法制審議会 民法(相続関係)部会 第10回会議 議事録 第1 日 時  平成28年2月16日(火)自 午後1時30分                      至 午後5時41分 第2 場 所  東京地検第1531号室 第3 議 題  民法(相続関係)の改正について 第4 議 事  (次のとおり) 議        事 ○大村部会長 それでは,定刻になりましたので,法制審議会民法(相続関係)部会第10回会議を開会させていただきます。   まず,議事に入ります前に委員の交代がございますので,御紹介をさせていただきたいと思います。従前の森委員に替わりまして,東京家庭裁判所から石栗委員にお越しいただいております。どうぞ。 ○石栗委員 東京家裁の石栗でございます。どうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 どうぞよろしくお願い申し上げます。   それから続きまして,資料の確認を事務当局の方にお願いします。 ○渡辺関係官 それでは,資料の確認をさせていただきます。本日の資料といたしましては,部会資料10「相続法制の見直しに関する各論点の補充的な検討」,事前にお送りさせていただいているものでございますが,こちらの方を使用させていただきたいと思います。   それから,あと遺留分に関する事例と計算過程を示した紙を机上に配布させていただいております。こちらの方は,遺留分につきまして,現行法,A案,B案,それぞれの見解を採った場合にどのような計算になるのかというイメージをおつかみいただければということで配布をさせていただきました。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今,御紹介がございましたが,本日は部会資料10「相続法制の見直しに関する各論点の補充的な検討」ということで,四つの項目につきまして御意見を頂きたいと思っております。   ただ,その前に前回の分,部会資料9「その他の見直しについて」の最後の項目,6番目の項目になりますけれども,資料で申しますと15ページ以下の「遺言執行者の権限の明確化等」につきまして,引き続き御意見を賜りたいと存じます。説明の方は前回,事務当局の方から頂いておりまして,これに対して意見があるということであらかじめ資料等をお出しいただきました委員の方々から御発言を頂いたところでございますけれども,なお十分な検討ができておりませんので,引き続き御意見を賜ればと思います。   ということで,前の資料9の「第6 遺言執行者の権限の明確化等」というところにつきまして,御質問,御意見等を頂きたいと存じます。 ○浅田委員 前回の会議にお手元の可分債権の取扱い等に関する意見の12ページ以降に記載いたしました「4.遺言執行者が債権を取立換価する権限」という項目について御説明を差し上げる機会を頂戴いたしましたが,もう一度,その内容の説明を簡単に申し上げた後,若干の補足事項がございますので,御説明申し上げたいと思います。   私の主張の要点は,部会資料9のような整理をすると,円滑な預金の払戻しや,ひいては円滑な遺産の分配が困難になるということです。これは第5回の会議において私から,遺言執行者の権限を本部会の論点として取り上げてほしいという要望を申し上げた際からの一貫して述べていることでもございます。   そして私の資料の13ページに関連する事実を申し上げますと,このたび,全国銀行協会におきまして都市銀行,地銀,信託銀行を含む14行の実務をアンケートいたしました。その結果ですけれども,弁護士などの専門家や金融機関が遺言執行者である場合は,遺言執行者の解約払戻し権限が遺言に明記されていなくとも,執行者による解約払戻しを認める銀行がほとんどでありました。また,専門家や金融機関が執行者であれば,相続させる遺言であったとしても,執行者による解約払戻しを認めるとした銀行がほとんどでした。   かように遺言執行者においては遺言の書きぶりを問わず,遺言執行者に預金の解約権限があると考えられており,このような要請に銀行は応じているという事実があるということを指摘したいと思います。   なお,部会資料9の事務当局の御整理では,遺言執行者は対抗要件具備しかできないのですが,これを預金や金融商品に当てはめますと,金融機関に対して受遺者や受益相続人への名義変更を請求することまでしかできないという帰結になろうかと思われます。   この点,先ほどのアンケートによりますと,預金についてはそもそも遺言執行者には名義変更を認めていない銀行も複数,実務としてありました。これは推測するに,長期間連続する取引である預金契約において,当事者が複数にまたがるという事態が複雑な権利関係を招いて妥当ではないと考えられることや,本人確認手続上の問題などが理由と思われます。   更には銀行が取り扱う金融商品,例えば投資信託や公共債については,金融商品取引法上の契約前締結書面の交付や説明義務の問題もあり,遺言執行者単独での名義変更には応じないとする銀行が多数派です。預金のうちでも外貨預金やデリバティブ組込み預金はこちらの部類に入ると思われます。   したがいまして,名義変更請求しかできないという整理では結局,遺言の内容を実現することはできないことになると思われます。よって,預金や金融商品につきましては,遺言執行者に広く解約,払戻しの権限を認めないと実務はワークしないと思われる次第でございます。以上,補足申し上げました。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○堂薗幹事 ただいま御指摘の点ですが,問題状況は非常によく分かりました。遺言執行者の権限のところは,基本的には任意規定で,遺言者は通常どのような意思を有しているのかというところを推測して一定の規律を設けるというところがございますので,ここでお示ししている分については,基本的に処分権限を不動産等も含めて全般的に認めるのは相当ではないのではないかというのは当然あるわけですけれども,今,御指摘がありましたように,例えば預金債権あるいはその他の金融商品などの一部につきまして,遺言者の合理的意思解釈として,むしろ遺言執行者に解約権限を認めて,現金で相続人あるいは第三者に分配するというのが通常の意思だろうと思われるのであれば,そういう事実があるのであれば,それを原則的なルールとして設けるということは考えられるのではないかと思います。ですので,その辺については実務の状況等を御紹介いただきましたけれども,そういった点も踏まえて,引き続き検討したいと思います。   また,第一読のときにお出しした資料では,遺言執行者の処分権限については,遺言の中にそういう定めがある場合に限り処分できるとしていたわけですが,今回の資料では,処分権限について明確には規定しておりませんで,特定遺贈の場合にはこういうことができる,相続させる旨の遺言がされた場合にはこういうことができるということが書いてあるだけで,処分権限については明確には書いておりませんので,この点は解釈に委ねるという前提でございます。もっとも,こういったできることが書いてありますと,その反対解釈として,書かれていないことは原則としてできないという,そういう解釈がされる可能性はありますので,その辺りも御指摘を踏まえて,引き続き検討していきたいと思います。 ○浅田委員 一言。趣旨は理解いたしましたけれども,私の主張としては,明文化されるデフォルトルールの内容を変えていただきたいということです。このままでのデフォルトルールだと,金融商品等に関しても,処分権限まで遺言執行者に与えたいときは遺言にその旨を記載しろということになりますが,現実的には, それはなかなかなされないだろうと思います。よって混乱が生じるのではないかという問題意識でありますので,ここは政策的な判断が必要ではないかということでございます。 ○堂薗幹事 私もそういう前提でございまして,ここでの問題は,遺言者の通常の意思はどうなのか,不動産の場合と預金の場合とでは,処分権限に関する遺言者の通常の意思は異なるのではないかというところですので,可分債権に関する前回の論点に比べますとまだ整理はしやすいのではないかという印象を持っております。 ○大村部会長 浅田委員,よろしゅうございますか。 ○浅田委員 はい。 ○大村部会長 ありがとうございます。そのほかいかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 遺言執行者の権限について話されていることの言わば前提について,お伺いいたします。心配になりますのは,母法のフランス法では,遺言がある場合は全部,公証人が遺言の実行を致しますので,遺言執行者の権限を強くしておいても問題はないのですが,日本の場合には,全てが私人に委ねられていますから,怪しい遺言へのそういう安全弁がありません。たとえば自筆遺言証書に遺言執行者が書かれているということで,その遺言執行者が銀行などに行って,全てのことができるという前提になりますが,後で自筆遺言証書が偽造であると判断される事態が起こる可能性は相当にあります。   つまり,遺言の執行全体が日本の場合にはとても危うい構造になっていますので,不安がつのります。そういうトラブルが起きた場合についてはどのような措置をお考えでしょうか。あるいはまだ熟慮しておりませんが,事前に公正証書でかなり堅い手続で遺言執行者が命じられた場合だけ遺言執行者にそのような権限を与えるという仕組みにする可能性もあるかとは思うのです。そういう構造的問題を抱えている点について,遺言執行者の権限を考えられる際に当たって,何か御配慮がありましたらお教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 無効な遺言がされた場合にどうするかというのは,非常に大きな問題であろうと思いますが,ここは基本的には遺言がされた場合に,遺言者の通常の意思を推測して権限を明確化しようということでございます。したがって,現行法に比べて遺言執行者の権限を強化しようとか,必ずしもそういうことではありませんで,現行法上は,遺言の執行に必要な一切の行為をすることができるという一般的に規定が置かれているだけで,特定遺贈ですとか相続させる旨の遺言について,個別に権限の内容を定める規定を置いていないことから,その権限の内容が不明確ではないかという指摘がされていることを踏まえ,そこを明確化するという趣旨でございますので,そういった意味では今,水野先生が御指摘いただいたような問題点について何か検討をしているという状況にはございません。 ○水野(紀)委員 もちろん現行法そのものが現に抱えている問題ですので,それについて特に新たに変えるものではないという御説明はよく分かるのですが,今回の会議でかなり遺言を活用しやすくする方向で改正が提案されておりますので,そういう根本的な問題を抱えている日本における遺言という制度の動かし方について,できれば何かお考えいただければと思います。ありがとうございました。 ○大村部会長 よろしゅうございますか。 ○中田委員 今の水野委員の御発言とも少し関連するかもしれないのですけれども,遺言執行者の義務について整理する必要はないだろうかということです。善管注意義務があることは委任の規定の準用ということから出てくると思うのですが,忠実義務をどう考えるかということです。特に処分権限を認める,あるいは広げるという方向ですと,その問題が出てくるのではないだろうかと。特に法人が遺言執行者になるということが増えてきますと,規律を明確化しておく方がいいのではないかと思います。遺言執行者の場合には,その代理関係が必ずしも明確でもないということもありますので,検討する必要があるのではないかと思います。 ○堂薗幹事 御指摘の点は検討できておりませんので,検討したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   そのほかいかがでございましょうか。 ○増田委員 まず,前回,我々からも意見を出したところでありますが,遺言執行者の権限についての包括的規定である現行1012条1項,これは私たちも削るという趣旨ではなかったところ,部会資料ではそこは明確になっていないのですが,この条項は存続するという前提で考えてよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 はい,そこは遺言全体の総則的な規定として残しつつ,特に特定遺贈ですとか遺産分割方法の指定がされた場合の規律を個別に置くということを考えております。現行法でも1012条のほかに,こういった場合には遺言執行者はこういう権限があるというような規定がございますので,それと同じような規律を特定遺贈などについても設けるという趣旨でございます。 ○増田委員 ありがとうございます。そこで次の1013条の問題なのですが,これについては部会資料と私たちの意見とでは少しニュアンスが異なります。部会資料では現在の1013条が相続人が処分その他の妨害行為はできないとしているのを改めて,遺言執行者の方がそれを差し止めるなど,妨害排除予防の権限を有するという形になっています。   ここのところは相続人の行為の効果に関わってくるだろうと思うのですが,我々の意見の方では,そこは相続人の遺言執行者の処分権限に反する行為の効果は原則として無効というのを維持すべきだということにしております。   そこのところで,もし有効だということになれば,つまり遺言の対象財産について相続人が遺言に反して他の者に譲渡するというようなことをした場合も有効だと解されるのであれば,対抗要件で処理されるわけですが,我々の意見では現行法維持として原則として無効で,もし善意者保護等の必要があるならば,善意者保護の規定を置くべきであるということになっています。そこのところの優劣は是非御検討いただきたいなと思っております。   遺言執行者がせっかくいるにもかかわらず,つまり遺言者が遺言執行者に後を託したにもかかわらず,相続人がそれに反する行為をしたときに,それは有効であって,それで取得した人は悪意であっても対抗できるというような結論が妥当なのかどうか,そこは少し御検討いただきたいなと思っております。 ○堂薗幹事 御指摘のような問題点はこちらとしても非常によく分かるところなのですが,他方で,今回の部会資料でお示ししたとおり,9ページのところで「積極財産に関する規律」というのがございまして,遺言によって相続財産に属する権利を取得した場合であっても,対抗要件を備えなければ第三者に対抗することはできないという規律を置くということにしておりまして,この点についてはそれほど異論はなかったかと思いますけれども,こういう規律を置きながら現行の1013条を維持いたしますと,結局,遺言執行者の定めがあれば,この9ページの①の規律はほとんど意味がないということになりまして,結局,第三者としては遺言の中身を確認しない限りは相続人を相手に取引をしていいかどうかも分からなくなるという面がございます。今回お示ししている考え方は,どちらかというと,そういう意味で取引の安全を重視した考え方であるのに対しまして,今,増田委員から御指摘いただいた考え方というのは,遺言者の意思をむしろ重視するというところかと思いますし,正にそこは政策的な判断が必要なところだと思いますので,是非その点について御意見を頂ければと思うところでございます。 ○大村部会長 増田委員,よろしゅうございますか。   他の委員の御意見ももちろん伺いますが,今のような考え方に基づいて,その提案がされている。この御説明の部分はよろしいですか。 ○水野(紀)委員 戦後の相続法改正で,家督相続という一対一対応の相続が廃止されて,多数人に相続される共同相続になったときに,本当は遺産分割についてのきちんとした手続を定めなくてはならなかったところ,それを立法しなかったというところに一番根本的な問題があるのでしょう。でも,そういう形で長年運営してきている間に,最高裁の判例は,戸籍と登記という制度がありますので,戸籍と登記に依存する形で,法定相続人から法定相続分を買う分には安心できるというルールをずっと作り上げてきて,それで長年取引社会は動いてまいりました。遺言が増えてきたために,またその遺言に遺言執行者が付くケースが増えたために,このルールは,非常に危うくなりましたし,指定相続分と相続させる旨の遺言がある場合に,最高裁判例は従来の法定相続分を買う分には安心できるという枠組みを壊してしまったわけですが,でも,だからといって,いきなり遺言があると相続人の処分権を全て奪うというのは,これは相当ドラスティックな改革になるように思います。   遺贈と登記についての最高裁判例は,取引相手方から相続人の存在はよく分かるけれども,遺言の存在は分からないことを前提に,当時の学説も,遺贈の受遺者が登記を信頼した第三者に負けてしまうという最高裁の判例に賛成する評釈を書いておりました。時代は変わりましたし,それから遺言も増えてまいりましたし,これからは変わっていくのかもしれません。また私自身も,従来の判例法理での運用が,共同相続人と取引相手にリスクを負担させていますから,いいものだとも思ってはおりません。そういう意味では,私もアンビバレントで,これを期に抜本的な改革がされるのであれば,遺産分割前や遺言があったときには,相続人の処分権を奪うのが本来の筋のようにも思います。ただそれに代わるためには,遺言執行についての制度的担保を構築することが必要であり,相続手続を全体的に手当てしなくてはなりません。それがない現状では,やはり遺言の存在が取引相手から分からないという事態は変わらないように思いますので,遺言があった場合に全て相続人の権限が奪われるというのは,やはりあまりにドラスティックで,不安が残ります。 ○大村部会長 今のような御意見が出ましたけれども,ほかの委員ももし何か御発言がありましたら伺いたいと思いますが,いかがでございましょうか。 ○増田委員 今,水野委員からの御意見はありましたが,確か現在の判例は,むしろ遺言執行者がある場合に,相続人がそれに反する行為をしたという場合には無効としているのであって,これに対して今回の改正はこの場合に取引の相手方の保護を図るということが考えられているわけで,私たちが決してドラスティックなことを言っているわけではなくて,多分,法務省の部会資料の方がむしろドラスティックなのかなと思う次第なのですけれども,遺言執行者がいるときの第三者保護という点については,その第三者が悪意であっても保護されるのか,あるいは今までのように絶対無効として,善意者も含めて保護されないというのかという両極端にとらわれず,中間的な規定があってもいいかなとこちらは考えている次第です。 ○水野(紀)委員 増田委員のおっしゃることに反対するわけではなく,また事実として現にずっと1013条があったことを否定するわけでもございません。ただ,かつては,そもそも遺言が少なく,かつ遺言執行者を付す遺言が少なかったという前提の下で取引が動いていたという趣旨でございます。1013条については我妻先生以来,これは非常に危険なので,一刻も早く立法的に何とかするようにと,学説が昔から強く主張してきておりました。その1013条がいよいよ遺言が増え,遺言執行者が増えてきた現在,問題になっていて,それを受けてお考えいただいているという状況なのだと思っております。ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今の点につきまして賛否両論が出ているわけでございますけれども,特にこの点についての御発言,浅田委員,何かございますか。 ○浅田委員 違った観点からの質問,1013条に関する質問ですけれども,主に銀行が遺言執行者になる場合の観点からの質問です。今回この第6の⑥というのは新たな提案というふうに理解しておりますけれども,遺言執行者に妨害排除権を与えて,現行法の1013条の遺言執行を妨げる行為を絶対無効とする規律を改めるという提案だと理解しています。見直し案によると,遺言執行者は妨害排除権等を有するということが明確化されるということです。   遺言執行者が業務を開始する前に遺言執行の妨害行為が行われて,相当程度そういう妨害行為が進んでしまっている場合,遺言執行が困難になり,遺言者の意思の実現,遺言による遺産処分が骨抜きになりかねないということが懸念されると思います。遺言執行者は,相続人から連絡を受けなければ執行を開始し得ないからです。   そうしますと,適時に遺言執行を開始して妨害排除権を行使しなかったという見方をされる可能性もありまして,そうなった場合に受遺者から遺言執行者に対して損害賠償請求を受けるという可能性もあるのではないかと思ったわけです。権限を規定すると,それに対応する責任という問題もできますから,その責任の範囲ということも併せ御検討いただければと思います。   なお,現行民法の1013条の規律を支持する意見としまして,新版の「注釈民法」の28巻の356ページでは,遺言による遺産処分と相続人による処分の関係の問題を,例えば民法177条,すなわち対抗要件の平面で処理するとの見解が紹介されています。この見解に対しては,そのような構成を前提にすると,遺言執行者は,処分禁止の処分をするなどの方法により,全面的に保全処分をしなければならなくなる,というような大きな無理が伴うとの批判がなされており,要するにその対抗要件の処理は遺言による遺産処分を骨抜きにしてしまうという問題意識が記されているということを付言したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   この1013条につきましては,今いろいろな御意見があり,あるいはここに出ている以外の選択肢も含めて更に検討すべしという御意見も出ておりますけれども,さらに御発言はありますか。 ○村田委員 確認ですけれども,先ほど堂薗幹事から9ページの対抗要件に関する規律について御説明を頂いたところからすると,今回の1013条の見直しによって,遺言執行者は妨害の排除等ができるということなので,遺言執行者において,遺言と矛盾する事実行為や対抗要件具備行為といったものを排除することが想定されているのかなと思います。   もっとも,相続人は元々の自分の法定相続分の範囲内では有効に処分ができ,第三者との関係でもそこは対抗要件なしでも有効に処分できることからすると,遺言執行者としては,相続人による対抗要件具備行為等のうち,その法定相続分を超える部分について,適時にこれを妨害と捉えて排除するということになるのでしょうか。 ○堂薗幹事 ここは,例えば特定の不動産を相続人の一人に遺贈する,あるいは相続させる旨の遺言がされたという場合,当然,遺言執行者は1の①や③の規定で,対抗要件具備の権限がありますので,それについて対抗要件を具備すれば当然,その受益相続人が確定的にその不動産を取得できるわけですが,ここで念頭に置いているのは,その前に他の相続人が第三者に法定相続分の処分をして登記までしてしまったという場合には,第三者が背信的悪意者ではない限り,その第三者が法定相続分に相当する部分を確定的に取得するということです。   