法定相続分とは異なる割合で遺産を分配することを定めた場合には,相続債務につきましても,これと同様の割合で承継させることに一定の必要性及び合理性があると言えますし,各相続人の内部負担割合は相続分の指定等による承継割合によるものとしていることを踏まえますと,相続人間の求償問題の発生を防ぐというためにも,できるだけ催告権の行使は広く認めるのが相当であると考えられます。それゆえ,催告権は相続人の1人が行使することができるということといたしております。   続きまして,「3 その他」を御覧ください。   ここでは,いろいろな問題があって,なかなか難しいのではないかと思われる論点を二つほど取り上げてございます。まず,(1)「相続分の指定,遺産分割方法の指定及び遺贈の整理」でございます。部会資料5では,相続分の指定・遺産分割方法の指定及び遺贈について,それぞれの適用場面等を整理することが考えられるのではないかといった問題提起をし,考えられる方向性といたしまして,相続分の指定や遺産分割方法の指定を遺贈に統合するということ,それから,相続分の指定や遺産分割方法の指定は相続人が相手方である場合,遺贈は相続人以外の第三者が相手方である場合に,それぞれ適用されるものと整理するという方向性を掲げておりました。   第5回の部会におきましては,このような整理を行うのであれば,後者の方向性がよいのではないかとの御意見がございましたが,いずれの方向性もそれぞれ問題点がございますので,整理の要否も含めて,改めて御意見を賜れればと考えております。   まず,最初に申し上げた前者の方向性についてでございますが,現在の登記実務におきましては,遺産分割方法の指定がされた場合には,相続人が単独で移転登記の申請をすることができるとされておりますが,遺贈の場合には,受遺者と相続人全員又は遺言執行者とが共同で移転登記の申請をしなければならないとされておりますので,相続分の指定や遺産分割方法の指定を遺贈に統合した場合には,相続人が単独で移転登記の申請をするということができなくなってしまいます。相続人に対する遺贈についてのみ単独申請を認めるというように改めるということも考えられなくはないというところでございますが,遺贈という意思表示によって権利変動が生ずる場合であるにもかかわらず,相続による権利変動に準じて,相続人である受遺者が単独で移転登記の申請をすることができるとする根拠を合理的に説明することは困難であるように思われるところでございます。   続きまして,後者の方向性についてでございますが,この場合には,相続分の指定及び遺産分割の方法の指定についても,遺贈に関する規定と同様の規律を置くか否かが問題になるかと思われます。例えば,遺贈の放棄に関する規定につきまして,相続分の指定や遺産分割方法の指定についても同様の規律を置くということも考えられるところでございますが,そういたしますと,これまで相続分の指定や遺産分割方法の指定として行われていたものについても個別に放棄することを認めるということになりまして,その分,遺産分割手続が複雑になるおそれがございます。反対に,相続分の指定や遺産分割方法の指定については個別に放棄することができないとすることも考えられますが,そういたしますと,個別に放棄することができることを前提にした相続人に対する遺贈が個別に放棄することができなくなってしまうということになりますので,このように遺贈に関する規定と同様の規定を置く場合であっても,そうでない場合であっても,現行法とは異なる規律になる部分がございますが,そこまでして整理する必要があるのかというところも疑問があるようにも思われますので,皆様の御意見を賜れればと考えておるところでございます。   続きまして,11ページの(2)「後継ぎ遺贈について」でございます。   部会資料5では,甲案として使用収益権と所有権の分割遺贈型の規律を掲げ,乙案として不確定期限付遺贈型の規律をそれぞれ掲げておりました。しかしながら,第5回の部会では,いずれについても多くの問題点の御指摘を頂きまして,消極的な意見も多かったところであろうかと考えております。   甲案につきましては,長期居住権についても多くの問題点が指摘されている中,対象財産を更に広げ,使用収益権とその余の所有権の分属を認めることにつながる見直しをすることにつきましては,その必要性及び合理性のいずれにも疑問があるといった御指摘がございました。   また,乙案に対しましては,所有権の絶対性に抵触するおそれがあるとの御指摘や,第一受遺者が用益権や担保権を設定した場合等に,第三者に不測の不利益を生じさせるおそれがあるといった御指摘等もございました。   さらに,両案に共通するものといたしましては,そもそも被相続人が第一受遺者の処分権を拘束することができるとすること自体に疑問がある,相続開始前に第一受遺者が死亡した場合など,想定される数多くの場面について明確なルールを定めることは困難であり,かえって複雑な紛争を生じさせるおそれがあるといった御指摘もございました。   これらの御指摘を踏まえまして,今回は後継ぎ遺贈について,具体的な方策を掲げるということはいたしていないということでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   「遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し」ということで,1と2につきましては,具体的な提案を更に精密にするという方向で御提案を頂いているところでございます。それに対して,3ではその他ということで,二つの問題が取り上げられておりますけれども,これらについては,規律を置くことについて疑問があるのではないかというまとめになっているかと思います。   まず,1,2について,規律を置こうという方につきまして御意見を伺いまして,その後で,その他について御意見を伺えればと思います。御意見あるいは御質問も含めまして,何かございましたら,お願いいたします。 ○浅田委員 中心的なことではないのかもしれませんけれども,催告権に関して,主に銀行,債権者の観点からお話ししたいと思います。この件に関しては,先般の会において一応の考えを述べたところでありますが,その点について,確か森委員から問題点の御指摘があって,その一部が今回の整理というものにつながっていると理解しております。   銀行界内の議論状況としては,10ページの2の(1)のいろいろな分類,別案とかいろいろ出ておりますけれども,そこまで議論が及んでおりませんので,この段階,現時点でどの案がいいとか,そういうことの確答を申し上げるのには至っておりません。   基本的な考え方を繰り返し申し上げますと,一定の催告権はある程度仕方がないと思いつつも,現実的な制度設計のときに,いろいろな状況,複数の当事者の存在も含めて,いるといったときに,その不到達のリスクというのをどう考えるのかということが今回の検討の中心課題だと思います。その点を私が考えますに,そのリスクを債権者側に寄せるのか,相続人側に寄せるのかというところの,言わば綱引きの問題だと思っています。   銀行だけの独自の観点から述べますと,銀行のオプションとか判断をしたからには,あとは相続人間での通知で対応して頂きたいということです。その際,効果もそれに沿うものができるということになれば,そういう債権者の判断というのが,与信判断ができるということを前提とするのであれば,いいようにも見えるわけです。もちろん,繰り返しになりますけれども,これは相続人側,債務者サイドのバランスの問題だと思いますので,引き続き検討すべき問題だと思っております。   ただ,そのときの考え方のもう一つの柱,いわゆるデフォルト規定といいましょうか,最終的に確答がなかった場合に一体どうなってしまうかということについては,前回も申し上げましたとおり,この提案にありますように,承諾しなかったものとみなすということであれば,言わば原状復帰ということであるので,それほど債権者にとって過度な不利益になっているものではないということだと思っています。また,こういうみなし規定が発動されたとしても,後に当事者間で合意ないしは引受け契約をする等の処理をするのであれば,事務的な対応ということも可能であると思っています。   そういう現状の認識を,私見を踏まえ述べた上で,質問が1点ございます。相当の期間を定めてということがありますけれども,債権者からすれば,今まで取引がなかった相続人の方に対して信用供与できるのかどうかということの審査が必要となる場合が多いと思います。そうすると,相当の期間が債権者側に必要だと思います。この相当の期間というのが,どちらサイドの事情に鑑みて相当の期間と解釈されるかどうかという論点は別として,一義的には相続人が相当の期間を定めて催告をするということですから,相続人サイドがイニシアチブをとるということになりますが,基本的には相続人において債権者の審査能力であるとか状況ということをそんたくして行うということは難しいと思います。   そうしますと,過度に期間が短い催告を出された場合には,結局,債権者側で審査の時間切れになってしまって,そうすると,ドボンといいましょうか,遺言に基づく債務の承認を認めないという結果になることもあると思いますがこれは,両当事者にとっても不幸なことになるかと思います。そこで,制度設計に当たっては,最短期間というのを法定化するというような考え方があるのかとも思うわけです。その可能性についていかがかということを御質問したいと思います。   ちなみに,銀行界の内部の議論では,まだそれほど成熟した議論ではありませんけれども,1か月では短いなというような意見があったことを御紹介いたします。 ○堂薗幹事 この⑥の相当の期間については,ここでお示ししているものは特に法律上,最低期間を定めるとか,そういうことは考えていませんが,もちろんそういったことも考えられるんだろうとは思います。   ただ,債権者の立場から見ますと,基本的には,相当の期間内に承諾できない,十分な審査ができなくて承諾するという判断までは至らないという場合も,原則どおりの取扱いになるのに対しまして,特定の債務者側からしますと,法定相続分で債務を負担するのか,指定相続分で債務を負担するのか,通常,催告する相続人というのは,指定相続分の方が有利な者なのではないかと思うんですが,そこで相当の期間,債権者の方で判断をして,その間,遅延損害金が生じないというのであれば問題ないのかもしれませんが,なかなかそうはいかないんだとしますと,やはり相当の期間を長期に定めることの不利益というのは,どちらかというと債務者側に生じてしまうのではないかと。   逆に言いますと,債務者側は,本当に指定相続分での承継をお願いしたいという場合は,それは通常は,債権者側で十分な判断ができるような期間を設定して催告するという場合が多いのではないかと思いますので,そういったことをいろいろ考えますと,相当の期間について最低限の期間を法定するとかいうことについては,難しい問題もあるのではないかなという印象でございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○浅田委員 ありがとうございました。 ○沖野委員 今のやり取りを伺っていて,相続の熟慮期間との関係が気になりました。一つは今のような最低限の,1か月は短いということで,2か月以上のということになったときに,熟慮期間との関係がどうなるのか。さらには,催告をするということが単純承認と扱われるということはないという理解でよろしいのかというのが,伺っていて気になりました。 ○堂薗幹事 今,沖野委員から御指摘を頂いた点につきましては,こちらで十分検討できておりませんので,内部で更に検討させていただきたいと思います。 ○大村部会長 何かございますか。 ○中田委員 2の④で,承諾によって相続債務を承継するという意味なんですけれども,それは法定相続分よりも少なくなる人についていうと,その人の債務を免除するというか,あるいはその人の債務を免責的に引き受けると,こういう構成になるんでしょうか。そういう理解でよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 その人の債務が減る分は,ほかの相続人が負担するということにはなりますので,そういう意味では,免責的債務引受けをしたのと同じような状態にはなろうかと思いますけれども。 ○中田委員 仮にそうだとしますと,改正民法の法案の中では,免責的債務引受けについて,誰が誰に通知するかというルールがありますから,それとの整合性も考える必要があるのではないかと思います。 ○堂薗幹事 ありがとうございます。 ○大村部会長 先ほどの窪田委員の御指摘とも絡んでいる点かと思いますけれども,債権譲渡ですとか債務引受けというようなこととそろえて考える必要があるのかどうかということも含めて,御検討いただければと思います。   ほかにいかがでしょうか。 ○垣内幹事 先ほど浅田委員と堂園幹事のやり取りを伺っていて,少し感じたことなんですけれども,催告の相当期間に関して,御提案ですと,その催告は各相続人が全ての相続人のためにすることができるということになっているわけですが,催告した結果,承諾されるかどうかによって,一方で利益を受ける相続人と不利益を被る相続人とがいて,いずれの相続人が催告をするかによって,どの期間を定めて催告をするのかということについては利害が相反しているところがあって,そうすると,この相当の期間の解釈というのは,なかなか難しい問題をはらんでくるような感じもします。あるいは,催告権者を限定するということはよくないのかもしれませんけれども,その辺りについても少し考慮に入れた上で,今後検討いただく必要があるのかなという感想を少し抱いた次第です。 ○堂薗幹事 御指摘は非常にごもっともかと思いますので,そういった不利益を受ける相続人が短い期間を定めて催告するということは,確かに十分にあり得るような気がいたしますので,それは催告の制度の根本に関わるような問題で,基本的には,債権者と協議をしながらやっていくということでしょうから,こういった催告の制度まで本当に認める必要があるのかというところは元々あるんですけれども,今のような問題点もあるということになりますと,更に慎重に検討していく必要があろうかと思います。 ○渡辺関係官 今の点,ちょっと補足させていただきますと,元々ここは判例法理を明確化したいなという思いでやっておるところでございまして,判例の方は承認という表現だったかと思いますけれども,承諾に相当するところはあるんですが,催告の部分はそういう判例法理からすると,ややはみ出た部分ではございますので,必ずしもそれをここでやらなければいけないという問題では当然ございませんので,うまく仕組めるかどうかも含めて,今後の課題とさせていただければと思います。 ○大村部会長 ほかに,いかがでございましょうか。 ○潮見委員 今までの議論とは違って,非常に単純な簡単なことなのですが,2点ほど確認です。   積極財産に関する規律のところですけれども,ここのところで二つあって,一つは,先ほどの休憩前の話にも関わりますが,金銭債権,可分債権の場合に相続分指定されたときに,ここで書いているのは第三者対抗要件ですよね。債務者との関係では,これは対抗問題ではない,つまり,法定相続から指定相続分への変更というものは,そういうものとしては捉えないんだという,そのような理解でよろしいんですか。 ○堂薗幹事 ここの第三者には債務者も含める…… ○潮見委員 468条1項の意味での債務者だという御趣旨ですか。 ○堂薗幹事 はい。 ○潮見委員 もう一つは,これは本当の確認だけですけれども,1の①のところに書かれているところですが,相続分指定がされて,法定相続分に相当する割合を超える部分については,これは対抗構成ですよね。