それ以外の部分については当然,遺言で定められた受益相続人が権利を取得するということになろうかと思いますので,そういった意味で対抗問題との関係で言いますと,あえてこの⑥を使わなくても対抗要件具備行為については権限がありますので,基本的には特定遺贈の場合はその受遺者との共同でやればいいわけですし,相続させる旨の遺言であれば単独でできるという前提ですので,基本的にはそこで十分な手当ができるのではないかということでございまして,それに加えて更に必要な場合に,ここで書いてあるような妨害排除等の権限を付与しているという趣旨でございます。 ○村田委員 わかりました。 ○大村部会長 ほかにこの点についての御発言ございますか。 ○潮見委員 頭が全然整理できていないのですけれども,今の現行法の1013条とそれから今回の御提案,具体的にどこが違うのですか。レトリックとしては処分権限というものが相続人にもあって,その上でこういう妨害状態があり,しかもその遺言内容についての妨害があれば,それはその部分については然るべき権限を遺言執行者が持つというところは違うのかもしれませんが,結論的にどこがどう違うのかというのが,私は,さっぱり分からないのです。   今回の御提案のところでは取引の安全の保護ということを言っておりますけれども,でも,これは正に先ほど村田委員がおっしゃったとおりで,妨害状態と,それから正にその権利侵害といいましょうか,権限侵害というものがあれば,それでもうその処分行為自体は,あるいはその対抗要件具備行為自体は,その部分に限って効力を失うわけですよね。そうでもないのですか。その辺りがちょっと分からなくなってきました。分かりやすい例で教えていただけませんでしょうか。 ○堂薗幹事 現行法の規律ですと,例えば被相続人Aが相続人の1人であるBに不動産を相続させるという遺言をしている場合は,そのB以外の相続人C,Dが仮にほかの人に処分をしても元々権限がない,要するに処分権限がないわけですので,それは無権利者からの譲受人で何ら権利は取得しないということになります。   これに対しまして,ここで書いてある考え方は遺言執行者が選任されているだけでは当然には相続人の処分権限は失わないということですので,今のCとかD,例えばお子さんが3人いるような場合であれば,それぞれ3分の1ずつの処分権限が残りますので,その分については第三者にそこを譲渡した場合は,その限度で有効になると。   したがって,その3分の1については正に対抗問題で処理することになるのに対しまして,現行法ですと,そもそも対抗問題になりませんので,そこに違いがあるのではないかということでございます。 ○大村部会長 今の御説明はわかりましたが,その上で,先ほど触れられた9ページの第4の権限があるので,実際上,問題の生じる場面というのは限られてくるのかという,先ほどの村田委員からの御発言についてはいかがですか。 ○堂薗幹事 そうですね。実際に妨害排除が必要になる場面は限られるのではないかということですね。 ○沖野委員 今の御説明ですが,前提としては特定の不動産について特定の者に相続させる遺言があったという前提ですよね。 ○堂薗幹事 はい。 ○沖野委員 そうすると,その特定の不動産について他のというか,およそ相続人がというか,他の者が3人でそれぞれ3分の1ずつ権利を持っているという御説明だったのですが,それは現行法上,そうなのですか。 ○堂薗幹事 いや,現行法は違います。現行法は違いますが,相続させる旨の遺言について,部会資料9の9ページの①の規律を新たに設けることによって,そこも変えるという前提ですので。 ○沖野委員 分かりました。そちらでまず相続させる遺言の効力が変わることを前提にですね。 ○堂薗幹事 そうです,はい。 ○増田委員 すみません,誤解のないように。相続させる遺言だけではなくて,遺贈も全てそうなるのですよね。だから違いは1013条があることによって遺言執行者がいれば,その遺贈の目的物等に対して相続人がした処分は無効になっていると。けれども,今回の部会資料の案では相続人の処分権限を奪わないということによって,処分は有効になると,したがって対抗要件になるという御説明だと思うのですよね。それに対して,我々はそれは違うのではないかというところを言っているわけで,そこが違うのです。 ○堂薗幹事 御指摘のとおりなのですが,9ページの①は,先ほどの遺贈に関して言えば,判例の規律を変更するものではなくて,正に相続させる旨の遺言がされた場合について判例を変更するものです。それを踏まえると,結局,遺言によって権利変動があった場合には,基本的には法定相続分を超える部分は登記がないと対抗できないということになるので,1013条があると,9ページの①のような規律を設ける意義が減少するのではないかという趣旨でございます。 ○窪田委員 質問というのではなくて,私の理解が正しいかどうかだけを確認させてください。現在の判例ですと相続させる旨の遺言の場合には特定の相続人に直接に帰属してしまうので,もう他の相続人に処分権限なんか何にもない。だから,そもそも1013条の問題になんかならない。しかし,そうではないタイプのものにおいては,1013条というのがあり,それによって無効という効果をもたらしてという2段階の形の問題になっているということなのかなと思います。   ところが,今のお話ですと,相続させる旨の遺言に関しては,もう提案されたような形で解決するわけだから,相続させる旨の遺言によって直接帰属するわけではなく,そもそも1013条の問題にまではたどり着かないというか,1013条を持ち出さなくても,もうそこで対抗問題で片付く。だから,現行の1013条のような問題を扱う必要はないということで,よろしいですか。   というのは1013条の話をしているのか,相続させる旨の遺言の実体法上の話をしているのか,ちょっと私自身も分からなくなってきてしまったものですから,当初は分かったような気がしていたのですが。 ○堂薗幹事 相続させる旨の遺言について,9ページに書いてあるような見直しをしますので,少なくとも遺言執行者が選任されていない場面を考えますと,それは常に対抗問題になるわけです。だけれども,そういう規律を設けておきながら,1013条を現行法のまま維持し,遺言執行者が置かれている場合には相続人には一切の処分権限がないということにしますと,結局,遺言執行者が選任されている場面では対抗問題が生じないことになりますので…… ○潮見委員 それは違うのではないですか。先決問題は9ページに書かれていることであって,ここをクリアした場合には,1013条の問題は起こらないのではないのというのが窪田委員の御発言であり,私もそれなら分かるのですけれども,でも当初の説明は堂薗委員がおっしゃったのはちょっと違うような感じがします。   要するに,遺言執行者がいる場合でも9ページの問題であり,そこのルールで片が付くわけですよね。1013条を作ることによって,これも崩れるわけですか。 ○堂薗幹事 9ページの①の規律を設ければ,1013条があっても相続人はその法定相続分の範囲内では当然に処分できるということになるのであれば,1013条を見直す必要はないのではないかと思いますが,この規律を設けることによって,当然に1013条に関する判例が変更されることになるのかという点については,必ずしも論理必然ではないのではないかと思ったという次第でございますが。 ○大村部会長 この第4の1のルールと,それから,1013条の関係について,あり得る考え方を整理していただくということですね。それでないと議論が進まない状況になっているわけです。 ○窪田委員 お願いとして,それで結構なのですけれども,相続させる旨の遺言,それから特定遺贈とか,それぞれの場面で具体的にどうなるのかというのをやはり,先ほど村田委員からの御質問もその部分だったのではないのかなと思うのですが,結局それでどうなるのか,1013条の問題とかが残るのか残らないのかも含めて,ちょっとクリアにしていただいた方が議論しやすいかなという気がいたします。 ○大村部会長 今の御指摘を踏まえまして,再度整理をして次の機会に案をまとめていただくということで引き取らせていただきたいと思いますが,この点につきましてはよろしいですか。   それでは,そのほかの問題もあろうかと思いますので,更にこの遺言執行者の権限につきまして,御指摘を頂ければと思います。 ○浅田委員 遺言執行者の立場から細かい点を2点御質問したいと思います。まずは部会資料第9の16ページの⑨解任事由ですが,遺言執行者の任務に適さない事由があるときと書いてありますけれども,これはどのような場合が含まれるのかということがよく分からないということです。濫用的な解任申立てにより遺言執行者に支障が生じるのではないかという懸念があるということがその質問の背景であります。現行法,1019条の第1項の内容を見ますと,その任務を怠ったとき,その他正当な事由があるときと書いてありますけれども,この文言でも十分に柔軟な運用が可能であるのではないかと思っております。現に部会資料の20ページを見ますと,下から2段落目でありますけれども,その任務の一部を怠っている場合には等々と書いてありますので,その文言を変える意図というのをお伺いしたいということです。   2点目でありますけれども,同じくその部会資料16ページの⑩家庭裁判所による遺言執行者の権限喪失規定の新設についてです。遺言執行者の権限喪失事由として「相当と認めるとき」は広範すぎ,濫用的な申立てにより遺言執行者に支障が生じかねないのかなという懸念があります。遺言執行者が任務に属する特定の行為を行わない又は行えない場合には,相続人間において遺言の有効性等に争いがある,ないしは相続人の一部が執行妨害行為を行っている等の様々な理由があるわけでありまして,不必要に申立てが行われないように検討されたいと執行者になり得る立場からは考えますけれども,この点,何らかの手当を御検討されているのか,お尋ねしたいということです。 ○堂薗幹事 まず1点目につきましては,確かに現行法どおりという考え方も十分あり得るのだろうと思いますが,ここで任務に適しない事由と挙げましたのは,従前から御指摘があります遺言執行者の欠格事由との関係で,例えば相続人が遺言執行者になった場合に,利益相反の関係があって,その相続人に遺言執行をさせるのは相当でない場合もあるのではないかというような御指摘があったわけですが,欠格事由として定めることまではなかなか難しいのではないかと思うわけですが,そういった利益相反の関係があることなどによって,当該事案においてその相続人に遺言執行させるのは相当でないという場合には,この規定を基に解任するということもできるのではないか。   そういった意味で,そういった利益相反的な関係がある場合にも場合によっては解任できるという趣旨を明らかにするためには,任務に適しない事由という方がより表現できているのではないかと思って御提案をしたところではございますが,現行の方が明確だということであれば,現行法のままということも十分あるとは思っております。   それから⑩の相当性のところでございますが,これは任務の一部についてだけ権利を喪失させるということになりますと,そもそも遺言の内容が明確であれば特に問題はないのかもしれないのですが,必ずしもその内容が明確でないという場合に,家庭裁判所が権限の内容について判断をした上でそのうちの一部について権限を喪失させるというのはなかなか難しい面もあろうかと思いまして,そのような場合には,権限の一部だけを喪失させることはむしろ相当ではないのではないかと。そういった意味で,単にその任務の一部について特定の行為をしないというだけではなくて,一部の権限を喪失させることが相当であると認められる場合に限って,裁判所は権限喪失の裁判をすることができるというようにした方がいいのではないかという観点から,相当と認めるときはという要件を設けたということでございます。   更に言いますと,遺言の場合にはそれぞれの条項が関連している場合もございますので,その一部についてだけ権限を喪失させることが相当でない場合もあろうかと思いますので,そういった意味も含めまして,ここでは相当と認めるときはという要件を付け加えたということでございます。 ○大村部会長 浅田委員,よろしゅうございますか。 ○垣内幹事 別の点ですけれども,よろしいでしょうか。あるいは前回,御説明の中で触れられていたのかもしれないのですけれども,ちょっと初歩的な点の確認で恐縮なのですけれども,前回の部会資料9の15ページ,第6の2のところの遺産分割方法の指定がされた場合における執行者の権限に関しまして,③の内容と④の内容との関係について1点だけ確認をいただければと思いまして。③では対抗要件具備のために必要な行為ができるということで,④で特定物の引渡しの権利義務はないということになっておりますけれども,その引渡しが対抗要件になるような特定動産に関して,その遺産分割方法の指定がされているという場合についての執行者の権限というのは,これはどういうふうに理解をすればよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 この点については,③の特定の財産のところに動産と書いてありますように,動産の場合は引渡しが対抗要件になりますので,動産について相続させる旨の遺言がされた場合には,引渡しまでしなければいけないと。それは正に対抗要件として必要だからそういった権限があるということでございまして,その意味で,④は,逆に言いますと,対抗要件にならない場合については引き渡す権利義務はないということを定めたというものでございます。 ○垣内幹事 それで理解できたように思うのですが,合わせて19ページの当事者適格との関係で,ⅳのところの動産引渡請求訴訟等というところについても同様で,対抗要件の具備行為として引渡しが権限だという場合については,動産の引渡請求訴訟の被告にもなり得るということになりますでしょうか。 ○堂薗幹事 すみません。今の御説明とは若干矛盾しているのかもしれませんが,動産の場合ですので,ここはそうなると思います。 ○垣内幹事 ありがとうございました。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   最初に浅田委員から出された権限の明確化について,特に新たな規定を設けていただきたいという点,それから相続人の処分権限をどうするかという点,それから中田委員から出ておりましたけれども義務の点,それから解任や権限喪失等についてどうするかという点などが今までに出ているかと思いますけれども,そのほかの点につきまして,何か御指摘がございましたらお願いいたします。 ○村田委員 やや細かいところですけれども,⑪では,家庭裁判所が一定の場合に新たな遺言執行者を選任したり代理人を選任したりすることができるとされています。実際上どのぐらいあるかは正直分からないのですが,仮に遺言で遺言執行者はこの人だという指定をして,かつその人以外は駄目だよというようなことまで念には念を押して意思表示がされているようなケースがあった場合には,遺言で指定された方が解任されない限り,家庭裁判所としては,他の者を新たな遺言執行者として選任することはできないことになるのでしょうか。また,そのような場合でも,家庭裁判所としては,代理人の選任をすることはできるのでしょうか。今の段階でイメージがあれば教えていただきたいのですが,仮にまだそこまではということであれば,今後もしこの方向で検討が進むということになった場合には,そういった点についても御検討いただければ有り難いなと思います。 ○堂薗幹事 今の点は検討したいと思いますが,ここでは⑧や⑨はこういう正当な事由がある,あるいは任務に適しない事由がある場合は遺言でどういう定めがされていようと辞任を認め,解任を認めるということになろうかと思いますので,むしろ遺言の中で非常に強い意思が表れている場合というのは,⑩の相当性の要件のところでは考慮要素になると思いますが,基本的にはそれ以外のところでは,必ずしも考慮要素にはならないのではないかという印象を持っております。 ○大村部会長 よろしゅうございましょうか。そのほかいかがでございましょうか。 ○浅田委員 第9ではないのですけれども,二読が終わる前に一言申し上げたいと思います。 ○大村部会長 はい。   それでは,遺言執行者の権限につきましては本日いただきました御意見を踏まえまして,更に検討していただくということをお願いしたいと思います。   残りの時間で資料10の方の相続法制の見直しに関する各論点の補充的な検討ということで,既に御検討いただいております論点ですけれども,更に御意見を頂きたいということを4点に分けて準備を頂いております。   それでは,まず第1について事務当局の方から御説明を頂きます。 ○渡辺関係官 それでは,関係官の渡辺の方から第1について御説明いたします。   今回の提案は,部会資料8の甲案について第8回部会での御議論を踏まえて修正をしたというものでございます。内容的には遺留分を金銭債権化するという①,②の部分と,現物返還の方法を定める③,④あるいは③′という二つの部分に大別されます。   まず補足説明の1の「部会資料8からの変更点」を御覧ください。部会資料8では,遺留分権利者は金銭債務の履行がない場合には,現物返還を求めることができるものとしておりましたけれども,第8回部会では,このような規律があることによって制度が複雑化するといった御意見が多かったところでございます。また,部会資料8では例外的に現物返還となる場合の手続についても提案をしておりましたけれども,手続の詳細についての疑問であったり,遺留分制度が複雑化することへの懸念などが第8回部会において示されたところでございます。   そこで本部会資料におきましては,これらの御指摘を踏まえまして,例外的に現物返還となる場合の手続やその具体的内容について改めて検討を加えさせていただきました。③,④あるいは③′がこの部分に当たります。   そのほかにも金銭債権の行使期間に関する規律等についても若干の修正をさせていただいておりまして,それが①,②に当たる部分でございます。   次に2ページの2の「遺留分権利者の権利行使について」でございます。   部会資料8では,「遺留分を侵害された者は,受遺者又は受贈者に対し,相当の期間を定めて,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めることができる」こととしておりました。前回の提案も,遺留分減殺請求が行使上の一身専属性があるという点を見直すという趣旨ではございませんで,遺留分権利者の権利行使の意思表示があって,初めて金銭債権が発生するということを前提としておりましたけれども,この点が明確ではございませんでしたので,本部会資料では,遺留分権利者の権利行使の意思表示とそれに基づく金銭請求,これを分けて記載するということにしております。   なお,当初から金額を特定して金銭の支払を求めた場合には,これらの意思表示が含まれているということになりますので,実際の手続が煩雑になるということはないものと考えているところでございます。   続きまして,3の「一定期間について」でございます。   今回は遺留分減殺請求によって金銭債権が発生しますが,遺留分権利者が実際にその金銭債権を行使するためには,一定の期間を定めて遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めなければならないということとしております。これによって受遺者又は受贈者は,その期間中は金銭債務の支払をしなくても履行遅滞責任を負わないということになります。また,案-1を採用した場合には受遺者又は受贈者はその期間内に所定の手続をとることによって,遺留分権利者に対し,金銭の支払に代えて現物を返還する旨の主張をすることができることになりますが,その旨が主張された場合にも受遺者又受贈者は,その内容が確定するまでの間,履行遅滞責任を負わないということを想定しているところでございます。   このように②の一定の期間というのは,受遺者又は受贈者にとりましては金銭を準備する期間であるとともに,案-1を採用した場合には現物返還によることとするか否かの選択をするための熟慮期間としての性格も併せ有することになるものと考えられますので,相応の期間を設ける必要があるように考えられます。この点につきましては部会資料では,相続の承認又は放棄すべき期間を定めた民法の規定を参考に3か月を下ることができないということに一応させていただいております。   以上が金銭債権に関する部分でございまして,引き続きまして現物返還の方法に関する部分,提案で申しますと③以降についての補足説明に入りたいと思います。   4の「例外的に現物返還となる場合の手続について」を御覧ください。   遺留分権利者が取得する権利を金銭債権といたしますと,受遺者又は受贈者としては遺留分権利者に支払うべき金銭を用意することができず,現物で返還することを希望することも想定されますので,金銭の支払に代えて現物返還をすることを可能とすることが考えられるところでございます。   もっともその方向性につきましては,減殺対象財産に限定せず,合理的に定めることができるようにするという方向性と,減殺対象財産に限定した上で,現行法上の価額弁償の抗弁のように受遺者又は受贈者の選択に委ねるという方向性が考えられるところでございます。   案-1につきましては,前者の方向性を指向するものでありまして,返還すべき財産を合理的に定めることができるというメリットがある反面,返還すべき財産を定める手続,これを新たに構築する必要があるという点に課題が残るというものでございます。   案-2は後者の方向性を指向するものでありまして,返還すべき財産を合理的に定めることができない場合が生じ得ますが,手続的には簡略になり得るのではないかというところでございます。   それでは,3ページの5の「案-1について」御説明を致したいと思います。   受遺者又は受贈者から遺贈又は贈与の目的財産を返還する旨の主張がされた場合には,まず当事者間で協議をしていただくということになります。そして当事者間の協議が調わない場合には遺留分を侵害された者又は受遺者若しくは受贈者の請求により,裁判所でその内容が定められるということになります。   この場合には,裁判所は遺留分侵害額を確定させた上で受遺者又は受贈者に対し,金銭の支払を命じ,又はその支払に代えて遺贈又は贈与の目的財産を返還するように命ずることになるということを想定いたしております。なお,この手続につきましては共有物分割請求同様に,地方裁判所における形式的形成訴訟といったものを現時点では考えておるところでございます。   