現在の判例法理は一つ,平成何年かにあったと思いますけれども,法定相続分よりも小さい相続分指定というものがされた場合には,これは無権利で構成して,対抗構成をとっていませんよね。ということは,今回の御提案というものは,超える場合と,それから,減るといいますか,小さい指定をした場合とでは,法律構成は分けて考えるという御趣旨ですか。つまり,上積みの部分,足した部分については対抗だと,減った部分については,これは対抗問題とは捉えないということでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的にはここは,相続分の指定のような権利承継原因が包括承継の場合であっても,要するに遺言による意思表示によって本来の法定相続分よりも超える場合には,対抗要件が必要だという整理ですので,逆に言いますと,法定相続分より下回る,要するに法定相続分までは何ら対抗要件なくして主張できると。それは第三者に対しても,そこは主張できるという前提ですので,そういった意味では,超える部分だけについては対抗要件がないと,第三者には対抗できなくなるという整理でございます。 ○潮見委員 要するに積極財産の場合には,法定相続分についての価値というものは当該者に対して保証してあるんだと。法定相続原則論と言ったら言いすぎかもしれませんが,そのような立場を基本に据えているんだと。だから,減った部分は,そこは無権利でいいんだと,こういう御理解ですね。 ○堂薗幹事 はい。 ○大村部会長 よろしいですか。   そのほか,いかがでございましょうか。   まだ御意見はおありかもしれませんけれども,項目の中に,その他というのもございます。前の方に戻って御発言をいただく機会を封ずるわけではございませんが,その他の(1),(2)につきましても御意見を頂ければと思います。いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 その他の(1)のところですけれども,私は,どちらが筋かといいますと,遺贈の方が本当は筋だろうとは思っております。遺留分の規定をみても,相続分を変更するのは遺贈によるという母法の構造を継受していますから。相続分の指定は,明治民法の起草者が思い付きでひょいと入れてしまった条文にすぎません。遺産分割方法の指定も,これは母法の規定は,その指定によって相続分割合が変わってはいけないという大前提の下で入っていた条文です。それを,日本法がそうではない形に使ってきてしまいました。なぜ相続する旨の遺言がそれだけ活用されてきたかというと,11ページに書いてある㋐の方向性についての,単独でできるというメリットが大きかったのだと思います。母法の場合には,遺産分割も遺贈の執行も公証人のところで行いますから,相続人たちに強制できてしまうわけですが,日本の場合には,その前提が違います。遺贈を実行するにしても,他の相続人に一緒に登記の申請をしてもらわねばならず,そのときに判子代が取れるということになります。拒絶する権利はなくても,強制するためには,裁判沙汰というものすごい敷居の高いことになってしまいます。相続させる旨の遺言は,その問題をクリアして,遺言の受益者の側に有利な形でとりあえず現状を作ることができますから,そういうニーズがあったということでしょう。   余計な連想ですけれども,例えば再婚禁止期間や離婚後300日問題でも,私は母親による非嫡出子出生届を認めるべきだという説なのですが,それはやはり,そういう現状を作る権利を母親に認めないと無戸籍児が出てしまうという弊害があるからです。それと同じ発想で,現状をどちらに作らせるべきかという視点で考えることになるのだと思います。何しろ日本では裁判沙汰というのはすごく負荷が高いものですから,現状を誰に作らせるかが決定的になります。   ですから,根拠を合理的に説明することは困難とありますけれども,そういう国なのだということで説明してしまえば,この㋐の方向性については,それほど難しいことではないような気も致します。一方,㋑の方向性については,これは遺贈についてしか,遺留分の減殺請求なども全部手当てがありませんから,全く新しいものを全部それぞれ作らなければいけないことになって,ちょっと民法的にも困難なことになるかと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   この点については,いろいろ御意見あろうかと思いますけれども,ほかにいかがでございましょうか。 ○潮見委員 一言だけで,すみません。   基本的には,制度全体を変えていくということであれば,相続分の指定とか遺産分割方法の指定という枠組み自体を見直すのが私は望ましいと思っておりますし,そのような学会報告をしたこともございます。ただ今回,実際にこういう形での諮問が来て,何を今回改正の対象にするのかということも示されている中で,しかも時間も非常に限られている中で,大掛かりな修正というものは難しいのではないのか。余り早く急いで変なことになるのもいかがかと思いますから,改正を考えることに意味がないというわけではなくて,今回この時期に,この時間帯で立法を行うに適した事実か,事項かということになれば,ちょっと難しいということであれば,この判断は受け入れたいと思います。同じことは後継ぎ遺贈についても言えることです。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,後継ぎ遺贈についても御発言ありましたけれども,その点も含めまして,ほかに御意見,御質問があれば頂きたいと思います。 ○沖野委員 後継ぎ遺贈についてなんですけれども,問題点が多いということも改めてよく分かりました。   ただ,長期居住権についても多くの問題点が指摘されているということですけれども,仮に長期居住権というものが制度としてきっちり仕組めた場合に,同様の権利を法定の権利者がいないときに,遺言によってもすることができるというような規律にすることは考えられるように思いました。全く新しく後継ぎ遺贈だけで仕組むというのは非常に大変ですし,所有権については前回も指摘されたような,非常に大きな理論的な問題もあるのですけれども,そういう接合というのは,他方で,なぜこの場合だけが法定の長期居住権なのかということへの回答にもなり得るかなと思うものですから,ただ,時間がないというのは非常に大きな抗弁だと思いますけれども,その狭いルートは,この段階ではもう少し残し得るのかなという感触を持っております。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 今の御指摘について,長期居住権との関連で,もう少し対象を広げるということで残すということはあり得るとは思いますので,御指摘を踏まえて検討させていただければと思います。 ○潮見委員 1点,ここで言うべきなのか,後で言うべきなのか,まだ迷っているところはあるんですが,ここは遺言の効力だとか遺贈ということが出ていますので,ここで少しだけ検討の依頼をさせていただきたいと思います。   何かというと,後の遺言執行者のところにも出てきています遺贈の担保責任の辺りの規定です。例えば不特定物遺贈で売主の担保責任に関する規定を使うだとか,あるいはそれ以外の規定もございます。997条とか998条だったと思います。今回,債権法の改正という形で改正法案も出ておりますし,実際にその中で,担保責任という概念を使うか使わないかは別として,枠組み自体が従前とは違うものが採用されております。そうした中で,例えば売主の担保責任の規定を適用するとか使うとか,従うとか,そういうことを書いただけでは,恐らくこの先の解釈をどうしていったらいいのかということについて,若干迷いが出てくるのではないかと思うところがあります。   加えて申し上げましたならば,相続法の多くの先生方の解説を批判するつもりは毛頭ございませんが,担保責任に関する理解というものは,今回債権法の改正のときに基礎にした,基本的には責任論,契約責任とか,あるいは特定物ドグマの規定とか,そういうものとは全く逆方向の,いわゆる古典的な法定責任説をどうもベースにして,解説等をお書きになられている方々がたくさんいらっしゃいます。そういう中で,少しでも分かりやすくというか,誤解のないような形で書き下すということがもしできるのであれば,やっていただきたいなとも思うところです。   せっかくのことですから,時間があればという。こっちは立法事実があると思いますから,余力があればお願いいたします。 ○大村部会長 御検討いただくということで引き取らせていただきたいと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。その他以外の1,2に戻っていただいても結構でございます。よろしゅうございますか。   そういたしましたら,催告権の問題は更に御検討いただくということで,また,その他の問題のうち,時間の制約がありますけれども,なお検討すべきものがあるかどうかという点につきまして,更に事務当局の方で御検討いただきたいとまとめさせていただきたいと思います。   それでは,先に進みたいと思いますが,「第5 自筆証書遺言を保管する制度の創設」についてという項目につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○大塚関係官 資料12ページの中段やや下,「自筆証書遺言を保管する制度の創設について」でございます。   ①,②の方策として記載しているものにつきましては,基本的に第6回の部会資料と同様でございます。もう一度確認をさせていただきますと,自筆証書遺言を作成した者は,自ら希望する場合には一定の公的機関にその保管を委ねることができるようにした上で,②として,相続人は相続開始後に所定の手続をすることにより,被相続人の自筆証書遺言が当該公的機関に保管されているかどうかを確認できるようにするというものであります。   ここで前提として申し述べておきますと,この方策は,自筆証書遺言に紛失あるいは偽造,変造のおそれが多いといったデメリットが指摘されていることに鑑みまして,確実に公的機関で保管することにより,そのデメリットの解消を目的としたものということで出発したものでございました。   なお,この方策は,飽くまで遺言の作成者が公的機関での保管を自ら希望されるという場合に利用するというものを想定していますので,当然ながら,そのような希望がないというときにはこれまでどおり,遺言者自身,あるいはほかの人において保管するということは可能という前提でございます。   それから,補足説明に移りますけれども,保管を行う際の手続についてということでございます。遺言の保管手続の際には,公的機関において本人確認を行うといったことを想定しておるところでございます。この徹底によりまして,遺言者自らが保管手続を行ったということが遺言の真正な成立を基礎付ける間接事実となりまして,最初に申し述べました制度の目的といった有効性をめぐる紛争の抑止につながるものと考えられるところでございます。   それから,(2)「遺言の方式の審査」についてでございます。   第6回部会におきましては,自筆証書遺言を保管する場合には,当該遺言が無効とされることを防止するために,担当官において遺言の方式について審査を行うべきではないかといった指摘がされたところでございました。これを踏まえまして,事務当局としても具体的方策を検討したのではございますが,ただ,個々の遺言に方式違背があるか否かというのを正確に判断するというのは,必ずしも容易ではないということもございますし,この点を含めました遺言の有効性というのは,最終的には訴訟で確定すべき事項ということもありますので,保管申請を受けた担当官においてこの審査を網羅的に行うというのは,なかなか難しいものがあると考えられます。   ただ,他方で,例えば遺言書に日付あるいは署名がないというのが一見して明らかであるといった場合には,担当官において事実上,その旨を指摘するという扱いは可能ではないかと考えておるところでございます。   それから,具体的にどのように遺言を保管するのかということについて(3)で記載しております。保管方法としましては,滅失のおそれもございますので,それを配慮しまして,例えば保管の際に,戸籍などと同様に遺言書を画像データ化したものを別個に保管するといったことが考えられようかと存じます。このようなデータ化をするとした場合には,仮に封緘をされていたという場合であっても,ここは本人の御了解を頂いて開封するものとせざるを得ないと考えられます。   (4)「遺言書正本の交付」についてでございますが,このような保管手続を行った場合には,公正証書遺言におけると同様に,公的機関において遺言の正本を作成して交付するといったことが考えられます。これは,遺言者本人が預けてしまった後は手元にないということになりますので,内容確認には必要と考えられるところでございます。   次に,(5)「第三者による保管申出の可否」でございますが,この点は既に御議論いただいていまして,第6回部会におきましては,遺言者以外の者による成り済まし事案などを防止するためにも,申出資格というのはやはり本人に限定すべきであるといった指摘を多数頂いたところでございました。これを踏まえまして,基本的には,第三者による保管申出は認めないということが相当と考えているところでございます。   次に,2でございますが,「相続人等が遺言保管情報を知るための方法について」でございます。   保管された遺言の内容を実現するためには,相続人あるいは受遺者が遺言の存在そのものをまず把握しなければいけないということになります。このために,相続開始後に相続人が公的機関で遺言が保管されているか否かというのを確認することができる仕組みを設ける必要があると考えられます。具体的には更に検討してまいりたいと考えております。   3として,「保管手続後における自筆証書遺言の撤回等について」でございます。   前回の案におきましては,考えられるオプションの一つとして,例えば遺言の全部又は一部を保管後に撤回するには,新たに遺言を作成して保管するか,あるいは公正証書遺言を作成することを要するといった,撤回を制限するという方策も提示したところでございますが,これにつきましては御議論の中で,遺言者の最終意思の尊重という遺言制度の趣旨からは反対という意見がかなり多数出されたところでございました。これを踏まえまして,このような制限は設けないということとしております。   それから,「4 検認手続の省略について」でございます。   遺言書の検認の目的といいますのは,遺言書の偽造などを防止し,その保存を確実にすることにあると,一般に言われておるところでございます。そうしますと,今回の方策に基づいて,遺言を公的機関で確実に保管するということによりまして,その目的はほぼ達成することができるものと考えられます。そうしますと,例えば本方策に基づいて保管された自筆証書遺言につきましては,検認を不要とするといったことが考えられようかと存じます。もっとも,仮に検認を不要とした場合には,推定相続人等の利害関係人に遺言の内容を知る機会を与える措置としまして,例えば,保管している公的機関に対する閲覧請求権の確保などを検討する必要があると考えられます。   5でございますが,これは,考えられるオプションとして記載したという趣旨でございますけれども,例えば,この保管制度を利用した遺言につきましては,真正であることについて事実上の推定が働くということを考えますと,一定の方式緩和というものも考えられるのではないかと。それによって,特定の方式をたまたま当該遺言が満たしていなかった場合でも,直ちに無効とはしてしまわないという救済は考え得るのではないかといったことを御提示申し上げている次第でございます。㋐が,遺言書に日付の記載がなくてもよいと。これは,公的機関における保管開始日というのははっきりしますので,それをもって作成日とみなすということはあり得るかと存じます。