更に,金銭の支払を命ずる場合に分割払いの定めをするということや,あるいは第8回の部会においても御指摘を頂きましたけれども,遺留分権利者に遺贈又は贈与の目的財産を全部取得させて,遺留分侵害額を超える部分について代償金の支払を命ずるといったことができるようにするといったところも考えられるところかと思います。   次に,4ページの6の「案-2について」でございます。   現行法の遺留分制度では,受遺者又は受贈者は原則として現物を返還すべき義務を負い,例外的に目的物の価額を弁償することによって現物返還を免れることができることとされておりますが,案-2はこの原則と例外を単純に逆転させるというものでございます。   案-2によりますと,受遺者又は受贈者の選択によっては現行法と同様に共有等の複雑な法律関係が生ずることになり,その場合には別途,共有物分割等によって解決をしなければならないということにもなりかねません。もっとも,案-2を採用することにより,遺留分権利者の意思表示によって直ちに共有等の複雑な法律関係が生ずるといった事態は回避することができますし,最終的に共有等の法律関係を受け入れるか否かについては,受遺者又は受贈者側の選択に委ねられるということになりますので,事業承継等の場合においてはそれなりの意義を有するということも考えられるところでございます。   説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   前回の部会資料8で示された案につき頂いた御意見を踏まえて,再度御提案いただいたということでございます。前回は,遺留分権利者の側から金銭債務の履行がない場合に現物返還を求めることができるという趣旨の御提案がされておりましたけれども,これについて否定的な意見も多かったということで,今回のような形で整理をされ,かつ現物返還の方法につきまして選択肢を示しておられるということかと思います。   御意見あるいは御質問等ございましたら,お願いいたします。 ○上西委員 「一定の期間」についてです。今回の資料では相続の承認又は放棄をすべき期間を定めた民法915条1項の規定を参考に,3か月を下ることはできないとなっています。ということは,3か月をもって期限となるわけです。現実に3か月という熟慮期間で,前提となる財産の調査が十分に終えることができるかどうか疑問です。百か日が終わるまで動かないというような家もあるかもしれませんし,それに915条のただし書で,この期間は利害関係人又は検察官の請求によって家庭裁判所において伸長することができるとありますので,今回の3か月を期限とすることについても一定の伸長期間を想定されておられるのかどうかです。あった方がよいと私は思います。その点について教えていただければと思います。 ○堂薗幹事 一定の期間をどう定めるかというのは,これから詰めて検討すべきところだろうと思っておりまして,民法915条参照といいましても,飽くまで参考にしたという程度でございまして,全く問題状況は違いますので,この期間についてはいろいろな考え方があり得るのだろうと思います。ただ,ここでは915条とは異なり,3か月を更に伸長するとかそういったところは特に考えておりませんで,むしろもっと期間が必要なのであれば,この3か月というのをもう少し長い期間にした方が基準としては明確になるのではないかという気はいたしますけれども。 ○上西委員 伸長することができるとの規定を想定されていないのでしたら,もう少し期間が長い方がいいのかなと思います。 ○大村部会長 ほかにいかがでございましょうか。 ○石井幹事 確認をさせていただきたいのですけれども,今回の御提案ですと,遺留分権利者が①の減殺請求をすることで金銭債権が発生するが,②の期間内にこれを行使することはできないという理解でよろしいでしょうか。また,②の期間内に協議を行ったものの,協議が調わなかった場合には改めて金銭請求をすることはできるのでしょうか。 ○堂薗幹事 前者の点は御指摘のとおりです。後者の協議というのは,この③の請求があったという前提でしょうか。 ○石井幹事 ③の請求があって協議をした結果,協議が調わなかった場合を想定しています。 ○堂薗幹事 ③の方に移行しますと,協議が調わない場合には裁判所の方で定めるということで,裁判所の方でそれを定めて,裁判が確定した時点で,その権利の具体的内容は定まるということになります。その場合に,その遡及効を認めるかどうかは検討の余地はあるかと思いますが,現行の遺留分減殺請求権について,例えば価額弁償の抗弁が出された場合に判例の考え方からすると,実際に弁償されれば遡ってそもそも遺贈又は贈与は取り消されなかったという扱いをするということだと思いますので,ここも同じように考えれば,裁判によって権利が定められたことにより,この③の請求をした時点からそういう権利関係だったという前提で,あと果実の返還とかそういった必要な処理をしていくことになるのではないかと思います。 ○石井幹事 ③の請求というのは訴訟外でもできると理解をしたのですけれども,③の請求がされた以上,協議が調わなければ④の訴訟手続に進むしかないということなのでしょうか。 ○堂薗幹事 もちろん協議で,当事者間で金銭請求一本でというのは可能だと思いますので,③の現物返還の抗弁が出たとしても,話合いではいかようにでも定められると思いますが,基本的にはそういった抗弁が提出されれば,話合いがまとまらない以上は裁判所で決めてもらうしかないということではないかと思います。 ○大村部会長 石井幹事,よろしいですか。 ○石井幹事 はい。 ○増田委員 今の石井幹事がされた質問をしようと思っていたのですが,それに加えて金銭債権が③の段階で消滅すると考えた場合,そのときの金銭債権の価値というのは権利として生きているのかどうかということを質問させていただきます。というのは,③の段階以降は,一旦,具体的権利として発生した金銭の請求権が裁判所が決める抽象的な請求権に変わってしまうという理解になるとすると,物の価値が滅失したり毀損したりすることによって財産全体の価値が下がった場合に,裁判所はいかなる価値をその減殺者に与えるということを目指して判断すべきかどうかという点,これが一つです。   もう一つはちょっと別の話なのですけれども,この④の裁判において,裁判所はどのような基準でもってその物を選択するのかということです。例えば受遺者の方が③のときに,Aというものを渡しますと言ったと。そうすると減殺者はAは要らないからBをくれと言ったと。そのときに裁判所がCを返せということもできるという内容だと思うのですよね。その場合にどのような基準で決めるのか,そういう基準を定立することが果たしてそもそもできるのかどうかというところも含めて,お願いしたいと思います。 ○堂薗幹事 まず最初の点ですけれども,基本的には①,②の段階で金銭請求権が発生するということになりますが,受遺者又は受贈者の方で③の抗弁を出すことによって,その金銭請求権が変容し,一定の価値を有する物や金銭を返還すれば足りるというものに変わることになるのではないかと思いますので,そこについて当事者間の協議が調わなければ,最終的には裁判所で定めることになりますが,その一定の価値,要するに金銭とその余の財産を合わせた総体的な価値を幾ら返せばいいのかという点については,基本的にその遺留分減殺請求をした時点で定まるということになるのではないかと思います。   その辺りについてはまだ十分に詰めて検討できておりませんので,今後案-1の方向でいく場合には詰めて検討していきたいと思いますが,現時点ではそのように考えております。   それから選択の基準でございますが,これは仮にこういった形で規定を設ける場合には,やはり裁判所がそれを決めるに当たって考慮すべき事情はある程度条文に書く必要があるのではないかと思いますが,その場合に基本的には遺言者の意思ということもあるでしょうし,受遺者側あるいは遺留分権者側でその財産を必要とする理由ですとか,あるいは元々現行法ですと,返還すべき財産というのは決まっておりますので,仮に案-1のような形で規律を設けた場合にも,基本的には現物を返す場合には新しいものから返していく方が受遺者側,受贈者側の受ける不利益というのは少ないのではないかというところもありましょうし,そういったある程度の基準を定めるということはできるのではないかと思います。   ただ,最終的には共有物分割などでも同じですけれども,その決め方にはいろいろなやり方がありますので,最終的には裁判所の裁量で決めていただくほかはないということになります。ですから,遺留分権利者側でAが欲しいと言い,受遺者側で例えばBが欲しいと言った場合には,もちろん当事者の意思というのも考慮要素にはなるでしょうけれども,そういった当事者の意思とは異なる財産を裁判所が決めていいかというのはかなり問題だとは思いますが,必ずしも当事者の主張には拘束されないということになるのではないかと思います。 ○渡辺関係官 今の点,ちょっと補足させていただきますと,3ページの一番下の注2のところを御覧いただければと思いまして,一応,現時点で何か基準的なものなりを書くとしたら,こんなことが考えられるのではないでしょうかということで,例えばという形で入れさせていただいておりまして,これは現行法の906条をちょっとリニューアルした程度というものでございまして,これで十分書き切れているかどうかというところにつきましても御議論等,御見解等を頂ければなと思っているところでございます。 ○村田委員 ①の遺留分減殺請求の意思表示で金銭債権自体は発生し,②は遅延損害金の起算点を定めたようなものと考えていたのですけれども,仮にそうした理解が正しいとした場合には,①の遺留分減殺請求をした段階で,当該金銭債権を被保全債権として仮差押えをすることができるのでしょうか。仮に,そのような理解で間違っていないとしますと,その後,受遺者,受贈者の方から③のような現物返還の主張があったときには,当該仮差押えの被保全債権とされている金銭債権の消長はどうなるのでしょうか。頭の整理のために教えていただければと思うのですが。 ○堂薗幹事 一応,①で金銭債権が発生しますので,しかも客観的には金額が決まっているということになりますので,仮差押えは可能なのだろうと思いますが,ただ,この金銭債権は受遺者,受贈者側に抗弁権が付着した金銭債権ということになりますので,受遺者,受贈者側でそういった現物返還の抗弁を出した場合には,その部分,すなわち現物で返還すべき部分については空振りということになろうかと思います。 ○山本(和)委員 今の一連のお話との関係なのですが,この3ページに書かれてある代償金の支払というのはまだ分かるのですが,支払時期の定めとか分割払いの定めもできると書かれているのですけれども,今のお話でも,金銭債権が一旦は発生して,しかし③の抗弁で一旦,それは消滅し,それで④の裁判で新たに金銭債権が再び発生し,それについて分割払いの定めをすることを認めるということになるとは思うのですけれども,そうすると,③の抗弁というのは物で返しますという抗弁をしているのだけれども,裁判所はやはり物ではなくて,お金で返すのが相当だと。ただ分割払いを認めますということができるということだと思うのですけれども,そうすれば,この③の抗弁というのが自分はお金で返すのは結構だけれども,直ちには返せないので分割払いにしてくださいと言ったときには,それはできないのですよね。 ○堂薗幹事 この3ページの分割払いや期限の猶予については,オプションとしてあり得るのではないかという程度で,まだこの第1で挙げている方策の中には組み込んでいないという前提なのですけれども,仮にこういったものまで含める場合には,それは金銭で返すのはいいけれども,すぐには返せないので分割でお願いしたいというような主張が出た場合に,それに応じて裁判所が定めることができるということは考えられるのではないかと思います。 ○山本(和)委員 前回の提案は,物で返すと言った場合に物がどれかを裁判所が定めることができるというような提案だった。それは何か形式的形成訴訟というか,一種のそこは非訟的な,その部分を非訟的に処理するというのは理解ができるところがあったのですが,今,堂薗さんが言われたところまでやるとなると,一旦発生した金銭請求権について,今お金は返せないですと言ったら,それがもう,その権利が非訟的な処理の対象になる。それが消滅して非訟的な処理の対象になるというのはなかなか,それを果たして理論的に説明できるのだろうかということは率直に言って疑問があります。そこまでやる必要が果たしてあるのかなとは思います。 ○堂薗幹事 今のところはまだ詰めた検討はできていませんが,ただ,金銭請求が発生するとしても,いきなり全額返せと言われますと,受遺者,受贈者側は,特に善悪を問わずに遺留分減殺請求の相手方になりますので,不利益を受けるということもあろうかと思います。元々,遺留分の制度趣旨が遺留分権利者の生活保障等にあるとしますと,一定の価値がある財産を遺留分権利者に返さなければならないとしても,その弁済期についてはある程度柔軟に定めてもよいのではないか,そのような制度設計をしても遺留分制度の趣旨には必ずしも反しないのではないかというところもございまして,こういった考え方を取り上げているところでございます。ただ,御指摘のような理論上の問題点はあろうかと思いますし,遺留分減殺請求権については,現段階では現行法と同じように地裁の訴訟手続で行うという前提ですので,そういった場合にこんなことまでできるのかというのは非常に大きな問題としてあるのではないかとは思っております。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○垣内幹事 先ほどの村田委員の御質問とも関係する点で重なるところがあるかと思うのですけれども,今回の御提案の第1の①と②のところでは同時にやることも妨げないということでありますが,一応,①の意思表示と②の催告というか請求というか,これは別個のものだと理解をされているということだと思うのですけれども,そのように解しなければならない,両者区別して別個の行為としてもできるというふうにする必然性がどこまであるのか,という点についての御質問が一つと,それからもう一つは,仮に分けて考えたときの帰結として,先ほどのやり取りを拝聴いたしますと,基本的には①の意思表示の時点で,行使上の一身専属性が失われるという理解を前提とされているのかなと理解したのですけれども,そのように解する必然性があるのかどうか,というのが2点目でございます。   と申しますのは,例えば①の意思表示だけがあって,まだその特定的な請求はされていないという段階で債権者代位なり,あるいはその破産手続が開始されるということがあったときには,行使上の一身専属性がないということになりますと,これは破産財団に含まれて,管財人が②の請求もするし,その後,協議があれば,それも管財人がやるといった解釈論もあり得るところかと思うのですけれども,それで本当によいのかということと,若干,別の局面と申しますか,性質のものになりますけれども,例えば名誉棄損に基づく慰謝料の請求に関しては,これは基本的には行使上の一身専属性があるとされておりますけれども,関連的にはあれは不法行為があって,不法行為の時点で抽象的には金額も定まったものとして発生しているという理解はできなくもないものではないかと思いますが,しかし,一身専属性との関係では正に慰謝料の金額が争われる訴訟の当事者適格は破産管財人にはないというのが判例の立場ですので,その金額が債務名義等で客観的に確定すれば,それは一身専属性が失われるのだけれども,そこまでの間は一身専属性がある種,存続するというような考え方もそちらではされているということがあるようですから,そういうことを考えますと,こちらの遺留分権利者の権利行使に関しても,どの段階がそれに当たるのかというのはそれ自体,幾つかの選択肢があろうかと思います。ある程度,金額がきちっと決まったとか返還すべきものが特定されたとかいった段階で,一身専属性が失われるというような考え方も全くあり得ないものではないのかなという感じもいたしまして,その辺りについて御検討されている点がありましたら,お教えいただければと思います。 ○堂薗幹事 まず①と②を分ける意義として,遺留分減殺請求権の場合には権利行使の期間が比較的短期間でございますので,金額を特定しなくても減殺の意思表示をすれば,そこはクリアできるという面が一つあろうかと思います。   この①の意思を表示しただけでそういった行使上の一身専属性を失わせていいかという点については,確かにいろいろな考え方はあるかと思いますが,例えば名誉棄損に基づく損害賠償請求権については,正に本人がどう感じるかとか,本人の慰謝料的なところがありますので,その権利行使について本人の意思を尊重するというところはあろうかと思いますが,遺留分減殺請求権の場合にはある程度客観的に算定できますので,遺留分権利者の方で権利行使の意思表示をした場合には,そこで行使上の一身専属性をなくすということにもそれなりの合理性はあるのではないかと思っております。   ただ,この点については特に定見があるわけではございませんので,更に御意見を頂ければと思いますけれども。 ○餘多分幹事 御質問ですけれども,協議が調わなかった場合については形式的形成訴訟というようにお考えのようですが,その請求とか主張の拘束力ということについてどのようにお考えなのでしょうか。遺留分減殺請求権者が幾ら請求すると言ったときに,その請求とか主張に拘束されるのかというところについては,形式的形成訴訟だということになると,そこも分け方だけではなくて,どのぐらいの金額を認めるかとか,どういう根拠に基づくかというところも含めて,裁判所の裁量的な判断になるというお考えなのでしょうか。 ○堂薗幹事 まず,この金銭債権の①,②の段階ですけれども,その場合に客観的な金額というのは財産の価値等で決まるという前提ですので,この部分については基本的には当事者の処分に委ねていいところではないかと。したがって,要するに遺留分権利者が例えば500万ということで請求しているにもかかわらず,計算をしてみたら600万あったので裁判所が600万を認めていいかというと,そこは必ずしもそうではないのではないかなとは思っております。   ただ,500万円の価値返還請求権があるとした場合に,その価値をどういう形で返還するかという点については,特に実体法上,決まったものがあるわけではございませんので,そこについては裁判所が裁量で決めると。したがって,その点については裁判所は必ずしも当事者の主張には拘束されないということになるのではないかと現段階では整理しておりますが,余りほかの訴訟でそういったものは見当たらないような気もしますので,そういった考え方で問題ないかどうかという点については慎重に検討する必要があると思っております。 ○餘多分幹事 今,堂薗幹事がおっしゃったように,多分,共有物分割訴訟とはまた違う類型の訴訟のようにも思うので,もしこういう形で進めるのであれば,この訴訟の内容についてはよく詰めていただけると実務をやる上では有り難いと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○沖野委員 2点あります。一つは,①と②を独立した二つとする必要が本当にあるのかということです。既に繰り返し御指摘が出ていることだと思うのですけれども,意思表示がないと駄目だということと,遺留分減殺の請求をされたときに何が回復されるかという中身が金銭をもって回復するということ,さらに,それが遅滞に陥るのはいつからであるということを書けば,二つの意思表示だとか二つの請求のような構成をする必要はなくて,むしろおっしゃることにはそちらの方がかなうのではないかと思うものですから,そのような考え方もあるのではないかということで,一つの考え方として更に御検討していただければと思っております。   それから,もう一つは,これも石井幹事や増田委員が御指摘になって,質問の形で御提案になったことなのではないかと思うのですけれども,いつまで金銭で返せるかという方なのですけれども,案自体はこの現物返還の抗弁と言われる抗弁を行使すれば,もはやその金銭返還の方は消えてしまって,一種,更改的な効果が生じるという考え方だと理解しています。しかし,これも代物弁済の合意があったときにどうなるか。いつまで,例えば金銭債権だけれども,代物弁済の合意をしたとき金銭債権として返せなくなるのはいつかというのは,当然に代物弁済の合意で返せなくなるわけではないと思いますし,可能性としては幾つかの可能性がありますので,いつまでなら,なお金銭で返せるのかは検討の余地があると思います。もちろん最初,金銭で返せないから現物にという抗弁を出したのだけれども,協議が調わないということであるならば,何とか工面して金銭でいった方がまだいいという場合はあり得ると思われます。それから,この構造自体としては,説明は飽くまで金銭が原則で,例外的に現物返還をするときの各種の手続であるということならば,原則が可能であるならば,なるべく後まで原則ができたらいいという考え方もできると思います。ただ,弱体化するのは問題なので,やはり金銭にしますというのでは駄目で,現に提供しなければいけないとか,何かその弱体化しないようにというところの調整はできると思うのですけれども,原案が唯一の考え方ではないように思いました。   そして御質問の趣旨として,それが唯一ではないのではないですかというか,そういう考え方の方があるいは望ましいかもしれないではないのですかという御意見を含意していたようにも思うのですけれども,そのような考え方では非常に問題があるという点があるのでしょうか。更改的にこの段階でもう金銭のルートは消してしまうべきだということを積極的に基礎付けている考慮はあるのでしょうか。 ○堂薗幹事 御指摘のとおり,一旦③の主張をしたからといって,金銭で返せるのであれば,それほど問題はないようにも思われますので,その点については御指摘を踏まえて検討したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。   ほかにいかがでしょうか。 ○浅田委員 預金債務者の立場から意見と質問を申し上げます。そもそもの話ですけれども,現行法の下では預金が遺贈されたとしても,相続人の遺留分減殺請求権行使とともに遺贈されたはずの預金の一部が請求者に復帰するということになります。すると,銀行とすれば誰を払戻しの相手方にしてよいのか分からなくなるという点で困ることがあります。   その点,今,議論されています遺留分の金銭債権化という方向性は従来から申し上げているとおり,債務者が抱えている問題の解決につながるものであり,基本的に賛成できるものであります。   その上で本案を検討したところ,案-1に関しましては協議又は裁判所の決定を経ない限り遺贈された預金の帰属は変わらない,変わることはないわけですから,原則としては預金債務者としては比較的安定的な制度であると評価できると思います。   