㋑は,押印を不要とするということでございます。これは,更に次に進むという問題でもございますので,飽くまでもオプションという位置付けかと思料いたします。   最後に,「保管をする公的機関について」ということでございますが,保管業務を行う公的機関というのは,今回新たに構築される制度に基づく業務を担うことが可能な人的・物的体制を有するものである必要があります。また,利便性の観点から,全国に存在する機関,例えば法務局,公証役場,市区町村の役場などが望ましいとは考えられますけれども,この点につきましては,本方策の内容を更に具体化させていく中で,どの機関が保管業務に適しているかなどの観点から検討していく必要があると考えております。 ○大村部会長 ありがとうございます。   資料12ページの第5の①,②が具体的な御提案として出ておりますけれども,それに付随する,更に付け足すものとして,幾つかのオプションについての御説明もあったかと思います。この点につきましていかがでしょうか。 ○窪田委員 恐らく,単純にオプションの例として挙げられた部分だろうと思いますから,さほど深刻になる必要はないのかもしれませんが,15ページの上に5のところで,㋐日付というのが挙がっております。こういうものですから,むしろ日付というのを,保管開始日をもって扱うというのは,よく分かるような気もするのですが,これについては,日付はなくてもいいというだけであって,日付があった場合にはどうなるのかなというのは当然出てくる疑問なのだろうと思います。特に,二つ遺言が預けられた場合に,保管開始日と中に書かれている日付の順番が逆転するというような場面もあるだろうと思いますし,その点,また検討していただければと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。では,検討していただくということにしたいと思います。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 本人確認はどのようになさるおつもりでしょうか。通常の取引の場合ですと,実印を持って来てもらって確認するわけですけれども,こういう場合には,実印を取れるひとが利害関係人であることが多いので,どういう形で本人確認をなさるのでしょうか。 ○大塚関係官 そこはいろいろ考えられると思いますが,少なくとも,当然ながら身分証明書は必要かと思いますし,場合によってはマイナンバーとの連携も考えられるのかもしれません。さらには,戸籍も持ってきてくださいねということも考えられようかと思いますし,その他,更に要求するということも十分考えられるとは思っています。   いずれにしましても,本人確認はかなり厳密に行うということが,制度の趣旨自体からも必要になってくるとは考えております。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○水野(紀)委員 はい。 ○大村部会長 そのほかにいかがでございましょうか。 ○浅田委員 第5の制度の設計については,私どもからも要望したところということもございますけれども,例えば御検討いただいた保管する際の遺言の方式の審査とかのチェックとか,自筆証書の遺言の撤回について,何らかの規律が入ればよいのかなとは思ってはおりました。ただ,前回の議論を聞いて,ここにも書いてありますように,いろいろな問題点が実際上あるということですので,そういう困難性があるということを認識しました。   一方で,そういう問題はさておくとしても,こういう保管制度を設置するということについては,遺言者の選択肢を増やすということも併せ考えれば,大きな一歩だと評価できるのかなと思いました。   その上で,債権者ないしは債務者の立場から,遺言保管情報を知ることができる者の範囲についての意見を申し上げます。御提案では,部会資料14ページの2を見ますと,相続人(受遺者)とされています。第6回会議でも申し上げたとおり,この範囲を債権者や債務者に広げていただければ,取引の安全に大いに資するものではないかと考えております。   もちろん,プライバシーとの関係をどう整理するのかという難問がございますけれども,遺言の中身を債権者や債務者が勝手に知るということではなく,保管されている範囲で最後の遺言の日付を知るということは,取引関係者においては重要なことでありますし,プライバシー侵害の程度は高くはないと考えておりますので,この点どういう御見解なのかということと,もし御検討いただけるのであれば,前向きに御検討いただければと思います。 ○大塚関係官 前回も同様の御指摘を頂きまして,それも踏まえて,内部でいろいろと検討してみました。やはり御指摘にもありましたとおり,プライバシーの問題というのは非常に大きいかと思います。   検討段階で一つ浮上したものとしましては,遺言があるかないかだけは債権者等も検索できるといったものもあり得るのかとは思いましたが,ただ,それはそれとしても,遺言があるかどうか自体も大きなプライバシーの情報であるという見方もできますので,なかなかそこはハードルが高いところもあるという御意見もあり,現状ではなかなか難しいところもあります。実際,公正証書遺言におきましても,現状は相続人等以外の利害関係人には閲覧等を認める取扱いをしていないと伺っていますので,そこと合わせていく必要は,少なくともあるのではないかと思います。 ○大村部会長 浅田委員,よろしいですか。 ○浅田委員 はい。 ○山田委員 日弁連の中でいろいろ御意見を伺いましたところ,比較的,消極的な意見が多くございました。やはり,これだけのシステムを構築し,担当官という表現になっていますけれども,人員を配置するということになりますと,それなりの出捐があると思うのに対しての,ニーズがどれだけあるかという点,そして漏えい問題,役所であれば安心感はあるんですけれども,そうはいっても,やはり人事が回っていく中で,どなたが担当されるのかという中での懸念,そして,データ化ということでデータ流出の問題,いろいろ心配がある中で,それでも選択肢として,ニーズが高ければ推進いただきたいところでありますけれども,どの程度なのかという部分についての実務的な感覚としては,例えば機関として公証役場ということになれば,公正証書遺言をされてもいいのではないかということになるのではないかとか,それから,市町村役場という生活に密着したところに,内容も開示して預けたいと思われる方がどの程度いらっしゃるのかというようなことを考えますと,それほどニーズは高くないのではないかというような御意見が比較的多くございました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかに何か。 ○増田委員 質問なんですが,検認手続の省略ということで,検認手続を不要とする場合の代替措置について,14ページの下の方に書かれていますが,どういうシステムをお考えなんでしょうか。具体的に言うと,原本を見る機会を持つのは誰ということになるのかということをお伺いしたいと思います。 ○大塚関係官 そこは,公正証書遺言の場合の取扱いというものが参考になろうかと思いますが,相続開始前と後とでは,当然ながら,かなり取扱いは異なると思います。   現状,公正証書遺言におきましては,伺っているところですと,相続開始後には相続人は原本を見ることができると,あるいは正本の交付を受けることもあり得るということは伺っております。ですが,逆に相続開始前ということになりますと,相続人であってもそれはできないということになりますので,それと違う取り方をするということも考えられなくはないとは思いますが,基本的には同様な考え方によるものとイメージをしております。 ○増田委員 公正証書遺言というのは,そこに記載されている内容,つまりデータ自身だけが重要なのであって,それがどのような紙に書かれているのかとか,自書されたのかどうかというところは全く問題にはならないはずです。ここでは,自筆証書遺言ですから,それが自筆であるということを確認するためには,やはり相続人全員に原本を確認する機会が必要であるだろうと考えられます。   我々が検討したところでも,裁判所の検認手続によって,非常に精巧なコピーに署名押印しただけのものであるということが判明したという例が,比較的最近の例として報告されています。ですから,そういうものを防ぐためには,検認を不要とする以上は,裁判所における検認と同様の機会を設ける必要があるのではないかと思います。   それから,ついでに日付の点ですが,先ほど窪田委員からもお話がありましたように,遺言書の作成の前後を示す上で,遺言書撤回の問題などもありますので,これは省略するのはちょっと難しいのではないかと。意思能力の基準を示す意味でもありますし,作成時と提出時とは別で,提出したときは意思がしっかりしておっても,作ったときはどうだったのかというのは問題になり得るので,日付はなくてもよいというのは少し危険であろうと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   資料14ページから15ページにかけての4とか5については,慎重論が続いたかと思いますけれども,本体の部分について山田委員から,これは費用もかかる話なので,どのぐらい需要があるかということとの見合いで考えるべきだという御指摘がございました。ごもっとも御指摘と思いますけれども,その他,第5の①,②につきまして,何か御指摘ございますでしょうか。   そのほかには,特にはないということでよろしいでしょうか。 ○窪田委員 今出たばかりのことなのでありますけれども,結果,この制度を構築するときに,結局,封印したままで保管するという仕組みを認めるのか,そうではないというので,全く違う仕組みになるのだろうなという気がしますので,そこの部分がはっきりしないことには,ちょっとそれ以上議論ができないのかなという気がいたします。   私自身は,恐らく戸籍のデータと連携して保管するような仕組みが適当なのではないのかなと思いますし,その意味では,戸籍に関しても,実際上は市町村役場が戸籍事務代行という形でやっていますので,そうしたことが考えられるのですが,しかし,比較的小さい市町村を考えた場合に,遺言書の中身が全部分かるような形で,最終的にそこのところにデータがいくという状況を考えると,ためらうのが当たり前だろうという気もします。他方で,封印していたという場合には,今度は別の問題も出てくるかもしれないと思いますので,そこのところを決めないと先に進まないのかなという気がいたします。 ○大塚関係官 その点につきましては,基本的には,封印したままで預かるということは難しいと思っています。と申しますのは,余りないかもしれませんが,封印をして提出されたけれども,実際あけてみたら中身が空っぽだったというときに誰が責任を負うべきかとか,そのような非常に大きな問題もありますので,やはり保管の開始時期に中身を確認すると。データ化の問題は次の問題かと思いますが,中身の確認は不可欠ではないかと考えております。   それから,戸籍との連携につきましては,相続開始の把握という意味におきましても非常に大事かと思っていますし,有益な御示唆を頂いたと思います。それを今後実現していくときに,どのような機関が保管機関として適切かということも考慮要素として入ってくると思います。 ○大村部会長 よろしゅうございますでしょうか。御指摘を頂いた点も含めて,更に御検討いただきたいと思います。本日のところ,更に御発言がなければ先に進ませていただきたいと思いますが,よろしいでしょうか。ありがとうございます。   最後,残っているのが「遺言執行者の権限の明確化等」でございますが,残り時間が限られてきましたので,全部は終わらないのではないかと思います。後で事務当局から御説明がありますが,残った部分につきましては次回に更に御検討いただくということを前提にいたしまして,まず御説明を頂き,本日のところは,御意見を頂ける範囲で御意見を伺うというところまで進めたいと思います。   ということで,「第6 遺言執行者の権限の明確化等」という点につきまして,事務当局から御説明を頂きます。 ○大塚関係官 「遺言執行者の権限の明確化等」でございまして,資料の15ページ以下でございます。   部会資料6からの変更点を中心に御説明申し上げます。部会資料6におきましては,遺贈がされた場合と相続させる旨の遺言がされた場合について,同一の規律を設けておりましたけれども,両者では法的性質が異なることなどを考慮いたしまして,この部会資料ではそれぞれ別個に規律を設けております。また,第6回部会における議論の内容などを踏まえまして,遺言執行者の復任権のほか,家庭裁判所の選任権及び解任権等について規律を設けることとしました。   次に,「2 遺言執行者の法的地位について」でございますが,遺言執行者の制度趣旨は,遺言の適正かつ迅速な執行の実現を可能とすることにあると考えられます。このような制度趣旨に照らしますと,遺言執行者は遺言者の意思を実現することを任務とするものであって,本来は代理人としての立場を有するものではありますが,この権限が現実化する時点では,既に遺言者が死者となっていますので,被相続人の法的地位を包括的に承継した相続人の代理人とみなすこととされているにすぎないと考えられます。   このような遺言執行者の位置付けに照らしますと,遺言執行者は必ずしも中立的な立場において任務を執行するということが期待されているわけではなく,例えば遺留分減殺請求の場合のように,遺言者の意思と相続人の意思とが対立する場面でも,遺言執行者としては遺言者の意思を実現するために任務を遂行すれば足ると考えられまして,それを阻止するという必要がある場合には,阻止しようとする者において,その措置を講ずる必要があるものと考えられるところでございます。   次に,「3 特定遺贈がされた場合における遺言執行者の権限について」でございます。   二つ目のパラグラフですが,本部会資料におきましては,遺贈がされた場合に遺言執行者の定めがある場合には,遺言執行者が遺贈義務者となる旨のみを定めることとしております。これによりまして,遺言執行者は,遺贈の目的が特定の物又は債権,その他の財産権である場合には,受遺者が対抗要件を備えるために必要な行為をする権限を有すること,それから,不特定物である場合には,給付をするのに必要な行為として,これを受遺者に引き渡し,かつ対抗要件を備えるために必要な行為を権限を有することが明らかになるものと考えられます。   次に,「4 相続させる旨の遺言がされた場合における遺言執行者の権限について」でございますが,結論から申しますと,まず対抗要件具備行為につきましては,部会資料6と同様に,遺言執行者の権限に含めることとしてございます。他方で,相続させる旨の遺言の目的とされた特定物の引渡しにつきましては,第6回部会での議論を踏まえまして,原則として遺言執行者の権限に含めないこととしております。   次に,「5 遺言執行の妨害行為に対する権限」でございますが,妨害行為がされた場合の取扱いにつきまして,民法1013条におきましては,遺言執行者がある場合は,相続人は相続財産の処分その他,遺言の執行を妨げる行為をすることができないとされておりまして,相続人がこれに違反する行為をした場合の効果は,判例上は絶対無効とされております。この点につきましては,取引の安全を害するおそれがあるという指摘がされておりまして,第6回の部会におきましても見直しの必要がある旨の指摘がされたところでございます。これを踏まえまして,本部会資料におきましては,遺言執行者がある場合でも相続人の処分権限は喪失しないということを前提としつつ,遺言執行の妨害行為への対応策として,遺言執行者に既にされた妨害行為を排除する権限を認めるとともに,それを予防するために保全処分等を行う権限を認めることとしております。   