一方で,案-2では,受遺者は請求者に目的財産を返還して金銭債務を免れるとあります。また案-1でも裁判所の判断次第では目的財産の返還ということになると思います。そうしますと,これらの案ではどの時点で目的財産が請求者に復帰すると考えてよろしいかという質問があります。   といいますのは,現行法のように銀行が知らないうちに預金の帰属が変わってしまうということになれば,債務者としては余りこの問題が解決していないように思いますものですから,そのような問題意識からの御質問を差し上げたいと思います。 ○堂薗幹事 まず,前提として遺贈なり贈与がされた,特に預貯金債権等について遺贈がされた場合でも,法定相続分を超える部分については対抗要件が必要だという規律を前提にいたしますと,そもそも受遺者,受贈者側でそういった点の対抗要件を具備しない限りは,その目的となる預金債権全体については債務者にも対抗できないということになります。他方,受遺者側が対抗要件を具備していない段階で遺留分減殺請求がされた場合については,遺留分権利者の側から見ますと,遺留分減殺請求をしたとしても,その預金債権を請求する額が法定相続分の範囲内であれば,それは債務者に対しては対抗要件を具備しなくても請求できるということにはなるのではないかと思います。   ただ,遺贈や贈与については減殺の順序が定められておりますので,減殺された結果,預金債権全部についてその遺留分権者が取得する,したがって法定相続分を超える部分も含めて取得するということになりますと,法定相続分を超過する部分については対抗要件が必要となるということではないかなと思います。 ○浅田委員 対抗要件の具備というのは一つの方法だと理解はしております。ただ,一方で前回の会議では,遺産分割による変動について債権譲渡通知を銀行に送る意味が乏しいという指摘もあったわけですので,全体の制度の設計を見た上で,ここも調整する必要があるのかなと思いました。 ○大村部会長 では,それは更に御検討いただきたいと思います。   そのほかはいかがでございますか。 ○中田委員 先ほど来,何人かの方から出ております①,②の関係ですが,私もこれを分ける必要がどこまであるのかという気はしています。多分,分ける理由は二つあって,行使上の一身専属性を確保するということと,当初は金額を特定することは不要であるということだろうと思います。この2面あると思うのですが,行使上の一身専属性を保つためには必ずしも分けなくていい。これは何人もの方がおっしゃったとおりでして,例えば遺留分を侵害されたものは遺留分減殺請求をして,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を求めることができると言えば,それで済むわけですね。そうすると,専ら当初は金額の特定が不要だということのメリットをどこまで重視するかです。それに対するデメリットは二つあって,一つは,①と②の間の法律関係が不明確になるということです。もう一つは,①が非常に簡単にできてしまうのではないかということです。金額も,対象となる財産も特定が不要で,単に遺留分減殺請求をしますといえば,それで済む。他方で②についていうと,後のことを考えると過大な請求をする可能性があるのではないかと思います。ですので,分けることによるメリットに対して,今言ったようなマイナスがどのくらいあるのかということの比較が必要かと思います。   もう一つは,②と③′との関係が余り出ていなかったのですけれども,これはどう考えたらよろしいのでしょうか。先ほどの②から③に行くルートとは違って,②から③′に行く場合には,特に金銭債権の性質は変わらないで残るのではないかなと思ったのですけれども,そうするとこちらもシンプルで,むしろ案-2というのもなかなかいいなと思ったのですが,今の②と③′との理解はそれでよろしいでしょうか。 ○堂薗幹事 これは現行の規律をまた逆にするということですので,返還するまでは引き続き金銭支払義務としては残っていて,現実に返還するなり,その提供するまではそういうような状態になるのではないかと思います。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。   ほかにいかがでございましょうか。 ○浅田委員 今度は銀行が行う遺言信託業務の立場,銀行の執行者としての立場から御質問いたします。今回の部会資料では,遺留分減殺請求権の行使の相手方に遺言執行者がなるかどうかという点についてははっきりしていないように見えますが,この点についてはどのように考えるべきでしょうか。 ○堂薗幹事 少なくとも金銭債権にした場合には,その受遺者又は受贈者にそれを請求するだけで,遺贈や贈与はそのまま効力を有するということになるかと思いますので,遺言執行者は相手方にならないのではないかと。現物返還の場合も,それは飽くまでも一定の価値を遺留分権利者に返すということであって,その点について遺言執行者を相手にする必要はないのではないかと思っております。 ○大村部会長 よろしいですか。 ○浅田委員 はい。 ○増田委員 今の点は多分,案-2で③′が出たときにのみ,きっと問題になるのではないかなと。要するに現在と同じ状況になりますので,そこで遺言執行者に対して行使するかどうかという点が問題になってくるのかなと思います。   取りあえずそれで,次の質問は第2のA案を採った場合に,このA案では相続人に対する請求は遺留分でなくて,最低限相続分という形になっていますが,これも同じ処理になるのかどうかというのをお伺いしたいと思います。 ○堂薗幹事 それは遺言執行者との関係ですか。 ○増田委員 いや,そうではなく,そもそもの第1の遺留分減殺請求権の法的性質についての見直しの,金銭債権化というのが,第2のA案を採った場合の最低限相続分にも適用されるのかどうかという質問です。 ○渡辺関係官 それは後ほど御説明しようかと思っているところではありますけれども,A案を採った場合の最低限相続分制度につきましては,一応こちらの方で現時点で想定しているのは,基本的に家事事件としてやってしまおうと考えておりますので,ここで言っている第1そのものとは違うものを現時点では想定しておりますけれども,ただ,そこは組合せとして,それが駄目だと,できないというわけではないと思います。 ○大村部会長 第2のA案につきましては,またそこのところで更に御質問があるようでしたら出していただきたいと思いますけれども,増田委員,今のお答えで一応よろしいですね。 ○増田委員 先に意見を申し上げておきますと,せっかく金銭債権化をして単純明快にするのに,相続人間では家事事件として残すということについては,余りよろしくはないのではないかと,せっかく単純化したものがまた複雑な世界に放り込まれるのではないかという懸念があります。   それともう一つ,案-1,案-2の問題についての私の意見としては,案-1というのは,うまくいけば魅力的な制度だと思いますけれども,途中の手続についてはかなり難しい問題があるのではないかと思いますので,手続がうまく組めれば案-1がいいかなと。ただ,そこで支障を来すようだと単純金銭債権にしてしまうか,案-2になるのかというところかなと思っています。 ○大村部会長 ありがとうございます。御意見として承ります。 ○上西委員 増田先生の御意見と重なるのですけれども,この4ページの案-2についてです。最後のところで,その共有等の複雑な法律関係が生ずる可能性を示唆された上で,最終的には共有等の法律関係を受け入れるか否かについては受遺者又は受贈者の選択に委ねられることから,特に事業承継等の場面では,相応の意義を有すると書いてあります。しかし,財産に選択肢が少ない場合は,共有関係が発生しやすいことが懸念されます。   その点,案-1は手続的には確かに煩雑になる面があり,その点と比較考慮することになりますが,その手続が多少複雑になる程度で解決するのであれば,案-1にした方が共有関係はより回避しやすいことになります。事業承継の観点から見れば案-1を推奨したいと思っているところであります。 ○大村部会長 ありがとうございます。今,案-1,案-2につきまして御意見が出ておりますけれども,その点につきまして何かございますか。 ○水野(紀)委員 時効のことを考えております。先ほどの中田委員の御意見にもありましたけれども,現状では,取りあえず減殺請求しておいて後でその中身を考える,つまりゆっくり計算できるというメリットがあったように思います。遺留分の減殺請求権は1年という短い期間です。それは変更しないという前提ですね。   どうも自分は遺留分を侵害されているらしいということに気付くまでの期間として,1年はかなり短いという気がいたします。いつもこの話で申し訳ないのですけれども,フランス法では全部,公証人のところで,6か月以内に相続手続をやってしまうという前提です。特別受益などの計算も,遺言についての把握や実行も,公証人のところでされていて,その上で,あなたは遺留分が侵害されているので減殺請求できますよ,では遺留分減殺しますということになる仕組みです。日本法は,そういう仕組みの条文をばらばらともらってきているのに肝心の公証人慣行がないまま動かしていますので,遺留分減殺請求者の方で全ての事情を察知して,自分で行動を起こさないといけない状況にあります。   そういうことまで考えますと,やはり1年以内にきっちりと請求するのは相当厳しい。取りあえず遺留分侵害があるらしいので減殺請求をしたいことを言っておくというのと,結局それが幾らに当たるのかというところまで詰めて請求するというのは,違ってくるのではないでしょうか。後者は,もう少し,主張するための,計算するための時間を与えてやる必要があるように思います。   それから,これは質問なのですけれども,遺言執行者が遺言実行に取り掛かるのには,時間的な制限はないですね。そうすると,そのことと遺留分減殺請求権者がどの時点まで減殺請求できるかということとの連動性は,図られないことになっている前提でしょうか。 ○堂薗幹事 要するに遺留分減殺請求がされるような場面で,遺言執行者がどういう対応を採るべきかというところは一つ問題になるかと思うのですが,こちらの整理では,遺言執行者というのは飽くまで遺言者の意思を実現するために行動すればいいということで,遺留分減殺の恐れがあろうと,就任後,直ちに基本的には遺言に沿って行動すればいいと。したがって,遺贈がされていればその目的物全部について登記をするという前提で考えておりますので,それに対して仮にそこを止めたいのであれば,遺留分権者の方で何らかのアクションをとらなければならないということで考えております。 ○大村部会長 水野委員,よろしいですか。 ○水野(紀)委員 はい。 ○窪田委員 すみません,ごく小さな点なのですが,今の点に関連して1点だけ確認をさせてください。現行の1年の期間制限は維持する方向でということではあったのですが,1年の期間制限の中で行使すればいいのは①だけなのですか。 ○堂薗幹事 一応こちらの整理ではそうで,その場合に①だけ1年でやった後,あとは一切そういう期間制限がなくていいのかというところは問題としてあろうと思います。 ○窪田委員 あるいは一般の債権の消滅時効に関わるということかもしれませんが,ただ,遺留分減殺請求権というのは金銭債権化されるとしても,既に自分なりにもうもらったと思っていたもの,そうしたものについてひっくり返すという意味もありますので,もちろん自分が遺留分を侵害されているかどうか分からないから,じっくり時間を掛けたいというのもあると思います。相手方の立場からすると随分不安定な状況をもたらすのではないのかなと思いますので,本当に①だけで大丈夫なのかなという点は気になります。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今まで,①,②を分けるということについて,別の考え方もあるのではないか,あるいはこれには不都合があるのではないかという御指摘と,それから現物返還の方法につきましては案-1,案-2につき,案-1がうまく組めるならば,それはそれがいいかもしれないけれども,金銭で処理できるのがどこまでなのかということも含めてなかなか難しい問題もあるかもしれない,そうすると案-2が簡明かもしれないという趣旨の御意見が出ているかと思いますが,そのほか何か御指摘ございますでしょうか。 ○西幹事 すみません,前回のこの部分の審議の時に欠席してしまいまして,まだ私は今回のこの案の現行法との違いと申しますか,意義が十分に理解できていないところがありますので,その観点から比較的大きい問題の確認ないし質問2点と,小さい質問が1点ございます。   1点目ですけれども,今回の遺留分の価額弁償を原則化するという案の意図は,最初に御説明があったところでは事業承継の妨げになるのを避けたいということであったように記憶しております。事業承継の妨げになることを避けるという意味では,現行法の下でも現物減殺された場合に価額弁償を受恵者が選択することはできます。今回の案に新しいと申しますか,大きい意義があるとすれば,そもそも遺留分権利者の方から現物減殺の請求をすることが絶対にできなくなるということなのかもしれません。サブ的な意義は,受恵者の意思表示がなくても,遺留分権利者の方から価額の弁償を請求できるという,あわせて恐らくその2点だと思いますけれども,それでよいのか,それが本当に今回の改正の意義ということでよいのかということを確認させて下さい。   2点目は,今回の案では金銭債権化というふうに先ほどから一言で言われていますけれども,恐らく金銭債権の中にも幾つかランクがあって,扶養債権とか貸金債権とかいろいろあると思いますけれども,今回,今までのお話のニュアンスでは,普通の貸金債権などと同じように一般債権扱いというような印象を受けました。そうなりますと,①の減殺請求をした後に,例えば受恵者の財産状況が悪化して,場合によっては破産するとかいうようなことがあった場合,扶養債権などは特別扱いされることがあっても,今回の遺留分の価額弁償請求権というのは通常の貸金債権とかと同じような扱いになってしまうのでしょうか。他国では,そこは少し違う扱いがされているようですので,金銭債権ということで制度を仕組んでいく場合には,もう少しその細かい考慮が必要なのかなという気もしますけれども,もしその辺り,現在どのように考えているかということがあれば教えていただきたいです。   最後の3点目の細かいことですけれども,先ほどから1ページの第1の①と②の関係について,いろいろお話が出ていまして,①の後,②をするまでのその期間が制限は要るのかという論点もございましたけれども,その期間制限と併せて,その金額の算定基準時を現行法と全く同じように考えてよいのかということも気になりました。その3点を教えていただければと思います。 ○堂薗幹事 この金銭債権化の目的としては,ほぼ御指摘のとおりかと思いますが,更に言いますと,特に案-1のような形とセットにいたしますと,現行の規律とは違って,共有持分の割合が非常に大きくなるという事態は避けやすくなるという面はあろうかと思います。   それから金銭債権化した場合の優先順位ですが,それは受遺者,受贈者側の責任財産に対する優先順位という理解でよろしいですか。 ○西幹事 はい。 ○堂薗幹事 そこは一般債権になるのだと思います。そこが権利の弱体化になるのではないかという御趣旨だと思いますが,ここは遺留分減殺請求権の法的性質にも関わるところかと思います。基本的に遺留分権利者というのはどういう権利を持っているかというところなのですけれども,仮に遺贈とか贈与がなければ,遺留分権利者は飽くまでも相続人としてその相続財産の中から一定の財産を取得できたにすぎない立場ですので,そういった意味で言いますと,相続財産における優先順位としては,一般債権者や受遺者よりもむしろ劣後するような法的地位にあるのではないかと思っております。   したがいまして,飽くまでもその相続財産,遺留分算定の基礎となる財産が資産超過にあるような場合に初めて権利行使できるような性質のもので,受遺者にすら劣後するということであるとすると,それがたまたまその財産が受遺者なり受贈者のところに行ったからといって,遺留分権利者に強い法的地位を付与する必要があるのだろうかというところが疑問としてありまして,今のような法的地位を前提にしますと,一般債権,ほかの貸金返還請求権などと同じような一般債権者として扱ったとしても,特に問題はないのではないかと。そういった意味で,元々,現行法上は物権的効果が生じますから,破産になった場合は取戻権を行使できるわけですが,それに代わるものとして,例えば別除権者の地位を付与するとかいうようなことも検討いたしましたけれども,そういった強い権利を与える必要はそもそもないのではないかというのがこちらの整理でございまして,その辺りについては御意見を頂ければと考えているところでございます。   それから3点目の金額の基準時ですけれども,これについては減殺請求権を行使した時点を基準に考えるということで考えております。 ○渡辺関係官 少し補足させていただきますと,一般債権化の問題につきましては御指摘の部分はかなりあるかなとこちらも考えておりまして,幾つかこれまでも問題提起をさせていただいておりまして,その中で先取特権という御意見も頂いていたところでございまして,ただ,そこはなかなか技術的に難しいところがあるかなとこちらの方としても思っておりまして,そういう代わりになるものとして前回の部会資料8のところで,遺留分権利者側から物を取れるというような仕組みもあってもいいのではないかというような提案をさせていただいたところではあるのですけれども,やはりそういうものが入ってしまうと,全体的に相当複雑なものになってしまうと,そういった御意見が多かったかなというふうにこちらとしては理解しておりまして,なかなかここにつきましては,仮にやるとしてもいろいろ難しいところがあるのかなと考えているというところでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。西幹事が一番最初に指摘された点が,多分今回の提案の一番大きな点だったろうと思いますが,ほかによろしゅうございますでしょうか。   それでは,御指摘を頂いた点を踏まえて,更に整理していただきたいと思います。   それでは,第2の「遺留分の算定方法等の見直し」に入らせていただきまして,説明をしていただいたところで休憩したいと思います。 ○渡辺関係官 では,御説明をさせていただきます。4ページの第2の「遺留分の算定方法等の見直し」について御覧ください。   今回も部会資料8と同様にA案とB案の二つの考え方を提示させていただいております。A案は,相続人に対する請求と第三者に対する請求を分ける考え方でございますが,こちらの方は実は大きく変更した点は余りございませんで,第8回部会におきまして,相続人に対する請求と第三者に対する請求,それを同じ遺留分という用語で整理するのでいいのだろうかという御指摘を頂きましたので,本部会資料におきましては相続人に対する請求について最低限相続分,それから第三者に対する請求について遺留分というふうにそれぞれ呼称することとして,その区別を明確にしたというところがございます。なお,この最低限相続分というのは飽くまでも仮称ということでございまして,何かもっとよいネーミングがございましたら,御指摘を頂ければ幸いに存じます。   このように整理したことに伴いまして,それぞれの制度趣旨がどうなるのかというところを中心に部会資料の方は書かせていただいておりまして,内容的に特に大きく変わるというところはございません。ただ,実は内容的に変わる部分があるといたしますと,最低限相続分を有する相続人に対して,他の相続人が負う責任の割合というところでございます。   ここが内容的に唯一変わったところかと思っておりますけれども,部会資料8では,法定相続分を超える部分のみが遺言による処分であるという考え方を前提に,他の相続人が責任を負う範囲を法定相続分超過額に応じて定めるということにしておりました。これに対しまして,本部会資料におきましては,この相続人間の請求というものの制度を相続人間で生ずる不均衡の是正というところを目的とする制度というふうに捉えるという考え方との整合性を考慮いたしますと,それぞれの最低限相続分の超過額に応じて責任を負うとするのが素直ではないかということで整理を致しております。   もっともこの点につきましては注でも書かせていただいておりますけれども,部会資料8と同様の考え方を採ることも理論的には可能かとは思っておりますので,そこはいずれでもあり得るとは思っておるところでございます。   続きまして,7ページの「第三者の立証の困難性を緩和する方策について」を御覧いただきたいと思います。   このA案というのは,遺留分侵害額を算定する際に,当該遺留分権利者の最低限相続分侵害額,これを控除するということにしておりますので,例えば遺留分権利者以外のほかの相続人に対して,相続開始の1年よりも前に多額の特別受益に該当する贈与がされていたというような場合には,当該遺留分権利者の最低限相続分侵害額,これが増加することになりますので,受遺者又は受贈者側が抗弁として当該贈与の事実を主張,立証しなければならないということになるのではないかと考えられるところでございます。   しかしながら,受遺者又は受贈者がそのような贈与の事実を的確に主張,立証するというのは困難でありましょうから,遺留分侵害額が適切に算定されなくなる可能性がありまして,第8回の部会におきましてもそのような問題意識に基づく御指摘を頂いたのではないかと理解しているところでございます。   このような問題にもし対応するといたしましたら,例えば民事執行法上の陳述催告の制度などを参考に,これと似たようなものを入れるということも考えられるところではございますが,他方で民事訴訟事件におきまして,当事者が自己に直接関係のない事実について主張,立証責任を負う結果,その立証が類型的に困難な事件類型というものはほかにもあるわけでございますので,遺留分に関する事件にのみ,このような制度を設けるというところが合理的に説明することができるのだろうかというところは慎重に検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。   A案の最後ですけれども,8ページの4の「想定される手続」についてでございます。   先ほど御質問いただいたところに関連するところでございますが,相続人間に関する請求をどのような手続で行うかというのは様々な考え方があり得るところでございますけれども,第三者も対象としていた従前の遺留分制度とは異なり,純然たる親族間の紛争ということになるわけですので,家事審判事項とする考え方が親和的ではないかと考えておるところでございます。