次に,「6 遺言執行者がある場合の当事者適格について」でございますが,第6回部会におきましては,遺言執行者がある場合には,訴訟の当事者適格を誰に認めるのが相当か明確でなく,その点が争いになるので,遺言執行者の権限の内容を明確にすることにより,当事者適格の所在もおのずと明らかになるようにすべきといった御指摘がされました。実務上,遺言執行者がある場合に当事者適格の所在が問題となる事件類型としましては,様々ありますけれども,本方策を採った場合の当事者適格の所在は,こちら19ページ以下の記載のとおりになるものと考えてございます。   続きまして,資料20ページの「遺言執行者の復任権等について」でございます。   三つ目の段落でございますが,本部会資料におきましては,遺言執行者の任務が円滑に遂行されない場合として,遺言の執行に専門的な法律知識等が必要な場合であるにもかかわらず,遺言執行者にそのような知見がない場合。次に,遺言執行者と相続人の利益が相反するなどの理由で,遺言執行者がその任務を全般的に怠り,又はその任務の一部を怠っている場合,更には遺言執行者の権限の内容が不明確なために相手方が取引等に応じない場合を想定しまして,類型ごとに対応策の検討を致しました。   まず,㋐に対する措置としましては,遺言執行者が復任権を行使して,自ら弁護士等に遺言の執行を委任するだけでなく,正当な事由があるときは全部又は一部を辞任することもできるとしております。これは,現行民法第1019条第2項に規定する場面に加えて,新たに遺言執行者がその任務の一部だけを辞任することもできるようにするという趣旨でございます。   また,㋑の場合に対する措置としましては,遺言執行者がその任務を全般的に怠っているといった場合には,現行の第1019条第1項と同様に,家庭裁判所がその遺言執行者を解任することができるとした上で,新たに遺言執行者が任務の一部のみを怠っている場合においても,その任務についての権限を喪失させた上で,それぞれ家庭裁判所が必要に応じて,新たな遺言執行者,特定の行為についての代理人を選任することができるとしております。   これに対し,㋒の場合に対する措置としましては,例えば家庭裁判所に対して,遺言執行者の権限の内容を証明する文書の交付を求めることができるとすることなどが考えられますが,仮にそのような権限を家庭裁判所に付与したとしても,その証明文書にいかなる法的効果を認めることが可能かという困難な問題を生じますため,この本部会資料におきましては,㋒の場合に対する措置について,具体的方策を掲げることはいたしておりません。   なお,相続人と利益相反の関係にある者を遺言執行者の欠格事由とすることの当否につきましても検討はいたしましたけれども,欠格事由とした場合には,遺言の実務にも大きな影響を及ぼすこと等を考慮いたしまして,この部会資料におきましては,相続人等を一律に欠格事由とはせずに,それによって不都合が生じた場合について,⑨から⑪までの規律によって対応するといったことを想定している次第でございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   多岐にわたる論点を含んでおりますけれども,それらにつきまして,弁護士の3人の委員・幹事の方々から,「遺言執行者の権限の明確化等」という文書を頂いております。これにつきまして御説明を頂けますでしょうか。 ○増田委員 ありがとうございます。   弁護士の間で検討した結果を基にペーパーを作成いたしましたので,御説明いたします。   まずは,遺言執行者の地位につきましては,基本的に今日の部会資料と軌を一にするものです。遺言者の意思を実現することを任務とするものです。   次の,就職時の通知という点についてですが,現行法では明文規定がないのですが,通知がないまま遺言執行者が預金を解約したり,いろいろな処分行為をするということについて,トラブルが生じることがかなり見られるということから,遺言の執行について利害関係を有する者である全ての相続人に通知しなければならないものとするということを提案しております。これは,もちろん住所が分からない,所在不明の者については当然通知する必要はないし,また,通知といっても到達主義ではなくて,細かいことを言えば発信主義でたりるとし,かつ,通知の有無と遺言執行の効力とは基本的に関係がないということで考えております。   それから,欠格事由ですが,先ほど来,欠格事由とまでする必要はないという話がありましたが,遺言執行者は本来,特定の相続人ないし受遺者の立場ではなく,中立的な立場で任務を遂行するものであって,もちろん弁護士が特定の相続人の代理人と遺言執行者を兼ねることはできない,これは懲戒事由に当たるとされています。   したがって,職務の性質上,必然的に利益相反の関係があるものですから,相続人や受遺者などが遺言執行者等に就任するのはふさわしくないと考えられます。民法974条で遺言執行者より立場的には軽いと思われる公正証書遺言や秘密証書遺言の証人,立会人にも欠格事由が定められているわけですから,それらよりも,相続人らに対する利害に重大な影響を与える遺言執行者については,欠格者とするのが相当であろうと考えられます。   財産目録の作成,交付ですが,これは,記載すべき財産の範囲,それから相続人の範囲について明記をした方がいいということです。従前,財産目録の趣旨については,いろいろな見解がありまして,中には遺留分減殺請求権を担保するためという見解もあって,その場合には,遺留分のない相続人に対しては交付する必要がないとか,逆に財産については,全ての財産を知り得る限り記載すべきであるという見解もあったかと思いますが,今回は明文化して,交付の対象は全ての相続人,記載すべき財産は遺言の執行の対象財産に限定するということを明確にしていただきたいということです。   それから,権限の明確化ですが,1,2は,ほぼ部会資料と同じです。遺産分割方法の指定の場合には遺贈の場合と異なり,対抗要件を具備させるために必要な行為を行えば足り,ただ,動産に関しては対抗要件が引渡しですので,引渡しまでする必要があるということになります。不動産については,第三者が占有しているものにつきを占有排除する必要まではないと考えられます。   預貯金について,これが部会資料とは異なる点ですが,預貯金については,基本的にそれ以後,その預貯金債権がそのままの形で継続するということは予定されていません。権利者が死亡すれば,原則としてそれは解約をして,そのお金を引き継ぐという形で処理されているのが一般です。そのことを考えると,預貯金債権については他の債権と異なり,遺言執行者がそれを払い戻して受益者に引き渡すということが遺言者の通常の意思に沿うものであろうと考えられます。   この点については,裁判例では払い戻し権限を認めたものと否定するものとがありますが,それでは債務者の立場も不安定ですので,遺言執行者の払い戻し権限を明記することが妥当ではないかと考えられます。預貯金債権だけを他の可分債権と分けて特別扱いするということについては,先ほど第1のところで議論されたとおりで,それは法技術的にも可能であるという前提です。   それから,(4)に書きましたが,遺留分減殺請求に対応する権限,義務はないということも,明確にすべきであると考えております。先ほどの大塚関係官の御説明にもございましたとおり,遺言執行者というのは遺言すなわち,遺言者の意思を実現するという職務を持っている者でして,遺留分減殺請求があっても,それに対して対応する必要は,基本的にはないのだろうと思います。ただ,遺留分減殺請求を受けたときに,そのまま遺言を執行することによるトラブルは,これもかなり頻繁に起こっています。実際に,減殺請求を受領することができるといった裁判例もあるために,遺留分減殺請求を受けてしまうと,実行するのもためらわれ,行くも地獄戻るも地獄ということになります。