また,そうすることによって,分割すべき財産がまだあるというような場合には,遺産分割手続と一回的に解決することが容易になるというメリットもあるのではないかと考えておりますので,こういった観点から最低限相続分の制度に関する手続については,基本的には家事事件で行うのがよいのではないかと現時点では考えているところでございます。   他方で,Ⅱの制度につきましては,基本的には現行の遺留分制度と同様でございますので,地方裁判所の訴訟手続によることを想定しているところでございます。   続きまして,B案について御説明させていただきます。8ページと9ページを御覧ください。時間の関係もあるのですけれども,B案は変わっている部分が多うございますので,少し丁寧目に御説明をさせていただければと思っております。   提案のところですけれども,大きく分けると三つございまして,①は総体的遺留分についての規律,②は個別的遺留分についての規律,③は受遺者又は受贈者の責任の割合についての規律ということになります。   まず①の総体的遺留分の規律でございますけれども,㋐で遺留分算定の基礎となる財産の額を被相続人が相続開始時に有していた財産の価額,これに相続開始前の一定期間,例えば1年以内に贈与された目的財産の価額,これを加えまして,更にそこから相続債務を引くということによって計算をしております。   そして,その額に総体的遺留分の割合,通常ですと2分の1になることが多いかと思いますが,それを掛けることによって総体的遺留分額というものを計算します。最後に総体的遺留分額から遺産分割の対象となる財産,これを引くことによりまして総体的遺留分侵害額,これを算出するということにしております。   次に②の個別的遺留分の規律でございますが,①の㋒で計算いたしました総体的遺留分侵害額,これに各遺留分権利者の法定相続分,これを掛けることによりまして,個別的遺留分額を計算いたします。   そして,その額から当該遺留分権利者が受けた遺贈の額,当該遺留分権利者が相続開始前の一定期間内,これは①の㋐と同じ期間を想定しておりますが,その期間内に受けた贈与の額,これを引きまして,最後に当該遺留分権利者が負担する相続債務の額,これを加えることによって個別的遺留分侵害額を計算いたします。この個別的遺留分侵害額というのが当該遺留分権利者が実際に請求することができる金額ということになります。   最後に,③受遺者又は受贈者の責任の割合についての規律でございますが,現行法と同様の規律,すなわち民法第1033条から第1035条までの順序に従うということとしております。ただし,受遺者又は受贈者が相続人である場合には,遺贈又は贈与の目的とされた財産の価額のうち,当該相続人の法定相続分を超える部分,これを法定相続分超過額というふうに言いたいと思いますが,これのみを減殺の対象とし,民法第1034条に言う目的の価額も法定相続分の超過額,これを基準とすることとしております。以上が提案部分でございます。   続きまして,補足説明に入りたいと思います。9ページの1の「部会資料8からの変更点」を御覧ください。   部会資料8のB案では,遺留分減殺請求によって遺贈等の目的財産が遺産に復帰するものとし,相続人間の取得額の調整は遺産分割手続によって行うとする考え方を提示しておりましたが,この点につきましては,遺留分減殺請求をする意思がある相続人がその意思のない相続人のためにも減殺請求をし遺贈又は贈与を無効とすることができるとするのは合理性に欠けるなどの御指摘を頂きましたので,これらの御指摘を踏まえまして,本部会資料では現行法と同様,各遺留分権利者は自己の遺留分を保全する限度で遺贈又は贈与の減殺を請求することができるということにしております。   また,本部会資料のB案では,遺留分算定の基礎となる財産を遺贈又は相続開始前の一定期間内にされた贈与に限定するとともに,遺留分侵害額の算定をする上で考慮される遺留分権利者が受けた贈与,これにつきましても相続開始前の一定期間のものに限定するということとしております。   次に2の「B案の基本的な考え方」についてでございます。現行の遺留分制度の趣旨については様々な考え方がございますが,B案は,遺言者が死亡時又はその直前に財産の大半を無償で譲渡することを制限することにより,遺留分権利者の生活保障を図ることに重点を置きつつ,相続人間の公平につきましては,法定相続の対象となる財産を一定の範囲内で相続人に留保することによって実現することを意図しているというものでございます。   まず,遺留分算定の基礎となる財産を相続開始前の一定期間内に限定する趣旨につきましては,部会資料4で記載させていただいたとおりでございます。   次に,遺留分侵害額を算定するに当たり差し引かれることになる遺留分権利者が受けた贈与につきましても,同様に時期的限定をするということにしております。遺留分制度の趣旨につきましては,遺留分権利者の生活保障を挙げる見解が多いわけでございますが,現行制度の下では遺留分侵害額を算定するに当たり考慮される遺留分権利者が受けた贈与については時期的な制限は設けられていないと解されております。   しかし,例えば遺留分権利者が相続開始時の何十年もの前に相当額の贈与を受けていたとしても,相続開始の時点でその財産の価値が現存しているとは限らないものと考えられ,その意味では,そのような場合にも遺留分権利者の生活保障を図る必要性が高い場合はあり得るものと考えられるところでございます。   また,遺留分算定の基礎となる財産については時期的な限定を付しておきながら,遺留分侵害額の算定において考慮される遺留分権利者が受けた贈与については,その取得時期に限定がないというのは理論的にも一貫しないように思われますので,このような観点から,B案におきましては遺留分算定の基礎となる財産だけではなく,遺留分侵害額の算定をする上で考慮される贈与についても,相続開始前の一定期間内のものに限定するということとしたものでございます。   また,B案では総体的遺留分を法定相続分に従って分配される財産,すなわち相続人間で公平に分配すべき財産の総額と位置付けておりまして,これを相続人に留保することとしております。このような考え方を前提といたしますと,遺言によって帰属が定められていない被相続人の財産があり,相続開始後に遺産分割がされるというような場合には,その部分は基本的には法定相続分に従った分配がされることになりますから,総体的遺留分を侵害しないものとして取り扱うべきことになると考えられるところでございます。したがいまして,提案部分の①の㋒では総体的遺留分侵害額の算定において,総体的遺留分の額から遺産分割の対象となる財産の額,これを控除するということとしております。   また,このようにすることによって,遺留分に関する事件と遺産分割事件の両方が問題となる事案におきましても,遺産分割における取得額を考慮することなく,遺留分侵害額を算定することが可能となりますので,このような事案における規律が明確になるものと考えられます。   続きまして,10ページの3の「相続人に対する遺贈又は贈与が減殺の対象となる範囲について」でございます。   B案は,総体的遺留分を法定相続分に従って分配される財産の総額という整理をするものでございますが,総体的遺留分の分配の仕方につきましては,遺言者によって処分がされた遺贈又は贈与のうち,総体的遺留分を侵害する部分については,単純に法定相続分に従った分割をするのに対し,遺産分割の対象となる財産につきましては,特別受益や寄与分を考慮に入れた上で法定相続分に従った分配をするということになるわけでございます。   このような考え方を前提といたしますと,相続人に対して遺贈又は贈与がされた場合には,必ずしもその全額が総体的遺留分を侵害するものとして取り扱う必要はなく,法定相続分を超過する部分が総体的遺留分を侵害するものとして取り扱えば足りるものと考えられます。このため,B案では相続人に対する遺贈又は贈与については減殺の対象となる財産を法定相続分超過分に限定するということとしております。   このような考え方を採りますと,遺贈又は贈与を受けた第三者が減殺を受ける範囲にも影響を及ぼすことにもなりますが,受遺者又は受贈者が第三者である場合には,その遺言がなければその全部が相続人に帰属することになるのに対し,受遺者又は受贈者が相続人である場合にはその遺言がなくても,その相続人は法定相続分に相当する部分を取得することができたわけでありますから,このような考え方を採ったとしても,第三者に不当な不利益を与えるものではないと考えられます。   次に4の「相続開始前の一定期間」でございます。   B案は,遺言者が死亡時又はその直前に,その財産の大半を無償で譲渡することを制限することにより,遺留分権利者の生活保障を図ること等を意図するものでございますが,このような観点から遺留分権利者に一定の財産を確保させることが許容されるのは,基本的には被相続人の積極財産が消極財産が上回っている場合に限られるものと思われます。   また,受遺者又は受贈者の法的安定性の観点から被相続人が相続開始時の何十年もの前にした相続人に対する贈与の存在によって,第三者が受ける減殺の範囲が大きく変わることになることにつきましては問題があるものと考えられます。このような考え方を重視いたしますと,遺留分制度の潜脱を防止するためには,一定の限度で相続開始前にされた贈与を遺留分算定の基礎となる財産に含めることにするとしても,その期間につきましては比較的短期間に限定すべきものと考えられるところでございます。   他方で,現行の判例につきましては,相続人の特別受益については民法第1030条の適用を否定しておりますが,このような解釈が採られているのは,そうしないと各相続人が被相続人から受けた財産の額に大きな格差がある場合にも,特別受益の時期如何によって,これを是正することができなくなるといった自体を考慮したものであると考えられます。   今回のB案では,部会資料8とは異なり,遺留分とは別に相続人間の公平を図るための制度を新たに設けるということはしておりませんので,このような観点を重視するのであれば,相続開始前の一定期間を余り短期間にするのは相当でないということになるかと思います。   これらの点を考慮いたしますと,この一定の期間につきましては1年,あるいは3年,5年とする考え方などが考えられるところでございますが,この点につきましては皆様の御見解を賜れればと考えているところでございます。   次に5の「遺産分割手続との関係」でございますが,B案によりますと,遺留分に関する事件と遺産分割事件の両方が問題となる事案においても,遺留分に関する事件を解決する際に遺産分割事件の帰趨を考慮する必要はありません。この点についてはB案のメリットの一つではないかと思われます。   他方で,遺留分減殺請求の結果,相続人に対する遺贈又は贈与が減殺された場合には,その後で行われる遺産分割手続においては,その部分に相当する額を当該受遺者又は受贈者の特別受益の額から控除するとともに,その部分については遺留分権利者が被相続人から遺贈又は贈与を受けたものとして取り扱うこととするのが相当であるようにも考えられるところでございます。   もっとも,このような考え方を採りますと,遺留分減殺請求がされるかどうかが確定するまでの間は遺産分割を終了することができないということになりますので,そのような場合には併せて遺産分割手続の遅延を防止するための手続的な工夫などについても検討の必要があるのではないかと考えられるところでございます。   最後に「想定される手続」でございますが,B案は基本的には第1の方策,すなわち遺留分の金銭債権化の方策と組み合せるということを想定しておりまして,その手続につきましては現行法と同様に地方裁判所の訴訟手続によることを想定しているところでございます。   説明は以上ですけれども,最後に,先ほど資料確認のときに紹介させていただきました遺留分の事例と計算表について御説明いたします。こちらにつきましては先ほど申し上げましたとおり,現行法であるとかA案であるとかB案,それらを採用した場合にどのような計算になるのかというイメージを持っていただくために作らせていただいた資料でございますけれども,1点だけ注意喚起というか,御指摘させていただきたい部分がございまして,例えば5ページのところを御覧いただきまして,現行法の遺留分のところに※印を付けまして,遺留分侵害額の算定に当たっては具体的相続分を控除するという方法によって計算していると注意書きをさせていただいているところですけれども,ここは実は現行法上もいろいろな考え方があるところでございまして,法定相続分説というのもあるところでございますので,この考え方が一般的であるとかこういう考え方がいいのではないかということをここで申し上げたいという趣旨ではございません。   一応,こういう形で書かせていただきましたのは,実はA案というのがこの考え方を基本的に採っておりますので,現行法もこの考え方に合わせることによりまして,現行法とA案との違いというのがより表れるのではないかという趣旨で,こういう記載をさせていただいているというだけでございます。   説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございました。   A案については前回の案と大きな部分では変化がないということですけれども,B案につきましてはいろいろ御意見を頂いておりますので,それを参酌した形でかなりの点が修正されているということで御説明を頂きました。また,この計算式につきましても御質問等あろうかと思いますけれども,少し休憩させていただきまして,後で御質問,御意見を頂ければと思います。   4時5分前まで休憩ということにさせていただきます。では,休憩にします。           (休     憩) ○大村部会長 それでは,再開させていただきます。   先ほど第2の「遺留分の算定方法等の見直し」につきまして,A案,B案についての説明を頂いたところでございます。質問あるいは御意見等を頂ければ幸いです。 ○窪田委員 ちょっと前提を確認させていただきたいと思います。先ほどの第1の部分で増田委員が質問になられたこととも関係があるのだろうと思うのですが,現行制度というのは,もちろん遺贈,それから贈与,それが遺留分減殺の対象になるということであると思いますし,しかし遺留分のところには規定されておりませんけれども,相続分の指定,それから持ち戻しの免除,これも遺留分の保護の対象になるということだろうと思うのですが,この前提は今回全く変更していないと理解してよろしいのでしょうか。   というふうにちょっとお聞きしましたのは,ある意味で遺留分減殺という現行制度というのは,被相続人の処分行為,遺贈であるとか贈与であるとか,あるいは相続分の指定であるとか,そういった行為を無効にするという意味で減殺するということであるのだろうと思いますが,今回示されているものが一体何を減殺するのかなという点について,必ずしもよく見えていない部分というのがございました。   そのことをお聞きしましたのは,具体的な部分では多分,第2のA案の1,最低限相続分の部分で一つ顕在化するのではないかなと思うのですが,今挙げたような被相続人の行為以外でも,この最低分相続分が侵害される場合というのはあるのではないかと思います。それは何なのかというと,寄与分が非常に大きいということで,具体的相続分は寄与分の大きかった者に全て行くというようなケースにおいては,一方では最低限相続分の計算においては寄与分を考慮しておりませんので,その結果として遺留分が侵害された状態が発生するということがあり得るのではないかなと思います。   現在の制度というのは,何か大変分かりにくいように思いますが,法定相続分を指定相続分でひっくり返すことができる,被相続人の意思が勝つということにはなるわけですが,しかしその被相続人の意思に対しても遺留分が勝つという構成かと思います。ただ,遺留分と具体的相続分,寄与分等々の関係で言うと,寄与分は余り大きくすると遺留分を侵害する可能性があるわけですが,現行法はそれについて何も規定していないということだろうと思います。   もちろん,家裁実務等では遺留分を尊重してというような運用もあるとは伺っておりますが,民法典自体はむしろ寄与分によって遺留分が侵害されるような状況はあり得るし,それに対する手当は置いていないということだろうと思います。仮にA案のようなものを置いたとすると,そこで減殺の対象となるものが一体何なのかということを考えると,ひょっとしたらそういう事態が生じるのではないかということをお聞きしたいなと思った次第です。   更にもう少しだけ触れておきますと,もし相続人間の公平ということを徹底するのであれば,寄与分も含めて相続人間の問題に関しては,そうした公平に応じた処理をするということも一つ考えられるだろうと思いますし,その場合には,今申し上げたような問題は回避できるかとは思うのですが,ちょっと細かい話になりますので,今ただちに答えて頂くのは無理かもしれませんが,すでに検討されている部分があれば教えていただきたいと思います。 ○渡辺関係官 現時点で考えておりますのは,まず寄与分については最低限相続分においては考慮しないということで,現時点では考えております。ただ,そのようにした場合に,遺留分とか寄与分とか,そういったものの関係を全体として見たときに果たしてそれでいいのだろうかというところは,再度検討しなければいけないところかなとは思っております。   ただ,寄与分をここに入れるということになると,かなりまた計算が非常に難しくなったりするという問題点もありますので,そこら辺も踏まえながら考える必要があるかと思っております。   それから,減殺の対象としてどういったものがあるのかという最初の方に御指摘を頂いた部分でございますけれども,基本的にはここで計算式で書いてある例えば遺贈であるとか贈与,これに基本的に限定していいのではないかと考えております。このような計算をすることによりまして,相続分の指定がされている場合であっても,あるいは持戻し免除の意思表示がされている場合であっても,金額としては一定のものが算出されるということになりますので,これらについて特に減殺の対象にするということは,A案においては必要がないと考えております。 ○堂薗幹事 今の説明のとおりなのですが,要するに寄与分で認められる分についても減殺がされてしまうのではないかという問題意識かと思いますが,ここで挙げているA案は,基本的には最低限相続分の方をむしろ結果として優先させるということになろうかと思いますので,基本的には最低限遺留分は相続人に行ってしまって,寄与分については,そこを侵害しない限度でしか認められないということになるのではないかと思います。   この最低限相続分と寄与分の関係をどう考えるかというのは,いろいろな考え方があると思いますけれども,寄与分を優先させるということになりますと,また更に計算が複雑になるというところもあって,現段階では最低限相続分の方を優先させているという整理でございます。 ○窪田委員 状況はよく理解できました。ただ,ちょっと気になりましたのは,潮見委員は退席されてしまいましたけれども,相続法の枠外での財産法的な請求権で,清算に関わる請求というのが本当に不当利得で処理できるのであれば,この問題はさほど深刻ではないのだろうと思いますが,本当に不当利得でいけるのかどうか,ちょっとよく分からない部分もあります。   仮に不当利得でいけないのだとすると,現在の寄与分については,確かに遺留分を考慮して比較的小さな範囲で認めたものもありますが,他方で清算の要素を重視して,大きな寄与分を認めた審判例というのもありますので,そうだとすると,現在では寄与分というのは必ずしも遺留分に負ける形にはなっていないのが,明らかに負ける形になるということになります。そういう選択をするということは考えられるとは思いますが,その場合には,少なくともやはりそれ以外での財産法上の手当というのを考えておかないと,大丈夫なのかなという感じが,感想めいたことになりますが,いたしました。 ○大村部会長 ありがとうございます。寄与分の性質をどう考えるかということだろうと思いますけれども,御意見として承って,最終的にどう調整するかということを御検討いただきたいと思います。 ○水野(紀)委員 今の窪田委員の御説明,御質問と少し問題意識は重なると思うのですが,やはり不当利得というのは非常に難しいということなのだろうと思います。そして,将来の方向性としてどのように誘導することがいいのかも考える必要があるでしょう。特別受益は,本来は生前贈与や遺産分割方法の指定で例えば農業などの経営承継を移すようなことを前提として考えて出来上がっていた条文だろうと思います。生前贈与というのはつまり生前の相続で,その形でしかるべきものを後継者に渡して,そして高齢者が自分の老後保障を定期金契約で受領するというような設計制度を基にしている条文でした。だからこそ,生前贈与をいつまでも特別受益として減殺請求の対象にするという仕組みになっているのだと思います。   それが日本の場合には,そういう形で事前にきちんと将来の相続人と被相続人とが契約をして,生前贈与で財産の処理をする習慣になっていなかったので,昭和55年の改正は,事実上の経営承継の負担者にせめて寄与分ぐらいで調整をしてあげましょうという配慮だったと思います。今回,寄与分は余り強くないという設計にするのだとすると,生前贈与の方へ誘導するということになるかと思うのですが,そうなりますと,今度はB案の方が不安になってきます。生前贈与という形で,この人のお世話になりたいとまとまった事前の贈与契約をして,その後,その期待が裏切られた場合です。日本法は明治の起草者が忘恩行為による贈与の撤回を入れませんでしたから,その贈与の見えない対価を受贈者が払わなかったときに,その贈与を壊すという仕組みがありません。生前贈与で,例えば長男がたくさんもらったが,彼は被相続人のその期待に応えなかった場合でも,その贈与は,遺留分の減殺請求の対象にすらならないということになってきます。それでは,制度設計の誘導のバランスが相当に欠けるような気がいたします。あちらを立てるとこちらが立たないというようなことにはなるのですが,どういう形でこの家族間の公平の問題を設計されるでしょうか。方向性として誘導する方向がある程度もし見えておられるのだとすると,ちょっと説明が付かないところもあるように思います。 ○堂薗幹事 A案もB案も,どこでバランスをとるかという問題があろうかと思いますので,今の点については,こちらとして何かこういった方向で考えた方がいいのではないかという定見があるわけではございません。その辺りも含めて,御議論いただければと思っているところでございます。 ○大村部会長 今の点についてでも結構ですし,その他の点も含めまして,御意見を頂ければと思います。いかがでしょうか。 ○石井幹事 遺留分の算定方法等について,相手方が相続人の場合とそうでない場合とに分けて考えていくというA案の試み自体は理解できるのですけれども,提案されている具体的な算定方式を拝見しますと,例えば,相続人以外の者との関係で遺留分侵害額を算定するに当たり,結局,相続人間の最低限相続分侵害額を算定しておかなければならないなど,やはり複雑かなというところがございます。A案の狙いは,従来,相続人間の遺留分の問題として扱われていた法律関係の処理を,できるだけ遺産分割と同じ土俵に近付けて,両者を一回的に解決することにあると思うのですけれども,A案で提案されている最低限相続分と遺産分割における具体的相続分とでは算定方法にそれなりの差異がありますので,A案の内容とその狙いとは必ずしも十分に対応していないのではないかなという感じがいたします。また,対相続人との関係と対第三者との関係で算定方法を異ならせることについては,制度利用者の方にとって,なかなか理解が難しいのではないかなというところがやはり懸念されるところです。そのため,A案というのは,実務的にはいろいろと懸念が多い案ではないかなという感じがしておるところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。貴重な御意見を頂いたと思います。 ○増田委員 A案についての質問なのですが,相続を放棄した者については,どちらになるのか,第三者になるとしたら,例えば相続人とみなすみたいなことは考えておられるのかどうかという質問をしたいのですが。 ○渡辺関係官 十分に検討はできてないのですけれども,基本的には第三者になるのではないかと考えております。 ○増田委員 そうすると,多くの遺贈をもらったり,多額の特別受益を持った者は相続放棄すると非常にお得だという結論があり得るかなと思うのですが,その点の手当はあり得るという理解でいいですか。 ○渡辺関係官 確かに,要は自分が相続人であるとして,最低限相続分の制度の相手方になる場合と,第三者として遺留分の相手方になる場合とで金額が変わってくるということは十分あり得ますので,それを見越して選択して放棄するということが御指摘のとおり,あり得るように思います。その場合どうするのかということにつきましては,ちょっとすみません,そこに問題意識がなかったものですから,このままでいいというのか,あるいは何かしらの手立てをするのかというのは,ちょっと考えたいと思います。 ○増田委員 ついでに,すみません,A案を採る場合に,今の相続放棄者の処遇の問題以外に,若干やはり問題があるなと思っているのは,一つは減殺の順序で,A案が相続人については減殺順序は現行法と違って手前からという形にはなっていないということになると,いつまでたっても古い贈与まで減殺の対象となってしまう。そのことによって,その財産をめぐる法的安定性が失われるのではないかと思われるので,仮にA案を採るとしても,減殺順序は手前からにして,第三者との関係でも手前からにして,第三者に対する遺留分侵害額から控除する額は,それより手前のもの,相続人に対する最低限相続分侵害額ですか,それを控除するという方がいいのではないかと思いますが,恐らくその辺は考慮されているのかなとは一応思っているのですけれどもね。   それから,あとA案は,先ほど申し上げたような手続の問題はやはり大きいと。というのは,第三者と相続人というのは必ずしも固定しているものではないというか,死んだ時点での第三者と相続人というのははっきりしているのですけれども,遺言したときの第三者が相続人になったり,遺言したときに相続人であった人が第三者になっていることもあるので,その算定について差は設けたとしても余り大きな違い,手続まで含めた形での大きな違いを設けるのは望ましくはなかろうかなと思うのと,第三者といっても,相続人に近い第三者,例えば子の配偶者だとか子の子,孫ですね,という方がこの第三者に現れることも少なくないので,そういう場合に全く手続が分断されてしまうと一括での解決というのは困難になって,かえって遅れてしまうということがあるので,仮にA案を採るとしても,余り極端な差を設けるのは望ましくないだろうなと思っています。 ○渡辺関係官 A案の方は,考え方といたしましては,これは相続人と第三者を完全に分断するという意味で,ある意味かなり極端な考え方ではあるのかなと思っておりまして,そういう極端なモデルを示すという意味合いもございまして,例えば減殺の順序につきましては基本的に設けずに,これは全て遺産分割と同じような家事審判手続でやってしまおうということを一つの発想としてやっているものですので,当然その全てを貫かなければいけないというものでもないという面はあると思いますので,その一つ一つをばらして,その分断を一部徹底しないというような選択というのは,あり得るのではないかとは思っているところでございます。 ○堂薗幹事 若干補足ですが,特にA案の方は,相続人に対する請求と第三者に分けることによって,相続人のみが相手方になっているような場合に,遺産分割と一体的に処理できるようにすると。そういった意味で,算定の基礎となる財産も,基本的には遺産分割と合わせています。   その減殺の順序を設けていないというところももちろんあるのですが,そこは遺産分割では特別受益に該当する贈与については同じような取扱いをしていて,特に時期的に後だから前だからということで取扱いを変えていませんので,そことも平仄を合わせていると。   もちろん,具体的相続分の場合は,現実にその贈与の方から価値を返還するということはありませんので,そこに遺留分の場合とは大きな違いがあるかとは思いますが,そういった意味で,元々の発想としては,相続人と第三者を分けることによって,むしろその遺産分割の対象となる財産があるような場合に,そちらと一体的な処理ができるようにする。したがって,規律も具体的相続分と似たような計算式にもしておりますし,その減殺の順序などについても特に設けていない。相続人の公平という観点から言うと,そこは必ずしも新しいものから減殺すべきということにはならないのではないかというようなことがあって,一応こういうような規律にしているというところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。A案について疑問を提起する意見が複数出ておりますけれども,今,堂薗幹事から御説明がありましたように,B案もある意味では,やはり遺産分割の中でやれるものはそれで処理しようというので,どちらの案も根のところにある発想には共通の点はあるのではないかなと思います。   ほかの皆様,いかがでしょうか。 ○垣内幹事 大変,制度が素人にはかなり複雑に見えるところもありまして,本当に基本的な御質問で恥ずかしいのですけれども,お示しいただいている事例の計算表に関してですが,先ほどの相続放棄の関係での御発言もありましたけれども,事例1と事例2ではA案においてその第三者Aの取り分が一番多いと。事例の1ですと,現行法ではAは137万5000円のところが,A案ですと325万円になるということで,かなり結果として違いが出てくるというのが分かりやすく示されているなというふうに拝見したのですけれども,現行法と,仮にA案というものを採用したときに,A案との結果の違いが,どういった制度趣旨といいますか,一種の広い意味での政策的な考慮によって裏付けられているのか。   計算式等を拝見いたしますと,A案のこの帰結に,事例1で大きく効いているのは,恐らくその遺留分侵害額というのか,今回の用語ですと第三者に対する請求に関しては最低相続分侵害額を引いて遺留分侵害額を算出すると,それが差し引かれているので,請求額が少なくなって最終的な取り分が増えているのかなというふうに拝見したのですけれども,そうすると,この最低限相続分侵害額を差し引くという操作が非常に大きな意味を持つ局面というのが幾つかあるのかなと思いまして,この最低限相続分侵害額を第三者に対する侵害額算定の場合に差し引くというやり方の持っている意味について,資料等では相続人間と対第三者との手続,両者間の調整を行うというような説明が今回資料でもありますし,前回以前のものでも同様の説明があったかと思うのですが,そこで意図されている調整の実質というのは一体どういう性質のものなのか,どういう不都合をどういう形に調整しようとしているのかという,その実体的な考慮について必ずしも私はよくフォローできていないところがありまして,ちょっとその点について教えていただければ有り難いと思います。 ○堂薗幹事 A案の考え方は,基本的には最低限相続分や遺留分が侵害されているような事案においても,まず相続人間で調整をした上で,それでもなお十分な財産が得られていないという場合に第三者に請求できるというところで,相続人間で調整ができるのであれば,そちらで調整した方がいいのではないかという価値判断に立っております。   A案は,このような価値判断に立っているもので,A案の特徴は正にそこにあります。それに対しまして,B案は必ずしもそういう価値観には立っておりませんので,その点の政策判断も含めて,是非この場で御議論していただければというところがございます。   したがいまして,事例1のように,第三者に対する遺贈がされていて,しかも現行法ですと第一順位で減殺されるような場合であっても,A案では,相続人間で調整して,そこで足りない分について第三者に請求するということになりますので,こういった結果の違いが出てくるのではないかと考えているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。実質的に非常に大きな影響の出る点だろうと思いますので,どのような考え方をとるのがいいかということにつきまして,お考えが分かれるのではないかと思いますけれども。 ○渡辺関係官 あと1点だけ,事例1と2の違いについて補足をさせていただきますと,事例1と2で共通なのは,大分昔の特別受益というものが入っているというところが特徴かと思われます。この昔の特別受益につきましては,基本的には最低限相続分だけで考慮して,遺留分では考慮しないということにしておりますので,これによる影響というのは,第三者はかなり受けにくいということになりますので,その結果として,第三者の取り分がA案の方が現行法よりも大きくなっているということは言えるかと思います。 ○垣内幹事 この表について御質問を始めたついでに,もう1点,事例3におきましてはA案の方が逆に第三者Aの取り分は現行法よりも,更にB案によりも少ないという結果になっておりまして,この事例3というのは相続人Yに対する遺贈が450万ということで,かなり大きいわけですけれども,A案にするとかえって第三者の取り分が減ってしまうというのは,これはどの辺りが効いているという分析になるのでしょうか。 ○渡辺関係官 こちらにつきましては,先ほど申し上げたような特別受益というものの影響はありませんので,基本的に第三者が直ちに有利になるというわけではないわけでございまして,あとは基本的に割り付けの問題で差が出てくるということになるのかと思います。   この割り付けの問題については,多分一義的に絶対こちらの方が有利になるというわけではなくて,多分金額によって有利になったり不利になったりということが恐らくあるのかなと思っているところでございます。 ○垣内幹事 ありがとうございます。 ○大村部会長 ほか,いかがでございますか。なかなか得失についての判断は難しいところなのですけれども。   事務当局の方から,この部分について意見を聞きたいというところがあれば伺います。特にないですか。   あるいは,B案につきまして,前回の御提案と大分違う御提案が含まれていたと思いますけれども,その辺りについて何か御意見等ございませんでしょうか。 ○村田委員 A案で相手方が相続人の場合と第三者の場合とに分けて,相続人間の問題については遺産分割手続との一体性をなるべく確保しようとする御趣旨はよく分かるのですけれども,他方で,遺産分割における具体的相続分の算定方法が現行のままですと,A案でいう最低限相続分の算定と遺産分割でいう具体的相続分の算定との間には基礎となる財産の範囲等において,なお違いが残ることになりますが,そのことについてはどういうふうに評価しておられるのでしょうか。そのような違いについては大して問題にならないのだと見ておられるのか,違いはあるのだけれども,A案の趣旨からしてそこはしようがないと見ておられるのか,その辺りお考えのところがあれば教えていただければと思うのですけれども。 ○渡辺関係官 典型的にはっきり申し上げられるのは,相続債務などというものは遺産分割では考えないですけれども,このA案のⅠの制度では考えなければいけないというところになりますので,もちろん,これはできるだけ全部統一させることができればいいのかなとは思った反面,なかなか考えてみますと全て一致させるというのはちょっと難しいかなというところで,どうしてもこういう部分が残ってしまったというところが現実的なところでございます。   なので,遺産分割と一緒にやれるというところは,A案の一つのメリットではあるかと思いますが,それが100%果たされていないということは正に御指摘のとおりでございまして,そこのところも踏まえて,なおA案にメリットがあるのかどうかというところを最終的には御判断いただくことになるのかなと考えておるところでございます。 ○村田委員 ありがとうございます。 ○大村部会長 ありがとうございました。   そのほか,いかがでございましょうか。 ○増田委員 感想めいた話なのですけれども,先ほどいろいろと申し上げましたけれども,A案というのは遺留分について相続人に対する侵害を先に考慮するということ,第三者については古い生前贈与について算定の基礎に入れないこと,この二つは私は大きなメリットではないかと思います。   ただ,先ほどの3点,相続放棄者の問題と,それから減殺の順序の問題と手続の分断,この三つはちょっとクリアしていただかないとA案には賛成できないなと思っています。   B案についてなのですけれども,本当に感想めいたことで恐縮なのですけれども,これが現行法と比べて,あえて改正するメリットがどれほどあるのだろうかという素朴な感想がありまして,場合によってはかなり大きな違いが出てくる場合もあるのでしょうけれども,資料に挙げられた事例を見ましてもそれほど大きくない,現行法との違いはそれほど顕著ではないように思うんですね。   それを考えると,あえて複雑な計算をする必要があるのかなというのが率直なところです。 ○大村部会長 ありがとうございました。先ほど事務当局の方からも,A案は言わばモデルとして出されているので,様々な調整というのはあり得るという御発言がありましたけれども,増田委員御指摘の幾つかの点が乗り越えられるものなのかどうなのかということについて,更に詰めていただきたいと思います。   今のようなA案,B案についての総体的な評価をお示しいただける方がほかにもいらっしゃいましたら,御発言を頂きたいと思いますけれども,いかがでしょうか。   それでは,特に追加的な御発言はないということでございますので,本日頂きました御意見を踏まえまして,更にこの点についても検討をしていただくということにさせていただきたいと存じます。   それでは,その次になりますが,12ページの「第3 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」という部分につきまして,事務当局の方から説明を頂きます。 ○合田関係官 それでは,「第3 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策」について,御説明いたします。   部会資料の12ページを御覧ください。   前回この論点を取り上げました第7回部会では,検討の前提として,被相続人の生前における当事者間の法律関係を整理しておく必要があるとの御意見を頂きましたので,今回の部会資料13ページの1の部分で,まずこの点について検討を加えております。   療養看護等の寄与行為について,当事者間に役務の提供に関する合意があると認められる場合には,基本的に準委任契約が成立することになると考えられます。準委任契約は,無償が原則ですので,報酬に関する特約がない場合には,療養看護等を行った者は委任者に対して報酬の支払を求めることはできませんが,事務を処理するに当たって支出した費用については償還を請求することができ,委任者の死亡後は,その相続人に対してこれを請求することができることになると考えられます。   もっとも,親族間など親しい間柄においては,療養看護等の寄与行為に関して,契約書等の証拠が欠けていたり,合意の内容が不明確であったりする場合も多く,実体的には準委任契約の成立が認められる事案でありながら,それを証拠上明確にすることができない場合があると思われます。   また,親族間など親しい間柄における自発的な無償行為においては,当事者間において費用も含めて金銭的な請求をする意思がなく,その点について黙示的な意思の合致が認められる場合も多いように思われます。このような場合には,受任者は委任者に対し,費用償還請求もすることができないことになると考えられます。   更に,仮に社会的事実として寄与行為をすることについて意思の合致があり,形式的には準委任契約の要件を満たしているように見える事案であっても,親族や知人など親しい間柄における好意に基づく寄与行為については,常に準委任契約として法的保護を受けるというわけではなく,法的な効果を伴わない合意がされたにすぎないと解釈すべき場合もあると考えられます。   すなわち,親族や知人など親しい間柄における事務の委託においては,両当事者がいずれも事務を行う者に善管注意義務や損害賠償義務などの法的な義務を相手方に負わせることを想定しておらず,合意内容の履行が法的に保障されるとは考えていない場合も多いように思われます。そのような場合には,合意内容は当事者の良心や道徳等に従って実現が図られるべきであり,その合意に法律上の効果は発生しないという考え方もあり得ると考えられます。   また,第7回部会では,療養看護等の役務の提供について,契約関係が認められない場合であっても,事務管理が成立するのではないかとの御指摘もありました。しかしながら,事務管理制度は,私的自治の原則の例外として,本来は違法とされるべき他人の事務への干渉を例外的に許容する制度ですので,この点を重視して,その適用範囲を謙抑的に考える見解に立てば,親族間における通常の療養看護のように,一定の事務をすることについて,当事者間に意思の合致がある場合には,基本的に事務管理の成立は否定すべきであるという考え方もあり得るところであり,当然に事務管理が成立するということにはならないとも考えられます。   以上によれば,療養看護等の寄与行為について,準委任契約や事務管理の成立が認められる場合には,受任者や管理者は,その相手方又は相続人に対し,費用の償還請求をすることができますが,当事者間の合理的意思解釈によれば,実際には費用償還請求権のない準委任契約類似の無名契約や法的効果を伴わない単なる合意に当たると解すべき事案も多いと考えられ,現行法を前提とする限り,親族が療養看護等を行った場合に,報酬や費用の償還を請求することができるとは限らないと考えられます。   これに対し,療養看護等の行為について報酬等の請求権を認める制度を新たに設けるという考え方もあり得るところですが,一般的な国民感情としては,親族間の介護について,その報酬等を要介護者に請求し,裁判手続等によって強制的にこれを実現するといったことまでは望んでいない場合が多いと考えられます。また,そのような制度を設け,親族間における療養看護等の行為を有償化することについては,親族間の助け合いの精神を阻害することになりかねないとの批判も考えられるところです。   そもそもこの問題は,被相続人の生前には親族としての愛情や義務感に基づいて無償かつ自発的に寄与行為をすることを前提としていたものの,相続の場面においては,療養看護等を全く行わなかった者が相続人として遺産の分割を受ける一方で,実際に療養看護等に努めた者は,相続人ではないという理由で,その分配にあずかれないことに不公平感を覚える者が多いことに端を発するものです。すなわち,この問題の背景には,被相続人の面倒をよく見た者には,その者が相続人であるかどうかにかかわらず,それに見合う財産を取得させるのが公平であるという価値観があるものと考えられます。このような価値観を前提とすれば,相続の場面において,相続人でない者にも非訟手続により一定の権利行使を認める必要があるものと考えられます。   今回,部会資料の12ページで提示しております考え方は,基本的に部会資料7の考え方を踏襲したものですが,第7回会議では,金銭の支払を請求し得る者の範囲について様々な御意見があったことから,今回の案においては請求権者の範囲を特定することはせず,部会資料の15ページの3の部分,15ページの3のところで,あり得る選択肢について一応の考え方を示しております。具体的には,一定の親族に限るという幾つかの考え方と,請求権者の範囲に限定を設けないという考え方を,あり得る選択肢としてお示ししております。   また,請求権者の範囲をどのように定めるかは,考え方の④の権利行使の期間制限をどの程度とするのが適切かという点にも影響することから,④の期間制限についても,部会資料の16ページの4のところで,あり得る選択肢について考え方を示すにとどめております。   更に,寄与の対象となる行為の類型については,特段の限定は設けておらず,現行の寄与分の制度と同様,必ずしも療養看護型に限るわけではなく,いわゆる家事従事型,金銭等出資型,扶養型及び財産管理型などの各類型に属する行為を寄与の対象とすることを想定しております。   もっとも,長年にわたって被相続人に対する療養看護等の貢献をしてきた者が,相続財産の分配にあずかれないことに対する不公平感が強いという指摘があることから,政策的に療養看護型に限って,新たな制度を設けるということも考えられるところですので,今回の案では,「注」の部分でこのような考え方を併記しております。   本日は,部会資料において示しております考え方について御審議いただきたいと思います。特に,権利行使をすることができる者の範囲と,権利行使の期間制限についてどのように考えるべきかについて,御意見を頂戴できればと思います。   説明は以上です。 ○大村部会長 ありがとうございます。   今御説明がありましたように,前回この問題について検討した際に,被相続人の生前における法律関係について,もう少し整理をする必要があるのではないかという御指摘がありましたので,それを踏まえて先ほど冒頭にその御説明があったものと理解いたしました。   その上で,第3の中身自体は基本的には前回の提案が踏襲されておりますけれども,①の被相続人の一定の親族であってという要件をどういうふうに具体化するかと,それに関連する形で,④の一定の期間というのをどうするのかということがブランクになっております。