つまり,執行しないと,受贈者の方から文句を言われるし,執行すると減殺者の方から文句を言われると,こういう事態になるので,そこは明確にすべきだと考えております。   清算型遺言の債務弁済権限と処分権限については,これは現在の実務もそうだと思いますが,遺言の定めがない限りは,債務を弁済する権限,義務まではないということは明確にすべきだということです。   次の妨害行為の禁止なんですけれども,これは部会資料では,絶対無効という効果を改めるという手段として,妨害排除,予防のために必要な行為をする権限を有するということになっていますが,そこまでは想定していなくて,ただ,絶対無効とした場合には,取引の安全を害するというならば,効果を無効とした上で,善意者保護を図るということで対応すべきだという提案になっております。   最後は1015条の関係ですが,これは部会資料が削除する前提なのかどうか明確ではないですが,相続人の代理人という表現はやはり非常に具合が悪い。一般の市民の方がこれを読んだときに,相続人のためにする人だと,相続人の利益を図って動く者だという誤解を与える可能性があるので,ここは単に効果帰属だけということで,例えば,遺言執行者が行った意思表示は相続人に対して効力を生じるというような規定にすることなどが考えられると思いますので,是非御検討をお願いします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   部会資料とほぼ同様の御提案をされている部分と,それから部会資料にない御提案の部分と,部会資料の内容と異なる御提案の部分,3種類のものが含まれていたかと思います。   先ほども申し上げましたように,この問題につきましては次回も引き続き検討したいと思いますけれども,部会資料に関する御説明と,それから今の御説明等を伺った上で,今日のうちに御発言をしておいた方がいいということがございましたら,伺いたいと思います。特に,次回までに事務当局の方で検討していただく方がよろしいだろうというような御指摘があれば,お願いいたします。 ○浅田委員 配布資料としてお配りしているものですから,次回お持ちいただくのは御面倒もと思いますので,今お時間頂ければと思います。   「可分債権の取扱い(相続預金)等に関する意見」の12ページから,この論点第6についての意見を述べておりますので,この機会にお話しできればと思います。   この論点については,先ほど増田委員からお話がありましたペーパーの4の3の提案と軌を一にするものだと思います。検討の項目について,例えば遺留分減殺請求権等の論点とかいうのは,こちらでは議論,検討はしておりませんけれども,大分重複するところがありますけれども,念のために御説明したいと思います。   第6回及び今回の部会資料では,遺贈,相続させる遺言のいずれにおいても,遺言執行者は債権について,遺言において取立て等を許す特段の定めがない限り,対抗要件具備までしかできないという整理が提示されています。しかし,私どもから,遺言執行者の権限を論点として取り上げて欲しいと要望しましたのは,実は逆の方向の整理のものでありました。   私どもの資料の13ページの銀行実務からの問題意識を御覧ください。   一般の遺言者は通常,預金や金融資産については,遺言執行者に取立て及び換価をさせ,分配まですることを望んでいるのではないかと思われます。また,遺言執行者や受益相続人も,そのような手続を当然の前提として行動しており,多くの銀行でもその前提に沿うよう,遺言の書きぶりを問わず,遺言執行者による預金の解約や金融商品の解約に応じている実務を行っておりまして,これを今般,法律上も明らかにしたいという思いでございます。   また,平成15年には,日本公証人連合会様から全国銀行協会に対し,遺言執行者による預金の払い戻し請求に応じるべきとの要望を受けたこともあります。かように,遺言執行者に預金を払い戻すことは社会的ニーズがあると思われるところです。   そこで,当方からの提案でございますが,債権が特定遺贈や相続される旨の遺言の対象となっている場合には,遺言執行者は,遺言において別段の定めがされている場合を除き,その取り立て及び換価を行う権限を有するとしてはどうか,すなわち,部会資料9の原則と例外を逆転させてはどうかということです。もしこれを遺言執行者対象財産全般に適用させることが困難であれば,銀行実務に見られる立法事実に照らし,預金や金融商品の特則として定めることも是非御検討いただければと思います。以上がこの資料の説明でございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   弁護士会の御意見と重なるところ,同じ方向のところ,双方が含まれているかと思います。   そのほか,本日のうちにという御発言がございましたら承りたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○沖野委員 持ち越すほどのことではないので確認だけさせてください。   部会資料17ページのところの「特定遺贈がされた場合における遺言執行者の権限について」という項目の2段落目に「そこで」とありまして,「遺贈がされた場合に遺言執行者の定めがある場合には」と書かれており,ゴシックの方は「遺言執行者があるときは」となっておりまして,この書き方の違いに意味があるようにも思われ,単純に誤記にも思われるので,この記載に関しまして今日のうちに教えておいていただけるでしょうか。 ○堂薗幹事 基本的に同じ意味で使っております。あえて区別しているわけではございませんので,基本的に遺贈がされた場合に,遺言の中で遺言執行者の定めがある場合,要するに遺言執行者がいる場合には,遺言執行者が遺贈義務者となる。逆に言いますと,御指摘は,裁判所から選任されたような場合も同じではないかということかと思いますが,それは裁判所から遺言執行者に選任された場合も,それは当然,遺贈義務者になるという理解ですので,そういった意味では,15ページの①の表現の方が正確ということかと思います。 ○沖野委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。   それでは,この点につきましては,本日頂きました御意見も含めまして,更に次回に持ち越して検討させていただきたいと存じます。   私の不手際で,予定していたところを全て終えることができませんでしたけれども,次回のスケジュールにつきまして,事務当局の方から御説明を頂きたいと思います。 ○堂薗幹事 それでは,次回に,本日残りました遺言執行者のところをやるとともに,従前ですと,次回ぐらいに中間試案の叩き台的をお示ししてということもお話ししていたかと思いますが,二読の議論がほぼ終わりまして,ただ,中間試案の叩き台をお示しする前に,もう少し議論を詰めた方がよいのではないかという論点が幾つかございますので,次回は遺言執行者の権限について御議論いただくとともに,そのような論点をピックアップして,その点に限って議論していただき,その上で,次々回に中間試案の叩き台をお示しするということでお願いしたいと考えているところでございます。   次回の日時,場所なんですが,日時は御案内のとおり,2月16日火曜日の午後1時半から5時半までということですが,場所が次回は変更になりまして,東京地検の15階にある1531号室というところになります。隣の建物の15階ということになりますので,よろしくお願いいたします。   それでは,次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ということで,次回は更に検討いただきたいものをピックアップして御議論いただくということをお願いしたいと存じます。   本日はこれで閉会とさせていただきたいと存じます。   熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。 -了-