このような方策を採るのだとしたら,ここのところをどうするかということについても併せて御意見を頂きたいということだったかと思います。   それでは,御意見等を頂ければと思います。 ○増田委員 質問なのですけれども,生前における被相続人との関係についていろいろ検討がなされていますが,この方策で請求できるのは,そうすると,いずれも成立しない場合に限るという理解でいいのかということですね。   生前については,契約,黙示を含む契約がまず第一であって,次は事務管理を検討し,最後に多分不当利得を検討することになるのだと思います。不当利得が成立しない場合というのは非常に少ないのではないかと思いますが,そのどれでも救済ができない場合に限り,この第3の方策が用いられるということでいいのかということです。   不当利得に関して言うならば,どういう場合に成立しないのかというのがよく分からないのですが,被相続人の財産の維持又は増加という要件が残っている以上は利得がありますし,それに対して労務の提供との間に因果関係があれば,労務の提供という損失と,それに利得との間の因果関係が認められることになっているだろうと思われますし,これは昭和55年の改正時の解説書,法務省参事官室が書かれている現在の一問一答に相当するものには,相続人以外には認めない理由の一つとして,不当利得返還請求権を持つことが少なくないというのが挙げられているわけですね。   こういう点を考えると,最悪でも不当利得では救済されるのではないかと思っているのですけれども,それはともかくとして,どれでも救済されない場合に限るという話なのかどうかというのを伺いたいです。 ○堂薗幹事 その点は,資料でいきますと17ページの5の財産法上の請求権との関係というところに記載がございまして,現行の寄与分にも同じような問題があるわけですが,基本的にはほかの財産法上の請求権が認められる場合であっても,この制度の利用は否定しないということですので,この制度を利用する前提として,不当利得は成立しないとか事務管理は成立しないとか,そういったことを確認する必要はないという前提でございます。   それから,不当利得との関係ですが,前回は事務管理との関係についてご指摘をいただいたので,今回の部会資料では事務管理との関係を検討したのですが,不当利得との関係につきましても,当事者間でお互いに無償であることを前提として療養看護をした場合には,不当利得は認められないことになるのではないかというのがこちらの整理でございまして,相続人以外の人が療養看護をしている場合に相続の場面で一切請求できないのは不公平ではないかというような問題点の指摘がされているわけですが,現実問題として,そういう相続人以外の者が不当利得の返還請求をして実際に認められているかというと,必ずしもそうではないのではないかというのがこちらの問題意識としてはございます。 ○増田委員 それに対しては,無償だという前提だったら飽くまで無償ではないかと,無償という合意をしているにもかかわらず死んだら請求できるのはやはりおかしいのではないかというのがあるのですけれども,それはともかくとして競合するという前提であるなら,異なる手続で請求される権利が請求権競合の関係にある場合には,既判力の抵触とか二重訴訟とか,いろいろ問題があり得ると思うのですけれども,その辺についてはどうお考えなのですか。つまり,両方請求できるという場合には。 ○堂薗幹事 例えば不当利得の関係で言いますと,仮に不当利得が認められる場面であっても,この制度を使って一定の金銭の支払がされている場合には,その限度で損失等がなくなりますので,そういった意味で調整は可能なのではないかということでございまして,具体的にどういった場面で問題に…… ○増田委員 訴訟物は別なのでしょうけれども,請求権競合ですからね。普通,請求権競合の場合は同じ手続の中でやらないと,一回的解決にならないし,別の手続をやっても二重起訴になりますし,一方で,一方が終われば他の一方は既判力で制限される,そういう関係になるという理解でいいのですか。 ○堂薗幹事 ただ,そこは,この制度を新たに設けることによって生じているというよりは,同じような問題は現行の寄与分でも,仮に相続人が寄与行為をした場合に寄与分の請求はできるけれども,別途財産法上の請求ができる場合は当然あり得るわけで,その関係と同じように考えればいいのではないかというのがこちらの整理でございまして,現行の寄与分と財産法上の請求権の両方が成立する場合に具体的にどういう形でそこを調整しているのかというところについては,まだ十分な検討はできておりませんが,基本的には,御指摘のような問題は現行法上もあるのではないかと思います。   更に申し上げますと,なぜ生前には無償であったものが死んだ途端に有償になるのかという点についても,基本的にはこの考え方は現行法上の寄与分の対象となる人を,もう少しそれ以外にも広げましょうということですので,そこは現行法上の寄与分と同じような関係に立つのではないかということでございまして,生前は無償だからといって,その人の財産,その人が亡くなった場合に,その財産をどう分けるかという場面で,その分配にはあずかれないということにはならないのではないかというのがこちらの考えということになります。 ○大村部会長 ほかに御意見いかがでしょうか。 ○八木委員 趣旨は全く賛成なのですけれども,寄与分の規定との整合性があるのかなと思うのですね。というのは,家庭裁判所に訴え出ると,請求するということですけれども,国民感情としては家庭裁判所もやはり裁判所という,訴訟というような捉え方をしますので,寄与分の規定はまず当事者で協議をして,それが調わない場合に家庭裁判所にという手続になっておりますが,いきなり家庭裁判所にということではなくて,まず当事者間の協議というか,その辺りのルール化をした方が受け入れられやすいのではないのかなと思いますが,いかがでしょうか。 ○堂薗幹事 そうですね。そういった意味では,この場合も基本的には,まずは当事者間で協議をした上で,その協議が調わない場合に裁判所にその申立てをするということを想定しておりますが,寄与分の規定とは違って,そこは第3のところには出ていないというところがございますので,御指摘を踏まえて検討したいと思います。 ○大村部会長 そのほかに御意見いかがでございましょうか。 ○石井幹事 請求権者の範囲のところですけれども,寄与の評価というのは相続人間で対立が生じやすいようなところですので,余りいろいろな方が入ってくるとなると,そうした方の寄与の評価をめぐる対立が遺産分割手続に影響しないかということが懸念されるところでございます。   また,寄与の評価それ自体についても,生前の被相続人との関わり方には様々なものがあり得ることなどからすると,被相続人と一定の近しい関係を念頭に置かないと,明確な基準で適切に評価することは難しいのではないかなという感じもしております。   寄与の評価に当たっては,相続財産との関係が非常に重要な要素になってくると思いますので,請求権者の範囲については,そういった観点からも,ある程度限定的に定めていく必要もあるのではないかなという感じがしているところでございます。 ○大村部会長 ありがとうございます。事務当局の方から問題提起のあった請求権者の範囲について,一定程度は少なくとも限定的に考えるべきだという御意見として伺いました。   ほか,いかがでございましょう。 ○中田委員 私は第7回部会に欠席しておりまして,議論を十分理解していないかもしれないのですけれども,資料を拝見しますと二つの観点があるように思いました。   一つは無償の労務提供者に対する報酬や費用相当額の実質的清算という観点,もう一つは,被相続人の財産の維持,増加に寄与した者に対する相続財産の分与,この両者が混じっているような気がしまして,それで分かりにくくなっていると思いました。   療養看護型というのは,比較的,報酬や費用の清算ということかと思うのです。これに対し,例えば被相続人の財産状況が窮境にあったときに助けてあげた,そのために,その財産の維持に非常に大きな貢献をした,しかしそれだけだというときに,それをどういうふうに評価するのかということが出てくると思うのです。そのどちらに焦点を当てるかによって,請求権者の範囲にしても随分変わってくるのではないかと思います。そうすると,立法事実あるいは政策判断として,一体どういう人に対して,どういうコンセプトで与えるのかということが詰められないと,なかなか決まらないかと思います。   身分要件について申しますと,先ほど石井幹事のおっしゃったことと同じだと思いますけれども,適切な人を取り込めるように広げるというのと,不適切な人を排除するというのと両面あると思うのですね。それもやはり,その目的が若干違ってくるように思いますので,その辺りを整理する必要があるかなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。正にそういうことなのだろうと思いますが,それを踏まえて,具体的にどういう線を引くのがよろしいのかという点について,御意見を伺えればと思います。 ○金澄幹事 この御提案がある一番の問題点というのは,やはり形式的に相続人を定めているというところで問題が生じているというところだと思っています。療養看護を全く行わなかった者が相続人だからということで遺産をもらい,そうではなくて療養看護をしている人がもらえないことの不平等というところが一番の基本であるならば,やはりそれを何親等とか,そういうことに限ることなく,現実に療養看護したという人に対してきちんと財産が行くように,請求権が認められるようにすべきではないかと思っています。やはり,そこの一番の目的というところを見失うということは,この制度をせっかく作るのであれば,その制度趣旨を没却することになるだろうなと思っています。   そうなると,どんな人が入ってくるかということで,不適切な人を排除するというところでしたけれども,そのために②があるのだろうと思います。家庭裁判所できちんと寄与した者の請求によって,いろいろ一切の事情を考慮して支払うべき金額を決めるというのであれば,家庭裁判所に来るというところで,まず八木委員がおっしゃったようにハードルもございますし,きちんとした主張をできる人だけが恐らく家庭裁判所に来るのだろうというように思いますので,請求できる人の範囲はあらかじめ限定しておく必要はないのだろうと思っています。   あと一つ,すみません,③のところなのですけれども,「法定相続分に応じてその責任を負う」と書いてあるのですけれども,そうなりますと,実際に相続人が取得した遺産の多寡にかかわらず,これを負担するということになると思うのですね。相続人であれば,負債についても負担することになるのですけれども,相続人以外の貢献した者は,そういう相続債務は負担しないで請求ができるということになるのですけれども,ここのところの調整というのは何かお考えがあるのでしょうか。   資料7のときには何か,あとトータルとして何か上限を設けるような規定があったと思うのですけれども,そこのところのお考えをお聞かせいただければと思います。 ○堂薗幹事 まず,最初に中田委員から御指摘があった点ですが,この制度の目的として無償行為についての費用,あるいは報酬の清算なのか,あるいは財産の維持,増加があったことに対する寄与の取得なのかというところで,事務局としては従前から後者の方で考えていて,飽くまで本来的には相続の枠組みの中で清算すべきところを,現行法を前提と致しますと寄与分の申立権者が相続人に限定されるので,そこを若干広げた方がいいのではないかという考え方の下に御提案しているところなのですが,それに対してはいろいろ御批判があるので,今回はある程度いろいろな考え方を取り入れてお示ししていることから,かえって分かりにくくなってしまった面があるのではないかと思います。今申し上げましたように,飽くまで本来は相続の中でこれを処理するということでありますと,本来は第三者がこれに入ってくる場合も当然,本来積極財産からその債務を引いて,その残りの正に純資産額としてあるものから一部取るということに本来はすべきなのだろうと思います。ただ,そういう形にしますと,結局この手続の中で相続債務の額とかもきちんと確定した上で,その寄与の額を定めなければいけないというようなことにもなり,紛争が複雑化するのではないかということで,ここではそういった上限は設けていないと。   ただ,この②の「相続財産の額その他一切の事情を考慮して」という中には当然,相続債務の額としてどの程度あるのかとかいう辺りも考慮した上で,その寄与の額を定めるという前提でございますので,今御指摘があったように,第三者の場合には相続債務は承継しませんので,そういったことも踏まえますと,基本的には第三者の場合には限定的に請求を認めることになるのではないかということでございます。 ○大村部会長 よろしいでしょうか。 ○金澄幹事 ありがとうございます。 ○大村部会長 ほかに,いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 なかなかまだイメージがつかめなくて,御教示をお願いいたします。一方では例えば長男の未亡人がずっと療養看護をした,でも,その相続分は全然介護に手を出さなかった亡き夫の兄弟がみんな持っていったというシチュエーションがあります。他方では,被相続人が自転車操業の企業を動かしていて,そこにすごく大金持ちの親族がお金を貸した。でも,結局事業はうまくいかなかったので借金が一杯あったため,破産という形で清算をしたのだけれども,その共同相続人になっていた方たちもかなり借金を負担したというときに,その大金持ちの親戚が寄与したといって取立てを要求してくるというシチュエーションがあります。それらは,全部,条文的には入り込むという形にはなっているわけですね。そうすると,いろいろなシチュエーションが出てきますが,そこはあえて家庭裁判所の判事の裁量に委ねるという仕組みの条文なのでしょうか。 ○堂薗幹事 今挙げているこの①から④については,御指摘のとおりだと思います。ただ,元々の発想は,若干繰り返しになりますが,本来は遺産分割の手続で,そこに当事者として入ってもらって,その財産を分ける際に一定の取り分を与えるということで手続としては仕組むべきところを,そうすると遺産分割の手続が複雑になってしまうので,そこは政策的に完全に切り離すことにしたということでございますので,先ほど水野委員が御紹介いただいた事例のうち後半のような場合,いろいろと支援はしたけれども最終的には債務がたくさん残ってしまったという場合には,この制度では請求できないということになるのではないかと考えております。ただ,その点がこの規律で十分に書けているのかという問題なのではないかと思います。 ○村田委員 請求権者の範囲を限定するか否かというところについてなのですけれども,仮に限定をしないで,かつ先頃の議論にあったように,ほかの請求権との関係では請求権競合だという整理をすると,例えば,極端な例にはなりますが,介護を専門にやっている業者が介護契約に基づいて療養看護したのだけれども,契約書など証拠を出すのは面倒であるとして,この今書いてある方策の枠組みに則って請求してくることも認めなくてはならなくなるようにも思われます。そのような場合も含めて家庭裁判所で一切の事情を考慮してやれと言われても,それはそういうものではないだろうという気がしますし,今相続の場面では,やはり一定の身分関係か,それに準ずるような何がしかのものを前提としているからこそ,家庭裁判所において,諸事情を考慮して判断するということになるのかなと思うので,この方策の枠組みから除外すべき部分というのは何がしかあるような気がするのですね。それを適切に表現できるかというのは,非常に難しい問題だとは思うのですけれども,限定しなくてもいいのではないかということに関しては,かなり違和感を覚えるところではあります。 ○堂薗幹事 ですから,こちらは元々,前回お示ししていたように,広げるとしても相続人に準ずるような法的地位にある人に限るべきであって,無償行為をしたことに対する費用とか報酬の清算を一般的に認めるのではないという前提で考えておりました。そういった意味では,この一定の親族はある程度限定すべきではないかとは思っておりますが,ただ,他方で先ほどのような御意見もありますので,そこをどういうふうに調整したらいいのかというところで非常に悩んでいるということでございます。 ○増田委員 一つの考え方としては,例えば特別縁故者となり得るような資格のある人間ぐらいかなと思うのですけれどもね。親族に限定するというのは,親族の扶助義務みたいなものとの関係がありそうで何か気持ちが悪いところもありますし,それから今,村田委員が言われたような業者はそれは駄目だろうと思いますので,そこのところはなかなか家庭裁判所で処理することが適切な適格者ということに仮にこの制度を入れるとすればなろうかとは思いますが,そこの限定はなかなか難しいかなと。ただ,はっきりとした外延というのは,比較的見えているような外延が必要かなとは思いますが。 ○大村部会長 一定の制限は課すけれども,しかし親族というのではない基準もあり得るという御意見ということですね。 ○増田委員 それは,あり得ると思います。親族でないけれども,常に身近にいて密接な関係を持って世話をしていた人というのは,あり得るだろうと思います。 ○大村部会長 ほかに御意見いかがでございましょうか。 ○水野(紀)委員 特別縁故者という基準で,ある程度区切れるかもしれないという増田委員の御発言だったのですけれども,特別縁故者は現状では,すごくいろいろな場合が認められています。相続人がいなくて宙に浮いた遺産ですから,特別縁故を主張する者がいれば,裁判所も広範に認める傾向があるようです。それこそ先ほど御発言があったように,療養看護した施設なども主張することがあるようですので,特別縁故者という区切りは余りいい基準にはならないだろうと思います。 ○増田委員 要は,特別縁故者は相続人がいない場合にその財産を引き継ぐという場合ですので,業務として行っていたということもあり得るかもしれないですが,ここでは,その当事者間の人的関係に基づいてということだと思うので,たとえば実子ではないのだけれども,子供のように一緒に生活し面倒を見てきた人とか,あるいは内縁の配偶者とか,こういうのは当然入ってくるのではないかなと思っています。それを一定の親族という要件で限定するのは,ちょっと問題かなと思っている次第です。 ○大村部会長 ありがとうございます。 ○石井幹事 被相続人の面倒をよく見た方にこそきちんとした分配がされるべきだというのはそのとおりかなと思うのですが,この御提案というのは,そのような方には,財産法上の請求権が認められるかもしれないけれども,親族の情から被相続人の面倒を見ていたということを踏まえ,これとは別に請求権を認めていくという考え方に基づくもののように思われます。そうした財産法上の請求をしない方からすると,明確な基準を定めてあげた方が自分としては権利があるのだなということが分かりやすく,御提案の制度を利用しやすいのかなというような感じもしております。   あと,1点,質問なのですけれども,御提案の③のところで,相続人は法定相続分に応じて責任を負うということになっているのですが,相続放棄等がされた場合には,相続放棄等によって変動した後の相続分に従って責任を負うという理解でよろしいのでしょうか。 ○堂薗幹事 はい,それはそういう前提です。 ○中田委員 一つ質問なのですが,大分前に水野委員が挙げられた例の中で,お金持ちの親族が窮境のときにお金を貸したけれども,うまくいかなかったというお話があったのですが,うまくいった場合はどうなるのでしょうか。うまくいって,それで貸したお金も完全に返ってきた。でも,そのお金があったがために持ち直して非常に大きな財産を残すことができたというときに,それは入るのでしょうか。 ○堂薗幹事 いや,今お示ししている案だと必ずしもその無償性というのは出てきていないようには思いますが,こちらで考えているのは,例えば,有償でお金を貸した場合に,それによって事業が維持,継続できたとしても,それは対象に含めないという前提です。   ただ,この要件,この書き方でそこが的確に排除されているかという問題はあろうかと思いますが,こちらで考えているのは,基本的には貢献に相当する対価はもらっていない,ですから,多少対価をもらっていても,本来もらうべき対価よりも非常に少ない額で,それによって財産の維持,増加に貢献しているという場合はもちろん含まれ得るわけですが,ただ,その場合でも,その貢献というのは,もらった対価を差し引いた分について評価をして,その分に限って認めるということで考えているところでございます。 ○中田委員 ごめんなさい,無利息で貸したという前提で考えています。 ○堂薗幹事 無利息で貸した場合はどうなのか。そうですね,基本的には,貸したお金が返ってきている場合については,これに含めることは考えていないのですが,その辺りをどういう形で排除するのか,あるいは排除するのが相当なのかという辺りは十分な検討ができておりませんので,検討したいと思います。   その点について,何らかのお考えがあれば,お聞かせいただきたいと思います。 ○中田委員 それは先ほど申しましたとおり,一体どういう人に対してこの制度を作るのかということを詰めていかないと,どうも人によって持っているイメージが違うなと感じております。今の堂薗幹事のおっしゃったこととも重なるのですが,対価を受けていたということですね。つまり,生前に代償を受けていたとか,あるいは放棄していたということが一つ考慮要素になるのかなというふうな印象を受けました。 ○堂薗幹事 この要件は現行の寄与分と同じにしておりますので,基本的には寄与分のところとパラレルに考えるという前提です。ですから,相続人がそのような行為をしたときに寄与分が認められるのであればこちらでも認められますし,相続人がそのような行為をしても,寄与分は認められないということであれば,こちらでも認められないという前提でございます。   先ほど御指摘いただいたような事案については,恐らく現行の寄与分の制度では認められないのではないかという前提で,先ほどのようなお答えをしたということでございます。 ○大村部会長 先ほどどなたかから寄与の類型による制限を設けるべきではないか--金澄幹事でしたか--というようなお話がありましたけれども,中田委員の今のお話は,そういうことともつながるのでしょうか。その制度趣旨の理解によっては,現在の寄与分と並びではなくて,別の形でその要件を画するという考え方もあり得るという御指摘かと思ったのですが。 ○中田委員 それは最初に申し上げた二つの観点が混じっているというところです。もしも,長男の未亡人が,という水野委員が挙げられた例に絞るのであれば,そういうことになるのでしょうし,その上で更に広げていくという方法はあると思うのですけれども,最初から寄与分とパラレルと決めてしまうと,かえって詰めにくいかなという印象も受けました。 ○大村部会長 ほかに,いかがでございましょうか。 ○西幹事 私自身がどう考えるかということではないのですけれども,御説明を伺っていますと,今回のこの御提案は相続人の範囲を広げる,つまり,相続の枠内でみなし相続人とでも申しますか,準相続人を作るという発想のような印象を受けました。   そうなりますと,恐らく範囲は比較的絞れますし,期間も,相続人に関して出てくる期間,例えば,放棄などが3か月で相続人の捜索になると6か月ですので,大体その3か6かに合わせるということも考えられるかと思います。   他方,この第3の①から④を見ただけですと,御説明を聞く前にということですけれども,これだけを見ると,場合によっては被相続人に対する債権者というような位置付けとして受け取られる方もいると思います。   今回はそれを排除する,必ずしもそうではないということでしたけれども,仮に,もしこのように位置付けるとすれば,範囲は無制限でよいと思いますし,期間についても,相続債権者に関して出てくる限定承認などの2か月とか,そのような数字を使うことも考えられるのではないかと思いました。その方が読みやすいとも思いました。   今回の御提案では前者の相続人を作ると申しますか,みなし相続人のような人を増やすということのことですが,そうなりますと,範囲は比較的絞るということで,先ほどから特別受益者に準ずるようなというような話が出ていますけれども,そのようになるのかもしれません。ただ,範囲を絞ることに私は直感的に怖さを感じております。範囲を絞ることによって,結局その範囲の人は優先的に被相続人の療養看護などに当たることが予定されている人というような誤ったイメージをもしその法律が流してしまうようなことがあれば,それはこれからの目指すべき社会の方向性に少し反するのかなと思いました。感想です。 ○中田委員 度々申し訳ありません。今のお話とも関係するのですけれども,どういう類型化をするのかによって,身分要件の意味が変わってくるような印象を受けました。   無償の労務提供者に対する清算という観点から言うと,契約することが期待しにくいということが出てくると思うのですね。それに対して,財産上の支援をしてあげて財産が残ったという場合ですと,ビジネスに基づく支援とは別の親族による支援だということが,身分ということで効いてくると思うのですね。   ですから,最終的に類型化するかどうかは別にして,その類型ごとにやはり身分要件の持ってくる意味が違ってくるのかなということを感じました。 ○上西委員 寄与の類型についてです。実際に争われた事例を見ると,家事従事型や金銭等出資型に分類してされていますが,多くの場合は,扶養型も療養看護型も重なっていると思います。そうしますと,分類して契約ができるのかどうかという問題があります。もちろん,療養看護のようなものでありましたら,その部分だけに限った契約をすることはやりやすいかもしれませんが,全ての類型を縦割りにして決めることは難しいものと考えます。   次に,16ページの最初の1パラのところです。被相続人と親族関係にない者については,有償契約とするという考え方はなるほどと思うのですけれども,親族を一括りで見ることができるのかどうかです。親族でも例えば四親等以上の者になると余り交流のないケースもある一方で,兄弟姉妹のように仲よく一緒に住んでいる従兄弟もいますので,線引きは難しいと思います。   ですから,三親等がいいのか四親等がいいのかといった線引きは,なかなか難しいのですが,当事者を拡大しないという意味では,被相続人の直系血族若しくはその配偶者または兄弟姉妹とした上で,一定の者,例えば内縁関係者とかについては別途の救済という措置もあると考えます。   そうすると,枠を決めたことの意味がないのではないかという指摘もあるかもしれませんが,拡大すれば親族とそれ以外となります。親族の中でもいろいろな類型がありますので,かえって困難になるかと感じます。 ○大村部会長 ありがとうございます。   線引きにつきましては,一定の範囲の人についてなぜ特別の処遇を認めるのかという理由との関係で,様々な考え方があるだろうという御指摘を頂いたかと思います。そのそれぞれを捉えて,類型化して,それを整理するというようなことができるものなのかどうなのかというのはなかなか難しいところかと思いますけれども,委員,幹事の皆様の御意見は今申し上げたものの諸側面を指摘されているのではないかと思いますので,かなり困難,なかなか大変な作業だと思いますけれども,更に御意見を踏まえて検討していただければと思います。   この点につきましては,更にもしこの場で御発言がありましたら伺いますけれども,よろしゅうございますか。   では,最後の話題に進ませていただきたいと思います。最後,17ページでございますが,遺贈の担保責任につきまして,事務当局の方から御説明を頂きます。 ○合田関係官 それでは,「第4 遺贈の担保責任」について御説明いたします。部会資料の17ページを御覧ください。   前回の部会において,法制審議会において答申がされた「民法(債権関係)の改正に関する要綱」,以下この説明の中において,債権法改正の要綱と申し上げますが,これにおいて売買等の担保責任に関する規律の見直しがされたことを踏まえ,遺贈の担保責任についても見直しを行う必要性があるとの指摘がございました。   債権法改正の要綱では,売買等の担保責任に関する規律について,いわゆる法定責任説の考え方を否定し,買主等は目的物が特定物であるか不特定物であるかを問わず,その種類及び品質等において契約内容に適合するものを引き渡す義務を負い,引き渡したものが契約内容に適合しない場合には,売主等に対し追完請求などをすることができることとされております。そして,無償行為である贈与においても,贈与者は契約内容に適合する目的物を引き渡す義務を負うことを前提としつつ,その契約において贈与の目的として特定したときの状態で引き渡し,又は移転することを約したものと推定することとされています。   遺贈は贈与と同じく無償行為ですが,遺贈の担保責任については,相続の場面における特殊性を考慮すべきか否か等について検討する必要があるなどとして,債権法改正の要綱に基づき作成された民法等の一部改正法案では,改正の対象とはされませんでした。   今回提案しております考え方の①は,要綱における贈与の担保責任に関する規律を参照し,遺贈の無償性を考慮して,遺贈の目的となるもの又は権利が相続財産に属するものであった場合には,遺贈義務者は原則としてそのもの,又は権利を相続が開始したとき,その後に遺贈の目的であるもの又は権利を確定すべきときは,その確定の時の状態で引き渡し,又は移転する義務を負うこととするものです。   もっともこの規律は,飽くまでも遺言者の通常の意思を前提とするものですので,遺言において,遺言者がこれとは異なる意思を表示していた場合には,遺贈義務者は,その意思に従った履行をすべき義務を負うこととしております。これが①のただし書の部分になります。   この規律は,遺贈の目的となるものが特定物であるか不特定物であるかにかかわらず適用されるものですが,遺言者が相続財産に属するもの,又は権利を遺贈の目的とした場合に関する規律を定めたものですので,目的物が不特定物である場合には,遺言者が相続財産に属する不特定物を遺贈の目的とした場合に限って適用されることになります。そして,相続財産に属する不特定物を遺贈の目的とした場合には,制限種類物と同様,遺言義務者は相続財産に属する不特定物の中から目的物を特定すれば足りることになると考えられます。   これに対し,遺言者が相続財産に属しない不特定物を遺贈の目的とした場合には,遺贈義務者は,基本的には不特定物売買における売買と同様の責任を負うことになると考えられます。したがって,この場合には,遺贈義務者は遺言者の意思に従って不特定物を調達し,目的物を特定した上で,これを受遺者に引き渡すべき義務を負うことになります。   これに対し,遺言書の中で目的物の品質等について特段の意思が表示されておらず,遺言者の意思によってこれを定めることができないときは,遺贈義務者は中等の品質を有するものを引き渡すべき義務を負うことになると考えられます。   次に,部会資料19ページの「3 遺贈義務者の担保責任について」,御説明いたします。   現行の民法998条は,不特定物の遺贈義務者の担保責任を定めておりますが,先ほど申し上げたとおり,債権法改正の要綱では,目的物が特定物であるか不特定物であるかにかかわらず,買主は追完請求権を行使し得ることとされております。債権法改正の要綱では,無償行為である贈与についても,基本的にはこのような考え方を維持していることを考慮すれば,遺贈においても同様の考え方を採用すべきことになるものと考えられます。   遺贈の場合に,その無償性を考慮して,遺贈義務者の追完義務について特則を設け,その責任を軽減するという考え方もあり得るところですが,このような観点から特則を設けるのであれば,必ずしもその対象は不特定物に限られないと考えられますし,同じく無償行為である贈与については,そのような特則は設けられていないことを考慮すれば,遺贈についてのみ特則を設けるのはバランスを失するようにも思われます。そこで,今回提示した考え方では,不特定物の遺贈の担保責任を定めた現行の民法998条を削除することとしております。   同様に他人物遺贈に関する遺贈義務者の責任を定めた民法997条2項についても,贈与においてこれに相当する規定が設けられていないことから,その削除の要否について検討する必要があると考えられます。もっとも,遺贈の場合には,基本的には遺言書の記載のみから遺言の内容を確定する必要があるため,遺言者の意思が明確でない場合の規律を設ける必要性が贈与の場合よりも高いと考えられます。他人物遺贈がされた場合に関する現行の規律も,このような観点から独自の異議を見いだすことが可能であるように思われます。すなわち,この点に関する現行の規律は,他人物遺贈を原則として無効としつつ,例外的にこれが有効となる場合には,その他人からその権利を取得して受遺者に移転する義務を遺贈義務者に負わせることとした上で,その義務が履行できない場合の責任を軽減したものと位置付けることが可能ですが,このような規律は債権法改正の要綱を前提としても,なお相応の合理性を有するものと考えられます。このため,今回提示した考え方では,民法997条2項については,これを維持することとしております。   本日は,このような考え方の当否について,御意見を頂戴できればと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。この担保責任の問題につきましては,債権法改正の方で担保責任について一定の考え方がとられたのに対応して考える必要があるけれども,相続法に固有の問題があるのではないかということで,こちらで検討をする必要があろう,そういう経緯で,ここへ出てきている問題だと認識しております。御説明がありましたけれども,遺贈についての特殊性の観点から,維持すべき規定と削除すべき規定があるのではないかというのが基本的な御提案だったと思います。   御意見を頂ければ幸いです。 ○中田委員 今の御説明の中で,1点まず確認したいのですけれども,不特定物遺贈の場合には,相続財産に属するものの中から特定すれば足りるという御説明だったわけですが,相続財産に属する不特定物の中に瑕疵のあるものが含まれていて,それを提供したというときに,その場合には取り換えろということが言えるのかどうかです。   現在の規定ですと,それは条文上,取り換えることが請求できる。それを削除したときに,その後の法律関係はどうなるのかなのです。 ○堂薗幹事 基本的には,不特定物を遺贈の目的とした場合については,基本的に相続財産に属するものでなければ原則として無効で,遺言者の方で特段の意思を表示した場合には有効になるわけですが,そういった意味で,相続財産に属する不特定物を遺贈の目的とした場合は,その相続財産に属する限定された不特定物の中から特定をすれば足りると。したがって,その不特定物の中に瑕疵があるような場合には,その限定された不特定物の中から中等の程度,特に品質が定められていなければ中等の程度ということになると思いますので,そもそもそういった瑕疵があるものが中等の程度であれば当然取換えは必要ないということになりますし,そうでなくて,中等の程度のものは瑕疵がないということであれば,追完請求ができるということになるのではないかと考えております。 ○中田委員 ちょっと言葉が足りなかったのですが,相続財産に含まれている不特定物の中に,瑕疵のあるものとないものとがあったという前提です。潮見委員の教科書ですと,自動車商が所有するワゴン車60台のうち20台を遺贈するというケースで,その提供した20台に瑕疵があったときに,別の良いワゴン車と取り換えろということが言えるという例を出しておられるのですね。そういう場合,どうなるのでしょうか。 ○堂薗幹事 ですから,その不特定物は限定されますので,その限定された不特定物の中で,中等の品質というのはどの程度のものか,瑕疵があるものが大半を占めているような場合は,瑕疵があるものが中等のものということになるのではないかなと思いますが,その辺りは,むしろ先生方の御意見を頂戴できればとも思いますが,こちらではそういう整理をしております。 ○中田委員 分かりました。その辺りをまた考えてみたいと思いますけれども,仮に追完請求権を認めないということであれば,そこで話は済むのですけれども,もし追完請求権を認めるのだとすると,それをどこから導くのかということが問題になると思うのです。売主の担保責任の規定を準用なり類推適用するのか,それとも追完請求権というのは,そもそも履行請求権と近いものであるから,そこから導くというのか。仮に後者のような導き方をすると,今度は売主の場合にはあるところの期間制限が外れることになるけれども,それでいいのかといった問題が出てくると思います。   ですから,追完請求を認めるかどうか,認める場合に998条2項を削除するということで混乱が生じないのかという問題があろうと思います。更に今,私は瑕疵という言葉を使ったわけですが,瑕疵という言葉を使わないとすると,売主の場合は契約不適合という言葉を使っているのですけれども,これは遺贈ですから,その言葉は使えない。そうするとどういう概念を持ってきたらいいのかということで,そう簡単に一般原則に送ることもしにくいかなと思いますので,場合によっては遺贈における契約不適合に相当する概念を持ってきて,特定物,不特定物を問わず追完義務を認めるというような規律もあり得るかなと思いました。   最後ですけれども,それとの関連で,今度は遺産分割における共同相続人間の担保責任が売主と同様だとなっているわけですけれども,それも売買の方が変わってしまっているのに対して,仮に遺贈の方を変えるのだとすると,そこだけ浮いてしまわないだろうかということも課題かなと思いました。 ○大村部会長 ありがとうございます。問題点の御指摘を頂いたということで,もう少し今の点について御検討いただくということでよろしいですか。 ○堂薗幹事 はい,検討したいと思いますが,基本的に御指摘のような問題は贈与の場面でも生じるのではないかと思うのですが,債権法改正の際には,贈与の点については必ずしもその点について明確に規定が設けられていないというところもありますので,遺贈の方だけ追完請求の内容を規定するというのは難しい面があるのではないかと思います。   998条に代わるものを書くのであれば,それは特定物,不特定物を問わず,こういった場合にはこういった追完請求ができますという,その内容を書くのだと思いますが,その点について遺贈の方だけ規定を置くというのは,なかなか難しいのではないかというのがこちらの印象でございます。   ただ,他方で,遺贈の場合は,基本的には遺言の記載内容からその内容を定めるというところがございますので,贈与の場合よりも原則的なルール,デフォルトルールを定める必要性が高いという面はあろうかと思いますので,そういった点を含めて,引き続き検討したいと思います。   それから,遺産分割の場合の他の相続人の担保責任については今回検討できていませんので,御指摘を踏まえて検討したいと思います。 ○大村部会長 ありがとうございます。基本的には今御説明がありましたけれども,贈与並びで考えたいということだと思うのですが,贈与の方の状況が必ずしも明らかでないところもあるわけで,それをそのまま踏襲するということでよいのか,それとも,堂薗幹事がおっしゃったように,遺言の場合には特にやはりルールを明らかにする必要があるということを重視するのかという点も含めて,更に御検討いただければと思います。   そのほか,いかがでしょうか。   よろしいでしょうか。   それでは,最後に,浅田委員から先ほど御発言の御希望がございましたので。 ○浅田委員 ありがとうございます。二読が終わるということでございますので,改めて銀行界の意見を述べさせていただきたいのですけれども。第5回の会議の際に,私ども遺言に関する銀行実務の観点からの検討というペーパーを配布しまして,公正証書遺言の安定性の確保ということについて,審議対象としていただきたいという要望を述べさせていただいたことがございます。   先刻も遺言の活用化ということをこの機に考えるべきではないかという御指摘もあったわけでございまして,その同様の問題認識から,現在の公正証書の遺言というものの信頼性を高めればいいのではないかという認識からの問題提起でございます。   残念ながら,今までいろいろ私どもの問題提起に対して御検討いただいておりますけれども,この点に関しては取り上げていただいていないというのが認識であります。なかなか難しい論点だということは承知しておりますけれども,最近幾つか公正証書遺言について無効であるという事例に二つ接しましたので,この場で参考までに紹介させていただきたい例だと思っております。   一つは,これは直近の「金融法務事情」の2月10日号78ページにも実務家による解説がされているわけでありますけれども,平成26年11月28日の大阪高裁の判決であります。これは数億円もの財産を複数の相続人に分ける複雑な遺言について,公証人が事前に長男から示された遺言案が遺言者の意思に一致しているかどうか直接確認したことがないこと,公証人が,長男があらかじめ作成した遺言書の案を病室で横になっていた遺言者に見せながら説明し,遺言者が頷いたり「はい」と述べたりしただけで,遺言の内容について一言も発していない等の理由で,口授要件が欠如しており無効と判断した事例です。   もう一つは,公刊されていない地裁の裁判例なので詳細な説明は控えたいと思いますけれども,銀行が当事者となった訴訟で,現在は控訴審に係属中のものでありますけれども,これは1年前にした公正証書遺言を全部撤回するというシンプルな公正証書遺言であり,書き換えされた遺言と新しい遺言は同じ公証人の面前で行われているわけです。裁判所は,遺言者は意思能力が低下していたとし,難聴であるにもかかわらず補聴器を付けずに公正証書の作成に臨んでいたという理由で,遺言能力なしとして遺言が無効であると判断しました。この背景には,法定相続人でない親族者が遺言者を取り込み,同人たちの言うがままになっていたという事情があるようであります。   前にも述べましたように,遺言に関しては遺言をめぐる,特に遺言能力をめぐる問題にいろいろありまして,昨今の高齢化に伴う認知症,取り分け,まだら認知症ということでありまして,公証人の面前では遺言能力があったかもしれませんけれども,事後的にその周辺の時間における諸事情から後日,無効とされる例もあろうと思います。   こういうような無効事案というのが増えていることは,私どもの経験則としても事実というふうに認識しております。そうしますと,銀行としては,公正証書遺言であっても相続人に対して紛争の有無を一応問い合わせるという方向にもなるかもしれないということでありまして,そうであれば,公証人遺言の信頼性というのも実務上,若干使いづらいものになるというものかもしれません。   したがいまして,公証人において,遺言能力の判断を正確に行う手当というもの,ないしは公正証書遺言の内容を信用した第三者,これは預金受入銀行であるとか,不動産が譲渡された場合には,その財産取得者ということもあるかもしれませんけれども,それに対する救済,免責規定等を置くというような改正も検討に値するのではないかと思っております。   本部会では,政策的に公正証書遺言の作成を誘導するということであれば,かような第三者の保護をするなどのインセンティブが必要だというふうな意見も出ておりましたし,是非検討していただきたいと思います。   なかなかこの時間軸において難しいということになる可能性もあるかもしれません。そうした場合に,後日の検討のために,本事案に関するその問題に対する一応の整理もしていただいた方がいいのかなとも思います。例えば,そもそも私どもが提起したものについて,まだ立法事実として熟していないという判断もあるかもしれません。また,本件の問題というのは,そもそも運用の問題であると,それは公証人の遺言能力の探知の確認の問題であるとか,ないしは民法478条も含めた諸制度の第三者保護との適用の問題であるという整理なのかもしれません。また,いや,そうではないかもしれないけれども,この審議では時間軸の問題からなかなかその問題解決が難しいということであれば,将来,来たるべきときの問題として委員・幹事の皆様に認識していただくということは非常に有意義だとは思っておりますので,何らかの御検討を頂ければ有り難いと思います。 ○大村部会長 では,御意見承って,御検討お願いしたいと思います。   本日予定しておりました議事は以上ですけれども,何か御発言ございますでしょうか。   よろしいでしょうか。   では,次回の予定等につきまして,事務当局から御説明を頂きます。 ○堂薗幹事 それでは,次回の日程ですが,次回は御案内のとおり,4月12日火曜日の午後1時半から午後5時半頃までを予定しております。場所は現時点で未定ですので,決まり次第,御連絡するようにいたします。   次回は,前回御説明しましたとおり,中間試案のたたき台のようなものをお示しして,御議論いただくことを予定しております。したがいまして,これまでの御審議の結果を踏まえまして,全ての論点を取り上げた資料を作成したいと考えております。次回もどうぞよろしくお願いいたします。 ○大村部会長 ありがとうございました。   本日も熱心な御議論を頂きまして,ありがとうございました。これで閉会をさせていただきます。 -了-